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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ

3937V3:2015/06/08(月) 21:08:02 ID:3z4GG4Kk
ポタリ……
冷たい水滴が、顔を打った。
また一滴。
それが、そこによこたわり、気を失っていたものの、かすかな意識を——同時にやけつくようなのどのかわきと、激しいからだのいたみとを、やにわに目ざめさせた。
「あ……」
ひくい呻き声がもれる。
次の瞬間、その男は、あらゆるからだの衰弱も、のどのひりつくかわきも、そしてまだぼんやりしたままの頭も、すべて忘れはてたように、がばっと身をおこしていた。
弱ってはいるが、それでも敏捷で、しなやかな動きである。
「ああ……」
いったん、がくりと膝をついたが、すぐにその、黒い髪と黒い目の、船乗りの服装に身をかためた若い男は、はじけるように立ち直って、そしてこんどこそにわかにはっきりと自分のおかれた情況を意識したかに見えた。
「水……」
ひびわれたくちびるをむなしくなめながら、彼はうめいた。その目が、甲板のくぼみにたまった雨水の上にとまる。
いきなり、獣の勢いで彼はかけより、ぺたりと顔をくぼみによせると、ぺちゃぺちゃと犬のように雨水をなめ、手ですくいとって飲み、顔をひたし、狂おしくかわきをいやした。
ようやくそれで人心地がついたらしい。彼は我にかえって右手をうごかし、からだのあちこちにふれてみた。
「ふん。——どこにも傷はねえ。生きていたらしいな」
つぶやいたのは、むろん、ヴァラキアのイシュトヴァーンである。
「しかし、一体何が起こりやがったんだ。くそ——甲板で、グインが……そうだ、グインが海におちて——おもわずかけよろうとしたとき、あのくそったれ船長が……それから、あの——一体、何だったんだ?天が裂けたかと思った。おう!そうだ、リンダ……」

「おお」
イシュトヴァーンはゆっくりとヤヌスの印を切ってつぶやいた。
「何てこった。雷だ。——マストか何かに、落雷したんだ。それも、とびきりでかいやつが。…—雷のダゴンよ、これもあんたのしわざとすりゃあ、おれはあんたに黒ブタの丸焼きをささげたものか、ドールの呪いを送ったものか、どっちなんだろうな?もっとも、あの雷がなかったとしたら、おれは、あのイヤったらしい船長にやられっちまってただろうし—…とりあえずは、あんたに礼を云っとくことにしようか」
「あッ!」
イシュトヴァーンは、被害のようすを見ながら歩いていた。その足をぴたりととめた。
そこには、ふた目と見られぬものがよこたわっていた。《ガルムの首》号の船長ラノスは、両手にたかだかと剣をふりあげたすがたを横倒しにした姿勢で、二度と物云わぬありさまになっていたのだが、しかしイシュトヴァーンは、それが船長であることをあわや見ちがえるところだった。なぜなら、ラノスは、まるでかまどからとり出した木切れのように、頭から足のさきまで、むざんにも黒い目こげの死体となっていたからである。
「ドールの炎の舌よ!」
さしも物に動ぜぬイシュトヴァーンも、ぞっとしてあとずさりながらつぶやいた。
「雷は、こいつの剣におちたんだ!」

グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』


梅(*`Д´)ノ♪

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