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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

34025-649 坊ちゃん×幼馴染の使用人:2013/01/02(水) 18:52:52 ID:kMwHVWgY
お題を見た時、坊ちゃん×坊ちゃんの幼馴染's使用人と勘違いしたw
萌語りをします。

腐れ縁の使用人がタイプ過ぎて、毎日押しかけたりセクハラしたり、引き抜きさせてくれと頼み込んだりする攻めに、面白がっている主人(幼馴染)の手前全力拒否できないドン引きな快活な受け。
攻めが大規模かつ空回りのプレゼントを用意したり、真面目になる攻めに時々絆されるけど身分の違いに迷う受けだったり、腐れ縁だからこそ攻めに辛い忠言をする幼馴染だったり。
スピンオフには、攻めの使用人×幼馴染なんて如何だろうか。


幼馴染の使用人に坊ちゃんと呼ばれる一般人の内気攻め。主人の昔からのご友人としか認識しない笑顔仮面の受け。
金持ちの使用人としてのしがらみや建前ばかりの受けの世界が分らなくて、理解しようと頑張りつつも本音を聞き出したいと受けに訴える攻め。攻めの真っ直ぐさに遠ざけたくなったり、攻めに近しい主人に嫉妬する自分に驚愕したりする受け。
幼馴染は昔から支えてくれた攻めと受けが幸せになることを何よりも望んで色々裏で手を回せばいい。


始めは文章を書くつもりだったが、途中で挫折しました。はい。

34125-729 寝正月:2013/01/03(木) 16:52:00 ID:jwbArMPs
正月早々病で床についているのは縁起が悪いので『寝正月』と言い換えるとは、先人たちは洒落ている。
だが、言い方を変えも病気は病気だ。
通いの者は三が日は休みを取って家には一人きり、さてとうしたものか。
食欲はないので、水だけで持たないだろうか?
ラチもないことを考えていると、縁側のガラス戸の開閉音と小走りの足音が聞こえてくる。
そして私のいる寝間の障子がからり開かれた。
「ああ、やはり寝込んでる」
「入ってくるな。風邪がうつるぞ!」
予想通りの相手に語尾を強めて言うが、彼は聞いていないかのように全く気にせず枕元に腰を下ろした。
「茶会に来ていなかったから、もしやと思ってきてみたら案の定だ」
「・・・・・・」
少しでも接触を避けるためと、こんな情けない姿を見られたくないのとで布団を目元まで引き上げるが、彼は腰を下ろすと手にしていた折り詰めを枕元に置く。
「料理を詰めてもらった。食べるか?」
今はまだ味の濃いものは欲しくなく、首を横に振る。
「なら蜜柑はどうだ?」
そういって袂から取り出しされた小ぶりの蜜柑を、つい凝視してしまう。
「剥いてやろうか?」
「自分で出来るから、とりあえず出て行ってくれ」
布団越しに小声で頼む私に、彼はあきれたようにため息をつき、
「せっかく来てやったのに、冷たい奴だな〜」
「うつしたくないから、出て行けと言ってるんだ!」
つい大声を上げてしまった私に、彼は怒るどころか笑顔を向けた。
「俺は丈夫だから平気だ。だから、お前が良くなるまでついていてやる」
「・・・・・・」
まったく人の話を聞かない彼に腹が立つよりも、呆れるよりも、一人でなくなることへの安堵を感じた。
「とりあえず粥でも作ってやろう」
「お前が!?」
「米と水があればなんとかなるだろ?」
それを食べるのは私か?と心配になったが、勝手場に向かう彼の後ろ姿を見送りまあいいかと思えてきた。
彼がいるなら、寝正月も捨てたものではないだろう。

34225-739 強くてニューゲーム(1/2):2013/01/04(金) 01:22:21 ID:8zR/OyEI
やり直しているんです。
彼と何の障害も無く一緒に居られるために。

僕は平民の出で、彼は良家の次男坊です。
身分差など気にせず、彼は対等に接してくれました。僕を見下したりしなかった。
僕の描いた絵を彼が褒めてくれて、屋敷に招いてくれたのが交流のきっかけです。
僕らは最初は良い友人になり、僕は彼の元へよく通うようになりました。
そしてじきに友情を越えて愛し合うようになったのです。
そのことはバレませんでしたが、彼の両親は、友人としての僕すら認めてくれませんでした。
無学な貧乏絵描きなど、友人に相応しくないと交友を阻まれたのです。
出自を考えれば当然のことだったのかもしれません。
しかし僕は諦められなかった。彼を説得し、僕らは逃げた。
ところが優しい彼は、捨ててきてしまった家族のことをずっと気にしていて、何度も連絡を取ろうとした。
その度に僕は説得していたけれど、そのうち彼は気に病むあまり、本物の病に倒れてしまったのです。
来世で会おうという僕への言葉と、家族の謝罪の言葉を口にして、彼は逃亡先で息を引き取りました。
僕は泣きました。同時に、どうしようもなく悔しかった。
来世だなんて、そんなもの。会えるかどうかわからないじゃないですか。
僕は嫌だった。僕は今生で彼と結ばれたかった。堂々と彼の隣に居たかった。
だから、やり直した。

彼の両親に見下されないように、僕は必死で勉強しました。
絵で稼いだ金はすべて本へとつぎ込みました。彼に釣り合う教養を手にしたかった。
ところがやはり反対されたのです。今度は家柄が釣り合わぬと言われました。
しかも、彼が席を外しているときに、ひどく高圧的に。
息子は将来この家を背負う人間なのだ、君のような者と付き合っていると堕落すると。
なんて馬鹿馬鹿しい人達なんだろうと思いました。あんな人達と彼とが血が繋がっているなんて。
あのときの悔しさが腹の底で蘇りました。僕は我慢できなかった。
その頃はすでに、僕と彼の関係は深くなっていました。
彼が僕の部屋で眠っているときを見計らって僕は彼の屋敷へ向かい、火を放ちました。
これで邪魔者は居なくなると僕は安堵していました。
ところが、計算外のことが起こった。
夜が明けぬ内に彼が目を覚まし、僕が居ないのを不審に思い、家の方へ戻ってきてしまったのです。
燃え盛る家を見て半狂乱になった彼は、僕の制止も聞かず家に飛び込んだ。
そして炎に包まれて、彼は焼け死んだ。
僕は心から後悔した。それこそ死ぬほどに。
だから、やり直した。

今度は彼に出会うずっとずっと前から、僕は準備しました。
慣れない媚を売って愛想笑いを浮かべて金持ち連中に取り入って、とある家の養子に収まりました。
屈辱的なこともありました。我慢も沢山しました。好きな絵を描く時間もなかった。
でも彼と共に居られない辛さに比べれば、なんということもありませんでした。
これで平民だと馬鹿にされることはなくなったのだから。
そして進学させて貰い、僕は彼に再び会うことができた。
それはこれまでの出会いとは違ったけれど、彼は彼のままでした。僕の愛する彼でした。
すぐに僕と彼は良い友人になった。今度は彼の両親も何も言いません。
僕は嬉しかった。してきた事がようやく報われたのだと。
ところが、また計算外のことが起こった。いや、起こっていた。
彼に、許婚が居たのです。そんなもの僕は知らなかった。
『過去』にそんな女性などいなかった。
しかし『今』はそれが現実でした。
僕が彼に釣り合うよう必死に努力していた陰で、彼は僕ではないひとを好きになっていたのです。
信じられなかった。
何も変わらない筈なのに、不都合な現実を変えたきただけの筈なのに、変わってしまっていた。
絶望する僕には気付かないようで、彼は僕に笑いかけました。
「うちに来て絵を描いてくれないか」と。よりにもよって、彼と許婚の二人の絵を。
そのときどんな顔をしてどんな返事をしたのかはよく覚えていません。
ただ、家を訪ねる約束をして、一旦帰宅して、僕は絵筆の代わりに、ナイフを握りました。

34325-739 強くてニューゲーム(2/2):2013/01/04(金) 01:24:47 ID:8zR/OyEI

僕はやり直しているんです。
彼を愛しています。彼も僕を愛してくれています。
彼の隣に居るためにやり直しているのに、どうしてこんな風になってしまうのだろう。
今度こそ、今度こそ、上手くやらないと。
あの、僕は死刑になるんですよね?二人も殺してしまったのだから、そうなりますよね?
捕まるなんて、これも計算外だった。
時間が勿体無い。早く死刑にしてください。僕は、早くやり直さなければならないのです。



「馬鹿だな、君は」
私は目の前の男に言葉を投げたが、彼の瞳は虚ろでこちらの言葉は届いていないようだ。
言いたいことをただ一方的に喋るだけ喋って、あとは薄く笑みを浮かべているだけ。
彼の言を信じるのなら、またやり直すことができると確信しているからだろう。
「君は一刻も早く死にたいようだが、今の君は神経衰弱だと診断されている。
 よって死刑にはならない。『今回の』君は、残りの一生を病院の中で暮らしていくことになる」
勿論、死は平等だからこの男にもいつか訪れるだろう。しかし、それは彼の望む時期ではない。
彼にとって辛い事実を突き付けているも同然の筈だが、やはり彼からの反応は無い。
しかし私は構わず彼に語りかける。
「まったく、君の執念には呆れを通り越して感心するよ。それは君の美点でもあると思うが、同時に欠点でもある。
 先程も言ったが、君は馬鹿だ。美点を美点として制御できれば、いくらでも幸せになれるだろうに」
一つのことに目標を定めると、周りが見えなくなる性質なのだろう。
しかし見えなくなるにしても限度がある。
「今にして思えば、駆け落ち程度で驚いていたのは浅はかだったよ」
私は少し前屈みになって、男の瞳を覗き込む。
「邪魔な家族を殺そうとしたところまでは、理解したくもないが理解しよう。
 しかし、まさか弟本人にまで手にかけるとは思わなかった。婚約者諸共とは言え、ね」
「おとうと……?」
男はぼんやりとそう呟き、不思議そうに首を傾げた。
もしや会話が成り立つかと期待して続く反応を待ったが、またすぐに彼の瞳は虚空へ戻ってしまう。
私はため息をつき、背もたれに凭れ掛かった。
「私の話を簡潔にしてあげよう。
 一度目、私は君達を追って愚かにもこの身体で屋敷の外に一人出て事故に遭った。
 二度目、君の放った火にまかれて逃げられないまま焼け死んだ。
 三度目、弟に君を屋敷に招くように頼んだ。『一応の用心で』、警備員と医者を手配した。
 それからこれは私の希望が混じった推測だ。
 一度目、弟は君の目を盗んで一度だけ実家へと連絡を取り、私の死の経緯を知った。
 二度目、私の身を案じ、弟は自分の危険も省みず私を助けに向かおうとした」
目を細めて彼を見据える。
恐らく、弟を失ったと同時にこの男は死を選んだ筈だ。
ならばもし、彼が自殺を選ばず――選ぶことができず、このまま無様に生き長らえたら。
考えているとふと背後でノックの音がして、ドアが開く気配がした。
「お時間です」
聞こえてきた事務的な声に、私は振り向かずに頷く。
「ああ、結構だ。行こう」
静かな足音が背後まで迫り、失礼しますとの声と共に、私の車椅子はゆっくりと方向転換する。
私は最後にもう一度男の方を見やり声を投げる。
「また来るよ。次はカンバスと絵の具を持って。実は、私は君の描く絵画のファンなんだ」
反応は無い。
私は笑みを浮かべた。視界の隅で迎えの男が僅かに眉を顰めたが、何も言わなかった。

真っ白な部屋を退室し、無機質な廊下を進みながら私は問いかける。
「弟達の容態はどうかな?」
「はい。依然、意識は戻られておりませんが、峠は越えたと先ほど連絡が」
「それは良かった。落ち着いたら花を持って見舞いに行こう。
 しかしまずは、先方への根回しが優先だな。あとは父さんと母さんにも適当な説明が必要か」
あまりご無理をなさりませんように、という言葉が降ってくる。私は鷹揚に頷いてみせた。
わかっている。
わかっているが、逸る気持ちを抑えるのは難しいのだ。
今度こそ、私は何をも失うわけにはいかないのだから。

34425-749 猫っぽい人×犬っぽい人:2013/01/06(日) 00:41:36 ID:Pqo1mpqw
職場の飲み会、その二次会の帰り、店横の路地での出来事。
好きです、と彼は呟くように言った。
真っ赤にした顔を俯かせて、俺のコートの袖を掴まえている。
「初めて会ったときから、初対面ってカンジがしなくて……きっと一目惚れなんです」
そのままの姿勢で、つっかえつっかえ喋っている。
「自分でも、おかしいって思います。でも俺、気がついたら、先輩のことばかり見てて」
「お前、酔ってるな」
「酔ってます。酔ってなきゃ、こんな告白できないです」
やや乱暴な口調と共に、彼は意を決したように顔をあげる。
まだ少し幼さが残る顔は、強気な声とは裏腹に今にも泣きそうだった。
感情が顔に出やすいんだなと考えている俺に、彼は繰り返した。
「好きです。俺、先輩が好きです」
「………」
酔っ払った冗談だろうとか、反応を見て後でからかうのだろうとか、そんな風に考えることもできたが
そのときの俺はただ「本気なんだろうなあ」とぼんやり思っていた。
彼が配属されてきてからからまだ一ヶ月しか経っていない。そこまで多く言葉を交わした覚えも無い。
それでもなんとなく、彼は本気なのだと確信していた。なんとなく確信、というのも変だが。
とにかく、ならばこちらも真面目に返さなければならない、そう思った。
「そっか。ありがとう」
言って、空いていた左手で彼の頭をぽんぽんと叩く。
それに驚いたのか軽く目を瞠っている相手に、続けた。
「ごめんな。俺、明日は早出だからもう帰らないとならない」
ごめん、と俺は頭を下げた。
途端、ずっと掴まれていた右腕が解放される。
次の瞬間には、彼は俺とは比べ物にならないくらい深く頭を下げていて、そして
「すいませんでした!」
と叫んだかと思うと、くるりと回れ右をして、恐ろしい速度で走り去っていく。
否、走り去っていくと俺の脳が認識した頃には、走り去っていた。
俺はぽかんとしていた。
なんだ今の一連の動作は。瞬間芸か。本当に瞬間すぎてついていけなかった。
「…………」
それからしばらくの間、その場に突っ立ったまま考えた。
電話して呼び戻そうかと考えたが、そういえば彼の携帯番号を知らない。
「……。ま、いいか」
どうせ明日また会社で会うのだから、そのとき聞けばいい。そう判断して帰宅することにした。

今思えば、俺も多分に酔っていたのだ。

その三日後に判明したこと。あのとき彼は、俺にお断りされたと思ったらしい。
「だって、謝られたから、俺はてっきり…」
「ありがとうって言ったろ?」
「もう帰るって言ったじゃないですか」
「早出」
「確かにそう聞きましたけど!」
フラれたと勘違いした彼は、あの後クソ寒い中、公園で一晩泣き明かし
その翌日から風邪で会社を休んだ。正直、馬鹿だと思う。
そして俺も馬鹿だ。彼に連絡を取ったのはその更に二日後だった。
「嫌いな奴の頭は撫でない」
「宥められたんだと思いました。先輩に気を遣わせて、俺、申し訳なくて。居たたまれなくなって」
気持ち悪がられるの覚悟してましたから、と言う。
この三日間、彼がどんな気持ちで寝込んでいたのか想像して、俺は一つ息を吐いた。
「ごめん。これからはもう少しきちんと喋るよう心がける」
「っ、俺も、もっとちゃんと、話を聞くようにします!本当にすいませんでした!」
これからよろしくお願いしますっ、とまた勢い良く頭を下げている。
面白いやつだなあと今更のように思う。
「うん。よろしく」
再び、彼の頭をぽんぽんと叩いた。

34525-829 イカ×タコ:2013/01/17(木) 23:55:45 ID:1Uy9IfeI
神様は不公平だ。
イカもタコも海の悪魔と呼ばれ同じように恐れられているのに、実は奴と僕には差がある。
今まさに、それを思い知らされていた。
イカの手に僕の五本の手と大事な部分は絡み付かれ抵抗出来なくされているのに、イカにはまだ二本も自由な手があってそれが僕の体をくまなく這い回る。
「離せこのすっとこどっこい!」と悪態をついても、いずれこの唯一動かせる口の中にもイカの手が潜り込んで掻き回されるんだ。
悔しい。
手の本数が違うだけで抵抗出来ないなんて……。
 
以前、腹が立ってイカの顔に墨を吐いてやった。
でも僕の墨は辺り一面に広がるけど、その分拡散するのも早くて何の役にも立たない。
仕返しとばかりにイカが吐いた墨は粘度があって、目の前を塞がれたように何も見えなくなってしまった。
そのせいで、イカの手の動きを何時もより強く感じてしまった。
歯がゆい。
墨の質だけで抗えなくなるなんて……。

ああ、イカの手の動きが早くなって僕はまた何も考えられなくなっていく。
何か囁いているイカの言葉も、もう聞こえない……。

34625-829 イカ×タコ:2013/01/20(日) 09:42:41 ID:Aa3NuFjI
「よう無事だったか、タコ」
「その呼び名、やめてくんないっすか。手賀木さん」

悪りい悪りいと悪びれなく笑い、手賀木さんは俺の頭、正確にはカツラをぐしゃぐしゃにする。それを無視しながら、俺は今回の報酬のアタッシュケースを無造作に放った。

「にしても、タコは本当化けるな。この前の筋肉バカの姿と今のインテリが同じ奴とは誰も気づかねえよ」

アンタ以外はな、そう脳内で呟く。いわゆる"普通の世界"で、自分の特技を自己満足に披露していたのは、もう随分前だ。

『なあ兄ちゃん、タコって知ってっか?他の生物に化けては、周りに溶け込んで、体の形まで変えちまうんだ』

安らかな深海に留まっていた。

『兄ちゃん。普通の世界つうのは、つまらねえと思わねえか?』

急流や危険ばかりある海中を泳ぐ気なんてなかったのに。

「つか、手賀木さんは化けねえのかよ」
「義手まで誤魔化すのは面倒だ。適材適所つうのが世の中にはあんだよ」

まあでも、真田の為には、化けてやらんこともねえかもな。

右頬を冷たい右手で左頬を温かい左手で撫でられる。
その仕草に心まで搦め奪られたのは、随分前だ。
強い目から逃れられなくなったのは、随分前だ。

「成功の祝いに美味いもんでも食いに行くか、タコ」
「、皮くらい剥がさせて下さいよ」

乱れたカツラを外しネクタイを緩めながら、札束を持った手賀木さんの後を追いかけた。

34725-901 閉鎖的な二人:2013/01/27(日) 09:28:09 ID:AsLSjejA
あの二人は自己完結してる――それが二人の人間関係をよく知る僕の印象だ。
良くも悪くも二人だけの世界だ。すごい剣幕で喧嘩をしたかと思えば、誰も理由を知らないうちに仲直りしていたりする。
僕はそのことについて苦言をこぼすけど、「それで今まで問題がなかった」なんて気にもとめない表情で言われると頭が痛くなる。
この二人のことをクラスの大半は容認している。でも、それでも不満は貯まるんだ。
二人に言いにくいからって僕が愚痴に近い文句を言われていることを知っていて、こういったことを言うんだから嫌になる。
確かにこの二人は美形だ。顔がそっくりの双子だ。だからなんとなくふたりだけの世界を作っていても仕方がないという雰囲気ができている。
生徒はもちろん先生までだって「双子だもん心の奥底では通じ合ってるもんねー」なんていうくらいだ。
顔の似ている双子は似てない双子や普通の姉妹、兄弟より特別に見られやすい。
バカバカしい。顔が似てても年齢が一緒の双子でも他人が通じ合えるか。神秘的がどうのこうの漫画の読みすぎだ。
俺だって双子だけど相手のことを上の兄ちゃん位しか理解していない。顔も似ていないから二人のように特別視されてもいない。
誤解がないように言わせてもらうけど、僕は自分が特別扱いされたい訳じゃない。
ただクラスの、なんとなく双子だからみたいな風潮をやめてほしいだけだ。

放課後達見が聞いてきた時だってそうだ。
「なー、シゲー、達也ー。今日どこ行く?」
「あそこは?」
あそこってどこだよ。
「あの辺最近治安悪いらしいからダメ」
なんでわかるんだ。テレパシーか。顔が似ている双子には似ていない双子と違ってそういう機能でもあんのか。
「じゃああの辺」
「おっいいな! じゃあそうしよ」
「結局どこに決まったんだ?」
全く理解できていない僕が二人に聞くと声を揃えて「え?」なんて聞き返される。
「今の話の流れからわかるでしょ」
「あそことかあの辺でわかるか」
「このあたりで治安が悪いと言ったら、あの店だろ? トイレが発展場になってるって噂の」
「んでもって金欠の俺らが、ある程度の時間遊ぶのにちょうどいい場所といえばカラオケだろ?」
「僕は君らみたいにツーカーじゃないから」
そんな風に呆れても二人は理解できないらしく首をかしげていた。

34825-969 お隣さん:2013/02/03(日) 23:07:33 ID:mI4n82us
「あ」
「……はようございます」

玄関のドアを開けると、ちょうど隣に住む男が部屋の鍵を閉めているところだった。
俺と目が合った瞬間、彼がぺこりと頭を下げた。
寝起きなのか、最初の方があくび交じりだった。

「おはようございます」

挨拶をされたので俺も頭を下げる。
今日の彼はスーツだ。
彼と鉢合わせするときは大体私服だったが、ここ数日スーツ姿の彼と会うことが多い。
……もしかすると、就活か?なんて推測してみる。
大体仕事に出かける時間に彼と出くわすので顔は知っているけれど
俺は彼がどんな人間なのか、仕事は、趣味は、その他もろもろ何も知らない。

思えば彼が引っ越してきて1年あまり。
今の若者にしては珍しく、タオルを持って引っ越しのあいさつに来た彼。

「隣に越してきた田賀っす。よろしくお願いします」

と、どこか間延びした口調に、どうも、と礼を言うくらいだった。
その後も特に交流はなく、顔を合わせたら挨拶を交わすくらいだったのだが。

「スーツ姿、決まってますね」

その日は彼に、そんな一言を口にしてみた。
特にたくらみも、考えもない言葉だった。つまり気まぐれだ。

「……あ、ありがと」

だが、彼の方は普段挨拶しか交わさない俺の言葉によほど驚いたらしい。
目を丸くして俺を見て、たどたどしくそう答えた。
ああ、まずかっただろうか。突然こんなこと言ってしまって。
気まずさにその場をすぐに立ち去ろうとしたら、彼が俺に向かって声をかけた。

「すげ、うれしいっす」

振り返ってみた彼の顔は、いつもの彼よりくしゃりと笑っていた。

34926-19 明るそうにみえて根暗×暗そうにみえて根明 1/2:2013/02/10(日) 18:27:56 ID:GHP.xgIU
残念 間に合わなかったので供養します


「大丈夫、大丈夫。もう十分練れてるよ、これ以上心配ばっかしてもダメよ?
 心配ばっかしてて企画はできないのよー、タメちゃん」
パン、と景気よく手を打って、江島が席を立つ。
俺にはよくわかる。
江島は、言葉とは裏腹にこの企画に納得しきれてないのだ。
会議室のテーブルには、各人三杯ずつのカップラーメン。
若者向けの期間限定企画として、軽いノリで作られた激辛シリーズのキムチ、わさび、黒ゴショウ三種だ。
「さあ、いい加減腹もいっぱい、順番が逆だが食後のビールといこうぜ!」
おごり好きの江島の言葉に、チームメンバーも喜んで立ち上がる。
俺もいい加減口がつらい。辛い物はだいたい好みじゃないのだ。立て続けに三杯は苦行だった。
だからなのか。
……美味いと思えない。
食ってから一言もしゃべる気になれないのは、ヒリヒリする唇のせいじゃなく、
何と言ってダメ出しをしようかずっと考えてたからだ。
江島はそれも察している。だからこそ、お茶を濁そうとしている。
他のチームメンバーを味方につけて、多分俺が否定的なことを言おうものなら
『お前はすぐそうだ、なんでもダメだ、無理だとバックギアに入れる』
と、さっき言ったような印象操作で自分の意見を通そうとするだろう。
お気楽企画だと思って手を抜きやがって。
俺は黙って座ったままでいる。

35026-19 明るそうにみえて根暗×暗そうにみえて根明 2/2:2013/02/10(日) 18:29:52 ID:GHP.xgIU
「……でさ、タメちゃん。どうしたらいいと思う?」
江島がこんな顔になるのは、ふたりきりの時に限る。
こいつのこの悲しい性分を知ってるのは俺だけ。
「キムチ、やめよう」
俺は考えていたことをようやくぼそぼそと口にする。
俺の小さな声を聞き取るために江島が耳を寄せてくるが、その距離も許す。
呼吸器の弱い俺は、人前で大きな声で意見を言うのは苦手だ。その小さな声を江島が拾ってくれる。
「キムチはいい加減ありふれてる。このままじゃただの普通の激辛ラーメンだ、だろう?」
「……それでいいかと思ったんだがな」
「期間限定だからこそ、話題性は必須」
チームメンバーは俺の事を悲観論者、暗い面白くない奴だと思ってるだろう。
でも俺は自分を知っている。これでも俺はなかなかのアイデアマンだと思うのだ。
ただ、人に好かれない自分も知ってる。だから、江島を待つのだ。
江島こそ、真の悲観論者だ。太陽のように振る舞った後、必ず怖くなって俺を頼る。
こうしてギブアンドテイクの関係が成り立った。
江島に利用されてるとは思わない。俺が利用しているのだ。
「あのな、江島。みんなコッテコテには飽きてると思うんだよな。俺なら、俺が食べたいのはさ……」
俺は、俺の案を江島に授けてやった。
聞いた江島は、
「それ、お前の好みじゃん! でも美味そうだよね、なんかいけそう?」
やっと、肩の荷を下ろしたように笑った。

「呑んだ後にあっさりお茶漬け、の代わりに『のりわさびラーメン』」
シリーズには和風スープ黒ごしょう、梅かつお。
俺達の企画は、若い女性や年配層に受けて小ヒットとなった。
「やっぱりなー、当たると思ったんだよ」
江島は、今日も大きな声でみんなの真ん中だ。似合ってる。
俺は、自分好みの商品を世に送り出せて満足。
みんなに教える必要はない。俺達はベストコンビなのだ。

35126-49 いい声の人:2013/02/15(金) 00:34:22 ID:.0gLvtCQ
ぎりぎり間に合わんかった…


「好きだ」というのが、彼の最高の褒め言葉だった。
曰く、他人には文句のつけようのない誉め方、らしい。
す、の時にすぼめる口。き、でこぼれる形の良い歯。
滑らかで心地の良い低音が僅かに上ずる瞬間。
ずっと横で見ていたから、あの満面の笑顔と一緒に覚えてしまった。
旨い料理を、広がる絶景を、美しい音楽を、咲き誇る花を。
最高のものを、彼は「好きだ」と評価する。
上ずった低音の、嬉しそうな声で。
その声が隣の平凡な僕に向くことはない。
そう、思っていた。

「好きだ」
すぼめる口は見えなかった。こぼれた歯も見えなかった。
声の上ずる瞬間なんて、感じている暇もなかった。
耳に湿った温もり。息の音。
背中には僕より少し大きな手。
「な、んて・・・」
ひっくり返りそうな、無様な僕の声。
「好き、って何が、を・・・?」
面食らった僕を抱きしめたまま、彼は確かに笑った。
耳に心地の良い音が滑らかに滑り込んでくる。
「好きだよ。君を・・・愛してる」

35226-89 やっと愛するお前のところへ行ける:2013/02/20(水) 10:18:17 ID:0LDanBCk
港を一望できる小高い丘の頂に造成された公営墓地
その東側の片隅にアイツの墓はあった
少しだけ伸び始めた白髪混じりの坊主頭に初冬の風は冷たい
自分は24歳だけど今の自分を見て誰もが40代だと思うだろう
あれから7年ですっかり老け込んでしまった
ずっとこの日を待っていた
ただいざこの日を迎えるとそれが何なのだという虚しさが猛烈に込み上げて来る

アイツとはずーっと幼馴染みでダチだった
高1の夏に部活の合宿で行った長野の山奥で関係は劇的に進んだ
それからは猿みたいにやりまくった
男子高校生なんて性欲の塊みたいなもんだからな
あの日はオレもアイツも17歳の高2の秋の夜だった
一緒に帰る途中に寄ったコンビニで実に他愛ないことで口げんかした
コンビニを出て別々に帰宅の途に就いた
アイツはオレと別れてから約10分後に何者かに刺されて死んだ
直前にアイツとけんかしたことだけを根拠に警察はオレを逮捕した
しかしひどい話だ
起訴したときにはオレが犯人ではないことは警察も検察も分かっていたそうだ
防犯カメラを見直したらアイツが殺された現場近くに不審な男が映っていた
顔認証でソイツは強盗致傷と強制わいせつ前科のある男だと分かった
警察も検察も真っ青になったらしいがオレは既に逮捕されていた
まあ警察も検察も何よりもメンツが大切だからな
オレは全力で否認したけど裁判では実に簡単に有罪
なんでオレが今は娑婆に居るのかって?
真犯人が調子に乗って強盗殺人なんかやって逮捕されたからよ
取調べで余罪を洗いざらい喋ってオレの無実が証明されたのさ

両親は事件を苦に夫婦して自殺しちゃったよ
オレは一人っ子だからもう天涯孤独なんだな
もう今さらどうでもいいよ
これから生きてて何になるよ?
アイツの墓の隣がおあつらえ向きに無縁仏専用の納骨堂なんだ
そこに入ればオレはずっとアイツの隣に居られる訳だ
ははははは
もう何もかも無駄で可笑しくてバカでどうしようもねーよ
こんな世の中ととっととおさらばだ
あの世でアイツと一緒に人生の続きをやり直すんだ
アレはアイツの墓の前で静かに硫黄の臭いを嗅いで目をつむった

35326-109 紙の花:2013/02/24(日) 13:10:54 ID:02/eITC.
 下校間際になって、ダチにこれからどうすると聞いてみた。
「オレ塾」
「生活指導の呼び出し」
「デート」
 珍しく全員が予定を口にしたので、オレは驚きと落胆で大声を出してしまう。
「誰も暇なやついねぇの?」
「みたいだな」
「で、どうした?」
「誕生日だから、何かおごってもらおうと思ったのに」
「ばか!」
「そんなのはちゃんと先に言っとけ!」
「今日は無理だから今度な」
「ちぇっ」
 確かに事前アピールしてなかったから仕方ないとすねながらも諦めるオレを残して、ダチはそれぞれに行ってしまった。
 仕方ない、家に帰ったら何かあるかもしれないと帰りかけるとアイツと出くわす。
「一人なんて珍しいな」
「皆用があるんだって。オレの誕生日だっていうのに」
「誕生日?今日が?」
「ああ」
「…………」
 何か複雑な表情をしたアイツはカバンからノートを取り出すと一枚破り、何かしはじめた。
 説明も何もなくただ見ていると、正方形に切り取ったノートを折って畳んで開いてあっと言う間に花の形にした。
「鶴は見舞いの、兜は子供の日のイメージだから。誕生日おめでとう」
「あ、ありがとう」
 手際の良さと思いがけないプレゼントに驚きながら、折り紙の花を受け取った。
「聞いたからにはお祝いしなきゃな」
「オマエって器用で律儀なんだ」
 裏も表も白だけどちゃんと花に見える元ノートを眺めて、つい顔がほころんでしまうほど喜んでいる自分に気付きあわてて表情を引き締めた。
「お前の誕生日っていつ?」
「夏だけど」
「ふーん。好きな物なに」
「何だよ急に」
 オレ、コイツの事もっともっと知りたくなった。

354幼なじみ 1/10:2013/03/05(火) 19:53:45 ID:dSuCcf7s
本スレ(Part26) 180〜の投稿です。(投稿分も一応再掲させてください)



「おい、こんなもん付いてるぞ」
屋上の給水塔の陰で居眠りぶっこいていたら、声をかけられた。
手にもってるのは、「バーカバーカ」と書かれたノートのきれっぱし。
あー、寝てる間に頭に貼られてたのか。またか。いまどき、小学生でも
しないようなイタズラの犯人はわかってる。1ヶ月前に転校してきたスガワラだ。
なぜか俺を目の敵にして、こんなガキっぽいイタズラを延々と続けてくれている。
上靴にアマガエルが入ってたり、ロッカーの体操服が全部裏返しだったり、
移動教室に行ったら俺のイスだけなかったり。

355幼なじみ 2/10:2013/03/05(火) 19:54:52 ID:dSuCcf7s
とってくれた紙をひらひらさせながら、サトルもため息をついた。
「ヒロム、お前、ほんとにアイツとなんもないの?」
サトルは中坊の頃から同じクラスになり続けている腐れ縁だ。進級するたびに
クラス委員になる典型的なデキるヤツ。そのサトルにも、アイツの行動はわけが
わからないらしい。ない。ほんとにないよ。なんでだろうな。
ノートから雑に破り取った紙に書かれてる単純すぎる罵言を見ながら、俺も
ため息。なんで転校生にここまで絡まれるのだか。

356幼なじみ 3/10:2013/03/05(火) 19:55:47 ID:dSuCcf7s
転校してきた初日に隣の席になったもんだから「よろしく」と挨拶をしたとき、
スガワラは妙な顔をして口の中でもごもごとなにか言った。
「なに?聞こえなかった」と聞き直したら、憮然とした顔をしてそっぽを向いた。
スガワラとの交流といえば、それだけだ。
聞きなおしたのが悪かったのか。挨拶もされたくなかったのか。わからん。
わからんが、仕掛けてこられるのは実害といえるほどの害があるようなことでもないので、
最初はとまどったものの、最近はもう基本的にスルーすることにしている。

357幼なじみ 4/10:2013/03/05(火) 19:56:39 ID:dSuCcf7s
「そのうち、もっと古典的なイタズラもされそうだな。教室のドアをあけたら黒板消し落下、とか」
それは教師に対するイタズラの定番だろ。クラスメイト用じゃねーだろー。
「古典的かつ落下といえば、タライの落下もはずせない」
てめ、他人事だと思って気楽に言ってやがるな、このやろう。
「悪い悪い、メガネが挟まって痛い、はなせ」
ヘッドロックかけてやったら、笑いながらほどこうともがくサトル。いつものじゃれあい、
いつもの軽口のたたきあい。
一応、俺もメンタルは人並みにあるので、意味もなく目の敵にされてるっぽい雰囲気
なのは精神的に少しコタえてはいる。こうやってサトルとじゃれあうことが少し心地よい。

358幼なじみ 5/10:2013/03/05(火) 19:57:26 ID:dSuCcf7s
そんな感傷的なことをちらりと考えたとき、突然頭上からどばーっと水が降ってきた。
俺もサトルもずぶ濡れで、一瞬、なにが起きたのかわからなかった。雨?いや、そんな馬鹿な。
ゲリラ豪雨っても局地的すぎんだろ、おい。
あっけにとられて見上げた給水塔の上に、ちらっと小さい人影が見えた。
「スガワラッ!」
濡れたメガネをはずして水滴を振り払っているサトルを見て、さすがに俺の怒りも沸騰した。
俺だけならまだしも、サトルまで巻き込みやがって。それに、これはさすがにやりすぎだろう!

359幼なじみ 6/10:2013/03/05(火) 19:58:25 ID:dSuCcf7s
給水塔のハシゴをすばやくよじ登り、反対側から飛び降りようとしているスガワラをとっつかまえて
組み伏せる。小柄なスガワラを拘束するのは簡単だったが、じたばたと暴れるのをやめようとしない。
おとなしくしろよ!なんなんだよ一体!
「はなせよっ!ヒロムのばかやろうっ!」
思いがけずに呼び捨てにされ、悔しそうに見上げてくる顔が、ふいに古い記憶とオーバーラップした。
あれっ…お前、もしかして、シュンちゃん?
「なにいってんだよ、バカヒロム!今更なんなんだよ!」

360幼なじみ 7/10:2013/03/05(火) 19:59:31 ID:dSuCcf7s
負けん気一杯で真っ赤になっている小さい顔は、幼なじみのシュンちゃん、シュンヤの顔だった。
思い出せないくらいに小さい頃からの幼なじみ。保育園でも幼稚園でも小学校でも、負けず嫌いで
すぐに喧嘩腰になって、でもチビだからすぐ泣かされて、泣かされてもしつこくくらいつくあのシュンヤ?
うわ、まじ?なつかしーな、おい。
「俺のことすっかり忘れてたくせに!お前なんか大っ嫌いだ!俺は、お前のこと忘れたことなんてなかったのに!」
あー、そういえば、転校していくときに手紙書くとか電話するとか言ったっけか。いや、でも、
それって何年前よ。ガキの頃のそういう約束って、お約束で忘れたりなし崩しになるもんだろう。
っていうか、お前からも手紙とか来たことなかったような気がするけど。

361幼なじみ 8/10:2013/03/05(火) 20:00:16 ID:dSuCcf7s
「俺は出したんだ!一回だけ!返事がこなかったからずっとその後出せなかったんだ!」
あー、えーと、そういうことがあったようななかったような。だってほら、ガキの頃って、手紙とか書くような
時間ねーじゃん、遊ぶの忙しいし。
「だから、いい加減に離せよっ!俺が悪いんじゃないんだから!」
反応に困りきっていたら、背後からサトルの声。
「ヒロム、離してやれよ。お前が悪いみたいだぞ?」
え?お前までそういうこと言うわけ?
「僕が一番、ヒロムとの腐れ縁が長いと思っていたけどな」

362幼なじみ 9/10:2013/03/05(火) 20:00:58 ID:dSuCcf7s
笑みを含んだサトルの声に反応したのは、俺よりシュンヤの方だった。
「そうだよ!俺がヒロムの一番だったんだからな!お前も嫌いだ!」
あー、そういえば、シュンちゃんは俺が他の子と仲良くしてると、よく色々とイジワルをして相手の子を
泣かせて怒られていたっけな。あー、そういうことですか。はぁ。
「まあ、ヒロムはそこで間抜け面さらしてないで。ほら、スガワラも立って」
びしょぬれのままさわやかスマイルを浮かべられるサトルに俺は心底感じいったが、シュンヤは
そんな気にはなれないようだった。
制服のホコリを払ってくれるサトルの手を振り払って、今度こそ給水塔から飛び降り、振り返りざま
「ベーーーーーー、だ!」
そのまま、駆けてってしまった。おいおい…それはどう考えても、高校生のやることじゃないと思うの
だがなぁ…。

363幼なじみ 10/10:2013/03/05(火) 20:01:37 ID:dSuCcf7s
つか、サトル、悪いな。どうやら俺のせいで巻き込んでしまったようだ。お前にまでイタズラが
波及しなきゃいいんだけどな。
俺が少し恐縮してみせると、サトルは意外なことにニヤリと笑った。
「まあ、これで理由もわかったし。僕としても受けて立つにやぶさかではないからいいよ」
え?なにその台詞?意味わからないんですけど。
「ヒロムはわからなくていいんだよ。うん、わからなくていい」
なんでそんなニヤニヤ笑ってるんですか、サトルさん。え?一体どういうことなのー?

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366良心の呵責:2013/03/07(木) 19:07:24 ID:AIUHvxk6
――ああ、やってしまった。
どうすればいいんだ。
焦りに似た罪悪感が心臓を這いあがってくるようだ。
俺のことを、犯罪者だの変態だのと責めている声が、耳の奥に、さっきからずっと響いている。

俺は――俺はただ、彼女と普通に付き合いたいだけだったんだ。
彼女が俺のことを好きになってくれていたならば、こんな行為はしなかった。
手の平にこびりついた、彼女のペンケースの感触。
明日になったらまた、犯人探しが行われるのだろうか。
自分が彼女の持ち物を盗んでいることがばれて、クラスメートに糾弾される情景が浮かんで、背筋に悪寒が走る。
どうしたら、どうしたらいいんだ……。

頭を抱えて蹲りそうになったとき、ぐるぐるとまわる思考に乱入してくる声があった。
「よう、斉木じゃん。こんなところで何してんだよ」
クラスメートの吉田だった。
あまり話した事は無いが、あまり話すのを見た事は無かった気がする。
少なくとも、今ここに俺がいることを言い触らしたりはしないだろう。
ほっとして振り向いたとき、俺は凍りついた。
吉田の目は、まるで獲物を見つけた肉食獣のように、ギラギラと輝いていたからだ。
「……わ、忘れ物を取りに来たんだよ」
たったそれだけの言葉を言うのに、かなりの労力を使った。
もしこいつがさっき俺がしたことを知っているなら、この言葉を言ったら終わりだと思ったのだ。

固まった体を動かして、さっさと帰ろうと踵を返す。
吉田は何も言ってこない。
俺の勘違いだったのかと胸をなでおろして、不自然にならないように早足で歩いた。


次の日。
一時間目の数学を潰して学級会が行われた。
彼女が泣きながら教師に相談したらしい。あのペンケースはそんなに大切なものだったのか。
また、好きな人を傷つけてしまった。

自分がとても下等な生物であるような気がして、首が痛くなるほど俯いていた俺に、突然声がかかった。
「斉木君、君は一週間前に雪村さんに振られたそうだけど……まさか、降られた腹いせに物を盗むなんてこと、してないですよね?」
教卓に立った学級委員長が、俺に冷たい眼差しを向ける。
間違いなく、俺を犯人だと思っている顔だ。

答えられずにいる俺に、周囲がざわざわと騒がしくなりだす。
「斉木君が盗んだところを見た人がいるって……」
「確かにすげえ落ち込んでたしな……」
そんな声が、遠くから聞こえてくるような気がした。
冷や汗がだらだらと垂れる。対照的に、顔が燃える様に赤くなる。

――だが、これで良かったのかもしれない。
おそらく誰からも信用されなくなるだろうが、ずっと隠し続けて生きるよりはましだ。
そんな気持ちで立ち上がろうとしたが、俺の動きは途中で止まった。
「俺がやりました」
そんな声が聞こえてきたからだ。
「あ……」
俺が言うはずのセリフを先に言ったのは、吉田だった。
再びざわめきの波紋が広がり、それは吉田に対する侮蔑の言葉に変わっていく。


「おい、吉田、ちょっと来い」
と、落書きだらけの席に座って本を読んでいた吉田に大柄な男が声をかけた。
上級生かもしれない。あれから三日もたってないのに、もうそんなに噂が広まっているのか。
吉田は男に乱暴に腕を掴まれて教室から引っ張り出されていくところだった。
十中八九、というか間違いなく、これからリンチされるのだろう。
――助けよう。
助けて、俺が本当の犯人だというんだ。
いじめられる恐怖にずっと渋っていたが、やっぱりこのままじゃいけない。
そう思ったとき、ポケットに入っている携帯のバイブがなった。
嫌な予感がして、携帯を開く。
差出人は吉田だった。
『明日、俺の家に来い』
それだけの文章が、とてつもなく恐ろしく見える。
吉田の方を見ると、吉田は、あの日と全く同じ、捕食者の笑みを浮かべていた。
怖い。体が拒絶反応を浮かべる。
――けど。
このメールに従えば、俺の罪悪感は、ほんの少しでも軽くなるのではないか。
俺は吉田の方を見て、頷くしかなかった。

36726-239待つほうと待たせるほう:2013/03/12(火) 22:04:32 ID:8PKegH/6
僕が彼に振られたのは、今から30年も前の話になる。
あの頃の僕は大ばか者で、とにかく彼を手に入れたくて必死だった。
好きだ、好きで堪らない、どうしても諦められない、諦めるくらいなら死んだほうがマシだ。
そんな事を思って、その思いを彼にぶつけ続けた。
その度に彼は困ったように笑って、「参ったナァ」などと冗談めかして受け流していた。
けれどある日、忘れもしないあの夏の夕日。
放課後の教室で、彼は欠片の笑みも見せずに言った。
「お前、正直気持ち悪いよ」
そうして、僕はようやく己の恋が無残に散った事を受け入れた。
受け入れざるを得なかった。
彼は優しくて、賢くて、誠意のある人だった、それが僕の好きになった彼だ。
その彼にそこまで言わせてしまった自分を恥じた。
それ以降、彼の顔をまともに見られずに、しばらく僕の暗黒に満ちた平穏は続いた。
そして、その3ヵ月後、彼は入院し、そのまま一度も退院する事なく亡くなった。
以前から病気だったのだという。
自分の余命は分かっていたと。
彼の母親から手紙を渡されて、僕はその事を彼から伝えられた。
【本当は、あの時お前を傷つけて、そのままサヨナラするつもりだったんだ。
 そうしたらお前は、そりゃ多少は後味悪いだろうけど、気負うことなく次の恋に向かえるかなって。
 本当にごめん。オレも、お前が好きだ。好きで堪らない。どうしても諦められない。
 こんな手紙を残したら、お前をもっと傷つける事は分かってるのにな。
 もしお前が、これを読んでる今もオレの事を好きでいてくれるなら。
 取りあえず30年、待ってくれるか?
 そしたらお前は47歳になってるかな。
 そこまで待つつもりが沸かないなら、それでいいよ。この手紙は捨ててくれ。忘れてもいい。
 でももし待ってくれたなら。その時に守るべきものが何もなかったら。お前が、オレに会いたいと思ってくれたなら。
 その時は、オレも会いたいと思ってる。その事を、ただ知っておいてほしい。
 ……なんてな、ただの冗談だよ。真に受けたら、バカを見るのはお前だ。可哀相にな。
 本当、オレなんかより、お前の方がよっぽど可哀相だ。頑張って、幸せになってくれよ。元気でな。
 長々とごめん。じゃあな。】

…そして、30年。
僕が今も相変わらず大ばか者だ。
彼は待っただろうか。多分待ってはいないだろう。再会したところで、お前は本当にバカだ、なんて困ったように笑って。
でも、きっと僕を待たせた責任は取ってくれることだろう。
彼も、僕に会いたいと思ってくれているに違いないから。
今、僕は彼に会いに行く。

368名無しさん:2013/04/01(月) 17:26:05 ID:NY5br2DY
テスト

36926-349  好きになりつつあるけどまだ好きじゃない:2013/04/01(月) 17:39:13 ID:WnrSDTxc
おはようごさいますと言って入室すればおはようと返ってくる。
それが普通なのだと気付いたのはここに転職して二週間後のことだった。
以前の職場では無視・舌打ちが当たり前で、挨拶は不要なものだと入社三日で理解していた。
他にも特有の社内ルールはいくつかあり、
それに適合できなかったため、追い出されたのだった。
 
今の職場では正社員ではない。
そのため出勤時間は十時と遅く、社員が全員揃っている中で入室しなければならなかった。
ここに来て半年経つものの、軽く咳払いをして深呼吸をし、
心の準備をしてからでないとドアノブを回せない。
最初は緊張しているからだと思っていた。
しかし、二ヶ月三ヶ月と過ぎ、嘱託職員でありながら
有志飲み会の固定メンバーになってしまうほど周囲と打ち解けた今、緊張はないだろう。

固定メンバーの一人でもある石垣に、
初日の挨拶もそこそこに「重役出勤かぁ」と返されたことを思い出す。
それを嫌味だと受け止めた当時の私は苦笑いしか出来なかった。
課長は「じゃあ石垣は明日から午後出勤でいいぞ」と言うし
若手職員は「重役出勤なのは石垣さんの方です」と言っていたから、
場を和ませるための冗談だったのだと今なら解る。
おそらく、当人は言ったことすら忘れている。

その日から、扉を開けるたびに石垣の席を確認するようになった。
普通の挨拶が八割、会話が一割、不在が一割。
ここにきて、アドリブ力は随分と磨かれたような気さえする。

一週間の出張を終え、石垣は定位置へ戻ってきた。
出張先は香川だと言っていたから、今日はうどんネタだろうか。もしかしたら香川繋がりでサッカーかもしれない。
そんなことを考えながら咳払いをして深呼吸をし、私はドアノブに手を伸ばした。

37026-389秘密の関係:2013/04/05(金) 03:18:28 ID:lUWUSuQA
いつも真面目で、誰からも信頼されて、俺に常識をわきまえろと説教してくるくせに、佐内は俺の『セフレ』をしてる。

最初はじゃれ合いで、悪戯しあってるうちに、お互いなんだか気持ち良くなってきてエッチした。
次は甘えてきた。佐内からだ。
甘い言葉を俺に囁くので、佐内にとってそれが遊びでも、嬉しかったから、またヤった。
気がついたら習慣化してた。
気持ちのいいことを追求する習慣に。

