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('A`)は異世界で戦うようです

1名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:21:36 ID:gOpuSR2Q0
鬱田ドクオとは、一言で言えば弱い人間だ。

過去を振り替えれば後悔しなかった出来事はないし、ましてや努力なんて言葉とは無縁の存在である。

テストは赤点ギリギリ、運動能力は一般人より少し劣る程度、体つきは貧相なもので米俵一俵持つのが精一杯。かといってそれらを補うための努力をしたいなぁとは思っても、けして実行することはなかった。

そんなわけだからドクオは自分という存在が嫌いだった。変わりたいと願っても、変えようとすること自体がめんどくさくなってしまう。

大学を卒業し、なんとか内定をもらった会社も周囲の環境に溶け飲むことが出来ず、やめてしまったことも自己嫌悪の一つの原因である。

よって、ドクオにとっての自分とは、あってもなくても変わらない路傍の石のような存在で、そんな自分が世界に与える影響など皆無だと信じ込んでいた。

*鼹類燭辰榛*、この瞬間までは。

202:2014/06/08(日) 17:42:50 ID:0Jfq5erY0
どうも1です
やっと筆がのって来まして現在半分ほど書き上がっております
ただ調子にのって余計なこと書きまくってたので、推敲後もあまり短くはらなければまさかの前中後編になるやも……
とりあえず明日には間に合いそうだということのご報告です

203:2014/06/08(日) 17:44:41 ID:0Jfq5erY0
>>201
いらっしゃいませ
無理せず書いていきたいと思っておりますが、やはりスピードを意識してしまいます
売れない作家はスピード命なのですよ

204名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:28:07 ID:I9fNWMOY0
何かうまく言えないが
自分がおもしろいと思うものの本質を思い出したわ
ありがとう

205:2014/06/08(日) 23:47:56 ID:SOKdFUyk0
本日二回目の登場となります1です
今しがた第四話を書き終えたのですが、文章量が通常の1.5倍となってしまいました
ですので上のレスにある通り、今回は前中後編の三話編成でいきます
ろくに計画を立てられない作者ですいません
第四話の投下は明日の21時から24時の間に行います
それではまた

>>204
そう言っていただけると作者冥利につきます
今後も頑張っていきますのでよろしくお願いいたします

206名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 03:15:50 ID:5jgAuYLcO
ω・)乙。これがブーン系初投下とか信じられないうまさだ。

207:2014/06/09(月) 06:11:11 ID:jAl3WcRQ0
>>206
自分ではあまりそう思えませんが、そう言っていただけるだけで小躍りしたくなります
今後もそう言っていただけるだけようひたすら書いていきますのでよろしくお願いいたします

ちょっとした提案なんですが、ブーン系が元々vipで書かれていたということですので
今後時間があればvipでも投下していきたいなぁと思っているのですが、皆様いかがでしょうか?
稚拙な文章をさらに大勢の方に晒すことになるのでちょっと緊張しますが
自分もブーン系作者としてデビューしてしまったので、多少なりとも貢献しようかと思っているのですが……
皆様の意見を頂ければ幸いです

208名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 12:31:30 ID:jgdEf9/w0
貢献とか気張った事は考えなくても、もっと多くの人に見てもらいたいとかなら投下したら良いと思うよ
でもこっちでも読みたいから、アモーレみたいにvipに投下しつつ創作板にも投下するとかのがいいかと

209名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 15:58:45 ID:/ZzRx.nI0
ヴぃp投下に不満はないけど投下するときはこのスレのURL貼った方がいいと思う まとめが付いたらそれでもいいと思うけど

210:2014/06/09(月) 23:20:51 ID:Q3Oqlw1I0
>>208>>209
見てもらいたいという気持ちはありますが、反応とか気になるんですよね……
vipってそういうとこ厳しいですし
とりあえず五話まで終わったら試験的にvip投下してみます
vipと創作の二重投下がよさそうなんで、そのようにします
あとはスレのURLですね
一応五話投下終了までは意見をお待ちしてます

では四話はっじまっるよー

211:2014/06/09(月) 23:22:46 ID:Q3Oqlw1I0




第四話「魔法使いの流儀・中編」



.

212:2014/06/09(月) 23:24:06 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

( ・∀・)「オラオラァァァァァァァァ!! やる気あんのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

怒声を浴びせながらモララーは多節式の槍を振るうと、前方にいた数人の魔法使いは為す術もなく一瞬で首を切断され絶命した。さらにモララーの後方からは閃光が迸り、地面を抉りながら周囲を殲滅していき、敵の兵士が悲鳴をあげながら熱に焼かれ、骨一つ残さず塵と帰した。

砂埃が舞い上がる中、疾走。一人の男が呆然と立っている。モララーに気付くと慌てて剣を構えたがすぐに身体を両断されて地に伏した。

と、モララーは身を屈める。次の瞬間四方八方から魔法弾が頭上を掠めていった。そのまま地を蹴り高く跳躍すると柄の節を分解し、広範囲を纏めて吹き飛ばす。着地と同時にモララーの周囲に魔法陣が浮かび上がり、幾何学的な文字から複数の光弾が帯を引いて敵を穿つ。

本来であれば人のいない寂れた廃墟が建ち並ぶ村は、たった一人の男によって悲鳴と怒号が飛び交う鮮血の舞台へと変化していく。

モララーの声が聞こえる度に爆発、土煙、悲鳴があがるのはそれだけ圧倒的だということだ。

それにしても。

( ・∀・)「最っ高に昂ってきたぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! ひゃっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

('A`)「人変わりすぎだろ、あれ」

普段の冷静沈着で少し皮肉屋なイケメンは、こと戦場に置いては過激で危険なちょっと尖ったナイフのような男になるらしい。ちょっと、どころの話ではないような気もするが。

少し離れてモララーの後ろをついて行っているが、近付きすぎれば攻撃に巻き込まれるし離れすぎては敵に狙われるというジレンマでドクオは身動きがとれなくなっていた。

ドクオも戦えないわけではないが、つい最近まで命のやり取りを経験していなかった一般人としてはごめん被りたいところである。

そもそもこんなところまでドクオが来る必要があったのかと問われると、正直口を閉ざすところだ。陽動として動いているものの、その役目はモララー一人で十分にお釣りが来る。始めに設置した自動迎撃型の魔法が有効に働いていることも理由の一つではあるが、何より設置した本人が怒濤の勢いで戦場を荒らし回っているからだ。

傍若無人に暴れまわっているように見えて意外にドクオ位置を計算して攻撃しているし、それを踏まえて効率よく戦力を潰していく回転の早さはまさに鬼神、彼の通った道には草木どころか道すら残らないかもしれない。

それにしても、とドクオは周囲を見渡した。

('A`)(たかだか一人にここまで苦戦するものなのか?)

213:2014/06/09(月) 23:25:15 ID:Q3Oqlw1I0
ドクオは本当の意味で戦争というものを知らないが多少の知識くらいはある。ドクオから見てもモララーの強さが異常だということは分かる。比較対象は渡辺やしぃくらいだが、その二人が足元に及ばないレベルだろう。

だが、敵の数はざっと見ただけで百人を優に越えている。然るべき戦術に適切な人数を投入すれば撃破できない、というほどの差は感じない。ドクオというお荷物を抱えているのなら尚更だ。

にも関わらず、ここまで一方的な戦いになっているのはどういうことなのだろう。

('A`)(敵にとってそこまで重要な場所じゃないのか? それとも単に指揮をとる人間が無能ってことか?)

どちらにせよここを死守しようとする意思が感じられない。このままでは敵方の被害は大きくなるばかりで、意味のない戦いをしていることになる。

そもそもこの戦いの目的はなんだろうか。ドクオ達は黒の魔術団の手懸かりを掴みにここにいる。

もし、仮にここが重要な拠点であれば敵もそれなりの戦力と戦術でこちらを潰そうとするだろう。

ではそうでないとしたら?

ここには何もなく、戦うことが目的なのだとすれば、その意味はなんだ?

('A`)(……時間稼ぎ)

ドクオの脳裏に嫌な予感がよぎる。

予想が当たっているとすれば、敵の意図は別にあるということだ。

ならばそれはなんだ? どこに着地点がある?

ドクオは考える。自分が持つ知識と経験の中に思い当たる節はあるか。

ドクオが巻き込まれた事件は二つ。こちらの世界に来る切っ掛けとなった結界消失事件。王都中に大勢の魔物が出現し、王都にも甚大な被害が出た。二つ目は時計塔広場でのニダーとの交戦。結界消失の際、渡辺に異常とも言える執着心を見せていた。

214:2014/06/09(月) 23:26:49 ID:Q3Oqlw1I0
そして今回の件。この三つに共通しているのは全てにドクオと渡辺が関わっていること。加えて時計塔広場の件を除き、黒の魔術団が関連している。

例えば、そう例えば、自意識過剰の可能性もあるが、黒の魔術団の狙いがドクオだとしたら? ドクオと言わず、ドクオが持っている剣が目的だとしたら?

('A`;)「……まさか」

思い過ごしの可能性だってある。確信はないのだ。だが、この奇妙な一致は偶然で片付けられるのだろうか。

思えば初めてこの世界に来たときから魔物はドクオの周りに集中していた。その背後に何があったのかは分からないが、今でははっきりと黒の魔術団が関連していることを知っているのだ。

ここまでくれば勘違いではない。もはや限りなく真実に近い推測だろう。

('A`)(けど、なんでここにいるやつらは俺を狙ってこない?)

ここにドクオをとどめておくことに意味があるのか、それともここにドクオがいることに気付いていないのか。そのどちらかである可能性が高いが、前者ならば本命の意図が不明だ。だが、恐らくここにいる意味はない。

ドクオはこの考えをショボンに伝えるためポケットに入れた端末を取り出そうとして━━

━━ドクン

( A ;)「がっ……」

がくりと膝を折った。

頭が割れるように痛い。何かが流れ込んでくる。

ニダーとの戦いで感じたような衝動に似た痛み。ドクオの大切な部分に直接働きかける何か。

不快感が体を這いずり回り、胃液が逆流しそうになる。絶対に合わない部品を強引に合わせようとするような違和感がじわじわと広がって、ドクオの意識は闇へと引きずり込まれていく。

その間際、黒く塗りつぶされた王都が見えた。渡辺と、見たことのない巻き毛の少女も。

( A ;)(なん……だ、これ……)

二人が動き出す瞬間、ドクオは意識を手放した。

215:2014/06/09(月) 23:28:07 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

从;'ー'从「はっ、はっ……」

渡辺はただひたすらにヴィップラ地区を走っていた。運動不足だからではなく、走ることしか出来ないからだ。本来の移動手段である箒は魔力の伝達がうまくいかずにその辺に捨て置いた。あんなものを持ちながら走るなんてとんでもない。

渡辺の後方からは見たことのない生き物のような物体が追いかけてきている。楕円形で中心に赤い瞳のようなものがついており、背と思われるところからは羽がついているものの、それを羽ばたかせて飛んでいるわけではないようだ。

その物体は渡辺が射線上に入ると瞳から短いビームを放つので、渡辺は出来る限り距離をとりつつうまく攻撃を交わしている。

从;'ー'从「ふえぇー、なんで追いかけてくれるのよぉ〜!!」

渡辺が思いきり叫んでも楕円形の物体は容赦なく攻撃を放ってくる。言葉を解さないことを考えても、あれは魔導人形の一部なのかもしれない。

だとすれば操っている術者が近くにいるはずだが、渡辺が襲われた地点から大分離れている。術者も一緒に追いかけてきているのか、はたまた自律型のものなのかは渡辺には理解できなかったが、あれが渡辺を確実に狙っているのはわかっていた。

もし仮にあの物体は渡辺のマナを覚えていてそこからこちらの姿を追ってきている場合はアウトだが、そうでないなら━━

从;'ー'从「こっちだよぉ〜」

人気の少ない裏通りの曲がり道を左に曲がり、さらに右に曲がる。ヴィップラ地区は商業区であるため店が立ち並んでいるのだが、それはあくまでメインストリート周辺に限られているのだ。奥に行けば行くほど人も立ち寄らないし、以前開業したはずの店も客足の悪さに閉店しそのまま放置された空き家が多い。渡辺はそこに身を潜めることにしたのである。

216:2014/06/09(月) 23:29:01 ID:Q3Oqlw1I0
元々この周辺は渡辺の庭だ。幼少期からあまり人と接することの出来なかった彼女は人気の少ないこういう場所しか出歩けなかった。

从;'ー'从(反撃したいけど、魔法が使えないんだよぉ〜。困ったなぁ)

事の起こりは王都を覆う結界の異変だった。なんの前触れもなく唐突に、結界は黒く変色したのである。そして、それを境に王都の至るところで魔法が使えないという報告が相次いでいるようだ。

その時渡辺は資料の完成を祝うためにツンと街に繰り出しており、結界が黒くなる瞬間を見ていたのだが、それと同時にあの飛行物体が襲撃してきたことで渡辺はツンとはぐれてしまったのだった。

ツンも心配だが、とにかく今はこの状況を切り抜けるのが先決だ。魔法が使えない以上、今の武器は土地勘だけ。

ならばそれを精一杯利用してあれを無力化するしかない。

廃墟から少し顔を出して辺りを窺うが、動くものはないようだ。どうやらあれはマナや魔力で標的を探索するタイプではないらしい。そばによらなければ追ってはこないだろう。

从'ー'从(でも、なんで私の事狙ってたのかなぁ)

王都の内部で魔法を使えなくする、というのは分かる。王都が抱える戦力の殆どが魔法使いである以上これは最も効果がある。

だが、王族や騎士団の重鎮を狙うのではなく何故渡辺なのかがさっぱり分からない。思い当たる節があるとすれば自分が<忌み子>だからだろうか。

だとして、こんな大がかりな仕掛けを施す理由は?

普段あまり使うことのない頭をフル回転させるが理由は見当たらない。そもそも渡辺が目にしたのは自分が狙われているという事実だけであり、他の場所で別の人が襲われている可能性も否定はできないのだ。

217:2014/06/09(月) 23:29:56 ID:Q3Oqlw1I0
从'ー'从「やっぱり、もう一回街に戻って様子を見てきた方がいいかなぁ」

渡辺が廃墟から一歩出ようとして、すぐにやめた。

从'ー'从(……誰?)

