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十二国記SS「† 夜に別れを †」

1名無しさん:2004/08/17(火) 23:34
スレの立て方わからないけど、これでいいのかな?

2名無しさん:2004/08/17(火) 23:42
内容:カプ・・月渓×峯麒(勝手なオリキャラです) 
傾向:ライト&ソフトですw
その他:途中から雁主従・慶主従・範主従ほかも登場します(予定)ので、
    読んで!! お願い!!!・・・ (涙)

3名無しさん:2004/08/18(水) 00:02
「† 夜に別れを †」

 月が薄く残る夜明けの空を一匹の獣が翔けていた。その翔ける道の高さゆえに
人目にはつきにくいが、もし間近に見る者がいたならば、その背に五色の輝きを
見ただろう。まだ伸びきらぬ幼い肢体ながらも毛並みの金銀は淡い朝日に映え、
風の動きにつれてその背に太陽の赤や空の青を薄く描き出す。長すぎるほどの
尾は優雅にたなびいている。
 地上では朝の早い者たちが鍬を手に空を見上げていた。
「あれ、ごらん。光るものが空を飛んでいるよ」
 あのようにきらきらと輝く生き物といえば神獣しか思いあたらない。ただびとなら
一生に一度でも目にすることができれば相当な幸運というものだ。その光は宮殿
の方角をさして飛んでいるように見えた。しかしこの国には今、神獣はいない。
この国の神獣である麒麟は現在、世界の中心である蓬山に暮らし、つい先ごろも昇山者たちに
面会を行ったがそこから王が選ばれることはなかったという話だ。
「芳の麒麟はまだ幼くていらっしゃるのだ。ここまで飛んで来られるわけはなかろう。
そう考えればあれはよその国の台輔ではないかな」
彼らはそう納得し、なにはともあれ珍しくも貴いものを見たことを瑞兆として、気分
が澄み渡るのを感じた。

4名無しさん:2004/08/18(水) 00:15
 いきなり飛来し禁門前の岩棚に降り立った麒麟に門番たちはただ目をまるくするしかなかった。
皆、茫然自失しかけたが慌てて腰を折り地に額をこすりつけて礼をとった。優雅に音も無く着地した麒麟は
厳かに告げた。
「私は峯麒だ。蓬山には良き昇山者なく、自ら王を探すために生国に参った。
ひとまずここで休ませてもらおうと来てみたのだが・・・何か先程から強い王気を感じる・・・」
 獣の声は思いのほか幼かった。まだ十かそこらの歳のこどもの声だった。
必死で厳かさを装おうとしているようだが、その言葉遣いにはまだ物慣れない感が
あった。
「これは蓬山公。わざわざのお越しいたみいりまする。お疲れのご様子とお見受け
いたします。すぐにお食事と湯浴みの準備などさせますので・・」
 番卒に呼ばれて駆け出してきた官たちが、慌てふためきながらそのように言うの
を峯麒は制した。
「そのようにことは後でいい。とにかく王気をたどるのが先だ。通るぞ」

5名無しさん:2004/08/18(水) 00:29
 幼い声で言葉だけは勇ましく峯麒は門の中へ入っていった。官たちは戸惑いなが
らも、その後に続かずにはいられなかった。おそらくこの後、めったに立ち会うこ
とは叶わないこの上なく喜ばしい場面が見られそうなのである。見逃すいわれはな
かった。又、その王気が誰の発するものなのかというのも気にかかる。おそらく
仮王の月渓だろうとは誰もが思う。その確信が現実となる日を誰もが心待ちにして
いたのだ。
 背後に神妙さと期待の入り混じった表情の人々を従えながら、峯麒は迷いのない
足取りで進んでいく。小声の囁きにより事の次第を知った人々が新たに峯麒の後ろ
に加わる。とある部屋の扉の前でぴたりと峯麒が立ち止まったときには、背後の
人々の群れは当初の何倍にも膨れ上がっていた。
 その中の一人が上ずった声をあげた。
「おお、ここは仮王の執務室。やはり月渓様が・・」

6名無しさん:2004/08/18(水) 00:35
 部屋の前の見張りは事態を察すると慌てて扉を開いた。部屋の中から
「なにごとだ。執務中に断りもなく扉を開けるとは」
という声が聞こえると、麒麟の耳がビクビクっと震えた。
 麒麟はそのまま声のほうに駆けていった。その姿にはもはや神獣の厳かさは感じ
られなかった。留守にしていた主人を出迎える子犬ですら、ここまで嬉々としては
いないだろう。麒麟は全身に歓びを漲らせ、駆け寄って月渓の顔を見つめた。
 勝手に部屋に雪崩れ込んでいた人々は、その様子を見て囁きを交し合った。
「おお、なんと喜ばしい」
「これで芳国は安泰だ」

7名無しさん:2004/08/18(水) 00:49
 月渓は呆然としながら、突然現れて自分をひたむきに見つめている獣を見た。
これはどういうことなのだろう。幼い麒麟といえば蓬山公である峯麒としか考え
られない。しかしそんな幼い麒麟を蓬山の女仙たちが外に出すわけはない。ならば
なぜ目の前にこのような神々しい獣がいるのだろう。
 そこまで考えて月渓は自分がとんでもない無礼を働いていることに気づいた。
自分は今、神獣を目の前にしているのだ。月渓は慌てて獣の足元に額づいた。
「こ、これはご無礼つかまつりました。あまりに突然のお越しゆえ・・」
 そんな月渓に峯麒は鼻づらを摺り寄せるようにして言った。
「いいえ、そんなこと・・頭を上げてくださらないと困ります。さあ、立ち上がっ
てください」
 峯麒は鼻づらで押すようにして月渓を促した。そして月渓が立ち上がるがはやいか、
今度は獣のほうが月渓の足元に額づいた。
 その様子を期待を込めて凝視していた人々に幸せなどよめきが流れた。今、自分
たちはこの国の歴史の、最も重大で喜ばしい瞬間に立ち会おうとしているのだ。

