したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール | |

Il record dell’incubo〜悪夢の記憶〜

61yuri:2011/09/01(木) 04:16:20 HOST:d219.Osa8N1FM1.vectant.ne.jp
不景気だと騒がれていますが・・・(;・ω・)☆ ttp://tinyurl.k2i.me/Afjh

62霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/09/24(土) 17:20:07 HOST:i60-34-141-138.s04.a001.ap.plala.or.jp
完全に更新がストップしてしまってますねorz

とりあえず今日と明日で少しだけでも進めたいと思います

63霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/09/24(土) 21:11:54 HOST:i60-34-141-138.s04.a001.ap.plala.or.jp
 風雅が参加したのはパン食い競争だった。ため息をついて自らの腹を撫でる。生憎のところ食欲も失せてしまっているが、別に食べきる必要はないのだしなんて考えて、準備運動を始める。闇生徒会側からは月華と桜梨が出るようだった。そこで風雅は首をかしげた。光側のもう一人がいないと。辺りを見渡せば優希が走ってくるのが見えた。聞いていないぞ、なんていう風に呟いて、自然と逃げようとする自らの足を止める。一緒の競技に出るだけで集中攻撃を受けそうだが、逃げたら逃げたで余計に酷い目に遇いそうだ。和気藹々と語り合うほかの生徒達を見て風雅は腹の底から空気を吐き出す。
 桜梨が無言で空を見上げ、何かを考えている様子。その横では月華がまるでウサギのように飛び跳ねて、満面の笑みを浮かべていた。集まりはじめる選手の中でも埋もれない目立ち具合に、待機場所からは離れた自分の席にいる刹と紅零が呆れたような表情をする。小さな声で馬鹿だなアイツなんていう風に呟くのはさっきまで沈みきっていた蓮であった。短く同意ですなんていう風に告げる刹の頭を軽くなでた後、伸びをする。

 「また生徒会対決になるのかしら?」

 心底つまらなそうに紅零が呟く。まぁそうしないと一般生徒を巻き込むからなぁなんていう風に蓮は考えて、首をかしげる。生徒会対決にしたって流れ弾とか危険だよなぁ? そこまで考えたところで結局は思考を止める。こんなの考えても無駄だ、そう一蹴。紅零は流れ弾が当たったところで自分の見を守れない方が悪いんじゃないなんて呟いて、興味なさ気に理事長の方を見つめ始めている。相変わらず人の思考を呼んだ様な発言をするんだなと蓮は思わず苦笑い。
 淡々と進んでいく競技。生徒会チームは最後に走ることとなる。……生徒会チームを最初に出してしまうと他の生徒が怯えるからという理由であるが、後から出しても凄まじい能力での攻防に一般生徒はドン引きであった。仕舞いには怖いと言って大泣きする生徒まで出る始末。そんな生徒をあやすために楓が向かうが包帯のお化けなどと言われて相当ショックを受けたようだった。完全に石化してしまった楓を羽音が引きずっていき、湊が泣きじゃくる生徒の頭をなでてやる。そこですんなりと生徒が泣き止んでしまって、楓がさらにショックを受けてしまった。なんというか一人重い雰囲気で日陰へと戻っていく。それに追い討ちを掛けるように何かを呟くのは涼であった。

 「おっしゃあ!!」

 軽い銃声と共に景気の良い声が飛んできた。どうやら風雅たちがスタートしたようである。満面の笑みで走る風雅と、その横を無表情で駆け抜ける桜梨の正反対さがなんだか妙に可笑しく感じる。優希は優希でぴったりと風雅の後ろを走っていてなんだか怖い。手を抜いたら殺すぞなんていう風に目が語っているのが、洒落にならない恐ろしさを含んでいる。それは優希がやっているせいだからなのか、誰がやっても同じようなものなのか、それは良く分からないが。
 そんな三人の背後から不健康そうな色をした光線を放つ月華。わりと本気で攻撃を加えている時点でなんかもう次元が違う。優希がハッとしたようにその光線に手を翳した瞬間に空間が歪み、光線が霧散して消える。……生徒達の間からこいつら人間じゃねぇと言う声が漏れた。同意ですよと言うように頷くのは風雅。生徒会に入っている時点で少なからず人間離れしているのではあるが、本人としてはそんな自覚はないらしい。と、言うか風雅よりも優希や湊がぶっ飛びすぎていて自分の力が霞んで見えて仕方がないだけなのである。化け物集団な生徒会恐るべし。
 特に大きな差がつくこともなく三人はぶら下がったパンの下へ。優希はパンに向かって手を翳し、得体の知れない力でパンを落とし、風雅は背中から悪魔のような翼を生やして飛翔、そして楽々とパンゲット。桜梨は月華を踏み台にしてパンを取りそれを食わえて走り出し、踏み台にされた月華は少々不服そうにしながらも、何処から出したかも分からぬ炎でパンを吊るしている紐を焼き切り、桜梨を追いかけての猛ダッシュ。なぜか仲間である桜梨が体を震わせる珍自体を作り上げている。一般生徒、思わず唖然である。

64霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/10/09(日) 01:15:08 HOST:i118-21-88-153.s04.a001.ap.plala.or.jp
 背中の翼を消し、風雅は笑う。思っていた以上に平和的な競技に安心したのだろう。何ださっきまでの心配は杞憂だったんじゃないか。そう考えてゴールまでひた走る。横にぴったりと並んで走りながらパンを口に含む優希を見て行儀の悪い奴なんて呟いて、余裕たっぷりの面持ちで。その後ろから聞こえてくる桜梨の罵声と、悲鳴もなんだかよくあるもののような気がして……。いや、罵声自体は普段から優希をはじめ、光の同級生達に散々浴びせられているのである意味日常の一コマと化してしまっているのは事実であるが。
 急に、何の前触れもなく風雅と優希の走るスピードが落ちた。対して急にスピードを上げて風雅と優希を抜かしていく桜梨。すれ違いざまに「スピード、ありがとさん」なんていう言葉を残して……どうやら風雅と優希から速さを奪ったようである。後ろから月華が「おおい!? 置いていくなよぅ!」と声を上げるが、待つどころかチラッと後ろを確認することさえせずに桜梨はゴールテープを切る。むしろ先ほどまで自分を追いかけて猛ダッシュしてきた人間を待つと、パンを取るために踏み台にしたことの仕返しを何らかの形でさせられそうで怖いのだろう。
 はぁ、とため息をついて風雅と優希に奪ったスピードを返す。その瞬間に走るスピードが上がり、走っている本人達の方が戸惑ったようだった。優希は驚きすぎたのか転びそうになってしまっている。対して風雅はすぐに慣れたのか何の苦もなく走っていく。優希をあざ笑うかのような笑みを浮かべて。そのまま順位が入れ替わることはなく、結局順位は桜梨、風雅、優希、月華となる。月華が桜梨に対して何か喚いていたが、桜梨は面倒くさそうに手で払うような動作をした後に、パンを口に含むのだった。優希は優希で風雅になぜ桜梨を抜かさなかったと詰め寄っていたが、風雅にお前も抜かせてなかったじゃんなんて返されてあっさりと黙り込んでしまった。

                                 *
 時間は過ぎ、いつの間にか午後。最後の競技、選抜リレーが始まろうとしていた。選抜と言いながらも生徒会チームは人数の関係で全員参加。さらに闇の生徒会チームのほうは光の生徒会に比べて人数が少ないため、誰かが2回走ることになるようだ。小さくため息をついて念入りにストレッチをする刹。一般生徒チームが駆け抜けるのをのんびりと眺める。ぶっちゃけ生徒会メンバーが全員参加するような競技を一般生徒と混ぜて行うと大変危険だ。一人、二人が混ざってやるならばある程度の加減は出来るのだが、人数が揃うと個々の力が小さくても大きな力となってしまう。それ故に選抜リレーだけは闇と光双方の一般生徒チームと生徒会チームは別々に競技をすることになっていた。競技の見た目の派手さから生徒会チームが最後の種目である。
 現在の得点差は人数が少ないながらも、一回の競技で一般生徒の倍以上の点数が入る生徒会チームがトップを僅差で争っている。一般生徒チームも大健闘。リレーの結果次第では逆転が可能な位置に立っている。まぁ、別々に競技をするといいつつも、結果は混同で出すため、希望は薄いのではあるが。

65霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/10/09(日) 23:09:17 HOST:i118-21-88-153.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「やれやれ、やっと出番ね。刹、トップは頼むわよ」

 紅零がため息をつきながら言う。そうすれば刹は満面の笑みを浮かべて「任せて下さい!」なんて妙に明るい声で言って胸を張った。頼もしい限りだねぇと笑う月華の言葉に少々照れ臭そうにして、スタートラインに立つ。光側のトップを確認すれば、相手は包帯のお化けこと楓だった。必死になって参加を止めようとする教師を無視しての参加である。それを確認した刹は楽勝じゃないか、なんていう風に鼻で笑う。
 しばらくの沈黙の後に鳴り響く拳銃の音。同時に刹が走り出す。長い銀の髪がゆらゆらと揺れて、日の光を浴びて輝く。楓が追いついてこないため、能力を使う必要もないと判断したのか幾分か肩の力を抜いているようにも見えた。しかし、楓は静かに息を吐いたかと思えばすべるように移動し、刹に迫っていた。それに気づけば、刹は僅かに目を見開いてスピードを上げる。それでも楓はすべるように移動して刹にぴったりとくっついて差を開かせない。

 「リンク……能力使用を宣言します」

 小さな声で刹が呟いた。ハウリングにも良く似た音が響いたかと思えば、刹のスピードが急に上がる。流石にそれについていけなかったのか刹と楓の間が開く。決して大きな開きとは言えないが、抜かされないだけマシか、そんな風に呟いて妥協することにしたらしい刹。刹からバトンを受け取り走り出したのは桜梨だった。静かな展開にキョトンとする教師達を無視して颯爽と走り抜けていく。対して光は羽音にバトンが渡っていた。走りでは勝てないとでも思ったのか、背中に天使の翼のような真っ白な翼をはやして、高速で飛び桜梨を抜かした。抜かされた桜梨の方は僅かに驚いたような顔をしながら「あれはありなのか?」と首をかしげ、あちこちからスピードを奪い取り更にスピードを上げる。
 羽音は抜かされまいと桜梨に向けて氷の刃を放つ。容赦なく降り注ぐ隙と覆った刃は容赦なく桜梨の肌を傷つける。肌を伝い落ちる血の感覚に顔をしかめながら桜梨は走ることはやめない。反撃しようにも一々能力を奪い取ったりするのも面倒くさい、そう考えて桜梨は氷の刃を避けながらも走る。そんな地味な展開で第三走者にバトンタッチ。光側の三番手は涼だ。滑るかのように進んでいくのを蓮が眺める。半周近くの差が開いてしまったが何とかなるだろうと考えてため息をつく。
 渡されたバトンを握り、蓮が走り出す。その瞬間にシルフィードを召還し、ふわりと飛び上がって、スピードを上げる。手を払うような動作をすれば凄まじい音と共に風の刃が飛ぶ。放たれた風の刃は真っ直ぐ涼の足に向かって飛んで鮮血を散らす。辺りからざわめきが起きるのも無視して、蓮が涼を抜いた。負けるもんかなんて涼が呟けば血の流れている足が不自に歪んで傷を消していく。足の傷が塞がった頃、涼の手から光線が放たれる。不健康なほどに真っ白な光線だ。
 それに気づいた蓮は蓮で、右手から淡く輝く光を放つ。精霊の力が具現化したものである。強烈な光が散り、光線と精霊の力が相殺して消える。そこからはもう簡単。火がついたかのようにお互いが能力を全力で放ちあって走る。グラウンドのあちこちが凸凹になってしまっているが、当の本人たちは気にしていないようである。

