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錬金術師は遂せるようです

1 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 00:49:46 ID:YLCyI6VU0
ラノブンピック参加作品です
ややグロ注意

59 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:20:59 ID:YLCyI6VU0
しかし首飾りは、行方知らずとなった。
事が発覚したのは、宝石商ベーマーの告発であった。
ラ・モット伯爵夫人に託した首飾りの代金が、待てど暮らせど支払われなかったのだ。
調査の結果、伯爵夫人は首飾りを解体し、諸外国へと売りはたいたのだという。
無論ロアン枢機卿が託した代金も、彼女が持ち逃げしたままである。
激怒したマリー・アントワネットは、関係者を片っ端から逮捕した。
この時カリオストロ伯爵も、首謀者の一人に数えられて逮捕されてしまった。
日頃より神秘の業によって、貴族から金品を巻き上げていた彼は、
やはり疑わしく思われたのだろう。
その後の判決でカリオストロは、無罪放免とされたが、
代償は大きかった。
元より民衆から貴族への不満が高まった時期でもある。
名声を失った彼は、徐々にパリの社交界から、姿を消したとも言われている。

60 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:22:05 ID:YLCyI6VU0
――凝り固まった眉間の皺を伸ばすように、入間の目が開かれる。
その瞳には、軽蔑するような色が浮かんでいた。

( ^ν^)(誰も彼もが欲に塗れ、
       それが呼び水となっているような事件だ)

より強大な欲に呑まれた人間は、目先の欲に囚われる弱者を捕食する。
弱肉強食とはよく言うが、人間同士で行われるとどうにも気持ちが悪い。
潔癖な入間は、そう思わざるを得なかった。

川 ゚ 々゚)「じゃーん!」

折り紙の完成を喜ぶ声が、突如として響く。
何の変哲もない、それはブックカバーだった。
まるで小人の皮を剥いで装丁にしたような、
猟奇的な趣きしか、入間は感じなかった。
本の裏表紙にあたる部分には、脳の断面図も描かれているらしい。
それがなおのこと、カバーの不気味さに拍車を掛けていた。
來狂はコレクションの山へと近付くと、乱雑に本を放った。
決して軽くはない音が響き、衝撃で山はまた雪崩を起こした。

川 ゚ 々゚)「今日の片付けは、おーわり」

( ^ν^)「冗談だろ」

パラパラと未だ崩れる山に、入間は呆然と言葉を放った。
しかし來狂は、清々とした顔付きだ。

川 ゚ 々゚)「だってあの紙も、あの本も、別々に置かれていたものなんだよ?」

それを一つに纏めたのだから、これは整理したうちに入る。
來狂の言い分は、そのようなものだった。

( ^ν^)(片付けの概念にズレがある……)

頭を抱えそうになるが、ふと気付く。

61 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:23:58 ID:YLCyI6VU0
鶴嘴には、参倍郷のシンボルが刻まれていた。
しかしそのシンボルマークには、隠された意味があるらしい。
そして來狂は、王妃の首飾り事件にヒントがあると言った。
無数のダイアモンドを使った、首飾り。

( ^ν^)(巨額の富と、名声、野心。
       それらを叶えるはずだった、宝飾品)

錬金術師としての勘が歴史を希釈し、人格によって寓意が濾過される。
いっそ気持ちの良さを感じるほどに、かつて生きた人々の思惑と感情
――獣性とも表現できる、生々しい心の動きが、入間に迫る。

( ^ν^)(鶴嘴によって地を拓き、
       地を潰すことによって、磨きを掛ける)

シンボルとされるマークは、ブリリアントカットの図。
ダイアモンドの持つ輝きを最大限に活かし、
物質としての価値を最上級に高めるものだ。

( ^ν^)(彼女――『乳母』の肉体は、
       ダイアモンドの鉱山そのもの……?)

少女を拓き、少女を潰し、生ずる骨肉と血から産まれるダイアモンド。
――それこそが、会員の欲望を叶えた産物。

( ^ν^)「つまり人々が欲望を向けることで
       ダイアモンドは一層の価値を背負い、
       全ての事物に干渉する富に換算されるため、
      どんなものでも手に入るという仕組みか――!」

縺れそうになる舌をいなしながら、入間は答えを叫んだ。

川* ゚ 々゚)「んふ」

智を手にする残酷さに、來狂の笑いは止まらない。
微かに漏れた声には、何千といる錬金術師たちの総意が隠れているようにも思えた。
彼は、いや彼らは、ほんの少し、
人間を辞める道へと歩む入間を祝福しているのだろう。
悪辣な祝言に気付かず、入間はなおも考えることが止められない。

( ^ν^)(だが宇宙には、等価交換の原則がある)

それは錬金術の大原則でもあり、長きに亘る人々の営みにも付随する掟だ。

( ^ν^)(いくらダイアモンドが万物の価値と欲を
       集約していると解釈出来ても、その実現には先行投資が――)

ヒュ、と彼の喉が鳴った。

62 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:25:30 ID:YLCyI6VU0
参倍郷には、金がある。

( ^ν^)(会員費か――!)

全身の毛穴をこじ開けて、戦慄が彼の身を蝕もうとしているようだった。
奥歯を噛む入間の顎から、ギリギリと終末じみた音が聞こえる。
それがかえって、彼の立つ瀬を指し示しているように思えた。
何故なら錬金術師は隙間産業であり、絶滅寸前の儚き職業でありながらも、
絶対に滅ぶことのない、罪深い浪漫であった。
飄々と生きている來狂も、必死になって隷従する入間も、危うい学業の渕を歩いている。
そういう意味では、錬金術師であるというだけで、彼は単なる孤独ではなかった。
ゆえに彼は、自分という人間の矮小さと宇宙の広大さ、それが恵ばかりでなく、
濃淡鮮やかな深淵さえをも含めて、自身に宿る小宇宙でも同様のことが起こる奇跡だと――。
ようやく、受け入れることが出来るのだ。

63 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:27:20 ID:YLCyI6VU0
( ^ν^)「分かったぜ……」

息も絶え絶えといった様子で、入間は言い聞かせるように呟いた。
カリオストロが後世に残した、無限の富の正体。

それは、『その人物が生涯獲得する資産を先出しする』ことで産まれるのだ。

( ^ν^)「最初から裕福な生まれの者でなければ、富は得られない」

カリオストロの定めた裕福が、どれ程の額を指し示しているのかは分からない。
しかしどう考えても、答えはそうなってしまう。
末端の構成員を【王】は殺し、会長の娘である都子を【王】は見初めた。
それは揺るぎない事実なのだ。

( ^ν^)(とんでもねえ自転車操業だな)

懐に入る会員費を願望の巨大さが勝った瞬間、参倍郷も都子もタダでは済まないだろう。
高い買い物の割に、大損としか言えない結末であった。

川∩ ゚ 々゚)「お勉強の時間はもう終わり?」

片肘をつく來狂に、入間は首を振る。

( ^ν^)「カリオストロ伯爵は、たしかに無実だった」

恐れを振り切るように、入間は真実を口にする。
見守る來狂は、破顔を深めた。
――あくまでも入間の推測だが、カリオストロは首飾り事件の
首謀者に数えられて、相当腹が立ったのだろう。
首飾りを彩った五四〇粒のダイアモンド。
その輝きゆえに人は金に目が眩み、あるいは野心を叶える至宝として夢を見た。
それでいて傷みを添加したのは、彼なりの嫌味なのだろう。
腕によりをかけた傑作【傷みの王】を通じて彼は主張する。
あの事件をもし錬金術師である自分が計画したら、
それに関わった相手はどうなってしまうのか。
徹底した破滅を敷くことで、彼は身の潔白を訴えているのだ。

( ^ν^)(きっと、おそらく、そうだと思う)

煮え切らない言い方は、そうであって欲しくないという願いでもある。
けれどもその可能性は、ゼロに近い。
わかっていながらも、入間は願うことを止められない。
それこそが彼の小宇宙を支配する、
正義であり、善性であり、未成熟を示す獣性なのだ。

64 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:28:04 ID:YLCyI6VU0



三章 乳母は仰せるようです


.

