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(゚、゚トソンムジナのようですミセ*゚ー゚)リ

1名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 00:45:12 ID:FUwnuIG.0

   ―― ― ―― ― ―――

 恐らく私は。狂ってしまったのだ。
 穴ぐらから飛び出て。
 あの夜に浴びた。青い青い月の光で。

 透き通るあの光はきっと。私の皮膚を。肉を。骨を透過して。
 私の正しい脳みそをあまりに穏やかに殺してしまったのだ

 だから私は。私では無い。
 私の肌と。体毛と。脂肪と。筋肉と。骨と。内臓を持った。
 同じ形をしただけの。

 私ではない。誰かだ。

 斜視のこの目に。乱視のこの目に。
 映るこの景色は。当然に狂っていて。
 焦点は左に3cmずれている。見上げた三日月は6重に見える。

 正すメガネは無いのだと。気づいたのは一昨日だったか。

 寄り添う肌の冷たさは。狂った脳を覚ますことをしてくれず。
 私の心臓の熱ばかりを奪って。私を殺してゆく。枯らせて行く。

 唇に優しさが欲しかったのはきっと。
 今宵の月も青かったからなのだ。

   ―― ― ―― ― ――

102名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:17:44 ID:jHk0pOPc0

「良いことを教えてやろう」

 銃声。
 這いずって逃げようとした膝の関節を撃ち抜く。
 潰れた悲鳴が上がる。
 血刑を使う余裕は無い様だ。
 そもそも使えないという可能性もあるが、今となっては関係ない。

「私と流石くんはもみ合って喧嘩するほど仲が良くない」

 銃声に合わせて血飛沫が二つ上がる。
 腰骨を砕いた。これで歩くことはおろか振り向くことすらできないだろう。
 まだ、殺さない。此奴には聞きたいことがある。

「さて。お遊びに付き合った分、きっちり話をしてもらおうか」

「痛え、痛えよお」

「流石君どうする。話にならんぞ」

「素直さんは撃ち過ぎなんです」

 俺は腰の後ろに差した杭を抜く。
 これを吸血鬼殺しに使うことはほとんどないが、便利ではある。
 拷問というのは、使われる道具が原始的であるほど、口が回りやすくなるものだ。

103名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:21:05 ID:jHk0pOPc0

「そろそろ黙れ」

 先端を、背中に押し当てる。
 心臓の裏。骨を抜けて一突きに出来る場所だ。

「痛がるふりをして心臓を再生する時間を稼ごうとしても無駄だ。
 それ以上続ければ、杭で完全に心臓を破壊する」

 腰はともかく、心臓の傷は粗方回復が済んでいるはずだ。
 なかなか悪知恵が働くようではあるが、残念ながら誤魔化されるほど愚かで居てはやれない。

「地雷女はどこにいる」

 男は呻きこそあげなくなったが、代りに黙り込んでしまった。
 望まぬ兆候だ。此奴は頑なに秘密を守ろうとしているのではない。
 本当は自分が何も知らないことを悟られたくないがために黙っている。
 愚かだ。全く持って反吐が出る。
 仕方ないので、肉の中に杭の先を潜り込ませた。

「言え。地雷女の居場所を知っていると話しを持ちかけてきたのは貴様だ」

「あ、う」

 潜り込んだ先端を、90度捩じる。
 血が細く吹き出す。
 吸血鬼はまた悲鳴をあげた。

104名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:26:28 ID:jHk0pOPc0

「ゆ、許してくれ。本当は」

「碌なことを知らないんだろう」

 クールがため息を吐く。
 銃を持ってはいるが撃つ気は無い様子。
 気だるさの見える顔と立ち姿で、吸血鬼に目を向けている。

「俺たちが本当にお前の罠にかかったと思ったのか。その幸せな脳みそを少し分けてくれ」

 刃で肉をくり抜くように、杭を回転させる。
 鳴き声混じりの呻き。半不死とはいえ、この傷は痛かろう。

「地雷女を餌に釣りを仕掛けたということは、貴様らの中でも我々が地雷を狙っていることが伝わっているということだ。
 ならば、何かあるだろう。貴様らだからこそ耳にする情報が。
 お前のような、名を上げたいがために力量差も測れぬまま勝負を挑む莫迦であっても、噂くらいは聞くはずだ」

「言ったら、助けてくれるのか」

「有益な情報であれば考慮はされる」

 吸血鬼は少々悩んだのち、首だけでクールを睨みつけた。
 滑稽だ。余りに情けないので、ついつい脳天に銃弾を数発撃ちこむところだった。
 対するクールは一切揺らぎの無い顔で吸血鬼を見つめ返す。
 目では無い。穴だ。あの奥にあるのは視神経脳でなく、光の届かないしじまの闇だ。

105名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:28:57 ID:jHk0pOPc0

「地雷女は、この街に現れてから、吸血鬼を探していたんだ。たしか、『乙鳥ロミス』とかいう」

 クールの視線。
 俺は杭を左手に持ち替え右手で捜査用の携帯端末を取りだす。
 専用のページを立ち上げ、検索フォームに聞いた名前を入力する。
 結果はすぐに出た。
 該当者は一人。聞いた通りのまま『乙鳥ロミス』。

「ロミスは、俺らにも得体の知れねえ気味の悪い奴だったんだが、地雷女はあいつを殺したがっていた」

 ロミスの情報にアクセス。
 身体的な特徴等、いくつかの情報があるが、あまりに少ない。
 脅威度は最低レベルだ。
 データ上はよく名前が記録されていたものだと驚くほどの小者である。
 
「ロミスという吸血鬼は、実在したみたいですね」

「した、というと」

「二か月ほど前に、死体が上がっています。状況を鑑みるに、同族殺しですね」

 惨殺、というにふさわしい状況だ。
 文面から想像するだけで人間が殺したものでないと分かる。
 一部の杭持ちを除いて、銃や兵器を使わずに吸血鬼を殺せる人間など存在しない。

106名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:31:49 ID:jHk0pOPc0

「となると、地雷女は目的を既に果たしたと」

「此奴の言葉を信じるなら、そうなります」

「しかし、まだ奴はこの街にいる。他にも目的があるということか」

 地雷女は拠点を作らぬ根なし草。
 今まで居ついた街も、俺たちに存在を知られるとすぐに姿を消していた。
 それが、この草咲の街にはかれこれ三か月ほど滞在している。
 『乙鳥ロミス』という吸血鬼を殺すことが目的だったのならば、既に出て行っていてもおかしくはない。
 俺たちに存在を察知され、居所を探られながらも離れられない理由があるということか。
 
「そもそも、本当なのだろうな。その話は」

「本当だ。この状況で身内でもねえあのビッチを庇う理由がねえ」

「流石くん。どう思う」

「嘘では無いかと思いますが。参考程度に信じるならば問題はないでしょう」

 男の言葉に偽りの気配は無い。恐らくは真実なのだろう。
 問題は此奴にとっての真実が、事実と異なっている可能性があるということだが、大きな問題でも無い。
 少し調べれば裏は取れるだろう。

「他に地雷女に関わる情報はあるか」

「俺は、知らねえ。ロミスのことだけだ」

107名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:35:26 ID:jHk0pOPc0

「調べてみる必要はありそうですね。まだ目的があるなら、そこをついて漁夫の利を狙える」

「やれやれ、この間の帽子の女もそうだし、調べることばかりが増えていくな」

 わざとらしいため息。
 相変わらず感情は見て取れない。
 そもそも俺に全て押し付けるつもりなので、むしろ無感情なのが自然ともいえる。

「流石くんは、流石だからな。調べ物は君を頼りにしているよ」

 表情を読まれたのか、クールが口の端を上げた。
 この女に任せていると、言葉を聞き出す前にj情報源の相手を永眠させかねないのは事実だが、やはり腑に落ちない。
 俺もどちらかと言えば前に立つ側の人間である。
 捜査仕事も苦手では無いが、何も考えずに銃を握っている方が楽だ。
 クールと組んでからは、引金を引くよりも書類に印鑑を押すことの方が増えた。
 しかも、問題の事後処理の類がほとんどだ。
 今までこの女とコンビを組んだ杭持ちが軒並み薄毛に悩まされているのは、恐らく偶然では無い。

「他に地雷女について知っていることは本当に無いのか」

「それだけだ。あとは、あんたらの仲間があの女に殺されたせいで、警戒が厳しくなったとか、そんな」

「予想以上に実りが無かったな」

「だから言ったでしょう。どうせ役には立ちませんって」

 この男からの嘘の情報提供があった際、俺は確かに反対した。
 罠であることは明白で、態々掛かってやるほどの利益も見込めない。
 しかし、それを押し切りクールはここに来た。
 僅かな可能性にかけたなどというものでは無い。
 ただ単に、挑んできた吸血鬼を返り討ちにせずにいられなかっただけだ。

108名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:41:22 ID:jHk0pOPc0

「さて帰ろう流石くん。残業代は二時間分しか出ないからな」

「わかりました。エミナさんには俺から連絡しておきます」

「流石だな、流石くん」

 杭を引き抜き、立ち上がる。
 同時にクールが引金を引いた。
 銃声は四つ。吹き出した血しぶきも同様。
 傷みから解放されると安心を見せた吸血鬼の顔が、絶望に歪んだ。
 極僅かな時間ではあったが理解したのだろう。
 自分は殺された、と。

「帰りは俺が運転しますよ」

「そうか、悪いね」

 処理班の咲名プギャーが大きな体と、念仏のような愚痴を引っ提げて現れたのは約10分後。
 適当に彼を言い負かし、死体を回収するのを見送って、俺たちは車に乗り込んだ。
 車自体はクールの私物だ。
 しかし、俺は誓ったのだ。ここに来るとき、帰りは俺が運転すると。
 自分の命は自分で守らねばならないと。

 車が走り出す。スムーズな走りだ。シートも深く乗り心地がいい。
 なぜ、この車があれ程に恐怖を生み出せるのか、俺には理解できない。

109名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:43:16 ID:jHk0pOPc0

「なんだ、随分と大人しく走るが、故障が治ったのか」

「ええ、一番致命的な故障が今は助手席に移りましたからね」

「それはどういう意味かな」

「そのままです」

 やや不満げな顔を見せたクールを無視し、車を走らせる。
 やるべき仕事は多い。
 地雷女と共にいた、帽子の女の調査。乙鳥ロミス死亡に関しての裏取り。
 そのほか、地雷女が狙っている吸血鬼の有無などなど。
 もちろん地雷女にだけ構っていられる身分でもないため、他にも加算される。
 家に帰ってゆっくり寝る、というのはしばらく先になるだろう。

