したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

SSスレ「マーサー王物語-ベリーズと拳士たち」第二部

749 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/19(土) 05:33:44

もはやカリンには打つ手はない。誰の目にもそのように見えた。
だが若手軍にはこれまで何度も煮え湯を飲まされてきたので、マイミはこの局面で油断することはしなかった。
目にも見えないほどの拳速でカリン、そしてマーチャンの鳩尾を強打したのだ。
いくらカリンが超スピードで動けたとしても至近距離からの速攻は避けられないし、
攻撃自体が見えなければマーチャンも対応することが出来ない。
結果的にカリンとマーチャンは簡単に気を失い、倒れてしまった。

「残るは今度こそあと一人……トモを倒せばすべてお終いだな……」

マイミは遠くで弓を構えるトモの方を向き、フラつきながらもそちらへと歩いていった。
来させまいとトモも矢を二、三発放ったが全て右腕で跳ねのけられてしまう。
予測不能な攻撃には不覚をとることも多かったマイミだが、来ると分かっている攻撃は怖くない。
このまま全弾防ぎきってトモの元へと到達するつもりなのだ。
トモも矢を打ちながら「この攻撃は無駄なんじゃないか?」と思うこともあったが、決して攻撃を止めたりはしなかった。
ここで諦めたらNEXTに繋がらないことをよく分かっているのである。
そんなトモの心拍数がひどく上がっていることに対して、アイリが心配していた。

(とても辛そう……そうだよね、本当は逃げ出したいくらい怖いんだよね。
 だってウチのマイミは化け物にも程が有るんだもん。我が団長ながら本当に呆れるよ。)

アイリも若い頃に強大すぎる存在を相手にしたことがあるので、トモが恐怖する気持ちは十分わかっていた。
そして同時にここで退いては何にもならなくなると強く感じていることも、読み取っていた。
立場上、手助けをしてやれないことに多少歯がゆく感じながらも、
トモが諦めずに矢を放ち続ける限りは大丈夫だと確信している。

(きっと気づいているよね? ウチの団長は数を数えられていないってことに。
 マイミはあと一人、トモだけ倒せば良いって思っている……そんなはずがないのにね。)

マイミは既にトモの襟首を掴んでいた。
嘘みたいな話だが、本当に矢を全部弾いてここまで来てしまったのだ。
そしてカリンやマーチャンにしてみせたように、トモの腹に強烈なパンチをお見舞いする。
ここまでノーダメージでやり過ごしてきたが、マイミの一撃はそんな事もお構いなしにトモの意識を断っていく。
地面にドサッと倒れたことから全てが終わったとマイミは考えていた。
しかし、そうはいかなかった。
アイリの予測通り、そしてトモやカリンら勇気ある戦士達が期待していた通りに、
悔しさをパワーにした者が新たに立ち上がったのだ。

「ハル!!いくよ!!!」
「おう!サユキ!!」

その戦士の名はサユキ・サルベとハル・チェ・ドゥー。
2人ともさっきまで恐怖に押し潰されそうになっていたし、現に涙で顔がグチャグチャになっているのだが、
いつも側で戦ってきた同志たちの勇敢な姿を見て、心を強く揺さぶられて、立ち上がることを決めたのだ。
そして不思議なことに、
チナミ戦で破壊されたはずの武器が、サユキとハルの手には綺麗な状態になって握られていた。

750 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/22(火) 14:32:55
実は今、こぶしの音霊目的で三浦海岸に来てます。
海でメンバーが遊ぶ姿を見れたので既に満足しちゃってますが、
夜のライブも楽しみにしてます。

携帯の充電が待てば、開演前or終演後に続きを書きたいと思います。

751名無し募集中。。。:2017/08/22(火) 15:04:37
>>750
こぶしが海で遊ぶ姿。。。はまちゃんのはまちゃんやあやぱんのあやぱんが見れたなんて…なんて羨ましい!w

楽しんできて下さい♪

752 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/22(火) 17:41:03
KASTのトモとカリン、そしてアーリーはサユキが立ち上がってくれることを信じていた。
伝説の存在に恐怖したとしても、最後まで俯いたままでいるヤツでは決してない。
そう確信していたからこそマーチャンにサユキの武器の修理を依頼していたのだ。
おかげでトンファーを治すことが出来ず、アーリーは素手での参戦となってしまったが、
その代わりにこうしてサユキがヌンチャクを力強く握れたのだから、安い代償だ。
そして、KASTから依頼を受けたマーチャンは、ハルの竹刀も直さねばならないとすぐに思った。
帝国剣士にはサヤシやカノンなど他にも仲間は多くいるが、
マーチャンはとにかくハルに戦って欲しかったのである。
幸いにも竹刀の修理には時間がかからなかったため、マイミに挑む前に問題なく2つの武器をピカピカに完成させることが出来た。
そしてその武器をサユキとハルに渡したのは、高速化状態にあったカリンだ。
マーチャンが必殺技「蹂躙(じゅうりん)」でマイミを叩いているうちに武器置き場へとダッシュし、
味方の活躍に心を激しく揺さぶられているサユキとハルの前に置いたのである。
長年連れ添って来た同志が強大な存在に立ち向かう中で、自分だけが何も出来ていない様が辛くない訳がない。
その苦しみから解放される手段はただ1つだけ。
カリンの残した武器を持ち、ヤケクソでもいいから全力でぶつかることだけだ。

「やってやる!やってみせるんだ!!」
「うおおおおおお!!」

しかし、いささかヤケクソ過ぎるように見えた。
いくらマイミがひどく疲労困憊しているとは言え、無策で突っ込めば返り討ちにあうのは必至。
そうすればせっかく奮起したといつのに無駄ゴマにしかならない。
そんな悲しく虚しい結末が有って良いのだろうか。
そうだ。有って良いはずがない。
それをよく知っている2人は、無鉄砲に見えてなかなかクレバーに振舞っていた。
竹刀が当たるくらいの距離までマイミに近づいたところで、
ハルが目をカッと見開く。

(喰らえっ!!必殺、"再殺歌劇"!!)

自暴自棄のフリをするのはここまで。
仲間たちの戦いから、マイミが予想外の攻撃に滅法弱いことは十分確認できている。
ハルは自身の速度を一段階上げて、マイミの弱点である太ももに雷の如き一撃をピシャリとぶつけるのだった。
一瞬遅れてマイミも反応し、ハルの攻撃を覚悟して受け止めようとしたが、
そうすること自体がハルの必殺技の術中にハマっている証拠。
ハルの真の狙いは一撃目とほぼ同じタイミングで叩き込まれる二撃目にある。
その二撃目の狙いは、リナプーが作りカリンがさらに育てた第2の弱点である"背中"。
緊張を全くしておらず緩みきっている背中への再殺はさぞかし痛かろう。

753 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/22(火) 17:42:44
夕方ごろにまたメンバーが海で遊んでました。
はまちゃんのはまちゃん?不思議なことに見覚えないですね……

754 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/22(火) 19:53:33
音霊見て来ました!
人数こそ少なくなりましたが、最初から最後まで力強い、メンバーもファンも汗だくになる良いライブでした!
この話も早く三部に入りたいものですね、、、

755名無し募集中。。。:2017/08/23(水) 00:27:38
> 見覚えないですね……
ヒドいw楽しんで来たようで良かった…熱中症で倒れた人いるって聞いて少し心配でしたw

ついにトリプルレットも参戦!まさしく「今だ!ダッシュで向かって行こう」って感じが出てて良いですね〜

756名無し募集中。。。:2017/08/23(水) 00:28:28
>>755
訂正
×トリプルレット
○トリプレット

757 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/23(水) 18:35:45
ハルの必殺技を背中で受けたマイミは悶絶しそうになった。
非力な子供が振るっても鞭は痛いのと同じ理屈で、
しなる竹刀は実際のダメージ以上に痛みを与えてくれる。
しかもそれが予想外の方向から襲って来たので、あとほんの少し気が緩んでいたら意識が飛ぶところだったが、
マイミはなんとか耐えてみせた。
伝説とも呼ばれる彼女自身も実はまだ成長しており、
シミハムやリナプー、カリンらに立て続けに背後を取られた経験から、後方からの不意打ちに慣れてしまったのだ。
頭で考えるよりも早く背中に手が回るようにもなり、
一瞬にして右手でハルの竹刀を掴んでは、超パワーで握りつぶしてしまう。

「ああっ!竹刀が……」
「この程度なんてことないぞ!!次はサユキか!前からでも後ろからでもかかってこい!!」

この時サユキは心臓の音がドクンと聞こえるのを感じた。
絶体絶命の窮地において、自分がキーパーソンとなったことに緊張し、
鼓動音が大きくなってしまったのだとはじめは思っていた。
だが、そうでは無かったのだ。
サユキは耳が良い。
果実の国では名門コーチを呼び寄せて聴覚を鍛えるトレーニングを重点的に行なっているだが、
サユキの音を聞き分ける力はKASTの誰にも負けないくらい優れていた。
モーニング帝国城での戦いで姿の見えないリナプーの位置を察知できたのだって耳が良かったからだ。
そんなサユキの耳に今はいっている音はサユキ自身の心臓音ではない。
なんとマイミの鼓動を聞き取っていたのである。
それをサユキが自覚した途端に他の音までもドッと聞こえてくる。
次々と大きくなる心臓音だけでなく、ひどく息切れしている呼吸音やガクガクと震える脚の音を、サユキは正確に捉えていた。
サユキにとってはこの世と同等くらいに大きい存在であるマイミから発される音の組み合わせは、
「地球からの三重奏」と形容しても良いくらいだ。
そんな大きい存在が何故こうも異常音を発しているのか、
その理由にサユキは気づいてしまった。

("前からでも後ろからでも"って言った時から音が大きくなっている。
 マイミ様、ハルの技が効いていないように見えて、実は恐れているの?
 そりゃそうだ。みんながあんなに頑張ったんだから身体がボロボロになっていないはずがない。
 そこにハルから前と後ろを同時に攻撃されて、限界に近いんだ。
 だったら私もハルと同じことをしたら良いのか?……)

サユキはすぐに「ダメだ」と感じた。
いくらマイミがその攻撃を恐れているとは言え
自分からその事を口に出したのだから対策を全くしてこない事は有り得ない。
もちろんある程度は有効なのだろうが、マイミを倒しきるにはハルの"再殺歌劇"の上をいく攻撃を当てねばならないだろう。
ではどうすればいいのか?
二撃同時の上をいく攻撃とはいったいどのような攻撃なのか?

(そうか……三重奏だ。)

サユキにはハルほどのスピードは無い。
だが、マーチャンに直してもらったこの武器ならばそれを実現することが出来る。
サユキはそう確信した。

758 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/24(木) 18:18:11
サユキが愛用するヌンチャク「シュガースポット」は木製だったが、
チナミの物作りを学習したマーチャンの修理によって、鉄製に生まれ変わっている。
重量が増したおかげで多少使いにくくなっているものの、破壊力は比べ物にならないくらいに上がっている。
これを上手く当てれば大抵の敵の意識を飛ばすことが出来るだろう。
しかしマイミはそういった「大抵の敵」には当てはまらないことは誰もが分かっている。
ならば当てるには工夫が必要だ。

(私の強みを全部出しきるんだ……これまでの努力が実を結ばないはずがない!!)

サユキは地面をタンと強く蹴り、宙に跳び上がった。
それもただ真上に跳ぶのではなく、マイミの右肩に向き合うように斜め方向にジャンプしている。
サユキの両手にはそれぞれ鉄製ヌンチャクが握られていることから、
マイミは自身のどこが狙われているのか瞬時に判断することが出来た。

(まさか、太ももと背中を同時に叩こうとしているのか!?)

その推測は7割当たっていた。
サユキはマイミの横方向から攻めることが出来るので、
右手のヌンチャクで第1の弱点の太ももを、
左手のヌンチャクで第2の弱点の背中をいっぺんに叩けるのである。
それに気づいたマイミはすぐに弱点である傷口をガードし始めた。
疲弊から、脚を使って回避できないのはとても苦しいが、
弱点を手で抑えればサユキの攻撃から確実に自身を守ることが出来る。
ここさえ乗り切れば、後は地面に着地したサユキを殴るだけで終了する……マイミはそう思っていた。
だが、サユキの真の狙いは第1の弱点や第2の弱点ではなかったのだ。
それに気づいたアイリは背筋がゾッとするのを感じる。

(見えている!?……いや、聞こえているというの?
 サユキちゃんの耳はマイミの"第3の弱点"を確かに捉えているんだ。)

前にも書いた通り、サユキの聴覚は非常に優れている。
そして更に、この緊張の場面においてその能力はもう一段階研ぎ澄まされてる。
彼女には聞こえていたのだ。
ハルの竹刀を掴んだ時も、太ももを手で抑えた時も、
マイミの右腕の骨がギシギシと軋む音を発していたことを。

「これが私の必殺技……"三重奏(トリプレット)"!!」

一本目のヌンチャクはトモが見抜き射抜いた太ももへと向けられた。
二本目のヌンチャクはカリンが拡張した背中の傷穴へと向けられた。
それらの攻撃は当然のようにマイミにガードされてしまったが、
サユキの攻撃は二連同時を超える三連同時攻撃だ。
天高くまで飛翔する超人的な跳躍力は、他でもない強靭な脚力が生んでいる。
ふくらはぎバリ筋肉は努力の証。
そのサユキの努力の賜物とも言えるキックが、アーリーが抱きつくことで作った"第3の弱点"、マイミの右肩に炸裂する。

「なんだと!?そんな……この痛みは!!!」

マイミの肉体および骨格はとても頑丈に出来ている。
しかし、そんなマイミでも万力のように強いアーリーの抱きつきの後では骨太を維持できなかったようだ。
サユキの蹴りによる駄目押しで、右腕の骨が砕け散る。

「これが私たちの力です!!いい加減に倒れてくださいっ!!」

サユキの言葉を聞いたマイミは、自分は孤独な戦いをしていたのだと初めて気付くことが出来た。
"私たち"という言葉はKASTだけでなく、勇気を持って立ち上がった全ての戦士のことを指すのだろう。
みんなで結束すればどんな強者にも勝てると数年前に学んだはずなのに、どうして自分はそれに気づけていなかったのか。
そんな大事なことを忘れていたのだから、このような結末になって当然だろう。
力尽きかけたマイミは後ろに倒れながら、そのような事を思っていた。
ところがここで状況が一転する。
意識が断ち切られる寸前、マイミの視界によく知る人物が入って来たのだ。

(オカール!?)

その人はキュートの仲間オカールだった。
いつの間にかすぐ側にまでやって来ていたのである。
自分にも頼れる味方がいた事を思い出したマイミは心から安堵する。

「来てくれたのか……すまないが私はもう駄目のようだ……
 オカールの手で、若い戦士達を倒してくれないか?……」

759 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/25(金) 16:32:48
「甘ったれてんじゃねぇ!!」
「!!?」

倒れくるマイミの後頭部を思いっきり蹴っ飛ばしながら、オカールはそう叫んだ。
蹴られた勢いのままに直立してしまったマイミは、これ以上ないくらいに混乱している。
いったい何がどうしたと言うのだろうか。

「オカール?……」
「団長さぁ……ホントなんにも分かってないよな。」
「な、なんだと?」
「この勝負はヤツらがアンタに売った喧嘩だ。 バトンタッチなんてもんは存在しねぇんだよ。
 キュート戦士団長マイミが最後まで立っていたら勝ち。ぶっ倒れたら負け。ルールはそんだけだ。
 例え俺たちキュートが助太刀したとしてもな、アンタが寝てたら無意味だろうが。」
「しかし、私はもう心も体も限界で……正直言って戦えそうにない……」
「あーーーもう!まだそんな事言ってんのかよ!!
 いいからさっさと周りを見ろ! 腑抜けてんのは団長ただ1人なんだよ!!」
「!!!」

顔を上げたマイミは、周囲の状況を見て驚愕した。
今現在立ち向かって来ている若手はハルとサユキだけだと思っていたが、
それは大きな勘違いだったのだ。

「おいオダァ!大丈夫か?意識あるのか!?」
「んっ……アユミンさんも立ち上がったんですね。」
「……当然だろ、あんなもん見せられたら、ね。」
「私、安心しました。 ここで奮起しなかったらアユミンさんは二流剣士以下になっちゃいますもんね。」
「なんだとオダァ!!」

「メイ、リカコ、やる気はみなぎってるか?」
「うん!」「はい!\(^o^)/」
「KASTのみんな、知らんうちにカッコよくなっとるなぁ……でも、ウチら番長も負けへんで。
 相手は依然変わらず強敵、カクゴして挑むんや!!」
「「おーーー!!」」

エリポンが、サヤシが、カノンが、アユミンが、
カナナンが、メイが、リカコが立ち上がり、闘志の炎を燃え上がらせている。
先ほどまで戦っていた者たちを「勇気ある戦士」と区分する必要はもはや無いだろう。
全員が全員、例外なく勇気ある者に変貌したからだ。
それを見たマイミは胸を強く打たれる。
そして、これから自分が何をするべきなのか明確に理解したようだ。

「オカール、下がっててくれ。」
「お、なにすんだ?」
「将来有望な戦士たちと拳を交えるに決まっているだろう!それも全力でなっ!!」

マイミが力むと同時に、暴風雨のようなオーラが半径100mに吹き荒れた。
ちょっとばかし乱暴ではあるがこれでこそ本来のマイミだ。
そして若手戦士らも今さら嵐に怯んだりはしない。
天変地異のようなオーラにも決して恐れる事なく、立ち向かおうとしているのだ。
展開が上手く運んで満足気なオカールのもとに、ナカサキとアイリがニヤニヤしながら寄ってくる。

「オカールやるじゃないの。」
「発破をかける天才ね。」
「へへ、よせよ。」

対ベリーズに向けて、マイミと若手の両方を焚きつけることが出来たのでこの3人はとても満足していた。
だが、マイミの次の言葉を聞いてちょっとだけ後悔をし始める。

「本気の本気で行くぞ! 私の必殺!"ビューティフルダンス"で皆殺しだ!!」
「「「えっ」」」

どうやらやる気を引き出し過ぎてしまったようだ。
この後、鬼神の如く暴れまくったマイミを止めるのには苦労したらしい。

760名無し募集中。。。:2017/08/25(金) 17:00:25
やはりトリプレットはオカールも入れて3人だね

…それにしても団長ってば単純w

761名無し募集中。。。:2017/08/25(金) 22:38:55
やる気を出しすぎたマイミは一瞬本来の目的を忘れていそうだなw

762 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/28(月) 15:18:58
「んっ……」

マイミとの戦いで意識を失っていたカリンが目を覚ました。
起きてからしばらくの間は寝ぼけていたが、
自分が寝ていた場所がいちごのベッドでは無いことに気づくのに、そう時間はかからなかった。

(お外だ……時間は夜?……それに、みんなもいる。)

辺りには帝国剣士がいた、番長がいた、そしてキュート戦士団もいた。
みんながみんな、起きたカリンを朗らかな表情で見ている。
カリンが事態を理解しかけたところで仲間であるアーリー、トモ、サユキが声をかけてきた。

「あ!起きたぁ!」
「よく寝てたね。起きたのはカリンが一番最後だよ。」
「必殺技で無理をしすぎたから疲れちゃったのかな。」

どこかで聞いたことのある言葉をかけられたが、カリンの心境は以前と大きく異なっている。
この世界はスバラしいよね、この世界は捨てたもんじゃない。
そう強く感じてた。

「私たち、ベリーズを倒しにいけるんだね……!」

周りにいるみんながニッコリと微笑んでいることからも、カリンの推測が正しいことが分かるだろう。
もうこの場にはベリーズとの戦いを恐れる者に など存在しない。
奮起した若手戦士らはもちろんのこと、マイミだってやる気を完全に取り戻している。

「本当に見苦しい姿を見せてしまった……心から反省しているよ。カリン、君が頑張りをみせてくれたこらこそ我々は大きな過ちを犯さずに済んだんだ。」
「そんなそんな……」
「ところでカリン、既に他のみんなには聞いていたのだが……」
「はい?」
「私は改めて連合軍のリーダーを務めたいと思っている。 こんな私だが、着いてきてくれるかな?」
「はい!もちろんです!」

カリンだけでなく、全員が全員同じ思いだった。
自分たちの前を突っ走るのはマイミしかいない。そう思っているのである。
あんな事が起きたのだから、もう二度と立ち止まったりはしないと信じている。

「それじゃあ団長。いや、リーダー。 そろそろ目的地を発表した方がいいんじゃない?」
「そうだな、ナカサキ。」

ベリーズとの再戦場所はこれまで若手たちには知らされていなかった。
だがもはや隠しておく必要はないだろう。
その場所の重みに圧倒されることはあっても、怖じ気付くような彼女たちでは無いのだから。

「ベリーズとは明日の夜、武道館で戦う。そこに居る王とサユを我らの手で取り戻すんだ。」
「「「武道館!?」」」

武道館という名を聞いて驚かぬ者はいなかった。
前にも触れたが、この施設は戦士たちの憧れの舞台。
ここで戦えることこそが最上級の名誉なのである。
果実の国のKASTたちは特に強い思い入れを持っており、喜びもひとしおだった。

「武道館で……戦えるんですね……」

トモ・フェアリークォーツが涙を流したのを見て、一同は驚いた。
マイミ戦では冷静に見えたトモが今こうして顔をグシャグシャにしているのを見ると、
改めて特別な場所だということを再認識させられる。
そして、心震えているのはKASTだけじゃない。 帝国剣士も、番長も、キュートだってそうだ。
GRADATION豊かな"たどり着いた女戦士"たちは、MISSION FINALにFULL CHARGEで挑んでくれるに違いない。

763名無し募集中。。。:2017/08/29(火) 21:14:24
詰め込んだなw

764名無し募集中。。。:2017/08/30(水) 00:36:33
リアル『仮面ライダーイクタ』が見れる日も遠くはない?!


