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('A`)は異世界で戦うようです

1名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:21:36 ID:gOpuSR2Q0
鬱田ドクオとは、一言で言えば弱い人間だ。

過去を振り替えれば後悔しなかった出来事はないし、ましてや努力なんて言葉とは無縁の存在である。

テストは赤点ギリギリ、運動能力は一般人より少し劣る程度、体つきは貧相なもので米俵一俵持つのが精一杯。かといってそれらを補うための努力をしたいなぁとは思っても、けして実行することはなかった。

そんなわけだからドクオは自分という存在が嫌いだった。変わりたいと願っても、変えようとすること自体がめんどくさくなってしまう。

大学を卒業し、なんとか内定をもらった会社も周囲の環境に溶け飲むことが出来ず、やめてしまったことも自己嫌悪の一つの原因である。

よって、ドクオにとっての自分とは、あってもなくても変わらない路傍の石のような存在で、そんな自分が世界に与える影響など皆無だと信じ込んでいた。

*鼹類燭辰榛*、この瞬間までは。

124名も無きAAのようです:2014/06/02(月) 19:30:11 ID:Lt7at/Og0
ブーン系は面白ければ面白いほど失踪フラグが立つんだよなあ

125:2014/06/02(月) 21:23:22 ID:2qchLoc20
第二話後半投下します

126:2014/06/02(月) 21:24:04 ID:2qchLoc20
◇◇◇◇

王都ヴィップは大きく分けて四つの地区から成っている。

中央にそびえる時計塔を中心として、北側が城や騎士団の駐屯所、魔法学校があるヴィップ地区。東側が貴族達が住むきらびやかで派手な装飾を施した豪華な家が立ち並ぶシベリア地区。南側が飲食店や日用品などを取り扱う商店街があり、最も活気があるヴィップラ地区。西側は魔法が使えなかったり、使えても騎士団に属さず魔法アイテムなどを売って生計を立てる、いわゆる一般人や仕事人のベッドタウンであるラウンジ地区。という具合になっていた。

('A`)「王都ってぐらいだからやっぱ活気があるなぁ」

時計塔の下からヴィップラ地区を眺めるドクオは思わずそんな感想を漏らした。ドクオの住む騎士団寮はヴィップ地区でもやや南側に位置しているため、店が並ぶヴィップラ地区まで徒歩数分という立地だった。

(*゚ー゚)「これでも商業都市ヤ・オーイの半分にも満たないんですよ」

从'ー'从「そうなの〜?」

(*゚ー゚)「ええ。以前仕事でヤ・オーイへ行きましたが、熱気が違いました」

('A`)「へぇー。是非一度行ってみたいな、そういうの聞くと」

ドクオ達三人はとりあえず飲食店を目指して歩き出した。この世界で好まれる食事が分からないドクオは店の善し悪しが分からないので、基本的には渡辺としぃに選択を委ねるしかないのだが。

当の女性陣はああでもないこうでもないと熱く話し合いを繰り広げており、しばらく決まりそうになさそうだ。そんな二人はドクオから見ると仲のいい姉妹のように見える。

以前ニダーとかいうやつが渡辺に突っかかっていたが、しぃはそういった感情を持っていないのだろうか。確か、忌み子とか言われていたが、一体どういう意味なのだろう。

渡辺はドクオから見ても明るいし、可愛らしい容姿をしている。ちょっと間の抜けた所もあるが、それはそれで愛嬌があると言える。魔法だって見習いとはいえ使えていたのだから、特に嫌悪される理由は見当たらない。

127:2014/06/02(月) 21:26:46 ID:2qchLoc20
('A`)(あとでしぃちゃんにそれとなく聞いてみるかな)

こういうことはこちらの世界でしか分からないのだろう。ドクオはこの世界の常識ですらよく理解していないのだ。文字だって読めないし書けない。どういうわけか意思の疎通は図れているものの、基本的にドクオは異端者だ。

あれこれ考えたところでドクオにはこの世界の常識や秩序を動かせやしない。出来ることなんて限られたただの男。ならば出来ることは渡辺の味方でいることだけなのだ。

そのためには情報だ。例えどんなことがあろうとも、渡辺の味方であり続けなければ、あの日助けてもらった恩は返せそうにない。

从'ー'从「どっく〜ん。お肉とお魚だったらどっちがいいかなぁ〜?」

(*゜ー゜)「ドクオさんは肉に決まってます。むしろ肉食べて筋肉つけないとガリガリのままですよ」

从'ー'从「えー、お魚だって美味しいんだよぉ〜?」

('A`)「どっちも食べればいいじゃん。そういう店くらいあるだろ?」

从'ー'从「あ、それならねぇ〜、この前見つけたお店があるよぉ〜」

渡辺がそういって小走りで駆けていく。少し離れたところで手を振り、

从'ー'从「早く早く〜」

と笑顔を浮かべた。

ドクオはその笑顔を見て、もう一度深く心に刻む。

この笑顔を絶対に無くさないようにしよう、と。

128:2014/06/02(月) 21:27:48 ID:2qchLoc20



王都ヴィップ、シベリア地区にある豪邸の一室で、ニダーは一人悪態をついていた。先日の傷はほぼ完治しているものの、彼の心の隙間は以前埋まらぬままだった。

<ヽ`∀´>「くそくそくそ!! あの忌み子め、
よくもやってくれたニダ!! ウリは貴族ニダ!! あんなクズよりも価値があるニダ!!」

地団駄を踏みながらあの日の出来事を思い出す。邪魔さえ入らなければ忌み子を始末できたはずなのだ。結局忌み子は忌み子、周囲に破滅をもたらす存在でしかない。

何より彼が許せないのは忌み子に味方したあの男の存在だ。同じ忌み子のくせに、人を守ろうとしていた。

<ヽ`∀´>「殺してやるニダ。骨も残さず存在を消してやるニダ」

しかし、魔法使いである以上私闘は禁じられているし、一般人への魔法は永久的に資格を剥奪されてしまう。貴族であるニダーにとって魔法使いとは重要なオプションなのである。

<ヽ`∀´>「しかし、だからといってこのままではウリの腹の虫が収まらんニダ。父上に言って揉み消してもらうしか……」

『それならばいい方法があるけれど』

不意に声が聞こえた。周囲を見渡すが姿がない。魔法の一種だろうか。

ニダーは声をあげず、臨戦態勢に入る。この屋敷は厳重に守りを引いているはずなのに、侵入者がいるということは相当な手練れだろう。下手をすれば簡単に負けてしまう可能性もある。

『あら怖い顔。大丈夫、私はあなたの味方よ』

129:2014/06/02(月) 21:28:33 ID:2qchLoc20
<ヽ`∀´>「……なら、姿くらい見せたらどうニダ」

『訳があって顔を見られるわけにはいかないの。でも、私はあなたの望むものを与えてあげられる』

<ヽ`∀´>「……例えば?」

『あなたの気に入らない人間を、誰にも見られずに始末する力』

<ヽ`∀´>「っ!! それは本当ニダ!?」

『私は嘘が嫌いなの。ふふふ』

<ヽ`∀´>「どうすればいいニダ」

『時計塔の地下に行きなさい。そこにあなたの望む力がある』

<ヽ`∀´>「時計塔の地下? あそこには魔力炉しかないはずニダ」

『行ってみればきっと分かるわ。私から言えるのはそれだけ』

<ヽ`∀´>「分かったニダ」

『ふふふ、それではいい夢を』

声はそれだけ言うと、二度と聞こえなかった。

130:2014/06/02(月) 21:29:40 ID:2qchLoc20
◇◇◇◇

食事を終えた三人は、ヴィップラ地区を適当にぶらついていた。ドクオの日用品は購入したもののそんなに数が多くなかったので時間があまってしまったのである。

(*゚ー゚)「ところでドクオさんは、見たことのない不思議な格好をなさっていますね」

服屋を冷やかしていると、不意にしぃがそんなことを言ってきた。

ドクオの格好は相も変わらずスウェットである。日本では寝間着としてもコンビニに行くにしても対応できる万能衣服だ。

('A`)「そんなに変か、これ」

从'ー'从「変ではないけど……」

(*゚ー゚)「目立ちますね」

確かにスウェットに剣を提げるベルトという出で立ちは少々目立つかもしれない。他の帯剣者たちを見れば動きやすそうでいてスポーティーな格好が多い。中にはごてごてしたいかにも偉そうな貴族風な人間もいるが。

('A`)「んー、じゃあ思いきって服でも買ってくか。確かにこの服のままうろうろするのも周囲の目が気になるし」

先程からドクオ達をちらちらと見ていく通行人たちは、確かにドクオも気になってはいたのだ。それが自分に向けられているものだと信じたくなかったただけで。

131名も無きAAのようです:2014/06/02(月) 21:30:52 ID:ybXhO3/w0
キター!

132:2014/06/02(月) 21:31:31 ID:2qchLoc20
しかし、渡辺としぃに言われた以上、もう気にならないとはいえないだろう。指摘されたということはつまりそういうことなのだ。

('A`)「どういうのが一般的なのか分かんないから、出来ればレクチャーしてもらいながら選びたいんだが」

その辺にあった服を適当に物色しながらドクオは二人にお願いしてみる。この世界の流行や一般的なコーディネートがよく分からないドクオからすれば下手なものを選んで再び奇異の目を向けられたくないのだ。

(*゚ー゚)「私は男性の衣服はよくわかりませんが……」

从'ー'从「私もだよぉ〜」

('A`)「ん〜、そんじゃこう、剣を持ってても違和感がないっていうか、そんな感じの服を選ぶか。変だったら言ってくれ」

(*゚ー゚)「分かりました」

从'ー'从「了解だよぉ〜」

こうして服を選び始めるドクオだったが、すぐにこのことを後悔するはめになる。

というのも、

(*゚ー゚)「色のバランスが悪いです」

(*゚ー゚)「コーディネート以前の問題ですよ」

(*゚ー゚)「センスなさすぎですね駄目男さん」

等々、しぃちゃん十四歳にことごとくダメ出しを頂くことになったからである。

133:2014/06/02(月) 21:32:37 ID:2qchLoc20
結局しぃがあれこれ選んだものをなん着か買うことで手を打ったのだが、ドクオはすでに満身創痍だった。

从;'ー'从「お、お疲れ様どっくん」

('A`/)「ホントウニツカレタヨ」

しぃが選んだ服を着込み、剣を提げると少しはましになった、ように思う。実際周囲の人たちの注目を浴びてはいないので問題はない。

(*゚ー゚)「ドクオさんはあまりセンスがないですね。次回買いに行くことがあればまた私が選びますよ」

('A`/)「アリガトウゴザイマス」

余計なお世話だと言いたいところだが、彼女は自分よりも年下と心の中で言い聞かせ、ドクオはなんとか平常心を保つ。

実際しぃの見立てはなかなかのもので、衣服に頓着のないドクオから見ても見違える、とまではいかないがそこそこ見れる印象にはなったと思えた。

いかんせん顔の作りが悪いのでイケメンのようにモテモテというわけにはいかないが。

134:2014/06/02(月) 21:33:50 ID:2qchLoc20
从'ー'从「でもどっくんかっこよくなったと思うよぉ〜」

('A`)「ほんとに?」

从'ー'从「ほんとに〜」

渡辺からお墨付きを頂けたのだから、見た目に関してはもう触れないでおこうとドクオは誓った。

店から出たところでドクオは二人に声をかける。

('A`)「さってと、んじゃ買い出しも終わったし、これからどうしますかね」

(*゚ー゚)「それなら時計塔に行ってみませんか? 一応王都の名物なんですよ」

从'ー'从「あ、それはいいね。王都の景色が一望できるんだよぉ〜」

('A`)「へぇ、そいつは見なきゃ損だな」

しかし、時計塔の下にいた際入り口らしきものは見かけなかったような気がするが、どうやって登るのだろうか。

それを二人に聞くと、お互いに顔を見合わせにっこりと笑った。

(*゚ー゚)「それは魔法使いにしか分からない秘密の出入り口があるに決まっているじゃないですか」

从'ー'从「魔法使いじゃなきゃ中に入れないんだよぉ」

('A`)「魔法使いじゃなきゃ?」

ドクオは何気なく時計塔を見上げた。入口は下にはなく、かつ魔法使いでなければ入れない。と、いうことは……。

('A`)「……上か」

135:2014/06/02(月) 21:34:50 ID:2qchLoc20
从'ー'从「だいせいか〜い♪」

(*゜ー゜)「では、さっそく行きましょう」

しぃがステッキを取りだし小さな声で何事かを言うと、彼女の小柄な体が宙に浮いた。

从'ー'从「それじゃどっくん乗って乗って」

渡辺は魔方陣を呼び出し箒を呼び出すと、早速跨がりドクオを促した。

('A`)「空飛ぶのって苦手なんだよなぁ」

ぶつくさと言いながらも渡辺の後ろに座ると、奇妙な浮遊感と共に箒はみるみる上昇していく。

从'ー'从「それ〜!!」

渡辺の掛け声で箒は空を行く。王都の人達が豆粒のように小さくなり、やがて認識できなくなるほどの高さに来るとようやく到着したようだ。

('A`)「おおー、こいつはすごい」

時計塔に足をつけた三人は、縁に腰掛けてその景色を堪能する。王都どころか、その先にある緑や海まで見渡せた。太陽はすでに傾きかけており、淡いオレンジ色が街を、世界を彩っている。

