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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ

1V3:2015/05/12(火) 09:33:12 ID:GO60ug8o
2014/10/09(木) 20:34:42 ID:a1f1bb1b9
タイトル通り、好きな小説をじゃんじゃんバリバリ語りましょう!

3960V3:2015/06/08(月) 23:04:36 ID:3z4GG4Kk
「——お客様でございます」
小姓のシモンが云いに来た。アルド・ナリスは机にむかって書きものをしていた手を一瞬やすめた。
その美しい眉宇に、ほんの一刹那、かすかな翳りに似たものがよぎる。
が、羽根ペンをおいてふりかえったとき、かれの顔は晴れやかになっていた。

「リギア!」
かれは、信じがたいものでも見たかのようにつぶやいた。
「リギア、よく無事で……」
「わたくしこそ——ナリスさまの、ごぶじなお姿を拝見して、何もかも……」
「リギア。手をあげて下さい。この椅子へ」
「いいえ、わたくしはここでよろしゅうございます」
「リギア——」
ナリスは、静かに、リギアに近づき、その足もとにひざまづき、その手をとった。
「私の——女騎士」

「これまで、一体、何を?いや、むろん云いたくなければ、云わなくてもよいが」
「これもちょうどよい機会と存じ、そのまま奴隷娘に化けて、モンゴールの兵舎に入りこんで探っておりました」
この豪胆なルナンの娘は云った。
「ちょうど、さいわいなことに、わたくしを捕らえたのが、黒騎士隊長カースロンの下の隊だったので、うまく位が上のものの目をひいてそちらへはべらされるようにして、結局カースロンはむりでしたが、その右腕の、小隊長ダラスのそばづきになるのに成功いたしました。そして、いろいろと面白いことを——ここは、よろしゅうございますか?」
「大丈夫。これだけ明け放ってあれば、立ちぎきもできぬ。その扉をあけておいてくれ——そばへ、リギア」

ナリスはふいに、子どものように無邪気な、ほとんどはしゃいでいるといいたいようなようすになって、リギアの手をつかんだ。
「まったく、わたしの乳きょうだいは、なんというイラナなんだろう!——ねえ、リギア、あなたに何かしてあげなくてはいけないね。あんなに大きな犠牲を私のために払ってくれたのだから——云って下さい、何がほしい?愛用の剣、ドレス、舞踏会の女王の座、それとも宝石類、私のくちづけ、この髪?昔もよく云ったけれど——どうしたらいいの、リギア、って?」
「何も」
「しかし、それでは——」


リギアは、かぶとを深くかぶったまま、アムネリスを通すためにドアの横で待ち、それから一礼して、男のような歩き方で出ていった。アムネリスは、フロリーが扉をしめるあいだ、ふしぎそうにふりかえっていたが、
「ご家来ですの——男の方?それとも女騎士?」
ときいた。
「目が早いことだ」
ナリスはひとりごちた。恋人にむかって、迎える手をさしのべながら、
「むろん、男ですよ。どうしてです——おお、あなたは今日も光の公女そのものだ」
「この髪型、お気に召しまして?」
「むろん気づいていましたとも。——光の塔のようだ。アマルスの発表した新しい髪ですね。おお、宝石をちりばめて——これでまた、クリスタル・パレスじゅうの姫君が、嫉ましさにまっさおになって、廊下のすみでこっそりあなたの髪のかたちを書きうつすんですよ。ところで、何をお飲みに——その服をみれば、決まっている。ヴァシャの赤い酒ですね。シモン!」
アムネリスは、すきとおるような緋色の絹を、ゆたかに波立たせた、パロふうのドレスの裾を嬉しそうにもちあげた。アムネリアの花の精でつくった香水の香が、持ち去られたアムネリアよりもっとつよい、その花の匂いで室をみたした。
(きつい香りだ。くらくらする)
ナリスはつぶやいた。アムネリスが不安そうにのぞきこむ。
「え?——どうなさいましたの?」
「何でもない。ただ、あなたが光というより、炎そのもののようにあまりに熱すぎるので、そばへ寄ったら焼かれてしまいはせぬかとおじけていたのですよ。そう、ルアーの火にとけたあの小っぽけな霜の乙女のように。でもこちらへおいで、アムネリス。あなたなら焼かれてもかまわないから」
「では心の底まで焼きつくしてあげるわ」
アムネリスは恋に酔う娘の勝ち誇った声で叫んだ。そして彼女はナリスの腕に身を投げこんだ。

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』

梅(*`Д´)ノ♪

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3961V3:2015/06/08(月) 23:07:32 ID:3z4GG4Kk
「ナリス様——」
「おお、リーナス。ダーヴァルスとルナンも」
アムネリスがひきとってから、サンルームに入って来たのは、それとはうってかわった武張った訪問者であった。

「例のものが手に入りましてございます」
「例のものが。やはり、クリスタルにか」
「はい。ディーン様のおかげにて、こちらの意のままで」
「ふむ、まあ、使い途はヴァレリウスにまかせよう。ずいぶん面白い使い途をさがし出してくれようさ」


アムネリスは幸福だった。
彼女は愛する人との婚礼をまちかに控えた十八の乙女だった。たびたび、占い師たちのわけのわからぬ託宣のおかげで、その日どりはのびのびになっていたが、ついに、正式にそれは紫の月の十日、『サリアの日』と決められた。

「私は知らなかったのだわ」
ありとあらゆる男まさりの評判にもかかわらず、しんはとても女らしいアムネリスは、ナリスの肩にもたれ、かれのやさしい手に愛撫されている甘やかな夕べのひとときに、ナリスに云うのだった。
「私は前に、女はドレスのすそでもひいて、舞踏会で敵の首をとるがいい、とある人から云われたことがありましたわ。そのときは、私はそれを、ひどい侮辱だととって、それを云った男を一生憎むだろうと思ったけれど、でも、こうしてあなたのおそばにいると、何だか他のことはすべてどうでもよくなって、ただいつまでもこうしていたい、それが女として生まれることのできた、いちばんの幸せなのだ、という気がしてきて……」
「そう、アムネリス?私たちはもっともっと、いくらでも幸せになれるよ。私は永遠に、私のイラナの足元に膝まづくだろうし、あなたが私を愛してくれる限り——こんな幸運を信じられないのは、私の方ですよ——私の生命はあなたのその白いやさしい手の中だしね。もう少し、クリスタルの町がおちついたら、二人で遠乗りに出かけよう。私は、私のこんな美しい妻を、人に見せびらかす機会を逃すなどということはできないよ、イラナ」
そう——
たしかに、アムネリスは幸福の絶頂にいたのである。
もし、ときどき彼女の心をおそう、わけのわからぬかげり、憂鬱、不安のきざしのようなもの、それさえなかったならば、たぶん、アムネリスほど幸福なものはこの世にいないとさえいってもよかっただろう。


グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』

梅(*`Д´)ノ♪

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3962V3:2015/06/08(月) 23:09:01 ID:3z4GG4Kk
「なにごとだ、タイラン」あわただしく夜着の上に豪奢な部屋着をはおっただけのアムネリスは、あくびをかみころしながらきいた。
「あとせめて、二ザンも待てぬほどに?」
「たったいま、夜に日をついでかけとおした使者が到着いたしまして。すぐお耳に入れねばと思いまして」
「ゆうべは、少し、おそかったかしら」
アムネリスはうっとりと、昨夜のナリスの、彼女の為に作ってくれたすばらしい詩のことを思い出しながらいった。
「お起こし致しまして、申しわけございませぬが、ことはいささか急を要するので」
「それはもうわかった」
アムネリスは云った。
「いったいどこからの使者だ?トーラスか、それとも——」
「カウロス公国よりの使者で」
「カウロス——ずいぶんとまた、遠くから……」
「はい、姫さま、わるい知らせでございます。ついに、アルゴスが起ち、国をあげて、縁つづきたるパロを救えと軍をおこしましてございます。トルースや、アルゴス周辺の騎馬民族も参戦したもようで、アルゴスから兵をかりてパロへと立った、アルゴス滞在中であったベック公を、草原の町リャガのあたりで討たんとしたカウロスの軍勢は、かえってアルゴス、トルース連合軍に包囲され、敗北を喫しました。そのまま、連合軍はベック公を救出し、着々と騎馬民族の軍団の参加をえて数をふやしながら、一気にカウロスをうちやぶるべく北進をつづけているとのことでございます。——カウロスが破られれば、あとはパロの南辺をふせぐものは、ただの自由開拓民の村だけで——」
「トーラスへは?」
「カウロス公国のジラール公は、モンゴールの援軍を要請しておられます。で、ただちにひきついだ早馬がトーラスへたちましたが、トーラスからの軍勢をまっていては、カウロスに手おくれになるやもしれず——それより前に、このクリスタルに駐屯中の部隊を、ただちにさしむけては、と——」
「ガユスは?」
「ただいま、占っております」
「では、ガユスの云うようにすればよい。どのみち、クリスタルは平和なのだし」
アムネリスは面倒くさそうにいった。
「タイランにまかせる。好きにするように。——おお、いまクリスタルの軍をうごかしてしまったら——」
「は——?」
「婚礼のときの、閲兵式が見すぼらしくなるわ。父上の軍が間にあえばよいけど——杞憂ではないの、タイラン?カウロスは勇猛でなる草原の民の国。アルゴスもトルースも小国だし、それに草原は何万モータッドもひろがっている。かれらがそれをこえて、クリスタルへ到達するとは必ずしも考えられない。——もう少しようすをみては?そのうち、カウロスから、鎮圧したという知らせが来るかもしれないし」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


梅(*`Д´)ノ♪

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3963V3:2015/06/08(月) 23:12:18 ID:3z4GG4Kk
草原——
いっぽう、はるかなアルゴスでは、クリスタル・パレスへの報告にあったとおり、いまやまさに、カウロス公国と、ベック公、アルゴス、それにトルースの戦いの幕が切っておとされようとしていたのである。

「誰かおらんのか。衛兵——衛兵!」
マハールの白亜宮、アルゴスの主都たるその白い宮殿の正門前で、大声でどなっているのは、《アルゴスの黒太子》スカールだった。
「開門!おれだ、スカールだ!」

「兄上。——兄上」
遠慮を知らぬ野人のスカールが、とりつぎも乞わず、ずかずかと入っていったのは、兄であるアルゴス国王スタックの謁見室だった。

「スカール、少しはつつしめ。こちらは、クリスタルよりの使者ヤルーどのだ」
「ふん」
スカールは鼻息を噴いた。ひと目みてそれとわかる魔導士の黒い服、あやしい、この明るく白い白亜宮にそぐわぬ暗い雰囲気——おおむね、例の「とじた空間」と称する黒魔術をでもつかって、つい先ほどクリスタルからついたのにちがいない。
「どうも無骨なやつで——これが弟の、王太子スカールです」
「存じあげております」
「兄上。こんな、のんべんだらりと社交ごっこをしている場合ではないぞ。俺は国境からハン・イーをとばしてきた」
いっこうにとんちゃくせぬスカールが云った。
「兄上。ベック公が危ない。すぐ兵を出す。命令を出してくれ」
「何と云う」
「ベック公はリャガの近くで足どめをくっている。カウロスはついにベック公をうつことにした。すでに公国軍二万が国境を出ている。ベック公はトルースで一万かりて二万に達するはずだった。しかしカウロスに足どめされてトルースに入れない。このままでは、俺が騎馬の民をあつめ終わるよりさきに、ベック公がカウロスの手におちる」
「リャガで?」
スタック王が立ちあがった。
同じ父から生まれているということが、信じがたいほどに、この兄弟は似ていない。英明で、名君の名もたかいが、むしろ哲学者肌とでもいいたい、物腰のおだやかなスタック王と、荒々しく悍馬のようなスカール。——スタック王はパロの姫を母にもち、自らもパロのエマ王女を妃にむかえ、一方スカールは、グル族の女を母にもっている。
「騎馬の民はいまちょうど移動の季節で、ふれをまわしたが集まりおえるにはまだ最低一両日はかかる。それからリャガへたっては間にあわぬ。アルゴス正規軍をつれていますぐ発つ」
「スカール」
困惑した表情で、スタック王がヤルーとスカールを見くらべた。「兄上、一刻を争う」
「スカール、ヤルーどのは、クリスタル・パレスから来たのだ」
「アルド・ナリス?」
ヤルーは両袖をあわせて魔導士ふうに手をくんだまま、そうだともちがうとも、何も云わなかった。
「何のおもむきだ」
「それはな、スカール——」
「陛下。私から王太子殿下にご説明申しあげましょう」
魔導士ヤルーはゆっくりと、スカールに向き直る。
「私はアルゴスに、六万の兵をおかりしに参った使いでございます」
「六万だと。いま動かせるほとんど全部じゃないか」
「さようで——それをさらに二つにわけ三万を海路ロスからモンゴールの背後へ入らせてトーラスをつかせわ三万を、陸路からケイロニア—パロ間に出現させます。そしてベック公とトルースの連合軍を、パロ南辺にすすめ、相呼応してパロ国内の反乱軍がすべての宿を掌握し、トーラスとパロ駐留モンゴール軍の連絡をたちきるという——かようの作戦の手はずをととのえまして——」
「ふん。海と、ケイロニアのおさえ、パロ南辺でカウロスをおさえ、そしてモンゴールをいたるところで孤立させる。——みごとな作戦だが、そのまえにベック公がたかだかリャガあたりでカウロスの手におちては何にもなるまい。しばらく——そうだな、五日待て、ヤルーとやら。俺がアルゴス軍をひきい、ベック公を救い出して、また戻ってくるのに五日あればじゅうぶんだ」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』

梅(*`Д´)ノ♪

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3964V3:2015/06/08(月) 23:14:59 ID:3z4GG4Kk
「太子さま——」
ヤルーがゆっくりと口をひらく。彼がしゃべりはじめると、明るい草の色と空の色、白と緑の光あふれる草原の国アルゴスに、にわかに黒雲が一点わき出すようにさえ思える。
「お耳を」
「何だ。勿体ぶりおって」
スカールは魔導士も、それのまきちらすあやしげな雰囲気も——また、占いや託宣、黒魔術もみな好まなかった。彼は黒くふとい眉を一直線になるほどしかめながら、ヤルーの口もとへ耳を近づけた。
「……」
ヤルーは、このアルゴスの誇る白亜の宮殿の中でさえ、大声を出してはこころもとない、とでもいうように、ひそやかに語りはじめる。
「何だと……」
ひとこと、ふたことをきいただけで、スカールの顔色がかわり、くちびるがぐいとひき結ばれた。

「そのようなたくらみ、俺は好かぬ」
スカールはヤルーをにらみすえたまま、よくひびく声でつづけた。
「それがだれの考えたことかは知らぬが——そしてまた、それは俺の口をさしはさむことでもないが、俺はそんな、けがらわしい作戦の片棒をかつぐ気はないぞ。——よいわ、勝手にしろ。兄上が、それに応じて兵を出すというなら出すがいい。アルゴス国王は兄上だ。俺ではない。が、俺は俺のやりたいようにやる。誰のさしずもうけぬ。五十万モータッドもはなれたところにいるたれかに、ボッカの駒のひとつのように、思いのままに動かされたりはせんぞ」

「俺はベック公を助けにリャガへゆく」
「おい、スカール。兵は——」
「アルゴス正規軍などいらぬ。好きにしろ、パロへおくるなり、モンゴールの背後をつくなり——煮て食おうが、焼いて食おうが。そんなもの、なしでも俺は一向かまわん。俺は黒太子スカールだ」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』

梅(*`Д´)ノ♪

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3965V3:2015/06/08(月) 23:17:15 ID:3z4GG4Kk
「危ない!」
ヒュンッとするどい音をたてて、たったいままでベック公の頭のあった空間を矢がとびすぎた。
ベック公は、ウマの首にとっさに上体をふせながらどなった。
「卑怯者め!正々堂々と、しょうめんから戦いをいどむことはできんのか。卑劣なモンゴールの盟邦ともなると、下っ端まで卑怯者だわ」
「公、少し、うしろにおさがり下さい」
うろたえて叫んでいるのは、ベック公の右腕の、テルシデス伯爵だった。
「うしろへさがれだと。こんな、たかが、牛飼いばらを相手にうしろへなどひいたら、このベック、末代までの笑い者だわ」


一万の兵をかりて、一足さきにマハールを発った、パロの勇将ベック公の心づもりでは、街道ぞいにまっすぐリャガをめざし、リャガでまたあるていどの傭兵をつのって、リャガをアルゴスの味方につけたうえ、あらためて道をトルースへとり、トルースの都トルフィアでトルース軍と合流して大軍勢となる、という予定であった。トルースは小国ながらその民は勇猛をきわめ、その上に、「トルースの忠誠」とことわざになるほどに、その民は誠実、一途である。
リャガをおさえ、トルースと合流したとなれば、その軍勢は大国カウロスといえどあなどるわけにゆかぬ数にふくれあがる。ベック公にとって、目ざすはパロ、クリスタルの都以外でなかったから、かれは草原地方をおしとおる前にカウロスとまっこうからぶつかることを賢しとしなかった。
それはまた、ベック公とつねに行動をつねに共にするテルシデス伯、軍師たる魔導士ランズのとるところでもなかった。二人の意見は、むしろリャガを避け、直接にトルースをめざしては、というものであったが、しかしその場合、万一リャガがカウロスにくみすれば、ベック公の一行は、再びトルースから、パロへの赤い街道に出るためには、いやおうなしにリャガを征服するか、さもなくば、次の宿場チュグルまでを、街道を避け、草原をおしわけて何千モータッドも進軍してゆかねばならない。
草原には、砂漠のようにあからさまな遭難の危機こそひそんでいなかったが、そのかわり、いつ、どのようなかたちで、草原にすむ気の荒い少数民族——その全ての実態は、アルゴスの王宮にさえ把握されていないのである——の攻撃、あるいはカウロスの奇襲、を受けるかわからぬおそれがあった。
それゆえ、ベック公のリャガ経由説を、ランズもテルシデス伯も、さまで強硬に反対はしなかったのである。

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』

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3966V3:2015/06/08(月) 23:18:40 ID:3z4GG4Kk
「敵だあッ!」
ベック公にかしあたえられた一万は、アルゴス正規軍——もとより、いくたびも国境をめぐる確執をくりかえして、カウロス公国の旗じるし、いでたちは知りぬいている。
ベック公の下知を待つまでもなく、たちまちかれらはかぶとの面頬をおろし、手綱を左手にうつして、右手に半月刀をひきぬく。ウマのたかぶりをしずめながら、散開の指示を待つ。
「先まわりしおったな」
ベック公は、呪いのことばを吐きすてた。
「くそ——リャガは、カウロスに寝返ったか。ランズ!」
「は!」
「戦うか。退くか」
「戦いを」
魔導士はためらわずに云った。ベック公はテルシデスを見た。伯爵もまた、力づよくうなづいている。
「退くすべはすでに断たれております、公」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』

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3967V3:2015/06/08(月) 23:21:56 ID:3z4GG4Kk
「おお——きこえる」
「きこえるぞ!」
「やって来る——こっちへ来る!」

「スカール参上!」
陽気なよくひびくわめき声もろとも、黒太子スカールを先頭に、グル族の勇猛果敢な戦士たちがわあっと戦場へなだれこんでくると、士官たちの方がさきにたじろいだ。
「殺せ!」
スカールは、まさしく、大地を割ってあらわれ出た、凶猛な黒い狼の長とも見えた。
その手にたかだかと、大きな半月刀がさしあげられ、なかば鞍から身をうかせて、右手の刀が一閃すると、たちまち着実にあいてを切りふせてゆく。
その、髪も目も皮膚の色も、いでたちもすべて闇の黒につつまれたなかに、むき出しにした白い歯だけがあざやかに輝いてみえる。
「グル・シン!」
「ウラーッ!」
スカールの左手があがったとたん、グル・シンひきいる一隊が、スカールの本隊からわかれ、リャガめがけてつっこんでゆく。
スカールの左には、いつもぴったりとつき従う小柄な女戦士のすがたがあった。
「おお、これはすごい」
うっとりとベック公は見つめながらつぶやく。さながら猛虎に見とれる心地だ。
「これはすごい。ききしにまさる——おう、何という戦いぶりだ。まるで狼だ。それにこのグル族の、一糸乱れぬこと——わがパロの聖騎士団にもひけをとらぬ。おお、それにあの女戦士——」
思わずみとれて嘆声をもらしたが、ふいに我にかえり、
「おれとしたことがそんなことを云っている場合ではなかった。いまだ、一気に敵を踏みつぶせ」
あわてて鞍つぼをたたき、レイピアをふりかざしてとびあがる。
「テルシデス!ゆくぞ、スカールどのの、側面援護だ」

「やあ、ベック公!」
風のように、ウマをよせてきたスカールは、歯をむいてニヤリと笑った。
「遅れて、すまなかった」
「なんの、スカールどの、あいてはたかがカウロスの雑兵ばらだ」
「こんなことだろうと、グル族に、リャガ国境地帯を見張らせていたのでな。しかし、こちらも、あれやこれやで約束の援軍がおくれ、いまもグル族とウィムト雑兵だけをひきつれて、とりあえずさけつけたばかり——さぞ気がもめるだろう。すまぬな」
「いや、いや——」
ベック公はふと、スカールのうしろにぴったりとつき従っている、さっきも目についたスカールの小さな影のような一騎をみて、そして小さく感嘆の息をついた。
きっちりと長い髪をまいてとめたリー・ファは、そのかわいい、山猫のような顔にぬけめなく光るつりあがった目で、じっと太子のうしろにひかえている。野性の匂いのする美貌と、人馴れぬネコのようなようすとは、パロの女性になじんだベック公には、まったく異国めいて見なれぬものにうつった。


グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』

梅(*`Д´)ノ♪

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3968V3:2015/06/08(月) 23:23:27 ID:3z4GG4Kk
「損害は?」
「われわれは、ほとんどありません、太子さま。カウロスが、およそ五千」
「わが隊はいささかこうむりました。いま並べさせてみたところ、二、三千やられています」
カイル隊長が報告する。
スカールはうなづき、何か考えるふうで、ゆっくりとそのへんを小さい輪を描いてハン・イーにまわらせていたが、ふいに顔をあげた。
「おお、のろしだ。見ろ、リャガの城塞を」
あわててみな空をふりあおぐ。
くっきりと晴れた空に、リャガの白い城壁の上からゆらゆらとひとすじの煙が立ちのぼったかと思うと、いきなりスルスルと糸がひかれて、きのうの夜までカウロスの国旗をはためかせていた旗台に、アルゴスの星月旗がのぼっていった。
つよい風にはたはたとはためいている星月旗をみあげて、アルゴス軍の口からわあっと歓声があがる。
「なんと」
ベック公はテルシデスに、あきれ顔でささやいた。
「どうやらあの城塞の中には、あつも各国の旗が用意してあるらしいな」
「驚かれたろう、ベック公」
ききつけてスカールが大声で笑い出す。
「だがまだおどろくのは早い。これからさ」
スカールがまだ云いおわらぬうちだった。
ぴったりととざされていた城門の内側で、たかだかと笛のふきならされるのがきこえ、そして、やにわに、城門が左右へきしみながらひらきはじめた。
ルアンの湖水の、せまくなったところへかかる、はね橋が、しずしずとおりてくる。
「こりゃまたみごとなものだ」
ベック公は口笛を吹いた。
「もしここでまた、カウロスの大軍があらわれたら、どうなるのです、スカールどの」
「そりゃ、もちろん、すぐにはね橋をあげ、旗をおろしてようすを見るだけだな。もし、きゃつらがアルゴスの旗をおろさなければ、われわれの方がつよいとふんでいることになる」
「いっそそこまでゆけば見事としか云えませんな」
「グル・シンがうまくやったらしい」
それにはこたえずに、スカールはリー・ファに云った。
「グル族を整列させろ。カイル、われわれのあとから入れ。——今夜はリャガだ」


「公、今夜もういちどはかるが、おれの考えでは、このままリャガをぬけて、一路トルースに入り、トルフィアで兵をあつめたなりまっしぐらに東進することを考えた方がいいと思う。——まことにすまぬ話だが、アルゴス正規軍はひきつれて来られぬことになった。いや、むろん、公におかしするのがいやだというのじゃない。実は出がけにヤルーとかいうクリスタルからの使者が来て、アルゴス正規軍六万を、二つにわけてモンゴールのおさえに出せとの催促なのだ」
「ヤルーが?」
ベック公のほおがひきしまった。かたわらのランズ魔導士をかえり見る。
ランズは黙って、いくぶん頭を下げた。
「そこでわれわれとしては、トルース軍と合流したあと、カウロスが背後をついてアルゴスをおそうのを阻むか、いっそカウロス本国をついて一気におとすか——それにはちと、人数が足りんな。あるいはトルースに背後をまかせ、おれとベック公は海路からモンゴールをおそう隊か、陸路ケイロニアのおさえに北上する隊か、いずれかに合流するか。ベック公にまかせよう」
「これは、なかなか、考えてみないことには——」
「まあな。——いずれにせよ、どうやらこれでわれわれも、今度こそ中原、草原すべてをまきこむ大きないくさの渦中には居ることになったというわけだ。ベック公、このいくさは、なかなか小ぜりあいではおわりそうもないな」
「うむ——それにしても……」
「パロ=アルゴス連合がふっとぶか、モンゴールという国がこの地上に存在せぬようになるか、いずれにしても、これは、おそらく、長く——きわめて長くつづきそうな気がするぞ。あんたがたの好きな、例の予感、霊感ではないがな」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』

梅(*`Д´)ノ♪

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3969V3:2015/06/08(月) 23:33:21 ID:3z4GG4Kk
第八巻『クリスタルの陰謀』は、これにて終了
沢山の人間達が入り乱れて、物語が複雑化して行くので面倒臭いったらありゃしない(*`Д´)ノw


で、ここまでの雑感というかツッコミ所なんですが、モンゴールの奇襲に遭うまで長く平和を保っていた筈のパロに、なんで『勇猛公』なる尊称が付く公爵が存在してるんでしょうかw
14歳になるリンダやレムスだけでなく、25歳になるナリスですら戦乱を経験していないパロなのに、どうして戦争での功績でしか与えられない尊称を持つ30歳の公爵が存在してるのよ〜w

国境の小競り合い程度ではわざわざ公爵当人が出向くとは思われず、また、赴き競り勝った所で、与えられるのは勇猛というより、無謀公の陰口ではと(;^_^A

3970V3:2015/06/08(月) 23:50:17 ID:3z4GG4Kk
思うにこれは、グインが書かれた時代の、日本のインテリ達の限界だったかなと

グインの第一巻が書かれたのは、昭和五十八年、西暦で言えば1983年です
この当時の日本は、左翼思想が社会全体を覆っており、ことに、自分を「自由でありたい、進歩的な人間でありたい」と願ってたような、当時のインテリゲンチァ達に取って、軍事だ戦争だの実感、体感は、遠い話だったのだと思います


「戦争も経験していないのに、勇猛公が存在してるのはおかしくないか?」

早稲田の文学部卒で、在学中に中島梓名義で評論家賞を授賞するような早熟な才女の作者ですら、この当たり前の疑問が湧かなかったのは、ひとえに世相の影響かとw
あと、当初からの担当編集者で、後に栗本薫と結婚した今岡清にも、同じ疑問が湧かなかったのか、はたまた湧いた所で、人気作家に物申す事が出来なかったのかw


戦争で功績を立てた訳でもない人物に対して、戦時での尊称を与えるって、安重根を将軍呼ばわりする韓国人と変わらなくないか?と思ったことは内緒にしとこうw

3971アイナメ:2015/06/09(火) 08:33:56 ID:DQhbUjr2
V3さん。(*´ω`*)お疲れ様でした。面白かったよー!

