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Ammo→Re!!のようです

1名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 19:35:24 ID:F94asbco0
前スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1369565073/

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【Low Tech Boon】→ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

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247名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:26:57 ID:m/DZJGrM0
大型のツアラーバイクを改造し、荒地での走行にも対応させた物は一般人が手に入れるには余りある代物だ。
強化外骨格“イージー・ライダー”の追跡を逃れられるだけの機動性と速度、そして運転手の手腕。
これの情報を使って運転手の割り出しを行えればと思ったのだが、そこから先が難航した。
まずは車種の特定を行わなければならず、ここ数年の間に発表された車種のカタログと格闘したが、当てはまる物はなかった。

そこで新たに十数年前の物から見返すことにしたのだが、該当する車種は存在しなかったのである。
流石にそれ以上前の車種とは考えにくく、一から作り上げたバイクである可能性が高かった。
カウルは黒、もしくは群青色の塗装が施されており、その形状は空気力学に基づいて設計されたのだと一目で分かる鋭角と直線で構成され、ツアラータイプの特徴とも言える大きなウィンドシールドが一枚。
ヅーが見たのはバイクの側面を一瞬と、その後ろ姿を数十秒だけ。

捜査チームを編成した際、ヅーはその車体をスケッチし、全員に配った。
特徴的な性能を持っているバイクであるため、目撃情報はすぐに集まるだろうと思ったのだ。
結論から言えば、駄目だった。
遠くからツーリングに来ていた集団が唯一の証言者であったが、彼らが見たのは走り去る後ろ姿だけで運転手を見た者はいない。

目撃された日時を考えても、ヅーの持つ情報の方が新しいぐらいだ。
あの夜以降、誰もそのバイクを見ていない。
まるで亡霊だ。

瓜//-゚)「カメラの情報も……なしか」

もう一つ、ヅーが追っている物がある。
エラルテ記念病院で醜態を晒し、殺されかけた時に誰が自分を救ったのか、という事だ。
アサピー・ポストマンの入院していた部屋に現れたデミタス・エドワードグリーンに警備員が殺され、ヅーも深手を負った。
そして、顔を潰されて殺される寸前、ヅーは意識を失った。

再び目を覚ました時、ヅーは病室のベッドの上に寝かされていた。
自分に対して十分すぎる殺意と動機を持つデミタスが見逃すはずもなく、痛む体に鞭打って現場に戻ると争った形跡が残されていた。
目に見えて床に増えていた真鍮の薬莢はライフルのそれではなく、拳銃用の物だった。
何者かが争い、デミタスからヅーを守ってくれたのだ。

248名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:33:36 ID:m/DZJGrM0
だが、残された薬莢は九ミリ口径の物で、軍が採用しているコルト・ガバメント――四十五口径――ではない。
勿論、強化外骨格の補助を得ているデミタスが使用したとは考えにくい。
礼を言うのもあるが、何よりデミタスをいかにして撃退せしめたのか、その技量にこそ興味があった。
が、目撃者は愚か映像すら残されていない。

また、ホテルで警官が奇妙な殺され方をした事件もある。
目撃情報で得られたのは頬に二本の傷を負った男の目撃情報ぐらいで、それ以上に詳しい情報は得られなかった。
その人物には心当たりがあったため、事実上有益な情報は得られなかったことになる。
死体を鑑識に回して調べさせているが、何も見つからないだろうと諦めていた。

今、二人の亡霊がヅーを悩ませていた。
どうにか足跡を見つけたいところなのだが、どちらも手詰まりの状態である。
情報整理をしていく中で見えてくるのは、ショボンたちは周りの被害や自分たちが生み出す物を全く意に介することなく対象を追っているという事実であり、その対象は只者ではないという結果のみ。
特に情報に対して価値を見出す人間にとっては、分かり切った情報を突きつけられることほど腹立たしいことはない。

瓜//-゚)「さて、どうしましょうか」

腹立ったとしても、それを思考に影響させないのがヅーの強みの一つだ。
彼女は例え砲弾が降り注ぐ戦場でも策謀することの出来るだけの精神力と集中力を持ち合わせており、今はただ、己の手中に集まった情報が足りないだけだ。
欲しいのは決定打ではなく、全てを線で繋ぐことの出来る核心だ。
追う理由、追う相手、追う方法など、とにかくショボンたちが何を目的としているのかを今一度整理しなければ分からない。

状況の悪化はもはや、誰が諸悪の根源とは言い難いほどに悪化している。
絡んだテグスを解くようにして徐々に紐解き、そして見つけなければならない。
単独での解決は不可能だ。
複数の人間がそれを試みたせいで酷い有様――tinker――になってしまっており、今後はその悪化を防ぐことに注意しなければならない。

249名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:37:38 ID:m/DZJGrM0
引っ掻き回した人間の一人、トラギコ・マウンテンライトには監視をつけていたが、今日の昼前に消息不明となってしまった。
本来であれば自らの手で探しに行きたいところだったが、そこまで暇がないため、苦肉の策としてアサピーを使った作戦を考え付いた。
餌として動かし、結果としてまんまとショボンをおびき出すことに成功し、そして今ではトラギコ探索の要人として仕立て上げた。
特例中の特例であるが、オアシズへの乗船とその後の降船まで手はずを整えたのだから、何かしらの成果を得ることを期待している。

彼が犯した愚かな過ちの精算はこうして少しずつ行ってもらうのだ。
気がかりな点は多々あるが、それでも片手が開くのは大きい。
始点を脱獄として考えると何かが見えてくるかもしれないと考え、ヅーは改めて事件の初日から見直すことにした。
書類の山から引っ張り出したのは、シュール・ディンケラッカーとデミタスの資料だった。

この二人以外にも、極悪という意味ではエリートたちがセカンドロック刑務所には揃っていた。
それでもあえてこの二人を選んだのには、理由がありそうだ。
二人の共通点を探すのではなく、二人が他よりも優れている点を調べる。
書類に記載されているのは児童誘拐と窃盗に長けた二人の犯罪歴で、その生い立ちから逮捕までの流れが簡単に載っている。

他の囚人たちとは異なり、殺人や強盗、強姦や脅迫ではないのがポイントと言える。
こうして改めて書類を見ると、二人が何かを盗むことに特化しているのが共通点として分かる。
つまり、ショボンは何かを盗ませたかったのかもしれない。
秘密裏に盗ませようとして失敗したと考えられる。

では、何を盗もうとしたのか。
盗みに失敗したとして、何故人を追い回す必要があるのか。
その人物が何かを持っているから、としか考えられない。
危険を冒してまで追うという事は、物である可能性が低い。

手に取って盗めるような物ならばどこかに隠されればそれまでであり、追う必要があるとしたら移動を続ける人間ぐらいだろう。
しばらく考え込み、どうして自分がもう一つのスタート地点に目を向けなかったのかと自責した。
カーチェイスを繰り広げた今日の朝一時ごろ、バイクとSUVが現れたのは森の中からだった。
わざわざ逃げる途中で山中に逃げ込んだのではなく、最初から山にいたのだ。

250名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:43:10 ID:m/DZJGrM0
その正確な場所を知るのはライダーを追いかけていたSUVの乗員、つまり現在尋問の真っただ中にあるケイティ・グラハムという男がそのカギを握っている。
書類の山に埋もれていた無線機を取り、尋問室に繋ぐ。
捜査本部として選ばれたこのカナリア・ホテルには内線電話があったが、盗聴を恐れてヅーは軍から暗号無線機を借りていた。

瓜//-゚)「ケイティを私の部屋に連れてきてください。 今すぐに」

無線に応じた男は少し狼狽えたが、三分以内に連れてくると返答した。
机上を整理しようとはせず、ヅーはケイティを待った。
訊くべきことは二つ。
何を依頼されたのか、そしてどこにいたのか、だ。

規則正しいリズムでノックがあり、扉に向かってヅーは入るよう短く言葉を投げかけた。
開いた扉から現れたのは、彼の生みの親でも判別がつかない程に顔が変わったケイティと手錠につながる縄を握った私服警官だった。
包帯などの手当てがされていることから、恐らく話すことの出来る全ての情報を出したのだろう。
もっと早い段階で話していれば暴力は使用せずに済んだというのに。

瓜//-゚)「……単刀直入に訊きます、いいですか」

万年筆のキャンプを外し、メモ用紙の上で構える。
これから男が話す全ての情報はヅーが書き記し、活用するという表明だ。
それを見て、ケイティを連れてきた警官は縄を握ったまま、部屋の端に移動した。

(::#:-:#::)「……ふぁい」

見るも無残な姿には、初めの頃のような威勢の良さは微塵も残っていない。
プライドを持つのであれば、それに相応しい実力が備わっていなければ意味がないことをよく理解できたことだろう。
口の中に脱脂綿が詰められているような声の男に、ヅーは二つの質問をした。

251名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:47:18 ID:m/DZJGrM0
瓜//-゚)「深夜にカーチェイスをしていた相手について、貴方はどのような命令を受けていましたか?
     そして、その相手がいた場所について正確な位置を話してください。
     そうすれば、貴方の家族には悪くない対応をします」

(::#:-:#::)「相手は二人組の女で、耳付きの雄ガキが一匹……
      場所はスワンソングキャンプ場から北西に進んだところ……
      殺せと……殺せと言われて、俺たちは……」

これだけ有益な情報が残されているのに、それは一つとしてヅーの下に資料として提出されていなかった。
怒りはメモを走らせる万年筆の筆先から滲み出ることもなく、静かに積もった。
意図的なのか、それとも偶発的なのか。
積もらせた怒りの発散についてはそれからだ。

瓜//-゚)「結構。 人相や名前は?」

(::#:-:#::)「顔は分からねぇ……名前は……確か……」

一呼吸おいてから男が口にした言葉は、はっきりとした発音ではなかったが、聞き間違えることはなかった。

(::#:-:#::)「デレシア、だ……」

万年筆が、ヅーの手の中で折れた。
インクが黒い血のように机の上に広がり、書類を染め上げる。
ケイティは怯えて後退るが、ヅーの視線は射竦めるようにしてそれを逃さない。

瓜//-゚)「その名前、間違いありませんか?」

(::#:-:#::)「あ、あぁ……本当だ……嘘じゃない」

252名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:52:31 ID:zZdSJOgM0
支援

253名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:53:00 ID:m/DZJGrM0
どうやら、事態はヅーが想像している以上に複雑なようだ。
先のジュスティアで行われた会議で取り上げられた名前は、限られた人間だけが知るはずの名前。
ジュスティアがその歴史の中で最も隠し通したい事件の中心人物であり、ジュスティアの天敵として記録されている女性。
それがデレシアという存在なのだ。

しかしそれは、歴史の影で語り継がれるジュスティアの汚点。
経過した年月を考えれば、現代にデレシアなる人物が存在するはずはないのだ。
デレシアを名乗る何者かをショボンが追っているだけか、適当な名前をでっち上げたのだろう。

瓜//-゚)「スワンソングキャンプ場への行き方は?」

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重武装した兵士を乗せた多目的装輪車――ハンヴィー――が一両用意され、ヅーはその後部座席に乗り込んだ。
彼女自身も強化外骨格――“棺桶”――を持ち出し、戦闘に備えて大口径のライフルと弾を用意していた。
太腿の骨は折られ、ろっ骨にひびが入り、鼻の骨も折れているが、戦う意思は健在だった。
棺桶があれば、折れた足でも走ることが出来る。

254名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 22:00:54 ID:m/DZJGrM0
それに、自分自身の目で現場を確認しなければ気が済まない。
真実がどうであれ、証拠が数多く残されている確率が高い場所に足を運んでも損はない。
書類仕事はもう十分だ。
自ら設定したタイムリミットまで、後一日と二十三時間。

役立つものは全て使い、どうにか進展を図らなければ解決は夢と散る。
折れた足を気にするぐらいでは、捜査は進展しない。
あのトラギコは足を撃たれても平気で捜査を強行し、良くも悪くも確実に事態を流動的な物にしている。
敵味方問わずに予想外の行動に出る癖さえなければ、もっといい状況になっていただろう。

今はそれに倣い、ヅーも自らの足を使って情報収集に向かう時だ。
顔の半分を包帯に巻かれていても、その信念は揺るがない。
指示を受けた運転手は、無駄なお喋りをすることなく車を走らせた。
山道を難なく走る途中、ヅーは路肩に原動機付自転車が止まっているのを見かけたが、何も思わなかった。

ほどなくして見えてきたキャンプ場入口と書かれた看板に従い、未舗装の脇道を進んで森の奥へと進んだ。
砂利を車輪が掻き鳴らす音が続く。
十数分が経過した頃、ようやくキャンプ場の入り口が見えてきた。
同時に、ハイビームのライトが照らしたのは横転した小型のアメリカンバイクとその手前に落ちた赤黒い塊だった。

一見すれば投棄されたのよう肉塊だが、よく観察すればそれが服を身に纏った人間の死体であることに気が付く。
野生動物に食い荒らされた死体の手前で停車し、すぐに両脇のドアからライフルを構えた部下が安全確認を行う。
周囲の茂みにフラッシュライトの白光を浴びせ、不審な物や脅威がないかを警戒する。
その間に助手席から“赤の男爵”スズキ・レッドバロンが降車し、死体の状態を調べ始めた。

彼は署内でもバイクに関して随一の知識を持っており、ヅーが目撃したツアラーバイクにつながる情報を手に入れられると思い、今回同伴させていた。
勿論、知識だけではなく彼の戦闘能力も込みでの判断だ。
厳しい訓練と試験を突破し、彼は対テロリストの特殊部隊において前線で戦い、多くの功績を上げた実力者である。
四十代の風格にアクセントを添える特徴的な泥鰌髭を蓄える彼は髭をしごきつつ死体を観察し、ヘルメットを押さえながらヅーの元へと駆け寄り、報告した。

255名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 22:04:55 ID:m/DZJGrM0
(【゚八゚】「状態が酷いですが、これは射殺体です。
     死後半日以上経過している上に食い荒らされているので、詳しい時間までは分かりませんが」

