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とある英雄譚のようです
1
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:46:23 ID:G.gIoQVo0
荒野なのか、それとも峡谷なのか。吹き抜ける風に舞う砂塵に覆われた世界。
隆起と沈降の地形を適当に割り振ったかのような褐色の大地。
見渡す限り生命の痕跡が存在しないその地の、中心部。
まるで何者かによって線を引かれたかのように存在している半球の領域。
そこは周囲の澱みをものともせずに、緑豊かな環境が存在していた。
荒んだ太陽が照らすのは、小高い丘の上に伸びる、大きさも形も違う五つの影。
四種類の塊と、それらに囲まれている一つの屍。
骨だけになった腕が掴んでいるのは、身の丈ほどもある杖。
主を失ってなお溢れ続ける魔力は、丘を清浄な空間で包むために漂う。
命を司る蒼の魔力は屍から離れるごとに薄くなっていき、荒野の空気へと溶けていく。
魔力球の中に存在する最も大きな影は、腐り落ちた大樹の幹。
その両隣に突き刺さっているのは、錆びた剣と、その数倍はあろうかという巨大な牙。
向かいにはくすんだ色の十字架があり、それらは綺麗に四方向に配置されている。
人為的な痕跡を残すその場にはしかし、生命の存在は何一つ感じ得ない。
風の呼吸すら止まっているかのような、静かで荒れ果てた大地。
ジオラマのような世界で、突如として錆びた剣が音を立てて傾いた。
その音に引き寄せられるかのように、漂う魔力に流れが生まれ、
魔力によって遮られた空間を濃い霧で覆い隠す。
201
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:48:01 ID:JZ..YL360
記憶を与えられたモララー以外の英雄は、状況を飲み込めないでいた。
('A`) 「俺が龍王に会ったのは、新派旧派の戦いに赴く直前だった。
全面戦争が避けられないと知った龍王は、旧派の龍達を戦わせまいと説得していた。
勿論、旧派の多くは信頼の厚かった龍王と共に戦うと宣言した。
だが、彼はそれを許さなかった。
俺は旧派の龍達を戦いが終わるまで遠ざけておくように頼まれたんだ」
【+ 】ゞ゚) 「龍を遠ざける? そんな馬鹿なことが」
一頭が天変地異クラスの力を有する龍属。
それを抑えておくなどということは、口で言うほど簡単でなはい。
('A`) 「勿論、正面切って抑えるなんて流石に無理だ。
だが、騙すことは出来る。龍王の声を借り、本来の戦いの場とは全く違う場所へと誘導した」
( ФωФ) 「成程。旧派の龍属達が気づいた時には全て終わっていたということだ」
('A`) 「そして俺は龍王との契約を守った。おかげで数体の龍には未だに恨まれているがな。
そんなことはどうでもいい。
そして龍王は俺との契約通り、来たるべき終焉の戦いに力を貸すと自らの龍魂を俺に差し出した」
202
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:50:10 ID:JZ..YL360
【+ 】ゞ゚) 「なるほど。魂に刻まれた情報を解放して戦う獣の使い手なら、
自らの力を再現できると踏んだわけですね」
('A`) 「そういう事だ」
( ・∀・) 「…………」
('A`) 「お前の復讐心はわかる。
だが、その相手がこれから終焉を戦いに向かう英雄の一人だとは予想できなかった。
どちらも失いたくない戦力だ。それに、憎しみはお前の力にならない」
( ・∀・) 「戦うことが不利だと言いたいんだろ」
人生の大半の間恨み続けた相手が目の前にいるのだ。
平常心で戦うことなどできるはずがなかった。
( ・∀・) 「今は……終末を生き抜くことに協力してやる」
('A`) 「助かるよ。よろしく頼むえっと……」
( ・∀・) 「ふん……モララーだ」
('A`) 「モララーか、龍王と同じ名前だとはね。
名前負けしない活躍を期待している」
( ・∀・) 「協力はするけど、そこの呪術師に手違いがあっても知らないからな」
少年は既に揃っていた英雄達とテーブルを囲うことなく、
少し離れた場所に一人座った。
203
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:50:54 ID:JZ..YL360
・・・・・・
204
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 13:00:47 ID:SDticvYA0
一区切りかな?おつおつ
205
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:44:07 ID:ysZ8awxc0
くっそおもしろい
206
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:44:18 ID:JZ..YL360
o川* ー )o 「はっ……っぅ……はぁ……ぐ……」
胸を抑えて蹲る少女。
突然始まった苦痛によって、夢の世界から引き戻された。
心臓の鼓動は激しく、痛みは身体中を駆け巡る。
o川*゚ー )o 「っ……ぁ……」
巨大な牙から噴き出していた魔力が、少女の身体に染み込んでいく。
少女の内包する魔力と異なる魔力が反発し、苦痛を生み出していた。
o川* ー )o 「……ぅ…………」
わずか数分の出来事であった。
少女にとっては数時間にも感じられた痛みの連続は、
始まった時と同様に唐突に終わりを告げた。
o川;゚ー゚)o 「はぁっ……はっ……」
大粒の汗を額から零しながら、震える腕をついて起き上がる。
潤んだ瞳が捕らえたのは、巨大な影。
陽炎のように揺らぎ、その姿を明らかにしない。
o川*゚ー゚)o 「あなたは……」
207
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:44:49 ID:JZ..YL360
「自由に生きろ」
ただ一言だけを発し、それは消えた。
まるで最初からなにもなかったかのように。
o川*゚ー゚)o 「どういう……意味……」
ぐったりとした少女は、牙にもたれ掛って空を見上げる。
赤く染まり始めた空は、相変わらず静かで虚ろであった。
o川*゚ー゚)o 「ロマネスク……オサム……クール……モララー……」
樹、十字架、剣、牙。
それぞれに対応する四人の物語。
それらは彼女の問いかけに答えるのに十分ではなかった。
o川*゚ー゚)o 「誰が……何のために……私は……」
誰もいない場所にただ一人生きている少女。
彼女のために誂えたかのような空間。
もはや少女は知っている。
人間が無から自然に生まれることはありえないと。
魔力が込められたこの空間が、偶然に出来上がることはありえないと。
208
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:45:47 ID:JZ..YL360
o川*゚ー゚)o 「……」
牙に手を突きながら立ち上がり、足を引きずりながら歩く。
崩れた剣のその横、ぽかりと空いた黒い穴。
子供一人くらいが辛うじて通り抜けられるほどの小さなもの。
光の射さない底部に、それは存在していた。
o川*゚ー゚)o 「……ママ?」
白い骨は人間としての形を崩さずに埋もれていた。
今の彼女ならば気づくことができた。微かに残っている柔らかな魔力に。
それが愛する者を護るための魔術の鱗片だということに。
o川*;ー゚)o 「っ……? なに……?」
零れた滴は、暗闇の中へと消えた。
次々止め処なく溢れ出て来る哀しみ。
その原因がわからず、困惑した表情を浮かべながら俯いていた。
o川*;ー゚)o 「っ……」
209
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:46:44 ID:JZ..YL360
涙と共に全身から漏れ出した純粋な力。
魔力の奔流は、少女の全身から一気に解き放たれた。
無属性の暴風によって少女の世界を覆っていた薄い膜は破られ、
少女を囲んでいた四つのシンボルは瓦礫と化した。
o川*゚ー゚)o 「……何が」
清涼としていた空気は流れ去り、鼻腔を満たすのは焦げた臭い。
肌を焼くような強い日差しと、息苦しいほどの湿気。
おおよその不快を詰め合わせたような環境が、大挙して押し寄せてきた。
o川* ー )o 「っほ……ごほっ……っ……!!」
少女の目に飛び込んできたのは、今まで見えていたものとは全くの別物。
赤黒入り乱れた大地は火を噴き上げて一秒ごとにその姿を変え、
空を覆う厚い雲の中は幾条もの光が迸る。
巨大な氷が音を立てて崩れる傍から、炎が渦を巻き雲すらも貫いて立ち上がった。
空から降って来た塊がいくつも大地にぶつかり、衝撃で地面諸共弾ける。
咽るような熱気と、凍える様な寒気とがまばらに拡がった世界。
罅が入り、歪み、軋んで崩れてしまった、壊れかけの世界。
その時、少女は真実の世界を認識した。
210
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:47:14 ID:JZ..YL360
o川*゚ー゚)o 「そんな……」
およそ生物が生きられるような環境を徹底的に排除したかのような、荒んだ世界。
それが、今彼女が立っている場所であった。
細かい振動と共にひび割れていく不安定な大地。
彼女を護っていた空間は無く、助けを求める人もいない。
o川*;ー;)o 「やだ……もうやだよ……どうなってるの! ねぇ……誰か……。
ママ……! ……誰!?」
頭の中に響く声が少女を呼ぶ。
呼ばれて振り返った先には、光放つ杖。
o川*゚ー゚)o 「……!!」
少女の叫びは地響きの轟音に消え、ついに足元が崩れた。
崩落に巻き込まれた少女は、必死になって上から落ちてきた杖を掴んだ。
211
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:47:38 ID:JZ..YL360
>1
('A`) 「っあー……さって、次は誰行くかねぇ」
事前に用意したリストに記してある名前は二十を超えている。
バツ印がついているのは、まだ五つ。
世界を三周以上するほどの移動距離と、相応の時間がかかることは容易に想像がついた。
('A`) 「ってもなぁー、めんどくせぇなぁ……」
最も近い地図の印が百キロほど。
