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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ
3950
:
V3
:2015/06/08(月) 21:38:32 ID:3z4GG4Kk
「リンダ——」
彼は、ためらい——
それから、少女をぐいと抱きよせた。
リンダはさからわなかった。彼女は目をとじて、顔を仰向けた。その小さなあごを彼はこわれもののように指で支え、そして、まるで生まれてはじめて世界を見る子供のように、ふるえながらくちびるをよせていった。
「イシュトヴァーン……」
ようやく、彼がくちびるをはなすと、リンダは、目をとじたまま、夢みるようにささやいた。
「イシュトヴァーン——わたしを愛している?」
「サリアにかけて、おれの心臓はトートの愛の矢にふれられちまったらしい」
イシュトヴァーンはリンダの耳もとでささやいた。
「あんたがパロの王女だからでもない。おれが光の公女をさがしているからでもない——リンダ、おまえはきれいだ。どこの誰より美しいよ」
「おお——イシュトヴァーン」
としか、リンダは云えなかった。
彼女の目には、再び涙がこみあげてきた。しかしそれはさっきのような、労苦と忍耐とに疲れ、うみはてた、辛い、苦い涙ではなかった。その涙は甘く、リンダのかたくこわばった心をやわらかくときほぐしていった。
「お前が、あのとき——《ガルムの首》の上であのやくざな船長がおれの上に剣をふりかぶったとき、『イシュトヴァーン、死んではいや』と叫んで、かくれ場所からとび出してきただろう?」
イシュトヴァーンは、いとしくてならぬような目でリンダを見おろしながら、その頬を両手で囲んでささやいた。
「あのとき、おれは、もうこれがさいごかもしれない思いの中で、嬉しかった——トートにかけて、あのとき、おれは、はじめて知ったんだ……これまでおれがずっと、いつもあんたのことで苛々したり、腹を立てたり、かんしゃくをおこしたりしていたのが、どうしてだったのか——どうしてあんなにいつでもあんたのことが気にかかり、あんたがおれをどう思っているのかが、なぜそうもおれを不安にさせたのか……」
「おお、イシュトヴァーン——わたしたちは生きてるわ!」
リンダの声は、誇らしいひびきをはらんでいた。
グイン・サーガ第八巻『クリスタルの陰謀』
梅(*`Д´)ノ♪
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