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MAGIC MASTER
1
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/06/24(金) 22:16:24 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
どうも。
こんにちわ、もしくは初めまして。竜野翔太(たつの しょうた)です。
今作品は二つ目となります。
主にファンタジーとバトルが中心となると思います。
前作と同時進行の更新となる予定です。
今回の主人公は自分としても初めてとなる女の子です。
感想や意見などありましたら、どうぞお書きください。
2
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/06/24(金) 22:35:49 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第1話「氷の女帝 カンナ」
魔法が使えたら何をする?
大金持ちになる。願い事を叶える。背を大きくする。など、思い描くことは人それぞれだろう。
だが、私達が使う魔法は、そんなメルヘンチックなものじゃない。
私達は魔法を駆使し、戦う。
これは、そんな魔法使い達の戦いの物語―――。
ストーバ村。
村、というよりは、集落に近いところだ。
家がいくつか建ってあり、露店のようなものが並んでいる。
しかし、それはいつもの平穏な姿であり、今はそんな平穏とはかけ離れた光景が広がっていた。
「オイ、とっとと食いモン出しやがれ!」
暴れているのは、悪さで有名な盗賊『グリード』。
魔法は使えないものの、武器や力を利用し、小さい村や弱い者達を襲い、物を強奪していく、そういう集団だ。
そんな荒れた集落に、一人の人物が現れる。
「ちょっと待ちなさい。そんな暴挙、私の前で出来るとは思わないことね」
彼らが振り向いた先にいたのは、肩くらいまでの桃色の髪に、頭の左辺りに、朱色の小さい玉が三つに連なる髪飾りをしている17、8の少女だ。
そんな彼女を前に、一人の盗賊が近づいて行く。
「ハッ。何を言ってんだオマエは?いいからガキはとっとと帰って・・・・・・」
「・・・・・・ガキ、ですって?」
少女の僅かな怒りが籠った声の後に、ズドン!!と鈍い音が響く。
その音源は少女の拳が、男の腹に叩き込まれた音だった。しかもただの拳ではなく、硬く頑丈な氷を纏った、氷の鎧での一撃と同義だった。
「な、なんだお前は!オイ、囲め!」
一人の少女は十数人の盗賊に囲まれる。
じりじり、と囲んだ盗賊は近づいていくが、中々攻撃には移らない。
「へへっ、どうだ。この数なら勝てねぇだろ。マグレで調子に乗ってんじゃねぇぞ、クソガキが!」
一人だけ囲んでいない口の周りに髭を生やした男達のリーダー的な奴は殊勝な表情だった。
少女は相手の言葉を聞いて、俯いてしまう。
「・・・・・・く・・・くそがき・・・・・・。『がき』ならまだしも、『くそ』がついてる・・・・・・」
どうやら、状況よりも相手のちょっとした罵声に傷ついたらしい。
その状態に一人の男が『今だ!』と言って、四、五人が相手に襲い掛かる。
少女の怒りは、襲い掛かってきた相手だけに留まらず、囲んでいる相手全てに降りかかる。
「誰が・・・クソガキだぁぁ!!」
バン!!と少女が地面に手をつけると、彼女を中心とした円が描かれ、その円の縁から氷の牙が盗賊たちに向かって突き出る。
牙というほど鋭利になっていないのは、彼女の配慮だろうか。
リーダー的な男以外は全て倒れ、残った男は腰を抜かし、少女を恐れ多いように見つめる。
ゆっくり近づいてくる少女に、男は口を開く。
「・・・・・・ま、まさか、アンタは・・・!桃色の髪に、朱の連なった三つの玉の髪飾り・・・・・・氷の女帝(こおりのじょてい)、カンナ・・・!」
カンナ、と呼ばれた少女は拳を握り締め、相手を思い切り睨みつけ、
「そのあだ名・・・・・・私嫌いなのよ!!」
ゴッ!!と拳が相手の顔にクリーンヒットし、男はその場に倒れこむ。
3
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/06/25(土) 00:40:54 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「いやぁ〜、いいことした後って、自然と表情が綻ぶねぇ〜!」
カンナは集落を後にして、山道を歩いていた。
集落を襲った盗賊を壊滅させ、盗賊たちに『もう二度と襲いません』と村人一人一人に土下座させ、盗賊たちを追い払ったのだ。
村人達はお礼としてお金や食料を渡してきたが、カンナは彼らの戦い気持ちだけを頂き、お礼の品は受け取らずに、ここまで歩いてきた。
「ふぅー、あれで盗賊たちも改心すりゃあいいけどなぁー、そうそううまくいかないのが人生って・・・・・・」
そこで、カンナの言葉は途切れる。
攻撃を受けたからではなく、木の影から自分を狙う視線を感じたからだ。
視線を感じる木を見つめ、
「誰?」
と短く訊ねる。
木は答えない。答えの代わりに木から黒い影が飛び出してくる。
「ッ!!」
その黒い影は刀を持っており、的確にカンナの首筋を狙ってくる。
だが、カンナも自身の右手に氷の剣を創り出し、相手の刀を防ぐ。カンナが相手を押し返し、相手は宙で何度かくるくると回り、地面へと着地する。
「・・・いきなり?出来れば私の質問に答えてほしかったなァ〜」
カンナは冷や汗を流し、そう言うと黒い影の容姿が分かってきた。
茶色が混じった黒髪をツンツンに尖らせており、黒いコートに黒ズボンといった、全身黒のカンナと同い年くらいの少年だった。
男は、カンナを見たまま、
「・・・『氷の女帝』、だな?」
「そのあだ名嫌いなんだけど。私の二つ名だとしてもね」
カンナの『氷の女帝』というのは、彼女が魔法学校を出るときに与えられた称号のようなものだ。
Aランク以上で合格するとそういう風に称号がもらえる。
カンナはSクラスで合格したのだが、更に上には、『聖魔法師(せいまほうし)』や『神術師(かみじゅつし)』といった名前だけで強そうなランクがある。
「アンタの称号は?私を襲う奴なんて決まってるよ。実力を面白半分で試す馬鹿か、自分と拮抗しているのか真剣に勝負を挑んでくる賢い人か・・・アンタはどっち?」
カンナの問いに、男は答えない。
相手は僅かに笑みを浮かべ、
「・・・どっちかは、お前が決めろ」
男は再び、カンナへと斬りかかる。
しかし、男の刀に刀身はついていない。この状態で斬りかかるのは頭が可笑しくなった奴か。だが、魔法には刀身がなくても攻撃できる方法がある。
カンナは横へ半歩かわし、相手の攻撃を避け、更に二歩後ろへ下がり、相手から距離を取る。
「・・・かなりレベル高いじゃん。そのレベルの高さは初めて見たよ、『思念(しねん)使い』」
男はその言葉に歯を見せ、笑みを浮かべる。
4
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/06/26(日) 09:45:27 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
早速読ませて頂きました!
ストーリーもとても面白く、特にカンナちゃんのキャラがストライクでした…!
続きがとても楽しみです><
5
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/06/26(日) 11:54:08 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
>>月峰 夜凪様
感想ありがとうございます!
カンナがですか?まあ……自分好みの女の子にしてます……。お恥ずかしい。
はい、期待に沿えるように頑張りたいと思います!お互い頑張りましょう!
6
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/06/26(日) 12:29:37 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魔法にはいくつかの種類があり、その種類は大きく分類して三つに分けられる。
一つは、カンナが扱うような自然物を利用し、魔法を繰り出す『自然魔法(しぜんまほう)』。その『自然魔法』を応用したものが『付加魔法(ふかまほう)』といって、炎や風を武器に纏わせて、攻撃するのが主流である。相手が使う『思念魔法(しねんまほう)』は魔法を出すために必要な魔力を練り上げ、ああやって、刀身に変えたりする魔法である。『思念魔法』が三つの種類の魔法の中で一番汎用性に優れた魔法であるが、実際に使いこなせる魔法使いは少ない。
そのため、カンナとしても、相手のようなレベルの高い『思念使い』は初めてだ。
それ故の好奇心か、カンナの顔には期待に満ちた笑みと、強い相手と戦えるというワクワク感が胸に溢れていた。
相手はカンナのキラキラした瞳に呆れたように溜息をつく。
「おい。何だその目は。あんま過度な期待してんじゃねーぞ」
カンナはその言葉を受けて尚も、目を輝かせて、
「何が?強い人を前に目を輝かせちゃいけないの?」
いきなり意味不明な言葉が返ってきた。
『期待するな』はカンナにとって最も期待させてしまう言葉だったらしい。
強い人は大体、そういって謙遜するものだ、というのがカンナの意見だった。
「ふふ、楽しくなってきちゃった」
カンナは笑みを浮かべたまま、両手を地面につけると、カンナの立っている両サイドから巨大な氷の腕が地面から出てくる。
粗い魔法だな、と相手は思う。
カンナがその場で右腕で殴るモーションをすれば、カンナの右側から出てきた腕が同じ動きで相手に向かって殴りかかる。氷の腕はカンナの腕の動きと連動しており、カンナが右腕で殴れば、氷の腕の右腕も殴る、ということだ。
しかし、相手は怖じることなく、殴りかかってきた右の氷の腕に、『思念魔法』で作り出した刀を真正面から突き刺す。
ガゴッ!!という音の後に氷の腕の拳から砕け、亀裂が腕の部分まで走り、崩れ落ちていく。
「見た目だけだな。作り方が粗いんだよ」
相手が自分の魔法を真正面から受けて尚、無事だということを知り、さらに笑みを浮かべる。
「ほら、強いじゃない!ますます楽しくなってきた!」
「……危ない女だな。戦闘狂かよ……」
相手が吐き捨てるように呟くが、途端に百人近い、もしくはそれ以上いる盗賊たちがカンナと男を囲む。
「こいつら……」
