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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ

1V3:2015/05/12(火) 09:33:12 ID:GO60ug8o
2014/10/09(木) 20:34:42 ID:a1f1bb1b9
タイトル通り、好きな小説をじゃんじゃんバリバリ語りましょう!

3913名無しさん@ベンツ君:2015/05/24(日) 19:15:39 ID:KKn5NuUY

       ∧_∧
      ∩´・ω・)  なしのぉぉぉぉぉぉ♪
       l'    )
       ゝ  y' ♪
 ( ((  (_ゝ__)

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3914名無しさん@ベンツ君:2015/05/24(日) 19:16:10 ID:KKn5NuUY

            ∧_∧   ♪
           (・ω・`∩  ばかめがぁぁぁぁぁっぁ♪
            (   ノ   
       ♪     'y  ノ 
             (__ノ_)  )) )

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3915名無しさん@ベンツ君:2015/05/24(日) 19:16:50 ID:KKn5NuUY

    ∧,_∧ ♪
  (( (    )        じゅうはぁぁぁぁぁちぃねぇぇぇぇん♪
♪   /    ) )) ♪
 (( (  (  〈
    (_)^ヽ__)

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3916名無しさん@ベンツ君:2015/05/24(日) 19:26:28 ID:KKn5NuUY
   ∧_∧ ♪
   (´-ω-`)  ♪  
   ( つ つ     あぁぁぁぁいのぉぉぉぉみぃのぉりぃはぁぁぁぁ♪
 (( (⌒ __) ))      うみのぉぉぉぉぉぉそぉこぉぉぉぉ♪♪
    し' っ

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3917名無しさん@ベンツ君:2015/05/24(日) 19:27:06 ID:KKn5NuUY
 ♪
♪♪♬♬∧_∧
    ∩´-ω・`)
    ヽ  ⊂ノ       そらのためいき ほしぃくずぅがぁぁぁっぁ♪
    (( (  ⌒)  ))
      c し'

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3918名無しさん@ベンツ君:2015/05/24(日) 19:27:42 ID:KKn5NuUY

       ∧_∧
      ∩´・ω・)  ひとでとぉぉぉぉぉぉ♪
       l'    )
       ゝ  y' ♪
 ( ((  (_ゝ__)

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3919名無しさん@ベンツ君:2015/05/24(日) 19:28:13 ID:KKn5NuUY

            ∧_∧   ♪
           (・ω・`∩  であぁぁってぇぇぇぇぇぇ♪
            (   ノ   
       ♪     'y  ノ 
             (__ノ_)  )) )

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3920名無しさん@ベンツ君:2015/05/24(日) 19:28:45 ID:KKn5NuUY


    ∧,_∧ ♪
  (( (    )        おくまぁぁぁぁぁん ねぇぇぇぇん♪
♪   /    ) )) ♪
 (( (  (  〈
    (_)^ヽ__)

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3921V3:2015/05/25(月) 15:21:51 ID:/zBeKZh6
梅グイン、仕込み中ですが、ここから暫くは好きな場面、筋として外せない場面がてんこ盛りで大変です(;^_^A

ことにイシュトヴァーンは、この後々大いに変貌して行くため、この辺りが一番可愛いというか、純な所が迸っていて、感慨深い箇所です

次巻を投下したら、ぽちぽち個人的考察を書いてみようかな、とw

梅(*`Д´)ノ♪

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3922名無しさん@ベンツ君:2015/05/26(火) 01:07:01 ID:CVksTP8M
記念カキコ!!!

書けるようになったんだよ(* `д´)ノ!!!


(=・(エ)・)ノ 梅♪

3923常時苦労人@???:2015/05/26(火) 15:15:29 ID:CVksTP8M
☆ +
 +   ._  ☆
☆ へ ./〜ヽへ+
+ノ从`(。・(エ)・)从丶
ノ从从( つ(⌒⌒)丶    まじ天使ですww
"""""ノ ノ ノ\/"""
+ ☆し"J + ☆
 +  ☆  +


褒められたので調子コイて♪

|=・(エ)・)ノ梅♪

3924常時苦労人@???:2015/05/26(火) 15:43:22 ID:CVksTP8M
☆ +
 +   ._  ☆
☆ へ ./〜ヽへ+
+ノ从`(。・(エ)・)从丶
ノ从从( つ(⌒⌒)丶    まじ天使ですww
"""""ノ ノ ノ\/"""
+ ☆し"J + ☆
 +  ☆  +


調子コイて梅♪

3925V3:2015/05/26(火) 17:42:01 ID:4OHw4zuw
クマーさん、オメ(*`Д´)ノ!!!


梅(*`Д´)ノ♪

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3926名無しさん@ベンツ君:2015/05/26(火) 20:37:01 ID:CVksTP8M
ありがとうございます!(*`д´)ノ!!!

(*`д´)ノ!!!梅♪

3927V3:2015/05/26(火) 22:45:33 ID:AOkKRM4Y
グインの主役の一人、イシュトヴァーンについての考察

初登場の時から、中々油断のならない、陽気な小悪党といった様子のイシュトヴァーンですが、グインやリンダ達に出逢い、行動を共にすることによって、様々な面を見せるようになって行きます
口ではああだこうだ言いつつも、内心ではとても強くグインを慕っていた事が、海賊船での騒動で暴露されました
嵐の中、波にさらわれたグインを取り戻そうと、子供のように大泣きしている所がソレです
普段のシニカルさなどかなぐり捨てて、まるで、父親が死んでしまう、助けて!と泣き叫ぶ息子のようです

これは、彼の育ちにも大きな要因があるのです

3928V3:2015/05/26(火) 22:46:01 ID:AOkKRM4Y

では、続けます
イシュトヴァーンは、当人も言っているように、酒場女の父無し子として生まれ、父親という存在を知りません
その母親と幼い姉も、イシュトヴァーンが物心つくかつかないかの時分に流行病で亡くなり、彼は孤児として育っております
海辺の雑多な下町で、どうやら色々な人々に面倒を見て貰いながら育ったようですが、養子としてきちんと面倒を見るほどには責任を負う大人はおらず、故に彼は、幼い頃から自分で食い扶持を稼がねばならない身の上でした

しかし、当人の人懐っこさからみても、どうしてどうして、彼は、持続的とは言えなくとも、温かな情愛で育まれて来たと言えるのではないでしょうか?
これは、かなり先の巻で、グインも言及していることです

3929V3:2015/05/26(火) 22:46:33 ID:AOkKRM4Y
ぶっちゃけた話、ロクでもない育ちにしては、彼の情動は非常に真っ当です
優しくしてくれた人間には優しさを返すという、ごく当たり前な人間らしさが彼にはちゃんとあるのです
なので、幼い彼に愛を与えた人々は少なくなかったのだろうと、推察出来ます


そんな彼が、それでも淋しさを抱えていたのは、当然のように、自分を守り愛してくれる両親という存在が無かったからです
辛い気分の時には、恐らくは、理想の父親像や母親像を夢想して、自分を慰めていたのではないでしょうか?

そして彼は、グインと出会う前の少年時代に、理想の父親像に近い人物と出会い、その人物から寵愛されております
その人物こそ、後々、王となるイシュトヴァーンを助けるべく故郷ヴァラキアを捨てて彼の下へ馳せ参じるカメロン船長です

3930V3:2015/05/26(火) 22:47:04 ID:AOkKRM4Y
カメロンは、本編でもそのうち出て来ますが、少年イシュトヴァーンが主役の外伝『幽霊船』で、その人柄がよく表されております
サクッと言えば、すこぶるつきのいい男ですww
色々問題だらけの、グイン・サーガ男性陣の中でも、群を抜いていい男だと私は個人的に思います
調子に乗って白状しますが、私がリアルで出逢い慕っている実在男性が、このカメロンそのもののような方でしてww
見かけは紳士ですが、深く話をしてみると、どうしてどうして、相当な反骨心と冒険心で生きて来られたのだと理解出来る、素晴らしい男性ですw

カメロンというのも、女性にもモテるのでしょうが、それよりも、「男が惚れる男」として、船員達に心酔されており、彼の為なら自分の命も惜しくないといった男達が多勢いるような、そうした男性として描かれており、イシュトヴァーンも彼を慕っております

3931V3:2015/05/26(火) 22:47:36 ID:AOkKRM4Y
ところが、イシュトヴァーンは、中々素直にカメロンへの慕情を表しません
思春期真っ盛り、生意気盛りなせいか、斜に構えた態度で、カメロンに見込まれても、本音では嬉しい癖に、「俺は王になる器なのだから、これ位のことは当然だ」みたいな態度で、本編登場時よりももっとクールでシニカルだったりします

ま、要は、色々なモノが邪魔をして素直になれなかっただけなのですが、それでもイシュトヴァーンにとっては、カメロンは理想の父親に一番近い存在でした

しかし、グインに出会ってしまった
イシュトヴァーンが夢見ていたような、本当にすごい男というものを、グインに見てしまう訳ですね
見た目がアレなので、イシュトヴァーンにも自覚は無いようですが、グインの体格、剣技、知力、胆力、政治力など、戦場という極限の場で、何もかもが桁外れのグインのすごさを、イシュトヴァーンはまざまざと見せつけられた訳です

これはもう、ヤられちゃいますよ、ええw

3932V3:2015/05/26(火) 22:48:00 ID:AOkKRM4Y
という訳で、イシュトヴァーンはグインにとても強く惹かれた訳です
ノスフェラスでグインは、自分の身を呈してイシュトヴァーンを守ったりもしたので、だからこそ、グインが命じたモンゴール軍への潜入という危険な任務も、イシュトヴァーンは渋々引き受けた訳です
彼は、自分に何も与えない人間には非常にシビアな態度で切り捨てますが、自分に恩恵を与えてくれる人間の意向には沿うという人間味があるからです

という次第で、様々な苦難を共に乗り越えたこともあいまって、イシュトヴァーンにとってグインとは、「理想の父親像」となったのではないでしょうか?
カメロンがどれほどいい男で、イシュトヴァーンもそれを認めていたところで、カメロンは人間の男に過ぎません

イシュトヴァーンは、辛い幼少期、少年期を、「俺は王になるんだ!」と歯を食いしばって生き抜いて来た、言わば途方もない夢想家だったので、「夢でしかみたことのないような、凄い人間」という存在にとても弱いのです
大概、その手の人間に出会うと、コロリとヤられてますw

3933V3:2015/05/26(火) 22:48:41 ID:AOkKRM4Y
さて、話はイシュトヴァーンにとってのリンダへと移ります

グインに理想の父親を見たイシュトヴァーンは、同時に、リンダに理想の母親を見たのではないかと、私は思っております
リンダは年下の美少女ですので、感情としては恋愛感情になりますし、イシュトヴァーンに自覚は全くなく、作中でもこのようには言及はされておりません

しかし、海賊船でイシュトヴァーンが殺されかけたときに、イシュトヴァーンを救おうと飛び出して来るリンダの姿に、イシュトヴァーンは内心ずっと欲しかった理想の母親の、無償の愛を見たのだと私は思いました
そしてそれは、イシュトヴァーンにとって宗教に近いものとなったのではないだろうかと思います

作者が意図していたのか、はたまた無意識だったのかは定かではありませんが、初登場時からイシュトヴァーンの口癖として、様々な神の名を口にしております
「ヤーンの黄ばんだヒゲにかけて!」とかですね
ロクな育ちではない彼ですが、傭兵や海賊などをして生きて来た身として、己が身の幸運を願う、原始的な宗教観の現れだと思います

そしてこの口癖は、リンダへの恋を自覚して移行、殆んど口にしなくなるのです
(次に投下する梅グイン『クリスタルの陰謀』で、リンダへの誓いの場面では出てきますが)
そして、その後様々な危難に遭った彼は、瀕死の時に必ず意識に上らせるのが、ヤヌスでなくルアーでなく、リンダなのです
北での冒険行で、化け物に崖から放り投げ落とされた時、落下の最中に彼が祈るのはリンダなのですよ
剣で斬られ、高熱を出し、死にかけている最中にも、彼はリンダと呻くのです

これはもう、純愛というより、刷り込みや宗教に近いものだと私は思いました

3934V3:2015/05/26(火) 22:49:16 ID:AOkKRM4Y
リンダのレムスに対するお節介や叱咤なども、イシュトヴァーンの目には「口煩い母親みたいだ」と苦笑しつつ、母性の片鱗を見ていたのではないでしょうか?

その母性の持ち主が、自分に対して、火を吹くように激しい愛を捧げたのです
イシュトヴァーンがリンダに額づく信者のようになるのも、当然のような気がします

今後、様々な変化が二人に訪れますが、イシュトヴァーンのリンダに対する宗教めいた思いは変わらず存在しているようです
リンダが成長し、中原一の美女となった姿を見てからは、拍車がかかったかもしれません

二人の行く末は、作者逝去により永遠の謎となってしまいましたが、イシュトヴァーンからリンダに対する思いが剥がれることは無いような気がします
せめて、薄めてくれるような女性に出会えたら良いのですが、「凄い人間」にしか惹かれない性質のイシュトヴァーンが、安らぎを与えられたところで、宗教までは手放さないだろうなあと

3935V3:2015/05/26(火) 22:49:41 ID:AOkKRM4Y
イシュトヴァーンについては、取り敢えず以上ですm(_ _)m

お目汚し、失礼しましたm(_ _)m

3936V3:2015/06/05(金) 15:22:40 ID:7OJ5CH4o
MERS騒動の渦中にある韓国について、前々から感じていた事をここでボソリ

グイン読者にしか通じない話ですが、私はもう朝鮮半島自体が《グル・ヌー(瘴気の谷)》だと認識してます
そして、朝鮮人は全員カル=モルだとも思ってます
その言葉に耳を傾けるだけで、どれほど頑健な人間でも消耗しますし、引き摺られかねません

故・宜保愛子氏が半島に赴く事を嫌がったのは、伊達じゃないと思います
古くは、素戔嗚尊が逃げ帰って来たとの記述があるような土地柄でもありますし
昨日今日の話ではなく、古代より、日本人が足を踏み入れてはならぬ土地なのだと、私は肝に銘じてます

3937V3:2015/06/08(月) 21:08:02 ID:3z4GG4Kk
ポタリ……
冷たい水滴が、顔を打った。
また一滴。
それが、そこによこたわり、気を失っていたものの、かすかな意識を——同時にやけつくようなのどのかわきと、激しいからだのいたみとを、やにわに目ざめさせた。
「あ……」
ひくい呻き声がもれる。
次の瞬間、その男は、あらゆるからだの衰弱も、のどのひりつくかわきも、そしてまだぼんやりしたままの頭も、すべて忘れはてたように、がばっと身をおこしていた。
弱ってはいるが、それでも敏捷で、しなやかな動きである。
「ああ……」
いったん、がくりと膝をついたが、すぐにその、黒い髪と黒い目の、船乗りの服装に身をかためた若い男は、はじけるように立ち直って、そしてこんどこそにわかにはっきりと自分のおかれた情況を意識したかに見えた。
「水……」
ひびわれたくちびるをむなしくなめながら、彼はうめいた。その目が、甲板のくぼみにたまった雨水の上にとまる。
いきなり、獣の勢いで彼はかけより、ぺたりと顔をくぼみによせると、ぺちゃぺちゃと犬のように雨水をなめ、手ですくいとって飲み、顔をひたし、狂おしくかわきをいやした。
ようやくそれで人心地がついたらしい。彼は我にかえって右手をうごかし、からだのあちこちにふれてみた。
「ふん。——どこにも傷はねえ。生きていたらしいな」
つぶやいたのは、むろん、ヴァラキアのイシュトヴァーンである。
「しかし、一体何が起こりやがったんだ。くそ——甲板で、グインが……そうだ、グインが海におちて——おもわずかけよろうとしたとき、あのくそったれ船長が……それから、あの——一体、何だったんだ?天が裂けたかと思った。おう!そうだ、リンダ……」

「おお」
イシュトヴァーンはゆっくりとヤヌスの印を切ってつぶやいた。
「何てこった。雷だ。——マストか何かに、落雷したんだ。それも、とびきりでかいやつが。…—雷のダゴンよ、これもあんたのしわざとすりゃあ、おれはあんたに黒ブタの丸焼きをささげたものか、ドールの呪いを送ったものか、どっちなんだろうな?もっとも、あの雷がなかったとしたら、おれは、あのイヤったらしい船長にやられっちまってただろうし—…とりあえずは、あんたに礼を云っとくことにしようか」
「あッ!」
イシュトヴァーンは、被害のようすを見ながら歩いていた。その足をぴたりととめた。
そこには、ふた目と見られぬものがよこたわっていた。《ガルムの首》号の船長ラノスは、両手にたかだかと剣をふりあげたすがたを横倒しにした姿勢で、二度と物云わぬありさまになっていたのだが、しかしイシュトヴァーンは、それが船長であることをあわや見ちがえるところだった。なぜなら、ラノスは、まるでかまどからとり出した木切れのように、頭から足のさきまで、むざんにも黒い目こげの死体となっていたからである。
「ドールの炎の舌よ!」
さしも物に動ぜぬイシュトヴァーンも、ぞっとしてあとずさりながらつぶやいた。
「雷は、こいつの剣におちたんだ!」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


梅(*`Д´)ノ♪

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3938V3:2015/06/08(月) 21:09:21 ID:3z4GG4Kk
「ヤヌスよ」
そっとイシュトヴァーンはささやいた。
「波にさらわれはしなかったんだな。やれやれ!」
二十歳の今日まで、わが身ひとつを武器に暗黒の世を生きぬいて、やさしい思いやりや、優雅な云いまわしなど、ひとつも知らぬかれである。
しかし、そのぶっきらぼうなひとりごとには、胸につきささるような安堵といとしさがこもっていた。
「おい、しっかりしろ。まさか、くたばっちまったんじゃねえだろうな。——いつでもヤヌスに守られてるんだと云ってたのは、あいつはホラかよ。ええ」
ぶつぶつ云いながら彼はせっせと、帆布や板きれをとりのけた。

「おい、リンダ。——お姫さま。おてんば姫……やられちまったのか。あの雷に、あたったわけじゃないだろう——ええ?」
イシュトヴァーンは、こわれものをあつかうように、リンダのからだをゆすぶった。
「水——そうだ、待ってろ」
すばやく、リンダをおろしてかけおり、水を口に含んかけ戻ってくる。その肩をかかえて抱きおこし、唇をかさねて口うつしに飲ませてやろうと顔を近よせて、ふいに、イシュトヴァーンはためらった。
その黒い、いたずら小僧のようにも、ずるがしこい蛇のようにもなる生き生きした双眸に、何か、かつて見たことのない奇妙な、畏れるような、とまどうような光がうかび出た。
彼はふいに、嵐のさなかでいなづまにひきさかれ、雷に打たれ、何もかも暗転するせつなの情景を、はっきりと心によみがえらせていたのである。


剣がたかだかとふりかぶられ、いまやイシュトヴァーンの若い心臓めがけてふりおろされようとしたせつなに、彼は、永劫をかいま見る一瞬の中で、その声をきき、安全なかくれ家をあえてとび出してこちらへ走ってくる銀髪の少女のすがたを見たのだ。
「イシュトヴァーン!おお、イシュトヴァーン、死んではいや!」
リンダのきゃしゃな姿は暗黒の海と空のまんなかで、必死に闇に立ちむかうほっそりしたローソクのように輝き、その神秘的な銀髪は激しい風に吹きなびいていた。その女王の誇りと予言者の高貴に近づきがたかったけむるようなヴァイオレットの瞳は、涙をたたえ、大きく見ひらかれ、ただ彼を——イシュトヴァーンだけを見つめて炎よりもあらあらしく燃えていた。
まったくそれはなんという少女だったことだろう!——ひと目、そうしたときの彼女を見たものは、誰ひとりとして、彼女こそ地上のイリス、炎と光と熱とからつくられた青白い聖天使であることをうたがうものもなく、誰ひとりとして、この少女のために生命をかけることをこばむものもいなかっただろう。
彼女は危難の中にあればあるほど、いよいよ至純の、熾烈の炎をふきあげる光の魂をもっていた。彼女はまだおさなく、その魂はほとんど子どものそれでしかなかったが、すでに彼女はその人を思い、また人をにくむ熱情の激烈さでは、比すべきものもなかった。
それをまっこうからむけられる男がもし、そのいちずさとひたむきさをうけとめるだけの勇気とつよさを持ってさえいれば、彼女の愛は、それを得る男にとって、全世界とすらひきかえることのできぬものになるのだった。
イシュトヴァーンの浅黒い顔に、ふしぎな厳粛な表情が浮かんでいたのもむりはなかった。——それから、彼は、思い切ったように顔をふせ、リンダの少しひらいたくちびるに唇をかさねると、やさしく水を流しこんでやった。
「う……」
リンダがうめいて、身じろぎした。
イシュトヴァーンは、そっとその髪を手にすくいとった。たくましい掌のなかで、銀色の絹糸は、キラキラと輝きわたる。
「光の公女——おれの……」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


