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艦娘がいない鎮守府のようです
397
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/02/07(木) 21:25:17 ID:vpwffbZI0
出迎えの歓声あげる分隊のメンバーと、『息抜き』を用意した分隊長殿
そしてその中心には、四肢を拘束された『日系』の少女が、猿轡をされて横たわっていた
その瞳に涙と、猛烈な怒りを燃やして俺を睨めつけている。アフリカの地に削ぐわない『セーラー服』は目も当てられないほど破け、所々に焦げ目がついていた
『人間じゃない』と一目見てわかったのは、その娘の髪色が『銀色』だったから。陽炎型駆逐艦、『浜風』と呼ばれている艦娘だった
「分隊長殿、これは?」
「何、ここ一帯を締める提督殿とはちょっとした顔見知りでな。手を回してもらった」
俺の声は震えていたが、周りの連中は手拍子と囃子をあげる。頭は悪酔いしたかのようにグルグルと回り出し、喉から込み上げてきた吐き気をグッと堪えた
それが、連中には期待で唾を飲んだかのように見えたらしい。両手に構える四キロ近い鉄の塊が厭に重くなって、壁に立てかけた
傍に立つ、俺を呼び寄せた張本人は肩に手を置いて顔を近づけた。吐く息から、酒の臭いがプンと鼻につく
「分隊長殿がな、素人童貞のお前に一番に良い思いさせてやろうってんで俺らはお預け食らってたんだ。果報者だなぁ?ええ?」
「『よだか』のお前にゃ一生に一度あるか無いかの機会だぜ?逃す手はねえって!!」
わかっていた。男社会の海軍にとっては、同じく戦場に立つ目麗しい艦娘は性の対象になるってことも
ただそれは、酒の肴に話す卑下た妄想の粋に、『いつかヤれたらいいな』くらいの妄想に留まっていると思っていた
そりゃ、それくらいなら俺だって幾らでも付き合った。妄想も、無いと言えば嘘になる
それに、分隊長の『厚意』も、他の連中の『お預け』も、欲望はあるだろうが俺を想っての行為だろうと理解もできた。だが
「……ああ、すまねえ」
商売女ならどれだけ気が楽だったことか。『仕事』というサービスを受けることで『対価』を支払う、言わば対等の立場と合意の上に行われる行為だ
しかし艦娘が、俺ら兵士を差し置いて、最前線でバケモノと戦い続ける少女が
ただの『息抜き』として使われるのは、我慢ならないものがあった
398
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/02/07(木) 21:30:35 ID:vpwffbZI0
俺は醜い『よだか』だ。金を支払わなきゃ女など縁のない人生だと知っている
艦娘という美少女に、人間だったらブタ箱に間違いなくぶち込まれる『強いた姦淫』を行えるまたと無いチャンスだとも
だが、それでも
人として、『男』としての尊厳を容易く捨て去れるほど、『醜悪』ではなかった
「すまねえ」
二度目の謝罪で、その場にいる全員の笑顔が凍り付いた。腐っても兵士だ。『殺意』には過敏になる。じゃなきゃとっくにおっ死んでいる
それが背中を預けあった仲間から発せられた物でも例外じゃない。切り替えは素早く、誰もが『腰のイチモツ』に手を伸ばした
ただし、俺には『素面』というアドバンテージがあった。無かろうと、この場にいる誰よりも素早い自負があった
左の裏拳で隣の男の顔面を殴りつけると同時に、右腰のSIG P220を抜き、右端から順に頭を撃ち抜いていった
最初は分隊長殿だった。最年長、四十過ぎのオッサンで、息子さんは今年高校に進学したらしい
次は最年少、俺の後輩だ。新米の頃から面倒を見てきた。ようやく一端の面構えするようになったばかりだった
三人目、副分隊長。若く才能のある男だった。嫁さん自慢が鬱陶しかったな
三人を撃ち殺し、ここでようやく残りの連中の銃口が俺を見定め始めた。俺の所属していた分隊は七人編成。俺を除けば残り三人
左端の先輩が吠えながら拳銃を向ける。さっき殴りつけた同期の胸倉を掴み、盾にした
「東ごっ……!!」
背中から肺を撃ち抜かれ、気道を昇って来た血が俺の名前と共に噴き出した
エロ本の貸し借りをしては『穴兄弟だな』とか、ふざけた話ばっかしてた。最後の言葉が俺みてえな野郎の名前とは、全くロマンチックだな
その盾越しに先輩を撃つ。俺達同期三人を最初に風俗に連れて行ったのはこの人だった。当の本人は平井堅みたいな嬢に当たったと聞いて腹抱えて笑った
肉盾を維持したまま、最後に残った正面の同期に銃口を向ける。ただし、奴のそれは俺を狙っていなかった
「何のつもりだ……!!」
撃つのを躊躇ったのか、それともこっちの方が俺を止める算段があると判断したのか
『浜風』を抱え上げ、無骨な『イチモツ』を頭に押し当てていた
399
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/02/07(木) 21:34:57 ID:vpwffbZI0
「わかってんのか!?おまっ……っ、仲間を殺した!!何故だ!!」
泣いていたよ。仲間を偲んでか、狂った俺を憐れんでかは定かじゃないがな
その慈しみを、銃口を向ける少女に少しでも向けていたら、こんな惨劇は起こらなかっただろうに
「……何故?ハハ……」
自分でも不気味になるほど、その笑いは自然に零れたよ。当の本人でこれなんだから、彼方にとっちゃ滅茶苦茶恐かったんだろうな
顔は青ざめて、今にも股座を濡らさんばかりの怯えぶりだった。拳銃も、カタカタと震えていたよ
『何故?』。タチの悪いジョークだった。何が一番悪いかって、『俺が一番聞きたかった』からだ
何も殺さなくても良かったじゃねえか。怒鳴りつけて一発殴り飛ばせば、彼らも過ちに気づいただろうに
左手の死体を持っていられなくなり手放した。思考を巡らせるために、額を小突きたくなったからだ
掌底で古い家電の調子を直すように叩いたが、答えはすぐには浮かんでこなかったが
詰まった息を吐き、拳銃を構え直すと、案外すんなりとそれは見つかった。この重さが、『軽さ』が、正しく答えだった
「『これ』だよ」
「は……?」
答えは、俺らが置かれている状況にあったんだ。『戦争』だ
『せんそうはいけないことです』。教科書や授業じゃ到底知りえない、教えて貰えない生の実感が圧し掛かる
深海棲艦や、寄生体や、テロリスト。連中に向けて引き金を引いて引いて引いて引いて―――――
「『軽くなっちまった』」
最初は重たかった筈の引き金が、今じゃ何の躊躇いもなく引ける
一時の激情に身を任せて仲間を撃つことが『これほど容易く』なるほどに
せんそうはいけないこと。ああ、身をもって実感した。法や道徳など、お利口さんのおべんちゃらなんかよりもずっとずっと
「イカレたようだ。俺も、お前らも」
「ドク、待っ……!!」
400
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/02/07(木) 21:38:08 ID:vpwffbZI0
これが例えば、平和な世界であるならば
彼らは『息抜き』と称したレイプ・パーティーなど開催しなかっただろうし
俺も、仲間を『六人』も撃ち殺すこともなかった。死んだ連中がもし口を利けたなら、俺と一緒にこう言うだろう
『戦争が、俺らを狂わせた』
ってな
「……」
最後に撃ったのは、俺の親友だった。こいつだけは、俺を『よだか』と呼ばなかった
あいつは溜りに溜まった鬱憤を晴らそうとしただけだった。誰も彼もが、終わりの見えない異国の戦場で、一時の癒しを求めただけだ
運が悪いとすれば、俺という融通の利かないアホが、部隊に一人いただけだった
銃声はキャンプにも届いただろうか。いずれにせよ、俺は言い逃れができねえことをした
狭い部屋に広がった血の溜まりを歩き、頭から出ちゃいけない代物がドロドロと流れ出る分隊長殿に近づき、ポケットを弄った
胸ポケットにお目当ての『鍵』があったよ。家族の写真と一緒にな
俺は急いてしまったかもしれなかった。これを見りゃ、『父』である彼は考えを改めたかもしれなかったからだ
最も、その写真は既に効力を失っていたのかもしれないけどな
浜風の怒りは消え、怯えの視線を向けていた。理由はどうあれ、ものの数十秒のうちに六人を殺したんだ。無理もなかった
四肢を拘束していた手錠は艦娘用の特殊鋼材製だった。用途は連行や懲罰だけでなく、このような事も含まれるのだろう
手足を自由にさせ、猿轡を解いても彼女はすぐには動かなかった。吐き気を抑えるかのように口を手で覆い、へたり込んだままガタガタと震えていた
慰めに掛ける言葉など無く、辛うじて血で汚れてない場所を見つけると、座ってタバコに火を着けた
401
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/02/07(木) 21:41:27 ID:vpwffbZI0
「どうして……」
やっと口を開いたかと思えばこれだ。さっきのやり取りを聞いてなかったらしい
イラついたよ。どうあがいても解けない問題を延々と問われ続けているようでな。腹いせに持ってた拳銃を壁に投げつけても、気は晴れなかった
「いいからとっとと出てけよ……」
ビクリと身体を弾ませた彼女に対して、続けて怒鳴りつけるまでの気力は残ってなかった
六人。六人だ。どうあがいても刑は免れない。遺族に合わす顔も無い。俺の人生は今ここで終わりを告げた
「……逃げましょう」
「ハハ、どこへ?」
「どこでも構いません。このままだと貴方は……」
「頼むから!!」
彼女がどんな面持ちで、どんな想いで俺を連れ出そうとしたかはわからねえ
ただこれ以上、俺は生き恥を晒したくなかった。『駆け落ち』と言やあロマンチックだろうさ。だがそんな逃避行、耐えられるワケがねえ
タバコの先端が、中程までに到達した頃になって彼女はようやく
「ありがとう、ございました……」
青白い顔ぶら下げながらか細く礼を言って、出口へと進み始めた
帰る先など無いのだろう。逃げる当てすらも無いはずだ。彼女は管理者である『提督』に売られたのだから
死体の一人から拳銃とマガジンを抜き、隠し布を払いのけ、最後に
「また、お会いしましょう」
とだけ呟いて、この場を去った。『どこで』かは、聞かなくてもわかる。どうせお互い『長く無い』とでも悟ってたのだろう
とにかく、これで俺のした殺しの最低限の意味は成し得た。無責任とでも取れるだろうが、一介の兵士にはこれが精一杯だった
402
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/02/07(木) 21:44:25 ID:vpwffbZI0
大して吸いもしなかったタバコを足下に捨てると、血溜まりが火を飲み込み、消えた
残った紫煙がむせ返るような鉄の臭いと混じったが、逆にそれが気を紛らわせた
LEDライトの側に置かれていた酒瓶を手に取り、一息に呷る。安酒だが、鼻がキュウと絞まるような度数が『恐怖』を薄ませた
仕上げがまだ残っていた。『イカレ』と称したのなら、それなりの末路を迎えなければ気が済まなかった
投げた拳銃を拾って、撃鉄を上げて銃口をこめかみに押し当てる。何らかのガタを感じたが、『もう一人殺す』くらいならまだ耐えれられるだろうと信じた
「フッ、フゥー……」
最後に頭を過ぎったのは、仲間でも家族でもなく、あだ名の由来になった小説の一文
『よだかの星は燃え続けました。いつまでもいつまでも燃え続けました。』
誰も見返さず、空に高く舞い上がったあの腰抜けは、俺なんかよりよほど気高い最後を迎えたのだとようやく気がついて
俺は引き金を引いた
.
403
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/02/07(木) 21:47:11 ID:vpwffbZI0
―――――
―――
―
('A`)「で、拳銃が案の定ぶっ壊れてたんで暴発した結果、俺は無様にも生き残って軍法会議。死刑を待つ身だったがなんでかどうして、よくわからん場所に送られる羽目になっちまったってこった」
( ^ω^)「ぐーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
(´^ω^`)「ぐーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
('A`)「お前ら人の古傷ほじくり返しといてそれはねえだろ」
あれから二年が経ったが、俺はまだ生きている
同じく何らかの重罪を犯し、同じ刑に処されたであろう連中と共に
悪路を走る輸送バスに揺らされながら、『流刑地』に向かっているのであった
『艦娘がいない鎮守府のようです 改』
.
404
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/02/07(木) 21:52:33 ID:vpwffbZI0
今日はここまで。お疲れさまでした
405
:
名無しさん
:2019/02/07(木) 22:23:26 ID:t6Dvqgb20
本名バレにより一人の作者を引退に追い込んだ感想を一言頂けますか?
406
:
名無しさん
:2019/02/08(金) 08:41:48 ID:NguumjB60
乙!
帰ってきてくれて嬉しいよ
407
:
名無しさん
:2019/02/08(金) 08:52:50 ID:N4h/YHf60
乙。
最後で容赦なくシリアスさんぶち殺すスタイル好きよ
408
:
名無しさん
:2019/02/08(金) 18:06:33 ID:wdJnh.TY0
>>405
本名バレしたのはムカデじゃなくて酒犬のほうなんだよなあ
409
:
名無しさん
:2019/02/22(金) 18:39:56 ID:zy9DjFxw0
おっつおっつ
ちょっと聞きたいんだがコラボ先の人と、各々の作品の展開とかキャラの扱いって
話し合ったりとかしてんの?それとも独断?