 「さていよいよラスト!! アンカーは光高等部生徒会、会長の秋月 湊と闇中等部生徒会、会長選抜情報処理の小鳥遊 刹です」

 明らかに興奮したかのようなアナウンス。前を走る刹の足を絡めとろうと植物の蔓を伸ばす。それを無言で燃やし尽くす刹。軽く悲鳴を上げながらも次々と植物の蔓や、葉を刃のように固めたものを投げつけたりする。刹も刹でナイフを大量に作り上げて湊が飛ばしてくるものにぶつけては打ち落としていた。上がる歓声ともっと激しい戦いを繰り広げろなんていう罵声を無視して、刹はひたすら走る。

______________________________________________
終わりまで押し込もうとしたら、本文が長すぎると言われましたorz

66霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/10/09(日) 23:20:59 HOST:i118-21-88-153.s04.a001.ap.plala.or.jp
 ゴールに近づくにつれて、湊からの攻撃が強くなる。刹も創作能力を中心に様々な能力を駆使して防ぐ。その様子はまるで小規模戦争の様。しかし走るスピードを遅くすることはなく、刹、続いて湊がゴールした。競技の終了を知らせる拳銃の音が鳴り響く。それで湊が首をかしげた。刹が使った炎やその他能力についてだ。刹の能力は創作能力だけではなかったのだろうか、そう考えて訳が分からずため息をつく。
 自分の周りに集まる生徒会メンバーに笑顔を向けて、開会と同じように並んだ。辺りであの競技はもっとああすることが出来ただとか、能力怖いとか……そんなことを話す一般生徒に目を向けて湊は笑う。

 「んじゃ閉会式を始めるぞー。いつもは小規模戦争なんていわれる体育祭も今回は大人しかったな? じゃあ早速結果発表だ」

 満面の笑みを浮かべて結果を発表していく教師。結局のところ選抜リレーで一位に輝いた闇生徒会チームがトップだった。二位は光生徒会、三位は光一般生徒、四位に闇一般生徒と続いた。その後は各教師からのお小言、退屈そうな表情をして、終始パソコンを弄っていた理事長の話を聞いて体育祭は幕を閉じた。
 楽しそうに結果について話す光の生徒会と一般生徒達を横目で見て、闇は嗤う。まるで玩具を見つけた悪魔のように。

NEXT Story〜第六章 終末への歯車は狂い〜

____________________________
今回の章は正直言って何がしたいのか分からないし、滅茶苦茶で意味が判らないものになってしまいましたね……。
次の章からはシリアス一直線の予定です

目次

序章 闇(ブイオ)と光(ルーチェ)の人々>>2-5
第一章 光(ルーチェ)の人々 >>6-15
第二章 闇(ブイオ)の人々 >>16-21 >>23
第三章 聖鈴学園 >>30-35 >>39-40 >>42
番外 悪夢の日 紺の欠片>>44-45
第四章 能力定義と禁忌>>46-47 >>49-55
第五章 体育祭と言う名の小規模戦争 >>57-60 >>63-65

67霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/10/23(日) 21:58:32 HOST:i121-114-185-226.s04.a001.ap.plala.or.jp
第六章 終末への歯車は狂い

 平和。体育最後何の事件も光狩りも起こらずに流れた一週間はそんな言葉がぴったりだった。闇も光を見て怪しい笑みを浮かべるだけで、実際に手を出してはこなかった。始めのうち

は警戒していた湊や羽音、風雅はすっかり安心しきって自堕落モードに突入している。行事もしばらくないせいか仕事も少ないのだ。もちろん各部活からの嘆願書もあるのだがそれを確

認するもの案外すぐに終わってしまうので意味がない。呆れたような表情で淡々と校内に仕掛けてある監視カメラと睨めっこを続ける優希。楓の方は黙り込んで何かを考えているようで

あった。そんな学園生活が一週間も続いたわけである。
 優希と楓だけはあの闇が一週間も大人しくしているのは可笑しいといって警戒を解くことはなかった。警戒を解いているのは前記どおり湊、羽音、風雅、それにプラスしてもともとお

気楽人間である憐と涼ぐらいであった。もっとも憐と涼の場合はもとより警戒していないだけなのだが、高等部メンバーから見れば、二人はまだ初等部なのだから仕方ないことなのらし

い。

 「近いうちに火蓋は落とされる……何とか、何とかしなきゃ……」

 ボソリと優希が呟いた。普段は一切見せないような苦悶に満ちた表情。そんな優希の様子に気づいた湊は不思議そうに優希の顔を覗き込む。その二つの瞳がまっすぐに優希を捉えて、

ジッと様子を伺っている。優希は小さく、呻き声にも似た声を上げて隠し事をする子供のようにプイッと顔を逸らした。そんな優希の態度に訳が分からないと言うかのように首をかしげ

て、優希の顔を覗き込むのをやめた。それでも首はかしげたまま優希の様子を伺う。羽音までもが様子に気づいて首をかしげる中、風雅だけは気にも留めずにイヤホンをつけて音楽を聴

いていた。駄目人間である。
 妙な沈黙が続く。誰も言葉を発することをせずに顔を見合わせていた。そんな沈黙を破ったのは乱暴にドアを開く音。飛び込んできたのは平和だった生徒会室には似合わない、血に染

まった少年。呼吸のたびにもれる荒く、妙な音、ぽたぽたと滴り落ちる赤。そんな異常な状況を見て生徒会メンバー全員が思わず息を呑んだ。湊が「涼!?」なんていう風に少年の名を呼

んでいるのを横目で見た後、風雅は少年、涼を生徒会室に引っ張りこんで、ソファに寝かせた。小刻みに震えて涙を流す少年を見て、大慌てで少年に近づく羽音。そしてその小さく動く

唇に耳を近づける。

「憐が死んじゃった……アイツ、憐の言霊も、僕の歪曲も効かなくて……」

 かすれた声。目を見開くのは優希だ。……言霊の少女、憐。性格こそお気楽で、何でもテキトーであるがその能力は確かに学園の中じゃトップクラスのものだった。直接人の命は奪え

ないとしても、言葉一つで間接的に人を殺めたり、運命さえも捻じ曲げてしまうであろう能力。防御の面で言えばただひとつ、自分には一切傷がつかないなんて指定するだけで、絶対的

な防御力を得ることが出来る。足が切り落とされると言えば、それも実現されるし、実際のところ勝負の勝敗でさえも言葉一つで決定してしまう、そんな能力を持った少女が殺されたと

言うのだ。ありえない、そう呟いて優希はきつく手を握った。
 小さく音を立てて湊が立ち上がる。小さな声で「アイツ、実の妹を殺しやがった」と呟いて、フラフラとドアの方へと歩いていく。風雅と羽音は訳が分からないと言うように首をかし

げて湊の様子を見つめていた。優希は静かに「どういうことだ? 人物が特定できたのか?」と湊に問いかけていた。もしそうならば自分が潰しに行くとでも言うかの様な表情で。ただただまっすぐと湊を見つめる。

 「言霊には一つ弱点があります。……神、もしくはそれらが行使する力相手には宣言が適用されない。この学園で神の力を行使できるのは召喚能力の霧月蓮だけです」

68霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/10/23(日) 21:59:44 HOST:i121-114-185-226.s04.a001.ap.plala.or.jp
第六章 終末への歯車は狂い

 平和。体育最後何の事件も光狩りも起こらずに流れた一週間はそんな言葉がぴったりだった。闇も光を見て怪しい笑みを浮かべるだけで、実際に手を出してはこなかった。始めのうちは警戒していた湊や羽音、風雅はすっかり安心しきって自堕落モードに突入している。行事もしばらくないせいか仕事も少ないのだ。もちろん各部活からの嘆願書もあるのだがそれを確認するもの案外すぐに終わってしまうので意味がない。呆れたような表情で淡々と校内に仕掛けてある監視カメラと睨めっこを続ける優希。楓の方は黙り込んで何かを考えているようであった。そんな学園生活が一週間も続いたわけである。
 優希と楓だけはあの闇が一週間も大人しくしているのは可笑しいといって警戒を解くことはなかった。警戒を解いているのは前記どおり湊、羽音、風雅、それにプラスしてもともとお気楽人間である憐と涼ぐらいであった。もっとも憐と涼の場合はもとより警戒していないだけなのだが、高等部メンバーから見れば、二人はまだ初等部なのだから仕方ないことなのらしい。

 「近いうちに火蓋は落とされる……何とか、何とかしなきゃ……」

 ボソリと優希が呟いた。普段は一切見せないような苦悶に満ちた表情。そんな優希の様子に気づいた湊は不思議そうに優希の顔を覗き込む。その二つの瞳がまっすぐに優希を捉えて、ジッと様子を伺っている。優希は小さく、呻き声にも似た声を上げて隠し事をする子供のようにプイッと顔を逸らした。そんな優希の態度に訳が分からないと言うかのように首をかしげて、優希の顔を覗き込むのをやめた。それでも首はかしげたまま優希の様子を伺う。羽音までもが様子に気づいて首をかしげる中、風雅だけは気にも留めずにイヤホンをつけて音楽を聴いていた。駄目人間である。
 妙な沈黙が続く。誰も言葉を発することをせずに顔を見合わせていた。そんな沈黙を破ったのは乱暴にドアを開く音。飛び込んできたのは平和だった生徒会室には似合わない、血に染まった少年。呼吸のたびにもれる荒く、妙な音、ぽたぽたと滴り落ちる赤。そんな異常な状況を見て生徒会メンバー全員が思わず息を呑んだ。湊が「涼!?」なんていう風に少年の名を呼んでいるのを横目で見た後、風雅は少年、涼を生徒会室に引っ張りこんで、ソファに寝かせた。小刻みに震えて涙を流す少年を見て、大慌てで少年に近づく羽音。そしてその小さく動く唇に耳を近づける。

「憐が死んじゃった……アイツ、憐の言霊も、僕の歪曲も効かなくて……」

 かすれた声。目を見開くのは優希だ。……言霊の少女、憐。性格こそお気楽で、何でもテキトーであるがその能力は確かに学園の中じゃトップクラスのものだった。直接人の命は奪えないとしても、言葉一つで間接的に人を殺めたり、運命さえも捻じ曲げてしまうであろう能力。防御の面で言えばただひとつ、自分には一切傷がつかないなんて指定するだけで、絶対的な防御力を得ることが出来る。足が切り落とされると言えば、それも実現されるし、実際のところ勝負の勝敗でさえも言葉一つで決定してしまう、そんな能力を持った少女が殺されたと言うのだ。ありえない、そう呟いて優希はきつく手を握った。
 小さく音を立てて湊が立ち上がる。小さな声で「アイツ、実の妹を殺しやがった」と呟いて、フラフラとドアの方へと歩いていく。風雅と羽音は訳が分からないと言うように首をかしげて湊の様子を見つめていた。優希は静かに「どういうことだ? 人物が特定できたのか?」と湊に問いかけていた。もしそうならば自分が潰しに行くとでも言うかの様な表情で。ただただまっすぐと湊を見つめる。