@
えりぽんが今後やりたいこと
仮面ライダーか戦隊モノに出たい。アクションも素で頑張る


@
えりぽん名古屋BDイベ
やりたいことありますか?の問いに
えりぽん<仮面ライダーとか戦隊モノやりたい!ああいうの大好き!えりは変身する前からいろいろ(アクロバット)やるから!
変身すると大人の力でなんとかなるじゃんwだから変身する前からやる!
スタントいらずをアピるえりぽんかわいい

765 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/01(金) 09:00:43
恐怖に打ち勝つ心と、戦うためのモチベーションは揃えることが出来た。
しかしやる気だけでは怪物たちに勝つことは出来ない。
作戦が必要なのだ。
そのために彼女らは自軍と敵軍の戦力分析から始めることにした。
武器修理に忙しいマーチャン以外が一箇所に固まり、地べたに座っていく。
ここで進行を務めるのはナカサキだ。
作戦会議をマイミやオカールに任せたらえらいことになるし、アイリの発言はメンバーの耳にうまく入らない可能性があるので、
人見知りだろうがなんだろうがナカサキが頑張らないといけないのだ。

「えっと、それじゃあ私たちがどれだけ戦えるのか整理しようか。
 まずはキュートね。マイミ団長は無傷、私ナカサキは出血が酷かったけど明日の夜まで休めば5割の力は取り戻せそう。」

マイミは無傷、という発言に若手戦士らは引っかかった。
どう考えても大怪我だし、そもそも腕を骨折していただろうと言いたかったが
ふとマイミの方を見てみると何故か傷が殆ど癒えているように見える。
本人もアハハと笑っているし、一同は深く突っ込まないことにした。

「アイリとオカールは?」
「怪我の方はそうでもないけど心身への負担が大きくて……私も出せて5割程度かな。
 でも"眼"の方は大丈夫。
 ここにいる全員の弱点がちゃんと見えてますよ〜」
「ナカサキもアイリも情けねぇな、俺は100%全力で動けるぜ!!」
「嘘でしょう? その脚、ちょっと叩いただけで砕けちゃいそうだけど」
「チッ、アイリの前じゃカッコつけらんねぇか……
 そうだよ。 モモコのヤツにやられて脚が折れちまってる。
 まぁ明日の夜までには走れるように持ってくから心配すんなよ。」

アイリの弱点を見抜く眼の前では、どんなハッタリも無意味だということが示された。
なので若手たちは自分たちの体調を正直に伝えようと決めたが、
ここでおかしなことに気づく。
次のアユミンの言葉と同じことをみなが思っていたのだ。

「あれ?……ひょっとして、私たちってそんなに怪我してなくない?……
 ベリーズと本気でやり合ったのに、変なの……」

帝国剣士のエリポン、サヤシ、カノン、アユミン、ハル、マーチャン、オダ
番長のカナナン、リナプー、メイ、リカコ
KASTのトモ、サユキ、カリン、アーリー
以上15名は打撲こそしていたが、骨や内蔵に影響を与える大怪我はほとんどしていなかった。
伝説の存在であるチナミ(と、場合によってはミヤビとマイミ)と真剣勝負をしたと言うのに、これはおかしい。

「ふふ、上手くやったんだね。」
「えっ?ナカサキ様、上手くってなんですか?」
「あ、いや、違うのアユミンちゃん。 みんなが致命傷を貰わないように上手く回避したって言いたかったの!」
「なるほど!」

思い返せば若手が倒れた要因の大半は、極度に疲労を感じていたり、あるいは心を折られた事にあった。
そのため幸いにも身体への直接的な影響が少なく、明日までにしっかりと体を休めれば100%に近いパフォーマンスを発揮できるのだ。
なんと幸運な事だろうか。
本当に運が良かったと、マイミと大半の若手たちはそう思っていた。

766 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/01(金) 09:08:41
おお、生田が特撮に触れてる!
運動神経もそうですけど、ライダー俳優はグループアイドル(ぱすぽ、夢アド)に所属していたり、元おはスタ出演者(仮面ライダーキバ、チェイサー)の人が多いので
生田がなっても全然おかしくないんですよね。
近いうちになることを期待してます。

767名無し募集中。。。:2017/09/01(金) 13:14:44
やっぱりマイミだけが知らないのかw

是非ともえりぽんには仮面ライダーやって欲しい!でも撮影で長期間拘束されるから娘。やってる間は難しいかなぁ

768 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/02(土) 12:01:50
自分たちの戦力は整理できた。次は敵であるベリーズ達だ。
そして、モモコの部下であるカントリーだって忘れてはならない。
両生類を操るリサ・ロードリソース、
鳥類を操るマナカ・ビッグハッピー、
魚類を操るチサキ・ココロコ・レッドミミー、
そして哺乳類(自分)を操るマイ・セロリサラサ・オゼキング。
彼女らは(1人を除けば)身体能力こそ大したことないが、動物を操る技能はとても厄介だ。
直接的に戦ったことのあるカナナンが4人の負傷の度合いについて話していく。

「マナカとマイの2名は番長とKASTで撃退したことがあります。
 本当ならその時点で再起不能にするべきやったけど、モモコが来たせいで叶いませんでした……
 その日から数えて3日近く休めていることもあって、明日の戦いでは本調子で挑んでくるかもしれません。
 残るリサとチサキについてはほぼ無傷ですね。 コンディションはバッチリやと思います。」

一同はため息をついた。
ベリーズと戦っている最中にあの動物の群れが襲ってくると考えると、とても面倒だ。
そいつらが横槍を入れてこなくてもベリーズは強敵だと言うのに。

「ナカサキ様、ベリーズの様子はどんな感じでしたか?」
「そうねえ……正直なところ、満身創痍に見えたかな。」
「えっ!?」

いくらベリーズが強いとは言っても、キュートと激戦を繰り広げたのだから、無事でいれられるはずがなかったのだ。
途中退散したシミハムは比較的健康だとしても、
クマイチャンの腕はマイミに多数の穴を開けられているし、
ミヤビの胸はトモの知恵と勇気の矢が見事に貫通していた。
モモコはとても重い物体(オカール)に衝突して骨に異常をきたしていて、
チナミは若手戦士との戦いの果てに「もう肉弾戦は無理!」と発言している。
それでも彼女らが強いことには変わりないのだが、シミハム以外は5割の力を発揮することも難しいかもしれない。
となると、一同は案外楽勝かもしれないと思いはじめてきた。
だがそんなことはあり得ないのだ。
キュートが何か言おうとする前に、リナプーがお気楽ムードを諌めだす。

「馬鹿かな、みんなは」
「えっ?リナプーどうしたん?……」
「ベリーズはさ、6人いるんでしょ。」
「!!」

リナプーの言う通り、ベリーズ戦士団は6名で構成されている。
無を司るシミハム、冷気を纏うモモコ、太陽のように明るいチナミ、
刃の如く鋭いミヤビ、重圧で押し潰すクマイチャン
そして、もう1人。
ベリーズきっての天才と呼ばれた"人魚姫(マーメイド)"が存在するのだ。
何人たりとも彼女の前では溺れてしまう。

769名無し募集中。。。:2017/09/02(土) 12:33:44
リサコははたしてSSAに…もとい武道館に現れるのか?

770 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/04(月) 13:09:17
倒すべき強敵は6人いる。
それをしかと認識するだけで一同はピリッとした。
これからの戦いに、楽勝など絶対にあり得ないのだ。
恐れることは無いが同時に甘くみてもならない。 気を抜けばすぐに脱落すると考えて良いだろう。
ではその強敵に勝つ確率をどのようにして上げるのか?
"攻め方"は非常に重要になってくる。

「ちょっといいですか?ナカサキ様。」
「なに?カリンちゃん。」
「武道館はとても大きくて広いんですよね?」
「え?……そ、そうだと思うけど……それがどうかしたの?」
「私、昔に調べたことが有るんですけど、
 武道館には北、北東、東、南東、南、南西、西、北西の全部で8つの入口があるらしいんです。
 ということはベリーズの全員とは戦わなくて良いと思いませんか?」
「???」

ナカサキだけでなく、マイミとオカールの頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいた。
キュートの中ではただ1人、アイリだけが理解したようで、
カリンの提案に補足をし始める。

「ナカサキ。 もしも自分たちが武道館の中にいて、マーサー王を外敵から守るとしたらどう守る?」
「えっ、そりゃさっきカリンちゃんが言ってた8カ所の入り口に兵を配置するでしょ。
 それと、突破された時のために王の周りには警備を置く。とびきり強い兵をね。」
「じゃあ、明日ベリーズはどうすると思う?」
「え?……そりゃさっき私が言ったみたいに……あっ!」

ここでナカサキは気づいた。
武道館の全ての入り口をカバーするには、ベリーズとカントリーでは人数的に余裕が無いのである。
6カ所にベリーズを1人ずつ配置したとしても、残る二ヶ所は実力の落ちるカントリーだけで抑えなくてはならない。
現実的にはマーサー王とサユを監視する者も中に残るはずなので、最低3ヶ所の入口が"穴"になるはずだ。

「ひょっとしたら警備の甘い入り口から侵入したことが、他の入り口にいるベリーズにバレるかもしれません。
 でも武道館は偉大で、大きくて、広いんです!!
 追っ手が間に合う前にマーサー王とサユ様を外に連れ出してしまうのはどうでしょうか!?」
「なるほど!カリンちゃんの作戦いいね!」

確かにこの攻め方なら敵の強大な戦力をほとんどスルー出来る。
上手くいくかもしれない。
そう思っていたところに、カリンと同じくらいに武道館のことを調べていたサユキが意見を出した。

「カリン、あなたなら知ってるよね?」
「え?サユキ……なんのこと?」
「近年よく使われる扉は一階席に入るための正面西口と、その近くの階段を昇って二階席に入るための西南口と南口だけ…ってことをだよ。」
「あっ……」
「確かに他の5つの入り口も有るには有るけどさ、長いこと封鎖されてるよね。
 開くかどうかも分からない扉を数に数えるのはあまり良くないんじゃない?」
「うう……確かに……」

771 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/05(火) 12:43:02
「いや、カリンの案はいけるんじゃないか?」

そう言って注目を集めたのはマイミだった。
アーリーとサユキに折られたはずの腕をシュッと前に出しては、言葉を続ける。

「入口が封鎖されていたとしても、例えそれが頑丈だとしても、壁は壁だ。
 私がナカサキのどちらかなら破れる。」

団長の発言は馬鹿げたものではなかった。
マイミの怪力があらゆるものを破壊するほどだというのは衆知の事実だし、
ナカサキだって確変で腕を集中的に強化すれば壁くらい壊せる。
ベリーズも封鎖されている箇所に防衛の人員を割くとも思えないので、
壁の破壊をスムーズに行えば、ノーガードの道を突き進むことが出来るだろう。
ナカサキは苦笑いをしながら大きな溜め息をつき、観念したようにサユキとカリンに声をかける。

「はぁ……そう言われたらやるしか無いか……
 じゃあ2人とも、その場合はどこの壁を壊せばいいの?」
「西口が正面入り口なので、正反対の東口が良いと思います!ね、サユキ?」
「そうね。 あ、でもカリン、東口は二階にあるけどどうやって上がる?」
「外壁をかけあがるとか?……でもそれだとよっぽど身軽じゃ無いと……」

困った顔をしているサユキとカリンの肩をナカサキがポンと叩く。

「じゃあ決まりね。」
「「え?」」
「あなた達、かなり身軽でしょ? 道連れよ……私と一緒に来て!」
「「!!」」

サユキの跳躍力とカリンの敏捷性は先ほどのマイミとの戦いでしっかりと示されていた。
それをナカサキは高く評価したのだ。
だからこそ裏口突破という重要任務にスカウトしたのである。
これでチームは3人。 だがこの人数ではまだ心許ない。

「他には動ける子いる? まぁ、無理にとは言わないけど……」
「ウチにやらせてください!」
「わ、私も!」

ここで手を上げたのは帝国剣士のサヤシとアユミンだ。
どちらもダンスの技術を戦闘に取り入れており、身のこなしは国内でもトップクラス。
マイミ戦で立ち上がることの出来なかった彼女らはとても口惜しく感じていて、
今後はどんな危険任務も率先して行う覚悟が出来ている。
そんな2人の決意を断る理由はどこにも無かった。

「よし!じゃあこの5人で壁を壊して、王とサユを救いましょ!」

ナカサキ、サヤシ、アユミン、サユキ、カリンが属する"チームダンス部"がここに結成した。
最重要任務に挑む彼女らを活かすべく、これから残り3組のチームも誕生していく。

772 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/06(水) 16:35:03
"チームダンス部"が裏口の壁をぶち破ったとしても、そこに敵がうじゃうじゃ居たら奇襲の効果が薄まってしまう。
そうならないためには他のメンバーがベリーズの注意を十分に引かねばならない。
具体的には正規の入り口である「西口(正面入り口)」、「南西口」、「南口」の三点に他の3チームが同時に乗り込むことにより、防衛で手いっぱいにさせる必要があるのだ。
これらの表口には1人ないしは2人のベリーズが待ち構えることが予想される。
ならば対抗するためにはそれぞれのチームにキュートを振り分けるのが良いだろう。

「よし、じゃあアンジュの番長たち! 私と一緒に組もうじゃないか!」
「「!?」」

マイミは大きく腕をひろげてカナナン、リナプー、メイ、リカコの4人を抱きかかえた。
実はマイミはこの番長たちのことをとても気に入っていたのである。
以前モーニング帝国城で相対した時に、メイは地獄の腹筋チェックに根性で耐えていたし、
カナナンは野球勝負で見事にマイミの裏をかいていた。
極めつきなのはリナプーだ。先ほどの直接対決でマイミに傷を負わせたのは高評価だったようだ。
グイグイ来るマイミにはじめはアンジュの番長たちも戸惑っていたが、よくよく考えて見たら悪い話でもない。
マイミという信頼できる存在が味方につくのは文句なしに有難いし、
チームワークの面で考えると番長が1チームに固まるというのも非常にやり易かった。
リナプー以外の番長はこれまでにあまり良いところを見せられていないので、
最終決戦で結果を出してイメージを変えたいという思いを込めて、
マイミ、カナナン、リナプー、メイ、リカコは"チーム下克上"と名乗ることにした。
それを見たアイリもチームを作り始めようと、KASTのトモに声をかけた。

「それではトモ、私たちも組みましょうか。ミヤビを倒した時みたいに、ね。」
「お言葉ですがアイリ様……私はアイリ様と同じチームになる訳にはいきません。」
「えっ!?」

突然の拒否にアイリは眼が飛び出るほど驚いたが、その理由を聞いてすぐに納得する。

「ベリーズに対抗するには敵の弱点を正確に知る必要があると思うんです。
 そして、私たちの中でそれを見抜く力が有るのは耳の良いサユキと視野の広いカナナン……そして、アイリ様と私だけ。
 この4人はそれぞれが別のチームに分かれて役割を全うした方が良いと思いませんか?」
「ふふ、そうね、その通りね。」

アイリは寂しい想いもあったが、ベリーズに勝つために冷静に頭を働かせているトモを見て嬉しく思っていた。
そしてすぐに気持ちを切り替えて、他のメンバーを次々と指差していく。

「エリポンちゃん! カノンちゃん! マーチャンちゃん! アーリーちゃん。 良かったら私と組みませんか?」

トモにフラれたかと思えば、(カノンを除けば)いかにも扱いにくそうな戦士たちを勧誘していったので一同は驚いた。
もちろん誘われた張本人たちも驚愕しているが、ここで断るわけもない。
それにしても何故このメンバーを選んだのだろうか? 共通点は何なのだろうか?
真意も分からぬまま、アイリ、エリポン、カノン、マーチャン、アーリーのチーム名は"チーム河童"と名付けられていた。

「さて……ってことはお前らは余り物ってワケだな?」

ハルとオダ、そしてトモをオカールがニヤニヤしながら見ていた。
アイリの誘いを断ったトモならともかく、ハルとオダの2人は軽く落ち込んでいるようだ。

「すんません……オカール様と組むのは、ハル達みたいな余り物になっちゃいます。」
「あ?気にすることはねぇよ。 俺の人生も似たようなもんだ。お似合いっちゃお似合いだな。」
「はは……」
「ただな、俺とチームを組むからには2つのルールを絶対に破らないことだけは約束しろよ。」
「「「?」」」

オカールがギロッと睨んだので3人はビクッとした。
そしてその緊迫感のままオカールが話を続ける。

「お前ら、さっきウチの団長に死ぬ気で立ち向かってたよなぁ?……あれは良かった。なかなか見どころあったぞ。
 だからな、ベリーズにも同じくらい、いやそれ以上の気合いでぶつかれ!それがルールだ!
 ちょっとでも気を抜いたらぶっ飛ばすからな!!」
「「「はい!」」」
「それともう一個、武道館に入るときは俺が一番乗りだ。絶対に、絶対に邪魔すんなよ?」
「は?……」
「"ライブハウス武道館へようこそ!"、このセリフを一度言ってみたかったんだ!! もしも俺より先に武道館でそんなこと言う奴がいたら容赦無く潰す!!」

オカール、ハル、オダ、トモのチーム名は"チームオカール"
彼女らはリーダーの決めたルールを絶対に死守しなくてはならない。

773 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/07(木) 18:19:38
結成後は同じチーム同士で集まり、細かなところを詰めていった。
連合軍もここまで共にしてきたのだから、誰がどれだけの力量なのかは十分に把握できている。
そのため、実践時を想定した作戦は比較的スムーズに決まったようだ。

「気づけばもう夜じゃないか。 よし、作戦の決まったチームから身体を休めていこう!」

連合軍リーダーマイミの指示に、メンバー達は素直に従っていった。
もちろん自分たちの実力不足を憂い、もっとトレーニングしたいという気持ちも無くは無いが、
ギリギリまで身体を酷使するよりは、
しっかりと休養をとった方が明日の決戦でより良いパフォーマンスを発揮できると理解しているのだろう。
今いる場所から武道館まではそう離れていないため、明日の昼過ぎにでも出発すれば指定時刻までには十分間に合う。
夜しっかり寝て、午前中にイメトレなどを行えばバッチリだ。
しかしただ1人、十分な休養をとれない……いや、とろうとしないメンバーが存在した。
それは武器修理にかかりっきりのマーチャン・エコーチームだった。

「マーチャン、休まなくて本当に大丈夫か?」
「明日の朝早く起きて、そこで作業再開すればよくない?」

1人黙々と工具を扱うマーチャンを心配して、同期のハルとアユミンが近くまで来ていた。
マーチャンは作戦会議にもろくに参加せず作業をぶっ続けで行なっていたので、相当に疲労が溜まっているはずなのだ。
それでもマーチャンは手を止めたりしなかった。

「頭の中がね、なんかグチャグチャしてるの。 すごーく変な感じ。
 マーチャンが今すぐ武器を作らなかったら、きっと忘れちゃう。明日は覚えてないと思う。
 だからマーチャンが今やらないといけないの!ドゥーとアヌミンはあっちで休んでて!」

マーチャンの脳はチナミの創作活動を見て強い刺激を受けていた。
一回見ただけで何でも覚えられる才能の持ち主が、
今すぐカタチにしないと忘れてしまうと言うのだから、余程の高等技術なのだろう。
そうやって没頭するマーチャンの背後に、カリンが登場した。
そしてマーチャンの両肩に手を置いていく。

「マーチャンは凄いね。立派な武器をどんどん作っちゃう。
 みんなのためだから、今のマーチャンを止めちゃいけないんだよね?それはカリン、よく分かった。
 でもせめてマッサージくらいはさせてもらえないかな?
 作業の邪魔にならなければで良いんだけど……」

そう言うとカリンはマーチャンの肩をギュッギュッと揉みはじめた。
例の針治療ほどの回復効果は無いが、緊張して硬くなっていた筋肉がほぐれてとても気持ちが良い。

「んー……別にマッサージさせてあげてもいいよ。」
「わぁ、気に入ってくれたんだ!」

一連の光景を見ていたアユミンとハルは互いに顔を見合わせて、
慌ててマーチャンの脚と腕のマッサージを開始した。
どれだけ効果が有るのかは分からないが、少しでも疲労を回復できるのであればやった方が良いとの判断だ。

(ところでアユミン、マーチャンは何時まで武器の修理をするつもりなんだ?)
(さぁ?……まさか朝までとか言わないよね?)

774 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/08(金) 13:07:01
「やばっ!寝ちゃった!!」

アユミンが目を覚ましたのはふかふかのベッドの上だった。
どう見てもマーチャンが作業をしていた屋外には見えない。
ハルもちょうど同じタイミングで起きたようで、事態を把握できず周囲をキョロキョロと見回している。
そんな寝起きの2人に淹れたてのお茶を差し出しながら、カリンが説明をはじめていった。

「よく寝てたね。ここはプリンスホテルのお部屋。時間はもう朝の9時だよ。」
「えっ?……」「ハル達、マーチャンをマッサージしてたんじゃ……」
「マーチャンが夜中まで作業してたから、2人とも眠くて寝ちゃったんだね。
 お外はとても寒いし、マーチャンと私で2人を部屋まで運んであげたの。」
「そうだったんだ……」「なんかごめん……」
「ううん、2人に付き合ってもらってマーチャンとても嬉しそうだった。
 こんな良い代物が出来たのも2人のおかげだと思うよ。」

カリンは鞘に収められた太刀をアユミンに、そして予備を含めた竹刀数本をハルに手渡した。
どれもピカッピカッ!に修理されており、2人の手によく馴染む。

「さすがマーチャン……なんか持っただけで強くなったような気がする。」
「あ!そう言えばマーチャンはどこに?」

ハルの問いかけに回答すべく、カリンは部屋の隅の方を指差した。
そこではベッドから落ちたマーチャンが、非常にだらしない格好で寝ていた。
寝相はどうあれ、熟睡できているのなら最終決戦への影響は少なさそうだ。

「そうだ、カリンちゃんは寝なくも大丈夫なの? マーチャンに最後まで付き合ってたんでしょ?」
「アユミンちゃん、私なら大丈夫だよ。 昨日はみんなより長い時間気絶してたし、それに……」
「それに?」
「ヨガのポーズで2時間も瞑想したら頭スッキリになっちゃった!」
「よ、ヨガ?……」「瞑想?……」

それぞれが各々に合った方法で休息し、時は流れていった。
そして今現在の時刻は、ベリーズと約束した時間の10分前。17:50だ。
連合軍は決戦の地である武道館から目と鼻の先のところにまで到着している。

チームダンス部のナカサキ、サヤシ、アユミン、サユキ、カリン
チーム下克上のマイミ、カナナン、リナプー、メイ、リカコ
チーム河童のアイリ、エリポン、カノン、マーチャン、アーリー
チームオカールのオカール、ハル、オダ、トモ
全員が全員、戦うための覚悟を決めていた。

775名無し募集中。。。:2017/09/08(金) 23:29:50
決戦前にカントリーマナカ復活!!過去に例のない脱退後の復帰をどう作品に取り入れるのか楽しみ

http://www.helloproject.com/news/7559/

776 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/09(土) 12:29:54
復帰はとても嬉しいですが、今までに無いことなので戸惑ってますw
話にどう反映されるのかは自分でもまだ全然わかってないですね。
何かしらはあるとは思いますが。

777 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/09(土) 13:47:57
武道館は水が深く溜まった河川に囲まれており、
堀の外側にいる連合軍たちが武道館のある内側へとたどり着くためには
少しばかりの坂道を登り、そこに建てられた厳かなつくりの外門をくぐる必要がある。
ただそれだけのこと。時間にして数分もかからないはずなのだが、
4つのチームは想定外の事態に直面して固まってしまっていた。

「あれはいったいなんだって言うの?……」

そう言葉にしたメイだけでなく、全員の視線が門の前にある"何か"に注がれていた。
それは鉄の塊だ。
塊とは言っても手を伸ばせば抱えられるようなケチなものではない。
縦幅も横幅も人間ふたりがめいっぱい手を伸ばした時よりも長さがあり、
高さだって連合軍の最高身長のマイミよりずっと高い。
それがいったい何なのかは全く分からなかったが、
それが"何者"による作品なのかはすぐに理解することが出来た。
感じるのだ。
その鉄塊の内側から、太陽が発するような灼熱のオーラがだだ漏れになっている。
となればその中には"彼女"が居るとしか思えない。そう考えたマイミがその名を叫びだす。

「チナミ!!お前なんだな!」
「あ、やっぱりバレちゃった?」

鉄塊の上部にあるフタがパカッと開き、そこからベリーズのチナミが顔を出した。
遮るものがなくなったため太陽光線は容赦なく連合軍に襲いかかったが、
マイミの怒気からなる大嵐がそれをいくらか軽減してくれた。
晴れ女VS雨女の対決はひとまず引き分けというところだろうか。

「チナミ……その鉄の塊はいったい何なんだ?……」
「新しいお家か何かに見える?」
「まったく見えないな、大砲と車輪がついている物体が家なわけないだろう。」

マイミの言う通り、大きな鉄の塊にはこれまた巨大な大砲が取り付けられていた。
おそらくは固い鉄の壁で身を守りながら一方的に砲撃を行う機械なのだろう。

「うんうん、だいたい正解。でも惜しいよマイミ……これは車輪じゃなくてね、"キャタピラ"って言うんだよ。」
「きゃ、きゃた?……」
「知るわけないよね。 理論上はずっと未来に実現されるはずの技術なんだから」
「チナミ……さっきからいったい何を言っているんだ!?」

この鉄塊の両側にはそれぞれ4つずつの車輪が取り付けられている。
そしてその車輪群には、複数枚の鋼板で作られたレールが巻かれていた。
この機構はキャタピラと呼ばれ、どんな悪路でも走行できるようになっているのである。
つまり、この鉄の塊は乗り物なのだ。
操縦士であるチナミの命令で自由に走るし、いつでも砲弾をぶっ放すことが出来る。
まるでタイムスリップで未来からやってきたようなこの高等かつ複雑な機械は、
「DIYの申し子」と呼ばれるベリーズの開発担当・チナミの超次元技術でしか創り出すことは出来なかっただろう。

「爆発(オードン)"派生・戦国自衛隊"……この"戦車"の力、見せてあげる。」

連合軍とベリーズの戦いは最終局面を迎えている。
ベリーズも出し惜しみをする気はさらさらない。

778名無し募集中。。。:2017/09/09(土) 23:34:32
千奈美のチナミによるあの名場面の再現来るー?!

