[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
401-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
艦娘がいない鎮守府のようです
1
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:31:48 ID:62pQqJ3.0
―――貴方の手で、彼女達に幸せを与えて欲しい―――
.
2
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:32:20 ID:62pQqJ3.0
原作『艦隊これくしょん〜艦これ〜』
.
3
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:34:34 ID:62pQqJ3.0
「……」
文章の最後を締めくくる『。』を付け、エンターキーを叩いて処理を済ませる
テキストファイルをUSBメモリーに保存し、PCの電源を落として抜き取った
「往かれるのですか?」
既に人が出払ったこの場所で、女の子の声が聞こえた
神出鬼没の、私の友人だ。両手に白猫を携え、帽子の初心者マークとおさげが特徴的な少女
「ああ、手筈通りに頼む」
メモリーを彼女に渡し、デスクの横に立てかけていた『矛』を手にする
これを振るうのも、今夜が最後だ。恐らくは、私は海の底に沈む
「……逃げるという選択肢も、あるはずですが」
その言葉を聞いて、軽く笑った。普段は無機質な性格である彼女が、人を案じたのだ
「アンタ、言ったよな?『奴ら』を一匹残らずぶち殺さないと、この戦争は終わらないと……ゴホッ」
咳を手で抑える。青白い蛍光色の『血』が付着しているのを見て、顔を顰めた
私は徐々に『人間』では無くなっている。徐々に、奴らの『眷属』となっている
「なら、俺もその内の一匹だ。バケモノに成り果てる前に、人として死にてえ」
「……あいつらには、嫌な想いをさせちまうがな」
4
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:35:12 ID:62pQqJ3.0
『大ブン動会!〜2016年紅白〜』
.
5
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:36:13 ID:62pQqJ3.0
心残りは、家族にも等しい『人ならざる娘達』
別れ際、涙でグチャグチャになった顔で私に抱きつき、放そうとしなかった『あいつら』が目に浮かぶ
「呆れた人です。貴方は」
「人類を救うために現れた彼女達の為に、自らの身を犠牲にして救うだなんて」
「本末転倒も良いとこですよ」
人類にとって、彼女達は救世主だ。その存在を救うなど、おこがましいとでも言いたいのだろうか
だが、救世主である以上に、人と変わらぬ心を持つ『生物』なのだ
「ヒーローを救うバケモンがいてもいいだろ?」
冗談めかしてこう返した。自分のことを『人間』とは言わなかった
万が一死に損なった場合、私は人類、そして彼女達にとって最も凶悪な敵に成り得るかもしれないからだ
「だから……後はあいつらと、アンタに託す」
先に倒れた私の戦友や、その家族
戦火によって犠牲となった民衆
志半ばで死に逝く私の、『悲願』
「『平和な海』って奴を」
そして、叶うのならば
「あいつらの幸せを」
言葉にするのは簡単だ。だが、為しえるには余りにも厳しく、困難な道を通らねばならない
並の信念では、押し通せない願いである
6
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:36:49 ID:62pQqJ3.0
原案『( ^ω^)ひたすら嘘予告をしていくようです』から
『艦隊これくしょん〜漢これ〜のようです』
『('A`)提督だけど艦娘がいない鎮守府に配属されたようです』
『艦隊これくしょん 〜仮面ライダー青葉〜 のようです』
.
7
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:37:43 ID:62pQqJ3.0
「この二つを成し遂げられる『男』に、そのメモリーを渡してくれ」
今一度、念を押して伝える
「難しいご注文を」
ため息混じりに呟いた彼女に、笑いかけながら『そう思うよ』と同意する
いつ現れるのかも、どこにいるのかもわからない。だが
「男は本来、戦う生き物だ。平和な時代がそれを忘れさせたが」
「思い出す奴もいる筈だ。かつての『俺達』がそうだったように」
「『自らが矢面に立つ』事を厭わない、『漢』が」
話を締めくくるかのように、警報が鳴り響く
どうやら、終わりの時間が訪れたようだ
「残念です、とても。貴方は良き話相手であり、良き友人でした」
「貴方こそがこの戦争を終わらせてくれると、楽しみにしていたのですが」
矛を肩に担ぎ、女の子の頭を軽く二度叩く
出会った頃は人の身など微塵も案じない、AIのような彼女だったが、変わったものだ
「ああ、それは次の世代に任せる」
「……世話になったな」
短い別れの挨拶を済ませ、ドアノブに手を掛けた
8
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:38:21 ID:62pQqJ3.0
「さよなら、『提督』」
「じゃあな、『エラーさん』」
これが、私が交わした最後の会話となった
9
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:38:57 ID:62pQqJ3.0
『艦隊これくしょん三周年記念作品』
.
10
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:39:27 ID:62pQqJ3.0
.
11
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:40:32 ID:62pQqJ3.0
♪母港
https://www.youtube.com/watch?v=EGgK8GZS8Sg
『深海棲艦』とかいう、なんか機械とバケモノのハイブリットみたいな生き物が
制海権を根こそぎ奪ってから、多分二十年くらい経った。多分
それと同時期に現れた、なんか別世界の軍艦?の生まれ変わり的な?可愛い女の子集団『艦娘』
『艤装』と呼ばれるなんかこう背負う感じのデカイ装備を扱う彼女たちは
なんかよくわからんバケモノに対抗できる、人類に与えられた唯一無二の戦力だった
ただ、あくまで彼女たちは『兵力』であり、指揮は人間が執らねばならない。なんでか知らんけど
指揮官は、海軍のなんかお偉いさん?の総称である『提督』と呼ばれて
こう……難しい試験とか厳しい訓練とかを乗り越えた人間だけに与えられる、名誉ある役職らしい
いや別に名誉とかどうでもいいんだけど、重要なのはここから
提督ってのは、なんと無条件で艦娘に好かれるらしい。個人差はあるけど、大体そうだって近所のまさしが言ってた
こんな小さな女の子から、パツキンボインのお姉さんまで、選り取りみどりだ
バレンタインも、クリスマスも、ひと夏のアバンチュールも、クッソ可愛い艦娘たちと夢のような時間を過ごせる
それを目当てに、提督になる奴も多いんだとか。上手く行けばおセッk何でもない
そう、つまり何が言いたいのかっつーと
ブサm顔面が個性的なのが魅力の俺でも
ラノベのようなハーレムが築けると言うワケだ。ToLOVEるだ。俺はリトになる
その筈だったんだが
12
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:41:02 ID:62pQqJ3.0
『作:◆HS4z8y6JHc』
.
13
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:41:47 ID:62pQqJ3.0
('A`)「どうしてこうなったかねぇ……」
提督の俺と
( ^ω^)「うまっ……ポッキーうまっ……」
整備士のデブ
(´・ω・`)「ほんまや……ポッキーうまっ……海を見ながら食うポッキーうますぎ……」
そして料理人のオッサン
('A`)「ポッキーうま……」
以上が、我が鎮守府のメンバー
艦娘どころか、女っ気の欠片もない
そう、ここは―――――
14
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:42:24 ID:62pQqJ3.0
『艦娘がいない鎮守府のようです』
.
15
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:43:41 ID:62pQqJ3.0
遡ること三日前
('A`)「ここか……」
暑苦しい軍帽を脱ぎ、目の前の年季の入った建物を見上げる
大本営から車で半日、ド田舎にある廃村を再開発して設置された艦娘出撃施設
通称、『鎮守府』
('A`)「しっかし……古いな……」
海沿いにある廃校を再利用した鎮守府は、赤煉瓦の重厚な……と言うよりは
オバケか何かでも出そうな、古く頼りない雰囲気に満ちていた
しかし、廃村があった場所をまるごと取り囲む、二階建てほどの高さがある鉄筋コンクリートの壁が
ここが海軍の重要施設だという事実と緊張、そして閉塞感をひしひしと放っていた
まぁ、住めば都だ。寝て起きられるなら上等上等
今日からここが俺の家だ。荷物を背負い直し、引き戸から中へ入った
('A`)「従業員と初期艦娘はもう着いてるって聞いたんだが……」
俺をここまで送ってくれた海軍のオッサンは道々でそう説明してくれたが
出迎えどころか、人の気配も無い。足音と床の軋みがやたら大きく響く
16
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:56:20 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「あっれー?合ってる?ここで合ってる?」
そうこう歩き回るうちに、廃校内で迷子になってしまった
クソド田舎にあるくせに、何か知らんが無駄に広い
建材が新しい場所がいくつかある所を見ると、増改築を繰り返しているらしい
トイレはパナソニックのアラウーノだった。変なところに金掛けてんなオイ
しばらく彷徨っていると、やったら凝ったトレーニングマシンと、気合の入ったリングが中央に設置されてるジムも発見した
何ここ?ファイトクラブか何か?艦娘ファイトクラブ?体の自由が利かない状態でテクニシャンと戦わされるの?
('A`)「クリムゾン……」
「そこは前任者のお気に入りでしてね」
(;'A`)そ「クリムゾンが!!!!????」
不意に、背後から女の子の声がして振り返る
(;'A`)「クリム……誰もいねえ!!!!!」
声がしたにも関わらず、俺の後ろにも、出入り口付近にも、そして廊下にも誰もいなかった
しかし微かにだが、リズミカルな鈴の音が聞こえ、ここに誰かがいる事を伝えてくれた
(;'A`)「待ってくれ!!」
一度置いた荷物を持ち上げるのももどかしく、手ぶらのままその鈴の音を追った
17
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:57:11 ID:62pQqJ3.0
廊下に出て、左右を確認。右の曲がり角を、『白い尻尾』が通り過ぎる
あれは猫だろうか?だとしたら、声の正体はその飼い主か
(;'A`)「なんだってこんな……まさか」
そうだ、きっとこれは初期艦娘の『電』ちゃんのサプライズなんだ
俺という提督の着任を、あの良い娘オーラ全開の幼女が、可愛らしい方法で祝ってくれるに違いない
(*'A`)「いやぁ〜、着任早々こんな思いして大丈夫かなぁ〜」
心が弾む。三次元のクソ女共に蔑ろにされてきた25年の人生
初めてのリア充体験。心と同時に脚も弾む
スキップ気味で後を追って行くと、『バタン』とドアの閉まる音が聞こえた
(*'A`)「ここかぁ〜?」
『司令室』の名札が付いている部屋の前
どうやら、迷いに迷っていた俺を見かねて案内してくれたらしい
(*'A`)「よ、よし……」
('A`)+ キリッ
顔を引き締め、深呼吸一回
第一印象は大切だ。威厳のあるところを見せ、頼れる男アピールをせねば
18
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 15:59:19 ID:62pQqJ3.0
('A`)「失礼する!!本日より貴艦らの指揮に……」
張り切って出した大声は、室内の光景を目の当たりにして尻すぼみに小さくなった
そこに居るはずの、少し自信なさげで可愛らしい初期艦娘の姿は無く、代わりに
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「……」
応接用ソファーに寝っころがり、漫画を読んでいる二人の男がいるだけであった
('A`)「……」
何このクリスマスプレゼントを開けたら中にぎっしりドリル詰まってた時みてーながっかり感
( ^ω^)「あっ、アンタが提督かお?」
('A`)「えっ?うん」
右側のソファーで寝ていたデブが、キン肉マン(16)をテーブルに置き、立ち上がり敬礼をする
( ^ω^)「艤装整備士の明石ホライゾンだお。気軽にブーンって呼んでくれお」
('A`)「お、おう……」
朗らかな表情をしたデブだ。歳は多分、俺と同じくらいだろう
つーか今の俺の階級が少佐とは言え、一介の整備士であるこいつのフランクさは何?こわい
ちょっとプライドの高い奴なら、キレてる案件だよこれ?
(´・ω・`)「間宮ショボン、コックだ。シクヨロ」
その向かいのソファーでキン肉マン(19)を読んでいる、二回り年上くらいのオッサンに関しては、起き上がりもしねえ
従業員ってこんな……何なの?海軍何考えてこいつ雇ったの?バカじゃねーの?
19
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:00:01 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「……」
(´・ω・`)「それで」
(;'A`)そ「うっ、え?何?」
(´・ω・`)「アンタの名前は?」
(;'A`)「あっ、ああ……今日付で本鎮守府に配属された東郷ドクオ……なんだが」
ここでようやく、俺が一番気になっていたことを質問した
(;'A`)「艦娘は?」
返答は
( ^ω^)「いや……自分、整備士なんで……」
(´・ω・`)「俺コックなんだけど」
('A`)「……」
('A`)「ええー……」
どうにも的を射ていないモノであった
20
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:01:24 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「あのさぁ、今さっきここに女の子が来たはずなんだが……」
( ^ω^)「女の子?ここには僕らしかいねーお」
(;'A`)「は?いやでもさっき確かに……」
(´・ω・`)「幽霊でも見たんじゃねーのか?ここは曰くつきの場所だって聞くしな」
(;'A`)「俺が来る前に、ドア開いただろ?気付かなかったのか?」
( ^ω^)「僕らずっと漫画読んでたから、一時間くらいは廊下に出て無いお」
(´・ω・`)「なんだが知らねーけど、漫画と映画とアニメだけは揃ってんだよなここ」
(;'A`)「えー……」
鎮守府って、どこもこんな感じなん?ユルい、爺ちゃんのパンツのゴムくらいユルい
いくらド田舎とは言え、艦娘が出撃する重要施設だよ?大丈夫なのここ?
