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これを魔女の九九というようです
1
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 09:59:57 ID:SOhsxYKs0
汝、会得せよ。
.
127
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:40:44 ID:iiVptxPU0
('、`*川「説得、すればいいんですよね」
俯いていた顔をあげ、ペニサスはゆっくり呟いた。
決意するように、自分の原点を振り返るように。
ζ(゚ー゚*ζ「……諦めの悪い子」
(´・_ゝ・`)「根性があるって言ってあげてください」
驚いたような顔で、二人は僕を見る。
デレは不愉快そうに、ペニサスは意外そうに。
僕はそのまま黙ってデレを見つめ返した。
そのしじまを破るように、
リン、ゴォン、
と重い鐘の音が響いた。
('、`*川「!」
ζ(゚ー゚*ζ「噂をすれば来たみたいね」
ペニサスは早足で玄関へと向かった。
一瞬考えて、それから彼女の後を追った。
脈打つことのない心臓が、再び鼓動しているような気分になった。
きっと血が巡っていたら、僕の顔は緊張で赤らんでいたに違いない。
いよいよペニサスの師匠と対面する機会が来てしまったのだから。
128
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:41:48 ID:iiVptxPU0
ペニサスは靴も履かずに玄関の鍵を開けていた。
('、`*川「師匠!」
ガチャリと開いた瞬間、ペニサスは嬉しそうに叫んだ。
どれほどこの瞬間を待ち遠しく思っていたのだろう。
複雑な気持ちでそれを眺め、僕は深呼吸をした。
('、`*川「お帰りなさい!師匠!」
(´・ω・`)「ただいま、ペニサス」
僕と同じくらいの背丈の男は、ペニサスの頭を撫でてそう言った。
('、`*川「師匠、鍵はどうしたんですか?」
(´・ω・`)「それがまた失くしちゃってね」
('、`*川「またですか」
(´・ω・`)「あちこち飛び回っていると次第に何がなんだかわからなくなってしまうんだよ。それでもこうして君が留守でいるから帰ってこれるんだけどね」
冗談まじりにそう言って、男はペニサスから僕へと視線を移した
(´・ω・`)「ところで彼はあれかな、デレの使い魔かい? 噂だとせむし男だって聞いていたんだけども」
129
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:42:46 ID:iiVptxPU0
ペニサスは一瞬僕を見て、意を決して告白した。
('、`*川「わたしの、使い魔です」
(´・ω・`)「…………」
(´・_ゝ・`)「…………」
男と視線がかち合う。
見た目上の年は、デレと同じくらいだろうか。
若そうに見えるが、どこか老いた雰囲気があった。
人の良さそうな顔だ。
垂れ気味の目は人を安心させる雰囲気がある。
でも服のセンスは最悪だった。
墨と緑を混ぜたようなスーツから覗くシャツには恐ろしい量のフリルがついていた。
真っ赤な紐細工のループタイがその中に埋もれていて、僕は残念な気持ちになった。
きっと宝塚の衣装からセンスを抜いたらこんな格好になるだろうな、などと考えていた。
(´・ω・`)「ペニサス」
('、`*川「は、はい」
(´・ω・`)「僕の若い時の服なんて出して来ちゃダメだよ」
('、`*川「すみま……え?」
予想外の指摘に、ペニサスは固まった。
彼は気に留めず、靴を脱いで僕に歩み寄る。
130
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:43:53 ID:iiVptxPU0
(´・ω・`)「これ、書斎に置いてあったやつだろう? よく虫食いにあわなかったな」
(´・_ゝ・`)「あ、あの」
勝手に袖口やらベストやらを触られ、僕は戸惑っていた。
なんだこの人は、馴れ馴れしい。
(´・ω・`)「いやー若い時の服って見ちゃうといたたまれないなぁ。センス悪くて無理だ」
いや、今のあなたの方がかなり酷いですよ。
と喉元まで出掛かって僕は理性で止めた。
(´・ω・`)「というか使い魔ってなに、また勝手に魔法勉強してたの?」
('、`*川「一人だと何もすることがないですから……」
(´・ω・`)「もー、ダメだよ。君は魔法なんて使わなくていいんだよ。孤閨を守ってくれるだけで十分なのに」
特に怒鳴るわけでもなく緩く注意をして、彼は僕の手を取った。
じんわりとした熱が伝わり、僕は握り返した。
(´・ω・`)「初めまして、ペニサスの使い魔くん。ショボンだ」
(´・_ゝ・`)「初めまして。お話は伺っていましたが、まさか男性だとは思わず……」
(´・ω・`)「和訳の弊害だね。witchであれば性別関係なく魔法を使う者を指すのに、魔女と訳してしまったから女性しかなれないものだと勘違いされてしまったのだよ」
131
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:45:39 ID:iiVptxPU0
ショボンはしっかりと結ばれている手を持ち上げた。
(´・ω・`)「それにしても君の手は冷たいな、死んでいるのかね」
(´・_ゝ・`)「ええ、はい」
(´・ω・`)「なるほど」
ぱっと手を離された。
なにがなるほどだったのか僕はわからなかったが、とりあえず頷くことにした。
(´・ω・`)「ところでペニサス」
ショボンは懐から金色の懐中時計を出して、こう言った。
(´・ω・`)「もうすぐ十二時だよ。日付が変わる前に寝なくちゃ」
('、`*川「寝なきゃダメですか?」
(´・ω・`)「ダメだよ、ほら早くお風呂に入って寝る支度して」
('、`*川「お話したかったのに」
(´・ω・`)「今回はしばらくここにいるから、明日でも話はできるよ」
('、`*川「……わかりました」
宥められ、ペニサスはしぶしぶ風呂場へと向かった。
132
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:47:09 ID:iiVptxPU0
それを見送ったショボンは、再び僕と向き合った。
(´・ω・`)「さて、ええっと君は……」
(´・_ゝ・`)「デミタスです、名乗り遅れて申し訳ないです」
(´・ω・`)「堅苦しくしなくていいよ、デミタス。そういうのは苦手なんだ」
夜更かしは得意なほうかね?とショボンの問いに僕は頷く。
(´・ω・`)「ならよかった。あとで君と話がしたくてね」
ペニサスが眠ったらまたあとで、と言い残して彼は廊下を歩いて行った。
向かった先は、階段の下にある物置部屋だった。
ショボンはループタイを取り、その赤い飾りでサッと鍵穴を撫ぜた。
すると固く結ばれていた紐細工は、開花するように形を変えた。
まるで彼岸花のようだと僕はそれに見惚れていた。
(´・ω・`)「あー、僕の部屋はここだから用事があったらノックしてくれ。黙って開けても僕の部屋には通じないからね」
じゃあ後で、と彼は中へ入って行った。
その僅かな隙間から見えたのは、柔らかな日差しに照らされた庭園であった。
噴水の水しぶきが、美しい虹を描いていた。
(´・_ゝ・`)「…………」
恐ろしいものを見てしまった気分になり、僕は胃が冷えた。
試しにノックをせずに開けるとそこはやはり、ただの物置であった。
133
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:48:18 ID:iiVptxPU0
居間に戻るとデレとドクオがソファーに座ってくつろいでいた。
僕がやってきたことに気付くと、彼女は可愛らしいマグカップを差し出してきた。
ζ(゚ー゚*ζ「あなたも飲む?」
中身はどうやらカプチーノらしかった。
しかしふんわりとメロンの香りがするのは、何故なんだろうか。
ζ(゚ー゚*ζ「おいしいわよ」
(´・_ゝ・`)「じゃあ、いただきます」
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ、デミタスにコーヒーを」
デレの声とともに、ずずっと液体を啜る音が止んだ。
('A`)「あィ」
テーブルにマグカップを置き、ドクオはよたよたとキッチンへ向かった。
ζ(゚ー゚*ζ「隣に座らない?」
(´・_ゝ・`)「お気遣いなく」
と、僕は断ってベッドに腰掛けた。
詰めれば座れるとはいえ、出会ったばかりの人と並ぶのは気が休まらなかったのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ショボンには会えた?」
(´・_ゝ・`)「ええ、階下の部屋にいますよ」
134
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:50:03 ID:iiVptxPU0
ζ(゚ー゚*ζ「あの人、考え事したい時にはいつも彼処に篭ってしまうの。あの部屋は彼の好きなものがたくさん詰まっているのよ」
僕はあの綺麗な庭を思い浮かべていた。
この世のものではない美しさ。
白昼夢のような曖昧さとそこにあるという現実感。
まるで彼岸のようでもあった。
なるほど、あそこは彼の理想卿であったのか。
ζ(゚ー゚*ζ「きっとペニサスちゃんのことで悩んでいるんでしょうね」
色のない声で、デレは呟いた。
(´・_ゝ・`)「デレさんは会いに行かないんですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「わたしはここで待つわ。ショボンが会いたくなるまでね」
ことりとマグカップがテーブルに置かれる。
かわりに彼女の右手は、自身の黒髪を弄り始めていた。
ζ(゚ー゚*ζ「本音を言えば今すぐにでも会いに行きたいわ。でも彼がそれを望まないなら、わたしも望まないの。彼には幸せでいて欲しいから」
とろりと溶け出しそうなその笑みと声は、毒薬のように感ぜられた。
行き場のない手がそわそわと動き出そうとする。
だから僕はきゅっとしっかり握りしめることにした。
(´・_ゝ・`)「よく、慕っていらっしゃるんですね」
ζ(゚ー゚*ζ「わたしのすべてを受け止めて救ってくれた人だから。俗っぽい恋とは違うのよ、わたしは報われなくてもいいの」
135
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:51:42 ID:iiVptxPU0
でもね、と彼女は区切る。
陶酔から覚醒するための間を彼女は準備していた。
ζ(゚ー゚*ζ「あの人はお人好しだから、きっとずっと満たされないのでしょうね」
一瞬、毒薬が揺らいだような錯覚。
笑み自体は崩れていないのに、どうしてか僕はそう思った。
と、そこへようやくドクオが戻ってきた。
('A`)「こ、こーヒぃー」