書きたい事いっぱーいの御大!!仕込みのネタもあっちこっちに散りばめられて…
これって全部回収できんのかいなと…σ^_^;
案の定、御大の悪い癖が出て伸びる延びるーーW
出だしは、ツッコミ箇所が一杯w。V3さんも指摘してましたが、弟と2人で、なんでやーね〜ぞ
これは〜と、あははは(^◇^;)思い出しました。

3972V3:2015/06/09(火) 13:09:57 ID:YO7cDlik
アイナメさん、こんにちわ( ´ ▽ ` )ノ

ツッコミ所、満載だと気付いたのは大人になってからw
後に明らかになるケイロニアの内情とアキレウス皇帝の性格ですが、あの国が何でモンゴールと手を結んだのかと小一時間(;^_^A
まあ、グインには全ての謎を回答出来る奥の手がゲフンゲフンw

ところで、本スレでちょっと面白いレスが


559 :O.チキチキ(っ´ω`c)◆cxxSdZRnyHzR :2015/06/09(火)07:48:55 ID:eu0 ×
日本の天変地異を年表で記したサイトより。
http://www.nagai-bunko.com/shuushien/tenpen/ihen00.htm

http://imgur.com/txauzOX.jpg


1650(慶安 3)年
3月23日 関東地方で大地震。家屋に被害、死者多数。日光でも被害。翌日も地震。
6月20日 江戸で大地震。城櫓倒壊。大名町家も破損。1日に4、50回も揺れる。
7月16日 江戸で地震。
7月27日 淀川決壊し、大坂洪水。大坂城に被害。
8月 7日 秩父で氷降。鳥多く打殺される。
8月29日 唐津で長雨により洪水。25000石損。城・民家などに被害。
12月 7日 京で地震。
この年、毛が降る。
 
こ の 年 毛 が 降 る
 
こ  の  年  毛  が  降  る

560 :名無し :2015/06/09(火)07:50:13 ID:2EN ×

こ の 年 毛 が 降 る

グラスウールみたいなもんかな。ちょっと夢がないけどw




いや、それは「エンゼル・ヘアーだ!」と、グインファンとして叫んでおこう(*`Д´)ノww

3973アイナメ:2015/06/09(火) 13:39:08 ID:DQhbUjr2
いや、それは「エンゼル・ヘアーだ!」と、グインファンとして叫んでおこう(*`Д´)ノww

そうか、じゃあとは(*`Д´)ノ!!!「イド!!」の出現を待つばかりなり〜w

関東平野一杯の…くず湯………w

3974V3:2015/06/09(火) 13:52:17 ID:YO7cDlik
ところで、こっそりとアニメの愚痴をw

イシュトヴァーンの考察モドキにも書いた、「何故イシュトヴァーンは、リンダに固執するか」という点について私が一番の決定打だと思っている場面、嵐の最中、海賊船長に斬り殺されそうになったイシュトヴァーンを助けるべくリンダが飛び出してくる場面が、アニメではカットされてしまってました…(~_~;)

まあ、アニメは全般的にアムネリスをメインヒロインとして扱ってましたから、致し方ないのでしょうが

因みにアムネリスは、原作よりアニメの方が魅力的です
ある意味アストリアスも、アニメの方がキャラ立ちしてて、印象深いww

原作には無い設定の、イシュトヴァーンのムチ使いというのも良かったと思います
プロレスラーみたいな戦士や海賊達を相手に細身のイシュトヴァーンが負けない為の説得力を補強してました

リンダは…、まあ、言わぬが花w
私はリンダに思い入れが強過ぎるので、多分一番口煩いタイプのファンでしょうから(;^_^A

3975:2015/06/09(火) 13:53:30 ID:1begOuGQ
何だかそのサイト、面白いですね♪
こんなのも♪

979(天元 2)年4月21日
備中国より言上あり、去1日、都宇郡撫河郷箕島村に、形も味も飯の如き物が降り、人民これを食す。(日本紀略 7)

1141(永治 1)年9月25日
名称不明の物体が京中を飛び交う。形は胡麻の如し。(百錬抄 6)


梅(*`Д´)ノ♪

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3976V3:2015/06/09(火) 14:01:37 ID:YO7cDlik
桃さん、こんにちわ♪

これは、アフラマズダさんの出番なのでしょうね(*`Д´)ノ

梅(*`Д´)ノ♪

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3977アイナメ:2015/06/09(火) 14:03:56 ID:DQhbUjr2
アニメは。(*´ω`*)色々考えて、見ませんでした…
キャラの設定ラフ画の時点で、間違いなくテレビを壊すなと(笑)
まあまあの評価がついているですようですな…
リンダをもうちょっと大事しても〜と思ったけどね。
…御大の愛は別なキャラのようだったけどねw

3978V3:2015/06/09(火) 14:40:24 ID:YO7cDlik
アニメはアニメで、中々良かったですよ
グインがとても「グインらしかった」です
イシュトヴァーンは、声優さんのお陰か演出のせいか、二枚目成分多目で、愛嬌成分は殆んど無かったのが残念ですね
砂ヒルを食べさせられた場面もカットされてたようなw
リンダは、声優さんが余り良くなかったし、神秘的な雰囲気が皆無に近かった(;^_^A

男性にはウケていたようですが、戦乱やバトル場面が、アニメ的オーバーアクションになってて、苦笑せざるを得ませんでしたw
グイン、人間を地面に埋めるな(*`Д´)ノw
イシュト、岩を剣で切るな(*`Д´)ノw
ナリス、そんな高い所から落ちたのなら大人しく死んでろ(*`Д´)ノw
ヴァレリウス、二枚目過ぎる(*`Д´)ノw
リギア、デカいおばちゃんやん(*`Д´)ノw
アムネリス、いい人補正掛けられて贔屓され過ぎ(*`Д´)ノw

セム族、村の地面を舗装する知能なんて持ってたら、普通に人類として扱われてるっつーの(*`Д´)ノw
ラゴンがまんまインディアンで、下手したら問題視されるぞコレ(*`Д´)ノw

端役にしか過ぎない女達が美形過ぎ(*`Д´)ノw
悲運の酒場女ミリアですらリギアより全然綺麗とか、スタッフは力の入れ所がおかしい(*`Д´)ノw

マリウス、歌が下手(*`Д´)ノw
しかも全てメロディ同じって、プロとして食べて行けないでしょソレ(*`Д´)ノww


あ、いや、面白かったですよ?
ホントに(;^_^A

梅(*`Д´)ノ♪

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3979アイナメ:2015/06/09(火) 14:55:26 ID:DQhbUjr2
wwwwwwwwwwww大草原だわwwwwwwwww
※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3980V3:2015/06/09(火) 14:55:55 ID:YO7cDlik
でも、エンディング曲の
「Saga〜This is my road」
作詞・作曲・編曲・歌 - カノン

これは文句無く最高の出来(*`Д´)ノ!
グインから離れて一つの楽曲としても素晴らしいし、歌詞がグインの世界観というか、リンダの世界観をとても上手に表現してて、これ以外に無いだろうと唸らせる出来(*`Д´)ノ♪♪♪
カノンという女性歌手の声も素晴らしく美しい
この歌手が作詞作曲を手掛けたそうですが、本編を読んだ上で作詞したのか、はたまたスタッフから筋の説明だけ聞いて書いたのかは知りませんが、本当に秀逸な歌詞です

一人の大人として、哀愁を持って共感出来る、そんな歌です


梅(*`Д´)ノ♪

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3981V3:2015/06/09(火) 15:04:38 ID:YO7cDlik
アイナメさん、原作読者なら、ネタとしてアニメをご覧になられても宜しいのでは?

「ええっ!?そんな改変しちゃうの!?うおっ、そう来たか!?」みたいな、原作ファンを色々驚愕させてくれるアニメでした(*`Д´)ノw

リンダとイシュトヴァーンのLOVEシーンは全般的に簡略化されてて、「イシュトヴァーンの今後に大きな影響を与える出来事なのにな〜。二期目とか余り考えてないんだろうなあ〜」と、個人的にはぶちぶち思ってましたが(;^_^A

3982アイナメ:2015/06/09(火) 15:26:50 ID:DQhbUjr2
>>3981
チラ見はした上での判断│ω )ウフフフ・・・・
自分なら声はこの人!!!とw

あまりのギャップに ⊂⌒~⊃。Д。)⊃ ピクピク

わたしの中の黒い思い出……
(*`Д´)ノ!!!ツッコミは弟くんがしてました。
………馬鹿野郎!報告にくるな!


アニメやってた時の、は、な、し、

3983V3:2015/06/09(火) 15:49:48 ID:YO7cDlik
わ〜、アイナメさんのイチオシ声優さんを教えて下さいな(*`Д´)ノ♪

私はグインには小林清志さんをイメージしてましたが、堀内賢雄さんも良かったです
何というか、高貴で色気がある♪
リンダは、あの声優さんのあのトーンでは、性格が暗く感じられて、イメージにそぐわなかったですね
グインへの熱烈な信者っぷりも、あの声優では表現しきれてなかったなあと
レムス役の声優は良かったと思います
気弱な白レムス時代と、その後の厨二病発動した黒レムスとを見事に演じ分けてましたよ
イシュトヴァーンはもちっと跳ねるような演技が欲しかったですね〜
やんちゃで下品な部分が、二枚目ボイスのせいで随分と縮小されてしまってました(;^_^A


しかし、普通にグイン話が出来る人と再び巡り会えるなんて、これぞヤーンの思し召し?w
旧ちゃんのグインスレは、怨嗟が通底しているので参加しにくいったらありゃしない(;^_^A
色々ツッコミ所を楽しく語らうって、ホント久しぶりで嬉しいです(*`Д´)ノ♪

お付き合い下さって有り難うございますm(_ _)m

3984アイナメ:2015/06/09(火) 16:10:55 ID:DQhbUjr2
こちらこそ。(*´ω`*)っ旦~~、お疲れ様
またいつか、時間が会えばね。

3985V3:2015/06/21(日) 19:51:19 ID:8FW5AIyk
☆☆☆☆☆☆閲覧注意☆☆☆☆☆☆

これから、V3作のグイン・サーガ二次創作を投稿します
「そんなもの、読みたくない」という方はどうぞスルーして下さいませm(_ _)m



グイン・サーガ二次創作
『星月夜』

何がどうしてかは分からないが、ふとイシュトヴァーンの健康な眠りが妨げられた。
船は穏やかな波に乗り、微かな揺れを彼の寝床に伝えているだけであるにも関わらず、彼の目はふいに覚めた。
「…ん?あ…?」
小さな窓から射し込む星明かりが照らす室内に、何とは無しに目を向ける。
ドキリと、心臓が跳ねた。
どっくどっくと波打つ胸の理由を探すべく、イシュトヴァーンの眠気は完全に覚め、彼は薄い毛布を跳ね除け上半身を起こした。
(リンダはどこだ!?)
室内には、レムスとスニしか居なかった。
今や、イシュトヴァーンが我が命に代えても守りたいと思っている、愛する少女の姿が、眠っている筈の寝床から、かき消えていたのだ。
ドッと冷たい汗が脇のしたに流れる。
(リンダ!)
傍に置いた剣を掴むと、イシュトヴァーンは慌てて室を飛び出し、口から飛び出しそうになる心臓を宥めながら、海賊どもの室内へ直行した。
ガンガンと、頭の中に最悪の想像が浮かぶ。
最悪の海賊どもに、陵辱されている、最愛の少女の姿が——。

「クソッタレ!」
イシュトヴァーンは、歯の隙間から呪詛を吐き出し、おのれの最悪の想像が当たっていた場合には、例え自分の命が失われようとも愛しい娘を救うのだと熱く腹を決めて、全身に緊張を漲らせながら海賊どもの室へと急いで向かった。

しかし——。

イシュトヴァーンを拍子抜けさせるほど、海賊どもの室は静まり返っていた。
いや、ガァァだのグォォだのの、高鼾は聞こえて来たのだが。
(……?)
てっきり、イシュトヴァーンの眠った隙を突いて、船乗りに取っては何より大事な海の神ドライドンへの誓いも反故にして、リンダを攫い陵辱の真っ最中かと危惧した輩達の居住区から聞こえてくるのは、どれもこれも、眠りの真っ最中であることをしめす鼾やバリバリという歯軋りだけである。
それ以外の喧噪は、聞こえて来ない。

ふぅっと、イシュトヴァーンは吐息を吐いた。
どうやらこの様子では、リンダという、とっておきの生贄を手に入れて、邪悪な祭りの真っ最中という訳ではないらしい。
(厠にでも行ってるのか?)
だとしたら、わざわざ探しに行くのもためらわれた。
リンダも、用足しをイシュトヴァーンに知られたくはないだろう。

安堵の息を吐きながら、ばくばくする鼓動を抑えるために何度か深く息を吸い、額にも浮かんでいた汗を拳でぬぐいながら、イシュトヴァーンは、夜風に当たって汗を乾かそうと、最上階の甲板へと向かった。

そこに、リンダがいた。
《つづく》

3986V3:2015/06/21(日) 19:54:27 ID:8FW5AIyk
☆☆☆☆☆☆閲覧注意☆☆☆☆☆☆
グイン・サーガ二次創作
『星月夜』

《つづき》
なんだよお前、こんなとこにいたのか。何も言わずに居なくなったから驚いたじゃねえか——。
そう、イシュトヴァーンがリンダに声をかけようとした時である。
リンダは船の縁で何やらゴソゴソとうごき、暫くすると、ロープで海に垂らしていた桶を引き上げる様子が見えた。

ドキリ。
先程の、冷たい手で心臓をギュッと鷲掴みにされたような嫌な鼓動とは違う、どうしてかイシュトヴァーンにも判別はつかないが、妙な具合に鼓動を打つ何かに押され、イシュトヴァーンはさっとリンダには見えぬ物陰に身を隠した。
トクトクトクと、小さいけれども、いつもとは違う拍子でイシュトヴァーンの胸は波打つ。

リンダは、桶で引き揚げた海水に布を浸すと、それをギュッと絞り、自分の手足をゴシゴシと擦りはじめた。
イシュトヴァーンに、合点がいった。
(そうか。風呂にも入れないから、汚れを落としたくてこっそり真夜中に抜け出して、身綺麗にしたかったのか)
船には一応、風呂場もあるのだが、ろくに掃除をしていないせいで、イシュトヴァーンですら使うのを諦めたほど不潔な場所となっていたのだ。
厠もご同様だったが、そこはリンダが観念して自分で掃除をするようになって以降、目に見える汚れや臭気は改善されていた。
しかし、風呂場は厠より数倍広かったので、掃除を諦めたようだった。

(だったら、俺に言ってからやればいいのに。そうしたら、見張りに立ってやったのに)
僅かな間に、それだけの思いが去来したが、しかし、次の瞬間には、(リンダが、俺にそれを頼む事すら恥ずかしいと思ったのかな)とも、思う。

何日も風呂に入らず、水浴びさえも出来ないでいる自分の状況を、女になりかけの少女が、気軽に他人に打ち明けて助力を乞うとは思えない。
ましてリンダは、単なる少女ではなく、中原の華と謳われた、数千年の歴史を誇る高雅な国、パロの王女である。
誇り高い彼女が、自分の体の汚れを他人に、しかも男に、口にするのも躊躇ったのであろうことは、容易に想像出来た。
少し前までなら弟のレムスに頼んで見張り番でも務めて貰っただろうが、先日の一件以来、レムスは冷笑的な態度を全面に漂わせているので、頼みにくい雰囲気だったのかもしれない。
スニとはまだ、複雑な言葉のやり取りも出来ていない状態だ。

ぽりぽりと顎をかきながら、リンダがこっそりと真夜中に室を抜け出した理由が分かったような気がして、イシュトヴァーンは、そのまま、じっと身を潜めた。

ふと見上げた空には、無数の星と、夜の女王たるイリスが一際大きく輝いていた。
しかし、その輝きは、昼を照らすルアーとは違い、人間の目を焼き尽くすような苛烈さはない。
いつまで眺めていても、イリスは、その静謐で優しい光を、穏やかに披露するばかりである。

ファサ。
それまでとは違う物音に、イシュトヴァーンは、その物音がした方に目を向けた。
ハッとした。
リンダが、その身に着けていた衣服を脱ぎ落とし、細くて白い裸身を、静かな月光にさらしていたのだ。
(あッ…)
見てはならないと、理性がイシュトヴァーンに警戒を発する。
しかし、そんな理性など瞬く間に蹴散らす程の本能が、その目をリンダの白い裸に吸い寄せた。
《つづく》

3987V3:2015/06/21(日) 19:56:55 ID:8FW5AIyk
☆☆☆☆☆☆閲覧注意☆☆☆☆☆☆
グイン・サーガ二次創作
『星月夜』

《つづき》
リンダは、固く絞った布を使い、ゴシゴシと胸を擦り、背中を擦り、もう一度その布を桶に浸し、汚れを洗い落とした後、再び固く絞った布を使って、股間をゴシゴシと拭った。

(……)
イシュトヴァーンの胸に、これまで感じた事がなかった感慨が溢れる。
学の無い彼には、その気持ちを上手い言葉で言い表す術は無かったが、イシュトヴァーンが感じた心情を書き表すとしたら、それは、「女神の沐浴を覗き見してしまった人間の男」のそれであったことだろう。

リンダの体は、女神というには豊かさが足りなかったが、小さく膨らんだ胸や、細い胴、柔らかそうな尻、そこから伸びるすらりとした白い両足は、画家ならば絵に残しておきたいと熱望するような、成熟を迎える直前の、少女期特有の神がかった美を宿していた。
女の裸など、腐るほど見て来たイシュトヴァーンの目にさえその裸体は、恋しい相手という以上に何か特別なもの、神秘的なものに思えて、呼吸さえ忘れさせた。

畏怖に打たれたようなイシュトヴァーンが静かに見守るうち、リンダは脱ぎ捨てた服を身に纏い、白銀の髪に手をやりながら、独り言を云った。
「ああ、さっぱりしたわ。やっぱり、思い切って甲板に出て良かったわ。水音を気にしなくていいし、風も気持ちがいい。あんなお風呂場で裸になったら、病気になってしまいそうだもの。気持ち悪い虫もうじゃうじゃいたし」
「——ほんとは、髪も洗いたいところだけど…。でも、仕方ないわ。海水で髪を洗ったら、きっと余計に痛んでしまう。ただでさえ、陽に灼けてひどい有様なのに…」
リンダが、小さなため息を吐く。
その胸に、砂漠の中で行軍していても手入れを怠らない、艶やかに輝く黄金色の髪の女の姿が過ぎった。
キュッと眉毛を顰めたのち、顔を上げ、夜空を見上げる。
決然とした声音で、リンダは神々に祈った。
「聖なるヤヌスよ、そして夜を照らすイリスよ。どうか、従兄弟ナリスが、あんな、高慢ちきの人殺し女と、間違っても結婚などしませんように。どうか、私の大事な従兄弟ナリスをお守り下さい。——おお、そして、グインをどうか、無事に私達の下へお返し下さいますように。グインは私達の守護神です。それ以上に、とても大事な存在なのです。どうか、グインを、一日も早く——」
両手を組み合わせ、こうべを垂れる。その姿から、真摯な思いが伝わってくるかのようだった。

小さな呟きだったが、その声は風に乗ってイシュトヴァーンの耳にも届いた。
《つづく》

3988V3:2015/06/21(日) 19:59:10 ID:8FW5AIyk
☆☆☆☆☆☆閲覧注意☆☆☆☆☆☆
グイン・サーガ二次創作
『星月夜』

《つづき》
(……)
複雑で苦い思いがイシュトヴァーンの胸に湧き、その体の硬直を解いた。
そっと踵を返し、リンダに気がつかれぬよう、足早に自分達に充てがわれた室へと戻る。
何も知らずに眠っているレムスとスニを起こさぬように自分の寝床に潜り込むと、しばらくしてリンダが室へと帰って来た。
「どこへ行ってた?」
「イシュトヴァーン、起きてるの?」
寝たふりをしてやり過ごせばいいのにと、自分でも後悔しながら、それでもイシュトヴァーンは、リンダに話しかけずにはいられなかった。
「厠か?夜中に一人でうろつくなと言っただろう」
答えを知っているのに、何故か咎めるような口調でリンダを詰問した。
「え、ええ。……それと、夜風に少し当たって来たの。星がすごく綺麗だったわ」
嘘が下手なリンダは、ためらいながら、機嫌の悪そうなイシュトヴァーンに言い訳をした。物音を立てなかったつもりだが、自分のせいでイシュトヴァーンを起こしてしまったのかも知れないと、申し訳ない気持ちになる。
「起こしてしまったのなら、ごめんなさい。みんな寝静まっているので、一人でも大丈夫だと思ったのよ」
囁き声で詫びるリンダに対してイシュトヴァーンは急に自己嫌悪に陥り、柔らかな口調で囁き返した。
「いや、お前のせいじゃない。何となく目が覚めただけだ。用が済んだなら、早く寝ろ。寝不足だと、船酔いしやすくなるぞ」
イシュトヴァーンの口調が変わったことにホッとしたリンダは、素直にその言葉に従い、自分の寝床で横になった。
「お休みなさい、イシュトヴァーン。あなたも、寝てね」
「ああ」

ロスの宿屋以降、こうした挨拶は幾度となく交わしているのに、何故か今夜のリンダの言葉は、殊更にイシュトヴァーンの胸に染みた。囁き声が、耳に甘く響いたからかも知れなかった。

白い裸体が、閉じた瞼の奥に浮かぶ。
月明かりに照らされた少女の姿は、幻想的で、まるで、夜空の星が落ちて来て少女の姿に形を変えたかのように、ほの白く光っていた。
至純——。
そんな言葉は、イシュトヴァーンの語彙には無かったが、そうとしか表せない思いがイシュトヴァーンの全身を浸していた。

親もなく、まともな教育など受けた事もなく、それ故、当然のように、まともな宗教との付き合い方もイシュトヴァーンは知らない。
だから、イシュトヴァーンは気がつかなかった。
自分にとってのリンダが、単に愛しい少女というだけでなく、夜空で船乗りを導く星のような存在となりつつあることを。
或いは、迷える人々を導く、聖典のような存在となりつつあることを。

果たしてそれは、イシュトヴァーンにとって大いなる喜びをもたらす福音なのか、それとも、苦しい思いで彼を打ち付ける呪縛となるのか——。

答えは、運命を司る神、ヤーンのみぞ知るところであった——。

【終】

3989JB:2015/06/21(日) 21:05:43 ID:cd9Xn8jw
一番乗り(^.^)

やり過ごせばよいのに話しかけてしまったイシュトヴァーンの気持ちは
よくわかります
グインのことしか頭にないリンダに
自分の存在をしめさずにおれなかったのかな
と思いました(^.^)

至高・至純・至聖、リンダは神棚にあげるべき人なのか( ゚д゚)

3990V3:2015/06/21(日) 21:54:29 ID:8FW5AIyk
JBさん、有り難うございますm(_ _)m

そうです、イシュトヴァーンがリンダに話しかけずにいられなかったのは、嫉妬心でした
原作でも、リンダ絡みでナリスやグインに嫉妬して色々苦しんでますw

以前の考察にも触れた事ですが、イシュトヴァーンにとってのリンダは、正に神棚に上げたかのような存在ではと個人的に感じ、このような話が出来ました

少々ネタばれをしますと、イシュトヴァーンという男はグイン・サーガの中に出てくる人物としては飛び抜けてスケベというか、健康な男性として描写されてるのですよ
(名前が出てくる女達だけの数でも、沢山の女達と寝ていますw)
そのイシュトヴァーンが、何故だか初恋のリンダにだけは、キス以上のことはしていないのです

後に原作内でイシュトヴァーン自身も「何故、手を出さなかったのだろうか?」と疑問視してますが、当人曰く、まるで、魔法にかかったみたいにそんな気にはならなかったとのこと

リンダが後に言うには、グインと再会して以降、船の上で相当いちゃついてたようなのですが(胸にイシュトヴァーンの頭を抱きしめた事が何度もあったそうな←リアルタイムでの描写は無し)

この疑問を解消すべく、あれこれと考察したのが、イシュトヴァーンのリンダへの神聖視説でして
原作での、嵐の夜のリンダの姿が決定打となったと私は思っているので、今回の創作はその補強という小ネタでした

小説という形でこの二人を書いたのは実は初めてでして、何やら面映ゆい気もします(;^_^A


初めて登場して貰ったのに、真っ裸にしてごめんよリンダ(*`Д´)ノw
しかも、覗き見させちゃってるしww
まあ、長い付き合いなんで許してちょw

感想を寄せて下さって、有り難うございましたm(_ _)m

3991さつまあげ:2015/07/14(火) 08:43:23 ID:jZt0Xq8.
おはようございます
このスレではお久しぶりです

古本屋に50円で売っていた中江俊夫詩集を買いました

3992アマデ:2015/07/14(火) 11:37:43 ID:hTKYSfh2
さつまあげさん、こんにちは(*^_^*)


このスレは、規定の一万レスを突破した為にPart2スレに移行致しました(次スレに移行するに辺り「エルミタージュ図書館」と改題しております)。

快便さんが以前使用していたサブ板運営会社がサービスを停止するに辺り、したらば掲示板に引っ越しをする事になりました。
引っ越し作業簡略化の為に、一回の投稿に数レスが纏められており、その為、此方に新規に書き込む余裕は存在してます
しかし、可能は可能ですが、参加者は上記の事情により図書館スレに移行しておりますので、このスレは閉架しているものとご了解下さいませm(_ _)m

と、いうことになっておりますので図書館の方へぜひお越しください<m(__)m>
お待ちしております(^◇^)


http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/news/6195/1431402899/

3993V3:2015/07/26(日) 15:41:36 ID:bHpvlW72
こっそりと、グインのエンディングテーマ曲
http://youtu.be/2T2pGjOzAtM


梅(*`Д´)ノ♪

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3994アマデ:2016/03/09(水) 10:24:07 ID:Flh4YbHY
エルミタージュ図書館オーナーのV3さんご自慢の作家のJBさん待望の新作♪
「いざ・べるびる」いや、表向きには「イザベルビルヂィング」の物語
管理人の名は風見志保。そう!かのライダーV3の本名である♪
くせ者ぞろいの入居人をまとめているのは黒いあいつか管理人か?
日常と非日常の狭間で紡がれる物語。
アナタもビルに入居してみたくなること間違いなし(*`Д´)ノ!!!