いやいや、そうじゃない。最も重要なのは……」
(;'A`)「だから!!電ちゃんはいないのか!?初期艦娘として配属された筈なんだよ!!」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「……」
(;'A`)「な、何だよ……?」
二人は、神妙な顔を見合わせた後
ブーンがデスクの方へ歩き、引き出しから手紙を取り出した
21
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:02:15 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「手紙預かってるお。どうぞ」
(;'A`)「あ、どうも」
糊付けもされていない、簡素な封筒の中身を取り出す
たった一枚の手紙には、女の子らしい丸っこい文字で一文
『顔が生理的に無理なのです。ナスと同じくらい無理なのです。電』
と、書かれていた
('A`)「……」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「やっぱ女ってクソだな」
('A`)「練炭って、置いてるかな?」
( ^ω^)「気持ちは分かるが早まるなお」
なるほど、早い話が
俺の個性的な顔面の魅力に耐えられなくなり、逃げたっつーことか。ハハッ、死にてえ
('A`)「縄くらいならあるだろ……」
( ^ω^)「待てって」
22
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:03:19 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「艤装だけは届いてるんだけど、肝心の『電』本人がいないんだお」
(´・ω・`)「俺らも大本営に連絡したんだが、まともに取り扱ってくれなかった。ご愁傷様」
('A`)「何それ……軍ってもっと……こう、逃げたら重い罰とかあるんじゃないの?」
( ^ω^)「お咎め無しらしいお」
('A`)「へぇー……睡眠薬ある?」
( ^ω^)「不憫すぎて掛ける言葉が見つからない」
('A`)「っつーか、艦娘無しでどうやって海域の警護しろっつーんだよ」
(´・ω・`)「あ?お前知らないのか?この辺りの海域は前任者が一掃して深海棲艦はいねえんだよ」
('A`)「聞いてないんだけど……じゃあ、俺がここにいる意味って何?」
(´・ω・`)「左遷?」
(;'A`)「俺、新米提督だよ!?ナンデ!?」
(´・ω・`)「顔面がブサイクだからだろ」
('A`)「軍施設なら拳銃くらいあるよな?」
( ^ω^)「泣きっ面に蜂」
(´・ω・`)「いやいや、真面目な話だよ。提督って艦娘の士気向上の為にある程度の顔面偏差値が必要なんだろ?」
(´・ω・`)「よくその顔で提督になれたな。すごいすごい」
(うA`)「顔、顔、顔ってよぉ……」
( ^ω^)「おうやめたれや」
23
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:04:31 ID:62pQqJ3.0
間宮の言う事は正しい。艦娘は恋愛に対する関心が大きいと聞く
そんな中で活動する提督という人間は、最も近い異性だ
彼女達だって、恋をするならイケメンの方がいいだろう
海軍本部から公言されてはいないが、顔面偏差値は選考の一つと噂されている
(うA`)「俺は体力テストでトップだったから、多分それで……」
( ^ω^)「ブサメンのハンデを乗り越えて提督になったって事かお!!それって凄いお!!」
(うA∩)「うああああああああああああああああ!!!!!!」
トドメを刺された
(;^ω^)「あっ、ごめ。そんなつもりじゃ……」
(´・ω・`)「あーあー、泣ーかした泣ーかした」
( ^ω^)「いや八割方アンタの所為だお」
(うA∩)「うええええええええええ!!!!お家帰るうううううううう!!!!!」
(´・ω・`)「今日からここがお前の家だ!!よろしく!!!!」
(うA∩)「お母ちゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
(;^ω^)「ちょ、泣くなお……良い大人が……」
('A`)「うん」
(;^ω^)そ「うわぁ!!急に泣き止むなお気持ち悪い!!」
('A`)「立ち直りの早さと前向きさだけが取り得だから」
:( A ):「取り得……だから……ウッ……」
(´・ω・`)「まだ引き摺ってんじゃねーか」
24
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:06:02 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――
―
('A`)「説明を要求します」
作戦指令室にて、俺は本部と通信連絡を取っていた。割と強い口調で
だってそうだろ?聞いてた話と全然違うんだから。俺じゃなかったら殺してたよ?いやほんとマジで
『キミの指揮下に居たく無いという艦娘が多数でね。これでは戦力にならないと思い其方の鎮守府を担当してもらうこととなった』
('A`)「担当して貰うことになったじゃねーよクソが」
『なんだね?』
('A`)「なんでもありません。しかし、兵力が居ない中では近海警備も出来やしませんが」
『必要ない。そこは既に深海棲艦から解放された海域だ。監視だけしてくれればいい』
('A`)「しかし、万一に備えて艦娘の配備を」
『検討する。話は以上かね?諸々の説明は書類にて確認してくれ』
これ絶対検討しねーよ。頼みごとが検討されて為しえた事実なんてこれまでねーよ
('A`)「もう一つ、ここは曰くつきの鎮守府と聞きましたが?」
『それが?』
('A`)「それがって……いえ、何でもありません」
やっぱ俺でも殺しちまうわこれ。車裂きで殺すわ
25
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:07:26 ID:62pQqJ3.0
『それでは、貴官の活躍に期待する』
それだけ言い残して、通信は切れた
('A`)「……」
('A`)「なーにが、『活躍を期待する』だよクソが。テメーの小せえマラで喉詰まらせて死ね」
途中、ポロッと本音が漏れてしまったが、聞かれなくて良かった
上官に暴言を吐いた罪で軍法会議とか洒落にならん。どうせならぶっ殺してから死刑になりたい
('A`)「ハァー……ヘコむわー……」
薄々察してはいたが、まさか顔面が個性的なだけでここまで酷い扱いを受けるとは思わなかった
第一印象は大切だが、それだけで人間性が計れるか?ブサイクでもかっこいい奴なんていっぱいいるぞ?
('A`)「仕事は近海域のレーダー及び肉眼による監視。その為、艦娘の配備は無し、人員も必要最低限か……」
虚しい。何のために俺はあれだけ苦しい訓練を乗り越え、猛勉強をしたのだろうか
作戦指令室の重たい扉を開き、意気消沈しながら廊下に出た
26
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:08:59 ID:62pQqJ3.0
('A`)「しっかし、参ったなこりゃ……」
懐中電灯で足下を照らしながら、やや遠い食堂へと歩く
艦娘、とりわけ『初期艦娘』は提督にとって重要な存在となる
新規着任した提督は、戦闘及び『建造』で艦娘を増やしながら、海域を解放していかなければならない
艦娘の入手方法は大きく分けて二つだ。工廠で造るか、戦闘後に『ドロップ』した艦娘を持ち帰るか
工廠とは、艦娘が産まれる母体の役割を果たす施設だ
『建造ドック』と呼ばれる、二メートルほどの大きなブラックボックスに
艦娘専用である特殊な四つの資材、それと、卵子の働きを持つと言われている『開発資材』とやらを投入する
すると、早くても二十分、遅くても八時間で、新しい艦娘を手にすることが出来るのだ
しかし、この作業は人間だけではこなす事が出来ず、艦娘の手助けが必要不可欠なのだ
ここの工廠をちょろっと弄くってみたが、やはりウンともスンとも言わなかった。結論、この方法で艦娘は手に入らない
そしてもう一つの『ドロップ』。艦娘の手で深海棲艦を撃破した場合
稀に、それが『艦娘』として生まれ変わる。どういうワケかは知らないが
研究家の間では、『深海棲艦と艦娘は表裏一体の存在』だとか、『弾薬に含まれるほにゃららが深海棲艦を艦娘に造り変えた』だとか囁かれているが
詳しいことは知らん。ともかく、『深海棲艦を撃破』する必要があるってワケだ
これも無論、俺たちには不可能だ。奴らを倒してくれる艦娘はいない上に、深海棲艦すら現れないんだからな
('A`)「ハーレム、夢に潰えたり……」
足取りが重くなる。これからしばらく野郎三人のテラスハウスかよ。ハハッ
('A`)「死にてぇ……」
27
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:09:57 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――
―
(´・ω・`)「よーう、どうだった?」
ただっ広い食堂、間宮が料理を運びながら聞いてきた
('A`)「やっぱ艦娘の配備はしねーんだとよ。監視だけだから必要ねえって言われて」
(´・ω・`)「なんだそりゃ。随分と見下された采配だな」
('A`)「全くだ。ハァァー……これから先、男三人のだけの共同生活か……」
言葉にするだけでむさ苦しさで胸が詰まる
( ^ω^)「まーまー、監視だけの楽な仕事で給料貰えるんだから。前向きに考えるお」
('A`)「金を使える場所はねーんだけどな」
一番近い街まで、車で三時間掛かる
勿論、外出には許可が必要だし、そもそも車がねえ。送迎は本部が行う。それも申請が必要だ
(´・ω・`)「食料、嗜好品は月一の配給だってな。だけど、今の状況でも充分過ぎる量があるぞ」
( ^ω^)「マ?」
(´・ω・`)「マ。多分三ヶ月くらい腹いっぱい食っても大丈夫」
( ^ω^)「最高かよ」
(´・ω・`)「タバコもたんまり」
( ^ω^)「天国かよ」
('A`)「呑気だなお前ら」
28
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:10:52 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)「考え様だよ考え様、上司のお咎め無しで好き放題だ。後、ここの厨房かまどだった。ほれ飯」
( ^ω^)そ「お米が立ってる!!」
('A`)「いや、一応俺がお前らの上司なんだけどね?」
(´・ω・`)「そういうのいいから」
( ^ω^)「マジ萎えるわ」
('A`)「俺は上司として威張り散らすことさえも出来ないのか」
( ^ω^)「威張り散らしたらアレだお?なんか、こう、三人しかいないのに空気悪くなったら」
( ^ω^)「居辛くなると思うお。廊下ですれ違う度に、舌打ちとかするけどいいのかお?」
('A`)「わかった、わかったから恐い想像させるのやめて」
(´・ω・`)「まぁ、これから何するにしても腹ごしらえだ。食え食え」
山盛りのメシに鳥の竜田揚げ、中華風野菜炒めに卵スープがテーブルに置かれる
どれもこれも美味そうだ。訓練校の学食はどうにも味気なかったからな
(* ^ω^)「ひゃっほう!!いただきますお!!」
(´・ω・`)「いただきますっと」
('A`)「……」
二人がガツガツと飯を掻き込むのを見て、俺の腹の虫も鳴き声を上げて急かした
そういや、ここに来てから何も口にしていなかったな
('A`)「……いただきます」
('A`)「うめえ!!!!!!!!!!!」
29
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:12:25 ID:62pQqJ3.0
食後、コーヒーを飲みながら改めて自己紹介をする流れになった
喫煙者の明石と間宮は美味そうにタバコを吹かす。くせえんだよ
('A`)「えー、では俺から」
(´・ω・`)y-~「ええぞええぞ!!」
( ^ω^)y-~「一発芸やれお!!」
('A`)「新歓かよ。東郷ドクオ、階級は少尉だ。一発芸やります」
( ^ω^)y-~「やんのかお」
('A`)「細かすぎて伝わらないモノマネシリーズ。映画『暴走特急』から。トイレに現れた敵を女の色気で油断させて一瞬でぶっ殺した後のケイシー・ライバックの一言」
('A`)「おっぱいには気をつけろよ」CV.大塚明夫
(´・ω・`)y-~「……」
( ^ω^)y-~「……」
('A`)「なんか言えよ」
( ^ω^)y-~「ドックンはどうして提督になったんだお?」
('A`)「ええ……いきなり馴れ馴れしい……いいけど……」
('A`)「理由なんてお前、そんなもん艦娘とイチャコラ出来る以外にあるか?」
(´・ω・`)y-~「……低俗だな。お前」
('A`)「いや実際、訓練校でもそんな奴ばっかだったよ」
( ^ω^)y-~「ゲス野郎かお」
('A`)「ごめんね!!!!」
( ^ω^)y-~「反省しろお」
('A`)「うわなんか風当たりがキツい」
30
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:13:30 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)y-~「確認するが、本当に何かやらかしてここに来たんじゃないのか?」
('A`)「教官を何回がぶん殴りそうになったこと以外潔白だよ」
( ^ω^)y-~「問題児じゃねーかお」
('A`)「でもなんでそんなしつこく確認するんだよ」
(´・ω・`)y-~「俺らは問題起こしてここに送られたからなぁ」
( ^ω^)y-~「ハハッ、ワロス」
(;'A`)「それでよく俺のことゲス野郎だの問題児だの呼んでくれたなお前ら?そういや、曰くについて本部は答えてくれなかったんだが」
('A`)「なんかあんの?ここ」
(´・ω・`)y-~「後で話してやるよ。ほれ、次ブーン」
( ^ω^)y-~「明石ホライゾン、渾名はブーンだお。艤装の整備が仕事だお」
('A`)「何の問題起こしてここに?」
( ^ω^)y-~「艤装を魔改造して工廠吹っ飛ばした」
(;'A`)「お前それ軍法会議モンじゃねーか!!!!」
( ^ω^)y-~「うん、その結果がこれ」
(;'A`)「死刑にならなかっただけマシだな……つーか俺はどうしてここに送られたん……?」
( ^ω^)y-~「ドンマイ☆」
('A`)「うるせえ反省しろ」
( ^ω^)y-~「嫌どす」
('A`)「死刑になっちまえ」
31
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:15:36 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)y-~「最後は俺だな。間宮ショボン、飯炊き当番だ。ショボンでいいぞ」
('A`)「しょぼくれ眉毛はどんな事件起こしたんだ?」
(´・ω・`)y-~「ぶっ殺すぞブサメン」
('A`)「あ?」
(´・ω・`)y-~「お?」
( ^ω^)y-~「出会って半日も経ってないのに仲のよろしいことで」
(´・ω・`)y-~「俺は、アレだ。前の鎮守府で提督のオキニの艦娘寝取った」
(;'A`)「は?」
(´・ω・`)y-~「愛宕とかいう重巡洋艦娘だったな。下の毛がすげー濃いの」
( ^ω^)y-~「下もパツキンだったのかお?」
(´・ω・`)y-~「うん」
(;'A`)「それマj……いや、それはまた今度じっくり聞くとして」
(;'A`)「アンタもすげーことやらかしてんな……」
(´・ω・`)y-~「いや、問題はそこから」
(;'A`)「そこから?」
(´・ω・`)y-~「マジギレして軍刀で斬りかかってきた提督も掘った」
(;'A`)「ブーン、逃げよう!!」
(;^ω^)「僕らの処女が危ねえお!!」
(´・ω・`)y-~「俺にだって抱く男を選ぶ権利くらいあらぁ」
32
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:16:18 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「片やマッドエンジニア、方や両刀料理人……まともなのは俺だけか」
(´・ω・`)「顔面がまともじゃねえけどな」
('A`)「あ?」
(´・ω・`)「お?」
( ^ω^)「もう付き合っちゃえおお前ら」
('A`)「で……」
不安ばかりが募る自己紹介も追え、いよいよこの鎮守府の曰くについて聞く
ブーンもこの場所については詳しくないらしく、ただの左遷だと思っているそうだ
(´・ω・`)「あー、俺も前の鎮守府で小耳に挟んだだけで、詳しくは無いんだが」シュボッ
(´・ω・`)y-~「ここは傷害事件や命令無視をした艦娘が送られる流刑地だったらしい」
( ^ω^)「流刑地?」シュボッ
(´・ω・`)y-~「後、提督もな。上官ぶん殴ったりした奴とか」
('A`)「早かれ遅かれここに来る運命だったか……」
( ^ω^)y-~「お前性格に難あるお。で、曰くってのはそれだけかお?」
(´・ω・`)y-~「いや、曰くってのはここから」
33
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:17:29 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)y-~「着任した提督や艦娘が、悉く不審死を遂げたらしい」
(;'A`)「えっ……?」
ショボンはタバコ一服、一呼吸置いた
何この場所?ホラー映画の舞台にでもなったの?