震える手でマグカップが差し出される。
中身が今にも飛び出そうで、僕は慌てて受け取った。
(´・_ゝ・`)「ありがとう、ドクオくん」
('A`)「いヒっ、ヒッ」
奇形じみた笑いとともに、彼は席へともどっていった。
ζ(゚ー゚*ζ「デミタスは赤と白と黄色と緑、どれがいい?」
(´・_ゝ・`)「え? うーん、赤かな」
ζ(゚ー゚*ζ「赤ね」
そう言ってデレはガサゴソと袋を取り出した。
それはマシュマロの袋だった。
苺やメロン、バナナの絵が印刷されたそれは、子供の頃おやつとして食べていた記憶がある。
136
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:53:09 ID:iiVptxPU0
袋を縛っていた輪ゴムを外し、デレは薄ピンク色のマシュマロをいくつか取り出した。
そして、それを容赦なく僕のコーヒーへと投入した。
(´・_ゝ・`)「えっ、あっ!?」
ζ(゚ー゚*ζ「意外とおいしいのよ、マシュマロ入りのコーヒーって」
コーヒーがどんどんコーヒーでなくなっていく光景を、僕はただただ見つめるより他なかった。
結局マシュマロは十個ほど投入され、僕は何が何だかわからない飲み物を飲むこととなった。
味は普通に美味しかったし、意外とコーヒーと苺の組み合わせはありだとわかった。
が、僕は普通にコーヒーを飲みたかっただけに釈然としない気持ちでとろとろのマシュマロを飲み込んだ。
('、`*川「あ、いいなー」
気付けば、ペニサスが僕の背後から覗き込んでいた。
黒と赤の混じった髪が首筋をそっと撫でるもんだから、僕はくすぐったくなった。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん、髪の毛退けてくれないかな」
('、`*川「あ、ごめん」
それでもなお、ペニサスの視線は、コーヒーへと注がれていた。
甘党な彼女にはきっとたまらなく魅力的に映っているのだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「ダメよ、ペニサスちゃん。もう歯磨きしたんでしょ?」
デレの言葉に、ペニサスは不満そうな顔をした。
137
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:54:51 ID:iiVptxPU0
('、`*川「ずるいですデレさん! わたしも夜更かししたいですー」
ζ(゚ー゚*ζ「ダメったらダーメ。ショボンに嫌われたくないもの」
('、`*川「そんな事言わずに……」
と、ペニサスは大きな欠伸をひとつ生み出した。
よく見ると、目がとろんとしている。
やはり眠いのだろう。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん、ちゃんと眠ったほうがいいよ」
('、`*川「でも……」
(´・_ゝ・`)「今日は色んなことがあったから、きっと疲れているんだよ。たくさん休んだほうがいい」
('、`*川「…………」
ペニサスは返事をしなかった。
その代わりにデレがドクオにこう告げた。
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ、ペニサスちゃんが眠るまで話し相手になってあげて」
('、`*川「えっ」
('A`)「ハ、はいィ」
やおらペニサスの腕を掴むと、ドクオはぐいぐいと歩き出した。
('、`*川「そ、そんなことしなくてもちゃんと寝ますー!」
ζ(゚ー゚*ζ「そう言って前回も夜更かししてたの知ってるんだからねー」
138
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:56:33 ID:iiVptxPU0
まったくもう、という言葉は果たしてペニサスに届いたかどうかは定かではなかった。
そして彼らと入れ替わりになるように、ショボンがやって来た。
(´・ω・`)「やっと寝た?」
ζ(゚ー゚*ζ「寝かしつけるようにドクオに言ったところよ」
(´・ω・`)「いい手配だねそれは」
デレは顔を綻ばせた。
ショボンはデレの頭をひとしきり撫で、彼女の隣に座った。
ζ(゚ー゚*ζ「コーヒー、飲む?」
(´・ω・`)「じゃあお願いするよ」
デレは頷き、キッチンへと旅立っていった。
その足取りは軽く、よほど褒められたのが嬉しいのだろうと想像するに容易かった。
(´・ω・`)「デミタスもマシュマロを入れられたのか」
僕のマグカップを覗き、ショボンは苦笑した。
(´・_ゝ・`)「断る間も無く入れられましてね」
(´・ω・`)「僕はどうにも好きになれないんだよなぁ、マシュマロ」
ふう、とショボンの溜息で会話は締めくくられた。
139
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:57:52 ID:iiVptxPU0
ζ(゚ー゚*ζ「お待たせ。ショボンは白いマシュマロがいいんだよね」
嬉々としてデレはマシュマロの袋を取り出した。
ショボンは頷き、ちらりとまだ何も入っていないコーヒーを眺めた。
(´・ω・`)「ありがとうね」
ζ(゚ー゚*ζ「どういたしまして」
(´・_ゝ・`)「…………」
先ほどの会話を思い起こし、もやもやとした気分になった。
どうして彼は、嫌いなものを嫌いと言わないのだろうか。
どうにかマシュマロを溶かそうと、ぐるぐるかき混ぜるショボンを見てそう思っていた。
(´・ω・`)「さてと」
ショボンはコーヒーに口をつけ、テーブルにマグカップを置いた。
やはりマシュマロ入りのそれは、口に合わなかったのだろうか。
(´・ω・`)「君はいつどこで、ペニサスと知り合ったのかな?」
じぃっとショボンは僕を見つめる。
視線は鎖となって僕にしっかりと纏わり付いた。
僕はここ一週間での出来事を洗いざらい話した。
ショボンは時折頷くだけで、一言も喋らなかった。
傍に寄り添うデレもまた同様であった。
(´・ω・`)「使い魔になってなにか困ってることとかはないのかね?」
140
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:59:07 ID:iiVptxPU0
開口一番に、彼はそう問うた。
(´・_ゝ・`)「ないです」
(´・ω・`)「本当に?」
(´・_ゝ・`)「ええ」
(´・ω・`)「こんな暮らしうんざりだとか生前の環境に戻りたいとか」
(´・_ゝ・`)「特にないですね」
(´・ω・`)「…………」
ショボンは少し思案して、口を開く。
(´・ω・`)「今まで君はこんな世界があるとは知らずに生きてきたわけだろう」
(´・_ゝ・`)「はい」
(´・ω・`)「それがいきなり殺されて死んで魔女だの魔法だの、小説か漫画の中でしか聞かないような世界に連れてこられてしまった」
(´・_ゝ・`)「…………」
(´・ω・`)「ここでは今まで経験と常識は通じず、戸惑うことも多いだろう。僕やデレのように若いうちから知っていれば、順応するのも容易いのだけどね」
(´・_ゝ・`)「つまり使い魔をやめろと?」
歯切れの悪い話に、僕はイライラしていた。
とにかく回りくどかったのだ。
141
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:00:47 ID:iiVptxPU0
(´・ω・`)「ここにいるよりも君は部長として働いていた方が幸せなんじゃないかって僕は思うんだよ」
(´・_ゝ・`)「なにが幸せかなんて僕の勝手じゃないですかね」
(´・ω・`)「君と、君に関わった人達の記憶を操作したら元の生活に戻れる。なんなら鼓動も血液も付け加えて、死んでいることも忘れさせることだって出来るよ」
(´・_ゝ・`)「そこまでして戻りたいと思う生活でもなかったですよ」
実際そうであった。
たとえ魔法を使ったとしても僕が死んでいることに変わりはない。
それに僕は、ペニサスと緩やかに生活することに慣れてしまった。
洗濯や掃除をして、庭に水を撒き、何が食べたいのかを話し合って買い物をする。
そして時折ペニサスの魔法を見れたのなら、もうそれだけで十分楽しいと僕は思えたのだ。
(´・ω・`)「……畑違いの場所に来たって馴染めやしないよ」
(´・_ゝ・`)「ご心配しなくとも、ペニサスくんは僕に肥料を与えてくれていますよ」
(´・ω・`)「彼女の知識じゃ、君は枯れる」
(´・_ゝ・`)「あなたが魔法を教えれば済むのでは?」
(´・ω・`)「…………」
すう、と息を吸う音が響く。
短く吸ったそれを、ショボンはゆっくりと吐き出した。
まるで頭に上った血の温度を冷ますかのように。
142
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:01:41 ID:iiVptxPU0
(´・ω・`)「あの子は、だめだ」
(´・_ゝ・`)「なぜ?」
(´・ω・`)「あの子は幼いからね。未熟すぎる」
(´・_ゝ・`)「今はそうかもしれませんが、いずれ変わっていきますよ」
(´・ω・`)「そんなことない」
(´・_ゝ・`)「慕う人がいるなら尚更努力しようとするもんじゃないですか。実際彼女はよく頑張っています」
(´・ω・`)「……あの子は僕を買い被りすぎなんだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「ううん、あなたは素晴らしい人よ」
突如として割り込んできたデレに、ショボンは力無く笑った。
(´・ω・`)「そんな、素晴らしいなんて大層な言葉……」
ζ(゚ー゚*ζ「実際わたしは救われたもの。絶望して生きる気力を失ったわたしを、あなたは見つけてくれた」
(´・ω・`)「放っておけなかったからさ」
ζ(゚ー゚*ζ「ほら、優しいじゃない」
(´・ω・`)「君に優しくしようと思ったからね。でも僕は自分のしたいように振る舞っただけだよ。君はそれにあてられて、勝手に救われていったんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「でも、」
(´・ω・`)「君だけじゃない。救われたい人は何でもいいからそれに縋って、勝手に救われていくもんなんだよ。僕は何もしていない……」
143
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:03:17 ID:iiVptxPU0
苦しげに吐き出されたそれに、デレは少し驚いたようだった。
しかしそれでも彼女は言葉を紡ぐ。
ζ(゚ー゚*ζ「……でも、感謝してるわ。あなたがいなかったら、わたしは変われなかった」
(´・ω・`)「…………」
一瞬困ったような顔をして、ショボンは押し黙った。
僕はその姿を見て、なにか矛盾めいたものを感じていた。
ペニサスは彼を、この世の不幸を根絶やしにしようと駆け回る人だと称した。
他人の幸せを誰よりも願っている人だとも。
けれども本当にそうなのだろうか?