※注意事項デス(*^-^)
感想は是非エルミタージュ図書館スレへお願いします。
作家へのプレゼント、花束、ラブレターも同じく図書館へお願いします。
なお、作家の好物であるカステラは高級品のみとさせていただきます♪
よろしくおねがいします(*`Д´)ノ!!!

3995風見志保:2016/03/09(水) 10:34:43 ID:Flh4YbHY
管理人カザミの日記①
○月×日
カリカリとドアを掻くような音がしたような・・・気がしたので開けてみるとやはり居た。猫のカラスマ。
もっとはやく開けろよ、オレはずいぶん待ったのだぜ、
というように私をねめつけながらえらそうに入ってきた彼は、管理人席の横でぱったんぱったんと尾をふる。
わたしが席につくと当然のように膝の上に乗ってくる。そしてパソコン画面に向かってちんまりと収まる。
彼の良いところはけして仕事の邪魔をしないことである。
それどころか膝の上にいるときは、お腹をモフモフしようが肉球をモミモミしようが好きなようにさせてくれるところがまことにエライのである。
彼はヒゲもツメもなにもかもが真っ黒なカラスネコ。烏丸である。飼い主は住人のひとりであるアイナメ氏である。
今日も私がカラスマの頭の上で顎をコロコロさせながらそのビロードのような感触を堪能していたそのとき、住人のひとりが帰宅した。
「あ、マークさん、お帰りなさい」
「ただいまです〜」
なんだかヨロヨロ疲れた様子。登山帰り?大荷物だ。新製品の雪山耐久テストでもしてきたのだろうか。
よろけながら立ち去っていくマークさんの背中に向かって、わたしは叫んだ。
「このあいだもらった試供品、好評でしたよ!」
マークさんはよろけながら手を振って背中で返事をした。
彼はもちろん日本人なのだが、マーク企画という事務所名から、その名でよばれている。

3996風見志保:2016/03/09(水) 10:37:26 ID:Flh4YbHY
管理人カザミの日誌②
○月△日
昨日の日記、いや日誌を読み返したらトコナメさんの名前を間違って書いていた。訂正、訂正。それからマークさんの本名はアツタさんである。
「あなたの感じた第一印象が読みたいの。だからボールペンで書きなさい。私を楽しませるように。いいわね」
オーナーの命令である。トコナメさん、トコナメさん、絶対にトコナメさん。これでよし。
カラスマはきょうも膝の上だ。愛い奴。秘密兵器「四万十産川海苔」を投入しようかしまいか悩む。カラスマがハッと私の顔を見上げる。各種高級海苔を私はオーナーから賜っている。いや正確にはカラスマが賜っている。
「カザミさんが食べても別に構わないけど、基本的にカラスマちゃん用だからね」
いや、きょうはやっぱり止めた。あ、そう?という感じでカラスマは顔をもとに戻した。カラスマ、お前はなんて素直な奴なんだ。トコナメさんに言わせると、実家ではかなりワガママらしいのだが。きょうはどの首輪にしようかな、青いのにしよ。私は首輪掛けから素敵な青い皮製のを手に取った。本皮製である。もちろんオーナーがナツメさんに特注したものである。彼女の紹介はまた後日。青い首輪をまとったカラスマ。ふつくしい。恋しちゃいそう。あ、オトナシさんが帰ってきた。
オトナシさんはフリーのピアノ調律師である。漫画で表現するところの髪の毛がピンピンはねている状態。つまりかなりお疲れなご様子。
「オトナシさん、お帰りなさい」
「ただいま帰りましたあ〜」
「かなりお疲れですね」
「きょうのお宅は隣の家が改築中だったの。ガンガンガンガン、ゴンゴンゴンの騒音の中でお仕事しました」
「プ、プロはさすがですね」
「作業環境は選べませんから。でも今日はきつかったです。カラスマちゃん、あとでウチ来てくれる?」
カラスマは、んなごぉ〜と返事をした。
「オーナーからオトナシさんへ仕事の依頼がきてます。仕上げてくれたら2か月分の家賃免除だそうです」
「に、にかげつぶん、ですか?がんばります(*`Д´)ノ 」
オトナシさんはサブのお仕事も持っているのだ。その内容はまた後日。ちなみにカラスマの首輪は住人が自由に好きなものに付け替えることができるシステムである。管理人窓口には首輪箱があり、はずした首輪を入れるようになっている。着せ替え率は非常に高いが、カラスマ、実家に帰るとすぐに、はずせ!とトコナメさんに要求しているらしい。実家以外では不満の微かなそぶりすらみせないカラスマ。このビルヂングの中でお前が一番の働き者なのかも。

3997風見志保:2016/03/09(水) 10:41:54 ID:Flh4YbHY
管理人カザミの日誌③
きょうは朝から中庭で、見慣れた光景、ポールさんとカラスマのお馴染みのバトルが繰り広げられていた。ポールさんのお手製のフクロウ飾りつき竹製の首輪を、「つけてごらんよ!」「…(フン!)」押し問答である。へいっ、ゆっ、カラスマ、ワタシの愛がわからないのか、んべっんべっ(無視して毛づくろい中)。
「ポールさん、肌ざわりが気に食わないんですよ、きっと、カラスマは」
「どうして?布や皮製より涼しくてゼッタイにコッチのほうがイイはずだよ!」
負けず嫌いである。
「だって実際、前足でブロックされちゃうんでしょ?」
「そうなんだよ。首輪もった手を近づけると、ぴとってカンジでワタシの手を前足で押さえるンだよ。手を動かしてもニクキュウがずっとついてくるンだよ。もうシンボウタマランなんだよ」
「(わざとやってるのか。カラスマもたいへんだな)へいっ、ゆっじゃなくてここはイギリス風に、おう、まいでぃあ〜、のほうがいいかもしれませんよ」
わたしはカラスマを抱き上げてなでてやった。
「イギリスふう?」
「だってミス・マープル観てたらよく言ってたと思うんだけど。というか、教えてくださいよ、ポールさんが」
「イングリッシュなんかとうに忘れたもンね」
「カラスマにはナツメさん作の青い皮の首輪が一番似合うんです」
「ふん。あ、ナツメさんとこいってこよ!」
「あんまり邪魔しちゃだめですよ〜」

ポール・シンクレアさん。木彫芸術家。梟作品を作ることをライフワークとしている。同じくこのビルヂングに工房をもつナツメさんに、新作数(かず)比べを挑んでいるらしい。そして「量より質というコトバがあるわよ」と毎度毎度ナツメさんに諭されているらしい。ミセス・アマデの情報によると、本当はナツメさんに諭されたいから押しかけているらしい。彼女についてはまた後日。明るく元気、が基本のポールさんだが、ときには気分が沈むこともある。にんげんだもの。そして工房シンクレアの看板に「辛クレア」の紙が貼り付けられる。そんなときは住人総出でその紙に「ポールさん、愛してるよ」「ポールさん、ダイスキ」「ポールさん、今度デートしてね」と書き込むことが・・・なぜか・・・決まっている。
なんでこうなった?

3998風見志保:2016/03/09(水) 10:46:32 ID:Flh4YbHY
管理人カザミの日誌④
弥生○日
「いいわ、いいわよ、その調子。ワタクシ楽しんでます。でもひとつ気になる事があるの。マークさんからもらった試供品てなんなの?
アナタ、それについて言及したんさい(*`Д´)ノ 」

日誌とは本来、その日起こった出来事を中心に語るべきものだと思うが、オーナーがこう言うのだから仕方がない。話は約二ヶ月前にさかのぼる。
マークさんことマーク企画のアツタさんはアツイ男だ。仕事においてもきっとアツイのだろう。アツイ事は良いことだ。だがしかし、女性に対するそのアツサはときとしてカラスマのお叱りをうける。
「おはようございます、カザミさん」
カラスマは、きょうはめずらしく管理人室窓枠の近くに彫像のごとく、おお、古代エジプト猫神様のごとく威厳をもって座っている。そこにマークさんの登場だ。
「おはようございます、マークさん。今朝の寒さは格別ですね」
「寒くても寒くても、カザミさんはいつもスカート姿ですね。素敵です!」
「あ、ありがとうございます。厚手のタイツをはいても(しまった、エサを与えたか?)この寒さには辛いですが、それでもスカートはきたい女性はたくさんいますね」
「タイツですか!」
「(やはり反応したか…)はい・・・タイツです」
「登山用タイツをはけばバッチリ寒さは防げますよ!」
「そんなの厚手すぎて不恰好でしょうが!」
「・・・そうか」
しばらく遠くをながめるように顎に手をやり考え込むマークさん。じつは少しばかり顔がイイのは事実だ。ちょっと目の保養。カラスマはいつのまにか寝そべって毛づくろい。
「!」
「ど、どうしたんですか?」
「新製品のアイデアが浮かびました。試着会を私の部屋でしましょう!」
カラスマがのっそりと起き上がって私の顔をみる。おい、そろそろか。
「試着ってタイツの?」
窓から顔を突っ込まんばかりに熱心なアツタさんだ。カラスマがウォーミングアップするかのように前足をふみふみしている。おい、いつでもいいぞ。
「もちろんそうです!カザミさんのスカート仲間のお友達も誘うの忘れないでくださいね」
「マークさんたら、なに言ってるんですか」
ゆけ!カラスマ!私はカラスマに目で合図した。マークさんは頬にまともにカラスマソフトパンチを受けた。

そんなマークさんだが、先に書いたように仕事に対しては真面目にアツイ。試作品はしっかりと作ってくるのだ。出来上がったそのタイツは、膝上はアルパイン用高級素材、膝下は従来のタイツ素材でできているという優れものだった。友人達にも大好評だった。そのイケメン変態紳士を紹介して、という友人もいたのだが・・・。

どうしたもんかな・・・。

3999風見志保:2016/03/12(土) 22:04:48 ID:Flh4YbHY
管理人カザミの日誌⑤
弥生△日
これは断じてサボリではない。オーナーに認められているのである。
日誌に書いているという事実がその証拠。
私がデスクの上に文庫本を広げると、カラスマが私と本の間で香箱をつくる。
カラスの濡れ羽色、ぬばたまの黒髪、カラスマのびろうど。
自室の本棚が手狭になってきた私は本の整理をはじめたのだが、手放すと決めた途端に、もう一回読んでから・・・誰もがそう思った経験があるのでは?
“最後にもういちど読書”今回はトールキンの「指輪物語」(瀬田貞二・田中明子訳)文庫全九巻だ。
原題は「The Lord of the Rings」。
映画版は「ロード・オブ・ザ・リング」。まるで、プロレスのよう( ゚д゚)
でも日本語では単数でも複数でも「指輪」でかまわないから間違いとはいえない。
指輪物語あるいは指輪王とかにするとなんだかのん気なイメージを与えてしまうのも確か。指輪は全部で19個あってそれ以外にもうひとつ。そしてそのひとつの指輪がすべてを支配する。
一つの指輪は、すべてを統べ、
一つの指輪は、すべてを見つけ、
一つの指輪は、すべてを捕えて、
くらやみのなかにつなぎとめる。
影横たわるモルドールの国に。

さしずめ、ここでは
 一匹の猫は、すべてを統べ、
一匹の猫は、すべてを見つけ、
一匹の猫は、すべてを捕えて、
平穏と慰めをあまねく広め
世はすべてこともなし   byカザミ

2回目読書は速い。とばし所がわかっているからか。それにしてもホビットもドワーフもエルフも詩ばっかり歌ってないで早く話を進めて欲しいものだ。ひと目3行のスピードで、そうそうこんなお話だったと思い出す。
カラスマのビロードのような背中からは、ぽかぽかとした日なたのにおいがする。
干し草のにおい、は嗅いだことはないがハイジのいう香りはこんな感じかもしれない。
時折ビロードの背中にに顎をすりすりしつつ・・・ページをめくりつつ・・・すりすり・・・

カラスマが私の顔の下でごろんと半回転するのと「・・・さん、カザミさん」という声に気がつくのとほぼ同時だった。「はいっ?」と目を覚ました拍子にカラスマのツメに髪がひっかかった。あいたたた。トコナメさんが目の前に居た。
「あ〜ぁ、じっとしててくださいよ」
「すみません・・・お恥ずかしいところをお見せしました」
カラスマは、私とご主人にはさまれたらさすがに・・・ご主人を選んだ。さっさとトコナメさんの足元へひょいと飛び降りてしまった。
「いやいや、いつもカラスマをかわいがってくれてありがとう。また取材で1週間ほど留守にしますので、彼をよろしくお願いします」
「了解です。大歓迎です」
トコナメさんはフリーのコラムニスト。花鳥風月、歳時記を散りばめた農業に関するコラムを得意とするひとである。このビルヂングの敷地内と飛び地にオーナー所有の菜園があるのだが、トコナメさんが管理を任されている。作物の種類は自由に決めて構わない、時々収穫物を適当に物納してくれる事、そのために家賃は割引、これがオーナーの提示した条件である。ビルヂング敷地内の菜園にはトコナメハーブ園があり、そこで採れるハーブは住人達が好きに食してよいことになっている。
「今週の収穫してよし(*`Д´)ノ リストはこれです」
「ありがとうございます。さっそく掲示板に貼ります」

パセリ、セージ、ローズマリー、そしてタイム。
サイモン&ガーファンクルの世界ではないか。
さらにバジル、ルッコラ、カミツレ・・・

すばらしきかなイザベルビル。

4000風見志保:2016/04/15(金) 11:51:55 ID:Flh4YbHY
管理人カザミの日誌⑥
卯月○日
トコナメさんが取材旅行に出て一週間が経つ。昨日連絡があり、さらに出張が一週間延びた。これはカラスマのお泊りが延びたということ。私はニヤニヤがとまらない。カラスマは街中でたまたま出くわしても「アンタなんか見たこと無いね」という態度をとる。それはもう、徹底的に他人のフリだ。野良たちの手前、そのほうが格好がつくのかもしれない。驚いたことに飼い主のトコナメさんに出会ったときも同じだというから恐るべし知恵猫、カラスマ。トコナメさんは、彼を預けに来るときは必ず毛布入り「有田みかん」箱を持参する。高価な猫ちぐらを購入しても見向きもされなかったとのこと。だが正直なところ、私としてはこのみかん箱を断りたい。

だって、
だってカラスマ、眠るなら私の隣にすればいいじゃないの

毎晩お布団をめくって、ほら〜あったかいよ、ここにおはいりよ、と呼びかけるのだが成功した試しがない。秘密兵器・四万十産川海苔をちらつかせ布団の中へ誘い込んだときは、パリパリとおいしそうに平らげたあとにさっさと出て行こうとするので、そうはさせじとむぎゅっと抱き締める。すると彼は思いとどまってくれる・・・10秒間だけ。きっちり10秒カウントして、「これで、気はすんだろ?」といわんばかりに私の腕の中からすり抜けていく。三陸産高級岩海苔のときは15秒。衣片敷きひとりかもねむ。つれない。

館内巡回をする私のあとになり先になりついて歩くカラスマ。きっと彼の縄張りを見回っているつもりなのだろう。彼が面倒をみてあげている人々(つまり、私がお世話をしている人々)はまともな大人達である。ただしきわめて個性的ではある。ここの住人達をひとことで表現すればこうなる。管理人の手を煩わすような問題を起こす人々ではないのでありがたい限り。本日も平和、世はすべて事もなし、と言いたいところではあるけれども。お茶目というか、子供っぽい住人も中には・・・
「カラスマ〜、また、だよ」

ポールさん家の看板に「辛クレア」の張り紙発見。まだ誰もメッセージを残していない。
「仕方ないね。ナツメさんがしばらくお留守だから淋しいのかな、ライバルがいなくて」
もうほっとけば?と言いたげにカラスマは前足の毛づくろいを始めた。
「そういうわけにもいかないよ。ポールさん、カワイイひとだからね」
張り紙の横にビニール紐で垂らしてあるマジックペンを取って、わたしはメッセージを書いた。喜んでくれるといいね、と振り返ったその先にカラスマの姿はもう無かった。

 巡回を終えて管理人室へ戻ってみると、掲示板の前に、素敵なワンピース姿の女性が居た。
「アマデさん、おはようございます」
振り返った女性の腕のなかに、カラスマはちゃっかりとおさまっていた。
「おはようございます、カザミさん。トコナメハーブ園の情報ながめてたらお腹すいてきちゃった」
フラウ・アマデ。わたしの貴重な情報源。ご主人はオーストリア人のヘル・アマデウス、音楽事務所を経営している。自宅は別の場所にあるが、ご主人が長期出張中の際にはここに住んでいる。趣味を兼ねたお仕事は将来性ある若手演劇集団の発掘だ。
「“ルッコラ”の文字をみるとイタリアン食べたくなるよね、カラスマ」
知らんがな、といった様子のカラスマの頭に遠慮なく顎をすりすりさせてアマデさんは言った。
「たしかに、そうですねえ」
「カザミさん、今度オーナーにテナントとしてレストラン経営者を入れて欲しいって伝えてくれないかしら。トコナメ野菜を使ったイタリア料理、オトナシさんのお友達の音楽家によるコンサート、これ最高じゃない(*`Д´)ノ 」
「はあ、わかりました・・・」
オーナーがアマデさんの提案を受け入れることは、驚くなかれ、結構、ある。

つづく

4001風見志保:2016/04/15(金) 11:53:25 ID:Flh4YbHY
管理人カザミの日誌⑥
卯月○日 つづき


 カラスマは外へ遊びに出ていってしまい、業務もヒマで、時は春、眠たい。当たり前だ。
あ〜もう限界だと思ったそのとき、ふっと影が差したように感じた。目の前にポールさんがいた。
「ヒドイじゃないのカザミさん!どこからみてもフサフサでしょうに?」
ポールさんが自分の頭を指差してまくしたてている。
「なんでイジワルなこと書くのよ。カザミさん、そんなひとだったの?!」
「な、なんのことやら私には・・・」
「これだよ!」
とポールさんは私の目の前に辛クレア張り紙をつきつけた。
「・・・ぐぅ」
「ぐ〜のねもでない、とか言うんだよね、日本語で。ひどいよ(´;ω;`) 」
「いや、“ぐ”です・・・」
「ぐのねもでない?どっちでもいいよ!見てよ私のカミ、どこがハゲなのよ?」
ため息をつきながら私は言った。
「ポールさん、“ゲ”と“グ”が似ていることは私も認めます」
ふぁっ?といいながらポールさんは、私につきつけていた張り紙をおもむろに見直して、ゆっくりと読み上げた。
「わたしのココロからの ハ・・・ゲじゃなくてグ をポールさんに カザミより」 
(^.^)/(^.^)/(^.^)/(^.^)/
 ポールさんは上機嫌で帰っていった。
いいよいいよ、ポールさん、かわいいから許す。

4002風見志保:2016/07/27(水) 22:26:15 ID:dNAIfh2A
管理人カザミの日誌⑦
文月○日
 夏の昼下がり、風はそよとも吹かず、じっとりと額に浮かぶ汗・・・と言いたいところだが、管理人室はエアコンが効いて天国である。冷暖房代にウルサイことを言わないオーナーは正しい。快適な職場環境は能力発揮に必須。さあ私も頑張って・・・ヒマをつぶさなくては。イザベルビルはいま、ひっそりとしている。なぜならば、

ポールさん・・・英国へ(本人は、帰国じゃなくて旅行だよ(^^)/ と言っていた)
ナツメさん・・・フランスへ(お買いもの、あるいはインスピレイションを求めて)
アマデさん・・・オーストリアへ(ご主人とオペラ堪能しまくり)
マーク・アツタさん・・・北アルプス連峰のどこか
オトナシさん・・・北海道へ里帰り

いまイザベルビルの住人はわたしも含めて3人と1匹だ。そのうちの一人、トコナメさんがやってきた。左手にカラスマを抱き、右手にブラシを持って。
「こんにちは、カザミさん。またお願いしていいかな?カザミさんにブラッシングしてもらったあとはツヤッツヤで男ぶりが数段あがるんだよ、カラスマ。例のやり方、やってみようとしたんだけどまったく受け付けてくれないんだよ。なんでカザミさんには無抵抗なんだろ?」
「うふふ、どうしてでしょうねえ。カラスマ、こっちおいで。今から農作業ですか」
「うん、行ってきます」
「熱中症に気を付けてくださいよ。あとで様子見に行きますからね」
「はいはい、ありがとう。じゃあ、よろしく」

 トコナメさんが熱中症にならぬよう、アナタときどきチェックしたんさい(*`Д´)ノ

オーナーの厳命である。トコナメ野菜をたっぷり供給してもらうために、わがオーナーは万全の態勢だ。

 四万十産川海苔の存在をトコナメさんは知らない。
「いい?カラスマ?この海苔、食べたいよね?おとなしくするんだよ。ブラッシングが終わってからあげるからね」
わかってるって、だから早くして、と言わんばかりにカラスマはごろんとお腹を出した。
「背中からだよ、カラスマ」
あぁそうか、というふうにカラスマは「伏せ」の態勢をとった。わたしのブラッシング方法は、はっきり言おう、「逆毛ぶらっしんぐ」だ。普通の猫は嫌がって拒絶するのだろう、きっと。猫飼い経験の無い私にはわからないけど。でもカラスマは普通の猫じゃない。話のわかる猫だ。
逆毛にブラッシングするほうが確実に抜け毛をすきとることができるはず。ある日、猫素人の私は考えた。当たり前だが初回は強烈に嫌がられた。すっかりご機嫌斜めになったカラスマへのお詫びに四万十産川海苔を与えたのが彼との契約の始まり。それが今や、結構、ブラッシング中は気持ちよさそうにしている。実は快感なのではないか?シゲキがあって・・・。
「たくさん抜けるもんだねえ。ほんと暑そう」
トコナメさん持参のものとは別に小型のブラシを数種類、私は常備している。しっぽ用、手足用、頭のてっぺん用、である。
「ほうら、カラスマ、男前のできあがりだよ。最後に赤の首輪をつけて、と」
四万十産川海苔をぱりぱりと食べるカラスマを見ながら、そろそろトコナメさんチェックの時間かなと考えていたとき、もうひとりの住人が帰ってきた。

「ヒメさん、お帰りなさい」
正確にはヒメカワさんという名前である。他の住人達から「青年」と呼ばれることもある。それに対し素直に「はい」と返事するいいひとだ。だがよく考え事をしながらぼ〜っと歩いているときがある。わたしは目の前を通り過ぎようとするヒメさんに慌てて呼びかけた。
「アッハイ、ただいま帰りました」
「ファックス、きてますよ」
ヒメカワさんはとある出版社の装丁室勤務なのだが、副業が認められているのか個人で事務所を開いている。家賃もバカにならないと思うのだがどうやって工面しているのか。そこらあたりはナゾである。個人客からの要求に答えてオリジナル装丁本を請け負う事務所主宰である。わたしはオーナーからの注文ファックスをヒメさんに渡しながら言った。
「両耳にイヤホンはあぶないから外では気を付けてくださいよ?」
ハイわかりました、と素直に返事してまたイヤホンをつけるヒメさんであった。

「さて、カラスマ、麦茶もってご主人の様子見に行こうか。夕方にやって来るご新規の入居者はいったいどんな人だろうね」

4003名無しさん@ベンツ君:2017/12/10(日) 14:40:26 ID:alxz1x.M
乙です…///

4004うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:15:58 ID:LNssCYN6
アレクサンデル・デュマ『モンテ・クリスト伯』(^^)/

1815年
あの英雄はエルバ島に幽閉されていた
そう、ナポレオン・ボナパルト

王政復古フランスの君主はルイ18世
ギロチンの露と消えたルイ16世の弟
彼のもとで再起を果たした貴族たちによるボナパルト派排除は苛烈をきわめていた

同年2月
フランスはマルセイユに、モレル商会所有の帆船ファラオン号が帰港
われらが主役、一等航海士のエドモン・ダンテスは、船長代理をつとめていた
二十歳かそこらの、背の高い、黒髪に黒い瞳の好青年
モレル氏の信頼も厚い優秀な船乗り

ともに船に乗る会計士のダングラール
エドモンを妬み、嫌っている
数字に強く、頭のいい奴。良心のかけらも持たない奴。
他人をそそのかし、自分の手は汚さない奴
この男の悪だくみによってエドモンは幸福の絶頂から地獄へと突き落とされるのだ

ファラオン号のルクレール船長は航海の途中、病いで亡くなった
なぜか、予定外のエルバ島へと寄港命令を出していたという
船長は死ぬ間際に、エルバ島のベルトラン(ナポレオンの侍従長)に小さな包みを渡すよう
エドモンに命令したという
そしてエドモンは忠実に命令に従い、侍従長に包みを渡し、ナポレオンにも面会した

船主のモレル氏はボナパルト派であった
この話を聞いて喜ぶが、同時に、エドモンに忠告する
エルバ島の閣下に接触したことが知れると、どんな危険にさらされるかわからんぞ

私はただ命令に従っただけで、包みの中味も知りませんし、ナポレオン閣下ともごく普通の会話をしただけですよ
どんな危険な目に遭うというのですか

モレル氏の心配を笑いとばすエドモン

ダングラールは手紙の件をエドモンがモレル氏に伝えていないことを知る
手紙だって?私には渡してくれなかったが?
おかしいな、船長は包みと手紙を渡していたと思ったが・・・
なぜ君は包みのことを知っているのかね
いや、あの、船長室を通りがかったときにちょうど・・・
きっと私の勘違いですな、エドモンにはこのことは言わんでください

エドモンには婚約者がいた
カタロニア人の美女メルセデス
メルセデスと、そして、息子の帰りを待ちわびる父
このふたりにすぐにでも会いにいきたいエドモンだった

ダングラールの話が気になるモレル氏はエドモンに問う
なにか他に話すべきことは無いか?
臨終のとき船長が私あてに手紙を書いたとか?