「流石くん、帰ったら訓練場に付き合いたまえ。思いのほか張り合いが無かったからいまいち撃ち足りん」

「素直さん、戻り次第調べ物をすると、言っておきましたよね」

「そうだった。なら私一人で行ってくるか」

 ワザと路面の荒れたところにタイヤを落とす。
 車体が跳ねクールが窓に頭をぶつけた。
 痛がっている。愉快だ。

「もっと気を付けて運転したまえ」

 生返事を返し、アクセルを踏み込む。
 俺の目は少し先の、捲れたアスファルトを見ている。

110名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:45:11 ID:jHk0pOPc0

 終り。


 三行

 なんか
 ロミス
 しんでた

111名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 01:11:07 ID:WG4Nep1k0


112名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 01:52:45 ID:QX.pJ6.g0


113名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 06:58:56 ID:J9YZ3A56O

このコンビ好きだなー

114名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 06:59:59 ID:J9YZ3A56O

このコンビ好きだなー

115名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 07:52:32 ID:is1D/whk0
名無しの吸血鬼マジカワイソス(´・ω・)

116名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 23:47:14 ID:jHk0pOPc0

        Place: 草咲市 南梨町 字 節穴前 15-9 メゾンフシアナ 205号室
    ○
        Cast:都村トソン 都村ミセリ
     
   ──────────────────────────────────

117名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 23:51:07 ID:jHk0pOPc0

 (‐、‐トソン 「……」
l⌒l⌒l

ミセ*゚ ,゚)リ 「……

 (‐、‐トソン 「……」
l⌒l⌒l

ミセ*゚ ,゚)リ 「……トソンチャーン。トソンチャーン」

(゚、‐トソン 「……なんですか」

ミセ*゚ ,゚)リ 「ミセリさんとってもお暇なお姉さん」

(゚、゚トソン 「散歩でも行って来たらどうです」

ミセ*゚Д゚)リ 「もぉー。杭持ちに見つかるから出るなって言ったのトソンじゃん!」

(゚、゚トソン 「無精しないでちゃんと変装すればいいんです」

ミセ*゚ ,゚)リ 「サングラスじゃだめ?」

(゚、゚トソン 「この前それでばれたでしょう」

ミセ*゚ ,゚)リ 「むー」

118名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 23:53:17 ID:jHk0pOPc0

(゚、゚トソン 「ってゆうか、吸血鬼らしく昼間は棺桶にでも入って眠っていてくださいよ」

ミセ*゚ ,゚)リ 「トソンに合わせて夜寝てるから眠くないんだよ〜」

(゚、゚トソン 「……そもそも日光の下に出て大丈夫なんですか。今日日差し強いですよ」

ミセ*゚ ,゚)リ 「日焼け止め塗って厚着して帽子かぶってサングラスすれば大丈夫」

(゚、゚トソン 「100%目立つからやめてください」

ミセ*´Д`)リ 「ひぃーまぁー!遊んでよー!」

 ミセリに抱き着かれ、ため息を一つ。
 私は読んでいた文庫をテーブルに置いて、彼女の頭を撫でた。
 犬か猫の感覚に近い。しかもちょっと馬鹿な類の。

(゚、゚トソン 「遊ぶって、何するんです」

ミセ*゚ー゚)リ 「せっかくトソン早く帰ってきたんだからさ、どっか行こうよ」

(゚、゚トソン 「一分前の話を忘れたんですか」

ミセ*゚ ,゚)リ 「杭持ちに見つかったってちゃんと処分すれば大丈夫だって」

(゚、゚トソン 「それがいけないといってるんです」

119名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 23:54:28 ID:jHk0pOPc0

 最近、杭持ちの活動が活発だ。
 理由はとても単純で、ミセリを見つけ出して殺すため。
 
 杭持ちは、何も吸血鬼であればすぐに探して殺すというわけでは無いらしい。
 彼ら独自の「脅威度」を設定し、把握している吸血鬼に優先順をつけているのだそうだ。
 人間にとって危険な存在を予め排除し、それを見せしめとして吸血鬼たちの動向を抑制する。
 狙いは刑法と同じだ。罰を与えることで、罪そのものを犯させないないようにする。

 ミセリは、この優先度の中で、かなりの上位に入っている。
 私は彼女の過去を知らない。だからなぜ彼女が執拗に狙われるのか分からない。
 知りたいと思う反面、ミセリが隠そうとしている仄暗い部分に踏み込むようで、今まで聞くことが出来ずにいる。
 ただ、私と出会ってからも何度か杭持ちを返り討ちにしているため、濡れ衣でないことは確かなのだろう。

(゚、゚トソン 「あちらも躍起なんですから、もう少し慎重になってください」

ミセ*゚ ,゚)リ 「……」

(゚、゚トソン 「本当に追い込まれたら、この街、出ていかなきゃいけなくなっちゃうんでしょう」

ミセ*゚ ,゚)リ

ミセ*゚ー゚)リ 「え?トソンちゃん今めちゃくちゃかわいいこと言った?私と離れたくない的なニュアンスを込めた?」

(゚、゚トソン 「言ってませんし込めてません」

120名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 23:55:41 ID:jHk0pOPc0

ミセ*゚ー゚)リ 「でもさ、実際私がこの街出るって言ったら、トソンどうするー?」

(゚、゚トソン

ミセ*゚ー゚)リ 「私は別に、別にこだわりは無いんだけどさ、トソンとも離れたくないんだよね」

(゚、゚トソン 「私は、大学、ありますし」

ミセ*゚ー゚)リ 「……へへ」

(゚、゚トソン 「なんですか」

ミセ*゚ー゚)リ 「そんな本気で拗ねるなよ。仮の話なんだから」

(゚、゚トソン 「別に。ミセリが居なくなったら実家に戻らなきゃならないから、それが嫌なだけです」

ミセ*゚ー゚)リ 「へぇー〜」

 ミセリの意地の悪いにやけ面に腹が立ったので、無視して本を手に取る。
 久々に趣味で買ったものだ。古本だけれど状態が良く、今のところは内容も気に入っている。
 座布団に座り直し、ベッドに背を凭れて、しおりを挟んだページをめくる。

ミセ*゚ ,゚)リ 「トソン、膝かして」

(゚、゚トソン 「なんですか」

ミセ*゚ ,゚)リ 「トソンが連れないから、寝る」

121名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 23:58:12 ID:jHk0pOPc0

(゚、゚トソン 「ベッドに行けばいいじゃないですか」

ミセ*゚ ,゚)リ 「嫌がらせだし」

 強引に頭をねじ込まれ、仕方なく懐を開けた。
 伸ばした太腿に頭を乗せ、お腹に腹を埋めて眠る。
 冷たい。カーテンを閉め切った部屋は、さほど暑くは無いのだけれど、それでも心地いい。
 文庫を片手で持ち、ミセリの頭を撫でる。
 少し癖のかかった、柔らかな髪。長毛の猫のようだ。
 するすると指を抜けて行く感触が心地よい。

(゚、゚トソン 「……」

 ミセリがこの街に来た理由は、ぼんやりとではあるが聞いたことがある。
 そして私と出会ったのはその目的を果たした後であることも知っている。
 だけれど、この街に未だ残る理由を聞いてはいない。
 それが、私なのだろうか。

 正直なところ、私はミセリにとって都合のいい人間でしかないのだろう。
 食糧であり、玩具であり。
 あれば便利だが、命を賭して守るほどの存在では無いとそう自分では思っている。

 だから時々、狂おしいほど不安になる。
 あっさりと壊れるこの日常を、ふと思い浮かべてしまったりする。
 ミセリの冗談めいた言葉は、私に安心を与えるものには足りえないから。

122名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 00:00:21 ID:bl7l.k5Q0

 私とミセリは友人だ。
 だけれど、それ以前に人間と吸血鬼。
 食物と捕食者だ。

 この関係は絶対に覆らない。
 血と住処の交換でギブ&テイクの対等な関係に見せかけているけれど本質は変わらず。
 あくまでミセリの、捕食者側の厚意で成り立っているだけの張りぼてだ。
 奥の方に隠すことはできても、真実というのは必ず居座り続ける。

 この街にミセリが残る理由が本当に私だとして。
 あの十字架を掲げる集団の、鋭く光る杭が、彼女の命に届きそうになった時。
 ミセリはこの街を出てゆくのだろうか。
 私は彼女について行くのだろうか。

(゚、゚トソン

ミセ*  , )リ

 私たちの間には、それほど強い絆があるのだろうか。
 敏感で弱く、それ故に心地よい場所に触れた彼女の指に、私は確かに甘えているのだけれど。
 それは絡ませあった舌が引いた唾液の糸のように、瞬く間に堕落する、脆弱な関係なのでないのだろうか。

 考えても分からない。望む答えに繋がる道が見つからない。
 だから、慎重にしなければいけない。
 答え合わせの時間が来ないように気をつければ、私たちは正誤不明の優しい答えを、ただただ大切にしていられる。

123名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 00:03:06 ID:bl7l.k5Q0

ミセ*゚ ,゚)リ 「なあ、トソン」

(゚、゚トソン 「なんですか」

ミセ*゚ ,゚)リ 「車でさ、美布まで行けば大丈夫だよね?」

(゚、゚トソン 「まあ、この街よりは警戒はされて無いかもしれませんが」

ミセ*゚ ,゚)リ 「それなら、良い?」

(゚、゚トソン 「……だって、ミセリ車苦手じゃないですか」

ミセ*゚ー゚)リ 「ちょっとくらいなら平気だし」

(゚、゚トソン 「もう夕方だし、着くのも遅くなりますよ」

ミセ*゚ー゚)リ 「明日日曜日じゃん?ついでに向こうでホテルにでも泊まってさ」

(゚、゚トソン 「……」

ミセ*゚ー゚)リ 「いつもとは少し違う場所で!」

(゚、゚トソン 「結局そこに回帰するんですね」

ミセ*゚ー゚)リ 「吸血鬼っつーのは単純なんだよ、結構ね」

124名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 00:04:40 ID:bl7l.k5Q0

(゚、゚トソン 「変装します?」

ミセ*゚ー゚)リ 「するする!」

(゚、゚トソン 「まあ、車なら、杭持ちの警戒もそれほどひどくは無いでしょうし」

ミセ*゚ー゚)リ 「うんうん」

(゚、゚トソン 「その代り、車がばれたらアウトなんですからね」

ミセ*゚ー゚)リ 「うん。気を付ける」

(゚、゚トソン 「そこまで行きたいんですね」

ミセ*゚Д゚)リ 「行きたいっすよ!このままじゃ私キノコ生えちゃう!」

(゚、゚トソン 「わかりました。私も、そろそろ帽子の替えを買いたかったので」

ミセ*゚ー゚)リ 「やった!すぐいこ!」

(゚、゚トソン 「せめて着替えくらいは準備しましょう。あと、酔い止め」

ミセ*゚ー゚)リ 「おっけー」

 ミセリが勢いよく起き上がる。
 さっきまでの湿気たやる気の無さは既に無く、今は遊ぶことを心底楽しみにしているようだ。
 確かに、単純。
 こうなると、吸血鬼が羨ましくもある。

125名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 00:05:36 ID:bl7l.k5Q0

(゚、゚トソン 「言っておきますけど、騒がないでくださいね」

ミセ*゚ー゚)リ 「ダイジョブだって心配性」

(゚、゚トソン 「あなたが雑すぎるんですよ」

 私が実家からかっさらってきた軽自動車に小さくまとめた荷物を積んだ。
 ミセリは助手席。吸血鬼に効くのかは分からないが、少し多めに酔い止めを飲ませておく。
 上機嫌にステレオを弄っているが、走り出せばすぐ気分を悪くするだろう。

