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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第六章

1 ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:10:47
――「ブレイブ&モンスターズ!」とは?


遡ること二年前、某大手ゲーム会社からリリースされたスマートフォン向けソーシャルゲーム。
リリース直後から国内外で絶大な支持を集め、その人気は社会現象にまで発展した。

ゲーム内容は、位置情報によって現れる様々なモンスターを捕まえ、育成し、広大な世界を冒険する本格RPGの体を成しながら、
対人戦の要素も取り入れており、その駆け引きの奥深さなどは、まるで戦略ゲームのようだとも言われている。
プレイヤーは「スペルカード」や「ユニットカード」から構成される、20枚のデッキを互いに用意。
それらを自在に駆使して、パートナーモンスターをサポートしながら、熱いアクティブタイムバトルを制するのだ!

世界中に存在する、数多のライバル達と出会い、闘い、進化する――
それこそが、ブレイブ&モンスターズ! 通称「ブレモン」なのである!!


そして、あの日――それは虚構(ゲーム)から、真実(リアル)へと姿を変えた。


========================

ジャンル:スマホゲーム×異世界ファンタジー
コンセプト:スマホゲームの世界に転移して大冒険!
期間(目安):特になし
GM:なし
決定リール:マナーを守った上で可
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし

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25明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:10:43
ハイパーヨーヨーのトリックを披露するだけ披露して俺は幌をサっと閉じた。
うーんスベったかな。カザハ君だったら大ウケした気がする。多分あいつ直撃世代だし。
暇にあかせた練習のおかげで、引き出した魔力の形をすばやく変化させられるようにはなった。
あとは魔法への移行をどれだけ迅速に出来るかだ。まだまだ練習しねえとな。

>「あーぁー、ひーまー! ひまひまひまひま、ひぃぃ〜〜〜〜まぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!」

「おっガザ公じゃん。見て見て俺の激ムズトリック、スパイダーベイビー!」

最後尾でぶつくさ垂れていたガザーヴァは、俺のトリックを一瞥すると鼻で笑った。
は?ブレモン界の中村名人と呼ばれたこの俺を嘲笑いましたか今?
見てろよ、ループ・ザ・ループとか出来るようになってやっから。

ガザ公は俺以上に退屈耐性がないらしく、あっちこっちにちょっかいかけて回っている。
俺も見張りがてら多少は付き合ったが、二人で出来る遊びなんかたかが知れていた。
もうこいつとしりとりすんのヤだよ……る攻めばっかしてきやがるしさぁ。

>「そーいえば、お前アコライトでパパに十二階梯の継承者は仲間じゃないのかーって言ってたけど」

ふと、何故か鞍の上で逆立ちしているガザーヴァが言った。

>「ホントにそう思ってんの?
 お前、ゲームやってたんだよな? 地球でブレモンのプレイヤーだったんだろ?
 なのに、そんなことも分かんないのかよ?」

「どーいう意味だよ、俺の知らない裏設定でもあるってのか」

>「あいつらはパパの仲間なんかじゃないぞ。
 連中が従うのは正義とか悪とか、アルフヘイムとかニヴルヘイムとか。そんなんじゃなくて――
 ただ、大賢者ローウェルの意志だけ……だからな。

「ああ?そりゃ十二階梯だって一枚岩じゃねえだろうよ。グランダイトみてえな好き勝手やってる奴もいるし。
 でもバロールはお爺ちゃんの一番弟子なんだろ?
 だから奴はローウェルの代理として、ローウェルの指示で俺たちを動かしてた。
 ……ってわけじゃ、ないのか?」

>「これからは、敵はニヴルヘイムの連中ばっかりだと思わない方がいいと思うよー?
 黎明あたりはじじいの意図に反してるパパのこと殺したくて仕方ないだろーしー。
 アイツ、じじいにどっぷり心酔しちゃってるからさ。
 そんな黎明の息のかかった禁書とかが攻めて来たって全然おかしくないもんなー」

「ちょっ、ちょっと待て、バロールがローウェルの意図に反してる?
 じゃあ何か、この侵食から世界を救う云々の話は、ローウェルが発案したものじゃなくて……
 魔王バロールが勝手にやってることだってことかよ」

考えてみれば、俺たちをクエスト越しに操っていたのはいつもバロールだった。
そこにローウェルの意志はぴくちり介在していなくて、俺たちは奴のツラも声も知らないままだ。
『バロールはローウェルの代理人』……その認識自体が、事実ではなかった。

>「えーっ? 知らなかったのかよ?」

ガザーヴァは頓狂な声を上げる。

>「パパがあのモーロクじじいの言うことなんて聞くかよ。トーゼン刃向かってるよ、刃向かうしかないじゃん。
 てーか、そもそもパパがじじいのくたばったショックで悪堕ちしたとか超ウソんこだし。
 あんなん、連中がパパを悪者に仕立て上げようとして都合よく捏造した大本営発表に決まってるだろ!」

26明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:11:55
「初耳だよゥッ!なんでそういう重要な情報伏せてんだあのクソ魔王!」

いろんなことの前提条件が根こそぎぶっ壊れていく。
バロールの野郎が闇落ちしたきっかけは、師匠であるローウェルの死。
それなら、ローウェルを死なせなければバロールはアルフヘイムの味方のままでいるはず。
それが、あの胡散臭いイケメンを一応でも信用できる根拠だった。

だけど、元からローウェルとバロールの間に亀裂が入っていて、
それぞれ別々の思惑のもと動いているのだとしたら。
俺たちは、どっちの味方をすりゃ良いんだ。

>どーすんの? 今からでも行先変えて、じじいに仲間にして下さいって言いに行く?
 間違って魔王の傘下になっちゃってました、ゴメンなさーいって?」

「……それもアリっちゃアリだな。先方の出方次第だけどよ。
 俺たちだって好きで魔王の手先やってるわけじゃない。あいつに義理立てする理由もないしな」

俺たちがバロールの指示で動いているのは、現状他に寄る辺がないからだ。
アルメリアで行動する以上、この国のインフラを握ってるバロールを袖には出来ない。
あいつがその気になれば、関所全部閉ざして俺たちを国の中に閉じ込めることだって出来る。
物資の援助を全部打ち切られれば、待ってるのはゆるやかな飢え死にだ。

だから、首尾よく国境を超えてフェルゼン公国に入れたなら。
あるいはエーデルグーテまで行って、バロールとは別のパトロンを確保出来たなら。
とっととローウェル側に鞍替えしちまったって構わない。

……だけど。

>「パパが悪党だからって、ローウェルが善人だとは限らないよなー?」

「そこなんだよなぁ。バロールは言うまでもなく人権無視のクソ野郎だけど。
 お爺ちゃんがもっとやべえ奴って可能性は十分ある。あの弟子の師匠だもんよ。
 似たりよったりのクソ同士なら、まだ顔見知りのクソの方が座りは良い」

結局のところ、俺たちには情報が足りない。
雲の上でいかなる思惑が働いているのか、断片的にしか認識出来ない。

誰が善人で、誰が悪者なのか。ローウェルが何を目的に活動しているのか。
わからないこと尽くしの現状じゃ、身の振り方を考えることも出来ない。

とどのつまり、俺たちに出来るのは目先の問題の解決だけだ。
振り払う火の粉を払い続けて、いずれ見えてくる真実に備えるしかない。

27明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:12:24
>「じじいのやろうとしてることは知らんけど、パパのやりたいことなら分かるぞ。
 パパの目的は今も昔も変わらない……パパはこの世界を守りたいだけなんだ。

ガザーヴァの分析は、多分信用出来る。
バロールの姿を一番間近で見て、その目的の為に戦ってきた奴の言葉だ。
確かにやり方に問題はあった。だから、そのやり方を変えてみたのが今の『二巡目』なんだろう。

ここでバロールと敵対すれば、『一巡目』と同じやり方になるってことだ。
一度は世界を救い、しかし根本的な解決にはならなかった、ゲームのシナリオと。
少なくとも、それではダメだったと、失われた歴史が証明している。

>「ローウェルの目的なんて知らないし、ぜんぜん興味もないけど、連中はどうしてもそれをやりたいみたいだ。
 パパをやっぱり悪者だった! って決めつける前に、連中の目論見を暴くのが先だと思うけどね。ボクはさぁー」 

「へっ。バロールの野郎にさんざん裏切られた割には、パパのやり方が間違ってるとは言わねえんだな。
 お前はあの野郎を手放しに全否定しても良い立場なんだぜ」

ガザーヴァは脊髄と悪意が直結してるような非の打ち所のない悪者だが、
ものの見方はびっくりするくらい公平だ。
そして正しい。俺たちはバロールと同じくらい、ローウェルに対しても警戒を持つべきだ。

「ガザーヴァ。俺はお前とは友達だけど、お前のお父さんとまでお友達になったつもりはねえ。
 ローウェルの方に理があるなら、ノータイムで掌返して、ニブルヘイムについたって良いんだ」

忘れはしない。
あいつが地球から拉致ってきたプレイヤーが、ろくな支援もなくこの世界で死んでいったことを。
バロールが、地球の人間を何人も見殺しにしていることを。

「それでも、バロールが一巡目の地球滅亡よりマシな結果にしようとしてるのは分かる。
 十二階梯をひっ捕まえてでも、ジジイが何考えてるか聞き出そう。
 奴らのやり方が地球にとって良いか悪いか分かるまでは、魔王の手先にでもなってやるよ」

それに――バロールの元には石油王が居る。
おいそれとバロールに弓引いて、あいつを人質にとられるのもつまらないからな。

 ◆ ◆ ◆

28明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:13:04
>「……ねぇ、なんか焦げ臭くない?」

夕暮れにさしかかり、そろそろ野営の準備をしようというところ。
ガザーヴァと『いっせっせーの』をしていた俺は、なゆたちゃんの声に背筋を伸ばした。
馬車の前に回ってみれば、麦畑がぼうぼうと燃えている。
焼畑農業の季節でもない。穂を丸々実らせて収穫を待つ麦が、炎上していた。

>「ボ、ボクじゃないぞ!? ボクはやってないからな! 無罪! ノットギルティ!」

「分かってるよ!ガチの下草火災とかなんも面白くねーからなぁ!」

言ってる場合じゃない。
密集した麦は簡単に延焼し、またたく間に一面が炎に包まれる。
黒々とした煙が風に巻かれ、視界を灰色に染め上げる。

>「消火しなくちゃ、早く! みんな、炎がこれ以上燃え広がらないように食い止めて!
 わたしに時間をちょうだい、ゴッドポヨリンで一気に消し止めるから!」

「了解……つったって、俺もやべえなこれ」

ワックスと革で出来たアンデッドのヤマシタは炎に極端に弱い。
召喚すればフィールドダメージで即成仏だろう。
かといって生身で出来る消火活動もたかが知れてる。

「とりあえず……馬車は避難させとかねえと」

インベントリから布を取り出し、水で濡らして馬の頭に被せる。
煙を吸わせるのもまずいが、火に怯えて暴走されるのを防ぐためだ。
訓練された馬車馬らしく、視界を塞いでやれば落ち着きを取り戻した。

>「これ以上焼けるのは御免蒙りたいな」
>「カケル、《カマイタチ》!」

カザハ君とエンバースがそれぞれ麦を刈り落とし、火の周りに空間をつくる。
延焼速度はこれで落ちるはずだ。あとはゴッポヨの降臨を待てば――。

そのとき、何かが風を切って飛来し、カザハ君の頬をかすめた。

>「ぎゃあああああああああああああ!? 血が出てるぅうううううううううう!
 一歩間違えたら死んでるじゃん! もう嫌だぁああああああああああああ!!」
>「狙撃を受けてる……!」

「狙撃だとぉ!?このクソ忙しいときに、どこのどいつだ!!」

つい声を荒げちまったが、想像以上に深刻な状況だ。
炎の対処で足止めされたところをに、文字通りの狙い撃ち。
つまりこの火事も含めて、何者かの術中にハマってるってことだ。

>「みんな麦の中に隠れて! 全員でゴッドポヨリンさん召喚の援護をするんだ!」

「冗談キツいぜ……どっから撃ってきやがった?警戒は万全だったはずだ」

少なくとも俺たちが索敵できる範囲には、狙撃手も放火犯も居なかった。
つまりもっと遠方、それこそ地平線の向こうに狙撃手は居るってことになる。

「……マリスエリス」

脳裏を過るのは、アコライト防衛戦の一幕。
気絶した帝龍のスマホを撃ち抜いた、超長距離狙撃の射手。
『詩学の』マリスエリスが、この惨状の犯人だってのか?

29明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:13:38
>「なゆ達より僕のほうがスナイパー処理に慣れている!僕がでる!許可をくれ!」

燃えていない麦畑に飛び込み、頭を低くしていると、馬車の方からジョンの声が聞こえた。

「ばっか、出てくんな!俺たちでどうにかしてやらぁ!」

そりゃジョンの言う通り、対狙撃戦ならこいつの方が分があるだろう。
だけどそれは、ジョンを再び戦場に引きずり出すことになる。
こいつの終焉を、早めることになる。

>「く……、こんな、ところで……!」

なゆたちゃんの悲痛な叫びも、狙撃と炎に飲み込まれる。
追い詰められていた。進退極まり、壊滅は時間の問題だ。

ゴッドポヨリンさんの召喚には最短でも7ターンかかる。
7本分ATBがたまるまでの時間が、気の遠くなるほど長い。

どうする。俺の独断でジョンを解き放つか。
――こいつ一人を犠牲にして、俺たちが助かる。そういう選択を、出来るのか。

そのとき、頭上に光明が差した。

>「スキル! 『急転直下の大瀑布(エンジェル・フォール)』!!」

光明っていうか、後光だった。
出現した影は巨大なスライム。金色に輝くその威容は、

「ゴッドスライム……間に合ったのか……!」

スライムの体から降り注ぐ豪雨。
大量の水からなる波濤は麦畑の大火を押し流し、かき消していく。
あれほど止まらぬ勢いだった火災も、それ以上の物量でもってすれば儚い。
またたく間に火が消し止められ、炭化した麦の残骸と泥濘だけがあとに残った。

「やるじゃねえかなゆたちゃん!この土壇場で、時短コンボを思いつくなんてよ」

狙撃が止むと同時、麦畑から体を起こしてなゆたちゃんに声をかけた。
しかし鎮火の立役者であるはずの彼女は、ただ呆然と空を見上げている。

>「……な……んて、こと……」

ふと足元に眼をやれば、そこには小さいままのポヨリンさんが居た。
あれ、なんでここにポヨリンさんが?
お前ゴッドになってお空に居るんじゃなかったの。

なゆたちゃんにならって空を見る。
そこにはやはり、滞空するゴッドスライムの姿があった。

「え。じゃあアレ、誰だよ」

>「危なかったわね。怪我はない?」

輪郭を溶かすように消えていくゴッドスライムを見守っていると、
不意に地上から声をかけられた。
見れば、3つの人影がこちらに近づいて来ている。

いかにも仕事できそうなスーツ姿の女。
年齢に見合わないフリルいっぱいのゴスロリ衣装の女。
パーカーにデニムとカジュアルな格好したマシュマロ系女子。

30明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:14:21
三人の女は全員、この世界のいかにも中世欧州っぽい服装ではなく、
俺たちのよく知る地球のものを着ている。
それに、マシュマロ女の足元に居るのはスライムヴァシレウスだ。
高レアの準レイド級……こんな初期マップの僻地に出てくるようなモンスターじゃない。

つまりは――

「新手のブレイブだと……!」

俺たちと同じように、アルフヘイムに拉致られてきたブレモンプレイヤー。
『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が三人、目の前に現れた。

>「自分たちがたまたま通りかかってよかったっスね。恩に着て欲しいっス」
>「だよねだよねぇ〜☆ ウチらがいなかったら、今頃死んでたんじゃなぁ〜い? キャハッ☆」

「お、おう……またなんかイロモノっぽいのが出てきたなぁ……」

いやいや、命の恩人にそーいうこと言っちゃうのは良くない。
みた感じこのマシュマロさんがスライムを進化させたのがあのゴッドなんだろうし。
モンデンキント以外であのコンボ使いこなしてる奴初めて見たわ。

バロールは無作為にプレイヤーを地球から拉致し、この世界に放り込んだ。
何もわからないまま死んじまった奴も居れば、こうして生き残ってきた奴も居る。
他ならぬ俺たちがそうであるように、バロールの支援を受けない『野良ブレイブ』も確かに存在したのだ。

「とにかく助かったよ。それに野良のブレイブと合流できたのも良かった。
 俺たちは王都経由でここまでクエストを進めて来たんだ。そっちは?」

>「自己紹介がまだだったわね。私は悠木沙智(ゆうきさち)――ハンドルネームは『さっぴょん』よ。よろしくね」

キャリアウーマンが颯爽と名乗る。
ほーん、さっぴょんさん。えらくポップな名前っすね。

……なんかどっかで聞いたことある名前だ。
なんだっけ、ええと、もう喉のあたりまで出かかってんだけど。

>「ウチは柳沢りゅくす☆ ハンネは『シェケナベイベ』! シクヨロ☆」
>「そして自分が佐野喜奈子っス。ハンドルは『きなこもち大佐』。三人揃って――」

「んー……んんー……?」

ゴスロリ女がシェケナベイベ、マシュマロさんがきなこもち大佐。
二人の名前が先のさっぴょんと脳内で結びつき、俺は非常に嫌な予感がしていた。

いや!これはもう確信と言って良い!
こいつら三人を、俺は知っている!もちろんリアルじゃない、ゲームの中でだ!!

>「「「マル様!! 親衛隊!!!」」」

ばばーん!と効果音でもつきそうなばっちり決めポーズと共に差し出されるスマホ。
そこには予感通り、ブレモンのドル箱こと『聖灰』のマルグリットが笑顔で表示されている。
そしてマル様を神の如く崇め奉り、愛を燃やし続ける信者集団こそが、

「「マル様……親衛隊……!」」

なゆたちゃんと俺の復唱がハモった。
マル様親衛隊……だとぉ!!?
運命の神はかくも残酷なのか。よりにもよってこいつらが来ちゃったかぁ……。

31明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:15:08
ブレモン界隈において、関わっちゃいけないやべえ奴とされる存在はふたつある。
ひとつは言うまでもなくうんちぶりぶり大明神とかいうクソ荒らし野郎だ。
ブレモンのネガキャン行為に至上の悦びを見出す変態、救いようのない馬鹿である。

そしてもうひとつが――『マル様親衛隊』。
今目の前に居る三人は、その主要メンバーだ。

マル様親衛隊は、『聖灰の』マルグリットをこよなく愛するプレイヤーで構成されたギルドで、
規模の大きさやファン活動の"濃さ"で高い知名度を誇る。マル様クラスタ最大手と言って良いだろう。
対人ガチ勢の親衛隊長をはじめ有力プレイヤーが何人も在籍してるしな。

一方で、親衛隊には悪名も多い。
連中はかなり極端な同担拒否であり、身内以外のマル様ファンを蛇蝎の如く嫌っている。
解釈違いを巡ってしばしば他のファンギルドと衝突しては、その尽くを殲滅して後には草一本残らない。
我こそはマル様を一番に愛する者と、臆面もなく喧伝するその姿はもはや狂信者の類である。

――人呼んで、『アコライトの狂犬』。
そしてランカー最上位層に名を連ねる『さっぴょん』は、そのリーダーだ。

かつてゲーム本編でアコライトが滅亡した時、俺はこいつに今どんなお気持ちかインタビューしに行ったことがある。
廃墟でさっぴょんの周りをぐるぐる回りながらNDK!NDK!と繰り返してたらいつの間にか集まった親衛隊にボコボコにされた。
それだけに飽き足らず連中は俺の死体スクショして雑コラした挙げ句フォーラムに張り出しやがって、
おかげでしばらく顔出す度に死体コラが貼られまくってロクに荒らしが出来なかった。

まったくもう!よくないよねそういうの!
人が気持ちよく荒らしてるの邪魔するなんてサイテーだよ!!!

ちょームカついたから対立勢力軒並み焚き付けて煽動し、親衛隊包囲網なんてもんも企画した。
だが、総勢60名からなるアンチ親衛隊連合軍は、たった4人の幹部によって壊滅させられた。

――『ミスリルメイデン』さっぴょん。
――『親衛隊のやべえ奴』シェケナベイベ。
――『次世代型チルドレン』きなこもち大佐。
――『火力マシマシ防御カタメ』スタミナABURA丸。

親衛隊が最強最悪の過激派信者集団として君臨し続けられたのは、
ひとえに奴らがブレモン界隈でも有数の強力なプレイヤーだったからだ。

そんな狂人どもを目の前にして、否が応でも緊張感が背筋を駆ける。
仲良し四人組は一人足りてねえようだが、そもそも知り合い同士が纏まって拉致られてること自体が奇跡的な確率だ。
あれ、そういやなゆたちゃんと真ちゃんもリアルで幼馴染同士なんだっけか。
ちょっと偶然重なり過ぎじゃない?バロールさん??

そして俺はもうひとつ、猛烈にイヤな予感がしていた。
仮に。この親衛隊の世界ひとつ跨いだ集結が、単なる偶然でないのなら。
それこそニブルヘイムのピックアップ召喚みたく、有力かつ結束力のあるプレイヤーを意図的に喚び出したものならば。
誰かの作為が、働いているのなら。

予感を裏付けるように、朗々とよく通る気障ったらしい声が響く。

>「おお……、これは全知全識なる智慧の神の御手か、あるいは叡知の頂に座す我が賢師の御導きか!
 神の掌に等しく雄大なるこの大地に於いて、よもや再びかたがたと相まみえられようとは!
 これぞ砂海に一粒の砂金(いさがね)を見出すが如し! まさに不思議の業、神変霊異と申すしかありますまい!」

32明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:16:42
親衛隊の後ろから、ローブ姿の男が一人、歩み出た。
狂犬どもの熱っぽい視線を反射するようにキラキラ輝くプラチナの長髪。
いっそ腹立たしいまでに白い歯と、彫刻じみた凄絶な美貌。

――『聖灰の』マルグリット。
親衛隊が現人神と崇拝し、その一挙一動を礼賛する、十二階梯の継承者が一人。

試掘洞での邂逅以来、ローウェルを巡る因縁の発端となった男と、俺たちは再会した。

「出ちゃったよ……狂犬どもの御神体が……」

相変わらず何言ってっかわかんねーなこいつ。
ニホンゴムツカシイネ。俺IQ低いからなんも伝わんねえわ!

>『あいつらはパパの仲間なんかじゃないぞ。
 連中が従うのは正義とか悪とか、アルフヘイムとかニヴルヘイムとか。そんなんじゃなくて――
 ただ、大賢者ローウェルの意志だけ……だからな』

ガザーヴァの言葉が頭の中をリフレインする。
とすれば、この再会はバロールの差配によるものじゃない。
マルグリットの裏で糸引いてんのはローウェル。あのジジイの差し金ってことだ。

どういうつもりだ。
親衛隊が俺たちを助けに入ったのも、偶然通りかかったからなんかじゃないはずだ。
おそらくはマルグリットの指示によるもので、暫定狙撃犯のエリにゃんはマル公と結託している。
この邂逅が、言葉通りのマッチポンプで企図されたものだとすれば。

「ちょいこっち。耳貸せ……親衛隊の連中は味方じゃない。マル公もだ。
 敵かどうかはまだ分かんねえが、少なくとも信用は出来ない」

マル公とわいきゃいやってる親衛隊どもを尻目に、俺は仲間たちへ耳打ちする。
バロールとローウェルは対立していて、マルグリットはローウェル側の人間。
ガザーヴァから得た情報を、端的に伝えた。

「親衛隊はブレモンきってのやべえ奴らだ。そのやばさはこの俺をも凌ぐ、っつったら分かるよな。
 連中の判断基準は善悪じゃなく、マル公のセリフの解釈だ。
 奴がアルフヘイムに弓引けと言えば、親衛隊どもは喜んで矢を番えるだろうよ」

それに。親衛隊を信用できない理由はもう一つある。

「おかしいだろ、有力ギルドのメンバーが3人も固まって召喚されるなんてよ。
 バロールの10連ガチャじゃ確率的にまず起こりようのないリザルトだ。
 つまり奴らは――ピックアップされてる可能性がある」

有力プレイヤーを名指しで喚び出す、ピックアップ召喚。
それが出来るのは現状、ニブルヘイムだけのはずだ。
大賢者ローウェルなら、弟子のバロールより強力な召喚魔法が使えるってことなんだろう。

>「なあ!なゆ!煙が充満して結構辛いんだ!一回外にでてもいいか?」

ぼっ立ちで思案していると、ジョンが白々しく声を上げた。
おいおい大丈夫かよ。戦闘終わってるとはいえ、今すぐ敵対するかもわかんねえ相手だぞ。
そんな無防備に出てきちゃって――

>「失礼しました・・・僕の名前はジョンアデル・・・気軽にジョンとお呼びください
 こちらは相棒の部長です。ちょっとふてぶてしい奴ですがかわいい子ですよ、ふかふかです」

いや誰だよ。お前そんなキャラだっけ!?
と思ったけどよく思い出してみりゃこいつ、王都で初めて会った時もこんな感じだったな。
アレか。初対面限定の営業モードって奴っすか。

33明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:18:00
>「お嬢様方、お近づきの印にこれをどうぞ。王都で話題のケショーヒンセットです。
 僕達のしっている化粧品とはちょっと違う物ですが・・・効果は間違いないですよ!あのバロールもみとめた品です」

ってガチの営業する奴があるかよ!
粗品で化粧品配るとかお前保険のおばちゃんかよぉ!?
だがこれは良い流れだ。どう転んでも美味しい。よっしゃ、乗ったるで!

>「?どうしたんだみんな?」

「いやちょっと、ちょっと待ってよジョン君さぁ……初対面でこんな高価なプレゼント渡すぅ?
 なんぼ羽振りの良いスポンサーがついて金余ってるからって、ほら皆さん引いちゃってるじゃん」

初対面の相手との交渉は、初動でどれだけマウントとれるかがキモだ。
高価な贈り物は、『この程度は粗品みたいなもんどすえ?』という資金力の示威になる。
石油王!俺に力を貸してくれ!京都人の奥ゆかしき交渉術を見せてやろうぜ!

マルグリットが出向いてきたなら好都合だ。
どの道継承者は二三人捕まえて尋問しなくちゃならなかった。
交渉を通して、奴の出方を見る。その目論見を暴き出す。

畳み掛けるぞ!カザハ君、カモン!(指パッチン)

>「ガンダラの酒場のマスターにでもあげたら喜ばれるんじゃないかな?」

あーっ?なに話流そうとしてんだもっと広げて広げて!
すげえ喜ぶだろうけどさ!でも多分俺があげるなら100均の化粧水でも喜ぶよあいつ。

>「……待って。それってもしかしてガチで魔法のアイテムだったり? ちょっと面白そう!」

カザハ君はそう言うとケショーヒンをひとつつまみ上げて、インベントリに放り込む。
いいぞ!実演販売でお客様の購買意欲を爆上げだ!

>「効果を実演してみるから見ててね! ケショーヒン使用、対象ジョン君と明神さんとエンバースさん!」

「なんで俺たちなんだよ!?……ぐえっ!」

なんかこうポワポワした泡みたいなエフェクトがカザハ君のスマホから飛んで、
俺の顔面に直撃した。
何が起こった!?指先で頬を撫でる。

「なんだこれは……!このお肌のハリ、十代ん時のそれだ……!!」

めっちゃプルプルすりゅぅ……ほっぺたが指に吸い付いてくりゅぅ……。
思わずミラーモードにしたスマホで確認すれば……誰だこいつは!
表情筋の死んだ疲れ切った社畜面が、まだハツラツとしていた学生時代に戻ってる!

やがて効果が切れたのか、しおしおと元の萎びたフェイスに変わっていく。
絶望を長く深く刻まれた、世の中の全てが気に入らないかのような陰気な顔。
俺ってこんなふうに歳とってたんだ……気付かなかった……怖ぁ……。

34明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:19:28
「ああああ!若さが!若さが失われていく!醜く老いさらばえていく!
 な、な、なぁ!ケショーヒンもっとくれよ!まだあるんだろ?もっとくれよぉ!!」

……おっと、取り乱してしまいましたな。失敬。
親衛隊はドン引きしながら一部始終を見ていた。勝ったな。

「それはそれとしてだ。久しぶりじゃんマル公、穴蔵で狩りパ組んで以来だな。元気にしてた?」

親衛隊の連中をチラ見しながら、あえて親しげにマル公に声をかける。
奴らにとってマル公は神だ。対等であることを自身に許さず、その足元に傅くことでのみ近づける。
再会したマル公が俺たちとの『過去』を示唆したことは、内心穏やかじゃあないだろう。

俺はマル公と一緒に狩りもしたことあるお友達だぜ!お前ら信者とは親しさのランクがちげーんだよっ!
……という小学生から政治家まで幅広く用いられるマウントテクニックだ。
それに加えて、もう一捻り入れてみようか。

「ガザっち、ちょっと隠れてろ。親衛隊がお前の正体に気付いたら確実に厄介なことになる。
 いいか絶対出てくんなよ!あいつらガチで殺しにかかってくんぞ」

先んじてガザーヴァは幌の中にしまい込んでおく。
親衛隊にとって幻魔将軍は聖地を更地に変えた張本人、恨んでも恨みきれない仇敵だ。
ガザ公が鎧脱いでて良かった。流石にこの美少女が現場将軍だとは気付くまい。
これでよし、続けよう。

「こっちもイカレたメンバーを紹介するぜ。俺は笑顔きらきら大明神、ブレモンを愛する一般優良プレイヤーだ。
 さっき名乗ったイケメンがジョン。こっちの意味不明生物がカザハ君と愛馬のカケル君。
 そこの死体がエンバース君。こいつらはマル公もお初だったよな」

雑に俺プラス三名を紹介して、天を仰ぐ。
大仰な仕草で、なゆたちゃんを示した。

「そしてェーーっ!何を隠そうこの御方こそが我らのリーダー!
 国内最強のスライム使い!ついた異名がスライムマスター!誰が呼んだか月子先生!
 ――モンデェェェェェェンキントォォォォォ!!!!」

親衛隊幹部が一人、きなこもち大佐は上位ランカーのスライム使い。
そして在野のほとんどのスライム使いがそうであるように、
なゆたちゃんことモンデンキントから薫陶を受けたチルドレンだ。

多くのチルドレンがモンデンキントの劣化コピー、後追いにしか焼き上がらなかったのに対し、
きなこもち大佐はぽよぽよコンボを下敷きに独自の戦術を編み出し、ただのチルドレンとは一線を画す存在となった。
確か奴は、自身がチルドレン出身だと公言していた。
異世界で思わぬ再会を果たした過日の師匠に対し、思うところはあるはずだ。

もっと言うなら、チルドレン以外にも、モンデンキントのネームバリューは有効にはたらく。
俺たちを、迂闊に手を出せない強者の集団だと思わせられるだろう。

オモックソ虎の威を借りちまってるけど、まぁ、許してにゃん。
許してにゃん!!!!!!!!!

「――以上だ!」


【マウントをとりつつ牽制のためにモンデンキントの威を借りる】

35崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 20:57:42
「マル様親衛隊……ですって……!?」

明神と共に、なゆたは絶句した。
まさか、あのブレモン界の問題児。少しでもブレモンに詳しいプレイヤーならその存在を知らないはずがない強者。
ブレモンでも突出した狂信者集団と、このアルフヘイムで遭遇することになろうとは――

>マル様親衛隊がリアルにマル様の親衛隊してるだと……!?

地球での記憶なのか、カザハも驚愕している。なゆた&明神とは驚きのベクトルに若干の違いがあるが。
明神がなゆたとカザハ、エンバースに耳打ちする。

>ちょいこっち。耳貸せ……親衛隊の連中は味方じゃない。マル公もだ。
 敵かどうかはまだ分かんねえが、少なくとも信用は出来ない
>親衛隊はブレモンきってのやべえ奴らだ。そのやばさはこの俺をも凌ぐ、っつったら分かるよな。
 連中の判断基準は善悪じゃなく、マル公のセリフの解釈だ。
 奴がアルフヘイムに弓引けと言えば、親衛隊どもは喜んで矢を番えるだろうよ

「分かってる。……いや、やばさのレベルでは昔の明神さんもどっこいだったけどー!
 それはともかく、手放しに喜べる状況でないことは確かね……。
 親衛隊はさっきまで味方だった相手さえ、僅かな解釈違いで即座に敵認定する人たちだから……」

なゆたもぼそぼそと声を潜める。
性善説を掲げて憚らない、底抜けに善人のなゆたでさえ『できるなら関わり合いになりたくない』と思うような手合いだ。
その危険性は導火線に火のついた爆弾の比ではない。
そんな連中が敵か味方か分からないと言うのは、とてもではないが気が休まらない。
いっそきっぱり敵だと言われた方がすっきりするくらいだ。 

>おかしいだろ、有力ギルドのメンバーが3人も固まって召喚されるなんてよ。
 バロールの10連ガチャじゃ確率的にまず起こりようのないリザルトだ。
 つまり奴らは――ピックアップされてる可能性がある

「――連中がニヴルヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』かもしれないという可能性か。
 簡単な話だ。だったら叩き潰す、帝龍を仕留めたようにな。俺たちにはそれが出来――」

「……ううん、難しいと思う」

エンバースの言いかけた言葉を、なゆたがかぶりを振って否定する。
そうだ。
確かに自分たちのパーティーは数多くの激戦と死闘を潜り抜けてきた。
アコライト外郭での超レイド級モンスター、アジ・ダハーカ攻略などは大金星と言える勝利だっただろう。
だが――そんな自分たちをもってしても、きっと。目の前にいる、この三人組には勝てないだろう。
この三人のことを、なゆたは知っている。明神もきっと(私怨込みで)熟知しているはずだ。

『親衛隊のやべえ奴』シェケナベイベ。
闇属性のアンデッドモンスター、ゾンビの最終進化系『アニヒレーター』を中核とした、
デスメタルコンボを使うプレイヤー。そのデス・ヴォイスはユメミマホロの柔らかな天使の歌声とは対極の、
鼓膜を破壊しありとあらゆるデバフを齎す破壊の音波だ。
いわゆるマル様親衛隊包囲網では、反親衛隊連合軍の大半が彼女のデスメタルコンボによって壊滅的な打撃を受けた。

『次世代型チルドレン』きなこもち大佐。
『スライムマスター』モンデンキントの高弟(といってもなゆた本人は弟子とは思っていない)。
最低7ターンの時間を要するのが致命的弱点となっているぽよぽよ☆カーニバルコンボを独力で改良・進化させ、
実に5ターンでG.O.D.スライム召喚を実現した『もちもち♪アドバンスコンボ』の提唱者。
親衛隊の切り込み隊長として、親衛隊に弓引く者の悉くを葬り去ってきた剛の者である。

そして――そんな強豪のさらに上に君臨する親衛隊長『ミスリルメイデン』さっぴょん。
徒名の通り聖属性の『ミスリルメイデン』をパートナーモンスターとする、日本屈指のトップランカー。
ミスリルメイデンを核とし、ミスリルナイト、ミスリルビショップ、ミスリルルークなどミスリル系モンスターで編成された、
いわゆる『ミスリル騎士団』は、他の追随を許さない圧倒的な強さを誇る。
その戦い方はまさに制圧、蹂躙、征服と呼称するのが相応しい。

明神の指摘通り一人足りないようだが、それでもこの面子が揃っているというのは特筆に値する。
偶然とは考えづらい。ここはやはり、ニヴルヘイムのピックアップガチャと考えるのが妥当だろうか。

36崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 20:58:00
なゆたはゲーマーだ。したがって、ゲーマーの思考というものが染みついている。
それはどれだけ拭おうとしても拭いきれない癖だ。無意識にゲームの経験を下敷きにものを考えてしまう。
もし仮に戦闘になったなら、シェケナベイベは倒せるかもしれない。
自分が全力をもって当たれば、きっときなこもち大佐も倒せるだろう。
だが、さっぴょんはいけない。さっぴょんだけは相手が悪い。
なぜなら――地球にいた頃のオンライン対戦でなゆたは『一度もさっびょんに勝てなかった』。
無敵のぽよぽよ☆カーニバルコンボをひっさげ、スライムマスターと呼ばれてなお、さっぴょんに一矢も報いることができなかった。
さっぴょんはそれほど強いのだ。

そして――幹部二人に勝てるかもしれないというのも、あくまで『彼女ら単騎に自分たちが全員で挑んだ場合』だ。
戦闘になれば、当然彼女たちもパーティーを組むだろう。そして、団結した彼女らの強さは既に実証されている。
複数のギルドが強者を集めた60名からなるアンチ親衛隊連合軍を、彼女たちは文字通り蹂躙したのだから。

「……ぐぬぬ」

むろん、アルフヘイムで召喚されて以来、なゆたたちは激戦を経て経験を積んだ。
地球にいた頃とは段違いに強くなっているだろう――が、それは彼女たちも同様であろう。
バロールに召喚された『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と違い、ミハエルや帝龍たちはニヴルヘイムに客分扱いされていた。
が、といってぬるま湯に浸かっていたという訳ではないだろう。親衛隊は親衛隊で戦いの経験を積んでいるはずだ。
となれば、ますます戦って勝てる可能性は低い。

>立派なスライムだね……!
 ボクらのクラスじゃなくてパーティーのリーダーは元祖ゴッドスライム提唱者のモンデンキント先生なんだ!
 折角だから一緒に記念撮影とかどうかな?

「ちょ! 何言ってるのーっ!?」

出来れば正体は知られずにおきたい。そう思っていたところ、突然身内にバラされてなゆたは仰天した。
きなこもち大佐が眉を顰める。

「はぁ? モンデンキント? ……何言ってるっス?」

なゆたたちのパーティーを見回し、小さく鼻を鳴らす。
カザハの作戦はあっさりスルーされた。明神の時もそうだったが、よもや自分の師匠が女子高生だとは思わないらしい。

>なあ!なゆ!煙が充満して結構辛いんだ!一回外にでてもいいか?