65 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:28:55 ID:YLCyI6VU0
都子の元付き人――模原 臨(もばら のぞむ)は、
美府駅より遠く離れた地を歩いていた。
もし彼の周りに、構成員が従属していたら、
駅周辺を探したいと願っていたことだろう。
されど幸いなことに、模原は邪魔な人間を一人も連れてはこなかった。

( ・∀・)(元々取るに足らない無能な集団だ)

彼の中での構成員たちは、そのような位置付けだった。
都子のスケジュールを確認し、詰まりに詰まった予約に嘆息し、
何とか相手に延期を申し出、歓心を買うように謝る。
――そんな仕事を、模原は請け負ったことがない。
電話を切った後の彼らが罵詈雑言を吐き、
部下に当たる様を、模原はよく目にしていた。

( ・∀・)(そんなつまらない人間と、自分は違う)

自負する模原は、己が技術を磨きあげた。
結果彼の人身掌握術――【選択肢の狭窄】は、完璧だった。
ただ一つの弱点を除いては。

( ・∀・)(規約を破るバカがいただなんて)

都子を連れ戻したら、真犯人を探らなくてはならない。
新参会と繋がっている以上、いくら金払いのいい
会員といえど、容赦は出来ない。

( ・∀・)(どうせ無能のバカ共には、
       誰の手引きによるものかなんて分かるはずもない)

肥大した模原の自尊心は、徹底的に彼らを切り刻む。
とはいえ今回の件は、不愉快なことばかりではない。
入間という錬金術師に、お目にかかれたのだ。
参倍郷の抱える一人を除き、模原が
錬金術師と出会ったのは、これが初めてであった。
無論参倍郷の会員も多かれ少なかれ、
錬金術師ではあるが、いかんせん彼は都子のお目付役に専念していた。
よって彼は、入間に強く興味を惹かれていた。
参倍郷の錬金術師よりも、ずっと青臭く、愚直な業を彼は使うのだ。

66 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:32:41 ID:YLCyI6VU0
幸い模原の肉体は、驚異の再生能力を誇る。
その上一度会った人物の足跡は、手に取るように辿ることが出来た。
現在彼の脳は、特定の周波数を受信するラジオのように、入間の脳波を捉えている。
優れた動きと燃えるような闘志。
そして真理を掴む為には何の犠牲も厭わない貪欲な脳波は、非常に追いやすかった。
とはいえ、やや気がかりなことがあった。
模原は最初、都子の脳波も同時に追っていたのだが、途中で接続が途切れてしまったのだ。

( ・∀・)(目眩しの術も使えるようだし、
       新手の術によって誤魔化しているのだろうか)

もしそうだとしたら、と考える模原の胸はときめきに満ちていた。
謎の錬金術師、入間。

( ・∀・)(仕事とはいえ、殺すには惜しいなぁ)

区画整理の対象地区に足を踏み入れた模原は、ぼんやりとそう思った。
グンと強まる入間の気配に、釣り上げられた魚のように模原は導かれる。

( ・∀・)(けれども、ご勘弁を)

こちらにも負けられない理由がある、と模原はひとりの少女を思い浮かべた。

67 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:37:52 ID:YLCyI6VU0
――模原が能力を使う際、一つの制約が存在した。
それは、今は亡き妹を想起することだった。
強く強く念じ、降霊術のように、朧な妹をこちらへと寄せる。
模原の妹は、非常に病弱であった。
産まれてから一度たりとも病院の敷地を越えたことはなく、
星明かりの瞬きによって細胞が崩れてしまうほど、体が脆かった。
ベッドから起き上がることの出来ない彼女の楽しみは、
兄と行く十五分程度の散歩だった。
新月、曇天の空という条件が揃うことで、
一切の光を拒む妹はようやく外に連れ出すことが出来た。
妹の肌は青白く、骨が浮き出ていた。
車椅子には酸素ボンベと三種の点滴袋が搭載されていた。
妹は模原のことを「のぞむ」と呼んでいた。
その名を呼ぶ声は、薬品を吸い込むべく、
ピペットを押した際にガラスを吹き抜けるか細い風のようなものだった。
妹はそれ以外に言葉を知らず、立つこともなく、
自発的に呼吸をせず、兄の手を握ることも出来なかった。
そんな妹を見捨てた両親の顔を、模原はまったく覚えていない。
むしろ両親という概念が存在したかさえ、彼には怪しい。
彼の世界は自身と、妹と、それ以外のものしかなかった。

( ・∀・)(ああ、妹よ)

嘆息のような模原の吐息が、湿気たビルの内部をかすかに揺らす。
どこにも人の気配はなく、模原は歩みを進める。
一歩一歩と前進するたびに、模原と入間は文字通り近付いた。
無間にも続く階段を踏みしめて、一層模原は妹への懸想を強めた。
彼には悔やんでも悔やみきれない過去が存在していた。
いよいよ虫の息と化す妹を前に、模原は【傷みの王】を捧げたいと考えた。
ゆえに彼は、妹を【王】の移植先として推薦していた。
幸い移植先に困っていた参倍郷は、その提案を受け入れた。

68 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:38:27 ID:YLCyI6VU0
けれども参倍郷の会長は、模原の妹に移植する直前で、判断を翻した。
そして会長は、自分の娘に移植を試みた。
どうせ彼女も死んでしまうだろう。
そう思って妹を励ましていた模原の予想は、裏切られた。
高出 都子に【王】が適合したと知った晩、妹は死んだ。
模原が都子の付き人に任命されたからだ。
模原の能力は、対一人のみに作用する。
ありとあらゆる可能性を奪い、妹に「生きる」という選択肢のみを提示し
続けた模原は、以降都子から「逃げる」という選択肢を奪わなくてはならなかった。
模原は、慟哭した。
それと同時に、模原の能力には妹の翳が差し込むようになった。
都子の選択肢を奪い続ける日日是日日、一度たりとして妹の死を忘れたことがない。
献身と愛情が一転し、憎悪と徒労へと姿を変えて、彼の能力は強化した。

(  ∀ )(それもこれも、都子。総ては君のせいだ)

真空じみた咆哮を携えて、模原は屋上への扉を開けた。
もう、すぐそこに、入間という錬金術師は立っている。
模原の練り上げた歪な選択肢を、押し付けられるとは知らずに――。

69 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:39:48 ID:YLCyI6VU0
じっとりとした空気から解放されると同時に、模原は開けた場所に出た。
空は未だ雲に覆われ、もう一雨降りそうな気配があった。

( ・∀・)「!」

ぼたぼたっと滴る液体に、模原は一瞬怯んだ。
ややとろみのあるそれは、なんてことはない。
ただの血液であった。
踏み出す模原が振り返りしな、頭上を見上げる。
黒く大ぶりな影は、貯水槽だったに違いない。
中途半端に残った梯子をつたい、血が滴っている。
バリ、バリ、と岩を齧るような音が聞こえた。
視線を正面に戻すと、欄干にもたれかかる入間がいた。
岩塩を頬張る彼の口は赤く染まり、鬼神のようだった。

( ・∀・)「都子さんを『利用』されたんですね」

一歩入間へと近付いた模原は、笑んでいた。
もっともその表情には、隠しきれない悪意が滲み出ていた。

( ^ν^)「だったら、どうした」

シャツで口元を拭う入間に、模原は間抜けな道化師を連想した。
都子謹製のルージュは、いささか量が多すぎた。

( ・∀・)「あんなにも、我々を非難し、
       あんなにも、人並みの扱いをして、
       あんなにも、紳士を気取っていたというのに!!」

滑稽と嘲笑の的となった入間を、模原はいよいよ哄笑する。

( ・∀・)「たかが一口の為に、彼女を殺すだなんて!」

けたたましい笑い声は、凪いだ水面に落ちる一滴の墨汁のようだった。
波紋を描き、跳ねた雫が揺れる波間に沈みゆき、
透明な泉は夜色の液体を拡散する。
注意深く動向を伺っていた入間の眉が、微かに動く。

70 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:40:52 ID:YLCyI6VU0
( ^ν^)(来た――!)

その刹那、入間は、脳だけが一人の人間として人格を持つ心地がした。
入間の肉体という器から、体積を増やした脳が溢れ出しそうになる。
それでも入間の魂は、不本意な逃走を企てる脳を、しっかりと見張っていた。
入間の脳は戸惑い、ありもしない幻想を映す。

「のぞむ」

文字として認識したはずの言葉が聴覚野を刺激し、海馬では目まぐるしく血が巡った。

(  ν )(ああ、これが、お前の妹なのか――)

脳の反乱は、小康状態へと堕ちた。
物事の決断を司るニューロン――。
とはいえ入間は、具体的な場所を把握出来なかった。
何故ならそれは、最新鋭の科学でさえも明かすことが出来ない、深夜の道であったから。
そこが熱を帯びたように、姿を変えていく。

71 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:41:23 ID:YLCyI6VU0
それは、盤上であった。
入間と模原、それぞれの領地を示す色のついた石が転がっている。
入間が一つ、自分のために事を成せば、領地がまた一つ増える。
入間が一つ、模原のために事を成せば、
入間の領地を奪って、模原の領地が一つ増える。
しかし入間が、あまりにも入間のために領地を増やしてはならない。
拡大した領地を、狡猾な模原は奪い返す。
その瞬間が来たら、入間は選択の余地がなくなる。
そして、模原のために、模原の領地を増やすしかなくなるのだ。

(  ν )(勝手に、人の脳みそでゲームをやりやがって……)

ぞっぷと胸に迫り上がる吐き気を飲んで、入間は模原を睨む。

( ^ν^)「ボケが、喧しいんじゃ」

入間が腕を振ると、ナイフが握られていた。
模原と同型の、サバイバルナイフだった。
んっふ、と笑みを殺し、模原もナイフを見せつけた。

( ・∀・)「同好の士として、先手は譲って差し上げます」

( ^ν^)「同じ穴の貉だって言えよ」

自虐的な入間に、模原は慈しく嗤笑した。

72 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:43:00 ID:YLCyI6VU0
それを皮切りに、入間は屋上を駆けた。
模原へ肉薄し、まずはその右肩に刺突を仕掛ける。
模原は肩を引き、入間のナイフを躱す。
空振る入間の左手首を切り落とすべく、今度は模原がナイフを走らせた。
後退する入間だが、名残惜しいのか、蹴りを放つ。
模原の顎を狙ったが、間一髪、左肘によって払い落とされてしまった。

( ^ν^)チッ...