(゚、゚トソン 「吐くときは外にしてくださいね」

ミセ*゚ー゚)リ 「今日は一滴も飲ませてもらってないので平気ですけど?」

(゚、゚トソン 「ホテルに入る前に、ドライアイス買いましょうか」

ミセ*゚ー゚)リ 「いいの?」

(゚、゚トソン 「まあ、お預けしてましたし。せっかくの遠出ですから特別です」

ミセ*゚ー゚)リ 「なんだよトソン、気前良すぎて気持ち悪いぜ」

 目一杯上機嫌にさせたミセリを乗せて、美布を目指して発進する。
 ミセリが一発目の嘔吐をダッシュボードに解放したのは、その6分後のことだった。

126名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 00:06:22 ID:bl7l.k5Q0

 終り


 三行

 みせり
 きのこ
 はえそう

127名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 00:21:53 ID:gb0jk8EY0


128名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 00:21:55 ID:.DFN5gSU0


129名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 00:31:23 ID:oUiXo42AO

乗り物に弱すぎわろた

130名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 09:43:52 ID:thMYih2s0
キマセンデシタ

131名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 13:49:53 ID:7xhashpA0
おつ
雰囲気がすごい好きだミセリかわいい

132名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 15:24:31 ID:bl7l.k5Q0

        Place: 美布市 仁方町 州井団 字 久木 77-35 下世話なホテルの一室
    ○
        Cast: 都村トソン 都村ミセリ
     
   ──────────────────────────────────
                                              ※閲覧注意

133名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 15:26:26 ID:bl7l.k5Q0

ミセ*゚ー゚)リ 「痛かったら我慢するなよ」

 ミセリが、私の手を取る。
 差し出された手の甲に舌を伸ばし、薄く唾液を塗り付ける。
 麻酔が沁みていく輪郭の無い輪郭の無い冷たさ。
 背筋が痺れ、体の奥に火が点る。

 ベッドサイドに置かれた箱にミセリが手を伸ばす。
 指に摘まんだのは、保冷剤として売られている、ドライアイスの欠片。
 滾々と白い霧が生み出され、ベッドに落ちて広がってゆく。

 ミセリはそれを、優しく私の手の甲に押し付けた。
 水の、揮発する音。急激に凍らされた皮膚の悲鳴。
 鋭い痛みだ。痺れるようで、突き刺さるようで。
 ミセリの唾液の効力を超えて私の感覚を浸食する。

 丸を描くように、ドライアイスが皮膚の上を滑る。
 跡は白く凍り、健全な色を失う。
 ミセリは丹念に、じっくりと私の手の甲を焼き、そこに十円玉ほどの凍傷を作った。

ミセ*゚ー゚)リ 「大丈夫だった?」

(゚、゚トソン 「まあ、なんとか」

134名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 15:27:44 ID:bl7l.k5Q0

 ドライアイスを床に捨て、ミセリが私の頬に触れる。
 冷たいが、労わる優しさを感じる。
 私たちは顔を寄せ唇を合わせた。
 少し開いた私の口を置き去りに、ミセリの唇は私の目元を摘まむ。

 自然に、体が触れあった。
 素肌が擦れる、むず痒くもどかしい感覚。
 ミセリの吐息が耳元を抜けた時、私の薄く空いた口から、無意識の声が漏れた。

 耳をくすぐったミセリの舌は、顎の輪郭に沿って、少しずつ下へ。
 首筋を唇で噛み、時々弱く吸われる。
 痛みとまでは呼べない、小さな刺激。
 自分の息が、僅かずつ早くなるのを感じる。

 鎖骨を啄まれ、横に撫でられた。
 柔らかい感触が、くすぐったいの一つ向こうの感覚を帯び始める。
 腕が背後に回され、そっと抱き倒される。枕に背を着く。
 脇を降り、ミセリの舌が脇腹に達した。

 思わず、自分の指を噛む。
 ミセリは舌を伸ばしたまま、上目で私の顔を見る。
 目線から逃れるため、そして体が反応するままに、私は体を逸らせる。
 執拗に、腹部が攻めたてられた。
 体を抱いていた手が浮き、指を立てて背筋を上る。

 指を噛むのを忘れ、息が声に変わった。
 前と後ろ、舌と指先の二つの刺激。
 体の芯に着いた火が、意識に燃え移って、ジリジリと脳幹にまで熱を伝える。
 舐められた体の彼処が、疼くようにもどかしいのは、吸血鬼の唾液のせいだけでは無い。

135名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 15:28:55 ID:bl7l.k5Q0

 臍からまっすぐ上へ。
 ミセリも興奮しているのがわかる。
 肌を吸う回数が増えている。
 舌が、胸の谷間を舐め上げた。手は背中から帰り、付け根を滑って太腿へ。

 声を、我慢するのが煩わしくなる。
 ミセリの頭を抱いた。
 ふわりとした髪の毛の一本一本が、肌に心地よい。

 思わず、ミセリの頭を強く抱き、髪に顔を埋めた。
 吐き出した喘ぎが、熱になってはね返る。
 谷間を粘つくように嬲っていたミセリが、突然胸に噛みついたんだ。
 先端に唾液を絡めつけるように、まどろっこしく捏ね回される。

 ジンジンと、痺れる。
 太ももを弄っていた手が、中心に触れた。
 濡れている。自覚はある。
 周囲を、体毛を、撫でられているだけで、独りでに腰が浮き上がった。

(、 トソン 「ミセリ」

 ミセリが、乳房から顔を離す。
 出伸ばしたままの舌先から、唾液が糸を引いた。

 言葉が続かない。
 口が半端に開いて、漏れ出す呼気は、あまりに湿っている。

136名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 15:29:50 ID:bl7l.k5Q0

ミセ* ー )リ 「ふふ」

 普段は少年のようですらある、ミセリの、艶やかな笑み。
 卑怯だ。目から脳に駆け上がった衝撃が、すぐに快感であると分かった。
 右手は性器に触れたまま、左手が私の顔に添えられる。

 顔が近づく。胸が高鳴った。
 抵抗なんてしない。
 意識するまでなく口が開いて、舌が歯の裏から這い出る。

 絡み合った。
 唾液が混ざる。
 口蓋や頭蓋骨なんて存在していないようだ。
 ミセリの舌の柔らかさが、冷たさが、火照りを射抜いて、脳に突き刺さる。
 私の正しい意識が死んでゆく。

 体の底から噴き上げた息がミセリの口の中に。
 唾液が泡立つ。体から、一切の力が奪われてゆく。
 ミセリの指が、秘部の芽に触れた。
 彼女も、堪えきれなくなっている。

 嬲りつける指先は、それまでの優しさを忘れ始めて。
 虐めるかのように、上下に、左右に捏ねる、つまむ。
 電流だ。痺れる。悶える。耐えられず目を閉じる。
 瞼の裏は、激しいスパークの白。

137名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 15:30:34 ID:bl7l.k5Q0

 体を支える布団ですら、邪魔だ。
 ミセリの体以外が全て不要なものに思える。
 抱きしめていた腕をほどき、私もミセリへ手を伸ばす。

 中指が触れただけで生ぬるい愛液が指を伝う。
 そのまま、奥へ。
 ミセリの体が震え、一瞬動きを止めた。

 唇が離れる。
 ミセリは上気した顔で、私を見下ろす。
 綺麗だ。魅入られている自覚がある。

ミセ* ー )リ 「随分、ノリノリじゃん」

(、 トソン 「あなただって」

ミセ* ー)リ 「トソンに、乗せられちゃったかな」

(、 トソン 「もっと、乗せてあげます」

 私は、凍傷になった手の甲を差し出す。
 ぷっくりと膨れ、水が溜まっている。
 頃合いだ。ミセリの舌がずるりと横に、唇を舐めた。

 大きく開けた口で、幹部を包み込んだ。
 水を絞り出すように口を窄ませ、歯で噛みきる。
 皮膚と真皮の間に溜まった体液がミセリに吸い取られてゆく。
 ミセリの目が細くなった。血よりも、美味しそうに飲む。

138名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 15:31:15 ID:bl7l.k5Q0

 最後の一滴まで吸い出して、ミセリは身を震わせた。
 起こした体をよがらせて、その味を喜ぶ。
 跨いでいる私の足に、冷たいものがポタポタと落ちた。

ミセ* ー)リ 「ホント、トソンの水は、媚薬みたいだ」

(、 トソン 「あなたの唾液には負けます」

ミセ* ー)リ 「もう、止まんないぜ」

(、 トソン 「それは」

 「私も」と続けようとしたが出来なかった。
 ミセリの指が秘部に触れ、器用に撫で回す。
 背骨をどうしていいかわからない。ただただくねらせて、快感の波に耐える。

 手が離れた。ほんの少しの休憩。
 足がぐいと開かれた。力が入らない。抵抗する気も起きない。
 ミセリの口が、私から直接、愛液を啜りとった。
 痺れる。ぼやける。火花が飛び散って、意識がバラバラになってしまう。

 舌が私の中に潜り込んできた。
 冷たいのに、熱い。唾液が中に沁み込んで、ますます頭が明晰を失ってゆく。

 激しい。むしゃぶられる。
 私はもう、息とか、喘ぎというより、叫んでいたかもしれない。
 全身から注がれた吸血鬼の唾液は、淀みなく私を狂わせる。

139名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 15:32:27 ID:bl7l.k5Q0

 太ももで、ミセリの頭を挟む。
 止まらない。体が、ミセリと一体化して別の生き物になったようだ。
 悶える。背を何度も、ベッドに打つ。
 自分の唾液が、頬を伝って落ちるのを拭うことすらできない。

 壊れる。飛び散る汗が、私の歯車だ。
 ミセリにバリバリと貪られて、私は壊れている。
 体の奥に沁み込んでゆく唾液の冷たい感覚は、私の境界を奪っていく。
 湧き上がってくる。奥の奥から、水とも電流ともいえない、何かが。

(、 トソン 「……ッぅ!」

 目の前が、白い炭酸に飲み込まれてゆくよう。
 音も光も匂いもどこかへ飛んでいく。
 その一瞬だけ、私の体は確かにこの世界から消えていた。

ミセ* ー)リ 「……トソン、可愛い」

(、 トソン 「…………」

 呼吸を荒げるしかできない。
 憎まれ口を叩いて、その甘い声を突っぱねたいのに、できない。
 体に沁み込んで、ジンジンと痺れに変わる。

ミセ*  , )リ 「ね、トソン」

 ミセリが私の手を、自分の秘部へ誘う。
 先ほどよりも濡れている。私を一方的に攻めたてていただけなのに。

140名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 15:33:23 ID:bl7l.k5Q0

ミセ*  , )リ 「は……、ぁっ」

 潜り込む、私の指。
 躊躇いに反して、難もなく肉を掻き分ける。
 弾力のある、反発。力を込めてさらに押し返すと、ミセリの口から愛らしい声が漏れた。
 指を蠢かせる。すぐにふやけてしまいそうだ。
 ふるふると腰を震わせるミセリの姿が愛おしい。