8名無しさん:2004/08/18(水) 01:10
 人々は峯麒が幼い声で精一杯厳かにその言葉を唱えるのを聞いた。誰もがあまり
の幸せに緊張した。峯麒は唱え終わるとそのままの姿勢で待った。人々は固唾を
飲んで見守り続ける。
 峯麒は待ち続けた。しんとした空気が流れる。待つ時間がこんなに長いものとは。
いや、あまりに長すぎはしないだろうか。何か変ではないだろうか。
 そのとき頭上から声が聞こえた。それはなぜか、聞こえるべき声とは違っていた。
「頭を上げてください、蓬山公」
 峯麒が驚きのあまりきょとんとした顔を上げると、月渓は手を沿えて峯麒を立た
せながら言った。
「蓬山公、正直おどろきましたが、公のお気持ちは本当に嬉しいのです。ただ、公
がなんと言われようと、私は公を受け入れる資格の無い人間なのです」
「なぜです? 麒麟が選べばそれが王です。天命なのですから」
「私は王と麒麟を手にかけました。この手で王と麒麟の血を流したのです」
「でも、天命なのですよ?」
「そのうち公は他に天命を見出されることでしょう」
「天命は一つではないでしょうか」
「そう言う人もいますね。だが、そうではないことが今日、私にはわかりました」
 言うと、月渓は戸口のほうに向かって歩きだした。峯麒は追いかけたいと思った
が、幼い身に受け入れがたいほどの衝撃を受けたために、ぺたんと後ろ足と尻を
落として座り込んでしまい、どんなに力んでも立ち上がることが出来なかった。
「待ってください! ぼく・・ぼく・・た、立てないよう、歩けないよう・・・
うわぁぁぁぁん!!!」
 厳かにふるまいつづけようという決心も努力もどこかに消し飛んでしまい、こど
もはただ悲痛な声で泣き叫び続けた。月渓が戸口前であぜんとしている群衆を
掻き分けて姿を消そうとしているのが目に入ると、こどもの泣き声はさらに悲痛
に部屋に響きわたった。それは母を亡くしたこどもの泣き声を思わせ、人々は胸を
えぐられる思いがし、涙ぐむ者も多かった。

9名無しさん:2004/08/18(水) 01:20
2.
「月渓様、いったいどういうことなのですか」
 小庸の咎める声が月渓の私室に響き渡っていた。小庸も人に教えられ、慌てて件
の執務室に駆け込んだ中の一人だったのだが、月渓が麒麟を置き去りにした後、
小庸だけが月渓を追いかけてこの私室までやってきたのだった。先程からの押し
問答で既に両者ともくたくたになっていた。
「そういうわけだから、小庸。公には帰っていただかねばならぬ。もったいないこと
ではあるが、私にあのようなことをされるのであれば、公にこれ以上ここに居て
いただくわけにはゆかぬ。こどもとは駄々をこねるものだ。特に公は何不自由なく
育たれたお方。もし居座られるそぶりがみえたなら、皆で徹底して冷たく対処する
のだ。公がはやく私のことは諦め、正統な王を選びに行かれることこそ国にとって
重要。仮王として命じる。公への対処を皆に徹底させるのだぞ」

10名無しさん:2004/08/18(水) 01:41
3.
「蓬山公、今、湯浴みとお食事、それにお召し物の用意をさせているところですから。
長旅、たいへんでございましたでしょう」
 切るものが無いので獣形をとけずにいる峯麒だったが、ひとまず泣き止んで別室に
移されていた。未来の台輔となる人物なので、着るものもそれにふさわしいもの、
しかも体に合ったものをということになると、なかなか適当なものが見つからず、
それでも女官たちは自分に与えられた仕事に幸せを感じていた。
「公、湯の準備が整うまで、軽くお体をおふきいたしましょう」
「ううん、ぼく、いい。ねえ、あの方をここへ連れてきてよ。そうじゃないと、
食事だってしないもん! あの方が王になるまで、ぼく、他のことなんかする気に
なれないんだもん。だって王気をこんなに近くに感じてるんだよ? 王気って、
とっても気持ちがいいから、もうずっとあの方のおそばにいたいんだ」
「仮王の月渓様ですよ。ほんとにすばらしい方です」
そこまで言ったとき急に扉が開き、小庸が姿を現した。
「こちらに」
入るなり小庸は女官長を手招きした。女官たちは小庸のいつにない表情になにか
不安をかきたてられ、二人を見つめやる。
 小庸は苦しい顔でなにやら女官長に説明している。女官長の顔色が変わった。

「そんな! 公に他で王を探せと? 王には月渓様しか考えられません!」
「仮王の命なのだぞ。破ればどうなるか。謹んで従うのだ」
 小庸は厳しく言うと反論は受け付けないというように、すぐに背を向け部屋を
辞した。

女官長はしばらく拳を握り締めて俯いていたが、やがて意を決したようにきびすを返し、
峯麒や女官たちのそばそばにやってきた。
「あの・・公・・・。こんなことを申し上げるのは本当に心苦しいのですが・・・」

11名無しさん:2004/08/19(木) 16:27
小説風て気を遣ってるとしんどいんで、萌えポインツに絞ってあらすじっぽく
さらに書きたいシーン集中でいきます

人々はなるべく峯麒を手ひどく扱うため、食べ物や着るものはいっさい与えない
方針。月渓にいたっては峯麒が近寄ると、足蹴にしたり水をぶっかけることも
あった。

12名無しさん:2004/08/19(木) 16:31
しかし月渓は初対面のときから、峯麒のことを確かに半身だと感じていた。何か
懐かしさのような心地よいムードを感じたのである。又、初対面の獣形の峯麒が
かわいらしかったので、峯麒が額づいたとき、契約したい気持ちでいっぱいになって
しまった。又、自分ではけして認めたくないが、彼の心の中には王になりたいという
気持ちがやはり潜んでいるのだった。それを前王に悪いとか、国のためにならない
とかいう理由で必死に押さえつけるのは月渓にとって、とてもたいへんなことだった。
そのため迷いが生じ、峯麒が首をたれている間、一人はげしく葛藤してしまい、
峯麒に声をかけるのが遅れたのである。

13名無しさん:2004/08/19(木) 16:34
宮殿に住ませてもらえない峯麒は宮殿の庭のはずれの林の中でホームレス生活を
送らざるをえなかった。木の繁みの間に棒を立てたり盗んできた布で屋根を
作ったりして住居を作った。服はボロボロのが一着だけ。これも盗品である。
食べ物は厨房から盗んだり、果樹園から盗んだりするのだが、見張りが厳しく
いつも飢えに苛まれていた。なま野菜やなま米をかじることが多く、蓬山で
食べたようなちゃんとした暖かい料理が恋しかった。
所持品としては他に、やはり盗品の湯のみがあった。欠けのある古い
みすぼらしい品だった。靴がないので足は疵だらけだった。
家づくりも盗みも未経験のことでもあり、小さなこどもにとっては、たいへん
でつらい仕事だった。盗みのときには仁の心が痛まざるをえなかった。

14名無しさん:2004/08/19(木) 16:41
将来的にはこの国の宰輔となる麒麟がみすぼらしい姿を見せるわけにはいかない。
王となる月渓に恥をかかすことになってしまう。
それで峯麒はなるべく獣形はやめ、人間形で、頭に盗んできた布をまいて
過ごすことが多かった。その格好なら麒麟ではなく宮殿の下働きのこどもに見えると自分では思っていたのだ。
地上におりて麒麟の姿をさらせば、もっと良い扱い
を得られるかもしれない。しかし、未来の宰輔たるもの地上で物乞いのような
ことをするわけにはいかなかった。将来、台輔はかつて物乞いをしていたなどど
いわれるようなことがあれば、王の威信に瑕がつく。