お書きにはなれませんでした、とエドモン
そして今のお話しで思い出したのですが、2週間休暇をいただけませんか?
パリへ行く用事があるのです

いいとも
でも三か月後には戻っていてくれないと困るよ
船長がいないとな!

私が船長に?!
ありがとうございます!!

ところでエドモン
ダングラールには満足しているかね?

友達としてならば、いいえ
彼は私を嫌っているようです
つまらないことで喧嘩をして、つい言ってしまったのです
モンテ・クリスト島に10分だけ上陸して、かたをつけようじゃないかって
それ以来、彼はわたしを嫌っているようです
でも会計士としての仕事ぶりは申し分ありません

エドモン
君がファラオン号の船長だったらダングラールを喜んで残すかい?

モレルさん
あなたの信用を得ている人物なら誰だろうとわたしは尊重しますよ

君はほんとに立派だな、さあ、もう行きなさい

モレル氏の背後にたたずむダングラールの眼差しは暗かった

4005うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:17:55 ID:LNssCYN6
エドモンは家へと向かう
老父は息子の姿をみて喜ぶが、体が弱っているようである
食料がほとんど底をついている
出航前にお金は置いていったのに、どうして?お父さん
隣人のカドルッスが、エドモンが彼に借りた金の取り立てをしたらしい
申し訳なく思うエドモンだった

そのカドルッスがやってきた
よう、エドモン、良く帰って来たな
飲んだくれの仕立て屋カドルッス

エドモンは冷ややかに言う
ああ、帰って来たよ 給料も出たし、困ったときはたすけてあげられるよ

その必要はない 仕事はあるんでな
隣人同士助け合うもんだ おれは貸した あんたは返した これで貸し借りなし

貸してくれた恩はもちろん忘れないよ

モレルさんの夕食会をことわってきたらしいな
いくら親父さんに早く会いたいからって、船長になるんならおべっかは使っとくもんだぜ

ぼくは、そんなことは無しで、認めてもらいたいんだ

へ、結構なこって
あのカタロニア娘のところへも早く行ったほうがいいぜ
別嬪さんのまわりには男がいっぱいだからな
ま、でもあんたが船長になるんなら、あんたを断る気にはならんだろうよ

(少し不安になって)
ぼくが船長になろうとなるまいと、彼女はぼくを愛してくれるさ

結構、結構、はやく行ったほうがいいぜ

密談するダングラールとカドルッス
奴の様子はどうだった?
ふん、俺に金を借りてたくせに、なんなりとお役に立てるよだとさ
えらそうにまるで船長になったみたいによ

で、奴はあの娘のところへ行ったんだな
あの娘にくっついてまわってる男がいたよな、たしか

ああ、従兄弟かなんかだ
奴が船長になったら、気軽に口もきけねえな

おまえ、エドモン・ダンテスが嫌いか?

おれは・・・横柄な態度をとる奴が嫌いだ

さてと、ちょいと見物がてら飲みに行こうぜ
もちろん俺のおごりで

飲んだくれのカドルッス
エドモンのことが嫌いなわけではなかった
いやむしろ好きだった
ならば助けてやればよかったのに
弱い奴、カドルッス

4006うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:18:59 ID:LNssCYN6
フェルナン、あなたのことは好きよ
でもそれは兄に対する愛のようなものなの
あなたとは結婚できない

暗い眼差しのフェルナンをみて恐れを感じ、
メルセデスは言う
エドモンに何かあったら、わたしは生きてはいないわ!

わかったよ、メルセデス

そこへやって来るエドモン
フェルナンとエドモンの間に走る緊張感

幸せの絶頂にある恋人たちを残して、フェルナンは去る

酒場の近くを通りかかるフェルナン
その彼を呼び止めるダングラール

言葉たくみにフェルナンを煽るダングラール
泥酔状態のカドルッスはエドモンが標的となっていることを朦朧とした頭で感じ取り
抗議の声をあげるが、ダングラールにうまくかわされる

ダングラールの悪だくみとは?

4007うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:20:45 ID:LNssCYN6
ダングラールとカドルッスに煽られて、フェルナンは嫉妬の炎を燃やしている
そこへエドモンとメルセデスがやってくる

エドモンはいう
今日には父の家で婚約を済ませ、明日か、明後日にはこの店で婚約披露宴をするよ

ダングラールはいう
えらく急ぐんだな 次の出航まで三か月もあるってのに・・・

パリへ行く用事があるのでね

パリ?パリははじめてか?ダンテス

うん でも僕の用事じゃないんだ 
亡くなったルクレール船長の最後の用事をどうしてもしなくちゃならない

ダングラールはぴんと来た
これは例のエドモンが内緒にしている手紙と関係がある
きっとナポレオンの侍従長ベルトランからの手紙をパリへもっていくのだ
素晴らしい考えを思いついたぞ

恋人たちは去って行った

ダングラールはフェルナンにいう
「あんた、ほんとにあの娘が好きなんだな」
「知り合ってからずっと」
「でもそこで髪をかきむしってるだけか。あんたの国のやり方はそんなもんかい」
「ほかにどうしろって言うんです」
「私が知るわけないだろ」
「あいつを刺そうと思った。でも女がそんなことしたら自殺するっていうんだ」
「そんなの口だけに決まってるだろ」
「あんたはあの娘を知らない。あの娘は一度宣言したら絶対にやる」
(馬鹿め、女が死のうが死ぬまいがどうでもいい。俺はあいつが船長にさえならなきゃいいんだ)
「あの娘が死んだら俺も死ぬ」
「これぞまさしくほんとの恋ってやつだ、ヒック」
「おい、カドルッスお前はもうできあがってるな。
フェルナン、君はいいやつのようだから私がその苦しみから救ってやろう、だが・・・」
「おれはまだ酔ってねえぞ〜、ヒック」
「だが・・・何なんです?」
「ダンテスが死ななくたって結婚はお流れになりそうだぜ」
「死以外にあのふたりを引き離すものはありませんよ・・・」
「ヒック、このダングラールはなあ、悪賢いんだぜ〜、ヒック、そうさダンテスは死ぬ必要はねえよ。あいつはいい奴よ。おれはあいつが好きだよ、達者でいろよダンテス、ヒック」

いらいらと立ち上がるフェルナンを引き留めるダングラール

「牢屋の壁で離されるのも、死んでいるのとおんなじことだろう?」
「んだな、ヒック、でも牢屋はいつか出るぜ、ヒック、
エドモン・ダンテスってからにはきっと仕返しはするぜ、ヒック
でもよう、なんであいつが牢屋にぶちこまれるんだ?いいやつだぜ、ダンテス、お前の健康に乾杯だ、ヒック」
「あいつを逮捕させる方法があるんですか」
「そりゃ探せばあるだろうさ。でも私が首つっこむことじゃないな」
「あんたにもダンテスを特別憎む理由があるんでしょう?」
「とんでもない!誓って言うが、全然ないよ。あんまり君が辛そうだからさ。ま、自分で考えてみるんだな」

4008うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:21:47 ID:LNssCYN6
席を立つふりをするダングラール
引き留めるフェルナン

「あんたがやつを憎んでようが憎んでなかろうが、どうでもいい
やり方を見つけてください。やつが死ななくていいんならメルセデスも死なない」

「ヒック、ダンテスを殺すだあ?あいつは友達だ。やつは今朝、俺に金をわけようとしてくれた。俺がやつにしてやったようにな。おれはダンテスを殺させないよ、ヒック」
「馬鹿め、誰があいつを殺すなんて言った?冗談だよ。ほれ、あいつの為に飲めよ」
「だから、どうすればいいんです?」
「まだ、見つからないのかい?」
「あなたが見つけてくれると言った!」

「ペンとインクと紙をもってこい」
「ヒック、おれはいつだって、一本のペン、ひと瓶のインク、一枚の紙きれのほうが
剣やピストルより恐ろしいと思ってたよ、ヒック」
「フェルナン、こいつにもっと飲ませろ」

ダングラールがフェルナンに言う

ダンテスは今度の航海の途中、ナポリとエルバ島に寄っている
もしだれかが、国王の検事にあいつをボナパルト派だと告発したら・・・
ほら、こんなふうに左手で筆跡をごまかして書くのさ

国王ならびに教会に忠実な物として、検事閣下に対し、以下のことをお知らせ申し上げます。
ナポリ、ポルト・フェライヨ(エルバ島)に寄港後、今朝スミルナより帰港したファラオン号の一等航海士エドモン・ダンテスは、ミュラー(ナポレオン義弟 ナポリ王)より簒奪者(=ナポレオン)宛の手紙、および簒奪者よりパリのボナパルト委員会宛の手紙を託されました。
ダンテスを逮捕なされば、その証拠を入手できるでありましょう。この手紙は、彼の身辺、彼の父親の家、もしくはファラオン号上の彼の船室内で発見されるはずであります

宛名は「検事殿」、これで万事終わりさ

「ヒック、んだ、万事終わりだ。ただたしだ、それは汚ねえぞ」
カドルッスは手紙を奪おうをする

「冗談にきまってるだろうが!おれだってダンテスはいいやつだと思ってるぜ」
ダングラールは手紙をくしゃくしゃにして酒屋の庭の隅に投げた

「ヒック、ああ、よかった。あいつに悪いことするのは黙ってられん、ヒック」

カドルッスを支えながら酒場をあとにするダングラール
振り返って、フェルナンが投げ捨てたあの手紙に飛びついてポケットに入れたのを確認した

4009うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:23:00 ID:LNssCYN6
エドモンとメルセデスの婚約披露宴が開かれている
エドモンの父親、船主のモレル氏、ダングラール、カドルッス、そしてフェルナンもいる
そわそわと落ち着かないフェルナンの様子を観察するダングラール

エドモンによると、もうすでに結婚許可証は得ており1時間半後には市役所で正式に結婚が成立するという
慌てはじめるダングラールとフェルナン

祝福のざわめきが最高潮に達したそのとき、窓から外を見ていたフェルナンが弾かれたように立ち上がった

階段から重々しい足取りと剣のがちゃがちゃいう音が聞こえてくる
警部と4人の兵士たち
エドモン・ダンテスの逮捕令状が出ているという
逮捕理由?我々は知らされていません
何かの間違いであると確信しているエドモンは困惑しながらもおとなしく連行されていった
悲しみに打ちひしがれるエドモンの父親とメルセデス
事実確認のため、慌てて出ていくモレル氏

酒場でのおぼろげな記憶がよみがえるカドルッスはダングラールに言う

これがあんたの言ってた冗談の結末か?おい!
こいつはひどすぎるぞ!

とんでもない。あの手紙は破いちまったぜ

うそだ!隅っこのほうへ投げただけだろうが!
あいつだ!フェルナンの野郎だ!

あいつはそんな利口者じゃない。

戻って来たモレル氏は逮捕理由を皆に告げる
それは「ボナパルト派である」とされたから

ああ、やっぱりお前はおれをだましたな!あの冗談は実行されたんだ!
ひでえ話だ!なにもかもしゃべってやる!

うるさい、だまれ!
エドモンがエルバ島へ寄ったのはほんとなんだぞ。あいつをかばうやつも同罪だぞ?
いいのか?

モレル氏は検事代理ヴィルフォール氏にエドモンの情報を訊いてみようと思っていた
そしてダングラールに、この件についてどう思うか尋ねる
ダングラールはモレル氏に、エドモンがエルバ島に立ち寄ったことが胡散臭いと言う
そして、モレル氏が消極的ボナパルト派であることをにおわせ、恩を売るかのように
誰にも話しておりません、と付け加えるのであった

4010うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:24:15 ID:LNssCYN6
検事代理ヴィルフォール
過激な王党派
将来を嘱望された男
ルイ18世のおぼえめでたいサン・メラン侯爵の令嬢ルネの婚約者
だがしかし、栄達を約束されているかのような彼にも弱点があった
それは・・・

サン・メラン侯爵邸での夕食会から、急きょ、エドモンの件で呼び出される
待ち受けるモレル氏
エドモンの誠実さを訴え、助けて欲しいと懇願する

隠れボナパルト派のくせに!冷たくあしらうヴィルフォールであった

エドモンを尋問するヴィルフォール
明るく好感の持てる態度のエドモンに、寛大な処置をしてもよいかと思いつつあったのだが・・・

君は誰かの恨みを買ったことがあるか?この告発状を読んでごらん

じっくりと読むエドモン。筆跡に見覚えはない

ここに書いてあることは事実なのかな?

事実であって、同時に事実でありません、とエドモン
亡くなった船長の指示に従っただけだと

エルバ島から持ち帰った手紙を見せなさい

お手元の書類の中にあると思います、とエドモン

探しながらヴィルフォールは言う。宛先はどこだったのかな?

パリ、コック=エロン通りの、ノワルチエ氏です

雷に打たれたような衝撃を受けるヴィルフォール
あわただしく手元を探り、問題の手紙を取り出す
宛名を確認する
つぶやく・・・コック=エロン通り、ノワルチエ・・・

ご存知なんですか?

いや、国王陛下の下僕たる私が謀反人など知るわけがない!
中味を読む・・・血の気がひく

不安になるエドモン
いずれにしても、手紙の中味は知りません

しかし、宛先は知っているな?

直接渡さねばならなかったので、はい

この手紙は誰にも見せていないのだな

誰にも見せてません

(もしもこの手紙の内容をこの男が知っていたら、そしてノワルチエがわが父だと知ったならば、私は破滅だ)
よし、わかった
君を釈放する権限は私にはないから、予審判事にその許可を取るまで少しの間だけ君を拘留する。そして君にとって不利な証拠であるこの手紙は燃やしてしまおう

暖炉の火に手紙をくべるヴィルフォール
エドモンは無邪気に検事代理の言葉を信じ、
警部に連れられて部屋を出ていったのである。感謝の眼差しさえ見せながら。

ヴィルフォールは椅子の中に倒れこんだ
私はいつまで父の過去にしばられなければならぬのか
待てよ、この手紙が俺の運を開くかもしれない
ぐずぐずしてはいられない!

ヴィルフォールはナポレオンのエルバ島脱出計画を知らせることにより
サン・メラン侯爵を破産から救い、ルイ18世にも感謝される

ナポレオンは計画どおり脱出していた(いわゆる百日天下)

ヴィルフォールに騙されたとも知らずエドモンは
馬車に乗せられ、船に乗せられ、“その場所”を自身の眼でみてはじめてこれから自分がどうなるのか知った
“シャトー・ディフ”
海に浮かぶ監獄島
その地下牢につながれた

メルセデスはヴィルフォールを訪ねた
ヴィルフォールは「あの男は重罪人であり、この件は私の手を離れた」という

モレル氏はほうぼう駆けずりまわっていたが、徒労に終わる

カドルッスは不安と苦悩にさいなまれていたが、彼にできるのは飲んだくれることだけ

ダングラールだけは良心の呵責も不安も感じていなかった
むしろ楽しさすら感じていた

老ダンテスは悲しみと不安で息絶えんばかりであった

ヴィルフォールのもとにノワルチエがやってくる
ナポレオン陛下はすでにパリをめざし、進軍中だ
お前はわしをかばうのだ
陛下が返り咲いたあかつきにはわしがお前をかばってやる

ナポレオンは復活する
百日のあいだ・・・

4011うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:25:17 ID:LNssCYN6
ナポレオンがパリ入城を果たし、ワーテルローの戦いで敗れるまでの百日
王党派支配→ナポレオン派支配→ふたたび王党派の支配
ヴィルフォールは父ノワルチエのおかげもあるのか、その地位は脅かされなかった
そしてモレル氏の嘆願をのらりくらりとうまくかわしていた
エドモンの父親はメルセデスの腕のなかで亡くなった
死に際しての費用など、モレル氏が負担した
それは王党派支配の世の中で勇気の必要な行為だった
ダングラールはナポレオン派が再び台頭すると、エドモンが解放されることを恐れて
スペインの商社へ転職し、その後の消息はわからない
フェルナンはメルセデスに尽くし、彼女の心をつかみつつあった

さてシャトー・ディフのエドモンは・・・

4012うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:26:41 ID:LNssCYN6
なぜ監獄へ入れられたのかその理由さえわからないエドモン
その理由をもうひとりの囚人ファリャ神父が解き明かしてみせた

エドモンより数年早く収監されていたファリャ神父は
イタリアの有力枢機卿の秘書をしていた人物であった
小国家乱立の弱小イタリアではなく、統一イタリア王国の誕生を望んでおり、
そのため政治犯として獄へつながれた
獄中では身の回りの物で作った道具で研究にいそしみ、イタリア統一論文を書く
博覧強記の人物
看守たちの間では、ありもしない財宝の話をしつづける“キチガイ神父”と呼ばれる人物

エドモンとファリャ神父は別々の独房に入れられていた
実はファリャ神父は何年もかけてこっそりと脱獄のためのトンネルを掘っていた
ところが、外の景色の見えない独房での計算によって海の方向を割り出して方向を決めたために、間違ってエドモンの独房室へ向かって掘り進むこととなった
その結果、ふたりの独房はトンネルでつながったのであった

エドモンが逮捕されるに至るまでの話を聞き、ファリャは謎ときをする
ダングラールとフェルナンの仕業であろうよ
だが、検事代理の行動がわからぬ 本当にそなたに同情的であったのか?
ノワルチエだと?わしはそいつに会ったことがある
ノワルチエ・ド・ヴィルフォールだ

すべてを理解したエドモンだった

4013うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:27:50 ID:LNssCYN6
看守の目を盗み、ファリャ神父のもとへと通うエドモン
神父から外国語、物理、化学、上流社会のしきたりにいたるまで、あらゆる知識を吸収しようと努力する
その目に宿る激しい復讐の念を心配するファリャ神父であった

ファリャ神父には持病があり、次に発作を起こせばもう死ぬことは確実であった
そして神父は最大の秘密をエドモンに明かすこととした

わしはもうすぐ死ぬ そなたと共には逃げられない
わしの言う財宝は本当にあるのだ
そなたにその場所を教えよう

財宝とは、ファリャ神父が仕えたスパダ家につたわる莫大な遺産のことであった
その昔、法王アレッサンドロ6世とその息子チェーザレ・ボルジアが、スパダ家当主を殺害してまで奪取しようとして果たせなかった莫大な財宝
ファリャ神父が仕えていたスパダ枢機卿は、その先祖代々の財宝の在りかをしるした遺言書を見つけられないまま亡くなった
だがファリャ神父は遺言書を発見したのだと言う

その財宝が隠された場所はモンテ・クリスト島である

財宝の在りかを示す遺言書の内容をエドモンに暗記させ、遺言書は燃された
そしてファリャ神父は亡くなる
エドモンは袋詰めにされた神父の遺体を自分の独房へ運んでベッドへ寝かせ、自分は神父の代わりに袋の中へと入った
シャトー・ディフでは、囚人が死ねば遺体は袋詰めにされ、足に重りをつけて、絶壁から海へと投げ込まれる
嵐の夜、船乗りであり水泳の達人であるエドモンはなんとかシャトー・ディフ近くの岩礁へ這いあがることに成功する
目の前で一隻の船が難破するのを岩礁から目撃し、岩礁で一夜を明かすエドモン
翌朝、難破した船の船員を装い、沖を通る船に助けられる
シャトー・ディフの住人となってから14年の歳月が流れていた

エドモンを助けた船は密輸船であった
優秀な船乗りであるエドモンはみるみる船長の信頼を勝ち得ていった
密輸船は地中海を往復する
モンテ・クリスト島を何度も横目にみながらも、エドモンは決してあせらなかった
14年もの囚人生活を送った身である
待つことには慣れている

密輸船の乗組員仲間にヤコポという男がいた
エドモンはこの男は信じるに足る人物であるように思えた
ちょうどファリャ神父がエドモンを信じたように

ある大きな密輸取引の話がもちあがり、船長は取引現場を無人島のモンテ・クリスト島にすると言った
狂喜するエドモン
船長から厚い信頼を寄せられるエドモンは助言する
「その島なら安全この上もないが、この大きな取引を成功させるには、
事を手早く行うことでしょう」

4014うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:31:48 ID:LNssCYN6
シャトー・ディフで暗記した枢機卿の遺言書にもとづき、モンテ・クリスト島の隠し財宝を探すエドモン・ダンテス
スパダ家の紋章入りの木箱を発見する
箱の中味は3つに分けられていた
1・金貨25,000枚
2・金の延べ棒1,000本
3・ダイヤ、真珠、ルビー 両手で10杯分

エドモンはポケットを宝石でいっぱいにしてから
財宝を土の下に隠し、迎えの船を待つ
モンテ・クリスト島滞在6日目、迎えがやってきた

エドモンはリヴォルノへ上陸
そして小粒のダイヤを現金化し、小さな船を買う
そして密輸船の同僚ヤコポにその船と別途資金を与え、マルセイユへ渡り、父ルイ・ダンテスとメルセデスの近況を探るように指示する
ヤコポには伯父の遺産が思いがけず入ったからと説明
以後、ヤコポはエドモンの忠実な部下となる

エドモンと密輸船との契約は切れていた
船長に惜しまれながらも、別れを告げる
ヤコポはマルセイユへ
エドモンはジェノバへ
ふたりはモンテ・クリスト島で落ち合うことを約束

エドモンはジェノバでヨットを手に入れる
船室に細工を施し、隠し財産の収納場所とした
そしてモンテ・クリスト島へ戻り、財宝をすべてヨットへ移し、ヤコポの到着を待つ
ヤコポが持ってきた知らせは「父は死亡 メルセデスは行方不明」というものであった
エドモンはヤコポに自分の秘密を語る

エドモンはマルセイユに向かうことを決意する
19歳でシャトー・ディフに送り込まれ、14年後に脱出、密輸船に助けられ、リヴォルノの床屋へ行き、14年ぶりに鏡をとおして自分の姿を見たとき、マルセイユの誰ひとりにも見分けられることはないだろうと確信していた

リヴォルノで手に入れたイギリスのパスポートを持ってマルセイユへ
ファラオン号のかつての部下を見かけ、話しかけるが、彼はまったく気づかない
かつて自分が住んでいたメラン小路の6階の住まいへと向かうエドモン
そこには見知らぬ若い夫婦が住んでおり、エドモンは家の中をみせてもらい、涙を流す
仕立て屋のカドルッスは商売がうまくいかず、街道筋で宿屋をしているという
エドモンはイギリス人のウィルモア卿と名乗り、その建物全体を買い取り、6階に住む若夫婦に今住んでいる部屋を明け渡させ、その代わりに他のどの部屋でも自由に選ばせるよう手配した

そして司祭の姿に変装し、カドルッスの宿屋ポン・デュ・ガール亭へ向かう

4015うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:32:51 ID:LNssCYN6
司祭(エドモンの変装)はカドルッスの宿屋の内部をしげしげとながめる

あんまり金はなさそうだとお思いなんでしょう?
このご時世、正直だけじゃいい暮らしができるわけじゃない
正直ってことにゃ自信があるんでさ

そなたのその自慢が本当ならばたいへん結構
私は固く信じているのだよ
おそかれはやかれ正直者は報われ、悪者は罰される

ご商売柄、そうおっしゃるんでしょうよ

そういう言い方はよろしくない
私が今言ったことの証拠を見せてあげられるかもしれぬ

・・・というと?

そなたが私の探している人物であるか知らねばならぬ
1814年か15年ごろにダンテスという船乗りを知っていたか?

ダンテス!
知っていますとも!手前のいちばんの友達でさあ
あの可哀想なエドモン
まだ生きてますか?釈放されましたか?幸せですか?

絶望したまま、みじめに死んでいったよ
私は死の床によばれたのだ
死に際に、どうしても投獄された理由がわからないと言い、
彼の不幸の謎を解き、名誉を回復して欲しいと私は頼まれたのだ
獄中仲間にある富裕なイギリス人がおり、看病のお礼にと牢を出るときにダイヤをダンテスに渡した
5万フランの価値があるダイヤだ
今ここに持っているがね

ダイヤのついた指輪を見せる司祭

私はダンテスの遺言執行人になったのだ
「私には3人の友人と1人のフィアンセがいます 友人のひとりはカドルッスです」

身ぶるいするカドルッス

「そしてもう一人はダングラールといい、3人目は、恋敵の私を好いてくれていて・・・」

悪魔的な微笑みを浮かべるカドルッス

「フェルナンといいます フィアンセは・・・」
私は忘れてしまったな、名前を

メルセデスですよ
それで?

マルセイユへ行ってくださいと
ダンテスがしゃべっているのだよ、わかるね?
そしてこのダイヤを売り、5等分して友人たちに分けてやってくれ
この世で私を愛してくれたのはあの連中だけだから

なんで5等分なんです?今あげた名前は4人ですぜ?