コラボ先が人類滅亡エンドしか見えなくてそうなるとこっちとの兼ね合いとか
どうすんのかなーって気になってね
まあパラレルですよって言われたらそれまでなんだが
410
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/05/01(水) 02:36:09 ID:5QojOfSc0
留置所を出たのは明け方。早朝の空気は秋の訪れを感じさせる涼しさだったが、太陽は今だ自重を知らず
二時間も経てば車内は蒸し風呂のように湿気と熱が籠った。ブラインドが施された車窓は光こそ通しはしなかったが、換気も出来ず仕舞いだ
空調などという贅沢は囚人である俺達には許されないらしい。一つ壁の向こう側にいる運転席は、存分にその恩恵に預かれているというのに
('A`)「……」
それでも、熱中症という配慮から水だけは許可された。一人一本、二リットルのミネラルウォーター
この状況下では正に命の水と言っても過言ではない。残り三分の一にまで減ったそれを一口分含み、少しずつ飲み込んだ
当の間抜け面二人は、俺の独白を子守歌に大いびきを掻いている。こんな暑い中、よくも眠れるものだ
('A`)「あー……暑ぃな」
( ^ω^)「うんお!!!!!!!!!!!!!!!」
(;'A`)そ「うおっ!?」
顔だけ此方を向けてデブが返事をした。熟睡してるもんかと油断してた俺は面を食らう羽目になる
デブというのは実に見苦しい。それがこれだけ蒸し暑ければ不快感も増すというものだ
411
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/05/01(水) 02:36:49 ID:5QojOfSc0
( ^ω^)「心に残るお話をどうもありがとうだお」
その上、語尾まで馬鹿丸出しときた。顔つきこそ朗らかだが、このバスに同乗している以上、俺と同じ重犯罪者である事に間違いはない
にこやかなデブの代名詞と言えば、某映画の微笑みデブを思い出す。これからこんなのと生活すると思うと辟易する
('A`)「そりゃ結構。よく眠れたようで何よりだ」
( ^ω^)「いやほんと……工科学校にいた頃を思い出したお」
('A`)「整備士か?」
( ^ω^)「おっお、艦娘の艤装を弄繰り回す変態だお」
('A`)「変態なのは見ればわかる」
( ^ω^)「お前失礼だな」
('A`)「話の最中に居眠りこく野郎に言われたかねえな……名前は?」
( ^ω^)「平賀 文(ふみ)、ブーンとでも呼べお」
('A`)「可愛げのあるあだ名で」
( ^ω^)「『よだか』よりかは遥かにマシだおね」
('A`)「そうだな、デブーン」
( ^ω^)「新生活がギスりそうで何よりだお」
頭が痛いのは暑さの所為だけでは無さそうだ
412
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/05/01(水) 02:38:04 ID:5QojOfSc0
( ^ω^)「そんで?」
('A`)「東郷 独王」
( ^ω^)「名前かっけえ……」
('A`)「キラキラしてるだろ?本名なんだぜ、これ」
数時間は一緒のバスに揺らされていると言うのに、自己紹介はこれが初だ。身の上話が先だった理由は
(´^ω^`)「ぐーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
そこのオッサンが『暇だからジャンケンして恥ずかしい話暴露しようぜ!!』の提案に乗ったからだ
それにしても自己紹介が先だと思う。ついでに言うと俺の昔話に到達するまでに三つほど恥ずかしい話を暴露している
( ^ω^)「げろしゃぶか……ドクだな」
('A`)「ドクでいい」
( ^ω^)「げろsy ('A`)「ドクでいい」圧が凄い」
(´^ω^`)「俺かい!!!!!!!!!!!??????????」
(;'A`)そ「うおっ!?」
(;^ω^)そ「うおっ!?」
こいつら実はずっと起きてたんじゃねえのか
413
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/05/01(水) 02:38:51 ID:5QojOfSc0
(´^ω^`)「誰だいって顔してんで自己sy( ^ω^)「間宮 静雄だお」オイオイオイご挨拶だなテメエ」
('A`)「それで、Mr.スピード・ワゴン。職は?」
(´・ω・`)「メシ炊きだ。よろしく」
('A`)「調理師がどうしてここに?」
(´^ω^`)「オナホにした野菜でカレーを作ったんだよーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!」
( ^ω^)「オッサン今年でいくつ?食べ物で遊んじゃいけないってママに教わらなかったかお?」
(´・ω・`)「嘘だよ……料理人が飯を粗末にすっかよ……今年四十だぞ俺……」
( ^ω^)「マジなら着いたら速攻で埋めてたお」
(´^ω^`)「ロクデナシ同士仲良くしようぜ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」
('A`)「出来たらごめん被りたい」
( ^ω^)「顔がウザい」
(´・ω・`)「クソガキ……」
414
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/05/01(水) 02:39:33 ID:5QojOfSc0
「やかましいぞ!!」
(#´゚ω゚`)「お喋りくらいさせろカス共がーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!だぁって運転してろゴミ野郎ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
監視からの至極ご尤もな注意にもこの返し。やはりロクデナシで間違いはなさそうだ
戦場で最も強力な部隊は糧食班というが、連中が全員このようなイカレでは無いだろう
「チッ……ロリコンの分際で……」
(´・ω・`)「おう今なんつった?」
( ^ω^)「止せおオッサン。手首に何が巻き付いてんのか見えてないのかお?」
手錠と、左手首に大きな腕輪。二つの液体が入ってるそれは、混ざり合うと化学反応を起こし爆発する
逃げ出せば爆発。抵抗すれば爆発。外そうとすれば爆発。通信により下された指示に歯向かうと爆発
手榴弾の原理をご存じだろうか?B級映画なんかじゃ炎を噴き上げる爆弾として使われているが、本来は爆破による『破片』で殺傷する事を目的としている
('A`)「……」
この腕輪も同じ。手首が吹っ飛ぶだけなら安いものだが、下手を扱けば死人は一人に留まらない
ここであの兵士が気まぐれを起こせば車内は血みどろの大惨事になるのは目に見えている
俺としては別にそれでも構わないが、後で掃除をする連中が余りにも不憫だ
415
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/05/01(水) 02:40:11 ID:5QojOfSc0
(´・ω・`)「こんなもんフランク・マーティンだけで十分だっつーんだよ……」
('A`)「もしくは一日外出権ってとこだな」
( ^ω^)「勘弁してくれお。娯楽から離れて暫く経つってのに」
('A`)「お前らもか?」
(´・ω・`)「ああ、新聞すら読ませて貰えなかったぜ」
ショボい飯に臭くて狭い部屋だったのは共通だったらしい。普通に拷問だった
それ故だろうか。他愛のない会話を楽しんでいる自分がいた
( ^ω^)「新天地は、もうちょいまともだと助かるお」
(´・ω・`)「一杯やりてえもんだな」
('A`)「……」
『新天地』。死を許さなかった俺の運命とやらは、その贖罪の地で
一体、どんな償いをさせようってのだろうか―――
416
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/05/01(水) 02:40:39 ID:5QojOfSc0
―――――
―――
―
「―――以上だ。何か質問は?」
( ^ω^)「はいお」
「無いようだな。それでは、我々は撤収する」
( ^ω^)「はいお」
「くれぐれも、逃げ出そうなどと思わぬように」
( ^ω^)「はいお」
「行くぞ。長居すればタダでは済まんからな」
( ^ω^)「はいお」
必要最低限の説明を終え、移送班は逃げるように去っていった
バスが残した排気ガスと砂ぼこりを感じていないのだろうか。ブーンは五回目の挙手を繰り出していた
(´・ω・`)「さて、噂に違わぬ堂々の佇まい。これが『地獄の鎮守府』かい」
荷物を担ぎ上げ、古ぼけた木造の校舎を見上げる。逆立ちしてもこれが現代の軍関連施設には見えないが
これでも『元』は、太平洋に面する廃村を再利用した一つの『鎮守府』だったらしい
エンジン音が響く背後を振り返れば、山と緑がお出迎え。文明建築らしき代物は、鉄筋コンクリートで作られた『ゲート』くらいだ
まさしく『ザ・ド田舎』って感じの場所だった。少なくとも、フリーWi-Fiは設置されちゃいねえだろう
417
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/05/01(水) 02:41:18 ID:5QojOfSc0
('A`)「にしても、随分と緩い制約を課されたな」
(´・ω・`)「拍子抜けするほどにな。ただ……」
そこに何故『地獄』などという物騒な名称まで付与されているのか。海軍に属する者なら、ある種の都市伝説として耳にした事のある噂話がある
『着任した提督及び艦娘が悉く不審死を遂げる呪われた鎮守府』
その惨劇は、片手じゃ収まらないほど数多く存在する。故に、軍が厄介者を始末する『処刑場』とまで呼ばれた場所だった
この話は勿論ながら民間にも知れ渡っているが、何せ話が話だ。本怖スレを盛り上げる程度のネタに留まってはいた
たまにワイドショーなんかで思い出したかのようにマスコミからの質問を投げかけられたりもするが、広報担当は決まってこう言った
『ただのオカルトです。信憑性はありません』と
俺も二人も、その言葉を信じて本気にしていなかったが、ああも露骨に逃げ帰られると考えを改めざるを得ない
418
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/05/01(水) 02:42:21 ID:5QojOfSc0
('A`)「……まさか実在してたとは」
(´・ω・`)「伽椰子でも住みついてんのかね……艦娘が力で押し負けるとは考え辛いが」
('A`)「やだ怖くなってきた」
(´・ω・`)「ブサイクだから大丈夫だろ」
('A`)「根拠にならねえよクソ眉毛」
(´・ω・`)「コンプレックスをネチネチと突く天才かお前」
誰もが軍に入れば口なんて一瞬で悪くなるものだろう
('A`)「……ここの最後の主が『世界最強の提督』であり、『世界最悪の犯罪者』である変態、『小練 詩音』」
ちょうど二年も前だろうか。国内どころか世界を揺るがした大事件がある
その可愛らしい響きの名前の男は、『国連海軍特殊部隊』という枠内において国内外最強と言わしめる艦娘部隊を率いる立場でありながら
当時の国連総長である一人の日本人を殺害。全部隊員と共に行方を暗ませた。その後、捜査により次々と悪行が明らかになる
('A`)「部隊員である艦娘の洗脳に、隔離された鎮守府でのサバト、政治家との癒着、海外艦娘の不当な買収……」
(´・ω・`)「中でもスナッフ・フィルムを好んだ変態だっつー話だったな……胸糞悪い話だぜ。ったくよ」
稀代の大悪党の壮絶な人生は、以下艦娘を巻き込んだ海上での集団自決で幕を閉じたとされているが
数多く遺されている筈の死体は、一つも見つかっていない。依然として捜査と警戒は続いているものの
この広い太平洋で壮絶に爆死したのなら、魚の餌になっていると考えるのが自然だろう
それに、世間の風化は案外早い物。未知の敵対生物との戦時下なら、情報の移り変わりはより目まぐるしい
死んだ野郎の安否より、深海凄艦の動向と明日の天気の方がよっぽど重要な案件となっていた
419
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/05/01(水) 02:43:21 ID:5QojOfSc0
('A`)「そんで、俺らに課せられたお仕事が『元』悪の巣窟の管理か」
(´・ω・`)「近海の監視と一日二回の無線報告、建造物の維持、修繕。期限は終戦を迎えるまで。その後の恩赦に関しては追って考慮する」
('A`)「補給は月一、ライフライン完備、ネットは使えないが地デジは見れる……給料も、雀の涙ほどには出る」
(´・ω・`)「尚、鎮守府から半径十キロ以上離れた場合、腕輪に内蔵されたGPS信号により爆破装置が作動する」
大まかな説明は以上。実にシンプルでわかりやすく、それでいてぬるい仕事だった
この施設が『訳アリ』なのを除けば、檻の中で一生を過ごすより遥かに良い待遇と言える
まぁ、『実績』があるからこそ俺らみたいなクズを消耗品として管理人に就かせたのだろう
('A`)「何か質問は?」
( ^ω^)「はいお」
('A`)「はいブーンくん」
( ^ω^)「おやつは出ますかお?」
('A`)「あいつら帰って正解だわ」
(´・ω・`)「荷解きして探検と行こうぜ」
( ^ω^)「暗い雰囲気を少しでも和らげようと思ったのに」
余計なお世話だった。とにかく、先ずは一息つきたい
必要最低限の生活必需品が入ったバックを担ぎ直し、新たな『我が家』……別名、『あばら家』に足を踏み入れた
420
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/05/01(水) 02:44:09 ID:5QojOfSc0
鎮守府である旧校舎と隣接する居住棟の一室にそれぞれ荷物を置き、オッサンは調理場、ブーンは工廠の確認へと一目散に飛び出した
特にこれといった専門職に就いていない俺は、校舎内を適当に散策することにした。出来ることなら早急に風呂場を見つけて汗を流したい
曰くつきの施設に置いて個人行動は死亡フラグに該当するが、着いて早々登場人物が殺されるなんて盛り上がりに欠けるよなぁ
('A`)「意外と……」
てっきり廃屋一歩手前な内装を想像していたが、中は案外綺麗だった。学校の面影は色濃く残っており、教室には椅子と机が規則正しく並んでいる
初めて踏み入る場所でも『学校』とは懐古を掻き立てるものだが、それが良い思い出とは限らない。ガキの頃から問題児だった俺にとっちゃ、苦虫を頬張ってるようなものだ
(;'A`)「ああ、やだやだ」
嫌な事だけはずるずると覚えているんだから、人のオツムってのは構造的に欠陥を抱えているらしい
('A`)「ん……?」
などと、人の作りを嘆いていると、廊下の先で『リン』と鈴の音が聞こえた
(;'A`)「うっわ……」
気の所為なら良いのだが、目を向けた先に何か『白く細長い物』が軽い足音を伴って消えていったのだから、誤魔化しようもない
俺はどうもきっちりと死亡フラグを立てていたらしい。早速怪異にお出迎えされるとは、全くツキがない
いや……オカルトなんてそうそうあるだろうか?確かに『場所』として地獄の鎮守府は存在した
だが『噂』までもが実在するとは限らない。仰々しい代物には決まって尾鰭が付くものだ
(;'A`)「猫かなんかだろ……」
またもや死亡フラグを立てた気がしてならんが、正体さえ掴んでしまえば恐れも無くなる
意を決して、その後を追ってみることにした
421
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/05/01(水) 02:44:52 ID:5QojOfSc0
('A`)「……」
『りん』、『りん』
曲がり角、階段、辿り着いた先でチェックポイントのように鈴の音が聞こえ、『猫』が走り去る
まるで俺をどこかへと導いているかのようだ。その先が地獄のような有様で無ければいいが
('A`)「ん?」
二階へと上がった時、音が『きしみ』に依るものへと変化した
('A`)「おっと……」
音を追って廊下を歩くと、程なくして正体が判明した。内開きの『扉』が僅かに開いていた
ドアノブは丸いタイプであり、猫が飛び乗った所で開けられるとは到底思えない
室名札を確認すると、そこには『司令室』の文字が。あの悪名高い提督の、執務室であった
(;'A`)「マジかよ……」
好奇心は猫をも殺すというが、猫に抱いた好奇心で殺されるとは思ってなかった
しかし、背を向けて逃げるのも何か恐いし……ええい、男は度胸、なんでも試してみるものだ
(;'A`)「お邪魔……」
扉を軽く押し、変な手ごたえが無いことを確認して開けていく。ショットガンズドンとか無くて一先ず胸を撫で下ろした
カーテンは全て閉ざされている為、やや薄暗い。壁際のスイッチを押して電灯を点けた。電流走らなくて二先ず胸を撫で下ろした
先ず目についたのは重厚な執務机。その手前には応接用のソファーと足の短いテーブル。ちょっとした流し台とクッキングヒーター、冷蔵庫があるのは茶を入れるためだろう
壁際にはズラリと本棚が並んでいる。資料かと思えば、なんとほとんどが漫画本だった。中には映画のDVDも差し込まれている
(;'A`)「……」
執務室というよりは、ネカフェの有様だ。いや、紙媒体よりデータ化を好んだ人物だったのかもしれない
だが、肝心のデジタル媒体は執務机の正面に立て掛けてある液晶テレビくらいしかない
それもそうか。PCがあるなら重要な証拠となる。もし残っているなら真っ先に徴収されるだろうし
そもそもそんな物をおめおめと残したままにしとくとは思えない。俺ならば絶対に壊す
422
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/05/01(水) 02:45:45 ID:5QojOfSc0
('A`)「……ふむ」
一通り見まわした後、おっかなびっくりカーテンを開けたり執務机の椅子を蹴ってみたりしたが、特に何事も起こらない
隠れられそうな場所も確認したが、『色白なガキ』が此方を覗いてたなんてこともなかった。胸撫で下ろし放題だった
('A`)「疲れてんのかな……」
幻視に幻聴、暑さで頭がやられちまった。そう考えることにした
せっかく執務室に辿り着いたのだ。一つ、提督の気分でも味わってみるか
('A`)「よっこらしょっと……」
クッションがヘタった椅子に腰かけ、机に肘を置いて指を組み合わせる。気分はさながらNERVの司令官だ
いや、バイオ4のレオンに近いのかもしれない。俺はこんなご立派な席に着くには程遠い野郎だ
それに、『提督』という立場にも余り良い思い出がない。少なくとも一人は、艦娘を売り飛ばした人物なのだから
('A`)「……」
その中でも、歴史に残る悪行を為した奴の机に座っている。不意に、身体に震えが奔った
国家どころか世界の転覆を企み、国連総長を殺した男。テレビの向こうのニュースキャスターから教わった大事件の首謀者が
(;'A`)「……」
『この場所に、居た』
そんな生々しさを感じたが故の、悪寒によるものだった
(;'A`)「……」
『戻ろう』。そう思い立って立ち上がろうと机に手を着くと、親指が引き出しに当たり、僅かな物音が立った
(;'A`)「……」
頭は制止の信号を出したが、身体は従わず取っ手に指を掛けた
『恐いもの見たさ』とはよく言ったものだが、この中に何もないことを願っている自分もいる
矛盾で高鳴る鼓動を深呼吸で落ち着かせ、ゆっくりと引き出した
423
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/05/01(水) 02:47:04 ID:5QojOfSc0
(;'A`)「……っ」
中に入っていたのは、呪いのアイテムでも凄惨なスナッフ写真でもない。何の変哲もない『布』だった
だからこそ、俺は深く後悔する羽目になる。『ああ、見なきゃよかった』と
『小練 詩音』に関して一つ、大きな話題を呼んだ特徴がある
証言に依ると、彼は鎮守府での執務並びに戦場での活動の際、必ず顔を覆面で隠していたらしい
それは大本営での出頭、上官との面会に置いても変わりなく、素顔を知る者はごく少数に限定されていた
理由については割愛するが、そのマスクというのが
【 (キT) 】
目元に一本、眉間から顎下まで一本。合計二本の太線で『T』を模したデザインの物だった
引き出しの中に入っていたのは、正しく彼が日常で使っていたのであろうTマスクであった
(;'A`)「っ、とに、ビビらせやがる……」
右頬を黄色の糸で修繕されたそのマスクは、暑さからではない汗を流す俺を静かに見上げている
思いもよらず『涼しく』なったのは僥倖だったが、今夜は悪い夢を見てしまいそうだ
引き出しを閉じ、サッサとこの場から出ていくことにした。今となってはあの姦しい連中と一刻も早く合流したい
(;'A`)「くわばらくわばら……」
出来る限り立ち入らないようにしよう。そう心に決め、電灯を消して扉をしっかりと閉めた
424
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/05/01(水) 02:48:21 ID:5QojOfSc0
この一月後、俺たち三人の『彼』に対する認識がひっくり返るとも知らずに―――
.