カンナがあたりを見回すと、顔に手当てを施された者や、傷がある者さえいる。カンナは彼らに見覚えがあった。集落を襲い、カンナが土下座させた盗賊たちだった。
カンナは数を見てあちゃー、と呟き、
「やっばいなぁ……。さすがにこの数は……ちょいとね」
男はそんなカンナを視界の端で捉え、
「……随分と弱腰じゃねぇか。よくそんなんでSランクになれたもんだな。心配すんな」
男は盗賊たちに刀を構え、
「決着はつける。だから、まずはこいつらに殺されるんじゃねぇぞ」
カンナはしばらく、きょとんとした顔で沈黙した後、コクリと頷いて。
「了解!アンタもやられるんじゃないわよ!」
カンナは右腕に氷の鎧を纏わせ、臨戦態勢に入る。
7
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/06/26(日) 13:49:08 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
黒コートの男は盗賊『グリード』の男達をなぎ倒していく。一振り一振りが強力で、一度に三、四人を倒している。それでも倒している相手全てが峰打ちで済まされている辺り、男には余裕があるのだろう。
一方、カンナもカンナで奮戦していた。右腕で相手を殴り、背後からの攻撃は蹴りで応戦し、地面に手をつき、氷の刃を地面から出し、敵の数を徐々に減らしていく。
しかし、倒したと思っていた男が起き上がり、渾身の力でカンナの頭部目掛け木刀を振るう。
カンナは反応できず、振り返って攻撃が来るのを待っているだけとなってしまった。
だが、男の顔の横に蹴りが炸裂する。
カンナを助けたように見えた、黒コートの男はカンナに背を預け、
「余所見してんじゃねぇぞ、氷の女帝。後ろは任せた」
「アンタこそ、ヘマしないでよね」
二人はお互いに背中を向けて盗賊を倒していく。
「……クッソォ!!オイ、ジェゾ!どういうことだ、氷の女帝一人じゃなかったのかよ!!」
自分の仲間が倒されていく様を苛立った様子で眺めている三十代後半ぐらいに見える男は、口の周りに髭を生やした、集落を襲った時のリーダー、ジェゾに尋ねる。
ジェゾは慌てた様子で、
「す、すいません!ですが、奴らの体力もそろそろ……人海戦術はどんな相手にも………」
ジェゾの言葉はそこで途切れた。
何故なら、後ろからカンナがジェゾの背中へと氷の鎧に覆われた拳を叩き込んだからだ。
倒れたジェゾを『グリード』の男は大きく口を開け、この世の終わりのように見つめている。
「……あり?お前さん……他の奴らは?」
カンナは言葉を全く発さずに親指で自分の背後を指す。
そこには、倒れている男達の中にたった一人だけ黒コートの男が一人を足蹴にして立っていた。
状況が理解できた男に、カンナは笑顔でこう告げる。
「あとはアンタだけだよ」
天使のような笑顔だが、男にはただただ絶望を生み出す笑顔だった。
カンナは地面に手をつけ、巨大な氷の腕を地面から生やす。カンナの腕の動きとリンクしているその腕はカンナの右脳でと同じように固く拳を握り締め、
「……まあ、私が馬鹿だったよね。やっぱり、あれだけ懲らしめても全く反省してない……。ちょっとは効いたと思ったんだけど……ね」
キッと男を睨みつけてカンナは右腕を振りかぶる。
男は目を大きく見開き、
「………、待……ッ!」
「吹っ飛べ、悪党がッ!!」
ゴッ!!という鈍い音とともに、男は森の空を飛び、遠くの方へと飛んでいく。黒コートの男は姿が見えなくなるまで手をかざし、飛んでいく相手を見ていた。
「さて、と……。んじゃ、決着つけようか!」
カンナは腕をぶんぶん回して黒コートの男へそう告げるが、男は溜息をもらし、刀を腰の鞘に納める。
その光景にカンナはきょとんとしているが、男はカンナを見て、
「……疲れた。戦いはまた今度な」
その言葉にカンナは大きな声で『えー!!』と反論するが、男は気にも留めず、
「また会った時につけてやる、じゃあな氷の女帝」
男は手を軽く振って去っていこうとするが、カンナは相手を止める。
男は足を止め、目だけをカンナへと向ける。
「君、名前は?」
カンナがそう訪ねると、男は視線をカンナから外し、
「………コウヤ。二つ名は…『漆黒の皇子(しっこくのおうじ)』」
コウヤか…、とカンナは相手の名前を繰り返し、
「また会おうね!その時は、絶対に決着つけようねー!」
カンナは叫んで、大きく手を振り、コウヤとは逆方向へと向けて歩き出す。
8
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/06/26(日) 18:24:13 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第2話「情報屋求めて」
カンナはある街についた。
ストーバ村と違い、この街は活気が溢れており、賑やかな街だった。
飲食店が多いのが目立つが、他には露店や、大きめな店など全体的に見てて元気が出そうなほどの賑わいを見せていた。
とりあえずカンナは今日はここで宿を見つけることにした。宿を探そうと手をかざしキョロキョロとあたりを見回す。
「……んー、このあたりはないなぁ。んじゃ、もうちょい奥行ってみよ」
「…オイ、聞きたいことがある」
カンナが歩き出そうとした時、彼女の肩を指でつんつん、とついてくる人物がいた。
カンナは振り返ってその人物を見る。
それは意外な人物だった。
黒コートにツンツンした黒髪。見覚えのある人物だった。確か名前は……。
「……こ、コウヤ!?」
「お前…氷の女帝が」
刹那、カンナは自分の拳に氷の鎧を纏わせ、コウヤに殴りかかる。しかしコウヤもコウヤで想定の範囲内、と言わんばかりの顔で、鞘から刀を抜き、拳を止める。
「何でいんのよ。つーか二つ名で呼ぶな」
「何処にいようと俺の勝手だろ。大体馴れ馴れしく呼び捨てにすんじゃねーよ」
二人は会っていきなり戦いそうな勢いを何とか抑え、カンナは大きく深呼吸をする。
思えば可笑しかった。
盗賊『グリード』を壊滅させた後、二人は逆方向に歩いたはずだ。なのにここで鉢合わせるのは可笑しいと思ったが、あまり追求しないことにしたカンナであった。
「……で、聞きたいことって?」
「お前に訊いても無駄だ。他探す」
ガァン!!という音の後、再び、カンナの氷の拳をコウヤが刀で防いでいた。
「いいから言いなさい」
「分かったからまず拳どけろ」
「情報屋?」
カンナの言葉にコウヤはコクリと頷いて、
「この近くに、どんな情報でも必ず即答できる情報屋がいるって聞いてな…。『知ってる』というだけで場所の特定には至らねぇんだよ」
ふーん、とカンナは適当に返事をして、それからニッと笑みを浮かべる。
「コウヤさぁ、何でその情報屋探してるの?」
どうせ関係ないだろ、と返ってくると覚悟していたが、意外な言葉が返って来た。
「……教えてほしいか?」
カンナはやった、と思ってコクッと頷くと、
「じゃあ情報屋の情報収集手伝え」
「……………は?」
いきなりのことで、カンナの目が点になる。
コウヤはカンナを見たまま、
「だーかーら。欲しい情報教える代わりに情報屋探すの手伝えって」
「……は、ば…バッカじゃないの?何で私がそんなことを……!」
「じゃあ教えない」
カンナはコウヤの態度を見て、こう思う。
(こいつ……性格悪ッ!)
「……あー、もう分かったわよ!手伝えばいいんでしょ、手伝えば!」
カンナは吹っ切れたようにそう叫ぶ。
コウヤはフッと笑みを浮かべて、
「それでいいんだよ」
二人は協力して、情報屋の情報集めを開始した。
9
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/06/30(木) 16:08:16 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
カンナとコウヤは二人が固まって情報収集は要領が悪いので、二手に分かれて探すことにした。
カンナが情報を聞いているのは男性ばかりだ。コウヤが言うには『一応男性だけに聞いとけ。お前みたいな奴でも可愛いと思う奴がいるかもしれないからな』らしく、コウヤは女性をターゲットに聞いているらしい。
一時間後に、二人は一度合流し、成果を話し合う。
「どうだった?」
「……手がかりゼロ……。そっちは?」
俺もだ、とコウヤは溜息を漏らす。
二人とも一応は『聞いたことはある』という意見までは手に入れているものの、『場所を知っている』まではこぎつけていない。
落胆する二人に、不意に男性の声がかけられた。
「……そこの二人、少し聞きたい事があるのだが」
二人が振り向くと男性が立っていた。
大人びて見えるものの、恐らくカンナ達と同年代の男だ。190程度の長身に、肩までの赤い髪、背中には巨大な剣が携えられている。
その男は柔和な笑みを浮かべ、二人を見ていた。
「…ある女性を探しているのだが……」
その言葉にカンナは困ったような笑みを浮かべ、
「……ええっと…私達ここの人間じゃないんですよぉ……すいません」
その言葉に男ははは、と笑みを浮かべ、
「そうか、それはそれは。では、他を当たるとするよ」
男が背中を向け歩き出そうとした時、
「待て」
とコウヤが一言だけ発し、男を止める。
男が振り向くと、
「お前が探してる『女』ってのは誰だ?もしかして……シルベットか?」
「……!」
男は面食らったような表情をしたのを確認すると、やっぱりな、とコウヤは息を吐く。
「実は俺たちもそいつを探している。ここは、一緒に探そうじゃねぇか。ポケットに入れてる地図を使ってな」
男はコウヤの言葉にビクッとして、ポケットから紙を取り出す。
広げると、それは地図で、一箇所にバツ印がついている。どうやらここがシルベットのいるところらしいのだが、何処から行けばいいのか分からなかったらしい。
「……君は何者だい?只者じゃないようだが…・・・」
男の言葉にコウヤは別に、と吐き捨て、
「ただのSランクさ」
と皮肉るようにポツリと呟いた。
10
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/07/01(金) 14:42:46 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「……私の名前?」
カンナのふとした疑問に赤髪の男はそう声を漏らした。
コウヤはというと、興味がないように手を組んだまま地図に従って歩いている。
「そ!君の名前知りたいなぁ〜って」
カンナは笑みを浮かべたまま、赤髪の男を見る。
男は僅かに息を漏らし、
「私はヴラド。君らは?」
男はそう名乗り、同じ質問をカンナとコウヤへと返す。
「私はカンナ。で、こっちは……」
チラッとコウヤを見るが、コウヤは答えようとしない。