5人目は亡くなったと聞いたからね
ダンテスの父親だ
そなたその老人のことを知っているか

カドルッスによると、エドモンの父ルイ・ダンテスは息子がいなくなって1年ほどして亡くなった
死因は餓死であったと
司祭は椅子から跳びあがって叫ぶ
そんな、そんな馬鹿なことがあろうはずがない!
その気の毒な老人は皆から見捨てられていたというのか!

いいえ
メルセデスやモレルさんが放っておいたわけじゃありませんです
ただあの老人はフェルナンを嫌っておりました
まったく気の良いエドモン、自分の女房を欲しがっている奴を友人と呼ぶなんて

ではそなたは、フェルナンがダンテスになにかしたことを知っているのだな?

知っている、と思います

話してくれたまえ

4016うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:33:46 ID:LNssCYN6
お話ししてなんになりましょう
あいつが生きてて、教えてくれといって来たって申しません
死んじまったんなら憎みも復讐もできない
闇に葬っちまいましょう

では真の友に贈るべき物をそれを受け取る価値のない奴らにくれてやれと申すのか

おっしゃるとおり
あの可哀想なエドモンの遺産なぞ、今の連中にとっては大海に落ちる一滴の水でさあ

ほう、その連中は金持ちになったのだな
話してくれないか?

やめましょう 長い話でさ

そなたの要人深さは尊重する
それにそなたの態度はほんとうに善良な人間の態度だ、もうその話はよそう
私に託されているのはほんの形式的な仕事だからな
ではこのダイヤを売るとしよう

このダイヤの値打ちの五分の一が手前のものになるんで?

父親の分を加えて4等分ということになるな

なぜ4人で分けるんです?

あなたがた4人がエドモンの友達だったからだよ

裏切り者に褒美をやるなんて神への冒涜だ!罪悪だよ

友人たちの住所を教えてもらいたい
彼の遺言を実行するために

大粒の汗を流すカドルッスは腹を決める
みんな申し上げますよ

それが一番よいな
私がどうしても聞きたいからというのではなく、要するに遺言者の願い通りに
遺産を配分できるようにしてくれればそれが一番良い
では、話を伺おうか

4017うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:35:18 ID:LNssCYN6
カドルッスの告白

決して手前がしゃべっちまったことをばらさないで欲しいのです
これからお話しする連中は、今では金も権力もある
手前なんぞ、指一本でコップみたいに粉々にされちまう

エドモン・ダンテスが逮捕されて以来、
父親の老ダンテスはろくに眠らず、ひきこもっていた
モレル氏やメルセデスがひんぱんに様子を見に来ていたが、衰弱が激しい
みかねたメルセデスは家へ連れていこうとしたが、父親は決して家を離れようとはしなかった
エドモンがいつ帰ってきてもよいように
そしてとうとう、メルセデスやモレル氏に会うことも拒絶するようになった
家の中から音がしなくなった四日目、鍵穴からのぞくと青くやつれた顔の老ダンテスが見えた
メルセデスとモレル氏に知らせて、医者を呼んだ
医者は胃腸炎と診断し、老人に節食を指示した
老人はよろこんだ
食べなくてもいいのだ 生きなくてもいいのだ なんたって医者がそう指示したのだから
それ以来、家のドアは開けたままとなった
心配したメルセデスは老人を連れ出そうとしたが、彼は頑として動かなかった
メルセデスはそのまま枕元に残り、モレル氏は暖炉の上に自分の財布を置いていった
食事をとらなくなって九日目、老人はメルセデスにこう言い残して死んだ
「もしエドモンにまた会ったら、わしは、あれの幸せを祈りながら死んだと伝えてくれ」

4018うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:36:42 ID:LNssCYN6
私になにもかも話すと約束したことを忘れるでないぞ
さあ、その老人の息子を絶望の果てに殺し、父親を餓死させた連中というのは
どういう奴らだ?!!

一人は嫉妬、一人は野心から、エドモンをねたんだ二人の男
フェルナンとダングラールでさあ

嫉むあまりに何をしたのだ?

エドモンをボナパルト党員だと密告したんです

二人のうちどちらがだ?
本当に悪いのはどちらだ?

二人ともですよ 一人は密告条を書き、一人は投函した

どこで書いたのだ?その密告状は?

婚約の日に、その居酒屋で

ああ、やはり、そうだった ファリャ神父あなたは人間についても事物についても
なにもかもご存知だ

なんですって?

なんでもない 続けよ

ダングラールが左手で書いて筆跡をごまかし、フェルナンがそれを出したのです

だが、そなたもいたぞ!

なぜ、手前がいたことをご存知なので?

それほど詳しく知っているのはそういうことであろう

その通りです
手前はその場におりました

そなたは黙って見ていたのか?それではそなたも同罪ではないか!

あいつら、手前にしこたま飲ませたんですよ
でもそんな酔っ払いでも、言えることは言いましたですよ
でも・・・これは冗談だって・・・あいつらそう言ったんですよ

ところが翌日、それは冗談でなかったことをそなたは知ったわけだ
それなのにそなたは何も言わなかった
エドモンが逮捕されたとき、その場にいたのに!

そうです
でも手前は口を開きかけたんですよ
でもダングラールのやつが脅したんです
もしも本当にボナパルト派の手紙を奴が持ってたらどうするんだ
奴をかばうお前も同罪だぞって・・・
手前はあの頃、お上のすることが怖かった
だから黙っちまったんです 卑怯でした でも、これは罪じゃない

わかった そなたはなりゆきにまかせただけだ

でもあれ以来、昼も夜も後悔しています
手前が落ちぶれたのもその報いだと思っとります

わかった そなたは正直に話してくれた もう罪は許されるであろう

残念なことにエドモンは死んじまった
あいつは手前を許しちゃくれませんでした・・・

あれはなにも知らなかったよ

でも今はたぶん知ってます 死んだ連中はなにもかもわかるっていいますから

4019うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:37:50 ID:LNssCYN6
そなたはモレルさんという名を何度か口にしたが、その人はこの悲惨な事件に関して
どんなことをしたのかな?

ダンテスの雇い主で、誠実で勇気があって献身的な人がやることをしました
やつのために20回も嘆願しましたよ
父親の家の暖炉に財布を置いていったことを話しましたね
あの財布のおかげで爺さんの借金も払えたし、葬式も出せた
赤いレースの大きな財布でね 手前がまだ持っとります

そのモレルさんという立派な方はきっとお幸せなんだろうね

手前同様お幸せですよ

なんだって?!不幸なのか! どうしてだね?

2年のあいだに5隻の船を無くし、破産寸前ですよ
エドモンの乗っていたファラオン号
あの船がもしも今度戻ってこなかったら破産だ
もうおしまいです

モレルさんにご家族はおられるのか

聖女のような奥様とお嬢様そして陸軍中尉の坊ちゃんでさあ
お嬢さんは心に決めたお人がいるんだが、その両親は破産寸前の家の娘を嫁にしたがってないらしいです
こんなときは家族がいるほうが苦しいもんです
なぜって、ひとりなら頭にピストルぶっぱなせばそれで終わりです

なんということだ

先ほど申し上げあことを除けば、なにひとつ悪くない手前は貧乏のどん底
ところがフェルナンとダングラールは黄金を枕というわけでさ

ダングラールはどうなったのだ
一番悪い奴だ そそのかした奴だ

4020うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:39:12 ID:LNssCYN6
マルセイユを離れ、スペインの銀行の手代となりました
そして戦争でフランス軍の軍需品を扱ってひと財産つくって
株取引で何倍にも増やした
そして銀行家の娘と結婚し、やもめになったら今度は未亡人と再婚だ
いまやダングラール男爵ですよ
モンブラン通りにお屋敷があります

ほう?では幸せなのだな?

大金持ちが幸せっだってんなら、奴は幸せなんでしょうよ

では、フェルナンは?

こいつはまた話が別です
でもよくわからんのですよ 奴の一生は秘密だらけなんでしょうよ、きっと
フェルナンはナポレオン復帰の少し前に招集されましてね
前線で将軍の部屋の伝令任務についてました
ところがこの将軍はイギリス軍と内通しておりまして、フェルナンも誘ったわけです
ナポレオンが王位につたままだったら軍法会議ものですがね
ブルボン王朝のもとでは推薦状でさあ
奴は少尉になって帰ってきました
そして例の将軍のおぼえもめでたいわけで、大尉になった
ダングラールも同じころ最初の投機をしておりました
その後フェルナンはスペインへ派遣され、ダングラールとかたらってなんだかうまいことやったらしい
要するに功績をあげたんですよ
大佐になってレジョン・ドヌール勲章と伯爵の称号持ちです
モルセール伯爵、これが奴の名前
そしてギリシャ独立戦争の義勇軍に参加しました
しばらくして奴が軍事顧問としてアリ・パシャに仕えていると聞きました
アリ・パシャは殺されましたが、死ぬ前に奴にかなりの金を与えたらしい
その金をもって奴がフランスに戻ってきたときは、中将ですよ
今ではパリのエルデ通りに豪壮な屋敷を持ってますよ

ではメルセデスという娘は?

今じゃ、パリ一流の大貴婦人でさ
メルセデスははじめのうちは絶望していました
兄と慕っていたフェルナンが出征するとひとりぼっちになっちまった
そこへフェルナンが少尉となって戻って来た
フェルナンは嫌われていたわけじゃない
愛されてなかっただけ
メルセデスはエドモンのためにもう半年待ってくれと言った
そして半年後に結婚式が行われました
貴婦人になるための勉強もがむしゃらにやりましたよ
そんなに頑張るのも気を紛らすため、忘れるためだったと思います
いまじゃ金持ちの伯爵夫人ですよ
でも・・・あんまり幸せじゃないと思うんです

どうしてだね

手前はこのとおり貧乏のどん底で、昔の友達が助けてくれやしないかと思いましてね
ダングラールの家では中にも入れてくれませんでしたよ
フェルナンは召使に100フラン持ってこさせましたっけ

ではどちらとも会えなかったんだな

ええ、でもモルセール夫人は、メルセデスは手前のことを見ました
屋敷の外へ出たときに、上から財布が落ちてきたんでさ
上を見たらちょうどメルセデスが窓を閉めるところでした

ヴィルフォール氏はどうしたね?

あの方は友達じゃありませんので存じ上げません

あの人がエドモンの不幸にどんな役割を演じたかも知らない?

存じません
知っているのはエドモンが逮捕されてからサン・メラン侯爵のお嬢様と結婚して
マルセイユを離れました
きっとダングラールみたいに金持ちになって、フェルナンみたいに尊敬されてるんだ
手前だけが貧乏でみじめ 神様からも忘れられてる

それはちがう
神は必ず思い出しになる
これがその証だ
このダイヤを受け取るがよい そなたのものだ

なんですって?手前ひとりのものだと?
冗談はよしてください

このダイヤはエドモンの友の間で分けられるべきものだった
だが、友はひとりしかいなかったということだ
私は、幸せがどういうものか、絶望がどういうものか知っている
人の心をもてあそぶことなど決していたさぬ
受け取るがいい
だがそのかわり、モレル氏がダンテス老人の暖炉の上に置いて行ってくれたという
その赤い財布を私にくれないか

4021うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:40:18 ID:LNssCYN6
テペデレンリ・アリ・パシャ
オスマン帝国時、ギリシャを支配した半独立専制君主
デュマ作の小説、『モンテ・クリスト伯』(1844年〜1846年)には「アリ・テブラン」(Ali Tebelin)の名で言及され、彼の暗殺をめぐる物語はこの作品の重要な要素を構成している。登場人物のひとり、エデ(Hayd&eacute;e)はアリの娘という設定で、父の死により奴隷に身を落とした彼女は、暗殺の手引きをした者を捜している。

ウィキペディアより(^^)/

4022うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:41:59 ID:LNssCYN6
31,2歳くらいの身なりの良いイギリス人がは、マルセイユ市長のもとを訪れた
ローマのトムスン・アンドフレンチ商会の代理人と名乗り、モレル父子商会の情報が
欲しいと言う
市長は、モレル父子商会が不運に見舞われていることは事実であるが、それ以上のことは言えない、モレル氏は厳格なまでに誠実な方である、とだけ答える
そして、より詳しいことが知りたければ刑務監査官のボヴィル氏を訪ねるとよい、と言った
氏はモレル商会にかなりの投資をしているはずだから、と

イギリス人はボヴィル氏を訪ねた

わたしはモレル商会に20万フラン投資しています
もし15日までに彼の持ち船のファラオン号が帰らない場合には返済は不可能です
支払い停止です

それでは私がその債権を買い取りましょう

あなたが?でも相当割り引かれるんでしょうな?

いえ、20万フラン、現金で

どう考えてもその6%も戻ってきませんよ

わたしはトムソン・アンド・フレンチ商会の代理人です
わたしにわかっておりますことは、債権譲渡と引き換えにその金額をお支払いする用意があるということだけです
ただし、仲介手数料はいただきます

ええ、ええ、手数料はふつう15%ですが、もっとお望みですか?
おっしゃってください

わたしの手数料というのはもっと別の性質のものです
あなたは刑務監査官でいらっしゃいますね
収監簿をお持ちですね
それを見せていただきたいのです
わたしの恩人ファリャ神父がシャトー・ディフに収監され、そこで亡くなったと聞きました
その方の死の模様を知りたいのです

イギリス人は収監簿をめくる
ファリャ神父の綴り
そしてエドモン・ダンテスの綴り
すべての書類がそろっていた
密告状、検事調書、モレル氏の請願書、ヴィルフォールの添え書き
イギリス人は密告状をそっとポケットに入れる
調書を読み、ノワルチエの名が書かれていないのを見る
「エドモン・ダンテス、熱狂的ボナパルト支持者
エルバ島脱出に重要な役割を果たす
厳秘に付し、厳重な監視下におくこと」
ヴィルフォールの手になるものであった

刑務監査官ボヴィル氏は、ファリャ神父が亡くなった日に、ひとつの事件があったという
エドモン・ダンテスという囚人が神父の遺体と入れ替わり脱獄しようとした
しかし、シャトー・ディフの埋葬方法を知らず、海の藻屑となったのだと
「死亡証明がありますよ ダンテスに肉親がいれば死んでいるのか生きているのか知る必要があるかもしれませんから」

4023うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:43:57 ID:LNssCYN6
>>4022
のボヴィル氏ですが、わたしの語りでは省きましたが、
シャトー・ディフにエドモンが収監されてまもなくの頃
監査にやってきた人物なんですね
つまりエドモンとは一度会っているのですが、気づきません
そしてボヴィル氏はそのときにエドモンの願いを聞き入れ、
再度調書をあたってみることを約束し、実際そのとおりにするのですが、
ヴィルフォールの記述を読んで、「これでは仕方がない」と結論づけた人物です

4024うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:44:54 ID:LNssCYN6
悪い人ではないです
エドモンと面接したときに同情を覚えたものの、形式通りにさらっと調べただけってとこですね
ヴィルフォールのごまかしにまったく気づかなかったと

ヴィルフォールはいわゆる送検をせずにエドモンを牢獄へ送ったので
裁判所側の資料を調べれば矛盾に気づいたかも、というような内容があったような・・・
シャトー・ディフの囚人をきちんと面接したということだけでもめずらしいみたいですよ
この後、物語ではもう登場しないかもw

4025うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:47:32 ID:LNssCYN6
モレル商会の内部を知り、数年前にマルセイユを離れ、今われわれが到達した時期にこの商会にまた足を踏み入れた者は、大きな変わりように気づいたであろう
使用人として残っているのは今やたったふたり
片目の会計係の老人コクレス
23,4歳の青年エマニュエル・レモン
エマニュエルはモレル氏の令嬢ジュリーと恋仲であった
両親がなんとかして商会を辞めさせようとしても頑として残っていたのである

トムスン・アンド・フレンチ商会から派遣された男は、ボヴィル氏との面会の翌日、このモレル商会を訪れた
14年の歳月はこの立派な商人に大きな変化をもたらしていた
50歳になろうとしていた彼の髪は白くなり、額には苦労のしわがよっている

明らかに同情のまざった好奇心を見せるこの英国人の眼差しに苦しさを覚えていたモレル氏であった

何か私にお話しになりたいことがおありとか

トムスン・アンド・フレンチ商会は今月及び来月中にフランスで3,40万の支払いをせねばなりません
手前どもでは、あなたの支払いがきわめて正確であることを知り、あなたの署名のある手形を見つけ得る限り集めました
そして手形の期限が来次第、お宅で現金化し、それを支払いに当てるよう申しつかっております

(深いため息とともに)
どのくらいの額になりましょうか

刑務監査官ボヴィル氏から譲渡を受けた20万フラン
これとは別の手形が3万2500フラン
そして有価証券で5万5000フラン
合計いたしますと28万7500フランです

28万7500フラン・・・

そうです
ところで率直に申し上げますと、マルセイユ中に広まっている噂では、あなたは取引に対処できなくなっているとのことですが

父が35年間経営しそれを受け継いで24年、モレル商会の署名のある手形で支払われなかったものはただの一枚もございません

4026うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:48:32 ID:LNssCYN6
もちろん承知しております
しかし、名誉を重んずる男同士、率直にお話しいただけませんか
あなたはこの度のこれも同様に正確にお支払いになれますか

そのように率直におっしゃられますとこちらも率直にお答えします
お支払いいたします
そうあってほしいと思っています 
私の船ファラオン号が無事に帰港さえすれば・・・
ただ不幸にしてそれがかなわない場合は、私は支払いを停止せざるをえないと思います

そのような場合に助けてくれる友人はおられない?

取引に友はいません
よくご存じではありませんか
あるのは取引だけです

それはそうですね
ではファラオン号が最後の望みですね

そうです
その望みの糸が切れれば・・・完全に破産です

私がお宅へ参りましたときに船が一隻入港してきましたが?

あれはボルドーのジロンド号です
ファラオン号の情報を持ってきてくれるかもしれませんが・・・
こんなに遅れるのは尋常ではない
ほんとうなら1か月も前に着いていなくてはならないのです

階段からどやどやと足音がした
ジロンド号に助けられたファラオン号の船員たちが到着したのであった
ファラオン号はやはり沈んだ
船員は全員助かったと聞いて安堵するモレル氏
水夫頭のペヌロンから嵐の様子を聞き、よく頑張った、みんな立派だとほめるモレル氏
契約通り、200フランの給料を出すから良い雇い主を探すように言う
船員たちは支払い猶予で構わないというが、モレル氏は会計係コクレスに支払いを命じる

船員たちと共に部屋の外へ出される際、娘のジュリーは心からの哀願の眼差しを、隅のほうですべてを眺めていたトムスン・アンド・フレンチ商会の代理人に投げかけた
男はそれにかすかな微笑みで答えたのである
冷静な観察者ならば、その氷のように冷たい顔に、そのような微笑みがほころぶのをみて、
意外の感に打たれたことであろう

男ふたりだけになった

なにもかもご覧になったとおりです

拝見しました
ほかの不幸同様、まったく不当な不幸がまたひとつあなたを襲ったことをね
そこで、私があなたにとって好ましい男になりたいという気になったのです
私はあなたの主たる債権者でしたね

少なくともあなたは支払い期日のもっとも近い手形をお持ちです

期日の延期をお望みですか

延期していただければ私の名誉はすくわれます したがって私の命も

どの程度の延期を?

・・・2か月

結構です 3か月お待ちしましょう
ではこの手形をすべて書き換えてください
9月5日午前11時に(このとき時計はちょうど11時をさしていた)参上いたします

階段の途中で、英国人はジュリーに会った
彼女は降りるふりをして実のところ待ち構えていたのである

お嬢さん
いつか「船乗りシンドバッド」という署名の手紙が来ます
中に書いてあることがどんなに奇妙なことでも、
必ずその手紙のとおりに行動してください 
そうすると約束してくれますね

誓います

結構です ではさようなら いつまでも今のまま正しく清らかにいてください
そうすれば神様がきっと、エマニュエルを夫としてお与えくださいますよ

中庭で、英国人は水夫頭ペヌロンに会った
「一緒にきてくれないか 君に話しがある」

4027うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:49:31 ID:LNssCYN6
エドモンによってもたらされた3か月の猶予によって、モレル商会は人々の予想を裏切って着実に支払いを続けた
そんな中、モレル氏はファラオン号の船長ゴマールのもとを訪れた
怪我のため他の船員より遅れて帰国した船長を見舞ったのだった
そうでもしないことにはゴマールは給料を受け取りに来ないとわかっていたからだ
玄関先で出会ったペヌロンは、上から下まで新調の服を着ており、ばつが悪そうであった
新しい主人を見つけたのだな、皆が幸せになりますようにとモレルは思った

順調な支払いもついにはどうにもならぬときがやってくる
モレルはその日、馬車でパリへと向かった
本能的な反駁によって、取ることを控えていた方法をついに取ったのである
ダングラールに会いに行ったのだ
彼がスペインの銀行へ転職する際、モレルは少なからぬ労をとってやったのだった
いまや彼は大富豪であり、多大な信用の持ち主である
しかしその本能的な反駁は正しかった
モレルは屈辱的な拒絶にあって、うちひしがれて帰宅した

とうとうこの家ももうおしまいかもしれない
モレル夫人とジュリー嬢は軍人である長男のマクシミリヤン・モレルに手紙を出した
マクシミリヤンはしっかりとした青年であった
モレル氏は息子に自由に道を選ばせたのだ
彼の母と妹はやがて見舞われる不幸な事態に心の支えとなってもらおうと呼び寄せたかったのである

モレル商会に残された現金は7、8000フラン
9月5日までの入金は4、5000フランである
つまり28万7500フランの手形決済にたいして1万4000フランしかない
9月4日
モレル氏は落ち着いていた
二人の女性にはかえってそれが恐ろしかった
エマニュエルは懸命に安心させようとするが、力はない
寝室にとじこもるモレル
夫人は遺書を書いているのだと悟る
お父さまをけっしてひとりにさせてはいけないとエマニュエルはジュリーに言う

9月5日8時
マクシミリアンが帰宅した
そのことをジュリーがモレル氏に知らせようとしたとき、ひとりの男が1通の手紙をもってやってきた
「ジュリー・モレル様ですね」
ひどいイタリア語訛りのその男は
「この手紙をお読みください お父様の浮沈にかかわることです」と言った
ジュリーはその手紙を奪い取るようにして、急いで封を切った

直ちにメラン小路に行き、15番地の家にお入りください
管理人に6階の部屋の鍵をもらい、その部屋に入り、暖炉の隅の赤い絹のレースの財布を取り、その財布をお父上にお渡しください
11時までにこれをなさることが必要です
あなたは私の命令に忠実に従うという約束をなさいました
その約束をお忘れにならぬよう

船乗りシンドバッド

ジュリーは歓声をあげた
イタリア訛りのその男はすでに姿を消していた
そしてもう一度読み直そうとして追伸に気づいた

この役を、あなたご自身おひとりでなさることが必要です
もし誰かをおつれになったり、あなた以外の方が現れれば、管理人は、そんな話は知らぬと言うでしょう

追伸を読んでジュリーはためらい、エマニュエルに相談する

行かなければいけません
おひとりで行くんです 
私が近くの角でお待ちしますから、お嬢様のお帰りが遅ければすぐに助けに参ります

あなた、この手紙の指示通りに行けと言うのね

そうです
お父様の浮沈にかかわることだと言われたのでしょう?

でもお父様の危機って・・・?

一瞬ためらうエマニュエル
今日は9月5日ですね
今日の11時にお父様は30万フラン近くの支払いをせねばならないのです

ええ、もちろん知っています

ところがお父様の金庫には1万4000フランしかない
誰かが手を差し伸べてくれなければ、破産です

ああ、一緒に来てちょうだい

4028うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:50:22 ID:LNssCYN6
そのころモレル夫人は息子にいっさいを話していた
マクシミリヤンはしばし茫然としていた
そして階段を駆け上がっていった

「ああ、こうなるのではと恐れておった」
突然の息子の帰還にモレル氏はうめく

お父さん!なぜ銃をお持ちなんです!?

モレル氏はすべてを息子に説明する
もうすでに万策尽きた
30分後には私の名に傷がつく
お前が母さんと妹を養うのだ それはお前の義務である
お前は昂然と顔を上げ、こう言って生きよ
私は生涯で初めて約束を履行できなくなったが故に自らの命を絶った男の息子です、とな
ああそうだ 大事なことがある
トムスン・アンド・フレンチ商会だけが私に同情的な態度を示してくれた
この商会にまず返済をして欲しい
この人はお前にとってもっとも大切な人であらねばならぬ

モレルは椅子にすわった
まだ彼には7分残されている
銃を手に取った
時計はもうすぐ11時を・・・

お父様!助かったのよ!
お父様は救われたのよ!
ジュリーが赤い絹のレースの財布を手に父の腕の中に飛び込んできた
その財布がかつて自分のものであったことを思い出す
中には28万7500フランの支払い済み手形が入っていた
そしてハシバミの実ほどの大きさのダイヤも・・・
「ジュリーの嫁入り資金」と書かれた紙とともに

モレルは額の汗をぬぐった
時計は11時を打った

ジュリー、説明してくれないか これはお前の財布ではなかろう?

メラン小路の家の中、15番地の6階の部屋の暖炉の隅
ジュリーは手紙を見せる

おまえ、ひとりでここへ行ったというのかい?

エマニュエルがついて来てくれたの
でもおかしいのよ、あのひと、どこかへ行ってしまって・・・

モレルさん、モレルさん!
階段からエマニュエルの声がした
ファラオン号です!ファラオン号が帰ってきた!

なにを言っているのだ、お前は気でも狂ったのか?