足音が聞こえる。魔物のような大きい足音ではない。コツコツとヒールが石畳を叩くような音だ。

川д川「隠れてないで、出てきたらいかが?」

若い女の声が聞こえた。誰に向けての言葉なのか、渡辺には判断ができない。他に誰かがいるのかもしれない。

渡辺は体を強ばらせてじっと耐える。出来ることなら自分に気付かないでくれ。そう願いながら。

川д川「クスクス、かくれんぼなんて歳でもないのだけれど、いいわ」

女の周りでひゅんと何かを振る音がした。大丈夫、今王都で魔法は使えない。

川д川「見つけてあげる」

女の声を合図に、周囲の建物が崩れ始めた。渡辺は慌てて廃墟を飛び出すが、女はこちらを見付けるとにやりと笑い、持っていた杖から魔方陣を呼び出した。

从;'ー'从(魔法は使えないはずじゃ……)

一瞬の思考が渡辺の行動を遅らせた。女が放つ黒い光が渡辺に当たると、ぱっとはじけ、途端に渡辺は地面に倒れこんだ。

从;'ー'从(か、体が、重い……)

まるで地面に縫い付けられたように体があがらず、立ち上がることはおろか指を動かすことすら出来なかった。

川д川「ふふふ、残念だったわね。貴女に恨みはないけれど、私達のために死んでいただけるかしら?」

渡辺は反論したかったが、声がでない。少しでも力を抜けば押し潰されてしまいそうだ。

川д川「<忌み子>だなんて言ったところで所詮他の人と何も変わらないのに、悲しい話だわ。きっと貴女を殺すのは私ではなく、そう願う他人の悪意。恨むなら世界を恨みなさいな」

女はそれだけを言うと杖をこちらに向けた。こんな至近距離で魔法を使われれば、待っているのは確実な死である。

逃げようと渡辺は体に命令を下すが、なんの魔法なのか体は言うことを聞かない。どころか徐々に悲鳴をあげて筋肉からぶちぶちという音と共に刺すような痛みが走った。

川д川「さようなら、不幸な仔猫ちゃん」

死を覚悟し、目を閉じる。残された策はない。最後にドクオの顔を見たかった。

从 ー 从(さよなら……)

218:2014/06/09(月) 23:31:29 ID:Q3Oqlw1I0
ξ#゚⊿゚)ξ「させるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ツンの怒号。そして爆発。渡辺は爆風で吹き飛ぶが、誰かに抱えられて衝撃はなかった。

从'ー'从「ツンちゃん!?」

ξ゚⊿゚)ξ「話はあと!! 逃げるわよ!!」

ツンは渡辺を抱き抱えたまま宙を舞う。そのまま一気に加速すると、景色が早送りのように流れていった。

川д川「少しおいたが過ぎるんじゃないかしら。━━のく━━」

女の声が遠くから聞こえてきたが、最後まで聞き取ることは出来ず、やがて意識は途絶えてしまった。

219:2014/06/09(月) 23:32:18 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

彼女はいつも一人きりで、彼女の知る世界は使用人が数人と広い大きな屋敷の中だけだった。外の世界があることは知識として知っていたが出たことはない。

屋敷の中には同年代の者はいなかったし、彼女には常にやるべきことがあったから年相応の遊びを知らぬまま育ったのですることといえば魔法の勉強と書庫にある読書だけ。おかげで使用人達より博識になったし、その知識を応用できるだけの基礎は身に付いたと思っている。

しかし、彼女はたくさんの使用人に囲まれながらいつも孤独だった。

使用人と言葉を交わすのは必要なことと勉強中の質問だけ。故に独り言を口にするのがいつの間にか癖になっていた。

屋敷の中から見る外の景色はとても美しく、本の中の登場人物は皆イキイキとしていて自由に生きている。することのない屋敷の中なんて彼女にとってみれば牢獄も同然だった。そんな彼女だから外の世界というものに憧憬を抱くのは必然といっても過言ではなかったのかもしれない。

そんなある日、彼女はどうして自分は外に出てはいけないのかと使用人に尋ねてみた。普通の子供は外に出て友人を作り、日が暮れたら家に帰ってその日の出来事を話しながら家族と団欒を築くものではないのか、と。現に屋敷の周辺には多くの子供が遊びに来ていた。楽しそうに追いかけっこをして、朗らかに笑っているのを彼女は屋敷から見たことがある。

使用人の一人は彼女の問いに対し、あなたは選ばれた人間で周りの平凡な人間とは異なる道を歩まなければならない。それがあなたのためで、あなたはそのために生まれてきたのだ、と答えた。

自分だって子供なのに、他の人と違うなんてことに彼女は到底納得できるものではなかったが使用人が困った顔でそんなことを言うものだから彼女はそれ以上追求することが出来なかった。

220:2014/06/09(月) 23:33:10 ID:Q3Oqlw1I0
しかし、その日から使用人達と会話をする機会は格段に増えたように思う。彼女が寂しいと感じないよう、他人と違う生活をしていることに疑問を抱かないようにとの配慮だったのだろう。それから彼女はあまり孤独を感じることはなかった。

その数年後、彼女の人生に転機が訪れる。

彼女は両親が不在の理由を知らなかったし知ろうともしなかったのだが、その日は使用人達が朝から騒がしかったことから、何か重大なことがあったのだと推測していた。あの日から人が変わったように優しくなった使用人達に迷惑をかけたくなかったのだ。だから彼女は何かあれば使用人から話してくれるのを辛抱強く待った。今ではそれが間違いであったと酷く後悔している。

使用人達はその日からよそよそしい態度になり、彼女とあまり口を利かなくなってしまった。それは今だけだと彼女は信じていたが、それから使用人と会話をした記憶は、彼女が屋敷を出る最後の日だけとなる。

使用人との会話がなくなった翌週のことだった。彼女はいつも通りに起きて、いつものように勉強と読書に明け暮れていたのだが、お昼を回った頃に一人の男が訪ねてきた。今日から彼女の雇い主なのだという。

訳が分からず話を聞こうと使用人に説明を求めると、彼女の両親が亡くなったこと、お屋敷や他の土地などの資産は売りに出されてしまったことなどが明らかになった。つまり、今まで彼女は貴族と呼ばれるものだったが、彼女も気付かない間に落ちぶれ、全てを失っていたということだ。

221:2014/06/09(月) 23:33:58 ID:Q3Oqlw1I0
全てを知り、彼女は何も言わなかった。いや、言えなかった。彼女には知識が沢山あったが、見たことも聞いたこともない両親や自分の立場はどこか作り物のように感じられて現実感がまるでなかったのだ。使用人達は涙をこぼしながら謝罪の言葉を繰り返していたが、彼女はそれすら無感情に、機械的に返事をするだけで終わってしまった。

屋敷を後にしてから彼女の生活は一変する。今までのように勉強と読書だけでなく、炊事に洗濯掃除とやることは山のようにあった。しかし彼女は辛いとは思わなかった。屋敷の中から見ることしか出来なかった外の世界を出歩けたという満足感に満ち溢れていたから。どんな理不尽も、この空の青さを見れば耐えることができたのだ。

彼女が使用人として生活を始めてから一年後、今度は住む家そのものがなくなった。

彼女を雇っていた男が人身売買組織の親玉として検挙され、呆気なく騎士団に拘束、そのまま投獄されたのだ。彼女の他、彼に雇われた使用人達は屋敷を追われ食料を口にすることすら難しい生活へと身を落としてしまう。

彼女が昔思い描いた外の世界とはこんなにも無情なものだっただろうか。空は青く、空気は澄んでいて、人の心は暖かかったはずなのに、自分がいるこの場所はどうしてこんなにも醜いのだろう。

そんなことを考えながら、一人また一人と元使用人の仲間達が倒れていく。彼女は再び孤独になった。

最後に食事をしたのは何日前だったのかも分からなくなった頃、彼女は一人の少女と出会う。

住む家があり、食事も出せる。しかし一人では広すぎる家は寂しいし、自分は友達すらいない。よければ友達になってほしい。

人の温もりに触れ凍った心が雪解けの水のように流れていくのを感じた。彼女はこの恩を忘れない、どれだけ時間がかかったって必ず返すと約束して少女の友達となった。

それから一月も経たず、彼女は黒の魔術団の道具として生きることを余儀なくされた。

かつての友達に別れを告げられず、ありがとうさえ言えないままで。

222:2014/06/09(月) 23:36:39 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

(うA-)「んっ……」

意識が戻り、体を起こす。いつの間にか廃屋に放置されたボロボロのベッドのようなものに寝かされていた。モララーか誰かが避難させてくれたのだろう。

辺りを見渡すが、敵も味方もいない。静寂だけが漂っている。足音も、声も聞こえない。戦いはどうなったのか。

('A`)(くそっ、こんなことしてる場合じゃねえってのに……)

意識が途切れる瞬間、様々なものが流れ込んできていた。それは王都の情景、渡辺とその傍らにいた女の声まではっきりと。

そして一番ドクオが気になっているのは━━

('A`)(巻き毛の女の、あれは過去か?)

見たことのない場所と人がいたなかで、ドクオはその場の全てが手に取るように分かっていた。使用人の感情も、心の声も、後悔も、少女の絶望や憎悪、そして、初めて触れた優しさに、彼女がどれだけ救われ、報われたかも。

('A`)(やっぱりこれは時間稼ぎだ。しかも狙いは俺じゃなくて、渡辺。俺が本命なんだろうが、その準備ってとこか)

動かした感じでは体に異常はない。ここに来てから見ていただけなのだから当たり前だ。

('A`)「とにかく王都に戻んないと。取り返しが付かなくなる」

ドクオが外に出ると、壊れて廃れた村はさらに破壊を撒き散らされて見るも無惨な姿へと変わっていた。しかし動く者はなく、全てが終わったあとなのだと言うことを暗に悟ることが出来た。

( ・∀・)「よう」

223:2014/06/09(月) 23:38:31 ID:Q3Oqlw1I0
声の方を見ると、廃屋の屋根に腰かけたモララーと目があった。傷一つなく、程よい運動をした後のような爽やかさだ。

('A`)「戦いは?」

( ・∀・)「お前が寝てる間に終わったよ。世話かけさせやがって」

('A`)「悪い」

( ・∀・)「ま、あとは副団長の報告待ちだ。本調子じゃないなら休んどけ」

('A`)「そういうわけにはいかないんだ。急いで王都に戻らなきゃならない」

( ・∀・)「何?」

ドクオはこの戦いが時間稼ぎだということ、倒れる前に見た映像のこと、全てを丁寧に話していく。モララーは黙ってそれを聞いていたが、やがて。

( ・∀・)「駄目だ。お前が王都に行ったところで何ができる」

('A`)「戦える」

ドクオは問いに即答するが、モララーは槍の切っ先をドクオに向けて、さらに口を開いた。

( ・∀・)「お前は騎士団の人間じゃない。ただの一般人だ。戦う力だってあんのかどうかも分からない。今まではたまたま生き残れたけど、今度は? 残ってる連中もバカじゃあない。今頃対策を練っているはずだ。その上で、お前が行かなくちゃならない理由って、あるのか?」

('A`)「……」

モララーの言っていることは至極当然のことだ。いくら戦う力があるとはいえ、ドクオはあくまで守られる側の存在。そのために騎士団があり、魔法使いがいる。そこにドクオが割って入るということは、彼らの仕事を全て奪うことを意味している。誇りや矜持を、ドクオは否定するのだ。

( ・∀・)「やらなきゃならないことなら騎士団がやる。今回だって、要は大義名分のためなんだよ。本来ならここにいるべきじゃなかった」

モララーはそこで一度深く息を吸うと、はっきりと、凛とした声で

( ・∀・)「お前を行かせることはできない」

そう、言った。

( ・∀・)「連絡はいれとこう。王都がヤバイかもしれないってな。だから」

('A`)「関係ねえよ。大層なご高説ありがとさん。でも俺は行く」

224:2014/06/09(月) 23:40:09 ID:Q3Oqlw1I0
ドクオはモララーの言葉を遮り、しっかりと彼の目を見据えて言い切った。

(# ・∀・) 「よく聞こえなかった。でももう言わなくていい。疲れてんなら休め」

('A`)「なあモララーさん。あんたも分かってると思うけど、俺はいつの間にかここにいた存在だ。騎士団が掲げるような大層なもんは持ってない」

いつだって逃げ出して、努力すら否定して、目を反らして生きてきた。ドクオはそんな自分が今でも嫌いだ。

('A`)「けど、ここで見たもの聞いたもの、触れたものや感じたものは俺を変えてくれたんだ。いや、まだ変わってなんかいないかもしれない。でも、きっかけをくれた。自分の今までを全部壊せるくらいすごいきっかけだ」

この世界に生きる彼女は、不幸な境遇でも諦めず、自分のように腐らず、真っ直ぐに前を見据えている。

('A`)「俺はその恩を返すために何かがしたい。王都なんて関係ない。そんなのは騎士団が守るものだろ。なら俺はたった一人のために、すごく大きくて、小さい一人のために行くんだ。そのために、力を貸してほしい」

言い終えて、ドクオは頭を下げる。モララーは槍を肩にかけ、沈黙した。

どれくらいの時間がたったか、長かったのか、短かったのかも分からない静寂の中、一枚の紙がドクオの足元にヒラヒラと舞い降りてくる。

( ・∀・)「王都に戻るマジックアイテム落としちまった。緊急用なんだよなぁ、いやぁどこで落としたんだろうな。しかもドクオは体調不良で先帰っちまうし、不幸だなぁ。まいったまいった」

顔を上げると、モララーは明後日の方を向いてけらけらと笑っていた。男のツンデレとかはやんねえよ、と思いながら、ドクオは感謝を口にする。

('A`)「終わったら飲みにいこうぜ。あんたの奢りで」

( ・∀・)「お前の奢りだろばかたれ」

それだけ言ってドクオはマジックアイテムを手にして、強く願う。

('A`)「俺をあいつのもとに連れてってくれ」

ドクオの体は淡い光に包まれ、視界がノイズのように荒れていく。

( ・∀・)「精々気張れよ」

モララーの声を背にして、ドクオは王都へと単身乗り込んだ。

225:2014/06/09(月) 23:40:54 ID:Q3Oqlw1I0





光となって王都へと飛んだドクオを見送って、モララーは煙草に火をつけた。

( ・∀・)y━・~~「ふー。で、いつまで隠れてるんです、副団長」

モララーが声をかけると、隣の廃屋からショボンがひょこりと顔を出した。しぃも一緒にいる。

( ・∀・)y━・~~「盗み聞きなんてらしくないですよ」

(´・ω・`)「声をかけるタイミングを逃してしまってな」

ショボンはそう言うと、モララーと同じように煙草をくわえる。そう言えば彼も愛煙家だった。

(´・ω・`)y━・~~「ふー。さて、我々も帰るとしよう。ここには大したものはなかった。また一から情報を集めないとな」

( ・∀・)y━・~~「俺にお咎めはないんですか? 重大な規律違反ですが」

(´・ω・`)y━・~~「私は何も見ていない。つい先程ここに到着したばかりだからな。そうだろう、しぃ」

(*゚ー゚)「はい。転送魔法のようなものがこちらに来る際に見えましたが、それだけです」

(´・ω・`)y━・~~「だそうだ」

( ・∀・)y━・~~「都合がいいですね。それに助けられる俺も俺ですが」

(´・ω・`)y━・~~「この間言っただろう。我々は騎士団である前に一人の人間だと。僕には大事なものを守るために、無くしてはならないものを守るために戦う誰かの願いを無下には出来ないよ」

( ・∀・)「精々死んでないといいんですがね」

(*゚ー゚)「……馬鹿というのはしぶといものです。簡単には死にません」

(´・ω・`)y━・~~「だが、馬鹿じゃないと守れないものは沢山ある。組織という枠組みに嵌まっていては、絶対に届かないものがね」

(*゚ー゚)「……私には分かりません」

( ・∀・)「女子供じゃ分からないだろうよ。これは大人の男にしか理解出来ないんだ」

(*゚ー゚)「はぁ」

そう言って、モララーは空を見上げる。空は今日も青かった。

226:2014/06/09(月) 23:41:55 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

ツンと渡辺はヴィップラ地区の外れにある小屋に身を隠していた。魔法物体が未だ巡回しているため出歩くことも出来ないが、しばらくは時間を稼げるだろう、とツンの助言からである。