入り口の直前で射殺された死体とその経緯についても、後で聞けばいい。

瓜//-゚)「ケイティのモーターサイクル・ギャングでしょう。
     昨晩、ここで戦闘があったと考えれば自然です。
     先を急ぎます」

木っ端の死体が出てきたところで、この場所ならば何かしらの成果が得られるだろうという自信が出てきた。
周囲の警戒をしていた男たちは車両の警護へとその役割を変え、三人の男達が随伴としてハンヴィーと共に前進する。
背の高い木々に囲まれた森は暗く、ライトがなければ木々の輪郭さえ認識するのは困難だ。
月明りと宝石箱をぶちまけた様な夜空は辛うじて細い木の枝や葉を黒い影として見せてくれるが、それはあくまでも空と木が重なった時だけ。

依然として続く道を進み、一行は開けた場所に到着した。
人工的に切り開かれた森の先に広がる一ヘクタールはあろうかという平野。
下草は綺麗に刈り取られ、平らに均された地面には小石が僅かに転がっているだけで、小高い丘に丸太で作られた階段が申し訳なさ程度に設置されている。
丘の上には明滅を繰り返す薄暗い蛍光灯に照らされた屋根付きの炊事場があり、テントサイトには十数張りの小型ドームテントが設営されている。

薄汚れた簡易トイレもよく見られる物で、何か特筆した物があるわけでもなく、山奥のフリーキャンプ場以上でも以下でもなかった。
妙なのは人の話し声は何も聞こえず、気配すらなく不気味なまでに静まり返った空間が広がっている事だ。
この時期ならツーリングに訪れた人間がいてもおかしくないが、射殺体が見つかった事を考えれば、皆逃げたのだと察しが付く。
その割には通報がないのが妙だ。

最悪の事態――観光客が皆殺しにされた可能性――を想定し、ヅーは車を止めさせた。
再びレッドバロンたちが周囲の捜索を念入りに行う。
テント一つ一つを見て周り、無線機から報告があった。

(【゚八゚】『もぬけの殻です。 誰もいません。
     争った跡はありませんが、作りかけの食事があるので急いで飛び出していったような状態です』

256名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 22:10:07 ID:m/DZJGrM0
客は全員逃げた、という事だ。
ではどのタイミングで先ほどの男は殺されたのだろうか。
利用客が殺したのであれば確実に争いの跡は残るのだが、それは後で尋問してケイティに訊くのが一番早い。
彼自身が言っていた通り、デレシアたちはここから北西に進んだ場所とのこと。

無線機を使い、哨戒中の三人にそれを伝える。
三人は一度ハンヴィーに戻り棺桶を背負い、口々に起動コードを入力した。

『そして願わくは、朽ち果て潰えたこの名も無き躰が、国家の礎とならん事を』

傑作量産機ジョン・ドゥ達は沈黙を保ち、森の奥へと足を進める。
その後ろからハンヴィーが続き、林道が続くと流石に下車せざるを得なかった。
車内で待つことも出来るが、ヅーは自らの目で見て判断する必要があると感じていたため、自らの棺桶を装着することで怪我の問題を解決することにした。
扉に手を添えて体を支えながら、起動コードを口にする。

瓜//-゚)『自由を求めるのだろうが、そんなものはどこにもない』

コンテナ内に取り込まれるとすぐに強化外骨格が全身を包み、そして解放される。
脚を折ったとは思えない程軽快に動けるよう筋力補助装置が作動し、事実上、ヅーは片足だけで立って歩行することが可能となっていた。
今回、ヅーの強化外骨格“イージー・ライダー”には回収を施してあった。
舗装された道を走破することを前提に設計されたタイヤをオフロード仕様の物に交換し、プログラムを荒地に設定した。

これで山道を高速で駆け抜けることが出来る。

(::[ Y])『ここで待機していてください。 何かあれば無線機を使うように』

( ''づ)「了解です」

257名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 22:15:01 ID:m/DZJGrM0
脚部の車輪を使う事で足にかかる負荷を軽減させ、部下を先頭にすることで自分自身の負担を軽くしながらヅーは森の中に分け入った。
周囲の光源の量を感知したカメラが自動で切り替わり、熱源を可視化する赤外線暗視モードになった。
赤い映像として野生動物や高温の何かが青黒い森に浮かび上がる。
暗い色をした木を避けつつ、バランサーの稼働状況が良好であることを確かめた。

山道が危険と言われる所以は、その足元の不安定さにある。
段差の有無だけでなく、その性質が場所によってまるで異なるためだ。
湿った場所、乾いた場所、落ち葉の積もった場所、岩だらけの場所、水のたまった場所などその種類は千差万別。
棺桶に内蔵された戦闘環境情報は非常に豊富だが、その入力と各部位の調節はアナログに頼る部分が大きい。

戦闘中の環境変化に応じて全身の微調節を行うには、高性能な処理装置や強固な部品と対応したパーツが必要になる。
無論、量産型の棺桶にそのような機能は備わっていない。
激しい戦闘下での使用が大前提となる棺桶に求められている物を考えれば、開発段階でその機能が省かれた理由は想像に難くない。
木を掴みながら斜面を下ると、最前列を歩く男がライフルに付いた赤外線ポインターを使って十数フィート先に広がる平らな地点を示した。

そこにあったのは、キャンプの跡だった。
わざわざ設備の整ったテントサイトから離れて森の中に設営するなど、明らかに普通ではない。
そしてそれを裏付けるようにして、テントの周辺に転がる肉塊とオフロードバイクの残骸をセンサーが捉えた。
人間の形をしていた肉の塊は動物に食われ、目玉を失い、内臓が引き摺り出されている。

が、彼らは幸いだっただろう。
それぞれ差はあるが彼らは別の攻撃によって命を奪われており、生きたまま食われるという恐ろしい経験をせずに済んだのだから。
銃創、切創はいずれも急所に対して当てられている。
また、地面に転がる真鍮製の薬莢の多さに思わず驚く。

形を見ると拳銃のそれが僅か、ほとんどがライフルの物だった。
これを全て拾って調べる気にもなれず、その必要性も感じなかった。
死体を部下に任せ、ヅーはテント周辺に有益な情報を秘めた証拠品を探し始める。
小さな焚火の跡、つい先ほどまで使っていたかのように整然と地面に並ぶ食器類。

258名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 22:21:46 ID:m/DZJGrM0
テントの中には銀マットとシュラフが広げられており、争いがあったとは思えない程に整っている。
しかし死体と薬莢があればここが戦場と化したのは紛れもない事実であり、実行犯として濃厚なのがヅーの前に現れたバイクの乗り手だ。
地面に残されていたタイヤの跡は風で消えてしまい、改めて追うのは不可能だろう。
更に見つけたのが、四輪車が強引に走ったと思われる轍だった。

草が倒れ、背の低い木が折れていることからそれは間違いない。
現場は紛れもなくこの場所だ。
デレシアに通じる情報を得れば、ショボンが追っている人物の正体が分かる。
そうすれば、今後マークするべきはその人物という事になる。

警察の捜査網を駆使すれば足取りを掴むことなど造作もない。
アサピーよりも効果のある生餌を手に入れれば、後は先手を打ってショボンに対抗が出来るのだ。
さりとて、証拠が見つからなければ生餌を獲得するどころではない。
念入りに調べる必要があった。

(::[ Y])『このキャンプに証拠がなければ撤収――』

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『――ロックオンされた!!』

レッドバロンの声とイージー・ライダーのセンサーがロックオン警報を鳴らすのは同時だった。
ロックオン警報が示すのは紛れもない敵意と明確な殺意だ。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『エイムサポート、オン!!』

自動で照準を合わせるためのシステムを起動した途端、銃口がキャンプサイトの方に向けられた。
夜空を背にして現れたのは、白い装甲の強化外骨格五体だった。
その形状はレッドバロンたちのそれと同じで、ジョン・ドゥだ。
大きく異なるのはカラーリングだ。

259名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 22:27:16 ID:m/DZJGrM0
純白の装甲に描かれた金色の木のイラスト。
悪趣味ここに極まれり、といったところだ。
対戦車砲の砲口がこちらを向いている。
防御が間に合えばその直撃にもある程度は耐えられるが、当たり所が悪ければジョン・ドゥと言っても無事では済まない。

〔欒゚[::|::]゚〕『今すぐ棺桶を捨てろ!!
      お前らの仲間が死ぬぞ!!』

見張りに残していた男の事を言っているのだろう。
暴力に屈しない。
これは警察のみならず、ジュスティア全体の認識だ。
つまり、人質になった場合は救助を期待してはいけないのだ。

レッドバロンはそれを知っているし、人質になっている部下も同様に心得ている。
下す判断と決断に揺るぎはなく、直後にレッドバロンたちが起こした行動は正解だった。
ライフルが火を噴き、銃弾が白いジョン・ドゥに吸い込まれていく。
ジョン・ドゥは後退しつつ、対戦車砲を発射してきた。

円錐形の発射物は吹き上げる風にあおられ、木に直撃した。
ジョン・ドゥ本体がその力でロックオンすることは可能だが、武器に追尾機能が付いていなければほぼ意味がない。
エイムサポートと大差のない機能で、自分が狙うべき敵を正確に捉えてそこに銃弾を撃ち込むための機能。
使うと使わないとでは射撃性能に大きな差が出るが、そこには当然、使用者の腕も関わってくる。

爆風に吹き飛ばされないようにしながら、ヅーは木の倒れる方向を確認して指示を出す。
位置関係の有利さを捨てただけでなく、武器と兵器の特性を理解していない人間など、いちいち相手をしていられない。
強化外骨格の回収だけで十分だ。

(::[ Y])『レッドバロン、彼らを追ってください。 モーターサイクル・ギャングの残党なら、生け捕りの必要はありません。
    残り二人はそのサポートに。 私はここで捜査を続けています』

260名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 22:32:44 ID:m/DZJGrM0
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自分がいる森がそう広くないことを、アサピー・ポストマンは理解していた。
ひたすら南に向かって――海の香りのする方角に――歩いて行けば、自ずと街に出られる。
つまり、遭難するという事はないのだ。
が。

人探しをしながらとなると、森は途端にその姿を変える。
ハイキングに訪れる高山と宝探しに挑む高山とで異なるように、森は今、巨大な迷路と化していた。
第一の障害として視界が制限され、第二に足元が悪い、第三に音が入り乱れ、第四に匂いも混ざっているというハンデがある。
そして第五の障壁としてアサピーを苦しめているのが、見えないゴールの存在だった。

トラギコ・マウンテンライトが逃げ込んだと推測される森の中で遭遇するには、確固たる証拠がなければならない。
ゴールの位置が分からなければ、迷路は終わることがないのだ。

(;-@∀@)「トラギコさーん、おーい」

十分おきに声を出して自らを鼓舞しつつトラギコに呼びかけるのと同時に、夜行性の動物に対する威嚇を行っている。
水も持たずに来たものだから喉が渇き始め、額に浮かぶ汗はその量を増していた。
涼しげな風がせめてもの救いだが、最良の救いはトラギコとの合流に他ならない。

261名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 22:37:45 ID:m/DZJGrM0
(;-@∀@)「トラギコさーん、迎えに来ましたよー」

別の意味の迎えにならなければいいのだが、と心中で皮肉を呟く。
いくら叫んだところで、反応はない。
その時、反響した破裂音と爆発音が聞こえた。
花火ではない。

散発的に続くその音は森と山に響き渡り、どこから聞こえているのか分からない。
争いの音に驚いた理由は二つ。
単純に争いが起こったという事実と、その対象が自分ではないという事。
つまり、誰かがどこかで戦っているという事だ。

トラギコの可能性もあり得る。
緊張感に背を押されながら、アサピーは歩く速度を変えて街を目指すことにした。
今ここで夜明けまで探すのも選択肢の一つだが、街を目指す手もある。
街に出て乗り物を調達し、改めてこの森に戻るのだ。

希望的観測よりも現実的な観測だ。

(;-@∀@)「とーらーぎーこーさーん!!」

声は虚しく響く。
はずだった。

「うるっせぇな」

その声は背後から聞こえた。
最早聞き慣れ、そして切望していた声だ。
獣を思わせる低い声、剣呑さを含みつつも独自の信念がちらつく明瞭な声。
顔だけを恐る恐る後ろに向けると、期待した通りの男がいた。

262名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 22:41:49 ID:m/DZJGrM0
雲から漏れた月明りが森に幻想的な光を与え、その木漏れ日に照らされるようにして現れたのは右の頬に二本の傷を持つ男。
手持ちのライトで詳細に照らし出すまでもない。

(=゚д゚)「ゆっくりオーバーナイト・ハイキングも出来やしねぇラギ」

片足を引きずりながら現れたトラギコの姿を見たアサピーは喜びのあまり抱き付きそうになったが、変装したショボンの可能性を考えて一歩退いた。
彼の変装技術を見破るのは容易ではない。
前は放つ雰囲気で察することが出来たが、それを警戒して雰囲気まで真似されたら対処しようがない。

(;-@∀@)「ほ、本物ですか?」

(=゚д゚)「あぁ、本物だよ」

偽物だとしても、同じことを言う。
本物との判別をするには、何かの証拠が必要になる。
喜びで盲目になって死ぬなど、まっぴらごめんだ。

(;-@∀@)「証拠はどこにあるので?」

(=゚д゚)「あ? うるせぇな。 俺を探しに来たんじゃねぇのかよ。
    第一、手前が本物だって証拠はあるのか?
    まぁいい、何か質問してみるといいラギ」

この物言い、何か違和感を覚えてしまう。
本質的に変化はないのだろうが、少しだけ棘がなくなったような、そんな気がする。

(;-@∀@)「ぼ、ぼくが公の場でトラギコさんを呼ぶ時は何と呼べばいいのでしたか?」

面倒くさそうに溜息を吐き、トラギコは答えた。

263名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 22:46:11 ID:m/DZJGrM0
(=゚д゚)「トライダガー、だ。
    で、わざわざ俺を探しに来たってことは何かあったのか?」

少し警戒しつつ、アサピーはトラギコに近寄る。
服は汚れ、真新しい擦り傷や切り傷、打撲の痕が痛々しい。
ようやく警戒を解いたアサピーは二人で木の根に座り、これまでに自分が経験したこと、調べて分かったことを全て伝えた。
話を聞く間、トラギコは一切メモを取らなかった。