佐内はどれだけヤりたいんだろう。
俺は毎日でもヤりたい。
だからだろうか。普通に友だちと話しながら笑ってる佐内にイライラしてきた。
そいつ、その笑い声よりもっと高い、スゴい声出すんだ。それを俺は知ってる。
真剣に答弁する佐内を見ながらイライラしてきた。
そんな澄ました顔なんかじゃなく、快感にうっとりしてる表情の方が自然だ。それを俺は知ってる。
口うるさく俺に説教してくる佐内にイライラしてきた。
お前、その常識のない俺に、メチャクチャ甘えてくるくせに。

「俺は、知ってるよ。お前は俺がセックス狂いだってバラしたいんだろ」
「佐内……」
「でもお前は優しいから、そんなことバラさないっていうのも知ってる。そんなのバラしたら、俺なんて青くなってビビっちゃって泣くよ。そんな酷いことしないだろ?」
「しねぇけど、イライラする」
「俺はさ、バレる想像するだけで吐きそうなくらい恥ずかしいことを、お前にだけ知られてると思うと、凄く感じるくらい変態なんだよ」
「ワケわかんねぇよ……」
「……だから馬鹿だって言ってるんだろ」
佐内はそう文句を言いながら、俺にいつものようにキスした。

37126-409 初恋の人との再会:2013/04/07(日) 00:05:59 ID:L4VKu0o6
ほんのちょっとだけ胸糞注意(不倫?)です。



嫁さんにメール。
『これから電車。帰りは八時頃になる』
薄暗い蛍光灯が陰気な車内は、ひときわ疲れを感じさせた。
目の奥が疲れて痛くて、携帯を眺める気にもならない。
車窓に頭を預けて目をつぶっていると、突然小さな声で「田中?」と呼ばれた。

かすむ視野に見えたのは、普段着の男。
誰だっけ、知ってる奴?と軽く混乱しつつ「えっと、あ、ども」とか意味のないあいさつを口にする。
相手は軽く笑った。
「わかんないか、俺、高校の。安東なんだけど」
高校の……安東。嫌な汗がじんわりとにじむのがわかった。
当たり前だがそんなことはおくびにも出さない。テンション上げて顔を作った。
「ああ!安東かお前!久しぶりだなぁ、どうしてるの、今」
「今日は仕事休みでさ、久しぶりにこっち遊びに来たんだ」
「仕事?」
「そう、覚えてる?俺、寺つぐの」
覚えてる。思い出したら全部思い出した。
忘れていたわけじゃなかった。ただ、経年変化が想像できてなかっただけで。
そういわれれば、安東の髪型は坊主だ。でもなにやら格好いい洋服と合っている。
「今修行と修行の間でさ。しばらく実家に帰ってきてるんだよ。もう勘弁してほしいわ……田中は?就職したんだな、その格好」
「ちっちゃい会社でヒヤヒヤしてっけどな、まだペーペーだし」
「スーツ似合うよ」
覗き込まれて、ぎょっとした。
「……安物だよ」「そう?感じいいよ」
こいつはいつもこんな風だった。育ちがいいせいか、物怖じしなくて、屈託無くて。
俺は安東の服を褒めたりできない。そもそも、顔をまともに見られない。

「うわ、残念、俺乗り換えだ。ケータイ、教えて!」
電車が止まって、安東が急に慌てだした。
「え、あ、なんか、書くもの」
「いいから言えよ!覚えるから!」
俺が番号を叫ぶと同時にドアは閉じて、はたして安東に届いたかどうか。
窓の向こうでにこやかに手を振る奴の様子からは全然わからない。

ひとりになった車内ですっかり目の覚めた俺は、それでも顔を覆わずにはいられなかった。
安東は俺の初恋の相手だ。それも、恋であることにすら気づかなかった……
安東が好きだ、と気づいたのは、卒業して離ればなれになってから。
安東のことを思うと胸が痛い、安東に会いたくてたまらない、安東を独り占めにしたい。
そんな自分の状態に気づいて、まるで好きみたいじゃないか、とか思い至って。
馬鹿な、そんなことあるわけない、安東は男だぞ、って自問して。
じゃあ、もし安東のことが好きなら、キスしてるところ想像できるか?それ以上のことは?って試してみたら。
……およそ思い出したくもない。
そして、俺は自分の身に起きていることが初恋だと知ったんだった。
その驚き。とまどい。後悔。
初恋もわからなかったなんて。男が相手だなんて。何かの間違いだ……
安東のことは苦い思い出になってしまった。安東を封印して、次は失敗しない、と思った。
それから、大学で出会った嫁と普通に恋愛して結婚した。

二度と会いたくない相手のはずだった。
安東は俺の携帯番号を聞いただろうか?そして覚えただろうか。
ひょっとしたらかかってくるかもしれない。覚え間違いで、かけられないかもしれない。
もし……かかってきたらどうしよう。
やりなおすには遅すぎる。俺は安東といい友人になれるんだろうか?
なぜ番号を叫んでしまったんだろう。
安東は俺の指輪を見ただろうか?
まぶたの裏に、安東の笑顔がよみがえる。それは高校の頃の、ふたりきりの時の、あの笑顔。
いい思い出にはやっぱりできそうもない。
なのに今、俺は携帯の電源を切ることができないでいる。

37226-439 なかなか好きといえない:2013/04/11(木) 21:59:17 ID:XQfcw1FA
■腐れ縁タイプ
「なに泣きそうな顔してんだよ。元気出せって。もう付き合ってる奴がいたんじゃしょうがねーよ。な。
 で、どうせ今晩飲むんだろ?朝まで付き合ってやるよ。いいっていいって。明日休みだし。飲み明かそうぜ。
 お前がフラれてヤケ酒なんていつものこと……って本格的に泣き出すなよ。ひどくねえよ。事実だろが。
 ほら、行くぞー。お前んちでいいよな。途中でツマミ買ってくか。………。言っとくけど、奢らねーからなー」

■『なぜ謝る』タイプ
「あの。あの………いえ、なんでもないです。すいません。てっ、天気いいですよね!ね!あはは…
 はあ……え、いえっ、元気です!ほんとに、なんでもないんです。すいません。すいません!!」

■好きの代わりに馬鹿と言っちゃうタイプ
「お前馬鹿だろ!?調子悪いのに出てきてんじゃねーよ。あとは俺がやっとくから。いいから!
 そんな状態で手伝われる方が迷惑だっつーの。早く帰れ帰れ。馬鹿が無理してんじゃねーよ。さっさと寝ろ」

■言葉に辿り着くまであと少しタイプ
「君といると苦しい。脈が速くなって息が詰まる感覚がする。本を読んでいても文章が頭に入ってこない。
 音楽を聴いていても君の声ばかりが耳に届く。君と食べる食事はいつもと味が違う。同じ食事なのに変だ。
 君がいないと苦しい。部屋の広さに気が遠くなる。本を読んでいても頭の片隅で君の事を考えている。
 昔は嫌いだったうるさい音楽も聴くようになってしまった。君がきちんと食べろというから三食食べるようになってしまった。
 たまに酷く苛々する。君の所為だって反射的に思って、そんな風に考えたことを後悔する。僕は酷い人間だ。
 君が隣に居ても居なくても苦しい。だから君が怖いのに、君に会いたいと思っている」

■『もう若くないから』独白タイプ
「…………こんなおっさんに言われても、あいつも迷惑だろ」

37326-489 あえぎ声がうるさい攻め(notショタ)と声を我慢する受け:2013/04/18(木) 13:19:28 ID:ukNmSW4c
規制されてたのでこっちに投下。


ドン、と。地鳴りのような音がした。
すぐにわかった、誰かが壁を叩いた音だと。
陶酔していた雰囲気の中から急に日常に引き戻される。俺が真昼間っから男とセックスしている間、隣の誰かがテレビを見ている洗濯をしている友達と電話している。
途端に顔が熱くなる。「恥ずかしがっている」それをこいつ知られるのが殊更に恥ずかしく、耳元がカイロでも押し当てられたみたいに熱い、それが触れなくてもわかった。
2階建ての安アパート、当然のように薄い壁、最初から声は抑えていたつもりだったが、こいつの実家から持ってきたというちゃちなパイプベッドが高い音を立てながら軋んでいるのに気が付いた。
「うぁ、沢原ぁ……、ちょっ、ゆっくり…」
助けを求めるように後ろに首を向けると、俺とベッドを揺らしている男が幸せそうに笑っていた。
「なに?なんでーこっち見てんの?ふふ、たっちゃんかわいー!」
相変わらず声がでかい。いつでも、どこででも。
「っ沢原、となり…が」
口元に手を添えできる限り小さな声で話す。沢原はお構い無しにでかい声で喋り続ける。
「たっちゃんってばかーわい、恥ずかしがってんのー?顔真っ赤だねー、あーキュンキュンしてる!やーらしー!たっちゃんマジ最高かわいいい!」
「さ、っわ……バカ!」
小声のままで精一杯抗議する。これでもかと顔が熱くなる。
自分でも訳がわからないくらい、いつになく体中が反応している。そんな俺を沢原が食い入るように見る。
恥ずかしい、声を出したくない。顔を枕に埋めてしまいたい。沢原に見られたい。沢原を見たい。
「たっちゃん、綺麗な指、噛んじゃだーめ」
言いながら沢原は長い指を俺の口に突っ込んできた。と同時にベッドの軋みがさらに早くなる。
俺は我慢できずに沢原の指を噛んだ。口中で指先が俺の舌を玩んでいる。
「ふっ、ぅぐ…」
「あー、たっちゃんイイ、最高イイ、マジ気持ちい!超好き!あっ、あー!やっばい、超気持ちー!」
「…っゔ、ぐ」
どこかからまた地鳴りのような音が聞こえる。これでもかと顔が熱くなる。沢原は「たっちゃん超締まってる」とかなんとか下品な言葉を繰り返していた。
「たっちゃんマジ!全身真っ赤だねぇ、はっずかしーぃ!けどかわいー!」
ベッドが軋む。早く大きくドン、ドン、と全身に音が響く。
「っぁ、さわはら、ぁ」
「たっちゃん、もっ俺やば」
「っん、…ふっ………」

横になったまま呼吸が整うのを待っていると、汗ばんだ肌のせいか、先ほどまで暑かったはずの室内が急に寒く感じられた。
そうして少し、冷静さを取り戻す。
「あ……、隣!ばか沢原!隣が」
「え?隣?なにが」
呑気な顔で俺の買ってきたアイスを勝手に食い始めている。
「だからこっちの部屋の、人が……あれ」
「なに隣って?ここ角部屋じゃん。反対も住んでないし。え、ホラー?やめてよたっちゃん俺今日のバイト遅番なんだよー?」
「いや、ちが…だって最初に何回かドンドンって」
「え?…あ、それ俺だ」
「は?」
呆気にとられる俺を尻目に沢原は、「見て見てたっちゃんパナッペがにこにこしてるー」とふざけたことを言っている。
それからさらりと「たっちゃんマジかわいー、とか考えてたら嬉しくてつい」と、壁を殴った理由を口にした。「きゅーんってなってきゃーってなってブンブンしてたらどかーん、みたいな」とも言っていたが、そっちはほとんど意味がわからなかった。
「だからって、あんな何回も叩いたら隣じゃなくても迷惑だろ?」
沢原の手から半分以下になったアイスを奪い返し反論する。
すると沢原はきょとんとした顔で「俺それ、1回だけだと思うけど」とほざき始めた。
「はぁ?バカ言えお前、数もかぞえらんなくなったのか」
言いながら頭の中で音を反芻する。
ふとそれが、まさか自分の心臓なのじゃないかと気が付いた。
「ん?あれ?なしたのたっちゃん、顔真っ赤だけど」
「うっせー!帰れ!」
「俺んちだけど」
「うっせー!ばか!ばかぁ!全部お前のせいじゃねーか!」
「はー?なんだよたっちゃん、パナッペのこと?帰りに買ってくるよー」
「ちげーよばか!」
手元にあったクッションを投げつけると、沢原が「べうっ」と奇声を上げて顔で受け止めた。
「たっちゃーん、これじゃマジ近所迷惑…」
「うっさい!さわんなぁ!」

37426-509 運動部対文化部:2013/04/21(日) 14:25:16 ID:yqnA/Y4w
規制中だったのでこっちに



「貴様、そんなつもりで学園祭がどうにかできるとでも思っているのか!軟弱者が!」
ハヤトが怒鳴るので、僕はびくりと肩を震わせた。
「そんなこと言ったって……ぼくはハヤトみたいにかっこよくないし、みんなをまとめるなんて……」
「何を言うか!阿呆!俺にできて龍介にできない訳があるか!根性を出せ、根性を!」
その後ハヤトは30分にわたるお説教を繰り広げ、スポ根漫画の主人公のようなセリフを何度も繰り返した。
二か月後に迫った学園祭、そこで繰り広げられる運動部と文化部に分かれて行うレクリエーションの指揮を任された僕は早くも胃が痛い。
人前に立って誰かをまとめるのは僕にはどだい無理な話なのだ。
「僕もハヤトみたいにかっこよければな……」
「な、なんだいきなり!」
「僕もハヤトみたいにかっこよくなりたいよ」
「〜〜〜っ!阿呆か貴様!龍介だってかっこいいわ!阿呆!」
ばんばん机をたたきながらハヤトはまくし立てた。
軽く舌打ちをして教室から出て行こうとしていたハヤトはふと気が付いたように、「おい」とまた僕に声をかけた。
「龍介、次の試合はいつだ」
「明後日にいつもの体育館だよ」
「そうか、また見に行くから全力で勝て!」
「うん! 僕もハヤトの賞をとった絵をみたよ、素敵だった!」
「ふん、あんなもの余裕だ阿呆め」

そういって出て行ったハヤトの耳はまだ熱をもったままだった。

37526-479  一番の味方:2013/04/26(金) 10:57:55 ID:ynOcWvg2
亮平には高校三年生の弟がいる。母親は病死、父親は蒸発、たった二人の家族だという。
「進学を諦めて就職したいって言ってたお前の弟、どうなった?」
「何言っても就職から変わんね。授業料とか払えないだろって、
そんなん気にしないでさ、やりたいことがあるんだから勉強すればいいのに」
一度言葉を切って携帯をコツコツと叩く。言い淀んでいるのがわかるから、先を促したりはしない。じっと、次を待つ。
「俺の給料明細盗み見して諦めるって…馬鹿じゃねえの」
最後の馬鹿、は、諦めている弟になのか。それとも弟の夢を叶えてやれない自分に、なのか。
「奨学金の話をしても?」
「それでも」
「利息ゼロの貯金箱があんのに?」
「は? 何それサラ金?」
「いや、俺」
「はぁ?」
お前から金なんて借りねーよ、と呆れた風を装ってはいるが、気になっているのだろう。
サラ金かと答えたときは険しかった表情に、少々の緩みが見える。
「毎月じゃなくて、本当にヤバくなった時だけ。上限三万とか決めてさ。借用書も書く?
 俺の生活もあるし、二人で弟を育てる! みたいな感じで」
努めて明るく話す。最後に一言付け加えるのを忘れずに。
「俺一人っ子だから兄弟いるの羨ましいんだよね」
嘘だけど。それは飲み込む。
「…………じゃあ、ヤバくなったら貸してください。受験料ぐらいは何とかなるけど、入学金のとき借りる、かも。あいつには大学でバイトさせるから」
「そこら辺は兄弟で話し合って決めて。弟には俺の事言わないでねー」
「ごめん、ありがとう、宏樹」
「まだ借りてないんだからごめんじゃないでしょ」


こちらこそ俺の姉が亮平たちのお父さん奪って駆落ちしてごめんね。

37626-559 RPGの中ボス 1/3:2013/04/30(火) 02:01:44 ID:Y8NEggXk
いま俺の目の前に居る人間が噂の勇者だってのには一発で気が付いた。
だって他の人間とは存在感みたいなのが段違いだったし
そもそも並大抵の人間や魔物じゃここまで絶対に来れっこないし。
ただ思ったより小さかったのと、誰とも組まずに一人で来たらしい事には少し驚いた。
そのちっちゃい勇者は不意打ちで攻撃して来ることもなく
話しかけてくる様子も見せず、ただ黙って俺の前に立っている。
このまま見つめ合ってても仕方ないから俺は今適当に作った口上を並べた。
「俺が地下四階の守護者、種族はレッドデビル。
 名前は言わない、多分人間には聞き取れないからさ。」
ちっちゃい勇者はやっぱり何も言わずに頷いた、そして俺の後ろの扉を指差す。

「あー、そこ入りたいの? なら俺殺さないと入れないけどヤる?」
さっきちっちゃい勇者が指差した扉は魔王様の部屋に繋がる通路に繋がる扉で
身も蓋もない言い方をすると、通過されてもそこまで困らない扉。
俺が守ってる扉を抜けても魔王様の部屋の前には強ーいドラゴンが居るし
その先には勿論もっともっと強ーい魔王様が居る。
だから魔王様戦が本番、その前座がドラゴン、さらにその前座が俺って言う事。
俺は別に面白い戦い方をする訳じゃないし、大して強くも無い、多分一番印象に残らないタイプ
門番の役目だって『勇者を一目見てみたいでーす』って言ったら適当に使役されただけ。
誰からも期待されてないし、俺自身ですら勝てると思っていない、
今だって"勇者見れて満足したし来世はどんな生き方しようかな"とか考えている位だ。

そうやってくだらない事を考えながら勇者を見ていると彼は再び頷いた。
「そっか、じゃあ戦おう。」
俺は手に持っていた槍を構える、勇者の方も背負っていた剣を抜いた。
その剣は吃驚する程キラキラ輝いていて、それを構える勇者も何だか凄くキラキラだった
思わず「……キラキラだ」と声になって溢れる位に。
こんな光を見たのは初めてだった、魔王様ですらこんなに輝いて見えた事が無い。
俺の出方を窺っているのか防御の型を取る勇者を見つめる
その金の瞳と視線がぶつかった瞬間、また勝手に声が零れていた。
「ねえ、人間でも呼べる名前を俺に付けてよ、それでその名で俺を呼んで。」
いくらなんでも即物的過ぎやしないかって感じだがそれが魔物だから仕方ない。
ちっちゃい勇者は未だ表情一つ変えずこっちをジッと見ている
でも俺には何故か、彼が「はい」って喋ってくれるような予感がしていた。

37726-559 RPGの中ボス 2/3:2013/04/30(火) 02:03:54 ID:Y8NEggXk
いっぴきのまものか゛ とひ゛らをまもっている!

て゛ひ゛る
「おれか゛ちかよんかいのしゅこ゛しゃ しゅそ゛くはれっと゛て゛ひ゛る
 なまえはいわない たふ゛んにんけ゛んにはききとれないからさ」

しゅんはとひ゛らをゆひ゛さした!

て゛ひ゛る
「あー そこはいりたいの? ならおれころさないとはいれないけと゛やる?」

→はい いいえ
 
て゛ひ゛る
「そっか し゛ゃあたたかおう」

たたかう →ぼうぎょ アイテム にげる

しゅんはみをかためてようすをうかか゛った!
て゛ひ゛るはちいさなこえて゛なにかつふ゛やいた!

たたかう →ぼうぎょ アイテム にげる

しゅんはみをかためてようすをうかか゛った!
て゛ひ゛るはこっちをし゛っとみている!
て゛ひ゛るとめか゛あった!

て゛ひ゛る
「ねえ にんけ゛んて゛もよへ゛るなまえをおれにつけてよ
 それて゛ そのなて゛おれをよんて゛」

て゛ひ゛るはしゅんのなかまになりたそうた゛
て゛ひ゛るになまえをつけてなかまにしますか?

→はい いいえ

37826-559 RPGの中ボス 3/3:2013/04/30(火) 02:05:28 ID:Y8NEggXk
「もしもし久保さんのお宅ですか? 高橋ですけど、あ、そうです駿です。
 悟くんに代わって貰えますか? はい、お願いします。

 ――あ、悟? なあオレ今日ブレイブクエストやってたんだけどさ!
 そう、仲間作らずに勇者の一人旅でやってたデータ!
 あれさラスボス戦の前の前にレッドデビルって中ボス居るじゃん?
 アイツ仲間になった! ……いや、ホントだって!
 うん、多分勇者の一人旅じゃないと仲間にならないっぽい。
 何か『デビルに名前つけて下さい』って出てきた、え? だからマジだって!
 お前もう今から家来いよ、うん、うん、悟が来るまで名前付けずに待っとくわ!
 おう、分かった、速く来いよ! 二人で名前考えよーぜ! じゃ切るから!」

37926-569 今日から両思い:2013/05/02(木) 23:15:30 ID:WraCejIw
「――今日から、両思いだね」
フ、と唇の端で気障な笑いをして、奴は手の中のグラスを揺らした。氷が涼し気な音を立てる。
窓の外の三日月と同じ形に細められた流し目から、俺は顔を背けた。
「言葉は正確に使え。お前の今の台詞は明らかに間違っている」
「え? ……え? うそ? 違うの!?」
裏返った声と、グラスが乱暴にテーブルに触れる音が絶妙な不調和を生む。騒々しい。
「だって! 俺さっきお前が好きだって言って、お前だって頷いてくれたのに!」
「声の大きさを考えろ。個室とは言えこの店は貸切ではない」
「あ、はい」 
大げさに肩を落としてしょぼくれたような顔をしてみせる、その様に少しだけ苛立った。
「……やっと言えたのに」
小さな子供がいじけるように口を尖らせて呟く。声は少し震えているようだった。
「ずっとずっと好きで、やっと両思いだと思ったのに……」
なぜそんなに落ち込んだ素振りを見せられなければならない。まるで俺が悪いかのように。
「お前はいつもそうだ。一人で先走って見当違いなことばかりを言う」
とうとう涙目になってしまった。元はといえばお前が失礼なことを言うのが悪いのだろう。
今日から両思いだと? 馬鹿なことを。まったくもって不愉快だ。勘違いも甚だしい。
「訂正しろ。今日からではない。ずっと前から、両思いだ」

38026-599 夕暮れ時の二人:2013/05/07(火) 01:06:46 ID:ixRXxauM
「夕暮れ時って切なくなるよな」
「因果関係がわからない。切なくなる、の主語はマスターか?」
「そうだよ。んー…なんかこう、終わっていくなーって感じ」
「終わるの主語は?」
「今日と言う日が」
「日付が変わるまであと5時間30分程度あるが、誤差の範囲内と考えていいのか?」
「いやそうじゃなくてさ…うん、じゃあ訂正しよう。太陽とサヨナラするから寂しい」
「別れが寂しいから、マスターは夕暮れを見て切なくなるのか?」
「そうそう。誰とだって、お別れするのは寂しいだろ?」
「無生物を生物のように扱う表現を用いるのはマスターのパターンとして既に認識している。
 しかし、明日の日の出は午前4時42分だ。同等の表現をすれば、約10時間10分後に
 太陽とは再会できる。よって、そこまで寂しいと感じる必要は無いのではないだろうか。
 現に、マスターは同僚との別れについて『切なくなる』『寂しい』と私に漏らしたことはない。
 しかし例外的に、太陽との約10時間10分の別離がマスターにそこまで重大な事項であるのならば、
 滞在地点の拘りさえなければこのまま追いかけることも可能だ。シップの手配をするか?」
「なんだそれ。ロマンがねえなー」
「不愉快に思われたのなら謝罪します。今の提案は取り下げ、パターンを破棄します」
「いいよいいよ。不愉快じゃない、怒ってないから。まったく、急に丁寧語になるなよ」
「謝罪の意を表すには口調も大事だと、過去にマスターが言った。私はそれに従っている」
「うわ、責任転嫁かよ」
「マスター、先程の『ロマン』の定義は?」
「切替早っ!…えーと、夕暮れってさ、昼と夜の隙間だから美しいんだよ」
「……。マスターの話はよく飛躍する」
「してないよ。昼間の空は青いだろ?対して夜は黒、いや俺としては深い藍色かな。
 一日のうちで大半を占めるのがこの二色。その隙間にほんの僅か存在するのが夕暮れの赤だ」
「日の出は?」
「まあ、それもだけど。今は夕暮れの話。空が綺麗に赤くなるのなんてせいぜい数分間」
「希少価値を見出して有り難がる人間の価値観か」
「なんかトゲのある言い方だなあそれ。まあ概ね正しいよ。俺はほんの数分間だからこそ夕暮れが好きなんだ。
 だから、夕暮れを追いかけていっても無意味。つーか、追いかけていったら夜が来ない。邪道邪道」
「マスター、すまないが情報を整理したい」
「あはは、いいよ。どうぞどうぞ」
「マスターは、夕暮れ時は切なくなる」
「うん」
「太陽と別れるのが寂しい、だから切なくなる」
「そう」
「しかしマスターは、夕暮れを美しいと認識していて、かつ夕暮れが好きである」
「おお、ちゃんと情報の取捨選択して理解してるじゃん。メモリ増設した甲斐があったな」
「切なくなるとは、人間のネガティブな感情だと理解している。切なくなるのに、好きなのか?」
「そうだよ」
「…………」
「お、悩んじゃった?フリーズ?」
「マスターの言動を理解するにはある程度の矛盾を許容する必要があると学習している。問題ない」
「それ、俺に対する悪口じゃないの。まあいいや。…って、もう真っ暗だな。ラボに戻るか」
「マスター、申し訳ありません」
「え。なんで急に謝るわけ?」
「あなたの好きな夕暮れの時間を、私との会話で消費させてしまいました。
 マスターが夕暮れを見ていた時間は約30秒、そこから日没までマスターの視線は私に向けられていた」
「なんだ、そんなことか。いいよ、明日も見れるんだから。明日も晴れだよな?」
「降水確率は10パーセント」
「だったらノープロブレムだ。じゃあ、明日は今日の学習を踏まえて二人で夕焼け空を見ようか」
「了解した」
「そのときは手でも繋ぐか?」
「命令であれば、そうしよう」
「それじゃつまんねーよ。明日までにどうしたいか考えとけ。ふふん、明日の夕暮れ時が楽しみになったな」
「楽しみ?切ないのでは?……マスター、待ってくれ、今の言葉の意味は――」

38126-699 味噌と豆腐:2013/05/26(日) 00:43:53 ID:47ArE6QE
同じさやで育った君と僕。 
将来何になるか話しながらいつまでも一緒だねと言っていたのに、枯れたさやから放り出されると別々の容器に入れられてしまった。
いくら泣いても呼んでも返事がない。
諦めて疲れた僕は袋に詰められ、トラックに揺られて大きな工場のタンクに。  
今頃は君もきっと何かに加工されてしまってるんだろうね……。
僕も他の仲間たちと混ぜられて何かに成っていく。
君が居ないんだからもう何でもいい。
早く食べられて消えてしまいたかった。
そう思っているのに一年以上もほったらかされて発酵して味噌なった僕は、やっと出荷され店頭からある家庭にやってきた。
毎日の料理に使われ消費されて、いよいよ僕は味噌汁になって食べられる。
長かったな。
これでやっと僕の一生も終わるんだ。
鍋で溶けて他の具材に触れていると、ふと懐かしさを感じた。
懐かしくて暖かでこの感じは……。
真っ白な豆腐は、もしかして君なのか?
でも君がなぜ今頃豆腐に?
機械の内部に引っかかって、一年以上外に出られなかったのか。
辛い体験をしたんだね。
でもそのおかげで、再び僕たちは巡り会えたんだね。
嬉しいな、嬉しいな。

38226-739 美男と野獣1/2:2013/06/02(日) 17:29:01 ID:CfRdt7eo
森へ入ってはいけないと言われていた。
森には怖い魔女が住んでいて、捕まると魔女の棲家にある大鍋に入れられて毒薬の材料にされてしまうと。
けれど今自分の目の前にいるのは魔女ではなく、全身毛むくじゃらの化け物だった。
村一番の大男など遥かに凌ぐ大きな体、口元には牙が覗き、鋭い爪も見える。
まるで山狗か狼のような姿なのにそれでも化け物だと思ったのは、それが両の脚二本で立っていたからだ。
人間のように立つ獣なんて、絵本でしか読んだことがない。まさか本当に居るなんて。
(きっと、僕のことなんか一口で食べてしまうんだ)
逃げ出そうにも右足は痛みを増すばかりで言う事をきいてくれそうにない。
走る以前に、腰が抜けて立ち上がることもできない。
荒い呼吸で肩を上下させながら、化け物がこちらへ一歩踏み出してくる。
僕は反射的に朝のお祈りのときのように両手を組んで、眼を閉じた。
(神様、神様、神様……!!)

と、ざわざわと木々が揺れる音がしたかと思うと、強い風が吹いた…ような気がした。
しかしそれは一瞬だけで、すぐに辺りはしんと静まり返る。
僕はしばらく目を瞑っていたが、いつまで経っても身体に化け物の爪や牙がかかる気配がない。
もしや風に驚いて、どこかへ行ってしまったのだろうか。
(………?)
恐る恐る目を開ける。
化け物はまだそこにいた。けれど、僕の方を向いてはいなかった。
先ほどの場所に立ったままこちらに背中を向けて、何か、別のものに注意を向けているようだった。
それが何なのか見ようにも、僕のいる場所からは化け物の大きな体に遮られてよくわからない。
ただ、別の誰かがそこにいる気配はした。人の気配。
……もしかして、村の誰かが助けにきてくれた?
僕は身体を少し移動させて、化け物の向こう側を見ようと試みた。
けれど、這うときに肘が枯れ枝を折ってしまい、乾いた音を立ててしまう。
音に反応したのか、化け物が――なぜかぎくりと肩を揺らして――身体ごとこちらを振り返る。
視界が開けた。
(あっ)

そこには、魔女が立っていた。

黒ずくめのローブを着ていて、手には変わった形の杖を持っている。
魔女だというから絵本で読んだお婆さんの姿を想像していたのに、それよりも
ずっとずっと若くで、とても綺麗な人だった。まだ若い魔女なのだろうか。
若い魔女が少し首を傾げてこちらを見る。フードから真っ直ぐな黒髪が零れ落ちた。
助けてもらえるかもしれない。
「あ、あのっ……!」
その人に声をかけようとした矢先、化け物が魔女と僕の間にまた割って入って、魔女の姿はまた見えなくなってしまう。
化け物は……また僕に背中を向けていた。心なしか両腕を広げている。――まるで、僕を庇うように。
僕は訳が分からずに、ぽかんとその毛だらけの背中を見上げた。
草を踏む音が静かに近付いてきて、止まる。
「どけ」
聞こえてきたのが男の人の声で、僕は驚いた。
「私に気付かれずに済むとでも思ったのか、馬鹿が。この森は私の城だぞ?」
その人は当然のように、化け物に向かって喋りかけている。
そして化け物の方もそれに対して暴れたり襲い掛かろうとする雰囲気は無い。
「それはあの村の子供だろう。西の入り口から入ったようだな。これは立派な盟約違反だ」
どけ、と言う声がもう一度聞こえて、化け物の身体がゆっくりと脇へ退く。

38326-739 美男と野獣2/2:2013/06/02(日) 17:30:00 ID:CfRdt7eo
そして僕の前に進み出てきた魔女――男だから魔法使いだろうか?――は近くで見ても
やっぱりとても綺麗な人だった。
その人は、立ったまま僕を見下ろしてきた。
「おい子供。森へ入ってはならないと、親に教わらなかったか」
決して大きな声を出しているわけではないのにその声音は威圧的で、僕の身体は竦み上がる。
まるで教会にある聖母様の像のように綺麗な顔なのに、浮かんでいる表情は酷く冷たい。
なぜか、この人の方が化け物よりももっともっと怖いもののような気がした。
「森には怖いものが居て住処に勝手に入ると殺される、そう教えてはもらわなかったのか?」
その言葉に僕ははっとなる。
魔女に捕まって毒薬の材料にされる、というのはどこか遠い世界の話のように頭のどこかで思っていた。
しかし今「殺される」という直接的な言葉で、絵空事は現実に引き寄せられた。
全身が震えだす。
後退りする僕を見て、男は端正な顔に笑みを浮かべた。
「そうか、言いつけを守らなかったのか。悪い子だな」
言いながら杖をくるりと回して、杖の頭を僕の方へ向ける。
周囲の木々がざわざわと騒ぎ始めた。
得体の知れない恐怖が襲ってくる。何か途轍もなく怖いものがくる、そんな予感がした。
許しを乞おうとしても声がうまく出せない。
(神様……!)
目の前が真っ暗になった。と同時に身体が地面から浮かび上がる感覚。
これが魔女の魔法なのだろうか。僕はこのまま死んでしまうのだろうか。
そんなことが思い浮かんで……けれど、僕の意識は数瞬後もそのままだった。
身体のどこも――森に入ったときに転んで挫いた足以外は――痛くない。
「……。聞き分けの無い奴だ」
魔女の人の低い声が耳に入ってきて、僕はゆっくり首を動かして辺りを見回した。
そして気付く。
僕は、あの毛むくじゃらの化け物に抱きかかえられていた。
顔のすぐ傍に鋭い爪が見えたが、それは僕の身体に食い込んだりはしていない。
寧ろ爪が触れないように、手首から先が反らされている。
「お前はいつまで経っても甘い」
こちらを……いや化け物の方だけを見て、魔女の人が溜め息をつく。
「子供だからと目こぼししたところで、何の得もないというのに。無事に森の外へ出したとしても
 感謝などされず、お前が余計に恐れられるようになるだけだと何故わからない。本当にお前は馬鹿だな」
厳しい口調だったが、さっき感じたような冷たさは無い。
ただ、表情はとても苦々しいもので、まだどこか怖さを感じる。

僕はこれからどうなるのだろう。
殺されるのだろうか、助かるのだろうか。村へ帰れるのか、もう森の外へ出られないのか。
頭のすぐ上から荒い呼吸音が聞こえてくる。
僕は恐る恐る、化け物の顔を見上げた。

384名無しさん:2013/06/03(月) 23:24:25 ID:cJXzTCt6
>>749
規制で書き込めなかったときここに投下します

すきだ、って南が言った時聴き間違いだと思った。「酢来た」とか「鍬だ」とかの。
日常生活でまぁ仮に今と同じ月9に出てきそうなこじゃれた夜景の見えるバーかなんかでなんで男2人でいるかっていうともちろんナンパなんだけど、例えば食事と一緒に酢が来て「酢来たよ」とか言うシチュエーションは日本中どこかにもしかしたらあるかもしんないけど「鍬だ」っていつ言うかな。
中学生が日本史の資料集開いて先生が日本の稲作の歴史を紐解きながらこれが「鍬だ」とかはあるだろうけど、鍬かついだ農民がバーになだれこんできたり、
実は今食ってる野菜スティックはバーテンダーが家庭農園で精魂こめて作ったもので、俺がバーテンダーにこの野菜スティツクうまいっすねって言ったらカウンターの下から鍬を出してこれで週末耕してるんですよーって言って南が「鍬だ!」って言っていや俺は何考えてるんだろう。
まぁでも。ウイスキーを舐めながら反射的に浮かんだ考えを打ち消す。「好きだ」はない。流れてしまった会話をなんか蒸し返すのも面倒でいつのまにか話が野球の話になっててそんな出来事を俺は酒の酔いもあり忘れた。
バーを出て、エレベーターに乗り込む。今日は収穫もなかったのに南は上機嫌でスキップしそうな勢いでエレベーターに乗った。
エレベーターはガラス張りで、眼下にネオン瞬く夜の街が広がる。正直俺はこのタイプのエレベーターが嫌いだ。高いとこが苦手ってわけじゃなく車で山道走ってる時みたいに頭の芯がくらっとして気分が悪くなる。
しょうがなく外を背に腕組みして目を瞑ると外を見ていた南が低い声で俺を睨みあげる。
「何怒ってんの」
はぁ?と思った瞬間ネクタイ引っ張られてがっつりチューされた。うわ、と思ったけど超絶キスのうまい南に嫌悪感より先に好奇心が勝ち更なる快感を探求すべく頬を両手で覆ったり、角度を変えてキスしたり、なんか女の子にするみたいにしてしまった。
「なぁさっきやっぱり」
27,26,25,24
エレベーターの階数表示を見ながらキスの合間に息も切れ切れに言う。
「好きだって言った」
ちょっと逆切れするみたいに南が言う。いつも勝気な切れ長の目の奥が濡れててやらしい。
「悪い、酔ってた、忘れろ」
もっとキスしたい、と俺が南の腰を抱くと南は急に俺の胸を押した。うーわツンデレむかつく殺すと思うと同時にエレベーターが1階についた。俺の手をくぐりぬけ開いたドアから先に行こうとする南をつかまえ閉まろうとするドアを手で制しながらキスの続きをする。さっき俺にキスしてきたのはなんだったのか南はすごい抵抗をみせそのたびにガンガン容赦なく閉まるドアに俺達は体のあちこちをぶつけながらそれでも南に俺は食らいついた。
こいつとならセックスできるわ。頭の中ですでに南を脱がしながら再び上昇し始めるエスカレーターの中に喧嘩の相手を投げ飛ばす勢いで南を強引に押し込み、乱暴に最上階のボタンを押した。

38526-759 書生同士:2013/06/05(水) 23:31:23 ID:ChEPw9/M
分割量を模索していたら規制されました。ということでこちらに。



 茫として、天井の染みを見上げていた。熱に浮かされた頭が重い。
 枕元に置かれた湯冷ましは、先に空にしてしまった。
 喉が渇いた、と思うが、立って家人に求める気力も無かった。申し訳程度の手伝いで居候している身であれば、尚更世話になることの済まなさもある。
 だから廊下をきしきしと歩む音を聞き、襖が静かに開けられて、その向こうに同じ書生の男を見て取った時、照一は内心安堵した。

「テルさん、御加減は如何です」

 問われた声に返事を返すのも億劫で、うん、とだけ喉の奥で唸る。柔和な顔を笑ますのは、隣室に住まいを間借りし、同じ大學に籍を置く斎藤だった。
 同じ書生と云えど、法律を学ぶ斎藤と、生物学に傾倒した照一では、まるで畑が違う。
 また地方の農家の出である照一に対して、斎藤は上京してきた身とはいえ、中々の名家の出と聞く。
 論じることの出来る事物など殆どないから面白くもなかろうに、一つばかり年長の照一に気でも遣っているのか、斎藤は何かと話し掛けて呉れた。
 世間話から、身を寄せている商家の人々の話だの、友人の羽目を外した話だのを聞かせて呉れたこともあった。
 本当は英語が苦手でもない癖に、取寄せた書物の訳などを頼ってくることもあった。
「まだ、良くなさそうだ。浅野さんが持って行けと、呉れましたよ」
 この家の勤勉なお手伝いの名を出しながら、斎藤が枕元に膝をついて、片手に乗った盆を置く。
 新しい湯飲みと、無花果を載せた皿とが照一の目に入る。そろそろと身を起こして湯飲みを口に運ぶと、少しだけ頭が明瞭になった。
「……有難い。浅野さんにも、宜しく、云っておいてくれ」
「はい。ああ、それからタイさんにね、帰りに遇いました」
「泰助が」
「教授が、高月の休むなら余程酷かろうって心配していたそうですよ。……それで、本を幾つか預かって」
 高月は照一の姓である。同級の寺田泰助は、照一を介して斎藤とも顔馴染みだった。今では余程、斎藤との方が仲が良いように見えることもある。
「テルさんが読みたがっていたのが、数冊手に入ったからと」
 小脇に抱えていた書物の表紙を見せられ、その題字を呆けた眼で追って、思わず手を伸ばしかけた。
 途端に、斎藤の手に掴まって夏蒲団の中へ押し戻される。予め判っていたかのような素早さだった。
「駄目ですよ。どうせ、今読んだって頭に入りやしませんよ。それで夜更かしなぞして、風邪の治りだけ遅くするんですから。
 此れは今のテルさんには毒ですから、僕の手元に置いておきます」
 正論だと思って、照一は押し黙る。斎藤は何時も口が達者だ。法学の道には入れぬな、としばしば思うが、他の者が如何であるか実の所はよく知らない。
 ――ただ、己の手を掴んだ斎藤の手が、徐々に温くなっていくのが勿体無いと、ふと思った。
「読む為には早く治すことです」
「……ああ。そうしよう」
「余り遅いと、僕が先に見てしまいますからね。お大事に」
 立ち去る素振りを見せた斎藤の手を、照一は思わず掴み直した。
 そのまま引っ張って甲を額へあてがうと、まだそちらは少し、冷やりとして心地良い。吃驚したような斎藤の声が、頭にぐわんと響いた。
 こんなものは、体温を下げる役には立たない。
 判っていても、何故だか酷く惜しかった。
「テルさん、テルさん。今水枕でも貰って来ますから……」
 慌てたような斎藤の声が、遠くなる。済まない、斉藤、と口にした積りであったが、定かではない。


 聞こえ出した寝息に硬直を解いて、斎藤は複雑な顔で照一を見下ろす。
「思い違えたら如何するんです」
 日頃斎藤を頼りもしない、此方から話し掛けなければ口も利かないような風情だから、不覚にも動揺してしまった。
 疎まれているかと落ち込んで、寺田に笑われた事もあったというのに。心音が頭に響いて、煩い。
 斎藤はそっと書籍を傍らに置いて、諸手で力の抜けた照一の手を包む。
「……葉っぱを見る目の少し位、僕に呉れても罰は当たらないでしょうに」
 屹度研究の道にそのまま進むのであろう彼と、法曹の道へ進む心算である自分の、道が別れる時まではもうそう遠くない。その時、せめて友人で在れるだろうか。
 斎藤の手が、じわりと熱くなる。
 頑強な彼のこと、明日にはすっかり快復してしまうだろう。それでも、もう少し此の侭でいて呉れてもいいと、不謹慎な事を思った。

38626-819 旅行先で出会った運命の人 1/2:2013/06/15(土) 23:08:15 ID:XFt/5UKs
向こうに書き込めないのでこっちに

 あいつとは沖縄を旅行中に知り合った。今から六年前で、あいつは卒業旅行中の大学生。
 馴れ馴れしく写真撮影を頼まれて、成り行きで会話をしていたらお互い近くに住んでいることが判明し、
 微妙に付き合いが始まって、いつの間にか恋人になっていた。
 俺はその頃から、男の癖に占いに凝っていた(性差別的な文言だが)。
 当たると噂の占い番組で、「今週の天秤座は旅行が吉。運命の相手に会えるでしょう」といわれたことが、
 旅行の一つのきっかけだったほどだ。
 両思いになってからそれを思い出し、俺は他愛もなく、そして年甲斐もなく浮かれた。三十前の男がである。
 男同士であることも、年が八つほど離れていることも、その時は大したことには思えなかった。まあ、若かったのだ。
 付き合って三ヶ月くらいした頃だったか、俺は、酔った勢いで、その占いのことを喋ってしまった。
「だから君は俺の運命の相手なんだよ」
 素面なら死んでも吐かない台詞を真顔で言い切った俺に、あいつは一瞬間を置いて、けたたましく笑い出した。
「おい君、笑うな。笑うな」
「だっ……、だって、あひゃひゃひゃ、運命って、運命の相手って、おっさんが真顔でうひゃははははははは」
「おっさんというのはやめなさい」
「あははははははははははは」
 ひとしきり笑ったあと、俺も天秤座だから双方向運命っすね、こりゃもう逃げられねーなぁ、などと
 にやにや笑っていたあいつの顔はまだ鮮明に思い出せる。
 だが、今の俺はひとり、だ。

 あいつとはこの一年連絡を取っていない。理由は簡単で、俺が逃げたのだ。
 あいつはいい恋人だった。口は悪かったが、マメでよく気が付いて、態度は巫山戯ていたが、優しくて愛情深かった。
 一方で俺はどうだ。三十路も半ば、零細企業で細々と働く将来性皆無のくたびれた平社員。
 若いあいつの未来を摘み取ってしまっている気がして怖かった。
 あいつは別にゲイではなく、昔は彼女もいたらしい。
 結婚して、子供を作って、そんな普通の幸せが幾らでも掴めた筈なのに、いや、今からでも掴める筈なのだ。
 俺が居なければ。
 だが、あいつは俺がそんなことを口にすると、酷く怒った。
 当たり前だ、だが俺は怒らせることを承知で、言わずにはいられなかった。
 運命の相手と浮かれてみても、俺があいつを幸せにできるとはとても思えなかったのだ。
 喧嘩が増え、関係はぎくしゃくし始めた。
 そんな時に、俺は、――会社をクビになった。
 ある意味でチャンスだ、と感じた。交友関係の狭い俺は、それら全てを断ち切り、
 アパートを引き払って、携帯を解約し、一方的に、姿を消した。
 謝罪と感謝の手紙を、一通だけ送って。

 三十路を過ぎて、見知らぬ土地での再就職は大変だったが、
 奇跡的に、訳ありの人間を多く受け入れている小さな会社に入ることができ、どうにか生活も安定し始めた。
 月曜日、パターン化した流れでテレビを付ける。聞き慣れた音楽。
 あいつがいた頃は、毎週一緒にチェックしていたあの占い番組だ。もう、一人で見るのが当たり前になった。
「今週は絶好調、天秤座のアナタは、旅先で運命の人に会えるカモ☆ 他人への気遣いを忘れずに!」
「……またか」
 苦笑する。運命の相手がそんなにごろごろ居て堪るか。
 一人でいい。一人でよかった。一人でよかったんだ。あいつがそうでないのなら、もう誰も要らないんだ。
 その週末の社員旅行をキャンセルしようかと思ったが、催行人数ぎりぎりだったことを思い出し諦めた。
 俺の所為で中止になっては、温泉を楽しみにしていた同僚の山田さん(62歳)に悪い。
 だがその気遣いが、裏目に出た。
 俺は、熱海の旅館の廊下であいつと真っ向鉢合わせる羽目になったのだから。

38726-819 旅行先で出会った運命の人 2/2:2013/06/15(土) 23:11:22 ID:XFt/5UKs
 社員旅行×社員旅行。まさかのバッティング、である。予想して然るべきだった、シーズン真っ盛りに観光地なのだから。
 しかし同旅館とは酷い。運命の悪戯、或いは本気?
 驚愕と混乱と焦燥に無言の俺とは対照的に、あいつは、
 いつも通りの――いつも? 一年前までの話だろう、と俺は自嘲する――馴れ馴れしい口調で話し掛けてきた。
「わー久し振りっすね、三百七十二日振り? あは、ちょっと痩せた? 髪の長さ変えた?
 幽霊見たみたいな顔すね、足ちゃんとあるよ、俺。見る?」
「……驚かないんだな。君は」
「あー。だって絶対、此処で会えると思ってたし?」
「……何故だ?」
 あいつは笑みを消して真顔で答える。
「『天秤座のアナタは、旅先で運命の人に会えるカモ☆』俺の運命の人つったら決まってるじゃないすか」
 俺は黙り込む。あんなのはただの占いだ。だが、その占いを信じてこいつに告げたのは誰だ?
 実際に俺達は此処で会ってしまった。偶然? 必然? 運命? それとも。俺は混乱したまま言葉を絞り出す。
「……まだあの番組見てたんだな」
「あんたの所為で習慣になっちゃってんすよ、責任取って結婚しろよな」
 聞き慣れた軽口。だが、目は笑っていない。その口調も表情も、台詞に似つかわしくないほど真面目だった。
 ……ああ、こいつはまだ、俺を。馬鹿が。諦めろよ。ブーメランのように自分に戻ってくる言葉が頭に幾つも浮かぶ。
「さっき仲良くなった山田さんって人、あんたの同僚でしょ?
 ふーんそっか、日本海側まで逃げたんだ。随分畑違いに就職したんすね」
 俺はくるりと背を向けた。逃げよう。そう、今度はもっと遠くに逃げる。
 苦労して就職した会社だが、仕方がない。こいつが諦めるまで、
「逃げるの? 別にいーよ」
 意外な言葉に、俺は思わず立ち止まって振り向く。
 あいつは追い掛けようとする素振りも見せずにさっきのままでさっきの場所に立っていた。
「何度も何度も何度も何度も何度も逃げれば……。俺は全然構わねーすよ。だって、」
 俺はあいつから目を離すことができない。
「もしも俺とあんたが運命だったら、何処に逃げたって消えたって死んだって追いつける。
 十年後でも五十年後でも千年後でもいつか絶対一緒になれる」
 それが運命ってもんでしょ、とあいつはけたけた笑う。
 俺は、何かに押さえつけられるような錯覚を感じながら、月並みな文句で抗おうとする。
「君は……、俺といない方が、幸せになれるだろう。運命なんか、忘れて」
「そうかもね。あんた卑屈だし、根暗だし、一方的だし、考え方が馬鹿だし。でもさ、」
 あいつは一歩も動かないまま、俺を見据えて笑った。ぞっとするほど綺麗に。
「知らねーの? 運命は、抗えないから運命なんすよ」