それどころか、一人だけ別空間にいるように、カンナ達と協調性を持とうとしない。
「なっ……!アンタね、名前ぐらい名乗りなさいよ!」
コウヤを見て、噛み付きそうに叫ぶカンナだが、コウヤはカンナを見て、
「……『こっちは』とか言うから…名乗ってくれるもんだと思ったぜ」
コウヤのその言葉にカンナは呆れたように肩を落とす。
ガクッとうな垂れているカンナをよそにコウヤはヴラドへと視線を移す。
「俺はコウヤだ。……ヴラドって名前は聞いたことあるな」
コウヤの言葉にヴラドはきょとんとして、フッと笑みをこぼすと、
「ああ。『神剣』などと呼ばれているものでな。そっちの方が馴染みがあるかもしれんな」
やはりな、とコウヤが呟く。
一方で、カンナはヴラドの二つ名を聞いてもぽかん、としている。
ヴラドにも二つ名がある、ということは彼もSかAランクの魔法使いなのだろう。
何気に会話をしていると、前方に人一人が住めそうな小屋を見つける。
「……あれのようだな」
近づこうとするヴラドとカンナをコウヤは、
「待て。人の気配がしねぇ。警戒しろ」
そう言って、二人の後について行く。
カンナがそーっとドアを開けると、そこには誰もいなかった。
小屋の中は荒らされた形跡があり、壊れた窓や、付けられた傷は最近のものだった。
「……こりゃあ…」
「まさか、誘拐!?」
カンナがそう言う。
その言葉に反論する者はいなかった。
それを裏付けるように小屋の外から男の声が聞こえてきた。
「ケケケッ。その通りだ」
三人が小屋の外に視線を向けると、盗賊ような格好をした二人の男がいた。
二人は手に斧を持っており、不気味な笑みを浮かべている。
「アンタ達、誰よ!」
「ケケッ。俺たちはここじゃ有名な盗賊『ラース』だ」
男は自信満々に答えるが、ここ付近に住んでいないカンナ達三人は目を点にして固まっている。
「……聞き覚えはねぇが、シルベットを攫ったのはお前らか?」
コウヤが二人を睨みつけて聞く。
男達は表情を変えずに、
「だったら何だよ」
そうか、とコウヤは僅かに息を吐いて、
「だったら話は簡単だ。シルベットが何処にいるか、教えてもらう」
コウヤはゆっくりと、刀身がない刀を鞘から抜く。
11
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/07/01(金) 18:56:19 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第3話「情報屋シルベット」
情報屋シルベットは身動きが取れずにいた。
周りは、自分を攫った盗賊の奴ら。『自分を守っている』より『監視されている』と言われたほうが頷ける人数だった。シルベットは両腕を後ろに回され、手首を縄で縛られている。逃げようにも敵が多くて、逃げ切る道が見当たらない。
シルベットが顔を顰めていると、一人の男が話しかけてきた。
「よぉ〜お、シルベットちゃぁん」
吐き気がするほどの気持ちの悪い声だ、とシルベットは思う。
声をかけたのは、強面でガタイのいい男だった。この男だけ周りの奴らと服装が違う。この男は鎧を着ているが、他の者は着ていない。恐らくこいつがリーダーだろう。
「……あなたが『ラース』んpリーダーですか。噂はかねがね……。で、私をどうする気ですか?拷問でもして情報を聞きだすおつもりですか?はは、やめといた方がいいですよ」
乾いた笑みを浮かべながらシルベットは言葉を紡ぎだす。
男は何?と眉をひそめる。
「別に殺してくださってもかまいません。でも、その時、貴方達が欲している情報は永遠に手に入れられません。情報は全て私の頭の中にあるんですから。殺してしまったら……そこで終わりです」
男はこめかみに青筋を立てる。
怒ったか、ぐらいにしかシルベットは思わなかった。
男は手近にあった斧を掴み、
「いいぜぇ〜。だったら……ここで殺しても同じだってことだ」
「どうぞご自由に。こんな職業始めた時から、こーゆーことになるのは大体予想できてましたよ」
シルベットは観念したような虚ろな瞳をしながら、顔を俯かせる。
男が斧を思い切り振り下ろそうとした瞬間、
「おっとぉ、その子殺されちゃあまずいなぁ〜」
一人の少女の声と共に、二人の男がドサドサ、と控えていた盗賊たちの前に差し出される。
「お、オイ!あの二人、シルベットの小屋の捜索に向かわせた奴らじゃ……!」
一人の盗賊がうろたえだす。
「その通りだ。せめて、三人くらいは割いとくべきだったな」
「いやぁ、我等がいると予測できなかったのであろう。予測されていたとしたら、何か怖いし」
続けて二人の男の声。
盗賊たちの前に現れたのは、『氷の女帝』と『漆黒の皇子』と『神剣』という二つ名を持つ魔法使い三人だった。
盗賊たちは絶句する。
顔を知ってるわけでも、名前を知っているわけでも、二つ名を知っているわけでもない。ただ、純粋な直感で、三人の放つオーラに気圧されたのだ。
みられているだけで、腰が抜けそうな脅迫的なオーラに。
「悪いけど情報屋をこっちに渡してもらおうか。なあに、俺らはお前らみてぇな盗賊じゃねぇ。ただ、情報がほしいだけだ」
コウヤの二ィ、という笑みがさらに盗賊たちをうろたえさせ、動揺させる。
リーダーの男は声を荒げ、
「ええい、とっととやってしまえ!人海戦術に負けぬ人間などおらん!!」
我等の数は150だ!と男が怒鳴り、150の盗賊たちがカンナたち三人を取り囲む。
カンナたち三人は背中を合わせるように周りの男達を見る
「あーあー。囲まれちゃったじゃないのー」
ぶー、とむくれコウヤとヴラドにカンナは抗議の声をもらす。
「黙れ。囲まれるのが嫌ならとっとと殴り込めばよかったじゃねーか」
「はははっ!ホントに二人は仲が良いなぁ」
どういう解釈だ、とコウヤが溜息をつき、盗賊たちを睨む。
「……150か。大した数じゃねーな」
「実力が伴ってないなら楽勝だしね」
「カンナ殿、150÷3はいくつだっけか」
50だ、とコウヤが短く答えると三人は戦う体制をとる。
「一人当たり50人討伐がノルマだ。一人でも少なかった奴は罰ゲームな」
「あんらぁ怖ぁい」
「一体何をさせられるのやら」
圧倒的な数を前に。カンナたちは全く恐れていなかった。
12
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/07/02(土) 01:14:49 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
一人当たり50人のノルマを達成するため、カンナ、コウヤ、ヴラドの三人はそれぞれ三手に分かれて、盗賊たちを倒していく。
カンナは氷の鎧を拳に纏いながらの打撃と、地面からはやした氷の氷柱での攻撃。
コウヤは蹴りなどを組み込んだ剣技での攻撃。
一方、ヴラドは、
「む」
ヴラドに三人程度の男が襲いかかる。彼は背中の巨大な剣の柄に手を当てて、
「では、始めるか」
ゴゥ!!と彼を襲った三人はおろか、ヴラドの前にいた盗賊たちの目の前に一瞬で現れ、その前にいた盗賊たちもなぎ倒してしまった。
「……コウヤ、今のって…」
「ああ。剣で敵を倒したのは『付加魔法』だな。しかも、加速したのは『自然魔法』……。かなりの使い手だ」
通常、『付加魔法』を操る者の9割程度は当然のように『自然魔法』も使いこなせている。
しかし、この二つの使い分けはかなり複雑で、実践で使うとなればかなりの腕と魔力、そして集中力が必要なのだ。
ヴラドは慣れた様に一瞬でやってみせた。それでコウヤが彼は只者じゃない、と判断できたのだ。
「……ば、馬鹿な……」
盗賊のリーダーの男は腰を抜かして、目の前の光景に驚いていた。
目の前の光景に映るのは、倒れている人の山と、その中に立っているたった三人の人物。
「…わしの精鋭150人が、いとも簡単に……」
コウヤは髪をかきあげて、
「さあ答えろよ、ロリコン。俺らは優しいから、ケリは一対一でつけてやる。選べよ」
俺たち三人で勝てると思う奴がいるならな、とコウヤは付け足す。
相手は誰にも勝てるはずがないと言わんばかりに全力疾走で逃げていった。
ある意味往生際の言い奴だ、とコウヤは思い、シルベットの手首の縄を解く。
「本当にありがとうござました」
銀髪の髪に、巫女装束に似た衣装を着ている彼女は深々と頭を下げる。
シルベットは頭を上げると、
「お礼です、今日は特別に無料で!欲しい情報を提供いたしますよ!」
何でも彼女は提供する情報によって依頼料が変更するらしい。
それでも、万単位には軽く到達し、痛い出費をしないで済んだ、とコウヤとヴラドは胸を撫で下ろす。
ヴラドが先に指名されたので、ヴラドがシルベットに求めている情報の内容を聞く。
「実は、私の剣の恩師が難病に倒れてな。どの医者もお手上げ。揃って口にするのは『ラフィール』という薬草があれば、と言うのだが……それはどこにある」
シルベットは頭に記憶している膨大な情報量から、答を導き出す。
「ここから東にある『ぺドの峡谷』の麓に生えてます。中々見つけにくいですが、銀色の葉なので、分かりやすいと思いますよ」
おお、とヴラドは歓喜の声を漏らす。
次にカンナが指名されるが、
「え、私はいいよ!ただ、こいつの付き添いだからさ」
そう言ってコウヤへと視線を向ける。
シルベットもコウヤを指名し、コウヤが彼女の前に立つ。
「………これはアンタでも知ってるかどうか分からないんだが……」
彼にしては珍しく言い淀み、やがて、再び口を開く。
「『光る原石(ホーリーストーン)』は何処にある」
その言葉にその場に居た全員が驚愕をあらわにした。
13
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/07/02(土) 17:23:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第4話「光る原石(ホーリーストーン)」
コウヤの問いかけに黙り込むシルベットと、驚きで固まってしまうカンナとヴラド。
「……カンナ殿。私の記憶が正しければ『光の原石(ホーリーストーン)』って……」
「…うん。あの、幻の石だよ」
『光の原石(ホーリーストーン)』とは透明なのだが、石の中央で核のようなものが光っていることから名前が付けられた石だ。
手にすれば、その者の願いを何でも叶えてくれるという幻の石。故に何処にあるのかも分からず、本当にあるかも分からない代物だ。それなりに危ない奴が手にしたら『世界征服』も夢じゃないし、心優しき人間が手にすれば『苦しみに喘ぐ人々を救う』こともいとも容易く出来てしまうのだ。
そこでカンナはふと、首を傾げてしまう。
(でも、そんなもの手に入れてコウヤはどうするつもりなんだろう……?)