彼にしてみれば大した移動距離でもないが、
その後の面倒を考えれば溜息の一つ二つは出るだろう。
強者とは往々にして傲慢であるものであり、
残念ながら過去五回の邂逅は全て戦闘に始まり戦闘に終わった。
リストに名を乗せる彼らは他に類を見ない程の特殊な能力を持つ者や、
ただ一つの特性を愚直なまでに磨き上げた者達。
当然一筋縄ではいかず、命を落としかけたことすらもあった。
それでも彼が強者を訪ねて歩く理由はたった一つだけ。
212
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:48:34 ID:JZ..YL360
('A`) 「この世代で……すべて終わらせる」
迫り来る災厄に対する対抗手段を得るために。
もっとも、この時点で彼はその戦いに参加する権利すら持っていなかったが。
('A`) 「さって、そろそろいくか……ウィングロード!」
魔力を変換し、術師の思い通りの現象を引き起こす魔術。
最も汎用性が高く、最も多くの術者が存在している力である。
難易度の高い魔術の多くは、どの種族でも血によって受け継がれているが、
単純な魔術であれば魔書からでも習得可能である。
ウィングロードは基礎的な移動魔術であり、
魔術師の家系に属する者であれば誰しもが扱うことができた。
ドクオは大空に飛び上がり、鳥も驚くような速度で空を滑っていく。
('A`) 「次は……精霊の森の……古老。今までのとは一つ二つも格が違う。
少しは覚悟しとかねーといけないか」
彼の一族は遥か昔から連綿と続く魔術師の家系。
統合と戦死によって数は減り、今はもう三家しか残っていない。
最大派閥のドレイク家、次いでフォーラン家、そして最も小さいルグ家。
213
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:49:06 ID:JZ..YL360
魔力を持ち魔術を扱う種族は数多くいれど、彼らと魔術師の間には決定的な差があった。
五百年に一度訪れる終焉に対抗するための唯一の手段。
仲間を呼び集めることのできる呼応の魔術。
彼らこそが、レタリアの発動を許された唯一の種族である。
魔術師達の中で、当代の最も力の強い魔術師だけがそれを扱うことができると伝えられている。
故に、歴代の英雄達には必ず魔術師の名前が刻まれていた。
多くの英雄を輩出した家の発言力は高まっていき、その逆もまた然り。
ドクオの家系では記録に残っている限り一度も無く、
勢力は下降の一途を辿って来た。
昔は同世代に十人はいたはずの競争相手もおらず、
ルグ家から名乗り上げることのできる魔術師はドクオ一人だけ。
('A`) (じっちゃんとばーちゃん元気にしてるかなぁ……)
手慣れた操縦で飛行の魔術を操り、目的の森を目指す。
侵入を阻むための結界を感知し、ドクオはその場に停止した。
('A`) 「んーっと……頑丈というよりは……試しているような感じか」
結界の持つ特性を即座に理解し、製作者の意図に応えるために魔術を一つを組み上げた。
ただの燃焼魔術を何重にも複雑に組み上げ、結界に投げつける。
214
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:49:47 ID:JZ..YL360
強固な結界に対して小石程度の魔力であっても、
術式を複雑に編み込んだ魔術として発現すれば相応の破壊力を持つ。
人間大の穴が即座に空き、その外周部は再生をを防ぐかのように燃え続ける。
('A`) 「っと、はやいな」
彼の前に現れた数十人の神官。
深緑色のローブを纏い、小型のナイフを一本だけ構えたそれは精霊術師の戦闘態勢。
装備において彼らは、ごく一般的な精霊術師と大差ない。
ただその能力は、こと集団戦闘においては他の追随を許さない。
精霊の森の神官とは、最強の精霊術使い手達のことである
('A`) 「怪我する前に下がったほうが良いぞ」
「何を! 愚かな侵入者が! ここが何処か知っての狼藉か!」
('A`) 「あぁ、勿論だ。ほら、俺はその人を待っていたんだ」
包囲の後ろから現れた小柄な老人。
ドクオを囲んでいたはずの神官達に、より一層の緊張がはしった。
('A`) 「初めまして、ロマネスク」
215
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:51:22 ID:JZ..YL360
( ФωФ) 「こちらの名前は知っているようだが……俺は知らんな」
('A`) 「俺の名前はドクオ・ルグ。魔術師だ」
( ФωФ) 「それはみればわかる。希少な魔術師が何用かな?」
('A`) 「少し話があってね」
( ФωФ) 「ふむ……では他の者には席を外させよう」
「なっ……! このような乱暴者と二人きりにさせるわけには」
( ФωФ) 「大事ない。わざと結界を派手に壊したのも、俺を呼ぶためであろうよ。
このような場所で話すことも無かろう。ついて来るがよい」
('A`) 「流石。話が分かる」
( ФωФ) 「一人前の神官を育てるのには、相応の時間がかかる。
無意味に減らされることは避けたいのだよ」
ロマネスクは空中を歩き、精霊の森の中心部に聳え立つ最も高い樹木へと向かった。
その後ろを少し離れてドクオが追う。
背後から放たれるいくつもの殺気を軽く受け流しながら。
('A`) 「初めてだよ、こんなにまともな待遇を受けたのは」
216
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:52:04 ID:JZ..YL360
ロマネスクは空中を歩き、精霊の森の中心部に聳え立つ最も高い樹木へと向かった。
その後ろを少し離れてドクオが追う。
背後から放たれるいくつもの殺気を軽く受け流しながら。
('A`) 「初めてだよ、こんなにまともな待遇を受けたのは」
( ФωФ) 「そうか、他にも訪ねているのか」
('A`) 「誰も彼もロマネスクの名には劣るがな。
ほんと、対面してわかった。化け物どころじゃねーな」
( ФωФ) 「何、安心するがいい。俺にはさほど特殊な力は無い。
心も読めぬし、魔術も使えぬ」
樹の頂点に用意されている薄い盆のような場所。
精霊術によって空中に固定されており、支点やアンカーなどは一つもない。
中心には背の低い台。その上に湯呑と茶菓子が二つずつ。
細い湯気を立ち昇らせたそれは、今し方用意されたばかりのものであろう。
( ФωФ) 「ようこそドクオ。まぁ座るがいい」
('A`) 「そうさせてもらう」
217
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:52:36 ID:JZ..YL360
遠巻きに見ている神官達の視線を感じながら、
ドクオは床に腰を落とした。
( ФωФ) 「それで、本題に入ろう。ルグの魔術師がわざわざ来るとは何用だ」
('A`) 「そうか、ルグの名は当然知っているよな。まぁ俺の名前はあまり関係がない。
俺が今回の戦いに出る」
( ФωФ) 「今、最優秀の魔術師はヒッキー・ドレイクと聞いているが、
レタリアは彼の手にあるのではないかね」
('A`) 「奪うさ」
( ФωФ) 「随分と威勢のいい話だ。勿論、戦いには最も強いものが出るべきだ。
勝てるのならそうするがいい」
ドクオは驚き一瞬言葉が途切れた。
浮かべていた間抜けな表情を慌てて繕う。
('A`) 「意外だな」
( ФωФ) 「何が」
('A`) 「もう何回も戦いに赴いているあんたなら、
そんなやつに背中は任せられないとでもいうかと思った」
218
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:53:35 ID:JZ..YL360
( ФωФ) 「ふむ、殺すという表現を使わなかったのもあるが。
裏切りそうかどうかなど見て、話をすればだいたいわかる。
それにな……魔術師はどうせ生き残れん」
('A`) 「……そうだな」
( ФωФ) 「俺がレタリアに呼び出され戦ったのは四回。
少なくともその四回の戦いを生き残った魔術師はいない」
('A`) 「……」
( ФωФ) 「どんな相手が来るかもわからんのだ。
人間の身体で戦う魔術師は、簡単なことですぐに命を落とす。
それでも、その座を奪うというのか?」
ロマネスクから教えられた事実。
それは、魔術師達が過去の戦いに対する記録をほとんど持っていない理由であった。
ルグ家を除いて。
('A`) 「やはり、そうだったか」
( ФωФ) 「強がりか」
('A`) 「ルグ家ってのは、確かに一度も英雄を出したことの無い落ちこぼれの家系だ。
他の二家とは違う。もはや絶滅寸前とも言っていい。
だが、一つだけ俺達には他の奴らが持っていないものを持っている」
219
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:54:57 ID:JZ..YL360
( ФωФ) 「なんだ」
('A`) 「情報さ。かつての戦いに関する膨大な量の情報。もともとルグ家の役割は観測と分析。
戦闘用の魔術こそ殆ど生み出しては来なかったが、それらに関しては完全に別格だ」
( ФωФ) 「それは興味深いな」
ドクオが杖を振るうと、彼の背後に光の歪みが発生した。
その中から飛び出してきた本を一冊手に取り、しおりの挟んであったページを開く。
('A`) 「前回の終焉を戦ったのは、老樹ロマネスク、魔術師パラセルト、天剣使いトール、
流星群竜ペルセウス、地殻獣モーグ、そして雨乙女ドロップの六人」
( ФωФ) 「……」
('A`) 「生き残ったのはあんたとドロップの二人だけ。
あんたとドロップ、天剣使いは今までと同様の面子だ。
天剣使いの一族だけはアンタよりも古いな。あの一族に関しちゃまだ調べ足りないが」
( ФωФ) 「天剣使いは……俺と同期だよ。輝龍クレシアの世代だ」
('A`) 「二千年近く前か」
220
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:55:37 ID:JZ..YL360
( ФωФ) 「それで、それだけの情報があると証明して何が言いたい?」
('A`) 「五百年に一度訪れる終末。そんなふざけたことがあっていいわけがない。
神か悪魔か知らないが、この世界を滅ぼしたいのなら毎年でも来ればいいだろう。
なぜそうしない」
( ФωФ) 「その程度の疑問、何千何万回と繰り返されておる。