(、 トソン 「ミセリ、キス」

 手に乗り、腰を振っていたミセリが、倒れ込む。
 唇が重なる。歯が少しぶつかった。
 痛いけれど、気にしない。
 指の腹で、ミセリの内側を擦りあげる。
 口移しで、嬌声が頭に響いた。
 
 振動に溺れて死んでしまいそうだ。ミセリを掻きまわすのとは逆の手で、自分に触れた。
 好きなように弄り回す。そこにミセリの手が重なる。
 私の指が開いて、ミセリの指が内を舐る。
 ミセリの中は私の指を咥えて、蕩けさせて、私たちは比喩でなく一つになっていく。

ミセ*  , )リ 「あたしの、言葉なんて、嘘くさいかもしんないけどさ」

(、 トソン

ミセ*  , )リ 「私は、あんたおいてどっかに行ったりしないよ」

141名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 15:35:06 ID:bl7l.k5Q0

 離れ言葉を吐いたミセリの唇を追って、再び舌を吸う。
 中に潜らせる指を、三本に増やした。
 少し乱暴に、捩じって、広げて、引っ掻いて、突く。
 ミセリの声も、大きい。
 それが愛しい。

 夢中になって、互いの体を奪い合った。
 すべてが入れ替わって混ざり合ってしまうよう。
 不安すらも形を変えて、つなぎとめる糸に代えるよう。

 どれくらい経ったか。私は二度目の、ミセリは一度目の臨界を迎えて、ベッドに倒れ込んだ。
 言葉が出ない。考えられない。頭の中で水分が湯だって弾けて煩わしい。
 互いの6℃も違う体温を感じながら、互いの体に縋りついて、息を調える。

ミセ;* ー゚)リ 「……へへ、やっぱ、たまには、違うとこでやるとさ、燃えるね」

( 、゚トソン 「雰囲気とか、考えて、そういうこと言ってく」

 ミセリが、私を黙らせるために口を寄せる。
 手が乳房を弄る。
 私も彼女を受け入れて、背筋を撫でる。

 心地よい。性的な部分でもそうでない部分でも。
 この日常が。せめてこの夜が、永遠に明けなければいいのにと、思ってしまう。
 無理だと分かっているから、求めてしまう。

 そうして、閉め切った窓の隙間が日光を溢し始めた頃、
 私とミセリは、長く短い夜を終えて多幸の疲労と共に眠りに就いた。

142名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 15:36:04 ID:bl7l.k5Q0

 終り。


 三行。

 とかく
 悩み
 躊躇った

143名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 18:26:34 ID:ObGzntUc0
激しく乙
今回は百合要素濃厚で面白かった

144名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 18:48:54 ID:ePU4A9uA0



ほう…

145名も無きAAのようです:2014/03/02(日) 18:58:18 ID:rhfh9Kno0

ふぅ…

146名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 22:20:49 ID:Rci4aPFU0


        Place: 草咲市 小手鳥町 字 辺津田 111 静かな趣の洋風建築
    ○
        Cast: 志納ドクオ 賤之女デレ
     
   ──────────────────────────────────

147名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 22:22:41 ID:Rci4aPFU0

ζ(゚ー゚*ζ 「ねえ、おじ様は、なぜ血を吸いたくないの?」

 柔らかなベッドの上に、その少女は横たわっていた。
 外出用らしいドレスを脱ぎ捨てた、キャミソールの下着姿。
 細い四肢が力無く垂れる。
 ただ一つの窓から差し込む長方形に切り抜かれた陽光の中。
 淡く輝いて見えるその姿は、人と異なる何かを思わせた。

('A`) 「俺は、人間だ。人の血は飲まない」

 男は、その広い部屋の奥。
 皮張りの、黒いソファに腰を掛けている。
 上半身に服は無く、下半身には白いタオルを巻いていた。
 髪が湿気っていることからも、風呂上がりであることがわかる。
 光は、彼の元までは届かない。
 不健康な体色のおかげもあり、彼の姿は闇に溶けかけているようにも見えた。

ζ(゚、 ゚*ζ 「でも、おじ様はやっぱり吸血鬼よ」

('A`) 「……」

 志納ドクオは黙り込む。
 同じ問答を何度も繰り返した。
 この家に連れてこられた時からずっとだ。
 彼女が老婆になるまで続けても、恐らく彼女は納得しない。
 何かが欠落している。ドクオが彼女に抱く印象のほとんどはそれであった。

148名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 22:24:23 ID:Rci4aPFU0

ζ(゚ー゚*ζ 『私の名前は、賤之女(しずのめ)デレ。でも、気に入らないなら、おじ様が好きな名前を付けてくださいな』

ζ(゚ー゚*ζ 『今の名前は、前のお父様が付けてくださったのだけれど、今はおじ様が父様ですから』

 少女の名前は、賤之女デレ。
 事情を察するに、孤児らしいことはわかっている。
 そしておそらく、ただ単純に親を失った子供でないことも。

('A`) (恐らく、お父様ってのは、吸血鬼だ)

 デレは『お父様』と呼ばれる存在が彼女を庇護し、共に暮らしていたことを真っ先に話した。
 父様が死に、遺産こそあれ子供だけでは生活が困難になってしまったことを次に説明した。
 そして最後にドクオに死んだ『お父様』の代りになることを望んだ。

ζ(゚ー゚*ζ 「ねえ、おじ様。そちらに行ってもいい?」

('A`) 「……」

ζ(゚、 ゚*ζ 「沈黙は肯定」

('A`) 「来るな」

ζ(゚ー゚*ζ 「嫌よ嫌よも好きの内」

 ベッドを降り、デレが駆け寄る。
 勢いのまま、ドクオの首に抱き着いた。
 ドクオは受け止めるでも、避けるでもなく同じ姿勢のまま。
 ただ、さっきまで日の光の中にいたデレの体温が、熱い。

149名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 22:25:55 ID:Rci4aPFU0

ζ( ー *ζ 「おじ様に、何をしてほしいわけでは無いの。ただ、一緒に暮らして、私の血を吸って。
        夜に同じベッドで寝てくだされば、それで」

 耳元で囁かれた声の音色は、蜜に似たねっとりとした甘さがある。
 姿を見ていなければ、少女であることを忘れてしまう。

ζ(゚ー゚*ζ 「それに」

 絡めていた腕をほどき屈むデレ。
 床に膝を突き、ややうつむいた姿勢のドクオを下からのぞき込む。
 流石に身を起こして距離を取ると、そのままドクオの足に張り付くように凭れかかった。
 デレの皮膚が、吐息が痛みを感じるほどに熱い。

ζ(゚ー゚*ζ 「おじ様が望むなら、私、なんでもしてあげられるわ」

 デレの小さな手が、ドクオの足を這い、その付け根へと昇ってゆく。
 太ももを裏から内へ撫で上げ、指先は蛇蝎の如くタオルの中へ。
 やはり熱い。羽毛のように軽い手つきが、その熱を別の感触として皮膚に伝えてくる。

ζ(゚、 ゚*ζ 「おじ様?」

 ドクオの反応を伺うために、デレが顔を覗き込む。
 同時に笑みが消え、手も止まった。
 不思議そうな顔はドクオが初めて見た彼女の素直な表情だったように思う。

150名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 22:27:40 ID:Rci4aPFU0

ζ(゚、 ゚*ζ 「なぜ、そんな顔をしているの?」

 鏡は無いが「そんな顔」の予想は出来た。
 酷い顔だろう。
 怒りよりも、狂気の笑みよりも、人の精神に突き刺さるのは多分、悲しみなの顔なのだ。

ζ(゚、 ゚*ζ 「私、上手では無かったかしら」

 不安げなデレ。ドクオに触れるのをやめタオルの中から手を引いた。
 ドクオは、その華奢な体を掴み、抱え上げる。

ζ(゚、 ゚*ζ 「おじ様?」

 予測外の行動であったはずだが、デレはさほど動じている様子は無い。
 そのまま下着姿の彼女を脇に抱え、窓際のベッドへ。
 直接の陽光があたらないギリギリの場所で足を止め、小さな体をベッドに放り投げる。

('A`) 「……」

ζ(゚、 ゚*ζ 「……」

 ずっと考えていた。
 血を与えれれ、命を救われたその時から。
 この少女が何者なのかを。

 その答えは、予想の範囲を出ないが、恐らく、分かった。

151名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 22:29:05 ID:Rci4aPFU0

('A`) 「お前を、飼ってやらんことも無い」

ζ(゚ー゚*ζ 「本当?」

('A`) 「だが、いくつか条件がある」

ζ(゚ー゚*ζ 「?」

 吸血鬼には、血を媒介に奇跡を起こす「血刑」のほかにも、人間には無い力がいくつかある。
 その内の一つが、「暗示」だ。
 いわゆる催眠術に近い。信じられぬものを信じさせ、意志と異なる行いをさせる。
 ドクオも少しならば使うことが出来る。吸血鬼の身分を隠すには使い勝手のいいものだ。

 そして、数いる吸血鬼の中には、洗脳と呼べるほど強力な暗示を使う者がいる。
 嘘を信じさせるであるとか、小手先の誤魔化しでは無い。
 相手の人格を、意のままに改ざんしてしまう。
 例えば、少女を攫い自分を慕わせ、血液確保のための家畜にしてしまうようなことも可能なのだ。

 確証はないが間違いない。
 この少女は、『お父様』に洗脳されている。
 元の人格を失うほどの、人としての生き方を忘れるほどの、強く深い暗示を。

 であれば、彼女の行動にも説明がつく。
 吸血鬼を全く畏れぬことも。自ら血を差出すことも。
 売女の真似事を、平然と行うことも
 すべてが、吸血鬼にとって都合のいいことだ。

 デレは作り物の“よう”だったのではない。
 この美しい肉の容れ物の中身は、まさに作り物で、紛い物だったのだ。

152名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 22:30:12 ID:Rci4aPFU0

('A`) 「まず第一に、前の父様のことは忘れろ」

ζ(゚、 ゚*ζ

('A`) 「いきなり全てとは言わん。だが、今の父様は俺だ。言うことは聞けるな?」

ζ(゚、 ゚*ζ 「はぁい……」

 不満げな顔をしながらも、デレは了承した。
 いくらか思い入れがあるはずの昔の『父』よりも新しい『父』が優先。
 彼女を飼っていた吸血鬼は、自分自身では無く吸血鬼そのものに依存するように彼女を洗脳したのだろう。
 一体何のためにそんな回りくどいことをしたのか、まったくわからない。
 都合の良い家畜にするならば、自分に従うよう調教すればそれで十分だったはずだ。

('A`) 「次に、俺に不用意に触れるな」

ζ(゚、 ゚*ζ 「何故?」

('A`) 「何故も糞もあるか。嫌だからだ」

ζ(゚、 ゚*ζ 「私はおじ様にもっと触れていたいのに」

('A`) 「……」

 こめかみを揉む。
 とことん媚びるように教育されているようだ。
 意識していても、揺らぎそうになる。
 元々甘ったれな子供だったのだろう。名残のせいか他の言葉よりも人間味があり、その分辛いものがある。