コウヤの実力は充分だから、力を手に入れたいわけでもなさそうだし、ましてや世界征服などという馬鹿げたことを目論んでいるようにも見えない。
コウヤと知り合ったのはつい最近なので、彼のことは何も分からないため、彼が何をするつもりなのかは、わからなくて当然なのだが。
「………」
しばらく黙りこくっていたシルベットは小さく口を開き、言葉を紡ぐ。
「えと……何処にあるかまでは分かりませんが、確実に存在はします。だから、この世界のどこかにあります」
そうか、とコウヤはあまり抑揚の無い声で言った。
シルベットは再び説明を続ける。
「ただ、最近になってその『光の原石(ホーリーストーン)』を探している集団の情報を入手しました」
三人はその言葉に耳を傾ける。
「名前は『ミストスモーク』。強力な魔法使いが揃っている悪党達です。さっきの盗賊『ラース』や、最近壊滅したって言われている『グリード』などとは比べ物にならない盗賊たちです」
あ、やっぱ壊滅したんだ、とカンナは『グリード』という名前を聞くと、顔を引きつらせる。
カンナはその盗賊の名を聞くと、コウヤとの共闘を思い出す。
「そうか、ありがとう」
「いえ」
シルベットはコウヤの礼に短く返して、
「……気をつけてくださいね」
とシルベットは心配そうな声でそう言う。
コウヤはチラッとシルベットに視線を向け、
「……死にはしねぇさ」
コウヤはそう返して小屋を出る。
それにつられるように、カンナとヴラドも外へと出る。
シルベットは彼らが出て行くのを確認すると、隠しておいた刀を持つ。
刀身を少しだけ鞘から抜き、再び鞘に収める。
刀を見て、シルベットは哀愁のある表情をして、
「……『ミストスモーク』……。彼らとつながりが無いのは分かっていますが…、せめて、この刀を抜くときが来なければいいですが……」
シルベットは巫女服を脱ぎ捨て、どこかの軍隊が来ていそうな制服を着て、その上から黒いコートを羽織る。
「さて、そろそろ私も『白の制裁者(ホワイトジャッジメント)』に合流しなくては」
14
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/07/08(金) 16:58:16 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
シルベットの小屋を出てから、ヴラドはカンナとコウヤの方を向いている。
どうやら、行き先が違うので、三人はここで別れるようだ。
「ほんの一時だったが君らと一緒にいた時間は楽しかったよ」
それを聞いてカンナは照れくさそうに頭をかいて、
「いやぁー、私も楽しかったし!お互い様だよ!」
カンナのその見てるだけで頭の悪さが伝わってくる行動を見ながらコウヤは、
「世話になった。アンタの剣技、参考にさせてもらうぜ」
その言葉に、ヴラドはフッと笑みを浮かべ、
「そうか。ならば、次に会う時は手合わせ願おう」
「吠え面かいてもしらねーぞ」
二人は見つめ合い、男の約束を交わす。
その光景にカンナはうんうん、と感慨深そうに頷いて、
「んじゃ、ヴラド君またね!恩師さんを元気にしてあげてねー!」
カンナはヴラドの姿が見えなくなるまで、ブンブンと大きく手を振る。
ヴラドの姿が見えなくなると同時、コウヤに質問される。
「で、お前はどうすんだ?」
へ?と目を丸くするカンナ。
コウヤはカンナを見たままで、
「やっぱ行く宛もない旅か?もしそうならまたお前と会うかも……」
「一緒に行くよ」
は?とカンナの言葉にコウヤは大きく反応をする。
カンナはコウヤを見つめたまま、
「だって、一人より二人の方が楽しいし、心強いでしょ?」
カンナはグッと親指を立てて、そう言う。
コウヤは溜息をつく。
確かにカンナと一緒にいれば、心強いのだが、どうしても力が借りたい状況でもないし、コウヤがあれこれ悩んでいると、
「それに『ミストスモーク』っていう危ない集団と戦うとなれば、二人いる方がいいって!」
こりゃ何言っても無駄だな、とコウヤが溜息をつく。
ニコニコ度満点の笑みを浮かべたカンナをコウヤは見て、
「……好きにしろ。死んでもしらねーからな」
そう言ってコウヤは歩き出す。
コウヤの言葉にカンナは嬉しそうに微笑みながら、
「うん!!」
と元気よく返事を返し、これから一緒に旅をするコウヤの後を駆け足で追いかける。
15
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/07/10(日) 16:04:45 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第5話「雪の国」
「……寒いぃー……」
カンナは身を縮めて、ぶるぶると震えている。
現在カンナとコウヤの二人が歩いているのは、一面を雪で覆われた真っ白な道だ。カンナはかなり厚着をしていても寒がっているが、コウヤは相変わらずの格好で全然寒そうにしていないのが不思議である。
「コウヤぁー、ちょっと待ってよー」
寒さのせいか足取りが遅くなってしまい、先へ先へ行っているコウヤを引きとめようとそう言うが、
「知るか」
一言でバッサリと切り捨てられた。
カンナは口を尖らせて、
「大体、何でコウヤはそんな薄着で寒くないの!?おかしいよ、不自然だよ!」
「それも知るか。つーかお前は氷の魔法使うのに何で寒さに弱いんだよ」
それも知らないもん、とカンナは僅かに頬を膨らませて言う
『氷の女帝』が聞いて呆れるぜ、とコウヤが溜息をつくと、その名で呼ぶな!と後ろから声が聞こえるが相手にしないことに決めた。
「ねーねー、寒いよー。そのコート貸してー」
「お前俺を凍死させてーのか」
カンナの無邪気な発現だが、コウヤはコートを合わせて上は二枚しか着ていない。今これをカンナに貸せば、自分が今のカンナ状態へと移転してしまうのだ。
まあ四、五枚着ても寒い寒いと言っているのだから、コート一枚貸しても差はないだろうと思い、カンナの言葉を無視し続ける。
「無視しないでよー。もー、寒くて歩けないー」
甘えるように可愛らしくおねだり声を出す、カンナにコウヤは、
「あーあ。お前が文句を言わず歩いていたら街に着いたときに何か奢ってやろうと思ったのにー」
「やっぱコートいらない。頑張る!」
飯のためなら頑張るという馬鹿でよかった、とコウヤは心の底から感謝する。
これなら一人だけの方が効率よかったな、とカンナと一緒に行動することを今更ながらに後悔してしまう。
「友達?」
街につき、コウヤから温かいスープを奢ってもらい、そのスープを飲みながらカンナはコウヤにそう聞き返す。
「……友達っつーか…悪友だな」
コウヤはカンナの向かい合わせになるように座って、コーヒーをすすりながらそう返す。
友達いたんだ、というカンナの痛々しい視線にコウヤは大して気にも留めず、
「そいつから久々に連絡があってな。良い話があるから来いって。丁度、近くまで来てたし」
ふーん、とカンナは適当に相槌を打って、
「その友達ってどんなの?イケメン?美人?かわい子ちゃん?」
この手の話題によく食いついてくるな、と僅かに顔を引きつらせ、コウヤは相手の質問に答える。
「一言で言うと、変態だ。アイツの趣味は、女には気味悪がられるかもな」
カンナは首をかしげる。
ストーカーみたいな奴かな、とか思うが、コウヤはそんな相手と友達にならないだろうと思い、その考えを振り払う。
16
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/07/17(日) 10:55:56 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「ここだ」
カンナとコウヤがついた場所は少し古びた印象のある小屋だった。大きさはそれほど大きくないものの、人が一人で暮らすには充分だろうと思える。
カンナは楽しそうに笑みを浮かべ、ドアの前に立って大きく息を吸い、
中にいるであろう相手に叫ばずに、コンコンと二回ノックをした。
予想外の行動にコウヤはずっこけそうになる。
「ちょっと待て!何でノックする前に息吸ったんだ?深呼吸必要なかったろ!?」
あまりの馬鹿馬鹿しさにツッコむのも馬鹿馬鹿しいが、コウヤはカンナにそう叫ぶ。
カンナはへ?と僅かに肩を揺らして、いきなり叫ばれたことに僅かに驚いていた。
「だ、だって、知らない人の家だよ?深呼吸というか……呼吸を整える、というか…」
大して荒れてもないのにか、とコウヤはカンナにツッコミを入れていく。
コウヤはこんなカンナをバカだと思うが、些細なことで叫んでしまう自分もバカだ、と気付くまでには至っていない。
そんなバカコンビは、ノックしても前でこんなに騒いでも全く中から人が出てくる様子がない小屋へと視線を戻す。
「……留守かな?寝てるとか」
「人呼び出しといてか?随分と自分勝手だな……」
コウヤは何気なくドアのノブを手で掴み、回す。すると、ギィ、と小さな音を立てて、ドアが開いた。
「開いてる!」
無用心だな、とコウヤは心の中で呟き部屋へと入る。
部屋の中は真っ暗でドアを開けたときに差し込む光でさえも大して中を照らしてはくれなかった。
コウヤは慎重に中を歩いていると、唐突に、
「ふにゃっ!?」
と聞き慣れた女の短い悲鳴の後に、ドタッと倒れる音がした。
コウヤは溜息をついて、
「何してんだよ、カンナ」
「……いや、何かにつまずいて……電気は?」
「今探してる」
するとドアが開き、急に部屋の電気が点き、部屋の中が照らされる。
カンナは自分の足元に目をやっていたため、電気が点いた時に自分のつまずいた物が真っ先に目に入った。
「……ひ、」
カンナは自分がつまずいた物を見て、涙目になる。
そこにあったのは、
人間の頭蓋骨だった。
「きゃああああああああああああああああ!!」
カンナは大きな悲鳴を上げて、コウヤへとしがみつく。
コウヤはそんなカンナに僅かに驚きつつも、ドアの方へと視線を向ける。
「……相変わらずだな。ったく、勝手にお邪魔させてもらったぜ、ギル」
ドアの方に立っていたのは、漆黒の衣装に身を包み、左目が黒髪で隠れている、コウヤと同じくらいの背丈の男。
「電気、ドア入ってすぐの右手の壁にあるんだが」
ギルと呼ばれた彼はそれを示すかのように、電気のスイッチに手を当てたままだった。
17
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/07/24(日) 19:28:44 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第6話「ミストスモーク」
とりあえず家主が帰ってきたので、カンナ達は居間へと移動した。カンナはコウヤの隣、ギルはコウヤと向かい合うようにソファに座っている。
コウヤは何度か来たことがあるのか、落ち着いているが、カンナはあちこちに置いてある頭蓋骨や、恐竜の腕のような物にビクビクと怯えていた。
ギルは怯えているカンナに気付いたのか、
「いやぁ、すまないね。初めての人には少々刺激が……レプリカだから気にしなくていいのだが」
出来るか、とカンナは心の中で叫ぶ。
隠されているのならまだしも当然のようにこんなに置かれては逆に気にしないと失礼な気がしてしまう。カンナは『オカルト』『下衆』『変態』が嫌いで真ん中以外は全て該当しているギルは、カンナにとってA級戦犯のようなものだ。
コウヤはあちこちを見回して、呆れたように溜息をつく。
「また増えたか?相変わらず気持ち悪いな」
「オカルトは底が尽きないのだが。これ程興味深い物に執心するな、という方が僕にとっては無理なのだが」
そうかよ、とコウヤは適当に頷いておく。
ギルは口の端に笑みを浮かべながら、
「ところで、僕のオカルト談義はいいとして、お前はまだ例の石を捜索中か」
「まあな。何でも願いを叶えられるっつーモンに執心するなってのが無理だろ」
確かに、とギルは小さく頷く。
コウヤは『光る原石(ホーリーストーン)』のことをギルに話しているということはある程度相手のことを信頼しているのだろうか、とカンナは適当に推測する。
「ところで、さっきから気になっていたのだが、そこの娘はコウヤの彼女?」
「……ッ!?なっ……違………ッ!」
「ああ、そうだ」
カンナは顔を真っ赤にして否定しようとしたが、そんなことを言われると思っていなかったため、呂律が上手く回らずコウヤに先に言われてしまった。しかも嘘を。
「ちょ……、コウヤ!!」
「別にいいだろ。適当に合わせとけ」
コウヤの馬鹿、と顔を真っ赤にして俯いてしまうカンナだが、コウヤは全く気にしていない。
ギルはふーん、と適当に相槌を打っていた。
「そうだ。例の石を探してるお前にグッドニュースだ。僕もその石を見ることに興味が出てきてね。見つけることを手伝ってあげるよ」
「アホか」
ギルの言葉にコウヤは鋭い口調でそう返す。
「お前、魔法はほとんど使えないし、使えたとしてもヘボ魔法じゃねぇか。そんな奴に手伝わせれるか」
「手伝うのは僕じゃない」
ギルは真っ直ぐにコウヤを見つめて、
「手伝うのはある組織さ」
組織。
『光る原石(ホーリーストーン)』を手に入れるために手伝ってくれる組織。
カンナとコウヤには心当たりがあった。
そう、シルベットの小屋で情報を貰った時に聞いた、あの組織だ。
「……ギル、その組織って…」
「『ミストスモーク』」
その組織名にカンナとコウヤは目を大きく目を見開く。
「僕はその組織の下部隊員。今は勧誘に徹している」
「ギル……お前……」
「コウヤ。お前ほどの魔法使いが入れば組織の拡大が望める。さあ、僕と一緒に来るんだ」
18
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/08/05(金) 18:22:00 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
カンナとコウヤはギルの言葉に顔を顰めていた。
コウヤの友がいる組織はこれから進路の妨げとなるような組織で間違ってカンナ達が加担するような組織じゃない。
二人は息を呑む。緊迫の沈黙が部屋一体を包み込む。
その沈黙を破ったのは、コウヤだ。
「馬鹿か。俺が何の組織にも属さねぇって言ったのを忘れたか?」
コウヤはこの場に置いても冷静だ。一瞬の焦りはあったものの、すぐに冷静を取り戻す。
足を組みなおし、再びギルに問いかける。
「無論、覚えているが。これはお前のためにも言っている。お前はある女の子のために欲しいのだろう?あの石が」
ギルの言葉にコウヤの眉が僅かに動く。
それ以上は言うな、とコウヤは目でギルに釘を刺す。
(………ある、女の子…?)