彼の考える幸せとは、一体何なのだろうか。
僕はちらりと壁に掛けられた時計を見た。
もうすぐ深夜の二時になろうとしている。
時間を確認した途端、僕の口から欠伸が逃げ出していった。
(´・ω・`)「……今日はお開きにしようか」
(´・_ゝ・`)「そうしてもらえると助かります」
なんせ風呂もまだなのだ。
これから寝る支度をしなければならないと思うと、少し気が滅入った。
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ、まだ二階にいるのかしら」
ふと思い出したように、デレは呟く。
144
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:05:02 ID:iiVptxPU0
そういえばペニサスが寝付くまでドクオがそばにいるはずなのだ。
彼が帰ってこないということは、つまりペニサスが起きているということになる。
もしかすると、僕たちの会話が気になってこっそり盗み聞きしていたのかもしれない。
そう思うと僕は落ち着かない気分になった。
(´・_ゝ・`)「少し様子を見に行ってきましょうか?」
(´・ω・`)「そうしてもらえるとありがたいね。きっと僕やデレが行けばますます寝なくなるだろうから」
ショボンの言葉に後押しされ、僕は階段へと向かった。
階下から様子を伺うと、二階の廊下の電気は消されていた。
部屋に入ったのは確かなのだろう。
真っ暗闇の中では、この急な階段を使うのは無理だからだ。
どこかほっとした気持ちで、僕は二階の電気をつける。
そしてゆっくりと、足音を立てないように上っていった。
二階は、しぃんと静まり返っていた。
僕は静かに、ゆっくりとペニサスの部屋へ向かう。
扉の前で佇み、僕は耳をすました。
話し声は、聞こえない。
しかしなにやら奇妙な音が聞こえた。
かり、かり。
ぷちん。
…………。
かり、かり。
ぷちん。
…………。
145
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:06:15 ID:iiVptxPU0
謎の音と静寂は延々と繰り返され、僕は恐ろしくなった。
中で何が行われているのか、想像できなかった。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん?」
恐る恐る僕は呼びかけてみる。
かり、かり。
ぷちん。
…………。
かり、かり。
ぷちん。
…………。
単純な反復は、止まらない。
(´・_ゝ・`)「入るからね」
返事を期待せず、僕は扉に手をかける。
冷えたドアノブの感触は、ペニサスの手を思い起こさせた。
ゆっくりと、ドアノブを回す。
いつもは軽いはずの扉が、開かない。
重いわけではないのだが、粘つくような違和感であった。
きっと僕の勘違いであろう。
僕の手はひどく震えていて、力を入れているんだか入れてないんだか定かではなかったのだ。
146
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:07:29 ID:iiVptxPU0
(´・_ゝ・`)「っ!」
開けた瞬間、部屋は温かくも冷たい匂いが充満していた。
僕はその匂いを知っていた。
血だ。
車に撥ね飛ばされた時に、嫌という程嗅いだ、死の匂い。
部屋は暗く、唯一の光源は青白い月だけであった。
だから僕はこの景色が現実ではないと思ってしまった。
認めることができなかった。
組み敷かれたペニサスが絶命している様を。
馬乗りになったドクオが、彼女を食べている光景を。
かり、かり、
歯が、骨についた肉をこそげ取る。
ぷちん、
肉が引っ張られ、千切れていった。
ねちゃ、むちゃ、
半開きの口が、肉を咀嚼している。
ごくん、
ペニサスが、飲み込まれていく。
147
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:08:11 ID:iiVptxPU0
(´・_ゝ・`)「お、まえは……!!」
言葉が漏れ、僕はドクオに飛びかかった。
ドクオは僕に気付かなかったようで、素っ頓狂な声をあげた。
('A`)「ゥ、がェッ……!?」
壁に押さえつけ、首を絞めると彼は口から肉を吐き出した。
激情の任せる儘、僕は手の力を加える。
(´・_ゝ・`)「出せ! 吐き出せ!! お前っ、なんてことを……っ!」
('A`)「ぐルぃィ、グるィい!!」
何が何だかわからないまま、僕は彼を殴った。
殴っても殴っても、僕の胸はどんどん苦しくなっていった。
思考はめちゃくちゃになり、こんがらがった糸玉のようななにかが感情を支配した。
(´ _ゝ `)「出せ! 早く、早く……!!」
('A`)「ヴぁ、あ、がぁ……」
ドクオはろくに口も利けなくなった。
顔がぱんぱんに腫れているからだ。
口から流れている体液は、一体誰のものなのだろうか。
しかしそんなことは、今の僕にとって些末なことであった。
148
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:08:55 ID:ewSUN.Gk0
えぇ…
149
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:09:06 ID:iiVptxPU0
どうにもならないという絶望感が僕を沈めにかかる。
死んだ。
死んでしまった。
ペニサスが、死んだ。
現実がじんわりと僕の脳髄を焼いていく。
全てが急激に色褪せていく。
僕はドクオをチェストに叩きつけ、座り込んだ。
ペニサスの名前だけが、頭の中にぐるぐると廻る。
何度も何度も呼び起こすようなその思考は、僕の理性をしつこく痛めつけた。
もう彼女は話しかけてくれない。
からかってもなんの反応を見せてくれない。
憧れと理想に追いつこうとする素晴らしい気力も、それを諦めない強さも、なにもかもが失われた。
僕は、耐え難い孤独と虚無感に襲われていた。
(´ _ゝ `)「ペニサス」
吐き出すように、名前を呼んだ時だった。
150
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:09:54 ID:iiVptxPU0
ひた、ひた、
水に濡れた布が震えるような音がした。
ずずり、
と肉の引き摺られる音。
めきっ、ぱきっ、
梢が芽吹くような音の軽さ。
ぱちり、
僕は何の音か分からず、振り向いた。
無惨に切り裂かれた腹に、ゆわゆわとうねる影。
あり得ない方向に捻じ曲げられていた肩が、バネ入りのおもちゃのように撓り飛んだ。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん……?」
全身から聞いたことのない音を響かせ、彼女は元に戻ろうとしていた。
いや、戻りつつあった。
弓なりに背骨を反らせ、ペニサスは自分の体を完成させた。
151
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:11:51 ID:iiVptxPU0
(´・_ゝ・`)「ペニサス、くん」
恐る恐る僕は近付く。
音を立て、彼女はベッドに倒れた。
何事もなかったような顔で眠っている。
ボロボロの寝間着に身を包み、血塗れのベッドで、すやすやと。
(´・_ゝ・`)「君は……」
一体、なんなんだ、と言えなかった。
言ってしまうと、彼女が人間ではなくなる気がした。
「まったく、ひどい有様だな」
背後から、男の声がした。
ζ( ー *ζ「あぁ、ドクオ……!」
振り返るとデレがドクオに寄り添っていた。ショボンは僕とデレを交互に眺めていた。
(´・ω・`)「まさかこんな事になるとはね」
いかにも面倒くさそうに、ショボンは呟いた。
(´・_ゝ・`)「どういうことですか、これは」
僕の声は震えていた。
怒りからか、動揺からか。
それとも両方なのかもしれない。
152
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:14:31 ID:iiVptxPU0
(´・ω・`)「君と同じなんだよ」
ショボンが手を挙げる。
その途端に部屋に飛び散った血は、するんと布の隙間に吸い込まれて消えてしまったた。
寝間着の布も互いに繊維を出し合い、結びつき、新品同様に直ってしまった。
(´・ω・`)「ペニサスも、君と同じなんだ」
念押しするように、ショボンは告げた。
その言葉の意味を推し量るのに時間は掛からなかった。
だがその事実を受け入れられず、僕は呆然としていた。
ねえ、ペニサスくん。
呑気な顔で寝てる場合じゃないよ。
君も僕と同じように、死体だったんだってさ。
153
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:15:16 ID:iiVptxPU0
四は捨てよ 了
.
154
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:15:58 ID:iiVptxPU0
登場人物紹介
(´・_ゝ・`) 盛岡 デミタス
優しさとはその人の為を思うこと
('、`*川 ペニサス
優しさとはその人の助けになること
ζ(゚ー゚*ζ デレ
優しさとはその人の望みに沿うこと
('A`) ドクオ
優しさとは抑圧された望みを叶えること
(´・ω・`) ショボン
優しさとは×××××××××××
マシュマロ入りコーヒー
コーヒー特有の苦味と酸味が薄れ、飲みやすくなる
デレの好きな飲み物で、ショボンの嫌いな飲み物
155
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:19:46 ID:ewSUN.Gk0
乙!ペニは自覚なかったのかな
死体でも魔女になれるのか…?
156
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:30:55 ID:pdUYOLzk0
おつ
157
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 14:16:29 ID:uEw5d7jg0
なんとなく話の内容が九九の文に沿ってる気がする
158
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 17:19:02 ID:H96D3Djs0
乙!
ドクオが美味しそうといったの伏線かなと思ったら今回で綺麗に回収されてた
続き気になる……!
159
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 17:21:42 ID:uWZyXjyA0
乙乙
マシュマロコーヒー……味が気になるが試す勇気は出ない
160
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 17:38:47 ID:Aewz7L/g0
おつんつん
161
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 18:35:23 ID:nXBv4B720
乙
死体は成長できないのだろうか
162
:
名も無きAAのようです
:2015/06/04(木) 19:58:51 ID:Gi1vABZ.0
なるほどなるほど
乙
163
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:28:57 ID:HOaUlsmE0
五と六より、七と八を生め
.
164
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:29:50 ID:HOaUlsmE0
翌朝、ペニサスは何事もなかったかのように僕に挨拶をした。
生返事をし、僕は彼女の体を眺めた。
生きている。
昨日の出来事が、まるで嘘のようだった。
('、`*川「どうしたの?」
(´・_ゝ・`)「……え?」
('、`*川「険しい、っていうか怖い顔してるから」
(´・_ゝ・`)「いや、なんでもないよ」
('、`*川「師匠に何か言われた?」
(´・_ゝ・`)「…………」
こういう時、咄嗟に嘘がつけないというのは困ったものだった。
その代わり、僕は一部分だけを伏せて話した。
(´・_ゝ・`)「君が魔女になるのには反対だって言ってただけだよ、彼はね」
ペニサスはそれで納得したらしく、その後は何も追求してこなかった。
キッチンにいたデレに呼ばれて、朝食を取りに行ったのもあるのだろう。
僕はハチミツの塗られたトーストを齧る。
ハチミツなんて久々に食べた気がした。
砂糖とも果物とも違う独特な甘みは、気分を穏やかにしてくれた。
甘ったるい口の中に、コーヒーを流し込む。
ああ、甘い。
欲を言えば、朝のコーヒーだけにはマシュマロを入れて欲しくなった。
165
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:31:08 ID:HOaUlsmE0
しかしデレの善意を断れず、僕はマシュマロが徐々に溶けていく様を眺めることしかできなかった。
もう一口すすってみた。
甘みがさらに上書きされ、舌が痺れるような感じがする。
やはり普通のコーヒーがよかったな。
甘みよりも塩気が欲しくなり、卵の黄身が絡まったハムを口の中に放り込む。
うん、うまい。
ハムエッグなんて定番の料理だが、僕は半熟の目玉焼きが作れない。
あとでデレに作り方を聞いてみようか。
ついでにドクオの件についても。
('、`*川「デレさんったらケチなのよ」
キッチンから居間に帰ってきたペニサスは、僕の隣に座るなりそう言った。
('、`*川「もっとコーヒーにマシュマロ入れたいって言ったら、怒られたの」
(´・_ゝ・`)「……まぁ、そうだろうね」
マグカップから溢れ出そうになっているマシュマロを見て、僕はそう返した。
(´・_ゝ・`)「これいくつ入れたんだい、ペニサスくん」
('、`*川「十五個」
(´・_ゝ・`)「どう考えてもそれは入れすぎだよ」
('、`*川「甘ーいほうがおいしいに決まってるじゃない」
(´・_ゝ・`)「僕のは五個入れてもらったけど、十分甘いよ」
('、`*川「そうかしら」
166
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:32:27 ID:sPLbBWxE0
一気に八まで進んだ……だと……?
