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ξ゚⊿゚)ξお嬢様と寡言な川 ゚ -゚)のようです
71
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/19(木) 07:06:32 ID:NAygX1BA0
ξ*^ー^)ξ『好きだよ、クーっ』
川 ゚ー゚)『私も大好きですよ……ツンお嬢様』
.
72
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/19(木) 07:06:52 ID:NAygX1BA0
ティレル城と呼ばれる城館には見目麗しき少女と乙女がいる。
少女の名はツン・ティレル。乙女の名をクーと呼んだ。
主従の関係にある二人だったが、二人はお互いが、初恋の相手だった。
.
73
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/19(木) 07:07:23 ID:NAygX1BA0
Break.
.
74
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/19(木) 07:07:45 ID:NAygX1BA0
7
.
75
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/19(木) 07:08:08 ID:NAygX1BA0
少女と乙女の関係は曖昧だった。それが恋仲かと問われたら明確なものはなかった。
ただ、両者は互いに通常とはまた違う感情を抱いていたのは事実で、少女も乙女も、互いは恥じらいつつも、それでも気持ちを互いに向けていた。
一種は友情関係の延長のようなものと言えた。
少女が歳若いこと、そして乙女が恋愛経験に乏しいこともあったが、二人はそれが愛なのかすら理解出来ていなかった。
好意には様々な形がある。結局、お互いがそれを初恋だと理解したのは関係が壊れてから――互いが距離をおいてからのことだった。
ξ ⊿ )ξ「クー……」
川;゚ -゚)「…………」
――クーを抱き寄せるのはツンだった。外では相も変わらずに雨が降り続ける。
朝のティレル城は静かだった。物音の一つもせず気配もない。
肌寒い気温の中、それでも二人は熱を抱き顔は火照る。
ツンはクーを逃すまいと見つめ、クーは必死で瞳を閉じようとするが何故か閉じることが出来ない。
ツンに呼ばれたクーは返事をすることはなかった。
それは一つの反抗の意思で、つまりはこの状況を受け入れるつもりがないと言外に伝えている。
だがツンはそれも構わないとばかりに更にクーを抱き寄せる。密着すると互いの体温がいよいよ重なった。
ξ ⊿ )ξ「……温かいね、クー」
川;゚ -゚)「…………」
ツンの体温は低いがクーの体温は高い。
両者の体温が交わるとそれは丁度良い塩梅だった――が、クーの胸中は穏やかではない。
76
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/19(木) 07:08:31 ID:NAygX1BA0
表情は平時の如く鉄のそれだったが、眉を寄せ、頬を染めるその表情は佳人そのものだった。
月花も恥じらうその様子にはたちまちツンも虜となり、蕩けた眼でクーを見つめる。
ξ ⊿ )ξ「抱きしめて、クー」
川;゚ -゚)「お嬢様……」
ξ; ⊿ )ξ「命令だよ……ねぇ」
令となれば従わぬ訳にはいかない――だがクーは戸惑い、その震える腕をぎこちなく動かすのみだった。
対するツンはその様子に文句を言うでもなく、けれども待ち望むような顔をして彼女の抱擁を今か今かと夢見ていた。
ツンは口元をクーの首へと埋め、クーの香りを聞(き)く。
クー特有の果実然とした薫りにアリスは脳を掻き乱され、次第に吐息が荒くなる。
首元に寄越される熱い息にクーの心音は跳ねるばかりだった。
視線を下ろせば、そこには仔犬のような上目使いで見つめてくるツンがいる。
クーの動悸は急き、ともすれば呼吸が乱れる。
如何に鉄面皮と称される彼女でも、主人の乱れる様と対すれば平常心は消え去る霞の如くだった。
川;゚ -゚)「……聞けません」
ξ; - )ξ「ダメ……ダメだよ、クー……」
川;゚ -゚)「お嬢様っ……」
ξ; д )ξ「抱きしめてっ……」
77
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/19(木) 07:08:54 ID:NAygX1BA0
唇と唇が触れる距離――触れずとも伝わるのは熱情であり、駆り立てるそれは容易にクーを狂わせる。
箍と呼ばれるものがあるとすれば、今この時こそ彼女の制御は解き放たれた。
ξ; ⊿ )ξ「あっ――」
クーは震える腕でついにツンを抱きしめた。
柔らかくしなやかな体躯、細い肢体。齢十三歳のツンの情報が触れることにより明確になる。
肌は瑞々しく薄らと汗が浮く。興奮の作用もあってか若干上気し、心音は大きく響く。
漏れた甘い声はクーの耳朶を濡らし中耳を突き抜け脳へと突き刺さった。官能、かつ扇情的な響きは思考を鈍らせていく。
川; - )(私は、何をっ……)
正常な部分が自身に問いを向ける。が、それに対する返答はない。
クーはその事実に驚き、いよいよ気でも違えたかと叫び散らしたくなった。
だが本能こそが彼女をそうさせた。
彼女が今に至るまでどのような想いを秘めていたのか――それは未だに定かではない。
しかし、例えばツンのベッドシーツを抱きしめたり、或いは彼女の残り香に浸ったり、ともすれば体温を求めたのは事実だった。そう言った事実こそが全てを物語る。
対してツンは長い睫毛を震わせ、更には涙を結び静かに笑みを浮かべた。
その腕はいつのまにかクーの首元から離れ、背を抱きしめると離さぬように擁する。
ξ - )ξ「ずっと……こうしたかったっ……」
川; - )「っ――……」
ツンの台詞にシャロの視界が揺れ、まるで鈍器で殴られたような感覚を得た。それは衝撃的な言葉だった。
78
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/19(木) 07:09:15 ID:NAygX1BA0
川; - )「……友情の台詞ではないのですか」
ξ ⊿ )ξ「……そんなのじゃないもん」
幼い彼女に恋心というものが理解出来るのか――そう、クーは内心で思っていた。
昔、互いが交わした愛の言葉は友情のそれと同義だろうとクーは結論付けていた。
ところが今の台詞は恋情を意味する台詞だった。
川; - )「お嬢様。あなた様は勘違いをしています。私は……女です。あなた様と同性なのです。ならば抱くのは愛情ではなく――」
ξ ⊿ )ξ「だからなに?」
言葉を遮るツンは再度クーの顔へと急接近する。
迫ったツンの表情は真剣そのもので、クーは初めて垣間見るその表情に、まるで歳不相応な雰囲気に完全に呑まれた。
ξ ⊿ )ξ「もう誤魔化すことなんてできないよ。ねぇ、クー。ずっとずっと……好きだった。クーもそうでしょ? 何も可笑しくなんてないよね?」
川; - )「お嬢、様……」
ξ ⊿ )ξ「普通だとか、一般的だとか……わたしの立場が特別だとしても。
それでも誰を好きになったっていいはずでしょ。わたしが誰に恋をしたって、わたしの自由でしょ」
ツンの様子は一種の暴走状態にも等しかった。だがそれもある意味では仕方がなかった。
ある日突然クーの態度は変わり、以降互いの距離感は詰まることもなく、また、以前の時のような友人関係らしいものもない。
結果としてツンは愛しい日々を失ったと言えた。
だが昨夜のことだ。
クーが口にした台詞――夢は見るものであり叶わないものと言う台詞。そして、己は夢を忘れてしまったと言う台詞。
それがツンを極限まで追い詰め、覚醒へと導いた。
最早止まる術もなく、また、止まる気もないツン。そんな彼女はクーの唇へと迫る。
79
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/19(木) 07:09:37 ID:NAygX1BA0
ξ ⊿ )ξ「いつか……いつか夢を見ることが出来なくなるとしても。それでも、好きな気持ちに嘘はつけないよ。
夢を叶えたいと思うのは悪いことなの?」
川; - )「ダメですっ……お嬢様、それだけはっ――」
ξ ⊿ )ξ「思い出させてあげる。一緒に夢を見て、そして叶えよう、クー……」
――朝のティレル城は雨に濡れる。梢には身を寄せ合う番の鳥が朝焼けを待ち望んでいた。
だがこの日の雨は止まない。何故ならば雨は恋をするからだ。
80
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/19(木) 07:10:01 ID:NAygX1BA0
「んっ……」
ξ*-(゙ ; 川
「んっ――」
.
81
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/19(木) 07:10:22 ID:NAygX1BA0
口付けを交わす二人を、せめて夢の心地のままにと。
雨は降り続け、そうして秘めた愛を静かに見守り、静寂にて乙女達を祝福した。
.
82
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/19(木) 07:10:42 ID:NAygX1BA0
Break.
.
83
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/19(木) 07:11:17 ID:NAygX1BA0
本日はここまで。
また週末にでも投下しようと思います。
感想等もありがとうございます、とても嬉しいです。
それではおじゃんでございました。
84
:
名無しさん
:2019/09/19(木) 21:25:25 ID:pqT3wFek0
otu
85
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:45:50 ID:0IXk6Jtg0
8
.
86
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:46:13 ID:0IXk6Jtg0
クーがティレル家にきたのは凡そ八年前。
彼女は百姓の生まれで代々ティレル家の世話になっていた。そんな彼女は奉公としてティレル城の門戸を叩く。
その美貌を見たティレル侯爵は彼女を気に入り、一年もしない内に彼女をツン専属のレディースメイドへと任命する。
元よりレディースメイドは歳若い女性に任されるが、クーの場合、この時分まだ十代だった。
予想外の出世に彼女自身大層に驚愕をしたが、しかしその驚愕を遥かに超える衝撃こそがツン本人を前にした時だった。
ξ゚⊿゚)ξ『あなたはだぁれ?』
彼女と初めて対面した時、クーは言葉を失った。
幼いにしても既に片鱗を思わせるのだ。将来は花も恥じらう佳人のそれになると。そして同時に鼓動が忙しくなった。
川;゚ -゚)(なんと可憐なっ……)
両者の歳の開きは十と幾つか。更には同性な上に主従の関係になる。
だがクーはそんな事実は他所に胸に淡い気持ちを抱いた。あどけない笑みを寄越されると顔を赤く染め上げた。
ξ゚⊿゚)ξ『あなたがわたしのメイドさん?』
川;゚ -゚)『あっ……は、はいっ』
呼ばれ、情けのない返事をするクー。
しかしツンはそんな反応に笑う。
87
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:46:36 ID:0IXk6Jtg0
ξ^ー^)ξ『くすくすっ……ねぇ、よろしくね、メイドさんっ』
川;゚ -゚)『はいっ、お嬢様っ』
ξ゚ー゚)ξ『おなまえはなんていうの?』
川;゚ -゚)『クーと申しますっ』
てんやわんやとするクーだったが、そんな彼女へと近づいてきたツンは己の小さな手を伸ばす。
それをクーは呆けたように見つめるのだが――
ξ゚ー゚)ξ『あくしゅっ』
川;゚ -゚)『へっ』
ξ゚⊿゚)ξ『だめ?』
川;゚ -゚)、『あっ、いやっ……』
思わぬ行動に面食らうクーは、それでも求めに応じてツンと握手を交わす。
その小さな手のひら、更には柔い感触にクーは今一度ツンの歳を理解する。更には遅い実感が湧いた。
川 ゚ -゚)(……私がこのお方の支えになるんだ)
従者としてツンを支え、彼女の生活全てを充実させるべく――彼女に何もかもを捧げ、彼女の幸福の為に身を粉にするのだ、と。
庇護欲と責任感の板挟みになったクーだったが、けれども不思議と彼女はその状態に心地のよさを覚えた。
88
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:46:56 ID:0IXk6Jtg0
◇
先のツンの暴走から一日が経過した。
その日の午後、クーはアフタヌーンティーの準備をしながら過去の出来事に意識を向けていた。
初めてツンと対面した時の気持ちを思い出し、彼女は深く溜息を吐く。
決してやましい想いがあった訳ではなかった。従者としての責務を全うせんと心に決めた誓いの時だった。
川 ゚ -゚)(どうしてこんなことに……)
昨日ツンに口付けを寄越されたクーはその日一日気が気ではなかった。
例えば皿を落としたり、躓いて尻を突いた。他の使用人達は珍しい彼女の様子に如何したかと問いを向けたが、それに対してもクーは適当な返事しかしなかった。
更に上の空だったのはクーのみならず、問題の張本人であるツンもだった。
食事の際はフォークとナイフを逆に構え、クーとの授業となると常々顔を赤く染め上げまともにクーを見ようともしなかった――これはクーも同様だった。
今朝なんぞは久しく落馬をした。
落馬と言えども振り落された訳ではない。跨る寸前にずり落ちた。
これには講師だけでなく愛馬であるバリオスすらも驚き、本日の乗馬はその瞬間に取りやめとなる。
川 ゚ -゚)「あ……」
クーの深い溜息が静寂に染まるが、その時になってようやく彼女は準備が完了していることに気付いた。
何をしているのか、とクーは自身に苛立つ。
今の今迄従者のそれとして相応に生きてきたつもりだった彼女だが、今の彼女はまるで素人同然だった。
川 - -)(……気を引き締めなさい、私……)
そう発起するも昨日の口付けを思い出すと再度顔は赤く染まり視界が揺れる。
堪らずに自身の頭を叩いた彼女はその映像を掻き消そうとした。
果たしてそれに効果はなかったが、ある程度の冷静さを取り戻した彼女はワゴンを押して主人の部屋へと向かった。
89
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:47:19 ID:0IXk6Jtg0
川 ゚ -゚)「……失礼します、お嬢様」
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ、あっ……うんっ……」
戸を叩き主人の――ツンの返事を待つ。
返事がくるまでにかかった時間は凡そ十秒。何をそうも戸惑うのか――それはある意味では明確なものだった。
しかしクーは問いを向けることはせず、静かに扉を開くとワゴンと共に入室を果たす。
そうしてソファの上で何故か正座をしているツンを発見すると、何故か彼女も動きがぎこちなくなってしまった。
川 ゚ -゚)「……お待たせいたしました、お嬢様」
ξ;゚⊿゚)ξ「う、うん……」
ツンの様子は端的に申してらしくない――どころの騒ぎではなく、また、昨日の様子から比べると非常に不自然だった。
つまり、彼女は振り返るとようやっと自身の仕出かした所業に自責と後悔を抱いた。
クーと口付けを交わすまでの記憶は曖昧で、自己と呼べるものを取り戻したのは情熱を交わした瞬間だった。
結局、二人は言葉を失ったままに自然と離れ、以降は普段通りに徹しようと互いに努力をしたが、それは下手な役者の芝居だとか演技にも等しかった。
ξ;゚⊿゚)ξ「き、今日のスコーンは……」
川 - -)「……こちらのクリームとクランベリージャムにて御堪能なさいませ」
ξ;゚∀゚)ξ「わ……わーい、わたしクランベリー大好きー……」
瞳を伏せて説明をするクーに対しツンはしどろもどろだった。
スコーンを手に取りジャムを乗せ、更にクリームを添えようとするが、何を思ってかクリームの行方は紅茶の中だった。
だがアリスは構わずにクリーム仕立ての紅茶を口腔へと含み、妙な食感(テクスチャ)を味わいながらにそれを飲み込む。
90
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:47:41 ID:0IXk6Jtg0
ξ゚⊿゚)ξ「あ……そっちのケーキって……?」
川 ゚ -゚)「如何なさいましたか」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、ううん、その……まだ切り分けてないんだなっ、て」
川;゚ -゚)「――……っ」
ツンの視線が向かった先にはホール状のケーキがある。
フルーツを大量に散りばめられたケーキを見てツンの胃が急速に動きをみせたが、しかし珍しいことにカットの一つもされていない。
よもやこの場で切り分けるつもりか、とクーを再度見つめたツンだが――
_,
川 ///)「……申し訳ありません、お嬢様……」
彼女は顔を真っ赤にすると、急いでナイフを手にケーキを切り分け始める。
その様子を見たツンは何故だか安心をする。緊張をしていたのは、普段の通りにできないのは己だけではないのだ、と。
彼女も緊張をしてくれている――己に意識を向けてくれているのだと、そう理解をする。
ξ゚ー゚)ξ「……ふふっ」
川 ゚ -゚)「……? 如何なさいましたか」
ξ゚ー゚)ξ「ううん。ねぇ、クー?」
川 ゚ -゚)「何でしょうか」
ξ^ー^)ξ「……好きだよ」
凛と響いたのはシルバーが落下した音だった。
クーは目を見開き動きを止めた。
それを見つめるツンは顔を真っ赤にしつつも、けれども、してやったりと言った表情。
91
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:48:03 ID:0IXk6Jtg0
ξ゚ー゚)ξ「……ふふふっ。可愛いね、クーは」
川 ゚ -゚)「……お遊びが過ぎます、お嬢様」
ξ゚ー゚)ξ「怒る?」
川 ゚ -゚)「怒っています」
ξ゚ー゚)ξ「どうする?」
川 ゚ -゚)「…………」
結局、クーは数瞬考えたが名案は浮かばず。
兎角としてシルバーを回収すると平常心を取り戻し、そうして若干不機嫌そうな顔でツンを見つめると改めて紅茶を注ぎ――
川 ゚ -゚)「ところでお嬢様」
ξ゚⊿゚)ξ「え? なぁに?」
川 ゚ -゚)「頬にクリームがついております」
ξ゚⊿゚)ξ「頬? どこ――」
そのしなやかな指をツンの頬へと伸ばし、乳白色のクリームを掬い、己の口へと運ぶ。
はしたない云々と言えたらどれだけよかったことか、ツンは再度顔を赤熱に染め上げると口を幾度もまごつかせるばかり。
92
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:48:43 ID:0IXk6Jtg0
川 ゚ -゚)「美味に御座います」
昨日の仕返し――久しく感情を見せたクーに対しツンが怒ることはない。
ただ、彼女の気持ちと己の気持ちは同じ尺度だと、そう理解をし、やはり照れ臭そうに笑んだ。
Break.