カンナはギルの言葉に首を傾げていたが、それ以上の追求はなかったため、カンナもとりあえず気にしないことにする。
コウヤはスクッと立ち上がって、
「行くぞ、カンナ」
「えぇ!?でも……」
「いいから」
コウヤは座っているカンナに早く立つよう促す。
ギルは不愉快とでも言いたげに、顔を顰めて、
「待て。まだ終わっていないんだが」
「終わったよ」
ギルの言葉にコウヤは即答する。
コウヤはギルの方を向いて、
「俺はこいつと一緒に探すさ。いい相棒が出来ちまったモンでね」
コウヤは対して気にもせずにカンナの頭に手を置き、自分の方へと引き寄せる。しかし、抱きしめられたような状態になったカンナはコウヤの身体へ顔をうずめて顔を真っ赤にしながら『コウヤの馬鹿』と呟いている。
ギルは睨むようにコウヤを見た後、
「そうか。ならば、その女が消えれば…お前は組織に入るんだな」
カンナとコウヤは眉をひそめ、しばらくギルを見つめていた。
突如、ギルの身体に異変が起こる。
「……ぉ、ごァ………うグ、ぐあああァ……ごォォあああああああああああああああ!!」
強烈なギルの叫びと共にギルの背中から漆黒の翼が生え、身体が巨大化し、瞬く間に姿を変えていく。
「……ふぁ……」
「何だよ……これ」
カンナは僅かに怯えたような声を、コウヤは冷静ながらも顔には焦りの色が見えていた。
何故なら、彼らの前にいたのは人の姿をしたギルではなく、巨大な一体の虫と化したギルが君臨していたからだ。
「カンナ!!貴様ヲ殺ス!!」
強力な戦力となるコウヤを引き入れるため、ギルの攻撃の矛先はコウヤではなく、カンナへと向けれらた。
19
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/08/06(土) 01:04:06 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第7話「友」
ギルの怒りの矛先はカンナに向けられる。
ギルは口から正体不明の液体をカンナへと飛ばす、突然の攻撃に身体が固まって動けないカンナ。しかしカンナがその攻撃を受けることはなかった。
コウヤがカンナの前に立ち、背中でその液体を受けたからだ。
「ッ!?」
コウヤの突然の行動にカンナは驚きで固まってしまう。ギルも同じだ。
液体を受けた背中に軽い火傷を負う、濃度が低い硫酸だろうか。コウヤは僅かに顔を顰めるが、すぐに表情を元に戻す。
「こ……コウヤ、どうして…」
カンナの声は震えている。
自分のせいでコウヤが傷ついたからだ。
そもそもコウヤが自分を庇うことが信じられなかった。普通なら、この状況でコウヤはカンナを蹴飛ばして回避させればいいものを、何故わざと攻撃を受けたのだろう。カンナは労わるような目でコウヤを見つめる。
対してコウヤは気にもせず、
「いいか、カンナ。お前はとっととここから出ろ」
「コウヤは?」
俺は、と呟いて変わり果ててしまった自分の友を見る。
「ギルを止める」
カンナは自分も残る、と言いたかったが、その言葉を発することは出来なかった。
それほどコウヤの目に覚悟があり、自分が干渉できるような領域ではなかった。これはコウヤとギルの『友達』同士の戦い。間違ってもカンナが混じっていい戦いではない。
それでも、まだ踏ん切りがつかないカンナは、最後に確認するようにコウヤに問いかける。
「……ちゃんと、終わらせてね」
「たりめーだ」
コウヤの返事を聞いて、カンナは小屋から出る。
他人を護る、という今までになかったコウヤの行動にギルは不満の声を漏らす。
「何故ダッ!?何故アノ女ヲ護ル?ソコマデシテ、オ前ニ何カ利益ガアルノカ!?」
「損得の問題じゃねーよ」
コウヤは腰に挿してある刀の柄に手を伸ばす。刃のない、刀の柄に。
「ただ見られたくないだけだ。俺が人を殺すのを…俺はアイツにだけは見られたくない」
「フン!!クダラン!!アンナ何処ニデモイルヨウナ女ニオ前ハ惚レタト言ウノカ!アノオ前ガ!!」
ギルはコウヤのことを知っている。
間違っても恋をするような人間ではないし、あんな馬鹿みたいな女を好きになるなど、絶対にないことだと知っていた。だからこそ不可解だった。
対してコウヤは告げる。
「はは、かもな。アイツと会ってから、何故か俺は変わったと自分で思う。一人でいる時より自然に笑うことが出来るし、自然にイラッとすることもある。俺がアイツに抱く感情は、好きとか簡単なモンじゃねぇ」
ただ、とコウヤは区切って、
「信頼だ。俺はアイツに裏切られたくない。人を殺して、それでアイツに遠ざかられたくない。ただそんだけだ」
コウヤは刃のない刀を引き抜く。
しかし、刃は既にコウヤの魔力によって作られていた。彼の『思念魔法(しねんまほう)』によって。
「終わらせてやるよ、ギル。俺が、お前という『友』を」
20
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/08/07(日) 02:08:46 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コウヤは刀の柄を両手で握り締め、相手がどう出るか窺っている。コウヤのたたずまいにはどこか余裕さえも感じさせる。
その余裕が鼻についたのかギルは、
「気ニ食ワナイナ…!オ前ノ、ソウイウ性格ガ気ニ食ワナイ!!」
ギルは巨大な足を振り上げてコウヤへと振り下ろすが、コウヤが動いたと思った時には既にコウヤはギルの背後に立っていた。
コウヤはゆっくりと刀を鞘に納めながら、
「………お前の攻撃は……俺には届かねぇよ」
刀を鞘に納めていくと、ようやく斬られたことに気付いたギルの身体が引き裂かれていく。
「……ヤッパリ…天才ダ、ナ……オ前………!!」
チン、と刀を完全に鞘にしまうと、真っ二つにされ、血しぶきが舞い、ギルの二つに分かれた胴体のみが残った。
コウヤは振り返って友の亡骸を見る。
人間としての友ではなく、虫となって変わり果てた友の姿を。
「……天才、か」
コウヤはギルの部屋を適当にあさって、頭蓋骨の置物を手に取る。
それを懐にしまい、ドアへと手をかけ呟くように告げる。
「んな言葉、犬にでも食わせとけってんだ」
ドアを閉めて、辺りを見回すが先に外へ出したカンナが見当たらない。
コウヤは溜息をついて、雪が降りつむ中、
「何処行ったんだ、アイツ……」
「こっちだよ、こっちー!」
後ろから声がしたので、振り返ると、
パァン!!とコウヤの顔に雪玉が直撃する。
「にゃははははは!当たった、当たった!イェーイ!」
コウヤはコートの袖で濡れた顔を拭きながら、
「カンナ、足元見てみろ」
ほえ?といわれたとおりに足元を見るカンナ。
そこには頭蓋骨の置物が。
「きゃああああああああああっ!?」
カンナが叫ぶと横っ腹にコウヤの蹴りがヒットする。
「…っつ…何すんのよ!?」
「こっちの台詞だ!!」
再び喧嘩しそうになる二人。
そんな空気を払拭するためにカンナは、
「……もう終わったの?」
「……ああ、終わったよ。アイツは用事で行っちまったけどな」
そっか、とカンナは返す。
コウヤの顔には僅かに悲しさが表れていた。
「…行こうぜ」
フッと笑みを浮かべてコウヤはカンナに促す。
「あいあいさー!」
とカンナも元気よく返事をして彼についていく。
その光景を木の影から見ていた、白い髪を持つ眼鏡をかけた女性は、
「はい。どうやらギルは勧誘に失敗したようです。では当初の予定通りプランAからそのままCを遂行します。全ては『ミストスモーク』のため」
不穏な影が二人に迫るのに、そう時間はかからなかった。
21
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/08/13(土) 01:03:36 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第8話「ホーム」
「ちゅかれたぁー……もぉー、歩けません。つーワケでコウヤくんおねがーい」
カンナは目をかあんり細め、疲れきった表情で前を歩いているコウヤに言う。
ぺたっと地面にへばりついて動きそうにないカンナを見もせずに、コウヤはすたすたと歩いていく。
「ああんっ!酷すぎるー!パートナーが歩けないって言ってるのに無視だなんてー!」
カンナは距離が開きすぎないうちにコウヤの腕にしがみつき構って欲しいですオーラを蔓延させる。
コウヤは心の底から疲れきった表情で溜息をつく。
「知るか。歩けないなら体力回復するまでへばってろ」
コウヤの意地悪ー、という言葉が飛んでくるがこんな言葉でキレることも、ましてわざわざ相手にするコウヤではない。
いつものことのようにコウヤはすたすたと歩いていく。
歩幅が大きいためかカンナはやや駆け足でコウヤの横を歩きながら、
「とか言って、いっつも行き先教えてくれないんだもん。次は何処に行くのさ」
ぶー、と頬を膨らませてカンナはコウヤに問いかける。
「ああ、友達に会いに行く」
その言葉にカンナは固まる。
最近『友達』というワードでアブナイ事があったような。
変なコレクションを持っている変人だったり。敵視する『ミストスモーク』に所属していたり。身体が突然大きな昆虫になったり。
カンナはそれらのことを全て思い出して、
「あのぅ、つかぬことをお尋ねいたしますが、そのオトモダチはフツーなのでありますでござりますのでしょうか」
何だその言い方、とコウヤは溜息をつく
コウヤは歩きながら、
「まず『ミストスモーク』には加担してねぇだろうよ。そんな奴らの下につくような奴らじゃねぇし。変人は変人だが、あんなコレクションしてねぇ」
コウヤは言いながらある建物の前で足を止める。
そこは酒場のような場所で屋根に取り付けらている看板には『クライシス』と書かれている。
「……ここは…?」
「魔法使いしか入ることの許されない魔法使い専用の酒場…ってのは名ばかりで、中ではここの免許を持った魔法使い達が家族の用に暮らしているホーム。それが『クライシス』だ」
コウヤはドアを開け放つ。
中にいる人数は五十人前後で肩を組んで酒を呑んでいる中年男性や、女同士で楽しそうに会話をしている女性達、何かについて熱く論議している男と女の小グループなど、していることは人それぞれだ。
「……すごい……。これ、全部魔法使いなの…?」
コウヤはフッと笑みを浮かべて、
「ああ。帰って来たぜ、ホームにな」
22
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/08/13(土) 16:20:03 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「へぇー、いっぱい人がいるんだね。コウヤって全員の名前覚えてるの?」
「ん、ああ。まあな」
カンナとコウヤがそんなことを話していると肩を組みながら酒を呑んでいた男がコウヤに気付く。
「お、コウヤだ。コウヤが帰って来てるぞー!!」
そう言うとわっと酒場全体が盛り上がり、コウヤに群がる。