779名無し募集中。。。:2017/09/10(日) 01:53:52
名場面ってあれか…!

780名無し募集中。。。:2017/09/10(日) 09:04:50
戦国自衛隊で戦車といえばもう…!

781 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/10(日) 14:25:40
この戦いに臨む前にベリーズ達も作戦会議を行っていた。
そこで決まった内容は単純明快。「殺す気で戦う」だ。
今までの二戦も殺気を振りまいてはいたが、ここからは更にもう一段階ギアを上げる。
一切の慈悲を持たぬ事が未来に繋がると信じ、全身全霊で攻撃していく。

「みんな避けて!」

危機を察知したナカサキは大声で連合軍に警告した。
特に戦車の砲台の直線上に立っている戦士は、蹴り飛ばす勢いで容赦なく吹っ飛ばした。
かなり荒い対応だったがその判断に間違いはなく、
ほんのコンマ数秒後には轟音と共に砲弾がぶっ放される事になった。
高速で且つ重量感のある砲弾はそのまま前方を突っ切り、
必殺技の名前通りの大爆発を起こして、周囲の木々を一瞬にして消し炭にしてしまう。
これを人間が喰らっていたら痛いどころでは済まなかっただろう。
1撃でも被弾すればそれでお終いだと考えると、この戦車という乗り物はなんと恐ろしい兵器だろうか。
しかし、だからと言って尻尾をまいて逃げるわけにはいかない。ここを乗り切らねば武道館には辿り着けないのだ。
ではどう戦うべきか?このあまり広くない場所で、この大人数がそう何回も砲弾を回避しきることが出来るのか?
全員が答えを出すよりも早く、マイミが叫んだ。

「ここは私に任せろ!お前たちは急いで武道館へ迎え!!」

マイミは勢いよくJUMPし、大胆にも戦車に取り付けられた大砲に抱き着きにかかった。
そして拳をギュッと強く握り、チナミを守る鉄の壁に強烈なゲンコツを食らわせたのだ。

「大層な乗り物じゃないか。だが所詮は鉄製だ。鉄の壁を私が壊せないとでも思っているのか?」

この行動は無謀に見えてなかなか有効だった。
戦車による砲撃の射程は遠距離にまで及ぶが、自身を撃つことは出来ないためマイミの位置は安全地帯だと言える。
つまりはマイミは一切の攻撃を受けることなく一方的に戦車を攻撃できるのである。

「あー、確かにマイミが全力で叩き続けたら壊されちゃうかもね。」
「そうだろう。」
「でもさ、私がマイミを相手にすることを想定してないと思ってる?対策ならね、山ほどあるんだよ。」
「だったらその対策とやらを見せてみろ!!」

マイミがこの場を引き受けた事に感謝する間もないほどに早く、連合軍たちは急いで外門をくぐっていった。
あのまま場に残り続けるとチナミの砲弾に狙われてしまい、マイミの邪魔になる可能性が大きかったので
命令に従ってすぐさま武道館へ向かうことこそが最善の道だと判断したのだ。
外門をくぐった先には憧れの武道館が待ち構えていたが感傷に浸っている時間は無い。
「チームダンス部」は武道館を左から回って東口へと、
「チーム河童」と「チームオカール」、そしてマイミ以外の「チーム下克上」は武道館を右から回って西口へと向かっていく。
距離自体はさほど無いので正面入口である西口にはすぐに到達できたが、
そこでは最悪の人物が腕組みしながら連合軍たちを待っていた。
あまりの寒気に身体を巡る血液が凍りつきそうになってくる。

「お? 思ったより大勢で来たのね。チナミじゃ食い止めるのに限界があったのかな?
 ……でもみんなの武道館ツアーはここでお終い。許してにゃん。」

西口正面入口の防衛担当は予測不能の暗器使いであるモモコだ。
彼女は既に数多の罠を設置し終えている。

782 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/11(月) 13:08:31
モモコの登場に一同は肝を冷やした。
そしてそれだけではない。
モモコが居るという事は、彼女らも居るという事だ。

「リサちゃん!マナカちゃん!チサキちゃん!マイちゃん!準備は出来てる!?」
「「「はい!」」」

応答とともに無数のカエルとカラスが飛び(跳び)出した。
これらは言うまでもなくモモコの後輩であるカントリーガールズ達が操っている動物だ。
カエルとカラスの不気味さに、連合軍の中にはトリハダを立たせている者も何人かいたが、
罠と動物が敷き詰められたこの地帯を攻略しなくては正面入り口から堂々と入館出来ないことは、みんな分かっていた。

「私の暗器とリサちゃんのカエル、マナカちゃんのカラス、そしてマイちゃんの身体能力……
 これらをぜーんぶ総動員して西口を死守するつもりだけど、あなた達に勝機を見出す事が出来るかしら?」

モモコのその言葉を聞いた連合軍たちは視線をカントリーの1人、チサキに集めた。
彼女の名前だけはモモコに呼ばれてなかったのだ。
注目されてることに気づいたチサキは耳を赤くしてモモコに訴える。

「も、モモち先輩ひどいです! なんで私だけ無視するんですかぁ!?」
「あー……その、ごめん、チサキちゃんが何すれば良いのか思いつかなかった。」
「ひどい!!確かに私は無能ですけど……」
「"陸地では"、ね。」
「えっ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ、そのうちチサキちゃんにも出番が回ってくるはずだから。」

モモコとチサキが漫才のようなやり取りをしているところに、アイリが割って入ってきた。
自軍を勝利に導くための交渉を始めようとしているのだ。

「ねぇモモコ……あなたは今、西口を死守するって言ったよね?」
「ん?そうだけど。」
「じゃあ西口以外は通っても全然構わないってことだ。」
「どうぞお好きに。 担当じゃないところなんて知らなーい。」

ここでアイリはニヤッとした。
そして二階にある西南口や南口に続く階段を指差して、連合軍に指示を出していく。

「モモコおよびカントリーガールズは私たち"チーム河童"が引き受けます!
 "チーム下克上"と"チームオカール"は急いで上に!!」

アイリがそう言うや否や、両チームは一目散に階段へと走っていった。
リサとマナカが動物で行く手を阻もうとするが、モモコの「行かせときなさい。」の一言で制される。
これでこの場に残ったのはカントリーガールズのモモコ、リサ、マナカ、チサキ、マイと、
チーム河童のアイリ、エリポン、カノン、マーチャン、アーリーだけになった。

「人数的には互角か、まぁ大多数よりは今くらいの人数の方が防衛しやすくて楽だから良いんだけど、
 アイリの行動……ちょっと不可解すぎない?」
「……何が?」
「いくら罠と動物が怖いとは言っても兵力を分散させずに集中させた方が突破しやすくなるもんじゃないの?
 どうしてわざわざ階段を登らせたのかか……なんか、別の目的があるように見えるんだけど。」
「……」
「ま、理由はどーだっていいわ。ただね、二階に行った子たちはちょっと可哀想かもしれないわね。
 だって、西南口と南口を守るのはモモちみたいに優しくない、とってもこわ〜い人たちなんだもの。」

783 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/12(火) 13:00:07
二階へ続く階段には罠のようなものは仕掛けられていなかったため、チーム下克上とチームオカール達は難なく進む事ができた。
どうやらモモコが担当以外をどーだっていいと考えているのは本当なのだろう。
そして、二階には「怖い人」が待ち構えているという言葉も真実だということを、一同はすぐに痛感する。

「隙だらけだよ、斬ってくれと言っているようなものだ。」

ハルはゾッとした。
目的地に向かって走っている最中に、背後から突如そのような声が聞こえたので頭が真っ白になる。
その声はベリーズの現・副団長ミヤビのものだ。
自分のテリトリーにハルが侵入してきたので、容赦も躊躇もなく刀を振るったのである。
この斬撃を放つまでの一連の動作に関して、若手戦士らは気配すら感じとる事が出来なかった。
シミハムのように無を司っている訳では無いが、
思いのままに気配を消し、ここぞと言う時に殺気を放つ事くらいは
達人の域に達しているミヤビには容易かった。
しかしそのやり方も同じ達人級には通用しない。
もう少しでハルに刃を突き刺せるといったところで、ミヤビはオカールに頭突きを食らってしまう。
攻撃の狙いは鉄板でガードされていない横っ腹だ。

「させるかよっ!!」
「くっ……オカールか」

いつも好戦的なオカールだが、今回はいつも以上の高揚を感じていた。
なんせ目の前には長年目標としていたミヤビが相手として立ちはだかっているのだ。
しかもモモコに良いように使われた時の操り人形状態ではなく、ちゃんと意識がハッキリとしている。
つまり本気の死合いが出来るということ。これがどれだけ嬉しいか。

「西南口はミヤビちゃん……おっと、ミヤビが守ってるってことか。」
「そうだよ。」
「よっしゃ決まりだ!ここは俺たちが引き受けた! チーム下克上の奴らはさっさとアッチ行ってろ!
 それとチームオカールの奴らに言っておくけどよぉ……」

以前までのオカールなら「お前らは手出しするな」と言っていたかもしれない。
ところが、今この時のオカールの意識はほんのちょびっとだけ変わっていた。

「相手はあのミヤビだ。 つまんねぇ攻撃は一切通用しねぇよ。
 だからやるなら殺す気でやれ!!さもないと俺がてめぇらの首をかっ切るぞ!!」
「「「はい!!」」」

オカールに負けず劣らずの大声でチームオカールのハル、オダ、トモは応えた。
敵の食卓の騎士も、味方の食卓の騎士もどちらも怖くて仕方ないが、
ここは「死ぬ気」で、いや、「殺す気」でやるしかないのだ。
根性を見せねばその瞬間に斬り倒されてしまう。


そして、残ったチーム下克上の面々は南口に向かって走っていた。
成り行き上このような形になってしまった事を若干不安に思っている。

「ねぇカナナン……」
「なんやリナプー」
「なんか私、嫌な予感しかしないんだけど。」
「…………カナもや。」

そうこう喋っているうちに、途中離脱したマイミを除いたチーム下克上のカナナン、リナプー、メイ、リカコは南口に到着した。
これまでの入り口にはベリーズが1人ずつ立っていたというのに、今回ばかりは扉がガラ空きになっている。
運が良いと考えたリカコは大はしゃぎで南口に走っていった。

「みなさんんんんん!ここ、誰も防衛してませんよ\(^o^)/」

お気楽に扉に向かうリカコに対して、メイが声を荒げる。
何も分かっていないリカコに強大、いや、巨大すぎる敵の存在を気づかせてやらねばならないのだ。

「待って!上!上を見て!!!」
「へ?」

784名無し募集中。。。:2017/09/12(火) 16:31:08
チーム下克上は悪夢再びだな…勝利への光が見えないorz
せめてあといっと…一人いれば

785 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/14(木) 14:13:12
"自称176cm"
彼女をひとたび前にすれば、センチメートルという単位がどの程度の長さを表すのか分からなくなってくる。
その巨人の名はクマイチャン。文字通りの大物だ。
クマイチャンは自分に気づかず真下にやってきたリカコに対して軽く刀を振っただけなのだが、
あまりの高さと勢いに、リカコには鉄の物体が急降下したように見えたようだ。

(や、やば、やば、ヤバイ、死ぬ!これを受けたら死ぬ!)

超高速で迫り来る刃に直撃したら確かに命が危ういだろう。
最悪即死、良くても致命傷に違いない。
それを本能で感じ取ったリカコはアスリートの如き瞬発力を発揮し、
長い脚によるストライドであっという間に退却した。
これには流石のクマイチャンも面食らう。

「ありゃ、空振っちゃった……思ったより動けるんだね」

クマイチャンはこれまでのリカコの戦い方を見聞きして、「戦闘能力が低いため石鹸による特殊戦法に頼らざるを得ない戦士」だと思い込んでいた。
だが本当に運動神経の悪い者が一瞬にしてあのスピードを出すことが出来るのだろうか?
下手したらマイミさえも抜きかねない初速じゃなかったか?
それに、クマイチャンはそれ以外の心配事も抱えていた。

「あれ?そう言えばキュートはいないの?……」

連合軍はキュートと若手の組み合わせでチームを編成して
それぞれの扉にチーム単位で攻めてくるだろうと、
ベリーズ達も作戦会議の場で予測していた。
だが目の前にいる"チーム下克上"はアンジュの番長だけだ。キュートは1人も含まれていない。
チナミ戦でマイミが離脱したので他のチームと違ってキュートが1人足りないのである。
これだと一方的なワンサイドゲームになるのは明らか。
それで本当に良いのだろうか?
だが、ベリーズの作戦会議ではこうとも言っていた。
"相手がどんな状態であろうと全力で叩き潰せ"
それを思い出したクマイチャンは一切の迷いを振り切って、全てを押しつぶす重力のオーラを全開にする。

「キュートの事はどうでも良いか! 誰が相手だろうと斬るだけだし!!」

この戦いにタイトルをつけるとしたら「あまりにも出すぎた杭 vs 番長の総力戦」と言ったところだろうか。
総ての戦力を出し切ることが出来なければ、番長たちに勝ち目は無い。

786 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/15(金) 14:39:06
カナナン、リナプー、メイ、リカコの身体がズシリと重くなった。
この押し潰されてしまいそうな圧迫感は何回味わっても慣れやしない。
本当に嫌な感じだ。まともに呼吸することすら困難になってくる。
本当ならばこんな状況で戦闘など出来るはずが無いのだが、
今の若手戦士らはベリーズの殺人的オーラに対抗する術をキュートから教わっていた。
この方法は誰でも出来るようなお手軽なものでは無い。
帝国剣士が、番長が、KASTがここまで辿り着いたからこそはじめて伝授することが出来たのだ。
メイはその時アイリから言われた言葉を思い出しながら、対抗術の使用を開始する。

(大事なのは『自分を信じること』と『強く思うこと』……そう言ってくれてましたね。)

先日のマイミとの戦いにてマーチャンとオダが断身刀剣(たちみとうけん)を見せていた。
これは自分の強い意志を相手に直接伝搬することで己の強さのキャパシティを超える技術であり、
マイミに攻撃の視覚的イメージを先出しで見せて動揺させることに成功していた。
この技術はマーチャンやオダの専売特許などでは決してなく、ここまで辿り着いた若手戦士なら誰でも使える素質が有ると言える。
そう、断身刀剣が使えると『自分を信じること』がまず大事になってくるのである。

(やれる、絶対にやれる、メイだって番長のみんなだってここまで頑張ってきたんだから絶対にやれるんだ!!)

では、その断身刀剣で具体的にどのような意志をクマイチャンに飛ばすべきなのか?
天変地異を起こしてクマイチャンを弱体化させるイメージか?
駄目だ。そのような芸当は食卓の騎士の域に達さないと実現出来ない。
それでは、クマイチャンの重力のオーラを消し去るようなイメージか?
それも駄目だ。クマイチャンだって常に殺気を放ち続けている。 完全に消すことは困難だ。
ではどうすれば良いのか?その答えはとても単純だ。
「お前の殺気なんかに負けるもんか!!」……そう『強く思うこと』が何よりも大事なのである。
その強い意志はクマイチャンに伝播するだけでなく、自分の頭の中にも何度も何度もコダマする。
その共鳴はやがて己の手脚にも伝わり、凶悪なオーラにも負けない身体を具現化してくれるのだ。
つまりは単なる「気の持ちよう」だ。だがこれがなかなかどうして馬鹿にできない。
平然とした顔でカナナン、リナプー、メイ、リカコが立ち上がる様はクマイチャンに小さく無いプレッシャーを与えたようだ。

「立ち上がった?……」
「負けない……私たち番長は絶対に負けない!!」
「そっか、そうか!この戦いは楽に勝たせてもらえなさそうって事なんだね!」

787 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/19(火) 14:00:57
「負けるものか」と強く思っているのは番長たちだけではない。
チームオカールに属するハル、オダ、トモの3人だって
ミヤビの発する刃の如き殺人的オーラに斬り捨てられないように必死に踏ん張っている。
オカールの足手まといなどではなく、仲間として戦うためにトモは矢尻をミヤビに向けた。

(凄いプレッシャー……少しでも気を抜いたら心臓を突き破られちゃいそう……
 でも、私も帝国剣士の2人もまだやれている!!
 強い意思を持てば私たちでも対抗できるんだ!)

トモはミヤビの胸目掛けて矢を放った。
狙いはもちろん、昨日トモが貫通させた傷痕だ。
そこを射抜かれるのを嫌ったミヤビは全神経を集中させて矢を叩き落とそうと構えるが、
そのタイミングでオダがミヤビの目に直接太陽光を反射したため
迎撃体勢を取り続けることが出来なくなってしまった。

「うっ……くそッ!!」

このまま無防備に射抜かれてしまうことだけは避けたいと必死で身体を右にズラしたが、それでも横っ腹にかすってしまった。
若手のみの力で強敵に血を流させたことに、トモとオダは確かな手応えを感じる。

そして、カントリーガールズとチーム河童が相対する西口ではもっと特異なことが起きていた。
エリポン、カノン、マーチャン、アーリーらが「負けるものか」の精神でモモコの放つ冷気に耐えているのに対して、
カントリーのリサ、マナカ、チサキ、マイの4名は苦悶の表情でうずくまっているのだ。
どうやらモモコの弟子たちはアイリの殺気に耐える術を習得できていないらしく、雷撃のオーラを容赦なく受けているようだ。
しかもメンバーだけでなくカエルやカラス達だって地面に横たわってしまっている。
考えてみればそれもそうだ。 人間でも習得が難しい断身刀剣を動物達がそう易々と使えるはずがないのである。
アイリの雷のオーラを一度浴びてしまえば、半人前や半カエル前、半カラス前が太刀打ちすることなど不可能だ。
モモコもこうなる事は理解しているはずなのだが、わざとらしい顔で焦り出していた。

「あら〜どうしよっかな。アイリが近くに居る限りはまともに動けないかぁ……」

788 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/20(水) 13:08:41
動物ではベリーズやキュートの殺気に耐えられないと書いたが、例外もいる。
それがリナプーの愛犬ププ&クランだ。
2匹はチナミという強大な存在の恐怖を身を以て知りながら、
愛するリナプーのために勇気を振り絞ってマイミに立ち向かっていた。
恐怖を克服したププとクランは、今現在、更に化け物じみた巨体のクマイチャンに突撃している。
高さの関係で喉元に噛み付くことは出来ないが、マーチャンに誂えてもらった爪で右脚左脚を引っ掻くことなら出来るのだ。

「あでっ!!」

リナプーの犬2匹は飼い主同様に透明になっている。
引っ掻かれた痛みはさほど無いようだが、
何をされたのか分からないクマイチャンは反射的にひょいと片足を上げて傷口に目をやっていた。
そこをすかさずカナナンがリカコに指示を出す。

「今や、撃て!!」

命令を下されるまでもなく準備に入っていたリカコは、
新武器の鉄砲を構えてクマイチャンの足元に発射した。
鉄砲は鉄砲でもリカコの扱うこの銃は「水鉄砲」だ。
そしてその内部には石鹸水がたっぷりと詰め込まれている。
つまり、クマイチャンはヌルヌルの石鹸水が巻かれた場所に上げていた足を戻す形になる。
そんなことも知らずに地面を力強く踏みしめたので、面白いくらい簡単にバランスを崩してしまった。
手をバタバタさせて今にも転んでしまいそうだ。

「わっ!わわっ!なんだ!?」
「よし!ダメ押しで体当たりしたれ!」

カナナンの声と共にメイがクマイチャン目掛けて走っていった。
彼女はこの時モーニング帝国帝王のフク・アパトゥーマの演技をしており、
爆発的なスピードを生む"フク・ダッシュ"でクマイチャンとの距離を一気に詰めていく。
天然気味なクマイチャンも流石にまずいと判断したのか、全力パワーの張り手でメイを跳ね返そうとした。
ところが掌が当たる直前でメイの動きが変化する。
同じく帝王の技である"フク・バックステップ"で突然後退したのだ。
みるみる顔が小さくなるメイに対応しきれず、クマイチャンは余計にバランスを崩してしまう。
そして、そこに更に追い討ちをかけたのがリナプーだ。
メイがダッシュした前方ではなく、クマイチャンの後方から思い切りの良い体当たりをぶつける。

「なっ……!?いつの間に後ろに……」

カナナンの言葉にあった「ダメ押しで体当たり」はメイではなくリナプーにあてられた指示だった。
全く予期せぬ場所からの体当たりにクマイチャンは耐えきることが出来ず、顔面から地面に落ちてしまう。
正直言ってププとクランの引っ掻きも、リナプーの体当たりもクマイチャンにダメージを与えることは出来ていない。
だが、自称176cmの高さからの床へのキスとなれば話は別だ。
世界最高峰の身長が生み出す位置エネルギーはとてつもない破壊力に変換されるのだ。

(勝てる! この調子ならカナ達は勝てる!!)