少しの間だけ、ドクオはそれに見とれていた。他の二人も黙って遠くを見つめている。

136:2014/06/02(月) 21:35:48 ID:2qchLoc20
やがて、ドクオは口を開いた。

('A`)「自然の神秘ってやつだな」

(*゚ー゚)「ドクオさんは確か、記憶喪失でしたね」

('A`)「ん? そうだけど」

(*゚ー゚)「ならばあなたが見る美しい景色はこの場所が初めてということになるんて すね」

从'ー'从「そうだねぇ〜。どっくん、この景色は絶対に忘れちゃ嫌だよ?」

つい渡辺の方を見ると、目があった。渡辺はにっこりと朗らかに笑っており、いつしかドクオも笑顔になっていた。

('A`)「忘れねぇよ。こんなに綺麗なもの」

(*゚ー゚)「忘れたらお仕置きですね」

从'ー'从「えへへ、そうだね〜」

このまま時間が止まってしまいそうなほどにのんびりとした優しい時間を、ドクオは一生涯忘れないだろう。

この世界のこの瞬間、この場所でなければ見ることも感じることもできなかった大切な何かは、ドクオの中で褪せることなく飾られていく。

そう思えるほどに、ここから見えるものは美しく、そして途方もなく大きかった。

137:2014/06/02(月) 21:36:42 ID:2qchLoc20
◇◇◇◇

ニダーは一人階段を下りていく。手元にあるランプだけが足元を照らすのみで、その先は闇がどこまでも続いていた。

この先にあるのは王都を守る結界の動力である魔力炉が設置されている。仮にこの魔力炉を失えば、先日のように王都は大混乱に陥るだろう。復旧も数日単位ではなく、もっと時間がかかる。そうなれば王都は一月と持たず壊滅するだろうことは安易に予想できた。

だが、用があるのは魔力炉ではない。気に入らないものを徹底的に叩き潰す圧倒的な力。それさえ手に入ればこんなところに用はない。

螺旋状に続く階段を一歩一歩確かめるように進んでいくうちに、ようやく目的の場所へたどり着いた。

周囲に目を配ると、円を描くように設置された魔力炉が鼓動のように音を立てている。その中心には結界を形作るための陣が描かれており、数秒ごとに光を発していた。

<ヽ`∀´>「……なんにもないニダ。こりゃガセを掴まされたニダ?」

一応他に何かないかと物色するが、特にめぼしいものはなさそうだ。

無機質な地下室にニダーの足音が響く。

その時だった。

<;ヽ`∀´>「っ!!」

目の前の魔法陣から黒い何かが噴き出している。

すぐに魔法の詠唱を開始するが、何かは凄まじい勢いでニダーの体を侵食していく。

<;ヽ`∀´>「っ〜!!」

138:2014/06/02(月) 21:37:37 ID:2qchLoc20
ニダーの全身を覆い尽くした何かは彼の中にあるそれらを食い破り、新たなそれを注入していく。

為す術もなく、ニダーはその感覚に身を委ねるしかなかった。

やがて、何かはニダーを解放すると始めから何もなかったかのように消えてしまった。

そして、立ち尽くしていたニダーは自分の内から溢れ出す今までにない力を感じた。

<ヽ ∀ >「……これが、力ニダか」

これならば誰にも負ける気がしない。気に入らないものを、逆らうものも、この国さえも叩き潰せるような気さえする。

<ヽ゜∀゜>「これはいいものを手に入れたニダ」

<ヽ゜∀゜>「ウリに逆らうやつは」





.

139:2014/06/02(月) 21:38:31 ID:2qchLoc20









<ヽ゚∀゚>「皆殺しニダ」








.

140:2014/06/02(月) 21:58:20 ID:r7CkAjHg0
日が完全に傾いた頃、ドクオたち三人は夕食を食べ寮への道を歩いていた。とはいっても渡辺の家はラウンジ地区にあるため、時計塔まで来たらお別れではあるが。

从'ー'从「私も一緒に寮に住みたいよぉ」

(*゜ー゜)「それならば早く騎士団に入団することです」

从'ー'从「簡単に言わないでよぉ〜」

('A`)「つっても俺なんかはしばらくやることないだろうし、いつだって会えるだろ」

从'ー'从「そういうことじゃないの!」

渡辺は一人ぷりぷりと怒っている。もしかしたら単に寂しいだけなのかもしれない。

(*゜ー゜)「大丈夫ですよ。私はドクオさんのような方はタイプではありませんから」

('A`;)「この子さらっと毒吐いたよ!?」

(*゜ー゜)「ドクオさんにもそのうちいいことありますよ。多分」

('A`;)「毒吐いた張本人が慰めるっておかしいよ」

今日一日行動を共にして思ったが、このしぃという女の子は意外に毒舌である。しかも人の心を的確に抉るようなことをさらっと言うのでドクオのHPはメリメリ減っていくのだ。

141:2014/06/02(月) 21:59:09 ID:r7CkAjHg0
やはり天才というのはどこか変わっているものなのだとドクオはまた一つ勉強になった。

('A`)「それじゃそろそろ帰りますかね」

从'ー'从「はぁ〜い」

(*゜ー゜)「それでは渡辺さん、また」

('A`)「暇な時はうちにでも来いよ〜」

从'ー'从「うん!! またね〜」

三人が別れようと、それぞれの道へ歩き出した時。

地面が大きく爆発した。

('A`)「っ!?」

(*゜ー゜)「っ」

从'ー'从「ほえ?」

土煙があがり、周囲の視界を奪う。そんななか、黒い何かが飛び上がったのをドクオは確認した。

(*゜ー゜)「下がってください」

ドクオを庇うように前へ出るしぃは、すぐさまステッキを取り出すとくるりと円を描く。すると、土煙が一斉に消え、辺りは元通りの景色を取り戻す。

142:2014/06/02(月) 22:00:56 ID:r7CkAjHg0
(*゚ー゚)「警告します。今すぐ無駄な抵抗をやめて出頭してください。さもなくば少々痛い目にあっていただくことになりますが」

しぃが暗闇に向かって警告するが、返答はない。どころか地面に空いた穴から風の塊がしぃへと飛んできた。

(*゚ー゚)「っ!?」

しぃはすぐさまステッキを動かすが、不意を突かれたのかステッキを落としてしまう。それを拾おうと屈んだ隙に、上空から追撃がくる。

('A`;)「しぃちゃん!!」

ドクオは思わず走りだし、しぃの体を突き飛ばしていた。風の塊はドクオの体をいとも簡単に吹き飛ばし、ドクオは地面に転がった。

(;*゚ー゚)「ドクオさん!!」

从;'ー'从「しぃちゃん後ろ!!」

渡辺が声を荒げると同時に複数の炎弾を放つが、敵の攻撃は一向に衰えずドクオとしぃに襲いかかってくる。ドクオも何とか地面を転がってそれらを避けるが、最初の一撃が堪えているらしく、素早く行動できない。

('A`;)「くそ、一体なんだってんだ」

剣を抜き放ち、ようやく立ち上がる。しぃもステッキを拾い臨戦態勢を取っていた。

「お久しぶりニダ。クソゴミども」

やがて聞こえてきた声は、どこかで聞き覚えがあった。確か、ドクオが初めてこの世界にやってきた際に聞いた覚えがある。

从'ー'从「この声は……」

渡辺も同じことを思ったらしく、息を飲む音が聞こえた。

<ヽ゚∀゚>「生きていてくれて嬉しいニダ。思わず殺しちゃいたいくらい、ニダ」

声の方を見ると、いつか渡辺に暴言を吐いていた忌々しい顔が宙に浮きながら、ニヤニヤと笑っていた。

143:2014/06/02(月) 22:02:48 ID:r7CkAjHg0
ニダーが手を振るうといくつもの魔方陣が浮かび上がり、そこから攻撃用に変換されたいくつもの風がドクオ達を襲う。地面を抉り、砕き、破壊を振り撒きながら。

(*゚ー゚)「こんな街中で魔法を使うだなんて何を考えているんですか!?」

珍しく大声をあげるしぃに、ニダーはニヤニヤと笑みを浮かべ、

<ヽ゚∀゚>「そんなの決まってるニダ」

再び魔方陣を作りあげ、

<ヽ゚∀゚>「お前達をミンチにすることニダぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

刃と化した風を射出した。

(;*゚ー゚)「くっ」

しぃは先程から攻撃を行わず、ドクオと渡辺を含む防御壁を作ることしかしない。おそらく、こちらを心配しているのだろう。

仮にしぃがニダーに攻撃すれば、ニダーの操る風の魔法はドクオを襲う。渡辺は魔法で迎撃出来るだろうが、ドクオが持つのはこの剣一本。剣では魔法に勝てないのがセオリーなのだ。

しかし、この場合ドクオの身を案じている場合ではない。

144:2014/06/02(月) 22:04:27 ID:r7CkAjHg0
('A`;)「しぃちゃん!! 俺のことは気にするな!! あいつをさっさとやっちまえ!! このままじゃ一般人に被害が出るぞ!!」

(;*゚ー゚)「ですが……」

从'ー'从「私がどっくんを守るから大丈夫だよ!!」

渡辺の声にしぃが防御壁を解く。すぐさまドクオに風の刃が向かってくるが、渡辺がそれらを的確に処理していく。ドクオは地面を蹴り、ニダーに向かって剣を振るうがやはり届かない。

<ヽ゚∀゚>「クカカ、無駄無駄ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

('A`;)「うおっ!!」

ニダーの周囲に風が集まり、一気に爆発。ドクオは宙を舞い、地に叩きつけられた。

(*゚ー゚)「ならばこれはどうですか?」

しぃがステッキを振るうと、ニダーを取り囲むように氷柱が隙間なく出現した。

(*゚ー゚)「お仕置きです」

と、同時に氷柱はニダーに飛んでいく。何本も何本もニダーの体に刺さっていき、ニダーの体はもはや判別できないほど氷柱で覆われていた。

('A`;)「やりすぎじゃね?」

145:2014/06/02(月) 22:05:54 ID:r7CkAjHg0
(*゚ー゚)「……まだです!!」

しぃが叫ぶやいなや規模は小さいが渦を描く風、竜巻が複数現れた。それらは周囲の建造物を巻き込んで粉々にしながら徐々に徐々に大きくなっていく。

从'ー'从「えぇーい!!」

渡辺が炎ではない、別の魔法を放つ。すると竜巻は霧散し、砕かれたものがごとりと地面に落ちていく。

(*゚ー゚)「スペルキャンセラーとですか。では、私は」

しぃが両手を掲げると、見たことがないほど大きな魔方陣が宙に出現する。直径は十メートルほどだろうか、魔方陣は次第に複雑な図形や文字を映していき、円が一杯になると同時に吹雪が発生した。

強烈な吹雪をぶつけられた竜巻は一瞬で消滅し、さらにはニダーの身を凍らせていく。

从'ー'从「私もいくよぉ〜」

追撃で渡辺が炎弾を放ち、ニダーの体が爆炎に包まれる。あれでは人溜まりもないだろう。

('A`;)(魔法使い同士の戦いぱねぇ)

あまりにも派手な戦いにドクオは呆けているばかりだったが、しぃは警戒を解いていない。

(*゚ー゚)「……まさかこれで終わりではありませんよね?」

<ヽ ∀ >「当然ニダ」

146:2014/06/02(月) 22:07:14 ID:r7CkAjHg0
氷付けにされたはずのニダーの体は、徐々に黒い光を発していく。やがてそれは大きく膨れ上がり、一気に爆発した。

<ヽ゚∀゚>「お遊びは終わりニダ」

不意に、黒い光がドクオの頭上に展開される。

('A`)「は」

ドクオは何が起きたのかも分からず、それを見上げていた。

(;*゚ー゚)「避けて!!」

しぃの言葉でドクオの体が雷に撃たれたように震えた。すぐさま横に飛ぶと、黒い光はドクオが立っていた場所に落下する。

そこにはバチバチと音を立て、クレーターのような窪みができていた。

('A`;)「ちょ」

さらに追撃。ドクオはそれらを紙一重でかわしていくが、黒い光はさらに増えていき、ついに逃げ場を失ってしまう。

('A`;)「やば」

从'ー'从「どっくん!!」

自身も攻撃されているはずなのだが、渡辺が魔法を展開。間一髪でドクオの頭上に防御壁が現れた。しかし、強度が足りず、黒雷は数秒留まっただけですぐに地面へと飲み込まれていく。

ギリギリでその場を離脱したドクオは剣を握りしめるが、宙に浮いているニダーには当然攻撃が届かない。どうすべきかを考えるほどの時間さえ、あの黒い稲妻のせいでままならない。

('A`;)(このままじゃじり貧じゃねえかっ)

147:2014/06/02(月) 22:08:38 ID:r7CkAjHg0
唯一の攻撃手段を持つ渡辺やしぃも自身に襲いくる攻撃をいなすのが精一杯で手が回らないようだ。やはりあの二人を自由にはできないのだろう。

ならばやることは一つしかない。

ドクオは近くにいるしぃに狙いを定めると、一気に距離を詰める。

(*゚ー゚)「ドクオさん!?」

しぃの反応が遅れるが構わず突き飛ばす。すぐさまドクオは剣を高く掲げると、それめがけて光の束が落ちてきた。

(゚A゚)「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ドクオの体をいくつもの黒雷が貫く。だが、泣き言は言ってられない。

(゚A゚)「やつ……を……いけ!!」

途切れ途切れだが、しぃはこくりと頷いた。伝わった。

(*゚ー゚)「行きなさい!!」

しぃの回りに大量の氷の球が現れ、号令と共に球からレーザービームのような攻撃がニダーへと放たれる。

148:2014/06/02(月) 22:10:14 ID:r7CkAjHg0
<ヽ゚∀゚>「効かないニダ」

ニダーはそれらをまるで蜘蛛の巣を払うように右手を撫でるだけで掻き消すと、さらに黒雷を放った。

(*゚ー゚)「かかりましたね」

しぃはステッキをニダーの真下、何もない地面へと向ける。するとそこから冷気の帯がニダーを凍り漬けにする。

<ヽ゚∀゚>「っ!!」

瞬間、ニダーの攻撃が止んだ。

('A`#)「渡辺ぇぇぇぇぇぇぇ!! 炎弾だ!!」

ドクオが叫ぶと、渡辺が大きく頷いた。

从'ー'从「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」

渡辺が最大級の炎弾を見舞うと同時、爆発!! 爆発!! 爆発!!