カンナはその様子にきょとんとして、
「コウヤって人気者なんだ…」
コウヤが群がる人達を鬱陶しそうにしていると、彼の後頭部に空き缶のような物がぶつけられる。
その光景に場が一気に静まり返り、全員が口を開けて固まる。
コウヤがふー、と息を吐くと、睨みつけるように刀の柄に手をかけて、
「今物投げた奴出て来い」
投げた相手が名乗り出る前にコウヤは刀を抜いて物が飛んできたほうへと斬りかかる。
それが火蓋になったようで酒場で大乱闘が起きる。
カンナがその光景にあわあわしていると、
「アッハハハー!やっぱアイツが帰ってくると皆元気になるねー!」
肘くらいの長さの澄んだ青色の髪をした女性が左手を腰に当てて笑いながらやって来た。
その女性はカンナの方へと視線を向けると、
「貴女、コウヤの旅先の友達?宜しくね、私はスィーナって言うの」
「はあ、カンナです。どうも…」
スィーナと名乗る女性が手を差し伸べてきたのでカンナは遠慮がちにその手を握る。
スィーナは笑みを浮かべたまま、乱闘しているコウヤ達を眺める。
「こういうところは初めてかな、カンナちゃん」
「え、あ…はい。というより、こういう場所があるって言うのも初耳で…」
スィーナはアハハ、と軽く笑い飛ばして、
「知らないのも無理はないよ。魔法使い専用の酒場なんてほとんど無いからね」
乱闘しているコウヤ達のところで顔が整っている青年が『下品だな。僕が相手だ』とか身体が大きい男が『俺と勝負せんかぁ!』などと叫んでいる。
ククッ、とスィーナは笑って、
「ここはコウヤの家みたいなもの。コウヤだけじゃなく、私や皆にとっても我が家みたいなものなのさ」
カンナはスィーナの言葉を聞きながら暴れている皆を見る。
確かに他人や友達というより、家族的な絆のようなものがあるように見える。
本気でぶつかりあって、本気で殴り合って、こういう馬鹿馬鹿しいことが家族のように思えた。
ふと気になったカンナはスィーナに訊ねてみる。
「あの、スィーナさん」
「なんだい?」
「……スィーナとコウヤってどういう関係なんですか?」
その質問にスィーナがきょとんとする。
思いも寄らなかった質問らしい。
スィーナが質問に答えようと口を開いた瞬間、
「オイ、コウヤ!『ジン』がもの凄いスピードでこっちに向かってるぞ!!」
入り口付近にいた中年の男がそう叫ぶ。
コウヤは、ああ?と不機嫌な顔を入り口へと向ける。
23
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/08/14(日) 16:49:03 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
『ジン』という男が近づいているという情報に『クライシス』中がざわめく。
何で皆がざわめいているのか分からないカンナは首をかしげて近くに居るスィーナに訊ねてみる。
「あの…『ジン』って一体誰なんですか?」
えっと、とスィーナはちょっと言いよどむ。
コウヤは柄を握り締める手に力をより強く込めて扉の方を睨みつけると、
「……ぶっ殺す」
と小さく呟いた。
途端にガゴォン!!という轟音が響き、『クライシス』の中に何かが突っ込んできた。
その突っ込んできた何かはコウヤに激しくぶつかる。
「うわっ?何!?」
巻き上がる砂埃にその場に居たカンナ達は両腕で顔を覆う。
顔を覆う腕を退けると、砂埃の中心でコウヤと灰色の髪をしたカンナと同じくらいの年の男がつばぜり合いの状態で立っていた。
突っ込んできた男は耳が隠れるくらいの灰色の髪に、目つきはかなり鋭い。
「……よォ、今更何しに戻ってきやがったァ?コウヤよォ!」
「相変わらず口と目つきと俺に対する態度は悪いままだな、ジン」
ジンと呼ばれた彼はぴょん、と軽く飛んでコウヤと距離を取る。
ジンは二本の剣を使って、コウヤに襲い掛かっていた。二人は睨み合いながら刀を構えている。
「……えー、と…ホントにあの二人ってどういう関係なんですかぁぁ!?」
「んー、まあ腐れ縁…かな?小さい頃からよく喧嘩してて……たまに仲良くなることがあるけど…ああやって喧嘩してることを見るのが多いわ」
スィーナはあはは、と苦笑いを浮かべながら説明する。
それにしても二人の目からかなり本気が伝わってくるあたり、本当に喧嘩のレベルなのだろうか。そもそもコウヤは『ぶっ殺す』とか言ってましたけど?とカンナの中で色々な思考が渦巻く。
コウヤとジンが再び激突しようと突っ込むそこへ、
「暴れてんじゃねぇよ、ガキどもがぁ!!」
ガゴン!!と二人の頭に酒が入っていた空の瓶が叩きつけられる。
二人はそのまま地面へとうつぶせに倒れこむ。
「……まったく」
二人を止めたのは露出が高く、地面につくほど長い茶色が混じった黒髪を持ったスタイルのいい美女だった。
「そーそー。コウヤ君を見るたび、喧嘩するのはよしなさいって」
玄関から呆れたような声と共に背中くらいまでの黒髪の少女が入ってくる。
やはり彼女もカンナ達と同じくらいの年齢に見える。
「………スィーナさん……。ここって、まともな人いないんですか……?」
「………………アハハハハ………いるわけないじゃん…………」
24
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/08/19(金) 19:03:26 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第9話「クライシス」
カンナはとりあえずコウヤとジンの戦いが終わったようなので落ち着き始めた『クライシス』内の皆に状況を話す。
自分達が『光る原石(ホーリーストーン)』を探していること。その上で『ミストスモーク』という組織と戦わなければいけないということ。それでコウヤが力を貸してほしいということ。
ジンは腕を組んで、目を閉じ、うんうんと頷いていた。
話を聞き終わり、しばらく話の整理をしていたジンは目をくわっと開けてコウヤの胸倉を掴む。
「何で俺がテメェの部下みてーな扱いにならなきゃいけねーのかなー?コウヤちゃんよ」
「嫌ならいいんだぜ?お前だけには頼らないから」
再びコウヤとジンは戦いを始める。
カンナはあわあわと慌て始めるが、カンナと同じ年くらいの黒髪の少女がカンナに肩にぽん、と手を置いて、
「大丈夫よ。二人とも何だかんだで手加減してるから。私とジンとコウヤ君は8歳からここにいるわ。二人の喧嘩は何度も見てきたから分かるの」
カンナはその少女の言葉に違和感を覚えた。
ジンのことは呼び捨てにしていたのに、コウヤのことは君付けで呼んでいたのだ。
ジンの彼氏なんだろうか、と思っていると少女から名乗ってくれた。
「私はリリィ。ジンとは双子の姉なの。全然似てないでしょ?」
「双子ッ!!!???」
カンナは思わず吹き出してしまい、喧嘩を眺めていたスィーナ達も、殴り合いに発展していたコウヤとジンも一斉にカンナを見る。
ジンは溜息をついて、
「まあ見えないわな。髪の色からして似てないしィ」
「俺も十年前からコイツらと一緒にいるが似てると思ったことはねぇな」
『私も』『俺も』『僕も』と全員が一様に声を出す。
髪の色、目つき、他に至るまで何も似てはいなかった。性格も真逆そうだ。
「それより、あなたの名前は?」
「あ、カンナです!」
リリィに名前を訊ねられ、カンナは僅かに頬を赤くして答える。
リリィはクスッと笑うと、
「あなたも『クライシス』に入る?だったら免許作らなくちゃね」
「免許?」
カンナが首をかしげていると、顔の整った青年は、
「通常は面接と実技が必要なんだけど、カンナって言うと結構有名だからね。実力は測らなくても分かるし、コウヤの友達なら不審がる者はいない」
男は丁寧に説明してくれた。
ちなみに僕はアランっていうんだ、とついでに名前も名乗ってくれた。
「んじゃ、今日はコウヤの帰還祝いと新メンバー加入を祝して、皆で騒ごー!!」
スィーナの掛け声で『クライシス』内の皆のテンションが上がっていく。
宴を前にコウヤとジンはもう一戦殺し合いをしそうな雰囲気を放っているのを皆は見て見ぬフリをしている。
25
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/08/20(土) 15:37:46 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
『クライシス』の中はわいわいと騒がしく盛り上がっていた。
久しぶりのコウヤの帰還。カンナという新しい仲間の誕生。彼らにとっては家族が帰ってきて、一人増えたような、そういう嬉しさがあるのだと思う。
コウヤはジンと睨み合って、飲み物に一切手をつけようとしてないし、アランはカウンターで上品そうに一人でワイングラスを傾けている。そのほかにも中年男性が肩を組んで酒を呑んでいたり、男達が何かの議論で熱くなっていたりと、昼と変わらない風景が広がっていた。
カンナはそんな光景を眺めていた。
ここが自分の帰る場所で、皆が自分の家族なんだと。
「気に入ってくれた?」
カンナの横にリリィが座る。
何だかんだでカンナはリリィとスィーナとは仲良く出来ていた。
スィーナは奥の部屋で免許を発行しているらしく、今はこの場所にいない。
「うん……騒がしいけど、こういうのもいいかなって」
「でも大変だよ?皆いつものように喧嘩とかするから、たまーに投げられた物が当たったり…」
そう言った矢先、カコーンとコミカルな音を立ててリリィのつむじに空き缶がぶつけられる。
ぶつけたと思われる人物は、昼間のコウヤとジンの喧騒を止めた露出高めの長い黒髪の女性だ。
彼女は酒をビンで飲んでいて、ビンの中を飲み干すと、
「お高く止まってんじゃねーよ。お前だってよく暴れるじゃねぇか。この暴走女」
ビキッ!!とリリィのこめかみに青筋が浮かぶ。
リリィは無理矢理に引きつった笑みを浮かべ、
「アンタよりマシだっつーの。何?何なの?何なんですか?いちいち喧嘩腰でしか話せないの、あら可愛そうに」
瞬間、リリィと相手の女がつかみ合いになって女の恐ろしい喧嘩が始まる。
「おうおう、お前だって一緒じゃねーか。いつものように酒呑んで早々に酔いつぶれろっての」
「今日は気分じゃないのよ。つーか私もアンタも未成年しょうが、私は昨日のうちにお酒やめましたー!」
女特有の陰湿な戦いだ。
この喧嘩に今まで騒いでいた男達はさらに盛り上がり、姉の怖さにジンはうな垂れる。
コウヤはいつものことのように飲み物を飲んでいる。
「り、リリィちゃんってこんな怖いの?」
「まあ、リリィちゃんはイヴと仲が悪いからね。コウヤとジン程じゃないけど、たまにああなるのよ」
スィーナが苦笑いを浮かべて戻ってきた。
何故かリリィとイヴの戦いから他のところまで喧嘩が移っており『クライシス』内はバトル・ロワイヤル状態となっていた。
「カンナちゃん、免許できたよ。どうぞ」
カンナはスィーナから免許を受け取る。
顔写真などはなく、名前と性別と『クライシス』に入った日付が記載されていた。一番下には『ナンバー』が書かれている。これはカンナが何番目に入ったかを表していた。