789 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/22(金) 08:29:22
「……」

クマイチャンはゆっくりと顔を上げた。
地面に強打したせいでおでこも鼻も真っ赤になり不恰好だが、
番長達はそれを見て笑う気には少しもなれなかった。
目が恐ろしすぎたのだ。

「みんな!気を抜いたらアカンで!」

身体が重力でズシリと重くなるのは気持ちが負けている証拠。
そうなっては勝てるものも勝てないのでカナナンは味方に声かけして勇気付けるが
敵の殺し屋のような目を見て気圧されずにいるのはなかなかに難儀だった。
一同が心を整えられていないうちにクマイチャンの方から動き出す。

「ロングライトニングポール、"派生・シューティングスター"」

その技の名は聞き覚えがあった。
ただでさえ大きいクマイチャンが大ジャンプでさらなる高みに到達する様を見て、
カナナン、リナプー、メイは悪夢を思い出す。
これは以前、モーニング帝国の訓練場を瓦礫の山にしたのと同じ技だ。
天高くの最高到達点に達したクマイチャンが高速で落下して来るのもあの時と同じ。
だが、今の状況は当時とは大きく異なる。
モーニング帝国の時はみなが地に足をつけていたが……

「ここって、二階なのに……」

メイの言う通り、番長達は二階の南口前にいる。
そんな事もお構いなしにクマイチャンは落下してきて、その勢いで足場をぶった切ったものだから
二階の床は爆撃でも受けたかのように崩壊してしまう。
カナナン達はなんとか気力を維持してクマイチャンの発する重力に耐えようとしていたが、
流石に正真正銘本物の重力には争うことが出来なかった。
武道館の足場が崩壊したため彼女らは無惨にも地面に堕ちてしまう。

「い、いまシャボンを(>_<)」

大きく、粘着性のあるシャボン玉を作ってクッションにしようと考えるリカコだったが
焦って膨らませても自分一人をカバーするのが精一杯だった。
本気を出せば犬のような身体能力を発揮できるリカコや、
空中戦が得意なサユキをモノマネしたメイは上手く受け身をとって被害を最小限に抑えたものの、
身体的に特殊な技能を持たないカナナンだけは強く背中を打ってしまった。

(ヤバイな……この感じは確実に骨折してる。
 でも、しくじったのがカナで良かった。
 アンジュ王国の番長はまだ戦える。」

790 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/25(月) 12:58:41
番長がクマイチャンに苦戦しているのと同様に、
正面西口のチーム河童の面々もモモコ率いるカントリーガールズに苦しめられていた。
先ほどまではアイリの殺気でリサ、マナカ、チサキ、マイ、そして動物たちを制圧していたはずなのだが
いったい何が起きたと言うのだろうか

「アイリ様!大丈夫ですか!?」

エリポンが声をかけた先では、アイリが頭を抱えてうずくまっていた。
これはモモコに何かされた訳ではない。
自身の体調不良のせいで動けなくなっているのである。
食卓の騎士のアイリほどの人物が何故このように消耗してしまっているのか、
モモコには覚えがあった。

「あらま、アイリったら相当キツそうね。
 昨日トモちゃんに"眼"を与えたのが負担になってるんじゃない?」
「そ……そんなこと……」

図星だった。
ミヤビを倒すため、そしてトモの成長を促すためとは言え、
眼の力を他人に与えるなんて荒技を行使して無事に済むはずがなかったのだ。
今のアイリの実力は普段の半分以下。
「殺気を放てて」、「相手の弱点を見抜いて」、尚且つ「強力な棒術で戦う」のがアイリの強みなのだが、
今はそのうちの1つしか出来そうもない。
となれば落雷のオーラも満足に打てないため、カントリーと動物たちは好き放題に動けるのだ。

「カエルさん達!!今のうちに跳びかかっちゃえ!!」

さっきとは一転元気になったリサ・ロードリソースがチーム河童に対して一斉攻撃の命令を出した。
同じくマナカ・ビッグハッピーもカラス達を解き放っていく。
どちらか一方だけでも強力だと言うのに、両生類と鳥類にいっぺんに来られたものだから
エリポンとアーリーは対応に追われることになる。

「マーチャンには効かないよ。 だって火を使えるもん。」

マーチャンは自身の木刀に火を灯した。
メラメラと燃える炎は動物の天敵。
この火炎さえあれば一方的にカエルやカラスを蹂躙できると思ったが、
その直後に飛んできた、水鉄砲による水流であっという間に消火されてしまう。
水を飛ばした犯人はカントリーの魚類担当、チサキ・ココロコ・レッドミミーだ。
滝のように流れる汗を手中に集めて勢いよく噴出させたのである。

「あーーーーーーっ!!何するの!マーチャンの火なのに!!」
「わーー!ごめんなさいごめんなさい!」

791 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/26(火) 13:09:17
火さえ無ければ怖いものは何もない。
さっきまで敬遠していた動物たちが一瞬にしてマーチャンに集まっていく。

「む〜〜〜〜〜っ!!」

マーチャンは大自然育ちなのでカエルを気味悪がったりはしないが、
こうも全身モミクチャにされてしまえば流石に動けない。
持ち前の学習能力もこの状況では無意味だろう。

「相変わらずリサちゃんとマナカちゃんの攻撃はえげつないわねぇ〜」

アイリが戦力外になって暇になったモモコは、地べたにペタリと座りこみながら後輩の戦いを見ていた。
合計1万匹の両生類「カエルまんじゅう」と、合計1千羽の鳥類「PEACEFUL」が揃った様はまさに圧巻。
いくらエリポン、マーチャン、アーリーが名の通った戦士だとしても数の暴力で制圧すれば終いなのだ。
この調子で疲弊させれば防衛完了、なんだかんだ勝利してしまうのでした。めでたしめでたし。
……とはいかなかった。

「モモち先輩、あれ見て。」
「おっ、頑張ってる子もいるじゃない。」

マイ・セロリサラサ・オゼキングの指さす方には、
カエルもカラスも物ともせずズシリ、ズシリとマイペースで歩き続ける戦士がいた。
その者の名はカノン・トイ・レマーネ。帝国剣士最古参の"Q期組"に属する剣士だ。
彼女は橋の上の戦い以降、戦闘スタイルを少しばかり変更しており
全身を重量感たっぷりの鉄鎧で覆うようになった。
フェイスガードも装着しているため顔の表情だって見えやしない。
つまり今のカノンは生身を完全に晒していない状態なので、
カエルが触れることによる気色悪さを一切感じていないのである。
しかも鎧込みの総重量が100kgをオーバーしているため、いくら複数の鳥が頑張っても持ち上がることはない。
結果的に何物にも邪魔されることなくゆっくりと、ゆっくりと歩くことが出来ているのだ。
こんな重装備の兵隊の前ではリサとマナカはお手上げ。
陸地では汗の水鉄砲くらいしか撃てないチサキだって手伝いようがない。

「マイがやる。」

キッと目つきを鋭くしたマイは、ウサギのような跳躍力で飛び掛かった。
そしてカノンの腹に右拳と左拳の高速ラッシュをお見舞いしていく。
しかし殴る対象は鉄製だ。いくらマイの戦闘能力が高くてもこれは自殺行為。
殴った拳の方が傷つき、流血してしまう。

「うぐっ……」
「無駄だよ、そんなヤワな攻撃じゃ私の鎧は破れない。」

カノンの考えた動物対策がこのフルアーマー装備だ。
どれだけ大量で押し寄せてこようが、鎧を壊すだけのパワーが無ければカノンにダメージを与えることはできない。
カエルだろうと、カラスだろうと、魚だろうと、そして目の前のマイだろうとそれは同じだ。
カノンはマイの首を左手で掴み、右手に持った出刃包丁「血抜」で斬りかかろうとした。
それを見たリサとマナカ、そしてチサキはオロオロとしていたが
プレイングマネージャーだけは冷静さを保っていた。

「しょうがないわね、モモち先輩が助けちゃいましょ。」

そう言うとモモコはこぶし大の大きさの石をカノンの顔面に向かって投げつけた。
その投球は最初はヘナチョコだったが、
ターゲットであるカノンに近づいた途端にスピードがグンと加速する。
重い身体のせいで回避性能に劣るカノンはフェイスガードでモロに受けてしまい、
その衝撃に驚いて、マイを掴む手を放してしまった。

「!?……なにこの石、顔に貼り付いて取れない!!」
「磁石よ。それも超強力なね。
 そう言えばあなたの三代くらい先輩の帝国剣士も全身に鎧を纏ってたっけ。
 懐かしいなぁ〜思い出すなぁ〜」

モモコは軽口を叩きながらも、超強力電磁石を投げ続けることをやめなかった。
その数が10,20,30を超えても投球を止めやしない。

「お……重……動けな……い……」

鎧を破れないなら破らなくても良い。
相手が重ければもっと重くすれば良い。
最終的に超強力電磁石を50は投げたところでカノンは重さに耐えきれず倒れてしまった。

「あなたの先輩はそこからも耐えたよ。 もう少し努力が必要みたいね。」

792名無し募集中。。。:2017/09/26(火) 15:34:50
モモコ相手にフルアーマーは自殺行為だわなw

793名無し募集中。。。:2017/09/26(火) 16:23:39
先輩って誰だっけ?エリリン?

794 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/26(火) 19:34:05
先輩はエリチンですね。
6期の亀井モチーフのキャラでした。

795名無し募集中。。。:2017/09/26(火) 19:45:39
エリリンじゃなくてエリチンでしたか
懐かしいです

796 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/27(水) 13:07:32
他のチームがベリーズ達と戦っている隙に、
チームダンス部のナカサキ、サヤシ、アユミン、サユキ、カリンは武道館を逆方向からグルリと周り、
東口のある地点まで到達していた。
入り口となる扉自体は二階にあり、且つここには階段など無いのだが、
身軽なメンバーで構成されたチームダンス部にはそんな事は関係ない。
木から木に飛び移ったり、壁を駆け上がったりする事で易々と登ってしまえるのだ。
ここで一同は改めて東口の扉と相対する。

「思った通り。 やっぱり封鎖されてたか。」

サユキが押したり引いたりしてみたが扉はビクともしない。
頑丈に施錠されているのか、それとも長い期日利用されなかった結果開かなくなったのか、
どちらにしろ簡単には通してくれないようだ。
とは言えチームメンバーに焦りはない。ここまでは想定通り。
サヤシがナカサキに頭を下げてミッションの遂行を依頼する。

「ナカサキ様、ここからは頼みます。」
「う、うん……確変・派生"The Power"!!」

その必殺技の名を叫んだ瞬間、ナカサキの両腕の上腕二頭筋が一気に肥大化する。
負荷の大きいパンプアップで大量の血液を腕に集める事により、キュート戦士団の中でもNo.3相当のパワーを一時的に実現させることが出来るのだ。
こうして得た、さくっと世界羽ばたくめちゃ偉大な力は
キュートNo.1の破壊力を誇るマイミには流石に及ばないが、
純粋なパワーだけなら4番手5番手のオカールやアイリに大きく差をつけている。
そんな怪力ナカサキが両手の曲刀によって繰り出す連撃が、弱いはずがない。

「そりゃそりゃそりゃそりゃ〜〜〜〜!!」

一撃ごとに火花が飛び散るほどの衝撃に、後輩達は期待を膨らませた。
このペースで斬り続ければ、封鎖された扉なんて簡単にぶっ壊せると思っているのだ。
しかし何やら様子がおかしい。
ナカサキはもう5分以上も斬り続けていると言うのに、一向に扉は破られないでいるのである。

「ハァ……ハァ……こんなに、硬いのか……」

そこいらの扉ならもちろん軽くねじ伏せていたことだろう。
だが、今現在相手しているのはあの武道館の大扉なのだ。
彼女らが産まれるずっとずっと前からここに立ち誇っていた武道館の造りは
決して弱くなかったという訳だ。

「ナカサキ様……」
「いったいどうしたら……」

ナカサキでダメなら他のメンバーがやるべきか?
いや、それも期待できないだろう。
サヤシの居合刀、サユキのヌンチャク、カリンの釵、どれもが強力な武器ではあるが扉を破るには物足りない。
ところが、通用しないことを分かっていてもチャレンジを申し出る者が1人存在した。
それは帝国剣士の一人、アユミンだ。
酷な話ではあるが……彼女のパワーは帝国剣士の中でも弱い部類にある。
ハルナンやハルと同様に非力な戦士だと言えるだろう。

「私にやらせてください……必殺技で決めます。」

非力である事はアユミンも自覚していた。
所詮自分にはアメ玉を斬る程度の力しかない、そう思うこともあった。
実際、一朝一夕でエリポンのような筋力を身につける事は難しいだろう。
だが、キャンディを斬る程度の攻撃でも、それを繰り返し連鎖していけばどうなるだろうか?……
アユミンはそれに賭けて大太刀を握りだす。

797名無し募集中。。。:2017/09/27(水) 18:50:28
アユミンはナカサキ以上の連撃を見せるのか、それとも…

そういや確変してないナカサキのパワーってどのくらいなんだろう?

798 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/28(木) 13:13:04
アユミンの武器は故郷である北部で名刀とされていた大太刀「振分髪政宗」だ。
身長ほどもある太刀を巧みに操って己の力不足をカバーするというのな彼女のやり方だった。
しかし、その名刀を持ってしてもモーニング帝国の新帝王を決める戦いでは(優勢だったとは言え)エリポンを倒しきることが出来なかった。
その時点でショックが大きいのに、最近になって味方たちがみるみる力をつけていることにも焦りを感じていた。
ハルやマーチャンは必殺技を編み出しているし、いけ好かないオダだってきっと奥の手を隠し持っているに違いない。
あいつはそういう奴だ。アユミンはそう確信していた。

(いつの日か、フクさんが言ってたっけ。
 必殺技は特別な技なんかじゃ無い。自分のやれる事の延長線上にあるんだ。
 私にやれる事……やっぱ、これだよね。)

ナカサキが扉相手に苦戦している間に、アユミンは既に荒れた床を綺麗に均していた。
今立っている場所から扉までの直線5メートルは特にツルツルに仕上がっていて、
ちょっと足を踏み入れただけで滑って転倒してしまいそうになる。
そのスベりを自由自在に制御するのが天気組の「雪の剣士」アユミンの真骨頂。
スベりの勢いを前進するための推進力へと変換して、ハイスピードで扉へと突撃していく。
それもただ突っ込むだけじゃない。 故郷の大太刀を思いっきり振って、扉を真っ二つにせんばかりに斬りかかろうとしているのだ。
その時のアユミンの形相は物凄く、
あたかもタイマンで相手に鉄拳を食らわせようとしている時のような顔をしていた。

「たぁーーーーっ!」

大きな刀を持って高速で突っ込む攻撃方法なのだから
相手が生身の人間だとしたらそれだけで決着がついたかもしれない。
だが、今相手しているのはあの武道館だ。
渾身の攻撃にも負けることなく、技の衝撃は逆にアユミンに跳ね返ってしまう。
大太刀込みでもアユミンのウェイトは軽いため、反動でまた5メートル近くは吹っ飛ばされてしまったが、
こんなのは最初から折り込み済み。
キャンディを斬る程度の力しか無いと自覚しているアユミンははなから一撃で決まるとは考えていなかったのだ。
全ては連鎖。 連鎖の応酬がものを言う。
だからこそアユミンは自身が元いた地点に吹き飛ばされるように攻撃する角度を計算していたのである。

(まだここからだ!二連鎖!三連鎖!いくらでも繋いでやる!!)

元いた地点、それは即ちツルツル地帯の始点に戻ったということ。
ならばアユミンはもう一度高速の突っ込み斬りを繰り出すことが出来る。
その後も幾度となく武道館に跳ね除けられてしまうが、彼女は諦めない。
四連鎖、五連鎖、もう数が数えられなくなっても同じことを繰り返した。
いつまで繰り返すのか?
無論、キャンディが砕けるまでだろう。

「これが私の必殺技、"キャンディ・クラッシュ"!!!」

一撃の威力は決して高く無いかもしれない。
ただし、トータルの破壊力は現帝国剣士の誰の必殺技よりも上をいく。
たった今、こうして武道館の扉が音を立てて崩壊したのが何よりの証拠だろう。

799 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/28(木) 13:15:48
私のイメージだと素のナカサキの力はオカールやアイリと大差ない感じです。
キュート戦士団のパワーは一位二位と、その他の三位四位五位とで大きな差が有ると思っていただければ。

800名無し募集中。。。:2017/09/28(木) 18:33:27
なるほど!
確変しても3位って素のナカサキはオカールやアイリよりも更に劣るほどなのかと一瞬思ったけど
(マイミ=超人>アイリ=一流戦士>ナカサキ=…みたいな)
そうではなくて超人>>>>>>一流戦士ってことだったんですね

801 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/29(金) 13:04:29
●場面1 : 武道館東口 「チームダンス部 vs 扉」

アユミンの努力は実を結び、武道館の扉を破壊した。
そう、確かに壊したのだが……その扉の先にあるモノを見て一同は絶望してしまう。

「こんなの……あんまりだよ……」

石の壁。それもかなり巨大な石壁が行く手を阻むように設置されていたのだ。
扉の造りと比べると新しく見えるのでおそらくはベリーズの誰かが置いたのだろうが、誰の仕業かはこの際関係ない。
考えるべきことはただ1つ。「どうやってこの壁を壊すか?」だ。
まず思い浮かんだのは扉破壊の貢献者であるアユミンとナカサキだ。 ところが、貢献しすぎたせいで2人とも疲弊しているようである。

「ハァ……ハァ……すいません、私は……もう少し休まないと……」
「……ごめん、私も連発は厳しい。」

完全に息が切れているアユミンと、あまりの高負荷で血管を切らし腕から血を流すナカサキを見たら、これ以上頑張れとは頼めなかった。
二人ともある程度インターバルを置けばもう一度必殺技を出せるのかもしれないが、奇襲を目的とするチームダンス部にはそれを待つ暇は無い。
カリンが自身を早送りして壁に立ち向かおうとしたが、すぐにサユキが制した。
カリンの必殺技は身体に負担をかけすぎる。ここぞと言うときまで温存しておきたい。

「だからさサヤシ、私たちがやるしかないでしょ。」
「そうじゃなサユキ。 もう一秒も無駄に出来ん。すぐに取り掛かろう。」


●場面2 : 武道館西口 「チーム河童 vs カントリーガールズ」

エリポンとマーチャン、 そしてアーリーは群がる動物たち相手に体力を消耗しつつあり、
完全防備で対抗せんとしたカノンはモモコの電磁石の山に押し潰されている。
この状況を突きつけられたアイリは自身をとても不甲斐なく感じていた。
体調の著しく悪化しているアイリには「棒術で戦う」「殺気を放つ」「眼で弱点を見抜く」の3つを同時に行使することは非常に難しく、
せいぜいこのうちのどれか1つを選ぶので精一杯だった。
エリポン、マーチャン、アーリーの3人を動物群から救助するだけなら簡単だ。雷のような殺気のオーラを振りまけば良い。
そうすればカエルとカラス、そしてリサやマナカらカントリーガールズを無効化出来るので、状況を打破出来るだろう。
だが、その後のモモコの対応はどうすれば良いのか?
ベリーズの中では純粋な身体能力が低いとはいえ、若手たちがサポートなしで楽に倒せる相手では決してない。
それにモモコのことだから平気な顔でまだまだ罠を仕掛けているはず。 本当にここで「殺気」というカードを選択しても良いのか?
そうこう悩んでいるうちにエリポンやアーリー達はどんどん疲弊していっている。

(どうすれば良いの!?何を選べば正解だと言うの?……)


●場面3 : 武道館南口 「チーム下克上 vs クマイチャン」

二階から落ちた衝撃で、カナナンの脚は完全に折れていた。こんな状態では上半身を動かすのがやっとだ。
しかしクマイチャンはそんな事も御構い無しに攻め手を緩めない。
長刀を思いっきり地面に叩きつけて、文字通り地を割ってしまったのである。

「ぬああああああっ!!」

地割れを起こすなんて規格外にも程がある。
こうして生じた亀裂にハマったら、どれほどの距離だけ落下してしまうのだろうか?
場合によっては二階から落ちるよりダメージを負うことになるのかもしれない。

「カナナン!ほら行くよ!」

身動きの取れないカナナンをリナプーが急いで背負った。
とは言えリナプーは力の強い方の戦士ではない。人を一人背負っただけで著しく移動速度が低下する。
しかも地割れのせいで足下は非常に歩き難くなっている。 番長らの機動力の低下は避けられないだろう。
そんなリナプーとカナナンに対してクマイチャンは容赦なく刀を振り下ろした。
超高度から繰り出される斬撃の破壊力は一撃必殺級。
番長たちがこれに耐えるには防御力が不足しているため、必死で逃げるしか回避策は無かった。
なんとかメイがサユキ物真似の飛び蹴りをクマイチャンの手首に当てることで斬撃の角度を反らしたものの、
クリーンヒットしたと言うのにクマイチャンは痛がる顔1つしなかった。 ほとんど効いていない証拠だ。
ここまでの戦いで番長たちは痛感する。 自分たちには「機動力」と「防御力」、そして「攻撃力」が絶対的に足りていないのである。
この状況でどうやって怪物に勝つのか?どんな策を講じれば巨人に勝てるのか?
考えがまとまらぬうちに最若手のリカコが亀裂に躓き、そこを目掛けて自称176cmの位置からなる振り下ろしがノータイムで襲いかかってきた。

「リカコ!!避けて!!」

喰らえばもちろん即死。 それに耐える防御力も、回避するための機動力も、リカコには備わっていない。

802 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/02(月) 13:06:42

●場面3 : 武道館南口 「チーム下克上 vs クマイチャン」

リカコが斬られそうになる絶体絶命の状況下で、摩訶不思議な出来事が起こった。
あろうことかクマイチャンの刀が空中で静止したのだ。
これはクマイチャンの意思で止められたものでは無い。当人だって非常に不思議そうな顔をしている。

「???……なんだ?……見えない壁があるぞ?……」

"見えない壁"、その単語を聞いたリカコは雷にでも打たれたような顔をしてすぐに横を振り向いた。
色黒で露出の高い服を着た派手目女子が近くに寄り添っていたことに、どうして気づかなかったのだろうか。

「なんで?!な、な、な、なんで!!?……ム、ム……」

リカコがその名を呼ぶよりも早く、後方から破裂音が鳴り響いた。その音は間違いなく銃声。
目にも止まらぬ速さで射出された銃弾はクマイチャンの肩に撃ち込まれ、血液を流させる。

「痛っっっっっ!!……なんなんだ!?新手なの!?」
「……ごち。」

番長もクマイチャンも状況を掴めていない中で、息もつかせぬ間に更なる何者かが跳び上がってきた。
それは球体。 カナナンもリナプーもメイも丸いものがやってきたことを認識する。
いやいや違う。よく見たらそれはただの丸いものじゃない。
何よりも頼れる同士がやってきたのだ。