以前話していた通りだった。
彼はメモを取らない。
ショボンたちに狙われ、マニーの配慮でここに来ることが出来たと伝えても、トラギコは眉一つ動かさなかった。
ここまで情報を提供した上で、アサピーは肝心要の話に移ることにした。

(-@∀@)「一つ、教えてほしいことがあります」

無言でトラギコが続きを促す。

(-@∀@)「鐘の音に紛れさせて狙撃を行うという事は可能なのですか?」

これまでに起こった事件。
それとほぼ同時に起こっていた、狙撃。
カール・クリンプトン、そしてアサピー自身が経験した狙撃は全て鐘の音が関係していた。

(=゚д゚)「あぁ、可能ラギ。 俺が担当した事件じゃねぇが、そういう馬鹿たれがいたラギ。
    毎日決まった時間に教会の鐘が鳴るのに合わせて人殺しを楽しんだ奴ラギ。
    ……狙撃手の位置が分かったラギね?」

(-@∀@)「えぇ、その位置も銃火で目視しました。 狙撃手はグレート・ベルにいます。
      グレート・ベルにいれば鐘を鳴らせるし、街のほとんどが見下ろせますから」

264名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 22:52:37 ID:m/DZJGrM0
(=゚д゚)「いい読みだが、あと一歩ラギね。 狙撃に関わらず、事件を起こす時にはだいたい鐘の音が関わってるラギ。
    事件発生を悟られにくくする、いわば消臭みたいなものラギ」

トラギコもトラギコで、アサピーと同じことに気付いていたようだ。
ならば、ショボンの組織に属する人間がグレート・ベルに陣取っているのはほぼ確実だ。
つい最近のトラギコならば、今すぐにでも乗り込んで――

(=゚д゚)「分かってるなら話が早いラギ。 絶対にあそこに乗り込むな」

(;-@∀@)「え」

(=゚д゚)「え、じゃねぇ。 狙撃手を捕まえるなり殺そうと思っても、グレート・ベルに行くなって言ってるラギ」

(;-@∀@)「そりゃまた、どうしたわけで?」

トラギコの様子がおかしい。
アサピーの知る限り、トラギコは目の前に転がる真実の断片でも貪欲に貪るはずだ。
まさか、このトラギコは偽物なのだろうか。

(=゚д゚)「勘違いするなよ、別に日和ったわけじゃねぇ。
    そこにいる奴の正体に見当が付いてるから言ってるラギ」

(;-@∀@)「見当が付いてる……?!」

(=゚д゚)「あぁ、だからこそだ。 ここで手を出しても美味くねぇ。
    今は寝かせておく。 そして喰う。 酒と同じラギ。
    そのためにも、お前に協力してもらうラギよ。 手を貸してくれるラギね?」

265名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 22:57:40 ID:m/DZJGrM0
狙撃手の正体やトラギコの言う寝かせる、の意味が分からないかった。
だがしかし、情報を全て手に入れた上でトラギコが判断するのであればアサピーの返答は決まっている。
トラギコの出した答えに従うだけだ。
覚悟は済ませておいたはずだ。

(-@∀@)「勿論、協力しますよ。
      で、僕は何をすればよろしいので?」

(=゚д゚)「望遠レンズは持ってるよな?」

(-@∀@)「自分のもありますが、新聞社にならすんごいのがありますよ。
      それこそ天体観測できそうなやつが」

レンズは望遠の距離が長くなれば長くなるほど、更に性能が高くなるほどにその大きさと重量が増す。
オメガ社のレンズもいいが、アサピーは長い間愛用しているニッコール社製のレンズが好みだった。
無駄のないデザインと扱いやすさ、そして頑丈さは同社が生産しているカメラと同様に信頼性が高い。
会社にあるのは一キロ先にいる人間を綺麗に映し出せる代物だ。

(=゚д゚)「なら、今から会社に行くラギよ。 お前は狙撃手の顔を撮影しろ。
    ただし、気付かれないように遠距離からだ」

(;-@∀@)「そんな無茶な!!」

思わず声を荒げてしまったのは無理もない。
遠距離から対象物を撮影する際には技術が要求される。
最も大変な作業として挙げられるのが、対象物の行動速度だ。
フォーカスを手動で合わせるのはいいとしても、対象が動いてしまえばそれだけでずれてしまう。

266名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 23:05:59 ID:m/DZJGrM0
何よりも恐ろしいのがカメラのブレだ。
どこかに拠点を設け、三脚を設置するのであれば話は変わるが、そうでないのならばかなりの集中力と慣れが必要になる。
シャッターを切るその瞬間に一切カメラをぶれさせず、かつ対象を捉え続ける技量。
これらは全て、実践の場においてのみ習得することの出来る物だ。

望遠レンズを使った撮影は野生動物や有名人の撮影にしか使われない。
つまり、対象に悟られない距離からの撮影を前提にしている。
今回は違う。
狙撃手に悟られる可能性は非常に高く、悟られたら撃たれるのだ。

絶対に悟られない距離。
つまり射程外からの高解像度での撮影。
それに使うためのレンズは一択。
天体撮影用の超望遠レンズだ。

(;-@∀@)「狙撃手の腕は知りませんが、これまでの経緯を考えると1.3マイル圏内は射程内ですよ!!
      それ以上の距離から悟られないようにするって言ったら――」

(=゚д゚)「3マイルは必要ラギ。 で、それがどうした?」

これが日中ならばいい。
しかし今は夜。
街に着くのが遅れたとしても、撮影が始まるのは遅くても明け方の四時だ。
まだ暗い時間帯である。

となれば露光時間の問題が生まれる。
足りない光源を補うと、更に手振れの問題が増加する。
有線式のシャッタースイッチがなければ、これは非常に難しい撮影となる。
天体は地球の自転に合わせてカメラを自動で動かすための装置があるため、そこまで難しくはない。

267名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 23:11:47 ID:m/DZJGrM0
生物は別だ。
完全に別なのだ。
予測の出来ない動き、予想の出来ない行動。
それがあるからこそ、パパラッチは望遠レンズをある程度の距離に収めているのだ。

超望遠レンズはその重量から三脚を使わなければならない。
アサピーの手元にはない、二つの道具が必要になる。
超望遠レンズと有線式シャッタースイッチだ。

(;-@∀@)「……道具を手に入れなければ無理ですよ」

(=゚д゚)「何が必要なんだ?」

(;-@∀@)「レンズとリモコンです。
      それも、新聞社にないようなレンズです。
      天体を撮るようなレンズなんですが、値段が七万ドル以上するんです」

七万ドルを一度に手に入れるとなると、それこそ金庫をこじ開けるしかない。
丁度支社には誰もいないから不可能ではないだろう。
流石に値段を聞いたトラギコも目を丸くして驚き、呆れたように訊き返した。

(;=゚д゚)「お前、俺をおちょくってるラギか? たかがレンズに七万ドル?
    車が二台、下手すりゃ家が買えるラギ」

(;-@∀@)「真面目ですよ!! この島に売っているのかどうかさえ怪しいレンズです。
      まず夜って時点でも厳しいんですよ!!
      これ以外の望遠レンズを使って顔を撮るなら、どうしたって射程圏内に行かないと」

(=゚д゚)「じゃあそれで行くラギ」

268名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 23:20:22 ID:m/DZJGrM0
(;-@∀@)「はい?」

(=゚д゚)「お前は耳が悪いのか? 射程圏内に入るってんだよ。 それで撮ればいい。
    七万ドルなんて大金揃えても物が売ってなけりゃ意味がねぇ、そうだろ?
    お前が頑張れば全て解決ラギ」

簡単に言うが、アサピーは断じて戦場カメラマンではない。
戦場カメラマンとパパラッチが異なるように、新聞記者と戦場カメラマンは全く性質が異なる。
撮るべき写真の種類が違うのだ。
戦場カメラマンが求められるのは衝撃的かつシンプルな写真であり、それ一枚が秘めた威力にこそ価値がある。

銃弾飛び交う戦場で撮影された写真はピントが合う事の方が珍しく、それでもピントを合わせられた写真が傑作として世に知れ渡る。
命がけの一枚。
そのような写真の撮影の経験はないし、そこに付け加えられるのが鮮明な写真。
狙撃手の顔を写真に捉えるという事は、狙撃手もアサピーを照準器に捉えられるという事だ。

(=゚д゚)「俺も手伝ってやるからよ」

(;-@∀@)「手伝うって、何を?」

(=゚д゚)「そりゃお前、囮に決まってるだろ」

(;-@∀@)「いやいやいや、それは駄目ですよ!!」

(=゚д゚)「黙れよ。 いいか、俺が囮になれば奴は必ず撃ってくる。
    その瞬間を撮れ。 チャンスは一度、そして一瞬だ。
    言っておくが、殺されるつもりはねぇラギよ」

269名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 23:22:51 ID:m/DZJGrM0
事故の時に頭を打ったに違いないと、アサピーは確信した。
これはトラギコであってトラギコでない。
棘はなくなるし、妙に物わかりがいいかと思ったら恐ろしい提案をしてくる。
どこかのネジが外れているに違いない。

(;-@∀@)「そ、その前にトラギコさん」

(=゚д゚)「あ?」

(;-@∀@)「頭の病院、行きません?」

直後、アサピーは星を見た。
青白い星が目の前で花火のように散り、目の前の影や人の像が歪む。
頭を押さえてアサピーはうずくまる。

(#=゚д゚)「いきなり失礼な奴ラギね。
     その前に手前を病院送りにしてやろうか?!」

(;-@∀@)「うごご……」

(=゚д゚)「俺ぁな、この歯糞みてぇな事件を終わらせてさっさと次に行かなきゃならねぇんだよ。
    協力しろ、アサピー」

(;-@∀@)「そりゃ、協力しますけど……」

言いかけたアサピーの頬を掴んで自分に顔を向けさせたトラギコは、額がぶつかるほど近くに顔を寄せた。
視線と視線を合わせ、声を潜めて断言する。

270名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 23:28:28 ID:m/DZJGrM0
(=゚д゚)「詳しくは教えてやれねぇけどな、いいことおせぇてやるよ。
    ……この事件、俺たちが思っている以上のヤバさだ。
    下手すりゃ世界がひっくり返るような大きさだ。
    どうだ、ワクワクするだろ? なら、四の五の言わずに手を貸せ」

幾多の事件を解決してきたトラギコが言う、巨大な事件の一端を意味する言葉。
不謹慎ではあるが、興奮しないはずがない。
人は誰でも巨大な何かの正体を知りたがるものだ。
巨獣の骨が見つかればその全身を、美女の指を見ればその全貌を。

ましてや、それに関わることが出来るとなればこれは乗らない手はない。
躊躇う必要はない。
トラギコが自ら申し出てくれるのであれば、それに乗るだけだ。
情報を提供した上で判断を委ね、それに従う。

そう決めたのは自分だ。
大事の前の小事には目をつむる。

(;-@∀@)「えぇ、協力しますよ、勿論!!」

(=゚д゚)「心変りが早くて嬉しいが、情緒不安定なのだけは勘弁しろよ。
    それと、分かってるとは思うがこの事件についてはまだ報道するな。
    余計なことを報道して相手に隠れられると困る。 それ故に誰にも教えるな。
    出来る限り生きた状態を保って、気付いていないふりをし続け、そして最後に噛み付く。 狩りと同じラギ。 その点も協力してくれよ?」

返事は同じ。
従うだけ。
そう。
この男は“虎”。

271名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 23:31:54 ID:m/DZJGrM0
彼となら、夜の森さえ恐怖するに足らないのである。
それから二人は、街の明かりが見えるまで無言のまま森を突き進んだ。
森の出口は街の外れにある工場地帯に続いていた。
すでに炉の火は落とされ、稼働している工場は一つもない。

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 ∠三 ィ-ィ^ヘィニニニィ^ヘヲ´ ̄`ゝ-ァ=く--ィ i :::::::::┌─┐l<| ̄Li==ニ--L:r,-,-,-「
ヘf:ェェェ:iiiii  i i i iiiiii三 iiiiiiiiiiiiiiiiiiiイ ─ | | ィ |=ェェィ├─┤:: |        |-|r -ュ n
ニニニニニニl小ニニニニニニニニニニニニニl ||i⌒「i i r , - ァ -,-、-、ii円_   r‐┬‐┤:!TTEリ !
    r‐:‐、田  口 ニニ介 _r r ュ ュ |||  H i//_/_/_i__ヽi ∞ r r rnr |..::::::::::::::::
 r二三二> ァ _ _ _ _ _ _ n  cno_!_n__rュ∞_n_n_n_  _ T_ ハ|.qp......:::::::::::::i::::::
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二人が出てきたのはそんな工場の内の一つで、ドラム缶があちらこちらに置かれている駐車場だった。
古びて薄汚れたワゴン車が数台停まっている。
スライドドアにロゴらしきものがプリントされているのを見るに、社用車だろう。

(=゚д゚)「よっしゃ、車を借りるラギ」

(-@∀@)「お知り合いがいるので?」

警察手帳一枚あれば高級ホテルのディナーの会計から、車の徴用まで幅広く行える。
一度その威力を知った人間は以降、同じ人物に対しては手帳なしで協力するものだ。
この小さな島の工場にもトラギコの影響が及んでいると考えると、少し感動してしまう。

272名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 23:35:06 ID:m/DZJGrM0
(=゚д゚)「いねーよ。 借りるって言ったろ?
    それに、こんな時間にどうやって貸してくれって言うんだよ」