誰も答えには辿り着けぬし、来たるべき戦いを乗り切るので精一杯なのだ」
頭を振るロマネスク。
質問には答えなどないと、暗に示していた。
('A`) 「今まではそうだった」
それを止めたのはドクオの強い否定。
老樹の瞳は探る様に魔術師を見つめる。
( ФωФ) 「ほう?」
('A`) 「言ったろ。ルグの家系には膨大な資料がある。
人生を何度繰り返しても読み切れないほどの。
だからこそ、俺は一つの魔術を生み出した。全ての知識を直接この身に取り込むために」
( ФωФ) 「新しい魔術を作り出すことはそう簡単ではないと聞くが。
本当に魔術師かと疑うほど魔力量の少ない貴様がか」
221
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:56:17 ID:JZ..YL360
('A`) 「魔力量は魔術を生み出す妨げにはならない。
大量の魔力を用いるのは、効率の悪い出来損ないの魔術だからだ」
( ФωФ) 「では聞かせてもらおうか」
('A`) 「敵が現れる虚空。これが繋がっている先がわかった」
( ФωФ) 「馬鹿な」
('A`) 「あれはいわば門だった。原理も魔術と同じだ。
あれの先にあるのは虚ろ。そこから奴らは産み落とされる」
( ФωФ) 「虚ろだと? そんなものは法螺にすぎん」
('A`) 「そういうと思ったさ。だからこいつを用意しておいた」
再びドクオの背後に現れた波打つ光。
中から四つの杖が飛び出し、魔術師の頭上に浮かぶ。
('A`) 「これらは魔術を一つだけ保存し、発動することのできる杖だ。
俺が持っているこの一本の劣化コピーだがな」
( ФωФ) 「何をするつもりだ」
222
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:57:11 ID:JZ..YL360
('A`) 「何、さほど危なくはない。
同威力の四大属性魔術を同時に放ってぶつけ合うと、
魔力が不安定化して空間の歪みが生まれる」
空中で放たれた火、風、水、地、それぞれの属性を持つ魔術。
互いに激しく反発し、魔力そのものが乱れ始めた。
対消滅を繰り返し続けた中心部に現れたのは、小さく黒い球。
('A`) 「そうしてできた歪みの中心に、重力魔術による回転をくわえる」
四つの属性が激しく回転し、
小さな黒い球は次第に引き伸ばされて薄い円盤状へと拡がっていく。
('A`) 「後はこのバランスを崩さない様に、空間魔術でこの中に小さな無数の空間を作る。
その後、時間魔術によって円盤そのものの時を加速すれば……」
突如弾けた円盤は、四大属性の魔術を放つ杖を飲み込んで黒い穴と化す。
内部では透明な泡が有り得ないほどの速度で生成され、潰れていく。
脳を直接揺るがすような音が響き、黒い穴から魔力が零れてきた。
皮膚に触れただけで、吐き気を催すほどの悪意。
内臓を掴まれる様な嫌悪感。
凶悪にして強大な魔力を持つ境界の向こう側の存在を、ロマネスクは知っていた。
223
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:01:06 ID:JZ..YL360
(; ФωФ) 「っ!!!!」
飛び上がったロマネスクが瞬時に唱えた精霊術。
島一つ程度なら沈めてしまうほどの超高密度の空気を従えた大気の精霊。
手のひらほどのサイズでありながらも、小龍なら圧倒できる威力がある。
呼び出された数体は黒い穴へと一斉に突撃をかけ、そのまま消えた。
( ФωФ) 「はっ……ははは……」
空には何一つとして残っていない。
ドクオの四本の杖も、ロマネスクが呼び出したはずの大気の精霊も。
この世の憎悪を詰め込んだような、むせ返るほど邪な魔力も。
( ФωФ) 「良いだろう。ドクオ・ルグ。お前の言葉、信じてやろう。
それで、お前はこれを確認してどうするつもりだ」
('A`) 「繰り返される終焉に終止符を打つ」
( ФωФ) 「こちらの世界に紛れ込んできた奴らに勝利するのすら精一杯なのだ。
一体どれほどの危険性があると思っている。
下手をすれば今のバランスすら失ってしまう」
224
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:02:06 ID:JZ..YL360
('A`) 「五百年ごとに一度。毎回乗り越えてきたとはいえ、次も乗り越えられるとは限らない。
このまま続けば、いずれ破滅する」
( ФωФ) 「過去数回は少なくとも、レタリアが届かなかったことは無く、
英雄が現れなかったことも無い。
お前の自己満足で世界を壊すつもりか」
('A`) 「救えねぇ。耄碌したか老樹ロマネスク。
だから俺は世界中を渡り歩いている。終末を数十年後に控えた今」
ドクオが杖を地面に叩き付けた。
魔力に寄って拡散された振動が響き、湯呑の中の水面が波打つ。
足元に浮かび上がった世界地図。
五つの大陸の中に大きな赤い星が五つ。
小さな青い星が十以上輝いている。
('A`) 「老聖、老樹、老狼、老龍、老燕と、それらに匹敵するかもしれない力の持ち主の居場所だ」
( ФωФ) 「ふん、大した情報網だな」
('A`) 「俺はこれから全員に会いに行く。会ってその強さを確かめる」
( ФωФ) 「自分が一番強いつもりか?」
225
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:02:53 ID:JZ..YL360
('A`) 「いや、この旅の途中で命を落とすことだって覚悟しているさ。
全てはこの世界の為だ」
光の地図は消え、床は通常の状態に戻る。
( ФωФ) 「……ドクオと言ったか。お前の試みを邪魔するつもりは無いが、
わかっているのだろう。避けては通れぬ関門があるぞ」
('A`) 「ヒッキー・ドレイク」
ドレイク家の長い歴史の中で、過去最高の魔術師との呼び名が高い男。
その名前と実力は海を渡って、世界中に轟いていた。
( ФωФ) 「レタリアは間違いなく奴に継承されている。
お前は奴を倒さなければ舞台に上がることすら許されない」
('A`) 「わかっているさ。この旅のもう一つの目的は、経験を積むことだ」
( ФωФ) 「ふん、俺はどちらでも構わないが……お前を気に入った。
再び俺の前に現れるのを楽しみにしている」
('A`) 「急な来訪失礼した。老樹ロマネスク」
( ФωФ) 「その呼び方は好きではない。もし次に会うことがあれば名だけを呼ぶがいい」
226
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:03:15 ID:JZ..YL360
('A`) 「そうさせてもらう。それでは」
ドクオは立ち上がり、目の前に座る老人に頭を深々と下げる。
振り返って杖を掲げ、無詠唱の移動魔術を発動した。
その姿は陽炎に紛れて見えなくなった。
227
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:03:51 ID:JZ..YL360
>2
(;'A`) 「まさか……な……」
膝をついたドクオの首元に添えられた光の剣。
汗を滴らせ、肩を大きく上下させながらその持ち主を睨む。
(゚ー゚*下リ 「ふふふ」
('A`) 「俺の負けだ。まったく、現実じゃないと信じたいね」
杖を手から離し、両手をあげるドクオ。
魔術を用いるのに杖は必要ないのだが、降参の意を示すために。
(゚ー゚*下リ 「間違いなく現実ですよ」
('A`) 「どうせ人間じゃないんだろ」
(゚ー゚*下リ 「失礼ですね。正真正銘、人間です」
背の高い女性は光の剣を手の内から消した。
死のプレッシャーから逃れたドクオは腰を落とす。
地べたに座りながら、優雅に立つ女性をじろじろと観察する。
(゚ー゚*下リ 「そんなにみられても困ります。私は既に結婚しておりますので」
228
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:04:29 ID:JZ..YL360
('A`) 「っあー……納得いかねぇ」
(゚ー゚*下リ 「魔術師様が手を抜いてくださったのですよね?」
('A`) 「そう見えるか」
(゚ー゚*下リ 「ええ」
('A`) 「ということは、俺もまだ伸びしろがあるってことか……。
で、あんたのその化け物じみた力はどうやって手に入れたんだ」
(゚ー゚*下リ 「んー……鍛練の賜物ですかね」
小さくきれいな掌をほほに添え、困ったように笑う女性。
仕草は大人っぽいが、見た目は年端もいかない少女の様に幼い。
('A`) 「俺がサボってたみたいに言うなよ」
(゚ー゚*下リ 「すいません、そのようなつもりは無かったのですが……」
('A`) 「いや、わかってる。すまない。
現象すら断ち切る天剣の存在は知識としても知っていた。
だから俺はあんたに実力勝負で負けたんだ」
229
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:05:05 ID:JZ..YL360
(゚ー゚*下リ 「なぜ、私に勝負を?」
('A`) 「……天剣の一族なら知っているだろう。
終末の戦いに関することさ。負けておいて語るなんて恥ずかしいことさせてくれるな」
(゚ー゚*下リ 「あぁ! 成程! では、あなたが今回のレタリアの使い手たる魔術師様なのですね?」
('A`) 「心底嫌なんだが……否定しないといけないだろうな。
俺はドクオ・ルグ。ただの魔術師だ。レタリアも使えない」
(゚ー゚*下リ 「あら、そうなのですか。でもよかったです」
('A`) 「何が」
(゚ー゚*下リ 「私は次の戦いに参加できないでしょうから」
('A`) 「もう十五年後だ。あんた以外にいないだろう。
それに、戦えるだけの実力もある。天剣使いがレタリアから漏れた例はほとんどない」
(゚ー゚*下リ 「いえ……」
女性は頭を左右に振る。
(゚ー゚*下リ 「それまで生きていることは出来ないでしょうから」
230
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:05:49 ID:JZ..YL360
(;'A`) 「なっ……!」
(゚ー゚*下リ 「娘が今年三歳になります。心苦しいですが、彼女に任せることになるでしょうね」
('A`) 「馬鹿な。せいぜい二十手前の小娘が戦えるものか」
(゚ー゚*下リ 「私の娘ですから。それでは信用なりませんか?
