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ジョジョの奇妙な東方Project.PAD6

1まるく:2014/02/16(日) 22:26:33 ID:fZg91gZ20
前スレが980を超えそうなので先立てしておきます。
SSを投降する際全部投下できるか、次のスレが立っているかどうか確認するだろう?
誰だってそーする 俺だってそーする。

埋めきるまではPAD5ですかね?

192東方魔蓮記第四十六話:2014/08/07(木) 00:03:52 ID:dATmtreA0

突然、天狗は何か身体の一部が冷たくなってきていることに気づき、左足の太ももあたりを見ると、そこにはいつの間にか氷の輪が出来ていた。
気が逸れている隙をついて、ディアボロがホルス神で太ももを締め付けるような感じで氷輪を作ったのだ。

しかも密着するように構成されているため、溶け出していない今は天狗の力でも動かない。
それだけならばまだ驚くだけで済んだだろう。
だが、その氷輪とつながるように、氷がディアボロのいる方向に出来始めたのならば話は変わる。
ホルス神の能力射程はイエローテンパランスよりも広い。十分氷とイエローテンパランスを繋げることができる範囲だ。

相手の能力が二つ判明し、それへの対策に思考を巡らせていた天狗は、自らの体が引っ張られていることに気づいて状況を把握し直しだす。
見れば、考え事をしている隙に、氷とイエローテンパランスの肉が結ばれていた。
氷は細長くも細部まで凍っており、少々の力を加えたところで些細なヒビすら入らないようにできている。
氷という冷たい物に絡みついたそのスタンドは、本体の精神力によって『冷却による温度変化』を一部分のみ引き起こすことを許される。
それにより、『氷に絡みついた部分のみ』スパイク状となって、解けるのをより困難なことにする。
そして、イエローテンパランスを操って自分のもとに引き寄せる。

流石にもう自分では止められないと判断したのか、天狗も必死になって距離を取り、せめて大天狗に報告しようと逃げようとするが……

「(あやつ……逃げることに必死になって重要なことに気づいておらぬな……)」

マミゾウは理解していた。
今、イエローテンパランスは意図的にピンと張った状態になっている。
こうすることで、相手がこれ以上距離を取られるのを防いでいる。
そしてディアボロと天狗を繋ぐものができてしまっている以上、仮に逃げられたとしてもディアボロが引っ張られてくる。
どうやら必死になっているためか、この天狗はそうなることに気づいていないようだ。

そこに、天狗が逃げようとする方向から突風が吹いてきた。
ディアボロが再びウェザーリポートを使って風を吹かせたのだ。
少々の向かい風ならば天狗は難なく突破できるだろうが、この風の強さは普段吹く風とは違って暴風と言えるほど強かった。
地上でも踏ん張りながら進むしかないほどの風の強さに、空中に浮いている天狗は耐えきれるわけもなく吹き飛ばされる。
『天狗と同じ高さ』にだけ暴風を吹かせたため、この暴風の被害を受けるのはこの天狗のみ。
そうでもしなければ、自分もマミゾウも巻き添えにするただの無差別攻撃になってしまう。

吹き飛ばされ、天狗が体勢をもう一度整える前に、ディアボロはイエローテンパランスを操り、自ら天狗のもとに引き寄せられる。
別に天狗を強引に引き込んだりする必要はない。『距離を詰めれれば』それでいいのだ。
「(後は本にするのみ!)」
ヘブンズ・ドアーを出してせまりくるディアボロを見た天狗は、とっさの判断で左足の太ももにできている氷輪に光弾を撃ち始めた。
先ほどのことで逃げられないと理解したのだろう。
氷輪を破壊して自身から引き離すことで、イエローテンパランスによる接近を防ごうとしているようだ。

だが、それだけで自身の策が失敗するほどこの男は甘くない。
それを見たディアボロは、イエローテンパランスの触手をもう一つ作って今度は天狗の右足首をぐるぐる巻きにして拘束する。
しかしこれでもぎりぎり届いた程度だ。ヘブンズ・ドアーの能力を届かせるには、もう少し距離を詰めておきたい。

193東方魔蓮記第四十六話:2014/08/07(木) 00:04:24 ID:dATmtreA0
天狗は氷輪の破壊を断念し、ディアボロに弾幕を撃ち始める。
仮に先に氷輪を破壊したところで、既に右足首にイエローテンパランスが巻きついてしまっているため、彼を撃ち落すことができないからだ。
だが、残念なことにそれも容易く肉の壁に防がれてしまう。
そしてそのままイエローテンパランスに引き寄せられ、距離を詰めていき、ある程度距離を詰めたところで、肉の壁を動かす。
自身と天狗の間を遮るものは何もなくなり、ヘブンズ・ドアーは手を伸ばしながら天狗に接近していく。

まだ大丈夫。『見えるものだけ』ならばそう言い切れるだろう。
この状況で風を操ってはこない。確かにその判断は正しい。
何故肉壁を自ら取り除いたのか。今はそんなことを考えている場合ではない。
彼は何をするつもりなのか。そんなことは分からない。

攻撃を妨げる壁が取り除かれたのだ。今が最大の攻撃のチャンスである……!

そう思ってしまったのだろう。天狗はディアボロを撃墜すべくより密度の高い弾幕を撃ち始めた。
もしもディアボロが同じ立場だったなら、自身に絡みついているこの肉を、絡みついている箇所ごとスタンドで切り捨て、反撃か距離を取る行動をとっただろう。
ただ、そんなことを実行できる『決意』とそれを実現できる『手段』を持たないことが、この天狗にとっての災難だった。

弾幕を強引に耐え抜き、ヘブンズ・ドアーの手を天狗に触れさせる。
その瞬間、天狗の身体はその能力によって構成を書き換えらたことに驚くが、どうすることもできず、原型を保ったまま本のようになってしまう。
それと同時に二人が空中にいられた要素が無くなったことで、双方が同時に落下し始める。
だが、二人ともその直後に少し弾み、何かが支えているかのように二人とも落下しなくなった。

「ほう……」
マミゾウには何が起きたのか、すぐに理解できた。
ディアボロは本にした天狗も無事に『受け止めれた』ことを確認して、一息ついた。

空気の塊によるクッションが、二人を受け止めていたのだ。
それだけならばストレイキャットでもできるのだが、これ以外にも能力の幅が広いのがこのスタンド、ウェザーリポートの特徴でもある。

ディアボロはそれを操り、地上にゆっくりと下ろしていく。
そして、落下することなく地に足を下せる程度の高さまで空気の塊下ろすと、本になった天狗を回収してマミゾウのもとに近寄る。
「いつ見ても恐ろしい能力じゃのう……」
「……俺もその意見には賛成だ」
こうして第三者に使われているのを見て、改めてヘブンズ・ドアーの恐ろしさを二人は理解するのであった。


天狗の記憶に命令を加え、ヘブンズ・ドアーの能力を解除する。
加えた命令は二つ。
『誰にも怪しまれないように天狗の住処からカメラを取って筆者に渡す。取ってくるカメラはポラロイドカメラを優先とし、この命令は最優先で実行する』

『筆者との戦闘及びこの命令に関する記憶とマミゾウが見ていたことは、筆者とその仲間が自ら去って視界から消えたら忘れる。それまで筆者と仲間に関する情報を口にすることはできず、誰にも伝えることはできない』
天狗はヘブンズ・ドアーによって与えられた命令を、本来の役割を放棄して実行に移す。
飛び去っていく天狗を見届けて、ディアボロは緊張の糸を緩める。
「これで後は戻ってくるのを待つだけだな」
「おぬし、カメラを使って何をするつもりじゃ?」
マミゾウに質問され、ディアボロは無言で彼女の方に振り向く。
「神霊廟への道を見つけ出す」
「……………」
彼は真顔でそんなことをいうものだから、マミゾウは言っている意味がわからず、思わず沈黙してしまった。
その理由を察したのか、彼は一枚のDISC……ハーミットパープルのDISCをケースから取り出す。
「このDISCには念写の能力が封じられている。荒いやり方でしか念写ができないが、こいつを使えばある程度の情報は手に入るはずだ」
「成程、確かにその方法ならば色々とわかりそうじゃ」
ディアボロの説明を受け、マミゾウは理解し、納得した。
「さて、あの天狗が戻ってくるまですることはなくなったな……」
「肩の力を抜くにはいいタイミングじゃ。しばし休むがよいぞ」
「……そうさせてもらうとしよう」
マミゾウの提案を受けて、ディアボロは天狗が戻ってくるまでの間、休憩することにした。

194セレナード:2014/08/07(木) 00:09:31 ID:dATmtreA0
投稿終了です。

ある場所に向かうつもりだったが碌に情報を集めていないから場所がわからない。
今でこそスマートフォンの地図機能などのおかげで可能性は低いですが、幻想郷ではまだそんなことは少なくない……かも?

ジョジョには現在提供されているソーシャルゲームがありますが、どうやら一悶着あったようで。
悪いのは記載を漏らした側が、急いた利用者側か、果たしてどちらなのやら。
恐らくは記載を漏らした側が悪いという形で決着はつくとは思いますが。

195名無しさん:2014/08/10(日) 08:54:21 ID:Uq/ulWAY0
投稿お疲れ様ですー。

確かに神霊廟はどこにあるかが明確にわかってはいませんね。心綺楼の頃には建物や布都ちゃんステージの夢殿大祀廟も出てきてますが。
だからそれ以前に当たるディアボロ達はわからないのもしょうがないでしょう。口授でも神出鬼没で地名は不明のようですし。
しかしまあ、なんでしょう。カメラを手に入れるのは近道なのか遠回りなのかいかんせんわかりづらいですね。確実ではありますけれども。
カメラに変身した狸を媒介にハミパを想像できるのも、ううん、やはりボスか。狸への描写は省いただけなのか、本当に何も思ってないのか…w

テンパランス大活躍。ホルス神やヘブンズドアーは以前にも活躍されているシーンもありましたが最近のテンパランスプッシュ。前から強いと思ってましたよ
これでようやく、と思いましたがまだカメラを手に入れたわけには至らず。
ヘブンズドアーの命令は遂行中は気づかないかもしれないけれど、僅かな空白から自分の異変には気付くことができる。康一くんが露伴の家に来てから気づいたように。
見張り天狗が誰にも怪しまれないようにカメラを取っても、果たして本当にそれを外部が気付けないのか?目ざとい烏天狗たちはそれを看破して追ってくるかもしれない、爆弾を抱えているとも見えます。
続き、期待しています。

196名無しさん:2014/08/10(日) 21:19:31 ID:a4vkXCTU0
セレナードさん、投稿お疲れ様です。
カメラをゲットして【ハーミット・パープル】を使うというディアボロの魂胆は分かりましたが、果たして念写で霊廟への行き方が分かるのでしょうか(汗
原作でもDIOの館の外観は撮影できましたが、結局館への道などは自力で調べていましたし、別空間に存在する霊廟への道順を念写するのは可能かどうか微妙ですね…
でも、よくよく考えれば原作での【ハーミット・パープル】の念写の精度もイマイチはっきりしないんですよね。コールタールを探した時は灰の粒で詳細な地図&位置検索までできていましたし…これができるんならアラビア・ファッツのような敵本体の位置も楽に念写できるんじゃ(ry

『冷やせば固まる』という性質を【ホルス神】で利用するアイデアは素晴らしいですね。命令を書き込んだ下っ端が波乱を連れて戻って来そうな雰囲気…
次回も期待しております。

197セレナード:2014/08/11(月) 22:10:50 ID:WlBAMkhE0
お二方、ご感想をありがとうございます。

>>195さん
単純に視覚の情報も必要となったためにハーミット・パープルが選択されたのです。
ウェザーリポートやエアロスミス等の探知では、『どこにあるのか』は分かっても、『どうなっているのか』は分かりませんからね。
それに、念写を用いて写真に現像することによって『情報の保存』が容易くできるのも理由の一つ……かも?

イエローテンパランスは本来の持ち主があんな性格であることが敗北にも繋がっていますが、そのスタンドの性能は恐るべし。
ディアボロは不都合な事態(殺害を含める)になることを避けるために防御面や変装能力に重点が置かれていますが、それでも十分に強いスタンドになっていることが、その証明となっていますね。

ヘブンズ・ドアーが観賞したのは見張りの天狗のみ。
『周りに干渉できない』ことが原因でどんな事態になってしまうのか……平穏では済みそうにない、かも。

>>196さん
そう。二人は神霊廟が別空間に存在するという事実を全く知りません。
そのため、神霊廟をただ念写しただけでは、『幻想郷のどこかにある』と勘違いしてしまうでしょう。

DIOの館への道を念写で探さなかったのは、ジョースター一行が慎重に行動したから、かもしれませんね。
今後のアニメオリジナルのシーンでそこのところ説明が入るといいんですけど。
……アニメオリジナルでポルナレフの髪いじりが多いのはスタッフの遊び心でしょうかね>?

198セレナード:2014/08/22(金) 23:18:11 ID:BQv8IYvY0
東方魔蓮記最新話、完成しました。
合間が短い?気にしない気にしない。

199セレナード:2014/08/22(金) 23:19:25 ID:BQv8IYvY0
天狗との戦闘をから少し経ち……。
ディアボロはマミゾウの提案に乗り、マミゾウも一緒にリラックスした状態で天狗を待っていた。
見張りがいなくなったせいで静かになっている今は、川辺に近寄りさえしなければ河童からも襲撃されないだろう。


「天狗がカメラを持ってくるまでどのくらいかかるのかい?」
「あまり時間はかからないとは思うが……」
そんな会話をしながら二人は天狗を待つ。
兎に角先ほどの天狗がカメラをもってこなければ、やるべきことが始まらないのだ。

だが、誰にも気づかれにくい今がチャンス。念写の準備をするためにイエローテンパランスによる変装を解除し、3枚のDISCをケースから取り出す。
その3枚をホルス神、ウェザーリポート、スタープラチナと入れ替える。
新しく装備されたDISCの内一枚は、お馴染のジャンピン・ジャック・フラッシュ。
念写の最中に奇襲を受けても、空中を飛べるようにすることで回避できる範囲を広くするつもりだ。
そして彼はすぐに再びイエローテンパランスを全身に纏い、再び変装し、天狗が戻ってくるのを待ちつづける。

それからまた少したって……。
「おや、戻って来たようじゃ」
マミゾウがそう言ったので山の方角を見ると、一体の天狗がこちらに向かって来る。
「……」
ディアボロは無言で向かってくる天狗の姿を見て、その天狗が『命令を書き込んだ天狗と同一の存在』であることを確認する。
天狗は無言でディアボロの側に着地すると、手に持っていたカメラを差し出す。
そのカメラをディアボロは受け取る……と同時にもう一度ヘブンズ・ドアーの能力を発動する。
そしてもう一文、命令を書き込む。
『今から一時間、ディアボロとマミゾウとカメラの存在を認知できなくなる』
この命令を書かれ、ヘブンズ・ドアーの能力を解除された天狗は、まるで何もなかったかのようにその場を去って行った。
ディアボロはそれを見届けた後、早速カメラを確認する、
「(……ポラロイドカメラで、フィルムはちゃんとあるな)」
確認を終えると、彼の両手からイエローテンパランスを離れさせ、スタンドを出す。

彼の両手に出されたのは、紫色の茨。
このスタンドの名前は『ハーミット・パープル』。そしてこのスタンドの本来の持ち主、その者の名は、『ジョセフ・ジョースター』。

青年期は波紋を使う戦士であり、吸血鬼をも餌とする生物である『柱の男』達と戦い勝利を収め、最終的には多くの幸運と偶然を伴いながらも究極の生物と化した柱の男の一人である『カーズ』を地球より放逐することに成功し、運よく生還する。
晩年は不動産王になっており、娘であるホリィ・ジョースターの命を救うべく、一族の宿命の根源である『ディオ・ブランドー』を殺すために承太郎達と共にエジプトへと向かう。
『ディオ・ブランド―』と対の存在である、一族の宿命の始まりの存在である『ジョナサン・ジョースター』の孫であり、ジョースター一族の中で確認できる限り最も長生きした人物でもある。
そしてその機転の利きは、例え彼が年をとっても衰えることはない。

ジョセフの使うスタンドである『ハーミット・パープル』は戦闘向きのスタンドではない。
だが、念写や念聴等の探知能力に優れているのが特徴だ。
カメラを用いた念写は勿論のこと、テレビを使って音声を繋ぐことで念聴を行ったり、地面にぶちまかれた灰を操って地図を作ることができる。
力は強くないが、探索に優れたこのスタンドは、ある意味で頭がよく回るジョセフ・ジョースターらしいスタンドである。

200東方魔蓮記第四十七話:2014/08/22(金) 23:20:32 ID:BQv8IYvY0
おっと、名前変えるの忘れてました。いけないいけない。

そのハーミット・パープルがカメラに巻きつくと、ディアボロは素手でぶち壊してもおかしくない勢いでカメラを叩いた。
周囲に響く物音にマミゾウは少し驚き
「……そうせぬと駄目なのかい?」
軽く引きながらディアボロに質問をした。
「これが一番やり易いからな」
ディアボロは現像された写真を手に取ってそう答えながら先ほど装備したもう一つのスタンドを出す。

スタープラチナやザ・ワールドと同様に人の形をしており、ところどころがハート型をしている。
このスタンドの名前は『クレイジー・ダイヤモンド』。本来の持ち主の名前は『東方仗助』。

杜王町という町に住んでいる高校生で、彼の最大の特徴は所謂『リーゼント』。
しかし、これは彼が不良だからではなく、幼い頃に助けられた人物の髪型がリーゼントであったため、その人物に憧れてその髪型にしているのだ。
故に、彼の髪型を馬鹿にすると、『憧れの人を馬鹿にした』と認識して激怒する。
そのせいで酷い目にあった者は少なくないが、決して彼は『悪人ではない』。少々特殊な血縁だが、彼もまたジョースター家の血筋を引く者なのである。

彼のスタンド、クレイジー・ダイヤモンドは承太郎から『この世のどんなことよりも優しいスタンド』と評価されており、その理由はこのスタンドの能力にある。
近接パワー型であると同時に、そのスタンド能力により、物質、スタンド、生物の怪我などを『なおす』ことができるのだ。
但し、このスタンドでも『無』からなおすことは流石にできない。故に、ザ・ハンドやクリームといった、『削ってこの世から消滅させる』スタンドとは相性が悪い。
そして、これの応用で二つの物質を強引に融合することができる。
東方仗助はこの方法を使って『本と人間の融合』と、『岩と人間の融合』を行っている。
もっとも、融合された者は片や仗助の母や仲間を人質にとり、片や死刑執行をスタンドで乗り越えて脱走し、仗助の祖父を殺した殺人鬼と、犯した罪による『自業自得』と言えるのだが。

ディアボロに勢いよく叩かれた衝撃によるダメージをクレイジー・ダイヤモンドでなおす。
そうしながら、ポラロイドカメラより排出された写真を手に取る。
そして、クレイジー・ダイヤモンドによってカメラが『直された』のを確認すると、もう一度ハーミット・パープルを使って先ほどと同じやり方で念写を行う。
クレイジー・ダイヤモンドによって直されたポラロイドカメラは、再び現像された写真を排出する。
そして再びクレイジー・ダイヤモンドの能力でポラロイドカメラはなおされる。
それをもう一度繰り返し、ポラロイドカメラがなおされたところで、ディアボロとマミゾウは早速3枚の写真を確認する。

1枚目はある人物の全身を正面から写した写真。ヘッドホンのようなものを耳につけ、手には笏(しゃく)を持ち、帯剣している姿が写っている。
「『聖人』の姿を念写してみたが、マミゾウ、どう思う?」
「笏を持っておるから、古代の中国と交流があった時代以降の者だろうがのう……」

笏は6世紀に中国から伝来したと伝えられている。
日本では初めは朝廷の公事を行うときに、備忘のため式次第を笏紙という紙に書いて笏の裏に貼って用いていた。
現代で言うなら、カンニングペーパーを隠すためのものと表現するのが近いかもしれない。
後に重要な儀式や神事に際し、持つ人の威儀を正すために持つようになった。

笏を持っていることから、『聖人』は6世紀以降の人物であることが証明された。
だが、その容姿を知ることはできても神霊廟の位置に関する情報はまだ得られていない。
そこで二人は、二枚目の写真を見てみる。

「神霊廟を正面から念写した」
「中々立派じゃのう」
2枚目の写真は神霊廟を正面から写したもの。
思ったよりも大きい建物に、マミゾウは正直な感想を漏らす。
……だが、此処でディアボロに一つの疑問が浮かぶ。
「(確か、聖人が復活してから数日しかたっていないはずだが、どうやって『数日の間にこれだけ大きな建物を建てた』?それとも元からその場所にあったのか?)」
普通、建物を建てるのには数か月はかかる。
だが、写真に写っている神霊廟は、木造建築の山小屋などとは比べ物にならない大きさだった。
多くの人を24時間休みなしで動員しても、可能な限り手を抜いた欠陥住宅だとしても、たった数日でこれだけの大きさの建物ができるはずがない。
「(……どうなっている?)」
ディアボロは疑問を抱きつつも、3枚目の写真を見始める。

201東方魔蓮記第四十七話:2014/08/22(金) 23:21:02 ID:BQv8IYvY0
「神霊廟を中心に上空から周りの地形がわかる様に写してみたが……これは一体どうなっているんだ?」
さながら衛星写真のように撮影された3枚目の写真。
……しかし、そこには神霊廟と幻想郷を繋げる道が『なかった』。
「どうやら、神霊廟は別の空間に存在ようじゃ」
まるでそこだけ切り離されたかのような空間。それが神霊廟の存在する場所だったのだ。
「(これは予想外の展開だな)」
紫や白蓮の記憶を見て、『魔界』という、この世界とは違う世界の存在と、そこへの入口が存在していることは知っていた。
だが、この聖人も居住可能な異空間に移動ができるとは、ディアボロは微塵も思っていなかった。
そのため、「幻想郷のどこかにあるのだろう」と思っていた彼の予想を裏切る結果となった。

「流石に別の空間にあるとは予想外だな……」
「それだけ、『聖人』はかなりの実力の持ち主ということじゃろう」
「だが、別の空間にあるということはどこかにこちらと向こうを繋げる道があるということだ。だから4枚目でその道への『入口』を見つけ出す」
ディアボロはそう言うと、クレイジー・ダイヤモンドを出して……カメラをなおすのではなく、背後を振り向いた。
「興味があるのか?新聞記者」
「ええ、まだ知られていないネタならば特に」
振り向いた先には、射命丸がいた。
「それに、そのカメラは私の物ですから」
どうやら警備の天狗が持ってきたものは、射命丸のカメラだったらしい。
何故警備の天狗が射命丸のカメラを盗んできたのかというと……恐らく、『ポラロイドカメラを優先とし、』という一文のせいだろう。
新聞大会でもランキング外である彼女ならば、物一つ盗まれたところであまり騒ぎにならないと警備の天狗に思われたのかも知れない。
もしもその通りなら、そう思われた彼女がちょっと不憫である。

「まあ、写真に気を取られていても視線を感じ取れるほどこっちを見ていたからな……」
「分かっているなら、早く私のカメラを返してほしいわ」
射命丸は怒っていた。
新聞記者にとっては大事なカメラを盗まれて、犯人を捜していたら他の天狗が実行犯で、命令は二人の人物。
犯人を目前にして、すぐに攻撃を仕掛けたいところをどうにか抑えているのかもしれない。
「駄目だ。後2回は同じことをやらせろ」
「それってあと2回も私のカメラを本気で叩くんですよね」
射命丸の怒りのボルテージが上がったが、ディアボロもマミゾウもまったく気にしていない。
「ああ、そうしたほうが確実に決まるからな。安心しろ。傷なんてなかったことにして返すから」
ディアボロはそう言ってもう一度ハーミット・パープルを発動して、勢いよくカメラを叩く。
4枚目の写真が排出され、ディアボロはそれを手に取って確かめる。
マミゾウと、ついでに射命丸も近寄って一緒に見てみる。
「……これはなんじゃ?」
「『入口』に該当する場所を写してみようとしたが……本当にこれが入口か?」
「…………」
写真に写っているものについて3人とも考えるが、それ以上に重要なのは……。
「……あと一枚。写し出すのはあの入口と思われるものが『どのあたりにあるか』だ」
ディアボロはそう言いながらクレイジー・ダイヤモンドでカメラをなおす。
そして、先ほどよりもハーミット・パープルに精神を集中させる。
大一番、ここでしくじるわけにはいかない。
精神を集中させたまま、全力でスタンドパワーをカメラに叩き込まれるッ!
カメラは叩かれた衝撃による音を発し、写真を排出する。
排出された写真には、その『入口』がどこにあるのか……それを示す場所が写されていた。
「これが……神霊廟へと続く入口のある場所か」
とは言っても、幻想郷に来てから間もないマミゾウには分からない。
ディアボロも幻想郷に来てから色々な場所へと行ってきたが、それらはあくまで紫の記憶にあった所謂『有名な場所』。
残念だが、無名の場所に関してはちっとも詳しくないのである。
となると、この3人の中で最も入口のある場所に心当たりがあるのは……。
「新聞記者。この写真に写っている場所に何か心当たりは?」
そう言ってディアボロが写真をよく見えるようにして見せると、射命丸はその写真を凝視し、少し考え始めた。
「…………」
射命丸には風の声が聴けるらしい。ついでに風の噂を掴むことも得意だそうだ。
それを知っているディアボロは静かにしており、マミゾウも特に話すことはないので静かにしていた。
……ひょっとすると、カメラが盗み出されたことに感づいた原因は、風から教えられたかも知れない。

