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艦娘がいない鎮守府のようです

1 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:31:48 ID:62pQqJ3.0



―――貴方の手で、彼女達に幸せを与えて欲しい―――



.

448名無しさん:2019/06/09(日) 00:13:18 ID:.G01QSG20
おつさまー
筆が早くて嬉しいが向こうが終わる前にこっちが終わりそうだw

449 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/12(水) 23:41:03 ID:4I3ELPCY0
―――――
―――



(´・ω・`)「ブーンが何か隠してる?」

('A`)「おう」


『夏休み』も終わり、いよいよ秋が準備運動を始めた頃
俺は数日間抱き続けたブーンに対する不信感をショボンに打ち明けた


(´・ω・`)「どうしてそう思うんだ?」

('A`)「ここの提督の話を聞かせてもらってな。やけに肩を持つような口振りだった」

(´・ω・`)「ほーん……っと!!」


倉庫で見つけた釣竿を海へ目掛けて勢いよく降る
魚肉ソーセージが付いた針は、十数メートル先で小さな波紋を立てて沈んでいった
今日は食いつきが良く、クーラーボックスの中身は半分ほど魚で埋まっている


(´・ω・`)「考えすぎだと思うがね。それこそ、あいつがいた鎮守府の艦娘に聞いた話かもしれねえし」

('A`)「まぁ……そうだけどよっと!!」


俺の放った針は、ショボンのものよりやや遠くに落ちる


(´・ω・`)「飛ばすねえ〜」

('A`)「どうも。俺も疑いたくは無いが、歯に物が挟まったみてえにずっと気になっててな」

(´^ω^`)「俺ら腐っても犯罪者だからな!!ガハハ!!」


笑い事じゃ無いが、釣られて俺も微笑を漏らす
この十数日間ですっかりこいつらの空気に飲まれちまったらしい

450 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/12(水) 23:41:50 ID:4I3ELPCY0
(´・ω・`)「それこそ、直接聞きゃあいいじゃねえか。かの有名なディレクターはこう言った。『腹を割って話そう!!』ってな」

('A`)「髭のオッサンと同じ方法で聞き出せると思うか?」

(´・ω・`)「俺ならキレる」

('A`)「だろうよ……それに、『これ』もある。迂闊には踏み込めねえよ」


左手首の腕輪には、どれだけ時間が経とうが慣れない
戦場でも死は隣り合わせだったが、管理されてはいなかった。気まぐれ一つ、故障一つでドカンだ。気が気では無い


(´・ω・`)「ブーンが俺らの監視者だと?」

('A`)「そうは言ってねえけどさぁ……」

(´・ω・`)「疑い深いのも結構だが、度が過ぎると友人を失くすぜ?」

('A`)「手痛い忠告だな。痛み入るよ」

(´・ω・`)「っあー……すまん」

('A`)「いいさ。自業自得だ」


我ながら嫌味な性格で辟易する。捻くれた性根は一度死にかけても治らないらしい


(´・ω・`)「ふむ……あいつがここに来た原因は聞いてるか?」

('A`)「いや……工廠で何かしら起こしたって事くらいしか」

(´・ω・`)「ふーん……」

('A`)「そっちは?」

(´・ω・`)「一緒だよ。そんで、毎日工廠でシコシコ作ってる物に関してもはぐらかされてばかりだ」


なんだよ、怪しさ満点じゃねえか

451 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/12(水) 23:43:39 ID:4I3ELPCY0
(´・ω・`)「つっても、ここにいる時点で俺らは極悪人だ。そりゃ闇の一つや二つ抱えてるだろうよ。小せえ事を気にしたってしょうがねえさ」

('A`)「楽観的だな……」

(´・ω・`)「……怖いか?」

('A`)「……」


『怖い』。確かにそうなのかもしれない
それは『友人』という関係そのものかもしれないし、『裏切り』という可能性に対してかもしれない
俺は一度道を踏み外した。二度目だって、そう、恐らく、容易く踏み外してしまうのだろう


(´・ω・`)「難儀だな……」


ショボンは俺の返答を待たず、タバコに火を着ける
魚は満腹になったのか、いつの間にか竿はピクリとも動かなくなった


(´・ω・`)「フゥー……そんじゃ、疑り深いドクオくんの為に、年長者の昔話でもしましょうかね」

('A`)「昔話……?」

(´・ω・`)「フェアじゃねえだろ?お前一人が腹の中を早々に晒して、俺らはだんまりなんてよ」


『そんなつもりじゃない』と言いかけて、好奇心が食いとどめた
いや、俺が交わした会話は裏返せば過去の詳細を話さないショボンも疑っているとも読み取れる
迂闊な発言だったが、多分、いつかは知らなければならない話なのだろう。黙って耳を傾けることにした

452 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/12(水) 23:44:31 ID:4I3ELPCY0
(´・ω・`)「長いこと軍でメシ炊きやってるとよ、毎日大勢の兵士と顔合わすんだ。キツい訓練期間でも、食う時だけは良い顔しててな。その顔を見るのが好きだった」

(´・ω・`)「だが浮かない顔もある。戦場で友が死んだ時に浮かれた表情をする奴はいない。それだけならまだ良いさ。死んだ奴たぁ二度と顔を合わせられない」

('A`)「……」

(´・ω・`)「ある時、俺に鎮守府への転勤指令が出た。配食兵にとっちゃ花形の仕事でな、同僚から羨ましがられたよ」

(´・ω・`)「だけど気が進まなくてな。一度は断りを入れたんだが、腕を見込んだ上での強い希望と言われちゃ悪い気も起こらず、結局受けることとなった」

(´・ω・`)「初日は頭がクラクラしたよ。男所帯の風景から一転して、美女が大半を占める施設に移ったんだからな。ああ、勘違いしてもらっちゃ困るが分別はちゃんとついてたさ」

('A`)「……ああ、わかってる」

(´^ω^`)「ハハ、どうも。だけどよ、言っちゃ悪いがむさ苦しい野郎と顔を付き合わせるよりもほんの少しだけ気分は良かった。こんな話聞かれちゃ、ボロクソに叩かれるだろうがな」


そう言って青空を仰ぎ、口から煙を吐き出した
多分、鎮守府に勤務する前もこうして兵士達と軽口を叩きあっていたのだろう
信頼と友情が成せる言葉のプロレス。これもまた、『二度と顔を合わせられない奴』に向けた言葉なのかもしれない


(´・ω・`)「艦娘ってのは驚くべきもんで、小さなガキですら戦場に出る。ガキらしい無邪気さを抱えたままな」

(´・ω・`)「ある日、休憩時間中に一人の駆逐艦娘が食堂を覗いてた。長い赤髪で、特徴的な語尾の睦月型でな」

(´・ω・`)「気まぐれで適当なおやつを作って振舞ってやったら、大層喜んだ。それを見て、俺も腹が膨らんでいくかのように嬉しかったよ。もし自分に子供がいれば、こんな気分なんだろうなってよ」

(´・ω・`)「それから、あの子は姉妹艦を連れて頻繁に遊びにきた。おっちゃんおっちゃんと人懐っこくな。俺も調子に乗って手を替え品を替えて美味いもん作ってやった。人生に絶頂期があるとするならば、あの時だろうぜ」

('A`)「……良い環境だったんだな」

453 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/12(水) 23:45:54 ID:4I3ELPCY0
直属の上官を除く鎮守府配属兵との必要以上の接触を禁じる鎮守府も少なくないと聞く
ショボンがいた鎮守府は、艦娘に自由を与えて好きにさせるだけの余裕はあったらしい
だが、それが必ずしも『良い事』に繋がるかはまた別だ


(´・ω・`)「ああ、上層部からも好評の鎮守府だったよ」


打って変わって吐き捨てるように言った。規律を重んじる上層部が自由な環境を『良し』とするとは思えない
もしもその鎮守府がショボンの理想通りの場所だったなら、今も艦娘に飯を振舞っていた筈だ