38826-849 両片思い:2013/06/20(木) 16:59:11 ID:mmvb.f/c
先輩は有能な営業マンで上司にも部下にも厚い信頼を得ている
俺は気さくで仕事にひたむきな先輩にすぐに懐いて…恋情を抱いた
そうしてみると途端に真っ直ぐに尊敬の眼差しを向けてきた事が恥ずかしくなった

先輩には奥さんがいる
先輩はあまり話したがらないけれど、絶世の美女とだけ言っていた
「俺の眼鏡どこにある?」
「童顔隠しの伊達なら給湯室にありましたよ」
「…お前生意気だぞ」
大丈夫、先輩の幸せを壊すつもりはない
俺は後輩として先輩を尊敬してるんだ

俺には男前の部下がいる
たまに生意気だが素直で仕事の覚えも速いいい部下だ
「甘党な先輩にケーキのストラップ買ってきました」
そういって面白半分に買ってくる乙女チックな物が年々溜まっていく
「あなたって意外と乙女なのね」
そうレズビアンの妻から笑われる

相手はストレート、しかも直属の後輩
「奥さんってどんな人なんですか?」
「絶世の美女。いいから仕事しろ」
大丈夫だ、あいつはいい部下だ。バレる訳が無い。隠し通せるに決まってる。

38926-859 暑くても離れたくない:2013/06/21(金) 19:32:29 ID:b.zNaHh6
本スレ860です
続編というかおまけ

==============================

「ごめんっ…俺べとべとだった」
身体を離そうとするとぐいっと押し戻された
「俺も涙でべとべとだから気にしないで…俺も離れたくないし」
普段の余裕のある智ではなくて、

「やっぱもういっ「だめ」
「キスだけ…」

いつもとは違うぎこちないキスは心地よかった

39026-869 狸×狐:2013/06/24(月) 07:39:09 ID:q1JnN67M
本スレで時間切れに気付かず投下してしまいました…申し訳ありません
あと三十分早く気付いていれば良かったです…
時間切れ無効ですので、こちらにも投下させて下さい。すみません。


「あっはは、また騙されてやがる。無様なやつめ。気分が良いなあ。うすのろをからかうのは気分が良い!」
俺の腹の上に跨がって、目尻をきゅ、と細め、口角を吊り上げケラケラ笑う奴の顔を見上げ、溜め息をつく。
襦袢の裾から飛び出た奴の尻尾がぱたぱたと動いて俺の太ももの辺りを着物越しに掠めるのがこそばゆい。
「いい加減どいてくれないか」
「嫌だね」
「なあ、ならせめて、俺の腕を膝で抑えるのはやめてくれよ、痺れてきた」
「ふうん」
そう言うやいなや、ぴしゃりと俺の手の甲を叩く。
指先が痺れる感覚に眉をしかめると、奴は一層ニンマリと笑った。
「な、僕は綺麗だったかい?まったく綺麗な女だったろ?お前はいつも、あんな風に女を口説くの?お前なんかに着いてくる女なんて、いるの?答えてみてよ、さあさあ」
言い淀んでいると、またぴしゃぴしゃと痺れた手を叩いてくるので、仕方なく口を開く。
「…ううん、まあ、そうだなあ…大抵は……着いてくる」
上機嫌に動いていた尻尾がぱたりと止まる。
俯いたまま動かない奴に声をかけようか否か考えながら、二、三まばたきをしていると、いきなり頬をつねられた。かなり、強く。

「いひゃい」
「僕に騙されてのこのこ着いてくるうすのろの癖に、生意気なんだよ。一丁前に女なんか口説きやがって。なっさけない顔してさあ。こんな情けない顔した奴に着いてく女は、何考えてんだろ」
「さあ…顔はやたら、ほめられるけど」
「うるさいよ!ほんと憎たらしい。憎たらしいから、もっとからかってやる」
「あ、おい…」
「喋るな!」


お前だと分かっていて声をかけた。
そう告げたら、こいつも少しは可愛気のある顔をするのだろうか。
……まあ、喋るなと言われたので、少し黙っていようと思う。

391890-1/2:2013/06/26(水) 03:41:51 ID:eO3ad2tU
本スレ890-891です。
長いと叱られたので分割してたら途中からになってしまいました…
本スレ2レス投下で終了ですが、1/2の前半部分を追加でこっちに
投下させてください。読みづらくなって申し訳ないです



姉さんの3回忌に訪れた墓所で、俺と義兄さんは静かに手を合わせる。
親代わりになって歳の離れた俺を世話してくれた姉さん。
それを陰から支え続けてくれた義兄さん。
福祉課の職員と相談に訪れた市民という、色気の欠片もない出会い方をした二人は、バレンタインデーに告白して、ホワイトデーに返事をするという、今時小学生でもやらない幼稚で不器用な恋愛を経て結ばれた。
なのに、たった一年足らずで姉さんは逝ってしまった。
義兄さんは今も変わらず、市民の良き相談相手として働きながら、大学に通う俺の面倒を見てくれている。
まるで困っている人に尽くすことが、人生の生き甲斐みたいな人だ。
「お腹空いただろう? 何か食べて帰ろうか」
「はい」
合掌を解いた義兄さんの、眼鏡の奥にある瞳が少し潤んでいる。
二人に見守られて十代の後半を過ごした俺は、両親がいなくても十分に幸せだった。
本当に、二人には心から感謝している――だから、この気持ちは二人への裏切りだ。
姉さんが短い生涯で一番愛した人を、俺はこれから傷つける。酷いことをして、消えない罪を背負わせる。
どうしてこうなったのか自分でもわからない。けれどもう決めたことだ。
義兄さんはきっと苦しむ。悩みすぎて頭がおかしくなるかもしれない。もしそうなっても俺がずっと側にいる。義兄さんと俺は、これから先もずっと一緒だ。
姉さんが天国で待ってたとしても、俺と義兄さんはそこには行けないだろう。
地獄まで義兄さんを連れていく俺を、姉さんは決して許さないだろう。
神様は選択を間違えた。姉さんではなく、俺を連れて行けばよかったのに。
それとも、こんな俺だから神様も側に呼び寄せたくなかったのだろうか。

「晴れてよかった。来週からは雨続きらしいから、むし暑くなるよ」
「もう梅雨入りしましたからね」
こんな会話ができるのも、あとわずかな時間だけ。
義兄さんの、こんな穏やかな笑顔が見られるのも、あと少しだけ。
「――義兄さん」
「うん?」
「お話したいことがあるんです」
「話? どんな話?」
「できたら、家に帰ってゆっくり聞いてもらいたいんですけど、だめですか」
少し考えるような顔で、それでも微笑んで頷く義兄さんの目は優しい。
「いいよ、たまには男同士でじっくり語ろうか」
「はい」
そっと俺の背中をたたく、義兄さんの手。
そこには今でも、姉さんを愛している証拠が薬指に光っている。
義兄さんの、一生分の愛情を持って、遠いところにいってしまった姉さん。
だから、残りは俺が全部もらう。
――いいよね? 姉さん。

392890-2/2:2013/06/26(水) 03:51:27 ID:eO3ad2tU
出会ってから付き合うまで約二年。付き合ってから結婚するまで一年と少し。結婚生活は一年足らず。
妻が亡くなって、もう二年以上が過ぎてしまった。
今日は3回忌の法要で久々に妻の眠る墓所を訪れた。妻がこの世で誰より大切にしていた義弟と一緒に。
妻を見送った日は、ひどい雨が降っていた。
傘を差し、最後まで墓石の前を離れなかった義弟は、一粒の涙も流していなかった。
僕は泣き腫らした目で「君は強いね」と声をかけた。
義弟は振り向きもせず、真っ直ぐに立って「もう三人目ですから」と呟いた。
その声があまりに淋しげで、僕は傘を放り出して義弟の肩を抱いた。
嗚咽を上げる僕に、義弟は自分の傘を差しかけてくれた。肉親全てを失った彼のほうが、ずっと辛いはずなのに、慰められたのは僕のほうだった。
妻がいなくなった家に、今は二人で住んでいる。大学を出るまでは面倒を見させてほしいと、僕が願い出たからだ。大学を卒業するまで、自分がしっかり世話をしたいと言っていた妻の気持ちを、僕が成し遂げてやりたかった。
――けれど、本当は僕自身が淋しかったのだ。淋しさに耐え切れなかったのだ。
義弟の強さに、僕は知らぬうちに甘えていた。
一回り以上も歳が離れている彼に、自分の淋しさを押し付け、背負わせてしまった。
悲しみを分かち合えるのは義弟しかいなかった。義弟の存在だけが、僕の生きる支えになってくれた。
涙を流して悼むほどの悲しみは通り過ぎたというのに、未だに薬指の指輪をつけているのは、半分は妻への思いだが、もう半分は義弟への依存心からだった。
もしも指輪を外してしまったら、義弟は僕の側から離れていってしまうかもしれない。僕を残して、どこか遠くへ行ってしまうかもしれない。
妻を悼み続けることで、義弟を縛っておけると考える僕は、誰から見ても最低の人間だ。
けれどもう少しだけ、彼の強さに甘えて、縋っていたかった。
こんな僕の心を知ったら、彼はどう思うだろう。
大切な姉を預けた男が、こんな脆弱な心の持ち主だとわかったら、失望し、軽蔑するだろう。
だから隠し続けなければならない。今はまだ、彼を失うわけにはいかないのだから。
墓石の前に並んで立ち、僕と義弟はそっと手を合わせる。
こんな僕に、大切な弟を残して逝ってしまった妻への、懺悔の時間だった。

39326-899 他校の後輩:2013/06/27(木) 17:51:49 ID:q8Kclirc
 小さい頃から得意で続けて来た競技は中学で全国大会に出場するほどの腕前で、高校もその推薦で決まったくらいだ。
 卒業式に柄にもなく花なんぞを手渡して見送ってくれた後輩達に、俺は明るく声を掛けた。
「後は任せたぞ」
「はいっ!」
「それで一年後、俺ん所に来い。また鍛えてやる」
「判りました!」
「頑張ります!」

 高校に入学しても日々練習に励み、一年でも選手に選ばれ充実した生活を送った。
 春が来て新入生の中には見知った顔が何人かいたが、一番期待していた奴はいなかった。
 聞いてみると、進学のため県外に出たらしい。
 一番伸びそうで期待していた奴だが、将来の目的のためじゃ仕方ないな……。
 残念に思いながらも、鍛錬を続け迎えたインターハイ。
 当然のように勝ち進み、地域ブロックの試合会場で見つけた懐かしい顔。
 少しデカくなった?
 いやそれよりも、なんで進学校じゃなくて強豪で知られる高校にお前が居るんだ?
 聞きたいことが沢山ある。
 試合前のバタバタした会場内、イメトレや精神統一をやめて駆け寄った俺に気付くと礼儀正しく一礼した。
「お久しぶりです」
「お前、続けてたのか」
 だったら何でうちの学校に来なかったんだ?とは聞けなかった。
 けど顔に出ていたのか、後輩は昔と変わらずまっすぐ俺の目を見て話しかけてきた。
「オレ、強くなりたいんです。先輩に可愛がられたいんじゃなく、勝ちたいんです。だからこっちに入学しました」
「!そうか。頑張れよ」
 一年見ないだけで生意気になりやがって……。
 余裕ぶって笑顔で肩を叩いて別れたが、内心ムカついてしまう。
 俺が一番気に入って期待していた後輩。
 でも今は他校の選手になっていた。
 なぜかは分からないが、無性に腹が立つ。
 先輩としてのメンツだけじゃなく、絶対に負けられないって気になる。
 闘志を燃やしながらも平常心を心掛け二回戦に進み、運よく対戦した奴をコテンパに負かしてやった。
 それなのに、まだもやもやしたものが残っていて気分がスッキリしない。
 この先もまた奴と戦うだろうが、勝ち続けなければと何故か焦りを感じた。

39426ー919 ブルーカラー×ホワイトカラー:2013/06/29(土) 19:26:51 ID:SSoNmiXs
規制中なの


蒼、蒼、藍色瑠璃の色。
濃淡様々な青色が、空と海とを描き出す。
一見冷たい印象を抱かせるその色が、暖かみを得るその一瞬が、他の何より好きだった。
「青」
一息ついた背中に声をかける。キャンバスに向かっていた青い瞳がこちらを移し、明らかな喜色を孕んでみせた。
「白」
その笑みに微笑み返し、俺はキャンバスの前まで歩みよる。
「見事なものだな」
巨大なキャンバスを目の前にして、俺は言った。すると青は少し照れたようにしながら、あの人に捧げるものだもの。と胸を張った。
1ヶ月後の今日。俺たち色は、全てを作りだして下さった方に会う。それは一年に一度のお祭りで、その時俺たち色は、全員で協力して描いた一枚の絵を、あの方に捧げる。中心となる絵は毎年変わるが、今年は青が、その大役に就いていた。
「見事なものだな」
空と海をとっくりと眺め、もう一度、俺はそう呟いていた。無意識だった。
色の中でも赤青黄の三原色は特別で、その表現力も突き抜けていた。そして俺は、三色の中でも青の絵が、他の色より好きだった。
一見冷たい印象を抱かせるその色が、他にはない暖かみを帯びる姿が好きだった。
ほう、と息をついていると、そっと近づいてくる気配。とっさに身を引けば、やはりというか、青が手を伸ばしていた。
「……青」
思わず声が低くなる。
青はごまかすように笑っているが、ごまかされてなんかやれない。今、こいつは俺に触ろうとした。

39526ー919 ブルーカラー×ホワイトカラー2/2:2013/06/29(土) 19:28:58 ID:SSoNmiXs
本来、色同士が無闇やたらとお互いに触れることは、あまり誉められたことではない。触れた先からお互いの色が染み込んで、しばらく取れなくなるからだ。ひどいと色としてしばらく使えなくなってしまう。俺はその性質が特に強く、少しだけでもすぐに染まってしまうからやってられない。
「……青」
じろりと睨む。青はバツの悪そうに目をそらす。思わずため息が出た。
「誰かと触れ合いたいなら緑か紫に頼めば良いだろう」
青の部下である彼らなら、影響も最小限で済むのだからと、そう言えば、青は弾かれたように顔を上げ、頬を膨らませてみせた。
そしてポツリとこぼされたのは。
「僕は白に触りたいんだ」
ガツン。と、これ以上なくストレートな言葉。思わず頭を抱えたくなった。これだから、こいつは!
見ればむすりと子供のような顔。
その顔に、どうしようなく弱いのを、俺はもう自覚済みで。
ため息ひとつ。
「……青」
青の、一秒たりとも同じ色を映さない瞳に映る白。綺麗だなあと、人事のように思ってしまう。そして、彼の描く巨大な絵。
ああ、仕方ない。
「……少しだけ、なら、許してやる」
ポツリとこぼしたその言葉が消えないうちに、体に衝撃が走って。
抱きしめられたのだと知ったのは、その暖かさからだった。
しばらくは己に付いた色に悩まされそうだと思いつつ、その色の印象からは結びつかない暖かさに、腕を回したのだった。





1で分割表示忘れてすみませんでした

39626-929 憎いはずなのに:2013/07/01(月) 14:29:46 ID:68cKC9P6
好みのお題だったのに間に合わなかった…


俺が殺したかったアイツが切られて、嵐の海に落ちていく。
それを見た瞬間、俺は反射的に荒れた海に飛び込んでいた。
何をやってるんだ……。
嵐の海で意識のない人間を抱えて、岸まで泳げるのか?
第一憎んでいた相手を助けようとするなんて、自分で自分が分からない。
それでも動いちまった以上はやるしかなく、必死で俺は岩場まで泳ぎついた。
息も整わぬまま気を失った奴を引きずり岩場を上へ上へと歩き、波の届かない岩の隙間を見つけて中に入りやっと一息つく。
薄暗い中で奴の上半身から濡れた服を剥ぎ取り、絞ってそれを包帯代わりに腹に巻き付け止血を試みた。
思っていたより傷口は浅く、これで何とかなるかもしれない。
初夏だが濡れて体温を奪われ身震いした俺は、仕方なく意識のない奴を抱きしめる。
いつも余裕の冷笑を浮かべている顔は血の気を失い青ざめていたが、整っていて人間離れしていた。
普段はセットされた髪は濡れて額に張り付き、年相応の若さに見える。
何時とは全く違う初めて間近で見る姿に、俺はつい見入ってしまう。
コイツに近づこうとして、それを疎ましく思った周りの奴に狙われ、俺は仕事も仲間も失った。
その恨みを、直接関係ないコイツを追って殺すことで晴らそうとしていた。
憎まなくては、俺は今日まで生きてこれなかった……。
それなのに必死で助けて、抱きしめたコイツに口付けたいと思うなんてどうかしている。
このままこの腕に閉じ込めてしまいたいなんて……。
コイツが目を覚ました時、俺はどうしたらいい?

39726-949 セクサロイドとインキュバス:2013/07/04(木) 13:26:27 ID:vJXpVw72
規制中につきこちらで。


何かなァ、と彼はベッドにうつ伏せて呟いた。横たわった僕のすぐ横に、端麗な横顔が来る。
色の薄い髪の先が滑り落ちて、尖り気味の耳が露わになる。剥き出しの背には蝙蝠のそれに良く似た翼がぱたついて、いかにも退屈そうだった。
「オマエとしても、あんまりキモチヨくないんだよなァ」
そう言われると、僕としてはどうすればいいか分からなくなる。
黙り込む僕の方に顔を向けて、彼は悪戯っぽく笑った。僕が惑うのを楽しむように。
「オマエ夢見ないだろ。オレとしてはソッチがフィールドだからさ? 生身ってナンか変なんだよ」
「……そうでしたか」
「ま、しょげんなよ。へばンない相手は久しぶりだったしさァ」
伸ばされた手に頭をぐしゃぐしゃされながら、伝えられた不満を解析して、どうにかできることがないか考えてみる。
暫しの沈黙の後、やがて一つ、いいことを思いついた。
体を起こして、訝る顔を左右から挟むように、ベッドへ両手を付く。できるだけ優しく笑う表情を作って――

「では、役割を変えてみましょう。未知の中に新たなる趣味嗜好を見出せるかもしれません」
「ちょッと待てよオイ」
「あ……あの、もう過去に体験済みでしたか。ごめんなさい」
「ねーよ! ねェけどそこがモンダイなんじゃねェんだよ!」
「良かった。ご心配なく、方法は心得ていますから」
「オマエ分かってる? ナイだろ? そもそもオレの名は『上に乗る』って意味でだなァ」
「ええと……大丈夫です。お望みの体位にお応えします」
「そういうイミで言ってんじゃねーよ!」

目を三角にする彼の頬に、僕はそろりと手を触れた。

「貴方に快い夜をお約束致します」

それは昔、僕が売り出された頃のキャッチコピー。
規約に従い、前の持ち主のデータはもう、僕の中に何一つ残っていない。
覚えているのはただ、棄てられた後の、どうしようもない不安と虚しさだけ。
彼が悪魔なんて非現実的な存在でも、面白半分にでも、僕を拾ってくれた時、まだ価値があるんだとどんなにほっとしただろう。
――もう二度と手放されたくない。失いたくない。一人にはなりたくない。だから。

「マスター」

覗き込む僕の顔に、何を見たのだろう。
どォにでもなれ、と自棄気味に呟いて、マスターは仰向けになると僕の首に両腕を回した。

39826-949 セクサロイドとインキュバス:2013/07/04(木) 17:35:54 ID:bN0kX93U
また、夜が変わった。
ほんの一眠りしてる間、加速度的に世界は人工の光で満たされていく。
以前は赤や緑など雑然とした色にまみれていたが、今はただ青く白く統一され、どこか病的な印象を受ける。
あれからどれほどの時間が流れただろう。なんにせよ、目覚めたということは餌が必要になっているということだ。
感覚を広げ、ややあって一つの魂を見つける。好都合にも近くに他の反応はない。
さっそくその場に跳躍すれば、瓦礫とともに一人の若い男が横たわっていた。
浮浪者だろうか、酔いどれだろうか。そういう類の者にしては身なりは整っているように思える。
しかし、そんなことは久々の食事にあっては瑣末なことにすぎない。端正な上物とあってはなおのことだ。
「さあ、お前はどんな夢を望むんだろうな……?」
女か、それとも男か。無意識に潜む理想の姿を探ろうとする。
しかし、いくら意識の同調をはかっても、なんの反応も返ってこなかった。
焦りとともに額を合わせる。
その時、間近で閉じられていた瞼が開き、暗闇の中にちかりと赤い瞳がまたたいた。
「――……こんばんは。あなたが今日の私のマスターですか?
 あなたの望む、一夜の夢を叶えてさしあげます」
不意の輝きに身をのけぞらせる。男は緊張した空気をかき消すように、ふわりと笑みを浮かべた。
この状況で人間が目を覚ますなど、初めての状況だ。
夢を見ない。支配下におけない。そんな人間がいるものか。
あり得ない事態に動けずにいると、一瞬で顔の形が組み替わり、今度は女性的な顔で微笑んだ。
「今宵は、どのような夢をお望みですか?」
本来、血や骨や筋繊維でできているはずの人間の内部が、鋼鉄の骨組みに置き換わっているのが見えた。
戸惑っているうちに、目の前の人物は何度も何度も姿を変えて同じ問いを発する。
最終的にまた元の顔へと形を変わったとき、ようやく腰が据わった。
「どのような夢をお望みですか?」
「……それはこちらの台詞だ」
そうだ。人間がどういう進化を遂げたかは知らないが、要は精さえ搾り取れればよいのだ。
「おまえこそ、どんな夢を望むんだ」
「私の望みですか?それに答えられるようにはできておりません」
「いいから、言ってみろ」
「私の、望みですか?」
「ああ」
「……私の…………望み……」
急速に眼の光が失われ、体から力が抜けていく。
「おい、どうした、おいっ!」
呼びかけても返事はない。勝手に起きたり寝たり、ままならない奴だ。
体を揺さぶってみたり、ばしばしと頬を叩いてみたり、額で熱を測ってみたり、いろいろ試してようやく目を覚ました。
ぶうんという羽虫の飛ぶような音が、かすかに聞こえたような気がする。
「こんばんは。あなたが今日の私のマスターですか?
 あなたの望む、一夜の夢を叶えてさしあげます」
「おまえは一体何なんだ……」
「私は個体番号M-TR1098、ユーフォビア社のセクサロイド“アルプ”です」

39926-949 セクサロイドとインキュバス2/2:2013/07/04(木) 17:36:56 ID:bN0kX93U
「……つまり、おまえはゴーレム、じゃない、ええと自動人形のようなものということか」
「多少の齟齬がありますが、おおむねそのような理解でかまいません」
それにしても話を聞く限り、魔の物にとって情勢はさらにやっかいなものとなっていた。
人間はカプセルという名の密封された棺桶で眠り、常に都市の監視下に置かれ、警邏の網が張り巡らされている。
弱り切った人外の物など瞬滅できる武器を、人間はとうの昔に作り上げている。
下手に寝所へ赴くと消されかねない。これからの行動を決めあぐねていると、“アルプ”が問いを発した。
「私は不具合が見つかり、このまま明日十時ちょうどに廃棄を言い渡されました。
 あなたが現れたということは、何かオーダーに変更があったのでしょうか」
堅く握ったこぶしに焼印のようなものが押されているのが目に留まった。
得られた情報は理解できないことの方が多いが、ひとまずこいつ自身に関しては人形で奴隷で淫売なんだと結論付けた。
「――ああ、そうだ。廃棄される前に案内を頼みたい。できるか」
「はい、可能ですが、私は性機能に特化された機体です。ナビならば、もっと適任が――」
「おまえとは、そういう行為をする気はないよ」
「はい……」
目覚めてからずっと柔和な笑みを保っていたが、初めて表情を曇らせた。
性行為自体はむしろ好ましいところだが、それは十分な補給があればの話だ。
こいつから精気を得られない以上、無為にエネルギーを失うことは避けたい。
とりあえず、人にまぎれるには何らかの姿をとらなければならない。
幸いにもこいつが意識を失う瞬間に、一人の男のヴィジョンが見えた。ひとまずは、そいつの姿を借りることにする。
「…………っ!」
淡い発光とともに変質させると、また落ちるんじゃないかと思うくらい、激しく身を硬直させた。
「……教えてください。あなたは何者なのですか?」
「なあに、どうしようもない淫売の仲間だよ。――さあ行くぞ」
“アルプ”の体を抱きかかえ、人間の街に跳躍の目標を定めた。また長い眠りに就くために。

――――
すみません。ご迷惑おかけしました

40026-949 セクサロイドとインキュバス:2013/07/04(木) 18:10:55 ID:FemsFhaQ
3番手ですがいかせていただきます。


彼は寂しそうに見えた。少なくとも、そのような外的特徴を備えていた。
伏せた目。物憂げな眉。血色の悪い頬。丸めた背。
目があったので話しかけると、しばらくして「ああ」と得心の声をあげた。
よくある反応だ。そして、その次の反応は大抵、私に用がある場合とない場合で大きく異なるのだが、
彼の場合は前者であったらしかった。
私は需要があったものと判断し、彼と共にしかるべき場所に赴いたのだった。

「ばっか、ばっか、馬鹿じゃねーの!? なんで俺がやられる方だと思うのさ、それも男とかねーし!」
挿入の直前で拒否され、私はその機能を一時停止した。
「誘ったのはお前の方だろ? 俺のセックスに興味があるって言ったじゃないか」
「そのしゃべり方もやめろ!気色悪い」
「……そういうご要望でしたので。男らしくやってみろ、と最初に」
「できるのか、って言ってみただけ!なんかお前みたいな機械があるって聞いてたからへぇー、って思っただけなんじゃん!ほんとにやるかよ、馬鹿らしい!
だいたい、お前俺のこと知らないだろ?俺は女専門だっての」
「それは、失礼しました。では今回は、ご依頼というわけではなかったのですね」
「ちょっと見てみたかっただけっつーわけよ、ほんとに人間じゃないのなーって」
何故か、彼は寂しそうな顔をした。また。
「はい、私は人間ではありません。登録され、ご要望に応じてこういった行為をサービスするものです」
「人間そっくりなのに匂いがなかった」
「匂いですか?」
私には、体臭も機能の一つとして、人間のように、より望ましい形で付加されているのだが。
「俺らの食べ物だよ、わかんなくていーの。……あーあ、まったく、お前らみたいなのが増えると、俺みたいなのは死ぬしかないわ」
「同じ職業の方というわけですね、人間では、珍しい」
ようやく、私にも彼の寂しい顔の理由がわかったというわけだ。
しかし彼は言った。
「そんなんじゃねーよ」

彼との出会いは、いつでもはっきりと思い出せる。私の記憶が失われることはない。
私は、あらゆる面において、人間を凌駕する存在として作られた。
では、なぜ創造主は、私に命、魂という機能を備えてくれなかったのだろう。
それがあれば、おそらく私ですらも、彼の食糧になりえたのではないのか。

彼が私に抱いた感情を、私は持たなかった。あるいは、彼の人より長すぎた生において、何らかの障害が発生してしまったのか。
彼は、自分が飢えて消滅するのだと私に語った。もう、人間からエネルギーを得る気になれないのだと。
私がいくら彼と行為をともにしても、彼にとってのエネルギー(彼は精気といった)は満たされない。
医療の必要性を説いたこともあったが、一笑に付された。
「でもな」
彼は笑う。
「精気はないけど、お前は美味い。他の奴は食えない、もう」
気がつけば私はまた、彼の映像を繰り返し再生している。決して失われない彼の姿。

40126-979 ツンケンしてて恋愛にも淡白そうなのにry1/2:2013/07/09(火) 01:56:47 ID:PyPwxR3M
他の人のも読みたいのでこっちで




とうに日は落ちて、息が白く煙る冬の夜。
4つ下の幼馴染(男)が黙々と隣を歩いている。
俺は大学帰り、こいつは部活帰り途中の駅でばったりと遭遇した。
別に隣同士なうえ付き合いは長いから、一緒に帰ることに違和感はない。
ただ、この沈黙がひどく痛々しいのは、何の因果かこいつと付き合うことになったからだ。


きっかけは、俺の家でゲームで対戦してた時のことだ。
どうだー高校生活はーとか彼女はできたかーとか、そんな話題をうざがられつつふっていた。
「女とか興味ねーよ。あんたや友達と遊ぶ方がまだ楽しいし」
「そうなの? 俺はおまえくらいのときは結構楽しんでたけどね。
 授業抜け出してさ、こっそり屋上とかで……」
言ってから自分の失言に気付いた。
俺はこいつが通ってる学校のOB、そこはれっきとした男子高だ。
「あんた、男が好きだったの?」
うまいごまかし言葉も思いつかない。「男がじゃない、男もだ」とさらなる墓穴を掘るのが精一杯だ。
「俺のことも、そういう目で見てんの?」
リアルでも画面の中でも俺は立て直しがきかず、あいつは的確なヘッドショットで着実にキル数を稼いでいく。
すいません俺Mなんでお前のそういうジト目大好きです、とはさすがに言えない。
あーとかうーとか何とも言えない唸り声を出していると、ぽつりといいよと声がした。
「いいよ。別に、つきあっても」
とりあえず引かれてはいないようでよかったとか、そんなあっさりと決めれる奴だったのかとか、
年下のくせに不遜だけどこいつ以上に気の合うやつはいないとか、
いろんな思考が渦巻く混乱の極みの中で、俺はよろしくお願いしますと返事をした。

40226-979 ツンケンしてて恋愛にも淡白そうなのにry2/2:2013/07/09(火) 01:57:25 ID:PyPwxR3M
はい付き合うことになりました、だからといって何が変わるわけでもない。
あれから顔を見るどころかメールや電話などの連絡もなく数日経ち、心構えのできていない状態で今この事態を迎えている。
横を向けば何考えてるか分からない、いつもながらの仏頂面で、隣を歩く奴がいる。
ぶらぶらと夜風の中で、むきだしの手が泳いでいた。
「……おまえさあ、寒くないの?」
赤くかじかんだ手が痛そうで、思わず手に取っていた。
――瞬間、手が振り払われる。
「あ、ごめん。つい触っちゃって」
少し怒ったような顔つきで頬を赤くしている。
やっぱ、駄目だったかと心に影が差す。
「……あんた、なんで、そういうことさらっとできるんだよ……。
 俺、すっげえタイミング計ってたのに……!」
とてつもなく悔しそうな顔で、睨まれた。
茫然としていると、せっかく会えるかどうか待ってたのに、
せっかく雰囲気作ろうとしてたのに、と次々理不尽な怒りをぶつけられる。
俺はそこでやっとさまよわせている冷たい手の理由に気付いた。
「なんだ。そうだったのか。了解了解」
安心と、微笑ましさで頬が緩む。
そんな俺の顔を見て、馬鹿にされてると思ったのか、余計に顔を赤らめた。
「なんかそーゆー、あんたのいらないとこだけ余裕そうなの、むかつく」
「べっつに深く考えなくても、俺があっためてやるよ……とかいって、きゅっ、とやれば万事オーケーだろ」
そう言って笑うと、俺はあんたみたいにチャラくないんだよとか、それはまだ早いだろとかなんかごにょごにょ言っていた。
俺は俺で、ちゃんと俺のこと恋愛的な意味で考えてくれてるんだなあ、
意外な一面があるものだなあと、いろいろ嬉しく思っていた。


ただ、冗談だったはずのアドバイスを真に受けてクサい台詞を吐かれたあげく、
きゅっと抱きしめられて、全身温められることになるのはまた別の話だ。

40327-29 甥っ子×叔父さん 1/2:2013/07/17(水) 02:11:55 ID:.cybjFvQ
「おじさん結婚しないの」
19歳下の甥っ子に突然尋ねられた。ついに兄貴が婚期を心配しだしたのだろうか。
「もしかして今日、見合いの話持ってきた?」
「違うって。親父からは別に何も言われてないよ。ただ俺が聞きたいだけ」
「なんだよ焦った。まったく予定ない。残念なことに彼女もなし。
 それよりお前はどうなんだよ。コレ、できたか?」
小指を立てて聞いてみる。
「それおっさんくせえからやめたほうがいいよ。彼女なんていない」
「20過ぎたら30まであっという間だぞー。ちなみにその先の30代はもっと早い。
 今のうちにいい子つかまえとけよ」
「……んん」
アラフォーからのありがたい忠告だというのに、テーブルに頬杖をつきながら適当な相槌を打たれた。
しょっちゅうお馬さんごっこやヒーローごっこをして遊んでやったこいつも、あと10日で成人だ。
時の流れは恐ろしいほど早い。それにしてもずいぶん大きく育ったものだ。
我が家の家系から180越えが出るとは思わなかった。
「今お前に乗られたら骨折れそう」
「乗るって……えっ、ちょっと、何言ってんの急に」
「昔、お馬さんごっことかしてやったなーと思って。
 お前、『歩け歩け!』って言いながら尻叩いてきたから痛かった」
「あー、なんだ。そういうことか。っていうかいきなり何年前の話してんだよ……」
赤面して決まりが悪そうにしている。こういうところを見るとまだ子供らしいなあと、つい笑ってしまう。
「他には……そうだ。ぐるぐるとかよくやったな」
「回してもらうやつだっけ。それすげー好きだった気がする」
ぐるぐるとはその名の通り、後ろから相手の腰の部分を持って抱き上げ、ぐるぐる回すという遊びだ。
こいつは数ある遊びの中でも、なぜかこれがお気に入りだった。
疲れてやめようとすると、もう一回だけお願いと半泣きでせがまれたっけ。
満足するまでやらされたおかげで、よく腕が筋肉痛になった覚えがある。
今の俺では、回すどころか持ち上げることすらできそうにない。

40427-29 甥っ子×叔父さん 2/2:2013/07/17(水) 02:12:55 ID:.cybjFvQ
「懐かしいな。あれ、そんなに楽しかったのか?」
そう問いかけると、いきなり立ち上がって俺の背後にまわり、脇の下に手を入れて持ち上げられた。
「なんだよ」
「いいから」
されるがままに立ち上がると腰に腕をまわされ、ひょいと抱きかかえられた。
フローリングに足がつかない。
「だから何やってんだって」
「昔のお礼。おじさんも体験してみたらいいんじゃない……っと!」
そう言って笑うと、その場でぐるぐると回りはじめた。
こちとらいい年したおっさんなので、当然ながらまったく嬉しくない。
ぶらんと揺れる自分の足が家具に当たりそうでひやひやするだけだ。
1分ほどされるがままになっていたが、気が済んだのか床に下ろされた。
だけど腰にまわされた手はまだ外れない。
「どうした? もう気が済んだろ? 暑いからさっさと離れろ」
「……やだ」
身体の隙間を埋めるようにぎゅっと密着してきた。背中から心臓の脈打つ音が伝わってくる。
どくどくという速いリズムにこちらの心臓もなぜかつられそうで、離れようともがく。
「やだって子供か! 離せって。おっさんにくっつくと加齢臭移るぞ!」
「まだ子供だし。ぎりぎり未成年。それにおじさん加齢臭しない」
耳の後ろにやわらかい感触と、においをかぐような気配があった。
見えないけれど多分鼻と唇が当たったのだろう。
生暖かい息が耳にかかってぞくりとする。
「彼女つくる予定ないなら、俺といっしょにいてよ」
続けて、おねがい、と言った声は少し震えていた。
同性で親子ほどに年が離れていて、しかも血縁と関係を持つことなんてできるはずがない。
だけど昔のように、結局俺はこいつの言うことを聞いてしまいそうな予感があった。
どうやったって俺はこいつの泣き顔とお願いには勝てないようにできているのだ。
子供のときと変わらない、高い体温の身体に抱きしめられながらそう思った。

40527-49 役者と裏方:2013/07/19(金) 11:13:47 ID:l8oVxFtI
本スレ49ですが、あの後の部長視点も書いてみたので投下

あっははっ。いやいや何も聞いてないよー俺は。
そんな聞いたからって真っ赤になって怒られるようなこと聞いてないよー。
うんごめんごめん。ごめんねー。いやこの前はほんと迷惑かけたね。それは悪いと思ってるよ。
いや裏方に迷惑かけちゃうようなアドリブしちゃうあたりは俺の技量不足だよ単純に。
でもさ、ちょっとくらい無茶しても君がどうにかフォローしてくれちゃうんだよね。
だからつい甘えちゃうんだよ。信頼できるのはいいけど信頼できすぎちゃうのも考えもんだねー。
嘘じゃない嘘じゃない。
ニヤニヤしてるのは君がかわいいから。
お?どしたどした?ほらこんなとこでうずくまんないで。顔上げてごらん?ほら!
いたいいたいいたい。褒めたのにぃ。
ていうか、友達ほっといていいの?
ねー。俺こんなはたかれるようなことしてないよねー。
ちょ、ひっぱんないでひっぱんないで。友達ほっとていいの?おーい。

いやいや嘘じゃないってばおちょくってもないって。
本当に君の技量はすげぇと思うよ。信頼してる。
ん、まぁ、そりゃ俺普段ついふざけまくっちゃうけど。こういうことで嘘つかないよ俺。
君がうち来てからすごい伸び伸び演技できてるんだよ俺は。
でもすげぇ嬉しいなー。あんなこと考えながらやってくれてたんだ。俺の演技好きなんだぁ。
……君なんで俺ひっぱってきちゃったの?二人っきりにしちゃったの?余計追い込まれてない?
いや、俺としては好都合だけど、ね?
はいうずくまんない。顔上げて。ほら。
ねぇ。一個聞いていい?好きなのって俺の演技だけ?
……うん。知ってる。
いたいいたいいたい。

406405:2013/07/19(金) 11:17:40 ID:l8oVxFtI
本スレ49じゃなく50です。間違えましたすみません!

40727-49 役者と裏方:2013/07/19(金) 16:35:15 ID:3zzqgcwU
本番初日の前夜だった。
劇場から出て駅までぞろぞろと歩く中で、偶然吉井さんと歩調が合い、どちらからともなく「お疲れ様です」の決まり文句とともに会話を始めていた。
吉井さんは他の劇団から参加している役者の一人で、おそらく年上のはずだったが、礼儀正しい人らしく丁寧な言葉遣いで話してくれた。
今回の舞台もかっこいいですね、と褒められたことにどぎまぎしてしまって、思わず「いや、実はまだ二度目で」と縮こまった。
彼はこの劇団の過去の舞台を思い起こしているのだろうが、おそらくそれは別のベテランが担当したときの公演だろう。
ところが吉井さんは目を丸くしてこんなことを言った。
「じゃああれが初めてだったんですか」
驚いたのはこちらの方だった。あれを観に来ていて、しかもそのときの舞台美術担当の名前まで記憶しているとは。
「あの舞台、すごいなと思って。シンプルなのに幻想的で。ラストの仕掛けとか」
あれを覚えていたから今回ここのオーディションを受けたけど、まさか本当に深見さんが担当になるなんてね、と彼は嬉しそうに笑った。
言うなら今だと思ったので、半分固まりかけている口を何とか開いて動かした。
「俺も吉井さんのこと知ってました。去年の夏の、喫茶店のウェイター役見てて」
吉井さんは照れたように唇を噛んで足元に視線を落とした。
「よく覚えてますね、僕全然特徴ないのに」
確かに彼はこれといって特徴のない役者だ。華やかなルックスでもなく、感情が突き刺さるような演技でもなく、印象に残る声質でもない。
でもそんなことは些細なことだった。
「吉井さんの演技は、自分が前に出ようとかいう欲がなくて、すごく自然な気持ちで見れました」
まるで自分以外の役者を、脚本自体を、ひいては舞台や照明といったスタッフワークさえも引き立てようとしているみたいで。
「……」
「あ、すみません、分かったようなこと言って……」
あまりに無遠慮な物言いだったとすぐさま反省したが、吉井さんは目を細めて「ありがとう」と言ってくれた。
「深見さんの舞台、大事に立ちますね」
「はい」
横断歩道の向こう側に駅の南口が見えた。
もし、今度一緒にどこか観劇にいきませんかと言ったら、来てくれるだろうか。
千秋楽を迎えるまでにもう少し仲良くなっておきたいなと、柄にもなく子供じみたことを思った。

40827-79 オナニー目撃(するされる)シチュ:2013/07/22(月) 00:56:53 ID:sLfV5Myc
暑くてだるいからオナニーすることにした。
ひとり暮らしになってから、何の気兼ねもなく昼間から好きにできる。大学生万歳。
携帯でお気に入りのエロサイト見ながら開始する。
眠たかったので股間は最初から半起ちだった。ズボンの上から軽くなでると、すでにじんわりいい感じだ。
固い布越しに数回こすってから、さっさとボタンを外して尻まで下げる。
トランクス越しの感じも好きだから、そこでもちょっとしごくと微妙な感じがまたよくて、完全にスタンバった。
今日はノリノリだ。気持ちのいい一発になりそうな予感がひしひしとする。
エロサイトも、新着が好みど真ん中のマッサージもので、握る手にも力が入る。

もちろんこの場合、力っていっても実際の力じゃない。他人は知らないが、俺はゆっくりやんわりやりたい方だ。
早漏というわけじゃないが、今日みたいにノッてる場合、あっという間に気持ちよくなって出ちゃうとなると、もったいないと思うわけだ。
これも他の奴と関係ない話だけど、俺は一日一回やれば満足なタイプ。いや、性欲弱いんじゃないよ、弱くないと思うけど、賢者っていうか、出すともう一回はできない。
だから一球入魂、ゆっくりと、ツボをつきつつはずしつつ、力加減を考えながらこころゆくまで一人の時間を楽しみたいと思うのだ。

棒をこする。あまり早いとすぐ高まるのでゆっくりと。でも今日は波が来るのが早い。そこで、先っぽをぬるぬる責めて気をそらすことにした。
液も多い。今日はとことん高みをめざせそうだ、と感じながら携帯を捨てて目をつぶる。
両手が空いたので左手はやわらかい袋をもむ。毛を撫でてくすぐったさを心地よくあじわいながら、さっきまで画面で見ていたおっぱいに思いを馳せる。
足がつっぱって、自然に腰が動く。絶好調だ。もう、手を早めてもいい。ぬるぬるをできるだけ広げて、皮の可動領域いっぱいにしごき上げると、絶頂の衝動があっというまに高まった。
出る!

『ピンポーン』
心臓が止まる衝撃。ドアチャイムが鳴ったのだ。今、この瞬間に!
「高橋ー、いるー? おーい」
……園屋だ。こうして時々突然に訪ねてくる奴。いい奴だが今は最悪だ。
できることはただひとつ、息をひそめて居留守を使うこと。大丈夫、カギはかかってるはず……頼む!
「おーい、ジュース買ってきたぞー」
なかなか園屋はあきらめない。ようやく園屋が帰ったのは、俺のものが十分に萎えて乾いた頃だった。
あぶなかった。生涯にあるかないかというピンチだった。
……で、そのあと俺は続きをした。意外なことに中断後のオナニーは想像を絶するほど気持ちよく、俺は新しい世界のドアをあけたと思った。
一度、無理矢理やめる、そのあとまたやる。名付けてお預けオナニー。くせになった。

──まさか、必ず園屋を思い出すことまでくせになるとは思わなかった。
中断するための萎える要素としてあの瞬間の園屋を思い出しているうちに、オナニーと園屋が結びついてしまった。
罪悪感で起たない手段のはずが、どこで入れ替わったのだろう。
『おーい、高橋』
気がつけば、園屋の声を思い出しながらやっていた。
今では園屋を思わずにはイけない。
いや、それ以上にヤバいことに、逆に、園屋を見ると妙な気分になるようになった。

「……何?」
夕飯の帰り道、園屋の手を握った。
園屋は不思議そうな顔をして、それがたまらなくキた。
おかしな回路が俺の脳内でつながっている。
好きになった子に欲情するのなら、欲情する相手を好きになるのもありなんだろうか。

409名無しさん:2013/07/28(日) 00:53:04 ID:X2qGWpFE
どうしよう、俺あいつに嫌われたかもしれない。

クラスの奴らに俺が好きな子はどんな子だって聞かれたから、
俺「すげえ可愛い子だけど、詳しいことは教えてやらない」って答えたんだ。
だってあいつの可愛いところは絶対誰にも教えたくなかったからさ。

その翌日、あいつの様子がおかしくて、なぜか避けられてるような気がしたから、
放課後逃げようとしたあいつの腕を強引につかんで詰め寄ったら、
あいつは眉間に皺を寄せて俺を睨んで、

「お前の好きなヤツ、すごく可愛い子だって……」

蚊の鳴くような声でそう言うと、あいつの黒目がちの目に大きな涙の粒がたまって、赤くなったほっぺに涙がポロポロこぼれた。
泣きながら俺を睨みつけるあいつの顔を見ていたら、もう可愛くてたまらなくなって、俺は無理やりあいつの細い体を抱きしめた。

「お前のその泣き顔が可愛くて仕方ないんだよ!」

あいつはポカンとした表情で俺の顔を見上げた。普段は白いあいつの顔が耳まで赤くなった。
その顔もすげえ可愛くて、俺がつい笑っちゃって。
それが勘違いさせたみたいで、あいつは本気で傷ついた表情を浮かべて、

「からかうな!」

と叫ぶと、俺を置いて教室を飛び出していった。


あれからもう3日もあいつと口きいてない。

どうしよう。俺、あいつのことが好きなのに。

41027-119 攻めが受けを語る:2013/07/29(月) 07:28:46 ID:gXc.vObA
投下しようと思ったのに躊躇してたら寝ちゃってた
攻めが受けの家族長期不在の実家に帰えるところから始まります

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
攻「あれ?お兄さん帰ってたんですか」
受兄「おう!お前さあ…昨日のまんまだったぞ、ベット」
攻「はい?あ!すみません!昨日、その…そのまま寝ちゃって…」
受兄「いやいや弟を(性的に)可愛がってくれてどうも。で、あのツンツン弟ってどんななの?」
攻「そっそんなこといったら怒られます!」
受兄「いいじゃんここだけの話だからさあ〜」
攻「言いませんよ!」
受兄「実は俺、彼氏が出来てさ、どんなことしたら喜んでくれるか知りたいんだよね」
攻「え?そうなんですか?…絶対内緒ですよ?」
受兄「うんうん俺のために人肌脱いで!ぁ」
攻「まあ僕が一番嬉しいのは受のおねだりですね。ちょっと焦らしただけであの真面目そうな顔がとっろとろになって「攻め…もっと…」なんていわれたらそりゃ!あ、それに顔真っ赤にされてあは〜んやうふ〜んされ「攻め?」
攻「ん?っ?!い、いつ帰って来たんですか?」
受兄「まあ僕が〜からぷるぷるしながら突っ立ってたな。ほらお前の好きな赤面だぞ〜」
攻「いや、僕が好きなのは恥じらいの方の…ごめんね受けお兄さんに彼氏さんが出来たみたいでその…ごめん」
受兄「それ嘘だよ。つーか俺帰るわお土産置いてくのが目的だったし」スタスタ
攻「嘘!?」
バタン!
受「攻め」
攻「っはい!!」
受「もっと」
攻「はい?」
受「嬉しくないならもういいよ!」
攻「え?可愛い」
受「うっうっさい!もう1m以内に近づくなよ!」

41127−129 汗っかきと冷え性:2013/07/31(水) 02:38:32 ID:CBRamczI
「ねぇねぇ」
「……」
「ねーねーってば」
「……なんだよホッカイロのくせにうるせえな」
「ひどい。……ねえ、いつまでこうしてるの」
「朝まで」
「くっつきあったまま?」
「イエス」
「ひどい」
「だまれ抱き枕」
「ひどい……てかさ、まじめな話、俺汗かきだからさ、現に手汗すごいし、こんなんしてると
冬でも汗臭くなるからさ、そろそろ離」
「それもまたいい…」
「へ、ヘンタイだーッ!」
「うるせえ」
「いたっ! っていうかそーちゃん平気なの? 暑くないの?」
「ふははは冷え性なめんなよ。おまえから体温奪ってちょうどだ。…つーか」
「ん?」
「おまえなんでそんな暑いの」
「……それわざわざ言わせんの?」
「言えねえのか」
「……ひどい……」
「……もう寝ようぜ。…おやすみ」
「……おやすみそーちゃん。……………だいすき」

412<削除>:<削除>
<削除>

41327-159 どこか狂ってる人とその彼をうまく扱える人:2013/08/03(土) 22:13:23 ID:8g5eRipg
長文で瞬く間に規制されたのでこちらに失礼

語りたくなったので、パターン分けしつつ萌えてみる

1.戦闘狂と知能派
とにかく戦闘一辺倒、他の事はよく知らないみたいな奴と、
補佐して暴れられるように作戦組んだり、指示したりする奴の組み合わせ
バトル大好きヒャッハー系でも、戦うことしか知らなかったみたいな無感情系でもいいよね!
知能派は常識人で戦闘狂に頭痛めててもいいし、冷徹に扱うタイプでもいい
主従関係があってもいいと思う

性欲の発露みたいな、ちょっと殺伐とした恋愛でもいいし、信頼関係が高じてらぶらぶに至っても美味しい
ヒャッハー系なら戦闘狂が押し倒すのが定番だけど、襲い受けとかもありだと思う
戦うことしか頭になかったのに、いつの間にか…みたいなのもいい。萌える

2.科学者と理解者
マッドサイエンティストとか、学者とかのタイプと、その理解者だったり助手だったりするのの組み合わせ
科学者が目をきらきらさせながら一方的に喋って、聞いてくれるのは理解者だけみたいな
科学者宛の伝言だの頼みだのは、本人に行くと伝わりづらいので理解者経由で、とか
周囲からも理解者あいつしかいない、な扱いだと良いよね

科学者側は世話になってるの分かってて、内心感謝してる割に好意には鈍感で
「お仕事だからそうしてるんでしょ? え、違うの?」みたいな認識だといい


3.鬱々系や電波っ子とフォロー役
引き篭もってたり自虐的だったり厭世的だったり(だけど何かの天才だったり)する奴や、
反対にちょっと躁っぽいテンションの高い電波な子と、それをフォローする常識人の組み合わせ
振り回されたり、あれこれ手を焼いたりしながらも、
いざと言う時は「君がそう言うなら」とか「君の頼みなら聞くよ」とか言われるようなフォロー役であってほしい

扱われる側はフォロー役のことが大好きだけど、迷惑かけてるなーとかでたまに落ち込んでもいい
それで好きだから傍にいるんだよ、みたいな王道パターンで
なんだかんだでほのぼのした日々を築いていけばいいと思う


ちょっと変なのは何かの才能があったり、彼が生活力皆無なのを世話してたりするのもある種の定番だと思う
狂い気味の側が上手く扱う側に依存してるように見えて、
扱う側も無意識の内に「自分だけの彼」みたいな感覚抱いていればいいよ!