愚かなのはアサピーであるかのような言い草だ。

(;-@∀@)「ちょっ、盗るつもりですか?! 警官でしょ!!」

(=゚д゚)「“俺”が借りるなんて一度でも言ったラギか?」

(;-@∀@)「でも、さすがに……それは……」

どのような理由があれ、窃盗は犯罪だ。
警察の息がかかった街でなくとも、窃盗を許容する街は世界でも一つしかない。
盗賊ギルドの本拠地、“セフトート”だけである。

(=゚д゚)「あぁ、警官が盗るのはまずいって言いたいんだろ?
    だから、お前がやれ」

そう言って渡されたのは金属製の棒が二本。
先端が曲がって鉤状になっているそれは、一目で目的の分かる物だった。

(;-@∀@)「そんな道具使えませんよ!!」

(=゚д゚)「そう怒鳴るなよ。 いいか、やり方なら教えてやるから」

(;-@∀@)「ならトラギコさんがやってください、このことは言いませんから」

(=゚д゚)「そうもいかねぇラギ。 ここでやり方覚えておかねぇと、後で必要な時に動けねぇだろ」

273名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 23:38:24 ID:m/DZJGrM0
確かに、ピッキングの方法が分かれば後々の生活――例え職と家を失ったとしても――に役立つだろう。
トラギコが自分に求めているのは、優秀な相棒としての成長なのだろう。
それに答えることが出来れば、自分のためにもなるが間違いなく人としての道を外れることになる。

(;-@∀@)「やっぱり、犯罪は……」

(=゚д゚)「今さら綺麗ごと言ってんじゃねぇラギ」

(;-@∀@)「それに、僕が車を盗ったらそれをネタに酷いことするんじゃないですか?」

(;=゚д゚)「変な本の読みすぎラギ。 ネタにしてゆするならもう少しまともな奴にするラギ。
    いいか、この事件が終わってからもお前には色々と動いてもらいたいラギ。
    そのためには今のままじゃ駄目ラギ。
    お前は真実とやらのためには割と何でも出来る奴だと思ってたんだが、見込み違いラギか?」

トラギコの人心掌握術は最悪だ。
人を褒めることもなければ煽てることもない。
その代りにトラギコは全てに正直であり、真っ向から言葉を発する。
それに惹かれた人間はそう簡単にトラギコから離れられない。

アサピーもそんな人間の一人なのだと、強く実感した。
巻き込まれることに対して嫌に感じることもあるが、それでも迷惑だとは思わない。
逆に、もっとトラギコと共に行動したいと思わずにはいられないのだ。

(-@∀@)「分かりましたよ、やりますよ。
      で、どうすればいいんですか?」

(=゚д゚)「車の錠ってのは案外簡単ラギ。 ピンシリンダータイプだからなおさらラギ。
    いいか、まずは……」

274名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 23:42:06 ID:m/DZJGrM0
それから五分間の講義を受け、アサピーは錠の仕組みを理解した。
物事と同じく、あるべき場所にあるべき物が収まれば動かすことが出来る。
渡された道具を使って鍵穴に差し込み、教えられたとおりに動かして回転させる。
驚くほどあっけなく鍵が開き、アサピーは自分が一つとんでもない技術を身につけてしまったことに身を震わせた。

何より、トラギコが知っているという事は、彼は実践したという事を意味している。
細かいことを気にしていたら話が進まない上に自分の中にある倫理観が崩壊する気がしたため、アサピーは考えるのを止めた。

(-@∀@)「で、エンジンをどうやって始動するので?」

(=゚д゚)「結局は電気系統の話ラギ、だから繋げてやれば言う事を聞く」

先ほどの道具をイグニッションキーの代わりに差し込み、捻る。
するとエンジンが目覚め、各種計器類が明るく輝きだした。

(=゚д゚)「運転は任せるラギ。
    まずはレンズを手に入れるラギ」

(-@∀@)「では、僕のアパートに」

(=゚д゚)「いいだろう。 それから少し休んで、今日の昼にやるラギ。
    ……暗いと、お前の都合が悪いんだろ?」

何気ない気遣いに驚く。
確かに昼の方が好条件だ。
急いで明け方に撮影する必要はないという事なのだろうが、それは相手の狙撃を成功させやすくなるという事だ。
最も都合が悪くなるのはトラギコなのだが、それでもかまわないのだろうか。

(-@∀@)「それは、そうですが……」

275名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 23:46:25 ID:m/DZJGrM0
(=゚д゚)「ならそれでいいじゃねぇか。 俺はお前がやりやすいようにしてやる。
    だけどな、ちゃんと結果を出せよ」

打算なく信頼されている事が嬉しかった。
これがトラギコの魅力なのだ。

(=゚д゚)「ほら、行くラギ。
    あのタコ助がこっちを見つける前に行動しないと駄目ラギよ」

目頭が熱くなったのはきっと、疲れているからだ。
一日の間に起きる物事の密度と回数が多すぎるためだ。
言葉を発することなく、アサピーはギアをバックに入れて静かにアクセルを踏んだ。
ワゴン車はゆっくりと工場地帯を走り抜け、市街地へと近づいていく。

徐々に浮かび上がってくる街の輪郭よりも目につくのは、当然――

(=゚д゚)「グレート・ベル、か」

(-@∀@)「そういえば、鐘に合わせて人を撃ったっていう事件。
      聞かせてもらってもいいですか?」

(=゚д゚)「面白くもねぇ話ラギ。 勉強のできる学生が人を殺すことに興味を持って、後は実験ラギ。
    鐘楼は“鳥の巣”って呼ばれるぐらい狙撃手にとっては好まれる場所ラギ。 見渡し良好、高さも立地も文句なし。
    犯行に及んだのは十九歳の男で、動機は人間が死ぬのが楽しいから、だったラギ。
    あまり知られていないのは、起こったのが“セントラス”だったからというのと、街の意向があったからラギ。

    死んだのは全部で二十一人。 逮捕されるまでの間、一か月間奴は撃ち続けた」

276名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 23:49:00 ID:m/DZJGrM0
宗教都市、セントラス。
十字教の本拠地であり、聖地でもある。
それほどの事件が公にならないのは、トラギコの言った通り、街の意向があったからこそだ。
セントラスには新聞社が一社だけある。

当然、宗教新聞だ。
モーニング・スター新聞社は支店を設けるどころか、その記事を持ち込むことさえ禁じられている。
閉ざされた街だが、もめごとやその解決は警察に任せている。

(-@∀@)「ですが、どうして銃声が鐘の音で聞こえなくなるのでしょうか?」

(=゚д゚)「細かい理屈は知らねぇが、まぁ同じ音だからな。
    届くまでの時間は同じラギ。
    と言っても、法則性があったからな。 所詮は素人ラギ。
    それに目撃者もいたラギ」

(-@∀@)「なるほどですね。 そういえばトラギコさん、目星がついているって言ってましたよね。
      一体どんな人物なんですか?」

(=゚д゚)「聳え立つ糞の固まりラギ」

黄色で点滅を繰り返す信号機が、街の入り口を教えてくれた。
静寂に包まれた夜明け前の街を訪れたワゴン車は細い道を通り、アサピーのアパート前に停車した。
二人はすぐに降りてアサピーの部屋に上がり込んだ。
特に何かを荒らされた形跡もなく、転がっていたはずの男達はすでに運び出された後だった。

(=゚д゚)「部屋のカーテンを全て閉めるラギ。
    グレート・ベルからこの部屋は一応死角だが、万一があるラギ」

(-@∀@)「分かりました。 カメラを準備して、後は食事でも?」

277名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 23:53:55 ID:m/DZJGrM0
(=゚д゚)「気が利くじゃねぇか。 だが凝る必要はねぇラギ。
    インスタント麺で十分ラギ」

買い置きのインスタント焼きそばが戸棚に入っていることを思い出したアサピーは、台所に向かった。
まずカーテンを全て締め切り、窓の鍵も施錠した。
やかんに水を入れ、ガスコンロに点火する。
戸棚の奥に積んであったインスタント焼きそばの容器を手に取り、包みをはがす。

“かやく”と呼ばれるキャベツを中心としたフリーズドライの具材を乾燥麺の上ではなく、下に敷く。
こうすることで湯を捨てる時に流れ出る心配がなくなるのだ。
その代り、湯は容器の縁から麺の下に注ぐようにしなければならない。
ふいに視線を感じて振り返ると、そこにはトラギコがいた。

(=゚д゚)「へぇ、焼きそばか。 一つしかねぇのか?」

湯を注ぐアサピーの手元を見つつ、パッケージをしげしげと見る。
銘柄についての文句が出ると思ったが、特に何も意見は出てこなかった。

(;-@∀@)「え、えぇ。 あんまり家にいることがないもので。
      非常食が常食ですよ。
      一つじゃ足りないかもしれませんが、勘弁してください」

(=゚д゚)「飯はちゃんとしたものを食えよ。 まぁいい。
    半分ずつ食えば十分ラギ」

(-@∀@)「半分ずつ? だって、トラギコさんが……」

(;=゚д゚)「あのなぁ、俺一人だけ食ってたら味なんかしねぇラギ。
    せっかくあるんだったら、二人で食った方がいいラギ。
    とにかく、半分だ。 いいか、お前もちゃんと食うラギ。 お互いに怪我人なんだ、いいな?」

278名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 23:56:39 ID:m/DZJGrM0
(-@∀@)「も、持ちのロンですよ!!」

待つこと三分。
湯きりを行い、粉末タイプのソースをまんべんなくふりかけ、よく混ぜる。
液体タイプのソースと粉末タイプの最大の違いは、麺に絡みやすいか否かという点だ。
前者の液体タイプは十分すぎるほどよく麺と絡まるが、若干多すぎる問題が生じてしまう。

対して粉末のソースは絡みにくいが水分を吸い、麺と無駄なく合わさって味に均一性が生まれる。
どちらも気をつけなければならないのが、麺にだけソースを和えるのではなく具材にも合わせてやることだ。
こうして出来上がった麺の半分を紙皿に載せ、最後に刻まれた青のりをかけて完成である。
二人はそれを立ったまま啜り、黙々と食事を始めた。

甘辛いソースの味が食欲を沸立て、少量のキャベツを奥歯で大切に噛み締めると、甘みを含んだ水がしみ出した。
それも僅かの量だが、ソース一色の味の中に新鮮な存在だった。
麺を啜る音だけで、会話はなかった。
美味いかどうか、それはトラギコの口からは出てこなかったが、無言で啜るその音が十分に感想の役割を果たしている。

食事を手早く済ませ、アサピーはインスタントコーヒーを入れた。
砂糖は大匙三杯入れ、二人は現像室に向かった。
あの部屋は窓を閉め切り、外部の光が一切差し込まないようになっている。
誰かに外から見られる心配は全くない。

部屋のエアコンを入れ、室温を低くする。

(=゚д゚)「じゃあ、計画を話すラギ。 この街の地図はあるラギか?」

(-@∀@)「パンフレットに使ったものでしたら……ここに」

279名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 23:59:22 ID:m/DZJGrM0
クリアファイルに入れてあった地図を取り出し、目の前の机の上に広げる。
白黒の地図には蛍光ペンで様々な店がマークされている。
アサピーがこの島に来て間もない頃に手掛けたパンフレット制作で使ったものだが、結局採用はされなかった。

(=゚д゚)「グレート・ベルはここラギ。 おいカメラマン、どこからなら狙撃手を撮影できるラギ?
    言っておくが、野郎は絶対に縁からライフルの銃身や体を出さないラギ」

(-@∀@)「見下ろせる、もしくは同じ目線にまで行かないと撮影できないですね。
      顔を撮るとなると、同じ高さにいないといけません」

(=゚д゚)「それが出来る場所はあるラギか?」

(-@∀@)「周辺には高さのある店はないので、どうしてもここになります」

地図の一点を指で示す。
グレート・ベルから西に進んだ場所にある医療施設。
即ち――

(=゚д゚)「――エラルテ記念病院か」

(-@∀@)「はい。 島のシンボル以上の高さの建物はないんですよ。
      ですが、この病院の屋上は260フィートあります。
      距離で高低差を埋められるので、この屋上から撮影するしかありません」

グレート・ベルの高さは約270フィートある。
島にあるどのホテルや宿泊施設もそれ以上の高さを越えないよう、また、景観を損なわないように厳しい制限がされている。
だが、エラルテ記念病院だけは例外だった。
歴史的に意味のある病院の建築に際して、グレート・ベルの次に高い建物であることが求められた。

結果、十五階建てながらも260フィートという高さを持つに至り、ティンカーベルで二番目に高い建物として今日に至る。

280名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 00:02:17 ID:ISmb1SN20
(=゚д゚)「他に手がないなら、それで行くラギ。
    必要な物はあるか?」

(-@∀@)「新聞社にある望遠レンズとリモコン、後は三脚ぐらいですね」

日中とはいえ、望遠での撮影には手振れは依然として敵である。
それを軽減するための道具として三脚、そしてリモコンが必須だ。
この二つがなければ自分の体を使ってカメラを固定する他ない。

(=゚д゚)「三脚は却下ラギ。 高く構えればそれだけ目立つラギ。
    奴ならレンズ越しにお前の頭を撃ち抜ける。
    絶対に見つかったら駄目ラギ」

(-@∀@)「分かりました。 で、動きとしては?」

(=゚д゚)「お前はジュスティアに目をつけられているから、それに見つからないように病院に行くラギ。
    この後すぐにでも出発して屋上で待機するラギ。
    で、俺は昼の鐘に合わせて動くから、奴が顔を出したところを撮れ」

(;-@∀@)「一緒に動かないんですか?」

(=゚д゚)b「一緒に動けば怪しまれるし、目立つだろ。 当然、別行動ラギ。
     ただ、タイミングだけは一緒ラギよ」

肩を叩いて親指を立てたトラギコは、話を続ける。

(=゚д゚)「狙撃手の顔を撮ったらそのフィルムを――」

281名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 00:03:29 ID:ISmb1SN20
こうして綿密な打ち合わせと共に時間が過ぎ、朝が近付く。
午前四時半。
お互いの動きと役割を確認し、トラギコは仮眠を、アサピーはエラルテ記念病院へと向かった。
最早、お互いにかけるべき言葉は決まっていた。

――無言による、信頼の確認である。

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    ""'''';;,,,,           ヽ    l    '    ,,,,;;;''"        ___  _
           ""'';;;;,,,,,         /   '   ''''"       _   |::::::::::::| /:::::::::...
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水平線の彼方から浮かび上がる紅蓮の太陽が夜空から夏の青空を取り戻し、そして、街へ人へと光を浴びせる。
新たな一日の始まり。
ジュスティアが宣言した事件解決まで、一日と十九時間。
島中に散らばった人間が追うの真実のほとんどが今、グルーバー島に集結し、行動を開始していた。

例えば。
例えば、不穏な感情を秘めた者たちもまた、例外ではない。

(´・ω・`)「……さて、行こうか」

ソファから立ち上がった、道化の如き男。

282名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 00:05:05 ID:ISmb1SN20
(´・_ゝ・`)

lw´‐ _‐ノv

それに無言で付き従う、二人の罪人。
いずれも眼光鋭く、されど放つ雰囲気は凪いだ海の如く。
背負うは己が棺桶にして己が力の象徴。

(’e’)「うむ、いい朝日だ。 さ、ジョルジュ君、コーヒーを。
   違いの分かる男のコーヒーだよ、間違えないように」
  _
(#゚∀゚)「だから、俺は手前の召使いじゃねぇんだよ……」

離れた場所に佇む男、二人。
彼らの足元に埋まるのは、屍かそれとも夢の果てか。

川 ゚ -゚)

从'ー'从

言葉を発することなく行動する女が二人。
人の間を風のように抜け、静かに最深部へと歩みを進める。
性別、動機、背景、思想はそれぞれだが共通しているのは所属する組織の目的達成という、大きな夢の実現のため。
大樹が伸ばす枝葉のようにして、彼らは活動の領域を広げていく。

グレート・ベルの鐘が朝日に輝き、黄金の輝きを放った。

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         Ammo→Re!!のようです Ammo for Tinker!!編 第九章 了
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283名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 00:06:29 ID:ISmb1SN20
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優れた狙撃手は優れたカメラマンに、優れたカメラマンは優れた狙撃手に成り得る。
故に。
故に我々カメラマンは、意識しなければならない。

最高の構図を。
最高の成果を。

                                 戦場カメラマン ミズーリ・タケダ
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次回、Ammo→Re!!のようです Ammo for Tinker!!編 最終章

284名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 00:07:46 ID:ISmb1SN20
これで本日の投下は終了です
支援ありがとうございました

質問、指摘、感想などあれば幸いです

285名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 00:44:41 ID:l5SbJETU0


286名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 23:56:11 ID:hsynu9Pc0
乙。狙撃手対カメラマンってなんて痺れる展開なんだ…!
はやくも続きに期待

ところで>>237の七行目のマニーはアサピーの間違いです?