425
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/05/01(水) 02:57:36 ID:5QojOfSc0
今日はここまで
天華百剣のガチャで爆死して、シャニマスで甜花ちゃんを引き当てました
担当はアンティーカです。よろしくお願いします
>>9
打ち合わせは頻繁にしています
艦これSSは自作品もコラボ先も到着点がこのお話になるんで、まぁどっちにしろエグい事になるのは変わりません
426
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/05/01(水) 02:59:11 ID:5QojOfSc0
>>409
打ち合わせは頻繁にしています。安価間違えてドジっ子の一面を見せてしまいました
艦これSSは自作品もコラボ先も到着点がこのお話になるんで、まぁどっちにしろエグい事になるのは変わりません
427
:
名無しさん
:2019/05/02(木) 21:36:50 ID:WU/pmgxI0
キテマシタワー(n'∀')η゚
更新乙です
428
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 01:30:05 ID:9//7Mvdo0
('A`)「どうだった?」
( ^ω^)「いや特に何も……割と良い施設ってだけで」
('A`)「マジ?」
( ^ω^)「こうして嗜好品の恩恵に預かれてる時点で文句の吐けようもないお」
ガラス製の灰皿にトンと灰を落としながら、ブーンは煙を吐き出した
輸出入制限が課せられている今となっては、タバコも決して気軽に楽しめる嗜好品とは言えない
現状世界最大の艦娘戦力を抱える日本ですら、辛うじて供給出来ているという現状だ
( ^ω^)「俺らの給料はこれで消えそうだお」
('A`)「全くだな……こんな場所じゃ金の使い道も無いし」
だからと言ってキッパリとやめられないのがニコチン中毒の悲しい性だ
長い獄中生活で培った禁煙も、あっさりと終わってしまった
('A`)「フゥー……」
「飯が出来たぞー!!取りに来い!!」
( ^ω^)「待ってました!!」
厨房からの呼び声に、いち早くデブが反応する
かく言う俺の腹の虫も、餌を求めて鳴き声を上げた
(´^ω^`)「っかー!!気兼ねなく腕を振るえるってのは良いもんだなぁオイ!!」
カウンター越しに料理を置いていくオッサンの顔を見れば、どのような感想を抱いているかなど言うに及ばない
( ^ω^)「ひょー!!うんまそうだお!!」
(´^ω^`)「せやろがい」
ブーンの言う通り、『ジジジ』と音を上げる龍田揚げと生野菜のサラダは否が応でも溜飲を下げさせた
揚げたての油物などいつぶりだろう。これほど瑞々しい野菜も久しい。湯気を立てる汁物も心を躍らせる
429
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 01:32:39 ID:9//7Mvdo0
(´^ω^`)「全く信じられねえほど厚遇だ!!食材も酒もたんまり入ってやがった!!三人じゃ食い切れねえほどにな!!」
('A`)「……?」
( ^ω^)「何ボケっとしてんだお!!さっさと食おうぜ!!」
('A`)「ああ……」
『三人じゃ食い切れねえほど?』囚人に必要以上の余剰分を置いていたって事か?
それに、タバコもそうだが酒も置いてある意味が読み取れねえ。余りにも待遇が良すぎる
いや、例えば海軍関係者が今後この場所に滞在するのならそれもあり得ないとは言い切れない
('A`)「うーん……」
(´・ω・`)「なんだ唸ったりして?腹でも痛えのか?」
('A`)「いや……なんでもない」
どうにも腑に落ちなかったが、美味そうな飯の誘惑には勝てなかった
思案の時間などいくらでもある。今は腹を満たすのが先決だ
( ^ω^)「いただき卍!!」
('A`)「古っ……いただきます」
(´^ω^`)「めしあがれ」
早速、熱々の龍田揚げに箸を運ぶ
サクリとした歯ごたえの後に、火傷しそうなほど熱い肉汁がじゅわりと溢れ出た
にんにくが効いた鶏肉を数回咀嚼し、すかさず炊きたての白米を口にすると
('A`)「うっめ……」
脳汁が迸るほどの幸福感に包まれ、無意識に賞賛の一言を口にした
430
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 01:34:55 ID:9//7Mvdo0
(´^ω^`)「ブサイクでも味はわかるようだな!!」
('A`)「その一言が無かったら手放しで褒めてたのに」
( ^ω^)「ハムッ!!ハフハフ、ハフッ!!」
(´^ω^`)「豚も豚みてえにがっついててなによりだ!!」
( ^ω^)「ねぇ、飯が不味くなるから一々罵倒すんのやめて?」
性格と料理の腕は必ずしも比例しないらしい
('A`)「以前も鎮守府で勤務を?」
(´^ω^`)「あったぼうよ!!大飯食らいの面倒を一辺に見てたんだぜ?」
( ^ω^)「あー、わかる。艦娘って消費カロリーすげえもん」
艦だった頃の名残か、それとも艤装を動かすために必要なのか
艦種にもよるが、艦娘のエンゲル係数は異質なまでに高い
厨房の忙しさは人間相手と比べるまでも無いだろう
(´^ω^`)「たった三人分の飯じゃちょいと物足りねえがな!!ガハハ!!」
( ^ω^)「おかわり!!」
(´・ω・`)「テメーで注いでこい」
( ^ω^)「あ、はい……」
情緒どうなってんだこいつ
431
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 01:39:29 ID:9//7Mvdo0
('A`)「恐れ入ったよ。てっきりメシマズが過ぎて島送りにされたのかと」
(´・ω・`)「メシマズが調理師に選ばれるワケねえだろ」
('A`)「それならどうして六人もぶっ殺した馬鹿と同じ場所に送られちまったんだ?」
オッサンの表情から色が抜け落ちる。誰しも落ち目を突かれたらこうもなるだろう
しかし、俺にも知る権利はある。これから共に暮らすと言うのに、得体が知れないとオチオチ寝ていられねえ
まぁ、それはオッサンにもブーンにも言える事だろう。何せ、殺人犯との共同生活だ
(´・ω・`)「……誘拐」
('A`)「……」
ボソリと呟かれた二文字。そう言えば、監視の一人が言っていたな、『ロリコンの分際で』と
鎮守府に置いて最も多い犯罪は『性暴力』だ。一時期はその傾向も鳴りを潜めていたと聞くものの
実際の現場では黙認される事も多い。俺がこの場所へ到った原因を見れば一目瞭然だ
言わずもがな、誘拐は犯罪だ。こんな事言いたくねえが、技術力の結晶たる艦娘なら重要度も増す
仮に、お隣の頭の愉快な国へと送り込まれ、分析などされてしまえば、莫大な軍需で潤っている我が国にとっては堪ったものではないからだ
('A`)「俺が言うのもなんだが、よくもまぁ生きていられたな」
(´・ω・`)「お互い、悪運だけは良いようだな……腹に二発。かろうじて腸に傷は付かなかった」
どのような目的であれ、無断で艦娘を連れ出すのは重罪に値する。発見次第射殺すらあり得るのだ
それだけ艦娘という『兵器』の情報漏洩には細心の注意が払われている。人としての扱いより、『物』としての扱いの方が遥かに厳重だ
(´・ω・`)「俺も絞首刑を待つ身だったが、人生とは最後までわからんもんだな。こうして、また人に料理を振舞えるなんて」
('A`)「……」
鎮守府に勤務していたのなら、当然その危険は理解していた筈だ。命を懸けてまで『それ』をする必要があったのだろう。覚悟と勇気を伴って
そして失敗した。目的は達成できず、死にぞこない、罪人として後ろ指をさされ、こんな場所へとたどり着いた
('A`)「……美味ぇよ」
(´^ω^`)「飯炊きの冥利に尽きるぜ」
思わず出てきてしまった慰めの言葉に、力のない笑顔を返してくる
『信じられないほどの厚遇?』冗談じゃない。俺らに課せられたのは、『負け犬』として生きながらえる苦しみだ
432
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 01:40:27 ID:9//7Mvdo0
( ^ω^)「おデブ!!」
ドンと勢いよく長テーブルに置かれたビール瓶に、俺らの身体は飛び跳ねた
( ^ω^)「暗ぇお。二人っきりになったらいきなり会話が少なくなる友達以上恋人未満の関係かお前ら」
('A`)「咄嗟にその例え出てくるのすげえ気持ち悪いな」
( ^ω^)「折角の新生活一日目に落ち込んでどうすんだお。呑むぞ!!」
ブーンがリズムよく瓶の蓋を外すと、安い金属の王冠がテーブルの上で踊った
('A`)「グラスは?」
( ^ω^)「みみっちぃ事言うなお。お行儀を重んじる性格でもないだろ?」
(´^ω^`)「クク……いいじゃねえか。酒で無茶してた若い頃を思い出すぜ」
('A`)「俺らはまだ若いですけど?」
(´・ω・`)「そういうのやめろよ……」
アホなティーンのノリをこんな場所でするとはな。だが、断る理由もない
美味い飯と酒を前に、暗い雰囲気など野暮というものだ
433
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 01:41:34 ID:9//7Mvdo0
('A`)「乾杯の音頭は?」
( ^ω^)「言い出しっぺの法則というものがあってだな」
('A`)「出たよ……」
(´^ω^`)「ドックンの!!ちょっといいとこ見てみたい!!」
('A`)「それは音頭の後だろ……」
文句を言うのも面倒だ。サッサと済ませてしまおう
('A`)「ハァー……クソッタレ共の檻に」
実に自虐に満ちている。しかし、早く呑めるのなら音頭などどうでもいいらしく
(´^ω^`)「おっぱい!!」
( ^ω^)「おっぱい!!」
(;'A`)「……」
勢いよく瓶をぶつけ合い、のど越しの良い小麦のジュースを一気に流し込んだ
舌を奔る苦みと炭酸の泡。胃に落ちていく清涼感に、俺はまた一つ『納得』を知った
『ああ、なるほど。お先真っ暗な奴が溺れるワケだ』と
434
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 01:44:09 ID:9//7Mvdo0
―――――
―――
―
田舎の夏休みというものに縁がない人生だった。両親共々都市部出身の上、アウトドアな趣味も持ち合わせていなかった
キャンプの経験も兵学校の門を叩いてからだ。それから一年の三分の二ほどをテントの下で過ごした
戦時中だ。穏やかな寝起きの筈もない。なんなら宗教狂いのカス共に寝込みを襲われたことすらある
一日一日を生きるのに精いっぱいで、老後には田舎で農業して云々などと、将来の展望を考える暇もなかった
まぁ、どちらかと言えば俺も趣味はインドアな方だ。スマホの電波が頻繁に圏外になるような場所に、わざわざ赴く気も起きなかっただろう
('A`)「フゥー……」
つまり、ここでの生活は田舎初体験とも言える。一週間ほど過ごした感想は
('A`)「飽きるな……」
だった
《ようドク、異常は?》
('A`)「ねえよ。ずっとねえ。カモメが飛んで波が立って、それ以上もそれ以下もねえ」
見張り台から眺める景色は、ただ水平線が広がっているだけだ
最初の三日ほどは双眼鏡を覗いたりしていたが、今となってはパラソルの下でFMを聞きながら図書室に置いてあった漫画本を読んでいる始末だ
これで給料が出るんだからチョロい仕事だ。オバケの類も今のところ俺らを襲いには来ない
湖を抱える廃キャンプ場が近くにあれば、ホッケーマスクの臭い不死身男がお茶でも嗜みに訪れるのだろうか
《適当に切り上げちまえ。おやつ作ったから食いに来いよ》
('A`)「冷たいコーヒーも頼むぜ。濃いめでな」
《はいよ》
フィルター際まで吸ったタバコを、所々錆びついた吸い殻入れに放り込む
『夏休み』も残り三日だが、日中はまだまだ暑い日が続きそうだ。渇いた喉を潤しに行くか
435
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 01:46:57 ID:9//7Mvdo0
( ^ω^)「うっま……ポッキーうま……ナッツも散りばめてあるとか神か……?」
(´^ω^`)「そうだよ」
( ^ω^)「調子乗っ……神様……」
(´^ω^`)「本音を隠す努力をしろ」
程よく効いた空調で、冷えた空気が肺に入って心地良い
食堂では一足先に男同士のティーパーティーが行われていた
ブーンも工房で何かしらの作業をしていたはずだが、デブは食い物の事となると俊敏になるらしい。獣と一緒だな
(´・ω・`)「おう、お疲れ」
('A`)「おう……ポッキーか。何でも作れるな」
(´^ω^`)「お嬢様方の要望に応えるショボンおじさんやぞ?」
('A`)「だってよお嬢様」
( ^ω^)「苦しうなくてよ」
(´^ω^`)「すっっっげーーーーーーーーーーーーやる気失くす」
氷の入ったキンキンのアイスコーヒーを一飲みし、ナッツが降りかかったポッキーを咀嚼する
既製品よりも太めに作られたそれは、小気味良い歯ごたえとナッツの食感がクセになる味わいだった
('A`)「うん……イケる。カロリーに目を瞑れば大好評だったろうな」
(´^ω^`)「それ小娘共にもめっちゃ言われた」
( ^ω^)「デブと女性に対する配慮はねーのか」
(´・ω・`)「テメーは自己管理が足りてねえだけだろうが。ドクを見習え。腹筋バキバキやぞ」
( ^ω^)「俺だって下腹が愛らしいって陰でコソコソ言われてました〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
陰口を都合よく解釈しただけじゃ無いのか?とツッコミを入れたくなったが、不毛なので言い留まって
リモコンを手に取りテレビの電源を入れた。画面の中では老若男女入り乱れた集団が、プラカードを手に行進をしている姿が映し出されている
436
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 01:49:42 ID:9//7Mvdo0
(´・ω・`)「……この手の連中は、世界が終わるまで居なくならねえだろうな」
('A`)「……」
第二次大戦終戦後、日本は第九条の下、侵略戦争行為とは無縁の国となった。そして何十年にも渡る平和により、徐々に国民から『危機感が』薄れていった
例えお隣の国がミサイルを飛ばそうが、領海にちょっかいを出そうが、情熱と暇を持て余した『愛国者』さん達は、政府や軍関係者へ向けてこう唱える
『戦争反対』『軍事力の廃棄を』『対話による解決を』『子供達に未来を』と
大いに結構だと思う。ぶっちゃけた話、俺だってお国の為なんかに死にたかねえ。食い扶持を稼いでるとは言え、戦争なんて無い方がよっぽど良いに決まってる
『死にたく無い』『殺したく無い』。人が人である為の抑止力を外さなきゃいけない行為など真っ平御免だと往来で主張するのもわからなくはない
だが今は平和な世の中ではなく、『戦時中』だ。それも、史上類を見ない『全人類対バケモノ』という、SF小説のネタにでもなりそうな戦争なのだ
戦争を起こさなければ命は今以上に散り、軍事力が無ければ領海、領土は今以上に踏み荒らされていた
兵は、艦娘は、子供達の未来を守る為に戦地へ赴いている。対話で解決?タチの悪いジョークだ
( ^ω^)「知らぬが仏、だお。俺は逆に安心するね。この国はまだこれだけ寝ぼけた奴らがのさばれる程度には平和なんだって」
皮肉の利いた物言いだが、事実その通りだ。今や日本は世界一安全な国なのだ
各地に配備された鎮守府という砦と、艦娘という唯一深海棲艦に対抗できる守護者を抱え、今の今まで持ちこたえている