親衛隊、ならびにマルグリットに対してどう接していいのか決めあぐねていると、馬車の中からジョンの声がした。
あまりに衝撃的なことに頭が追い付いていなかったが、確かにこの焼け跡の中で密室にいるのはつらいだろう。
どこか白々しく咳をしながら、ジョンが幌の中から出てくる。

「あっ、ジョン……」

まだ、マルグリットや親衛隊の真意が分からない。ひょっとしたら戦闘になってしまうかもしれない。
ジョンは仲間を護るためならどれほどでも非情になるし、我が身を顧みなくなる。
親衛隊が少しでも敵対的なそぶりを見せれば、きっとジョンは彼女たちを排除しようと動くだろう。
そんな中にジョンを出すのは危険だ、なゆたは無防備に親衛隊へと近付くジョンを制そうとした、が――

>失礼しました・・・僕の名前はジョンアデル・・・気軽にジョンとお呼びください
 こちらは相棒の部長です。ちょっとふてぶてしい奴ですがかわいい子ですよ、ふかふかです

マホロのときの敵意100%の時と違い、ジョンの態度は物柔らかだった。
キングヒルで初めて会ったときのような慇懃な振る舞いに、なゆたは肩透かしを食らって僅かにつんのめる。

>お嬢様方、お近づきの印にこれをどうぞ。王都で話題のケショーヒンセットです。
 僕達のしっている化粧品とはちょっと違う物ですが・・・効果は間違いないですよ!あのバロールもみとめた品です

さらにジョンは幌馬車の中から化粧品を数点取り出した。
むしろ化粧品なんていつ調達したのか。このためだとしたら用意がよすぎる。

『化粧品だって? そんなもの、何に使うんだい? まさか君が使うの? ははは、そうかそうか! いや皆まで言わなくていい!
 誰にだって人に言えない趣味嗜好はあるものさ。いいとも、キングヒルで手に入る最高のものを用意しよう!
 はっはっはっ! なになに、いいってことさ!』

バロールは何か盛大に勘違いしていたようだが、結果オーライである。
しかし。

「……えぇー……」

なゆたは半眼になって口許を引き攣らせた。
さすがに、初対面の人間が有名人のネームバリューを盾に怪しげな化粧品を勧めてくるという絵面は怪しいことこの上ない。
それこそネットの胡散臭い美容品だの、情報商材だのといったレベルだ。
世間ずれしているとは言えないなゆたでさえ、これが悪手であることは理解できる。
その証拠にジョンに化粧品を差し出されたきなこもち大佐とシェケナベイベは怪訝な表情を浮かべている。

37崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 20:58:25
「何スかコレ? ハァ? ケショーヒン?」

「えぇ……ないわぁ……ってかコイツ、ジョン・アデルっつった? あのション・アデル? マジ?」

「知ってるんスか、副隊長」

「知ってる知ってるー。顔だけは」

「ふぅーん。……マル様の方が兆倍素敵っスね」

きなこもち大佐がジョンの顔を値踏みするようにまじまじと見る。
評価は芳しくはなかった。

「あちゃぁ……」

逆に親衛隊に警戒心を抱かせてしまったかもしれない。なゆたは右手で額を押さえた。

>……待って。それってもしかしてガチで魔法のアイテムだったり? ちょっと面白そう!
>ああああ!若さが!若さが失われていく!醜く老いさらばえていく!
 な、な、なぁ!ケショーヒンもっとくれよ!まだあるんだろ?もっとくれよぉ!!

ジョンの出した化粧品にカザハと明神が食いつき、目の前で寸劇が繰り広げられたが、
当然のように親衛隊の反応は芳しくない。
その後もパーティーに対するきなこもち大佐とシェケナベイベの酷評は続いた。

「てか、パートナーモンスターがコトカリスって! こんなネタモンスター連れてるプレイヤー初めて見たし!
 見たとこ大して鍛えてもないっぽいしぃ。マジ引くわぁ……ひょっとしてこれも女ウケ狙ってる系? ぱねーし」

「他はシルヴェストルとユニサスに、ダークシルヴェストルとダークユニサス。エンバースとスライムっスか。
 ザ・エンジョイ勢! って感じっスね……エンバースとダークシルヴェストルとダークユニサスはまぁまぁっスけど。
 他はザコもいいとこっス。こんなゴミパーティーでよくも今まで生き延びてこられたモンっスねぇ〜?」

「こら、二人とも言いすぎよ? たとえ低レアモンスターしかいないニワカ勢でもいいじゃない。
 マル様が必要だと仰っておられるのだから……そうですよね、マル様?」

「あ、あはは……すみませんねえ、ニワカのエンジョイ勢で……」

リーダーのさっぴょんがふたりを諌めるも、見下されていることには変わりない。なゆたは米神に青筋を浮かべて愛想笑いした。
これだ。この排他性、親衛隊とはこういう人種だった。自分たちとフォロワー以外を頑として認めない。
プレイの多様性というものを考えず、にわか勢と見下して憚らない。
いつか物申してやろうと思っていたが、まさか直に顔を合わせることになろうとは。

>それはそれとしてだ。久しぶりじゃんマル公、穴蔵で狩りパ組んで以来だな。元気にしてた?

親衛隊の濃厚すぎるキャラクターに気圧されていると、不意に明神がマルグリットへ声をかけた。
これでもかというほど馴れ馴れしい。だが、なゆたはそんな明神の思惑をすぐに察した。
つまりこれは牽制だ。自分はお前たちの崇拝するマルグリットとこんなにも近しいんだ! とアピールすることで、
狂犬たちに首枷をつけようとしている。自分たちに礼儀知らずなマネをすれば、
お前たちのマルグリットが黙ってないぞ――と。
実際なゆたと明神はガンダラでマルグリットと共闘しているのだし、何一つ嘘は言っていない。
そして、根が単純なのかお人よしなのか、当のマルグリットはそんな明神の駆け引きにまるで気付いていないようだった。
親衛隊はじめ多数の女性プレイヤーを虜にした甘いマスクを向け、穏やかに明神へと笑いかける。

「ええ、まこと久闊でございますな。ご健勝で何より――
 いやさ、貴君ら『異邦の魔物使い(ブレイブ)』ならば当然の仕儀にございましょうや。
 なればこそ、我が賢師も貴君らの力を恃みにしようというもの」

「こんなエンジョイ勢とマル様が一緒に戦ったとか、マジ信じられんし」

「いいえ、いいえ。エンジョイ勢だからこそよ、シェケちゃん。
 マル様はブレモン唯一無二の正真正銘の英雄だもの……弱者に手を差し伸べてこそ、でしょう?」

「一回野良でパーティー組んだ程度のザコの顔まで覚えてるなんて、マル様はやっぱパネェっス!
 マジ惚れ直すっス……!」

「あはぁん! マル様ぁ〜! サイッコーだし!」

マルグリットの言葉にさっそく親衛隊が賛辞を贈る。
眩暈がしそうだ。いや既にしている。

38崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 21:09:27
「オイオイオォ〜イ! ちょっち待ってくれるー?
 さっきから聞いてたらザコだのニワカだの、さんざん好き勝手言ってくれちゃってさー?
 マル様親衛隊ィ? ハ! オマエらなんてボクがアコライトを更地もごがご」

矢継ぎ早な悪罵に耐えきれなくなったらしく、ガザーヴァが身を乗り出して口を出す。
が、これも明神がガザーヴァの口を塞ぎ無理矢理幌の中に押し込んで制した。ファインプレーだ。
さらに明神は言い募る。

>こっちもイカレたメンバーを紹介するぜ。俺は笑顔きらきら大明神、ブレモンを愛する一般優良プレイヤーだ。
 さっき名乗ったイケメンがジョン。こっちの意味不明生物がカザハ君と愛馬のカケル君。
 そこの死体がエンバース君。こいつらはマル公もお初だったよな

「明神……? 何かひっかかるわね」

「シクヨロシクヨロー。まぁー短い付き合いになると思うケドぉー?」

「あいや、別におたくらの名前とか興味ないっス」

三者三様の反応である。が、三人ともこちらのパーティーへの興味は薄いようだった。
マルグリット以外の生命体は一律カボチャ、くらいの認識なのだろう。
しかし。

>そしてェーーっ!何を隠そうこの御方こそが我らのリーダー!
 国内最強のスライム使い!ついた異名がスライムマスター!誰が呼んだか月子先生!
 ――モンデェェェェェェンキントォォォォォ!!!!

「明神さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!???」

まるでeスポーツの大会で出場選手でも紹介するかのような調子で、明神がなゆたを紹介する。
先程カザハが紹介したときは有耶無耶になったが、さすがに今回はそうはいかない。
地球でもよく知るプレイヤーの名前が二度も出て来ては、親衛隊もさすがに注目せざるを得ないだろう。

「モンデンキントって、あのモンデンキント?」

「え? マジ? このコが? えっ? ……マジで?」

「いやいや、こんな小娘がお師匠なワケないっス!
 お師匠はもっと大人で、聖人で、マル様ほどじゃないにせよ立派なお方っスよ!」

やはりと言うべきか、きなこもち大佐はキングヒルでの明神のようなリアクションを見せている。
三人の視線がマルグリットに集まる。なゆたが本物なのか偽者なのか、彼の判断を待っているそぶりだ。
親衛隊の無言の懇願に対して、マルグリットは柔和な微笑を浮かべながら一度頷く。

「ええ、間違いなく。
 試掘洞以降、黎明の賢兄より伺いました。稀代のスライム使い、その名も月の子(モンデンキント)。
 試掘洞にてバルログをただ一撃にて屠りし勇姿、いまだ我が瞼裏に焼き付いております」

「あはは、あの月子先生がこんな可愛い女の子だったなんて! 分からないものねぇ!」

「ッパネェ……! モンキンってこんなお子ちゃまだったんだ……マジビビルっしょ!」

「う、嘘っス……お師匠が、自分のお師匠がこんな……こんな……。
 いくらなんでも属性盛りすぎじゃないっスかね……?」

「ええと……なんかゴメンナサイ……」

さすがに崇拝するマルグリットの太鼓判があっては否定できない。親衛隊は納得した。
しかしきなこもち大佐だけはがっくりと地面に膝をついている。なゆたは思わず謝った。

「でも、バルログをワンパンなんてできるのは自分の知る限りお師匠くらいしかいないっス。
 認めるしかないようっスね……!」

「あら。私もできるけど」

「あーしもー」

「社交辞令っス。気にしないでほしいっス」

尊敬する師匠を前にしても、慇懃無礼なのは変わりなかった。

39崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 21:09:47
「と、ともかく、マルグリットがここへ来てくれて助かったよ。ありがとう。
 さっきカザハも言ってたけど、あなたたちはこれからどこへ?
 わたしたちはここからアズレシアを経て、最終的にはエーデルグーテへ行こうと思ってるんだけど……」

「私は貴君らをお迎えに上がったのです。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』よ」

「迎えに来た? わたしたちを?」

「然り」

マルグリットは鷹揚に頷いた。

「賢師の命に依りて、我ら十二階梯はこの未曽有の危難に対処する『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を集めています。
 この三名も同じく我が招聘に応じ、本来の陣営より離脱し馳せ参じてくれた『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
 貴君らにも、是非同道頂きたい。賢師もそれをお望みです。
 かつて貴君らに預けた『ローウェルの指輪』がその証……賢師に選ばれし『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の」

ガンダラの試掘洞で達成したクエストの報酬、ローウェルの指輪。
実在するかさえ不確定であった超絶レアアイテムは、単なるスペルカードのブーストアイテムではなかった。
最初にこのアルフヘイムの地に降り立ってから、既になゆたたちはローウェルに選ばれていた、ということらしい。
と、するならば。
魔法機関車の燃料切れとクリスタル確保のタイミングがあまりに噛み合っていたため、なゆたたちはずっと、
キングヒルへ来いというクエストとローウェルの指輪を手に入れろというクエストの出どころは同一と思っていたが――
バロールのアルフヘイム陣営とローウェルの十二階梯陣営ということで、それぞれバラバラの依頼だったらしい。
ガザーヴァが言っていた『敵はニヴルヘイムだけじゃない』という言葉がさっそく実証された形だ。
今はまだ、マルグリットやローウェルが敵なのかどうかは定かでない。今後のなゆたたちの去就次第だろう。
しかし、これでアルフヘイム、ニヴルヘイムに次ぐ第三勢力の存在が明らかになったわけだ。

「あーしらも元はニヴルヘイムの連中に召喚されたんだケドぉー。
 アイツら陰気臭いし、男ばっかでムサ苦しいし。つーかミハエルとか帝龍とか話合わんし」

「居心地悪いと思ってたんスよねぇ。そんな自分たちを、マル様が迎えに来てくれたんス!」

「あぁ……、本物のアルフヘイムで、まさか本物のマル様にお会いできるだなんて……!
 これってやっぱり運命よね! 私たちマル様親衛隊は、マル様に出会うべくして召喚されたのよ!」

明神の予想通り、マル様親衛隊は元々ニヴルヘイムのピックアップ召喚で召喚されたらしい。
でなければ、こんなに近しい間柄のプレイヤーを纏めて召喚することなど不可能だろう。
しかし、三人はマルグリットに出会ったことであっさりとニヴルヘイム陣営を裏切り十二階梯勢についた。
なゆたや明神にとっては『ですよねー』な当然すぎる結果だが、
ニヴルヘイムの首魁イブリースにとっては予想外の事態だろう。今にも歯軋りが聞こえてきそうだ。

「えと、確か親衛隊って幹部クラスの人がもうひとりいたような……」

「スタミナさんっスか? もういないっス」

「もういない?」

きなこもち大佐の物言いに、なゆたは首を傾げた。

「除名だよ除名ー。つーかさーアイツ、こっちに召喚されたらビビッちゃってさー。
 マル様のために戦えるんだよ? 超絶光栄じゃん! 望むところじゃん? マル様に刃向かう連中なんて全殺しっしょ?
 あーしら最強だし! なのに戦いたくないとか言い出してさぁー。だ・か・ら!」

「親衛隊に臆病者は必要ないわ。例えそれが幹部であってもね。
 彼女は置いてきた。ま……運がよければ生き延びるでしょう。
 もっとも――『彼女のスマホは、もう壊れてしまっているけれど』――」

さっぴょんがクスクスと哂い、きなこもち大佐がクククとほくそ笑み、シェケナベイベがケラケラと嗤う。

「―――――――」

なゆたはぞっとした。
この三人は、あれだけ仲良くしていた幹部さえも僅かな意見の違いで放逐したのだ。
しかも、ただ放逐したのではない。なゆたの予想が正しければ――三人は戦うことに反対した幹部に制裁を加えたのだ。
そして最終的に『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の命綱とさえ言えるスマホを破壊した。
この世界において『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がスマホを失うことは死に直結する。
それを、この三人はしたのだ。躊躇いなく。

――狂ってる。

改めて、なゆたはマル様親衛隊という組織の恐ろしさを痛感した。

40崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 21:10:00
夜になり、なゆたたちパーティーとマルグリット、マル様親衛隊は当初予定していた村に到着した。
一件だけある酒場兼宿屋にチェックインする。もっとも、今は総勢10名の大所帯(馬除く)だ。
宿屋の部屋とベッドには限りがある。なゆた、ガザーヴァ、親衛隊の5人が宿屋を使い、
明神、エンバース、カザハ、ジョン、マルグリットの男衆は馬車で宿泊ということになった。
馬二頭は厩である。
マル様も当然宿を使うべきと主張する親衛隊や、明神と寝たいと駄々をこねるガザーヴァによって部屋割りは揉めに揉めた。

「貴君らがバロール師兄の許に身を寄せていることは存じております。
 したが、敢えて申し上げましょう。貴君らは師兄に欺かれている。ていよく利用されているだけなのです」

酒場でテーブルを囲み、夕食を摂りながら、マルグリットが物柔らかな態度でなゆたたちを説得する。
その声、その態度、その雰囲気だけで、マルグリットが正義の側、光の側に属しているということが伝わってくる。
マル様親衛隊でなくとも、マルグリットの慇懃な態度を見ればその言葉を信じたくなってしまうだろう。
バロールが明らかに隠し事をしている、情報の開示を避けているならば尚更だ。

「師兄もまた、世界の救済を考えてはおられるのでしょう。
 さりながら……師兄のそれは真の救済にあらず。ただ、世界を欲しいままにしたいだけなのです。
 我が賢師はそれをお許しにならなかった。ゆえ、賢師は師兄を破門にされたのです。
 このまま師兄に使嗾され続けたとて、貴君らに安寧は決してなきもの……と断言させて頂く」

「バロールは、やっぱりわたしたちを騙しているっていうこと?」

「遺憾ながら」

マルグリットは首肯した。
確かにバロールの発言や行動には謎が多いし、目的のために犠牲を厭わないところがある。
ガザーヴァのことを道具としてしか見ていなかった点なども、いまだに不信感として燻り続けている。
かの元第一階梯がなゆたたちに開示している情報とは別の目的で動いているのは間違いないだろう。
しかし、それをもってバロールを見限るのは早い、ようにも思う。
何より今はまだローウェルの思考が見えない。
ローウェルもまた侵食に備えようとしているのは確かだろうが、彼には彼の思惑もあるはずだ。
それがなゆたたちにとって何を意味するのか、それを見極めるまでは結果は出せない。

「つか、バロールって魔王っしょ? 殺せば?
 なんならあーしが殺す? 10ターンくらいでイケるっしょ、アイツなら」

シェケナベイベがパスタをフォークで巻き取りながら、こともなげに言う。

「自分ら三人がかりなら5ターンってとこっスかね」

「んー、私はパス。きなちゃん、シェケちゃん、お願いね」

「そんなこと言って、あーしらがバロール殺してる間にマル様と抜け駆けしようなんて問屋が卸さないし! 隊長!」

「んー? ふふふ、ばれたか」

「きたないさすが隊長きたない」

完全にバロールのことを舐めている。
バロールは十二階梯の継承者の頂点に君臨していた男。大賢者ローウェルの一番弟子にしてマルグリットの兄弟子にあたる。
ストーリーモードのラスボスであり、この世界でも最高の魔術師である。
当然、やすやすとやられるとは思わない……が。
親衛隊の物言いには、ひょっとしたら成し遂げてしまうのではないか――そう思わせる説得力があるのも事実だった。
だが、そんな親衛隊三人の言葉にマルグリットがかぶりを振る。

「いえ、お三方。師兄の力を見縊られぬよう。
 師兄は今世最大にして最強の魔術師。破門となり我らと袂を分かった今もなお、その創世魔法に衰えはありますまい。
 お三方の力量は重々承知しておりますが……何卒軽はずみな行動は慎まれよ。何より――
 見目麗しいレディの身がたとい毛筋ほどであっても傷つくなど、このマルグリットにとって耐え難き苦しみなれば」

そう言って、マルグリットは笑った。
ぱぁぁぁぁぁぁぁ……!! と効果音でも出ていそうな、とびきりの笑顔だ。実際光り輝いているような気さえする。

「ふはぁ……マル様ぁぁぁん!!」

「あひぃん……!」

「おぶぅ!? と、尊すぎて死ぬっス……!」

さっぴょんが横ざまに椅子から転げ落ち、シェケナベイベが感極まってビマビク震え、きなこもち大佐が鼻血を垂らして突っ伏す。
一事が万事こんな感じで、鬱陶しいことこの上ない。
だが、この四人が戦力ではなゆたたちを遥かに上回っているのは事実なのだ。

41崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 21:10:49
「ところで……月の子よ、貴君らはエーデルグーテへ行かれるとのこと。
 なにゆえ斯様な遠方へ? 聖地巡礼という訳でもありますまい」

「あ。ええと……」

マルグリットに訊かれ、なゆたは無意識にジョンの方へと視線を向けた。
ほんの少しだけ逡巡してから、

「……ちょっと、呪いを解きに行こうかなって」

とだけ言った。
教えられないと黙秘しては親衛隊の不興を買うだろうし、といって懇切丁寧に事情を説明してやる必要もない。
何より、これはジョンの問題だ。ジョンも会ったばかりの者たちに自分の苦境を知られたくないだろうし、
何よりなゆたがペラペラと喋っていいことではない。

「なるほど。委細承知致しました」

ただ、そんななゆたの意図など関係なくマルグリットはあっさりと納得したようだった。
ゲームの中でも、マルグリットは篤実かつ実直な人物としてキャラメイクされている。
その誠実さ、悪く言えば単純でバカ正直なところをゲームの中でも様々な人物に利用され、
ときにプレイヤーの味方として、ときに敵として接触していくのである。
親衛隊を始めとするマル様フォロワーも、そんなマルグリットの『強くてイケメンなのにどこか抜けている』ところに
魅力を感じているのだろう。母性愛や庇護欲を掻き立てられる、とでも言えばいいか。
なゆたはイケメンにはまるで興味がないタイプなので、マルグリットには全然ツボを刺激されないのだが。

「解呪ということであれば、確かに聖都より適切な場所はございますまい。……ならば、我らも聖都へ同道致しましょう。
 幸い聖都の頂点、プネウマ聖教の教帝オデットは十二階梯の継承者が一翼、我が賢姉にて。
 貴君らの解かんとしている呪詛がいかなる類のものかは存じませぬが、賢姉にかかれば解呪などいと容易きこと。
 私の伝手にて賢姉に渡りをつけましょう、如何?」

「本当!?」

なゆたはガタッ! と椅子から立ち上がり、身体を前にのめらせて食い入るようにマルグリットへ顔を近付けた。
これぞ、渡りに船である。
『ブラッドラスト』を解くために聖都へ向かおうと思い立ったものの、聖都に到着した後のことは何も考えていなかった。
ただ、聖属性の本拠地である聖都へ行けばきっと解呪の手段もあるだろう、と何となく考えていただけだ。
そんな何とも頼りない、ふわっとした作戦にマルグリットは確かな手段を提供してくれるという。
プネウマ聖教の教帝オデットは聖属性魔法のエキスパート。聖属性に関しての知識はバロールをも凌ぐ。
オデットならば、ブラッドラストを解呪する方法もきっと知っているだろう。
もしオデットがそれを知っていたとしても、なゆたたちだけでは教帝に謁見することなど夢のまた夢だ。
しかし、そんな問題もオデットの弟弟子であるマルグリットがいれば一発解決だ。
無意識にヘイトをばら撒くマル様親衛隊と長旅をするというのは精神的な疲労が半端なさそうだったが、
親衛隊は何せ無類の強豪である。単純に戦力がアップするというのはメリットであろう。
何より戦える頭数が増えれば、それだけジョンが戦う機会も避けられる。
今はとにかく、ジョンにブラッドラストを使わせない。それが何より優先すべきことなのだ。

「勿論ですとも。お役に立てて重畳至極、その代わり――」

マルグリットが微笑みながら告げる。

「ことが成り、解呪が成功した暁には……我らと共に賢師にお会い頂く。宜しいか」

むろん、世話になりっぱなしではいられない。便宜を図ってもらえば、当然その代償を支払う義務も発生する。
いかなお人よしのマルグリットとて、ボランティアでやっている訳ではない。ローウェルの遣いでやっているのだ。
オデットに会って解呪をしてもらえば、マルグリットに大きな借りができる。
そうなれば、ローウェルに会うというマルグリットの希望を断りづらくなってしまう。
といって、ここで分かったと了承してしまうのはあまりに危険だ。

「……その……」

なゆたは口ごもった。ここで嫌だと言えたなら、いったいどれだけ楽か。
しかし言えない。ジョンの呪いを確実に解くためには、オデットの協力とマルグリットのパイプは必要不可欠だ。
約束できない、と言わなければならない。しかし協力はして欲しい。
懊悩。だが――

「ヤダ」

そんな場の空気を全く読まない人物が、ひとりだけいた。

42崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 21:12:17
「ジョンぴーの呪いを解きたいってーのはヤマヤマなんだケドーぉ、じじいの思惑に乗ってるみたいでキモチワルイんだよねー。
 こっちの力借りたいんだったら、手下なんて寄越さないで本人が来るのがスジなんじゃないっスカーぁ?
 あ、それとも老いぼれすぎちゃって足腰立たなくなっちゃってる? 要介護的な? んならしょーがねぇーかぁー! きひひッ!」

ガザーヴァは無理矢理幌馬車の中に押し込められた鬱憤を晴らすかのようにまくし立てた。
ガタッ! と瞬時にシェケナベイベときなこもち大佐が立ち上がり、殺気に満ちた眼差しでガザーヴァを睨みつける。
瞬時にマルグリットが右手を水平に伸ばし、狂犬二頭の動きを制する。
もっとも、ガザーヴァにとって憎悪は賛辞にも等しい。
水を得た魚のように、その舌が滑らかさを増してゆく。

「それにさぁー、ボクらさっきそちらさんのお仲間に襲撃受けてんだよネー。
 『詩学の』エリスマリスだっけ? マリスエリスだっけ? まぁーどっちでもいっか!
 畑に火ィーつけた上に狙撃とか、えっぐいコトするよねー! ボクでも感心……もといドン引きするレベル!
 オマケにそんなお仲間に襲わせといて、自分は助けに来るフリして恩売って……マッチポンプってヤツ? エゲツナーイ!」

「……『詩学』が貴君らを狙撃?
 あまつさえ、先ほどの火災も『詩学』の仕業と……? そんな筈は……」

マルグリットが困惑げな表情を見せる。
しらばっくれるにしては演技が堂に入っている。第一、マルグリットはそんな腹芸のできる人物ではない。
本当にマルグリットが知らないのだとしたら、マリスエリスが独断でやったこと――ということなのだろうか?
なゆたは首を傾げた。
ガザーヴァの横槍で場の雰囲気が悪くなった、そのとき。

「別に、あんたたちの無罪を証明してやるわけじゃないが――」

それまでテーブルにつきながらも一言も喋っていなかったエンバースが、徐に口を開いた。

「本当に、あれはマリスエリスの仕業か?」

「どういう意味? エンバース」

なゆたが訊ねる。

「……なに。俺の記憶では、確か十二階梯のマリスエリスという奴は自然を愛するキャラじゃなかったか、と思ってな」

確かに『詩学の』マリスエリスは吟遊詩人を本職としており、その詩の題材も戦いや恋より自然の美しさを語るものが多かった。
そんなマリスエリスが、例え目的があったとしても畑を焼くなどという景観を著しく損なう行動に手を染めるだろうか?
王都の美しい白亜の色合いと、整然と並ぶ柱。その景色が美しいと、ゲームの中でバロールに弓を引いたマリスエリスが。

「それにだ。奴は確か、魔力の矢を飛ばすのだったな。だったら――
 ……『これ』は何だ?」

そう言ってエンバースはコートの内懐をまさぐり、何か小さなものをつまんで取り出した。
細長く鋳造されたそれは『弾丸』だった。
この世界にふさわしくない、地球由来の産物。ライフル弾。
それが、エンバースの懐から出てきた。

「それは……」

「カザハが狙撃を受けた地点の近くに落ちていた。間違いなく俺たちを狙ったものだろう。
 マリスエリスはいつ、得物を魔弓からライフルに変えた? 
 それに……奴は『雲の上のドラゴンの目を地上から射貫く』射手だったよな――? 得物を変えて手許が狂ったか?」
 
そうだ。マリスエリスはこのアルフヘイムでも随一の射手。
そんなマリスエリスに一度狙われれば、逃げ延びることは不可能である。
だというのに、なゆたたちは全員生き残っている。
周囲の被害をものともしない焼き討ち、ライフルの弾丸、事情をまるで知らない身内。
これらの証拠が齎す結論とは、つまり――

「襲撃者は……マリスエリスじゃ……ない……?」

敵は、別にいる。

43崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 21:12:43
「……ニヴルヘイムの者でしょうか。いずれにせよ放っておく訳には。
 やはり、同道はさせて頂きます。貴君らを賢師の許へとお連れする、それは我が第一の任なれど――
 侵食の脅威に乗じて破壊を目論むニヴルヘイムの尖兵もまた、見過ごしてはおけませぬ。
 貴君らと共に在れば、遅からずニヴルヘイムの者どもとも相まみえることとなるはず。
 微力ながら加勢致します、今は協調し絆を強めることこそが、闇を切り拓く一条の光明となりましょう」

「ええと……でも、ローウェルの所は……」

「はは……それは暫し脇に除けておきます。
 確かに賢師の厳命は我が大事なれど、無理強いは私の好むところではありません。
 まして恩を売り、その代価に望まぬ行為を強いるなど……ゆえ、先ほどの私の言葉はどうかお忘れに。
 まずは貴君らの目的の達成に尽力致します。その後で、よしや我が献身に何か感じ入ることがあったなら。
 そのとき、改めて答えをお聞かせ願います」

マルグリットははにかむように笑った。
それは何らの打算も思惑もない、掛け値なしの笑顔。
正真、マルグリットは今言ったままのことを胸中で考えているのだろう。
親衛隊は油断できない難物ぞろいだが、それを率いるマルグリットのことは信じてもいいのかもしれない。
何より、やはり戦力アップは何にも勝る魅力だ。
エーデルグーテへの道のりは遠い。その道中、きっとまたニヴルヘイムの刺客がやってくるだろう。
そんなとき、戦闘に加わってくれる存在が多いのは何より心強い。
それが十二階梯の継承者と、ブレモンのトップランカーと来れば尚更だ。

だとすれば。

「じ、じゃあ……お言葉に甘えて。
 エーデルグーテまでよろしく、マルグリット。親衛隊の皆さんも……頼りにして、ますね」

なゆたは迷わなかった。
ハイリスク・ハイリターンの選択だったが、この状況で選り好みはしていられない。
多少のリスクは織り込み済みで突き進んでゆくしかないのだ。

「承知致しました。月の子よ、明神殿にジョン殿、カザハ殿も――何卒お任せあれ。
 このマルグリット、『聖灰』の名に懸けて。必ずやお役に立ってご覧に入れましょう!」

マルグリットがキラキラと輝くような笑顔を向け、爽やかな所作で右手を差し出してくる。握手の仕草だ。
どこまでも憎らしいほどイケメンな男である。ならばとばかり、なゆたも右手を差し出して悪手に応じようとした――が。

ぺちん!

「あいた!」

それまで黙って遣り取りを見ていたさっぴょんが立ち上がり、なゆたの手を叩いたのだ。
なゆたはビックリして手を引っ込めた。

「たとえ知人であろうと、マル様に触れることは許さないわ」

さっぴょんが険しい表情で言い放つ。
その纏う気配は先ほどガザーヴァの挑発に乗って立ち上がったシェケナベイベときなこもち大佐の比ではない。

「ぅ……、すいません……」

「わかればいいの。……マル様がお決めになったことなら、私たちに言うことは何もないわ。
 護衛でも露払いでも、なんでもこなしてみせましょう。改めてよろしくね、みんな」

「かしこまりー。ホントはさっさとバロール殺して、アンタらふん縛ってったほーが楽なんだろーケドぉー。
 別にいっか。ま、あーしらがいれば百人力ってヤツ? 大船に乗った気で的な?」
 
「自分たちは無敵っスから。おたくらは馬車の木目でも数えてるといいっス。フヒッ」

酷い態度と言い草だ。
が、問題児だろうと何だろうとしばらくは一緒に旅をする仲間だ。仲よくしなければいけないだろう。

「あ、あはは……心強いわ、はは……うん……」

――失敗した。
なゆたは数分前に自分が下した決断を、早くも後悔することになった。


【『聖灰の』マルグリットとマル様親衛隊が聖都まで一時的にパーティーに参入。
 マル様親衛隊のヤバさの片鱗を垣間見る。】

44ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/04/24(金) 14:09:45
>……待って。それってもしかしてガチで魔法のアイテムだったり? ちょっと面白そう!
>ああああ!若さが!若さが失われていく!醜く老いさらばえていく!
 な、な、なぁ!ケショーヒンもっとくれよ!まだあるんだろ?もっとくれよぉ!!

どうしてこうなった?
女性をほぼ確実に落とせる(とジョンは思っている)
必殺アイテムを出したら、カザハに中身をぶちまけられ、明神は中毒に。

どうしてこうなった?なんで?

男3人が遊んでいる中、自称親衛隊が部長を囲んでいた。

>「てか、パートナーモンスターがコトカリスって! こんなネタモンスター連れてるプレイヤー初めて見たし!
 見たとこ大して鍛えてもないっぽいしぃ。マジ引くわぁ……ひょっとしてこれも女ウケ狙ってる系? ぱねーし」

「いや別に狙ってるわけでは・・・」

>「他はシルヴェストルとユニサスに、ダークシルヴェストルとダークユニサス。エンバースとスライムっスか。
 ザ・エンジョイ勢! って感じっスね……エンバースとダークシルヴェストルとダークユニサスはまぁまぁっスけど。
 他はザコもいいとこっス。こんなゴミパーティーでよくも今まで生き延びてこられたモンっスねぇ〜?」

「・・・」

>「こら、二人とも言いすぎよ? たとえ低レアモンスターしかいないニワカ勢でもいいじゃない。
 マル様が必要だと仰っておられるのだから……そうですよね、マル様?」

自分の中で黒いなにかが湧き上がる。

>「あ、あはは……すみませんねえ、ニワカのエンジョイ勢で……」

なぜこんなにも上から目線なんだ?
絶対の自信があるからか?モンスターが強いから?

僕なら・・・モンスターを呼び出す前にお前ら3人の首を切り落とす事だってできるのに

僕達を馬鹿にする馬鹿3姉妹はどう強く見積もっても痴漢対策の護身術程度の実力だろう。
モンスター込みなら僕よりは強いだろうけど・・・。

>「ええ、まこと久闊でございますな。ご健勝で何より――
 いやさ、貴君ら『異邦の魔物使い(ブレイブ)』ならば当然の仕儀にございましょうや。
 なればこそ、我が賢師も貴君らの力を恃みにしようというもの」

それよりも気になるのはこの男だ。
こんなに人を馬鹿にする馬鹿3人を咎める事すらせず後ろにふんぞり返っている。

自分はまともですよ風を装ってるこの男のほうがよっぽどクソかもしれない。

>「一回野良でパーティー組んだ程度のザコの顔まで覚えてるなんて、マル様はやっぱパネェっス!
 マジ惚れ直すっス……!」

>「あはぁん! マル様ぁ〜! サイッコーだし!」

盲目的な信仰は狂気すら感じる。

45ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/04/24(金) 14:09:59
>こっちもイカレたメンバーを紹介するぜ。俺は笑顔きらきら大明神、ブレモンを愛する一般優良プレイヤーだ。
 さっき名乗ったイケメンがジョン。こっちの意味不明生物がカザハ君と愛馬のカケル君。
 そこの死体がエンバース君。こいつらはマル公もお初だったよな

>「明神……? 何かひっかかるわね」
>「シクヨロシクヨロー。まぁー短い付き合いになると思うケドぉー?」
>「あいや、別におたくらの名前とか興味ないっス」

この3馬鹿はどうやら子供ですらできる事もできないらしい。
なんでこんなクソ共がこっち側なんだ・・・?なゆ達が特別なだけ?

>そしてェーーっ!何を隠そうこの御方こそが我らのリーダー!
 国内最強のスライム使い!ついた異名がスライムマスター!誰が呼んだか月子先生!
 ――モンデェェェェェェンキントォォォォォ!!!!

>「明神さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!???」

>「ええ、間違いなく。
 試掘洞以降、黎明の賢兄より伺いました。稀代のスライム使い、その名も月の子(モンデンキント)。
 試掘洞にてバルログをただ一撃にて屠りし勇姿、いまだ我が瞼裏に焼き付いております」

本当になゆ事モンデキントは超がつくほどの有名人らしい。
3馬鹿が反応を変えたあたりガチである事が伺える。

こんな事ならもっとプレイヤーの事とかもっと調べとくんだったなあ・・・
こんどカザハがもってた本を貸してもらおうかな。

>「でも、バルログをワンパンなんてできるのは自分の知る限りお師匠くらいしかいないっス。
 認めるしかないようっスね……!」
>「あら。私もできるけど」
>「あーしもー」
>「社交辞令っス。気にしないでほしいっス」

カザハはいい意味で馬鹿かもしれないが
こいつらは悪い意味での馬鹿。いや挨拶も最低限の気遣いもできない時点で人間ですらないかもしれない。

「チッ・・・お前らいいかげんに」
>「と、ともかく、マルグリットがここへ来てくれて助かったよ。ありがとう。
 さっきカザハも言ってたけど、あなたたちはこれからどこへ?
 わたしたちはここからアズレシアを経て、最終的にはエーデルグーテへ行こうと思ってるんだけど……」

さすがに堪忍袋が切れ、口を挟もうとすると手でなゆに止められる。

クソッ・・・僕のせいでなゆ達がこんな奴にペコペコしなきゃいけないなんて・・・

>「賢師の命に依りて、我ら十二階梯はこの未曽有の危難に対処する『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を集めています。
 この三名も同じく我が招聘に応じ、本来の陣営より離脱し馳せ参じてくれた『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
 貴君らにも、是非同道頂きたい。賢師もそれをお望みです。
 かつて貴君らに預けた『ローウェルの指輪』がその証……賢師に選ばれし『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の」

怪しすぎる、いや逆か?
堂々と不貞を働く馬鹿3人とそれを咎めないその主。
とてもじゃないが頼みごと・相談事をしにきたとは思えない。逆に嫌な奴と思わせて断らせたいっていうなら分かるが。

「・・・君達はどうやってこの世界にきたんだ?」

46ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/04/24(金) 14:10:16
>「あーしらも元はニヴルヘイムの連中に召喚されたんだケドぉー。
 アイツら陰気臭いし、男ばっかでムサ苦しいし。つーかミハエルとか帝龍とか話合わんし」
>「居心地悪いと思ってたんスよねぇ。そんな自分たちを、マル様が迎えに来てくれたんス!」
>「あぁ……、本物のアルフヘイムで、まさか本物のマル様にお会いできるだなんて……!
 これってやっぱり運命よね! 私たちマル様親衛隊は、マル様に出会うべくして召喚されたのよ!」

なるほど、こんな奴らがなゆ達と同じ経緯で召喚されるわけがなかった。
全部を召喚方法で判別するのはさすがに危険だが・・・これだけははっきりわかる。

>「えと、確か親衛隊って幹部クラスの人がもうひとりいたような……」
>「スタミナさんっスか? もういないっス」

こいつらは・・・僕同様・・・この世に・・・いや元の世界でも不必要な・・・クズだ。

>「親衛隊に臆病者は必要ないわ。例えそれが幹部であってもね。
 彼女は置いてきた。ま……運がよければ生き延びるでしょう。
 もっとも――『彼女のスマホは、もう壊れてしまっているけれど』――」

人によっては直接手を下さないだけやさしいと思うかもしれない・・・けどそれは違う。
間接的に殺す事によって自分は人を殺してないと言い張るクズにすらなりきれない
自分を正常と思い込んでる異常者の常套手段にすぎない。

間接的といえども死んだ原因に意図的に自分がやった行為が含まれるならそれは立派な殺人だ。

そのスマホを破壊された人間がどんな人間だったかはわからない、それでも。
スマホというこの世界における唯一信用できる絶対的な力。
それを破壊されたその人のその後は容易に想像できる。

帝龍や、3クズのいう事を統合すれば碌な場所ではないのはほぼ確実だし。
コストを払って召喚した人間がゴミになったと分かればどんな扱いをうけるかもわからない。
必要ないとその場で殺されるならまだいい方だ。
もしかしたら僕達が会う頃にはまともに口が聞けないような状態になっている可能性もある。

ゲラゲラと笑い話にように話す彼女達はもう救いようのないクズだ。
人はこいつらを狂っているというだろう・・・でもそれは違う。

こいつらは人間の皮を被った異常者として正常なのだ。

47ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/04/24(金) 14:10:48
一通りの話し合いが終わり、夜に懇親会を開くという事になった。

「そろそろいかないと・・・」

立ち上がりたいが・・・吐き気がする・・・原因は分かりきっている。
同属嫌悪と・・・こんな奴らになゆがペコペコしないといけない状況にしてしまっている僕自身に。

予想以上に気分が悪い、今すぐこの吐き気の現況を無くしてしまいたい

殺してしまいたい。

約束を破りたくない。

でも殺してしまえばすぐ楽になるのに・・・。



さぞかし同属を殺すのは気持ちいいだろうなあ



宿屋の中が騒がしくなってきている。

「早くいかなきゃいけないのに・・・」

きっとあの3クズに今あったら・・・殺してしまうかもしれない。

僕はマルグリットが先に言ったのを見てからカザハと明神エンバースの3人に話しかける。

「ハア・・・ハア・・・すまない・・・明神、カザハ、エンバース・・・僕もう我慢できそうにないんだ」

3人に這いずりながらすりよっていく。
大きな声がでない、普通の声すらでない。

逃げようと距離を取ろうとする3人を捕まえ抱きしめる。

「ハア・・・ハア・・・すまない・・・3人とも・・・」

大きな声がでないので、3人の耳元でささやくように

「なゆに・・・僕は今日はいけないと伝えてくれ」

48ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/04/24(金) 14:11:01
気分が悪いのと裏腹に・・・体から溢れんばかりの力がみなぎっているのを感じる。

「今あの3クズに会ったら・・・殺してしまうだろうから・・・」

理由はいくらでもでっち上げることはできた。でもしなかった。

もちろん僕に余裕がなかったのもあるが
変な嘘をついてもし、3クズを連れて僕を探し回ったりなんかされたらたまらない。
ついてこない可能性のほうが高いが、マルグリットになにか言われたらくる可能性もある

それに・・・僕はみんなにまだ僕の罪を隠している。

「もうバレてるだろうし明神には言ったと思うけど・・・僕は人を殺した事がある
 こっちの世界にくる前に・・・なんの罪もない女の子を・・・」

「ハハッ・・・笑えるだろ?同属嫌悪って奴だよ」

もはや作り笑いすらできない乾いた笑い

「前はこんなに喧嘩っ早くなかったはずなんだけど・・・この世界に来てから壊れちゃったのかな?
 あいつらを殺してやりたくてしょうがないんだよ。君達を馬鹿にする3クズもその主も
 原因を作ってみんなに迷惑をかけてる僕自身も」

「なゆと約束したはずなのに!そんな事一瞬でどこかいって暴れだしそうなんだ!」

押さえきれずに体からブラットラストのエフェクトが漏れ始める。

「これ以上・・・君達に嘘はつきたくないんだ
迷惑をかけるのだって・・・この世界にきてから助けてもらってばっかりなのに・・・」

バロールから貰い受けた拘束具を差し出す。
拘束した相手の気力を奪い、意識を失わせる特殊効果付の拘束具。
備えはいくらあってもいい。とバロールから渡された物がこんな早く役に立つなんて・・・

「時間がない・・・これで・・・僕を繋いでからいってくれないか・・・心配しないでくれ念の為だ
 マルグリットが帰ってくる前に外してもらえ・・・れば・・・」

拘束が終わったのを見て、安心したのか、効果が聞いてきたのか気が遠くなってきた。

「なゆにも伝えてくれ・・・ジョンという男はあの3クズのように救いようのない人間なんだって
 あいつは人殺しのロクデナシだって・・・君達が言えばきっとなゆだって・・・」

「頼むからあんな奴らの言う事を・・・僕の為に聞かないでくれって・・・そんな事をするくらいなら見捨ててくれって」

ジョンの意識は闇の中に。

「頼んだ・・・よ」

謎の少女の霊に見守られ 溶けていった。

49カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/29(水) 19:39:45
ケショーヒンの効果が発動した。
明神さんやジョン君は若干若返って見え、エンバースさんは小奇麗な焼死体になっている。
ケショーヒンの効果は、一時的にグラフィックがプリクラかフォトショ加工のようになるというものらしい。
でもちょっと持続時間が短すぎる気がする。

>「ああああ!若さが!若さが失われていく!醜く老いさらばえていく!
 な、な、なぁ!ケショーヒンもっとくれよ!まだあるんだろ?もっとくれよぉ!!」

「おおお落ち着いて! そんなに変わらないから! フォトショで加工した程度だから!」

明神さんがケショーヒン中毒を起こしてしまった。
このケショーヒンとかいうやつって普通に流通してたらいけないガチでヤバいやつなんちゃうの!?
自分達で毒見(?)したおかげで初対面の相手にあげることにならなくて正解だったかもしれない。
その後も親衛隊は言いたい放題だった。
モンスターの良し悪しをレア度等表面的なことでしか判断していないらしい。

>「こら、二人とも言いすぎよ? たとえ低レアモンスターしかいないニワカ勢でもいいじゃない。
 マル様が必要だと仰っておられるのだから……そうですよね、マル様?」
>「あ、あはは……すみませんねえ、ニワカのエンジョイ勢で……」

まずいよ、なゆたちゃんが青筋浮かべてるよ!

