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( ^ω^)文戟のブーンのようです[3ページ目]
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≪とりあえずこれだけ分かっていれば万事OKなQ&A≫
Q.ここってどんなスレ?
A.お題に沿った作品を指定期間内に投下
投票と批評、感想を経て切磋琢磨するスレ
Q.投票って?
A.1位、2位とピックアップを選ぶ
1位→2pt 2位→1pt で集計され、合計数が多い生徒が優勝
Q.参加したい!
A.投票は誰でもウェルカム
生徒になりたいなら>>4にいないAAとトリップを名前欄に書いて入学を宣言してレッツ投下
Q.投票って絶対しないとダメ?
A.一応は任意
しかし作品を投下した生徒は投票をしないと獲得ptが、-1になるので注意
Q.お題はどう決まるの?
A.前回優勝が決める。
その日のうちに優勝が宣言しなかった場合、2位→3位とお題と期間決めの権利が譲渡されていく
Q.使いたいAAが既に使われてる
A.後述の「文戟」を参照
詳しいルールは>>2-9を参照してください!
また雰囲気を知りたい方は
スレ1
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1531744456/
スレ2
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1533540427/
へGO!!
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(*゚ー゚)
ξ゚⊿゚)ξ それから間も無くして母が亡くなった
ξ゚⊿゚)ξ 死因は事故死。列車の大規模な脱輪事故で、百人近い人達と一緒に亡くなったわ
ξ゚⊿゚)ξ それも、誰かが仕組んだことなのかは今となっては分からないわ
ξ゚⊿゚)ξ そんな、天涯孤独の身となった私を救ってくれたのは、軍だった
ξ゚⊿゚)ξ 幼い私は愛国心を徹底的に叩き込まれたわ
ξ゚⊿゚)ξ 獣人を憎み、祖国を愛し、父の仇をとる為に
ξ゚⊿゚)ξ そんな私はまるでマスコットのように昇進を繰り返し、気が付けば少尉にまで成り上がっていたわ
ξ゚⊿゚)ξ 獣人のせいで父を亡くした悲劇のヒロインというのは、プロパガンダに有効だったようね
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(*゚ー゚)
(*゚ー゚) それを……
(*゚ー゚) それを、私に伝えてどうしたいんですか
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ 私は
ξ゚⊿゚)ξ この国を破壊するわ
(*゚ー゚) !
ξ゚⊿゚)ξ 私達は、戦争に勝ってしまった。貴方達を、家畜のように飼ってしまった
ξ゚⊿゚)ξ これは、絶対に許されない
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(*゚ー゚)
ξ゚⊿゚)ξ 貴方を買ったそれ
(*゚ー゚)"
ξ゚⊿゚)ξ そう。そこで死んでるそれ
ξ゚⊿゚)ξ 獣人を奴隷化する案を出したのはそいつよ
(*゚ー゚)
ξ゚⊿゚)ξ けどこいつだけじゃない
ξ゚⊿゚)ξ 軍部に、政府に、この国の至る所に、こいつ以下のウジが、沢山沢山巣食ってる
ξ゚⊿゚)ξ この国を、世界を、自分達の好きな様に……食べ尽くそうとしてるの
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(*゚ー゚) ……許せない
ξ゚⊿゚)ξ,,
ξ゚⊿゚)ξ 私は仲間を集めてる。獣人、人間、信頼出来る人物を
ξ゚⊿゚)ξっ
(*゚ー゚)
ξ゚⊿゚)ξっ 手を取って。この鉄の籠から出るの
ξ゚⊿゚)ξっ そして、どうか。私と一緒に、この国を変えて欲しい
ξ゚⊿゚)ξっ 貴方達と、私達の未来の為に
ξ゚⊿゚)ξっ それが、私の「夢」
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(*゚ー゚)
(*゚ー゚)っ
ξ゚⊿゚)ξっ
ξ゚ー゚)ξ ありがとう
(*゚ー゚)
ξ゚⊿゚)ξ いつか、全てが終わったら
ξ゚⊿゚)ξ その時は
(*゚ー゚) ……言わないで
ξ゚⊿゚)ξ
-
(*゚ー゚) それまでに、貴方を許せるかもしれないから
ξ゚⊿゚)ξ
(*゚ー゚) けど、くれぐれも信用しないで
(*゚ー゚) ふとした瞬間に、貴方を殺してしまうかもしれないから
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ 彼の言っていた通りの人ね
(*゚ー゚)
ξ゚⊿゚)ξ 食えない女、ってやつ
(*゚ー゚) ふふ
ξ゚ー゚)ξ 行きましょう
(*゚ー゚),,
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(,,゚Д゚) ブバルディアの蕾のようです
【了】
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从 ゚∀从 「いいもん書くじゃねえか」
从 ゚∀从 「間に合わねえとか言ってたくせによお」
从 ゚∀从 「乙!」
从 ゚∀从 「投下するぜっ」
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( ^ω^)「いやはや」
( ^ω^)「本当は序盤の漂流シーンとかも描写するつもりで75レス近く書き溜めてたんだお」
( ^ω^)「けど途中でどう足掻いても間に合わない事に気がついたんで、ラストシーンを使ってダイジェスト形式にしてまとめるっていう荒業で挑んだお!」
(;^”ω^)「正直、今朝の通勤時に書き始めたから絶対に間に合わないと思ったお」
(;^ω^)「ともあれなんとか間に合って良かったお!ハインちゃんとドクオもガンバだお!」
-
―――――
森の住人である一角獣は、人と共に生きている。
小さな角を誇らしげに掲げた繊細なこの獣は、太古の昔から人々に愛されてきた。
―――――
青みがかった灰色の毛並みに覆われた剥製の前で彼女は足を止めた。
ζ(゚ー゚*ζ 「わ。一角獣とこんな所で会えるとは思ってなかったです」
滑らかに整えられた毛並みはあでやかに光を反射し、七色に輝く。
額に生えた白く小さな一本の角を誇らしげに天に突き上げて、その獣は永久の時に縛り付けられていた。
( ^ν^) 「へぇ」
銀色の案内板に刻まれた二行足らずの説明書きを読むともなく眺めていた。
つまらなそうなため息のように響いてしまったのだろうか。
食い入るように剥製を見つめていた彼女が振り返る。
ζ(゚ー゚*ζ 「あんまり、興味ありませんか?」
( ^ν^) 「いや、別に」
ζ(゚ー゚*ζ 「んもう、つれないなぁ」
困ったように眉を下げ、軽く頬を膨らまして。
潤いを湛えた二つの瞳は、何かを探してきょろきょろと彷徨った。
ζ(゚ー゚*ζ 「あ、じゃあこっちは?」
耳の下で緩く結われた髪が、彼女の顔の動きに少し遅れて揺れ動く。
その度に、正体不明の甘い香りが俺を包んだ。
彼女が指さす先にあったのはオランウータンの剥製。
年老いた浮浪者のように怠惰に座り込み、肘をついてこちらをまっすぐ見つめている。
数え切れないほどの皺が刻まれた大きな丸い顔、その中央に鎮座する双眸は濡れたように艶々と光っていた。
.
-
爪;'ー`)y- 「……間に合ったか!?」
爪'ー`)y- 「ハインが終わったら、投下するぜ」
-
( ^ν^) 「なんかコイツ、オッサンくさいのにつぶらな目だな」
顔を寄せ、まじまじと覗き込む。
映りこんだ己の間抜けな表情に気づき、慌てて目を逸らした。
( ^ν^) 「そりゃそうだよな」
ζ(゚ー゚*ζ 「え?」
( ^ν^) 「ガラス玉だよな。本物の目なんかすぐ腐るし」
ζ(゚ー゚*ζ 「ふふ。ニュッさん、ホントの目だと思って見てたんですか?」
( ^ν^) 「いや全然。全く」
右手を口に当ててはにかむ様に笑って、彼女はこちらを見上げてきた。
ζ(゚ー゚*ζ 「オランウータンの顔が大きくなる理由を知っていますか?」
( ^ν^) 「年取るにつれ膨らむ、とかか?」
皺くちゃな肌、深く刻まれた眉間の皺、頭頂部の薄毛。
下腹のたるんだだらしない身体。
どこを見ても、目の前の獣はオッサンだ。オッサンウータンだ。
ふと、気づく。
自分は当たり前のように、人間の中年の条件をこの獣に当てはめていた、と。
ζ(゚ー゚*ζ 「んーと。まあそれも条件の一つにはなるんでしょうけど」
昔聞いた話だから、うろ覚えなんですけどね。と呟いて。
座り込むオランウータンを見つめて彼女は言葉を続けた。
ζ(゚ー゚*ζ 「殺しを重ねると、大きくなるんだそうです」
そう言い切って、彼女はこちらを見上げ、微笑んだ。
.
-
暗い灰色の絨毯を踏みしめ、歩き出す。
死んだ獣が息づくこの部屋も、もう殆ど見て回った。
順路を示した白い矢印を踏みながら、話の続きを促した。
( ^ν^) 「で?」
ζ(゚ー゚*ζ 「オランウータンって殆ど草食なんですって」
栗色の巻き髪の先を人差し指に巻き付けて、くるくると弄びながら口を開く。
俺が知る数少ない彼女の癖のひとつだ。
会話に夢中になるとこうして毛先を弄ぶせいで、右側のヘアセットが乱れやすいことに、彼女は気づいているだろうか。
ζ(゚ー゚*ζ 「でも、稀に肉食を好む個体もあって」
ζ(゚ー゚*ζ 「殺しをすると、男性ホルモンが増えて顔が大きくなるって、どこかで聞きました」
( ^ν^) 「あのさ」
ζ(゚ー゚*ζ 「はい?」
( ^ν^) 「二回目のデートでするような話か? それ」
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚ー゚*ζ 「盲点でした」
声を抑えて語らう間に、いつしか順路も終わりまで来た。
音もなく開いた自動ドアをくぐり抜けると、むわりと蒸し暑い熱に身体が包まれる。
数多の動物の体臭や糞の臭い、鳴き声、羽ばたきや足音、人の声。
波のように押し寄せる匂いと音に出迎えられて初めて、先程まで居た場所の静けさに気がつく。
.