梅(*`Д´)ノ♪

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3939V3:2015/06/08(月) 21:13:08 ID:3z4GG4Kk
「ねえ、イシュトヴァーン。グインは、どこなの?わたし、救命艇の中にかくれて見ていたのよ。グインが波にさらわれて、あのいやな船長があなたを——イシュトヴァーン!」
リンダは青ざめ、よろめいた。
「おい、おい。どこか、いたむのか」
「まさか、グイン——あのまま、海へ……」
リンダは息苦しいようにやにわにのどを両手でつかんで立ちあがり、手すりにかけよった。
とろりと青く海はもはや平穏そのものだ。
「違うでしょ?グインは、船にのぼってきたんでしょ?そうなんでしょ、イシュトヴァーン」
「いや——」
かくしだてしたところではじまらない、と気づいて、イシュトヴァーンは不機嫌に云った。
「あれきり——」
「イヤよ!」
リンダの声はつんざく悲鳴に似ていた。
「そんなのない!ウソよ、グインが——そんなこと、ウソよ!イシュトヴァーン、船を戻して。グインをさがして。あたしのグインが海で溺れたりするわけないわ。あのひとはふつうの人間じゃないんだもの。あのひとは、一日どころか何日だって、泳ぎながら助けの来るのを待ってられるわ。ね、早く!グインを助けてよ。イシュトヴァーン、ねえ、早く!」
「リンダ」
イシュトヴァーンは、いよいよ怒ったような声になった。
「あれからどのらくらい気を失ってたのか、半日か、一日か、二日か、誰にもわからないんだ。どのくらい、どっちへむけて船がおし流されたのかもわからない。それに……」
「イシュトヴァーン!」
「このへんの海には、でかい《人食い》がいるんだ。おちたりしたら、まず——」
「いやああッ!」
リンダは絶叫した。そして、耳に両手をあててうずくまってしまった。


「あんときゃ、必ずしも一から十までグインがお前さんたちを助けたという覚えはないんだがね」
しようのないイシュトヴァーンが云った。さきほどの神聖な思いはそれとして、リンダがグインにあまり頼ったり、慕ったりするようなことを云うと、彼はどうしても、そう云わざるをえない心境になってしまうのだった。
「このおれが、お前さんたちと当のグインを助けてやったことも、グインが間にあわなくて、おれがモンゴール軍に忍びこんで、お前らを助けだしてやったこともあったと思うんだがねお姫さま。どうも、お前さんは、グインに関しちゃむやみと記憶力がよくて、よすぎるくらいで、おれについてはどういうわけかやたらとつごうよく忘れっぽくなるようだな。なんか、わけでもあるのかい。ええ?少し、不公平なのとちがうかね。おれについてだけ、そうやけに恩知らずでいい、と決めたのはどういうわけなのか、ひとつ教えてもらいたいもんだな」
「いい加減にしてよ、ヴァラキアのイシュトヴァーン」
リンダは涙にぬれた顔をあげ、一瞬、グインが海におちて行方不明になった、という全身の力がぬけてゆくような絶望すら忘れて怒った。
「そんなわけないじゃない、とこないだから百ぺんも云っているじゃないの。それでもね、イシュトヴァーンさん、グインはひとことごとに、あれをしてやった、これをしてやった、助けてやった、なんて恩にきせてまわったりしませんからね。いつだってグインは、そんなことは何でもない、というようすをして、最も崇高な自己犠牲をわたしたちのためにしてくれるんだわ。そりゃあなたがいなかったらどうなってたかもよくわかってるけど、あなたはいつだって、それを全部、こうしてやった、こうしてやった、と云いつづけるんだもの。感謝していたって、そう云う気力がなくなってしまうわ」


リンダはなおも何か云いつのろうとする。それをうんざりしたようすでひょいと顔をめぐらしたイシュトヴァーンは、ふいにぎょっとしたような顔をした。
レムスが、胸に腕を組んで、マストの残骸にもたれかかるようにしながら、おもしろそうにこちらを見おろしていたのである。


グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


梅(*`Д´)ノ♪

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3940V3:2015/06/08(月) 21:15:01 ID:3z4GG4Kk
「あら、レムス——何よ、ひとをびっくりさせて」
リンダが叫んだ。
「気がついてたのなら、早く来なさいよ、ぐずね——なによ、変な目つき。どうかしたの?」
「いや、別にどうもしないよ」
レムスは云って、ひらりと身軽にマストの台座からとびおりてきた。
「変ねえ。あんたって、さっきみたいた顔つきしてると、ひどくナリスに似てるわ。これまでそんなこと、思ったことなかったんだけど——光のかげんかしら」
「そう?」
興味なさそうにレムスは云った。
「それどころじゃないわ——レムス、たいへんよ。グインが……」
リンダがふいに思い出したようにせきこんだ。
「知ってる。でも、いまは、そんなことをいってるときじゃないよ」
「まあ!おまえまで、そんなこと、だなんていうの!みんなグインのことなんかどうでもいいのね。いいわ、わかったわ。じゃわたし一人ででもグインを助けてみせるからいいわ——」
「どうでもいい、と云ったんじゃない」
レムスはしごく冷静に云った。
「いまはそれどころじゃない、と云ったんだよ。うしろをみてごらん、リンダ。船のみなさんが、目をさましてこの船にふりかかった災難は、ぼくらのせいだ、と決めたらしいよ」
「え——?」
リンダはふりむき、そして青ざめた。
かれらのいる上甲板のすぐ下まで、二、三十人の幽鬼のように髪をふり乱した全員どもがいつのまにか、こっそりと忍び寄っていたのである。
「ふん、さっそく、水入りのつづきをしたいってのか」
イシュトヴァーンがすらりと剣をぬきはなった。
「へえ。お前もやるかい」
おもしろそうにレムスを見ていう。レムスはすでに長剣を手にしていた。
「どうだい、お前の弟も、なかなか育ってきたじゃないか。……どれ、お手並み拝見といくかな」
イシュトヴァーンがニヤリと笑った。


「きゃあ!」
リンダが悲鳴を——何ひとつまともにききとれぬ叫喚と、そしてひとかたまりになった死闘のなかで、激しい悲鳴にも似た声で呼びつづけていた。
「イシュトヴァーン——イシュトヴァーン!ああ、グイン、グイン!グインさえいてくれれば……グイン、助けて、イシュトヴァーンを助けてえ!」
さすがに、一人対十人である。
イシュトヴァーンは三人までも切りふせたものの、前後左右に敵をうけて、もはや少年少女たちをかえりみることもできなくなっていた。
彼の肩からも、足からも、頬からも、ポタポタと血がしたたりおちていたが、彼は手傷をおっていることに気づきすらしなかった。彼は狼のようにもぐり、とびかかり、とびさすり、息もつかずに縦横に剣をふるいつづけていた。


「リンダ!」
イシュトヴァーンはあえいだ。
「畜生、レムスのばか!何をしてやがる、あれほどリンダのそばからはなれるなと云ったのに!」
巨大な、頭がつるつるの黒人が、もがくリンダの肩をつかみ、そののどに半月刀をさしつけていた。
「刀をすてろ、小僧」
大男がわめいた。
イシュトヴァーンはぐっと息をつめた。
「うまいぞ、ダボ」
「娘を殺されてもいいのか」
「ドールのまわし者め!」
イシュトヴァーンはののしりながら、リンダの目を見た。
リンダは黒人の、黒光りする太い腕に口をふさがれたまま、必死な目でイシュトヴァーンを見つめていた。その目にぶつかったとたん、イシュトヴァーンは、がっくりと力をぬいた。
「わかったよ、畜生ッ」
叫ぶと、からりと剣を投げ出す。


「殺すなよ、てめえら。まだ、手を出すな。仲間の敵、船に凶運をもたらしたやつだ。ゆっくり、面白え趣向を考えてやらなきゃ気がすまねえからな」
「おおさ、ひっくくれ」
「縛りあげろ」
「ハッ」
イシュトヴァーンは、自らのへまをあざ笑うかのように唾を吐きすてた。こうなっても、なおも、彼は少しも絶望などしていなかったし、戦意を失ってもいなかった。彼はただ、反撃の機会をねらうために、云うなりになっていたのだ。
「レムスのばかやろうめ」
口の中でイシュトヴァーンはののしり、わざと悲鳴をあげるほどにきつく逆手にねじあげられて帆網にくくりつけられはじめても、声ひとつ立てなかった。


グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


梅(*`Д´)ノ♪

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3941V3:2015/06/08(月) 21:18:36 ID:3z4GG4Kk
「さあ、この娘は、おらのもんだぞ」
黒人のダボが有頂天になってわめいた。
「見ろや、大したべっぴんだぜ。この髪の毛ときたら、ほんとの銀みてえだ」
「おや?」
ふいに誰かが眉をしかめた。
「あのもう一匹のガキは——それからあのサルみてえなちびが……」
「どっかにもぐりこんでふるえてやがるのさ」
勝ちほこった海賊が云ったときだ。
「ヒャッ」
「な、なんだ」
いきなり、かれらは首をすくめて上をふりあおいだ。
「雨かよ」
「いや、それにしちゃ、ヌルヌルしやがるぜ」
「妙な匂いが——うわッ、ガキめ、あんなところに!」
誰かが大声をあげて、上を指さした。
イシュトヴァーンとリンダも思わずつられて上を見——
そして息をのんだ。
「レムス!」
主な三本の帆柱のうち、折れのこった一本——
そのかなり高いところに、レムスがいつのぼったのか、しっかりと枝木をふまえて立っているのだ。
そのからだは、ナワでマストにくくりつけられ、その手には、ひとつのツボをもっている。レムスはまた、そのツボをさかさにし、すると下へむかって、黄色っぽいどろどろした液体がぬるぬると流れた。
「わッ」
「こ、こりゃ油だ」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


梅(*`Д´)ノ♪

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3942V3:2015/06/08(月) 21:21:10 ID:3z4GG4Kk
スニはスルスルとマストをのぼりつめると、レムスにもってきたツボを手わたした。それをまた、レムスは勢いよく、船めがけてふりまいた。人々の頭も、からだも、甲板も油でまみれた。
と見てから、レムスは、静かにかくしから火打石をとり出し、ほくちのぬのをとり出した。
かち、かち、とスニに布をもたせて火をつけはじめる。
「わああーッ!」
「あ、悪魔みてえなガキだ!」
「火をつける気か。油をまいて——」
たちまち、海賊は、リンダとイシュトヴァーンをはなしてマストに殺到した。
スニがスルスルと途中までおりた。ぱっととり出したのは、セム族の吹き矢だった。みるみる、毒矢に目や顔を射られて、マストによじのぼろうとした数人がギャーッと叫びながらおちていった。
「きさま、やめんかーッ」
「そんなことをしたら、きさまも一緒に火あぶりだぞ」
「きさまの仲間どもも焼け死ぬんだぞ」
下では手のほどこしようもなく、じだんだをふんでわめきたてる。
それへ、
「そうとも!」
「ぼくたちも死ぬ。しかし、お前たちも、この船もろとも、全員いっしょに焼け死ぬんだ。ぼくたちだけがつかまってなぶり殺しになるよりは、みんな一蓮托生で、あっさり火のなかで全滅したほうが、ぼくとしては満足だからね!」
「やれるものなら——」
云いかけた瞬間に、レムスはほくちを下へおとした。
ぎゃあッ、とすさまじい海賊どもの絶叫がおこる。かれらはてんでに逃げ出そうとし、中には海へ早てまわしに身を投じるものすらあったのである。
しかし、火はたちまち燃えひろがりはしなかった。レムスはにやにやしながら、長くしてあったほくちをたぐってひきもどし、その勢いで消えたそれに、ていねいに火をつけ直した。

「降伏しろ」
レムスの容赦ない声がなおもひびく。
「降伏するんだ。ぼくたちに決して危害を加えぬ。ぶじに目的地まで運べるよう、もとの航路をさがす、とドライドンにかけて誓え。そうすれば火を消してやる。——ぼくも約束しよう。お前たちは、われわれを人質にとったり、売りとばすより、われわれの味方につき、われわれに協力した方が、はるかに安全と——そして、財宝を手に入れられることになる。ぼくたちを期日どおりライゴールへ運んだら、そのとき、お前たちに新しい船一隻と——そしてお前たちひとりひとりに百ランの報酬を約束しよう。イヤというなら、これまでだ。ここでぼくもお前たちもろとも、火だるまになって、この船をわれわれ全員の燃える墓にするまでだ。選べ!」
「くそっ」
イシュトヴァーンは、海賊たちの注意がレムスの方へそれたその瞬間に、たちまちナワを切ってぬけ出し、リンダをとりもどして、船首へとびこんでいた。思わずかれはヒュッと口笛をふいて呟いた。
「これが、あの、白い羽根を生やしてると思ってたパロのひよこか。ルアーの黄金の剣にかけて、大した玉だぜ。いやまったく、アレクサンドロス、イアソンもびっくりの知恵者だぜ。なんてえ大ばくちだ——それになんて度胸だ」
「レムスったら……」
リンダはうめくように云った。あまりにもめまぐるしい展開に、おどろくことさえも忘れているようで、彼女は自分がイシュトヴァーンにとりかえされて、そのたくましい腕の中に、しっかりと抱きしめられていることさえ、なかば無意識のままだった。
「やっぱりグインが正しかったのかもしれねえな。あいつはひょっとしたら、いい国王陛下になるかもしれん」
イシュトヴァーンは呟く。その黒い目には、しぶしぶながらの感嘆の色がうかんでいた。

「ふうっ」
思わず、イシュトヴァーンも、剣を手にしたまま、深い息をつく。
「まずは、やれやれだ」
「だ、だって——」
「いや。おれはレントの海賊船に乗ってたからよく知ってる。ドライドンへの誓いは、船乗りにとってヤヌスの誓いより神聖だ。最悪の連中でも、この誓いだけは決して破れない。少なくとも、海の上ではな」
イシュトヴァーンはにやりと笑ってみせた。
「とりあえず助かったぞ。あんたの弟に、礼を云いなよ。姉貴風を吹かすのはやめてさ」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


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3943V3:2015/06/08(月) 21:24:16 ID:3z4GG4Kk
「下のようすはどうだ」
イシュトヴァーンは、何やら奇妙なものをせっせとつくる手は休めぬまま、きいた。
「また、何やら、集ってわるだくみをしているようか」
「いいえ——いまのところ、それは大丈夫だと思うわ。ダボたちは、船室で、ずっとばくちをしているわ」
「レムスは」
「かれらと一緒なの。あれ、どういうのかしら」
リンダは不服そうに、眉をしかめた。
「こないだのことでは、少し見直したまではよかったんだけど——あの子ったら、変に、海賊たちに気に入られてしまったらしいのよ。度胸がある、とか何とかいって。その上、あの子まで、何のつもりなんだか、あの不潔な連中あいてに、いろいろ話しこんだり、ばくちを教えてもらったり、船のことをあれこれきいたりしているの。あんな、下等な連中と気のあうような、そんなところのある子だと思わなかったわ。いやあねえ、スニ」
「そう云ったもんでもないさ」
イシュトヴァーンはしきりに小刀で木切れのはしをけずりながら、上の空の返答をした。
「いずれ国王にもなる身なら、かっこうの、しもじもの事情に通じる勉強ってものさ。おれなら、あの子は、したいようにやらせとくね。あいつにゃ、自分の考えってものがあるんだろうよ」
「それが、気にくわないんだわ」
双子の姉は、腹立たしげに云い、日にやけたひざをそろえてイシュトヴァーンのかたわらにすわりこむと、可愛い口をとがらせた。スニが、リンダのとなりにちょこんとすわる。
「その、自分の考え、なんてものを、いつの間にあの子がふりまわすようになったのかと思うと。——いつだって、あの子、わたしのあとをくっついてまわって、わたしのうしろにかくれて、ちょっと何かからかわれたり、いじめられたりするとすぐにぴいぴい泣いたものよ。双児に生まれて——パロのふたつぶの真珠、と呼ばれて。わたしたちが生まれたとき、一人はパロの偉大な王となり、一人は偉大な予言者となる、と占い師たちは占ったわ。いつでも——そうよ、ほんとにいつでも一緒で、一ザンとはなれていたことはなくて。何かわけがあってひきはなされると、わたしたち、赤ん坊のころから、わあわあ泣いて、一緒になるまではどうしても泣きやまなかった、とお母さまが話して下さったわ」
リンダは淋しそうに、スニの小さな頭を、そっとなでながら続けた。


グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


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3944V3:2015/06/08(月) 21:26:22 ID:3z4GG4Kk
「ところで、グインのことだが——このごろ、何も云わなくなったが、とうとうあいつはもうダメだとあきらめたのかい?」
「そうじゃないわ」
リンダのくちびるがふるえた。スニがイシュトヴァーンを怒ってにらみつける。
イシュトヴァーンは目をそらしたが、一瞬その黒い目の中に、何か複雑な光がうかんだ。
リンダはうつむいてくちびるをかんだ。その彼女は、いつもの彼女らしくなく、ひどくたよりなく、かよわい、庇護を必要とする小さな見すてられた子どものように見えた。
しかし、彼女は、ぐいと頭をふりやって、心をふるいおこした。リンダはぎゅっとスニの肩を抱きしめながら、海面へ目をやり、きっぱりとした声で云った。
「その反対だわ。わたし、考えたのよ。グインはやっぱり特別なんだわ。だから、グインが、死んだり、わたしたちの前からいなくなることなんか、決してあるわけがない。前にも——グインがラゴンの援軍を頼みにいったときも、わたしたちがもうダメだと思ったさいごの瞬間に、グインは風穴の中からあらわれて来た。わたしね、イシュトヴァーン。わたしたちとグインの運命って、きっと何か、ふしぎな、ヤーンのみのしろしめす糸でかたくよりあわされている、という気がしてならないの。わたしの予言の力は知ってるでしょ——そのわたしが、グインともう二度と会えない、という気がしない以上、グインは死んでやしない。グインは死ぬことなんて、ないのかもしれない。そして、グインは生きているかぎり必ず、わたしたちがほんとに追いつめられれば、わたしたちを救いにあらわれてくる、という気がするの。だって、グインはわたしたちの守護神なのだもの。だから——そう考えたから、わたし、いたずらにさわいだり、泣いたりするのをやめたのよ。グインを信じ、じっと待っていることにしたの。そうすれば、絶対にグインはわたしのもとにかえってくるわ。——ねえ、イシュトヴァーン。覚えてるでしょ、ノスフェラスをたつとき、海路アルゴスへというコースを占ったら、それはすなわちグインに多くの危難がふりかかる、と出たわね。そしてほんとにこれまでのところ、グインひとりが、旅のいちばんつらい部分を身にひきうけてるような気がする。でも、あの占いには、わたしたちとグインとの別れの星は出ていなかったもの。わたし、信じるわ——グインを。わたしの占いを。わたしとグインの運命がひとつだってことを」
リンダはまばたきをして、健気に涙をみなもとへおしもどした。
イシュトヴァーンはひどく奇妙なよこ目づかいでリンダを見た。これまでしたことのない、複雑な目つきだった。
(わたしとグインとの運命がひとつ、だと?)
彼はこっそりひとりごちた。
(それじゃおれの立場はどうなるんだ。くそ、この問題は、やつがくたばってりゃいざ知らず、やつが生きてたとしたら、いずれかたをつけなくちゃならんな。——というのも、たしかにこの娘っ子のいうとおり、このおれの人並すぐれた第六感でも、ヤーンの黄ばんだひげにかけて、グインのやつがくたばった、という気は、どうしてもして来ないからな!)