突風が吹き荒れ、ドクオたちは地面へと伏せて様子を伺う。ニダーの姿はない。

<ヽ゚∀゚>「甘いニダ」

('A`;)「っ!?」

声が聞こえると、周囲の風が止み、視界がクリアになる。しかし、ニダーの姿は見あたらない。

从;'ー'从「どっくん後ろ!!」

渡辺の声に振り向くが、遅い。ニダーの姿が見えた頃にはすでに黒い槍が迫っていた。

('A`;)(避けられない)

149:2014/06/02(月) 22:11:25 ID:r7CkAjHg0
先日と同様、ドクオは二度目の死を覚悟する。自分の心臓の音がやけに大きく聞こえた。

━━ドクン。

また一つ。

━━ドクンドクン。

全身を何かが掻き乱していく。それは暴力的に、破壊的に、ドクオの大切な何かを巻き込んでさらに膨張する。

これ以上はまずい。直感がそう告げる。

だが、止まらない。

これは力だ。どこから涌き出ているかも分からない。しかし、この状況を乗りきるために、ドクオは覚悟を決めた。

(゚A゚)「おおおおおおおおおおおおおお!!」

150:2014/06/02(月) 22:12:47 ID:r7CkAjHg0
◇◇◇◇

ドクオは咄嗟に剣を振るった。反射的に、無意識の内に。

赤黒い剣が黒雷の槍に触れる。

瞬間。

<ヽ゚∀゚>「はっ……」

从'ー'从「え……」

(*゚ー゚)「なっ……」

その場にいる誰もが息を飲んだ。それはドクオでさえも例外ではなかった。

('A`)「嘘、だろ?」

ドクオの目の前に確かにあったはずの黒雷の槍は、

跡形もなく消え去っていた。

始めから何もなかったかのように、

それが当然のように。

<ヽ゚∀゚>「お前、何をしたニダ」

呆然と立ち尽くすニダーの体が震え、絞り出すような声で問いを投げかけてくる。

ドクオは答えられない。自分でも分からない。

151:2014/06/02(月) 22:14:15 ID:r7CkAjHg0
<ヽ゚∀゚>「何をしやがったクソゴミがぁぁぁぁぁぁぁぁ」

ニダーの体から爆発的に黒雷が吹き荒れ、手当たり次第周囲の物を破壊していく。

('A`;)「ちっ、俺だってわかんねぇよ!!」

考えるより先に体が動いた。自分に向かってくる光を剣で切りつけるたび、それは音もなく消滅していく。

しかし、今はそんなことはどうでもいい。目の前の敵を倒さなければ、怪我人が出る。

('A`)「渡辺!! しぃ!! ぼーっとすんな!!」

ドクオの激励に二人は弾かれたように動き出す。ドクオは自分に向かってくるものだけを的確に消していきながら徐々にニダーとの距離を縮めていく。

<ヽ゚∀゚>「シネシネシネェェェェェェェ」

直後、宙にニダーを中心とした魔方陣が形成される。でかい攻撃がくる。

(*゚ー゚)「渡辺さん!! スペルキャンセラーを!!」

从'ー'从「了解!!」

152:2014/06/02(月) 22:16:09 ID:r7CkAjHg0
しぃと渡辺が詠唱を開始するが、ニダーの方が早い。

<ヽ゚∀゚>「アアアアァァァァァァァ!!」

('A`)「おらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ドクオは反射的に地面を蹴り、飛び上がった。魔方陣の中心、ぼんやりと光の塊が集まる部分を切りつける。

金属同士がぶつかり合うような甲高い音、ドクオは力を込めて一気に降り下ろす。

パキィィィィィィン!!

魔法陣は形を保てず、集まった魔力が周囲に拡散した。チャンスは今しかない。

(*゚ー゚)「これ以上好きにはさせません」

从'ー'从「終わりだよ!!」

しぃと渡辺が同時に魔法を放つ。炎の渦がニダーの逃げ場をなくし、頭上から氷塊がいくつも落下していく。

<ヽ゚∀゚>「ガァァァァァァ!!」

最後の抵抗とばかりにニダーは二人に黒雷を向けた。魔法の制御に意識を向けていた二人の反応ご遅れる。

('A`)「俺もいること忘れんなよ!!」

ドクオが割って入り、それらをことごとく無効果した時、ニダーは炎に体を焼かれ、氷の塊に押し潰された。

153:2014/06/02(月) 22:17:48 ID:r7CkAjHg0




辺りに静寂が訪れる。ニダーの体は動かない。白目を剥いているのが確認できたことから、恐らく気絶したのだろう。

('A`)「は、はは……」

全てが終わったのだと悟り、ドクオは情けないことに腰が抜けてしまった。前回の魔物の時とは違うはっきりとした他人の殺意と対峙したのだ。その疲労度合いも生半可なものではない。

(*゚ー゚)「お疲れさまです」

从'ー'从「ふえぇー、なんとかなったねぇ〜」

涼しい顔をして駆け寄ってくる二人の少女にドクオは苦笑する。大の男である自分が情けなく座り込んでいるのに、女の子である二人は何事もなかったかのような振る舞いだ。

魔法というものの利便性、持つものによって殺戮の力になるか、守る力になるのかは人それぞれなのだと改めて思う。

(*゚ー゚)「そろそろ他の騎士団も集まってくるでしょうし、お二人にはお話を聞かせて頂くことになります」

('A`)「ああ、それくらいなら協力するさ」

从'ー'从「りょーかーい」

そしてドクオは手の中にある剣を見つめて思う。

いつの間にか手にいれたこの力は前回も、今回も誰かを守ってくれた。前回は無意識に、今回は己の意思で。

しかし、雷の槍を消滅させる瞬間ドクオは確かに感じたのだ。自分の中に入ってくる自分ではない別の何かの意思を。

それはどす黒い感情でドクオを満たそうとしていた。人への憎悪、殺戮の衝動、虚無への憧憬。

あれはおおよそ人が持ち得る全ての負の感情なのかもしれない。

ならば、この力は━━。

从'ー'从「どっく〜ん、しぃちゃんが待ってるよぉ〜」

('A`)「今行くー!」

━━誰かを殺すためのものなんだろう。

154:2014/06/02(月) 22:18:51 ID:r7CkAjHg0
◇◇◇◇

時計塔で起こった一連の騒動を眺めながら、彼女はクスクスと笑っていた。

予想以上の早さであれは本来の形を取り戻している。もしかすれば予定よりも計画を早めることができるかもしれない。

ニダーは本来以上の働きをしてくれた。彼の功績は計り知れないだろう。

王族どもがこちらの動向を探っているようだが、全てが明かされる頃には全てが終わっているだろう。

この世界は黒の魔術団によって、新たなる夜明けを迎えるのだ。

川д川「うふふ、もうすぐ、もうすぐよ」

155:2014/06/02(月) 22:20:54 ID:r7CkAjHg0





ニューソク大陸の隣、ヒロユキ大陸の首都ナンジャの酒場にて。二人の男がグラスを交わしていた。

( ^ω^)「……」

( ゚∀゚)「……」

周りの客は談笑し、実に楽しそうに酒を酌み交わしているなか、二人だけは終始むっつりと黙ったままである。

( ^ω^)「陛下は本当にやる気なのかお?」

( ゚∀゚)「だからこそ俺がここにいんだろうが。故郷を離れて頭が馬鹿になったか?」

軽口を叩く男に、もう一方は小さくため息を吐いた。

( ^ω^)「お前はそれでいいのかお、ジョルジュ」

( ゚∀゚)「いいわけがねえだろ。だがやらなきゃならねえ。騎士団長なんて肩書きもらっちまってるからな」

ジョルジュはそう言って軽く肩をすくめてみせた。

( ゚∀゚)「お前はどうする? ブーン。戻ってくる気なら俺が口をきいてやるぞ」

( ^ω^)「僕はすでに世捨て人だお。自由気ままに生きていく方が性に合ってる」


( ゚∀゚)「そうかよ。つってもしばらくはここにいんだろ?」

( ^ω^)「その予定だお」

( ゚∀゚)「なら俺からの依頼だ。金もきっちり出す。だから手伝え」

( ^ω^)「相変わらず強引な男だお。ま、金さえくれるってんならその依頼受けてやるお」

( ゚∀゚)「助かるぜ。俺はナンジャとの合同演習で動けないからよ」

( ^ω^)「陛下も手段を選ばないようになったおね」

( ゚∀゚)「仕方ねぇだろうよ。お前だって当事者なんだ、忘れたとは言わせねえよ」

( ^ω^)「分かってるお」

( ゚∀゚)「ま、そういうわけだから俺はそろそろ戻るぜ。また連絡する」

ジョルジュが去ったあと、ブーンは一人浴びるように酒を飲む。しかし、いつまで経っても酔いが回ることはなかった。

156:2014/06/02(月) 22:22:42 ID:r7CkAjHg0
第二話 終

157:2014/06/02(月) 22:26:15 ID:r7CkAjHg0
こんなところで第二話終了です
このお話でキャラが何名か増えましたが、現在の力量でうまく調理できるか少々不安です
今回までがドクオの異世界での生活スタート編、次回からは渡辺やしぃ、異世界の深いところを書いていけたらいいなと思います
次回投下は今週の金土のどちらかになりますので、よろしくお願いいたします

158名も無きAAのようです:2014/06/02(月) 23:17:09 ID:vsQC/TvkO
レベル高いな、期待大です

159名も無きAAのようです:2014/06/03(火) 21:26:50 ID:7yReHsCs0
俺の中で今一番おもしろいブーン系
俺もファンタジーバトル系の作品書きたくなってきた

160:2014/06/04(水) 09:40:29 ID:pZYGFIl20
本日また一つ歳とった1です
予定よりも早く第三話が書き終わりそうなのでそのご報告です
このままなら木曜日、遅くとも金曜日までには投下できると思います
なんだか風呂敷広げすぎて収拾つかなくなりそうだなぁと不安に思いながらの書き込みです

161名も無きAAのようです:2014/06/04(水) 09:43:28 ID:LInul8V.0
誕生日かい?おめでとう!
投下速度早いなwww

162:2014/06/04(水) 09:44:35 ID:pZYGFIl20
>>158ー159
地の文たっぷりのわりに文章の勉強中なんで読んでいただけるだけで幸いです
おまけに面白いだなんて言われた日にゃ爆発します
今後もちまちま頑張りますのでよろしくお願いします

163:2014/06/04(水) 09:46:14 ID:pZYGFIl20
>>161
はい、祝ってくれる方がいない孤独な誕生日です
ありがとうございます
文章が書けない人間は速さで勝負という感じです

164名も無きAAのようです:2014/06/04(水) 12:44:45 ID:3Sr0blsk0
おめでとう
創作板内でみても平均以上の文章力も、読者を引き込む力もあると思うがなぁ
この上更新まで早いなら言うことないわ
期待作品やで

165名も無きAAのようです:2014/06/04(水) 13:43:34 ID:uwYXRvKc0
誕生日おめでとう〜!
文章がしっかりしてるので分かりやすくて面白い

166:2014/06/04(水) 15:51:43 ID:pZYGFIl20
>>164>>165
いやはや催促したみたいで申し訳ありません(チラッチラッ
そしてありがとうございます
そんな風に言ってもらえると、作者冥利に尽きます
この作品には私の全てが詰まっているのでなんとか完結させたいものです

167:2014/06/05(木) 13:41:30 ID:/R87psA.0
今日夜遅くに投下しますねー
具体的な時間は多分日付が変わる前後かと思われます

168名も無きAAのようです:2014/06/05(木) 18:55:51 ID:vzhTrc9k0
やたー!
ワタナベかわいいよワタナベ

169:2014/06/05(木) 23:08:24 ID:V0EQBG/A0




第三話「魔法使いの流儀・前編」



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170:2014/06/05(木) 23:12:59 ID:V0EQBG/A0
ニダーとの戦いから数日後、行きつけのお店や細かなルールなどを覚えてきたドクオはようやくこの世界での生活に慣れ始めていた。

やはり同じ人間たちの住む世界である以上そこまで変わったルールなどはなく、意識せずとも一つの街中ぐらいなら問題はないようだった。

しかし、そんな中でもドクオが驚いたことがいくつかある。まず一つ目に物価だった。始めはお金の価値や物の価値がよく分からなかったが、渡辺やしぃの協力もあって大体の目安などを覚えることができた。そして自分の世界のものと比べてみると、その物価や税金の額はおよそ二倍ほど違うことが判明したのである。何より驚いたのは煙草の値段である。日本円にすると二十本で百円なのだ。つまり一本一円以下。

愛煙家であるドクオにとってこの事実は何よりも嬉しいことであった。むしろこのために異世界に来たのではないかと疑ってしまうほどに。

話がずれたが、ドクオが驚いたことその2は交通手段である。この世界は当然ながら電車や飛行機、車といったものはない。ではこれだけ広い町の移動はどうやっているのか?