それに、彼女の有する魔力量は私よりもさらに大きい。恐らくはスノウ一族で最も」
('A`) 「……」
(゚ー゚*下リ 「ちょうどよかった。魔術師様、一つお願いがあるのです。
聞いてはもらえないでしょうか」
('A`) 「なんだ」
(゚ー゚*下リ 「私の娘に剣を教えてほしいのです。来たるべき戦いを生き残るために」
('A`) 「俺は剣を扱うことができん」
(゚ー゚*下リ 「簡単なことです。私の動きを全て真似て頂ければいいのです。
これは親バカと言う物でしょうか。彼女の……クールの瞳を見ていると思うのです。
彼女には才能がある。確かな師さえいれば、私すらも超えるほどの」
231
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:06:33 ID:JZ..YL360
('A`) 「……あんたの病を治してやる。その方が簡単だ」
(゚ー゚*下リ 「頑固な魔術師様ですね。……わかりました。
それでは、私はドクオ様の治療を受ける代わりに、
ドクオ様は私に剣の手ほどきを受けて頂きます」
('A`) 「俺は他にもやらなきゃいけないことがたくさんあるんだ。めんどくせぇことを言うな。
どんな病気かは知らないが、俺にかかれば不老不死にだってしてやれる」
(゚ー゚*下リ 「おや、これは不思議なことを。
私程度に負けた魔術師様が、私が解決できない病を治せると?」
('A`) 「そんな挑発には乗らないつもりだ……が、確かに負けたままというのも気にくわない。
その交換条件を受けよう。剣士の戦い方というのは今後の参考にもなる」
(゚ー゚*下リ 「それでは、もう一本」
女性に手の中で輝く剣は、高純度の魔力の塊。
殺すつもりで放った魔術すら容易に切り裂く。
驚異的なのは鋭さではなく、その性質。
('A`) 「……フォールト」
232
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:07:10 ID:JZ..YL360
ドクオの周囲に多数出現した黒い空間の裂け目。
先程の戦いで唯一、ナインツ・ヘイブンの攻撃を受けることができた断絶の魔術。
(゚ー゚*下リ 「もっと他の魔術はないのですか?」
二振りの光剣が罅割とぶつかり、空間を歪めながら対消滅した。
女性の背後にはすぐに二つの剣が再生する。
('A`) 「その威力で、いくらでも再生できるとか……ほんと、反則でしかねぇ」
(゚ー゚*下リ 「逃げているだけでは勝てませんよ」
飛び込んできた女性の一振りを、ドクオは寸前で躱した。
空振った一撃は勢い余って大気を割る。
(゚ー゚*下リ 「流石ですね!」
嬉しそうににこにこと笑いながら、両手に持った剣を振るう。
('A`) 「近接戦闘なんてまったくやったことなかったんだがな。
さっきのあんたを見て覚えた」
(゚ー゚*下リ 「魔術師が新しい魔術を生み出すには数年かかると聞きますが」
('A`) 「この程度であれば、俺にはそんな長い時間必要ない」
233
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:07:58 ID:JZ..YL360
(゚ー゚*下リ 「でも、見たことの無い動きには……!」
七本の剣が順次射出された。
一直線にドクオへと迫り、魔術に弾かれる。
(゚ー゚*下リ 「ふふ……っ!」
急接近した彼女が二振りの剣を同時に振り下ろす。
('A`) 「フォールトっ!!」
形成した空間断裂に弾かれた天剣。
最初に飛来した七つは、粉々に砕けていながら未だ消えていなかった。
(゚ー゚*下リ 「刻みなさい! エスノストゥム!」
天剣の欠片はドクオを囲んで巨大な嵐を生み出す。
岩石すらも細切れにしてしまうほどの激しいうねり。
乱反射する光は内部からの衝撃で飛散した。
('A`) 「死んだかと思った……」
(゚ー゚*下リ 「おや、無傷ですか」
234
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:09:01 ID:JZ..YL360
('A`) 「その威力が馬鹿高い剣の構成は魔力におるもの。
だったら干渉することくらいはできる。
命がけの状況に追い込まれればな」
(゚ー゚*下リ 「剣に対する支配力は当然私の方が上ですが、
ほとんど魔力の塊になってしまえばそうではないということですね。
勉強になります」
女性の背中に再生した七本の天剣は、
切っ先をドクオに向け宙に浮かぶ。
('A`) 「少し、打ち合うか」
ドクオもまた、魔力で創り出した剣を構える。
魔力量の少ない彼が編み出した、ナインツ・ヘイブンに対抗するための剣。
僅かな魔力を糧に、硬化と再生の魔術を半永久的に発動し続けるそれは、
陽炎のようにその姿を一定に留めずに揺らめく。
(゚ー゚*下リ 「不安定な状態ですが……そんなもので受けられるのですかっ!」
フォールの振り下ろしは、甲高い音で弾かれた。
一瞬の驚きを極限まで抑えた彼女は、そのまま二撃目へと繋げる。
ドクオは首を狙った剣先を受け止めた。
235
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:09:49 ID:JZ..YL360
('A`) 「一秒前の俺よりも、今の方が強い。
魔術の可能性は無限だからな」
(゚ー゚*下リ 「認識を改める必要がありそうですね」
何十合と斬撃を重ねる二人。
お互いに一歩も引かず、目と鼻の先の距離で鎬を削る。
時折飛び散る魔力の欠片が、大地に浅く無い爪痕を残す。
(;'A`) 「っち……」
(゚ー゚*下リ 「ふふふ……」
('A`) 「正直、その底なし沼みたいな魔力が羨ましいよ」
(゚ー゚*下リ 「たったそれだけの魔力で、これほどの魔術を運用しているのは素直に尊敬していますよ。
それに、すぐさま新たな魔術を生み出せる知識と発想力。
私は他の魔術師とあったことはありませんが、簡単なことではないでしょう」
('A`) 「はっ……良く喋る……」
(゚ー゚*下リ 「これで、終わりです……ナインツ・ヘイブン!」
236
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:10:51 ID:JZ..YL360
重たい一撃をドクオが受けたのを確認し、距離をとる女性。
断絶と打ち合っていた七本の刃が女性の背に集まる。
手放した二刀と合わせて、後光の様に円形に浮いて配置された九つの剣。
「ローテイシオン」
高速で回転した魔力剣は、光輪となってフォールの背から放たれた。
('A`) 「がっ……」
ドクオが盾として生み出した断絶ごと、その胸を深々と切り裂いた。
人間がおよそ生きていられないほどの鮮血が飛び散り、ドクオは膝から崩れ落ちた。
(゚ー゚*下リ 「……やりすぎてしまいましたか」
('A`) 「痛ぇ……。とっさに再生魔術を自分にかけてなかったら、御陀仏だったな……」
(゚ー゚*下リ 「意識もあるのですか。全く、恐ろしい方ですね」
('A`) 「はは……褒められても嬉しくないな。だが、身体捌きは盗ませてもらった。
少なくとも俺が相対した中で最高レベルの剣術だ」
(゚ー゚*下リ 「魔術師とは本当に恐ろしい。同じ人間ではないんでしょうね」
237
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:11:27 ID:JZ..YL360
ナインツ・ヘイブンの内、八つをその身に仕舞った。
残った一つをドクオの傷口に向ける。
(゚ー゚*下リ 「リフドロップ」
('A`) 「魔力による強引な再生……普通の人間なら卒倒するぞ」
起き上がって座り込んだドクオ。
不健康そうな青白い顔はそのままに、身体中の傷は完全に治癒していた。
('A`) 「しかし、多彩な魔術を持ち合わせているんだな」
(゚ー゚*下リ 「ナインツ・ヘイブンの持ってる九つの魔術。
私が使えるのはそれだけです」
('A`) 「それが名前の由来か」
(゚ー゚*下リ 「さぁ、どうでしょう。私が受け継いだ時にはもう、
この剣に関する歴史などはほとんど失われていましたから」
('A`) 「輝龍クレシアが殺した九体の天使。
その身体から抉り出した光の魔力をもとにした剣」
238
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:14:21 ID:JZ..YL360
(゚ー゚*下リ 「それは本当の話なのですか?」
('A`) 「少なくとも、俺の知る限りは」
(゚ー゚*下リ 「なぜ龍が殺した天使が素材の武器を人間が扱っているのですか?」
('A`) 「文献上だと、輝龍クレシアは人間の男と恋に落ちた。
そして二人の間に生まれたのがエール・スノウ。初代の天剣使いだ」
(゚ー゚*下リ 「エールという名前は聞いたことがありますね」
('A`) 「龍は種族としての強者。子を為して繁栄することはできない。
その目に見えないルールを魔力で強引に破ったツケ。
天使達は輝龍クレシアとその娘の命を奪うために現れた」
(゚ー゚*下リ 「それを返り討ちにしたのですね……。一体どこから現れたのでしょうか」
('A`) 「わからない。ただ、戦場は熾烈を極めたらしい
環境が変わるほどに。そして再びの襲撃に備え、娘に天剣を残した」
(゚ー゚*下リ 「それが……ナインツ・ヘイブン」
('A`) 「九つの魔術は、それぞれの天使達が持っていた特有の魔術。
天剣の使用者はそれらを自由に扱うことができる」
239
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:15:18 ID:JZ..YL360
(゚ー゚*下リ 「ええ。ですが、逆に言うとそれらの九つの魔術しか使えません。
魔力を持っていたところで、私はただの人間なので」
('A`) 「その動きは十分に人間を超えているがな」
(゚ー゚*下リ 「お褒め戴き光栄です。
さて、そろそろ帰ります。あなたの目的は達成しましたよね」
('A`) 「待て。病気の件がまだだ」
(゚ー゚*下リ 「……私の病は人の身には過ぎたこの魔力が原因です。
本来であれば娘が生まれてすぐに引き継ぐべきだった天剣。
ですが、幼少時に膨大な魔力をその身に宿すことは、かなりの負担となるのです」
('A`) 「それが寿命を圧迫していると」
(゚ー゚*下リ 「私は娘にそのような思いをさせたくありませんでした。
ですので、未だに天剣の使い手たる資格を有しているのです。
彼女がもう少し育ってから、引継ぎを行います」
('A`) 「……嘘は言っていないんだな」
簡単な観測の魔術。
詠唱も無しに発動したそれは、瞬時にフォールの身体状況を調べる。
魔力の歪みが彼女の身体に対して与えている影響は、
想像以上に深刻なものだった。
240
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:15:53 ID:JZ..YL360
(゚ー゚*下リ 「断りも無く調べるなんて、失礼な方ですね」
('A`) 「すまん……」
(゚ー゚*下リ 「分かってくださったみたいなので、結構です」
('A`) 「今から天剣を取り除けば、少しでも……」
(゚ー゚*下リ 「天剣の受け入れ先は一人しかいません。
私が最も望まない答えです」
('A`) 「……」
(゚ー゚*下リ 「あなたに会うずっと前から決まっていたことです。そう気にしないでください。
むしろ感謝しているのです。私の研いた技を、彼女に伝えることができるのですから」
('A`) 「わかった。数年後、必ず約束を果たそう」
(゚ー゚*下リ 「ありがとうございます。それでは、そろそろお城に戻りますね」
('A`) 「あぁ」
241
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:16:32 ID:JZ..YL360
フォールは風にも劣らない速度で走り去った。
とても身体が悪くなっているとは思えない程に早く、
すぐにドクオの視界から消えた。
('A`) 「娘の名前も聞いておけばよかったな……。
まぁいい。次は……っと」
地図に書き込まれたリストの内、半数以上は横線によって埋められていた。
残る強者のほとんどは、話し合いにも応じてくれそうにない者ばかり。
先行きの不安を溜息と共に飲み込んで、重たい腰を上げた。
242
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:18:04 ID:JZ..YL360
>3
(-_-) 「誰だ……?」
砂漠の真ん中で、男は待っていた。
目印にしていた枯れ木は、強い日光を遮って大きな影を落とす。
上空から数十歩の距離のところに着地して、声をかけた。
('A`) 「初めまして、か。ヒッキー・ドレイク」
ドクオの接近に気づいていた男は、声を聞いてからゆっくりと顔をあげる。
(-_-) 「あぁ、よく見れば落ちこぼれルグ家の生き残りじゃないか。
どうだい、一族最後の魔術師になる気分は」
おちょくる様に短杖を振るって言葉を返す。
気にした風は無く、ドクオは続けた。
('A`) 「いいんだよ、ルグ家は俺で完成したんだから」
(-_-) 「随分と高い鼻だな」
('A`) 「お前こそ、随分と自惚れているようだな。
御先祖様の努力の結晶を何もせずに受け取っただけのくせに」
243
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:19:01 ID:JZ..YL360
ドクオの知っている限り、ヒッキー・ドレイクという男は自ら魔術を生み出したことは無い。
最大派閥のドレイク家で最も膨大な魔力を持つ彼は、
多くの有用な魔術を引き継いでいたからだ。
ルグ家のドクオとは違い、新たに魔術を生み出す必要がなかった。
(-_-) 「……魔術師にとって大事なのは魔力の量だ。
お前にはそれが圧倒的に足りていない。そんなこともわからないのか?」
それ故、彼は自身の才覚に絶対の自信を持っていた。
魔力量の多い者こそが、最も強い魔術師であると。
('A`) 「分かっていないのはお前さ。魔力の量なんて大した問題じゃない。
魔術は扱い方によってその性質を幾らでも変化させる」
(-_-) 「ムカつくやつだな。わざわざ俺を呼び出しておいて、したかったのはそんな説教か?