今度はマクシミリヤンが部屋にはいってきた
お父さん、なんだってファラオン号が沈んだなんて

舳に白い文字で『ファラオン号 マルセイユ、モレル父子商会』と書かれた
前のファラオン号と同じように紅と藍を積んだ一隻の船が、錨を投げ、帆を絞っていた
甲板の上にはゴマール船長がいた
ペヌロンがモレルに合図を送っていた

顔半分を黒い髭で覆われた男がひとり、遠くからモレルの姿を見守っていた
モレルは見知らぬ恩人の姿を天に求めるかのように、ぼんやりとした視線を空に向けていた

「ヤコポ、ヤコポ、ヤコポ」
男が呼ぶとボートが近づいてきた
船乗りのように身軽に飛び乗ると男はもう一度モレルの姿を見た

高貴な心に幸いあれ
あなたが成し、これからも成されるであろう善行のすべてに祝福あらんことを
そして私の感謝のしるしも、あなたの善行と同じく闇に埋もれたままでありますように
さて、今度は、親切・同情・感謝よ、さらばだ
心を彩るいっさいのそうした感情よさらば
俺は、善人たちに報いるために神の身代わりとなった・・・
復讐の神よ、悪人どもを罰するため、汝の席をわれに譲れ!

4029うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:52:00 ID:LNssCYN6
時は1838年(エドモン変装の英国人がモレル氏の前から姿を消して8年ほど経つ)

アルベール・ド・モルセール子爵 ←フェルナンとメルセデスの息子
フランツ・デビネ男爵

パリの最上流の社交界に属する青年たちは
ローマでカーニバルを楽しむ約束をしていた

イタリア滞在中のフランツはアルベールが到着するまで気ままな旅を楽しむ
ナポレオンの運命をたどり、コルシカ島、エルバ島へ、狩猟をしにピアノサ島へ
狩猟の成果がいまひとつで機嫌を悪くするフランツに船頭はいう

男爵さまがお望みなら、よい猟ができる島がごぜえますよ
あの島でさ
モンテ・クリスト島

でもあの島で猟をする許可は持っとらんよ

そんなものはいりません 無人島です 岩礁で耕せる土地なんか無いんでさ
トスカーナ領ですがね
野生の山羊がおりますよ
ただね
あの島には密輸業者や海賊や山賊なんかが集まるんで、あの島へ行ったことが役人にばれると面倒なんでさ
秘密にしてくださいよ

島には密輸業者と思われる集団がいた
なんのことはない、船頭も多少は知っている奴らなのであった
友好的ではないもののフランツの野営には無頓着な様子であった
ところが彼らの頭(かしら)が、フランツがフランス人だと知ると、夕食に招きたいと言っているという
ただし、頭のいる場所までは目隠しをするという条件で・・・
フランツは受けることにした
船頭の話では、その頭はジェノバ製のヨットを持つ謎の大金持ちの殿様、遊びで旅をしているという

なんという名の人物なんだね?

船乗りシンドバッドと名乗ってる
本名も知らねえし、どこの生まれかもしらねえ
その頭のいる隠れ家は魔法の御殿と呼ばれてる
あっしもその場所を探してみたことはあるんだがまったく見つからねえんだ
__
フランツが目隠しをはずすと、彼は豪勢な家具に囲まれた部屋の中にいた

目のまえにいる男は40歳近くのチュニジア風の衣装を身につけていた
顔色は青白く、はっとするほど美しかった
ただその青さは異常だった
まるで長いこと墓の中に閉じ込められていて、その後二度と生きている者の血を取り戻さぬ男のようであった

アリという名の召使が次々とご馳走を運んできた

このアリは口がきけないのです
一日おきに舌、手、首を切る刑を言い渡されておったのですが、一日目に舌を切られたところで私が救いましてな かねてより唖の召使が欲しかったものですから

フランツはこの温厚そうに見える男の口から出る残酷な話にとまどう
あなたはあのシンドバッドと同じように、航海を続けておられるのですか

ええ、まさかそれを達成できるとは思えなかった時期に抱いた夢でした
ほかにもそんな念願を抱いてますが、いずれ順次達成できるでしょうね
彼の眼は異常に狂暴な光を帯びていた

シンドバッドを観察するうちに、フランツには、彼が社会から迫害を受けて、社会に復讐しようという恐ろしい考えを持った人物のように見えてきた

シンドバッドは言う
あなたのお考えは当たっておりません 私は博愛の徒ですよ
そのうちにパリへ行ってみようと思っています

パリは初めてですか

そうなのです
あまりパリに興味を持たなすぎるように見えるでしょうな
でも私が悪いんじゃありません
ひどく遅れてしまいましたが、いつかきっと、参ります

そのときは僕もパリにいたいと思います
今日の歓迎の御恩返しをいたします

ありがとうございます
しかし、もし参るとしても、匿名でということになりましょうな

フランツはシンドバッドから濃厚な謎のジャムを味わうよう勧められる
それはハッシッシであった
ハッシッシがもたらす快楽から覚めたとき、彼は船頭の待つ場所におり、
シンドバッドは船出をした後であった

4030うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:52:53 ID:LNssCYN6
本土に上陸してしまうと、忙しさにとりまぎれて、フランツはこの出来事を一時忘れていた
そしてローマで友人と会うことしか頭になかった

ローマでアルベールとフランツは落ち合った
手配していた宿の部屋は狭く、ふたりは不満に思う
宿の主人によるとシチリアかマルタのとある大金持ちが他の部屋を買い占めているという
しかもカーニバルの混雑で馬車の手配はできないし、見物しやすいコルソ通りの窓辺の席も確保できないという
さらに満なふたりであった
フランツはアルベールをコロッセオへと案内しようとするが、宿の主人は彼が決めた経路は危険であるという
なぜならあの山賊ルイジ・ヴァンパがいるから、と
主人はふたりに、牧童から山賊の頭となったルイジ・ヴァンパの話を語って聞かせる
その中でルイジが“船乗りシンドバッド”と名乗る旅人と出会ったと聞き、
フランツは驚く
安全な経路をとってアルベールをコロッセオへ連れて行くフランツ
案内人にアルベールを任せて、ひとりぶらぶらしていると
怪しげな二人組の密談を目撃する
カーニバルの日に死刑執行される囚人を救い出す打ち合わせだった
ひとりの男(実はルイジ・ヴァンパ)がもうひとりに言う
「ペッピーノを救ってくだされば、あなたのどんなご命令にも従います
世界の果てからも駆けつけます」
感謝されているほうの男の声に、フランツは聞き覚えがあった
船乗りシンドバッドの声であると思った

フランツとアルベールはオペラ座へと出かける
彼らの正面の桟敷席に素晴らしく美しい婦人が座っていた
ギリシャ風の衣装を身に着けている
その背後に男の姿が見えたが、顔まではわからなかった
第二幕の途中でその男が立ち上がった
フランツはその男があのモンテ・クリストの住人であり、コロセウムで見かけた男だと思った

フランツとアルベールが宿へ帰ると、宿の主人が言う
お隣の部屋のモンテ・クリスト伯爵がおふたりに馬車の席とコルソ通りにあるロスポリ館の窓のお席をご提供するとおっしゃっています
そうこうするうちにモンテ・クリスト伯からの使いがやってきた
明朝ご挨拶したい、と

モンテ・クリスト伯に会うフランツとアルベール
フランツは彼をやはりあの“船乗りシンドバッド”だと思う
伯のほうも気が付いているはずなのに、素振りにも見せない
フランツも、自分から言い出してはいけないような、なぜかそんな気にさせられて、
何も言えない
モンテ・クリスト伯が、本日行われる処刑の観覧を2人に誘う

処刑も祭りの一部なのだ
世界中の処刑を研究し、つぶさに観察してきたが、それも到底罪を償うには値しない
「死は刑罰ではありましょうが、罪をつぐない得るほどのものではありません」
「もしあなたの心からその人を奪われたら、永久にふさがることのない心の空洞ができ、
心に四六時中血を流し続ける傷を残すようなたいせつな誰かを、ある男が、いまだかつて聞き及んだこともないような責め苦の果て、終わることのない拷問の果てに殺したとする。その場合でも、社会があなたに許している報復で十分だとあなたはお思いになりますか」

「行くかい、アルベール」
「行くとも。伯爵の雄弁で決心がついたよ」
伯爵の部屋をあとにするふたり

「アルベール、伯爵をどう思う?」
「どう思うって?好ましい人じゃないか。歓待してくれるし、学識深いし、思慮も深い。
「しかしね。ひとつだけ妙な事に気づかなかったかい?」
「どんな?」
「ばかに注意深く君を観察していたよ?」
「そうかなあ。もう一年もパリに帰ってないから、野暮ったいと思われたのかな」

処刑される囚人はふたり
ひとりはアンドレア もうひとりはペッピーノ
アンドレアは残虐な方法で処刑された
ペッピーノは寸前に赦免された

フランツは椅子に倒れ込み、半ば意識を失った
アルベールはカーテンにしがみつきながら、必死に立っていた
伯爵は悪魔のように勝ち誇ってじっと立っていた

4031うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:53:47 ID:LNssCYN6
カーニバルの仮装行列の喧騒は最高潮に達していた
ふたりの青年は伯爵の提供してくれた馬車に乗り、存分に楽しんでいた
そんな中、異国でのアヴァンチュールを追い求めていたアルベールは謎の仮面の女性に夢中になる
その女性から手紙が届き、逢引にでかけるアルベール
フランツは少し不安に思いながらも彼を送り出す

マント姿の男がアルベールからの手紙をフランツのもとへ持ってきた
間違いなく彼の筆跡で、誘拐されたので身代金を用意して欲しいとの内容
金を届けなければ、アルベール・ド・モルセール伯爵の命はない
ルイジ・ヴァンパの仕業だった

フランツとアルベールの所持金では不足していた
フランツはモンテ・クリスト伯爵を頼る
伯爵はこころよく金を提供しようとする
フランツは伯爵をじっと見つめて言う
あなたが一緒に行ってくれればルイジ・ヴァンパはアルベールを解放するのでは?
ヴァンパはあなたに恩があるでしょう?ペッピーノのことで・・・

天気はいいし、ローマの田園を散歩するのも結構楽しいでしょうな
フランツと伯爵はペッピーノを従えて部屋を出た
武器ももたず、金ももたず

ローマ郊外のカタコンベに山賊の隠れ家はあった
伯爵の登場にルイジ・ヴァンパは驚き、彼を恭しく迎える
「まさか伯爵さまがおいでくださるとは」
「お前は約束したことを忘れたようだな」
「どの約束を忘れたと?」
「わたしだけでなく、わたしの友達にも指一本触れぬということになっていたのではなかったか。今夜お前はアルベール・ド・モルセール子爵を誘拐してここへ連れてきたではないか」
そしてフランツをぞっとさせるような口調で続けた
あの青年は私の“友人のひとり”なのだと
(読者諸兄はエドモンにとって“友人”はどんな意味を持つか気付きましょう(^^)/ )

大慌てで手下を怒鳴りつけるルイジ・ヴァンパ
そしてすぐに伯爵とフランツをアルベールのところへ案内する

アルベールはこの緊急事態に、なんと眠り込んでいた
フランツは彼の肝のすわった態度に同国人として満足を感じた
ルイジ・ヴァンパもアルベールの態度には感じ入っているようである

モンテ・クリスト伯爵が助けにきてくれたことを知り、アルベールは感謝の握手を求める
びくっとしながら手を差し伸べる伯爵に気づくフランツ

アルベールとルイジ・ヴァンパはなんのしこりもなく別れることに同意した
ヴァンパはフランツとアルベールに、気が向けば遊びにきてくれてかまわないとまで笑いながら言い、伯爵にはもう一度詫びを言った

翌朝、アルベールはモンテ・クリスト伯爵に「あなたは僕の命の恩人である」という
伯爵は捕らわれていたときの彼の立派な態度をほめた

「僕の父、モルセール伯爵はフランスとスペインで高い地位についています
いつでもあなたのお役に立ちたいと思っております」
「実はそう言ってくださるのを待っておりました
私はパリへまだ行ったことがありませんでして・・・
パリの社交界に紹介してくださる方がいれば、こんなありがたいことはありません」
「喜んでお役に立ちたいと思います
実はパリから知らせが参りまして、帰らなくてはいけなくなりました
僕も、僕の家族も、伯爵を全身全霊でお迎えいたします」
「ご厚意お受けいたします
こうした機会がなかったばかりに、かねてから考えていながら、計画を実行できなかったのです」

フランツはその計画が、モンテ・クリストのあの洞窟で伯爵がふともらしたものであることを疑わなかった

伯爵は3ケ月後にはパリへ行くと約束する
同じ日、同じ時刻にいかがですか
わたしは誰にも真似できぬほど時間に正確な男です
5月21日午前10時半にパリのお宅へお伺いします

フランツに握手の手を差し伸べる伯爵
その手の冷たさにぞっとするフランツ

あなたもパリへ?
いいえ、わたしはベネチアへまいります
ではパリではお目にかかれませんね

伯爵と別れたあと、アルベールはいう
「フランツ、なんだか君は心配そうだね」
「伯爵は不思議な人なんだよ
君とパリで会うという約束が気になって仕方がない」
「おい、フランツ、君は変だぞ」
「これからする話を絶対に口外しないと約束するかい?」

モンテ・クリスト島への旅とローマのコロセウムでのこと話すフランツ
アルベール、僕が君ならば、どこの国の人なのか、どうやって暮らしをたてていのか、
あの莫大な財産はどうやって築き上げたのか、彼の前半生を知りたいと思うがね

アルベールは気にした様子もなかった
モンテ・クリスト伯爵はきっと慈善家なのさ

4032うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:54:57 ID:LNssCYN6
5月21日
モンテ・クリスト伯爵との再会約束の日
アルベールのもとへダングラール夫人からの手紙が届く
オペラの桟敷席への招待状である
彼にはダングラール家の令嬢ウジェニーとの縁談話が持ち上がっていた

モンテ・クリスト伯との面会に当たり、以下の面々が集まっていた
モンテ・クリスト伯到着までの彼らのむだ話を紹介しておこう(^^)

リュシャン・ドブレ
大臣秘書官
フランスはスペイン王家を牛耳るべく現国王の次子に仏領内で亡命政府をつくらせようとしている
「おや、知らなかったのかい?証券取引所には一昨日から洩れてしまっている
どうやって情報を入手したんだか、ダングラール氏は百万も儲けたよ」
「アルベール、君はいいなあ。君はなにもしなくてよくて」
「腹が減った。早く食べさせてくれよ。夕べはヴィルフォールさんのところで食べたんだ。
検事なんて連中はひどいものを食ってるよ。まるでみんな後ろめたい気持ちがしてるみたいな感じだよ」

ボーシャン
新聞記者
「午前中、衆議院でダングラール氏の演説を聞かなくちゃならなくて、
晩にはダングラール夫人のところで貴族院の悲劇を聞かされることになっている」
(読者諸兄は思い出そう(^^)/ カドルッスの話では貴族の未亡人と再婚したとか・・・)
「ボーシャン、僕とウジェニー・ダングラール嬢との結婚話が持ち上がっていることを覚えてるかい?」
「その結婚はだめさ。国王はあの人を男爵にすることはできた。貴族院議員にすることもできるだろう。だがほんとうの貴族にすることはできんよ。あまりにも貴族的な武人であるモルセール伯爵が、たかが200万くらいの持参金で、身分違いの縁組に同意なんかするものか。モルセール子爵の嫁は侯爵令嬢くらいでなけりゃ」
「それにしても200万は大金だぜ」とアルベール
「結婚すればいいさ。どうせ財布と結婚するんだろう」とドブレ

シャトー=ルノー
名門貴族
「アルジェリア騎兵隊のマクシミリヤン・モレル大尉を紹介させてくれたまえ。僕の命の恩人でね。あとは人柄を見ればわかるだろう。僕の英雄に頭を下げてくれ」
「子爵(アルベールのこと)、もしもの場合には、大尉が僕にしてくれたことを君にもしてくれるようお願いしておきたまえ」

マクシミリヤン・モレル大尉
(読者諸兄は思い出そう(^^)/  モレル父子商会の長男)
「男爵は少し大げさに言っておいでなのです」

4033うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:55:46 ID:LNssCYN6
一同、話題はシャトー=ルノーがモレル大尉に助けられた話へと移る
「僕がアフリカへ行く気になったことは知ってるよね。ピストルが撃ちたくて行っただけの話なんだ。君たちも知っているように、決闘は嫌いになっちまった。僕が事を丸く収めてもらおうと思って頼んだ二人の立会人に、無理矢理親友の一人の腕をぶち抜かされてしまってからね。君たちみんなも知ってる、あの気の毒なフランツ・デビネの腕をだもの・・・」
(読者諸兄は・・・( ゚Д゚)・・・ここでフランツ登場)
「なにがもとで決闘したんだったかな?」とドブレ
「もうあのとこを思い出すのはまっぴらごめんだ」

シャトー=ルノーはアルジェリアにおける戦いに気まぐれで参加して、アラビア人に殺される寸前でモレル大尉に助けられた模様

モレル大尉が微笑みを浮かべながらいう
「あれは9月5日で、父が奇蹟的に救われた記念の日なのです。ですから、私のできる範囲で、毎年この日を記念することにしているのです。英雄的であろうとなかろうと、犠牲的であろうとなかろうと、かつて幸運が私たちにしてくれたことのお礼に、不運に苦しむ人になにかしてあげねばならなかったのです」

アルベールはいう
僕もじつは命の恩人を待っているんだ
その人は10時半きっかりにやってくるはずなのだ

そしてルイジ・ヴァンパに誘拐された話を一同に披露する
そしてその恩人はモンテ・クリスト伯爵というのだと

そんな名前の貴族はいない、と断言する名門貴族出身のシャトー=ルノー

モンテ・クリストは島の名前ですよ、とモレル大尉

そのとおり、その島の領主であり王なのです
トスカーナのどこかで伯爵の称号を買ったのかもしれませんね
伯爵は“船乗りシンドバッド”と名乗って、黄金でいっぱいの洞窟を持っているんだ
あ、この洞窟の話は内緒だよ
フランツが知っている、とアルベール

(船乗りシンドバッドという語に反応しないところをみると、モレル大尉は妹から聞いていないのか?(^^)だが・・・)
私も、ペヌロンという水夫からそんな洞窟の話を聞いたことがあります、とモレル大尉

とにかく、モンテクリスト伯爵は実在するんだよ、とアルベール

時計が10時半を打ち、召使が告げる
「モンテ・クリスト伯爵閣下でございます」

4034うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:56:36 ID:LNssCYN6
伯爵が戸口に姿を現した
最高の仕立て屋による洗練されつくした装いであった

アルベールが友人たちを紹介する
アフリカ騎兵隊大尉モレルを紹介したとき、伯爵は、それまでの丁重かつ冷淡、無感動な様子から一変し、その蒼白な顔に一瞬赤味がさした
アルベールがモレル大尉のことを英雄的な行為をした方であると紹介すると、
「ああ、この方は高貴な心をお持ちなのですね、それはよかった」と伯爵はいう
モレルはあっけにとられてモンテ・クリストの顔をみつめた
その表情は柔和で言葉の調子は優しく、その感嘆の仕方がどれほど異様であろうとも、それで腹をたてるわけにはいかなかった

一同は食堂へ向かう

昨日の朝から何も食べず、馬車のなかではねむっていたというモンテクリスト伯爵に
一同はなぜそんな状態で眠れるのか、と尋ねる

伯爵はハッシッシの話をする
フランツ・デビネ男爵に訊いてごらんなさい、と
そのハッシッシは純度が非常に大切なので、原料は自ら採りに行き、丸薬にするのも自分で行うという
そして実物をエメラルドをくり抜いて作った入れ物から取り出して見せた
皆の目は丸薬よりもその見事なエメラルドのほうに集まった
伯爵が言うには、このエメラルドは同じものが3つあり、あとの2つは大公と法皇に差し上げたという
その返礼に、大公は一人の女の身を自由にし、法皇は一人の男の命を救ってくれた、と

アルベールは「ペッピーノのことですね」という
伯爵はいう「まあ、そんなところです」
話題はルイジ・ヴァンパに移る
伯爵は彼がまだ小さくて羊飼いをしていた頃から知っているという
山賊になった彼が、伯爵の顔を忘れていたのか、襲いかかってきたときに逆に彼を捕まえが、官憲に引き渡さなかったのだと
新聞記者のボーシャンがいった
「もう旅人は襲わないように、という条件をつけて、ですね」
伯爵はこたえる
「違います。私と私の友人には手をつけぬという条件です。
あなた方、社会主義者、進歩派、人道主義者の方々は異様に受け取られるかもしれませんが・・・私は隣人のことなどに心を用いたりしません。私を守ってもくれない社会、さらに言わせていただければ、一般的にいって、私を痛めつける場合にしか私のことを考えてはくれない社会など、私は決して守ろうとはしませんよ」
シャトー=ルノーは叫んだ
「利己主義をこれほど強烈に弁護する勇敢な男の弁を聞いたのは初めてだ。すばらしい」
モレル大尉が言った
「しかし、お言葉ですが、知人でもないモルセールさんを救出なさったことによって、あなたは、隣人と社会に奉仕なさったことになりますよ」
モルセールが叫んだ
「伯爵!僕の知る限りで最も厳格な理論家のあなたが、理論でやっつけられましたね。あなたはエゴイストどころか、まるで逆の博愛主義者だってことがすぐ明らかにされますよ。あなたは持ち合わせてもいない悪徳を持っているかのような顔をし、そなえている美徳をお隠しになる」
モンテ・クリストはいう
「モルセール子爵、あなたは見ず知らずの他人ではありませんでしたよ。ともにカーニバルを楽しんだではありませんか。それにあなたもご承知のとおり、私にはあなたにパリのサロンへの紹介をお願いするという下心があったのですから」

4035うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:57:35 ID:LNssCYN6
話題は伯爵のパリにおける住まいに移る
伯爵はたった今パリへと到着したばかりだということだったから・・・

アルベールは自分の住まいを提供するわけにはいかないが手頃な家を一軒世話する、という
ああ、たしかご縁談が持ち上がっているというお話でしたね、と伯爵

父がこの縁談に熱心なんです
ウジェニー・ダングラール嬢です

ウジェニー・ダングラール!
ダングラール男爵のお嬢さんではありませんか、と伯爵

ええ、そうですよ、“新”男爵ですがね、とアルベール

それがなんだというのです
国家に対してそれだけのことをしたのなら・・・と伯爵

ボーシャンが言う
「たいへんな功績ですよ。本心は自由主義者なのに、1828年にシャルル10世のために600万の起債を成功させ、国王に男爵にしてもらい、レジョン・ドヌール勲章を授けられた。その略綬をチョッキのポケットのところにつけていると思いきや、なんど上着の襟のボタン穴に堂々とつけている男です」
アルベールはいう
「未来の岳父の悪口は「やめてくれよ。伯爵はダングラール男爵をご存知なのですか」
モンテ・クリスト伯爵はいう
「いいえ、しかし、近いうちにお見知りおき願うことになるでしょう。
男爵に振り出された、ロンドンのリチャード・アンド・ブラウント、ウィーンのアルシュタイン・ウント・エスケレス、ローマの・トムスン・アンド・フレンチの各商会の信用状を持っておりますから」
モレル大尉は驚く
「トムスン・アンド・フレンチ商会をご存知ですか!ああ、伯爵、きっとあなたは私どもがいくら調べてもわからなかった調査に手を貸していただけると思います。あの照会は私どもの家に恩をほどこしてくれたのですが、どういうわけか、いくら問い合わせをしてもそんなおぼえはないとしか返事をしてくれないのです」
「なんなりと申しつけください」と伯爵は答えた

話題は伯爵のパリでの住まいへと戻る
それぞれ、良い場所を提案する中で、モレル大尉がいう
「メレ街にある洒落た小さなアパルトンマンをおすすめします。妹夫婦が住んでいるのです」
「妹さんがいらっしゃるのですか」
「ええ、素晴らしい子です。夫は私どもが不幸のどん底にいたときに支えてくれた男です。エマニュエルといいます。ふたりとも伯爵が必要となさることはなんでもしてくれますよ。休暇のあいだ、私も住んでおります」
モンテ・クリスト伯爵はいう
「ほんとうにありがとうございます。私は、もしそうしていただけるなら、妹さんご夫婦に紹介だけしていただきましょう。実はもう私の住まいは用意されているのです」
伯爵は説明する
先に執事・召使どもをパリへとやり、彼らは準備万端ととのえて待っているのだという
場所は超一等地の「シャンゼリゼ30番地」だった

皆から、邸宅に召使たち、あなたに足りないのは愛人だけだと冗談をいわれた伯爵

わたしにはすでに女奴隷がいます
ギリシャ語しかしゃべれない女奴隷
あなた方はオペラ座やボードヴィル座で愛人をお雇いになる
私はコンスタンティノープルで買いました、と

伯爵のおもな使用人たちは
このギリシャ人の女奴隷
コルシカ人の執事ベルトゥチオ
召使のアリ(口のきけない)

伯爵いわく
「私の周囲に居る者たちは、誰でも離れていくことは自由です。離れて行けば、私の世話も誰の世話もいらないというわけです。おそらくそれで、私から離れていかぬのでしょうが」

モレル大尉は伯爵に名刺を渡し、メレ通り14番地へ必ず来てください、といった

4036うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:01:21 ID:LNssCYN6
<登場人物>
モルセール伯爵(=フェルナン エドモン・ダンテスの敵)
モルセール伯爵夫人(=メルセデス エドモンのかつての恋人)
アルベール・ド・モルセール子爵(フェルナンとメルセデスの息子)
モンテ・クリスト伯爵(=エドモン・ダンテス)


友人達が帰ったあと、アルベールはモンテ・クリスト伯爵に自分の部屋々々を案内して回る
裕福な若者にありがちな雑多なコレクションの数々
美術、科学あらゆる方面の学識豊富なモンテ・クリスト伯爵にあらためて感嘆するアルベールだった
モンテ・クリスト伯は一枚の絵の前で足をとめた
カタロニアの衣装を身に着けた美しい婦人の絵であった
アルベールによると彼の母を描いたものだという

父伯爵はなぜかこの絵が気に入らず、母が僕の部屋用にとくれたのです
母は僕の部屋へくると必ずこの絵をながめて涙を流すのです
結婚して20年になる両親ですが、この絵だけが夫婦の間に影を落としています

