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十二国記SS「† 夜に別れを †」

8名無しさん:2004/08/18(水) 01:10
 人々は峯麒が幼い声で精一杯厳かにその言葉を唱えるのを聞いた。誰もがあまり
の幸せに緊張した。峯麒は唱え終わるとそのままの姿勢で待った。人々は固唾を
飲んで見守り続ける。
 峯麒は待ち続けた。しんとした空気が流れる。待つ時間がこんなに長いものとは。
いや、あまりに長すぎはしないだろうか。何か変ではないだろうか。
 そのとき頭上から声が聞こえた。それはなぜか、聞こえるべき声とは違っていた。
「頭を上げてください、蓬山公」
 峯麒が驚きのあまりきょとんとした顔を上げると、月渓は手を沿えて峯麒を立た
せながら言った。
「蓬山公、正直おどろきましたが、公のお気持ちは本当に嬉しいのです。ただ、公
がなんと言われようと、私は公を受け入れる資格の無い人間なのです」
「なぜです? 麒麟が選べばそれが王です。天命なのですから」
「私は王と麒麟を手にかけました。この手で王と麒麟の血を流したのです」
「でも、天命なのですよ?」
「そのうち公は他に天命を見出されることでしょう」
「天命は一つではないでしょうか」
「そう言う人もいますね。だが、そうではないことが今日、私にはわかりました」
 言うと、月渓は戸口のほうに向かって歩きだした。峯麒は追いかけたいと思った
が、幼い身に受け入れがたいほどの衝撃を受けたために、ぺたんと後ろ足と尻を
落として座り込んでしまい、どんなに力んでも立ち上がることが出来なかった。
「待ってください! ぼく・・ぼく・・た、立てないよう、歩けないよう・・・
うわぁぁぁぁん!!!」
 厳かにふるまいつづけようという決心も努力もどこかに消し飛んでしまい、こど
もはただ悲痛な声で泣き叫び続けた。月渓が戸口前であぜんとしている群衆を
掻き分けて姿を消そうとしているのが目に入ると、こどもの泣き声はさらに悲痛
に部屋に響きわたった。それは母を亡くしたこどもの泣き声を思わせ、人々は胸を
えぐられる思いがし、涙ぐむ者も多かった。


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