ブーンの言い分も理解できる。テレビに映る連中は、日本がまだ民主主義国家の体を保っている象徴とも言えるのだろう
(´・ω・`)「悪い、変えていいか?」
('A`)「ああ……勿論」
だから何だ?俺ら軍属の人間にとっちゃ不愉快極まりない映像に変わりはない。あんな連中の為に戦っている自覚など生まれてこの方抱いたことはないが
現場も知らねえ連中に好き勝手に言われて、気にするなという方が無理だ。平和、民主主義、お綺麗な言葉が一々癪に触る
こんな話もある。深海凄艦出現の最初期、艦娘技術が日の目を見ていなかった頃、当時の首相『南慈英』が独断で起こした海上自衛隊の出動命令
敵対生命体による侵略行為に対する返答としては満点を贈っても良いほどの英断だったが、メディアと一部政党はこれを痛烈に批判した
『軍事権力の乱用』『帝国主義の復活』『大日本帝国の再建』。エイリアンから領地を守っただけでこの言われようだ
これらの寝言は艦娘が配備されてからも国会で振りかざされ続けた。国を守る艦娘戦力は、近隣諸国を悪戯に刺激する危険要素だとも
一時は実質的な艦娘の規制及び制限法案である『艦娘三原則』まで成立したのだ
437
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 01:51:19 ID:9//7Mvdo0
('A`)「……」
(´^ω^`)「おっ、クソ映画やってんじゃん!!やっぱりてれ東なんだよなぁ!!」
真っ当な軍人としての道を自ら絶った俺にとっては、もはや関係のない話なのだろう。恐らく今後、戦場に立つことも無い
そう割り切ろうとしても、胸中の苛つきは晴れることなく募るばかりだ。腐っても俺は兵士らしい
('A`)「ごっそーさん」
(´・ω・`)「ん、おお?どこ行くんだ?」
('A`)「ジム。運動してくる」
(´・ω・`)「おいデブ、ドクを見習ってお前も鍛えたらどうだ?背筋バキバキやぞ?」
( ^ω^)「色男、金と力はなかりけり」
抱腹絶倒の自虐ギャグだったが笑う気にもなれず、コーヒーを一気に飲み干し食堂を出た
冷たい物による頭痛が襲ってきたが、甘んじてそれを受け入れた
('A`)「ハァー……」
気が紛れるのなら、痛みも苦しみもそんなに悪いもんじゃ無い
438
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 01:53:13 ID:9//7Mvdo0
ブーンが初日に言った通り、僻地の鎮守府にしてはかなり設備が整っている
中でもトレーニング用の備品に関してはどこよりも充実していた
(;'A`)「フーッ……フーッ……」
筋トレは好きだ。数を熟せば必ず結果が着いてくる。ベンチプレスも今や百四十を持ち上げられるようになった
兵学校時代も同期と競うように鍛えたものだ。思えば、やや過剰だったかもしれない。どうにも負けず嫌いな連中が多かったようだ
ある時、そんなアホ共の姿を見て誰かが言った。随分とやさぐれた表情で、吐き捨てるように
『どれほど鍛えたところで、艦娘にも深海棲艦にも敵うものか』
人間兵はあくまで艦娘の補助に過ぎない。戦車や火器を使って倒すことも可能だが、掛かる時間も労力も『主兵力』とは比べるまでもない
思えば、彼なりの忠告だったのかもしれない。肉体を強化しようが所詮人は人、怪物には敵わないのだから別の事に注力しろと
だがアホの一人は不快に思うどころか、寧ろイキイキとした表情でこう言い返した
『いいや勝てる!!俺は見た!!デカい矛一つで深海凄艦をぶった斬った男を!!』
反応は、大半が笑いを上げるかあざ笑うかであった。かく言う俺もその一人で、てっきり冗談か何かだと思ったのだ
最弱とも称される駆逐級でも、人からしてみれば装甲を纏い砲を抱えた鯨のようなものなのだ。アニメや漫画の読みすぎでもなけりゃ、信じる筈もない
だが、中には深妙な顔をして黙りこくる奴らもいた。俺以外にもその存在に気づいた奴もいたらしく、笑い声は徐々に小さくなっていく
『大洗でか?』
『ああ、お前も?』
『いや、俺は生き残った知り合いに聞いた』
かつて大洗を火蓋に世界中に被害と衝撃を齎した戦闘があった。通称、『列島事変』である
口に出すのも憚られる『学園艦凄姫』の侵攻の下、戦車道強豪チームである『大洗女子学園』に侵入を許し、戦場となった
政府は艦娘勢力だけでなく当時の陸自、海自を惜しみなく投入。更には国連が保有する対深海凄艦特殊部隊を要請し、対処にあたった
辛くも勝利したものの、犠牲者は大洗だけでも六万人に昇り、更には『学園艦』という巨大艦船にすら取り付く奴らへの恐怖は全世界の人類に驚愕と恐怖を与えたのだ
439
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 01:58:29 ID:9//7Mvdo0
『俺はSNSだ』
『ニュースにもなってなかったか?』
『ネット掲示板落ちるくらい盛り上がってたぞ』
二人の会話を揮発剤に、口々に『スーパーマン』の目撃情報が上がってくる
人が、火器も使わず深海凄艦を倒す。俺も笑いはしたが、一つ前例があったのを思い出した
『ドイツじゃナイフ一本で倒した奴がいたって聞いたぞ?』
『だがそれを真に受けたフランスが白兵部隊を投入して返り討ちに遭ったって言うじゃねえか!!』
ヨーロッパに大打撃を与えたベルリンでの戦闘記録に、とある少尉が敵旗艦をナイフで刺し殺したというものがある
深海凄艦上位種……所謂、『人型』に関しては、肉薄すれば人の力でも武器が刺さり、急所の位置も変わりはないという確実なデータはあるものの
結局、艦砲レベルの超火力を背負ってるバケモノには変わりなく、話の信憑性の確認もせずフランスで編成された白兵部隊は呆気なく犬死にした
その少尉とやらが神に愛されたラッキーマンなのか、それとも砲撃を食らってもビクともしない超人なのかは確かめる術はないが
少なくとも、深海凄艦に剣や槍などの原始的な武器で挑むなど無謀に変わりはない。ましてや、『この目で見た』などと言われても、幼稚なジョークにしか聞こえないのも無理はない
440
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 01:58:54 ID:9//7Mvdo0
『政府が極秘に開発した人型兵器とか?』
『既に艦娘がいるのに、白兵戦力にリソースを割く意味はあるのか?』
『艦娘の艤装に適応した数少ない人間って話も……』
喧々諤々の議論は白熱していった。信じられなくとも、夢のある話だったからだ
いくつになっても男は『スーパーヒーロー』に憧れる。未知の敵対生物との戦争真っ只中なら余計にだ
『なぁ、そいつはどんな奴だったんだ?アイアンマンみたく、スーツでも着ていたのか?』
最初に『見た』と言った男は、その質問に対して目を煌めかせながら捲し上げた
『パンッパンの筋肉に身の丈の二倍はある矛を振り回して、艦娘を率いて深海のクソ共をぶっ殺して回った!!』
『豪快な光景だった!!命の危険が迫ってるにも関わらず、俺は逃げるのも忘れて見入っちまった!!艦娘が勝利の女神とするのなら、彼はまさしく軍神だ!!』
『何より惹かれたのは、顔を特徴的なマスクで覆い隠してたってとこだ!!痺れるじゃねえか!!まさにスーパーヒーローだった!!』
俺は合いの手も込めてこう聞いた
「どんなマスクだったんだ?」
『へへ……シンプルなもんだったぜ。アルファベット一文字で……』
441
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 02:00:06 ID:9//7Mvdo0
『( T)』
.
442
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 02:01:11 ID:9//7Mvdo0
(;^ω^)「ドク、ドク!!」
(;'A`)「ッ!!」
(;^ω^)「潰れちまうお!!オイ!!」
ブーンの声が回想から意識を引き上げる。いつの間にか持ち上げる事をやめていたバーベルが、胸を圧迫していた
道理で息苦しい筈だ。恥ずかしながら自力で持ち上げる体力は残っていないらしく
(;'A`)「悪い……手伝ってくれ」
(;^ω^)「お、おお……」
ブーンの手を借りて過負荷から逃れられた
(;^ω^)「ストイックも結構だけど、余力を考えてトレーニングしろよ。自殺願望でもあんのかお?」
('A`)「……すまん」
(;^ω^)「あ、ごめ、今のデリカシーない発言だったお」
('A`)「気にしねえよ……迷惑掛けたのは事実だしな」
(:^ω^)「ん」
差し出されたスポーツドリンクを受け取り、礼を言ってから一息に半分を飲み込んだ
ブーンは向かいのベンチに座り、ジッと俺の顔を見据えてくる
暑苦しいのに暑苦しいものを見せられているが、救われた以上文句も言えない
('A`)「……あのよ」
どうにも気まずくなり、今しがた思い出した話を切り出すことにした
443
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 02:02:11 ID:9//7Mvdo0
('A`)「人が、白兵戦で深海凄艦を殺す事は可能か?」
( ^ω^)「何いきなり怖……」
('A`)「与太話だ。深く考えなくてもいい」
ブーンは腕を組んで天井を仰ぎ、しばし唸って
( ^ω^)「出来る。ただし、状況による」
と答えた
('A`)「その心は?」
( ^ω^)「極端な話、ドチャクソに拘束された人型深海凄艦なら女子供でも心臓一刺しで殺せるお。その必要があるのかどうかは別として」
状況を想像して、思わず吹き出してしまった
実に黒い冗談だ。そんなもん深海凄艦に限った話じゃないしな
( ^ω^)「戦場だと……真正面からは余程の幸運に恵まれてない限りは無理だお。奇襲、強襲による隙を突いた戦術なら、低確率だろうけど成功する。あるいは……」
('A`)「あるいは?」
( ^ω^)「対深海凄艦を想定して編制、訓練された部隊なら、真正面からぶつかっても打ち勝てるお」
眉を顰めた。今、こいつは『打ち勝てる』と言い切った
まるでそんな馬鹿みたいな部隊が『いる』と知っているかのような口振りで
そんな俺の反応を見て、ブーンは肩を竦めた
444
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 02:04:24 ID:9//7Mvdo0
( ^ω^)「可笑しな話じゃないお。艦娘が投入される以前なら、どんな手段を用いてでも奴らに対抗する必要はあった。それこそ、足軽よろしく剣と槍を背負って戦った兵士だっているだろうし」
('A`)「……ここの、提督もか?」
( ^ω^)「あれ?結構有名な話だと思ってたんだけど……」
旧友が見たという『スーパーヒーロー』の話に信憑性が増した
メディアが取り上げた『大犯罪者』の実情は負の側面ばかりだった。俺もそれに染まっちまっていたらしい
( ^ω^)「戦歴なら艦娘を凌ぐ数少ない叩き上げの提督だったらしいお。指揮、訓練だけでなく自らが前線に立ち、先陣を切った戦人だったとも。時代錯誤もいいとこだおね」
('A`)「……」
提督に対する個人的なイメージは『指揮官』で固定されている。ましてや、俺が経験した戦場で、前線に立ったなんて話は一度もない
艦娘を題材にしたライトノベルやアニメなんかもあるが、その殆どが艦娘のハーレムを侍らせる誠実な提督像だ
見るに堪えないオタク向けの作品を、よくもまぁ作り上げたものだと感心はしたが
徴兵の活性化、軍のマイナスイメージの払拭には、ある程度の貢献はしたのでは無いだろうか
( ^ω^)「これでも元整備士だお。戦場から帰ってきた艦娘と話す機会も多かった。みんな口々に『あそこの鎮守府は頭と戦闘力ヤバい』と言ってたお」
('A`)「限界化したオタクみたいになってんな」
( ^ω^)「草。もっと具体的に話すと、かなりの戦闘狂集団だったらしいお。提督も艦娘も、嬉々として敵を皆殺しにする連中ばかりだったって」
提督は兎も角、艦娘までその有様とは恐れ入る。世界最強の部隊は性格も一味違うらしい
好戦的な艦娘もいるにはいるが、それらを差し置いて『ヤバい』と言わしめる程には狂っていたのではないだろうか
445
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 02:05:31 ID:9//7Mvdo0
( ^ω^)「彼や鎮守府に纏わる黒い噂は別として、数多くの戦場で戦果を挙げたのもまた事実。日本が今まで持ち堪えたのも、彼らの貢献があってこそだと思うお」
('A`)「……随分と肩を持つんだな」
( ^ω^)「おっと、話が脱線しちゃったお。とにかく、人は深海凄艦も倒せる力を持ってる。この中じゃ、お前が一番近いだろうよ」
('A`)「へっ……ご期待に添えそうには無いがな」
( ^ω^)「謙虚で結構。戦場じゃ無謀な奴から早死にするお……そんじゃ、仕事に戻りますかね」
ブーンは膝をパンと叩いて立ち上がる。去り際に
( ^ω^)「ああ、そうそう。彼はその三倍の重さを毎日持ち上げてたらしいお」
と、言い残し、ジムを後にした
('A`)「三倍……三倍?」
人にもバケモンはいるらしい。そんな感想を抱いた後に、ブーンの発言が引っかかった
('A`)「なんで知ってんだよ。そんな事……」
一週間程度じゃ、腹の内を覗き込められない
いつかその答えを聞ける日が来るのだろうか
446
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/08(土) 02:10:42 ID:9//7Mvdo0
今日はここまで
大洗やらドイツやらなんのこっちゃって人は7Xさんに同世界線のシリーズがまとめられているので頑張って読んでください
http://nanabatu.sakura.ne.jp/boon/dokuo_sinkaiseikanto_tatakau.html
447
:
名無しさん
:2019/06/08(土) 06:20:01 ID:H/mhJCEg0
おつ
あっちも読んでるから色々ネタがわかってニヤニヤしてる
448
:
名無しさん
:2019/06/09(日) 00:13:18 ID:.G01QSG20
おつさまー
筆が早くて嬉しいが向こうが終わる前にこっちが終わりそうだw
449
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/12(水) 23:41:03 ID:4I3ELPCY0
―――――
―――
―
(´・ω・`)「ブーンが何か隠してる?」
('A`)「おう」
『夏休み』も終わり、いよいよ秋が準備運動を始めた頃
俺は数日間抱き続けたブーンに対する不信感をショボンに打ち明けた
(´・ω・`)「どうしてそう思うんだ?」
('A`)「ここの提督の話を聞かせてもらってな。やけに肩を持つような口振りだった」
(´・ω・`)「ほーん……っと!!」
倉庫で見つけた釣竿を海へ目掛けて勢いよく降る
魚肉ソーセージが付いた針は、十数メートル先で小さな波紋を立てて沈んでいった
今日は食いつきが良く、クーラーボックスの中身は半分ほど魚で埋まっている
(´・ω・`)「考えすぎだと思うがね。それこそ、あいつがいた鎮守府の艦娘に聞いた話かもしれねえし」
('A`)「まぁ……そうだけどよっと!!」
俺の放った針は、ショボンのものよりやや遠くに落ちる
(´・ω・`)「飛ばすねえ〜」
('A`)「どうも。俺も疑いたくは無いが、歯に物が挟まったみてえにずっと気になっててな」
(´^ω^`)「俺ら腐っても犯罪者だからな!!ガハハ!!」
笑い事じゃ無いが、釣られて俺も微笑を漏らす
この十数日間ですっかりこいつらの空気に飲まれちまったらしい
450