 「言霊には一つ弱点があります。……神相手には宣言が適用されない。この学園で神の力を行使できるのは召喚能力の霧月蓮だけです」

____________________
可笑しなところで改行されてたし……orz

69霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/10/23(日) 23:59:28 HOST:i121-114-185-226.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「ご名答。つっても力使うとこっちもきついんだがな」

 ふわりと身に纏ったロングコートを揺らして蓮が現れた。まるで挨拶代わりです、とでも言うかのように湊は蓮に殴りかかる。しかし蓮も大人しく殴られるわけもなく、少し動いただけで避けた。真っ向から生徒会メンバーからの敵意を受けながらも、蓮は深くかぶったフードを脱ぐ。フードの下から現れたのは返り血の良く映える真っ白な肌。赤と青の二つの瞳は生徒会メンバーの誰を捉えるわけでもなく、ただただぼんやりと宙を見つめる。弧を描く唇と、何の表情も浮かんでいないガラスのような瞳のミスマッチさが不気味で、背中に悪寒が走るのを優希は感じていた。
 まっすぐと蓮を睨みつけて、湊は動かない。優希は冷や汗を流しながらも蓮の様子を伺う。その後ろのソファでは羽音が苦しげに呼吸を繰り返す涼を自らの後ろに隠すように立ち、風雅は楓を守るかのように楓のすぐ傍に立つ。そんな様子を眺めて蓮ははっきりと歪んだ笑みを浮かべる。それを見てまるで噛み付くかのように湊が吼える。「なぜ自らの手で、実の妹を殺したのだ」と……。

 「っふん、宣戦布告だ。初等部の連中はとっくに動き出してしまってるぜ?」

 蓮が嗤う。湊はギリッと歯軋りをしてふざけるな、と呟いた。握った拳が無意識のうちに小刻みに震える。そんなことを無視して蓮は歩き始めていた。規則的な足音を立てて、廊下を歩いていく。聞こえてくるのは、罵声、爆発音、断末魔……。僅かに鼻を突く鉄の臭い。蓮の後を追おうとするも、その鉄の臭いに思わず顔をしかめて、足を止めてしまった。一週間は嗅ぐことのなかった、大嫌いな臭い。相当な量の血が流れているのだろうか、そう考えて湊は口を押さえる。吐き気、不快感。一週間程度でここまで耐性が落ちるものかとため息をついて、深く息を吐く。
 優希はすっかり顔を青くして辺りを見渡す。幸い生徒会室周辺では争いは起きていなかった。血が転々と落ちではいるが、生徒会室のドアの辺りで消えているのを考えると、涼のものであろう。響き渡る罵声にどう対応すべきか、必死に考えて答えを出そうとする。何も思い浮かばない。警戒していたとはいえ、あまりにも突然すぎて頭の中が真っ白になってしまっていた。火種や悪夢なんていう言葉だけが真っ白になった頭の中に浮かんできては消えていく。
 ゆっくりと蓮を追って湊は歩き出す。吐き気を必死に抑えながら、鉄の臭いのする廊下を突き進んでいく。一発でもいいから蓮を殴ってやるなんて考えて廊下を進む。後から優希がついてきているのかを確認しながら歩くためか、吐き気のせいで歩くペースが遅くなってしまっているせいか、蓮の姿は見えるか見えないかのところまで離れてしまっている。罵声や悲鳴などは大分収まったが、臭いが酷くなっているような気がして。

 「……何で警戒を解いてしまっていたのでしょうか」

 後悔しても遅い、そんなことをしている暇があったらさっさと闇の連中をぶん殴って、事態を収拾しなくては、そう考えても不思議と言葉が漏れていた。駄目だな自分、そんな風に考えてため息をつく。蓮の姿は大分遠くなってしまったが、道的に生徒会室に行くはずだ。優希が歩くスピードを速めたのを確認をして、湊もスピードを上げる。
 ……刹那、視界の端で銀が揺れた。

70霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/10/30(日) 02:48:17 HOST:i121-114-185-226.s04.a001.ap.plala.or.jp
 横一線。鈍く輝く刃が湊たちの前を横切った。ぱらぱらと数本の髪の毛が落ちていくのを見て、湊の表情が凍りつく。後数歩前に進んでいたら確実に血を流していただろうなんて考えて身体を震わせた。そんな湊の後ろで険しい表情をしているのは優希だ。胸元に手を入れて鋭い目つきで前を睨みつける。フッと湊たちの前に姿を現したのは刹。その長い銀髪の髪が、風のない校舎の中にもかかわらずふわふわと不自然に揺れていて、まっすぐに湊を見つめるその瞳には明らかな敵意と狂気が宿っていた。僅かに顔をしかめ湊は後ろへと下がる。しかし刹も逃げることは許さないとでも言うかのように、湊が引き下がった分、前へと進んでいく。
 軽い破裂音が響く。反射的に音のした方を湊が確認すると、優希が銃口を天井へと向けて刹を睨みつけていた。まるで威嚇するかのように鋭い目つき。普段優希を見慣れている湊でさえ驚くほどに鋭く冷たい表情。まるで邪魔をするなら殺すことだって躊躇わないとでも言うような……。そんなことを気にせず刹は嗤う。まるで悪魔のように刀を構え狙いを一点に定めながら嗤う。
 風斬り音と共に放たれる払い。受け止めるにも湊は刀を防げるような武器は持っていない。短く舌打ちをして半歩後ろに下がったところで、無常にも刃は湊の腹を裂く。噴出す赤と見開かれる青の瞳。痛みに声を上げることさえ忘れて湊は傷を押さえた。出血の量のわりには傷は浅いようで……鈍い痛みが続けざまに襲い掛かる。痛みに顔をしかめながらもまっすぐと刹を見れば全身に悪寒が走るのを感じた。心底楽しそうな、まるで玩具で遊ぶ子供を髣髴(ほうふつ)させるような様な笑み。窓から差し込む太陽の光が照らすその姿は余計に不気味で……。大声で優希が叫ぶのと同時に湊の意識は闇の中へと落ちていく。

 「歪曲せよ、我が言葉のとおりに。秋月湊は傷を負わなかった!!」
 
 優希の言葉の後不自然に辺りが歪む。歯車が噛み合うような音と、悲鳴にも似た甲高い音が響き渡る。刹が思わず顔をしかめると優希は勝ち誇ったように笑う。跡形もなく消え去る赤と、塞がる湊の傷。まるで何もなかったかのように、最初からそうだったとでもいうかのように、穏やかな寝息を立てている。低く舌打ちをして刹は刃を振るった。優希が黙って手をかざせば刀の軌道が不自然に曲がり床へと向かう。ありえないと呟いて刹はまっすぐに優希を睨みつけた。無表情で刹の様子を伺う優希の頬を汗が伝い落ちていく。
 呆気なく刹は刀から手を離した。地面に倒れる刀の音が思っていたよりも反響したのか少しだけ驚いたような表情をして、ため息を一つ。

 「昔よりも簡単に発動できるようにでもなったのかなぁ? 少なくとも昔は放たれてすぐの攻撃には対応できなかったよね?」

 紅零といるときは打って変わり口調を崩して刹は話す。懐かしむような声色とは違い表情は氷のように冷たく、明らかな殺意に満ち溢れていた。それを見た優希は軽く鼻で笑い「お互い様じゃないか。お前何時の間に創作能力以外の能力を使えるようになったんだ?」なんていう風に問いかける。殺気を孕んだ鋭い視線と、冷たいのにどこか悲しげな視線が絡み、互いの動きを縛り付ける。横たわる湊の吐息だけが場違いで……。
 沈黙を先に破ったのは刹だった。反響する足音と押し殺したような息の音。それらの音も静電気が発する音にも良く似た音にかき消されていく。銃声、罵声、何かが飛び交う音……辺りを忙しない音が支配していく。互いが言葉を発することはなく、ただただ相手の攻撃を防ぎ、反撃する。そんな単純な展開が永遠と繰り返されていく。余裕綽々の表情で、相手の出方を伺ってはさも愉快だと言うように嗤って、ただの様子見だと言うかのように。
 刹が氷の刃を無数に放てば優希が得体の知れぬ力で辺りを歪めてそれを防ぎ、優希が得体の知れぬ力を使って辺りを崩せば、刹は同じように得体の知れぬ力で一瞬にして辺りを修復させ。銃を放てば念動力を応用した壁を作ってそれを防ぎ、刀を振るえばその軌道を狂わせて……。遊戯にも良く似た茶番のような展開。面白くないというように刹はため息をついて、一度優希から距離をとる。

 「お互い本気でいきましょうよ。出し惜しみなどせずに」

71霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/11/21(月) 22:58:25 HOST:i121-115-42-103.s04.a001.ap.plala.or.jp
 それを合図として、真っ白な光線が放たれる。悲鳴にも似た声を上げながらも優希はどうにかそれを打ち消す。刹の口元に浮かぶ歪んだ笑みを見て、ギリッと歯軋りをして、右手を振り上げた。歪む空間と不規則な形をした欠片が刹に向かって飛ぶ。飛び交う破片は容赦なく刹を切りつけて……。挙句の果てには攻撃を放った張本人である優希まで切りつけている。攻撃を仕掛けた本人が血を流して顔をしかめているのは少々滑稽な光景であった。仕舞いには二人揃ってフラフラ。
 刹を攻撃していたはずなのになぜ自分まで、そう考えて優希は深くため息をつく。再び風斬り音。ぽたぽたと血を垂らしながら連続して刹は刀を振るう。振るわれる刀は金属の光とはまた違った怪しい光が尾を引いていき……。まるで血を望み、誘うかのようにその光が揺らいで、辺りに溶け込んで。気合を入れるためか否か優希は短く息を吐き、ただただまっすぐと刹を睨みつける。沈黙。涼しげに嗤う刹と、何処か悲しげに、それでも鋭く刹を睨みつける優希。
 妙な緊張感と、快感。なぜか張り詰めたその空気が心地よくて、優希は首をかしげた。自分はついに可笑しくなってしまったのだろうか、と。
 そんな事お構いなしに、二人の間を金の光線が引き裂く。思わず目を閉じてしまうほどに眩い光。一瞬たじろいだ後、刹は「蓮! 余計なことはするな」なんて声を荒げて言う。物陰から出てきた蓮は気だるげに「へいへい」と返事を返して、欠伸を一つ。なんとも緊張感に欠ける存在であったが、その腕の中にはつい先ほどまで床に転がっていた湊がいて、優希は思わず息を飲む。

 「んじゃ、俺はこの障害物を撤去して帰りますよっと」

 そう言って、軽々と湊を持ち上げて蓮は歩き出す。一体なんだったんだと呟く刹の表情は、明らかに不愉快そうなものに変化していた。せっかく面白くなってきたのに邪魔しやがって、とでも言うかのように。対して優希は湊が連れて行かれたことに焦りを感じていた。目の前で起こったことなのに、何もすることが出来なかった、と唇をかんで……。きつく握った拳は小刻みに震えていた。
 再び横一線。鈍い光が目の前を過ぎる。思わず仰け反る優希に向けて刹は冷たく「余計なこと考えてると殺しちゃうよ?」と言い放つ。まずは目の前の敵か、そう考えてため息をつけば、黙って拳銃を刹に向けた。当たるとは微塵も思っていないが、威嚇ぐらいにはなるだろうと考えての行動である。しかし刹は楽しげに笑って刀を構えた。腕や横っ腹から流れる血は無視して、ただただ目の前にいる優希を殺すために。

