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十二国記SS「† 夜に別れを †」

59名無しさん:2004/08/30(月) 02:13
小屋の中に落ち着くと「我が屋敷にようこそ」と麒麟は改めて言った。屋敷も
何も、と景麒は思ったが、小さな麒麟の堅苦しくも礼儀正しい様子は自分のこども
時代にも通じるものがあるような気もした。
 麒麟同士はある程度似ているものであるが、その麒麟は景麒自身の幼い頃にも
似ており、又、雁国の麒麟にも似ていた。ただ信じられないくらい痩せている。
そのくせ懸命に元気な様子を見せようとしている感がある。
 小屋の真ん中、向かい合った二人の間には上等そうな果物が飾られている。
みすぼらしいこの場所には不似合いだった。
 お互い号と生国だけの短い自己紹介が済むと、峯麒は景麒に果物を勧めつつ、
「飲み物をご用意します」と言って、なにやら古ぼけた茶碗を景麒の前に置いた。
中を見ると水が入っていた。
 景麒はこんなみすぼらしい茶碗を使ったことは生まれてこのかた無かったが、
断るのも気がひけて茶碗を手にとった。
「あっ、痛っ」
茶碗を無造作に扱ったのがいけなかった。茶碗に欠けがあるのに気がつかなかった
ので、気がついたときには唇が切れていた。
「ああっ、血が、血が…」
峯麒は慌てた。なにしろ麒麟は血の穢れを最も嫌う生き物である。その血を、
やはり麒麟である客人に流させてしまったのだ。


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