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3945V3:2015/06/08(月) 21:27:48 ID:3z4GG4Kk
さっきからイシュトヴァーンがせっせと作っていたものは、ようやくできあがりかけていた。それは、木切れの弓づるをつなぎあわせた輪になっていて、何かのワナか、捕り網のように見えた。
「ふん、こいつは、ヤーンの尻尾をつかまえるためのワナなんだよ」
イシュトヴァーンはそっけなく云って、網の奥に、羽根と布でつくった白いフワフワしたものをくくりつけた。それはどうやら鳥のように見えた。
「まあかわいい。それなに」
「これは、おとりさ。これをこう——よし、できた」
イシュトヴァーンは、スニにおさえていたつるの端をはなさせた。パシーンと音をたてて、空中高く、そのかご状のものが舞いあがる。長いつるがそのかごを、マストの残骸にくくりつけている。
イシュトヴァーンは、手もとにのこしてあった細いほうのつるをひっぱった。
「まあ」
リンダとスニは目を丸くして見上げた。青い空に、そのかごに結びつけられたまがいものの鳥が、そのつくりもののつばさをひろげ、イシュトヴァーンがつるをひくと、パタパタとつばさをはばたくのである。
「すてき。でも、これ一体どうするつもりなの?かざりもの?」


「よーし。あざやかだろう」
イシュトヴァーンは得意顔で、スルスルとワナをひきおろし、ばたばたもがく鳥を気をつけてつかんだ。
「おい、どうする。こいつ、用がすんだら食っちまうか。首をひねった方が、話が早いんだが。まずいもんじゃねえぞ」
「いやよ、やめて」
リンダは顔をおおった。
「こんなきれいな鳥じゃない。せずにすむなら殺したりしないで、あとで放してあげて。——でも、それで、どうしようっていうの?」
「うん、だからさ。こいつを調べて、どっちの方角にどのくらい行けば陸地があるか、推理してやろうというのさ」
「そんなこと、できるの?まるで、判じものみたいね」
「できるさ。それもお前さんの占いよりゃ、ずっと理に叶ってるとおれは思うがね。ヴァラキアの船乗りにゃ、昔から伝わってきたやりかただし」


「でも、そうしたら、あの人たちが……」
「あいつらにゃ、あいつらのしたいようにさせときゃいい。いいか、レムスにもこっそりそう云っとけ、時期をみて、この船からぬけ出すから、そのつもりでいろ、とな。そのときになってもたもたしてたら、お前でもレムスでも容赦なく置いていくぞ。第一あの海賊どものこった。たとえドライドンの神聖な誓いをたてて、いまのところはなんとか何ごともなくおさまっているといっても、それはドライドンの領土なる海の上では、誓いをやぶってかいじんの怒りを招いてはならぬ、というだけの理由だ。一歩でも陸に上がりゃ、その瞬間に、もうドライドンの誓いを守る理由はない、とばかりおれたちにおそいかかって来るだろう。だから、こっちも、とにかくまずはどこかに上陸しわそれから別の船をさがすなりしてライゴールを目指すのが上策さ」
「わ——わかったわ」
リンダは心細そうに胸を両手で抱きしめた。


グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


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3946V3:2015/06/08(月) 21:29:00 ID:3z4GG4Kk
リンダはリンダで、レムスがずっと海賊どもの方へ入りびたっているので、つれづれなるままに、上甲板でスニをあいてに、あれこれとおしゃべりをしてすごしていた。彼女はスニに中原の風習を教えたり、ことばを教えたりしていた。もう、スニは、相当にこみいったことまで、いくぶん発音に難のある、リンダでないとわかりにくいような云いかたでではあったが、すらすらとしゃべることができるようになっていたし、リンダの長いつややかな髪をくしけずったり、それを編むこともおぼえていた。

「ねえ、スニ。ずっと前、スタフォロス城で、はじめてスニとわたしが会ったときのこと、覚えている?」
「はじめて——アーイ、姫さまがトルクから助けてくれた。こわい人が出た」
「そう、そのときよ……ね、スニ。あなた、あのとき、わたしがグインの話をして、グインが自分の名前と《アウラ》ということばしか覚えてない、といったら、ひどくこわがったわね。あれは、どうしてだったの?」
スニはびくんとした。
「わたし、そんなことしないよ」
「したわよ。セムのことばで何か云って、とてもおどろいていたわ。——《アウラ》って何だか、知っていたんでしょう、スニ?それを、わたしに教えてちょうだい」
「スニ、知らない。アウラなんて、知らないよ」
「まあ、スニ」

その夜である。
「シッ——音をたてるな」
忍びやかな声が、ともでささやきかわされていた。

「みんな、乗ったか——よし、レムス、そっちを漕げ。はじめは、静かに櫂を水にいれろよ——綱を切るから、つかまってろ」

リンダはスニを抱きしめ、じっと迫ってくる黒いかたまりを見上げていた。
(イヤだわ)
彼女はそっとささやいた。
(この島は、よくない予感がする。できたら、上陸したくないわ——でももう、そんなことを云っていられる状態じゃないのだから、しかたないけれど……でも、この島には、何かがあるわ。不吉よ——わたしには、わかるのよ)
沈黙の内に時が流れ——
やがて、ザッ、と音をたてて、ボートのへさきが、砂浜につきささった。
かれらは、ロスを出て十何日ぶりかの、固い大地を足の下に踏みしめたのである。

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3947V3:2015/06/08(月) 21:30:49 ID:3z4GG4Kk
「どうした。寝られないのか」
彼は云った。
「いまのうちに、じゅうぶん体力をたくわえておけと云ったろう」
「ええ。——でも、疲れていないのよ、わたし」
「そうか。——じゃ、ここへ来て、すわって海でも見たらどうだ」
リンダは、ためらいがちに、イシュトヴァーンのかたわらの少し低いところに腰をおろした。
そこは高くなっていて、目の下の崖の向こうに、夜光虫の輝く海が美しく見わたせた。

「とても——きれいだわ」
リンダはしばらく黙っていたが、吐息のような声で、この圧倒的な静寂を破ることをおそれはばかるようにささやいた。
「きれい——などということばでは似合わないくらい。あまりにも、神々しくて、何かをかくしていて、そして何かを告げていて、大きくて——怖いくらい」
「美しい——ときたね」
イシュトヴァーンはそっけなく云った。
「おれは、残念ながら、これからどうやってここを切りぬけるか——この海をどうやって乗りきってお前さんたちをアルゴスにおくりとどけられるのか、それで頭がいっぱいで、とうていそんなのんびりと海をながめてるわけにゃいかないね」
「……ごめんなさい」
リンダは、しばらくの沈黙のあと、小さく云った。
イシュトヴァーンは、びっくりしたようすで、リンダを見た。
「わたし、いつでも、考えなしなことばかり—…自分勝手なことばかり、云ったりして、あなたにもグインにも迷惑ばかりかけているのね。わたしはきっと、あのクリスタルの宮殿の中で、何でもわたしのいうことをきき、いちばんにわたしをちやほやしてくれる人ばかりにかこまれて育ったので、何かがきっと欠けおちた人間になってしまったのだわ。それで、自分ではそんなつもりもないのに、何か云うたびに、あなたを怒らせたり、いやな思いをさせたりしてしまうのね。なんだかわたしはほんとうにあなたのじゃまばかりして、重荷になってばかりいるようで、もうほんとうにイヤになってしまったわ。あなたがわたしのことをきらいだったり、バカな娘だと思ってもふしぎはないわね」
「何をいってるんだ——ばかな」
イシュトヴァーンは、何かしらひどく当惑したような、あわてたような声を出した。
しばらくだまっていたが、
「一体なぜまた、おれがあんたのことを、きらいだなんて思うんだ?」
彼は、奇妙な、こもったような云い方でつぶやいた。
まるで、自らの口にすることを、自分できくのがこわいとでもいうようだった。
リンダはなさけなさそうに云った。
「あなたは、わたしが、自分の欠点を、自分で少しも知らないし、そんなものはないと思っている、と思っているのでしょ。でも、そんなことはないのよ——ほんとうは。ただ、わたし……きっと、すなおでないだけなの」
「リンダ——」
イシュトヴァーンは、ますます、リンダから顔をそむけ、意地になりでもしたように、彼女をみまいとした。
「おれは、少しばかり口はわるいが——しかしそれは、いつもカッとなったとき思わずいうことで、心からそんなふうにあんたのことを思ってなんか、決していやしないよ」
「まあ——」
リンダのつぶやきは、低かったが、ひどく雄弁だった。

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3948V3:2015/06/08(月) 21:34:11 ID:3z4GG4Kk
イシュトヴァーンの息づかいが、わずかに早まった。しばらくの間、どちらも何も云わず、あたかもどちらか先にこの沈黙を破った人間が、このたたかいに似たはりつめた緊張のとばりをあけ、その結果を身にひきうけねばならぬとおそれてでもいるかのようだった。
二人は、強情にたがいを見まいと顔をそむけつづけていた。しかし、その重苦しい時間を、ふいに破ったのは、イシュトヴァーンのほうだった。
「そのう——おれはつまらんことを考えていたよ。前にはおれはたしか、おれが生まれたときに予言された《光の公女》についてあんたやグインにしゃべったと思うが……」
「ええ」
リンダはどことなくほっとしたように云った。
「覚えているわ」
「そのう、つまり——おれは、いまじゃ、あんなことをあんたに云うんじゃなかったなと思ってるんだよ」
「なぜ?」
リンダのいらえは、あまりにもすばやかった。
「つまりさ——」
イシュトヴァーンはそっとくちびるをなめた。
「だから、おれは心配したのさ。あんなことをいったので、だから、リンダ、あんたがおれのことを、そのう……あんたが王女だから、だから、その——」
「わたし、国を追われた王女だわ」
リンダは下唇を吸いこみ、激しく云った。
「わたしはもう何も持っていない。たとえアルゴスへぶじについたとしても、おばの助けをこい、そのあわれみにすがって、軍隊をかりてパロへせめのぼる、なんてことが、ほんとうにできるかどうかわからない。アルゴスの民は草原の人々で、かれらはとても情誼にあついけれど、でもかれらだってたかが血が少しばかり混じりあっているというだけで、他の国の無力な子どもたちのために国のすべてをかけてまで戦ってくれはしないでしょう。たとえそれにおばの口添えで、パロ奪還の軍をおこすことができても、モンゴールをうちまかす望みは少なく、そして国をとりもどせばこんどはそのためにうけたアルゴスの恩恵がわたしたちの負債になる。わたしたちは幼くて、何の力ももっていないから、どんなことをでももうたしかだと信じるわけにはいかないの。聖なる王家の聖なる血をひいているというだけでは、そのへんで平和にくらしている漁師の子どもよりもさえ、多くをもっていることになどなりはしないわ。あなたやグインがかしてくれている力にだって、はたして、ふさわしい約束どおりの報酬どころか、何を払えるのかわからない。わたしが——わたしとレムスがいま、たしかに持っていると云えるのはもう、このからだのいのちだけよ。それもあなたが守ってくれなければ、いつ失ってしまうかわからない。——わたしたちは、そんなものになってしまったのよ。父もなく、母もなく、財宝もない。それでも王女などと云えるかしら?ただの孤児、そうよ、わたしたちはあなたがいなくては何もできない無力な孤児にすぎないのよ!」
「お前さんが、そんなことを考えていようなんて、真実の守り神なるヤヌスにかけて、おれは考えてもみなかったよ」
思わず口から出た、とでもいったように、イシュトヴァーンは云いかけた。
が、リンダがいきなりわっと泣き出したので、あわてふためいた。
リンダは長いこと忘れていた涙がようやく流れ出すすべをとりもどした、とでもいうかのように、手放しで、王女の誇りも気丈さも投げすてて泣いていた。彼女は結局のところ十四歳にしかすぎなかったのであり、年齢と、それまでの境遇のわりに、あまりにも苛酷なたてつづけの試練に、あまりにも長いあいださらされつづけて、一刻として心の安まるいとまさえなかったいたいけな少女なのだった。彼女の若さと生来の情ごわさとが、これまで辛うじて彼女を支えていたけれども、いまはその牙城はくずれおちた。彼女は、ひどく小さく、かよわく見え、そして恥ずかしさも忘れてしゃくりあげた。


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3949V3:2015/06/08(月) 21:35:17 ID:3z4GG4Kk
イシュトヴァーンは狼狽した。
「悪かった」
ふだんの彼らしくもなく、ほとんどおろおろして、彼は口走った。
「悪かった。つまらんことを云っちまったよ——悪気でいったんじゃない。本当だ、ヤヌスにかけて、サリアにかけて、イリスにかけて誓うよ。だから泣かないでくれよ。リンダ——なあ、リンダ……」
彼は、当惑しながら手をのばし、なおもしゃくりあげている少女の肩にそのぶこつな手をおき、何とか少女の心をなだめ、やわらげようとした。
が、その手がリンダの、うすい服一枚につつまれた、やせたきゃしゃな肩にふれたとたん、彼はびくっと、まっかにおこっている炭火にでもふれたように手をはなした。
リンダもはっと身をかたくした。彼女のすすり泣きは止まっていた。
リンダは両手を口にあて、泣き腫らした瞳で、息をつめて、じっとしていた。それから彼女は、まるでそこに何を見出すのか、それを少しも知らない、とでもいうような、おどろきと、そしてわななきにみちた目で、ゆっくりと頭をまわし、イシュトヴァーンの方をみた。
彼女の長い睫毛が激しくまばたき、そしてその、夜明けのスミレ色の大きな眼は、なにか、云い知れぬ激情と、期待と、そしてやさしい思い——そう、女らしくやさしいあふれる思いをたたえて、ゆるやかに大きく見はられた。
「イシュトヴァーン——?」
彼女は、どこか甘やかな、かすれた声でささやいた。
「リンダ」
イシュトヴァーンは唾をのみこんだ。

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3950V3:2015/06/08(月) 21:38:32 ID:3z4GG4Kk
「リンダ——」
彼は、ためらい——
それから、少女をぐいと抱きよせた。
リンダはさからわなかった。彼女は目をとじて、顔を仰向けた。その小さなあごを彼はこわれもののように指で支え、そして、まるで生まれてはじめて世界を見る子供のように、ふるえながらくちびるをよせていった。
「イシュトヴァーン……」
ようやく、彼がくちびるをはなすと、リンダは、目をとじたまま、夢みるようにささやいた。
「イシュトヴァーン——わたしを愛している?」
「サリアにかけて、おれの心臓はトートの愛の矢にふれられちまったらしい」
イシュトヴァーンはリンダの耳もとでささやいた。
「あんたがパロの王女だからでもない。おれが光の公女をさがしているからでもない——リンダ、おまえはきれいだ。どこの誰より美しいよ」
「おお——イシュトヴァーン」
としか、リンダは云えなかった。
彼女の目には、再び涙がこみあげてきた。しかしそれはさっきのような、労苦と忍耐とに疲れ、うみはてた、辛い、苦い涙ではなかった。その涙は甘く、リンダのかたくこわばった心をやわらかくときほぐしていった。
「お前が、あのとき——《ガルムの首》の上であのやくざな船長がおれの上に剣をふりかぶったとき、『イシュトヴァーン、死んではいや』と叫んで、かくれ場所からとび出してきただろう?」
イシュトヴァーンは、いとしくてならぬような目でリンダを見おろしながら、その頬を両手で囲んでささやいた。
「あのとき、おれは、もうこれがさいごかもしれない思いの中で、嬉しかった——トートにかけて、あのとき、おれは、はじめて知ったんだ……これまでおれがずっと、いつもあんたのことで苛々したり、腹を立てたり、かんしゃくをおこしたりしていたのが、どうしてだったのか——どうしてあんなにいつでもあんたのことが気にかかり、あんたがおれをどう思っているのかが、なぜそうもおれを不安にさせたのか……」
「おお、イシュトヴァーン——わたしたちは生きてるわ!」
リンダの声は、誇らしいひびきをはらんでいた。


グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


梅(*`Д´)ノ♪

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3951V3:2015/06/08(月) 21:39:51 ID:3z4GG4Kk
「わたしたちはここにいて、そうして、一緒にいるわ」
「ああ」
「イシュトヴァーン——わたしが、もう決して国をとりもどすことがなくなっても、紫と黄金に包まれることがない、ひとりぼっちの孤児だ、ということがはっきりしても、それでもやっぱりわたしのことを可愛いと思ってくれる?」
返事のかわりに、イシュトヴァーンは、しっかりとリンダのほっそりとしたからだを抱きしめた。
「ずっとわたしと一緒にいてくれる?わたしを守って——そうして、わたしがどこへいって、どんな運命があるときにも、かわらずそばにいてくれる?」
「ああ」
イシュトヴァーンは、陽気な黒いきらめく目に、厳粛な表情をうかべ、皮肉な微笑をたたえていた口もとを、ぎゅっとひきしめた。
「誓う。おれの名誉にかけて——何よりも神聖なおれの唯一の神ヤヌスにかけて、おれはお前のそばにいる。決してはなれない、お前を守る」
「わたしがどうなろうとも?」
「ああ、どうなろうとも」
彼は、足もとに、ベルトからぬいてよこたえてあった細身の剣をとった。
そして、それをすらりとひきぬくと、リンダの前に立ち、腕をまっすぐにのばして、自分にむけて剣を持ち、その柄を、リンダの方にさしだした。
「おれの生命はお前のものだ、リンダ。疑うなら、いますぐその柄を押して、おれの生命をとるがいい」
「聖なるヤヌスの名において」
リンダは答えた。そして、彼女は、おごそかなしぐさでその剣を彼の手からとりあげ、柄にくちびるをあて、横にして彼に返した。
「おれは生まれて二十年、おれ自身のほかの誰にもこの剣を捧げたことはない」
彼は云った。
「他の誰にも、二度と捧げない」
リンダは何も云わず、ただじっとイシュトヴァーンを見つめた。
「お前たちはおれが必ず無事にアルゴスへ届けてやる。これまでにも、何度も云ったが——そして、アルゴスについたら、おれは……」
「もしわたしたちが、パロをとりもどせたら——」
リンダはうっとりとささやいた。
「もうずっと前に約束したわね……わたしたちをアルゴスにつれていってくれたら、あなたを聖騎士侯に任命するのがその報酬だって——そうしたら、あなたは云ったのよ。それならパロをとりかえしたら、おれをクリスタル公にして、わたしの左にすわらせてくれるかって……」
「もし——」
イシュトヴァーンは何か云いかけた。が、ふいに口をつぐみ、リンダをひきよせ、その唇を荒々しく唇でおおい、リンダが力つきたようにその胸にすっかり身をあずけるまで、はなそうとしなかった。
「おれは、クリスタル公にしてほしくて、お前に聖なる誓いをしたんじゃない。それを、忘れないでくれ」
彼はいくぶん、荒々しい云いかたをした。リンダは笑った——……どこかに勝利のひびきをおびた、十四の少女でも成熟した女と同じようにすでにその中に知っている、女性特有のきわどい叡智と自信にみちた笑い。
「わかっているわ、イシュトヴァーン」
彼女は云い、イシュトヴァーンの唇を細い指でなぞった。

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


梅(*`Д´)ノ♪

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3952V3:2015/06/08(月) 21:43:36 ID:3z4GG4Kk
グイン、16巻までアニメ化されてます

で、リンダとイシュトヴァーンの健気で可愛いラブシーンの場面がこちら♪

http://blogs.yahoo.co.jp/chihaya1023/GALLERY/show_image.html?id=http%3A%2F%2Fblogs.c.yimg.jp%2Fres%2Fblog-c2-ee%2Fchihaya1023%2Ffolder%2F620740%2F65%2F41421465%2Fimg_1%3F1248265086


大分簡略化されてるので、私的には不満もあるのですが、まあ及第点ではあるかなと(*`Д´)ノw


梅(*`Д´)ノ♪

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3953V3:2015/06/08(月) 21:47:18 ID:3z4GG4Kk
ありゃ、リンク切れのようです(;^_^A

すみません、ご興味持たれた方は、アニメのグインで感想ブログをググって見て下さい
ブロガー次第で、印象的なシーンなどを色々アップされておりますので

3954V3:2015/06/08(月) 21:51:57 ID:3z4GG4Kk
因みにこちらがグインアニメの公式HP

各キャラクターがどんなアニメキャラ化してるのか、ご参考まで


主要キャラには違和感を持ちませんでしたので、絵面としては個人的には合格点をあげたいと思います

3955V3:2015/06/08(月) 22:01:46 ID:3z4GG4Kk
因みにって、アドレス貼り忘れてるorz

http://www.guinsaga.net/


梅(*`Д´)ノ♪

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3956V3:2015/06/08(月) 22:04:06 ID:3z4GG4Kk
「ち、畜生っ」
イシュトヴァーンの口からうめき声がもれる。
「待ち伏せしやがったな」
「おお、待ちかねたぜ、ウサギども!」
「ドライドンの神聖な誓いを裏切りやがって」
「それは、どっちの云うことだ、この悪党ども」
イシュトヴァーンは応酬しながら、すばやく、あいての人数をかぞえていた。
(十五人はいるな——ということは、森に十人はいる。半分だけ上ったとして……弓が五人……オノが二人、棍棒が一人、あとは剣)
「ひとを、売りとばすの、やっつけるの、腹黒いたくらみをしやがって。ほんとなら、てめえらこそドライドンの怒りにふれて、いかづちに打たれて船が沈んじまってるところだぜ」

「ケス河の大口よりもでけえ口をたたくヴァラキアのイシュトヴァーンよ。おれたちが何人いるのか、てめえにゃ数も数えられねえのか」
「数えたところでもぐらの毛の数と同じことだ。てめえらなぞ、何百匹いやがったところで屁でもねえ」
「ほざきやがったな」
海賊どもがニタニタ笑い出した。
イシュトヴァーンはすらりと剣をぬきはなち、うしろにリンダをかばいながらささやいた。
「おい、うしろ、何人いる」
「まだ、森から出て来たのは五、六人かしら」
「そいつを何とかかわして、森の中にとびこんで逃げろ。レムスがおくれているらしいから、あいつでもいねえよりゃマシだ。いいか、おれがやつらの方はひきうける」
「イヤよ!」
リンダの叫びは、自分でも思いがけぬほどつよかった。
「もう、誰かと別れ別れになるのはイヤ。もう——もうあなたとはなれているのはイヤよ、イシュトヴァーン!」
「リンダ、そんなことを云ってるときじゃない」
イシュトヴァーンは苛立った。
「やつらのあのいやらしい笑いが見えねえのか」
「おれたちゃ、いやらしかねえよ」
アイがゲラゲラと笑った。
「てめえ一人でいい思いしようっていう、おめえの方がよっぽどいやらしいや。——おい、みんな、あまっ子にゃ、傷つけんなよ。黒丸はこのあんちゃんだけだ。あまっ子は、おらたちにやさしくしてくれるんだからな」