202東方魔蓮記第四十七話:2014/08/22(金) 23:21:32 ID:BQv8IYvY0
「成程、そういうことですか……」
射命丸はそう言うと、二人が視界の中心に入る様に視線を向けて
「教えてあげてもいいですが、一つ条件があります」
「なんだ?カメラなら今返すぞ」
ディアボロはそう言いながら、クレイジー・ダイヤモンドでカメラをなおす。
そしてカメラを射命丸に差し出すと、彼女はそのカメラを分捕ってカメラを確かめる。
ディアボロが何回も勢いよく叩いたのは紛れもない事実なのだが、叩くたびに1回1回クレイジー・ダイヤモンドでなおしたために傷や損壊は存在しない。
……寧ろなおされたことで盗まれる前よりもよくなっているかもしれないが、この3人は全員『カメラの内部を見てはいない』ので、そこに関してはわからない。


「カメラを盗ませて勝手に使ったの許してあげますが、私のフィルムを勝手に使った弁償として、取材を手伝ってもらいます」
厳しい表情のまま、射命丸は二人にその条件を提示した。
彼女が提示した条件が緩いのは、恐らくディアボロの念写のおかげで、新たな取材先の場所を知ったからだ。
加えて、そこの情報はまだ他の天狗には手を付けられていない。だとすれば、スクープの数は計り知れない。
他の天狗がそこに手を付ける前に、得られる情報は根こそぎいただくつもりだろう。
……もしもカメラを使う理由が違ったら、彼女は攻撃してきたかもしれない。
「成程、勝手にカメラのフィルムを使ったのだからそれ相応の対価を労働で払ってもらおうというわけか」
ディアボロはそう言っているが、彼はその言動の裏にある予感を感じていた。
「(……こいつ、いざとなったら俺たちを捨て駒にでもするつもりか?)」
真偽は不明。だがやりかねない。
だがこちらも、彼女と共に行動することで情報を集めやすくなるし、いざとなったら彼女を囮にすることができる。
それに加えて、後でそれを責めに来てもヘブンズ・ドアーやホワイトスネイクを使ってその記憶を消去できる。
ディアボロとマミゾウにとっても、この提案を拒否する理由はない。
「……分かった。お前もそれでいいか?」
ディアボロはそう言ってマミゾウの方を見ると、彼女は面白そうだといいたそうな表情をしていた。
「うむ。儂もそれで構わんぞい」
「決定ね。それでは早速行きましょう」
「準備はしなくてもいいのか?」
マミゾウが了承したのを聞き、早速現場に向かおうとする射命丸にディアボロが質問をする。
取材を行うというのなら、受けた者の発言内容を記録するメモぐらいは追加で必要である。
「カメラは貴方達が持っていたし、新聞記者として手帳は常備しています」
文がそう言って懐から取り出して見せたのは、文花帖という名の手帳。
彼女にとってカメラと同じぐらい大事な物であり、この手帳には彼女が撮った写真や、情報を記したメモが保管されている。
「それじゃあ、今度こそ行きましょう」
射命丸はそう言って飛び立つ。
そのスピードは、後ろに二人を連れていくためか、彼女にしては珍しく遅いほうである。
マミゾウも飛び立ってその後についていき、先にジャンピン・ジャック・フラッシュを装備していたことが幸いして、ディアボロも遅れることく二人の後に続いて飛び立つ。

こうして、偶然にも新たに射命丸を加えることになったディアボロとマミゾウは、神霊廟目指して飛んでいく。
情報収集に正当性を持たせられるようになったのはよいが、はたして射命丸が加わったことで事態はどうかき乱されることになりうるのか……。
それは3人の内誰にも分からないのであった。

203セレナード:2014/08/22(金) 23:24:12 ID:BQv8IYvY0
投稿終了です。
もうすぐここに投稿する話も本編だけ数えても50にせまりつつあります。
……でもまあ、実際には1話にまとめたり(一話だけ)消したりしたので、実際は42話程度なのです。

私が投稿を始めたころより、随分と時間が経ったのがわかりますね……。
ですが、途中で失踪しないように頑張っていきます。

204塩の杭:2014/08/23(土) 17:15:37 ID:XWwzE.J.0
投稿お疲れ様です。

読んでいてハーミットパープルの恐ろしさを再確認しました。
遠隔地の情報を数万円のカメラと引き換えに瞬時に得られるわけですし…
ディアボロならすぐ直せますしプライバシーもあったもんじゃあないですね。

この作品も残り半分程の折り返しと知り、終わりがやっぱりあるんだなと感じます。
長い間書き続けられたならば最後までみたいという気持ちも大きいのですが…
・・・次が楽しみだな、と思い続けておりますので頑張ってください!

205ポール:2014/08/23(土) 22:40:08 ID:cFbNjB0I0
投稿お疲れ様です!
ディアボロェ…よく一回目に壊したときにやられなかったな…
東方魔蓮記が途中からwikiのほうへ転載されておられないようで、いつの間にか話が飛んでてびっくりーです。

206セレナード:2014/08/23(土) 23:09:44 ID:0FCspfaY0
ご感想、ありがとうございます。
それでは、お返事を返していきます。

>塩の杭さん
最終回の目処は輝針城ぐらいを予定しています。
とはいえ、まだまだ『ディアボロの冒険』は終わらないです。
応援、ありがとうございます。これからも頑張っていきます!

>ポールさん
多分一回目の後直さずに放り投げたら攻撃されたでしょうねw
それはもう、弾幕ごっこではなく『蹂躙』と言えるほどの数の弾幕の猛攻を受けたかもしれません。

そう言えばしばらく誰も転載していませんでしたね。しなかった私にも問題ありですけど。
そのうち転載の作業をしておくとしましょうか。

207名無しさん:2014/08/23(土) 23:10:06 ID:1lTKt/xg0
セレナードさんの書くディアボロって、なんかこう、「結果さえよければ過程なんぞどうでもよい」というのがありありとでてますよね。
ディアボロだからそれでもいいんでしょうけど、本編より丸く見えるのに地が変わってないというか。
目の前で大事なものを壊されるの、誰でも嫌だろうに…w返すぞ、じゃないってwwそりゃ怒るよ!あやちゃん怒るよ!

208どくたあ☆ちょこら〜た:2014/08/24(日) 20:47:48 ID:HfP8KtL20
セレナードさん、投稿お疲れ様です。
敵に回しかけた射命丸を逆に取り込んだディアボロ、ただしお互いに信頼は無し。
しかし、元々何者も信頼せず利用してきたボスのこと、今回の事態は寧ろ『得意分野』なのでしょうね。射命丸に遅れを取ることはないでしょう。
次回も楽しみにしております!

209セレナード:2014/08/31(日) 22:10:29 ID:H2LI50Qg0
東方魔蓮記最新話、少々早いですが完成しました。

……書けるときは一気に書けるんですが、書けないときはかけないんですよねぇ。
良くある話なのかな?

210東方魔蓮記第四十八話:2014/08/31(日) 22:12:02 ID:H2LI50Qg0
ここが神霊廟か……見事なものじゃ」
今3人は、『入口』を通って神霊廟へと到達したばかりである。
一度写真で見ていたとはいえ、目の前に広がる光景には、ディアボロもマミゾウも射命丸も驚きを隠せなかった。
「新聞記者。どこから見て回る?それとも聖人を先に捜すか?」
ディアボロは射命丸を見ながら彼女に問いかける。
その質問を聞いた射命丸は少し考えて……
「先に聖人を探します。ついてきてください」
そう言って動き始めた。ディアボロとマミゾウもその後についていく。
「(迂闊に動いてひどい目にあわないといいが……)」
ディアボロはそう思っているが、射命丸は取材相手には礼儀正しいことは知っている。
……そう、『取材相手には』である。
白蓮に仕える者がいるように、聖人にも仕える者はいないとは限らない。
その者と射命丸の仲が嫌悪になって、聖人に取材ができなくなるのはディアボロとしても困る話だ。
だから、そのあたりはうまくディアボロとマミゾウでフォローしていかないといけない。

射命丸の後に続き、ディアボロとマミゾウも神霊廟の中に入る。
「初めて入る建物なのじゃ。はぐれてしまわぬよう気を付けなければならぬのう」
「ああ。この年で迷子になるのは勘弁だ」
そんな会話を二人でかわしながら、周囲を見渡す。
「誰も見当たらないが、『呼んでみる』か?」
ディアボロは二人に目配りしながら質問をする。
「勝手にうろついて怪しまれるよりはよいかもしれんのう」
「……そうですね。相手も取材をしに来たと分かれば警戒をしないはずです」
マミゾウと射命丸もその提案に賛成する。
「決まりだな」
ディアボロはそう言ってもう一度あたりを見回す。
「誰かいるか?」
ディアボロはとりあえず、誰かいるかどうか確認するために呼びかけてみる。

………

返事はない。

「どなたかいらっしゃいませんかー?」
射命丸はより大きな声で呼びかける。

………

「……誰か来るぞ」
返事は無かったが、誰かの気配がするのはディアボロには分かった。



「よくぞここにまいられた」
そう言って姿を見せたのは、古風な服をきて、大き目な帽子をかぶった灰色の髪の女性。
「…………」
だが、その直後に彼女は黙ってしまう。
「………?」
射命丸は疑問に思うが、ディアボロはあることに気づいた。
この女性は射命丸を睨んでいる。いや、『睨んでいるだけ』ならまだマシだった。
「(射命丸とこいつは初対面のはずだ。なのになぜ)」
女性が凄まじい量の矢の形をした弾幕を撃ってきて
「(『敵意』を抱いている……ッ!?)」
それに反応してディアボロは動きだした。

211東方魔蓮記第四十八話:2014/08/31(日) 22:12:34 ID:H2LI50Qg0
ディアボロが予想していた事態は、お互いに何もしていないなのに起きてしまった。
ディアボロは咄嗟に射命丸の前に立ち、弾幕を全てその身で受け止めながらも、なんとか踏ん張って耐えきる。
イエローテンパランスがなければ、ダメージをもろに受けていただろう。
「な……!?」
「!?」
女性はディアボロが射命丸を庇ったことに、射命丸はいきなり攻撃されたことに驚きを隠せなかった。
「新聞記者!早くこの場を離れろッ!何故かはわからないが、あいつはお前に敵意を抱いているッ!」
ディアボロはすぐに闘う構えを取りながら射命丸に警告する。
そしてすぐにマミゾウに目配りをし、
「護衛は任せたぞ」
マミゾウに射命丸の護衛を指示する。
「承知したぞい」
マミゾウはディアボロの言うことに従って、移動する射命丸を庇いつつその場を射命丸とともに離脱しようとする。
「させぬぞ!」
女性はそう言ってもう一度射命丸に狙いを定めるが、その時に移動する対象に集中していたのが失敗だった。
女性の視界から外れたのを理解したディアボロはすぐにイエローテンパランスを両手から引っ込めると、ハーミット・パープルを出して女性に絡みつかせる。
「なっ……!?」
絡みついたハーミット・パープルは、すぐに女性を縛り、締め付ける。
手首も足首も縛ったことで、物を投げつけるなんてことも女性にはできなくなった。
前兆の無かったその感触に女性は驚きの声を上げ、そちらに気を取られた隙に射命丸とマミゾウはその場から逃げることができた。
「いきなり何をする!?」
ディアボロはハーミット・パープルを緩めることなく、突然射命丸に攻撃してきたことについて女性に問いかける。
「お主の方こそ、何故妖怪をかばう!?」
女性の方は、先ほどのディアボロの行動が理解できないとばかりに彼に問い詰める。
「護衛をすることになったなら、目的の場所まで送り届けるまでその仕事をするのが常識だ」
ディアボロはそう言って女性を睨む。
「送り届けた後に護衛の対象がどうなろうがもう関係ないが、今はまだ仕事は終わっていないからな」
『元』とはいえギャングらしい考えだが、部下に自分の娘を護衛させておいて送り届けてもらったらすぐに殺そうとしたのはこの人です。
「あいつが目的の場所に辿り着けるまで、俺がお前の相手をしてやる」
ディアボロはそう言って、クレイジー・ダイヤモンドを出す。

弾幕はイエローテンパランスのおかげで全く効かず、何か道具をディアボロにぶつけようにも、精々造形が少し崩れるぐらいだ。
なんせこのスタンド、変装時にスタープラチナにぶんなぐられても中の人は平然としていられるほどの高い防御性能を持っている。

女性は自分が『何かに縛られている』のは目の前の男の仕業だと考え、先ほど射命丸に攻撃を仕掛けたときよりも多い量の弾幕を撃ってくる。
だがディアボロは焦ることなく、ハーミット・パープルの縛りを緩めずに耐え続ける。
「くっ……放さぬか!」
先ほどの大量の弾幕を軽傷で凌ぎきったことで、女性はなんと炎を出してきた。
「!!」
ディアボロにとっては予想外だが、女性からすれば、相手が物理攻撃に耐性を持っていて、かつ自身が拘束されていて動けないときには自身が使える最善の一手だろう。
「放さぬというのなら、これでもくらうがいい!」
女性はそう言って、炎をディアボロに向けて浴びせる。
流石にそれはマズい。イエローテンパランスのない両手は火傷を負うだろうし、イエローテンパランスがはじけ飛んでディアボロの制御から離れ、ハーミット・パープルにくっついてディアボロにダメージを与える事態になるのは避けたかった。
ディアボロはハーミット・パープルを解くと、その炎を回避しながらイエローテンパランスに両手を覆わせる。

212東方魔蓮記第四十八話:2014/08/31(日) 22:13:57 ID:H2LI50Qg0
自らを縛る『不可視の何か』が無くなったことを理解した女性は、すぐに浮遊する。
「(炎を使ってくるとは思わなかったが、こいつが俺に気を取られるようになったのは幸いだな……)」
幸い、イエローテンパランスと炎の相性は良い。
熱による火傷を防ぎ、時にはじけ飛ばして相手に傷を負わせることはできるからだ。
彼女がディアボロを敵として攻撃し続ける限り、かなりの時間は稼げるだろう。
「一つ聞きたいことがある。何故お前は突然新聞記者を攻撃してきた?」
誰の記憶にも乗っていなかったこの女性の情報を得るためには、直接この女性と対話するしかない。
そのため、ディアボロはこの女性との対話を試みる。
「お主の方こそ、何故あの天狗をかばった?お主は後であの天狗に襲われるなどとは思わぬのか?」
女性の方は、説明されても未だにディアボロの行動が理解できないようだ。
「……何を言っている」
ディアボロは皮肉を込めた笑みと鋭いままの眼光で女性をにらむ。
「お前を縛り上げれる実力を有している時点で、俺があの新聞記者に殺されると思っているのか?」
笑みを浮かべたのはほんの僅かの間。
ここからは、真剣に目の前の敵を倒すために行動を開始する。
「なるほど、確かにあれは侮れぬものだったが、どこまでも伸ばせるわけではなかろう?」
女性はそう言って炎をもう一度出してきた。
「お主の行動から、これならば有効と我はみたぞ」
それを見たディアボロは、再び構える。
「さあ、今度こそくらうがいい!」
女性はそう言ってもう一度炎を放ってきた。
それをディアボロは、背中の部分を構築している肉の部分を壁として目の前に構築して対応する。
そして、炎が迫ってこなくなったのを確認すると、肉壁をすぐに自身に戻す。
「ぬう……まさか容易く防がれるとは」
女性は不満そうにディアボロを見る。
「そしてその壁がお主にまとわりついたということは、お主には炎は効かないということか」
「Exactly。その通りだ」
ディアボロはそう言ってクレイジー・ダイヤモンドを出す。
「……だが、こちらが得意なのは接近戦だ。遠距離攻撃を得意とするお前とは少し相性が悪そうだな」
「しかし、お主は我の弾幕や炎では倒せん」
女性はどこからともなく弓と矢を取り出す。
「だが、これならばどうだ!」
自信満々な表情で女性はそう言いながら弓を引き絞る。
「(成程、イエローテンパランスを射抜くつもりか)」
その意図に気づいたディアボロは、先ほどと同様に背面に纏っているイエローテンパランスを再び肉壁として展開する。
そして視界を妨げることに成功すると、今度は手の部分を除いて全て肉壁の構成に回す。
「(早めに切り替えないといけないな……行けるかと思っていたが、予想以上に『負担が大きすぎる』)」
ディアボロはそう思いながら、自分から4枚ものDISCを取り出す。

213東方魔蓮記第四十八話:2014/08/31(日) 22:15:03 ID:H2LI50Qg0
……ところで、気づいた者はいるだろうか。
妖怪の山でカメラを取ってきた天狗に、ディアボロはヘブンズ・ドアーを使った。
だが、その時には彼はそれとは別に4枚のDISCを装備していたのだ。
ハーミット・パープル、クレイジー・ダイヤモンド、イエローテンパランス、ジャンピン・ジャック・フラッシュ、そしてヘブンズ・ドアー。
そう、あの時の彼は、全てを同時に使っていなかったとはいえ、なんと5体のスタンドを制御していたのだ。

スタンドは『精神力の具現体』。故に本来は群生型などの一部のスタンドを除いて一人一体である。
だがディアボロは、DISCを用いることで他人のスタンドを自分のものにしている。
他人のスタンドを制御するのは容易いことではなく、大抵の場合は他人のスタンドは制御できずに暴走させてしまう。
その事態に陥るのを防ぐ方法は一つ。
エンポリオ・アルニーニョがやってみせたように、『強い精神力を持って、暴れ馬をならすようにうまく制御しきること』である。
ディアボロはそうやって、今まで最大で4つのスタンドを制御してきた。

だが、その状態でありながらスタンドをより多く同時に制御しようというのなら、1枚追加した瞬間から彼の精神の負担が大幅に増加するのは避けられない。
それでもなお、一見すると何でもないように振る舞える時点で、彼の精神力は『異常』といってもいいのだ。
そしてその異常なまでの精神力は、今もなお経験や闘いによって成長を続けている。
住む場所が変わったからといって、彼の精神力が成長を止めるわけではないのだ。

イエローテンパランスを除く4つのスタンドのDISCを全て自身から抜き取ったディアボロは、すぐに3枚のDISCをケースから取り出す。
そこに肉壁を越えて矢が飛んできたが、ディアボロはそれをDISCで弾き落とす。

流石に5体ものスタンドの制御はこれ以上続けられないと判断したのだろう。
そして深く息を吐いて取り出した3枚のDISCをまとめて装備する。

弾いた音を聞いて届いたと判断されたらしく、次の矢が再び肉壁を超えて飛んできたが、それはスタープラチナによってキャッチされる。
その後すぐに時間を止めて、イエローテンパランスを再び自分に覆わせる。

現在、ディアボロが装備しているDISCはイエローテンパランス、スタープラチナ、ウェザー・リポート、エアロスミス。
炎と弾幕への耐性を持ち、近接戦も遠距離戦もこなせる組み合わせである。
女性との戦いにおいては、相性は悪くないだろう。

「何と!?」
目の前の肉壁が何の前兆もなく一瞬で消えたことに、女性は驚きを隠せなかった。
だが、今まで自分が体験したこともない現象にも怯むことなく、女性は再び弓を構えて引き絞る。
「…………」
ディアボロは動かず、何も語らない。
ただ、女性の動きを警戒しているだけである。
女性はそれを好機ととらえ、引き絞る力を強めて狙いを定める。

数秒の後、放たれた矢はディアボロ目掛けて一直線に飛んでいく。
だがその矢は、彼の右肩に命中する前にスタープラチナによって受け止められる。
リボルバーから放たれた銃弾を発射直後に指で挟んで受け止められるスタープラチナにとって、矢を受け止めることなど容易いことである。
「どうやら、完全に相性が悪くなったようだな」
ディアボロはそう言いながらスタープラチナに槍投げの要領で2本の矢を投げさせる。
「まだだ!」
女性は矢をたやすく受け止められ、投げ返されながらもそれを回避し、相性の悪さを宣告されながらも戦意は折れることはない。
「我が物部の秘術と道教の融合、その全てを我はまだ出し切ってはおらん!」
「それは俺だって同じだ。今までが俺の出せる全てだと思うな」
女性は今度は大きな皿を出し、ディアボロはエアロスミスを右腕に出し、その腕を女性に向ける。

片や妖怪に敵愾心を持ち、片や妖怪と一緒に生活をしている。
二人がお互いのことを詳しく知ったら、ディアボロは何とも思わないかもしれないが、この女性はどう思うのだろうか。
妖怪を庇う者として、彼を憎むだろうか。それとも、彼を助けようとして奮闘するだろうか。
……その答えは今は分からない。

214セレナード:2014/08/31(日) 22:19:39 ID:H2LI50Qg0
投稿終了です。

布都は妖怪に理由のない敵愾心を抱いているということで、戦闘の切欠がこのようなことに……。
そしてさりげなく今もなおディアボロは成長を続けています。
というか、あんな経験をしておきながら成長していかない理由がありません。

今年の夏は、ここら辺は冷夏に近い状態でした。
おまけに降雨が起きた日数が、月の半分を超えていたために出かけたくても出かけられない状態に……。
夏がこれなら、冬はどうなっちゃうんだろ。

215名無しさん:2014/09/04(木) 00:19:27 ID:k6WF1Zww0
投稿お疲れ様です。
ディアボロの精神は成長し続ける!人間は成長するのだ!してみせるッ!!
1部の単行本を読み続けているからかな?(ぶち壊し

布都ちゃんは対妖怪に関しては勘違いの喧嘩っ早いイメージはありますので、まさしくそんな感じ、という印象です。
おかげで心綺楼の意外と頭脳プレーに違和感をも感じてしまいますが。んー、これは個人の印象ですかね。
しかし、冷静になればディアボロは『送り届けた後は知らない』って言ってるんだから妖怪だけ相手にしたいのなら一旦送ってしまえばいいのに、とも思ってしまいますね。
自分の巣窟へ、屠自古も率いて相手ができるのに。…もっともそれを看破してディアボロが助けに行きそうな気もします。

続き、期待しています。自分も土日にはあげられたら…

216ポール:2014/09/05(金) 01:48:30 ID:uq3NNb/g0
投稿お疲れ様です!
今更ながら何枚もDISCを使えるのってスッゲーチートですよね
そして喧嘩っ早いどころかもはやフライングの勢いでケンカを仕掛ける布都ェ…

217どくたあ☆ちょこら〜た:2014/09/06(土) 18:24:35 ID:PwfeWXuw0
セレナードさん、投稿お疲れ様です。
【イエローテンパランス】、他の自分のスタンドまで喰ってしまうという弱点が存在したとは。しかし本体を喰うことは無いのですから、自身のスタンドも食われる危険は低い気が…
私の中では布都はジョセフタイプの飄々とした策士のイメージですね。抜けている部分も自分の一族を滅亡に引き摺り込む冷酷さも、どちらも彼女の本性。
『大火の改新』のような全方位焼き尽くす攻撃に対しても【ウェザー・リポート】がある限り、危なげなく戦えるでしょうね。
次回の戦闘、楽しみにしております!

218セレナード:2014/09/06(土) 19:07:42 ID:jWhdhivM0
みなさん、ご感想感謝します。
それでは、感想返しと行きましょうか……。

>名無しさん
あれはある意味、幻想郷に慣れたから心綺楼ではあんな感じになっているのでしょうかね?
良心的かつ実力のある者は妖怪でも認めているように受け取れますし。
とはいっても、あの場面は事情が分からぬ者には『天狗が人間二人を連れている』ともとれる風になっていますし。

送り届けるといっても、神霊廟にではなくて『聖人』のところに、なのです。
わかりにくかったのなら、何かしら修正でもしておいた方がいいでしょうかね?

