(遠い遠い昔のことだ。まだ私が少女で、まっさらだった頃に教えてもらった歌をふと思い出した。全部捨てたと思ったのになぁ、と呟いた声は、襤褸の教会の高い天井に吸い込まれて、消えた。赤い靴のつま先でつついた壊れかけのオルゴールは、悲しげにラの音を一つ立てて止まった。全部壊れかけなのに、どうして私だけが戻ろうとするの。もういや、あんなところになんか居たくなかったから、ここに来たのに。どうして思い出すんだろう。腹立たしくなって、マリアまで続く赤い絨毯の上で丸くなった。胎児のように。壊れちゃえばいいのに、全部忘れられればいいのに、つらいこともいやなこともわすれられないことも。そうすればきっと、ずっと幸せになれるのに。胎内に広がった金髪が、ステンドグラスから入り込む月光を跳ね返して僅かに光る。逆さになったマリアを、少女は薄紫の瞳で見つめていた)――……どうして、私は人なのかなぁ。なんで愛がほしいんだろう、愛なんかきっと、痛くて冷たいだけ。そうでしょ?……あったかくて、きらきらしてるなんて嘘よ。嘘よ。(慈悲に満ちたマリアの微笑みを与えてもらえる、「彼」が羨ましかった。手に入らなかった玩具に難癖を付けたがる子供のように呟いて、ゆっくりと目を細めて、思い出した歌の一節を口遊んで)――……Que de partager leur cercueil