-
( ^ν^) 「あっつ」
ζ(゚ー゚*ζ 「戻りますか? 資料館に」
彼女は今出たばかりの建物を振り返る。
水色のタイルに覆われた壁の向こうの、生ける屍のような彼らを思いだし、俺は首を振った。
( ^ν^) 「いや、俺は別に」
ζ(゚ー゚*ζ 「そうですね。そんなに面白いものなかったし」
ゆるやかなスロープを下ると猿山が見えてきた。
すり鉢状に掘られた深い穴の中で日々を営む猿の群れが。
それよりも、視界の隅に映りこんだ赤いのぼりに心を惹かれた。
ソフトクリームを模った立体看板の置かれた、小さな売店がそこにはあった。
白字でクレープと書かれたのぼりを指さし、彼女に声をかける。
( ^ν^) 「なんか少し、食いませんか」
ζ(゚ー゚*ζ 「ふふ、いい匂いがする。ポップコーン食べたいな」
前回のデートの際に、食の好みは聞いていた。
肉や魚は一切口にしない、所謂菜食主義者だという彼女が口にできる料理は、このような店ではあまり種類がない。
財布を取り出そうとする彼女を制してポップコーンとホットドック、そしてコーラを二つ注文する。
威勢のいいオバサンからそれらを受け取り、周囲を見渡した。
土曜日の午後ということもあり、適度に賑わいを見せる園内。
猿山に向かい合う形で置かれたベンチのうちの一つが空いていたのでそちらへ向かう。
.
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ζ(゚ー゚*ζ 「ここ、景色がいいですね」
そう言ってベンチの右側に腰を下ろした彼女の前で、俺は少し、迷う。
婚活サイトを通して出会い、今日が二回目のデートである。
会話は少しずつ弾んでは来たが、寄り添って座るほど親密でもない。
少し悩んで、彼女の隣に食品の入った紙袋を置いた。俺はその隣に腰かける。
ポップコーンとコーラの幅が、今の俺たちの適切な距離だろうか。
ポップコーンが溢れんばかりに収められた紙カップを紙袋から取り出す。
コーラの紙コップはこの短時間でもうすでに汗をかいていた。
ζ(゚ー゚*ζ 「いただきまーす」
人
手を合わせる彼女を横目で見つつ、ホットドックの包み紙に手をかける。
いいトシして律儀にいただきます、か。
純粋さや育ちの良さと見るか、あざとさと思うか。男によって評価が分かれるところだろう。
婚活サイトを通して出会うのがお互い初めてではないことは、前回の顔合わせで確認済みだ。
ケチャップとマスタードで極彩色に彩られたホットドックにかぶりつく。
水分を含んでふにゃりと柔らかくなったコッペパンは、ほんの僅かの間俺の歯を拒み、やがて力に耐えかねる。
中に横たわったソーセージは確かな弾力で歯を受け止め、パキリと弾けて旨味を溢れさせた。
ζ(゚ー゚*ζ 「あ、出来立てで美味しい」
芳しいバターの香りが鼻をくすぐる。
さくりさくりと軽い音を立てて咀嚼する彼女を見ていると、無性に食欲がそそられた。
.
-
( ^ν^) 「ひとつ、くれ」
ζ(゚ー゚*ζ 「もちろんですよー! これ全部ひとりで食べたら太っちゃいます」
差し出された紙カップから遠慮なくいくつかをつまみ取る。
透き通った黄金色の液体で艶やかにコーティングされた一粒を躊躇なく口に放り込む。
サクッと奥歯でひと噛みすると、塩気と香りが口内を満たした。
( ^ν^) 「……うま」
ζ(゚ー゚*ζ 「美味しいですよね! 止まらなくなっちゃう」
ホットドックをまた一口。
零れ落ちるほどにぎゅうぎゅうに詰められたキャベツと玉ねぎが
マスタードに染められ旨味のハーモニーを醸し出す。
ストローでコーラを啜ればチープな味わいを生み出し、
爽やかな余韻を残して全てを洗い流した。
温かなうちにホットドックを食べ終え、白い包み紙を丸めた。
クシャクシャと大きく響いた軽い音は、
腹が満たされぼんやりしていた俺の頭を覚醒させるには十分だった。
( ^ν^) 「で」
( ^ν^) 「お前、何のために俺に近づいた?」
ζ(゚ー゚*ζ 「へ?」
不意打ちの疑問に驚いたように、大きく見開いた二つの瞳がこちらを振り返る。
両頬は口いっぱいに頬張ったポップコーンのおかげで小動物のようにまん丸く膨れていた。
そのふざけた顔に思わず笑いがこみ上げるが、頬の裏を噛んで堪える。
前回も今回も、演技なのか天然なのか判断しかねる彼女の態度にペースを崩されてばかりであった。
.
-
ζ(゚、゚*ζモサモサ 「あのお、二回目のデート、お嫌でしたか?」
( ^ν^) 「そうじゃねえよ。わかってんだろ」
ζ(゚、゚*ζ 「一体、何のことだか……」
澄んだ瞳で真っすぐに見つめられ、心がぐらりと揺らぐ。
それでも言葉を続けられたのは、断固とした確信があったからだ。
( ^ν^) 「今日、この動物園を選んだのは何故だ?」
一拍置いて、噛みしめるようにゆっくりと問いかける。
( ^ν^) 「一角獣の剥製が展示されているここに、拝鳴村出身の俺を連れてきたのは、何故だ」
ζ(゚、゚*ζ
突然の追及に驚き、傷ついたかのように困惑した表情を見せていた彼女は、
しばらく待っても俺の態度が揺らがないことを悟り、にっこりと笑った。
ζ(゚ー゚*ζ 「ニュッさんてば、そんなんだからおモテにならないんですよ」
( ^ν^)
絶句した俺を見て気を良くしたのか、彼女は更に言い放つ。
ζ(゚ー゚*ζ 「もし私が、ニュッさんの身の上を受け止めた上で
理解してくれるようなけなげな女の子だったとしたら」
ζ(゚ー゚*ζ 「こんなヒドイこと言っちゃ破局ですよ! ハキョク!」
( ^ν^) 「うっせーぞ。クソ記者」
いまいましいと睨みつけると、彼女は更に笑みを深める。
.
-
ζ(゚ー゚*ζ 「あ。もうそこまで気づいてらっしゃったんですか」
ζ(゚ー゚*ζ 「ただのフリーライターですけどねぇ」
そう言って彼女はぺろりと舌を出した。
弁明の一つでもするのかと思いきや、呑気にポップコーンを頬張っている。
さく、さくと乾いた音を立てて、またひとつ放り込まれた。
無邪気に咀嚼を続ける姿をしばらく眺めてから、俺は口を開いた。
( ^ν^) 「お前、何のために俺に近づいたんだ」
ζ(゚ー゚*ζ 「私がフリーライターだと気づいていたのなら、
そして、今日ここに来たことで確信したのなら」
ζ(゚ー゚*ζ 「理由ももう、気づいているでしょう?」
ζ(゚ー゚*ζ 「ホライゾン商会の創業者の一人息子さん?」
( ^ν^) 「けっ」
いつの間にやら、足元には数羽の雀が集っていた。
ポップコーンのおこぼれを探しては啄ばむ姿を眺めているとむしゃくしゃしてきたので、思いっきり蹴り飛ばす。
見事に空振りした足の行き場に困り、余計に気分は悪くなった。
ζ(゚ー゚*ζ 「ひとつ、訂正させてもらうと」
ζ(゚ー゚*ζ 「ニュッさんに近づこうと思って婚活サイトに登録したわけではないですよ?」
ζ(゚ー゚*ζ 「だから、何のために近づいたか、なんて問いはナンセンスです」
ナンセンス、なんてダサい言葉を使うダサい女には初めて出会った。
好き好んで文章を書いているような奴は総じて偏屈で陰鬱だ。間違いない。
( ^ν^) 「けっ」
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( ^ν^) 「あのな、完全無欠な俺が数え切れないほど婚活に失敗してきた理由はただ一つ」
( ^ν^) 「俺があの拝鳴村出身だからだよ」
拝鳴村。
高校を卒業してから一度も戻ってはいない。
己は故郷を捨てたつもりでも、故郷は、過去は俺を縛り付ける。
拝鳴の血を引く者、拝鳴で生まれ育った者というレッテルは十年経った今でも剥がすことは出来ずにいた。
( ^ν^) 「出身地を伝えても引かないお前が怪しいから、少し、調べさせてもらった」
調べるといっても、さほど苦労はしなかった。
初顔合わせで聞いたままの名前でSNSを利用していたので、そこから手繰っただけだ。
ζ(゚ー゚*ζ 「今どきの若い子なら、あんまり気にしないんじゃないですか?」
ζ(゚ー゚*ζ 「部落出身だなんて」
呑気な顔で彼女はストローでコーラを吸い上げる。
残量が少ないのか、ザザッと耳に触る音を立てた。
( ^ν^) 「んなこたないだろ」
( ^ν^) 「付き合うだけならまだしも、結婚となりゃ親が反対するさ」
( ^ν^) 「二回目の約束が果たされたのは今日が初めてだよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「私の正体がわかっていたなら、なぜ」
ζ(゚ー゚*ζ 「何故、今日、会ってくれたのですか」
喉のすこし下がビクリと跳ねる。
不愉快な熱が喉の奥で生まれ、顔面へと広がっていく。
( ^ν^)
( ^ν^) 「ん、まぁ……目的が知りたかった、かな」
.
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ζ(゚ー゚*ζ 「じゃあ、私を拝鳴村へ連れて行ってください」
( ^ν^) 「ハァ?」
( ^ν^) 「いや、え?」
微笑みは絶やさぬまま、しかし鋭い瞳が俺を貫いた。
視線の強さにただ圧倒されておののき、少し遅れて言葉の意味が脳へと届く。
ζ(゚ー゚*ζ 「一角獣と共存する世界唯一の村に、取材に行きたいんです」
( ^ν^) 「んなもん勝手に行けよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「ただ聞きまわったって、肝心なことは何も教えてくれないでしょう?」
ζ(゚ー゚*ζ 「ね、お願い。連れてって?」
ζ(゚ー゚*ζ 「剥製師のお母さまにお会いしてお話し伺いたいの!」
( ^ν^) 「無理」
( ^ν^) 「喧嘩して飛び出してきたし、もう実家には帰れねぇよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「あ、丁度いいじゃない」
( ^ν^) 「は?」
.