>ポールさん
エンポリオもあの土壇場で2体のスタンドを制御できるようになったと考えると、ディアボロの最大5枚は凄まじい程にチートになりますね。
しかし、5体のスタンドを制御するとなると『常時精神を消耗する』のは避けられません。
『複数体スタンドを出し続けるのが難しくなる』(現に5枚装備時には4体以上スタンドを出せていない)こともありますし、ディアボロとしてもあの状態を維持するのは至難です。

布都のあの喧嘩を仕掛ける早さは……一体、射命丸のどこを見て判断したのやら。

>ちょこら〜たさん
あくまであれはディアボロの憶測……とも断言できないんですよね。
承太郎とラバーソウルの戦闘時、承太郎の手についたイエローテンパランスをラバーソウルは操りませんでした。(ゴンドラに乗り込んだ時には手についているのを見ているのに)
もしもあれが『操ることができない』、すなわちラバーソウルの制御を離れて動いているのだったら、ディアボロが上げた事例が起こりうるだろうと考えたのです。

ちょこら〜たさんには布都はジョセフタイプのイメージですか……。
なるほど、キレるポイントさえ違えば、そのイメージも当てはまりそうです。

『大火の改新』は……使うとなれば、如何にして布都が神霊廟の外にディアボロを誘導できるかがポイントですね。
流石に屋内ではあの技は使うわけにはいかないでしょう。神霊廟の中となればなおさらのことです。

219まるく:2014/09/07(日) 08:42:20 ID:hWr8uJPI0
段々と目標にしている期日からずれている…いいのか、自分。
投稿します、とりあえず!

220深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 3―:2014/09/07(日) 08:43:27 ID:hWr8uJPI0
「……以上が将棋の駒の動きとルールよ。わかった?」
「ああ。何となく、は」

 駒を動かしながら、幽々子からの説明を聞くドッピオ。
 確かにチェスとは似ているが、差異はそれなりにある。
 盤面が広く、その分多い駒。縦横無尽に動き回るチェスとは違い、堅実に立ち回るかの小さな動き。

「そして、取られた駒はこちらの駒として使用できる、か」
「ええ。これがこの遊びの妙味。味方が敵となって現れ場を混沌とさせる……これもお国柄の違いかしら?」
「……キャスリングもない。チェスは攻め入るゲームだけれど、こっちは似たようで既に刃が喉元に届きそうな、違いがあるな」

 手番を使い、結局壁にしかならなそうな一手が多く見えそうなルールでしかないように見えるが。それがドッピオの第一印象。
 飛車や角行といった強力な動きをする駒をもし取っても自分が取られたら対等に戻る。状況にもよるが、二つを持たれてしまえば太刀打ちできないだろう。
 チェスでは取った駒は盤面から取り除かれ、それまでだ。どんどんと消耗していく駒を、どれを使っていくか。そこで頭を悩ませていく。

「……確認だけど」
「はい?」
「具体的にどうすれば、お前は話をする気になる? 将棋で勝て、というのは実質的に喋る気はないという意味でとるけれど」

 声色を低くして幽々子に語りかける。そのはず、彼にはほとんど経験の無いゲーム。チェスも、ルールは知っているが数えるほどしかやっていない。

「そちらから持ちかけてきている以上、お前が未経験、もしくは苦手としているとは思わないぞ。甲子園優勝チームがバットを持ったことの無い茶道部に勝負を持ちかけているようなものだ、と思っているからな」
「あらあら……」

 それに対し、幽々子は困ったような表情を浮かべて笑う。
 その行動も半分苛立っている彼にとっては感情を煽る行動にしかならない。

「どうなんだ? 付き合うだけでいいのか? それとも条件があるのか? 言ってみろ」

 青筋が立つのをこらえながら、改めて問いかける。

「はぐらかしたら殴られかねない雰囲気ね。怖いわ。……さっきも言った通り。あなたが過去と向き合う盤面。それを感じ取れればいいのです」
「……ッ!! だからッ、どういう」
「お付き合いしてくれますか? してくれませんか?」

 どうやら、その点については問答を行う気がない様子。ありありと、見て取れる。
 選択肢を選ぶ以外、例えば選択肢を増やすことやそれについて質問すること。それらは行わないと言っている。

「……相変わらず、分かったようなことばかり……」

 口元に笑みを湛え、何処吹く風と自分の感情を受け流している。押し問答をしても、一点の答えしか返ってこないだろう。
 相手の感情を読み取り逆撫でする技術では勝ち目はない。それを持った相手に対して口で挑むのは至難。
 その行き着く先は、歩を一つ動かすことで始まった。

「それならば、さっさとはじめよう」

 実際にこのゲームがどう動くかはわからない。ただ、最初の一回で終わることはないだろう。彼女の言葉を信じるなら、将棋盤は過去であり、それと向き合うことが重要。
 理解の行き着く先にまで付き合わされると、ドッピオは予測した。この戦いは、幾度も繰り返されることで自分に何らかの意図を認識させるものと。

「どうぞ、よろしくお願いいたします」

 その通りか、別の思惑か。読み取ることはできないものの幽々子は手を進め、ゲームの開始を受ける。

221深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 3―:2014/09/07(日) 08:44:00 ID:hWr8uJPI0




「…………」 
「これで終わり、です」

 盤上に残っている物はほとんどがドッピオに切っ先を向けた駒であり、自分の駒はほとんどが失われているか、動かすことも無意味な状態にあった。
 そこに飛び込むように置かれた歩。元々はドッピオの駒だった歩を盤上に指し、幽々子は彼の敗北を告げる。
 まだ直接王手に至るわけではないが、どう動かしても次か、その次の一手で王手と至るだろう。詰みの状態だった。

「ん〜、やっぱり初めてさんには難しいかしら?」
「言ったろ、やったことないって。それに、あんまりこういう遊びは得意じゃないから」

 少し負け惜しむよう聞こえるように、幽々子に返す。
 一戦目は動きの確認と、彼女の実際の強さを図るためのものと考えていた。
 駒の動きと有効な活用方法。相手が使う戦略からの定石の推理。いわば勝つための手段を。
 そして、幽々子は実際に強いという確認。こちらのレベルに合わせて手加減をして、それを匂わせないようにする程度にはできる技量だということ。

「さあ、次へと参りましょう」

 盤上を片付け、駒を並べ直す。言葉の通り、再戦の合図。

「……そう、しようか」

 ドッピオも盤面に目を下ろし、その戦いに興じる。
 否、目線はそちらに向けていても意識は別方向に向いている。
 駒を持つ手におぼろげにもう一つの陰が現れ、共にドッピオの視界の端に映像が浮かび上がる。
 断片的ながらも、そこに映るのはこれから先の未来。

「あら、……あらぁ」

 ぱちぱちと、手の進むごとに幽々子の手の勢いが陰る。
 先ほどまでの様に慣れぬ手つきで進めていたとは思えぬ、道筋が見えているかのようなドッピオの打ち筋。

「随分呑み込みが早いのね?」
「そうかい?」

 彼女のペースに付き合わず、自分の勢いを重視して手を進めていく。
 いつの間にか、互いの技量が逆転したかのようにも見えた。

222深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 3―:2014/09/07(日) 08:44:36 ID:hWr8uJPI0




「……じゃあ、こういうのはどうかしら」

 ぴち、とドッピオの王将の前に桂馬が指される。この駒も、先に後続が幽々子を刺すため、ドッピオが捨て駒として使用した物。
 予知に従った今回の盤上は初めの頃こそドッピオが攻勢であったが手が進むごとに彼の包囲を抜けるかのごとく勢いを躱し、気づけば逆転していた。
 目前に置かれた桂馬を取るのはたやすい。だが、それを取れば後続が彼の王将を刺す。かといって退けばそのまま追い詰められ、戦いは終わりを迎えるだろう。

「……くっ」

 頭の中から、響くように痛みが走る。
 画面には、そのまま変わらぬ盤上で手を震わせている自分が写っている。……予知を見るまでもなく、自分の考えでも敗北は見えている。
 所詮は小手先なのだと言わんばかりの、彼女の打ち筋。一寸先の未来も、ぽっかりと開いた穴に進む道しか映していなかった。
 その道しか映しておらず、それに頼れば落ちるは必然。

「二回目だというのに、ずいぶん上手になったわね。苦手だって言っていた割には……まるで、先が見えていたかのような指し方だったわ」

 その言葉に対して、ドッピオは何も言い返せない。実際に見えていた。その通りに進んでいた。
 エピタフによる予知があるから、ある程度は余裕を持っていた。相手より先が見えていれば、その相手を打ち崩す策を持って予知は答えてくれるのだと思っていた。
 だが実際はどうか。がむしゃらに進む自分の周りを囲うかのように策を張り、罠をかけて待つ手筋に嵌っただけ。
 先が見えても対局が見えていない。よく使われる言葉ではあるが、予知を用いた状態でそれにやられるとは考えてもいなかった。
 頭の中から、血管が潰れるような痛みが走る。

「さあ、次へと……どうしました? ずいぶんと顔色が悪そうだけれど……」
「え? あぁ、そんなことはない。次を」

 びりびりと走る痛みを抱えながら、幽々子に倣い再び駒を並べ始める。

「では、よろしくお願いいたします」

 その言葉と共に、ドッピオは歩を動かす。
 まだ予知通りでもいい。でも、どこかに転機がある。そこで予知を裏切るような動きをすればもしかしたら……何か、変わるかもしれない。
 一瞬その考えがよぎり、それを頭を振ってごまかす。
 ボスから借り得た能力を信じきれないという自分の愚かな感情と、そうでもしないと彼女から優勢を奪えず、先を進めないのではないかという閉塞感。
 この二戦の僅かな時間で、ドッピオは精神的に疲弊していた。
 日は落ち始め、地上より高所に位置した冥界は日差しの影響を強く受ける。白から橙に変わり始めた日光は、二人の居室の隅まで照らす。
 外で佇むアンの薄い影が盤の上にまで掛かろうとしていた。

223深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 3―:2014/09/07(日) 08:45:22 ID:hWr8uJPI0



「一つ、聞きたいんだが」

 飛車が歩の隙間を通り、奥にある金の少し手前まで動いていく。

「何でしょうか?」

 それに合わせて、銀を飛車の前にと動かす。

「お前はこの盤のことを『過去を並べた盤』と言っていたな。それに向かい合う必要があると」
「そう言えば、そんなことを言ってたような気がします」

 少し思考の間を開けながら、動かした飛車の後ろに幽々子から奪った歩を差しこむ。
 頭痛は、いつの間にか消えていた。

「それに対する答えを考えていた……聞いてくれるか?」

 その言葉を聞き、幽々子はぴたりと動きを止め、彼を見やる。
 幾分か鋭い眼差しを、ここに来てから出したことの無いような、慎重に何かを察知するための気を相手に配りながら。

「……三回、ですか。ではお答ひぇ」

 喋りかける幽々子の舌が、何かに摘ままれる。それには危害を加えるための強さなどは入っておらず、行動を阻止する、けれど傷つけない程度の力。
 見えない『何か』は、盤の傍らから、その手の柔らかさとは別に、ぎらつく強い眼差しで彼女を睨みつけている。
 対する幽々子は、それに驚きの表情はするものの、特別抵抗をすることはなく、その唇には柔らかさを保たせている。

「……あの従者を置いている以上知ってはいるとは思っていたが……見えては、いないのか? それとも敢えて呆けているのか」
「ふぁい」

 どちらともつかぬ、気の抜けた返事が幽々子の唇から洩れる。
 キングクリムゾンは左手で幽々子の舌を掴みながら、右手は触れるか触れないかの距離で彼女の眼球に近づける。
 どれほど自らの意志により押さえ込もうとしても制御しきれぬ防衛の反応。見えても感じても居なければ、実際に触れない限りは気づかない故に反射は何も起きていない。
 もちろん相手は人間ではなく妖怪であるのでそっくり同じように返ってくるとは思えないが、この顔がよくできた作り物ではない限り似たような構造ではあると感じていた。
 舌は、口内を保護するぬめりと生体維持のための空気の流れに沿うような僅かな上下を繰り返している。

「先に調べたい意は今取れた。……お前からの回答をする前に、いくつか質問をさせてもらおう。それについては答えたければ答えるで、いい」

 幽々子の口から手を放し、ディアボロはキングクリムゾンを戻す。姿はドッピオのそれとはまったく変わらないが、その精神は逆転していた。

「見えないっていうのは嫌あね。……では、どうぞ。お答えする気になったらお答えしますわ」
「お前達は。敢えて達を使わせてもらおう。お前達は私の事について知っているな。おそらく、全てを」

 一瞬、沈黙。
 幽々子は王の傍らにある銀で、ディアボロの飛車を取る。

「はい」
「……私の経緯も、私の最期も。全てを知っていて、この世界に導いた……そうだな」

 その銀を、後ろに控えていた歩が刺す。それと共に歩は成り上がり、赤く刻まれた文字を盤面に表わした。

「その上で、ここまで……そうだな、辿り着いた。辿り着いた私にあの時の事をこのボードゲームを用いて振り返らせている」
「……はい」
「チェスと似ていると言っていた。まさしくこれは戦いの縮図。違いは、己の味方が寝返ること。かつて、私がいた組織の様に」

 ディアボロは、盤面から目を離して幽々子を見据える。それは、返事を待つという声なき呼びかけ。

224深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 3―:2014/09/07(日) 08:46:13 ID:hWr8uJPI0

「……厳密に言えば最初は敵などいなかった。味方だと、部下だと。……いいや、私自身もそう取ってはいなかった。まさしく駒だと」

 返事が返ってこないことを感じ、言葉を続ける。
 先ほど成った歩を自分の方に向き直させると、盤面の自分の駒を全て盤外へ放る。残ったものは中央、自分の手前に置かれた王将のみ。

「敵も味方もいなかった。全ては駒だった。だが、その駒は次第に意志を持ちこちらに向かってきた。その意思を、強さを、私は見抜けなかった」

 その言葉に対する返事として、幽々子は先ほど取った飛車を、王たるディアボロの前に置く。距離はあるが、すぐにとれる位置ではない。
 それに合わせ、彼の王将を一歩前に進ませる。
 次の手番である幽々子は、先まで彼女の陣営にあった、元は彼の陣営である成金を大きく動かし、飛車の傍らに置く。

「私は今も自分が行ってきたことが間違っているとは思っていない。奴が間違っているとも思っていない。自分たちの基準で言えば、どちらも正義だ。
 だが、ボードゲームでも僅かな均衡で崩れる様に。思想による争いも、思いもよらないことで均衡が崩れ、勝敗が決まる」

 ディアボロはさらに王将を進ませる。自ら、取れというように。実際に、進ませた先は飛車の目の前にあり。飛車では前進ができず取ることはできないが、傍らの成金が彼を取るだろう。

「お前に答えよう。最初から全て話していた。このゲームは私の過去であり、それに向き合わせるための道具。
 多くの者は……私に姿を見せていない、ユカリの関係者は。私を知っている、理解している。その上で、私の動向を見張り何をするかを探っている。そうだな?」

 そこまで言い切った彼に対して、幽々子は手を合わせてそれに感嘆の意を示す。

「その通りです。あなたがここでどう至るか。過去の罪人は何をもたらすか。……ただの罪人であるならばここまでしなかった。あなたは異質の力を持っている。いえ、あなた達は」
「スタンド能力、か」
「ええ。きっと貴方は聞いているでしょう、かつて宇宙を巻き込んだ事変を。幻想に至らぬ人間がそれほどの力を所有している事……それを紫は危惧している。
 そのテストケースとしてあなたは招待されたのです。この、幻想郷に」

 幽々子は真っ直ぐな瞳が彼を見つめ、幻想郷の大意が彼女の口から伝えられた。

「一つ、スタンド使いであること。
 一つ、いなくなっても問題ない人物であること。
 一つ、その二つの条件を見たし、かつ大きな力を持つこと。
 そこまで満たさなければ、あの事変に匹敵しうるとは思えず。かといってそこまでの条件を満たすものがいるかどうか、これが悩みだった。
 事変をきっかけに外は違う世界線に飛んでしまい、大幅に条件を満たすものが減ってしまった。……さすがにそこまでは、当人しか知りえないのだけれど」

「その中、何時から居たのかはわからない。死を繰り返す男の話。輪廻から放逐され、宇宙の引力から逸脱した存在がこの幻想郷に流れ着いた。
 ……そんな人間を、手を加えて観察対象として、受け入れたの。いつもは何でも受け入れるって言っているけれど、その時はだいぶ悩んだみたいよ、あの子」

「それがあなた。永遠の放浪者として彷徨っていたあなたを取り巻く鎖も同じくスタンドによるもの。それもあなたを招待する理由として大きかった。
 あれほどの騒乱の後でも変わらずあなたを縛りつづけていた。縛っている者があなたと違う世界線に行ってしまったというのに、それでもあなたの魂に纏わされていた鎮魂歌はずっとあなたに寄り添っていた。それが、一番なのかもしれない」

 とうとうと、幽々子は澄み渡る声を辺りに響かせる。
 ディアボロがここに来てから持っていた疑問が、ゆっくりと解消されていく。
 もちろん、聞けば聞くほど新たな疑問も現れていくが、今は静かにその声に集中していた。

「あなたが過去に何をしたか。これから先どうするか。それについては自由にすれば良いでしょう。それに肯定する者は付いていくし、反発する者は立ちふさがる。何も変わりはしません。
 幻想郷は全てを受け入れる。それはとてもとても慈愛に満ちたことです」

225まるく:2014/09/07(日) 09:05:29 ID:hWr8uJPI0
以上になります。今投稿したSSについて解説をしないことは騎士道に恥じる闇討ちに等しい行為…解説させてもらえるかな。

将棋、それほどやったことはないんで結局こんな感じです。一応プロの棋譜を見ながら反映させていましたが…
うんん、あれ漢字ばっかりでよくわからないですね。我ながら酷い。

世界線がどうのこうの、と言っていますが、イメージとして受け取ってください。
一巡→プッチが死亡→プッチが存在していないifの世界(6部ラスト、アイリンなどがいる世界)と7部、8部の世界とで別れている、と捉えています。
平行世界がD4Cによって存在することを作中で説明されたので、それを踏まえて。
今のディアボロや幻想郷がある世界はこの7部8部の世界線。元は今まで通りの6部の世界線。

また、ジョルノやミスタなど、かつて相手にしていた者は6部の世界線で生きている、と考えています。
プッチが存在していれば死んでいたが、存在していなければあの時点で生きていた者達はよく似た別の存在となって残っており(アイリン、アナキン、名前は出てないけどエルメェスにウェザーも)
プッチと大きく関係の無い者達…6部外の者達はあの出来事を享受しながらも生きていると考えているのです。
そのあたりもおいおいSS内で詳しく出していきたいなと。冥界編は次回で終わらせるつもりです。小タイトルは4つにはおさめておきたい。

……先に言っておきます。おそらく来月は投稿できないです。
リアルで忙しいのもありますが、その、スマブラにダクソにモンハンも…最近PSO2もはじめましてね…

226セレナード:2014/09/07(日) 10:49:57 ID:eZt1l7AM0
投稿お疲れ様です。
……やはり私の一話分は他の方に比べれば短いかなぁ。

結局、一巡後の世界と7部以降の世界の違いは今のところ判らないですね。
ひょっとすると、7部以降の世界は色々な要素の残滓によって生み出された世界かもしれないですし。

6部を含めて生き残ったキャラクターがあの後も生きているというのは否定しませんね。
エンポリオが生物が一巡後の世界に行くのを見ている以上、死んでいると考えるのはむしろ不自然ですし。

スマブラか……私も買いますね。
無論、積みゲーを生み出さないように気を付けはしますが。

227まるく:2014/09/07(日) 14:46:07 ID:hWr8uJPI0
時間のかけ方と長さが比例していれば気にすることはない(キリッ
別にそこの点は考える必要ないんじゃないですかね。自分はそう思いますよ。

たぶん世界の違いは荒木は考えてないし、考えていても出さないんじゃないかと思っています。もしあるのなら、7部中で話していいと思いますし、SBR1巻のカバーコメントでなんかそれっぽいことを言っていたような気も。
だから勝手に解釈していますよ。少なくとも、定助の世界に仗助はいないと。SBRで出ていないジョジョは空条家くらいですからね。

エンポリオだけが生きており、他はアイリンみたいに僅かに変わっている…というのもよく聞きますけどね。そこも、特別答えを出していないので勝手な解釈で進めております。
承太郎は死んでしまった以上、同じ承太郎がいるとは思っていませんがジョルノはあの時出ていなかったし死んでないなら変わっていないでほしいんだよなぁ…

228ポール:2014/09/09(火) 20:53:55 ID:zBzr0fXE0
投稿お疲れ様です!
時間と長さが比例されたら私20万字くらい書かなきゃならない…

将棋で自分の過去と向き合わされるとは…はたしてディアボロは黄金の精神で勝利するのか、帝王として戦い続けるのか…気になるところです!

229セレナード:2014/09/09(火) 22:06:37 ID:uJCqJNtI0
……ふう、完成しました。
たまには短いペースで行ってみますか。

230東方魔蓮記第四十九話:2014/09/09(火) 22:07:37 ID:uJCqJNtI0
片や皿を持って構え、片や腕を相手に突き付けて構えている。
第三者からすれば奇怪な状態だが、二人はいたって真剣なのである。

数秒の後、女性が皿を投げつけてくる。
ディアボロはそれをエアロスミスの機銃で粉々に破壊すると、そのまま射命丸とマミゾウが逃げた方向に移動を始める。
「(そろそろあいつらとも距離は取れているはずだ)」
「待て!」
当然女性も追いかけてくる。しかも浮遊しているからあちらは疲弊するのが遅い。
だがそれはあまり気にする必要はない。
気にするべきは……『聖人』が彼女と違って友好的であるかどうかだ。


廊下を走る音が一つ。明らかに歩くより速く進んでいる者が二人。
そして時々響く陶器が砕ける音と、出来てから数日も経っていない新築の建物に時々勝手に開く穴。
神霊廟にゴミを散らかし、傷をつけるという事態を引き起こしながら二人は戦闘を続けている。


スタープラチナで女性を視認し、女性が同時に投げてきた2枚の皿を、ディアボロは振り向きながらエアロスミスで撃墜する。
皿の破片を操って飛ばしてきたなら、スタープラチナがそれを全て掴み取って握力で砕く。
まさに、文字通りの膠着状態である。
「(この狭い中で船を使うわけにはいかん……ならば!)」
女性はそう思って何か仕掛けようとしたのだが……。


何かしようとした瞬間、時が止まった。
女性が相手にしているのは、自分よりもずっとずっと戦闘経験を積んできた者。
相手の動きから『何をしてくるか』はともかく、今までとは違う方法を使ってくるのを読むのは容易いのだ。


ディアボロは2秒ほど女性にエアロスミスの機関銃を撃つと、残りの秒で全力で走って距離を取る。
「(まずいな……見取り図も作ってくべきだった)」
ハーミット・パープルで神霊廟の見取り図を念写しなかったことに後悔するが、止まった時はそんなのはお構いなしに動き出す。
「ぬおっ!?」
女性は肌を掠めた何かに驚いて行動を止めたが、距離を取ろうとしているディアボロを見て追跡を再開する。
エアロスミスのレーダーで何人かの反応は検知できるが、建物の構造を今一理解できていない以上、迂回も仕方ない状態になっている。
ディアボロが現在目指している地点は……お互いにとても近い二つの反応だ。
どれがマミゾウと射命丸なのかはわからないが、あの後に何かない限り二人がはぐれるとは思えない。

231東方魔蓮記第四十九話:2014/09/09(火) 22:09:37 ID:uJCqJNtI0
「(二人と合流するなら、まずはこいつから逃げ切らないとな……)」
ディアボロは女性を振り切るため、エアロスミスを右腕から発進させる。

本来エアロスミスは、先ほどのように腕に出させて機銃を撃つスタンドではない。
戦闘機型であるこのスタンドは、飛行してこそその真価を発揮できる。
ディアボロの腕を離れて飛び立ったことで、先ほどまで使っていた二酸化炭素の探知と機銃だけでなく、爆弾の投下やプロペラを用いて切り刻むことさえできる。
おまけにスタンドなので空気抵抗や重力なんて全く気にする必要はない。

エアロスミスがディアボロの右腕より飛び立つと、彼は一旦動くのを止めて女性の方を振り返る。
すると、彼を追いかけていた女性も、ある程度距離をとったまま止まることになる。
ただ捕まえたかったのならそのまま勢いよく飛びかかればいいのだが、今までの出来事からして、彼が何をしてくるのか推測するのは困難だ。
肉壁で道を塞ぐかもしれない。再び不可視の何かで拘束してくるかもしれない。それとも、まだ見せていない何かを使ってくるかもしれない。
『何をしてくるかわからない』から、急に動きを止めるという些細なことにも警戒しなければならないのだ。