287名も無きAAのようです:2015/06/29(月) 18:07:06 ID:MJ3mn4pE0
>>286
 ヽ | | | |/
 三 す 三    /\___/\
 三 ま 三  / / ,、 \ :: \
 三 ぬ 三.  | (●), 、(●)、 |    ヽ | | | |/
 /| | | |ヽ . |  | |ノ(、_, )ヽ| | :: |    三 す 三
        |  | |〃-==‐ヽ| | .::::|    三 ま 三
        \ | | `ニニ´. | |::/    三 ぬ 三
        /`ー‐--‐‐―´´\    /| | | |ヽ

288名も無きAAのようです:2015/07/18(土) 22:54:03 ID:zN4k2tsY0
明日VIPで19時ぐらいに投下します
次でTinker!!編はおしまいです

289名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 07:42:30 ID:KqDLx0mE0
全裸に靴下で正座して待つ

290名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:33:58 ID:6KurIn5.0
夜明けの空気はひんやりとして、海の匂いを含んでいた。
風は冷たいが日差しは強く熱く、白い雲は空の高いところを浮かんで速い動きで流れていく。
上空の風が強い証拠だ。
水平線の向こうには大きな入道雲が浮かび、黒雲を伴ったそれが徐々に大きさを増している。

微風程度だった風が次第にその強さを増し、上空でよく冷やされた空気を地上に降ろし、やがて島中に届ける。
ここは“鐘の音街”ティンカーベル。
三つの大きな島と数多くの島からなる街は、漁から帰ってきた漁船や市場の賑わいもなく、静かに朝を迎えていた。
複数の事件が引き起こした異様な光景だった。

雪を被ったクラフト山脈が大地に聳え立つように海上に停泊するのは、世界最大の船上都市“オアシズ”。
そして、島の事件を解決すべく集ったのは海を挟んで隣にある正義の都“ジュスティア”。
今、三つの街の人間が一か所に集い、一つの目的のために死力を尽くしていた。
全ては相互利益のため。

互いの街がいかにして目的を達し、利益を得るのかだけのために協力し合う乾ききった関係。
義理も人情もなく、かといって互いに足を引っ張ることもしない。
ただ、共通した目的の達成だけが彼らを繋いでいた。
情報の提供と捜査の実行、そして必要ならば指揮まで、それぞれが力を出し合っているにも関わらず。

狙うのは最良の結末。
使うのは最短にして最善と信じ切った悪路。
楽な手段では決して事件が終わらないという事に気付かない彼らは、今もこうしている間に無駄な時間を費やしていた。
その努力と呼ぶことすらできない行為が一生実らないとも知らず、自慰の様に生産性のない時間が過ぎてゆく。

――ほんの一握りの人間を除いて。

291名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:37:08 ID:6KurIn5.0
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                         / ̄ ̄\
                       /       ヽ       原作【Ammo→Re!!のようです】
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               ‥…━━ August 11th AM 05:21 ━━…‥
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早朝、それも陽が昇ってからの新聞社は静かな物だ。
その頃には配達員が刷り上がった朝刊を配達するために原動機付自転車を使って島中に散らばり、社には事務員と支社長ぐらいしか残らない。
しかし、その日は少し事情が異なった。
まず、朝刊は刷り上がるどころか原稿すらなく、印刷機は稼働を停止していた。

そして事務員はおらず、代わりに彼女の席には赤黒い血が染みついていた。
配達員のほぼ全員も同様に命の一部を床の染みに変え、その体は島の遺体安置所で火葬の時を待っている。
人気のないモーニング・スター新聞社ティンカーベル支社には、一人だけ社員が残っていた。
眼鏡をかけた浅黒い肌の若い男は、社で保管されている大型の望遠レンズを手に入れ、少し早目の朝食を一人で摂っていた。

文字通り大したものではないが、山と積まれた缶コーヒーとチョコレート味のブロック型栄養補助食品の量は尋常ではなかった。
味も種類も滅茶苦茶だが、共通していることは、それらの所有者はこの世にいないという事である。
殺された同僚たちの非常食の在処を知っていた男は、それらを全て自らの机の上に並べ、吐きそうになりながらも全て平らげた。
一種のまじないであり、自分自身に言い聞かせるための儀式だった。

彼らの食事を体内に取り込むという行為は、彼自身に失敗を許させない覚悟を与えた。
アサピー・ポストマンは膨れ上がった腹を撫でつつ、カメラのレンズを交換した。
望遠レンズの重量は三キロもあり、本体よりも遥かに重い。
両手で構えなければレンズが重さで傾き、逆にレンズを持てば本体が安定するほどである。

292名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:42:24 ID:6KurIn5.0
振り向くようにして素早く別方向に構えるも、自重のせいでレンズが静止することなく狙った場所から僅かに流れてしまう。
突発的な事態には対処できない。
分かってはいたが、やはり予め撮影位置を定めて待機するのが妥当だろう。
構えたままの状態でズームリングの固さと望遠性能の確認を行い、その圧倒的な望遠性能に舌を巻いた。

この大きさになるとケースは意味を成すどころか役割を果たせず、ネックストラップや大きめの鞄を使う他に運搬の方法はない。
そこで半ば仕方なしに選んだのは登山用のデイパックだった。
カメラ本体を底にして詰め、空いた隙間に予備のフィルムを入れた。
荷物の準備はすぐに終わったが、その後は時間とパズルの問題だった。

エラルテ記念病院の屋上に行くためには病院内を移動し、パスカードによって開閉される屋上の扉を空けなければならない。
患者が飛び降り自殺をしないための配慮であり、医者だけが青空喫煙所を使えるよう設計されているためだ。
パスカードがなければ、屋上に出ることは出来ない。
遊園地の年間パスカードとは違って簡単に入手できるものではないため、アサピーは屋上への侵入方法を考えなければならなかった。

二度の襲撃によって厳戒態勢となった病院周辺だが、侵入手段は必ずある。
要はパスカードさえ使えれば問題ないのだ。
扉さえ開けば、何という事はない。
医者を襲えば手に入れられるが、そのような方法は使いたくもないし使えない。

策はあった。
トラギコ・マウンテンライトから教えてもらったカール・クリンプトンという医師の存在だ。
彼は亡くなっているが、その名前が重要だ。
記者であることを最大限活かすため、彼の名前を使って取材を行い、どうにか屋上まで誘導すればいい。

そのためには、カールと親しかった医者を探すことが重要となる。
一つ危惧しているのが、取材に応じなかったり取材を申し込んだりした瞬間に捕まえられるという事だ。
モーニング・スター新聞社の人間が捕獲されたことを含めると、ジュスティア警察が病院に待機していることは十分に考えられる。
方針が定まったアサピーは荷物を改めて確認し、それを背負った。

293名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:44:28 ID:6KurIn5.0
もうこの会社に戻ることはない。
社を離れる前に、最後にもう一度無人の席を見た。

(-@∀@)「……っ」

いないはずの同僚たちがアサピーに手を振っていた。
いないはずの同僚たちの声が聞こえた。
この支社に配属された時からの友が、同期が、上司が。
皆がいつもと同じようにアサピーを見送った、そんな気がした。

当然、それは現実の事ではない。
自然、それは本人の勝手な想像でしかない。
妄想と言い換えてもいい。
それでも、アサピーの気持ちが幾分楽になったのは厳然たる事実である。

――予定時間まで残り、六時間半。

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ヽ         `  _
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        )
...   ..:...   ´ヽ.
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ヽ:_:.:.:.:.:.:. :. .: .:.:.:.:..:.ノ              ,r ヽ'⌒  `^j      ヽ ..:.:.:.
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           , '⌒ー-‐、       ヽ,  ....... ... .... . . .. .⌒ヽ
               ‥…━━ August 11th AM 05:36 ━━…‥
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294名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:52:18 ID:6KurIn5.0
アサピー・ポストマンがティンカーベル支社を出た頃、トラギコ・マウンテンライトも仮眠を終え、すでに準備を整えていた。
武器も道具も揃えた以上、残っている準備は予定地点への移動だけだ。
移動してからは、病院の正面から出て狙撃手に狙わせなければならない。
顔をこちらに向けさせた状態でなければ撮影は無駄になる。

無論、自殺をするつもりはない。
みすみす殺されてやるつもりもない。
狙撃手を相手に正面に立つという事が愚行であることは百も承知だし、相手の腕も理解しているつもりだ。
それらを考えに入れた上で、狙撃手と向かい合う。

策はいたってシンプルだ。
鐘の音と共に病院から姿を現し、撃たせる。
そしてアサピーがその様子と共に相手の顔を写真に収め、切り札を手にするという寸法だ。
互いの連携がなければ成功しないが、それ以前に信頼関係がなければ成立しない話でもある。

アサピーが定位置についてカメラを構え、いつでも撮影が出来る状態にあるという事。
トラギコが時間通りに姿を現すという事。
狙撃手がトラギコを見つけ、狙いを定めるという事。
アサピーはトラギコを、トラギコはアサピーを、そして二人は狙撃手を信頼している。

そういった信頼の数々によってこの策は成り立っており、一つでもずれれば破綻につながる。
それはあってはならない。
それでは、トラギコのために死んだカール・クリンプトンが浮かばれない。
愚直なまでの医者として生きた男の命を奪った人間には、死ぬまでに多くの苦しみを与えなければ気が済まない。

あの夜。
トラギコは何故自分が撃たれなかったのか、ずっと疑問だった。
だが、答えは驚くほど簡単な物だった。
狙撃手は単純にトラギコとカールを間違えて撃ったのだ。

295名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:54:21 ID:6KurIn5.0
暗闇の中で人影を見つけるためには、暗視装置の存在が欠かせない。
火災現場から逃げる二人を捉えた狙撃手は、どちらがトラギコであるかを判別できなかったのだ。
では狙撃手がカールを撃った理由とは何か、と考えるとトラギコの服装が関係してくる。
炎と煙から身を守るためにカールが貸してくれた白衣だ。

スコープを通じて服装を見た時、狙撃手はトラギコを医者として勘違いし、もう一人をトラギコと認識したのだ。
そして凶弾はカールを捉えた。
つまるところ、トラギコはカールに助けられたのである。
彼が白衣を脱がなければ、撃たれていたのはトラギコだ。

彼は己の職務を果たした。
今度は、トラギコがその職務を果たす順番である。

(=゚д゚)「さぁて、行くか」

ワイシャツのボタンを閉め、ジャケットに袖を通す。
ホルスターに収めるのはベレッタM8000で、装填した弾種は人間に使うためのホローポイント弾だ。
強化外骨格を相手にすることも想定して、予備の弾倉には強装弾が装填されている。
もう一つの武器が入ったアタッシュケースを手にして、振り返ることなく家を出て行った。

建物の間から見上げたスカイブルーの空には雲が浮かび、風に流されてその形を変えていく。
風に夏の匂いを感じつつも、トラギコはそこに雨の気配を嗅ぎ分けた。
一過性の雨によって天気が荒れる前兆だ。
良い兆候とは言えない。

トラギコにとってはいいが、アサピーにとって雨は天敵となる。
狙撃銃とカメラはその作りが似ているが、根本的に使用目的が異なる。
銃は火薬さえ湿らなければ雨の中でも使えるが、カメラにとっては天敵そのものだ。
雨が降る前に決着が付けられればいいのだが。

296名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:59:03 ID:6KurIn5.0
グレート・ベルの死角となる建物の影と路地裏を進みながら、病院に入る算段を立てる。
普通に入ろうとしたのでは、その時点で狙撃されてしまう。
チャンスは一度だけしか与えないし、それ以上は与えられる余裕がない。
足を引きずりながら、トラギコは少しずつ人目に付かない場所を目指した。

(=゚д゚)「……やりたかねぇが、やるしかねぇか」

自分に言い聞かせるようにしてつぶやき、トラギコは人気のない路地の一角で立ち止まる。
丁度良く両脇に背の高い建物が建っており、人通りが少ないことから目立ちにくい場所だ。

