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十二国記SS「† 夜に別れを †」

3名無しさん:2004/08/18(水) 00:02
「† 夜に別れを †」

 月が薄く残る夜明けの空を一匹の獣が翔けていた。その翔ける道の高さゆえに
人目にはつきにくいが、もし間近に見る者がいたならば、その背に五色の輝きを
見ただろう。まだ伸びきらぬ幼い肢体ながらも毛並みの金銀は淡い朝日に映え、
風の動きにつれてその背に太陽の赤や空の青を薄く描き出す。長すぎるほどの
尾は優雅にたなびいている。
 地上では朝の早い者たちが鍬を手に空を見上げていた。
「あれ、ごらん。光るものが空を飛んでいるよ」
 あのようにきらきらと輝く生き物といえば神獣しか思いあたらない。ただびとなら
一生に一度でも目にすることができれば相当な幸運というものだ。その光は宮殿
の方角をさして飛んでいるように見えた。しかしこの国には今、神獣はいない。
この国の神獣である麒麟は現在、世界の中心である蓬山に暮らし、つい先ごろも昇山者たちに
面会を行ったがそこから王が選ばれることはなかったという話だ。
「芳の麒麟はまだ幼くていらっしゃるのだ。ここまで飛んで来られるわけはなかろう。
そう考えればあれはよその国の台輔ではないかな」
彼らはそう納得し、なにはともあれ珍しくも貴いものを見たことを瑞兆として、気分
が澄み渡るのを感じた。


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