167
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:32:30 ID:HOaUlsmE0
ペニサスはおもむろに僕のマグカップに手を伸ばし、口に含んだ。
その途端彼女の眉間に皺が寄り、僕の方を見た。
嘘つき、と視線が物語っている。
抗議されても勝手に飲んだほうが悪いのだと僕は思うのだが。
('、`*川「わたしやっぱりこっちのほうがいい」
毒でも飲み干したような顔をして、ペニサスは自分のマグカップを手にした。
その代わり僕のマグカップは、乱雑に突き返された。
('、`*川「甘くておいしー」
(´・_ゝ・`)「ペニサスくんねえ……」
甘いものばかり食べてたら病気になるよ、と言いかけて僕は止めた。
('、`*川「なに?」
(´・_ゝ・`)「なんでもないよ」
僕はペニサスの皿に乗っていたプチトマトを口に入れた。
彼女は大げさに叫んで、僕の脇腹を小突いた。
ペニサスが単純でよかった。
僕は心底そう思いながら、昨日の出来事を思い出した。
168
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:33:38 ID:HOaUlsmE0
(´・ω・`)「デレ、見損なったよ」
ζ(゚ー゚;*ζ「違うの」
(´・ω・`)「何が違うんだい? 言い訳なら聞いてあげるよ」
何を考えているのかわからない眼差しで、ショボンはデレを見つめる。
デレは腕に爪を立て、ガリガリと引っかいていた。
無意識なのかもしれない。
赤い線が重なっていく様を見て、そう思った。
ζ(゚ー゚;*ζ「ほんとに、ちがうの、ドクオが、かってに、やったの……」
幼く、掠れた声だった。
かわいそうなほどに言葉は震え、彼女は今にも泣きそうだった。
(´・ω・`)「ふむ」
ショボンはデレから視線を外し、床へと向けた。
('A`)「…………」
ドクオはどこか遠くを見つめていたが、やがてそれに気付いた。
('A`)「な、ナ、なンデフくぁ」
ますます舌ったらずな喋り方になってしまったのは、僕のせいであった。
おそらく投げ飛ばした際に口の中を切ってしまったのだろう。
それでも悪いことをしたという気持ちは全く起きなかったのだが。
169
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:34:18 ID:HOaUlsmE0
(´・ω・`)「君が勝手にペニサスを殺したのかい? それともデレに頼まれていたのかな?」
('A`)「……ぁっ、ぁ、しデなぃ」
(´・ω・`)「何をしてないんだって?」
無色不透明な声はドクオを貫く。
べぇ、とドクオは血を吐き出し、こう答えた。
('A`)「デレ、はかん、けぃなイ」
(´・ω・`)「君の独断か」
ため息と共に、ショボンの声はいつもの調子を取り戻した。
(´・ω・`)「変だとは思っていたんだよね」
(´・_ゝ・`)「変?」
(´・ω・`)「ペニサスはこれ以上老いもしないし病気もしない。危害を加えられても彼女が生きることを望む限り、死ぬことはない」
寝息を立てているペニサスをショボンは見遣る。
月光に照らされた彼女の顔は蒼白く、血が通っていないように見えた。
(´・ω・`)「デレもそれを知っているから、殺すならこんな中途半端な真似をしないと思ってね」
視線が移ろい、デレに向けられた。
まるで釘を刺すように、あるいは信頼するように。
ζ(゚ー゚*ζ「……わたしがそんなことするはずないって、知ってるくせに」
170
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:35:37 ID:HOaUlsmE0
デレは、笑った。
安堵と諦観を混ぜたような笑みだ。
笑っているはずなのに、泣いているようにも見えた。
それがとても寂しいものに見えて、僕は息苦しくなった。
添えられたサラダを口にして、僕は回想を打ち止めた。
変わる事のない肉体。
死んでいるのに生き続けているという矛盾。
彼女は気付かないのだろうか。
それとも、気付いたらなにか処置をされてきたのか。
ζ(゚ー゚*ζ「お味はどうかしら」
家事を終えたらしいデレが、部屋に入ってきた。
今日も彼女の格好は派手である。
薄黄色のブラウスに、真っ赤なスカート。
裾や袖には白いフリルやレースがふんだんに使われていた。
よくそんな格好で料理ができるなと僕はある種の尊敬を抱いていた。
('、`*川「すっごくおいしいです」
ペニサスの言葉に、僕も頷いた。
ζ(゚ー゚*ζ「ならよかったわ」
柔らかな弧を描く目は、とても優しい眼差しをしていた。
今まで見た中で一番自然な笑みだ。
少しの毒っ気も含んでいない。
しかしそれも長くは続かなかった。
171
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:36:20 ID:HOaUlsmE0
ζ(゚ー゚*ζ「あ、そうそう」
口の緩みを正すように、彼女は言う。
ζ(゚ー゚*ζ「ペニサスちゃん、今日はわたしと一緒にお出かけしましょう?」
('、`*川「お出かけですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「ショッピングモールに行きたいの。新しいお洋服買ってあげるわよ」
('、`*川「行きます!」
ペニサスは残っていたハチミツトーストを一口で頬張った。
咀嚼もままならぬ様子で、それをコーヒーで押し流した。
ζ(゚ー゚*ζ「そんなに焦らなくてもいいのよ?」
('、`*川「でも、デレさんとお出かけするのは久々ですから……」
ζ(゚ー゚*ζ「ゆっくりでいいわよ、ゆっくりで」
そう言ってデレはちらりと僕を見た。
ζ(゚ー゚*ζ「洗い物しなくっちゃね」
空っぽになった皿を一枚持ち、彼女はキッチンへと戻った。
僕はコーヒーを飲み干し、その後に続いた。
(´・_ゝ・`)「手伝いますよ」
ζ(゚ー゚*ζ「あら、いいのに」
172
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:38:35 ID:HOaUlsmE0
一瞥もくれずにデレは言う。
ζ(゚ー゚*ζ「それよりも気になることがあるんじゃないかしら?」
見透かされている。
どうにも食えない人だ。
少し反発心が湧いた。
(´・_ゝ・`)「……ドクオくんは、大丈夫なんですか?」
僕の言葉に、デレは一瞬皿を洗う手を止めた。
ζ(゚ー゚*ζ「……気にしているの? あなたのせいじゃないのに」
(´・_ゝ・`)「殴ったのは事実ですから」
ζ(゚ー゚*ζ「ペニサスちゃんのことが好きなのね」
(´・_ゝ・`)「好きというか、なんでしょうね」
有耶無耶な返事をしつつ、考える。
好きか嫌いかで言えば、好きである。
かと言って特別かどうかを問われると答えに窮する。
僕にとってのペニサスとは……?
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオは大人しく部屋で寝てるわ。魔法を使ったから、怪我も全部治ってる」
もうペニサスちゃんと二人きりにはさせないけどね、とデレは食器をカゴの中に仕舞った。
かちゃりと陶器のぶつかり合う音が響く。
ζ(゚ー゚*ζ「それより、ショボンがあなたに話があるって言ってたわよ」
(´・_ゝ・`)「話ですか」
173
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:39:17 ID:HOaUlsmE0
ζ(゚ー゚*ζ「そうよ、ペニサスちゃんのいないうちならゆっくりお話しできるでしょう?」
(´・_ゝ・`)「そう頼まれたんですか」
僕の質問にデレは答えなかった。
ほんの一瞬にまりと笑って、それからこう言った。
ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう、ペニサスちゃん。食器持ってきてくれたのね」
振り向くと、そこには空になった皿を積み上げたペニサスが立っていた。
('、`*川「どういたしまして」
ζ(゚ー゚*ζ「洗うのは任せておいて。あなたは着替えてきなさいな」
('、`*川「はーい」
ペニサスはちらりと僕を見た。
('、`*川「なんの話してたの?」
(´・_ゝ・`)「ちょっとした世間話だよ」
('、`*川「なにそれ」
ζ(゚ー゚*ζ「ペニサスちゃんー、早くお出かけしましょ?」
催促するように、デレは会話を遮った。
ペニサスは少し戸惑う様子を見せたが、何も言わずにキッチンを後にした。
ζ(゚ー゚*ζ「嘘をつくのが下手な人ね」
(´・_ゝ・`)「隠し事をしないで生きてきたものでね」
ζ(゚ー゚*ζ「羨ましいわ」
174
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:40:40 ID:HOaUlsmE0
あんまり羨ましくなさそうな声で、デレは言った。
ζ(゚ー゚*ζ「冷蔵庫のなかにお皿があるから、あとであの人に持って行ってね」
そう託けて、デレもキッチンを後にした。
(´・_ゝ・`)「ふう……」
久々に一人になった気がして、僕は溜息を吐いた。
ずっと緊張し通しで、生きた心地がしなかった。
実際そうなのだが。
…………生きてはいないが、しかし意思はある。
僕は胸の内を整理すべく、コーヒーを入れることにした。
もちろん今度は、マシュマロ抜きで。
175
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:42:31 ID:HOaUlsmE0
ペニサスとデレが出掛けたのを確認して、僕はショボンの部屋へ向かった。
ノックをすると、一人でに扉が開いた。
それに招かれるようにして僕は白い地面の世界へと降り立った。
緩やかな木立は不気味なほどに静かであった。
さぁ、と風が吹いてもざわめきは聞こえない。
鳥の囀りも聞こえず、僕の足音も響かない。
果たして本当に歩いているのだろうか。
きちんと前に、進めているのだろうか。
まったく変わらない景色に対抗して、僕は歩みを進めた。
やがて地面に緑の染みがにじみ出た。
歩く度にそれは形を成していき、しばらくしてからそれが芝生のなり損ないであると気付いた。
緑の侵食はどんどん広がっていく。
僕は幼い頃に遊んだ原っぱを思い出した。
よくバッタやカマキリなんかを捕まえていたが、今となっては見かける事もなくなってしまった。
触るのももう無理かもしれない。
子供の頃には何でもなかった事でも、大人になるとなんだかんだ理由をつけて出来なくなるのが常であるからだ。
帆布で出来たパラソルが視界に入る。
その下にはシートが広がっていて、ショボンが気持ちよさそうに眠っていた。
しゃくしゃくと芝生を踏みつけながら、僕は近付く。
(´・ω・`)「……ああ、来たんだね」
やおら起き上がり、彼はそう言った。
(´・ω・`)「おはようデミタス。ゆっくり休めたかね?」
(´・_ゝ・`)「あまり寝付けませんでしたよ」
(´・ω・`)「だろうね。僕もだよ」
176
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:43:39 ID:HOaUlsmE0
ぐわぁとショボンの口が大きく開かれ、間延びした声が吐き出された。
(´・ω・`)「あーあ、いつまでも寝転がるのはよくないね」
彼が立ち上がると同時に、パラソルが霞消えた。
世界は目まぐるしく変わっていく。
鉄で出来た優雅な椅子が二脚、滲み出た。
次に瞬きをすると、木製のテーブルが出来上がっていた。
(´・ω・`)「それ、デレが作ってくれたのかい?」
(´・_ゝ・`)「あ、ああ……。はい」
ゆめうつつといった感じの声が出る。
今までにも魔法に触れてきた。
しかしこんなふうに飲み込まれるような、どこか恐ろしいものは初めてであった。
(´・ω・`)「ふむ」
椅子に座った彼の指は、テーブルをとんとんと叩いた。
恐る恐る僕は、フルーツサンドの入った皿をそこに置いた。
(´・ω・`)「フルーツサンドか」
ほんの少し微笑んで、ショボンはぽつりと呟いた。
考えあぐねるように空間を飛び回っていた色彩たちは、その一言で整理がついたらしい。
雲ひとつない青空。
その青と相対するかのような赤煉瓦の街並み。
燦々と降り注ぐ陽光は、不思議と爽やかであった。
(´・ω・`)「コーヒーも欲しいねえ」
177
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:44:37 ID:HOaUlsmE0
指が二度、テーブルを叩く。
真っ白な陶器が形を成す。
とぷんと液体の揺れる音、苦く香ばしい匂い。
正真正銘のコーヒーだった。
(´・ω・`)「デミタス、君は砂糖とかミルクはいるかい?」
(´・_ゝ・`)「……いえ」
(´・ω・`)「ああそう。ところでいつまでそこに立っているのかな」
ショボンは心底不思議そうにそう問うた。
僕はそれに答えず、黙って椅子を引いた。
ひんやりとした鉄の感触は、魔法で引き出されたものとは到底思えなかった。
しかし、やはりこれは魔法なのだ。
これだけの日が差し込んでも全く汗をかかないし、街には僕たち以外に人はいなかった。
あまりにも完成されすぎた空間だ。
居心地の悪さを誤魔化すため、僕はコーヒーをすすった。
それに気付かず、ショボンはサンドイッチを手に取った。
イチゴやキウイ、オレンジなどの果物がたっぷり入っていて、生クリームがはみ出ている。
見るからに食べにくそうだったが、彼は欠伸した時よりも大きく口を開けた。
ばくりと食らいつくその様は、童話に出てくる狼を連想させた。
幸せそうに頰が緩みながらも、さらにもう一口。
そんな調子だったので、皿はあっという間に空になってしまった。
(´・ω・`)「さてと」
指についた生クリームを舐めとり、ショボンは手をあげた。
(´・ω・`)「デミタス、十年前の秋頃に君は何をしていたか覚えているかね」
(´・_ゝ・`)「十年前?」
178
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:45:19 ID:HOaUlsmE0
唐突にあげられた数字に、僕は戸惑った。
十年前というと、他県の部署の人員が足りなくなったのでその穴を埋めていた頃だ。
初めは三ヶ月のつもりだったがやがてそれは半年になり、結局ずるずると一年半も出張していた。
それをショボンに伝えると、彼は少し考える素振りを見せた。
(´・ω・`)「……見てもらった方が早いな」
ショボンが宙を掴む動作をすると、その手には紙が一枚握られていた。
(´・ω・`)「これを見て欲しい」
(´・_ゝ・`)「……っ!?」
その紙には、セーラー服を着たペニサスが印刷されていた。
その隣にいる人間の顔はモザイク加工されていたが、同じ制服を身につけている。
友達と撮った写真なのだろうか?