15名無しさん:2004/08/19(木) 16:44
しかし麒麟は食べ物だけで生きる生物ではない。王気が必要だった。
王気は食べ物とは別腹だが、いったん王をみつけてしまった以上、継続的に
王気を補充する必要がある。最初のうちはいやがられても月渓につきまとって
いたが、蹴られたりすることも多いので、今では月渓の後ろにひっつくのは
一日のうち30分くらいにとどめるのが限度だった。しかし、それでは
慢性的に王気が不足する。そこで宮殿内の気の流れを利用し、王気が流れて
くる場所を探してそこで王気を吸うという工夫をしていた。さらに月渓が最近
着た服を盗むことができた場合はラッキーだった。服にはかなり王気がまとい
ついている。これを抱きしめ顔をうずめれば、ある程度補充できる。しかし服に
ついている王気は2、3日のうちに薄くなってしまうのだった。

16名無しさん:2004/08/19(木) 16:46
一方、月渓も苦しい生活を強いられていた。そもそも月渓は初めて人間形の峯麒
を見たとき、倒れそうだった。峯麒の外見はそれはもう月渓の好みのストライク
ゾーンど真ん中で、そこに直球を投げ込まれたも同然だった。ただでさえ半身
としての懐かしさから峯麒を求めている月渓にとって、これは天のあまりにも
な仕打ちといえた。ともすれば毎日頭を下げたり擦り寄ってくる峯麒を
抱きしめたくなってしまう。だがそれは芳国のために決してしてはならない
ことだった。抱きしめたい気持ちをふりはらうために、月渓はよく、峯麒を
力いっぱい蹴り上げるのだった。はやく、この自分を恨むようになり嫌いになり
よそへ行ってくれないかと思った。このままでは辛抱が切れそうだからだ。
しかしそうなったらそうなったで、心がひきちぎれんばかりの喪失感と悲しみ
を味わうであろうことはわかりきっていた。いっそ国を思うことはやめて
峯麒を受け入れ玉座をも手に入れてしまおうかと魔が差すこともあった。
その気持ちを追い払うことが日に日に難しくなってきている自分に月渓は
危機感を抱いていた。

17名無しさん:2004/08/19(木) 16:48
蓬山では蝶よ花よと大事にされてきた峯麒はそのような待遇を当然のこととして
育っていたのだが、宮殿の林のなかでこのように過ごすうちに、そのアイデンティティーに変化をきたさざるをえなかった。今や峯麒は大事にされる存在ではなく
盗人で邪魔者で嫌われ者のホームレスだった。そしていつも薄汚れて汚らしく
蹴られた痣だらけだった。

18名無しさん:2004/08/19(木) 16:53
書き手です。
で、このへんで、「黄昏の岸」みたいな感じで雁、慶、範の主従その他が芳国に
集まるような感じにしたいんですが、うまい理由が思いつけません。
例の大使館関係の相談のためとか考えてみても、国がうまくいっていない芳国に集
まるのは変だし・・。でも話が進まないので私にはよくわからないなんらかの
理由で芳国へとやってきた彼らです。(なんかムチャクチャ…)

19名無しさん:2004/08/21(土) 01:46
芳国は北方にあるため冬が厳しい。その厳しい冬がやってこようとしている。
小庸は焦りを感じていた。寒さが厳しくなってきているおり、月渓は最近、峯麒を
蹴りあげるよりも水をぶちかけることが多くなってきている。おまけに峯麒が
寒風吹きすさぶ林の中で隙間風の烈しい小屋とも呼べないようなほったて小屋に
住んでいることを小庸は知っていた。そんな小庸の心を見透かしたように月渓が言った。「どこぞの浮浪児のところにふとんを運んでやろうなどと考えているのでは
あるまいな。冬こそ良い機会なのだ。公も根をあげてここから逃げ出すだろう」
 実際、状況は峯麒にとって、ますます厳しくなってきていた。寒さが増して
きたために王宮は戸締りが厳重になり、食べ物を盗むのが困難である上、気の
流れも閉ざされ、王気の補給路も途絶え勝ちだった。

20名無しさん:2004/08/21(土) 01:48
小庸は峯麒になんとか活路を見つけてやりたかった。それがひいては月渓のため
である。小さな麒麟に水をかけたり蹴りあげたりするたびに、誰よりも辛い
思いをしているのは月渓その人であることを小庸は知っていた。しかし宮殿の
者に相談してもどうなるものでもなかった。だから国外の誰かに相談したかった
が、こんな話がよその国にもれたら笑い者になるとしか思えない。小庸は、やむ
にやまれず国外におけるわずかな知り合いといえる慶国の青将軍や芳国元公主に
書簡で連絡をとったが、その内容といっても事態を説明するわけにもいかず、
詳細は今は言えないが、とにかく月渓についてたいへんな悩みが生じていると
いうことが感じられるものであった。

21名無しさん:2004/08/21(土) 01:51
小庸の書簡がもとで、雁、慶、範の主従や漣国の台輔などが、お忍びで芳国を訪問したいと言い出していることが青将軍から伝わり小庸は面食らった。彼らは非公式の訪問で形式的には小庸の個人的な客で一般人ということにするという(もちろん単に形式だけだが)。王や台輔が来るなど、なぜそんなおおげさなことになってしまったの
かと小庸は頭を抱えた。彼らは国同士の共同事業のことで会議をしたいので場所
を提供してほしいし月渓の意見も聞きたいという。芳国の観光もしたいという勝手
な訪問なので重くとってくれるな、ともあった。

王宮内には住めない峯麒であったが、日中、中をぶらつくことはできた。それで
人々の噂から詳しいことはわからないが近々賓客があるらしいことが峯麒にもわかった。

そのころ景王陽子は景麒より一足はやく芳国への旅路を辿っていた。

22名無しさん:2004/08/21(土) 01:54
さて、書き手ですが、ここで脇にそれますが、中島陽子について言及させて下さい。
こんな陽子像はイヤソという場合はスルーでお願いします。

陽子は騎獣の背で芳国へ向かいながら、これから久しぶりに会う予定の雁主従の
ことを考えていた。雁主従のことを考えるたびに自分の王たる資質への疑問が
生じてくる陽子であった。
実はひた隠しにしていたが陽子は腐女子であった。これは父親が厳しすぎる反動
ではないかと自分では推察していた。今まで学校でも隠しおおせていたのだが
前回のコミ○で偶然、同級生の杉本と出くわしてしまったときは心臓がとびあがる
かと思ってしまった。杉本は何も言わずただ意味ありげにニヤリと笑って行き
すぎた。その後も、そのことを持ち出すそぶりは見せなかったが、陽子は言い
ふらされやしないかとハラハラしたものだった。

23名無しさん:2004/08/21(土) 01:57
楽俊のことを考えても陽子は胸が痛かった。陽子は腐女子である。楽俊は自分が
半獣ということもあり、又、その高潔は人柄もあり、けして人を何かの理由で
差別したりなどする人ではない。しかしもし陽子の腐の部分を知ったらどうだ
ろう。陽子を普通とは違う人間として色眼がねで見るのではないだろうか。
けして知られてはならない、と陽子は思った。