-
ζ(゚ー゚*ζ 「絶縁状態だった息子が帰ってくるには真っ当な理由でしょう?」
ζ(゚ー゚*ζ 「結婚相手を紹介するっていうのは」
( ^ν^)
( ^ν^) 「おま、え、お前さぁ……」
ζ(゚ー゚*ζ 「ん?」
予想外の展開に狼狽えた己に心の中で喝を入れる。
ストレートな言葉で受けた頬を張られるような衝撃から覚めると、代わりに呆れに似た感情が胸を満たした。
( ^ν^) 「随分体張って仕事してるなぁ」
ζ(゚ー゚*ζ 「えへ。照れる」
( ^ν^) 「褒めてねーよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「ね、一緒に拝鳴に帰ろう?」
( ^ν^) 「なあ、お前、何でそんな必死なの?」
( ^ν^) 「食うにも困ってんのか? フリーライターってのは……」
ぐう、と。
見計らったかのようなタイミングで、腹の音が鳴り響いた。
勿論、俺の腹ではない。
( ^ν^)
ζ(゚ー゚*ζ 「えへ、まあ、そういうコト」
.
-
拝鳴村は本州から弓の字を描いて海へと突き出す下螺馬半島の先端部分にある。
半島は人の入らぬ鬱蒼とした深い森に覆われており、
本州から村への交通手段は海を経由するしかない。
文字通りの陸の孤島である。
俺たちは一日一便の連絡便に乗り込んだ。
ナァ、ナァと甲高い声を上げて、幾羽もの海鳥が此方へと向かい来る。
くすんだ青に染められた海面に白い尾を長く伸ばして船はひた走る。
旅立ちの日に見た光景とよく似たそれらは、あの時味わったほろ苦い郷愁を思い出させた。
左手に見える、黒々と盛り上がった半島を指さして、
彼女は海風やエンジンの音に負けじと声を張り上げる。
ζ(゚ー゚*ζ 「あの森が、一角獣の棲み処?」
( ^ν^) 「らしいな。そのせいで村の住人は不便でたまらねぇよ」
陸続きの本州に気軽に行き来出来ない理由がまさにそれだ。
天然記念物に指定されている希少生物、一角獣の住まいの環境を守るため。
獣の為に人間が不便を強いられているのもおかしな話かもしれないが、
本州に住まう誰も異を唱えない。
拝鳴の地は昔、流刑地であった。
過去の犯罪者の地を引いた村人たちと、外の人の交流はほぼ無いに等しい。
だからこそ、地繋ぎにする必要性を唱えるものなど誰もいなかった。
拝鳴に住まう村人もまた、閉じたコミュニティにおおむね満足しているようだった。
( ^ν^) 「はぁ……」
暗く塗り込められた高校生活を思い出す。
空気になるために毎朝この連絡船に乗っていた頃の、あの息苦しい日々を。
.
-
本土の人間は、俺をいじめることはなかった。
ただ、存在すら無いものとして扱われただけだ。
透明人間のような生活を三年も味わえば、故郷を捨てたくもなるだろう。
ζ(゚ー゚*ζ 「ニュッさん、どうしたんですか? お腹減ったの?」
( ^ν^) 「それはお前だろ」
軽く頭をはたいてもまるで応えた様子もなく、彼女はへらへらと笑っていた。
と同時に何やらくぐもった音が聞こえた気がしたが、おそらく空耳だろう。
( ^ν^) 「まったく、不本意だ」
ζ(゚ー゚*ζ 「えー? 今さらそんなこと言わないでよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「乗り掛かった舟じゃないの」
( ^ν^) 「けっ」
糞みたいなダジャレを黙殺し、船の進行方向へと視線を向ける。
村の港が目視で確認できるほどに近くまで来ていた。
( ^ν^) 「はぁ……」
憂鬱な心とは裏腹に、夕焼け空は美しい藍色へと染められつつあった。
.
-
ζ(゚ー゚*ζ 「まずはねぇ、一角獣が見たいなぁ」
港に降り立った彼女は呑気に言い放つ。
同じ船から降りた村人たちはこちらに訝し気な視線を向けながらも家路を急ぐ。
( ^ν^) 「あんまりな、この村では夜歩きは勧められねぇ」
ζ(゚ー゚*ζ 「え、どうして?」
( ^ν^) 「わかんね。なんつーか、夜は出歩くもんじゃないって昔っからこっぴどく……」
手元の液晶画面に嬉々としてメモしだした彼女に気づき、途中で口をつぐむ。
彼女は沈黙を訝しみ、顔を覗き込んできた。
ζ(゚ー゚*ζ 「こっぴどく、何?」
( ^ν^) 「いや、何でもない」
ζ(゚、゚*ζ 「取材に協力してくれるって、約束したじゃない!」
( ^ν^)
んもう! と拗ねたように俺の腕を一押ししてくる。
不本意ながら渋々頷こうとして、やめた。
どんなに記憶を辿っても、そんな約束などした覚えがない。
( ^ν^) 「村に連れて行くとは言ったが、取材に協力するとは一言も言ってねぇぞ」
ζ(゚ー゚*ζ 「酷いなぁ。それじゃニュッさんは何が目的で私をここに連れてきたんですか?」
.
-
間をおかず畳みかけるように言葉を重ねてくる。
ζ(゚ー゚*ζ 「私と結婚出来ればそれでいいってこと?」
ζ(゚ー゚*ζ 「そっかー。私と結婚したいだけなんだね!」
( ^ν^) 「うっせーな……」
ζ(゚ー゚*ζ 「ニュッさん、あの時まんざらでもない顔してたもんねぇ」
( ^ν^) 「分かったから」
( ^ν^) 「質問、答えるから、近い近い」
顔がくっつきそうなほどに詰め寄られ、彼女の肩を押して距離を取る。
そこまで想定済みだったのだろうか。
勝ち誇った顔をして、彼女はまた質問を続けてきた。
ζ(゚ー゚*ζ 「夜歩きしちゃいけないっていうのは、
ニュッさんが子供だったから言われていたんじゃないですか?」
( ^ν^) 「いや」
否定を入れてから、改めて思考を巡らせる。
幼き日々にて、昔の俺はどのような夜を過ごしていたか。
家族は、隣人は、恐ろしい夜をどのように過ごしていただろうか。
( ^ν^) 「それも勿論あるだろうけど、でも、親父とかもそんなこと言われてたし」
( ^ν^) 「あとなんか、歌もあった」
ζ(゚ー゚*ζ 「歌?」
( ^ν^) 「夜に歩くと影が奪われる〜みたいな歌詞の、童謡」
脳裏に浮かぶのは、赤く燃える夕焼け空。
村のあちこちに設置されたスピーカーから一斉に流れ出す、女性の声。
おひさまが帰るよ、ぼくらも帰ろう、背中に長く伸びた影をつかまれる前に。
もう何年も耳にしていないはずのメロディが、勝手に鼻歌になって響きだす。
.
-
ζ(゚ー゚*ζ 「それもやっぱり教育のための歌ではないの?」
( ^ν^) 「いや、うまく説明できないけど、でも違うと思う」
( ^ν^) 「大人も日が暮れたら外にはでなかったから」
夜は外には出ない。
ごく当たり前の光景だったので、村で暮らしていた頃に疑問に思うことはなかった。
本土で暮らして初めて、夜も外で遊んでいいのだと知った。
繁華街のネオンや深夜の雑踏、コンビニエンスストアなどに一々感激していた頃を思い出す。
( ^ν^) 「コンビニすらない田舎だからな、外に出たって仕方ねぇんだ」
ζ(゚ー゚*ζ 「でも、おかしくない?」
( ^ν^) 「何が?」
ζ(゚ー゚*ζ 「誰も夜歩きしないなら」
ζ(゚ー゚*ζ 「どうしてこんなに明るく照らされているの?」
話し込むうちに、すっかり夜の帳が下りていたことに俺は気づいていなかった。
今立ち止まっていたこの場所も、辺りを見渡しても。
昼間の明るさと見紛うほどに煌々と照らされているのである。
光源は、夥しいほど乱立された街灯である。
等間隔に並んだ古びた街灯の間を埋めるように、新旧様々な型の街灯が立ち、我こそはと明るさを競っている。
( ^ν^) 「眩しいな」
ζ(゚ー゚*ζ 「ニュッさんが住んでいた頃からこうだったの?」
( ^ν^) 「いや、わかんねぇ」
( ^ν^) 「この時間、外に出たことはなかったから」
村一番の大通りにまったく人通りがないこの光景に、恐怖を覚えた。
ひとつ息を吸って、彼女の手を取り駆け出した。
無数のスポットライトをくぐり抜け、俺の実家へと走る。
( ^ν^) 「急ごう」
ζ(゚、゚*ζ 「う、うん」
.
-
ζ(゚ー゚*ζ 「止まって!」
強く手を引かれ、バランスを崩しかける。
急に止まるなと文句を言いかけ、彼女の表情を見て言葉を飲み込んだ。
ζ(゚ー゚*ζ 「ねえ、あそこ、何かがいる」
道路の反対側、街灯の明かりの外側で蠢く何かを見たという。
( ^ν^)
人気のない道だ。
港からここまで誰ともすれ違うことはなかった。
異様な静けさが胸の鼓動を煽る。
俺たちは息を殺したまま、蠢く闇を見つめ続けた。
ζ(゚ー゚*ζ 「あ」
( ^ν^) 「……なんだ」
スポットライトの下へと姿を現したのは青みがかった灰色の毛皮を纏う、一匹の一角獣であった。
ζ(゚ー゚*ζ 「さすが拝鳴だね。野生の一角獣をこんなに近くで見られるなんて」
( ^ν^) 「……いや」
( ^ν^) 「村の中で見るのは俺も初めてだよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「そうなの?」
一角獣が首を持ち上げ、こちらに正対する。
細面の両側にある大きな瞳と、何故だか目が合った気がした。
( ^ν^) 「行こうか」
ζ(゚ー゚*ζ 「……うん」
そのままの姿勢で動かぬ一角獣から視線を逸らして、歩き始めた。
ふたたび手を握ったのは俺からか、それとも彼女からだったか。
.