(´・ω・`)y-~「オカルトか、それとも海軍の闇の部分か……どちらにせよ、役立たずを処理する場所として機能してたそうだ」
( ^ω^)y-~「艦娘の幽霊とか出そうだお。やったじゃんドクオ、イチャコラ出来るお」
(;'A`)「生きてるのでお願いしたい……待てよ、前任はここの海域一層したんだよな?」
(;'A`)「脛に傷のある艦娘を、難ありの提督が指揮してそれほどの大戦果を出せるのか?」
(´・ω・`)y-~「いやそれがお前、すげー強……やっべ、緘口令敷かれてたんだった」
( ^ω^)y-~「緘口令?」
(´・ω・`)y-~「うーん……ドクオが上に報告しないんなら話してやってもいいんだが」
(;'A`)「いやいやお前、ここまで話しといてやっぱ言えないですとか生殺しだろ。黙っといてやるから続き頼むよ」
(´・ω・`)y-~「話が分かるな。前の提督もお前くらい心が広かったらなぁ」
('A`)「いや、流石に女寝取られたら俺だってキレるよ?」
( ^ω^)y-~「掘られるお?」
('A`)「オッサン程度ならボコボコに出来るから問題ねえよ」
( ^ω^)y-~「つえー……」
(´・ω・`)y-~「続き、話すぞ」
34
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:19:01 ID:62pQqJ3.0
灰皿代わりの空き缶に灰を落とし、ショボンは前任の話を続けた
(´・ω・`)y-~「問題児の寄せ集めを、問題児が指揮する……それにも関わらず、すげー強かった」
(´・ω・`)y-~「艦隊戦も然ることながら、格闘、剣術、矛術による白兵戦までこなし、降伏の意思を示す深海棲艦でさえ容赦なくぶち殺す……」
(´・ω・`)y-~「その戦いぶりから、『なんとかかんとかちんちんまんまん鎮守府』と呼ばれてたそうだ」
(;'A`)「肝心な所曖昧じゃねーか!!」
(´・ω・`)y-~「又聞きだからなぁ。だが、その目覚しい活躍の裏で、結構な悪事も働いていたらしい。艤装を外した艦娘を奴隷として売ったり……」
(´・ω・`)y-~「薬漬けにしてアレしたりコレしたりとまぁ、様々な悪事が本部にバレた結果……軍法会議に掛けられて処刑されましたとさ」
最後に、『おしまい』と付けたし、ショボンは短くなったタバコを缶の中に放り込む
『ジュッ』と短く音を立て消えたそれが、さながら前任提督の有様のように思えた
(;'A`)「そんなクソ野郎だったのか……」
(´・ω・`)「さぁな、あくまで噂だ。真相を知ってる奴なんざ、海軍上層部でも一握りだろうよ」
( ^ω^)y-~「そいつに比べたら俺らのしでかした事の罪の軽さたるや」
(´・ω・`)「ホントだよ。こんなブサイクと一つ屋根の下にさせられて……」
('A`)「いやそれ俺のセリフだからな?」
35
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:20:17 ID:62pQqJ3.0
('A`)「しかし、そんなことがあったのか……」
口を噤むと、聞こえてくるのは蛍光灯の音と羽虫の鳴き声
外には街灯すらなく、窓から見える海には、まるで飲み込まれそうな暗闇が広がっている
人里離れた場所での、怪奇で猟奇的な噂に溢れた鎮守府。そう考えると、背筋がゾッと凍った
(;'A`)「とんでもねえ場所に、送られちまったんだな俺ら……」
( ^ω^)y-~「僕らは自業自得だから、割り切れるけどNE!!」
('A`)「あ、自分が悪いって自覚はあるんだ」
( ^ω^)y-~「もっとこっそりやればよかったお」
('A`)「やっぱ反省はしてねえのな……」
(´・ω・`)「俺は納得してねーよ。もっとここに送られるべき野郎は大勢いるぜ?」
( ^ω^)y-~「お?」
('A`)「……?」
ほんの、ほんの僅かだが、ショボンの目つきが険しくなる
無意識にだろうか、机の上に置かれている拳は固く握られていて
何か、嫌な過去を思い出したかのように見えた
(´・ω・`)「……うん?あっ、ああ、なんでもねえよ」
俺ら二人の視線に気付いたオッサンは、パッと表情を戻し、立ち上がる
(´・ω・`)「じゃあ、俺は疲れたから先に休ませて貰うぜ。朝飯は……一応、7時半ってことにしとくか」
それだけ言うと、食堂を後にした
36
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:21:03 ID:62pQqJ3.0
('A`)「……」
( ^ω^)y-~「……」
顔を見合わせ、しばらく黙っていたが
フィルター際までタバコを吸ったブーンが、缶の中に吸殻を捨てたのを皮切りに話を切り出した
( ^ω^)「……オッサンだから、多分、色々見てきたんだと思うお」
('A`)「何を」
( ^ω^)「『人』って奴だお」
『人』。確かに、俺が産まれる前から世界を見たオッサンは、俺より見聞が広いだろう
しかし、ブーンが言った『人』という言葉に、妙な引っかかりを感じだ
( ^ω^)「ドクオは……どんな提督になるつもりだったんだお?」
('A`)「えっ?」
唐突な質問に、俺は言葉を詰まらせる
『どんな提督』?そりゃ、下心がねえと言ったら嘘になるが……
('A`)「……」
『艦隊を勝利に導く為?』『艦娘を無事に帰還させる為?』『犠牲を厭わず敵を殲滅する為?』
考え付く何もかもが、ありきたりだ。安っぽい
( ^ω^)「実はちょっと、安心したんだお。僕は」
返答を待たず、ブーンは話を続けた
('A`)「安心、だと?」
37
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:22:21 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「ここは深海棲艦の居ない海、平和な海」
( ^ω^)「艦娘が配備される必要の無い、海だお」
( ^ω^)「艦娘が……」
(;'A`)「……」
朗らかな表情は変わらない。にも関わらず、突き刺さるようなこの悲痛は何だ?
こいつは、オッサンは、何を見たのだろうか?聞きたい、知りたい……だが
『その領域』は、俺が踏み込んで良いモノなのか?
( ^ω^)「おっお。面倒が少ないってだけの理由だお。そんな深刻な顔すんなお」
(;'A`)「ッ……」
ブーンに言われて、俺は初めて眉間に皺を寄せていることに気がついた
( ^ω^)「お前も疲れてんだお。サッサと寝るに限るお」
(;'A`)「ああ……そうだな」
指で目頭を解すと、ドッと瞼が重くなった
確かに長距離移動をしてからの、この現状だ。肉体、精神共に疲労が溜まっている
( ^ω^)「明日の朝ごはん、楽しみだおね」
そう言って笑うブーンからはもう、先ほどの悲痛は感じられなかった
38
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:23:54 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――
―
('A`)「……」
('A`)「平和だねぇ……」
穏やかな波の音、森の木々のざわめき、ウミネコの鳴く声
見張り台からの見る景色は、空より濃い海の青
時折、白いうねりを立たせながら広がっている
('A`)「こちらドクオ、レーダーどうだ?どーぞ」
『異常なしだお。どーぞ』
('A`)「知ってた」
『艤装弄りに戻っていいかお?』
('A`)「お好きにどーぞ……オーバー」
俺の一日の仕事は、肉眼及び双眼鏡による近海の監視
時折、鎮守府内にあるレーダーに何か映らないかを確認し、また監視に戻る
そして一日が終われば、本部に通信連絡をする
『本日も異常なし』と
39
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:24:50 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)「おーい、生きてるかー?」
余りの穏やかさに、ついうたた寝をしていたら
下から、オッサンの呼ぶ声が聞こえ覗き込む
('A`)「退屈で死にそうだぜー。次はラジオでも持ち込むかなー」
(´・ω・`)「おやつ食わねーかー」
('A`)「食うー」
塗装が所々剥がれた梯子を降り、コンクリートで埋め立てられた港湾に立つ
その一部分は、海上に面した坂道になっており、レールが敷かれている
海に出る艦娘は、カタパルトのようにそこから射出され、出撃するそうだ
( ^ω^)「おやつと聞いて」
(´・ω・`)「お前、食いモンのことになると機敏だな」
( ^ω^)「よせやい」
('A`)「まぁ、数少ない楽しみだしなぁ……」
実際、この場所は娯楽が少ない
全く無い、と言うわけでは無い。どういうことかは知らないが、映画と漫画だけはやたら揃っていた
後、スポーツ用具とかも結構ある。バトミントンとかしてはいい汗掻いて虚しさに襲われる
40
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:25:54 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)「ポッキーうっま……うま……」
( ^ω^)「ポッキーうっめ……ありえん……」
('A`)「ポッキー……美味……」
ショボンのオッサンは、こうしておやつを作ったり
その日の献立を考えては、仕込みをしたりと、のんびり料理を作っている
ブーンは、電の艤装を弄繰り回して遊んでいた
頻繁に甲高い金属を打つ音が聞こえてくるのがとても恐い。また工廠を吹っ飛ばすんじゃねえかってヒヤヒヤしてる
('A`)「……」
とまぁ、これが俺が着任してからの三日間だ
要は、欠伸が出るほど平和で、死にそうなほど暇で、白目剥くほどやることが無い
『忙殺』という言葉があるが、退屈でも人は死ぬんじゃねえのかって思うような毎日だった
('A`)「……ダメだよな、こんなんじゃ」
( ^ω^)「は?ポッキー美味いだろ?」
(´・ω・`)「なんや?ナッツ入りが良かったんか?」
( ^ω^)「僕は抹茶の、こうなんか太い奴が良いお」
(´・ω・`)「あれはポッキーと呼んで良いのだろうか……ポキッって言うより最早『ボキッ』……そう、ボッk('A`)「そうじゃねーよバカかよテメーら」
41
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:27:29 ID:62pQqJ3.0
('A`)「考えてもみろ。一日を退廃的に過ごして、飯食って寝る。こんなの、『生きてる』って言えるか?」
変わり映えしない景色に、変わり映えしない日常。心がゆっくりと腐っていくような心地がする
俺はとにかく、この状況を少しでも変えたかった。習慣でも、環境でも、何だって良い
幸いにも、ここでもっとも地位のある人間は俺だった。行動を咎める上官はいない
('A`)「やるぞ」
(´・ω・`)「あ?何を?」
('A`)「春の鎮守府一斉、模様替え大掃除大会だ!!!!!!」
( ^ω^)「大会……?」
(´・ω・`)「大会……?」
('A`)「なんだ文句あんのか?やるか?お?」
先ずはこの鎮守府に蔓延する、暗いイメージを払拭する為に
大改造鎮守府ビフォーアフターと行こうじゃあねえか
♪Bruno Mars - Runaway Baby
https://www.youtube.com/watch?v=6Ww-8jvxT5Q
( ^ω^)「木材、釘、それにペンキ。倉庫に置いてあった物持って来たお」
('A`)「よし、ブーンは建物でガタの来てる箇所の修繕に当たってくれ」
( ^ω^)「まかせろ」
(´・ω・`)「鎌に高枝切りバサミ、それと脚立だ」
('A`)「建物に巻き付いているツタを取り除いて、伸び放題の植木の形を整えてくれ。得意だろ?なんか植物の心読めそうだし」
(´・ω・`)「それは別作品の話で、俺は庭師じゃなくて料理人だ。まぁ、やるだけやってみるがよ」
42
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:28:42 ID:62pQqJ3.0
('A`)「さて、俺はひび割れた壁の修繕だ」
練ったコンクリートをひびに沿って塗り、金ごてで綺麗に整える
多少不恰好だが、そのままにしておくよりマシだろう
もしも、この場所に艦娘が来るようなことがあれば
オバケ屋敷でお出迎えなんて、不恰好だし不気味に思うだろう。実際俺は思ったし
例えこの場所が、問題児達の流刑地だったとしても、暖かく迎え入れられるようにしておきたい
('A`)「Run run runaway, runaway baby♪Before I put my spell on you♪」
内地にいた頃にはダリィと思うだろう作業も、ここでは楽しくて仕方が無い
ウミネコと、波と、木々のざわめきに加えて、金づちに鋏を動かす音
なんでもない作業音が、変化のもたらす音楽に聞こえてくる
( ^ω^)「うーん……老朽化は進んでるけど、所々修理もされてるお」トンテンカントンテンカン
(´・ω・`)oVo「……」チョキチョキ
(´・ω・`)oVo「ふむ……」
(´・ω・`)つ8<「……」
(´・ω・`)つ8<「なんだ……しっくり来るな……」
日が暮れるまで作業して、風呂入って飯食って寝て
起きて飯食って、作業して、たまに遊び、休んで、作業する
その合間に、全く変化の無い海を監視、レーダーで確認、一日の最後に報告
そんな日常が、しばらく続いた
43
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:29:34 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「カーテンやシーツの洗濯は大変だな……」
( ^ω^)「ドクオ!!世界を、塗り替えなイカ?」
('A`)「は?何その水鉄砲……?」
( ^ω^)「薄めたペンキを発射できるように改造したお」
( ^ω^)「死ね」ドピュッ
(;'A`)そ「うおお声色がマジだ!?」サッ
(´・ω・`)「おーい、おやつ……」ビチャッ
( ^ω^)「あ」
('A`)「あ」
(´・ω・`)「……」
(´・ω・`)「オーケー、宣戦布告と見なした。殺す」
(;'A`)そ「ちょっと待て俺は何もしてなうおお!?」
( ^ω^)「またこの鎮守府に新たな猟奇殺人が追加されると言うのか……人とは哀しい生き物よな……」
('A`;)「お前の所為だろうが!!ちょっ、オッサン!!鎌はやめろ鎌は!!」
たまに、こういったハプニングが有りながらも、改築は順調に進む
44
:
名無しさん
:2016/04/03(日) 16:30:08 ID:uNO.6MOw0
おもしろいぞ
45
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:30:22 ID:62pQqJ3.0
寝床のマットを干し、シーツやカーテンを洗濯し、軋みを上げる家具の修理をして
窓を磨き上げ、床に転がってるショットガンを片付け、真っ赤なクレヨンで『たすけて』と壁一面に書かれている部屋をピカピカにして
('A`)「ふーい……」
( ^ω^)「終わった、かお」
(´・ω・`)「おつかれさん。さぁ、乾杯だ」
およそ一ヶ月の大改築は終了した
(´・ω・`)「音頭取れ、ドクオ」
('A`)「俺が?」
( ^ω^)「ドクオが言い出したことだお。しっかり締めるお」
(;'A`)「えーと、そんじゃあ……」
手渡された缶ビールの栓を開け、掲げる
('A`)「生まれ変わった、俺達の家に!!」
( ^ω^)「家に!!」
(´・ω・`)「家に!!」
「「「乾杯!!!!!」」」
.