 「一つ、聞いていいか?」

 恐る恐る優希が口を開く。お預けを食らって少々不服そうにしながらも刹は「一つだけね」と言って言葉を促す。早く切りかかりたいと言う衝動を押さえ込んでいるかのようにしきりに、早くしろと言う刹に優希は思わず笑みを零した。刀とあふれ出る殺気さえなければ可愛いやつなのに、そんな風に考えて優希は笑う。

 「お前は何で光を嫌う?」

 優希の問いに刹は首をかしげる。何分かりきったことを聞いているのだろうかとでも言いたげな表情で、ジッと優希を見つめる。そしてはっきりとした声で「お姉様が光を嫌うから。後は単純に湊が嫌い。それに味方する奴も。だから僕としては湊を殺せれば満足かもね」と言った。それを聞いて半ば呆れたような表情をしながらも「なぜ湊が嫌いなんだ?」と優希は問いかける。そうすれば刹は「一つだけって言ったじゃん」と笑うのだった。

72霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/11/21(月) 23:03:42 HOST:i121-115-42-103.s04.a001.ap.plala.or.jp
PCが直ったので普段は更新しない平日に更新です。
なんだかどんどん読みにくくなってるなぁ……。これが終わって続編を書くことになったら多分少しだけかき方を変えようかなぁと思ってます。
と言っても改行を増やすだけですがね

これから更新頻度は減るとは思いますが、完結はさせたいと思っていますのでよろしくお願いします

73霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/12/10(土) 14:38:44 HOST:i121-115-42-103.s04.a001.ap.plala.or.jp
 深く息を吐き、呆れたようにしながら優希は銃の引き金を引く。まさか当たるわけがないだろうと思いながら、刹の反撃に備える。冷たい刃が首に当てられた。不思議とそんな状態になってまで優希は冷静だった。刹が短く息を吐く音が聞こえて、咄嗟にしゃがむ。ぎりぎりで交わすことが出来た刀は、髪をかすめてパラパラと髪が舞う。避けられたことにか、それともわざと遅い動きで刀を振るったのに、ぎりぎりで避けたことに対してか、刹は不愉快そうに顔を歪める。
 優希はしゃがんだ体勢のまま刹の体勢を崩そうと払いを入れたが、音もなく避けられてしまう。静かに刹が刀を鞘へと戻し優希に背中を向ける。どういうつもりだろうか、そう考えて首をかしげる優希をよそに、刹はさっさと歩き出した。刹が向かう方向にあるのは生徒会室程度で、あとは下の階に下りるための階段があるぐらいである。そうなると紅零と合流するつもりかと優希はため息をついて、刹を追う。

 「っち……追ってくんなっての」

 小さな声で刹呟いたかと思えば、いくつもの刃が宙を踊った。キラキラと光を反射しながら飛び交う。あまりにも突然すぎて優希は刃の中へと突っ込んでいった。刃が肌を裂く感覚と飛び交う刃の風斬り音に顔をしかめながらも、足を止めようとはしなかった。追いつかなくてはいけないという妙な使命感が優希を支配していく。何とかして刹と紅零が合流するのを阻止しなければ、何か嫌なことが起きてしまうような、そんな気がして、優希は必死に刹を追う。
 そんな優希を見て刹は呆れたような表情を見せて、前方に見えてきた扉を確認する。流石にここまで連れてきてしまったらどうしようもないと判断したのだろう。優希に向けて使っていた能力を全て解除して、一刻も早く扉の奥にたどり着くことを優先した。そんな刹をみて優希も走るスピードを上げる。差は縮まらないがどうせ一本道見失うことはない。それこそ瞬間移動でも使われない限りは。

 「待てっての!!」

 優希の手から白い光線が放たれる。一か八か刹を怯ませることができれば、と放った自らの力を応用して作った不健康なほどに白い光。その光は音もなく真っ直ぐ飛び、刹の背中へと迫る。刹が気づいた頃には、光は既に刹を貫く寸前で……。咄嗟に体を捻らせた刹の横腹を容赦なく抉った。ボタボタと滴り落ちる大粒の血の雫と刹があげた短い悲鳴に優希は思わず目を見開く。楽に避けられるだろうと思っていた、防がれると思っていた。当たってもかする程度だと思った。だから今目の前で起こっている状況を理解できない。……いや、理解は出来るが、それを認めたくない。
 大きく揺れた刹の身体は、壁にぶつかってそのまま崩れるかのように倒れこむ。荒い呼吸の中に混じった呻き声は耳を塞いでも聞こえてきて、優希は悲鳴を上げる。今は敵でも、仲の良い友人だった……そんなつながりが優希を戸惑わせる。敵なのだからと放っておくべきなのか、それとも友人だからと助けるべきか。答えは出ているはずなのに優希は動かない。動けない。助けたいのにこいつが死ねば被害が減るかもしれないとそう考えてしまって……。その間にもどんどん刹から紅は流れ出て……。

 「あら……遅いと思ったら。刹をそんな風にしたのは貴方?」

 扉を開いて紅零が出てきた。ゆっくりと振り返る優希に柔らかな微笑を向けて。優希が警戒するような、それでも刹を気に掛けるような動作をするのを見れば紅零は嗤う。お前がやったんじゃないかとでも言うかのように、銃を構え冷たく嗤う。唾を飲み込む優希の手は僅かに震えていて、かすれた声で能力の発動を宣言する。刹の傷を塞ぐために現実を歪め、別の現実と繋ぎ合わせる自らの能力。能力が完全に発動されるよりも早く、紅零が引き金を引いた。軽い乾いた音が響き、飛び出した鉛弾は容赦なく優希を貫く。

 「ねえ、さま……?」
 「ごめんね。役立たずは要らないのよ?」

 銃口を突きつけられた刹は虚ろな目で紅零を見上げて、涙を零した。そしてゆっくりとした口調で「ね、さまの役に、立て、なかった……。ごめ、なさい」なんて言って、笑う。弱弱しくて今にも壊れてしまいそうなそんな儚い笑み。それを見て紅零は静かに微笑みその頭を撫でる。今までは十分役にたったとでも言うかのように優しく、静かに……。静かな時間を破ったのは刹の唸り声。僅かに顔をしかめて紅零は引き金を引く。

 「さようなら。……私の可愛い片割れ……」

74霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/12/31(土) 20:52:38 HOST:i118-21-88-174.s04.a001.ap.plala.or.jp
 飛び散る赤と、ぐったりと横になる自らの片割れをぼんやりと眺めた後、紅零は静かに歩き出す。頬を透明な雫が伝い、落ちていく。何が悲しいのか、何が辛いのか、紅零には理解できない。いや、理解したくない。雫を拭い、歩くスピードを速める。早くこの場から離れたい。そんな考えが頭を支配していく。そんな考えをかき消すために、まず月華と合流して戦況を確認して、その後は残っている生徒会メンバーを集めて……。そこまで考えて紅零は深く息を吐く。

 「流石に身内を殺すのには罪悪感を感じるのかしら?」


 そんなことを呟いて一人、月華が待っているであろう場所へと急いだ。

             *

 屋上。春の暖かな光の中に湊と蓮はいた。湊はぐったりと横になり、蓮はフェンスに座ってぼんやりと空を眺めていた。罵声の響く校内とは違って穏やかな様子。時々、微かな銃声や爆発音が聞こえるが、そんな音は似合わない光景。ぼんやりと空を眺めながら「あんまりドンパチやってると校舎崩れるんじゃねぇかなぁ」なんて気楽に呟く。ふと湊に目を向けてそろそろ目を覚ますだろうか? なんて考えた。
 ピクリと湊の手が動く。完全に力が抜けていた身体が痙攣したかのように震えて、もぞもぞと動いた。それを見て蓮の口元が弧を描いた。ゆっくりと確実に湊が身体を起こしす。しばらくの間あたりを確認するようにキョロキョロと周りを見回していたが、フェンスに悠々と座っている蓮を見た瞬間に、勢いよく立ち上がった。鋭く蓮を睨みつけて、ポケットに手を滑り込ませ、植物の種子を握る。

 「ずいぶん遅いお目覚めだな。優希、死んだぞ。後は羽音とか言うやつと風雅って言うやつもそろそろ、だ。相変わらず月華は化け物だな」

 声を殺して蓮は笑う。面白いことになったと言うわけではなく、投げやりな笑み。声を失う湊はポケットから手を出して、蓮へと蔓を伸ばしていく。深くため息をついた後小さな声で「サラマンダー、焼き払え」と呟く。瞬間辺りが炎に包まれて蔓が焼け落ちた。湊自身は種子から手を放し、咄嗟に炎の届いていない位置へと避けどうにか無傷。それを確認した蓮はつまらなそうに舌打ちをした。
 隠し持っていた拳銃を取り出して蓮へと向ける。無駄だろうと思う半面、召還を行うのが間に合わなければ、もしかして……なんていう風に考える自分もいて、安全装置を外す。それでも蓮は焦りもせずに、黙って湊を眺めていた。撃てるものなら撃てばいいとでも言うように足を組んで悠々と。鋭く蓮を睨みつけながらギリッと歯軋りをし、湊は引き金に指をかける。沈黙の後に乾いた音が響いた。

 「無駄だっての。この学園じゃそんなもの玩具だろ?」
 「なぜ妹を殺した? 目的は?」

 湊の問いを聞きながら、銃弾を防ぎ、蓮は首をかしげる。しばらく考えるような動作をした後なんでもないことのように「月華の指示さ。宣戦布告をして来いってな」と答えた。湊は凄い速さで蓮の座っているフェンスを蹴る。僅かに目を見開くも、バランスを崩すわけでもない。自分のことを睨みつけている湊を嘲笑ったかと思えば、静かにフェンスから下り、湊の後ろに立つ。

 「まぁ、俺はお前と戦うつもりはねぇし。ゲストに登場してもらうか?」

―――――

スランプ到来orz

75霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/04(水) 00:52:12 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
 蓮の言葉と同時に銀の光が湊の周りを漂った。ゆらゆらと不自然に揺らぐ光はゆっくりと人間のシルエットを作り上げていく。そして一際まぶしい光を放ったかと思えば、光は完全に刹へと姿を変える。刀の柄に手をかけて片膝をついた状態で、瞼はしっかりと閉じられて……。湊が驚いたように目を見開くのをよそに刹は動かない。変わりに、とでも言うように蓮が笑う。その笑みに、何の反応も示さずに片膝をついたまま瞼を閉ざす刹の姿から湊は目を逸らせずにいた。美しいと思ったわけじゃない。……狂気だ。湊はそう呟いて、身震いする。言いようのない不安と、恐怖。
 どうするのが正解か、どんなことをしたらいけないのか、上手くこの場を切り抜けるには? そんな考えが雪崩のように押し寄せては消えていく。唾を飲み込み、蓮と刹がどんな行動に出るのかを窺う。ゆっくりと刹が目を開いて、辺りを見回すのを見て思わず身構えてしまって、湊は深くため息をつく。大丈夫だと言い聞かせてまっすぐ刹を見つめる。目を離すとすぐ切りかかられてしまうような、そんな気がして……。