そんなことを考えてしまうのも、これから雁主従に会うせいである。実は陽子
は雁主従に禿げ萌えだった。しかし彼らは陽子にとって大の恩人である。これ
ほど大恩ある人たちに萌え萌えしていいものだろうか。でも陽子は六太に
初めて会ったときからその美しさに衝撃を受け萌えずにはいられなかったのだ。
この二人は絶対にあやしいと陽子はにらんでいた。ともかく陽子の腐の部分を
刺激しまくる雁主従なのであった。以前、王になるかどうか迷ったときも、
実はこのことがネックとなっていたのだ。冗祐だけは陽子の秘密を知りながら
も陽子を王へと推奨してくれた。そしてこの秘密は決してもらさないと約束
してくれた。陽子は冗祐の心の広さに感激し尊敬の念を抱いていた。
なんのかんの意っても陽子は雁主従に会うのがとても楽しみだった。

24名無しさん:2004/08/21(土) 02:00
書き手です。陽子を出してもあまり見せ場がないので、書かずもがなのことを
書いてしまいました。ただ書きたかっただけ。
さて、王宮のほうへ戻ります。

月渓が下界に視察へ行っている(日帰りではあるが)ときに賓客たちが到着する
とは小庸にとって計算違いだった。小庸は客たちに借王の不在を詫びた。
昼食の時間がせまっていることもあり、小庸は賓客達用の昼食の用意を指示した。
麒麟には麒麟食というものがあり、今回はそれも用意せねばならない。この王宮
では麒麟用の食事を作るのは、先の峯麟の死以来、というか峯麒が初めて飛来した
日に準備だけで出し損ねて以来、ということもあり、料理人たちは腕をふるってい
た。麒麟食においては動物性のものは決して用いてはならず、植物油といえども
抑えねばならない。だしとしては昆布や干ししいたけを用いていた。この条件で
美味しい料理を作るのはたいへんなことなのだが彼らには自信があった。

25名無しさん:2004/08/21(土) 15:24
皆さん、来ましたね〜。
これから皆がどう絡んでくるか、楽しみにしています♪
がんがって下され!!
杉本はもちろん、陽子もふぢょしだったとわ〜〜〜!!

26名無しさん:2004/08/22(日) 01:38
お、おわわ・・・こっちのスレにレスもらえたよ・・・・・やりました、今日は
記念すべき日です!!!
常世には萌えられそうな媒体が何も無いところに好素材、ナマモノに走った陽子・・・
といったところなんですが、そろそろ真面目な内容に戻ります。

27名無しさん:2004/08/22(日) 02:37
それは懐かしい香りだった。蓬山で食べていた食事。峯麒はこの王宮で厨房
等に侵入して野菜等を盗むことはあったが、料理は盗み食いする気になれな
かった。普通の人間用の料理は麒麟には食べられないからである。しかし、この
香りは違った。慢性的な飢餓感に苛まれている峯麒はよい香りに吸い寄せられて
その部屋にしのびこんだ。
 卓の上には普通の料理と麒麟用の料理とがところ狭しと並べられていた。それ
は客人たちのために用意されたものだった。客人たちは昼食の用意ができて
いることを知らされたが、旅装からの着替えなど仕度もあるので少し遅れるから
すぐに食べられるよう準備だけしておいてくれと伝えていたのである。
しのびこんだ峯麒はそこに人の姿がないのをよいことに、料理の保温用の蓋
を開けるとがつがつと食べ始めた。懐かしい味わいが口に広がると、もう理性
も吹き飛んでしまった。峯麒はただもう本能のままに食べつづけた。

28名無しさん:2004/08/22(日) 02:41
「あっ。なんということを!」
女官の叫び声で峯麒は我に返った。見ればそこには女官のほかに何人かの見たこと
のない人々の姿がある。彼らはあぜんとした顔つきで峯麒を見ていた。
あぜんとするのも無理はなかっただろう。客として案内された食事のための部屋
に来てみれば、そこでは頭に布を巻いた子供ががつかつと卓上の料理をむさぼっ
ているのである。
「こら!」
女官が峯麒をつかまえようと手を伸ばした。峰麒が一瞬はやく逃げたので女官が
掴んだのは、峯麒の頭を覆う布の結び目だった。峯麒が逃げると女官の手は自然
と結び目を引く形となり、布は峯麒の頭から解け落ちた。その瞬間、峯麒の
金の髪がはらりとこぼれ出た。
 客人たちは予想もしていなかった事態に驚いた。客用であるはすの料理を
こどもが貪っているのにもびっくりしたが、そのこどもが芳国にはいるはすのない
麒麟であるとなるとなると想像の範疇を超えていた。風のような速さで部屋を逃げ
出して行く麒麟を、ただ呆然と見送るしかなかった。
 一方、峯麒は走って逃げながらも、自分の失態を悔いていた。
みっともない姿を見られてしまった。しかも麒麟であると知られてしまった。
これが芳国の麒麟であると思われたら、国の恥、月渓の恥ということになってし
まう。

29名無しさん:2004/08/22(日) 15:19
一方、下界視察から戻った月渓は、賓客たちが既に到着したと聞いて、慌てたよう
に足早に回廊を進んでいた。小庸は小庸で戻った月渓を出迎えようとやはり回廊を
走っていた。あれから料理は作りなおされ無事賓客たちの食事は済んだのだが、
彼らは「芳国に麒麟が?」とざわついていたようだった。
 小庸は回廊の彼方に月渓の姿を見つけると、「月渓様」と駆け寄ろうとした。
月渓の側に少女の姿が見えた。その少女はなぜか、かつて遥か昔に小庸が想い
をかけた少女に良く似ていたので小庸はハッと足を止めた。
 そのときだった。小庸は悲鳴を上げた。月渓がいつも峯麒にしているごとくに
その少女に蹴りをくらわせたのである。蹴りは見事に少女の顔面に入った。
とたんに少女は火がついたように泣き出した。最近は峯麒も巧妙になり反射神経
も鍛えられて、月渓の蹴りも顔や急所ははずれることが多かったのだが、今日の
蹴りは久々の直撃だった。
「ふん、懲りないやつめ。今日は油断したようだな」

30名無しさん:2004/08/22(日) 15:23
小庸は駆け寄った。
「何をなさるのです、こんな女の子に」
少女は泣きながらも、なにか透明な布を被っていてそれを脱ぎ落とすかのような
仕草をした。
何かを脱ぎ落とした少女はもはや小庸のかつての想い人ではなかった。
そこには金の髪の見たこともないほど美しい少女の姿があった。
しかし、その整いすぎた顔には月渓の蹴り上げた跡が無残にのこり赤くなってい
る。
「ひどい…。ひどいわ。どういうことなの」
こ、これは噂にきく範国の麒麟ではないかと、月渓と小庸は青ざめた。
範国の麒麟である氾麟は宝重の布を被り王宮の中を探索中に月渓に行き会ったの
である。この宝重を被ると氾麟の姿は見る者にとって好ましいものに見えるので
普通はこのような危険な目に合うことはない。それで氾麟の使令たちも油断をし
ており月渓の攻撃をかわしきれなかったのだ。
「も、申しわけありません。お許しを…」
そう言って小庸は床に額をこすりつけた。
氾麟は涙をこすりながら月渓に向かって言った。
「この布を被っていれば、私の姿は見る人にとって好ましいものにうつるはずよ。
あなたは自分の好きな人を力いっぱい蹴ったりするの? あなたってなにか
おかしいわよ!」