153名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 22:32:22 ID:Rci4aPFU0

('A`) 「ダメなものはダメだ」

 きっぱりと遮断し、ドクオは日陰へ引き上げる。
 ソファには座らない。部屋のドアへ向かった。

ζ(゚、 ゚*ζ 「どこに行くの?」

('A`) 「寝る。昨日からお前に粘着されて疲れた。部屋は勝手に借りるぞ」

ζ(゚ー゚*ζ 「あ、じゃあ!」

 デレがいそいそと駆け寄ってくる。
 また、抱き着こうとしたが、言いつけを思い出したのか数歩手前で急激に立ち止まった。
 少々つんのめるが、転ばずに踏みとどまる。
 一度念を押しただけでこの従順さだ。
 楽でいいが、この素直さを単純に喜ぶことは出来なかった。

ζ(゚、 ゚*ζ 「私も、まだ寝ていないから、ご一緒しても……?」

('A`) 「……お前のベッドはあれだろう」

ζ(゚、 ゚*ζ 「どれが誰のとは決まっていないの。あれは、そう。決まってない」

('A`) 「……」

 しばしの逡巡。
 洗脳されていても子供だ。一人で寝るのが寂しいのは仕方あるまい。
 だが、だからと言って昨日今日会った男と共に寝るのはいかがなものか。

154名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 22:35:13 ID:Rci4aPFU0

ζ(゚ー゚*ζ 「おじ様が望むなら、夜伽の相手も……」

('A`) 「それはいらん。むしろそれが要らん」

ζ(゚、 ゚*ζ 「えっと、じゃあ……」

('A`) 「血も要らない。昨日貰った分で十分だ」

ζ(゚、 ゚*ζ 「…………」

 吸血鬼のために作られた人格だ。
 そこには常に奉仕の意志があり、何かをねだるには対価を支払うという常識がある。
 甘ったれだが、純粋に甘えることが出来ない。
 多くの子供が当たり前に赦された権利を、この娘は義務と奉仕を果たすことで得てきた。
 自分が支払える対価のすべてを拒絶されては、甘えることすらできなくなってしまう。
 前言撤回。楽では無い。面倒だ。

('A`) 「俺はさっき言った二つ以外何も求めない」

ζ(゚、 ゚*ζ 「……」

('A`) 「だから、勝手にしろ」

ζ(゚、 ゚*ζ 「……?」

('A`) 「一緒に寝たいなら、勝手に来い」

ζ(゚ー゚*ζ 「……」

155名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 22:37:45 ID:Rci4aPFU0

ζ(゚ー゚*ζ 「地下のお部屋を使いましょう。暗くて涼しくて、とても心地いいの」

('A`) 「どこだ」

ζ(゚ー゚*ζ 「こっちよ」

 ドクオの歩速に合わせ、小走りで先行するデレ。
 キャミソールの肩紐がずり落ちるのを直す動作は、やはり少女離れしている。
 一々艶めかしい。初潮を迎えているかも怪しい少女に、『お父様』は一体何を求めたのか。
 予想は簡単に出来る。湧き上がる嫌悪感を抑え込むことは難しい。

 二階へ上がる階段の下、一見ただの壁に見えるところに、扉があった。
 開けると、冷たい空気と、ほんのり黴の臭い。
 手入れはされているようで埃は無いが、長く時代を経た建物独特の香りだ。
 明りを点け、石組の階段を下りていく。
 はだしの足に冷たさが伝わってくる。ドクオは平気だが、人間のデレには辛いはずだ。

ζ(゚ー゚*ζ 「ね、素敵でしょう」

 もう一枚の扉を開けた先にあったのは六畳ちょっとの小さな部屋。
 燭台を模した照明が壁に四つ備えられていたが、部屋全体に行き届くほどの光量はなく、薄暗い。
 真ん中に置かれた、棺桶を模したベッドが四角い影の塊に見える。

('A`) 「ベッドが一つしかないぞ」

ζ(゚ー゚*ζ 「はい」

('A`) 「……」

156名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 22:39:50 ID:Rci4aPFU0

 文句を言う気も失せ、ドクオはベッドへ。
 羽毛の布団が掛けられている。体温を維持する必要のない吸血鬼には無用のものだ。
 ここも、少女と共に寝るための床ということか。
 いくらかの嫌悪感を飲み、布団の中へ。
 ゴミ袋を枕に、ゴキブリの足音を子守唄に眠ったことに比べれば、いくらかマシだ。

 目を閉じる。
 小まめに手入れしているのだろうか。
 布団からは特別他者の臭いがしない。
 いい具合に眠気が襲ってきた。
 思えば吸血鬼になってからしばらく、布団で落ち着いて眠ったことは無かったように思う。

 もう少しで眠りに落ちる寸前、意識が少し覚醒する。
 デレが入ってこないことに気づいたのだ。ベッドが一つしかないことにかこつけ、来るものだと思ってたが。
 少し顔を上げて、周囲を見た。
 視野の中に姿は無い。暗いとはいえ、夜目の利くドクオが見逃すということは無いはずだ。

ζ(゚ー゚*ζ 「どうしたのおじ様」

('A`) 「……何をしている」

ζ(゚ー゚*ζ 「出来るだけ傍で、寝ようと思って」

 声は、下から聞こえた。
 ベッドの傍ら、冷たい石の床にデレは横たわっていた。
 下着のみの薄着のままで、体は少し震えている。

157名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 22:41:23 ID:Rci4aPFU0

('A`) 「……来い」

ζ(゚、 ゚*ζ 「でも、一緒のベッドに入ったら、おじ様に触ってしまうかもしれないわ」

('A`) 「……良いから、来い」

 おずおずと、デレがベッドに這い上がる。
 ドクオは彼女のためのスペースを空け、布団を捲って迎え入れる。
 昨日、ドクオに血を飲ませ、ただでさえ貧血のはずだ。
 その体で床で寝るなど、緩やかな自殺でしかない。

ζ(゚ー゚*ζ 「おじ様、ありがとう」

('A`) 「良いから寝ろ。ガキが隈なんて作ってんじゃねえ」

ζ(゚、 ゚*ζ 「ごめんなさい」

 二人の間に意図的に開いたスペース。
 デレは寝返り一つで落ちそうなほど端に寄り、体を丸めて眠っている。
 胎児のようだ。目を閉じ、眠りに堕ちようとしているこの姿が、最も生きているように見える。
 しばらく彼女の寝顔を見ていたが、ドクオも背を向け目を閉じた。
 静かな時間だ。眠気が優しく頭に靄を満たしてゆく。

158名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 22:42:14 ID:Rci4aPFU0

    「ねえ、おじ様」

 デレの声。
 まだ眠っていなかったのか。

   「なんだ」

 目を閉じたまま、眠気に惚けたまま応える。
 少し、動く気配がした。

    「お父様って、呼んでもいいの?」

   「……」

    「おじ様は、お父様のことを、嫌っているように見えるから。でも、私は」

   「勝手にしろ」

    「ありがとう、…………お父様」

   「……いいから、寝ろ」

    「はい、お父様」

159名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 22:43:23 ID:Rci4aPFU0

 終り。


 三行。

 ドクオ
 脅威の
 賢者タイム

160名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 23:04:42 ID:RV1em2Xc0
デレがかわいすぎて死にそう

161名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 23:18:44 ID:NFWcmFXM0
どくおさんまじぱねぇっす

162名も無きAAのようです:2014/03/06(木) 06:55:18 ID:cF6.ekro0
おつ

163名も無きAAのようです:2014/03/06(木) 06:56:45 ID:cF6.ekro0
おつ
ドクオさんマジかっけえ

164名も無きAAのようです:2014/03/06(木) 11:45:52 ID:nM/a3ti20
このドクオさんは間違いなくイケメン

165名も無きAAのようです:2014/03/06(木) 23:25:01 ID:YVwiZyCo0
おつ
デレ…ドクオに惚れる

166名も無きAAのようです:2014/03/08(土) 06:51:39 ID:p/RlzpRYO
ドクオかっけえな

167名も無きAAのようです:2014/03/08(土) 15:50:40 ID:kBJhFtnw0
めちゃんこ読みやすい

168名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:30:40 ID:tv9rkfP60


        Place: 草咲市 須赤三丁目 31-1付近 薄暗いガード下
    ○
        Cast: 内藤ホライゾン 津雲ツン 狂小屋アヒャ 子子子ギコ 子子子シイ

   ──────────────────────────────────

169名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:32:27 ID:tv9rkfP60

ξ*゚⊿゚)ξ〜♪

 黒いセーラー服の、若者にしては長いスカートを靡かせて、ツンは上機嫌に鼻歌を歌っていた。
 腕に抱いているのは、何とも不気味なアニメキャラクターのぬいぐるみ。
 巷では人気らしいが、僕はよく知らない。
 女子高生と男子高校生は、同じ場所で生活しながら全く別の分化を築いて生きている。
 学年が違えばなおさら。僕には分からぬ流行というのが、彼女生きている世界にはある。

( ^ω^) 先輩、それとるのにいくら使いました?

ξ゚⊿゚)ξ 二千円。

( ^ω^) 普通に雑貨屋で買った方がよかったんじゃないですかお?

ξ゚⊿゚)ξ 分かってないわね、ブーンは。私は「イトーイぬいぐるみ」が欲しかったんじゃなくて、
      あのクレーンゲームのケースの中、潤んだ目でこっちを見ていたこの子が欲しかったのよ。

( ^ω^) はぁ。

 つい気の無い返事を返す。
 よくわからぬことであるけれど、クレーンゲームで取ったというのが彼女としては重要なのだろう。
 「わかればいいのよ」とツン勝ち誇った笑みを浮かべた。
 それが子供のようで愛らしく、まあいいかと、僕を諦めさせるのだ。

170名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:33:38 ID:tv9rkfP60

ξ*゚⊿゚)ξ 〜♪

( ^ω^)=3

 ぬいぐるみを抱く彼女、津雲ツンは僕の一つ年上だ。
 同じ学校に通う彼女を僕は「先輩」と呼んでいる。
 同じ学校に通う僕を、彼女は「ブーン」と呼ぶ。
 小さい頃からのあだ名だ。
 恥ずかしいのでやめてほしいと頼んだことが幾度とあったが、彼女はこの通り。
 僕の頼みなど、聞いてくれたためしがない。

ξ*゚⊿゚)ξ 早くいきましょ、ブーン。暗くなっちゃうわ。

( ^ω^) ゲームセンターで時間を食ったのは、先輩じゃないですかお。

ξ゚⊿゚)ξ 細かいこと気にしない。

( ^ω^) はいですお。

 ツンは、身長が低く、私服でいると中学生に間違われるほどだ。
 故に、歩みは自然と僕の方が速くなる。
 勝手に先に行くと、彼女はひどく怒るので、僕はゆっくりついていくのが常だ。
 その上で急ぐとなるとこれがまた中途半端な速度になって、中々疲れる注文である。

 僕たちは、線路のガード下に差し掛かった。
 急なカーブの先、窪地のようになっているので見通しが悪く、人通りが少ない割によく事故が起きる。
 立地のために昼間も暗く、いつも不気味な気配が漂っていた。

171名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:35:19 ID:tv9rkfP60

 黄色と黒のテープが張られたガードレールが歩道と車道を分けている。
 その、僕らの行く歩道に、一人の男が立っていた。
 薄手のようではあるが、コートを身に着け、帽子を目深に被っている。

 いかにも、怪しい。
 警戒心と緊張で、体が強張るのが自分で分かる。
 だけれどツンは、全く怖気る様子なくずんずんと先へ行ってしまった。
 慌ててついていく。彼女に何かあっては耐えられない。

(  ゚∀゚ ) なあ、君たちちょっといいか。

 男は、近づいた僕たちを見つけると、笑顔で声をかけてきた。
 手にはポケットサイズの地図を持っている。
 道を聞かれるのだろうな、とぼんやりと察した。

(  ゚∀゚ ) 杭持ちの「正十字協会」へ行きたいんだけど、道わかるかな?