「うおりゃああああ!!渾身のストレートを喰らえっ!!」

丸くて頼れる同士がブン投げた鉄球の時速は160km。
しかもそれが高速スピンでクマイチャンの肩に衝突したものだから、傷口をガリガリとエグっていく。
これが痛くないわけがない。

「あ゛あ゛あああああああああ!!!」
「よっしゃ番長のみんな!まだまだどんどん畳み込むぞ!!」


●場面2 : 武道館西口 「チーム河童 vs カントリーガールズ」

「動物を操ってるのはそこのリサ・ロードリソースとマナカ・ビッグハッピーよ!やっちゃいなさい!!」

突然高い声が聞こえてきたと思えば、その指示に沿うように二人の戦士が飛び出してきた。
その二人のスピードはなかなかのものであり、
片方は両足に装着したローラースケートで、もう片方は高速アクロバットの繰り返しで速さを実現しているようだ。
一人はリサの腹をスケート靴に取り付けられたブレードで切りつけて、一人は紐付きの刀をマナカにブン投げている。
攻撃を受けたリサとマナカは痛みのあまりカエル・カラスへの攻撃指示を中断してしまい、
群れに襲われていたエリポン、マーチャン、アーリーは無事解放されることになった。
つまりはアイリが「殺気を放つ」というカードを切らずとも、3人が助かる運びとなったのである。
リサとマナカのフォローに入ろうとマイが動こうとするも、すぐに新手の二人に阻まれる。
この手はずの良さにはモモコも舌を巻く。

「へぇ〜、いいタイミングで入ってきたじゃないの。いつから見張ってたんだか。怖い怖い。」

モモコのイヤミもどこ吹く風で新規参入組のリーダー、いや、"剣士団長"がアイリのもとに歩いてきた。
そしてあろうことかアイリのアゴをクイッと持ち上げてはこう言い放ったのだ。

「アイリ様、私に使われてみませんか?必ずや勝利に導いてあげますよ。」


●場面1 : 武道館東口 「チームダンス部 vs 扉」

「ここは私に任せて。」

その声が聞こえた瞬間、石壁の破壊作業に取り掛かろうとしていたサヤシとサユキはゾクッとした。
まるで巨大な瞳にギロリと睨まれたような感覚を覚えたのだ。
慌てて後ろを振り向くが、そこには怪物などいやしない。
居たのは一人の女性だ。背はそこそこ高めだが、せいぜい160cmより少し上程度。化け物とは言い難い。
一点だけ普通ではないところをあげるとするならば、顔のほとんどを覆う程の大きいサングラスを装着していることくらいだろうか。
その人を見たナカサキはちょっぴり驚いた顔をするが、すぐにクスッと笑って話しかける。

「来たんだね。 じゃあさっさとやっちゃってよ。」

サヤシ、アユミン、サユキ、カリンの4名はその女性が何者なのかは知らなかった。 が、見当はつく。
怪物と間違うような殺気、大きなサングラス、そしてナカサキと同格であるという事実。
一同は確信した。この人がこれから繰り出す必殺技ならば石壁も容易く壊せることを。

「DEATH刻印、"派生・JAUP"!!!」

彼女が行なった行為は、高く跳び上がった後に石壁めがけて巨大な斧を振り下ろしただけだった。
たったそれだけ。それだけだというのに頑丈な壁はあっという間に崩壊する。
キュート戦士団No.2のパワーを誇る彼女にとって、この程度は朝飯前ということなのだろう。

803名無し募集中。。。:2017/10/02(月) 16:06:59
何という胸熱な展開!!
・・・そしてようやくキュート最後の戦士の登場!もう出て来ないのかと思ってたw

804名無し募集中。。。:2017/10/02(月) 23:44:33
クマイチャンていつも被弾してるよなw

805 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/03(火) 13:08:04
●場面0 : 武道館外門 「マイミ vs チナミ」

今からほんの少し前、連合軍のリーダーマイミが戦車の装甲にパンチのラッシュを浴びせている時のことだった。
自分とチナミの決闘を、何者かの集団を横切ろうとしていることにマイミは気づいた。
熱い戦いの最中なので本来ならば気にも留めないのだが、
集団の先頭が大きなサングラスを身に着けたよく知る女性だったものだから、無視せざるを得なかった。

「おお!!もう元気になったのか!!」
「ふふ、まぁね……ところで団長、手助けいる?」

正直言って今のマイミはギリギリの戦いを強いられていた。やはり人間対兵器はちょっとばかし無理があったのかもしれない。
ここで同志が助けてくれるのはとても嬉しい……のだが、マイミがその申し入れを受け入れることはなかった。
集団の顔ぶれを見て、ここよりもっと相応しい戦場が先にあることを悟ったのである。

「助太刀は不要だ!皆のところへ急ぐんだ!」
「そう言うと思った。了解。」


●場面1 : 武道館東口 「チームダンス部」

そして時間は現在に戻る。
集団を率いていた人物の名はマイマイ。
かつてはキュート戦士団の知将と呼ばれていた、食卓の騎士最年少の戦士なのである。
そんな人物が急きょ参戦してきたのだから、若手らは目をキラキラさせて羨望の眼差しを送った。
ところが年月を経てナカサキをも凌ぐネガティブ思考になったマイマイはそれを簡単には受け入れない。

「いや、そういう無理とかしなくていいよ。」
「えっ?」「無理なんて全然……」
「いいのいいの、マイが尊敬されるタイプじゃない事くらい自分がよく知ってるから。」
「……」

ほんのちょっとのやりとりで、オカールとは違ったタイプで近寄りがたい人物だと一同は理解した。
多少クセがあるようでも心強いのは確かだ。 キュート戦士団が二人もついてくれるなんて思いもしなかった。
心のシャッターを依然変わらず閉じているマイマイに対して、サユキも声をかけていく。

「そういえばオカール様が、マイマイ様はメンタルをやられたって言ってましたけど治ったんですね!本当に良かったです。」
「メンタル?……あ〜あれは嘘。」
「えっ?」

"嘘"という衝撃告白にサヤシ、アユミン、サユキ、カリンは固まってしまった。
どうしてそんな嘘をついたのだろうか?全くもって事情が分からない。大人の事情というやつか?
詮索するつもりは元からなかったが、質問タイムになるのを遮るようにナカサキが喋りだす。

「ほらみんな早くいくよ!私たちの本分は壁の破壊じゃなくて奇襲なんだからね!急いで急いで!」


●場面3 : 武道館南口 「チーム下克上 vs クマイチャン」

以前にも書いた通り、この戦いのタイトルは「あまりにも出すぎた杭 vs 番長の総力戦」だ。
総ての戦力を出し切ることが出来なければ、番長たちに勝ち目は無いとも書いたはずだ。
そして今この場にアンジュ王国の最高戦力が勢ぞろいしている。

「タケちゃん!ムロタン!マホ!!来てくれたんか!」
「おう!カナナン、リナプー、メイ、リカコ、待たせたな!!」
「リカコ〜〜〜怖くて泣きそうになってたんじゃないの?〜〜」
「リカコすぐ泣くもんね」
「な、泣いてないし(>_<)」

運動番長タケ・ガキダナーと音楽番長ムロタン・クロコ・コロコ、そして給食番長のマホ・タタン
国に残っていたはずの彼女らが何故やってきたのかは分からないが、理由なんて今はどうでも良い。
目の前に立ちはだかる巨人をなんとかするのが何よりも先決だ。

「突然現れたからちょっと驚いたけど、4人が7人になったくらい何とも無いよ!!」

そう言うとクマイチャンは長刀をムロタンに向かって振り下ろした。
五万の援軍ならまだしも、追加でやってきたのはたったの3人なのだからそう思って当然だろう。
しかし、それではまだアンジュの番長の戦力を読み違えているとしか言いようがない。
彼女らは常日頃から同期同士でチームを組んで戦ってきたため、それがガッチリと組み合った今が最も強いのだ。

「バリアー!」

ムロタンは透明の盾でまたもクマイチャンの斬撃を防いでみせた。
純粋なパワーならクマイチャンの方が圧倒的に上なので、このまま押し切られたら流石のムロタンも防げないのだが、
そうなる前にリカコがすかさず石鹸銃を構えてシャボン液を発射する。狙いはクマイチャンの目だ。
こうして視力を奪ったところにマホがスナイパーライフルによる狙撃をしたものだから、クマイチャンは避けられない。
その銃弾のターゲットはヒタイか?心臓か? いや、そんないかにもな人体急所ならクマイチャンは死に物狂いで回避する恐れがある。
だかはマホは先ほど銃弾をブチ込んだ肩と寸分違わぬ箇所に二発目をプレゼントしたのだ。これが後から効いてくる。

806 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/03(火) 13:09:39
「ぐっ……よくも……」
「余所見してんなよ!次はこっちが相手になるぜ!!」

クマイチャンの目が少し慣れた頃には既に、タケだけではなくメイ、リナプー、カナナンもその手に鉄球を持っていた。
そして各自が一斉に豪速球、モノマネ豪速球、消える魔球、少し遅めの投球をマホが傷つけた肩に向かって投げつける。
これ以上壊されたくないと強く思ったクマイチャンは必死で初球、第2球、第3球を刀で弾き落としたが、終盤で軌道が変化するカナナンのカーブ(プロ仕込み)だけは迎撃することが出来なかった。
番長から見ればさしずめ「形勢不利も次のカーブで見事にドンデンガエシ」といったところだろう。
今まで彼女らは臥薪嘗胆の思いで耐えてきた。 幾度も転ばされる事もあったが七転び八起きの精神で立ち上がっている。
ここから乙女の逆襲が始まる。


●場面2 : 武道館西口 「チーム河童 vs カントリーガールズ」

他の場面と同様にこちらにも心強い味方が駆けつけてくれた。
それはモーニング帝国剣士団長のハルナンと、新人剣士のハーチン、ノナカ、マリア、アカネチンの計5名だった。
他所のマイマイや追加番長のケースと異なり、この5人の登場にはエリポンやカノン、マーチャンらはさほど驚いていなかった。
元より合流予定だったという理由もあるが、それ以上に彼女らがここまで辿り着くことを信頼していたのである。
ただ一人、アーリーだけはハルナンの存在にムムッとした表情で警戒している。
過去の選挙戦のとき、果実の国の面々はロクな目に合わなかったので好意的に受け入れられないのは当然なのかもしれない。
そんなアーリーの肩をエリポンが軽く叩き、安心感を促していく。

「大丈夫っちゃよ。ハルナンは勝利の執念だけは誰よりも強い。 きっと皆が勝てる案を考えてくれるはずっちゃん。」

その通り。ハルナンは勝つつもりだからこの場に現れたのだ。
勝利のためなら大先輩であるアイリからリーダーの座を奪う事もいとわない。

「このチームのメンバーを見たときに驚きました。
 カノンさんはともかくエリポンさんにマーチャン、そしてアーリーちゃん……すっごく扱いにくそうなメンバーだな、と。
 でも、このメンバーならモモコに勝てると思ってアイリ様は選出したんですよね?
 任せてください。ここから先は私が代わりにスペシャルチームを導いてあげますよ。」
「……」

弱点を見抜く眼をおいそれと使えない今、アイリはハルナンの真意を見破るのに苦心していた。
その実力を本当に信用していいのかは分からないが今は任せるしかない。そう感じて頭をコクリと下げた。
こうして指揮権が移るや否や、ハルナンが指示を出し始める。

「そうですねー、ちょっとこのフィールドはゴミゴミしてて見難いですね。動物たちが邪魔なのかな?……
 よし!新人剣士のみんな!モモコ以外のカントリーガールズを追っかけ回してヨソに連れ出しちゃいなさい!
 ノルマは一人一殺……出来るわよね?」
「「「「はい!」」」」

指示を受けてすぐに新人剣士の4名はリサ、マナカ、チサキ、マイの元へ走っていった。
ハルナンの狙いは動物の群れを遠くに隔離してからモモコを楽に倒す事なのだろう。
だがその手に乗ってやる義理はない。カントリーの4人は意地でも逃げまいとしたが、
逆にモモコの方から指示が飛んでくる。

「そうねぇ……リサちゃん、マナカちゃん、チサキちゃん、マイちゃん、ここは相手に乗っかりましょう。どこか遠くに逃げちゃいなさい。」
「「「「えっ!?」」」」
「もちろんどこでも良いって訳じゃないのよ……自分を活かせるフィールドに向かって走りなさい。」
「「「「!!」」」」

モモコの指示を受けたカントリー4名はそれぞれバラバラに逃げていった。互いに共闘するつもりは毛頭ないらしい。
ならば新人剣士4名も同様にバラバラに追いかけることになる。
さっそくハーチンが自分のターゲットを決定し、ローラースケートで追跡していった。

「よっしゃ!じゃあそこのチサキって子を追いかけ回したろ!どう見ても一番弱いしな!みんなも早いもん勝ちやで〜」
「ひえええええ!追っかけてこないで〜〜〜!!!」

ハーチンの言う通り、戦う相手を自分で選択できるのは新人剣士たちにとって大きなアドバンテージだ。
すこし考えた結果、ノナカはリサを、マリアはマイを、
そしてちょっと考えるのが遅れたアカネチンは余ったマナカを追いかけることとなった。

807 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/03(火) 13:13:46
さすがに今回は投稿時に本文長すぎと言われちゃいました。なので分割してます。

ちなに今の位置関係を整理するとこんな感じです。

●武道館外門
チナミ vs マイミ

●武道館西口
モモコ vs アイリ、エリポン、カノン、ハルナン、マーチャン、アーリー
リサ vs ノナカ
マナカ vs アカネチン
チサキ vs ハーチン
マイ vs マリア

●武道館西南口
ミヤビ vs オカール、ハル、オダ、トモ

●武道館南口
クマイチャン vs カナナン、タケ、リナプー、メイ、ムロタン、マホ、リカコ

●武道館東口
ナカサキ、マイマイ、サヤシ、アユミン、サユキ、カリン


>>803
マイマイは実は最初から出すつもりでしたw
>>137の文もそれ前提で書いてますね。

>>804
あれっ?そうでしたっけ。体が大きいから的になりやすいんですかねw

808名無し募集中。。。:2017/10/03(火) 13:27:18
千奈美で戦国自衛隊が出てきてからずっとドキドキしてる…

809名無し募集中。。。:2017/10/03(火) 16:16:37
ハルナンの指示、ゾクゾクするねぇ

810名無し募集中。。。:2017/10/03(火) 19:09:52
もう作者さんがノリノリで書いてるってのが伝わってくるね〜てか小ネタブッコミ過ぎ!w
マイマイ登場したのは嬉しいけど前作で完全に破壊された顔がどうなっておるか心配・・・
12期とカントリーは『なんかぁ意外な組合せだね…』どう戦うのか楽しみ

811 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/04(水) 13:38:58
「ハァ……ハァ……急がなきゃ……」

チサキは武道館の周囲をぐるりと囲んでいる、お堀に向かって走っていた。
ここらで水場と言えば唯一そこだけ。魚類を自在に操るチサキはお堀にさえ辿り着けば優位に立てるのだ。
ローラースケート使いのハーチンに追われて恐怖していたチサキは、
目的地に到着したと思えばすぐにお堀へと飛び込んだ。一刻も早く水中へ入りたかったのである。
しかしここで酷な事が起きる。 水に飛び込んだはずのチサキは何か硬いものに顔面をビタンと強打する。

「ぎゃ!」

チサキの飛び込みを阻んだものは何か?……答えは「氷」だ。
今の季節は3月。暖かくなり始めたとは言えまだ寒い。
アリアケの波打つ海と違って、この武道館のお堀の水は静かに留まっている。 なのですっかり氷が張っていたのだ。
これでは水中に入ってお魚に味方してもらうことが出来ない。
いや、それより深刻なのは……

「ははははは!笑いが止まらんな! 氷の張ったスケートリンクはウチの独壇場やで!」
「嫌ぁあああああああ!!」

水の状態を自分にとって都合の良い方に持っていくのはどちらになるのだろうか。
ハーチンとチサキの勝負は、水をより制した者が勝利する。



リサ・ロードリソースは木々の茂った木陰地帯に逃走していた。
その理由はもちろんカエルのため。カエルがより活発に動ける条件がここには揃っている。

「まぁ、こんなところに来なくても勝てるんだけどね。 ノナカちゃんだっけ?……あなた、前にカエルちゃん達の前で何も出来てなかったでしょ。」

リサはモーニング帝国城でサユをさらった時のことを言っていた。
その時にカエルの群れを見て平気そうだったのはエリポンとハルナン、そしてマーチャンくらいだった。
ノナカを含む他のメンバーはあまりの気味の悪さに震え上がっていたのである。
だが、ノナカだって無策でリサを戦闘相手に選んだわけではない。

「確かにカエルに囲まれるのはHorrorですね。 見た目が、その、言ったら申し訳ないけど……」
「気持ち悪いんでしょ? 別にいいよ。この可愛さはわかる人にしか分からないし。」
「Yes、そうです。 だから私は見ないで戦うことにします!」
「!?」

敵を前にしてノナカは目を完全につぶってしまった。
本来ならばあり得ない行為だが、ノナカの耳の良さをもってすればこの状態でも戦えるかもしれない。
そしてノナカは更なる能力……妄想力を発揮する!

「Wao! カエルちゃん達がとってもfancyな見た目になりました!」
「えっ?……」

ノナカは持ち前の妄想力で、カエルのビジュアルを自身の画風通りの姿に変えてしまった。
他人にとっては珍妙なキャラクターに見えるが、ノナカにはこれが可愛く思えるのである。
ノナカとリサの勝負は、己の画力をよりアピールした者が勝利する。

812 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/04(水) 13:39:59
マイとマリアは芝が適度に生えた平原に辿り着いた。
カントリーガールズの中でも動物に頼らず己の肉体のみで戦うマイならではの選択だろう。

「マイは自分の強さに自信を持ってる。だから小細工なしの場所を選んだよ。」
「うん!マリアも望むところだよ!」
「あとね、マイはスタイルとセクシーさにも自信を持ってる。」
「え?、あ、うん、脚長いよね、あ、その、セクシーさも良いと思う」
「でしょ。」

マイの変なペースに乗せられてしまいそうになったが、今はそんなことをしてる場合ではない。
キッカとの修行の成果を発揮して、敵を早々に撃破せねばならないのだ。

「マリアは野球に自信を持ってるよ!えいっ!」

あんなに訓練したのだから、マリアのナイフ投げのコントロールは遥かに向上していた。マイの胸元に正確に飛んで行っている。
本来ならば見事にストライクが決まるのだろうが、
マイはそのナイフの軌道を正確に捕らえて、右拳を下方向から叩きつけることに成功する。
ブン殴られたナイフは数十メートル以上は遠くの方へ吹っ飛んでしまった。 これはまさに"ホームラン"と言うしかない。

「今のが野球?マイよく知らないけど、結構カンタンなんだね。」
「え?え?……」

勝敗を決するのは知識量か、それとも遺伝子か、
マリアとマイの勝負は、より野球を極めた者が勝利する。



そこから近い平原で、マナカとアカネチンも戦いを開始していた。
マナカは既に臨戦態勢にあり、カラスを身に纏って漆黒の翼を大きく広げているり
最凶の状態である「ブラック・マナカん」になっているのだ。

「アカネチンだっけ?ご生憎様だけど、君が勝つ可能性は万に一つも無いと思うよ……だって、マナカはカントリーで一番強いから。」
「そ、そんなことやってみなきゃ分からないじゃない!!」
「ふふ……あぁ、それにしても、どうせタイマン勝負をやるならハル・チェ・ドゥー様とやりたかったなぁ。」
「え?……」
「あのカッコいいイケメンハル様と二人っきりなんて……キャー!妄想しただけでドキドキしてきちゃう!
 そうだ!アカネチンをさっさと倒したらハル様の方に直行しようかな。」
(この勝負……絶対!絶対!絶対に負けられない!!)

下馬評通りなら99.9%でマナカが勝つカード。
アカネチンとマナカの勝負は、より愛が強い方が勝利する。

813チサキとマイは夜更新します ◆V9ncA8v9YI:2017/10/05(木) 12:58:49
カントリーの4人が散り散りになった今、モモコはたった1人で連合軍6人を相手取る形になっている。
アイリが相変わらず地面にへたり込んでたり、カノンが磁石の山に下敷きになってる事を考えると今すぐ6人全員でかかれる訳ではないが、
少しばかり話が上手く進みすぎていることをハルナンは懸念していた。

「即決で決めちゃいましたね。 そんなに自分の実力と、カントリーの子たちの力を信頼してるんですか。」
「まーね。私の強さのことは言うまでもないし、それに、あの子たちには私の暗器を一つずつ貸してるの。 4勝0敗もあり得ちゃうかもなぁ。」

モモコは7つの暗器を自在に操る戦法を得意とするのだが、現在はその半数以上を後輩たちに託していた。
例えばマナカには「超強力電磁石」を預けている。彼女にはこの暗器がピッタリだとモモコが判断したのである。
複数羽のカラスを身に纏ったマナカは武道館のてっぺんと同じくらいの高さまで飛び上がり、そこから磁石を次々と落としていった。

「わっ!!危ない!」

この高さからならアカネチンは反撃しようがない。
しかも、次々とカラスの口から石を供給されるのでマナカはいくらでも空から投下できる。
最初のうちはアカネチンも眼の力で石の軌道を先読みして回避していたが
地に転がる磁石が増えるにつれて引力と斥力の関係が複雑化し、落下する石の動きが急変するため避けきれなくなってしまう。

「痛い!……うぅ……手にぶつけた……」
「互いにくっ付き合う磁石ってマナカとドゥー様みたいだと思わない? 嗚呼、まさに恋はマグネット。」
「うるさい!」


一方、木陰のノナカは目をつぶったまま周囲の音を敏感に感じ取っていた。
いくつもある小さな呼吸音の中に、一つだけ大きな呼吸音が混じっている。
それはヒトの呼吸。つまり倒すべき敵リサ・ロードリソースはそこにいるのだ。
目が見えなくても場所さえ分かれば斬りかかることが出来る。ノナカは忍者の俊敏さでそこに一瞬で辿り着いた。
リサの身体からはカエルの呼吸は聞こえない。即ちカエルを纏ったりはしていないと言うこと。
個人の戦闘力は並以下のリサに肉弾戦は不可能なはず、そう考えてノナカは刃を突き刺そうとした。
……が、その瞬間ノナカの頰からパン!と言う大きな音が鳴り出す。
音源はノナカではない。リサに思いっきりビンタを喰らったことで破裂音が響いたのだ。

「What's !?」

ただのビンタならノナカはここまで驚きはしない。
驚くべきは音の次にやってきた激痛だ。奥歯が抜けてしまいそうなくらいに痛い。
おもわず目を開けそうになってしまった程である。

「見えないよね〜? 教えてあげよっか、私の手は金属が貼り付けてあるの。
 これでほっぺたをパンって叩いたんだよね。もっとたたいてあげようか? パン・パン・パン、パン・パン・パパンってね。」

これも言うまでもなくモモコからレンタルした暗器の一つだ。
手のひらに薄くて軽い金属の板をペタリと貼り付けることでビンタの威力を強化しているのである。
これがあればリサにも接近戦が可能になる。
そして、そんなリサが畳み込むなら今がチャンス。
今日一番のリズムでノナカの両頬を往復ビンタする。

「パパパパン!パパパパン!パパパパパパパパパパン!」

814名無し募集中。。。:2017/10/05(木) 14:04:51
意外な組合せかと思ったらかなりカントリーに有利な組合せだった!
しかもモモコの暗器との相性も抜群だし…恋マグ、リズムときて次は何の暗器(曲)なのか?