(=゚д゚)『これが俺の天職だ』

アタッシュケースに収納された棺桶の起動コードを入力し、両腕に機械の籠手を装着する。
そして、足元のマンホールの蓋を力任せに持ち上げ、人一人が下りられるだけずらす。
梯子を使って下水道に降り、蓋を閉めた。
暗闇と悪臭の空間に降り立ったトラギコは、マンホールの小さな穴から漏れた外の明かりを頼りに病院を目指すことにした。

下水道は完全な暗闇というわけではないため、少し経てば目が慣れるだろう。
マンホールを開けるのに使った強化外骨格“ブリッツ”を解除し、ケースに戻す。
壁に手をついて頭の中にある島の地図を参考にしながら、一歩ずつ進み始めた。
脚の傷は痛みが引いてきてはいるが、完治まではまだまだ時間がかかるだろう。

怪我をしてから酷使を続けてきたのだから当然の結果だ。
そうしなければならない状況だったし、そうしなければ自分の気が済まなかった。
座って情報を集めるのではなく、自らの足で情報を集めるのが自分の仕事だ。
だからこそ、トラギコは後悔も反省もしていない。

そのような物は全てが終わって、そして駄目だった時に別の誰かがすればいいことなのだから。

297名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:01:27 ID:6KurIn5.0
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              ‥…━━ August 11th AM 07:07 ━━…‥
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カナリア・ホテルの一室で監視係からの報告を得たライダル・ヅーは、トラギコの生存情報にほっと胸をなでおろした。
同時に、アサピーと合流したという事も分かり、万事が上手く動いていることが確認できたのは重畳だ。
朝食のトーストをコーヒーで胃に流し込み、ヅーも動き出すことにした。
ショボン・パドローネ達が引き起こしたこの事件を解決する鍵は、間違いなくトラギコたちの動きにかかっている。

彼らが何をするのかは分からないが、邪魔をする必要はない。
こちらは彼らがおびき出した結果に対して手を打つだけでいい。
いくつもの思惑が一つの獲物に対して飛び掛かれば、たちまち事故が起こる。
陽動と追撃はトラギコに任せて、こちらはそのサポートに回る。

そのために彼らの行動を逐一監視し、不利益のないように立ち回っているのだ。
毒を制するためには毒を持って挑まなければならない。
気を付けなければならないのは、彼らの行方と動向を把握し、常に援護が出来る状態にある事だ。
トラギコとアサピーはアパートから別々の時間帯に異なる場所に移動したことが分かっており、トラギコの行方は再び不明となった。

298名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:03:26 ID:6KurIn5.0
彼の事は心配しなくても大丈夫だろうが、アサピーの行方が気になるところだ。
二人で一緒に行動する物だと考えていたのだが、二人は逆の行動をとった。
互いに手負いの身でありながら、どうして危険な手を選んだのか。
確かに、トラギコは愚直な男だが馬鹿ではない。

あれほど冷静の事件を見据えて激情的に行動できる男が、単独行動のリスクを考えていないはずがない。
勝算があるのだ。
勝てるという見込みがあるからこそ、危険を天秤にかけても一人で動くことを選択したのだ。
つまり、二人は事件の真実に辿り着いた、もしくはあと一歩のところまで来ているのだろう。

慎重に見極めなければならない。

瓜//-゚)「レッドバロン、部隊を展開します」

(【゚八゚】「了解いたしました。 どのように?」

瓜//-゚)「アサピー・ポストマンの監視係を引き揚げさせ、オアシズに通じる橋の前の検問所に回してください。
     残りはオバドラ島とバンブー島前の橋の警備へ。
     これから何かしらの大きな動きがあるはずです」

まずは人員の分散によって、新たな事件発生の情報をより簡単に共有できるよう動かす。
だがそれは表向きの理由だ。
ヅー率いる捜査チームは警察官だけで構成されており、軍人は一人もいない。
それというのも、あれだけの部隊を投入しておきながら何一つ事態を好転させない軍の動きがどうにも気になり、見張りをつけておきたかったのだ。

クロガネ・タカラ・トミーは有能な男だと見込んでいたが、ショボンが関わった脱走に関する有益な情報は一つも手に入れていないどころか、その共有さえしない。
強いて協力と言えばアサピーの護衛や検問所への人員配置ぐらいなもので、何一つ結果に結びついていない。
バンブー島とオバドラ島に派遣された軍人が与えられた任務は、果たして本当に脱獄犯の捜索だけなのだろうか。
何かを企んでいる。

299名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:06:42 ID:6KurIn5.0
軍を動かし、何かを目論んでいる。
この期に及んで軍の発言力を高めようと考えているのならば、そのような真似をさせてはならない。
それがゆくゆくはトラギコの邪魔になるのだ。
ならば、それを防ぐのが警察の仕事。

警察は組織としてトラギコの援護に徹する。
部下たちにはそのように言ってはいないが、これがヅーの意向だ。
虎に委ねる他ない。

瓜//-゚)「私は別行動をします。 チームの指揮はレッドバロン、貴方に一時的に一任します。
     最優先は事件の解決と島民の安全確保、そしてジュスティアの汚名返上です」

(【゚八゚】ゞ「イエス、マム」

“赤の男爵”スズキ・レッドバロンは敬礼をしてから、部屋を出て行った。
後は彼が上手く管理し、情報を収集してくれるだろう。
別行動を取ると宣言したヅーの目的は、アサピーの監視だ。
本当であればトラギコの監視につくつもりだったのだが、彼の行方が分からなくなってしまったため、アサピーを見張ることでトラギコの動きを理解するしかない。

他の人間に任せてはおけばろくでもない結果になるのは目に見えており、何よりもヅーには責任がある。
最も尊い血が最初に流れるという言葉が示す通り、ヅーは指揮官として前に立ち、全てを見なければならない。
事件の影に潜む数多くの謎をこの目で確かめ、それから――

瓜//-゚)「……それから、か」

それからのことなど、考えてもいなかった。
ただ追いつめ、この手に掴み、そして正義の名のもとに断罪する。
いつもならばそうしていただろう。
普段ならば、これまでと変わらない自分ならば、一秒たりとも迷うことなく断言して実行していただろう。

300名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:10:45 ID:6KurIn5.0
今は違う。
自分自身と身の回りに起きた不可解な動きの意味と真実の行方を見定め、それから動くべきだと感じていた。
この事件は根が深い。
そうでなければ、これほどまでに翻弄されるはずがない。

始まりはオアシズ。
大勢の人間を恐怖に陥れ、海賊を船に招き入れた上に“ゲイツ”が蹂躙された。
使用された武器の数々、そして用意した道具。
ただのテロリストが用意するにはあまりにも高価な物ばかりだ。

経緯はどうあれゲイツが壊滅状態に追いやられた事実は、十分に警戒するに値する。
そしてセカンドロック刑務所を襲い、脱獄の補助をした。
如何に強化外骨格を持っている人間でも、あの刑務所を突破できないはずだった。
改造された棺桶が複数配備され、ジュスティア内でも腕っ節に自信のある人間が選ばれていた。

三人。
僅か三人に襲われ、脱獄は成された。
技量が並外れていて用意した強化外骨格の力も桁外れだった証拠だ。
ヘリコプターを所有している人間がわざわざどうして、ティンカーベルに逃げ込んだのか。

島に逃げれば封鎖され、逃げ道を塞がれると予想できるはずだ。
それに、バッテリーの問題が解決すれば夜闇にまぎれてヘリコプターで逃げればいいのに、それをしない。
逆に島で誰かを追いかけ、殺そうとしている。
これまでに遭遇した犯罪者とは価値観が大いに違う。

大胆にして繊細、そして徹底していながらも柔軟な対応が出来る余裕は、組織力の大きさを物語っている。
ショボンたちは警察を脅威とも感じていない。
そのような相手に対して、正攻法で挑むのは得策ではない。
相手の意識の死角から襲う以外、手立てはない。

301名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:13:05 ID:6KurIn5.0
そこで気付くのが、自分の中からジュスティア警察らしい思考が欠如し始めている事だ。
いつの間にかトラギコと同じ次元で事件に向かい合っている自分の姿に、ヅーは違和感を覚えなくなっていた。
むしろ、事件を解決するために姿勢など気にしている方が愚かなのだとさえ思える。
以前までは違っていた。

正々堂々、正面から犯人を逮捕し、事件を解決することこそが美徳なのだと信じていた。
物心ついた時からそう教えられ、育てられ、尽くしてきたのだ。
正義を疑ったことはなかった。
何故なら正しい物は常に正しくあり続け、それに近づく事は己が誰よりも正しい存在になる事と同義だったからだ。

それが、この数日で一変してしまっている。
正しく振る舞ったところで相手にはまるで相手にされないどころか、逆に手玉に取られる始末。
あと一歩で殺されかけた時、正義は彼女を救わなかった。
救ったのは、正体不明の誰かだった。

あまりにも多くの謎がひしめく事件の中で見つけたのは、本来あるべき姿勢なのかもしれない。
その果てにいたのは、トラギコだった。
彼のやり方は乱暴極まりないが、それでも、“誰かの正義”のために全力で力を注いでいる。
その成果として圧倒的な検挙率と事件の解決率であり、警察上層部の誰よりも現場で貢献している男として一部の人間から多大な支持を得ているのだ。

今ならば分かる。
真実に対して面と向かって喧嘩を売り、あらゆる手段で真実を日の下に引き摺り出す事こそが、警官としてあるべき姿なのだ。
姿勢はさておいて、手段にまで正々堂々を用いるのは自己満足でしかない。
自己満足が結果に結びつくのならばいいが、まず結びつくことはない。

市長には悪いが、円卓十二騎士を動員したところで意味はないだろう。
所詮は看板としての役割しか果たさない。
残り時間までの間に事件を解決する手助けにはならなそうだ。
何より、彼らの指揮権を握っているのは他ならぬタカラなのだから、ヅーの捜査には最初から役立ちはしない。

302名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:19:19 ID:6KurIn5.0
部下が全員ホテルから移動したのを確認し、ヅーはカップの底に残ったコーヒーを啜った。
最後に固まっていた砂糖が一気に口の中に流れ込んできたのを舌で受け止め、唇に付いた砂糖を舐めとった。
意識は固めた。
次はアサピーを追うために動き出す時だ。

彼の動きと目的を考え、道具を揃えてから出発したいところであるが、それが分かれば苦労はしない。
今はアサピーの近くで彼の動きを監視するのが最も効果が得られそうだ。
フレームレスの眼鏡を外して、机の上に置く。
もう、眼鏡は必要ない。

元々視力は悪い方ではなく、眼鏡がなくとも生活に支障はない。
射撃にも影響を及ぼさない程度の視力補正のために眼鏡をかけていたのではなく、全ては体面上の問題だった。
女が警察上層部にいると、どうしても部下の男達からは軽く見られてしまう。
ツー・カレンスキーほどの人間であればそうもならないのだろうが、秘書であるヅーは立場的にも軽んじられやすかった。

全ては自分の努力で得た地位だというのに、それを認める男は少なかった。
対等に話しているようでも下に見られていると感じ、自分自身を少しでも賢く見せるために眼鏡をかけることにした。
効果は僅かだが得られた。
だが、デミタス・エドワードグリーンとの戦闘で顔に負った傷が全てを無駄にした。

男が顔に傷を負えばそれは勲章となるが、女の場合は逆。
非力の表れとして周囲に認識されてしまう。
払拭するためには仇を討ち、汚名を返上する他ない。
これまで己の努力を形にしてきたように、これからもそうする。

例えそれが険しい道であろうと、一向に構わない。

303名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:23:27 ID:6KurIn5.0
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  ト、   l!j  レ'   l!r--――――――-: : ::
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              ‥…━━ August 11th AM08:19 ━━…‥
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スポーツキャップを目深に被り、半袖のパーカーとダボ付いたカーゴパンツでどこにでもいる若者のような格好をしたアサピーは、目立たないよう街中を移動していた。
このまま病院まで徒歩で移動し、どうにかして屋上に到着しなければならない。
最も現実的で安全な手段として浮かんだのは救急車を呼び、怪我人として病院に直行することだ。
しかし手術室から帰ってくるという保証もなく、ましてやエラルテ記念病院に運び込まれるとは限らない。

運び込まれるためには重傷を負う必要があり、ただでさえ怪我をしている体に自ら傷をつける気にはなれなかった。
別の手があるはずだった。
取材を申し込み、屋上に誘導する計画があるのだが、誰に取材を申し込むか、それが問題となっている。
普通、病院に対して取材を申し込むには会社から直接電話なり手紙で依頼が行き、それから返事がもらえる。

個人が大きな施設、もしくは組織に対して取材を申し込んだところで受け入れられる可能性は限りなく引くい。
だから自分を売り出すカメラマン、もしくはフリーのジャーナリストは個人に取材を申し込むのである。
当然そうなると取材相手の名前や素性を知っているのが前提だが、アサピーはエラルテ記念病院で働く人間の名前は一人しか知らなかった。
それも故人の名前であり、この状態を打破するには少し不安がある。

304名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:26:44 ID:6KurIn5.0
カール・クリンプトンという医師がどのような人物だったのか、アサピーは人伝いにしか聞いていない。
ごく一部の情報では彼の知り合いを名乗るには不十分だ。
事前の情報収集がいかに大切なのかは知っていたが、この島は他者に対して非常に閉鎖的な風習がある。
トラギコから聞いたカールの話は彼の人柄の話で、出生につながる物は何もない。

つまり、何も知らないに等しい。
その情報を使い、どれだけ膨らませられるかがアサピーに求められている。
情報の誇張は新聞記者の得意分野だ。
後は、それを効果的に使える対象の存在が必要だ。

彼の友人でも見つけるしかない。
しかし働いている医師、看護師の数は三桁にも及ぶ。
その中からカールと親しかった人間を探し出すのは、僅か数時間では不可能だ。
加えてそれを困難にするのが警備体制に関する情報がないことである。

ジュスティア軍、警察がどれだけの規模で病院に待機しているのか。
出入り口に検問はあるのか、それともないのか。
部外者は完全に立ち入りが禁じられているのか否かなど、情報の欠如はアサピーの思考力を蝕んだ。
病んだ思考は無限の可能性を導き出し、そして独りでに躓く。