31名無しさん:2004/08/22(日) 16:52
さてさて。どうする、月渓…?
周りに対してもマズー
自分の内心の本音に対してもマズーな状況で砂w

32名無しさん:2004/08/22(日) 21:41
姐さん、レスありが㌧です。
これからも月渓を不幸にするため頑張ります。
自分はほんとは年々悪化する不治の真性尚六スキー病で一時期は集中治療室
入ってました。というわけで峯麒は六太の亜種です。
リハビリがてら月×峯を書き続けます。

33名無しさん:2004/08/25(水) 00:47
 氾麟は走り逃げてしまった。月渓たちはすぐに氾主従のもとへ謝りにいかねば
ならないと慌てた。月渓はまだ挨拶もすまさぬうちから、とんでもない失態を
演じてしまったのである。だが目通り願いたいと申し出てみたものの、氾王
からは旅で疲れているので会うのは夕食時でいいだろうという返事だった。
氾王から怒りの返事がなかったため、かえって月渓は落ち着かなかった。
 他の賓客たちからも、月渓も多忙であろうし自分たちは疲れたので挨拶は夕食
時にという伝言を受け、月渓はますます落ち着かない。昼食時の峯麒の失態
のこともある。月渓は気がかりに思いながらも職務をこなしつつ、その時を待った。

 月渓が職務で疲れ果てたころ、やっと夕食の時間がやってきた。仮王である
月渓は王や麒麟とは身分が違いすぎるため、もちろん食事の席を共にすること
はできないが、挨拶と詫びのために重い気持ちでその席に向かった。本来なら
きちんとした場で拝謁せねばならないにもかかわらず、夕食の席で夕食前にと
いうのも月渓は気持ちがすっきりしなかった。

34名無しさん:2004/08/25(水) 00:49
係の者が月渓の到着を伝えると中から入室を促す声がし、月渓は部屋に踏み
入った。入ればすぐにその場で叩頭礼をと、月渓が膝を折ろうとしたとき、何か
腰のあたりに違和感が感じられた。見るといつの間にここへ来たのか峯麒が後ろ
にへばりついているではないか。
 これは峯麒の最近の戦略でもある。峰麒は月渓の腰のやや右寄りの辺りにしがみついてぴったり体を寄せ、月渓の背後から少しだけ顔をのぞかせて前方の様子を
うかがっているようであった。このようにぴったりとひっつけば月渓も峯麒を
蹴ることはできない。その上、王気も吸収しやすいので一石二鳥なのである。
こどもが大人に甘えているようで、かわいらしい行為にも見えるが、いつも
蹴られている相手にしがみつくとは妙な行為ともいえる。しかし王気不足は
麒麟にとっては死活問題であり、これは幼いながらに蓬山を飛び出したほど、
ある面ではしっかり者である峯麒が、必死で考え出した生き残り戦略であった
のだ。

35名無しさん:2004/08/25(水) 00:51
そのとき賓客たちは月渓の背後に小さな麒麟の姿を確かに見た。
麒麟を従えているということは月渓は仮王ではなく、王なのか?
それにしては新王が登極したという知らせは無かったし、もちろん白雉も鳴いて
いない。昼食のときといい、この麒麟はなんなのだ、と客たちは思った。
 月渓は昼食時に引き続き峯麒を見られてしまい、まずいと思ったが、客の前
で峯麒を叱りつけるわけにもいかず、背後にしがみついている峯麒にはかまわず
むりやり、腰を折り膝を床についた。峯麒はその隣で軽く会釈だけすると、叩頭礼をする月渓を痛ましげに見た。
 峯麒は自らの人生を切り開くために、賓客たちの前に月渓と共に出て挨拶する
という方略に出たのだった。大切な客に月渓が王であると分らせることで、
なしくずし的に月渓が王座につくようになるかもしれない、という考えだった。
見かけによろず、幼くして蓬山をとびだすほどの大胆さを持っている峯麒らしい
行動であった。
 峯麒の急な登場に慌てた月渓は、なるべく早くこの麒麟をつれて場を離れねば
まずいと思った。叩頭礼のまま短く挨拶と詫びを入れると、今は賓客の食事前で
あるので明日、正式な礼をとらせていただきたいと述べた。そして峯麒の背を押し
その小さい姿を隠すようにしながら二人でその場を辞した。峯麒は今なにかお客
たちに言わなければと、とっさに必死で考えたが言葉が出ず、名残惜しげに客
たちのほうに目だけむけながら、去っていかざるを得なかった。
 部屋を出たとたん、月渓は峯麒の首根っこを掴むと峯麒をひきずりながら急ぎ
足で部屋から離れた。そのあと峯麒が思いきり殴られたのは言うまでもない。

36名無しさん:2004/08/25(水) 00:53
景麒が林の中にある峯麒の小屋を訊ねてみたのは翌日のことだった。
景麒は芳国に小さな麒麟がいること、その行動が不可思議であること等の謎を
解明するために、使令たちに王宮中から情報を集めさせた結果、麒麟が林の中に
住みついているらしいとの情報を得たのだった。

37名無しさん:2004/08/25(水) 01:50
面白いけど…峯麒不憫だな(;´д⊂

38名無しさん:2004/08/25(水) 12:02
書き手です。レス嬉し過ぎです。
景麒のこども時代と六太とを混ぜたような感じのかわゆい麒麟ちゃんが
王に甘えたくてたまらないのに逆にいぢめられてしまい、そして・・・
というのが自分的には書きたいところなのです。
しかし読み返してみると、変なストーカー麒麟みたくなっとる・・・。

39名無しさん:2004/08/25(水) 23:44
変なストーカー麒麟ワロタw
月渓のビジュアルを、どうにかアニメのアレから他のに変換して読みたひ…

40名無しさん:2004/08/26(木) 03:08
書き手どす。既に変換して書いとります。書いてるうちに月渓を憎めなく
なってきたというか、もしかしてアニメのキャラデザがすごいハンサムだった
ならファンになってたりして。今日は深夜まで書いてしまった・・・
やばい・・・。