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/12(水) 23:41:50 ID:4I3ELPCY0
(´・ω・`)「それこそ、直接聞きゃあいいじゃねえか。かの有名なディレクターはこう言った。『腹を割って話そう!!』ってな」
('A`)「髭のオッサンと同じ方法で聞き出せると思うか?」
(´・ω・`)「俺ならキレる」
('A`)「だろうよ……それに、『これ』もある。迂闊には踏み込めねえよ」
左手首の腕輪には、どれだけ時間が経とうが慣れない
戦場でも死は隣り合わせだったが、管理されてはいなかった。気まぐれ一つ、故障一つでドカンだ。気が気では無い
(´・ω・`)「ブーンが俺らの監視者だと?」
('A`)「そうは言ってねえけどさぁ……」
(´・ω・`)「疑い深いのも結構だが、度が過ぎると友人を失くすぜ?」
('A`)「手痛い忠告だな。痛み入るよ」
(´・ω・`)「っあー……すまん」
('A`)「いいさ。自業自得だ」
我ながら嫌味な性格で辟易する。捻くれた性根は一度死にかけても治らないらしい
(´・ω・`)「ふむ……あいつがここに来た原因は聞いてるか?」
('A`)「いや……工廠で何かしら起こしたって事くらいしか」
(´・ω・`)「ふーん……」
('A`)「そっちは?」
(´・ω・`)「一緒だよ。そんで、毎日工廠でシコシコ作ってる物に関してもはぐらかされてばかりだ」
なんだよ、怪しさ満点じゃねえか
451
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/12(水) 23:43:39 ID:4I3ELPCY0
(´・ω・`)「つっても、ここにいる時点で俺らは極悪人だ。そりゃ闇の一つや二つ抱えてるだろうよ。小せえ事を気にしたってしょうがねえさ」
('A`)「楽観的だな……」
(´・ω・`)「……怖いか?」
('A`)「……」
『怖い』。確かにそうなのかもしれない
それは『友人』という関係そのものかもしれないし、『裏切り』という可能性に対してかもしれない
俺は一度道を踏み外した。二度目だって、そう、恐らく、容易く踏み外してしまうのだろう
(´・ω・`)「難儀だな……」
ショボンは俺の返答を待たず、タバコに火を着ける
魚は満腹になったのか、いつの間にか竿はピクリとも動かなくなった
(´・ω・`)「フゥー……そんじゃ、疑り深いドクオくんの為に、年長者の昔話でもしましょうかね」
('A`)「昔話……?」
(´・ω・`)「フェアじゃねえだろ?お前一人が腹の中を早々に晒して、俺らはだんまりなんてよ」
『そんなつもりじゃない』と言いかけて、好奇心が食いとどめた
いや、俺が交わした会話は裏返せば過去の詳細を話さないショボンも疑っているとも読み取れる
迂闊な発言だったが、多分、いつかは知らなければならない話なのだろう。黙って耳を傾けることにした
452
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/12(水) 23:44:31 ID:4I3ELPCY0
(´・ω・`)「長いこと軍でメシ炊きやってるとよ、毎日大勢の兵士と顔合わすんだ。キツい訓練期間でも、食う時だけは良い顔しててな。その顔を見るのが好きだった」
(´・ω・`)「だが浮かない顔もある。戦場で友が死んだ時に浮かれた表情をする奴はいない。それだけならまだ良いさ。死んだ奴たぁ二度と顔を合わせられない」
('A`)「……」
(´・ω・`)「ある時、俺に鎮守府への転勤指令が出た。配食兵にとっちゃ花形の仕事でな、同僚から羨ましがられたよ」
(´・ω・`)「だけど気が進まなくてな。一度は断りを入れたんだが、腕を見込んだ上での強い希望と言われちゃ悪い気も起こらず、結局受けることとなった」
(´・ω・`)「初日は頭がクラクラしたよ。男所帯の風景から一転して、美女が大半を占める施設に移ったんだからな。ああ、勘違いしてもらっちゃ困るが分別はちゃんとついてたさ」
('A`)「……ああ、わかってる」
(´^ω^`)「ハハ、どうも。だけどよ、言っちゃ悪いがむさ苦しい野郎と顔を付き合わせるよりもほんの少しだけ気分は良かった。こんな話聞かれちゃ、ボロクソに叩かれるだろうがな」
そう言って青空を仰ぎ、口から煙を吐き出した
多分、鎮守府に勤務する前もこうして兵士達と軽口を叩きあっていたのだろう
信頼と友情が成せる言葉のプロレス。これもまた、『二度と顔を合わせられない奴』に向けた言葉なのかもしれない
(´・ω・`)「艦娘ってのは驚くべきもんで、小さなガキですら戦場に出る。ガキらしい無邪気さを抱えたままな」
(´・ω・`)「ある日、休憩時間中に一人の駆逐艦娘が食堂を覗いてた。長い赤髪で、特徴的な語尾の睦月型でな」
(´・ω・`)「気まぐれで適当なおやつを作って振舞ってやったら、大層喜んだ。それを見て、俺も腹が膨らんでいくかのように嬉しかったよ。もし自分に子供がいれば、こんな気分なんだろうなってよ」
(´・ω・`)「それから、あの子は姉妹艦を連れて頻繁に遊びにきた。おっちゃんおっちゃんと人懐っこくな。俺も調子に乗って手を替え品を替えて美味いもん作ってやった。人生に絶頂期があるとするならば、あの時だろうぜ」
('A`)「……良い環境だったんだな」
453
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/12(水) 23:45:54 ID:4I3ELPCY0
直属の上官を除く鎮守府配属兵との必要以上の接触を禁じる鎮守府も少なくないと聞く
ショボンがいた鎮守府は、艦娘に自由を与えて好きにさせるだけの余裕はあったらしい
だが、それが必ずしも『良い事』に繋がるかはまた別だ
(´・ω・`)「ああ、上層部からも好評の鎮守府だったよ」
打って変わって吐き捨てるように言った。規律を重んじる上層部が自由な環境を『良し』とするとは思えない
もしもその鎮守府がショボンの理想通りの場所だったなら、今も艦娘に飯を振舞っていた筈だ
(´・ω・`)「しばらく経ってから、顔見知りの一人が『はじめまして』と挨拶をした。俺は冗談か何かかと思って笑ったんだが、キョトンとしていた」
(´・ω・`)「傍の睦月型は、下唇を噛んで俯いていたよ。だけど、俺の視線に気づくと健気にも笑顔を作って応えた」
(´・ω・`)「深く踏み込んじゃいけねえと思って、俺はいつも通りおやつを振舞った。それもまた、初めてのように眺めてきた」
(´・ω・`)「彼女達が帰ると、同僚が事情を話してくれたよ。『彼女は戦闘による損失を補う新造艦』だってな」
('A`)「……」
日本が何故、世界最大の艦娘保有国なのか。それは彼女達を『造る環境』が整っているからだ
練度こそ一からだが、資材さえあれば『艤装』と、それを操る『艦娘』を複製出来る
例え轟沈しても、同じ顔、同じ声、同じ武装の兵士を再び造り出せるのだ
454
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/12(水) 23:47:28 ID:4I3ELPCY0
(´・ω・`)「ショックで声が出なかったのは初めてだった。同僚は努めて平静を装っていたが、目の色は暗く沈んでいた」
(´・ω・`)「『あまり情を掛けると、お前が壊れてしまう。ほどほどにしておけ』。遅い忠告だったが、俺が逆の立場でも早々に言えなかっただろう。そこには確かに幸福があって、ぶち壊すような真似はできない」
俺達は戦争をしている。仲間との死別は日常であり、珍しいものではない。人は死ねば二度と会うことが出来ないなど、小学生でも理解している
だが、艦娘という『イレギュラー』となると話は別だ。些細な差はあるだろうが、艦種ごとに定型化された『モデル』が幾らでも量産できる
友達が死んだその日に全く同じ姿で中身が空っぽの『別人』が現れるようなものだ。不気味だろうが、一人ならまだ耐えられるだろう。しかし
(´・ω・`)「また一人、また一人と、あいつらは同じ姿で入れ替わっていった。中には入れ替わりのスパンが短い子もいたな」
それが二度、三度と続けばどうだ?普通の人間ならまともではいられない。親しい人物なら猶更だ
('A`)「……好評ってのは、そういうことか」
(´・ω・`)「フーッ……別に、とびきりのクズ野郎じゃねえ。そこそこ有能な提督だったよ。有能故に、犠牲を伴う作戦も即座に実行した。強い、強い部隊だった」
情け深い者に指揮官は務まらない。例え確実に一定数の部下が亡くなろうとも、勝つためにはリスクを背負わなければならない
酷な言い方になるが、兵を『数字』として捉え、極めて冷徹に使い捨てられる人材こそ、『武将』に相応しい
ショボンも軍人だ、ちゃんと弁えているだろう。だからこそ、『有能な提督』に対する怒りの感情は聞き取れなかった
455
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/12(水) 23:49:37 ID:4I3ELPCY0
(´・ω・`)「誰が責められるかよ。きっとあの提督だって、最初は苦渋の決断だったはずだ。だけどよ、人間ってのは良くも悪くも『慣れる』もんだ」
(´・ω・`)「繰り返し繰り返し……死んでは生き返る彼女たちを見続けて、彼は戦争に馴染んでしまった」
(´・ω・`)「フーッ……誰が責められるかよ……良心、道徳、人として大事なもん忘れちまってまで、深海棲艦っつー理不尽に抗ってる男をよ……」
きっと、以前テレビで見たデモ隊の連中は、その提督を前に『大量殺人者』とでもがなり立てるのだろう
何も知らない連中は、無知ゆえに彼を責め立てるのだろう。安寧の上に成り立つ正義を振りかざしながら
('A`)「……」
そして、誰よりも彼を責めたい筈のショボンは、失う苦しみを知っているが故に
ただ、深く静かに同情する他ない。誰かが背負わねばならない重圧を引き受けた『提督』に対して
('A`)「……さっき俺に難儀と言ったが、アンタも大概だぜ」
(´^ω^`)「……ああ、そうだな」
世界は、優しい人間の為に回っちゃいないらしい
胸の中を覆う世知辛さを打ち消そうと、俺もタバコに火を着けた
456
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/12(水) 23:52:27 ID:4I3ELPCY0
今日はここまで
夕方にティンコの短編投下したんで興味ある方は是非
457
:
名無しさん
:2019/06/13(木) 22:17:54 ID:jOwxB/kY0
過去作読んだぞ、面白かったぞ、続き待ってるぞ
458
:
名無しさん
:2019/06/13(木) 23:15:26 ID:DEc5RqPo0
◆L6OaR8HKlkに聞きたいんだけどこれって乗っ取り?
それとも◆HS4z8y6JHcと◆L6OaR8HKlkは同一人物ってこと?
459
:
名無しさん
:2019/06/15(土) 02:20:19 ID:OhNVHBLI0
おっつおっつ
ティンコ見つからないんだけど違う板?
460
:
名無しさん
:2019/06/16(日) 17:02:07 ID:mhDixWwE0
2板にあるだろ
461
:
名無しさん
:2019/06/16(日) 17:03:22 ID:mhDixWwE0
>>458
同一人物
ブン動会用の作品だからトリップが違う
462
:
名無しさん
:2019/06/17(月) 23:36:00 ID:8EPUmUSc0
>>461
理解した、ありがとう
463
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 21:49:44 ID:fMBqo9P.0
(´・ω・`)「彼と比べて、俺は自分勝手で臆病な人間だ。日に日に増していく不安と恐怖を飲み込み、納得させられなかった」
(´・ω・`)「勤務して一年が経とうって頃だろうか、いよいよ俺は耐えきれなくなって、馬鹿な真似をしでかしちまった」
('A`)「……誘拐か」
(´^ω^`)「ああ……遊びに連れてくっつって、無許可でな。築き上げた信頼を盾に、白昼堂々と連れ出したよ」
まるで悪戯のネタをバラしたかのように、楽しそうに自分の罪を語った
(´^ω^`)「初めて出会った睦月型を一人、助手席に乗せて遊園地へと連れて行った。俺の胸中には深い後悔と罪悪感があったが、ウキウキとした笑顔の前ではそれも霞んだよ」
(´^ω^`)「多分、俺はこの時点で既に諦めてたんだろう。ただの駆け落ちとはワケが違う、軍の抱える重要機密の半身を無断で連れ出して、安住など得られるはずがないって」
(´^ω^`)「でもよ、だけどよ……自制が効かなかった。何か起こさなかったら、この子は明日にでも『新しく』なってしまうんじゃないかって思うと、気が気じゃなかった」
('A`)「……」
はさみ持つタバコの灰が、まとめてボロリと崩れ落ちる。『燃える』だけの役目を果たし終え、今やただのゴミとなった
ショボンの話を前に、『吸う』如きの動作も出来ずにただ固まっていた。余りにも切なく、救いがなく、意味が無かった
(´^ω^`)「寂れた遊園地に到着して、ガラガラの園内で『貸切だ』とはしゃいだよ。大してスピードも迫力もないジェットコースターで膝がガクガクになった俺を笑ったり、コーヒーカップ回しすぎて気持ち悪くなったりよ」
(´^ω^`)「昼にはフードコートで飯を食った。『おじちゃんのご飯の方が美味しいぴょん』なんてお世辞に照れたりもしたな。クソ高くてカラフルな綿飴には、目を輝かせてやがった」
(´^ω^`)「動物園も回った。猿に餌やったり、乗馬体験なんかも楽しそうにしてた。ふれあいコーナーでモルモットと遊ぶ姿を見て、カメラを持ってこなかったのを後悔した」
(;'A`)「オッサン、もう……」
音を上げたのは、俺が先だった。結末は既に『ここ』にある。辛すぎて、最後まで聞ける勇気がない
それでもショボンは、取り憑かれたかのように過去を語る。神の前に懺悔でも、しているかのように
464
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 21:50:40 ID:fMBqo9P.0
(´^ω^`)「閉園時間になって、手を繋いで遊園地を出た。『楽しかったか?』そう聞くと」
(´^ω^`)「『楽しかった!!これで明日からも頑張れるぴょん!!』と答えた。俺は、『そうか』としか返せなかった」
(´^ω^`)「駐車場では、案の定憲兵が待機していたよ。怒り狂ってるっつーよりは、どこか寂し気にな。込み上げるモンがあったよ。人も捨てたもんじゃねえなって」
(´^ω^`)「あの子は不安げに俺の顔を見上げた。知らねえ大人が車の周りにいるんだから当然だよな。だから俺は視線を合わせて、奥歯を噛み締めながらこう諭した」
(´^ω^`)「『おっちゃんはこの後、お仕事があるんだ。帰りはあの人達が送ってくれる。安心しろ、提督さんのお友達だから』」
(;'A`)「ッ……」
鼻先にツンと何かが昇り、短く啜り上げた
今の俺は、その時のショボンと同じような表情をしているのだろうか
(´^ω^`)「憲兵も優しく接してくれたよ。わざわざ電話で忙しいであろう提督を呼び出して、通話させる程にな」
(´^ω^`)「彼から事情を聞いたあの子は、パァと顔を明るくさせた。多分、俺に対して悪いことは話さなかったのだろう。つくづく、出来た提督だった」
(´^ω^`)「『おっちゃん!!お仕事、頑張るぴょん!!今日はありがとう、楽しかった!!』」
(´^ω^`)「あの子は乗せられた車の窓から手を振った。馬鹿野郎にはもったいない程の、最高の笑顔でな。俺も、いつも通り手を振り返した」
(´^ω^`)「それが『卯月』との最期だった」
.