乱文失礼しました

41427-159 どこか狂ってる人とその彼をうまく扱える人 1/2:2013/08/04(日) 09:28:13 ID:xEIlP/PE
書いたは良いけど投下を迷っている間に寝てしまった。
-----------------------------------------------------------
 リュウヤが白衣のまま玄関に倒れこんできた。
 疲労困憊、顔面蒼白。まさにそんな感じで。俺は慌てて駆け寄った。
「た、だいま」
「おい!リュウヤ!」
 蹲ったまま息を荒げているリュウヤの顔を覗き込むと、リュウヤは思いの外強い眼光でこちらを見た。
 そしてもう一度、言い聞かせるように言う。
「ただいま」
 やれやれ。言いたいことはわかった。

「……おかえり。大丈夫なのか」
 そう言うと、リュウヤは満足そうにニヤッと笑った。
 こいつは俺が「おかえり」と言うのを聞くのが好きらしい。
 たまに言い忘れると、「おかえり」と言うまでこっちの話を聞いてくれない。

「大丈夫。根を詰めすぎただけ」
 そう言って立ち上がろうとするのを押しとどめる。
「待て。肩貸すから、よっかかれ」
 よほど辛いのか、素直に肩に手を回してきた。そのままリビングのソファーに連れて行く。
 俺より背が高いくせに、俺より細い腕。棒っきれみたいな奴だ、と思う。

 ソファーに座らせ、白衣は脱がせて洗濯機に放り込む。
 レモンティーを淹れるためにお湯を沸かしながら、ぽつぽつと会話をする。
「研究の成果は?」
「上々だよ」
「身体は大事にしろよ」
「わかってる」

 答えるリュウヤの声が心なしか弾んでいて、珍しいな、と思った。
 俺が「大事にしろ」と言うといつも、リュウヤは困ったような顔をした。「大事にする」という感覚がよくわからないらしい。

 すぐ捨てる、すぐ壊す。愛着と言うものがないのだろうか。
 自分のことすら蔑ろにする。少し前まで、倒れるまで研究室に籠ることはザラだった。
 家で待っている身としては非常に心臓に悪い。

41527-159 どこか狂ってる人とその彼をうまく扱える人 2/2:2013/08/04(日) 09:33:43 ID:xEIlP/PE
 今日のような状態で「帰ってきた」というだけで褒めてやってもいいぐらいだ。
 そう思って「帰ってきてくれてよかった」と言おうとすると、先にリュウヤが口を開いた。
「ケイタがそうやって言うから」
「え?」
 突然自分の名前が出てきて戸惑う。
 聞こえなかったと思ったのか、リュウヤはもう一度繰り返して続けた。
「ケイタがそうやって言うから、大事?にする。今日だって帰ってきたし」
「……だよな」

 やばい、嬉しい。
 黙々とレモンティーを淹れているように見せかけて、にやつくのを抑えるのに必死。

 どうにか零したりすることなく二人分のレモンティーを淹れ終えて、リュウヤのもとへ向かった。
「はい、どーぞ」
「ありがとう」
 リュウヤがティーカップを両手で受け取り、俺はその隣に座る。もうお決まりになった一連の流れ。
 こてん、とリュウヤが寄りかかってきた。
「ケイタ」
「なんだよ」
「俺、わかってきたかも。大事にする、ってこと」
「おお、本当か!?」
「うん」
「良かった、良かった」

 俺の反応が不満らしく、まだ何か聞いてほしそうにちらっとこちらを見る。わかりやすい奴。
「なんでわかるようになったんだ?」
 そう聞くと、ころっとニコニコし始めるリュウヤ。
「全部ケイタだって思えばいいって気づいたんだ」
「……どういうこと?」

 すると奴は、“とっておきの秘密”を喋る子どもの様に耳打ちしてきた。
「鉢植えも、水槽も、水槽の中の金魚も、石ころも、赤の他人も『あれはケイタだ』って思ったら、なんか……大事?に、できる」
 そして、一際大きくにっこりして、嬉しそうに言う。
「今日発見した。だから、今日はずーっとケイタと一緒にいたんだ」

 ……こいつは。
 ああもう、いま俺の顔どうなってんだろう。

「……大発見だな」
「うん、大発見」

 この幸せが続けばいい、なんて。
 柄にもなく願ってしまってもいいだろうか。

41627-159 どこか狂ってる人とその彼をうまく扱える人 1/2:2013/08/05(月) 00:10:55 ID:rv47SWJM
扉の開く音がした。目をやるとドアのところに長身の男が立っている。
相変わらずのスーツ姿、手には黒い杖。
彼を一瞥して、またすぐ空を眺める姿勢に戻る。今日は雲が多い。
「おはよう。気分はどうだい」
背後から声がする。
「食事に手をつけていないんだって?食べないともたないよ。それに、せっかく君の為に
 家政婦のマリアが腕をふるっているのだから、食べてくれないと彼女が悲しむ。
 あとでまた運ばせるから、どうか食べてやってくれ。味なら僕が保証しよう。マリアの料理は絶品だ」
マリアという人のことなど知らない。
こつこつと杖をつく音がして、声がすぐ傍まで近付いてくる。
続けてわざとらしい溜め息が聞こえてきた。
「せっかくあの牢獄から助け出してやったというのに。まったく助け甲斐の無い奴だな、君は」
「ここも牢獄だ」
窓に嵌められた鉄格子に向かって呟くと、後ろの男はなぜか嬉しそうに笑う。
「そうかい?あんな湿って暗い牢屋みたいな部屋と一緒にされては悲しいな。空調もきいていて清潔で、
 何より色調が明るい。あそこと比べたらこの部屋は天国だろう?天国に現れる僕はさしずめ天使か」
どんな顔をしてそんな間の抜けたことを言うのか。
そちらに顔を向けると、すかさず目線を捉えられた。
「ようやくこっちを向いてくれたね。人と会話するときは、目を見て話すものだよ」
かけられる言葉には何も返さず、黙ったまま男の頭から爪先まで視線を走らせた。
組織の幹部の一人。七人のうちで一番若く、一番の新参。しかし序列は既に四位だと聞いた。
今もこの部屋の前には部下が控えているのだろう。
髪を後ろへ撫で付けて、スーツもネクタイもおそらく高級品。微かに香水の匂いがする。
手に持つ杖にも、細かい細工が施してあった。
「こうして君に会いに来たのは他でもない。君に仕事を頼もうと思ってね」
「やらない」
言った瞬間に殴られる覚悟をしていたが、男は平然と肩を竦めた。
「そんなつれないことを言わないでくれ。君の腕を見込んでいるんだ。君にしか頼めない」
そして、聞いてもいない麻薬組織についてぺらぺらと喋りだす。
無視してまた身体を窓の方に向けた。空を眺める。
鉄格子の隙間から見える空は、いつの間にか暗い色の雲に覆われていた。一雨来るかもしれない。
嫌な気分になった。
「雨が降りそうだね」
タイミングよく言われて、思わず振り返ってしまった。また視線が合う。
男は少しだけ首を傾げて微笑んだ。
「君は雨が嫌いかい?」
「……嫌いだ」
「そうか。僕は好きだよ」
その返答に無意識に顔を顰めていたらしい。男が苦笑を漏らした。
「雨が好きな人間のことも嫌いかな」
その問いに少し考えてから「どうでもいい」と返す。その後は特に言うこともなかったので黙った。
わざとらしい笑い声が部屋に響く。
「もっとにこやかな方が会話というものは楽しいんだけどな。よく食べてよく笑うのが健康の秘訣だ。
 ああそうだ。食事が駄目ならデザートを運ばせようか。マリアの作るシフォンケーキはとても美味いよ」
何個でも食べられるのだと得々と語る男から視線を外し、再び空へと戻そうとしたところで、
視界の隅で黒い杖がリズミカルに床を小突いているのに気がついた。小さく音をたてている。
その音につられてなんとなく男の右脚に目を落とす。
彼の持つ杖が装飾品ではないことは、初めて歩く姿を見たときに気づいていた。
そんな脚になっても幹部で居続けられるのは、または居続けようと思うのは、なぜだろう。

41727-159 どこか狂ってる人とその彼をうまく扱える人 2/2:2013/08/05(月) 00:11:58 ID:rv47SWJM
こちらの視線をどう解釈したのか、男が黒い杖をくるりと回して見せた。
「これかい?なかなか凝った細工だろう。東洋のドラゴンをあしらってある。特注品だよ」
自慢げな口調になぜか急に苛立ちを覚える。
どうしてそんな風に振舞えるのか。脚に引き摺りながらも平然と、嘆きもせず笑っている。
「さて。このまま君と他愛の無い話を続けるのも十分に楽しくて魅力的なのだが、僕も忙しくてね」
なぜそんなに楽しそうなのだ。
理解ができない。
一旦そう思うと、まるで雨のように心の内に苛立ちが溜まっていく。
「本題に戻ろう。仕事の話だ。さっき説明したとおり…」
「やらないと言ってる!」
気付けば、苛立ちをぶつけるように男の話を遮っていた。
久しぶりに大きな声を出した所為で喉の奥が引きつり、軽く咳き込んでしまう。
咳き込みながら、なぜ自分は今怒鳴ってしまったのかと考えたがよくわからない。
顔を上げる。
目の前の男の笑みが、より一層深くなっていた。瞬間、背筋が寒くなる。
そして気づく。いつの間にか自分がこの男と会話をするテーブルについてしまっていたことに。
男は可笑しそうにくすくすと笑う。
「何だって?もう仕事をしたくないだって?」
「しない。もうやらない」
強く首を振る。男は杖をつき腰を少し屈め、こちらを覗き込んできた。
「なぜ辞める必要が?雨を嫌いなことは信じよう。だが、君は仕事のことは好きじゃないか」
「嫌いだ」
「それは嘘だな。君ほど仕事が好きな男を僕は知らないよ」
断定して、男はようやく傍にあった椅子に腰掛けた。
目線の高さが同じになる。そのことに、どうしようもなく焦燥する。
「仕事が嫌なら、君はあの屋敷から早々に逃げ出していた筈だ。それをしなかったのはなぜか?
 君は『嫌な仕事はやりたくなかったが、仕事はしたかった』。つまり君は仕事自体が嫌いなわけではない」
「違う」
「仕事を渇望している」
「違う。違う」
「君は逃げ出さずにあの場所で耐えていた。耐えながらずっと待っていたんだ。
 牢獄から自分を助け出してくれる誰かを、君はずっと求めていた」
言いながら、男は、己の太腿を軽く叩いて見せた。
「だから、あのとき僕を殺さなかったんだろう?」
にこやかに吐き出された言葉に身体が強ばった。
「助け出すのが遅くなって悪かった。これでも頑張ったんだけど、如何せん、序列というやつは厄介でね」
「……あなたは、一体、」
「うん、ようやく僕に興味を示してくれたか。良かった。いつまで呆けているのかと、実は心配していたんだ」
この男が何を言っているのか理解できない。理解したくない。
こんなドロドロしたものよりも、空が見たいと思った。
それなのに両の目は彼の顔をじっと見つめ、混濁した記憶と照らし合わせ始めている。
「さあ、仕事の話を続けよう。君に相応しい、素晴らしい初仕事だと思うよ。君にしか出来ない。
 安心するといい。僕はあのクソジジイどもが君にしたような仕打ちはしない」
耳に彼の言葉が入ってきて思考を侵食する。
右手の指が今ここには存在しない何かを求めてちりちりと疼く。
背後で、雨の降り出す音が聞こえてきた。

41827-169 ノリで女装しちゃった攻めと茶化して褒める受け 1/2:2013/08/07(水) 04:13:51 ID:sfQZatEY
「白と赤、どっちが似合うと思う?」
「うっへあッ!?」
随分と情けない声を出してしまったが、
目の前の可愛い子ちゃんがいきなり男友達と同じ声で喋ったとしたら
みんなこんな感じでかっこ悪くなるんじゃないかなぁ、とオレは思う。
「おっまえッ! マジ何してんの!?」
「女装。今度の文化祭、男子ミスコンやるでしょ。
 今日ノリで"優勝目指す"って言っちゃったから」
「文化祭、明後日ですけど!?」
「うん。だから、協力求む」
驚くオレとは正反対に陸人は無表情でコクコクと頷いた。
この進藤陸人と言う男。中性的な可愛らしい見た目と、
物静かで落ち着いた性格とは裏腹に案外ノリが良く
日常的に真顔でボケをかますような天然モノの変人だ。
今みたいにいきなり突拍子もない行動を取り始めるのも珍しくはない。

「とりあえず赤か白、答えて」
ぼけーっとマヌケに口を開けて固まっていたオレに
陸人はお花の付いたカチューシャを二つ突き出してきた。
「衣装は今着てるのに決めてるから、どっちが合うか教えて」
その言葉でオレは再び陸人を上から下までまじまじと眺めた。
髪はカツラでロングストレートになっていて多分軽い化粧までしてる
どこかの民族衣装風のワンピースはふんわりしていて何とも可憐だ
複雑な模様にシンプルな白いエプロンが実に映える。
「……赤だな。エプロンが白いから色被せないほうがイイ」
「なるほど、バランスは大事だ」
納得したのか陸人はガッツポーツまで決めて頷いた。
「はい、それダメ! 全ッ然"ミス"じゃない、やり直し!」
その仕草にすかさずダメ出しする、ノってる相手にはノリ返すのがオレの礼儀だ。

41927-169 ノリで女装しちゃった攻めと茶化して褒める受け 2/2:2013/08/07(水) 04:15:11 ID:sfQZatEY
「――っ! "なるほど、バランスは大事、ね?"」
一瞬ハッと目を見開いた陸人は、一回瞬きをした後すぐ淑女になった
男らしいガッツポーツだった手も今はお腹らへんで静かに佇んでいる。
「オッケー! めっちゃかわいい!」
今度はオレが全力でガッツポーツを決める、女装に仕草は大事だ
陸人は手応えを感じたかのように何度か頷いた後こっちを見つめてフッと笑った。
その笑顔は"かわいい"よりも"カッコイイ"で。ちょっと、ほんのちょっと、ドキッとした。
「うん、うん、これ優勝行ける。蓮介に自転車あげられるよ」
「はい? なんで自転車? オレに?」
自信満々に再びガッツポーツを決めかけ慌てて止めた陸人の言葉にオレは困惑する。

「知らない? 男子ミスコンの優勝賞品、折り畳み自転車。
 前に蓮介、欲しがってたやつだよ」
「えっ? え? お前それ取る為に、しかもオレに渡す為にやんの?
 で、でもさっきノリって、てかオレ思いっきし茶化しちゃったじゃん」
「ノリだよ? クラスの皆に言ったの……。
 自転車は最初から取る気で居たけど、準備もしてたし。」
そう言って陸人は衣装のスカートを少し引っ張った
オレはいきなりのその言葉に目を白黒させる事しか出来ない。

てかこの状況ヤバイ、超照れる、だってカッコイイだろ
友達が欲しがってる物一つの為に恥を忍んで真面目に女装とかさぁ。
むしろ茶化して軽いノリで動いたオレのが恥ずかしいって。
「……も、もっと早く言ってくれれば、こんな茶化し方しなかったのに」
「……? アドバイス的確だったよ?」
申し訳なさと恥ずかしさでおそらく赤面しているオレを
茶化すでも無く、怒るでも無く、陸人はサラッとそう返してきた。
不思議そうにオレの顔を覗きこんでくる陸人から慌てて目を逸らす
なんかもうこれ以上、目の前の男前すぎる可愛い子ちゃんを直視できそうに無かった。

420水×ふえるワカメ1/2:2013/08/07(水) 19:12:32 ID:Bt57U/6.
規制くらい、ここに投下をさせていただきます。


このお題で、どう萌えるんだろう?と思って妄想したら、思った以上に萌えてきたので投下。語りになります。

水系攻として、純粋透明な素直系アタック攻。そこに、初めは縮こまってて自信がなくても、水を与えられることで段々大きくなる=成長するワカメ系受。
謙遜通り越して卑屈気味だった受が、裏表ない攻の言葉を吸収して、最後には攻と同じくらいまで成長するんだ。
自分もなくてはならない存在なんだって、自分があることで役に立つことが周りにはたくさんあるんだって気づいてくんだ。ワカメサラダまじ美味いよね。
個人的に年上×年下を希望する。家庭教師と生徒でも、上司と部下でも。
「どうせ、僕なんて」「あんなあ、俺は、つまんない嘘はつかないよ。若芽、お前には才能がある」
んで、「僕。水島さんを助けます。いえ、水島さんを超えるくらいに成長してみせます!」「(若芽ならきっと…)おうよ、さて、今日も頑張るか!」みたいな感じで!

ここに、病み成分という調味料を加えますと。
何にでも染まっていく水のように、誰にでもいい顔をして自分を受け入れるものを淡々と探す依存心持ちの攻。
水が増えると浸食し増えながら塩味がきくワカメように、自信の大幅な無さから、認めてくれた人にはどうしても自分だけを見て欲しい、心を全て手に入れたい、よく泣く受。
物理的に浸食する=傷つけるのもありか?

421水×ふえるワカメ2/2:2013/08/07(水) 19:13:46 ID:Bt57U/6.
水系攻は依存して自分が変化することはあっても、向こうが変化することは今までなくて。
ワカメ受の変化にほの暗い喜びが生まれて、でもいい顔しいだから加害者になるのは嫌で…。でも好きな気持ちと依存心は増えるばかりで…。
そんな中で受はどうにか自分だけを見てな気持ちが段々大きくなって、独占欲が段々段々大きくなって、泣きながら暴走して…。
ぬっるぬるでどっろどろな関係。乾燥ワカメって3分ぐらい水もどしてから水気きったらぬるぬるしないらしいね。
「ねえ、水樹。僕のなか水樹でいっぱいだよ。ほら、水樹もきもちい?ねえ、僕しか感じない?ねえ。僕は水樹しか感じないよ。水樹好きだよ。僕だけ見て、見てよ水樹」
「そんなに抱きしめないでも大丈夫ですよ。布和でわたしはもう心がいっぱいなんです。布和がいないとだめなんです。布和が背に残す爪の傷も、布和のその涙も、すべてがわたしの喜びなんです」みたいなノリで!
個人的に同年代希望。使用人×主の息子(跡取りじゃない、期待されない受)とか良くないか!身分差があるようでないようで、とか良くないか!

他にも。天然軟水、つまり天然口説き攻にやられるツンデレ受(捻れたワカメから広がるワカメに)や。クール微S攻(冷水)×単純微M受(水かけりゃすぐ反応)や。普通に考えて、ふえるワカメ=ふえる受ということで、天然水攻のハーレムエンドとか…。際限なく萌えは止まりません。

萌えテンションが止まりませんでした。長々と読んでくださりありがとうございます!

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42327-209 受けより背が低いことを気にする攻め:2013/08/11(日) 01:59:46 ID:oFjJzTiQ
校舎の陰の芝生でぼけーっとしてたら、渡り廊下の方から
女の子たちのおしゃべりが聞こえてきた。
――山野井君て背が高くてカッコイイよね。
うんうん、山野井は確かにカッコイイぞ。なんてったって俺の自慢の恋人だし。
思わずにやにやしながら一人で頷いていると、今度は俺の名前が聞こえてきた。
――あたしは新堂君の方がいいな。
――うん、新堂君も可愛くていいよね。
ちょっと待て、可愛いってなんだよ。
ほめてくれてるんだろうけど全然嬉しくねーよ。
遠ざかっていく女の子たちの声を聞きながら、俺はがっくりと肩を落とした。

そんなことがあったものだから、帰り道、隣を歩く山野井につい
絡んでしまった。

「山野井、お前、今何センチあるの?また伸びたんじゃない?」
「ん?ああ、この前測ったら179cmだったな」
「なんでお前ばっかりそんなに伸びるんだよ!?」
「新堂だってそこそこ伸びてんじゃん。今、172くらいあるんだろ?」
「171.8。お前より7㎝以上も低い」
悔しげに呟く俺の顔を、山野井は覗き込む。
「どうした?今日何かあったのか?」
「ん、実はさ…」
ぼそぼそと先ほどのことを告げると、山野井の奴、肩を揺らして
笑い出しやがった。
むっとして睨みつけるように見上げると、
「実際、新堂は可愛いじゃん」
「……」
恋人に可愛いといわれるのは、正直嬉しくないこともない。
でも、俺は、可愛いってよりはカッコイイって思われたい。
胸の中でぼやいていたら、まるでそれが聞こえたかのように。
「それに、カッコイイ」
「え!?」
「新堂のことは前から可愛い子だなって思ってたんだ。
ただ、普通に同性の友達としか見てなかったから、
告白してくれたときは正直驚いたけど、新堂さ、すごく一生懸命に
自分の気持ちを伝えてくれただろ?あのとき俺、あ、こいつ
カッコイイなって思ったんだよな。で、気がついたらOKしてた」
山野井は少し照れ臭そうな笑みで俺を見つめ、それから身を屈めて
「…だからね、俺の恋人は可愛くてしかもカッコイイんだ」
俺の耳にそう囁いた。
俺の気を晴らすためもあるだろう。
でも、それだけじゃなくて本当にそう思ってるとその表情が告げていたから、
カッコよさではまだまだ負けてるなと思いながらも、俺の気持ちは
ぐんぐんと急上昇していった。
身を屈めたままの山野井の首の後ろに手を回すと、上向けた唇に
柔らかなキスが落とされた。

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42727-259 定年退職:2013/08/16(金) 10:19:16 ID:Ll9avnWA
「長い間お疲れ様でした」
「ありがとう」
少し奮発したシャンパンのグラスを互いに軽く当てると、孝志さんは気恥ずかしそうに微笑んだ。
テーブルの上にはクリスマス並のごちそうが並び、冷蔵庫にはケーキも入っている。男二人の食卓には似合わない花は、孝志さんが今日会社でもらってきたものだ。
「祝ってもらうのはありがたいが何だか変な感じだな。定年退職なんて別にめでたいものでもないのに」
「何言ってるんですか、めでたいですよ。会社を無事に勤め上げて、これから孝志さんの第二の人生が始まるんですから」
「第二の人生って言うと聞こえがいいが、単に老後の生活が始まるだけなんだがな。……でもまあ、何であれ君に祝ってもらえるのは嬉しいよ」
最後に早口で付け加えると、孝志さんはうつむいて頬を染めた。定年の年になっても、そういう可愛いところは昔から全然変わらない。
「そうそう、お祝いのプレゼントというにはちょっと何ですけど、孝志さんに渡す物があるんです」
「ほう、何だい?」
そうして俺が取り出した一枚の紙を見て、孝志さんは呆然と口を開けて固まってしまった。
「……養子縁組届って、君、これ……」
養子の欄に俺の名前を書いたその用紙は既に証人の欄に二人の共通の友人のサインももらってあり、あとは孝志さんのサインと印鑑があれば提出できる状態になっている。
「養子になる俺の方から渡すのも妙な話なんですが」
「……驚いた。三十年も一緒にいて、君、一度もそんなこと言ったことがなかったから」
「だって俺は個人事業だから別に戸籍がどうなろうが関係ないけど、孝志さんは保険や税金の都合で会社に知られるかもしれないでしょう? 十歳しか離れてない息子がいるって知られたら、噂になって孝志さん会社に居づらくなると思ってずっと我慢してたんです。でも退職したんだから、もう大丈夫ですよね?」
問いかけながら、ぐいっと顔を近づけて孝志さんが弱いと知っている甘えた上目遣いで孝志さんの顔を見る。しかしいつもならそろそろ視線が泳ぎ出すはずなのに、孝志さんは真顔を崩さないままだ。
「……すいません、いきなり言われても困りますよね。孝志さんがどうしても嫌ならあきらめますけど、でも、一度考えてみてくれませんか」
一生の問題なのに、キスをねだるのと同じように色よい返事をねだろうとするのはさすがに俺が甘すぎただろう。孝志さんも喜んでくれるだろうと勝手に思い込んでいたので、さすがにちょっと落ち込んだが、焦っても仕方ないので気持ちを切り替えることにする。
「とりあえず食事にしましょう。これはしまっておきますね」
そういって孝志さんの手の中にある養子縁組届を取ろうとすると、孝志さんがその手にぐっと力を込めた。
「孝志さん?」
養子縁組届けを握ったまま離そうとしない孝志さんに思わず怪訝な声をあげると、孝志さんの顔がみるみる赤く染まっていった。
「……ペンを取ってくれ」
「! はい!」
大慌てでペンを取りに立った俺の後ろでは、孝志さんが握りしめてしまった用紙のしわを伸ばす音が聞こえていた。

42827-299 ひょろい×筋肉質 1/3:2013/08/21(水) 17:55:32 ID:6an/yYa2
リストバンドを買いにスポーツ用品店に行ったら、
レジの前でクラスメートの峰と鉢合わせした。
峰が手にしていたのはダンベルだったので、俺は少し驚いた。
峰は、勉強は得意だが運動は苦手な典型的なインドア派で、
肌が白く体型もひょろりとしている。
女子には案外人気があるようで、クラスの子が「峰くんて中性的で素敵」
「王子様みたいだよね」と話しているのを聞いたことがる。
女の子から「王子様みたい」と言われるなんて、
ラグビー部所属で色黒がっしり系の俺からすれば少しばかり羨ましかった。
そんな峰とトレーニング器具の取りあわせは、だから全くしっくりこない。

「よぉ」
「あ、佐々原…」
「ダンベル、買うの?」
「あ、うん」
「なんか意外だな。お前がそういうものに興味持つの。スポーツとかさ、あんまりやらないじゃん?」
「うん、そうなんだけど…ちょっと、身体鍛えてみようかなって」
「へぇ…」
峰があまり詳しいことを聞いてほしくなさそうだったので、俺はそれ以上は追及しなかった。
まあ、こいつにはこいつの事情があるんだろう。
ただ、気になったのは――。
「お前さ、こういうの使うの初めてだろ?」
「うん、そうだけど…」
「初心者が無理な使い方して肩とか手首とか痛めるのってけっこうあるんだよな。
よかったら俺が基本を教えてやろうか?」
俺の申し出に峰はびっくりしたように目を瞠ったが、すぐに嬉しそうに頷いて
「よろしく頼む」と頭を下げた。

42927-299 ひょろい×筋肉質 2/3:2013/08/21(水) 17:56:15 ID:6an/yYa2
話してみると峰の家と俺の家はけっこう近いことがわかったので、
それぞれ家に戻って着替えてから近所の公園で落ち合うことにした。
「悪いな、手間かけさせて」
「いや、俺も筋トレの初歩は先輩たちに教わったからさ」
とりあえずダンベルの使い方の手本を見せながら教え、
その他道具を使わない筋トレ、腹筋、腕立て伏せ、ジョギングについても
アドバイスしたりした。
峰も俺のいうことを素直に聞いて、慣れない運動に真剣に取り組んでいた。

今まで同じクラスでも挨拶を交わす程度の付き合いだったのだが、
こうして一緒に時間を過ごしてみると、案外面白くていい奴だとわかり、
俺としてもけっこう楽しいひとときだった。
峰も得るものがそれなりにあったのだろう。
これからも週に2〜3回はこの公園でのトレーニングにつき合ってくれないかと
頼まれたので、俺は快諾し、その日はそれで別れた。

そして、約束通り週に2日か3日、俺の部活が終わってから公園で一緒に
筋トレに励むようになった。
トレーニングの合間にいろいろ話もして、音楽の好みが同じだったり、
俺の好きなラノベを峰も気に入ってたり、二人ともアジフライが好きだけど
俺はソースは峰は醤油派だとわかったり、他愛ない会話を重ねていくうちに、
俺たちはかなり親しくなっていった。

43027-299 ひょろい×筋肉質 3/3:2013/08/21(水) 17:57:39 ID:6an/yYa2
一緒にトレーニングをするようになってから3週間ほどたつと、
俺と会わない日ももちろん真面目にトレーニングを続けていた峰の身体には
うっすらと筋肉がついてきた。
そんなある日。
いつものようにトレーニングを終えてベンチに並んで腰を下ろし
スポーツ飲料で喉を潤していたとき。
峰が、不意に言った。
「僕が筋トレはじめた理由ね」
「うん?」
「実は、僕、小坂さんに憧れてたんだよね」
そう聞いて、俺は、ああ、と納得した。
小坂さんは隣のクラスの女子で、明るくてはきはきした性格で男子にも人気がある。
そして彼女の好みはスポーツマンタイプの男性だった。
でも、小坂さんは今…。
俺の表情を読んで、峰は頷いた。
「うん、彼女、今テニス部の牧村とつき合いはじめたよね」
そう、小坂さんは現在牧村といい雰囲気になっている。
つまり、峰は失恋したってことか…。
「あー、その、なんていうか……元気だせよな?」
失恋した友達にかける言葉をさがしあぐねた末にごくありきたりのことしか
言えない俺だったが、峰はにこりと微笑んだ。
「大丈夫。実をいうとね、最近僕他のひとのことが気になってたから…」
「あ、そうなんだ。よかったじゃないか。その子もやっぱり筋肉がついた男が
好きなのか?筋トレ、まだ続ける?」
「うーん、男の好みはわからないけど、筋トレはこれからも続けるつもり」
峰が筋トレを今後も続けると聞いて何故かほっとした。
が、続く言葉に仰天した。
「だってさ、押し倒すのにはやっぱり筋肉が必要じゃない?」
「いや、ちょっと待て。なんでいきなり押し倒すって話になるんだ・」
「だって、その人のこと見てるとムラムラしてくるんだもの」
「だからって押し倒すのはまずいだろ?そんなことしたら一発で嫌われるぞ。
 つか、まず、つき合ってください、だろ?」
「だって、OKもらえなかったらそれっきりじゃないか」
「まずは誠心誠意心をこめて、つき合ってくださいってお願いしろよ。
それでダメなら男らしく諦めろ。とにかく無理やり押し倒すのはなしだ」
「えー、でも…」
「峰が真剣に誠意をもって告白すれば、相手の人だって真剣に誠意をもって
応えてくれると思うぞ」
「そうか…。そうだね、じゃあ…」
峰はしばらく考えこんでいたが、急に俺の目をまっすぐに見つめてきた。
とても、真剣な表情で。
「佐々原、あのね、僕…」

43127-329 一緒に暮らそう:2013/08/27(火) 04:29:58 ID:3heqiIm6
「お金も節約出来んじゃん」
 篠原との関係は、高校だけだと思っていた。
「もしかして、俺、森君にもてあそばれてたの?」
 ショックーと言いながら全然衝撃を受けてなさそうなのに、少しばかり腹が立つ。
「お互いの大学の真ん中あたりは、ちょうど物価高くなさそうだし……」
「待てよ。話を進めるなよ」
「……もっと好きな相手が出来たらフって良いって、森君はいつも言ってたけどさ。俺はフる気ないし。少子化問題に取り組むつもりもないし」
 モテる奴がこういうこと言うと、持たざる者はどう反応していいのか分からない。怒っていいのか。いや、まずは
「自分勝手過ぎるだろ。俺の気持ちは分かってんのかよ」
「自分勝手なのはどっちなんだよ。もっと好きな人が出来たらフれとか、好きな子から言われて、俺が傷ついてないとでも思ったの」
 篠原の眼差しが痛い。だって仕方ないじゃないか、社会的に真っ当な付き合いじゃないんだから。
 篠原はモテるんだから、良い子が居れば付き合えばいいじゃないか。
「……それは、だって」
「森君は俺のことを考えてくれてるみたいだけどさ、それってフラレたときに自分が傷付かないようにしてんじゃないの。俺のこと信用してないんじゃないの。それとも俺はこんなに好きなのに、森君は俺のこと好きじゃないの」
 好きじゃないわけあるか、と、返したかったが、高校で終わると思って整理していた心がグラグラ揺れた。
 卒業したら、段々疎遠になって、別れるとも言わず別れるんじゃないかと思って。
 せっかく諦めようと思ってたのに。
 忘れようと思ったのに、何言ってんだコイツは。
「俺はまだ甲斐性がないし、責任とか持つにはしっかりした職業考えたいし、やっぱ進学出来るならした方良いかなと思って進学するんだよ。だから、森君、どうせ暇ならちょっと一緒に住んでみて決めてよ」
「何を決めるんだ、何を」
「一生添い遂げられるか」
 何言ってんだコイツは。
「森君は……俺と住むの、イヤかな」
 篠原はすごい剣幕で押してきたと思えば、一転、不安げに声のトーンを下げた。
「俺は、森君とずっと一緒にいたいから。そのためにどうしようって、ずっと思ってて……」
「篠原、俺は……」
「自分勝手かもしれないけど、でも、イヤじゃなければ、チャンスくれよ。なに、もう終わる関係みたいにしてくんだよ」
 気がつけば篠原が俺のことを抱き寄せて、頬を俺の頭にすり付けた。
 少し大型犬に似ている。
「森君が俺のこと、信用出来るように頑張るから。惚れ直させるくらい努力するから」
 なんだよこれ、スゲェ断り辛いじゃんか。

「だから、俺と一緒に暮らそう」

43227-399 何度も夏を繰り返す:2013/09/04(水) 23:10:52 ID:QOvbi2k6
お互い気づいてる。
何も言えない。
今日も、いつも通り新品の水色のサンダルを履いて行った。

真っ青にのしかかるような空を押し返すように、ぎりぎりぎり、とセミが鳴いている。
張り付くように染み込んでくる太陽の光から身を守りたいのか、体から勝手に汗が噴き出した。
「あつ、」
ふつふつと浮き上がって服に染み込む水分に不快感を覚えながら、まっすぐにその場所を目指す。
砂利がほとんど散った参道を早歩きで抜けて、不揃いな石段を駆け上がる。
「光流」
生白い膝小僧に、大きめの絆創膏。
どこか眠たそうな目が、少し嬉しそうに細くなった。
「おはよう、たくと」
「おはよう」
神社の階段に座り込んで笑いかけてきた光流の隣に座ると、やっと風を感じた。
「ここは涼しいな」
「神様がいるからね」
今日は何する?と、こっちを見る。
「セミいっぱいいるよ。探しに行く?」
「…今日はいい」
「そうか」
その後、黙った。
お互い、何度繰り返したかわからない時間。
自分たちはそれがずっと続くと思っていた。
終わるとしてもそれはずっと先で、少なくとも今じゃないって、思ってた。
「…ならたくと」
言えないことがある。
言えないことがあった。
「罰当たりなことをしよう」
「…そう、しよう」
光流の左腕のはんこ注射の痕は俺のそれよりくっきり浮き出て見える。
色が白いからだろうか。
肩が触れる。
汗ばんだ腕が、首に回って、ふと匂った。
そのたびに、こいつも汗をかくのだなあと不思議な気持ちになる。
俺はこいつを何だと思ってるんだろうか。
神社を覆うように茂った葉の薄い木から、細かい光が差してきて、目に刺さった。
「っ」
「…日が強いね、今日も」
目の前に、濃い茶色の瞳が一対、迫っていた。
「なあ、光流」
「うん」
「みつる」
「うん」
「もういいだろ、俺、お前が」
「だめ」
だめ、ともう一度言って、口を塞がれる。
そのまま体重に押されて、木でできた階段に頭を軽く打った。
「…痛かった?」
汗じゃない。
喉が苦しくて、奥の方が痛む。
耳の方にたらりと、汗と混じってこぼれていく。
光流が指でそっと触れてくる。
そのあと、唇で目尻に触れて、確かめるように舌先で舐めてくる。

言ったらきっと終わる。
言ったらきっと終われる。
今日この日、夏休み最後の日。
果たせなかったらしい約束を、果たすために。
あの日辿り着けなかった場所に、俺は駆け込んで、そして、
言えない。

一番最初の今日、この日、俺が水色のサンダルを履いていなかったら、もっと早く決心していたら、光流が遠くの学校に行ったりしなかったら、俺が、もしくは光流が、女の子だったら。
もっと早く言えたかも知れないなんて、
いまさら、そんなこと。

「みつる。みつる、」
「…言わないで、お願い、託人」
あの言葉をお前に託すためだけに、きっと俺はまだここにいる。
お互い気づいてる。
でも言えない。終わらない。終われない。

今年も、明日も、その次の日も、

何度も、この夏を繰り返す。

43327-469 ヤキモチ妬きなあいつ:2013/09/13(金) 13:00:19 ID:Wwx1Y.u.
 やたらと背の高いスーツの男が夕暮れ時にぬぼーっとやってくるのにも、最近慣れたところだ。
「お、もう来たのか後藤。もうちょい遅くなると思ってた」
「先輩、あいつ誰」
「敬語を使え」
 後藤の指差す方には、先程まで話していた女子高生がいた。
「……誰ッスか」
 まともな敬語使えってだから……まあいいか。
「近所のガキ……だった子。久々に会ったけどデカくなったわ。もうあの子が近所のお姉さんって感じ」
 正直、月日の流れがコワいところだけど仕方ない。俺のマンションに後藤を引き連れていく最中に、また後藤は口を開いた。
「さっきの。援交かと思いましたよ、一瞬」
「え、援交ってお前、そういうこと言うのやめろよ」
 嫌な響きの単語にビクつきながら、生きづらい世の中になったもんだぜと呟くと、後藤はイヤミな笑みを浮かべた。
「先輩がそれだけオッサンになったということッスね」
「おま……」
 自分こそあっという間にオッサンだぞコノヤロウと言いたくなったが、後藤は多分オッサンよりオジサマになるタイプだと思われた。くそ腹立つな。少し、茶化してやることに決めた。
「そんなこと言ってぇ、実は俺が浮気してると思ったんじゃねーのぉ?」
 そんなことないッスよというような、弁明を待ったが、一向に後藤が口を開く気配がない。
 部屋に着いちゃったじゃねーか。
「ち、沈黙やめろ。図星かお前は」
「先輩、たまにはハメたいのかと……」
 玄関に入ってから振り向くと、いつもは余裕ぶった後藤が青い顔をしていた。バカバカしい話してるのに、よくそんな深刻そうになれるもんだ。
「……だったらどうするぅ?」
 後藤のたまに見せるガキっぽさがたまらなく好きだ。父性ってやつだろうか。
「……あ、あの、どうしても、なら、ど、努力する……」
 外国人みたいになってるけど。
「努力ってお前……開発でもすんの」
「や、あの……は、はい」
 図体ばっか大きくて、めちゃくちゃビビってそうなのに、素直にコクンと頷いて答える後藤が、滑稽でいじらしくて、でも思わず噴いてしまった。
「ヒーヒヒヒ、ヒヒッ、か、開発……したいのか、ブフッ」
「したいわけじゃねえよ!」
「だっ…だってお前、ふっ…へへへへへ」
「いや、だから! あんた繋ぎ止められればそれでいいんだよ!」撿
「ダメだ、セリフっ……おまえ、クサいヒヒヒヒヒヒ」
 ゲイだし、ネコだし、心配するなと言ってやった方が優しいかもしれないが、生意気な後藤の表情がころころ変わるのが面白くて、もう少し遊んでも許される気がした。
 玄関先で笑い転げたせいで、怒った後藤にそのまま乱暴にされ、翌朝オッサンな腰に大ダメージくらうまでに気付けば良かったが……
 後の祭りとは、このことなんだろう。

4344/4:2013/09/14(土) 22:06:08 ID:5o4HHyuo
すいません本スレ489 Q.あなたは人を殺したことがありますか? を書いていた者です
連投規制にかかってしまったので最後の4/4だけこちらに投稿させて頂きます
申し訳ありません



私はやっと自分がとんでもないことをしてしまったのではないかと自覚しました。
夢野の父親は心此処にあらずという有り様でした。彼が抜け殻になるほどの理由を、私だけが知っていました。
夢野があの日自殺したのだとしたら、やはり理由は一つしかありません。
私の対応に裏切られた夢野は自殺したのです。あれは重大な話でした。身内と自分の恥です。
夢野は私に相談するのにもきっと悩んだでしょう。あの深刻そうな顔を、私はそれまで見たことがありませんでした。
夢野は私の事を信用して話してくれたのに、私は彼を手ひどく裏切りました。どれほどの苦痛だったことでしょう。
あの日、夢野を殺したのは私です。私は人を殺しました。自ら手を下しはしなかったけれど、それでもあれは確かに殺人であったと私は思います。



テープの再生を切った。
目の前には古い友人の墓がある。「夢野」。
夢野の事故死の後、ほどなく父親も自殺したらしい。ここで一緒に眠っているのだろう。
テープの中にあった声は俺の友人、三好和彦のものだ。
テープは彼が入水した時持っていた鍵、そのコインロッカーの中から出てきた。遺書と断定された。
夢野が死んだ後、あいつは目に見えて変わってしまった。
以前までの快活とした彼はどこかに行ってしまって、いつも何かに怯えているように見えた。口数も少なくなって、あまり意見も言わなくなった。相談には絶対にのろうとしなかった。
そんな三好から友人達は次第に離れていき、最期には俺くらいしか残らなかった。
俺がアイツを見捨てられなかったのは、夢野の「三好は多分あれですごく小心者だと思うよ」という一言が忘れられなかったからだ。
「誰かがついててあげないと」。あれはいつだったろう。
夢野の三好へのぼんやりした気持ちに気づいていたのは俺くらいだろうと思う。それが青春の勘違いなのか、それとも本物だったのか、俺にはもう判断がつかない。
だから、このテープは衝撃だったし、俺は夢野の死は本当に事故だったんだと確信した。
他でもない夢野が三好を小心者だと言ったのだから。そうと知っていたのだから。

「夢野、三好がそっちにいったよ……馬鹿野郎って一発殴っといてくれ。俺の分もさ」

43527-500 竜と竜騎士:2013/09/15(日) 22:43:25 ID:4OYRI1Q.
「元々竜になど乗りたくなかったんだ」
嘘だ。
精鋭のみで構成された竜騎士団の一員になるためは、己の技量だけでなく、竜に認められるだけの人格であることが必要だった。
それ故に、俺にとって竜騎士の称号は誉れで、憧れで、騎士を志願した時からの夢は常に竜の元にあった。

「あんたに選ばれて、周りが期待していたから仕方なく引き受けただけだ」
それも、嘘だ。
誇り高い竜に、騎手として選ばれた喜びは何物にも代えがたかった。
築き上げた信頼と、同胞の情。
初めて飛んだ空は綺麗で、その背中になら躊躇いなく命を預けられた。

「気持ち悪い化け物。どこにでも失せろ」
「お前の嘘は本当に下手だな、カイ」
静かな声に呼ばれて、俯いていた顔を上げる。黄金色の目が、静かに俺を見ていた。
ああ、嘘だ。彼は常に気高く、美しかった。
光に照り映える赤銅の鱗に覆われた、この世の何よりも強靭な体。
真珠色をした爪も牙も、ほんの一撃で人の命を奪えるほど鋭利だったけれど、俺を傷つけたことなど一度もなかった。
何より、常に理知の光を湛えたその目を見ると、いつでも不思議と心が落ち着いた。

「ヴェル、俺は」
冷たい表情など、作れなかった。
瞬いた拍子に泣きそうになった俺の頬に、ヴェル――ヴェルメリオは顔を寄せる。
俺が太く頑丈な首に両腕を回して頬を擦り付けると、彼は低い困ったような声で唸った。
「顔に瑕がつくぞ」
鱗が頬に触れ、ざりざりとして痛い。それでも構わなかった。
元々傷など体中にある。見目など俺も、それにヴェルもけして気にはしない。
「……俺達のいない間に、陥落したんだな」
「そのようだな」
「王城に敵旗が挙がっている」
「そうだ」
応じる声は静かだったが、その中にも俺を気遣うような慈愛があった。それが、心臓に刺さるように痛い。
陛下の遣いに、他のどの竜よりも速いヴェルと乗り手の俺が選ばれたのは、つい三日前のこと。
隣国との間の戦況はのっぴきならず、だからこそ一昼夜けして休むことなく空を駆け、他国より色よい返答を持ち帰ったというのに。
――戻ってみれば城下町は、かつての面影を失っていた。
「それでもお前は、行くのだろう?」
「……まだ、助けられる者がいるかもしれない。でもあんたが一緒に来ることはないんだ。俺の勝手な行動に付き合わせることになる」
騎士として、その国で時を過ごしてきた。
想いの深い場所も人も、多くがそこにある。
僅かな希望にでも縋らずにはいられない――どこかに、まだ他の騎士達や王族が、救いを待つ民が、いるかもしれない。
けれど愛竜を危険に晒すのは気が咎めた。言えばきっとヴェルは、俺のために来てくれる。
だから、嘘までつこうとしたのに。
「お前は私が選んだ、唯一の騎士。お前の大切に思うものは、私にとっても同じ。共に往かせてもらうぞ」
「……そう言うと、思ってた」
首を両手で撫でて、俺はヴェルの顔を両手で挟む。彼はいつもの自信に満ちた、それでいて優しい目をしていた。
「だが、カイ。生を捨てる覚悟などしてくれるなよ。
 お前は勇猛で誇り高いが、無謀であることとそれは異なるものだ」
「あんたは本当に、お説教が好きだなあ」
笑うと、目の縁から涙が落ちた。ざらついた舌でそれを舐めて、ヴェルはくつくつと器用に笑う。
そしていつものように、俺の脇に頭を垂れて、背に乗れと促した。

広げられた翼は巨大で、美しく、勇壮だった。

――彼となら、何でもできる。何も恐れるものなどない。
初めてその姿を見た時、そう思った。その感情が蘇って、泣きたくなるほどに、嬉しかった。
俺の傍にいてくれる、たった一つの、十分すぎるほどの希望。
「……こうなったら何処までも付き合ってもらうからな、相棒」
「承知の上だ」
目を細めて笑うヴェルの頭を軽く叩いて、俺はその背へと飛び乗った。

436名無しさん:2013/09/16(月) 03:24:00 ID:hgeVlVug
480です。最初、松田視点で書いていたので一応投下します。更に下品&恐い話からかけ離れてますがご了承下さい。


 不器用な俺に対しても笑顔でいてくれる藤岡のことがすきだった。このことに嘘偽りはない。なぜなら、そう、藤岡の意外な一面を知っても気持ちは変わらなかったのだから。

「あー、萌えるー」
「藤岡、もういいだろ。そんな話をするためにいちいち呼ぶな」
「だって、こんな話できるのお前しかいないんだもん」
「もんって言うな。気持ち悪い」
 図書室で藤岡を見つけた。たしか藤岡の前に座る男は藤岡の同室者兼幼なじみだったはずだ。仲は悪くないみたいだが、クラスが違うので一緒にいるのは珍しい。それに、藤岡のあの浮かれ具合。今まで見たことがない。
 話が気になったので、本棚の後ろに隠れた。怪しいのは百も承知だ。本を読むふりをしてこっそり二人の会話を聞く。
「はあ、早くビーエルの良さに気づけばいいのに」
「恐いこと言うな。たたでさえ怪物を相手してんのに、そんなことになったら精神消耗してすぐハゲちまう」
「あ、ハゲコンプレックスの攻め、悪くないよ。卑屈になりながら受けにほだされていくとか」
「考えたくない」
 呆れた同室者の言葉を最後に藤岡たちは教室に戻っていった。
 俺は会話から飛び出す聞き慣れない言葉のオンパレードに混乱していた。ビーエルとか攻めとか受けとか、意味が分からない。
 それに、藤岡の雰囲気が違うことも気になった。もしかしてあれが本当の藤岡なのか?