93
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:49:04 ID:0IXk6Jtg0
9
.
94
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:49:26 ID:0IXk6Jtg0
幼い頃からツンにとってクーは特別な人物だった。
身の回りの世話の全ては彼女が済ませ、寝起きから寝入りまで常に傍に控える。
時に下らない話題に花を咲かせ、或いは彼女の語りにツンは頬を綻ばせる。
そんな様々がある中、特にツンはクーのピアノが大好きだった。
ξ*゚⊿゚)ξ『クーはピアノがじょうずだねっ』
川 ゚ -゚)、『そんな、わたくし程度……』
クーは毎度そう言うが、けれどもその腕前は熟練に達する域で、結果的に彼女の評価はツン以外の者等からも高かった。
一度はとある催しの際に演奏を、とティレル侯爵に願われたが、彼女はこれを慎んで辞退した。
ξ゚⊿゚)ξ『ねぇ、なんでそんなにじょうずなの?』
川 ゚ -゚)『何故、で御座いますか……?』
ツンの問いにクーは少々悩む。
この頃のクーは感情が豊かで、悩む素振りも分かりやすい方だった。
顎に手を添え宙へと視線を泳がせ記憶を漁る。そんな彼女の膝元ではツンが急かすように彼女の胸元を手で引いた。
川 ゚ -゚)『……それしかなかったから、でしょうか』
ξ゚⊿゚)ξ『それしかない……?』
川 ゚ -゚)『はい。お恥ずかしながら、実家は田舎の方でして……することと言えば川で遊ぶとか、野を走り回るとか、そう言うくらいのことしかありませんでした』
ξ゚⊿゚)ξ『へぇー……』
川で泳ぐ、或いは野原を駆け回る――そう言ったことをツンはしたことがない。故にその内容が理解出来なかった。
だが、何となしそれは本来の子供らしい遊び方なのだろうな、と彼女は悟る。
95
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:49:46 ID:0IXk6Jtg0
川 ゚ -゚)『わたくしは運動は苦手でしたから、基本は家の中で過ごしていました』
ξ゚⊿゚)ξ『そうなんだ』
川 ゚ -゚)『はい。それで、我が家にはスクエアピアノがありまして……それをよく弾いておりました』
幼い頃からクーにとっての遊具はピアノだった。鍵盤に触れるとその日一日は延々と指を走らせ音を奏でた。
彼女の両親曰く、その姿はピアノの亡霊然と言った具合だったが、今となっては彼女の誇れる特技となった。
とは言え彼女の性格は謙虚であるので、それを誇示するだとか、或いは自慢気に語るでもない。頼まれたらば弾くが自発的にピアノの前に立とうとはしなかった。
ξ゚⊿゚)ξ『そっかぁ。クーはお家でピアノをずっと弾いてたんだねぇ』
川 ゚ -゚)『はい。とは言え、スクエアサイズですから……このようなグランドサイズとは比較にならない程粗末なものですよ、お嬢様』
音の鳴り――それを構成する木材から弦の長短、更には調律を取ってしても比肩することが烏滸がましい、とクーは恥ずかしそうに語る。
だがツンはそれを笑うでもなく、クーのその表情――懐かしむような顔つきを見ると興味を抱いた。
ξ゚⊿゚)ξ『……クーの宝物なんだね?』
川 ゚ -゚)『そうですね……おそらく、そう呼べるのかもしれません』
ξ゚⊿゚)ξ『そっかー……ねぇ、クー』
川 ゚ -゚)『なんですか?』
名を呼ばれたクーはツンを見やる。
96
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:50:06 ID:0IXk6Jtg0
ξ*゚⊿゚)ξ『そのピアノの音、いつか聴いてみたいなぁっ』
この時、ツンが彼女に恋をしていたかは謎だった。
だが、クーを構築する上で――彼女が今に至るまでに築いた歴史の中、それは欠かせないものだとツンは幼心ながらに理解する。
そうして思うのだ。いつかこの目で彼女の宝物を直接に見てみたい、と。
そして願わくば、そのピアノを奏でるクーの姿が見てみたい、と。
97
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:50:27 ID:0IXk6Jtg0
◇
冬も中ごろの時期、ティレル家の使用人達は暇をもらうと一時の帰省をする。
長い者では一月は留守にするが、これをティレル侯爵は咎めもせず、寧ろ休暇なのだから存分に休むべきだと皆に伝えていた。
半数がティレル城から姿を消すと、広い城館内はどことなく物寂しい景色となる。
この日、ツンは人を伴わずに回廊を歩いていた。響く自身の足音を耳にしながら彼女は適当に足を進める。
特に目的はない。単なる暇潰しだった。
ξ゚⊿゚)ξ「お昼のお勉強も済んだし……夜までなにしよう?」
先まで国史の勉強をしていたツン。凝った首を解すようにまわし、伸びをすると窓辺へと歩みを進める。
開け放たれた窓からは丘の景観を一望できる。本日の天気は快晴で、煩わしい湿度も鳴りを潜めていた。
丘の道では百姓らしき者等が荷馬車を駆り都市へと出向く最中だった。
その様子を頬杖を突きながら眺めていたツンは穏やかな景色に何となし気が抜けた。
ξ゚⊿゚)ξ「……お外かぁ」
未だに憧れはある。だが再度駄々をこねてクーを困らせることこそが問題だ、と彼女は自身を強く律した。
誇り高きティレル家の息女。いい加減自覚を持ち相応に生きねばならないのではないか、とツンはそんなことを思いもした。
ξ-⊿-)ξ-3「……はーあぁ……」
が、彼女はそれを悩みとはしなかった。外への憧憬は割り切った問題だったからだ。
それよりも何よりも、先もそうだが、ツンは真っ先にクーのことを思い浮かべるくらいに彼女のことばかりを考えていた。
98
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:50:49 ID:0IXk6Jtg0
ξ゚ -゚)ξ「……どうしたらいいんだろう」
口付けを交わし、本心を伝えた日から二人の関係はぎこちないままだ。
先日のクーの仕返しの一件から大分緩和した空気にはなったが、けれども互いは強く意識をしてしまったが為に元のようにはいかない。
何よりとしてツンは自身の暴走行為――クーを褥に引きずり込んだことそのものを悔やみ、または羞恥が晴れないままだった。
はしたないどころの話ではなく、ましてや歳若い乙女が、如何に恋心を寄せ、その焦がれるような気持ちを抑えきれなかったとて無理矢理にも等しい形で襲った事実。
クーはあの日のことをどうこう言うことはなかったが、それが返ってツンの心を苦しめた。
ξ゚ -゚)ξ「何で何も言ってくれないんだろう……」
例えば拒絶の意思を示されるならそれもよかった。それも一つの答えであり、それを寄越されたら頷く他にないからだ。
最上の答えとしては愛を以ってしての返答だが、それを想像するだけでツンの顔が赤く染まる。
が、かぶりを振ったツンはそれらのどちらも存在しない事実を思う。
決して蟠りがある訳ではない。だが相手にされていないような気もした。
反応の一つ一つ――照れたり恥じらうクーの様子を見れば何となしに彼女の胸中も見えてくるが、果たして言葉で伝えられることはなかった。
歯痒いような、或いは苦しいような気持ち。空の模様とは反して、彼女の心は曇った。
それは苦しみではなく悶えるようなもので、つまり、恋煩いと言うやつだった。
ξ゚⊿゚)ξ「……クーのばーかっ……」
そう零したツン。
報われるかどうか以前として、やはり乙女である故に答えが聞きたかったし、もしも同じ気持ちであるならば、やはりその言葉が聞きたかった。
99
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:51:10 ID:0IXk6Jtg0
あの日の景色――クーを抱きしめ、また抱きしめられた時のことを思い出す。
感覚は未だに身体に焼き付いたままだった。クーの震えるような腕――それでも強く、優しく包み込んでくれたクーの温もり。
祈るような、切なくて悲しくて、けれども待ち望んでいたような表情をしていたクー。それを見た時にツンの正常の箍はどこぞへと吹き飛んだ。
或いは彼女の香り――それは薔薇のようで、ともすれば果実然とした薫香。肌の滑らかさを思い出せば胸が締め付けられ、今一度それらの全てを得て感じたいとツンは思った。
ξ-⊿-)ξ「……私の、ばーかっ……」
暴走――暴走だった、とツンは後悔をする。
もしかしたら、クーは本心では嫌がっていて、己に対する態度は傷つけまいとする演技なのでは――そんな風にまで思えてしまう。
迫られたが故に仕方なく抱きしめ返し、口付けに関しては抵抗の一つも出来なかったから――考えれば考える程に悪い方向へと思考は回った。
ツンは再度大きく溜息を吐くと窓から身を乗り出し、憎らしい程に快晴な空を見上げた。
川 ゚ -゚)「危のう御座います、お嬢様」
ξ;゚⊿゚)ξ「っ……クーっ……」
ブルースに染まるツンだったが、そんな彼女へと凛とした言葉が向けられた。
寄越された声を耳にした途端にツンは緊張の表情を浮かべ、そうして身を正すと回廊の先から歩いてきた者を――クーを見つめる。
川 ゚ -゚)「このような場所で如何様な用事でもあるのですか」
ξ゚⊿゚)ξ、「ん……ないよ。少しぼけっとしてただけ」
川 ゚ -゚)「然様で御座いますか」
相も変わらずの無感情な表情に冷淡な声色。
しかしツンは彼女のそれらに嫌な気はしないし、どころか彼女が接近すると不思議と頬が熱くなる。
そんな表情を見られまいと顔を背けたツン。クーはそれを問うことはせず、再度静かに口を開いた。
100
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:51:31 ID:0IXk6Jtg0
川 ゚ -゚)「お嬢様」
ξ゚⊿゚)ξ「なに?」
川 ゚ -゚)「いえ、少々お話を」
ξ゚⊿゚)ξ「話?」
よもやついに返事がもらえるのか――ツンは嬉々とし、心臓の高鳴りを抑えることが出来ない。
期待に満ちたような、けれども不安をも思わせる表情を作ったツンはクーを真正面から見つめるのだが――
ξ;゚⊿゚)ξ「え? なに、これ?」
クーは手に紙を持ち、それをツンへと差し出す。
受け取ったツンは訝しんでその内容を確認するが――
川 ゚ -゚)「少し遅れましたが、明後日には少々お暇を……」
ξ゚⊿゚)ξ「……えっ」
その内容こそは休暇届であり、そう言えば遅れた時期に毎度クーは休暇をとるのだった、とツンは思い出し。
101
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:51:56 ID:0IXk6Jtg0
ξ;゚⊿゚)ξ「――えぇええっ!?」
この苦しみは一カ月も続くのか、と大きく叫んで絶望をした。
Break.