ξ゚⊿゚)ξ 十協?

(  ゚∀゚ ) ああ、仕事で用があるんだけど、土地勘が無くてね。道に迷ってしまった。

 なるほど。
 地図をのぞき込むツンのすぐそばで、僕は少し感嘆する。
 協会に行く、というのは、中々上手い理由だと思う。

172名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:37:13 ID:tv9rkfP60

ξ゚⊿゚)ξ ここからだとちょっと遠いですよ。この道を……。

(  ゚∀゚ ) え?どの道?

 男が地図を差し出して、ツンはそれに指を伸ばしました。
 二人が重なる様に、地図を覗き込みます。
 僕は、鞄をちらりと見下ろしました。

ξ゚⊿゚)ξ 今いるところが、ここだから……。

(  ゚∀゚ ) うんうん。

 熱心に、ツンの説明を聞いている、などということは、無かった。

 男の、地図を持つのとは逆の手が、ツンと僕の死角から、ツンの首へ振るわれた。
 鋭い爪。人間の物ではない。
 この男は、吸血鬼。

(  ゚∀゚ ) ありがとなァ!

 狂気の笑みを見た。
 その瞬間に、僕のスイッチは確かに切り替わる。

( ;゚∀゚ ) ?!

 男の手は、大きく空振り。
 爪で切り裂かれるはずだったツンの体は、低く地面に伏せている。
 それだけでなく、ツンは男の右足を掴んだ。
 見計らうまでも無く、僕は鞄に手を入れ、中身を握って振り抜いた。

173名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:38:22 ID:tv9rkfP60

( ; ∀ ) ガッ!!

 鞄から飛び出したのは、鉄製の、手斧。
 先端に備わった鈍色の刃が男の胸元に食い込み、鎖骨のあたりを割り砕く。
 ツンが足を掴んで居たので、男はなす術なく後ろに仰け反って倒れた。
 後頭部を打ったのだろう。硬い音が、ガード下に反響する。

ξ゚⊿゚)ξ ちょっとブーン、イトーイに血がついたらどうするの。

( ^ω^) そこですかお、問題。

 鞘代わりにしていた鞄を捨て、僕は斧を両手で持つ。
 小ぶりで扱い易いとはいえ、片手ではコントロールが効かず、パワーも乗らない。
 おかげで一撃で仕留めるつもりが、中途半端なところを砕くだけに終わってしまった。

( ;゚∀゚ ) てめェ、まさかァ!

ξ゚⊿゚)ξっy=━ 遅いっつー。間抜け。

 ツンがスカートの内側に隠していた銃を抜いて、両手で構える。
 発砲。唇をかみしめて耐えているが、反動が辛いのだ。
 二発打ったところで手をプラプラとほぐし始めまる。

( ;゚∀゚ ) こんな、ガキがァ?!

 ツンの放った弾丸は男の血に弾かれた。
 竹とんぼのような状態に形を変えた血が、クルクルと三つ、飛翔している。
 見た目は玩具のようだが、銃弾を弾いたのだ。侮れない。
 男はそのまま機敏に距離を取る。やはり、いまいち浅かった。

174名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:39:25 ID:tv9rkfP60

 僕はポケットからスプレーを取り出し、斧と服に吹きかけた。
 この程度の量であれば、これで血の機能を停止させられるはずだ。
 試作段階の品なので、あまり信用するべきではないけれど。

( ;゚∀゚ ) だが、残念!俺をそこらの雑魚と一緒にするなよ!

 斧に着いた血がうぞうぞと動き半端に刃の形になったが、そのままぽとりと地面に堕ちる。
 男の顔を見るに、斧に着いた血を操って奇襲するつもりだったんだろう。
 なるほど、中々役に立つ。

( ;゚∀゚ ) あ、あれェ?!

ξ゚⊿゚)ξ ブーン、アレなにやってんの?

( ^ω^) きっと其処らの雑魚と一緒にしてほしいんですお。

 シャツのボタンの2つ目を外して、僕が前へ。
 ツンは自分のカバンをごそごそと探ってる。別の銃を探しているんだ。
 だから、整理整頓は普段からちゃんとしておくようにと言っていたのに。

( ;゚∀゚ ) 何をしたかしらねえが、だが俺にはこの『ブラッドレッドスライサー』があるぜ!!

ξ゚⊿゚)ξ (うわだっさ) ボソッ

( ^ω^) (大天福さん未満のセンスですお) ボソッ

175名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:42:30 ID:tv9rkfP60

 しかし、敵の周囲を飛び回る刃というのは中々厄介だ。
 真正面から切り込めば、囲まれて刻まれてしまう。
 なら、やるべきことは決まっている。

( ^ω^) 先輩。ありましたかお?

ξ゚⊿゚)ξ おっけーおっけー。あったわ。

 ツンが拳銃の代りに取りだしたのは、銃身を切り詰めたショットガン。
 小さな銃ですら手を痺れさせる彼女に使えるのかと疑問に思われるかもしれないけれど、
 むしろ、だからこそ散弾であるほうが扱えるのだ。

 僕の脇を抜けて、ツンが突撃した。
 銃は腰元に、抱えるように持っている。
 散弾ならば狙いを定める必要性が他のよりも低いから、体全体で耐衝撃出来るのだ。

 男はツンの銃を見てぎょっとした。
 銃把にヘンテコなキーホルダーがついていることを除けば、拳銃よりも威圧感を感じるのは当然だろう。
 必然的に、血のプロペラはツンヘ。3つあるうちの、2つが彼女を襲う。

 狙い通りではあるんだけど、急がなければツンが刻まれてしまう。
 僕は斧を振りかぶり、思いっきり投擲した。

176名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:44:46 ID:tv9rkfP60

( ;゚∀゚ ) へっ?!

 斧を、殴りつける武器だと思いこんでいたのだろう。
 男は回避も防御もできず、間抜けな声と入れ替えに斧刃を受け止めた。
 位置は心臓。直接で無いとはいえ、確かな手応え。
 骨が砕け肉の潰れる音が反響する。

 ツンに飛ばされた2つの刃は、制御を失ってアスファルトとガードレールを抉った。
 中々の切れ味。人体に触れれば容易く刻まれてしまう。
 恐ろしい。幸だったのは、使っていたのが間抜けな吸血鬼だったということか。
 バカとハサミは使いようという言葉があるけれど、バカにハサミを持たせても役には立たないようだ。

ξ゚⊿゚)ξ ほっ

 辛うじて立っている男に、一切の減速無くツンが接近する。
 そして急ブレーキと同時、抱えていたショットガンを片手に持ち替え突き出し、銃口を男の頭へ。

( ;゚∀゚ ) あっ

 男の声は、銃声と散弾に飲まれた。
 飛び散る脳漿と骨片。頭の三割ほどが吹き飛ぶ。
 脳幹が残っているのでまだ殺しきれていない可能性もあるけれど、ツンならちゃんとやるだろう。

ξ;゚⊿゚)ξ いったぁ〜もうマジ無理。

 手をプラプラとさせながら、瀕死の男に近づくツン。
 今度はちゃんと両手を添えて、腰元から散弾を放つ。
 砕けた肉片と骨が、飛沫となって舞い散った。
 これで終い。周囲を見渡して、ついついため息が出てしまう。
 諸先輩方であれば、もう少しスマートに出来たかもしれない。反省は多い。

177名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:45:39 ID:yJ2nmYSE0
きたきた

178名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:46:28 ID:tv9rkfP60

ξ;゚⊿゚)ξ ブーン、連絡ー。

( ^ω^) ハイですお。

 僕が処理班へ連絡する間、ツンは使った武器の片づけをしていた。
 相変わらず雑だ。備品は丁寧に扱ってと言っているのに。
 ポケットから仕事用に与えられた携帯端末を取り出し、処理班の番号を探す。
 いかんせん登録している番号が多いので、中々見つけられない。
 何より、普段使いの物とは異なるので、余計に扱い難く感じてしまう。

(*゚ー゚) あらあら、これはまた随分派手に散らかったのね。

 戦後処理で油断しきっていた僕とツンはその時酷く驚いていた。
 ガード下は薄暗く、確かに見通しがいいとは言えない。
 だからと言って、気付かないはずがないんだ。
 肩に手を触れられるほどの距離に、人が近づいてきていたことに。

 ツンは咄嗟に銃を構えた。
 僕は、背後数歩の距離にいたその人から飛びのき距離を取る。

 美しい人だった。
 妖艶さを持ちながら、どこか幼い少女のようで。
 赤みがかった頬には、右にだけえくぼが出来ている。
 散切りにした、女性にしてはあまり長くないが、優しい風に吹かれさらさらと靡いた。

 正直を言えば、僕は見とれてしまっていたのだ。
 彼女が、吸血鬼であると理解しながらも。

179名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:47:57 ID:tv9rkfP60

(*゚ー゚) ちょとだけ、待ってもらえる?

 彼女は、ためらいの一つ無く、僕に近づき、手から携帯端末を抜き取った。
 僕は動かなかった。いや、動けなかったのだ。
 金縛りだ。体が石のようにいうことを聞かず、首から下がどこかに消えてしまったようですらある。

ξ#゚⊿゚)ξ ブーン!下がりなさい!!

 ツンが、女性の頭に狙いを定める。
 僕は彼女の命令に従って、咄嗟に飛びのいた。不思議と、体が動いた。
 金縛りは恐らく、吸血鬼の持つ暗示の力を応用した物だったのだろう。
 こちらの意志が勝てば破ることはできる。
 虚しいのは、自分の意志でなく、ツンの命令が切っ掛けだったということだろうか。

ξ#゚⊿゚)ξっy=━ こんの!

 射線から僕が外れた瞬間に、サイレンサー付きの銃口が火を噴いた。
 くぐもった、行き場を失った空気が鳴らす汚い音。
 ツンは、貧弱ではあるけれど、射撃の腕前は中々だ。
 放たれた銃弾は、確かに女の眉間を軌道にしている。

 しかし。

180名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:48:38 ID:tv9rkfP60

(*゚ー゚) 慌てない慌てない。

(,,゚Д゚) 最近の杭持ちは、挨拶もできねえのか。

 これまた唐突に現れたもう一人の男。
 女の脳を穿つはずの銃弾は、彼の手に収まっている。

(*゚ー゚) ギコさんありがとう。

(,,゚Д゚) 子供とはいえ、武器を持った相手だ。迂闊をするなよ。

 男の手から銃弾が落ちた。
 僅かに血がついている。
 少し安心した。無傷であったらいくらなんでも銃の存在意義が無い。
 とはいえ人間の僕たちで言う、針で間違って指を刺した、程度の傷でしかないんだけれど。

ξ#゚⊿゚)ξっy=━ なめんな!