815 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/05(木) 23:58:36
自身の投げたナイフを簡単にホームランされてしまったのでマリアはひどくショックを受けた。
マイは運動神経抜群であるため、マリアの球種を見てストレートつまらん(つまらん)なんて小生意気ガールのような感想を抱いたのかもしれない。

(だったら変化球だ!キレッキレのを投げて撹乱しちゃいまりあ。)

マリアの狙いはこうだ。まずは思いっきり高めに投げナイフを放ることで、暴投だと思わせて一旦油断させる。
ところがその暴投ナイフは実はフォークボールの要領で投げられている。最高点に到達したところで急降下するのだ。
さすがにその変化は捕らえられないだろうと考えてマリアは自慢の強肩でナイフをぶん投げた。

「えいっ!!」

誰がどう見ても大暴投。こんなのを打とうとしたり、あるいはキャッチしようとする者は存在しないだろう。
野球を少しでもかじった人間ならストライクゾーンにかすりもしない球を無理して追いかける事は決してない。
しかし、マイは違った。
野球を知らない彼女はそんなルールには捉われない。なんであろうと自分への攻撃は受け止める思いだ。
ウサギのトレーニングを積んだ末に培った跳躍力で空高くにあるナイフをキャッチしようとするつもりでいる。
だがあれだけの上空にあるとどれだけ必死にジャンプしても届かないかもしれない。それは自信家のマイだって流石に自覚していた。
だからここは少し癪ではあるが、モモコに借りた暗器を使うことにする。

「これを使うと脚が長くなるんだよ。マイはもともと美脚だから意味ないんだけどね。」

その暗器はブーツに仕組まれており、足先にググッと力を入れることで機構が作動する。
ガシャンガシャンと言う音とともに靴の底が一瞬にして持ち上がり、あたかもマイの脚が50cmほど伸びたように見える。
このように特殊な仕掛けが組み込まれた靴は"美脚シークレットブーツ"と呼ばれ、
足がコンパクトなモモコでも人並みの歩幅をに入手に入れるために開発されたのだとマイは思っていた。
ウサギの力を持つマイがこのシークレットブーツを使えば、脚が飛び出る時の勢いを持ち前の跳躍力にプラスすることが出来る。
結果的に規格外の大ジャンプが実現可能になるのだ。
そうしてマイはナイフがフォークボールとして機能する前に、即ち、落下するよりも前に掴み取る。
そして自身が着地するより早く、空中に浮いたままの状態で振りかぶり、マリアに投げ返したのである。
その様はまさに野球選手そのもの。今すぐ避けなくてはならないはずのマリアはついついマイをじっと見続けてしまった。

(なんで?……この子、どうしてこんなに野球が上手なの?……)

ナイフを横っ腹に受けてもマリアは変わらずマイを見続けた。その時流した涙は痛みからではない。感動からだ。
その視線の意味に気づいてないマイは着地するや否や、脚を伸ばしたままでモデル風のポーズをとり始める。

「あ、そうか、マイがイケメンだから惚れちゃったのかぁ……」

"クールな男気取ってる背伸びが素敵"、マイはそう自画自賛していた。

816 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/06(金) 00:01:31
リサ、マナカ、マイと、ここまではカントリー側のメンバーが優勢にある。
しかし残りの一人であるチサキはモーニング帝国の新人剣士ハーチン・キャストマスターに大苦戦を強いられていた。

「ほらほらほらぁ〜!!逃げんなやぁ〜!!!」
「キャーーーーー!!」

氷上(表情)の魔術師と称されるハーチンは変顔をしながら嬉々としてチサキを追っかけまわしていた。
スケート選手の才能がある彼女にとって、お堀の水が凍っているのは好都合どころの話ではない。
シャーッと華麗に滑って敵に追い付いては、靴裏に取り付けられたブレードでチサキの肌を傷つける。

「痛い!!……やだぁ……もうやだよぉ……」
「なんだか弱いものイジメしているようで気が進まんなぁ……うへへ、ふへへへ」

このまま逃げ続けても何にもならない事は、チサキもちょっとずつ理解し始めていた。
ならば立ち向かうべきか?しかし水に入れないチサキに何が出来るのか?
ここで彼女は思い出した。自分の靴にはモモち先輩から拝借した暗器が仕掛けられているのだ。

「えっと……確かこう使うんだっけ……えいっ!」

この暗器は足で地面をバン!と強く踏むことでその機能を発揮する。今は地ではなく氷を踏んでいるが効能に変わりはない。
この靴は下部から空気を取り入れて、その空気を内部で圧縮し、上部から一気に吹き出す仕組みになっている。
つまりこれを使えば(選挙戦でモモコがクマイチャンにやってみせたように)飛んでくる瓦礫などを空気の壁で防ぐことが出来るのである。
しかしこの暗器は飛び道具が襲い掛かってきた時にこそ真価を発揮するもの。つまり今使っても何の意味もない。
むしろ最悪なことに、そうして飛び出した風はチサキのスカートを思いっきりめくりあげてしまった。

「え?……」

チサキはあまりの事態に一瞬フリーズする。
相対しているハーチンもそのスカートの中身を至近距離で目にすることになった。これには流石のハーチンも動揺を隠せない。

「お、おう……色仕掛けってやつか?悪いけどウチは今のところそういう趣味は……」
「いやあああああああああ!!忘れて忘れて忘れてぇええええええ!!」

羞恥のあまりチサキは耳どころか全身真っ赤になる。
「心の中に風が吹くたび乙女の頬は燃えてゆくのよ」という言葉を誰かが言っていたが、
チサキの場合は「スカートの中に風が吹くたびチサキの全身は燃えてゆくのよ」と言ったところだろうか。
おや、気づけばチサキは頭から湯気が出るほどに茹で上がっているようだ。
まるで氷をも溶かしてしまいそうなほどに。

817 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/06(金) 13:11:52
チサキの体質は少し特殊だった。
常人と比較して異常なほどに血液の巡りが良く、ちょっとしたことですぐに真っ赤になってしまうのである。
驚くべきはその時にチサキが発する熱量だ。
場合によっては体温がお湯よりも高くなり、その熱を周囲に伝導させることも可能となっている。
今もこうして、チサキの足下の氷がジワジワと溶けていっている。

「あーもう!!穴があったら入りたいよーーー!!」

チサキは自身の身体で最も熱くなっている頭部を思いっきり氷にぶつけだした。
ただでさえ溶けかけているところに高熱の物体が勢いよく衝突してきたのだから、
水場に張っていた氷はあっという間に砕け散ってしまう。
そこを起点として周囲に次々とビビが入っていき、ハーチンの足場もろとも崩壊させていく。

「はっ?……」

あまりの衝撃映像を前にして、ハーチンはうまく事態を把握することが出来なかった。
砕け散るスケートリンクの上で滑った経験の無いハーチンは、為すすべもなく水中に落ちてしまう。

(冷っ!!なんやこれ!心臓が止まりそうや!……いや、それよりヤバイのは……)

ハーチンが水中で目にした光景、それは先ほどのカエルやカラスに負けず劣らずの数だけ存在する魚群だ。
この魚の種別名はワカサギ。
本来はこんなお堀に生息する魚では無いのだが、おおかたどこかのプレイングマネージャーが前日までに仕込んでくれたのだろう。
そう、水中ならば無敵になれる可愛い後輩のために一肌脱いだのだ。

(お魚さんたちお願い、あの人を倒して……そして、出来ればさっきまでの記憶を全部消しちゃって!!)



アカネチンは空から降り注ぐ磁石から逃げ回っていた。
とは言えアカネチンの眼を持ってしても磁石の引き寄せ合う力を全て見抜くことは困難であり、
既に10発ほどはぶつけられている。
人体急所に当てられていないのが不幸中の幸ではあるが、もしも頭に当たったら一発でアウトだろう。

(このまま逃げてちゃラチがあかない……私からも攻撃しなきゃ!!)

向こうが上から下に仕掛けてくるなら、こちらは下から上に攻撃すれば良い。
いつも愛用する印刀では上空まで届かないので、アカネチンは地面に転がる磁石を一つ手にした。
これを思いっきり投げて、的当てのように空飛ぶマナカにぶつけてやろうと思ったのである。

「えいっ!」

遠距離の敵を相手するなら自分も遠距離攻撃……という発想は良かったかもしれない。
だが、普段あまり物を投げないアカネチンの肩はさほど強くなかったので、
投げられた磁石の勢いはすぐに弱まり、むしろ地上にちらばる磁石の方に引き寄せられてしまう。
つまり、アカネチンにはどうやってもマナカを撃ち落とす事など出来ないのである。

「そんな……あぁ、もしもマリアちゃんがいれば当てられるかもしれないのに……」

アカネチンは無意識のうちに同期のマリアに頼っていた。
確かに彼女の強肩なら磁力の強さを上回るパワーで投球できるかもしれない。

「マリア?……あぁ、あっちでマイちゃんに半殺しにされている子のことね。」
「えっ?……」
「マイちゃん強いからなぁ、マリアって子はもう助からないかもね。命も危ういかも?
 あ!それじゃあ私のことマリアと呼んでいいわ今日から。
 ドゥー様との結婚を祝福してくれたらね〜。」
「そんな……マリアちゃんが……」

818 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/08(日) 16:59:37
「マリア大丈夫かな〜心配だな〜」

マリアとマイが戦っている平原から少し離れたところで、コードネーム"ロッカー"が双眼鏡を覗き込んでいた。
以前に打倒キッカのために協力したよしみで、かなりひいき目に見ているようだ。
そしてその隣にはもう一人の仲間がいるのだが、それはいつもの相方"ガール"ではない。
所属組織のリーダー的存在である"ドグラ"だ。
彼女もまた真剣そうな表情でマリアとマイを観戦していた。

「私の見込みだとマリアがマイを打ち破るのは相当厳しいと思う。」
「そうなの?」
「マイ本人は知らされていないようだけど、彼女は伝説と呼ばれた戦士の実子……つまり、レジェンドの血を引いてるんだよ。
 戦い方も直々に教わっていたようだし、生半可な力じゃ太刀打ちできないはず。」
「へぇ〜さすがアヤパンは野球に詳しいなぁ」

ドグラの話は真実。
マイは名選手から才能を受け継いだうえに、更に同一人物の名コーチから英才教育を受けてきたのである。
そのルーツが野球というスポーツだとは気づいていないようだが、実力は本物だ。
自分ひとりの力だけで、両生類・鳥類・魚類を操る仲間たちと肩を並べていることからもそれがよく分かるだろう。

「次はこっちから行くよ!」

マイはウサギのスピードを発揮して、マリアとの距離を一瞬にして詰めてしまった。
50m走なら今現在武道館にいる他のメンバーにも後れをとることもあるだろうが、
塁と塁の間の距離ならば身に染み込んでいるため、それ以下の長さなら誰にも負ける気がしない。
もちろんマリアだって黙ってみている訳が無いので、二刀流と呼ばれる所以の両手剣を構えて思いっきり振り切った。
しかしマイが衝突寸前で体勢を低くするヘッドスライディングで飛び込んだので、マリアの打撃は空振りに終わってしまった。
ここで自身の戦い方を「ウサギ」から「ライオン」へ切り替えたマイは容赦なくマリアのスネに噛みつきだす。

「ああっ!!」

獲物を狩る獅子がここで攻め手を緩めるはずがない。
脚を痛めて機動力を無くさせてからが本番。モモコ借りた美脚シークレットブーツを利用して一気に背を伸ばしながら、
ライオンの力で強化した握り拳をマリアの顔面に思いっきり叩きつける。

「っ!!!!」
「まだだよ!マイが勝つまで攻撃は終わらないんだ!」

マイはそのままマリアを押し倒し、更なる追撃を喰らわそうとした。
力関係だけでなく体勢まで下になったマリアは誰がどう見ても不利だ。
遠くから見ている解説・ドグラは最初の予想を変えようとしていないし、
ひいき目のロッカーだってマリアの敗北を確信せざるを得なかった。

「ここまでか……もっとやってくれると思ったんだけども。」

819 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/10(火) 13:08:35
リサ・ロードリソースのビンタを受けたノナカは顔をひどく腫らしていた。
せっかく最近はシュッとしきたというのに、これではムクんで見られてしまう。
ただ、見た目はともかくとしてビンタの威力自体はさほどではない。これくらいならノナカは耐えられる。
武器を手に入れたとは言え、元々戦闘向きではないリサには意識を断つほどの攻撃力は無かったという事だ。

(痛い……とても痛いけど我慢できる! 目もCloseさせたままでいられる!)
(嘘でしょ?あんなにビンタしたのに効いてないの?……こうなったらやっぱり戦意そのものを奪い取るしかないようね。)

ガチンコ勝負になればもちろんノナカが勝つだろう。運動神経が段違いだ。
だが、リサにはカエルがついている。
今のノナカは目をつぶってカエルを見ない事によってこの状況でもまだ戦えているが、
無理矢理にでも目をこじ開けられてしまえばカエルを直視することから逃れられず、戦意喪失してしまうことだろう。

(さっき、この子はカエルさん達がファンシーになったって言ってたわよね。
 どんな見た目をイメージしてるのかはよく分からないけど、リアルなカエルさんが一番可愛いに決まってる!!
 その目を開けて、現実を見せてあげるんだから。)

リサは指を咥えて、カエルにしか聞こえない音を発することで指示を出した。
この時出した指示の内容は二通り。
一つは通常のカエル200匹が一斉に飛びかかってノナカの動きを止めるというもの。
そしてもう一つは、本物の牛並みのパワーを誇るウシガエルがノナカの腹に突進するというもの。
ヘビー級のボディーブローを無抵抗で受けたノナカは苦しみのあまり目を開けてしまいそうになる。

「oops!!」
「どう?苦しかったら無理せず目を開けてもいいんだよ?」
「こんなのまだまだ平気……こうやってAtackされることは分かってたから……」
「ふぅん、聴覚で察知したから覚悟出来たってこと?」
「Yes, その通り。」
「だったらその耳を潰してあげる! カエルさん達!大声で鳴いてちょうだい!!」
「!?」

リサの指示通りにこの場にいる全てのカエルがゲコゲコと鳴き出した。
その騒音レベルは凄まじく、ノナカの耳が機能しなくなる域まで達している。
これでノナカの聴覚というストロングポイントは失われた。
どこから、どのタイミングで、どのような攻撃が来るのかはもう分からない。

820 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/11(水) 12:59:41
この寒い時期に冷水に落とされたとあれば、ハーチンの体力と精神力は急激に消耗される。
体温はごっそりと奪い取られ、呼吸できぬ恐怖が心臓を鷲掴みにし、脳はパニック状態になる。
そこにチサキが魚の軍団をけしかけたものだから状況は最悪だ。
魚はハーチンの窮地もお構い無しに顔を、腹を、手足を目掛けて体当たりしてくる。こんなことをされたらほんの僅かに体内に残った酸素だって吐き出さざるを得ない。
しかもワカサギ達は水面側にも壁を作るように陣取っているため浮上したくてもさせてくれない。

(苦しい!苦しい!本当に死んじゃう……)

これを絶体絶命と言わずになにをそう言うのだろうか、というくらいにハーチンは窮地に立たされていた。
水、そして魚を支配するチサキ・ココロコ・レッドミミーに水中に引き込まれた時点で勝ち目は薄かったのだろう。
だが、「勝ち目は薄い」とは即ち勝つ可能性はゼロパーセントでは無いということ。
極限状態にあるハーチンにもまだ出来ることはあった。 いや、極限状態だからこそ若き日に修練して得た技能が活きてきたのだ。
スケート選手は滑るだけではない。 スピン、そしてジャンプも欠かすことのできない要素である。
ハーチンは残った力を振り絞って自身の身体を捻りきり、その勢いで周囲の魚を弾き飛ばした。 そしてそのまま水の内から外へと跳びあがっていく。

「プハァ!!息……息が出来る!!助かったぁ!!」

ハーチンが脱出した先にはまだ破壊され尽くされていない氷面があった。自分の有利な居場所に戻ることが出来たという訳だ。
だが、それでも、チサキとはこれ以上戦わない方が賢明だろう……
敵は水の支配者。そのチサキはハーチンの復帰に驚いた顔をしてはいるが、依然変わらず水中に陣取っている。
このまま戦ってもチサキの有利は変わらない。ならば諦めて逃げるのが賢い選択。長い目で見ればそれが大勝利。

(って、さっきまでのウチならそう思ってたんやろなぁ……)

ハーチンの目はただ一方向、チサキの方だけを向いていた。 彼女は幼少期の苦しい修練経験と同時に初心までも思い出したのだ。
先輩たち、そして同期たちは今もこうして苦しい戦いを繰り広げているはず。 だったら自分だってモーニング帝国剣士としてそこに並びたい。

「一緒に、この感動を共有したい!!」


マイ・セロリサラサ・オゼキングに乗っかられたマリアも、ハーチン同様に劣勢だ。
あと数発良いパンチを貰ったら倒れてしまいそうなこの状況下で、マリアは頭の中で色んなことを考えていた。
このままマイに敗北してしまえば敬愛するサユを助けられなくなるがそれでも良いのか?
目の前のマイは戦闘力だけでなく野球の腕前も優れている。マリアは戦いでも野球でも勝てないのか?

「そうじゃない!!」

マリアは全てを受け入れなかった。わがままかもしれないが、甘んじるつもりは全くない。
この状況を打破するためなら思いつく限りの手段をなんでも尽くす。そう決意し、マイに抱きつきにかかった。

「あれは!!……あの時、俺がマリアにやったのと同じだ!!」

マリアの突然の行動をみたロッカーはつい声を上げてしまった。 隣でドグラが若干軽蔑した目で見てるのも気にならないくらい熱が入る。
以前ロッカーはマリアの攻撃を阻止するための防衛法としてボクシング技術のクリンチを使用していた。それを今こうしてマリアが使っているのだ。

「なにすんのっ!放してよ!!」

いくらマイが哺乳類のパワーを活用しているとはいえ、体躯はマリアの方が大きい。 この抱きつきからは簡単には逃れられない。
そして、すぐさま襲いかかる背中の激痛によってマイはマリアがとったこの行動の意味に気づきはじめる。

「!!!…………これ、まさか……」

その痛みの発生源が、遠くから監視していたドグラとロッカーには丸分かりだった。

「あのマリアって子すごいね……マイに抱きつくと同時に空に向かってナイフを投げたんだ。」
「あぁ、そのナイフが落下してきてマイの背中にブッ刺さったんだからそりゃ痛いだろうな。」

マリアは野球の神様にごめんちゃいまりあと謝った。 クリンチも不意打ちのナイフも野球のルールに沿った戦い方とは言えないからだ。
だが、これで劣勢をある程度はひっくり返すことが出来た。 ここからはスポーツマンシップに則って戦うが出来る。
慌てて距離を取るマイに対して、マリアは挑戦状を叩きつけた。

「一球勝負しようよ……マリアがあなたの心臓に向かってナイフを投げるから、もう一度さっきみたいに打ち返してみて。」

821 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/11(水) 20:53:43
ウシガエルは重量感のある体当たりを何発もノナカの腹に喰らわせていた。
とっくに血反吐を吐いているのだがそれは外には見えない。ノナカが全身をカエル群に覆われているからだ。
苦悶の叫びを何度もあげているのだがそれも外には聞こえない。カエル達が大声で鳴いているからだ。
視力どころか聴力さえも役に立たない環境でノナカが何も出来ずにいるのを見て、リサは安堵の表情を浮かべた。
一時期はどうなることかと思ったがこれでミッション遂行。 カエルの前に人は無力なのだ。
そう思っていたところでリサはある異変に気付く。 カエルの集まりの中からノナカの手が飛び出て、何か光るものを持ってるように見える。

(あの光はなに?………………う、嘘でしょ!?カエルさん達!今すぐそいつから離れて!!)

リサは急いで指笛を鳴らしノナカに集まるカエル群を散らした。 ゲコゲコ五月蝿い状況なので笛の音も普段の何倍も大きくなっている。
そしてカエルが命令を聞くより先にリサはノナカの元に走り、掌の金属で光体を思いっきりはたき落とす。
これはノナカが奥の手として用意していた爆竹。 音を司る忍者として「無音」で斬れる忍刀以外に「爆音」を発する爆竹も扱えるのである。
爆竹に殺傷能力は無いが、カエルのような小動物を焼き尽くす程度の威力は備えている。ノナカはこれでカエル群を吹っ飛ばそうと思ったのだ。
ところがリサ本人がカエルに代わって爆竹による破裂炸裂の直撃を浴びたので、想定外の大火傷を負わせることが出来た。

「熱い……」

思わぬ損害だったがリサはめげない。 焦げた指にガリッと噛みつき、さらなる指示を出す。 出し惜しみなしの最凶の形態になろうとしている。

「絶対絶対許さない! 今、私は猛毒を持つカエルさん達を身に纏ったの。斬撃でも爆撃でも当ててみなさい、体液があなたにかかってジ・エンドなんだからね!!
 それに、どうせ見えてないようだから教えてあげるけどあなたの足下にも同じ毒ガエルさん達がビッシリと敷き詰められてる……どういうことか分かるよねっ!?あなた、もうそこから一歩も動けないよ!」

リサ・ロードリソースの怒声にノナカはゾクッとした。 怒気にビビったワケじゃない。毒がもたらす危険なアディクションに肝を冷やしたのだ。
ノナカの聴覚は確かに周囲のカエルの呼吸を捉えている。 目を開けていないので色で判別出来ないが、以前城の前でエリポンとハルナンにも同じことをしたのだからハッタリではないのだろう。
だが違和感がある。 リサの説明はあまりにも懇切丁寧。くどいくらいに毒ガエルの存在を強調している。
ほっとけばノナカを毒で倒せるというのに何故わざわざ正直に話すのか?……ハッタリ以外の理由で何がある?