102
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/21(土) 14:52:32 ID:0IXk6Jtg0
本日はここまで、おじゃんでございました。
103
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/25(水) 18:54:43 ID:sdmVb0Qs0
10
.
104
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/25(水) 18:55:03 ID:sdmVb0Qs0
いつしかクーはツンに通常とは違う想いを抱くようになった。
果たしてそれが恋情かは彼女自身には分からなかった。
そもそもとして彼女は恋愛経験がなかったし、そう言った知識も乏しい。
結果的に、彼女はその感情を友情と同義のものとして認識した。
ξ-⊿-)ξ『むにゃっ……』
川 ゚ー゚)『ふふっ……よく寝ますね、お嬢様』
ツンはクーの膝の上をよく占領した。理由は居心地がよく、更には寝心地が最上だったからだ。
その日もお決まりのように午後の昼寝を堪能するツン。幼い彼女の頭を撫でつつ、クーはツンを観察する。
川 ゚ -゚)(本当に美しいお方……)
さながらに人形然と言った見てくれ。
白い肌にブロンドの髪。持ち前の甘い薫香はツン特有のもので、それを聞(き)く度にクーは胸が締め付けられた。
無防備に寝入るツンだがそれはクーを信頼している証で、クーはその事実に喜びを得つつも、役得である、とツンの寝顔を見ながら密かに思った。
川 ゚ -゚)『……今日はいつ頃起きるのだろう?』
問いの返事はない。室内には二人きりで邪魔の一つもなかった。
実を言えばこの一時こそがクーにとっての最上の癒しであり、こうして間近でツンを感じることが出来ると心労の一つも残ることはなかった。
川 ゚ -゚)(……幸せ、なのだろうか)
それは親しき者と時間を共有することが出来るからか――そう自問するクー。
ツンへと向ける気持ちは友情の延長か否か。同性であるが故にそれはやはり友情である筈だ、と彼女は自答する。
だがツンを初めて見た時、そして時を共に過ごすうちに彼女は自覚をする。
それが普通とは呼び難い、通常とは違う感情であることを。
105
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/25(水) 18:55:24 ID:sdmVb0Qs0
川 - )『馬鹿だなぁ、私……』
その呟きの意味は何か――気持ちを誤魔化している事実か、或いは許されざる気持ちを持つこと自体にか。
と言うのは恐らくは考えるまでもなく、つまり、彼女は両方の意味で自身にその言葉を向けた。
川 - )『……ごめんなさい、お嬢様……』
それは通常ではなく、普通ではない。
しかしそうだとしても自覚をし、それを認め、受け入れると、最早時は遅い。
クーはツンの額に静かに唇を宛がう。鼓動は高鳴り瞳が潤む。
川。 - )『好きです……ツンお嬢様』
その言葉に対する返答は何もない。
静かな室内にはツンの寝息が響くのみ。
クーはその虚無こそが救いであり、そして絶望でもあると理解をすると、静かに涙を零した。
106
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/25(水) 18:55:44 ID:sdmVb0Qs0
◇
――荷造りを終えたクーは一つにまとめた鞄を持ち上げる。
明日には馬車に乗り故郷であるハートフィールドに帰省するところだった。
久しく見る故郷の景色は如何程か――瞳を瞑り想像するクーだが、彼女の脳内に生まれるのはどこまでも続く草原と田畑だった。
ロンドンから馬車で凡そ半日の距離。そこにクー邸はある。
豪農として地元では名の知れる家庭だが、それもこれも全てはティレル家から借り受けている広大な土地と畑のお蔭だった。
主に麦等を育て、クーもこれの手伝いをよくした。
今の時分は然程仕事はない為、帰っても仕事を任されることはない――つまりは帰るにはうってつけの季節であった。
久しく気が休まりそうだ、と思いつつクーは土産の品を幾つか確認し、それもまた別の鞄へと詰める。
クーに兄弟姉妹はいない。一人娘だった。
おまけに父と母は年を召しており、そんな両親の口癖は早い所孫の顔が見たい、と言うものだった。
幾つかの縁あってか見合いをすすめられもしたがクーは全て断った。
時代からして普通は許されない、と言うよりは親の独断で決まることが往々だが、クーの両親は彼女の意向を第一に考えた。
兎角、そんな事情等もあるクーだが帰郷には少なからず心が躍る。
何だかんだで生まれ育った土地と言うのはいいもので、羽を伸ばすには最高の場所と言えた。
そして悩みを整理するのにも最適と言えた。
川 ゚ -゚)「…………」
先日、ツンに帰省の旨を伝えると彼女は大層に驚愕をした。
その表情を見たクーは胸が苦しくもなったが、けれども彼女の反応を無視して場を去る。
あまりにも急な報せ――明後日には帰ると言う内容だが、これにはクーなりの思惑があった。
107
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/25(水) 18:56:06 ID:sdmVb0Qs0
川 ゚ -゚)(猶予を与えたら、今度は何を仕出かすやら……)
本来ならば一月前かそれより前もって伝えるのが当然のことだが、先日の一件――ツンの暴走の件を踏まえてクーは今になって許しを乞いに行った。
もしかしたら再度無理矢理に襲われるかもしれない。
或いは最悪な予想の範疇としてはクーの帰省を突っぱねたやもしれない。
川 ゚ -゚)(……これでは、まるで逃げているみたいだ)
それはツンから距離をとろうとするかのようで、無意識のうちにクーはツンを避けていたのかもしれない。
彼女には決してツンを嫌う気持ちはない。寧ろ尊重遵守の意思しかない。
だがやはり胸中には煮凝りのようなものがあり、それこそは先の一件が関連する。
愛を告げられ、唇を奪われた事実。
命令のままに従いはしたがツンを抱きしめたと言う現実。正気など欠片もなかったが、しかし――
川;- -)(……なんとも、愚かしいな、私は)
――幸せだと感じたのも事実だった。
クーは湧いてくる感情を抑えるとかぶりを振り、明かりを消すとベッドへと沈む。
瞼を閉じ頭の中を無にする。静寂に満ちた室内だが、しかし暗がりの世界には彼女の心音が響いていた。
全てを思い出していた。ツンの温もり、香り、そして感触。
川 ゚ -゚)(柔らかかった……温かかった……)
胸が締め付けられ呼吸が苦しくなる。次いで顔は熱を持ち汗が浮く。
寝返りをうち、必死になって興奮を冷まそうとするクー。だが瞼に描かれる景色にはツンの顔が――発情した貌がある。
あの日の光景はどうあっても掻き消すことは出来ないとは悟ると、いよいよ頭まで布団を被り、そうして夜明けの時まで悶え苦しんだ。
108
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/25(水) 18:56:28 ID:sdmVb0Qs0
――そうして朝になり、クーはティレル城の前に停まる馬車に乗り付ける。
見送りには複数の仕事仲間が立ち会った。その中にツンの姿はない。
クーは相変わらずに鉄面皮だったが、けれども景色の中にツンがいないと理解すると、彼女の胸に鈍い痛みが広がった。
川 ゚ -゚)「それでは少々行ってまいります。留守の間、お嬢様のことを宜しくお願いいたします」
そう言葉にしたクーは頭を深々と下げると馬車へと乗り込むのだが――
川 ゚ -゚)「……?」
何故か馬車に乗り込んだ時に再度使用人達の顔を見やれば、皆は一同して渋い表情をし、作った笑みを浮かべぎこちなく手を振るう。
それに疑問を抱いたクーだったが、兎角、御者は馬の手綱を握ると静かに丘の道を走り出し、クーは遠ざかる城を見つめながら帰郷の一時に浸る。
川;゚ -゚)(お嬢様……もしかしてお怒りになったんじゃ……)
が、浸れはすれど堪能できる程に彼女の精神は落ち着けなかった。その最もたる理由はツンだった。
普段のツンは、毎年のことならば門まで見送りに駆けつけてくれた彼女なのだが、しかし今年に限っては姿を見せやしなかった。
思い返せば朝食の時も視線を合わせてくれなかった気がする、とクーは思い返すと、尚更に気分は沈み、深い溜息を吐く。
川; - )(私は……一体どうすれば……)
封じた気持ち、隠した思い――過去のものが今になって顔を見せようとする。
それを理解し実感する度にクーは苦しくなり、再度それらを押し返して感情を殺そうとした。
だが如何に誤魔化そうとも時は既に遅い。
何故こうなってしまったのだ、己はどうするべきなのか、と思慮を巡らせ旅路の最中に問答を繰り返すのだが――
109
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/25(水) 18:57:05 ID:sdmVb0Qs0
「――あうっ!」
川;゚ -゚)「……へっ?」
途中、固い地面に乗り上げた馬車だったが、その衝撃に揺れる最中、何故だか聞き覚えのある声がした。
クーはそれを幻聴だと思った。何せそれは有り得ない声であるので、どうあっても現実には思えなかった。
だがしかし、今更になってクーは気付く。何故か己の足元に大きな布の袋があることに。
そんなものを積んだ覚えはなかった。そもそもそんな大量の持ち物を持ってきてはいない。
やがてはその袋は動きを見せた。もぞり、もぞりと。
それはさながらに虫がのたうつような見てくれで、クーはそれを黙して見つめると、次第に顔から血の気が失せ、恐る恐ると言ったようにその袋へと手を伸ばす。
そうして呼吸を二、三繰り返したらば決心をしたように、いざ、その袋を開け放つ――
ξ>⊿<)ξ「――ぷはぁっ! ふえぁっ、苦しかったーっ!」
川 ゚ -゚)「…………」
そんな中から飛び出て来たのは自身の主であるツン・ティレル嬢。
クーは硬直し、更には完全に顔面を蒼白にする。
そうして先程の別れ際に仲間達が見せた表情を思い出し、更にはその表情の意味を理解した彼女は――
川#゚ -゚)「何をしているんですか、お嬢様っ!」
珍しく声を荒げ、アリスを叱りつけた。
Break.
110
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/25(水) 18:57:26 ID:sdmVb0Qs0
11
.
111
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/25(水) 18:57:48 ID:sdmVb0Qs0
ある日を境にクーの態度は急変した。
元より感情を出すような性格ではなかったが尚更にそれは鳴りを潜め、ツンに対する接し方などは一歩も二歩も引いた感じになった。
それは従者としては正しい在り方かもしれないが、これにツンは戸惑い、もしや己はクーを怒らせたのだろうかと焦燥を抱いた。
ξ;゚⊿゚)ξ『わたし、なにかした? ねぇ、クーっ』
川 ゚ -゚)『……いいえ。何も御座いません、お嬢様』
向けられる冷徹な瞳に冷淡な声。ツンにのみ見せた笑顔は仮面に隠れた。
クーは無感情のままツンにそう告げるのみで、後は通常通りに、従者のそれとしてツンに尽くした。
以降、二人の関係には隔たりが生まれることになる。
ξ。゚ -゚)ξ『……きらいになったの?』
川 - )『…………』
果たしてクーはツンを嫌ったのか――それの真相は不明で、ツンは涙目で問いを向ける。
だがクーはそれに目を伏せると寡言になる。
無言――それは肯定の意味を含むが否定を意味する時もある。
答えは存在しないと言外にクーは伝えた。
幼いツンにはそう言ったやりとりだとかはよく分からない。
だが空気から伝わるもの――言葉を用意できないクーの様子を察すると面を伏せる。
ξ。゚ -゚)ξ『ねぇ……いいこにしてたら……また笑ってくれる?』
川 - )『…………』
ツンは勉強が苦手で、得意なことと言えば遊ぶことくらいだった。
特に誰もツンの性格に口を出すことはなかったが、ツンはその日から筆をとるようになった。
112
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/25(水) 18:58:08 ID:sdmVb0Qs0
弱音や愚痴を零し、授業が終われば毎度茹で上げた蛸のように伸びてしまう。だがそれでも必死で彼女は勉学に励む。
その他の芸術、音楽、馬術から始まり必要な素養の全て――それらに真面目に取り組むようになった。
見違えるような変化に城に住まう者等は如何したのだろうかと首を傾げ、ティレル侯爵ですらも心配を寄せた。
ξ゚ー゚)ξ『頑張ればね、きっと……また笑ってくれるから。だから頑張るよ』
父に問われた時、ツンはそう答えた。それが何を意味するのかはさっぱり謎で、彼は尚更疑問を抱いた。
けれどもツンは構わない。己のみがそれを理解し把握していれば問題はないと信じていたし、何よりも日々勉学に励む理由は彼女だけの秘密だった。
川 ゚ -゚)『お嬢様。次は数学で御座います』
ξ;'⊿`)ξ『えー! 止めようよ、数字はいやぁーっ!』
ツンは彼女の下で学ぶ。
日々を共に過ごす中、最早彼女の鉄面皮は定着したものになったが、それでもツンが諦めた日はない。
再度この目で笑ったシャロを見る為に。
そして何故全てが変わったのか――その理由を問う為に、今日もツンは必死にクーから教えを乞う。
113
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/25(水) 18:58:28 ID:sdmVb0Qs0
◇
馬車の中ではのっぴきならない空気が流れていた。
それと言うのもクーが珍しく怒気を露わにしているからで、そんな彼女の向かいでは、勝手に潜りこんでいたツンが身を縮こませていた。
川 ゚ -゚)「ご自分が何をしているのか理解出来ていますか……お嬢様」
ξ;゚ 3゚)ξ〜♪「ん、んー……なにかな? 何か問題があるのかなぁー……?」
川 ゚ -゚)「ふざけないでください」
ξii゚⊿゚)ξ「ぴぃっ!」
珍しいまでの剣幕――容赦もないクーの態度にツンは汗を滴らせ、顔を俯ける。
川 ゚ -゚)「再度訊きます。ご自分が、今、どこにいるのか……理解出来ていますか」
ξ;゚ー゚)ξ「え、えぇっとぉ……クーと一緒にお城から遠く離れたどこかの田舎道にいて、馬車の中で揺られてる……?」
川;- -)「……はあぁっ……」
渋い面をし、更に眉間に指を添えたクーは深く、それはもう深く溜息を吐いた。
現在、位置はティレル城から一時間ばかり離れた距離だった。
こうなれば急ぎ引き返しツンを城に連れ戻さなければならない、と思うクー。
川 ゚ -゚)「御者の方……すみませんが急いで城に戻ってください。お願いします」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっ……クーっ、そんなのってないよっ」
川 ゚ -゚)「それはこちらの台詞です、お嬢様。再度訊ねます。ご自身が何をしているのかちゃんと理解出来ていますか」
ξ;゚⊿゚)ξ「うっ……そ、それはぁっ……」
114
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/25(水) 18:58:48 ID:sdmVb0Qs0
ティレル侯爵の一人娘が突然に城館から姿を消した。恐らくは従者達全員を丸め込んだと思われる。
一人娘殿はこの日、己のレディースメイドが帰省すると知ると馬車に潜り込み勝手についてきたのだ。
従者達は顔面を蒼白にし、ああ、願わくば何の問題もないままことが済みますように、と祈ったが、そうは問屋が卸さぬとクー。
川 ゚ -゚)「再三言ったはずです。外は危のう御座います、と。更には何と言う真似をしているのですか。勝手に抜け出した、だけではなく城の者等を懐柔しましたね、お嬢様」
ξ;゚⊿゚)ξ「だっ、だってっ……!」
川 ゚ -゚)「何の“だって”かは問いません。これは大問題です。今すぐに道を戻ります」
ξ;゚⊿゚)ξ「そんなっ……」
クーが身を乗り出して御者に言葉を紡ごうとするが、そうすると今度はツンがクーにしがみ付いて必死で止めようとする。
川 ゚ -゚)「……お嬢様」
ξ;゚д゚)ξ「い、いやだいやだっ……お城には戻らないもんっ……!」
川 ゚ -゚)「そんな我儘や身勝手は許されません。もしもこれがマスターに知られたら使用人仲間たちの首が一斉に飛びます。それは物理的な意味合いも含めてです。
お嬢様、あなた様はご自身のなさったことを理解出来ていない御様子で」
ξ;゚⊿゚)ξ「だっ、大丈夫だよ! お父様なら分かってくれるもんっ!」
川 ゚ -゚)「否で御座います。マスターがあなた様を如何程に愛し、そして如何程に大切に想っているかをあなた様は知りません。外に知られる前に急ぎ戻らねばなりません」
ξ;゚Д゚)ξ「やだってばっ……!」
川 ゚ -゚)「……怒りますよ、お嬢様」
115
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/25(水) 18:59:09 ID:sdmVb0Qs0
久しく感情を露わにするクー。それと対峙するツンは恐怖を抱くが、しかし不思議と嬉しさもあった。
こう言った形でしか気持ちや感情をみせない――それは人格的な問題であるが、それであったとしても人間らしい反応と言うのは見ても聞いても安心する。
ツンは怒りを孕んだ瞳で見つめてくるクーを見上げる。
ξ;゚ -゚)ξ(怒ってる……そうだよね。きっとそうだと思う。でも……わたしだって思うことやしたいことがあるんだから……!)