(´・ω・`)「しばらく経ってから、顔見知りの一人が『はじめまして』と挨拶をした。俺は冗談か何かかと思って笑ったんだが、キョトンとしていた」

(´・ω・`)「傍の睦月型は、下唇を噛んで俯いていたよ。だけど、俺の視線に気づくと健気にも笑顔を作って応えた」

(´・ω・`)「深く踏み込んじゃいけねえと思って、俺はいつも通りおやつを振舞った。それもまた、初めてのように眺めてきた」

(´・ω・`)「彼女達が帰ると、同僚が事情を話してくれたよ。『彼女は戦闘による損失を補う新造艦』だってな」

('A`)「……」


日本が何故、世界最大の艦娘保有国なのか。それは彼女達を『造る環境』が整っているからだ
練度こそ一からだが、資材さえあれば『艤装』と、それを操る『艦娘』を複製出来る
例え轟沈しても、同じ顔、同じ声、同じ武装の兵士を再び造り出せるのだ

454 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/12(水) 23:47:28 ID:4I3ELPCY0
(´・ω・`)「ショックで声が出なかったのは初めてだった。同僚は努めて平静を装っていたが、目の色は暗く沈んでいた」

(´・ω・`)「『あまり情を掛けると、お前が壊れてしまう。ほどほどにしておけ』。遅い忠告だったが、俺が逆の立場でも早々に言えなかっただろう。そこには確かに幸福があって、ぶち壊すような真似はできない」


俺達は戦争をしている。仲間との死別は日常であり、珍しいものではない。人は死ねば二度と会うことが出来ないなど、小学生でも理解している
だが、艦娘という『イレギュラー』となると話は別だ。些細な差はあるだろうが、艦種ごとに定型化された『モデル』が幾らでも量産できる
友達が死んだその日に全く同じ姿で中身が空っぽの『別人』が現れるようなものだ。不気味だろうが、一人ならまだ耐えられるだろう。しかし


(´・ω・`)「また一人、また一人と、あいつらは同じ姿で入れ替わっていった。中には入れ替わりのスパンが短い子もいたな」


それが二度、三度と続けばどうだ?普通の人間ならまともではいられない。親しい人物なら猶更だ


('A`)「……好評ってのは、そういうことか」

(´・ω・`)「フーッ……別に、とびきりのクズ野郎じゃねえ。そこそこ有能な提督だったよ。有能故に、犠牲を伴う作戦も即座に実行した。強い、強い部隊だった」


情け深い者に指揮官は務まらない。例え確実に一定数の部下が亡くなろうとも、勝つためにはリスクを背負わなければならない
酷な言い方になるが、兵を『数字』として捉え、極めて冷徹に使い捨てられる人材こそ、『武将』に相応しい
ショボンも軍人だ、ちゃんと弁えているだろう。だからこそ、『有能な提督』に対する怒りの感情は聞き取れなかった

455 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/12(水) 23:49:37 ID:4I3ELPCY0
(´・ω・`)「誰が責められるかよ。きっとあの提督だって、最初は苦渋の決断だったはずだ。だけどよ、人間ってのは良くも悪くも『慣れる』もんだ」

(´・ω・`)「繰り返し繰り返し……死んでは生き返る彼女たちを見続けて、彼は戦争に馴染んでしまった」

(´・ω・`)「フーッ……誰が責められるかよ……良心、道徳、人として大事なもん忘れちまってまで、深海棲艦っつー理不尽に抗ってる男をよ……」


きっと、以前テレビで見たデモ隊の連中は、その提督を前に『大量殺人者』とでもがなり立てるのだろう
何も知らない連中は、無知ゆえに彼を責め立てるのだろう。安寧の上に成り立つ正義を振りかざしながら


('A`)「……」


そして、誰よりも彼を責めたい筈のショボンは、失う苦しみを知っているが故に
ただ、深く静かに同情する他ない。誰かが背負わねばならない重圧を引き受けた『提督』に対して


('A`)「……さっき俺に難儀と言ったが、アンタも大概だぜ」

(´^ω^`)「……ああ、そうだな」


世界は、優しい人間の為に回っちゃいないらしい
胸の中を覆う世知辛さを打ち消そうと、俺もタバコに火を着けた

456 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/12(水) 23:52:27 ID:4I3ELPCY0
今日はここまで

夕方にティンコの短編投下したんで興味ある方は是非

457名無しさん:2019/06/13(木) 22:17:54 ID:jOwxB/kY0
過去作読んだぞ、面白かったぞ、続き待ってるぞ

458名無しさん:2019/06/13(木) 23:15:26 ID:DEc5RqPo0
◆L6OaR8HKlkに聞きたいんだけどこれって乗っ取り?
それとも◆HS4z8y6JHcと◆L6OaR8HKlkは同一人物ってこと?

459名無しさん:2019/06/15(土) 02:20:19 ID:OhNVHBLI0
おっつおっつ

ティンコ見つからないんだけど違う板?

460名無しさん:2019/06/16(日) 17:02:07 ID:mhDixWwE0
2板にあるだろ

461名無しさん:2019/06/16(日) 17:03:22 ID:mhDixWwE0
>>458
同一人物
ブン動会用の作品だからトリップが違う

462名無しさん:2019/06/17(月) 23:36:00 ID:8EPUmUSc0
>>461
理解した、ありがとう

463 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 21:49:44 ID:fMBqo9P.0
(´・ω・`)「彼と比べて、俺は自分勝手で臆病な人間だ。日に日に増していく不安と恐怖を飲み込み、納得させられなかった」

(´・ω・`)「勤務して一年が経とうって頃だろうか、いよいよ俺は耐えきれなくなって、馬鹿な真似をしでかしちまった」

('A`)「……誘拐か」

(´^ω^`)「ああ……遊びに連れてくっつって、無許可でな。築き上げた信頼を盾に、白昼堂々と連れ出したよ」


まるで悪戯のネタをバラしたかのように、楽しそうに自分の罪を語った


(´^ω^`)「初めて出会った睦月型を一人、助手席に乗せて遊園地へと連れて行った。俺の胸中には深い後悔と罪悪感があったが、ウキウキとした笑顔の前ではそれも霞んだよ」

(´^ω^`)「多分、俺はこの時点で既に諦めてたんだろう。ただの駆け落ちとはワケが違う、軍の抱える重要機密の半身を無断で連れ出して、安住など得られるはずがないって」

(´^ω^`)「でもよ、だけどよ……自制が効かなかった。何か起こさなかったら、この子は明日にでも『新しく』なってしまうんじゃないかって思うと、気が気じゃなかった」

('A`)「……」


はさみ持つタバコの灰が、まとめてボロリと崩れ落ちる。『燃える』だけの役目を果たし終え、今やただのゴミとなった
ショボンの話を前に、『吸う』如きの動作も出来ずにただ固まっていた。余りにも切なく、救いがなく、意味が無かった


(´^ω^`)「寂れた遊園地に到着して、ガラガラの園内で『貸切だ』とはしゃいだよ。大してスピードも迫力もないジェットコースターで膝がガクガクになった俺を笑ったり、コーヒーカップ回しすぎて気持ち悪くなったりよ」

(´^ω^`)「昼にはフードコートで飯を食った。『おじちゃんのご飯の方が美味しいぴょん』なんてお世辞に照れたりもしたな。クソ高くてカラフルな綿飴には、目を輝かせてやがった」

(´^ω^`)「動物園も回った。猿に餌やったり、乗馬体験なんかも楽しそうにしてた。ふれあいコーナーでモルモットと遊ぶ姿を見て、カメラを持ってこなかったのを後悔した」

(;'A`)「オッサン、もう……」


音を上げたのは、俺が先だった。結末は既に『ここ』にある。辛すぎて、最後まで聞ける勇気がない
それでもショボンは、取り憑かれたかのように過去を語る。神の前に懺悔でも、しているかのように

464 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 21:50:40 ID:fMBqo9P.0
(´^ω^`)「閉園時間になって、手を繋いで遊園地を出た。『楽しかったか?』そう聞くと」