現在ツンは治癒魔法をかけてくれているが、口を利こうとはしなかった。何か事情を知っていそうではあるが、暗い顔で唇を噛みしめ、今にも泣いてしまいそうだ。

渡辺はわざと明るい声を出して、笑顔を作った。

从^ー^从「ツンちゃんありがとう〜。私死んじゃうかと思ったよぉ〜」

それに対し、ツンははっとしたような顔をするが、すぐに頭を横に振って、

ξ ⊿ )ξ「ごめんなさい。あんたが怪我をしたのは、私のせいだから、お礼なんか言わないで」

从'ー'从「でもでも、助けてくれたのもツンちゃんだよぉ〜。だから、やっぱりありがとうだと思うなぁ〜」

それだけのやり取りを終えると、ツンは再び口を閉じてしまった。いつの間にか治癒は終わっており、痛みはなくなっている。ツンは手持ち無沙汰になり、忙しなく視線を泳がせていた。

渡辺には、そんなツンが何かを言おうとして、どうすべきか分からない子供のように見えて、つい彼女の頭を撫でた。

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

从'ー'从「あのね、私は何が起きてるか分からないけど、ツンちゃんがそんな顔をしてると私も悲しくなるんだぁ〜。だからね、よかったらツンちゃんの抱えてる物、私に話してほしいな。何ができるか分からないけど、力になるよ。だって」

渡辺は笑う。今度は作った笑顔じゃなく、心の底から。

从^ー^从「友達だもん」

227:2014/06/09(月) 23:42:43 ID:Q3Oqlw1I0
その言葉に、ツンは目を見開きぱくぱくと口を開閉する。そして、耐えきれなくなったのか、ついには涙が溢れてきた。

ξ;⊿;)ξ「ごめん、なさい!! 私のせいで、貴女がこんな目に……」

渡辺はツンを優しく抱き締めた。子供をあやすように。

从'ー'从「大丈夫、大丈夫だよ。だから、何が起きているのか、話してほしいな」

渡辺の胸に顔を埋め、思いきり泣いたあと、ツンはぽつぽつと語り始めた。

ξ゚⊿゚)ξ「私は、黒の魔術団に所属しているの。今回、渡辺に近付いたのは、ドクオという男を捕らえるため」

从'ー'从「どっくんを?」

ξ゚⊿゚)ξ「あいつは、黒の魔術団が行った召喚魔法によって他の世界から呼び出された人間なの」

从'ー'从そ「ええー、そうだったんだ〜」

ξ゚⊿゚)ξ「……そして、私の役割は渡辺をあいつから遠ざけるようにすることと、王都の結界に細工してこの街で魔法を使えないようにすることだった」

ツンはさらに詳しく話していく。王都の近くに分かりやすい囮を起き、そこで騎士団の連中を相手取り時間を稼ぐ。その隙に王都に残った連中を無力化し、ドクオを捕獲する手筈だったらしい。

しかし、ツンの狙いは外れ、ドクオは囮の方へと向かってしまった。しかも黒の魔術団の上司である先程の女━━貞子というらしい━━は何故か渡辺を狙っている。

ξ゚⊿゚)ξ「私が聞いた作戦内容とはまったく別の展開になってて、私は慌ててあんたを探してきたってわけ」

从'ー'从「そうだったんだ〜。あれれー? じゃあツンちゃんは味方じゃないの?」

ξ;゚⊿゚)ξ「いや、だからそう言ってるじゃない」

从'ー'从「それじゃあなんで私を助けてくれたの? ツンちゃんが敵なら私を助ける理由ってなかったんじゃないかなぁ〜」

228:2014/06/09(月) 23:43:31 ID:Q3Oqlw1I0
ツン、いや黒の魔術団の狙いがドクオならば、渡辺という少女が一人死んだところで特に問題はなかったはずだ。最終的にドクオが手に入ればツンの役目は終わるのだから。

危険を犯してまで、上司に反抗してまで渡辺を助けるメリットははっきり言って、ない。

ξ ⊿ )ξ「それは……」

ツンは再び言い淀み俯いた。しかしすぐに顔を上げると決意を秘めた瞳を渡辺に向ける。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ渡辺。私の顔、どこかで見た覚えはない? ずっと昔、貴女が魔法使いになる前の話よ」

229:2014/06/09(月) 23:44:26 ID:Q3Oqlw1I0
第四話 終

230:2014/06/09(月) 23:49:16 ID:Q3Oqlw1I0
これにて第四話終了です
次で渡辺の話は終わりの予定です
最近渡辺を書いているときのイメージが具体的に出てきてしまってにやにやしてます
どっくんとかも具体的な構想はあるんですが、めんどくさいので書きません
さて、次回投下は金曜日か日曜日です
今週は何かと忙しいので長い目で見ていただけると幸いです

231名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 23:55:58 ID:Cr2B2rhE0

続き楽しみにしてます

232名も無きAAのようです:2014/06/10(火) 00:53:45 ID:2zaFXjO60
ドクオと渡辺の組み合わせはsnegな魔法少女思い出すな

233名も無きAAのようです:2014/06/10(火) 02:37:49 ID:LqOITU7.0

ワタナベの友達増えて嬉しい
この作品のワタナベは幸せになって欲しいわー

234名も無きAAのようです:2014/06/10(火) 07:11:02 ID:3Saa5kdY0
ええこや....

235名も無きAAのようです:2014/06/10(火) 20:39:13 ID:CdJYFnog0
ワタナベと友達になりたいわ
黒の魔術団さん俺とか召喚してくれませんかね?

236:2014/06/12(木) 19:22:41 ID:tutYy7xU0
どうも1です
忙しくてなかなか顔を出せずすいません
投下の予定ですが、やはり日曜日で確定になります
いつも通り日付が変わる頃に投下しますのでよろしくお願いいたします

237:2014/06/15(日) 07:59:57 ID:uuUF14NA0
今日の夜21時から23時の間に投下します
1週間も投下しませんでしたが、これからしばらくはまた3日に1回程度の頻度になると思いますのでよろしくお願いいたします

238名も無きAAのようです:2014/06/15(日) 10:02:53 ID:yeJ/gH3g0
きたきたー!

239名も無きAAのようです:2014/06/15(日) 20:34:09 ID:XnLDIZkI0
待ってた

240名も無きAAのようです:2014/06/15(日) 20:44:56 ID:2reeD9yE0
一週間くらい週刊誌だと思えばなんてことないやw
続き読ませてもらおうか

241:2014/06/15(日) 21:01:20 ID:aSUQjz8I0



第五話「魔法使いの流儀・後編」


.

242:2014/06/15(日) 21:03:10 ID:aSUQjz8I0
◇◇◇◇

渡辺の最初の記憶は沢山の人に囲まれて罵詈雑言を浴びせられたところからだった。皆口々にお前は悪魔の子だ、何故産まれてきたんだ、と心ない言葉を言う人達の表情は皆一様に醜く歪んでいた。

子供心に、自分がこんなことを言われるのは親がいないからだと思っていた。渡辺を育ててくれていたのはもう顔も覚えていない初老の男性だ。彼は初めに渡辺の親は亡くなっているのだと教えてくれたことを、はっきりと覚えている。

彼の口癖は、今は辛くとも必ずどこかに君の理解者がいる。その人が現れるまで負けちゃいけない。優しい心を忘れてはいけない。笑顔を絶やさず、誰かに優しくすれば、いつか世界は答えてくれるから。という根拠もない綺麗事だった。

渡辺には彼の言うことが漠然としか分からなかったが、笑顔でいること、人に優しくするということが幼い彼女にとってある種の指針になったのは間違いなかった。

それから渡辺はどれだけ石を投げられても、どれだけ酷い罵りを受けても笑顔でいたし、人に優しくすることを止めることはなかった。誰も彼女を認めてくれることはなかったけれど、それでも彼女は真っ直ぐでいられたのだ。

けれども渡辺は人知れず何度か泣いてしまったことがある。意地の悪い貴族の子供たちに集団で暴行を受けたとき、大切に見守っていた子猫達が近所の子供たちに殺されていたのを見たとき、そして、自分を育ててくれた初老の男性が亡くなった時。

一人でも生活出来るほどの歳になってはいたが、生まれて初めて見る人間の死というものを間近で見て、渡辺はどうしようもなく悲しくなった。この世界で唯一自分を人として見てくれた彼の存在は、渡辺の心の支えになっていたのだ。

寝たきりになり、口数の少なくなった彼は、それでも渡辺に笑顔でいろと、優しくいろと何度も何度も言っていた。

彼が亡くなる直前に言った言葉は今でもはっきりと思い出せる。

『世界はとても残酷だけれど、けして醜くはないんだ。君が誰かのために出来ることをすれば、いつか必ず世界が美しく、綺麗に見えるはずだから。その時、きっと世界は応えてくれる』

そう言って動かなくなった彼のためのお墓は、土に埋めて目印である木片を立てる簡単なものでしかなかった。

それから彼女は彼の教えの通りに絶望せず、人を恨まず、険しい道のりを歩いてきた。渡辺と彼女が出会ったのはそんな時だ。

同じくらいの年齢なのに、みすぼらしくガリガリに痩せた少女は、渡辺の遊び場となっていたヴィップラ地区の裏路地で、虚ろな目をして壁に背を預けていた。

渡辺は迷わず彼女に食料を分け与え、身寄りがないことを知ると一人で住むには広すぎる家に招くことにした。嫌でなければずっとここにいてもいいよ、と言葉を添えて。

それから彼女とは友達になった。寂しかったのかもしれない。誰にも認められず、孤独な日々は渡辺に温もりを忘れさせていたから。

彼女が家に来てからは毎日が楽しかった。何をするにも一緒で、楽しいことも辛いことも彼女がいたから乗り越えられた。

共にいた一月ほどの時間は、今でも彼女の宝物だ。生まれて初めての友達だったから。

けれども、二人の楽しい日々は、呆気なく終わることとなる。

彼女は一人買い物に行ったまま、二度と戻ってくることはなかった。

買いに行った品物だけが、渡辺はどうしても思い出せない。

243:2014/06/15(日) 21:13:54 ID:ZFOD1W1k0
◇◇◇◇

王都に戻ったドクオは、結界が黒く変色している中をひたすら走っていた。道中楕円形の飛行物体にレーザーを撃たれたがすぐに粉砕して先を急ぐ。

('A`)(渡辺はどこにいるんだ!? 早く見つけないと、取り返しがつかないことになる!!)

現在どこにいるのかは分からないが、意識が断絶する瞬間に見た景色はヴィップラ地区なのだということは分かっている。記憶にないはずの光景なのに、何故かドクオはそう確信していた。

妙に冴え渡る頭と、走っても走っても尽きない体力、とてつもない運動能力は人間の範囲を越えている気もするが、それでも今はありがたい。そのおかげで誰かを救うために動けるのだから。

('A`)(どこだ、どこにいる。あの場所からそう離れてはいないはずだ)

川д川「あらあら、随分とお早い帰還ね」

('A`)「誰だ」

足を止めて声の方へと振り替えると、髪の長い長身の女が立っていた。杖を持っているところを見ると、魔法使いのようだ。

244名も無きAAのようです:2014/06/15(日) 21:24:13 ID:k5sBsVUEO
きたか支援

245:2014/06/15(日) 21:25:33 ID:DLxT8URU0
川д川「初めまして、魔剣の主。私は貞子、あなたをこちらに呼び出した黒の魔術団の一人よ」

深くお辞儀をして、貞子はくすくすと笑う。前髪に隠れて目は見えないが、口元が嫌らしく歪に曲がっている。

('A`)「いきなり黒幕のお出ましとは運がいい。お前を倒せば結界も元に戻るんだろ?」

川д川「さあ? 試してみてはいかが? もっとも、その間にもあなたの探す女の子が醜い肉塊になっているかもしれないけれど」

('A`#)「ってめえ!!」

ドクオは怒りに任せて斬りかかるが、貞子の姿は陽炎のようにゆらりと揺れて見えなくなった。

川д川「随分と元気がいいのね。でも、今のあなたでは私の足元にも及ばない」

ドクオの背後から黒い塊が飛んでくる。慌てて剣を振ってそれを消し飛ばし、貞子へと踏み込むが、またも実体を掴めず、攻撃は空を切った。

('A`)「くっ、ちょこまか動きやがって」

再び貞子へと突撃し、攻撃、空振りを繰り返す。その間にも貞子の攻撃は激化し、徐々にではあるがドクオは押され始めていた。

('A`)(集中しろ。次の攻撃はどこから来る? どの位置なら俺に隙がでる?)

当たらぬ攻撃を何度も繰り返しながら、ドクオは考える。貞子の攻撃はいつも死角から。こちらの機動力を上回っているからこその行動。そこに付け入る隙はあるはずだ。

川д川「これ以上やっても無駄よ。元気のいい子は嫌いじゃないけれど、少し元気すぎるわあなた」

空振り。しかしドクオはすぐさま反転。
数歩の距離に貞子はいた。

('A`)(捉えた!!)