(ポヨリンさんの強さを見抜けないなんてモンキンチルドレン破門じゃね?)

《間違いなく破門ですね……》

元々マル様>>(超えられない壁)>>月子先生だったんだろうし破門にされたところでそんなにダメージなさそうだけど!

>「それはそれとしてだ。久しぶりじゃんマル公、穴蔵で狩りパ組んで以来だな。元気にしてた?」

以前共闘した、とは聞いてたけどそんな仲良しなノリ!?
マル様は特に引くわけでもなくナチュラルに応答していた。

>「ええ、まこと久闊でございますな。ご健勝で何より――
 いやさ、貴君ら『異邦の魔物使い(ブレイブ)』ならば当然の仕儀にございましょうや。
 なればこそ、我が賢師も貴君らの力を恃みにしようというもの」

>「こんなエンジョイ勢とマル様が一緒に戦ったとか、マジ信じられんし」
>「いいえ、いいえ。エンジョイ勢だからこそよ、シェケちゃん。
 マル様はブレモン唯一無二の正真正銘の英雄だもの……弱者に手を差し伸べてこそ、でしょう?」
>「一回野良でパーティー組んだ程度のザコの顔まで覚えてるなんて、マル様はやっぱパネェっス!
 マジ惚れ直すっス……!」
>「あはぁん! マル様ぁ〜! サイッコーだし!」

「話が前に進まない……」

カザハは親衛隊を生暖かい目で見つめていた。
が、マル様以外に興味がなさそうな点はこちらにとって好都合と言える。
これならガザーヴァや明神さんの正体がバレる可能性は低いだろう。

50カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/29(水) 19:42:02
>「こっちもイカレたメンバーを紹介するぜ。俺は笑顔きらきら大明神、ブレモンを愛する一般優良プレイヤーだ。
 さっき名乗ったイケメンがジョン。こっちの意味不明生物がカザハ君と愛馬のカケル君。
 そこの死体がエンバース君。こいつらはマル公もお初だったよな」
>「そしてェーーっ!何を隠そうこの御方こそが我らのリーダー!
 国内最強のスライム使い!ついた異名がスライムマスター!誰が呼んだか月子先生!
 ――モンデェェェェェェンキントォォォォォ!!!!」

>「明神さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!???」

なゆたちゃんがモンデンキントということをなかなか信じなかった親衛隊だが、マル様の証言でようやく信じた。

>「と、ともかく、マルグリットがここへ来てくれて助かったよ。ありがとう。
 さっきカザハも言ってたけど、あなたたちはこれからどこへ?
 わたしたちはここからアズレシアを経て、最終的にはエーデルグーテへ行こうと思ってるんだけど……」
>「私は貴君らをお迎えに上がったのです。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』よ」

つまるところ、ローウェル陣営からのヘッドハンティングだった。
バロールさんに体よく騙されていた気がするが、バロールとローウェルはそもそも別の陣営で、
かといってローウェルがニヴルヘイムに付いているというわけでもないらしい。
最初から三つ巴の構図だったようだ。

>「あーしらも元はニヴルヘイムの連中に召喚されたんだケドぉー。
 アイツら陰気臭いし、男ばっかでムサ苦しいし。つーかミハエルとか帝龍とか話合わんし」
>「居心地悪いと思ってたんスよねぇ。そんな自分たちを、マル様が迎えに来てくれたんス!」
>「あぁ……、本物のアルフヘイムで、まさか本物のマル様にお会いできるだなんて……!
 これってやっぱり運命よね! 私たちマル様親衛隊は、マル様に出会うべくして召喚されたのよ!」

「うん、きっとそうだね。ニヴルヘイム陣営ご愁傷様……」

明神さん大当たり。
冷静に考えてみれば、仲良しが3人揃って召喚されるなんて偶然では有り得ないわな。
その視点で見てしまうと、バロールさんが本当に完全ランダム召喚なのかも怪しくなってくるわけだが。
なゆたちゃん真ちゃんがセットで召喚されてるだけでも凄いけど、
その上ある意味なゆたちゃんの宿命のライバルの明神さんがほぼ同じ時期に偶然遭遇する程度の近距離に召喚されていたのも割と凄い。
もしかしたら、関係性がある者同士が召喚されやすい等の何らかのバイアスがあるのかもしれない。
ところで、こうして他陣営からのヘッドハンティングで手駒を掻き集めているということは、ローウェル陣営は召喚技術を持っていないのだろうか。
ローウェルは大魔術師バロールの更に師匠にあたる大賢者なので、持っていてもおかしくなさそうな気もするが……。

>「えと、確か親衛隊って幹部クラスの人がもうひとりいたような……」
>「スタミナさんっスか? もういないっス」
>「もういない?」
>「除名だよ除名ー。つーかさーアイツ、こっちに召喚されたらビビッちゃってさー。
 マル様のために戦えるんだよ? 超絶光栄じゃん! 望むところじゃん? マル様に刃向かう連中なんて全殺しっしょ?
 あーしら最強だし! なのに戦いたくないとか言い出してさぁー。だ・か・ら!」

「ビビるのは至って普通だけど……マル様親衛隊幹部がマル様のヘッドハンティングを拒否なんてちょっと意外……」

51カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/29(水) 19:42:57
確かに、マル様のために戦うことを拒否したところで、ニヴルヘイムの下で戦わされるか野良ブレイブになって露頭に迷うかだ。
どっちにしろ戦わないといけないならニヴルヘイム陣営よりはマル様に付いていきそうなものだが……。
ここまでは親衛隊を割と生暖かい目で見ていたカザハだったが、次の言葉で奴らの本当のヤバさを思い知ることになった。

>「親衛隊に臆病者は必要ないわ。例えそれが幹部であってもね。
 彼女は置いてきた。ま……運がよければ生き延びるでしょう。
 もっとも――『彼女のスマホは、もう壊れてしまっているけれど』――」

(深く関わらないようにしよう……)

本当は深くどころか全く関わりたくないが、これでも重要人物のローウェルの手下のマル様の更に手下なので、表面上は取り繕うしかない。
なし崩し的に当初予定していた村に到着し、大所帯で宿にチェックインする。
親衛隊がいる以上万事すんなりいくということはなく、今度は部屋割りで一悶着である。
なゆたちゃんがリーダー権限発動とかマル様が(親衛隊に対する)マル様権限発動してなんとか話がまとまった。
最初からマル様とその親衛隊をまとめて宿に放り込んでこちらは今まで道中でやっていた通りに馬車宿泊にすれば
親衛隊や現場将軍が騒ぐこともなく無難に収まったのであろうが、
敢えてそうしなかったのはマル様陣営が怪しい動きをしないように見張るためと
マル様と親衛隊を引き離してマル様から情報を引き出せる状態を作るためだろう。
(マル様と親衛隊が一緒になっているとまともな会話がほぼ出来ない)
その代償として、なゆたちゃんが混ぜるな危険の危険物取扱いを一手に引き受けることになってしまったわけだが……。
そして夕食会という名の会談が開かれることとなった。が、ジョン君の様子がおかしい。

>「早くいかなきゃいけないのに・・・」

「どうしたの? 風邪ひいた!? 仕方が無いよずっと野営続きだったもの。
宿の方に泊まれるようになゆに言ってみるね」

明神さんにヒヨコみたいになついてるガザーヴァに交代してって言えば喜んで交代してくれそうだね。
問題は親衛隊が”こっちに来るならマル様でしょ!”ってキレそうな事だけど!

>「ハア・・・ハア・・・すまない・・・明神、カザハ、エンバース・・・僕もう我慢できそうにないんだ」

「まさか……でも道中で戦いらしき戦いはなかったはず……!」

這いずりながら寄ってくる様子に、尋常ではないことに気付く。
考えられるのはブラッドラストの進行だが、道中でジョン君は一度も戦っていないし、もちろんブラッドラストも使用していない。

>「なゆに・・・僕は今日はいけないと伝えてくれ」
>「今あの3クズに会ったら・・・殺してしまうだろうから・・・」

「アイツらか……!」

ブラッドラストの進行を早めるのは戦闘だけではないらしい。
過激すぎる親衛隊の言動によって呪いの進行が早まってしまっているようだ。

>「もうバレてるだろうし明神には言ったと思うけど・・・僕は人を殺した事がある
 こっちの世界にくる前に・・・なんの罪もない女の子を・・・」

「聞いたよ、ブラッドラストの習得条件……」

52カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/29(水) 19:44:58
確かにブラッドラストの習得条件は人を殺したことがあることだ。
しかし、その習得条件における”人を殺した”の定義にどこまで含まれるのかは不明だ。
明確な殺意を持った殺人だけなのか、不慮の事故で結果的に死者が出てしまった事まで入るのか。
また、客観的事実が基準なのか、本人の認識が基準なのかも分からない。
そしてガチで殺人の前科があったら、多分自衛隊には入れないはず。
そうなると不慮の事故なのか、あるいは時間の巻き戻しのバグの影響で
ジョン君の認識している事実とこの世界線での公式の事実がずれている、なんていう可能性も無くはない。
が、今は実際がどうだったかはあまり重要ではない。実態はどうであれジョン君はブラッドラストに侵されているのだ。

>「ハハッ・・・笑えるだろ?同属嫌悪って奴だよ」

「そんなことない! アイツら、絶対誰かを助けたことなんてただの一度も無いもの!
忘れないで。もしジョン君がいなかったら今生きてない人がたくさんいる。
ボクも、アコライトのオタク達も……ううん、ジョン君がいなかったらきっと負けて全員死んでたよ」

カザハはジョン君の手を取って落ち着かせようとする。

>「前はこんなに喧嘩っ早くなかったはずなんだけど・・・この世界に来てから壊れちゃったのかな?
 あいつらを殺してやりたくてしょうがないんだよ。君達を馬鹿にする3クズもその主も
 原因を作ってみんなに迷惑をかけてる僕自身も」
>「なゆと約束したはずなのに!そんな事一瞬でどこかいって暴れだしそうなんだ!」

「ジョン君、駄目……!」

>「これ以上・・・君達に嘘はつきたくないんだ
迷惑をかけるのだって・・・この世界にきてから助けてもらってばっかりなのに・・・」

ブラッドラストのエフェクトが現れ始める。ジョン君はどこに隠し持っていたのか、拘束具を差し出した。

「これって……」

53カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/29(水) 19:45:48
>「時間がない・・・これで・・・僕を繋いでからいってくれないか・・・心配しないでくれ念の為だ
 マルグリットが帰ってくる前に外してもらえ・・・れば・・・」

「でも……うん、分かった」

当初はブラッドラストを使わせなければ大丈夫かと思っていたが、事態は思っていた以上に切迫しているようだ。
カザハは一瞬逡巡した様子を見せるも、拘束を引き受けた。

>「なゆにも伝えてくれ・・・ジョンという男はあの3クズのように救いようのない人間なんだって
 あいつは人殺しのロクデナシだって・・・君達が言えばきっとなゆだって・・・」
>「頼むからあんな奴らの言う事を・・・僕の為に聞かないでくれって・・・そんな事をするくらいなら見捨ててくれって」

「うん、上手く言っとくからさ……今は休んで」

>「頼んだ・・・よ」

ジョン君が気を失うように眠った途端に掌を返す。

「バカだなぁ。なゆは超頑固で負けず嫌いなんだから……言えば言うほどムキになるに決まってるでしょ。
明神さん、これジョン君にあげてもいいかな? 今これが必要なのはジョン君の方だから」

そして、以前明神さんから貰った聖女の護符を外してジョン君に付けさせる。

「ジョン君、これ、明神さんとボクから。効果はボクの時に立証済みだから。きっと君も守ってくれる……」

カザハは私にジョン君を見ておく役を頼むと、明神さんとエンバースさんに声をかけた。

「二人とも、行こう。ジョン君はカケルが見といてくれるからね」

54カザハ ◆92JgSYOZkQ:2020/04/29(水) 19:46:41
会談会場に行くと、すでにマル様&親衛隊となゆとガザーヴァが揃っていた。

「お待たせしました! ジョン君は体調が悪いらしくて休んどくって」

あいている席につく。立ち話ではなく落ち着いて座って話すのはこれが最初だ。
顔をまじまじ見られて色々と気付かなくていいことに気付かれたら話が散らかりそうでややこしいので、目深にフードをかぶっておく。
具体的には「あれ!? 大昔に会った気がするけどどこで会ったんだろう?」とか「そっちの美少女と顔似てない!?」とか。
幸いマル様や親衛隊はジョン君がいないことを特に気に留めるでもなく、早々に本題が始まった。
マル様によるローウェル陣営への勧誘である。

>「貴君らがバロール師兄の許に身を寄せていることは存じております。
 したが、敢えて申し上げましょう。貴君らは師兄に欺かれている。ていよく利用されているだけなのです」

「やっぱりそうなの? 普通に考えて怪し過ぎるもんなぁ……」

料理を口に運びつつ、気に入った料理をジョン君に持って行く用に容器に詰め詰めする。

>「師兄もまた、世界の救済を考えてはおられるのでしょう。
 さりながら……師兄のそれは真の救済にあらず。ただ、世界を欲しいままにしたいだけなのです。
 我が賢師はそれをお許しにならなかった。ゆえ、賢師は師兄を破門にされたのです。
 このまま師兄に使嗾され続けたとて、貴君らに安寧は決してなきもの……と断言させて頂く」

>「バロールは、やっぱりわたしたちを騙しているっていうこと?」

>「遺憾ながら」

>「つか、バロールって魔王っしょ? 殺せば?
 なんならあーしが殺す? 10ターンくらいでイケるっしょ、アイツなら」

そこから、言いたい放題の親衛隊をマル様が諫めてオチに親衛隊がデレるといういつもの寸劇が繰り広げられたので華麗にスルーしておいた。
寸劇が一段落すると、マル様が話を進める。

>「ところで……月の子よ、貴君らはエーデルグーテへ行かれるとのこと。
 なにゆえ斯様な遠方へ? 聖地巡礼という訳でもありますまい」

>「あ。ええと……」
>「……ちょっと、呪いを解きに行こうかなって」

>「なるほど。委細承知致しました」
>「解呪ということであれば、確かに聖都より適切な場所はございますまい。……ならば、我らも聖都へ同道致しましょう。
 幸い聖都の頂点、プネウマ聖教の教帝オデットは十二階梯の継承者が一翼、我が賢姉にて。
 貴君らの解かんとしている呪詛がいかなる類のものかは存じませぬが、賢姉にかかれば解呪などいと容易きこと。
 私の伝手にて賢姉に渡りをつけましょう、如何?」

>「本当!?」

55カザハ ◆92JgSYOZkQ:2020/04/29(水) 19:47:43
もしジョン君の呪いの件が無くてもどちらにしろ後ろ盾を得るためにエーデルグーテ行きだったのだが、マル様の口ぶりからすると、オデットはローウェル陣営寄りのようだ。
だとしたら、バロールさんのパシリという立場で行ったところで協力を得るのはほぼ不可能だったのでは!?
バロールさん視点から見れば、突っぱねられるだけならまだいいが、下手するとボク達がローウェル陣営に取り込まれてしまいかねない危険な賭けだったのか。
もしくは、マル様のオデットとの繋がりアピールは自信の表れで、
実際にはオデットは今のところどちらに付いているというわけでもないのかもしれない。

>「勿論ですとも。お役に立てて重畳至極、その代わり――」
>「ことが成り、解呪が成功した暁には……我らと共に賢師にお会い頂く。宜しいか」

>「……その……」

気まずい沈黙が場を支配する。
実質、ジョン君を見捨てるか、ローウェル陣営に寝返るかの二者択一を迫られているようなものだ。
この状況をうまく打開出来る者などいるはずがない。

>「ヤダ」

―― 一人いた。これを打開と言っていいのか微妙だけど!

「またそれか――い!!」

>「ジョンぴーの呪いを解きたいってーのはヤマヤマなんだケドーぉ、じじいの思惑に乗ってるみたいでキモチワルイんだよねー。
 こっちの力借りたいんだったら、手下なんて寄越さないで本人が来るのがスジなんじゃないっスカーぁ?
 あ、それとも老いぼれすぎちゃって足腰立たなくなっちゃってる? 要介護的な? んならしょーがねぇーかぁー! きひひッ!」

「君、本当に呪い解きたいって思ってる!?」

当然親衛隊が黙っているはずはなく、場は一触即発になった。

>「それにさぁー、ボクらさっきそちらさんのお仲間に襲撃受けてんだよネー。
 『詩学の』エリスマリスだっけ? マリスエリスだっけ? まぁーどっちでもいっか!
 畑に火ィーつけた上に狙撃とか、えっぐいコトするよねー! ボクでも感心……もといドン引きするレベル!
 オマケにそんなお仲間に襲わせといて、自分は助けに来るフリして恩売って……マッチポンプってヤツ? エゲツナーイ!」

「コラ―――――!! それ言っちゃ駄目!」

全く、この子誰に似たのかしら!? もうこれ交渉決裂じゃね!? が、事態は思わぬ方向へ。

>「……『詩学』が貴君らを狙撃?
 あまつさえ、先ほどの火災も『詩学』の仕業と……? そんな筈は……」

>「別に、あんたたちの無罪を証明してやるわけじゃないが――」
>「本当に、あれはマリスエリスの仕業か?」

>「どういう意味? エンバース」

>「……なに。俺の記憶では、確か十二階梯のマリスエリスという奴は自然を愛するキャラじゃなかったか、と思ってな」

「それはそうだけど……」

56カザハ ◆92JgSYOZkQ:2020/04/29(水) 19:48:41
1巡目≒ゲームのブレモンと現実のこの周回ではキャラ付けが違う可能性もあるので、無罪を断定するには弱い。
物的証拠でもあれば別だが……

>「それにだ。奴は確か、魔力の矢を飛ばすのだったな。だったら――
 ……『これ』は何だ?」

「いつの間に証拠物件手に入れてるの!? 抜かりないな!」

>「カザハが狙撃を受けた地点の近くに落ちていた。間違いなく俺たちを狙ったものだろう。
 マリスエリスはいつ、得物を魔弓からライフルに変えた? 
 それに……奴は『雲の上のドラゴンの目を地上から射貫く』射手だったよな――? 得物を変えて手許が狂ったか?」

>「襲撃者は……マリスエリスじゃ……ない……?」

>「……ニヴルヘイムの者でしょうか。いずれにせよ放っておく訳には。
 やはり、同道はさせて頂きます。貴君らを賢師の許へとお連れする、それは我が第一の任なれど――
 侵食の脅威に乗じて破壊を目論むニヴルヘイムの尖兵もまた、見過ごしてはおけませぬ。
 貴君らと共に在れば、遅からずニヴルヘイムの者どもとも相まみえることとなるはず。
 微力ながら加勢致します、今は協調し絆を強めることこそが、闇を切り拓く一条の光明となりましょう」

>「ええと……でも、ローウェルの所は……」

>「はは……それは暫し脇に除けておきます。
 確かに賢師の厳命は我が大事なれど、無理強いは私の好むところではありません。
 まして恩を売り、その代価に望まぬ行為を強いるなど……ゆえ、先ほどの私の言葉はどうかお忘れに。
 まずは貴君らの目的の達成に尽力致します。その後で、よしや我が献身に何か感じ入ることがあったなら。
 そのとき、改めて答えをお聞かせ願います」

なんだかんだで、ローウェル陣営に付くことは確約せずに、マル様の協力を取り付けることが出来た。結果オーライだ。

>「じ、じゃあ……お言葉に甘えて。
 エーデルグーテまでよろしく、マルグリット。親衛隊の皆さんも……頼りにして、ますね」

>「承知致しました。月の子よ、明神殿にジョン殿、カザハ殿も――何卒お任せあれ。
 このマルグリット、『聖灰』の名に懸けて。必ずやお役に立ってご覧に入れましょう!」

「ありがとう、マル様! 良かった……これでジョン君助かる……!」

57カザハ ◆92JgSYOZkQ:2020/04/29(水) 19:49:27
もちろんジョン君は親衛隊から厳重隔離が必須だが。あの様子だとこれ以上少しでも接触したら危険そうだ。
なゆがマル様の握手に応じようとして、お触り禁止とさっぴょんから怒られた。
マル様から手を差し出してきたんだから応じないのも失礼でしょ! マル様も何か言えよ!
これ、応じなかったら応じなかったで「マル様の握手を拒否するとは許さん!」って怒られるやつじゃね!?
知ってるぞ、そういうのダブルバインドって言うんだ!
とにかくこれで外敵の襲撃については心配なさそうだが、別の意味で無事にエーデルグーテに辿り着くのか心配になってきた。
おまけにこっちには正体絶対バレちゃ駄目な人が約二名もいるし……。
そんなこんなで夕食会はお開きの雰囲気になり、親衛隊がそのままマル様を囲む会に雪崩れ込んだ。
マル様は1秒でも長く一緒にいたい親衛隊によって暫くは拘束されると思われる。
そこで隙を見てなゆを連れ出した。

「今更なんだけど……やっぱりマル様と親衛隊にセットで宿に泊まってもらわない?
ほら、暫く一緒に行くとなるとマル様を馬車に詰め込んで不評を買ったらまずいし!
なゆもこっちに来るか見張りを兼ねて宿チームに残るかは任せるからさ……」

適当に誤魔化そうとしたものの、何かあると勘付いたなゆに結局白状させられた。

「実は……親衛隊の言動が過激すぎてブラッドラストが進行しちゃうみたいで……
親衛隊だけじゃなくその主人のマル様にも穏やかじゃないみたいなんだ」

ジョン君は“あいつらを殺してやりたくてしょうがないんだよ。君達を馬鹿にする3クズもその主も”と言っていた。
もちろんマル様一行をこちらの目の届かないところに置く、もしくはなゆを向こう陣営に一人で放り込むというどちらかのリスクを負うことになる上、
親衛隊抜きでマル様から話を聞き出す機会がなくなるのも痛いが、今はジョン君のブラッドラストの進行を抑えるのが最優先だ。
ジョン君がいきなり部屋割りが変わったことを訝しんだら「親衛隊と現場将軍に押し切られた」とでも言って貰えればどうにでもなるだろう。

「それじゃあ一足先に戻るね! ジョン君がお腹をすかせてるといけないから!」

料理の入った容器を手に、足早にジョン君の元に向かう。
早く戻って拘束を解いてあげなきゃ。
流石に拘束されている状況を目の当たりにしたらなゆもショックを受けるだろうし……ね。

58明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/07(木) 05:22:23
>「明神さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!???」

唐突なカミングアウトに、被害者の悲鳴が木霊する。
なゆたちゃんは多分、この狂犬共相手に素性バレは避けたかったんだろうが……
許してくれるだろうか。許してくれるだろうね。ではハバナイスコミュニケーション。

>「いやいや、こんな小娘がお師匠なワケないっス!
 お師匠はもっと大人で、聖人で、マル様ほどじゃないにせよ立派なお方っスよ!」

ぐげげげ。効果は覿面じゃ。
高名にして高潔なるガチ勢ことモンデンキント氏が実は現役女子高生でしたとかいう、
一昔前のラノベでももっと撚るわっつー設定の盛られ具合に親衛隊は露骨にドヨめく。
大佐なんか現実を受け入れきれずにかぶりを振っている。

だが事実だ。諸君らの愛するマルグリット様もそう言っておられる。
流石にマル様の証言を疑うわけにもいかないのか、狂犬共はしぶしぶ納得したようだった。

>「私は貴君らをお迎えに上がったのです。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』よ」

初動でマウントを完成させ、会話の主導権を握ったこちらの質問に対し、
マルグリットは端的に答えた。

>「賢師の命に依りて、我ら十二階梯はこの未曽有の危難に対処する『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を集めています。
 この三名も同じく我が招聘に応じ、本来の陣営より離脱し馳せ参じてくれた『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
 貴君らにも、是非同道頂きたい。賢師もそれをお望みです。
 かつて貴君らに預けた『ローウェルの指輪』がその証……賢師に選ばれし『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の」

「するってえと何だ、マル公はこの世界に放り込まれたブレイブをスカウトして回ってるってことかよ。
 ほんで俺たちは……バロールよりも先に、おじいちゃんにツバつけられてたと」

試掘洞でマル公から受け取った、ローウェルの指輪。
それはチート効果のレアアイテムであると同時に、『白羽の矢』でもあった。
マル公含めジジイの手下どもは、なびきそうなブレイブに片っ端から目印として指輪を配ってたんだろう。

……ってことは指輪、全然レアアイテムじゃねえじゃねえか!
ほぼほぼログインボーナスみたいなもんじゃん!

いやそれよりも、今こいつ何て言った?
親衛隊の三人が、『本来の陣営から離脱して』マル公のもとに移籍した?

>「あーしらも元はニヴルヘイムの連中に召喚されたんだケドぉー。
 アイツら陰気臭いし、男ばっかでムサ苦しいし。つーかミハエルとか帝龍とか話合わんし」

俺の予想は95割くらい当たっていた。
こいつらはニブルヘイムにピックアップ召喚されてきた連中。
一方で、今の親衛隊はニブルヘイムの預かりじゃない。

アルフヘイムvsニブルヘイムの対立軸とはまた別の、第三勢力。
それが十二階梯であり、ローウェルの手勢であり、今のこいつらだ。

「ここへ来て第三勢力ぅ?ややこしいよぉ……むつかしいこと考えんのやだぁ……」

ただでさえアルフヘイム側に不信感のある現状で、さらに第三勢力まで介入してきやがった。
もはや因果の線はわやくちゃのスパゲッティ状態だ。
そして俺たちはおそらく、そのスパゲッティのほんの切れっ端しかまだ齧っていない。

「……待てよ。十二階梯はニブルヘイム側じゃあなかった。それは良い。
 それなら帝龍の野郎が十二階梯と懇意にしてたような口ぶりだったのは何だったんだ?」

59明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/07(木) 05:23:23
十二階梯のマリスエリスは、敗北した帝龍のスマホを射抜いて無力化した。
あれは鹵獲対策、いわば負けた味方への口封じの一環だったと思ってたが、
実際はもっとシンプルに、帝龍に対する敵対行動として狙撃を行ったってことなんだろう。

だけど奴は、戦闘中にこうも言っている。

――>『幻魔将軍だと……!? バカな、継承者どもはそんなこと一言も……!?』

ガザーヴァが俺たちの側につくことはないと、そう信じ切っていなければ出ないセリフだ。
帝龍は、少なくとも情報源として十二階梯の継承者に一定以上の信を置いていた。
あの傲慢で用意周到なCEOが、味方以外の勢力の言葉を鵜呑みにするだろうか。

分からねえな。
結局十二階梯もやっぱり一枚岩じゃなくて、ニブルヘイム側に加担してる奴もいるってことか?
あるいは帝龍の信頼を勝ち取ったうえで、裏切ったか。

うーん……これ以上ここで考えこねくり回しても結論出ねえなこれ。
あとでマル公にそれとなく聞いて見るか。親衛隊が会話を許してくれればの話だが。
親衛隊と言えば、やっぱ一人足りなくね?

>「えと、確か親衛隊って幹部クラスの人がもうひとりいたような……」
>「スタミナさんっスか? もういないっス」

同じ疑問にたどり着いたなゆたちゃんの問いに、大佐はこともなげに答えた。
"もう"いない?まだ合流出来てないとか、そもそも召喚されてないとかじゃなく?

>「親衛隊に臆病者は必要ないわ。例えそれが幹部であってもね。
 彼女は置いてきた。ま……運がよければ生き延びるでしょう。
 もっとも――『彼女のスマホは、もう壊れてしまっているけれど』――」

「なっ……?何考えてんだお前ら!」

すうっと背中が冷たくなるのを感じた。
親衛隊が仲違いしようがどうだって良いが、こいつらは除名した仲間のスマホを破壊した。
言うまでもなくスマホはブレイブの生命線だ。失えばサモンはおろかインベントリすら開けない。
この過酷な世界で、スマホの恩恵なしに独力で生きていくなんてまず不可能だ。

断崖絶壁で我が身を支える、文字通りの命綱。
たった一本しかないそれを、親衛隊は笑いながら断ち切った。
落下していく仲間の姿を、かえりみることなく――。

ヤバい。想像以上にヤバい奴らだ。
ゲーム上での素行の悪さなんか霞んじまうような、常軌を逸した思想と行動。
人を、殺しておいて。なんでこいつらは笑ってられるんだ。

俺の隣で今にもこいつらに飛びかかりそうなツラしてるジョンは。
同じように人を殺して、だけどその罪の呵責にずっと苦しんでいる。
いっそ破滅的なほどに自分の命を削って、なにかに購おうとし続けている。

殺人者としてどっちが上等だとか、同情できるとか、そういうことを言うつもりはない。
償う意志があろうがなかろうが、人を殺した事実に変わりはないし、違いもない。
人殺しである点において、きっとジョンと親衛隊は同列の存在なんだろう。

それでも、過去に苛まれ続けるジョンと、武勇伝のように語る親衛隊。
ふたつの殺人者の、罪に対する温度差に、俺は慄然とした。
意味がわからなくて、恐ろしかった。

 ◆ ◆ ◆

60明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/07(木) 05:23:57
とりあえず立ち話もなんだからっつうことで、その場は引き上げることにした。
当初の予定どおり、近くの村で宿をとって、ついでに夕食も一緒に囲む。
想定より大幅に増えた所帯に宿のベッドが全然足りなくて、
結局俺たちはいつもどおりの車中泊だ。

「なゆたちゃんマジでこいつらと一緒に寝んの?大丈夫?ストレスで胃やっちゃわない?」

男女比がそこそこ均等なので、女衆には宿を使わせることになった。
まぁそれは全然良いんですよ。地球でも車中泊は慣れっこだったしさ。
ただぼくが心配しているのはですね、なゆたちゃんと同衾するメンバーのことですよ。

親衛隊3人とガザーヴァ。うーんこれは荒れますぞ!
ただでさえ協調性のねえ狂犬3匹と幻魔将軍は言うまでもなく混ぜるなキケン。
両者の板挟みに立たされるなゆたちゃんの気苦労がもう手にとるようにわかります。

かと言って荒野の旅路ならともかく、人の集まる宿場で女の子に野宿させんのもなぁ。
ガザ公はなんか馬車で寝るとか大いに駄々捏ねてるけれども。

「まぁそう言うなよガザっち。お前も女の子なんだからさ、ちゃんとしたベッドで寝とけって。
 女の子だけのお泊り会とか初の経験だろ?あとでレポしてね」

イブリース君とかぜってーパジャマパーティー付き合ってくれなさそうだしな。
そもそもあいつあの図体でパジャマ着れるの?クソでっけえ角生やしてて寝るとき困んねえのかな。

そして野宿組はいつものメンツに加えてマルグリット君と同衾だ。
男同士、密室、一晩……何も起きないはずはなく。起こってたまるか。

とりあえず当面の部屋割が決まって、女連中がチェックインの為に宿に入っていく。
俺たちはそれを見送って、そしてようやく、人心地がついた。

「……さて。大丈夫かジョン、立てるか」

親衛隊と邂逅してから隣でずっと気分悪そうにしていたジョンに振り向く。
ジョンは歯を食いしばって何かに耐えながら、つぶやく言葉はうわ言のようだ。

>「早くいかなきゃいけないのに・・・」

「ゆっくりで良いよ。こんな状態じゃお前、メシ入んねえだろ。
 落ち着くまで俺たちはここに居るからよ」

>「どうしたの? 風邪ひいた!? 仕方が無いよずっと野営続きだったもの。
 宿の方に泊まれるようになゆに言ってみるね」

「あー待った待った!カザハ君!あの狂犬どもと一緒に寝かす方がストレスだろ。
 誠に申し訳ないがなゆたちゃんには親衛隊を鎮める人柱になってもらおうぜ」

ジョンを気遣うカザハ君にストップをかけて、俺はジョンが落ち着くのを待つ。
ベッドでちゃんと寝かせてやった方が良いっつうカザハ君の見立ては正しい。
それでもジョンを宿に放り込むのが憚られたのは、親衛隊が居るからだ。

>「ハア・・・ハア・・・すまない・・・明神、カザハ、エンバース・・・僕もう我慢できそうにないんだ」

「おい……おい、マジで大丈夫か?ダメそうなら先に寝ちまっても――」

ジョンが一歩踏み出す。
俺は一歩退がった。――退がってしまった。
肩を貸すつもりだったのに、ジョンの表情があまりにも鬼気迫っていて、ビビっちまった。

61明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/07(木) 05:25:00
否が応でも、アジ・ダカーハの首をぶった斬った、あの化け物じみた様相が脳裏を過ぎる。
あの獣のような暴力が、わずかにでもこちらに向いたら……そう思うと、意志に反して体が逃げた。
その後退を、ジョンは捕まえる。俺たちを抱きとめる。

「うわっ……」

喉の奥から、やっぱり意志とは裏腹に、悲鳴染みた声が出た。
獣に囚われた小動物の、断末魔のように。

>「なゆに・・・僕は今日はいけないと伝えてくれ」
>「今あの3クズに会ったら・・・殺してしまうだろうから・・・」

「殺すってお前……」

確かに親衛隊の連中は、人道にもとるクソ共だ。
ニタニタ笑いながら人を殺すような奴ら、俺だってぶん殴ってやりたい。
だけど……殺しちまったら、それこそあいつらと同類だ。
自分まで外道に堕ちる真似は、したくない。お前はそうじゃないのか?