「そんなことだと思った」
木の上にかくれたレムスの方は、森にまわっていた追手がすっかり森の外へ出た、とみてとって、木をすべりおりはじめていた。
「あのくらいのことに予想がつかないようじゃ、イシュトヴァーンも、戦略家としては大したことないな。——リンダの予知もだけど」
その冷静な濃むらさきの瞳がするどく光って、何かを計算していたが、
「よーし、やはり、それしかないだろう。少し時間がかかるし、危ないけど——そのくらいなら、あいてはたかが自己流の剣しかできぬ海賊どもだし、イシュトヴァーンもなんとかもちこたえるだろう。まだ、船からののこりの奴が上陸してくる途中かもしれないし、それがいちばんいい。——目のまえのサソリから逃げようとして、うわばみをつつき出す、とアレクサンドロスにあったけど、それは、そのときのことだ」

ようやく黒一色にみえていた洞窟の内部の暗さに目が馴れて来た。案外、せまいようだ。しかし、天井はひくいし幅もせまいけれども、ずっと奥まで細くのびているようにみえた。

レムスはくちびるをかみ、剣をもちかえると右手をたかくさしあげ——そして呪文をとなえはじめた。
むろん、王家の女性のそれとは比べものにはならぬけれども、《魔道師の王国》パロでは、王族なら誰しも、最もかんたんな魔道の手妻は、子供のころから教えこまれる。
それはもうひとつのものと並んで、レムスにできる、二つだけの手妻だった。レムスのたかくさしのべた手のまわりが、青白くかがやきはじめ——やがて、ボッとともった鬼火の、青白い冷たい光が、深い闇を冒涜するかのようにぼんやりと照らし出した——
途端!
「ああッ!こ、これは!」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


梅(*`Д´)ノ♪

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3957V3:2015/06/08(月) 22:45:58 ID:3z4GG4Kk
「きゃあ——イシュトヴァーン!」
いきなり、リンダの肩は、うしろから、がっきとつかまれ、軽々ともちあげられた。
「見ろ——見ろ!あまっ子をつかまえたぞ」
すさまじいあかがみた悪臭がリンダの胸をつまらせた。リンダは宙にかかえあげられたまま、バタバタと手足をもがき、その手の短剣でうしろをつき刺そうとしたが、たやすく、手刀でうちおとされた。
そののどにぐいと、ギラギラ光る半月刀がつきつけられる。
「どうだ、兄ちゃん、剣をすてな」
「あのばか。——」
イシュトヴァーンは歯がみをした。が、そのたくましい手につかまれ、ウサギのように怯えた目を見開いているリンダを見たとき、ひくい呻き声をあげてぽいと剣を放り出した。
「よーし、やっちまえ」
「ああ!やめて、やめて、やめて!」

海賊どもの円陣がくずれ、そのまん中に倒れているイシュトヴァーンのからだから、返り血でない、新鮮なまっかな血が流れ出すのが見えた、と思ったとき、ふいにリンダの視野はおぼろげにかすんだ。
(ああ——)
リンダは奇妙な、ほとんどうっとりとした夢心地のうちに思った。
(だめ。——わたしは、気をうしなってしまう。……いえ、もう、気を失ってしまったのよ——だって、ほら、わたしは幻をみているもの……何の音もしなくなって、森の中から——おお、グインが、グインのなつかしい姿があらわれて——おお、わたしのグイン……グインはなんて強いのかしら。イシュトヴァーンにひどいことをしている人たちを、つぎつぎに、文字どおりつかみ上げて、叩きつけてゆくわ。ひとり、ふたり、三人——イシュトヴァーン、ああ、どうしたの、死んではイヤよ——動かない。血を流して……イシュトヴァーン、愛してるわ——グイン、グインさえ来てくれれば、なんてきれいなんだろう。緑と森と草のなかで、黄色と黒の毛皮がとてもきれい——おかしいわ。豹をきれいなんて——でもきれいなのだもの。ほらもうみんな片付けてしまった。グインひとりさえいれば何も怖くない、何も恐れることはない、何も、何も……)
暗黒が彼女を訪れた。

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』

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3958V3:2015/06/08(月) 22:54:23 ID:3z4GG4Kk
「グ——グイン」
「そうなんだ。たまげたことにな」
云ったのはグインのうしろに立っていたイシュトヴァーンだった。
「おれもどうやら、この旦那はまさしくシレノスその人にちがいないと信ずる方に決めはじめたぜ。どうだ、ええ?ヤーンその人にだってこうはできない時の氏神じゃないか、ヤーンの山羊のひづめにかけてさ!」

「あ——あなた、どうして……どうして——」
「さあ、それが、俺にもよくはわからんのだ」
グインは安心させるようにリンダの肩にそっと手をおいた。
「あのとき、俺はあのふしぎな光の船を見たあと海におち——波にのまれて、息もできず、これで本当にさいごだと覚悟した。気がとおくなり——ところが、気を失う寸前に、俺は見たのだ。あの船が、海中を、まるで水上と同様にすべり進んで来たかと思うと、その甲板におちてくる俺をうけとめた。次の瞬間、出入口があき、全身光につつまれているような男か女かもわからぬ姿の人間があらわれ——そして俺はその人間が俺をかかえ上げながらたしかにこういうのを聞いたのだ。
『アウラ・カーの名において』
——俺はききかえそうとした。が、そのときはもう俺の意識は失われかけていた」
「アウラ——カー?」
思わず、反射的にリンダはスニを見——そして、スニが、ビクッと身をちぢめて、アルフェットゥの名を呟くのを見た。その目にはたしかに、恐怖の色がうかんでいた。


「それはそうと、真珠のもう一方のかたわれが見えんようだな」
グインが云った。
「あ——」
気づいて、リンダは愕然とした顔になる。
「レムス——ど、どうしたのかしら」
「やつらにとっつかまったかな」
「そ、そんな……」
「冗談だよ。なかなかどうして、あのガキは、そんなめにあうほど、抜けちゃいないよ、姉貴と違ってさ」
「また……」
「あいた。このじゃじゃ馬、そんなにつよく縛ったら歩けねえよ」
「ほほう」
グインは何かおかしそうにイシュトヴァーンを見た。
「おまえの、レムスへの評価は、ちょっとの間にずいぶん変わって来たらしいな」

「おお、レムス、お前か。ぶじだったか」
緊張をといてふりかえる。
岩かげからあらわれた、レムスの顔は青かった。

「どっちみちここにこうしているわけにはいかないし——あの中で見たものについて説明するよりも、ひと目じっさいに見てもらう方が早いんじゃないかな。それに、もしぼくの考えにまちがいがなければ、ぼくたちは全員、あともういくらもたたぬうちにこの島を出られるはずだ。いや——出ないことには、死ぬほかないと思う。——この島はもうじき噴火するよ」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


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3959V3:2015/06/08(月) 23:02:25 ID:3z4GG4Kk
パロ、クリスタルの都——

「そこの旅行者。止まれ!」
「止まれといったら、止まらぬか。どこから来た、どこへ行く、手形をみせろ」
「呼んだのはおれのことか?」

旅のマントのフードをふかくかたむけていた長身の旅人は、ちょっとためらうふうをした。
が、肩をすくめると、手をあげてパチンと止め金をはずし、顔の下半分をおおっていた止め布をとって、フードをうしろにはねた。
あらわれたのは、まだ若い、気品のある顔だった。おもながな、端正な、いちずな——モンゴール赤騎士隊長、アストリアス子爵の顔である。

「怪しい奴め。剣をすてろ、小屋の中でとりしらべる。きさま、本当にフェルドリック卿の知りあいなのか」
「卿を、暗殺しようとでもいう、クムかユラニアのまわし者だろう」
「な、何だと、無礼な」
アストリアスの激しやすい顔が、たちまち真っ赤にそまった。
「おれが、ユラニアのまわし者だと。いやしい虫けらめ、それは誰に向かって云うことばだ。いやしくも大公殿下の赤騎士隊長、ゴーラの赤い獅子といわれたこのアストリアスにむかって——」
ハッとして、アストリアスは口をつぐんだ。
が、もうおそかった。
「ゴーラの赤い獅子——!」
「アストリアス!そ、そうか、どこかで見た顔だと思ったが、あの似顔絵の」
「おい、シン、おたずね者のアストリアスだぞ」
「おおっ、思わぬ大手柄だ」
「き、きさまら。ふざけるな、きさまらなどにこのおれが——」
(こうなったらしかたがない)
切りふせて、血路をひらき、クリスタル市内へまぎれこむばかりだ—切りそう、アストリアスが決意のほぞを固めたときだ。
「おや、おや、おや」
うしろからふいに、びっくりしたような叫び声がきこえてきた。

「おれの名はヴァレリウス」
ヴァレリウスはニッと笑った。
「あんたのことはマリウスからきいたんだよ。そう、マリウスからな」
「マリウス」と、ことさらにつよめた発音で、ヴァレリウスは云った。
とたんに、ふしぎなことがおこった。
「マリ……ウ……ス——」
「そうだとも。心配するな、あんたの身は、このヴァレリウスがひきうけたんだ。マリウスさまの友達は、このヴァレリウスにも友達だ、そうだろうが?」
ヴァレリウスの含み声を、ほとんどアストリアスはきいていなかった。
頭の中にふいに、ひとつの圧倒的な、抗うことなど思いつきもせぬような命令——
(アストリアス。この男についてゆくのだ。この男を信頼し、何もかもうちあけ、その云うとおりにしろ)
誰のかわからぬ、黒い輝く双の眸が、いまにも彼をのみこむかのように迫ってきて、彼にきっぱりとそう命じはじめたのだった。
それが、ユノで、マリウスと魔導士たちにかけられた、のちにキイ・ワードをきけばたちまちよみがえる後催眠であることを、アストリアスは夢にも知らぬ。

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』

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3960V3:2015/06/08(月) 23:04:36 ID:3z4GG4Kk
「——お客様でございます」
小姓のシモンが云いに来た。アルド・ナリスは机にむかって書きものをしていた手を一瞬やすめた。
その美しい眉宇に、ほんの一刹那、かすかな翳りに似たものがよぎる。
が、羽根ペンをおいてふりかえったとき、かれの顔は晴れやかになっていた。

「リギア!」
かれは、信じがたいものでも見たかのようにつぶやいた。
「リギア、よく無事で……」
「わたくしこそ——ナリスさまの、ごぶじなお姿を拝見して、何もかも……」
「リギア。手をあげて下さい。この椅子へ」
「いいえ、わたくしはここでよろしゅうございます」
「リギア——」
ナリスは、静かに、リギアに近づき、その足もとにひざまづき、その手をとった。
「私の——女騎士」

「これまで、一体、何を?いや、むろん云いたくなければ、云わなくてもよいが」
「これもちょうどよい機会と存じ、そのまま奴隷娘に化けて、モンゴールの兵舎に入りこんで探っておりました」
この豪胆なルナンの娘は云った。
「ちょうど、さいわいなことに、わたくしを捕らえたのが、黒騎士隊長カースロンの下の隊だったので、うまく位が上のものの目をひいてそちらへはべらされるようにして、結局カースロンはむりでしたが、その右腕の、小隊長ダラスのそばづきになるのに成功いたしました。そして、いろいろと面白いことを——ここは、よろしゅうございますか?」
「大丈夫。これだけ明け放ってあれば、立ちぎきもできぬ。その扉をあけておいてくれ——そばへ、リギア」

ナリスはふいに、子どものように無邪気な、ほとんどはしゃいでいるといいたいようなようすになって、リギアの手をつかんだ。
「まったく、わたしの乳きょうだいは、なんというイラナなんだろう!——ねえ、リギア、あなたに何かしてあげなくてはいけないね。あんなに大きな犠牲を私のために払ってくれたのだから——云って下さい、何がほしい?愛用の剣、ドレス、舞踏会の女王の座、それとも宝石類、私のくちづけ、この髪?昔もよく云ったけれど——どうしたらいいの、リギア、って?」
「何も」
「しかし、それでは——」


リギアは、かぶとを深くかぶったまま、アムネリスを通すためにドアの横で待ち、それから一礼して、男のような歩き方で出ていった。アムネリスは、フロリーが扉をしめるあいだ、ふしぎそうにふりかえっていたが、
「ご家来ですの——男の方?それとも女騎士?」
ときいた。
「目が早いことだ」
ナリスはひとりごちた。恋人にむかって、迎える手をさしのべながら、
「むろん、男ですよ。どうしてです——おお、あなたは今日も光の公女そのものだ」
「この髪型、お気に召しまして?」
「むろん気づいていましたとも。——光の塔のようだ。アマルスの発表した新しい髪ですね。おお、宝石をちりばめて——これでまた、クリスタル・パレスじゅうの姫君が、嫉ましさにまっさおになって、廊下のすみでこっそりあなたの髪のかたちを書きうつすんですよ。ところで、何をお飲みに——その服をみれば、決まっている。ヴァシャの赤い酒ですね。シモン!」
アムネリスは、すきとおるような緋色の絹を、ゆたかに波立たせた、パロふうのドレスの裾を嬉しそうにもちあげた。アムネリアの花の精でつくった香水の香が、持ち去られたアムネリアよりもっとつよい、その花の匂いで室をみたした。
(きつい香りだ。くらくらする)
ナリスはつぶやいた。アムネリスが不安そうにのぞきこむ。
「え?——どうなさいましたの?」
「何でもない。ただ、あなたが光というより、炎そのもののようにあまりに熱すぎるので、そばへ寄ったら焼かれてしまいはせぬかとおじけていたのですよ。そう、ルアーの火にとけたあの小っぽけな霜の乙女のように。でもこちらへおいで、アムネリス。あなたなら焼かれてもかまわないから」
「では心の底まで焼きつくしてあげるわ」
アムネリスは恋に酔う娘の勝ち誇った声で叫んだ。そして彼女はナリスの腕に身を投げこんだ。

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』

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3961V3:2015/06/08(月) 23:07:32 ID:3z4GG4Kk
「ナリス様——」
「おお、リーナス。ダーヴァルスとルナンも」
アムネリスがひきとってから、サンルームに入って来たのは、それとはうってかわった武張った訪問者であった。

「例のものが手に入りましてございます」
「例のものが。やはり、クリスタルにか」
「はい。ディーン様のおかげにて、こちらの意のままで」
「ふむ、まあ、使い途はヴァレリウスにまかせよう。ずいぶん面白い使い途をさがし出してくれようさ」


アムネリスは幸福だった。
彼女は愛する人との婚礼をまちかに控えた十八の乙女だった。たびたび、占い師たちのわけのわからぬ託宣のおかげで、その日どりはのびのびになっていたが、ついに、正式にそれは紫の月の十日、『サリアの日』と決められた。

「私は知らなかったのだわ」
ありとあらゆる男まさりの評判にもかかわらず、しんはとても女らしいアムネリスは、ナリスの肩にもたれ、かれのやさしい手に愛撫されている甘やかな夕べのひとときに、ナリスに云うのだった。
「私は前に、女はドレスのすそでもひいて、舞踏会で敵の首をとるがいい、とある人から云われたことがありましたわ。そのときは、私はそれを、ひどい侮辱だととって、それを云った男を一生憎むだろうと思ったけれど、でも、こうしてあなたのおそばにいると、何だか他のことはすべてどうでもよくなって、ただいつまでもこうしていたい、それが女として生まれることのできた、いちばんの幸せなのだ、という気がしてきて……」
「そう、アムネリス?私たちはもっともっと、いくらでも幸せになれるよ。私は永遠に、私のイラナの足元に膝まづくだろうし、あなたが私を愛してくれる限り——こんな幸運を信じられないのは、私の方ですよ——私の生命はあなたのその白いやさしい手の中だしね。もう少し、クリスタルの町がおちついたら、二人で遠乗りに出かけよう。私は、私のこんな美しい妻を、人に見せびらかす機会を逃すなどということはできないよ、イラナ」
そう——
たしかに、アムネリスは幸福の絶頂にいたのである。
もし、ときどき彼女の心をおそう、わけのわからぬかげり、憂鬱、不安のきざしのようなもの、それさえなかったならば、たぶん、アムネリスほど幸福なものはこの世にいないとさえいってもよかっただろう。


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3962V3:2015/06/08(月) 23:09:01 ID:3z4GG4Kk
「なにごとだ、タイラン」あわただしく夜着の上に豪奢な部屋着をはおっただけのアムネリスは、あくびをかみころしながらきいた。
「あとせめて、二ザンも待てぬほどに?」
「たったいま、夜に日をついでかけとおした使者が到着いたしまして。すぐお耳に入れねばと思いまして」
「ゆうべは、少し、おそかったかしら」
アムネリスはうっとりと、昨夜のナリスの、彼女の為に作ってくれたすばらしい詩のことを思い出しながらいった。
「お起こし致しまして、申しわけございませぬが、ことはいささか急を要するので」
「それはもうわかった」
アムネリスは云った。
「いったいどこからの使者だ?トーラスか、それとも——」
「カウロス公国よりの使者で」
「カウロス——ずいぶんとまた、遠くから……」
「はい、姫さま、わるい知らせでございます。ついに、アルゴスが起ち、国をあげて、縁つづきたるパロを救えと軍をおこしましてございます。トルースや、アルゴス周辺の騎馬民族も参戦したもようで、アルゴスから兵をかりてパロへと立った、アルゴス滞在中であったベック公を、草原の町リャガのあたりで討たんとしたカウロスの軍勢は、かえってアルゴス、トルース連合軍に包囲され、敗北を喫しました。そのまま、連合軍はベック公を救出し、着々と騎馬民族の軍団の参加をえて数をふやしながら、一気にカウロスをうちやぶるべく北進をつづけているとのことでございます。——カウロスが破られれば、あとはパロの南辺をふせぐものは、ただの自由開拓民の村だけで——」
「トーラスへは?」
「カウロス公国のジラール公は、モンゴールの援軍を要請しておられます。で、ただちにひきついだ早馬がトーラスへたちましたが、トーラスからの軍勢をまっていては、カウロスに手おくれになるやもしれず——それより前に、このクリスタルに駐屯中の部隊を、ただちにさしむけては、と——」
「ガユスは?」
「ただいま、占っております」
「では、ガユスの云うようにすればよい。どのみち、クリスタルは平和なのだし」
アムネリスは面倒くさそうにいった。
「タイランにまかせる。好きにするように。——おお、いまクリスタルの軍をうごかしてしまったら——」
「は——?」
「婚礼のときの、閲兵式が見すぼらしくなるわ。父上の軍が間にあえばよいけど——杞憂ではないの、タイラン?カウロスは勇猛でなる草原の民の国。アルゴスもトルースも小国だし、それに草原は何万モータッドもひろがっている。かれらがそれをこえて、クリスタルへ到達するとは必ずしも考えられない。——もう少しようすをみては?そのうち、カウロスから、鎮圧したという知らせが来るかもしれないし」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


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3963V3:2015/06/08(月) 23:12:18 ID:3z4GG4Kk
草原——
いっぽう、はるかなアルゴスでは、クリスタル・パレスへの報告にあったとおり、いまやまさに、カウロス公国と、ベック公、アルゴス、それにトルースの戦いの幕が切っておとされようとしていたのである。

「誰かおらんのか。衛兵——衛兵!」
マハールの白亜宮、アルゴスの主都たるその白い宮殿の正門前で、大声でどなっているのは、《アルゴスの黒太子》スカールだった。
「開門!おれだ、スカールだ!」

「兄上。——兄上」
遠慮を知らぬ野人のスカールが、とりつぎも乞わず、ずかずかと入っていったのは、兄であるアルゴス国王スタックの謁見室だった。

「スカール、少しはつつしめ。こちらは、クリスタルよりの使者ヤルーどのだ」
「ふん」
スカールは鼻息を噴いた。ひと目みてそれとわかる魔導士の黒い服、あやしい、この明るく白い白亜宮にそぐわぬ暗い雰囲気——おおむね、例の「とじた空間」と称する黒魔術をでもつかって、つい先ほどクリスタルからついたのにちがいない。
「どうも無骨なやつで——これが弟の、王太子スカールです」
「存じあげております」
「兄上。こんな、のんべんだらりと社交ごっこをしている場合ではないぞ。俺は国境からハン・イーをとばしてきた」
いっこうにとんちゃくせぬスカールが云った。
「兄上。ベック公が危ない。すぐ兵を出す。命令を出してくれ」
「何と云う」
「ベック公はリャガの近くで足どめをくっている。カウロスはついにベック公をうつことにした。すでに公国軍二万が国境を出ている。ベック公はトルースで一万かりて二万に達するはずだった。しかしカウロスに足どめされてトルースに入れない。このままでは、俺が騎馬の民をあつめ終わるよりさきに、ベック公がカウロスの手におちる」
「リャガで?」
スタック王が立ちあがった。
同じ父から生まれているということが、信じがたいほどに、この兄弟は似ていない。英明で、名君の名もたかいが、むしろ哲学者肌とでもいいたい、物腰のおだやかなスタック王と、荒々しく悍馬のようなスカール。——スタック王はパロの姫を母にもち、自らもパロのエマ王女を妃にむかえ、一方スカールは、グル族の女を母にもっている。
「騎馬の民はいまちょうど移動の季節で、ふれをまわしたが集まりおえるにはまだ最低一両日はかかる。それからリャガへたっては間にあわぬ。アルゴス正規軍をつれていますぐ発つ」
「スカール」
困惑した表情で、スタック王がヤルーとスカールを見くらべた。「兄上、一刻を争う」
「スカール、ヤルーどのは、クリスタル・パレスから来たのだ」
「アルド・ナリス?」
ヤルーは両袖をあわせて魔導士ふうに手をくんだまま、そうだともちがうとも、何も云わなかった。
「何のおもむきだ」
「それはな、スカール——」
「陛下。私から王太子殿下にご説明申しあげましょう」
魔導士ヤルーはゆっくりと、スカールに向き直る。
「私はアルゴスに、六万の兵をおかりしに参った使いでございます」
「六万だと。いま動かせるほとんど全部じゃないか」
「さようで——それをさらに二つにわけ三万を海路ロスからモンゴールの背後へ入らせてトーラスをつかせわ三万を、陸路からケイロニア—パロ間に出現させます。そしてベック公とトルースの連合軍を、パロ南辺にすすめ、相呼応してパロ国内の反乱軍がすべての宿を掌握し、トーラスとパロ駐留モンゴール軍の連絡をたちきるという——かようの作戦の手はずをととのえまして——」
「ふん。海と、ケイロニアのおさえ、パロ南辺でカウロスをおさえ、そしてモンゴールをいたるところで孤立させる。——みごとな作戦だが、そのまえにベック公がたかだかリャガあたりでカウロスの手におちては何にもなるまい。しばらく——そうだな、五日待て、ヤルーとやら。俺がアルゴス軍をひきい、ベック公を救い出して、また戻ってくるのに五日あればじゅうぶんだ」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』