-
「どなた?」
インターホンの向こうから聞こえてきたのは、母のかすれた声だった。
( ^ν^) 「俺だよ、母さん」
緊張し、身構えていた割には自然に返事ができた、と思う。
その力をくれたのは、おそらく右手から伝わる温もりだろう。
ξ゚⊿゚)ξ 「ニュッくん? ニュッくんなの?」
ξ゚⊿゚)ξ 「あれ?」
ζ(゚ー゚*ζ 「……こんばんは」
訝しげに彼女の顔を覗き込んでから、母は眉尻を下げた。
ξ゚ー゚)ξ 「とりあえず、入って」
母が身を引いた後ろに見えるのは、記憶のままの姿の玄関。
親しげな顔で俺たちを迎え入れる。
ζ(゚ー゚*ζ 「おじゃまします」
( ^ν^)
( ^ν^) 「た、ただいま」
ξ゚ー゚)ξ ζ(゚ー゚*ζ
母と彼女が顔を見合わせ微笑みあった。
玄関の橙色の明かりに染められた二人の横顔は、どこか、雰囲気が似ていて。
まるで、作り物のように美しくて。
そう、髪質がそっくりなのだ。親子か姉妹かと見紛うほどに。
微笑ましい光景を前に、何故だか背中に冷たいものが走った。
ξ゚ー゚)ξ 「おかえり」
( ^ν^)
( ^U^)
優しい母の声に、俺は黙って笑顔を返した。
.
-
色とりどりの料理が並ぶ食卓を前に、彼女と母の会話は弾んでいた。
安心しつつも僅かな疎外感を抱いて、俺は料理に手を付ける。
( ^ν^) 「いただきます」
菜っ葉のお浸しを口に含む。
特有の青臭さが鼻に抜け、ひと噛みするとじゅわりと旨味が染み出した。
次に箸をつけたのは、根菜の黒酢炒め。
きらきらと光を反射する黒酢にコーティングされたレンコンは、シャキシャキと心地よい音を立てる。
咀嚼しているうちに、大切なことを思い出した。
彼女が菜食主義者であると母に伝えることをすっかり忘れていたのである。
( ^ν^) 「デレ」
ζ(゚ー゚*ζ 「ん?」
( ^ν^) 「食えないもん、残していいからな」
ξ゚⊿゚)ξ
それを聞いて、母が眉を顰める。
失言だったかもしれない。まるで偏食であるかのように聞こえてしまっただろうか。
( ^ν^) 「あ、母さん悪い。コイツ、ベジタリアンなんだよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「あら、そうなの。それはちょうど良かった」
( ^ν^) 「ん?」
どういう意図での丁度いい、なのか。
問いかけようとしたところで、彼女の声が遮った。
.
-
ζ(゚ー゚*ζ 「ニュッさん、大丈夫。全部食べられるものばかりよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「私もね、少し前から肉類食べるの止めたのよ」
( ^ν^) 「なんか、流行ってんの?」
ζ(゚ー゚*ζ 「健康にいいですし、ね?」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうよね。肌の調子がかなり良くなったわ」
またしても会話に取り残され、侘しく人参のフライを貪った。
ξ゚⊿゚)ξ 「ところで、あなたたちいつまで滞在するの?」
( ^ν^) 「三連休だから、休みの間はここにいようかと思っていたんだが」
ξ゚⊿゚)ξ 「あら、そうなの」
( ^ν^) 「なんかまずいか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「いえ、ウチは全然問題ないんだけど、明日の晩、ちょっとね」
ξ゚⊿゚)ξ 「さっき、荒巻さんのおじいちゃんが亡くなったって、連絡回ってきたのよ」
( ^ν^) 「それがなにか……あ」
拝鳴村はいくつかの地区に別れ、それぞれの住人で小さなコミュニティを築いている。
荒巻のじいさんとは同じ地区という繋がりはあるが、血のつながりはない。
死んだからといって、何か用事などあるだろうか。
用事?
明日の晩?
その時、記憶の海深くに沈んでいたひとつの言葉が浮かび上がった。
.
-
ξ゚⊿゚)ξ 「そう。御影遷しがあるのよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「みかげうつし?」
ξ゚⊿゚)ξ 「参加する?」
ζ(゚ー゚*ζ 「いいんですか?」
平然とした顔で誘った母と、身を乗り出し目を輝かせる彼女。
話の展開のあまりの早さに眩暈を感じつつ、手を上げて制止する。
( ^ν^) 「おいちょっと待て。そんなに気安く……」
ξ゚⊿゚)ξ 「そりゃヨソの人を参加させるのはマズイけど、デレちゃんは嫁に来るんでしょう?」
( ^ν^)
( ^ν^) 「確かにその話をしに来たわけだけど、ちょっと待て」
( ^ν^) 「なあ、親父はどこに行ったんだ?」
食卓には、三人分の料理しかなく。
昔、親父の指定席だった椅子は空席のままであった。
彼女について報告をしようにも、父不在では意味がない。
ξ゚⊿゚)ξ 「お父さんね、仕事が忙しいのよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「ニュッさんのお父様は確か、ホライゾン商会の」
ξ゚⊿゚)ξ 「そう。ちょっとね、今出かけているの」
( ^ν^) 「いつ帰ってくる?」
ξ゚⊿゚)ξ 「さあねぇ、あの人、マメに連絡してくれないから」
.
-
確かに、父は昔から連絡を忘れては母に叱られていた。
滞在中に父に会うことはできるだろうか。
不確実なら、母にだけ結婚の報告をするべきか。
迷ったときにはより面倒な選択肢を選ぶべきだと、漫画で読んだような気がする。
( ^ν^) 「親父と母さんが揃ったときに、ちゃんと報告させてくれ」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうね、それがいいわ」
ちらりと様子を窺うと、彼女は満足そうな笑顔で野菜を頬張っていた。
.
-
暗闇のなかに、宮司の声が朗々と響き渡る。
村と森の境に建つ神社の敷地内、開けた野原に村人が集まり始めたのは夕方、まだ日も沈まぬ頃。
俺たちはここに立ちつくして、ただ夜を待った。
己の鼻先も見えぬほどの暗闇で、宮司の声に従い頭を下げ、目を閉じる。
ザッ、ザッと荒々しい音によって、参列者たちは穢れを払われた。
御影遷しの儀が始まる。
手元の提灯の微かな明かりだけを頼りに宮司は棺の元へ向かう。
橙色のともし火が、ゆらり、ゆらりと揺れながら、森との境に寝せられた棺へ向かう。
宮司が無事たどり着いたのを見届けた瞬間、ともし火すら消されてしまう。
「ロオオオオオオオオオオオオオオオ」
完全な暗闇の中で、野太い声が響く。
闇を揺らし、風を揺らし、棒立ちで見守る村人たちの鼓膜を揺らし、天高く響き渡る。
呼応するように風がひとつ吹き上がり、森の木々を揺らす。
コン、コン
コン、コン
手に持った何かで棺を叩く乾いた音が聞こえている。
聞こえるのはそれだけではなかった。
極限まで足音を殺した集団が押し寄せる、そんな地の揺れを足元から感じる。
一角獣の群れだ。
木と木の隙間から覗く数え切れないほどの瞳。
僅かな光もないこの場所で、彼らの瞳だけが光源になっている。
.
-
どれほどの時が立っただろう。
不意に一角獣が全身をさらけ出す。
広場の四隅に立てられた松明に、炎が灯されたのだ。
棺と宮司の足元に、影が色濃く描かれる。
地面の匂いを嗅ぐように、一角獣たちは棺の周りに集い、地に鼻先をつける。
彼らが満足し、一匹残らず森に帰るまで、村人たちは固唾を飲んで見守り続けた。
.
-
目を覚ましても暫く、ぼうっとしていた。
若い頃、毎朝俺の起床を見守ってくれていた天井が出迎えてくれたもんだから、混乱していたのだ。
そういえば、実家に帰って来ていたんだった。
隣に敷かれた布団は綺麗に畳まれている。
スマートフォンで時間を確認すると、もう10時を回っていた。
彼女を探して廊下に出る。
一階への階段を降りようとしたところで、母の声が聞こえてきた。
「デレ、あの子を連れて帰って来てくれて、ありがとう」
耳をそばだてる。
声は、父の書斎の扉から聞こえてきた。
「大変だったでしょ? 連れてくるの」
「そうでもないよ」
彼女の声、のはずだ。
聞き覚えのある声が、昨夜とは違う口調で、俺の母親と話している。
「結構ちょろかったよ」
「ま、ブーン君引っ掛けたツンちゃんには負けるけどねぇ」
「引っ掛けた、なんて人聞きの悪い」
「誰も聞いてないんだし、気にしなくていいじゃん」
「そうでもなさそうよ?」
「ニュッくん、盗み聞きしてるんなら入ってきたら?」
.
-
それっきり、二人の会話は聞こえなくなった。
父の書斎の扉のドアノブに手をかける。
回す勇気は出なかった。
母と彼女が、俺のいない所で、親し気に会話を弾ませている。
ああ、なんて素敵な展開だろう。理想的だ。
いくつもの違和感から目を背ければ、これほど幸せなことはない。
何故、親し気に名前を呼びあっているのだろう。
何故、父の書斎にいるのだろう。
何故、父は不在なのだろう。
何故、二人の横顔を似ていると感じたのだろう。
全ての疑問の答えは、扉一枚隔てた向こう側にある。
汗ばんで湿った掌で額の汗を拭う。
大きく息を吸う。そして鼻からゆっくりと吐く。
未だ高鳴る鼓動を抑えきれぬまま、覚悟を決めて扉を押し開けた。
.