(´^ω^`)「『楽しかった!!これで明日からも頑張れるぴょん!!』と答えた。俺は、『そうか』としか返せなかった」

(´^ω^`)「駐車場では、案の定憲兵が待機していたよ。怒り狂ってるっつーよりは、どこか寂し気にな。込み上げるモンがあったよ。人も捨てたもんじゃねえなって」

(´^ω^`)「あの子は不安げに俺の顔を見上げた。知らねえ大人が車の周りにいるんだから当然だよな。だから俺は視線を合わせて、奥歯を噛み締めながらこう諭した」

(´^ω^`)「『おっちゃんはこの後、お仕事があるんだ。帰りはあの人達が送ってくれる。安心しろ、提督さんのお友達だから』」

(;'A`)「ッ……」


鼻先にツンと何かが昇り、短く啜り上げた
今の俺は、その時のショボンと同じような表情をしているのだろうか


(´^ω^`)「憲兵も優しく接してくれたよ。わざわざ電話で忙しいであろう提督を呼び出して、通話させる程にな」

(´^ω^`)「彼から事情を聞いたあの子は、パァと顔を明るくさせた。多分、俺に対して悪いことは話さなかったのだろう。つくづく、出来た提督だった」

(´^ω^`)「『おっちゃん!!お仕事、頑張るぴょん!!今日はありがとう、楽しかった!!』」

(´^ω^`)「あの子は乗せられた車の窓から手を振った。馬鹿野郎にはもったいない程の、最高の笑顔でな。俺も、いつも通り手を振り返した」





(´^ω^`)「それが『卯月』との最期だった」




.

465 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 21:52:18 ID:fMBqo9P.0
(;'A`)「……それから?」

(´・ω・`)「ご想像の通りさ……俺は晴れて誘拐犯として御用、収監されて地位と職と人生を失った」

(;'A`)「減刑……されなかったのか?」

(´・ω・`)「されたさ。だから俺は今も生きている。提督は、わざわざ上層部に頭を下げてくれたらしい。こんなクズの為にな」

(´・ω・`)「面会に訪れた彼はこう言った。『凡将の私には、こんな無様な戦しか出来ない。すまない、申し訳ない』と。額を床に擦り付ける俺に、これだけ告げて去った」

(;'A`)「……なんで、なら、猶更……!!」


勝手が起こした事件なのは変わりない。だが、上官が事情を理解して、減刑まで願い出て、どうして―――


(;'A`)「アンタはここにいるんだよ……ッ!!」

(´・ω・`)「……」


この『優しい男』は、島送りにされなければならないのだろうか


(´・ω・`)「……都合が、悪かったからだ」

(;'A`)「都合……?」

(´・ω・`)「軍にとって、いや、世界にとって、艦娘は主戦力としてなくてはならない存在だ。常に、勝利の女神としてあり続けなければならない」

(´・ω・`)「そんな彼女達を人情で連れ出したなんて前例を一つでも公にしてみろ。きっと俺のようなバカは二人、三人と続く。その規模が膨らめば、組織の崩壊にも繋がり兼ねない」

(´・ω・`)「だから……俺を我欲に駆られたクソ野郎として扱う他なかった。ハハ、まぁ実際、その通りだがよ」

(;'A`)「ッ……」


常々、世の中とは儘ならないものだと感じる。かたや戦場で娼婦の真似事をさせられる艦娘もいれば
艦娘に支えられている今のシステムを崩壊させないために、必要以上の罪を着せられる男もいる
この世を作った神様は、よほど胸糞悪い世界をご所望らしい。演じる役者たちの気持ちなど、露とも知らずに

466 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 21:53:43 ID:fMBqo9P.0
(´・ω・`)「恵まれてるよ。優しい人間に救われて、変態扱いされながらその後の人生を豚箱で過ごすだけで済んでんだ」

(´・ω・`)「情にかられた人間ってだけで、大層な優遇だ。恥ずかしいよ。出来ることなら、深海凄艦目掛けて自爆特攻でもさせて欲しかった」

(;'A`)「……」

(´・ω・`)「数ヶ月後、かつての同僚から卯月が『生まれ変わった』と知らされた。いつもの様に戦場へ出て、立派に戦果を挙げた帰りに襲撃されてな。姉妹艦を庇って、沈んだそうだ」

(´・ω・`)「俺と別れてからも毎日のように食堂を訪れては、『いつ帰る?いつ会える?』と訪ねてたそうだ。届かなかった手紙の束も受け取ったよ」

(´・ω・`)「同僚は心を病んで、仕事を辞めた。俺に対する恨み節はなかった。ただ一言、『早まった真似はするな』とだけ告げた」

(´・ω・`)「独房で手紙を抱きかかえながら、何度も何度も後悔したよ。『こんな事になるなら』『寂しい思いをさせるくらいなら』『最後のその日まで、あの子に付き添ってあげられたら』」

(うA`)「……」


遂に耐えきれなくなり、目尻を拭った。なんて事はない、兵士の戦死だ
聞き慣れた、見慣れた、ありふれた日常だ。死を軽く扱えるようになったから、俺も『あんな真似』をしてしまったのに
人を、艦娘を深く想っているショボンの言葉は、正真正銘のクズである俺の心に深く、深く突き刺さった

467 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 21:55:27 ID:fMBqo9P.0
(´・ω・`)「自分が許せなかった。後を追おうとした。だけど出来なかった。提督の、憲兵の、同僚の心を裏切る真似だった」

(´・ω・`)「何より、あの子の言葉が俺を踏みとどませた。『お仕事、頑張って』と」

(´・ω・`)「そしてこう思うようになった。俺が数々の人の縁でクソッタレな人生を延長させて貰えたのは、『お仕事』をやり遂げさせる為だったのだろうと」

('A`)「仕事……」

(´・ω・`)「俺はブーンのように艤装を弄れるくれーの学や技術はねえ。お前のように戦場へ出向けるほどの腕っ節も度胸もねえ。あるのはメシを作る腕一つ。明日への活力と、喜びを齎す料理の腕だけだ」

(´・ω・`)「だから……呪われた場所だろうと、たった二人にしかメシを振る舞えないとしても、俺は心底嬉しかった。『仕事』は残っていた。腐るだけの人生ではなくなったってな」

('A`)「……」

(´^ω^`)「と、これがとあるバカのしでかした罪だ。笑えねえ話を長々とすまねえな」

('A`)「……ああ、笑えねえよ。全く笑えねえ」


彼が何故、ブーンに対して寛容だったのかがよく分かった
人を信じ、人に救われた彼だからこそ、些細な不信感など取るに足らないのだろうと
俺とは正反対だ。戦友に失望し、一方的に始末を着けた、『裏切られ、裏切った』俺とは


(´^ω^`)「こんな俺だからよ、お前が浜風を助けたって聞いた時は……こう言っちゃなんだが、嬉しかったよ。理不尽に我慢ならなかった馬鹿野郎は、俺以外にもいたんだなって」

('A`)「……助けたつもりなんて微塵もねえよ。ただ、勝手に怒り狂って判断を誤っただけだ」

(´^ω^`)「お前にとっちゃそうかもな……だが、どんな方法であろうとも確実に『一人』の尊厳は守った。それもまた、『優しい人間』に出来る勇気ある行動だと思うぜ」

468 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 21:56:44 ID:fMBqo9P.0
('A`)「……過大評価が過ぎるぜ、オッサン」

(´^ω^`)「それもそうかもな……っと、これ以上粘っても釣果はねえか。俺は引き上げるぜ」


ショボンは釣り糸を巻き上げ、クーラーボックスを持ち上げた


(´^ω^`)「時間だけはたっぷりある。じっくり考えて答えを出せ。信じる、信じないもお前次第だ」

('A`)「ああ……そうするよ」

(´^ω^`)「そんじゃ、俺は『仕事』に戻るぜ。釣られた魚も報われるほど、飛び切り美味いメシを作ってやる」

('A`)「……」


少なくとも一つ、分かったことがある。ショボンはその一言に、毎日の料理に、想像を絶する荷を背負いながら向き合っている
努めて笑顔を絶やさないその裏に、心の傷と深い悲しみを隠しながら、『卯月』の言葉を支えに今日も『生き』、『働いている』