梅(*`Д´)ノ♪

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3964V3:2015/06/08(月) 23:14:59 ID:3z4GG4Kk
「太子さま——」
ヤルーがゆっくりと口をひらく。彼がしゃべりはじめると、明るい草の色と空の色、白と緑の光あふれる草原の国アルゴスに、にわかに黒雲が一点わき出すようにさえ思える。
「お耳を」
「何だ。勿体ぶりおって」
スカールは魔導士も、それのまきちらすあやしげな雰囲気も——また、占いや託宣、黒魔術もみな好まなかった。彼は黒くふとい眉を一直線になるほどしかめながら、ヤルーの口もとへ耳を近づけた。
「……」
ヤルーは、このアルゴスの誇る白亜の宮殿の中でさえ、大声を出してはこころもとない、とでもいうように、ひそやかに語りはじめる。
「何だと……」
ひとこと、ふたことをきいただけで、スカールの顔色がかわり、くちびるがぐいとひき結ばれた。

「そのようなたくらみ、俺は好かぬ」
スカールはヤルーをにらみすえたまま、よくひびく声でつづけた。
「それがだれの考えたことかは知らぬが——そしてまた、それは俺の口をさしはさむことでもないが、俺はそんな、けがらわしい作戦の片棒をかつぐ気はないぞ。——よいわ、勝手にしろ。兄上が、それに応じて兵を出すというなら出すがいい。アルゴス国王は兄上だ。俺ではない。が、俺は俺のやりたいようにやる。誰のさしずもうけぬ。五十万モータッドもはなれたところにいるたれかに、ボッカの駒のひとつのように、思いのままに動かされたりはせんぞ」

「俺はベック公を助けにリャガへゆく」
「おい、スカール。兵は——」
「アルゴス正規軍などいらぬ。好きにしろ、パロへおくるなり、モンゴールの背後をつくなり——煮て食おうが、焼いて食おうが。そんなもの、なしでも俺は一向かまわん。俺は黒太子スカールだ」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』

梅(*`Д´)ノ♪

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3965V3:2015/06/08(月) 23:17:15 ID:3z4GG4Kk
「危ない!」
ヒュンッとするどい音をたてて、たったいままでベック公の頭のあった空間を矢がとびすぎた。
ベック公は、ウマの首にとっさに上体をふせながらどなった。
「卑怯者め!正々堂々と、しょうめんから戦いをいどむことはできんのか。卑劣なモンゴールの盟邦ともなると、下っ端まで卑怯者だわ」
「公、少し、うしろにおさがり下さい」
うろたえて叫んでいるのは、ベック公の右腕の、テルシデス伯爵だった。
「うしろへさがれだと。こんな、たかが、牛飼いばらを相手にうしろへなどひいたら、このベック、末代までの笑い者だわ」


一万の兵をかりて、一足さきにマハールを発った、パロの勇将ベック公の心づもりでは、街道ぞいにまっすぐリャガをめざし、リャガでまたあるていどの傭兵をつのって、リャガをアルゴスの味方につけたうえ、あらためて道をトルースへとり、トルースの都トルフィアでトルース軍と合流して大軍勢となる、という予定であった。トルースは小国ながらその民は勇猛をきわめ、その上に、「トルースの忠誠」とことわざになるほどに、その民は誠実、一途である。
リャガをおさえ、トルースと合流したとなれば、その軍勢は大国カウロスといえどあなどるわけにゆかぬ数にふくれあがる。ベック公にとって、目ざすはパロ、クリスタルの都以外でなかったから、かれは草原地方をおしとおる前にカウロスとまっこうからぶつかることを賢しとしなかった。
それはまた、ベック公とつねに行動をつねに共にするテルシデス伯、軍師たる魔導士ランズのとるところでもなかった。二人の意見は、むしろリャガを避け、直接にトルースをめざしては、というものであったが、しかしその場合、万一リャガがカウロスにくみすれば、ベック公の一行は、再びトルースから、パロへの赤い街道に出るためには、いやおうなしにリャガを征服するか、さもなくば、次の宿場チュグルまでを、街道を避け、草原をおしわけて何千モータッドも進軍してゆかねばならない。
草原には、砂漠のようにあからさまな遭難の危機こそひそんでいなかったが、そのかわり、いつ、どのようなかたちで、草原にすむ気の荒い少数民族——その全ての実態は、アルゴスの王宮にさえ把握されていないのである——の攻撃、あるいはカウロスの奇襲、を受けるかわからぬおそれがあった。
それゆえ、ベック公のリャガ経由説を、ランズもテルシデス伯も、さまで強硬に反対はしなかったのである。

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』

梅(*`Д´)ノ♪

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3966V3:2015/06/08(月) 23:18:40 ID:3z4GG4Kk
「敵だあッ!」
ベック公にかしあたえられた一万は、アルゴス正規軍——もとより、いくたびも国境をめぐる確執をくりかえして、カウロス公国の旗じるし、いでたちは知りぬいている。
ベック公の下知を待つまでもなく、たちまちかれらはかぶとの面頬をおろし、手綱を左手にうつして、右手に半月刀をひきぬく。ウマのたかぶりをしずめながら、散開の指示を待つ。
「先まわりしおったな」
ベック公は、呪いのことばを吐きすてた。
「くそ——リャガは、カウロスに寝返ったか。ランズ!」
「は!」
「戦うか。退くか」
「戦いを」
魔導士はためらわずに云った。ベック公はテルシデスを見た。伯爵もまた、力づよくうなづいている。
「退くすべはすでに断たれております、公」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』

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3967V3:2015/06/08(月) 23:21:56 ID:3z4GG4Kk
「おお——きこえる」
「きこえるぞ!」
「やって来る——こっちへ来る!」

「スカール参上!」
陽気なよくひびくわめき声もろとも、黒太子スカールを先頭に、グル族の勇猛果敢な戦士たちがわあっと戦場へなだれこんでくると、士官たちの方がさきにたじろいだ。
「殺せ!」
スカールは、まさしく、大地を割ってあらわれ出た、凶猛な黒い狼の長とも見えた。
その手にたかだかと、大きな半月刀がさしあげられ、なかば鞍から身をうかせて、右手の刀が一閃すると、たちまち着実にあいてを切りふせてゆく。
その、髪も目も皮膚の色も、いでたちもすべて闇の黒につつまれたなかに、むき出しにした白い歯だけがあざやかに輝いてみえる。
「グル・シン!」
「ウラーッ!」
スカールの左手があがったとたん、グル・シンひきいる一隊が、スカールの本隊からわかれ、リャガめがけてつっこんでゆく。
スカールの左には、いつもぴったりとつき従う小柄な女戦士のすがたがあった。
「おお、これはすごい」
うっとりとベック公は見つめながらつぶやく。さながら猛虎に見とれる心地だ。
「これはすごい。ききしにまさる——おう、何という戦いぶりだ。まるで狼だ。それにこのグル族の、一糸乱れぬこと——わがパロの聖騎士団にもひけをとらぬ。おお、それにあの女戦士——」
思わずみとれて嘆声をもらしたが、ふいに我にかえり、
「おれとしたことがそんなことを云っている場合ではなかった。いまだ、一気に敵を踏みつぶせ」
あわてて鞍つぼをたたき、レイピアをふりかざしてとびあがる。
「テルシデス!ゆくぞ、スカールどのの、側面援護だ」

「やあ、ベック公!」
風のように、ウマをよせてきたスカールは、歯をむいてニヤリと笑った。
「遅れて、すまなかった」
「なんの、スカールどの、あいてはたかがカウロスの雑兵ばらだ」
「こんなことだろうと、グル族に、リャガ国境地帯を見張らせていたのでな。しかし、こちらも、あれやこれやで約束の援軍がおくれ、いまもグル族とウィムト雑兵だけをひきつれて、とりあえずさけつけたばかり——さぞ気がもめるだろう。すまぬな」
「いや、いや——」
ベック公はふと、スカールのうしろにぴったりとつき従っている、さっきも目についたスカールの小さな影のような一騎をみて、そして小さく感嘆の息をついた。
きっちりと長い髪をまいてとめたリー・ファは、そのかわいい、山猫のような顔にぬけめなく光るつりあがった目で、じっと太子のうしろにひかえている。野性の匂いのする美貌と、人馴れぬネコのようなようすとは、パロの女性になじんだベック公には、まったく異国めいて見なれぬものにうつった。


グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』

梅(*`Д´)ノ♪

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3968V3:2015/06/08(月) 23:23:27 ID:3z4GG4Kk
「損害は?」
「われわれは、ほとんどありません、太子さま。カウロスが、およそ五千」
「わが隊はいささかこうむりました。いま並べさせてみたところ、二、三千やられています」
カイル隊長が報告する。
スカールはうなづき、何か考えるふうで、ゆっくりとそのへんを小さい輪を描いてハン・イーにまわらせていたが、ふいに顔をあげた。
「おお、のろしだ。見ろ、リャガの城塞を」
あわててみな空をふりあおぐ。
くっきりと晴れた空に、リャガの白い城壁の上からゆらゆらとひとすじの煙が立ちのぼったかと思うと、いきなりスルスルと糸がひかれて、きのうの夜までカウロスの国旗をはためかせていた旗台に、アルゴスの星月旗がのぼっていった。
つよい風にはたはたとはためいている星月旗をみあげて、アルゴス軍の口からわあっと歓声があがる。
「なんと」
ベック公はテルシデスに、あきれ顔でささやいた。
「どうやらあの城塞の中には、あつも各国の旗が用意してあるらしいな」
「驚かれたろう、ベック公」
ききつけてスカールが大声で笑い出す。
「だがまだおどろくのは早い。これからさ」
スカールがまだ云いおわらぬうちだった。
ぴったりととざされていた城門の内側で、たかだかと笛のふきならされるのがきこえ、そして、やにわに、城門が左右へきしみながらひらきはじめた。
ルアンの湖水の、せまくなったところへかかる、はね橋が、しずしずとおりてくる。
「こりゃまたみごとなものだ」
ベック公は口笛を吹いた。
「もしここでまた、カウロスの大軍があらわれたら、どうなるのです、スカールどの」
「そりゃ、もちろん、すぐにはね橋をあげ、旗をおろしてようすを見るだけだな。もし、きゃつらがアルゴスの旗をおろさなければ、われわれの方がつよいとふんでいることになる」
「いっそそこまでゆけば見事としか云えませんな」
「グル・シンがうまくやったらしい」
それにはこたえずに、スカールはリー・ファに云った。
「グル族を整列させろ。カイル、われわれのあとから入れ。——今夜はリャガだ」


「公、今夜もういちどはかるが、おれの考えでは、このままリャガをぬけて、一路トルースに入り、トルフィアで兵をあつめたなりまっしぐらに東進することを考えた方がいいと思う。——まことにすまぬ話だが、アルゴス正規軍はひきつれて来られぬことになった。いや、むろん、公におかしするのがいやだというのじゃない。実は出がけにヤルーとかいうクリスタルからの使者が来て、アルゴス正規軍六万を、二つにわけてモンゴールのおさえに出せとの催促なのだ」
「ヤルーが?」
ベック公のほおがひきしまった。かたわらのランズ魔導士をかえり見る。
ランズは黙って、いくぶん頭を下げた。
「そこでわれわれとしては、トルース軍と合流したあと、カウロスが背後をついてアルゴスをおそうのを阻むか、いっそカウロス本国をついて一気におとすか——それにはちと、人数が足りんな。あるいはトルースに背後をまかせ、おれとベック公は海路からモンゴールをおそう隊か、陸路ケイロニアのおさえに北上する隊か、いずれかに合流するか。ベック公にまかせよう」
「これは、なかなか、考えてみないことには——」
「まあな。——いずれにせよ、どうやらこれでわれわれも、今度こそ中原、草原すべてをまきこむ大きないくさの渦中には居ることになったというわけだ。ベック公、このいくさは、なかなか小ぜりあいではおわりそうもないな」
「うむ——それにしても……」
「パロ=アルゴス連合がふっとぶか、モンゴールという国がこの地上に存在せぬようになるか、いずれにしても、これは、おそらく、長く——きわめて長くつづきそうな気がするぞ。あんたがたの好きな、例の予感、霊感ではないがな」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』

梅(*`Д´)ノ♪

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3969V3:2015/06/08(月) 23:33:21 ID:3z4GG4Kk
第八巻『クリスタルの陰謀』は、これにて終了
沢山の人間達が入り乱れて、物語が複雑化して行くので面倒臭いったらありゃしない(*`Д´)ノw


で、ここまでの雑感というかツッコミ所なんですが、モンゴールの奇襲に遭うまで長く平和を保っていた筈のパロに、なんで『勇猛公』なる尊称が付く公爵が存在してるんでしょうかw
14歳になるリンダやレムスだけでなく、25歳になるナリスですら戦乱を経験していないパロなのに、どうして戦争での功績でしか与えられない尊称を持つ30歳の公爵が存在してるのよ〜w

国境の小競り合い程度ではわざわざ公爵当人が出向くとは思われず、また、赴き競り勝った所で、与えられるのは勇猛というより、無謀公の陰口ではと(;^_^A

3970V3:2015/06/08(月) 23:50:17 ID:3z4GG4Kk
思うにこれは、グインが書かれた時代の、日本のインテリ達の限界だったかなと

グインの第一巻が書かれたのは、昭和五十八年、西暦で言えば1983年です
この当時の日本は、左翼思想が社会全体を覆っており、ことに、自分を「自由でありたい、進歩的な人間でありたい」と願ってたような、当時のインテリゲンチァ達に取って、軍事だ戦争だの実感、体感は、遠い話だったのだと思います


「戦争も経験していないのに、勇猛公が存在してるのはおかしくないか?」

早稲田の文学部卒で、在学中に中島梓名義で評論家賞を授賞するような早熟な才女の作者ですら、この当たり前の疑問が湧かなかったのは、ひとえに世相の影響かとw
あと、当初からの担当編集者で、後に栗本薫と結婚した今岡清にも、同じ疑問が湧かなかったのか、はたまた湧いた所で、人気作家に物申す事が出来なかったのかw


戦争で功績を立てた訳でもない人物に対して、戦時での尊称を与えるって、安重根を将軍呼ばわりする韓国人と変わらなくないか?と思ったことは内緒にしとこうw

3971アイナメ:2015/06/09(火) 08:33:56 ID:DQhbUjr2
V3さん。(*´ω`*)お疲れ様でした。面白かったよー!

書きたい事いっぱーいの御大!!仕込みのネタもあっちこっちに散りばめられて…
これって全部回収できんのかいなと…σ^_^;
案の定、御大の悪い癖が出て伸びる延びるーーW
出だしは、ツッコミ箇所が一杯w。V3さんも指摘してましたが、弟と2人で、なんでやーね〜ぞ
これは〜と、あははは(^◇^;)思い出しました。

3972V3:2015/06/09(火) 13:09:57 ID:YO7cDlik
アイナメさん、こんにちわ( ´ ▽ ` )ノ

ツッコミ所、満載だと気付いたのは大人になってからw
後に明らかになるケイロニアの内情とアキレウス皇帝の性格ですが、あの国が何でモンゴールと手を結んだのかと小一時間(;^_^A
まあ、グインには全ての謎を回答出来る奥の手がゲフンゲフンw

ところで、本スレでちょっと面白いレスが


559 :O.チキチキ(っ´ω`c)◆cxxSdZRnyHzR :2015/06/09(火)07:48:55 ID:eu0 ×
日本の天変地異を年表で記したサイトより。
http://www.nagai-bunko.com/shuushien/tenpen/ihen00.htm

http://imgur.com/txauzOX.jpg


1650(慶安 3)年
3月23日 関東地方で大地震。家屋に被害、死者多数。日光でも被害。翌日も地震。
6月20日 江戸で大地震。城櫓倒壊。大名町家も破損。1日に4、50回も揺れる。
7月16日 江戸で地震。
7月27日 淀川決壊し、大坂洪水。大坂城に被害。
8月 7日 秩父で氷降。鳥多く打殺される。
8月29日 唐津で長雨により洪水。25000石損。城・民家などに被害。
12月 7日 京で地震。
この年、毛が降る。
 
こ の 年 毛 が 降 る
 
こ  の  年  毛  が  降  る

560 :名無し :2015/06/09(火)07:50:13 ID:2EN ×

こ の 年 毛 が 降 る

グラスウールみたいなもんかな。ちょっと夢がないけどw




いや、それは「エンゼル・ヘアーだ!」と、グインファンとして叫んでおこう(*`Д´)ノww

3973アイナメ:2015/06/09(火) 13:39:08 ID:DQhbUjr2
いや、それは「エンゼル・ヘアーだ!」と、グインファンとして叫んでおこう(*`Д´)ノww

そうか、じゃあとは(*`Д´)ノ!!!「イド!!」の出現を待つばかりなり〜w

関東平野一杯の…くず湯………w

3974V3:2015/06/09(火) 13:52:17 ID:YO7cDlik
ところで、こっそりとアニメの愚痴をw

イシュトヴァーンの考察モドキにも書いた、「何故イシュトヴァーンは、リンダに固執するか」という点について私が一番の決定打だと思っている場面、嵐の最中、海賊船長に斬り殺されそうになったイシュトヴァーンを助けるべくリンダが飛び出してくる場面が、アニメではカットされてしまってました…(~_~;)

まあ、アニメは全般的にアムネリスをメインヒロインとして扱ってましたから、致し方ないのでしょうが

因みにアムネリスは、原作よりアニメの方が魅力的です
ある意味アストリアスも、アニメの方がキャラ立ちしてて、印象深いww

原作には無い設定の、イシュトヴァーンのムチ使いというのも良かったと思います
プロレスラーみたいな戦士や海賊達を相手に細身のイシュトヴァーンが負けない為の説得力を補強してました

リンダは…、まあ、言わぬが花w
私はリンダに思い入れが強過ぎるので、多分一番口煩いタイプのファンでしょうから(;^_^A

3975:2015/06/09(火) 13:53:30 ID:1begOuGQ
何だかそのサイト、面白いですね♪
こんなのも♪

979(天元 2)年4月21日
備中国より言上あり、去1日、都宇郡撫河郷箕島村に、形も味も飯の如き物が降り、人民これを食す。(日本紀略 7)

1141(永治 1)年9月25日
名称不明の物体が京中を飛び交う。形は胡麻の如し。(百錬抄 6)


梅(*`Д´)ノ♪

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3976V3:2015/06/09(火) 14:01:37 ID:YO7cDlik
桃さん、こんにちわ♪

これは、アフラマズダさんの出番なのでしょうね(*`Д´)ノ

梅(*`Д´)ノ♪

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3977アイナメ:2015/06/09(火) 14:03:56 ID:DQhbUjr2
アニメは。(*´ω`*)色々考えて、見ませんでした…
キャラの設定ラフ画の時点で、間違いなくテレビを壊すなと(笑)
まあまあの評価がついているですようですな…
リンダをもうちょっと大事しても〜と思ったけどね。
…御大の愛は別なキャラのようだったけどねw

3978V3:2015/06/09(火) 14:40:24 ID:YO7cDlik
アニメはアニメで、中々良かったですよ
グインがとても「グインらしかった」です
イシュトヴァーンは、声優さんのお陰か演出のせいか、二枚目成分多目で、愛嬌成分は殆んど無かったのが残念ですね
砂ヒルを食べさせられた場面もカットされてたようなw
リンダは、声優さんが余り良くなかったし、神秘的な雰囲気が皆無に近かった(;^_^A

男性にはウケていたようですが、戦乱やバトル場面が、アニメ的オーバーアクションになってて、苦笑せざるを得ませんでしたw
グイン、人間を地面に埋めるな(*`Д´)ノw
イシュト、岩を剣で切るな(*`Д´)ノw
ナリス、そんな高い所から落ちたのなら大人しく死んでろ(*`Д´)ノw
ヴァレリウス、二枚目過ぎる(*`Д´)ノw
リギア、デカいおばちゃんやん(*`Д´)ノw
アムネリス、いい人補正掛けられて贔屓され過ぎ(*`Д´)ノw

セム族、村の地面を舗装する知能なんて持ってたら、普通に人類として扱われてるっつーの(*`Д´)ノw
ラゴンがまんまインディアンで、下手したら問題視されるぞコレ(*`Д´)ノw

端役にしか過ぎない女達が美形過ぎ(*`Д´)ノw
悲運の酒場女ミリアですらリギアより全然綺麗とか、スタッフは力の入れ所がおかしい(*`Д´)ノw

マリウス、歌が下手(*`Д´)ノw
しかも全てメロディ同じって、プロとして食べて行けないでしょソレ(*`Д´)ノww


あ、いや、面白かったですよ?
ホントに(;^_^A

梅(*`Д´)ノ♪

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3979アイナメ:2015/06/09(火) 14:55:26 ID:DQhbUjr2
wwwwwwwwwwww大草原だわwwwwwwwww
※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3980V3:2015/06/09(火) 14:55:55 ID:YO7cDlik
でも、エンディング曲の
「Saga〜This is my road」
作詞・作曲・編曲・歌 - カノン

これは文句無く最高の出来(*`Д´)ノ!
グインから離れて一つの楽曲としても素晴らしいし、歌詞がグインの世界観というか、リンダの世界観をとても上手に表現してて、これ以外に無いだろうと唸らせる出来(*`Д´)ノ♪♪♪
カノンという女性歌手の声も素晴らしく美しい
この歌手が作詞作曲を手掛けたそうですが、本編を読んだ上で作詞したのか、はたまたスタッフから筋の説明だけ聞いて書いたのかは知りませんが、本当に秀逸な歌詞です

一人の大人として、哀愁を持って共感出来る、そんな歌です


梅(*`Д´)ノ♪

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3981V3:2015/06/09(火) 15:04:38 ID:YO7cDlik
アイナメさん、原作読者なら、ネタとしてアニメをご覧になられても宜しいのでは?

