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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ

3947V3:2015/06/08(月) 21:30:49 ID:3z4GG4Kk
「どうした。寝られないのか」
彼は云った。
「いまのうちに、じゅうぶん体力をたくわえておけと云ったろう」
「ええ。——でも、疲れていないのよ、わたし」
「そうか。——じゃ、ここへ来て、すわって海でも見たらどうだ」
リンダは、ためらいがちに、イシュトヴァーンのかたわらの少し低いところに腰をおろした。
そこは高くなっていて、目の下の崖の向こうに、夜光虫の輝く海が美しく見わたせた。

「とても——きれいだわ」
リンダはしばらく黙っていたが、吐息のような声で、この圧倒的な静寂を破ることをおそれはばかるようにささやいた。
「きれい——などということばでは似合わないくらい。あまりにも、神々しくて、何かをかくしていて、そして何かを告げていて、大きくて——怖いくらい」
「美しい——ときたね」
イシュトヴァーンはそっけなく云った。
「おれは、残念ながら、これからどうやってここを切りぬけるか——この海をどうやって乗りきってお前さんたちをアルゴスにおくりとどけられるのか、それで頭がいっぱいで、とうていそんなのんびりと海をながめてるわけにゃいかないね」
「……ごめんなさい」
リンダは、しばらくの沈黙のあと、小さく云った。
イシュトヴァーンは、びっくりしたようすで、リンダを見た。
「わたし、いつでも、考えなしなことばかり—…自分勝手なことばかり、云ったりして、あなたにもグインにも迷惑ばかりかけているのね。わたしはきっと、あのクリスタルの宮殿の中で、何でもわたしのいうことをきき、いちばんにわたしをちやほやしてくれる人ばかりにかこまれて育ったので、何かがきっと欠けおちた人間になってしまったのだわ。それで、自分ではそんなつもりもないのに、何か云うたびに、あなたを怒らせたり、いやな思いをさせたりしてしまうのね。なんだかわたしはほんとうにあなたのじゃまばかりして、重荷になってばかりいるようで、もうほんとうにイヤになってしまったわ。あなたがわたしのことをきらいだったり、バカな娘だと思ってもふしぎはないわね」
「何をいってるんだ——ばかな」
イシュトヴァーンは、何かしらひどく当惑したような、あわてたような声を出した。
しばらくだまっていたが、
「一体なぜまた、おれがあんたのことを、きらいだなんて思うんだ?」
彼は、奇妙な、こもったような云い方でつぶやいた。
まるで、自らの口にすることを、自分できくのがこわいとでもいうようだった。
リンダはなさけなさそうに云った。
「あなたは、わたしが、自分の欠点を、自分で少しも知らないし、そんなものはないと思っている、と思っているのでしょ。でも、そんなことはないのよ——ほんとうは。ただ、わたし……きっと、すなおでないだけなの」
「リンダ——」
イシュトヴァーンは、ますます、リンダから顔をそむけ、意地になりでもしたように、彼女をみまいとした。
「おれは、少しばかり口はわるいが——しかしそれは、いつもカッとなったとき思わずいうことで、心からそんなふうにあんたのことを思ってなんか、決していやしないよ」
「まあ——」
リンダのつぶやきは、低かったが、ひどく雄弁だった。

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


梅(*`Д´)ノ♪

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