「あ、そういうことか……見えてきた……」

これまでのリサの行動からノナカは暗闇の中で全てを理解した。そして、勝利のための光明を見つけることが出来た。
まさに「頭の中にイメージさえ描ければ摑み取れそうさ」と言った感じだ。

「見えた?……目を閉じてるあなたに何が見えると言うの?……」
「"My Vision"」


アカネチンのいる平原、現在の天気は磁石の雨あられ。
マナカ・ビッグハッピーは更に多くのカラスを呼び寄せて、次々とモモコの電磁石を地上へと落としていっていた。
"眼"でマナカとカラス、そして石の動きを見抜いてるおかげでアカネチンはその殆どを避けていたが、
どうしても何個かの直撃は喰らってしまう。 背中は痛々しくも血が滲んでいる。
それでも、アカネチンは動きを止めなかった。 マナカからマリアがピンチと聞いたその時から一貫して奇妙な行動を取り続けている。

(あの子どうしちゃったの?……この絶望的な状況下でヘンになっちゃったのかな。)

マナカは計算が大の得意。そんなマナカでも敵の行為の真意を読み取ることは出来なかった。
アカネチンは腰を落として低い姿勢をとったかと思えば、愛用する印刀「若葉」の先で地面をガリガリと削り出したのだ。
そして何やら大地に文字でも描くように線を引き続けている。
でもそれは文字なんかじゃない。 大きな円を描いたかと思えば、その中にまた円を、そしてまた円を描いている。 意味がわからない。

「まるで大きな的ね。 中心に向かって石を投げれば良いのかな?」

何重にも重なる円の中心にアカネチンが来たタイミングで、マナカは超強力電磁石をぶん投げた。
球技は得意な方ではないがその時の投球はなかなか上手くいき、的のど真ん中にいるアカネチンの脳天にヒットする。
この時のマナカは心が踊った。 アカネチンが倒れるのを見て解放感さえ感じていた。
なかなかしぶとかったが結局ノーダメージで完全勝利。 これ以上ない結果と言って良いだろう。
そう、この時点までは。

「スッピンのあなたで、勝負できる?」
「え?……何か言った?」

事態は急転直下。 天空の支配者マナカは一気に地へと堕とされる。

822 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/12(木) 13:01:36
リサ・ロードリソースは嘘をついている。
その嘘とは猛毒のカエルを身に纏っていることか? いや、それは真実だ。
ノナカの攻撃がリサに引っ付く毒ガエルを潰せばそこら中に体液が飛び散ることだろう。
ではその毒ガエルが足の踏み場も無いくらいに敷き詰められているということが嘘なのか?
生憎ながらそれも真実。 赤やら黄やらの警戒色を示すドギツいカエルがそこら中にいる。
ノナカが今いる位置から一歩でも歩けば確実に潰してしまうに違いない。
では何が嘘だと言うのか……それがノナカには分かっていた。
超聴力でリサの心拍音を聞いたり呼吸の粗さを判別したりと、メンタリズム的な理由で気づいたのではない。
ノナカは自分の頭で考え、これまでの違和感を一つに繋いでみせたのである。

「あなたはどうして火傷を負うRiskを冒してまでわざわざ爆竹をハタきにいったの?
 まるでカエルを身を挺して守ったみたいに。」
「えっ?いったい何を言って……」
「あなたはどうして自分についてるカエルがPoisonを持つことを私に教えてくれたの?
 まるでカエルに攻撃してほしくないみたいに。」
「ちょ、ちょっと待って」
「あなたはどうしてカエルが絨毯みたいに敷かれていることを私に教えてくれたの?
 まるでカエルを踏みつぶしてほしくないみたいに。」
「……」

ノナカの質問責めに耐えきれなかったのか、リサはとうとう黙りこくってしまった。
ここまで来たらもう答えは決まったようなものだ。
要するに、リサには両生類を武器とする戦士として致命的とも言える欠点が存在していたのである。
鳥類を武器とするマナカのようには、また、魚類を武器とするチサキのようには、割り切ることが出来ていない。

「あなたはカエルを武器なんかしたくないんですね、だって、カエルをLove……愛しているから」
「……っ!」

図星だった。
これまでの違和感ある行動は全てカエルを傷付けたくないという思いから来ている。
武器を武器と思えない、両生類「カエルまんじゅう」に愛着を感じすぎている、それがリサ・ロードリソースの戦士としての弱点に他ならなかった。
となればノナカは勝利のVisionがすでに見えている。 目を瞑っていても明らかだ。

「今から言うことは脅しじゃありません……これからあなたに向かって忍刀を投げつけます。
 狙いはNeck……"首"です。一撃でかっ切ります。私の実力なら、まず、しくじらない。」
「……!!」
「もちろんあなたが毒ガエルのガードを解除しなければ毒液が飛び散ってノナカも無事じゃ済みません。
 ……でも、カエルがとっても大事なあなたはそうはしないでしょう?」
「馬鹿にして!!」

ノナカの挑発で頭に血が上ったリサは毒ガエルに更なる指示を出した。それは首の徹底ガードだ。
リサ・ロードリソースはこれでもカントリーガールズ、つまりモモコの愛弟子だ。勝利のためなら手段を選んではならない。
カエルが自分のために切り捨てられるのは断腸の思い……いや、それどころか半身を失うほどに苦しいが、
敵が首を狙うと分かっているのであれば他を疎かにしてでも毒ガエルを首に集結させることを躊躇わなかった。
そして毒液をノナカ・チェル・マキコマレルに飛ばして勝ち星を掴み取る……それが彼女の使命なのである。
だが、勝利するためにはリサ・ロードリソースはここで冷静にならなくてはならなかった。
ノナカがわざわざ「首を狙う」と宣言したことに対して違和感を覚えなくてはならなかったのだ。

「もう気を張らなくていいですよ、Relaxしてください。もう終わりましたから。」
「え?」

ノナカがそう言った時点で、リサは自分の腹から大量の血が流れていることに気づいた。
既に切られていたのだ。 音を司るノナカによって、無音で忍刀「勝抜」を投げつけられていたのである。
腹の傷はとても深く、失血による体力低下でリサはその場で膝をついてしまう。

「Sorry...私、嘘をついてました。 本当は首なんか狙ってません。」
「…………バカだ、私、本当にバカだ。」

リサが毒ガエルを首に移動させた結果としてお腹周りのガードが手薄になったことを、ノナカはカエルの呼吸音から判断していた。
だからノナカは刃で毒ガエルを潰すことなくリサを直接斬ることが出来たのである。
一点補足すると、ノナカがカエルをの居ない場所を斬った理由は毒液を受けたくない以外にもう一つある。
それはリサ・ロードリソースに対する慈悲。 彼女の思いを汲み取って、カエルへの被害が最小限になる勝ち筋を選んだのだ。
リサがカエルを犠牲にしてまで勝利するVisionを描けていなかったのに対して、
ノナカは殺す道と生かす道の両方のVisionを光なき闇の中でしっかりと思い描けていた。

ノナカとリサの勝負はノナカが勝利した。
勝因は、勝利のVisionを描く力の強さ。

823名無し募集中。。。:2017/10/12(木) 16:15:56
ヤバい鳥肌たった…ノナカ格好良すぎる!

824名無し募集中。。。:2017/10/12(木) 19:25:53
完勝やん
ぐうの音も出ないほどの

825名無し募集中。。。:2017/10/12(木) 21:17:45
なんかスゲー

ハロプロネタ使ってるし面白い

826 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/13(金) 13:37:10
マリアがマイに対して挑戦状を叩きつけたが、それを受け入れる理由がどこに有るのか。
不意打ちを貰ったとは言え負傷度合いで言えば圧倒的にマリアが傷ついている。わざわざ土俵に乗っかる事なんて有り得ない。
普通に考えればそうなのだが、

「いいよ、受けてあげる。」

マイはあっさりとマリアの条件を飲んでしまった。これがマイなのだ。
もちろん彼女はこの性分を厄介だとは思っていない。

「有難うございまりあ。ペコりんこ。」
「感謝なんかいいよ、勝つのはマイだから。」

マイ・セロリサラサ・オゼキングという少女の出自は定かではないが、才能があり、それでいて良きコーチングを受けてきたことはマリアも気づいていた。
だが自分だって名コーチに遅くまで特訓に付き合ってもらったのだ。
その時の成果を活かすために、大きく振りかぶってからナイフを投げつけた。
対するマイはマリア・ハムス・アルトイネのナイフを打ち返すべく、このタイミングで美脚シークレットブーツを動かした。
そしてブーツをすぐに脱いだかと思えば、その一足を両手で持ち始めたのである。
それはまるで打者が持つバットのよう。マイはこれが一番飛ばしやすい打ち方であると気づいたのだろう。
後は最初にやってみせたようにナイフにブーツをぶつけるだけだ。

(なんか変だぞ?……)

身構えたマイだったが、ナイフがなかなかやって来ない。非常にスローに感じる。
さっきは「心臓を狙う」とまで言っていたのに、こんなヘナチョコを放るなんておかしい。
とは言えマイがやる事に変わりはない。
ここで完膚なきまでにぶっ飛ばせばマリアを意気消沈させることが出来る、そう思っていた。
ところが、打ちごろのナイフがマイの近くに来たところで突如ホップする。

(えっ!?……まずい!)

野球のルールを知らずにマリアの上をいっていた天才が、ここにきて初めて精彩を欠いた。
急激な変化に対応できず、マイはナイフに対してタイミングを合わせられなかった。要するに、空振ったのだ。
その投げナイフは何にも邪魔されることなく胸に突き刺さる。

「嘘だ……マイが打てないなんて」

痛みよりも真剣勝負に敗北したという現実の方がマイには堪えたようだ。
全身の力が抜けて、もう立てない程の悔しさを感じている。
しかしこの勝負には不可解な点が多い。 傍から見ていたロッカーは何が起きたのか全然わかっていなかった。

「なんだ?……普通の投球に見えたけど、なんで打てなかったんだ?……」
「あれは現代の魔球、"ツーシームジャイロ"!!」
「ドグラどうした?急に大声出しちゃって。」
「ジャイロボールの一種で、球に螺旋の回転を加えることで通常とは異なる投球を実現してるんだよ。
 なんでも、打者からはスローなボールに見えて、しかも終盤で浮き上がるから打ちにくいとか……
 それにしてもジャイロは習得難度が高く、今の球界にも使い手は少なかったはず……マリアは誰にこの投法を!?」
「マリアが凄いのは分かった。」

幼き頃から英才教育を受けてけたマイが打てなかった理由、それはマリアの魔球が新しい技術だった点にあった。
もちろんマイの父は新旧問わず優れた技術を戦闘に関連付けて教えてはいたのだが、
数年前からマイはモモコの下についたので、それ以降解明した技術はどうしても教えられなかったのだ。
もっともマリアはそんな背景事情なんて知らなかっただろう。
キッカという感謝してもし尽くせない存在に教わった投げ方で勝ちたい。 ただその一心で投げていたのだ。

「なぁドグラ……マリアも、そして他の同世代の戦士たちもなかなか驚かせてくれると思わない?」
「そうだね。タイサがあんなに主張してた理由が今ならよく分かるよ。」
「だからさ、俺は思うんだ! マリア達ならきっと俺たちを"普通の人間"に戻してくれるんじゃないかって!!」
「……」
「なんだよアヤパン、なんか言えよ。」
「……今は"ドグラ"だよ。たぶん、この先もずっと。」

場外の出来事も知らず、マリアはマイの近くに駆け寄った。胸に突き刺ささったナイフの手当てをしようと思ったのだ。
しかし、マイはそれを拒否する。

「辞めてよ、そんな優しさは要らない。さっさと仲間のとこにいきな。マイは動けないんだからチャンスでしょ。」
「でも! 」
「どうしても情けをかけたいって言うんだったら……一ヶ月後、再戦して。 それがマイの1番の願い。」
「えっ?」
「モモち先輩にお願いして一ヶ月だけパパに修行つけてもらうんだよ!そしたらマイはもう君になんか負けない!絶対に打つ! だから、もう一回だけ戦ってよ!!」
「うん、うん、分かった、何回でもやろうよ。マリアももっともっと強くなるよ!」

マリアとマイの勝負はマリアが勝利した。
勝因は、ほんのちょっぴりだけ先を行っていた野球の技術。

827 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/14(土) 14:32:03
ハーチンは周囲を見渡した。 氷は割れはしたが水面にまだいくつか残っている。
これを利用しない手はないと考えたハーチンは華麗にジャンプし、よりチサキに近い氷に飛び移った。
この行動に戸惑ったのはチサキだ。 水中から脱出された時点で予想外だと言うのに、そこから逃げずに更に迫ってくるなんて恐怖でしかない。

(あの人をもう一度水の中に落とさないと……)

チサキは両手を合わせて水鉄砲を作った。 手の中の水を圧縮することで水流を外に飛ばそうとしているのだ。
ただしチサキの水鉄砲はそんじょそこらの子供の遊びとはレベルが違う。
赤面により高温になった自身の汗を混ぜ込んだ熱湯を、非常に高い水圧で噴出させていく。

(熱っ!!いや、痛っ!!)

チサキのお湯鉄砲は見事にハーチンの脚に命中した。その結果、ジャンプの勢いを失ってすぐ下の水に落ちてしまう。
落下した先には丁度チサキがいた。 水中でにらめっこする形になっている。

(良かった、ちゃんと落ちてくれた。 後はこのまま底まで沈めれば終わるんだ……)

泳ぎの得意なチサキは息だって普通の人より長く続く。 息止め勝負ならハーチンに完全勝利できるだろう。
さっきは魚をスピンで振り切られてしまったので、今回はチサキ自らハーチンの腕を掴みにかかった。
ところがここでハーチンが予想外の行動を取り始める。なんとチサキに抱きつきだしたのである。

(ペアの相手を付き合ってくれや!!)
(え?え?なに!?なんなの!?)

スケートにはソロだけでなく2人で魅せる競技も存在する。ハーチンはチサキを抱きかかえたまま、さっき自分がやったようにスピン&ジャンプで水上へと脱出する。
そして着地先である硬い氷面にチサキの背中を強く叩きつけた。

「ぎゃあ!……痛い……苦しい……水の中に入らなきゃ……」
「逃すと思うか!アホがっ!!」

慌てて退散しようとするチサキの背中に向かって、ハーチンは鋭い蹴りを繰り出した。
スケート靴のブレードがチサキの背の肉をぱっくりと切り裂き、多量の血液を噴出させる。

「ああああああああっっっ!!!」
「甘ったれんなや!まだ終わらんからなっ!!」

いたいけな少女が顔を真っ赤にして泣き喚いてる姿を見たら大抵の人は攻め手を緩めるだろう。
だがハーチンはそうしない。好機を逃すまいと更に二発、三発、四発の蹴りを入れていく。
ここまでされたらチサキも黙っていない。周りに水もないと言うのに水鉄砲で高圧の水流を飛ばし、脂肪の少ないハーチンの横っ腹を抉り取ったのだ。

「あああ!もう!あっち行ってよ!!来ないでよ!!」

チサキが飛ばしたもの、それは自身の血液。
高温の汗よりもグツグツに煮えたぎっている血を手中に集めてハーチンに噴射したのである。
水鉄砲を撃つための血なら十分大量に流している。ハーチンが近づく限り、チサキはこれを何回も発射することだろう。
しかしそれでもハーチンはひるまなかった。ガンガン接近し、ブレードでチサキの胸を蹴りつける。

「なんなの!!どうしてこっちに来るの!!」
「ウチが帝国剣士やからに決まっとるやろがい!ここで逃げて帰ったら先輩たちにどう顔向けしろ言うんや!!」
「はぁ!?さっきから剣なんて持ってないじゃない!」
「スケート靴がウチの剣や!剣の形をしてるかどうかは大したことやあらへん!大事なのは誇りや!剣士として戦うことさえ出来てれば立派な剣士や!」
「ええ?……剣士ってなんなの……?」

この時点では2人はもう限界に近かった。
チサキは何か所も斬られて血を流しすぎているし、ハーチンだって酸素不十分のまま戦っているとこに血鉄砲を受けすぎている。
この状態で水に入ってももう何にもならないのかもしれないが、チサキは這ったままの姿勢でなんとか水場に到達し、小指だけ入れることが出来た。
しかしそれもそこまで。 阻止するためにやってきたハーチンに首を掴まれてしまう。

「あぁっ……」

チサキの願いは叶わず、自身のフィールドである水中に入ることはできなかった。だが、小指の一本だけは水面に触れている。
その時に発生した水の波紋は、チサキの思いを水中にいる魚たちに超音波のような形で伝えてくれる。
そして、その時のチサキの思いは「どんな形でもいい、勝てるなら剣士として戦ってもいい、だから勝ちたい!」というものだった。
主人のその強い思いに応えるために1匹の魚が勢いよく外に飛び出し、
ハーチンの胸を鋭いヒレで一閃、斬り裂いた。

「は?……え?……」

チサキのためにハーチンを斬った魚の名は"太刀魚"。 この魚の見た目と鋭利さはまさに刀剣のそれと言っても良い。
満身創痍のところに鋭い斬撃を受けたハーチンはたまらず倒れてしまう。

「どういうこと?……私、勝ったの?……」

ハーチンとチサキの勝負はチサキが勝利した。
勝因は、水中に潜む刃を引き出した彼女の可能性。

828名無し募集中。。。:2017/10/14(土) 17:17:14
おぉ!ここにきて番外編3の伏線回収とは!まさかの太刀魚wちなみに太刀魚じゃ切れないけど…

ノコギリエイ・ノコギリザメ・ノコギリダイとまだまだ『剣』になりそうな魚いるしね

829 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/15(日) 13:51:50
そうですね、確かにタチウオじゃ切れないですよね。
勢いで書いたので容赦してくださいw

今日は続きを書けないかもなので、久々のオマケ更新です。


オマケ更新 アカネチンvsマナカ

マナカ「さぁカラスさんたち!いつもみたいにあの子を空に連れてってあげて!」
マナカ「そして地面に容赦なく落とすの。 この必勝パターンで今日も勝利よ!」
カラスA「いやぁ……ちょっと厳しいっス。」
カラスB「言っちゃ悪いですけどあの女の子の体重は……」
マナカ「そうなの……じゃあ他の戦法を考えるね。」

アカネチン「?」

830名無し募集中。。。:2017/10/15(日) 18:03:48
チサキの力で太刀魚が堅く鋭なったって事にしよう

カラスなかなかひどい事をw

逆にハーチンは >脂肪の少ないハーチンの横っ腹を抉り取ったのだ。でウェイトアップする事になるのか…w

831 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/16(月) 13:07:34
マナカからマリアが劣勢との情報を聞いたとき、アカネチンは耐え難い恐怖心に襲われていた。
たまにワケの分からないことを言う奇人ではあるが、マリアの実力は本物だと強く信じている。ハーチン、ノナカともども頼れる同期だ。
そんな同期が追い詰められたと聞いて、もう自分を助けてくれる人は居ないのではないかと恐怖したのである。
このまま弱気なままだったらアカネチンは順当に敗北したことだろう。 ところが、帝国剣士としての誇りを持つ彼女はそうしなかった。
両頬をパン!と叩いて気合いを入れ直し、同期がピンチなら自分が助けねばと心を入れ替えたのだ。
そしてアカネチンは自分が恐怖したことから戦いに勝利するためのヒントを得た。 恐怖しない動物は存在しない。そこに解決策がある。
大抵の動物は自分より強い動物に恐怖する。 しかしアカネチンは強者とは言えない。 ではどうすれば良いのか?
ならば「強い動物に見せかければ良い」、アカネチンはそう結論付けた。
そこからのアカネチンの行動は早かった。 印刀で地面をガリガリと削り、巨大な円が何重にも重なっている絵を描いたのである。
そしてここからが最後の仕上げ。言わば画竜点睛。 その円の中心に自ら飛び込み、マナカによる天からの投石を誘導したのだ。
マナカの磁石がちゃんと自分に吸い寄せられるように、アカネチンはこっそりと地上に落ちてた磁石を拾い上げて頭の上に置いていた。
遠い空にいるマナカの視点からは、自分の投げた石がまっすぐにアカネチンの方に落ちて、見事頭部に衝突したように見えたことだろう。
こうしてアカネチンは何層も重なった円のど真ん中で気絶したフリして横たわることが出来た。
この絵を見た途端、カラス達はパニックを起こす。 アカネチンが書道で鍛えた表現力のおかげでそのイメージがカラスの脳内に直接入り込んだのである。
全てのカラスが思い思いにそこから逃げようとしたものだから、空中のマナカはコントロールが取れなくなる。

「ちょ!ちょっと!みんないったいどうしたっていうの!? あの絵がなんだって言うのよ…………あっ!!!」

ここでマナカはその絵が何なのかようやく気づくことが出来た。
それは「眼」の絵。
巨大なバケモノの大きい瞳が地上から自分たちを睨んでいるように見えたのである。
農家の人々が鳥よけのためにハデな色をした目玉のマークを設置することを聞いたことが無いだろうか。 アカネチンはそれを数段大掛かりにしたものを作り上げたのである。
こうなればカラスはもう言うことを聞かない。 武道館のてっぺんほどの高さにいたマナカはもう空に留まることが出来ず、無惨にも地に堕とされてしまう。

「嫌ぁぁあ!!!」

グシャッと言う音が鳴った。何かが潰れた音だ。 その光景を見たくなかったアカネチンは必死で眼をそらす。
あの高さから落ちたのだから勿論無事では済まないだろう。 アカネチンは同期達を助けるために、既に別の方向を向いていた。

「みんな待っててね、今すぐ行くから。」

アカネチンとマナカの勝負はアカネチンが勝利した。
勝因は、同期愛の強さ。

.
..
...........

と、決めつけるのはまだ早かった。

ガン!!という打撃音とともにアカネチンの頭に激痛が走る。

「え!?え??」
「待ちなさいよ……勝負は終わってないんだから。」

彼女は鳥使いで終わる人間ではなかった。
そう、彼女自身が鳥なのだ。
空から落とされても、あちこちの骨が折れようとも、血反吐を吐いたとしても、
"不死鳥"マナカは使命を果たすまで何度でも蘇る。

「勝つのは私!!ここで終わりなんて絶対に認めない!!!」

マナカは磁石でアカネチンを何度も何度も殴った。アカネチンが動かなくなるまで殴った。
そして勝利を確信するや否や、糸が切れたように眠りだす。

訂正する。
アカネチンとマナカの勝負はマナカが勝利した。
勝因は、もはや愛とも呼べる、生への執着の強さ。

832名無し募集中。。。:2017/10/16(月) 15:02:08
殺人やん…

833名無し募集中。。。:2017/10/16(月) 20:46:35
マナカの狂気に震えた…

834 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/18(水) 12:53:04
ハーチンとの一戦を終えたチサキは1人歩いていた。
勝利したとは言っても大怪我人なので満足に歩けるはずがないのだが、
自分たちの師であるモモコと交わした2つの約束を守るためにチサキは足を止めなかった。
その約束とは「どんな事があっても暗器を返しに来ること」、そして「どんな事があっても帰還してくること」の二点だ。
昨日、暗器をレンタルしたときに、なんらかの理由で別れて戦う際のルールとして定めていたのである。
どんな事があっても……それはつまり、大怪我を負ったとしても帰ってこなくてはならない事を意味している。
更には敗北したとしても、動けない状態にあったとしても、このツグナガ憲法を破ることは決して許されない。
この約束にどんな意味があるのかは正直言って分からなかったが、必ず守らなくてはならない。
だからチサキは怪我をおして他のみんなの所にゆっくりながらも進もうとしている。

(みんな……無事、だよね?)