「ええっ!?そんな改変しちゃうの!?うおっ、そう来たか!?」みたいな、原作ファンを色々驚愕させてくれるアニメでした(*`Д´)ノw

リンダとイシュトヴァーンのLOVEシーンは全般的に簡略化されてて、「イシュトヴァーンの今後に大きな影響を与える出来事なのにな〜。二期目とか余り考えてないんだろうなあ〜」と、個人的にはぶちぶち思ってましたが(;^_^A

3982アイナメ:2015/06/09(火) 15:26:50 ID:DQhbUjr2
>>3981
チラ見はした上での判断│ω )ウフフフ・・・・
自分なら声はこの人!!!とw

あまりのギャップに ⊂⌒~⊃。Д。)⊃ ピクピク

わたしの中の黒い思い出……
(*`Д´)ノ!!!ツッコミは弟くんがしてました。
………馬鹿野郎!報告にくるな!


アニメやってた時の、は、な、し、

3983V3:2015/06/09(火) 15:49:48 ID:YO7cDlik
わ〜、アイナメさんのイチオシ声優さんを教えて下さいな(*`Д´)ノ♪

私はグインには小林清志さんをイメージしてましたが、堀内賢雄さんも良かったです
何というか、高貴で色気がある♪
リンダは、あの声優さんのあのトーンでは、性格が暗く感じられて、イメージにそぐわなかったですね
グインへの熱烈な信者っぷりも、あの声優では表現しきれてなかったなあと
レムス役の声優は良かったと思います
気弱な白レムス時代と、その後の厨二病発動した黒レムスとを見事に演じ分けてましたよ
イシュトヴァーンはもちっと跳ねるような演技が欲しかったですね〜
やんちゃで下品な部分が、二枚目ボイスのせいで随分と縮小されてしまってました(;^_^A


しかし、普通にグイン話が出来る人と再び巡り会えるなんて、これぞヤーンの思し召し?w
旧ちゃんのグインスレは、怨嗟が通底しているので参加しにくいったらありゃしない(;^_^A
色々ツッコミ所を楽しく語らうって、ホント久しぶりで嬉しいです(*`Д´)ノ♪

お付き合い下さって有り難うございますm(_ _)m

3984アイナメ:2015/06/09(火) 16:10:55 ID:DQhbUjr2
こちらこそ。(*´ω`*)っ旦~~、お疲れ様
またいつか、時間が会えばね。

3985V3:2015/06/21(日) 19:51:19 ID:8FW5AIyk
☆☆☆☆☆☆閲覧注意☆☆☆☆☆☆

これから、V3作のグイン・サーガ二次創作を投稿します
「そんなもの、読みたくない」という方はどうぞスルーして下さいませm(_ _)m



グイン・サーガ二次創作
『星月夜』

何がどうしてかは分からないが、ふとイシュトヴァーンの健康な眠りが妨げられた。
船は穏やかな波に乗り、微かな揺れを彼の寝床に伝えているだけであるにも関わらず、彼の目はふいに覚めた。
「…ん?あ…?」
小さな窓から射し込む星明かりが照らす室内に、何とは無しに目を向ける。
ドキリと、心臓が跳ねた。
どっくどっくと波打つ胸の理由を探すべく、イシュトヴァーンの眠気は完全に覚め、彼は薄い毛布を跳ね除け上半身を起こした。
(リンダはどこだ!?)
室内には、レムスとスニしか居なかった。
今や、イシュトヴァーンが我が命に代えても守りたいと思っている、愛する少女の姿が、眠っている筈の寝床から、かき消えていたのだ。
ドッと冷たい汗が脇のしたに流れる。
(リンダ!)
傍に置いた剣を掴むと、イシュトヴァーンは慌てて室を飛び出し、口から飛び出しそうになる心臓を宥めながら、海賊どもの室内へ直行した。
ガンガンと、頭の中に最悪の想像が浮かぶ。
最悪の海賊どもに、陵辱されている、最愛の少女の姿が——。

「クソッタレ!」
イシュトヴァーンは、歯の隙間から呪詛を吐き出し、おのれの最悪の想像が当たっていた場合には、例え自分の命が失われようとも愛しい娘を救うのだと熱く腹を決めて、全身に緊張を漲らせながら海賊どもの室へと急いで向かった。

しかし——。

イシュトヴァーンを拍子抜けさせるほど、海賊どもの室は静まり返っていた。
いや、ガァァだのグォォだのの、高鼾は聞こえて来たのだが。
(……?)
てっきり、イシュトヴァーンの眠った隙を突いて、船乗りに取っては何より大事な海の神ドライドンへの誓いも反故にして、リンダを攫い陵辱の真っ最中かと危惧した輩達の居住区から聞こえてくるのは、どれもこれも、眠りの真っ最中であることをしめす鼾やバリバリという歯軋りだけである。
それ以外の喧噪は、聞こえて来ない。

ふぅっと、イシュトヴァーンは吐息を吐いた。
どうやらこの様子では、リンダという、とっておきの生贄を手に入れて、邪悪な祭りの真っ最中という訳ではないらしい。
(厠にでも行ってるのか?)
だとしたら、わざわざ探しに行くのもためらわれた。
リンダも、用足しをイシュトヴァーンに知られたくはないだろう。

安堵の息を吐きながら、ばくばくする鼓動を抑えるために何度か深く息を吸い、額にも浮かんでいた汗を拳でぬぐいながら、イシュトヴァーンは、夜風に当たって汗を乾かそうと、最上階の甲板へと向かった。

そこに、リンダがいた。
《つづく》

3986V3:2015/06/21(日) 19:54:27 ID:8FW5AIyk
☆☆☆☆☆☆閲覧注意☆☆☆☆☆☆
グイン・サーガ二次創作
『星月夜』

《つづき》
なんだよお前、こんなとこにいたのか。何も言わずに居なくなったから驚いたじゃねえか——。
そう、イシュトヴァーンがリンダに声をかけようとした時である。
リンダは船の縁で何やらゴソゴソとうごき、暫くすると、ロープで海に垂らしていた桶を引き上げる様子が見えた。

ドキリ。
先程の、冷たい手で心臓をギュッと鷲掴みにされたような嫌な鼓動とは違う、どうしてかイシュトヴァーンにも判別はつかないが、妙な具合に鼓動を打つ何かに押され、イシュトヴァーンはさっとリンダには見えぬ物陰に身を隠した。
トクトクトクと、小さいけれども、いつもとは違う拍子でイシュトヴァーンの胸は波打つ。

リンダは、桶で引き揚げた海水に布を浸すと、それをギュッと絞り、自分の手足をゴシゴシと擦りはじめた。
イシュトヴァーンに、合点がいった。
(そうか。風呂にも入れないから、汚れを落としたくてこっそり真夜中に抜け出して、身綺麗にしたかったのか)
船には一応、風呂場もあるのだが、ろくに掃除をしていないせいで、イシュトヴァーンですら使うのを諦めたほど不潔な場所となっていたのだ。
厠もご同様だったが、そこはリンダが観念して自分で掃除をするようになって以降、目に見える汚れや臭気は改善されていた。
しかし、風呂場は厠より数倍広かったので、掃除を諦めたようだった。

(だったら、俺に言ってからやればいいのに。そうしたら、見張りに立ってやったのに)
僅かな間に、それだけの思いが去来したが、しかし、次の瞬間には、(リンダが、俺にそれを頼む事すら恥ずかしいと思ったのかな)とも、思う。

何日も風呂に入らず、水浴びさえも出来ないでいる自分の状況を、女になりかけの少女が、気軽に他人に打ち明けて助力を乞うとは思えない。
ましてリンダは、単なる少女ではなく、中原の華と謳われた、数千年の歴史を誇る高雅な国、パロの王女である。
誇り高い彼女が、自分の体の汚れを他人に、しかも男に、口にするのも躊躇ったのであろうことは、容易に想像出来た。
少し前までなら弟のレムスに頼んで見張り番でも務めて貰っただろうが、先日の一件以来、レムスは冷笑的な態度を全面に漂わせているので、頼みにくい雰囲気だったのかもしれない。
スニとはまだ、複雑な言葉のやり取りも出来ていない状態だ。

ぽりぽりと顎をかきながら、リンダがこっそりと真夜中に室を抜け出した理由が分かったような気がして、イシュトヴァーンは、そのまま、じっと身を潜めた。

ふと見上げた空には、無数の星と、夜の女王たるイリスが一際大きく輝いていた。
しかし、その輝きは、昼を照らすルアーとは違い、人間の目を焼き尽くすような苛烈さはない。
いつまで眺めていても、イリスは、その静謐で優しい光を、穏やかに披露するばかりである。

ファサ。
それまでとは違う物音に、イシュトヴァーンは、その物音がした方に目を向けた。
ハッとした。
リンダが、その身に着けていた衣服を脱ぎ落とし、細くて白い裸身を、静かな月光にさらしていたのだ。
(あッ…)
見てはならないと、理性がイシュトヴァーンに警戒を発する。
しかし、そんな理性など瞬く間に蹴散らす程の本能が、その目をリンダの白い裸に吸い寄せた。
《つづく》

3987V3:2015/06/21(日) 19:56:55 ID:8FW5AIyk
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グイン・サーガ二次創作
『星月夜』

《つづき》
リンダは、固く絞った布を使い、ゴシゴシと胸を擦り、背中を擦り、もう一度その布を桶に浸し、汚れを洗い落とした後、再び固く絞った布を使って、股間をゴシゴシと拭った。

(……)
イシュトヴァーンの胸に、これまで感じた事がなかった感慨が溢れる。
学の無い彼には、その気持ちを上手い言葉で言い表す術は無かったが、イシュトヴァーンが感じた心情を書き表すとしたら、それは、「女神の沐浴を覗き見してしまった人間の男」のそれであったことだろう。

リンダの体は、女神というには豊かさが足りなかったが、小さく膨らんだ胸や、細い胴、柔らかそうな尻、そこから伸びるすらりとした白い両足は、画家ならば絵に残しておきたいと熱望するような、成熟を迎える直前の、少女期特有の神がかった美を宿していた。
女の裸など、腐るほど見て来たイシュトヴァーンの目にさえその裸体は、恋しい相手という以上に何か特別なもの、神秘的なものに思えて、呼吸さえ忘れさせた。

畏怖に打たれたようなイシュトヴァーンが静かに見守るうち、リンダは脱ぎ捨てた服を身に纏い、白銀の髪に手をやりながら、独り言を云った。
「ああ、さっぱりしたわ。やっぱり、思い切って甲板に出て良かったわ。水音を気にしなくていいし、風も気持ちがいい。あんなお風呂場で裸になったら、病気になってしまいそうだもの。気持ち悪い虫もうじゃうじゃいたし」
「——ほんとは、髪も洗いたいところだけど…。でも、仕方ないわ。海水で髪を洗ったら、きっと余計に痛んでしまう。ただでさえ、陽に灼けてひどい有様なのに…」
リンダが、小さなため息を吐く。
その胸に、砂漠の中で行軍していても手入れを怠らない、艶やかに輝く黄金色の髪の女の姿が過ぎった。
キュッと眉毛を顰めたのち、顔を上げ、夜空を見上げる。
決然とした声音で、リンダは神々に祈った。
「聖なるヤヌスよ、そして夜を照らすイリスよ。どうか、従兄弟ナリスが、あんな、高慢ちきの人殺し女と、間違っても結婚などしませんように。どうか、私の大事な従兄弟ナリスをお守り下さい。——おお、そして、グインをどうか、無事に私達の下へお返し下さいますように。グインは私達の守護神です。それ以上に、とても大事な存在なのです。どうか、グインを、一日も早く——」
両手を組み合わせ、こうべを垂れる。その姿から、真摯な思いが伝わってくるかのようだった。

小さな呟きだったが、その声は風に乗ってイシュトヴァーンの耳にも届いた。
《つづく》

3988V3:2015/06/21(日) 19:59:10 ID:8FW5AIyk
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グイン・サーガ二次創作
『星月夜』

《つづき》
(……)
複雑で苦い思いがイシュトヴァーンの胸に湧き、その体の硬直を解いた。
そっと踵を返し、リンダに気がつかれぬよう、足早に自分達に充てがわれた室へと戻る。
何も知らずに眠っているレムスとスニを起こさぬように自分の寝床に潜り込むと、しばらくしてリンダが室へと帰って来た。
「どこへ行ってた?」
「イシュトヴァーン、起きてるの?」
寝たふりをしてやり過ごせばいいのにと、自分でも後悔しながら、それでもイシュトヴァーンは、リンダに話しかけずにはいられなかった。
「厠か?夜中に一人でうろつくなと言っただろう」
答えを知っているのに、何故か咎めるような口調でリンダを詰問した。
「え、ええ。……それと、夜風に少し当たって来たの。星がすごく綺麗だったわ」
嘘が下手なリンダは、ためらいながら、機嫌の悪そうなイシュトヴァーンに言い訳をした。物音を立てなかったつもりだが、自分のせいでイシュトヴァーンを起こしてしまったのかも知れないと、申し訳ない気持ちになる。
「起こしてしまったのなら、ごめんなさい。みんな寝静まっているので、一人でも大丈夫だと思ったのよ」
囁き声で詫びるリンダに対してイシュトヴァーンは急に自己嫌悪に陥り、柔らかな口調で囁き返した。
「いや、お前のせいじゃない。何となく目が覚めただけだ。用が済んだなら、早く寝ろ。寝不足だと、船酔いしやすくなるぞ」
イシュトヴァーンの口調が変わったことにホッとしたリンダは、素直にその言葉に従い、自分の寝床で横になった。
「お休みなさい、イシュトヴァーン。あなたも、寝てね」
「ああ」

ロスの宿屋以降、こうした挨拶は幾度となく交わしているのに、何故か今夜のリンダの言葉は、殊更にイシュトヴァーンの胸に染みた。囁き声が、耳に甘く響いたからかも知れなかった。

白い裸体が、閉じた瞼の奥に浮かぶ。
月明かりに照らされた少女の姿は、幻想的で、まるで、夜空の星が落ちて来て少女の姿に形を変えたかのように、ほの白く光っていた。
至純——。
そんな言葉は、イシュトヴァーンの語彙には無かったが、そうとしか表せない思いがイシュトヴァーンの全身を浸していた。

親もなく、まともな教育など受けた事もなく、それ故、当然のように、まともな宗教との付き合い方もイシュトヴァーンは知らない。
だから、イシュトヴァーンは気がつかなかった。
自分にとってのリンダが、単に愛しい少女というだけでなく、夜空で船乗りを導く星のような存在となりつつあることを。
或いは、迷える人々を導く、聖典のような存在となりつつあることを。

果たしてそれは、イシュトヴァーンにとって大いなる喜びをもたらす福音なのか、それとも、苦しい思いで彼を打ち付ける呪縛となるのか——。

答えは、運命を司る神、ヤーンのみぞ知るところであった——。

【終】

3989JB:2015/06/21(日) 21:05:43 ID:cd9Xn8jw
一番乗り(^.^)

やり過ごせばよいのに話しかけてしまったイシュトヴァーンの気持ちは
よくわかります
グインのことしか頭にないリンダに
自分の存在をしめさずにおれなかったのかな
と思いました(^.^)

至高・至純・至聖、リンダは神棚にあげるべき人なのか( ゚д゚)

3990V3:2015/06/21(日) 21:54:29 ID:8FW5AIyk
JBさん、有り難うございますm(_ _)m

そうです、イシュトヴァーンがリンダに話しかけずにいられなかったのは、嫉妬心でした
原作でも、リンダ絡みでナリスやグインに嫉妬して色々苦しんでますw

以前の考察にも触れた事ですが、イシュトヴァーンにとってのリンダは、正に神棚に上げたかのような存在ではと個人的に感じ、このような話が出来ました

少々ネタばれをしますと、イシュトヴァーンという男はグイン・サーガの中に出てくる人物としては飛び抜けてスケベというか、健康な男性として描写されてるのですよ
(名前が出てくる女達だけの数でも、沢山の女達と寝ていますw)
そのイシュトヴァーンが、何故だか初恋のリンダにだけは、キス以上のことはしていないのです

後に原作内でイシュトヴァーン自身も「何故、手を出さなかったのだろうか?」と疑問視してますが、当人曰く、まるで、魔法にかかったみたいにそんな気にはならなかったとのこと

リンダが後に言うには、グインと再会して以降、船の上で相当いちゃついてたようなのですが(胸にイシュトヴァーンの頭を抱きしめた事が何度もあったそうな←リアルタイムでの描写は無し)

この疑問を解消すべく、あれこれと考察したのが、イシュトヴァーンのリンダへの神聖視説でして
原作での、嵐の夜のリンダの姿が決定打となったと私は思っているので、今回の創作はその補強という小ネタでした

小説という形でこの二人を書いたのは実は初めてでして、何やら面映ゆい気もします(;^_^A


初めて登場して貰ったのに、真っ裸にしてごめんよリンダ(*`Д´)ノw
しかも、覗き見させちゃってるしww
まあ、長い付き合いなんで許してちょw

感想を寄せて下さって、有り難うございましたm(_ _)m

3991さつまあげ:2015/07/14(火) 08:43:23 ID:jZt0Xq8.
おはようございます
このスレではお久しぶりです

古本屋に50円で売っていた中江俊夫詩集を買いました

3992アマデ:2015/07/14(火) 11:37:43 ID:hTKYSfh2
さつまあげさん、こんにちは(*^_^*)


このスレは、規定の一万レスを突破した為にPart2スレに移行致しました(次スレに移行するに辺り「エルミタージュ図書館」と改題しております)。

快便さんが以前使用していたサブ板運営会社がサービスを停止するに辺り、したらば掲示板に引っ越しをする事になりました。
引っ越し作業簡略化の為に、一回の投稿に数レスが纏められており、その為、此方に新規に書き込む余裕は存在してます
しかし、可能は可能ですが、参加者は上記の事情により図書館スレに移行しておりますので、このスレは閉架しているものとご了解下さいませm(_ _)m

と、いうことになっておりますので図書館の方へぜひお越しください<m(__)m>
お待ちしております(^◇^)


http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/news/6195/1431402899/

3993V3:2015/07/26(日) 15:41:36 ID:bHpvlW72
こっそりと、グインのエンディングテーマ曲
http://youtu.be/2T2pGjOzAtM


梅(*`Д´)ノ♪

※小説スレの中身は、1〜2097レスまでです

3994アマデ:2016/03/09(水) 10:24:07 ID:Flh4YbHY
エルミタージュ図書館オーナーのV3さんご自慢の作家のJBさん待望の新作♪
「いざ・べるびる」いや、表向きには「イザベルビルヂィング」の物語
管理人の名は風見志保。そう!かのライダーV3の本名である♪
くせ者ぞろいの入居人をまとめているのは黒いあいつか管理人か?
日常と非日常の狭間で紡がれる物語。
アナタもビルに入居してみたくなること間違いなし(*`Д´)ノ!!!

※注意事項デス(*^-^)
感想は是非エルミタージュ図書館スレへお願いします。
作家へのプレゼント、花束、ラブレターも同じく図書館へお願いします。
なお、作家の好物であるカステラは高級品のみとさせていただきます♪
よろしくおねがいします(*`Д´)ノ!!!