地を蹴り、爆発的な速度で距離を詰める。

川д川「あら」

('A`)「らぁぁぁぁぁ!!」

246:2014/06/15(日) 21:26:56 ID:DLxT8URU0
が、貞子は杖で剣を受け止めた。何の変哲もない、木の杖で。

('A`)「なっ」

川д川「まだまだね。その程度では」

魔方陣が浮かび上がり、瞬間、黒い帯がドクオを包んだ。

( A )「がっ」

外側ではなく体の内側を抉るような痛みに、ドクオはついに膝を折った。立ち上がっても、足が震えてバランスをうまく保てない。

結局、ドクオは倒れてしまった。

( A )「く……そ……」

体がうまく動かない。貞子に顔を向けて睨み付けるのが精一杯だった。

川д川「だらしないのね。もう少し楽しませてくれてもよかったのに」

そう言って、貞子は背を向けた。体がだんだんと透けていく。

『今日は顔見せだけで済ませておくわ。次に会ったときは楽しく踊りましょう』

('A`)「待て!! 渡辺はどこにいる!? お前らの目的はなんだ!?」

『ふふふ、自分の力で探してみなさい。あなたにはそれが出来るだけの力がある』

('A`)「なっ」

『私は一足先に目的を達するとするわ。ごきげんよう』

その言葉を最後に貞子の声は聞こえなくなる。

('A`#)「くそっ、早く渡辺を見つけないと」

しかし、これではっきりした。今回敵の目的は渡辺だ。ならばドクオのやることは一つ。

('A`)「待ってろよあの女。てめえらの好きにはさせねえぞ」

傷だらけの体を気合いで起こし、ドクオは再び王都を駆ける。まだ終わっちゃいない。体は動く。ならば、ここからが本番だ。

247:2014/06/15(日) 21:27:46 ID:DLxT8URU0
◇◇◇◇

ツンから全ての話を聞いた渡辺は震えが止まらなかった。買い物に行くと言って行方知れずだった少女が、大好きで大切だった彼女が、生まれて初めてできた唯一の友達が、今目の前にいる。

从;ー;从「あ……あぁ……」

生きていてくれた、再会できた。ずっとずっと会いたかった。

从;ー;从「ツンちゃん……ツンちゃ
ーん!!」

ξ;⊿;)ξ「渡辺!!」

二人はどちらともなく抱き締めあう。数年ぶりに見る彼女は大人の女性だが、記憶の片隅で息吹いている少女の面影は確かに残っていた。少しつり目になっているところも、なかなか素直になれないところも、全部全部昔のままだ。

从;ー;从「会いたかったよぉ!! 沢山探したんだよ!!」

ξ;⊿;)ξ「ごめんね、ごめんね……」

从;ー;从「ふえぇーん!! 許さない、許さないんだからぁ!!」

彼の言うことは間違っていなかった。人に優しく、笑顔でいれば、いつか世界は応えてくれる。この瞬間、いや、本当はずっと前から世界は渡辺に応えていたのだ。

ツンが生きていてくれたことが何よりの証拠。もしかしたら二度と会えないかも知れなかったのだから。

从うー;从「ツンちゃん今まで何してたのよぉ。ずっと心配してたんだよ?」

ξ;⊿;)ξ「私だって、会いたかった!! 今日まで生きてきて、あんたのこと忘れたことなんてなかった!!」

从;ー;从「私だって忘れたことないよ!!」

渡辺にとって、彼が亡くなってから初めて自分と対等に話が出来たのは、人として真っ直ぐに接することが出来たのはツンだけなのだ。忘れることなどできなかった。忘れようとしたって簡単には消えない大切や思い出だ。

ξ;⊿;)ξ「ほんとはずっと声をかけたかった、ちゃんと話をしたかった。勇気がでなくて、騙すようなことして……ごめんなさい……」

从;ー;从「いいよ、そんなの。ツンちゃんが今こうして目の前にいるんだもん。私は、それだけで十分だよ」

248:2014/06/15(日) 22:19:33 ID:7492edUQ0
これから沢山の話をしよう。ツンがいなくなったあとの話だ。魔法使いになったこと、友達ができたこと、きっと全部を話す頃には世が明けてしまうだろう。でも、そんなことは些細なことだ。だってこれからは隣にいてくれる。渡辺も隣にいる。

あのたった一月は、そう思えるほどに尊く、大切な日々だったから。

しばし二人で互いの存在を確認しあうように抱き合い、やがてツンは体を離した。

ξ゚⊿゚)ξ「やっぱりあんたは変わってないわね、昔から。ずっと優しいままだわ」

从'ー'从「ツンちゃんだって、ずっと可愛いままだよぉ」

ξ゚⊿゚)ξ「……ありがと。でも、今はお互いを誉めちぎってる場合じゃないみたい」

从'ー'从「ほえ?」

ツンが渡辺を庇うように前へでる。辺りには誰もいないように見えた。

川д川「あら、意外に勘がいいのね。気付いていないのかと思ったのだけど」

やがて何もないはずの空間に黒い影が浮かんだかと思うと、ぐにゃりと歪んで人の形を作る。そこから、まるで旧友を訪ねるかのような気さくな態度で貞子が現れた。

从;'ー'从「嘘……」

249:2014/06/15(日) 22:34:51 ID:aSUQjz8I0
ξ゚⊿゚)ξ「こいつにとって距離なんて関係ないのよ。対象のマナさえ分かればどこにだっていけるし、現れる。私が今まで逃げ出せなかったのは、そのせいよ 」

川д川「逃げるだなんて、あなたを一人前に育て上げたのは誰だと思ってるのかしら」

心外だ、とばかりに貞子は言葉を投げるが、ツンは唾を吐き捨てるように忌々しそうに、

ξ゚⊿゚)ξ「人の命を道具としてしか見れないあんたに、育てたなんて言う資格あるわけないでしょ」

そう、はっきりと告げた。

川д川「反抗的な目つきね。一応、聞いておくわ。その娘を渡しなさい。そうすれば、今までのおいたも目を瞑ってあげる」

ξ゚⊿゚)ξ「断る! 私はあんたに利用されてたけど、この魂、プライドまで売り渡したわけじゃない! 渡辺はね、私を救ってくれた! 自分だって辛い目に合ってるのに、それをおくびにも出さずに私の手を取ってくれたのよ!? その恩も返さず、いなくなった私をまだ友達だと言ってくれる!」

ξ゚⊿゚)ξ「人を人だとも思わないようなあんたに、この気持ちは分からないでしょう! だから、私は渡辺を守る!」

ツンは声を張り上げ、高らかに宣言した。

対して貞子は余裕を崩さず、口元をにやりと歪め、

川д川「交渉決裂、ね。いいわ、少し痛い目を見て思い知りなさい」

持っていた杖を構えると、彼女の周囲からいくつもの黒い波動が巻き起こった。

ξ゚⊿゚)ξ「渡辺、離れてて。私が絶対に守ってあげる」

そして、二人の魔法使いは戦闘に入った。

渡辺はそれを見ていることしかできない。魔法が使えないことがこんなにももどかしいと思ったのは初めてだった。

从'ー'从(ツンちゃん……)

250:2014/06/15(日) 22:35:45 ID:aSUQjz8I0


ツンは手をかざし、魔法陣を幾つも作る。そこから黒い球が現れ、レーザー状の攻撃を貞子へ放った。

当たるとは思わない。貞子はツンに闇魔法を教えた人間だ。対策やこちらの考えはお見通しだろう。

ξ゚⊿゚)ξ(けど、こっちだって貞子のやりそうなことは分かってる。それに、あっちは私のもう一つの魔法を知らないはず)

貞子はレーザーを軽々と避けていくと、杖を鳴らした。魔法陣がツンの上下から挟むように出現。すぐに前方へと走り、再び魔法。

貞子は接近戦も心得ている。ツンでは到底敵わないだろう。ならば次の手次の手で追い込むしかない。

ξ゚⊿゚)ξ「食らいなさい!!」

複数の魔方を同時に放つ。一つは貞子の後方から上下左右に黒い網を展開させ、二つは貞子の両側面に爆発する黒球。正面に自身の体に魔法を纏わせるための強化魔法。

貞子は網を破ろうと魔法の準備をしていたようだが、ツンの接近に気付き数瞬動きが遅れた。

ξ゚⊿゚)ξ「はぁぁぁぁぁぁ!!」

ツンの両手から膨大な黒い波動が放出され、その魔力が両隣の球を誘爆させる。後方には網があるため威力は落ちないはずだ。

しかし、それだけでは貞子を倒せないのはわかっている。今のうちに他の魔法を張っておく。

ξ゚⊿゚)ξ(大事なのはこちらの手を読ませないことよ。大丈夫、私ならできる)

設置型の魔法は貞子が触れると発動し、ダメージを与え、さらに魔力を奪うタイプのものだ。ツンでは彼女の魔力を根こそぎは奪えない。少しずつ、少しずつ力を使えないように手を打っていくのが精一杯だ。

魔法を設置し終え、次の行動に移ろうとツンが動いた時、図上に大きな魔法陣が出現。貞子だ。

ξ゚⊿゚)ξ(くっ、渡辺!!)

ツンや貞子が使う闇魔法は防御系の術が使えない。つまり攻撃することしか出来ないのだ。

急いで渡辺の元へと走り、手を引いてその場を離れる。建物や床がメキメキと引き剥がされ、塵となっていく。あの広さと威力ではツンが仕掛けた魔法も意味を為さないだろう。

从'ー'从「ツンちゃん、ごめんね。私も戦えれば……」

ξ゚⊿゚)ξ「気にしないで。元々私が撒いた種よ。それに、私はあんなのに絶対負けないから」

振り返ると崩落したフロアの中心に傷一つなく立っている貞子の姿が確認できた。あれだけの瓦礫の中無傷で立っていられるのだから、ツンは自分と相手の差を突きつけられた気がした。

ξ;゚⊿゚)ξ「化け物め」

川д川「相変わらずつまらない攻撃ね、考えさせる暇もないくらい、大きく攻撃すればそれで終わりなのよ?」

貞子はさらにツンと渡辺の周囲を取り囲むように陣を置いた。

ξ;゚⊿゚)ξ「なんの真似よ」

251:2014/06/15(日) 22:36:36 ID:aSUQjz8I0
川д川「私は貴女を壊したくないの。まだまだ利用価値があるからね。だから、その娘を渡しなさい」

ξ゚⊿゚)ξ「断るって言ってんでしょ、あんたしつこいわ」

川д川「私は望んだものを全て手に入れないと気がすまないの」

ξ゚⊿゚)ξ「知ってる。だから私はここにいるのよ」

ツンは今までの生活を思い出す。貞子はツンを人間としてではなく、道具として様々なことを叩き込まれた。人を騙したし、殺しもした。誰も自分を誉めてくれなかった。それでも今日まで生きてこれたのは渡辺との思い出が彼女を人間たらしめた。

だからこそツンは渡辺だけは守ると決意している。たとえその結果、自分が死んでしまうとしても。

ξ゚⊿゚)ξ「それに、あんたなんか勘違いしてない? これで追い詰めた、なんて思ってるのかしら?」

川д川「まだ何か策があるとでも?」

ξ゚⊿゚)ξ「いいえ。策と言えるものじゃないわ。けど、あんたの言ったことは一つだけ間違ってない」

ツンは手を高くあげ、

ξ゚⊿゚)ξ「策を与えないほどでかい攻撃で勝負は決まるってこと」

巨大な魔法陣が浮かぶ。

ξ゚⊿゚)ξ「私がまだ使用人と暮らしてた時に見た魔導書がこんなときに役立つなんてね」

貞子が一瞬だけ狼狽えるのが見えた。ツンはやつを出し抜けたことに思わずにやけてしまう。

ξ゚⊿゚)ξ「禁呪を食らいなさい!!」

魔法陣からツンが持つ魔力が放出され、暴走する。床も、建物も、何もかもが一瞬の内に蒸発し、塵すら残さない。凄まじい魔力の風がツンの体を叩き、立っていられずツンは近くの壁に激突してしまった。

自分で放った魔法にやられるなんて情けない、とは思っても、完成していない魔法を必要以上に誰かを傷つけることなく行使出来たのは僥倖としか言いようがないだろう。

それにこれだけの魔力の奔流に打たれたのだから、いくら貞子とて生きてはいまい。

魔力の暴走が収まり、辺りに静けさが漂い始めた。禁呪を放った場所は何もない。何かを使って綺麗な楕円形にくり貫かれたかのように、そこだけが他と切り離されている。

从'ー'从「ツンちゃん!!」

252:2014/06/15(日) 22:38:02 ID:aSUQjz8I0
いつの間にか渡辺が駆け寄っていた。見たところ大きな傷はないようだ。細かい石などで肌を浅く切ってはいるが、痕は残らないだろう。

ξ;-?゚)ξ「や、やってやったわ……。ごほっ」

渡辺の肩を借りて立ち上がるも、ツンは遂に血を吐き出す。さすがに禁呪と呼ばれるだけのことはあり、マナがごっそりと減って体内の機能すら低下しているようだった。筋肉は軋み、内臓も本来の動きをしていない。

从;'ー'从「すぐにお医者さんのところに連れていくね!! 死んじゃやだよ!?」

ξ;-?゚)ξ「全部終わったんだから大丈夫よ。あとは、王都の結界を元に戻せば……」

ツンはそこまで言って、自分を襲う衝撃に身を委ねるしかなかった。

甘かった。

敵は道具として自分の隅々まで知り尽くしている女だ。禁呪のことも分かっていて、打たせたと言うのか。

だとしたら、あの狼狽振りも、演技としか思えなかった。

床を何度も転がり、ツンは緩慢とした動きで先ほどの場所を睨み付ける。渡辺は無事だったが、近くには、やつがいた。

川д川

ξ;+?゚')ξ「渡辺!!」

川д川「さすがに今のは驚いたわ。予想よりも凄まじい威力ね。でも」

貞子は言いながら杖をツンに向ける。同時に、ツンが放った禁呪よりも規模は小さいが、同じものが放たれた。

ξ ? )ξ「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

死なない程度に加減されたのか、体はまだ残っている。意識もある。しかし、もう動けない。骨は何本も砕け、内臓を傷つけ、呼吸すらままならない。放っておけば自分が死ぬだろうことは簡単に予想できた。

从;ー;从「ツンちゃん!! お願い!! 私はいいからツンちゃんをいじめないで!!」

渡辺が立ち上がり、ツンの前に立ちはだかった。魔法も使えない、運動も得意ではない彼女が。

从;ー;从「あなたの狙いは私でしょ!? 好きにしていいから、ツンちゃんは助けてよ!!」

ξ ? )ξ「渡辺……何を……」

ツンには渡辺が何を言っているのか分からなかった。何故魔法も使えないのに立ちはだかるのか。

253:2014/06/15(日) 22:39:35 ID:aSUQjz8I0
从;ー;从「もう嫌だよ!! 私のせいでツンちゃんが傷つくのなんて見てられない!! 私一人の命でツンちゃんが、みんなが助かるなら、こんな命いらないよ!!」

渡辺のせいじゃない。これは自分のためだ。渡辺には生きてほしいから。日溜まりの中で、笑っていて欲しいから戦っているのだ。

ξ ⊿ )ξ「やめて……それじゃあ、私が戦った……意味が……」

なのに、救おうとしている本人にそんなことを言われたら、もう何も出来ないじゃないか。

从;ー;从「ツンちゃん、私のために戦ってくれてありがとう。でも、もういいよ。休んで大丈夫だよ」

大丈夫じゃない。渡辺の声は震えている。こんなにも誰かに優しい人間が死んでいいわけがない。

ξ;⊿;)ξ「やめて、お願いだから……」

まだ戦える。心は折れていない。なのにな、何故体は動かないのか。目の前で大切な友達がいるのに。

川д川「泣かせるわね。友情のために命を差し出せるなんて、すごいわ。尊敬しちゃう」

从;ー;从「貴女にはきっと分からないだろうね。人を傷つけることしかしない貴女なんかには一生分からない」

从;ー;从「魔法は誰かを傷つけるための力じゃない。大切な人を、心を守るために力ない人が学ぶものなんだ」

从;ー;从「魔法使いだから魔法が使えるんじゃない。誰かを守りたいから魔法使いになったんだ」

从;ー;从「だから、魔法を使えないからってツンちゃんがやられるのを見てることなんてできない。それが━━」

254:2014/06/15(日) 22:40:16 ID:aSUQjz8I0






从;ー;从「魔法使いなんだ」





.