幼く無邪気な笑みを浮かべる彼女は、まるで別人のようだった。
しかし、彼女はペニサスに間違いなかった。
その写真の下には、「伊藤ペニサスさんを探しています!」と大きく書かれていた。
伊藤。
伊藤ペニサス。
(´・_ゝ・`)「……ああ」
そこでようやく思い出す。
彼女を一度全国ニュースで見かけていたことを。
179
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:47:12 ID:HOaUlsmE0
その十七歳の少女は、とても面倒見がよかった。
リーダーシップもあり、いつもクラスの中心にいた。
クラスメイトからは慕われ、先生からも一目置かれていた。
十年前の秋。
彼女は下校時間ギリギリまでクラスメイトと学校に居残っていた。
文化祭が間際に迫っていたので、その準備に追われていたのだ。
秋の日はつるべ落としとはよく言ったもので、帰る頃には日がとっぷりと暮れていた。
いつもと同じようにクラスメイトに別れを告げ、少女は一人で帰ったらしい。
学校から家まで三十分の道程。
その途中、肉まんを買ったのをコンビニ店員に目撃されたのを最後に、少女は姿を消した。
連日メディアではその詳細を繰り返し放映し、警察も無垢で真面目な少女を見つける事に躍起になっていた。
しかし事態は進展しなかった。
メディアも膠着状態のそれよりも、より刺激的なニュースを茶の間に届ける事になった。
失踪した少女の安否は知れず、やがて記憶の片隅にも残らず忘れ去られていった。
その少女が、微笑んでいる。
僕の手は震え、思わず左手でその手首を掴んだ。
ペニサス。
君は、…………。
(´・ω・`)「およそ九年前の夏。僕は日本に帰ってきた」
ショボンの声によって、僕は現実に呼び戻された。
紙から目を離そうとして、しかし頭は動かなかった。
(´・ω・`)「久々の故郷に懐かしむ暇もなく、一つの祈りが耳に入った。とある山から聞こえるそれは、哀れになるほどか細く痩せていた」
僕は睨みつけるようにショボンを見た。
彼は気にせず、話を続ける。
180
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:48:26 ID:HOaUlsmE0
(´・ω・`)「『助けて、わたしを見つけて』。その祈りに居たたまれなくなり、僕はその山に向かった」
これ以上、話を聞きたくなかった。
(´・ω・`)「山奥に埋められていたそれは、目も当てられないような姿になっていてね」
呼吸が浅くなる。
悪い夢を見ているようだった。
(´・ω・`)「散々嬲られた挙句、最期は生きたまま焼かれたらしく、骨がひどく痛んでいた」
思わず紙をくしゃくしゃに丸めた。
僕はひどく怒っていた。
(´・ω・`)「燃え残っていた制服の裾に、たまたま彼女の名前が残っていたんだ」
心臓が抉られたように痛い。
ひどくひどく、痛かった。
(´・ω・`)「僕は、彼女の事を随分調べたよ。もう一度生きたいと願うあの子を無視する事が出来なかったんだ」
心の中に地獄が広がっていくようだった。
僕はそのままショボンの言葉に耳を傾けた。
(´・ω・`)「蘇生という魔法は、生きたいという死者の意思とその存在を認める情報が必要だ」
(´・_ゝ・`)「情報?」
(´・ω・`)「外見、生い立ち、為人などだね。承認、認知、発見などは魔法を使う上では重要な要素だからさ。何も知らなければそれはただの骨としか認識出来ない、ペニサスだという認識は得られない」
(´・_ゝ・`)「ああ……」
181
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:51:16 ID:HOaUlsmE0
ペニサスの話を思い出して、僕は息を漏らした。
魔女は境界線を跨ぐ者。
その境界線はありとあらゆるところに存在し、魔女でない者はその境界線を意識しない。
知らなければそれらはいないも同然だ。
彼らは祈りを現実へ引き出すために、万物の存在を認める。
自らの祈りを彼らにも認めてもらうために。
(´・ω・`)「事件当時の資料を漁ればおおよそのことはわかった。あの子を見つけて一週間も経たないうちに、僕は蘇生に着手できた」
蘇生は、無事成功した。
多少の混乱が見られたものの、二日もすればペニサスは以前と同じように活動するようになったらしい。
その更に三日後には、ショボンが魔法を使わずともペニサスの生きたいという意思のみで動けるようになったそうだ。
(´・_ゝ・`)「でも、生き返ったらペニサスは記憶喪失になっていたと」
僕の言葉に、ショボンは首を横に振った。
(´・ω・`)「痛覚や味覚が鈍くなった以外は全て上手くいっていた、はずだった」
彼はそこで言葉を区切った。
するすると言葉を紡いでいた口は鑰でも付いているかのように閉ざされていた。
(´・ω・`)「今際の記憶がフラッシュバックしてしまったんだ」
(´・_ゝ・`)「…………」
瞼がじんわりと熱を持ったような気がして、目元に手をやった。
もしかしたら涙が出るような気がしたけども、気のせいであったらしかった。
(´・ω・`)「目も当てられないような状態だった。彼女は懸命に生きようとしたけど日に日に窶れていった」
182
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:52:58 ID:HOaUlsmE0
冷めたコーヒーを口にしたショボンはとても苦い顔をしていた。
(´・ω・`)「忌まわしい記憶は彼女から生きる意思を確実に奪っていった。このままでは死んでしまうと思ったんだ」
(´・_ゝ・`)「……まさか、」
(´・ω・`)「ペニサスの記憶を消したのは僕だよ」
一陣の風が吹いた。
居心地の悪くなったショボンが無意識に引き起こした魔法なのかもしれない、と僕は今の話とは全く関係ないことを考えていた。
(´・_ゝ・`)「それも、彼女が望んだことなんですか」
絞り出すような声に、僕は戸惑った。
他人のことでこんな風に動揺したのは初めてだった。
(´・ω・`)「僕の独断だ」
(´・_ゝ・`)「……なぜ」
(´・ω・`)「あの子は全てを受け入れようとしたけど、それができるほど成熟していなかったからさ」
だけど、死の記憶だけ消してしまえば、それでよかったんじゃないのか。
どうして全部、忘れさせてしまったんだ。
きっと彼女には、大切な思い出もあっただろうに。
人差し指の腹に、親指の爪が食い込んだ。
生きていたら血が滲んでいただろう、と他人事のように考えて思い出したことがある。
ペニサスは、血を流していた。
死んでしまえば血の巡りは止まってしまうし、もちろん心臓も動かなくなる。
だけど彼女は全てを忘れてしまっている。
死んでいるとは夢にも思っていない。
気付いていないから彼女の体もまた、生きている人間に近い動きをしているのかもしれない。
183
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:54:31 ID:HOaUlsmE0
ショボンは再び口を開いた。
(´・ω・`)「このままだとペニサスは死ぬよ」
(´・_ゝ・`)「……!」
絶句する僕に、ショボンはさも当然といった表情で、こう言った。
(´・ω・`)「死ぬよ、君が殺すんだ」
魔女と使い魔の間にできる精神的な繋がりは、僕やペニサスが思っている以上にとても強力なものだという。
魔女は無条件で使い魔に対して魔法を使えるし、使い魔の祈りを魔女が肩代わりすることでそれを魔法に昇華することができる。
……僕たちは二つ過ちを犯した。
一つ目はペニサスが中途半端に魔法の知識を得ていたこと。
二つ目は、僕が大して生きたいという意思を持っていなかったこと。
(´・ω・`)「君の蘇生は非常に中途半端だ。今こうして活動できていることが奇跡といっても過言ではない」
前述の通り、死者の祈りと魔女の認識が蘇生を成立させる要となる。
死んで間も無くペニサスに見つかったことで、僕はその存在を認めてもらえた。
これが腐っていたり白骨化していたら、僕は蘇生出来なかっただろう。
その後会話をするために一時的に蘇生した僕は、その後使い魔になることを誓った。
ここがそもそもの間違いだったのだ。
僕は、僕の意思で生きたいと望んだわけではなかった。
その時も、今までも、ずっとペニサスの祈りにしがみついて生きてきた。
彼女が僕に生きて欲しいと祈っていたから、僕は生きてこれたのだ。
(´・ω・`)「生きる気力のない君を生かし続けるには膨大な労力が必要になる」
184
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:56:09 ID:HOaUlsmE0
僕は電池切れ寸前の携帯電話と一緒なのだという。
外部バッテリーで充電しながら無理矢理動かしている状態で、バッテリーの電力がなくなれば携帯電話の電源は落ちてしまう。
そしてバッテリーが充電されれば電力が供給され、携帯電話を使う事ができるが、バッテリーの消耗は著しくなる。
やがて徐々に溜め込む電量が少なくなり、いずれバッテリーは壊れてしまうだろう。
(´・ω・`)「現にペニサスが起きていられる時間は減っていっている。今は夜更かしできなくなる程度だけど、そのうちあの子は眠り続けるようになって最終的には二人とも死んでしまうだろうね」
(´・_ゝ・`)「どうすれば、いいんですか」
するとショボンは口元に笑みをたたえた。
(´・ω・`)「君の記憶を消そう。使い魔であったことも、魔法の事も、全部忘れるんだ」
(´・_ゝ・`)「全部……?」
(´・ω・`)「そう、全部。そうすれば君も自分が死者である事に気付かない」
(´・_ゝ・`)「…………」
(´・ω・`)「そんなに心配しなくたって大丈夫さ、前の暮らしに戻るだけだよ。その暮らしを何十年もこなしてきたんだから、今更どうという事もないさ」
僕は、迷った。
たしかにショボンの言う通り、僕が忘れてしまえば全て丸く収まるのだろう。
忘れてしまえば、きっと楽なのだ。
ペニサスの生きたいという祈りだって守る事ができる。
僕がいなければそれを食い物にする輩もいなくなるからだ。
僕は、魔女になりたいというあの子の力になれていなかったんだ。
使い魔であったのに、ペニサスをサポートするどころか足を引っ張ってしまっていたんだ。
どうしようもない人だな、僕は。
185
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:57:24 ID:HOaUlsmE0
僕は電池切れ寸前の携帯電話と一緒なのだという。
外部バッテリーで充電しながら無理矢理動かしている状態で、バッテリーの電力がなくなれば携帯電話の電源は落ちてしまう。
そしてバッテリーが充電されれば電力が供給され、携帯電話を使う事ができるが、バッテリーの消耗は著しくなる。
やがて徐々に溜め込む電量が少なくなり、いずれバッテリーは壊れてしまうだろう。
(´・ω・`)「現にペニサスが起きていられる時間は減っていっている。今は夜更かしできなくなる程度だけど、そのうちあの子は眠り続けるようになって最終的には二人とも死んでしまうだろうね」
(´・_ゝ・`)「どうすれば、いいんですか」
するとショボンは口元に笑みをたたえた。
(´・ω・`)「君の記憶を消そう。使い魔であったことも、魔法の事も、全部忘れるんだ」
(´・_ゝ・`)「全部……?」
(´・ω・`)「そう、全部。そうすれば君も自分が死者である事に気付かない」
(´・_ゝ・`)「…………」
(´・ω・`)「そんなに心配しなくたって大丈夫さ、前の暮らしに戻るだけだよ。その暮らしを何十年もこなしてきたんだから、今更どうという事もないさ」
僕は、迷った。
たしかにショボンの言う通り、僕が忘れてしまえば全て丸く収まるのだろう。
忘れてしまえば、きっと楽なのだ。
ペニサスの生きたいという祈りだって守る事ができる。
僕がいなければそれを食い物にする輩もいなくなるからだ。
僕は、魔女になりたいというあの子の力になれていなかったんだ。
使い魔であったのに、ペニサスをサポートするどころか足を引っ張ってしまっていたんだ。
どうしようもない人だな、僕は。
186
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:58:53 ID:HOaUlsmE0
ショボンの部屋を後にした僕は、居間へ向かった。
ベッドのそばに置いてあった段ボールを漁り、小型の鞄を取り出した。
幾許かのお金をその中に入れ、僕は居間を出た。
それからキッチンに立ち寄り、僕は二階へと上がった。
書斎とペニサスの間にある部屋が、デレの部屋であった。
扉をノックする。
返事はない。
しかし彼はいるだろう。
扉を開ける。
中は薄暗かった。
窓は鎧戸によって閉ざされているからだ。
四隅に設置されたフットランプが唯一の光源らしかった。
(´・_ゝ・`)「ドクオくん」
僕は薄暗がりに向かってそう呼びかけた。
ずずる、と動く気配がする。
どこにいるのかはわからない。
部屋の中に入ろうという気が起きなかったので、彼がこちらに来るのを待っていた。
やがて彼は姿を現した。
('A`)「ぁ、ア? でみタす?」