「(炎を放って来たり、どこからともなく皿を取り出してくる時点で、こいつも何かしらの術が使えると見ていい)」
女性が動くのを止めたことを確認すると、ディアボロはエアロスミスを操って女性の近くまで飛ばし、それと同時にウェザー・リポートでスタンドの雷雲を大量に発生させる。
「(ならば……)」
そして、うっかり直撃させないように注意しつつ、女性の目の前の床に爆弾を落とさせる。
爆撃を受けた床は爆発によって砕け、砕けたことによって生じた粉が爆発の衝撃によって勢いよく宙に飛び出す。
「(ちょっとやそっとじゃくたばらないだろう)」
女性がそれに驚いた瞬間に時を止め、ウェザー・リポートで舞い上がった粉に当たらないようにして女性に3発の雷を放つ。
それらはDIOが時間停止中にナイフを投げた結果の時と同様、女性に命中する瞬間に止まる。
「(こいつについても知りたいが、それは後だな)」
ディアボロはそう考えながら、彼女を巻くべく再び動き出す。
その直後時が動き出し、それとほぼ同じタイミングで女性に雷が命中する。
「――――ッ!」
女性は雷撃を受けて声を発することもできないが、どうやらこれでくたばったわけではないようだ。
「(今なら体が痺れて少しは時間が稼げるはずだ)」
ディアボロは女性が感電している隙に走って再び女性との距離を取る。

しかし、やはり物事はうまくいかないものだ。

――ディオ・ブランド―はこう語っている。『人間は策を弄すれば弄するほど、予期せぬ事態で策が崩れさる』と。
故に彼は人間をやめた。人でなくなることで、己の野望を果たそうとしたのだ。
……結局、彼の野望は叶わなかったが。

ディアボロの視界に入っている曲がり角、彼はそこを通るつもりであった。
エアロスミスのレーダーにその付近での反応はなく、問題なく通れる……はずだった。

そこから人がやってこなければ。

232東方魔蓮記第四十九話:2014/09/09(火) 22:10:10 ID:uJCqJNtI0
「!」
ディアボロは人がそこからやってきたことに気づいて、止まる
……なんてことはなく、そのまま進んで飛び越そうとする。
「屠自古(とじこ)!すまんがその男を捕まえてくれ!」
「えっ?」
突然の女性の呼びかけに困惑しながらも、屠自古と呼ばれたその者はディアボロを捕まえようとする。
ディアボロは走って屠自古に接近する間に、ウェザー・リポートを追加で出す。
一方の屠自古はわけがわからないまま、女性の言う通りにディアボロを捕まえようと接近してくる。
「(何故反応がなかったのか考えるのは後だ。まずはこいつをどうにかする!)」
ディアボロは掴み掛ってきた屠自古をスタープラチナを使って往なすと、ウェザー・リポートで風を起こして体勢を崩していた屠自古を女性の方に吹き飛ばす。
吹き飛ばされた屠自古と巻き込まれた女性が起き上がっている間に、ディアボロはスタープラチナも使って二人を観察する。

屠自古と呼ばれた者には、足がなかった。だが、それ以外は人間と異なる部分はない。
「(……成程、『肉体を持たない』のならば、何かしらの干渉を受けない限りの二酸化炭素はでない。だがらエアロスミスのレーダーに反応しなかったのか)」
ディアボロはそれを見て理解した。屠自古と呼ばれた女性は、所謂亡霊の類だと。
肉体がない以上、亡霊が呼吸をしても二酸化炭素の類は出ない。
だから、二酸化炭素を検知するエアロスミスのレーダーに一切反応しなかったのだ。

「(これは少し厄介だな……敵対したら1発機銃をくらわせておくべきか?)」
例えレーダーに反応しないものでも、レーダーに反応させられるようになる方法がある。
エアロスミスの機銃や爆弾で対象を傷つけることだ。
傷つけることに成功すると、『スタンド硝煙』といえるものが傷つけられたものから出続けるようになる。
エアロスミスのレーダーはこれにも反応するため、機銃や爆弾で傷つけることさえできれば亡霊である屠自古でも検知することができるようになるのだ。

「やれやれ、いきなり弾幕を撃ってきたから応戦しながら逃げていたら、今度は向こうから亡霊がやってくるとはな」
ディアボロは逃げるのをやめ、呆れたふりをしながら二人の様子を伺う。
「おい布都(ふと)、あいつは何なんだ?」
屠自古は先ほどまでディアボロとチェイスを繰り広げていた女性……布都に質問をする。
「俺はただの新聞記者の護衛。あの天狗を『聖人』と呼ばれるやつのところに送り届けるのが、俺の仕事だ」
屠自古の質問を、布都の代わりにディアボロが答える。
「だがどういうわけか、そいつは俺のことを『脅されて連れてこられた』と誤解しているようだがな」
そう言って、ディアボロは軽い溜息をつく。
何故布都があんな誤解をしたのか、彼にはさっぱりわからないからだ。
「……まあ、所詮は誤解だ。影響が出る前に解いてしまえばそれで終わる」
ディアボロは二人に背を向けて、エアロスミスのレーダーを見ながら歩き出す。
勿論、スタープラチナに二人を見張らせて。
「(さて、あの二人はどうでる?)」
布都はともかく、屠自古はどう出るのかわからない。
背後から襲ってくるのなら応戦するが、攻撃してこないのなら見逃しても問題ないかもしれない。

233東方魔蓮記第四十九話:2014/09/09(火) 22:11:06 ID:uJCqJNtI0
悔しそうな表情でディアボロの背を見る布都と、彼女を落ち着かせようとする屠自古が見える。
今のところ、二人して攻撃を仕掛けてくる気配は見られない。
「(屠自古が布都を説得し、攻撃を止めさせてくれるなら問題なさそうだ)」
仮に屠自古が布都と同じ考えを持っていたとしても、ディアボロは妖怪ではなく、普通では持ちえない力を持った人間である。
布都が屠自古におかしなことを吹き込まない限り、屠自古が攻撃してくることはないだろう。たぶん。
再びエアロスミスのレーダーを見て、反応をチェックする。
「(さて……どう進めば二人と合流できるだろうか?)」
反応の位置は大して変わっていないが、問題は構造である。
どうすれば合流できるのか、さっぱりわからない。
「(スティッキィ・フィンガーズで壁を通り抜ければ楽だが、今はDISCが装備できないな……)」
ディアボロはそう思いながらも屠自古が通ってきた曲がり角を通るために歩いて行こうとする。

「待ってくれ」
屠自古にそう呼びかけられ、それに反応してディアボロは二人のほうに振り返る。
「?」
「先ほどは布都が迷惑をかけたな」
屠自古は布都の非礼を詫びたの聞いて、ディアボロは敵意を向ける必要はないと判断した。
「大丈夫だ、傷は負っていないから気にする必要はない」
ディアボロはそう言って再び二人に背を向ける。
「ところで……天狗とその連れがどこにいるかわかるか?」
ディアボロはエアロスミスのレーダーを見ながら二人に問いかける。
反応の位置ともう一つの反応の距離からして、マミゾウや射命丸と同じ部屋に居るようにも思えるが……?
「……そういえば、太子様に取材したいという天狗がいたな。敵意は感じなかったし、態度も礼儀正しかったから太子様のもとに案内したが……」
「Hmmm(成程)、その天狗に同行している奴はいたか?」
他の天狗がここに来ている可能性は低いだろうが、念の為に屠自古に聞いてみる。
「ああ、一人引き連れていた」
屠自古の答えによって確信を得たディアボロは、彼女にある提案を持ちかける。
「そいつらと合流したい。案内を頼めるか?」
「分かった。ついてきてくれ」
布都との一件について負い目でも感じたのだろうか、屠自古はディアボロの提案をすぐに受け入れる。
その後ディアボロに接近してきたことからして、どうやら聖人のいる部屋は屠自古が来た道の向こう側にあるようだ。
屠自古がすれ違う際に何もしてこなかったことから、ディアボロもその後についていく。
そしてさらにその後を、少し間をあけて布都がついていく。
……どこか(恐らくディアボロが射命丸を擁護したことについて)「理解できない」といいたそうな表情をしながら。

屠自古に案内されてたどり着いたのは、とある部屋の前。
「この部屋に太子様と天狗たちがいる」
「(こいつらは聖人のことを『太子様』と呼んでいるな)」
ディアボロはそこに気づいたが、だからといって何か関連付けられるものがあるか彼の記憶にあるかどうかというと、『心当たりはない』だろう。
「くれぐれも太子様に失礼のないように」
「大丈夫だ。礼節ぐらいは心得ている」
屠自古の忠告に言葉を返し、ディアボロは聖人と射命丸とマミゾウがいるという部屋に入る。

234東方魔蓮記第四十九話:2014/09/09(火) 22:12:04 ID:uJCqJNtI0

「おや」
「!」
「おお、無事だったか」
部屋に入ると、ディアボロがやってきたことに部屋にいた者は皆気付き、マミゾウが声を掛ける。
「ああ、ちょっと大変な目にあったが大丈夫だ」
ディアボロはそう言ってマミゾウと射命丸に近づきながら、横目で聖人と呼ばれる者の姿を確認する。
その姿はまさに写真通り。だが、写真ではわからないことも実際に接触して分かった。
彼女が醸し出す雰囲気は、どことなく白蓮に近く、けれども彼女とは確実に『何かが異なって』いる。
「どうやら、布都が迷惑をかけたようですね」
「気にすることはない。大して傷も負っていないしな」
『聖人』のお詫びに、気にすることはないとディアボロは言葉を返す。
だがその言葉とは裏腹に、聖人の挙動に対する警戒は怠っていない。

「それでは、取材を始めるとしましょう」
聖人が射命丸にそう呼びかける。
取材を行うことは、聖人も屠自古か射命丸から聞いていたのだろう。
ディアボロがこの部屋にくるまで取材が始まっていなかったのは、聖人の配慮のおかげだろうか。
「はい。よろしくお願いします」
聖人の呼びかけに、射命丸は礼儀正しく答える。
『取材をする相手には常に礼儀正しく』。それも射命丸の一面である。


射命丸の取材を聞く中で、色々な事を知ることができた。
「私は豊聡耳神子。人は私を『聖徳王』と呼びます」
まず分かったのは聖人の名前は豊聡耳神子(とよさとみみの みこ)。
そして布都と屠自古のフルネームは「物部布都(もののべの ふと)」と「蘇我屠自古(そがの とじこ)」ということだ。
「(聖徳王か……あの二人は太子様と呼んでいたな)」
「(…………ん?)」
とここで、ディアボロはあることに気づく。
似たような名前を承太郎などの記憶から思い出したからだ。
「(まさか、あいつらの正体は……)」

蘇我と物部――それは、二つとも飛鳥時代に隆盛を極めた豪族の一族の姓だ。
そして聖徳王(今では聖徳太子の名が一般的だが)といえば、所謂冠位十二階や十七条憲法を定め、遣隋使を派遣し、仏教を厚く信仰して興隆につとめた存在……と語り伝えられている。
虚構説が最近出てきたが、今射命丸達の目の前にいる聖人は、本人の主張通りなら紛れもなく聖徳王その人だ。
つまり三人は、飛鳥時代の……およそ1400年ほど前の者達。


「(蘇我に物部、おまけに聖徳太子ときたか)」
ディアボロは取材内容を一文一句聞き漏らさず聞きながらも、思考を巡らせる。
「(……俺の予想を超えた展開だな)」
ディアボロには聖人と彼女に仕える二人の正体を予想することは流石にできなかった。
しかし、承太郎たちの記憶を得たおかげで物部や蘇我、聖徳太子に関する知識をある程度持てていたことは幸いだ。
もしもそうでなかったら、ディアボロは話についていけなかっただろう。


そして取材の中で、神子自身には妖怪に対して敵対的ではなく、闘う理由もなければ無駄な争いもしないことが本人の口より語られた。
これがある意味、ディアボロとマミゾウにとって最も欲しかった情報である。
「(よし、この話を妖怪に広めていけば、布都はともかく神子の方は妖怪にとって問題ないと理解してもらえるはずだ)」
ディアボロは表情を変えることなく軽く安堵する。
この情報を持ち帰り、広めることさえできれば、妖怪の群れが神子たちと戦うという最悪の事態になるのは避けられそうだ。



その後も色々なことが神子によって語られ、射命丸の取材は何事もなく終了した。
ディアボロにとってまだまだ聞き出したいことはあるが、射命丸の取材に便乗している以上、それは無理な話である。
「……それでは、本日は取材に応じてくださって、ありがとうございました」
射命丸がメモを全てとり、カメラで神子たちの写真を撮り終えると、神子達に取材のお礼を言う。
「どういたしまして」
神子は穏健な感じでそういうと
「布都、屠自古、皆様を入口まで案内してあげなさい」
布都と屠自古に出口まで案内するように指示を出す。
「はい」
「わかりました」
布都と屠自古はその指示を受けると、すぐに射命丸達を入口へと案内すべく動き始めた。
射命丸達もその後に続いて、部屋から出ていく。
「(……貴方には興味がありますが、今回は仕方ありませんね)」
部屋を出ていく射命丸達の背を見ながら、仕方がなさそうな表情で神子は思う。
「(『違う世界』からやってきた人よ、いずれまた会いましょう)」
自分たちとは異なる世界からやってきたことに興味を持ちながらも、彼とは話せないことを残念に思いながらも、いずれ再び会えることを信じて。

235東方魔蓮記第四十九話:2014/09/09(火) 22:13:22 ID:uJCqJNtI0
幻想郷と神霊廟のある空間を繋ぐ『道』の手前。
布都と屠自古に神霊廟の入口まで案内してもらい、その後幻想郷に戻ってきた射命丸達は、そこで軽く会話をしていた。
「布都は案内の時、終始無言で不機嫌そうだったな」
「亡霊の奴は、同じ無言でも申し訳なさそうにしていたがのう」
ディアボロとマミゾウは雑談をしている。と、そこに射命丸が割って入った。
「それでは、取材も終わりましたし、私はこれにて失礼します」
射命丸はそう言って少し歩き、飛び立つ……前に、ディアボロ達の方を振り返る。
「今回は聖人の住処とその位置を特定してくれたから許しますが、今度同じことをやったら許しませんよ」
やっぱりあの件は本人にとっては許しがたかったのだろう。
射命丸は、いつもと違って相手を威圧する感じでそう言った。
「分かった。警告として聞き入れておこのう」
ディアボロがそう答えたのを聞くと、射命丸は無言で山の方に飛び去って行った。
きっと自宅に戻ったら、早速今回の取材で得た情報をもとに記事を作るのだろう。
……その情報を得る為に、二人の協力者がいたことは書かれないかもしれないが。

「さて、命蓮寺に帰るとしよう」
「うむ。もう変化を続ける必要もあるまい」
ディアボロはイエローテンパランスを解除し、マミゾウは変化を解いて元の姿を見せる。
そして命蓮寺の方に向けて、二人とも飛び始めた
「聖人の能力などについて聞き出せなかったのは残念だが、妖怪についてどう考えているか聞きだせただけでもよしとするか」
「そうじゃな。後はこの情報を広めれば、妖怪たちも一安心できそうじゃ」
「……布都については注意は促しておくべきだろうとは思うがな」
あの時、布都は射命丸を攻撃することになんの躊躇いも見せなかった。
ディアボロはそれを警戒すべき事として受け止めていた
「飛鳥時代の人間はまだ妖怪への対抗手段を碌に持っておらんかったからな。あやつの妖怪への敵意は、例えどんな理由であれ妖怪が人を襲う事を許せぬからかもしれぬ」
マミゾウはそう言って、布都が妖怪に敵意を持つ理由を軽く説明した。
流石に長く生きているだけあって、当時の出来事を知っているし、知識も持っている。
「己の快楽の為だけに人を殺す奴に比べれば、生きる為に喰らうなんてまともな方だ」
ディアボロは、生きる為に喰らうよりも酷いことをする者を知ってしまっている。
人が痛みや死の表情を観察したり、死にゆく者が生きることに執着するその表情をビデオで観察して無上の楽しみを見出す……
そんな者のやることからすれば、妖怪が人を襲うことなどまだまともなのだ。
「……そうじゃのう」
マミゾウも、その意見に賛同する。
それは妖怪が人を喰らうことがあることに、比較されながらもある程度の理解をしてもらえたからだろうか……?
流石にこればかりは、それぞれの基準があるだろうから何とも言い難いものである。


その後、ディアボロとマミゾウから命蓮寺の皆に、マミゾウから部下の狸たちに、射命丸から新聞を通じて読者に、取材を通じて得た情報が伝わっていった。
それは時間の経過とともに広まっていき、『聖人』そのものが妖怪に敵対的ではないと分かったおかげで、妖怪界隈の騒ぎは沈静化を迎えていった。

236セレナード:2014/09/09(火) 22:18:54 ID:uJCqJNtI0
東方魔蓮記第四十九話及び神霊廟編、終了です。

今回、あくまで射命丸の取材についていった形なので、布都とは決着がつくまで戦っておらず、神子とはそもそも戦闘になりませんでした。
ですが、いずれ再び出会い、戦う機会があります。
彼女たちとの戦いは、その時に……。


そう言えば今日は9月9日、『チルノの日』だそうです。
『←⑨バカ』として書かれたからこの日になったんでしょう。
チルノのパーフェクト算数教室、曲も歌詞もノリがいいから嫌いではないんですね。
……話し相手にするにはちょうどいいかも。寒さに耐える必要があるけど。

237ポール:2014/09/09(火) 23:33:10 ID:a4v7BsbU0
投稿お疲れ様です!
今日はお月見の日だとばかり思ってましたが…そいつは昨日で今日はチルノの日だったんですね。なんと…。
そしてやはりディアボロ、成長してるんですね。あの「何かわからがくらえッ!」だなんて言ってたディアボロが…しみじみ
今回は平和的解決されましたが、やはりいずれ戦うのですね…
しかし 投稿ペースメチャ速いですねー!スゴイ…。

238セレナード:2014/09/09(火) 23:40:39 ID:uJCqJNtI0
>ポールさん
私の投稿ペースは気まぐれです。
数か月投稿しないこともあれば、大体週に一回で投稿できるときもあります。

色々と経験していくうちに、『何かわからないけど攻撃する』なんてことは無謀だと学習したようです(
いずれ布都や神子と戦う機会はきます。具体的にいうと信仰をかき集める必要がある時期に。
その物語が綴られるときを、気長にお待ちください。

239名無しさん:2014/09/11(木) 09:31:25 ID:m/VSFYKU0
布都もそれはそれの正義なんですよね。ただ、まだ慣れていないだけ。
投稿お疲れ様です!悶着も落ち着いて何より。
ほんと布都ちゃんの戦い方が駄々っ子にしか見えないwこれで船に乗ってしまったらアウトでしたねぇ…

神子さんがディアボロに感付いている?まあ、妖怪とは思えない奇妙な人間ですので気に掛けるのは当然ではあるけれど。
超人然とした雰囲気の神子ですがやっぱり心綺楼だと悪役笑いの似合うマントをつけて、こうなんというか…神霊廟勢のイメージが…w

240ポール:2014/09/12(金) 00:17:35 ID:UjCpeqPI0
3行でさっぱりわからない前回までのあらすじ
プッチ神父、地獄へ行く
罪人を先導して天国を目指す
映姫と対峙する
ってことで、悪役幻想奇譚第十二話のはじまりはじまり

241ポール:2014/09/12(金) 00:19:40 ID:UjCpeqPI0
悪役幻想奇譚 第十二話 『プッチ神父は天国を見るか?』


映姫が話の続きを語ろうとしたとき、リキエルが急ぎ足でやってきた。
「え、映姫待ってくれ!話す前にオレのセリフを言わせてくれ!」
紅茶の入った湯のみをカチャカチャと音をたてて机に置き、息を荒くして続きを語りだした。

「お前が神父の目指すものの邪魔をするというならばッ!オレは熱した鉄のような憎しみとともにお前を始末するだろうッ!!誰もオレの、いやオレたちの精神の成長を止めることはできないッ!!オレは『アポロ11号』なんだ―――ッ!」

「ってなことをオレが言ったんだ!」


リキエルの言葉に再び勇気付けられた罪人たちが叫び突き進む
「そうだ!!俺たちは『犬』じゃねえ!」
叫び
「『天国』へ行くことで!俺たちの人生はようやく始まるんだ!!」
突撃し
「俺たちには神父様がついている!!神のご加護があるんだ!!相手が閻魔であろうが負けるはずがない!!」
援護し
「一人でも天国へ行ければ!その時点で俺たちの勝ちだ!!」
鼓舞し
「オレたちも行くぞッ!!『血管針攻撃』!ってあれッ!?ウギャ――――ッ!」
その他がやられた・・・

オレも行こう、とリキエルが進もうとしたとき、プッチ神父が彼の肩をつかんで止めた。
「お前は今はここに残るのだリキエル」
「え?」
いくぶん不服そうな顔をしたが、プッチに言われたら逆らうわけにもいかず従うことにした。後で自分の力が必要になるのかもしれないが、それでもやはり目に見えた形で神父に貢献したいというのがリキエルの心情だった。

「いやぁ・・・すごいですね。アポロさん「リキエルだ」の言葉に触発されて、みんなどんどん閻魔様に向かっています(その他は置いといて)。ほら、もう見えないくらい遠くにまで行ってますよ」
感心したように美鈴が言っている。

その言葉を聞き、プッチは組んでいた腕を解き、前方に行った罪人達を指差して言った。
「門番、君は一番先頭の罪人が見えるかね?」
「?いえ、もう遠くて見えませんね。それがどうかしたんですか?」
美鈴の答えを聞いた後、今度は腕の角度を少し上にあげて言った
「そうか。ならば…一番先頭の罪人の、さらに『前にいる』映姫の姿は…見えるかね?」
「『見えま』…え?」
「そうか。ならばなぜ?遠くにいるものが見えて、近くにいるものが見えないのだと思う?」
「小さくなっている?でもどうして?」
「スタンド使いではない君には見えないだろうが、わたしには今映姫の肩に『赤ん坊』のような像(ヴィジョン)が見える。あれはかつてわたしと同化した『DIOから生まれたもの』と非常に似ている。もしそれと能力の効果が同じならば・・・・彼らが映姫に近づくことは『決してない』」

――――――――――

当時のことを思い出しながら興奮気味に語っているリキエルをよそに
黙って聞いていた吉良が口を挟んだ
「君はスタンド使いになったのか?」
少し驚いたように目をやる
「えっと・・・それはですね」

――――――――――

242ポール:2014/09/12(金) 00:20:23 ID:UjCpeqPI0
「何故だかは知りませんが、私に『スタンド』が発現したようですね。ここ最近私の周りには多くのスタンド使いがいました。それに加えプッチ神父、貴方と戦うことが原因となって、能力に目覚めたのでしょう。この能力は、天国を守るために生まれた能力。名づけるならば『Stay away from heaven』っ!!」
くわっ!っと目を見開き小さいがプッチのところまではっきりと聞き取れる声で言った。

「ふん。『Stairway to heaven(天国への階段)』で目覚めた能力が『Stay away from heaven(天国から離れろ)』とはな。うまく言ったものだ」
言ってしまえばかなりヤバイ状況にもかかわらず、プッチは不自然なまでに落ち着いていた。似つかわしくないジョークを言えるほどに。

「感心している場合じゃないでしょうプッチさん!近づけないんじゃあ勝てっこないじゃないですか!」
落ち着いているプッチを見てすこしイラついた口調で言った。場に似つかわしくない行動を取っている人物がいればイラつくものだ。

「落ち着けよぉ。神父が何も考えずにボーっとしてるわけないだろう?だいたいなんでもできるスタンドなんてあるわけねーぜ。ぜってー弱点があるはずだぜ。あとオレの名前はアポロじゃあねぇ」
手首のスカイ・ハイをなでながら言った。

「確かにあのスタンドで物体を凍らせたり、炎をだしたりのは無理でしょうけど、拠点を守るという点においては、近づけないんじゃどうしようもありませんよ?」

「能力発動の鍵があるはずだ。小さくなる原因が。『近づく』ということだけが原因ではない。スタンド能力に同じものは存在しない。小さくなっている者どもの共通点はなんだ・・・まさか・・・『敵意』か?『敵意』が発動条件なのか」
先ほどまで冷静だったプッチが焦り気味に言った。

「待ってくださいプッチさん。『敵意』を失くして倒れている人もいますが、大きさは戻っていません。きっとほかの原因があるはずです」
そして今度は焦っていたはずの美鈴が冷静に状況を分析してプッチの間違いを指摘した。
「……」
リキエルは…なぜか黙ったままだった…。

全員が、例外なく小さくなっているこの状況で美鈴は静かに推測をはじめた。

小さくなっているのは…近づいているもの全て?
着ている服や武器も小さくなっていますし…
影響をうけていないものは…止まっている私達3人だけ?
これだけですと…やはり『近づいたもの全てに影響を与える』ことになりますが、同じ能力は存在しないならば、やはりなにかしら異なる点があるはず…
異なる点?…逆に共通しているところはなんでしょうか?
小さくなっている人全員に共通する点は…
ひょっとして

思い至ったことが正解か不正解かわからなかったため、少し困ったように「うーん」とうなり、自信なさげに脚を半歩だけ踏み出した。

小さく…ならない?