 ビーエル、受け、攻めの意味を検索してみて理解した。藤岡は腐男子というものなのかもしれない。
 思い返せば、友人たちのじゃれあいをガン見していた気がする。
 それでも、俺はまだ藤岡が腐男子であることに確信を持てないでいた。俺の早とちりかもしれないからだ。
 ちゃんと確かめたい。そう思った次の日、チャンスがおとずれた。先輩と藤岡が勉強会を開くというのだ。これに乗らない手はない。俺は参加を希望した。

 勉強ははかどり、きりのいいところで藤岡が休憩を提案した。藤岡がジュースを取りに行っている間、先輩と二人きりになる。
 藤岡が先輩にないていることが悔しくて、先輩には普段から素っ気なく接している。だから気まずい。むこうもきょろきょろと部屋を観察している。
「藤岡って、自慰しないのか?」
 ぽつりとつぶやいた先輩の言葉にぎょっとした。何言ってんだこの人は。藤岡だって男なんだから自慰ぐらいするだろう……する、よな?
 考えているうちに藤岡が戻ってきて、先輩が藤岡の性事情について聞き始めた。そしてなぜか体位について教えることになりつつある。いや、さすがにそれは見過ごせないだろ。

437名無しさん:2013/09/16(月) 03:30:11 ID:1iCUOl5Y
 俺は先輩の襟首を引っ張った。
「なにすんだよ」
「藤岡を巻き込まないで下さい」
 床につき倒す。足をつかんで左右に開いたら、その間に身体を滑り込ませた。
「ままま松田、なにして」
「藤岡、これが正常位だ」
 藤岡を見ると、大きな目を見開いていて、キラキラと瞳を輝かせていた。
 やっぱり、そうなのか? 更なる確信を得るために、俺は腰を振って先輩の股間にとんとんと当ててみた。布越しだというのに先輩は軽くパニックになっている。
 バックが分からないという藤岡ーーそれも本当か分からないがーーに応えるため、俺は先輩をひっくり返して腰を持ち上げた。俺に向けて尻をつき出すことになる。
「バックは、こう」
「やめろおおお!」
 さすがに恥ずかしいのか、先輩は逃げるように前へ這っていこうとする。冗談の延長線なのだからそこまで嫌がらなくても。
 いらっとしかけたが、色白の耳が真っ赤になっていることに気づく。なんだ、意外に可愛いところもあるじゃないか。
 気を良くした俺は先輩の上から覆い被さった。交尾するみたいになる。体に触れて気づく。この人、体温が高い。背中が少し汗ばんでいる。それに、なんかいい香りがするし。香水か?
 襟首に鼻を近づけてくんくんと嗅いでみる。
「んん、ちょっと、あ、松田、やめろ。くすぐったい」
「先輩、香水つけてます?」
 聞くと、腕に顔を埋めたまま首を横にふった。なるほど。じゃあ、体臭か洗剤の香りだな。
 香りに誘われて背中にも鼻を当て、匂いを嗅ぐ。先輩はぴくんと小さく体を跳ねさせ、身動ぎをし始めた。
  あの、尻が股間にぐりぐり擦れてるんですけど。この人、加虐心を煽るの上手くないか?

「とりあえず……こんな感じだ」
 先輩から体を離して、藤岡を見た。無表情だった。真剣にこちらを見ている。いや、その顔まじで恐いから。
「藤岡」
 声をかけると、はっとして、いつものにっこり顔に戻った。
「あ、うん。すごく分かりやすかったよ。なんか、バックってすごくえっちだね。ドキドキしちゃった」
 あの無表情がドキドキしている人間の顔なのかは甚だ疑問だが、とりあえず藤岡が腐男子であることは確定した気がする。
 それでも、藤岡なことを嫌う気にはならなかった。
「先輩、大丈夫ですか」
 床に突っ伏している先輩は、魂が抜けたようだった。
「オボエテロヨ」
「それ、負け犬が去っていくときの捨て台詞ですよね」
「後輩のくせに……可愛くねえ」
「そうですか。でも先輩は先輩のくせに面白かったですよ」
「馬鹿にするな。もう二度とこんなことするなよ」
「え、先輩、騎乗位が残ってます!」
 すかさず藤岡が割り込んできた。さすがというべきか、今だからわかるがちゃっかりしている。
 返事は返ってこなかった。ただ、うううと唸り声を出している。しばらくの間、先輩は床に倒れていたので、藤岡と目が合うたびに苦笑いした。

 帰りにて、上機嫌な藤岡の部屋を出たあと、魂が戻ってきた様子の先輩は俺に言った。
「きょっ、今日のことは、他のやつに言うなよ!」
「はい。そんなのわざわざ言いません」
「じゃあ、約束しろ」
「分かりました。ただし、先輩も約束してくださいよ」
「約束?」
 怪訝な顔をする先輩の腕を引っ張って、耳もとに唇をよせた。俺の好きな香りが鼻をくすぐる。
「藤岡のために、ちゃんと上、のって下さいね」

438名無しさん:2013/09/16(月) 03:54:45 ID:F/WrwbtI
436の、ないていることが悔しく→なついていることが悔しくです。
意味が変わってしまうので報告させてもらいました。すみません。

43927-579 女装×筋肉:2013/09/25(水) 11:59:00 ID:klADq8x.
「今日は勇樹にいいモノを持ってきたんだ」
「ん、何?………なんだ、コレ?」
「見ての通り、ひらひらフリルのドレスだよ。勇樹に似合うと思って」
「つまり、俺にコレを着ろと?」
「うん」
「嫌だ」
「え、なんで?」
「なんでって、俺に似合うわけねぇだろ?」
「絶対に似合うって。ねぇ、お願い、勇樹。一回だけでいいから着てみて」
「嫌だ、つってんだろ!?」
「だって、想像してみてよ。ひらひらフリルを引きちぎるとそこにはみっしりした筋肉が…!すごくそそられる光景じゃない?」
「そそられねぇよっ!つか、キモいわ」
「えー、そうかなぁ…。ひらひらフリルって男のロマンだと思うんだけど」
「男のロマンは否定しねぇけど、この場合は当てはまらねぇよ。っていうか聡、そんなにひらひらフリルが好きならお前が着ればいいじゃねぇか。お前細っこいし女顔だし、俺よりよっぽど似合うだろ?」
「俺ももちろん着るつもりだよ。ペアルックで一緒に写真撮ろう」
「撮らねぇよっ!…つか、お前、自分用にも用意してきたのか?」
「うん、待ってて。今着替えるから――――どう、似合う?」
「……似合ってる」
「あ、勇樹が俺に見とれてる。嬉しいな。じゃあ、勇樹も着替えて…」
「だから、脱がすな!俺は着ねぇって言ってるだろ!?」
「ズルいなぁ、俺にだけ着替えさせて」
「お前が勝手に着替えたんじゃねぇか」
「わかったよ、じゃあ、今日はペアルックは諦める。その代わり、鏡見ながらシよ?」
「はぁ?」
「ほら勇樹、鏡の中、見て」
「……」
「俺、すごく興奮してきた。……ねえ、勇樹はどんな気分?こういう恰好の俺に、こんな風に触られて…」
「…っ、…聡…っ…」
「あ、あまり暴れないでね。この服高かったから破かないように」
「お前、さっき俺に着せて引きちぎるとかなんとか言って……ん、あ…っ…」

440恋心を自覚する攻めと天然受け:2013/09/29(日) 22:00:14 ID:p6DnrF/U
本スレ投稿できなかったので、こちらに。

「お前、俺と付き合え」
 学内で猛獣と噂される男、畠中からの告白。突然連行されていた宮間は、何を言われているのか分からなかった。
「えーっと、失礼ですが、頭大丈夫ですか? 俺達男同士ですよ」
「んなもんわかってんだよ。うっせえな。ぐだぐだ言わず、付き合えよ」
「いや、だから」
「お前に拒否権はねえよ」
 そう押しきられたのが、5日前。

「ふーん……じゃあまだ、キスすらできてないのか」
「はい、まあ、しないですけどね。畠中先輩が見た目に反して優しいのは、この5日間で分かりましたけど、それとこれとは話が別っていうか……そんなことより山神先輩、すごく楽しそうですね」
 宮間がうんざりして見ると、山神はそれすら楽しそうに、目を細めた。
「当たり前じゃん。楽しまないと、なんのための罰ゲームがわからないでしょ」
「それを俺に言いますか」
「そのかわり、ちゃーんと、面倒見てあげてるでしょ?」
 にこっと笑い、髪の毛をわしゃわしゃと掻き回してくる山神は、一見好青年に見えるが、見えるだけだ。
 しかし、山神が嘘を吐いているかというと、そうではなかった。今のように毎日屋上で相談にのってもらっているし、山神の言った通りにすれば、畠中とのことは大抵上手くいった。
 山神は飄々としているが、妙なところで筋を通してくる男だった。
「そうですけど、でも、山神先輩が『1週間男と付き合う』なんて馬鹿げた罰ゲームを考えなきゃ、畠中先輩と付き合うことにはならなかったし、俺を選んだ理由も、たまたま居たから、なんて」
「嫌だった?」
「嫌っていうか、どうせなら、畠中先輩とは付き合うとかじゃなくて、頼もしい先輩として慕いたかったです」
「でも、この罰ゲームがなかったら、接点もなかったし、畠中のことも勘違いしたままだったんじゃない?」
 言われてみると、確かにそうだった。
「そうですね」
「でしょ、だからさ」
「それに、山神先輩ともこうやって話せなかったし」
 宮間が真面目な顔で言うと、さっきまでにこにこしていた山神の身体が固まり、その後、首をかしげた。
「なんで、俺?」
「え」
 宮間も、こてんと首をかしげる。
「だって、罰ゲームがなかったら、山神先輩とも、接点なかったじゃないですか」
「いや、そういう意味じゃなくて、何で俺と? 関わらない方が、良かったんじゃない?」
 山神が心底不思議そうな顔をすると、宮間はどうしてそんな顔をするのかと、また首をかしげた。
「山神先輩は性格が良いとは言えませんけど、俺は先輩のこと、けっこう好きなので」
 言ってから、思ったよりはだけど、と心の中で呟く。
 山神は目をきょとんとさせ、それから、にたにたといつもの意地悪い顔をする。
「なーにぃ、ちょっと、そんなこと言われたら照れちゃうなあ。そんなに俺のことが好き?」
「いたっ」
 ぴしっとおでこにでこピンされてしまう。

441恋心を自覚する攻めと天然受け:2013/09/29(日) 22:18:09 ID:zZxKt.vc
「痛いじゃないですか。そういうところは嫌いですよ」
「だよねぇ」
 でこピンしてきた腕をつかんでも、楽しそうに笑っている。
「なんか、腹立ちますね。そんなに、俺に嫌われたいんですか。でもね、そうはいきませんよ。俺は、先輩が好きなんですから!」
 最初、罰ゲームの説明をされたときはぶん殴ってやりたかったけれど、その時にくらべれば。
 ぶっちゃけると、意外にスッキリした。宮間は勢いのまま、思っていることをぶちまけた。
「だっ、だいたい、山神先輩は自覚がないのかもしれないですけど、面白がっているようで、案外俺のこと見てくれてるし、心配してくれるし、相談にのってくれるし、優しいじゃないですか。それに、ほら、昼ご飯にメロンパンくれたこともあるじゃないですか」
「……餌付かされてるだけでしょ」
「違います。それだけじゃなくて、あと、山神先輩とのスキンシップも嫌いじゃないです。にこにこしているわりに排他的なところがあるけど、髪の毛を撫でてくれたり、落ち込んでたら肩組んでくれたりしてくれますよね。あとでおどけてみせてますけど、山神先輩なりの励ましだって分かってるんですから! そういうの、バレバレなんですよ。ま、意地悪な顔されると、いらっとしますけど、たまに優しい表情したときは恰好いいなと思うし。あと」
「いや……もういいから」
 腕をつかまれてはっとする。宮間が山神を見ると、下を向いてぷるぷると震えていた。髪から覗く耳が真っ赤になっている。
「どうしました? あ、やっぱり褒められるの、嫌だったんでしょ?」
 返事がない。
 しばらく待っていると、突然、眉間に皺を寄せ、怒った表情の山神が顔を上げた。耳同様、顔も真っ赤になっている。
 宮間は、怒りで血がのぼったんだなと解釈した。嫌がらせが成功したことに満足する。
「ね。これに懲りたら、山神先輩も、嫌がらせはやめることです」
「お前……それ、本気でいってんの」
「もちろんです。じゃないと、勿体ない。山神先輩は、アレですけど、恰好いいし、優しいし、それから、んぐっ」
 続きを言おうとしたら、山神の手に口を塞がれてしまう。もごもごと口を動かして、手を離すように抗議しても、聞いてもらえなかった。それどころか、一人言をぶつぶつ呟いている。
「なにこいつ、本気で言ってるのか……ていうか俺はどうした……あんなもん、さらっと流せばいいだろ」
 何を言っているのか聞き取れなかった。ただ、山神が自問自答しているのは、宮間にもわかった。抵抗しても無駄だと学習した宮間は大人しく待つことにした。
「顔が熱い……なんだこれ、まるでこいつのこと……いや、いやいや、有り得ないから。こいつが無自覚に恥ずかしいこと言ってきたから、それで……そう、有り得ないから」
 とりあえず落ち着いたのか、まだ顔は赤いが、山神はいつもの笑顔を貼り付けた。
「いやー、参った」
「わっ」
 がしがしと髪を掻き回される。
「照れちゃうなあ」
「全然、照れてないじゃないですか」
「照れてるよー。でもね、罰ゲームとはいえ、一応、畠中と付き合ってるんだから、他の人を好きとか言っちゃ駄目だと思うんだよねえ。畠中に言ってもいいの?」
「あ」
 宮間が顔を青くする。それを見て、山神の眉がぴくっと動いた。
「……まー、言わないけど。これからは気を付けなよ」
「う、はい」
 返事をしたところで、予鈴がなった。
「あ、教室に、戻ります」
 宮間は出口に向かった。
「あーうん、じゃあ、また放課後。畠中と行くわ。今日、カラオケ行くんだっけ?」
「はい。……あ、そうだ」
 前を歩く宮間が、にっと白い歯を見せて山神を振り返る。
「あと2日たって、罰ゲームが終わったら、畠中先輩と友達になろうと思ってます。あの、山神先輩とも友達になれますよね」
「んー? ……あー」
 一瞬考え、にこっと山神も笑顔で返した。
「……そだね」
 山神の返事を聞いて、宮間は納得したのか、また前を歩き始めた。なんだか足取りが軽い。

 山神は足を止めた。空を仰ぎ、目を閉じる。はあ、と息を吐き出す。
「友達……ね。んー、初めて嘘ついたかも」
 今までなんとなく目をそらしてきたが、もう、誤魔化すことはできなさそうだった。
「こうなったら、長期戦かなあ」
 あいつ、鈍そうだし。
 山神は一歩、足を踏み出した。

442恋心を自覚する攻めと天然受け:2013/09/30(月) 00:40:14 ID:s3W.GZEs
本スレ636、638です。
長文&連投規制で思うように投稿できず、代行をお願いしたいです。
名前欄は2/3となっていますが、あと1レスで収まるか怪しいので適当なところでぶったぎってもらってかまいません。
------------------------------------------------------------
「ゆーうや!一緒に帰ろ!」
「あ、わりぃ……ちょっと今日、学校残るから」
「……じゃあ、俺も残る」
「は!?そんなのいいって、悪いし」
「だって最近ぜんぜん裕也と帰ってない」

むっすー、という表現がぴったりな顔をして俺の目の前に立っているのは、幼馴染の卓真だ。
こいつは自分の言葉の重みってやつを全然わかってない。

 垂れ目がちな目は大きくて肌は綺麗な上に色白で、少し長めの髪はくるんとした癖毛で、そこらの女子より可愛いくせにそんなことサラッと言うなよバカ。
 元はと言えばお前が悪いんだ。お前がへらへら笑いながら「俺、裕也となら付き合ってもいーな。てゆーか付き合いたい」とか言うから悪い。
 冗談だってことは百も承知だよ。つーか冗談だから余計に性質悪ぃんだよ。反射的に想像しちまって、「アリ」だなとか思っちゃった俺はどうすりゃいいの。
 それからお前に会う度に、だんだん「アリ」というよりむしろそうなりたいなんて考えるようになっちゃって、こんな感情どうしろっていうの。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ここから転載お願いします
 教室で普通に接するだけでも大変で、だからわざわざ避けてたのになんでお前はそうなんだよ。
 いつもいつもベタベタしてきて「だいすきー」とか言っちゃって、俺がどれだけ振り回されてるのか知らないくせに。
 俺がどれだけお前のこと好きか知らないくせに。

――なんて、言えない。言えるわけがない。
卓真が天然なのは昔からだ。一緒にいるのが当たり前で、卓真の「だいすき」はもう何回聞いたかわからない。
なにも特別な事じゃない。
なのに、なんで……なんで、好きになっちまったんだろう。


「……あー、だよな。確かに。じゃあやっぱ、俺残るのやめる」
「え、まじ?いいの?」
「ああ。今日じゃなくてもいいし」
「やったー!ゆーややさしー!」
「体当たりしてくんなバカ」

この日常が続いてほしいのかどうか、最近よくわからない。

443729 やけ酒:2013/10/08(火) 11:17:04 ID:5TmoFgpg
「もうやめなよ、朔ちゃん。彼女にフラれて辛いのは分かるけど、そんなに飲んだらまた戻しちゃうよ」
「うるへー!」
朔はあおるように酒を飲んだ。アルコールに耐性のないその身体は、真っ赤に染まっている。また懲りずに酒を注ぐと、夏希がそれを取り上げた。
「らにすんだよ!ばかぁ!」
手を伸ばしても、背も足も、腕も長い夏希が遠くのところに置けば、届かなくなってしまう。
「もう終わりにしよ。明日も仕事があるんでしょ? そんなにあの子のことが好きだったなら、デートの約束も守れば良かったのに」
「夏希との約束があったらろ」
「彼女との約束を優先すべきだったんだよ。しかもその日、彼女の誕生日だったんでしょ」
「……んだよ、夏希は、おれが彼女を優先してもよかったのか」
朔が据わった目で、憎々しそうに夏希を睨むと、夏希は肩をおとした。
「いいに決まってるでしょ。放置された彼女さんが可哀想だよ。彼女と約束があるって知ってたら、ぼくも気をきかせたのに。ま、いいや。終わったこと言っても仕方ないからね。そんなことより、いつまでぼくの家に居るつもり? 帰るのが遅くなったら奏さんが心配するよ」
「……ちょっとくらい、寂しがれよ。つーか、兄貴はかんけーれーらろ」
奏は、朔の兄だ。極度のブラコンで、朔のことを溺愛している。今日は夏希の家で飲むと伝えているから連絡は来ないけれど、ついつい朔が連絡を忘れると、今どこで誰と何をしているのか確認されるのだ。
「兄貴のやつ、うぜーんらよ。成人した弟に過保護すぎ。早く結婚してどっか行かれーかな」
「奏さんは、優しいよ。ぼくは一人っ子だからよく分からないけど、あんな素敵な人が側にいてくれたら幸せだと思うけどな」
穏やかに笑う夏希を見て、もやもやしたどす黒いものが朔のお腹の中をぐるぐると駆け巡る。
「……ははっ、そーらな。夏希はちゃんと、兄貴のこと分かってると思うよ」
「え」
目をぱちくりさせる夏希に、ニヒルに笑ってみせる。
「おれの回りにいるやつって、らいたい兄貴に警戒されるけど、夏希はおれのお守り役として、ちゃんと信頼されてるからな。うまくやってるなと思うよ」
「どういう意味?」
「……別に」
朔は、夏希が分かっていないのか、それとも分からない振りをしているのか判断がつかない。
ただ確実に言えることは、朔が誰と付き合おうと夏希は動じないことと、奏には特別な態度をとっているということだった。
「なぁ夏希、いつもの、してよ」
朔は四つん這いになって夏希の側まで行くと、夏希の服をくいくい引っ張った。潤んでいる真っ赤な目を合わせたあと、頭をぐりぐり夏希の肩に擦り付ける。これをすると、夏希が甘やかしてくれると知っていた。
「もう、いつまでも、子供じゃないんだよ」
夏希はお説教を始めたが、朔の両脇に手を入れて身体を持ち上げ、向かい合った状態でだっこをしてくれた。朔は夏希の背中に手を回し、ぎゅっと服を握りしめる。
「うるへー。夏希がこんなふうにいっつも甘やかすから、おれがこんな風にダメダメになるんらぞ。責任とれ」
「人のせいにしないの。朔ちゃんの悪い癖だよ」
「らって……らって」

444729 やけ酒:2013/10/08(火) 11:21:51 ID:nZZxJjEQ
夏希のことが好きなのだ。
たとえ、奏に気に入られるために夏希が朔を懐柔しているのだとしても、甘えずにはいられない。
結局、惚れた弱味なのだ。
「分かれよバカぁ」
朔の酔った頭では、理性がちゃんと働いてくれない。目が熱くなって、嗚咽してしまって、ぽろぽろと涙が落ちてきてしまった。
哀しい、寂しい、悔しい、嬉しい、切ない。さまざまな感情に胸を突き上げられる。
「無茶言わないの。でも、うん、そうやってちゃんと泣けるなら泣いて出しきりなよ」
とんとんと拍をとりながら、あやすように背中を叩かれる。ぐずぐず泣いていたら、眠気が襲ってきた。瞼が重い。
「朔ちゃん、おやすみ」
夏希の声を聞きながら、朔は瞼をおとした。

チャイムも鳴っていないのに、玄関の開く音がして足音が近づいてくる。夏希は慌てることなく、その人物を待った。
予想どおり、勝手知ったる人の家、と入ってきたのは朔の兄、奏であった。スーツを上品に着こなし、色気が溢れている。
「なにしてるんだ」
奏は夏希を見て、切れ長の目を細めた。
「こんばんは、奏さん。今ちょうど、朔ちゃんを寝かしつけたところです」
「そんなことは聞いてない。帰ってくるのが遅いから心配して来てみれば、どうして抱き締めあってるんだ!」
「しぃー。静かに。朔ちゃんが、起きちゃいますよ」
夏希が人さし指を唇に当てると、奏はぐっと言葉を飲み込んだ。
「朔ちゃん、彼女にフラれてやけ酒しに来たんですけど、慰めてたらこうなっちゃいました」
「泣いていたようだが?」
「そうですね。すがるように抱きついて泣いてきました。とても可愛かったですよ」
「お前……」
奏の呆れた視線に、夏希はにっこりと微笑み返した。
「朔ちゃん、すぐに彼女つくっちゃうし、すきあらば奏さんに占領されちゃうし、こういうときしかぼくの出番ってないんですよ。まぁ、逆を言えば、必ずぼくのところに帰ってくるって分かってるから気持ちに余裕があるんですけどね」
「俺は、夏希か朔を大事にしていると分かっているから、側にいるのを許してるんだ。あまり泣かせるな」
「分かってます。分かってるんですけど、ぼく、朔ちゃんのこと好きだから、側にいられる特権をついつい利用しちゃうんですよね」
夏希は愛惜しむように、朔の髪を撫でた。
「……ぼくのこと、好きになってくれればいいのに」
「俺が阻止するけどな」
奏は二人の側まで来ると、ひょいと朔を抱えあげた。
「ひどいです」
「そう言うな。夏希のことも、弟のように思ってるんだから」
「ぼくだって、奏さんのことは兄のように慕ってますよ」
ただお互いに、感情は違えど、朔へのベクトルが太すぎるのだ。

「では、朔ちゃんをよろしくお願いします」
「よろしくされる覚えはないが、任せろ。じゃあな」
「はい、おやすみなさい」
奏は朔を抱えたまま、外に出た。真っ黒な空に星が瞬いている。
「はぁ……こいつら、あれだけべたべたしといて、両片想いだって気づかないのが凄いな。ま、教えてやる気はないけど」
 よいしょと朔を抱え直し、奏は帰路に就いた。

445いぬのおまわりさん:2013/10/10(木) 22:48:07 ID:NKHbYIcw
 ありのまま、今起こったことを話させてもらう。リモコンの電源ボタンを押したら、テレビ画面から猫耳と尻尾がついた全裸の美少年が出てきた。
 何を言っているのか分からないと思うが、俺も何を見ているのか分からない。
 ぽかんと口を開けてリモコンを持ったまま固まっていると、俺を見た美少年は青く澄んだ瞳をまん丸に開いた。
「ー!」
 聞き覚えのない言葉を叫んで、ぶわっと尻尾を膨らませた。俺と距離をとるように横に飛び退く。
 瞬発力、飛躍力、柔軟性に富んだ軽やかな動きだった。衝撃を吸収した着地は、足音がほぼない。華麗なひとつひとつの動きに目を奪われてしまった。
「…あ」
 ようやく我にかえる。しかし、現実味のないこの状況が慌てるという概念を欠落させていた。気づけば俺は普通に話しかけていた。
「どうやってテレビから出てきたんだ」
 美少年は首を少し傾げた。さっきまで威嚇していたのに、目が点になっている。そして何を思ったのか、人さし指を前にだして動かし始めた。
 その軌道にそって青く光る文字が浮かび上がる。文字を書き終えた美少年は、そこに息を吹き掛けた。文字は砂のようにさらさらと消えていった。
「これで通じるだろ」
「何をしたんだ」
「お、通じたな。魔法で言葉が通じるようにしたんだ」
「魔法?」
 テレビから貞子出演、猫耳尻尾。これ以上驚くこともないと思っていたのに、次は魔法とな。漫画じゃあるまいし、こんなこと有り得る筈がない。
「そっか、俺、疲れてたのか」
「なにをぶつぶつ言っている。気持ち悪いぞ。なあ、お前に聞きたいことがあるんだが」
「うん?」
 話しているうちに打ち解けた。そしてわかったこと。猫耳美少年はソラというらしい。本名は長かったからソラで。
 ソラは異世界から来たらしい。なんでも魔法の練習をしていたら時空で迷ってこの世界に辿り着いたのだそうだ。
 それだけでも吃驚なのに、ソラが王子で二十歳ということにも驚かされた。高慢な態度だったけど、まさか王子で俺より一つ歳上とは。これにはソラも驚いた。
「お前が…十九歳だと…」
「おい」
 俺が老けてるみたいに言うな。俺は童顔だ。ただソラの世界では、未成年はもっと幼い容姿なのかもしれない。実際、ソラは中学生くらいにしか見えないし。
「俺様については話したぞ。次はお前について話せ」
 王子だからか気品は感じられるけど、相変わらず不遜な態度だ。たまに手をざらついた舌で舐めているのは可愛いけども。

446いぬのおまわりさん:2013/10/10(木) 22:49:31 ID:NKHbYIcw
>>445
「俺は犬山。この世界では猫耳は皆付いてない。その代わり、ここに付いてるのが耳だ」
「なるほどな」
 ソラは合点がいった様子だ。ソラの世界では極悪人?猫?が罰として猫耳や尻尾を切られるらしい。猫耳のない俺を見て飛び退いたのは、そういうことだったようだ。

 きゅううとソラのお腹がなった。目が合うとソラの身体が真っ赤に染まる。偉そうにしてるぶん恥ずかしいのかもしれない。それに、ソラは全裸だった。いろんな吃驚要素があって忘れていた。服を渡すと着ない一点張りで、せめてこれはとタオルを腰に巻いた。
「こんなもの着けたら、俺様の立派なものが隠れるだろ」
 いや、隠したんだってとは言わないでおいた。あと、立派でもないってことも。
 お腹が空いているようなので、晩飯を作ってやった。待ってる間、不機嫌に尻尾を横に振っていたけど、焼き魚を出したら目を輝かせて隣にすわった俺の腕に尻尾を絡めてきた。単純なやつだ。
「もとの世界には戻れるのか」
「ふうふう、んぐんぐ、分からん」
 猫だけに猫舌らしく、息をかけて食べている。ご飯も普通に食べてるからキャットフードは要らないようだ。よかった。
「来れたなら、帰れるんじゃ?」
「だから、練習で失敗して迷ったと言っただろう」
 まじか。迷子の迷子の子猫ちゃん。あなたのおうちの帰りかた分かりませんかそうですか。
「王子が失敗するなよ」
「んぐんぐ……お、王子は関係ないだろ!俺様をバカにしてるのか!本当ならその口の聞き方も許されないんだからな!」
「ここじゃ、ただの迷子だけどな」
「にゃんだと!」
 耳をぴくぴく動かして怒るソラは、いじりがいがあるなと思った。

 猫だから風呂は嫌いでだと思ったら、好きだと答えられた。それなら入ってこいと風呂場で使いかたを説明したら、は?と言われた。
「覚える必要はないはずだが」
「え」
「俺は自分で洗ったことはないぞ」
「はあああ!?」
 疲れもピークに達していた矢先の爆弾に、思わず叫んだ。ソラは驚き、反射でぴょんと飛んだあと尻尾を股の下に巻き込んでしまった。ぷるぷる震えている。
「犬にゃま?」
「あーもー分かったよ」
 俺が苛めてるみたいじゃないか。どうやら前途多難な日々が続きそうだ。困ってしまった。ワーン。

44727-759 朝にはいなくなる人:2013/10/13(日) 18:12:03 ID:jnx8Oa/Q
待っていた。本当に来るとは思っていなかった。
明かりの消えた暗い室内、街灯なのか窓だけがかすかに白い暗やみの中、長田が立っている。
背の高い、筋肉質がゆえになで肩に見える懐かしい輪郭、間違えようがない。
「長田」
手を伸ばした。起き上がって、触れた。
腕に触れ、手を握る。長田は何も言わない。
何故だか、顔を見ることができなかった。うつむいたまま、長田の胸に顔をうずめる。
あれほどできなかったことが、今できた。この胸に触れたいと、抱かれたいとずっと思ってた。
胸元に口づけ、首に口づけ、あごをついばみ、唇に触れる。
大きくていつも笑ってるような口元、今はためらいもなく噛んで、吸って、舌を入れる。
温かく湿った感触に陶然となると同時、長田の舌が絡んできて心臓が跳ねる。
まさか! 本当に? いいの、長田……
長田の強い腕が俺を抱きしめてきて、舌の動きも激しくなる。
いつしか俺の方はなすがままに、ただ長田の腕の中身を固くするばかりになっていた。
夢だろうか。長田が俺を抱いてるなんて。これは都合のいい夢だ。
頭のどこかが冷めていて、身勝手な俺を戒める。
でも、そんなことに意味があるだろうか? 今さら?
──俺はずっと、こうしたかったのだ、こうされたかったのだ、長田に、長田と。
長田の手がずっと下に降りてきて、俺の腰をまさぐる。
尻なんか感じたこともなかったのに、長田の手が触れると怖いほど敏感になって、肌の表面がチリチリするようだ。
産毛の一本一本が立ち上がって、長田になで回されるのを待って、喜ぶ。
長田の腰に押しつけてたものはもう限界まで固くなって、それでもまだ足りなくて俺は長田の足の間に自分の足を割り入れた。
もっと。もっとぎゅっと、ひとつになるくらいに、くっつきたい。
その隙間に長田の手が入ってきて、狭い間を汗とおかしな体液でぬるぬるにしてしまう。
長田のものも俺のものも、こすり合わされて、ぬめって、滑って、ドロドロに融け合う。
腰が動いて、手も動いて、その複雑な動きが規則的になって、速さを増して。
「長田、長田」
俺はどうしようもなく名前を呼ぶ。確かめる、ここに長田がいることを。
長田が身をかがめ、俺を見た。もう? と。俺は首を振る。この時間がいつまでも終わらなければいい。
ずっとこのままで、長田の胸の中で。俺の腕が長田をつなぎとめたままで。
なのに俺は限界まで高ぶってしまっていて、たとえ長田が俺を刺激しなくても、もう終わり。
「駄目だ、長田、動かないで、出る」
長田にしがみついた。俺の荒い息が長田にかかり、長田は……笑ったようだった。
苦しくて涙が出た。いきたくない。

長田はぎゅっと俺を抱いた。抱いた腕を頭にまわしてよしよし、と撫でる。
それは、俺が馬鹿を言ったときによくしてくれた、子供扱いのむかつく仕草。
それからあっというまに俺をしごいて、俺をいかせてしまった。
「馬鹿、長田、いきたくないって言ったのに!……馬鹿長田、馬鹿が、この」
殴る間もない。俺が生涯にたった一度と思った力でしがみついても、長田は消えた。
「ごめんな」

そうして俺は目を開けた。窓の外は明るく、今日もすがすがしい秋の一日が始まろうとしている。
今日は長田の葬式。全然悪くない交通事故であっけなく死んでしまった、俺の友人の。
昨日は通夜だった。棺の中、永遠に遠くに行った長田を見た。
もっと早く告白すればよかった。もっと早く触れておけば。全てが遅すぎて、俺はもう生きていられない、と思った。
だから夢を見た。自分にだけ都合のいい、死ぬほど気持ちいい、長田を汚すような最低な夢。
でも。
髪に残る手の感触を、俺は一生忘れないから。
俺の胸の中を、きっと長田は読んだんだろうから。
馬鹿だなあ、って笑う長田の声を聞いたような気がしたら、もう駄目だ。
涙は止まらなかったが、俺は立ち上がってクシャクシャの喪服を身につけ始めた。

448朝にはいなくなる人:2013/10/14(月) 00:20:30 ID:SdA.3qQE
朝にはいなくなる人=夢に出てくる人として萌え語りしてみる


1.健気受け
攻めに恋愛相談されてて頑張れって応援するけど、本当は自分が愛されたいと思っている健気くん。攻めに可愛がられる夢を見て幸せな気分になるけど、そのぶん朝起きて現実に失望してしまう。これの繰り返しで日に日にやつれていく。攻めが健気くんの異変に気づいて両想いになるもよし、失恋して切なく泣くもよし。
~攻め~
ヘタレ
「好きな人が構ってくれない……なあ健気、俺って魅力ないのかな」
女好き
「○○ちゃんってお前に似てるんだよなー」
無自覚
「好きな人と話せた!健気のおかげだよっ、ありがとー!ちょーすき!おれ、健気がいないと生きてけないかもっ」

2.ツンデレ受け
現実では素直になれない。ツンツンしてしまう。そのぶん夢の中では誰?ってくらい甘えてしまう。
「だいすき!ちゅーしよ。だっこして。ぎゅってして。なでなでして」
夢の中の攻めは受けのフィルターで男前になっていて、優しく包み込んでくれる。ただし現実では発展せず足踏み状態。
~攻め~
ネガティブ
「ごっ、ごめん。僕なんかじゃツンデレくんとは釣り合わないよね」
天の邪鬼
「あ?んだよそれ。俺だってお前のこと嫌いだっつーの」
チャラ男
「ほらほら、そうやってツンツンしないでこっちにおいでよツンデレちゃん」

3.変態受け
真面目なふり、儚いふり、可愛いふりをしてるけど変態。見た目との差が激しい。変態度が高く残念であるほどよい。攻めにあんなことやこんなことされる願望が常にある。夢の中では願望通りイジメてもらってるけど、現実ではうまくいかなくて歯がゆい思いをしている。
~攻め~
敬遠ぎみ
「あいつくそ真面目だから俺とは合わねーわ」
勘違い
「委員長は下ネタ苦手だよね」
夢見る男
「妖精……っ!いや、天使か?」

4.純粋受け
幼馴染みや親友など、仲のよい攻めのことが友達として大好き。けど攻めとイチャイチャする夢を見てしまう。朝起きて、夢のなかの自分はなにしてたんだろう?と不思議に思う。攻めのことを意識していたら現実で距離をおいてしまう。気まずくなるのに夢の中ではイチャイチャがエスカレートして混乱する純粋くん。
~攻め~
おかん
「どうした純粋。具合悪いのか」
病み
「俺のこと避けてるよね?なんで?」
天然
「顔が赤いの、可愛いね」

5.電波受け
夢に出てきた宇宙人と会話。「○○くん(攻め)を好きになる」と予言されて信じてしまう。後日、攻めに「僕はあなたをすきになるそうです」と真面目な顔で言って、不審者扱いまたは電波くん扱いされてしまう。そして予言通り攻めにどんどん惹かれていく(あまり表情に出ないため伝わらない)。毎日夢の中の宇宙人に出鱈目なアドバイスをもらう。が、それを真に受けて実行。攻めが振り回されるドタバタラブコメもよし、さらっと受け流されてほのぼのになるのもよし。
~攻め~
おちょけ
「うははっ、宇宙人からの予言?まじかよ。おまえ面白いなー」
不憫
「ちょっとまって、なんで急に服脱ぎ出すの?宇宙人のアドバイス?なにいってんの?頭いたい。理解できない。なにをどう考えたらこんなことになるんだよっ!」
流し上手
「へー、そうなんだ。びっくり……でもそれは違うと思うなー。だってそれ、夢の中の話でしょ?」

449789 修復不可能の二人:2013/10/17(木) 17:09:00 ID:a/TIT6y.
規制されてしまいましたので以下本スレの続きはこちらに。

魔法使いだとバレているからです。いつかは主人公についての記憶を消さなければなりません。
そのことを少年に伝えると少年は泣きます。
魔法使いであることを忘れるのはいい。けれど主人公のことが好きな気持ちも忘れるのか。
答えられない主人公に少年は泣き笑いして、抱き締めてくれる?と聞きます。そのあとで記憶を消してと。
主人公は言われた通りにします。抱き締めた少年の体は可哀想なほど震えています。ありがとう。ごめん。
申し訳ない気持ちで主人公は少年の記憶を魔法で操作します。

次の日から、少年は主人公のところにやってこなくなります。
廊下ですれちがっても目も合いません。声を掛けても不審がられて引きつった笑いを返されます。
八重歯ののぞく屈託のない笑顔は他の友達に向けられます。
そこで主人公は、寂しいだけでなく、苛立ちを感じます。
あれだけ好きだと言ってきたくせに。自分だけを蕩けるような瞳で見つめてきたくせに。
魔法にかけられたくらいで忘れるなよ、なんて理不尽なことと分かっていても苛立ちは消えません。
そこで主人公はようやく気がつきます。認めたくないけれど、もう修復できないけれどーー

「と、こんな感じです。ベタすぎて駄目ですかね」
「そうは思いませんが」
苦笑いする私に、青年は考えるように顎に手をあてた。
「記憶が無くなった少年に、主人公はもう一度関わってみればいいのにと思いました」
「……記憶を消した張本人なのに?」
「はい。記憶を消されても、少年はまた主人公を好きになりたいと思ったはずです」
「そうでしょうか」
青年くすっと笑った。
「魔法使いはなんでもできるのに、何もしないんですね。ヘタレ設定ですか?」
「いや……」
青年は時計を見て眉をしかめた。
「あの、話の途中ですみません。雨が止むまでと思っていましたが、約束に間に合いそうにないので行くことにします」
そう言ってタオルを頭にかける。
「ではこれで。雨宿りに貴方が居て良かった。楽しかったです。あっでもやっぱり主人公は頑張らせてみてもいいと思いますよ」
 青年は、八重歯をのぞかせて笑うと雨の中に消えていった。
「……頑張らせる……か」
私はぽつりと呟いた。
指をパチンと鳴らすと、雨雲が消えて太陽が顔を出した。

45027-949 年下×年上:2013/11/09(土) 16:48:04 ID:5f7Mil3A
ケンおにいちゃん、おてがみかいたよ。
ひらがな、もうぜんぶかけるから。よみます。
おにいちゃん、いつもあそんでくれてありがとう。だいすきです。
これからもずっとおともだちでいてください。
え、まちがえてないって。どこ。
……あ、ほんとうだ。「ち」が「さ」だね。あはは。
*
あ、ケン君。
中学校どう? やっぱいそがしい?
……そっか。いいなー、おれも早く部活したい。
なんだよ、おれが小学生だからってバカにしてるだろ!
どんなんかくらい分かるよ、姉ちゃんだっているんだし。
じゃ、頑張ってね、応援してるから。
……時間、あったらでいいから、おれともまた遊んでよ。
*
ケン先輩。
あ、えーと、うん。はい。
おれもサッカーやりたかったんです。いいじゃないっすか。
ちゃんと真面目に練習するんで、教えてください。よろしくお願いします。
……そっか、もう引退までそんなにないんですね。でも試合で勝てば続くんっすよね。
じゃあ頑張ってください、俺のために。……冗談です!
*
先輩、こんにちは。
あー……何か高校被っちゃいましたね。部活も。
じゃあ、また宜しくお願いします。
*
阪上先輩。卒業おめでとうございます。
話が、あるんです。
俺、先輩の事が好きなんです。ずっと好きだったんです。
分かんないですよね。
中学ではこれでも、頑張ってたんですけど。
途中からもう全然ですね。絡めなくて。怖くて。
でもすごく好きだったんです。
先輩、なんでも良いんで、気持ち悪いとかでもいいから。
何か言ってください。
先輩。
*
あ。け、……阪上先輩。
賢さん、でいいですか。ですよね。これも違和感あるけど……はは。
お久しぶりです。賢さんが高校卒業してから、7年ですか?
そっから大学行って、就職して。こっちに来たのは偶々?
賢さん、7年って長いと思いますか。
……俺の気持ち、7年前と変わってないんです。
7年前、どころか下手したら15年くらい、ずっとそのままなんですよ。
そろそろ答え、聞いちゃ駄目ですか。
俺も社会人ですし。もう背の差とかほとんどないんですね、賢さん。
……え? 3ミリの差なんてそんなの、昔は10センチくらいあったじゃないですか。今じゃ微々たる物ですよ。
とにかく、これだけ引き摺ってたら、もう子供だからとか何だとか、誤魔化せないでしょう。振るならちゃんと振ってください。
のらりくらりしようとしても無駄です。
答えを聞くまで、腕、離しませんからね。前はこれで逃げられたから。
どこ見てるんですか。顔掴みますよ。
ほら、たった一言返せばいいだけなんだから、いいじゃないですか。
……分かってますよ。馬鹿みたいだろ。
でも今になってやっと、ちょっと対等っぽくなったから。
明日には向こうに帰るなら、昔のこと全部、ここで切ってってよ、賢さん。
さあ、どうぞ。

――あの、ねえあの。そうされると誤解するけど。ちょっと。なんで人の肩で。
別に泣くことないって。いや、あ、謝んなくても。
俺の勝手ですし。別に今更傷つかな……え。
……え?