46
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:31:12 ID:62pQqJ3.0
(*´^ω^`)「ぎゃはははははははwwwwwwwww」
(* ^ω^)「大麦乳大福もぐもぐwwwwwwwww」
(*´゚ω゚`)「ひーひひひっひひひwwwwwwwww」
そして、一時間でこの有様である
(;'A`)「うわぁ……」
(* ^ω^)(*´^ω^`)「「麦茶だこれ!!!!」」
いいえ、ビールです。それをお前らは麦茶並のペースでガブガブやってるんです
それに加えて、お前らタバコも吸うから酔いが回るのはええんです
いくら備蓄に余裕があるとは言え、流石に呑みすぎだ
('A`)「そろそろお開きにしようぜ」
(*´^ω^`)「堅ぇこと言うなよ提督よぉ〜?俺ァなぁ、俺ァなぁ……」
(*´;ω;`)「ひぐっ、嬉しいんだよォ〜……オオウオウオウ……」
(;'A`)「ええ〜……」
さっきまでゲラゲラ笑ってたオッサンが、急におうおうと泣き出した
笑い上戸な上に泣き上戸かよ……純粋にめんどくせえ……」
(*´;ω;`)「お前、お前……新人なのにさぁ……こんな場所連れてこられてさぁ……散々な目に遭ってんのによぉ……」
(*´;ω;`)「この一ヶ月、ふて腐らねえで鎮守府の改善を成し遂げたじゃあねえかぁ〜……」
(;'A`)「え?お、おう。ありがとう」
47
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:32:27 ID:62pQqJ3.0
(*´;ω;`)「最初は、他の連中と同じような、ゲスいだけのクソ野郎だと思ってたけどよぉ……」
聞き捨てならねえが、その通りだから何も言い返せないのが悔しい
(*´;ω;`)「それでもおま、お前……やって来るかもどうかわかんねえ艦娘の為に、ヒクッ、汗水垂らして働いたじゃあねえかぁ……」
(* ;ω;)「うおおおおおおおおおおお!!!!!」
(;'A`)そ「うおっ!?お前もかブーン!?」
ニコニコ笑っていたブーンも、突然大声を上げて泣き出す
何だこれ俺はどうすればいいのこいつらを
(* ;ω;)「愛だお……愛の為せる技なんだおおおおおおおお!!!!」
(;'A`)「愛ってお前……大げさだろ……」
艦娘の環境改善の為に改築に取り組んだのは嘘じゃないが、退屈しのぎで始めたのも事実だ
これほど感動されるほど、俺は大義を持って行動したわけじゃない
照れ隠しも兼ねて、それを伝えようとした矢先に
(*´-ω-`)「ぐごーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
(* ‐ω‐)「すやーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
叫んでんじゃねえかと思うほどの、大いびきを掻いて二人は眠ってしまった
(;'A`)「おいおい……」
揺さぶっても起きやしない。今日は総仕上げとして大分働いたから、疲れていたんだろう
それは俺も同じだったが、起きている以上、放っておくわけにも行かなかった
48
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:33:44 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――
―
(;'A`)「つっかれたー……」
自室のベッドに体を投げ出し、伸びをする
男二人をそれぞれの部屋に運ぶのは、やはり重労働だ
しかも一人はデブだったから、最終的には転がした
なんどか壁に顔をぶつけてしまったが、酔ってた所為にすりゃいいだろ
('A`)「ハァー……」
疲れと酔いが、まどろみの中へと引きずりこんでいく
ぼんやりとした頭で、明日から何をしようかなんて考えながら、俺も眠りに就いた
(-A-)「スゥ……」
(-A-)
(-A-)
(-A-)
.
49
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:34:35 ID:62pQqJ3.0
『りん』
.
50
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:35:33 ID:62pQqJ3.0
聞き覚えのある、鈴の音だった
(-A-)「……」
部屋の中に、人の気配がする
ブーンか、オッサンか。尋ねようとしたが
声は出ない、体も動かない。俗に言う、金縛りに掛かっている
きっと、夢だろう。気にするまでも無い。もうここは、オバケ屋敷ではないのだ
「さて、新しい提督さん」
この場所で始めて聞いた、女の子の声だ
結局この一ヶ月、声の正体は分からずじまいだったな。白昼夢でも見てたのだろうか
「貴方はこれから、『前』より余程厳しい状況で、深海棲艦に挑まなければならない」
待てよ、ここは既に解放された海域じゃあないのか?
一ヶ月間、静かで穏やかなもんだったぞ?
「解放された海域?ハハ、可笑しな事を仰る」
「海が一つに繋がっている限り、『彼女達』はどこにだって赴き、どこにだって現れる」
「勝利条件はただ一つ、『深海棲艦の全滅』。それは、向こうにも言える事」
「降伏など無意味、和解など持っての他。殺すか殺されるかの『戦争』。それを『彼』はちゃんと理解していた」
彼、とは?
「軽巡洋艦、『龍田』」
51
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:36:11 ID:62pQqJ3.0
(;-A-)「……」
龍田だと?艦娘を、『彼』と?
アンタは、一体何を言っているんだ?
「艦娘でありながら、人間であり、そして深海棲艦でもあった、奇妙な男性で……」
「この場所の、前任提督だった」
支離滅裂が過ぎる。艦娘なのに、人間で、それに深海棲艦だと?
もしそんな奴がいたとして、それが何故こんな場所で提督をしていた?
「さて。艦娘に拒絶され、忌まわしき鎮守府へと流れ着いた『丸腰の提督』さん」
『りん』と、また鈴の音が響くと
動かない俺の手に、柔らかな毛の……『猫』のような感触が広がった
「貴方は果たして、『彼』の意思を継ぐ者となれるでしょうか?」
.
52
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:37:54 ID:62pQqJ3.0
('A`)「……」
('A`)「あ、ああ……朝か……」
カーテンの隙間から差し込む光で、目を覚ます
起き上がると、僅かに頭痛がした。二日酔い気味だろう
('A`)「なんか……変な夢見た気がする……」
内容を覚えてはいないが、とにかく不可思議な夢だった筈だ
思い出せないもどかしさで、頭を掻こうと手を上げた時
('A`)「ん?」
俺は、何かを握っていることに気がついた
('A`)「……USB?」
8GBの、USBメモリーだ
こんな私物を持ち込んだ覚えは無い。この一ヶ月の改装及び大掃除で、記憶媒体を見つけた覚えも無い
ブーンかショボンの物だろうか?だとしても、あいつらの物を、俺が握りこんで寝ているのは可笑しくないか?
('A`)「……ま、いいだろ」
司令室にはパソコンがあった。後で確かめてみよう
スウェットのポケットに仕舞いこみ、食堂へと向った
53
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:38:41 ID:62pQqJ3.0
(;´ ω `)「おあよう……」
(; ω )「おうぇっ……顔痛……」
(;'A`)「……」
コーヒーを一杯淹れる間に、昨夜ベロンベロンに酔っ払った二人がのそのそとやって来た
どちらも頭を抱えながら、青白い顔をしている。麦茶みたいにビール飲んでるからだろ
(;'A`)「コーヒーか?それとも水か?」
(; ω )「水くれお……」
(;´ ω `)「悪ぃ……今日は仕事できそうにねえや……」
(;'A`)「お、おう……良いよ今日は休んでろ」
入れてきた水を飲み干した二人は、またふらふらと寝床へ向った
今日は俺一人で仕事か……まぁ、次の方針を考えるいい時間になるだろう
('A`) ズズッ
つ日
('A`)「さてと……始めるかね」
まだ半分ほど中身が残っているマグカップを持ちながら、作戦指令室へと向った
54
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:40:09 ID:62pQqJ3.0
('A`)「アラート、異常なし。レーダー、異常なし。その他計器……オーケー、異常なし」
レーダーは最重要機器だ。艦影を捉えると、鎮守府全域に警報を鳴らす
これが動いていないと、近づいてくる深海棲艦を見つけるのが難しくなる
朝と夕方、二回のチェックは欠かせない。まぁ、いつもブーンがメンテしてくれているから、今の所問題は無いが
('A`)「今日も平和でござんすねっと……」
つ日
軽くぼやいて、コーヒーを啜ろうとした時
('A`)「……?」
俺は自分のぼやきに、違和感を覚えた
平和……なのか?本当に?
(;'A`)「はは、何を……」
ここは大本営が、艦娘を配備する必要が無いと結論を出した海域だ
一ヶ月間、何の異常も無かったじゃないか……
(;'A`)「……クソッ」
嫌な想像ってのは、考えないようにすればするほど広がるもんだ
温くなったコーヒーを一気に飲み干して、不安を苦味でむりやり洗い流し、今度は見張り台へと赴く
55
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:40:48 ID:62pQqJ3.0
('A`)「今日のご機嫌は悪いようだな……」
今日の天気は曇り空、風も吹き波が高い
空も海も灰色に染まり、巨大なバケモノが、大口開けているかに見えた
広げた折りたたみ椅子に深く座り、イヤホンを耳に突っ込み、ウォークマンの再生ボタンを押す
♪Zebrahead - Rescue Me
https://www.youtube.com/watch?v=w0rkj_GHO2g
('A`)「……」
風が波を押し上げ、時折港湾に水しぶきを立たせる
こんな時化た海でも、艦娘は出撃しているのだと言う
その姿を目に掛けたことは無いが、もしもその背中を見送ることがあるのなら
俺は、どう声を掛けたらいいのだろうか?
('A`)「戦争、か……」
提督は、艦娘の司令官という立場だ
言うならば、机上の駒を進めて、戦いを勝利に導く存在だ
だから……『戦場の空気』を、読み取ることが出来ない。砲の音も、魚雷発射音も
圧倒的火力で迫る戦艦級深海棲艦の圧力も、音も無く足下に現れる潜水艦の恐ろしさも
それを知らない立場で、『頑張ってこい』『必ず勝て』など、言っても良いものだろうか?
近頃、そんなことを考えるようになった。多分、もっと早くに
それこそ、提督の道に進む前に考えるべきことだろう
56
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:41:48 ID:62pQqJ3.0
('A`)「……」
幸か不幸か、俺にはその考える時間が与えられた
もしも艦娘が手元にいて、順調に海域を開放し、次々と彼女達を増やしていたら
俺は色に目が眩んで、ブーンが最初に言った『ゲス野郎』になっていたかもしれない
('A`)「……」
ここの前任のように、艦娘を悪戯に……
('A`)「……?」
悪戯に、扱ったのか?
('A`)「……なんだ、この、感じ」
ショボンのオッサンから聞いた噂話に、昨日までの俺は疑いも無く嫌悪を抱いたはずだ
だが今は、それが疑問に変わっている。またもや、『本当に?』と
('A`)「ッ……」
ポケットから、USBを取り出す
寝てる間に握っていたこれに、その『答え』が載っているとしたら……?