モンテ・クリスト伯はアルベールの表情を鋭く観察してみたが、彼はそれ以上のことは知らないようだった

それでは母屋のほうへご案内いたします
父も母もあなたに会いたがっております

客間に通ずるドアの上に紋章がみえた
モンテ・クリストはこの紋章を注意深くみつめた
「青地に金のツグミが7羽並んでいる。これはモルセール家の紋章でしょうね
私は紋章を読む知識はあるのですが、紋章学となると無知でして。なにしろ、トスカーナ公国の力を借りた成り上がり貴族ですから。しかも、各地を旅するのに持っていると便利だからと人に言われたからという理由でその身分を得ることにしたわけでしてね」
「おっしゃるとおり、これは我が家の紋章です。父の先祖の。赤地に銀の塔は母のほうの先祖の紋と組み合わされています。南仏ではもっとも古い家柄の一つときいています」
モンテ・クリストは答えた
「そのとおりですよ。ツグミがそれを表しています。あなたの父方のご先祖は13世紀のフランス十字軍までさかのぼります。これはたいへんなことですよ」
客間のもっとも目立つところに、勲章を三つつけた軍人の肖像画が飾られていた
その勲章は持ち主がスペインとギリシャにおいてなにか外交上の使命を果たしたことを示してもいた
モンテ・クリストがしげしげと肖像画をながめていると、モルセール伯爵があらわれた
その男は少なくとも50歳くらいにはみえた
その顔には疲労と気苦労が刻み込まれているようにみえた
モルセール伯爵はモンテ・クリストに丁重に例の言葉を述べる
「たった一人の跡継ぎの命をお助け下さり、御恩は一生忘れられるものではございません」

モルセール伯爵家が家系を偽っていることは先刻承知のモンテ・クリスト
「パリ到着早々その日のうちに、名声に背かぬ価値をお持ちの方とこうしてお知り合いになれて、まことに光栄に存じます」
軍務をしりぞき、今は政治と工業の分野に身を置いているというモルセール伯爵を、謙虚で崇高な人物だと熱心にほめるモンテ・クリスト
モルセール伯爵はモンテ・クリストにすっかり魅せられる

アルベールが言った「あっ、母です」

4037うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:02:03 ID:LNssCYN6
モルセール夫人は蒼い顔をして戸口に立ち尽くしていた
しばらく前から夫と客人の会話を聞いていたのだった
モンテ・クリストが振り向くと、戸口に添えていた夫人の手がだらりと下がった

ふたりは恭しく礼を交わした
息子が生きながらえておりますのはあなた様のおかげでございます
あなた様に神様のおめぐみがあるよう祈っておりました
今日は心の底からのお礼を申し上げる機会を、こうしてくださったことを感謝いたします

奥さん
過分なお言葉をいただきました
ひとりの人間を救う、これは善行というほどのことではありません
人としてごく普通の行いです

モルセール伯爵は議会出席のために出かけた
夫人はモンテ・クリストをもてなそうとするが、モンテ・クリストはまだパリに着いたばかりなので、今回は辞去するという
モンテ・クリストが馬車に乗りこむ姿を、夫人はカーテンのかげから見送った

アルベールが母のもとに戻ると、夫人は気付け薬を手に、椅子に座り込んでいた
「お母さん、顔が蒼いですよ。ご気分が悪いのですか」
「モンテ・クリストというお名前は、いったい何なの。苗字、地名、それとも称号?」
「たぶん、称号だと思いますよ。トスカーナ領の島をひとつ買ったのですよ。でもあの人は貴族の家柄だなんてひとことも言ってませんよ。自分を成り上がり貴族と呼んでいます」
「あの方の物腰態度、見事だったわ」
「非の打ちどころがありませんよ。全ヨーロッパのどんな貴族をも凌駕しています」
「アルベール、伯爵さまは外見どおりの方だと思う?生まれをきいているのではなく人柄を聞いているの」
「あの人についてはずいぶんと変わったことを見たもので、僕に言わせるなら・・・
バイロンの作品の主人公みたいな人ですね
不幸が生涯消えることのない刻印を押した人。古い家柄の残党の一人で父親の財産を奪われはしたが、その才能で財を築き、そのおかげで社会の掟を見下しているような人物ですよ。
モンテ・クリストは島の名前で、密輸業者や海賊の巣窟になってます
彼らが礼金を払っているかもしれませんね」
「ありそうなことね」
「でも、なんだっていいじゃありませんか。モンテ・クリスト伯爵は素晴らしい人です。パリ中のサロンで大成功しますよ」

「伯爵さまはおいくつぐらいかしら」
メルセデスは明らかにこの質問を重大な事と考えているようだった

「35,6です」
「そんなにお若いの?まさか」
「でも、そうなんですよ。いろんなお話の中で計算してみるときっちりと合う
あの年齢が無いようにみえる不思議な人はたしかに35歳です」
「あの方はあなたに友情を抱いてくださったのね・・・」
「僕は好きです。フランツ・デビネが何と言おうとね
彼はあの人のことを僕にあの世からよみがえったような人だと思わせようとしたんです」
伯爵夫人は恐怖に襲われたかのようだった
「アルベール、新しい人とのお付き合いには気を付けなさい」
「伯爵のどこに気を付けろというのです?」
「そうね。あなたの命の恩人だというのに、不安に思うのはばかげているわね
ところでお父様はあの方を愛想よくお迎えしたの?」
「それはもう申し分なく。伯爵がまるで30年来の知己のように実に効果的にうまいお世辞を2,3回言ったらすっかり上機嫌になりましたよ」
伯爵夫人は答えなかった
夫人は深い夢想のなかへ沈んでいくようだった

4038うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:02:47 ID:LNssCYN6
モルセール伯爵邸をあとにしたモンテ・クリストはシャンゼリゼ通りの自宅へと戻る
ブーローニュの森近くのとある屋敷を購入するため、売買契約を結ぶべく、公証人を呼びつけていたのであった
モンテ・クリストの有能な執事ベルトゥチオはその物件について具体的には何も知らされておらず、その地名“オートゥイユ”を聞いて青ざめた
彼にはその地における重大な秘密があった

ベルトゥチオのささやかな抵抗を無視し、売買契約を結ぶモンテ・クリスト
公証人と執事を追い払ってひとりになると、ポケットから鍵付きの紙入れを取り出し、首にかけた鍵でそれを開け、中のメモと売買契約書の番地とを照合した
「オートゥイユ、ラ・フォンテーヌ通り18番地
まちがいないな。あとはどうやって泥を吐かすかだ。1時間後にはわかるはず」
「ベルトゥチオ!」
執事がやってきた
「君はパリ郊外を知っているね」
「い、いいえ、閣下存じません」ふるえる執事
「今からオートゥイユへ行くから、付いてくるように」

2人を乗せた馬車は20分でオートゥイユに到着した

屋敷の門番が姿を見せた
モンテ・クリストは、自分が新しい主人であると告げる

門番
「もとはサン・メラン侯爵の別荘でした。ブルボン王家に忠実に使えた貴族様です
一人娘がおありで、ニームやヴェルサイユで検事をなさってたヴィルフォール様と結婚なさいました」
ベルトゥチオは顔面蒼白だった

モンテ・クリスト
「その一人娘のお嬢さんは亡くなられたときいたように思うが」
「そうです。21年前のことでさ」

虚脱状態のベルトゥチオとともに屋敷内を見て回り、庭へと出る
執事の足が止まる
「私は、これ以上さきへは行けません。よりによってここだなんて」
「私は君がコルシカ人であることを知っている。暗い顔でしょっちゅう昔の復讐のことかなにかを思い出していることも知っている。イタリアではそのことを見過ごしてきた。なぜなら、あの国ではそういうことも通用するからね。だが、ここはフランスだ。人殺しというのはきわめて悪い趣味とみなされている。ブゾニ司祭に責任を取ってもらう。司祭が君を私のもとへよこし、君は立派な資質を持っていると推薦してきたのだからな」

(^^)/ 読者諸兄はカドルッス宅へエドモン・ダンテスの遺言を果たしにダイヤと共に現れた司祭をご記憶でしょうか
あの人がブゾニ司祭です 
もちろんエドモン・モンテ・クリストの変装です
ベルトゥチオがニームというところで牢に入っていたときに懺悔をした司祭なのです(^^)/

「なにか盗みでもしたのかね」
「とんでもございません。復讐です。単なる復讐だったのでございます
この屋敷で・・・」
「なんだと?ここで?それは不思議な偶然の一致だな。
君はサン・メラン侯爵に恨みがあったというのか」
「侯爵様ではありません。ほかの男です。あの男が一撃を受けたまさにその場所に伯爵さまは足をとめられた。その先にプラタナスの木があって、その木の下の穴にあの男が子供を埋めたのです。ブゾニ司祭にだけお話ししました」
「私は君を、少しはコルシカ人で、大いに密輸業者のにおいがし、有能な執事だとおもっていたが、どうやらほかの顔もあるようだ。もう君は私の家の者ではない」
「伯爵さま!もしもすべてを話せばこのまま使っていただけるのでしたら、すべてお話しします。ブゾニ司祭様でも一部しかご存知ないのです。ああ、でも、どうかそこにお立ちにならないでください!そこにあなた様がヴィルフォールと同じマント姿で立っておられると・・・」
「なに!ヴィルフォールなのか!」
「そうです」
「ニームの検事であり、サン・メラン侯爵の娘を結婚し、最も誠実、峻厳、過酷な司法官として知られている・・・」
「はい、その非の打ち所がない名声で知られるその人が、とんだ破廉恥漢なのでございます」
「証拠を握っているのか」
「少なくとも握っておりました」
「証拠を失くしたのか。間抜け」
「はい。でもよく探せば見つかると思います」
「すべて話すのだ」

4039うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:03:32 ID:LNssCYN6
ベルトゥチオの話
自分には兄がひとりいた
ナポレオン復活時にコルシカ部隊の中尉だった
ナポレオンの百日天下終焉とともに部隊は解散した
ニームにいったん滞在するから金を届けて欲しいと、コルシカの私のもとに兄から手紙がきた
大好きな兄の頼みなので、密輸で使っていたそのニームの宿屋まで、自分で届けることにした
当時、南仏一帯には殺戮の嵐が吹き荒れていた
ボナパルト派と目された人々を通りで惨殺する集団がいたのだ
ニームの町に入ると、いたるところに死体があった
ボナパルト軍の軍服姿のままであるはずの兄の身を案じた
宿屋に駆けつけると、兄はすでに殺されていた
犯人の仕返しを恐れて住民は口を閉ざすので、フランス司直に訴えることにした
マルセイユからきた検事代理が出世してニームの検事になっていた
ナポレオンのエルバ島脱出をいちはやく政府に知らせたというヴィルフォールだった

(^^)/ 読者諸兄は思い出そう
エドモンがエルバ島から持ち帰った手紙をヴィルフォールが読み、驚愕した
そこには父ノワルチエの名前が書かれていたため手紙は燃され、エドモンはシャトー・ディフへ送られた
この手紙の情報をもとに、ルイ18世の覚えめでたくなり、サン・メラン侯爵の資産を守った

ベルトゥチオは兄殺しの犯人をつきとめてほしいとヴィルフォールにうったえた
ヴィルフォールの回答は、ナポレオン側の軍人なら仕方なし、革命に悲劇はつきもの、政府には何の責任も無い、とけんもほろろの冷たさであった
ベルトゥチオはヴィルフォールに“ヴァンデッタ”(血の復讐)を宣言した
「あんたは、兄がナポレオン派だったから殺されてよかったと思ってるんだ。あんたは王党派だからな。俺もボナパルト派だ。俺は宣言するぞ。あんたを殺す」
ヴァンデッタを恐れて、ヴィルフォールはヴェルサイユへ異動を願い出た
ベルトゥチオはあせらずに機会をうかがい、検事がオートゥイユへこっそりと行くことをつきとめる
オートゥイユの屋敷の持ち主はサン・メラン侯爵だが、侯爵はマルセイユにいた
男爵夫人としか名前のわかっていない若い未亡人に貸しているとかいう話だった
その女性は18,9ぐらいの背の高いブロンドの美人で妊娠していた
屋敷を見張っていたある夜、絶好の機会がやってきた
ヴィルフォールが何かを小脇に抱えて庭へ出てきて、穴を掘り始めた
そして小脇に抱えてきた小さな箱を埋め終えたそのとき、短剣で襲った
箱を穴から掘りだして蓋を開けてみると生まれたばかりの赤ん坊が入っていた
人工呼吸をして蘇生させ、養育院にあずけた
赤ん坊の産着には二つの文字が刺繍されていた
その文字の一つは産着についたままになるように産着の布を切った
男爵冠の下にHとN
故郷へ帰り、義姉に報告した
義姉は赤ん坊を連れてくればよかったのに、と言った
目印があるから、と産着の半分を見せた

4040うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:04:13 ID:LNssCYN6
モンテ・クリスト
では次に聞くが、君がニームの監獄へブゾニ司祭を呼んだとき、何の罪に問われていたのだ?

再び密輸の商売を夢中になって始めた
義姉のくらしを助けるためもあった
しかし、兄が殺されたニームの宿屋はもう使いたくなかった
するとその宿屋のほうがやってきて支店を出したので、そこを使うことにした
ある日、義姉が産着の半分をもって養育院へと行き、赤ん坊を連れて帰って来た
美しい男の子でベネデットと名付けたが、性格は性悪だったが、読み書き計算はよくできた
ある日の密輸取引の際、裏切り者がいたのか、官憲がやってきた
必死で逃げて例の宿屋へたどりついた 
カドルッスとその妻カルコントが営む宿屋
階段下の物置から様子をうかがっていると、カドルッスが見知らぬ男と帰ってきたところだった
男は宝石商人らしい
ハシバミの実ほどもあるダイヤの値段について3人でもめていたが、結局は宝石商人の言い値を飲むことになったようだった
商人は金を払いダイヤをもって宿を出るが、おりしも外は嵐で立ち往生となりふたたびカドルッスのところへ戻って来た
カドルッスとカルコントは恐ろしい企みを抱いたようだった
カルコントとカドルッスは宿の2階へ商人を泊めた
その夜、惨劇は起きた
ピストルの音と悲鳴で居眠りから目覚めた
格闘するような音が聞こえた
頭上の階段に何か重いものが転がって来た
板の隙間から生温かい雨のようのがぽたぽたと落ちてきた
血まみれで青い顔をしたカドルッスが降りてきて、ダイヤの小箱と金を持って闇へ消えた
階段には頭を撃たれたカルコントの死体、2階には包丁で刺された宝石商の死体があった
茫然となっていると、尾行されていたらしく税関吏が踏み込んできた
カルコントの血を浴びていた自分は逮捕された
自分の無実を認めさせるのは困難と思い、カドルッス夫婦と宝石商の会話の中に出てきた「ブゾニ司祭」という人物を探して欲しいと判事に訴えた
判事はブゾニ司祭を探しだしてくれ、ブゾニ司祭はダイヤに関する私の話を裏付けてくれた
カドルッスは外国で捕まり、フランスに戻され、一切を白状(女房の教唆)した
彼は無期懲役、私は釈放された
ブゾニ司祭がモンテ・クリスト伯爵への紹介状を用意してくれた

モンテ・クリスト
君がお姉さんのことも子供のことも私に教えてくれなかったのはどういうわけかな

それはもっとも不幸な思い出につながるからであった
性悪のベネデットが遊ぶ金欲しさに義姉を“拷問ごっこ”と称していたぶり、殺したのであった
ベネデットは金を奪い、姿を消した
「ああ、あのヴィルフォールの血筋というのは呪われた一家でございます」

モンテ・クリスト
「あの惨劇を演じた君にとっては胸をえぐるような恐怖を与えるものが、私には心地よいとさえいえる。これはこの邸に思わぬ価値を添えてくれるだろう」

ふたりはシャンゼリゼの屋敷へと戻る
その後、モンテ・クリストがイタリアでいつも連れていたあのギリシャ美人の若い婦人が到着した。“エデ”という名の。

4041うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:12:43 ID:LNssCYN6
おさらい(^.^)

マルセイユのモレル商会所属の優秀な船乗りであり、カタロニアの美女メルセデスを婚約者にもつエドモン・ダンテスは、無実の罪で14年間牢につながれる
原因となった人物はカドルッス、フェルナン、ダングラール、ヴィルフォールの4人である
(なお、ダングラールとヴィルフォールについては、読者の混乱を避けるためか、ファーストネームは明らかにされていない)

ダングラール
エドモンを陥れるための偽りの告発書をつくり、フェルナンをそそのかした

フェルナン
エドモンからメルセデスを奪うため、その告発状を当局へ送った

カドルッス
エドモンに仕掛けられた罠に気づいていたのに我が身可愛さに何もしなかった

ヴィルフォール検事
エドモンがエルバ島より預かった手紙に自分の父親(ノワルチエ)の名前が書かれていたがためにエドモンを無裁判の監獄送りにし、証拠の手紙を燃やした

4042うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:13:22 ID:LNssCYN6
14年間の牢生活で、エドモンは囚人仲間のファリャ神父の導きにより膨大な量の知識を獲得し、莫大な財宝の隠し場所を知り得る

ファリャ神父の死去に伴い、その遺体とすりかわり、エドモンは奇跡的に海へと脱出に成功

密輸船に拾われ、船長の信頼を得て、地中海に浮かぶモンテ・クリスト島の財宝を手に入れる機会をうかがう

無事に財宝を手に入れ、密輸船と円満に手を切る
エドモンは“英国人のウィルモア卿”としてマルセイユへ帰還
懐かしの我が家を訪問し、カドルッスの行方をつかむ

エドモンは“ブゾニ司祭”としてカドルッスを訪問する
4人の陰謀の全容、恋人メルセデスの現在、父の死の様子、恩人モレル氏の財政状態をつかむ
カドルッスについては、陰謀の実行に手を貸しておらず、エドモンを救わなかったことを後悔していることから復讐の対象からはずし、財宝のほんの一部であるダイヤモンドを与える

エドモンはモレル商会を“トムスン・アンド・フレンチ商会の代理人”として訪問
恩人モレル氏を破産から救い、氏の自殺を未然に防ぐ
モレル氏の子供たちマクシミリヤンとジュリーは“船乗りシンドバッド”および“トムスン・アンド・フレンチ商会の代理人”と名乗った人物を、以降、父の恩人として崇め続ける

善行はここまで、以降は復讐の権化エドモン=モンテ・クリスト
その後物語には8年間の空白がある
8年の間にモンテ・クリストは復讐対象3人の周辺を綿密に調査したと思われる
また、エデという名のギリシャ人美女を救った
彼女の悲劇の原因は復讐対象3人のうちのひとりフェルナンにあった
エデとは父娘ほどの年齢差があるが、彼女はモンテ・クリストのことをひとりの男性として敬い愛している
モンテ・クリストは、エデを奴隷として買ったと公言するが(実際にそうであるが)王女のように大切にし(実際、王女だった)、実の父のように彼女を教育・養育している
エデが示す愛情を亡き父への思いと同じものととらえていたモンテ・クリストだが、最後には気が付いた(^.^)

4043うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:14:13 ID:LNssCYN6
≪歴史年表≫(^.^)
1804年 ナポレオンによるフランス第一帝政
1814年 ナポレオン、エルバ島へ追放
4月 ルイ18世による第一次王政復古
1815年 2月 エドモン、シャトー・ディフの牢へ
      3月 ナポレオンの100日天下(〜6月)
      7月 ルイ18世復位
      10月 ナポレオン、セント・ヘレナ島幽閉
1823年 仏軍、スペイン侵攻(ダングラール及びフェルナン、富と名誉を獲得)
      ギリシャのヤニナ陥落(エデの父アリ・パシャ暗殺 フェルナン富獲得)
1824年 9月 ルイ18世死去、シャルル10世王位
1829年 2月28日 エドモン、脱獄成功
      9月5日 エドモン、モレル氏救済
1830年 フランス7月革命 ブルボン朝→オルレアン朝へ
1838年 初頭 ローマにて モンテ・クリスト伯登場
      フランツ・デビネ、アルベール・ド・モルセール(フェルナンの息子)と交わる
      山賊のルイジ・ヴァンパ登場
      5月 モンテ・クリスト伯、パリへ ← 今ここ
      そして10月5日にはなにが?(^.^)

モンテ・クリスト伯は綿密な計画と莫大な資産を使い、着実に敵を追い詰めますが、自ら直接手を下すわけではなく、間接的な手段を取ります
愛するメルセデスを奪われた苦しみ、父親の餓死という形の自殺、この自らが味わった苦しみを復讐対象にもあたえます
目には目を、歯には歯を、のバビロニア方式です
モンテ・クリスト伯は、東洋的(ここでいうオリエント世界はトルコまででしょう)な思考をする人間である、とデュマは描写しています
14年の牢獄生活を象徴するかのような顔色の青白さ、無表情、時折発せられる他人をぞっとさせるほどの深い声の響き、知性と品を感じさせるけれども冷酷な風貌が描かれます
ただ、モレル商会の子供たちであるマクシミリヤン、ジュリーとその夫エマニュエル、ギリシャのエデに対しそそぐ眼差しは温かいです

≪復讐相手4人の家族、末路など≫

カドルッス
一度は見逃してやり、再起の糧となるはずのダイヤモンドまで与えたが、結局ろくでなしのままであった
モンテ・クリスト伯の屋敷へ忍び込み、結果的に・・・
犯人は>>498のベネデット

フェルナン(フェルナン・ド・モルセール伯爵)
汚れた過去を暴かれ、息子アルベールと妻メルセデスに去られる
社会的に破滅する
モンテ・クリスト伯と決闘しようとするが、結局・・・

ヴィルフォール検事
家庭内でつづくある事件および不義の子(>>498のベネデット)のせいでその権威は失墜する
妻エロイーズ、息子エドワールを失い、自身は・・・状態へ
亡き先妻(サン・メラン侯爵令嬢)との間に生まれた娘ヴァランチーヌの運命は?
そして不義の子を産んだ女性は誰なのか?

ダングラール
モンテ・クリスト伯が出現して以来、なぜかどんどん資産が失われていく
娘ウジェニーを金持ちイタリア貴族(>>498のベネデットの経歴詐称)に嫁がせようとして失敗、経済的窮地に陥る
結婚に興味のない娘ウジェニーに去られる
夫人のエルミーヌとの間にそもそも愛情は無く、夫人は捨てられる
パリからローマへ逃げるも、山賊のルイジ・ヴァンパが・・・

4044うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:15:44 ID:LNssCYN6
以上の予備知識をもとに(^.^)
>>4040のつづき
シャンゼリゼ通りのモンテ・クリスト伯邸の前に見事な英国馬に引かせた馬車が止まる
乗っているのは銀行家ダングラール
面会を希望するが門番に断られる
トムスン・アンド・フレンチ商会からモンテ・クリスト伯という謎の人物に無制限貸付口座を開くよう要請され、はたしてどんな人物なのか偵察に来たのであった
追い返されるダングラールの馬車を窓から眺めるモンテ・クリスト伯
執事のベルトゥチオに言う

たしか君にはパリで最高の馬を二頭買うように命じたのに、私の馬と同じような馬がまだパリに二頭いて、私の厩にそれらが入っていないとはどういうわけかね

伯爵さま、お話しの馬は売り物ではございませんでした

それだけの代価を払える者にとっては、すべてが売り物であることを知りたまえ

ダングラール様はあの馬に1万6000フランお支払いになりました

それなら、3万2000出さねばならなかったのだ
銀行屋というものは、資産が倍になるチャンスを逃がすものではない
今夜5時、私はある人を訪ねなければならない
わたしの馬車に新しい馬具をつけてあの二頭をつないでおくように

5時になった 馬車には新しい馬がつながれていた

モンテ・クリスト伯爵は執事に次のような指示を与え、馬車でダングラール邸へと向かった
ノルマンディー海岸に港つきの土地を買い、伯所有のコルヴェット(小型軍艦)を停泊できるようにする
伯所有のヨット、汽船と常に連絡を取り合う
その後北仏、南仏の街道沿い10キロごとに中継地を確保する

4045うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:16:22 ID:LNssCYN6
ダングラールと対面するモンテ・クリスト伯
伯を胡散臭い人物とにらむダングラールの態度は横柄だ
モンテ・クリスト伯は慇懃無礼・完全無欠な態度で応戦する
ダングラールは完全に圧倒され、無制限貸付枠を設けることを承知する
初年度の枠はとりあえず600万フラン、さらに入用の場合は上乗せ・・・
まず手始めに明日50万届けていただけますかな?受領書を執事に渡しておきますから・・・

ダングラールはモンテ・クリスト伯を自分の妻に紹介するという
ナルゴンヌ侯爵の未亡人であり、ダングラールと結婚したために身分を落とした妻であった
妻の部屋に案内されるとその部屋にはアルベールの友人リュシャン・ドブレ(>>360)がいた
ダングラールはドブレを「私どもの古い友人である」と紹介するが、夫人の愛人であることは
モンテ・クリストはすでに知っていた

ダングラール夫人は36歳だがその美しさはとくに記しておくに値する
ドブレからすでにモンテ・クリスト伯に関する話を聞いていた夫人は興味津々で出迎えた

伯爵は一年の予定でパリに滞在されるのだが、なんとその間に600万お使いになるとおっしゃるのだよ、とダングラール

いつ、お着きになりましたの?

昨日の朝です

ひどい時期においでになりましたのね
夏のパリはやりきれませんのよ
つまらない競馬ぐらいしかございませんわ
伯爵さま、馬はお好きでしょうか

私は生涯の一部を東方で過ごしました
かの人々は2つのものしか愛しません 馬の気品とご婦人がたの美しさ

小間使いがやってきて、夫人になにごとか耳打ちする
あなた!ほんとうなんですの?

何がだね、と目に見えてうろたえるダングラール

4046うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:17:05 ID:LNssCYN6
馬車にあたくしの馬をつけようとしたら、厩にいないというのです
これはいったいどういうことなんですの?

それはね、まあお聞き

ええ、伺いましょう
ここにおいでのお二人にも聞いていただきとうございますわ
ダングラール男爵は厩に馬を10頭もっています
そのうち2頭はあたくしの馬です 
美しい、パリ随一の馬です
ドブレさんはご存知ですわね、あたくしのあの葦毛を
ヴィルフォール夫人が明日ブーローニュの森へおいでになるのに、あたくしの馬車をお貸しする約束なのに、あの馬が見当たらないのです!
きっと主人があれを売ったんですわ!
ほんとに投機家ってなんていやらしい人種なんでしょう!