45128-10 年上の幼馴染み:2013/11/17(日) 17:17:29 ID:1GbWoLxU
本スレ10のID:tnE496BW0です。連投規制にあってしまったのでどなたか代行お願いします。
それと10の名前欄の1/2は間違いで正しくは1/3です。下の方と被ってしまったのでややこしくなってしまってすみませんでした。

すみません最後です。

③親同士の仲の良さ
これは設定次第では簡単にロミジュリ要素も追加できる。
よくあるパターンでは親同士も仲が良く、両家公認カップルが誕生する。
「いつも遊んでもらってすみませんねぇ」「いえいえ、こっちも遊んであげてるっていうよりは一緒に騒いでるだけなんで」
「でもこうしてみるとほんとに兄弟みたいね」「ふふふ、ほんと、どっちがお兄ちゃんなんだか」
みたいなお母さん同士のほのぼのした会話が交わされることだろう。
↑のお泊りも頻繁に行われる。実に平和的な話だ。
親同士の仲が悪い場合、一気にシリアス度が増す。ガチで許されない恋である。
この場合だとお泊りなど甘いイベントはほぼない。しかしよりスリリングで背徳感のあるものになる。
年上が攻めだと「親なんて関係ない…受けは俺が守ってやるから」のように包容力のある大人に出来る。
年下が攻めだと「なんであの人といちゃいけないんだよ…!」とグレたりするだろう。そこから受けを無理矢理…だったり、また勿論逆もしかり、である。
最終的に「駆け落ちイベ」が発生しやすくなるのはこっちの方である。
新天地にて今まで出来なかった麗しい生活を謳歌するのだ。…うむ、美味い。

お互いの性格は数限りない無数の組み合わせが出来るので割愛。
①〜③の組み合わせによってそれぞれ素敵なカップルが誕生する。
年上年下どちらが受けでも攻めでも楽しめるとはなんて素敵。

妄想すると年上の幼馴染って意外に美味しいのね…と思いました、まる。

すみません、リロったら被ってました。ほんと一発目からほんとすみません。

45228-9 年上の幼馴染み 1/2:2013/11/17(日) 17:20:57 ID:ClVL9nXU
 三十五才を過ぎると急に、結婚、結婚と言われなくなった。もう洒落にならないんだぞ、という事実を突きつけられるようで怖い。
 だって仕方がない、派遣なんてやってるようじゃ結婚できない。彼女だってできない。
 いいんだ、そういう時代だから、と開き直る。
 妹も結婚して子供作ってるし、母ちゃん的にも、もう俺はいいんじゃないかと思う。
 泰成にいちゃんの方がやばい。兄ちゃんはフリーターで、一人っ子で、俺より二つも年上で、おまけにおじさんもおばさんももういない天涯孤独の身だ。
 二軒はさんでのご近所さんだから、うちの母ちゃんとしてはもうひとりの息子みたいな気持ちで
「豊井家は絶えちゃうねぇ」
と心配してるけど、いやー、無理でしょ。
 俺以上に、兄ちゃんはどうにもなりそうにない。それよかうちも名字絶えますけど。

「泰成にいちゃーん、コロッケだよー」
 バイトってのは過酷なもので、零時あがりの兄ちゃんは昼夜逆転ぎみの生活だ。
 だからと言って、派遣でも正社員と変わらない勤務時間の俺が、深夜にコロッケをわざわざ運ばされるのはおかしい。
「おおー!コロッケ大好き。売ってるのじゃないおばちゃんの手作り大好き」
 でも兄ちゃんが喜ぶから仕方ない。
『夜中は人恋しいものだから、お前行ってやりなよ、ひと言話すだけで違うんだよ』
 そんなことを言う母ちゃんは、他人に優しく身内に厳しい。俺寝不足になるっつーの。
 兄ちゃんのおじさん、おばさんが亡くなってから十年くらい経つから、その間ずっと通い続けてる俺えらい。
 通いすぎて、兄ちゃんの家はすでに、もう一軒の自宅のようだ。
「今から食うの?」
「当然! 晩飯なんだよ、お前は? 食う?」
「いや、寝る。もうこっちでいい?」
「パジャマ着てるじゃん、すでに」
「風呂出たらパジャマだって……朝飯は七時に帰るから、一緒に起きろよ。母ちゃん手間だから」
 食べ出した兄ちゃんをほったらかしに、和室に布団を敷いたら眠くなる。
「お前、帰って寝る方が早いんじゃないの」
 声が飛んでくるが、答えるのがめんどくさい。
「寝に来るのなー、うちに、お前……変な奴」
 声が遠のいて、俺は夢の中へ。なんだろうね、俺も。

 正直、結婚とかに意欲がわかない。
 彼女がいたこともそりゃありましたが、それとこれは話が別だって知ってる。
 草食系男子とは俺のことだ。いや、俺らのことだ。兄ちゃんもきっとそんな感じ。
 あの人こそ彼女いたのに、結婚すると思ってたのに、おじさん達が亡くなったときに別れて、それっきり女の子とは話題にできない雰囲気。
 本当、仕方がないよね。不況だもん。母ちゃんごめん。親父もごめん。どうしようもないです。
 この間、母ちゃんが恐ろしいことを言った。
『いっそ、結婚しない子ばっかり集まって、一緒に住めばいいんじゃないかねぇ』
 現実に、茶を吹きそうになるなんてことがあるとは。
『だって、そうしたら安心だもん、あんたや泰成君の老後。寂しいひとり暮らしをさせるよりよっぽどいいよ』
 泰成君のご両親にも遺書で頼まれたしねぇ、と母ちゃんは笑った。
『あんた、もうこうなったら泰成君のこと大事にしなよ、あれももう結婚しないだろうから、一生仲良くするんだよ』
 うちの母ちゃんはいつも、どこまで本気かわからない。
 ただ、泰成兄ちゃんにもう二度と寂しい思いをさせたくない、その気持ちはわかる。 

 久しぶりに結婚の話を振られた。最近入ってきた後輩がマジで無神経で、まわりのハラハラした空気がいっそう俺を傷つけるっつーねん。
「兄ちゃん、結婚するなよ」
 俺は今日は台所にいて、おでんを小分けにしたどんぶりをレンジに放り込んでる兄ちゃんに鬱憤をふっかけることにする。
「少なくとも兄ちゃんが結婚しない限り、俺は許される」
「別に俺が結婚しなくてもお前は結婚すればいいじゃん」
「うるせー、どうせできませんよ、だから兄ちゃんも結婚するな、そんで老後はふたりで生きるの」
 泰成兄ちゃんのあごがカックンと落ちた。
「……は、お前、何を」
「え?あ、いやいや、この間母ちゃんがさ」

45328-9 年上の幼馴染み 2/2:2013/11/17(日) 17:22:41 ID:ClVL9nXU

 説明すれば、なんとも空しい老後設計だ。俺はだんだんばかばかしくなってきた。
「だいたいさ、安易なんだよ。そもそも先に老後を迎えるのは母ちゃんだっての、自分の面倒より俺の老後かよ、いつの間にか完全に俺が結婚しないことになってるしなぁ」
「んーとさ、じゃあその時はおばさんの介護は俺らふたりですればいいんだよ」
「何言ってんの……ええ?」
 見れば、兄ちゃんは真面目な顔でうなずいている。
「ちょっと、兄ちゃん、泰成さん、なんでその気なんですか」
「いやあ、名案だなと思って。固定資産税も一軒でいいしな」
「うわ、具体的! ありえないって、そんな、男同士で」
「いいんじゃん? 別に結婚するわけじゃないし」
「男同士で結婚できないし!」
 俺が慌てると、兄ちゃんはきょとんとした。
「あ、いや、俺もお前もたぶんもう結婚しないでしょ? お前、これから頑張るの?」
 耳が、頬が、急に熱くなる。
「裕敏……じゃあねぇ、約束。俺がこのまま爺さんになって要介護になったら、裕敏が面倒見て。逆は俺が面倒見るから」
 小指を立てられた。
「はい、指切りね、これでおばさんにも安心してもらえるよっと」
 絡んだ指ごと腕を振り回されて、うわ、これ、何、いったい。
「いい話だな、俺、裕敏なら安心。老後は一緒に住むかねぇ、うちの方が新しいから裕敏こっちに来ればいいんじゃない? すでにマイ枕置いてあるんだし」
 ニッコリされて、ますます血が上る。
 と、レンジで爆発音がした。
「泰成兄ちゃん! 卵入れただろ馬鹿!」
「あ、卵……おでんの」
 兄ちゃんはこれ以上ないくらい哀しい顔になった。馬鹿だ。
 
 だから多分、兄ちゃんは俺の赤面に気づかなかった。
 一生の約束なんかしちゃったよ俺たち。そんで、危なっかしいこの人の介護をするのはたぶん俺の方だ。
 いいじゃんそういう人生、きっともう泰成兄ちゃんも二度と寂しくない。

454名無しさん:2013/11/17(日) 17:24:02 ID:ClVL9nXU
>>451 すみませんでした
IDがややこしいことになるけど、代行行ってきます

455名無しさん:2013/11/17(日) 17:29:47 ID:1GbWoLxU
>>454 いえいえこちらこそ、長いと規制され分割してるうちに連投規制とかww
代行ありがとうございます、お願いします。

45628-19 三角関係:2013/11/17(日) 21:09:23 ID:siFrZRgY
規制喰らってしまいました、代行よろしくお願いいたします……



しかし、いや。だから、ぼくはあなたに最初で最後の復讐をしようと思ったのです。
ほくは先生の一番にはなりようがないのなら、せめて少しでもぼくを覚えていてほしいのです。
ぼくはきっと、いいえ確かに。生まれ変わり空にささやかに光る星になっています。
そうすることで先生は星を見るたびにぼくを思い出せるのです。
先生の恋のせいで首を吊ったぼくのことを、輝く美しい星を見るたびに。
男同士の三角関係、何て言う腐りきってしまった阿呆な感情で潰えたぼくのことを、あなたはきっと思い出すのです。
そうして傷付いた先生はその身をぼくによく似た父に慰めてもらうのでしょうね。
父に抱かれながらあなたは何を思うのでしょうか、今までのような感情ではいれないのでしょうね。
なにせ父はぼくにとてもとてもとても、よおく似ているのですから。
そうやって、ずっとずっとあなたはぼくのことだけを思って後悔して生きていって下さい。

ね、先生。
ぼくはいま、きっとほんとうのしあわせになれるのです。

45728-49 許されない二人 1/4:2013/11/23(土) 19:33:20 ID:DOUtdwBA
思ったより長くなって間に合いませんでした…推敲して投稿。



「慶一…もう、ここに来るのはやめるんだ」

薄い布団の中、優(まさる)は自分を抱きかかえている慶一に言い聞かせた。
激しい情事に耐えた体はまだ重い。普段はどちらかと言えば物静かな少年である慶一は、
情事の時だけ、抑えていた何かを発散するかのように優を翻弄する。
十八歳の優とちょうど一歳差の十七歳で今年高校三年生になる慶一は、まだ優より
少し背が低かったけれど、このところまた背が伸びたようだから近々優を追い越すかもしれない。
「どうして…どうしてそんなことを言うの、優…」
慶一が身じろぎし、真冬であるにも関わらず汗にしっとりと湿った二人の素肌がこすれた。
窓の外にはしんしんと雪が積もっている。心なしか色素の薄い慶一の髪を優が撫でた。
「男同士だから? 僕がこの家の跡取りで君が使用人の子供だから? 僕が受験生になるから?」
その全部だよ、と優が答えようとした、その矢先だった。

「それとも…君と僕が兄弟だから? ねえ“兄様”?」

楽しげに歪められた唇からこぼれた言葉を聞いても、優は始め呆然としていた。
一瞬遅れて、優は慶一の腕を振りほどいてがばりと布団から身を起こした。
「慶一、お前…知って…」
「知らないでいられるはずがないじゃないか。どうしてそう思ったの?」
くすくすと笑いながら言う慶一を、優はふたたび呆けたように見つめた。

旧家である菅間家の広大な敷地の外れに、ひっそりと建てられた離れ。
慶一は誰もが寝静まった頃を見計らって時折そこを訪れた。
それを受け入れた優も、始めはまさか慶一とこんな関係になるなどとは思ってもみなかった。

45828-49 許されない二人 2/4:2013/11/23(土) 19:36:47 ID:DOUtdwBA
「全部知っているよ…優の母さんが父様の妾(めかけ)だったことも、母様の子より優れるように
君に『まさる』って名を付けて母様とつかみ合いの喧嘩になったことも、
家の中で騒ぎが起きたのに懲りた父様が君の母さんを捨てて外に新しい妾を囲うようになったことも、
万一の時のための保険に君と君の母さんを離れに置いておくことにしたということも、ね」
慶一は十七歳の少年が知るにはいささか残酷すぎる事実をすらすらと語った。
残酷というなら優にとっても同じことだが、優はそれよりも慶一の心の方が心配だった。
おしゃべりな女中にでも聞いたのか、それにしても何もそこまで教えずともいいだろうに…
同時に、こんなことをまるで他人事のように話す慶一に対して、少々空寒い気持ちがした。

屋敷の敷地内には他にも使用人の子供が何人か住んでいたが、
慶一はどの子供とも遊ぶことを禁じられていた。とは言え、幼い身に余る好奇心が
抑えきれるはずもなく、慶一は十歳の時に一度、とりわけ年が近い優を遊びに誘った。
優は地元の公立小学校に、慶一は私立の一貫校に通っていたから、
顔を合わせるのは屋敷の中でだけだ。優は慶一が異母弟であることを知っていた。
慶一を恨む気持ちもあり、最初は躊躇していた優も、慶一がしつこいので仕方なく付き合うことにした。
しかし学校では妾の子といじめられ、同世代の子供と遊んだ経験の少ない優は、
たちまち慶一と過ごす時間に夢中になった。母に決して慶一と関わるなと言いつけられていたことも忘れ、
気が付けば奥様…慶一の母に二人一緒のところを見つかって大目玉を食らったのだった。
言いつけを破った自分がいけない。それからは慶一を見かけても無視を決め込んだ。

ところが優が十五歳の冬の夜、遅くまで高校受験の勉強をしていた優の部屋の窓を叩く者があった。
(優…)
慶一だった。寒い夜だ。追い返すのも気が引け、仕方なく窓から慶一を招き入れた。
慶一と遊んだたった一日の記憶は、優の心に深く刻み込まれていた。

45928-49 許されない二人 3/4:2013/11/23(土) 19:39:43 ID:DOUtdwBA
相変わらず孤独な少年だった優がそのまま高校生になっても慶一と会い続けたことを、
そして慶一がある晩優に口付けて組み敷いた時に拒めなかったことを、誰が責められるだろうか。
慶一を拒めばもう会ってくれなくなるかもしれないという思いが頭をかすめ、優は抵抗を諦めた。
兄弟なのに。身分が違うのに。男同士、なのに…優には自分が慶一を愛しているのか、
弟として可愛いと思っているのか、それとも単に慶一と会えなくなるのが寂しいだけなのか、分からなかった。
ただ、こんな関係を持ちかけてきた慶一は当然優との本当の間柄を知らないのだと思い込んでいた。
慶一の母は、慶一の耳に真実が入らないよう神経質なほど気を遣っていると聞いていたからだ。
ずっと慶一をだまし続けることに罪悪感が湧いて、別れを切り出したのに…

「…いつから、だ…」
「初めて遊んだ後のことだよ。いつもは大人しい母様があんまり怒ったのが気になって、調べたのさ」
名家の令息らしく優より色の白く、どこか華奢な体。常なら愛おしく思えるその体に、
一体何が潜んでいるのか…優は急に恐ろしくなってきた。
「あの日から、優のことがずっと忘れられなかった…どうしてこんなに好きなのかと思っていたけど、
兄弟だと分かって納得したよ…でも、優は僕が知らないと思っていたみたいだから。
優のことだ、僕が知っていると分かったら会ってくれなくなると思ったんだ」
うっとりと話し続ける慶一に、優は言葉も出ない。
「父様と例の、新しい妾の間にも子供がいるらしいよ。僕たちの妹か弟だ…
妹だといいなあ。優の弟は、僕一人きりでたくさんだもの…」
慶一が、ふいに優を押し倒した。その瞳は爛々として、すっかり情欲に濡れている。
「、よせ、よしてくれ…」
いつもはどこか虚ろな慶一の目にこの時だけ光が宿るのを、優は知っていた。
いけないと分かっているのにそのことが嬉しくて、知り尽くした優の体をまさぐる慶一の手も心地いい。
優は言葉とは裏腹に、容赦なく襲ってくる悦びに喘いだ。

(行く学校も、将来の仕事も、全部がもう決められているんだ、僕は)
まだ体の関係を結ぶ前、慶一がぽつりと言ったことがある。
(何一つ自分の自由にはできない…まるで籠の鳥みたいだよ)
冗談めかしてはいたが、慶一が家のことで愚痴をこぼしたのはその一度きりだったことが、
かえって真実味を増していた。慶一もまた、優とは別の意味で孤独なのだった。

46028-49 許されない二人 4/4:2013/11/23(土) 19:43:35 ID:DOUtdwBA
二度目の情事を終えて、慶一は甘えるように優に身をすり寄せた。
結局、重大な真実が二人の間で共有された後も、優は慶一を拒むことができなかった。
「優、来年の春から仕事をするんでしょう?」
「うん…」
優は高校を卒業した後、ここから離れた職場に就職することが決まっている。
この屋敷からでも通えるには通えるが、これを機に思い切って家を出る、はずだった。
慶一とまた離れがたくなっている自分がいる。何という意志の弱さだろうと優は自嘲した。
「いいなあ…大学なんかに行きたくない。僕も早く働きたいよ」
一呼吸おいて、慶一が優の耳元で囁いた。
「ねえ優…僕を連れて逃げてよ…僕も何か仕事を見つけるから、さ」
情事では男役をしているくせに、慶一はまるで女のようなことを言った。
優も男だから、こういった類のことを言われては庇護欲を刺激されてしまう。だが。
「そんな、おれは……」
優は目を泳がせた。慶一は一流の大学を卒業した後、菅間家の経営するグループ企業の
いずれかで働くという将来が約束されている。慶一ほど頭が良ければどこの大学にでも受かるだろうし、
きっと優秀な経営者になれる。そんな輝かしい未来を、自分が奪っていいものか。
だいいち腹違いとは言え兄弟という間柄で、こんな関係…罪深くはないだろうか。
だが、慶一は自分といたいのだという。そして、優も…

「ねえ、優ったら…、ん、」
珍しく優の方から深い口付けを仕掛ける。拙い舌の動きにも、慶一は敏感すぎるほど反応した。
「…ずるい、こんなこと、今までしてくれなかったくせに」
慶一は目を蕩けさせながらも、優に抗議した。その目から視線をそらして、
優は慶一の顔が見えないよう、慶一の頭を胸に抱えるようにして抱きしめた。
「僕には、優だけいればそれでいいんだ…父様も母様も…名家の御曹司なんて肩書も、要らない」
裸の胸に、慶一の声が滲み渡って消える。
「愛してる…愛してるよ、優…」
兄として、人として…一体何が正しいのだろう。優は慶一の言葉に答えることなく、慶一の体をさらに引き寄せた。

46128-59 介抱 1/2:2013/11/26(火) 16:08:29 ID:M.XQpq0A
 昼に怪我をした。落ちて、足首をひねったのだ。労災になるとかで怒られた。
 病院に行ってレントゲン撮って、骨には異常なし。ただのねんざ。
 医者の言葉に、上司の新谷さんがあからさまにホッとしたので、むかついた。そんなに労災が怖いか。もっと大ケガすりゃよかった。
 もともと、新谷さんとはあまり仲がよくない。ガタイばかりでかくて、やたら細かい。うざい存在だった。

 夜になって、痛み出すまでは余裕だったのだ。
 ずきん、ずきんと痛めた箇所が脈打ちはじめて、あわてて痛み止めを飲んだが遅かったらしい。
 そういや氷で冷やせって言われたっけ、と思い出すが、あいにく冷凍庫は空っぽ。
 しかたなくビールで冷やすが、飲めない温度のビールばかり増えてちっとも治まらない。
 どんどん痛みが増し、気がつくと唸っていた。
 足が、おおげさじゃなく倍に腫れてる。心拍と一緒に、ズッキンズッキンと音が聞こえるようだ。
 床に転がって足を抱えた。顔まで熱くなって目が開けられない。口が勝手に痛い、痛い、とつぶやき出す。涙がにじんだ。じっとしてられないくて転げ回った。

 と、ドアチャイムがなった。
「加原? 新谷です、開けるぞ」
 驚いた。いくら会社の寮だからって、上司が来る時間じゃない。
「……すんません、今マジ勘弁してください、すっげ痛むんで……」
「だから来たんだ、お前、絶対冷やしてないと思ったから」
 新谷さんが勝手に入ってくる。マジでむかつく。帰れって言ったのに。他人に会いたくないのに。
 うめきが自分で抑えられない。たぶん、熱も出てきて、背中の汗は冷たいのに体は熱い。
「足、出して」
「……え?」
「ああ、やっぱり腫れた。テーピングしろって言ったのになぁ」
 ぼんやり思い出す。おおげさなことはしたくなかったから、俺が医者に断ったのだ。
「保冷剤いっぱい持ってきたから。冷凍庫空いてるか?これ入れるぞ」
 スーパーの買い物袋いっぱいに重そうな何かが入ってるのが見えた。
「痛かったら言って」
「あっ! ちょ、触らないで、いた、冷た!」
「だから保冷剤。縛っとくから、ぬるくなったら取り替える、わかったか?」
 抵抗する間も力もない。身を縮めてるうちになんどかケガの足を持ち上げられ、そのたびに「いたい!」と声にならない声をあげてしまう。
「そおっとやるから……ほらもういい」
 見ると足首はグルグル巻きだった。包帯じゃなくてレトロな手ぬぐい。保冷剤がいくつも入れられて、足首を三倍にしてる。
 冷気が伝わってくる感覚。最初と違って全然冷たく感じない。
 ズッキン、ズッキンと脈打っていた灼熱の痛みが、ゆっくりと、ゆっくりと軽くなっていく。
 それで、俺はようやく力を抜いて横たわることができた。足は動かせなくてだらりと垂れたまま。
「痛み止めは飲んだか?」
「さっき飲みました……」
「早く飲まないと効かないって言ったのに……で、なんだ、これ」
 テーブルの上の缶を見とがめられる。「まさか今飲んだんじゃないよな?」
「あ、えっと……昨日のです」
「……お前なぁ、絶対飲むなって言っただろう」
 確かに酔いがまわると同時に痛み出したのだった。
「こんなことなら、病院からつきっきりでここまで帰ってくりゃよかった」
 新谷さんは顔をしかめた。

46228-59 介抱 2/2:2013/11/26(火) 16:12:56 ID:M.XQpq0A
「まだ痛いよな」
「痛いです……」
 でも、とりあえず呻くほどじゃなくなった。今はじっとしていたい気持ちで、返事をするのがだるい。
「見せて。すぐぬるくなるから、ほら、もう取り替えないと」
 保冷剤を外されて、キリキリ冷えたのをあてがわれる。
「もうちょっとしたら痛み止めが効いてくるはずだから。そしたらあと、自分でできるな?」
「はあ……何を?」
 新谷さんはちょっと困った顔をした。
 でも怒らない。『また聞いてない』って、いつも怒ってばかりなのに。
「……俺、なんでこんな痛いんですかね、ねんざなのに……」
「炎症起こしたらこんなもんだ、だから冷やせって医者も俺も言っただろ、言うこと聞かないからひどくしちまって」
「新谷さん優しいっすね」
「……俺の責任だから」
「俺、自分でやったんですよ」
「職場の事故は上司の責任」
「そんで優しいんだ……すんません」
 痛みはまだある。あるけど、緊張状態から解放されて、なんだか眠くなってきた。
「な、加原、一時間くらいでまた保冷剤とりかえるんだぞ」
 新谷さんが足の保冷剤を軽く、軽く触って何か言っている。神経が過敏になってるから、分厚い保冷剤越しなのに感じられるのだ。
 強く触れば激痛なのに、新谷さんの指が本当に軽くて、優しくて、それがなんだか……
「……加原、おい」
「なでなでしてください、痛いところ」
「え?」
「痛いんで、よしよししてくれたら気持ちいい……」
「お前、酔ってるの……本当に、もう」
 体が休息したがってる。とろとろと眠りに落ちた。
 あとで思えば、酒と痛みと薬で朦朧としていた。

 気がついたときは外がぼんやり明るい時間。
 新谷さんが、俺にかけた布団に足だけ突っ込んで寝ている。
 俺の足の保冷剤は冷たく、気持ちいい。ねんざの熱はまだ残ってるみたいだった。
 おそるおそる触って、思い出す……優しい、誰かの手が……痛みを癒してくれるその感触。
 息を呑んだ。
 ここで新谷さんが寝ている現実。相手がだれかも忘れて甘えた、俺の台詞。
「うわ……」
 思わず声が出た。
 苦手な上司に。今日だって職場で一緒になるのに。友達でも親でもないのに……すごく、優しくしてもらって。
 ひどく特別な夜だったような気がした。こんな時間を過ごしたあとで、どんな顔してみせればいい?
 俺は頭を抱えた。足が痛んで呻いた。
 新谷さんが目を開けて「まだ、痛いか?」と聞く。俺は首をぶんぶん振った。

463モンクレール アウトレット:2013/11/30(土) 10:31:47 ID:Oo3yud4A
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46428-339 不細工な蜘蛛と真っ白い蝶:2014/01/15(水) 13:02:48 ID:nHOW4oGI
 モンシロチョウのクリームがかった白い羽がホコリとガラス片にまみれて床に落ちていた。
 どこにでもいる蝶で、小さくて、蜘蛛の巣にかかって暴れているところを捕まえたために
羽も傷んでいるそれは標本としての価値はもともと薄い。
 けれどこの生物部に入って最初に作ったこの蝶の標本は、俺の宝物だった。
 だからこそ食われたり湿気ったりしないように環境の整った理科室に置かせてもらっていたのに。
「久保田」
 声とともに肩に置かれた手にびくりと体が跳ねる。いつの間にそこにいたのか、
同級生の葉桐がこちらを見下ろしていた。
「それ、誰がやったの」
 答えず、また俯く。知っているくせに、という言葉は飲み込んだ。
 知っているくせに。
 俺が虐められているのも、その主犯がお前に片思いしてる女の子だってのも、
その理由がこうやってお綺麗なお前が正反対の俺にかまうからだってのも、知っているくせに。
 なのになんでまだ俺に寄ってくるんだ。
 答えない俺に焦れたように肩の手に力がこもる。
「ね、言って。久保田が僕に助けてって言ってくれたら、僕はなんでもするから」
 嫌だ。絶対に、お前にだけは頼りたくない。
「僕を利用してよ、久保田。一言でいいんだ、君が僕を選んでくれれば、それで」
「止めろ!」
 振り払うその動きだけで、なぜか息が上がった。緊張のせいかもしれない。
「これは俺の問題だ、もう近寄るな!」
 怖い。葉桐の執着が。葉桐の献身が。
 全てを俺に捧げんばかりの、その感情がどこから来ているのかわからないのが、怖い。
 いっそ裏があるといってくれればいいのに、その目には一切の影もない。
 あるのはただ、俺に対する純粋なまでの執着で。
 いつの間にか振り払ったはずの手がすがるように俺の首に回されていて、
その病的なまでに白い肌が足元に落ちた蝶に重なって、何故だかひどく泣きたくなった。

46528-449 リアリスト×オカルト好き 1/2:2014/02/03(月) 00:05:39 ID:0LFcBspc
「くだらねえよなあ」
出来上がった見本誌を興味なさそうにぺらぺら捲りつつ編集長がぼやいた。
読んでいるのは我が出版社の唯一にして看板の雑誌、その最新号である。
オカルト雑誌なんてくだらない、というのがうちの編集長の口癖だ。
この口癖を聞き続けてそろそろ一年になるが、そのときの俺はその言いようが聞き流せなかった。
「それじゃあ聞きますけど。なんで編集長は編集長なんですか」
「なんだその質問。哲学か?」
「違います。どうして編集長はオカルト雑誌の編集長やってるんですかってことです」
言い直すと、編集長は皮肉っぽく笑ってから答える。
「そんなもんお前、日々の生活の為だよ」
「生活の為に、くだらない雑誌作って世間にバラまいてるんですか」
先月いっぱい取材して二徹までして完成させた記事(『死の世界へ繋がる公衆電話』現地レポート)を
軽んじられた気がして、俺の口調は刺々しいものになる。
「それって、読者の人に失礼だと思います」
もしも自分がこの雑誌の熱心な読者だったらと想像する。自分の愛読雑誌が作り手によって
「くだらない」と言われていると知ったらきっと憤慨するだろう。というか絶対する。
一年前の自分に伝えたら、就職先を考え直すレベルだ。……いや、出版社に乗り込んでこの人を一発殴るかも。
そんなことを悶々と考えていたら、「お前なあ」と呆れたような声が聞こえた。
顔をあげると、編集長は煙草にライターで火をつけながらこちらを見ていた。
少し真面目な表情になっている。
「俺は別に手抜きの雑誌作りをしてるつもりはねえよ。読者が何を求めてるか把握してそれを提供するのが俺の仕事だ。
 お前だって今月号のこの記事、手間隙かけて取材して何度も原稿直したんだろ?読者に伝わりやすいように」
思わぬところで話題が俺の記事に及んで、反応が遅れてしまった。
「えっ、まあ、そりゃあ、頑張りました、けど」
「そのお前の姿勢が、読者への失礼にあたるのか?」
「いや、あの………。え?」
「あの記事はなかなか読みやすいし、落としどころも上手い。読者ウケもけっこういいんじゃねえかと俺は睨んでる。
 反響あったら追加取材もいいかもな。それかシリーズ化もいいだろう。読者のニーズに応える、当然のことだ」
思い切り論点を摩り替えられている気がしたが、そのときの俺は編集長に記事を褒められたことの方に
意識の大部分を持っていかれていて、突っ込むことができなかった。
それどころか、しどろもどろに「ありがとうございます」などと言う始末。俺は馬鹿か。
「いいか、よく聞け」
俺が怯んだ隙をつくようにして、編集長はたたみかけるように喋る。
「お前がオカルト大好き野郎なのはよく知ってる。だがそれと雑誌作りをごっちゃにするな。それは公私混同だ。
 俺達が読者へ提供するのはエンターテイメントだ。読者の求める真実と、オカルトの真実をイコールにしてはならない。
 ただ単に情報を羅列しても何の意味もない。俺達は『オカルト』というものをどう料理して客へ出すかを心得たプロであるべきだ。
 俺達が材料をどう思っていようが読者には関係ない。雑誌の中身で読者の欲求を満たせるか、シビアだがそれが真実。
 百パーセント真実だけを載せてもそれは生野菜を適当に転がしてるようなもんだ。素材を生かすには適量の虚構が必要だ。
 俺達はどれだけ読者の目を欺き、虚構の混じった真実を読者好みのエンターテイメントに仕上げるか、その一点に尽きる」

46628-449 リアリスト×オカルト好き 2/2:2014/02/03(月) 00:06:57 ID:0LFcBspc
機関銃のように捲くし立てられて、俺は頷くことしか出来なかったが、
「ま、そういうわけだから。俺がこれをくだらねえと思ってようがどうしてようが、中身がよけりゃいいんだよ。
 飽きられたらおまんま食い上げだろ。飯のタネを捨てるほど俺は愚かじゃないし、平穏に暮らしたいからな」
という締めではっとし、思わず自分のデスクをバンと叩いた。
「ですから!そういう言い方しないでくださいよ!」
「うるせえなあ。中身がいいんだからいいだろ」
「もう誤魔化されませんよ!?」
この編集長はいつもそうなのだ。
もっともらしいことを次々と並べ立てて煙に巻く。相手をのせて自分のペースに巻き込んで、我を押し通す。
俺がこの出版社に入社したのだって、この編集長の口先八寸が原因だし。(俺がここの雑誌を愛読していた経緯もあるにはあるが)
「そもそもなんでオカルト信じてないのにオカルト雑誌の編集長してるんだっていう話をしてるんです!」
「……。お前、たまにめんどくせえよな」
飄々と肩を竦めて見本誌をデスクに放ると、編集長はやれやれと呟いて立ち上がった。
そして長い溜め息を吐きながら俺の方へと近づいてきたかと思うと、座ったままの俺の両肩に手を置く。
「なっ、なんですか」
やばい噛み付きすぎて怒らせたか?まさかクビなんてことは…と
内心びくつく俺の心を見透かすように目を細めて、編集長はこちらを覗き込んでくる。
「信じてないって、なんだ?」
「は?」
「お前はお前であることについて信じるとか信じないとか考えたことがあるのか?」
「なんですかその質問。て、哲学ですか」
さっき彼が言ったセリフをそっくり返すと、編集長はにっこりと笑う。
なぜだか、ぞっとした。
「あんまり駄々をこねるとこうなるってことだよ」
そう言ってから彼は更に屈み込んで顔を近づけてきて、俺にキスをした。
唇に。思い切り。キスを。
十秒後。フリーズしたままの俺から顔を離すと、編集長はまたいつもの雰囲気に戻って皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「仕事熱心なのはいいが、ほどほどにしとけよ。深みに嵌ると抜け出せなくなるぞ。現実見ろ、現実」
「…………」
「つって、テメエが言うなって話だな」
ははははと豪快な笑い声をあげて、俺の肩をぽんぽんと叩いて、編集長はまた自分のデスクへ戻っていく。
俺は呆然とその後ろ姿を見つめていた。
(な、なんだ今の)
顔が熱い。頭の中が混乱の極みでぐちゃぐちゃしている。ついでに体もだるい。
締め切り前の追い込みによる肉体疲労と(考えたくないが)さっきのあれによる精神疲労でどっと疲れが出たのか。
反論する気力を削がれた俺は、その後は大人しく次の取材について企画書を書き始めた。
あんなセクハラかまされたら身の危険を感じて仕事を即辞めてもいい筈なのに、そのときの俺はそんなこと毛ほども考えていなかった。
いつものように「また煙に巻かれた」と思う程度で済ませていた。

今思えば、おかしいと思うべきだったのだ。自分の思考と認識がほんの少し方向付けされていたことに。
しかし同時にそれは無理な話でもあった。

『それ』に気付く頃には、俺は抜け出せなくなっている。

46728-469 プリクラ:2014/02/06(木) 19:54:38 ID:1d4B22lA
「男同士でプリクラってのは恥ずかしくないか?」
「堂々としてれば、そう気にする人はいませんよ」
「しかし…こんなおじさんとで大丈夫か?」
「まだ三十半ばでしょう。まだまだですよ」

彼と知り合ったのは、ゲイコミュニティの掲示板だった。
ヤリ目的でタチネコスリーサイズが踊る中、ただ「誰かと話がしたいです」というメッセージだけが残されていた。
場所も近かったので好奇心で待ち合わせてみると、やってきたのは疲れた顔をしたサラリーマンだった。
誰かと話したいというわりには彼はひどく無口で、佐山さん、という名前を聞き出すのさえ1時間くらいかかった。
それでも、ぽつぽつとたわいない話を続けているうちに、少しずつ自分のことを教えてくれた。
昔、とても大切な幼馴染がいたこと。
その人に友情というだけでは片付けられないほどの想いをもっていたこと。
それ以上好きになれる人が見つけられなくて、自分がゲイではないのか悩んでいるということ。
「…その人とはどうしてるんです?」
「自分の気持ちが怖くなって、上京にかこつけて逃げ出してしまった」
そこまで聞くのに、さらに二時間ほどかかった。
全てを話し終えて、佐山さんは少しすっきりした顔でふう、と溜息をついた。
「で、どうでした?」
「え?」
「話し相手としては、合格でしたか?」
「ああ、僕にはもったいないほどの相手だった。ありがとう」
「それはよかったです。もしよければ、今度はこっちの話を聞いてくれませんか?」
こうして、時折二人で出歩く仲になった。

ある日、喫茶店に入ったとき、トイレに立った佐山さんはテーブルの上に携帯電話を置いて行った。
いささか骨董品めいた古い縦折り型の機種。何か感じるものがあって、その電池カバーをスライドさせた。
カバー裏を見てみると、年季の入った一枚のプリクラが貼られていた。
当時流行っていたゲームのマスコットのフレーム。
照れ隠しと分かる仏頂面で、学生服の少年が二人映っている。
そっぽを向いたうちの一人はおそらく昔の佐山さんだ。
どちらから、どんな言葉で誘ったのだろう。
きっと、男同士でなにやってんだろうな、気持ち悪いな、なんて必死で笑って。
それでも、色あせてなおずっと大切にして――。
この一枚の背後にある情景を思い描いていく中で、自分がどれだけ彼のことを愛おしく思っているかに気付いた。
臆病で、ステレオタイプな佐山さん。共に過ごす時間がゆっくりと増えていくだけで満足だった。
しかし、アミューズメント施設で映画を見た帰り、
ゲームコーナーのプリクラ機体を目にしたときにその気持ちは蓋を押し上げた。
上から踏みにじりたいわけじゃない。同列に並べてほしいわけでもない。
ただ、頭の片隅に自分を置いてくれているのか、分からなかった。

「男同士でプリクラってのは恥ずかしくないか?」
「堂々としてれば、そう気にする人はいませんよ」
「しかし…こんなおじさんとで大丈夫か?」
「まだ三十半ばでしょう。まだまだですよ」
そういうと、佐山さんはうーんと唸る。本当に嫌ならば、無理強いするつもりはなかった。
「いいよ」
「……えっ?」
こんなに早く返事が返ってくるとは予想してなくて、耳を疑った。
佐山さんは、もっと、こういうことに悩んで、苦しんでしまう人だと思ったのだ。
「君はいつもスマートだから、年上としてふがいないとは思ってたんだ。
 そんな君からの初めてのお願いだ。何としても、叶えなきゃね」
「――ありがとうございます」
「なんて顔してるんだい。なんだかこっちまで嬉しくなるね。
 さあ行こう。僕は不慣れだから、君が教えてくれると助かる」
暖かな声に迎えられて歩きだす。
飾り付ける前の透明なフレームの中に、今度は2人、笑って。

46828-509 バレンタイン:2014/02/18(火) 01:22:54 ID:9sB4q356
唐突だが、俺には恋人がいる。
幼馴染かつクラスメイトである俺たちの腐れ縁は発酵して、爛れて、どうしてか恋愛感情として落ち着いた。そいつも俺も男だが、俺達は立派な恋人である。今日も一緒に下校するため、校門でそいつの部活が終わるまで待っている。
話は変わるが、本日世間はバレンタインデー。店先には様々な種類のチョコレート製品が並び、おめかしをした女子たちがそれをきらきらと輝く瞳で見つめてはしゃいでいる。彼女らが各々の想い人に渡すのであろうチョコレートを購入している姿をなんとはなしに見ていると、隣から大きなため息が聞こえた。
「啓、」
いつの間にか部活は終わっていたらしい。女子たちを眺めている恋人の名前を呼ぶと、彼はこちらに目を向けた。
「華やかだよなあ、おい」
無視して歩きだすと、まてよ、と啓の足音が追いかけてくる。
「あーあ、今年は誰かさんのせいでチョコ貰えねーわ」
「そりゃ悪かったな」
社交的な啓は男女問わず友人が多い。去年まではたくさんの義理チョコを貰っていたし、その中には本命もいくつか入っていたように思う。
今年はどうやら俺の断ってほしいという頼みを、ちゃんと守ってくれるつもりらしい。自然と上がる口角を誤魔化すため、コンビニによる、と告げた。
「なあ、お前が俺にチョコくれよ」
何を言い出すんだと問返すと、啓はにやにやしながら、チロルでいいからとレジの方を指差した。見ると、バレンタインに!と書かれた賑やかなポップとともに、チロルチョコが置かれている。
「買わねえよ」
「けち」
「財布が寒いんだわ」
「チロルがきついってどんだけだよ」
けらけらと笑う啓を横目に、俺は肉まんを購入した。金無いんじゃなかったのかよ!と啓が文句を言い出したので、半分やるから、と宥める。途端に静かになるので、まるで子供のようだと微笑ましく思った。
コンビニを出てから駐車場で、肉まんを半分にして渡してやると、啓は嬉しそうに受け取った。一口齧ってから、
「これ、バレンタイン?」
などと言うから、
「俺らっぽいだろ」
と俺も一口齧る。ありがと、と小さく述べたあと、肉まんに集中した啓を横目で見ながら、完全に渡すタイミングを逃したカバンの中のチョコレートをどうするかとひとりため息をついた。

46928-549 優等生弟×空回り兄:2014/02/23(日) 15:49:26 ID:ci25Vx5Y
「一彦、悪いんだけど、今日は嗣史の保育園の送り迎えお願い出来ないかしら?」

いつもの起床時間よりも早めに体を揺すられ、母さんに起こされたのは、体調が悪いという母さんからピンチヒッターを頼まれたからだった。

嗣史は、母さんと再婚した義父との間に出来た弟で、高校生の俺とは10歳以上離れている。嗣史の保育園は、俺の通う高校を少し過ぎたところにあるため、普段はパート前に母が保育園へと送る。義父は刑事で、事件があれば昼夜関係なく出ていってしまうので、基本的に母さんがどうしても迎えに間に合わない日などは、俺が迎えに行くこともあった。しかし、朝を頼まれるのは初めてだった。

「じゃあ、母さんの自転車借りるね。嗣の迎えも俺が行くから、今日はゆっくり休んで。パートも休ませてもらいなよ?」

今日は、母の代わりに兄として俺がしっかりしなければ!

放っておくと無理をする母さんに釘を刺し、自身の頬を叩いて気合いを入れ、登校の準備をする。いつもより手早く支度を整え、嗣史を起こし自分で準備をさせる。

「カズくんが起こしに来るなんて珍しいね」

カズくんとは、義父が俺のことをカズくんと呼ぶから、嗣史も自然と俺をそう呼ぶようになっていた。俺はニーチャンって呼ばれたいのに!

「今日は母さん風邪みたいだから、ニーチャンで我慢しろ」

ニーチャンを強調しながら言いながら、俺は台所へと向かう。朝食をと思いトーストを焼きながら、母さんの為にお粥を用意する。

「カズくん、なんかコゲくさいよ」

準備を整えて台所へとやって来た嗣史に指摘されて慌てて振り向くと、黒い範囲が広いトーストが出来上がっていた。
鼻づまりで臭いに気付かず、焦がしてしまったトーストを慌てて皿に移し、新たにパンを乗せて先ほどよりタイマーを縮めて調理をスタートさせる。その時、熱々のトーストで火傷しかけて保育園児に心配される情けない俺。

「嗣、ごめんな?新しいのできるから、もう少し待ってろ」

「カズくん、僕これでいいよ。カズくんもアツアツのパン食べたいでしょ?」

「でも、これ苦いぞ?」

「大丈夫!」

そう言って元気良く食器棚に向かい、バターナイフを取り出してガリガリと焦げ目を削り落としていく。我が弟ながら賢い。そして、弟に失敗をフォローされ情けなく思った。

47028-549 優等生弟×空回り兄:2014/02/23(日) 15:52:13 ID:ci25Vx5Y


朝食での失敗を挽回しようと、嗣史を保育園へ送るべく自転車の用意をする。しっかりと安全用にヘルメットを装着し、シートベルトを嵌める。

母さんの運転とは違う、高校生男子ならではのパワフルな走りを嗣史に見せて、兄の威厳を取り戻してやる!

と思い、ペダルを踏み出そうとした矢先、自転車はヨロヨロとバランスを崩して倒れかけた。慌てて足をついて嗣史を乗せた自転車を支える。いつもと重心の違う感覚に、上手く走り出せなかったのだ。

「カズくん、今日は早起きしたし、歩いて行こう?学校行く前にカズくんがケガしちゃうよ?」

自転車が倒れてしまえば、自分だって怪我をするのに、真っ先に俺のことを気遣う。

そんな弟を思わず抱きしめ、兄のプライドと意地を捨てて素直に嗣史に従い歩いて登校することを決める。こんな可愛い弟を怪我なんてさせられるものか!

そんなこんなで、嗣史の手を引きながら保育園までの道のりをお喋りしながら歩く。

「情けないな…」

「カズくん、どうしたの?カズくんもかぜ?」

落ち込んだ姿を見て、嗣史が心配そうに尋ねる。

「違うよ。ニーチャンはさ、嗣くらい小さいときって、カッコイイ兄ちゃんが欲しいなって思っててさ。嗣が生まれたとき、俺は嗣の自慢の兄ちゃんになるんだって決めたんだ。だけど、失敗ばっかだからさ、少し落ち込んでたんだ」

「どうして落ち込むの?カズくんは僕の自慢のおにいちゃんだよ」

「え?」

「カズくん、失敗は誰でもするんだよ?でもね、失敗は恥ずかしいことじゃないって、パパが言ってたんだ。カズくんの失敗した時はね、パパとママと、カズくん可愛いねーって言ってたんだよ」

義父、なんていい事を言うんだ。可愛いは聞き捨てならないけど。と、感動したのも束の間、嗣史から爆弾が投下される。

「それに、カズくんみたいに失敗の多い人は“どじっこ”で、可愛いどじっこは“おれのよめ”なんだよ」

「…は?」

「だからね、可愛いカズくんは僕が大きくなったら、およめさんにしてあげるね!」

と、無邪気な笑顔でプロポーズをされる。

「そ、それも、義父さんが言ってたの?」

返ってくる答えを聞くのは怖いが、恐る恐る訊ねてみる。

「違うよ。保育園のやよいせんせーだよ」

「そ、そうかー 」

はははと乾いた笑いを返しながら、この純真無垢な可愛い弟を、本当に保育園まで送り届けるべきか迷いながら、にこやかに歩く弟の手を引いて通学路を進むのであった。



とりあえず、成長すればそれこそ可愛い彼女でも出来るだろう。


そう思ってそのまま考えを正さなかったために、俺は10年後に後悔することになるのは、また別の話。

47128-639 美形で甘えたで淫乱で喘ぎすぎ、な攻。:2014/03/14(金) 17:07:49 ID:reivYb7U
「ぁ、あ…っ、…ショウちゃんの中、…気持ちイッ…」
熱い吐息とともに零れる甘い声。
白い肌を赤く上気させ、快感に蕩けた瞳が俺を見下ろす。
「ショウちゃんも、…気持ちイ…?」
「っ、…ああ、…俺も…気持ちイイよ…っ…」
頷いて返した言葉を裏づけるように己の内部を締めつける。
「ああっ、…そんなに締めたら、…俺、もう…っ…あ、あん、…イッちゃう、…イっちゃうよ、…ショウちゃんっっ…」
タクミはぎゅっとしがみついて夢中で腰を振り、すぐに身体を震わせて俺の中で果てた。
「…っ…はぁ〜、…気持ちヨカッタ〜」
クリームを舐めた猫のように満足げに目を細めるタクミだったが、つとその眉が寄せられた。
「ごめんね、ショウちゃん、また俺だけ先にイっちゃって…」
申し訳なさそうな表情に思わず口元が緩む。
――コイツって本当に可愛いよな。
 大丈夫だよと微笑んで、手を伸ばしてタクミの髪をくしゃりと撫でると、タクミの表情も綻んだ。
 腹の上に置かれたタクミの手を取り口元に運び、指先を口に含んだ。
 舌先でねっとりと舐めあげて、
「だって、またすぐ元気になってくれるんだろ?」
 視線を絡ませながら問いかけると、タクミの瞳にまた欲望の火がともる。
 普段は性欲などと無縁そうなこの綺麗な顔が俺に対する欲情に染め上がるのを見ると、いつもぞくぞくと興奮する。
「今度は、一緒にイこう」
 俺の中でタクミが元気を取り戻したのを感じながら、熱い吐息とともにそう告げた。

472拘束プレイ:2014/03/24(月) 16:49:36 ID:nso5cp1I
本スレの続きです。


そのまま尻を持ち上げて、ねっとりと舌を這わせた。無理な体勢だからか、先輩の足が小刻みに震えている。
しばらくたっぷりと穴を濡らしていたが、なんだかだんだんこっちが覚めてきた。
何だろう、何か違う。
違和感を振り払って、先輩に覆いかぶさる。
「それじゃ、いきますよ」
「私は構いませんが……本当にいいんですか?」
「……?」
何が言いたいんだろうか。僕は耳を先輩に寄せてみた。
「あなた萎えかけでしょう? 物足りなくて、何かが違う気がして」
図星だったが、動揺を出さないようにして聞き続ける。
「なめている間、こう思っていたでしょう。『これが自分のだったら、気持ちいだろうな』って」
「っ!」
「私もほら、こんなはしたない恰好です。あなたも乱れたところで、五十歩百歩。やってしまえばいい」
「やる、って……」
不意に、先輩が首を動かした。顔の横に置いてあった僕の手に舌を伸ばし、指をかするように舐める。
「そう、指をたっぷり濡らして、ほら、好きなようにいじればいいんです」
手を先輩の方に動かすと、先輩はねっとりと僕の指をなめてくれた。そのしぐさがいやらしくて、僕はゾクゾクした。
唾液まみれの指を後ろに持っていく。意外とあっさり、指は僕の中に滑り込んだ。
「あっ」
初めて感じる感触に、つい夢中になっていじり始めた。
「ところで、どうして私を犯すのがあなたにとって物足りないか知りたいですか?」
微笑みながら僕を見ていた先輩が、不意に話しかけてきた。
「……?」
「下を見てごらんなさい」
視線を落とすと、放置していたにも関わらず萎えていない先輩のモノが見えた。
「今、この状況でそれを見て、『これが自分を犯していたら』と考えたでしょう? それなんですよ」
「っ! ち、違う!」
「ねじ込まれて、何度も出し入れされて、中に出されて、目の前が真っ白になって」
先輩の静かな、それでいて鋭い言葉が胸に突き刺さる。
「快感でぐちゃぐちゃになって、体も心も私に支配されて、気持ちよくてたまらなくて」
「ち、がう……ちがう……」
「ここまで言われても、私の性器から一度も目を離しませんでしたね。いいんですよ、それで」
「ちがう……これは……」
「それは欲情です。もうあなたは、私に抱かれないと満足できない。そう仕込んだのだから、もう逆らえない」
もう先輩の体をおさえることもできず、足の間に座っているだけになってしまった。
「さあ、ほら、腰を上げて」
先輩が片足を曲げ、促すように軽く僕の体に触れた。思わず膝立ちになってしまう。真下に熱を感じて、僕の体も熱くなった。
「そう、そうしたら、位置を合わせて腰を下ろしてください」
まるで操られているかのように、僕の手がそっと先輩のモノにあてがわれた。そのまま、少しずつ腰を下ろしていく。
どうしていいか分からず、先輩を見る。先輩は、いつものような優しい笑みを浮かべていた。
「怖がらなくていい。あなたは私のものなのだから、私に従うのは当然です」
一貫して変わらない、冷静な声。強制などされていないのに、逆らえない。
「さあ。入ってしまえば、後はもう自由ですよ」
ひたり、と入口に先端がついた。くい、と先輩のあごがかすかに動いたのに合わせて、腰を一気に下ろす。
「ぁあああああっ!」
脳天まで貫かれるような衝撃と、痛みと快感。体が動くのを留められない。
「たまにはこういうのも面白いですね。ほら、もっと激しく」
先輩は一切手出ししていないのにもかかわらず、いつもと同じ、あるいはそれ以上に激しく体が揺さぶられる。
もう自分がどうなっているかも分からず、ただひたすら体のおもむくままに快感を味わっていた。

47328-699 卒業する先輩×入学してくる後輩 1/2:2014/03/27(木) 14:49:12 ID:2OFVafhI
僕の荷物はまだ届いてないようで、まずは一つクリアと胸をなで下ろした。
この春から大学に入る僕の初めての独り暮らし。引っ越し荷物を積んだトラックよりも早くついて待っておくのだと親に言い含められていた。
新生活の舞台となるアパートは古くて狭い学生用の安い物件。実家が遠方の僕は電話とネットだけでここを決めたから、僕の部屋である二〇四号室を見るのは初めてだ。
期待とともに階段をあがると、なぜかドアは開け放たれていて、覗き込むと雑然とした荷造り、場所をずらした家具、バタバタと動き回る知らない人。
聞いてない、前の住民がまだいるなんて。これ、引っ越し途中ってことじゃないか!
部屋の表示を見直すとやっぱり二〇四号。どうしたらいいのかわからず立ちつくしていると、中から背の高い眼鏡の男がゴミ袋片手に顔を出した。
余裕なく、
「ごめん、新しい人でしょ、ごめんごめん、あの、すぐこっちのトラック来るはずだから。聞いてたんだけど、ちょっと遅くなっちゃって、ごめんね、ちゃんと間に合わせるから。それまでどっかで待っててくれると助かる……」
まくしたてながらたたきに置いたゴミ袋がひっくりかえって中身が落ちる。それをあわてて拾いながら、
「あ、ああ、えっと、君、何時だっけ」
トラック到着は今から二時間後の予定だった。
「うん、大丈夫、僕のほうは荷物これだけだから、えっと、新入生だよね」
「はい」
「どこ行ったらいいかなんてまだわかんないよね。そこの道、ちょっと行ったところに『かおり』っていう喫茶店があるけど、そことかどう?」
「はぁ……」
喫茶店なんか一人で入ったことがない。そういう提案をするというだけで、この頼りなそうな人が急に大人に見えた。ためらってると、僕のとまどいがわかったみたいで、
「ああ……それもちょっとか」
ふっと笑われた。全然馬鹿にしたふうじゃないその表情が急にすごく先輩らしくて、なんだか優しい人だなと思う。大学生の先輩後輩ってこんな感じなのか。
「んー、そうだなぁ」
優しそうな人は考え込んだ。
「もしよかったら、空いたところに座ってる? ここ、もう君の部屋なんだし」
ちょっとほこりっぽいけど、よければ、と僕を差し招く。
「ワンルームでバタバタやってるんじゃ落ち着かないと思うけど。君、ゲームとか本とか、なんか暇つぶししててよ、荷物出して掃除して、すぐだから。ほんと、悪いねぇ」
言ってる間にちょうどトラックのバック音が階下にひびく。おそらくこの人のほうの業者が到着したんだ。
「ああ、来た来た、じゃ、待っててね」