カンナは免許をぎゅっと握り締めて、
「ありがとうございます、スィーナさん!!」
「どういたしまして。こっちとしても家族が増えたみたいで嬉しいよ」
カンナの頭にゴン!!と小さな樽がぶつけられる。
場が静まり返る。
カンナは俯き、指をコキコキと鳴らしてから、
「全ッ員ッ!!ぶち殺したらァァ!!」
拳に氷を纏い、喧嘩の輪に入っていった。
結局、この喧嘩に参加しなかったのはコウヤとジンとスィーナの三人だけだった。
26
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/08/28(日) 13:25:23 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
『クライシス』の前でカンナとコウヤは『クライシス』内の人間に見送られている。
ここに寄ったのは休憩のようなもので、帰ってきたわけじゃない。そもそも今二人は旅の真っ最中なのだから。
「やっぱり、行くんだね」
スィーナは悲しそうな顔をしている。
きっとカンナとコウヤじゃなくても、こんな顔をしたはずだ。
彼女は『クライシス』の人間を愛している。家族が去っていくのは、辛いことだ。きっとスィーナだけじゃなく、全員そのはずだ。
「まあな。『光る原石(ホーリーストーン)』を見つけなきゃいけねーし」
「一日程度だったけど、私は楽しかったよ!」
『ホントすぐだったな』『でも家族が増えて嬉しいよ』などという言葉が聞こえる。
すると中年の男が、
「まあ今度帰ってくる時は二人の子どもでも見せてくれや」
カンナは顔を真っ赤にして、
「ち、違う違う!!私とこ、コウヤは…その…そんな関係じゃないもん!ただの友達なんだからっ!!」
『クライシス』の皆はからかわれてムキになるカンナを見て笑っている。
カンナは顔を赤くしたまま、頬を膨らませてむすっとしている。
「出来れば、この中から二人ぐらい来てくれたら心強いんだがな。まあ、お前らはこの酒場にいるのが似合ってるぜ」
コウヤはそう言う。
休憩がてら彼らに協力を申し出ていたのだが、『ミストスモーク』の奴らに手を貸さないだけでも充分だ。
「その二人は俺達じゃダメか」
カンナとコウヤの後ろから声が飛んでくる。
振り返るとそこにいたのはジンとリリィ。
「……ジン、リリィ……」
ジンはキッとコウヤを睨みつけて、ずかずかとコウヤに近づいて行く。
彼の目の前で立ち止まるとコウヤの胸倉を掴み、
「喧嘩、だろ?だったら俺も混ぜろよ。だが、俺はお前の下にゃつかねぇぞ」
「そのつもりだ。俺もお前みたいな奴を部下にする気はねぇ」
リリィは溜息をついて、
「なーんであんな言い方しか出来ないのかしら。安心してカンナちゃん。いざとなったら二人は私が止めるから」
「お前に止められるのか」
イヴの言葉にリリィは青筋を立てるが、ここは喧嘩しないでおこうと思う。
深呼吸して、冷静さを取り戻す。
「さて、行くぞ」
「命令すんじゃねーよ」
コウヤの促しにカンナとリリィも答える。ジンだけはやっぱり反抗的だ。
「また帰ってきてねー!!」
スィーナは大きく手を振って、四人を見送る。
(あ、コウヤとスィーナさんの関係聞きそびれた…。まあいっか。今度聞けば)
カンナの中に一つの疑問が残るが、急ぎでもないし、気にしないことにした。
カンナ達はジンとリリィの二人を加えて、再び旅を始めた。
27
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/02(金) 23:57:14 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「私さぁ、昨日変な夢見たんだけど」
カンナが唐突にそんなことを言い出す。
「お、それなら俺も見たぜ」
「そういえば私も」
「奇遇だな。俺もだ」
ジン、リリィ、コウヤの三人も意見が一致していた。
おや?と全員思考が硬直すると同時、前へ進む足も止まってしまう。
カンナは三人を見回して、
「ねーねー、皆見たの?」
うん、と全員頷く。
カンナは腰に手を当てて、状況の整理に取り掛かる。
「……私が見たのは金髪の人だったんだけど」
「俺は金髪に眼帯してたぞ」
「あー、してたしてた。確か左目だよね?」
「そういえば銃持ってなかったか?」
ここまでは奇跡的に全員合っているらしい。
ということは全員同じ夢を見たのだろうか、不安になったカンナは、
「じゃあさ、夢の中で最後に言われた台詞を一斉に繰り返そう」
いっせーので、とカンナが皆と呼吸を合わせると四人は同時に、
「「「「近いうちにまた逢いましょう」」」」
一致した。
いや、一致してしまった。
仲がいいからか悪いからか分からないが、全員偶然にも同じ夢を見ていた。
「……皆も見てたんだね……」
「何だよこの気味ワリーシンクロ率」
「参っちゃうなー」
「……」
そんな時、彼らの耳にドン!!という爆発音が耳に、震動が肌に伝わる。
カンナ達が見回すと少し離れた所から煙が上がっている。
「あそこだよ!」
「今の震動は焚き火なんかじゃ起こらないな」
カンナははっとしたように顔を上げる。
「もしかしてどっかの盗賊……もしくは『ミストスモーク』かも!」
「どっちでもないにしろ、行かなきゃ!」
カンナとリリィは慌しく煙の上がっている方向へと走っていく。
その背中を眺めていたコウヤとジンはお互いに顔を見合わせる。
この時ばかりは喧嘩に発展しなかったようだ。
「……何つーか、お前の旅先で会った奴は、忙しい奴だな」
「お前の姉も似たようなモンだ。アレだと毎日お祭り騒ぎだろ」
二人はお互いに翻弄される女に溜息をついて、彼女達を追いかける。
28
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/09(金) 21:08:32 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ジャイロット村。
小さいながら活気のある村で、いつもは人々が行き交い、がやがやとしたイメージがある。
が、今はそれが逆転し、家はほとんどが焼かれ、村にいる全員が一箇所に集められている。その村人達を見張るように四人の人物が立っていた。
この村を襲撃した『ミストスモーク』の魔法使いである。
「ケケーッケケッ!!ナァ、コイツらドォする?やっぱ一人ずつ殺ってくかァ?」
大きな鎌を背負った細身の男が甲高い声で笑いながら他のメンバーに訊く。
男の声に不快そうに顔をゆがめた、濃いピンクの長い髪を持った、キセルを吸っている女は、
「おばか。殺してどーするの。そいつらはあくまで人質でしょ?有効活用しなくちゃ」
ふぅー、と煙を吹きながらそう返す。
刀を腰に差した、侍のような出で立ちをした黒髪の男は、
「だな。それに、我らの命令はこの村の殲滅、および反乱分子を消すことだ。無闇に血を流すべきではない」
「……本当にこれでいいのだろうか」
男の言葉に大男は俯いて、そう呟く。
「ちょっと!ここに来てビビるのだけはやめてよね!アンタはリーダーなんだからしっかりしなさいよ!」
「そうではない。私が恐れているのは、これが自分の正しい道なのだろうか。それだけだ」
鎌を持った男は全然考えてないような早さで言葉を返す。
「ケケケッ!正しいに決まってんだろ!俺達は『ミストスモーク』なんだぜ?」
「そうだな。余計な雑念は捨てた方が身のためだぞ」
だが、と大男はまだ迷っている。
それに苛立ったのか侍男は刀を抜き、男の首筋へと持っていく。
「いい加減にしろ。お前がここで臆してどうする。無益なことを続けたくなければ、反乱分子を潰せ!!」
「分かっているのだが……」
唐突に、大男が黒い影にぶつかられ、横方向に飛んでいく。
「「「!?」」」
その場に居た三人全員がいきなりのことに驚きをあらわにしていた。
そして、他の三人に襲い掛かる黒い影。
その四つの黒い影は、横一列に並ぶ。
「ありゃ。結局二人とも来たんだ」
「一人で突っ走りすぎなんだよ、ボケ」
「この人達『ミストスモーク』でしょ?」
「だったら、俺らも喧嘩に混ぜろってんだ」
カンナ、コウヤ、リリィ、ジンの四人が村に到着した。
「桃色の髪の女に……」
「黒コートの男、ねぇ」
「ケケケッ!聞いてたとおりじゃねぇか」
「主らか」
大男は立ち上がってそう言う。
そう、彼らが『ミストスモーク』のいう反乱分子である。
29
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/11(日) 21:49:23 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「こっちも四人、敵も四人。よっしゃ、互角!」
「互角なもんか、アホ」
カンナの勇んだ言葉をコウヤは一言で斬り捨てる。
コウヤはカンナが殴り飛ばしても全然ダメージを負っていない大男を見ている。
「お前が殴ったアイツ。他の三人と比べて明らかに格が違う。恐らくこの四人のリーダーだ」
上等じゃない、とカンナは指を鳴らす。
そして大男を指差して、
「アンタの相手は私よっ!!」
そう宣言する。
「おい。あの女、人の話聞いてねーのか」
「強いと聞いたら興奮すんだよ。アイツ」
ジンとコウヤは頼りになるのか、ただの馬鹿なのか分からないカンナを見て溜息をつく。
リリィは他の三人を見回して、コウヤとジンに問いかける。
「で、私達はどうするの?」
「ああ、そうだな。あのリーダーっぽいは冷蔵庫に任せるとして……」
冷蔵庫って私のこと!?とカンナが反応する。
おそらく『クライシス』内で勃発した喧嘩で氷を使う様子を見て、そういうニックネームを命名したのだろう。
「俺達はそれぞれ攻撃を仕掛けた相手でいいだろ」
コウヤがそう呟く。
だとすると、コウヤは侍風の男で、ジンは大鎌を持った細身の男で、リリィはキセルを吸っている女性になる。が、
「嫌だッ!!」
ジンだけは納得しなかった。
「何でだよ」
「だって!あの鎌ヤロー、明らかに一番弱いじゃねぇか!」
「あァ!?」
ジンの言葉に鎌男の顔は不快に染まる。
ジンのワガママにリリィは溜息をつく。
姉としてなのか、それともこれ以上面倒にならないようにか、場をなだめようと言葉を発する。
「じゃあ私の相手揺するから。それでいいでしょ?」
だが、リリィの顔のすぐ横を何かが通り抜ける。
反応できないほどの速さだったが、飛んできた方向だけは分かった。
キセルの女だ。
女は煙を吐きながら、
「人を物みたいに扱わないでくれる?小娘」
「……あーあ、完全に目をつけられちゃった……」
リリィは引きつった笑みを浮かべる。
「だ、そうだ。俺もさっきからあの男に睨まれてるんでな。相手の変更は不可能だ」
ジンは小さく舌打ちをして鎌男を見つめる。
男は激しい怒りに満ちた表情をしていた。
「だな。さっさと終わらせてやるぜ」
大男は戦いが始まりそうな空気を感じていた。
そして、目の前にいるカンナを見て、