街の隅から隅を移動し、病院に少しずつ接近する。
不思議と街中に警官は見当たらない。
あれだけの事、そして昨日のヅーの事件解決のリミット宣言から考えると不自然だ。
どこかに集中させているようだ。

警察も何かの情報を掴んで動いていると考えたい。
変化は何かの兆しでもある。
悪い傾向ではない。
願うのはそれがアサピーにとって不利にならない事ばかりだ。

305名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:29:30 ID:6KurIn5.0
ようやく病院の姿を目の端に捉えたアサピーは、グレート・ベルの射線上に体が出ないように裏口に通じる道に回り込んだ。
予想に反して病院に近づいても警官の姿を見ることはなく、道が封鎖されている雰囲気もない。
人の通りにも滞りや不自然な物はなく、自然な形で時間が流れている。
裏口の門を押し開き、院内へと足を踏み入れた。

ここから先、決して鐘楼の視界の中に入ってはいけない。
入ればそれは狙撃手に目に留まり、警戒心を与えてしまいかねない。
そうすれば撮影する前に銃弾がレンズと本体、そしてフィルムとアサピーの眼底を粉砕するだろう。
リスクは極力減らさなければならない。

植え込みの傍を通り、焼け焦げた隔離病棟の裏を歩く。
特に激しく燃えた壁は炭のように黒焦げになり、地面も同様に焼けていた。
病棟の裏側を伝いながら本棟の非常口に向かう。
途中、朝の散歩を楽しむ患者とすれ違いざまに軽く挨拶をかわしつつ、情報収集を行う。

三人目の患者と挨拶を交わした時、それが思わぬ幸運をもたらした。

(-@∀@)「どうもおじいさん」

(ΞιΞ)「あぁ、おはよう」

ベンチに腰掛けた老人は少し寝ぼけた様子でアサピーを見上げ、ごく自然に挨拶を返した。

(-@∀@)「お医者さんたちがどこにいるかご存じで?」

(ΞιΞ)「そりゃあ病院だから病院の中に決まっているさね」

はっきりとした返答は老人がまだ健康である証だったが、彼の足が片方失われているのを見れば、入院している理由は明白だった。
歩行が困難になった人間は徐々に意識に異常をきたし、やがては健康そのものに影響を及ぼす。
老人が何者であれ、こうして入院しているのは賢明な判断だと言える。

306名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:31:57 ID:6KurIn5.0
(-@∀@)「ありがとうございます。 ところで、カール・クリンプトンというお医者さんをご存知ですか?」

(ΞιΞ)「あぁ、彼はいい医者だったよ…… 例の火事で死んじまったけどなぁ」

(-@∀@)「患者を最後まで見捨てない立派な人だったのに、残念です」

(ΞιΞ)「全くだよ。 あんた、カール先生の知り合いかい?」

(-@∀@)「そんなところです。 もしよければ、彼のお話を訊かせてもらってもよろしいですか?」

(ΞιΞ)「彼は余所の人間なのに、とてもいい人だった。
      ……仲の良かったカンイチ先生も結構落ち込んでいてね」

カンイチ、という名前が出てきた。
掴み所が手に入った。
少しの手がかりでいい。
この手がかりは非常に大きい。

(-@∀@)「カンイチ先生?」

(ΞιΞ)「確か、えーっと…… カンイチ・ショコラ先生だ。
      友達が少なそうな先生なんだが、カール先生とはとても仲が良くていつも一緒にいて話をしていたよ」

(-@∀@)「……今日、カンイチ先生はいらっしゃいますかね?」

フルネームを手に入れることが出来た。
後はカンイチという医師が今日院内にいれば取材の名目で会うことできる。

(ΞιΞ)「あぁ、いるはずだよ。 あの人たちは休みがないからね。
      人の健康気遣うのもいいけど、自分のも気遣ってほしいよ」

307名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:43:02 ID:6KurIn5.0
(-@∀@)「なるほどですね。 では、私はこれで」

軽い会釈をしてその場を立ち去り、アサピーは院内に入り込んだ。
受付の横から入る形となったアサピーは帽子を深くかぶり直し、目の下に薄い隈を作った受付の看護師に話しかけた。

(-@∀@)「すみません、いいですか?」

ノリパ .゚)「はい、何でしょうか?」

女性看護師は疲れを顔に出してはいたが声色には出さなかった。

(-@∀@)「カンイチ・ショコラ先生は今いらっしゃいますか?」

ノリパ .゚)「ご用件は?」

そう来ることは分かっていた。
事前にアポイントもない来客は、必ず用件を伝えなければならない。

(-@∀@)「以前大変お世話になった者で、少しお話をしたくて……」

ノリパ .゚)「お名前をお伺いしても?」

(-@∀@)「アーノルド・ジョッシュです」

ノリパ .゚)「ではこちらに記名を」

簡単な記名帳にサインをして、待合場所のソファに腰かけてカンイチの到着を待つ。
下手に動けば怪しまれるため、逆に堂々とすることが不審がられない秘訣と教えてくれたのは、トラギコだった。
刑事がそういうのならば間違いないと従ったが、その通りだった。
逆に気分が落ち着き、自分が何でもできるような気がするほどだ。

308名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:45:00 ID:6KurIn5.0
だがしかし、それが過信となって自分を窮地に追い込むこともまた、トラギコが教えてくれた。
図に乗らず、普段通りに過ごす。
名乗った通り、説明した役柄に成りきるのだ。

( ''づ)「お待たせしました、アーノルドさん?」

白衣を着た男がアサピーの偽名を口にする。
ソファから立ち上がり、握手を求めて手を伸ばす。
カンイチは一瞬ためらったが、すぐにその手を取ってくれた。

(-@∀@)「カンイチ先生、お世話になりました。
      ……カール・クリンプトン先生のことについて、お話があります」

小声でそう囁くと、カンイチは握った手に力を込めてきた。
情報で得た通り、彼はカールを知っているのだ。

( ''づ)「貴方は、僕の患者ではなかったのですか?」

(-@∀@)「すみません、こうでもしないとお話が出来ないと思ったので。
      できれば人気のない場所で」

少し考えるそぶりを見せ、カンイチは笑顔を浮かべた。

( ''づ)「お断りすると言ったら?」

(-@∀@)「彼の死の真相について、と言ったら?」

深い。
深いため息が、カンイチの口から洩れた。
同時に手に込められた力が抜けていく。

309名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:46:36 ID:6KurIn5.0
( ''づ)「……分かりました、少しだけですよ」

(-@∀@)「屋上あたりの方がいいかと」

誘導に成功した。
これで問題の一つは解決だ。
カンイチが先導して屋上へと向かう。
十五階までエレベーターで移動し、屋上へと続く階段にカンイチが進もうとする。

(-@∀@)「あ、コーヒーを買っても?」

( ''づ)「そうですね、では僕も」

飲み物は話を長引かせるいい道具だ。
自動販売機に銅貨を入れ、大きめの缶コーヒーを二本購入した。
一本をカンイチに手渡す。

(-@∀@)「勿論、おごりますよ」

( ''づ)「これはどうも」

金額の大小にかかわらず、金銭が絡むと多少は人間関係が円滑になる。
これも取材の技の一つだ。
コーヒーを片手に、二人は屋上へと出た。
広い屋上にはベンチや灰皿が置かれて、屋上全体の空きスペースを利用してシーツが干されていた。

姿を隠すにはちょうどいいが、こちらも相手の姿が見づらい。
グレート・ベルを背に出来るベンチに腰掛け、さっそく話を始める。

( ''づ)「それで、カールについて教えてくれるんだろ?」

310名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:50:00 ID:6KurIn5.0
(-@∀@)「はい。 彼が撃たれたのはご存知で?」

( ''づ)「当たり前だろ。 僕が検死をしたんだ」

その声には明らかな怒りが聞いて取れた。
カールと彼が親密な関係にあった証である。

(-@∀@)「彼を殺した犯人を知りたいとは思いませんか?」

( ''づ)「……知ってるのか?」

(-@∀@)「それを暴くために協力をしてもらいたいんです。
      カンイチさん、カールさんが最期に助けた人物は刑事です。
      そして、私はその人物と協力関係にあります。 パズルを組み立てるには、貴方の協力が必要です」

( ''づ)「つまり、何も分かっていないのか」

(-@∀@)「いいえ、場所が分かっているんです。
      いいですか、犯人の場所は分かっているんですよ、カンイチさん。
      後はその犯人の決定的瞬間を撮影すれば、それは揺るがぬ証拠としてこの世界に残ります。
      それがあれば、カールさんを殺した犯人を牢屋にぶち込めるんです」

( ''づ)「君は記者かな? だとしたら覚えておくんだ、僕はスクープに興味はない。
     犯人が牢屋に入ろうが終身刑を食らおうが知った事じゃない。
     知りたいのは、真実なんだよ。 何故カールは殺されたのか、どうして死ななければならなかったのか、それだけだ」

カンイチは自らの欲している物を口にした。
これもまた、一つの取材の技術だった。
相手の欲するものを聞き出し、後はそれを与えてやれば潤滑剤を塗った歯車のように口が動き出してくれる。
かつてのアサピーと同様、カンイチが欲しているのは真実だった。

311名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:53:16 ID:6KurIn5.0
(-@∀@)「彼は、誤って撃たれたのです。 助けようとした患者と間違えて撃たれたんです」

トラギコから事前に訊いていた情報は数少ないが、これは必ず役に立つと聞いていた情報だった。
あくまでもトラギコの推理によるものだったが、アサピーもこの推理には同意した。

( ''づ)「勘違いで殺されたのか、カールは?」

(-@∀@)「言い方は悪いですが、その通りです」

憤りがカンイチの顔に現れ、そして消えた。

( ''づ)「……彼は、いい奴だったんだよ。
     他所から来て、普通なら三か月で辞めるところを三年も続けてたんだ。
     君も知っているだろうけど、この島は余所者を受け入れることはまずない。
     それでも彼は諦めずに、受け入れられようと頑張ってたんだ……」

(-@∀@)「どうか、力を貸してください。
      僕が欲しいのはスクープではありません、貴方と同じ、真実です」

( ''づ)「だが僕に出来る事は少ないぞ?」

(-@∀@)「いえ、とても大切なことがあります。
      僕が真実をカメラに収めるのを手伝ってほしいのです」

ようやく本題に入ることが出来る。
目的が分かれば、後はそれに応じた成果の提供である。
真実を欲している人間が最も欲するのは、真実以外に何もない。
自分が加わり、安全な場所から見届けることの出来る真実こそが、最も喜ばれる。

( ''づ)「具体的には?」

312名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:55:49 ID:6KurIn5.0
(-@∀@)「この屋上に人が来るのを止められますか?」

( ''づ)「やろうと思えばね。 でもまたどうして?」

(-@∀@)「ここから犯人を撮影します」

カンイチは信じられない物を見るような目つきをアサピーに向け、無言で説明を求めた。
アサピーは自分が背負っているバッグを指さし、そして望み通りの説明を始めた。

(-@∀@)「犯人はグレート・ベルに潜んでいます。 僕はその犯人を撮影したいんです。
      そのためには他の人間がいない方が、あらゆる面で都合がいい」

( ''づ)「僕は別に特別な権限を持っているわけじゃないから、せいぜい立ち入り禁止の看板を置くぐらいしか出来ないが、それでもいいかい?」

(-@∀@)「えぇ、十分です。 ありがとうございます、ドクター」

( ''づ)「看板を持ってきた後、少しでいいから僕の話に付き合ってもらってもいいかな?」

(-@∀@)「勿論ですよ、ドクター」

( ''づ)「ありがとう…… 彼の事を話す相手が他にいなくてね」

――斯くして、アサピーは予定通りに配置につくことに成功した。
後は時間が来るまでの間、こうしてカンイチの話に付き合い、静かに待つだけである。

313名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 21:03:56 ID:6KurIn5.0
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下水道を歩くのは初めてではない。
地上にいる誰かに見つけられる心配がないことから、犯人の隠れ家に接近する時などによく用いた手段だ。
悪臭を我慢すること、足元に気を付ける事、道を間違えずに進むこと。
それら全ては経験済みであり、体にしっかりと染み付いている。

足を引きずる音だけが静かで不快な空間に響く。
呼吸を鼻でせず、口でするのが悪臭に耐えるコツだった。
下手に匂いを嗅ごうものなら嘔吐勘に見舞われ、捜査どころではなくなってしまう。
若い頃、一度味わった経験があるが、丸一日何を食べても悪臭しかしなかった。

また、その経験から分かっているのは多くの下水道には人が歩けるように段差が設置され、管理用の備品が置かれた部屋と管理業者が出入りするための小屋に通じる梯子がある。
そして大抵の場合、そのような部屋や梯子、階段の近くには足元を照らすための非常灯が備わっているのだ。
全くの暗闇でもないため、トラギコの目は街灯のない路地裏のように下水道を見ることが出来ていた。
記憶した下水道と街の地図を頼りにエラルテ記念病院を目指す中で、トラギコは自分に起きている変化について考えていた。

314名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 21:05:24 ID:6KurIn5.0
アサピーが察した通り、トラギコは自分が以前までとは少し違っていることを自覚していた。
それは考え方、価値観の変化ではなく、人間性の変化なのだという事も理解していた。
一つの出会いが人間をここまで変えることは知っていたが、それが自分の身に起きるとは思ってもいなかった。
崖から車ごと落ち、意識を失ってから起きた一連の出来事は、確実にトラギコの中にあった不要な棘を取り払っていた。

自分でも知らず知らずの内に成長していた棘の消失は、トラギコに新しい視野を与えてくれるきっかけとなった。
それが事件の静観という考えを生み出すに至り、そして負傷した体で下水道を進む理由にまで成長した。
恐ろしいことだ。
出会い如きに影響を受け、そして言動にまで現れてしまうとは。

これから先、自分が行う事は命を賭けた博打だ。
アサピーが先か、狙撃手が先か。
トラギコの命を使い、狙撃手の正体を知るための大掛かりな賭場は、そもそも狙撃手が今もまだ鐘楼にいることとアサピーがしくじらないことが前提になっている。
その前提が覆る可能性は十分すぎるほどあり、場合によってはトラギコの賭けは成立しないことも有り得るのである。