身体にまったく異常がないことを確かめると、今度は大きく一歩踏み出す。

「おい何をしている。能力の発動条件もわからないまま近づくのは危険だ」
「いえ、大丈夫です。私には『条件』がわかりました」
美鈴 小さくならない
「なにッ!?」
「プッチさんも来てください。あなたの言葉が真実から出たものならば、小さくならないはずです」
「何だと」
「それともあなたの言葉はうわっ面から出た邪悪にすぎないのですか?」
プッチ前に出る
小さくならない
それを見て美鈴が言う
「…よかった」
「おい、一人で納得するな。条件とはなんだったのだ?」
「推測ですがおそらく『天国へ行きたいと願うこころ』です。プッチさん、あなたは自分のためではなく、他人を天国へ導くために動いている。だから近づけたんです」
「なるほどな。『幸せになりたいと願うものは幸せになれず、幸せにしたいと願うものが幸せになれる』ということか。しかし・・・君は天国へ行きたくないのかね?天国へ行きたいからわたしと共に行動しているのではないのかね?」
「そ、それはその・・・あ、あはは。プッチさんが無理やり連れてきたんじゃないですか」
ホントのことを言うと、あなたのその強い『信念』が目指すものを見てみたいだけなんですがね、『天国』なんてどうでもいいですよ。強い信念はその人を輝かせますから。
はっ!!
「!!ってあれ?いない」
前に行ってる…
「小さくならないとわかったのだ。さっさと映姫を倒しに行くぞ」
…まったくこの人は
「了解です。神父様」
自分勝手なんですから

「お、オレは?」
「あ、アポロさん。あなたも大丈夫ですよ。あなたも『天国に行きたい』のではなく『神父を助けたい』だけなんですから」
「オレはアポロじゃねえッ!リキエルだ!二度と間違えるな!!」
「はい(リキュール?)」

243ポール:2014/09/12(金) 00:21:05 ID:UjCpeqPI0

――――――
のどが渇いたのかリキエルは話を切り紅茶を手に取った。
「ふぅ。うめえな。でだ、そこから何があったかオレが言うと、ややこしいことになるし、正直オレも何があったかはっきりわかってるわけじゃあねえ」
こいつなら知っているだろう。そんなリキエルの視線が映姫に向けられた。

「ではそこから先は私が話しましょう。何があったか私でなければわからないでしょうから。ま、今の話もこれからの話もある意味まったくの無駄なんですけどね」
その視線を受け取った映姫が続きを語りだした。
――――――
どうやらこの能力は『天国へ行きたい』ものにのみ効果を発揮するようですね。あの3人の内誰かが、それに気付くかもしれませんね。
おや?
「どうやら気付いたようですね。しかし・・・気付かずにその場で途方に暮れていれば怪我をせずにすんだというのに」
小さくならないことを確信し、こちらに向かって歩いてくる『3人』に向けて冷たく言い放った。
「プッチ神父、貴方の能力は脅威でした。20m以内に入ってこられれば魂をDiscにされてしまうかもしれない。しかしその脅威も『スタンドはスタンド使いでしか見ることは出来ない』という条件があってのもの。スタンド使いとなって貴方のスタンドが見えるようになった今、貴方のスタンドはそこまでの脅威ではありません」
そういって懐から穢れのない、綺麗な悔悟の棒を取り出した


「わたしは16のころからスタンドを使っていたのだ。ついさっきスタンドを使えるようになった小娘が甘っちょろい口をきくんじゃあないッ!」

迫りくるプッチをよそに、映姫は今出した悔悟の棒を凝視していた。

『異常』
違う!
なにか『異常』なことが起こっている。

悔悟の棒が綺麗?
吉影の血を拭き取らなかったのに…
おかしい

話の進み方が…滅茶苦茶ですね…小学生の夢みたいに…。
ホワイトスネイクの能力は…記憶を取り出すことだけ?
違う!

スタンド能力発動の条件が『天国へ行きたいという意志』?
これも違う!

どこから?

最初から…?

スタンドが発現?

『スタンドが発現』!?

違う!!

ホワイトスネイクのもう一つの能力…


『幻覚』ッ!!

はっと目を覚まし、急いで周りの状況を確認すると、彼女の目に大量のDiscが映った。
「これは…魂そのものをDiscに…」
罪人達はなぜかみなプッチによりDiscにされていた。

映姫は自分が傷を一切負っていないこと、周囲に危険がないことを確認し、最後にあることを確かめた。

「あ、痒かったところに手が届…ってこんなことしている場合じゃありません」
身体が少しとけてほんのちょっぴり柔軟になった映姫であった。


―――――――――

「で、幻覚オチ?無駄に時間とらせるんじゃないわよ」
「そう言うな霊夢。幻覚の中で戦ってた場面なんて全部省略しているじゃあないか。それと、ここからは幻覚ではない実際にあった話だ」

―――――――――

244ポール:2014/09/12(金) 00:21:57 ID:UjCpeqPI0

映姫が微妙に柔らかくなった身体を微妙な方法で有効活用しているとき、プッチたちはというと…

ここは地獄の1丁目

「ところでどうして再起不能にしなかったんですか?」
「いや、再起可能だからいいのだよ」
「?よくわかんねーけどオレは神父の言葉に従うだけだ」
特に焦ることもなく、なにやら話し合いをしていた。

「人類が天国へ行くためには、再びわたしのスタンドを進化させる必要がある。進化させるのに必要な要素は既にいくつかは揃っている。DIO!君から生まれたものはあれからずっとわたしと同化したままのはずだ。だが、何故だか知らないが存在が空っぽになっているような感覚がする。しかし罪人の魂は、すでに集め終えた。したがって必要なのは『勇気』と『場所』の二つだけだ」

必要なものは『勇気』である

わたしはスタンドを一度捨て去る『勇気』を持たなければならない

朽ちていくわたしのスタンドは36の罪人の魂を集めて吸収

そこから『新しいもの』を生み出すであろう

「これだ。この言葉を完全に理解しなければ……」

『勇気』…捨て去る…スタンド……スタンドとは精神…精神は魂…スタンド能力は精神の具現化…待てよ
何か思いついたのかプッチはハッと息をのんだ

「理解したぞDIO『捨て去る勇気』が一体なんなのかを…」

そう言うとプッチはスタンドを発現させ、ホワイトスネイクと目を見てから叫んだ。

「空っぽに感じられた原因はこれだ!生前は魂が2つ、そして魂の器も2つあった!わたしの魂と『DIOから生まれたもの』の魂だ!だが一度死ぬことにより『DIOから生まれたもの』の魂は成仏してしまった!結果、わたしには満たすべき2つの器がありながら、1つ、つまりわたしの魂の器だけを満たし、スタンドを発現させ、『DIOから生まれたもの』の魂を満たしていなかった!だから空っぽだったのだ!!ならば『捨て去る勇気』とはッ!具現化した精神、つまりスタンドを魂の器に入れることだ!!『捨て去る勇気』とは『与える勇気』!すなわち!自分の魂を!自分のスタンドを!DIO!君から『生まれたもの』へと『与える勇気』!そしてそれは!『信頼する勇気』だ!友を信頼し、自分の魂を『与える勇気』!これで再びわたしは進化する!」

プッチはホワイトスネイクを、己の中の空っぽの魂に仕舞い込むようイメージし、ゆっくりと、スタンドを体に戻した。
インクが紙にしみ込むようにホワイトスネイクの姿は消えていった。

直後、プッチの体を光が包んだ

「「おお」」

しかし……


プッチを包み込んでいた光は、成長の兆しを見せることなくやがて消滅した。
「なぜ…?」
おかしい。進化の条件は合っているハズなのだ…。

「魂の形が合わなかったのでは?その…DIOというものから生まれたものの魂しか入らないのでは?」

「だとするとまずいぞ!どこにいるかもわからない赤ん坊の魂を探さねばならない!っく…落ち着け素数を数えるんだ…」

敬愛する神父の狼狽するさまを、目を泳がせ不安げに眺めていたリキエルが、やがて意を決して言葉を発した。
「神父よ?」

「なんだ、リキエル?」

「オレではダメなのか?」

「何のことだ?」

「オレも『DIOから生まれたもの』だ。そしてオレも魂だけの存在。ならばオレの魂を使えば、神父の求める力が手に入るはずだろう?」
「でもそれじゃあアポロさんが消滅するんじゃあ?」

「いいや、美鈴(オレの名前はリキエルだ)。いいか?オレは『DIO』という男についてはほとんど知らねえ。DIOが困った時に命を懸けれるか?ときかれたら『いいや』と答えるだろう。DIOのことではオレの心は動かないからだ」
リキエルの声に力がこもっていく
「だがオレに『精神の成長』を教えてくれた神父…あんたのためなら命を懸けれる。オレは神父の役に立ちたいんだ。神父の成長を助けたい。だから…!」
「わかったリキエル」
リキエルの言葉を聞きプッチが手を伸ばした
「ありがとう神父。…これがありがとうを言うオレの魂だ。受け取ってくれ…」
リキエルの心は、穏やかだった。
リキエルの魂は、生まれたての赤子のように、純粋さに満ちていた。

リキエルの頭があった場所から、1枚のDiscが落ちた。

プッチはそれを拾い、頭に差し込んだ。

リキエルは消えた
プッチは無意識に十字を切っていた
祈りの言葉もなにもなかったが、そこには無言の絆があった
魂の絆がそこにはあった

245ポール:2014/09/12(金) 00:22:43 ID:UjCpeqPI0



「(アポロさんとプッチさん・・・つまり・・・)アパッチさん・・・」
「名前を混ぜるな。プッチでいい。さて…魂は満たされ、わたしのスタンドは再び進化した。C-MOON、重力を逆転させる能力だ。ほら」
「わわ!上に落ちる!」
「ああ、すまない」
美鈴が上に落ちたので、プッチ能力を見せるために出したスタンドを引っ込めた。

「下に落ちる!って当たり前か。で、これからどーするんですか?天国へは上に落下していくんですか?」
「いや、もう一度スタンドを進化させる。そのためには、『場所』に行く必要がある。ここにもあるはずなのだ。『場所』へと行きさえすれば、『天国の時』が訪れる。そうすれば『重力を逆転させる』ことしかできない能力ではなく、『重力と時間を操る能力』が完成するのだ。お前は幻想郷の住人だろう。知らないかね?どこか『重力』に関係する場所を?」
そうプッチは聞くが

「知りませんよ!」

美鈴、即答である。
「『天国』がどこか知りませんけど、幻想郷(ここ)だって楽園ですよ。あんまり変なことやりすぎると、いいかげん霊夢さんに討伐されちゃいますよ?」

ここが楽園?天国(ヘヴン)みたいなものだと…妖怪たちにとっては避難所(ヘイヴン)だろうが、天国ではない。しかし…
「霊夢…博麗神社か…。重力を操る霊夢がいるあの場所こそが、わたしの求める『場所』に近いだろう」
もっとも…

「プッチさん!あれ!」

今はソレを考えている場合ではないか

「ああ。わかっている」

プッチが顔を上げると、やたらときれいなフォームで走ってくる映姫の姿をその目にとらえた


「……」
「……」
ああ、体が柔らかくなったからか。


映姫はプッチたちを確認すると、さっそく弾幕を放ってきたようだった


映姫の姿をとらえた時、プッチは違和感をおぼえていた。
まだリキエルの魂がうまく馴染んでいないせいか、感覚の目が使えなくなっていた。
『緑の赤ん坊』は生まれたばかりで経験や思考が浅かったので比較的短時間に―それでも不調はあったが―魂に馴染み、プッチ本人にも影響は与えなかった。
しかしいくらこころから捧げると言っても生まれたばかりの赤ん坊と20数年生きてきたリキエルの魂とでは魂の深さ、厚みが違う。やはり安定するまではよきにしろ悪しきにしろ相応の影響を与えるのだ。
その影響というのが、今のプッチに『感覚の目』が使えない、という結果になって現れていた。
いまのプッチはスタンド使いでありながら、スタンドを感じることしかできなくなっていた。
もっともこれは周りにスタンド使いのいない今、ちっぽけな影響でしかないのだが、『弾幕』を『感覚の目』でしか認識できないスタンド使いにとって、この状況は楽観視できるものではなかった。

だがそれも『もしわたし一人しかいなかったら』の話だ

くるりとプッチは美鈴のほうへ向き直り、『感覚の目』が使えず、映姫の弾幕を見切るには美鈴の力が必要だと説明し、彼女に頼んだ。

「門番頼まれてくれるな?おまえがわたしの目の代わりになるのだ。弾幕がどこから来るか教えてくれ」
「わかりました。ですがそれだと私が直接戦ったほうが早いんじゃないですか?」
もっともな意見である
しかし
「いや、今はまだ・・・わたしが戦う必要がある」
プッチは美鈴を見つめ、そう言った

あなたが目指しているものは本当に『天国』なんですか…?
なんだか…もっと『先』を目指しているような…
『天国』にたどり着くことが、ちっぽけなことに感じられるくらいに…何かとてつもないことを…

プッチの言葉に謎めいたものを感じた美鈴だが、ここは既に戦場
冬のナマズのようにじっとしているわけにはいかないのだ。ツバメのように素早く動く必要がある。
そーこー考えているうちにさっそく弾幕が飛んできた

弾幕の位置を伝えるべく、声を張り上げる。

のだが…

246ポール:2014/09/12(金) 00:23:53 ID:UjCpeqPI0

「気をつけてください!庚(かのえ)の方角225度0分から来ましたッ!」

「ッ!?庚(かのえ)の!?方角ッ!?」
First attack!
「うぐッ!」

「ああ、何じっとしているんですか!次は丁(ひのと)の方角195度から腰の入ったスゴクいい弾幕がッ!」

「おい丁(ひのと)の方角は!ぐぶえッ!!」Good!

「なんで避けないんですか!次も来ますよ!再起不能になりたくなかったら避けてください!」
「中国式はやめろ!理解できない!」

「ああ!えっと次は、西から東にかけて!」
「どっちが西だッ!?くはッ!」Good!


次から次へとプッチに弾幕が当たっていくのを見て美鈴は焦るどころか逆にフッと笑った

…おもしろい

プッチとしてはたまったものではないが、上から目線でえらそーにしていた人物が(自分のせいとはいえ)滑稽な姿をさらしているのだ。ほんのちょっぴりいたずら心が刺激されても仕方あるまい。

あんまり効いていないようですし、大丈夫でしょう。
「えっと、右から!プッチさんから見て左からきます!」
「ややこしい!ッ!」
避けられずに左目付近に当たった。Good!

「獣(けもの)を英語で!」
「それはビースト!かはッ…東(イースト)か」
今度はお腹に当たり、その衝撃にプッチは思わず膝をついた

「カトリックの聖体はパンにこれを使わない!」
「イースト(菌)!くッ!って今のは東じゃあなかったぞ!」
律儀に答えるが、やはり今度も避けることはできなかった

「大熊座の方角から!」
「む、それはわかる」ディ・モールト!
「えっ?!」
今度は華麗にヒョイと避けた。

「乙(きのと)から西にかけてきました!」
避けられたのが悔しいのか、今度は混ぜて伝える美鈴。
「混ぜるんじゃあない!ぬぐッ!」
そして当然のように弾幕に当たるプッチ。
「素数を数えて落ち着いてください!」

「1」「2,3,5,7,「9」11,13「15」ええい!1は素数ではないッ!9も15も素数ではないッ!」
「また来ました!最小完全数時の方向から!」
「いちいち呼び名をかえるんじゃあないッ!映姫!少し待て!」

業を煮やしたのか戦闘中にも関わらず、弾幕を撃ちつつもう会話ができる距離まで近づいてきた映姫にそう言うとプッチは美鈴のところまで飛んでいった。
「いいかッ!わたしの右からか左からかそれだけでいいッ!東西南北、干支、十干(じっかん)は使うな!謎々をしているヒマもない!Do you understand!」
「わ、わかりました」
あまりの剣幕におされてついうなずいてしまう美鈴。

「よし」
「それから今気付いたんですが・・・」
「なんだッ!?」

「『後ろ』って上ですか?下ですか?」
「は?」
美鈴の言葉を聞き後ろを振り向いたその瞬間

ッ!!

Excellent!!

247ポール:2014/09/12(金) 00:24:30 ID:UjCpeqPI0

「あー・・・ほんのちょっぴり言うのが遅かったですかね・・・」
映姫の弾幕がプッチの顔面に直撃した
「(いたそー)」
そしてその瞬間、プッチの頭がプッチンした

美鈴による度重なる妨害、素数を数えることすら邪魔をされ、プッチの精神状態は崖っぷちに追い込まれていた。

さて話は突然変わるが
一流のスポーツ選手には「スイッチング・ウィンバック」と呼ばれる精神回復法がある!
選手が絶対的なピンチに追い込まれた時それまでの試合経過におけるショックや失敗、恐怖をスイッチをひねるように心のスミに追いやって闘志だけを引き出す方法である。

その時スポーツ選手は心のスイッチを切り替えるためそれぞれの儀式を行なう。
「素数を数える」「深呼吸をする」などである。

ショックが強いほど特別な儀式が必要となるが・・・・・・・・・!

この時『プッチのスイッチはッ!』
グググ
「ちょっ!なにしてるんですか!?」
バルスッ!

目を押すことだったッ!!!!





「ぎにゃ―――――ッ!!!」



ただし美鈴の


「これでいい。なまじ見える者がいたからそいつに頼ってしまったのだ。感覚の目もそろそろ慣れてきた。もうぼんやりと見える。これだけ見えたら十分だ。おまえはそこで冬のナマズのようにおとなしくしているのだ!」

「目がァ!目がァ!!!潰れてはいませんけど後遺症で涙目になりそう!涙目の美鈴って呼ばれそう!」

そんなセリフがはけるなら確実に潰しておけばよかったかな
しかし…
「さあ、第二楽章を始めようか」


次回予告

リキエルの魂を受け継ぎついに進化したメイド・イン・ヘブン!
信じ仰ぐ想いを力に、Give me all your LOVE tonight!
プッチは映姫に勝てるのか!?
次回 悪役幻想奇譚第十三話
『プッチ神父は手を汚さないか?』
お見逃しなく!

248ポール:2014/09/12(金) 00:26:57 ID:UjCpeqPI0
投稿終了です。前に書いてたときはもっと戦闘シーンあったんですが、もうバッサリ切りました。そりゃあもうガオンガオンいきましたよ。

249名無しさん:2014/09/15(月) 21:52:23 ID:ftIA9PDA0


250名無しさん:2014/09/15(月) 22:21:53 ID:rBa8a13c0
投稿お疲れ様です!
SSの勢いを重視するなら、どこを切るのかは大事ですよね。戦闘シーンはまさしくその比重が大きい分、上手く書けない場合の重たさというか、読みづらさは…
バッサリなくなっても、伝えたいことがすんなり入るのもいいと思います。

美鈴のボケセンスがおもしろい!弾幕少女の雰囲気が感じられます。映姫とプッチはそれどころじゃあないっていうのに。

251ポール:2014/09/16(火) 19:30:57 ID:LSId975c0
感想ありがとうございます。
美鈴のところはちょっとジャッキーチェンをイメージして書いてみました。

252どくたあ☆ちょこら〜た:2014/09/16(火) 23:38:03 ID:l8ijslig0
私が原稿という名の沼に沈んでいる間に、ここがこんなにも賑わっていたとは…!
後日改めて感想を述べさせていただきます!

253どくたあ☆ちょこら〜た:2014/10/06(月) 23:39:37 ID:rRSGuEgY0
皆様、一月遅れの感想申し訳ございません

まるくさん
投稿お疲れ様です!
『勝敗』ではなく『挑戦』、『獲得』ではなく『学習』、『結果』でなく『過程』。過去を顧みそれを悟ったディアボロは、一歩王座に近付いたようですね。そう感じられます。
まるくさんの解釈した【一巡後の世界観】、なるほどと納得致しました。七部八部と同じ世界線なら、【外】では船医の吉影が生きている時間軸なわけですね。
次回で冥界編完、ここからどのようにディアボロとドッピオの行く先が決定されるのか、楽しみにしております

セレナードさん
投稿お疲れ様です
屠自古が冷静で何よりでしたね。
この頃は復活したてで布都も幻想郷の気風に馴染んでいませんが、心綺楼では一輪に対して道教への勧誘をしたりと、ちょっとは馴染んでいるんでしょうかね。
次回神子と相見えるとしたら心綺楼。ディアボロの参戦理由としては命蓮寺の支援か、偶然巻き込まれるのか。

ポールさん
投稿お疲れ様です!
映姫様、吉影の血拭いてなかったんですか…w 舐めてたりしてませんよね…
映姫に『赤ん坊のスタンド』発現?!と思ったら、まさかの幻覚。完璧に騙されてしまいました。ハーメルンのマックイィーンの短編と言い、ポールさんの騙しのトリックには毎回舌を巻かされます。
DIOから産まれたもの、つまりリキエルも【メイド・イン・ヘブン】の要素となれるというのは目から鱗と共に凄く納得できました。
そして『柔らかくなった映姫の走り』から『大熊座の方向は分かるプッチ』、『素数妨害』『頭がプッチン』『涙目の美鈴』と、怒涛のギャグラッシュw
本当に、これほどのネタを考え出せるポールさんには尊敬すら覚えます!
次回でいよいよ【メイド・イン・ヘブン】の発現、映姫とのラストバトル。どのような結末が待っているのか期待しております!

254名無しさん:2014/10/08(水) 22:11:31 ID:S4o5K0BY0
遅れても感想ありがとうございますー!
ディアボロも少しずつ考えを改め前を向き始める。そのきっかけとしての現状報告。その言葉を聞きたかった!
外の世界ではその通り、船医の吉影が生きている時間軸です。……2012年5月がこの話の時間軸だからその時生きてるよね8部の吉影?(コミックス読み返しながら
ドッピオ状態で聞いたら浦島太郎+帰る世界すらないって、かなりうつ状態になりそうな内容です。そこから、ディアボロはどうなるか!

自分も遅れながら次の話を書き始めてます。10月の終わりにはちゃんと投稿しますよ!

