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十二国記SS「† 夜に別れを †」

47名無しさん:2004/08/26(木) 03:23
月渓は必死に気持ちを振り払うと、立ち上がった。その気持ちを振り切るのには
意志の力を総動員しての努力が必要だった。月渓は峯麒に目をやった。
 その月渓の表情がいつもとはまるで違い、やさしいような懐かしむような王気そ
のもののような何かに溢れているのを峯麒は見た。それを見たとたん、何かにつん
と体も気持ちも貫かれたようで峯麒は動けなかった。

 この麒麟は痩せている、と月渓は思った。それも私のせいだ、と思った。
月渓の普段の妄想の中では峯麒はこんなに痩せてはいない。峯麒はさぞ食べ物に困
っていることだろう。
 月渓は卓の側まで行くと、峯麒を手招きし、卓の上に飾られていた果物を持てる
だけ抱えさせた。
「え…、これを下さるのですか?」
「すまぬ…こんなことしかしてさしあげられない…」
月渓は苦しそうに言った。しかし峯麒は月渓がついぞ見たことのない、喜びの笑顔
を見せた。峯麒の整った顔立ちが笑みに彩られるのを見て月渓は胸を突かれた。
いくら飢えているからとはいえ、果物程度でこれほどの笑みを見せてくれるのだ。
もし、もっと高価な贈り物などしたら、いったいどんな笑顔を見せてくれること
だろう。例えば男の子なら欲しがりそうな騎獣を贈ったならどうだろう。抱きつい
て頬を寄せてくれはしないだろうか。だが、そんな資格が自分にはない。
きっと新王がそれをし、峯麒の最高の笑顔も手に入れてしまうのだろう。
いや、その前に峯麒を手に入れようとして自分は彼をここへ呼びつけたのではなか
ったか…。
 月渓は持てる限りの力を総動員して欲望を自制せねばならなかった。
「は…はやく出ていってください…。はやく、は、はやく出て行け!」
顔を俯け拳をぶるぶる震わせながら、そう叫ぶ月渓に峯麒は何か言いたかったが
名残惜しくも出て行かざるをえなかった。


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