 「ふぅん……契約は成立ってことでいいのかな? 蓮」

 しばらく自分の手を見つめていた刹がフッと蓮に顔を向けて問う。わざとらしく考えるようなしぐさを見せた後に、蓮は小さく頷く。唖然とする湊に向かって「死霊召還。普通の召還術師は絶対に手を出さない系統の召還さ。それこそ頭がイカレた愉快な奴がやることだ。まぁ、召還物が生きている間に契約を交わす必要があるんだけどな」なんて言って、再びフェンスに腰掛ける。僅かに顔を顰めた湊に刹がいつの間にか抜き放った刀の切っ先を向ける。
 その状態でしばらく硬直。何かを請うように蓮を見つめていると答えるように「好きにしろ。こっちに被害が出ないようにしろよ」と蓮がいう。その言葉を聞いた瞬間、刹の唇は弧を描き一気に刀を引いて構える。その瞳は鋭く湊を捉えて動かない。慌てて刹の動きを封じようと植物の蔓を伸ばす湊。それに絡めとられて、身動きを取れなくなっても刹は焦るどころか楽しそうに笑みを浮かべるだけだった。

 「ねぇ、湊? 覚えてる? あの日以前にお前がしたことを」

 甘い声。それとは酷くかけ離れた刹の冷たい表情に湊は息を飲んだ。刹を捉えるその瞳が不自然に揺らぐ。それを見て刹は満足そうに笑って「覚えてるみたいだね。じゃあ今すぐ償え」と吐き捨てる。目だけが決して笑っていない笑顔と、驚くほど冷たく、低い声。その姿が、声が、全てが不気味で……。
 刹那、炎が舞った。炎の赤は鮮やかに揺れて蔓を燃やしていく。咄嗟に蔓から離れた湊は、フェンスに寄りかかるようにして、バランスをとる。炎の中心に立つ刹を見て声を上げる。必死に「あの頃の僕がしたことは、確かに軽率でした。……で、でもあの頃の僕は無知で……」と叫ぶかのように……。そんな湊を炎の中心から刹は冷たく、ただただ冷たく眺める。

 「無知は免罪符にはならない。僕たちは、お姉様はお前のことを信用していた。……でもお前は裏切った。なんでもないような顔で輪の中に加わるお前を何度引き裂いて、ばらばらにしてやりたいと思ったか……」

 冷たい声。ずるずると力なく座り込む湊に刹はゆっくりと近づく。一歩一歩を確かめるように、しっかりと湊に向かって歩く。カタカタと小刻みに震える湊を見下ろして刹は首をかしげた。意味が分からないというように。静かに振り上げた自らの刀をぼんやりと眺めた後、ため息をつき、刀を鞘へと収めて笑う。そして先ほどの冷たい声が信じられないくらいに明るい、無邪気な声で「昔話をしましょうか?」と言った。
______________________________

書けば書くほど読み難さが進化していく。
読んでいる人がいるのか不安になってきたけど、僕は書き続けます((

76 ◆REN/KP3zUk:2012/01/04(水) 18:10:43 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
 今にもなきそうな顔で刹を見上げる湊と、楽しそうに笑みを浮かべる刹。その二人をぼんやりと眺める蓮は、落ち着かないようで足を組んだり、伸ばしたりを繰り返す。そんな蓮を咎めるように刹は一瞬だけ顔を蓮に向ける。僅かに肩をすくめた後、脱いでいたフードを深くかぶり、蓮は立ち上がった。そしてしばらく湊を見つめた後、くるりと背を向けて、屋上から飛び降りた。直前に「刹、リミットは三十分だ。無駄話で時間を潰さないようにな。湊は、もし殺されずに済んだら、俺の教室に来い。ヒントをやるよ」なんていう言葉を残して。
 わずかに面食らったような表情をしていた刹も、やがて聞こえてきた鳥が羽ばたくような音を聞けば、ため息をついて視線を湊へと戻した。あまり時間は無駄に出来ない、そう考えて刹は静かに息を吸い込んだ。さっさと昔話を終えて償いを……。自然と刀の柄を握る手に力がこもる。死んでいても生きている時とほど変わらないものじゃないかと刹は笑う。

 「昔、聖鈴学園は闇と光という区切りではなく一般能力選抜科、特殊能力選抜科と言う区切りで分けられていました。その少年は一般能力選抜に属していながら、嫌われ者だった特殊能力選抜の六人と仲が良く、頻繁に遊んだりしていました。まぁ少年も一般能力選抜の中ではトップでしたしね。……正式名称は長いから次からは略称である一般科と特殊科って言う呼び名を使いますよ? その少年は六人の前ではいい顔をしておきながら一般科の友人の前では特殊科を、特にその中の六人を馬鹿にするような言い方をしていました。絶対に広めないと言う言葉を信じて六人が教えた、彼らの能力の粗を当時、特殊科に攻撃的な行為を仕掛けていた過激派の一般科の生徒に広めた……まぁ信じたほうも信じたほうでしょうか?」

 一気にまくし立てるように言う刹と、耳を塞いで謝罪の言葉を繰り返す湊。それを見て刹は嘲笑を浮べて、湊の腹を蹴る。力なく倒れこんで咳き込む湊の足を踏みつけた。麗らかな春の日差しが幻に見えるような、そんな光景。ガタガタと身体を震わせて、必死に許しを請う湊を始めは嘲笑を浮べながら見ていた刹の表情はどんどんと冷たくなって……。

 「……そしてあの日、事件が起こった。特殊科第一寮の生徒の惨殺……。覚えてるでしょう? 蓮が大暴走したあの事件……って、固有名詞出しちゃったよ。まぁいいか。あんた、桜梨さんが死んで悲しむ蓮を慰めておきながら一般科ではなんて言っていたんですっけ? “人の心を持たない化け物が何泣いてんの? 化け物は惨殺されて当然なのに”でしたっけ? まぁ桜梨さんが死んだのは蓮の暴走のせいだからその責任は問いませんが。事件を起こしたのは貴方が能力の粗を広めた過激派の連中でしたね。だから生き残った過激派の連中に仕返ししようと言ったとき、貴方は勝てないからやめろと言ったのでしょうか? お姉様は事実を知らないから貴方のことを仕返しを諦めた愚者、としか言いませんけど……。ちなみにこの情報は蓮の精霊さんが拾ってきた事実です。と言うか事実じゃなきゃそんな反応しないでしょ?」

 クスリと刹が笑う。スッと湊から離れてくるりと回れば「信じてたのに。バラさないって、克服を手伝ってくれるって言ったのを信じてたから沢山、沢山能力の粗とか教えたのに。しかも貴方も特殊科に来るべき能力を持っていたんですもんね。嫌になっちゃいます」なんて言い放つ。やっと身体を起こした湊は俯いて、涙を零す。フェンスに掴まってゆっくりと立ち上がりながら湊は言葉を紡ぎ始めた。
______________________________
プロットが失踪してズタボロorz
そろそろ終焉です

77霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/04(水) 19:19:10 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「確かに僕は酷いことをしました。あの事件だって僕が原因ですしね。でも、関係ない生徒まで巻き込む必要なんてないじゃないですか。狙うなら僕だけにすればいいのに……ボクにつくという理由だけで他人に攻撃するな」

 刹は答えなかった。無言で刀を抜いて、時計を確認した。残り二十五分、ずいぶん時間を無駄にしてしまったな、とため息をつきながら刹は刀を構える。しばらくの沈黙。風の微かな音だけが響いていた。沈黙を破ったのはやはり刹であった。短い吐息と共に、湊の懐へと一気に踏み込む。性格に湊を狙って振るわれた刀が、湊を切り裂くと同時にその姿は光に溶けて聞けていく。忌まわしそうに「視覚掌握か。あくまで償うつもりはないようだ」と呟いた。
 静かに今までいた位置とは真逆の方向に現れた湊は笑う。涙を零しながら右目に手を翳して「僕は生きることで償うつもりです。死ぬなんて逃げでしかないでしょう? まぁ殺されるのは別にいいですけど」なんて言って。青い瞳は徐々に黒く染まって……。それを見た刹は思わず息を飲む。面倒な奴、小さな声で呟いて刀を振るう。それと同時に無数の刃が現れて湊へと飛ぶ。
 湊は交わさなかった。刃が当たったところからはドロドロと紅が流れ出ていく。それでも焦るようなそぶりは見せずに、湊は涙を拭う。

 「知ってます? 僕の能力の中には事実を正反対にひっくり返すことが出来るものがあるんです。あるをないに、闇を光に、悪意を善意にって具合にね。まぁ結構、血を外に出さないといけないので滅多に使いません。面倒ですしねそんな条件。血出しすぎて死ぬのは間抜けですし」

 湊は笑う。悲しげに、笑って静かに刹を指差した。低く舌打ちをした後、ならば必要な量の血が出る前に殺せばいいなんて結論に行き着いて、刹は一気に湊の懐に踏み込んで刀を振るう。それを見て小さく頷いた後、湊はふらつきながら声を上げる。叫ぶように「小鳥遊刹残された時間があるという事実を、ないという事実に」と。瞬間に刹の姿が霧散して消える。深くため息をついて湊は座り込んだ。一瞬で自らの傷を塞ぐ。

 「はぁ……皆はどうなったのかな」

 よたよたと校内に進む湊が見たのは廊下に転がる死屍累々。原形をとどめているもの、留めていないものがごろごろと転がっている。湊は強烈な吐き気に襲われて口元を押さえて、半歩後ろに下がった。原型を留めているものたちの制服を眺めると光のものだけでなく、闇のものも多くある。遠くの方に呆然と立ちすくむ人影を見つけて湊は走り出す。制服の色は白……光のものだ。放っておいたら危ない、そう考えて湊は走るスピードを上げる。
 近づくにつれてはっきりと姿が見えてくる。腰の辺りまで伸ばした銀の髪、近くに放置された車椅子……。立ちすくんでいたのは楓だった。湊がその肩を叩くと大げさに肩を揺らして、ペタンと座り込んだ。その足元に転がるのは黒い長い髪をした少女とオレンジがかった茶髪の少年……楓が言うのよりも早く湊は二人の名前を呟く。かすれた声で「羽音、さんと風雅、さん?」と。小さく頷く楓の包帯はところどころ赤く変色していて……。制服のあちこちに赤、赤、赤……。

_______________________
終わりも近いので一気に更新
次も多分すぐに出せると思います

78霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/04(水) 20:20:29 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「ふ、二人とも私を庇って……。魔法を使おうにも相手を捕捉出来なくて……それで」

 大きく身体を揺らしながら楓は言う。湊はギリッと歯軋りをしながらも、楓の背中をさすって落ち着かせようとした。深く息を吸い込んでは吐き出す。それだけの簡単な動作が酷く億劫そうに見えて、湊は心配そうに楓を見つめた。何度も息を深く吸ったり吐いたりを繰り返すうちに楓も落ち着いたようで、軽く湊を押して、口元に笑みを浮かべる。まだ引きつったぎこちない笑み。

 「一体誰が?」
 「私にもさっぱり……。姿形を全く捉えることが出来ない。音もしなかった……それで天使の力を借りた羽音さんと悪魔の力を借りた風雅さんが私を突き飛ばして、気づいたら……」