255セレナード:2014/10/12(日) 22:37:28 ID:HXUBrABY0
ふー、最新話が完成いたしましたので投稿します。
今回は、時間を少し遡って、とある日より前の出来事でございます。
それでは皆様、お楽しみください……。

256東方魔蓮記第五十話:2014/10/12(日) 22:38:56 ID:HXUBrABY0

神霊廟への取材を終えた後の、ある日のこと。
「…………」
たまに混じって参加する修行を終えて部屋でぼーっとしていたディアボロは、ふとある日の出来事を思い出していた。

それは『彼女』と再び会う前の、ある冬の日の思い出。
『永遠』の物語が秘められた、ある地での出来事であった。

「…………」
とある冬の日の朝、朝早く目が覚めたディアボロは、外に出た後の寒さではっきり目が覚めてしまい、結局二度寝することなくそのまま生活をしていた。
そして現在彼がいるのは、迷いの竹林の入口。時刻は人が活気に満ちだす少し前。
かつてある少年を探しに一度は入り込んだこの場所だが、あの時はエアロスミスのレーダーを頼りにただひたすら進んでいたために道を碌に覚えていない。
脱出の際には空から抜け出たが、竹林となっているこの場所は空中からも全く地上の様子を窺い知ることはできない困った場所である。

で、どうして彼が此処にいるのかというと……
「(以前、会ってみたらどうだと慧音に言われたが、どうやらこの辺りにはいないようだな)」
所謂人探しである。とはいえ、以前とは違って探す人はこの竹林に慣れているので相手の身を案ずるような事態には恐らくならないだろう。
どのあたりにいる可能性が高いかも、慧音から教えてもらった。
「(……ここで立ち往生していても始まらない。竹林に入ってみよう)」
ディアボロは『その人』に会うべく、竹林に入っていった。


竹林の中は以前入った時と変わっていない。
単調な風景と深い霧、地面の僅かな傾斜で斜めに成長している竹等によって方向感覚が分からなくなってしまう。
おまけに竹の成長が著しい為すぐに景色が変わり、目印となる物も少ないので、一度入ると余程の強運でない限り抜け出せない。
ディアボロは以前、上に一直線に飛んでいくことによって竹林を強引に脱出して帰還できた。
しかし、此処を陸路で脱出しようなどとすれば、それはこの竹林に慣れていてかつ実力がある者以外には無謀の極みだ。
何故なら、此処は妖怪になった獣が好んで住み付く地。常人なら霧の中から不意を突かれ、襲われてしまう。

――最も、あの時ディアボロが少年と一緒に霧を抜けて上空から出れたのは、彼についた妖怪の血の匂いが、他の妖怪から忌避されたおかげかもしれないが。

此処を常人が確実に出れる可能性は二つしかない。
『幸運に恵まれる』か、『案内人』に出会えるか……いずれにせよ、運がなければ永遠に迷うだろう。


だが、そこは彼とて何の対策もなしに乗り込むわけではない。
今回は緊急事態ではないため、事前に準備をして入ることができる。
そこで彼は、ゴールド・エクスペリエンスで生み出した木からスティッキー・フィンガーズを使って皮を取り、そこにメタリカで地面から集めた砂鉄を乗せてハーミット・パープルで竹林の地形を念写する。
その後すぐにクラフトワークを使って砂鉄を木の皮に固定。これで簡易的な迷いの竹林の地図の完成である。

クラフトワークには、大まかに分けて二種類の『固定』がある。
以前霧雨魔理沙に対して使ったものは、空間に固定し、全く動けなくしてしまうタイプの固定。
両手両足を使った抵抗も不可能になるため、これを決められた魔理沙は成す術もなくフランドールにやられてしまった、

今回用いたタイプは、簡易的な地図を作る際にも用いた『接した状態での固定』。
このタイプの固定を使うと、固定したものが動くと固定されたものは『一緒に動く』のが特徴だ。
動く足場に乗っているときにこのタイプの固定を使えば落下の心配はせずに済む。

現在地の判断については、安全を確保しているときにハーミット・パープルとメタリカを使って確認していくしかないだろう。
次に霧と妖怪の位置についてだが、それぞれウェザー・リポートとマジシャンズ・レッドかエアロスミスの出番である。
ウェザー・リポートで霧を払って視界を確保、マジシャンズ・レッドかエアロスミスで生物の位置や動きを探知、攻撃してくるなら応戦……という形で解決だ。

257東方魔蓮記第五十話:2014/10/12(日) 22:40:07 ID:HXUBrABY0

ディアボロは早速ウェザー・リポートを出して、その能力を発動する。
それと同時に、凄まじい強風が彼を中心に発生し、霧を遥か遠くに吹き飛ばす。
雲と霧の違いなど、地面に接しているか否かの違いでしかない。『空中に浮いている』ということが変わらない以上、風を用いれば吹き飛ばすことなど容易いのだ。
強風を受けた竹は、その葉を激しく揺らし、時に葉を散らす。
その揺れが収まったのを確認すると、ディアボロはマジシャンズ・レッドを出して炎の生命探知器を作り出す。
そしてそのまま、奥へと入っていく。

竹林の中は霧を吹き飛ばしたことで、見ることができる範囲が普段より大幅に広がっている。
これならば、スタープラチナによる目視も活かしやすくなるものだ。
「(今のところ、探知器に反応はないな……)」
炎の生命探知器とエアロスミスのレーダー、この二つは共に探知を行えるが、その違いは

・炎の探知器は『方向』しかわからないが、呼吸や動きだけでなく、スタンドのエネルギー等も探知できる。

・エアロスミスは『具体的な位置』がわかる代わりに二酸化炭素とエアロスミスの攻撃によってつけられるスタンド硝煙しか探知できず、しかも排出量が少ないと探知ができない。

獣は獲物に狙いを定めるとき、息を殺し、相手の隙をついてその速さで襲い掛かり、迅速に仕留めるのが一般的だ。
妖怪化した獣も同じようなことをするのならば、エアロスミスのレーダーだと、息を殺しているときに反応を探知できず、一手遅れる可能性がある。
今装備しているスタンドならば、迫ってくる方向さえ判れば遠近どちらであろうと問題なく対応できる。
その為、相手がどんな状態であろうが問題なく探知できるマジシャンズ・レッドが今回は選ばれたのだ。
ついでに、マジシャンズ・レッドがあれば炎で暖を取ることもできる。
体温低下で衰弱している隙を突かれるなど勘弁願いたいところだ。


地図を見ながら、スタープラチナで炎の生命探知器を確認しつつディアボロは進んでいく。
……ふと、探知器が反応した。
「!」
ディアボロは地図を見るのをやめ、探知器が反応した方向に顔を向ける。
「…………」
探知器を視界の片隅に入れておきながら、ディアボロはその方向への警戒を続ける。
スタープラチナもその方向を凝視し、ディアボロの視力では得られない視覚情報を彼に与える。
「…………」
スタープラチナの視覚が、探知器が反応したのがただの鳥や獣ではないことをディアボロに伝えていた。
竹藪と生い茂る雑草にうまく隠れてはいるが、そこには確かに獣の妖怪がいた。
その妖怪は、急に獲物がこちらを見たことに警戒したのか、そのままじっとして動かない。
このまま、ディアボロがよそを向くのを待っているようだ。
「…………」
ディアボロもこのまま視界から外したら相手が襲い掛かるのは理解している。
その為、このままウェザー・リポートを出して……。
「…………」
ピンポイントに妖怪の真上にスタンドの雷雲を作り正面を向き直し始めるのと同じタイミングで妖怪に雷を落とす。
それは、妖怪が駆け出すよりも先に命中した。
雷鳴が周囲に轟くが、それを聞くことができるのはこの場ではディアボロのみ。

エアロスミスのプロペラ音など、スタンドが発する音もスタンド使いにしか聞き取れない。
裏を返せば、スタンドが発する音を聞き取れるのならば、そいつはスタンド使いかその素質が高い者。
これが理由で、ディアボロ(正確にはドッピオ)はリゾット・ネエロと殺しあうことになった。

妖怪は何が起きたか全くわからず、感電によって痺れたままディアボロを見ていた。
が、どうやら彼が何かしたということは本能的に理解したらしく、痺れが解けると彼から離れていった。
一方のディアボロはスタープラチナでそれを確認すると、再び進み始めた。

258東方魔蓮記第五十話:2014/10/12(日) 22:40:48 ID:HXUBrABY0
「(……ん?)」
また地図を見ながら進んでいるうちに、ふと足を止めた。
正面から、誰かやってくるのが、スタープラチナで確認できる。
その正体を知っているディアボロは、咄嗟に全てのスタンドを戻し、生命探知器を消す。
傘を被ったその者は、ディアボロに気づいて足を止めた。
「あら、おはようございます」
傘を被ったものは、ディアボロに挨拶をする。
「おはよう。……お前は人里で薬を売っていたな。確か名前は鈴仙だったか」
ディアボロも挨拶を返しながら、目の前の者についてそう言った。

ディアボロはそう言っているが、薬売りの正体については既に把握している。
この者の名は鈴仙(れいせん)・優曇華院(うどんげいん)・イナバ。変わった名前だが本当にこの名前である。
……あまりにもおかしな名前のため、ネーミングセンスの悪い人が名づけた偽名のようにも思えてくる。

彼女は人間ではなく、兎の妖怪……ではあるのだが、ただの兎の妖怪ではない。
彼女の正体は月に住む妖怪。つまり、言い方を変えれば異星人である。
何故彼女が地球にある幻想郷に来たのか……そこには色々とあるのだが、まあそこは機会があれば後に綴るとしよう。
兎に角、彼女は妖怪であることを隠すために傘を被って兎の妖怪の特長である長い耳を隠している。
命蓮寺ができてなお、妖怪を毛嫌いする者は少なくないからだ。
「これから商売か?売れるといいな」
「貴方こそ、奥に進むのなら気を付けてくださいね。命蓮寺のディアボロさん」
二人はそう言って進むべき方向に進む。
「そうだ、一つ聞きたいことがある」
「?」
すれ違い際に、ディアボロが鈴仙に質問をする。
「藤原妹紅を探しているが、見なかったか?」
藤原妹紅(ふじわら もこう)。
その人こそ、慧音がディアボロに会ってみたらどうだと言われた人物だ。
慧音がディアボロと妹紅を接触させたい意図はわからない。
単純に話し相手を欲しているのか、それとも何か別の理由があるのか……。
推測はできないが、今はただ会いに行けばいいだけのことだ。
「いいえ、見ていないわ」
「そうか、ありがとう」
質問の答えを聞いて鈴仙にお礼を言うと、再び二人は進みたい方向へと進んでいく。
鈴仙は人里へ。ディアボロは竹林の奥へ。
互いに優先すべき目的を有している以上、二人が交戦に至ることはなかった。
「(下手に何かに感づかれても困るからスタンドを全て戻したが……)」
ディアボロが警戒するのは、彼女の『未知』。
能力の全容を含めたその全てが知られているわけではない以上、語られていない『何か』があってもおかしくはない。
その『何か』が分からない以上、スタンドを引っ込め、交戦を避けてでも今彼が使える手段を隠しておく必要があるのだ。
「(……もう大丈夫だな)」
ディアボロは鈴仙と一定以上の距離ができ、かつ彼女がこちらを見ていないことを確認すると、再び生命探知器とスタープラチナを出す。
生命探知器が鈴仙の進んでいく方向以外から反応していないことと、スタープラチナで背後から襲い掛かる者がいないことを確認すると、彼は地図を見ながら再び進みだした。

259東方魔蓮記第五十話:2014/10/12(日) 22:41:51 ID:HXUBrABY0
「(……ふむ)」
あれから少したって、ディアボロは自分の現在の位置も含めて地図を再確認していた。
「(道は間違ってはいないな。問題は……)」
問題は一つ。
目的地に妹紅がいない可能性があることだ。
この竹林の道案内を彼女がやっている以上、どうしても彼女が不在という可能性はある。
仮に不在だった場合、もう一つの可能性である永遠亭に向かうことにしているが、そこに『ある人物』がいて同時に妹紅がいなかった場合についてはまだ考えていない。
「(今は冬だ。両方のケースが共にはずれだったからといって、彼女の家の外で待つわけにも行かないし、勝手に家の中に入っているわけにもいかないな……)」
取りあえず、目的地に辿り着かないと何もわからない。
ディアボロは地図の再確認を終えると、彼の現在位置を示す箇所に念写によって置かれた砂鉄を払い落とし、装備しているDISCを先ほどまでのに戻して再び進みだす。
炎の生命探知器も早速再発動し、再び周囲の反応を確かめる。

……反応あり。
ディアボロから見て右斜め後ろの方角に、明らかに何者かがいる。
その方向をスタープラチナで見ると、明らかに張りつめた表情をしている狼女が一人……。
どうやら、DISCの入れ替えやメタリカによる地中からの砂鉄抽出を見て、ディアボロが地図を見ている状態でも警戒していたようだ。
不意をつき、交戦になった時に備えて、時を止めて狼女の背後を取る。
警戒心を強めている以上、こうして背後を取っただけでも驚いて逃げ出しそうなものだが、果たして実際はどうなのやら。

「えっ!?」
狼女は警戒していた対象が突然姿を消したことに驚き、持ちうる感覚を全て研ぎ澄まして周囲の状況を
「おい」
「!!!!」
探ろうとしたが、その必要はなかった。
突然後ろから声を掛けられたことに驚いて、声のした方向に顔を向けたまま狼女は固まってしまった。
声を掛けた者の正体が、先ほど突然姿を消したものだったからだ。
こんな事態が起きれば、どれ程落ち着いた者であろうと、突然姿が消えた理由が推測できない限りびっくりしてしまうだろう。
「『俺に見ていた』な?」
ディアボロは静かに、けれども相手を威圧するように質問をする。
「…………!」
何かマズいと思ったのだろう。狼女は咄嗟にその場から離れようとしたが……身体が動かなかった。
クラフトワークの能力によって、その場に固定されてしまっていたのだ。
少し前の突然の強風、目の前の男の中に入った円盤状の物体、突然消えたと思ったら自分の背後にいた男、そして動けない肉体。
強風以外は数分の間に全て起こった出来事だけあって、言葉は口からでずとも頭の中は思考が巡りまくる
一方のディアボロはそんなことは全く気にせず、クラフトワークで狼女に触れた後、彼女の蹴りやパンチが踏み込んでもぎりぎり届かない範囲まで下がる。
「安心しろ、その状態でも口は動かせる」
ディアボロはそう言って、炎の生命探知器を横目で見る。
反応はなし。安心して質問を行える。

260東方魔蓮記第五十話:2014/10/12(日) 22:42:51 ID:HXUBrABY0

「何か言いたいことがあれば聞いてやる。言ってみろ」
狼女はこの一言で理解した。
これは尋問だ。彼に敵だと判断されれば、その瞬間にこのまま容赦なくやられる。
そうなることを回避すべく、狼女は口を開いた。
「私は貴方を観察していただけよ」
「成程、確かに俺もお前の立場ならまず相手の様子を伺うだろうな」
狼女の意見に賛同しながらも、ディアボロはその場から動かない。
「だが重要なのは、そこから得られた情報を元に『次にどうするのか』だ」
ディアボロは炎の生命探知器を再び横目で見て反応がないことを確認すると、会話を続ける。
「恐らくお前が襲ってこなかった理由は、普通の人間ができない行動を俺がとったからだ」
ディアボロの発言に、狼女はぎくっという擬音が似合う反応をする。
「『円盤状の物体が俺の中に入っていったことによって警戒した』のと、『能力によって返り討ちになるのを恐れて』襲わなかった。……違うか?」
図星だった。恐らくあの時DISCの入れ替えを含め、能力の一切を使っていなかったら、この狼女はきっとディアボロを襲おうとしていただろう。
「……見事な推理ね。その通りよ」
ここまで見抜かれては、狼女も認めるしかなかった。
彼女の『答え合わせ』を聞いたディアボロは、ウェザー・リポートとスタープラチナを出し、クラフトワークの能力を解除する。
「固定は解除した。後はお前がどうするかだ」
ディアボロは狼女にクラフトワークの能力を解いたことを告げ、行動を促す。
「……ここで貴方を襲おうとしたところで、返り討ちにあうことは簡単に予想できるわ」
「そうだな、地中の砂鉄に干渉するぐらいなら簡単にできる」
今はそれを上回る規模の能力を発揮できるが、あえて言わない。
装備するDISCによって使える能力が変わることについて、必要でない限り一々説明する必要はないだろう。
「でも、獲物にするはずだった人間の顔を見るくらいはいいでしょう?」
狼女はそう言って、ディアボロの方を振り返った。
……そして、『しまった』と言わんばかりの表情をした。
「……相手が悪すぎたかもしれないわね」
「どういうことだ?」
「貴方のことについては、草の根妖怪ネットワークでも時々話題に上がるのよ」

草の根妖怪ネットワーク……
詳細はよくわからないが、恐らくさほど力のない妖怪が情報を交換しあうことで様々な利益を与え合う為に構築された情報網なのだろう。

261東方魔蓮記第五十話:2014/10/12(日) 22:45:04 ID:HXUBrABY0
「ただ、そこでの貴方に関する情報はなんか嘘っぽくてね……人も妖怪も分け隔てなく接してくれるという情報もあれば、一人の人間を救うために躊躇なく妖怪を斬ったという情報もあるの」
「……」
ディアボロは黙って狼女の話を聞く。
草の根妖怪ネットワークに入っている自身の情報について、もう少し聞き出すつもりのようだ。
「他にも、風見幽香と互角に闘っていたなんていう特に怪しい情報もあれば、氷の妖精を止めてというまでくすぐっていたなんて変な情報まであるわ」
「……成程、様々な情報が飛び交うとは、想像以上に立派な情報網だな」
「(風見幽香との戦闘については、流石に聞いただけでは信じがたい話か……)」
ディアボロは草の根妖怪ネットワークを褒めつつ、思った以上に自身の情報が集められたことに警戒していた。
この狼女は先ほど挙げた情報の殆どを本当かどうか疑っているが、裏を返せば『俄かには信じがたい』情報が集まるほどこのネットワークは大規模であるということだ。
「ええ、そうでもしないと私達のような妖怪はうまく生き抜いていけないからね」
狼女はそう言って後ろに数歩下がる。
「どこか貴方の情報は怪しかったけど、こうして実際に能力を使われてわかったわ。私達のような妖怪だと、正面からじゃ絶対に勝てない」
狼女はまるで諦めたかのような感じでそう言った。
それは即ち、『今の状態では勝てる可能性は全くない』ということを彼女が認めたということだ。
「恐らく、さっき起きた竹林の霧を殆ど払ってしまった強風も貴方が起こしたものでしょう?」
「ああ。さすがにあの濃霧の中では地形や周りの景色の問題もあって地図があっても迷いかねないからな」
「本当、いきなり強風が吹いてきたから飛ばされるかと思ったわ」
「でも正しい判断よ。私達と違って人間は鼻が利かないから、疲れたり視界が悪いところを不意を突かれて襲われることは少なくないわ」
狼女は呆れながらも、彼の行動の正しさを認める。
「流石の俺もその状態で襲われたら傷を負う覚悟はしないといけないな」
ディアボロはそう言いながらも、その表情は笑っている。
……が、スタープラチナで炎の生命探知器を見ているあたり、気を緩めていないというべきなのだろうか。
ちなみにあの時狼女が不意打ちをしてきて、仮に攻撃を命中させることができたとしても、その瞬間にクラフトワークの能力が無意識に発動して対象は固定され、攻撃は浅手で終わってしまうのだ。

「それじゃあ、私はこの場を離れるけど……貴方なら問題なくこの竹林を抜けれるでしょうね」
狼女はその場で宙に浮き、その場から離脱できる状態を整える。
「ああ、こちらも行きたいところがあるからな」
ディアボロはそう言いながらも、その場から動かない。
彼女が飛んでいくのを見届けてから、再び動き始めるつもりだろう。
「そうだ、折角有名人に会えたんだし、私の名前ぐらいは覚えてもらおうかしら」
狼女はふと思いつくと、その顔に笑みを浮かべながら口を開く。
「私の名前は今泉影狼(いまいずみ かげろう)。貴方が一緒に暮らしている妖怪達ほどの実力はないけど、名前だけでも憶えていてくれたら嬉しいわ」
最後の方はお世辞なのかどうかわからないが、狼女……ではなく、影狼がどことなく嬉しそうに話しているのは気のせいだろうか。
「安心しろ、俺は物覚えはいいからな。名前と容姿ぐらいなら長く覚えていられる」
正確には『容姿も長く覚えていられる』だが、記憶を忘れないようにしていることを隠すためにこのような発言をしたのだ。
「そう、なら嬉しいわね」
影狼はそう言うと、その場を離れてどこかに飛んでいった。
恐らくこの竹林から出るわけではないと思うが、彼女を追いかけることが目的でない以上、追いかける意味はない。
そしてディアボロも影狼が飛び去るのを見届けると、再び迷いの竹林を進んでいく。

一度入ると出られない。
そんな迷いの竹林を、ディアボロは進んでいく。
霧を遥か遠くに吹き飛ばして視界は良好、地図も用意し、探知器も発動している。
目指すは藤原妹紅の家、そこに彼女がいなければ永遠亭。
どちらに妹紅がいるかどうかはわからないが、兎に角辿り着かなければ何も始まらないのだ。

262セレナード:2014/10/12(日) 22:48:56 ID:HXUBrABY0
投稿終了でございます。

早いことに、話をまとめていなければもう50話(まとめていれば44話)目になります。
はてさて、この物語は一体どこまで綴られゆくのか。
70話?ひょっとすると3桁突入?
いずれにせよ、完結目指して頑張っていきます。

263名無しさん:2014/10/14(火) 21:56:05 ID:Dw5cfIPY0
わおーん!
投稿お疲れさまです。輝針城編のはじまりですね。いやしかし、ディアボロに敵う妖怪が今の幻想郷にいるんでしょーか。

気になったのですが、うぇざー

264名無しさん:2014/10/14(火) 22:02:55 ID:Dw5cfIPY0
あー、ウェザーの操作された天候は感じ取れるからストレングスみたいに気づかれるのではないか?
と聞こうとしたんですがよく見たら感じ取られた描写ありませんでしたね。
外に出たばっかりの時、困ったおじさんの回りだけ晴れにさせたときも妙なほどに気にかけなかったですし。

265セレナード:2014/10/14(火) 22:15:03 ID:YfGblU4w0
>名無しさん
いえ、輝針城ではなくて永夜抄編ですね。
どうやら描写で誤解されているかも知れませんので、一応そこは最優先で訂正を。

ディアボロに敵う妖怪……いないようで案外いるかも。
鈴仙のそれだって、スタンドを波として感知できれば幻覚によってチャンスはありますし。

ウェザーのあれは、本物を操っているパターンとスタンドの雲を作っているパターンがあるんじゃないでしょうかね。
だとすれば、スタンドの雲から発生する気象現象は何だってスタンド使い以外には見えていないかも?

266どくたあ☆ちょこら〜た:2014/10/26(日) 21:08:17 ID:N8eupZKM0
投稿お疲れ様です!
輝針城組が登場するSSはここでは初めてでしたね。弱さを認め上手く立ち回れる影狼は強い娘だと思います(小並感)
チルノくすぐり現場を目撃したのはわかさぎ姫でしょうね。危うく事案物ですねw
永遠亭メンバーは東方世界でも最強格の月人二人、ディアボロ

267どくたあ☆ちょこら〜た:2014/10/26(日) 21:09:38 ID:N8eupZKM0
(続き)
でもかなりの苦戦を強いられるでしょうね。
次回の投稿楽しみにしております

268まるく:2014/10/29(水) 17:12:40 ID:tIpZCboU0
2か月…ぶりだろうか。そうだよ。一月休みをいただいて積ゲー消化しまくりんぐしてきました。
ゲームも落ち着きリアルも落ち着いたので、SSをかきかき。終わりましたので投稿します。
…長さは普通です。ごめんちゃーい。

269まるく:2014/10/29(水) 17:14:08 ID:tIpZCboU0
 白玉楼、厨房。
 これから催される宴の準備として、霊たちが右往左往としている。
 各々が器具を持ち、立派な料理を作っている、のだが。どうにも半透明の人魂状の物に器具が刺さっているだけの様にしか見えず、その光景は異様としか言えない。

「はい、肉と野菜持ってきたよ」

 その中、倉から食材を持ってきた人型、妖夢がその場に荷を下ろす。
 彼女も料理はできるが、大掛かりになると荷物の持ち運びには不便な幽霊たちの代わりを行う。
 持ち出した食材は優に5人前はあるだろうか。そして、すでにあったものを数えると7,8人分ほどになる。賑やかな会場に合うのは大量の料理と主の言葉だ。それを常に胸に入れ、ここの従者たちは動いている。
 持ち込まれた食材が下されると、やれ霊たちがこぞってそれを取り、自分の担当する料理へと調理を開始する。

「……? ねぇ、ちょっとそれ貸して」

 妖夢は何かに気付いたかのように入り口に視線を送り、半ば強引に近場にいた霊の包丁を取り上げる。
 それを右手に、正しく刀を持つように携え、

「曲者ッ!!!」

 自身の感じた違和感を信じ、全力を持って斬りかかる。
 ここにいる霊たちとは違う、実体を持った何か。最もそれに近い幽々子も今はあの少年との歓談でいないはず。そうなれば、侵入者以外何者でもない。
 知り合いの大体は勝手に入ってくるのだが、もしそうであるのなら楼観剣でもないこの一撃位なんてことはない。そう、妖夢は考えていた。何でもいいから斬るのである。

「おいおいおいおいおいおいおいおいおい」

 だが、それは達成されなかった。妖夢の身体能力を持っての全力の居合は、まるで時空が歪められたかのように進むことが適わなかった。
 妖夢からすれば、果てない距離を全力で詰めようとしたように感じられる。だが、他所から見れば急に妖夢が失速してその場に留まるほどになったように見えた。

「……おまえさん、違和感を感じたら本当に斬りかかってくるね。あたいじゃなかったらどうなっていたことか」

 入り口の陰から、妖夢より二回りほど大きい姿が現れる。
 死神の装束を纏い、その身よりも大きな鎌を背中に備えた女性―小野塚小町―は手を頭の後ろで組み、呆れたように息をつく。

「何だ、小町さんでしたか。どうしたんですか、こんなところに。つまみ食いはダメですよ」
「違うよ。あたいがつまみ食いするようなキャラに見えるかい」
「見えますよ? 以前仕事のための燃料補給だー、とか言いながら里でお団子食べてたじゃないですか」
「あれはその通り仕事に向かうための物であってつまみ食いとは無関係」

 小町と認識した時から、先ほどの警戒は薄れていつも通りの緩い雰囲気に戻る。

270深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 4―:2014/10/29(水) 17:14:51 ID:tIpZCboU0
「それで、何の御用ですか? ……というか、お出迎えもできませんでしたね、すいません」
「いんや、それは気にしなくていいさ。あたいらの仲だろう。それに、この新人がちゃんと出迎えてくれたさ」

 ありがとね、と小町は傍らに寄り添う霊をつんつんとつつく。それは、嬉しそうに体を震わせるとそそくさとその場を離れる。

「まだここに来たばかりみたいだね。初々しくてなによりなにより。……んで、用件だけど。お客が増えるんで、あと一人分追加してもらえるか?」
「……お客?」
「四季様だよ。なーんか、あんまり話してくれないんだけどさ。急にここで話があるからあたいに連れて行ってくれーって。
 仕事を放棄して場を離れるのは不安だからあんまり……って言おうとしたけど、かなり真面目な内容みたいでそんなこと言ってられない雰囲気でさ」