(,,゚Д゚) ……。

 男の姿が消えた。
 目にも留まらぬ速さで、ツンヘ間合いを詰めたのだ。
 僕の頬を風が撫でる。すぐ傍を通ったはずなのに、全く反応が出来なかった。
 振り返る。既に、男がツンの背後に回り、手刀を振り下ろすところだった。

181名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:49:55 ID:tv9rkfP60

 首元を叩かれ、ツンが白目を剥いてグラついた。
 男はすかさずその体を支える。手から落ちた銃が、硬い反響を生んだ。

( ;^ω^) 先輩!!

(,,゚Д゚) 少し寝て貰っただけだ。案ずるな。

( ;^ω^) ……。

 確かに息はあるようだ。
 でも、白目を剥いて気絶しているのを見て、案じないなんてことはできない。
 どうしようもできない僕を尻目に、男は吸血鬼の死体をのぞき込んでいた。
 僕らよりも、こっちが目的だったと言わんばかりだ。

(*゚ー゚) ギコさん、どうですか?

( ;^ω^) (ギコ……ギコ?)

(,,゚Д゚) 顔が吹っ飛んでて判別がつかんな……。

(*゚ー゚) もっと上手に殺さなきゃ。ね、新人くん

( ;^ω^) (ギコ……そうか!)

182名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:51:36 ID:tv9rkfP60

 男の名前と、その尋常でない強さにつながる資料が、頭の中に眠っていた。

 子子子(ねこし)ギコ。脅威度B。
 血刑は不明だが、高い身体能力を利用した徒手空拳による戦闘は、吸血鬼の中でも群を抜く。
 純粋な戦闘に置いては、AA相当であるとされるが、吸血鬼の集団を自治し、
 人間に不要な害を与える吸血鬼を粛清するなど、人間に対し友好的な態度を貫いているため
 脅威度は数段控えた値に設定されている。

 となると、もう一人女性は、子子子シイ。
 彼女については名前と、ギコの伴侶または身内らしいということ以外は判明していない。
 体感するに、今僕が再びかけられたような、暗示の能力に長けてるようだ。

(,,゚Д゚) まあ、狂小屋に違いは無いだろう。

 ギコは、指に着いた吸血鬼の血を嗅いで眉間にしわを寄せる。
 ご明察。僕らが狙い、罠にかけて仕留めたこの男は狂小屋(きちがいごや)アヒャ。
 脅威度はギコに同じくBとされているものの、その力の差は現状を見れば明らかだ。

(*゚ー゚) そっか。ね、あなた名前は内藤くん?津雲くん?

( ;^ω^) ……。

(*゚ー゚) 内藤くん、のほうか。私たちに名前を教えたくないのはわかるけど、なら、徹底しないとね。

 にこりと無垢な笑顔を作りながら、シイは僕の胸をつつく。
 学校指定の名札。白地のプラスチックに、黒で「内藤」と彫られている。
 もどかしい。掌の上で踊らされているような居心地の悪さを感じる。

183名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:52:34 ID:tv9rkfP60

(*゚ー゚) ありがとうね内藤君。アヒャは、ちょっと最近悪ふざけが過ぎたから、私たちも探していたの。

(,,゚Д゚) 俺たちは吸血鬼の間じゃ名が売れているからな。警戒されて中々捕まえられず、困ってたんだよ。

( ;^ω^)…… いつから、僕らを?

(*゚ー゚) えっと、四日前くらいかな。君たちを、アヒャの狩場で見かけて、そこで興味を持ったの。

 僕らが丁度、狂小屋を狙って、出没地域をうろつき始めた頃だ。

(*゚ー゚)調べてびっくり。あなたたち、現役の高校生で杭持ちなのね。

 杭持ちの情報は、できうる限り漏えいしないようにされている。
 特に僕たちはいわゆる囮専門なので、なおさら厳しく管理されていなければならない。
 少なくともそこらの吸血鬼が少し調べただけでわかるほど安易な扱いはされていないはず。
 なのに、彼らにはわかってしまったのだ。
 実力に見合わない脅威度も含め、もしかしたら杭持ちに何かしらのつながりがあるのか、と勘繰りを覚える。

(,,゚Д゚) んで、まあ。自分たちを疑似餌として奴をおびき出そうとするお前たちを、俺たちは餌として使おうと思ったわけだ。

(*゚ー゚) あなたたち、普段があまりに普通だから、ガセかと思っちゃった。

 光栄だった。
 僕たちは戦闘よりもそちらの訓練を重点的に行わされているので、それ以外に価値を認められてはいない。

184名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:53:43 ID:tv9rkfP60

(,,゚Д゚) っつーわけで、此奴の死体はもらっていくぜ。

( ;^ω^) ま、待て!それはさせないお!

 僕は、反射的に拳を構えた。
 斧はさっき投げ、死体に食い込んだまま。
 予備の杭は目立たぬよう脛に備えているので、取って斬りかかるには時間を食いすぎる。

 とはいえ、この男相手に徒手空拳は無い。
 間抜けすぎて自分にため息が出そうだった。
 実際はため息の代りに脂汗がにじみ出た。

(,,゚Д゚) お前はいくらか賢そうだ。戦うまでも無く、分かるだろう。

 そう、僕は絶対にこの人には勝てない。
 完璧に隙をついた奇襲でも三割以下の勝率と予想する。
 僕が弱すぎるんじゃない。ギコが強すぎるんだ。

(,,゚Д゚) 俺たちは、お前たちと無暗に敵対する気はない。ほれ、お姫様を連れてさっさと帰れ。

 放り投げられたツンの体を、お姫様抱っこで受け止める。
 ツンは、細くて軽い。といっても、投げら慣性のついたその体は、僕をよろけさせるのに十分な重さを持っていた。
 片手とお尻を地面に突く。ツンは相変わらずの白目。
 涎が垂れているが、拭いてやる余裕は無い。

185名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:54:42 ID:tv9rkfP60

(*゚ー゚) じゃ、内藤君。少しそこで、目をつぶってじっとしていてね。

 しいが僕の顔を覗き込んで、笑った。
 その瞬間、瞼が急に重くなり、体が再び縛られたようにいうことを聞かなくなる。
 また暗示だ。やはり、自分の意志では破れない。
 抵抗虚しく、僕の体は瞼を閉じて、僕の意識を闇へ閉じこめた。

    ギコさん、大丈夫?

    気にするな。

    はやくいきましょ。きっとみんな待ってるわ。

    ああ

 足音が遠のいていく。
 必死でからだを動かそうとするが、やはり無理。
 腕に抱えたツンの髪がふらふらと腕を撫でるばかりだ。

( ;^ω^) ……くそっ

 やっと目を開けられたのは、数分ほど経ったのち。
 そこにギコとしいの姿は無く、僕たちが仕留めた狂小屋の死体も綺麗に失せてしまっていた。

186名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:56:19 ID:tv9rkfP60

 おわり


 三行

 白目剥き
 涎をたらす
 女子高生

187名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 19:15:57 ID:hrk8mp3Q0
徒手で戦うキャラはいいね、乙

188名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 01:24:20 ID:qb9yCy4UO

どんどんキャラが増えていくな

189名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 10:00:18 ID:KIRYljgY0
オツカレー

190名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:19:58 ID:MIBYgXtM0



        Place: 草咲市 南梨町 字 節穴前 15-9 メゾンフシアナ 205号室
    ○
        Cast:都村トソン 都村ミセリ

   ──────────────────────────────────

191名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:22:27 ID:MIBYgXtM0

(゚、゚トソン 「……ただいま」

 扉に備えられたナンバーロックを外し、扉を開ける。
 私たちの巣穴。慣れた臭いが鼻をくすぐる。
 私の持ち込んだ化粧品の類の甘い匂いの中に、別の臭いが混じっている。
 ミセリの匂いだ。花のような、甘さの中にほろ苦い渋みがある。

(゚、゚トソン 「ミセリ、いないんですか?」

 いつもなら眠っていても起きて返事をしてくる。
 靴を脱いだ。ミセリの靴は全部ある。
 だけど一組、朝出た時とはつま先の向きが変わっている靴があった。
 恐らくどこかに出かけていたのだろう。
 好んで履くパンプスやサンダルで無くスニーカーであったことが気になった。

(゚、゚トソン 「……寝ている」

 ベッドの上にミセリはいた。
 丸まり膝を抱いて、それでいて足は伸びている。
 柔らかい。猫みたいだ。

 鞄を置いてシャツを壁のフックにかける。
 それなりに物音を立てたはずだけれど、起きる気配が無い。
 ある程度息を吐ける恰好に着替え、私は床に座り込んだ。
 ベッドに凭れ、ミセリの顔を覗き込む。
 少女のようだ。
 本人曰く数世紀は生きているらしいが、この寝顔からはそんな年季を感じられない。

192名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:25:16 ID:MIBYgXtM0

 顔にかかった前髪を撫でた。
 相変わらず柔らかい。指でつまんで少し擦る。
 しゃりしゃりとした感触。
 汗の混じった脂の湿りもある。
 甘い臭いがほんの少し鼻に香った。

(゚、゚トソン 「何を、していたんだか」

 ショートパンツから伸びた足を撫でる。
 冷たくて、滑らか。吸いつくような潤いと張りに満ちた手触り。
 一昨日、あれほど私から搾り取ったのだ。
 肌艶が良くなるくらいでなければ困る。

ミセ*゚ , )リ 「……トソン?」

(゚、゚トソン 「おはようございます」

ミセ*゚ー )リ 「おかえり。学校、どうだった?」

(゚、゚トソン 「特どうということも。そちらは、どちらかへお出かけで?」

ミセ*゚ー゚)リ 「私も特にどうってことは無かったよ。ちょっとした散歩さ」

 ミセリの手が伸びて来た。
 頬に触れ、もみあげを撫でる。
 冷たい。帰路で火照った体に心地よい。

193名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:27:33 ID:MIBYgXtM0

ミセ*゚ー)リ 「おいで、トソン。一緒に寝よ」

(゚、゚トソン 「……」

ミセ*゚ー)リ 「あんたも眠いっしょ?同じくらいまで起きてたんだから」

(゚、゚トソン 「それはそうなんですが、その……」

ミセ*゚ー)リ 「ん?」

(゚、゚トソン 「こないだ、無茶した時から、ちょっと腰回りが辛くてですね」

ミセ*゚ー)リ 「……ぷふっ……大丈夫だって、眠るだけだよ」

(゚、゚トソン 「そういって、いつも襲うんですよ、あなたは」

ミセ*‐ ,‐)リ 「今日は、本当に眠いからさ……」

(゚、゚トソン 「……」

 ベッドへ上がると、ミセリが胸元に頭を埋めてきた。
 本当に眠いんだ。私は彼女の頭の下に腕を回して柔らかく抱く。
 すぐに寝息が聞こえてきた。私のキャミソールを掴む手から少しずつ力が抜けてゆく。
 血は十分に足りていたはず。なぜこんなに疲れているんだろう。