 楓がきつく手を握り締める。小刻みに震えるのは、恐怖か怒りか……そんな事、楓も分からなかった。楓を車椅子に座らせて、湊は深く、深くため息をついた。何度目かも分からないため息。とにかく楓を安全なところに避難させて、蓮の元に行こうと考えて、車椅子を押して廊下を走り始める。辺りに転がるものを避けるのは大変だったが、どうにか引っ掛らずに済む。安全な場所、そう考えて走るも、結局思いついたのは一緒に連れて行くことだけ。今の学園じゃ一人にした時点でどの場所も危険にしか思えなかったのだ。
 高等部三年A組教室前。そこで湊は楓の様子を確認する。元々体の弱い楓だ、殺気の出来事のせいで疲れてダメージを受けていないかが気になるのだ。動きが止まった車椅子に気づいたのか楓は不思議そうに首をかしげて「どうかしたんですか? もしかして敵が?」と問いかける。そんな楓の様子にクスリと笑みを浮かべて「いえ。体調の方は平気かなぁ、と思いまして」と答えた。
 瞬間、鋭い光が湊と楓の周りをグルグルと回る。何かの攻撃だろうか、そう考えて咄嗟に楓を覆うように抱きかかえて、きつく目を閉じる。ポケットから種子を落として光と自分達の間に蔓でドームを作り上げた。出来るだけ強度を高くして、その中できつく楓を抱きしめる。楓の方は驚いたように短く声を上げた後は、驚いて身体が動かないのか、それとも何かを悟ったのか動かずにジッと、湊が拘束を解くのを待っている様だ。
 
 「……もう大丈夫でしょうか?」

 僅かに身体を越して、耳を澄ませながら湊は呟く。楓は返事をしない。少し可笑しいなと思いながらも、何の音もしないことを確認して蔓を枯らす。辺りを見回しても特に変化はないようだ。光もすっかり消えて何もなかったような光景が広がっている。ふいにゴトン、と何かが落ちる音がした。恐る恐る音のした方を見ると抱きかかえた楓の姿。ボタボタと“それ”があったであろう位置からは紅が噴水を髣髴とさせるように吹き出されていた。
 湊は地面におっこちたそれを静かに拾い上げる。……頭だ。紅で化粧をした、今まで抱きしめていた人物の頭。防御に入るのが遅かったんだ、そんな言葉が湊の頭に浮かんだ。その場に崩れ落ちて声を上げる。守れなかった、ごめんなさいと何度も繰り返して、縮こまって身体を震わせる。もっと早く防御に入っていれば、もっとあたりを警戒していれば……こうしていれば、ああしていれば、そんな考えがいくつも、いくつも浮かんできて湊を責め立てる。
 人のいない廊下には湊の泣き叫ぶ声だけが響いた。


NEXT Story〜番外 復讐と狂気 銀の欠片〜
_____________________________

なんか六章がとてつもなく長く感じました
戦闘描写が出来ません。わかりきっていたことです

目次

序章 闇(ブイオ)と光(ルーチェ)の人々>>2-5
第一章 光(ルーチェ)の人々 >>6-15
第二章 闇(ブイオ)の人々 >>16-21 >>23
第三章 聖鈴学園 >>30-35 >>39-40 >>42
番外 悪夢の日 紺の欠片>>44-45
第四章 能力定義と禁忌>>46-47 >>49-55
第五章 体育祭と言う名の小規模戦争 >>57-60 >>63-65
第六章 終焉への歯車は狂い >>68-71 >>73-77

79月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2012/01/05(木) 16:04:00 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
お久しぶりです、そしてコメント失礼しますノ

体育祭の明るい雰囲気から一気に逆転しましたね!月峰がこの学園に入学したら、秒殺どころか瞬殺でs((
やっぱり最終回は光か闇が全滅、となってしまうのでしょうか……?蓮くんと湊くん両方好きなので、これからどうなるかドキドキしています。
そして湊くんの「事実を正反対にひっくり返すことが出来る能力」、かっこいいです!最終回で「バッドエンドをハッピーエンドに変える」なんていう風に使ったりするのかn((

それにしても戦闘描写の上手さ、さすがです!色々と盗ませて頂きまs((蹴

これからも続き、楽しみにしてます!それでは短いですがこれにて。お互い頑張りましょう^^

80霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/05(木) 22:23:00 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
番外 復讐と狂気 銀の欠片(刹視点)

 復讐。あの日起こった事件の後、そのためだけに僕は力を望んで刀を手に取ったのだ。始めは玩具を与えられた子供がその玩具で夢中で遊ぶかのように、木の的に向かって刀を振っていた。それが強さにつながるのか、それは僕には良く分からなかったけど……。でも僕が刀を振るう練習を木の的相手に繰り返す間、蓮は微笑ましいものを見るかのように僕を見守っていた。もちろんそれだけだったら僕のやる気は出ないのだけど。
 お姉様もそこにいたんだ。上達すれば笑って僕の頭を撫でてくれた。蓮も同じだ。なんというか学園に来てからずっと会っていない父さんを思いださせるような優しさが蓮にはあった。他にも時々訓練の相手をしてくれた湊やお兄様、月華お姉様に優希……そんな人たちが作り上げる輪の中で、ぬるいともいえるような、心地よく過ごしていた。もちろんそのころの復讐の相手は事件を起こした連中で、他の一般科の連中はどうでも良かった。関係ない奴を潰したって意味がないしね。もっとも復讐と言う行為自体が愚かなことのような気もしたけど。

 「蓮兄ちゃん? 泣いてるの?」

 ある日、蓮が一人で泣いているところを見つけた。元々感情の起伏が小さい上に僕たちといると、絶対に涙だけは見せない人だった蓮の……。あ、ちなみにその頃の僕は基本的に年上の相手は、兄ちゃんか姉ちゃんをつけて名前を読んでいた。今は絶対にやらないけどね。まぁそんな事は置いといて、蓮が泣いている状況を目の前ではっきりと見てしまって僕はどうしたらいいか分からなかった。
 混乱しながらも湊が蓮を慰める時にしていたように、ギュッて抱きしめてその頭を撫でてみた。そしたら蓮、僕のことを思いっきり突き飛ばして、首を絞めてきた。嘘つき、原因はお前だったじゃないかって次々に言葉をぶつけて来たんだ。もう訳が分からなくて泣き出した僕を見て、蓮は目を見開いていたよ。しばらくしてフラフラと僕から離れて俯いていた。呼吸をどうにか整えて、何があったのかを連に聞く。

 「湊の奴、俺らのこと散々馬鹿にしてやがった……。俺らの前では大切な友人だとか言ってたくせに、一般科の連中の前ではあんな化け物は死ぬべきだ、あれは人間じゃない、ゴミ、、獣……居るべきじゃない……だってよ。ふざけんな」

 蓮が声を荒げて、そう言う。話を聞いていけば、過激派の連中に僕たちが克服するのを手伝ってくれるって湊を信じて教えた特殊能力の弱点や、粗、を事件を起こした一般科の連中に広めたこと、事件のときに桜梨さん、優希、楓、蓮みたいな一般科の連中が相手にすればまず勝てない相手を外に連れ出して、数で押せばいいようになるように手伝ったこと……。僕とお姉様は、正直その頃は能力さえ特殊でもその力をまともに扱えなかったし、警戒する必要なしって判断されたらしいけどね。抜け出す蓮を見つけてついていくって、ごねなければ僕たちも殺されていたんだろう、って蓮は言った。月華お姉さまはその時里帰り中で気を引く必要もなし。
 簡単なお仕事だったろうって笑ってた。湊は弱点広めて、蓮たちの気を引いていればいいだけだったんだしね。あの日にやったことを提案したのは湊だったらしい。もっとも本人は冗談のつもりで、特殊科の第一寮を掃除したいなぁって言ったらしいけど。本気にして行動した奴を手伝ってるんだから同罪だと思ってもいいでしょう?

 「人の心を持たない化け物が何泣いてんの? 化け物は惨殺されて当然なのにって笑ってたらしいぜ? 俺達って化け物なのかなぁ……」

_________________________
グダグダ番外。正直必要ない気がする蛇足品。
実は番外は完成させているんでこの続きも数分のうちに投稿しますよ。

81霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/05(木) 22:34:09 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
 蓮は笑っていた。涙を零しながらも、ずっと笑ってた。そういえば湊、事件を起こした奴らに復讐しようって言ったとき顔を真っ青にして「勝てないからやめておこう」なんて言ったのか、なんて考えた。
 その日から僕の復讐の標的は湊になっていた。蓮が精霊を出してそれを相手に刀を扱う練習をしたり、蓮自身が刀を持って練習に付き合ってくれたりした。筋がいいなって褒められたときは本当に嬉しかった。そしてやっぱりお姉様を守れるようになる、湊に復讐をしてやるんだって思うと不思議と疲れも感じないで練習に打ち込む出来た。お姉様は酷く心配そうにしていたけどね。無理だけは禁止ってでこピンされたのを覚えてる。

 中等部に上がる少し前に、一般科と特殊科という区切りがなくなった。始めは様々な能力に触れることでより優秀な能力者を……って言ってたけど、特殊科第一寮の生徒を惨殺した事件で特殊科の連中は、酷く殺気立っていたよ。一般科の生徒はなぜかやたらと友好的だったけどね。それが余計に元特殊科の連中を怒らせた。
 そして出来上がったのが“闇(ブイオ)”と“光(ルーチェ)”。闇は月華お姉様が率いて、一般科であった生徒達を惨殺していく。それに対抗して出来たのが湊率いる光。ちなみに特殊科の中でも復讐は意味をもたないって言うやつは光に移って行ったよ。 優希がいい例だね。
 もちろん一般科の中でも闇に移ってくるやつはいた。……まぁ大抵が人殺し好きの狂った連中だったけど。そうして出来た二つの派閥はいつの間にか学校公認のものになって、制服までもがそれぞれに別のものが与えられた。……まぁ色を変えただけの単純なものだけど。

 僕はもちろん闇についた。練習がてらに光の連中を的にして刀を振るって……。気づいたらそれが楽しくなっていた。逃げ惑う相手を切りつけて、悲鳴を聞いて……笑って刺して抉って……時には相手の腕を切り落として、目の前でチラつかせてみたり、わざと急所をはずして苦しめながら殺したり……。
 それがとてつもない快感を僕に与えてくれていた。命乞いをする奴を踏みつけるのが好きだった、圧倒的な差を見せて潰すのが好きだった、自分が追い詰められても、最終的に相手を殺すのが楽しかった。血の色が、臭いが、滴る音が好きだった。相手があげる絶望の声が好きだった。
 いつの間にか復讐という理由をかかげて殺しを楽しむようになっていた。もっと残酷に、もっと惨く、もっともっともっと……。やむことのない欲望のままに刀を振るって……。まぁもちろん昼間の間だけは、真面目で優秀な生徒を演じていたけど、教師達は当然僕の行動に気づいていただろうさ。気づいた上で止めなかったんだよ? 酷い話だね。いや、僕が言えた義理じゃないけど。
 光狩りが本格的に始まってからも僕は変わらずに、どうやったら相手を最高に苦しめて殺すことが出来るのかだけを考えていた。もちろん湊に復讐するときに使う手段の研究、って言ってね。お姉様はあまり苦しませないように止めを刺してやれっていっていたけど、僕にはどうしても無理だった。散々遊んで踏みにじるのが好きだった。全てを復讐という言葉で正当化しようとしてたけど、狂気の沙汰だったろうね、きっと。復讐といいながら、関係のない他人も随分巻き込んでいたし。湊につくのは全て敵だ、とか言っちゃってね。
 ……僕は狂っているのでしょうか? もしそうなら狂わせたのは誰? 湊? それとも……。僕には分からない。自分が狂っているのかさえ……。