3995風見志保:2016/03/09(水) 10:34:43 ID:Flh4YbHY
管理人カザミの日記①
○月×日
カリカリとドアを掻くような音がしたような・・・気がしたので開けてみるとやはり居た。猫のカラスマ。
もっとはやく開けろよ、オレはずいぶん待ったのだぜ、
というように私をねめつけながらえらそうに入ってきた彼は、管理人席の横でぱったんぱったんと尾をふる。
わたしが席につくと当然のように膝の上に乗ってくる。そしてパソコン画面に向かってちんまりと収まる。
彼の良いところはけして仕事の邪魔をしないことである。
それどころか膝の上にいるときは、お腹をモフモフしようが肉球をモミモミしようが好きなようにさせてくれるところがまことにエライのである。
彼はヒゲもツメもなにもかもが真っ黒なカラスネコ。烏丸である。飼い主は住人のひとりであるアイナメ氏である。
今日も私がカラスマの頭の上で顎をコロコロさせながらそのビロードのような感触を堪能していたそのとき、住人のひとりが帰宅した。
「あ、マークさん、お帰りなさい」
「ただいまです〜」
なんだかヨロヨロ疲れた様子。登山帰り?大荷物だ。新製品の雪山耐久テストでもしてきたのだろうか。
よろけながら立ち去っていくマークさんの背中に向かって、わたしは叫んだ。
「このあいだもらった試供品、好評でしたよ!」
マークさんはよろけながら手を振って背中で返事をした。
彼はもちろん日本人なのだが、マーク企画という事務所名から、その名でよばれている。

3996風見志保:2016/03/09(水) 10:37:26 ID:Flh4YbHY
管理人カザミの日誌②
○月△日
昨日の日記、いや日誌を読み返したらトコナメさんの名前を間違って書いていた。訂正、訂正。それからマークさんの本名はアツタさんである。
「あなたの感じた第一印象が読みたいの。だからボールペンで書きなさい。私を楽しませるように。いいわね」
オーナーの命令である。トコナメさん、トコナメさん、絶対にトコナメさん。これでよし。
カラスマはきょうも膝の上だ。愛い奴。秘密兵器「四万十産川海苔」を投入しようかしまいか悩む。カラスマがハッと私の顔を見上げる。各種高級海苔を私はオーナーから賜っている。いや正確にはカラスマが賜っている。
「カザミさんが食べても別に構わないけど、基本的にカラスマちゃん用だからね」
いや、きょうはやっぱり止めた。あ、そう?という感じでカラスマは顔をもとに戻した。カラスマ、お前はなんて素直な奴なんだ。トコナメさんに言わせると、実家ではかなりワガママらしいのだが。きょうはどの首輪にしようかな、青いのにしよ。私は首輪掛けから素敵な青い皮製のを手に取った。本皮製である。もちろんオーナーがナツメさんに特注したものである。彼女の紹介はまた後日。青い首輪をまとったカラスマ。ふつくしい。恋しちゃいそう。あ、オトナシさんが帰ってきた。
オトナシさんはフリーのピアノ調律師である。漫画で表現するところの髪の毛がピンピンはねている状態。つまりかなりお疲れなご様子。
「オトナシさん、お帰りなさい」
「ただいま帰りましたあ〜」
「かなりお疲れですね」
「きょうのお宅は隣の家が改築中だったの。ガンガンガンガン、ゴンゴンゴンの騒音の中でお仕事しました」
「プ、プロはさすがですね」
「作業環境は選べませんから。でも今日はきつかったです。カラスマちゃん、あとでウチ来てくれる?」
カラスマは、んなごぉ〜と返事をした。
「オーナーからオトナシさんへ仕事の依頼がきてます。仕上げてくれたら2か月分の家賃免除だそうです」
「に、にかげつぶん、ですか?がんばります(*`Д´)ノ 」
オトナシさんはサブのお仕事も持っているのだ。その内容はまた後日。ちなみにカラスマの首輪は住人が自由に好きなものに付け替えることができるシステムである。管理人窓口には首輪箱があり、はずした首輪を入れるようになっている。着せ替え率は非常に高いが、カラスマ、実家に帰るとすぐに、はずせ!とトコナメさんに要求しているらしい。実家以外では不満の微かなそぶりすらみせないカラスマ。このビルヂングの中でお前が一番の働き者なのかも。

3997風見志保:2016/03/09(水) 10:41:54 ID:Flh4YbHY
管理人カザミの日誌③
きょうは朝から中庭で、見慣れた光景、ポールさんとカラスマのお馴染みのバトルが繰り広げられていた。ポールさんのお手製のフクロウ飾りつき竹製の首輪を、「つけてごらんよ!」「…(フン!)」押し問答である。へいっ、ゆっ、カラスマ、ワタシの愛がわからないのか、んべっんべっ(無視して毛づくろい中)。
「ポールさん、肌ざわりが気に食わないんですよ、きっと、カラスマは」
「どうして?布や皮製より涼しくてゼッタイにコッチのほうがイイはずだよ!」
負けず嫌いである。
「だって実際、前足でブロックされちゃうんでしょ?」
「そうなんだよ。首輪もった手を近づけると、ぴとってカンジでワタシの手を前足で押さえるンだよ。手を動かしてもニクキュウがずっとついてくるンだよ。もうシンボウタマランなんだよ」
「(わざとやってるのか。カラスマもたいへんだな)へいっ、ゆっじゃなくてここはイギリス風に、おう、まいでぃあ〜、のほうがいいかもしれませんよ」
わたしはカラスマを抱き上げてなでてやった。
「イギリスふう?」
「だってミス・マープル観てたらよく言ってたと思うんだけど。というか、教えてくださいよ、ポールさんが」
「イングリッシュなんかとうに忘れたもンね」
「カラスマにはナツメさん作の青い皮の首輪が一番似合うんです」
「ふん。あ、ナツメさんとこいってこよ!」
「あんまり邪魔しちゃだめですよ〜」

ポール・シンクレアさん。木彫芸術家。梟作品を作ることをライフワークとしている。同じくこのビルヂングに工房をもつナツメさんに、新作数(かず)比べを挑んでいるらしい。そして「量より質というコトバがあるわよ」と毎度毎度ナツメさんに諭されているらしい。ミセス・アマデの情報によると、本当はナツメさんに諭されたいから押しかけているらしい。彼女についてはまた後日。明るく元気、が基本のポールさんだが、ときには気分が沈むこともある。にんげんだもの。そして工房シンクレアの看板に「辛クレア」の紙が貼り付けられる。そんなときは住人総出でその紙に「ポールさん、愛してるよ」「ポールさん、ダイスキ」「ポールさん、今度デートしてね」と書き込むことが・・・なぜか・・・決まっている。
なんでこうなった?

3998風見志保:2016/03/09(水) 10:46:32 ID:Flh4YbHY
管理人カザミの日誌④
弥生○日
「いいわ、いいわよ、その調子。ワタクシ楽しんでます。でもひとつ気になる事があるの。マークさんからもらった試供品てなんなの?
アナタ、それについて言及したんさい(*`Д´)ノ 」

日誌とは本来、その日起こった出来事を中心に語るべきものだと思うが、オーナーがこう言うのだから仕方がない。話は約二ヶ月前にさかのぼる。
マークさんことマーク企画のアツタさんはアツイ男だ。仕事においてもきっとアツイのだろう。アツイ事は良いことだ。だがしかし、女性に対するそのアツサはときとしてカラスマのお叱りをうける。
「おはようございます、カザミさん」
カラスマは、きょうはめずらしく管理人室窓枠の近くに彫像のごとく、おお、古代エジプト猫神様のごとく威厳をもって座っている。そこにマークさんの登場だ。
「おはようございます、マークさん。今朝の寒さは格別ですね」
「寒くても寒くても、カザミさんはいつもスカート姿ですね。素敵です!」
「あ、ありがとうございます。厚手のタイツをはいても(しまった、エサを与えたか?)この寒さには辛いですが、それでもスカートはきたい女性はたくさんいますね」
「タイツですか!」
「(やはり反応したか…)はい・・・タイツです」
「登山用タイツをはけばバッチリ寒さは防げますよ!」
「そんなの厚手すぎて不恰好でしょうが!」
「・・・そうか」
しばらく遠くをながめるように顎に手をやり考え込むマークさん。じつは少しばかり顔がイイのは事実だ。ちょっと目の保養。カラスマはいつのまにか寝そべって毛づくろい。
「!」
「ど、どうしたんですか?」
「新製品のアイデアが浮かびました。試着会を私の部屋でしましょう!」
カラスマがのっそりと起き上がって私の顔をみる。おい、そろそろか。
「試着ってタイツの?」
窓から顔を突っ込まんばかりに熱心なアツタさんだ。カラスマがウォーミングアップするかのように前足をふみふみしている。おい、いつでもいいぞ。
「もちろんそうです!カザミさんのスカート仲間のお友達も誘うの忘れないでくださいね」
「マークさんたら、なに言ってるんですか」
ゆけ!カラスマ!私はカラスマに目で合図した。マークさんは頬にまともにカラスマソフトパンチを受けた。

そんなマークさんだが、先に書いたように仕事に対しては真面目にアツイ。試作品はしっかりと作ってくるのだ。出来上がったそのタイツは、膝上はアルパイン用高級素材、膝下は従来のタイツ素材でできているという優れものだった。友人達にも大好評だった。そのイケメン変態紳士を紹介して、という友人もいたのだが・・・。

どうしたもんかな・・・。

3999風見志保:2016/03/12(土) 22:04:48 ID:Flh4YbHY
管理人カザミの日誌⑤
弥生△日
これは断じてサボリではない。オーナーに認められているのである。
日誌に書いているという事実がその証拠。
私がデスクの上に文庫本を広げると、カラスマが私と本の間で香箱をつくる。
カラスの濡れ羽色、ぬばたまの黒髪、カラスマのびろうど。
自室の本棚が手狭になってきた私は本の整理をはじめたのだが、手放すと決めた途端に、もう一回読んでから・・・誰もがそう思った経験があるのでは?
“最後にもういちど読書”今回はトールキンの「指輪物語」(瀬田貞二・田中明子訳)文庫全九巻だ。
原題は「The Lord of the Rings」。
映画版は「ロード・オブ・ザ・リング」。まるで、プロレスのよう( ゚д゚)
でも日本語では単数でも複数でも「指輪」でかまわないから間違いとはいえない。
指輪物語あるいは指輪王とかにするとなんだかのん気なイメージを与えてしまうのも確か。指輪は全部で19個あってそれ以外にもうひとつ。そしてそのひとつの指輪がすべてを支配する。
一つの指輪は、すべてを統べ、
一つの指輪は、すべてを見つけ、
一つの指輪は、すべてを捕えて、
くらやみのなかにつなぎとめる。
影横たわるモルドールの国に。

さしずめ、ここでは
 一匹の猫は、すべてを統べ、
一匹の猫は、すべてを見つけ、
一匹の猫は、すべてを捕えて、
平穏と慰めをあまねく広め
世はすべてこともなし   byカザミ

2回目読書は速い。とばし所がわかっているからか。それにしてもホビットもドワーフもエルフも詩ばっかり歌ってないで早く話を進めて欲しいものだ。ひと目3行のスピードで、そうそうこんなお話だったと思い出す。
カラスマのビロードのような背中からは、ぽかぽかとした日なたのにおいがする。
干し草のにおい、は嗅いだことはないがハイジのいう香りはこんな感じかもしれない。
時折ビロードの背中にに顎をすりすりしつつ・・・ページをめくりつつ・・・すりすり・・・

カラスマが私の顔の下でごろんと半回転するのと「・・・さん、カザミさん」という声に気がつくのとほぼ同時だった。「はいっ?」と目を覚ました拍子にカラスマのツメに髪がひっかかった。あいたたた。トコナメさんが目の前に居た。
「あ〜ぁ、じっとしててくださいよ」
「すみません・・・お恥ずかしいところをお見せしました」
カラスマは、私とご主人にはさまれたらさすがに・・・ご主人を選んだ。さっさとトコナメさんの足元へひょいと飛び降りてしまった。
「いやいや、いつもカラスマをかわいがってくれてありがとう。また取材で1週間ほど留守にしますので、彼をよろしくお願いします」
「了解です。大歓迎です」
トコナメさんはフリーのコラムニスト。花鳥風月、歳時記を散りばめた農業に関するコラムを得意とするひとである。このビルヂングの敷地内と飛び地にオーナー所有の菜園があるのだが、トコナメさんが管理を任されている。作物の種類は自由に決めて構わない、時々収穫物を適当に物納してくれる事、そのために家賃は割引、これがオーナーの提示した条件である。ビルヂング敷地内の菜園にはトコナメハーブ園があり、そこで採れるハーブは住人達が好きに食してよいことになっている。
「今週の収穫してよし(*`Д´)ノ リストはこれです」
「ありがとうございます。さっそく掲示板に貼ります」

パセリ、セージ、ローズマリー、そしてタイム。
サイモン&ガーファンクルの世界ではないか。
さらにバジル、ルッコラ、カミツレ・・・

すばらしきかなイザベルビル。

4000風見志保:2016/04/15(金) 11:51:55 ID:Flh4YbHY
管理人カザミの日誌⑥
卯月○日
トコナメさんが取材旅行に出て一週間が経つ。昨日連絡があり、さらに出張が一週間延びた。これはカラスマのお泊りが延びたということ。私はニヤニヤがとまらない。カラスマは街中でたまたま出くわしても「アンタなんか見たこと無いね」という態度をとる。それはもう、徹底的に他人のフリだ。野良たちの手前、そのほうが格好がつくのかもしれない。驚いたことに飼い主のトコナメさんに出会ったときも同じだというから恐るべし知恵猫、カラスマ。トコナメさんは、彼を預けに来るときは必ず毛布入り「有田みかん」箱を持参する。高価な猫ちぐらを購入しても見向きもされなかったとのこと。だが正直なところ、私としてはこのみかん箱を断りたい。

だって、
だってカラスマ、眠るなら私の隣にすればいいじゃないの

毎晩お布団をめくって、ほら〜あったかいよ、ここにおはいりよ、と呼びかけるのだが成功した試しがない。秘密兵器・四万十産川海苔をちらつかせ布団の中へ誘い込んだときは、パリパリとおいしそうに平らげたあとにさっさと出て行こうとするので、そうはさせじとむぎゅっと抱き締める。すると彼は思いとどまってくれる・・・10秒間だけ。きっちり10秒カウントして、「これで、気はすんだろ?」といわんばかりに私の腕の中からすり抜けていく。三陸産高級岩海苔のときは15秒。衣片敷きひとりかもねむ。つれない。

館内巡回をする私のあとになり先になりついて歩くカラスマ。きっと彼の縄張りを見回っているつもりなのだろう。彼が面倒をみてあげている人々(つまり、私がお世話をしている人々)はまともな大人達である。ただしきわめて個性的ではある。ここの住人達をひとことで表現すればこうなる。管理人の手を煩わすような問題を起こす人々ではないのでありがたい限り。本日も平和、世はすべて事もなし、と言いたいところではあるけれども。お茶目というか、子供っぽい住人も中には・・・
「カラスマ〜、また、だよ」

ポールさん家の看板に「辛クレア」の張り紙発見。まだ誰もメッセージを残していない。
「仕方ないね。ナツメさんがしばらくお留守だから淋しいのかな、ライバルがいなくて」
もうほっとけば?と言いたげにカラスマは前足の毛づくろいを始めた。
「そういうわけにもいかないよ。ポールさん、カワイイひとだからね」
張り紙の横にビニール紐で垂らしてあるマジックペンを取って、わたしはメッセージを書いた。喜んでくれるといいね、と振り返ったその先にカラスマの姿はもう無かった。

 巡回を終えて管理人室へ戻ってみると、掲示板の前に、素敵なワンピース姿の女性が居た。
「アマデさん、おはようございます」
振り返った女性の腕のなかに、カラスマはちゃっかりとおさまっていた。
「おはようございます、カザミさん。トコナメハーブ園の情報ながめてたらお腹すいてきちゃった」
フラウ・アマデ。わたしの貴重な情報源。ご主人はオーストリア人のヘル・アマデウス、音楽事務所を経営している。自宅は別の場所にあるが、ご主人が長期出張中の際にはここに住んでいる。趣味を兼ねたお仕事は将来性ある若手演劇集団の発掘だ。
「“ルッコラ”の文字をみるとイタリアン食べたくなるよね、カラスマ」
知らんがな、といった様子のカラスマの頭に遠慮なく顎をすりすりさせてアマデさんは言った。
「たしかに、そうですねえ」
「カザミさん、今度オーナーにテナントとしてレストラン経営者を入れて欲しいって伝えてくれないかしら。トコナメ野菜を使ったイタリア料理、オトナシさんのお友達の音楽家によるコンサート、これ最高じゃない(*`Д´)ノ 」
「はあ、わかりました・・・」
オーナーがアマデさんの提案を受け入れることは、驚くなかれ、結構、ある。

つづく

4001風見志保:2016/04/15(金) 11:53:25 ID:Flh4YbHY
管理人カザミの日誌⑥
卯月○日 つづき


 カラスマは外へ遊びに出ていってしまい、業務もヒマで、時は春、眠たい。当たり前だ。
あ〜もう限界だと思ったそのとき、ふっと影が差したように感じた。目の前にポールさんがいた。
「ヒドイじゃないのカザミさん!どこからみてもフサフサでしょうに?」
ポールさんが自分の頭を指差してまくしたてている。
「なんでイジワルなこと書くのよ。カザミさん、そんなひとだったの?!」
「な、なんのことやら私には・・・」
「これだよ!」
とポールさんは私の目の前に辛クレア張り紙をつきつけた。
「・・・ぐぅ」
「ぐ〜のねもでない、とか言うんだよね、日本語で。ひどいよ(´;ω;`) 」
「いや、“ぐ”です・・・」
「ぐのねもでない?どっちでもいいよ!見てよ私のカミ、どこがハゲなのよ?」
ため息をつきながら私は言った。
「ポールさん、“ゲ”と“グ”が似ていることは私も認めます」
ふぁっ?といいながらポールさんは、私につきつけていた張り紙をおもむろに見直して、ゆっくりと読み上げた。
「わたしのココロからの ハ・・・ゲじゃなくてグ をポールさんに カザミより」 
(^.^)/(^.^)/(^.^)/(^.^)/
 ポールさんは上機嫌で帰っていった。
いいよいいよ、ポールさん、かわいいから許す。

4002風見志保:2016/07/27(水) 22:26:15 ID:dNAIfh2A
管理人カザミの日誌⑦
文月○日
 夏の昼下がり、風はそよとも吹かず、じっとりと額に浮かぶ汗・・・と言いたいところだが、管理人室はエアコンが効いて天国である。冷暖房代にウルサイことを言わないオーナーは正しい。快適な職場環境は能力発揮に必須。さあ私も頑張って・・・ヒマをつぶさなくては。イザベルビルはいま、ひっそりとしている。なぜならば、

ポールさん・・・英国へ(本人は、帰国じゃなくて旅行だよ(^^)/ と言っていた)
ナツメさん・・・フランスへ(お買いもの、あるいはインスピレイションを求めて)
アマデさん・・・オーストリアへ(ご主人とオペラ堪能しまくり)
マーク・アツタさん・・・北アルプス連峰のどこか
オトナシさん・・・北海道へ里帰り

いまイザベルビルの住人はわたしも含めて3人と1匹だ。そのうちの一人、トコナメさんがやってきた。左手にカラスマを抱き、右手にブラシを持って。
「こんにちは、カザミさん。またお願いしていいかな?カザミさんにブラッシングしてもらったあとはツヤッツヤで男ぶりが数段あがるんだよ、カラスマ。例のやり方、やってみようとしたんだけどまったく受け付けてくれないんだよ。なんでカザミさんには無抵抗なんだろ?」
「うふふ、どうしてでしょうねえ。カラスマ、こっちおいで。今から農作業ですか」
「うん、行ってきます」
「熱中症に気を付けてくださいよ。あとで様子見に行きますからね」
「はいはい、ありがとう。じゃあ、よろしく」

 トコナメさんが熱中症にならぬよう、アナタときどきチェックしたんさい(*`Д´)ノ

オーナーの厳命である。トコナメ野菜をたっぷり供給してもらうために、わがオーナーは万全の態勢だ。

 四万十産川海苔の存在をトコナメさんは知らない。
「いい?カラスマ?この海苔、食べたいよね?おとなしくするんだよ。ブラッシングが終わってからあげるからね」
わかってるって、だから早くして、と言わんばかりにカラスマはごろんとお腹を出した。
「背中からだよ、カラスマ」
あぁそうか、というふうにカラスマは「伏せ」の態勢をとった。わたしのブラッシング方法は、はっきり言おう、「逆毛ぶらっしんぐ」だ。普通の猫は嫌がって拒絶するのだろう、きっと。猫飼い経験の無い私にはわからないけど。でもカラスマは普通の猫じゃない。話のわかる猫だ。
逆毛にブラッシングするほうが確実に抜け毛をすきとることができるはず。ある日、猫素人の私は考えた。当たり前だが初回は強烈に嫌がられた。すっかりご機嫌斜めになったカラスマへのお詫びに四万十産川海苔を与えたのが彼との契約の始まり。それが今や、結構、ブラッシング中は気持ちよさそうにしている。実は快感なのではないか?シゲキがあって・・・。
「たくさん抜けるもんだねえ。ほんと暑そう」
トコナメさん持参のものとは別に小型のブラシを数種類、私は常備している。しっぽ用、手足用、頭のてっぺん用、である。
「ほうら、カラスマ、男前のできあがりだよ。最後に赤の首輪をつけて、と」
四万十産川海苔をぱりぱりと食べるカラスマを見ながら、そろそろトコナメさんチェックの時間かなと考えていたとき、もうひとりの住人が帰ってきた。