-
( ^ω^)
初めに目に入ったのは、椅子に深く腰掛けた父の姿であった。
柔らかなクッションの入った背もたれに身体を深く沈めて、ひじ掛けに腕を預けている。
全裸であることを除けば、全く違和感はなかった。
( ^ν^) 「いや、いやいや」
( ^ν^) 「まずは服を着ろよ、親父」
( ^ω^)
返事はない。
口を開くことも、微笑みを崩すこともなく、微動だにせず父は裸をさらし続ける。
動いたのは、彼女だった。
ζ(゚ー゚*ζ 「ありゃりゃ、忘れてた」
そう言って、彼女は傍らから服を取り出すと、父の前に立ち。
父の両耳の辺りに掌を当てて。
カポリ。
父の頭部を取り外した。
ζ(゚ー゚*ζ
( ^ω^)⊂
ζ(゚ー゚*ζ 「よい、しょっと」
父の頭部を机に仮置きした彼女は、シャツを胴体に被せ、首元のボタンを閉める。
あちこち引っ張って服の皺を伸ばしてから、彼女は、父の頭部をもとの位置へと戻した。
( ^ω^)
衣服を纏った父は、先程と変わらぬ穏やかな微笑みを湛えていた。
.
-
ξ゚⊿゚)ξ 「ねえ、デレ」
ζ(゚ー゚*ζ 「なあに? ツンちゃん」
ξ゚⊿゚)ξ 「朝ごはんにしましょうか」
ζ(゚ー゚*ζ 「そうね、私、お腹が減っているのよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「しばらく前からね」
( ^ν^) 「お前、いや、お前ら、何者なんだ一体」
( ^ν^) 「親父を殺したのは、お前らか」
ξ゚⊿゚)ξ 「ブーンを殺したのは、ブーンの強欲さよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「私はね、ブーンのことを食べるつもりはさらさらなかったのよ?」
ξ゚⊿゚)ξ 「もう何年も、ちゃんと我慢していたでしょう?」
( ^ν^) 「食べる、つもり?」
ξ゚⊿゚)ξ 「私があなたのお母さんにあたる人を食べたのは、ブーンがホライゾン商会を立ち上げたから」
ξ゚⊿゚)ξ 「近くで監視する必要があったから、仕方なく食べるしかなかったのよ」
( ^ν^) 「母さん、を、食べた?」
.
-
('A`) 投下の途中で悪いがフォックスの次に投下するぜ
-
(;^ω^)「支援だお……ウゴォ……」
-
ζ(゚ー゚*ζ 「ゆうべ、見たでしょう?」
ζ(゚ー゚*ζ 「我々の同胞たちの、食事を」
( ^ν^) 「昨夜……?」
父を、食べた。
母を、食べた。
我々。同胞。
理解不能な言葉の羅列からつかみ取った、俺でも理解できる単語から、何とか情報を読み解きたかった。
昨夜、何があった?
ξ゚⊿゚)ξ 「ホライゾン商会の設立自体には、反対するつもりはなかったの」
ξ゚⊿゚)ξ 「珍しい獣でいるにはそれなりにリスクがある」
ξ゚⊿゚)ξ 「乱獲を防ぐために、同胞の死体を剥製にする役目に名乗り出たの」
ξ゚⊿゚)ξ 「でもね」
ξ゚⊿゚)ξ 「最初は珍しがられた一角獣の剥製も、ある程度の施設に設置されると注文は落ち着いてしまった」
ξ゚⊿゚)ξ 「それで、ブーンは、中国の富豪向けに販路を広げようとした」
ξ゚⊿゚)ξ 「それは、我々の望む未来ではなかった」
ξ゚⊿゚)ξ 「だからね、私がブーンになることにしたの」
ξ゚⊿゚)ξ 「ブーンの影を、食べて」
ξ゚⊿゚)ξ 「ブーンの身体を着て、ホライゾン商会の舵を取るしかなかったの」
ξ゚⊿゚)ξ 「我々の、存続のために」
.
-
ζ(゚ー゚*ζ 「私の着ているこの体は、誰だったか、覚えてる?」
ζ(゚ー゚*ζ 「あなたの同級生のしぃちゃんだよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「髪はツンちゃんの毛のストックを使ったけどね」
現実離れした言葉たちの濁流に飲み込まれ、声も出せずに立ちつくす俺に、彼女はゆっくりと近づいてくる。
ζ(゚ー゚*ζ 「ねえ、ニュッさん」
ζ(゚ー゚*ζ 「何のために近づいた、って、聞いてくれたよね」
かぱりと、口を大きく開いて彼女は笑う。楽しそうに。朗らかに。
ζ(゚ー゚*ζ 「生簀からエサが逃げちゃったら、追いかけて、食べちゃわないといけないでしょう?」
ζ(゚ー゚*ζ 「本当は、死んだ人間の影しか食べちゃいけないんだけどね」
鮮やかに赤い口内が網膜に焼き付いた。
それが、俺の見た最後の光景。
.
-
【カゲクイ】
森の住人であるこの一角獣は、人と共に生きている。
小さな角を誇らしげに掲げた繊細なこの獣は、太古の昔から人々に愛されてきた。
動物園の剥製に添えられていた説明書きを思い出す。
瞼を閉じ、こうべをたらして己の影を捧げてしまうのも、きっと必然なのだろう。
遺伝子に刻まれた、餌の矜持である。
【カゲクイのようです 了】
-
从 ゚∀从 「時間オーバーして悪かったぜフォックス!」
从 ゚∀从 「一週間ってみじけー!!」
-
(;^ω^)「乙だお……」
(;^ω^)「かわいいニュッデレだと思ったのに滅茶苦茶ホラーじゃねぇかお……」
-
爪'ー`)y- 「いやいや、((((;゚Д゚))))ガクガクブルブルしながら読んでたら、あっという間だったぜ」
爪'ー`)y- 「乙!」
爪'ー`)y- 「じゃあオレも投下するぜ」
-
窓から差し込む橙色が少しずつ青みを帯びていく。
少しずつ色を変えながら明日へ明日へと流れて行く雲。その中に一つ、先程からやけにゆっくり進んでいる小さな雲を見つけた。
なんとなく大人になり切れない、そんな自分を重ねてため息を一つ。どうやらそろそろ帰らなければいけない時間のようだ。
鍵盤に置いていた指を離し、椅子の横ににあったはずのカバンに手を伸ばすが、何もない。
椅子の下をのぞき込む。どうやら自分に酔いしれながら、弾いていたのが彼にも伝わっていたらしい。
カバンは辟易とした様子でぐったりと、椅子の脚にもたれかかっていた。
(-_-) 「ごめんごめん…つい入り込んじゃった」
なんだか急に阿保らしいような気がして、自嘲気味に笑った。
人とは上手く話せないのに、物言わぬ物とは話せるのというのだから、我ながら呆れたものである。
(-_-) 「それじゃあ、またね」
カバンに言い訳したのだから、ピアノにだって挨拶しなくっちゃ変だろう。
そんな風に思って、苦楽を共にしてきた相棒に声をかけた。
-
僕がここでピアノを弾くようになってから、もう十年になる。
初めて見たときは、おんぼろの駅舎と不釣り合いなくらいにピカピカだったこのピアノも、経年劣化によって段々と塗装のひび割れなんかが目立つようになってきた。
パーツもだいぶ弱ってきたのか、近頃は優しく弾いても歌っちゃくれない。僕が魂を込めて弾くと彼女もようやく乗り気になるのか、重い腰を上げて歌い始めるといった具合である。
長いこと素人が使い、メンテナンスもしてきたのだから当たり前なのかもしれない。
一度、業者を呼ぼうかとも考えたのだが、僕以外の人にここを知られるのは嫌だったので、結局は自分でメンテナンスをしながら、騙し騙しで延命しているのが現状だ。
初めて彼女の歌声を聴いた、あの時の音と同じにすればいいだけなので、調律は何とかなったのだが、他は本やネットの情報から自己流で何とかしていた。
(-_-) 「何とかしなくっちゃなあ…」
後頭部を掻きながら、そう独り言ちた。別に頭が痒かったわけじゃない。
僕の中の何かを悩んでいる人のイメージを真似てみただけだ。
でも、こうすることで悩みの種が粉々になってどこかへ飛んで行って、解決策を連れて来るんじゃないかなんて、心の隅ではちょっと期待していた。
-
(-_-) 「さて、帰ろっかな」
そう言って、部屋を出ようとした時、僕の目の前に夕陽を浴びてキラキラと輝く黒い何かが躍り出た。
――――――僕はこの日、天使を見てしまった。
頭のお堅い現実主義者の皆は、今から僕が言うことを決して信じないだろう。
なんせ、高校二年生になってもどこかに、宇宙人や髭もじゃの赤服おじさんがいるんじゃないかと、心のどこかで思っていたりするこの僕だって、思わず自分の目を疑ったくらいなんだから。
西洋画なんかでモチーフにされる天使は美しい金髪をしていることが多いが、僕が見た天使は濡れたカラスの羽のような艶やかな黒色の髪をしていた。
ちらりと覗いたワニ口クリップみたいな八重歯なんかむしろ悪魔的だし、翼だって生えちゃいない。
服だって気崩されたどこかの高校の制服だ。皆が思い浮かべる天使とは似ても似つかないだろう。
-
(-_-) 「……天使…みたいだ」
僕は思わず、そう呟いていた。
何だろうこの気持ちは、僕はどこかで彼女と会ったことがあるような気がする。
これが運命ってやつなんだろうか。ジャジャジャジャーンって感じなのか。
……ベートーヴェンめ、やりよる。
('、`*川 「……はぁ?…アンタ、何言ってんの?」
(-_-) 「え?」
(-_-)
(-_-)ガラガラ ピシャ
-
僕は思わず扉を閉めた。タイムタイム、ちょっと待ってくれ。テイク2を要求したい。僕が思ってたのと全然違うよ?