('A`)「俺は、一体……?」
変だ、今朝から、夢を見てから
椅子を折りたたみ、もう一度海を注意深く眺めて異常が無い事を確認し
俺はパソコンがある司令室へと急いだ
57
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:42:46 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――
―
('A`)「テキストファイルか……」
三つのテキストファイルと、ピクチャファイル
タイトルはシンプルに数字で記されていて、中身が何なのか検討もつかない
('A`)「……」
差しあたって、最上部にある『1』のファイルをクリックしてみた
ワードが開かれ、その内容が表示される
その書き出しは、まるで
『貴方がこの手記を読んでいる時、私は既にこの世にはいないだろう』
『自己紹介をしよう。私は「流刑地」と呼ばれた鎮守府に四年間着任していた提督だ』
『噂には聞いているだろう。着任した提督や艦娘が悉く不審死を遂げる、呪われた鎮守府』
『そこで私は、「家族」と共に周辺海域を深海棲艦の支配から解放した』
三流脚本家が書いた、映画やドラマのような物だった
(;'A`)「これ、前任の……」
ごくりと、溜飲を下す。残酷な噂話を思い出し、鳥肌が立った
だが、俺はついさっきその考えに疑いを持った身だ。それを晴らすためには、これを読まなければならない
意を決し、マウスホイールを回していく
『最初に、このメモリーの内容を説明しておく。この1番目のファイルは「艦娘の現状」について』
『2番のファイルは、私が「提督」として勤めた四年間の日記だ。別に読んでも読まなくてもいい。長いから途中で切ってくれても構わない』
『最後に、私の願いについて』
('A`)「ふむ……」
深海棲艦と艦娘に関する書籍はいくつか読んだが、殆どが考察に近いものだった
両者とも謎が多い。艦娘自身も、その出生を語ることが出来ない
どこから来て、何が目的なのかがハッキリとしていないのだ
58
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:44:09 ID:62pQqJ3.0
俺は、この文章を書いた人物の研究結果をまとめているものだと思っていた
しかし、スクロールして読み進めていくうちに、それは全く見当違いだと知ることになる
(;'A`)「……」
そこに書いてあったのは、海軍の『闇の部分』
艦娘が受けた、非道だった
『最初に出会った叢雲は、前の鎮守府で自爆特攻を命じられ、決行直前に戦場から逃げ出した』
『命じた理由が、「口答えをしたから」だ。初期艦としてアドバイスをしたつもりだったのだが、当時の司令官はそれが気に食わなかったのだろう』
『時雨は、提督が圧力支配をする鎮守府でのストレスに耐え切れず、傷害事件を起こした』
『大本営の独房で彼女を最初に見たとき、彼女の目は人間に対する殺意しか映ってなかった』
『性的案件は数え切れない。艦娘は無条件に提督に好意を寄せると言うが、それは間違いだ』
『愛好の感情の裏には、必ず嫌悪の感情がある。どちらか一方だけに偏るなど、ありえないのだ』
『ここに集まる艦娘は、こういった提督の身勝手によって追い出された者ばかりだった』
(;'A`)「……」
つまりは、自分の欲望を満たすために提督となった奴らに刃向かい、逃げ出した艦娘がここに送られたのだ
『提督が全員、色欲に流れる下衆の類とは言わない。私が海軍所属になってから幾つかの鎮守府を見てきたが』
『真剣に戦争の終結を望み、日々戦いに挑んでいる者達も確かに存在する。だが』
『目先の勝利に囚われ、艦娘の命を粗末に扱う人物も現れてしまう』
『しかもその行為は、人が人を扱うよりも安易に行われてしまうのだ』
『人。「人間」という生物が誕生するまで、母親の胎内で十ヶ月ほどの時間が掛かる』
『そこから更に「青年」と呼べるようになるまで十数年の月日を要する。人には、『人生』という重みがある』
『その重みがあるからこそ、兵士の命を預かる「指揮官」は、容易く自爆覚悟の突撃を命じられない』
『しかし、艦娘はその成長過程を僅か20分、長くても八時間で済ませてしまう。それも、母とも呼べない箱の中でだ』
『産みのリスク、育てのリスクが余りにも軽い。加えて、彼女達は「資材」から作られる』
『死亡責任を追及する父や母、『家族』も存在しない。無謀な命令で彼女達を死なせ、責められることが無い』
『「提督」の双肩に掛かる責任を、余りにも軽く考えているのだ』
59
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:46:11 ID:62pQqJ3.0
『それが顕著に表されているのが、「艦娘三原則」だ』
・第一条 艦娘は人間に危害を加えてはならない。
・第二条 艦娘は人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
・第三条 前掲第一条及び第二条に反する恐れの無い限り、自己を守らなければならない。
『アイザック・アシモフが自身のSF作品にて示した「ロボット工学三原則」を元に考案されたこの原則は』
『人間への安全性、命令への服従、自己防衛を目的とする三つから成る』
『人類共通の敵、「深海棲艦」に唯一対抗しいれる彼女達の、決して破ってはいけない掟』
『とどのつまり、「兵器」が人間に刃向かうなと、暗に言っているようなものなのだ』
『この「兵器」という認識が改められない限り、彼女達が置かれている環境が改善されることは無いだろう』
(;'A`)「……」
俺は、無意識の内に自分の胸倉を掴んでいた
マウスを握る手は汗でぐっしょりと濡れていた
(;'A`)「俺もだ……」
この文にある、艦娘を軽く扱った『提督』達と、俺はなんら変わらないではないか
大義を掲げるフリをして、結局の所、俺は自分のことしか考えていなかった
『艦娘に対する世間の認識や、風潮がそうさせた。お前は悪くない』
一瞬そう考えては、頭からかき消した
60
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:46:59 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「バカ野郎……分かるだろうが……」
映像で見た彼女達は、人の形をして話し、笑い、そして戦っていた
そこに傷つく『心』が無いはずがない。それを、蔑ろにして良いはずがない
これを読むまで、そんな単純なことに気がつかなかった
(;'A`)「っ……ふー……」
天を仰いで、ため息を吐いた
幸いなことに、俺の身勝手で無意味に傷つく艦娘が、ここにはいない
だが、例えこの場所に艦娘が来ても、俺は提督を続けるべきなのだろうか
命を預かる『責任』を感じて、逃げ出さずにいられるのだろうか
(;'A`)「……」
しばらく、自分の両拳を見つめながら考えていたら
いつの間にか、窓の外が薄暗くなっていた
(;'A`)「嘘だろもうこんな時間……」
立ち上がって、今日の報告へ向おうとした
そしてふと
('A`)「……」
俺は、他の鎮守府を見てきた二人にもこれを見せようと思い
手早くプリントアウトをし、クリアファイルに仕舞った
61
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:48:14 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――
―
('A`)「お……?」
本部への報告を終え、適当に夕食を済ませようと食堂に向っている最中
ふわっと、出汁の良い香りが鼻を擽った
('A`)「オッサン、具合はもういいのか?」
厨房では、二日酔いでダウンしていたショボンのオッサンが料理をしている
(´・ω・`)「おう、迷惑かけたな」
('A`)「全くだぜ。次は海に叩き込むからな」
(´・ω・`)「死ぬわ」
顔色も良く、体調は元通りになっているようだ
(´・ω・`)「簡単なもので悪いが、晩飯だ」
根菜と牛肉が入ったうどんを二つ、テーブルへ運ぶ
('A`)「ブーンはまだダウンしてんのか?」
食い意地の張ったあいつが、飯時にいないのは珍しい
(´・ω・`)「まだグースカ寝てたぜ。明日まで起きねえだろうな」
('A`)「相当だな」
62
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:49:20 ID:62pQqJ3.0
透き通るような関西風の出汁を啜る。摩り下ろした生姜の風味が爽やかだ
具は甘辛く煮込んであり、ゴボウの歯ごたえが良いアクセントになっている
('A`)「ああ、うめえ……」
自然と零れる、食事への感想。どっかの美味しnクソグルメ漫画のように、薀蓄垂れ流さなくとも
『美味い』の一言は、料理人に対する最高の賛美だと思う
(´^ω^`)「知ってる」
でももうちょい謙虚になれよムカつくなその顔
('A`)「ごっそさん」
五分足らずで食い終え、パンと手を合わせ食事への感謝をする
オッサンは灰皿を引き寄せ、食後の一服を始めていた
(´・ω・`)y-~「フーッ……そういや、こうやって二人だけでゆっくりするのは始めてだな」
('A`)「せやな……」
この一ヶ月はバタバタとしていたし、何か食うときは絶対ブーンいたしで
こうして向き合って話す機会は、無かったかもしれない
しかし、ちょうど良い。前の鎮守府の話を聞くには、おあつらえ向きだろう
テーブルに置いてあるクリアファイルを、オッサンに差し向けた
(´・ω・`)y-~「これは?」
('A`)「目を通せば分かる」
タバコの灰をトンと落としたオッサンは、コピー紙を取り出し、左右に目を流す
そして、『信じられない』といった表情で、俺の方へと向き直った
63
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:51:49 ID:62pQqJ3.0
(;´・ω・`)y-~「前任の……どこでこれを?」
('A`)「さぁな……今朝起きたらメモリーを握ってた」
(;´・ω・`)y-~「どうして俺に?」
('A`)「鎮守府勤務経験者の観点からの話を聞きてえ。俺は、ここ以外を知らない新米だからな」
('A`)「前任が残した手記が、本当かどうかを確かめたい」
俺の目を見て、オッサンの顔つきが真剣になる
まだ何も話してはいないが、俺の想いを察してくれたのだろう
(´・ω・`)y-~「……」ペラ
黙々と、文章を読み進める
時折、タバコの煙を吐くこと以外、口を開かなかった
(´・ω・`)y-~「フーッ……」
読み終えたオッサンは、机で紙をトントンと整え、クリアファイルに仕舞う
そして、短くなったタバコを揉み消し、すぐさま二本目に火をつけた
(´・ω・`)y-~「結論から言おう。事実だ」
('A`)「……」
(´・ω・`)y-~「だがまぁ、人間社会がそうであるように、ピンキリだがな」
('A`)「……オッサンが、前にいた場所は」
(´・ω・`)y-~「良い所だったよ」
64
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:52:30 ID:62pQqJ3.0
過去を懐かしむように遠い目をして、煙を吐く
(´・ω・`)y-~「イジメもねえ、設備は整ってる、福祉も充実……提督も若く、やり手だった」
(´・ω・`)y-~「問題があるとすれば、『俺』自身だ」
('A`)「オッサン自身……?」
(´・ω・`)y-~「『戦闘ストレス反応』って、分かるか?」
頷き、肯定した。戦場に出る兵士に起きるトラウマだ
戦争後遺症とも呼ばれる
(´・ω・`)y-~「まぁ、正確じゃあねーとは思うが、俺はそれを患った」
('A`)「え、でも……」
『そうは見えない』と言おうとしたが、手で制される
俺は口を噤み、次の言葉を待つことにした
(´・ω・`)y-~「一言で言っても、色々あるだろ。銃弾の音、死んで行く兵士、仲間の命を守る重圧感……」
(´・ω・`)y-~「心の病だ。薬や手術でそう簡単には治らねえ、難解なものだ……フーッ」
('A`)「……」
(´・ω・`)y-~「肝心の、トラウマ内容だがな……」
注意しなければ分からないほど、僅かにタバコが折れ曲がった
(´・ω・`)y-~「艦娘の轟沈だ」
65
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:54:12 ID:62pQqJ3.0
('A`)「……提督に、多いと思っていたが」
(´・ω・`)y-~「どうだろうな……少なくとも、前の提督はそれを『割り切っていた』
(´・ω・`)y-~「当然だ。戦争なんて殺し殺されの地獄絵図。そこに犠牲が伴わないワケがねえ」
(´・ω・`)y-~「短時間で『造られる』艦娘なら、尚更軽く扱われるだろう……この手記の通りにな」
オッサンはファイルを指で叩いた
そりゃ、そうだ。とどのつまり戦争は『殺したモン勝ち』
『犠牲を出したくない』など、平和的で優しく、能天気な願いが通る筈が無い
(´・ω・`)y-~「奴は優秀だったが、それは『勝つ』事だけに限られた。勝つためなら、犠牲を厭わないタイプのな」
(´・ω・`)y-~「だから……俺の顔見知りも、沈んでいくことが多かった」
タバコが、また折り曲がる
今度は、さっきよりも強い力を込めて
(´・ω・`)y-~「最初は卯月っつー駆逐艦娘だった。悪戯っ子でな、変わった語尾を付けてた」
(´・ω・`)y-~「俺が気まぐれで作ったお菓子をあげたら、飛び上がりそうなほど喜んでな……それから、二人三人と、厨房に顔出す連中が増えていった」
(´・ω・`)y-~「それから、俺のお菓子作りは日課となった。どいつもこいつも、良い表情で食いやがるんだ。美味しい美味しいってよ」
(´・ω・`)y-~「俺には家族が居なかったからな。自分のガキみてーに可愛がった……」
('A`)「……」
オッサンは、今まで見せたこと無いような優しい表情をしていた
きっと、彼女達に向けていたのは『性欲』ではなく、『親愛』だろう
だが、それも少しずつ悲しみの色へと変わっていく
66
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:57:20 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)y-~「ある日、卯月がパッタリ来なくなった。気になったが、一介の調理師如きがウロチョロしていい場所じゃあ無かった」
(´・ω・`)y-~「仲の良かった駆逐艦に聞いてみたら、『一週間ほど前に沈んだ』と、泣きそうな顔で答えてくれた」
(´ ω `)y-~「信じられなかったね。最後に会った日も、ふざけて笑っていたあの子が『死んだ』だなんてよ」
('A`)「オッサン、もう……」
余りにも辛そうな表情を見て、話を中断させようとしたが
それでもオッサンは、『最後まで聞いてくれ』と、呻くように呟いた
(;´ ω `)y-~「もっと恐ろしいのはここからだ……悲しみの傷も癒えてきた時、ひょこっと『卯月』が厨房に現れた」
(;´ ω `)y-~「最初は夢でも見てんのかと思った。だが、手の甲を抓ってみると確かに痛かった。現実に、死んだはずの卯月が現れた」