('A`)「オッサン!!」

(´・ω・`)「ん?」


俺が抱いた彼への『尊敬』の念は、衝動的に去り行く背中に声を掛けた


('A`)「ありがとう、話をしてくれて」

(´^ω^`)「……なぁに、これでフェアだ。礼は無粋だぜ、『兄弟』」


『兄弟』、俺には畏れ多い関係だ。だが、相反して嬉しくもあった。再び前を向いて歩き出した彼に、俺は深々と頭を下げた
人の縁は生き方を変える。多少時間は掛かったが、『この場所へ来て良かった』と思えていた―――

469 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 21:58:59 ID:fMBqo9P.0
―――――
―――




( ^ω^)「畑の様子見てくる」

(´^ω^`)「死じゃん」


外は轟々と風が吹き荒れ、窓ガラスが割れんばかりに激しく雨粒が叩きつけられる
一つ目の大きな渦巻は、天気予報図上でちょうど鎮守府に差し掛かったところだった


( ^ω^)「お外で遊べないお……」

('A`)「活発に動くようなナリかよ」

( ^ω^)「デブはお外で遊んだらアカンのか?お?」


ブーンとは今だ腹の中を晒しあってはいない。差し当たって、俺は『前提』の確認をしようと思ったからだ
『前任提督』の真相。ショボンが悪名を被らされたように、軍とメディアによってねじ曲げられた可能性がある


(´・ω・`)「こんな天候で見張りもクソもねえだろ。一局打とうぜ」

( ^ω^)「よっしゃ、用意するお」

('A`)「あー、いや、俺は遠慮しとく」


折角の麻雀の誘いだが、天候による時間の空きは有効活用したい
アレから一度も足を踏み入れていなかった執務室を調査する事にした


( ^ω^)「またトレーニングかお?もう潰されても助けねえぞ」

('A`)「へいへい重々承知してますよ。また後でな」

(´・ω・`)「そんじゃ、俺らはどうぶつ将棋でも打つか」

( ^ω^)「普通の将棋でよくない?秒で決着つくじゃん」

470 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:00:37 ID:fMBqo9P.0
('A`)「……」


娯楽室へ向かう二人と別れ、昼下がりとは思えない薄暗さの廊下をひた進む
古い木造の校舎はある程度の補強が施されてはいるが、それでもどこかの屋根が飛ぶのではないかと不安に思えてしまう


('A`)「……」


不安は台風だけではない。嵐に乗じて、深海凄艦が現れるかもしれない
前任提督の失脚後、この海域には一度も奴らは現れていないらしい。艦娘が一人も配備されていない理由の一つだ
皮肉にも、数々の恐ろしい曰くを抱えながら、この日本で最も平和な海だと言えるのだ


('A`)「……」


それでも、俺はこの施設を少人数で管理し続ける意味がわからなかった
僻地に居を構えようとも太平洋に面する一大拠点。攻め込まれれば内地へ侵攻されるのは目に見えている
例え呪われていようが、鎮守府として機能するのであれば艦娘を常任させるのが普通ではないか?


('A`)「解せねえよな……」


真っ当な人生を失ったからと言って、思考は放棄するもんじゃない
海軍はきっと何かを隠している。ただ厄介払いをする為に俺らを送り込んだわけでもないだろう
『意味はある』。そして、その意味は鎮守府に隠されているはずだ


('A`)「……」


だからこそ、俺は目の前に鎮座する『部屋』に向き合わねばならない
『鈴の音』に導かれ、一度は訪れた、彼の居座っていた執務室に


('A`)「スー、フゥー……」


深呼吸で緊張を和らげ、ドアノブを回す。俺の気持ちなど全く省みず、扉はスムーズに開いた
変わらない。初日と何一つ、微動だにしない部屋が広がっている。締め切られたカーテンによって、廊下よりも薄暗い事を除けば

471 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:01:28 ID:fMBqo9P.0
('A`)「……邪魔すんぜ」


返事がない事に安心しつつ、再び中へと足を踏み入れる。機能していないとはいえ、鎮守府を束ねる長の部屋だ。自然と気は引き締まった
電灯を点け、一先ず周りを見渡した。決して広いとは言えないが、ここから過去の痕跡を辿るのは一苦労だろう


('A`)「さてさて……」


少し前の俺なら、この段階でアホくさくなって止めたはずだ。『資料など残っているものか』『真っ先に押収されるに決まってる』と
だが今は、妙な確信があった。『鈴の音』の事もあるし、そして何より、引き出しの中に『彼の顔』が残っていた
『小練 詩音』が海軍にとって最大の汚点であるのなら、例え『記念』だとしてもそんな物を残すはずがない。彼に関する何もかもを抹消して然るべきだろう
勝手な推測だが、もしかすると『見つけて貰う為』に在ったのだとしたら―――


('A`)「……簡単じゃねえか」


前言撤回だ。確認すべき場所など一か所しかない
他の何にも目をくれず、執務机へと向かい不躾に椅子へ腰を下ろし


('A`)「……」


引き出しを、開けた





【 (キT) 】






472 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:05:03 ID:fMBqo9P.0
(;'A`)「ッ……」


相変わらず、生々しい存在感を放つマスクだ。今にも語り掛けてきそうではないか
しかしただの『布』にいつまでも怖気づいてはいられない。両手で掬い上げるように、引き出しから持ち出した


(;'A`)「……」


随分と年季の入った布地で、黄色い糸で縫い合わされた箇所は、薄い染みが広がっている
色見と、『頬』に当たる位置から考えると恐らく……切り傷によって広がった血染みではないだろうか
常に身に着けていた事を鑑みると、予備が幾つかあっても可笑しくはないと思うが


('A`)「思い入れでもあったのかね……」


丁寧に縫い直されているのを見るに、余程大事に着用していた物らしい


('A`)「ふむ……」


そして一番の謎と言えば、見た感じ視界を確保する穴が開いてないこのマスクで、どうやって日常生活を過ごしていたのだろうか?
ちょうど目の位置を横切る『T』の横線も、メッシュ生地でもない。かと言って、カメラやマウントディスプレイが搭載されているワケでもない


('A`)「あー……どうすっかな」


どうするもこうするもない。簡単な話だ。現物がそこにあるんだから『確かめればいい』
誰に見られているわけでもないが、一応辺りを見回して人気が無いのを確認した。なんで悪い事してる気分になってんだ


('A`)「よし……」


履き口……いや、この場合『被り口』か。伸縮性抜群のゴム紐を広げて、一息に被ろうとして


(;'A`)「っ……」


『のろいのそうび』という間の悪いワードが頭に浮かび、躊躇ってしまった
取れねえんだっけ……ああ、クソッタレ。今更なんだ。ゲーム脳か俺は

473 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:06:39 ID:fMBqo9P.0
(;'A`)「……フーッ」


取れなかったところで、ブサイクなツラが隠されるだけだ。どうってことねえ


(;'A`)「よし、せーのッ!!」


気合と勢いに任せ、俺は今度こそマスクを





(キT)「オラッ!!」




顎下まで一気に被った……





(キT)「……?」




よな……?

474 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:09:34 ID:fMBqo9P.0
(キT)「いや、これ……」


被り心地がいい……なんてもんじゃなく、被った心地が『しない』
それだけじゃない。視界は被る前と一切合切変わりなく、息苦しさも感じなかった
まるで新しい皮膚が顔面に『張り付いた』かのように、自然と馴染んでいるではないか


(キ;T)「うわ気っ持ち悪!!気持ち悪!!!!!!」


しかし外れないかと言われればそうでもなく、普通のマスクと同じように簡単に脱着出来る
気味が悪いのは確かだが、『のろいのそうび』の類では無さそうだ


(キ;T)「ハァ……で?」


わかったのは、とりあえずこれが謎の超技術で作られた特別製のマスクって事だけだ
期待はしてなかったが、マウントディスプレイが広がって耳元でスーパーAIが語り掛けてくれた方がまだ夢がある
アメコミ映画の観過ぎか。一人で盛り上がってたのがバカみたいだ。サッサと脱いでしまおう


(キT)「あ……?」


その時、執務机の一部分が僅かに『光っている』のに気が付いた


(キT)「……?」


蛍光灯の光に負けてよく読み取ることが出来ないが、机上に十五センチ定規ほどの大きさの枠の中に、『文字』が並んでいるように見える
俺は急いで電灯のスイッチを消し、再び確認する。予想通り、不規則なアルファベットが並んでいた
どうやら、マスク越しでしか見えない特殊な光のようだ。俺は一体なんの探索ゲームをさせられてんだ?