その答えは魔法である。

これだけ魔法が広く流通しているのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、こちらではバスやタクシーの代わりに魔法での移動が可能となっている。所定の場所で切符のような魔法紙を購入し、様々な場所に設置された魔方陣に乗ると、それだけで思い描いた場所の近くまで転送されるという優れものである。しかも値段は場所を問わず一律の値段だ。

もちろんこれは王都ヴィップ内のはなしであって、他の街や別の大陸に行くには異なる方法が必要になるらしい。それにともない値段も変わるのだとか。

最後に、これが最も驚いたことなのだが、なんとこの世界では電気が生活に浸透していないのだ。

別に電気という概念がないわけではなく、あくまで生活に使われていないだけの話だ。ドクオのいた世界では何をするにもまず電気が必要だったが、こちらではそれに変わる魔力というエネルギーがあるのである。

魔力は世界中のどこにでもあるもので、枯渇することがない。しぃ曰く魔力の源泉が世界中の至るところにあり、そこからものすごい量の魔力が涌き出ているそうだ(どれぐらいの量なのか単位を用いてしぃは説明してくれたがドクオには理解できなかった)。

こうしてドクオの生活も二人の尽力あってか様になってことで、ドクオはようやく平穏無事に生きていくことが出来ているのだが、現在そのことが逆に不満をもたらしていた。

('A`)「やることがねぇ」

171:2014/06/05(木) 23:13:44 ID:V0EQBG/A0

ドクオの不満とはまさにこの一言に尽きた。

騎士団の寮に厄介になってから働かなくても金が入ってくるし、食うものにも困らず嗜好品にさえ手を出せるようにまでなってしまった。つい最近まで食うに困っていたはずなのに、である。

元々大した勤労意欲など持っていなかったドクオではあるが、それにしたってこの暇さ加減はいかんともしがたい苦行のように感じられる。元のアパートには暇潰しに最適なパソコンとネットという偉大な道具があったのだが、こちらにはそんな大層なものはない。ドクオに魔法の知識とそれを応用する技術があればインターネットをこの世界で再現できるかもしれないが、それこそ夢幻である。

とにもかくにもドクオは現在暇をもて余していた。渡辺は最近学校に行ってなかったらしく、ここ数日ずっと学校に籠りっぱなしだし、しぃにしても騎士団の仕事があるので構ってもらえない。年下のしかも女の子に構ってほしいというのも情けないものだが、ドクオの交遊関係なんてそんなものしかないのだ。

('A`)「バイト、とか出来ないのかねぇ」

自分の立場を考えると、まず不可能だろう。あくまで騎士団に囲われてる身でしかない以上、下手をすれば関わった一般人にまで被害が及んでしまう可能性もある。ともなれば、やはりドクオはこうしてごろごろと時間が過ぎるのを待つしかないのだ。

('A`)「ねらーのみんなが懐かしいぜ。釣りスレ立てて馬鹿やってたのになぁ」

もうあの日々はやってこないのかと思うと少し寂しい気もするのは何故だろうか。あちらでは自分の存在など路傍の石か、それ以下の価値しかないというのに。

と、そんな折に傍らに置いてあった連絡用携帯端末が音を立てる。以前ショボンにもらったものだが、やはり見た目通り携帯電話のような役割を果たしている。難点はインターネットが出来ないことくらいだ。

('A`)「もしもし亀よ」

(;´・ω・`)『それは何かの呪文かい?』

172:2014/06/05(木) 23:14:52 ID:V0EQBG/A0
電話(といってもいいのか疑問ではあるが)の相手はショボンだった。寮に入る際顔を見て以来である。騎士団のナンバーツーとして様々な仕事を抱えているはずの彼から連絡がくるなどと予想していなかったドクオは思わず面食らってしまった。

('A`)「あまり気にしないでください。ただの発作です」

(;´・ω・`)『そ、そうか。その様子だと大分暇なようだな』

('A`)「ええ、そりゃあもう。飯食ってゴロゴロする以外何をしていいのか分からないくらいです」

(´・ω・`)『それなら丁度いい暇潰しを提案しよう』

('A`)「この無限地獄から解放してくれるのなら何でもしますよ」

(´・ω・`)『ほう、なんでもするか。ならば今から寮の入り口に来るといい。きっと君を満足させられる』

ショボンはそれだけを言って通信を切った。一体何をさせる気なのだろうか。ドクオにしてみれば暇を潰せればなんでもいいのだが、ショボンのような偉いかたから連絡が来るとどうも身構えてしまう。

('A`)「ま、行ってみりゃわかんだろ」

ドクオは深く考えず、簡単に身支度をすると部屋を出た。これがそもそもの間違いだったと気付くのはそれから間もなくのことである。

173:2014/06/05(木) 23:23:17 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

从'ー'从「えっとぉ、これとこれとぉ、あとはぁ〜」

渡辺は魔法学校にある図書室で黙々と資料を探していた。次の昇級試験で使う論文をまとめるためだ。

魔法使いというのは基本的に階級制で、渡辺がいるのは一番ランクの低い見習いである。その上に魔法使い、大魔法使い、魔導師、大魔導師と続いていくのだが大半の学生が卒業する際に授かるランクは大魔法使いだ。そこからは個人で国が指定する試験をパスすることによってランクをあげていくこととなる。

大魔導師以上になってくるとそこから専門的な分野の階級を冠することが多く、錬金術ならばアルケミストだったり魔法と剣技を両立するならマジックナイトといった具合だ。

通常魔法使い見習いなどというランクは入学当初から一年かそこらで卒業するものだが、渡辺は入学してもう三年ほどの月日を経ていた。三年も経つのにまだ見習いにいる理由としては、渡辺の頭が悪いということではなく、単純に彼女の境遇にある。

渡辺は所謂<忌み子>と呼ばれる存在であり、<忌み子>とは破滅と絶望を振り撒く悪魔として忌み嫌われている。

以前ニダーが言っていた話を渡辺は独自に調べてみたのだが、どこを調べても似たような記述しか載っておらず、結局は同じ答えに行き着いてしまう。

だから渡辺は周りの学生と同じように一年の間切磋琢磨できるような友人に恵まれず、失敗や間違いを一人で繰り返し、ようやく見習いを卒業できるところまで漕ぎ着けたのだった。

それだけにこの昇級試験は渡辺にとって大きな意味を持つ。渡辺という存在は否定されても、身に付けた技術や知識が一定のところを越えさえすれば誰かに認めてもらえるのだから。

だからこそ渡辺はドクオとのコミュニケーションもそこそこに昇級試験の準備を進めているのだが……。

从'ー'从「あれれ〜? 資料が一つ足りないよぉ〜?」

174:2014/06/05(木) 23:23:58 ID:V0EQBG/A0
渡辺が得意とする炎系の魔法の技術書がどこにも見当たらなかった。図書室は属性や構築する魔方陣、詠唱する言語によって棚が別れているのだが、渡辺の探す一冊だけがどこを探しても見つからない。

渡辺はどこかに放置されていないかと周囲を見渡した。しかし、室内は司書によって綺麗に整理整頓されており、放置された本は一切見当たらない。

代わりに見付けたのは、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて渡辺を見つめる数人の生徒だった。

从 ー 从「……」

また、だ。

渡辺の存在は学校内では有名だ。漆黒の髪を持つものは一人しかいない。一人しかいないということは否が応でも目立ってしまう。

極めつけに<忌み子>という、呪いにも似た言葉はどこに行っても渡辺に付きまとってくる。

渡辺は無言で図書室を立ち去ろうとして、思わず立ち止まった。

ξ゚?゚)ξ「取り返さないの?」

175:2014/06/05(木) 23:24:48 ID:V0EQBG/A0
渡辺の前に巻き毛の少女が立ちはだかった。意思の強そうな瞳が渡辺をじっと見つめている。

从;'ー'从「えと、きっとあの人たちも必要なんじゃないかなぁ」

渡辺は何故か言い訳のようにそんなことを口にした。

ξ゚⊿゚)ξ「馬鹿じゃないの。あいつらあんたのこと見て笑ってるわよ」

巻き毛の少女は怒りを露にしてそちらを睨み付ける。見た目通りの性格をしているらしい。

ξ゚⊿゚)ξ「私が取り返してきてやるわ。ちょっと待ってなさい」

从'ー'从「あ、ちょっと……」

渡辺が止める間もなく少女は行ってしまった。静かだったはずの図書室に怒声が響き渡り、数人の生徒が迷惑そうな視線をこちらに向けている。

そんな中を少女は気にした様子もなく、本を手に取りこちらに戻ってきて、

ξ゚⊿゚)ξ「ほら。使うんでしょ? ああいうやつらにはガツンと言わなきゃ舐められるだけよ?」

とあっけらかんとそんなことを言った。

从'ー'从「あ、あの、ありがとう……」

ξ゚⊿゚)ξ「別に礼を言われることじゃないわ」

何でもないと言った風に彼女が背を向けたのを見て、渡辺は何故か、自分でもよく分からずに声をかけていた。

从'ー'从「あの、もしよかったら、お茶でもしませんか?」

少女が振り向く。少し間を置いて、笑顔を作り、

ξ゚⊿゚)ξ「仕方ないわね。暇だから付き合ってあげるわ」

と言った。

これが渡辺と少女━━ツンの初めての出会いだった。

176:2014/06/05(木) 23:26:19 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

('A`/)「もう勘弁してください」

(;*゚ー゚)「体力ないですね」

げっそりとした顔でドクオはしぃに懇願した。これ以上は無理だ、一歩も動けない。

ショボンに連れられてやってきたのは騎士団の演習場である。そこでドクオは暇潰しと称した訓練に参加させられたのである。半ば強引に。

(´・ω・`)『君は今後も敵に狙われたり事件に巻き込まれるだろう。今のうちに体を鍛えておけば何が来ても対処できるぞ』

とはショボンの談である。

確かに先日の事件はニダーという魔法使いが引き起こしたものだが、その裏では他の者が暗躍していたのではないかというのが騎士団内部でまことしやかに囁かれていたようだ。

かくいうドクオも同じ意見で、いくらニダーが自尊心の高い傲慢な人間といえど、街中で人目も憚らず暴れ狂うなどとは考えられなかった。

ましてや騎士団本部のある王都なら尚更である。

そういうわけでドクオは騎士団が普段こなしている訓練と同等のものを今しがた終えたわけのだった。しぃの監視のもと。

('A`/)「俺は頭脳労働メインなんだよ。体力ばっか有り余った体育会系と一緒にしないでくれ」

(*゚ー゚)「これくらい騎士団なら普通ですが」

同じメニューをこなしたとは思えないほど涼やかな顔をしたしぃにそう言われてはドクオもこれ以上何も言えない。一体この小さな体のどこにそんな力が隠されていたのか甚だ疑問である。

('A`)「まぁ実際暇潰しにはなったけどさ、こんなの毎日やってたら死ぬぞ俺」

(*゚ー゚)「慣れですよ。それに、ドクオさんもなんだかんだいいながら最後までついてこれたんですし、なんならこのまま正式に騎士団になればいいと思います」

('A`)「それは勘弁してください。なんか周りの視線が怖かったし」

ドクオが訓練をする傍ら、他の騎士団員とすれ違うことが多々あったのだが、その誰もが腫れ物でも扱うかのような視線を向けていたのである。

始めはただの好奇心なのかとも思ったのだが、途切れ途切れに耳にした内容はどれもドクオを快く思っていないように聞こえた。

それをしぃに告げると、

(*゚ー゚)「それは多分ドクオさんの髪の色でしょうね」

との答えが返ってきた。

('A`)「髪? そんな珍しいのかこれ」

(*゚ー゚)「ドクオさんは<忌み子>と同じ髪の色をしていますからね。黒髪の人間はこの街広しと言えど、ドクオさんと渡辺さんくらいしかいませんから」

177:2014/06/05(木) 23:27:24 ID:V0EQBG/A0
言われてみればそんな気がする。こちらの世界では金髪がほとんどで、それに混じって他の髪色がちらほらといるが黒髪というのは渡辺以外見たことがなかった。

('A`)「そういやその<忌み子>ってなんなんだ? 前にニダーもそんなこと言ってたけど」

以前しぃに聞こうと思っていたことを思い出し、ドクオは尋ねてみた。

(*゚ー゚)「簡単に言ってしまえば畏怖の対象です。黒髪の悪魔が破壊の限りを尽くし、討滅され、生き残りが人との間に子を成した。という昔話があるんですよ」

('A`)「それだけ?」

(*゚ー゚)「それだけでも皆さんが恐れてしまうのも無理はありません。何しろ神に匹敵する力を秘めているんですから」

('A`)「けど俺はともかくとして、渡辺なんかは人畜無害じゃん。なんか悪いことしたってんなら分かるけど」

(*゚ー゚)「ドクオさんの言いたいことは分かります。ですが、実際問題としてこういった話はごくありふれていますからね。ましてやこの話を信じているのは一人や二人ではありませんし」

少ない人数であれば<忌み子>という単語自体大した意味は成さなかったが、世間に浸透してしまえば真実などいとも簡単にねじ曲げられる。この場合正しいか間違いかではなく、信じるか信じないかなのだ。

それに、としぃは言葉を続ける。

(*゚ー゚)「この話がより真実味を増した話がありますからね」

しぃの声のトーンが一つ下がる。ドクオは思わず身構えた。

178:2014/06/05(木) 23:28:23 ID:V0EQBG/A0
('A`)「なんかあったのか?」

(*゚ー゚)「今から十五年ほど前に全世界を巻き込んだ大きな戦争がありまして、始めは大陸同士の争いだったそうです。しかし、その戦争はいつの間にか人ではない別の何かを相手に戦うことになっていたのだとか」