例え自身の立場が特殊特別であったとして、だから何なのか、とツンは突っぱねる。
身勝手が許されざることだとしても関係がないとツンは判断する。
意思を持って生まれ、そして気持ちを抱き心があるならば、それに従うことはきっと正しいはずだと彼女は信じていた。
故にツンは譲らない。クーの瞳を真っ直ぐに見つめ返し、彼女の袖を握りしめ、言葉を紡いでいく。
ξ; ⊿ )ξ「外が見たかったんじゃないもん……」
川 ゚ -゚)「……?」
ξ;゚⊿゚)ξ「勝手なのはわかってるし、無責任なのもわかってるよ。でも……曖昧なまま、先延ばしにし続けて苦しむのはお互い様じゃない……!」
川 ゚ -゚)「――っ」
何を言っているのか――そう言いたいクー。だが思い当たる節があるのか彼女は言葉を失ってしまう。
そんな様子を理解したツンは更に畳みかけていく。
ξ;゚⊿゚)ξ「逃げようとしてたんでしょっ」
川 ゚ -゚)「……仰る意味が分かりません」
ξ;゚⊿゚)ξ「嘘ばっかしっ。急に帰るだなんて言って、いつもならもっと前に予定を言うじゃないっ」
川 ゚ -゚)「……その件については色々と込み入った事情がありました」
116
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/25(水) 18:59:29 ID:sdmVb0Qs0
ξ;゚⊿゚)ξ「それは何っ」
川 ゚ -゚)「……プライベートな内容ですので」
ξ;゚⊿゚)ξ「ほら、またそうやって逃げるっ」
川 ゚ -゚)「逃げていません」
ξ;゚⊿゚)ξ「逃げてるもんっ」
捲し立て、この勢いならばなんとかなるか、と楽観するツン。
しかし――
川 ゚ -゚)「そうやって話を逸らすのは……後ろめたいことがあるからですか、お嬢様」
ξ;゚⊿゚)ξ「へっ……」
川 ゚ -゚)「如何なる理由があり、何かしらの思惑や目的があろうとも、許されぬことは許されないのです」
ξ;゚⊿゚)ξ「んなっ……め、命令、命令ですっ。わたしの言う通りにしてっ」
川 ゚ -゚)「頷けません。今この時こそはマスターの意思を汲みます」
_,
ξ;゚д゚)ξ「ぐぬぬっ……この分からず屋ぁ……!」
ツンはクーにしがみ付き何とか阻止しようとするがクーはそんな努力を歯牙にもかけない。
窓から顔を出したクーは馬を操作している御者へと言葉を紡ぐのだが――
117
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/25(水) 18:59:58 ID:sdmVb0Qs0
川 ゚ -゚)「もし。今から急ぎ道を引き返してはくれませんか」
「あー? あんだってー?」
川 ゚ -゚)「……あのっ。道をっ。引き返してっ。くださいっ」
「はぁあーっ? なぁんだってーっ?」
川;゚ -゚)「わざとですかそれはっ。いいから手綱をっ――」
「こらぁっ! オラの馬に触るでねぇわ!」
川;゚ -゚)「あうっ! くっ、この……! 人の頭を簡単に叩くとは……!」
「まぁったくぅ……しっかし、ハートフィールドかぁ、かなり遠いだべさなぁ……暴れてないでちゃんと席さ座っとれよぉ、まったくぅ……」
川;゚ -゚)っ「ちょっ、御者殿っ……」
お年を召された御者は耳が非常に遠い上に話を聞こうともしない。
そうしてクーはいよいよ完全に言葉を失うと――
ξ*゚∀゚)ξ「いひひっ……それじゃあ旅路を楽しもうか、クー?」
川; - )「……なんという……ことですか……」
背後から抱き付いてきたツンすらも無視し、絶望を分かりやすく口にした。
Break.
118
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/25(水) 19:00:19 ID:sdmVb0Qs0
本日はここまで、おじゃんでございました。
119
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:56:22 ID:XAwkQF4U0
12
.
120
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:56:47 ID:XAwkQF4U0
ハートフィールド村は田園地帯だ。
田舎ならではの景色――緑の広がる景色にツンは度々声を上げ、瞳を煌めかせて忙しなく感動をしている。
そんな彼女の隣ではレディースメイドであるクーが未だに眉をひそめ、時折唸りをみせた。
ξ*゚⊿゚)ξ「ねぇねぇクーっ。すごいねハートフィールドってっ。草原と田んぼばっかりだよっ」
川 ゚ -゚)「……そういう土地で御座います、お嬢様」
興奮するツンはその感動を彼女に伝えようとする。
しかし元より彼女の出身はこの田舎町で、帰省の目的でこうして馬車に揺られていた。
普段感情の一つも見せない彼女だが、この日ばかりは――愛しい故郷に帰還するとなるとその表情も柔らかくなった。
が、現状の彼女は普段よりも数割険しい表情で、ツンの言葉に無感情な言葉を返す。
その反応にツンは少々おののいたが、けれども折れず屈せず彼女の膝の上へと腰を据え、そうして彼女を仰ぎ見やる。
ξ゚⊿゚)ξ「……まだ怒ってるの?」
川 ゚ -゚)「……当然です」
ξ゚〜゚)ξ「いいじゃない、こうなっちゃったものは」
川 ゚ -゚)「何一つとしていいものはありません」
_,
ξ゚〜゚)ξ「厳しいなぁ、クーは」
川 ゚ -゚)「お嬢様……」
分かっていての反応と、言うことくらいはクーにも分かっていた。
しかし受け入れ難いのだ。更には許し難い。それは何もツンにのみ向かう訳ではない。
例えばことに関与したと思われる仲間達――ティレル城に残る使用人共を思い浮かべると怒りが湧いてくる。
更には馬車を操縦している御者には殺意すら芽生えた。
まるで話の一つも聞こうとせず、どころか今は陽気に鼻歌まで奏ででいた。
クーの拳が硬く握りしめられるが、ツンの手前であるからか次第にその拳からは力が抜ける。
兎角、膝の上に乗るツンを落ちないようにと擁するクーは、赤く染まった貌をするツンを無視してどうしたものかと悩む。
121
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:57:09 ID:XAwkQF4U0
川 ゚ -゚)(……結局、到着してしまった。どうすれば……馬はもうないだろうし。とは言え近く馬車が出る日なんて……)
田舎であることもそうだが、冬の時期、簡単に馬車を出してくれる者はそうはいない。
例えば今回の御者は雇われの一般の者だった。
如何に城に勤めているとはいえ貴族のように送迎の持成しや振る舞いがある訳ではない。
とは言えイギリスとは見栄と繁栄こそが全ての国家だ。
例えば如何に凡な者であれ、それが城住まい――貴族の僕となったら当然主は馬を貸し与え御者を伴わせる。
そんな経済能力もないのか――人間一人を満足に働かせるだけの力もないのか、と他者に誹られるのすらも我慢ならない。
だがティレル家に務める者達は自身で都合を見つけ、更には御者も故郷に所縁のある者か、或いは適当な者等に頼んだ。
理由は簡単なことだった。単純に言えば見栄を張る必要もないくらいにティレルの名は知られている。
何よりとしてティレル侯爵の用意する馬車と言えば、お察しの通り派手で豪華な籠ばかりだった。
それで通りを行けば周囲の反応は一つの騒ぎで、よもや王族の方か、或いは所縁の者か、はたまた――などと盛り上がる。
こと、それが故郷で見られたとなれば居心地が悪い。
結局、従者達はティレル卿の有難い親切心を丁寧に断ると、安心できる――庶民らしく、ある程度普通と呼べる馬車に乗り付けて帰省する。
川;- ,-)「帰ったらすぐに馬車の手配をせねば……」
ξ゚⊿゚)ξ「え? そんなに早く帰る予定だったの? 一カ月くらいは休むのかと思ってた」
川;゚ -゚)「……そうせねばならない理由がありますので」
ξ゚⊿゚)ξ「……へぇー。そうなんだぁー」
_,
川;゚ -゚)(なんとわざとらしい……)
据わった瞳で妖しい笑みを浮かべるツン。
クーの言葉に思い当たる節がある、どころではなく彼女は自身こそが原因だと言う自覚があった。
122
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:57:31 ID:XAwkQF4U0
ツンの優位は変わらない。既に目的地であるハートフィールドに到着をした。
今更城に帰るとなっても時は遅い。本日の御者もこの日ばかりは馬を出すことはないだろう。
完全に手詰まり――それを悟ったクーは本日何度目か分からない溜息を吐くとツンを更に強く抱きしめる。
ξ;゚ 3゚)ξ「うぎゅっ。ちっ、ちょっとくるしぃかなぁって思うんだぁ、クー?」
川 ゚ -゚)「……然様で御座いますか」
ξ;゚ー゚)ξ「お、怒ってるのは分かったからっ。もう少し力緩めてほしいなぁ?」
川 ゚ -゚)「はい。では更に締めますね」
ξ;゚ 3゚)ξ「――ひぎゅぅっ!」
川 ゚ -゚)「この一帯は道が荒いので。しっかりと掴まっていないと落ちてしまいますよ、お嬢様」
ξ;゚ 3゚)ξ「あっ、あいあいーっ……」
そういう理由ならば至極納得――と、ツンは丸め込まれるところだったが腹を圧迫するクーの腕に情けのない声を漏らしてしまう。
ξ*^⊿^)ξ「……あははっ」
川 ゚ -゚)「……?」
だが、彼女は笑いを零す。それは愉快そうで、とても幸せそうな笑顔だった。
疑問に思ったクーはツンを見下ろすが、そんなツンはクーへと丁度視線を向ける。
123
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:57:52 ID:XAwkQF4U0
ξ*゚ー゚)ξ「楽しいね、クーっ。久しぶりにこんな風に笑ってる気がする」
川 ゚ -゚)「何を……」
ξ*゚⊿゚)ξ「だって……久しぶりだから。怒ってるクーを見るの。それに、ムキになってるクーを見るのもね?」
その台詞にクーは数瞬沈黙をし、更に、己はムキになっていたのか、と自問をした。
存外、己のことと言うのは分かりにくいが、しかし今の彼女を見れば誰もが口を揃えて、分かりやすい娘だ、と言うだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、知ってるクー」
川 ゚ -゚)「……何がでしょうか」
ξ゚⊿゚)ξ「“好き”の反対」
唐突に紡がれた問いにクーは首を傾げ、何を簡単なことを言っているのか、と口にしそうになったが――
ξ゚⊿゚)ξ「答えは“無関心”なんだよ」
川 ゚ -゚)「……無関心?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。“嫌い”は反対の言葉じゃないの。意識を向けてるから。それって相手を認識してるってことなの」
川 ゚ -゚)「…………」
ξ゚⊿゚)ξ「つまりね、“嫌い”って言う人は“それ”に対して主観を向けて、更には感情を抱くだけの思いがあるの。だから“嫌い”は悪いことじゃないよ。感情や気持ちっていつかは変化するかもしれないから」
でもね、とツンは言葉を続ける。
ξ゚⊿゚)ξ「“無関心”ってね、なにも抱かないの。感情も、思いも、意識そのものも向けないの。まるでそこらへんの石ころを見るように接するの。それって怖いことだよね」
川 ゚ -゚)「……そうですね」
ξ゚⊿゚)ξ「だからね、クー。わたしは今凄く安心してるんだよ?」
そう言うとツンはクーの手を握りしめ、更に瞳を見つめて言葉を続ける。
ξ゚⊿゚)ξ「わたしに意識を向けて、感情を向けて、気持ちを抱いてくれてるから。今のクーは怒ってるけど、でも、それが凄く嬉しいんだぁ。だって興味ないことの方が怖いもん。私はこんなに……必死なのに」
川 ゚ -゚)「…………」
124
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:58:22 ID:XAwkQF4U0
先日の一件からツンが気持ちを隠すことはなくなった。
クーに対しては正々堂々と、真正面から気持ちをぶつけてやると心に誓った。
それと対するクーは変わらずに寡言だが、しかし――
川 ゚ -゚)「お気楽な考えです、それは」
ξ゚⊿゚)ξ「……そうかな?」
川 ゚ -゚)「ええ。楽観です。如何に興味や関心を向けられているとしても、嫌い、と言う感情が逆転する可能性は不明確で御座います」
ξ゚⊿゚)ξ「……確かに、そうかもしれないけど。でもっ――」
川 ゚ -゚)「それもまた一つの可能性。それに賭けるのも悪くはない……そう言いたいのですか、お嬢様」
――彼女はそんな風にツンを否定するが、けれどもツンは先から感じていた。
クーの手が、握り合う手の感覚が強くなっていることに。
ツンはクーを見つめる。相変わらずクーの瞳は伏せられているが、その頬には微かに熱が差す。
川 ゚ -゚)「甘えた考えは捨て去るべきで御座います」
ξ゚⊿゚)ξ「そう?」
川 ゚ -゚)「はい。これからはもっと徹底した教育を心がけましょう」
ξ゚ー゚)ξ「ふふっ……うん。そうだね」
間もなく、揺れ動いていた馬車は停まり、その中から可憐な美少女と佳人が姿を見せる。
馬車から先に降りたのは佳人で、彼女はそのままに握りしめていた手を引く。
そうして己の主である乙女を抱き留めると、互いの身形を正してから傍らに悠然と立った。
Break.
