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錬金術師は遂せるようです

82 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 21:53:38 ID:YLCyI6VU0
三発の銃声が、真夜中の虚空に響く。
一発目。模原の胸部を貫通し、苛烈なまでに破裂する。
それは、心臓を宙へと引き摺り上げた。
二発目。胸部に着弾した瞬間、それは水酸化ナトリウムの液を、四方に散らした。
強塩基性のそれは貪欲な肉体が枝葉を伸ばし、
心臓を受け取ることがないよう、傷を酷く灼いた。
三発目。宙を舞う心臓――玻璃を主材としたそれは、
どう見ても人の持つ臓器ではなかった。
ナトリウムの錬金記号が刻まれた凶弾は、
空気に含まれる僅かな水を糧に、一瞬の命を燃やす。
ピシ――、と内から外にかけて、心臓に罅が入る。
なおも暴れ狂う弾は、さながら卵を破る雛のようだった。

(  ∀ )「あぁ……」

成すすべもなく、模原の手から梯子が離れていく。
それと同時に、破滅という名の雛が孵る。
フラスコより生まれ、フラスコと同じ位置を持つ玻璃の心臓が、細かな粉塵と化す。
次いで起きた水素の爆発に巻き込まれ、それは跡形もなく消え去った。
――落下する模原は、その顛末を閑かに見守っていた。
揺らめく彼は、自分の腕を見やり、ようやく気付く。
そこには寒暖のどちらにも対応できる、
上質な素材で出来たシャツを纏った腕は存在しなかった。
ただの虚無であり、辛うじて残った人間性によって、
黒だと認識する脳だけが残されていた。

(  ∀ )(そんな……)

都子の言葉に信憑性が増し、模原は言葉を失う。
自分が何者であるのか、いよいよ受け入れ難い事実が忍び寄る。
かつて背中であった部分が、床に叩きつけられようとした時だった。

(  ν )「クッッッソ疲れたわ」

聞き覚えのある声が、彼を抱き止めていた。

(きみは、死んだはずでは)

もはや彼に口は残されていなかったが、入間は首を振った。
かろうじて他人の脳へと干渉する力が、彼には残されていた。
もっともこの状態では、彼の思考も相手に筒抜けとなる。
その事実について、彼は少々気恥ずかしく思った。


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