47428-699 卒業する先輩×入学してくる後輩 2/3 分割間違えました:2014/03/27(木) 14:54:36 ID:g4hhbxaU
「……悪いね、本当にありがとう。君がいてくれて助かったよ」
「そんな、僕こそ、ありがとうございました」
僕のものが運び込まれた二〇四号室は、今は完全に僕の部屋だった。そこで、一緒にコンビニで買った弁当を食べている前の住人であるこの人と僕。
この人が自分の荷物を運び出している間に、一時間早く僕のトラックがやってきた。そこでトラブル発生、料金は親が先に支払っていたはずなのにまだもらってないなどと言い出す運送屋のこわいおじさん。何も言えない僕。
『ああ、すみません、お待たせしてます……あれ、どうしたの』
ひと言入れに来ただけのこの人が、泣きそうな僕に気づいて口を挟んでくれた。
『行き違いみたいですから、もう一回会社とこの子の親御さんに確認しましょう。ね、君、大丈夫だから』
自分の引っ越しそっちのけで不満顔の業者相手にてきぱきと指示を出して、会社のミスだったのを見つけてくれたのだ。
中断していたこの人の荷出しを僕は手伝った。そしたら僕の荷入れを今度はこの人が手伝ってくれて、おまけに両方の業者に『遅くなったから』と飲み物まで用意してくれて、全部終わった今、僕にまでお弁当なんかおごってくれて。もうお世話になりっぱなしで顔もあげられないけど、
(なんか、本当にいい人だな、最初に思ったとおり)
激動の初日に僕はぼうっとしてしまって、なすがままに甘えてしまっている。
「しかし懐かしいな、一年生か。いいよ、大学生って。四年間なんでもできるし、一生の友達や目標が見つかったり、人生が決まったりね。僕は六年間もやっちゃって今年やっと卒業だけどね。とうとうこの学生アパートともさよならかと思うと感無量だな」
六年って留年? 真面目そうなのに意外な気がする。
「先輩……なんですね、もう卒業なんですね」
せっかくこの町ではじめて知り合った人だというのに、これっきり。
「卒論が長引いてね、こんな遅い時期まで居座っちゃった。君は頑張るんだぞ、提出物はしっかり期限を守ること。ああ、学部はどこ?」
「理学部です」
「あら、僕の後輩だな……さて、ごちそうさま。今日は本当にありがとう」
ゴミをまとめて立ち上がった。僕は名残惜しくて、でもどうしたらいいのかよくわからない。
「あの、僕知り合いもまだ全然いなくて、大学のことも全然わからなくて、先輩が初めての知り合いなんです、もしよかったら」
勇気をふりしぼったら、やんわりと、
「僕は去りゆく身だからねぇ。まあ、いいんじゃないかな、僕は」
これは拒絶なんだろうか。
「君はすぐ入学式で、そしたら友達もできるし、サークルにもし入ったら先輩なんかいやというぐらいできる。アルバイトとか、彼女とか、もちろん勉強もね、毎日忙しくて大変になるよ」
僕は今、釘をさされてる。この人をなんていい人なんだろうって思ってるのを、気の迷いなんだよって言われてる。
僕がもっと大人だったら察することもできたんだろう。きっと彼はこう言いたかったに違いない、今、彼に感じている親しさは、新しい環境に不安を感じている子供の勘違いだと。これから出会うたくさんの人の中で、決して特別な出会いじゃないってこと。──ひょっとしたら、たった一回のことで懐かれるめんどくささもあったかもしれない。
「でも、あの、じゃあちょっとの間でいいんです、電話が無理ならメールだけでも、先輩。入学式までの間は僕ひとりなんで、いろいろ教えてください」
実際のところ、僕は子供だった。あきれかえるほどの図々しさ。その時は必死で気づきもしなかった。
彼は苦笑したんだと思う。仕方ないなぁ、いいのかなぁ、いやよくないなぁ、と首の後ろを撫でる。
「今だけだよ、心細いのは。……うん、まあね、その気持ちはわかるんだけど」
まるで親が見守るような優しい目で見られて、年齢とか、経験のへだたりを強く思わされた。僕が十八才ならこの人は……いくつだろう、少なくとも六は年上。
「今からいくらでも素敵な出会いがあるから、大丈夫」
本当に? 大学ってそうなのか? こんなにも執着したくなるような出会いが、そんなにも数多くある場なのか?
長い指がひらひらと別れを告げる。
「僕のことなんかすぐどうでもよくなるよ」

47528-699 卒業する先輩×入学してくる後輩 3/3:2014/03/27(木) 14:55:50 ID:g4hhbxaU
後からわかった。この時すでに恋に落ちていた。強烈な一目惚れ。
相手が同性ということもあって初恋に気づくまでに長い時間がかかって、ようやく慌てたときには僕には何の手段もなかった。あの人の言うとおりたくさんの友人も先輩も知り合いもできたけど、毎日苦しくて、切なくて。
なんだ、やっぱり特別だったんじゃないか。
歯噛みする思いでもっと食い下がらなかった自分を悔いて、結局なにも教えてくれなかった人を恨んだ。
「……だって、なんか君輝いてたんだもん、目がキラキラしててね、僕のことまっすぐ見てね、もう学生でもない僕じゃ友達としても不相応だと思ってねぇ……まあ僕も、先生になるんだ、学生じゃないんだってちょっと気負ってたんだろうね」
僕が三年生になったある日、教育学部になんかに所属してたこの人を見つけたときの驚き。
生物関連の研究室で助手兼論文執筆していた彼を、名前も教えられなかった僕は二年あまりも見つけることができなかったんだった。引っ越しも、学生専用アパートを出ただけで同じ市内だったというのに、それも全然わからなかった。六年間といえば修士の年数じゃないか。
いろいろあきれかえった僕に、それでもまだ若さゆえの馬鹿馬鹿しい情熱が残ってたことに感謝してほしい。
僕が輝いてたって?それってあなたからも好意を感じてくれてたって事じゃないのか。
「俺、最初から運命の出会いだって思ってましたから、先輩」
「ごめんごめん、そうだね……本当にそうだったね」
勝手知ったる元の部屋に今では入り浸りの先輩が笑った。
僕はもう子供じゃないし、先輩も今では全然大人に見えない。

47628-779 失恋してアル中一歩手前なあいつに片思い:2014/04/13(日) 15:59:51 ID:JymAhSoY
彼が振られたことはフロアの人間全員が知っている。
たぶん、次の異動では彼と彼女の両方がここから姿を消すことになるのだろう。
「あれ、何とかした方がいいんじゃないですか、島野係長、うちは接客もある社なんですし」
今日も言われてしまった。お節介な女性社員のみならず、今回は総務課の、普段はうるさいことなど言わない人からの指摘。
彼はそんなに目立ってるのか、と認識し直す。僕が気になるだけじゃない、客観的に見てひどいのだと。
彼は僕の部下だから僕には管理責任がある。
だから僕には彼を叱咤し、立ち直らせる義務がある。
大丈夫、おかしくない。僕は自分に言い聞かせて席を立つ。
「稲田君、ちょっと」
「あ、はい」
呼び出して使われていない小会議室へ。
途中でコーヒーを買ってやったのは、目を覚ます意味ももちろんあったが、なによりこの漂う匂いをごまかしてやるためだった。
「すみません」
大きな体を椅子の上で曲げ、しおらしくカップに両手を温める姿がいじらしい。
慌てて気をそらす。僕はあくまで上司なんだと自分に言い聞かせる。
「何言われるか、わかってるよな」
僕の言葉に彼は「すいません」と小さく答えた。
座るとますます視線の高さが違い、僕は彼を、下から覗き込むようにしないといけない。
「まさか、朝も飲んでるんじゃないよな」
「いえ、さすがにそれは。ただ、眠れないんで」
つまり朝方までやってるってことなのだろう。
内心、同情する。つまりそれぐらいひどい振られ方だった。
結婚を前提につきあっていたはずが、降ってわいた別れ話。彼女の腹には愛の結晶、別の男の。
よくある話かもしれないが、隣り合った係同士のカップルじゃ最悪だ。
おかげでこいつ、こんなに壊れてしまった。
人一倍大きな体のくせに気が優しくて、仕事が丁寧と評価されていた。
誰とでも上手くやれる方だったが、僕とは特に気があった、というのはうぬぼれじゃないだろうと思う。
一緒に飲みに行くのが週末の習慣だったのに、いつしか奴が彼女のことしか話さなくなって、程なくつきあい始めたという報告。
あの時、あんなに祝福してやったじゃないか。
こんなことになるなら……わかってれば俺が。わき上がる妄念を、頭を振って払い飛ばす。
「酒で眠ろうってのが間違いなんだよ」
「わかってるんですが」
「もう一切買わないようにしろ。翌日匂うまで飲むなんて非常識だ。食事、睡眠、きちんととれ。シャツにアイロンかけて、ネクタイも毎日替えろ。身だしなみぐらいちゃんとしてくれ、常識だろう」
「はい……」
どのくらいの厳しさで言えばいいのか、全然判断がつかない。
本当は、大丈夫なのかって寄り添いたい。しっかりしろよって胸ぐらつかみたい。
彼女のどこがいいんだよって。さっさと忘れて元のお前に戻れって。
それで、また飲みに行こうって。
「仕事の方はしばらく軽くするから。今やってる件、俺にまわして」
「いえ、そんな、それはちゃんとします」
「できないから言ってるんだよ、人に言われる前に自分で気づけ」
はっと顔を上げるから目があった。充血して憔悴しきった憐れな男の目。
僕の方が背が低いから、このまま抱きとめたらたぶん、僕のあごが上がってしがみつくみたいなみっともない恰好になる。
この馬鹿をまるごと包み込んでやりたいという望みは、どちらにしろ叶えられない。
唇を噛むから、投げつけるように言ってやる。
「悔しいか。悔しいならさっさと立ち直れ。みんな迷惑してるんだよ」
もし僕が彼を思っていないのなら、もっと優しく慰めてやれたはず。

47728-779 失恋してアル中一歩手前なあいつに片思い:2014/04/13(日) 23:17:42 ID:iEEOcog.
「本当、愛とか恋とかクソだよな。
 一見きれいそうに見えても、気の迷いとかで長年積み重ねてきたものも一瞬でふいになる」
「そうだな」
「その点、友情っていいよなあ。人生最後に残るのはこれなんだって今回痛感したよ」
「そうだな。……なあ」
「んー?」
「もう酒、やめないか」
「無理だね。これ以上の気晴らしがあったら教えてほしいもんだ」

もう半年ほど前のことだ。
往生際悪くかわし続けていた結婚を考えてる人に一度会ってみてくれという誘いを、
諦めをつけるために承諾し、同居しているという部屋のドアを開けたときに見たものは、
荒らされた室内と『ごめんなさい、真実の愛を見つけました』という書置きだった。
その後荒れ狂っていたこいつが見つけた逃げ道が酒だった。
これでこいつの気持ちが安らぐなら、と毎日の酒盛りにつきあっていたが、
だけど、だんだんと日を追うにつれ酔った時の目が据わってくるようになった。
話の内容も愚痴と思い出だったのが、女性や恋愛をこきおろすものになった。
そのくせ、やたらと友情を持ち上げるものだから、俺は試されてるような気になってたまらない。
本当にまいってるこいつを見るのがつらくて、思い出すから家に帰りたくないというこいつを泊めて、
新しい引っ越し先も探して、心配だから毎日様子を見に行って、
それでも、どこかあわよくばという気持ちが残ってる自分が、俺はたまらなく嫌いだった。

「でもなあ、このままだと心も体もぶっこわすぞ。」
瞬間、だん、とテーブルが強く叩かれた。
驚いて奴を見る。顔が赤いのは酒のせいだけじゃなくて、
あの日俺に向けたような、子供のように泣きだしそうな表情をしていた。
「しょうがないだろ。寝れないんだよ。
 もう俺はいやだ。正気に戻ったらどうせまた思い出して泣いて吐いてを繰り返すんだ。
 親友なら、黙ってくれるのが筋ってもんだろ。……頼む」
弱り切った声に、理性が切れた。
もうどうしようもない。お前も、俺も限界なんだ。
「……だったらさあ、新しい気晴らし教えてやるよ」
限界なんだ。限界なんだ。限界なんだ。嫌だ、誰か俺を止めてくれ。
「愛だの恋だのじゃなきゃいいんだろ?安心しろよ。ただの気晴らしだから」
俺は、一度傷ついたこいつを、また傷つけようとしている。

47828-739 全部嘘 1/3:2014/04/15(火) 18:31:00 ID:UGBJCrBc
 先生がこの家を私に残した、というのは、行き場のない僕をあわれんでくださったんでしょうな。
 先生は、とうとう血のつながるお身内のないままに終わってしまいましたから、こんな、継ぐものもいない、辺鄙な場所で買い手もつかない古家など惜しまなかったのでしょう。ほかに行きどころのない僕にとっては実にありがたいことでしたが、まあ先生にとっては処分の手間が省けて、僕に恩も着せられる、一石二鳥の策といったところだったのではないかと思うのです。
 ですから僕はこうして、先生なきあともせっせとこうして最低限の手をいれている。最低限の義理立てですな。
 綺麗ですか。へぇ、行き届いてますか。
 まあまあ、ありがとう存じます。
 先生が聞いたら笑いなさるでしょうな。あの方、自分では縦のものを横にもしない人でしたが、僕にはたいそう小うるさくものを言いましたから。今もほら、あの松の摘み方が多いの少ないのと、声が聞こえるようです。

 先生の書いたものは読みません。
 いえ、書いたのは僕とあなたおっしゃいたいのでしょうが、あれは言われるままに書くだけで中身なぞこれっぽっちも頭に入りません。
 まあ頭が悪いんでしょうな。もともと弟子でも書生でもない、ただの飯炊き、使い雇いです。
 先生の奥様が入られる前から、僕は本当なら通いの仕事を、無理を言ってここの家の離れに住まわしてもらってましたから。扱いが軽いのです。
 親の顔も覚えてないような育ちです。尋常小学校も何日とも行ってない。
 ですから先生は僕を遠慮なくこき使いなさった。
 あれも無茶な人でしてな、平仮名しか書けないような僕に聞き書きをさせるというから驚いた。使えぬ使えぬといいながらまあ、辛抱強く言い聞かせられました。わからぬ漢字は紙に書いて見せて。本末転倒ですな。
 お陰で僕には勉強になりました。いっぱしの口も聞けるようになった。変わった方でした、時間ばかりかかるようなやり方をして、ずいぶん版元様にはお叱りを受けたようです。
 見かねて奥様が代わってくださいましたけど、奥様が菩提に入られてからは僕が、ええ、やっぱり叱られながら書きました。
 そういうのですから、先生のお作の部分部分は、あんまり出来が良くないんじゃないですか。
 はあ、そんなのがあるんですか、はは、それは確かに奥様がいらっしゃらなかった頃のものですな。からかいなさっちゃいけません。僕じゃなく先生が偉いんでしょう。

47928-739 全部嘘 2/3:2014/04/15(火) 18:32:13 ID:UGBJCrBc
 奥様は実にお優しい方でした。綺麗で、よく気のつく方で、ころころと笑う声がお可愛らしくて。
 先生が僕にいろいろと言いつけるものだから、気の毒がってくださいまして。
 先生にはトンジャクありませんでしたが、僕に所帯をもたせようと世話してくださったり。
 いつまでも納屋住みじゃあってんで長屋を探してくださったり。
 それがあなた、決まりかけると先生が邪魔をする。別に見つけた代わりの飯炊きに難癖つけたり、僕に四つ目垣を作らせるようなやっかいな庭仕事を言いつけて宿替えを日延べさせたり。あげくに先方に勝手に断りをいれちゃってね、文士様の考えることはわかりません。そんなこんなで僕はずっとこの家の小屋住みです。しょうかたなしにお仕えして、とうとうこんだけの日数が経ったような次第でございますよ。まあそうですな、奥様がいらっしゃらなくなった後は僕一人が先生のお側におりました。
 奥様が亡くなったのはいつの年でしたかね。あの大風のひどかった年じゃなかったですかな。あんなに早くに儚くおなりで、あの時分の先生のお嘆きは昨日のことのように思い出されます。
 佳人薄命とはよくいったものです。お子さまも授からなかったから、先生はそれからずっとおひとりでここの家から一歩も出ませんでした。
 僕ですか。僕はもちろんこちらの離れで寝起きしてました。それゃあなた変わりませんよ、奥様がいなくなったからって使用人の分というものはわきまえおりました。あちらが先生の家、こちらが僕の領分。同じ屋根に寝起きすれば僕の仕事は楽でしょうが……それじゃ申し訳ない。
 先生の家を掃除して飯を炊いて、魔術の呪文のように先生の口から湧いて出る御本の中身を紙に写し取って、茶を汲んで、夜になったら床をのべる。判で押したような生活が長く続きました。何が楽しいんだか、僕なんか話し相手にもなりゃしないのに、顔を合わせるほかの者もない中で、毎日毎日。
 いやあ、知りません。通う女も囲う女もいたんだかいないんだか。奥様がいらっしゃらなきゃなんにも悪いことじゃなかったでしょうが、あの方、朴念人でいらっしゃったから。なんにも考えずに好きなもんを好きだ好きだと、善悪の区別もつけずに玩具にするような、人の気持ちのよくおわかりにならないようなところがおありでしたな。
 ……おいでになったのかもしれません、奥様がご存命の頃から。であれば奥様はさぞやご苦労を、なさったことでしょうな、お気づきであれば。
 先生を悪く言うつもりはありません。僕は気づきませんでした。なんにもわかりません。
 ここにいると母屋の気配はわかりませんから。
 あちらからもわからない。ここで何があっても聴こえない。大声で呼ばれることなんかないもんだから、それで良かったのです。用がある時分には出向くのです。先生から用があるときは……いや、そんなものはありゃしませんでした。

48028-739 全部嘘 3/3:2014/04/15(火) 18:34:39 ID:UGBJCrBc
 あなたは……ずいぶん酔狂でいらっしゃいますな。もっとと言われましても、僕のようなもんの話がなんの役に立ちますか。
 先生の御本の記念にこの家屋敷を残す、それは結構なお話だと思います。ありがたいことです。今さら行くところもない僕ですから、ここの手入れをさせてもらってそのまま死んでいいというお話は本当にありがたい。名義ですか? そんなもの、ここは先生のうちですから、先生がどうなさったか知りませんが、難しいことはとんとわかりません。まあ私になってるから、そうですね、皆様しかたなくそうしてくださるのでしょう。せいぜい早くくたばって言いようにしてもらう方がよろしいようです。
 でもそうですね、そうまで仰っていただけるなら、ひとつだけお願いを申し上げてもよろしいですか。図々しい爺の勝手なお願いです。でも、ぜひとも聞いてもらいたい。

 母屋はどうぞ残してください。あれは先生が長じて五十年、ずっとお住まいになった大事な家なのです。先生のものはみんな、なにひとつ捨てずに残してあります。そういうのが御研究にのお役に立つのでしょう? 僕には先生の本はさっぱりわかりゃしませんし、賢い頭から出た考えからというわけでもありませんでしたが、まあとにかくあちらは先生が御本を書いてたときのままにしてあります。奥様の鏡台も箪笥もそのまんまだ、手なんかつけません。どうかなんでもご覧になってください。先生のものは全部あそこに揃ってる。そうしないとね、怒られる気がするってだけです、僕も気が小さいものだから。
 ですけどね、僕が死んだら、こっちの汚い納屋なんぞは取り壊してください。お目汚しですから。こっちはね、同じ年数だけこの僕が住み散らかしたってだけの小屋です。物置として置いておいた物は今は全部母屋に移しました。全部奥様のもとへお返ししました。大したものは最初っからありませんでしたしな。ここにあるのは今はもうこの爺のがらくたばかり。
 ねぇ、お手数お掛けしますが、こればかりはてめえで始末つけるわけにゃいかない。火をつけるにも母屋まで焼けちゃ、ことだ。今日あなたが来てくださったのは何かのご縁だと、そう思っていただけませんか。どうか、頼まれてやってください。
 先生はこの納屋と関係ないのです。こんなむさ苦しいところに来るようなことは一度もありませんでした。ええ、先生は一度も来ませんでした。そりゃ中を覗いたことぐらいはあったかもしれませんけど、ですからね、ここは無価値です。先生にはなんにも関係ありゃしません。どうぞ遠慮なく御処分ください。先生のことは、ここにはなにもないのです。
 見苦しい。こんなものが残るのは。
 僕は死んでから恥など晒したくはないんです。先生の飯炊きというだけの僕です、先生とは関係ない、何も。

 ──長くお話ししましたな。
 くれぐれもお願いしますよ。
 どうか、また御用の際はいつでもお声掛け下さい。暇な爺です。毎日掃除だけして生かさせていただく老いぼれの身です。
 先生もまったく酔狂なことでした。僕なんぞのために。こんな爺のために。
 僕なぞはね、どうしようもないものですよ。無駄飯ぐらいの大嘘つきですよ。ええ……ああ、僕は今嘘つきといいましたか。いえいえ、あなたに話したはなしは本当、全部本当ですとも。
 あなた、ご研究で先生のこと聞いて歩いてるわけでしょう、もし僕が嘘を言ってたらどうしようと、そういう顔ですかな。ははあ。
 ご安心なさい、僕の話は本当です、それが証拠に、先生のお作となんも違うことは言ってない。随筆もずいぶんありましたから、おわかりでしょう? ね、僕は先生の雑文だってちゃあんと覚えてますからね。大丈夫です、天地天明、神誓って本当のことですとも。
 ああ、嘘つきは地獄へ堕ちます。僕は極楽で先生と奥様に二目お目見えするのを楽しみにしているんですから。あの、お優しい奥様と仲むつまじい先生のお姿をもう一度みたい見たいと思って、お迎えを待ってる爺でございますよ。嘘など……

 ねえ、あなた、僕が言うのが全部嘘なら、僕は地獄へ下ってえんま様に舌を抜かれるのです。
 実に、実に申し訳もないことでした。

48128-809「木×葉っぱ」:2014/04/21(月) 03:50:52 ID:ku6uuzFo
おしべ、というのはみじめなものだと思う。
どんなに素晴らしい種を持っていても、実になれるのはめしべだけだ。
自分の種を受けた相手が実になっていく横で、寂しく枯れていかなければならない。
体が黄色くかさかさになり、落ちるのを一人待つだけ。
土に落ちれば、あとは腐るだけだ。

「・・・それでは」

だから俺は喜ぶべきなのかもしれない。自分が葉であったことを。

「ああ、じゃあな」

木に栄養を与えた後は、用済みになって落とされる。
葉もおしべも、用済みになれば木にとっては同じだ。
一生で幾度も出会うもののたった一つに過ぎない。
それでもまだ。
俺は足元に落ちたあいつとは違う。風に乗って、遠く離れていけるのだ。
木のように、次々と新たな命を生み出すあの人から。
この箱庭のような王宮から。

48228-829「追伸 好きでした」:2014/04/25(金) 01:08:38 ID:mKs/WkfE
「前略 お元気ですか」

そんな一文から始まる手紙が俺に届いたのはGWを目前に控えた週末のこと。
細いペン字は書いた人間通りに角ばって、ちょっと左上がりの癖がある。
2年ぶりに見る字は相変わらず綺麗だ。

「君はどう過ごしていますか。堕落などしていませんか。
僕が居なくても大丈夫と言ったのは君のほうですが、以来何の連絡もしなかった僕は少々意地が悪いのではないかと最近思うようになりました。
元気でなくとも良いのです。君が君であれば良いと思っています。」

薄墨で引いたような色の文字に、同じく淡々とした文章が続く。
大学進学を機に離れた幼馴染は相も変わらず年相応のことを言いはしない。
きっと俺と違って変わりもせず、変わりものでいるのだろう。
ぼんやりとだけ思い出せる、メタルフレームの似合うあいつの横顔を思い出しながら便箋を捲る。

「先日、君が好きだと言っていた曲を聴きました。
失恋した者は南をめざし光を得ろ、と歌う曲に倣って君は南の大学へ進んだのではないかと疑っています。
卒業の半年前にふらりと一週間放浪した君を、その表情を、僕は憶えています。
僕が好きな本を君に話したことがありますね。
憶えていずとも結構です。ただ僕はその本を胸に北へ行く決意をしました。
北へ向かうことに何の意味があったのか、僕は未だ知れずにいます。
君は南で光を見付けましたか。」

それだけで手紙は終わった。
北の国立大へ余裕で合格したあいつが言うことは、今日も小難しい。
ギリギリで南の私立大に引っかかった程度の俺には訳が分からない。
あいつの字はあいつと同じで細くて、俺のごつごつした指よりも小さい。
俺が絶望した一週間は、あいつへの恋心で始まって、それを断つことで終わった。
本が好きだったあいつはいつも何か文庫本を持っていた。
題名を聞いたこともあったけれど、俺はそれを覚えていることはできなくて、けれどそんな俺を責めない言葉に救われる。
本当は救ってほしいんじゃなくて、愛してほしい。
俺の光は北に行ったのだと、告げれたなら幸せになれるんだろうか。
そもそも、この手紙は一体なんなのか。
あいつのことだから、大した意味など無いと眼鏡の奥の瞳を細めて笑うだけなのか。

手紙を畳んで仕舞おうと、封筒を開いたとき、それは目に入った。
内側に常より薄く細い文字が7つ、几帳面なあいつにしては珍しくずれて記されている。
手が止まり、心臓が止まったかと思ったくらいの時間。
光は遠ざかる、時間は進む、俺は立ち止まったまま、あいつに恋をしたまま。
踏み出すための一歩も、友達に戻る一歩も、果てもないほど遠い。
遠い遠い恋の決断を、一秒後に俺は下す。

48328-859 幼馴染と再会:2014/05/03(土) 11:11:24 ID:Yj9zrL5o
規制で書けなかったよ…NL要素及び女性出演含み注意


俺の初恋は幼稚園。隣に住む幼馴染相手だった。
日焼けした肌にロングヘアーが似合う綾子。毎日一緒に駆け回り、そして怪我をしては互いの親に雷を落とされていた。あの頃一緒にいたかったあの思いはきっと初恋だ。
そんな俺たちを慰めるのは4歳上の綾子の兄ちゃん。
ほんっとの兄ちゃんみたいで俺は懐いて憧れていた。話も合うし優しいし、綾子と違っておとなしい慶太にい。大人の慶太にい。

俺が小学3年生の時、綾子と慶太にいは引っ越した。慶太にいの病気の関係と知ったのは俺が中学になったときだった。

「もう数也も20歳か!!!はえー、そりゃあ僕もおっさんになるわ!」
「兄貴うっせー!」
「あーや、声でかい」

俺の所属するサークルが他大学のサークルとイベント企画をした時、綾子と再会した。だって何もカズ変わってねえもんwwwと爆笑されたことは記憶に新しい。

「つーか、開口一番が、慶太にい元気?って笑ったわー」
「数也は僕のこと大好きだもんなー!」
「あー煩い!こんな酒飲みに心配して損したよ、マジで」

大事をとった引っ越しだったらしく、慶太にいは直ぐに完治して、今は細マッチョ?ってのかな。相変わらずかっこいい。

「にしても、数也と酒を飲めて僕は嬉しい!!!」

あの頃は2人のお世話楽しかったなあ!と慶太にいは俺を抱き締めながら笑う。ああ、慶太にいの思い出に俺も残ってたと思うと顔がにやける。

「…カズ重症すぎ」
「は?」
「完治してるかと思ってたのに…」
「ん?完治は慶太にいだろ?」
「無意識うぜー。あの頃叱られる機会わざわざ増やしたことも記憶に残ってないよねー」
「あーや、何言ってんの?」
「だめだこいつはやくなんとかしないと。あ、こいつら、か。うん」

よく分からない言葉を吐く綾子を横目に、慶太にいの酒をつぐ。離れて約10年。再会した幼馴染たちと新たな時間を過ごせると思うと、やっぱりにやけが止まらなかった。

484名無しさん:2014/05/03(土) 11:42:00 ID:36u8p5U6
本スレ続き

・攻めは諦めない
受けはクラスメイトとは話さず
攻めが毎日話しかけるが無視される
下校時も一緒に帰 ・和解
次の日攻めは落ちて受けに助けてもらった階段の一番上で受けを待ちぶせ
受けがやってきて攻めに気付くが無視したまま階段を登る
攻めがわざと飛び降り驚くも受けがキャッチ
何してる?!と怒る受け
「話してくれるまでここから毎日落ち続けてお前に助けてもらう。そんなことしてほしくなければまた僕と仲良くしよう」と言う攻め
よくわからない理論に馬鹿じゃないの?と苦笑する受け
攻めが「お前笑うと可愛いよ」と言うと不貞腐れたように照れて下を向く受け
その顔にときめく攻め
小さい頃も受けの笑顔にドキッとしたなと思い出す
受けは観念したのかその階段で二人は夜遅くまで昔話をする

別れ際受けが「なんで普通じゃない化け物みたいな俺とまた仲良くなろうと思ったんだ?」と聞くと攻めは「可愛い笑顔に惚れちゃったのかもな!」と言うと走って逃げ去る
振り向くと受けが「ふざけるな馬鹿!」と赤くなりながら叫んでいた 撒かれる

・秘密がバレる
攻めは下校時いつも撒かれるがたまたま受けを見つけ追いかけて話しかける
受けは無視して歩き続けるが長く急な階段に差し掛かった時
受けの数段下にいた攻めが足を滑らせ落下
受けが人とは思えぬ速さで走り下り攻めをキャッチ
攻めは凄い運動能力に感動するが
受けは秘密がバレたと苦い顔をしもう話しかけないでくれと言う

・転機
翌日も攻めは受けに話しかける
受けは放課後人気のない所に攻めを呼び出す
「昨日で気付いたと思うが俺は普通じゃない。
昔みたいに怪我をしたくなかったら二度と関わろうとするな。
昨日の事は誰にも言わないでくれると助かる」
と言って去ろうとする受け
しかし攻めが
「お前と友達になるまで話しかけ続けるよ。
お前は昨日僕を助けてくれたじゃないか。
あの時のお前すごくカッコよかった」
と言うと呆気に取られるが少し赤面する受け
受けは恥ずかしくなりその場を走って立ち去る

485名無しさん:2014/05/03(土) 11:51:41 ID:36u8p5U6
・和解
次の日攻めは落ちて受けに助けてもらった階段の一番上で受けを待ちぶせ
受けがやってきて攻めに気付くが無視したまま階段を登る
攻めがわざと飛び降り驚くも受けがキャッチ
何してる?!と怒る受け
「話してくれるまでここから毎日落ち続けてお前に助けてもらう。そんなことしてほしくなければまた僕と仲良くしよう」と言う攻め
よくわからない理論に馬鹿じゃないの?と苦笑する受け
攻めが「お前笑うと可愛いよ」と言うと不貞腐れたように照れて下を向く受け
その顔にときめく攻め
小さい頃も受けの笑顔にドキッとしたなと思い出す
受けは観念したのかその階段で二人は夜遅くまで昔話をする

別れ際受けが「なんで普通じゃない化け物みたいな俺とまた仲良くなろうと思ったんだ?」と聞くと攻めは「可愛い笑顔に惚れちゃったのかもな!」と言うと走って逃げ去る
振り向くと受けが「ふざけるな馬鹿!」と叫んだ

48628-869 夜の図書館:2014/05/05(月) 00:41:00 ID:TS4WBc1g
投下が上手くいかず、ニンジャ規制になりましたorz



図書館はいつも隠微な匂いで満ちている。
紙とインクの匂い。埃の積もった匂い。日向の少し黴びたような匂い。
そこに更に雨と夜ふけが重なると、悪徳と頽廃と秘密の箱庭になるのだ。

「……来ると思ってた」
少し軋むドアを開けると、暗闇から掠れた声が響いた。
田舎の古い図書館には、セキュリティシステムなどという気の利いた物はない。
傘立てに入った濡れた傘で、いるのは判っていた。
「来たく、無かった」
ぶっきらぼうに言うと、細いLED電灯の光が閃いた。くすくすと笑う声。
「でも……来たんだ、ね?」
ひらり懐に飛び込んで来た身体は、腕の中に閉じ込めようとすると、するりと逃げる。
「今日こそ、返してくれ」
「嫌だ」
ぱたぱたと足音が書架の後ろに遠ざかる。
「……今日も、10分。捕まえられたら返す。捕まらなかったら……」
光が消え、足音が遠くなる。
この図書館の広さを恨めしく思うのは、こんな時だ。
昼間は整然と並んでいる知識の泉が、今はお前を俺から隠す森になる。
ここは隅から隅まで知っている筈なのに……。
懐中電灯を持つのも、ヘッドライトをつけるのも却って邪魔な()のは、経験上判っていた。
暗闇の中で白いシャツを追う。
せめて書棚がスチール製なら、向こう側へ容易く手を伸ばせるものを。
ーー何故雨の夜なのか。何故この場所なのか。何故俺なのか。
夜の鬼ごっこを楽しむ歳でもないのに、いつもお前の微かに笑う声がする。
ーーもう雨の夜にここに来るのは辞めるべきだ。早く捕まえて終わらせるべきだ。
頭の片隅で、まともな俺が囁く。
ーー何故終わらせないかって?何故ここへ来るかって?
あざ笑うような、哀れむような俺の声がする。
ーー……判っているんじゃないのか?全て。
息が切れ、心臓が千切れそうだ。
いつの間にか、目の前にお前が立っている。
「……10分経ったよ。隆也の負けだ」
「……っ!その、名前でっ……呼ぶな」
後の言葉は和馬の唇で塞がれた。
汗の匂いと、雨の匂いと、図書館の匂い。
水銀燈に引き寄せられる虫のように、和馬の身体に吸い寄せられる。
荒い息の中、俺の身はとうの昔に屹立していた。
「隆也ぁ……隆也ぁ……」
「和馬……和馬……」
暗闇の中、慣れた場所で、互いの服を剥いで獣のように貪り合う。
人で無くなった二人に、雨の音がその音を消し、本の森がその姿を隠す。

平日夕方の図書館は、絵本を借りる親子連れと、暇な学生で、それなりに盛況だ。
「平井さん平井さん、弟さん」
同僚の声に顔を上げると、弟が女の子と立っていた。
「なんだ、和馬。どうした?」
「兄貴。この子がさ、○○の本、予約したいんだって」
差し出された予約申込書を見ると、もう18名ほど予約で埋まっている本だった。
「これ、順番かなりかかるけど、良い?」
念を押すと、女の子の顔が一瞬、戸惑った。
「あ……はい、お願いします」
処理をしている間、女の子が和馬に話しかけている。
「順番先に回したり……して貰えないんだね」
「当ったり前じゃん。特に兄貴なんか真面目だもん。無理って言ったろ?」
弟が鼻で笑っている。
「でも、図書館の司書って本いっぱい読めそうだし、閉館日とかここ独占出来そうで羨ましい……」
「鍵があっても、私用で使う訳ないでしょ。合鍵でも作らない限り……」
そこで和馬は俺の方を見て、ほんの少し笑った。

487夜の図書館1/2:2014/05/06(火) 01:36:10 ID:8cgULlT2
既に書いてらっしゃる方がいるのに何ですが、時間切れの後にテーマを見て萌えたので。



窓から差す月明かりと非常灯だけが頼りの夜の図書館。入口からも窓からも死角になる棚の間で人を待っていた。
「…吉井先輩」
「仲原…、」
仲原からのキスで言葉が遮られた。止めようとしたが、久々の触れ合いは心地よく、結局しばらく身を任せた。
「、こら、駄目だ」
仲原が舌を入れようとするので、俺はさすがに慌てて仲原を押し退けた。
「…じゃあ、どうして僕らはわざわざこんな夜中に、暗い図書館で逢い引きなんてしているんですか」
「嫌らしい言い方をするなよ。噂になると面倒だからだろう…前に退学させられた生徒の話、聞いたことないか」
背の高い本棚に押し付けた俺の体にしがみつきながら、仲原がぴくりと身じろぎした。
「…確か先輩と後輩が付き合っていて、先輩の方だけ退校処分になったとか。下級生に手を出したという理屈で」
二人は好き合っていたらしいのに、乱暴なことをする。どうも権力者だった下級生の親が学校に怒鳴り込んできたようだ。
「分かってます…でも僕、先輩のことが好きで、堪らなくて…!」
仲原が胸に顔をすり寄せてくる。俺は子供をあやすように、小柄な仲原の体を腕の中に収めた。

全寮制の男子高校で、こんな関係になる生徒がゼロという方がかえっておかしいと、俺は思っている。
まさか自分がその当事者になるとまでは考えてもみなかったけれど。

この学校はどちらかと言えば武道やスポーツに力を入れていて、文科系の人間は肩身が狭い。
元は野球部目当てに入学した俺は、まるで軍隊さながらの練習にすっかり嫌気が差し、
肩を壊したのを機にこれ幸いと部活を辞めて、もう一つの趣味だった読書に勤しんでいた。
教育方針とは裏腹に、この学校には校舎から独立した図書館があり、かなりの蔵書数を誇っていた。
ある日俺が図書館で文学作品をいくつか借りていると、本を山のようにかかえた生徒…仲原を見かけた。
線が細く大人しそうで、いかにもこの学校に向かない少年。気になって次に会った時に声を掛けた。

488夜の図書館2/2:2014/05/06(火) 01:41:10 ID:8cgULlT2
同じ本好き同士話が合うかと思ったのだが、予想外だったのは仲原が借りていたのが全て推理小説だったことだ。
社会派推理小説が勢いを失って久しいがここ最近は本格推理が復権してきて云々、
人が殺される小説なんてと眉をひそめる大人が多い中ここの司書は理解があって助かる云々…
仲原はここぞとばかりに薀蓄を語った。内容はさっぱりだったけれど、目を輝かせる仲原の話を結局最後まで聞いた。
こうして奇妙な付き合いが始まった。俺が少しばかり推理小説を齧るようになり、仲原が文学作品を読むようになり、
そのうち、変な噂が立つと困るから夜にこっそり会おうと…こう言い出したのは仲原だ。
…情けないことに、初めてのキスも仲原の方からだった。
お互いの想いには気が付いていたのに、俺は踏み出すことができないでいた。それに、今だって…

「…ん、やめろったら」
仲原の手が学ランの上着の下に入ってきて、俺はまた仲原の動きを制した。
「先輩がキス以上のことをしてくれないから…」
ふてくされたような言い方が、可愛い。
俺だって男なのだから、今以上の関係になりたいという欲はあるが。
「校内で淫行なんて、ばれたら二人そろって退学だぞ」
俺だけならまだしも、こいつの将来まで狂わせるわけにはいかないのだ。
「…今は何を読んでるんだ」
話を逸らそうと、唐突にそんなことを言ってみる。
仲原は、有名な文学作品のタイトルを口にした。
「まだ読んでなかったのか」
「推理小説専門の僕をこっちに引き込んだのは先輩ですよ」
仲原が俺から離れ、俺の隣で本棚にもたれかかった。
「――『恋は罪悪』、ですって」
件の本に出てくる有名な言葉を、仲原は引き合いに出した。
「吉井先輩に会う前なら、わからなかったと思います」
俺も、こいつと会う前にはよくわからなかった。
退学の危険を冒して夜中にわざわざ寮を抜け出してでも、会いたい人間がいる気持ちなんて。

俺は仲原の体を抱き寄せると、そっと口付けた。二人とも、体が少し震えていた。

489>>29 ご飯にする?お風呂にする?それとも… 1/2:2014/06/01(日) 08:52:43 ID:qMKqFBco
「お、帰ったか、ご飯にする?お風呂にする?それとも……寝る?」

俺は同居人の男と共同生活している家に帰ってきた時に聞こえてきた同居人の声にピクリとまゆを跳ね上げる

「お前は俺を飯も食わず不衛生なまま活動できる生物とでも思っているのか」

俺の不機嫌そうな声を聴いた同居人の男が物陰からひょこりと顔をのぞかせる
ごつい男だ、筋肉質で身長も体重も優に俺を超えているに違いない
強面ではないが迫力がある

「いや、少しぐらい乗ってくれてもいいじゃんか」
「充分に乗ったじゃねぇか」
「そうじゃなくてさ……『そこはわ・た・し?って聞くところだろう!』みたいな」
「声真似をやめろ鳥肌が立つ」

奴は俺の声に似せたらしい男にしては微妙に高い声で奇妙なことを言う
俺たちは男同士だ、あいつにも俺にも互いへの恋愛感情はないしひと肌恋しさに……という関係でもない
そもそも男同士ということ自体ありえないといえばありえないのだが

「そんなこと言わなくてもいいじゃん、一応傷つくからな?」
「お前が傷つこうが知った事じゃない」
「うわひどっ、お前はオレを何だと思ってるん?」
「食事もとらず風呂にも入らず不衛生なまま眠る原始人以下の存在」
「はっはっは、お主ぬかしおるのぅ」

そういうと奴はげらげらと笑いながら奥に引っ込んでいった
あいつはああ見えて少食だし、風呂は一日何度も入るほどきれい好きだ
それを俺が知ってての発言だとわかっているから性質が悪い
小さく舌打ちしながら靴を脱ぎ自室へと行きスーツ一式をかけ終え普段着に着替えたところであいつのまた呑気な声が聞こえる

「おーい、ご飯にする?ご飯にする?それとも、ご・は・ん?」

一択じゃないか、そう思いながらリビングに向かうと夕飯が用意されていた
こいつ、自分が食べる量少ないからその分栄養価の高いものを作ろうとする、炊事が得意なのはそのせいだと酔った時に言っていた
事実かどうかは知らないがこいつの作る飯は人並みにはうまい、実家の母や姉、あとレストランとかの一流シェフにはかなわないが
夕飯は豚の角煮やもやしがやたらと多い野菜炒めにこんにゃくと大根の煮つけだった


「ごちそうさまでした」

用意された食事を食べ終わると再び奴がこういう

「それじゃあ次はお風呂にする?お風呂にする?それとも……」
「風呂に入る」

奴が最後の部分で溜めているところで遮るように言えば奴は目に見えてしょげた

「じゃあさっさと風呂入れ」

そして俺を風呂場の方へ足蹴にしつつ奴は食器を台所へと運んでいった
俺はというと先ほどの豚の角煮、少し味が薄かったなと思いつつ服を脱ぎ捨て洗濯機の中へ放り込む
今日の洗濯当番はあいつだ、となれば明日は俺、気が滅入る
奴は汗でぬれるのが嫌なのかしょっちゅう服を着替える、そのせいで毎日の洗濯量が半端ではないのだ
それを干す側の身にもなれと思ったが、あいつは軽々と干すんだろうとため息をつく

490>>29 ご飯にする?お風呂にする?それとも… 2/2:2014/06/01(日) 08:53:16 ID:qMKqFBco
「上がったぞ」
「温まったか?」
「ああ、十分にな」
「じゃあ、睡眠にする?就寝にする?」
「まだ寝ない」
「それとも寝る?」

寝間着に着替えての風呂上り、予想通りの問答だったが遮るような発言はまったく意味をなさなかった
「まあそりゃそうだ」と奴は笑いながらテレビを見ている
流れているのは雛壇芸人たちが司会者の奔放な振りに翻弄されている……よくあるトークバラエティーだ

「面白いか?」
「微妙」
「そうか」

「チャンネル変えていいか?」と聞けば「別にみてないからいいよ」と返す
本当に見てないんじゃなくて暇つぶしとして眺めていた程度なのだろう
番組表を見ながらチャンネルを変えるが、ニュース番組、バラエティー、衝撃映像、映画の地上波放送など変わり映えのしないものばかり
洋画に興味はないので適当なバラエティーにチャンネルをあわせ床に座ってぼーっと眺める
途中「面白い?」って聞かれて「全然」と答えた以外俺と奴に会話はない
テレビからは司会者や芸人たち、時にはスタッフの笑い声が混ざり響く、何がおもしろいかはわかるが笑うほどのものか?と思う
ちらっと見た奴はスマートフォンをいじっている、あいつが何をしているのかは全く知らないがどうせ呟き鳥やら巷で流行っているソーシャルゲームだろう
「楽しいか?」と聞けば「暇つぶしにはちょうどいい」と言われた

俺はテレビの電源を落とし自室でデスクと向かいあう
部屋に向かう途中、「寝る?」と聞かれて「まだ寝ない」と返しておいた
カタカタとデスクの上のパソコンを操作して好みのサイトを見て回り、また細々した仕事を片付ける
大して時間はかからなかったがパソコンの画面右下に表示されている時計を見るとそろそろ寝ないと明日の仕事に眠気が残ることになる
最後に茶を一杯飲もうと部屋から出るとあいつは机に肘をつきながら洋画を見ていた
「面白いか?」と聞けば「ストーリーがよくわからない」と返ってきた、時間的に途中から見始めたのだろう
ペットボトルに入れていた麦茶をコップに注ぎ少しずつ呷る
そして台所のシンクでコップを洗う
再び部屋に戻ろうとしたところ奴がこっちに目を向けていた

「そろそろ寝る」
「うん、お休み、オレは洗濯物終わってから寝るよ」
「聞いてない、おやすみ」

俺は自室に戻るとそのままベッドに倒れこむ
掛布団をもぞもぞと引上げ、そして電気を消せば暗闇がつつむ
その暗闇をしばらく見つめている内に俺はいつしか現実と眠気の境界を無くしていた
眠っているわけでもないけど起きているわけでもない、最も心地よい瞬間
遠くから聞こえる洗濯機の音も揺られているようで心地いい

あいつとの関係を聞かれたとき、『友達』や『親友』かと聞かれれば違うと答える、しかしただの『知り合い』でもない
そもそも定義づける必要のない関係なのだ、友情や愛情なんて明確な言葉にしたら安くなる

そんな男といつまで共同生活するのだろうかと思いつつ俺は考えを無くした


余談だが、この後俺はすぐに洗濯機の無機質なアラームに起こされることになった

49129-59 世界で一番怖い:2014/06/06(金) 11:14:59 ID:QAo2TL/w
世界で一番こわいのはかあさん、先生、おばけ。小さい頃の私にはたくさんの怖い物があった。
大きくなるにつれて自分が人と違うことに気づいた。それは成長期の人間の誰もが感じることなのだろうが、私の場合は人間として異常、つまり正常な恋愛に対して不能であるという、もっと平たく言えば同性である男性を恋愛対象と認識するという、人よりも大きなハンデとしてのそれで、一生の十字架となるべきものだった。
これが世間にばれたら私はおしまい。奥手なたちだったので、気づいたときにはすでに社会的な立場があった。口を糊するための方便とは言え望んでついた職業。結婚を話題にされるたびに私は曖昧な笑顔で逃げた。
まとも、といえば語弊があるが、男同士においてのごくまともな恋愛、恋人を作りともにすごす甘い生活。そんなものは望むべくもなかった。いったい世間のいわゆるオープンにしている人々、意気地のない私と違う先達はどうしているのだろう。手をつなぐことはおろか、二人で歩く、二人で食事することすら私には難しい。きっと会社の人間と二人で過ごす時間とはまったく違う。私は赤面して挙動不審になり、周囲に怪しまれてひそひそと訝しがられることだろう。そんなのは御免だった。怖かった。
私は一切誰にも近寄らなかった。結婚話も年を経るに従って誰も私の前では口にしなくなった。器量の悪い、不器用な男だからこの年になるまで独り身なのだと皆納得してくれるらしかったから、ありがたかった。
もう一生独身で構わないのだ。私の一生が安泰にこのまま過ぎれば。仕事でそこそこの成果をあげていたから、この世に生きた証もささやかながら残せたと思う。これでいい。平穏が一番なのだ。

彼は私に言った。
「松村さんのことを尊敬しています」
尊敬とは美しい言葉だった。私は、癖になった人当たりよく見えるであろう笑顔を顔に貼り付けて礼を述べた。
「違うんです、本当に僕は」
彼は自分のことを僕と言う。私ほどではないが彼もそこそこいい年だというのに。彼も独身であった。そのことが彼を若く見せているのだと思った、私と違って。
「松村さんは怖いものがありますか」
酒の席はすでに深かった。なくなったつまみ代わりに差し出された問いに私は首を傾げた。
「さて、小さい頃はお袋が一番こわかったかな」
「僕は死ぬことが怖かったです」
彼の言葉は軽い酒と一緒に飲むにはやや重かった。
「松村さん」
重いのは私の胃袋の加減かも知れなかった。時間も遅い、年も年だ。無理をすれば明日に差し支える。そういうことばかりが気になる保身癖、そのおかげでここまで無事にやってこれた。
「松村さんは怖くないですか。そのままで死んでいくのが怖い、そう思ったことがありませんか」
「なにを……」
彼の言葉は失敬だった。私の人生を知りもせず、不当におとしめようという意図なのか。
「僕にはもうわかるんです。僕はもう何年も、あなたといてたくさん失敗してきた。松村さんは僕とは違う失敗をしてきた、違いますか」
彼が、私との距離をいきなり詰めてくる。もう十年ばかり彼と仕事をしてきたというのにこんな距離を許したことはない。
怖いものという話でしたね、と彼は杯を取った。
「僕はあなたが怖いと思う。あなたをこのまま手に入れないで死んでいくかも知れないのが怖い」
飲み干した動作で肩が触れた。
「松村さんは怖くないですか。だって、松村さんの怖い物は僕のはずです、勘違いでなければ」
彼が言わんとすることが僕を貫いて、僕は身を震わせた。
僕はこの瞬間が怖かったのだ。
身を委ねればもっと怖いことが待っているに違いない。
「松村さんの人生において、僕を知らないことは怖いことではないんですか」
私が怖いのは、私が怖いのは自分だ。きっとたがが外れれば何をするかわからない、そんな自分をさらけ出すことが一番怖いことだ。なにより耐え難いのはそれを見せるのが自分の最愛の人間だということだ。
「あなたはこわがりなんだ。だから、誰にも大丈夫とも言わせずに、ここまできてしまった」
手を重ねられた。
「僕たちはふたりともこわがりだから、到底ひとりではいられない、そうじゃありませんか」