なおも後退する入間を、模原は跳躍して追い詰める。
狙うは入間の脳天、ないしは首であった。
落下の勢いを利用し、模原の凶刃が入間へと迫る。
一瞬焦ったような表情で、入間は前転して避けた。
しかしその背中に、薄ら寒いものが走った。

(;^ν^)(ヤバ――)

大仰で隙の多い攻撃は、模原のブラフだった。
悟る入間の背後に、投擲されたナイフがなぞろうとした時だった。
超加速した入間は、右腕でナイフを薙ぎ払った。

ギャリッ――…………

鉄で鉄を殴ったような音が、虚空に響く。
弾かれて明後日の方向へと向かうナイフは、欄干を越えようとしていた。

( ・∀・)「おぉっと」

肉が抉れるのも構わず、模原の素手はそれを握り締めた。
ボタボタと血が垂れるが、屋上を濡らす前にそれは掻き消えた。

( ^ν^)(まるで液体窒素が蒸発するようだ)

改めて人外の能力を目の当たりにし、入間は苛立った。

( ・∀・)「うわ、痛くないんですか?」

( ^ν^)「クソ痛ェわ、ダボ」

食い気味に入間は答えた。
その証拠に、右腕は柳のように揺れている。
度重なる酷使によって、筋は弛緩しきっていた。

73 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:43:48 ID:YLCyI6VU0
( ^ν^)(いよいよピンチだな)

ピンボケした危機感が身を襲うが、入間にとっては計算の内だ。
不遜な笑みを漏らし、模原はナイフを逆手持ちした。
入間がそれを視認するよりも早く、模原は彼の間近へと駆け出した。
入間へと振られるナイフは、相変わらず大味な攻撃である。
――さて入間の脳裏には、こんな選択肢が浮かんでいた。

一、模原の首をへし折る
二、模原を撲りつける
三、鍔迫り合いをして、攻撃を防ぐ
四、自殺する
五、自分の目玉を抉り出す
六、土下座して、模原に首を差し出す

この中にどれだけ、入間の自由意志が与えられているのか。
答えはたった二つ――三番以降の選択肢は、模原の干渉によって与えられた選択肢であった。
この勝負、入間の分は相当悪かった。
なにせ彼の脳裏では身勝手な陣取りゲームが行われているし、
選択肢を注視するには、余計な集中力を割かなくてはならなかった。
おまけに入間の肉体は、長年の勘によって反射的に動くきらいがあった。
うっかり陣地を増やし、それを一斉に奪い返されてしまったら、
一戦目に起きた選択肢の詰みに陥ってしまう。
平時であれば有難い反射神経も、今回ばかりは足手まといと化していた。

( ^ν^)(まったくもって、クソみてぇな選択肢ばかりだな!)

バチギレしながら、入間はマシな選択肢を採った。
入間の持つナイフと、模原のナイフが交差。
そして一厘の火花を散らし、聞くに耐えない音を生み出した。

(;^ν^)(あっっっぶね)

飛び退く入間は、手中のナイフを見やった。
幸いナイフには小さな傷が残るばかりで、折れることはなかった。

74 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:44:26 ID:YLCyI6VU0
( ・∀・)「もっと僕の近くにおいでったら」

甘ったるく、妙な色艶を滲ませて、模原は入間の懐へ詰め寄った。
放たれる斬撃を、入間はなんとか躱す。

(  ν )(まだなのか、都子――)

奪われる選択肢を垣間見て、入間は動きを鈍らせた。
好機とばかりに、模原の左手がフックを放つ。

(; ν )「ぐぅ――ッ!」

クラリとする意識を保ちながら、入間は模原を睨む。
まともにパンチが入り、模原は調子に乗ったらしい。
もう一回殴ろうとする相手を、入間は切りつけた。
微かに表情を歪ませた彼は、左腕が切り裂かれていた。
入間の頬に、生暖かい血が飛んでくる。
されど模原は、構わず突っ込んできた。
姿勢低く、入間は模原の脇をすり抜けた。

( ^ν^)(あっ)

そう思うも、時すでに遅し。
去り際に入間は、模原の横腹を裂いていた。
反射的に下した選択肢を、入間は止められなかった。
蓄積した疲労は、並行して行われるゲームにも影響していた。
ちょうど今、脳内の入間は模原の駒を蹴散らかすところだった。

( ^ν^)「あぁ……」

徒労に終わった声が、入間から漏れ出した。
飛び出したモツが逆再生するように、つるんと模原の腹へ戻ったからだ。

( ・∀・)「本当に、惨いことばかり施すんだから」

痛くもない腹をさすり、模原は少々苛つきを見せた。

75 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:44:58 ID:YLCyI6VU0
模原は入間に追い、回し蹴りを放った。
綺麗に吹っ飛ぶ入間は、ひび割れた屋上の床へ叩きつけられた。
すると模原は回転の勢いを活かし、夜空へと躍動して見せた。
両手でしっかと握られた刃が、模原の頭上で宵闇と同化しかけている。
入間を縫い付けんとして、それは振り下ろされた。
間一髪転がった入間は、頬に熱い感触を覚える。
ナイフは彼の頬を掠め、薄く傷を生じさせたのだ。
床にナイフが食い込み、模原は微かに戸惑った。
しかしなおも逃げようとする入間の腹を、
模原は踏み潰すようにして、引き止めた。
轢殺された蛙のような声が、入間の喉から迫り上がる。
チカと明滅する思考には、盤上がチラついた。
そちらの戦況は、盤がグロテスクに染まっている。
先程見せた入間の反撃に、模原の手駒は喜び勇んで食い物にしたらしい。
劣勢に追い込まれた入間の手駒は、憎きその陣地を塗り替える隙を伺っていた。

(; ∀・)「イ、ッ――!?」

手にしていたナイフで、入間は模原のアキレス腱を切断した。
あまつさえその刃は、足首の関節へと潜り込む。
ヵッ――と、枯れ木が倒れるような音がした。
それは模原の足を結ぶ関節が、軽妙に外れる音だった。
筆舌しがたい悲鳴を上げ、模原は地に伏せた。
彼に囚われていた入間は、ヤモリのようにするりと流れた。
体制を立て直し、しっかと握った刃が模原の背腹を貫いた。
ただし入間はこの攻撃に、【超加速】を施していた。
柄まで血濡れた刃から衝撃が走り、細かな波として模原の肉を吹き飛ばす。
それでも模原は、ナイフを手放していなかった。
肩が外れることも厭わず、瀕死の怪力によって、
模原は並外れた動きでナイフを振るった。
狙うは彼――入間の首、ナイフは迫りゆく。

76 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:45:41 ID:YLCyI6VU0
その時だった。

ζ( Д *ζ「模原 臨!」

模原の腕は、ピタリと動きを止めた。
刃を刺したまま、入間は顔だけを給水塔に向けた。
そこには元の気丈さを得た黒衣の魔女――都子が立っていた。

ζ(゚ー゚*ζ「あなたに、妹なんかいない」

それは、謐けさに投じられた一石そのものであった。
地に伏せる模原は、ガツンと頭を殴られたような心地だった。

(  ∀ )「いない、だって?」

力無く呟かれた言葉に、入間はそっと懐に手を這わせた。
――都子の傷が癒えた時、合図と挑発を兼ね、
先の言葉を叫ぶよう入間は依頼していた。
模原の能力は対一人にしか効かないという仮説を、入間は立てていた。
何故なら路地裏の戦いで、模原は都子から逃亡という選択肢を奪わなかった。
己が能力の穴を塞ぐことなく、模原が二人を甚振るのは、
単なる偶然には思えなかったのだ。
よって入間は都子の傷が癒えるまで時間を稼ぎ、
彼女の恢復と同時に模原を挑発。
彼の注意を都子に惹きつけることが出来れば、入間は【狭窄】から解放されるのだ。

( ^ν^)(乱闘やりながら
       オセロの真似なんて、もう二度とゴメンだ)

ゴチる入間の口調には、余裕と勝機が滲んでいた刹那。

(  ∀ )「――オマエは」

どう、と入間の体が宙に弾き飛んだ。

77 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:46:20 ID:YLCyI6VU0
(; ν )「っ――!?」

(#o∀o)「あの娘の何を知っているというんだァァアァアアァァアアッッッ!!!!!!!!!!」

咆哮。
それ以外に形容しがたい音が、模原の口から発せられていた。
ビリビリと揺れる空気を吐く腹は、
杭として機能していたナイフを微塵に変える。

(;^ν^)「バケモノじゃん――!!」

白い水蒸気を放つ口内は、マグマのように滾った殺意の表れだろうか。
いずれにせよ、このままでは都子がタダでは済まない。
作戦を変更し、入間は銃を構える。
高速で落下しながらも、その銃口は模原の頭を狙っていた。