255:2014/06/15(日) 22:41:08 ID:aSUQjz8I0
川д川「……そう。言いたいことはそれで終わりかしら? ならば、お望み通り殺してあげる!!」

貞子が初めて語気を荒らげた。なのにつも冷静沈着で、余裕を崩さなかったあの貞子が。

渡辺の言葉は、きっと渡辺にしか言えないことだ。ツンだってそんなこと言えるわけがない。

人を殺し、傷つけ、騙してきた自分にはきっと言えない。

でも、それを信条とする彼女の力にくらいなってあげたっていいじゃないか。そばにいて、支えてあげるくらいはさせてくれたっていいじゃないか。

なのに、何故こんなにも現実は無情なのだろう。肝心なときに助けてくれないのだろう。あの子は何も悪いことをしていないのに、どうして酷い目に合わなくちゃならないのか。

渡辺はいつかツンにこう言った。

世界はとても残酷だけれど、けして醜くはないんだよ。誰かのために出来ることをすれば、いつか必ず世界が美しく、綺麗に見えるはずだから。その時、きっと世界は応えてくれる。

ξ ⊿ )ξ「なら、応えてよ」

渡辺はもう十分に誰かのために戦った。そして今尚誰かのために戦っている。

貞子が杖を振るうのが見えた。特大の魔方陣が現れ、魔法が発現していく。

ξ;⊿;)ξ「渡辺のために、誰か応えなさいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

その時だった。彼女の願いに呼応するかのようにそいつが現れたのは。

魔法が渡辺を飲み込む間際、

(゚A゚)「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

紅い剣を持ったひょろい男が雄叫びをあげて魔法を消し飛ばした。

256:2014/06/15(日) 22:48:13 ID:y0WfqNpk0
◇◇◇◇

ドクオは剣を構え直し、渡辺と、その後ろで傷だらけになっている少女を見る。流れ込んできた映像に出てきた少女だ。確か、ツンと呼ばれていた。

数年前に渡辺と友達になり、すぐに別れてしまった少女。

彼女はきっと渡辺のために戦ったのだろう。綺麗なはずの肌はボロボロで、顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。それでも彼女は最後まで戦おうとしていた。他の誰でもない、渡辺のために。

そして渡辺はそんな彼女のために、命をかけた。何もできないことを知りながら、せめて盾になろうと駆け出した。

誰もが出来ることじゃない。他人を思い遣り、その上で命をかけようだなんて、簡単に出来ることじゃないのだ。

( A )「お前がツンを傷付けたのか?」

川д川「ええ」

( A )「お前が渡辺を泣かせたのか?」

川д川「そうよ」

( A )「お前はこれからも誰かを傷つけるのか?」

川д川「必要ならば」

( A )「そうか。もういい」

ドクオは貞子をしっかりと見据えると、腹に力を入れ、思いっきり叫んだ。

(゚A゚)「てめぇは泣いて謝ったって許さねえぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

257:2014/06/15(日) 22:49:08 ID:y0WfqNpk0
ドクオは前に一歩踏み込む。それだけで貞子との距離をゼロに詰めた。

('A`)「はぁぁぁぁぁぁ!!」

横に一閃。先程相対した時と同様、貞子は姿を眩ます。同時に何かの魔法陣が仕掛けられていた。

('A`)「るぁ!!」

爆発。が、ドクオは剣を振った勢いそのままに反転すると、爆風を利用して跳躍した。その先には貞子が魔法陣の準備をしていた。

川д川「さっきよりは遊べそうね」

('A`)「余裕こいてんなよ」

貞子の攻撃を一振りで消し飛ばし、さらに接近。しかし当然貞子は下に移動する。ドクオは近くの建物の壁を蹴って貞子をおった。

貞子は複数の魔法で迎撃してくるが、ドクオには効かない。剣を振ればそれだけで消えるのだ。要は敵の動きを先読みさえすれば負けるわけがない。

川;д川「くっ」

強烈な突きを繰り出すと、貞子は後方に飛ぶ。流石に当たればまずいと察したのか、避けながら小さい魔法でこちらを牽制し始めた。

ドクオはそれを消さずに動体視力のみで隙間を潜り抜けて貞子を目指す。相手に時間を与えればそれだけ様々な魔法がドクオを襲うのだ。

川д川「さっきとは段違いの動きね」

('A`)「俺にもさっぱりだけどな」

貞子が目の前に黒い壁を生成する。どうやら動きを悟られたくないようだ。

ドクオは壁を切り裂くと、すぐに距離を取る。やはり貞子はいない。

川д川「でも、まだまだよ」

頭上から大量の黒い矢が降り注いだ。逃げ場はない。

('A`)「ちっ」

大きく横に飛んでその場を離脱。が、黒い矢はドクオを追跡し方向を変えた。

斬り飛ばすか迷ったが、ドクオはそれに突っ込んだ。矢はドクオを追って他の矢に当たると相殺していく。

('A`)「ちょこまかと逃げやがって」

258:2014/06/15(日) 22:50:28 ID:y0WfqNpk0
再びおいかけっこが始まり、ドクオは貞子を捉えられずに翻弄され始めた。魔法は消し飛ばせるものの、それを相手すれば貞子は姿を消して違う方向から攻撃を繰り出してくる。かといって攻撃を無視すれば渡辺やツンに流れ弾が当たる可能性があり、迂闊に避けられない。

貞子もそれを理解しているのか、うまく位置を変えながら魔法を使うため、ドクオも次第に消耗していく。

('A`;)(このままじゃ俺が先にまいっちまう。動きを止められれば……)

貞子との距離を詰めるのはそう難しくはない。身体能力は断然こちらが圧倒している。問題は動きを邪魔する魔法の方だった。

('A`)(でかい一撃なら隙もでるはず!! それを撃たせればこっちの勝ちだ!!)

貞子は相変わらず一度に複数の魔法を使ってドクオを誘導する。しかしドクオも徐々にではあるが魔法が来るであろう位置を予想できるようになってきた。

渡辺とツンの位置は変わらないのなら、二人の射線上のものさえ消せば問題ない。

さらに貞子は度重なる連戦のせいか勝負を焦り始めているようだ。魔法の威力と精度が少しずつ低下している。

条件は五分。ならば先に体力が尽きた方の負け。

('A`)(いける、いけるぞ!!)

259:2014/06/15(日) 22:51:13 ID:y0WfqNpk0
貞子は焦り始めていた。ドクオの死角や、戦えない二人を狙って魔法を放っているのだが、ドクオは最小限の攻撃と恐るべき勘の良さでことごとく迎撃していくのだ。

加えて貞子の使える魔力も無限ではない。現状王都の結界を利用して普段よりも使える魔力は増加しているものの、闇魔法は通常のものより魔力の消費量が多い。

ツンとの戦闘によって蓄えていた魔力を大幅に消費したのは痛い予想違いだった。

川д川(でも、まだ策は用意しているわ)

問題は道具として使い潰すのが惜しいほどの素材だということだ。あの死に体に負荷をかければどうなるかくらい簡単に想像できる。

川д川(でも、惜しんでもいられないわね)

使い潰すのは惜しいが、また次の素材を見付ければいい話だ。代わりは探せばごまんといる。

貞子はそう分析すると、準備を始めるのだった。

260:2014/06/15(日) 22:52:08 ID:y0WfqNpk0
◇◇◇◇

(´・ω・`)「状況は芳しくないようだな」

王都の外壁まで戻ってきたショボンは開口一番そう言った。どうやら王都を囲む結界は王都の魔力を根こそぎ奪い、どこか違う場所へと送る役目をしているらしい。

( ・∀・)「こりゃあ中にいる連中も対処しあぐねてるんじゃないですか? 魔法が使えないんじゃどうしようもない」

幸い外にいる分には魔法を使えないということはなく、結界の中にさえ入らなければ対処のしようがある。

だが、問題はこの結界は外からの侵入を阻んでいるということだ。ヴィップラ地区の方から戦闘音が聞こえてくることからドクオは敵と交戦しているようだが、あれはドクオでから中に入ることができたのだろう。

(*゚ー゚)「結界に細工をしている元を断てば元に戻るはずですが、どうやら結界を作っている陣の方に細工があるようですね」

(´・ω・`)「ふむ。となれば、結界さえ消えてしまえばどうにでもなるな」

( ・∀・)「どうするんです?」

(´・ω・`)「魔力炉を停止させる」

ショボンは言うが早いか王都に背を向けると腰に差した剣を抜いた。

( ・∀・)「また復旧に時間かかりますよ」

(´・ω・`)「その間は騎士団で見回りをすればいい。そう簡単に魔物の侵入を許すほど柔な組織ではない」

( ;・∀・)「そりゃそうですが」

(*゚ー゚)「ですが、メインの魔力炉は王都の中ですよ? 外の魔力炉では停止に至らないと思います」

(´・ω・`)「こちらも細工をすればいい。騎士が三人もいるんだ。出来ないとは言わせないぞ」

三人は王都から少し離れたところに設置してある予備の魔力炉へ到達すると、すぐに準備に取りかかる。

(´・ω・`)「ここから私が魔力を送る。二人はメインの魔力炉への誘導を頼む。魔力の操作は二人の方が秀でているだろう」

ショボンは魔力炉へ手を置き、ありったけの魔力を注ぎ込んだ。ここから魔力を送り、結界を維持しているメインの魔力炉をオーバーフローさせるのである。

本来であれば予備である魔力炉は結界の動力には組み込まれておらず、あくまで王都の中にある魔力炉がトラブルやメンテナンスで停止した際に切り替えて使用するものだ。だが、予備とはいえシステムの一部ではあるため干渉することは可能だろう、とショボンは判断したのである。

( ・∀・)「うまく行きますかね」

(´・ω・`)「駄目なら次の手を考えるしかないな。あとはドクオの頑張り次第だ」

261:2014/06/15(日) 22:53:13 ID:y0WfqNpk0




ドクオは貞子の動きに戸惑いを隠せなかった。先程まで小出しにしていた魔法が急に威力の高い魔法に切り替わったのである。

長い詠唱や広範囲で複雑な魔法陣を使わないことから大技ではないことは分かるが、それでも意図の分からないこの行動はドクオからすれば不気味でしかたがない。

('A`;)(これでまた振り出しかよ)

魔法を打ち消し、距離を詰め、貞子を追う。依然決定打は与えられない。

さすがに体力が減り始めていた。息も上がってきている。しかし貞子の攻撃は止まず、どころか熾烈さを増すばかりであった。

と、前方に魔法陣が浮かぶ。黒い流星がいくつも舞い飛び、ドクオは一つ残らず消し飛ばし、次の攻撃に構えるが━━。

貞子はドクオより少し距離を置いて目の前に魔法陣を作っていた。

勘が叫ぶ。今までで一番大きな魔法だ。つまり、これを防げばこちらの勝ち。

('A`)「はぁぁぁぁぁぁ!!」

巨大な魔法陣から解き放たれたのは黒の濁流だった。ドクオの視界を埋め尽くし、ひたすらに破壊を撒き散らしていく。

後ろには渡辺とツンがいる。迎え撃つしかない。

剣を上段から一気に振り下ろすと、さすがに一発で消えてはくれなかった。容量が大きすぎて消しきれないようだった。

('A`;)(踏ん張れ、踏ん張れ俺!!)

262:2014/06/15(日) 22:54:42 ID:y0WfqNpk0
ずずっと足が後ろに押されていく。こらえきれない。せめて軌道をそらすことさえできれば……。

('A`;)(なんのためにここまできたんだ……誰も守れない力なんて意味があるのかよ!?)

ドクオは弱い人間だ。努力もしなかった、現実から目を背け続けて不平ばかり漏らしていた。

('A`;)(渡辺はツンのために力がなくとも前に出た!! ツンは敵わない相手に命をかけて戦った!!)

人は二人を馬鹿にするかもしれない。命を粗末にする大馬鹿者だと笑うかもしれない。だが、ドクオは、ドクオだけはそれを笑うことなんてできない。

二人は自分の大切なものを、無くしちゃいけないもののために立ち上がっただけだ。それを失ったら、もう前を向いて歩くことができないから。

('A`;)(なら俺だってそれに応えなきゃ、そうじゃなきゃ二人の頑張りを本当だって、胸を張って言えやしない!!)

ドクオは一歩を踏み出す。腕だけでなく、体を使って。

('A`;)(もう逃げねえ!! 二人のためにも、何より俺自身のために!! 今やらないで)

('A`#)「いつやるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

ドクオは思いきり体を横に捻る。甲高い音を立てて黒い濁流がドクオの横を流れていった。

('A`#)「これで終わりだぁぁぁぁぁ!!」

貞子へ向かってドクオは剣を振る。貞子は俯いて動かない。力を使いきって動けないのか、それとも他に何かがあるのかは分からないが、ドクオが先に斬ってしまえば終わりなのだ。

川゚д゚川「あはははははは!! これで終わりの訳がないでしょう!?」

あと二歩のところまで来たとき、貞子は目を見開き大口を開けて笑った。

ドクオは剣を振り下ろすが、何かの障壁に阻まれて体ごと強引に弾かれてしまう。

('A`;)「今度はなんだよ」

空中で体勢を立て直して着地。貞子の体から黒いオーラが禍々しく噴出していく。辺りの物という物を砕き、抉り、同時に大気が揺れた。

ξ ⊿ )ξ「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

その時、ツンの悲鳴が聞こえる。振り返ると、ツンの体から貞子と同じような黒いオーラが噴き出していた。唯一貞子と違うのは、ツンから出ているものはひたすらに貞子へと吸収されていることだ。

从;'ー'从「ツンちゃんしっかりして!! どうしたの!? ねぇ!?」

渡辺が声をかけるがツンの叫びは収まらず、体が不自然に反り返っている。見えない何かに引っ張られているかのようだ。

('A`#)「てめえツンに何をしやがった!?」

貞子はにやりと笑いながら杖をかざす。たったそれだけの行為で至るところに黒雷が降り注いだ。

263:2014/06/15(日) 22:55:43 ID:y0WfqNpk0
川゚д゚川「王都の結界が吸った魔力は私とその子に集約させている。私達がこの状況下で魔法を使えるのはそのため」

('A`;)「はっ?」

川゚д゚川「そして、このシステムはツンの体に刻まれた魔法陣と同期させている。彼女のマナを消費してね。けれどもうその子は戦えない、使えない。ならば、このシステムを利用してあの子の力を全て私に向けるようにすればいいと思わない?」

('A`;)「まさか……」

川゚д゚川「つまり、あの子の魔力も、命も、私に吸収されている。そしてシステムの要である彼女の力を吸い付くした時、ツンは━━」

264:2014/06/15(日) 22:56:40 ID:y0WfqNpk0




川゚д゚川「死ぬ」




.