(;´ ω `)y-~「『生き返った』『帰ってきた』。俺はそう期待した。だが、あの子は俺の顔を見てこう言ったんだ」
タバコが、グシャリと完全に握りつぶされた
(;´ ω `)「『初めまして』とな……」
(;'A`)「……」
艦娘を知っている者なら、この謎は難なく解ける
『建造』もしくは『ドロップ』によってやってきた、新しい『艦娘』だ
姿形、人格も瓜二つ。だが、記憶や思い出は、まっさらな『別人』
もし俺の家族や、親しい友人が、全く別の存在として現れたとしたら
オッサンのように、恐怖を覚えただろう
67
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 16:59:36 ID:62pQqJ3.0
(;´ ω `)「卯月だけじゃねえ……弥生も、皐月も、文月も……みんな沈んでは建造され、何事も無かったかのように現れる……」
(;´ ω `)「そっ、それが、余りにも恐ろしかった……悪い夢を、延々と見せ付けられるような……」
(;´ ω `)「そんな日々が続いて、俺ァ馬鹿になっちまったんだろうな……提督の秘書艦と、提督を犯した……」
最初に出会ったときのような軽口では無く、重々しい、後悔が乗った口調だった
涙こそ流してはいないが、喉の奥から、時折しゃくりあげるような音が聞こえた
(;´ ω `)「精神疾患と診断された俺は、軍の病院で半年ほど入院した。上層部から退院時に突きつけられた二択が……」
(;´ ω `)「犯した罪に見合う年月を、牢屋で過ごすか。その倍以上の時間、『ここ』で勤務をするか……だった」
('A`)「……」
『何故』とは、聞かなかった。何となく、理解出来るからだ
オッサンは料理人だ。『美味しい』の一言が、オッサンにとっての最高の報酬なんだろう
('A`)「鎮守府に、戻ってきたのは」
('A`)「また……艦娘に料理を出す為だった、のか?」
(´ ω `)「……」カチッ シュボッ
(´ ω `)y-~「料理の腕以外に、取り得が無かったからな……せめて、美味い飯振るうくらいの償いをしたかったのさ」
68
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:00:51 ID:62pQqJ3.0
オッサンは自虐的に乾いた笑い声を上げ、目頭を指で揉み解す
顔を上げた時には、いつもの表情へと戻っていた
(´・ω・`)y-~「まさか艦娘が一人もいねえ場所に送られるなんざ、思ってなかったがな」
('A`)「……」
(´・ω・`)y-~「ああ、別に不満ってワケじゃねえ。ここの生活は楽しいし、お前も良くやってると思うよ」
('A`)「良く……やってるの、かな」
(´・ω・`)y-~「あん?」
また一つ、鎮守府の現実を知った
轟沈による心の傷。戦争という抗えない現実
軽い気持ちで踏み込むべき世界ではなかった
('A`)「今でもオッサンの話を聞いて、ここに送られたことを安心している。前線では、艦娘が命を落としているのに」
( A )「嫌でも自覚するよ……俺は能天気で、覚悟のない人間だったってことを……」
(´・ω・`)y-~「……」
自分の、胸中を打ち明けた。幻滅されても、構わないと思った
辛い過去を持ちながら、のうのうと提督面していた俺に、オッサンは心中で我慢してたのかもしれない
だから、その鬱憤を晴らして貰いたかった。だが
(´・ω・`)y-~「なら、今から変わればいいじゃねえか」
叱責でも、怒号でもない、優しい声でオッサンは返事をした
69
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:02:05 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)y-~「最初から何もかも知り尽くして生きている人間なんていねーよ。神じゃあねーんだから」
(´・ω・`)y-~「お前は今日、戦争と艦娘の現実を一つ知った。じゃあどうするか」
オッサンは米神を指で叩く
(´・ω・`)y-~「オツムで考え」
その後、今度は胸を拳で叩いた
(´・ω・`)y-~「心に示すのさ。自分の生き方、生き様をな」
('A`)「生き方、生き様……」
(´・ω・`)y-~「ま、心のビョーキしでかした奴が言っても、説得力ねーと思うがな」
そんな事は、無かった
オッサンは多分、凄く優しかったんだ。だから、人一倍傷ついた
そんなオッサンも、事件や病気を経て、生き様を見つけていったのだろう
('A`)「……考えて、みるよ」
(´・ω・`)y-~「おう、頑張れよ」
オッサンが突き出した拳に、自分の拳をぶつけ合わせた
話が聞けて良かった。俺が目指す『提督』としての在り方に、新しい一歩を踏み出せたから
70
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:03:05 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――
―
( ^ω^)「ドクオ、午後に時間取れるかお?」
翌日、ブーンは開口一番こう言った
不意を突かれた俺は、若干うろたえながらも『ある』と返した
ここじゃ時間だけはたっぷりとあるからな
( ^ω^)「ショボンのオッサンから頼まれたんだお。前にいた鎮守府の話を聞かせてやって欲しいって」
( ^ω^)「僕も見せたいものがあるお。ご飯食べたら、工廠まで一緒に行くお」
('A`)「オチンコかな?」
( ^ω^)「馬鹿じゃねーのかお前」
冗談とツッコミを交し合い、午前はそれぞれの仕事をした
俺はいつも通り海の監視と、一ヶ月の大改装で出た大量の不燃ごみを捨て場に運ぶ作業
ブーンは焼却炉で可燃ごみの処理をしていた
(´・ω・`)「なんかオーブンの調子悪いんだけど」
( ^ω^)「叩いたら直るお」
(´・ω・`)「テレビじゃねーんだから。潰れたら今日のおやつのガトーショコラ無しだぜ?」
( ^ω^)「おk、全力でファックしてやる」
('A`)「新ジャンル、『オーブン姦』」
(´・ω・`)「外はこんがり、中に旨みと肉棒汁を閉じ込めたローストチンコが出来上がるな」
('A`)「ヤバイ、ここに来て一番頭悪い話してる今」
( ^ω^)「今更だお」
71
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:04:11 ID:62pQqJ3.0
昼飯を終えた後、ガタが来ていたオーブンの修理をした為、予定より大分遅れて工廠へと向った
ちょくちょく顔を出してはいるが、ブーンがここで何をしているのかは知らされていない
本人に聞いても、『おもちゃ作ってるだけ』と返されるだけだ。多分、大人のおもちゃだろう
なんかこう、メタリックTENGAみたいなのを作ってるのかもしれない。メタリックTENGAって何だよ
('A`)「やっぱ、すげー謎だよなぁ」
( ^ω^)「何がだお?」
ブーンはパチン、パチンと電灯のスイッチを付けていく
体育館を改装した工廠は、元はそこそこの広さがあったのだろう
しかし今は、『建造』を行うブラックボックスが幅を利かせている
('A`)「これから艦娘が出来上がるなんてよ」
( ^ω^)「ほんとだおね」
このブラックボックスも、様々な方法で調査が行われたが、二十年経った今でもほぼ謎のままだ
わかっているのは、この箱を設置するには『キー』が必要で、そのキーを用意できるのが『明石』という艦娘だけだということ
その出所も、ハッキリとしていない
('A`)「で、見せたいものって何だよ?」
( ^ω^)「フフフ、見て驚くなお!!」
(;'A`)そ「な、なんだってぇーーーーー!!!!????」
( ^ω^) ('A` )
( ^ω^)「満足かお?」
('A`)「ツッコんでくれたって良いじゃん」
72
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:05:25 ID:62pQqJ3.0
ブーンは、作業台の隣にある布で隠された物の前に立つ
大きさ的に電の艤装だと思うんだが、それにしちゃ縦に大きい。俺の身長ほどあるんじゃないか?
( ^ω^)「本邦初公開だお」
ブーンが布を取っ払うと、その正体が明らかになる
(;'A`)「な……?」
|::━◎┥
それは、『鉄の鎧』だった
とは言っても、中世の甲冑のようにゴテゴテとした者では無く
『アイアンマン』のパワードスーツのような、スタイリッシュなデザインだ
顔面には『ザク』のようなモノアイ。左手には1.5メートルほどのシンプルかつ太めの短槍
右手の甲から手首に掛けて、電の初期装備『12.7センチ連装砲』が装着されている
両肩から肘辺りまでは、艤装の『盾』に覆われていた
腰のベルト部分は、羅針盤をモチーフにしたエンブレムが付いていて、『錨』の形をした凹みがあった
右腰部分には、南京錠のようなアクセサリーが
そして、背中には水上推進動力部が背負わされていた
足には、艦娘と同じく踵に『舵』が付いている
それを見て、最初の一言は
(;'A`)「何これ……」
だった
73
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:06:17 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「男性用艤装アーマー。通称、『アンカーシステム』だお」
(;'A`)「だ、男性用……?に、人間の、男性だよな?」
( ^ω^)「艦娘に男がいたら、話は別だお」
いるわけが無い。その全てが女性だから、『娘』と明記されているのだ
(;'A`)「こ、これ……どうやって?」
( ^ω^)「この鎮守府に残っていた鋼材とボーキを使ったお。250ずつ位」
250。駆逐〜重巡洋艦が建造できる平均値だ
ここに残されていた資材は、それぞれ300ほど。新米提督に最初に支給される量だ
(;'A`)「魔改造って、これのことだったのか……」
( ^ω^)「ま、『おもちゃ』だお。実用させるにはもっともっと充実した資材と、環境が必要だお」
( ^ω^)「それと、『実験台』が」
『実験台』、その言葉を聞いた瞬間、全身に鳥肌が立つ
まさかこいつ、俺のエネルギッシュ溢れる身体目当てにここへ……?」
(;'A`)「エ……エロいことするつもりなんでしょ!!クリムゾンみたいに!!」
( ^ω^)「待って今の話のどの辺からエロいことする流れになったの?」
74
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:07:47 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「ドクオって、僕をマッドサイエンティストか何かかと思ってる節あるおね」
('A`)「え?違うの?」
( ^ω^)「ちげーよ誰が鳳凰院凶真だお」
('A`)「どっちかっつーとスーパーハカーだろ。体型とか喋り方とか鑑みるに」
( ^ω^)「ハカーじゃなくてハッカーな」
このままだと会話が大きく脱線してしまうので、話を戻す
('A`)「で、実験ってのは何のだよ?」
( ^ω^)「……艦娘が登場した当初、艤装研究が盛んに行われたお」
( ^ω^)「その目的は、『艤装を人間が使用する』事。当時は、海上の防衛網を抜けて陸に上がってきた深海棲艦を白兵戦で撃退する部隊もあって、生身の人間でも微力ながら戦えることが証明されているお
( ^ω^)「そして何より、『女子供より、男が戦うべきだ』という意見もあって、取り組まれたんだお」
('A`)「……へぇ」
軽視されている艦娘も、気遣われる時代があったのかと感心する
今じゃ世間一般の艦娘への認識は、『女子供』ではなく『兵器』
守るべき対象では無く、場合によっては民衆からヘイトやバッシングを受ける存在なのだ
( ^ω^)「だけど、問題は山積みだったお。その最たるものが『艤装の試練』と呼ばれるものだったお」
('A`)「試練?試すのか?艤装が、人を」
( ^ω^)「言葉の綾ってやつだお。艦娘の調査を続ける内に、艤装は艦娘と神経を繋ぎあわせ動かすことの出来る『身体の一部』であることがわかったお」
( ^ω^)「で、研究機関もそれと似たような装備を開発できた。艤装と人間の脳をリンクさせる追加アタッチメントを」
75
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:10:38 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「だけど、問題が生じたお。いざリンクを行うと、被験者は叫び出し、何かに怯え、そして最後に……」
( ^ω^)「『炎上』して死亡したお」
(;'A`)「炎上……艤装が、燃えたってことか?」
( ^ω^)「違う、『人間そのもの』が発火したんだお」
人体発火現象とやらだろうか。どこかのオカルト誌か、どこかの某鬼の手使いの零脳教師漫画かで読んだ覚えがある
( ^ω^)「この結果に研究者は一つの仮説を出したお。『艤装は、その艦が経験した戦争を被験者に追体験させ』……」
( ^ω^)「『その記憶に耐え切れなかった結果、何らかのバーストを起こし死亡した』と」
(;'A`)「別世界の、戦争ってやつをか?」
( ^ω^)「人と人が艦に乗って殺しあった、別世界では史上最も大規模で、苛烈で、悲惨な戦争……らしいお」
(;'A`)「艦娘本人だけでなく、艤装にもその記憶があるのか……じゃあこの『アンカーシステム』も、危ないんじゃないのか?」
( ^ω^)「多分。だけど、わからないお」
『わからない』。その言葉に、期待が込められているように思えた
( ^ω^)「神経伝達では無く、こめかみから脳波を読み取ってリンクさせる方式にしたんだお」
('A`)「何か違うのか?」
( ^ω^)「簡単に言えば、直接繋ぐか間接的に操作するかの違いだお。でも、この方法が正解なのかはわからないお」
( ^ω^)「そもそもが、無謀なんだお。血液型の違う人体のパーツを繋げる様なもんだから」
76
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:11:56 ID:62pQqJ3.0
('A`)「じゃあ、どうして……」
( ^ω^)「……悔しいんだお」
('A`)「悔しい?」
ブーンは一度頷くと、机の上に置いてあった艤装用弾丸を手に取った
12.7センチ連装砲用の弾丸は、戦艦のそれに比べて小さくはあるが、それでも対物ライフル用の弾丸ほどの大きさがあった
( ^ω^)「僕のとーちゃんは、陸上迎撃部隊に配属されていた軍人だったお」
深海棲艦は、その名前から海の上でしか活動できない存在だと認識されているが
太古の生物が、棲みかを海から陸へと移していったように姿を変え、陸上を侵攻してくる
それを迎撃したのが、先ほどもブーンがチラリと話した『陸上迎撃部隊』
護衛艦の包囲網を抜け、内地へと侵略してきた深海棲艦から、人々を守るために編成された部隊である
( ^ω^)「物心ついた頃には、とーちゃんは既に戦場で戦っていたお。立派な軍人さんだったって、かーちゃんから聞いたお」