(#o∀o)「邪魔だ」

ところが入間は、明後日の方向へ投げ飛ばされていた。
いや、頭蓋を誰かに挽かれ――まるで脳がそちらへ行きたいと転移し、
彼の肉体と魂が追いついてしまったかのような挙動を、入間は引き起こした。

(lil ν )「ぅヴォエッ――」

超加速を越えた重力と斥力が同時に働き、
入間は内臓を直接打撲したような有様だった。
辛うじて銃を握りしめたまま、吐瀉物を撒いて彼は落下していった――――。

78 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:47:16 ID:YLCyI6VU0
激昂する模原は、今や人としての形を保っていなかった。
自身を人間として定義する動機――妹について、都子が否定を口にしたからである。
しかし模原は、そんな自分の有様に気付くことはなく、
未だ自らを人間の一種として認識をしていた。
すべては盲目的に、黄金を産み出す業――錬金術の成せる奇蹟と信じたままに。
彼は、進みゆく。
立ち竦み、こちらを見下ろす、高出 都子の元へ。
息を呑む都子が一つ瞬きをする度に、模原はその距離を縮めていた。
もはや彼の手は梯子を捉えている。
あと一つ、息をすれば彼女の首は捻られていたことだろう。

ζ( ー *;ζ(だけど、怖がってなんかいられない――!)

数巡前に入間と交わした言葉を思い出し、都子は勇気を口にする。

ζ(゚ー゚*ζ「そもそもあなたは、生きた人間ではない」

恐怖が膠のように張り付いていた筈の口が、
雄弁に言葉を紡いだ瞬間、模原は動きを止めていた。
彼自身理由は分かっていなかったが、
都子にはそれが、呆気に取られていたようにも思えた。

ζ(゚ー゚*ζ「あなたは、ホムンクルスなの」

(#o∀o)「何を、言っている――」

嘲笑するように、模原は呟いた。
彼の脳裏では、参倍郷に従事する錬金術師の口が動いている。
蒸留機に人間の精液を封じ、一定の温度を保ち続けることで、産まれる小人。
姿を生じた時点で、それはあらゆる知識を備えているが、フラスコの外へは出られない。
取るに足らない知識を持つ人間の手なしでは、
存在することすら叶わぬ知恵の小人。
――それこそが、ホムンクルス。

79 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:50:57 ID:YLCyI6VU0
(#o∀o)「そんなはずはない」

嘲りを含んで、模原は言い返す。
模原はまだ、何も知らないと自負している。
世の中のことも、宇宙のことも、錬金術についても、知らないことばかり。
黄金の智恵を持つ小人とは、程遠い姿だ。
そもそも単一で発生する小人に、妹という概念は存在しない。
模原には、妹がいる。
それだけで、模原は人間であると主張出来た。
されど都子の唇は、熱く真実を語る。

ζ(゚ー゚*ζ「わたしが一番初めに作り出した心臓は、
     ガラスの壁を越えることができない、あなたに与えられた」

模原の頬に当たる部分――黒雲めいた晦冥に、煮えた油のような血が巡る。

(#o∀o)「默れ、【フラスコ】如きが――」

発したのち、模原は絶句した。
あんなにも忌むべき単語を、智ある小人を封ずる
フラスコという言葉を、都子は抱えている!
開闢にも似た霹靂が、模原の体躯を戒めた。

ζ(゚ー゚*ζ「移植手術とあなたの発生、どちらが先かは分からない」

だけど、と続く言葉を模原は静かに受け入れる。

ζ(゚ー゚*ζ「わたしに【乳母のフラスコ】と
     名が付けられたのは、紛れもない事実でしょう?」

積み重ねられる信憑性に、しかし模原は頭を振った。
都子にはそれが、駄々を捏ねている小さい子供のように見えた。

(#o∀o)「妹が、いる」

繰り返された言葉に、都子は首を振る。

80 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:52:20 ID:YLCyI6VU0
ζ(゚ー゚*ζ「小さなフラスコから解放され、あなたは父に恩を感じた。
     だから全智を棄て、後釜を失うことで忠義を示そうとした」

(#o∀o)「煩瑣(うるさ)い……」

ζ(゚ー゚*ζ「そして始終見張らなくてはならない
     わたしに執着する理由立てとして、哀れな妹を――」

(#o∀o)「煩瑣いと言っているんだ!!」

瞬間、模原は見えざる脳波を手繰り、都子の脳を犯した。
己が手足の如く、都子の脳は容易く手中へと堕ちる。
幽けき姿の手弱女――妹を追憶し、恥知らずな侮辱を
紡ぐ口を封じようと、模原は選択肢を刷り込んだ。
都子に与えられた選択肢は四つ。
謝罪。
あるいは沈黙。
はたまた自害。
それとも舌を噛み千切るのか。

(#o∀o)(さあ、選べ――)

どうせ彼女は、どれも選べないだろう。
模原はほくそ笑み、そう決めつけた。
微動だにしない彼女に、模原がいよいよ迫ろうとした時だった。

ピチャ…………

天雫が垂れるような音が、模原の頬より響いた。
遅れて都子の口から、小塊が溢れた。

(;o∀o)「ッ――!?」

それは、舌だった。

ζ( ー *ζ「何度だって、否定するわ――」

些か幼さを含んだ斑声(むらごえ)が、
模原の鼓膜、三半規管、蝸牛――それらを超えて、脳へと響く。

ζ(゚ー゚*ζ「だってあなたの妹には、名前も貌も無いでしょう?」

81 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:52:54 ID:YLCyI6VU0
(;o∀o)「――――」

声なき模原は、もはや何を言おうとしたのかさえ、纏めることが出来なかった。
妹を幽閉せし胸の奥――黒けき洞に、火のついたマッチが落とされたような心地。
虚ろで、同時に盲いた過信を照らすに足る、暗澹とした光であった。
それを感ずると同時に、模原は思い出す。

――叡智とは、あらゆる物質が傅く神秘。
この世を統べる巨大なる法。
如何なる暴力によって破壊されようと、いつかは回復するものだ。
されど智が秘めたる不変性は、それもまた猛き暴力にも数えられる。
ゆえに智力はフラスコや骨の中に飼われ、一生を過ごすこととなる。
だからホムンクルスは、フラスコの外から出られない。

(; ∀ )「そんな……」

模原の呟きは、連想される言葉に対する命乞いだった。
それ以上智を得ることは、取り返しのつかない展開を迎える。
彼の直感は、警鐘を鳴らす。
しかし真理は、智は、決して彼を容赦しない。

――例外によって産まれ出でた心臓は、
小人を閉じ込めるフラスコを象徴していた。
それを胸裡に抱えることで自らに宿った智力を心臓に封じ、
ホムンクルスとしての性を、彼は捨て去った。
されど封じられてもなお、智は力強かった。
かの不変性を以って、智は模原の肉体に干渉した。
不変性は、彼に無限の再生能力を与えた。
そしてホムンクルスの性を忘れることのないよう、
他人の脳に干渉する力も与えた。
拒絶してもなおこちらに手を伸ばす智を、模原はひどく恐れた。
同時に智の持つ強大な力に、彼は魅入られてもいた。
ゆえに模原は、都合に悪いことを忘れることにした。
その姿勢こそが、まさに選択肢の【狭窄】そのものあった。
その力に甘んじて彼は鍛錬を重ねることもなく、
何の疑問も抱かず、盲いたままに自らの能力に溺れ続けた。
常軌を逸する覚悟も、強固に執着する美学も持ち合わせていない模原。
彼は、錬金術師ではなかった。

(; ∀ )(そんなことが、常識として、赦されるのか)

詭弁を口にしたい模原だったが、それは出来なかった。

82 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:53:38 ID:YLCyI6VU0
三発の銃声が、真夜中の虚空に響く。
一発目。模原の胸部を貫通し、苛烈なまでに破裂する。
それは、心臓を宙へと引き摺り上げた。
二発目。胸部に着弾した瞬間、それは水酸化ナトリウムの液を、四方に散らした。
強塩基性のそれは貪欲な肉体が枝葉を伸ばし、
心臓を受け取ることがないよう、傷を酷く灼いた。
三発目。宙を舞う心臓――玻璃を主材としたそれは、
どう見ても人の持つ臓器ではなかった。
ナトリウムの錬金記号が刻まれた凶弾は、
空気に含まれる僅かな水を糧に、一瞬の命を燃やす。
ピシ――、と内から外にかけて、心臓に罅が入る。
なおも暴れ狂う弾は、さながら卵を破る雛のようだった。

(  ∀ )「あぁ……」

成すすべもなく、模原の手から梯子が離れていく。
それと同時に、破滅という名の雛が孵る。
フラスコより生まれ、フラスコと同じ位置を持つ玻璃の心臓が、細かな粉塵と化す。
次いで起きた水素の爆発に巻き込まれ、それは跡形もなく消え去った。
――落下する模原は、その顛末を閑かに見守っていた。
揺らめく彼は、自分の腕を見やり、ようやく気付く。
そこには寒暖のどちらにも対応できる、
上質な素材で出来たシャツを纏った腕は存在しなかった。
ただの虚無であり、辛うじて残った人間性によって、
黒だと認識する脳だけが残されていた。