たしかに可愛い、めちゃくちゃ可愛い。それに声も綺麗だ。けどその口調と言葉は、随分と棘々しくて天使とは真逆な感じだ。
(-_-) (あ、やばい。すごいドキドキしてる)
(-_-)スゥーハー
(-_-)ガラガラ (よし、テイク2)
('、`*川 「いや、何閉めてんのよ」
(-_-) 「え、あ」
再度、扉を閉めようとしたその時、天使が扉の隙間に足を突っ込んだ。
そして僕の細腕では、微塵も対抗できないほどの圧倒的な腕力を持って、扉をこじ開けて中に入って来た。
なんて腕力……勇次郎さんもびっくりやでぇ。
-
('、`*川 「何閉めてんのよ?」
(;-_-) 「え、ぁ……ぅ」
('、`*川ハァ 「質問にはちゃんと答えろってーの」
そう言いながら、息がかかりそうなほどの距離で彼女は、僕の顔を覗き込む。
まいった。また上手く話せない。どうしたらいいのかわからなくなってきた。
自分の呼吸音だけが聞こえる。ちょっとパニックにでもなりそうだ。
('、`*川 「なんだ…廃駅のピアノを弾くオバケって、アンタのことだったのか」
(-_-) 「え?おば…け?」
('、`*川 「そうそう。この廃駅にピアニストのオバケが出るって言う噂。……アンタ知らないの?」
('、`*川 「凄く上手いピアノの音が聞こえるって、結構有名よ?」
(-_-) 「そ、そ……なの?」
('、`*川 「そうそう」
-
自分が都市伝説のようなものになっていたとは、意外とショックな事実だ。
たしかにここには、普段誰も寄り付かない。なんだか不気味だし、崩れそうだし。
オバケが出そうというのも頷ける。でも、僕はこの町全体を一望できるこの場所を気に入っていた。
夕暮れや星空が綺麗な日に、ここでピアノを弾いているとまるで、自分が本の世界に入り込んでいるかのように感じるのだ。
自分に酔ってる?ほっといてくれ。好きなんだから仕方ない。
('、`*川 「ところで、さっきまで弾いてたのもアンタなの?」
(-_-) 「……うん」
('ー`*川 「じゃあ、なんか弾いてちょうだい!!」
天使……いや悪魔か?がそういうので、僕は再度ピアノの前に戻る。
なんか弾いてちょうだいか、割と困った注文を貰ってしまった。
(-_-) 「じゃ、よろしく頼むよ」
軽く鍵盤を押し、彼女に声をかける。
何とも不機嫌そうにドの音が響いた。
-
('、`*川 「早く弾いてよ」
そう言って、天使は椅子を引きずって、ピアノの正面に移動する。
そしてなぜか、いただきますとでも言うかの様に、手を合わせた。
(-_-) (なんかか……じゃあ、これでどうだろう?)
(-_-) 「いくよ」
すっと息を吸い込んで引き始める。
さっき彼女と出会った時に感じた、雷に打たれたような衝撃を込めて…。
('、`*川 (……へえ、リャプノフのレズギンカか)
-
最初の鍵盤を弾いた時、いつもと違うイメージが頭を過った。
(;-_-) (音符が…跳ねてく!?)
赤や青に黄色と色とりどりの音符達が、ピアノからぴょんと飛び出していくのだ。
そしてその音符を彼女が次々と食べていく。
何とも不思議で現実離れした光景を見て、僕は綺麗だとすら感じていた。
(-_-) (こんなの…初めて見た)
考えごとに気をとられて、演奏する指に力が籠ったのを見抜いたのだろうか、彼女は眉を顰める。
-
('、`*川 「アンタ……余計なこと考えてるでしょ?」
(;-_-) 「う……」
('、`*川 「なんか変に甘くなった」
('、`*川 「集中して」
(-_-) 「ごめんね」
これまでの音を全て塗り替えるように、グリッサンドを一つ。本来の曲には入らないがこれはサービスだ。
力強く一音一音を響かせながらも、的確に強弱をつけていく。
連符などが続くような速い曲の時には、どうしても指が走りがちになる。だから、リズムキープは常に意識する。
でも、それだけに囚われていては、本当の意味でいい演奏はできない。
僕はピアノを弾くことは、楽器と対話することだと思ってる。
だからいつもの様に、ピアノと話しながら、弾いていた。
-
(-_-) 「よし、今のは上手いよ。いい感じ」
(-_-) 「また早いのが続くよ。気合入れていこう」
(;-_-) 「よし、ラストスパート」
するとピアノがいつもよりも、いい声で歌ってくれるような気がする。
ピアノが僕の声に答えるように、どんどん音符を吐き出していく。
(-_-) (さ、ここからもうひと踏ん張りだ!)
静かで繊細なタッチを徐々に強めていく。
そして曲は終わりへと向かっていく。弾むようなフレーズと地の底を這うような低音に、絶妙なバランスで音を絡ませる。
最後にちょっと激しい連符、そして静かに嵐が去った後の安寧を思わせるようなフレーズを添える。
(-_-) (よし、どんなもんだい!!)
そう思いながら彼女の方を見る。
-
(;、;*川 「ピアノと本当に話してる奴、初めて見た」
そう言って、彼女は泣くほど笑っていた。なんとなく恥ずかしい。
だって、その方がいい音が出るんだから、皆そうしているものだと思っていた。
むしろ、ピアノと話さない方がおかしい。全てのピアニストに対して、声を大にして言いたい。
('、`*川ホゥ 「でも、ひっさびさにこんなに美味しい音に会えた」
('、`*川 「ごちそうさまでした」
(-_-) 「お粗末様でした」
('、`*川 「アンタ名前は?」
(-_-) 「僕は日比谷奏。えっと…VIP校の2年」
(-_-) 「あんまり学校に行かないから、ヒッキーなんて呼ばれてる」
('、`*川 「へえ、ヒッキー…。ヒッキーねえ」
彼女は自分の中に、馴染ませるかの様に何度も、僕の名前を口にした。
-
('、`*川 「アタシの名前は辺見あかり」
('、`*川 「ムカつく奴らをしばき倒してたら、挨拶されるようになって……」
('、`*川 「『辺見さんざぁす!!』って言ってたのが縮まって、友達からはペニサスなんて呼ばれてる」
(-_-) 「辺見さんか」
僕がそう呟くと、彼女はちょっと嫌そうな顔をした。
('、`*川 「さん付けなんてしなくていいよ。同級生じゃん」
(;-_-) 「ごめん。癖なんだ」
ていうか、同級生だったのか。そりゃあ、どこかで見たことがあるはずだ。
でも僕は教室にいる時、外ばかり見ていたからか、クラスメイトの顔があまり記憶にない。
ちょっと確認してみるべきだろう。
-
(-_-) 「君はVIP校なの?」
('、`*川 「うん。二年B組」
まさかの同じクラスだった。
いや、流石に天使と見間違えるような子を見逃しているはずがない。
('、`*川 「アンタ、いつもここにいるの?」
(-_-) 「学校にいない時は、大体いるよ。流石に夜遅くなる前に帰るけどね」
('ー`*川 「また、食べに来てもいい?」
(-_-) 「うん」
(-∀-) 「またいつでも来て」
始めはそうでもなかったのだが、彼女とは上手く話せている気がする。
そう思ってちょっと調子に乗ってしまった。
久々に使った笑顔は、自分でもわかるほどぎこちなくて、どうも引きつっている。
-
(;-_-) (……しまった。また気持ち悪いと思われる)
('、`*川
('∀`*川 「……何焦ってんのwwww」
('ー`*川 「アンタ、なんか面白いねww」
(;-_-)
最初に出会った日は、そんなこんなであっという間に時間が過ぎていった。
この後も沢山話したんだけど、僕は久し振りに人と話して疲れてしまったのか、あまり覚えていない。
ただ、彼女の表情が瞼の裏に焼き付いて離れなくて、しばらく眠れない夜が続いた。
-
学校に行けば、相変わらず一人ぼっちだったが、全く気にならなかった。
彼女のことを考えながら、エアピアノをしていれば、時間は一瞬で過ぎ去った。
学校に行き、廃駅でピアノを弾いて、帰って眠るだけ。
たったそれだけだった僕の日々に、急に光が差したようだった。
まさに超新星爆発。それ位に眩い日々だった。僕の乏しい語彙じゃあ、到底上手く表せやしない。
今まではただ楽しくて、ただ難しい楽譜を弾きこなせるようになりたくて、弾いていた。
でも今は、彼女により美味しい音を食べてもらいたい。
気が付けば、僕はそれだけを考えるようになっていた。
-
(-_-) (どうしたらいいんだ)
(#-_-) (くそ!!くそお!!!!)