41名無しさん:2004/08/26(木) 03:10
時間はその少し前に戻ります。

 月渓はある意味ではほっとしていた。今日は氾王にさんざん厭味を言われた
が、月渓が覚悟していたほど恐ろしいことにはならなかった。なんといっても
氾王は美を重んじる人物である。その氾王が常世において最も美しいと認める
美少女の顔を月渓は殴ってしまったのである。という以前に氾麟は範国の台輔
である。それが厭味程度で済んだというのは、むしろ不可思議であるともいえた。
 しかし今日、範主従に接してみて月渓にとって印象的だったのは、この主従
の仲の良さだった。月渓は自室にもどってからも、二人の間に流れているように
感じられた信頼感と細やかな情の雰囲気が目に纏いついて離れなかった。

42名無しさん:2004/08/26(木) 03:12
自分に王たる資格と資質がもしあったなら、と月渓は夢想せずにはおれなかっ
た。もしそうなら、自分は峯麒を迫害などしなかっただろう。彼が飛来したその
日から大切に扱い、今もいつもつきることなく溢れ出ている峯麒への情愛を遠慮
なく表現することができただろう。あの氾王のように麒麟の鬣を撫でて、主従で
満ち足りた時を過ごせたことだろう。
 しかし月渓は自分に王たる資格も資質もないと知っていた。尊敬し敬愛してい
た前王、それに氾王。今日、氾王に接してみて、前王や氾王にはあって、自分に
はない何か、その存在をまざまざと認めないわけにはいかなかった。上手く言葉
では表現できない何か。それが自分には明らかに欠けている。

43(´∀`)ノ:2004/08/26(木) 03:14
実は健気受け(否気弱・女化)が好きなので、ウキウキでワクワク。
して自分は月渓、アニメ絵見てないからそこそこ好きですよ〜
融通きかない+ちょっとズレてる+頭堅い

実は自分は原作から入って、アニメ映像は数人以外は固定されてないので、
なぜか月渓ビジュアルは楽俊状態w
そして頭ではなぜか楽俊は、おっかけて来た猿がカッコイくなったぐらいに
なってます
おそらく、楽俊の設定画がタイプじゃなかったんですり替え、余った楽俊を
月渓にしたと思われ
ビバ脳内変換!

44名無しさん:2004/08/26(木) 03:15
そのうち峯麒は私のことなど見捨てて他の人物を王に選ぶだろう。その王は
氾王が氾麟にしていたように峯麒の鬣を撫でるのだろう。その他、王であれば、
自分の麒麟にどんなことだってできるのだ。月渓はそう考えるとその王に対する
嫉妬で胸が引き裂かれるように感じた。

 月渓は自分の内にある欲望に感づいていた。というか、おかしな考えにとりつ
かれている自分を感じていた。その欲望は範の主従の仲むつまじい様子を見た
せいで暴発してしまった。もうすいぶん我慢していたせいで限界に達していたと
いうこともある。先程、月渓は女官に峯麒を探し出してきて、この部屋へ連れて
くるよう命じてしまった。今や月渓は熱に浮かされたようになり、普段の月渓で
はなかった。ひた隠しにしてきた峯麒への愛情と欲望にとらわれ、もう国も民も
どうなってもいいから想いをとげてしまうしかない、そうせずにはいられない、
耐えられない、と感じていた。王になれないのなら、峯麒だけでも自分のものに
してしまおう。麒麟は王のものかもしれないが、かまうものか。王より先に峯麒
を自分のものにしてやる。嫉ましいとしか思えない、まだ現れぬ王への対抗心は
いやが上にも高まっていた。
 しかし新王が登極したら、自分はもう王宮にはおれないだろう。峯麒が自分以外
の者の後を追いかけ縋りつくのなど見たくなかった。そんな様子を見たら嫉妬の
あまり王を殺してしまうかもしれなかった。美しい麒麟を我が物にして得意げな
新王など見たくなかった。峯麒を見るときいつも感じる、何か懐かしいような、
胸がどきりとするような気持ち、それを誰にも踏みにじられたくなかった。

45名無しさん:2004/08/26(木) 03:18
女官の声が峯麒の来訪を告げた。月渓は心臓が止まりかけたように感じた。
私は何を考えていたのか。峯麒を自室に呼びつけて何をしようとしているのか。
女官の声で我に返ってみると、自分がとても仮王を任じられた者とも思えない
不埒な人間であるのがわかった。
 女官は峯麒を部屋に通すと扉を閉めて姿を消した。
 峯麒はとまどっていた。月渓の私室に呼ばれるのなど初めてである。いつもそこ
に居るものとしてさえ扱ってもらえないのに今日はどうしたことだろう。
 しかし一歩中に入ると、そこには信じられないほどの王気が満ちていた。また、
打ち据えられるのかもしれない、とは思いながらも峯麒は濃い王気にうっとりと
なった。加えて、普段月渓が生活している部屋を見ることができるのである。
峯麒は常にもっと月渓のことを知りたいと思っていた。峯麒はとまどいながらも
歓びに満ちて部屋の中に視線を巡らした。

46名無しさん:2004/08/26(木) 03:20
「峯麒、こちらへ」
月渓が珍しく号で呼んだ。峯麒は月渓の間近へと歩いていった。月渓はなぜか、
立ったまま俯いていた。
 峯麒は息をのんだ。なんと月渓がいきなり峯麒を抱き締めたのである。この
行動もそうだが今日の月渓はいつもとは何か違う。抱き締められると王気が
すごい勢いで峯麒の体に流れ込んできた。その圧倒的な流れに峯麒は目が眩み
そうだった。流されぬようにと必死で月渓にしがみつく。
 王気の中にたゆたうようにして意識すらも王気の流れへ溶け出した、と思った
とき、峯麒は月渓の体が離れるのを感じた。月渓は床に膝をついたまま俯いて
おり、その顔の表情を窺い知ることはできない。しかし月渓は拳を握り締めて
おり、その体は小刻みに震えていた。
「月渓様…?」

47名無しさん:2004/08/26(木) 03:23
月渓は必死に気持ちを振り払うと、立ち上がった。その気持ちを振り切るのには
意志の力を総動員しての努力が必要だった。月渓は峯麒に目をやった。
 その月渓の表情がいつもとはまるで違い、やさしいような懐かしむような王気そ
のもののような何かに溢れているのを峯麒は見た。それを見たとたん、何かにつん
と体も気持ちも貫かれたようで峯麒は動けなかった。

 この麒麟は痩せている、と月渓は思った。それも私のせいだ、と思った。
月渓の普段の妄想の中では峯麒はこんなに痩せてはいない。峯麒はさぞ食べ物に困
っていることだろう。
 月渓は卓の側まで行くと、峯麒を手招きし、卓の上に飾られていた果物を持てる
だけ抱えさせた。
「え…、これを下さるのですか?」
「すまぬ…こんなことしかしてさしあげられない…」
月渓は苦しそうに言った。しかし峯麒は月渓がついぞ見たことのない、喜びの笑顔
を見せた。峯麒の整った顔立ちが笑みに彩られるのを見て月渓は胸を突かれた。
いくら飢えているからとはいえ、果物程度でこれほどの笑みを見せてくれるのだ。
もし、もっと高価な贈り物などしたら、いったいどんな笑顔を見せてくれること
だろう。例えば男の子なら欲しがりそうな騎獣を贈ったならどうだろう。抱きつい
て頬を寄せてくれはしないだろうか。だが、そんな資格が自分にはない。
きっと新王がそれをし、峯麒の最高の笑顔も手に入れてしまうのだろう。
いや、その前に峯麒を手に入れようとして自分は彼をここへ呼びつけたのではなか
ったか…。
 月渓は持てる限りの力を総動員して欲望を自制せねばならなかった。
「は…はやく出ていってください…。はやく、は、はやく出て行け!」
顔を俯け拳をぶるぶる震わせながら、そう叫ぶ月渓に峯麒は何か言いたかったが
名残惜しくも出て行かざるをえなかった。