あの馬はね、元気が良すぎるんだよ お前の身が心配でならなかったのだ

なにをおっしゃるんですか
あたくしはパリ随一の御者を使っていましてよ

もっと良い馬を見つけてあげるよ
伯爵、あなたにあの馬をおすすめすればよかった
ただみたいな値段で譲ってしまったのですからな

お気遣いありがとうございます
でもじつは今朝、かなり良い馬でしかもあまり高くないのを買いましてね
ほら、ドブレさん、ご覧ください
あなたも馬はお好きとみえますが

ドブレは窓へ近づいた
その間にダングラールは、あの馬を元値の倍で売ったのでその分け前をやろうと夫人を宥める

ドブレが叫んだ
あ!
私の見間違いでなければ、奥さんの馬が伯爵の馬車につながれている・・・

ほんとうに、あたくしの馬だわ!

モンテ・クリストは驚いたふりをする
まさか、そんなことが?

信じられん、と青い顔のダングラール

いかにもダングラールに同情するかのように伯爵はささやいた
ご婦人方というものはまことに恩知らずなものですな
あなたが親切心からしてあげたことにもまったく心動かされない
恩知らずというよりもどうかしている、というべきですかな
一番簡単なのはご婦人方に自分の判断通りにさせておくことです
それで事故が起こったとしても自分の責任ですからね

ダングラールは凄まじい夫婦喧嘩を予感していた
ドブレは嵐の到来を予感してそそくさと帰った

モンテ・クリストはこれ以上長くとどまって、彼が手に入れようとしている立場を損なってはならぬと思い、一礼してすぐ退去した
よし!
これで俺は目的を達した
いまやあの夫婦間の平和は俺の手中にある
そして、夫の心も妻の心も一挙にひきつけてしまうことができる
今日のところはウジェニー・ダングラール嬢に紹介してもらえなかったのが残念だ

4047うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:17:51 ID:LNssCYN6
二時間後、ダングラール夫人はモンテ・クリストから手紙を受け取る
美しいご婦人を嘆かせたままパリの社交界にデビューしたくはないので夫人の馬をお返しする、とあった
馬には馬具がつけられたままで、両耳にリボンがかざってあり、そのリボンには一粒ずつダイヤが縫い付けられていた
ダングラール宛の手紙には、金持ちの気まぐれから夫人に贈り物をしたことを詫び、さらに、東洋風な馬の返し方をしたことを詫びていた

夕方、モンテ・クリストは唖の従者アリを連れてオートゥイユの別荘へ向かった
ここはブーローニュの森へ向かう街道沿いにある
そしてアリは馬の扱いに長けていて、投げ縄の名手である
一台の馬車がやってきた
その御者は必死で猛り狂う馬たちを制御しようとしている
暴走する馬車には、一人の婦人と子供が載っていた
アリが投げ縄で馬の脚をからめとり、馬車を止める
モンテ・クリストは玄関を飛び出して婦人と子供を抱きかかえ、邸内へ入る
気絶したままの子供をみて泣き叫ぶ婦人
モンテ・クリストが小瓶に入った血のように赤い液体を一滴、子どもの唇に落とすと、その子は息を吹き返した
婦人はエロイーズ・ド・ヴィルフォール、子どもはエドワール
ダングラール夫人ご自慢の馬が引く馬車に乗ってみたかったのだと言う
モンテ・クリストは大げさに驚いてみせ、馬の件を説明する

それではあなたがモンテ・クリスト伯爵さまですのね!
エルミーヌ(ダングラール夫人)からお噂は伺いましたわ

ヴィルフォールの息子エドワールをモンテ・クリスト伯は観察する
息を吹き返すやいなや室内をうろつきまわり、伯爵の薬瓶をかたっぱしから開けようとする
どんなわがままも満たしてもらえる子供の態度である
「坊や、さわっちゃいけない。そこには臭いをかいだだけでも危険な薬があるから」

我が子をたしなめながらも、それらの薬瓶に興味をあらわにするヴィルフォール夫人
その様子を、モンテ・クリストは見逃さない

伯爵は夫人とその子どもをヴィルフォール邸へ送り届けてやった
エロイーズ・ド・ヴィルフォールはダングラール夫人にその日のことを手紙に書く
恐ろしい目に遭ったけれど、そのおかげで、あのモンテ・クリスト伯に会えたと

4048うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:18:31 ID:LNssCYN6
この馬車にまつわる一件はその日のうちに知れ渡った
ヴィルフォールはシャンゼリゼ通りのモンテ・クリスト伯爵邸へ礼を述べに向かうこととなった

司法界でも最高の地位を占めるヴィルフォール検事
原則として彼は人を訪問したり、答礼の訪問をしたりはしない
「尊大なふりをせよ、さらば汝は尊ばれん」を常に意識している
まるでペテン師か犯罪人に対するようないつもの横柄な態度で、モンテ・クリストに礼を述べる
モンテ・クリストから「当たり前のことをしただけであり、あなたが礼を述べにくる義務など無かったのに」と鼻であしらわれ、驚く
モンテ・クリストの書斎の机に広げられた地図を見て「地理の勉強ですか?私がもしもあなたのように何もしないですむ身分ならもう少しましな事をやりますね」と言う
モンテ・クリストから「なるほど顕微鏡で人間を研究する者にとっては人間など醜悪な蛆虫ですからね。私のことを何もしないですむ身分だとおっしゃるが、あなたはなにかしているのですか?もっとはっきり申し上げれば、“なにか”に価するほどのことをしているとお思いなのですか」
と皮肉られ、さらに驚く
ヴィルフォールは反撃する
「あなたは外国の方だ。我が国では裁判がどれほど慎重かつ着実に行われるものか、あなたはご存知ないのです」と言ってしまう( ゚Д゚) オマエガイウナ
あらゆる国の法律を熟知した自分に言わせれば、反座刑(目には目を・・・のこと)が神のみ心にかなうのだと言い切るモンテ・クリスト
さらに自分は神から果たすべき使命を与えられ、大臣や王などよりも上位に位置する特殊な人間である、と言い切るモンテ・クリスト
モンテ・クリストvsヴィルフォールは続きますが、省略( ゚Д゚)

4049うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:19:06 ID:LNssCYN6
ヴィルフォールは驚愕の域に達してモンテ・クリストにたずねる
「伯爵、ご両親はおありですか」
「いいえ、天涯孤独です」←父は餓死という形の自殺
「それは残念ですな。ご両親がいれば、あなたのその自負心をくじくような光景をご覧になれますよ。あなたは死しか恐れないとおっしゃいましたね」
「恐れるとは申しません。私の歩みをとどめ得るのは死のみだと申し上げたのです」
「では、老衰は」
「年をとる前に、私の使命は果たされていることでしょう」
「狂気は」←ここ重要(^^)
「私はもう少しで気が狂うところでした」←シャトー・ディフでの経験
「死、老衰、狂気以外にも恐ろしいものがあります。脳溢血です。
私の父ノワルチエはフランス革命でもっとも過激な活動をした男ですが、いまや身動きできぬ哀れな老人です。肉体が滅びるのを待っているだけの口もきけない屍です」
(^^)/ 読者は思い出そう。エドモンが預かった手紙に「ノワルチエ」の名があったがためにヴィルフォールは保身のため彼を牢獄送りにした(^^)/
「それはおいたわしい。私には父親の苦しみがその子の精神に大きな変化をもたらすことはよくわかっております。是非お宅を訪問して皆さまの抱える悲しみを拝見して、おのれに謙虚な心を抱かせるのに役立てましょう」
ヴィルフォールは帰った
伯爵は見送りもしなかった

これだけ毒を吸えばたくさんだ
心が毒でいっぱいになった
解毒剤を求めに行こう
モンテ・クリストはエデの部屋と向かった

4050うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:19:37 ID:LNssCYN6
エデは屋敷の一番奥にある東洋風にしつらえた美しい部屋に暮らしている
召使たちは女王に仕えるかのように教育されている
身に着けるものはすべてギリシャ風
ビロードのような大きく黒い瞳、まっすぐな鼻、サンゴのような唇、真珠のような歯
若さの花が今を盛りと咲く、19か20歳
モンテ・クリストはエデの侍女を呼び、エデのそばへ行ってよいか尋ねさせる
もちろんのことその希望はすぐにかなえられた
「なぜ許可などお求めになりますの?あなたはもう私のご主人様ではありませんの?」
「エデ、ここはフランスなのだよ。だからお前は自由の身だ」
「何をするための自由でしょう」
「私と別れてもいいのだ」
「あなたとお別れする!お別れしてどうするというのでしょう」
「多くの人と会うのだ。そして美青年たちの中にお前の気に入った者がいたら・・・」
「私はいままで、あなたほど美しい方にお目にかかったことはございません。
そして父とあなた以外に愛した人もありません」
「それはお前がほとんど私と父上としか話をしたことがないからだよ」
「なぜ他の人と話をする必要がございましょう。あなたは私を“私の愛そのものだ”とお呼びくださいます」
「エデ、お前はお父上のことを覚えているか」
「父はこことここにいます」エデは目と心臓に手を置いて言った
「では私はどこにいるのかね」
「あなたはどこにでもいたるところにおいでです」
「エデ、お前は今や自由なのだ。いたいだけここにいて、外へ出たくなったら外出するがいい。
召使たちはお前の命令通りに動く。ただひとつだけ、お前に頼んでおきたい」
「おっしゃってください」
「お前の出生の秘密を明かさぬこと。過去については一言もしゃべってはならぬ。
お父上の輝かしいお名前と、お気の毒な母上のお名前を口にしてはならぬ」
「私はどなたにもお目にかかりません」
「エデ、パリではそのように引きこもっていることは不可能だ。
ローマやフィレンツェ、ミラノ、マドリッドでやったように、学ぶのだよ。
それはきっとお前のためになる。
私がお前から離れていくことなど決してないことはお前がよく知っているではないか。
花から離れるのは木ではない。
木から花が離れるのだ。
お前の若さをいたずらに失わせるようなまねはせぬ。
お前は私をお父上のように愛していてくれるが、私はお前を娘のように愛しているからね」
「それはまちがっておられます。
私はあなたを父のようになど愛してはおりません。
私のあなたへの愛は、別の愛です。
父は死にましたが、私は死にませんでした。
でも、もしあなたがお亡くなりになったら、私も死にます」

平行線( ;´Д`)

4051うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:20:10 ID:LNssCYN6
伯爵はマクシミリヤン・モレルの招きに応じるべく出かける
恩人モレル氏のふたりの子マクシミリヤンとジュリー、その夫エマニュエルの住むメレ通りへ

モレル商会を引き継いだジュリー&エマニュエル夫妻はその後順調に経営を続けていたが、今後の暮らしに必要な資金を確保したのちそれ以上の利潤を望まず、円満に経営権を他者へとゆずり、幸せに暮らしていた
ジュリーは一族の危機の際に助けてくれた“船乗りシンドバッド”と名乗る人物のことを、モンテ・クリストに話す
神様は天使のひとりをおつかわしになった、と
喜びに胸が震えるモンテ・クリストはそれを隠すかのように歩き回り、ガラスケースに収められた絹の財布を見つける(>>303

さきほどお話しした天使が遺してくれたもので、大事にしているのです
中にはその天使のような方からの手紙も入っております

そのようなことをしてくれた人物は、いまだに誰なのかわからないのですか?

マクシミリヤンは答える
トムスン・アンド・フレンチ商会の代理人と名乗るイギリス人であったということ以外には・・・
伯爵はあの商会と関係がおありでしたね
なにかご存知ありませんか?

モンテ・クリストはジュリーのまじまじと見つめてくる視線を避けながら言う
ウィルモア卿という男を私は知っているのですが、
そういった慈善をほうぼうで行っていると聞いたことがありますが、
おかしな人物でして、感謝などというものの存在を信じていないんですよ

まあ、ではいったい何を信じておいでなのかしら、お気の毒な方、とジュリー

この言葉はモンテ・クリストの心の奥の奥にある琴線に触れた

でもあの時以降、彼もどうやら人の心に感謝というものが存在することの確証を得たかもしれません

4052うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:20:48 ID:LNssCYN6
あの方をご存知なら、私たちを会わせてくださいませんか

もしもその人物がウィルモア卿だったとしても、彼にはもう会えないでしょう
この世でもっとも幻想的な国へ旅立ってしまいましたから
それに、彼ではないかもしれません
もし彼だったならばその話を私にしたでしょうからね

そんな・・・と涙ぐむジュりー

マクシミリヤンはジュリーに言う
伯爵のおっしゃるとおりだよ
お父さんがいつも言っていたじゃないか
『私たちに幸せをもたらしてくれた人は、あれはイギリス人ではない』って

びくっとするモンテ・クリスト
お父さんが、モレルさんがそうおっしゃっていたのですか?

父はあの行為の中に奇蹟をみていました
恩人が私たちのために墓から出てきたと思っていました
懐かしい友、失われた友の名を何回となく口にして夢見ていました
そして死が迫ったとき、もしかしたら?が確信に変わったようなのです
最後の言葉は『マクシミリヤン、あれはエドモン・ダンテスだよ』でした

モンテ・クリストはジュリーに言う
奥さん、ときどきご挨拶にあがることをお許しください
お宅が好きですし、厚いおもてなしに感謝いたします
このような気持ちはもう長い年月忘れていたものですから

そう言い残して去る

エマニュエルは言う
モンテ・クリスト伯爵っていう人は変わったお方ですね

マクシミリヤンは言う
うん、でもすばらしい心の持ち主だと僕は思う
それにたしかに僕たちを愛してくださる

ジュリーは言う
あの方の声が心にしみたわ
それに・・・なぜか、この声は初めて聞く声じゃないって気がしたの

4053うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:21:52 ID:LNssCYN6
マクシミリヤン・モレルはヴァランチーヌを愛していた
ヴィルフォールと先妻のあいだの娘ヴァランチーヌである
身分が違い、到底ヴァランチーヌの相手としてヴィルフォール家へ出入りすることはかなわない
ふたりはヴィルフォール邸の敷地と隣の農地を仕切る塀ごしに言葉を交わすことしかできなかった
ヴィルフォールが決めたヴァランチーヌの婚約者はフランツ・デビネ男爵であった
((^^)/ モンテ・クリストとローマで出会ったフランツです)

ヴァランチーヌはヴィルフォール家内では決して幸せではなかった
父親はあのヴィルフォールだし、継母のエルミーヌは実子エドワールを相続人にさせたがっている
ヴァランチーヌの味方は父方の祖父であるノワルチエだけである
そのノワルチエはヴィルフォールがモンテ・クリストに語ったように、病いのため口もきけず、身動きもできない
だが、瞬きの回数や、辞書を指し示す方法によって、ヴァランチーヌとノワルチエは意志の疎通をはかることが完全にできた(ヴィルフォールもできますが(^^)/ )

父は私にとっては他人同然です
私に無関心です
継母は執念深く私を忌み嫌っています
弟のエドワールを溺愛しているんですの
継母が私を嫌う理由は、財産のことからきているように思います
あの人には財産がないの
私には母の遺産があるし、サン・メラン侯爵夫妻(母方祖父母)の財産もありますから
遺産を半分弟にあげて、それでふつうのお家のふつうの娘になれるのならそうしたいのに

可哀そうに、とマクシミリヤン

私は弱くて、この家につながれているんです
父は私に対して絶対的な力を持っています
非のうちようの無い過去と、ほとんど攻撃しようのない地位に守られているんですもの
ああ、マクシミリヤン、もし戦えば、あなたも打ち壊されてしまうでしょう

4054うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:22:26 ID:LNssCYN6
どうして君はそんなに絶望的になるんだい
昔のフランス王国とは違うんだよ
最も高貴な貴族は帝国の家柄に溶け込んでしまった
大砲の貴族、つまり軍人と一体となったんだよ
ぼくには軍隊での輝かしい経歴と、自由になる財産もある
それに僕の父のマルセイユでの声望は素晴らしいものなんだ
僕たちの故郷では畏敬の念をもって迎えられるんだよ
マルセイユは君の故郷でもあるじゃないか

マルセイユのことは言わないでください
お母さまのことを思い出してしまうの
それに・・・教えてくださらない?
昔マルセイユであなたのお父様と父の間に何かあったのかしら

いや、僕の知る限りそんなことはない
ただ君のお父さんはブルボン派で僕の父は皇帝派だったけど

あなたがレジョン・ドヌール勲章をもらったことが新聞に載った日、
家中の者が祖父の部屋にいたの
あ、ダングラールさんもいたわ
私はいつもどおりお祖父さまに新聞を読んでいて・・・
思い切って貴方の叙勲の記事を読みあげたの
そしたら、父がぎょっとしたようにみえたの
ダングラールさんまで・・・
ただ、お祖父様はあなたの叙勲を喜んでいらしたの

塀ごしの二人の会話は召使の呼びかけで打ち切られる
「お嬢様、お客様です。モンテ・クリスト伯爵さまです」

マクシミリヤンはつぶやいた
どうしてモンテ・クリスト伯爵はヴィルフォール氏と知り合いなんだ?

4055うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:23:02 ID:LNssCYN6
モンテ・クリスト伯爵の訪問はヴィルフォールの訪問に対する答礼であった

ヴィルフォール夫人、ヴァランチーヌ、エドワールが出迎える
ヴァランチーヌはその母である亡きサン・メラン侯爵令嬢ルネゆずりの気品ある美しさをもち、モンテ・クリストの目を引いた

三人を前にして、モンテ・クリストは急に、以前どこかで会っているのではないか、と言い出す
そして、その場所は2年前のイタリア、ペルージアであったという

エドワール君は孔雀を追いかけ、ヴァランチーヌ嬢は庭へ散歩へ出かけ、奥さんだけが葡萄棚の下に座っておられました
私は長いガウン姿という東方的な服装でしたが、奥さんとお話ししましたよ

はっと思い出して夫人は少しうろたえる
あの方がモンテ・クリスト伯爵さまでしたの?
ヴァランチーヌ、ノワルチエ様の食事の用意ができたかみてきてくださらない?
エドワール、あなたは部屋へお戻りなさい

夫人が取り乱した理由は、2年前モンテ・クリストとした会話の話題が“毒物”についてであったからである

4056うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:23:37 ID:LNssCYN6
女性であれほど薬にお詳しいとは、感心いたしました

私は神秘学に興味がありまして、植物学や鉱物学が好きでしたの
ところで、あのときおっしゃっていたことは本当ですの?

何がですかな?

毒物を毎日少しづつ摂取し続けると、やがてその毒に耐えられる身体になるという・・・

本当ですよ
私は今も訓練しておりますからな
いずれは東方で暮らしたいと思っておりますのでね
伯爵は毒への耐性をつける方法を懇切丁寧に教えてやる

夫人は興味津々で耳を傾ける
エドワールを生き返らせてくださったあのお薬は高価なものなのでしょうね
私が使っているこの丸薬も良いものですが・・・

ああ、なるほど、しかしそれは嚥下する必要がありますからな
やはり液体の薬が良いでしょうな
しかし、あの薬は一滴であれば、人を生き返らせますが、何滴も与えると確実に死を招きます
注意せねばなりません

夫人がおずおずとその薬の作り方を所望したい様子をみせると、伯爵はその願いを聞き入れるという

その後、歴史上の毒殺事件などが話題に上る
伯爵は巧みに、毒殺という行為に至った者の心理を理解しているかのように話をすすめ、
夫人を暗に“勇気づける”

ヴィルフォール邸をあとにしながら伯爵はつぶやいた
土地は上々、蒔いた種は必ず芽を出すぞ
翌日、伯爵は頼まれた処方を夫人のもとへ送り届けた

4057うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:24:15 ID:LNssCYN6
その日の夜、パリ・オペラ座

ダングラール夫人
リュシャン・ドブレ(ダングラール夫人の愛人 アルベールの友人)
ウジェニー・ダングラール嬢
3人が座る桟敷席をながめながら、シャトー・ルノーはアルベールに言う
君の婚約者ダングラール嬢はすごい美人じゃないか

しかしアルベールはこの婚約に乗り気ではない
たしかに美人だが、僕はもっとやさしくて女らしいひとがいいのだ、と

(^^)/ ウジェニー嬢は非常に頭の良い、同性愛的傾向の持ち主として描かれ、男性にも結婚にも興味を示しません
音楽仲間の女性とのちに”駆け落ち“したりします(^^)/

モンテ・クリスト伯爵がギリシャのエデを伴って自分の桟敷席に現れる
それを見たダングラール夫人はアルベールにモンテ・クリスト伯爵を連れてきて欲しいと頼む
ウジェニー・ダングラール嬢は、自分の母のそんな様子に何の興味もない

アルベールは言われた通り、モンテ・クリスト伯爵の桟敷へと向かう
モンテ・クリストは、モルセール伯爵(アルベールの父、つまりフェルナンのこと)は来ないのかとたずねる
父はダングラール夫人の桟敷席に今晩来る予定です、とアルベール
ダングラール夫人の隣の美しいお嬢さんがウジェニー嬢で君の婚約者か?と伯爵
そうです、と答えながらも気持ちは複雑そうなアルベール

幕間にモルセール伯爵(フェルナン)がダングラール夫人の桟敷席へやってくる
それを見たモンテ・クリストは、エデを残してひとり挨拶へと向かう
ギリシャの話題にモルセール伯爵が反応し、ヤニナのアリ・パシャに仕えていたこと、
パシャのおかげで財をなしたことなどを話す
モンテ・クリストはモルセール伯爵の姿がエデのいる桟敷から見えるように仕向ける

エデの敵がモルセール伯爵であることが確認された

数日後、アルベールとリュシャン・ドブレはモンテ・クリスト伯爵邸へダングラール夫人の御礼の使いとして赴く
(ドブレはダングラール夫人の意を受けてモンテ・クリストの生活ぶりを観察しに来た模様)
モンテ・クリストは、モルセール伯爵家とダングラール家の間柄に話題をもっていく
アルベールによると

わが父とダングラールさんはスペインで共に働きました
革命で零落した父と、親の遺産など全く無かったダングラールさんが出世の糸口をつかんだのはかの地です
父は政治および軍隊での素晴らしい出世
ダングラールさんは政界及び財界での目覚ましい出世ですね
(^^)/ 革命で零落した・・・とは笑わされるが、アルベールは父の嘘で塗り固めた経歴を知らない(´・_・`)
ウジェニーさんとの結婚は両家でもう決めたことです
でもぼくは、ああいう美しさはあまり好きではないのです・・・
乗り気でないのはぼくだけではありません
母(メルセデス)がよい顔をしないのです
ダングラール家に偏見をもっているようなのです
ダングラール夫人ともほとんど行き来はありません
本当は一か月半前には、話を決めるために両家が集まらねばならなかったのですが、
二か月のばしました
ぼくは母が悲しむのは嫌ですし、ウジェニーは17歳、ぼくは21歳で、急ぐ必要もなかったし・・・
でもその延期期間もそろそろ終わりなんです

アルベールは、母を苦しめないためなら父と喧嘩してでも結婚を避けたいと思っているので、
モンテ・クリスト伯爵に協力してほしいと言う
伯爵は、味方になるとも答えず、横を向いていた

4058うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:24:48 ID:LNssCYN6
ダングラール家の財産のことに話題が移る
ドブレによるとダングラール氏自身もやり手だが、大胆に投機に手を出すのは夫人のほうなのだという

アルベールは冗談でドブレにいう
情報なんてものが便りにならないことは君がよく知っているだろうに
夫人が投機に手を出さないよう教訓を与えてやればよい、という
夫人に嘘の情報を与えて投機させ、翌日新聞がその情報を否定すると夫人は損をする
モンテ・クリストは一言ももらさずこの話に耳を澄ませていた
アルベールにそんなことを言われたドブレの内心の動揺に気づかないモンテ・クリストではなかった

ドブレが帰ったあと、モンテ・クリストはアルベールに言う
オートゥイユの別荘にヴィルフォール家、ダングラール家、モルセール家を招待しようと考えていたのですが、君や君のお母さんが結婚に消極的だとのことなので、モルセール家は招待しないことにいたします
君のお母さんにはぜひ良い印象を持って欲しいから・・・
でもダングラール家の皆さんにモルセール家を招待しないことで文句を言われても困りますので、そちらでもっともらしい先約でも用意しておいてください

アルベールはモンテ・クリストのはからいに感謝する
そして本日は父伯爵も留守で母とふたりだけなので夕食に招待したいという
しかしモンテ・クリストはその申し出を断る
このあと人と会う約束があるからと

アルベールはイタリアにいるフランツから手紙が来た、と言う
モンテ・クリストはたずねる

彼はいい青年ですね
ひょっとしてあの非業の最後を遂げたデピネ将軍のご令息ですか?

そうです
彼はヴィルフォールのお嬢さん(ヴァランチーヌ)と婚約しています
彼の気持ちはぼくがダングラール嬢に抱いている気持ちとよく似ていますよ

4059うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:25:23 ID:LNssCYN6
アルベールが帰り、モンテ・クリストは執事ベルトゥチオに指示する
オートゥイユの別荘を美しく整えること
お客の名前?未定だ
執事はさっそく出かけた
(執事のベルトゥチオは事前に誰が招待されるか、知らないほうがよいのです(^^)/ )

モンテ・クリストが会う約束をしていた人物はふたり
52歳の男と20歳くらいの男
それぞれ別の部屋へ招き入れる
(^^)/ それぞれの男とモンテ・クリストのとんちんかんな会話が続きます
興味ある方はぜひ本編をお読みください
ややこしくて紹介できません(,,;・∀・)ノ
結論申し上げますと、対ダングラールの仕込みです
イタリアの名門貴族バルトロメオ・カヴァルカンティ
その息子アンドレア・カヴァルカンティ
という名の親子を“作り上げました”
しかもこの詐欺男2人は自分たちがそもそも利用されていることを知らず、
それぞれ“ブゾニ司祭”“ウィルモア卿”からモンテ・クリストのもとへ送り込まれました
金持ちのイタリア貴族としてダングラールに紹介される予定です(^^)


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