(キT)「E、K、F、R、A……」


ローマ字読み……ではない。EKFRAなんて英単語もない。簡単な並び替えパズルってところか


(キT)「えーっと……多分、こう……」


英語は苦手だったが、文字を組み立てるだけなら何となくでも出来る
正しい並びの順番に、アルファベットを押していった

475 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:14:17 ID:fMBqo9P.0
(キT)「F、R、E、A、K……」


『奇形』『変種』『変わり者』を意味する単語、『Freak』
このマスクの持ち主を体現するかのような五文字のパスワードによって


(キT)そ「うおっ!?」


机上からポップアップトースターよろしく、一枚の『板』が飛び出した
間抜けな『チーン♪』というベルの音で心臓飛び出るかと思うくらいビビったのは墓まで持っていこう
つーかなんで今までこんなゆるゆるセキュリティと遊び心満載の仕掛けがバレなかったんだよ


(キ;T)「お……驚かせやがって……」


この期に及んでナッパみたいなセリフしか出てこなかった俺も大概だが


(キ;T)「アホくさ……こりゃ、タブレットか」


八インチのタブレット端末。海軍の押収の手から逃れた『忘れ形見』だ


(キT)「ふむ……」


オカルトなど信じない性質だったが、こうもお膳立てされると考えを改めざるを得ない
何はともあれ、虎穴に入って虎児を得たのだ。今更怪奇現象の一つや二つで足踏み出来るかよ


(キT)「……」


側面の電源ボタンを長押しして立ち上げる。起動時特有のホワイトバックが画面に映し出された直後――――

476 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:14:58 ID:fMBqo9P.0





_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> 「テメー誰の許可を得て大事な大事なマスク被ってくれとんのじゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄





スピーカーから大音量で響き渡った『男の怒鳴り声』によって、俺は椅子からひっくり返ってしまった

477 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:19:04 ID:fMBqo9P.0
(キ;T)「いっ……てぇ〜……」


「まぁ、そう設定したのは俺なんだが。悪いな。でも正直キショイわ。人のマスク被るか普通?俺とお前で間接キッスラブコールでしょだぞ」


(キ;T)「ふっ……ざけんなよ畜生……」


机を支えに立ち上がる俺に、タブレットは容赦なく地味に突き刺さる罵倒を放つ
俺だって好き好んで被ったワケじゃねえよクソが。キショイのはテメーの発想だボケ


(;'A`)「あー……クッソ。もしもし?」


「因みに、この音声は録音なんで返答は出来ない。もしかして『もしもし?』とか言っちゃったか?抱腹絶倒だな。笑えよベジータ」


台風じゃなかったら窓から放り投げてた。腹いせに脱いだマスクを引き出しに戻し、強めに閉めた


「そう怒るな。一言多いのもデリカシーが無いのも昔からの悪癖でな。死ぬ間際まで一向に直らなかったのさ」


('A`)「さいで……」


親の顔が見てみたいもんだ。どうやら、件の『提督』とやらは相当愉快な頭と性格をしていらっしゃるらしい
音声は続く。改めて椅子に深く腰掛け、若干腹立たしいが耳を傾けることにした

478 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:21:44 ID:fMBqo9P.0
「さて、この後は納入直後のNDR114のようにホログラムと音楽を交えて自己紹介を……と思ったんだが、残念ながら技術が追い付いてこなかった」


何言ってんだこいつ


「『こっち』は余り時間がねえもんでな……単刀直入に言うとこのタブレットの中には俺がこの鎮守府で過ごした数年間の記録を保存している」

「要点だけ抑えときゃいいだろって思ってたんだが、このまま海軍のクソ共に消されるのも癪だし編集すんのも面倒だし全部ぶち込ませてもらった。頑張って読んでくれ」


俺はどんな顔してこの説明を聞かなきゃならねえんだろうか


「それで……もしお前が『覚悟』をしたのなら、最後にもう一度、俺の一方的なお喋りに付き合ってもらう」

「ものっ凄い嫌なんだが、そのマスクを被ってディスプレイに向き合えば認証ロックが解除されてボイスデータが自動再生される

「くれぐれも、記録を最後まで読んでから開いてくれ。ああ、クソ……なんであのマスクしか……でも持ってくわけにもなぁ……」

479 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:22:24 ID:fMBqo9P.0
('A`)「……」


('A`)そ「えっ、終わり?」


いやビックリするわ。何の覚悟かの説明もないし小汚ぇマスクに未練たらたらなのも意味が分からん。持ってけよポケット突っ込めば解決だろこんなもん
どうしよう。その記録とやらが総じてしょうもないもんだったらどうしよう。この感じだったら全然あり得るのが怖い。逆に見たくなくなってきた


(;'A`)「……」


そういうワケにもいかんよなぁ。読んでも読まなくてもなんかモヤる気がしてならないが、少なくとも進展はするだろう
今度は緊張を緩めるためではなく、身体に溜まった倦怠感を吐き出す溜息をついて、最も古い日付のテキストファイルをタップした



『汚いやり口だった』



(;'A`)「っ……」


暗雲立ち込める滑り出しに、気は一息に引き締まった

『知らない部屋で目を覚まし、珍妙なマスクを脱いで焼け爛れた顔面を鏡で見た時は、「エクソシスト」を観た時よりも膝が震えた。まるで自分が少し前に流行ったシチュエーション・スリラーの舞台に送り込まれた気分であった』
『自身の問題であるのならば、まだ溜飲も下がる。理由も聞かされず顔面を丸焦げにされ、記憶を改竄され、廃村に軟禁されようとも、俺個人で始末をつければいいだけの話だ』
『それが出来なかったのは、見ず知らずの男と二人きりの共同生活を強いられた小娘に「首輪」が付けられていたから。俺の勝手一つで、彼女の命運は尽きる』
『爆薬を喉に巻かれた彼女と初めて出会った時の言葉は生涯忘れられそうにない。「逃げたきゃ逃げろ。私を含む誰もがアンタを責めたりはしない」』
『逃げられるはずもなかった。涙も溢さず、濁った瞳で力なく嗤う少女を、誰が見捨てて逃げ出せるというのか。少なくとも俺は、生存や自由よりも自分の「在り方」を優先したい。男に産まれたからには、無様を晒してなるものかと』


(;'A`)「……」


これが、世界を轟かせた悪名名高い犯罪者の日記だと言うのか?
十行にも満たない文章内でも、これだけは理解できる。彼と彼女は『何某』によって望まぬ着任をしたのだと

480 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:25:05 ID:fMBqo9P.0
『彼女の名は「叢雲」と言った。戦場を離れて久しい俺も、艦娘の存在は知っている。彗星の如く現れた、深海凄艦との戦争に終止符を打てる可能性を秘めた「人型兵器」だと』
『メディアで報じられている彼女達の存在は、タチの悪い冗談とした思えなかった。兵器であるならば、十代?二十代そこそこの眉目秀麗な少女のナリにする必要はない。戦場で、硫黄島で散った数多くの戦友や、辛くも生き残った俺達に対する侮辱だとも感じた』
『だがどうだ。目の前の少女はとても「兵器」とは思えない。人に裏切られ、人を信頼するのをやめ、男一人を拘束する枷として使われた一人の少女であり、それ以上でも以下でもない。「人型兵器」、よくもまぁ宣えたものだ』
『根気良い対話への試みを経て、ようやく彼女から事情を聴き出せた時は、開いた口が塞がらなかった。何でも、彼女が考案した作戦が「成功」した事で「提督」の反感を買い、このような事態へと陥ったのだと』
『成人して社会へと出ると気づくことがある。大人は必ずしも「大人」ではなく、幼稚な存在が多いと。それがまさか世界の命運を左右する軍事関連の、将校にまで蔓延しているとは』
『話のシメに彼女は、「何故、あんなモノの為に矢面に立たなきゃならないの?」と言った。返す言葉が無かった。俺も通った道だったからだ。よくわからん外敵に攻められ、どうでもいい連中の為に戦い、死ぬ。誰がそんな虚しい結末を迎えたいと言うのだろう』