(  ∀ )(そんな……)

都子の言葉に信憑性が増し、模原は言葉を失う。
自分が何者であるのか、いよいよ受け入れ難い事実が忍び寄る。
かつて背中であった部分が、床に叩きつけられようとした時だった。

(  ν )「クッッッソ疲れたわ」

聞き覚えのある声が、彼を抱き止めていた。

(きみは、死んだはずでは)

もはや彼に口は残されていなかったが、入間は首を振った。
かろうじて他人の脳へと干渉する力が、彼には残されていた。
もっともこの状態では、彼の思考も相手に筒抜けとなる。
その事実について、彼は少々気恥ずかしく思った。

83 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:54:37 ID:YLCyI6VU0
( ^ν^)「必死こいて這い蹲って、ビルの壁をよじ登っただけだ」

タネを明かす入間の手は、皮がベロベロに剥けている。
さながら蝋引きした和紙のように、赤い血が滲出していた。

(その手をナトリウムに見立て、
 壁面に残った雨垂れで【超加速】を施したのか)

納得する彼に、入間は眉間を寄せた。

( ^ν^)「お陰様で久々に、銃の精度が狂うところだった」

(それでも当ててみせたじゃないか)

どうしてそこまで入間が必死になれるのか、彼には分からなかった。
彼にとってフラスコは退屈そのものであった。
出られた時には随分と喜んだような気がするのだけど、と彼は思った。

( ^ν^)(そりゃ、男同士の秘密だけども)

内裡でも小さな声で語る入間に、彼は惹きこまれていく。

84 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:55:10 ID:YLCyI6VU0
***


鶴嘴を持つ都子に、入間は首を振った。
どうしたって彼女の傷を付けることなど、彼には無理だった。

ζ(゚ー゚*ζ「入間さん」

しかし都子は、自ら歩み寄った。

ζ(゚ー゚*ζ「わたしを、『使って』ください」

( ^ν^)「だけど都子」

ζ(゚ー゚*ζ「わたし、今まで自分一人じゃ何にも決められなかったんです」

( ^ν^)「それは、模原や参倍郷のせいで――」

ζ(゚ー゚*ζ「ええ。機会そのものが奪われたってことは、理解していますよ」

首肯する都子は、後ろめたく思う入間の目を射抜いた。

ζ(゚ー゚*ζ「だからこそ、わたしも戦いたいんです。
     ほかでもない、わたしの自由の為に」

だから、と都子は入間に鶴嘴を託した。

ζ(゚ー゚*ζ「新しい依頼です。あなたと一緒に戦いたい
     わたしの為に、作戦を考えてくれませんか」

( ^ν^)「…………」

ζ(゚ー゚*ζ「【乳母のフラスコ】で産出出来るもの全て。それが報酬です」

そして回想内の都子は、入間に微笑んだ。
待ち侘びた春を植物が受け取り、花開くように。
それは間違いなく、彼女にとって、新しい一歩であった。

85 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:56:02 ID:YLCyI6VU0
***


(……――はは、)

入間の回想を見た彼は、蝕まれたように笑った。

( 色香も、空気も、音色も、所作も、何もかもが違うじゃないか)

まるで目の前で起きた出来事のような鮮やかさに、彼は惨めに認めた。

(これが、本物の記憶なんだ)

亡霊のような――もはやそれの名称すらも思い出せない、
虚構の思い出に固執していた彼は、力無く笑って、諦めようとする。

( ^ν^)(それでも、模原)

絶望にうな垂れる彼を、入間は包むように言葉を編む。

( ^ν^)(大宇宙に妹という概念が存在するかぎり、
       模原 臨という小宇宙の中で、それが生を
       享けることは、何ら不思議ではないんだよ)

(――――…………)

黙する彼は、近付く終焉と引き換えに、授かった智恵を取り戻しつつあった。
そして入間の真意を理解した上で、彼は応えなかった。
今更そう言われたところで、矮小なる智の小人へと
彼を引き戻したのは、その言葉が原因であるのだから。
だからこそ、彼は礼も言わなかった。
自分自身を騙す偽りがどんなものであったのか。
刻一刻とそれを忘れ行く彼が、一度でも思い出すことが出来た喜びについて。
彼は、敢えて触れなかった。

86 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:56:54 ID:YLCyI6VU0
( ^ν^)(広大なる法の許よ)

軽くなった手の内を眺め、入間は祈る。

( ^ν^)(下にあるものは上にあるもののごとく、
       上にあるものは下にあるもののごとく)

内に宿る小宇宙を気に掛けて、彼は弔いの意を示す。

( ^ν^)(勤勉にして偉大なる、小さな智慧者に、安寧と休息が在りますように)

模原 臨という人間を、決して忘れることのないように。
影も形もなく失せてしまった彼が、大宇宙の片隅に遺されていくように。
強く、強く、入間は祈った。

「い、入間さ〜ん……」

困ったような声に、入間は顔を上げる。
そこには錆びた梯子に、必死でしがみつく都子がいた。
降りたはいいものの、途中で梯子の長さが足りないことに気付いたらしい。

( ^ν^)「行くから待ってろ」

気丈に返す入間の口調には、寂寥が過ぎ去っていた。
もうじきに、長い夜が明けようとしていた。

87 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:57:46 ID:YLCyI6VU0
***


昇る朝日から逃れるように、入間は進み行く。
その背には、都子が身を預けていた。

( ^ν^)「寝てもいいぞ」

群れるビルの隙間を縫いながら、入間は都子に呼びかけた。
すると都子は、うなじに顔を擦り付けるように、首を振った。

( ^ν^)「そうか」

意を組む入間は、取り囲む空間を見遣った。
ビルの壁々は、色とりどりのタイルによって、その高さを支えられていた。
さんざめくような色彩たちは、現世を塞き止める砦のようだった。
逃れる二人を捕らえようとするような陽光は、入間の遥か背後で手を伸ばしている。
暖かな祝福に似たその光は、名残惜しくも未練なく、二人の行き路を見送った。

( ^ν^)(ああ、ようやくだ)

およそ百メートル先に現れたものを見て、入間は安堵を覚えた。
そこには空間を切り取るように、長方形の枠が存在していた。
薄く光を放つそれは、來狂の住居への入り口である。

( ^ν^)「しっかり掴まれよ」

都子に呼びかけ、十秒後。
二人を飲み込んだ枠は、急速に縮まりゆき、やがては小さな色の粒子へと変わった。
飛翔する微細な色は、パレットのようなタイルに飛び込んでいく。
授粉したタイルはゆらめき、錯覚じみた動きで姿を消すと、
そこは何の変哲のない路地裏へと変わった。

88 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:58:38 ID:YLCyI6VU0
***


ようやく來狂の住居へと辿り着いた入間は、都子を背から下ろした。

ζ(´ー`*ζ「ここは……?」

都子はしょぼついた目で、薄暗い回廊を眺める。

( ^ν^)「部屋同士を結ぶ、間の道だよ」

とっさに説明はしたものの、都子はすっかり目を閉じている。
どうやら彼女は、立ったまま寝そうになっているようだ。

( ^ν^)(子供の体温だな)

都子の手を握りながら、入間はそう思った。
幸いにもその手を引くことで、都子は着いてきた。
もっとも風に揺れるススキさながらの動きである。

( ^ν^)「もう少しだ、頑張れ」

ζ(´ー`*ζ「うん……」

幼子のするような返事に、入間は不覚にも頬を緩めた。
説明通り、行く道の先には光の点が存在していた。
その点を目指して行けば、たちまち二人は新しい空間へと移動した。

カポーン…………

と、妙な音が入間の耳に入る。
思わず入間は温泉を連想するが、答えは近かった。

川 ゚ 々゚)「おかえり」

二人を出迎える來狂は、番台に座っていた。
右の暖簾には女子歓迎、左の暖簾には野郎専用と書かれている。

89 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:59:24 ID:YLCyI6VU0
川 ゚ 々゚)「長旅、ご苦労様」

バスタオルとハンドタオルを差し出して言う來狂に、
都子は薄目ながらも面食らっている。
そんな都子に入間は、受け取ったタオルを分け与えた。
礼を言う都子を背中で受け止め、入間は來狂と対峙する。

( ^ν^)「これ」

無骨に鶴嘴を差し出すと、來狂はニコリと笑った。

川 ゚ 々゚)「役に立ったでしょう?」

( ^ν^)(予備の弾を、じかにくれてもよかったんだぜ)