465
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 21:52:18 ID:fMBqo9P.0
(;'A`)「……それから?」
(´・ω・`)「ご想像の通りさ……俺は晴れて誘拐犯として御用、収監されて地位と職と人生を失った」
(;'A`)「減刑……されなかったのか?」
(´・ω・`)「されたさ。だから俺は今も生きている。提督は、わざわざ上層部に頭を下げてくれたらしい。こんなクズの為にな」
(´・ω・`)「面会に訪れた彼はこう言った。『凡将の私には、こんな無様な戦しか出来ない。すまない、申し訳ない』と。額を床に擦り付ける俺に、これだけ告げて去った」
(;'A`)「……なんで、なら、猶更……!!」
勝手が起こした事件なのは変わりない。だが、上官が事情を理解して、減刑まで願い出て、どうして―――
(;'A`)「アンタはここにいるんだよ……ッ!!」
(´・ω・`)「……」
この『優しい男』は、島送りにされなければならないのだろうか
(´・ω・`)「……都合が、悪かったからだ」
(;'A`)「都合……?」
(´・ω・`)「軍にとって、いや、世界にとって、艦娘は主戦力としてなくてはならない存在だ。常に、勝利の女神としてあり続けなければならない」
(´・ω・`)「そんな彼女達を人情で連れ出したなんて前例を一つでも公にしてみろ。きっと俺のようなバカは二人、三人と続く。その規模が膨らめば、組織の崩壊にも繋がり兼ねない」
(´・ω・`)「だから……俺を我欲に駆られたクソ野郎として扱う他なかった。ハハ、まぁ実際、その通りだがよ」
(;'A`)「ッ……」
常々、世の中とは儘ならないものだと感じる。かたや戦場で娼婦の真似事をさせられる艦娘もいれば
艦娘に支えられている今のシステムを崩壊させないために、必要以上の罪を着せられる男もいる
この世を作った神様は、よほど胸糞悪い世界をご所望らしい。演じる役者たちの気持ちなど、露とも知らずに
466
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 21:53:43 ID:fMBqo9P.0
(´・ω・`)「恵まれてるよ。優しい人間に救われて、変態扱いされながらその後の人生を豚箱で過ごすだけで済んでんだ」
(´・ω・`)「情にかられた人間ってだけで、大層な優遇だ。恥ずかしいよ。出来ることなら、深海凄艦目掛けて自爆特攻でもさせて欲しかった」
(;'A`)「……」
(´・ω・`)「数ヶ月後、かつての同僚から卯月が『生まれ変わった』と知らされた。いつもの様に戦場へ出て、立派に戦果を挙げた帰りに襲撃されてな。姉妹艦を庇って、沈んだそうだ」
(´・ω・`)「俺と別れてからも毎日のように食堂を訪れては、『いつ帰る?いつ会える?』と訪ねてたそうだ。届かなかった手紙の束も受け取ったよ」
(´・ω・`)「同僚は心を病んで、仕事を辞めた。俺に対する恨み節はなかった。ただ一言、『早まった真似はするな』とだけ告げた」
(´・ω・`)「独房で手紙を抱きかかえながら、何度も何度も後悔したよ。『こんな事になるなら』『寂しい思いをさせるくらいなら』『最後のその日まで、あの子に付き添ってあげられたら』」
(うA`)「……」
遂に耐えきれなくなり、目尻を拭った。なんて事はない、兵士の戦死だ
聞き慣れた、見慣れた、ありふれた日常だ。死を軽く扱えるようになったから、俺も『あんな真似』をしてしまったのに
人を、艦娘を深く想っているショボンの言葉は、正真正銘のクズである俺の心に深く、深く突き刺さった
467
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 21:55:27 ID:fMBqo9P.0
(´・ω・`)「自分が許せなかった。後を追おうとした。だけど出来なかった。提督の、憲兵の、同僚の心を裏切る真似だった」
(´・ω・`)「何より、あの子の言葉が俺を踏みとどませた。『お仕事、頑張って』と」
(´・ω・`)「そしてこう思うようになった。俺が数々の人の縁でクソッタレな人生を延長させて貰えたのは、『お仕事』をやり遂げさせる為だったのだろうと」
('A`)「仕事……」
(´・ω・`)「俺はブーンのように艤装を弄れるくれーの学や技術はねえ。お前のように戦場へ出向けるほどの腕っ節も度胸もねえ。あるのはメシを作る腕一つ。明日への活力と、喜びを齎す料理の腕だけだ」
(´・ω・`)「だから……呪われた場所だろうと、たった二人にしかメシを振る舞えないとしても、俺は心底嬉しかった。『仕事』は残っていた。腐るだけの人生ではなくなったってな」
('A`)「……」
(´^ω^`)「と、これがとあるバカのしでかした罪だ。笑えねえ話を長々とすまねえな」
('A`)「……ああ、笑えねえよ。全く笑えねえ」
彼が何故、ブーンに対して寛容だったのかがよく分かった
人を信じ、人に救われた彼だからこそ、些細な不信感など取るに足らないのだろうと
俺とは正反対だ。戦友に失望し、一方的に始末を着けた、『裏切られ、裏切った』俺とは
(´^ω^`)「こんな俺だからよ、お前が浜風を助けたって聞いた時は……こう言っちゃなんだが、嬉しかったよ。理不尽に我慢ならなかった馬鹿野郎は、俺以外にもいたんだなって」
('A`)「……助けたつもりなんて微塵もねえよ。ただ、勝手に怒り狂って判断を誤っただけだ」
(´^ω^`)「お前にとっちゃそうかもな……だが、どんな方法であろうとも確実に『一人』の尊厳は守った。それもまた、『優しい人間』に出来る勇気ある行動だと思うぜ」
468
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 21:56:44 ID:fMBqo9P.0
('A`)「……過大評価が過ぎるぜ、オッサン」
(´^ω^`)「それもそうかもな……っと、これ以上粘っても釣果はねえか。俺は引き上げるぜ」
ショボンは釣り糸を巻き上げ、クーラーボックスを持ち上げた
(´^ω^`)「時間だけはたっぷりある。じっくり考えて答えを出せ。信じる、信じないもお前次第だ」
('A`)「ああ……そうするよ」
(´^ω^`)「そんじゃ、俺は『仕事』に戻るぜ。釣られた魚も報われるほど、飛び切り美味いメシを作ってやる」
('A`)「……」
少なくとも一つ、分かったことがある。ショボンはその一言に、毎日の料理に、想像を絶する荷を背負いながら向き合っている
努めて笑顔を絶やさないその裏に、心の傷と深い悲しみを隠しながら、『卯月』の言葉を支えに今日も『生き』、『働いている』
('A`)「オッサン!!」
(´・ω・`)「ん?」
俺が抱いた彼への『尊敬』の念は、衝動的に去り行く背中に声を掛けた
('A`)「ありがとう、話をしてくれて」
(´^ω^`)「……なぁに、これでフェアだ。礼は無粋だぜ、『兄弟』」
『兄弟』、俺には畏れ多い関係だ。だが、相反して嬉しくもあった。再び前を向いて歩き出した彼に、俺は深々と頭を下げた
人の縁は生き方を変える。多少時間は掛かったが、『この場所へ来て良かった』と思えていた―――
469
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 21:58:59 ID:fMBqo9P.0
―――――
―――
―
( ^ω^)「畑の様子見てくる」
(´^ω^`)「死じゃん」
外は轟々と風が吹き荒れ、窓ガラスが割れんばかりに激しく雨粒が叩きつけられる
一つ目の大きな渦巻は、天気予報図上でちょうど鎮守府に差し掛かったところだった
( ^ω^)「お外で遊べないお……」
('A`)「活発に動くようなナリかよ」
( ^ω^)「デブはお外で遊んだらアカンのか?お?」
ブーンとは今だ腹の中を晒しあってはいない。差し当たって、俺は『前提』の確認をしようと思ったからだ
『前任提督』の真相。ショボンが悪名を被らされたように、軍とメディアによってねじ曲げられた可能性がある
(´・ω・`)「こんな天候で見張りもクソもねえだろ。一局打とうぜ」
( ^ω^)「よっしゃ、用意するお」
('A`)「あー、いや、俺は遠慮しとく」
折角の麻雀の誘いだが、天候による時間の空きは有効活用したい
アレから一度も足を踏み入れていなかった執務室を調査する事にした
( ^ω^)「またトレーニングかお?もう潰されても助けねえぞ」
('A`)「へいへい重々承知してますよ。また後でな」
(´・ω・`)「そんじゃ、俺らはどうぶつ将棋でも打つか」
( ^ω^)「普通の将棋でよくない?秒で決着つくじゃん」
470
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 22:00:37 ID:fMBqo9P.0
('A`)「……」
娯楽室へ向かう二人と別れ、昼下がりとは思えない薄暗さの廊下をひた進む
古い木造の校舎はある程度の補強が施されてはいるが、それでもどこかの屋根が飛ぶのではないかと不安に思えてしまう
('A`)「……」
不安は台風だけではない。嵐に乗じて、深海凄艦が現れるかもしれない
前任提督の失脚後、この海域には一度も奴らは現れていないらしい。艦娘が一人も配備されていない理由の一つだ
皮肉にも、数々の恐ろしい曰くを抱えながら、この日本で最も平和な海だと言えるのだ
('A`)「……」
それでも、俺はこの施設を少人数で管理し続ける意味がわからなかった
僻地に居を構えようとも太平洋に面する一大拠点。攻め込まれれば内地へ侵攻されるのは目に見えている
例え呪われていようが、鎮守府として機能するのであれば艦娘を常任させるのが普通ではないか?
('A`)「解せねえよな……」
真っ当な人生を失ったからと言って、思考は放棄するもんじゃない
海軍はきっと何かを隠している。ただ厄介払いをする為に俺らを送り込んだわけでもないだろう
『意味はある』。そして、その意味は鎮守府に隠されているはずだ
('A`)「……」
だからこそ、俺は目の前に鎮座する『部屋』に向き合わねばならない
『鈴の音』に導かれ、一度は訪れた、彼の居座っていた執務室に
('A`)「スー、フゥー……」
深呼吸で緊張を和らげ、ドアノブを回す。俺の気持ちなど全く省みず、扉はスムーズに開いた
変わらない。初日と何一つ、微動だにしない部屋が広がっている。締め切られたカーテンによって、廊下よりも薄暗い事を除けば
471
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 22:01:28 ID:fMBqo9P.0
('A`)「……邪魔すんぜ」
返事がない事に安心しつつ、再び中へと足を踏み入れる。機能していないとはいえ、鎮守府を束ねる長の部屋だ。自然と気は引き締まった
電灯を点け、一先ず周りを見渡した。決して広いとは言えないが、ここから過去の痕跡を辿るのは一苦労だろう
('A`)「さてさて……」
少し前の俺なら、この段階でアホくさくなって止めたはずだ。『資料など残っているものか』『真っ先に押収されるに決まってる』と
だが今は、妙な確信があった。『鈴の音』の事もあるし、そして何より、引き出しの中に『彼の顔』が残っていた
『小練 詩音』が海軍にとって最大の汚点であるのなら、例え『記念』だとしてもそんな物を残すはずがない。彼に関する何もかもを抹消して然るべきだろう
勝手な推測だが、もしかすると『見つけて貰う為』に在ったのだとしたら―――
('A`)「……簡単じゃねえか」
前言撤回だ。確認すべき場所など一か所しかない
他の何にも目をくれず、執務机へと向かい不躾に椅子へ腰を下ろし
('A`)「……」
引き出しを、開けた
【 (キT) 】
.
472
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 22:05:03 ID:fMBqo9P.0
(;'A`)「ッ……」
相変わらず、生々しい存在感を放つマスクだ。今にも語り掛けてきそうではないか
しかしただの『布』にいつまでも怖気づいてはいられない。両手で掬い上げるように、引き出しから持ち出した
(;'A`)「……」
随分と年季の入った布地で、黄色い糸で縫い合わされた箇所は、薄い染みが広がっている
色見と、『頬』に当たる位置から考えると恐らく……切り傷によって広がった血染みではないだろうか
常に身に着けていた事を鑑みると、予備が幾つかあっても可笑しくはないと思うが
('A`)「思い入れでもあったのかね……」
丁寧に縫い直されているのを見るに、余程大事に着用していた物らしい
('A`)「ふむ……」
そして一番の謎と言えば、見た感じ視界を確保する穴が開いてないこのマスクで、どうやって日常生活を過ごしていたのだろうか?
ちょうど目の位置を横切る『T』の横線も、メッシュ生地でもない。かと言って、カメラやマウントディスプレイが搭載されているワケでもない
('A`)「あー……どうすっかな」
どうするもこうするもない。簡単な話だ。現物がそこにあるんだから『確かめればいい』
誰に見られているわけでもないが、一応辺りを見回して人気が無いのを確認した。なんで悪い事してる気分になってんだ
('A`)「よし……」
履き口……いや、この場合『被り口』か。伸縮性抜群のゴム紐を広げて、一息に被ろうとして
(;'A`)「っ……」
『のろいのそうび』という間の悪いワードが頭に浮かび、躊躇ってしまった
取れねえんだっけ……ああ、クソッタレ。今更なんだ。ゲーム脳か俺は
473
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 22:06:39 ID:fMBqo9P.0
(;'A`)「……フーッ」
取れなかったところで、ブサイクなツラが隠されるだけだ。どうってことねえ
(;'A`)「よし、せーのッ!!」
気合と勢いに任せ、俺は今度こそマスクを
(キT)「オラッ!!」
顎下まで一気に被った……
(キT)「……?」
よな……?
474
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 22:09:34 ID:fMBqo9P.0
(キT)「いや、これ……」
被り心地がいい……なんてもんじゃなく、被った心地が『しない』
それだけじゃない。視界は被る前と一切合切変わりなく、息苦しさも感じなかった
まるで新しい皮膚が顔面に『張り付いた』かのように、自然と馴染んでいるではないか
(キ;T)「うわ気っ持ち悪!!気持ち悪!!!!!!」
しかし外れないかと言われればそうでもなく、普通のマスクと同じように簡単に脱着出来る
気味が悪いのは確かだが、『のろいのそうび』の類では無さそうだ
(キ;T)「ハァ……で?」
わかったのは、とりあえずこれが謎の超技術で作られた特別製のマスクって事だけだ
期待はしてなかったが、マウントディスプレイが広がって耳元でスーパーAIが語り掛けてくれた方がまだ夢がある
アメコミ映画の観過ぎか。一人で盛り上がってたのがバカみたいだ。サッサと脱いでしまおう
(キT)「あ……?」
その時、執務机の一部分が僅かに『光っている』のに気が付いた
(キT)「……?」
蛍光灯の光に負けてよく読み取ることが出来ないが、机上に十五センチ定規ほどの大きさの枠の中に、『文字』が並んでいるように見える
俺は急いで電灯のスイッチを消し、再び確認する。予想通り、不規則なアルファベットが並んでいた
どうやら、マスク越しでしか見えない特殊な光のようだ。俺は一体なんの探索ゲームをさせられてんだ?