('A`)「なんでそんな曖昧なんだよ」

(*゚ー゚)「ドクオさんは体力がないだけでなく、頭もお馬鹿さんなのですか? 十五年前に私は産まれていませんよ」

言われてみればその通りだった。騎士団の連中が軒並みガタイがいいのでしぃも同じカテゴリに括ってしまっていたが、しぃは見た目通り十四歳である。

('A`)「んで、その戦ってた相手ってのが悪魔なのか?」

(*゚ー゚)「それが分からないんです。その戦争で生き延びたのはほんの僅かな人数で、ほとんどの人達が戦死してしまったと公式にはっぴょうされていますから」

('A`)「なんだよそれ。訳のわからないものだから悪魔って決めつけて、その矛先を渡辺に向けてるってことになるじゃねえか」

(*゚ー゚)「間違いではないと思います。悪魔という伝承の認知度も去ることながら、戦争の規模も歴史上で五指に入るほど大きいものですからね」

('A`)「それだけひどけりゃ余計にってことか」

ドクオには戦争というものがどれほどのものかは想像できない。たくさんの人間が血を流し、戦い、死んでいったのだろうということしか分からないが、それだけ悪魔という存在が人々にとって畏怖や破滅の象徴ということなのだろう。

だからといって一人の少女をよってたかって後ろ指を指すのはどうかと思う。だってドクオは知っている。彼女は誰よりも心根の優しい、人を傷付けることをよしとしない日向に咲く蒲公英のような温かい人間なのだから。

179:2014/06/05(木) 23:29:38 ID:V0EQBG/A0
それを知りもしない、知ろうともしない他人が自覚のない悪意をぶつけるならばドクオはそれを何とかしたい。

例え叶わぬ願いだと知っていても、願わずにはいられない。

(*゚ー゚)「気持ちは分かりますが、ドクオさんがどうこうしたところで群衆心理はそうそう変わることはありませんよ」

あまり表情を出さないしぃが嘆息するのを見て、ふと疑問が浮かんだ。

('A`)「しぃちゃんはあまりそういうの気にしてないみたいだけどさ、しぃちゃんから見ても渡辺はそういう存在じゃないのか?」

三人で街に繰り出した際も、しぃは渡辺と対等に付き合っていた気がするのだ。ドクオは二人を見て、まるで姉妹のようだと感想を抱いた記憶がある。

(*゚ー゚)「私にとって、悪魔や忌み子というのは空想上の存在です。悪魔なんて見たことがありませんし、渡辺さんが私に危害を加えたわけでもありません。私から見れば渡辺さんは私と同じ女の子です」

しぃの言葉は淡々としているが、どこか慈愛に満ちた優しい口調だった。

しぃにしても、今の渡辺には思うところがあるのかもしれない。

('A`)「みんながそう感じてくれればいいんだけどな」

それにはきっかけがいるだろう。一度外れた歯車はそう簡単に元に戻せない。誰かが手を差し伸べ、元の位置に嵌めてやらなければ。

この世界の住人ではないドクオに、それが出来るだろうか。

180:2014/06/05(木) 23:30:29 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

ショボンは上がってきた報告書に目を通しながら、時計塔広場の事件の推測を立てていた。

報告書の内容は極めて事件の概要を事細かに記載しているものの、ショボンには何かが欠けているように思えるのだ。

ニダーという魔法使いがやたらと忌み子に噛みついていたことは知っていたが、それが今回の動機に繋がるだろうか? というのがショボンの率直な意見である。

さらにニダーは貴族の出であるということも事態の整合性を歪めていた。ショボンは貴族の生まれではないが、同僚である騎士の中には大勢いる。彼らはみな口を揃えて貴族は下々に慈悲と慈愛を持って接し、上に立つものとして道を示さねばならないと豪語していた。もちろんその言葉が嘘ではないことをショボンは知っているし、そのための努力を惜しんでいないのもこの目で確かめている。

ならばこの違和感はなんなのだろう。ニダーも若輩者とはいえ貴族の端くれ、一般人が多い時間帯と場所であんな騒動を引き起こすとはどうしても思えなかった。

(´・ω・`)(やはり、黒の魔術団か)

思えばドクオというイレギュラーを抱えてから不自然な動きが頻発している。表だったものは結界の消失と今回の騒動だが、他にも魔物の大量虐殺や小さな集落での集団失踪など挙げていけばキリがない。

181:2014/06/05(木) 23:31:13 ID:V0EQBG/A0
加えてニューソクを治める王、ロマネスクの動きもまるでドクオが来ることを予測していたかのような周到さだ。正直、ロマネスクの目的の全てを知っているわけではないので、ショボンにはロマネスクですら信じることができていない。

(´・ω・`)(騎士団失格だな、僕は)

信じたくはない、信じたくはないがロマネスクと黒の魔術団は繋がっている。確かな確証はないが、ドクオを中心として考えると、そうとしか考えられないのだ。通常ドクオ個人がこちらの世界での生活に慣れていくための支援を国がここまでやるだろうか。その時点から大分怪しい。

カップに口を付けて液体を飲み干す。喉の渇きは癒えないしあまり旨くはないが、これ以上の贅沢は言えない。

ショボンがお代わりを取るために立ち上がった時、静かにドアがノックされた。

(´・ω・`)「入れ」

「失礼します」

若い新兵が新たな書類を持って部屋に入ってきた。

「モララー様から中隊を動かす承認を頂きたいとのことです。こちらがその書類になります」

(´・ω・`)「中隊を? 何かあったのか?」

新兵から手渡された書類を捲りながら、ショボンは眉を潜めた。ここ最近大きな事件が立て続けに起きてはいるものの、取り立てて隊を編成する事案は結界消失以外なかったからだ。

隊を編成する、ということは本格的な戦闘を行うという意思表示でもある。魔物でも、人でも戦略を必要とし時間をかけず、効率的に敵を攻め落とすために然るべき戦力を投入するということはそれだけでことは大きくなる。

「はっ。そちらの書類にも記載されておりますが、黒の魔術団と思われる集団のアジトを発見したとのことです」

(´・ω・`)「ほう。ほぼ間違いない、と言えるだけの材料が揃ったということか」

この短時間でモララーもよくやってくれたものだ、とショボンは部下の有能さに心で称賛を送った。

しかし、この状況で中隊を投入するという選択は些か早計すぎやしないか、とも思う。

現在王都にはまとまった戦力が残っていない。治安維持のための組織はお飾りのようなものだし、学校にいる教師も戦力としては心許ない。何かあった場合、再び成長仕切っていない生徒達を投入しなくてはならないというのは、あまり好ましくない。

となれば、ショボンが取れる選択肢は━━

182:2014/06/05(木) 23:32:34 ID:V0EQBG/A0
(´・ω・`)「隊は出せない。だが、代わりの戦力をこちらから出そう」

「は? と言いますと?」

(´・ω・`)「最近やってきただろう。騎士団に所属してはいないが、戦力になる人間が」

結界消失時、命をかけて避難所の人達を守り、時計塔広場で大立ち回りを演じた忌み子と同じ髪の色の男。

「まさか、例の男ですか? お言葉ですが副団長、彼は騎士団内部でもよく思われてはおりません。戦力としては申し分ないかもしれませんが、統率がとれるか……」

(´・ω・`)「何、それに関しては問題ないさ。私とドクオ、それにモララーが出る」

「副団長!? 正気ですか!?」

(´・ω・`)「多くの兵が遠征に行っている以上王都を手薄にするわけにはいかない。兵の代わりはいないが、私の代わりに指揮を取れるものはごまんといる」

「しかし……」

(´・ω・`)「話は以上だ。詳しい話はモララーとドクオを含めてすると伝えておけ」

ショボンがそう締め括ると、新兵は不安げな顔をして部屋を出ていった。

悪いことをしたかな、とも思うがショボンは大して気にもとめず、今度こそ飲み物を取りに立ち上がった。

183:2014/06/05(木) 23:33:36 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

渡辺とツンはヴィップラ地区のオープンカフェでお茶をしていた。もちろん誘ったのは渡辺からで、あわよくば学校での話し相手くらいにはなれないかなぁと淡い期待を抱いていたのだが……。

从;'ー'从(ふえぇーん、会話がないよぅ)

二人の間には一切の会話がなく、渡辺はひたすら紅茶のお代わりを頼むしかなかった。

ξ-⊿-)ξ「……」

正面に座るツンは始めに自己紹介をしたきり口を閉ざしたままである。話しかけるなといったオーラは出ていないが、この巻き毛の少女、なかなかに勝ち気そうな見た目をしていて渡辺のようなチキンハートには話しかけづらい雰囲気を漂わせているのだ。

かといって誘った手前、何かを話さなきゃと話題を探すのだが、同年代の友人などいない渡辺は何を話せばいいのかわからないのである。しぃは騎士団とはいえ年下だったので気兼ねなく話せたのに、こうも勝手が違うのかと渡辺は半ば泣きそうになっていた。

184:2014/06/05(木) 23:34:20 ID:V0EQBG/A0
ξ゚⊿゚)ξ「あんた馬鹿ね」

カップをテーブルに置いたツンが、不意に口を開いた。その姿はどこか気品があり、深淵の令嬢なんて言葉がしっくり来るような振る舞いだった。

ξ゚⊿゚)ξ「私とあんた、年齢なんかほとんど変わらないのに怯えすぎよ」

从;'ー'从「あぅぅ……」

ξ゚⊿゚)ξ「あんた例の忌み子でしょ? だから気を使ってるってわけ?」

从'ー'从「っ……」

<忌み子>という言葉をツンが口にした瞬間、渡辺はこの場から逃げたしたくなった。

本当は心のどこかで期待していたのだ。あの時自分を助けてくれた彼女なら、そんな言葉など関係なく一人の人間として接してくれるのではないかと。

学校という閉鎖された場所で、そばにいてくれる存在になってくれるかもしれないと。

だが、ツンは口にしてしまった。絶対に聞きたくなかった言葉を。

从 ー 从「あはは、ごめんなさい。私みたいな忌み子が、生意気に━━」

ξ゚⊿゚)ξ「だから馬鹿だっていってんのよ」

从'ー'从「!?」

ξ゚⊿゚)ξ「あんた<忌み子>って言葉に甘えすぎてない? そんなだから周りに舐められるのよ。自分は自分だって強く持てないから馬鹿にされるの」

从;'ー'从「で、でも、私は」

ξ゚⊿゚)ξ「でももへちまもないっての。自信のなさが体全体から滲み出てる。学校であんたのこと何回か見たことあるけど、いっつも下向いて全部の不幸を背負ったような顔をして、私そういうやつ嫌いなのよ」

从 ー 从「だって、仕方ないよ。私は<忌み子>で、許されない存在なんだもん。周りに不幸をばら蒔いて、破滅をもたらす人間で……だから……」

ξ゚⊿゚)ξ「けど、あんた人を救ったわよね。結界が消えたとき、身を呈してさ」

从'ー'从「ふぇ?」

ξ゚⊿゚)ξ「ひょろっちい冴えない顔した男のこと庇って戦ってたじゃない。それこそ沢山の魔物に囲まれて、勝ち目の薄い戦いに」

从'ー'从「それは……」

ξ゚⊿゚)ξ「なかなかできることじゃないわ。誰だって自分の身が可愛いものよ。それでもあんたは戦った」

ツンはどこまでも真っ直ぐに、渡辺の瞳を見つめる。渡辺はその視線から目を反らせない。

ξ゚⊿゚)ξ「もういいんじゃない? 自分を卑下するの。自信持ちなさいよ」

185:2014/06/05(木) 23:35:05 ID:V0EQBG/A0
从'ー'从「……」

ξ゚⊿゚)ξ「私さ、あの時近くにいたの。魔物が沢山沸いてくるなか、どうしていいか分からなかった。本物の戦場を見て何も出来なかったの。死んじゃうかも知れないって思ったら足がすくんじゃった。普通の人だったらみんなそうだと思う。あんな大きな魔物を見れば誰だって怖いわ」

从'ー'从「あれは、どっくんが……」

ξ゚⊿゚)ξ「理由なんてなんでもいいのよ。命をかけて戦った、この事実はどうやったって変わらない。あんたは胸を張っていいの。<忌み子>だろうとなかろうと、ね」

渡辺はツンの言葉を心の中で反芻する。戦った理由は些細な理由だ。初めて触れた優しさにすがっただけの、偽善、依存。けして褒められたものではない。

けれど、目の前の少女はその事実でさえ認めてくれている。お前はよくやった、と。誰にも真似できないことをやってのけたんだ、と。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、私はあんたと友達になりたいなって、ずっと思ってたんだけど、あんたは<忌み子>だからって拒否するの?」

从'ー'从「私といたら、きっとツンちゃんも変な目で見られるよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「勝手に言わせとけばいいじゃない。肝心な時に何もできない腰抜けどもより、私はあんたのことをもっと知りたい。<忌み子>だとか言われても、誰かのために動けるあんたと私は一緒にいたい」

ツンはそう言ってにこりと笑った。渡辺の全てを知り、それでも渡辺を知りたいのだと言ってくれた。

この手を、取ってもいいのだろうか。

信じてもいいのだろうか。

一人で歩くことしか出来なかった自分は、誰かと共に歩いても許されるのだろうか。

从'ー'从「私は……」

それでも、心が求めている。暗く深い孤独の道から解放されることを。

誰かと繋がっていたい、誰かと話してみたい。

それを理解した瞬間、渡辺は溢れる涙を止めることが出来なかった。

从;ー;从「ふえぇー」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ、ここは泣くとこじゃないわよ。笑顔でよろしくっていうとこでしょ」