体力があれば、入間はそう言っていたに違いない。
しかし隣には都子もいるし、嫌味を言うのはなお憚れられた。
そうとは知らず、都子は暖簾を少しめくった。

ζ(゚、゚*ζ「すごい、ホントに銭湯みたい」

光景に驚く都子だが、欠伸は止まる気配がない。

川 ゚ 々゚)「まずは疲れを癒しましょー」

相変わらずニコニコ笑いを絶やさず、來狂はそう言った。

( ^ν^)「じゃ、そういうことだから」

ひらひらと手を振る入間は、するりと暖簾の向こうへ吸い込まれた。

ζ(゚ー゚*ζ「は、はいっ」

いじましく、都子はそれを見守ってから、暖簾をくぐった。

90 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:00:03 ID:YLCyI6VU0
***


脱衣所と洗い場はコンパクトで、それが都子には有り難かった。
正直一歩でもいいから、進む距離を節約したかったのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ふわー……」

タオル片手に恐る恐るといった様子で、
浴室を開けた都子は、吸い寄せられるように中へと入った。
ハート形のボトルが三本あり、
それぞれシャンプー、リンス、ボディーソープが詰められていた。
風呂に入ることすら約二年ぶりの彼女は、きしんだ髪を柔らかな泡で包み込む。

ζ(´ー`*ζ(いい匂いする……)

疲れによって穴が空いたような心に、満足感が
注がれるような気がして、都子は入念に体を洗った。

ζ(゚ー゚*ζ(すごい。すごい、楽しい)

ハンドタオルで髪を纏め上げ、少女は浴槽へと近付く。
真珠色のお湯を湛えたそこは、少し変わった作りをしていた。
寝転がるのにちょうどいい大きさのスロープが設けられていたのだ。
都子がためしに身を横たえると、胸までは暖かなお湯に覆われた。
それでいて頭は溺れることがないよう、専用の窪みが設えてある。

ζ(´ー`*ζ(ね、寝ちゃう……)

うつらうつらと夢心地のまま、都子はお湯に揉まれる。
緩やかな勢いのジェットバスが、体を優しく揉みほぐしていく。
極め付けに、花と焼菓子を混ぜたような匂いが彼女の脳へと染み渡った。

ζ(´ー`*ζ(ん〜〜〜〜……)

ムリ、と呟いたのを最後に、都子は意識を手放した。

91 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:00:45 ID:YLCyI6VU0
***


一方入間は、手短に風呂を済ませていた。
元々彼はのぼせやすく、浴槽には一分浸かれば十分なのだ。
脱衣所に戻った入間は、真新しいジャージが支給されていることに気がついた。
しかしそれを用意したであろう人物は、番台から姿を消している。

( ^ν^)「來狂」

名を呼ぶと、微かに彼の気配がした。
その場所は女風呂――都子のいる部屋である。

( ^ν^)(取り込み中か)

付き合いの長い入間は、來狂の動向を察する。
そもそも來狂の住居には、今まで浴室は一つしか存在しなかった。
それをわざわざ新しく作ったということは、來狂は何か企んでいるに違いない。

( ^ν^)(どうせ都子を寝落ちさせ、麻酔を掛けた後、
       鶴嘴で彼女の為に心臓を拵えるのだろう)

そしてそのまま手術に持ち込めば、來狂は欲してやまない【傷みの王】が手に入る。
動向から察するに、來狂は一秒さえも口惜しいのだろう。
しかしどうにも入間は、人道的な方法を装い、
偽善的な行動をする來狂を好いてはいなかった。
もっとも今までの状況を考えれば、
痛みがないだけ、彼女はマシに思うのかもしれない。

92 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:01:34 ID:YLCyI6VU0
もし彼女が來狂の行いに納得し、無礼を許すのであれば、
外野である入間が來狂を責める必要はない。
自身を納得させるようにそう結論付けて、入間は暖簾をくぐる。
すると先程まで漂っていた石鹸の香りや、暖かな湿気が幻のように消え失せた。
――このように來狂の住居は、彼の性格と同じくらい空間の作りが狂っていた。
されどその強大さこそ、來狂の覚悟の強さと蓄えた智識の豊かさを示していた。
それは入間が望んでやまない境地の一つでもあった。

( ^ν^)(本当に、すげぇよ、あんた)

ふらつく入間は、それでも智を諦めていない。
幾度か空間を飛び、入間は歩む。
辿り着いたのは、小さな自室であった。
來狂より貸し与えられたその空間は、唯一邪魔の入らない場所でもあった。
壁に据え付けられたベッドに身を横たえて、入間は柔らかな綿に沈んでいった。

( ^ν^)(本当に、疲れた……)

本当は小銃のメンテナンスや、傷の手当てをしなければならなかった。
だがそれ以上に気に掛かることが、彼にはあった。
よって入間は、目を閉じた。
四肢の力を抜き、規則正しく呼吸をする。
弛緩する意識は、深い眠りの淵へと誘われていた。
しかし入間は、完全には眠らなかった。
長年の特訓により、彼の脳は半ば眠りながら思考することが可能だった。
題して來狂はイルカ人間と揶揄ってやまないが、
そんな言葉を無視できる程度に役立つ技能であった。
体を癒し、智を深掘りする彼は、模原と來狂の関係性について考察を始めた――。

93 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:03:05 ID:YLCyI6VU0
***


次に入間が目を覚ましたのは、己が名前を呼ぶ声が聞こえたからだ。
言わずもがなそれは、來狂のものだった。

川 ゚ 々゚)「おはよぉ」

ニコリと微笑む來狂を確認し、入間は溜息を吐いた。
というのも今二人がいるのは、居心地のいい私室ではなかったからだ。

( ^ν^)「また俺の部屋を、塗り潰したな……?」

入間に分け与えられた空間も、元を正せば來狂のものである。
空間を構成する要素を分解し、再構成することなど、來狂にとっては朝飯前だった。

川 ゚ 々゚)「心配しなくとも、あとで部屋は戻してあげるよ」

削がれた気を接着剤でくっつけるように、來狂は入間を慰めた。

( ^ν^)「それで、用件は?」

手元に用意されていたコーヒーを飲み、入間はそう言った。
黒々とした液体は、甘じょっぱい味がした。
角砂糖三個に塩を小さじ半分、それが入間の好むコーヒーであった。

川 ゚ 々゚)「やっとこ手術が終わったよ」

くぁー、と彼はあくびを洩らす。
曰く都子の手術は、丸一日かかったらしい。
もっともその数字は、心臓の算出を含めた時間だろうと入間は考えた。

( ^ν^)「都子は?」

川 ゚ 々゚)「まだスヤスヤ眠っているよ」

來狂もまた、コーヒーを口にした。
挽いた豆ごとお湯を被せたそれを、造作もなく彼は飲み込んでいく。

94 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:04:00 ID:YLCyI6VU0
川 ゚ 々゚)「いやはや、なかなかの難敵よ」

やおらテーブルの下からそれを取り出して、彼はそう言った。
差し出された瓶の中には、白いダイアモンド――【傷みの王】が鎮座している。
成人男性の握り拳ほどの大きさをしたそれは、
室内の僅かな光さえも糧にし、輝きを放っていた。
一見すると神々しく見える光景だが、入間は石の影に注視する。
【王】が落とす影は赤黒く、微かに脈動していた。
臣下を失い、硝子の檻に閉じ込められてもなお、【王】は己が価値を主張している。
しかし入間は、少々違った感想が浮かんでいた。
それは時を超えてなお身の潔白を主張する、
カリオストロ伯爵の叫び声のように思えたのだ。
……いずれにせよ、不気味で異様な代物には違いなかった。

川 ゚ 々゚)「んふふ」

入間が鑑賞する様を愉しむように、彼は笑った。
そして來狂は、【王】から入間を取り上げるかのように、瓶を持ち上げた。
入間はさして気にも止めず、瓶の行方を見守る。
來狂の手に収まった【傷みの王】は、ゆらりと揺らめく。
それが動揺している様子に思えて、入間は仕方がなかった。
來狂の歩む先は、コレクションの山。
さも抗議するかのように、【王】は七色の光を放ったが、來狂はそれに構う様子はない。
そして彼は、

川 ゚ 々゚)「よいしょっと」

無造作に【王】をしまい込む。
積年のコレクションは、智で智を撲り合う格闘技場のようだった。
ぞぶぞぶと沈む【傷みの王】を、入間は絶句しながら見守る。
さしもの光も、漏れ出でることはなかった。

95 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:06:36 ID:YLCyI6VU0
( ^ν^)(……あれ、結局はいつか
       俺が片付けることになるんだろうか)

あまり考えたくない可能性がチラつき、入間は額を抑えた。
とうに飲んだはずのコーヒーが、未だに苦味を感じる気がして、彼は少々憂鬱だった。

川 ゚ 々゚)「素晴らしい仕事ぶりだったよ」

そんな様子にも気付かず、興奮した声音を來狂は惜しげも無く出した。
しかし入間の表情は、未だ険しい。

( ^ν^)「あんた、模原のことを知ってたんだろう」

川 ゚ 々゚)「模原?」

とぼける來狂は、あざとく小首を傾げてみせた。

( ^ν^)「都子の選択肢を【狭窄】していたホムンクルスだ」

模原の補足に、ああ、と來狂は呟いた。

川 ゚ 々゚)「アレってそんな名前だったんだ」

ウンウンと頷いて、來狂は席へと戻るが、白々しい様子に入間は確信を深めた。
彼は模原の正体や能力を把握していながらも、わざと入間に伝えなかったのだ。

96 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:11:01 ID:YLCyI6VU0
( ^ν^)(大方、俺を試したんだろう。
       錬金術師として、一枚殻を破らせるために)