それともレタリアを使うことができない八つ当たりか」
('A`) 「あーそれだ。レタリアの権利、俺にくれないか?」
突然の話を理解できずに、ヒッキーの思考は完全に停止した。
この時もしドクオが攻撃魔術を同時に唱えていたら、一撃で昏倒させていたかもしれない。
244
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:19:34 ID:JZ..YL360
(-_-) 「は?」
間抜けな声を出して、漸く働きだした脳細胞で言葉の意味を再度吟味する。
結果、腹の底から湧き出てくる笑いをこらえることはできなかった。
(-_-) 「くっくくく……どうした? お前如きでもこの世界のために尽くそうという気があるのか。
だが、お前では戦いを生き残ることは出来ないだろうよ」
('A`) 「本当に与えられてばかりで何も知らないんだな」
(-_-) 「なんだと?」
('A`) 「過去、終末の戦いを生き残った魔術師は一人もいない」
ドクオの杖から魔力が流れ出て、細い線を描く。
それは、人の名前を表す文字になった。
魔術師の中では必須科目でもある終焉に関する知識のうち、
誰もが暗唱できるほど覚えている名前。
245
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:20:43 ID:JZ..YL360
それらは、かつて終焉を戦った魔術師達の名。
(-_-) 「そんなわけが」
('A`) 「ルグ家の役割を知らないのか」
(-_-) 「…………観測と、分析」
('A`) 「よく知っているじゃないか」
(-_-) 「だからどうした。俺が最初の一人になればいい」
('A`) 「お前には無理だ」
(-_-) 「言うのは勝手だが……喧嘩を売った代償は高くつくぞ」
ヒッキーが構えた短杖は膨大な魔力を纏う。
('A`) 「ったく、これだからプライドだけ高い奴は」
ドクオもまた長杖を構え、魔術を発動させていく。
距離を開けて並ぶ両者が杖に集めた魔力には、歴然とした差があった。
片や天変地異レベルの大魔術を発動できそうなほど大きく、
相対するもう一つは吹けば消えるほどに小さい。
246
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:21:20 ID:JZ..YL360
(-_-) 「はっ……可哀想に。そんなちっぽけな魔力で何ができる」
('A`) 「よかったな。ここで俺にレタリアを奪われてしまえば、お前は寿命まで長生きできるぞ」
(#-_-) 「糞が! 押し潰されて死ね! ロックエンド!」
砂漠から持ち上がった大量の砂に魔力が浸透し、
巨大な二枚の壁となってドクオの左右に立ち上がる。
空にまで届くほどの高い壁は、形成された瞬間に中心に向かって動く。
瞬く間に蟻一匹の生存すら許さないほど完全に閉じた。
('A`) 「無駄が多いって言ってんだろ」
砂の一枚板の中心部に無傷で立っているドクオは、
ヒッキーの大魔術が発動される前から一歩も動いていない。
人間一人分の大きさだけが不自然に砕かれた砂の壁。
(-_-) 「何をした……」
('A`) 「分からないからお前は二流なんだよ」
その一言はヒッキーを怒らせるのに十分すぎた。
膨大な魔力が砂の中に染み込んでいき、魔術としての形を得る。
247
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:21:49 ID:JZ..YL360
(-_-) 「サンドアクス」
砂で組み立てられた巨大な斧が三つ。
魔術によって圧縮された砂の重量は、同じ大きさの鉄塊すら凌ぐ。
それらが軽やかに舞い上がり、ドクオの身体目掛けて放たれた。
風切り音ですら大地を揺らすほど。
受ければ盾ごと引き裂かれるのは必然であった。
(#-_-) 「潰れろ! ゴミ!!」
('A`) 「……セパレイション」
ドクオの目前で斧は分解され、砂漠へと還った。
(-_-) 「なんで……だよ……」
('A`) 「お前、本当に何も知らないんだな」
(#-_-) 「糞がくそくそくそくそ!! もういい!
俺の前から消し去ってやる!」
248
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:22:20 ID:JZ..YL360
大気中に拡散した魔力の奔流がヒッキーの短杖へと流れ込み、
複雑な魔術を幾重にも組み上げていく。
同時発生した空間の歪みの中で加速し続ける魔術は、
光すらも飲み込む暗い穴となって砂漠そのものを吸い込んでいく。
('A`) 「馬鹿やろ……無茶しすぎだ……スライサ!」
ドクオの放った極薄の刃は、次元の歪みごと切り裂いて進む。
単調な風の魔術を何百回と重ねたそれは、
龍属の首すらも容易く削ぎ落すほどに鋭い。
ものの数秒でヒッキーの魔術の根幹に達し、それを破壊した。
(-_-) 「……」
('A`) 「レタリア、渡してもらえるか」
(-_-) 「ああ……」
自身の扱う最大威力の魔術すら容易に砕かれたヒッキーは、
呆けた表情で左腕の袖を捲った。
そこに記された印に右手の指をあて、魔力を込める。
指の動きに合わせて浮かび上がった印をドクオの腕に移した。
249
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:23:04 ID:JZ..YL360
(-_-) 「……一つだけ教えてくれ」
('A`) 「なんだ?」
(-_-) 「お前は何をしたんだ」
('A`) 「無駄が多いと言ったろ。考えればすぐにわかることだ。
確実に相手、もしくは自分に影響を及ぼす魔術にだけ魔力を込めればいい。
俺という魔術師一人を殺すのにこの砂漠を丸ごと消す必要なんて皆無だろ?」
(-_-) 「そんなものは机上の空論だ!
そうやって攻撃や防御にかける魔力を節約していれば、
想定外の一撃ですぐにでも戦闘不能に追い込まれる」
('A`) 「想定外なんてないんだよ。どんな変化をしようが、即時に対応する。
それが俺に許された唯一の戦い方だ」
(-_-) 「馬鹿げてる」
('A`) 「俺はそうは思わない。さて、目的は達成した。
殺すつもりは無いが、お前はどうする」
(-_-) 「……レタリアを失った俺がすごすごと帰れると思ってるのか」
('A`) 「知らん」
(-_-) 「っち……。どこにでもさっさと消えな」
('A`) 「そうさせてもらうさ。そろそろ計画も次の段階だ」
(-_-) 「お前、何をするつもりだ」
('A`) 「何って……終わらせるんだよ。この胡散臭い戦いをな」
250
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:23:35 ID:JZ..YL360
・・・・・・
251
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:25:07 ID:JZ..YL360
読んでくださった方、有難うございました。
今日はここまでの予定です。
レスが励みになります。
あと二回くらいで終わると思いますので、それまでどうぞお付き合いください。
252
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:40:35 ID:SDticvYA0
再開してたか乙乙
253
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 19:56:40 ID:ysZ8awxc0
おつ
素直に面白い
254
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 21:19:58 ID:jk1t.2Ac0
おつー
255
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 21:39:45 ID:1qelsSZc0
おt
256
:
名無しさん
:2018/04/25(水) 19:19:34 ID:/7XdDRWs0
>>1
の杖とか錆びた剣とかこういうことだったのか……
めっちゃ続き気になる
257
:
名無しさん
:2018/04/27(金) 17:44:12 ID:L0fb2YPY0
おもしろい
早く続きを
258
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:54:01 ID:7X8WUdNc0
>1
約束の丘。
レタリアの魔術が導く戦いの場。
集まった英雄達は最大限の力を発揮できるように、
それぞれが最終調整をしていた。
('A`) 「五人か」
【+ 】ゞ゚) 「そのようですね」
( ФωФ) 「不足はあるまい。最も少ないときで四人、多いときで八人であった。
っと、来客だな」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「あら、どうやら私が一番最後のようですね」
決戦を翌日と定めた最後の日、その女性は現れた。
結界を破り、優雅な足取りで五人の元に。
長く美しい蒼色の髪と、戦闘には不向きな白いワンピース。
左右の腕に嵌めた腕輪は、女性の持つ強い魔力に反応して七色に輝いていた。
突然の訪問に膨れ上がる緊張感。
女性の正体にドクオが気付き、警戒を解くように軽く手を動かした。
('A`) 「いろいろと考えが合ってな。少し早めにレタリアを発動させてもらったんだ。
あんたは……いや、見ればわかるな。アマザイの一族だろう?」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「星霜のフロストといいます。アマザイの一族から手助けに参りました」
259
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:54:34 ID:7X8WUdNc0
川 ゚ -゚) 「ドクオ。アマザイとはなんだ」
('A`) 「過去の文献にもわりと残っている名前だ。天候を操る一族。
どこに住んでいるのかわからないから、俺は最後まで見つけられなかったがな」
( ФωФ) 「前回のドロップ、そして私が初めて戦ったときにいたヘイル。
どちらもかなりの実力者であったな」
( ・∀・) 「これで六人。あと一人か……」
('A`) 「発現したレタリアは七通。だけど必ずしも全員集まるとは限らない。
恐らくこのメンバーで戦うことになるだろうな」
【+ 】ゞ゚) 「十分すぎる戦力のように思えますが」
('A`) 「終焉のその先は何が出て来るか、まったく予想もつかない。
各自万全の態勢を整えておいてくれ。フロストと言ったな。
一つ説明しておくことがある」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「なんですか?」
('A`) 「レタリアの内容は確認してるんだよな」
260
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:55:14 ID:7X8WUdNc0
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「ええ」
('A`) 「俺たちは、終焉そのものを終わらせようと思う」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「終焉そのもの?」
('A`) 「五百年に一度という決まった周期で訪れる終焉。
何者かの意思が関わっていることは明白だ。その何者かを殺すことが最終目標だ」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「……見当はついているのですか?」
('A`) 「恐らくその敵がいるであろう空間に接続するための魔術はある。
どのような敵が現れるかわからないが……。
もし望まないのであれば、終焉の敵を倒した後に離れてくれても構わない」
フロストは少しだけ考え、その手をドクオに向けて差し出した。
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「私程度でよろしければ、お力添えをいたします」
そのか細い腕を握り返し、ドクオは頷いた。
('A`) 「未来の世代のために」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「ええ」
('A`) 「ちなみに、ここにいるほかのみんなも賛同してくれている。
俺の調べた限り、過去の英雄たちをはるかに上回る戦力だ」
261
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:55:45 ID:7X8WUdNc0
( ФωФ) 「今の説明で納得ができるのか」
怪訝そうに眉を顰めるロマネスク。
命を懸ける選択に対して、軽すぎる決断。
フロストはその問いに笑顔で答えた。
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「私にとっては十分な説明でございました。
まだ見ぬ未来をより良くする。今の私たちにできる精一杯のことでございましょう?」
( ФωФ) 「まぁいい。他の者も聞くべきことがあれば今のうちに聞いておけよ。
明日になってからでは間に合わん」