感情をぶつけるようにピアノを弾いた。
いくらイライラしたからって上手くなるもんじゃない。あの頃の僕が演奏する曲は、蛇口から出る水の様なもんだった。
まるで何かに憑りつかれたかのように弾いて、弾いて、弾き続けた。
そんな僕を見て、彼女は悲しそうな顔をした。
('、`*川
('、`*川 「アンタ、ピアノ弾いてて楽しい?」
(-_-) 「……どういうこと」
('、`*川 「最近のアンタは、前みたいに楽しそうじゃない」
('、`*川 「…手だってボロボロじゃない」
そう言って、心配そうに僕の手を取って撫でた。
その行為がおかしくなった僕の何かに触れた。
-
(#-_-) 「…君に何がわかるって言うんだ!!!!!!!!」
(#-_-) 「…僕は!!」
(#-_-) 「僕は…!僕は!!!!」
(#゚_-)
(#゚_゚)ゴポォ
自分でも驚くくらい大きな声を出したその時、僕の口からどす黒い何かが飛び出した。
普段、私は音楽しか食べないんだ。そう彼女は言っていた。
彼女は音を食べる。と言うことは、僕の言葉だって例外じゃない。
僕はこんなものを食べさせたくて、頑張ってきたわけじゃない。
だめだダメだ駄目だ。僕は君の笑顔が見たかっただけなのに……。
-
慌てて止めようとする僕に、優しく微笑んで
('ー`*川
('、`*川ゴクン
彼女はどす黒い塊を飲み込んだ。
そして、その場にどさりと倒れて動かなかった。
脈はあるが非常に弱弱しい。
すっかり混乱した僕は、どうしたらいいのかわからなくて、音を食べて倒れたのだから、音で治せるんじゃないか。
なんて考えて、彼女の為に曲を弾き続けた。
手が痛くなっても、演奏を止めなかった。
いつか彼女が目覚めて、全部冗談でしたと笑ってくれる。
始めはそう考えていた。でも、彼女は目を覚まさなかった。
-
( _ ) 「……どうしたら」
( _ )
(-_-)そ
(-_-) (そうだ。あの黒い塊は僕の気持ちだった。)
(-_-) (なら、反対の気持ちがあれば、黒い塊を打ち消せるはず)
どこかの話の王子様みたいに、眠っている彼女にキスをする勇気は僕にはない。
代わりと言ってはなんだけど、僕が人生で一番初めに弾いた曲を贈ろう。
-
(-_-) (……星に願いを)
(-_-) 「最後のわがままだ……付き合ってくれる?」
そう訊くと彼女はいつもとは違い、上機嫌に歌い返してきた。
(-_-) 「…そっかありがとう」
静かに、けれど暗闇を照らす蝋燭の様な、強さと優しさを込めて、一音一音奏でていく。
音符は飛び出していかない。でも関係ない。
手が痛いし、腕も悲鳴を挙げてるけれど無視して、ひたすらに思いを込めて弾く。
痛い、苦しい。でも、こんなにも楽しいなんて。
久しく忘れていた感覚に、涙が出そうになる。
-
(-_-) (昔は、この曲が弾けなくて泣いてたっけなあ)
(-_-) (僕の隣にいた女の子が、いつも僕より早く曲を弾けるようになるのが悔しかった)
(-_-) (いつの間にか引っ越すことになって、いなくなっちゃって……)
(-_-) (逃げるのかよって思って、悔しくて泣いたっけな)
(-_-) (名前は………たしか)
そうか。そうだったのか。
僕らはずっと前に出会っていたんだ。
町外れのピアノ教室で。
-
長く長く、永遠の様にも感じた曲が終わる。
最後の一音には、ありったけの想いを込めて。
君が聞いたら、笑うだろうか。
(-_-) (昔も今も、僕は…君が!!)
最後の一音が廃駅に響く。
ピアノの弦が切れたのだろう。中から金属がぶつかるような音が聞こえた。
その音はとても綺麗で、澄んでいて。
頭上で大きな何かが弾けて、視界が真っ白く染まっていった。
-
目を覚ますと辺りはもうすっかり暗くなっていた。
彼女はどうなったのだろう。慌てて飛び起きようとして、頭を何かに激しくぶつけた。
目の前に星が散って、痛みが広がっていく。
(;-_-) (いった〜)
痛みが治まってきて、目を開けるとそこには、同じ体勢でうずくまっている彼女がいた。
('、`#川 「なんで急に起きるのよ!!」
(;-_-) 「君こそ、なんであんなの食べたのさ!!」
('、`;川 「あ、あれは……その」
-
彼女は言葉を食べるとその人の思いがわかるらしい。
それで僕の気持ちを知ろうとしたようだ。
(-_-) (あれ…?てことは)
(;-_-) 「……僕の気持ち、筒抜けだったってこと?」
( 、 *川コクリ
(;;゚_゚) 「え、ええーーーーー!!!?」
しばらくして、僕からちゃんと告白して、付き合うことになったわけだけど…。
その嬉し恥ずかしな日々を逐一書き記すことはやめておこうと思う。
成就した恋ほど語るに値しないものはないって言うしね。
-
それから、僕は夢だったピアニストになるため、創作へ留学することになった。
出発の朝、ペニサスは泣いて泣いて、それは大変だった。
(;、;*川 「待ってるから!!……アタシ待ってるからね!!」
(-_-) 「夢を叶えて、絶対に迎えに来るから」
(-_-) 「だから、泣かないで笑っていて」
(-∀-) 「君は僕の天使なんだから」
相変わらず、笑顔は下手だけど思いは伝わったはずだ。
あの日、あの廃駅で、音を食べる天使に出会ってから、一人ぼっちだった僕の世界は終わった。
君と二人で歩ける新しい世界が近づいてきたんだ。
ちょっと怖いけど、もう大丈夫。
君とならどこまでも行ける。今はそんな気分だ。
僕の全てだったあの廃駅の一室には、今はもう誰もいない。
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爪'ー`)y- 「というわけで、『了』」
爪'ー`)y- 「タイトルは……」
爪'ー`)y- 「星に願いを」
爪;'ー`)y- 「にしても期間短すぎてヤバかったぜ」
爪'ー`)y- 「ドッくんおまたせ」
-
( ^ω^)「乙だお!」
(*^ω^)「ブーンちゃんのキンタマウスがキュンキュンしちゃうお!」
( ^ω^)「今回の品評会マジで名作しかないお」
( ^ω^)
(;^ω^)「順位付け出来ねぇおこれ……」
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('A`) じゃあ投下するわ
-
爪;'ー`)y- 「食べるシーンあるから、お題には沿ってる……よな?」
-
船には釣り竿が備え付けてあった。
鈍く光ってしなるそれはカーボンのようにも見えたが、材質は知れない。
リール部分には見たこともない巻き取り機構がついている。
糸は油膜に濡れた絹糸のように様々な色の光を蓄えていた。
モララーはそれを持ち上げ、軽く振ってみる。
(-@∀@)「どうよ調子は?」
( ・∀・)「いや、さっぱりだね…」
( ^ω^)「本当に釣れるのかお?」
そう言ってブーンは身を乗り出し、糸の先を見定めようとする。
糸が垂れる先は遥か下、巨大な球形体の水面だった。
-
从 ゚∀从 ドクオ忘れ物だぜ
っ[文戟中]
-
横目に宇宙のパノラマスケールを収め、
彼らは、その殆どが水で構成された、小惑星ほどはあろうかという大水球に上空から糸を垂らし、
そこへ引き寄せられる魚を待つ。
それは宇宙を回遊して、ここいら一帯に集まる特別な魚だった。
宇宙空間を自由に泳げるのに、なぜ水に集まるのか。
そんな疑問をモララーは今更、感じない。
巨大な水球の周りには、浮遊大陸じみた陸地が多数、周回していて、彼らの宇宙船もそこに居た。
そのさらに向こうには無数の銀河があった。
肉眼でこれほど多くの銀河を見ることが出来るというのは珍しい。
普通はただの星の光と見分けがつかないことが多い。
しかし此処では、はっきりとその形を見て取れる。
渦巻き状やリング状、ガス状の不定系を取る星々の光。
とても不思議な場所だった。
もしかすると、空間なり時間なりが歪んでいるのかも知れない。
-
(-@∀@)「モナーはどうだ?」
( ´∀`)「……」
(-@∀@)「モナー…?」
( ´∀`)「……おっ? ちょっと居眠りしてたモナ、すまんモナ」
(-@∀@)「やれやれ……」
水の小惑星に糸を垂らして、ひたすら獲物を待つ。
彼らが何故こんなところで釣りをしてるのかと言えば、
それは、一行がこの星系の中心近くにある惑星に立ち寄ったところから始まる。
-
超銀河的宇宙グルメ・レポートのようです
.
-
超光速航法を始めとする、既存の物理科学に反した体系が突如として人類の前に出現し、
彼らの生態圏が飛躍的に拡張してから数世紀が経つ。
国から国へ渡る移民の世紀を経験したように、人々は星から星へ、銀河から銀河へと渡っていった。
その過程で所謂、異星人なるものが、そう珍しくはないことを人類は知った。
恒星間戦争なんていう大昔の御伽噺のようなことも危惧されはしたが、
銀河規模の莫大な空間に対して生命体の集団密度は低すぎた。
つまり、領土や資源なんてものは、他人から奪うより前にそこら中であふれていた。
しかし、あまりに広大だった為、かえって一極集中するという問題も、しばしば見られた。
要するに、大都市ばかりにインフラや人口が集中して、
辺境までは、そういった整備が追いつかないのと同様だった。
そこではちょっとした争いが起こったりもするが、全面戦争を始めるには、やはり宇宙は広すぎた。
戦いに行って迷子になることも珍しくない。
-
だから彼らのような人種が必要になる。
銀河ガイドブック制作業者の調査員。
有り体に言えばそういうことになる。
未踏領域を探査し、情報を持ち帰って共有する。
それは人間という集団の社会性の一部だった。
銀河中を巡り、どこに何があって、誰が住んでて、どうなっているか、
それらをまとめてデータベース化し、時には評価するのが彼らの役目だ。
そんな折、辺境星系のとある惑星で、一行は入るべき飯屋を決めかねていた。
-
(;-@∀@)「まずいな…」
( ・∀・)「ああ、この辺りには銀河標準語の表記が殆ど無い…」
( ^ω^)「おっおっお、看板に何が書いてあるのか、まるでわからんお!」
( ´∀`)「我ら五人、銀河の果てで飢え死にモナ?」
('A`) 「馬鹿言うな、リーダーのお前がどうにかしろ!」
( ´∀`)「モナモナ…船に戻れば宇宙食があるモナ」
('A`) 「もう食い飽きたわ…」
( ´∀`)「それには同意せざるを得ないモナ…」
-
途方に暮れた一行の前に滑り出た救いの光は、やや怪しげな形をとっていた。
【超銀河的宇宙飯店】
その奇っ怪な文字列は、しかし、彼らにも読めたという一点において、強力無比であった。
(-@∀@)「おい……」
( ・∀・)「ああ…」
('A`) 「おお…!」
( ^ω^)「おっおっおっ!!」
にわかに色めき立つ一行。
互いに顔を見合わせ、うなずき合うと、彼らは店内へ駆け込んでいく。
-
若干の胡散臭さは認めるものの、この辺境で銀河標準語の表記にめぐりあい、
あろう事か、それが飯屋とは渡りに船。
一体、誰が彼らを責められようか。
気がつくと一行は席につき、食い入るようにメニューにのめり込んでいた。
だが、懸念は即座に現実のものとして化体する。
('A`) 「おい、これ……」
( ´∀`) ?! ?????