「ヒメさん、お帰りなさい」
正確にはヒメカワさんという名前である。他の住人達から「青年」と呼ばれることもある。それに対し素直に「はい」と返事するいいひとだ。だがよく考え事をしながらぼ〜っと歩いているときがある。わたしは目の前を通り過ぎようとするヒメさんに慌てて呼びかけた。
「アッハイ、ただいま帰りました」
「ファックス、きてますよ」
ヒメカワさんはとある出版社の装丁室勤務なのだが、副業が認められているのか個人で事務所を開いている。家賃もバカにならないと思うのだがどうやって工面しているのか。そこらあたりはナゾである。個人客からの要求に答えてオリジナル装丁本を請け負う事務所主宰である。わたしはオーナーからの注文ファックスをヒメさんに渡しながら言った。
「両耳にイヤホンはあぶないから外では気を付けてくださいよ?」
ハイわかりました、と素直に返事してまたイヤホンをつけるヒメさんであった。

「さて、カラスマ、麦茶もってご主人の様子見に行こうか。夕方にやって来るご新規の入居者はいったいどんな人だろうね」

4003名無しさん@ベンツ君:2017/12/10(日) 14:40:26 ID:alxz1x.M
乙です…///

4004うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:15:58 ID:LNssCYN6
アレクサンデル・デュマ『モンテ・クリスト伯』(^^)/

1815年
あの英雄はエルバ島に幽閉されていた
そう、ナポレオン・ボナパルト

王政復古フランスの君主はルイ18世
ギロチンの露と消えたルイ16世の弟
彼のもとで再起を果たした貴族たちによるボナパルト派排除は苛烈をきわめていた

同年2月
フランスはマルセイユに、モレル商会所有の帆船ファラオン号が帰港
われらが主役、一等航海士のエドモン・ダンテスは、船長代理をつとめていた
二十歳かそこらの、背の高い、黒髪に黒い瞳の好青年
モレル氏の信頼も厚い優秀な船乗り

ともに船に乗る会計士のダングラール
エドモンを妬み、嫌っている
数字に強く、頭のいい奴。良心のかけらも持たない奴。
他人をそそのかし、自分の手は汚さない奴
この男の悪だくみによってエドモンは幸福の絶頂から地獄へと突き落とされるのだ

ファラオン号のルクレール船長は航海の途中、病いで亡くなった
なぜか、予定外のエルバ島へと寄港命令を出していたという
船長は死ぬ間際に、エルバ島のベルトラン(ナポレオンの侍従長)に小さな包みを渡すよう
エドモンに命令したという
そしてエドモンは忠実に命令に従い、侍従長に包みを渡し、ナポレオンにも面会した

船主のモレル氏はボナパルト派であった
この話を聞いて喜ぶが、同時に、エドモンに忠告する
エルバ島の閣下に接触したことが知れると、どんな危険にさらされるかわからんぞ

私はただ命令に従っただけで、包みの中味も知りませんし、ナポレオン閣下ともごく普通の会話をしただけですよ
どんな危険な目に遭うというのですか

モレル氏の心配を笑いとばすエドモン

ダングラールは手紙の件をエドモンがモレル氏に伝えていないことを知る
手紙だって?私には渡してくれなかったが?
おかしいな、船長は包みと手紙を渡していたと思ったが・・・
なぜ君は包みのことを知っているのかね
いや、あの、船長室を通りがかったときにちょうど・・・
きっと私の勘違いですな、エドモンにはこのことは言わんでください

エドモンには婚約者がいた
カタロニア人の美女メルセデス
メルセデスと、そして、息子の帰りを待ちわびる父
このふたりにすぐにでも会いにいきたいエドモンだった

ダングラールの話が気になるモレル氏はエドモンに問う
なにか他に話すべきことは無いか?
臨終のとき船長が私あてに手紙を書いたとか?

お書きにはなれませんでした、とエドモン
そして今のお話しで思い出したのですが、2週間休暇をいただけませんか?
パリへ行く用事があるのです

いいとも
でも三か月後には戻っていてくれないと困るよ
船長がいないとな!

私が船長に?!
ありがとうございます!!

ところでエドモン
ダングラールには満足しているかね?

友達としてならば、いいえ
彼は私を嫌っているようです
つまらないことで喧嘩をして、つい言ってしまったのです
モンテ・クリスト島に10分だけ上陸して、かたをつけようじゃないかって
それ以来、彼はわたしを嫌っているようです
でも会計士としての仕事ぶりは申し分ありません

エドモン
君がファラオン号の船長だったらダングラールを喜んで残すかい?

モレルさん
あなたの信用を得ている人物なら誰だろうとわたしは尊重しますよ

君はほんとに立派だな、さあ、もう行きなさい

モレル氏の背後にたたずむダングラールの眼差しは暗かった

4005うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:17:55 ID:LNssCYN6
エドモンは家へと向かう
老父は息子の姿をみて喜ぶが、体が弱っているようである
食料がほとんど底をついている
出航前にお金は置いていったのに、どうして?お父さん
隣人のカドルッスが、エドモンが彼に借りた金の取り立てをしたらしい
申し訳なく思うエドモンだった

そのカドルッスがやってきた
よう、エドモン、良く帰って来たな
飲んだくれの仕立て屋カドルッス

エドモンは冷ややかに言う
ああ、帰って来たよ 給料も出たし、困ったときはたすけてあげられるよ

その必要はない 仕事はあるんでな
隣人同士助け合うもんだ おれは貸した あんたは返した これで貸し借りなし

貸してくれた恩はもちろん忘れないよ

モレルさんの夕食会をことわってきたらしいな
いくら親父さんに早く会いたいからって、船長になるんならおべっかは使っとくもんだぜ

ぼくは、そんなことは無しで、認めてもらいたいんだ

へ、結構なこって
あのカタロニア娘のところへも早く行ったほうがいいぜ
別嬪さんのまわりには男がいっぱいだからな
ま、でもあんたが船長になるんなら、あんたを断る気にはならんだろうよ

(少し不安になって)
ぼくが船長になろうとなるまいと、彼女はぼくを愛してくれるさ

結構、結構、はやく行ったほうがいいぜ

密談するダングラールとカドルッス
奴の様子はどうだった?
ふん、俺に金を借りてたくせに、なんなりとお役に立てるよだとさ
えらそうにまるで船長になったみたいによ

で、奴はあの娘のところへ行ったんだな
あの娘にくっついてまわってる男がいたよな、たしか

ああ、従兄弟かなんかだ
奴が船長になったら、気軽に口もきけねえな

おまえ、エドモン・ダンテスが嫌いか?

おれは・・・横柄な態度をとる奴が嫌いだ

さてと、ちょいと見物がてら飲みに行こうぜ
もちろん俺のおごりで

飲んだくれのカドルッス
エドモンのことが嫌いなわけではなかった
いやむしろ好きだった
ならば助けてやればよかったのに
弱い奴、カドルッス

4006うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:18:59 ID:LNssCYN6
フェルナン、あなたのことは好きよ
でもそれは兄に対する愛のようなものなの
あなたとは結婚できない

暗い眼差しのフェルナンをみて恐れを感じ、
メルセデスは言う
エドモンに何かあったら、わたしは生きてはいないわ!

わかったよ、メルセデス

そこへやって来るエドモン
フェルナンとエドモンの間に走る緊張感

幸せの絶頂にある恋人たちを残して、フェルナンは去る

酒場の近くを通りかかるフェルナン
その彼を呼び止めるダングラール

言葉たくみにフェルナンを煽るダングラール
泥酔状態のカドルッスはエドモンが標的となっていることを朦朧とした頭で感じ取り
抗議の声をあげるが、ダングラールにうまくかわされる

ダングラールの悪だくみとは?

4007うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:20:45 ID:LNssCYN6
ダングラールとカドルッスに煽られて、フェルナンは嫉妬の炎を燃やしている
そこへエドモンとメルセデスがやってくる

エドモンはいう
今日には父の家で婚約を済ませ、明日か、明後日にはこの店で婚約披露宴をするよ

ダングラールはいう
えらく急ぐんだな 次の出航まで三か月もあるってのに・・・

パリへ行く用事があるのでね

パリ?パリははじめてか?ダンテス

うん でも僕の用事じゃないんだ 
亡くなったルクレール船長の最後の用事をどうしてもしなくちゃならない

ダングラールはぴんと来た
これは例のエドモンが内緒にしている手紙と関係がある
きっとナポレオンの侍従長ベルトランからの手紙をパリへもっていくのだ
素晴らしい考えを思いついたぞ

恋人たちは去って行った

ダングラールはフェルナンにいう
「あんた、ほんとにあの娘が好きなんだな」
「知り合ってからずっと」
「でもそこで髪をかきむしってるだけか。あんたの国のやり方はそんなもんかい」
「ほかにどうしろって言うんです」
「私が知るわけないだろ」
「あいつを刺そうと思った。でも女がそんなことしたら自殺するっていうんだ」
「そんなの口だけに決まってるだろ」
「あんたはあの娘を知らない。あの娘は一度宣言したら絶対にやる」
(馬鹿め、女が死のうが死ぬまいがどうでもいい。俺はあいつが船長にさえならなきゃいいんだ)
「あの娘が死んだら俺も死ぬ」
「これぞまさしくほんとの恋ってやつだ、ヒック」
「おい、カドルッスお前はもうできあがってるな。
フェルナン、君はいいやつのようだから私がその苦しみから救ってやろう、だが・・・」
「おれはまだ酔ってねえぞ〜、ヒック」
「だが・・・何なんです?」
「ダンテスが死ななくたって結婚はお流れになりそうだぜ」
「死以外にあのふたりを引き離すものはありませんよ・・・」
「ヒック、このダングラールはなあ、悪賢いんだぜ〜、ヒック、そうさダンテスは死ぬ必要はねえよ。あいつはいい奴よ。おれはあいつが好きだよ、達者でいろよダンテス、ヒック」

いらいらと立ち上がるフェルナンを引き留めるダングラール

「牢屋の壁で離されるのも、死んでいるのとおんなじことだろう?」
「んだな、ヒック、でも牢屋はいつか出るぜ、ヒック、
エドモン・ダンテスってからにはきっと仕返しはするぜ、ヒック
でもよう、なんであいつが牢屋にぶちこまれるんだ?いいやつだぜ、ダンテス、お前の健康に乾杯だ、ヒック」
「あいつを逮捕させる方法があるんですか」
「そりゃ探せばあるだろうさ。でも私が首つっこむことじゃないな」
「あんたにもダンテスを特別憎む理由があるんでしょう?」
「とんでもない!誓って言うが、全然ないよ。あんまり君が辛そうだからさ。ま、自分で考えてみるんだな」

4008うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:21:47 ID:LNssCYN6
席を立つふりをするダングラール
引き留めるフェルナン

「あんたがやつを憎んでようが憎んでなかろうが、どうでもいい
やり方を見つけてください。やつが死ななくていいんならメルセデスも死なない」

「ヒック、ダンテスを殺すだあ?あいつは友達だ。やつは今朝、俺に金をわけようとしてくれた。俺がやつにしてやったようにな。おれはダンテスを殺させないよ、ヒック」
「馬鹿め、誰があいつを殺すなんて言った?冗談だよ。ほれ、あいつの為に飲めよ」
「だから、どうすればいいんです?」
「まだ、見つからないのかい?」
「あなたが見つけてくれると言った!」

「ペンとインクと紙をもってこい」
「ヒック、おれはいつだって、一本のペン、ひと瓶のインク、一枚の紙きれのほうが
剣やピストルより恐ろしいと思ってたよ、ヒック」
「フェルナン、こいつにもっと飲ませろ」

ダングラールがフェルナンに言う

ダンテスは今度の航海の途中、ナポリとエルバ島に寄っている
もしだれかが、国王の検事にあいつをボナパルト派だと告発したら・・・
ほら、こんなふうに左手で筆跡をごまかして書くのさ

国王ならびに教会に忠実な物として、検事閣下に対し、以下のことをお知らせ申し上げます。
ナポリ、ポルト・フェライヨ(エルバ島)に寄港後、今朝スミルナより帰港したファラオン号の一等航海士エドモン・ダンテスは、ミュラー(ナポレオン義弟 ナポリ王)より簒奪者(=ナポレオン)宛の手紙、および簒奪者よりパリのボナパルト委員会宛の手紙を託されました。
ダンテスを逮捕なされば、その証拠を入手できるでありましょう。この手紙は、彼の身辺、彼の父親の家、もしくはファラオン号上の彼の船室内で発見されるはずであります

宛名は「検事殿」、これで万事終わりさ

「ヒック、んだ、万事終わりだ。ただたしだ、それは汚ねえぞ」
カドルッスは手紙を奪おうをする

「冗談にきまってるだろうが!おれだってダンテスはいいやつだと思ってるぜ」
ダングラールは手紙をくしゃくしゃにして酒屋の庭の隅に投げた

「ヒック、ああ、よかった。あいつに悪いことするのは黙ってられん、ヒック」

カドルッスを支えながら酒場をあとにするダングラール
振り返って、フェルナンが投げ捨てたあの手紙に飛びついてポケットに入れたのを確認した

4009うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:23:00 ID:LNssCYN6
エドモンとメルセデスの婚約披露宴が開かれている
エドモンの父親、船主のモレル氏、ダングラール、カドルッス、そしてフェルナンもいる
そわそわと落ち着かないフェルナンの様子を観察するダングラール

エドモンによると、もうすでに結婚許可証は得ており1時間半後には市役所で正式に結婚が成立するという
慌てはじめるダングラールとフェルナン

祝福のざわめきが最高潮に達したそのとき、窓から外を見ていたフェルナンが弾かれたように立ち上がった

階段から重々しい足取りと剣のがちゃがちゃいう音が聞こえてくる
警部と4人の兵士たち
エドモン・ダンテスの逮捕令状が出ているという
逮捕理由?我々は知らされていません
何かの間違いであると確信しているエドモンは困惑しながらもおとなしく連行されていった
悲しみに打ちひしがれるエドモンの父親とメルセデス
事実確認のため、慌てて出ていくモレル氏

酒場でのおぼろげな記憶がよみがえるカドルッスはダングラールに言う

これがあんたの言ってた冗談の結末か?おい!
こいつはひどすぎるぞ!

とんでもない。あの手紙は破いちまったぜ

うそだ!隅っこのほうへ投げただけだろうが!
あいつだ!フェルナンの野郎だ!

あいつはそんな利口者じゃない。

戻って来たモレル氏は逮捕理由を皆に告げる
それは「ボナパルト派である」とされたから

ああ、やっぱりお前はおれをだましたな!あの冗談は実行されたんだ!
ひでえ話だ!なにもかもしゃべってやる!

うるさい、だまれ!
エドモンがエルバ島へ寄ったのはほんとなんだぞ。あいつをかばうやつも同罪だぞ?
いいのか?

モレル氏は検事代理ヴィルフォール氏にエドモンの情報を訊いてみようと思っていた
そしてダングラールに、この件についてどう思うか尋ねる
ダングラールはモレル氏に、エドモンがエルバ島に立ち寄ったことが胡散臭いと言う
そして、モレル氏が消極的ボナパルト派であることをにおわせ、恩を売るかのように
誰にも話しておりません、と付け加えるのであった

4010うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:24:15 ID:LNssCYN6
検事代理ヴィルフォール
過激な王党派
将来を嘱望された男
ルイ18世のおぼえめでたいサン・メラン侯爵の令嬢ルネの婚約者
だがしかし、栄達を約束されているかのような彼にも弱点があった
それは・・・

サン・メラン侯爵邸での夕食会から、急きょ、エドモンの件で呼び出される
待ち受けるモレル氏
エドモンの誠実さを訴え、助けて欲しいと懇願する

隠れボナパルト派のくせに!冷たくあしらうヴィルフォールであった

エドモンを尋問するヴィルフォール
明るく好感の持てる態度のエドモンに、寛大な処置をしてもよいかと思いつつあったのだが・・・

君は誰かの恨みを買ったことがあるか?この告発状を読んでごらん

じっくりと読むエドモン。筆跡に見覚えはない

ここに書いてあることは事実なのかな?

事実であって、同時に事実でありません、とエドモン
亡くなった船長の指示に従っただけだと

エルバ島から持ち帰った手紙を見せなさい

お手元の書類の中にあると思います、とエドモン

探しながらヴィルフォールは言う。宛先はどこだったのかな?

パリ、コック=エロン通りの、ノワルチエ氏です

雷に打たれたような衝撃を受けるヴィルフォール
あわただしく手元を探り、問題の手紙を取り出す
宛名を確認する
つぶやく・・・コック=エロン通り、ノワルチエ・・・

ご存知なんですか?

いや、国王陛下の下僕たる私が謀反人など知るわけがない!
中味を読む・・・血の気がひく

不安になるエドモン
いずれにしても、手紙の中味は知りません

しかし、宛先は知っているな?

直接渡さねばならなかったので、はい

この手紙は誰にも見せていないのだな

誰にも見せてません

(もしもこの手紙の内容をこの男が知っていたら、そしてノワルチエがわが父だと知ったならば、私は破滅だ)
よし、わかった
君を釈放する権限は私にはないから、予審判事にその許可を取るまで少しの間だけ君を拘留する。そして君にとって不利な証拠であるこの手紙は燃やしてしまおう

暖炉の火に手紙をくべるヴィルフォール
エドモンは無邪気に検事代理の言葉を信じ、
警部に連れられて部屋を出ていったのである。感謝の眼差しさえ見せながら。

ヴィルフォールは椅子の中に倒れこんだ
私はいつまで父の過去にしばられなければならぬのか
待てよ、この手紙が俺の運を開くかもしれない
ぐずぐずしてはいられない!

ヴィルフォールはナポレオンのエルバ島脱出計画を知らせることにより
サン・メラン侯爵を破産から救い、ルイ18世にも感謝される

ナポレオンは計画どおり脱出していた(いわゆる百日天下)

ヴィルフォールに騙されたとも知らずエドモンは
馬車に乗せられ、船に乗せられ、“その場所”を自身の眼でみてはじめてこれから自分がどうなるのか知った
“シャトー・ディフ”
海に浮かぶ監獄島
その地下牢につながれた

メルセデスはヴィルフォールを訪ねた
ヴィルフォールは「あの男は重罪人であり、この件は私の手を離れた」という

モレル氏はほうぼう駆けずりまわっていたが、徒労に終わる

カドルッスは不安と苦悩にさいなまれていたが、彼にできるのは飲んだくれることだけ

ダングラールだけは良心の呵責も不安も感じていなかった
むしろ楽しさすら感じていた

老ダンテスは悲しみと不安で息絶えんばかりであった

ヴィルフォールのもとにノワルチエがやってくる
ナポレオン陛下はすでにパリをめざし、進軍中だ
お前はわしをかばうのだ
陛下が返り咲いたあかつきにはわしがお前をかばってやる

ナポレオンは復活する
百日のあいだ・・・

4011うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:25:17 ID:LNssCYN6
ナポレオンがパリ入城を果たし、ワーテルローの戦いで敗れるまでの百日
王党派支配→ナポレオン派支配→ふたたび王党派の支配
ヴィルフォールは父ノワルチエのおかげもあるのか、その地位は脅かされなかった
そしてモレル氏の嘆願をのらりくらりとうまくかわしていた
エドモンの父親はメルセデスの腕のなかで亡くなった
死に際しての費用など、モレル氏が負担した
それは王党派支配の世の中で勇気の必要な行為だった
ダングラールはナポレオン派が再び台頭すると、エドモンが解放されることを恐れて
スペインの商社へ転職し、その後の消息はわからない
フェルナンはメルセデスに尽くし、彼女の心をつかみつつあった

さてシャトー・ディフのエドモンは・・・

4012うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:26:41 ID:LNssCYN6
なぜ監獄へ入れられたのかその理由さえわからないエドモン
その理由をもうひとりの囚人ファリャ神父が解き明かしてみせた

エドモンより数年早く収監されていたファリャ神父は
イタリアの有力枢機卿の秘書をしていた人物であった
小国家乱立の弱小イタリアではなく、統一イタリア王国の誕生を望んでおり、
そのため政治犯として獄へつながれた
獄中では身の回りの物で作った道具で研究にいそしみ、イタリア統一論文を書く
博覧強記の人物
看守たちの間では、ありもしない財宝の話をしつづける“キチガイ神父”と呼ばれる人物

エドモンとファリャ神父は別々の独房に入れられていた
実はファリャ神父は何年もかけてこっそりと脱獄のためのトンネルを掘っていた
ところが、外の景色の見えない独房での計算によって海の方向を割り出して方向を決めたために、間違ってエドモンの独房室へ向かって掘り進むこととなった
その結果、ふたりの独房はトンネルでつながったのであった

エドモンが逮捕されるに至るまでの話を聞き、ファリャは謎ときをする
ダングラールとフェルナンの仕業であろうよ
だが、検事代理の行動がわからぬ 本当にそなたに同情的であったのか?
ノワルチエだと?わしはそいつに会ったことがある
ノワルチエ・ド・ヴィルフォールだ

すべてを理解したエドモンだった


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