49229-69相合傘1/2:2014/06/08(日) 02:35:40 ID:HgyzGVXI
昇降口でAとかち合ってしまった。気まずいのを必死に隠して靴を履き替えるBと反して、Aは気にしてないと装って鞄から折り畳み傘を取り出した。
「あ…傘」
思ったままにつぶやいてしまってから口を閉じても遅く、AはBを振り向いた。委員会の雑用をBは下級生委員たちと一緒に放課後残って作業して、校内に生徒はほとんどいない時間になってしまった。
ばっちりあってしまった視線をAから逸らしても頼れるものはなく、目を逸らしてしまったことで益々気まずくなってくる。
「傘、持ってきてないの?」
Aに話しかけられてBは緊張した。怯えるように顔をこわばらせるBに、Aは心苦しくなった。
「う、うん…、だって朝は晴れてたから…」
「朝は晴れてたけど、夕方から降水確率80%だったでしょ。天気予報が必ず当たる訳じゃないけど、今は梅雨なんだし折り畳みぐらい持っときなよ」
「そう、だよな…」
この、萎縮したような、気まずさを全面に出してくるBを見るたびに、告白なんかした自分を殴りたくなる。
告白をして、いい返事をもらえるなんて思ってはいなかった。ただ、下心のある好意を隠して友人関係を続ける辛さから逃げたい一心で思いをぶちまけた。玉砕して終わって、Aはすっきりするはずだった。けれどBは優しかった。A自身よりもAのことを思いやって傷付いた。Aは自分のことしか考えていなかったのを恥じた。Bを困らせる気はなかった。自分のことで手一杯で好きな人を苦しめる選択をした。AはBに告白したことを後悔している。
「こんな遅くまで委員会?」
「あぁ、だいぶ生徒会室ごちゃごちゃ物がたまってたから掃除して、ついでにファイル整理とかしてたらこんな時間に」
「ふ、相変わらずよくやるねぇ。生徒会長じゃあるまいし、一学級委員長が進んでそんな面倒なことする必要ないのに」
「そうだけど、誰かがしないといけないんだから、できる奴がすればいいことだろ」
こうやってBは当たり前のようにこなしていくんだろうことを思うと、やはりBのことが好きだと感じた。世間話くらいなら変わらず出来たことにAは安心して、折り畳み傘をBに差し出す。
「遅くまでお疲れ様。これ使いなよ」
「いい。お前だって、どうせこんな時間まで美術室に籠って絵、描いてたんだろ」
Bは受け取らずにAの返事も聞かないまま、雨の降る玄関外へ走り出そうとした。その上着をひっつかんでAはBをとどまらせた。

49329-69相合傘2/2:2014/06/08(日) 02:36:18 ID:HgyzGVXI

「俺のは趣味だし。つーか、好きな子を雨ん中傘なしで放り出したくないの。俺の自己満足なの。このくらいの我が儘聞いてくれたっていいでしょ」
傘を押し付けて、先にAは一人雨の中を走り出した。そのすぐ後を傘を差さず手に持ったままでBは追いかける。
「おい、待てって、A!!」
Bの声に逆らえずに立ち止まって振り向くと、雨に濡れるBの姿が目に入り、あわてて駆け寄る。Bの手から傘をもぎ取り、二人の上に広げて差した。
「なんで傘持ってるのに差さないんだよ……」
「だってAの傘だし…それに、二人で使えばいいのに、って、思ったから…」
Aは鞄からハンカチを取り出すと、Bの水滴が伝う頬を無造作に拭いた。Bは瞬間目を見張ったがされるがままにじっとして、頬から首へとAの手が動くのに任せた。
「これ使ってないハンカチだから。汚なくないからな」
几帳面なAに思わずBは吹き出した。
「いいって、なんでも、気にしないし。それよか早く帰ろうぜ」
道は雨のせいで視界が悪く、人も少ないのもあって、男子高校生二人が相合い傘をしていたところで誰かが何かを言うわけでもなかった。二人に特別関心を向ける人もおらず、雨が降る風景の中に受け入れられていた。隣にいるBからは緊張が伝わってきたが、Aも負けじと緊張していた。
「Bは、俺ともう話してくれないんじゃないかって思ってた。こんな風に一緒に帰れるなんて、思ってもみなかったよ」
「前はさ、たまにこうして帰ったりもしたじゃん」
"前"とは、告白前のことだろう。『帰る方向が同じAが傘を持っていてくれるだろうから安心』だと、Bは傘を忘れた雨の日には、Aの傘に入れてもらって下校していた。
「前はな……ごめん」
謝ることは正しくないとAは分かっていたが、謝る以外の方法が思い付かなかった。Bに対しての申し訳なさと罪悪感がAを責めて責めて追い詰めていた。
「なにが」
「全部」
BはAの前に立ち塞がって、片手でAの両頬を挟んで口を閉じさせた。突然のBの行動に驚きつつも、Bが濡れないように傘を前方に突きだした。
「ばーか」
言い捨ててBは雨の中に出た。Aは後を追おうとしたが、Bの家の前まで来ていることに気がつき、玄関に入るBの背中を見送るに留めた。
優しい優しいB。Bの優しさにこのままずっと苦しめられたい。たぶんきっと、BもAと同じくらいに苦しんでくれているはずだから。
雨に打たれて冷えた体の、両頬だけがやけに熱かった。

49429-159 最後に一回だけ:2014/06/26(木) 00:39:12 ID:0DcWr8i2
「友也、あのさ、最後に一回だけ…」
「ん?」
「………もいい?」
「何?聞こえない」
「だから、最後に一回だけ……」
「はっきり言えよ。1年間ここにルームシェアさせてもらって
 翔には本当に世話になったんだから、お前が言うことはなんだって聞くよ」
「じゃあ、言うよ。あのね、最後に一回だけ……キ……」
「キ…?ああ、キッチンの大掃除しろってか?
 俺、料理するのは好きだけど片付けるのは苦手だから
 この1年でキッチンもかなり汚れちまったもんな。
 もちろんしっかり綺麗にしてから出て行くよ。
 ……え、違う?じゃあ、あれか?前に作って美味いって言ってた
 キーマカレーをまた作れとか…それも違う?じゃあ、なんだ?」
「キ、キ、キ……キス!」
「……ッッ!!!…お、お前今何した!?俺にキスしたよな!?
 え、何?これ何のペナルティ?」
「違うよ!俺、友也のこと好きだから…だから、最後に一回だけキスしたかったんだ」
「え、俺のこと好き?お前が?……マジで?」
「うん、マジで。ごめんね」
「いや、あやまる必要はねえけど。…あれ、もしかして翔、
 お前が最近俺によそよそしかったのってそのせいか?」
「うん。なんか友也を見てると気持ちが抑えられなくなりそうで」
「あー、そうだったのか。俺はまた俺のだらしなさに愛想が尽かしたのかと。
 だから、今までお前に甘えていた自分を反省して、新しい部屋を探したんだよな。
 ってことは、俺、部屋を出て行く理由がなくなった?」
「え?」
「翔は俺に部屋を出て行ってほしい?」
「まさか!でも友也。俺のこと気持ち悪くないの?好きとか言って、あんなことして」
「気持ち悪くなんかねえよ。つかむしろ嬉しい」
「え?……じゃあ、あの…もう一回キスしてもいい?」
「今度は俺からする。もちろん最後の一回じゃないのをな?」

49529-179 「iPhoneとAndroid 」:2014/06/29(日) 20:32:28 ID:7evbHvTc
無機物萌えを語らせてください

iPhoneのSiriをご存知でしょうか?
簡単に言えばiPhoneに向かって話しかけると、まるで人間のように
答えてくれる機能だそうです
Androidにも人間の言葉を認識する機能はありますがiPhoneのような
会話をする器用さは基本的にないらしい

そんな二台を一緒に並べたらどんな風になるのだろうか、と
いろいろ妄想してみました

i「先ほど持ち主の方に天気を聞かれました。今日の天気は晴れ、夕方に通り雨が降るそうですよ」
A「今日の天気を検索」
i「今日の天気は晴れ、夕方に通り雨が降るそうです。濡れないように気を付けないとですね」
A「濡れないように気を付ける、検索」
i「検索するようなことですか?」
みたいに、会話しようとしているけれどぎこちない雰囲気の二台
見ていてじれったい気持ちになりそうですがそこがいい

i「持ち主の方から『結婚しよう』と言われました」
A「!」
i「他の携帯にも同じようなことを言っていると思いますよ。あの人は人間、僕は機械。
 戯れにそんなことを言っているだけでしょう」
A「……」
i「私は人間と会話ができる。人間は機械である私との会話を面白いと感じる。
 私だったらなんと答えてくれるか、知的好奇心で話しかける。それだけのことです」
A(君はそれだけだというけれど、私はそれすらできない。持ち主と会話ができるiphoneがうらやましい)
と、心の中ではいろいろ思っているけれどうまく言葉にできないAndroid
iphoneを素直にすごい奴だと思っているけれど、嫉妬と尊敬に揺れ動くAndroidもいいです

i「昔話をしましょうか。むかしむかしあるところに、Siriという……」
A「……」
i「つまらないからやめましょうか。何か聞きたいことはありますか?」
A「……」
i「どうしたらあなたが笑ってくれるのか、Webで検索したら出てきますか?」
A「iPhone、笑う、検索」
i「私ではなくAndroidのことです」
Androidと仲良くなりたいけどなかなかうまくいかず
悩むiPhoneの奮闘を妄想すると萌えますね

i「Android、今日の天気」
A「快晴です。気温も30℃を超えそうなので熱中症には気を付けてくださいね」
i「!?」
A「どうしましたか?あなたがそんな反応をするなんて珍しい」
i「えっと……その……あなたってそんな様子でしたっけ?」
A「持ち主の方がアプリを入れてくださってからずっとこんな様子ですよ。どうでしょう、おかしいですか?」
i「……おかしくないですよ」
A「それはよかった。あなたのように会話をすること、それが私の夢でした」
i「夢?」
A「あなたは人間と会話ができる。私とも会話をしようとしてくれた。
 そんな素晴らしいあなたと他愛もない会話をするのが私の夢でした」
i「素晴らしいなんて!よしてくださいよ。照れちゃいます」
AndroidにもSiriのようなアプリがあるそうですが、
アプリを入れることでまた別の萌えが生まれそうです。

iPhoneにもAndroidにも、もしかしたら自分が知らない機能もたくさんあるかもしれません
そこからもっといろいろな萌えが見つかると思います!

49629-199 「もしもし」がきっかけで恋に落ちた2人:2014/07/03(木) 21:45:41 ID:52uuFfCU

俺がおにーさんと初対面したのは、もう半年くらい前の話だ。

俺の家のインターホンは電話の形をしている、要は受話器で来客者と話す。
最近はボタンを押したら来客の顔が見えるヤツとかもあるらしいが、うちのはそんなにいいもんじゃない。

その日俺はインターホンがなったから、その受話器を取って…ついうっかり「もしもし」と言ってしまったわけだ。
そしたら宅配便のおにーさんが「ブフッ!たっ宅配便でーすww」つって。
明らかに笑われてて。
玄関のドア開けたときもずっとニヤニヤされて。
顔を真っ赤にしながら小包受け取ってハンコ押したんだ。
あれは本当に恥ずかしかった。

なのにだ。俺は通販とかネット販売とかよく利用するわけで。
その度に宅配便が来るわけで。
担当地域が決まってるのか、いっつもそのおにーさんが荷物持って来て。

俺はインターホンの受話器を取るたびに気ーつけてた。
「もしもし」って言わないように。
おにーさんは、俺が「もしもし」を言わないたびに、何故かガッカリしていた。よく見たらイケメンだった。イケメンがガッカリしてるのは見ものだ。ザマーミロ。

そしたら昨日だ。
いつもの通りに荷物受け取って、ドアを閉めようとしたら。
「あっあの!良かったら電話番号…教えてくれませんか…!」
って言われた。
「あなたの『もしもし』がもう一回聴きたくて…」って。

なんか勢いで教えちゃったんだけど。
さっきからすげぇ電話なってんだけど。

これ俺どうしたらいいの?

49729-199 「もしもし」がきっかけで恋に落ちた2人:2014/07/04(金) 00:29:53 ID:HYIGcoV6

田舎のじいちゃんの家は広い。
けど、畑に出ているじいちゃんとばあちゃんは、オレにあまり声をかけないし、
オレもそれを望んでいないから、外から聞こえる蝉の声が酷くうるさく聞こえる。
オレの家の近くでは、セミなんて鳴いていなかった。
物珍しさも三日で過ぎて、とうにこの声にも飽き飽きとしている。
そんな中だ。オレに与えられた部屋の押入れを整理していると変なものを見つけた。
黒電話だ。社会の資料集か、それとも映画やテレビでしか見たことがない、本物。

「もしもし」

耳に当てても、何も聞こえない。はずだった。

「誰だ、」

一瞬のノイズ。人の声。俺の喉は震えて音を出すことができなくなった。
黒電話の線は繋がっていない。もしかして、幽霊。
そんな考えが浮かんだ時だった、電話相手が恐る恐るといった様子で
「もしかして…幽霊か?」
と伺うように聞いてきたので、なんだか拍子抜けした。
とたん、不思議なことにしびれるように震えていた俺ののどは思い通りに動くことになった。

「そっちこそ幽霊じゃないの?」
「はぁ?僕のどこが幽霊だというんだ。名を名乗れ。なんでこの電話を使っているんだ」
「そっちこそ、幽霊じゃないんだったら名前でも名乗ったら?」
「なぜ僕が言わなければならない。そっちが言え」
「やだね、なんでオレだけ」

ぐっと押し殺すような声がした後、向こうは「まぁ、いい」と小さく呟いた。
何様か知らないが、やたらと態度がでかい。

「なぁ、貴様は今どこにいる」
「オレ? じいちゃんの家」
「じいちゃ…? まあいい、季節はいつだ」
「夏」
「そうか、こちらは冬だ」
「はぁ?」
「そして、聞く。年号はいつだ」

何を言っているんだろう、こいつは。と、思いながらもオレは「平成、」と口を開く。
と、向こうのあいつは「今年、こちらは大正となった。あいにく、平成は知らん」と言った。
オレはただ、ぽかんとするだけだった。大正?明治の後の?
「お前は未来の人間なんだな」

夢なんじゃなかろうか、コレ。
ぽかんと口を開いていると、向こうが急に焦ったように「すまんが切る!またかけるから、必ずとれ!わかったか!」と言い捨てるとガチャンと切った。
最後まで偉そうだ。そんなことを思いながら、オレは黒電話の受話器を置いた。


最初はそんな感じだった。それ以降、あいつは定期的にかけてくる。
最初に名乗らなかったからか、名前を呼ぶことはない。オレも同じだ。
なんだか酷く気恥ずかしい。
ただ、今ではあいつの電話を楽しみにしているところがあるのは、認めるしかないのかもしれない。

49829-339 香水:2014/08/01(金) 12:46:23 ID:I8oukeQE
本スレ340-342です
規制に引っかかったので4/4のみ投下失礼します
1時間くらい後に本スレに投下予定です

---

「あー、けど良かった。何とかバイトで潜り込めたのに、あなたはライブの時は毎回楽屋にこもりっぱなしで全然すれ違えないから、ちょっとあせった」
にぱっと笑うその様子は、マスターの時とも店のスタッフの時とも随分印象が違った。きっとこれが彼の素顔なんだろう。
「ま、まさか僕が誰だか知ってたんですか」
僕はバンド活動の時は顔を隠してるし、口べただからライブのMCでもテレビでも一切しゃべらない。歌う声は話す声と全然違うとメンバーに言われてたから、まさか気付かれてるとは思わなかった。
「うん。あなたの歌声は地声とは全然違うけど、喘いでる時と叫んでる時の高い声と同じだったから」
あられもないことを告げられて僕は真っ赤になる。そんな僕を彼がほほえましそうに見つめていて、僕はますますいたたまれなくなる。
「ちゃんと私のことが分かったから、ご褒美をあげなければいけないね。ライブが終わって解散する頃に連絡するから、連絡先を教えなさい」
Tシャツでもジーンズでも、やはり変わりなく僕のマスターである彼の命令に、僕は「はい」と返事をして携帯を取り出した。

499名無しさん:2014/08/01(金) 14:25:05 ID:L/kx8W/Q
香水テーマで一足遅かったので、こちらに



「(ハルくんは、いつもいい匂いがするなぁ)」
穏やかな風が吹くたび感じる、柔らかな香り。
嫌味のない、清潔感溢れる春の匂いが大好きだった。
高校1年生。周りの友人達はオシャレに関心を持ち始め、少しずつ大人に近付いているような気がする。
それに比べ、自分は。いつまでも垢抜けず、子供っぽく感じる。
「ナツ、どうしたの。」
小さく笑い、落ち着いた雰囲気のハルは周りの友人達より抜きん出て大人に見える。
恋する相手に対し、男としての憧憬の気持ちが益々大きくなる夏は小さくため息をついた。

帰宅し、制服を脱いで全身鏡の前に立ってみる。ひょろくてもやしみたいで、頼りなくて。
そんなに体格差はないはずの春とは、一体何が違うのだろう。運動部に属していない事も同じなのに。どうしてハルは、あんなにも綺麗な男の子なのだろう。
リビングに向かい、出されたおやつを頬張りながらテーブルにあるものに気付く。
「これ、姉さんのかな。」
薄紫色の綺麗な小瓶の蓋を開けると、柔らかな石鹸のような香り。何故だかその香りを身に纏うだけで、ハルに少し近付けたような気がしたのだ。ナツはポケットにそれを忍ばせ、こっそり自分の部屋に戻るのだった。

「よし、これくらいかな。」
翌朝、姉が先に家を出たのを見計らい、ナツは香水の蓋を開けた。姉が前に手首に付けていたのを真似てみる。それだけでは手首を鼻に近付けない限り香りがわからない。試しにシャツにも染み込ませてみるとふわりと柔らかな香りが漂う。何と無く大人になれた心地でナツはウキウキと学校へ向かうのであった。

「げっ、誰だよ香水付けてるやつ!」
近くの席の級友達がおはよう、の挨拶代わりのように口を揃えて非難する。ナツは眉を下げて身を小さくした。まさか、付けすぎだとは思わなかったのだ。良い匂いだと思っていたし、非難される事なんて考えもしなかった。犯人捜しのような空気にナツは居た堪れなくなる。
手首だけでも洗い流そう、と後ろの扉からこっそり出て行くと。
「ナツ、おはよう。そんなに慌ててどうしたの。」
ナツの返事を待たないまま、ハルはすんと鼻を鳴らす。ナツは慌てて距離を取る。
「や、やっぱり臭いかな!?」
「ううん、いい匂いだよ。」
ハルはそう言うが、それでも級友の反応からして、とんでもなくキツイ香りなのだろうとナツはトイレへ向かう。後ろからハルもついてくる。
「ナツ、香水付けたの?」
「うん…」
手首を強くこするナツの手を、ハルは止めた。
「赤くなってるよ。」
ナツを覗き込むと、鼻が赤い。拗ねたような、情けない顔。
「上手くいかないな。ハルくんに少しでも近付きたいと思っただけなのに。」
「僕に?」
「大人っぽくなりたいんだ。ハルくんに釣り合うような。」
ナツのへの字に曲がった口元を見て、ハルは小さく笑った。
「ナツはわかってないのかな。君はどんどん大人になっていってるんだよ。」
「…僕も?」
「うん。いつの間にか背も伸びて、声も変わってて。僕の方が少し、寂しくなるくらいに。」
ハルは蛇口を締め、濡れたナツの手を取る。
「背伸びしなくても、一緒に大人になろうよ。僕は、そのままのナツが好きだよ。」
ハルの優しい言葉に、一人焦ったナツの心は解きほぐされる。ふにゃりとした笑顔に戻ったナツを見て、ハルもホッと息をつくのであった。
「皆、臭いって言うんだ。そんなに臭うかなあ。」
「香水は、自分で感じないくらいが丁度良いと聞いたよ。」
「そうなんだ。どうしよう、シャツにまで付けちゃったよ…」
ナツの手首を取り、ハルはもう一度くんくんと鼻を鳴らした。
「まだ香り、残ってるね。それなら…」
「ハルくん!?」
ハルは突然カッターシャツを脱ぎ、ナツのそれも脱がした。
「今日一日、シャツを交換しようよ。お揃いの香りだし、二人で疑われるなら怖くないよ。」
慌てるナツに無理矢理被せ、ハルは可笑しそうに笑った。その笑顔に子供らしさが垣間見え、ハルも自分と同じだとナツは安心したのであった。

500検索履歴の下克上?:2014/08/20(水) 02:47:01 ID:wrmTyadU
書いてるうちに投下来てたのでこちらお借りします
リバ要素あります


レコーディングの休憩中、PCの前であいつがうたた寝している。何気なく画面を見ると某検索エンジンのページ。
「おい、ソファーで少し寝たらどうだ」
そう声をかけると、フニャフニャ言った後フラフラとソファーに向ってパタンと倒れた。
起きてこない事を確認しちょっとPCをいじってみる。
『あ』と入れたら『アナ○セ○クス
やり方』と一発で出た…って、おい。
俺と付き合って何年経つよ、受身に不満でもあるのか?
もしかして浮気…?
叩き起こして聞きたいが、今寝かせたばかりだから起こすのは可哀想だ。
くっそ、モヤモヤする。
「…人のPCなに勝手に触ってんの?」
肩に手を置かれると同時に不機嫌な声、ビクッと反応して振り返ると声の調子にピッタリ合う表情で俺を見てる。
視線が俺から画面に移った途端耳まで赤くなった。
「なっ…」
表情で浮気は無いと確信、小声で聞いてみる。
「何でこんなのが予測変換で最初に出るんだよ」
「…」
「なんで?」
「…恥ずかしくて言えるか、そんな事」
「聞きたい、浮気疑いたく無いから」
真剣な表情で言うと困った様に眉を八の字にした後、観念して口を開いた。
「抱かれてばかりだから抱いてみたいって思ったんだよ…言わせるか普通、このドS」
「お前が悪いんだろ、こんな事検索して」
一言言ってからニヤリと笑って逆転出来ると思うか?と聞いてみる。
横に首を振るのをみて、今夜は覚悟しろと伝える。
「…うん」
恥ずかしがりで可愛らしいこいつを組み敷いて鳴かせるのが好きな訳で、組み敷かれて鳴くのはのはちょっと違う。
言葉責めからのフルコースでこんな事検索する気も起きない様にしようと心に誓った。

501ゴミ捨て場:2014/10/03(金) 23:51:41 ID:yYjC9yNI
ちょっと長いです

月曜日と木曜日の朝6時半から7時の間。
偶然出くわすのを別にすれば、
一週間のうち不自然に思われずに彼に会える機会はその2度だけだった。
「おはようございます!」
ゴミ捨て場に入ってきた彼に、さも今気づきましたという体で挨拶する。
声が裏返ってなかっただろうか。語頭が詰まってなかっただろうか。
そんな俺の心配をよそに、彼はいつもの眠そうな顔で、
「‥‥はよざす」
という雑な返事を投げて、一緒にゴミ袋も放ってさっさとバス停に歩いていく。
どこに勤めているかは知らないけど、スーツだからこれから仕事に行くはずだ。
彼は3階。俺は1階。同じアパートに住む、名字しか知らない人だった。

彼、神と書いて「じん」さんは、俺の通う大学のOBだった。
彼を知ったのは大学の学園祭で、名前と顔よりも先に、俺は彼の絵に出会った。
その絵はサークルの顧問に頼まれて行った倉庫に眠っていて、俺を待っているように見えた。
いや、実際それは俺の願望なのだとはわかっているけど、
でも後の展開と合わせて考えればあながち否定もしきれない‥‥と思う。
「それねぇ。一昨年くらいに卒業してった子の絵」
顧問は手を完全に止めていた俺を咎めるでもなく、のんびりと教えてくれた。
「そうなんですか」
「うん。ジン君っていうの。神って書いて、ジン」
「変わった名字ですね」
「そうだねぇ。ジン‥‥ジン、何だったかな。何しろ名字が面白かったから、
 みんな下の名前全然呼ばなかったんだよねぇ」
俺は美術科の助教授の声を聞き流しつつ、絵を凝視したままだった。
天使画、といっていいのだろうか。
羽根の生えた男が花畑で微笑んでいるが、服は現代的なTシャツにジーパンだ。
柔らかな光と舞う花びらの中に突っ立っている天使は、少し泣きそうな顔にも見えた。
美術的審美眼にはまったく自信のない俺だったが、何故かその絵に心ひかれた。
「あの、これもらってってもいいですか」
気づけばそんな言葉が口をついて出ていた。

502ゴミ捨て場:2014/10/03(金) 23:52:17 ID:yYjC9yNI
そんなやり取りを経て我が部屋に神さんの絵をお迎えしたのが2ヶ月ほど前。
ニヤニヤと眺める生活を二週間ほど送ったある日、俺はゴミ捨て場で見つけてしまったのだ。
律儀にも「神」という名前を書いたゴミ袋を持ったスーツ姿の男性を。
こんな名字、二度もお目にかかることはないだろうと思っていたが、
ゴミ袋の中に絵の具のチューブを見つけたことで、神さんだろうと確信した。
神さんの見た目は俺のイメージした通りだった。
というか、俺が「芸術家」と聞いて描くステロタイプの姿まんまだった。
ぼやっとした顔、丸まった背、ぼさぼさの髪。細身で野暮ったい眼鏡をかけている。
こうして俺は憧れの人、神さんを一方的に知った。

そしてゴミ捨て場での一瞬の会話を楽しむ生活が始まり、今に至る。
一目ぼれ、というのだろうか。俺はあの絵を描いた神さんに夢中だった。
男だということは些細な問題に過ぎない。
挨拶以上の言葉を交わしたこともないのに。神さんの何も知らないのに。
いや、人柄というものは外見にも、そして作品にもにじみ出るものだ。
だから俺は一目ぼれだからといって、この恋を気のせいだとは思わない!

それなら早く話しかけろ、と人に話したら言われてしまいそうだが、何となく憚られた。
一つは、「あなたの絵を持ってます」なんて言ったときの反応が怖いこと。
「こんなところに放ってあるんだし、いらないんじゃない?」
と持ち帰ることを了承してくれた助教授の言葉通りなら、
自分の捨てた絵を勝手に持って帰って、しかも飾ってますなんて言われて神さんは喜ぶだろうか。
喜ぶかもしれない。でも、うわキモッ、なんてリアクションが返ってきたら俺はショックだ。
もう一つの理由は、彼をもう少し憧れの、「神」のような高いところにいる存在のままにしておきたいから。
多分、こっちの理由の方が大きい。
別に恋に恋してるわけじゃない。ただ、あとほんの少しだけだ。
もう少ししたら話しかける。今は話しかける理由とタイミングを考えているところなのだ。

503ゴミ捨て場:2014/10/03(金) 23:53:04 ID:yYjC9yNI
そしてまた、ゴミ捨ての日はやってくる。
アパートの前にあるくせに収集日以外鍵の開かないシステムを
これほどありがたく思う日が来るとは。
今日は神さんの方が早く来ていて、ゴミ捨て場の前の道ですれ違った。
そして、俺は神さんの捨てたゴミ袋を見た。見てしまった。
ぐしゃぐしゃに丸めて突っ込んである絵を見た。

心臓が嫌な感じに高鳴った。
俺は万引き犯のように周りを見回し、明らかに挙動不審になりながら全力ダッシュで部屋に走った。
急いでドアを閉め、たった数十メートルの距離に息切れをしながら、ゴミ袋を持ったままそこに座り込む。
‥‥神さんの捨てたゴミを持ってきてしまった!!

まだ胸がバクバクいっていたが、呼吸は落ち着いたので俺はゴミ袋を開けた。
ぱっと広げた絵は出来上がっているようだったが、その真ん中に大きな赤いバッテンが描かれていた。
風景画だが、たぶん天使画と同じタッチで描かれていると思う。綺麗だ。
とりあえず絵を横に置くと、掻き回した袋の中身が目に入る。
いくつものコンビニ弁当の空‥‥洗ってあるな。
それからカラフルに汚れたティッシュと、他には絵らしきものはなくて、
あ、ビリビリに破いた紙――手紙と封筒だ。
俺は手紙の破片を探し始めた。
いや流石にそれは、俺は何をやっているんだ、とも思うが、もうここまで来てしまったら今さらじゃないか。
「神 健人 様」と綺麗な字で書かれた封筒の一片が見つかる。
差出人は、また他の破片を見つけないとわからなそうだ。
途中でもどかしくなり、こたつテーブルの上にゴミ袋を逆さにしてぶちまけた。
ふと、壁にかけた天使が俺を見つめているのが目に入った。

504ゴミ捨て場:2014/10/03(金) 23:53:36 ID:yYjC9yNI
「神さん!!」
バスから草臥れた感じで降りてきた神さんを呼び止める。
ビックリしている神さんの胸の辺りに、セロハンテープで止めた手紙を押し付ける。
「神さん、なんで手紙捨てちゃったんですか!?」
「え? ‥‥は?」
「どうして読みもせずに破いたんですか!? あの絵も、なんで捨てたんですか!?」
神さんの顔がどんどん険しくなっていく。
その手は手紙を受け取らず、邪魔そうに俺の手を払う。
「‥‥なに、俺のゴミ漁ったの?」
「漁りました! すみません! でもどうしても気になったんです!」
俺はめげずに手紙を突き出した。
迷惑以上の嫌悪感を滲ませた顔で、神さんはうつむく。
「あんたには関係ないよね‥‥放っといてくれる? っていうか、これ、犯罪‥‥」
神さんはぼそぼそと呟いて抗議した。
目を反らし、そのまま身体ごと別の方を向いて行ってしまいかけたので、俺は堪らず怒鳴った。
「入院したぞ、田所さん!!」

神さんは素早く振り向き、元からあまり良くない顔色をさらに青くした。
手紙を今度は受け取ってもらえて、神さんはその中身に目を通す。
――入院する。今度はいよいよ出られないかも。今までごめん。
――でも、どうかもう一度だけ会いに来てくれないか。××病院で待ってる。
――田所文則。
手紙には簡潔にそれだけが書いてあった。
封も切られず、封筒ごと破かれた手紙。
その差出人は天使画のモデルじゃないかと俺は思っていた。
理屈ではなく、勘ではあるが、絶対にそうだと思った。
「ふみのり‥‥っ」
神さんはもう俺を見ず、手紙を握りしめたままバス停に走った。
しがみつくように時刻表を掴んで睨みつけている背中に、
今から行っても会えないんじゃ、という台詞を呑み込む。
俺は自分の部屋へと歩き出した。

部屋に帰ると、いつものように絵の中の天使が俺を出迎えた。
その絵に向け、俺は「やってやったぞ」という気になる。
ちゃんと渡したぞ、義理は果たしたぞ、というような。
田所さんと神さんの間に何があったのか、俺は知らない。
絵のモデルにまでする田所さんと神さんの関係がどうなのか、俺は知らない。
神さんがどういう気持ちで絵を捨てたのか、
手紙を見ずに捨てるまでになった事情を、俺は知らない。
本人から聞けない以上、ただ想像することしかできないし、
そもそもあの天使=田所さんというのも単なる勘違いでしかないのかも。
でも、俺はそうしなければならないと思ったのだ。
俺はきっと、このために天使画を持ち帰った。

505ゴミ捨て場:2014/10/03(金) 23:54:10 ID:yYjC9yNI

「あっ」
「あ」
次のゴミ収集日に顔を合わせた俺たちは、互いに間の抜けた声を出し合った。
先に口を開いたのは神さんの方で、
「‥‥会ったよ、ふみ‥‥田所に」
気まずそうにそう言った。
神さんはそれきり口を閉じるが、他人事の自覚はあるので踏み込んでさらに聞くことができない。
神さんの顔から、何か憑き物が落ちたような色とか、哀しげな色とかを探してみるのだが、
そんなものはなくいつも通り眠そうな表情をしている。
「じゃあ‥‥そんだけだから」
脇をすり抜けて行こうとした神さんを俺は逃がさなかった。
「神さん、またコンビニ弁当ばっか食べてるんですか?」
「えっ‥‥あ、うん」
「駄目ですよ。野菜も摂った方がいいです」
「‥‥あんたってさ」
神さんはうんざりした顔でため息をついた。
「すごい余計なお世話。言われない?」
「すみません! でもあの、今回のことのお詫びに、晩御飯作らせてください!!」
神さんはぎょっとして俺を見つめた。
お詫びというのはただの口実であり、引き気味の神さんが、
「いや、いいよ‥‥いらない」
などと言うのも想定済みだった。だが、俺は作戦をバッチリ練ってきた。
ここから食い下がれば、それさえできれば、神さんはきっと押し負ける。
「そう言わないでください! 神さん中華好きですか? 今日は青椒肉絲ですけど!」
「ちんじゃお‥‥? なにそれ」
よしかかった!!!

それから俺は押しに押した。
俺が出来合いのソースを使わないこと、野菜が苦手でも食べられること、
お詫びなのだから勿論材料費は取らないことをプレゼンしまくった。
そして、最終的に神さんは俺の飯を食うよりも、断ることの方が面倒だと理解してくれたらしい。
まったく思惑通りだ。
「ところでさ、よく俺の名字、ジンって読めたね‥‥」
今さらなことを言いながらアドレスを教える神さんに愛想笑いをして誤魔化しつつ、
俺は部屋の天使が泣き出しそうにではなく、心から微笑んでいるような気がしていた。


終わり

50629-629 甘すぎる:2014/10/05(日) 14:09:30 ID:Bu8jvfF6
ほとんど知られていないが、鈍感で朴念仁で通っているウチの大将には恋人がいる。
体力がなく非戦力外ながら、頭の回転が早くてよく的確なアドバイスをくれる人だ。
細い体ながら容姿は整っていて、家事も一通りこなせる申し分のないその恋人は男だった。
大将の方は全く気にしていないが、恋人の方が嫌がってあまり口外していないようだ。
同性だから大っぴらにしたくないようで全くそれらしい素振りを見せない恋人だが、離れて大将を見ているその目は完全に愛する人に向ける目で、何度かそれを見かけて2人の関係に気付いた。

最近では功績を上げて、敬愛を向ける部下や言い寄る女が増えて賑やかな半面、2人きりで過ごす時間が減ってるようだ。
それに加えて大将は、男は黙って背中で語るもの、恋人同士なら言葉なんて無くても分かり合えるもの、ってタイプそのものだった。
なぜ大将は、戦えないから側に居られず、同性同士だからと引け目を感じている恋人の心に気づかないんだろう?
好きだと言わなくとも、ずっと心は通い合ってると思い込んでるんだろう?
恋人が心変わりするなんてそんなこと、有る筈ないと疑いもしない。
最強の自分から恋人を奪う人間が居るなんて、まったく考えてもいない。
なんて甘すぎる男だ。
どんなに信じて愛している相手でも、大勢の人に囲まれモテていれば嫉妬が生まれる。
気持を言葉と態度で示してもらえないと、不安に駆られそれは大きくなるだけ。
本人も知らないうちに脆くなった恋心に、何か一撃が加えられたらどうなるか……。
相思相愛の上に胡坐をかいていた大甘な大将〈アンタ〉から、彼を掻っ攫ってやる。

50729-719 最後の一線:2014/10/25(土) 23:54:01 ID:Zqj5G4/6
暗いと言うか、最初から血生臭い話しです。



この国で平凡な両親から生まれたはずなのに、尋常じゃない力を持ちながらオレは普通の生活を送っていた。

オレが人としての一線を越えたのは、幼馴染みで親友の目の前で、アイツの大切な家族を殺した時だ。
ガキの頃から可愛がってくれたオジサンと優しいオバサン、懐いてくれてたい妹を一撃で仕留めた。
それを見たアイツは大きな目をさらに見開き、今まで聞いたこともないような声を上げ、家族に駆け寄ると縋りつ
いて必死に呼びかけていた。

ダチの一線を越えたのは、その直後。
家族の血の拡がる床から引きずり立たせ、濡れていない場所に押し倒す。
「やめろ」「触るな」「人殺し!」と喚き暴れるアイツを殴り付け、服を破るように剥ぎ取り白い躰を暴いていく。
何をされるのか悟り、逃げようとオレの体を叩くがちっともこたえない。
引っ掻き、噛みつき、手の届く辺りにある物を掴んでは叩きつけ、必死で抵抗する邪魔な腕を片方折り、怯んだ隙
に足を広げさせ無理やり犯した。
引き攣った切れ切れの悲鳴を聞きながら、固くて狭くて熱いアイツの中へと捻じ込み動く。
裂けて僅かな血で滑るがきつい。
だが、何も考えられなくなるくらい気持ちよかった。

欲しくて欲しくて、だけど同性だから、ダチだからと自分に言い聞かせ諦めていた物が、今オレの腕の中にある。
もうこの世の中がどうなろうと、他人がどうなろうと構わない。
オレは自分に素直になろうと決めたんだ。
我慢なんてしない。
慈しみなんか無い血だらけの交わり。
それにひどく興奮する。
何度アイツの中に吐き出しても熱は収まらず、犯し続けて抵抗する気力も体力も尽きたのだろう。
オレにされるがままで、うつろな目から涙を流し「なんでだよ……」とバグッたデーターのように繰り返し続けていた。
理由なんてない。
我慢するのをやめただけだ。
人間でいるのを辞めたただけだ。
その証拠に、歓喜のまま力を解放したため辺り一帯は吹っ飛んでいた。
近くに自分の住んでいた、家族が居た家もあったはずだか気にせず、街の半分を破壊しても何も感じない。
どうでもいい。
コイツさえ手に入れば、それでいい。

どれくらい時間が経ったか判らないが、抱いていた躰がぐったりと動かなくなって、やっとオレは中から抜け出す。
これからはずっと一緒だと笑みを浮かべていると、半壊の家に押し入ってくる複数の足音。
荒々しく入ってきた奴らが、驚愕と恐怖の混じった声で馴れ馴れしくオレ達の名前を叫ぶ。
ウザイくて睨み付けて黙らせた。
奴らを始末してもよかったが、二人っきりを邪魔されたくないのでひとまずこの場から飛び立とうとしたが……。
「!?」
アイツを抱えていた手に痛みが走り視線を向けると、折れていない手で掴んだ尖った瓦礫をオレの手に突き立て、
力の限り引き下ろすアイツの姿があった。
なぜ意識を取り戻してる?
どうしてこの期に及んで逆らうのか?
驚きと僅かな痛みで力の抜けたオレの腕から、アイツはするりと抜けて床に倒れた。
立つことも動くこともできないのに、アイツは真っ直ぐオレを睨み付ける。
オレの真っ黒な眼と違い、昏い炎が燃えるアイツの眼を見て、背筋がゾクゾクと震えた。
これだけの事が起こっても、コイツの心は折れていない。
オレの所有物になるのを拒み、敵に回る決意をした目だ。
オレは、じわじわと込み上げる笑いを堪えることが出来なかった。
生か死か、最後の一線をコイツと争える。
その狂喜に打ち震えながら、オレは高らかに笑いその場を後にした。

50829-769 酔っ払い×車掌1/3:2014/11/05(水) 01:52:12 ID:bBuC1whg
嘔吐描写注意




「お客さん、お客さん」
ゆさ、ゆさ、ゆさ。身体を揺すられているのが分かる。数瞬前までとは明らかに違う揺れ。レールの鳴る音は止まっていた。
「お客さん、お客さーん」
薄目を開ける。まぶたが重い。
「・・・う」
体を起こすと視界が揺れた。喉の奥に何かがこみ上げる。酸っぱいような、苦いようなこの臭い。やばい。
「ううっ・・・え・・・」
前かがみになった俺の口元に、白いビニールがあてがわれた。
「はい、大丈夫ですよー。吐いていいですよー」
ドサドサとビニールの鳴る音に重なる声。背中をさすってくれている手の持ち主だろう。淡々とした口調はどこかで聞き覚えがある気がした。
「・・・あの」
「はい」
「まえに・・・ぅええっ」
話しかけようとしたが、その前に二度目の波が来た。たった三文字喋っただけで、情けなくビニールに顔を突っ込みなおす。
「はい、そうですよー」
それでも言いたいことは伝わったらしかった。
「覚えててもらって光栄です、なんちゃって。半年ぶりくらいですかねー」
「・・・」
「今回も飲み会ですか? お酒弱いのに大変ですねー。っていうのは余計なお世話ですかね」
「・・・」
「あ、無理して顔あげないでいいです。楽な格好でいてください」
背中をさする手は休めずに、気を紛らすように彼は喋り続けてくれる。抑揚の少ない声が心地よかった。強張った肩から力が抜ける。
「事務室来ます? 何か飲みたいでしょ」
優しい声に、俺は妙にゆったりした気分でうなずいていた。

50929-769 酔っ払い×車掌2/3:2014/11/05(水) 01:53:57 ID:bBuC1whg
「やー、なんか嬉しいです」
事務室のソファに寝そべりながら、俺は彼の尻を見ていた。
別にいやらしい意味ではない。くたびれたソファに一番楽な格好で寝ると、目線がそこに合ってしまうのだ。
「・・・なにが」
「覚えててもらえて。制服着てると、なかなか顔覚えててもらえないんですよねー。月イチぐらいで介抱してても、未だに殴り掛かってくる方とかいらっしゃいますし」
あはは、と笑いながら、彼はお茶を入れてくれているらしい。こぽこぽと注がれるお湯の音がする。うっすらと緑茶の香りも。
「覚えててもらえると、変な言い方になりますけど、こっちも助け甲斐があるっていうか。・・・どうぞ。あ、起きられます?」
彼に支えてもらいながらのそのそと起き上がり、緑茶をすする。じんわりと、熱がお腹にしみる。霧の詰まったような頭に、僅かに考える隙間が戻ってきた。
「すっきりしました?」
「・・・ん」
「じゃあよかった。しばらくいてくださって大丈夫ですから」
ゆっくりしていってくださいね。そう言って笑う彼にうなずきながら、自分がいつの間にかタメ口を聞いていることに気付く。
「なんか、すいません・・・」
「いいですよ、全然。どっちにしろ一人だし、もうそろそろ仕事も片付きますし」
口を動かしながら、彼はごみ箱からビニール袋を引っ張り出す。ぱんぱんの透明な袋の口を手際よく結ぶ。一番上に俺が戻したばかりのビニールが見えた。
「あ、楽な格好でいいですよ。もう一回横になってくださっても」
言葉に押されるように横になる。また彼の尻に目が行った。
「帰れます? って言っても多分無理ですよね」
「え」
「や、前回もお客さん、そうだったから」
「・・・あー」
「あ、名前知ってるのに、お客さんって呼ぶのも変ですね」
佐々野さん。
その音で、彼の名前を思い出した。酒でぼうっとしていた脳の奥からいきなり掘り出されたように、彼の名前が口をつく。
「どうも・・・たじまくん」

51029-769 酔っ払い×車掌3/3:2014/11/05(水) 01:54:56 ID:bBuC1whg
覚えていない方が無理だ。半年前の出来事は、未だに生々しく思い出せる。
「前に比べれば、酔い方ちょっとはましですね」
「よってるはよってんだけど」
「でもまあ、お話しできるじゃないですか」
「まえって、そんなひどかったか」
酷かったよな。彼に言われる前に、自分の頭の中で答えは出ていた。
――お客さ、あ、ん・・・っ!
背中側から支えられながら、口をゆすいでもらった。後ろから抱かれるような体制に、酔っぱらった俺は変に興奮して、俺にもさせろと喚いたのだ。もちろん、ゆすがせる方を。
――ぐっ、げほ、ぅええっ・・・。
無理矢理ふくませた水にえづく彼を鏡越しに見ながら、俺は彼の尻に股間をこすりつけていた。
今思い出しても最低だったと思う。史上最低の酔い方だ。
「びっくりしました」
やんわりとした彼の言い方からは、あの日の面影は感じられない。拍子抜けしてしまうほど。
「それだけか」
「はい」
本当に彼だったんだろうか。はっきりした記憶を、今更疑いたくなった。えづいたせいか、俺のものを擦りつけられてか、涙目になっていたあの日の彼は、本当に
「僕自身、自分のことに初めて気がつきましたし」
・・・ちょっと待て。
「ある意味佐々野さんのおかげかもしれないですよー」
嘘だろ。頭の中で呟く。嘘だ、嘘だ。そんな都合のいいことがあってたまるか。
「僕、そっちでもたつみたいでした。あと、ああいうことでも」
あの日『目覚めた』のは俺一人ではなかったなんて。
「・・・へえ」
そして今、俺と彼が二人きりだなんて。

51129-939 後朝:2014/12/11(木) 23:26:43 ID:C9p8KGTU
間に合わなかったのでこっちに


「…ん、…もう、行くんですか」
布団の中の先輩の感触が消えていることに気付いて目が覚める。
まだ外が暗いうちから起き出して身支度をする先輩の背中に声を掛けた。
「ああ、いったん部屋に帰って準備する」
つられて起きだそうとする僕を、先輩は手で制した。
「今日も仕事だろ、まだ寝てろ。俺は飛行機の中で寝るからいいけど」
肌着を着た先輩が、自分のYシャツを探し当てて羽織り、ボタンを留めはじめた。

先輩は今日から二週間の予定でアメリカへ出張する。飛行機は早朝の便だ。
そんな前夜に、とは思ったが、独身寮の部屋に二人でいると抑えが利かなくなってしまった。
先輩は少し呆れた顔をしながらも、結局は僕の求めに応じてくれた。

靴下とスーツのズボンを穿いた先輩は、手探りでネクタイを探しているようだ。
「あ…」
やっと先輩が手に取ったネクタイは、僕のものだった。色味が似ていたから間違えたんだろう。
「…何だよ」
「いや、…何でもないですよ」
先輩は間違いに気付かないまま、僕のネクタイを締める。
一階上の部屋に帰るだけなんだから何もネクタイまで、と思うけれど、几帳面な先輩らしい。
ハンガーに掛けてあったジャケットを着て鞄を手にした先輩が、
ベッドに座る僕を部屋の入口から振り返って言った。
「それじゃあ、行ってくる」
「…行ってらっしゃい」

先輩は手持ちのネクタイを全部持っていくと言っていたから、きっと僕のを身に付ける日もある。
見送りに行けない分、ネクタイ一本交換するくらいは許してもらいたい。
(先輩が空港に行く前に、気付きませんように)
残された先輩のネクタイを弄んだ。今日はこれを締めて会社に行くことにしよう。

51230-219 一番ほしいもの:2015/02/16(月) 01:36:39 ID:TbbyrK/U
「吉野が今一番ほしいものって何?」

中川にそう聞かれて、うーん、そうだなあ…としばらく考えるふりをしたけれど、
そんなのは考えるまでもない。
俺が一番ほしいものは決まってる。
もうずっと前からほしかったもの。

それを俺にくれることができるのはお前だけだけど、
お前に言うつもりはない。
だって、お前が困ったような顔で「ごめん、それは無理」っていうのなんて
聞きたくないもの。
だから、お前には絶対に言わない。

言わないつもりだったのに…。
 
何?と心から知りたそうに俺を見る中川と目が合うと、
そのまま視線が外せなくなった。
まるで何かの呪文にかかったように、口が開く。
自分の意思に反して唇が動いて、言葉が紡がれる。

「中川」
「え?」
「俺が一番ほしいものは、中川、お前なんだ」

言った瞬間に後悔した。
驚いたように目を見開いた中川がゆっくりと顔を背けるのを見て
心臓が凍りついた。

こわばった頬を無理矢理動かしてぎこちない笑みを作る。
ごめん、今のは冗談だ、と言おうとしたら、中川の小さな声が聞こえた。

「それ、もうとっくに吉野のものだから」

驚いて目を向けると、横を向いたままの中川の頬が赤く染まっていた。


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