【+ 】ゞ゚) 「そうですねぇ、それなら一つ。聞いておきたいことがあるのですが」
('A`) 「なんだ?」
【+ 】ゞ゚) 「お子さんの名前は決めたのですか?」
(;'A`) 「っ!? はぁっ?」
予想だにしない質問で思わず噴き出したドクオ。
冷静を装うことすらできていなかった。
262
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:56:42 ID:7X8WUdNc0
( ФωФ) 「確かに、気になっていたことだな」
クールは我関せず、二つの棒きれで天剣をイメージしながら体を動かしていた。
助け舟を出すつもりは無いと気付いたドクオは溜息を一つ。
('A`) 「気づいていたのか」
【+ 】ゞ゚) 「気づいてないと思っていましたか」
('A`) 「いや、魔力の痕跡でいずれバレるとは思ってたよ。
まさか今日聞かれるとは思ってなかったけど」
( ФωФ) 「全く、前代未聞であるな。
これから最終決戦に赴く二人が色恋沙汰の関係にあるなど」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「へぇー、そういう事ですか」
事情が呑み込めたフロストも茶化すように話に乗る。
( ФωФ) 「どちらが決めたんだ」
('A`) 「クールだ」
【+ 】ゞ゚) 「それで、何という名前なのですか」
263
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:57:06 ID:7X8WUdNc0
川 ゚ -゚) 「キュート」
それまで沈黙を保ってきたクールが口を開いた。
消え入りそうなほど小さいが、芯のはっきりとした声で。
264
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:57:45 ID:7X8WUdNc0
【+ 】ゞ゚) 「いい名前じゃないですか」
川 ゚ -゚) 「当たり前だ」
('A`) 「俺もそう思う。きっと君に似て可愛くなる」
川 ゚ -゚) 「お前に似て賢くなればいいがな」
( ・∀・) 「っち……緊張感のない」
【+ 】ゞ゚) 「御二人とも、もう親バカ全力ですか」
( ФωФ) 「この戦いを生き残ることができてこそだ。
激しい戦闘になると思うが、そこらへんは大丈夫なのだろう?」
('A`) 「時間停止の魔術と、空間防護の魔術の二重掛けだ。
子供を危険に曝すわけにはいかないからな」
川 ゚ -゚) 「……最悪、私が死んだとしてもこの子は生まれることができる様にしている。
二人で決めたことだ。万全を期しておこうとな」
( ・∀・) 「……そんなことには……させない。
親がいない苦しみは……わかってるつもりだ」
265
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:58:31 ID:7X8WUdNc0
('A`) 「ああ。……明日、か」
川 ゚ -゚) 「今更、怖気ついたわけでもないだろ」
('A`) 「これで世界が変わる。そう思えば、少しな」
( ФωФ) 「そう大きなことではない。失敗したところで、今まで通り戦う者が現れる」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「五百年に一度……。
少なくとも今の私は生きてはいないでしょうから、想像すらできません」
川 ゚ -゚) 「だが、今よりも確実に良くなる。そう信じているからこそこの命を懸ける」
( ・∀・) 「そうだね」
('A`) 「遂に明日だ。みんな、覚悟を決めてくれ」
ドクオの発破にそれぞれが応え、会話は途切れた。
翌日に起こり得る全ての最悪を想定し、あらゆる対策を講じる六人の英雄。
陽が落ちて少したってから、彼らは眠りについた。
266
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:59:23 ID:7X8WUdNc0
早朝、世代最強の英雄たちは空にあいた大穴を見上げていた。
それは、何の前触れもなく現れた異空間への扉。
強大で邪な魔力の氾濫に、正面から立ち向かう。
各々は互いに確認をせずに戦闘態勢をとった。
モララーが龍化を行い、龍技を発動した。
全身強化の支援術式を許容範囲の上限に設定し、敵を待つ。
クールは九つの天剣を全て展開し、魔力を纏わせた。
全てを貫く矛であり、あらゆるものを遮る盾となる剣の切っ先を天に向ける。
ドクオが腕を持ち上げただけで、あらゆる場所に魔術が現れた。
ただの一つですら世界を揺るがすほどに強力無比な攻撃魔術を、幾つも仕掛ける。
オサムの呪術は彼の全身を覆い、刺々しい黒色の鎧を作り出す。
二回りも大きくなった彼が構えたのは、赤黒い刃を持つ呪術の鎌。
ロマネスクは両手を広げ、周囲の精霊たちに呼び掛ける。
精霊術師である彼に応えるために、空気の、そして大地の精霊たちが集う。
フロストの一族だけが保有する魔術、アマザイに生み出された氷の彫像。
巨大な槍を構え、馬に跨った二体の騎士は彼女の両脇を護る。
267
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:59:43 ID:7X8WUdNc0
遂に異空間より、禍を為す獣が産み落とされた。
.
268
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:00:18 ID:7X8WUdNc0
>2
(メ'A`) 「……みんな、生きてるか」
川 ゚ -゚) 「何ら問題はない」
最初に応えたのは、ドクオの隣に立っていた女性。
長かった黒髪は首元で不揃いに切られており、両腕には大きな傷跡が消えずに残っている。
それでも、背にしたナインツ・ヘイブンは未だ強く光り輝く。
( ФωФ) 「久しぶりに死にかけたな」
ロマネスクは左腕の根元を抑えながら立ち上がった。
肩から先を失った傷口は、ゆっくりと再生している
( ・∀・) 「っててて……自爆かよ。勘弁してほしいよ、ほんと」
瓦礫の中から起き上がった巨大な龍。
周囲の大地が消滅するほどの衝撃の中心部に居たにもかかわらず、
ほぼ無傷のその身体は、龍属の特性を遺憾なく発揮していた。
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「驚かされましたね」
【+ 】ゞ゚) 「助かりました」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「いえいえ。不死のあなたには余計なお世話だったのかもしれませんが」
269
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:01:08 ID:7X8WUdNc0
【+ 】ゞ゚) 「死なないのにも限度がありますから」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「それはよかったです」
表面が波打つ半透明の球体の中に無傷で立っているオサムとフロスト。
防御行動のために消費した精神力が疲労となり、二人は肩で息をする。
('A`) 「これで、作戦の第一段階は終了だ」
( ФωФ) 「ここまでは今までと同じだ。そして、概ね予定通りでもある」
【+ 】ゞ゚) 「さて、では……」
宝石の砕けてしまった指輪を替えながら、オサムは二つの呪術を発動させた。
一つは消費してしまった命を補充する不死の呪術。
オサムにとっては生命線となる最も重要なものである。
二つ目は呪術の発動に必要な呪力痕の作成。
彼が胸元から取り出した宝石を一つ砕くごとに、身体中の肌に余すところなく刻まれていく黒い斑紋。
魔力と異なり、発動の為に必要な呪力はすぐに引き出すことが難しい。
故にオサムはその身にあらかじめ呪力そのものを封じることで、
本来呪術師が苦手とする激しい戦闘にすら介入することができる。
270
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:01:48 ID:7X8WUdNc0
【+ 】ゞ゚) 「いつでもいいですよ」
川 ゚ -゚) 「ドクオ」
('A`) 「わかってるさ。まずはこの世界を護る魔法だ。
これから起こる激しい戦いに耐えられるようにな。
ゴッドブレス!」
杖から放出された透明な魔術は、遥か上空まで立ち昇ってドーム状に拡がっていく。
半径数百キロを覆う無色の防護膜。
威力という概念を減衰させる、ドクオの考え出した最高級の防御魔術。
同じ魔術で生み出した灰色ローブを自身も纏い、
懐から四つの供物を取り出した。
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「何が出て来るでしょうね」
( ・∀・) 「フロストは何も準備しなくていいの?」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「ええ、私のアマザイはいつでもどこでもどんなことでも対応できますから」
フロストの周囲で弾ける冷気。
人間の掌よりも小さな塊が、龍属であるモララーにすら寒気を感じさせた。
( ・∀・) 「確かに、怖いね」
271
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:02:36 ID:7X8WUdNc0
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「そういうあなたこそ龍技は利用しないので?」
( ・∀・) 「戦いが始まってからで十分間に合う」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「……そうですね」
('A`) 「お喋りは終わりだ」
ドクオの掲げた杖が、空に四つの魔術陣を描く。
少し遅れて噴き出した魔力が四つそれぞれに注がれて、空間転送魔術を起動する。
その穴から引き出されてきたのは、いずれも最高位の魔術素材。
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「これは……凄い力ですね」
('A`) 「レタリアを発動させるまで遊んでいたわけじゃないんだ。
どうやったら効率よく、かつ長いこと虚ろへとこの世界を繋げておくか。
俺が考えていたのはそれだ」
川 ゚ -゚) 「全く、恐ろしいほどに勉強熱心な奴だ。
自身のスキルアップだけに飽き足らず、そんなことまで考えていたのだからな。
だが、それでこそ私が愛したドクオだ」
( ФωФ) 「最終決戦。それも、この世界の行く末を決めるものだ。
よくもまぁ、それ程平常心でいられる。人間の図太さには感心すらするな。
そこの龍も少しは見習えばいい」
272
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:04:13 ID:7X8WUdNc0
(; ・∀・) 「っ! 余計なお世話だ」
鼻息荒く反論するモララー。
そんな彼の意思に反して、大地を掴んでいた四つ足は少しばかり震えていた。
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「怖気づいたのですか?」
( ・∀・) 「何が出て来るのか全く予想できないんだ。みんな平然としている方がどうかしてる」
( ФωФ) 「五回も乗り越えれば心が鈍ってしまったというのもあるが……。
災厄は五度も私を殺すことは叶わなんだ。
今更、どんな敵がいたところで殺される気はしない。
お前とてそうだろう。龍王」
( ・∀・) 「……そうだ、そうだ。……わかっている。
龍属の歴史の中で最も強い龍王。誰も僕を殺せるはずがない」
少年はいつの間にか震えが止まっていることに気付いた。
老樹の言葉と、全身を巡るの魔力の力強さを感じながら、ドクオの魔術を見守る。
('A`) 「地獄の焔、黄泉の風、冥府の海、深淵の泥……」
言霊によって四つの魔術が発現した。
それぞれがお互いを喰らうかのように暴れる。
そのどれもが術者を殺してしまいかねない程の魔術でありながら、
ドクオは容易く完全なコントロール下に置く。
273
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:04:55 ID:7X8WUdNc0
('A`) 「っ……」
ゆっくりと回転を始めた四つの魔術。
ロマネスクの前で実演してみせたものよりも数百倍は巨大な黒球。
四大元素は均等に混じり合い、反発を繰り返す。
高速回転することで押し潰され、円盤状へとその姿を変えた。
('A`) 「準備はいいな。もう引き戻せないぞ」
( ・∀・) 「任せてくれ。どんな巨大な敵が現れたって僕が立ち向かう」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「アマザイはどのような相手に対しても必殺の攻撃手段がございます。
安心して任せてください」
川 ゚ -゚) 「天剣に切り裂けないものは無く、防げないものは無い。
神の尖兵が有する地上最強の魔術だ」
【+ 】ゞ゚) 「呪術の極致は戦わずに殺すことです。
もしも大群が現れるようでしたら私が対応しましょう」
( ФωФ) 「万事問題無し。神と呼ばれた精霊使いの力、存分に振るおう」
('A`) 「開け、虚ろの扉。ミスティルティン!」
.