(キT)「E、K、F、R、A……」
ローマ字読み……ではない。EKFRAなんて英単語もない。簡単な並び替えパズルってところか
(キT)「えーっと……多分、こう……」
英語は苦手だったが、文字を組み立てるだけなら何となくでも出来る
正しい並びの順番に、アルファベットを押していった
475
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 22:14:17 ID:fMBqo9P.0
(キT)「F、R、E、A、K……」
『奇形』『変種』『変わり者』を意味する単語、『Freak』
このマスクの持ち主を体現するかのような五文字のパスワードによって
(キT)そ「うおっ!?」
机上からポップアップトースターよろしく、一枚の『板』が飛び出した
間抜けな『チーン♪』というベルの音で心臓飛び出るかと思うくらいビビったのは墓まで持っていこう
つーかなんで今までこんなゆるゆるセキュリティと遊び心満載の仕掛けがバレなかったんだよ
(キ;T)「お……驚かせやがって……」
この期に及んでナッパみたいなセリフしか出てこなかった俺も大概だが
(キ;T)「アホくさ……こりゃ、タブレットか」
八インチのタブレット端末。海軍の押収の手から逃れた『忘れ形見』だ
(キT)「ふむ……」
オカルトなど信じない性質だったが、こうもお膳立てされると考えを改めざるを得ない
何はともあれ、虎穴に入って虎児を得たのだ。今更怪奇現象の一つや二つで足踏み出来るかよ
(キT)「……」
側面の電源ボタンを長押しして立ち上げる。起動時特有のホワイトバックが画面に映し出された直後――――
476
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 22:14:58 ID:fMBqo9P.0
_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> 「テメー誰の許可を得て大事な大事なマスク被ってくれとんのじゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
スピーカーから大音量で響き渡った『男の怒鳴り声』によって、俺は椅子からひっくり返ってしまった
477
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 22:19:04 ID:fMBqo9P.0
(キ;T)「いっ……てぇ〜……」
「まぁ、そう設定したのは俺なんだが。悪いな。でも正直キショイわ。人のマスク被るか普通?俺とお前で間接キッスラブコールでしょだぞ」
(キ;T)「ふっ……ざけんなよ畜生……」
机を支えに立ち上がる俺に、タブレットは容赦なく地味に突き刺さる罵倒を放つ
俺だって好き好んで被ったワケじゃねえよクソが。キショイのはテメーの発想だボケ
(;'A`)「あー……クッソ。もしもし?」
「因みに、この音声は録音なんで返答は出来ない。もしかして『もしもし?』とか言っちゃったか?抱腹絶倒だな。笑えよベジータ」
台風じゃなかったら窓から放り投げてた。腹いせに脱いだマスクを引き出しに戻し、強めに閉めた
「そう怒るな。一言多いのもデリカシーが無いのも昔からの悪癖でな。死ぬ間際まで一向に直らなかったのさ」
('A`)「さいで……」
親の顔が見てみたいもんだ。どうやら、件の『提督』とやらは相当愉快な頭と性格をしていらっしゃるらしい
音声は続く。改めて椅子に深く腰掛け、若干腹立たしいが耳を傾けることにした
478
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 22:21:44 ID:fMBqo9P.0
「さて、この後は納入直後のNDR114のようにホログラムと音楽を交えて自己紹介を……と思ったんだが、残念ながら技術が追い付いてこなかった」
何言ってんだこいつ
「『こっち』は余り時間がねえもんでな……単刀直入に言うとこのタブレットの中には俺がこの鎮守府で過ごした数年間の記録を保存している」
「要点だけ抑えときゃいいだろって思ってたんだが、このまま海軍のクソ共に消されるのも癪だし編集すんのも面倒だし全部ぶち込ませてもらった。頑張って読んでくれ」
俺はどんな顔してこの説明を聞かなきゃならねえんだろうか
「それで……もしお前が『覚悟』をしたのなら、最後にもう一度、俺の一方的なお喋りに付き合ってもらう」
「ものっ凄い嫌なんだが、そのマスクを被ってディスプレイに向き合えば認証ロックが解除されてボイスデータが自動再生される
「くれぐれも、記録を最後まで読んでから開いてくれ。ああ、クソ……なんであのマスクしか……でも持ってくわけにもなぁ……」
479
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 22:22:24 ID:fMBqo9P.0
('A`)「……」
('A`)そ「えっ、終わり?」
いやビックリするわ。何の覚悟かの説明もないし小汚ぇマスクに未練たらたらなのも意味が分からん。持ってけよポケット突っ込めば解決だろこんなもん
どうしよう。その記録とやらが総じてしょうもないもんだったらどうしよう。この感じだったら全然あり得るのが怖い。逆に見たくなくなってきた
(;'A`)「……」
そういうワケにもいかんよなぁ。読んでも読まなくてもなんかモヤる気がしてならないが、少なくとも進展はするだろう
今度は緊張を緩めるためではなく、身体に溜まった倦怠感を吐き出す溜息をついて、最も古い日付のテキストファイルをタップした
『汚いやり口だった』
(;'A`)「っ……」
暗雲立ち込める滑り出しに、気は一息に引き締まった
『知らない部屋で目を覚まし、珍妙なマスクを脱いで焼け爛れた顔面を鏡で見た時は、「エクソシスト」を観た時よりも膝が震えた。まるで自分が少し前に流行ったシチュエーション・スリラーの舞台に送り込まれた気分であった』
『自身の問題であるのならば、まだ溜飲も下がる。理由も聞かされず顔面を丸焦げにされ、記憶を改竄され、廃村に軟禁されようとも、俺個人で始末をつければいいだけの話だ』
『それが出来なかったのは、見ず知らずの男と二人きりの共同生活を強いられた小娘に「首輪」が付けられていたから。俺の勝手一つで、彼女の命運は尽きる』
『爆薬を喉に巻かれた彼女と初めて出会った時の言葉は生涯忘れられそうにない。「逃げたきゃ逃げろ。私を含む誰もがアンタを責めたりはしない」』
『逃げられるはずもなかった。涙も溢さず、濁った瞳で力なく嗤う少女を、誰が見捨てて逃げ出せるというのか。少なくとも俺は、生存や自由よりも自分の「在り方」を優先したい。男に産まれたからには、無様を晒してなるものかと』
(;'A`)「……」
これが、世界を轟かせた悪名名高い犯罪者の日記だと言うのか?
十行にも満たない文章内でも、これだけは理解できる。彼と彼女は『何某』によって望まぬ着任をしたのだと
480
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 22:25:05 ID:fMBqo9P.0
『彼女の名は「叢雲」と言った。戦場を離れて久しい俺も、艦娘の存在は知っている。彗星の如く現れた、深海凄艦との戦争に終止符を打てる可能性を秘めた「人型兵器」だと』
『メディアで報じられている彼女達の存在は、タチの悪い冗談とした思えなかった。兵器であるならば、十代?二十代そこそこの眉目秀麗な少女のナリにする必要はない。戦場で、硫黄島で散った数多くの戦友や、辛くも生き残った俺達に対する侮辱だとも感じた』
『だがどうだ。目の前の少女はとても「兵器」とは思えない。人に裏切られ、人を信頼するのをやめ、男一人を拘束する枷として使われた一人の少女であり、それ以上でも以下でもない。「人型兵器」、よくもまぁ宣えたものだ』
『根気良い対話への試みを経て、ようやく彼女から事情を聴き出せた時は、開いた口が塞がらなかった。何でも、彼女が考案した作戦が「成功」した事で「提督」の反感を買い、このような事態へと陥ったのだと』
『成人して社会へと出ると気づくことがある。大人は必ずしも「大人」ではなく、幼稚な存在が多いと。それがまさか世界の命運を左右する軍事関連の、将校にまで蔓延しているとは』
『話のシメに彼女は、「何故、あんなモノの為に矢面に立たなきゃならないの?」と言った。返す言葉が無かった。俺も通った道だったからだ。よくわからん外敵に攻められ、どうでもいい連中の為に戦い、死ぬ。誰がそんな虚しい結末を迎えたいと言うのだろう』
『俺達がいる場所がどういう所なのかも聞き出せた。着任した提督や艦娘が不審死を遂げる鎮守府らしい。古くからの曰くが残る廃村を利用して設立されたが、半年以上の運営が成された実績がなく、口封じや厄介払いの為だけに使われる「流島」。通称、「地獄の鎮守府」』
『つまりは、俺も叢雲も連中にとっては不都合な存在で、消えてくれた方が有難いのだろう。俄然、生に対する執着心が湧いてきた。人の嫌がることはするなと親から口すっぱく教えられてきたが、それがクソ野郎共なら話は別だ』
『幸運があるとするならば、ここには余分な時間があり、叢雲はクソ野郎の手中から抜け出せた事だ。俺達をこんな目に遭わせた連中は、どういうわけか誰一人説明に上がらなかった。立ち直る好機は逃してはならない』
『二人きりの生活で、俺はいつも通りのペースで過ごした。余計な励ましなどせず、取り留めのない雑談を交わした。「何が好きか」「友達はいるのか」「趣味はあるのか」「なぁなぁ、好きな子おるん?」』
『最初は疎ましい態度だった叢雲も、徐々に心を開いてくれた。「食べるのが好き。特に甘いもの」「姉妹艦がいた」「ボードゲームと戦車道観戦」「少なくともアンタではない。これからも一生有り得ない」。こうもキッパリ拒絶されると若干ヘコむんで今後は冗談でも恋バナはしない事にした』
481
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 22:26:04 ID:fMBqo9P.0
『しかし今は戦時中であり、平穏は長く続かない。やがて、小規模だが深海凄艦の艦隊が攻めてきた。艤装と、少ない弾薬を抱えた叢雲は今まで見たことがないほど目を輝かせた。「ようやく、死に時が訪れた」。彼女を兵器と思ったことは一度もなかったが、紛れもなく「兵士」であり、戦死を誉れとする「戦士」だった』
『「隠れていなさい」。嬉しい事に「あんなモノ」のカテゴライズに分類されていたであろう俺は気遣いを受けた。付け加えるなら「余計な」。俺は死ぬ気は全くなかったし、負ける気も毛頭なかった。海へ出向こうとする叢雲を引き止めると、今度は怒りに満ちた目を向けられた』
『「何も出来ない雑魚が出しゃばる気なの?」人への失意は完全に失くすことは今後も出来ないのだろう。だが、一緒にされちゃ困る。俺は艦娘よりも先に深海凄艦と戦った。ポッと出の新入りに雑魚呼ばわりされるのは心外で、腹立たしかった」
『彼女は海上での戦術眼に優れていたが、陸上での戦闘経験は無かった。俺は海の上に立てはしないが、陸に上がった深海魚と一戦交えた経験がある。「勝てる戦だ。楽しもうぜ」。彼女はその言葉を聞いて驚いていたが、俺自身も「楽しもう」の一言で目から鱗が落ちた。「あんなモノ」の為に戦う必要はない。自分自身が楽しむ為に戦ってもいいじゃないかと』
『叢雲は提案に乗った。勝ち目のない戦いで、今更どう繕おうとも意味がないってのもあったのだろうが、何より興味と好奇心が湧いたのだろう。意地の悪い笑顔と共に、「ま、精々頑張りなさい」と有難いお言葉を賜った。思えばこの時、俺と叢雲は唯一無二の「相棒」になれたのだろう。悪い気分では無かった』
『海上で叢雲による誘導を行い、湾岸から陸上に上陸させ、建築物の遮蔽を利用して各個撃破。俺の武器は両の拳と、彼女の艤装の一つであるマストを模した『槍』。叢雲は軽々と振り回していたが、細身の見た目とは反してガツンとくる重量だった』
『叢雲との初陣は、今でも夢に見る。深海凄艦全五隻中、二隻を海上で撃破。叢雲は中破状態で湾岸に到達し、奴らも追って陸へと上がった。軽巡一隻、駆逐艦二隻。戦車を含む研鑽された一中隊で相手をしてようやく刺し違える程の戦力だ。傷ついた艦娘一人と、今や一市民に過ぎない男一人』
『この時、俺達を貶めた連中にすら感謝したいくらいだった。誰もが普遍的な人生を終える中、これほど心踊る場を用意してくれた事に。大金を積んでも決して味わえない快楽が全身を駆け巡った』
『屋根から飛び降り、駆逐級の背中に槍を突き立てた。飛び散った建造物やコンクリートの破片がいくつも刺さったが、断末魔を前に痛みは消えていった。砲弾が数メートル先を横切った瞬間は、絶頂のようなスリルに笑い声が漏れた』
『標的が二人に分かれた事により、叢雲の砲撃は容易く命中した。陸に上げられた魚は泳げはしない。それが愚鈍な「非人型」の深海凄艦なら尚更だ。だが、装甲の耐久度まで落ちやしない。駆逐級の殺害は容易でも、それを上回るスペックの軽巡には手を焼いた』
『艦娘と深海凄艦の共通点として『船体殻』というバリアが存在する。砲弾が命中しても、一定の耐久度内であるならば船体に直接当たる事はない。しかしそれは『砲弾』に限られており、俺が深海凄艦に槍を突き刺したように、「白兵戦闘」においては機能しない』
『勿論、砲塔を背負った鉄の塊に剣や槍で戦おうとするバカはいない。相手もそう「タカを括って」いるからこそ』
『俺の捨て身の特攻は、功を奏したのだ』
.
482
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 22:29:44 ID:fMBqo9P.0
(;'A`)「……」
『イかれてる』。彼は嬉々として深海凄艦を、『原始的な方法』で殺していた
日付は、かの有名な『ベルリン』での戦いよりも数年も前だ。ナイフでぶっ殺されたとされる『姫級』よりグレードは落ちるが
それでも、人の手であの深海凄艦を倒している。狂気以外の何物でもないイかれた行為だが、高揚で胸はぞくりと疼いた
(;'A`)「マジだったんだ……」
日記の内容はブーンの言葉とも一致する。先陣を切って戦場を駆けた『戦人』だったのだ
そして、狂気と同じく『情』のある人間でもあると感じた。尚のこと、一般に流布されているイメージとはかけ離れる
拉致軟禁にしても焼け爛れた顔にしても、『叢雲』という枷にしても、どうにも腑に落ちない事も多い
疑問は解けるどころか、深まっていくばかりだ。だが、膨大な資料の駆け出しに過ぎない。再び、画面をスクロールさせて読み進めた
『敵艦隊を撃破した数時間後、政府及び自衛隊の関係者がノコノコと部隊を引き連れて海から現れた。ご挨拶よりも先に、小銃や砲塔の切っ先を突き付けて』
『「到着が遅れて申し訳ございません。ですが、たった二人でこの戦果とは驚きました。どうやら、私の取り越し苦労だったようですね」』
『いけしゃあしゃあと寝言をほざきやがるクソジジイには見覚えがあった。顔面に張り付いた穏やかな微笑みは、こんな状況じゃなきゃ警戒を解くほど暖かで』
『「私は人畜無害です」と書かれたプラカードをぶら下げているかのように迫力も無く、「平穏」「静謐」「好々爺」なんて言葉が似合いそうな、現政党の頭脳』
『茂名 尾前官房長官であった』
(;'A゚)「」
その名前を見た瞬間、俺の思考と指が止まった。まるで高所から突然突き落とされたかのような驚愕だった
『茂名 尾前』。後に、日本人でありながら国連事務総長を務めた大物政治家であり、そして――――
(;'A゚)「『小練 詩音』に殺害された……」
史上最悪とも称される要人暗殺事件の犠牲者となる人物だった
483
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/23(日) 22:35:52 ID:fMBqo9P.0
今日はここまで
ガルパン最終章第二話を昨日観ました。最高でした
484
:
名無しさん
:2019/06/24(月) 08:13:00 ID:jaseHLOw0
おつおつ
俺はまだ見てない
485
:
名無しさん
:2019/06/25(火) 01:49:26 ID:TOMgt2HE0
乙!続きが気になります!