125
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:58:43 ID:XAwkQF4U0
13
.
126
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:59:05 ID:XAwkQF4U0
十九世紀中葉、イギリスはハートフィールド。
この時代、ハートフィールドの知名度はそうは高くはない。
が、二十世紀頃にはとある熊の誕生と共に世界的に名が知れ渡り、聖地然と言った具合にもなった。
兎角、アッシュダウンの森を越えてきたツンとクーはいよいよ目的の場所に到着を果たす。
ξ*゚⊿゚)ξ「ふわぁーっ。大きいお家じゃない、クーっ」
川 ゚ -゚)「……まぁ、一応は一帯を纏め上げる豪農の家系ですので」
草原と田畑に囲まれるように建つのはクーの実家だった。
広大な敷地に巨大な家屋。それは屋敷のような外見で、想像していた以上の規模にツンは興奮をそのままに大きな声を上げる。
纏わりついてくるツンをいなしながらもクーはそう言い、特に誇らしげにする訳でもなく敷地へと踏み入った。
が、ツンの手を引いたままにいざ帰還を果たそうとするが――
川 ゚ -゚)「……お嬢様、先程も言いましたが――」
ξ゚⊿゚)ξ「特に期待をするな、召使いもいなければご飯も大したものじゃない、もてなしの一つもない……でしょ?」
川 ゚ -゚)「……その通りです」
ξ゚⊿゚)ξ「そんなの分かってるよっ。それに、そんなのがなくったって、シャロの御家族と会いたかったのも本音だしねっ」
己の抱え持つレディースメイドの親族――見て聞いて知りたいと思うツンは、果たしてどのような一家なのか、と期待に胸を膨らませる。
聞いた限りでは兄弟姉妹はいないそうで、この大きな屋敷には彼女の父母のみが暮らしているとのことだった。
果たして如何なる人物達か――やはりクーのように冷徹で寡黙で感情の一つも見せないのか、とツンは思った。
それはそれで面白くもあるが歓迎をしてくれるようなタイプではないな、と思い気分が落ち込む。
が、しかしここまで来たからには前へと進む他に道はない。
御者は先程村の酒場に行ってしまった。二、三日はハートフィールドに滞在していると言っていたが早速疲れを癒すために憩の場へと出向いた様子だった。
兎角、彼のことはさておき、ツンはやや緊張した面持ちでクーの手を握りしめ、クーと言えばそんなツンを見下ろすと渋い面をした。
そうしていよいよクーが戸へと手をかけ、それを開け放つ。
127
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:59:57 ID:XAwkQF4U0
>>126
訂正
十九世紀中葉、イギリスはハートフィールド。
この時代、ハートフィールドの知名度はそうは高くはない。
が、二十世紀頃にはとある熊の誕生と共に世界的に名が知れ渡り、聖地然と言った具合にもなった。
兎角、アッシュダウンの森を越えてきたツンとクーはいよいよ目的の場所に到着を果たす。
ξ*゚⊿゚)ξ「ふわぁーっ。大きいお家じゃない、クーっ」
川 ゚ -゚)「……まぁ、一応は一帯を纏め上げる豪農の家系ですので」
草原と田畑に囲まれるように建つのはクーの実家だった。
広大な敷地に巨大な家屋。それは屋敷のような外見で、想像していた以上の規模にツンは興奮をそのままに大きな声を上げる。
纏わりついてくるツンをいなしながらもクーはそう言い、特に誇らしげにする訳でもなく敷地へと踏み入った。
が、ツンの手を引いたままにいざ帰還を果たそうとするが――
川 ゚ -゚)「……お嬢様、先程も言いましたが――」
ξ゚⊿゚)ξ「特に期待をするな、召使いもいなければご飯も大したものじゃない、もてなしの一つもない……でしょ?」
川 ゚ -゚)「……その通りです」
ξ゚⊿゚)ξ「そんなの分かってるよっ。それに、そんなのがなくったって、クーの御家族と会いたかったのも本音だしねっ」
己の抱え持つレディースメイドの親族――見て聞いて知りたいと思うツンは、果たしてどのような一家なのか、と期待に胸を膨らませる。
聞いた限りでは兄弟姉妹はいないそうで、この大きな屋敷には彼女の父母のみが暮らしているとのことだった。
果たして如何なる人物達か――やはりクーのように冷徹で寡黙で感情の一つも見せないのか、とツンは思った。
それはそれで面白くもあるが歓迎をしてくれるようなタイプではないな、と思い気分が落ち込む。
が、しかしここまで来たからには前へと進む他に道はない。
御者は先程村の酒場に行ってしまった。二、三日はハートフィールドに滞在していると言っていたが早速疲れを癒すために憩の場へと出向いた様子だった。
兎角、彼のことはさておき、ツンはやや緊張した面持ちでクーの手を握りしめ、クーと言えばそんなツンを見下ろすと渋い面をした。
そうしていよいよクーが戸へと手をかけ、それを開け放つ。
128
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:00:34 ID:XAwkQF4U0
川 ゚ -゚)「ただいま、お父さん、お母さん」
ξ;゚⊿゚)ξ「おっ、おじゃましますっ」
踏み入り、帰還の一声を響かせる。同時にツンは挨拶の言葉を口にした。
こう言った、所謂一般的な家庭にきたことがないツン。友だちがいない訳ではない。
同じく貴族のよしみで仲良くなった同年代、或いは年の近い娘達とは互いの屋敷や城を行き来したりもした。
が、果たしてそう言った特殊な環境とは違う一般家庭での礼儀作法と言うのは如何なるものか――これまで培ってきた全ての知識を活かすべく、彼女が紡いだ言葉は、実に一般的な台詞だった。
兎にも角にも、そんな声が二つ響くと奥の方から忙しない足音が響いてくる。
( ‘∀‘)「あらあら、お帰りなさい、クー」
朗らかな表情、そしてふくよかな体系をした女性だった。
歳は壮年か、或いはもう少しいった具合か。クーの名を呼んだ彼女こそがクーの実母だった。
川 ゚ -゚)「ただいま、お母さん」
( ‘∀‘)「あらまぁ、お客さんまで? どうしたの、お友だち?」
川;゚ -゚)、「いや、その……」
言葉に詰まるクーは、己の背後に隠れたツンへと視線を送る。
先まで息巻いていた様子とは打って変わり、今のツンは何故か怯えるような、或いは恐怖する感じだった。
その理由の全ては緊張、そして恥じらいだった。
ξ;゚⊿゚)ξ(わっ、どうしようっ。さっきの挨拶、もしかして早すぎたのかな……て言うか変に思われてるかも!? でもでもっ、次にどう言う言葉を言えばいいのか分かんないしっ)
完全に混乱しているツン。
そんな彼女の様子を悟ったクーは、一つ溜息を吐くが――
129
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:01:20 ID:XAwkQF4U0
川;゚ -゚)「私の主様の……ツン・ティレル様だよ、お母さん」
ξ;゚д゚)ξ「ひゃっ、ひゃひめまひひぇっ!」
( ‘∀‘)「……え?」
無理矢理にツンを己の前へと立たせると彼女の名を口にし、ツンと言えば唐突の出来事に完全に不意を突かれ、改めて挨拶をしたが噛みまくりだった。
そんな二人のやりとりを目の前で見た母親と言えば――
(;‘∀‘)「なっ……ちょっ、お父さん、お父さーん! 大変! ツンお嬢様がぁっ!」
何度も目の開閉を繰り返し、更にツンを間近で見ると驚愕に面を塗りつぶす。
驚愕の限りを尽くすと、躓きながらも旦那の下へと駆けていった。
玄関に取り残されたツンとクーは互いに大きく息を吐き、そうすると二人して同時に顔を見やる。
ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇ、クー? 今のは少し酷いと思うよ?」
川 ゚ -゚)「……そうでしょうか」
ξ#゚⊿゚)ξ「そうでしょうか、じゃないよっ。少しくらいわたしにだって準備とか心構えって言うのが必要なのっ」
川 ゚ -゚)「しかし、あまり遅いと不審に思われます」
ξ#゚⊿゚)ξ「だとしても無理矢理立たせたり、そのっ……」
川 ゚ -゚)「……? なんですか?」
ξ#゚ H゚)ξ「……なんでもないっ」
無理矢理に肩を掴んで引き寄せるのはずるい、と。ツンはそう言おうと思ったがとどめることにする。
普段、クーはそう言う無理矢理な真似はしない。ツンの嫌がるだろうことは確実にしない。
だが先のことと言えば、まるで普段の彼女らしからぬ感じで、更にはその横暴ともとれるやり口がツンを動揺させる。
130
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:01:58 ID:XAwkQF4U0
現在、クーの故郷。
帰ってきたこともあるからか、今のクーは気が緩んでいると言うよりかは素に近い様子だった。
もしかしたら、本来の彼女の性格と言うのは、そう言った力任せな部分もあるのでは――と、ツンは思う。
ξ*゙⊿゙)ξ、「いや、そんな、別に恥ずかしいとか、ドキっとしたとかじゃなくって……その、ほら、唐突過ぎてね? そうするとやっぱり焦るでしょう? だから今顔が熱いのも胸が煩いのも、全部驚いたからな訳であってっ」
川 ゚ -゚)「……何を先からぶつぶつと言っているのですか、お嬢様?」
ξ*゙д゙)ξ「にゃっ、にゃんでもにゃいっ」
人の気も知らずに――そう内心で思うツン。それに首を傾げるクー。
やはりいつもの関係はいつもの通りかと、今度は落胆をするツンだったが、そんな時だ。
(;´∀`)「わっ、なっ、えっ!? これはどう言うことなんだモナ、クー!?」
(;‘∀‘)「ねっ、ねっ! 言ったとおりでしょ! ツンお嬢様でしょう!?」
(;´∀`)「ああ、間違いないモナ! このお方こそはツン・ティレル様だモナっ……!」
再度忙しく喧しい足音を響かせてやってきたのはクーの父で、そんな彼の後を追ってきたのはクーの母だ。
父の背は大きく、顔立ちも整っていた。若い頃はさぞモテただろうな、とツンは思うが、しかし父母と言えばクーに鬼のような形相をして迫り寄る。
(;´∀`)「何がどうなっているんだモナ、クー!」
(;‘∀‘)「説明の一つくらいはしてほしいわよ、クー!」
(;‘∀‘)「「どうしてお嬢様がこんな田舎に!?」」(´∀`;)
131
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:02:49 ID:XAwkQF4U0
予想の通りの台詞にクーは何とも言えない面をし、そんな彼女の隣ではツンが悪い笑みを浮かべていた。
果たしてどう言ったものか、とクーは悩むが、しかしややもせずに彼女はこう言うのだ。
川;゚ -゚)「……庶民の暮らしを体験させよう、と……マスターからの令が下ったから……」
そんな苦し紛れな嘘八百に対し、父母と言えば口を大きく開けると、あのお方は何を考えていらっしゃるのか、と同時に言葉を零す。
川;- ,-)(こっちが聞きたいよ……)
彼女は心の中でそう呟くと、波乱の待つであろうこれからの景色を思い、再度大きく溜息を吐いた。
Break.
132
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:03:14 ID:XAwkQF4U0
14
.