265:2014/06/15(日) 22:57:46 ID:y0WfqNpk0
(゚A゚#)「てめえは、人の命をなんだと思ってんだよぉぉぉぉぉぉ!!」

この女は本当に人間なのかどうか、ドクオにはもう判断ができなかった。私利私欲のために命を食い潰すなど、神にでもなったつもりなのか。

こいつは生かしてはおけない。ここで倒さねば何人もの命がツンのように弄ばれる。

川゚д゚川「さあ来なさい魔剣の主!! あなたに本当の絶望を教えてあげる!! そして悔やみなさい、私に楯突いたことをねぇぇぇぇぇ!!」

ドクオと貞子の最終決戦が始まる。

266:2014/06/15(日) 22:58:31 ID:y0WfqNpk0

◇◇◇◇

貞子の攻撃は先程と比べるまでもなく威力と速度を増していた。ドクオは四方八方を動き回る黒い魔法を目で追うことすらできなかった。

だが、ドクオはそれを正確に打ち落としていく。見るのではなく、周囲を漂う魔力を感じるのだ。ドクオの集中力は極限まで高まり、それすら容易く可能にさせる。

だが、やはり貞子へは簡単に届きそうにない。溢れ出す魔力もドクオを邪魔するが、貞子から発せられている波動がドクオの動きを著しく阻害している。魔力ではない別の物なのか、ドクオの剣ですら消すことができなかった。

川゚д゚川「さっきまでの威勢はどうしたのかしら!? 誰が誰を許さないって!? 身の程を知りなさい!!」

前方から黒球。それを横薙ぎに消し飛ばし、上からの雷を横に飛んでかわす。さらに右から来る黒い手の一本を斬り飛ばすと両側面から黒い槍がいくつも踊り狂う。

('A`;)「くそっ……らぁっ!!」

大振りに剣を薙ぐと、魔法はまとめて消滅した。だがすぐに第二波が押し寄せてくる。

ξ ⊿ )ξ「あっ……がっ……」

从;ー;从「しっかりして!! 負けちゃやだよう!! 頑張って!!」

267:2014/06/15(日) 22:59:39 ID:y0WfqNpk0
貞子が魔法を使う度にツンの生気のない声と、渡辺の涙声が聞こえる。早く終わらせなければならないのに、ドクオは近付くことさえできない。

飛んで跳ねて斬り飛ばして、時間だけが過ぎていく。その間にもツンの命は縮まっていくのに、ドクオは何もできない。

('A`;)(俺よりもあの二人のが辛いんだ!! とにかく早く……)

ドクオは魔法の中へと走り出す。様々な魔法がドクオの肌を焼き、切り刻み、衝撃を与えるが、そんなものは気にしていられない。

川゚д゚川「近づいたところで無意味なのよ!!」

貞子へとあと一歩までのところで、暴力的な黒い風がドクオを軽々しく吹き飛ばし、宙を荒れ狂う黒雷がドクオの体を貫いた。

( A )(んだよこれ……こんなのチート過ぎんだろ……)

地を転がり、ドクオはとうとう力尽きる。始めから全力で動かしていた体は限界をとうに越えていた。元々があまり丈夫ではない体なのだ、ここまで動けたことが奇跡に等しい。

( A )(なんだよ、これ。こんなのが現実だっていうのか? 救いはないのかよ)

立ち上がろうとするが、すぐに膝から崩れていく。足に力が入らない。

( A )(俺はなんのためにここまできたんだよ。誰かを、渡辺を守るために来たんじゃないのかよ)

それでもドクオはふらふらになりながらもしっかりと二本の足で地を踏んだ。吹き荒れる黒の嵐を何度もその身に受けても、きちんと立ち上がった。

( A )(ここで俺がやらなきゃ、応えなきゃ、二人は世界に絶望したまま死んでくんだ)

剣を握る。腕をあげる。体はまだ、動く。魂も折れちゃいない。

(゚A゚)「まだ終わりじゃねえぞ!!」

268:2014/06/15(日) 23:00:30 ID:y0WfqNpk0
ドクオは走り出す。魔法をいくつも消し飛ばし、貞子だけをしっかりと見つめて。

もう小細工は終わりだ。正面からぶつかる。貞子が使うのは間違いなく魔法なのだから、剣で消せない訳がない。

自動迎撃の魔法かもしれないが、攻撃される前に懐に入って攻撃すれば問題ない。

(゚A゚)「はぁぁぁぁぁぁ!!」

川゚д゚川「馬鹿の一つ覚えね!!」

黒い風が再びドクオを襲う。横一閃。膨大な魔力が消滅していくのが剣を通じて伝わってくる。

振り抜いた。貞子を覆っていた黒いオーラはなくなっている。今しかない。

ドクオは体を捻り、逆袈裟に貞子を斬る。

(゚A゚)「終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

川゚д゚川「マナは何度でも補充出来る!! 舐めるなぁぁぁぁぁぁぁ」

しかし、貞子の周囲では一切動きはない。黒い風も、雷も炎も槍も何もない。目の前には油断した貞子の体があるだけだ。

川д川「どういう……」

ドクオはそのまま剣を振り抜き貞子の体を両断した。

川д川「はっ……」

269:2014/06/15(日) 23:15:54 ID:y0WfqNpk0



(*゚ー゚)「メインの炉を捉えました。いつでもいけます」

(´・ω・`)「ありったけの魔力を注ぎ込むぞ」

王都の郊外では三人の騎士が王都解放のための策を打っていた。ショボンが手をかけ、魔力が大量に流れると炉は煙をあげてすぐに壊れた。

( ・∀・)「王都の結界の消失を確認。これで中に入れますね」

(´・ω・`)「急ぐぞ」

270:2014/06/15(日) 23:17:45 ID:y0WfqNpk0


貞子からは血も出ず、肉が剥き出しになることもなく、切った部分から少しずつ消えていく。まるで蜃気楼のようにゆらゆらと揺れては透明になる。体の魔力が消滅しているのだろうか。

('A`;)「はっ、はっ、はっ」

最後の一撃の間際、貞子の攻撃が来ると思ったのだが、予想に反して何の抵抗もなくすんなりと攻撃が通ったのはどういうことなのだろうか。ドクオは消えていく貞子を見て、それを聞くのをやめた。

('A`)「……お前は死ぬのか」

川д|「そうね。魔剣は魔力やマナを食うの。人間じゃ生きてなんていられないわ」

('A`)「……最後に一つ教えろ。この剣はなんだ。なんのために俺が持ってる」

川д|「……少しだけ教えてあげる。その剣は魔剣アポカリプス。世界の創造と破壊を撒き散らす神の片割れの武器よ」

('A`)「神の片割れ?」

川д「あなたが持っている理由は、特にない。あなたじゃなくても誰でもよかった。魔剣を持たせることが最大の目的だったから」

貞子の体はほとんど残っていない。間もなく彼女は消滅する。

('A`)「そうかよ。お前を殺したこと、俺は後悔しねえぞ」

川「結構。最後の最後に楽しく踊れたし、私は満足よ」

それだけ言って、貞子は完全に消滅した。

271:2014/06/15(日) 23:18:30 ID:y0WfqNpk0

何もなくなった空間を見て、ドクオはようやく緊張の糸を解いた。渡辺を狙う敵はもういない。ツンの命を脅かす者も消えた。

終わったのだ、全部。

('A`)「ふぅ……」

ドクオは力を抜いて地面に身を投げ出した。もう動きたくない。帰って気持ちよくぐっすりと寝たい気分だ。

もちろん考えなきゃいけないことは山積みで、名前が判明した魔剣アポカリプスのことや黒の魔術団の目的。そのどれもが解決はしていない。

だが、それでも今は二人を守ることができたことを素直に喜ぼう。

从'ー'从「どっくーん!」

渡辺の呼ぶ声がしたが、ドクオは答えることをせず、空を見上げる。

黒かったはずの空は、いつの間にか結界ごと消えており、鈍い赤色に染まっていた。

('A`)(ショボンさんたちがやってくれたのかもな)

それだけ考えると、ドクオは深い眠りに身を落としていったのだった。

272:2014/06/15(日) 23:19:28 ID:y0WfqNpk0

◇◇◇◇

王都とは違う別の街の建物の中で、三人の人間が集まっていた。皆一様に黒いフードを目深に被り、表情は見えない。

一人の男が口を開いた。

『貞子がやられたか』

『仕方がないんじゃないか? あいつは結果をすぐに求めようとしてからな』

『アポカリプスの進行速度は半分ほどか。だが、今回奴は自信をつけただろう。再びあれを除くのは至難の業だな』

『しばらくは様子を見た方がいいかもしれん。こちらも全ての準備を終えているわけではないし』

『それもそうだ。今回計画の要として使用するはずのヴィップの結界も消えてしまったし、貞子の野郎余計なことを』

『何、すぐに計画は再始動する。それまで束の間の平穏を楽しませておけばいい』

『それに今回収穫がなかったわけでもないしな』

『なに?』

『貞子が使っていた結界を利用して魔力を吸収する術式は非常に面白い結果を見せてくれた。これを使えばもっと面白くなる』

『何をするつもりだ?』

『なぁに、ちょっとしたゲームさ。ドクオとかいうあの男、なかなかに見所がある』

『あまり羽目を外しすぎないようにな。あの男は計画の要だ。殺してしまっては魔剣も失われてしまう』

『分かっているさ。それでは準備をするため失礼させてもらう』

男が部屋を出ると、それを見ていた別の人間がぽつりと呟いた。

『神の前でゲームなどと、愚かなことを』

その声に、誰も気付くことはなかった。

273:2014/06/15(日) 23:21:09 ID:y0WfqNpk0





ヒロユキ大陸の北東部、荒れ果てた遺跡の最奥部にブーンは一人立っていた。侵入者を迎撃するための罠を掻い潜り、たどり着いたのは小さな空間だった。

( ^ω^)「陛下はこれで何をするつもりなんだか……」

彼の目の前には一本の杖が奉られている。伝承によればこの杖は魔剣アポカリプスと対を為す神器の一つ、創造を司るらしい。

ブーンには装飾すら施されていないこの杖にそんな力があるとは思えなかったが、それでも依頼は依頼。これを回収してジョルジュに渡さなければならない。

杖に手をかけた瞬間、眩いほどの光が辺りを包む。

( ;^ω^)「ちょ、何が……」

光が収まり、ブーンが目を開けると、そこには杖と、

川 - )「」

一人の少女が宙に浮いていた。

( ;^ω^)「ど、どうなってんだお」

少しずつ高度を下げ、やがて床に着くと彼女は力なく倒れこんだ。意識はない。

( ^ω^)「……こりゃまいったお。あいつになんて説明すりゃいいんだお?」

このまま放っておくのはさすがに目覚めが悪い。少しだけ迷うが、ブーンは少女を背負い、杖を取ると遺跡を後にする。

帰ったらジョルジュにどんな文句を言ってやろう。それだけを考えていた。

274:2014/06/15(日) 23:21:55 ID:y0WfqNpk0
第五話 終

275:2014/06/15(日) 23:28:54 ID:y0WfqNpk0
これにて第五話終了です
途中重大なミスのせいでちょっと書き直してお時間とらせてすいませんでした
そして、今回自分の語彙力のなさに絶望してます
戦闘シーンの描写ってのはやはり難しいですね
同じような表現というか文章になってしまうので自分としては今後の反省点です
渡辺とツンの話はある程度やりたいことやれたなぁって感じですかね

それと、第六話からVIPで投下しようと考えていましたが、文字数や改行制限やらあるのでもうしばらくこちらでやっていきます
もしVIPでも投下することになりましたらまたご報告にあがります

276:2014/06/15(日) 23:32:57 ID:y0WfqNpk0
>>240
私としては意外にも1週間というのは長く感じました
というか書きたくて投下したくて仕方がありませんでしたねw

皆さん支援ありがとうございました
次回投下は早くて18日、遅れれば19日になるかと
次の話は軽く読めるような話です
本日も読んでいただきありがとうございます
ではお疲れ様でした

277名も無きAAのようです:2014/06/15(日) 23:57:53 ID:MfiS.5Jc0


278名も無きAAのようです:2014/06/16(月) 00:10:19 ID:eZ2qzSsE0
ぬはー 乙
しつこくない程度の厨二加減で読みやすい
早く他の強敵とのバトルもみたいぜ
渡辺ペロペロ

279名も無きAAのようです:2014/06/17(火) 05:00:13 ID:Hj3RQb7w0
次の話が楽しみ

280名も無きAAのようです:2014/06/17(火) 20:13:21 ID:9nFWPFJY0
全何話くらいの構想なんだろ
未処理の伏線や話の煽りからするとまだ全体のストーリーの3割もいってないように感じるが

281名も無きAAのようです:2014/06/17(火) 20:38:05 ID:ryL2PJNw0
('A`)が叫びすぎなんだよなー
もっと叫び声のパターン増やさないとな

282名も無きAAのようです:2014/06/18(水) 08:09:40 ID:Ns.CtIic0
(゚A゚)「むきゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

283:2014/06/18(水) 10:33:55 ID:NTh1vHqs0
どうも1です
今日も日付が変わる頃に投下します
第六話は軽い話で短い予定だったのですが
色々と書いてる内にちょっと長くなったので二話分に分けようと思います

>>277
あなたの乙がとてもうれしいです

>>278
ありがとうございます
今後も黒の魔術団との戦いは繰り広げられますので楽しんでいただけるよう頑張ります

>>279
ありがとうございます

>>280
予定では30話くらいのはずだったのですが、話が長引いたりしてるのでもしかしたら50話は越えるやも……
話的にはそろそろ3割の終わりが見えてきたところですかね

>>281
確かにドクオ叫びすぎですねw
読み返していると恥ずかしいですw
もう少しバリエーション増やすか叫ばせないようにしないと単調になりますね

>>282
戦闘中にほんとに叫びそうですねw

284名も無きAAのようです:2014/06/18(水) 17:52:51 ID:1GQ3ml1A0
気付いたら投下予告来てた!
めっちゃ楽しみ!

285:2014/06/18(水) 22:43:54 ID:pMo3TmyQ0




第六話「戦いの後で」



.