不思議そうな顔をして、彼は僕に問うた。
(´・_ゝ・`)「もう君に会うことがないだろうから、謝りに来たんだ」
('A`)「あャまる……?」
(´・_ゝ・`)「咄嗟のこととはいえ、殴ってしまってすまなかった。だけどもうペニサスくんにあんな事をしてはいけないよ」
('A`)「う、ゔぅ?」
187
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:59:51 ID:HOaUlsmE0
いまいち飲み込めないような顔をして、ドクオはこう言った。
('A`)「でみタス、どうシたの?」
(´・_ゝ・`)「今夜、僕はペニサスと離れ離れになるってことさ」
無事に夜が来たらの話だけどね、と僕は付け加える。
(´・_ゝ・`)「でも、どうしてあんなことをしたんだい」
ドクオは口を閉ざしたが、一言こう呟いた。
('A`)「スキだから、デレが」
(´・_ゝ・`)「好きだからか」
('A`)「で、デも、デレは、かんけィない」
(´・_ゝ・`)「そうか」
僕はドクオに向かって手を差し出した。
ドクオはそれを、不思議そうに見つめた。
('A`)「なニコれ」
(´・_ゝ・`)「握手だよ。相手の手を握るんだ」
その行為にどんな意味が含まれているのか、ドクオはわからなかったかもしれない。
だけどドクオは、僕の手を握り返した。
188
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 17:00:43 ID:HOaUlsmE0
いまいち飲み込めないような顔をして、ドクオはこう言った。
('A`)「でみタス、どうシたの?」
(´・_ゝ・`)「今夜、僕はペニサスと離れ離れになるってことさ」
無事に夜が来たらの話だけどね、と僕は付け加える。
(´・_ゝ・`)「でも、どうしてあんなことをしたんだい」
ドクオは口を閉ざしたが、一言こう呟いた。
('A`)「スキだから、デレが」
(´・_ゝ・`)「好きだからか」
('A`)「で、デも、デレは、かんけィない」
(´・_ゝ・`)「そうか」
僕はドクオに向かって手を差し出した。
ドクオはそれを、不思議そうに見つめた。
('A`)「なニコれ」
(´・_ゝ・`)「握手だよ。相手の手を握るんだ」
その行為にどんな意味が含まれているのか、ドクオはわからなかったかもしれない。
だけどドクオは、僕の手を握り返した。
189
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 17:01:35 ID:HOaUlsmE0
(´・_ゝ・`)「ありがとう、ドクオ」
('A`)「あ、ァリがとウ? デミたす」
(´・_ゝ・`)「きっとこれでお別れだ。短い間だったけどありがとう」
細く骨ばった手が、僕の手から抜けていった。
彼はまた薄暗がりの中に消えていき、僕はそれを見送った。
扉を閉めて、僕は目を閉じる。
デレは、やはりペニサスが嫌いだったのだろう。
だけど、その死までは望んでいなかったはずだ。
デレは自分の全てをショボンに委ねている。
ショボンの欲望は彼女の欲望でもあるし、ショボンの幸福は彼女の幸福でもある。
そしてショボンの望みはペニサスの幸せで、その幸せはペニサスの生存によって成り立っていると考えている。
どんなに不愉快でも、それがショボンの望みであるならデレは邪魔しない。
とすると、やはりペニサスを殺したのはドクオの独断なのだろう。
ドクオはデレが好きだから、ペニサスを……。
(´・_ゝ・`)「……帰ってきた」
階下で、扉の開く音が聞こえてきた。
僕は階段を降りて二人を出迎えようとした。
しかし玄関にいたのはデレ一人だけであった。
(´・_ゝ・`)「お帰りなさい」
ζ(゚ー゚*ζ「ただいま。出迎えてくれるなんてよっぽど帰りが待ち遠しかったのね」
首を横に振るが、デレはくすくすと笑った。
190
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 17:04:58 ID:HOaUlsmE0
ζ(゚ー゚*ζ「あの子なら廃教会まで自転車を取りに行ったわよ。サバトの時に置いてきたのがよっぽど気にかかってたみたいなの」
(´・_ゝ・`)「そうですか」
平静を装おうとしたが、デレにはお見通しのようだった。
ζ(゚ー゚*ζ「ショボンから、話聞いたんでしょ」
(´・_ゝ・`)「はい」
ζ(゚ー゚*ζ「どうするの?」
(´・_ゝ・`)「……今夜ペニサスくんが眠ったら、全てを忘れるという約束をしました」
ζ(゚ー゚*ζ「そう」
興味なさげに、デレは短く言葉を返した。
(´・_ゝ・`)「デレさん」
ζ(゚ー゚*ζ「なあに?」
(´・_ゝ・`)「その靴は、人を移動させられるんですよね」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ」
(´・_ゝ・`)「例えばですけど」
と、僕は青銅色の靴を見つめて問う。
(´・_ゝ・`)「靴を履いたデレさんと手を繋いで、僕一人だけをどこかに飛ばすことも出来ますかね」
191
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 17:06:31 ID:HOaUlsmE0
ζ(゚ー゚*ζ「出来るけど、どこに行きたいの? カンザス? それともエメラルドの都かしら?」
茶化すような言葉に、僕は真面目に返す。
(´・_ゝ・`)「廃教会です」
ζ(゚ー゚*ζ「……ペニサスちゃんと離れるのが惜しいから、少しでもそばにいたいの?」
(´・_ゝ・`)「まぁ、そんなことです」
僕はそっと鞄に力を込めた。
ζ(゚ー゚*ζ「意外ね、あなたってドライな人だと思ってた」
(´・_ゝ・`)「少し長くそばに居すぎたのかもしれないですね」
ζ(゚ー゚*ζ「……夕飯までには帰ってくるのよ」
デレが手を差し出してきた。
僕は礼を言い、彼女の手を取った。
カン、踵がひとたび打ち付けられる。
(´・_ゝ・`)「魔法陣は」
カン、ふたたび音が響く。
ζ(゚ー゚*ζ「要らないわ、あれは大人数だったから」
カン、みたび靴が鳴いた。
192
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 17:08:58 ID:HOaUlsmE0
途端、周囲の色がめちゃくちゃに混ぜ合わされた。
ぶくぶくと泡が僕の足元を溶かし、繋いでいたはずの手はどこかへ消え失せていた。
少し心細くなりながらも僕は祈る。
ペニサスの元へ、廃教会へ行きたいと。
深海に投げ込まれたかと思うと景色は明るくなり、あるいは樹海に放り込まれて空をいきなり飛んだりした。
目紛しく変わる風景は、果たして正しいものなのか僕は判断できなかった。
やがて、暴力的な色彩の竜巻は去っていった。
見覚えのあるその建物は、やはり廃教会であった。
辺りを見回す。
ペニサスは見当たらない。
しかし草むらの中に自転車が倒れているのを見つけた。
そしてそのそばに、ショッキングピンク色をした袋が置かれていた。
ペニサスが買った服が入った袋なのかもしれない、と僕は考えた。
僕はなんとなしに廃教会に向かって歩いた。
壁に蔦が絡まっているのがみえる。
長いものは屋根にまで届こうとしていた。
なんて力強いのだろう。
植物の生命力に、僕は少し打ちのめされそうになった。
石でできた階段を上る。
入り口らしきものはすぐ見つかったが、扉がとっくの昔に朽ちてしまったらしい。
ぽっかりと開いているそこは、化け物の口のように見えた。
躊躇する僕の足元にはガラスの破片やら小さな鉄の部品やらが散乱していた。
あながち間違いでもないのかもしれない。
人を食べて、装備品を適当に吐き出したような跡にも見えたからだ。
(´・_ゝ・`)「何を考えているんだか」
193
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 17:11:03 ID:HOaUlsmE0
はたと我に帰り、叱咤するように呟く。
僕はそっと中を覗き込んだ。
教会内は思ったよりも明るかった。
天井の一部が崩れているせいだろう。
床は所々木が腐っている。
気をつけないと踏み外して怪我をしてしまう。
僕は慎重に歩みを進めた。
床板の隙間からは植物が競って背を伸ばしている。
内壁も、外壁同様に蔦が侵食していた。
ただやはり、日光が当たらないせいか蔦の一部は真っ黒に枯れていた。
それでも勇ましく、蔦は進軍をやめていなかった。
(´・_ゝ・`)「おっと」
踏み出した部分がみしりと音を立てた。
僕は慌てて足を引っ込めた。
「誰かいるの?」
警戒するような声は、聞き覚えのあるものだった。
(´・_ゝ・`)「僕だよ、ペニサスくん」
ペニサスは、ひょっこりとパイプオルガンの陰から顔を覗かせた。
(´・_ゝ・`)「そんなところにいたのか、気付かなかったよ」
('、`*川「ちょっと面白い仕掛けがあったのよ。というかデミタスはそこで何してるのよ」
(´・_ゝ・`)「君に用件があって、ここまで来たんだよ」
194
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 17:12:45 ID:HOaUlsmE0
僕はパイプオルガンのある右側に向かってゆっくりと進んだ。
ペニサスはその成り行きを見守りつつ、僕に話しかけてきた。
('、`*川「どうしてここがわかったの?」
(´・_ゝ・`)「デレさんがちょうど帰ってきた時に、君がいなかったから聞いてみたんだよ」
('、`*川「それでデレさんにここまで連れてきてもらったの?」
(´・_ゝ・`)「そういうことになるね」
遅々と、しかし着実に僕はペニサスに近付いていった。
鞄を掴む手に、力が入る。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん」
あともう少しだ。
(´・_ゝ・`)「君は、自分の記憶がどんなものなのか気になるかね」
('、`*川「……気になるわ、でも師匠は無理して思い出さなくていいって」
もう少しで、辿り着く。
(´・_ゝ・`)「師匠の考えは抜きにして考えてほしいんだ。君は思い出したいのかな、それとも忘れていたいのかな」
('、`*川「思い出したいわ」
意外なことに彼女は即答した。
195
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 17:13:52 ID:HOaUlsmE0
('、`*川「大事なことを忘れている気がするの」
(´・_ゝ・`)「戻ってきた記憶は、とても辛くて悲しいものかもしれないよ」
ようやく、パイプオルガンの前まで来れた。
('、`*川「それでも、わたしは取り戻したい」
(´・_ゝ・`)「その方法が、苦痛を伴うとしたら?」
僕はパイプオルガンの裏手へと回る。
数歩歩けばペニサスに触れられる距離まで、僕は詰める。
('、`*川「そうしたら、デミタスが助けてよ」
(´・_ゝ・`)「僕が?」
向かい合う僕たちの視線はぶつかり、絡み合う。
('、`*川「わたし、あなたが来るまでずっと一人だったのよ」
ショボンもデレも、ペニサスを可愛がってくれた。
しかしあの家に帰ってくるのは稀で、彼らがいない間はずっと孤独であった。
街へ出ても知り合いは居ないし、誰にも話しかけられない。
まるで透明な存在のようであったと彼女は話す。
('、`*川「あなたと会った時、わたしは自分の居場所を見つけたような気がしたの」
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん……」
196
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 17:14:47 ID:HOaUlsmE0
僕はため息まじりに名前を呼んだ。
やはり、少し怖かった。
(´・_ゝ・`)「約束しよう。僕は、君のそばにいるよ。だけど記憶が必ず戻るとは限らない方法なんだ」
('、`*川「それでも試す価値があるなら、わたしはやってみたい」
(´・_ゝ・`)「…………」
僕は背後に追いやっていた鞄の口を開けた。
中を弄り、探し当てる。
紙を取っ払い、握りしめた。
手が震えてしまう。
だけど、やらなくては。
ペニサスは僕の様子に気付かずに話す。
('、`*川「ね、その方法ってどんなものなの? どうやってデミタスは師匠に交渉し」
ペニサスが固まる。
僕の手に何が握られているのかを視認したのだろう。
彼女が行動を起こすよりも先に鞄を投げ捨て僕は一気に距離を縮めた。
(´・_ゝ・`)「ごめん、ペニサスくん」
これがどんな結果を引き起こしたとしても、僕は君を見捨てないから。
その言葉が届いたのかは定かではない。
ただ行動の成果に、生暖かい液体がぬるりと僕の手に絡みついたのは確かであった。
( 、 *川「ど、して……っ、」
腹を穿たれたペニサスは、やっとの事でそう言った。
僕は謝りながら、もう一度刃を突き立てた。
197
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 17:16:44 ID:HOaUlsmE0
五と六より、七と八を生め 了
.