なにか、重大な歯車がズレちまっている。
あのアコライトの戦いから、ジョンは明らかにおかしくなった。
目に見えて暴力的になり、辛うじて抑えている歯止めは今にも外れそうだ。

これもブラッドラストの、『呪い』の影響なのか。
あるいは……ズレたわけじゃないのかもしれない。
あの戦いを契機に、狂っていた歯車が、ピタリと噛み合って、
ジョンの本性ってやつが、ようやく顔を出し始めたって可能性もある。

何故なら――

>「もうバレてるだろうし明神には言ったと思うけど・・・僕は人を殺した事がある
 こっちの世界にくる前に・・・なんの罪もない女の子を・・・」

――ジョンは、ブレイブになる前から、人殺しだったのだから。
ブラッドラストは呪いでもなんてもなくて、ただ本来の自分を取り戻したってだけなのかもしれない。

>「ハハッ・・・笑えるだろ?同属嫌悪って奴だよ」
>「そんなことない! アイツら、絶対誰かを助けたことなんてただの一度も無いもの!
  忘れないで。もしジョン君がいなかったら今生きてない人がたくさんいる。
  ボクも、アコライトのオタク達も……ううん、ジョン君がいなかったらきっと負けて全員死んでたよ」

カザハ君は必死にフォローしようとするが、言葉は虚しく空を切る。
きっと誰の言葉も届きやしない。ジョンは、暗闇の中にいる。

>「なゆと約束したはずなのに!そんな事一瞬でどこかいって暴れだしそうなんだ!」

「分かんねえよ……。俺にはお前の気持ちがひとつも分からん。
 人殺したことねえからよ。だから、お前を安心させられるような言葉が見つからない」

カザハ君が言うように、ジョンが助けた命は間違いなく存在する。
だけど、それで過去の罪が帳消しになるわけじゃない。ジョンが殺した人間も、たしかに存在するのだ。

憶測だが、ジョンが言う『殺した』ってのはいわゆる殺人ではないんだろう。
公務員の採用基準が今どうなってるかは知らんが、たとえ自衛隊に入隊できたとしても、
殺人罪に問われた経験のある人間を広告塔に起用したりはしないはずだ。
それは過失致死傷とかでも多分、同じことが言える。

だからまぁ、おそらくはなんかの事故だ。
あるいは『救えなかった』ことを自責の念も込めて『殺した』と言い換えてるのかも知れんが。
ブラッドラストの細かい習得条件が分からない以上、憶測で語るしかない。

62明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/07(木) 05:25:31
そして、ジョンの殺人に殺意があったかどうかなんか、今はどうだって良い。
事実としてブラッドラストは発現し、ジョンは罪の意識に苦しみ続けている。

>「時間がない・・・これで・・・僕を繋いでからいってくれないか・・・心配しないでくれ念の為だ
 マルグリットが帰ってくる前に外してもらえ・・・れば・・・」

「拘束具……用意が周到じゃねえか。魔王の野郎、こうなることを見越してやがったな」

渡された拘束具を嵌めると、やがてジョンは安心したように眼を細めた。
鎮静効果がエンチャントされている。バロールのお手製だ。

>「なゆにも伝えてくれ・・・ジョンという男はあの3クズのように救いようのない人間なんだって
 あいつは人殺しのロクデナシだって・・・君達が言えばきっとなゆだって・・・」

ゆっくりと意識が落ちていく中で、ジョンはか細い声でそう言付けた。
人殺しの為に、交換条件なんか飲むな。足手まといなら見捨てて行け。
眠りゆく意識からこぼれ落ちたその言葉はきっと、ジョンの偽らざる本心だ。

……馬鹿野郎が。

>「バカだなぁ。なゆは超頑固で負けず嫌いなんだから……言えば言うほどムキになるに決まってるでしょ。
 明神さん、これジョン君にあげてもいいかな? 今これが必要なのはジョン君の方だから」

「……だな。あの超絶石頭女が、これまで手のひら返したことがあったかよ」

そんななゆたちゃんだからこそ、俺たちはあいつについてここまで旅をしてきた。
あの女がリーダー足り得るのは、何もバトルの強さだけが理由じゃない。
王都での戦いで、俺達はそれを知ったはずだ。

カザハ君が聖女の護符をジョンの手首に巻きつけて、俺たちは踵を返した。
欠席1名はしょうがねえ。とっとと懇親深めにいくとすっか。

 ◆ ◆ ◆

63明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/07(木) 05:26:24
>「貴君らがバロール師兄の許に身を寄せていることは存じております。
 したが、敢えて申し上げましょう。貴君らは師兄に欺かれている。ていよく利用されているだけなのです」

夕食を囲んだ席で、マルグリットはそう口火を切った。
ガザーヴァの言葉どおり、ローウェル一派とバロールは対立関係にある。
連中にどういう思惑の行き違いがあったのかは分からんが、それは間違いないんだろう。
そしてマル公は、このままバロール側についててもロクなことにはならん、とも言った。

「もとからバロールのことなんざぴくちり信用しちゃいねえよ」

煮込んだ豆を肉汁に浸した料理にフォークをぶっ刺しながら、俺は言った。
穀倉都市だけあって穀物や豆料理が豊富だ。味も俺好みでエールに合う。

「だけど、じゃあローウェルとその手下が信用に能うるかってのは別の話だ。
 何考えてっか全然わかんねえんだもん。未だに顔も知らねえしさ、どこに居んだよあのジジイ」

現状、ローウェルの意志と思しきものはクエストくらいしか見えてない。
それも結局はどこそこ言ってあのアイテムとってこいっつうおつかいだ。
まだ、対面でお話できたバロールの方が誠実さの上ではマシと言える。

……まぁ、それも含めて元魔王の人心掌握術って可能性は大いに有り得るけども。
少なくとも窓口担当者のマル公だけじゃ話にならねえから上司出せよっつう話なのは確かだ。

>「つか、バロールって魔王っしょ? 殺せば?
  なんならあーしが殺す? 10ターンくらいでイケるっしょ、アイツなら」

「イキるねぇーーっ。あのクソ魔王が10ターンもゲージ貯めさせてくれるとは思えねえな」

シェケナベイベの言葉は、ゲーマー目線で言えばあながちビッグマウスでもない。
やりこみ要素コンプした結果ラスボスがワンパンで散るなんてのはよくある話だ。
ぼくはエボン=ジュさんのこと忘れないよ?時々でいいから思い出すよ?

翻ってはソシャゲの場合、戦闘力のインフレは切って離せない関係にある。
実装初期に高難易度だったレイドコンテンツも、型落ちすればソロ余裕に成り下がる。
ストーリーモードのラスボスたるバロールも、レベルキャップ解放後の今ならそう苦戦せず倒せるだろう。

ゲームの上でならな。
どんなに格上のレイド級を揃えようが、"あのバロール"に勝てるとは思えない。
ゲームと違って、プレイヤーは――俺たちブレイブは、システムに保護されていないからだ。
あのわけわからんレベルの魔法でダイレクトアタック決められて、わからん殺し食らうのがオチだろう。

それでも、親衛隊はブレモン至上最悪にして――最強のプレイヤー集団だ。
ダイレクトアタックにしっかり対策を講じて、戦術を以って挑めば……ワンチャンあり得る。
そう思わせるだけの風格と、戦力に対する自負が、こいつらからは感じられた。

特に親衛隊長、さっぴょん。
対モンデンキントの研究の為に俺はあいつの試合はほぼ全て目を通したが、
ランクマッチにおける勝率は10:0でさっぴょんに軍配が上がっている。

あの最強のスライムマスター、モンデンキントに。
さっぴょんは、全ての対戦で勝利を収めているのだ。
マジで信じがたい結果だった。戦術が特殊すぎてぴくちり参考にはなりゃしなかったけど。

>「ところで……月の子よ、貴君らはエーデルグーテへ行かれるとのこと。
 なにゆえ斯様な遠方へ? 聖地巡礼という訳でもありますまい」
>「……ちょっと、呪いを解きに行こうかなって」

ひとしきり親衛隊とじゃれ合っていたマルグリットは、思い出したように問う。
なゆたちゃんは少しためらって、最低限の情報で答えた。

64明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/07(木) 05:28:03
ジョンの窮状は、こいつらに知らせなくても良いだろう。
身内の問題ではあるし、何より変に勘ぐられて勝手なことをされたくない。
ジョンは――こいつらに対する殺意を、必死に抑え込んでいるんだ。

>「解呪ということであれば、確かに聖都より適切な場所はございますまい。……ならば、我らも聖都へ同道致しましょう。

マルグリットは何やら納得した様子で、代わりに聖都までの同行を提案した。
ついでに現地のトップと話までつけてくれると言う。

……正直、渡りに船だ。
聖都の事実上のトップは、十二階梯の一人『永劫の』オデット。
プネウマ聖教の教帝にして、ウン百年じゃ下らない年月を生きる叡智の結晶だ。
およそ呪いに関して、これ以上の専門家は望めないだろう。

俺たちがこのまま単独で聖都入りを果たしたところで、オデットに対するコネは何もない。
どこの馬の骨とも知れない旅人を、組織のトップが出迎えるなんてこともあり得ない。
マルグリットの紹介を受けることで、トップに近づくチャンスが向こうからよってくるのだ。

ただ、絵に描いたようなお人好しのマル様と言えどもロハで案内役を引き受けてくれるわけじゃあないらしい。

>「ことが成り、解呪が成功した暁には……我らと共に賢師にお会い頂く。宜しいか」

……まぁ、妥当な交換条件ではある。
ローウェル一味と距離を取りたい俺たちにとって、安い取引ではない。
このままジジイに会えば、あれよあれよと勢力に取り込まれる危険性だってある。

前科があるしな。
俺たちは結局、最初に会ったのがバロールだったからあいつに与しているようなもんだ。
そして、クエストが順当に行っていたならば――本来俺たちを受け入れるのは、ローウェルのはずだった。
バロールはジジイのクエストに勝手に介入して、俺たちブレイブを横から掻っ攫っていったに過ぎない。

成り行き任せに旅をするのは、もう終わりなんだ。
俺たちは、自分で考えて、どちらにつくのかを選ばなきゃならない。
このままマル公の案内を受ければ、選択肢も選択権も多くを失うことになる。

「なゆたちゃん――」

考え込むリーダーに、俺はなにか言葉をかけようとした。
ジョンは、自分のために連中の取引に応じるなと言った。
もとから寄る辺のない旅じゃねえか。俺たちは独力で、オデットにアポ取れば良い。
ゲーム知識を総動員すれば、何かしらあの女の琴線に触れるものが出てくるはずだ。

>「ヤダ」

言うべき言葉を整理している間に、横合いから別の声が伸びた。
ガザーヴァが、鞘豆のスジを指で弾きながらふんぞり返って言う。

>「ジョンぴーの呪いを解きたいってーのはヤマヤマなんだケドーぉ、じじいの思惑に乗ってるみたいでキモチワルイんだよねー。
 こっちの力借りたいんだったら、手下なんて寄越さないで本人が来るのがスジなんじゃないっスカーぁ?

立て板に水とばかりに飛び出す罵倒に、会議の卓が一回り冷える。
すげえ煽るじゃん。やあねえ誰に似たのかしら……そういうのよくないと思いますよ俺は!
もっと穏やかに会話しようよ!ギスギス×でいきましょう^^;

サラっとマル様を手下呼ばわりされた親衛隊が一斉にピキる。
すわ一触即発となるも、マル様がそれを制した。

65明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/07(木) 05:29:09
>「それにさぁー、ボクらさっきそちらさんのお仲間に襲撃受けてんだよネー。
 『詩学の』エリスマリスだっけ? マリスエリスだっけ? まぁーどっちでもいっか!

「そうだよ」

俺は便乗した。

「こっちは十二階梯様に狙撃されてんだぞ。マル公、お前のお友達にだ。
 意味がわからんのだが。引き抜きすんのに畑燃やす奴があるかよ」

>「……『詩学』が貴君らを狙撃?
 あまつさえ、先ほどの火災も『詩学』の仕業と……? そんな筈は……」

非難を受けたマル公は今始めて知ったとばかりに訝しんだ。
ちょっとちょっとシラを切るおつもりか〜?証拠は上がってんねんぞ??

>「別に、あんたたちの無罪を証明してやるわけじゃないが――」
>「本当に、あれはマリスエリスの仕業か?」

と、そこでずっとROMってたエンバースが久しぶりに口を開く。
は?マル公の肩持つんですか??状況証拠で推定有罪でしてよ??

>「……なに。俺の記憶では、確か十二階梯のマリスエリスという奴は自然を愛するキャラじゃなかったか、と思ってな」
>「それにだ。奴は確か、魔力の矢を飛ばすのだったな。だったら――
 ……『これ』は何だ?」

エンバースが懐からなにかを取り出し、テーブルの上に転がす。
鈍くランプの明かりを照り返す、細長い金属の塊。
俺はそれをよく知っていた。実物はみたことねーけど、この形状は間違いなく――

「……銃弾じゃねえか。えっ、マジのやつ?」

鋭く尖った形は、まさに殺意を押し固めた近代戦争の象徴。
本物のライフル弾――その弾頭だった。

「おおう……博識で鳴らした明神さんも、流石に銃火器については知見がないわ。
 これガチの本物?やっべえ……こんなの撃たれてたの?当たってたら即死じゃん」

薬莢に収まってない、発射済みの弾頭を目の当たりにするのは生まれて初めてだ。
現代日本のパンピーがそんなもん見る機会があるはずもない。
だけど、人間を殺す為だけに鋳造された殺戮の権化は、確かに圧倒されるような迫力があった。

音速で着弾したにも関わらず先端が潰れてないのは、柔らかい畦道に埋まったからか。
何度も射掛けられた一発でも当たってれば、俺たちの誰かは血煙に変わっていた。

「なんっで……!こんなもんがアルフヘイムにあんだよ!?
 剣と魔法の世界だろ!銃弾がホイホイ畑からとれてたまるか!」

アルフヘイムの技術水準がどのレベルにあるのか、フレーバーテキストだけじゃ正確には類推出来ない。
それでも、攻撃魔法って概念がある以上、銃火器はそこまで発達していないはずだ。
アイテムとしての銃を見るに、せいぜいが先込め式に毛が生えた程度でしかない。

「……なんてこった。ご丁寧にライフリングまで切ってやがる」

エンバースが地面から穿り返してきた銃弾には、螺旋状の筋が刻まれていた。
弾道を安定させるためのライフリングが施された銃なんて、オーパーツも甚だしい。
この世界の治金技術を遥かに上回っている。

つまりは――

66明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/07(木) 05:30:05
>「襲撃者は……マリスエリスじゃ……ない……?」

「そんでおそらくは……この世界の人間でも、ない」

――ブレイブ。
地球から召喚された現代人が、ライフルを持ち込んでいる。
拳銃ならともかくライフルとなれば、ヤクザや警官じゃなくどっかの国の軍人である可能性も高い。
一発の銃弾は、その仮説に十分すぎる信ぴょう性を帯びていた。

「冗談じゃねえ、冗談じゃねえぞ!誰だこんなもん持ってきやがったのは!
 銃だぞ!ライフルだぞ!モンスターでもスペルでも、剣でも魔法でもなく!
 そんなもんに、俺たちはこの先ずっと命を狙われ続けるのか!?」

そりゃあ、脅威度で言えばニブルヘイムのレイド級の方がよっぽど怖い。
こんなライフルなんざイブリースからすりゃ豆鉄砲だろう。
それでも、おそらくは同じブレイブからの、形を伴った殺意に晒されて、俺は身震いがした。

>「……ニヴルヘイムの者でしょうか。いずれにせよ放っておく訳には。
 やはり、同道はさせて頂きます。貴君らを賢師の許へとお連れする、それは我が第一の任なれど――
 侵食の脅威に乗じて破壊を目論むニヴルヘイムの尖兵もまた、見過ごしてはおけませぬ。

悍ましい死の気配に慄然としていると、マルグリットはなにかを察したように言葉を繋いだ。
交換条件の話は当面凍結して、とりあえず聖都までは一緒について着てくれるらしい。

>まずは貴君らの目的の達成に尽力致します。その後で、よしや我が献身に何か感じ入ることがあったなら。
 そのとき、改めて答えをお聞かせ願います」

「本気かよ。そんな美味しい話が……あるんだろうなぁ、お前なら……」

マルグリットの嫌味のない笑顔に毒気を抜かれて、俺は項垂れた。
そういうとこやぞ。そういうところが人気なんやぞお前は!
でもぼくも大好き!ああーマル様クラスタになるぅ〜!!

懸念事項も不安要素も山程残ってはいるけれど……
ともあれ、俺たちはマルグリット(とその取り巻き)の協力を得られることになった。
大丈夫かなぁ。親衛隊の連中ぜってー後の災いになると思いますよ俺は……。

>「あいた!」
>「たとえ知人であろうと、マル様に触れることは許さないわ」

……ほらぁ!
こういう奴らなんですよ、親衛隊ってのは!

67明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/07(木) 05:30:22

>「かしこまりー。ホントはさっさとバロール殺して、アンタらふん縛ってったほーが楽なんだろーケドぉー。
 別にいっか。ま、あーしらがいれば百人力ってヤツ? 大船に乗った気で的な?」
>「自分たちは無敵っスから。おたくらは馬車の木目でも数えてるといいっス。フヒッ」

「やめようぜ……洒落になんねえよその手の死亡フラグ……。
 もっかい言っときますけど、ライフルなんですよ、狙撃なんですよ。
 なんぼつよつよモンスター従えてたって、脳天ぶち抜かれたらそれで人生終了なんだよ。
 リスポーン出来ると思ってんじゃねえだろうな」

生き死にがかかってる状況であんま茶化したくねえけどさぁ!
明らか慢心してんじゃん!どう考えても足元掬われておっ死ぬパティーンじゃん!
俺お前らの脳みそかき集めんのなんか御免だからね?

とは言え、戦力で言えば親衛隊が味方につくのは心強い。本当に心強い。
モンデンキントを凌ぐ、界隈でも指折りの強者が3人も居るなら、戦闘で負けることはまずないだろう。
だからこそ、俺たちは交戦距離の外からの攻撃……狙撃を何よりも警戒しなきゃならない。

――あの時。
もしもカザハ君を狙った初弾が外れていなかったら。
俺たちは自分に何が起きたか知ることも出来ず、死んでいたのだから。

 ◆ ◆ ◆

68明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/07(木) 05:31:53
「なゆたちゃん」

夕食後、時機を見計らって俺はリーダーのもとへ向かった。
ガザーヴァがふわふわ浮かんで俺のきっちり固めたオールバックをぐちゃぐちゃにしやがる。
負けずと爆速で髪を整えつつ、両者の拮抗の合間を縫って声をかける。
会議の席じゃ結局言えなかったことを、今のうちに伝えておこうと思った。

「ガザっちがいい感じに引っ掻き回してくれたおかげでマル公と約束せずに済んだが……。
 一応、ジョンからの伝言を掻い摘んで伝えておく」

――>『頼むからあんな奴らの言う事を・・・僕の為に聞かないでくれって・・・そんな事をするくらいなら見捨ててくれって』

「……僕の為に取引に応じるくらいなら跳ね除けろ、ってさ。
 お陰様であいつの懸念は杞憂に終わった。弾拾ってきたエンバース様々だな。
 あいつ、こうなることを見越してやがったのか」

後半の伝言は、俺とカザハ君の胸にしまっておく。
ジョンの苦しみが、自罰的な振る舞いが、何も好転していないことを知れば、こいつはきっと悲しむ。

「俺も同感だ。時間にどのくらいの猶予があるか分からねえが、それでも。
 俺たちはあの荒野から、ずっとノーヒントでクエストに挑み続けて、その全てをクリアしてきた。
 マル公の手引きが仮になかったとしても、今度だってきっとうまいことやれたはずだ」

協力を取り付けてからこんなことを言うのはちょっと卑怯くせえけど。
協力なんかなくったって、俺たちはジョンの呪いを解ける。そう信じられるだけの実績を、これまで重ねてきた。

「だから、念を押しとく。――絆されるなよ。
 マル公は掛け値なしの善人だけど、その裏で糸引いてる連中までそうだとは限らねえ。
 聖都で呪いを解いて、先延ばしにした結論を迫られるその時までに、連中の目論見を暴くんだ」

成り行きのなあなあなんかじゃなく。
俺たちが、俺たちの為に、俺たちの意志で進むべき未来を決める。
そのための判断材料を、この旅で見つけていかなきゃならない。

なゆたちゃんもまた底なしの善人で、情に篤い。
ほんの数週間前に出会ったばかりのジョンの苦しみに心を痛め続けているのが良い例だ。
その善良さに、つけ込む手段なんざいくらでもある。

だから――俺も含めて。心に釘を刺しておかなきゃならない。
もしかしたら俺たちは、この度で残酷な結論を出さなきゃならないかもしれないのだから。

 ◆ ◆ ◆

69明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/07(木) 05:32:55
「ジョン、起きてるか」

夜半、皆が寝静まった頃、俺は声を潜めてジョンを呼んだ。
寝てるところを叩き起こしたなら申し訳ねえが、まぁ嫌な思いするのは俺じゃないし。

「お前にふたつ用件がある。ひとつはマル様との交渉についてだ」

暗闇の中、ジョンがどんな顔をしているのか、俺には分からない。

「お前の希望通り、なゆたちゃんは連中の取引に応じなかった。
 決断を保留した、って言ったほうが正しいけど……少なくとも、お前の為に何一つ損はしちゃいない」

ふと、昼間のジョンの言葉が脳裏に蘇る。
救いようのない、人殺しのロクデナシだと、こいつは自分をそう称した。

「昼間言った通り、俺にはお前の気持ちなんかわかんねえよ。
 俺はお前とは違う。社会的な地位も、体の頑丈さも、顔のつくりも――過去の経験も。
 人殺したことねえ奴がどんな説教かましたって、お前の苦しみは何も晴れやしないだろうぜ」

俺は、殺人を悪いことだと思っている。
人殺しは悪い奴で、集団から排斥されるべき存在だと思っている。
きっと地球に生きる大多数の人間は、俺と同じ気持ちだろう。

「お前が自分の罪に苛まれるのを、止めようとは思わん。
 お前がそうすべきだと思ってるのなら、大いに苦しみのたうちまわるべきだ。
 ……きっと、お前はそれだけのことをしたんだろうから」

きっと、ブラッドラストってのは呪いでも病気でもなく、『罰』なんだ。
自分が自分に与える罰。贖罪のためのスキルだ。

「だけど、そんな俺にもひとつだけ言えることがある。
 お前の気持ちは分からねえが、俺は俺の気持ちなら分かる。
 ――俺がお前のことをどう思ってるかは、分かるんだ」

法律も社会通念も知ったこっちゃねえ。
なんなら俺は、一巡目で大量殺人かましたガザーヴァとだってよろしくやってるんだぜ。

「お前は俺の友達だよ。大親友だ。人殺しだとかそんなもんは関係ねえ。
 お前が過去に何人殺してようがなぁ……嫌な思いしたのは、俺じゃねえんだから」

70明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/07(木) 05:35:25
顔も知らねえ奴の恨みなんか知らねえよ。
俺が知ってんのは俺の友達のジョン・アデルたった一人だけだ。
今はそれで良い。俺は自分でもドン引きするくらい自己本位な人間だから、許せちまうんだそういうの。

「ふたつめの用件。正直こいつはダメ元だけど――お前、これに見覚えないか?」

闇の向こうのジョンに、手の中の金属塊を放り渡す。
会議の席からパクってきたライフルの弾頭だ。

「昼間の狙撃、あれな……どうにもこいつを撃ち込まれてたらしいんだ。
 あの襲撃は多分、この世界の人間の仕業じゃない。技術水準が違いすぎる。
 召喚されたブレイブがライフル現品か、あるいはその製造方法を持ち込んだ」

ジョンだって、オフの日じゃなくて訓練中にでも召喚されてりゃ銃を持ってこれたんだろうが。
いずれにせよ言えることは、銃器を所持していて、狙撃の技術もある奴が敵方に居るってことだ。

「有力な証拠物件だけど、遺憾ながら俺には銃に関する知識がない。
 だけどアレだろ、弾丸の旋条痕ってのは人の指紋みたいに発射元の銃を特定出来たりするんだろ。
 現役自衛官だったお前なら、なにか思い当たるフシがあるんじゃねえかと思ってさ」

まぁ機械で分析するとかならともかく、肉眼で旋条痕見て何が分かるってわけもねえだろうけど。
それでも、仮に見覚えがあるなら、銃の所持者のヒントになるはずだ。

例えば、この銃弾がどんな銃に使われていて、どこの国の軍隊の装備品なのかとか。
弾の作りが流通品に比べて粗雑なら、紛争地帯のゲリラのものって可能性もある。

あるいは――ジョンの知り合い、または交戦経験のある軍人の銃から発射されたものであるとか。
特徴的な旋条痕なら、所有者個人までたどり着くことも出来るかもしれない。

「……まぁ、ガチで素人意見だからホントにダメ元だ。何もわからなけりゃ分からないでも良い。
 長い長い夜の暇つぶし程度に持っててくれ」

それだけ言って、俺は帳を閉じた。
姿の見えない狙撃手の脅威は未だ拭えず、眠れぬ夜は更けていく。


【ライフルにビビる。ジョンに銃弾の調査を依頼】

71崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/12(火) 02:19:55
夕食が終わり、話が一段落すると、親衛隊がマルグリットを囲んでキャッキャウフフし始めた。
何せ、マルグリットはブレモンでも二位以下を大きく引き離しダントツの人気を誇るキャラクターである。
そんなブレモン界のトップアイドルを、たった三人で独占してしまえるのだ。テンションが上がるのも無理はない。
親衛隊の視界には、もうなゆたたちの存在はまったく入っていないようだった。

が、その中で最も恐るべきなのは、キレた核弾頭の如きシェケナベイベでも、火の玉吶喊系のきなこもち大佐でも、
ましてふたりを圧倒的実力で押さえているさっぴょんでもなく、囲まれているマルグリットその人だった。

「マル様ぁ〜っ! こっち! こっち向いてくださぁ〜いっ!
 あはぁ……マジテンアゲ、キュン死間違いなしだし……!」

「ええ、いいですとも。……これでよろしいでしょうか?
 お写真を撮られるのでしたら、貴君も一緒に写るが宜しかろう。さ、遠慮は無用です」

「ささ、マル様! 喉が渇いたでしょ? お酒をお持ちしたッス! 
 あそれ、マル様のカッコイイとこ見てみたい! ッス!」

「忝い。では、乾杯致しましょう。
 この世界の安寧に。我が賢師に。そして我が求めに応じて下さった勇気ある『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に――」
 
「マル様、何かご希望はございませんか?
 何なりと仰ってください、私たち親衛隊はマル様のために存在するのですから……」

「なんの。このマルグリット、これまでも貴君らには過分に遇して頂きました。
 これ以上を望んでは、強欲者の誹りを受けましょう。それに……これから貴君らには世界のため戦って頂かねばなりません。
 ただ、強いてと申されるなら……貴君らが幸福であること。笑顔であること。それこそが我が願いなれば」

シェケナベイベがしきりにスマホで写メを撮れば、一緒に写ろうと言っては彼女とフレームインして自撮りさせる。
きなこもち大佐がジョッキに注がれたエールを持ってくると、ふたりで乾杯をして颯爽と飲み干す。
さっぴょんが気遣わしげに声を掛けてくると、彼女の目を見つめて穏やかに微笑んでみせる――。
完璧な対応である。さすがブレモンの代名詞、看板キャラクターとして生まれてきただけのことはある。
ブレモンのアイドル、ヒーロー、広告塔という意味では、マルグリットは自衛隊の広告塔であったジョンと似ているかもしれない。
が、あくまでアイドルの仮面をかぶっていたに過ぎないジョンと違い、マルグリットは素でそれらをこなしている。
まさしく驚異的なスペックの高さと言わざるを得ない。
そんな振る舞いが偽善的だとか、鼻につくなどと言うユーザーもいるが、人気者ほどアンチがつくのは世の常である。
だが、マルグリットはそんなアンチの言葉などどこ吹く風。
あくまで底抜けの善性で、曲者揃いの親衛隊の手綱を巧く捌いていた。
尤も――時々は御しきれず、ハハ……と困り笑いを浮かべるに留める場面もあったが。

「どうかした? カザハ」

夕食も食べたし、話もついた。
お風呂に入って旅塵を落とそうかと考えていると、カザハに食堂から連れ出された。
食堂から離れた、二階の客室へ続く階段の影に佇んで話を聞く。

>今更なんだけど……やっぱりマル様と親衛隊にセットで宿に泊まってもらわない?
 ほら、暫く一緒に行くとなるとマル様を馬車に詰め込んで不評を買ったらまずいし!
 なゆもこっちに来るか見張りを兼ねて宿チームに残るかは任せるからさ……

女性組は宿、男性組は馬車と決まったはずなのに、やはりなゆたチームとマルグリットチームに部屋割りし直さないかと言っている。
なゆたは首を傾げた。
別になゆたは硬い馬車の中ではなくて清潔でふかふかなベッドで眠りたいから、こういう部屋割りにした訳ではない。
マル様親衛隊のきなこもち大佐――モンデンキントの薫陶を受け、その戦術を継承するプレイヤー。
彼女に接近し、ニヴルヘイムの情報を聞き出そうと思っている。
これからの戦いを勝ち抜くためには、敵の情報を少しでも多く手に入れておくに越したことはない。
今は造反し離脱したとはいえ、マル様親衛隊はニヴルヘイムに召喚された。
だとすれば、ニヴルヘイム陣営のこともいろいろと知っているだろう。
例えば、昼間穀物畑に火をつけ、ライフルでカザハたちを狙撃した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の正体であるとか――。
しかしマル様親衛隊は現状敵ではないとはいえ、なゆたたちの仲間になった訳でもない。
普通に話を聞こうとしたところで、教える義理はないと一蹴されるのが関の山だろう。
だが、自分と縁が深いきなこもち大佐なら、シェケナベイベやさっぴょんよりもきっと聴き込みの難易度は低いはずだ。
なゆたが馬車に戻ってしまえば、話を聞く機会は失われてしまう。
それに――

親衛隊の不評を買うとまずい、と言うカザハの目が泳いでいるのを、なゆたは見逃さなかった。

72崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/12(火) 02:20:29
「……ホントの理由は何なの?」

>実は……親衛隊の言動が過激すぎてブラッドラストが進行しちゃうみたいで……
 親衛隊だけじゃなくその主人のマル様にも穏やかじゃないみたいなんだ

カザハはぽつぽつと事情を話した。
どうやら、マルグリット以外のすべての存在を見下している親衛隊の言動がジョンの精神をかき乱しているらしい。
納得だ。そもそもジョンは仲間たちに対して好意しかなかったユメミマホロにさえ殺意を抱いていた。
万事が刺々しい物言いの親衛隊にいい印象を持つはずがない。
まして、その親衛隊を率いご神体のように崇められているマルグリットは、すべての元凶のように見えているだろう。
はー……となゆたは溜息をついた。
なゆたがマル様親衛隊の所にいると知れれば、恐らくジョンは一層不満を抱くに違いない。
仲間想いが行き過ぎて、それ以外の存在に対して無差別に憎悪を抱くようにさえなってしまっている。
それがブラッドラストの効果によるものか、それとももっと別の何かなのかまでは、なゆたには分からない。
しかし、ジョンの精神的な負担を知りつつ情報収集を強行することはできないだろう。
今のミッションの最優先事項はジョンの呪いを解くこと。目的のためにジョンを苦しめてしまっては本末転倒だ。
きなこもち大佐への接触はまたの機会にするしかない。

「……わかった。シャワーを浴びたら戻るよ。
 ジョンにはうまく言っておいて……あぁ、ううん、やっぱり自分で言うからいいや」

カザハは嘘をつくのが下手だ。
先程なゆたに対してそうしたように、ジョンに嘘をついて目が泳いでいるのを看破されでもしたら困る。

>それじゃあ一足先に戻るね! ジョン君がお腹をすかせてるといけないから!

なゆたが頷くと、カザハはジョンの分の夕食を持って馬車へ戻っていった。
ジョンの症状は予想よりもだいぶ悪い。
旅を円滑に進めるため、ジョンのためにマルグリットと契約したが、却ってそれがジョンにとっては耐えがたい苦痛だという。
しかしながら、これは必要なことだったと思う。少なくとも今はそう考えるし、選択を誤ったとは思わない。
ともあれ、今夜はジョンの傍にいてやるべきだろう。
本当は久しぶりにゆっくりお風呂と洒落込みたかった――という気持ちもあったけれど、それもお預けだ。
せめてシャワーだけでもと、なゆたは浴場の方へ足を向けた――が。

>なゆたちゃん

また名前を呼ばれた。見れば、いつの間にか明神とガザーヴァがやってきている。

「ああ……どうかした? 明神さん」

我知らず、カザハにしたのと同じ反応をする。
宙に浮かんだガザーヴァが明神のオールバックにした髪を面白がっていじっている。
それを櫛で直しながら、明神は口を開いた。

>ガザっちがいい感じに引っ掻き回してくれたおかげでマル公と約束せずに済んだが……。
 一応、ジョンからの伝言を掻い摘んで伝えておく
>……僕の為に取引に応じるくらいなら跳ね除けろ、ってさ。

「むっふっふ〜。だろだろォ〜? ボクってばいい仕事するだろ〜?
 あそこで申し出をブチ壊せるのはボクしかいなかったもんなぁー! オマエら、ホンット天井知らずのバ……善人だから!
 おい、褒めろよ明神。もっと褒めろ。ごほーびよこせー。よこせよー」

「僕の為に、ね……」

シルヴェストルの力なのか、ふわふわ浮かんだガザーヴァが明神の首に後ろから抱きつき、ご褒美をねだる。
また、なゆたは小さく息をついた。

>俺も同感だ。時間にどのくらいの猶予があるか分からねえが、それでも。
 俺たちはあの荒野から、ずっとノーヒントでクエストに挑み続けて、その全てをクリアしてきた。
 マル公の手引きが仮になかったとしても、今度だってきっとうまいことやれたはずだ
>だから、念を押しとく。――絆されるなよ。
 マル公は掛け値なしの善人だけど、その裏で糸引いてる連中までそうだとは限らねえ。
 聖都で呪いを解いて、先延ばしにした結論を迫られるその時までに、連中の目論見を暴くんだ

明神の言い分も尤もだ。
マルグリットは信用してもいいと思う。マルグリットのこれまでの行動や言動にゲームの中との剥離はなかった。
ゲームの中のマルグリットがそうだったように、この世界のマルグリットも誠意と善意をもつ人物なのだろう。
だが、マルグリットを使嗾する者までが善人だとは限らない。
大賢者ローウェル。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の力を欲しているというその人物が、何を考えているのか。
なゆたたちは、かの大賢者の思考の片隅さえも把握できていないのだ。

73崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/12(火) 02:21:05
「カザハも言ってたけど、ジョンの症状はだいぶ悪いみたいだね……。
 正直なところ……ブラッドラストなんて聞いたことのないスキル、本当に解呪できるのかどうか分からない。
 エーデルグーテに行けば何とかなるかもとは言ったけど、聖都へ行っても空振りに終わるかもしれない。
 絶対の攻略法なんて、このアルフヘイムにはないんだ。ゲームとは違う……」

明神の言葉に、なゆたもぽつぽつと自分の考えを紡ぐ。

「だから。だからこそ、わたしはどんな方法も試してみたい。
 もしジョンを助けられる方法が聖都にもなかったなら、わたしは――大賢者に会いに行ってもいいと思ってる」

確かに、ローウェルが善人だとは限らない。
ゲームの中では故人であり、(アンデッド化して問答無用で襲い掛かって来るパターンを除けば)プレイヤーが会ったことのない、
現在のローウェルの人となりを判断することは誰にもできない。
マルグリットと違って、ゲームの中ではこうだったから――という判断材料は存在しないのだ。
だが、ひとつだけ確実に分かっていることがある。
それは、ローウェルがこの世界の叡智の頂点に君臨しているということ。
弟子たちが知らないことであっても、きっと。ローウェルならば知っているに違いない。

「バロールは知らなかった。そしてオデットも知らないとなれば……あとはローウェルに訊くしかない。でしょ?」

明神はローウェルのことを警戒しており、できるだけ接近すべきでないと思っている。
可能であれば関わり合いにならないという方針にはなゆたも賛成だが、それも時と場合による。
本当に解呪の方法が見つからないとなれば、ローウェルの所に殴り込むのもやむなし。それがなゆたの結論だった。

「あ゛? オマエ……まさかと思うけど、パパを裏切るつもりか?」

さっそくガザーヴァが噛みついてくる。愛らしかったその顔にたちまち影が落ち、両眼が炯々と輝いて殺気を湛える。
どれだけ裏切られても、邪険にされても、明神という新しいよすがを見つけたとしても。
今なおバロールの娘であることに少なからぬ比重を置く忠臣・幻魔将軍ガザーヴァである。
しかし、なゆたも負けてはいない。ガザーヴァの渦巻く殺気にも怯まず、まっすぐにその双眸を見返す。

「わたしたちはあの赭色の荒野から、ずっとクエストをこなしてきた。
 そして、これからもそうする。
 たとえどこへ行ったって、どんな苦境に陥ったって。わたしたちが力を合わせれば、絶対に何とかなる――そう信じてる。
 だからこそ。どんな無茶でもやるよ、わたしは」

ジョンの意思を尊重し、マルグリットの差し伸べた手を跳ね除けていたとしたら、今頃どうなっていただろう。
マルグリットはともかく、親衛隊はそれを敵対行為とみなすに違いない。
少なくともマルグリットの厚意を無碍に拒絶した愚か者、無礼者と判断する。
それで戦いになどなれば、こちらに勝ち目はない。相手は長年行動を共にした幹部さえ容赦なく見捨てる狂犬たちだ。
マルグリットの意に反する者に手加減はすまい。ならば待っているのは速やかで確実な全滅だ。
また、オデットに会える可能性も低くなる。現状、マルグリットを同行させていればオデットまでは一直線。
明神が考える通りマルグリットなしでも何らかの手段はあるかもしれないが、最短ルートがなくなるのは大きな痛手だろう。

マルグリットと手を組むのが最善とは言わない。だが悪手とも思わない。
この選択はローウェル側に借りを作ってしまう要因になるかもしれない。余計な因縁を作るだけの結果に終わるかもしれない。
しかし、こうすると決めた。いったん決めたら、太陽が西から昇っても考えを改めないのが崇月院なゆたである。
なゆたもまた、明神と同じようにパーティーの仲間たちを信じている。
皆で力を合わせれば、絶対になんとかなると迷いなく思っている。
だからこそ――
何が起こっても大丈夫と、マルグリットの申し出を受けたのだ。

「心配かけてゴメンね、明神さん。
 分かってる……みすみす継承者の言いなりになるつもりはないよ。こういう駆け引き、結構得意なつもりだから。
 もう少しだけわたしに任せて。きっと……打開策を見つけてみせるから」

「ちっ。しゃーねーなぁー。
 ジョンぴーの呪いがどうにかなるまで、保留にしといてやるよ。
 でも、ジョンぴーの呪い問題で恩ができちゃったんでじじい側につきます! ってなったらマッハで殺すかんな。モンキン」

轟々と殺気を纏っていたガザーヴァがいつもの様子に戻る。
とはいえ、少しでもなゆたがローウェル側に心惹かれるようなら即座に殺すと明言する辺り、凶悪にも程がある。

「あはは……そうならないように、何とか頑張るよ」

なゆたはぱたぱたと手を振った。
明神の言うとおり、エーデルグーテでオデットに会う前にローウェルたちが何を目論んでいるのかを知らなければならない。
マルグリットならば教えてくれるかもしれないが、彼と二人きりになれる機会はまずないと言っていい。
ならばどうするか――問題は山積している。
なゆたはそんな課題を抱えたままシャワーを浴び、馬車へ戻って明神やガザーヴァら仲間たちと一緒に眠った。

74崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/12(火) 02:22:10
橋梁都市アイアントラス。
アルメリア王国とフェルゼン公国の国境近くにある『大断崖(グレイテスト・クリフ)』に架かる、超巨大な鉄橋である。
橋そのものが都市を形成しており、アルメリアとフェルゼンを陸路で繋げる唯一の道として交通の要衝となっている。
ゲームの中では、巨大な目抜き通りを形作っている橋の両脇に商店や露店が立ち並び、
行商や旅人、自警団などが賑々しく街を行き交っている。
ブレモンのストーリーモードを一通りクリアした『異邦の魔物使い(ブレイブ)』なら、必ず来たことのある場所だ。
なお、十二階梯の継承者のひとり『万物の』ロスタラガムに初めて会う場所でもある。
長距離を移動してデリントブルグを抜け、街に入ったと思ったら何気なく話しかけた相手に突然問答無用でぶん殴られ、
対処が及ばずわからん殺しで全滅したプレイヤーも多い。

明神ら一行+マルグリットとその親衛隊は、半月の時間をかけて大した確執も起こすことなくデリントブルグを抜けた。
投書の予定では、バロールがアコライト外郭戦で大破した魔法機関車を修復し、
アイアントラスへ送り届けるという手筈だった。
徒歩では一年かかるエーデルグーテへの道のりだが、魔法機関車を使えばぐっとその期間は短くなる。
何にせよ、アイアントラスまで到着してしまえばこっちのもの――
と、思ったが。

「……なんてこと……」

眼前の光景に、なゆたは目を見開いた。
アイアントラスが燃えている。
本来多数の人々で活気づいているはずの街は破壊され、あちこちで建物が燃えている。
建物だけではない。荷車も、花壇も、家畜も――
そして、人も。