从;ー;从「よろしくだよぉ」

ξ;゚⊿゚)ξ「あーもう、これ使いなさい。まったく、子供じゃないんだから」

ツンがハンカチを差し出してくる。そんな些細なことがどうしようもなく嬉しかった。

186:2014/06/05(木) 23:36:18 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

('A`)「で、説明をお願いします」

日が完全に沈み一番星が輝きだした頃、ショボンの執務室に呼び出されたドクオはいの一番にそう尋ねた。

この場にいるのはドクオの他にモララーとショボン、プラス監視役のしぃ。誰も彼も難しい顔でドクオは居心地が悪い。

( ・∀・)「副団長の前だ。もう少しシャキッとしろ」

('A`)「俺は騎士団じゃないんですが」

(´・ω・`)「構わん。そのまま聞いてくれ」

椅子に深く腰かけたショボンが近くにあった端末を操作すると、三人の前にいくつかの文字が浮かび上がった。

(´・ω・`)「今回君たちを呼び出したのは、王都の近くに潜伏している黒の魔術団のアジトの襲撃のためだ」

('A`)「は」

あまりに物騒なショボンの言葉にドクオは思わず絶句した。

( ・∀・)「ま、申請書を出した私からしてもこうなるんじゃないかと薄々思ってましたよ」

('A`)「ちょ、ちょっと待ってください。今襲撃って言いましたよね? なんで俺が呼び出されたんですか?」

あまりにも予想をかけ離れた話に、ドクオは狼狽する。自分はたまたま巻き込まれただけで、戦闘力など皆無である。戦いかたなどほとんど分からない。

(´・ω・`)「それも含めて私から話そう。以前からモララーに頼んでいた黒の魔術団の動向についてなのだが、モララーの力によって潜伏先が判明した。しかし、皆も知るように現状王都には戦力が少ない。残っているのは殆ど魔法が使えるだけの非戦闘員だ」

( ・∀・)「ジョルジュ団長達が遠征に行っていますからね」

(´・ω・`)「残り少ない戦闘員を使ってしまっては王都の守りが薄くなってしまう。そこで、私は少数精鋭にて短期決戦をかけることにした」

(*゚ー゚)「それがこのメンバーということですか?」

187:2014/06/05(木) 23:37:29 ID:V0EQBG/A0
(´・ω・`)「うむ。敵の有する戦力が未知数である以上、下手な戦力では逆に返り討ちにされかねないからな」

('A`)「だからどうして俺がいるんですか」

( ・∀・)「お前はここに来てから二回の戦闘を経験してるだろ。どっちとも並みの実力じゃ生き残るのは難しかった」

(´・ω・`)「加えて、君には不思議な力がある。報告書で読んだよ。なんでもニダーの魔法を消したそうじゃないか」

('A`)「……」

確かにドクオの記憶違いでなければそんなこともあったような気がする。とは言え、過去の戦闘は偶発的に巻き込まれ、たまたま生き残れたに過ぎないとドクオは思っている。

(´・ω・`)「こんな状況だからな、我々騎士団もあまり多くの選択肢がない。力を貸してはくれないだろうか」

ショボンは立ち上がると、深々と頭を下げる。

('A`;)「いや、あなた偉い人でしょ? 頭下げちゃ駄目じゃないですか」

( ・∀・)「それくらい切羽詰まってるってことくらい分かれ。騎士団のナンバーツーが頭下げるってことは、そういうことなんだよ」

(*゚ー゚)「やはりお馬鹿さんですね」

('A`)「なんか俺が悪いみたいになってるんですけどー」

どうやら逃げ場はないようだ。それに、こちらに来てから何から何まで世話になっている。

ドクオは深々と溜め息を吐いて、

('A`)「まぁ分かりましたよ。とは言っても、あんまり期待できないと思いますよ? ろくすっぽ運動なんてしたことありませんし」

(´・ω・`)「構わないさ。不確定な要素も多分に含んでいるからな。さて、ドクオの了承も得られたことだし、具体的な話に移ろう」

ショボンが浮かんだ文字と地図を用いて話を進めていくが、ドクオはあまり頭に入っていなかった。

何せド素人である自分が本格的な戦場に赴くのだ。気が気ではない。

('A`)(確かにこういう展開を妄想しなかった訳じゃないが、なんかなぁ)

話し合いが進むなか、ドクオは自分の命ってなんだろうとつくづく思うのだった。

188:2014/06/05(木) 23:38:27 ID:V0EQBG/A0




話し合いが終わり、ショボンとモララーだけが部屋に残っていた。先程のような張りつめた空気はどこにもない。

( ・∀・)「しかし、本当にあいつを使うつもりなんですか? 言っちゃ悪いですが、足手まといですよ」

モララーは何でもないように言うが、実際は不安でならなかった。異世界から来た謎の男、加えてその実力は未知数。戦闘に関しては昼間の様子では期待できそうもない。

おまけに黒の魔術団の目的が彼の持つ魔剣であることは一目瞭然。もしかしたらドクオそのものも目標に入っているかもしれないのだ。そんなものを連れて歩いてはこちらに危険が及ばないとも限らない。

(´・ω・`)「お前の言いたいことも分かるさ。だが、どうにも胸騒ぎがするんだ」

( ・∀・)「と言いますと?」

(´・ω・`)「ドクオは、いや魔剣は、本当に黒の魔術団だけが狙っているんだろうか」

( ・∀・)「はい?」

(´・ω・`)「お前も変だと思わないか? ここまで、彼を中心に全てが動いていることに」

189:2014/06/05(木) 23:39:14 ID:V0EQBG/A0
( ・∀・)「ま、確かにそれは俺も思っていたことではあります。ですが、仮にそれが本当だとすれば、俺たちは何を信じて剣を取ればいいんでしょうかね」

騎士団とは国を守り、街を守り、人を守るための組織だ。悪を挫き、弱きを守る、そのために手段は撰ばない。

しかし、仮にその悪が守るべきはずのものだとしたら、騎士団とは何のために戦えばいいのか。

(´・ω・`)「もちろん杞憂であることを願うばかりだが、それでもその時が来たときのことを覚悟しなければならない」

( ・∀・)「俺達は騎士団である前に一人の人間です。いつだって自分が可愛いもんですよ」

(´・ω・`)「それも真理だな。しかし僕達が持つ誇りや信念が嘘ではないと民衆に啓蒙しなければならない。それが出来なければ騎士団なんていう組織は必要あるまいさ」

( ・∀・)「副団長ともあろう方がそんなことを言っていいんですか? 下が聞いたら泣きますよ」

(´・ω・`)「何が大切かを自分の意思で決められないのなら、死んでいるも同然だ。そんな腰抜けなどこちらから願い下げだ」

( ・∀・)「そいつはごもっともですね。俺だったらその場で打ち首です」

(´・ω・`)「そのためにも僕達は確かめなければならない。すでに賽は投げられている」

( ・∀・)「裏目に出ないといいですがねぇ」

(´・ω・`)「その時はその時さ。あちらではジョルジュがブーンに接触を図ったと聞くし、面倒ごとはあいつがなんとかするだろう」

( ・∀・)「上に立つ方々は背負うものが多いですね。俺はこれ以上持てませんよ」

そう言ってモララーは背を向ける。

(´・ω・`)「お前も気付かない間にこうなるんだよ」

ショボンの言葉に、モララーは何も言わずに部屋を出た。

190:2014/06/05(木) 23:41:01 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

从'ー'从「えっとねー、それでどっくんがねー」

渡辺と話すようになってから数日、ツンは何度も聞いたどっくん━━ドクオの話に辟易していた。

今までろくに人付き合いのなかった渡辺にはどんな話題が適切なのかもよく分からないのだろうが、それにしたって口を開けばドクオドクオ、たまに魔法理論というのはいかがなものか。傍目にはノロケにしか聞こえない。

それに文句も言わず付き合う自分もどうかとは思うが、楽しそうに話す渡辺を見ると、一生懸命に気を引こうとする子犬のように見えるのだ。

要するに、可愛い。

ξ゚?゚)ξ「あーもう、ドクオの話は分かったわよ。それよりもあんた昇級試験の資料は出来上がったの?」

从'ー'从「えー、ここからがいいところなんだよぉ」

ξ゚?゚)ξ「ってまだ半分くらいしか出来てないじゃない。このままじゃまた見習いのままよ?」

从'ー'从「うー、でもでも、頭の中ではもう完璧に出来上がってるんだよぉ〜」

ξ゚?゚)ξ「だったらそれをきっちり書け! 手を抜くな! この年で見習いだなんてあんたくらいのもんよ?」

从'ー'从「はぁ〜い」

少し膨れた渡辺が再び資料に向かうのを見て、ツンはクスリと笑う。表情がコロコロ変わる彼女は見ていて飽きない。

周りは<忌み子>だ<悪魔>だと騒ぎ立てるが、彼女を知れば知るほどそんなものとは無縁の存在だと感じる。元々が心根の優しい子なのだろう。自分とは正反対だ。

191:2014/06/05(木) 23:41:43 ID:V0EQBG/A0
ξ゚⊿゚)ξ(羨ましいな。私はこんな風になれない)

よってたかって虐げられて、それでも健気に前を向けるだろうか、と自問する。自分には無理だ。プライドの高い自分はきっと周囲の期待通り世界を憎み、他人を怨み、心の底から全てをぶち壊してやろうと動き続けるだろう。

それほどに、<忌み子>という悪習は深く根を張ってしまっている。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ渡辺、あんたは……」

言いかけて、やめた。

聞いたところでそんなものは自己満足だ。こうして渡辺のそばにいること自体どうしようもなく後ろめたいのに、さらに恥を上塗りしてどうするというのか。

从'ー'从「なぁに〜?」

ξ゚⊿゚)ξ「救いようがないくらい馬鹿だって言おうとしたのよ」

从'ー'从「さっきから馬鹿馬鹿言わないでよぉ〜」

この心地よい時間がいつまでも続けばいいのに。

そんな願いは絶対に叶わないことをツンは知っている。

そのために、ツンはここにいるのだから。

192:2014/06/05(木) 23:42:37 ID:V0EQBG/A0




王都からそれほど離れていない小さな廃村に、数人の魔法使いが集まっていた。ドクオがよく見るような三角帽子にマントといった格好ではなく、各々好きなファッションに身を包んだ━━どちらかと言えば厨二的なファッションである。元いた世界であれば彼らはドキュンと評されるだろうなとドクオは思う。

('A`)「いっぱいいますよ、あれ」

後方にいるモララーは奇襲のために使う設置型の魔法陣をそこかしこに設置しながら心底どうでもよさそうに答えた。

( ・∀・)「よかったな、沢山遊んでもらえるぞ」

('A`)「この場合男である俺はどんな目に合うんでしょうか」

( ・∀・)「なぁに死にはしないさ。死んだ方がましだろうけどな」

('A`)「俺なんでここにいるんだよ」

モララーはそこで興味をなくしたらしく、ドクオの言葉に返事をせず、代わりに偵察から帰ってきたショボンとしぃに声をかける。

( ・∀・)「どんなもんですか?」

(´・ω・`)「予想通りってところか。大がかりな陣を組んでいるところを見ると、それなりに重要な拠点だろうな」

(*゚ー゚)「しかし、いるのはしたっぱばかりな気もします」

('A`)「大事なところを留守にするっておかしくないか」

193:2014/06/05(木) 23:43:45 ID:smIulIUk0

(´・ω・`)「何、さっさと終わらせて吐かせればいい話さ」

( ・∀・)「まったくもってその通り。最近書類とのデートばかりで運動不足なんだ。派手に踊らせてもらうぜ」

(´・ω・`)「では、そろそろ所定の位置につこうか。合図はモララーに任せるぞ」

( ・∀・)「了解」

(´・ω・`)「ドクオはモララーから離れるな。万が一が発生したら身を隠して動くなよ。連絡手段は分かってるな?」

('A`)「了解」

(*゚ー゚)「副団長」

(´・ω・`)「ああ。行くぞ」

二人が所定の位置に付いたらドクオの端末に連絡が来る。あとはモララーのタイミングで突入だ。

('A`)「一応付け焼き刃の戦闘法は教わったけど、どこまで通用するのやら」

この数日、みっちりと剣術を叩き込まれたがはっきりいってうろ覚えである。構えだとかの基本をすっとばしてひたすら打ち合いをさせられた。あれが本番だったならドクオは軽く三桁は死んでいるだろう。