133
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:03:38 ID:XAwkQF4U0
川 ゚ -゚)「いいですか、お嬢様。五日間です。五日間だけこの村に滞在します」
_,
ξ゚ 3゚)ξ「ぶーっ……」
夜、クーは自室でツンにそう言った。
相も変わらずに感情の一つも見せない声色を向けられたツンは、室内にあるベッドの上を転がりながら不機嫌そうな反応を示す。
川 ゚ -゚)「先程、御者に問い合わせたところ五日後には馬を出すとのことでした」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「もっとゆっくり休んでもいいんじゃないかな? 折角の長期休暇を無駄にすることはないと思うよ?」
川 ゚ -゚)「わたくしもそう思っておりましたが、予定が変わりました」
_,
ξ゚〜゚)ξ「……なんだかわたしの所為みたいな言い方だね?」
川 ゚ -゚)「……はて、どうでしょうか」
ξ;゚д゚)ξ「そこは否定しないんだっ」
あれから――昼頃にクー邸へと到着をしてから、クーの父母は大慌てだった。
その理由こそはツン・ティレル嬢の存在があるからだ。
何の予告もなしにやってきたのは大恩あるティレル侯爵の一人娘。
しかもその訪問の理由は教育の一環だと言う――これはクーの機転による嘘だった――から更に慌てふためいた。
こんな田舎の、更には大したものもない家で令嬢を如何に持成すべきか、と二人は頭を抱えた。
しかしこれにツンは笑みを浮かべながらに、己に対して特別な対応は不要である為何も気にかける必要はない、と言う。
そうは言うがどうあっても主君の娘を雑に扱う訳にはいかない。
更には教育となれば尚更に模範となるべくして緊張が生まれ、父母はぎこちなくなった。
134
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:04:10 ID:XAwkQF4U0
ξ゚⊿゚)ξ「でも、優しいご両親だね、クーのお父様とお母様は」
川 ゚ -゚)「……そうでしょうか」
ξ*゚⊿゚)ξ「そうだよっ。ご飯も美味しかったしっ」
本日はクーの帰参に伴い彼女の好物が既に用意されていた。
田舎の料理は量も多ければ品目も多い。ツンは己の前に出された幾つかの料理に目を輝かせて見つめるのだ。
ロースト肉にサーモンのステーキ、他にも大きなパテ――テリーヌの塊を見るとツンは仰天し、これは美味しそうだと燥ぐ。
果たして令嬢の舌に田舎の飯は合うか否か――結果から言えば彼女は大層満足した。
ξ*゚⊿゚)ξ「美味しかったなぁ、あのローストビーフっ……鶏肉のテリーヌもすっごく美味しかったっ」
川 ゚ -゚)「お気に召していただけたようで何よりで御座います」
ξ*゚⊿゚)ξ「ね、ねっ。今日のは全部クーの好きな食べ物だったんでしょ?」
川 ゚ -゚)「……? はい、まぁ……そうですが……」
ξ*゚⊿゚)ξ「クーってお肉が大好きなんだねっ」
川 ゚ -゚)「…………」
そう言われてクーは次第に顔を赤くするとツンから背ける。
ξ;゚⊿゚)ξ「え……どうしたの?」
川 ///)「……はしたないと、思いますか?」
ξ;゚⊿゚)ξ「……え?」
川;- ,-)「いえ、その……申し訳ありません、お嬢様。お嬢様の御前で、その……」
135
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:04:46 ID:XAwkQF4U0
流石に女人が恥じらいもなく肉に喰らいつくと言うのは如何なものか――更には主人の前で臆面なくすると言うのは頂けない。
クーはそう自責に駆られると深く反省し、ツンに対して頭を下げる。
ξ;゚⊿゚)ξ、「い、いやいや、そんな……なにも可笑しくなんてないよ、クーっ。わたしだってお肉好きだよ?」
川;゚ -゚)「しかし……」
ξ;゚д゚)ξ「もう、だから気にしないでよっ。そもそも、今のクーは帰省してる……仕事から解放されてるんだよ? だからそう言う振る舞いを気にしなくったって……」
川 ゚ -゚)「そうは仰られますが、お嬢様の前であることは事実です」
_,
ξ;゚〜゚)ξ「うっ……確かにそうだけどぉ……」
これでは埒が明かない――そう理解したツンは、兎にも角にもクーを手招く。
ξ゚⊿゚)ξ「クー、こっち来て?」
川 ゚ -゚)「……はい」
そうは言うがそのベッドは元々クーの物で、部屋の主もクーだった。
が、普段からクーに命令を下す立場なツンは、そんな事実は他所にクーを手招くと隣に座らせる。
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、クー」
川 ゚ -゚)「はい、お嬢様」
ξ゚⊿゚)ξ「そのね? その……難しいことだと思うの。わたしを普段から意識して、いつもいつもお世話をしてくれてるから、今更こう言う距離で普通に過ごすって無理かもしれない」
川 ゚ -゚)「…………」
その言葉にクーは内心で強く、それはもう強く頷いた。
ξ゚⊿゚)ξ「けどね……折角こうして二人きりでお城の外に出られたんだよ? そうなったら、もう……主従の関係はまた別の問題だと思うの」
川 ゚ -゚)「……それは、誠に難しい話で御座います」
ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり……?」
136
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:05:17 ID:XAwkQF4U0
如何に状況が別だとしても、ツンを前にすればクーは従者のそれとして徹する。
そう言う教育をされてきたし、レディースメイドとしての誇りも確かにあった。
更に言うならば、クーはそれを強く誓っている。
川 ゚ -゚)「“このお方の支えになる”」
ξ゚⊿゚)ξ「え……?」
川 - ,-)「……そう、決めておりますので」
ξ;゚⊿゚)ξ「ん、んー……? 何のこと、クー……?」
初めてツンと出会った時、クーはそう誓った。
彼女の為に己は全てを賭し、身を粉にする覚悟までをもかためた。
それ程までにクーにとってのツンとは神格化されたような存在だった。
それを普段口に出すことはないが、彼女はやはりツンに忠誠を誓い、己の命をも捧げる勢いだった。
川 ゚ -゚)「息苦しいかもしれませんが、どうかご容赦くださいませ、お嬢様。わたくしはやはり、あなた様のメイドで御座いますれば。如何様な状況であろうとも……こうして接する他に手段は存じ上げません」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「むぅー……なら、いいけど……」
できるなら本来のクーを見てみたかったツン。
が、それはそれで戸惑う可能性もあったし、何より、見知らぬ土地だが、よく見知った人物が普段通りに接してくれると、不思議と安心を得る。
川 ゚ -゚)「なので……やはり認める訳にはいきません、お嬢様」
_,
ξ゚ 3゚)ξ「ぶーっ! いいじゃんいいじゃんっ」
川 ゚ -゚)「駄目です。同じベッドで寝よう、だなんて……了承できる訳がありません」
さて、先からクーの部屋に居座るツンだったが、その様子からして出ていく気はないようで、更にはベッドから退こうともしない。
曰く、それこそは一緒に寝たいから、とのことで、クーはこれを聞くと本日何度目かも分からない大きな溜息を吐き、更には眉間に皺をよせ指を宛がった。
137
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:05:54 ID:XAwkQF4U0
_,
ξ゚⊿゚)ξ「何でダメなのっ」
川 ゚ -゚)「お答えするならば、安全性の為で御座います」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「安全性っ」
川 ゚ -゚)「はい。このベッドは見て分かるようにダブルベッドですが、しかし、もしもわたくしの寝相に巻き込まれたら、小さなお嬢様では成す術もなく下敷きになってしまいます」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「クーの寝相が悪いだなんて話聞いたことないよっ」
川 ゚ -゚)「はい。訊かれたことがありませんので」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、少し距離をあけて――」
川 ゚ -゚)「仮に、お嬢様がベッドから落ちたら一大事で御座います」
_,
ξ゚д゚)ξ「……あれもダメ、これもダメじゃないっ」
川 ゚ -゚)「はい。そうです」
にべもないクーの態度にツンは頬を膨らませる。
クーは内心では頼むから納得をしてくれ、と願うのだが――
_,
ξ゚⊿゚)ξ9mm「……命令です、クー」
川;゚ -゚)「っ……」
ツンと言えば自身の権限を最大限に活かすつもりの様子で、クーは紡がれた台詞に心臓が跳ね、更には無意識のうちに頷きそうになる。
ξ゚⊿゚)ξ「わたしと一緒に寝てっ」
川;゚ -゚)「お嬢様……」
ξ゚ -゚)ξ「……お願い」
138
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:06:21 ID:XAwkQF4U0
と、寄越されるのは上目使いで、これにクーはいよいよ陥落してしまった。
川;- ,-)「……今日、だけですよ」
ξ*゚⊿゚)ξ「わーい、やったー!」
クーはどうあってもこの誘いを断りたかった。全ての理由はツンの暴走だ。
先日唇を奪われているクーだが、もしも他者のいないこの家で襲われたら、果たしてツンはどこまで突っ走るのか――そんなことまで考えてしまう。
川;゚ -゚)(……何も起きませんように)
そんな風に祈りながら室内の明かりを消したクーは、隣に身を横たえたツンへと意識を向ける。
ξ-⊿-)ξ「むにゃむにゃ……」
川 ゚ -゚)「…………」
ベッドインから三分も経っていなかったが、ツンは即座にブラックアウトした。
その事実に呆けたクーだが――
川 ゚ -゚)「……疲れていたのですね」
今日一日での経験はツンにとっては大冒険だった。
可愛らしい寝息を立てるツンを見つめたクーは、静かに笑みを浮かべ、ツンの額を撫でてやる。
川 - ,-)「……おやすみなさいませ、お嬢様」
この日、ツンは十分に睡眠をとったが、翌朝、目に濃い隈を作ったのはクーで、彼女は“心休まる時はないな”と一人静かに言葉を零した。
Break.
139
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:06:46 ID:XAwkQF4U0
15
.
140
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:07:10 ID:XAwkQF4U0
ツン嬢がクー邸に来て二日目の朝。
ツンはクーの焼いたターンオーバーとベーコン、そしてブレッドを小動物のように貪っていた。
ξ*゚〜゚)ξ「はむはむはむっ……おーいーしーいーっ!」
川 ゚ -゚)「大袈裟ですよ、お嬢様……お水をどうぞ」
ξ*゚〜゚)ξ「んーっ、あひはほーっ」
水を受け取りつつもツンは一般的な朝食を楽しむ。
ξ*゚⊿゚)ξ-3「んむぅっ……ふへー、なんだろう、いつも食べてるのより味が素朴? 薄い? のかな?」
川 ゚ -゚)「城で揃えている物は全て一級品ですので。やはり味の質は違うかと」
ξ*゚⊿゚)ξっ「でもでもっ、この目玉焼きとベーコンすっごく美味しいっ! なんでだろう?」
川 ゚ -゚)「卵は今朝方取れたものですので。ベーコンは恐らく焼き方が城のコックとは違うのでしょう。我が家のやり方では蒸し焼きです」
ξ*゚⊿゚)ξ「そうなんだ! うーん、このターンオーバー……しかも見事にオーバーミディアムっ。よくわたしの好みを理解してるね、クー?」
川 ゚ -゚)「レディースメイドですので」
そう言いつつ、クーも席へとつくと遅れて朝食をとる。
主人と席を同じくして、更には食事を共にする――どう考えても有り得てはいけない状況だが、これもまた、ツンのお願い――ほぼ命令――となれば、流石にクーも頷きをみせた。
この日、クーの父母は早くも仕事に出ていた。
冬と言えど農家にはやることが腐るほどある。つまりは多忙だった。
141
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:07:43 ID:XAwkQF4U0
ξ゚ー゚)ξ「ふふっ……」
川 ゚ -゚)「……? 如何なされましたか?」
ξ゚ー゚)ξ「んー……あのね?」
ロンドンよりも南に位置するハートフィールド。時期が冬とは言え然程厳しい環境とも言えない。
そもそも英国の冬は滅多に雪は降らない――地域にもよるが――ので、煩わしいのは肌寒さと高い湿度だけと言える。
が、ハートフィールドの村は低湿度の様子で、その過ごしやすい環境を気に入ったツンは、早朝の景色に御満悦の様子だった。
ξ゚ー゚)ξ「いいところだねぇ、ハートフィールドって」
川 ゚ -゚)「田舎で御座います」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「そんなことないよっ。のどかで素敵じゃない」
川 ゚ -゚)「娯楽らしい娯楽もありませんよ、お嬢様。明日、明後日と過ごせば早く城に帰参したい、と思うでしょう」
_,
ξ゚ 3゚)ξ「ぶーっ……別に、娯楽とかはいいよ。何より……こうして朝、ゆっくりとクーと朝ご飯食べられるのって、奇跡に近いしっ。これだけでも儲けものなのっ」
川 ゚ -゚)「……然様で御座いますか」
そう呟きつつ、クーはパンを口へと運ぶ。
そのままに咀嚼をすると淹れたてのコーヒーを啜り、一つ呼吸を置くと再度食事の手を進める。
142
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:08:11 ID:XAwkQF4U0
川 ゚ -゚)「お嬢様」
ξ゚⊿゚)ξ「なに?」
川 ゚ -゚)「……サラダ、お嫌いで」
ξ;゚⊿゚)ξ「ぎくっ」
川 ゚ -゚)「……如何にお嬢様と言えど、よその家で礼儀や作法を欠くと言うのは――」
ξ;゚д゚)ξ「だ、だって、ビーンズ入ってるんだもんっ……って言うかわざとでしょ、これっ」
賑やかしい朝の景色。
普段ならば他にも従者やらが傍につき、そんな者等の視線を前にして一人で食事をとる。
ツンはそれを不思議な光景とは思わなかった。それが生まれながらに当然だったからだ。
時に父や親しい間柄の誰ぞかと食事の席を囲む時もあったが、そういう時以外――普通に食事をする分には孤独が常だと思っていた。
だがこうしてクーと適当な会話をしながら食事をしてみれば、不思議な程にツンは胸の中が温かくなった。
それと共に幸福もあった。
ξ*゚⊿゚)ξ、(なんか、これってあれみたい。その……新婚さん?)