 小町の能力は距離を操る程度の能力。先ほどの妖夢の突撃を留めたのもそれによるもの。
 三途の川から冥界まで、至るとするならそれなりの時間がかかるが小町の力ならば瞬間とまでは言わなくともかなりの速さで到達できる。それを、映姫は頼ったのだろう。

「妖夢のその顔もわかるけど、どうやら西行寺との内緒話みたいだ。急いできた理由もわからん。けれど、その後の宴に謝礼がわりに参加してもよいって言われてね。そういうことで、あたいの分もよろしく頼むよ」
「はあ。……で、二人なのに一人分?」
「四季様はあんまり食べないからね。その大がかりな一人分から摘まむんじゃないかな」

 目的も、理由もわからないが、上司同士の話は介入しない方が身のため。言われたことをやればいい。
 言外に小町はそういっており、それは彼女の平常時の仕事スタイルでもある。サボっているが。
 最初に言われた時は妖夢も疑問が浮かんでいたが、そのことを知っているのもあり、納得をすることにした。

「わかりました。作っておきますのでどこかで暇つぶしでもしておいてください」
「冷たいなー……相手してくれないのかい?」
「料理できます? 小町さんっていっつも出来合いの物しか食べてないイメージしかないですよ」

 困ったように妖夢は目線を向けると、小町はすぐに視線をそらし、

「お、いい酒があるね。落ちる日でも見ながら一杯やってるかな」
「どーぞ」
「……あたいもできなくはないんだけどね。どうしてもおまえさんと比較されると、ちょいとねー」

 近くにあった酒瓶を取り、言い訳をしながら厨房を抜けていく。

「…………にしても、閻魔が何の用事だろう? 場の空気を悪くするだけだから、懇談会ならば必要とされるような空気ではないと思うのに」

 残った妖夢は、仕分けの手を進めながらもほんの少しの疑問を口から滑らせた。

271深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 4―:2014/10/29(水) 17:15:21 ID:tIpZCboU0



 室内は、奇妙な静寂が場を支配していた。
 幽々子はずっと同じ、神妙な表情を浮かべ続けていて、対するディアボロは姿こそは少年の、ドッピオの身体のままだがその姿では浮かべたことの無いような、深淵の先を見る様な表情で、深く物事を噛み締めている。
 自分が今ここに存在する理由。そして、この世界の成り立ち。そして、自分たちのその後。
 そのままの意味で受け取れば、もう帰る世界はない。ここでなければ一笑に付す出来事だった、世界線が違うという事実。
 もっとも、すでに帰る場所は失われていたし、故郷を想うようなセンチメンタルな感情は存在しない。縁は感じるが、思い出など必要はない。
 自分の過程を聞いたのであれば、自分の今後はどうするか。

「仮に、ですけれども」
「……ん?」

 幽々子は目を細めてやや下、将棋盤を見つめながら口を開く。
 その雰囲気は、今を直視せず、その盤の上に見える風景を思い描きながら語っているようでもあった。

「もし、あなたが外の世界で行ってきたことと同じことをしたのならば。
 私はそれを止めはしないでしょう。紫も、それを止めはしないでしょう。けれど、それを悪しと思う者があなたを止めるし、賛同する者が協力するでしょう。
 それがたとえ、幻想郷という小さなコミュニティを崩壊させる未来しか見えなくても」
「…………」
「あなたの犯した罪は、外の世界の尺度で言えばそれは大きなものでしょう。けれど、それと比べれば私はどうでしょう。
 あなたの行った事柄など、結局は人間個人で行ったもの。あなたよりも永く永く生きたここの住人にとっては些細なことです。
 知っているかもしれませんが、幻想郷はこれまでにも2,3ほど、もしそれが成されたのならば人の住めなくなることになるであろう異変が起きています。
 しかし、今ではその首謀者を交えてまるで旧知の仲の様に過ごしている。そんな、世界。だからあなたが何をしようと」
「だからといって、何をしてもいいわけではありません」

 そこまで話していた幽々子の言葉を、また別の声が遮る。
 外の方からであった。何事かと向くディアボロと、少し笑みを浮かべる幽々子。
 障子に映っていたアンの薄い影が立ち上がり、礼をする。それを横切るように小さな実体を持った影が通り、

「お邪魔させていただきます」

 静かに、ではあるが妖夢が行ったような所作ではない。勝手を知る友人の部屋に入る様な、そんな所作で部屋に立ち入る。

「あら、来られたのですね閻魔様」
「遣いの者が来ましたからね。それにしても西行寺、そうやすやすと人の過去に付け込んで誑かすのではありません」

 入るなりに口を滑らかに動かす、閻魔と呼ばれた少女―四季映姫―。
 その幼い容姿とはそぐわず、幽々子に対しても怖じもせずに食って掛かる。対する幽々子はおどけた様に耳を塞ぎ、頭を抱えている。

「こら、聞きなさい。あの世の者がこの世の者に関わることは生と死の境を曖昧にさせる。本来ならばあなたはこの世の者と関わってはならない。そのための従者がいるわけでしょう。そう、あなたは少し生に触れすぎている」
「きゃ〜、聞こえない聞こえな〜い」
「……閻魔……?」

 ディアボロも知らないわけではない。仏教の、死者を裁く神、程度は知っている。
 だが、どうしても日本の書物でよく表されるいかつい姿とは似ても似つかぬ姿に対して、驚きを隠せない。

「……そうですね、西行寺への説教は後にしましょう。『お久しぶり』です、ディアボロ。と言っても、姿は少年のままですが。……憶えていますか?」

 幽々子と同じように、再開としての挨拶を交わす。

「……お前は、いや、お前の声は……」

 それは、最初に星に見つけられる前の、何かの声。

「いいです、あなたを裁きます。もっとも、そこから先は知りませんけどね」
『    、        。    、そこから先は知りませんけどね』

 それは確かに、おぼろに残る記憶の声と同一している。
 聞き取れなかった前半の言葉も、彼女の小さな唇から放たれる。

「別の者に裁かれたあなたを、生と死の境に永遠に彷徨う曖昧な存在だったあなたを明確にしたのはこの私。
 度重なる死の果てに初めて精神の底から願った、死を拒む思いを汲み取ったのはこの私。他にも、あなたの過去を見たりとかもしましたが」
「……つまり、お前があの呪縛から解き放った者だということか?」
「正確には、解き放ったわけではないのですが。まあ、おおむねその通りです」

 小さく頭を振る映姫。

272深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 4―:2014/10/29(水) 17:15:55 ID:tIpZCboU0
「どう、いうことだ?」

 ディアボロの当然の質問に対し、映姫は手鏡を取り出す。質素な、飾り気はないが優れた意匠が凝らされている鏡。
 それをディアボロに向けると、そこには彼の姿が写らない。写っているのはドッピオの姿ではないディアボロと、それに対峙する――

「ッ、ジョルノ……!!!」

 矢のパワーを得て覚醒したジョルノと、それに寄り付き添うゴールドエクスペリエンス・レクイエム。
 鏡越しにでも伝わる、彼自身が信じる『正義』の精神と、それに誰しもが惹かれてしまう様な圧倒感。
 自分はどうだ。今まで張っていたものがすべて虚仮のよう。神に挑む愚かな人間のようにも感じられるほどに、矮小に感じられた。

「この鏡は浄玻璃の鏡。映した物の過去の全てを晒し出す。普段は相手の罪を確認させ反省を促すための物なのですが……」
「わあ、かっこいいわねこの人。くるくる頭の幼い顔立ちだというのに」
「お静かに。スタンド、と言いましたか。あの八雲さえも危惧させた力。彼もあの事変に類する力を持っているのでしょう、きっと。
 その力は、10年以上の歳月を得て、世界を越えてもあなたを縛りつづけた。その力を、私は完全に御しきれていない」

 鏡の中はあの時を再現し、真実に到達できなくなった決定的な瞬間を映し出す。

「人が人を裁くことなど驕りの極み。ですが、あなたに対する、あなたを通じての個人の思惑を超えた感情が力となってあなたを縛り続けている。
 本来私は死者を裁く者。生者を裁く権利はない。私があなたを裁くには、あなたが死ななくてはいけないのにあなたは死ねない。
 生者を完全に裁くことのできない私には、生きている者の影響を白黒はっきりさせることはできないのよ。あなたが死を繰り返さないのは、精々幻想郷の中だけでしょう」

 鏡の中は、その後辿り着いた水路に逃げ込む自分の姿。すぐ後に刺されるだろうその姿は、映姫が鏡をしまうことで終わりを告げた。

「あなたという人物の聡さを理解しての行動です。全てを知った後にこの事実を告げることは。それが、八雲の提示した案。
 曖昧、流転、不形。そんなものの象徴ともいえる彼女は自身があなたに影響を与えることを避けたかったのでしょう。故にあなたに会わずにいる。
 嘘を好まず全てを包み隠さない私というものを使いながらね。……まったく、あれにも生を見つめ直してもらいたいものです」

 はあ、とため息をつき、一区切りを入れる。
 彼女から与えられた事実に対して、再び思考材料が増え顔を強張らせることしかできない。
 立ちながら説明を続けてきた映姫は、将棋盤の前にかがむとディアボロの進めた王将の前に、自分の人差し指を突き立てる。

「……以降、私はあなたを裁くことはないでしょう。あなたがもし死に、それを裁くことになるならばそれはあなたの世界の閻魔によるから。私は幻想郷の担当であり、幻想郷で生まれた者しか死後に私の元に集わない。
 あなたの犯した罪は、紛うことなく地獄行きでしょう。私利私欲、自らの為に犯し続けた罪の数は述べるだけで一苦労です。更生の予知はありません。
 それでもここで何かを犯すのであれば、それを私に止めることはできません。ごっこ遊びならともかく、現界に手を出す力は私にはないのですから」

 もう片方の手でディアボロの片手を借りると、その手で自分の指を弾いた。その小さな手は、確かに年嵩の無い少女の柔らかい皮膚に包まれていた。
 最も、今までそのような容姿で強力な力を持つ者達に何人も出会っているのでそれが信頼の証になるわけではないのだが。

「そして最後にもう一つ」

 さらに続けて、指を一つ立て注目を集めながら映姫は話す。

「ですがその前に問いかけです。ディアボロよ、あなたははたして人間なのでしょうか?」
「何だと?」
「え??」

273深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 4―:2014/10/29(水) 17:16:56 ID:tIpZCboU0

 その問いかけには意外だったのか、幽々子も目を丸くして反応をする。
 問われたとしても、漠然としすぎていて質問の意図を掴めない。それ故に、返事はそれだけしかできなかった。

「凡そにして、人間とは肉体・精神・魂の3つから成り立ちます。これについては特に議論を必要としないでしょう。ディアボロ、あなたもかつてはただの人間でしたのでしょう。
 しかし、今のあなたは一つの肉体に二つの精神、二つの魂が存在している。もしあなたが一般的な『多重人格者』であるならば、精神は二つ三つに分裂していようが、魂は変わりがありません。
 何故あなたが」
「少し、待て」

 滔々と語りかける映姫に対して、手のひらを向けて止めるように示す。
 それと共に、ディアボロの肉体が、ドッピオの物である少年の身体からぐぐ、ぐぐと、逞しい成人の身体へと少しずつ変態していく。

「……あら、あらあら、まぁ」

 少年の姿に合わせて作られた衣服は、変わっていく中身に引かれてややも隠す部位が減っていき、隙間から見られる精悍な肉体は久しく異性の素肌を見ていない幽々子の頬を赤らめさせる。
 数刻の間をおいて、そこに少年の姿はなくなっていた。

「確かに私の今の肉体には二つの精神がある。自分の精神と、もう一つの精神。魂がどうのこうのとは理解が進まないから後で聞くとして……
 ドッピオにはこの肉体を扱えず、私の時でしか使えない。こうも変貌をするのであるなら、肉体も二つと同義ではないのか?」
「いいえ。どれほど変わろうと一つは一つです。……精神の有様によって僅かな変化を起こすことはよくあることですが、こうも変わるものを間近で見ると……驚きです」

 覚悟を決めたら顔つきが変わる。意志を明確にすれば体に力が入る。人格とは関係なしに、人間心持ちで肉体は変わる。
 それはほとんどの場合において印象のみであり、彼の様に風貌まで変わる例はそうそうない。が、ゼロではない。

「肉体が二つとは、それこそ文字通りのものであるべきです。そのような存在は、私は魂魄の者くらいにしか見たことがありません。
 あなたの、そこまでの顕著な変化はあまり見られないですが、そこに二種の差異は私には視えません。ですが、それでも。
 ただ人格が複数あるならば、その人格が成長を重ねるごとに一つの精神として成り立つこともあるでしょう。ですが、魂が成ることはほとんどを以て起こることではない。何か、心当たりはありますか?」

 どうでもいい話だ、ともディアボロは感じるが、彼女の追及する態度には、徹底したものを感じる。だが、それと共に不自然にも感じる。
 先ほど取り出した鏡を使えば、自分の過去を全て見ることができるという。それがあるならば、彼女の言う心当たりは彼女で探せるだろう。当人さえいれば。
 今相対していて鏡を盗み見るような真似をしているわけではない。そして、彼女の役職から考えられる符号。

「…………ある。先ほどの出来事、その直前に起きた片鱗。その時、私とドッピオは確かに離れた」

 それはおそらく、自覚と承認。他者に言われるのではなく、自ら顧みて出来事を見つめさせること。
 今更この者の前で過去を隠すことなど愚行に等しい。故に、自分に起きた出来事を話す。

274深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 4―:2014/10/29(水) 17:17:49 ID:tIpZCboU0
「奴があの力に目覚める前の、失敗例。それにより近くの者全ての、生き物すべての人格が、精神が入れ替わった。人も犬も鳥も関係なく。
 その時、無闇に引っ張られることに危険を感じた私はあえて娘の肉体に精神を滑り込ませた。一番近しい者であるなら、気取られることはないと考えて。
 その時は精神と魂は同一の物であると考えていたが」
「そもそも、あなたは自らの精神、魂を自在に表に出したり、裏に潜めたりすることができる。それが、他者の肉体であろうと。
 さすがに相手の肉体そのものを支配できるわけではないようですが……それすらもできるようのであるならば、すでにそれは人間の枠を超えているでしょう」
「ドッピオにはできないが、私にはできる。自分の身体は自分で思い通りに動かすことはできるが、他者の身体ではできない。それは確かだ」
「本題に戻ります。ディアボロ。あなたがもし自分の精神を他者に渡したまま自分の肉体が死んだ場合、あなたはディアボロなのでしょうか? もしそうであるならば、あなたは『人間』なのでしょうか?」

 長い解説を話して、改めて映姫に問われる。
 彼女がどういう答えを期待しているかはわからないし、結局振り返ってみても答えはわからない。正解がそもそもないようにも思える。
 他にその答えを考える者がいるならば、それが十人居れば答えは十通り出てくるだろう。

「私は『帝王(ディアボロ)』だ、それ以外の何者でもない。生まれ落ちた時からの逸脱の身、今更そのことで悩むつもりはさらさら無い」

 映姫に突き付けた一つの答え。それが、これからの自分を示す決意の言葉でもある。
 ここに来た理由、その過程。それを知ったからこその、ここに来たるべき理由を自分に刻むために。
 それを聞いた映姫は肩と溜めた息を下ろし、

「この問いに答えを見つけなさい。それが今のあなたに求められる最後の善行よ」

 その言葉には、理解されなかったようなややも呆れたような感情が篭もっていた。




 日は落ちた。部屋に射し込む日光は既になく、外に僅かながらに点在する灯篭からの漏れる灯りと、柔らかな月の光が部屋を照らしていた。
 その光を遮る障子がか細い光をさらに細め、急にこの部屋に入った者ならどこに何があるのかわからなくなるだろう。
 中にいた3人には、ずっと部屋の中にいてその光に慣れているのもあってそのようなことは起きないのだが。
 ぽ、と幽々子が手を掲げるとその周りに光を纏った蝶の輪郭が現れる。
 その蝶は意志を持つように部屋の隅に置かれている行燈に向かう。その中に入り込むと、同じような色の明りが行燈に点く。

「お話は終わったかしら」

 日常の夜として使うには暗すぎる光源が、ここが、彼女が、亡霊の園とその主だということを思い知らされる。
 吹けば飛びそうな幽かな明かりが彼女の顔を照らし、妖しさと儚さを表していた。

「夜も更けて、お腹も空いてきたでしょう? 妖夢たちが作った美味しいごはんにしましょう。そうしましょう」
「……あなた、それを待っていただけでは?」
「さあ、聞こえませ〜ん」

 うきうきと、先ほどの印象を払拭するような声を出し二人を促す。

「二つ隣の部屋に、今頃皆が用意した晩餐の準備ができているでしょう。さあ、お立ちください。ご案内しますわ」

 先に立ちあがり、外への境を開いて二人を誘うように手招きをしながら、幽々子は先を行く。外は、部屋の中よりも明るく庭を照らしていて夕暮れとは違う印象を植え付ける。
 映姫もそれに続いて外に行こうとする。が、その後続はなかった。

「……どうしました?」

 映姫が、動こうとしないディアボロに問いかける。その表情は、途中にも見せた何かを考え込むような顔。

「先ほどの事を考えているのですか? それはまだまだ早いこと。至らぬ事に時間を費やすより、目の前の事に集中してはどうでしょうか?
 こういうのもなんですが、あなたは十分に理知聡い。その事をわからないとは思っていません。相手の誘いは受けるのも善ですよ」
「…………いや、それはわかっている。だが、一人の時間が欲しいのだ」

275深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 4―:2014/10/29(水) 17:18:20 ID:tIpZCboU0
 にこりと、先ほどまでの雰囲気からは想像できない優しい笑みを浮かべて彼を誘う映姫だが、その善意を敢えて跳ね返す。
 あまり強く言っても効果はないだろう。どうしたものかと映姫が考えた時、

「二つ隣の部屋です。わからなかったらアンに聞いてください。さ、閻魔様。行きましょう」
「……えぇ。わかりました。西行寺、あなたには山ほど言いたいことがあります。この機会に満足するまで聞いていただきましょう」
「耳まで一杯にされちゃうのね。楽しみだわ。それでは、また今度ね」

 幽々子が彼に目配せをしながら、引っ張るように映姫を連れ出す。
 二人の少女はややも騒ぐように、その部屋を後にした。

「……………………」

 残された、静寂。
 その中でまた、一人で考える。何かを思案するときは、こうした孤独が心地よい。
 もっとも、厳密には一人ではないのだが。彼からは霊ゆえか息遣いも衣擦れも、気配の欠片もほとんどない。
 気にならない、というわけではないが、黙って見られているよりかははるかに良い。

(……)

 もちろん、先ほど言われたことが何よりもの項目である。まさか、人間かどうかまで問われるとは思っていなかった。
 だが、それと共に見せられた記憶の残滓。それにより一つ気にかかることがあった。

 確かにあの時に切り捨てたドッピオの存在。最後まで見ていなかったが、ドッピオはブチャラティの肉体に引きずられて死んだ、はずだ。

 それを最後まで見届けてはいない。だが、肉体が死んだらその魂は共に死ぬ。それはナランチャの魂が入ったジョルノの身体で確かめられた。
 魂の消滅した空洞の肉体を修復、機能を再開させその中の元の魂が戻れば元の通りに戻る。スタンド使いだからこそ、できる事だろう。
 ……それが、ドッピオにも起きたのだろうか? 鎮魂歌に捕らわれ、幾年の歳月を経て、永遠の時間の加速の果てにここに行き着いて、それで?
 その可能性はあまりにも低すぎる。死んだ彼の魂が10数年、自分の周りについていたとでも言うのだろうか。
 すでにオカルトじみた考えになってきているが、可能性を提示された以上、浮かぶものは全て留めておく。

 何故、今。ドッピオは自分の身体に戻ってきたのだろうか。昨日の夜にも気に掛けたこと。他の要因で途切れさせられたが、理解するべき項目としては高い位置にある。

(……もし。客人よ。話を一つ聞いてもらえるだろうか。いや、聞きたくなければ戯言として聞き流していい)

 ふと、外から聞こえる声。それは鼓膜から響くのではなくスタンドを介して聞こえる心の言葉。

(どうしてもこの位置からでは中の話も聞こえてしまうからな。何、中の内容は他言しない。我が主にもオレから話そうとしない限り伝わらない。して、話だが)

 彼も中に向けて話しているわけではないし、ディアボロもそちらに目をくれるわけではない。

(王、という単語を使ったな。久しい、言葉だ。かつてオレが忠誠を誓った方も、王という器にふさわしい人物だった。世間には暴君と呼ばれる支配欲にまみれた方だったがな。
 そんな方だったが、それでも忠誠を誓う者は大勢いた。あの方に仕え、モノとして捨てられても良いと考える者も居た)
「…………」
(オレがスタンド使いとして差し向けられた時と、客人が生きていた年代は違うだろう。それに伴い人間も変わる。10年あれば、感性は変わる。
 それでも、客人にそうした誓いを立てる者はいただろう。雰囲気から察するに、あの少年がそうなのだろう)
「……」
(再び巡り会えたことに感謝せよ。その逢着に偶然はない。巡り合えたことが当然なのだ。引力とはそういうものなのだ。これは、その方がよく口にしていたことだ。
 オレには頭はない。安っぽいが、そのことを伝えたかった。ただ、どうしてもそうしたかった。……それだけだ)

 そういうと、アンは立ち上がり二人の進んだ側に歩き出す。彼を完全に一人にしておきたい、それを願っていることを読み取ったのだろうか。
 それの方が都合がいい。

276深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 4―:2014/10/29(水) 17:18:53 ID:tIpZCboU0
「……引力、か」

 再び出会うことが当然というのであれば。それが当然の帰着というのであれば。
 思い出す。過去にディアボロとして生まれたこと。ドッピオとして生まれたこと。
 多重人格とは、心の傷の埋め合わせ。行ってしまえば、過剰な防衛本能。
 今までは死ぬ直前まで心は裂け続け、死んでしまえばその状態は全て治り再び死ぬ。
 実際に裂けきった二度目は、ごく最近。あの閻魔が『裁いた』のち、再び死ぬと錯覚したあの時。

「感謝、か。そうだな……ありがとう。それしか言う言葉が思い出せない」

 この感情こそも、いつ以来だろうか。相手を尊重すること、無条件の謝の気持ち。
 口から出すことはあっても、本意で言ったことなどあっただろうか。相手からのその気持ちを、受けたと感じたことがあっただろうか。
 それは、彼にとって初めてだったのかもしれない。


「それで終わりか? そんな、三文芝居は」

 突如、部屋に声が響く。
 素早く辺りを見回すが、誰も……いる。部屋の片隅に置かれた行燈が、その影を照らしている。
 揺らめく影は人の姿をしているが、その元にいるはずだろう影の主は姿が見えない。ただ、影だけが見えている。

「私はそんなお前を見たことがない。そんなお前を見ていたわけではない。お前は悪辣だ、お前は害悪だ、お前は吐き気を催す邪悪だ」

 その影は形を変えてディアボロに近づく。人の形から、一つ、二つと何かが増えて影の形を変えていく。
 何者、だろうか。侵入者がいればあの従者が、あの半霊が察知するだろう。悪霊? の類であるならば、亡霊姫が対処できるだろう。
 それらに何もかからない、侵入者。口ぶりからは、対象は自分自身。

「何者だ」

 そんな安っぽい言葉を求めているのではないだろう。『それ』からすれば、自分は被食者、相手が捕食者だ。
 もちろん、それで終わるつもりはない。立ち上がり、その影に向けてスタンドを差し向けながらも一歩を踏み出す。

「そんなことを答える必要もないんだよ。あんなことを考える必要もないんだよ。お前は相変わらず、手の平に転がされ続ければいい。主に、私に」

 にじり寄る様に、ゆっくりと歩み寄る。部屋はそれほど広くもないため、ディアボロが一歩を踏み出せば、そのまま影に足を踏み込める、はずだった。
 突然、背後から自分の両腕を巻き込んで抱きつかれる感触。突然の触感に、心臓の鼓動が高く響く感覚と頭頂部まで一気に血流が昇っていく感覚。
 背後のそれから感じるのは、圧倒的な肉食獣の気配。相手の身に着けている衣服に阻まれてもわかる、肉感的な柔らかな感触とそれに伴う早い鼓動。耳元に被せられる妖艶さを感じる吐息。


「なあぁぁあ、ディアボロ?」

277まるく:2014/10/29(水) 17:34:19 ID:tIpZCboU0
ちくしょう!なんで最初の奴ちゃんとタイトルついてねーんだよくそっ!!自分のミスじゃねーか!
以上になりますね。

考えれば考えるほどディアボロの生態は謎です。平常時には精神を自分以外の所に行かせるとか、やっていたんでしょうか。それともあれはやはりあの極限下だからこその行えたことなんでしょうか。
ジョルノは得意技と一回見ただけで断言していましたが。とにかく、多重人格でも精神は一つだろ!って思っていたのでこういう書き方をしました。
ドッピオは復活したのではなく、また新たにディアボロによって作り出された物でした。最初の方で、ブチャラティを誘導してから記憶が曖昧なのはディアボロがそこまでのドッピオしか知らないためです。

四季様は現世の者を裁けないというのはちょっとあれかもしれません。これは自分なりの解釈です。
裁判では強い権力を以て裁いて裁いて斬っては捨ての閻魔が、もし現世でも同じことをできたら?これは立派な職権乱用。もちろんそんなことをしない自制心を持っている閻魔でしょうが、それでも念のためということで力を振るえないと解釈しました。
三権分立のあれですね。弾幕ごっこはあくまでごっこ遊びなので、その点においては普通に四季様強いです。
花映塚のラスト、無縁塚では冥界、つまりあの世の一部なのでそこでなら力を出せます。ゆうかりんもそこでなら幻想郷最強を決めるための決闘をできるわけですね。映姫ストーリーで幽香にあっていないのもその要因の一つとしてとらえてます。

最後…一体何の式神なんだ…

278まるく:2014/10/29(水) 17:39:08 ID:tIpZCboU0
あー、力を振るえないというのはあくまでパワー的なものです。白黒はっきりつけるのはできるし、それが少なくとも間違いではありません。
しかし「関係ねえ!このアマぶっとばしてやる!」とかそういうのにパワーとして反撃ができない、ということです。
ドラゴンズドリームの様に、中立中立。閻魔様公平。小町に慈悲はない。
従う従わないは自由ですけれど、従わなければどうなっても知りませんよ。というのも込めて「もっとも、そこから先は知りませんけどね」の言葉です。
閻魔としてやや放任じゃね?って思うでしょうが、それは彼が幻想郷の住人でないことも関係してます。
…以上、言い訳でした。

279セレナード:2014/10/29(水) 23:20:24 ID:BkzCwCnY0
投稿お疲れ様です。
タイトル付属ミスなんてこっちもたまにやることですね……。

ディアボロがトリッシュの体に潜り込めたのは恐らくあの状況だからこそ成せたものでしょうね。
『肉体』と『精神』を自力で分離させるなど、ウンガロのような『そういうことができる能力を持つ者』でないと、いくら精神の力で肉体を変えられるディアボロでも無理でしょう。

閻魔が現世に干渉するなどという話は聞いたことはないのでまるくさんのような解釈でもよいかと。
冥界だからこそ実力を発揮できるという解釈には、何とも言えないですが。

そして小町に慈悲はないって……。あんまり……でもないかな?サボるあっちもあっちだし。

最後のあれは、人によっては……いや、言動がそうはさせないか。

次回も、気長に待っています。

280まるく:2014/11/01(土) 09:14:29 ID:qc.ia27Q0
感想ありがとうございます!!