舐るような入間の視線に、來狂は腕を組んだ。

川 ゚ 々゚)「ヒントは与えたつもりだけど?」

( ^ν^)「やり方がまどろっこしいんだよ」

入間が憤るのも、無理はなかった。
何故なら彼の指すヒントとは、会議中に勤しんでいた折り紙の素材に隠されていたのだ。
古めかしいその紙は、元々とある医院の壁に貼られていた、人体解剖図の一種である。
脳の輪切りは体性感覚――体から入力された刺激を、
脳内のどの部分に投射されるのかを纏めた地図だ。
これらの区分を、医学ではホムンクルスと呼ぶ。
また体から脳へと受ける刺激の量と感度には、各分野で大きな差がある。
人間は唇や顔、手から刺激を多く受け取るが、背中や尻は逆に乏しいとされる。
これらの差異を視覚的に表現した結果が、異形じみた小人の絵である。

( ^ν^)(模原の正体は、この小人に他ならなかった)

自分自身の脳さえも欺く模原は、他人の脳と同期することも、容易く行なってみせた。
そして自身が人間だと思い込んでいるうちは、
選択肢の【狭窄】という能力のみを使いこなしていた。
ただし屋上で、彼は受け入れがたい事実を都子から突きつけられた。
その際自身に課した【狭窄】が解除され、
「本来の記憶を取り戻す」という選択肢が、突然模原の目の前に出でたのだ。
見知らぬ情報に対する興味関心は、
無視できない程の牽引力で、本人を過酷な状況へと導く。
よって模原は自分の意思とは関係なしに、
無意識のうちに都子の語る真実へと耳を傾けてしまった。
事実思い出した模原が慌てて彼女の口を封じたところで、それはとうに遅すぎたのだ。

97 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:14:05 ID:YLCyI6VU0
( ^ν^)(故に奴の真価は、早々に解放されてしまった)

入間を宙に飛ばした時点で、模原の本能は、真実を掴んでいたに等しかった。
脳を司る小人としての本性を表した彼は、他人の脳を自在に操ることが出来た。
入間が強引に空間転移したのも、それが原因である。
空間認知機能を乗っ取り、五指の如く操った模原は、入間の位置情報を修正したのだ。
さも最初から、入間がそこに存在していたかのように。

( ^ν^)「散々だったんだぞ」

その苦労を一言に集約し、入間は言った。
しかし來狂は、さして興味がないように
豆だらけのコーヒーを啜った。

川 ゚ 々゚)「今後の勉強になっただろう?」

それは、來狂の本心であった。
身の丈に合わぬ欲を持ち、叶わざる願いをなぞるべく、
業(ごう)に染まりて業(わざ)を獲得する。
時として実子の肉体を傷付け、犠牲を強いながらも、
手放すことの出来ない価値を得る。
欺きによって牧羊犬と化し、真実を知りて狼獣へと還る。
自然にしろ、人工にしろ、産み出した結果に対する
向き合い方に、問題を抱える者は多い。
そして時にはそれを利用し、何者かの幸せを掴む道を選ばなくてはならない。
――これより参倍郷と新参会は、入間の暗躍によって殺しあうことになる。
両陣営を構成する人々にも人生があり、人格があり、思想がある。
それを皆、破壊するのだ。

( ^ν^)(分かっちゃいるよ)

だからこそ來狂は、入間に都子を傷付けさせたのだ。
だからこそ來狂は、入間に模原の真実を伏せたのだ。
悩み、思案し、誰かを救い、誰かを絶望へ
衝き落とすという決断を、自ら下せるようになるために。

( ^ν^)「本当に、あんたはイかれてる」

礼代わりの言葉に、來狂は微かに微笑んだ。
その背後にある扉より――ノックが四度響いた。

98 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:17:15 ID:YLCyI6VU0
來狂が振り向くよりも早く、扉が開く。

『ちゃーっす』

深淵のように深い山の向こうから、軽快な声が掛けられた。

川 ゚ 々゚)「どうぞ」

遅れて來狂が言うと、声の主は無遠慮な足取りでやってきた。
喪服に身を包むその人は、

川 ゚ 々゚)『どーもどーも』

來狂と変わらぬ姿を持ち、同じ声をし、
均しい所作を振る舞い、同程度の狂気を纏っていた。
彼は、並行世界の來狂である。
時空間を操作する來狂は、数多ある並行世界の自分と同盟を組んでいた。
彼らは錬金術を行使できないものの、幅広い職業や地位を築いている。
錬金術師の來狂は、彼らに報酬を支払う代わりに、彼らと入れ替わる権利を得ていた。

( ^ν^)(たしか参倍郷に入会した來須は、
       有名コンビナートの役員だったっけ)

來狂の錬金術は仕組みを看破されない限り、
常人には來狂が入れ替わったことすら気付かれない。
よって來狂は、入れ替わった自分の持つ経歴や
技能をそのままに、安全かつ巧妙に工作活動が出来た。
とはいえ今やって来た彼は、どうも様子が違っていた。
喪服と馴染む色合いの袋を背負い、額には汗が滴っている。

川 ゚ 々゚)『例のブツになります』

床に置かれた長細い袋は、いかにも重々しい音を鳴らす。
席を立つ錬金術師に釣られ、入間も袋に近付くことにした。
一足早く中身を拝んだ來狂二人は、神妙に手を合わせた。

99 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:19:19 ID:YLCyI6VU0
( ^ν^)「!」

袋の中身は、高出 都子の死体だった。

川 ゚ 々゚)「もう帰っていいよ」

金の延べ棒を握らせ、來狂はそう言った。
そそくさと懐にしまう葬儀屋の体からは、死体特有の甘い香りが染み付いている。
去る彼の後ろ姿を、入間は静かに見送った。

( ^ν^)「これは――」

川 ゚ 々゚)「並行世界で死んでしまった、都子ちゃんだよ」

ことも無げに、來狂はそう言った。
絶句する入間は、ようやく彼女に手を合わせる。
袋の中の都子は、瞼を閉じているが、その目は酷く落ち窪んでいる。
薄く開いた口からは、泥漿じみた血が淀んでいた。
微かに薫る死臭を嗅ぎ、酸っぱいものが入間の喉に迫った。

( ^ν^)「どうして……」

力無く死因を問いただす入間に、來狂は理由を語ってみせた。
曰くこの都子は、生きたまま模原に【傷みの王】を抉られたのだという。
その世界線での模原の中では、存在しない妹が生き続けていた。
そこで彼は、妹のために【王】を調達した。
【王】を携え、愛する妹の元へと奔走する模原だが、
その途中で偽りの記憶に気付いてしまう。
おそらく妹の入院する病院が存在しないことで、疑念を抱いたのだろう。
混乱した彼は事の真偽を探るべく、自らの心臓さえも抉り取った。
そして人ならざる心臓を認め、失意に溺れる彼は、
そのまま息絶えたのだという――。

100 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:19:55 ID:YLCyI6VU0
川 ゚ 々゚)「そんなわけで秘密裏に処理する死体を、そのまま貰い受けたってわけ」

イかれた來狂は、続けて言う。

川 ゚ 々゚)「彼女を使って、上手いこと参倍郷を挑発する」

(  ν )「――――」

様々な思いが、入間の身を駆け巡る。
知っている顔なのに、まったく別の道を進んだ都子。
自ら破綻し、一人で逝ったであろう模原への哀れみ。
新参会が都子を攫い、参倍郷を挑発するというシナリオ、
その最適解とも言える手段。
やれやれ、と入間は袋のチャックを更に下げた。

( ^ν^)「人使いが荒いぜ」

そう言いながらも、錬金術師の入間は行動を開始した。

( ^ν^)(まずは彼女の指を切り落とし、参倍郷の会長に送りつけるか)

後生大事に都子を抱え、入間は小さく謝罪を口にした。

101 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:20:43 ID:YLCyI6VU0



終章 錬金術師は遂せるようです


.