( ^ω^)「深海棲艦を少しでも内地に近づかせない為に、身体を張って抵抗した、勇気のある男だったって……」
( ^ω^)「でも……人間が怪獣に立ち向かうようなもので、とーちゃんもそこで命を落としてしまったんだお」
('A`)「……」
陸上迎撃部隊は、そのほとんどが生身の人間で構成された部隊だ
にも関わらず、彼らの献身があったお陰で、内陸への侵攻を留めることができた
しかしその代償は大きく、艦娘登場時には既に約八割の命が失われたと聞く
( ^ω^)「とーちゃんが死んで二日後に、艦娘は現れた。この弾丸と、燃料と、鋼鉄と、ボーキサイトを携えて」
( ^ω^)「彼女達は瞬く間に、戦線を押し戻したお。それこそ、人間が怪獣と戦う必要などなくなるほどに」
現在、陸上打撃部隊は編成されていない。『必要がない』からだ
それは、人類にとっては喜ばしいことだろう。だが、ブーンの表情はそこから険しくなった
77
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:13:01 ID:62pQqJ3.0
( ω )「艦娘は人の命を救う存在だお。とーちゃんのような犠牲を無くす、奇跡だお」
( ω )「だけど、僕はこうも思えるんだお……『微力な人間など、この戦争には必要ない。引っ込んでいろ』と」
(;'A`)「……」
指揮は人間が執るとはいえ、実際に戦っているのは人ならざる『艦娘』だ
現場判断で動く場面も多いだろう。そこに、鎮守府で指示を出す提督は介入できない
結局は、『艦娘』と『深海棲艦』の戦争を、人間がいる世界で行っているだけなのかもしれない
( ω )「もし……もし艦娘の技術が、二十数年前にあれば……それこそ、とーちゃんは痛ましい犠牲者じゃなくて、戦争を終わらせた『英雄』に成り得たかもしれないんだお」
( ω )「今更言ってもとーちゃんはもう戻って来ない、後の祭りだと分かっているお。でも、僕は……」
(#^ω^)「遺したいんだお!!とーちゃんが、人間が戦ったという証を!!」
(#^ω^)「見てみたいんだお!!どこから来たのか分からない敵と味方の戦争を、人類の力で終わらせる瞬間を!!」
('A`)「……」
この鎧は
ブーンの、『抵抗』を体現した物なのだ
蚊帳の外にある人類でも、理不尽な侵略を跳ね除ける力があると、証明したいのだ
78
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:14:19 ID:62pQqJ3.0
(#^ω^)「エゴと言われようとも、狂ってると言われようとも、僕はとーちゃんのような漢がいたことを知らしめたいんだお!!」
(#^ω^)「艦娘に全てを任せるんじゃなく、人類自らが平和な海を……」
ブーンの昂ぶった感情は、俺の顔を見て冷めていった
(;^ω^)「ご、ごめんお……一人で熱くなっちゃって……」
('A`)「いや……」
艦娘が登場して、『悔しい』と言う人物に出会ったのは初めてだった
だけど、それは間違っていない感情だろう。艦娘に頼りきりの今の現状は
彼女達がいないと人間は何も出来ないと、証明しているようなものなのだから
('A`)「だから、人間でも戦える兵器を作ろうって考えたんだな」
(;^ω^)「ま、そうだお。でも、行き着く先々でバレてクビになったり、工廠吹っ飛ばしたりしたけど……」
( ^ω^)「それも全て、ここに来られたから結果オーライだと思ってるお。で……」
( ^ω^)「これを、僕の行動を、ドクオはどう思うお?」
真剣な表情で尋ねてきた
この事を話すのにも、多くの葛藤があったに違いない
開発を差し止められたり、造り上げてきたこの装備を廃棄されたりする可能性も考えただろう
それでも、ブーンは俺を信頼し、話してくれた。なら、俺はその信頼に応えるべきだ
79
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:15:20 ID:62pQqJ3.0
('A`)「これ……読んでくれ」
ショボンのオッサンにも読ませた、メモリー内容のプリントを差し出す
ブーンはそれを受け取って、手早く読み進めた
( ^ω^)「……」
('A`)「もし……もしよ。お前のお父さんが生きていて、提督になったとしたら、艦娘を使い捨てるような真似は絶対にしねーと思う」
('A`)「戦場を見てるから、敵の恐ろしさを知ってるから、戦う人間の尊さをわかっているから」
('A`)「ブーン。お前が造ったこの鎧は、この戦争と、指揮官のあり方を変えてくれる筈だ」
ブーンの両肩に手を置き、俺は笑った
('∀`)「俺は応援するぜ。上官として、友達として。そんで……」
('∀`)「この鎮守府で一緒に暮らす、家族としてな」
( ^ω^)「ドクオ……」
( ^ω^)「笑顔が気持ち悪い」
やっぱぶっ潰そうかなこの鎧
80
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:16:01 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「冗談だおwwwwwww怒るなおwwwwwwほんとちょっと待って肩痛いお前握力凄い」
ブーンは俺の両手を引き剥がす。だが、そのまま手放さず、包み込むように握りしめた
( ^ω^)「ありがとう。提督」
('A`)「おう」
ため息のように吐き出された感謝には、安堵の色が見えた
理解者のいない、孤独な戦いだったのだろうと察する
('A`)「……」
( ^ω^)「……」
('A`)「いやいつまで握ってんだよ流石に気持ち悪いよ」
( ^ω^)「腐女子大歓喜」
('A`)「いいよそんなサービスしないで」
今度は俺が手を振り払う。どの層が得するんだよマジで
('A`)「聞かせてくれよ。この鎧の事をよ」
( ^ω^)「おっお、存分に語ってやるお!!」
それから、俺たちはオッサンが飯が出来たと呼びに来るまで
工廠で飽きることなく語り合った
81
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:50:37 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――
―
あれから、数日が経った
('A`)「……」
堤防で釣り糸を垂らしながら、俺はメモリーの『2』のファイルをプリントアウトして読んでいた
読む必要の無い日記と書かれていたが、いらない情報なら、ナンバリングまでして入れとく必要は無い
読んで欲しいから、入れたんだろう
('A`)「……」
『彼』の提督生活は、俺のように『訓練生』という段階を踏んでいない特殊なものだった
ブーンの父親と同じく陸上迎撃部隊だった彼は、退役後、兵士向けのボランティアセラピーをしながら各地を転々としていたらしい
しかしある日突然、海軍関係者に拉致され、この鎮守府へと送り込まれた
その経緯の中で、一際目を引いた文章があった
('A`)「『顔面に大火傷を負っていた』……」
鎮守府の医務室にあるベッドで目を覚ました彼は、元の表情がわからなくなるくらいの大火傷をしていたらしい
その重傷を負った記憶も無く、戸惑ったそうだ
('A`)「火傷……」
ブーンの話を思い返す
『艦娘の艤装を人間が装着したら、身体が燃えて死亡した』
無関係とは思えない。彼が数少ない陸上迎撃部隊の生き残りであるなら尚更だ
82
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:51:37 ID:62pQqJ3.0
('A`)「でも、突拍子もねえ話っつーことにも変わりねえよなぁ……」
リールを巻いて糸を戻す
釣針に引っ掛けてあった餌は綺麗に無くなっていた。随分器用にお食事するじゃねえか魚の野郎
('A`)「よっと!!」
餌を付け直し、竿を振って釣針を遠くに投げる
オッサンからは『マグロ釣ってこい。釣ってこなかったら殺す』と脅されているので、なんとしても釣り上げないといけない
って釣れるわけねーだろ頭にウンコ詰まってんのか
('A`)「ハァーァ……」
とまぁ、火傷のこともあり海軍及び艦娘には不信感を抱いていた彼ではあるが
初期艦娘として同時に配属されていた『叢雲』と生活していくうちに、艦娘に対する評価は変わったそうだ
『兵器』と分類されている彼女達も、人間と同じように感情があり、人格があり、『死』に対する恐怖がある
ファイルの『1』に記述されていたような、人間の横暴な振る舞いに、憤りを感じていることも
戦いに参戦した彼は、艦娘……兵士ついてこう語っている
『戦場に立つ兵士は、他者に与えられた大義の為に戦ってはいけない。他人の願いの為に命を懸ける必要は無い』
『全て自己の為に戦うべきである。自己の富、名誉、快楽……どれだけ薄汚れたものでも構わない。他人の御綺麗ごとの為に死ぬよりはよほどマシだ』
と。つまりは、命令されて戦いに赴くのでは無く、自己の目的を達成する為に戦えとの事だ
理に適っていると思った。人間だって、労働の為に労働する奴はいな……少ないだろう
生活や趣味に必要な金を稼ぐ為に、自主的に働いているのだ。『社会の為』だなんて、思っている奴はいな……少ない
だからこそ、早い時間に起床して遅くに帰る、大変な生活を四十年間も続けられるのだ
83
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:52:38 ID:62pQqJ3.0
艦娘はどうだろうか
『人間を守る』という大きな目的を持ってはいるが、それは他者の為の働きだ
そこに自己の願いは含まれていないように思える。人間と同じなら、欲もあって然るべきだ
だが、その『欲』はどう発散する?例えばだが、彼女達が『提督』に振り向いてもらう為に戦うとする
当然、一つの鎮守府に提督は一人しかいない。余程のクズ野郎では無い限り、付き合う艦娘も一人に限られる
では、提督に振り向いてもらえなかった艦娘は?その後、何を目的に戦えばいい?
人間であるならば、失恋してもまた次の異性を探せば良い。出会いの場はそこら中にある
しかし、艦娘が動けるゾーンは人間と比べて少ない。鎮守府にはブーンやオッサンのような異性もいるが、艦娘の数と比例しない
許可さえあれば外出も出来るが、それほど多くの時間を費やせない。ましてや、一般人から『兵器』と認識されている
拒否感を覚える奴もいるだろうし、それを良いことにゲスい行為をする奴もいるだろう
勿論、否定的な感情は人間同士でも発生する。それでもやはり、『人ならざるもの』である艦娘にはそれが顕著に現れるのだ
('A`)「難しい問題だよなぁ」
必要なのは、艦娘に対する『法』だろう
人権を与え、人間と変わらぬ扱いにすることで、人と艦娘の間にある隔たりを無くさないといけない
俺が『難しい』と思ったのは、その法を作ることでもあるが、作った後の事もある
それは『差別』という、根深い問題だ
人間でも、人種や宗教から始まり、考え方や性格、見た目に至る様々な要因でそれは発生している
しかもそれは、遥か昔から今に到るまで、一向に解決しない問題だ
人間同士ですらこの体たらくだ。そこに艦娘が加わってしまっても、おいそれと受け入れられないだろう
戦争経験者なら尚更だ。第二、第三の『ランボー』が現れるに違いない
ランボーつっても一作目な?あれが一番兵士に対する差別が描写されてるから
84
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:54:14 ID:62pQqJ3.0
('A`)「釣れねーなぁ……」
法云々はさて置き、日記の中の『彼』は、艦娘に目的を与えることに重点を置いた
それは物では無く、『生きる楽しさ』だ
遊びの楽しさ、学びの充実感、眠りの気持ちよさ、食事の満足感、勝利の高揚、帰還後の安心感
その全てを味わう為に戦い、生き残る。そういう方針で鎮守府を運用していた
また、自身を恋愛の対象とさせるのはご法度としていたらしい
指揮官が部下の誰か一人と付き合うと、部隊間で擦れが生じてしまうからだ
この辺りは読んでて自分を恥じた。そりゃそうだわ嫉妬とかあるもんそれくらい分かれよ俺
彼は、艦娘を妹や娘のように、分け隔てなく平等に扱っていた
そして、戦争が終わって、海軍とは関係の無い良い男と結婚し、幸せになって貰いたいと
父親のような、願いも持っていた
('A`)「……」
ファイル2の内容には、ショボンのオッサンが言っていたような提督の悪事は何一つ書かれていなかった
そりゃあまぁ、実際はやっててここには書いていないだけかもしれない。けど
艦娘に生きる楽しさを教え、幸せになって欲しいと願う人間が、そんな事しでかすとは俺は思えない
悪事も結局は噂話でしかない。どちら信じるかと問われたら、俺はこの日記を書いた提督を選ぶ
だが、『曰く』についてはどうやら本物だったそうで、彼がここに着任するまで、歴代提督と艦娘は不審死を遂げていたらしい
日記にも、鎮守府で起きた様々な怪奇現象について書かれていた。中には、『乳首相撲』だの『ウンコマン』だの、アホみてーなワードも含まれていたが
('A`)「……」
釣竿の先は、微動だにしない
いつもならもっと食いついてくるのだが、今日の魚は賢いらしい
85
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:54:52 ID:62pQqJ3.0
('A`)「戻ろうかな……」
プリントを捲りながら、釣りを切り上げようか考えた
オッサンにはめっちゃからかわれるだろうけど、今日はこのまま待っても結果は一緒だろう
('A`)「ん?」
立ち上がろうとした時、とある文章が目に留まり
腰を浮かしたまま固まった
それは、『エラーさん』と呼ばれる少女であった
(;'A`)「……」
艦娘でもなく、かといって人間でもない
どこからともなく現れて、ふらりとどこかへ去っていく
両手に白猫を携え、帽子の初心者マークとおさげが特徴的な少女
(;'A`)「白猫……少女……?」
俺が最初にこの鎮守府へ来て、最初に聞いた女の子の声、最初に見た尻尾
俺だけの夢や幻と思っていた存在が、数年前の日記にも書かれていた
上げた腰を、もう一度下ろす
釣りの事など、既に頭の中から消えていた
(;'A`)「『エラーさんはこの世界に艦娘を連れて来た管理人であり、二つの世界を隔て行き来する』……」
(;'A`)「『艦娘だけに認識される存在で、人間はその姿も声も認知することが出来ない事から、通称「妖精」と呼ばれていた』……」
86
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:56:22 ID:62pQqJ3.0
待て、待てよ。つまりは、人間には見えないってことだろ?
じゃあどうして、彼はその『妖精』とやらの姿形を知っていて
(;'A`)「どうして俺に語りかけたんだ……?」
『エラーさん』の話は続く。世界に艦娘を連れて来た彼女の目的は、『戦争の継続』
彼女の言う『あちらの世界』では、艦娘と深海棲艦の戦争を『ゲーム』として楽しんでいるという
(#'A`)「なんだよそれ……!!」
そんな、『ゲーム』なんかのために
俺達の世界の人間が割を食っているのかよ!!
オッサンのように苦しむ人間がいるのに!!
ブーンの父親のように、殺されてしまう人だっているのに!!