…そういう解釈もあったか。むしろ、その方が自然か…
はい、何もなくてもディアボロの精神は他人にうつれることが可能とか思ってました。
良く考えたらその方が普通だよな、どうしよ

結局のところ、幻想入りキャラの無茶を止めさせる要因を少なくさせるだけともいう裏の事情も(
それは置いといても、説教はあくまで先を教えるだけであって強制力はないですからね。従わなきゃ地獄落ちるよ、ってだけなのを強調するのも含めて。
小町は仕事サボってるからしょうがないね。今回は何もサボってないけど。小町は現世とか関係なく動けます。死神ですので。

最後のアレは…いや、人によっては…言動もご褒美…
謎の式神さんも元ネタの解釈の一つに『夫に尽くして尽くして幸せにしてあげる貞淑な妻』という解釈もあるのでそれも入ってます。
悪い男に悪い女は惹かれるの。銀と金でみた。

次回もよろしくお願いします。次回はちゃんと11月末にはポンと出す!

281どくたあ☆ちょこら〜た:2014/11/03(月) 10:26:36 ID:sLLRk1bM0
まるくさん、投稿お疲れ様です!
小町の能力はやはり相当無敵ですね。攻撃防御奇襲撤退サポートなどなど隙が無い。緑色の赤ん坊とコンボを組めば、勝てる者は極僅か…ガクブル
【レクイエム】の呪いからディアボロが解放された鍵は映姫でしたか。能力の相性が良かった(レクイエムと真っ向から対抗するのでなく性質の裏をかいた)から、あのチート能力を中和できた、ということでしょうか。
しかし、ということはディアボロが意識を取り戻す前にいた場所は複数あるということになりますね。まだ『紅い眼の少女』に関する話題は出ていないことですし…

過去の自分を見て反省するディアボロ、幻想入りして本当に変わったんだなあ…(感慨)
『魂が二つ』とは、全てのスタンド使い共通の状態なのでしょうか?スタンドと本体は同一なので、ディアボロとドッピオのみの事を指しているのでしょうが、念のため。
映姫が裁ける範囲は『幻想郷で死んだ者』だと私は解釈しております。茨歌仙では大陸出身の青娥に『お迎え』として水鬼鬼神長を派遣したりもしていましたし。
アンのキャラが良い味出してますね。武の高みを目指す人斬り包丁、忠義の士。
現在のドッピオが新たに生まれた人格だったとは…ディアボロはプラナリアだった…?
ディアボロが多重人格者になった心の傷、原作では全く明かされてませんね。私の中では母親の胎内に二年間閉じ込められていた事が原因だと思っておりますが…
巡り会えた引力への感謝…確かに心からの感謝ってディアボロには似合わないですねw
そして遂に獣慾を抑えられず押し掛ける女狐。幽々子もディアボロの肉体に頬赤らめてますし、諏訪子の件と言い強者にモテますねディアボロ!本人はエラい迷惑でしょうが
幽々子、映姫、藍、続々と強者が集う白玉楼。今後どんな展開が勃発するのか、期待しております!

282まるく:2014/11/05(水) 11:26:45 ID:.mjQV3O20
感想ありがとうございます!

こまっちゃんは普通に強キャラ…あれ、東方そんなやつごろごろいるぞ?
単純な能力で使い手も強い。さすが5ボスに当たる人。

レクイエムからの解放は映姫さま。ゆかりんでもよかったんですが、それだと単純かつ彼女の趣旨とはずれそうなので。
そして、レクイエムに真っ向から対抗〜と言われています通り、それほど強力な能力という印象を与えたいのもあります。

自分の反省するディアボロはこんなのボスじゃない!とも思われそうですが、この人意識を取り戻してようやく50時間ほど。5部並のハイスピードです。
死の淵から(一般的でない)復活したことを考えると、十分こういったことを振り返ってしみじみするには妥当な時間かと。吉良よりポジティブではないですしね。そもそも吉良はポジティブすぎる気もしますがw

『魂が二つ』はスタンド使い共通ではなく、彼らの事だけを指してます。
ジョジョ内部では精神と魂をほぼ同意義で使っていて、場面場面でコロコロ変わってつけられてますので。
5部本編で、ドッピオとディアボロの精神は別れそうな状態でディアボロが運用していて、チャリオッツレクイエムによって初めて明確に魂も二つに分かれた、と思っていただければ。
ブチャラティの肉体に引きずられて『ドッピオは死亡』と、明確に書かれていたところでこういった解釈してます(文庫本39巻より。単行本ではないかも)
プラナリアは肉体の再生能力だけだろ!いい加減にしろ!

ディアボロの多重人格になった原因は全く記述がないためねつ造させていただく(キリィ
吉良みたいに裏設定であるわけではなく、しいて言うなれば『生まれてきたことに対して懸命に生きている』程度。荒木曰く5部の登場キャラはみんなそんな感じだと。
どこかで自分の出生について知り、母親と会い、彼女を生きたまま埋めて過ごさせるという行為を行ったあたりでやはり膨らませていきたいと思ってます。そのときすでに日常を送る人格と母親に対してのなんらかの異常性を持っていたと思うので。
敢えて、敢えてディアボロに似合わない言葉をどんどん使わせていきます。感謝や反省など。これは立ち上がる物語!(今決めた

野 獣 の 眼 光
一体何雲藍かわかりませんが、前の晩にあんなことをした相手が今一人になったので思わず駆けつけた式神の鑑
ハーメルンでもやはり同じようなことを突っ込まれましたが、悪は悪に惹かれるのです。かの信仰者ンドゥールも言ってましたし、マライヤもそういってました。ゆゆさまはどちらかというとうぶな感情ですが。BBAって言った奴出てこい
諏訪子は悪にカッコよさとかを見出しそうですが、藍はダメ男に尽くすタイプ系女子にも感じます。うん、それはそれで。
えいきっきは、次回の話の小町の一文を少し書いて個人的な視点を紹介させていただきたく。

とりあえずお先に、感想ありがとうです!期待していてください!


「あっはっはー、違うよ西行寺。四季様はもっと純粋なの、ショタ好」
その言葉は最後まで発されることはなかった。既にその場に小町はいなかった。そこには美しいフォームで悔悟の棒を振り切る映姫がいた。完璧なフォームだった。

283セレナード:2014/11/15(土) 22:34:26 ID:ZIWs80kc0
東方魔蓮記の最新話、完成しましたー。
多少疲れているけど、完成しているなら後は投稿してしまうだけなのです

284東方魔蓮記第五十一話:2014/11/15(土) 22:35:48 ID:ZIWs80kc0
寒き竹林を進む人が一名。
その様子を伺う生物は無数。
しかし、人は全く生物の様子を気にすることなく進んでいく。
何故なら、その人間は生物の挙動を大まかながら知る術を使っているからだ。

時に襲い掛かる妖怪を撃退し、時に興味を持って近づいてきた妖怪と会話しながら目的地へと進んでいく。
そして、時間はかかったものの、目的地である『藤原妹紅の家』に無事辿り着くことができた。
「(……ここが妹紅の家か)」
ディアボロは現在地点と妹紅の家の距離を再度確かめ、目の前の建物が目的の場所であることを確認する。

ディアボロはまず、玄関の戸をノックしてみる。
叩いた音が響き、その後一歩後ろに下がって少し待つ。
「…………?」
反応がない。
念の為マジシャンズ・レッドで戸の一部を温めながら、万が一彼女と戦闘になったときのことを想定して、クラフトワークをメイド・イン・ヘブンと入れ替える。
そして指で触れてみて、熱くて火傷をする、なんてことがないことを確認すると、そこに左耳を当ててもう一度ノックしてみる。
「…………」
さっきのノックの音以外何も聞こえない。
どうやら不在のようだ。
「(仕方ない、とりあえず妹紅の位置を確認してみよう)」
ディアボロはそう思って戸に耳を当てるのを止め、後ろの様子を確かめるべく振り返る。
「…………」
「…………」
……明らかに不審者を見るような目でディアボロを見ている女性が後ろにいた。


白い長髪に大きなリボンのような物をつけ、赤いサスペンダーで同色のズボンを吊り、ワイシャツのような上着を着た赤い目をした人物。
彼女こそが、ディアボロの探していた人物である『藤原妹紅』だ。

「……何をしようとしていたのかしら?」
女性はそう言いながら、両手に炎を纏わせる。
そのまま炎を飛ばしたりしてこないのは、ディアボロの後ろに自宅があるからだろう。
そして、彼女の両手から発された炎を見て、ディアボロは目の前の女性が藤原妹紅であることに気づく。

「この家の主に用があって、不在かどうか確かめていただけだ」
今回は相手の能力を理解できている以上、過剰な警戒はする必要はない。
ディアボロは妹紅の質問に答えながら、彼女の方に歩いて接近していく。
妹紅もその答えを聞いて、両手に纏っていた炎を消す。
「どうやらいなかったようだがな」
そのままその場を去……ると見せかけて、妹紅の目の前で歩くのを止めた。
「『家の中』には、な」
ディアボロはそう言ってため息をつくと、再び口を開く。
「お前が藤原妹紅か」
ディアボロはそう言いながら、ウェザー・リポートを出しておく。
妹紅も見ず知らずの者にいきなり自身の名前を当てられたためか、再び両手に炎を纏わせる。
「慧音に以前、会ってみたらどうだと提案されていてな。こちらの都合もよかったから、こうして今日訪ねに来た」
慧音の名前を出されたためか、妹紅は両手の炎を消し、それを見たディアボロも、ウェザー・リポートを戻す。
「まあ、事前に許可をもらわなかったのはマズかったようだがな」
「そうね、私には貴方が盗みにやってきた化け狸か化け狐に思えるわ」
妖獣の尻尾は、その大きさがそのまま妖力の大きさを示すものである。
妖獣が変化した場合、尻尾が大きいと隠せないことが多い。
しかし、それは裏を返すと『妖力が小さければ尻尾を隠しやすい』ことでもある。
例え自身しか変化させられないとしても、自身を変化させるだけならば妖力の大きい他の化け狸や化け狐には劣ることはないのだ。

285東方魔蓮記第五十一話:2014/11/15(土) 22:37:16 ID:ZIWs80kc0
故に『疑われている』のだ。
目の前の男は、『本当に人間なのか』と。
慧音と自分の仲を知っているとしても、それは又聞きなのではないかと思っているのかもしれない。
この竹林の中で暮らしている彼女ならではの疑い方なのだろうか。
「それは心外だな。俺がお前を騙しているといいたいのか」
ディアボロはそう言いながら、さりげなく妹紅の右側に並ぶように移動する。
「人間が迷い込んだとしても、此処に来るまでに妖怪に殺されるのが普通だわ」
「だから、俺が人間ではないと考えるのが自然だと?」
妹紅と会話をしながらディアボロは移動し、先ほどとは逆に妹紅の方が彼女の自宅を背にする形となる。
「その通りよ。だから此処から去りなさい!」
妹紅はそう言って脅しとばかりに炎を飛ばしてくる。
それに対してディアボロは、ウェザー・リポートで暴風を発生させ、それを炎目掛けて放つ。
その暴風は、周りに燃え広がる要素がなかった炎を容易く吹き消し、そんな攻撃をしてくることなど全く考えていなかった妹紅を地面の雪もろとも吹き飛ばす。
吹き飛ばされた妹紅は地面に叩き付けられる
「……え?」
「全く、これで俺が妖怪じゃないと分かってもらえたか?」
「(さっきの暴風、もしかして彼がディアボロなの?だけど、さっきのは……もしかして)」
前に、メイド・イン・ヘブンで加速したディアボロに、ウェザー・リポートで背後からキャッチされ、持ち上げられる。
「化ける狸や狐がこんなことはできないだろう」
ディアボロはそう言って、ウェザー・リポートの手を放す。
妹紅は特に何か反撃をするわけでもなく、普通に着地する。


地に足を付けた妹紅は、すぐに後ろを向いて不満を込めた眼差しでディアボロを睨む。
「何だ?」
ディアボロはやはりその眼差しに動じず、妹紅に問いかける。
「貴方……まさか輝夜に力を分け与えられて、けしかけられたんじゃないでしょうね?」
「(何でそんな考えに至るんだ……)」
どうやら先ほどの加速は、ディアボロが輝夜から一時的に分け与えられた能力によって起きたことだと妹紅は解釈してしまったらしい。
彼女がそう思ったのには根拠があり、『蓬莱の薬』と呼ばれるものは、彼女の能力によって作られているという実例がある。
故に、ディアボロが輝夜の能力によって作られた、時間に干渉できる何かしらの特殊な道具を持っていると思ったのだろう。
確かに、普通の人間には現象の加速などできるはずもないので、彼女の知識や経験からそんな答えを出すことは別に不自然ではないのだが。


時間干渉の観点からだけ見れば確かに似ている。
しかし、一定の時間を『決められた距離の道』、時の流れの影響を受けるものを『そこを進む者』と例えると以下の違いがある。

メイド・イン・ヘブンは『時間の加速』、つまり『そこを進む者』に影響を与える。
道を進む速度が上がれば、普通よりも早く『距離の決められた道』の終わりに到達するのは必然である。
……『決められた距離が変動する』などという、イレギュラーな事態が起こらない限りは。

それに対して、輝夜の能力は『永遠と須臾(しゅゆ)を操る程度の能力』、つまり『距離の決められた道』そのものに影響を与える。
決められた距離が長くなれば、道を進む速度が上がらない限りその道の終わりに到達するのが遅れるのは必然だ。
決められた距離が短くなった場合も同じである。道を進む速度が下がらなければ、その道の終わりに到達するのが早くなる。

ちなみに須臾とは10の-15乗、つまり1000兆分の1。永遠とは真逆の単位だが、その両方を操るとは、流石は『夜』でも『輝』きは劣らぬ『姫』である。

286東方魔蓮記第五十一話:2014/11/15(土) 22:40:27 ID:ZIWs80kc0
「何故そう思った?」
「貴方の持っている『それ』よ」
妹紅がそう言って指さしたのは、ディアボロが使うDISCを入れているケース。
どうやらクラフトワークとメイド・イン・ヘブンを入れ替える瞬間を目撃されていたようだ。
「これのことか?」
ディアボロがそう言ってケースから取り出したのは、ストレイキャットのDISCだ。
「確かにこれには一枚一枚別々の能力が封じられているが、お前の考えているようなものはないぞ」
ディアボロはそう言って、DISCを再びケースの中に入れる。
「それに、俺は輝夜に会ったことはないし、永遠亭に辿り着いたことすらない」
「……そう、ならいいわ」
妹紅はそう言うと彼女の家まで歩いていき、戸を開く。
「取りあえず入りなさい。このままじゃ寒いでしょう?」
「ありがとう。おじゃまさせてもらう」
妹紅の誘いに乗って、ディアボロは妹紅と一緒に彼女の自宅に入っていく。

「さっきは悪いことをしたわね」
「気にするな。珍しくないことだ」
妹紅の謝罪を受け、それを気にすることはないとディアボロは彼女に言う。
そしてお互いに向かい合う位置に座る。

慧音と妹紅は親しい仲だ。
慧音がディアボロに、妹紅と会ってみたらどうだと提案したということは、少なくともディアボロについての人物像や能力についてはある程度彼女に伝わっているのだろう。
ということは、ディアボロの能力の一つに『天候操作』があったことも恐らく伝わっているはず。
つまり、先ほど引き起こした暴風によって、意図せずして目の前の男がディアボロであると証明することになったようだ。
「貴方については、慧音から大体のことは聞いているわ。でも、なんで慧音は貴方と私を会わせたかったのかしら?」
「さあな、俺は心を読む能力は持っていないからな」

今のところ、相手の心を詳しく読めるスタンドは確認できていない。
テレンス・T・ダービーのアトゥム神でさえ、質問の答えに対しての『YES/NO』の二択でしか相手の心を読むことはできない。
もしも心を詳しく読むスタンドが発現するとするならば、その本体は何かしらの恐れのあまりに人間不信を通り越して『極度

287東方魔蓮記第五十一話:2014/11/15(土) 22:43:58 ID:ZIWs80kc0
む、区切りがおかしいな。
さっきの文章の最後の一行は

もしも心を詳しく読むスタンドが発現するとするならば、その本体は何かしらの恐れのあまりに人間不信を通り越して『極度の生物不信』か、相手の気持ちすら細かく知りたがる『極度の知りたがり』かも知れない。

です。
では、一行明けて本文の続きです。

「だが、慧音が何かしらの意図を持って俺たちを会わせたかったのは間違いないだろう。それも、恐らくお前のことを思ってだ」
ディアボロがそう言うと、妹紅はため息をついた。
「なんで……」
妹紅がそう言ったのを、ディアボロは聞き逃さなかった。
「付き合いの幅を広げてあげたいとおもったんじゃないか?」
「…………」
ディアボロの発言に、妹紅は無言で彼を見る。
「どうやら、あまり交友関係は広くないようだしな」
そんな妹紅にディアボロは笑みを浮かべながら冗談を言う。
その冗談を真に受けて、妹紅は沈んだ表情をする。
「……だって私は」
「『死ねない』んだろう?」
ディアボロのその発言に、妹紅は驚く。
この男は、私と会うのは初めてのはず。なのになぜ、そんなことを知っているのかと。
「何でそのことを!?」
「俺とて、何も知らずにお前に会いにいったりはしない」
紫の記憶から、彼女のことはある程度理解していた。

彼女は絶対に死なない。
細切れにされようが、体の芯から凍らされようが、爆破されようが、潰されようが、肉体が亜空間に飲まれようが、絶対にである。
勿論、寿命も『ない』。故に老いることも『ない』。
だから、生物を老化させるグレイトフル・デットは彼女には全く効かない。相性が悪すぎるのだ。

「それに……」
ディアボロはそう言って、過去を振り返るかのように遠い目をする。
頭の中に思い浮かぶは、かの惨劇の日々の光景だ。
「俺も似たようなものだ」
「……!?」
ディアボロの言葉に、妹紅は再び驚く。
「俺は死んでも、世界のどこかで意識と元の肉体を取り戻す。今は大丈夫だが、かつてはその直後に何かしらの要因で再び死んでいた」
「それって……」
「無限に続くはずだった死の連鎖……というやつだな」
ディアボロの説明に、妹紅は心配そうな表情をする。
「大丈夫だ。幸いにも、俺の心は一度も壊れずに済んでいる」
ディアボロはそう言って、笑みを再び妹紅に見せる。
「このことを話すのはお前が初めてだ。だから、この話は内緒にしておいてくれ」
ディアボロはそう言って、所謂「シーッ」のジェスチャーをする。
二人の不死に関する違いは、望んで得たか否かの違いでしかない。
「……わかったわ。それと一つ、貴方に聞きたいことがあるの」
「何だ?」
「貴方は、昔よりも充実した毎日を送れているの?」
妹紅のその質問は、彼の心を試す質問。
その質問に
「ああ。今までよりも充実している」
ディアボロは彼女が望んだ答えをだすことができた。

「そう。私も、この地に来ることができて良かったと思っているわ」
思わぬところで自身と似たような境遇の者と出会えたからか、先ほどは見せなかった笑顔を、妹紅は見せた。

「これから輝夜と殺し合いに行くけど、貴方もついてくる?」
「折角だ、ついてくるとしよう」
妹紅の突然かつ内容に驚きかねない質問に、ディアボロは特に動じることなく答える。
お互い、如何やらそういうのには慣れっこになってしまっているようだ。

二人は立ち上がり、妹紅の自宅を出る。
目指すは永遠亭。輝夜のいる場所だ。

288セレナード:2014/11/15(土) 22:45:51 ID:ZIWs80kc0
投稿終了。妹紅の口調が女性っぽいのは原作通りです。
男っぽい喋り方をする妹紅も、二次創作ではそれなりに見かけますがね。

ポケモンの新作はほしい。
だが新・世界樹の迷宮2も興味はある。
……どうしようものか。

289名無しさん:2014/11/19(水) 22:39:05 ID:cWjcvc020
投稿お疲れ様です!
…ディアボロさん、能力を披露して妖怪じゃないアピールするのは良いけど妖怪より強そうな能力披露してどうするの!
確かに狐や狸にはできないでしょーが。そうじゃない感ww

自分は妹紅は女っぽい口調のほうがいいですねぇ。かわいいですからねぇ。
でも原作通り、ですが割と曖昧に書かれていたような。儚を読んでいないのでわからないですが…
魔理沙程度の中性くらいなのが似合うのかも。

290どくたあ☆ちょこら〜た:2014/11/28(金) 16:22:01 ID:qLccgNZs0
セレナードさん、投稿お疲れ様です!
【メイド・イン・ヘブン】と『永遠と須臾を操る程度の能力』の比較、なるほどと感心致しました。実際に輝夜が能力を使った描写は原作には無かった筈なので、どのような現象が起こるのか実態は不明ですが
『複数の歴史を同時に持てる』って何だよ…分身?平行世界?
『須臾を集めて自分の時間にできる』というのは、攻殻機動隊で敵が日本全国の電子マネーのやりとりの際に発生する小数点以下の金額を集めて自分の資金にしていたのと似たような理屈なのでしょうか
『心を完全に読めるスタンド』は、【ヘブンズ・ドアー】と【ホワイトスネイク】がそうですね。どちらも本体は相手が自分をどう思っていようが歯牙にもかけない精神性を持っていたからこその、あの傍若無人な能力なのでしょうね

妹紅は小説版儚月抄では中性的な言葉遣いですね。口調がコロコロ変わるのは東方キャラの宿命…

次回、妹紅とディアボロのvs永遠亭戦。東方世界で最強格の月人二人ならば、ディアボロにも苦戦を強いることができそうですね。
次回、期待しております

291まるく:2014/12/01(月) 13:55:59 ID:mNSIplWs0
完成→酒飲む→泥酔→寝る→今
あははぁ。というわけで投稿させていただきます。
諏訪子のあたりから想像されていたかもしれませんが、藍の性格に、というか嗜好に違和感を持たれる方もいるかもしれない流れになってしまいました。
他にも、いろいろ。違和感というか嫌悪感を感じてしまったらごめんなさいです。
でも、その方がらしいと思いながら書いた始末でもあります。
んでは。


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