274
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:07:19 ID:7X8WUdNc0
四大属性の最高魔術から生み出した扉の魔術は、
この世ならざる世界と繋がれた。
モララーがゆうに通れるほど拡がった暗き穴の底から溢れ出す混沌の魔力。
先程屠ったはずの神と同質でありながら、さらに濃く澱んでいる。
('A`) 「っ!」
穴の底にゆっくりと露わになった光。
それはあまりにも大きすぎる瞳。
(; ・∀・) 「でか……い……」
(<●>) 「「私の名前はオルフェウス。原初の純術師にしてこの世界の神である」」
問いかけは声ではなく魔力の波長として放たれた。
意識を揺さぶるかのような重たい言葉は、六人の胸の奥にまで届く。
(<●>) 「「一体、何用かね」」
( ФωФ) 「貴様がこの終焉の戦いを起こしていた原因だな?」
(<●>) 「「ほう、また生き残ったのか……。素晴らしい。
だが、ただの宴程度でそう騒ぎ立てる事でも無かろう」」
川#゚ -゚) 「ふざけ
275
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:07:40 ID:rt1Nb5fY0
ドクオとクーの子供だったか
276
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:08:19 ID:7X8WUdNc0
川#゚ -゚) 「ふざけるな! あれが宴だと!」
(<●>) 「「無論」」
【+ 】ゞ゚) 「あなたが何者かはわかりませんが、
終焉を引き起こしているのなら対処させていただきます」
(<●>) 「「対処。対処とは。全く愚かなことだ」」
( ФωФ) 「ふむ、随分と上から目線だな」
(<●>) 「「憐れな。自らの小さな世界の中に閉じこもっていればいいものを」」
('A`) 「偉ぶっているところ悪いが、同じ足場に降りてきてもらおうか」
(<●>) 「「なに?」」
('A`) 「拡大しろ、虚ろの扉。神の座から奴を引きずり落とせ!」
ドクオの杖から複雑な魔術がミスティルティンに注ぎ込まれた。
暗黒の空間が夜空と見紛うほどに拡がる。
その中から地上に落ちてきたのは、この世界には存在し得ない化け物。
277
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:09:05 ID:7X8WUdNc0
巨大な一つ目が縦に埋め込まれた濃紺の身体。
ブヨブヨとした表面から幾条もの触手が揺らめき、
殊更に太い四本を足として立っていた。
(<●>) 「「……この私を引き寄せるとは、余程世界と共に滅びたいようだな。
神の姿を一目見たいという、
矮小なる生物としての願いだけであれば赦してやったものを」」
('A`) 「生憎、遊び感覚で世界に干渉するような奴を神だと崇める趣味は無い」
(<●>) 「「それでこの私に負けるべくして戦いを挑むと。理解できんな。
五百年後には貴様らもその周囲もほとんど生きてはいまい」」
( ・∀・) 「この世界の安寧の為に、不必要な神を殺しに来たんだ」
(<●>) 「「確かに、大口を叩くだけの実力はある。
過去の戦いでも全員がほぼ無傷なのは見たことがない」」
( ФωФ) 「お前を殺す為だけに集められたんだ。当然だろう」
(<●>) 「「当然? おかしなことを言う」」
ただ無機質な音であった声に、初めて感情が込められた。
押し殺したかのような嘲笑が漏れる。
278
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:10:09 ID:7X8WUdNc0
川 ゚ -゚) 「何がおかしい」
(<●>) 「「どうせ死ぬのだからな。おまえたちの過ちを教えてやろう。
終焉を戦い抜くことが出来れば、世界は救われると」」
('A`) 「何も間違ってはいないだろう。少なくとも七回、三千五百年はこの世界が存続している」
(<●>) 「「では、その前は」」
('A`) 「俺の知る資料にある限りは……」
(<●>) 「「過去どれだけの戦いが行われてきたのか、知らぬのか。
では教えてやろう。千と三十一回。終焉はこの世界に訪れている。
果たしてそれだけの資料とやらがあるのか」」
(;'A`) 「まさか…………」
(<●>) 「「そうだ魔術師。この世界はすでに何度も滅びているのだよ」」
(#ФωФ) 「馬鹿な! 私が生まれる千年前がこの世界の始まりだったと? ありえない!」
(<●>) 「「いいやあり得る。この私が世界を再生させるときは、
決まってある一定の文明水準にするからだ。
でなければ、強者が育つのを待たねばならいだろう」」
279
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:10:51 ID:7X8WUdNc0
【+ 】ゞ゚) 「壊すために創っているということですか……」
(<●>) 「「壊す為ではない。たまたま英雄が不作だったときに壊れてしまうだけだ。
そうやって進んでは戻る世界をただ観測をしているだけに過ぎない。
私自身が干渉するときはいつも、世界を再生させるときだけだ。
むしろ感謝してほしいものだな」」
川 ゚ -゚) 「お前の話はわかった。だから今すぐ死ね」
(<●>) 「「血気盛んなお嬢さんだ。だが激しい運動は胎内の子供に良くないのではないか」」
川;゚ -゚) 「ッ!?」
(<●>) 「「なぜ知っているという顔をしたな。当然だろう。私は神なのだから。
お前たちが土足で踏み込んできた神の座から世界を見守ってきたのだ」」
( ・∀・) 「災厄をけしかけて見守って来ただと? そんな保護ならお断りだ」
(<●>) 「「話が逸れてしまったな。お前たちの過ちは一つ。
その卑屈なる身にて、神に挑むという大罪を犯した。罪は贖われなければならない。
この世界の命と共に」」
【+ 】ゞ゚) 「神、神とうるさいですね。神というほどの力は持っていないでしょうに。
少なくとも、今この場にいる私たちを一瞬で消滅させてしまうようなことは出来ないようですし」
280
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:11:19 ID:7X8WUdNc0
(<●>) 「「そうか、言い忘れていたな」」
【+ 】ゞ゚) 「なんでしょう?」
(<●>) 「「五百年に一度の終焉のシステムは当然私が作った」」
( ФωФ) 「だからなんだというのだ」
(<●>) 「「都合よく強者だけに呼びかける魔術が出来たのは、最初の一回目だ。
それから世界が滅んでも、永遠と受け継がれている。なぜだかわかるか?」」
(;'A`) 「まさか……」
(<●>) 「「レタリアという魔術を生み出したのも当然、私だからだ」」
【+ 】ゞ゚) 「な……っ……か……」
(<●>) 「「全く愚かな。不死とは神にのみ許された現象だ」」
オサムの胸を貫いた氷の槍。
傷口から広がった凍結魔術はその全身を覆いつくし、
彼の命であった呪術の宝玉は全て一瞬で砕かれた。
その瞳から力は失われ、だらしなく下がった両腕はピクリとも動かない。
281
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:11:55 ID:7X8WUdNc0
(; ・∀・) 「なっ! 何を……っ」
それ以上言葉を続けることは叶わなかった。
大地に落ちた巨大な塊の持つ二つの光は、数秒と経たずに失われ、、
鋭利な刃で分断されたもう一つの塊は、
滝のように零れ出てきた血みどろの中に沈む。
(; ФωФ) 「オサム! モララー! っ貴様!! 穿て!」
命じられた大気の精霊が撃ちだした超高圧の空気弾。
一直線に女の身体を貫いた・
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「ふふっ……」
数十メートルも吹き飛ばされた女性は、何事もなかったかのように立ち上がった。
傷口から溢れ出てきたのは血液ではなく、透き通った水。
(<●>) 「「さて、どうする。これで残るは三人だ」」
(;'A`) 「くそっ……。問題は……無い。お前らを殺せばいいだけだ」
(<●>) 「「この期に及んでまだ諦めないのか。
いいだろう。たまには直接遊んでやるのも悪くはない。
我が名はオルフェウス。この世界の神なり」」
282
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:14:32 ID:7X8WUdNc0
>2
(<●>) 「「よく戦った」」
(;メA`) 「はっ……はっ……」
魔力で補強した身体で辛うじて立っているだけのドクオ。
未だ無傷の怪物がその一つ目で見下ろしていた。
(メA`) 「ロマネスク……クール……」
背後に仰向けに倒れたまま動かないロマネスク。
精霊術による加護を解かれ、人間としての姿を失っていた。
川;゚ -゚) 「ドクオ……私はまだ……戦える」
フロストの胸に突き立てたままの天剣を杖に寄りかかるクール。
全身の至る所に凍傷と裂傷が刻まれながらも、気丈に振る舞う。
彼女が誇っていたはずの比類なき魔力も、大半が失われていた。
戦場となった大地に過去の面影はない。
空すらも舞い上がった砂塵に埋め尽くされ、生きるものも存在しない世界。
283
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:15:49 ID:7X8WUdNc0
(<●>) 「「守るもののない世界で、よくぞ戦った」」
ドクオが入念に用意していた世界を護るための魔術は、ものの十数分で完全に崩壊した。
彼自身が戦闘に専念しなければならず、
想定を上回るオルフェウスの力があったために維持が出来なかったのだ。。
(<●>) 「「我が称賛を受けたことを誇りに、眠れ」」
(メA`) 「いや、これで……二対一だろ」
ドクオの横に並び立つクール。
満身創痍でありながら、どちらの瞳からも希望は消えていなかった。
(<●>) 「「諦めずに戦う心は美徳ではない。
お前たちを殺して、私は世界を作り変える」」
川 ゚ -゚) 「今この場でできないってことは、
お前を殺して私たちのどちらか神の座にたどり着けばいいと解釈できるが?」
(<●>) 「「……少し話しすぎたか。冥途の土産にしろ。最も天国も地獄も存在しないがな」」
(メA`) 「クール、少し時間を稼いでくれ」
川 ゚ -゚) 「あぁ」