「襲撃のようだな」

エンバースが槍を手に呟く。既にスマホも起動しており、いつでも戦いに出られるという体勢だ。
だが、なゆたはまだ自体が呑み込めない。誰が、いったい何のために?
しかし、そんな疑問もすぐに解けた。
逃げ惑う人々に襲い掛かる、小柄な異形の群れが遠くに見えたのだ。

「―――――――――――!!」

なゆたはもう一度、驚きに目を瞠った。
アイアントラスを破壊している異形はゴブリンだった。1mくらいの背丈の、緑色の膚をした亜人種。
ブレモンではスライムに毛が生えた程度の強さの、最弱モンスターの一角である。
革の腰巻や朽ちた鎧などを身に纏い、武器と言ったら錆びた剣や棍棒、粗末な弓もどきくらいのもの。
そんな雑魚キャラ、典型的やられキャラのゴブリンが10匹ほど群れを成している。
が。
それは通常のゴブリンのこと。なゆたたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の眼前にいるゴブリンは、そうではなかった。

ゴブリンたちは防具に身を固めていた。――だが、いわゆる鎧や兜といった『西洋ファンタジーらしいもの』ではない。
小口径の拳銃程度なら直撃しても確実に防御する、マットブラックのバリスティックヘルメット。
耐閃光、耐煙、耐衝撃の強化アクリル製ゴーグル。
防弾・防刃機能付きのタクティカルスーツに、胴体を防御するボディアーマー。
グローブとコンバットブーツで肌の露出を最低限に抑えた、黒ずくめの外見。
そう――

『ゴブリンたちは、現代の地球産の装備で武装していた』。

それも、SWATや軍隊が採用しているような本物の戦場装備だ。
ゴブリンの一匹が、逃げ惑う人々に狙いを定める。
その手に持っているのはM-16自動小銃。米軍で正式採用されている、アサルトライフルのベストセラーだ。

「ギギッ!」

「た、たすけ……ぎゃぅっ!」

タタタタタンッ! と軽快な射撃音が響き、武器も持たない街の人々が悲鳴を上げて倒れる。
例え武器を持っていたとしても、地球の最新鋭装備とファンタジー世界の旧式武器では比較にならない。
自警団らしき者たちが必死で抗戦しているが、防戦一方でまるで勝負にならなかった。

「ポヨリン!」

なゆたは叫んだ。と同時にスマホをタップし、ポヨリンを召喚する。
ポヨリンは召喚されるや否や弾丸のように突撃し、ゴブリンの一匹の胴体に突き刺さるように体当たりした。

「ガギィィィーッ!?」

完全な不意打ちだ。ゴブリンは防御姿勢を取ることもできずに吹き飛んだ。

「ギッ! ギギ……」
「ギャキィーッ!」

闖入者の出現に、残ったゴブリンたちが甲高い声をあげる。
じゃきっ! と音を立て、ライフルの銃口が『異邦の魔物使い(ブレイブ)』へと向けられた。

75崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/12(火) 02:22:56
「きひッ! 鉄火場だー! おい明神、やっていいよな? やるぞ? 答えは聞いてない!
 のんびりお散歩なんて飽き飽きだ! あっばれっるぞォーッ!」

ガザーヴァが爛々と双眸を輝かせ、前のめりになってゴブリンたちへ突撃する。
虚空から身の丈ほどもある騎兵槍を出現させると、凄まじい速度で刺突を見舞う。
黙々と一行の最後列についてきていたガーゴイルも、主人の助太刀度ばかりに蹄を鳴らして戦場へ駆けてゆく。

「おいおい……何だよその装備!? 超カッケーマジパネー!
 ボクも欲しいなー! でもゴブリン用じゃサイズが合わないっかぁー! 残念ザンネン!」

ぶぉん! と風切り音を鳴らして騎兵槍がゴブリンを狙う。
しかし、当たらない。本来ならば回避の『か』の字も知らないほど低レベルなはずのゴブリンが、巧みに攻撃を避ける。
そして射撃。驚くべきことにゴブリンたちは規則正しい隊伍を組み、ガザーヴァを一斉に狙ってきた。

「おっとっとォ! ゴブリンのクセしてやるじゃん!」

ガザーヴァはある時は身を翻し、ある時はバク宙し、まるで軽業のように銃弾を躱す。
発射されたのを確認してからライフルの弾を避けるなど、人間の動体視力を遥かに凌駕している。
たたッ! と幾度か身軽にトンボを切ると、ガザーヴァは明神の傍に戻った。

「明神、ヤマシタは守りに使え。攻撃はボクがやる。
 コイツら、強いぞ。おまけにバッドニュース! コイツら――
 ……もっと増える」

前方を見据えたまま、ぼそりと呟く。
余裕の様子を見せてはいたが、実際はそこまで楽観視できるものでもないらしい。
そして――ガザーヴァが警告した通り。

炎上する建物の中から、横転した荷台から。倒れた柱の影から。
50匹ほどのゴブリンたちが姿を現し、一斉に銃を構えた。
『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と対峙している者たちばかりではない。建物の屋根から狙いを定めている者もいる。
むろん、全員地球の軍用装備に身を固めている。まさに多勢に無勢だ。

「ぐ……」

なゆたは奥歯を噛みしめた。
半月前、エンバースが拾った銃弾。それはこのゴブリンたちが使ったものだったのだろうか。
ゴブリンたちに支給できるほどの装備を、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が持ち込んだというのなら。
それは、こちらにとって絶望的な戦力差となることだろう。
どうすれば、この敵を打ち破ることができるのか? 仲間たちを守ることができるのか?
なゆたは一瞬懊悩した。
だが、次の瞬間。

「蹂躙、許すまじ!」

マルグリットの透き通った声が、炎上するアイアントラスに朗々と響き渡った。

「不義! 不善! 不当! それら世の安寧を脅かす不穏の徒を征することこそ、我ら継承者の本懐なり!
 ならば! ならば此なる眼前の悪逆、我が理の力にて止めるが大義と心得た!
 十二階梯の継承者、第四席『聖灰の』マルグリット――罷り通る!!」

まさしく、ゲームの中のムービー・パートのように。
トネリコの杖を持った右手を突き出して言い放つと、マルグリットは身を低く屈めてゴブリンたちへと疾駆した。
疾い。
マルグリットは瞬時にゴブリンの群れの只中へと飛び込むと、上体を思い切り捻った。

「おおッ!!」

ぶぉんっ!!!

咆哮と共に、疾駆の余勢を駆っての飛び回し蹴り。
大鉈の如き蹴りが旋風を纏ってゴブリンたちに命中し、その矮躯を遥か彼方へ吹き飛ばす。
残ったゴブリンたちが雪崩を打って発砲する。――が、当たらない。
疾風さながらの身ごなしで紙一重に銃弾を避け、マルグリットはさらに攻撃を加えた。
舞うように優雅に、しかし必殺の威力を以て繰り出された手刀がゴブリンを薙ぎ払い、瞬く間に蹴散らしてゆく。
マルグリットは単なる魔術師、専業後衛職ではない。
ユニークスキル『聖灰魔術』を自在に使いこなす天才魔術師であると同時、
格闘スキル『高速格闘術(ハイ・ベロシティ・アーツ)』の使い手でもある複合職なのだ。
本来高い対衝撃性を有するはずのボディアーマーが、まるで苧殻のようにひしゃげる。ゴブリンが水切りの石のように吹き飛ぶ。
ゴブリンたちに囲まれながらも、マルグリットは落ち着き払った様子ではー……と息を吐き、呼吸を整えた。

流麗、必滅。その姿はまさにアルフヘイム最高戦力、十二階梯の継承者と言うに相応しい。

76崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/12(火) 02:24:44
「マル様を援護するわよ、ふたりとも!」

「かしこまり! ライブ・スッタァートゥ! ヒィ――――ハ―――――――ッ!!」

「待ちくたびれたッス、さて……じゃあ真打登場ッスね! 行け、アウグストゥス!」

マルグリットに遅れじとさっぴょんが声を上げ、シェケナベイベときなこもち大佐が後に続く。
きなこもち大佐のパートナーモンスター、スライムヴァシレウスが真紅のマントを翻しながらゴブリンたちへ突っ込んでゆく。
タクティカルスーツを着ていようが雑魚は雑魚、と言わんばかりの圧倒的な力で、スライムの王がゴブリンを駆逐する。
一昔前のパンクロッカーの姿をした、トゲのついたコスチュームに身を包んだゾンビがエレキギターをかき鳴らす。
シェケナベイベのパートナーモンスター、アニヒレーターだ。
アニヒレーターの左右に展開した巨大な身の丈ほどもあるスピーカーから爆音が轟き、音が質量をもって敵を薙ぎ倒す。
そして――マル様親衛隊の隊長、さっぴょん。
さっぴょんのスマホから、煌めく白銀色の『駒』たちが出現する。
16体いる等身大のチェスの駒があたかもマルグリットを守護するようにその周囲に召喚され、ライフルの弾を跳ね返す。
魔銀(ミスリル)製の駒は堅牢無比、物理に対しても魔法に対してもきわめて高い耐性を誇る。

「さあ――制圧なさい、私の駒たち!」

さっぴょんの号令一下、等身大の駒たちが幾何学的な動きでゴブリンたちを掃討する。その動きはまさしくチェスのそれだ。
そもそも、さっぴょんこと悠木沙智はただのブレモンプレイヤーではない。
彼女は全日本チェス選手権四連覇の王者にして、チェスの世界大会であるチェス・オリンピアードにも出場経験のある、
日本最強の棋士なのである。
女流棋士・悠木沙智の戦術(タクティクス)はグランドクロスと呼ばれる独自のもので、世界に通用する強力なものだ。
その戦術をブレモンにも用い、ブレモンプレイヤー・さっぴょんは瞬く間にトップランカーへと昇りつめたのである。
決して他者に迎合しないシェケナベイベときなこもち大佐が隊長と仰ぎ従っているのも、その桁外れの強さゆえだ。
モンデンキントも幾度となくさっぴょんとオンラインでデュエルしたが、その都度グランドクロスに跳ね返され敗北を喫している。
その、モンデンキントに幾度となく苦汁を舐めさせてきた戦術が、目の前で展開されている。

「――モンデンキント。俺たちは連中が敵を駆逐するのを、指を銜えて見ていればいいのか?」

「え? ぁ……、う、ううん、わたしたちも行くよ! エンバース、お願い!」

「了解した」

マルグリットと親衛隊の戦いを半ば呆然と見ているなゆたに、エンバースが声をかける。
はっと我に返ったなゆたが指示を出すと、エンバースはすぐに戦いの坩堝へと躍り込んでいった。

「明神さん、カザハ! 馬車を護って!
 ジョンを出さないように……攻撃はわたしたちが何とかするから!」

武装したゴブリンたちはどこからかワラワラと這い出してくる。どれだけの数がいるのか見当もつかない。
もちろん、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がライフルの弾を一発でも被弾すればそれでおしまいだ。
なゆたもマントを翻して戦場に駆け入り、ポヨリンに攻撃の指示を下すが、ATBゲージが思うように溜まらない。
デュエルならともかく、混戦状況の中ではスマホに依存する『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の戦い方はいかにも非効率的だ。
飛び交う弾丸をスキル『蝶のように舞う(バタフライ・エフェクト)』で避けながらスペルカードを手繰るものの、
スキルの連続使用は肉体への負担が大きすぎる。すぐに疲労が蓄積し、なゆたは肩で息を繰り返した。

「はあっ! はあっ、はぁ、は……はあ……!」

額にびっしりと汗が浮く。喉がからからに乾き、ひりついて息がうまく吸えない。
モンスターを召喚・制御するのと同じように、スキルを行使すれば肉体と精神の両面が消耗する。
まして、なゆたはこの世界の住人ではない。にわか仕込みのスキルを連続使用して平気でいられるはずがない。
それでも、止まらない。止まれない。
ジョンを蝕む呪縛に比べたら、こんな疲れくらいは物の数ではない――そう思う。

「ポ、ポヨリン……『限界突破(オーバードライブ)』……プレイ……!」

腕が鉛のように重い。だが、それでも懸命にスマホをタップしスペルカードを切る。
そして――

もし、ジョンが馬車の中から戦場を見ていたとしたら。ジョンだけは気付くだろう。
突如戦場に現れたひとつの影が、恐るべき速さでなゆたへと接近しつつあることに。
それは一見するとゴブリンたちと変わらないように見えた。ヘルメットもゴーグルも、タクティカルスーツもすべて一緒である。
が、大きさが違う。小学生程度の大きさしかないゴブリンたちと違い、その影は大柄だった。身長180cmはあるだろう。
迅い。ゴブリンたちとは比較にならないスピードで、影はなゆたへと疾駆している。
その手には大振りのコンバットナイフが握られている。逆手に握られた、刃までが真っ黒なナイフ。
なゆたは気付いていない。ふらふらになりながら、ポヨリンへと指示を飛ばしている。
マルグリットは最前線におり、親衛隊はマルグリットを援護することしか頭にない。
エンバースとガザーヴァもまたなゆたから遠く離れた場所におり、明神とカザハは馬車の守りで手一杯だろう。
となれば。

その影を阻むことができるのは、ジョンしかいない。


【アイアントラスを近代装備に身を包んだゴブリンの一団が襲撃。
 なゆた疲労困憊。迫りくる襲撃者には気付かず】

77ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/05/15(金) 18:46:44
普段なら人と笑顔で溢れ返っているはずの街は静まりかえっていた。
むせ返るほどの臭いと夥しい血で濡らされていた。

血でぬれたその広場に、一人の仮面をつけた男がいた。
仮面を付けた男の周囲には死体があった。

一つ二つではない・・・広場には大量の死体があった。

「まだかなあ・・・」

その男はまるで恋人を待つ一人のような人間のような事を呟いた。

普段ならなんの違和感もない場所と言葉。
しかしまだ温かい死体達と仮面の男の服に付着した大量の血。
それらが異常な空気を醸し出していた。

「これは・・・あなたがやったの?」

そこに数人の人間とモンスターが現れる。

「思ったより遅かったね?・・・あぁそうさ、僕がやった」

はぐらかすでも、ごまかすでもなく人殺しを認めたその男は笑い始める。

「いやーごめんね?君が誰だか分からないんだ!人を一杯殺すようになってから人間の顔ってのが認識できなくなっちゃってね・・・
 でもここに足を踏み込んだって事は君達は 異邦の魔物使い なんだろ?」

「どうだい?この広場は君達の為に用意したんだ!気に入ってくれたかな?」

狂人にブレイブと呼ばれたその人間達は思い思いの感情を狂人にぶつける。

「うんうん!それだけ僕に殺意を向けてくれるなんて・・・よっぽど気に入ってくれたんだね!
 うーん・・・でも少し一押し足りない感じするな〜君達は優しすぎて殺意の中にまだ慈悲的ななにかが残ってるね」

男は積み上げられた死体の山に手を突っ込むと、その中に一人の子供を引き抜き・・・首を思いっきり締め上げる。

「本当は最初から気づいてたんだけど〜まあ子供だしいいかなと思って気づかないフリをしてあげてたんだ」

子供が苦しそうな声を上げる。

「でも残しといてよかった!君達への取っておきのサプライズプレゼントになってくれたから・・・ね」

ブレイブ達が先制攻撃を仕掛ける。

「いいよ!本気で殺すって目だ!いいね!いいね!君達の目からやっと慈悲が消えた!」

「ああ・・・本当にこの世界にこれてよかった!元の世界にいたら一生こんな気分は味わえなかっただろう
 ・・・君達のような人間に殺される日が来るなんて・・・一生こなかっただろう」

狂人は嬉しそうに笑う。

「あのクソうるせー女も消えた!俺を裏切って反抗してきたあのクソ犬も!もうここに邪魔するものはもうなにもない」

「殺し合い・・・しようぜ」

狂人は自分の体にナイフを刺す。そしてその血を周囲に撒き散らす。

「なんで・・・広場を死体に・・・それもわざわざ大量に出血するようにして用意したと思う?・・・こうするためさ!」

狂人は手を上げると周囲の死体達から流れた血を自由自在に操り始める。

「完全に流れ出た血は誰の物でもない・・・けど僕の血に!スキルに触ったならそれは俺の血だ!」

気分が高揚したのか、狂人は仮面を投げ捨てる。
外した狂人の顔は見覚えがあった。

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78ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/05/15(金) 18:47:09

「ハッ!!」

目を覚まし、飛び起きる。
体の拘束は外され、目の前には食べ物が置いてある。カザハが置いていってくれたのだろう。

「夢・・・?夢なのか・・・?」

最近悪夢ばかり見てたはいたが・・・その中でも飛びぬけて・・・胸糞悪い夢で・・・。
でも夢とは断言できないような・・・まるで自分が体験したことがあるかのような・・・。

思い出せない・・・夢の内容を・・・

「く・・・いままで一番気分がわるい・・・」

体が・・・脳が・・・本当にわずかだがこの事を記憶している気がする。
思い出せないのに記憶してるとは・・・?

「・・・馬鹿馬鹿しいな」

そう自分の考えを一蹴して目の前に食事に手をつける。

>「ジョン、起きてるか」

みんなを起こさないように静かに食事をしていると明神に話しかけられた。

「どうしたんだ・・・?こんな夜中に・・・って君がもってるそれは」

>「昼間の狙撃、あれな……どうにもこいつを撃ち込まれてたらしいんだ。
 あの襲撃は多分、この世界の人間の仕業じゃない。技術水準が違いすぎる。
 召喚されたブレイブがライフル現品か、あるいはその製造方法を持ち込んだ」

これは・・・5.56mm弾・・・か?
携帯の明かりで照らし、細部を調べ始める。

>「有力な証拠物件だけど、遺憾ながら俺には銃に関する知識がない。
 だけどアレだろ、弾丸の旋条痕ってのは人の指紋みたいに発射元の銃を特定出来たりするんだろ。
 現役自衛官だったお前なら、なにか思い当たるフシがあるんじゃねえかと思ってさ」

「とりあえずいえる事は・・・コレはおそらく正規品であるはずだけど・・・ど・・・だ
 あくまで参考程度に留めてくれよ、これだ!って断定しすぎるのはこの状況ではあまりに危険すぎるからな」

だがどうにも腑に落ちない事もある・・・この弾を使う銃は基本長距離狙撃に向いていないはずだ。
持ち込んだだけなら弾も無限ではないだろうし、効果があるかどうかわからない状況でおいそれと連射することはできないはずだ。

79ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/05/15(金) 18:47:49

もしくは・・・。

「物体を作り出せるような施設・・・それか魔法使いに複製を頼んでいる可能性・・・か」

バロール以外でそんな事できるのはよほどビックネームだとは思うが・・・。
可能性はゼロというわけではないだろう

>「……まぁ、ガチで素人意見だからホントにダメ元だ。何もわからなけりゃ分からないでも良い。
  長い長い夜の暇つぶし程度に持っててくれ」

「これは預かっておくよ・・・おやすみ・・・明神」

一体だれがこれを持ち込んだのだろう。

正規の銃をどんな方法であれ量産させるには現物が必要不可欠のはずだ。
召喚された人間は召喚されたときの所持品を持って召喚される・・・特殊な事がなければ
と言う事は少なくともこの弾の持ち主は日常的に銃を持った人間と推測できる。

だが馴れしんだ人間なら尚更襲撃にこの弾薬を使う銃を選んだのも腑に落ちない。

この弾丸の規格では狙撃と呼ばれる程の遠距離で当て辛いのはもちろん
当たったとしても一発二発では人間を無力化足らしめる威力はない。
ただでさえ回復魔法がある世界なのだから余計に。

回復魔法で傷だけ直しても弾は体に残ると見越して・・・?

それならこの世界でも概念としてある弓・・・
もしくはクロスボウを作ってそれを人に向けて撃って矢じりを相手の体に残したほうが効果が高いと思われる。銃に比べれば毒も仕込みやすい。

もし失敗しても、現実の銃を持ち込んだ異世界人がいるとバレる事がなくてその後の展開が遥かに楽なはず。

だが相手は狙撃に成功する確率、もとい殺害の成功率が限りなく低い状況での現代兵器を用いた狙撃を選んだ。

素人だからと舐め腐ったのか・・・。

火の処理に追われていたとはいえ姿を見られず狙撃をしてくるような手馴れが
邪魔されるようなタイミングで襲撃・・・?

違和感が拭えないまま・・・朝を迎えた。

80ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/05/15(金) 18:48:04
「やっぱりどう考えてもおかしい」

馬車の中に押し込まれることはや半月。
することもないのでカザハに次の街の情報を教えてもらったり
明神から預かった弾を眺めながて考え事をしたり
日課の鍛錬を馬車の中で済ましていたら汗臭いとか言われてたまに外にでたりして過していた。

「あの田園での襲撃自体がどう考えてもおかしいんだよ」

馬車越しに皆に語りかける。

「相手はこちらから確認できないほど遠く離れていた可能性が高い・・・
 だけどこの弾薬を使う銃じゃ姿を確認されたくないほどの距離があると結構ブレるし
 当たったとしても急所をピンポイントで撃ち抜けなかったら痛いで済んでしまうし
 こちらが魔法で無差別反撃されたら襲撃した側が逃げるのは相当難しい・・・」

「僕達が・・・なゆが火を無視できないと、予め分かっていたとしか思えない」

いくら身を隠せる場所が多いといっても方向を特定さえしてしまえば後は魔法で纏めてなぎ払えばいい。
方向を特定できなくてもモンスターに無差別に攻撃を指示して自分達は畑で伏せながら畑を抜け出す事ぐらいはできるだろう
なゆがそれをしなかったのは他人の損害を どうせ自分達のじゃないから と他人はどうなってもいい・・・という事をできなかったからだ。

なゆ達の事を調べ上げた上での襲撃なのは間違いないが、それ故に救援がくるようなタイミングを読んでいなかったというのはおかしい。
それとも最初から戦果などどうでもよかったのか・・・?

「それを含めても・・・この弾薬を使う銃ならどう考えても田園よりどこかの町や街で仕掛ける市街戦のほうが相性いいはずなのに・・・」

異世界人が、現代兵器で襲い掛かっているという情報は相当に大きい。
こちらはこの半月で相応の準備と覚悟ができている。

無傷で襲撃を乗り越えたのは本当に大きい・・・。

だがそれゆえにおそらくプロであるはずなのに成果をなんら残していない。という結果が気に入らなかった。

今すぐ自作自演するためにお前ら3クズとその主が仕掛けたんじゃねーのか?と問いただしたい気分ではある。
しかし今この場で敵対行動を起すのは得策とはいえないだろう。

せめて証拠があれば・・・。

「えと・・・そういえば今日街に着く予定なんだっけ?この中にずっといると時間の感覚がおかしくなってしまうよ」

そう話していると馬車が停止する。

>「……なんてこと……」

「おっ街についたのか、なら僕は静かにして・・・」

>「襲撃のようだな」

「・・・なに?」

談笑しながらの和やかな旅は

非常に聞き覚えがある銃声に掻き消された。

81ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/05/15(金) 18:48:21

外から聞こえる聞き覚えのある銃声。
恐らく街に近づくほどに大きくなる悲鳴。

「一体なにが起っているんだ!おい!だれかおしえてくれ!」

>「おいおい……何だよその装備!? 超カッケーマジパネー!
  ボクも欲しいなー! でもゴブリン用じゃサイズが合わないっかぁー! 残念ザンネン!」

「あー!くそ!!明神!カザハ!まだそこにいるのか?情報を教えてくれ!
 なぜ四方八方から銃声が聞こえる?襲撃者は一人じゃないのか?というかなぜ街の人が襲われている!?」

>「おっとっとォ! ゴブリンのクセしてやるじゃん!」

「ゴブリン・・・?」

ファンタジー漫画や小説に必ずといっていいほどでてくるスライムと並ぶザコモンスターの筆頭格。
それはゲームであるブレモンでも例外ではないはず。
なら街の人の悲鳴が止まないのはなぜか?恐らくなゆ達ではない人間の声・戦闘音が聞こえてくる。
だが悲鳴は静まるどころか加速する一方だ・・・。

「まさか・・・ゴブリンが・・・武装しているのか・・・?現代兵器で・・・?」

そうなると話がいろいろ変わってくる。
前回の襲撃がもしかしたらゴブリンに武器を渡し、実験していたというトンデモな可能性まで浮上してしまうのだから・・・。

だが今は考えている場合ではない・・・!

>「不義! 不善! 不当! それら世の安寧を脅かす不穏の徒を征することこそ、我ら継承者の本懐なり!
 ならば! ならば此なる眼前の悪逆、我が理の力にて止めるが大義と心得た!
 十二階梯の継承者、第四席『聖灰の』マルグリット――罷り通る!!」
>「マル様を援護するわよ、ふたりとも!」
>「かしこまり! ライブ・スッタァートゥ! ヒィ――――ハ―――――――ッ!!」
>「待ちくたびれたッス、さて……じゃあ真打登場ッスね! 行け、アウグストゥス!」

>「明神さん、カザハ! 馬車を護って!
  ジョンを出さないように……攻撃はわたしたちが何とかするから!」

「なっ・・・!いくらなんでもそりゃ無茶だ!どれだけの数がいるか分からないんだぞ!」

馬車の中から外をのぞく。

そこはまさに地獄絵図だった。

銃をもったゴブリンになす術なく撃ち殺される武装した兵士。
頭から血を流して倒れる一般人と思わしき人。
痛いと叫びながら半狂乱になる人。

そこはまさに戦場(地獄)だった。

82ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/05/15(金) 18:48:43
マルグリットや親衛隊の奮闘で戦況はわずかだが好転している。

しかし・・・マルグリットとその親衛隊。それにエンバースやなゆも前線で戦っているというのに。
ゴブリン達は慌てることなく、隊列を乱さず、統率が取れている。

1がだめなら2に戦況が不利になったら3に、予め作戦が決められているのであろう。
一番驚愕な点は現代兵器の性能を熟知しているという点だ。
僕がしっているゴブリンはたしかに狡猾で・・・だが基本は馬鹿で上等な道具を上手く使えるような頭はないはずだ。

この世界のゴブリンがどれほどのものなのかわからないが・・・現代兵器を操るなんてあまりにも異常すぎる

「クソッ・・・なぜだ・・・?なぜ僕はここで見てるだけなんだ・・・?」

こうしてる間にも戦闘音は続き、悲鳴も銃声も鳴り止まない。
色んな怒声が聞こえる。色んな悲鳴が聞こえる。物が壊れる音が聞こえる。みんな必死に生き延びようとしている。

だけど今僕がでていっても事態を悪化させるだけなのでは?最悪僕自身がこの街の災いになる可能性すらある。
僕がでた結果さらに死ぬ人が現れるのでは?もしかしたらその責任がなゆ達が負う事になるかも。
だったら僕はここにいたほうが・・・。

馬車の中でうずくまり、考える事を放棄しようとした瞬間・・・目の前に少女の霊が現れる。

「・・・この半月だんまりだったのに突然なんだ?・・・そもそも僕はスキルをこの半月使ってもいないし、暴走もしていないはずだ」

彼女は僕の質問を相変わらず無言で無視し、馬車の外を指差す。

「はっ!牢屋の時はでるなと言ってたのにこんどは外にいけと?一体君は僕になにをさせたいんだ?」

少女はなにも答えない。
真剣な目でただひたすら外を指差すだけだ。

「外にはでないぞ・・・外を見るだけだからな!」

余りに真剣に、外を指差すものだから・・・気になって僕は外を覗いた。
周りには殆ど変化がなかった。みんな必死に戦い、生きている市民はどこに逃げればいいかわからず右往左往。

まさに地獄だ。

「で?これを俺に見せたかったのか・・・よ」

その瞬間ほんの一瞬逃げ惑う民間人の中を逆行している人物を見つけた。
逆流しているにも関わらず、まるで流れにそっているかのように戦場に向かっていく。

心に殺意のようなものを持って。

これが味方だったらよかったのだが。幸いといえばいいのか、見えてしまったことで無視できなくなってしまったという事を不幸といえばいいのか。
その人物が着ているものは間違いなくゴブリンと同じ装備であった。

この騒動に乗じてだれかを殺す、もしくは誘拐に来たのだと推測できる。
ではおそらくこの騒動の主がわざわざ銃を捨てて、ゴブリンを隠れ蓑にして、危険を冒してまで接近してきたのはなぜか。

3クズとその主ならまだいい。どうぞ殺すなり誘拐するなりしてくれればいい。
だけどマルグリットは嗚呼見えてかなりの武道派だし、3クズはマルグリットを中心に陣形を組み、不意打ちは難しい。

エンバースや、カザハは自分自身が戦っているから暗殺するようなチャンスはなかなかないし、この戦場で待っている余裕はさすがにないはず。
自分自身が戦える相手を確実に殺したいならこの混乱に乗じて銃で不意打ちを狙うだろう。

銃で殺すと目立つが、ナイフなら静かに、そして発見するのも遅らせる事ができる。

つまり接近すれば確実に抵抗させずに殺せる相手を優先的に殺し、数的な有利を作るため・・・?
ゴブリンに思いっきり気を取られていて・・・それでいて本体自体はそんなに動いていない・・・暗殺者としてみると格好の的・・・。

83ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/05/15(金) 18:49:05
明神やなゆのような本人自体は一般人タイプのブレイブ・・・それもモンスターではなく異邦の魔物使い本人を狙いに来ている・・・!

馬車から急いで飛び出し、最後に確認された不審人物が歩いていった方向を見る。

その方角で戦っていたのは・・・なゆだった。
エンバースは建物の上にいるゴブリンを倒す為離れており、頼みのポヨリンもゴブリンと戦っている。

「なゆ!!!」

気づいたら走り出していた。
スマホをポケットから取り出し、部長を召喚し、全力で駆ける。

戦場の極限状態はなゆや明神の素人にとって地獄のような気分を味わせることだろう。
悲鳴は集中力を奪い、敵の攻撃は意識を削がれ、与えられるのは目の前に横たわった死体からもたらされる絶望だけ。

ゲームでは味わった事はあるだろう。
もしかしたら今までの旅路で戦場の空気を味わった事があるのかもしれない。

>「はあっ! はあっ、はぁ、は……はあ……!」

けど決して馴れる事などない。
少なくとも死人は出さないと、面と向かって言い放つ・・・なゆのような人間には。

状況が生み出す緊張と疲労は・・・対処できるはずだったことも・・・普段ならしないようなミスを・・・対処も出来ない程・・・人を蝕む。

>「ポ、ポヨリン……『限界突破(オーバードライブ)』……プレイ……!」

なゆの目の前に立った人物は今正になゆにナイフを振り下ろさんとしていた。

なゆは目の前で起った事を理解していても行動できない。
そのナイフはなゆに・・・少女に振り下ろされ・・・彼女の人生は・・・

終わりを

「させるかああああああ!」

ナイフを振り下ろそうとする人物の脇腹目掛けて強烈な蹴りを食らわせる。

「はあ・・・はあ・・・間に合った・・・」

本来はこの程度の距離を走った所で息切れなど起さないが・・・今回ばっかりは心臓に悪い。

「無事かい!?どこも怪我してない!?」

なゆの体をくまなく検査し、大きな怪我がない事を確認する。

「本当によかった・・・頼むから僕の為に無茶しないでくれ・・・本当に・・・よかった」

蹴られた人物が立ち上がってくる。

「今のは手加減なしの全力蹴りだったから・・・最悪殺してしまったかと思ったけど・・・その心配はないみたいだね」

その人物はナイフを握り締め、交戦する気のようだ。
一度失敗したら逃げると思ったが強行する気らしい。

「僕になゆとの約束を破らせてた責任・・・取ってもらおうか」

84ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/05/15(金) 18:49:22
思いっきり蹴ったはずだが、目の前の人物が弱っている様子はない。
スキルを使ったのか・・・それとも蹴られる直前に飛んで威力を軽減させたのか・・・。

「なゆ・・・隠れていてくれ・・・僕がやる」

なゆは疲労していた。
当然だ、この地獄の中で被害を減らす為に敵と戦っていたのだ。
戦場になれた軍人ならともかく一般人の身にはあまりにも辛すぎる。

「対モンスターが君の本業なら・・・対人間は僕の本業だ」

しかしゴブリンの軍事行動。
混沌極める戦場とはいえ他のブレイブ達や3クズと主に気づかれずなゆに接近し、蹴りを食らってもそれを咄嗟にいなせる技術。

厄介だな・・・。

「降参しろ。抵抗する場合は足や手の一本二本・・・もしくは命の保障はできないぞ」

目の前の人物はなにも答えず、襲い掛かってくる。

相手は全身フル装備で手にはナイフを持っていた。
それにこちらは鎖帷子を下に着込んだだけの普段着に武器と呼べる物は全て預けてしまっており丸腰。

相手がナイフで攻撃してくる。
ナイフを持った腕を左手で掴み、先ほど蹴った場所目掛けて膝蹴り。
怯んだところに思いっきり顔面を右手で強打。強打。強打。
相手が体を捻り強引に僕を振りほどこうとするも、こちらも思いっきり掴んだ敵の腕を引っ張りそのまま投げ飛ばし地面に叩き付ける。
地面に叩きつけられた相手が立ち上がる前に相手の頭部をサッカーボールのようにけり飛ばす。

「・・・っ!!」

完全に僕のペースだったはずだ。
いくら相手が訓練された兵士だったとしても、今の一連の攻撃はとても耐え切れるような物ではないはず。
それなのに・・・

僕の右膝にはナイフが深く、突き刺さっていた。

「僕は白兵戦では・・・人類で最強に近いポジションにいると自負していたんだけど・・・
 まさか・・・異世界の住人じゃなくて僕達の世界の住人にその自信を揺るがされるとは・・・ッ」

襲撃者もふらふらと立ち上がる。

様子を見るに完全にノーダメージというわけではないらしいが・・・

「ッ――――!!」

力任せにナイフを引き抜いても・・・足は動かせないだろう。
ナイフを抜いてもいいように回復魔法を打ちたいところだが今部長にはかくれてもらっているし・・・

「なゆ!手をだすな!そのまま隠れてろ!」

なゆに回復を頼むと敵になゆの位置がばれてしまう・・・疲れているなゆに襲撃者を近寄らせるわけにはいかない。

「お前も相当ダメージを負ったはずだ・・・たしかに僕は足は動かなくなったが・・・お前がまた襲い掛かってくるというのなら
 僕もこの無事な両手で最大限の反撃をさせてもらう・・・ただじゃ殺されないぞ・・・」

部長には襲撃者が逃げた時に不意打ちで噛み付いてもらうために襲撃者の後方で待機させている・・・。
回復するには部長を呼び戻すしかないが・・・しかし・・・。

その時、襲撃者が両手を上に上げた。

85ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/05/15(金) 18:49:42
突然の降参ポーズに呆気に取られ反応が一瞬遅れてしまった。

両手を上げるポーズを襲撃者が取った瞬間。周囲の建物の屋上に大量の銃をもったゴブリンが現れる。

「しまっ・・・」

一瞬の油断が命取り。襲撃者が腕を下ろすとゴブリン達は一斉射撃を開始し・・・

「部長!!」

「ニャアアアアアア!!!」

襲撃者の背後に現れた部長の突進攻撃は襲撃者の背中に命中し
ふらついていた事もあり、襲撃者は僕のほう目掛けて吹き飛ばされる。

吹き飛ばした襲撃者を僕はすかさずキャッチし、その体を遮蔽物にし、隠れる。

ゴブリンの一斉射撃はキャンセルされず、そのまま実行され。
ライフルによる一斉射撃はきっちり全員がマガジンを打ち切るまで続いた。

「ハア・・・!ハア・・・!」

自分に覆いかぶさっている襲撃者をどかす。

ゴブリン達は主人を失い屋上でどうしたらいいか右往左往していた。

「奴らが混乱してる内に移動しよう・・・!」

部長となゆの助けを狩り、念のためゴブリン達が見えない場所まで移動する。

「ごめんなゆ・・・殺さなければ・・・僕が殺されていた・・・」

「・・・?」

何か違和感を感じとる。新しい血の臭いがしない。
慌てて襲撃者の死体があった場所をみる。ない。死体がない。

ゴブリンが持っていった?いや引きずられた跡がない。
つまり・・・奴はまだ生きている?

86ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/05/15(金) 18:50:37
「なんて事だ・・・」

目の前に自分の足で立つ襲撃者が現れた時僕は思い知らされたのだ。
この極限状態で判断能力が鈍っているのは決してなゆだけじゃなかったって事を。

この世界にはスキルも魔法も特殊効果を持った道具すら存在する世界だという事を冷静だったなら絶対忘れなかっただろう
正常な判断ができていれば奴の体から確認もせずに離れるなんて事はしなかっただろう。

「なゆ・・・!君だけでも逃げろ!」

襲撃者が再び両手を上げると周囲にどこからともなくゴブリン達が現れる。
こんどは屋上だけじゃなく下にもゴブリン包囲網が敷かれた。

今度は部長による不意打ちも不可能。反撃できるだけのスキルも不可能。そもそも足が動かせなくて反撃どころか逃げる事すらできない。

終わった・・・。

そして無慈悲にも・・・手は振り下ろされ・・・ゴブリンの一斉射撃が・・・

始まらなかった。

「ああ・・・あぁ・・・そうだよ・・・みんなはどんな無茶だろうとクリアする・・・異邦の魔物使い・・・!!」

救援にきた仲間達の助けによって周囲のゴブリン達は一掃された。

その瞬間気づいたのだ。

僕の失敗は決して体を確認しなかったことなどではなかったのだ。
なゆが距離を取った時点で自爆・暴走覚悟で暴れる事を選ばなかったことでもない

なゆの手を取ってすぐに逃げなかった事・・・仲間をもっと頼らなきゃ・・・信用する事だったんだ。

「ありがとう・・・みんな・・・」

目からなにかが溢れてくる。
こんな事・・・彼女を殺して以降なかったのに・・・止まらない

「っ!奴はまだあきらめていないぞ!」

襲撃者は再び手を上げると、またどこからともなくゴブリンの一団を召喚する。

「なあ・・・僕一人じゃ手に負えないみたいなんだ・・・だから・・・」

こんな僕にでも笑顔で手を貸してくれる人達がいるのだから。
僕が言わなきゃいけない言葉は最初から一つだったんだ。

「助けてくれないか・・・?」

87カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/05/19(火) 23:41:20
「ただいま〜。ジョン君大丈夫だった?」

《ええ、静かに寝ていますよ》

カザハが帰ってきて、私をいったんスマホにおさめて中に入った。
ジョン君の拘束を解いて暫く様子を見ているが、ジョン君が目を覚ます気配はない。
カザハは確保してきたらしい食べ物をジョン君の前に置いた。

《会談、どうなりました?》

「ローウェル陣営に行くかは今のところ保留のままでオデットに会えるように手引きしてもらえることになったよ」

《やりましたね!》

「うーん、まあね。手放しで喜べないんだけどね。親衛隊とか親衛隊とか親衛隊とか!」

オデットへの最短ルートが確保された代わりに、マル様と一緒に行くということは必然的に親衛隊も漏れなく付いてくるため、
もしも親衛隊がジョン君に絡んでブラッドラストが時間切れになったら終了、
ガザーヴァの正体がバレても一貫の終わりというリスクを負うことになる。
とりあえず黒甲冑が無造作に隅に置いてあるのはアカンやろ!
親衛隊を馬車に入れるつもりはないけどいつ何時見られないとも限らないし。

「あら嫌だわ、あの子ったらこんなところに脱ぎ散らかして!
後で明神さんにインベントリにしまってもらおう……。それと名前もどうにかしなきゃ」

幸い向こうはこちらのメンバー内訳にはあまり興味がないので、夕食の時は特に名前を聞かれることもなかったらしい。
かといってずっと秘密にしとくのは流石に怪しまれますよね。
適当に偽名を考えれば済むんだけど問題は本人はあんまり隠す気が無さそうということだ。
気に入らなかったら「ヤダ」とか言って一蹴するんでしょうねぇ。
しばらく経つと明神さんやなゆたちゃんが帰ってきた。
カザハが部屋割りの変更を提案したようで、結局宿はマル様とその手下達に明け渡したようだ。

「ガーゴイルと二人って気まずいでしょ。わざわざ馬小屋行かずにスマホに入っとけば良くない?」

《一人で馬小屋は寂しいでしょうから。それに……将を射んと欲すれば先ず馬を射よって言いますし》

「えっ、そんな普通に話せる感じなの!?」

まあ……カザハに対するガザーヴァみたいに対抗心メラメラ燃やしてるわけじゃない感じですね。
単にアウトオブ眼中なだけとも言いますけど!
運が良ければガザーヴァがいる時には言わない情報をポロっと言っちゃったりするかもしれませんし。

88カザハ ◆92JgSYOZkQ:2020/05/19(火) 23:44:46
というわけで夜になり、カケルは馬小屋に行った。
道中ではよくカケルを敷布団兼抱き枕にして外で寝てたんだけど大人しく車中泊するしかないね。

「……人口密度高っ!」

整然と並んで寝たはずなのだが、懸念していたこと(?)が起こってしまった。

「ぐふっ!」

腹を蹴られたような気がして目を覚ます。
酔っ払いの集団に絡まれている……とかそういうわけではなく、体の上にガザーヴァの脚が乗っていた。

「お前か―――――!! 物理的な意味で居場所を侵食してこないで!」

脚を跳ねのけながら飛び起きる。寝相どうなってんの!? もう一回捕獲してスマホに収納したろうか!
折角なので、皆の心労を知ってか知らずか呑気に寝ているガザーヴァの寝顔を拝む。
……現場将軍のくせにそんな顔で寝んな! もしかして魔”王”の娘だから姫将軍!? 実に怪しからん設定!
ゲームのブレモンの運営は何故に中身のグラフィックを実装しないまま死なせたのか、問い詰めたい、小一時間程問い詰めたい!