286:2014/06/18(水) 22:46:32 ID:pMo3TmyQ0

◇◇◇◇

貞子による王都、もとい渡辺襲撃から早くも二週間が経過しようとしていた。

あの件で最も被害を被ったツンは、以前のドクオよりも酷いマナ欠乏症だとかで目下入院中である。何度かお見舞いに行ったのだが、少女らしい可憐さはどこにもなく、肌はカサカサでヒビ割れており、目の下にも隈が大きくできて初め誰だか分からないほどだった。

とはいっても、ドクオがツンと直接的に会ったのは病院が初めてである。記憶が流れ込んで来た理由は分からないが、そのおかげで彼女を一方的に知っていたというだけでまともな面識はなかった。それはツンも同様で黒の魔術団としてドクオの情報はあったが会話をするのはやはり初めてだった。

ツンに見舞いの果物を持っていったところ、彼女は力なく笑ってただ一言「ありがとう」と感謝の言葉を述べた。黒の魔術団には戻れないし、こんな大怪我を負わせたのは自分だとドクオは思っていたが、ツンにも思うところはあったようでそれ以上の言及は避けておいた。

ただ、これからどうするかというのは気になるところだったので尋ねてみると、

ξ゚⊿゚)ξ「一応魔法学校に入学出来るみたい。渡辺と同じクラスから、ね」

というのが騎士団側から提示されたらしい。

魔法の扱いは独学ながら目を見張るものがあるし、一つだけとはいえ禁呪と呼ばれる魔法をも習得している。今でも充分一線で戦えるだろうが、彼女のこれまでの人生を鑑みて一度学校に入った方がいいだろうとショボンが口を利いてくれたそうだ。

なんせツンの経歴は悲壮の一言に尽きる。親の顔を知らず、気づけば奴隷として売られ、黒の魔術団では道具として使われていた。

ツンが全てを明かしたのかは知らないが、今までの彼女の人生に騎士団としても温情があったのかもしれない。これからは渡辺という友人もいるのだから、精一杯楽しんで生きていってほしいとドクオは思っている。

287:2014/06/18(水) 22:47:30 ID:pMo3TmyQ0

ちなみに渡辺は無事昇級試験に受かったようで、見習いから正式な魔法使いとして認められることとなった。ドクオは見習いと魔法使いがどう違うのか具体的に分からなかったが、渡辺の説明によると勉強する魔法のレベルがあがるのだという。

今までは簡単な魔法しか使えなかったが、他の魔法陣の勉強も出来るようになりバリエーション豊かになるのだと喜んでいた。今のままでも十分な気がするのはドクオが魔法を使えないからかもしれない。

そんな渡辺は毎日ツンのお見舞いに通っているようだった。小さな頃に別れた唯一の友達なのだ。積もる話は山ほどあるだろう、とドクオはここ最近二人の邪魔をしないように大人しくしている。渡辺と顔を合わせたのはこの二週間で数回であることを考えれば、やはり野暮なことはしたくなかった。

代わりにドクオは騎士団の訓練に精を出すようにしていた。貞子との戦いでは力不足を痛感したからだ。あとで聞いた話だが、貞子が最後に無抵抗のままだったのはショボン達が裏で結界を消してくれたからで、あれがなければドクオはあの場で敗北し、渡辺とは二度と口を聞くこともできなかっただろう。

ショボンはドクオがいなければもっと大変なことになっていたんだし、持ちつ持たれつさ、と言ってくれたがドクオは素直に頷くことができなかった。

それだけにもっと強くならなくてはならない、とドクオは決意新たに訓練に汗を流しているのである。

('A`)「貞子と戦ったときは結構強くなったのになぁ、俺」

288:2014/06/18(水) 22:48:21 ID:pMo3TmyQ0

訓練所で休息を取りながらそうぼやくと、傍らに座っているモララーが鼻で笑う。

( ・∀・)「その剣、アポカリプスだったか? それの力で強くなったように感じただけだろ。基本がなってないんだから弱くて当然なんだよ」

モララーの言うことはもっともだが、ドクオとしては反論したいところだ。そもそもこんな世界に来て戦って生き抜いているだけでもすごいことではないだろうか? 魔法も使えないただの一般人としては、という条件ではあるが。

( ・∀・)「言いたいことは分かる。けど、戦いってのはそんな甘くない。お前が一般人だなんて相手にゃ分からないんだ。死に物狂いでお前を殺そうとするんだぞ?」

('A`)「……分かってる。自分の力量くらい分かってるさ。出来ることと出来ないことの分別はついてる」

だから、出来ることを増やさなければならない。ドクオがこれまで逃げてきた現実と戦うためには、努力を惜しんではいられないのだ。

('A`)「黒の魔術団はこの剣を狙ってる。そのために俺を生かして、周りの人達を狙ってんだろ? 俺のせいで誰かが傷つくのは、渡辺じゃないけどやっぱりいいもんじゃない」

この力は望んだものではないかもしれないが、もう巻き込まれたなんて言い訳が通用するところはとっくに過ぎている。敵の目的はまだはっきりとしていないが、これからもドクオを、魔剣を狙ってくるというならそれに抗わなければ先はない。

誰かのためではなく、自分が生きるために。渡辺やその他の人達が自分のせいで死んでしまったら、ドクオは間違いなく後悔する。自分のことを許せなくなる。

そうならないためにも、ドクオは強くならなくてはならない。

( ・∀・)「きっちり考えがまとまってるようなら俺も安心だよ。さて、俺はまた見回りに行かなきゃならないから、今日はあがるぜ」

('A`)「ああ、お疲れ。俺はもう少し走ってからあがるよ」

( ・∀・)「やりすぎると体壊すから程ほどにしろよ。焦ったってろくなことはない」

('A`)「分かってる」

それだけ言ってモララーは訓練所をあとにした。先日消してしまった結界が未だに修復されていないため、騎士団は現在王都の見回りを交代で行っている。モララーは今日の当番のようだ。

289:2014/06/18(水) 22:49:58 ID:pMo3TmyQ0

モララーが去ったあと、ドクオは訓練所を何周かし、あがろうと荷物をまとめていると、不意に声をかけられた。

訓練所で何度か目にしたことのある騎士が数人ドクオを囲んでいた。丸腰なのを見ると敵意はないようだ。

('A`)「なんか用か?」

少しだけ警戒しながらドクオは質問した。自分が騎士団内部であまりよく思われていないことはしぃから聞いていた。もしかしたらリンチにでも合うかもしれない。

「お前、この間の件を解決したんだってな」

騎士の一人がそんなことを言った。

('A`)「……俺が解決したわけじゃない。ショボンさんとかモララーがいなきゃ俺には何もできなかった」

「それでもお前がいなきゃ王都は陥落してたかもしれない。そんな中俺達はあたふたしてて、何もできなかった」

申し訳なさそうに言う騎士達はばつが悪そうに頬をかき、ドクオに手を差し出す。

「すまなかったな。お前は何も悪くないのに、勝手に忌み子だなんだって騒ぎ立てて。見直したよ」

騎士達は皆一様に友好的な笑みを浮かべている。ドクオはどうすべきかを考えて、その手をとった。

('A`)「あんたらは悪くないさ。現に俺がいなきゃこんな事件は起こらなかったんだ。だからおあいこだよ」

これは本当のことだと思う。巻き込まれたことは事実だが、魔剣の持ち主としてここにいる以上ドクオはどこまでも当事者だ。王都に留まらず、旅にでも出れば誰にも迷惑をかけずに済んだかもしれない。

けれど、ドクオはもうそれが出来ない。大切なものを見つけてしまったし、それを自分の手で守るのだと覚悟を決めてしまった。

「お前はすごいやつだよ。よかったら、今から飲みにでも行かないか? 友好の証ってやつさ」

意外な申し出に、ドクオは目を白黒させる。少しくらい態度が丸くなってくれれば、と今のやり取りで思ってはいたが、これは些か進みすぎではないだろうか。

「何、王都の英雄を労るのも俺達の仕事さ。嫌だっていっても無理矢理連れていくぞ」

あまりにも屈託のない笑顔に、ドクオも釣られて笑みを浮かべる。こうまで言われては断るのは野暮というものだ。

('∀`)「……喜んでお供させてもらう」

この日、ドクオはまた一つかけがえのないものを手に入れた。

290:2014/06/18(水) 22:51:37 ID:pMo3TmyQ0

◇◇◇◇

从'ー'从「はぁ……」

ツンのお見舞いの帰り、渡辺は一人溜め息を吐いた。この日の渡辺はとても落ち込んでいた。具体的にどれぐらい落ち込んでいるかというと、行きつけのスイーツ店のジャンボ苺パフェ一つ完食出来ないほどである。いつもならば軽くふたつはいけるのだが、今日はそんな気分ではなかった。

落ち込む原因となったのはツンの些細な一言である。

ξ゚⊿゚)ξ『あんたドクオのこと好きでしょ?』

この一言は彼女にとって天と地がひっくり返るほどの衝撃だった。確かに自分はドクオを好いている。しかしそれが愛かと聞かれれば返答に困ってしまうのだ。

一度ドクオとしぃが連れ立ってツンのお見舞いに来たことがあった。その時の二人と来たら仲睦まじく、まるで恋人のよう(少なくとも渡辺にはそう見えた)にお喋りをしていたのだ。

ツンが言うにはあれは出来の悪い兄と優秀な妹のような関係だ、とのことだが、渡辺はどうも胸の辺りがムカムカとして居心地が悪かった。

今でもあの光景は渡辺の瞼にしっかりと焼き付いて離れず、思い出しては何かに当たり散らしたくなる衝動を抑えるのに苦労するほどである。

そんなおりにツンの一言が渡辺の心に拍車をかけたのだ。自分でも分からない感情を友人に指摘されて、渡辺はどうしていいのか分からなくなってしまった。

从'ー'从「好きかといわれてもなぁ……」

そもそもドクオは自分をどう思っているのだろうか。少なくとも嫌われてはいないとは思う。貞子との件でもドクオは身を呈して助けに来てくれたのだから、好意的に見られていると受け取ってもいいだろう。

それに、貞子が言っていたドクオは異世界から呼び出されたという事実。ドクオに面と向かって聞いてはいないが、しぃに確認をとったところほぼ間違いではないとの回答だった。騎士団がどうやってその真相に至ったか定かではないが、二つの組織からそのような答えをもらった以上彼は信憑性は高い。

もちろんそれが渡辺の気持ちに歯止めをかけているわけではないし、そんなことは彼の人柄を図るにあたっては小さなことだ。

つまるところ、渡辺は自分の感情をもて余していて、それに対する明確な答えがどこにあるのかが分からないのだった。

自信を持って彼を好きと言えれば、気が滅入ることもないのに、と渡辺は一人ごちてみる。

人を好きになるというのは動物を好きになるということとは違ったものであることは渡辺にだって分かる。けれどその好きという感情にきちんとした線引きができない。どこからが異性に対する好きで、どこからが違うのか。ツンに聞いても答えは返ってこなかった。

从'ー'从「よく分からないなぁ、こういうの」

人と接することが極端に少なすぎたせいか、はたまた人生経験なのかは知らないが目下渡辺の頭を悩ませるドクオという存在は彼女の目の上のたんこぶのようなものになっている。

せっかく見習いを卒業できたというのに、次から次へと問題が舞い込んでくるのは自分の体質なのだろうか?

日が傾き、暗くなってきた道を一人歩く渡辺は、また一つ溜め息を吐くのだった。

291:2014/06/18(水) 22:52:35 ID:pMo3TmyQ0

◇◇◇◇

(´・ω・`)「やぁドクオ、昨夜はお楽しみだったね」

起き抜けにショボンからそんなことを言われて、ドクオはたまらず飛び起きた。

辺りを見渡せば自分の部屋。どういう経緯でそうなったかは知らないが服が脱ぎ散らかされている。

('A`)「……どうしてこうなった」

自分の体を見ればいつの間にやらパンツすら身に付けておらず、全裸。そこにショボンがニコニコと笑って立っているということは━━

('A`;)「あんたそういう趣味だったのかよ!?」

(;´・ω・`)「何を勘違いしているかは予想がつくが、それは誤解だ。君は昨夜のことを覚えていないのか?」

('A`)「は?」

ショボンにそう言われて、ドクオは思い返してみる。確か昨日は訓練所で知り合った何人かの騎士と飲みに繰り出し、途中からショボンや非番だった他の騎士も混じって大きな飲み会になった気がする。

そのあとも何軒か店をはしごして朝まで飲もうぜ! と意気込んだところまでは覚えているが、その先はどうも思い出せない。

(´・ω・`)「君はそのあと酔い潰れてね、僕が君をここまで送り届けたのだが、部屋に着いたとたんに君は吐き始めたんだ。おかげで僕は眠ることなく君の粗相の始末をするはめになったのさ」

(゚A゚)「」

なんということであろうか。まさか騎士団のナンバーツーに送り届けてもらったどころか不始末の処理までさせてしまうとは。いくらドクオと言えど全裸で土下座は当然に思えた。

(;´・ω・`)「いや、僕は今日も非番だから構わないが、君は少し酒の飲み方というものを考えた方がいいぞ。あまり強くないようだしな」

('A`)「オッシャルトオリデスハイ」

(´・ω・`)「僕も久々に楽しく飲めた。君が来てから心休まる日が少なかったしな」

('A`)「あれ? 俺遠回しに責められてる?」

292:2014/06/18(水) 22:53:41 ID:pMo3TmyQ0

(´・ω・`)「それに、今の君とはもう一度話してみたかったしな」

全裸で土下座をしていたドクオは頭をあげた。話がしたい、とはどういう了見だろうか。

服を着なさい、とのお達しだったのでとりあえず寝間着に使っている元の世界からの相棒スウェットを着用し、ドクオはベッドに腰かけた。ショボンはいつの間にか用意していたコーヒー(名前は違うがドクオから見ればコーヒーそのもの)を口に含み、煙草に火をつける。

(´・ω・`)y━・~~「何、大した話じゃない。これは騎士団のショボンとしてではなく、あくまでショボン個人としての話さ」

('A`)「はぁ」

気のない返事をすると、ショボンが君もどうだい? と煙草を勧めてきたのでドクオもご同伴に預かる。

(´・ω・`)y━・~~「君はこれまで三つの戦いに身を投じて来たわけだが、その戦闘力ははっきり言って並の騎士では歯が立たないレベルだ」

('A`)y━・~~「モララーにはまだまだ弱い、怒られますが」

(´・ω・`)y━・~~「確かに我々からすればまだまださ。だが、君は元々魔物や魔法なんかとは無縁の世界の住人だろう」

('A`)y━・~~「……気付いてたんですか」

(´・ω・`)y━・~~「まあね。もちろんこの答えに至るまで紆余曲折あった。間違いないと確信を持ったのはやはり先日の戦いだったよ」

ショボンはその場で見聞きしたわけではないが、渡辺やツンが貞子から聞いたことを報告として受けたこと、他にも様々な推測をドクオに語ってくれたが、決め手は貞子が言っていた魔剣のことだと言った。

(´・ω・`)y━・~~「魔剣アポカリプス、これは僕達の世界の伝承に出てくる神器だ。全てを破壊し、食らい尽くす絶望の権化。伝承によれば魔剣はこの世界ではないどこかに封印されているはずだったんだが、何故か君が持っている」

その事実はやはり看過できないものだった、とショボンは続ける。

293:2014/06/18(水) 22:54:36 ID:pMo3TmyQ0

(´・ω・`)y━・~~「魔法の中には召喚魔法というものがあってね、通常はこの世界のどこかにある物や人物を呼び出す魔法なんだが、特定の条件下と特別な術式があれば異世界に干渉できるかもしれないという研究結果も出ている。仮説の段階ではあるが、できないことではないんだ」

('A`)y━・~~「だからこそ俺が異世界からやって来たのではないか、という説が有力だったわけですか。てことは最初から記憶喪失だなんて言わなくてもよかったんですか?」

ショボンは灰皿に煙草を押し付けて火を消し、少し考えてから、

(´・ω・`)「それはどうだろうな。あの状況下で君が違う世界から来たとなれば余計な混乱を招いたかもしれない。ただでさえ結界が消えるなんてことは滅多に起こることではないんだ」

('A`)y━・~~「そんな中異世界から来ましたーなんて言えばそれこそ俺が疑われるのは当然の結果、ですよね」

そう考えると記憶喪失という設定は最善の策だったように思えた。もちろんドクオもこの設定がいつまでも通るとは思ってはいなかったし、折りを見て打ち明けるつもりではいたのだから、それが早いか遅いかの違いでしかなかったのだろう。

(´・ω・`)「話が逸れたが、君がそういうものとは無縁であった以上、本来ならば被る必要のない戦いばかりだった。にも関わらず、君は剣を取り、体を張っている。僕は、その理由が知りたい」

('A`)y━・~~「……理由?」

何故今になってそんなことを聞くのだろうか。ドクオからすればこれまでの戦いは全て巻き込まれた、といっても過言ではない。確かに逃げることはできたし、他人の命など関係ないと切り捨てればそれで済んだことではあった。最初の戦いにしても、ドクオはこの世界というものを理解してはいなかったし、ましてや命をかけるに値するような感情など持ち合わせてはいなかった。