 どうってことなかった、とは言っていたけれど、やはり何かあったんじゃないだろうか。
 杭持ちに追い掛け回されたとか、まったく無いとは言い切れない。
 血をねだってこないところを見るに怪我をしたりはしていないんだろうけど、やはりちゃんと聞き出すべきだった。

194名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:28:41 ID:MIBYgXtM0

 気になって眠ることが出来ず、まどろみの中でミセリの寝息を聞いていた。
 カーテンの隙間から洩れる陽光が少しずつ赤に。
 いい時間だ。そろそろ晩御飯を準備しないと。

(゚、゚トソン 「ミセリ」

 起きる気配が無い。
 ただ、私が離れることだけは阻止したかったのか、服を掴む力は少し強くなった。
 何度か、起こさないよう引き離そうとしてみたが無理だ。

(゚、゚トソン 「……たまには、コンビニのごはんでいいか」

 ミセリは謎の資金源があるらしく、衣料費や私の食費、家賃などは不自由なく賄えている。
 普段私が節約しているのは、あくまでそれに甘えきらないため。
 でもたまには、楽をしても罰は当たらないはずだ。

 私が怠惰に敗北してから、みるみる空が暗くなってゆく。
 日が沈むのが遅くなってきたとはいえ、夜は来る。
 応じて、私の瞼も重みを増してきた。
 暗くなった途端に眠くなるのだから、私もずいぶん動物らしい。

( 、 トソン 「30分くらいなら……」

 ミセリを抱きしめて、目を瞑る。
 すぐに、意識を繋ぐ糸がフツフツと切れ始めた。
 眠る。そう感じたのもつかの間、私の意識は暗転した。

195名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:29:49 ID:MIBYgXtM0

 どれくらい寝ていたのか、自分でも分からない。
 真っ暗になった部屋で目を覚ました。
 陽光が差し込んでいたカーテンの隙間からは、月明かりが零れている。
 体が、変だ。まるで、誰かにまさぐられているような。

(゚、゚トソン 「……ミセリ、いくらか前に自分で言ったこと、忘れました?」

ミセ*  , )リ 「あの時は、眠いからって言ったんだよ?今ミセリさん眠くないし」

(゚、゚トソン 「この、猿」

 ミセリが、私のキャミソールをめくりあげ、下着を外し、肌に吸い付いていた。
 血を吸っているのではない。
 性的な意味で、私の肌を刺激している。

 だから腰が辛いんだって、と少し腹が立つ。 
 寝起きのせいもあって、丹念な愛撫も快感を催すには遠い。
 私は、やや強引に、ミセリを引き離そうとした。

(゚、゚トソン 「……ミセリ?」

 顔に触れた指先が、濡れた。
 唾液とは違う、もっと水に近いもの。
 頬を撫で、その水の出所をなぞっていく。
 指がたどり着いたのは、目じり。
 途中で気づいてはいたけれど、これは、涙だ。

196名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:31:04 ID:MIBYgXtM0


(゚、゚トソン 「どうしたんですか」

ミセ*  , )リ

 答えはない。
 強引に持ち込んで誤魔化すつもりだ。
 残念だけれど、この程度で流されてしまう私では無い。

(゚、゚トソン 「……」

ミセ* д )リ そ 「痛い?!」

 拳骨を握り、ミセリの頭を叩く。
 こちらの手が痛い程度には、力を込めた。
 ミセリが私から離れる。頭を押さえているのが薄暗闇の中に見えた。

ミセ;*゚д゚)リ 「何すんのさ!」

(゚、゚トソン 「だからエッチする気無いって言ってるじゃないですか」

ミセ;*゚ ,゚)リ 「そこは何かあったと察して受け入れてくれるところじゃないの?」

(゚、゚トソン 「知りません。そうそう都合よく押し切られてたまるもんですか」

ミセ;*゚ ,゚)リ 「ちぇー……厳しいなトソンは」

 流石に諦めたのか、ミセリが完全に身を起こした。
 私はベッドの枕元に置いてあった照明のリモコンを手に取る。
 ボタンを押す。人工的な白い光が部屋を照らす。
 ミセリは眩しそうに顔をしかめた。

197名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:32:25 ID:MIBYgXtM0

(゚、゚トソン 「で、何があったんです」

ミセ*゚ ,゚)リ 「別に、大したことじゃないんだけど」

(゚、゚トソン 「ならさっさと吐きなさい」

ミセ*゚ ,゚)リ 「ちょっと昔のこと思い出しただけだってば」

 ミセリがだるそうに、私の腹に抱き着いた。
 再び発情する様子はないので、放っておく。
 私は下着のホックを止めなおし、捲れた服を元に戻す。

ミセ*゚ ,゚)リ 「だから、なんも心配されるようなことないよ」

 彼女の過去を私は知らない。
 吸血鬼になった経緯を含め、ミセリは話したがらないのだ。
 だから、昔のことがなぜ涙に繋がるのか分からない。
 ただ単に懐かしんだのか、それとも、何か悲しい記憶が眠っていたのか。

 心配するなと言われても無理なのだ。
 普段は余裕綽綽で腹が立つにやけ顔をしている彼女が、拗ねたような寂しい顔をして涙を流しているなんて。
 雷が落ちてくる方がまだ平静を保っていられる。

(゚、゚トソン 「じゃあ、心配されないような振る舞いをしてください」

ミセ;*゚ー゚)リ 「それは横暴だぜトソンちゃん」

198名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:33:37 ID:MIBYgXtM0

ミセ*゚ー゚)リ 「それより、お腹空かない?晩御飯どうすんのさ」

 そして、やっぱり昔のことは話してくれないのだ。
 無理に聞き出しはしない。ミセリが嫌がって逃げるのが目に見えているから。
 だから自然に彼女の口から零れるのを待っているのに、そんな機会は一生来そうにない。

(゚、゚トソン 「コンビニで済ませようかと。ミセリの せ い で 何もできてないので」

ミセ;*゚ー゚)リ 「トソンさん、ご機嫌ななめ?」

(゚、゚トソン 「別に」

 ミセリが「ななめ?」に合わせて体を斜めにした。
 困ったような笑顔も合わさる。
 負けてはならない。今の私は不機嫌だ。

ミセ;*゚ー゚)リ 「……」

(゚、゚トソン 「……」

ミセ;*゚ー゚)リ 「……」

ε=(゚、‐トソン

ミセ;*゚ー゚)リ 「?」

 負けた。そもそも、ずっと腹を立てているのは性に合わない。
 不満が消えたわけでは無いけれど、今のところは勘弁してあげることにする。

199名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:35:50 ID:MIBYgXtM0

(゚、゚トソン 「ミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ 「ん?」

 ミセリに凭れかかる。
 何とも言えない表情。

(゚、゚トソン 「……晩御飯、買いに行きますけど一緒に行きますか?」

ミセ*゚ー゚)リ 「行く行く!」

(゚、゚トソン 「じゃ、早く準備してください」

ミセ*゚ー゚)リ 「そこの川沿いさ、ちょっとお散歩したり?」

(゚、゚トソン 「……どうせなら、外で食べますか。今日は風がありますし」

ミセ*゚ー゚)リ 「いいねぇ、こんな月夜だ」

(゚、゚トソン 「あなたの食事は帰ってきてからですが」

ミセ*゚Д゚)リ 「えー!たまにはお外でしたりしたいー」

(゚、゚トソン 「……一度杭持ちに殺されてしまえばいいのに」

ミセ*゚Д゚)リ 「冗談でもそう言うこと言うなよー!」

200名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:38:19 ID:MIBYgXtM0

 サンダルをつっかけて、家を出た。
 歩いて10分もかからないコンビニ。
 ミセリを雑誌のコーナーに待たせ、適当な夕飯を選ぶ。
 いざ楽をするといっても、沁み込んだ貧乏性は抜けきらないもので、何とも地味な品々になった。

ミセ*゚ー゚)リ 「何買ったの?」

(゚、゚トソン 「サンドイッチと、野菜ジュースです」

ミセ*゚ ,゚)リ 「もっと栄養あるもの食えばいいのに。お金の心配なんかしないでさ」

(゚、゚トソン 「人のお金で贅沢するほど私は図々しくありません」

ミセ*゚ ,゚)リ 「だから、私がもらってる血やらなんやらの対価なんだから、堂々と受け取れっての。頑固だな」

 解せない、と表情でぼやきながら、ミセリが先を行く。
 ミセリにはわからない、私の小さな意地だ。
 彼女との関係を飼い主と家畜然としたものから、少しでも遠ざけるための最低限の抵抗。

 少しだけ離れたミセリとの距離を、小走りで詰める。
 見た目こそ、私と同じくらいの小柄な少女だけれど、仮にも吸血鬼だ。
 力では筋骨隆々の男を簡単に組み伏せるし、走力では、原動機付自転車くらいならたぶん勝てる。
 彼女自身は普通に歩いているつもりでも、私にはかなり速いペースなのだ。

ミセ*゚ー゚)リ 「ん、ごめん、速かった?」

(゚、゚トソン 「少しだけ」

 息が切れ、体に汗が滲むのがわかった。
 風が心地よい。それ以上に、空気が温い。

201名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:39:23 ID:MIBYgXtM0

 コンビニからさらに10分弱歩いて、川沿いの道に出た。
 朝夕、ランニングに励む人を良く見かける土手の上の道。
 車道とは完全に隔てられていて、煩わしいライトの光に目を潜める必要が無い。
 街燈の類がほとんど無くこの時間はどうしても暗いが、今日は月があるので幾分視野がある。

(゚、゚トソン 「そこのベンチにしましょうか」

 土手から川の方へ下ると、もう一段舗装された川原になっている。
 ベンチがいくつかあり、昼間に生きているのか死んでいるのか分からないお爺さんが良く座っているところだ。
 その内の一つに、私とミセリは腰をかけた。
 川の潺が、耳に優しい。この音の中でなら、遠くから聞こえる車の音も、気にならなかった。
 水の傍のお蔭か空気もひんやりとしている。ここで食べることにして正解だった。
 ミセリにくっついていても、部屋にこもって過ごす初夏の夜は、暑い。

ミセ*゚ー゚)リ 「トソン」

 私が食事を初めて数分経った頃、ミセリが呟く。
 独りごとのようで、自分が話しかけられたのだと気づくのに時間がかかった。
 ちらりと横を見る。体ごと仰け反って、月を見上げていた。
 半開きの口から、続きの言葉が出てくる様子は無い。

(゚、゚トソン 「なんですか」

ミセ*゚ー゚)リ 「……あー、いや、ごめん。なんとなく呼んだだけ」

(゚、゚トソン 「……?」

ミセ*゚ー゚)リ 「月ってのはさー―……いいよな。こう、頭が、静かに、冷たく狂っていく感じがする」


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