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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ

3956V3:2015/06/08(月) 22:04:06 ID:3z4GG4Kk
「ち、畜生っ」
イシュトヴァーンの口からうめき声がもれる。
「待ち伏せしやがったな」
「おお、待ちかねたぜ、ウサギども!」
「ドライドンの神聖な誓いを裏切りやがって」
「それは、どっちの云うことだ、この悪党ども」
イシュトヴァーンは応酬しながら、すばやく、あいての人数をかぞえていた。
(十五人はいるな——ということは、森に十人はいる。半分だけ上ったとして……弓が五人……オノが二人、棍棒が一人、あとは剣)
「ひとを、売りとばすの、やっつけるの、腹黒いたくらみをしやがって。ほんとなら、てめえらこそドライドンの怒りにふれて、いかづちに打たれて船が沈んじまってるところだぜ」

「ケス河の大口よりもでけえ口をたたくヴァラキアのイシュトヴァーンよ。おれたちが何人いるのか、てめえにゃ数も数えられねえのか」
「数えたところでもぐらの毛の数と同じことだ。てめえらなぞ、何百匹いやがったところで屁でもねえ」
「ほざきやがったな」
海賊どもがニタニタ笑い出した。
イシュトヴァーンはすらりと剣をぬきはなち、うしろにリンダをかばいながらささやいた。
「おい、うしろ、何人いる」
「まだ、森から出て来たのは五、六人かしら」
「そいつを何とかかわして、森の中にとびこんで逃げろ。レムスがおくれているらしいから、あいつでもいねえよりゃマシだ。いいか、おれがやつらの方はひきうける」
「イヤよ!」
リンダの叫びは、自分でも思いがけぬほどつよかった。
「もう、誰かと別れ別れになるのはイヤ。もう——もうあなたとはなれているのはイヤよ、イシュトヴァーン!」
「リンダ、そんなことを云ってるときじゃない」
イシュトヴァーンは苛立った。
「やつらのあのいやらしい笑いが見えねえのか」
「おれたちゃ、いやらしかねえよ」
アイがゲラゲラと笑った。
「てめえ一人でいい思いしようっていう、おめえの方がよっぽどいやらしいや。——おい、みんな、あまっ子にゃ、傷つけんなよ。黒丸はこのあんちゃんだけだ。あまっ子は、おらたちにやさしくしてくれるんだからな」

「そんなことだと思った」
木の上にかくれたレムスの方は、森にまわっていた追手がすっかり森の外へ出た、とみてとって、木をすべりおりはじめていた。
「あのくらいのことに予想がつかないようじゃ、イシュトヴァーンも、戦略家としては大したことないな。——リンダの予知もだけど」
その冷静な濃むらさきの瞳がするどく光って、何かを計算していたが、
「よーし、やはり、それしかないだろう。少し時間がかかるし、危ないけど——そのくらいなら、あいてはたかが自己流の剣しかできぬ海賊どもだし、イシュトヴァーンもなんとかもちこたえるだろう。まだ、船からののこりの奴が上陸してくる途中かもしれないし、それがいちばんいい。——目のまえのサソリから逃げようとして、うわばみをつつき出す、とアレクサンドロスにあったけど、それは、そのときのことだ」

ようやく黒一色にみえていた洞窟の内部の暗さに目が馴れて来た。案外、せまいようだ。しかし、天井はひくいし幅もせまいけれども、ずっと奥まで細くのびているようにみえた。

レムスはくちびるをかみ、剣をもちかえると右手をたかくさしあげ——そして呪文をとなえはじめた。
むろん、王家の女性のそれとは比べものにはならぬけれども、《魔道師の王国》パロでは、王族なら誰しも、最もかんたんな魔道の手妻は、子供のころから教えこまれる。
それはもうひとつのものと並んで、レムスにできる、二つだけの手妻だった。レムスのたかくさしのべた手のまわりが、青白くかがやきはじめ——やがて、ボッとともった鬼火の、青白い冷たい光が、深い闇を冒涜するかのようにぼんやりと照らし出した——
途端!
「ああッ!こ、これは!」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


梅(*`Д´)ノ♪

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