クーの手作り料理――食すのは初のことで、実のところ、ツンはかなり待ち遠しく思っていて、食事が並べられるとナイフとフォークを鳴らす程だった。
が、お叱りを受けては料理も冷めてしまう為、ある程度我慢をしつつ、ようやっとよしの合図を得ると、後は先の反応の通りだった。
143
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:08:36 ID:XAwkQF4U0
川 ゚ -゚)「……? 如何なさいましたか?」
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、いや、そのっ……」
そしてクーが食事をする様子だ。これにツンは釘付けだった。
別に見たことがない訳ではない。だがその数も一度か二度、ないしは三度程度だった。
果たして普段の彼女のマナーや作法と言ったものが如何程の程度かは不明だが、少なからず今見ている限りではツンよりも遥かに気品があった。
並ぶ料理はどれも簡単なもの、且つ大した内容ではない。
しかし食器を操作する手の動きから口へと運ぶまでの時間、他、食事の音は――咀嚼等も含め――ほぼ皆無と言える。
ξ゚⊿゚)ξ「……ずるいよね、クーって」
川 ゚ -゚)「はい……?」
まるで完璧人間――見惚れると同時に嫉妬を抱くほどにクーは極まっている。
そもそも彼女の所作と言うのは完璧で、例えば歩き方の一つを注目しても文句のつけようはなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「何でも出来ちゃうよねぇ、クーは……超人?」
川 ゚ -゚)「レディースメイドですので。万事完璧にこなすのが役目で御座います」
ξ゚⊿゚)ξ「あー、模範となるべく、だっけ?」
川 ゚ -゚)「はい、その通りで御座います」
レディースメイドとは何か。
それはレディーの――この場合はツンにあたる――身の回りの世話を全て任され、更にはハウスキーパー等の監督役からの指示を無視することも出来る。
メイドの中でも別格中の別格と呼ばれるが、これを任される者はまず歳若く、それでいて素養のある人物でなければならなかった。
クーは元より勉強家ではあったが、ツンに仕える為にそれはもう大量の苦労をしてきた。
144
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:09:13 ID:XAwkQF4U0
川 ゚ -゚)(……言えない。絶対に)
過去のことを思い返すと正に血の滲むような日々だったとクーは思う。
彼女を扱き上げたメイド長と言えば鬼さながらで、一つのミスも許さなかったし、仮にミスが発生すればお仕置きとして尻が腫れ上がるまで叩かれもした。
日々涙目になりながらも弛まぬ努力をした彼女は、今、結果的にツンの傍に立つことが出来る。
そうも必死になっていた理由と言うのは語るも野暮と言うやつだった。
ツンは先から黙しているクーを不思議そうに見つめるばかりで、視線に今更気付いたクーは何でもないとだけ言葉を紡いだ。
ξ*゚⊿゚)ξ-3「ふぅ、お腹いっぱいっ」
川 ゚ -゚)「お口にあいましたか?」
ξ*^⊿^)ξ「うんっ! どれもすっごく美味しかったよっ!」
川 - ,-)「有難き幸せ……」
食事を終えたあと、クーはツンの反応を見て少々上機嫌になった。
川 ゚ -゚)(……美味しかった、か)
そう言われると不思議なくらいに心臓は高鳴る。
普段から彼女の世話をしているクーだったが、こうした別の土地――普段の生活からかけ離れた場所で、更には自身の料理の感想を告げられると、これが意外と効果覿面だった。
一人鼻歌交じりに食器を洗うクー。
さて、そんな彼女の後方から忍び足で迫ってくる少女が一人。お分かりの通りにツンだった。
ξ*゚⊿゚)ξ(こ、これはレアな場面なんじゃっ……給仕服のそれとはまた別に、エプロン着てるクーってすっごい新鮮!)
桃色のエプロンをするクーに心中穏やかになれないツン。
彼女は興奮のままに背後からクーへと抱き付こうとしていた。
しかしそんな彼女に対してのクーの台詞と言えば――
145
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:09:40 ID:XAwkQF4U0
川 ゚ -゚)「そう言えばお嬢様」
ξ;゚⊿゚)ξ「え? な、なにかなぁ?」
川 ゚ -゚)「いえ。折角こうして時間も大量に有り余っているので、どうせなのでわたくしと一緒に――」
ξ*゚⊿゚)ξ「な、なに? 何かするの? あっ、もしかして一緒に遊ぼうとかっ? んふふー、それなら大歓迎――」
川 ゚ -゚)「いえ。お勉強をしましょう」
ξ゚⊿゚)ξ「……わぁーい……」
そんな、まったくもって色気の一つもない台詞だった。
しかしそう言う性格なのはとうに理解していたし、そんな彼女だからこそ好きになったのだろう、と自答したツン。
間も無く、折角の長期休暇だと言うのにもかかわらず、クーが教鞭を手にツンへ教育を施す景色があった。
Break.
146
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 23:10:21 ID:XAwkQF4U0
本日はここまで。
こちらの投下量も増やしていこうと思います。完結は十月半ば程度と思われます。
それではおじゃんでございました。
147
:
名無しさん
:2019/09/29(日) 23:13:37 ID:TM0k.2620
意欲の鬼か?
148
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:34:11 ID:YaoLVTVA0
16
.
149
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:34:31 ID:YaoLVTVA0
冬の午後、アッシュダウンの森に華やいだ声が色づく。
少女はヒースに覆われた森を駆け抜ける。
小さな身体を目いっぱいに動かし、頬を赤く染めて白い息を吐いた。
川;゚ -゚)「お嬢様、お嬢様っ」
そんな少女の背を追うのは佳人――クーだった。
そうなれば追うのは彼女の主であるツンなのは至極のことで、この日の午後、二人は森へと散歩にきた。
ξ*゚⊿゚)ξ「すごいすごい! ねぇ、クー! 家のお庭の森より素敵!」
アッシュダウンの森は松とヒースが立ち並び、他には冬の花や枯草が点在する。
空気は冬の匂いを醸し、それを肺に取り込んだツンは満面の笑みを浮かべた。
ツンの様子にクーは叱るでもなく呆れるでもなく、小さく笑みを浮かべると立ち止まったツンの下へと向かった。
ξ*゚⊿゚)ξ「広いねぇっ。すごいね、ここっ。なんだか絵本の中の景色みたいっ」
川 ゚ -゚)「地元なので感慨はありませんが……しかしお気に召していただけたとあれば、それはまた栄誉で御座います」
ξ*゚⊿゚)ξ「うん、すっごく好きっ。あ、ほら見てクー。川もあるっ」
様々な物を発見するとツンは直ぐに駆けていく。
例えば見知らぬ木や花を見つけるとクーに名前を問い、或いは触れたことのないものには即座に心を奪われた。
今度のツンは小川へと近づき、橋を渡ると澄んだ川面を覗き込む。
150
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:34:52 ID:YaoLVTVA0
川 ゚ -゚)「落ちないように気を付けてくださいね」
_,
ξ゚д゚)ξ「大丈夫だよ。そこまで子供じゃないもんっ」
(歳相応で御座いますよ、お嬢様……)
齢十三となればやはり精神的にもまだ幼い。
如何に侯爵家の息女として高度な素養を持っていようとも、やはり未知に対しては素直になる様子だった。
ツンは川の潺に耳を傾け、そうして流れに心を任せた。空では冬の鳥が旋律を奏で、午後の森は穏やかさが匂う。
ξ*゚⊿゚)ξ「この水おいしそう……」
川 ゚ -゚)「飲んではなりませんよ」
ξ;゚⊿゚)ξ、「わ、分かってるよっ……言ってみただけっ」
川 ゚ -゚)「然様で御座いますか」
透明感のある川を見て、さらに上流へと視線を移せば沢がある。
ツンは暫し景色に浸るとぽつりと言葉を零した。
天然の森――こう言った大自然に足を踏み入れたことはなかった。
決して彼女が外界に疎い訳ではない。年に二度は父の休暇に伴いバカンスに出掛けもする。
が、行先は決まって栄えた場所だったり、或いは海を臨む景色だったりで、返ってこう言った景色は新鮮味に溢れていた。
151
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:35:31 ID:YaoLVTVA0
>>150
訂正
川 ゚ -゚)「落ちないように気を付けてくださいね」
_,
ξ゚д゚)ξ「大丈夫だよ。そこまで子供じゃないもんっ」
川;゚ -゚)(歳相応で御座いますよ、お嬢様……)
齢十三となればやはり精神的にもまだ幼い。
如何に侯爵家の息女として高度な素養を持っていようとも、やはり未知に対しては素直になる様子だった。
ツンは川の潺に耳を傾け、そうして流れに心を任せた。空では冬の鳥が旋律を奏で、午後の森は穏やかさが匂う。
ξ*゚⊿゚)ξ「この水おいしそう……」
川 ゚ -゚)「飲んではなりませんよ」
ξ;゚⊿゚)ξ、「わ、分かってるよっ……言ってみただけっ」
川 ゚ -゚)「然様で御座いますか」
透明感のある川を見て、さらに上流へと視線を移せば沢がある。
ツンは暫し景色に浸るとぽつりと言葉を零した。
天然の森――こう言った大自然に足を踏み入れたことはなかった。
決して彼女が外界に疎い訳ではない。年に二度は父の休暇に伴いバカンスに出掛けもする。
が、行先は決まって栄えた場所だったり、或いは海を臨む景色だったりで、返ってこう言った景色は新鮮味に溢れていた。
152
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:35:55 ID:YaoLVTVA0
ξ゚ー゚)ξ「知らないものがたくさんあるなぁ……やっぱり着いてきてよかったねっ」
川 ゚ -゚)「……わたくしは未だに認めておりませんよ、お嬢様」
ξ゚〜゚)ξ「もうっ。いいじゃない、そんなに怒らなくってもっ」
川 ゚ -゚)「その態度は鼻もちなりませんよ、お嬢様。悪いことは悪いと認識し、反省を――」
ξ;゚⊿゚)ξ「してる、してるよっ。うぅ……故郷に帰ってからのクーってば、本当に容赦がない……」
果たしてクーが意識をしているかは謎だったが、事実として帰参してからの彼女は普段よりもツンに対する態度が厳しい。
が、これは転ずれば、それだけツンを意識していると言うことでもあるので、つまり、事実としてクーはツンのことが心配で仕方がなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「そんなに心配……?」
川 ゚ -゚)「当然です」
ξ゚⊿゚)ξ「……嬉しいこと言ってくれるけど、それは過保護すぎるよ」
川 ゚ -゚)「お嬢様。何度も言った言葉ですが、外の景色と言うのは――」
ξ-⊿゚)ξ-3「危険がたくさんある、でしょ? もう耳にタコだよっ。それに今は……この村にいる間は平気でしょ?」
川 ゚ -゚)「平気なことなど……」
ξ゚⊿゚)ξ「だってクーがいるじゃない」
その台詞を聞いたクーは目を見開いてツンを見つめた。
153
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:36:20 ID:YaoLVTVA0
川 ゚ -゚)「……何を仰いますか。わたくし一人程度で如何なる危機をも全て排除出来る訳では御座いません」
ξ゚⊿゚)ξ「でも今までずっと平気だよ?」
川 ゚ -゚)「運の問題です。お嬢様、例えば先程駆けている最中、躓いて転んで怪我でもしたら一大事です。今もそうです。冬の川に落ちてしまえば最悪命にかかわる重大な事故になりかねます」
ξ;゚⊿゚)ξ「本当に過保護だなぁ……」
川 - ,-)「過保護結構。お嬢様の身を案じ、お嬢様の生活を支えるべくしてわたくしは存在しているのです」
ξ゚⊿゚)ξ「――現にそうなってるよ」
その返事はあまりにも早かった。
寧ろクーの言葉を遮る勢いで、再度クーはツンを見つめる。
ξ゚⊿゚)ξ「クー。わたしはあなたに凄く感謝をしているし、クーのお蔭でわたしの日常はいつだって幸せで楽しいの」
川 ゚ -゚)「…………」
ξ-⊿-)ξ「それってね、クーがいつも頑張ってくれてるからだよ。それをわたしはいつもいつも感じて、理解して、そしてね……いつも、ありがとうって……そう思ってる」
川 ゚ -゚)、「っ……そんな、そんなお言葉……」
あまりにも畏れおおい――そう言いたかったクーだが、胸が苦しくなり言葉が詰まる。顔は赤らみ、視線は他所へと向いた。
そんなクーへと面を向けたのはツンで、彼女はクーの手を握りしめた。
154
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:36:52 ID:YaoLVTVA0
ξ゚ -゚)ξ「……ごめんね、無理やりついてきて。怒るのも当然だって分かってる。でもね、それでもわたしだって……気が気でいられないの」
川 ゚ -゚)「……お嬢様」
ξ゚⊿゚)ξ「別にね、いいんだ。待つのもとぼけられるのも。けどね、まるで逃げるように背を向けられるのは、なんか……嫌だったから」
川 ゚ -゚)「…………」
そもそもツンがこの帰省に乗じた理由はクーの気持ちを確かめる為――答えを、返事を得る為だった。
結局、今の今までその話題に両者は触れてこなかったが、しかしツンが切り出したことによりクーは向き合うことになる。
クーの手を握りしめるツンの手は震えていた。それは寒さの所為ではなかった。緊張と恐怖を抱くのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「昔は、昔は――って、昔のことばかり最近は思い出してた。クーは昔のこと、よく思い出す?」
川 ゚ -゚)「……どうでしょうか」
ξ゚⊿゚)ξ「自分のことなのに分からない?」
川 ゚ -゚)「いえ。もしかしたら――……」
ξ゚⊿゚)ξ「……? なに?」
川 ゚ -゚)「……いいえ」
155
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:37:12 ID:YaoLVTVA0
過去を思い出すのではなく、過去に囚われているのは己自身で、未だにその景色と幻影に惑わされているのでは、とクーは思う。
そうして彼女は正常を保つ。
今、こうしてツンが自身に触れているのは去来する過去が自身の望みのままに形を持ち、現実を侵食して己を混乱困惑させようとしているのでは、と思う。
そうでもしなければクーは耐えられない。初めて出会った時からクーはツンのことだけを考え、そうしてある日を境に仮面を装着し、自身の感情を封じ込めた。
だが今になって封じ込めた感情や望みのようなものが溢れ誘惑する。
気持ちを曝け出せとせがむ。
それにクーは抗い、なんとか今まで凌いできたが――
川 ゚ -゚)「……冷たいですね」
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
川 ゚ -゚)「手……お嬢様の手は、冷たいです」
ξ゚ー゚)ξ「……うん。そうだね」
互いの温もり。
手をつなぎ、川辺に佇む二人はそれを今更ながらに感じた。
クーの手は温かく、ツンの手は冷たかった。
156
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:37:32 ID:YaoLVTVA0
川 ゚ -゚)「歳若いお嬢様がこうも血行が悪いとは思いもしませんでした」
ξ゚ー゚)ξ「多分、普段からいい物を食べすぎてるんだね」
川 ゚ -゚)「野菜を食べてください」
ξ;゚⊿゚)ξ「うっ……あ、あれは、そのぉ……ほら、動物が食べるものだからっ」
川 ゚ -゚)「わたくしは野菜も好んで食べます」
ξ;゚⊿゚)ξ「ぐぬっ……!」
新情報得たり、と同時に間接的にクーを動物呼ばわりしたことに気付くツン。
二人のやり取りは普段と似たようなものだったが、けれども確かなのは自然体そのものと言うことで、それはある意味では普段とは違った。
ツンは微笑み、クーは変わらずの鉄面皮。だが、二人の空気は朗らかで、穏やかで、それでいて温かかった。
川 ゚ -゚)「……そろそろ戻りましょう、お嬢様」
ξ゚⊿゚)ξ「ん……もう?」
川 ゚ -゚)「はい。じきに夕暮れです。夕食の用意をせねばなりません」
ξ゚ー゚)ξ「ふふっ……野菜たっぷり?」
川 ゚ -゚)「ええ。お嬢様の健康管理も……わたくしの役目でありますれば」
そう言ったクーはツンへと視線を寄越す。
157
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:37:55 ID:YaoLVTVA0
川 ゚ー゚)
ξ゚ -゚)ξ(っ――)
.