どこまでいっても他人。ここに来た当初はそんな思いが確かにあっただろう。

だが、ドクオは渡辺に出会った。優しく、可憐で強い少女に。彼女の姿はドクオにとって今でも憧れの対象だ。

('A`)y━・~~「俺は、救われたんですよ」

煙草を消して、ドクオは大切な思い出を語るようにゆっくりと口を開いた。

294:2014/06/18(水) 22:55:26 ID:pMo3TmyQ0

('A`)「俺は元の世界じゃ負け犬でした。他人なんて関係ない、自分さえよければそれでいい。その時その時を乗りきれればあとは知ったこっちゃないって、現実から目を背けてました」

勉強も運動も人より劣り、努力からも逃げていた少し前までの自分。この世界に来なければ未だに同じことを繰り返していただろう。

('A`)「けど、こっちに来て、渡辺に出会って、騎士団の連中に出会って、それじゃだめなんだなって感じたんです。逃げてたって変わらない。変わらなきゃならなかったのは自分なんだって、渡辺や他のみんなを見て、気付いたんですよ」

渡辺は誰よりも辛い状況の中で、笑顔を忘れず、他人のために動いていた。騎士団のメンバーは己の信念に基づき剣を取っていた。

その中でドクオは、自分という存在がとても矮小で醜いものにしか思えなかったのだ。

誰もが手にしているはずのものを、ドクオだけは持っていなかった。

('A`)「それを気付かせてくれた人に、追い付きたいし、恩を返したい。世の中儘ならないことも多いけど、俺が救われたようにまだまだ捨てたもんじゃないって胸を張って言ってやりたいんですよ」

本当に辛いときに、ドクオは何も言ってあげられなかった。言わなきゃならなかったのに、言えなかったのだ。

ドクオはその事を一生後悔し続けるだろう。もっとまともな人生を歩んでいれば簡単に伝えられたはずの言葉は、あの時のドクオでは、いや今だって口にする資格なんてありはしない。ドクオはまだ全てをやりきってはいないから。全てが終わったときに、ドクオは彼女に言ってやるのだ。

君の存在は、歩いてきた道は無意味なものなんかじゃない。

('A`)「だから俺は戦うんじゃないですかね。それが、無力だった男が力を手にして出来ることなんじゃないかと俺は思ってます」

他人からしてみれば下らない理由だろう。笑われるかもしれない。命をかけるなんて馬鹿げていると指を差されるかもしれない。

それでもドクオが掲げたものは彼にとって何よりも重い。絶対に曲げてはいけない信念であると自信を持って言える。

ドクオが語り終えた時、ショボンは小さく笑っていた。

295:2014/06/18(水) 23:24:19 ID:cfE26c6g0
(´・ω・`)「なるほど。やはり君は僕が思った通りの男だよ。いや、信じていたとも言えるな」

('A`)「何がですか?」

(´・ω・`)「騎士団というのは、信念がなければ機能しないんだ。自分以外に守るべきものがなければ戦う理由もないからな。だからこそ我々は自分自身に厳しいルールを設けている」

例えば弱きものを傷つけない、誰かを見殺しにしない、仲間を疑わない、小さなものなら食べ物を粗末にしない。

ショボンがあげていくルールは生きていればどれも当たり前に守られるものだった。もっと言えば常識、人として最低限のマナー。

(´・ω・`)「こんなものは守られて当然のものだ。けれど、人というのはどうして、簡単なものであってもちょっとくらいならという軽い気持ちであっさりと越えてはいけないラインを越えてしまう。だからこそ我々はどんなに小さなことであっても決めたことは絶対に守ってきた」

(´・ω・`)「騎士団とは秩序であると同時に人を守るための盾であり剣。それを根幹の部分で理解していなければ立ち上がることさえできない。新人にはまだ分からない者も多い。その点君はその辺りをしっかりと持っている」

('A`)「……よくわかりません」

(´・ω・`)「君は君の信じる道を行くべきだ、ということさ。周りがどうあろうと、上から下までしっかりと通った芯はそう簡単に折れやしない」

ショボンはそう言って腰をあげた。

(´・ω・`)「僕は君と知り合えてよかったと、心から思う。これからもよろしく頼むよ」

扉が閉まる音だけが部屋に残る。ドクオはしばし呆然としていたが、自分の腹の音を聞いて朝食がまだだったことを思い出した。

('A`)「住む世界が違うと意識も違うもんだな」

それ以上考えることは止めて、ドクオは腹の虫を収めるために冷蔵庫を漁るのであった。

296:2014/06/18(水) 23:25:37 ID:cfE26c6g0

◇◇◇◇

本日は学校がなく、久々の休日である渡辺は朝早くからツンのお見舞いに向かっていた。ここしばらくドクオと顔を合わせてはいないが、何だか今は会いに行けるような心境ではなかった。

それよりも今は大切な友人を見舞いたい、と心のなかで言い訳のように唱えてみるが、どうしてか罪悪感が募るばかりで渡辺は早々に気を落としてしまう。

(*゚ー゚)「随分と元気がありませんね」

その矢先、病院の前でしぃと出くわしてしまった。もちろん渡辺の心に彼女のことなどちっともなかったのだが、思わず渡辺は全身をびくりと強張らせてしまう。何もやましいことなどありはしないのに。

(*゚ー゚)?「どうかしましたか?」

从;'ー'从「あ、ううん、なんでもないよぉ! まさかこんなところで会うとは思ってなかったから」

(*゚ー゚)「はぁ」

怪訝そうに眉を潜めるしぃに、渡辺はどうしてか申し訳ない気持ちになった。彼女は悪くないのに、自分の気持ちも分からないのに勝手に嫉妬している。それが渡辺の心を大きく揺さぶっているからだ。

(*゚ー゚)「今日もツンさんのお見舞いですか?」

从'ー'从「うん。しぃちゃんも?」

(*゚ー゚)「いえ、私はツンさんの入学資料を届けに。退院次第即入学ですからね」

从'ー'从「そっかぁ。えへへ、ツンちゃんと一緒に学校通えるんだ」

とても喜ばしいことだ。と、そこで疑問が浮かぶ。

从'ー'从「そういえば、ツンちゃんとは学校で会ったけど、入学はしてなかったのー?」

(*゚ー゚)「ええ。籍はありませんでした。元々ツンさんの戸籍自体が抹消されていましたから。新たに騎士団側で用意させていただきました」

黒の魔術団に所属していたツンのこれまではどのようなものだったのだろう、と渡辺は考える。ツンは道具として扱われていた、と言っていた。

人ではなく道具。渡辺の持つ箒や、物を食べるときに使うスプーンやフォークのような扱い。壊れても代えがきくただの物。

そんな中で生きてきた彼女が今、長いときを得てようやく普通の女の子として生きることができるのだ。これほど喜ばしいことはない。

从'ー'从「……」

ないはずなのに、どうしてこんなにも嫌な気分になるのだろう。

297:2014/06/18(水) 23:29:44 ID:Crg8TgR60

それはきっとツンを取り戻すために戦ったのは自分ではない他の人間だったから。普通の女の子としての道を用意したのが自分ではない他の人間だったから。

どこまでいっても自分は役に立たない人間なんだと、気付いてしまったから。

ニダーは言っていた。自分は人間じゃない、悪魔だと。不幸を撒き散らすだけの存在なのだと。

渡辺にはその言葉が間違いではないように思えた。こんなにも嫌らしく醜い感情を抱く自分は果たして人間と言えるのだろうか。

(*゚ー゚)「どうかしましたか? 顔色が悪いようですけど」

随分と長く考え込んでしまったようだ。しぃが不安げに顔をのぞきこんでいる。

从'ー'从「ううん! 何でもないよ! あ、私用事を思い出したから、今日は帰るね。それじゃまたねー」

渡辺は逃げるようにその場を去る。しぃが呼び止めていたが、彼女のそばにこれ以上いるのは不可能だ。

从;ー;从(だって、涙が止まらないんだもん)

渡辺は自分が分からない。分からないけれど、この気持ちがどんなものかは知っている。

それは彼女が生まれて初めて、はっきりとした形を持った醜い醜い嫉妬だったから。

298:2014/06/18(水) 23:30:32 ID:Crg8TgR60

◇◇◇◇

('A`)「まさか食い物がないとは」

ショボンが帰ったあと、空腹を満たすために冷蔵庫を見てみると物の見事に空っぽだった。唯一ストックがあったはずの保存食もいつの間にか食べてしまったらしく、部屋にいては以前のようなみすぼらしい生活を思い出してしまうため、なくなく買い出しに出ることにしたのだ。

一応ドクオは料理ができる方である。長い一人暮らしで身に付けた家事スキルは物価の安いこちらの世界でも役にはたっているのだが、元来の性格ゆえなのかはあまり活かされてはいない。もちろん気が向けば台所に立つのだが、それも一週間の内に一回あればいい方である。

('A`)「まぁ、なにもしなくても金が入ってくるってのは人を堕落させるんだな。いい勉強になるよ、ったく」

適当な所で食事を済ますか、それとも買い出しをして部屋で食べるか迷うところだが、出不精な上に元々コミュ力のないドクオにとって知らない人と長い時間顔を合わせるのはできる限り避けたいところだった。

('A`)「いつもの店でいっか。この時間だと顔馴染みもあんまいないだろうし」

ダメ人間はどこまでいってもダメ人間なのである。ショボンと先程交わした熱い語り合いも、喉元過ぎればなんとやら、今大事なのは腹を満たすことなのだ。

ヴィップラ地区を歩くこと数分、いつもの店に入ろうとしたとき、ドクオは見知った顔を見つけた。

('A`)「あれ? 渡辺じゃん。なにやってんだあいつ」

299:2014/06/18(水) 23:31:41 ID:Crg8TgR60

渡辺はこちらに気付くことなくドクオの横を走り去っていく。どうやら周りに目を配る余裕もないようだった。心なしか泣いているようにも見える。

追いかけるべきか否か。

さすがのドクオと言えど、渡辺ほどの交友度があればそれくらいは考える。

しかし時とは考える間にも過ぎていくもので、渡辺の背中はあっという間に遠ざかっていく。

見えなくなる間際、ドクオは、

('A`)「おーい、渡辺ー」

思いきって声をかけることにした。

从うー;从?

从'ー'从……

从'ー'从そ

が、渡辺はドクオを確認すると逃げるかのように駆け出した。いつもの彼女からは想像もつかない俊敏さである。

('A`)そ「ちょ、何で逃げるし」

わけも分からずドクオはその背中を追うことになる。いくらドクオの顔が見るに耐えないグロ面だとしても、逃げることはないのてはないか。そもそもことあるごとに顔を合わせているのだから今さら気持ち悪いなどとはあんまりである。

心の中で滝のような涙を流しつつ、ドクオは渡辺を追いかけた。普段の訓練の賜物かは知らないが、意外にあっさりと渡辺は捕まった。

('A`)「なんで逃げるんだよ」

从;'ー'从ゼハーゼハー

あまりに疲れすぎて喋ることができないらしい。しばし息を整える。

('A`)「……まぁいいや。飯食ってないなら一緒にどうだ? そろそろ昼になるし、今日は奢るよ」

渡辺は少しだけ迷う素振りを見せると、やがてこくりと頷いた。小さな声でアイス、とのおまけも添えて。

300:2014/06/18(水) 23:32:32 ID:Crg8TgR60



しぃが病室に入ると、珍しい客が来たものだと驚いた様子のツンが出迎えてくれた。確かにあまり出入りはしないが、少しばかりしぃは不機嫌な顔を作る。

ξ゚⊿゚)ξ「そんな顔しないでよ。可愛い顔が台無しじゃない」

(*゚ー゚)「お世辞はいりませんよ」

ξ゚⊿゚)ξ「相変わらずの無愛想っぷりね。子供は子供らしく、素直が一番よ」

(*゚ー゚)「子供のままでいられるほど騎士団は甘くありませんから」

ξ゚⊿゚)ξ「大人ぶっちゃって。それで、今日はどうしたの? あんたが来るくらいだから、顔を見に来たってわけじゃないでしょ?」

ツンに促されて、しぃは持っていた鞄からいくつかの資料を取り出した。

(*゚ー゚)「入学案内を届けに来ました。退院次第すぐにでも入学可能ですよ」

そう言うと、ツンは満面の笑みを浮かべてそれらを受けとる。彼女にも人並みの憧れというものがあったのだろう、ペラペラとページを捲りながら時折フフフと怪しい笑い声が漏れていた。

(*゚ー゚)「一応渡辺さんと同じ担当にしていただけるよう口を利いておきましたが、あまり期待はしないでください」

ξ゚⊿゚)ξ「そこまでは望んでないわ。一緒に学校いけるってだけで夢のようだもの。それで十分」

301:2014/06/18(水) 23:41:08 ID:Crg8TgR60

(*゚ー゚)「以前より顔色も大分よくなりましたし、もうすぐですね」

ξ゚⊿゚)ξ「まぁ、ね。けど、私の体にある魔法陣のせいで長くは生きられないだろうけど」

(*゚ー゚)「まだまだ先の話ではないですか」

ツンの体に刻まれた幾多の魔法陣は彼女に力をもたらすと共に、大きく寿命を削るものだとはしぃも聞いていた。

いくつか魔法陣を見せてもらったが、どれもこれもまともな神経で生身の体に描くなんて到底考えられないものだった。黒の魔術団という組織がどれだけカルトじみているのかがうかがい知れるいい見本だ。

ξ゚⊿゚)ξ「でもね、私はあいつらにも少しだけ感謝してる」

(*゚ー゚)「どういうことですか?」

あんなものを付けられて、感謝なんて言葉が出てくることにしぃは驚いた。自分だったら間違いなく怒り狂い、修羅の道をゆくことは想像に固くない。にもかかわらず、ツンがそんなことを言う意図が掴めずしぃは言葉を濁した。

ξ゚⊿゚)ξ「あいつらに利用されて使われなければ、私は二度と渡辺には出会えなかったと思うのよ」

(*゚ー゚)「浚われなければ渡辺さんと今も仲良く暮らしていたかもしれませんよ」

ξ゚⊿゚)ξ「それは無理。だって、あの子の境遇や価値観は普通に生きてたら絶対に理解できるものじゃないもの。辛い思いをして、それでも誰かのためにだなんて正気の沙汰じゃないわ」

それにはしぃも同意せざるを得ない。人に疎んじられ、見下され、それでもなお世のため人のためと他人に尽くすことのできる人間など聖人君子でもなければ不可能だろう。通常の神経をしていたら人を憎み世を恨み、血を血で洗うような残虐非道な犯罪者になっていてもおかしくはない。

ましてや渡辺という人間は育ての親こそいたようだが、両親の存在が見当たらないのだ。戸籍には載っているが、ツンと出会う以前から両親と係わった記録は一切ない。

そんな人と違う人間があそこまでまっすぐに育ったのはまさに奇跡としか思えなかった。

見る人が見れば忌み子としてではなく、彼女の存在そのものを気味悪がるものは大勢いるだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「そんなあいつの隣にいられる人間は、やっぱり同じような人間か、もしくはもっと酷い境遇の人間か、それくらいのもんよ。私だったらその異常さに気が狂ってたんじゃない?」

(;*゚ー゚)「仮にも親友と呼ぶ人をそこまで言いますか」


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