( ・∀・) 「……ッ!」
ばかな、飯店などと謳ってるくせに、
中華料理らしきものがメニューに見当たらないではないか。
モララーは唖然とする。
衝撃が一行の間を駆け抜け、彼らは愕然とし恐怖に震え上がった。
そもそもメニューが読めない。
-
店先では銀河標準語で宇宙飯店などと騙っておきながら、
店内には一切の標準語表記が存在しない。
それどころか標準語を解する店員すら見当たらなかった。
( ・∀・) (一体、これは―― )
その時、モララーの頭に閃光が走る。
( ・∀・) ("超"銀河的宇宙飯店……)
その意味は、銀河標準を遥かに凌駕している、ということではなかったか。
ならば飯店はどこへ行った、などという脳内少数派の下手な意見を退けると、
モララーは挙手にて意思表示した。
─(-@∀@)─( ^ω^)―( ´∀`)―('A`)─―
一行の耳目が、すばやく彼らの頭脳兼イケメン担当に集まる。
-
( ´∀`) 「発言を許可するモナ」
彼らがリーダー、モナーが厳かな声で告げると、
モララーはゆっくりと立ち上がって話し始めた。
曰く、この店は銀河的常識の埒外に存在する孤高の飯屋であり、
我々は、一切の常識と先入観、そして良識を捨て、
スペース・ギャラクシー・オーガ(宇宙銀河鬼)になる必要があると。
銀河仏と出逢えば銀河仏を斬り、宇宙神と出逢えば宇宙神を斬る。
( ・∀・) 「いざ参られい! 魑魅魍魎、神仏、悪鬼、羅刹、修羅!切って捨てるが、我らの花道!」
そう演説を締めくくって、モララーは席についた。
-
呆気にとられていた一行の中で、はじめに口を開いたのはドクオだった。
('A`) 「バカを抜かすな…気でも触れたか…?」
('A`) 「まず、何を言ってるのか意味がわからん」
屁理屈兼ブサメン担当の彼にしては、珍しくまっとうな反論だったが、
その全ては完全に黙殺された。
地球を遠く離れ、銀河の端の勝手も知らない星で、
心細く身を寄せ合う民草を導くのは、やはり自信に溢れたイケメンでなくてはならないのだ。
これが美少女ならば、なお良かったが残念ながらここには野郎しかいない。
( ´∀`)「新たなリーダーの誕生モナ…!」
(-@∀@)「然り然り! モララーの言にこそ従うべし!」
( ^ω^)「して、モララー殿、我らがまず頼むべきメニューは…」
-
右手を掲げ民草の熱狂を制すと、モララーは軽く咳払いしてから献策した。
曰く、一番上から順に頼む。
('A`) 「……」
馬鹿かこいつらは、超銀河的帰結とやらか、これは?
神だ仏だのを斬る前に、自分の腹でも切ったらどうだ。
そんな内心を吐露するより早く、ドクオは行動に出た。
手振り身振りで店員らしき男を捕まえると、
あろう事かメニューの一番下の料理をオーダーする。
それは完全な裏切りであった。
-
許しがたき背信行為に、モララー以外の一同は目を見開いて、烈火のごとく詰め寄ったが、
ドクオは薄笑いを浮かべながら、涼しい顔で出てきた料理に目を落とす。
('A`) 「……?」
皿を眺めてドクオは困惑した。
運ばれてきた大皿の上には、干からびた魚一匹の他には何も乗っていない。
それは干物魚というよりは、乾燥して枯れ果てた、魚のミイラといったほうが適切に思える。
('A`) 「なんだぁ、こりゃ…?」
はじめは気分を害したものの、次第にかすかな匂いを感じてドクオは魚を手で扇いだ。
すると、匂い立ってくるではないか、豊穣な香りが。
-
空腹感が刺激され、両頬の内側がジュワジュワとうごめく。
ドクオはもう抑えが効かなかった。
無造作に食器を掴むと魚の腹部を切り分けて、口にほおる。
('A`) (これが約束の場所か…)
天上の調がドクオの口から胃にかけて広がり、確かに世界は輝いて見えた。
あまりのことにドクオは脱力し、音を立ててテーブルに突っ伏した。
(-@∀@)「おい、何をやってるんだ…?」
( ^ω^)「きっとあまりの美味しさに泣いてるんだお!」
学生時代同様、机に突っ伏したドクオを、旧友のブーンは起こしにかかる。
上体を戻したドクオの目は、しかし、銀河の果てを漂流する遭難船のキャノピーのように死臭で濁っていた。
-
(; ^ω^) !?
( ^ω^)「ドクオどうしたんだお?!」
揺すってみて、返事はない。
(; ^ω^)「ドクオ気をしっかり持つんだお!」
(; ^ω^)「こんなところで死んだら量子コンピュータ上のデータはどうなるんだお!」
(; ^ω^)「ヨタバイト規模のエロ動画処分なんてやってられんお!」
(-@∀@)「大げさな…」
(-@∀@)「味に驚いて机に頭をぶつけ、めまいを起こしただけだろ…」
(-@∀@)「捨て置け、捨て置け! 我らが頭目に逆らった者の末路よ!」
(; ^ω^)「薄情だお!」
-
('A`) 「ぶ、ぶーん…」
( ´∀`) 「気がついたモナ!」
(-@∀@)「それ見たか…」
('A`) 「ああ…なんかちょと…妙な感じだが…大丈夫だ…」
('A`) 「料理があまりに…強烈でな…気をつけたほうがいいぞ…」
('A゚) 「ウッ……」
( ^ω^) 「ドクオ!」
(;-@∀@)「……」
どうやらドクオは大事には至らなかったようだが、
得体の知れないグルメ体験に一同はすっかり恐れをなしていた。
考えてみればそうだ、メニューが読めない上に、不慣れな辺境の土地。
どんな料理が出てくるか想像もつかない。
-
迂闊だった。
一行は全く未知の領域に迷い込んでしまっていた。
最早、何が彼らの胃でも消化できて、何が胃もたれや、食あたりをもたらしてくるのか見当もつかない。
場は急速に食のロシアンルーレット会場と化した。
( ・∀・) 「いいか、我々は曲がりなりにも銀河ガイドブック製作のための調査員という使命を帯びている」
( ・∀・) 「ここで何も注文せず逃げるというのは…」
最早、誰も聞いちゃあいない。
食うか喰われるかの局面で他人なんかを頼む奴が、この職業につくわけがないのだ。
統制の崩れたモララー王朝は急速な民主化と個人主義へと向かい、
今や全員が思い思いに料理を頼もうとして、メニューと格闘し、横目でドクオの容態をうかがう。
(-@∀@)( ^ω^)( ・∀・)( ´∀`) ('A゚)ウボァ
気がつくとドクオの症状は更に悪化していた。
-
('A゚) 「ヒイッ…フウッ……ハッ…ヒッ…」
( ・∀・) (………)
こいつ、エイリアンでも出産するつもりか?
一行はそんな事を考えながらメニューを取り落とし、あるいは投げ捨て、
丸めてそこから覗いたりして、直ちにドクオの経過観察に移行する。
元からこんなもんだろコイツの顔色は、などと冷血漢が声を上げ、
にわかに場は騒然とし始める。
恐る恐るブーンとモララーがドクオに近づく。
( ・∀( ^ω^)つ('A゚)
(; ^ω^)「脈が無いお!」
(; ・∀・)「こ、こいつ死んでる!」
(;-@∀@)「えぇ!?」
-
((('A゚)))
( ´∀`) 「いや、待つモナ! なんか動いてるモナ!」
(;-@∀@) 「ばかな、なんて恥知らずなやつだ! 脈が無いなら死んでるべきだろ!」
( ´∀`) 「これは、ゾンビだモナ!」
(; ・∀・) 「なんてこったい!」
超銀河的ゾンビ生物を食べたことで、脳をゾンビ的なウイルスだかバクテリアに喰われて、
ドクオはゾンビになった。
それが一行の出した結論だった。
-
( ;ω;)「おーん、おーん、ドクオ! ドクオ!」
( ;ω;)「もう一緒にギャルゲすることも出来ないのかお…」
('A`)「……う…う…う…う…う…ん…ん…ん…ん…ん…ん…」
( ^ω^)「えっ…」
( ^ω^)「喋ったお…いや、これ喋ってるおね?」
(-@∀@)「待て待て、ただゾンビが唸ってるだけだろ」
アサピーは冷たくあしらおうとしたが、
しかし――。
-
('A`)「み…い…い…い…ん…ん…ん…ん…な…あ…あ…あ…あ…あ…」
( ・∀・)「……」
( ´∀`)「なんか、すごいノロいけど喋ってるモナ」
一同は困惑した。
死体が動いてるだけなら、まあ、それでもかなりのところ破廉恥であるわけだが、
死体は死体だ。
コミュニケーション可能性が存在する死体。
これは大分まずいのではないか。
急速に崩壊していく死体の定義と彼らの常識。
ある日、動物の言葉を完璧に翻訳する機械が開発されました。
戯れに家畜に使ってみまして、人類は己の罪深さを知る。
食肉用の畜産が法的に禁止され、合成タンパク質と野菜へ全人類が移行したところで、
今度は植物の言葉を解する機械が発明された。
これは、そういう種類の衝撃だった。
-
('A`)「ぶうううううううううううんんんんんんんんんんん」
('A`)「おたああああああすううううううけええええええええええ」
(-@∀@)( ^ω^)( ´∀`)( ・∀・)「………」
助けを求める元友人を見捨てるわけにもいかず、
かと言ってどうすればいいのか。
そうだ、こんなふざけた料理を出した店が悪い。
一行は困惑を怒りに変え、料理長とオーナーを出せと店員に詰め寄った。
話の通じない暖簾店員に対する腕押しに業を煮やした彼らは、
店内に居た標準語と超銀河語を解する異星の客を締め上げ、通訳とした。
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