102 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:21:47 ID:YLCyI6VU0
――都子の救出劇より、半年が経とうとしていた。
彼女は現在も、來狂の住居に匿われている。
【傷みの王】を摘出したことで、彼女の肉体は超常的な回復力を失った。
人並みの身体能力を得た都子は、
移植された心臓の経過を見ながら、日々リハビリに励んでいる。
長い努力の末、ようやく都子は軽い運動ができるようになった。
短時間であれば走ることも、泳ぐこともできる。
制約の多い日々は、未だ抜けることができない。
だが何も許されていなかった頃に比べれば、彼女は自由に選び採ることが出来た。
更に空いた時間を活用して、彼女は勉学にも励んでいた。
通信制の高校に入学すべく、都子は自力で問題集をこなしていた。
数学はやや苦手だが、特に気に入っているのは歴史や英語である。
物語めいた教科とそれに追随する文化の枝葉に、
どうやら彼女は惹かれているらしかった。
その興味は止まるところを知らず、じきに同世代の人間を追い越すことが予想できた。
もっとも本人はそれに気付いていないのだが。
――そんな忙しく過ごす彼女も、時折外出することがあった。
來狂の庇護を離れ、散歩をするのだ。
時間にして最大一時間半の、散歩。
それが都子にとって、一番の楽しみであった。
さて今日の都子は、川沿いのサイクリングコースを、歩いていた。
気付けば季節は秋へと変わり、微かに夏を残した風が吹いていた。

ζ(゚ー゚*ζ「気持ちいい天気ですね」

三つ編みを風に攫われながら、都子は言った。
柔らかく笑みを浮かべる視線の先には、お目付役の入間が佇んでいる。

( ^ν^)「ああ」

都子の外出には、毎回入間は携わっていた。
護衛半分、楽しみ半分といった割合で、彼も都子との時間を楽しんでいた。
なんと先日は彼女の自立を見守るべく、アパートの内見にも付き合った。
その際彼女には頼れる身内がいないことに気付き、
不肖ながらも彼女の従兄弟を入間は名乗ることになった。
多少気恥ずかしかったものの、入間は満更でもなかった。

103 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:23:26 ID:YLCyI6VU0
ζ(゚、゚*ζ「そういえば」

と、いつになく真面目な声音で、都子は切り出した。

ζ(゚、゚*ζ「あの時、模原さんと最後に何を話していたんですか?」

それは言わずもがな、屋上での戦闘後の様子を指している。

( ^ν^)「……話していたように見えたか?」

思い返す入間は、当時の模原の容姿が思い出せない。
遠く見下ろしていた都子は、なおのこと二人の様子が分からないことだろう。
それなのに彼女が断定したものだから、入間は戸惑っていた。
それに対し都子は、だって、と切り出した。

ζ(゚ー゚*ζ「入間さんがお話を聞いてくれてる時って、すごく優しい顔してるんですよ」

( ^ν^)「…………」

自覚なき男は、硬直した。
來狂にはそんな顔をした覚えはもちろんのこと、都子や模原にだって、そんな顔をしたことはない、はずだと彼は思っていた。

( ^ν^)「……見間違えじゃないか?」

川面を眺め、入間はお茶を濁した。
その視線に取り入ろうと、都子が欄干に身を乗り出した時だった。

ζ(゚ヮ゚*ζ「あーっ!」

( ^ν^)そ

すわ何事かと身構える入間だが、

ζ(゚ー゚*ζ「入間さん、おっきい亀がいますよ!」

無邪気に彼女はそう言った。

104 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:25:11 ID:YLCyI6VU0
視線を辿れば、猫の額ほどの中洲で、亀がいる。
ミシシッピアカミミガメが首を伸ばし、日差しを享受している。

(;^ν^)「お、おう……そうだな……」

体から力が抜けながらも、入間は精一杯優しく言うよう努めた。

(;^ν^)(なんとか男同士の約束は守ったぜ、模原……)

そんな心も知らず、都子は更なる報せを運ぶ。

ζ(゚ヮ゚*ζ「しかもアイスクリームみたいに、三段重ねしてますよー!」

興奮気味に語る都子は、スマホを取り出した。
先月契約したばかりのそれは、ようやく彼女の手に馴染もうとしている。

( ^ν^)(電源のつけ方さえ分からなかった子が、写真を撮ってる)

故障を疑ってスマホを片手にベソをかいていた都子を思い出し、入間は眉根を寄せた。
無論それは不機嫌を表しているのではなく、微笑ましさを隠したものだった。
それに気付かず、都子は日向ぼっこをする亀タワーを画面に収めた。

( ^ν^)「撮ってどうするんだ」

ζ(゚ヮ゚*ζ「來狂さんに、見せるんです!」

屈託のなく答える都子に、入間はしばし考え込んだ。

( ^ν^)「……そりゃいいな」

意味深に開いた間には気付かず、都子はニコニコと微笑む。
入間の脳裏では、亀を見せられて、反応に困る來狂の姿が浮かんでいた。
都子の無邪気さには、さしもの彼もたじろいでしまうのだ。
その様を密かに観察し、溜飲を下げるのが入間の日課であった。

105 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:25:55 ID:YLCyI6VU0
( ^ν^)(それも、あと少しで見れなくなるがな)

理由は単純明解。
参倍郷の壊滅が、目前に迫っていたからだ。
【乳母のフラスコ】を失った参倍郷は、会員の離脱によって急速に衰退した。
くわえて参倍郷は、新参会と激しい抗争を起こした。
言わずもがなそれは、入間の暗躍が原因である。
もはや両者は共倒れ寸前のチンピラ集団に成り下がり、
近く警察も大規模な逮捕を計画しているらしい。
よって入間と來狂は組織の滅亡を見届けた後、都子を社会へと戻すことにした。
無論都子も経緯を知っており、入間たち二人には頭が上がらないほどの感謝を口にした。

( ^ν^)(お守りも、とうとう卒業か)

遅れて歩く入間に、都子が気付いた。
先行く彼女は道を引き返し、やや寂寥に浸る入間へと声を掛ける。

ζ(゚ー゚*ζ「休憩、しますか?」

その優しさに、入間は首を振った。

( ^ν^)「一人暮らし、楽しみだよな」

入間の言葉に、都子は一瞬虚をつかれたような顔をする。
欄干に身を預けた彼女は、こくりと頷いた。

ζ(゚ー゚*ζ「でも、ちょっと寂しいです」

( ^ν^)「すぐ友達が出来るさ」

ζ(゚ー゚*ζ「多分、そうですね」

106 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:27:07 ID:YLCyI6VU0
でも、と都子は言葉を紡ぐ。

ζ(゚ー゚*ζ「入間さんや來狂さんの代わりに
     なるような人なんて、絶対いませんよ。絶っ対!」

言葉の調子に、入間はぽかんとした。
そして毒気を抜かれたように、ようやく微笑んだ。

( ^ν^)「あんな変人が、この世界に何人もいてたまるかよ」

くすくすと笑う入間に、都子もつられて笑う。
來狂の同盟について流石に隠しているとはいえ、彼の変人エピソードは事欠かない。
どうしたって來狂の狂気は、隠しきれないのである。

ζ(゚ー゚*ζ「でもそれだけじゃなくて、本当に代わりになんてならないですよ」

念を押して言われた言葉に、入間は気付く。
彼女を救ったのは、他でもない自分であり、來狂でもあるのだ。
苛烈な過去を、都子は忘れないだろう。
その身に刻まれた辛苦も、彼女を虐げることだろう。
されどその苦しみから目を背けない限り、都子は命の恩人を忘れることもないのだ。

( ^ν^)「……たまに、散歩に誘えよ」

珍しく出た入間の要望に、今度は都子が驚く番だった。
されど見開いた目は、芽吹くように喜びへと変わる。

107 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:27:55 ID:YLCyI6VU0
ζ(゚ー゚*ζ「しましょう。散歩以外にも」

( ^ν^)「こう見えても、結構忙しいんだぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「でも必ず付き添ってくれるじゃないですか。
     洋服屋さんとか、クレープ屋さんとか、プリクラとか」

( ^ν^)「そりゃ迷子にならないよう、見張ってるだけだ」

ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ迷子になったら、入間さんに連絡しますね」

( ^ν^)「マップアプリで調べろよ」

ζ(゚ー゚*ζ「なんですか、それ?」

(;^ν^)「だー、もうっ!教えてやるから、貸せ」

欄干にもたれる二人は、スマホを覗き込む。
あれやこれやと話し込み、入間の動作に都子は目を輝かせる。
その背を眺める川の流れは、傾く秋の陽を浴びて、細かな光を返した。
それはまるで、玻璃の破片が散るように。
日常へと歩みだした都子へ、祝福を捧げるように。
智と情を背負う錬金術師へ、健闘を祈るように。
儚き小人を思わせる煌めきは、波立つ泡と消えて、二人を見送った。

108 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:28:47 ID:YLCyI6VU0



錬金術師は遂せるようです 終


.

109名無しさん:2020/05/03(日) 22:33:18 ID:ZwDuAQio0
すごい読み応えあった
おつ

110名無しさん:2020/05/03(日) 22:33:32 ID:lLLHlqTM0
ンン乙!!!!

111名無しさん:2020/05/03(日) 23:17:55 ID:PFL2lZPE0
乙!面白かった!

112名無しさん:2020/05/04(月) 07:54:57 ID:Hnyv6x5U0
乙です!

113 ◆S/V.fhvKrE:2020/05/07(木) 00:14:58 ID:CASE550M0
【投下期間終了のお知らせ】

主催より業務連絡です。
只今をもって、こちらの作品の投下を締め切ります。

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114名無しさん:2020/05/16(土) 13:12:18 ID:/d1NBOzI0
バチクソ良かった乙
作者は語彙が豊富だな

115名無しさん:2020/06/21(日) 20:23:58 ID:J.tzOaTs0

小銃は拳銃じゃなくてアサルトライフルのことだぞ


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