「もしかして晩御飯の時のアレ、最初から交渉を有利に進めるための揺さぶりのつもりだった?」

……こいつ、どこまで読んでいやがった!? 一見ただの騒がしいお調子者に見えて超狡賢いって設定だからな!
もしローウェル陣営にとってなゆちゃん一行がどうしても欲しい人材だったとしたら、強気に出た方が優位に立つことができる。
ローウェルが指輪を片っ端から配ってる説もあるから危険な賭けだったことには変わりはないけど!
明神さんとかなゆの話によると、ガザーヴァにとってローウェル陣営に取り込まれるのはあるまじきことらしい。
どうやら未だにバロールさんの娘兼忠臣であることはやめていないみたいだ。
明神さん(とその仲間達)に協力しているとは言っても
飽くまでも明神さん(とその仲間達)がアルフヘイム(バロール)陣営に付いてるのが前提なんだね。
いじらし過ぎるでしょそんな萌えポイント要らんよ! 等と思っている場合ではない。
それは、もしも万が一、バロールさんが悪い奴だったと分かってローウェル側に付くことになった場合は、また敵になるということを意味する。

89カザハ ◆92JgSYOZkQ:2020/05/19(火) 23:46:31
「それは嫌だよ……せっかく殺しあわなくていいようになったんだから……」

ふと、夕方から考えていた偽名を思いついた。

「ガーベラ……悪くないかも」

普通に考えれば本名と全く違う響きの方がいいのかもしれないが、全く違うととっさに呼ばれても反応できないかもしれない。
響きが似ていればそれが防げるし、逆に呼ぶ側がうっかり本名を呼んでしまってもまだ誤魔化せる可能性がある。
明神さんも(三文字)(二文字×2)大明神の構成は一緒だけどバレてないしどうにかなるっしょ。
というわけで、さっきまでジョン君と話していた明神さんに口利きをお願いする。
絶対ボクが考えたって言ったら言った瞬間に「ヤダ」って一蹴されるからね。

「寝顔が花みたいに愛らしかったから思いついたとでも言っときなよ。あ、ボクはそんなこと思ってないから!
あとボクと融合してる間も意識があったとすると本人の主観基準で計算すると合法だから大丈夫!」

ついでに謎のアドバイスをしておいた。
ちなみにこの世界での生年を基準とする単純計算で違法なのかは、
前の周回でバロールさんがいつの時点でガザーヴァを作ったのかは定かではないので何とも言えないところだ。
今回の周回で復活した時を基準にしてしまうと0歳で違法どころの騒ぎじゃなくなるのは突っ込んではいけない。

90カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/05/19(火) 23:49:38
こうして心強い仲間達(?)をメンバーに加え、旅は再開した。
狙撃手はどうせこちらからは見えない所から狙ってくるし却って的になるだけということで
哨戒担当は早々に撤廃になり、私は馬車を引くのに参加。
カザハは馬車の屋根の上を定位置とし、周囲の警戒という名目で、親衛隊がジョン君に絡みにいかないように目を光らせている。
物凄く軽いから、馬車の屋根の上にいても天井が抜けたりしないんですね。
ちなみに超軽い絡繰りは、常に浮力のようなものが働いているかららしいよ。
ガザーヴァはそれをある程度自由に調整して自力で浮かんだりも出来るみたい。
だから、カザハが「高いところから飛び降りながら手をバタバタすると滞空時間が長くなることに気付いた」とか
「空中で跳ぶ動作をすると二段ジャンプできる」とか言っていても、別に親衛隊との道中で頭がおかしくなったわけではないのだ。多分。
相変わらず明神さんはガザーヴァに絡まれ、主にカザハがジョン君の話し相手をする構図となっていた。
そして、奇跡的に(!?)大きな事件もなく約半月の道程をこなし、アイアントラスに到着しようとしていた。

「もうすぐ到着だよ〜。
人気のお土産はアイアントラス千分の一模型、名物グルメは”支店を板に吊るしてギリギリ太るカレーセット”だよ」

今しれっと変なこと言わなかった!? 攻略本にはそんなこと書いてなかった気がするから未実装ですか!?
前の周回で人型モンスターなのをいいことに私を差し置いてそんなものを食べてたんですか!?
……ってそんな名物があってたまりますか!

「おのれぇえええええ! 無職の合法ショタめ!!」

今度は前の周回の何かを思い出してしまったらしく、唐突に悶えている。

「まさかいないとは思うけど……。
もし微妙に筋肉質な子どもを見かけてもうかつに話しかけないほうがいいよ。
まあ子どもってかホビットなんだけど無職は無職でも高性能無職だから!
高性能無職という点ではカケルと一緒だね!」

うっ……元々人型ですらない馬が謎の不可抗力で人間やってたということで許して!?
いや待て、無職は無職でも“高性能”だからもしかして褒めてくれてる……!?

>「やっぱりどう考えてもおかしい」

うん、そうですよね、やっぱりおかしいですよね!

>「あの田園での襲撃自体がどう考えてもおかしいんだよ」

あ、そっちですか!

>「相手はこちらから確認できないほど遠く離れていた可能性が高い・・・
 だけどこの弾薬を使う銃じゃ姿を確認されたくないほどの距離があると結構ブレるし
 当たったとしても急所をピンポイントで撃ち抜けなかったら痛いで済んでしまうし
 こちらが魔法で無差別反撃されたら襲撃した側が逃げるのは相当難しい・・・」
>「僕達が・・・なゆが火を無視できないと、予め分かっていたとしか思えない」

「相手はなゆをよく知っている、もしくはよく知っている者から情報を仕入れている……?」

91カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/05/19(火) 23:51:17
>「それを含めても・・・この弾薬を使う銃ならどう考えても田園よりどこかの町や街で仕掛ける市街戦のほうが相性いいはずなのに・・・」

「市街戦? やっと街に着くっていうのにそんな縁起でもない……」

>「えと・・・そういえば今日街に着く予定なんだっけ?この中にずっといると時間の感覚がおかしくなってしまうよ」

>「……なんてこと……」
>「襲撃のようだな」

「ひえぇえええええ!? 言わんこっちゃない!」

奇しくもアイアントラスは襲撃されている真っ最中で、カザハは素っ頓狂な悲鳴をあげた。
更に驚くべきことに襲撃犯らしきゴブリン達は地球の現代兵器で武装していた。

「そんな……量産されてる!?」

威力そのものならこっちの世界には、ライフルより強力なスキルや魔法はたくさんあるが、
スキルや魔法は誰でも習得できるわけではないし、習得するには時間がかかる。
強力なマジックアイテムもあるが、これも量産できるわけではない。
それを考えれば、地球の現代兵器の一番恐ろしいところは、量産可能なところと言えるだろう。

>「ポヨリン!」

なゆたちゃんが反射的に街の人を助けたのはいいのだが、ゴブリン達がこちらを認識し、狙われてしまった。

>「きひッ! 鉄火場だー! おい明神、やっていいよな? やるぞ? 答えは聞いてない!
 のんびりお散歩なんて飽き飽きだ! あっばれっるぞォーッ!」

「何でそんなに楽しそうなの!? のんびりお散歩でいい……いや、のんびりお散歩がいいです!」

カザハは喚きながらも私を馬車から外す。

>「おいおい……何だよその装備!? 超カッケーマジパネー!
 ボクも欲しいなー! でもゴブリン用じゃサイズが合わないっかぁー! 残念ザンネン!」
>「おっとっとォ! ゴブリンのクセしてやるじゃん!」

ガザーヴァは小手調べのようにひとしきりゴブリン達と立ち回ると、いったん戻ってきた。
装備が特殊なだけではなく、ゴブリン自体も普通のゴブリンではないようだ。

>「明神、ヤマシタは守りに使え。攻撃はボクがやる。
 コイツら、強いぞ。おまけにバッドニュース! コイツら――
 ……もっと増える」

>「蹂躙、許すまじ!」
>「不義! 不善! 不当! それら世の安寧を脅かす不穏の徒を征することこそ、我ら継承者の本懐なり!
 ならば! ならば此なる眼前の悪逆、我が理の力にて止めるが大義と心得た!
 十二階梯の継承者、第四席『聖灰の』マルグリット――罷り通る!!」

その辺の人がこんな台詞を言ったら絶対笑ってしまうと思うんだけどマル様だと絵になってしまってるのが怖いところだ。
天才魔術師で高速格闘術の使い手って設定盛り過ぎの気もするけどマル様だから仕方がない。

92カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/05/19(火) 23:53:58
>「マル様を援護するわよ、ふたりとも!」
>「かしこまり! ライブ・スッタァートゥ! ヒィ――――ハ―――――――ッ!!」
>「待ちくたびれたッス、さて……じゃあ真打登場ッスね! 行け、アウグストゥス!」

「す、すごい……!」

カザハは早くも背景に溶け込んで驚き役になろうとしていた。

>「――モンデンキント。俺たちは連中が敵を駆逐するのを、指を銜えて見ていればいいのか?」
>「え? ぁ……、う、ううん、わたしたちも行くよ! エンバース、お願い!」
>「了解した」
>「明神さん、カザハ! 馬車を護って!
 ジョンを出さないように……攻撃はわたしたちが何とかするから!」

エンバースさんによって驚き役化計画が阻止されてしまった。

「”わたしたち”って……エンバースさんはともかくなゆは前衛は駄目だって!」

>「なっ・・・!いくらなんでもそりゃ無茶だ!どれだけの数がいるか分からないんだぞ!」

「そうだよね!? ……って出てきちゃ駄目!」

出てこようとしているジョン君を慌てて押し込むカザハ。
確かになゆたちゃんはゲームのブレモンの対戦においては滅茶苦茶強いのだろう。
比較的ゲームの戦闘に近いブレイブ同士のバトルやレイド級モンスター1体とのバトルでもそれは同様だ。
でもこれはちょっとゲームでは実装されてなさそうな乱戦だ。
最前線に行くなゆを止める間もなく、ゴブリン達がライフルで馬車を狙う。

「ひゃああああああ!? ミサイルプロテクション!!」

カザハがスペルカードを切り、飛んできた弾丸が風の防壁に阻まれて落ちた。
効果が切れるまでは弾丸は大丈夫そうだが、ゴブリン達の攻撃手段は弾丸だけではない。
徒党を組んで突撃してきてライフルで殴りかかってこようとする。

「ブラスト!」

私はカザハの指令を受けて、突風のスキルでゴブリン達を吹き飛ばす。
が、ゴブリンは大勢いるのですぐに他のゴブリン達が押し寄せてくる。
パートナーモンスターのスキルは次にゲージが溜まるまで使用出来ないのだ。

「カケル! 何ぼーっとしてんの!?」

《仕方がないじゃないですかそういうシステムなんだから!》

「ゲージ溜まるのおっそ! こっち来るなぁあああああああ!」

追い詰められたカザハは、槍を振り回してゴブリン達を追い払う。
といっても相手は妙に回避力が高い上に、現代兵器で武装しているので、当たったとしてもちょっとやそっとじゃダメージが通らない。
ダメージは通らなくても風の加護で追加効果:ノックバックが付いてるからそれなりに追い払えてるんですね。
ブレイブ自らのスキル使用等の、ゲーム上で想定されていない行動は、ゲージを消費しない。
よってこの状況においては、ブレイブ自らが多少なりとも戦えるのは、大きなアドバンテージになる。
……裏を返すと一般人の身でありながら前線に飛び込んだなゆたちゃんヤバいんじゃ!?
バタフライ・エフェクトが使えるからなんとか持っているのかもしれないが……。
しばらく持ちこたえていると、ゴブリン達が一匹また一匹と引いていく。

93カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/05/19(火) 23:55:51
《退却ですかね……?》

混戦状態から脱したカザハが、ジョン君に声をかける。

「ジョン君大丈夫? ……って脱走してるぅううううう!?」

《そんな! いつの間に!?》

ゴブリン達が前線の方に向かっているように見える。
退却などではなく、相手方が前線に戦力を集中させた、ということなのだろう。
ジョン君はそれをいちはやく察しそちらに援護に行ったというところか。
カザハは私に飛び乗った。

「行こう、明神さん!」

なゆたちゃん達が戦っている前線に辿り着いてみると、
正体不明の襲撃者がジョン君を追い詰め、ゴブリン達に命じて今まさに一斉射撃をしようとしているところだった。
おそらくコイツが襲撃の首謀者で、ゴブリン達は援護をすべく集まったということですかね……。

「バードアタック!!」

カザハのスペルカードで鳥系をはじめとする大量の飛行系モンスターが突撃し、ゴブリン達は混乱に陥った。
といっても、雑魚のゴブリンならともかくよく訓練されたゴブリン。
一時慌てふためくだけで1ターンも経たないうちに立ち直ってしまうだろうが……

「あとお願い!」

ゴブリン達は態勢を立て直す暇を与えられることはなく、明神さん達によって一掃される。

>「ありがとう・・・みんな・・・」

「脱走は勘弁してよ! なゆに怒られるじゃん!」

軽口を叩いている場合ではなかった。

>「っ!奴はまだあきらめていないぞ!」

またゴブリンの一団が出てきた。どんだけ出てくるんですか!?
襲撃者は現代兵器を装備している人間、ということはおそらくブレイブ?
ゴブリン達はターン制に縛られるパートナーモンスターのような動きではないし、そもそも数が多すぎる。
効果:ゴブリンを無尽蔵に召喚する、みたいなスペルカードでも使ってるんですかね!?
そんなのあるかどうか知らないけど!

94カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/05/19(火) 23:57:42
>「なあ・・・僕一人じゃ手に負えないみたいなんだ・・・だから・・・」

「うん、見ればわかるよ!」

>「助けてくれないか・・・?」

「うんうん……ん? やっと観念したか……!」

思わずジョン君の顔を二度見するカザハ。
あの頑なに見捨ててくれと言っていたジョン君がついに助けてくれと言ったのだから無理はない。
聞くところによると、襲撃者はなゆたちゃんを狙ってきたらしい。
単に一般人だから狙いやすいと思ったのか、何らかの理由でなゆたちゃんを狙っているのかは分からない。
が、首謀者自らが出てきてくれたのは好都合といえる。
かくれたままゴブリンを出し続けられたらジリ貧になっていたところだ。
で、襲撃者がブレイブと仮定すると、どんなに強くても本人自体は”超強い人間”が上限ということになる。
ジョン君はその超強い人間に対してつい習慣で真面目に正統派の格闘で戦ったのでは!?
と、カザハが、蹴散らされたゴブリンが落としたライフルをおもむろに拾い上げ、襲撃者に向ける。

「動くなーっ!」

《ひえぇえええええ!?》

襲撃者は武器のナイフをジョン君に刺したまま手放したと思われ、
見た感じは今のところ武器を持ってなさそうだが、どこに暗器を隠し持っているか分からない。

《そもそもライフルの撃ち方なんて分かるんですか!?》

(分からない!!)

《ですよねー!》

明神さん、地味に相手を行動不能に陥れる嫌がらせ系スペルカードたくさん持ってましたもんね。(工業油脂被害者は語る)
ああいうのって巨大なレイド級モンスターには意味がなくても地球人には効果てきめんだと思う。
それにしても構え方超適当だしあからさまに陽動ってバレバレ過ぎじゃないですか!?
もしや裏の裏をかいて見るからに陽動っぽいから逆にガチと思わせる高度な作戦ですか? いや絶対違う!

95明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/25(月) 06:56:28
電撃的なマルグリット一行との邂逅から半月。
当初危惧されていた親衛隊とのギスギスや諍いは勃発することなく、
俺たちは予定通りの道程を踏むことができた。

親衛隊に身バレしないようガザーヴァに偽名を提案すれば、案の定ゴネにゴネまくって、
なだめすかすのに丸一日費やしたりもしたが、今では良い思い出です。

>「やっぱりどう考えてもおかしい」

道中、相変わらずガタゴト揺れる馬車の中で、ジョンが不意に呟いた。
手慰みのように掌を転がるのは、半月前に俺たちに撃ち込まれたライフル弾。
あれからずっと、こいつは弾の出どころについて考察を重ねていたらしい。

>「あの田園での襲撃自体がどう考えてもおかしいんだよ」

「襲撃"自体"が?どういうことだよ、説明」

>「相手はこちらから確認できないほど遠く離れていた可能性が高い・・・
 だけどこの弾薬を使う銃じゃ姿を確認されたくないほどの距離があると結構ブレるし
 当たったとしても急所をピンポイントで撃ち抜けなかったら痛いで済んでしまうし
 こちらが魔法で無差別反撃されたら襲撃した側が逃げるのは相当難しい・・・」

「弾そのものが狙撃向きじゃねえってことか……まぁ確かに、明らかちっせえもんなこれ」

ジョン曰く、撃ち込まれた弾の口径は5.56ミリらしい。
俺はミリオタじゃねえからよく分かんねえけど、実弾系のシューティングゲームは多少齧ってる。
確かに5.56ミリってのは、アサルトライフルみたいにそこそこ近距離でばら撒いて弾幕張るための弾種だ。
小口径だから低反動で、マガジンにたくさん弾が入って、たくさん撃てる。そういう銃だ。

いわゆる狙撃用途、スナイパーライフルに使われる弾はもっとでかい。
弾が軽ければ軽いほど風の影響を受けやすいから、長距離狙うなら普通はもっと大口径弾を使う。
狙撃なら反動も装填数の少なさも大して問題にはならないからな。

「実際それで外してるわけだしな。畑燃やして足止めできりゃ、あとは数撃ちゃ当たる戦法だったのか?」

多少命中精度が下がっても、動きを止めて一斉掃射で撃ちまくればいつかは当たる。
そういう運用方法なら、小口径弾を使うことにも合理性はあるっちゃある。
この世界じゃ貴重な弾薬を、湯水のようにじゃかじゃか注ぎ込める物量が前提の話だけど。

>「それを含めても・・・この弾薬を使う銃ならどう考えても田園より
  どこかの町や街で仕掛ける市街戦のほうが相性いいはずなのに・・・」

「ってことは、どうしてもあの場で撃っておきたい理由があった。
 俺たちをアイアントラスに向かわせたくなかったか、もしくは――」

――マルグリットと、出会わせないため?
あそこで親衛隊連中が助けに来なけりゃ、俺たちは畑のど真ん中で全滅していた。
マルグリットの登場が狙撃手にとってイレギュラーなら、一応の道理は通る。
狙撃手がニブルヘイム側なら、マル公によるブレイブの引き抜きを阻止したいはずだしな。

一方で、マルグリットが助けに入ることも目論見通りって可能性もある。
やっぱりマル様御一行と狙撃手がグルで、マッチポンプに変わりはなかったってことも十分あり得るのだ。

「わっかんねえなぁー!銃持ってますよアピールしてえなら直接見せびらかしにこいってんだよ。
 俺めっちゃ歓迎するのに!写真撮らせてもらうのに!」

姿も見えなけりゃ、思惑も、所属すらも分からない。
ただでさえマル公相手に権謀術数やってんのに、まだまだ知らねえ奴が俺たちを狙ってやがる。
これもうわかんねえな!事情通が都合よく出てきて全部解説してくんねえかなあ!

96明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/25(月) 06:57:51
>「えと・・・そういえば今日街に着く予定なんだっけ?この中にずっといると時間の感覚がおかしくなってしまうよ」

頭をボリボリ掻きむしっていると、不意に馬車のガタガタが収まった。
舗装された道に出たのだ。
幌を開けて見ると、ところどころ錆の浮いた鉄の道があった。

――橋梁都市アイアントラス。
アルメリアと隣国フェルゼンとを隔てる峡谷を跨ぐ巨大な鉄橋の上に築かれた街だ。
陸側の国境でもあるこの街では、両国の貿易が盛んに行われている。

「ついに着たか……一面麦畑にもそろそろ飽きてきたとこだったぜ。
 ここって何が有名なんだっけ?カレー?いいねえトンカツ乗っけて食おうぜ」

俺たちプレイヤーにとっても「パワー系無職」ことロスタラガムと出会い、ぶん殴り、ぶん殴られる、
色々と思い出深い土地だ。
峡谷を見下ろす眺めも結構よくて、両国からのアクセスも良いことからここに家を建てたがる奴も多い。
レベリングやら金策やら、こっちの国でやることも結構多いしな。

さて、峻険な山国であるフェルゼン公国は、穀物の国内消費の殆どをアルメリアからの輸入に頼ってる。
デリンドブルクからの直送経路であるこの街は、フェルゼンの胃袋を掴む台所だ。
そして、辺境の小国に過ぎないフェルゼンが大国アルメリアと(経済的には)対等に渡り合うための貿易地。

その、ふたつの国にとって欠かすことのできない交流の要衝が――

>「……なんてこと……」

炎上していた。
軒を連ねる商店群からは黒い煙がもうもうと上がり、怯えふためく人々の声が聞こえてくる。

「ああああ!?行くとこ行くとこなんでいっつも燃えてんだよ!?」

街が燃えている。ところどころに血を流した人が倒れてる。
阿鼻叫喚の地獄絵図、その理由を端的に表すなら一言で済むだろう。

>「襲撃のようだな」

「見りゃ分かるよ!馬車止めろ、助けに行くぞ!」

襲撃。その言葉通りに、そこには襲撃者たちの姿があった。
そして音も。地球じゃまず耳にすることのない、だけどゲームじゃよく聞く――銃声。
ジョンが馬車で漏らした言葉が、脳裏をかすめていった。

――>『この弾薬を使う銃ならどう考えても田園よりどこかの町や街で仕掛ける市街戦のほうが相性いいはずなのに』

「クソみてえな予感が的中だ。"相性が良い"……こっちが奴らの本命か!」

馬車から飛び出せば、10匹ほどのゴブリンが街を蹂躙する姿に直面する。
……それがゴブリンだと、認識するのに時間がかかった。
ゴブリン達がみな一様に、『現代兵器で武装していた』からだ。

黒尽くめのボディスーツ、ヘルメット、ゴーグル、手袋にブーツ。
そして何よりその手にあるのは――小銃。

「イチロク……マジかよ、ゴルゴが持ってる奴じゃん」

『M16』自動小銃。今でもアメリカ軍がバリバリ現役で採用しているアサルトライフルだ。
実銃の出るFPSゲーならまず出演してる、AK47と並んでたぶん世界で一番有名な銃。
60年も前から配備されてる癖に、その完成度の高さで装備更新を跳ね除け続けた傑作中の傑作――

97明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/25(月) 06:58:52
「冗談じゃねえぞ……量産体制が整っちまってんじゃねえか」

その地球原産の殺戮兵器を、見える範囲のゴブリン共は全員が装備していた。
タタンタタンと玩具じみたリズミカルな三点射とともにマズルに閃光が灯る。
そして、銃声の数だけ悲鳴が上がり、撃たれた住民がふっ飛ばされて動かなくなる。

「なんだよこれ……」

アイアントラスを象徴する鉄で出来た地面は、流れ出た血で赤く染まる。
駐屯兵の剣も槍もライフルの射程には届かず、弓を番えている間に撃ち抜かれる。
分間900発の発射レートの前に魔法の詠唱は間に合わず、スクラムを組む軍隊の戦列は良い的だ。
事切れた兵士の絶望に染まった目が、俺の方を見た気がした。

あの鎧がアルメリアとフェルゼンどっちのものなのか、ぐちゃぐちゃに拉げた今はもう分からない。
槍の一撃を跳ね返せる板金甲冑だって、至近距離でライフルを受ければ紙切れ同然だ。

誰もが憧れる剣と魔法の世界が――鉛と火薬で蹂躙されている。
銃火器とアーマーに身を固めた、ゴブリン達によって。

「ふざっっっけんなぁぁぁーーーっ!!」

俺の叫びは、やっぱり銃声と悲鳴にかき消された。
なゆたちゃんがポヨリンさんを召喚し、吶喊させる。
街の住人を虐げていたゴブリン小隊の注意がこちらに向いた。
一秒に一人殺せる殺戮の銃口が、俺たちを捉える。

「…………っ!上等だ、撃ってみやがれクソったれ」

正直言って、怖い。
あの引き金がほんの数センチ引き絞られれば俺は死ぬ。
銃で撃たれたことなんかないけど、銃で撃たれた人間が死ぬことを俺は知ってる。
たった今、目の前で実証済みだ。

だけど、逃げる気にはならなかった。
逃げれば街の住人が殺され続けるとか、そういうヒューマニズムに酔ったわけじゃない。

ただ――気に入らなかった。
この世界に銃火器持ち込んでイキり散らしてるクソ野郎が、クソほど腹立たしかった。
異世界人相手に現代兵器で無双気取ってんじゃねえぞライフル太郎が。
俺はお前に勝つ。この世界の、ブレイブなりのやり方で。

>「きひッ! 鉄火場だー! おい明神、やっていいよな? やるぞ? 答えは聞いてない!
 のんびりお散歩なんて飽き飽きだ! あっばれっるぞォーッ!」

「水臭えこと言うなよガー公!俺も奴らが気に入らねえ、ぶっ潰してやろうぜ。
 サモン!――出てこい、ヤマシタ!」

スマホが輝き、光の中から革鎧が出現する。
貧相な鎧姿を覆うように、ショッキングピンクのサーコートがはためく。
アコライトでオタク殿から譲り受けた法被を改造してヤマシタに取り付けておいた。

ピンクの法被はオタク殿たちの絆の象徴であり、そこには彼らの愛と熱情、魂が籠もっている。
『鎧に憑依した魂』が本体であるリビングレザーアーマーにとって、それは確かな力として宿る。

「怨身換装――モード・『盾』」

地に降り立ったヤマシタは、身を覆えるほどの巨大な盾を構えていた。
本来革鎧の装備対象ではない騎士のスキルを、法被に籠もった力で強引に扱う。
バルゴスとの交渉をはじめ、これまでの旅で俺が身につけてきた死霊弄りの技術。その一端だ。

98明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/25(月) 06:59:39
ガザーヴァが突撃すると同時、ゴブリン共の銃口が一斉に閃く。
俺を狙った弾丸が無数に飛来し、ヤマシタの掲げた大盾がそれを阻んだ。
耳障りな金属音とともに火花が盾越しにちらつく。

対象を狙った攻撃を自動でかばい、防御する騎士のスキル、『かばう』。
小銃の掃射は一発たりとも俺のもとへ届かなかった。
だが――

「ひええ……鉄板入ってんだぞこの盾」

盾は貫通こそしないものの、ベコベコに凹んでいた。
『銃弾』という武器の恐るべき威力が否が応でも脳みそにこびりつく。
こんなもんが人体に当たればどういう惨状を引き起こすか、想像してしまう。

>「明神、ヤマシタは守りに使え。攻撃はボクがやる。
 コイツら、強いぞ。おまけにバッドニュース! コイツら――
 ……もっと増える」

「おいおいおいおい。いよいよゴブリンじみてきやがった……!」

ゴブリンはブレモンにおいても強いモンスターではない。
むしろ一山いくらで経験値になる雑魚キャラだ。数ばかり多い量産型。
だがその『一山いくら』が――全員武装しているとしたら。

悪寒はすぐに現実になった。
そこかしこの物陰から顔を出すゴブリンゴブリンゴブリン――
都合50を数えるゴブリンの集団が、やっぱりガチ装備で現れた。

「どうなってやがる。どっかの軍人ブレイブが武器庫ごと転移してきたのか?
 どいつもこいつも当たり前みてえにゴツい銃引っさげやがって……」

援軍の登場に、戦況は悪化の一途を辿っていた。
ただでさえ即死級の攻撃撃ってきやがるゴブリンが50匹。
どこからでも死角をとれる。今すぐ一斉射撃されればそれでゲームオーバーだ。

>「不義! 不善! 不当! それら世の安寧を脅かす不穏の徒を征することこそ、我ら継承者の本懐なり!
 ならば! ならば此なる眼前の悪逆、我が理の力にて止めるが大義と心得た!
 十二階梯の継承者、第四席『聖灰の』マルグリット――罷り通る!!」

絶望がじわじわと迫ってきたその時、マルグリットが口上を上げながら集団へ吶喊した。
真っ白なローブが地面を擦る暇もなく、嵐の如き蹴撃がゴブリンたちをなぎ倒す。

「あの魔術師……物理で殴ってやがる……」

そうだった。マル公は魔法も強いが近接もイケる。
突如飛び込んできたイケメンにゴブリン共はあからさまに戸惑い、同士討ちを恐れて引き金を引けない。
銃撃を封じるには敵の懐へ飛び込め――マルグリットの立ち回りは、一つの真理を体現していた。

>「マル様を援護するわよ、ふたりとも!」
>「かしこまり! ライブ・スッタァートゥ! ヒィ――――ハ―――――――ッ!!」
>「待ちくたびれたッス、さて……じゃあ真打登場ッスね! 行け、アウグストゥス!」

親衛隊の連中もあとに続き、各々がパートナーを召喚する。
スライムヴァシレウスがゴブリン共を押し潰し、アニヒレーターが音響範囲攻撃をぶっ放す。
ミスリルメイデンの群体が銃弾をものともせずに鏖殺する。
銃持ったゴブリンなんざものの数にも入らないとばかりに敵の集団を蹂躙していった。

99明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/25(月) 07:00:36
好転した、のか?
十二階梯と親衛隊のチームなら、武装ゴブリン相手にもそうそう負けることはないだろう。
あの数も範囲攻撃撃ちまくれるなら有利をとれる。
それなら俺たちがすべきは――

>「明神さん、カザハ! 馬車を護って!
 ジョンを出さないように……攻撃はわたしたちが何とかするから!」

――ジョンの保護だ。
この惨状がブラッドラストのトリガーにならないとも限らない。

「わかった!無理はすんなよ、普通のバトルとは違うんだからよ!」

俺たちブレイブはこの世界の強者と比べても遜色ない戦闘能力を持つが、
それはあくまでスマホとゲームシステムに保証された強さだ。
具体的には、ATBゲージが溜まらなけりゃブレイブとして行動することは出来ない。

そして、通常の戦闘とこの襲撃が異なるのは『戦いのテンポ』だ。
こっちが悠長にターンを待ってる間に、奴らはマガジンが空になるまで銃を撃てる。
銃を使った戦いは進展が早すぎて、ターン制バトルの速度とまるで噛み合わない。

ATBに縛られない行動がブレイブにとって弱点となるのは、王都の決闘で嫌ってほど身にしみた。
エンバースとかいうATB絶対削るマンのおかげでなぁ!

「ヤマシタ、俺と馬車をずっとかばってろ。迎撃は俺たちでやる!」

掌に魔力を集め、意志の力で操作する。
つくる形は、一本の糸。そしてその両端に錘。
行きがけの馬車でジョンに見せたヨーヨーに似た形状だ。

「行くぜ俺のオリジナル魔法、『スパイダーベイビー』!」

形成した魔力を思いっきり振り回し、遠心力をつけてゴブリン目掛けて放った。
紐の両端に錘がついたその形状は、古典的な猟具『ボーラ』。
相手の足にぶつかれば錘の慣性でぐるぐる絡みついて動きを封じる代物だ。

うなりをつけて飛んだボーラはゴブリンの一匹へ迫り、当然ながら軽く躱される。
だがこの魔法の下敷きになってるのは闇属性初級の『呪霊弾(カースバレット)』だ。
呪霊は生者の魂を求めて彷徨い、喰らいつく。
避けられたボーラは不自然に軌道を変え、ホーミングしてゴブリンに着弾した。

魔力の糸で縛りつけられ、ゴブリンは身動きが取れずひっくり返る。
……よし!魔法の応用は実戦でも通じる。
威力が足りなくても敵の動きを封じることはできる。やっててよかったバロール塾!

接近してきたゴブリンはカザハ君がノックバックさせ、俺が一匹一匹縛って無力化する。
どうにもならなくなったらガザーヴァが全体攻撃でぶっ飛ばす。
このコンボでどうにか馬車に迫りくるゴブリンの群れを押し止めることに成功した。

「行ける、行けるぞ!カザハ君もっと風ぶん回せ!奴らを全部ふん縛ってやろうぜ――」

――その時、つかの間の成功体験に、俺の目は完全に曇っていた。
前線に立ったなゆたちゃんが、無理を押してまで戦い続け、消耗を重ねていたことに気づけなかった。
憔悴した彼女のもとへ、肉迫する殺意の籠もった黒い影を、見逃していた。

>「なゆ!!!」

瞬間、馬車が爆発したかと思った。
幌を跳ね除けて飛び出したジョンの姿は、さながら砲弾のようにも、獣のようにも見えた。

100明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/25(月) 07:01:19
「はぁっ!?お前何やってんだ!どこ行くんだよ!!」

ジョンは答えない。振り返りもしない。
突如として起きたジョンの変化に、俺はしばらく理解が追いつかなかった。

>「行こう、明神さん!」

カザハ君に声をかけられて、ようやく本来の目的を思い出す。
やべえ。あいつ何しに飛び出した?エフェクトは見えなかったがスキルが暴発したのか?

急ぎ追いかけた先では、ジョンと黒い人影が大立ち回りをしている最中だった。
人影は装備こそゴブリン共のものと同じだが、体格がまるで違う。
俺より一回りはでかい大男――男なのかどうかすら、ヘルメットに隠れて伺い知れない。

「ゴブリンじゃねえ……ありゃ人間か?ってことはあいつが銃持ち込んだブレイブ……!」

ジョンと襲撃者が演じた格闘戦は、俺の理解を軽く超えていた。
襲撃者の得物はナイフ。対するジョンは丸腰。
その不利をまるで意に介さないみたいに、ジョンは拳を振るう。

突き出されたナイフを捌き、膝蹴りから流れるようにショートパンチの連打。
相手の振り払う力を利用して投げ飛ばし、追撃のサッカーボールキック。
常人が受ければ首の骨が折れて即死だろう。

「え、エグい……。これがあいつの本気か……」

でけえ剣持ってドラゴンの首ぶった切ったり部長投げるイメージばかり先行してたけど、
ジョン・アデルはもともと対人戦闘のプロだ。
鍛え込まれた四肢に、習得した格闘術が噛み合えば、素手でも余裕で人間を殺せる。
親衛隊やマル公を殺しちまうってのは、フカシでもなんでもなかった。

だが敵もさる者、抜け目なくジョンの足にナイフを突き立てて殺傷圏を離脱する。
何をする気か――不意に襲撃者は距離をとり、手を空へ掲げた。
どこに隠れてたのかゴブリン共が一斉に家々の屋根から顔を出し、銃を構える。

「始めっからこれが狙いか!やべえぞジョン――!」

瞬間、襲撃者の背後に回った部長が体当たりし、巨体がジョンの方へとまろび出る。
ジョンは襲撃者の体を遮蔽物にして、ゴブリンからの一斉射撃を防ぎきった。

「終わった……のか?」

恐ろしく高度な戦術同士の激突だった。
襲撃者は格闘戦での不利を悟るや否や、配下のゴブリンを高所に配置し、一斉射撃を仕掛けた。
ジョンは予め忍ばせておいた部長を使って、襲撃者自身を盾にすることで攻撃と防御を両立させた。
いずれも『銃』という要素を深く理解していなければなし得ない戦い方だ。

……これが軍人同士の戦い。
そして俺たちは、こういう連中も相手にこれから戦っていかなきゃならない。

そして同時に気付いた。
ジョンが盾にした襲撃者は、一斉射撃に晒されたにも関わらず血を流していない。
奴はまだ生きてる。ゴブリン共の脅威も未だ健在なままだ。

防弾アーマーに強化魔法を重ねがけでもすりゃ、5.56ミリ程度なら耐えられるだろう。
だからこそ奴は自分を巻き込むような一斉射撃をゴブリンに指示できた。

つまりあの襲撃者は同士討ちを恐れない。
一方向からの斉射でジョンを殺せなかったと悟れば、次に打つべき手は――

101明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/25(月) 07:02:14
「上だカザハ君!次は全方位から撃ってくるぞ!」

――遮蔽のしようのない、360°ぐるっと囲んで一斉射撃。
その仮説を立証するように、俺たちを囲んで位置取りするゴブリンの動きが見えた。

>「バードアタック!!」

こういう時即断即決で動けるカザハ君は本当に頼りになる。
召喚された鳥が屋根上のゴブリン共を飲み込み、はたき落としていく。

「『濃縮荷重(テトラグラビトン)』――プレイ!」

ゴブリンによる包囲網を覆うように荷重2倍の領域が発生する。
アサルトライフルはマガジンからバネの力で薬室に弾丸を送り込んでいる。
そしてそのバネは、『弾丸の重量が急に2倍になった』時のことを想定して設計されていない。

通常よりも重い弾丸をマガジンは十分に持ち上げられず、装填されるはずだった弾丸は中途半端なところで止まる。
その状態で撃鉄が弾丸のケツを叩けば――

俺たちの周りで今まさに引き金を引いたゴブリン達の銃が、一斉に爆発した。
――ライフルが給弾不良(ジャム)って、暴発したのだ。
弾丸を飛翔させる爆発力はそのまま銃手へ牙を向き、砕けた銃の破片が刺さってゴブリンがのたうち回る。

銃はデリケートな精密機器だ。
火薬の力を逃さないように隙間なく設計されてるから、ちょっとした砂埃やゴミが入り込むだけでも簡単に不良を起こす。
いわんや、ここにあるのは砂でも埃でもなく……魔法だ。

「剣と魔法の世界をナメ腐ってんじゃねえぞ」

ジョンとなゆたちゃんを包囲していたゴブリン達はこれで沈黙した。
残るは襲撃者ただ一人……でもねえな。まだまだ後詰のゴブリンどもがワラワラ湧いてきやがる。

102明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/25(月) 07:02:58
>「なあ・・・僕一人じゃ手に負えないみたいなんだ・・・だから・・・」

襲撃者から目を離さずに、ジョンは呟く。
久しぶりに、こいつの声を聞いた気がした。

>「助けてくれないか・・・?」

「くひっ。言えたじゃねえか」

思わず笑いが溢れた。
救いようのないロクデナシだと、自分をそう呼んだジョンが。
俺たちに迷惑をかけまいと、自罰的な振る舞いを続けてきた男が。
ようやく……その言葉で、俺たちに助けを求めた。

「そいつが聞けただけでも、この旅には価値があったな。なゆたちゃん」

大親友から助けてって言われたんだ。
だったらやることはひとつしかねえよな。

「任せとけよ親友!今も、これからも!ちゃあんと助けてやっからよ!」

>「動くなーっ!」

「ヌルいぜカザハ君!動いてほしくない時はなぁーーー。
 動けなくしてやんだよ!こーやってなぁっ!」

スマホを手繰り、『工業油脂』の雨を降らせる。襲撃者の全身を油が染め上げる。
これも一時凌ぎにしかならないだろう。服脱げばいいだけだもんな。

それでも、ボディースーツを脱げば防御力が落ちる。
さっきみたいな被弾上等の立ち回りは出来なくなるはずだ。
ついでに――クソイキリライフル野郎の素顔も、ようやく拝める。

「ゴブリン共は俺たちで抑えとく。そこのデカブツの相手は――ジョン、『頼んだ』」


【ゴブリンのライフルを暴発させ、無力化。襲撃者に油をぶっかける】

103崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 19:42:21
半月に渡るデリントブルグ横断の道のりは、襲撃のない至極平和なものだった。
ジョンのブラッドラストの発作も出ず、マルグリットおよびその親衛隊とパーティーが諍いを起こすこともなかった。
そう、平和。平和であったのだ。
だが――それだけに。それゆえに。
なゆたはいつしか警戒と緊張を忘れ、咄嗟の戦闘に対処することができなくなってしまっていた。

「はぁ、はぁ……ッく、ふ……は……!」

懸命に唾液で喉を濡らし、スペルを手繰ろうとしたが、巧くいかない。
スライムマスターと呼ばれ、ブレモンのトップランカーの一人に数えられるとはいえ、それはあくまでゲームの世界。
崇月院なゆたという人間は何の変哲もないただの一般市民に過ぎない。
幼馴染の道場で剣道をかじっていたり、クラスメイトよりも高い身体能力を持っているというのも、民間レベルでのこと。
FPSでもあるまいに、実際の戦場で戦った経験などあろうはずもない。
どこからライフルの銃弾が飛んでくるか分からない、そんな極限状態の中で、なゆたの心身は急激に疲弊していった。

ちゅんっ!