『俺達がいる場所がどういう所なのかも聞き出せた。着任した提督や艦娘が不審死を遂げる鎮守府らしい。古くからの曰くが残る廃村を利用して設立されたが、半年以上の運営が成された実績がなく、口封じや厄介払いの為だけに使われる「流島」。通称、「地獄の鎮守府」』
『つまりは、俺も叢雲も連中にとっては不都合な存在で、消えてくれた方が有難いのだろう。俄然、生に対する執着心が湧いてきた。人の嫌がることはするなと親から口すっぱく教えられてきたが、それがクソ野郎共なら話は別だ』
『幸運があるとするならば、ここには余分な時間があり、叢雲はクソ野郎の手中から抜け出せた事だ。俺達をこんな目に遭わせた連中は、どういうわけか誰一人説明に上がらなかった。立ち直る好機は逃してはならない』
『二人きりの生活で、俺はいつも通りのペースで過ごした。余計な励ましなどせず、取り留めのない雑談を交わした。「何が好きか」「友達はいるのか」「趣味はあるのか」「なぁなぁ、好きな子おるん?」』
『最初は疎ましい態度だった叢雲も、徐々に心を開いてくれた。「食べるのが好き。特に甘いもの」「姉妹艦がいた」「ボードゲームと戦車道観戦」「少なくともアンタではない。これからも一生有り得ない」。こうもキッパリ拒絶されると若干ヘコむんで今後は冗談でも恋バナはしない事にした』

481 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:26:04 ID:fMBqo9P.0
『しかし今は戦時中であり、平穏は長く続かない。やがて、小規模だが深海凄艦の艦隊が攻めてきた。艤装と、少ない弾薬を抱えた叢雲は今まで見たことがないほど目を輝かせた。「ようやく、死に時が訪れた」。彼女を兵器と思ったことは一度もなかったが、紛れもなく「兵士」であり、戦死を誉れとする「戦士」だった』
『「隠れていなさい」。嬉しい事に「あんなモノ」のカテゴライズに分類されていたであろう俺は気遣いを受けた。付け加えるなら「余計な」。俺は死ぬ気は全くなかったし、負ける気も毛頭なかった。海へ出向こうとする叢雲を引き止めると、今度は怒りに満ちた目を向けられた』
『「何も出来ない雑魚が出しゃばる気なの?」人への失意は完全に失くすことは今後も出来ないのだろう。だが、一緒にされちゃ困る。俺は艦娘よりも先に深海凄艦と戦った。ポッと出の新入りに雑魚呼ばわりされるのは心外で、腹立たしかった」

『彼女は海上での戦術眼に優れていたが、陸上での戦闘経験は無かった。俺は海の上に立てはしないが、陸に上がった深海魚と一戦交えた経験がある。「勝てる戦だ。楽しもうぜ」。彼女はその言葉を聞いて驚いていたが、俺自身も「楽しもう」の一言で目から鱗が落ちた。「あんなモノ」の為に戦う必要はない。自分自身が楽しむ為に戦ってもいいじゃないかと』
『叢雲は提案に乗った。勝ち目のない戦いで、今更どう繕おうとも意味がないってのもあったのだろうが、何より興味と好奇心が湧いたのだろう。意地の悪い笑顔と共に、「ま、精々頑張りなさい」と有難いお言葉を賜った。思えばこの時、俺と叢雲は唯一無二の「相棒」になれたのだろう。悪い気分では無かった』
『海上で叢雲による誘導を行い、湾岸から陸上に上陸させ、建築物の遮蔽を利用して各個撃破。俺の武器は両の拳と、彼女の艤装の一つであるマストを模した『槍』。叢雲は軽々と振り回していたが、細身の見た目とは反してガツンとくる重量だった』
『叢雲との初陣は、今でも夢に見る。深海凄艦全五隻中、二隻を海上で撃破。叢雲は中破状態で湾岸に到達し、奴らも追って陸へと上がった。軽巡一隻、駆逐艦二隻。戦車を含む研鑽された一中隊で相手をしてようやく刺し違える程の戦力だ。傷ついた艦娘一人と、今や一市民に過ぎない男一人』
『この時、俺達を貶めた連中にすら感謝したいくらいだった。誰もが普遍的な人生を終える中、これほど心踊る場を用意してくれた事に。大金を積んでも決して味わえない快楽が全身を駆け巡った』
『屋根から飛び降り、駆逐級の背中に槍を突き立てた。飛び散った建造物やコンクリートの破片がいくつも刺さったが、断末魔を前に痛みは消えていった。砲弾が数メートル先を横切った瞬間は、絶頂のようなスリルに笑い声が漏れた』
『標的が二人に分かれた事により、叢雲の砲撃は容易く命中した。陸に上げられた魚は泳げはしない。それが愚鈍な「非人型」の深海凄艦なら尚更だ。だが、装甲の耐久度まで落ちやしない。駆逐級の殺害は容易でも、それを上回るスペックの軽巡には手を焼いた』
『艦娘と深海凄艦の共通点として『船体殻』というバリアが存在する。砲弾が命中しても、一定の耐久度内であるならば船体に直接当たる事はない。しかしそれは『砲弾』に限られており、俺が深海凄艦に槍を突き刺したように、「白兵戦闘」においては機能しない』
『勿論、砲塔を背負った鉄の塊に剣や槍で戦おうとするバカはいない。相手もそう「タカを括って」いるからこそ』



『俺の捨て身の特攻は、功を奏したのだ』



.

482 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:29:44 ID:fMBqo9P.0
(;'A`)「……」


『イかれてる』。彼は嬉々として深海凄艦を、『原始的な方法』で殺していた
日付は、かの有名な『ベルリン』での戦いよりも数年も前だ。ナイフでぶっ殺されたとされる『姫級』よりグレードは落ちるが
それでも、人の手であの深海凄艦を倒している。狂気以外の何物でもないイかれた行為だが、高揚で胸はぞくりと疼いた


(;'A`)「マジだったんだ……」


日記の内容はブーンの言葉とも一致する。先陣を切って戦場を駆けた『戦人』だったのだ
そして、狂気と同じく『情』のある人間でもあると感じた。尚のこと、一般に流布されているイメージとはかけ離れる
拉致軟禁にしても焼け爛れた顔にしても、『叢雲』という枷にしても、どうにも腑に落ちない事も多い
疑問は解けるどころか、深まっていくばかりだ。だが、膨大な資料の駆け出しに過ぎない。再び、画面をスクロールさせて読み進めた



『敵艦隊を撃破した数時間後、政府及び自衛隊の関係者がノコノコと部隊を引き連れて海から現れた。ご挨拶よりも先に、小銃や砲塔の切っ先を突き付けて』
『「到着が遅れて申し訳ございません。ですが、たった二人でこの戦果とは驚きました。どうやら、私の取り越し苦労だったようですね」』
『いけしゃあしゃあと寝言をほざきやがるクソジジイには見覚えがあった。顔面に張り付いた穏やかな微笑みは、こんな状況じゃなきゃ警戒を解くほど暖かで』
『「私は人畜無害です」と書かれたプラカードをぶら下げているかのように迫力も無く、「平穏」「静謐」「好々爺」なんて言葉が似合いそうな、現政党の頭脳』



『茂名 尾前官房長官であった』



(;'A゚)「」



その名前を見た瞬間、俺の思考と指が止まった。まるで高所から突然突き落とされたかのような驚愕だった
『茂名 尾前』。後に、日本人でありながら国連事務総長を務めた大物政治家であり、そして――――


(;'A゚)「『小練 詩音』に殺害された……」


史上最悪とも称される要人暗殺事件の犠牲者となる人物だった

483 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:35:52 ID:fMBqo9P.0
今日はここまで

ガルパン最終章第二話を昨日観ました。最高でした

484名無しさん:2019/06/24(月) 08:13:00 ID:jaseHLOw0
おつおつ

俺はまだ見てない

485名無しさん:2019/06/25(火) 01:49:26 ID:TOMgt2HE0
乙!続きが気になります!