194:2014/06/05(木) 23:45:01 ID:smIulIUk0

( ・∀・)「あんなんでろくに戦えるわけあるか。お前は黙って隠れてりゃいいんだよ」

('A`)「だったら連れてこなきゃいいだろうに……」

悪態を吐いて、ドクオは煙草に火をつけた。命のやり取りだ、落ち着かなければ。

('A`)y━・~~「うまー」

こちらの煙草は値段が安い分味もマイルドであまり吸った気にならないが、ないよりはましだ。

( ・∀・)「なんだお前も煙草吸うのか。どれ、一本寄越せ」

('A`)y━・~~「モララーさんも喫煙者なの?」

( ・∀・)y━・~~「ふー。今はあんまり吸わないけどな。昔は戦場でよく吸ってた。気持ちが昂っちまうから落ち着くために、って感じでな」

('A`)y━・~~「似たような理由なんだな、どこも」

二人の煙草が根本まできっちりと灰に流れた頃、ドクオの端末に作戦開始の合図が入る。

( ・∀・)「さってと、派手に暴れさせてもらうか」

モララーが魔法陣を発動させる。そこから大小様々な球体が打ち上がり、眼下にいる魔法使い達に向かっていった。

( ・∀・)「いっくぜぇ!!」

爆音。周辺で巻き起こる爆発に敵は混乱し、右往左往している。その隙にモララーは空高く舞い上がり、持っていた多節式の槍を組み上げた。

( ・∀・)「ショウタイムだっ!!」

195:2014/06/05(木) 23:45:45 ID:smIulIUk0
◇◇◇◇

アジト襲撃の連絡を受けた彼女はクスクスと笑う。ここまで思い通りに動くともはや笑うしかない。何処までも愚かな連中だ。

川д川「作戦は順調、そしてここに恐れるものはいない。狙いは一つ、すでに手は打ってある」

彼女の視界にいるのは何も知らず、朗らかに過ごす一人の少女。今も幸せそうに最近出来た友人と喋りながら歩いている。

从'ー'从ξ゚⊿゚)ξ

自分が何者で、どんな存在で、何のために生きているのか。無知は罪だ。無知は言い訳にならない。

川д川「うふふ。これからが本当のパーティーよ。素敵な輪舞を踊りましょう。何から何まで仕組まれた絶望の輪舞を、ね」

196:2014/06/05(木) 23:46:29 ID:smIulIUk0
第三話 終

197:2014/06/05(木) 23:53:04 ID:5DeVuywY0
これにて第三話終了です
今回前後編にしてみました
できる限り短くしようと思うのですがどうにも一つの話がながったらしくなってしまいます
他の作者さんは短く綺麗に纏めてるのになぁと実力不足を痛感します
さて、次回投下はこのままいけば日曜日か月曜日になるかと思います
また予定が早まればその都度顔を出しますのでよろしくお願いします

198名も無きAAのようです:2014/06/06(金) 08:54:53 ID:ZX6CGXVc0
おもしれー!!!
続きも期待してます
乙です

199名も無きAAのようです:2014/06/07(土) 03:04:37 ID:xsqt5PpkO
投下ペース早くていいね。勢いあるから余計に面白い。

200:2014/06/07(土) 04:33:26 ID:jU5rjelI0
なんか自分が思い描くように執筆が進まない……
これじゃない感が半端ないです
もしかしたら月曜日に間に合わないかもしれません

201名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 03:29:48 ID:fmAwUd.U0
>>200
無理せずマイペースでいいと思うますw
のんびり読ませて頂いてますよ〜

202:2014/06/08(日) 17:42:50 ID:0Jfq5erY0
どうも1です
やっと筆がのって来まして現在半分ほど書き上がっております
ただ調子にのって余計なこと書きまくってたので、推敲後もあまり短くはらなければまさかの前中後編になるやも……
とりあえず明日には間に合いそうだということのご報告です

203:2014/06/08(日) 17:44:41 ID:0Jfq5erY0
>>201
いらっしゃいませ
無理せず書いていきたいと思っておりますが、やはりスピードを意識してしまいます
売れない作家はスピード命なのですよ

204名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:28:07 ID:I9fNWMOY0
何かうまく言えないが
自分がおもしろいと思うものの本質を思い出したわ
ありがとう

205:2014/06/08(日) 23:47:56 ID:SOKdFUyk0
本日二回目の登場となります1です
今しがた第四話を書き終えたのですが、文章量が通常の1.5倍となってしまいました
ですので上のレスにある通り、今回は前中後編の三話編成でいきます
ろくに計画を立てられない作者ですいません
第四話の投下は明日の21時から24時の間に行います
それではまた

>>204
そう言っていただけると作者冥利につきます
今後も頑張っていきますのでよろしくお願いいたします

206名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 03:15:50 ID:5jgAuYLcO
ω・)乙。これがブーン系初投下とか信じられないうまさだ。

207:2014/06/09(月) 06:11:11 ID:jAl3WcRQ0
>>206
自分ではあまりそう思えませんが、そう言っていただけるだけで小躍りしたくなります
今後もそう言っていただけるだけようひたすら書いていきますのでよろしくお願いいたします

ちょっとした提案なんですが、ブーン系が元々vipで書かれていたということですので
今後時間があればvipでも投下していきたいなぁと思っているのですが、皆様いかがでしょうか?
稚拙な文章をさらに大勢の方に晒すことになるのでちょっと緊張しますが
自分もブーン系作者としてデビューしてしまったので、多少なりとも貢献しようかと思っているのですが……
皆様の意見を頂ければ幸いです

208名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 12:31:30 ID:jgdEf9/w0
貢献とか気張った事は考えなくても、もっと多くの人に見てもらいたいとかなら投下したら良いと思うよ
でもこっちでも読みたいから、アモーレみたいにvipに投下しつつ創作板にも投下するとかのがいいかと

209名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 15:58:45 ID:/ZzRx.nI0
ヴぃp投下に不満はないけど投下するときはこのスレのURL貼った方がいいと思う まとめが付いたらそれでもいいと思うけど

210:2014/06/09(月) 23:20:51 ID:Q3Oqlw1I0
>>208>>209
見てもらいたいという気持ちはありますが、反応とか気になるんですよね……
vipってそういうとこ厳しいですし
とりあえず五話まで終わったら試験的にvip投下してみます
vipと創作の二重投下がよさそうなんで、そのようにします
あとはスレのURLですね
一応五話投下終了までは意見をお待ちしてます

では四話はっじまっるよー

211:2014/06/09(月) 23:22:46 ID:Q3Oqlw1I0




第四話「魔法使いの流儀・中編」



.

212:2014/06/09(月) 23:24:06 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

( ・∀・)「オラオラァァァァァァァァ!! やる気あんのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

怒声を浴びせながらモララーは多節式の槍を振るうと、前方にいた数人の魔法使いは為す術もなく一瞬で首を切断され絶命した。さらにモララーの後方からは閃光が迸り、地面を抉りながら周囲を殲滅していき、敵の兵士が悲鳴をあげながら熱に焼かれ、骨一つ残さず塵と帰した。

砂埃が舞い上がる中、疾走。一人の男が呆然と立っている。モララーに気付くと慌てて剣を構えたがすぐに身体を両断されて地に伏した。

と、モララーは身を屈める。次の瞬間四方八方から魔法弾が頭上を掠めていった。そのまま地を蹴り高く跳躍すると柄の節を分解し、広範囲を纏めて吹き飛ばす。着地と同時にモララーの周囲に魔法陣が浮かび上がり、幾何学的な文字から複数の光弾が帯を引いて敵を穿つ。

本来であれば人のいない寂れた廃墟が建ち並ぶ村は、たった一人の男によって悲鳴と怒号が飛び交う鮮血の舞台へと変化していく。

モララーの声が聞こえる度に爆発、土煙、悲鳴があがるのはそれだけ圧倒的だということだ。

それにしても。

( ・∀・)「最っ高に昂ってきたぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! ひゃっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

('A`)「人変わりすぎだろ、あれ」

普段の冷静沈着で少し皮肉屋なイケメンは、こと戦場に置いては過激で危険なちょっと尖ったナイフのような男になるらしい。ちょっと、どころの話ではないような気もするが。

少し離れてモララーの後ろをついて行っているが、近付きすぎれば攻撃に巻き込まれるし離れすぎては敵に狙われるというジレンマでドクオは身動きがとれなくなっていた。

ドクオも戦えないわけではないが、つい最近まで命のやり取りを経験していなかった一般人としてはごめん被りたいところである。

そもそもこんなところまでドクオが来る必要があったのかと問われると、正直口を閉ざすところだ。陽動として動いているものの、その役目はモララー一人で十分にお釣りが来る。始めに設置した自動迎撃型の魔法が有効に働いていることも理由の一つではあるが、何より設置した本人が怒濤の勢いで戦場を荒らし回っているからだ。

傍若無人に暴れまわっているように見えて意外にドクオ位置を計算して攻撃しているし、それを踏まえて効率よく戦力を潰していく回転の早さはまさに鬼神、彼の通った道には草木どころか道すら残らないかもしれない。

それにしても、とドクオは周囲を見渡した。

('A`)(たかだか一人にここまで苦戦するものなのか?)

213:2014/06/09(月) 23:25:15 ID:Q3Oqlw1I0
ドクオは本当の意味で戦争というものを知らないが多少の知識くらいはある。ドクオから見てもモララーの強さが異常だということは分かる。比較対象は渡辺やしぃくらいだが、その二人が足元に及ばないレベルだろう。

だが、敵の数はざっと見ただけで百人を優に越えている。然るべき戦術に適切な人数を投入すれば撃破できない、というほどの差は感じない。ドクオというお荷物を抱えているのなら尚更だ。

にも関わらず、ここまで一方的な戦いになっているのはどういうことなのだろう。

('A`)(敵にとってそこまで重要な場所じゃないのか? それとも単に指揮をとる人間が無能ってことか?)

どちらにせよここを死守しようとする意思が感じられない。このままでは敵方の被害は大きくなるばかりで、意味のない戦いをしていることになる。

そもそもこの戦いの目的はなんだろうか。ドクオ達は黒の魔術団の手懸かりを掴みにここにいる。

もし、仮にここが重要な拠点であれば敵もそれなりの戦力と戦術でこちらを潰そうとするだろう。

ではそうでないとしたら?

ここには何もなく、戦うことが目的なのだとすれば、その意味はなんだ?

('A`)(……時間稼ぎ)

ドクオの脳裏に嫌な予感がよぎる。

予想が当たっているとすれば、敵の意図は別にあるということだ。

ならばそれはなんだ? どこに着地点がある?

ドクオは考える。自分が持つ知識と経験の中に思い当たる節はあるか。

ドクオが巻き込まれた事件は二つ。こちらの世界に来る切っ掛けとなった結界消失事件。王都中に大勢の魔物が出現し、王都にも甚大な被害が出た。二つ目は時計塔広場でのニダーとの交戦。結界消失の際、渡辺に異常とも言える執着心を見せていた。

214:2014/06/09(月) 23:26:49 ID:Q3Oqlw1I0
そして今回の件。この三つに共通しているのは全てにドクオと渡辺が関わっていること。加えて時計塔広場の件を除き、黒の魔術団が関連している。

例えば、そう例えば、自意識過剰の可能性もあるが、黒の魔術団の狙いがドクオだとしたら? ドクオと言わず、ドクオが持っている剣が目的だとしたら?

('A`;)「……まさか」

思い過ごしの可能性だってある。確信はないのだ。だが、この奇妙な一致は偶然で片付けられるのだろうか。

思えば初めてこの世界に来たときから魔物はドクオの周りに集中していた。その背後に何があったのかは分からないが、今でははっきりと黒の魔術団が関連していることを知っているのだ。

ここまでくれば勘違いではない。もはや限りなく真実に近い推測だろう。

('A`)(けど、なんでここにいるやつらは俺を狙ってこない?)

ここにドクオをとどめておくことに意味があるのか、それともここにドクオがいることに気付いていないのか。そのどちらかである可能性が高いが、前者ならば本命の意図が不明だ。だが、恐らくここにいる意味はない。

ドクオはこの考えをショボンに伝えるためポケットに入れた端末を取り出そうとして━━

━━ドクン

( A ;)「がっ……」

がくりと膝を折った。

頭が割れるように痛い。何かが流れ込んでくる。

ニダーとの戦いで感じたような衝動に似た痛み。ドクオの大切な部分に直接働きかける何か。

不快感が体を這いずり回り、胃液が逆流しそうになる。絶対に合わない部品を強引に合わせようとするような違和感がじわじわと広がって、ドクオの意識は闇へと引きずり込まれていく。

その間際、黒く塗りつぶされた王都が見えた。渡辺と、見たことのない巻き毛の少女も。

( A ;)(なん……だ、これ……)

二人が動き出す瞬間、ドクオは意識を手放した。

215:2014/06/09(月) 23:28:07 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

从;'ー'从「はっ、はっ……」

渡辺はただひたすらにヴィップラ地区を走っていた。運動不足だからではなく、走ることしか出来ないからだ。本来の移動手段である箒は魔力の伝達がうまくいかずにその辺に捨て置いた。あんなものを持ちながら走るなんてとんでもない。

渡辺の後方からは見たことのない生き物のような物体が追いかけてきている。楕円形で中心に赤い瞳のようなものがついており、背と思われるところからは羽がついているものの、それを羽ばたかせて飛んでいるわけではないようだ。

その物体は渡辺が射線上に入ると瞳から短いビームを放つので、渡辺は出来る限り距離をとりつつうまく攻撃を交わしている。

从;'ー'从「ふえぇー、なんで追いかけてくれるのよぉ〜!!」

渡辺が思いきり叫んでも楕円形の物体は容赦なく攻撃を放ってくる。言葉を解さないことを考えても、あれは魔導人形の一部なのかもしれない。

だとすれば操っている術者が近くにいるはずだが、渡辺が襲われた地点から大分離れている。術者も一緒に追いかけてきているのか、はたまた自律型のものなのかは渡辺には理解できなかったが、あれが渡辺を確実に狙っているのはわかっていた。

もし仮にあの物体は渡辺のマナを覚えていてそこからこちらの姿を追ってきている場合はアウトだが、そうでないなら━━

从;'ー'从「こっちだよぉ〜」

人気の少ない裏通りの曲がり道を左に曲がり、さらに右に曲がる。ヴィップラ地区は商業区であるため店が立ち並んでいるのだが、それはあくまでメインストリート周辺に限られているのだ。奥に行けば行くほど人も立ち寄らないし、以前開業したはずの店も客足の悪さに閉店しそのまま放置された空き家が多い。渡辺はそこに身を潜めることにしたのである。

216:2014/06/09(月) 23:29:01 ID:Q3Oqlw1I0
元々この周辺は渡辺の庭だ。幼少期からあまり人と接することの出来なかった彼女は人気の少ないこういう場所しか出歩けなかった。

从;'ー'从(反撃したいけど、魔法が使えないんだよぉ〜。困ったなぁ)

事の起こりは王都を覆う結界の異変だった。なんの前触れもなく唐突に、結界は黒く変色したのである。そして、それを境に王都の至るところで魔法が使えないという報告が相次いでいるようだ。

その時渡辺は資料の完成を祝うためにツンと街に繰り出しており、結界が黒くなる瞬間を見ていたのだが、それと同時にあの飛行物体が襲撃してきたことで渡辺はツンとはぐれてしまったのだった。

ツンも心配だが、とにかく今はこの状況を切り抜けるのが先決だ。魔法が使えない以上、今の武器は土地勘だけ。

ならばそれを精一杯利用してあれを無力化するしかない。

廃墟から少し顔を出して辺りを窺うが、動くものはないようだ。どうやらあれはマナや魔力で標的を探索するタイプではないらしい。そばによらなければ追ってはこないだろう。

从'ー'从(でも、なんで私の事狙ってたのかなぁ)

王都の内部で魔法を使えなくする、というのは分かる。王都が抱える戦力の殆どが魔法使いである以上これは最も効果がある。

だが、王族や騎士団の重鎮を狙うのではなく何故渡辺なのかがさっぱり分からない。思い当たる節があるとすれば自分が<忌み子>だからだろうか。

だとして、こんな大がかりな仕掛けを施す理由は?