NEXT Story〜終章 嗤う悪魔〜

__________________________
ついに終章かぁ……。

82霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/05(木) 22:44:54 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
>>月峰 夜凪様

コメント有難うございます。

そうですね。確かに体育祭は完全にほのぼので書こうというか明るくしようと思って書いたものですし、逆に六章は本気で暗くしようとしています。落差が好きなんです(( ちなみに霧月も生き残る自身はありません。きっと刹君辺りに嬲り殺されるでしょう。
それは見てからのお楽しみ。ここまで来るとどんでん返しもできないものですが……。
蓮君と湊は僕も好きですよ。ただ協力してくれているリア友含め、なぜか湊君の人気が高いので嫉妬中です。とりあえず同情できないような形にはしてみましたが((
湊君の能力は強力ですねー。使い手はどうしようもないヘタレなのですが……。バットエンドをハッピーエンドには、出来ません。終章で明かしますけどね(ネタバレ乙

戦闘描写についてはまだまだ改善の余地ありすぎです。と、言うかその他描写も危うい……((

有難うございます。その言葉だけで僕は数倍張り切れます!(( いえいえ、こちらこそ有難うございます。
後もうしばらくこの駄作に付き合っていただければ幸いでございます。

83霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/07(土) 18:59:03 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
終章 嗤う悪魔

 よたよたと、湊が一つの教室に足を踏み入れる。中では蓮が窓際の机の一つに座ってぼんやりと空を眺めていた。窓から注ぐ、優しい光に照らされていて……その光景に思わず湊は息を飲む。綺麗だ、思わずそう考えてしまった自分に頬を引っ張った。相手は男だ正気に戻れ、なんて呟いているとうちに蓮が湊に顔だけを向けた。何処かぼんやりとした瞳は湊を捉えて動かない。やがて湊の制服にべったりとついている、血を見てほんの少しだけ驚いたような顔をする。首をかしげて、自分の制服を確認して湊は顔を顰めた。
 静かに湊の方へと身体を向ける蓮は、しばらく何かを考えるような動作を見せる。そしてしばらくの沈黙の後に「まぁ、楓も死んだんだな。抱きしめでもしたのか? まぁどうでもいいけど」なんていう風に言って笑った。その言い方にムッとして蓮を睨みつける湊。どうでもいい、その言葉に腹が立って一気に蓮の詰め寄って、胸倉を掴む。蓮は驚く素振りも見せずに小さく笑う。

 「悪いな。生憎、人が死にすぎてて感覚が麻痺してんだよ。不思議と悲しくもねぇし、なんとも思わないんだ。薄情な奴だろ?」

 湊に掴まれたまま蓮は笑う。何処か儚くて、今にも壊れてしまいそうな弱々しい笑み。それを見て思わず顔を逸らした。胸倉を掴んでいたその手は、力が抜けたようで……ダランと垂れた。どうしていいか分からない。今、何をするのが正解なのか、何をするのが間違いなのか……全く検討がつかなかった。誰がこんなことをしているのか、何のために、そんな考えがグルグルと頭をめぐる。闇が? 第三者が? 光を潰すため? それとも湊を殺すため……? 浮かんでは消える言葉に湊は黙って近くにあった机を蹴る。
 ふと蓮の表情が消えた。深く息を吐いて、立ち上がる。少し乱暴に湊の頭を撫でて、様子を伺っているようだった。訳が分からないというような表情をして、蓮を見あげる。それを見て蓮は言葉を紡ぐ。

 「そっちの生徒会を殺す前にこっちの主戦力はやられたぜ? 宣戦布告したまではいいが月華は“アイツ”に殺されたし、刹も死にかけた所に紅零が留め刺すし……紅零は俺がとっ捕まえて寝てもらってるけどな。まったく、駒は大切にしろってんだ」

 腕を組んで蓮が言う。何を言っているのか訳が分からないというような表情をして、ただただ蓮を見つめる湊と、表情の消えた顔に再び笑みを浮かべる蓮。その光景は何処か異質で……。そっと窓に手を置いて外を眺め始める蓮を見て、湊は寂しそうだと思う。感覚が麻痺してるだの、悲しくないだの、そう言ってるくせに本当は悲しいんじゃないだろうか? そう考えて湊は苦笑いを浮べる。自分がそんな憶測をしたところで何も変わらないのだから。

 「さて、約束だしヒントをやろうか。物語を変えるためのヒントを」
 「そうだ!!」

 突然、湊が声を上げた。ビクッと肩を揺らして、戸惑ったような表情をする蓮に向かって湊は、笑った。明るいとはいえない引きつった笑み。訳が分からないというように首をかしげて湊を見つめる蓮は何処か不安そうに見えた。信用してくれてもいいのになぁ、なんて考えながら湊はポケットから小さなナイフを取り出した。蓮の目の前でナイフをチラつかせて見ると、心底呆れたようなため息と表情が帰ってくる。
 深く息を吐いて湊は頷いた。成功するかは分からないが、何もやらないよりはマシだ。自分の中でそう結論付ける。手首にナイフを近づけると蓮は相変わらず呆れたような表情のまま腕を組んでいた。もしかして、自殺するとでも思われているんじゃないだろうか、なんて考えて湊は笑う。一度ナイフを手首から離すと、蓮は黙って首をかしげた。どうした? とでも問いかけてくるような表情。

 「蓮は僕の能力を知っているでしょう? 僕の能力で結末をひっくり返してしまえばいいんですよ。バッドエンドをハッピーエンドに……って具合にね」
 「無理だな。鍵が揃っていない今、俺たちは受け入れることしか出来ない」

_________________________
終章に見えな終章の開始((

84霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/07(土) 21:20:46 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
 思わず、湊は顔を顰めた。なぜ断言できるんだと言いたげな表情で蓮を睨みつける。やる前から諦めているようにしか見えないのだ。それでも蓮は涼しい顔で、気にしていない様子。ギリッと歯軋りをした湊は一気に手首にナイフを押し当てた。手首から流れ出る赤をぼんやりを見つけていると、再び蓮がため息をつく。淡い光が蓮の周りをくるくると回っているのに気づいて湊は首を傾げた。
 気づけば傷は塞がって、ナイフも蓮の手の中。そんなに邪魔したいのか、と湊は頬を膨らませる。失敗したって別にいいのだ。やる前に諦めたくない……ただそれだけ。可能性があるのならそれに縋ろうとするのが人間でしょう? そう考えて湊は小さく頷いていた。そんな湊の考えを悟ったのか蓮は、心底呆れたようにして静かに机に腰を掛けて言う。酷く平坦な声で「残念ながら、お前の能力で物語の結末は変えられない。そういう風に作られているから。詳しくはよくわかんねぇけど、決まった物語全体の結末を変えるような干渉は出来ない。だからここまで来ると死んだ奴は生き返らないし、バッドエンドはバッドエンドのままだ」と……。

 「そんなの諦めているだけじゃないですか!!」

 怒鳴る湊を、蓮は嘲笑う。小馬鹿にするような蓮をきつく睨みつける湊。嘆息を漏らす蓮は足を組んで言葉を吐き出す。

 「お前がひっくり返せるのは“小さな事実”だろ。それこそ一人に対する死、一人に対する生、一人に対する時間。お前の力で有効なのは一人に対するものだけで多くのものに干渉は出来ない。だからいくら足掻いたって最終的に行き着くのはバッドエンド、そういう干渉しかお前には出来ない。下手にいじると今よりも酷いバッドエンドが来るかもしれないぜぇ?」

 湊はギリッと歯軋りする。それを見て蓮は頷いた。小さく震えるその手を見て余計なことを言わずに能力を使わせるべきだっただろうか、と蓮は首をかしげた。それをしたところで何も起きないし、それこそ出血多量で湊が死んで終わるだけなのだが。蓮からしてもどうしていいかわからない。とりあえずヒントを与えようとは思うが、どうせこの世界では役に立たないものだということも分かっている。
 小さく伸びをする。考えるのは面倒くさい。とりあえずヒントだけを丸投げして、自分はさっさと学園を出て紅零を避難させれば上出来だ、そう考えて蓮は小さく頷く。今の状況を見て学園から出るのは薄情な気もするが、自分らしくて、それはそれでいいだろう? と……。

 「まぁ、時間がねぇし、ヒントだけ投げてく。つってもこの世界では意味がないけどな。次があったら、思い出せ。……まず物語をバッドエンドにしないためには四つの鍵となる人物が必要だ。二人は色を苗字か名前に持ち、二人は……俺と刹。俺と刹は次でも名前は変わらない、苗字がどうかは知らんがな。……後は鍵と共に“アイツ”……黒幕を潰せ。手段は選ばなくていい。それだけで俺たちは解放されてハッピーエンド、だ」

 まくし立てるように言った後、蓮は教卓の下から紅零を引きずり出して、窓を開け放つ。理解できていないのか、突拍子もない言葉に呆れているだけなのか湊は何も言わなかった。クスリと笑って蓮は「次があったら……また会おうぜ?」なんて言い残して窓から飛び降りた。湊がハッとしたように、引きとめようとしたがその時にはユニコーンの背中に乗って飛び上がった後だ。相変わらず常識がぶっ飛んでやがる、そんな風に呟いて湊はため息をついた。蓮のヒント、ここで使えないなら意味がないじゃないかと考えて。
 状況を確認しよう、そう考えてゆっくりと教室から出ようとした。急に目の前に現れた、小さな少年に驚いて湊は動きを止める。ニコニコと目の前で笑みを浮かべている少年の手に握っているものが見えて、引き下がろうとしたときにはもう遅い。それは容赦なく湊の目に突き立てられた。あまりの痛みに声を上げることもできずに目を押さえてしゃがみ込む。

 「ジ・エンド、ですー、光の会長さん」

 痛みにもがきながらも逃げようとする湊に少年は、馬乗りになった。恍惚とした表情で湊の喉頭にナイフを突き刺して、真横に引き裂く。もう湊は動かなかった。刺された目を手で覆ったまま、力尽きていた。手についた血を舐めて少年は笑う。辺りに散った赤を見ればより一層、楽しげに笑った。真っ白だった湊の制服が赤に染まって……、そこで少年が姿を変えた。

 「ヒントもらってもここで使えないから意味なかったですねぇー? 福バ会長も何考えてるのやら」

 少年……悠斗は無邪気に笑って、首を傾げる。血を浴びて立つその姿はまるで悪魔のようで……。
__________________________
目が、目がああああッ!!((

85霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/07(土) 23:32:53 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
 そんな頃、理事長室というプレートがかかった部屋には優雅に紅茶を啜りながら、本のページを捲る女がいた。本の上には血まみれで横になる湊の姿と、ほくそ笑む悠斗の姿が鮮明に描かれていた。それは、まるでフィギュアを本の上に並べているかのように飛び出している。恍惚とした表情でしばらくそれを眺めた後、不意に女はドアの方に顔を向けた。そこに立っていたのはアズラエルと一人の少年。二人の手には沢山の本が抱えられていた。少年の後ろには同じような本がいくつも固まって浮いていた。