なゆたの右頬ぎりぎりを、ライフルの銃弾が掠めてゆく。
一発でも受ければ、そこでジ・エンドだ。なゆたの額をいやな汗が伝う。
ポヨリンはやや離れたところでATBが溜まるのを待っている。
この世界がブレイブ&モンスターズである限り、ゲーム内のルールは絶対だ。
パートナーモンスターはATBゲージが溜まらない限り行動できない。
一方で、武装したゴブリンたちは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』のATBゲージなどお構いなしに攻撃してくる。
それは彼らゴブリンの軍勢が何者かのパートナーモンスターではない、独立した敵だということを示していた。

「か、は……」

ついに、息切れしたなゆたはその場に片膝をついた。
そして――その眼前に疾風のように漆黒の襲撃者が現れる。
タクティカルスーツにボディアーマー、ヘルメット。
無機質な強化アクリルゴーグル越しの眼差しが、なゆたの急所を捉える。
ゴブリンとは比較にならない大柄な体躯の割に、小柄な亜人たちよりもずっとずっと速い。
なゆたは反応できない。反応しようとしても、極度の疲労によって身体が動かないのだ。

「ッ―――!!」

襲撃者が逆手に持った大振りのコンバットナイフを振りかぶる。
なゆたは強く目を瞑った。

「ち……! モンデンキント!」

エンバースが救援に駆け付けようとするも、遠い。しかもゴブリンたちがそうはさせまいとエンバースに集中砲火を浴びせる。
ポヨリンはATBが溜まっておらず、ガザーヴァも一足になゆたへ近付くには距離がありすぎる。
突然の急襲によるなゆたの暗殺を阻む者は誰もいない――と思われた、が。

>させるかああああああ!

馬車から猛然と飛び出したジョンが、横合いから襲撃者に強烈な蹴りを喰らわせたのだ。
襲撃者は大きく吹き飛ばされた。

「……ジ……、ジョン……?」

>無事かい!?どこも怪我してない!?

ジョンが怪我がないかどうかを確認してくる。ジョンの身体に掴まり、なゆたはふらふらと立ち上がった。

「だ……、だいじょう、ぶ……。なんとか、生きてる……ょ……」

くらくらする意識を何とか奮い立たせ、やっとのことでそれだけ言う。しかし、このままでは戦闘継続は難しそうだ。

>本当によかった・・・頼むから僕の為に無茶しないでくれ・・・本当に・・・よかった

「ん……ゴメン、心配かけて……」

ジョンのことを守るはずが、逆に助けられてしまった。
リーダーの差配としては落第であろう。慙愧の念に堪えず、なゆたは軽く俯いた。

104崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 19:45:18
>今のは手加減なしの全力蹴りだったから・・・最悪殺してしまったかと思ったけど・・・その心配はないみたいだね

ジョンと襲撃者が睨み合う。
喰らえば肋骨の何本かも折れるかという勢いの蹴りをまともに浴びたにも拘らず、襲撃者は何事もなかったように立っている。
恐らく蹴られる瞬間に自ら蹴られる方向に跳躍し、威力を殺したのだろう。むろんガードと受け身も忘れない。
瞬間的にそこまでの判断ができるとは、並の手合いではない。
襲撃者は緩く身構えた。ほんの僅かに体勢を前傾にし、逆手に持ったナイフを軽く掲げていつでも襲い掛かれる様子だ。
蹴りへの対処といい、その身ごなしは素人とは思えない。明らかに実戦慣れしている、戦闘のプロの姿だった。

>僕になゆとの約束を破らせてた責任・・・取ってもらおうか

刃物を向けられているというのに、丸腰のジョンは怯むこともなく襲撃者と対峙している。
なゆたを庇うようにその前に立ちながら、ジョンはなゆたに退避を勧告する。

>なゆ・・・隠れていてくれ・・・僕がやる
>対モンスターが君の本業なら・・・対人間は僕の本業だ

「……うん……でも無理だけはしないで、ジョン……」

危ないから下がって、と言いたいのは自分も同様だったが、今の自分は息の上がった完全なお荷物だ。
忸怩たる思いだが、ここはジョンに任せるしかない。なゆたは大人しく後方に下がった。
そして崩れた荷車の影に身を隠すと、震える手で『高回復(ハイヒーリング)』のスペルカードをタップする。
癒しの淡い輝きがなゆたを包み、瞬く間に重度の疲労が回復してゆく。
同時に、ポヨリンもなゆたに合流してくる。心配げな面持ちのポヨリンを抱き締めると、なゆたはほっと安堵の息をついた。

>降参しろ。抵抗する場合は足や手の一本二本・・・もしくは命の保障はできないぞ

ジョンが降伏勧告するが、聞き入れる相手ではない。ジョンと襲撃者の戦いが、目の前で繰り広げられる。
襲撃者の体捌きは凄まじいの一言だが、しかしジョンはそんな襲撃者にも一歩も引かず互角以上に渡り合っている。
いや、どちらかというとジョンの方が優勢か。
しかも、ジョンはまだブラッドラストを使ってはいない。血のような靄のエフェクトが彼を覆っていないのがその証拠だ。
とはいえ油断はできない。熾烈な戦いのうちに、いつブラッドラストのスイッチが入ってしまったとしてもおかしくない。

>・・・っ!!

ジョンの右膝に、襲撃者のナイフが深々と突き立つ。その右膝がみるみる濃い赤色に染まってゆく。
回復のスペルカードを使用しようと、なゆたは荷車の影から身を乗り出しかけた。

「ジ……」

>なゆ!手をだすな!そのまま隠れてろ!

すぐに、ジョンの怒声が返ってくる。
姿を現さなければ、ジョンにスペルカードを使うことはできない。
しかし荷車の影から出れば襲撃者は動きの鈍いなゆたを狙うだろう。みすみす敵の手に落ち、ジョンを不利にすることはできない。
不承不承、なゆたは身を屈めた。
その後もジョンと襲撃者の戦いは続く。
ジョンがゴブリンたちからの一斉掃射を襲撃者の身体を盾にしてやり過ごすのを見計らい、
なゆたはジョンと共に崩れた露店の影に移動した。

>ごめんなゆ・・・殺さなければ・・・僕が殺されていた・・・

「…………」

なゆたには何も言えなかった。
とても不殺を貫け殺すなと言える状況ではないが、といってやむを得なかったとも言えない。
だが、ジョンの予想に反して襲撃者は死んではいなかった。
それどころかぴんぴんしている。襲撃者は軽く両手を挙げた。一斉掃射のハンドサインだ。

>なゆ・・・!君だけでも逃げろ!

「そんなこと、できるわけ……!」

ジョンを見捨てて自分だけ逃げるなんて、出来るわけがない。
それが出来ないから、やりたくないからこそ、なゆたは今まで再三のジョンの見捨ててくれという要請を却下してきた。
今になって命を惜しみ主張を翻しては、何もかもが無駄になる。
といってアサルトライフルで武装したゴブリンたちに包囲された今、この窮地を凌げる方法はない。
絶体絶命――そう言うしかない状況。
だが、ジョンとなゆたはただふたりきりではなかった。

105崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 19:46:57
>バードアタック!!
>『濃縮荷重(テトラグラビトン)』――プレイ!

「カザハ! 明神さん!」

カザハの召喚した鳥の群れが、そして明神のスペルカードがジョンとなゆたを包囲したゴブリンたちを駆逐してゆく。
包囲網は崩れ、周囲には首魁とおぼしき襲撃者だけが残された。
尤も、それで完全に戦況が覆ったわけではない。いったいどれほど、というほどゴブリンは次から次へと湧き出してくる。

>剣と魔法の世界をナメ腐ってんじゃねえぞ

「そーだそーだ! そんなカッケー武器持ってたって、ボクと明神に勝てるワケねーってんだこんにゃろー!」

現代兵器の弱点を逆手に取った明神の隣で、ふんすふんす! とガザーヴァが鼻息荒く言い放つ。
襲撃者の背後にゴブリン・アーミーが展開する。だが、まだ攻撃はしない。
銃口をジョンたちに向けたまま、整然と隊伍を組んでいる。
そんな敵の軍勢を見据えながら、ジョンがゆっくりと口を開く。

>なあ・・・僕一人じゃ手に負えないみたいなんだ・・・だから・・
>助けてくれないか・・・?

「……ジョン……!」

ジョンの隣に佇んでいたなゆたは、その言葉を聞いて顔を見上げた。
今まで、ずっと自分は殺人者だと。パーティーの仲間に値しない者だと。見捨ててくれと再三言っていたジョン。
そのジョンが、やっと救いの手を求めてくれた。こちらが伸ばしていた手を取ってくれた。
ずっとずっと聞きたかった言葉に、胸が熱くなる。
そして、それはカザハや明神も同様だった。

>うんうん……ん? やっと観念したか……!
>くひっ。言えたじゃねえか

「雑魚狩りは趣味じゃないが、あんたの頼みなら仕方ない。今回の見せ場は譲っておこう」

エンバースもいつもの調子で返す。

>そいつが聞けただけでも、この旅には価値があったな。なゆたちゃん

「……うん……! さあ、ここから逆転よ! わたしたち全員で……この戦いに勝つ!」

誰かひとりが頑張るのではなく。誰かが守られてばかりなのではなく。
この場にいる全員で、この理不尽な死と破壊を齎すニヴルヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を倒す。
なゆたは腰のレイピアを抜き放ってゴブリンたちに突きつけた。

>動くなーっ!

同時にカザハがライフルを拾い上げ、襲撃者に狙いを定める。
襲撃者は全く動じない。そもそも、部下のゴブリンの一斉掃射を受けても平然としているのだ。
カザハに撃たれたとしても大したダメージはないということだろうか。

>ヌルいぜカザハ君!動いてほしくない時はなぁ―――。
 動けなくしてやんだよ!こーやってなぁっ!

ライフルが脅しにならないと分かった瞬間、間髪入れず明神が『工業油脂(クラフターズワックス)』を発動させる。
粘性の強い油が襲撃者に降り注ぐ。たちまち襲撃者は油に汚染された。
しかし、それでも襲撃者は動じる気配を見せない。
と、そのとき。

「あ―――――――っ!!!」

ジョンたちの背後で声がした。
市街地に散開していたゴブリンたちをあらかた片付けたマルグリットと親衛隊がこちらを見ている。
その中で、きなこもち大佐が襲撃者に対して右手の人差し指を突き出し、驚きの表情を浮かべていた。

「あいつ……どうしてここに」

「ちぃ〜ッ、よりによってメンドくさいのが……!」

さっぴょんが苦い表情を浮かべ、シェケナベイベが忌々しげに歯噛みする。
きなこもち大佐、さっぴょん、シェケナベイベの三人は元々ニヴルヘイムに召喚された『異邦の魔物使い(ブレイブ)』である。
ならば、当然襲撃者とも面識がある、ということなのだろう。

106崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 19:48:48
そして。

「……助けてくれ、だと」

アルフヘイムとニヴルヘイム、そして十二階梯の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が一堂に会した場で、襲撃者が口を開いた。
低く冷たい男の声。明神もカザハも、もちろんなゆたも、その声を聞いたことはない。
だが――

ジョンは。聞いたことがあるだろう。

襲撃者はヘルメットに両手をかけると、一息にそれを脱ぎ去った。
くすんだ金色の髪が、硝煙のにおいの濃い風に揺らせてそよぐ。
さらにゴーグルを外すと、怜悧な眼差しの双眸が露になった。さながら猛禽類のそれを思わさせるような、鋭い碧の眼光。
精巧な、精悍な、どこかサイボーグだとかロボットを連想させるような、そんな無機質な相貌の男だった。
年の頃はジョンと同じくらいであろうか。背丈や身体つきまで似ている。

「貴様のような人殺しが。常人と相容れないはみだし者が。どの面を下げて助けなど求められる? 
 これまで貴様がしてきたことを思い出せ。貴様が考えてきたことを顧みろ。
 貴様は自分のことしか考えていないというのに」

襲撃者はグローブに包んだ右手でジョンを指さした。
襲撃者はジョンを知っている。自衛隊のヒーロー、ジョン・アデルではなく――ジョン個人を。
そして、ジョンもまたこの男のことを知っているだろう。

「進歩のない男だ、貴様は昔から過ちばかりを犯す。間違った道ばかりを選択する。
 そして、また殺すのか? 仕方なかった。やむを得なかった。そんな逃げ道を用意して」
 
男は告げる、ジョンを糾弾するごとく。弾劾するごとく。告発するごとく。
過去の行状を、法廷で証言するごとく。
そして、男は最後にこう言った。

「そう、『あのときのように』――」

男の名はロイ・フリント。
かつて、ジョン・アデルの友だった男である。

「――俺がここにいることが不思議、という顔だな。
 何も不思議ではないさ……誰だって、あのゲームをインストールしていれば召喚される可能性がある。公平にな。
 もっとも――俺はインストールしていただけで、プレイしたことさえなかったが」

「そ、そ、そ、そうッス!
 あいつは――『ブレモンをプレイしたことがない』んス!
 あいつは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』でさえない、あいつは――」

「黙れ」

ちゅんっ! とゴブリンの威嚇射撃がアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちの足許に命中する。

「ブレモンをやったことがない……? それなら、どうして……」

なゆたは眉を顰め、不可解な状況に怪訝な表情を浮かべた。
陣営によって違いこそあれ、アルフヘイムもニヴルヘイムも世界を救うという共通目的によって、
地球から『ブレイブ&モンスターズ!』のプレイヤーを召喚しているはずである。
特にニヴルヘイムにはアルフヘイムにはないピックアップ召喚という手段があり、高レベルプレイヤーを優先的に召喚できる。
ミハエルしかり、帝龍しかり、マル様親衛隊しかり、今まで出会ったニヴルヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は、
皆錚々たるトップランカーばかりだった。
この世界を救うことができるのは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だけ。となれば、敢えて初心者を召喚する理由がない。
だというのに、なぜ――

「……そういうことか」

黙して遣り取りを見遣っていたエンバースが、得心したように呟く。

「奴は。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を狩る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』ということらしい」

――『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を狩る、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。

「そうだ。俺は貴様らを潰すために召喚された。
 ミハエルと帝龍は、貴様らと同じ土俵に立って勝負したから負けた。ゲームで遊んだばかりに敗退した。
 だが、俺は違う。貴様らの得意なゲームに付き合うつもりはない。
 俺は俺のやり方で貴様らを葬る――アメリカ陸軍仕込みの軍隊戦術でな」

剣と魔法の世界に銃器を持ち込み、ATBとスペルカードの戦いに実弾での戦いで乱入した男。
ブレイブハンター、フリントは冷淡に言い放った。

107崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 19:50:29
幼いころのジョンは大きな体格の反面内向的で、ハッキリものの言えない子供だった。
幼稚園でも外人ということで色眼鏡で見られ、親しく話したり遊ぼうとする者はいなかった。
小学校に上がっても、それは変わらない。クラスの中でも、ジョンはいつもひとりぼっちのまま――
だった、けれど。
そんなジョンに声をかける子供が、ふたりいた。

《おれ、ロイっていうんだ! パパの仕事の都合でアメリカから引っ越してきた!
 おまえもアメリカ人なんだろ? ほら、髪と目の色が一緒だもん!》

転校生で生粋のアメリカ人であるロイは、ジョンのことを色眼鏡で見ない。
それどころかアジアで出会った同じ白人ということでジョンに大いに興味を示し、幾度もジョンを遊びに誘った。
ジョンが初めて母の言いつけに背き、稽古をさぼって遊びに行った相手がロイだった。

《来いよ、ジョン! 一緒に虫取りに行こうぜ!》

《ジョンをいじめるやつは、おれが絶対許さないぞ!》

《――ジョン、おれたち、ずっとともだちでいような――!》

ジョンは稽古のない時には、いつもロイ『たち』と『三人で』過ごした。
そう、いつも一緒だったのだ。どんなときだって、三人でやってきたのだ。

あの時までは。

『あの事件』が起こると、ロイの家族はアメリカ本国に戻り、それから二度と日本の土を踏むことはなかった。
ロイも両親に連れられ、アメリカへと戻った。それ以来ジョンとロイとは一度も顔を合わせずに、お互い大人になった。
そして――道を別ったふたりは今、この異世界でふたたび巡り合った。
敵同士として。

「アイツ、チョー洒落んなってないし! ブレモン知らんやつがアルフヘイム来んなし!」

「あいつには『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の戦い方が通用しないッス、ガチでヤバイ奴ッスよー!」

「ニヴルヘイムに召喚された他の地球人たちは、まだしも話の通じる相手だったけど……あの男ロイ・フリントは違うわ。
 あの男はそこの焼死体さんの言うとおり、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を殺す『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
 敵対する危険性のある『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を始末する殺し屋よ」

親衛隊が口々に言う。
親衛隊は三人とも一騎当千の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だが、その肉体自体はなんの変哲もない一般人だ。
今までの戦いで実証されたように、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の戦い以外の戦闘には弱い。
そして、それはなゆたや明神達も同様だ。
ブレモンのデュエルでどれだけ強くとも、実戦で銃弾の一発も受けてしまえばそれで終わりである。
アルフヘイムやニヴルヘイムの住人が『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を倒すことは難しい。
なぜなら、こちらの世界由来の存在は誰しもが例外なくブレモンのゲームシステムの影響を受けるからである。
だが、地球から来た人間はその軛には縛られない。
まさしく『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を殺すために召喚された『異邦の魔物使い(ブレイブ)』――
それがこのフリントだった。

「わたしたちを殺すために、ゴブリンに地球の武器を持たせて戦わせるなんて……」

「知能の低い亜人どもにライフルの使い方と隊列の組み方を教えるのは、少々骨が折れたがな。
 だが問題ない。デリントブルグでの最初の実戦はまだまだ練度が低く、銃の命中率も低かったが。
 今回はそれなりの結果が得られた。この次はもっとうまくやれるだろう」

「……次があると思ってるの?」

なゆたが凄む。
ここでジョンがこの因縁の相手とおぼしき男を仕留め、帝龍と同じように無力化してしまえば、すべての決着がつく。
何より、ここで仕留めてしなければ益々ゴブリンアーミーの練度が上がってしまう。
今回はなんとか戦力拮抗からやや優位くらいまで持っていけたが、次回勝てるかどうかはわからない。
フリントを逃がしてはならない。なゆたはスマホをいつでもタップできるよう身構えた。
しかし、フリントは動じない。どころか、

「あるさ。今回の任務は完了した、撤退する」

と、無表情のまま言った。

「なんですって?」

「貴様らは本当に素人だな。俺が――ただ貴様らと会話がしたいから、ここで突っ立っているとでも思っているのか?」

「それ―――」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!

なゆたが疑問を口にしかけたその時、フリントのはるか後方で耳をつんざく轟音と共に大爆発が起こった。

108崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 19:53:40
アイアントラスはその名の通り、トラス式の橋桁を用いた鉄橋である。
見れば、フェルゼン公国側のトラス式鉄骨から黒煙が上がっている。そして、更に二度、三度の爆発。
強固なトラス式の鉄骨が吹き飛び、橋と大断崖とを繋げている巨大な鎖が弾け飛び、跳ねるように勢いよく谷底に落ちてゆく。
と同時に大きく地面が揺れ、橋梁都市は緩やかに傾斜し始めた。
近くにいたジョンにしがみつく格好になりながら、なゆたは瞠目した。

「まさか……!」

「俺は。俺のやり方で貴様らを葬ると言ったぞ、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』――」

ブレイブハンターが無表情のままで言い放つ。
フリントは自身の手でアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を倒そうとしているのではなかった。
それよりももっと効率的、かつ確実な方法でなゆたたちを消し去ろうとしている。

「この橋梁都市ごとボクたちを大断崖に落っことそうってのか! うっひょー! すっげええええ!!!
 そういうド派手なの大好き! どーしよー、ボクちょっとコイツのこと好きかも!
 あ、でも心配すんなよな明神! パパが一番で二番目がオマエなのは変わんないから!」

派手好き楽しいこと好きのガザーヴァがスケールの大きさに歓喜する。どっちの味方だ。
橋梁の基部を爆破し、この橋を大断崖の藻屑と化す。そうすれば馬鹿正直にデュエルをする必要さえない。
パーティーがアイアントラスに到着してから行動を開始するのではなく、到着の遥か以前から作戦行動をしていたのも、
邪魔なアイアントラスの住人を始末し破壊工作をしやすくするためだったのだろう。
なゆたたちはそんなゴブリンの目先の残虐行為にばかり気を取られ、フリントの真の目的に気付かなかった。
だが。

「心配するな、そんな無駄なことはせん。
 最小の行動で最大の戦果を挙げる、それが戦闘の鉄則だ。
 今はまだ、そのときではない――だが次で必ず仕留める。さらに練度を上げた軍隊でな。
 そのとき貴様も俺の手で始末してやろう、ジョン・アデル」

どうやら、フリントはこのアイアントラスを奈落の底に落とそうとしているのではないらしい。
では、なぜ橋桁の一部を崩落させ都市を傾けるようなことをしたのか?
むろん、フリントはその疑問に答えを示しはしない。右手を水平に伸ばすと、途端に空間に裂け目が生じる。
もうすっかり見慣れた『形成位階・門(イェツィラー・トーア)』だ。
ゴブリン・アーミーたちが撤退してゆく。その銃口は絶えず『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に向けられており、阻止は不可能だ。
なゆたたちはただ歯噛みしてニヴルヘイムの軍勢を見逃すことしかできなかった。

「あいつも――妹も貴様が地獄へ墜ちるのを望んでいるだろうよ」

最後にジョンへそう言うと、フリントは踵を返して空間の裂け目を潜り姿を消した。
多数のアイアントラス住人の犠牲と、都市の破壊。
大きな犠牲を払って、戦いは終わった。

「……わたしたちのせいだ」

戦火に包まれたアイアントラスを半ば呆然と眺めながら、なゆたが呟く。
フリントはアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を葬るために召喚された、と言った。
であるなら、この惨状は間違いなくなゆたたちの手によって引き起こされたもの。
無辜の民を戦いに巻き込み、死に至らしめた――その事実が胸に濃い影を落とす。

「否。例えそうだとしても、ただ立ち尽くすにはまだ早いかと。
 我らが救える命は、まだあるはずです……諦念こそが人を殺す。参りましょうぞ」

マルグリットを先頭に、親衛隊たちが怪我人の救助に乗り出す。

「みんな、わたしたちも行こう。マルグリットの言うとおり、まだ助けられる人はいるはずだから……」

ぐっと拳を握り込み、感情を押し殺すと、なゆたはパーティーの仲間たちを振り返って言った。
それから仲間たちが手分けして救助に行くと、なゆたはジョンの許へと歩み寄る。

「ジョン、さっきはありがとう……危ないところを助けてくれて。
 あなたが来てくれなかったら、わたしはきっとフリントに殺されてた。
 あなたのことを助けるって。そう誓ったのに、あべこべに助けられてちゃしょうがないね」

ジョンの顔を見上げ、あはは……と困ったように笑う。

「……それから。助けてって言ってくれて、嬉しかった。
 やっぱり、わたしはジョンのことを見捨ててなんていけない。あなたの苦しみをすっかり取り除くことは難しくても――
 少しでも和らげられたらって思う。それはきっと、他のみんなも一緒のはず。
 だから……わたしたちに、あなたの力にならせて。
 その代わり……」

ジョンを戦いから遠ざければ、それで当面は上手くいくと思った。自分がジョンを守ってやるのだと息巻いていた。
けれどもそれは思い上がりだったかもしれない。ブレモンのトップランカーという自負が、驕りが、なゆたにはあった。
しかし、今度の敵には『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の、ブレモンプレイヤーの戦いの定石は通用しない。
相手は戦闘のプロだ。正真正銘の軍人、戦闘訓練を受けた地球の戦士。

「あなたの力を貸して。あいつに――フリントに勝つには、わたしたちだけじゃどうにもならない。
 あなたの力が必要なの。
 ジョンの持ってる、対人間のスキルが。きっとこれからの戦いの鍵になるはずだから」

なゆたは真っすぐジョンの瞳を見つめながら、その右手を取って両手でぎゅっと握った。

109崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 19:56:02
アイアントラスの兵士や都市にあるプネウマ聖教会の僧侶たちと共に怪我人の救助を終えたなゆたたちは、爆破地点へ向かった。
爆破された地点は、魔法機関車の駅にもっとも近い橋桁だった。
橋桁が駅ごと爆破され、完全に崩壊している。
よほど強い爆薬を用いたのだろう。あまりに強い爆発が橋を固定していた巨大な鎖をも吹き飛ばしている。
お陰で橋が傾き、アイアントラスからフェルゼン公国方面へ行く橋と崖の間に上下10メートルほどの段差ができてしまった。
当然、魔法機関車の軌条も崩れてしまっている。
これで、当初予定していた魔法機関車と合流してフェルゼンへ――という計画は頓挫してしまった。
バロールが修理に梃子摺っているのか、魔法機関車がまだアイアントラスに到着していなかったのは不幸中の幸いか。
もし魔法機関車が先に到着していたなら、フリントはいの一番に魔法機関車を破壊していただろう。

「……これがフリントの目的だったんだ」

アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちの移動手段を奪い、足止めする。
そうすることで襲撃の機会を増やし、いつでも軍事行動に移れるようにする。
狙われる側はいつ銃弾が飛んでくるかわからない恐怖におののき、精神を摩耗させてゆく。
一方で時間が経てば経つほどゴブリン・アーミーの練度は上がってゆき、その殺傷度と危険度は高くなる。
文字通り真綿で首を締めるような、確実かつ狡猾な手口だった。

「アイアントラスを離れよう」

なゆたが提案する。
魔法機関車が使えなくなった以上、ここに長逗留しても意味はない。
それに、いつまたフリントたちが『異邦の魔物使い(ブレイブ)』抹殺のために乗り込んでくるかも分からない。
フリントはアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を葬ると言った。
なゆたたちがアイアントラスに残れば、また無用の犠牲が出るかもしれない。
アイアントラスがこのような惨状になったのは、自分たちのせいだ。
それを償いたい気持ちはある。まだまだ、助けを必要としている人々はいるだろう。
しかし、そうすることで更なる惨劇を招くかもしれない――その可能性を考えると、これ以上この場所にいる訳にはいかなかった。
幸い、橋は完全に陸地と分断されてしまった訳ではない。
爆破されなかった側の橋桁から、馬車を使ってフェルゼン公国へ抜けることは可能だ。

「俺たちがエーデルグーテへ行くという情報を、連中は既に掴んでいるのだろう。
 だとしたら厄介だ、連中はいつでも俺たちを狙える。連中の狙撃の腕がいつまでも下手なままであればいいんだが――
 奴の口ぶりからすると、それは期待薄だな」

腕組みしながらエンバースが口を開く。
魔法機関車が使えれば狙撃もある程度防げただろうが、現状の幌馬車では防御力はゼロだ。
といって馬車を武装させるのもナンセンスだろう。武装すればそれだけ馬車は重量が増える。一頭では引けなくなる。
パーティーには馬車用に用意した馬の他、カケルとガーゴイルを加えた計三頭の馬がいるが、
馬車自体は一頭立ての構造のため他の二頭が引くスペースはなかった。
ならば三頭立ての武装した馬車を用意すればという話だが、そもそもそんな馬車など存在しない。用意するならオーダーメイドだ。
そんな特注の馬車を作っている間にフリントはパーティーにとどめを刺そうと襲い掛かって来るに違いない。
第一、幌馬車プランにはもうひとつ難点がある。

「ちょっ、こっからエーデルグーテまでえっちらおっちら幌場所で行くつもりかよー!?
 ジョーダンじゃねーぞー! ボクはアイアントラスまでってことで、今までガマンして鈍足で旅してきたのに!
 話が違う! そんなんじゃ、うら若き乙女のボクがババーになっちゃうじゃんかーっ!」
 
案の定というべきか、ガザーヴァがゴネた。落ち着きのなさと堪え性のなさでは他の追随を許さない性格の幻魔将軍である。
今まではアイアントラスで魔法機関車に乗るまでの辛抱――と宥めすかされてきたのだが、
フリントの襲撃によってそれもままならなくなり、不満が噴出してしまった。
今回の旅は単にエーデルグーテに到着さえすればミッションクリア、という類のものではない。
ジョンを蝕むブラッドラストを一刻も早く解かなければならないという、期限付きのミッションだ。
今後も幌馬車での旅を続けるというのなら、エーデルグーテまでは10ヶ月はかかるだろう。
ジョンの精神と肉体が、そんな期間を耐え抜けるかどうか――甚だ心許ない。

「こんなとき、みのりさんかバロールのアドバイスがあればいいのに……」

なゆたは歯噛みした。
こういうときにこそパーティーのバックアップをしてくれるはずのキングヒルからの通信はない。
どころかこの半月、なゆた側からコンタクトを取ろうとしてもまるでみのり達からの応答は得られなかった。
通信障害というのは考えづらい。恐らくマルグリットらを警戒して、敢えて通信を切っているのだろう。
今は後方支援は期待できない。このパーティーだけで物事に当たらなければならないのだ。
だから。

「……明神さん、ちょっと」

軽く手招きすると、なゆたは明神を連れ出してふたりだけで物陰へと移動した。

110崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 19:59:12
「ニヴルヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に襲撃を受けたは痛手でしたが――
 これしきのことで、大義を胸に抱く我らの歩みを押し留めることなどできはしません。
 否、むしろ――斯様な策を弄してくるということは、それだけ彼奴等にとって我らが小さからぬ脅威であるという証左。
 いかなる艱難と辛苦が待ち受けていようと、これを打破するのみ! それが我らの為すべきことでありましょう!
 さあ――月の子よ、勇敢なる『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちよ! 参りましょうぞ、我が賢姉の待つ聖都へ!」

出発の支度を整えると、マルグリットが高らかに言い放った。
その瞳はキラキラと使命に燃えている。障害が多ければ多いほど士気も上がると、その眼差しが告げている。
正真、マルグリットは世界を救うという大義のために戦っているつもりなのだろう。
その佇まいは美しい外見と相まって、いかにも主人公! といった様子だ。
ゲームのメインビジュアルになりそうな絵面とも言う。
だが。

「……マルグリット、その話なんだけど。
 出発する前に、ひとつだけ教えてくれない?」
 
なゆたが馬車の傍でマルグリットと相対し、ゆっくりと口を開く。
マルグリットはすぐに頷いた。

「私の知り得ることならば、何なりと」

「ありがとう。マルグリットはローウェルの命令でわたしたちをスカウトしに来たのよね?
 あなたの他に、そっちには何人の十二階梯の継承者がいるの?
 全員揃ってるのかしら」

「いえ、私に貴君らの許へ行くようにと指示を下したのは師父ではありません。
 救世の大義のため御多忙であられる師父の代理として、現在は『黎明』の賢兄が陣頭指揮を執っておられます。
 本来ならば、斯様な危難の折。十二階梯全員が力を結集せねばならぬ処ですが――
 『真理』の賢兄や『覇道』、『黄昏』などは『黎明』の賢兄の招集にも応じぬ有様でして。
 尤も、それもおいおい解決するでしょうが……」

問われるまま、マルグリットは誠実に情報を公開する。
こういう莫迦正直な辺りが、マルグリットの底抜けの善人ぶりをよく示していた。
なゆたは頷いた。

「そう。『黎明』がいるのね、そっちには」

「無論です。『黎明』の賢兄こそは、侵食の脅威より諸人を救い出す文字通りの黎明たるお方。
 『創世』の師兄が野に下った今、我ら十二階梯とて『黎明』の賢兄の叡智なくしては立ち行きませぬ。
 賢兄に面会を望まれますか? それは重畳! 賢兄もそれを望んでおりましょう。
 我が賢兄と語らい、その深遠なる脳中を理解すれば、貴君らも必ずや――」

「いいえ。私が知りたかったのは、そっち側に『黎明』がいるかどうか、ってことだけよ。
 そして、あなたの言うとおり本当に『黎明』がそっちにいるのなら……。
 マルグリット、あなたたちとの同行はおしまい。ここからは、わたしたちだけでエーデルグーテまで行くわ」

「……え?」

突然の離別宣言に、マルグリットは目を瞬かせた。
それまで黙ってなゆたちマルグリットの話を聞いていた親衛隊の目に、殺気が宿る。
さっぴょんがなゆたを睨みつける。

「どういう意味かしら、モンデンキント」

「さっぴょんさん、ごめんなさい。シェケナさんもきなこもちさんも。
 あなたたちと一緒に旅した半月はとても助かったし、感謝もしてます。さっきの戦いだってそう。
 皆さんがいてくれなかったら、わたしたちはもっと苦戦してたし……仲間たちに犠牲だって出たかもしれない。
 それは、どれだけ感謝しても足りません。本当にありがとうございます」

なゆたは親衛隊に向き直ると、丁寧にお辞儀をした。
それからすぐに姿勢を戻し、決意を湛えた瞳でさっぴょんたちを見つめ返す。

「だからこそ、はっきりさせておきます。
 マルグリットや親衛隊の皆さんの協力に報いたいと、そう思うから――。
 あなたたちと一緒には戦えない。ローウェルの所へも行かない。
 エーデルグーテへ行ってオデットに会う方法は、わたしたちだけで考えます。だから……これでお別れにしましょう」

「な……、何故です……!
 我らは共に侵食に抗い、世界を救わんとする大望を抱いた同志のはず!
 私は貴君たちの力になりたい、師父のことはさておき今はそうすべきと! 私の中の正義がそう告げるのです!
 だというのに……何故……!」

端正な顔を悲痛に歪め、マルグリットが声を荒らげる。
なゆたは口を真一文字に引き結び、ほんの少しの静寂の後、

「ゴブリン・アーミーに地球の装備を与えたのは、『黎明の』ゴットリープでしょう?」

と、言った。

111崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 20:01:54
『黎明の』ゴットリープ。

『創世の』バロール離反後の十二階梯の継承者を束ねる、筆頭継承者。
魔導組織『霊銀結社』の頂点に位置する『大達人(アデプタス・メジャー)』にして、アルフヘイム最高位の魔導師。
ゲームの中では基本的にプレイヤーの協力者として様々な便宜を図ってくれる、心強い味方である。
そんな、本来はなゆたたちの支援をしてくれてもいいはずの人物が、ゴブリン・アーミーの装備の提供者だとなゆたは言う。

「なぜ……そう思われるのです……?」

「わたしたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は、召喚される時に身に着けていた物ごとアルフヘイムにやってきた。
 フリントがヘルメットや銃を装備したまま召喚されてきたなら、それらがこの世界にあっても不思議じゃない。
 でも――それなら装備はフリントの分しかないはず。
 あの大量のゴブリンへ支給できるだけの装備は、どこから来たのか……? わたしはそれをずっと考えてた」

「そのフリントだかの装備をバラして分析して造ったんじゃないん?」

「ううん、それじゃ時間がかかりすぎるよ。でも――」

ガザーヴァが横合いから口を挟む。なゆたはかぶりを振った。
例えば戦争では敵方の装備や戦車、航空機などを鹵獲し、分析して似たようなものを造るという行為は常識だ。
フリントの装備をニヴルヘイムが分析し、それを元に大量生産する――というのは無い話ではないだろう。
が、その場合『分析から大量生産まで膨大な時間が必要』という弱点がある。
まして、地球産の装備は構造も材質も理論もまるでこちらの世界とは違う。
地球の科学知識のない者がすべてを解析し、理解した上で同等の物を造り上げるというのは並大抵の苦労ではない。
それに、複製ができたとしてもそれを継続して生産するというのがまた大変だ。
こちらの世界には、プログラムさえすれば同じものをオートメーションで大量生産してくれる工場など存在しないのである。
フリントは自らを『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を狩るために召喚されたと言っていた。
間違いなく、フリントはなゆたたちがニヴルヘイムの脅威であると認識されて以降に召喚されたのだろう。
となれば解析、試作、大量生産などというステップを踏む時間はとてもない。
……しかし。
それらすべての問題を一挙に解析する方法が、ひとつだけある。