198
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 17:17:58 ID:HOaUlsmE0
登場人物紹介
(´・_ゝ・`) 盛岡 デミタス
人を刺すのは初めて
('、`*川 伊藤 ペニサス
何回も刺されていた
ζ(゚ー゚*ζ デレ
言葉で刺した回数いざ知らず
('A`) ドクオ
牙を剥いたのは一度だけ
(´・ω・`) ショボン
無意識に刃を立てている
フルーツサンド
地味に手間がかかる一品。デレは四枚切りの食パンを二枚使って作っている
199
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 18:48:22 ID:sPLbBWxE0
乙乙
ペニサス……
200
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 18:58:52 ID:HjdrOnWQ0
ペニスちゃんには立ち直って欲しい
201
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 19:37:57 ID:FXy1uV2I0
始めて読んだけど面白い
他になんか作品書いてた?
202
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 22:59:53 ID:hj8axwf20
乙
203
:
名も無きAAのようです
:2015/06/06(土) 00:40:31 ID:sxoF/qR.0
ありがたいことに(´・ω・`)GatherさんとブンツンドーさんにまとめられていたのですがなぜかURLが貼れない…
ごめんなさい
>>221
大したものは書いてないです
最近だと+になったようですとか魂のスナッフフィルムとか短いものばかり
204
:
名も無きAAのようです
:2015/06/06(土) 01:09:35 ID:sxoF/qR.0
二重投下してる上に
>>185
と
>>186
の間に抜けてる文がありますね
各自以下の文を脳内補填お願いします
ぼんやりと考えるうちに、僕は日陰が出来ていることに気付いた。
僕たちの周りを、灰色の人影がぐるりと取り囲んでいたのだ。
それはまるで檻のようでもあり、僕を弾劾する正義が形を成したようでもあった。
(´・ω・`)「どうするんだい?」
決まりきっている答えを引き出すように、ショボンは急かす。
(´・_ゝ・`)「僕は……」
乾いて、掠れてしまった声があたりに響く。
灰色の人影たちは、僕の顔を覗き込むように距離をぐっと縮めにきた。
僕は、あの子に生きてほしかった。
205
:
名も無きAAのようです
:2015/06/06(土) 09:34:13 ID:2b3uqZcM0
乙
情景描写がすごい素敵
206
:
名も無きAAのようです
:2015/06/06(土) 12:44:30 ID:0bqu4coo0
おつ
気になる
207
:
名も無きAAのようです
:2015/06/06(土) 22:12:06 ID:j.QkwfFQ0
嗚呼、ケツ祭りのスナッフフィルムか……!
続きが気になる。そして相変わらず自己紹介が読んでて面白い。乙!
208
:
名も無きAAのようです
:2015/06/07(日) 12:25:57 ID:gfls9Zqc0
次回がとてもとても楽しみ
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1715.jpg
209
:
名も無きAAのようです
:2015/06/07(日) 13:34:50 ID:EokZzrhc0
マシュマロコーヒードロッドロやな
210
:
名も無きAAのようです
:2015/06/07(日) 16:15:20 ID:DVYZH8aA0
いいねいいね
乙乙
211
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 12:39:25 ID:vdSRrPRY0
かく魔女は説く、かくて成さん
.
212
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 12:41:30 ID:vdSRrPRY0
西日が濡れた床を照らし、透けた橙色とくすんだ紅が重なり合っていた。
複雑なその色合いは、僕の心を不安にさせた。
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「…………」
沈黙が教会内を支配していた。
その空気がここに澱む限り、僕たちは呼吸すらも危うくなる。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん」
それを振り払うように、僕は名前を呼んだ。
( 、 *川「…………」
光のない瞳がゆっくりと閉じられる。
まだ、生きている。
まだ、かろうじて……。
(´・_ゝ・`)「ごめん、ペニサスくん」
何度目になるかわからない謝罪を口にする。
謝ってもどうにもならないのは重々承知している。
それでも僕は、黙っていられなかった。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん」
もう一度名前を呼ぶ。
反応は、ない。
ああ、死んでしまうかもしれない。
そう考えながら、僕は先ほどの出来事を反芻した。
213
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 12:43:08 ID:vdSRrPRY0
僕は彼女を傷付けた。
驚きと絶望に染まった表情は、やがて恐怖に満ちていった。
( 、 *川「ぁあああぁぁああああァあああぁぁぁあぁぁあアアあぁぁぁあぁぁああぁあああぁぁあアあああ!!!!!!!!!!!!!」
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん……っ!」
耳を劈く悲鳴に対抗して、僕は叫んだ。
同時にペニサスの手が僕の手を掴んだ。
(´・_ゝ・`)「いっ……!」
爪を立てられ、僕は思わず包丁を手放した。
そのまま蹴り飛ばされ、無様に床を転がった。
痛みに噎せながらも手を見れば、甲の肉が抉れている。
露出した生白い肉がずるずると寄り集まる様を見て、正直気分が悪くなったが今はそれどころではない。
( 、 *川「いィィった、い゛……」
深くまでめり込んでしまった刃を、ペニサスは躊躇いなく掴む。
そのまま包丁は床に投げられた。
( 、 *川「はーー、はーー、はーー……」
袋から空気が漏れ出すような呼吸。
そこへ、ばつりばつりと肉ののたうつ音が混ざり始めた。
( 、 *川「……………………え、」
うそ、と口だけが動いた。
見てしまったのだろう。
僕と同じように、自分の体が再生していくところを。
214
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 12:46:46 ID:vdSRrPRY0
('、`*川「ど、うゆー、こと?」
にへ、とペニサスは笑顔を取り繕った。
('、`*川「あれ、なんで、わたし、傷、治ってるんだろ、えへへ」
その笑みは引きつっていて、とても正視できるものではなかった。
('、`*川「な、なんで、ねえ。もしかしてわたし、すごい魔法つかえるようになっちゃったかな?」
それでも僕はペニサスを見つめた。
('、`*川「ねぇ、ねえ。なんか言ってよ」
ペニサスくん。
(´・_ゝ・`)「本当はもう、気付いているんだろう?」
('、`*川「し、しらない。しらないよ、こんなの」
彼女の笑顔は、どんどん狂っていく。
('、`*川「わたし、山で倒れてて、それを師匠に拾ってもらって。でも、」
埋 め ら れ て な ん か な い も ん ! ! !
.
