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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ

3942V3:2015/06/08(月) 21:21:10 ID:3z4GG4Kk
スニはスルスルとマストをのぼりつめると、レムスにもってきたツボを手わたした。それをまた、レムスは勢いよく、船めがけてふりまいた。人々の頭も、からだも、甲板も油でまみれた。
と見てから、レムスは、静かにかくしから火打石をとり出し、ほくちのぬのをとり出した。
かち、かち、とスニに布をもたせて火をつけはじめる。
「わああーッ!」
「あ、悪魔みてえなガキだ!」
「火をつける気か。油をまいて——」
たちまち、海賊は、リンダとイシュトヴァーンをはなしてマストに殺到した。
スニがスルスルと途中までおりた。ぱっととり出したのは、セム族の吹き矢だった。みるみる、毒矢に目や顔を射られて、マストによじのぼろうとした数人がギャーッと叫びながらおちていった。
「きさま、やめんかーッ」
「そんなことをしたら、きさまも一緒に火あぶりだぞ」
「きさまの仲間どもも焼け死ぬんだぞ」
下では手のほどこしようもなく、じだんだをふんでわめきたてる。
それへ、
「そうとも!」
「ぼくたちも死ぬ。しかし、お前たちも、この船もろとも、全員いっしょに焼け死ぬんだ。ぼくたちだけがつかまってなぶり殺しになるよりは、みんな一蓮托生で、あっさり火のなかで全滅したほうが、ぼくとしては満足だからね!」
「やれるものなら——」
云いかけた瞬間に、レムスはほくちを下へおとした。
ぎゃあッ、とすさまじい海賊どもの絶叫がおこる。かれらはてんでに逃げ出そうとし、中には海へ早てまわしに身を投じるものすらあったのである。
しかし、火はたちまち燃えひろがりはしなかった。レムスはにやにやしながら、長くしてあったほくちをたぐってひきもどし、その勢いで消えたそれに、ていねいに火をつけ直した。

「降伏しろ」
レムスの容赦ない声がなおもひびく。
「降伏するんだ。ぼくたちに決して危害を加えぬ。ぶじに目的地まで運べるよう、もとの航路をさがす、とドライドンにかけて誓え。そうすれば火を消してやる。——ぼくも約束しよう。お前たちは、われわれを人質にとったり、売りとばすより、われわれの味方につき、われわれに協力した方が、はるかに安全と——そして、財宝を手に入れられることになる。ぼくたちを期日どおりライゴールへ運んだら、そのとき、お前たちに新しい船一隻と——そしてお前たちひとりひとりに百ランの報酬を約束しよう。イヤというなら、これまでだ。ここでぼくもお前たちもろとも、火だるまになって、この船をわれわれ全員の燃える墓にするまでだ。選べ!」
「くそっ」
イシュトヴァーンは、海賊たちの注意がレムスの方へそれたその瞬間に、たちまちナワを切ってぬけ出し、リンダをとりもどして、船首へとびこんでいた。思わずかれはヒュッと口笛をふいて呟いた。
「これが、あの、白い羽根を生やしてると思ってたパロのひよこか。ルアーの黄金の剣にかけて、大した玉だぜ。いやまったく、アレクサンドロス、イアソンもびっくりの知恵者だぜ。なんてえ大ばくちだ——それになんて度胸だ」
「レムスったら……」
リンダはうめくように云った。あまりにもめまぐるしい展開に、おどろくことさえも忘れているようで、彼女は自分がイシュトヴァーンにとりかえされて、そのたくましい腕の中に、しっかりと抱きしめられていることさえ、なかば無意識のままだった。
「やっぱりグインが正しかったのかもしれねえな。あいつはひょっとしたら、いい国王陛下になるかもしれん」
イシュトヴァーンは呟く。その黒い目には、しぶしぶながらの感嘆の色がうかんでいた。

「ふうっ」
思わず、イシュトヴァーンも、剣を手にしたまま、深い息をつく。
「まずは、やれやれだ」
「だ、だって——」
「いや。おれはレントの海賊船に乗ってたからよく知ってる。ドライドンへの誓いは、船乗りにとってヤヌスの誓いより神聖だ。最悪の連中でも、この誓いだけは決して破れない。少なくとも、海の上ではな」
イシュトヴァーンはにやりと笑ってみせた。
「とりあえず助かったぞ。あんたの弟に、礼を云いなよ。姉貴風を吹かすのはやめてさ」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


梅(*`Д´)ノ♪

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