 「あら、アズに利樹。魔道書、それで全部?」

 女の言葉にアズラエルが頷く。そうすれば女は満足げに笑って「そう。お疲れ様。今回は裏方に回ってもらって申し訳ないわね」と言った。少年は小さく首を振って「見てるだけで面白かったしそれで十分だよ」なんていう風に無邪気に笑う。変わり者ねなんてぼんやりと考える女をよそに、少年とアズは魔道書と共に奥の部屋へと姿を消した。それを見た女は深くため息をついて、足を組みなおす。
 再び本に視線を戻せば、肉塊が転がる校舎の中。女は心底楽しそうに笑った。赤に染まっている校舎が、真っ白な光の制服が、綺麗な銀色だったある少年の髪が、真っ白な肌の少女の肌が……赤く染め上げられた全てのものが女にとって、美しく見えた。スッと本に手を滑らせると一人の生徒の苦痛に歪んだ顔が大きく映し出される。それだけで女は大きな満足感が得られた。……こうでなければやっていけないなんて女は呟く。

 「おや、お姫様はまだ残酷なお話を堪能している途中でしたかー」

 ドアの方から間の抜けた声が飛んでくる。至福の時を邪魔されたとでも言うかのように女は声の主を睨みつけた。部屋に入ってきたのは悠斗だ。湊を殺したときに付いた血はすっかり綺麗に落とされていた。女の射抜くような視線も気にせずに悠斗は笑う。それを見た女はといえば不服そうに顔を逸らして、また食い入るように本を見つめ始めた。自然と口元が緩んでいく。
 その様子を見た悠斗は苦笑いを浮べながらもコーヒーを入れて、女の横に座った。ぼんやりと本に描かれた生徒達の苦痛に歪んだ顔を見て、何度か頷く。現状に満足しているとでも言うかのように……。深く息を吐いてコーヒーを啜った後、横目で女を見る。口元が緩みっぱなしの女を見て、こりゃ駄目だなんていう風に呟いて、肩をすくめる。少々不愉快そうな顔をされたけど気にしない。

 「それにしても今回は随分強引に終わらせたね?」
 「ええ、気に入らなかったから。結果、次の世界からはもう一人の俺も動くようだし、満足だよ? 湊少年がヒントを生かせるかは眉唾だけどね」

 悠斗の言葉に、女は笑った。相変わらず自由人なようだ、そう考えて悠斗は深くため息をついた。そんな悠斗の様子に女は黙って首を傾げる。しかし、女の興味はすぐに本へと戻っていく。よほど赤に染まった校舎が好きなのだろう。悠斗はぼんやりと湊を殺したときのことを考えながらコーヒーを啜る。手ごたえがなくてつまらなかったなぁ、というのが悠斗の感想なのだが。
 どちらにせよ、今までの間散々暴れることが出来たのだ。これぐらいの不満は我慢すべきだろう、そう考えて悠斗は立ち上がる。何気なく窓際に立ってみれば胸糞が悪くなるほどの晴天。学園の中では酷いことが起きたというのに、一歩外に出れば平和で、心底退屈そうな世界が広がっている。それを見ると悠斗は、やはりこの女に協力したのは正解だと思えてくるのだ。よほど退屈というものが嫌いらしい。

86霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/08(日) 00:02:31 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「さて、お姫様? 次の世界はどうするつもりかな?」

 考えるようなしぐさをする女。しばらくするとアズラエルと少年が消えた方部屋から、明るく「また学校がいいなぁ」なんていう声が聞こえてきた。その言葉を聞いた女は何度か頷いた後「こことよく似た学校でまた遊びましょう? 何度も、何度も、ね」と笑う。悠斗は少し苦笑いを浮べた後、同意するとでも言うように頷く。

 「まぁ退屈しないなら僕も文句はないからねぇー。ところでお姫様、今回は随分えぐい事をしたねぇ……生徒全殺し、って」

 悠斗の言葉を聞いた女は鼻で笑う。何、分かりきったことを言っているのだとでも言うかのように。だんだんと下がってきた眼鏡を上げて、一瞬だけ本から視線を外す。そして言うのだ。不敵な笑みを浮かべて「物語の最後なんて、惨たらしいものでしょう?」なんて。そして苦笑いを浮べる悠斗に向かって、机の上においてあった本を突きつける。

 「俺、この世界を自由に弄繰り回せるのが楽しいの。俺好みの物語がいくつも出来上がる」

 狂ったような笑い声。反響して本来の音よりも大きく聞こえる、それに悠斗は顔を顰めた。そんなことお構いなしに女は続ける。流れるように、歌うかのように言葉を紡いでいく。

 「俺が綴る悪夢は巡るの、そしてその悪夢の物語は惨たらしく幕を閉じて当然」

 そこまで言ったところで女は一瞬言葉を止めた。そしてまるで同意を求めるかのように、本を持っていない方の手を悠斗へと伸ばす。そして、まるで新しい玩具を与えられた子供のように無邪気に笑って「ねぇ、そういうものでしょう?」という。やれやれ、そんな風に呟きながらも悠斗は女の手を掴んで頷いた。それは、一人の女が綴る遊びに付き合うという意思表情。終わりまで女に協力するという誓い。……女は笑う、満足そうに笑う。
 ……そう、これはとても簡単なお話。狂った一人の女が人の命を弄んだ、そんな簡単なお話。そして小さな学園では何度も何度も悪夢が繰り返される、それだけのお話。そして、一つの始まりに過ぎないとても、残酷な序章……。

Il record dell’incubo〜悪夢の記憶〜 END
____________________________
終章というよりは、完全に序章っぽい終わり方。漂うやっつけ感((

87霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/08(日) 00:55:14 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
あとがき

 やっつけで終わった小説ですが、作者は友人にラーメンを食べたいといったら、さっさと小説を完結させろと言われたからむしゃくしゃしてやったと供述しており(ry

 さて、そんな下らないことは置いておき、最後までお付き合いくださった方はどれほどいらっしゃるのでしょうか? 
 この長ったらしい上にまとまりのない文章ですが……。

 ちなみにこの話、実はプロット自体は私が小説を書き始めた頃、四年前からあったものです。当時の私には設定だけで精一杯になってしまったのですが。
 ただそのときのプロットはあまりにも設定が浅すぎて……。唸りながらプロットに手を加えていました。
 後半でなぜかそのプロットが消えてしまったんですけどね。もう思いつきでつなげてやりました((

 執筆期間は書き始めたのが2011年三月、書き終えたのが2012年一月ですから、約十ヵ月程度でしょうか。自分の中では最速記録です
 そもそも最近はまともに小説を完結させてませんでしたしね。過去のものから書き方を変えてやっと馴染んできたところなのです。
 途中でアドバイスを下さった方がいましたが、それを反映せずに終わってしまったのがなんだかなぁ、という感じです。改行の少なさがすっかり癖になってしまっていて……。
 後は続編について。一応書くつもりでいます。このスレッドを使うか新しく建てるかで悩んでいますが。改行についても出来るだけやろうと思っています。

 ちょっとキャラについても触れましょうか? 使われなかった設定とか
 一番変更点が大きいのは紅零と蓮、そして刹です。
 紅零さんはただのヘタレ、脅されて闇をやってるだけの会長になる予定でしたし、刹君は終章で出てきた黒幕側の人間になる予定でした。
 蓮君なんて始めは何の力も持たないのに学園に乗り込んできた幼女の予定……面影がちっともありません。
 他にも羽音さんがヤンキーで会長だったり、湊がただのかませだったり……本当に大きく変えて書き始めています。
 羽音の能力が結局出ませんでしたが、天使化といいます。一定期間だけ天使の力を借りれる力です。使いたかったんですけどねぇ……。

 そしてキャラを借りていたのに殆ど出番がなかった二人を最後の最後で出させていただきました。キャラをお貸しくださった方、本当に有難うございます。
 もっと活躍させたかったのに……。

 長くなりましたが、ここまで読んでくださった皆様、本当に有難うございます。
 コメントを下さった皆様のおかげで、完結させることが出来ました。
 長い間有難うございました! 続編、またはその他小説で出会うことがありましたら、よろしくお願いします

88霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/08(日) 01:18:08 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
目次

序章 闇(ブイオ)と光(ルーチェ)の人々>>2-5
第一章 光(ルーチェ)の人々 >>6-15
第二章 闇(ブイオ)の人々 >>16-21 >>23
第三章 聖鈴学園 >>30-35 >>39-40 >>42
番外 悪夢の日 紺の欠片>>44-45
第四章 能力定義と禁忌>>46-47 >>49-55
第五章 体育祭と言う名の小規模戦争 >>57-60 >>63-65
第六章 終焉への歯車は狂い >>68-71 >>73-77
番外 復讐と狂気 銀の欠片>>80-81
終章 嗤う悪魔>>83-86

89月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2012/01/10(火) 16:42:13 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
コメントさせて頂きますね!

まさかの最後に利樹とアズが登場して、ちょっとテンションが上がり気味の月峰でs((

それにしても湊くん、最後のあれは痛そうだったz(( 読みながら某大佐のセリフが頭に浮かんでいたので、霧月さんのコメントでつい笑ってしまいましたw
そして最後に出てきた『お姫様』が気になります。世界を自由に弄繰り回すなんて、もはや神じゃないk((

もし続編が出るのなら、また別の世界の湊くん達が活躍するのか……もしくは、別の新しい子達も登場して見事悪夢を突破して見せるのか、とにかく楽しみです!
でも、あのお姫様を倒す術を探すのも結構時間掛かりそうですね。物語○○個分、ぐらいのとんでもない時間が((
それともお姫様は『倒す』対象ではないのでしょうか……?

それではこの辺で。とても楽しく読ませて頂きました! そして、お疲れ様でした^^ノ
次回作、または続編、楽しみに待ってますね^^

90霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/10(火) 17:13:42 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
>>月峰 夜凪様

アズちゃんと利樹君、シナリオカットしなければもっと出番が会ったんですけどね。いろいろな事情でシナリオカットが凄いことになったので、黒幕側についてもらいました((

目は痛いですよね。悠斗君なんでそんなとこ突き刺したし(( 実際あのコメントは台詞になる予定だったんですよw 横にいた人物Aにそれは某大佐にしか見えない方やめろ、と言われて消しましたが((
お姫様は神、と言う括りで問題なかったりします。ただそれはあくまで学園内で起きている物語の支配者、ということですね。作者と変わりないと思います(オイ
ちなみにお姫様、一度ストーリーの中に出てきています。、容姿等の描写があるのに名前が出てない人ですね。

湊君……出るは出るけど……という感じです。分かる人にはわかるあの性格です(( 実を言うと黒幕以外キャラは約二名を除いて総入れ替えです。黒幕さんのあの子も名前を変えてしまいますしね。
まぁ物語の統括者、ですからね。しかしもっとヤバイ奴が出てくるんでなんともいえません。蓮みたいな明らかに“何かを知っている”ようなよく分からないやつもいますしね。
お姫様についてはなんともいえないのです。黒幕である以上……って感じなんですがね((

いえいえ、こちらこそ駄文にお付き合いいただき、有難うございます。
はい、ねたがつきない限りは頑張るつもりですから、お暇でしたらまたよろしくお願いしますね^^


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板