486
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/07/14(日) 23:48:30 ID:swN5lEdo0
『そいつは長々と今まで訪ねて来なかった言い訳を天気の話でもするかのように述べていたが、内容は一切頭に入ってこなかった』
『何より、傍らの叢雲が気がかりだったからだ。突っかかるわけでもなく、軽蔑の視線を向けるでもなく、かと言って出会った頃のように諦念に囚われるわけでもなく』
『震えていた。深海棲艦よりも脆く、艦娘よりも貧弱で、小銃ほどの脅威も無さそうな、たった一人の老人に怯えていたのだ』
『茂名も彼女の状況に気付いたのか、自分の孫にでも語り掛けるかのような優しい声色へと変わり、叢雲に手を差し伸べた』
『「お勤め、ご苦労様でした。実は、務めていらした鎮守府の司令官が謝罪をしたいと申し上げていましてね。今の処遇を取り消すので、また力を貸して欲しいと」』
『「悪い話では無いでしょう。彼も深く反省しているようですし、貴女も息の詰まりから解放される。過去の事は水に流して、再び我が国の為に――――」』
『聞いちゃいられなかった。つまりは「首輪を外して貰いたきゃ言う事を聞け」と暗に脅しかけているだけだ。最初から叢雲に拒否権は無いとでも思っているのだろう』
『傲慢だ。我慢ならなかった。叢雲にとっても不本意だろうが、一つだけ異を唱える方法があった。俺はたった今、「鎮守府」に置いて「艦娘」を使役し、敵艦隊を撃破した』
『叢雲は、「現提督」である俺の管理下にあると主張したのだ』
『茂名はわざとらしく「はて?」と首を傾げ、「貴方にその権限はない筈ですが?」と白々しく応えた。一歩踏み出した俺に、小銃を構える兵士たちもまた一歩詰め寄った』
『舐めた口を利く野郎だ。だったら奴らには俺の顔を丸焦げにして、女の子の首に爆弾を巻く権限があるとでも言うのだろうか。マスクを剥がした時、動揺が広がった』
『当の茂名でさえ、緩やかな曲線を描く口の端が僅かに歪んだ。奴はすぐさま気づいた事だろう。付け入る隙を与えてしまったテメーの失態に』
『権限は無い。確かにそうだろう。だが、そんなもの今すぐ作り出せば良い。よほど俺らを甘く見ていたのか知らんが、交渉材料は幾らでも転がっていた。その最たるものが俺の命だ』
『俺の存在が連中にとって不都合なのは確かだろう。だがサッサと始末せず、監視役を付けてまで呪われた鎮守府に置いておいたのは何かしらの「利用価値」が残っていたからだ』
『万が一くたばったとしてもそれだけの価値だったと割り切れる。もしも期待以上の成果を上げたなら、諸手を上げて活用が出来る。だからこそ、タイミングよく「迎えに来た」』
『言わば、ここでの生活は観察実験だったのだろう。後は銃でも突きつけて甘い言葉で回収すれば、めでたく「運用」へと駒を進められただろうが、そうは問屋が卸さない』
『奴らはいくつかのミスを犯していた。一つは、監視役に「叢雲」を付けた事。哀れな出生を持つ彼女を側に置いておけば、そう簡単には逃げ出せないと踏んだのだろうが、それが「偽り」では無かった』
『「敵を騙すならまず味方から」という言葉がある。ひょっとしたら叢雲の提督だった男は、上からの指示で不本意に彼女を島送りにしたのかもしれない。もしそうなら名役者だと賞賛を贈りたいものだ』
『彼女は立派に枷としての役割を果たしたが、同時に実験を滞らせる「障害」にも成った。信頼を裏切ってリアリティを重視した顛末がこれだ』
『二つ目は、成果が「想像以上」だった事。茂名が連れてきた部隊に艦娘も加わっているのは、勿論護衛の意味もあるだろうが、ほどほどの所で介入して助け舟を出す気でいたからだろう』
『だが俺達は敵艦隊を「殲滅」してしまった。そんな存在に対して、なんと奴らは朗らかに会話できるほどの距離まで近づいている』
『今の戦力差は気合と根性だけでは決して覆らない。だが、勝てずとも「誰か」と刺し違えれば計画はご破算だ。老い先短いであろう老人一人と心中するなど此方としても不本意ではあるが』
『そして三つ目は、ありがたい事にわざわざこんな説明をさせて貰える時間を「頂けた」事だ。恭しく一礼をすると、胡散臭い爺さんは小さく、ほんの小さく舌打ちをした。俺は構わず大きく吹き出した』
487
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/07/14(日) 23:50:52 ID:swN5lEdo0
(;'A`)「……」
茂名国連長官は、その手腕もさる事ながら日本国内が大半を占めていた艦娘技術を世界中に解放し、深海凄艦の脅威を払拭した偉人と称されている
噛み砕いて説明すると、艦娘を運用する上での解釈を追加した。より多くの人間が艦娘を指揮する事ができ
なおかつ攻撃対象を深海凄艦に留まらず、世界平和を脅かす『組織』『国家』に向けさせた
当然、数多くの国々の承認は必要ではあるが、これにより『北の国』がアメリカ合衆国の一部となった実績もある
間違いなく、脅威と憂いが減った。胸を撫で下ろした者も多いだろう。茂名国連長官の死後、ノーベル平和賞を贈ったのも頷ける
(;'A`)「……いや」
正しくは『頷けた』。指揮権の拡大とは則ち、艦娘の拒否権の縮小だ。彼が付け加えた解釈は、『二等兵』以上の兵士に指揮権を与えるというものだ
余りにも広すぎる。これは艦娘に限らず、人や物にも言える事だが、『使い道』を誤れば惨事は免れない
だからこそ、危険と判断された物の運用には『免許』が必要で、部下を率いる立場の人間になるには実績を鑑みた上で与えられる『役職』が必要なのだ
(;'A`)「……」
艦娘には人格があり、意思があり、感情がある。それらを差し置いて、国連長官は使用者の間口を広げた
恐らく彼にとって、艦娘は『物』であったのだろう。冷酷な考え方ではあるが、国を、ひいては人の命を守りたいという想いも在った筈だ
だが『叢雲』を、初めて出会った艦娘を『人』として対等に接した『小練 詩音』との相性は致命的に悪い
もしも解釈の拡大が、小練の逆鱗に触れたとするならば―――――
488
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/07/14(日) 23:52:51 ID:swN5lEdo0
『奴に残された道は二つに一つ。手綱を握ったまま俺の要望に応えるか、「渡る綱」を自ら断ち切るか。別の方法が存在するならば、是非ともご教授頂きたいものだった』
『僅かながら葛藤の時間が欲しかったのだろう。茂名はしばし口を噤んだ後、「いいでしょう」と、首を縦に振った。「いいでしょう」?は?舐めてんのかこいつ」
『深々とため息をついて「お願いします」だろうとやり直しを求めると、余裕ぶった笑みが引き攣り、顔に血が昇っていった。老害になると頼み方の作法もボケて忘れてしまうらしい。ちゃんとボケ防止の運動やっとこうと思った』
煽りの天才かよ
『しかし官房長官ともなると、切り替えも早い。すぐさま頭を深々と下げ、「お願いします。これで宜しいですか?」と真新しい笑みに作り変えて応えた。全く宜しくなかった』
『「政治家の先生は膝と額が汚れるのが余程お嫌いなのでしょうか?」。今度は笑みこそ崩さなかったが、視線が兵士の腰に差された拳銃に向けられたのを見逃さなかった』
むしろよく我慢できたなオイ
『埒が明かないのでおちょくるのはここまでにして、その場での交渉に入った。持ち帰られると後々厄介な事に成り兼ねない。多少はゴネられるかと思ったが、意外にもすんなりと了承した』
『それほど、「俺」が持つ交渉材料としての価値は高いらしい。それかもしくは、これ以上馬鹿にされるのは我慢ならなかったのかもしれない。与党の議員らしからぬ煽り耐性の無さだった』
『此方からの要求は、提督としての指揮権。「叢雲」並びに「地獄の鎮守府」の譲渡。鎮守府機能の全開放に、政府及び自衛隊上層部からの命令の拒否権』
『片手で収まるだけのお願いに対して「随分と子供じみた要求をなさる」と苦言を吐いた。呆れたものだ。これだけの仕打ちをしておいて手心を求めているなど』
『しかしすぐさまどす黒い腹を隠すように極めて明るい声色に戻った茂名は、自身の要求を提示してきた。「叢雲さんの首輪は今後とも着用してもらいましょう」』
『こう来ることは想定内だ。だが、吐き気がするほど腸は煮えくり返った。腕っぷしに自信がある俺でも、時たまこう思う。「怒りの感情だけで人を殺せたら」』
『「此方としても心苦しいのですが、それだけの権限を持つ鎮守府は前例になく、まぁ……乱暴なやり方ではありますが保険は必要でしてね。ああ、勿論お断りしても構いません」』
『「私なら、わだかまりを水に流して、勝手見知った仲間が待つ我が家へ帰る道を選びますが……いえ、やめておきましょう。どのような答えであれ、我々は叢雲さんの意思を尊重します」』
『一瞬だが、「一理ある」と思ってしまった。そんなわけあるか元はと言えば悪いのは彼方だ。何も向こうから与えられた選択肢だけに的を絞る必要は全くない。首輪を外した上で顔面に一発お見舞いしても安いくらいだ』
『罵倒され足りないのならおかわりをくれてやろうと口を開いた瞬間、割って入るように彼女はこう応えた』
『「彼に、元司令官にこうお伝えください。私はアンタの都合のいいママではない、と」』
『これが、彼女の出した答えだった』
489
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/07/14(日) 23:56:54 ID:swN5lEdo0
『茂名の顔から表情が抜け落ちた。はっきりと拒否された事に対する屈辱やショックからではない。思考を、駆け巡らせていた』
『「わかりました」。程なくして了承と取れる言葉を得たが、俺も叢雲も安堵の溜息を吐けなかった。奴らが企てる陰謀は滞りなく進行するという自信の表れでもあったからだ。そしてこうも言い換えられる』
『俺たちは今現在を持って、この男の「駒」に堕ちてしまったのだ。此方の腹を見透かすように、茂名は満面の笑みを作って見せた』
『「ですが最後に、再考のチャンスを与えましょう。この話を取り消し、我々と同行するのならば、貴方の身に起きた変化についてお教えします。その上で、幾らでも謝罪を致しましょう」』
『叢雲の身体がびくりと震えた。奴が提示したのは、俺が今一番知りたい情報であり、出会って間もない小娘一人とは到底吊り合わない価値がある代物で、掌など幾らでもひっくり返るとでも思ったのだろう』
『だから、こう答えてやった。「いるかよ、くたばれ」』
(;'A`)「ちょっ……もぉー……」
さっきからカッコいいが過ぎる。好きになっちゃうだろうが
『茂名は落胆するわけでもなく、声色を変えずただ「そうですか」と言い、細かい条件は後ほど連絡するとだけ告げ、兵を連れて引き上げていった』
『奴らの乗る船が見えなくなり、やがて叢雲は「どうして?」と聞いてきた。簡単な話だ。ただ連中に従うのが癪だっただけだ』
『続けて、「どうする?」とも。なんともしおらしい姿だった。余りの似合わなさに、思わず吹き出してしまった』
『場所を得た、地位を得た、そして隣には頼りになる相棒がいる。やる事は決まっていた。これは戦争だ。深海凄艦との、そして権力と陰謀との、分の悪過ぎる戦いだ。だからこそ、余計に滾る』
『強くなろう。何もかもを脅かし、何もかもを超越し、何者も俺たちをコケにし、爪弾きにし、陥れる真似が出来ないくらい徹底的に』
『叢雲は「無茶苦茶ね」と言って、ようやく笑った。「でもまぁ、他にも行く当てもやる事もないし、付き合ってあげるわ。司令官」』
『この日から、俺の人生で最も長く、最も激しく、最も大切な日々が始まった―――――』
490
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/07/14(日) 23:58:05 ID:swN5lEdo0
(;'A`)「……フーッ」
中々読ませる文章を書いてきやがる。初っ端から結構面白かったじゃねえか
いや面白かったじゃない。これが事実ならノーベル平和賞を授与した歴史に残る大偉人の評価は百八十度ひっくり返る
(;'A`)「世に出せねえワケだよ……」
茂名氏の残した功績は確かに大きい。だが、その大半が日本国内に限定される
保有戦力もさる事ながら、莫大な軍需で潤っている。当然、諸外国としては面白くはないだろう
この文書が事実であろうと無かろうと、一つの証拠である事には変わりない。リークすれば手厳しい追求は免れないだろう
(;'A`)「……」
なら何故、小練 詩音は彼の陰謀を暴かず、大罪人の汚名を被るような真似に走ったのだろうか?
確固たる証拠が無かった?別の保険が掛けられていた?それとも、他に目的があったのか?
(;'A`)「わっかんねえ……」
わかるはずもない。俺が踏み入れたのは初めの一歩に過ぎない。これを最後まで読み進めれば、真相には辿り着けるのだろうが
辿り着いたところで、俺に何が出来る?海外へのリークか?深海凄艦だけで手一杯な世界を、これ以上混乱させるのか?
そもそも、今は罪人として軍に、ひいては国に管理されている立場だ。不都合を揉消すなど容易いだろう
491
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/07/14(日) 23:58:25 ID:swN5lEdo0
(;'A`)「何をさせたいんだ……」
最初の音声で、小練は『覚悟』を求めた。恐らくは、一人に背負わせるには重過ぎるモノなのだろう
だがどうしろって言うんだ?彼の無実の証明?そんな行為に意味はあるのか?俺にそんな義務があるのか?
(;'A`)「……」
ああ、頭が痛い。吐き気もしてきた。天井を仰ぐと、いつの間にか台風は過ぎ去っていたのか、外は静かになっていた
時間はある。今日はここまでにしよう。タブレットのモニターを落とし、やや躊躇ったが、自室へ持ち帰る事にした
('A`)「……」
部屋を出る前に、一度振り返ってみる
('A`)「ハァ……」
多大な苦悩を伴って、成果はあった。その中の一つを上げるとするならば
('A`)「じゃあ、またな」
当初ほど、この部屋に不気味さを感じなくなった事だろうか
492
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/07/15(月) 00:10:28 ID:Ff6VgxBw0
今日はここまで
天華百剣のSS書きたい
493
:
名無しさん
:2019/07/15(月) 02:56:58 ID:ZnOfqvH.0
おつ 皮肉が効いた言い回し好き
494
:
名無しさん
:2019/07/15(月) 10:47:54 ID:sjtk8ax.0
まだ天華やってるんかワレ
この前ちったーで宣伝しておいたぞ
495
:
名無しさん
:2019/07/15(月) 19:20:36 ID:7MWaJXgI0
otu
496
:
名無しさん
:2019/07/16(火) 23:00:48 ID:2qQN6b2g0
おつおつ
天華百剣はABコラボで爆死して引退した
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