486 ◆L6OaR8HKlk:2019/07/14(日) 23:48:30 ID:swN5lEdo0
『そいつは長々と今まで訪ねて来なかった言い訳を天気の話でもするかのように述べていたが、内容は一切頭に入ってこなかった』
『何より、傍らの叢雲が気がかりだったからだ。突っかかるわけでもなく、軽蔑の視線を向けるでもなく、かと言って出会った頃のように諦念に囚われるわけでもなく』
『震えていた。深海棲艦よりも脆く、艦娘よりも貧弱で、小銃ほどの脅威も無さそうな、たった一人の老人に怯えていたのだ』
『茂名も彼女の状況に気付いたのか、自分の孫にでも語り掛けるかのような優しい声色へと変わり、叢雲に手を差し伸べた』

『「お勤め、ご苦労様でした。実は、務めていらした鎮守府の司令官が謝罪をしたいと申し上げていましてね。今の処遇を取り消すので、また力を貸して欲しいと」』
『「悪い話では無いでしょう。彼も深く反省しているようですし、貴女も息の詰まりから解放される。過去の事は水に流して、再び我が国の為に――――」』
『聞いちゃいられなかった。つまりは「首輪を外して貰いたきゃ言う事を聞け」と暗に脅しかけているだけだ。最初から叢雲に拒否権は無いとでも思っているのだろう』
『傲慢だ。我慢ならなかった。叢雲にとっても不本意だろうが、一つだけ異を唱える方法があった。俺はたった今、「鎮守府」に置いて「艦娘」を使役し、敵艦隊を撃破した』


『叢雲は、「現提督」である俺の管理下にあると主張したのだ』


『茂名はわざとらしく「はて?」と首を傾げ、「貴方にその権限はない筈ですが?」と白々しく応えた。一歩踏み出した俺に、小銃を構える兵士たちもまた一歩詰め寄った』
『舐めた口を利く野郎だ。だったら奴らには俺の顔を丸焦げにして、女の子の首に爆弾を巻く権限があるとでも言うのだろうか。マスクを剥がした時、動揺が広がった』
『当の茂名でさえ、緩やかな曲線を描く口の端が僅かに歪んだ。奴はすぐさま気づいた事だろう。付け入る隙を与えてしまったテメーの失態に』
『権限は無い。確かにそうだろう。だが、そんなもの今すぐ作り出せば良い。よほど俺らを甘く見ていたのか知らんが、交渉材料は幾らでも転がっていた。その最たるものが俺の命だ』
『俺の存在が連中にとって不都合なのは確かだろう。だがサッサと始末せず、監視役を付けてまで呪われた鎮守府に置いておいたのは何かしらの「利用価値」が残っていたからだ』
『万が一くたばったとしてもそれだけの価値だったと割り切れる。もしも期待以上の成果を上げたなら、諸手を上げて活用が出来る。だからこそ、タイミングよく「迎えに来た」』
『言わば、ここでの生活は観察実験だったのだろう。後は銃でも突きつけて甘い言葉で回収すれば、めでたく「運用」へと駒を進められただろうが、そうは問屋が卸さない』
『奴らはいくつかのミスを犯していた。一つは、監視役に「叢雲」を付けた事。哀れな出生を持つ彼女を側に置いておけば、そう簡単には逃げ出せないと踏んだのだろうが、それが「偽り」では無かった』
『「敵を騙すならまず味方から」という言葉がある。ひょっとしたら叢雲の提督だった男は、上からの指示で不本意に彼女を島送りにしたのかもしれない。もしそうなら名役者だと賞賛を贈りたいものだ』
『彼女は立派に枷としての役割を果たしたが、同時に実験を滞らせる「障害」にも成った。信頼を裏切ってリアリティを重視した顛末がこれだ』
『二つ目は、成果が「想像以上」だった事。茂名が連れてきた部隊に艦娘も加わっているのは、勿論護衛の意味もあるだろうが、ほどほどの所で介入して助け舟を出す気でいたからだろう』
『だが俺達は敵艦隊を「殲滅」してしまった。そんな存在に対して、なんと奴らは朗らかに会話できるほどの距離まで近づいている』
『今の戦力差は気合と根性だけでは決して覆らない。だが、勝てずとも「誰か」と刺し違えれば計画はご破算だ。老い先短いであろう老人一人と心中するなど此方としても不本意ではあるが』
『そして三つ目は、ありがたい事にわざわざこんな説明をさせて貰える時間を「頂けた」事だ。恭しく一礼をすると、胡散臭い爺さんは小さく、ほんの小さく舌打ちをした。俺は構わず大きく吹き出した』

487 ◆L6OaR8HKlk:2019/07/14(日) 23:50:52 ID:swN5lEdo0
(;'A`)「……」


茂名国連長官は、その手腕もさる事ながら日本国内が大半を占めていた艦娘技術を世界中に解放し、深海凄艦の脅威を払拭した偉人と称されている
噛み砕いて説明すると、艦娘を運用する上での解釈を追加した。より多くの人間が艦娘を指揮する事ができ
なおかつ攻撃対象を深海凄艦に留まらず、世界平和を脅かす『組織』『国家』に向けさせた
当然、数多くの国々の承認は必要ではあるが、これにより『北の国』がアメリカ合衆国の一部となった実績もある
間違いなく、脅威と憂いが減った。胸を撫で下ろした者も多いだろう。茂名国連長官の死後、ノーベル平和賞を贈ったのも頷ける


(;'A`)「……いや」


正しくは『頷けた』。指揮権の拡大とは則ち、艦娘の拒否権の縮小だ。彼が付け加えた解釈は、『二等兵』以上の兵士に指揮権を与えるというものだ
余りにも広すぎる。これは艦娘に限らず、人や物にも言える事だが、『使い道』を誤れば惨事は免れない
だからこそ、危険と判断された物の運用には『免許』が必要で、部下を率いる立場の人間になるには実績を鑑みた上で与えられる『役職』が必要なのだ


(;'A`)「……」


艦娘には人格があり、意思があり、感情がある。それらを差し置いて、国連長官は使用者の間口を広げた
恐らく彼にとって、艦娘は『物』であったのだろう。冷酷な考え方ではあるが、国を、ひいては人の命を守りたいという想いも在った筈だ
だが『叢雲』を、初めて出会った艦娘を『人』として対等に接した『小練 詩音』との相性は致命的に悪い
もしも解釈の拡大が、小練の逆鱗に触れたとするならば―――――

488 ◆L6OaR8HKlk:2019/07/14(日) 23:52:51 ID:swN5lEdo0
『奴に残された道は二つに一つ。手綱を握ったまま俺の要望に応えるか、「渡る綱」を自ら断ち切るか。別の方法が存在するならば、是非ともご教授頂きたいものだった』
『僅かながら葛藤の時間が欲しかったのだろう。茂名はしばし口を噤んだ後、「いいでしょう」と、首を縦に振った。「いいでしょう」?は?舐めてんのかこいつ」
『深々とため息をついて「お願いします」だろうとやり直しを求めると、余裕ぶった笑みが引き攣り、顔に血が昇っていった。老害になると頼み方の作法もボケて忘れてしまうらしい。ちゃんとボケ防止の運動やっとこうと思った』


煽りの天才かよ


『しかし官房長官ともなると、切り替えも早い。すぐさま頭を深々と下げ、「お願いします。これで宜しいですか?」と真新しい笑みに作り変えて応えた。全く宜しくなかった』
『「政治家の先生は膝と額が汚れるのが余程お嫌いなのでしょうか?」。今度は笑みこそ崩さなかったが、視線が兵士の腰に差された拳銃に向けられたのを見逃さなかった』