158
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:38:16 ID:YaoLVTVA0
ツンはそれを見た。久しく見ることの出来たクーの微笑みを。
それは一瞬にも等しく、本当に分かりにくい程度だったが、それでも確かにクーは微笑んでいた。
川 ゚ -゚)「さぁ……行きましょう」
ξ。 ー )ξ「……うんっ」
ツンの手を引いてクーは歩き出す。
そんな彼女の腕にしがみ付く少女は目元に小さく涙を浮かべ、赤くなった顔を隠した。
ツンの重さを腕に感じつつ、そして胸の中が軽くなった気がしたクーは、レディーをエスコートしながらに帰りの道を歩く。
川 ゚ -゚)(……二つの足跡、か)
クーは振り返って軌跡を見る。
地面に描かれた二つの足音は、まるで歩幅の感覚も大きさも異なっていたが、それでも確かに距離は近かった。
同じように歩く――それは難しいことで、それが自然に出来るくらいには、兎角、二人の距離は縮まる――もとい、戻ったのだった。
Break.
159
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:38:36 ID:YaoLVTVA0
17
.
160
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:38:58 ID:YaoLVTVA0
ハートフィールドは穏やかだった。
その日、ツンはクーを連れて小さな村を回る。
彼女を知る者等は即座に出向き礼をするが、対するツンは、どうかこの事は内密に頼む、とお忍びであることを明かす。
その台詞に村民達はことを察し、御令嬢もそう言う時分だ、広い城と言えど鳥籠の中は窮屈だろう――と皆は笑った。
彼女は皆に快く迎えられたが、しかしクーはやはり複雑な心境で、綻んだツンを見ると咎めようにも咎められなかった。
兎角、ツンは今現在、村の一画にある小さな飯屋にきていた。
ξ゚〜゚)ξ「うーん、ハーブティー……独特だね、この味はっ」
川 ゚ -゚)「……お気に召しませんか?」
ξ゚⊿゚)ξノシ「ううん、不思議なくらい気分が落ち着くから好きだよっ」
先日、距離が戻った二人は午後の茶を楽しむ。
城の外でアフタヌーンティーをする貴族と言うのも妙な画で、店の主人は何故茶を飲むのだろうか、と首を傾げた。
アフタヌーンティーの文化はこの時分に生まれたが、それは貴族の内でのみ流行った。
後の世ではイギリスを象徴する文化となったが、ある意味貴族と言うのは流行の最先端をいくものだった。
川 ゚ -゚)「活発で御座いますね、お嬢様」
ξ゚⊿゚)ξ「え? 何が?」
川 ゚ -゚)「いえ。先日のアッシュダウンの森に引き続き、村を見て回りたい、とは……」
ξ゚ー゚)ξ「だってクーの生まれ故郷だもん。見て知りたいと思うよ?」
川 ゚ -゚)「……然様で御座いますか」
161
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:39:20 ID:YaoLVTVA0
それはどう言った意味か、と問うことはない。どうあっても従者、どうあってもレディースメイドの佳人は瞳を伏せてカップを傾けるのみ。
対してツンはバターをふんだんに使ったクッキーを齧り、歓喜の声を上げると小動物よろしく頬を膨らませて貪る。
その様子を眺めながら再度クーは苦悩を抱く。
先日、距離が戻った事実は内心では喜ばしいが、この状況が問題だった。
人目に彼女が晒される事実――噂の一つでも立つのが当然だと言える。
幾ら口を封じようともお喋り好きな者はいる。
こんな寒村であろうとも噂はたちまち広がり、やがてはロンドンにまで届き、下手をしたらティレル侯爵の耳にまで届くかもしれない。
気が気でいられない――当然のことで、クーは後悔ばかりをした。
ツンはこの日、好奇心を抑えられずに村の様子が見たいとクーに願った。
当初はこれに猛反対した彼女だったが――
( ´∀`)「いいじゃないかモナ、クー。折角こられたんだモナ? 寧ろ是非見て回って欲しいところですモナ、ツンお嬢様」
( ‘∀‘)「そうよ、クー。堅苦しいわねぇ。さぁさぁツンお嬢様、外は冷えますから、温かいお着物を選びましょうね」
――呆れることに彼女の両親はツンの意見を尊重し、クーに対して非難までをもする。
味方がいないとなっても孤軍奮闘せんとするクーだったが、最終的にツンの瞳に涙が浮かぶと、彼女は溜息を一つ吐き諦めたように頷いてしまう。
両親はせっせとツンの身支度を進めるが、果たして実の子の帰参に対してそう言った態度は如何なのか、とクーは若干怒りを抱く。
が、傍目から見ると、まるで孫でもあやす爺(じい)と婆(ばあ)のようにも見えて、クーは何となく両親の気持ちを察する。
162
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:39:51 ID:YaoLVTVA0
川 ゚ -゚)(……孫、か)
早く結婚して孫の一人はつくって欲しい――いつか言われた台詞が頭に浮かぶ。
結婚、と言う言葉に触れると彼女の眉間に皺が寄り、次いで瞳には何とも言い難い感情が浮かんだ。
ξ゚⊿゚)ξ「……? どうしたの、クー?」
川 ゚ -゚)「……いいえ。何でも御座いません」
そんなクーの変化をなんだかんだで見ていたのはツンで、疑問を口にするがそれに対する返答は簡単なものだった。
少々不機嫌――なのは村に出陣してから変わらない。
やはり人の前に姿を見せたことを怒っているのだろうか、とツンはしょぼくれた。
川 ゚ -゚)「……別に」
ξ;゚⊿゚)ξ「え?」
川 ゚ -゚)「別に、怒ってはいませんよ、お嬢様」
が、そんな彼女の気分の沈み様に対し、クーは静かにそう紡ぐ。面をあげ、内心でも読まれたかとツンはたじろぐ。
けれどもそう言った間柄――既に関係は八年かそれ以上続く訳で、つまり、二人の間において、対する者の胸中と言うのは案外察しが付く。
更に言えばクーはレディースメイドであるからして、主人の考えを理解するのが当然とも言えた。
163
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:40:16 ID:YaoLVTVA0
川 ゚ -゚)「考えておりました」
ξ゚⊿゚)ξ「何を?」
川 ゚ -゚)「多くのことをです」
ξ;゚〜゚)ξ「曖昧な言い方だね……」
ツンはそう言いつつ、ハーブティーで唇を湿らせる。
ξ゚⊿゚)ξ「多くのことって……なに?」
川 ゚ -゚)「そうですね。端的に言うならば、将来、で御座いましょうか」
ξ;゚⊿゚)ξ「将来っ」
また漠然とした台詞だ、とツンは思う。
川 ゚ -゚)「お嬢様は先のことを考えたことはおありで」
ξ;゚⊿゚)ξ「そりゃ、あるけど……」
急な話題――更には饒舌な様子にツンは少々戸惑いを抱く。
川 ゚ -゚)「ではその先の未来に……わたくしはいますか」
ξ゚⊿゚)ξ「っ――」
164
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:40:39 ID:YaoLVTVA0
その台詞をどう判断するのか――難しいものだった。
普通に考えたら従者として付き従うか否かと言う話題だ。
だが既に二者は向き合っている。未だ答えは存在せず、明確に意思を示すことはないにせよ互いは互いと対峙している。
ツンはこの質問を試練だと思った。己は試されているのだ、と。
ξ゚⊿゚)ξ「いるよ。当然でしょ」
川 ゚ -゚)「然様で」
ξ゚⊿゚)ξ「クー意外の人なんて考えられない」
川 ゚ -゚)「然様で」
ツンのその台詞は上手いと言える。それはどんな意味にも捉える事が出来る。
従者として彼女以上に素晴らしい者は存在しないと言う意味で、かつ、彼女のみにしか恋情は抱かないと言うのだ。
それにクーは瞳を伏せるばかりだったが――
川 ゚ -゚)「ではあなた様の隣に立つのは誰ですか」
ξ;゚ -゚)ξ「……っ」
――迫ったその台詞にツンは顔を伏せた。
ついで口を固く結び、膝の上で拳を握る。
分かり切っている質問――それは彼女の未来そのものと言える。
165
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:41:07 ID:YaoLVTVA0
>>164
訂正
その台詞をどう判断するのか――難しいものだった。
普通に考えたら従者として付き従うか否かと言う話題だ。
だが既に二者は向き合っている。未だ答えは存在せず、明確に意思を示すことはないにせよ互いは互いと対峙している。
ツンはこの質問を試練だと思った。己は試されているのだ、と。
ξ゚⊿゚)ξ「いるよ。当然でしょ」
川 ゚ -゚)「然様で」
ξ゚⊿゚)ξ「クー以外の人なんて考えられない」
川 ゚ -゚)「然様で」
ツンのその台詞は上手いと言える。それはどんな意味にも捉える事が出来る。
従者として彼女以上に素晴らしい者は存在しないと言う意味で、かつ、彼女のみにしか恋情は抱かないと言うのだ。
それにクーは瞳を伏せるばかりだったが――
川 ゚ -゚)「ではあなた様の隣に立つのは誰ですか」
ξ;゚ -゚)ξ「……っ」
――迫ったその台詞にツンは顔を伏せた。
ついで口を固く結び、膝の上で拳を握る。
分かり切っている質問――それは彼女の未来そのものと言える。
166
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:41:29 ID:YaoLVTVA0
川 ゚ -゚)「……御答えは」
ξ - )ξ「…………」
川 - ,-)「……お嬢様。わたくしの両親は……わたくしに早く結婚をしろと急かします」
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ……」
それは親心としては当然の台詞だが、ツンは恐ろしい台詞を耳にした気がした。
急かされる――それは彼女が他の誰かの物になると言うことだった。
まるで追い詰められているような気がしてくるツン。
対するクーは平然と構えるが、彼女の身開かれた瞳には、悲しみの色合いがあった。
川 ゚ -゚)「子を成し、家庭を持つ。それは女性ならば誰もが憧れることです。ですがわたくしは度々見合いの話を断ってきました」
ξ;゚⊿゚)ξ「え……そうだったの……?」
川 ゚ -゚)「はい」
ξ;゚⊿゚)ξ「それは、なんで――」
と、問いを向けたツンだが――
川 ゚ -゚)「わたくしは、あなた様のもので御座いますれば」
そう、クーはツンの瞳を見つめて真っ直ぐに答えた。
その台詞はツンの胸中に垂れこめた暗黒の淀みを掻き消した。
彼女の眼光がツンに光を齎す。
167
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:41:52 ID:YaoLVTVA0
そう、クーはツンの瞳を見つめて真っ直ぐに答えた。
その台詞はツンの胸中に垂れこめた暗黒の淀みを掻き消した。
彼女の眼光がツンに光を齎す。
川 ゚ -゚)「……わたくしは、ずっとそうして立ってきました。ただ、それだけは知っておいてほしかったのです」
ξ*゚⊿゚)ξ「クー……」
川 ゚ -゚)「あなた様の生活を全う足るものにする為に全てを捧げようと決めております。故にわたくしはあなた様が望む限りは傍にいます」
だが、と彼女は言葉を続ける。
川 ゚ -゚)「あなた様“も”……いつか、誰かのものになるのです」
ξ ⊿ )ξ「…………」
当然のことだ。
それは決められたことだった。
川 ゚ -゚)「御存じでしょう、お嬢様。あなた様は――」
ξ ⊿ )ξ「知ってるよ。分かってるよ。だって“そう言う約束”らしいから。知ってるよ」
――ティレル家と親しい間柄に名高きネラア家あり。
位は公爵の家系で、特に当代の当主であるティレル卿とネラア卿は親しい間柄だった。
そんな二人は取り決めをしていた。
168
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:42:18 ID:YaoLVTVA0
ξ ー )ξ「可笑しいよね、一人娘なのにね。わたし……嫁ぐんだもんね。ネラア家に」
.
169
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:42:38 ID:YaoLVTVA0
それは許婚と呼べるものだった。
本人たちの意思を無視したその取決めを告げられたのはツンが齢十程度の頃。
それは、クーが激変した時期と符合する。
170
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/05(土) 21:43:48 ID:YaoLVTVA0
Break down.
.
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