単身で化け物の足元に飛び込むクール。
九つの天剣が光り輝き、彼女を撃退しようと迫った触手を一蹴した。
284
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:16:50 ID:7X8WUdNc0
(;メA`) 「頼む……急げ……」
掲げた長い杖に保存していた魔術を解き放つ。
最終決戦においてドクオが考えていた魔術は、ほとんどがオルフェウスには通用しなかった。
最後の一つは保険であり、この期に及んでも使うことを躊躇うほどの破格の性質を持つ。
オルフェウスの身体から生える触手は、それぞれが全く異なる属性の魔術を扱う。
天剣で臨機応変に対応するクールではあったが、その手数に押され始めていた。
川;゚ -゚) 「……っ! リバーサル! ローテイシオン!」
二つの光剣が反転の魔術によって触手を弾き、
二つが回転して光輪となり、オルフェウスの身体を削った。
(<●>) 「「天剣、捉えたり。さて、残るは七本」」
川;゚ -゚) 「なっ……!」
液体のようなその身体の中で、天剣は徐々にその魔力を吸い取られて動かなくなった。
川 ゚ -゚) 「くそっ……! だったら……! ホライズン!」
魔力の斬撃は、クールの目前にある全てを横一直線に切り裂いた。
285
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:17:24 ID:7X8WUdNc0
(<●>) 「「見事だ……だが……足りぬな。今のおまえの魔力では私には届かない」」
重ねた触手は硬化し、盾となって阻む。
その八割ほどの質量を消滅させたところで、斬撃は露と消えた。
川;゚ -゚) 「ぐっ……っ……」
(<●>) 「「……なんだそれは?」」
瞳が驚きで見開く。
魔術師としては過去最少量の魔力で戦っていたはずのドクオの元に、
クールの全力すらも凌ぐほどの魔力が集積していた。
その奔流は、今もなお秒単位で増加していく。
(メA`) 「こいつは一度発動すれば俺でもコントロールできない。
クール、後は任せたぞ」
川;゚ -゚) 「ドクオ!」
(メA`) 「キュートと世界を頼んだ」
(<●>) 「「貴様ぁぁ!!」」
巨大な眼球へと収束した魔力が、ドクオの胸に迫った。
音速を超える光線は、クールの天剣によって遮られた。
286
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:18:21 ID:7X8WUdNc0
(メA`) 「消えろ。クィンタ・エッセンチア」
射線上に存在するすべての法則を飲み込みながら、オルフェウスに直撃した。
表面の防護障壁を蒸発させ、魔力で形成された触手を焼き切っていく。
魔力の束は拡大を続け、その巨体すらも完全に飲み込んだ。
それでも尚、ドクオは手を緩めることなく魔術を編み続ける。
消費されるよりも速く増加する魔力は、もはやドクオには制御しきれなかった。
魔力は彼の周囲で、大地や大気を刻むかのように荒々しく吹き荒れた。
(メA`) 「まだだ……まだ……!」
終わることの無い魔術砲は空間ごと削り取り、
その中心に存在していたオルフェウスの魔力は既に見えない。
川 ゚ -゚) 「ドクオ! もう充分だ!」
(メA`) 「クール……頼みがある」
川 ゚ -゚) 「っ!」
('A`) 「俺を……殺せ……」
川;゚ -゚) 「なんでっ!?」
287
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:18:55 ID:7X8WUdNc0
(メA`) 「この魔術の核は俺だ。俺が死なない限り、終わることはない。
止めなければ……お前を巻き込んでしまう」
川 ゚ -゚) 「っでも……!」
(メA`) 「お前まで死んだら本当に終わりだ。
俺を殺した後は、神の座に向かえ。きっとそこには全てがある」
川 ゚ -゚) 「っ……! どうしようもないのか……」
(メA`) 「頼む」
さらに膨れ上がった魔力は、空に向かって伸び始めた。
目的の無い力の流れは、ドクオの開いた虚空の扉を端から侵食していく。
川 ゚ -゚) 「……わかった。必ずすべてを元に戻す。待っててくれ」
天剣の切っ先をドクオに向ける。
荒れ狂う魔力の渦の中心にいる魔術師に狙いを定め、剣を振り上げた瞬間。
(<●>) 「「これで終わりか」」
.
288
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:19:31 ID:7X8WUdNc0
(メA`) 「がっ……!」
魔術砲を断ち切ったのは、クールの斬撃ではなかった。
ドクオの胸に深々と突き刺さった黒い棘。
魔術が途切れた瞬間から次々と飛来する攻撃を、クールは天剣で必死にさばく。
川;゚ -゚) 「なっ……」
ドクオにだけ放たれていた槍は、突如目標を分散させた。
胸と腕、そして足に攻撃を受けたクールは、ゆっくりと倒れこむ。
天剣は彼女からの魔力供給を断たれ、彼女の中へと還った。
(メA`) 「クール!!」
(<●>) 「「真に見事だ。私をここまで追い詰めるとは……」」
(メA`) 「てめぇ……」
半身を失ったオルフェウスであったが、その揺らぎ無い魔力は健在。
(<●>) 「「とどめを刺すまでも無い。おまえたちが死んだ後にゆっくりと世界を書き換えよう」」
(メA`) 「クール! しっかりしろ!」
289
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:19:59 ID:7X8WUdNc0
自身も腹部を深紅に染めながら、倒れた女性を抱き起す。
殆ど開かない瞼を震わせながら、クールは血に汚れた腕でドクオの頬に触れた。
川 ゚ -゚) 「……あぁ……」
(メA`) 「くそっ……」
(<●>) 「「最期に一つだけ教えてやろう。
神の座のシステム起動条件は、この世界の知的生命体の全滅だ。
私は還り、おまえたちが死んだ瞬間に、再構成を始めるとしよう」」
(メA`) 「待て!」
(<●>) 「「もう二度と会うこともあるまい、弱き者どもよ」」
オルフェウスはドクオが開けたままにしていた虚ろの扉に消えた。
致命傷を受けたクールには、癒すための魔力も残っておらず、
彼女の深い傷を治すだけの知識はドクオには無かった。
(メA`) 「くそ……」
ドクオの手元で増幅し続けて暴走状態に陥った魔力は、もはや暴発寸前。
一刻の猶予も無い。
川 - ) 「ドクオ……キュートを……キュートだけでも……」
(メA`) 「っ!」
290
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:20:28 ID:rt1Nb5fY0
バッグベアードみたいな見た目と解釈していいのかな
291
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:21:19 ID:7X8WUdNc0
手の中で失われゆく命の重み。
彼女の最期の願いを叶えるためにだけに、ドクオが即座に考え出したのは禁断の魔術。
極限の集中状態から娘の最大限の幸せを願うために発動した術を、
膨大な魔力と共に杖に閉じ込めた。
(メA`) 「クール……」
苦しみに満ちた表情の亡骸を横たえ、幾つかの術を唱える。
周囲に漂っていた微かな魔力を利用して、小さな世界を作り出した。
荒涼とした大地の乾燥した空気と強い日差しを遮る薄い被膜と、
穏やかな緑が生い茂った大地を。
共に戦った仲間たちに墓標を捧げ、箱庭を完成させた。
ロマネスクには精霊の宿る樹を。
オサムには十字架を。
クールには剣を。
モララーには牙を。
四方へと配置し、墓標となる剣の横に愛した女性を埋めた。
何十年先に生まれるはずの娘に残した贈り物が込められた長杖を掴み、
渾身の力で暴走しつつある魔力を上空へと打ち出した。
292
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:21:54 ID:7X8WUdNc0
大地を映したかのような赤黒い空の中心に魔力の塊が届いた時、
ドクオは自らの命を絶った。
支配から解放された魔力は音も無く爆発し、
無数の流星となって世界中に降り注いだ。
誰も見ることの無かった流星群は、数十年もの間夜通し輝き続けた。
293
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:22:26 ID:7X8WUdNc0
・・・・・・
294
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:23:46 ID:7X8WUdNc0
今日はここまでです。読んでくださった方は有難うございました。
GW中に、残りを投下させていただこうと思いますので、よろしくお願いします。
295
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:25:24 ID:rt1Nb5fY0
おつおつ
296
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:36:28 ID:BN6QjXKw0
おもしろいなあ
乙
297
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 20:10:54 ID:Xs/JBnW60
キュートは一体どうなるだろう…
298
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 22:02:44 ID:NUKsZKYI0
アマザイはなんだったんだ
299
:
名無しさん
:2018/05/01(火) 10:40:12 ID:XrLy0sLg0
オサムとモララーに害を成したり体液が水だったりしてるからフロストはオルフェウスの人形だったんだろうな
ドクオもアマザイには会えてないから偽物が紛れ込んでも気付けないし
下手するとアマザイ族自体が元々神側の傀儡みたいなもので、終焉を盛り上げるサクラ+不測の事態への保険だった可能性すらある
元凶の討伐にすんなり同意したのも保険としての役割を果たすために残る必要があったから、と考えると納得しやすい
まあ全部推測だけども
300
:
名無しさん
:2018/05/01(火) 13:45:50 ID:KCNiHLpM0
英雄たん
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