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◇月光裏街 =Moon Light Under the City= PartⅠ◇(

56 ◆YQUUXN652Q:2011/03/01(火) 05:18:04
>>53ロロット
(細く軟らかな弧を描いた三日月は、宛ら嘲笑のように此方を見下げていた。青白い笑みは朧げな輪郭を作り上げ、己と漆黒との境界線を曖昧にしている。薄雲の広がる夜空に控えめに佇むそれを、街路樹の幹を背に茫然と仰いでいた。季節を遡れば青々とした若葉を茂らせていた樹木も、今は見る影もなく老いさらばえた裸木を街に晒している。淡い月明かりを受け従容として地に影を伸ばす枝木は、彩豊かな花や若木と比べても遜色のないように思えた。冷気を帯びた微風が、過ぎ去ったばかりの雨の匂いを乗せて緩やかに通り行く。それは優しく黒髪を撫ぜ、薄雲をも緩慢に引き連れていく。月は雲になまじ隠され、不服だとばかりに隙間から煌々とした月光を零していた。黒い彼は口元に三日月を浅く浮かべて、街の主体を中途半端に欠いた夜空を引き続き眺めた。外套も瞳も髪も黒色ではあるが、就中、広く吸い込まれそうな上空の漆黒は相も変わらず美しい。細くたなびきたる雲の侘びた風情を、彼の偏った感性で、ただ嗜んで。―――カツ、と靴音が鳴る。水辺に波紋が広がるように、静寂の横溢する街に音が沸いた。石畳を踏む音はどことなく軽やかだ。興味本位で音の主へ視線を向けると、目の端に華美なドレスを身に纏った女性を捉えた。「なにあれ」と自身の怪訝を口にして、街路樹の幹に預けていた背を徐に起こす。彼女の風采は頗る人目を引くものであるが彼は事情を斟酌する趣味など持ちえていない為、問いを投げる気にはならなかった。黒い手袋をはめた手に握られているブーケは、衣服のみに限らず彼女の雰囲気に良く似合っているように思える。味気ない黒色の革靴を鳴らして彼女の元へ歩み寄り、機嫌を伺うように小首を傾げて、平然とした声色に無茶な我侭を乗せた。そして無表情の中に薄い微笑を刻んで、彼女の反応を待った。突拍子もない発言は、どうやら単なる気紛れに過ぎないらしい。薄雲に覆われていた三日月はいつの間にか、その姿を再び露にしていた。)
ねえ、無理にとは言わないけれど…その花束の中で一番気に入らない花を、自分にちょうだい。一輪だけでいいから


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