215
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 12:48:39 ID:vdSRrPRY0
遡行していく記憶に対抗するように、ペニサスは叫んだ。
それでも記憶の奔流は止まらない。
うねりをあげてそれらはペニサスを飲み込んでいく。
堆積した感情は一気になだれ込み、彼女の精神を滅茶苦茶に、そして好き放題に殴っていった。
( 、 *川「アアぁあああァあアアアあぁあああ!!!!!!!」
彼女は泣いた。
同時に怒った。
わけも分からず楽しんだ。
かと思えば涙を流した。
笑い声を上げて、焦燥した。
頭を床に叩きつけ、要領を得ない思い出話に花を咲かせた。
誰かを呼びながら、舌を噛み切ろうとした。
僕が止めに入ると、ペニサスは刃を向けた。
( 、 *川「来ないで! 来ないでよ!!」
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん」
( 、 *川「今度はなに! なにを、するの……」
掠れた息と共に吐き出された言葉は、凄惨な最期を予感させた。
(´・_ゝ・`)「なにもしないよ、僕はなにもしない」
( 、 *川「うそつき!!!!」
自らの首に刃を添え、ペニサスは叫ぶ。
('、`*川「死んでやる、あんたの思い通りになんかなるもんか」
216
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 12:49:27 ID:vdSRrPRY0
(;´・_ゝ・`)「ペニサスくん!」
僕は咄嗟にペニサスの手首と刃を掴んだ。
がりがりと骨と鉄がぶつかり、思わず呻いた。
(;´・_ゝ・`)「ペニサス、くん……!」
手首を掴んでいる手に思い切り力を込める。
怯んだ彼女の隙をついて、僕はそのまま包丁をステンドグラスに向かって投げ捨てた。
極彩色のガラスが千々に割れる。
( 、 *川「やだ! やだぁぁー!! いやぁぁああああー!!!!」
金切声が鼓膜にビリビリと響く。
(´・_ゝ・`)「ペニサス、くんっ……」
僕は彼女を抱き締めた。
ずっとずっと抱き締めた。
必死に逃れようとペニサスは暴れたが、僕はそれに耐えた。
僕は、彼女から逃げたくなかった。
やがてペニサスは力なく僕の腕を叩いた。
抱き締めている体はすっかり冷たくなっていた。
( 、 *川「…………………………………………………………………………………………やだよ………………こわいよ、こわい……。おかーぁさん、おとおさん」
か細く鳴いて、それきりペニサスは黙った。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん……」
217
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 12:50:29 ID:vdSRrPRY0
軽く体を揺すると、その体がひどく重くなっていた。
すっかり脱力しきっていて、まるで死んでいるように見えて……。
(´・_ゝ・`)「…………」
彼女を床に寝かせ、そして今に至るというわけだ。
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「…………」
体が怠くなってきた。
頭がぼんやりとしてきて、意識していないと呼吸するのを忘れてしまいそうだった。
流石に辛くなり、僕も床に横たわった。
燃えるような春の夕焼けが、西へと去っていこうとしていた。
代わりにもうじき夜がやってくる。
その前に僕は意識を保っていられるだろうか。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん」
僕はなんとなしに話しかけた。
(´・_ゝ・`)「君に出会って幾日も経っていないけど僕は幸せだったよ」
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「君は自分が透明な存在だと言っていたけど、僕も同じだったんだよ」
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「子供の頃、僕はずっと特別な何かになりたいと、そうなれると何故か妄信していた。そうではないと高校生の頃に気付いたけど、大人になれば誰かが必要としてくれると信じて生きてきた」
218
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 12:51:44 ID:vdSRrPRY0
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「僕はなるべく人に好かれる努力をしてきた。誰のことも傷つけない良い人であろうとした」
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「その結果を、君はよく知っているよね。可愛がっていたつもりの部下に殺された。皮肉なものだね」
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「あんなの優しいとはいえなかったんだ。僕は自分の気にいるように相手に優しく接してきただけだったんだ」
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「その事に気付けたのは、君と出会えたからなんだ」
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「君は、傷つける勇気を持てずに透明であろうとした僕を見つけてくれた。それでも僕は透明で在り続けたけど、君は色んなものを僕に見せてくれた」
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「僕は君が羨ましかったんだ。透明にされてもそれに抗って、自分の目標を貫き通そうとした」
( 、 *川「…………、」
(´・_ゝ・`)「君は、誰よりも特別な存在だよ」
( 、 *川「…………」
219
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 12:52:25 ID:vdSRrPRY0
(´・_ゝ・`)「僕は君に生きていて欲しい。それも本当のことを全部背負って、ね」
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「酷い我儘を言っているのはわかっているんだ。だけどお師匠さんの思想に共感できなかった」
( 、 *川「……、……」
(´・_ゝ・`)「ごめんよ、僕はどうも君のお師匠さんとは相性が悪いみたいで」
( 、 *川「……、 」
(´・_ゝ・`)「……え?」
微かに、唇が動いた。
すぅっと頭の中の霧が晴れて、僕は彼女の頬に手を伸ばした。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん……?」
( 、 *川「…………わたしが、」
(´・_ゝ・`)「うん、」
( 、 *川「…………わたしが、しんだら、あなたもしんじゃうんだよ?」
なのにどうして、こんなことを?
そんな意味を含んでいるような気がした。
僕は少し考えて、こう答えた。
(´・_ゝ・`)「うまく言えないけど、君が僕を求めてくれたから僕も君を求めているんだと思う」
220
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 12:58:45 ID:vdSRrPRY0
( 、 *川「じゃあ、わたし、もうデミタスのこと、みはなすわ」
(´・_ゝ・`)「見放してもいいよ。それで僕が死んでしまっても、君が生きてくれるならそれでいいし、君が死ぬなら僕も死ぬよ」
( 、 *川「…………そんなの、だめよ」
涙交じりの声でそう言った。
( 、 *川「わたしは、死んでもいいけど。でもデミタスは生きなくちゃ」
(´・_ゝ・`)「死んでもいい奴なんているもんか。それに僕には君が必要なんだよ」
( 、 *川「…………、」
(´・_ゝ・`)「もっと色々なものを君と見たい。なにより君の夢が叶うところが見たいんだ」
沈黙が再びあたりを包み込む。
それからどれくらいの時間が経っただろうか。
結構長いことお互い黙っていたような気もするし、そうでもないような気もした。
とにかく、彼女はこう言った。
( 、 *川「……じゃあ、今度からは、使い魔らしくなってくれる?」
(´・_ゝ・`)「たとえば?」
('、`*川「わたしに敬意を払って、様付けにするとか」
緩く瞼が開く。
その目には光が宿っていて。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん……!」
221
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 13:00:01 ID:vdSRrPRY0
とても嬉しくて、だけどそれを素直に出すのがなんとなく嫌で。
(´・_ゝ・`)「……君に、様付けは似合わないよ」
僕は、唇が緩まないように我慢をした。
('、`*川「使い魔のくせに、わたしに歯向かうの?」
僕の手の甲に、彼女の手が重なる。
ペニサスは笑いながら爪を立てた。
(´・_ゝ・`)「痛いよ、ペニサスくん」
('、`*川「痛くしてるのよ」
そのうち手は振り払われて、ペニサスは仰向けになった。
僕もそれにならって、空を見上げた。
('、`*川「すっごく痛かった」
(´・_ゝ・`)「ごめん」
('、`*川「それに怖かった」
(´・_ゝ・`)「うん」
('、`*川「自分がバラバラになりそうだった」
(´・_ゝ・`)「…………」
222
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 13:00:53 ID:vdSRrPRY0
('、`*川「それでもずっと名前を呼んでてくれた、そばにいてくれた」
(´・_ゝ・`)「……うん」
('、`*川「一人じゃないって思ったら、心強かった」
日はすっかり暮れていて、空の端に藍色の菫が微かに咲いていた。
('、`*川「そばにいてくれてありがとう」
(´・_ゝ・`)「……僕は何もしてないよ、君が頑張ったんだ」
('、`*川「それでもわたし一人じゃここまで出来なかったもん」
ずいぶん手荒な手段だったけどね、とペニサスは恨めしそうに言った。
('、`*川「……死んでたんだね、わたし」
(´・_ゝ・`)「……そうだね」
('、`*川「自分の体を動かすので精一杯だったのにデミタスも生かそうとしたからスクライングする余裕もなくなっちゃったのね、きっと」
僕の犯人探しが不発に終わったことを思い出したのだろう。
ペニサスはとても悔しそうな顔をした。
僕は少し気まずく思い、話を反らすことにした。
(´・_ゝ・`)「昔、ニュースで見かけたことがあったよ」
('、`*川「ニュース?」
(´・_ゝ・`)「君の事を熱心に探していたんだよ」
223
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 13:01:50 ID:vdSRrPRY0
誰も君のことを見つけられなかったんだけど、という言葉は飲み込む事にした。
('、`*川「……生きてたら二十七歳かぁ」
しみじみと噛みしめるようにペニサスは呟いた。
('、`*川「ね、二十七歳の女の子ってどんな感じなの?」
(´・_ゝ・`)「どんな感じって言われてもなぁ……」
少し考えて、あまり変わらないよ、と僕は返した。
気の合うもの同士グループを作り、派閥も出来る。
昼休みになると食堂の一角に集まってきゃあきゃあと騒ぐし、大体恋やファッションの流行や嫌いな人の話題で盛り上がる。
そう教えると、
('、`*川「そっか」
と満足そうに呟いた。
('、`*川「師匠、怒ってるかなぁ」
(´・_ゝ・`)「心配はしているかもしれない」
('、`*川「家に帰りたくないね」
(´・_ゝ・`)「今日は帰らなくてもいいだろうよ」
身を起こして僕は鞄を取りに行った。
そしてその中から使い捨てのおしぼりとチョコチップクッキーを取り出した。
224
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 13:10:40 ID:vdSRrPRY0
(´・_ゝ・`)「食べるかい?」
ビニール袋に入ったそれを見せると、ペニサスは体を起こした。
('、`*川「買ったの?」
差し出したおしぼりで手を拭きながら、ペニサスは問う。
僕は目を合わせずにこう言った。
(´・_ゝ・`)「いや、キッチンに置いてあった瓶からくすねてきた」
('、`*川「酷い人ね、きっとこれデレさんが師匠のために焼いたのよ?」
とは言いながらも、ペニサスはクッキーに手を伸ばした。
ざくざくとした食感、ココアの苦い風味。
荒く刻まれたチョコレートが舌に当たると、緩やかに溶けていった。
それがまた食欲を刺激し、僕たちは黙々とそれらを消費していった。
もう一枚、あと一枚だけ。
なんて思っていたらあっという間に袋は軽くなってしまった。
('、`*川「あ」
(´・_ゝ・`)「あ」
とうとう最後の一枚になり、二人とも思わず声を上げてしまった。
(´・_ゝ・`)「どうぞ」
('、`*川「いいわよ、いっぱい食べたから」
225
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 13:12:36 ID:vdSRrPRY0
(´・_ゝ・`)「僕だって食べたよ」
('、`*川「でも」
(´・_ゝ・`)「今日一番頑張ったのは君なんだから、君が食べなよ」
ペニサスは少し考えて、それから遠慮がちに袋の中へと手を伸ばした。
そしてクッキーを半分に割り、僕に差し出した。
('、`*川「はい」
(´・_ゝ・`)「……いいのに」
なるべくつっけんどんに言ったつもりだったが、頬が少し緩んでしまった。
それがなんだか情けなくて、僕は慌ててクッキーを口の中に放り込んだ。
(´・_ゝ・`)「こうしてまた、君とお菓子が食べられてよかったよ」
('、`*川「……あっそ」
ペニサスはそっぽを向いてそう言った。
僕はそれを見て、なんとなく微笑ましい気持ちになった。
が、代わりに気になることがあった。
(´・_ゝ・`)「……ペニサスくん」
('、`*川「んー?」
(´・_ゝ・`)「どうして僕たちは死んでも意識を保っていたんだろうね」
ペニサスはちらりと僕を見て、それから向き合った。
226
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 13:14:54 ID:vdSRrPRY0
('、`*川「人も魔女も、死ぬと『透明な澱』に呑み込まれるの」
(´・_ゝ・`)「とうめいな、よどみ」
透明な澱とは、人間であった頃の姿を忘れた者だけが行く場所なのだという。
人間が老いや病気などで自己と他者の境界線を見失うとそこに行き、何もかもを忘れて透明になるのだという。
そのかわり自己を忘れなければ、つまり未練を残している場合にはその澱に取りこまれることもないのだという。
しかし肉体が滅んで自意識だけが残っても、誰にも見つけてもらえなければいずれ透明な澱へ導かれるのだという。
蘇生されず、そのまま現世に留まり続けた自意識。
これが所謂幽霊なのだと魔女たちの間に伝わっているのだそうだ。
さて、ペニサス曰く魔女には三通りの死があるという。
一つ目は人としての死。
魔女よりも普通の人間として過ごす時間が長い者が迎える死だそうだ。
二つ目は魔女としての死。
これは一つ目の逆パターンだ。
好きなことを追求し続けている魔女は老いることも病気になることもない。
怪我をしても魔法で治せてしまうし、悦楽と刺激を受けている限り彼らに寿命は訪れない。
しかし何事にも終わりはある。
何をしても退屈で仕方がなくなった時、彼らは人生をこう締めくくるのだという。
('、`*川「『時よ止まれ、君は何よりも美しい』、ってね。でもこの呪文って、この世のありとあらゆるものの存在を感じ取っていないと発動しないのよ」
(´・_ゝ・`)「つまり今の君じゃ無理だと」
('、`*川「そうそう。それにこの死を迎えられた魔女なんて、五人にも満たないらしいし」
(´・_ゝ・`)「ふむ……」
('、`*川「ほとんどの魔女が人として生を終えてるんですって」
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