むしろよく我慢できたなオイ


『埒が明かないのでおちょくるのはここまでにして、その場での交渉に入った。持ち帰られると後々厄介な事に成り兼ねない。多少はゴネられるかと思ったが、意外にもすんなりと了承した』
『それほど、「俺」が持つ交渉材料としての価値は高いらしい。それかもしくは、これ以上馬鹿にされるのは我慢ならなかったのかもしれない。与党の議員らしからぬ煽り耐性の無さだった』
『此方からの要求は、提督としての指揮権。「叢雲」並びに「地獄の鎮守府」の譲渡。鎮守府機能の全開放に、政府及び自衛隊上層部からの命令の拒否権』
『片手で収まるだけのお願いに対して「随分と子供じみた要求をなさる」と苦言を吐いた。呆れたものだ。これだけの仕打ちをしておいて手心を求めているなど』
『しかしすぐさまどす黒い腹を隠すように極めて明るい声色に戻った茂名は、自身の要求を提示してきた。「叢雲さんの首輪は今後とも着用してもらいましょう」』
『こう来ることは想定内だ。だが、吐き気がするほど腸は煮えくり返った。腕っぷしに自信がある俺でも、時たまこう思う。「怒りの感情だけで人を殺せたら」』

『「此方としても心苦しいのですが、それだけの権限を持つ鎮守府は前例になく、まぁ……乱暴なやり方ではありますが保険は必要でしてね。ああ、勿論お断りしても構いません」』
『「私なら、わだかまりを水に流して、勝手見知った仲間が待つ我が家へ帰る道を選びますが……いえ、やめておきましょう。どのような答えであれ、我々は叢雲さんの意思を尊重します」』
『一瞬だが、「一理ある」と思ってしまった。そんなわけあるか元はと言えば悪いのは彼方だ。何も向こうから与えられた選択肢だけに的を絞る必要は全くない。首輪を外した上で顔面に一発お見舞いしても安いくらいだ』
『罵倒され足りないのならおかわりをくれてやろうと口を開いた瞬間、割って入るように彼女はこう応えた』


『「彼に、元司令官にこうお伝えください。私はアンタの都合のいいママではない、と」』


『これが、彼女の出した答えだった』

489 ◆L6OaR8HKlk:2019/07/14(日) 23:56:54 ID:swN5lEdo0
『茂名の顔から表情が抜け落ちた。はっきりと拒否された事に対する屈辱やショックからではない。思考を、駆け巡らせていた』
『「わかりました」。程なくして了承と取れる言葉を得たが、俺も叢雲も安堵の溜息を吐けなかった。奴らが企てる陰謀は滞りなく進行するという自信の表れでもあったからだ。そしてこうも言い換えられる』
『俺たちは今現在を持って、この男の「駒」に堕ちてしまったのだ。此方の腹を見透かすように、茂名は満面の笑みを作って見せた』
『「ですが最後に、再考のチャンスを与えましょう。この話を取り消し、我々と同行するのならば、貴方の身に起きた変化についてお教えします。その上で、幾らでも謝罪を致しましょう」』
『叢雲の身体がびくりと震えた。奴が提示したのは、俺が今一番知りたい情報であり、出会って間もない小娘一人とは到底吊り合わない価値がある代物で、掌など幾らでもひっくり返るとでも思ったのだろう』


『だから、こう答えてやった。「いるかよ、くたばれ」』


(;'A`)「ちょっ……もぉー……」


さっきからカッコいいが過ぎる。好きになっちゃうだろうが


『茂名は落胆するわけでもなく、声色を変えずただ「そうですか」と言い、細かい条件は後ほど連絡するとだけ告げ、兵を連れて引き上げていった』
『奴らの乗る船が見えなくなり、やがて叢雲は「どうして?」と聞いてきた。簡単な話だ。ただ連中に従うのが癪だっただけだ』
『続けて、「どうする?」とも。なんともしおらしい姿だった。余りの似合わなさに、思わず吹き出してしまった』
『場所を得た、地位を得た、そして隣には頼りになる相棒がいる。やる事は決まっていた。これは戦争だ。深海凄艦との、そして権力と陰謀との、分の悪過ぎる戦いだ。だからこそ、余計に滾る』
『強くなろう。何もかもを脅かし、何もかもを超越し、何者も俺たちをコケにし、爪弾きにし、陥れる真似が出来ないくらい徹底的に』
『叢雲は「無茶苦茶ね」と言って、ようやく笑った。「でもまぁ、他にも行く当てもやる事もないし、付き合ってあげるわ。司令官」』
『この日から、俺の人生で最も長く、最も激しく、最も大切な日々が始まった―――――』

490 ◆L6OaR8HKlk:2019/07/14(日) 23:58:05 ID:swN5lEdo0
(;'A`)「……フーッ」


中々読ませる文章を書いてきやがる。初っ端から結構面白かったじゃねえか
いや面白かったじゃない。これが事実ならノーベル平和賞を授与した歴史に残る大偉人の評価は百八十度ひっくり返る


(;'A`)「世に出せねえワケだよ……」


茂名氏の残した功績は確かに大きい。だが、その大半が日本国内に限定される
保有戦力もさる事ながら、莫大な軍需で潤っている。当然、諸外国としては面白くはないだろう
この文書が事実であろうと無かろうと、一つの証拠である事には変わりない。リークすれば手厳しい追求は免れないだろう


(;'A`)「……」


なら何故、小練 詩音は彼の陰謀を暴かず、大罪人の汚名を被るような真似に走ったのだろうか?
確固たる証拠が無かった?別の保険が掛けられていた?それとも、他に目的があったのか?


(;'A`)「わっかんねえ……」


わかるはずもない。俺が踏み入れたのは初めの一歩に過ぎない。これを最後まで読み進めれば、真相には辿り着けるのだろうが
辿り着いたところで、俺に何が出来る?海外へのリークか?深海凄艦だけで手一杯な世界を、これ以上混乱させるのか?
そもそも、今は罪人として軍に、ひいては国に管理されている立場だ。不都合を揉消すなど容易いだろう

491 ◆L6OaR8HKlk:2019/07/14(日) 23:58:25 ID:swN5lEdo0
(;'A`)「何をさせたいんだ……」


最初の音声で、小練は『覚悟』を求めた。恐らくは、一人に背負わせるには重過ぎるモノなのだろう
だがどうしろって言うんだ?彼の無実の証明?そんな行為に意味はあるのか?俺にそんな義務があるのか?


(;'A`)「……」


ああ、頭が痛い。吐き気もしてきた。天井を仰ぐと、いつの間にか台風は過ぎ去っていたのか、外は静かになっていた
時間はある。今日はここまでにしよう。タブレットのモニターを落とし、やや躊躇ったが、自室へ持ち帰る事にした


('A`)「……」


部屋を出る前に、一度振り返ってみる


('A`)「ハァ……」


多大な苦悩を伴って、成果はあった。その中の一つを上げるとするならば


('A`)「じゃあ、またな」


当初ほど、この部屋に不気味さを感じなくなった事だろうか

492 ◆L6OaR8HKlk:2019/07/15(月) 00:10:28 ID:Ff6VgxBw0
今日はここまで

天華百剣のSS書きたい

493名無しさん:2019/07/15(月) 02:56:58 ID:ZnOfqvH.0
おつ 皮肉が効いた言い回し好き

494名無しさん:2019/07/15(月) 10:47:54 ID:sjtk8ax.0
まだ天華やってるんかワレ
この前ちったーで宣伝しておいたぞ

495名無しさん:2019/07/15(月) 19:20:36 ID:7MWaJXgI0
otu

496名無しさん:2019/07/16(火) 23:00:48 ID:2qQN6b2g0
おつおつ

天華百剣はABコラボで爆死して引退した

497名無しさん:2019/08/19(月) 21:59:31 ID:uOVS03WI0
天華百剣ってまさかムカデか!?

おかえり!!


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