(#'A`)「ふざけんなよ……!!」
ふつふつと怒りがこみ上げてくる。思わずプリントを握りつぶしてしまいそうだった
だが、文章はそれで完結してはいない。怒りの衝動を押さえ込み、読み進めた
(#'A`)「……」
当然、彼も怒りを露わにしたらしい。しかし、エラーさんは悪びれる様子を見せなかった
『情』そのものが欠落している、冷徹なロボットのような存在だったそうだ
だが、そんな彼女が何故、『彼』と接触したのだろうか
それは、この戦争、この世界において彼は異質な立場だったからだ
87
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:57:06 ID:62pQqJ3.0
('A`)「『激昂した私を尻目に、「また来ます」と言って彼女は去った。最後に、「龍田殿」と言い残して』」
(;'A`)「『彼女が錯乱していない場合に限り、これは私のことを差した言葉だろう。しかしこの人生において、私は一度もそんな名で呼ばれた覚えは無い』……」
(;'A`)「『軽巡洋艦娘の名前で、呼ばれた事など無いのだ』……」
俺は今、一つの結論に辿り着こうとしていた
(;'A`)「艤装を装着した人間の死に方、顔に負った大火傷、艦娘にしか認識できない妖精、龍田……」
彼の異質。それは
(;'A`)「艦娘の艤装に適応した……?」
ブーンが追い求めていた、人間の戦争への介入
それを為せる人物が、この鎮守府にいた
彼を拉致し、実験を行い、成功
その貴重な試験者を、この場所で艦娘と共に幽閉した。逃がさない為に
合点がいく、いってしまう。だが、混乱は深まっていくばかりだ
成功したなら、どうしてその研究を続けなかったのか
どうして、提督の立場に置いたのか
そして何故、彼はデータを遺して死んだのか
わからない。だが答えはこの日記の中にあるはずだ
(;'A`)「こうしちゃ居られねえ……!!」
俺はすぐさま立ち上がり、二人と相談すべく鎮守府の方へ足を向けた
88
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:57:47 ID:62pQqJ3.0
その時、これまで聞いたことの無い、けたたましい音が鳴り響いた
(;'A゚)「」
風雲急を告げる、『警報』
(;'A゚)「まさか……」
それは、海軍が既に『安全だ』と判断した海で
深海棲艦が現れたことを意味していた―――――
89
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:58:34 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――
―
(;'A`)「状況は!?」
駆け込んだ作戦司令室には、既に二人が待機していた
ブーンはレーダーを見つめ、距離を割り出している
通信機に怒鳴り込んでいたオッサンは、俺の姿を見るとマイクを勢いよく差し出した
(#´・ω・`)「おう来たか!!本部のクソ野郎共、提督じゃねえと取り扱わねえっつーんだよ!!」
(;'A`)「よ、よし!!」
マイクを受け取り、『もしもし』と話しかける
スピーカーから、返事はすぐに返って来た
「やっと会話が通じそうな相手が出たか。それで?」
オッサン何言ったんだ?と気になりつつも、状況を伝えることにする
(;'A`)「先ほど、レーダーに反応がありました。深海棲艦が近海海域に侵入したものと思われます」
「そうか、では撃退したまえ」
(;'A`)「はっ……?」
困惑した。ウチに艦娘が配属されていないのは分かっているはずだ
それを分かっていて尚、そんな指示を出すのか?
90
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 17:59:10 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「い、いえ、ですが当鎮守府には艦娘は配属されていません」
「ああ、そうだったな」
まるで今気付いたかのような口ぶりだ。それでいてワザとらしい
「しかし、そちらの海域は既に奴らの支配から解放されているはずではないか。何かの間違いではないのかね?」
その可能性もある。しかし
(;'A`)「本部からの食料品等の補給は先日受けました。当鎮守府に寄る予定の船はありますか?」
「あー……今の所は予定されていない。別鎮守府の艦娘では無いかね?」
(;'A`)「だとしても、一度連絡を入れるのは筋でしょう!!」
「民間船の可能性も」
(;'A`)「バケモノがいる海を呑気に民間船が渡ると本気でお思いですか!?」
「小僧、口が過ぎるぞ」
頭に一気に血が昇る。俺の口調にいちゃもん付けてる場合じゃねえだろうが
思わず罵倒してしまいそうなのを抑え一度謝罪をし、冷静な口調に戻した
91
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 18:00:06 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「とにかく、確認の為にも艦娘部隊の派遣を要求します」
「却下だ。そもそも、間に合うとは思えない」
(;'A`)「ではどうしろと!?生身の人間である俺達三人で、戦えと仰るのですか!?」
「君も誇りある我が国の海軍軍人だろう?なら、平和の為の礎となりたまえ」
(#'A゚)「ッ……!!」
「当然、敵前逃亡は重罪だ。逃げ出した兵士がどのような処罰を受けるか、知らないわけではあるまい」
戦争において敵前逃亡は、処刑される可能性もある罪だ
現在俺達は、立ち向かっても絶望、逃げ出しても絶望の窮地に立たされている
(#'A゚)「……ってやるよ」
だったら
(#'A゚)「やってやるよクソボケが。俺達だけで、深海棲艦をぶち殺す」
少しでも前に進んでやろうじゃねえか
92
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 18:00:58 ID:62pQqJ3.0
(#'A゚)「いいか良く聞けクソッタレのタマナシ野郎。事が済んだら、テメーの鼻っ面をぶん殴りに行く」
「貴様、上官に向って……!!」
(#'A゚)「黙れ、艦娘の股座舐めることしか頭に無いブタ野郎が。クンニもロクに出来ねえその口から二度と『平和』だなんて言葉が吐けねえようにしてやる」
オッサンが『ヒュウ』と口笛を吹いた。吹いとる場合か
スピーカーからは、歯軋りをする音が聞こえ、その後に
「健闘を祈る」
と、忌々しそうに吐き捨て、通信は切断された
(#'A゚)「クソがッ!!」
マイクを投げ捨て、怒りをぶつける
テメーで勝手に『平和』だと慢心し、艦娘も配置せず管理を俺達にぶん投げた張本人達が
その尻拭いをも俺達に押し付けたことに腹が立ったのだ
(;^ω^)「ど、どうすんだお……」
ブーンが不安そうな声で訊いてくる。俺が考えもなしに引き受けたと思っているのだろう
確かに、ここには艦娘はいない
しかし、戦える『装備』はあるのだ
93
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 18:01:45 ID:62pQqJ3.0
(#'A`)「ブーン、使わせてくれ」
(;^ω^)そ「ッ!?」
ブーンが開発した『アンカーシステム』。アレで俺が戦う
だがブーンはハッキリと拒否した
(;^ω^)「ダメだお!!アレはテストもしていない、いや『出来ない』代物だお!!戦えるかどうか、そもそも装備できるかどうかさえ怪しいもんだお!!」
(#'A`)「じゃあどうしろってんだよ!!艦娘どころか、通常兵器すらないこの場所で、どう戦えっつーんだよ!!」
怒りに任せて、机を叩こうと拳を振り上げたその時
『パン』と手を叩く音が、俺を正気に戻した
(´・ω・`)「盛り上がってるとこ悪いがね、ちょっと冷静になれよお前ら」
ショボンのオッサンだった
(´・ω・`)「ブーン、深海棲艦の到着までの時間は?」
(;^ω^)「えっと……向ってくる速度だと多分、砲撃有効範囲まで一時間と少しだお」
(´・ω・`)「なら、考える時間はある。ドクオ、お前は指揮官だ。緊急時こそ冷静になれ」
頭に昇った血が、スッと冷めていく
そうだ。今は取り乱している場合じゃない。戦うと決めたんだ
(;'A`)「あ、ああ……悪い」
とにかく、今ある『全て』で、撃退するしかない
一か八かの賭けは、最後の最後まで残しておくべきだろう
94
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 18:02:29 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「ふー……」
深呼吸して、気持ちを整える
考えろ。この状況を打破する戦略を
ここにある全てで、撃退する策を
(;'A`)「必要なのは火力……それを当てるための妨害、デコイ……」
火力の問題。これが一番大きい
『砲』が無ければ、弾丸は撃てない。一朝一夕で用意できる代物でもない
その問題がクリアできても、『当たらなければ』意味が無い。目的は威嚇ではなく撃破だ
(;'A`)「どうする……どうする?」
弾丸はあるのに、撃てない。なんとも歯がゆい気持ちになる
せめて、発破出来れば希望が……うん?
(;'A`)「発破……ブーン、お前工廠吹っ飛ばしたっつってたよな!?」
(;^ω^)「お、おう。え?その話今する?」
(;'A`)「それって、何が原因だった?」
(;^ω^)「何って……艦娘用の燃料に引火して爆発……」
(;'A`)「それだーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
弾丸だけに拘る必要は無かった。『爆発』でも奴らを倒せる筈だ
95
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 18:03:53 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「船に艦娘用燃料を積んで深海棲艦に突っ込み、海に飛び降りてって……」
(;'A`)そ「先ず船がねーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
ダメだ光明が見えた瞬間かき消された。なんなの?イジメ?
(´・ω・`)「船ならあんぞ?」
('A`)「えっ?」
( ^ω^)「えっ?」
(´・ω・`)「えっ?」
と思ったら、オッサンから救いの手が差し伸べられた
(;'A`)「えっ?嘘?聞いて無いよ?」
(´・ω・`)「いや、改築の最終日にガレージに突っ込まれてたのを見つけたんだが、ほら俺その日ベロンベロンになって言うの忘れちゃって」
(´・ω・`)「そのまま今まで忘れてた……ごめんね?」
(;^ω^)「むしろグッジョブだおオッサン!!」
(;'A`)「ちなみに、どんな船だ?」
(´・ω・`)「小型のクルーザー一隻と、水上バイク一隻だ。動くかどうかわかんねーぞ」
(;'A`)「クルーザー……積載量ギリギリまで燃料弾薬を積んで……」
(;'A`)「そうだ!!もう一つ……」
水上バイクまであったのは僥倖だ。使わない手は無い
囮がいるだけで成功率がぐっと上がる
96
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 18:04:40 ID:62pQqJ3.0
鎮守府周辺海域の海図を引っ張り出し、机の上に広げる
(;'A`)「……よし、ここだ!!」
浅瀬のポイントを指で叩く
ここまで深海棲艦を誘い出し、座礁させ
動きが鈍った所に、燃料を積んだクルーザーで突っ込み爆発させる
(;'A`)「ブーン!!今すぐ船のチェックだ!!オッサン、ありったけの燃料弾薬を運び出すぞ!!」
( ^ω^)「了解!!」
(´・ω・`)「合点だ!!」
二人は毅然とした態度で立ち上がる
どちらも、気合と根性を漲らせていた
(#'A`)「やるぞォ!!」
俺も例外じゃない。生き残る為に戦ってやる
そして絶対、上官の鼻を潰して前歯全部折ってケツに93式酸素魚雷をぶt(ry
97
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 18:05:29 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――
―
( ^ω^)「エンジンは着く、スクリューは回る。両方ともまだまだ走れるお」
(´・ω・`)「その内の一つは今日吹っ飛ぶんだけどな」
('A`)「寂しいこと言うなよ」
間も無く、深海棲艦の有効射程範囲に入る
なんとか時間内に間に合った。いやほんともう人生で一番俊敏に動いた。こうシュッ!!シュッ!!って感じで
('A`)「もう一度、作戦の確認をするぞ」
囮役である俺が、深海棲艦を浅瀬のポイントまで誘い込む
座礁し動きが鈍った所に、ショボンのオッサンが燃料弾薬を満載したボートで突っ込み、途中で離脱
見張り台にいるブーンが、タイミングを見計らい遠隔操作で起爆させる
ガバガバの作戦だし、運に任せる要素も多々あるが
これが今、俺達と鎮守府にある物資で出来る限界だ
('A`)「……」
一つ、憂いがあるとすれば
('A`)「言い出すタイミングが無かったから今言っちゃうけど、無理して俺の無謀に付き合う必要は……」
(´・ω・`)「いや本当に今言う事かよ。準備全部終わっちまってんぜ?」
(;'A`)「そう……だけどォ!!」
非戦闘員二人を巻き込んでしまうことだ
98
:
名無しさん
:2016/04/03(日) 18:05:32 ID:dV76bn4E0
ドクオ頑張れ
99
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 18:07:19 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「アホなこと言ってないで、サッサと始めるお」
(´・ω・`)「そうだな、ドクオのアホに付き合ってる暇は無い」
さも当然かの如く、行動を再開する
それを見て、俺の憂いは消え去った
別に言葉を交わさなくても、二人は俺と戦ってくれる
海軍の上官ですら見放した戦場で、俺と共に絶望に立ち向かってくれる
('A`)「……」
胸の奥が、熱くなった
俺達なら、世界を敵に回しても戦える。そんな気持ちになった
('A`)「アホは……お前らだ!!このアホ!!」
( ^ω^)「お前が一番アホだお!!」
(´・ω・`)「いやお前ら二人が最高にアホ!!」
アホアホ言いながら、水上バイクに乗り込む
ショボンのオッサンも、クルーザーのエンジンを点火させた
('A`)「サッサと済ませて打ち上げだ!!」
(´・ω・`)「おうよ!!腕によりを掛けて料理こしらえてやるぜ!!」
( ^ω^)「お夕飯までには帰ってくるのよ!!」
それぞれのエンジン音を轟かせ、配置へと向う。艦娘のいない海上戦
『艦娘いないけど俺達の気合と根性、男気で深海のビッチをファックしてやろうぜオーベイベー真夏の日差しサマータイム』
作戦が開始された。因みに、考えたのはショボンのオッサンだ
100
:
◆HS4z8y6JHc
:2016/04/03(日) 18:09:15 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「おっとと……」
水しぶきを弾きながら、水上バイクは軽快に海の上を走る
俺くらいのスポーツ万能マンになると、別に免許を持って無くても運転できるのだ。実際スゴイ
時折、波に煽られバランスを崩しそうになるのはご愛嬌だ。シコっても、いいのよ……?
(;'A`)「ッ!!」
咄嗟にアクセルを戻し、減速、停止する
見えた、見えてしまった
残っていた、民間船や艦娘の可能性は、たった今消えた
深海棲艦の、どす黒い姿が俺の視界に入ったのだ
_ ィ: '':  ̄: : 二ニ= . _
/: : /:; : : >――ニ=─- ミヽ,、
/: : : /:.:.:./:;:;:; _-ニニニ _: : : ` l: :> ._
〈:.:.ィ// ,/≦ >ミ: : : : : : : : ― l:;:;:;: : : : : > _
.ヽ\:.i /: : : : : i\ッ'): : : : : : : : : /: : : : : : :.:.:.:.:.:.: >. _
\\三≧ーzzzzzz≦三三三>x、: : : : : : : :.:.:.:.:.:.:.:.: ≧., _
ヽニニ彡"二二\三三ニ三三三>--‐'''⌒ゝ- _: : : : :;:.:.:.:.`ヽ
| ヘ | l ヽ\>、 ` ー、 〈 _ ヽ:.\: : : :.:.:`ー- , ,_
l_ゝィzzト,,、メ-彡/‐ヽー‐ミY´ \ \l:_:_:;ミ、\:\:.: : : : : : : |
 ̄  ̄ r-ミ‐lヽ_l: : : lー 二ァ_,_,_,,,,≧、 `i__ `iハ`i: : : \:、:,:-''
〈 ` トー': : / \ー‐ " ̄ヽヘ l:.:.:.:.:.l ̄ヽ___ \
 ̄ヽニゝ/\ ヽ‐ 、  ̄∨うーテ  ̄`ーニ=
`ヽ _ \ ヽ/
` ー'
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板