チサキは心配していた。
カントリーの仲間が負けることはないと固く信じているのだが、
自分が相手したハーチンは想像していたよりずっとずっと強かった。
それと同等の力を持つと推測できる新人剣士とガチンコでやり合ったら、負けないにしても動けない状態には追いやられてるかもしれないと思ったのである。
そんなチサキが、リサが得意とするフィールドである木陰地帯にたどり着いた。
その時の反応は言うまでもなく絶句。
リサ・ロードリソースが大量の血を流して目を閉じている様を見て、チサキはひどく動揺してしまう。

(嘘……リサちゃん負けたの?……敵は!?敵はどこに……!!)

辺りを見回したがそこには誰もいない。いるのは何百何千ものカエルばかり。
その敵がリサを倒してさっさと他の場所へ向かったというのは想像に難くなかった。
これでチサキは気づく。 カントリーガールズは自分以外全敗の可能性があることを理解したのだ。
(※実際はマナカが勝利しているが、今のチサキはそれを知り得ない。)
となればこれからチサキは他の仲間のいる場所にも訪ねて、モモコとの約束を果たすためにレンタル暗器と仲間を全て運ばなくてはならない。
チサキの借りた風壁発生器、マイの借りた美脚シークレットブーツ、リサの借りたビンタ強化金属はなんとか持っていく事が出来るかもしれないが、
マナカの借りた超強力電磁石や、リサ、マナカ、マイらはチサキが1人で運ぶのは骨が折れる。
どうすれば良いのか狼狽したところで、カエル達がリサに集まり始めた。
そしてなんと、彼らの力を集結させてリサをひょいと持ち上げたのである。

「えっ?……助けてくれるの?」

普段はリサの指示しか聞かないカエル達が協力してくれるというのだからチサキは驚いた。
実はこれもリサの指示。
リサ・ロードリソースが気を失う間際、チサキが考えたのと同様にカントリー全滅の可能性に気付き、瞬時にカエルに命令を出していたのである。
その内容は「自分たちに被害が及ばないレベルでマナカ、マイ、チサキを助ける」というもの。
運搬を手伝う程度であれば命令の範疇内だ。

「ありがとう、それじゃあ次はマイちゃんのところに行こうか。 マイちゃんは強いから、もう敵を倒しちゃってるかもしれないけど。」

835名無し募集中。。。:2017/10/18(水) 13:13:57
モモコの指示にいったいどんな理由が・・・

836場面の順番を当初の予定から変えました。 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/19(木) 13:36:08
●場面1 : 武道館東口 「チームダンス部 vs ...」

キュートの最年少マイマイの助けもあってダンス部らは壁を破る事が出来た。
これでやっと裏口を通れるようになった。 要するに、奇襲を仕掛ける事が可能になったのだ。
後はマーサー王とサユのいる場所に直行して救い出せば良いだけなのだが、
そうは問屋が卸さなかった。

「みんな伏せて!!」

チームダンス部が武道館の内部に一歩足を踏み入れるかと言ったところで突如ナカサキが叫び出す。
そしてその直後に膨大なエネルギーを持つ打撃が彼女らに襲いかかってきた。
その不意打ちになんとか対応できたのはキュート2名。
ナカサキは二本の曲刀で、マイマイは斧で攻撃を受け止めたが、非常に苦い顔をしている。 あまりの衝撃に受け止めた手を痺らせたのだろう。

「そんな……通れると思ったのに……」

カリンの目の前、武道館の内側にはよく見知った人物が立っていた。
その人は化け物集団ベリーズの中では身体が小さく、オーラだって天変地異を巻き起こしたりしない。
なんせ"無"なのだ。当然だろう。
そんな人畜無害な見た目をする敵に対してサヤシ、アユミン、サユキ、カリンは恐怖した。
もちろんこれは恥などではない。 ベリーズを束ねるキャプテン、シミハムを前に無傷で済む者など存在しないのだから。
そんなシミハムに対してナカサキが声をかける。

「ちょっと驚いたけど、ここでシミハムが登場することはなんとなく予想してたよ。 一撃目を受け止めたのがその証拠。」
「……」
「そしてシミハムの対策は若い子たちにもレクチャー済み……この勝負、楽に勝てるとか思わないでね。」
「……!」
「マイマイ、準備はいい?」
「チェケラー!」

マイマイの珍妙な合図とともに、サヤシとカリンがシミハムに飛びかかった。それも左右から挟み撃ちするかのようにやってきたのだ。
だがこの程度を捌くなんてシミハムにとっては朝飯前。 得意の三節棍を右に飛ばしてカリンを跳ね除けたかと思えば、その勢いで反対側のサヤシまでも吹っ飛ばしてしまう。
こうして実力差を見せつけることで若手を怯ませようとしたシミハムだったが、思惑通りにはならなかった。
サヤシとカリンが飛ばされたのと同じタイミングでアユミンとサユキも立ち向かってきたのである。
もちろんシミハムはこれにも対応する。 新手だってたったの二発殴れば引っ込める事ができる。
ところが若手たちは諦めなかった。
アユミンとサユキがやられたらサヤシとカリンが復帰し、またサヤシとカリンがやられたらアユミンとサユキが戻ってくる……という流れを延々と続けて行く。
更にそのローテーションにナカサキとマイマイも加わるものだからシミハムには休む暇が無くなってしまった。
ここでシミハムは相手の狙いに気づく。

「どう?シミハム、こうも連続で相手されると存在感を消す暇がなくなるでしょ」

ナカサキの言う通り、誰かに触れ続けている間はシミハムは自分の存在を無にすることは出来なかった。
となれば最も有効な戦法である不意打ちを使う事が出来ない。
このままだとガチンコ勝負を強いられ続けてしまうのである。
この無限ループを可能にしているのはダンス部らの激しい運動量だ。 疲労にも負けず、絶対に勝つと言う意思をもって食らいついている。
もちろんシミハムだってそう簡単に負けるつもりはないが、キュート2名を含んだメンバーを相手し続けるのは流石に骨が折れる。
既にシミハムは汗だく。 このまま継続すればジリ貧と言ったとこだろう。
これには多くのメンバーが手応えを掴んだ。歓喜した。
しかし、サヤシはなんとも言えぬ違和感を覚えていた。

(シミハムはいつも2人以上のチームで勝負を仕掛けてきたと聞いちょった……
 時にはミヤビを、時にはクマイチャンを無にすることで有利に振る舞ってたはずなんじゃ。
 今回はどうして1人だけなんじゃろか……いや、それともまさか)

その時、シミハムの攻撃を受けていなかったはずのアユミンが吹っ飛ばされた。
しかも何やら様子がおかしい。 胸に空いた小さな穴から血液を流しているようだが、シミハムの棍ではこのような外傷にはならないはず。
そしてなにより、アユミンがひどく苦しみもがいている。 まるで呼吸困難になったかのような苦しみ方だ。
それを見てナカサキとマイマイは攻撃の正体にやっと気づいた。
シミハムもニヤッと口元を緩ませ、これをチャンスだと思い、今まで"無"にしていた者を解放する。

(え?……ここは海の中?)

自分たちは武道館の入り口にいたはずなのに、アユミンには周囲一帯が海の奥底に見えていた。
それもそうだろう。
何故なら、ここは人魚姫(マーメイド)の支配する領域なのだから。

837名無し募集中。。。:2017/10/19(木) 13:57:42
これはリシャコ…だから順番を変えたのか
こんなにも早く結婚するとは思わなかった

838 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/20(金) 13:00:35
アンジュ王国では王のアヤチョと裏番長マロが談話していた。
話題は今現在、武道館で行われている戦いについてだ。

「ねぇカノンちゃん、タケとムロタンとマホちゃんはもう武道館についたかな?」
「時間的にそろそろってとこじゃない? まぁ、あのマイマイ様がついてるんだから迷って遅刻ってことはないでしょ。」
「あの人ね、急に来たからアヤびっくりしちゃった。」
「私もよ。 ま、タケ達は進軍できなかったことを悔やんでるようだったから丁度良かったね。渡りに船ってやつ。
 国防に関しては舎弟2人がいれば十分だし、アンジュ王国的には全然問題ない。」
「ウチから7人も送り込んだんだから、ハルナン褒めてくれないかなー。」
「どうかしらね。あの子たちが成果でも出せば感謝してくれるんじゃない?」
「成果出すでしょ。 アヤよりずっとずっと弱いけど番長はみんな強いよ。」
「うーん、相手がベリーズ様だからなぁ〜……特に宇宙一強いクマイチャン様と当たったりしたら全滅しちゃいそう。」
「あははは、宇宙一はないよ。カノンちゃん馬鹿だね。」
「ムッ……前から言いたかったんだけどさ、アヤチョはベリーズ様をナメすぎじゃない?もうちょっと敬意ってものを……」
「ナメてなんかないよ。ナメられるわけがない。」
「ん?……」
「何年か前にね、アヤが山奥の滝で修行したことがあったんだ。 その時のアヤは精神が研ぎ澄まされて本当に無敵って感じだった。
 万能感、全能感に包まれて、どこの誰でも良いからとっちめてやりたい気持ちになったの。」
「物騒な……で、そこでアヤチョはベリーズのどなたに負けたの?」
「えっ!カノンちゃん凄い! アヤまだ何も言ってないのにどうして分かったの?」
「いいから続けて。」
「うん、山を降りたら凄い強そうな人がいたから決闘を申し込んだの。背後から不意打ちを喰らわせたんだ。」
「それは決闘を申し込んだとは言わない。まぁいいや、続けて。」
「そしたらね、次の瞬間アヤは溺れちゃった。」
「……うん。」
「ベリーズ戦士団のリシャコ、あの人には絶対に勝てないって思った。 ほら見て、思い出すだけで指が震えるの。」
「でしょうね。」
「たぶんあの人は今のベリーズの中で最強だと思う。 そうじゃないとあの強さは説明できない。」
「ふふん。」
「なんでカノンちゃんが得意げなの。」
「だって、リロは私の親友だから。」
「はぁ〜?」

839 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/24(火) 13:09:35
アユミンには自分が本当に海の奥底にいるかのように思えていた。
リシャコの見せる"深海"のビジョンのせいだけでそう錯覚しているワケではない。
胸を槍で一突きされたその時から、全くと言っていいほど酸素を体内に取り込めていないのである。
口を大きく開けて息を吸おうとも、必死でもがこうとも、どんどん意識が朦朧としてくる。
もはや限界だと思った時、マイマイが走ってきてアユミンに強烈なボディーブローを叩き込んだ。
これは決して裏切り行為ではない。 アユミンを救助するためにこうしたのだ。
この一撃で横隔膜がググッと上がって、肺の内部に含まれる異物を口から吐き出させることに成功する。
その異物とは"血液"だ。 ほんの数滴の血をアユミンは吐き出していく。

「ゲホッ……ゲホッ……」
「手荒でごめん。この方法しかなかった。」

アユミンがなぜ苦しんだのか、一同はすぐに理解した。
彼女らは事前にキュートから、ベリーズ最後の一人であるリシャコの特殊技能について教わっていたのだ。
異国の美女を彷彿とさせる顔立ちのリシャコは三叉槍の名手であり、ふくよかな体型の割にはベリーズで一番の瞬足だとも言われている。
そして他の食卓の騎士同様に殺気も凄まじく、深海のオーラを放つことが出来る。
だが、彼女の真に恐ろしい点はそんなことではない。 特筆すべきは"眼"だ。
アカネチンやアイリのように常人とは異なる世界がリシャコの眼の前には広がっているのである。

「私には分かるんだ。 君を溺れさせる一点が。」

歴戦の経験から、人体のどこを傷つければ肺の内部に血液を送り込むことが出来るのかリシャコには見えている。
人間は簡単に溺死する動物であり、肺の中にほんの数CCの水を入れるだけでもがき苦しむという。
人体は気管に水が入った時点で咳き込むように出来ているので、そうそう肺の中に水が入り込むことは無いのだが、
リシャコは槍で肉体に穴を開け、直接血液を注入することで無条件に溺れさせることが出来るのである。
アユミンが苦しんだ理由も同じ。 リシャコはほんのちょびっとの傷をつけるだけで人を死に追いやれるのだ。
そして、リシャコの怖い点はもう1つある。

「ナカサキ、マイマイ、さっきから全然攻めてこないけど……私を放っといていいの?」
「「……」」

ナカサキとマイマイに闘志が無いはずがない。今はただただ攻めあぐねている。
リシャコには「暴暴暴暴暴(あばばばば)」と呼ばれる超反応のカウンター技術が備わっており、
敵から攻撃を受けた際には100%必ずその方向に対して鋭い槍撃を返すことが出来る。
その一瞬だけ我を失って意識が飛んでしまうのが難点ではあるが、現在のリシャコはその空白期間を0.1秒まで短縮している。
このカウンターは不意打ちにも有効であり、かつてアンジュ王国のアヤチョ王でさえも一撃でねじ伏せたと言う。

840名無し募集中。。。:2017/10/24(火) 23:37:52
『あばばばば』が無意識のカウンターって強過ぎw
叶うことならアイリとリシャコのマーメイド対決も見てみたかったな…

841名無し募集中。。。:2017/10/25(水) 11:32:39
我を忘れてあばばるリシャコに不意打ちなんかしてよくアヤチョ王は生きていられたなと思ったが
その頃にはもう制御できるようになっていたんだね

842 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/27(金) 13:06:25
あれから長い年月が経ちましたので、サユのマリコ同様にリシャコも色々と制御できるようになった感じですね。
リシャコとアイリの対決があるのかどうかは言えませんが、少なくともお互い本調子での戦いは無さそうです。

ちょっと忙しい時期に入っちゃったので、次回の更新は来週月曜ごろになりそうです……

843名無し募集中。。。:2017/10/27(金) 23:34:08
本調子の戦いは見れないのか…そういやアイリは今も雨が降ると強くなるんだろうか?

週明け楽しみにしてます

844 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/30(月) 13:07:43
ナカサキとマイマイに手が残されていないという訳ではなかった。
リシャコはカウンターこそ鋭いが、通常の攻撃は反応出来ないほどではない。
なので防戦を意識して戦えば隙を見出すことが可能なのだ。
しかし、チームダンス部にはそんな悠長に構えている暇はなかった。 この状況を速攻で切り抜けてマーサー王とサユを救い出さねばならない。
その思いが焦りを生んだのか、サヤシとサユキ、そしてカリンの3人が同時にリシャコに飛びかかっていく。

「ちょっ!何やってるの!!」

ナカサキが声を掛けようとも3人は止まらなかった。
ハタからは無策に見えるが彼女らにも考えがある。リシャコの無敵の特性の裏をかく起死回生の一手を見出したのだ。
サヤシ、サユキ、カリンは単体では食卓の騎士には敵わないものの、一流の戦士であることには疑いようがない事実。
すぐに対応を考えて、咄嗟のアイコンタクトで意識を合わせるくらいは難なくやってのけた。
そして、寸分違わぬ程の完全に一致したタイミングでリシャコに殴りかかることだって彼女らには可能なのだ。

(ウチら3人で同時に攻撃を仕掛ける!)
(こうすれば誰にカウンターを当てれば良いのか分からなくなるでしょ!)
(もしもカウンター出来たとしても貰うのは一人だけ……残り二人からの攻撃は避けられない!)

波状攻撃ではなく、全くの同時攻撃。これこそがリシャコを喰らう最善の策だと考えていた。
だが、それはあまりにもリシャコを甘く見すぎている。

「ふぅ……無駄だと思うよ。」

そう言葉を残した直後、リシャコは修羅へと変貌を遂げる。
リシャコの獲物は長い槍。 その槍による突きだしでまずは右側から来るサヤシの胸に穴を開けた。
その次は背後から迫るカリン目掛けてノンストップで二度の突きを放った。
最後は上空。 一瞬にして槍を引き寄せて上から落ちて来るサユキの肺にも血液を送り込む。
対処にかかった時間はそれぞれ0.1秒。合計して0.3秒。
同時に攻撃を仕掛ける案自体は悪くない。しかし、それを有効打に変えるには条件がある。
3人程度ではなく100人がかりで攻めること。 あるいは、槍撃を10発はもらっても無事でいられる者が攻めること。
そのどちらかを満たせない限りはリシャコの時間をほんの数秒も奪うことは出来ないだろう。

「だから言ったでしょ、無駄だって。」

845 ◆V9ncA8v9YI:2017/10/31(火) 13:24:48
(くっ……このまま溺れるワケには……)

サユキは両手の鉄製ヌンチャクをグッと強く握り、味方であるはずのカリンとサヤシの腹に先端部を強くぶつけた。
先ほどマイマイがアユミンにやったように、二人の肺から血液を排出させようとしているのだ。
深海の苦しみの中で力を入れるのは一苦労だったが、サユキはそれを見事にやってのけた。

「ケホッ……ケホッ……」
「ありがとう、サユキ……」

二人を助けたらお次は自分だ。 カリンに当てたヌンチャクをぐるりと回すように引き戻すことで遠心力を働かせ、
必要最小限の労力で自分の腹に強烈な一撃をぶつけていく。

(うっ!!……分かってたけだやっぱりキツい……)

鳩尾にヘビー級のボクサーがパンチするようなものだから苦しく無いはずがなかった。
だが、溺れて気を失うよりはずっとマシ。 これで3人はまだ戦える。
サユキはリシャコに向けてビシッと指差して、挑発するように言い放つ。

「確かに恐ろしいカウンターだけど、致命傷には程遠いよね……これくらい、全然対処できちゃうよ?」
「うん、そうだと思う。」
「!?」

リシャコが素の顔のまま簡単に返したので、サユキは逆に心を乱されてしまった。
アイデンティティとも言えるカウンターに耐えたと言うのに、何故にこうも落ち着いているのだろうか?
ワケがわからなくて頭の中が混乱しているところに、ナカサキが強めの声を発した。

「あなた達、もう自分からリシャコに仕掛けるのはやめな!……カウンターはもう貰っちゃダメ。 時間はかかるけど向こうから攻めてくるのを待つの。それならまだ防げるから!!」

ナカサキは一撃必殺でもなんでもないリシャコのカウンターをひどく警戒していた。
例えマーサー王とサユを救い出す時間が延びようとも、安全策を選ぼうとしているようだ。
しかし、それが本当に安全策と言えるのかは疑問だった。

「ねぇナカサキ、私の普通の攻撃なら防げるって言った?」
「そうよ。驕りなんかじゃない。これまで何百回も手合わせしてるんだから実力くらい知れている!!」
「うん、そうだね。 食卓の騎士の訓練ではタイマンでの真剣勝負をよくやったね。
 でも……今はちょっとちがうんじゃないかな?」
「えっ?」

次の瞬間、周囲に響き渡るような轟音と共にナカサキの脚が破壊された。
今までリシャコに注力していたあまり、忘れてはいけない存在を忘れてしまっていたのだ。
その名はシミハム。
目一杯力を込めた三節棍をぶつけることでナカサキの機動力を根こそぎ奪ったのである。

「シミハム!!!!よくも……」

この時、一同の視線はシミハムへと注がれた。
つまり、リシャコから目を離してしまっている。
ここでシミハムがちょいと"無"が包み込む範囲を変えてやれば誰もがリシャコの存在を忘れることになる。
結果、リシャコはなんの苦労もすることなくナカサキの胸に槍を突き刺すことに成功する事が出来た。

「……!!」
「ほら、普通の攻撃も防げない。」

846名無し募集中。。。:2017/10/31(火) 14:13:24
シミハム&リシャコのコンビえげつないほど強いな…今のところ好機が見いだせない

847 ◆V9ncA8v9YI:2017/11/02(木) 13:10:27
「くっ……ぐぐぐぐ……」

ナカサキは確変の応用で体内の器官を無理矢理にでも動かしていった。
肺と気管をポンプのように圧縮させて微量の血液を喉へと送り込む。これでひとまず溺死は免れた。

「そんな事も出来るんだね。人間じゃないみたい。」
(リシャコ……私から見たらあなたの方がよっぽど怪物なんだけど!)

しかし安心したのも束の間。 すぐにまた大きな音が鳴ったのでナカサキはついそちらを見てしまう。
そこではリシャコと入れ替わるように存在感を消していたシミハムが、マイマイの腹に打撃を食らわしていた。
さっき自身を無で包んでからそれほど時間が経っていないため三節棍に力を込められておらず、
マイマイが負うダメージもそれほどではないのだが、
シミハムの攻撃の目的はどちらかと言えば視線を自分に向けることにあった。
ナカサキもそれに気づくがもう遅い。

(しまった!!このままだとまた忘れてしまう……忘れちゃう…………何を、忘れるんだっけ?)

もうチームダンス部の頭の中にリシャコは存在しない。その情報は完全に欠落している。
彼女らには強敵シミハムが前に立ちはだかっているようにしか思えていなかった。
その強敵を打倒するために、サユキが声を上げる。

「さっきみたいに圧倒的な運動量で制圧しましょう!シミハムが消える隙を与えないために!」

サヤシ、アユミン、サユキ、カリンは急いでシミハムに立ち向かおうとした。
しかし、身体が満足に動かない。 非常に息苦しくて脚が重いのだ。
なぜ自分たちはこのような状況にあるのか?
そのことを、たった今現れたリシャコがアユミンの胸を一突きしたことで理解する。

「リシャコ!!」
「そうか……私たちが動けないのって……」

満足に動けない理由、それはリシャコに溺れされかけたからに他ならない。
よく考えてみてほしい。海水浴で溺れかけた後に全力疾走できる人がいるだろうか?いないだろう。
サヤシも、アユミンも、サユキも、カリンも一度リシャコに胸を刺されている。
血液を排出できたから問題が無いと思ったら大間違い。 生還したとしてもまともに動けなくなってしまうのだ。
普通は救助された後は数分間は安静にしないといけないはず。
では、短期間に二回も溺れさせられたアユミンはどうなるのだろうか?

「ーーーッッッ!? ーーーーーーーッッッッ!!!!」

アユミンは地面にうずくまり、先ほど以上に苦しみもがいていた。
地獄の苦しみであることはもはや説明するまでも無いだろう。 リシャコの繊細な一撃は人をこうも苦しめるのである。

「可哀想……このままだと本当に溺れ死んじゃうよ。
 でもね、私は女の子が苦しむ姿を見たいわけじゃないんだ。
 もう安心していいよ。 ウチの団長がお腹を叩いて血を吐き出させてくれるみたい。」

リシャコがそう言うと同時に、"無"から三節棍が高速で飛び出してくる。
直線的に放たれたそれはアユミンの胴体を強く押し出し、遥か後方まで吹き飛ばす。

「アユミン!!!」

サヤシが叫んだ時にはもう遅かった。
飛ばされたアユミンは今いる二階から地面へと突き落とされてしまう。

848名無し募集中。。。:2017/11/02(木) 23:30:18
シミハムって黒子みたいだね


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板