普段あまり使うことのない頭をフル回転させるが理由は見当たらない。そもそも渡辺が目にしたのは自分が狙われているという事実だけであり、他の場所で別の人が襲われている可能性も否定はできないのだ。

217:2014/06/09(月) 23:29:56 ID:Q3Oqlw1I0
从'ー'从「やっぱり、もう一回街に戻って様子を見てきた方がいいかなぁ」

渡辺が廃墟から一歩出ようとして、すぐにやめた。

从'ー'从(……誰?)

足音が聞こえる。魔物のような大きい足音ではない。コツコツとヒールが石畳を叩くような音だ。

川д川「隠れてないで、出てきたらいかが?」

若い女の声が聞こえた。誰に向けての言葉なのか、渡辺には判断ができない。他に誰かがいるのかもしれない。

渡辺は体を強ばらせてじっと耐える。出来ることなら自分に気付かないでくれ。そう願いながら。

川д川「クスクス、かくれんぼなんて歳でもないのだけれど、いいわ」

女の周りでひゅんと何かを振る音がした。大丈夫、今王都で魔法は使えない。

川д川「見つけてあげる」

女の声を合図に、周囲の建物が崩れ始めた。渡辺は慌てて廃墟を飛び出すが、女はこちらを見付けるとにやりと笑い、持っていた杖から魔方陣を呼び出した。

从;'ー'从(魔法は使えないはずじゃ……)

一瞬の思考が渡辺の行動を遅らせた。女が放つ黒い光が渡辺に当たると、ぱっとはじけ、途端に渡辺は地面に倒れこんだ。

从;'ー'从(か、体が、重い……)

まるで地面に縫い付けられたように体があがらず、立ち上がることはおろか指を動かすことすら出来なかった。

川д川「ふふふ、残念だったわね。貴女に恨みはないけれど、私達のために死んでいただけるかしら?」

渡辺は反論したかったが、声がでない。少しでも力を抜けば押し潰されてしまいそうだ。

川д川「<忌み子>だなんて言ったところで所詮他の人と何も変わらないのに、悲しい話だわ。きっと貴女を殺すのは私ではなく、そう願う他人の悪意。恨むなら世界を恨みなさいな」

女はそれだけを言うと杖をこちらに向けた。こんな至近距離で魔法を使われれば、待っているのは確実な死である。

逃げようと渡辺は体に命令を下すが、なんの魔法なのか体は言うことを聞かない。どころか徐々に悲鳴をあげて筋肉からぶちぶちという音と共に刺すような痛みが走った。

川д川「さようなら、不幸な仔猫ちゃん」

死を覚悟し、目を閉じる。残された策はない。最後にドクオの顔を見たかった。

从 ー 从(さよなら……)

218:2014/06/09(月) 23:31:29 ID:Q3Oqlw1I0
ξ#゚⊿゚)ξ「させるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ツンの怒号。そして爆発。渡辺は爆風で吹き飛ぶが、誰かに抱えられて衝撃はなかった。

从'ー'从「ツンちゃん!?」

ξ゚⊿゚)ξ「話はあと!! 逃げるわよ!!」

ツンは渡辺を抱き抱えたまま宙を舞う。そのまま一気に加速すると、景色が早送りのように流れていった。

川д川「少しおいたが過ぎるんじゃないかしら。━━のく━━」

女の声が遠くから聞こえてきたが、最後まで聞き取ることは出来ず、やがて意識は途絶えてしまった。

219:2014/06/09(月) 23:32:18 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

彼女はいつも一人きりで、彼女の知る世界は使用人が数人と広い大きな屋敷の中だけだった。外の世界があることは知識として知っていたが出たことはない。

屋敷の中には同年代の者はいなかったし、彼女には常にやるべきことがあったから年相応の遊びを知らぬまま育ったのですることといえば魔法の勉強と書庫にある読書だけ。おかげで使用人達より博識になったし、その知識を応用できるだけの基礎は身に付いたと思っている。

しかし、彼女はたくさんの使用人に囲まれながらいつも孤独だった。

使用人と言葉を交わすのは必要なことと勉強中の質問だけ。故に独り言を口にするのがいつの間にか癖になっていた。

屋敷の中から見る外の景色はとても美しく、本の中の登場人物は皆イキイキとしていて自由に生きている。することのない屋敷の中なんて彼女にとってみれば牢獄も同然だった。そんな彼女だから外の世界というものに憧憬を抱くのは必然といっても過言ではなかったのかもしれない。

そんなある日、彼女はどうして自分は外に出てはいけないのかと使用人に尋ねてみた。普通の子供は外に出て友人を作り、日が暮れたら家に帰ってその日の出来事を話しながら家族と団欒を築くものではないのか、と。現に屋敷の周辺には多くの子供が遊びに来ていた。楽しそうに追いかけっこをして、朗らかに笑っているのを彼女は屋敷から見たことがある。

使用人の一人は彼女の問いに対し、あなたは選ばれた人間で周りの平凡な人間とは異なる道を歩まなければならない。それがあなたのためで、あなたはそのために生まれてきたのだ、と答えた。

自分だって子供なのに、他の人と違うなんてことに彼女は到底納得できるものではなかったが使用人が困った顔でそんなことを言うものだから彼女はそれ以上追求することが出来なかった。

220:2014/06/09(月) 23:33:10 ID:Q3Oqlw1I0
しかし、その日から使用人達と会話をする機会は格段に増えたように思う。彼女が寂しいと感じないよう、他人と違う生活をしていることに疑問を抱かないようにとの配慮だったのだろう。それから彼女はあまり孤独を感じることはなかった。

その数年後、彼女の人生に転機が訪れる。

彼女は両親が不在の理由を知らなかったし知ろうともしなかったのだが、その日は使用人達が朝から騒がしかったことから、何か重大なことがあったのだと推測していた。あの日から人が変わったように優しくなった使用人達に迷惑をかけたくなかったのだ。だから彼女は何かあれば使用人から話してくれるのを辛抱強く待った。今ではそれが間違いであったと酷く後悔している。

使用人達はその日からよそよそしい態度になり、彼女とあまり口を利かなくなってしまった。それは今だけだと彼女は信じていたが、それから使用人と会話をした記憶は、彼女が屋敷を出る最後の日だけとなる。

使用人との会話がなくなった翌週のことだった。彼女はいつも通りに起きて、いつものように勉強と読書に明け暮れていたのだが、お昼を回った頃に一人の男が訪ねてきた。今日から彼女の雇い主なのだという。

訳が分からず話を聞こうと使用人に説明を求めると、彼女の両親が亡くなったこと、お屋敷や他の土地などの資産は売りに出されてしまったことなどが明らかになった。つまり、今まで彼女は貴族と呼ばれるものだったが、彼女も気付かない間に落ちぶれ、全てを失っていたということだ。

221:2014/06/09(月) 23:33:58 ID:Q3Oqlw1I0
全てを知り、彼女は何も言わなかった。いや、言えなかった。彼女には知識が沢山あったが、見たことも聞いたこともない両親や自分の立場はどこか作り物のように感じられて現実感がまるでなかったのだ。使用人達は涙をこぼしながら謝罪の言葉を繰り返していたが、彼女はそれすら無感情に、機械的に返事をするだけで終わってしまった。

屋敷を後にしてから彼女の生活は一変する。今までのように勉強と読書だけでなく、炊事に洗濯掃除とやることは山のようにあった。しかし彼女は辛いとは思わなかった。屋敷の中から見ることしか出来なかった外の世界を出歩けたという満足感に満ち溢れていたから。どんな理不尽も、この空の青さを見れば耐えることができたのだ。

彼女が使用人として生活を始めてから一年後、今度は住む家そのものがなくなった。

彼女を雇っていた男が人身売買組織の親玉として検挙され、呆気なく騎士団に拘束、そのまま投獄されたのだ。彼女の他、彼に雇われた使用人達は屋敷を追われ食料を口にすることすら難しい生活へと身を落としてしまう。

彼女が昔思い描いた外の世界とはこんなにも無情なものだっただろうか。空は青く、空気は澄んでいて、人の心は暖かかったはずなのに、自分がいるこの場所はどうしてこんなにも醜いのだろう。

そんなことを考えながら、一人また一人と元使用人の仲間達が倒れていく。彼女は再び孤独になった。

最後に食事をしたのは何日前だったのかも分からなくなった頃、彼女は一人の少女と出会う。

住む家があり、食事も出せる。しかし一人では広すぎる家は寂しいし、自分は友達すらいない。よければ友達になってほしい。

人の温もりに触れ凍った心が雪解けの水のように流れていくのを感じた。彼女はこの恩を忘れない、どれだけ時間がかかったって必ず返すと約束して少女の友達となった。

それから一月も経たず、彼女は黒の魔術団の道具として生きることを余儀なくされた。

かつての友達に別れを告げられず、ありがとうさえ言えないままで。

222:2014/06/09(月) 23:36:39 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

(うA-)「んっ……」

意識が戻り、体を起こす。いつの間にか廃屋に放置されたボロボロのベッドのようなものに寝かされていた。モララーか誰かが避難させてくれたのだろう。

辺りを見渡すが、敵も味方もいない。静寂だけが漂っている。足音も、声も聞こえない。戦いはどうなったのか。

('A`)(くそっ、こんなことしてる場合じゃねえってのに……)

意識が途切れる瞬間、様々なものが流れ込んできていた。それは王都の情景、渡辺とその傍らにいた女の声まではっきりと。

そして一番ドクオが気になっているのは━━

('A`)(巻き毛の女の、あれは過去か?)

見たことのない場所と人がいたなかで、ドクオはその場の全てが手に取るように分かっていた。使用人の感情も、心の声も、後悔も、少女の絶望や憎悪、そして、初めて触れた優しさに、彼女がどれだけ救われ、報われたかも。

('A`)(やっぱりこれは時間稼ぎだ。しかも狙いは俺じゃなくて、渡辺。俺が本命なんだろうが、その準備ってとこか)

動かした感じでは体に異常はない。ここに来てから見ていただけなのだから当たり前だ。

('A`)「とにかく王都に戻んないと。取り返しが付かなくなる」

ドクオが外に出ると、壊れて廃れた村はさらに破壊を撒き散らされて見るも無惨な姿へと変わっていた。しかし動く者はなく、全てが終わったあとなのだと言うことを暗に悟ることが出来た。

( ・∀・)「よう」

223:2014/06/09(月) 23:38:31 ID:Q3Oqlw1I0
声の方を見ると、廃屋の屋根に腰かけたモララーと目があった。傷一つなく、程よい運動をした後のような爽やかさだ。

('A`)「戦いは?」

( ・∀・)「お前が寝てる間に終わったよ。世話かけさせやがって」

('A`)「悪い」

( ・∀・)「ま、あとは副団長の報告待ちだ。本調子じゃないなら休んどけ」

('A`)「そういうわけにはいかないんだ。急いで王都に戻らなきゃならない」

( ・∀・)「何?」

ドクオはこの戦いが時間稼ぎだということ、倒れる前に見た映像のこと、全てを丁寧に話していく。モララーは黙ってそれを聞いていたが、やがて。

( ・∀・)「駄目だ。お前が王都に行ったところで何ができる」

('A`)「戦える」

ドクオは問いに即答するが、モララーは槍の切っ先をドクオに向けて、さらに口を開いた。

( ・∀・)「お前は騎士団の人間じゃない。ただの一般人だ。戦う力だってあんのかどうかも分からない。今まではたまたま生き残れたけど、今度は? 残ってる連中もバカじゃあない。今頃対策を練っているはずだ。その上で、お前が行かなくちゃならない理由って、あるのか?」

('A`)「……」

モララーの言っていることは至極当然のことだ。いくら戦う力があるとはいえ、ドクオはあくまで守られる側の存在。そのために騎士団があり、魔法使いがいる。そこにドクオが割って入るということは、彼らの仕事を全て奪うことを意味している。誇りや矜持を、ドクオは否定するのだ。

( ・∀・)「やらなきゃならないことなら騎士団がやる。今回だって、要は大義名分のためなんだよ。本来ならここにいるべきじゃなかった」

モララーはそこで一度深く息を吸うと、はっきりと、凛とした声で

( ・∀・)「お前を行かせることはできない」

そう、言った。

( ・∀・)「連絡はいれとこう。王都がヤバイかもしれないってな。だから」

('A`)「関係ねえよ。大層なご高説ありがとさん。でも俺は行く」


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