48名無しさん:2004/08/26(木) 03:26
扉が閉まった。いったいなんのために峯麒をここへ呼んだのだ、と月渓は自嘲
した。峯麒はいつもの月渓の妄想の中の彼より痩せていた。妄想の中では峯麒は
健康に輝いており、上等の衣をまとい、月渓に笑顔を見せるのだった。それと
同じ笑顔を現実に見せられて月渓は心をかき乱されたのだった。
 しかし月渓の妄想はそれだけではなかった。空想の中で峯麒は飛来したその日
から受け入れられており、月渓の愛情を充分すぎるほど受け、月渓を意のままに
するほど我がままでもあった。二人は王と台輔として幸せに暮らしていた。
「ねえ主上、騎獣を買って」と甘えてねだる姿。
月渓の寝床に無造作に横になりあくびをして「今日は疲れているんだ」と
生意気に言う姿。
そしてもちろん、自分と睦み合うときの姿。整い過ぎた顔に様々な表情が浮か
び…。
自分は何を考えているのだ、と月渓は己を叱りつけた。今日、自分はあの子供を
呼びつけ、寝床を共にするため押し倒そうと考えていたのだ。峯麒に初めて会った
あの日を境に自分はおかしくなってしまった。以前の自分はこんなことは考えも
しなかったのに。そもそも月渓はこどもに手を出すような人間を軽蔑していた。
同性同士の恋慕など気味が悪いと思っていた。しかし今、そういった人間の気持ち
が理解できるようになっている。

 しかもたちが悪いことに王宮中の人間が実は月渓と峰麒に仲良く暮らしてほしい
と願っているのだ。罪を犯してしまいそうだ、と月渓は思った。月渓が他の人間
とそのようになれば人々は軽蔑するだろうに、峯麒との場合だけ、むしろ歓迎
するのだ。月渓はこの皮肉さにため息をついた。

49名無しさん:2004/08/26(木) 03:33
>>43
ブラボー脳内変換! 書き手どす。
同じ時間に読んでて下さる方がいたとは!
しかもこれで読者が2名以上いること確定ですよね? ね?
しかし、なんという変換なのじゃ・・・・。
楽俊が追いかけてきた猿・・・。倒れました。
そして月渓が楽俊・・・楽俊がちっこい麒麟をいたぶってる姿って・・・w
これからもがんばります。今日はこのへんで失礼をば。

50名無しさん:2004/08/26(木) 03:46
>49
いや、ちゃんと猿が楽俊化して品よく、かっくいくなってるんですw
そんで月楽俊はちょい老け。

というか毎回私と更新してる時間帯が同じなので、読んでおりますよ〜
他にもこのページ見てる人いそうなんですが、書き込んで欲しいですねえ
ロビーもリレーもssも
というかお互い畑の違うss書いてるんですね
実は尚六はそこまで萌えないのに書いてます
どっちかと言うと、野郎野郎の方が好きですので…

51名無しさん:2004/08/26(木) 15:31
姐さんがた、真夜中に乙ですw

話としては萌えなのに、
アニメの月渓ビジュアルがどうにもしゃしゃり出て来てイヤン。
脳内変換脳内変換…ちょい老け楽俊かぁ。いいかも。
ストイックに自分を律する男が恋に溺れ惑わされている図。
イイよイイよ〜

52名無しさん:2004/08/26(木) 16:22
>>50,51
おおーっ、遂に二人以上かくていーーーっ!!!
ここに私を含め三人以上の人間が存在している〜〜〜っ!
50さんはssの方ですね。尚六中毒ではないのに、そこまで萌えなものが
書けるってなんなんですか?
51さん、私は月渓にも様々な亜種を設定です。場面により最も萌えを高めて
くれる亜種をひっぱりだして使いわけて妄想しとります。

一応、月渓による理想の峯麒は、ちょっとつんとしてるタイプかな。
でもつんとしてるのは月渓の愛を確信してるからだという。
最初から大事にしてれば「理想の峯麒」が手に入ったはずなのに〜〜
というのも月渓の悩みの1つです。でも健気なのも好きという月渓。

5350:2004/08/26(木) 16:59
>52
いやいや萌えてはいますよ
書いたら楽しいし
でも最初はどっちかと言うと、泰主従の方が好きだったし、
正直作品の中でも、延主従の本編は好きな方ではなかったので…
キャラは好きなんですけどね

本当は景麒マンセーな書き手orz

54名無しさん:2004/08/27(金) 01:12
>53
おお? 野郎野郎萌えで、でも泰主従好き(泰麒って女の子っぽいですよね)
で、ホントはケイキマンセーとは、どういう萌えの変遷なのだろうと、ちょっと
興味が。自分はロクタンマンセーですが。

今日はチョト、寝不足気味でダウンです。もう少し健康的な時間にカキコせねば
と思いながら・・・。

5550:2004/08/27(金) 02:03
>54
スレ邪魔してすいません
ちょっと説明しにくいんですけど、私、ヤオイ畑初心者なんですよ
十二国でここが初めてなんです。普段はネットBLのみなんですよね
だから、BLだと、そういう物だとして読んでるんですけど、
一般作品を見て、男同士のそういう想像を、普段多分全然しないんですよね
だから、BL読みとしては、野郎野郎が好きなんですけど、
十二国読者としては、泰主従とか景麒とかがフツーに好きなんですね
単に可愛いとか切ないとか、景麒ってタイプだなとかいうレベルで(苦笑

じゃあなんで尚六書いてるんだ、って、
それはリレーが尚六で、読んでるうちになんとなくこういうもんかというのが
見えてきて、じゃあ、という感じで…
多分二人のそういうヤオイっぽさ?に萌えて書いてるというより、二人を使って
BL書いてるんだと思います
だから書いてる時は普通に楽しいんですよ。
だから書いてる今でも、十二国記読んでる時はヤオイ的な発想はゼロです
ただそれなので、書いてて、なんとなく話が面白くない気がしたりすると鬱ります
読んでくれてる人は、尚六が絡んでれば萌えるから…と言ってくださる人も
いるんですが、書いてる本人は尚六が絡んでても過度な萌えはないんで分からない
んですよね。
ストーリー萌え・喋り萌えしてるわけで、尚六だから萌え萌えという気持ちは
ないんで、正直読んでくれてる人には申し訳ないです
ツボ知らない人間が書いてるわけですから…愛情は、あるんですけど
その点で言うと、氾朱の方はまだ自分が氾王様に過度に萌えてるので、
多少色があります