「……まず、主の名を聞こうか。私はヴィゾー」
カンナはフッと笑みを浮かべて、拳に氷を纏わせる。
「『氷の女帝カンナ』。よろしくぅ!!」
カンナ達にとって、『ミストスモーク』との初戦が始まる。
30
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/19(月) 10:56:56 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第10話「初戦」
ジンは欠伸をする。
相手と数メートルしか離れていない距離で、悠長にも大きな欠伸だ。
「テメェ、馬鹿にしてんのか」
鎌を持った男は眉間にしわを寄せてジンに問いかける。
ジンは声に気付き、
「あ?何言ってんだよ。その通りだ」
鎌の男のイライラは蓄積していくばかりだ。
それもそうだ。
コウヤとジンの仲の悪さの原因の大半はジンにある。
それは、かなり性格が悪いことだ。
今のようにふざけることもあれば、他人事のように無視することもある。
「大体、お前相手に本気になれってか。そりゃ無理だぜ。お前は蟻を捕まえるのに100%の力を出すのか」
鎌男は激昂して、鎌で斬りかかる。
しかし、その攻撃はジンの二つの刀に防がれる。
鎌男は距離を取って、再びジンに斬りかかる。
ジンは身体を横に逸らしてかわす。が、相手が狙っていたのはジンではない。
彼の数メートル後ろにいた捕らえられた民間人だ。
「……の、野郎!!」
「これで本気になるだろォ!?」
男の非情の鎌が振り下ろされるが、突如地面から現れた氷の壁によって防がれる。
見るとカンナが地面に手をつき、氷の壁を出していた。
「冷蔵庫!」
「人質の心配はいらない!私が絶対に守るから」
「恩に着るぜ!」
だが、カンナもあまり余裕をかましてはいられない。
カンナはこの四人のリーダーと戦っている。襲われたからといって、カンナに頼ることもそうそう出来ない。
「へへ」
鎌男はジンを睨みつける。
男は鎌の刃を不気味に舐めながら、狂気の目を向けている。
「んな薄汚れた目で見んじゃねぇよ。俺の身体が腐ったらどうすんだ」
ジンの刀の一本に炎が、もう片方に雷が纏う。
?と鎌男は眉をひそめている。
「俺だってAランクの端くれだ。見せてやるよ、俺の二つなの由来の象徴をなぁ」
31
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/01(土) 22:05:08 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コウヤと交戦しているジークという男は、鍔迫り合いになりながら、ジンと鎌男のジョーカの戦いを見ていた。
よそ見している相手に僅かに苛立ちを覚えるコウヤ。
「……結構余裕あるんだな、アンタ」
「そうじゃない」
ジークは否定した。
「見ておきたいのだ、ジンといったか。彼の、二つ名の由来の象徴を」
「心配すんな」
コウヤは相手を押し返し、刀を握る手に力を込める。
「俺のも見せてやる」
「……へへ、随分と余裕だなァ。お前。俺には人質がいるんだよ。向こうばっか狙われちゃ、向こうの氷女に負担がかかっちまう」
「そーだな。これ以上冷蔵庫に貸し作るのも嫌だし。とっととお前を潰しちまうか」
ジンの刀に纏っている炎が、メラメラと音を立てて燃え盛っている。電撃の方も、バチバチといいながら迸っている。
ジョーカは口の端を歪ませながら、
(馬鹿が。何がAランクの端くれだ。どーせ、おまけでなったような奴だろ。そんなホラ吹きを何人ぶち殺してきたと思ってんだ)
鎖に繋がれた鎌をブンブンと振り回し、鎌を投げる。
ジンに向かってではなく、人質に向かってだ。
「アイツ……!」
「心配いらねぇ」
動こうとするカンナをコウヤの言葉が止める。
コウヤはジークと刃を交えながら、
「ジンは強ぇからな」
カンナが言葉の意味を理解するよりも早く、投げられた鎖鎌の鎖が断ち切られる。
「……ッ!?」
ジョーカは何故こうなったのか分からず、首を傾げている。
カンナ、コウヤ、リリィ。誰も何かしたようには見えない。だったら誰がやったかもう確定している。
ジンだ。
ジョーカは前方を見るが、そこにジンの姿はなかった。
切羽詰るジョーカは言葉が出ない。
彼は気付かない。自分の後ろにジンがいることに。
「よぉ。汗すごいぞ。タオルいるか?」
ジョーカはジンの声に大きく動揺し、一気に後ろへ下がる。
ジンの刀により一層炎と雷が纏う。
「……言ったよな、俺の二つ名の由来を見せてやるって。ついでに名乗っといてやるよ」
気付くと、ジンは一気にジョーカとの距離を詰めていた。
「ッ!?」
最早、ジョーカの口から言葉は出ない。
「『炎雷の走者(えんらいのそうしゃ)』だ。覚えとけ、三流が」
ジンの二つの刃がジョーカの身体に、バツ印の傷を刻み込んだ。
32
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/08(土) 13:27:10 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ジンに倒され、仰向けに情けなく倒れてるジョーカを見て、キセルの女は溜息をつく。
「まあ、一番最初にやられるとは思ってたけど……人質有効活用しないで負けないでよ」
リリィは槍を構えながら相手の出方を窺っていた。
そもそも、相手はキセルを吸ったまま戦おうという素振りを全く見せない。戦う気があるのかと思ってしまうが、リリィが言う前に女が言葉を発する。
「ふー、さてと。じゃあ私達も始めましょうよ」
「……随分とのんびりしてたね。充分吸えた?」
フッと女は笑みを浮かべて、
「まあね。充分に―――、撒けたわ」
すると、空気に紛れたと思われた煙が灰色の姿を再び現す。
その煙は気体の自由な形ではなく、人の形へと変わっていく。煙の人が五人出来上がってしまった。
その光景にリリィは冷や汗を流して、
「……まさか、今まで何もしなかったのはこのため?」
「そーよ。これの準備に時間が掛かっちゃうから、私は一人では戦わないの」
煙の人は個性がなく、色も形も大きさも、全てが統一されていた。
寸胴のようなボディに、180くらいの背、そして、太い腕と脚に、大きな顔。目や鼻や口もない。色鉛筆でただただ灰色を人型に塗っただけのようなものだ。
「これが私の魔法『煙人(スモークパーソン)』。さあ、倒してみなさいな」
灰色の男は一斉にリリィに襲い掛かる。
リリィは槍を構え、灰色の人に切りかかるが、刃は無常にも煙を裂いただけで、灰色の人自体にダメージは無い。
(……気体だから意味が無いのか。だったら、私がダメージを受けても大丈夫なんじゃ……?)
灰色の人がリリィに殴りかかる。
リリィはダメージは無いだろうと思い、かわさずに、腕に襲い掛かる腕をそのまま受けた。が、
ぞりぞり、と煙の腕に当たると、身を鋭い刃物で削られたように、痛みが走る。
「……ッ!?」
リリィは腕を押さえて、灰色の男達から距離を取る。
「アハハハハハ!気体だから、とかって油断した?彼らは攻撃を受けるときは気体に、攻撃するときは身体を気体の刃物に換えるのよ。こーゆーの、煙を有効活用してるのよ」
「……だろーね、デメリットだらけの魔法なんか使わないもんね」
リリィは深呼吸をする。
それから、手の中で器用に槍を回す。
くるくるくるくる、と槍を回しながらリリィは目を閉じ、頃を落ち着かせていた。
「……?」
キセルの女は眉をひそめ、その光景を眺めていた。
そして、リリィの槍に僅かに風が渦巻く。
「……貴女、Aランク以上?もしそうなら、二つ名を教えてもらえる?」
「……残念だけど、違うわよ。一人じゃ上手く使えないし」
「だよね」
リリィが回すたび、渦巻く風が大きくなっていき、槍の風が竜巻を起こしていた。
女はその光景に絶句し、さらに絶望が彼女を襲う。
煙の男達が竜巻に吸い込まれるように引き寄せられていった。
「な……!?」
「煙だって気体よ。そりゃ、風に煽られるのも分かるわよね。貴女の口癖で返してあげるわ」
リリィは跳んで、巨大な竜巻を纏った振り上げる。
「これが、有効活用よ!!」
そのまま。槍を振り下ろす。
巨大な竜巻は、キセルの女を叩き潰す。
33
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/09(日) 02:55:06 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コウヤとジークの二人は小手調べ、とでも言うような軽さで刀を交えていた。
コウヤのは自身の思念魔法(しねんまほう)で生み出した刀、相手のは正真正銘の真剣だ。
ジークは視界の端に、リリィに敗れたキセルの女を捕らえる。彼女は風圧に圧され、地面にめり込んで動かなくなっている。
コウヤはフッと笑みを浮かべて、
「いいのかよ」
言葉にジークは反応する。
何がだ、と聞き返す前にコウヤが言葉を続ける。
「あの女、名前名乗る前に負けたぞ?」
「……構わんよ。知りたいなら俺が教える」
そうかい、とコウヤは軽く息を吐く。
ジークはいつまでも本気を出さないコウヤに苛立ったのか、
「早く本気を出してほしいものだな。それとも、今までが全力などと言わんだろう?」
「まあな。でも、出来るだけ出したくねーんだよなー」
何故だ、とジークは聞く。
コウヤは、刀の峰で自分の肩を軽く叩きながら答える。
「まー、あれだ。あまりにも一瞬で倒しちゃうから、かな」
「ほう」
ジークは眼光を鋭くする。
淡い光がジークを包み、彼の身体に魔力がみなぎる。
「面白い!そのセリフ、このジークの前でも吐けると言うのか!!」
眩い光がジークを包む。
光がはれると、立っていたのは、女だった。
腰より長めの黒髪に、胸が大きめの侍風の出で立ちの女は、女版ジークと言ったところだった。
その女をコウヤは見つめて、
「……変化能力(メタモルフォーゼ)か」
「その通り。通常は元の姿の口調になるんだけど、どうやら私は例外みたいなの。どう?貴方に女が斬れるのかしら」
はー、とコウヤは疲れ果てた溜息を吐く。
彼は首をある程度鳴らした後、刀の切っ先を女ジークに向ける。
「偽物の女の身体で興奮してんじゃねーぞ、カマ野郎が。要はお前を男と思えばいいだけだ」
「出来るの?今の、私を見て!」
「出来るさ」
コウヤは笑みを浮かべる。
女ジークは刀を構えて、走り出す。
「言っておくけど、女のジークは通常より力も、速さも、全てが上なの!アンタがどの程度まで持つか―――」
「ふぅん。じゃあ俺も言っておく」
次の瞬間、居合いのような速さでコウヤはジークを数箇所斬りつけ、峰でジークを地面に叩きつけていた。
「……ッ!?」
あまりの速さにジークは自分が何をされたか理解するのに時間が必要だった。
コウヤは刀を鞘に納めながら、先程の言葉の続きを呟く。
「それがどうした?」
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