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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ
3965
:
V3
:2015/06/08(月) 23:17:15 ID:3z4GG4Kk
「危ない!」
ヒュンッとするどい音をたてて、たったいままでベック公の頭のあった空間を矢がとびすぎた。
ベック公は、ウマの首にとっさに上体をふせながらどなった。
「卑怯者め!正々堂々と、しょうめんから戦いをいどむことはできんのか。卑劣なモンゴールの盟邦ともなると、下っ端まで卑怯者だわ」
「公、少し、うしろにおさがり下さい」
うろたえて叫んでいるのは、ベック公の右腕の、テルシデス伯爵だった。
「うしろへさがれだと。こんな、たかが、牛飼いばらを相手にうしろへなどひいたら、このベック、末代までの笑い者だわ」
一万の兵をかりて、一足さきにマハールを発った、パロの勇将ベック公の心づもりでは、街道ぞいにまっすぐリャガをめざし、リャガでまたあるていどの傭兵をつのって、リャガをアルゴスの味方につけたうえ、あらためて道をトルースへとり、トルースの都トルフィアでトルース軍と合流して大軍勢となる、という予定であった。トルースは小国ながらその民は勇猛をきわめ、その上に、「トルースの忠誠」とことわざになるほどに、その民は誠実、一途である。
リャガをおさえ、トルースと合流したとなれば、その軍勢は大国カウロスといえどあなどるわけにゆかぬ数にふくれあがる。ベック公にとって、目ざすはパロ、クリスタルの都以外でなかったから、かれは草原地方をおしとおる前にカウロスとまっこうからぶつかることを賢しとしなかった。
それはまた、ベック公とつねに行動をつねに共にするテルシデス伯、軍師たる魔導士ランズのとるところでもなかった。二人の意見は、むしろリャガを避け、直接にトルースをめざしては、というものであったが、しかしその場合、万一リャガがカウロスにくみすれば、ベック公の一行は、再びトルースから、パロへの赤い街道に出るためには、いやおうなしにリャガを征服するか、さもなくば、次の宿場チュグルまでを、街道を避け、草原をおしわけて何千モータッドも進軍してゆかねばならない。
草原には、砂漠のようにあからさまな遭難の危機こそひそんでいなかったが、そのかわり、いつ、どのようなかたちで、草原にすむ気の荒い少数民族——その全ての実態は、アルゴスの王宮にさえ把握されていないのである——の攻撃、あるいはカウロスの奇襲、を受けるかわからぬおそれがあった。
それゆえ、ベック公のリャガ経由説を、ランズもテルシデス伯も、さまで強硬に反対はしなかったのである。
グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』
梅(*`Д´)ノ♪
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