56名無しさん:2004/08/27(金) 12:42
>55
全然、邪魔じゃないですよ〜  つうかむしろこういったやりとり楽しいですよね。
他の人の萌えの歴史とか、普通にどんな本読んでる人が12好きなのかとか興味
あるんです。12国をどんなふうに好きかとか。本館ではミラージュ読んでるらしき
方の書きこみありましたがw
確かに、萌え萌えな対象と、書いてみたい対象が違うことってあるかも。
私も月渓ってあんましだったし、本命はロクタンなので。
55さんが景麒好きって書いてたら、すぐに801萌えで好きなのかと誤解してしまう
私って、ホントに脳に腐が入ってるな・・・w
本命で萌えててもポインツを明確に描けない人もいるだろうし、
ロクタン本命じゃなくてもツボ的中で刺激してくれるので全然オケなんですが。
尚六萌えじゃなくても楽しんで書いてるムードがあるから、どんな場面も、
みんな快適なのじゃないかな。
私のssのほうは単なる自己満足なので、いろいろ言える立場じゃないんだけど。

57名無しさん:2004/08/30(月) 02:09
さて、同じ日、その後。
 峯麒は小屋の中で麒麟の気配が近づいてくるのを感じていた。


 林の中に麒麟が住みついているとの情報を受け、景麒は峯麒の小屋を目指して
歩いていた。麒麟の気配を辿っていると、藪の中を通らざるをえず、景麒は
ひっかき傷だらけになり鬣も乱れてきた。
 宮殿から相当の距離を歩いたと思った頃、やっと景麒は目標の場所に辿り
ついた。
 少し開けた場所の向こうに、よく見ればほったて小屋に見えなくもないもの
があり、その手前に小さな麒麟が立ち、こちらに向かい畏まって拱手の礼を
とっていた。

58名無しさん:2004/08/30(月) 02:11
礼儀正しい小さな麒麟は、狭くむさくるしいところですがと、景麒を小屋(?)
の中へ招き入れた。側の樹木を利用した屋根は低く、景麒は中腰で中に入り、
座っても頭から天井までいくらも余裕はなかった。
 小さな麒麟は粗末かつボロボロの衣服をまとっていた。ボロボロの服装の麒麟
など景麒は初めて見た。それでも不浄を嫌う麒麟の性質ゆえか、なるべく清潔さ
を心がけているらしいようには見えたが、それでもこのような生活のためか、少し
薄汚れていた。
 実際、体を清潔に保つため峯麒は非常に苦労していた。湯が手に入らないので
泉の水で水浴びせねばならないのだが、寒くなってきているおり、それも辛いもの
になっていた。それでも毎日、月渓に拝謁して契約を求めねばならない身、王の
前で不敬にあたらぬように、又、月渓に少しでも好意を持ってもらうためにも、
必死で冷たいのをこらえて体を洗っているのだった。蓬山では女仙に体を洗っても
らい何不自由なかったのだが。

59名無しさん:2004/08/30(月) 02:13
小屋の中に落ち着くと「我が屋敷にようこそ」と麒麟は改めて言った。屋敷も
何も、と景麒は思ったが、小さな麒麟の堅苦しくも礼儀正しい様子は自分のこども
時代にも通じるものがあるような気もした。
 麒麟同士はある程度似ているものであるが、その麒麟は景麒自身の幼い頃にも
似ており、又、雁国の麒麟にも似ていた。ただ信じられないくらい痩せている。
そのくせ懸命に元気な様子を見せようとしている感がある。
 小屋の真ん中、向かい合った二人の間には上等そうな果物が飾られている。
みすぼらしいこの場所には不似合いだった。
 お互い号と生国だけの短い自己紹介が済むと、峯麒は景麒に果物を勧めつつ、
「飲み物をご用意します」と言って、なにやら古ぼけた茶碗を景麒の前に置いた。
中を見ると水が入っていた。
 景麒はこんなみすぼらしい茶碗を使ったことは生まれてこのかた無かったが、
断るのも気がひけて茶碗を手にとった。
「あっ、痛っ」
茶碗を無造作に扱ったのがいけなかった。茶碗に欠けがあるのに気がつかなかった
ので、気がついたときには唇が切れていた。
「ああっ、血が、血が…」
峯麒は慌てた。なにしろ麒麟は血の穢れを最も嫌う生き物である。その血を、
やはり麒麟である客人に流させてしまったのだ。

60名無しさん:2004/08/30(月) 02:15
「なに、たいしたことはありません」
 と景麒は取り繕い、
「見事な果物ですね」
 と、話題をそらすためにそう言ってみた。
 それがきっかけで峯麒は急に饒舌になった。
 これは月渓様が下されたもの、月渓様は本当にお優しい。月渓様は王宮中の人
からものすごく慕われている。月渓様のお姿のなんとりっぱなこと。
月渓様はこのように素晴らしいことを官吏に仰った……等々と、
ほっておけばいつもでも喋りつづけそうだった。そもそも峯麒は王宮の人々に
かまってもらえないので話し相手に飢えていたのだ。おまけに生活苦のことを除けばいつも月渓のことしか考えていなかったので、自然、月渓の素晴らしさについての
自慢話ばかりになってしまったのだった。
 景麒の使令は、月渓は峯麒を虐待しているらしいと報告してきていた。これでは
話が違うなと景麒は思った。そのとき峯麒は話しつづけながらも、ふと小屋のすみ
に大切に置いてある月渓の服が目に入り、なぜこれがこの場所にあるのか弁解して
おかねば、と気になった。
「これはちょっと月渓様からお借りしてきているのですが、もうすぐお返しするも
のですから」
実際、峯麒は月渓の衣類を盗みはするが、王気が消えかけた服はいつも王宮に戻して
いた。寒さをしのぐために布ならなんでも欲しいところだが、なるべく盗みの量
は減らしたかった。しかもこれは月渓の服である。返さず手元に置きつづけるなど
盗むだけでも畏れ多いのに、考えられなかった。しかし盗みをしているのは事実で、
月渓様は僕のことを盗人として、さぞ蔑んでおられることだろう、と峯麒は悲しかった。好かれるどころか日に日に月渓からの評価は落ちて行くばかりに思われた。
しかしこの王宮を立ち去るわけにはいかない。月渓様は常世一、聡明であらせられる。
そのうち王位につく必要性をわかってくださるだろうと峯麒は希望を捨ててはいな
かった。それに今日はなぜだかわからないが月渓の様子がいつもと違っていた。
これは良い徴候かもしれなかった。なにしろ峯麒は生まれてこのかた無いほど幸せ
だったのだ。初めて王宮に来たときに王気を発見したときと同じ位うれしかったのだ。
峯麒はこの歓びを糧にしてこれからも頑張りつづけようと自分に誓ったのだった。


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