「……なるほどな。業魔錬成か」

エンバースが頷く。

業魔錬成――
アイテム同士を掛け合わせ、高ランクのレアアイテムを作成する高位魔術。
それを使えば、構造など関係なく地球産の装備を大量生産することは可能であろう。
そして、この世界において唯一の業魔錬成の遣い手こそが――『黎明の』ゴットリープなのだ。

「そうよ。まったく文明や文化の異なる世界の装備なんて、そう簡単にコピーできるわけがない。
 でも魔法ならそれができる。これを増やしたい、と思いさえすればね。
 業魔錬成はその一番の近道――そして業魔錬成を使えるのはゴットリープだけ。
 どうして、あなたの兄弟子はニヴルヘイムに力を貸しているの?
 マルグリット。あなたは……どこまで知っているの? フリントのアイアントラス襲撃は知らなかったとしても。
 『ゴットリープがニヴルヘイムに武器を提供してる』ことは、知ってたんじゃないの……?」 

「………………!」

なゆたの指摘に、マルグリットは沈痛な面持ちで俯いた。
と同時、なゆたの追及に言葉を詰まらせるマルグリットの窮状に親衛隊が身を乗り出す。

「そこまでよ、モンデンキント。
 マル様に是非を問うなど言語道断。マル様のお心を曇らせることは、私たちが許さないわ」

「師匠……それ以上いけないッス。考え直してほしいッス。 
 現状、自分たちは師匠の『仲間』ではなくとも『味方』ッス。師匠と敵対はしたくないッス。
 今ならまだ、マル様も許してくださるはずッス……!」

さっぴょんが敵意を剥き出しにする一方で、きなこもち大佐がなゆたを説得しようとする。
しかし、もう決めたことだ。なゆたの決意は固かった。
なゆたが先ほど明神を呼び出し、物陰で話したことがこれだった。
ゴットリープが、そして十二階梯の継承者がニヴルヘイムに協力していることは明らかだ。
だとすれば、これ以上マルグリットと一緒に旅はできない。

「前に偉そうなこと言っといて、やっぱりやめるなんてカッコ悪いけど。
 ゴメンね、明神さん。やっぱりわたしたちはわたしたちだけで進もう。
 わたしたちは、今までずっとそうしてきた。だから、これからもそうする。
 今度だって、きっとうまいことやれる。……だよね」

明神とふたりで話をしたとき、なゆたはそう言ってばつが悪そうに笑ったのだった。

112崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 20:03:57
「……確かに……私は知っていました……。しかしながら、『黎明』の賢兄のこと。
 何か深遠なお考えあってのこと……そう、そうに違いありませぬ……!」

マルグリットが搾り出すような声で言った。

「そうかもしれない。結果的に侵食を食い止められるような作戦があって、そのためにやったことなのかもしれない。
 でも。どんな素晴らしい作戦だって、人が死んだらなんの意味もないんだよ……。
 ゴットリープがフリントの装備をコピーして、ゴブリンに持たせた。それでアイアントラスの人たちは死んだんだ……!
 それは覆らない! 絶対に!! 生き物は、死んだらおしまいなんだよ! 生き返ることなんてできないんだ!
 『うまい作戦がある』とか! 『深い考えがある』とか! そんなこと、死んだ人たちに言えるの!?
 あなたたちの死は必要だっただなんて! そんなこと、口が裂けたって言えるもんか!」

「…………ッ…………」

「そんな作戦を考えて! 人が死ぬ武器をたくさん造って!
 それで『世界を救いたい』だなんて! どの口で言ってるんだ!
 『黎明』はローウェルの代理って言ったわよね、それはローウェルの意思でそんなことをしてるってことよね?
 じゃあ……わたしはローウェルを絶対に許さない! ローウェルや『黎明』の命令に従ってるあなたたちのことも!
 無碍に命を摘み取るニヴルヘイムの連中も! 絶対絶対……絶対に! 認めてなんてやらないわ!!」

声を限りに、なゆたは叫んだ。
その啖呵を聞いたガザーヴァがヒューッ! と口笛を鳴らす。

「いいねぇいいねぇ! 宣戦布告ってヤツ!? んじゃもうボクのコトも解禁でいーよな!
 おい、そこの頭ン中お花畑の三バカ恋愛脳トリオ!
 いつでもかかって来いよ、ブッバラしてやンよぉ! そう、『ボクがオマエらの聖地を更地にしたときみたいに』――! 
 この現場将軍! もとい、幻魔将軍ガザーヴァ様がなァ―――――――ッ!!!」

ガザーヴァがここぞとばかりに中指をおっ立てて挑発する。
と同時、黒い靄がその露出度の高い華奢な身体を取り巻き、漆黒の甲冑へと変化してゆく。
すぐにガザーヴァはブレモンプレイヤーならば誰もが見慣れた姿になった。
親衛隊は目を瞠った。

「ガ……、ガザ……!?」

「あの頭の緩いガキンチョが……!? いやでも確かにあの緩さは……!」

「きっひひひひッ! ビックリしたかァー? でも驚くのはまだ早いぞ!
 ここにいる明神、笑顔きらきら大明神なんて名乗っちゃいるけど大ウソだ!
 コイツの本当の名前は、うんちぶりぶり大明神――! そう、ブレモン史上最低最悪のクソコテ野郎だ!
 そんなことも気付かないでアホ面さげて、オマエらってばまったく笑えるったらありゃシナーイ! あーっはっはっはっ!」

ガザーヴァは明神の肩に右腕を回すと、いかにも馴れ馴れしげな様子でカミングアウトした。
混沌と修羅場を好む悪属性の本領発揮である。

「うんち……ぶりぶり……ですって……?」

「あの……マル様を愚弄し、聖地を喪って傷心の自分たちを煽るだけ煽ったガチクズ野郎……!」

「ヒィ―――――――――――ハ――――――――――――――――ッ!!! 殺す殺す殺すゥゥゥゥゥ!!!!」

不倶戴天の敵を前にして、親衛隊の怒りゲージが振り切れる。
どんっ! どどんっ! と地響きを立ててミスリル騎士団が現れ、スライムヴァシレウスが限界突破のオーラを纏う。
アニヒレーターが肩にかけているフライングV的なギターを構える。

「みんな!」

なゆたもポヨリンを足許に配置し、仲間たちに戦闘態勢を促す。
一触即発の事態。
しかし――

「……双方、矛を納められよ」

そんな状況を収拾したのは、他ならぬマルグリットだった。

113崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 20:07:20
「月の子の申される通り、死を是として為さねばならぬことなどありますまい。
 されど……されど、必ずや! その死を無駄にせぬだけの結果を伴う目的が! あるはずなのです!
 この『聖灰』、伏してお願い申し上げる……何卒、何卒今は、今だけは堪えて頂きたい……!
 『黎明』の賢兄、そして我らが師父と貴君らがまみえ、直に会談する事が叶えば、その疑問も! 怒りも!
 必ずや氷解するに違いないのです……!」

マルグリットは地面に両膝をつくと、なゆたたちへ深々と頭を下げた。

「マル様……!」

親衛隊が驚きの声をあげる。
ブレイブ&モンスターズの顔、人気ナンバーワンの美形キャラが。
何をするにも絵になる美青年が、何もかもかなぐり捨てて頭を下げた。
マルグリットは心の底から願っているのだろう、兄弟子や師匠が世界を救ってくれることを。
だからこそ疑いもなくその指示に従い、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちを集めて回っている。
それが正義なのだと。この世界を護ることに必要なことなのだと――

「あなたは本当に、わたしたちの知るマルグリットなんだね」

頭を下げたまま動かないマルグリットへ、なゆたが呟くように言う。
ただひたすらに人の善性を、正義を、愛情を信じ、世界の平和のために邁進する。
他の継承者たちが悪に堕ち、或いは我欲のままに振舞ったとしても、マルグリットだけは決してぶれることはなかった。
ゲームの中でも、そしてこの現実のアルフヘイムでも。
マルグリットはただただ、世界平和の実現のためだけに戦っている。

だからこそ。

「……わたしにも信念がある。あなたと同じように。
 あなたの信念があなたにそこまでさせるなら、わたしも――わたしの信念を貫かなくちゃいけない。
 わたしたちは対等なんだ。状況や説得で自分の信念をすぐに引っ込めたりしたら、それが崩れちゃう。
 あなたはあなたの信念を最後まで通す。わたしはわたしの信念をどうでも変えない。
 ……そうすることが。あなたの信念に対する礼儀だと思う……から」
 
「……月の子……」

「そのうち、あなたの兄弟子やお師匠さまには会いに行くよ。
 でも、それは今じゃない。もっと世界を回って、色んな物事を見て。
 わたしたちにできることを全部やったうえで――この世界の真実を確かめたら。そのときに会いに行く。
 だから。もう少し待ってて」

今の自分たちは、まだ何も知らない。この世界で本当は何が起こっているのか、誰が何を考えているのか。
それらのすべてを解き明かしたとき。イベントやクエストを片端から網羅したとき。
そのときが、ローウェルとの決着をつけるときになるだろう。

「交渉決裂ね。分かったわ、モンデンキント。
 今はマル様に免じて、戦うのはやめておいてあげましょう。でも――次はないわ。
 フリントがあなたたちを殺すのを待つまでもない。私たちマル様親衛隊が、あなたたちを潰すわ」

「あーしたちを怒らせて、タダで済むと思ってんじゃねぇーってーの!
 おい、うんち野郎! てめぇーは特に念入りにバラバラにしてやっかんな!
 んでスクショ撮って拡散してやんよォーッ! 前に地球でそうしたみてーになァーッ!」

「……残念ッス。師匠」

マル様親衛隊が口々に言う。
そんな親衛隊に寄り添われながら、マルグリットが立ち上がる。

「……嗚呼。私は知らぬ間に、貴君らの信念を穢していたのですね……。
 心よりのお詫びを、勇気ある『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。私が誤っていたようです。
 ならば。であるのなら……もはや何も申しますまい」

マルグリットは非難や恨み言を言わない。
ただ、そこには袂を別ったなゆたたちへの無念の想いだけがある。

「では、我らはこれにて。
 ……貴君らの旅が、実り多きものでありますように」

最後にそれだけ言うと、マルグリットは踵を返していずこかへと去っていった。
親衛隊もそれに倣う。

「……マルグリット」

去り行くマルグリットの背を見送りながら、なゆたは小さく名を告げた。
さっぴょんの言うとおり、次に会ったときは敵同士だ。
フリントという強敵が控えているというのに、その上マルグリットまで敵に回してしまった。
こちらにとっては不利と言うしかないが――それでも、この決別は避けられない事態だった。
マルグリットは自分の陣営の者たちがすることに従う他はないし、なゆたたちも我が道を進むしかない。
互いの道が、心が交わらないのであれば――そこにはもう、戦いしかないのだ。

ギリ、と奥歯を強く噛み締めると、なゆたもまた長い髪を揺らして大きく反転し、歩き始めた。
フェルゼン公国へ。アズレシアへ。聖都エーデルグーテへ――

この世界の真実へ。


【“『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を狩る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』”ブレイブハンター・フリント登場。
 アイアントラス破壊により魔法機関車が使用不可に。
 意見の相違によりマルグリットと決別。】

114ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/03(水) 14:12:29
「うんうん……ん? やっと観念したか……!」
>「任せとけよ親友!今も、これからも!ちゃあんと助けてやっからよ!」

あぁ…夢みたいだ。

>「雑魚狩りは趣味じゃないが、あんたの頼みなら仕方ない。今回の見せ場は譲っておこう」
>「……うん……! さあ、ここから逆転よ! わたしたち全員で……この戦いに勝つ!」

ずっと欲しかった。自分を守って…信じてくれる仲間が。
あの日からずっと諦めていた…いや自分で思い込んでいた。
自分はそんな仲間ができるような人間ではないと、価値はないと。

本当にいいのだろうか?手を伸ばして…彼らの手を掴んでいいのだろうか。
もう十分苦しみ抜いた。だから…手を伸ばしていいのだろうか。

「みんな・・・みんな・・・ありがとう」

そう手を伸ばそうとしたその時。

>「……助けてくれ、だと」

今まで無言だった襲撃者の声で現実に戻される。

なぜ僕は今まで忘れていたのだろう?

いや違う。

>「貴様のような人殺しが。常人と相容れないはみだし者が。どの面を下げて助けなど求められる? 
 これまで貴様がしてきたことを思い出せ。貴様が考えてきたことを顧みろ。
 貴様は自分のことしか考えていないというのに」

違う。僕は自分の意志で思い出さないようにしていただけだった。
もう会わないなら…と自分の精神を守るために・・・。

>「進歩のない男だ、貴様は昔から過ちばかりを犯す。間違った道ばかりを選択する。
 そして、また殺すのか? 仕方なかった。やむを得なかった。そんな逃げ道を用意して」

顔を上げなくてもだれだかわかる。忘れてなんかいない。
自分の限界を超えないように記憶の片隅に封印していただけだ。

忘れるはずなんてない。

>「そう、『あのときのように』――」

「…ロイ…ロイなのか…?」

>「――俺がここにいることが不思議、という顔だな。
 何も不思議ではないさ……誰だって、あのゲームをインストールしていれば召喚される可能性がある。公平にな。
 もっとも――俺はインストールしていただけで、プレイしたことさえなかったが」

「だとしても…なんでこんなこと…」

>「奴は。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を狩る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』ということらしい」

「ブレイブを狩る…ブレイブ?」

>「そうだ。俺は貴様らを潰すために召喚された。
 ミハエルと帝龍は、貴様らと同じ土俵に立って勝負したから負けた。ゲームで遊んだばかりに敗退した。
 だが、俺は違う。貴様らの得意なゲームに付き合うつもりはない。
 俺は俺のやり方で貴様らを葬る――アメリカ陸軍仕込みの軍隊戦術でな」

115ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/03(水) 14:12:49
《おれ、ロイっていうんだ! パパの仕事の都合でアメリカから引っ越してきた!
 おまえもアメリカ人なんだろ? ほら、髪と目の色が一緒だもん!》
《来いよ、ジョン! 一緒に虫取りに行こうぜ!》
《ジョンをいじめるやつは、おれが絶対許さないぞ!》
《――ジョン、おれたち、ずっとともだちでいような――!》

「違う!違う!僕の知ってるロイは・・・もっと優しいはずだろ!
 ブレイブを殺すとか・・・一般人を殺すような奴じゃないはずだろ!!」

>「ニヴルヘイムに召喚された他の地球人たちは、まだしも話の通じる相手だったけど……あの男ロイ・フリントは違うわ。
 あの男はそこの焼死体さんの言うとおり、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を殺す『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
 敵対する危険性のある『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を始末する殺し屋よ」

僕の知っているロイは…強きを挫き・弱きを助ける。
まさにヒーローを体現したような・・・日本風でいえば筋の通った男だったはずだ。

でも今この状況は?一般人が死に、なゆを殺そうとし、僕の膝にもナイフが突き刺さっている。

>「わたしたちを殺すために、ゴブリンに地球の武器を持たせて戦わせるなんて……」

>「知能の低い亜人どもにライフルの使い方と隊列の組み方を教えるのは、少々骨が折れたがな。
 だが問題ない。デリントブルグでの最初の実戦はまだまだ練度が低く、銃の命中率も低かったが。
 今回はそれなりの結果が得られた。この次はもっとうまくやれるだろう」

>「……次があると思ってるの?」

>「貴様らは本当に素人だな。俺が――ただ貴様らと会話がしたいから、ここで突っ立っているとでも思っているのか?」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!

>「俺は。俺のやり方で貴様らを葬ると言ったぞ、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』――」
>「この橋梁都市ごとボクたちを大断崖に落っことそうってのか! うっひょー! すっげええええ!!!
 そういうド派手なの大好き! どーしよー、ボクちょっとコイツのこと好きかも!
 あ、でも心配すんなよな明神! パパが一番で二番目がオマエなのは変わんないから!」

「そ・・・そんな事したらここに住んでる人はどうなるんだよ・・・おい!」

>「心配するな、そんな無駄なことはせん。
 最小の行動で最大の戦果を挙げる、それが戦闘の鉄則だ。
 今はまだ、そのときではない――だが次で必ず仕留める。さらに練度を上げた軍隊でな。
 そのとき貴様も俺の手で始末してやろう、ジョン・アデル」

「なんでだよ・・・恨んでるのは僕一人だけのはずだろ?なんで・・・僕以外も・・・ほかのブレイブを巻き込むんだよ?
 そんな事を表情一つ変えずにできるような奴じゃないはずだ・・・君は・・・」

ゴブリン達が一斉に退却していく。
なゆ達は銃口を向けられ、この街を荒らした犯人達を見送る事しかできないでいた。

「なんで・・・なんで・・・」

僕ならこの状況を打破できるかもしれない。でも、僕の心はいろんな感情がまざり…それどころではなかった。

>「あいつも――妹も貴様が地獄へ墜ちるのを望んでいるだろうよ」

そう、僕にいい残すとロイは空間の裂け目に消えていった。

116ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/03(水) 14:13:07
>「……わたしたちのせいだ」

私【達】ではない・・・僕の責任だ。
ロイがああなってしまったのも・・・僕達を襲うことになったのも・・・

「僕が悪いんだ・・・」

酷く気分が悪い。
久しぶりにあった親友は小さい頃に一緒だった時にみせた優しさを全て捨て、人殺しになっていた。

その原因を作ったのは間違いなく僕だ。

優しい彼を僕が・・・殺したんだ。

彼一人じゃない、彼の家族も、みんな僕が殺したのだ

「うぷっ」

吐き気がする。
今までずっとみてみないフリをしてきた。どうせ二度と会わないのだからと。
でも相手はそうじゃない。恨んでた。僕を、僕が犯罪にならない世界を。

ちょっと考えればわかる事だった。いやわからなかったんじゃない・・・僕はわかっていて無視していたんだ。

自分を守る為に・・・。

>「あなたの力を貸して。あいつに――フリントに勝つには、わたしたちだけじゃどうにもならない。
 あなたの力が必要なの。
 ジョンの持ってる、対人間のスキルが。きっとこれからの戦いの鍵になるはずだから」

違う…僕は…こんな優しい言葉を掛けられていい人間じゃない。

なんで僕は許された気になって・・・舞い上がってたんだ?僕は人としての幸せを得ちゃいけないのに。

「すまない・・・一人にしてくれ」

なゆの手を弾き、膝からナイフを強引に引き抜く。
吐きそうになるのを我慢しながらゆっくりと歩き出す。

とにかくみんなから見えない位置に移動したかった。一人で考えたかった。楽になりたかった

でも路地にあったのは・・・さらに苦しい現実だった。

「おえええぇぇぇぇえ・・・」

そこで見たのは子供庇って銃に撃たれたと思われる男女の大人と・・・
その死体の下で死んでいる子供だった。

僕の過去の過ちのせいで、違う世界の幸せな家族まで壊れてしまった。

僕だけが苦しめばいいと思っていた。
全部目を瞑れば、僕だけが罪を償えばそれだけで済むと思っていた。

でもそれは現実逃避にしかならないのだと。罪は自分の手で最後まで…償わないといけないのだと。

117ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/03(水) 14:13:25
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「痛いよぉ〜やめてよぉ〜」

図体がでかい外人というだけで幼稚園でも・・・小学校でもいじめられていた。

反撃すればいじめはなくなるかもしれない。でも一生友達ができなくなるかもしれない。
という恐怖から反撃できず、毎日顔つき合わせれば体当たりされ、石をぶつけられる

「そこ!なにイジメてるんだ!」

そこに現れた一人の少年・・・それがロイだった。

この頃からすでにロイは人気者だった。
手を振れば女子が集まってくるし、男子でさえ嫌ってるいる者は少なく、誰からも愛されていた。

漫画や、ドラマの主人公になるのはこんな人なのだろうと思った。

もちろんただの八方美人の優男ではなく、ルールを破る悪には決して屈しない心と体を持っていた。

「お前も…反撃できないわけじゃないだろう?なぜ反撃しないんだ」

「僕が反撃したら相手に怪我させちゃうから・・・」

「自分より相手を優先したのか?イジメてるやつを?……お前気に入った!俺はロイ。ロイ・フリントだ」

一生仲良くなる事はないだろう人に手を伸ばされる。

「え…?」
「いいから!」

手を強引に引っ張られていく。

「これから俺とお前は・・・友達だ!」

「へ?・・・・・・・・・・・ええええええええええ!!??」

それから2年間は本当に幸せだった。
ロイ以外の友達はいくら頑張ってもできなかったけれど。

ロイと・・・それとロイの妹である・・・彼女と遊べるだけで十分だった。

本当に・・・幸せだった。

118ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/03(水) 14:13:41
「紹介するよジョン。これが妹のシェリーだ」

彼女との初めての出会いはロイの家に遊びにいったときだった。
ロイの後ろからひょっこりと少女が顔をだしていた。

「えーと…こんにちわ?」

黙って見つめている彼女はまるで人形のようで、美しいと感じたのを今でも覚えている。喋りだすまでは。

「体つきは良さそうなのにすごいザコそうな顔ね」
「こらシェリー!」

初めての彼女から言われたのはザコそうな顔だった。

「いくらロイの妹でも言っていい事と悪いことが・・・」

いくら僕でも一個とはいえ年下の少女にザコと呼ばわりされたら少しムッとしまったのも覚えている。

「ならちょっと軽く殴り合ってみましょうか?私と」

「な・・・殴り合い?」
「やめ----」

ロイが止めるよりも早く繰り出された彼女の鋭い蹴りは僕の腹部を直撃した。

「アガッ・・・!?」

その一撃は日ごろの特訓で鍛えられた僕の筋肉をたやすく貫通し、僕を地にたたきつけた。

てゆうか殴り合いって言ってるのに蹴りって・・・!

「ふーん・・・結構固いじゃん!」

怒ったロイを完全に無視し、僕に近寄ってきた彼女はこういった。

「聞いて驚きなさい!私は天才少女と呼ばれ!5歳にしてあらゆる格闘技に精通し、大人を殴り倒してきた!
 大人でさえ私とまともに戦って勝てるやつはいないわ!大人でさえ私に弟子入りを志願するのよ!そう!私は天才だから!」

口ぶりや身長、立ち振る舞いは完全におこちゃまだった。だが強さだけは
彼女の蹴りは間違いなく大人を超えた威力があった。

「大丈夫かジョン・・・すまない妹はこの通り見た目はいいんだけど性格が・・・」
「だれが性悪女だって!?」
「そ、そんな言葉どこで覚えてくるんだよ!大体お前な・・・」

「ふ・・・ふふ・・・あはははは!」

くだらない事で喧嘩する二人を見ていると自然と笑いが込み上げてきた。
僕にも兄弟がいたらこんな感じになれただろうか?いやロイだからこそ。シェリーだからこそいいのだろう。

「え・・・なんか笑ってるよ・・・もしかしてマゾ?」
「だからどこでそんな言葉覚えてくるんだよ!!!!」

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119ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/03(水) 14:13:58
生存者の救助を終え、駅を破壊された僕達は次の作戦を練り始める。

>「……これがフリントの目的だったんだ」

ロイはゴブリン達の練度がまだ足りないという事を仄めかしていた。
完璧な軍隊を作るのに必要なのは物資、そして時間だ。

「誰よりも真っすぐを信条としてた男がこんな狡猾な手段に出るなんて・・・」

僕が知っているロイと同じと思ってはいけないと、わかってはいても・・・姿をこの目で見ていても。
信じられなかった。信じたくなかった。これも現実逃避だとわかっていても・・・。

>「アイアントラスを離れよう」

>「俺たちがエーデルグーテへ行くという情報を、連中は既に掴んでいるのだろう。
 だとしたら厄介だ、連中はいつでも俺たちを狙える。連中の狙撃の腕がいつまでも下手なままであればいいんだが――
 奴の口ぶりからすると、それは期待薄だな」

「それに関しては僕が・・・これがあれば・・・かなり時間を稼げるはずだ」

僕はゴブリン達が使っていた銃を取り出す。

カザハがゴブリンから奪い取った銃一丁とゴブリン達が残していったマガジン複数が被害を免れていた。

「銃を僕が確保した以上・・・生半可な練度で、場所で襲い掛かっても無意味だという事は・・・ロイもわかってるはずだ
 僕ら軍人の真骨頂は・・・銃だからね。アメリカと日本じゃ差はあるけれど・・・戦い方は分ってる」

「ロイを止める為なら・・・僕はブラットラストの力を使うことを躊躇わない
 それに・・・能力の強さが不明確なこの力は・・・切り札になりえる」

向うには総数不明のゴブリンの軍隊。それに銃弾を耐えれる装備
本当にゴブリンだけなのかも怪しい。ロイはゲームはしたことがないと言っていたがそれをそのまま信じるほど馬鹿ではない。
だがブラットラストの力いまだ底が知れていない。ロイにも僕にも・・・。

この力は純粋に力を強化するだけじゃない・・・恐らくまだ使い方があるはずだ。
デメリットさえ恐れなければ・・・強力な切り札になるだろう。

「僕は・・・街で予備のパーツ、もしくは武器になりそうな物がないか漁ってくる。
 話し合いは・・・すまないが辞退させてくれ・・・ちょっと今は冷静になれないから・・・・」

そう言い残し、話し合いの場を離れる。

パーツ探しなんて言い訳だ。

とにかく一人になりたかった。とにかく不安に心が支配されていた。

これまでロイの犯してきた罪の話なんてされた日には激怒して大暴れしてしまうかもれしれない。

わかっている。恐ろしいほどの罪でロイの手が濡れているなんて事は。
今回の件だけでも多数の死者を出した。これだけでも絶対に許されるべきではない。

「僕が・・・僕が全てを終わらさなければ・・・僕のせいなんだから・・・」

自分で犯した罪は自分で償わなければならない。ロイがああなってしまった原因は僕にある。なら・・・。

「はは・・・ひどい顔だな」

窓に映った自分の顔はひどくやつれていた。

救助は完了したものの、街には死臭が漂っていた。これからこの街は一生この恨みを忘れないだろう。
僕の罪は・・・僕が見て見ぬふりしていた罪は・・・僕一人では償えない所まできている。

「絶対・・・ロイを止めてみせる・・・僕の命と引き換えにしても・・・」

120カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/06/07(日) 23:09:42
>「あ―――――――っ!!!」
>「あいつ……どうしてここに」
>「ちぃ〜ッ、よりによってメンドくさいのが……!」

いつの間にか戻ってきていた親衛隊の面々が驚きの声をあげている。

「コイツを知ってるんだね!? やっぱりニヴルヘイムのブレイブなの?」

正体がバレて開き直ったのか、襲撃者が口を開く。

>「……助けてくれ、だと」

襲撃者はヘルメットを外し、素顔を露わにした。ちょっとターミネーターっぽい雰囲気の外国人男性だ。

>「貴様のような人殺しが。常人と相容れないはみだし者が。どの面を下げて助けなど求められる? 
 これまで貴様がしてきたことを思い出せ。貴様が考えてきたことを顧みろ。
 貴様は自分のことしか考えていないというのに」

「コラ―――――ッ!! 大虐殺現行犯のお前が言うな! 大体お前誰だよ!」

せっかくいい感じに心を開いてくれたタイミングで何さらすねん!
という感じで抗議するが、華麗にスルーして言葉を続ける襲撃者。

>「…ロイ…ロイなのか…?」

どうやら襲撃者とジョン君は面識があるようだ。ロイという名らしい。

>「――俺がここにいることが不思議、という顔だな。
 何も不思議ではないさ……誰だって、あのゲームをインストールしていれば召喚される可能性がある。公平にな。
 もっとも――俺はインストールしていただけで、プレイしたことさえなかったが」

>「そ、そ、そ、そうッス!
 あいつは――『ブレモンをプレイしたことがない』んス!
 あいつは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』でさえない、あいつは――」

ブレイブでさえないと言われてイラッとしたのか、ロイは威嚇射撃を放つ。

「碌にプレイしてなくてサーセーン! ……ん? インストールしてるだけでも召喚されるの?」

たまたまこのパーティーのガチ勢率が異常なだけで、
カザハみたいに碌にやってもいないのに召喚って別にUターン組の特殊事例じゃなかったんですね。
ド素人がわんさか召喚されていても何も不思議はないわけだ。――ただしそれがランダム召喚ならば。

>「ブレモンをやったことがない……? それなら、どうして……」

「アルフヘイムならともかくニヴルヘイムはピックアップ召喚だよね……?」

>「……そういうことか」
>「奴は。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を狩る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』ということらしい」

121カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/06/07(日) 23:11:27
>「そうだ。俺は貴様らを潰すために召喚された。
 ミハエルと帝龍は、貴様らと同じ土俵に立って勝負したから負けた。ゲームで遊んだばかりに敗退した。
 だが、俺は違う。貴様らの得意なゲームに付き合うつもりはない。
 俺は俺のやり方で貴様らを葬る――アメリカ陸軍仕込みの軍隊戦術でな」

「ブレモンが強い奴じゃなくて普通に強い奴を選んで召喚したってことか……!
じゃあ……ニヴルヘイム陣営は召喚候補者の地球での人物像まで分かった上で召喚してる?」

バロールさんは皆のプレイヤーネームしか知らなかったし、なゆたちゃんと明神さんの因縁も全く関知していなかった。
ニヴルヘイム側はそうではないとなれば、コイツはジョン君と因縁があることまで分かった上で選ばれた可能性も濃厚なわけですね……。

>「アイツ、チョー洒落んなってないし! ブレモン知らんやつがアルフヘイム来んなし!」
>「あいつには『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の戦い方が通用しないッス、ガチでヤバイ奴ッスよー!」
>「ニヴルヘイムに召喚された他の地球人たちは、まだしも話の通じる相手だったけど……あの男ロイ・フリントは違うわ。
 あの男はそこの焼死体さんの言うとおり、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を殺す『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
 敵対する危険性のある『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を始末する殺し屋よ」

ガチでヤバくて話が通じないので有名な親衛隊の面々からガチでヤバくて話が通じないって言われてるよ、これアカンやつや……!

>「わたしたちを殺すために、ゴブリンに地球の武器を持たせて戦わせるなんて……」
>「知能の低い亜人どもにライフルの使い方と隊列の組み方を教えるのは、少々骨が折れたがな。
 だが問題ない。デリントブルグでの最初の実戦はまだまだ練度が低く、銃の命中率も低かったが。
 今回はそれなりの結果が得られた。この次はもっとうまくやれるだろう」

「そんなアナログな方法だったの!?
あまりにも統制が取れてるから魔法的な何かで操ってるのかと思ったわ……!」

>「……次があると思ってるの?」

「問答無用! ここで仕留めるよ! その能面みたいな顔に風穴開けたろかーっ!」

カザハはロイに狙いを定めて矢をつがえた。矢が魔力の風をまとう。
相手は先程とは違ってヘルメットを脱いでおり、いくら超強い軍人とはいえ
生身の地球人ならそれなりにビビる状況だと思われるが、相変わらず落ち着き払っている。

>「あるさ。今回の任務は完了した、撤退する」

>「なんですって?」

「どうせ追い詰められた敵の『今日のところはこの辺にしといてやる』みたいなもんでしょ!
一般人相手なら無双できるんだろうけどこっちのモンスター率の高さ考えろっつーの! 残念でしたーっ!」

確かに、普通はブレイブはほぼ一般人のはずが、このパーティーは何故か一般人の方が少数派なのは相手にとって誤算だったかもしれない。
ロイをビビらせるのを諦めたカザハは足元に矢を放つ。が、タクティカルスーツの脚甲部分に弾かれた。

122カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/06/07(日) 23:12:45
「それ一応エンチャントかかってんだけど……。
なるほどね、そういう感じのパワーバランスなのね。地球の技術力って半端ないんだ!」

《感心してる場合じゃないですよ!》

顔を狙ってはこないのは最初から読めていたんですかね……。
その時、フェルゼン公国の方で大爆発が起こった。

>ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!

「はぁ!? まさか……爆破しちゃったの!?」

>「俺は。俺のやり方で貴様らを葬ると言ったぞ、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』――」
>「この橋梁都市ごとボクたちを大断崖に落っことそうってのか! うっひょー! すっげええええ!!!
 そういうド派手なの大好き! どーしよー、ボクちょっとコイツのこと好きかも!
 あ、でも心配すんなよな明神! パパが一番で二番目がオマエなのは変わんないから!」

「これが本当の爆発オチ……ってシャレにならないよ!?」

>「そ・・・そんな事したらここに住んでる人はどうなるんだよ・・・おい!」

「今はとにかく脱出しなきゃ……!
フライトを2つ持ってるから……1人ボクと相乗り! 明神さんはガーゴイルに乗せてもらって!
親衛隊は……マル様任せた!」

早々に橋が落ちる覚悟を決めたカザハは私に跳び乗って脱出の算段を始めた。
が、相手はどうやら橋を落とすまでするつもりはないようだ。

>「心配するな、そんな無駄なことはせん。
 最小の行動で最大の戦果を挙げる、それが戦闘の鉄則だ。
 今はまだ、そのときではない――だが次で必ず仕留める。さらに練度を上げた軍隊でな。
 そのとき貴様も俺の手で始末してやろう、ジョン・アデル」

その言葉のとおり、地面がいくらか傾斜したところで橋の崩壊は止まった。
街ごと奈落の底という最悪の結末は免れたようだ。
橋の作りがしっかりしてたから良かったようなもののもしも意外とガバガバ設計だったらうっかり落ちちゃってた可能性も普通にありますよね……。
別に街ごと落とすのは流石に気が引けたとかいうわけではなく、
本人が言った通り橋を全部落とすのは大変だからコスパを考えてこうなった、ということなのだろう。
当然のようにスタイリッシュにドコデモ・ドーアを開いて撤退していくロイ。
そこだけはしっかりニヴルヘイム軍勢の様式美に則ってるんですね……。

「今日のところはこの辺にしといてやる……!」

《それ追い詰められた敵の台詞―っ!》

>「あいつも――妹も貴様が地獄へ墜ちるのを望んでいるだろうよ」

ロイが門に入る直前に告げた言葉から推察するに、彼はジョン君が”殺した”少女の兄、らしい。
偶然にしては出来過ぎている。
ニヴルヘイムの連中が、ロイがジョン君に恨みを持っているのを知った上で差し向けたのだろうか。

「ニヴルヘイムの奴ら……趣味悪すぎやろ!」

123カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/06/07(日) 23:14:02
>「……わたしたちのせいだ」
>「僕が悪いんだ・・・」

なゆたちゃんたちは街の惨状を前にどうすることも出来ずにただ立ち尽くしていた。

>「否。例えそうだとしても、ただ立ち尽くすにはまだ早いかと。
 我らが救える命は、まだあるはずです……諦念こそが人を殺す。参りましょうぞ」

>「みんな、わたしたちも行こう。マルグリットの言うとおり、まだ助けられる人はいるはずだから……」

「そうだね……。動けない人がいたら呼んで。カケルを行かせるから」

皆が怪我人の救助に散る。
スペルカードは何回もは使えないので、私の回復スキルが役に立った。
それにしてもすでに事切れている遺体がたくさんあり、酷い有様だった。
ジョン君の言葉からすると、ロイは昔はいい奴だったらしい。
妹が死んだのがきっかけでああなってしまったのだろうか。

「カケル、次はこっちの人お願い!」

《……》

「カケル?」

《……カザハが生きていて良かった》

「ボクが生き残ったのは思った以上に大きな意味があるのかもしれない……。
歴史に恒常性があるとすれば……ボクはアコライトで死ぬ運命だった。
皆が未来を変えてくれたおかげでジョン君は今度は兄弟の片割れを殺さずに済んだんだ」

《アコライトを超えて生きていることそのものが運命は変えられることの証……。
そうだと……いいですね。いえ、きっとそうですよ》

「そうだとしたら……ボク達は変えられぬ過去に屈したらいけない気がするよ。
過去に何があったとしてもジョン君の味方でいようね」

《うん》

「……安心しなよ、もう置いていかない」

《……私も》

「我ら生まれた日は違えど、死すときは同じ日・同じ時を願わん――か」

救助を終えた私達は、爆破地点の検証に向かった。
ロイの目的は、魔法機関車の軌道を断絶することだったようだ。

>「……これがフリントの目的だったんだ」

それなら、線路を一部分破壊するだけでも当面の足止めにはなったはずだ。
目的に比して、あまりにも被害が大きい。

>「誰よりも真っすぐを信条としてた男がこんな狡猾な手段に出るなんて・・・」

>「アイアントラスを離れよう」

「離れるったって……徒歩で!?」

124カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/06/07(日) 23:15:20
エンバースさんが道中の狙撃を懸念し、ガザーヴァが鈍足続行に文句を言う。
ただゴネているようにしか見えないが、彼女なりにジョン君のことを気にかけているのかもしれない。

>「それに関しては僕が・・・これがあれば・・・かなり時間を稼げるはずだ」
>「銃を僕が確保した以上・・・生半可な練度で、場所で襲い掛かっても無意味だという事は・・・ロイもわかってるはずだ
 僕ら軍人の真骨頂は・・・銃だからね。アメリカと日本じゃ差はあるけれど・・・戦い方は分ってる」

「うん……頼りにしてる……」

>「ロイを止める為なら・・・僕はブラットラストの力を使うことを躊躇わない
 それに・・・能力の強さが不明確なこの力は・・・切り札になりえる」

「ジョン君……! それ使ったら本末転倒だよ!?」

>「僕は・・・街で予備のパーツ、もしくは武器になりそうな物がないか漁ってくる。
 話し合いは・・・すまないが辞退させてくれ・・・ちょっと今は冷静になれないから・・・・」

ジョン君は逃げるように去ってしまった。

>「こんなとき、みのりさんかバロールのアドバイスがあればいいのに……」

なゆたちゃんと明神さんは秘密の打ち合わせを始めた。
その場に残ったカザハは、マル様に問いかける。

「マル様、本部に連絡取って乗り物チャーター出来ないの?」

残念ながら、そんな権力は無いようだ。まあチャーター出来るぐらいなら最初から乗って来てますよね。
今更ながら、世界を救う人材をスカウトして回るのに徒歩ってあまりにも悠長すぎやしません!?
世界の状況が予断ならないなら、一刻も早く人材を集めなければならないはず。
ローウェルなら飛空艇でも高級車(?)でも用意できそうですよね!? マル様、体よく泳がされてる気がする……。

>「ニヴルヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に襲撃を受けたは痛手でしたが――
 これしきのことで、大義を胸に抱く我らの歩みを押し留めることなどできはしません。
 否、むしろ――斯様な策を弄してくるということは、それだけ彼奴等にとって我らが小さからぬ脅威であるという証左。
 いかなる艱難と辛苦が待ち受けていようと、これを打破するのみ! それが我らの為すべきことでありましょう!
 さあ――月の子よ、勇敢なる『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちよ! 参りましょうぞ、我が賢姉の待つ聖都へ!」

なゆたちゃんと明神さんが戻ってきて、出発する運びとなった。
それにしてもよく毎度その辺の人が言ったら笑ってしまいそうな長台詞を思いつきますよね……。

>「……マルグリット、その話なんだけど。
 出発する前に、ひとつだけ教えてくれない?」
>「私の知り得ることならば、何なりと」

なゆたちゃんはローウェル陣営に黎明がいることを聞き出すと、突然の離別宣言をした。

>「いいえ。私が知りたかったのは、そっち側に『黎明』がいるかどうか、ってことだけよ。
 そして、あなたの言うとおり本当に『黎明』がそっちにいるのなら……。
 マルグリット、あなたたちとの同行はおしまい。ここからは、わたしたちだけでエーデルグーテまで行くわ」


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