特に賭けの要素が大きいのがアサピーだ。
彼のカメラの腕は完全には分からないし、無事に病院の屋上に到着できるかどうかも怪しい。
何せ、彼はショボンたちに命を狙われている身であり、その理由さえも分かっていないため、何も解決していないのだ。
それでも、トラギコはアサピーを信頼していた。

あの男は真実と向き合うだけの心を持っている。
今はまだそれが未成熟なだけで、これから十分成長できる要素を秘めている。
トラギコの知るどの新聞記者よりも使える男だ。
真実に対して貪欲であれば、真実が一面ではなく多面で構成されている物だと分かるはずだ。

それが分かれば、これから先、トラギコにとっていいパートナーに成長してくれるだろう。

(=゚д゚)「……ここだな」

315名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 21:07:10 ID:6KurIn5.0
やがて、トラギコは一つの梯子の前で立ち止まった。
地図が正しければ、この上にあるのはエラルテ記念病院の裏にあるマンホールに通じている。
マンホールから出た後はトイレあたりに身を隠し、時間まで安全に過ごす。
贅沢を言えば今すぐにでもシャワーを浴びて匂いをどうにかしたいが、そのような幸運に恵まれることはないだろう。

病院から逃げ出し、警察にまで追われているトラギコを匿ってくれる人間など、少なくとも入院患者の中には一人もいない。
せいぜい誰かに見つからないよう、気を付けるしかない。
再びブリッツを両腕に装着し、梯子を上ってマンホールをゆっくりとずらす。
地上の光の眩しさに目を細めながら近くに誰もいないことを確認し、アタッシュケース型のコンテナを先に出してから自分自身も這い出た。

静かにマンホールの蓋を元の位置に戻し、アタッシュケースを拾い上げる。
背の高い植え込みの傍に出たこと、そして病院の裏手に出たことを確かめ、ゆっくりと立ち上がった。
後は病院内に入り込み、時間まで待機すれば――

瓜//-゚)「……おや、これは予想外ですね」

――今まさに病院の影から現れたヅーさえいなければ、万事問題はなかった。
理由は知らないが顔の半分に包帯を巻き、体のどこかを庇うようにして立っている。
痛々しい姿だが、その鶯色の瞳が放つ眼光の鋭さは夏だというのに氷を思わせるほど冷やかである。
生かして遊ばされていた上に行方をくらませたことに文句があるのは間違いないが、今はその小言に付き合うつもりはなかった。

(=゚д゚)「お互いに病院嫌いみたいラギね」

普通の秘書であれば、進んで争いごとの場に残ろうとは思わない。
まして、大怪我を負わされたのであればその場から離れ、安全な場所で指揮を執るのが通常だ。
タフな性格は見かけ倒しではないという事が分かり、彼女に対して抱いていたイメージが少し変わった。

瓜//-゚)「貴方ほどではありませんが、入院などしている場合ではありませんから。
     ここにいるという事は、何か情報を掴んだのですか?」

316名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 21:11:45 ID:ZbzPYvBw0
支援

317名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 21:13:24 ID:6KurIn5.0
教えていいものか迷うが、この際、ヅーを利用するのも一つの手だ。
警察たちに邪魔立てされれば、非常に繊細なこの計画が破たんしてしまう。
この場でヅーに対して嘘を吐いてもメリットは皆無だ。
ならばいっそ、説明をして邪魔をしないよう頼んだ方がいくらかは生産的である。

ヅーは頭が固いが、話が分からない人間ではないはずだ。
少なくとも、ショボンの組織について疑い始めているのならば尚更である。

(=゚д゚)「まぁそんなところラギ」

瓜//-゚)「訊いても?」

(=゚д゚)「その前に質問があるラギ。 俺の脚を撃った糞馬鹿野郎の所在は?」

瓜//-゚)「……軍とは現在別行動中です。 彼の動きについては、クロガネ・タカラ・トミーが知っています」

(=゚д゚)「共同捜査じゃなかったのか?」

瓜//-゚)「彼らにその気があればそうなったでしょうが」
     ....
つまり、また仲たがいをしているという事だ。
表面上はジュスティアが掲げる正義のために共同歩調をとっているように見えるが、その裏では、昔から根付いている考え方のためにしばしば衝突が起こっていた。
どうしても軍と警察は男が主体の職場となり、必然的に上官もしくは上司は男であることが多くなる。
そのため、警察の最高責任者が女であることが両者の間のみならず組織内部にも大きな不満を生んでいた。

女が上司であることに苛立つ警官は勿論、指図を受けるだけで激昂する警官もいた。
ジュスティアには昔から、男は正義のために外で働き、女は家庭の正義を守るという風習がある。
現在の市長、フォックス・ジャラン・スリウァヤはその習わしを“古き悪習”と断じ、女性も積極的に軍務や警務に参加するよう促した。
それが大きな変化の始まりでもあった。

318名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 21:16:18 ID:6KurIn5.0
そして、対立の始まりでもあった。
特に軍の持つ不満は非常に大きく、共同捜査や共同作戦になるとその不満を行動に表すようになった。
結果、簡単に終わるはずの任務が難航したり失敗したりしたことが多々ある。

(=゚д゚)「察したラギ。 じゃあ、初日に俺を撃ったのは間違いなくカラマロス・ロングディスタンスなんだな?」

瓜//-゚)「前にも答えましたが、その通りです。 オアシズで貴方が得た情報を手に入れるためには、多少手荒なことをしない限り無理ですからね。
      トラギコさん、貴方は何を知っているのですか?
      この事件といいオアシズの事件といい、腑に落ちないことだらけです」

どうしてもオアシズの情報が欲しかったのは、以前にもホテルで聞いた。
それを話すのは機会が来てからと考えていたが、どうやら、それは今のようだ。
今ならば、ヅーを最も好ましい形で巻き込むことが出来そうだ。
彼女は真実を欲し、そのためならばジュスティア人らしからぬ決断をしてくれるに違いない。

話を円滑に進めるためにも、人が来ない場所に移った方がいい。

(=゚д゚)「……場所を変えるラギ。
    病院内で安全な場所は?」

瓜//-゚)「なら、隔離病棟の医院長室です。
      誰も入り込むことはありません」

話に乗ってきた。
以前までのヅーであれば絶対に拒否するか、テーザーガンで抵抗力を奪ってからトラギコを連行したはずである。
それがないのは、トラギコの読み通りだという事だろう。

(=゚д゚)「グレート・ベルの死角になるよう移動してほしいラギ」

瓜//-゚)「? 分かりました」

319名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 21:19:18 ID:6KurIn5.0
ヅーに先導され、トラギコは黒焦げになった隔離病棟へと安全に入ることが出来た。
焼け焦げた匂いがまだ残る院内を歩き、黒い強化外骨格に襲われた院長室に到着した。
燃えカスとなった机の前に立ち、ヅーは腕を組んでトラギコに向き直る。

瓜//-゚)「で、お話を」

準備は整った。
言葉を慎重に選ぶ必要はない。
簡潔かつ直接的な物でいい。

(=゚д゚)「これから俺とアサピー・ポストマンで事件に関わっている人間の一人を写真に収めるラギ。
   いいか、よく聞けよ。 事件を直接解決するのは無理ラギ。
   俺たちじゃあまりにも話がでかすぎる」

直接解決が無理、という言葉を聞いたヅーは僅かに眉を顰める。

瓜//-゚)「話がでかい、の意味は?」

(=゚д゚)「手に余るんだよ、今の状態だと。
    相手はただの犯罪組織じゃねぇ、それは断言できる。
    オアシズの事件と今回の事件は全て関連付いている上に、相手は逃げるついでにこの事件を起こしたラギ。
    分かるか? 通りがてら死刑囚を脱獄させて気まぐれに襲って、ジュスティアがこの有様ラギ。

    それぐらいの余裕があるってことは、それ相応の組織が相手だってことラギ。
    今の状態じゃあそれを崩せねぇ。 だがせめて、その大きさを知っておきたいんだ。
    ……この際だから言うが俺に手を貸せ、ヅー」

トラギコの言葉にヅーは、憐れむような目ではなく、話の本質を真剣に理解しようとする眼差しを向けていた。

320名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 21:28:54 ID:6KurIn5.0
(=゚д゚)「お前も気付いているだろ?
    ショボンの組織の大きさ、得体の知れなさを」

瓜//-゚)「……えぇ、手がかりすらありません。
     何か掴んだのですか?」

ここでトラギコは、とっておきの情報をヅーに与えることにした。
自分が想像していたよりも遥かに大きな組織の断片。

(=゚д゚)「考古学者のイーディン・S・ジョーンズ、そしてジョルジュ・マグナーニがいたラギ」

世界的な権威であるジョーンズが組織の一員であることは、紛れもない事実だ。
ショボンと相対したシュール・ディンケラッカーの棺桶を発掘、復元してそれを提供したことは、彼の証言から分かっている。

瓜//-゚)「まさか……ジョーンズ博士がショボンの組織にいるとは考えにくいです。
     理由がまるで――」

(=゚д゚)「理由はいいんだよ、納得がいけば。
    棺桶研究の権威がいれば俺たちの知らない棺桶を使っているのもそうだし、それを運用できているのにも納得がいく。
    でなきゃ、セカンドロックは破られなかったラギ。
    今のところお前に話すのはここまでラギ。

    ここから先の情報は、お前が協力するかどうか次第ラギ」

決断の速さは美徳の一つであり、判断の遅さは悪癖の一つである。
その点、ヅーの決断と判断力は一流だった。

瓜//-゚)「分かりました、協力します」

321名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 21:30:26 ID:6KurIn5.0
判断の裏でヅーが嘘を吐いて情報だけを手に入れようとしているのだとは、とてもではないが考えられない。
短い付き合いだが、彼女はそんなことで嘘を吐くような人間ではない。
彼女もまたジュスティア人であり、警察官なのだ。
大きな真実に対してはその欲求を押さえることは出来ず、小細工を弄する間もなく必ず食らいつく。

勿論、それだけではここまで話はしない。
彼女の実直さ、そして愚かなまでの真面目さを理解し、評価しているからこそ。
今の状態は紛れもなく、彼女の人生にとっての分岐点。
事件の本質を体験した直後は、それまでの価値観が大きく揺らぐ瞬間だからだ。

それは即ち、人間の中にある最も純粋な部分が曝け出される貴重な一瞬という事。

(=゚д゚)「……助かる」

本心から礼を言う。
それからトラギコは、これからの計画について話を始めた。

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322名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 21:32:09 ID:6KurIn5.0
カンイチ・ショコラとの話は、アサピーの決意をより一層強固なものにするのに十分すぎる材料となった。
彼とカール・クリンプトンの間にあった奇妙な友情と、そのすれ違い。
もう少し時間があり、そのきっかけさえあれば二人は親友になれただろう。

( ''づ)「……すまないね、大分時間を使わせてしまったようだ」

もしもアサピーに時間と機会があれば、この事を記事にして世界中に発信したいぐらいだ。
だが、その力も時間も機会も、今はない。
アサピーは新聞社の一員として働いているというよりも、今はトラギコと共に一つの真実を見るために動いている。
カンイチには大変申し訳ないが、時間をかけて話してもらったカールの物語を後世に残すには、今しばらく時間がかかってしまう。

(-@∀@)「いえ、大変貴重なお話をありがとうございました。
      では、そろそろ準備に取り掛かります」

( ''づ)「詳しくは知らないが、カールの死が無駄にならないようお願いするよ」

(-@∀@)「勿論です。 忙しい中ありがとうございました、ドクター・カンイチ」

カンイチはゆっくりとベンチから立ち上がり、何も言い残すことなくその場を去った。
一人残されたアサピーの耳に届くのはシーツのはためく音と、潮風の音。
そして、自らの心臓の音だけだ。
覚悟を決めたつもりだった。

それでは足りない。
覚悟とは行動が伴わなければ意味をなさない。
動くのだ。
人生で初めて命を賭けた撮影のために、持ち得る全てを使う時が、今なのだ。

323名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 21:33:54 ID:6KurIn5.0
閉じられた扉の向こうを見て、アサピーもベンチから腰を上げた。
少し屈んでから巨大なレンズが付いたカメラをバックから取り出し、構える。
鐘楼とは反対側の街並みに対してレンズを向け、精度と自らの手振れの程度を把握する。
距離感覚を掴みつつ、力の入れ具合を体に覚え込ませる。

フォーカスリングの固さを確かめ、体に染みついている距離感覚を頼りに焦点を合わせる練習を行う。
オートフォーカス機能のついていないカメラを使用している理由は、対象が移動した際にフォーカスを手動で合わせた方が早い場合があるからだ。
勿論、機械に任せた方が早い場合が多い。
しかし、遠距離ともなれば手動で予め合わせておいて微調整をした方が確実な場合がある。

特に今回は相手の位置が決まっているため、撮影の度に距離を測定するシステムは必要なくなる。
フォーカスを固定する方法もあるが、万が一の際にはやはり手動の方が速度的には勝る。
試しに一枚撮影し、その手応えを記憶する。
焦点が合っているか否かは、感覚的に指先と目が覚えてくれている。

十枚ほど試しにシャッターを切り、指先に感覚を覚え込ませる。
自己評価としては、申し分はない。
そして望遠性能については予想以上に鮮明に映り、グレート・ベルに最も近い距離の建築物に掲げられた看板の文字がはっきりと読み取れた。
この性能ならば、人間の表情や輪郭も申し分ない程度に撮影出来る事だろう。

風の強さが一層増し、頭上を通り過ぎる雲に灰色のそれが混ざりはじめた。
天候が悪化するのは明らかだ。
また、この雲の色と肌に感じるひんやりとした感覚は激しい通り雨を予感させる。
悠長なことはしていられない。

練習を終え、本番に備えてベンチの影からグレート・ベルに向き直る。
そこで問題が発生した。
シーツの数と位置、そしてグレート・ベルとの高低差が構図に大きな影響を与えていた。
レンズ内に鐘の上部しか映らず、その下にいるはずの狙撃手が入り込まない事が分かった。

324名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 21:41:16 ID:6KurIn5.0
すみません、ここから先がNGワードとやらにひっかかったため、問題が解決し次第投下します。
尚、VIPの方には通常通り投下しています。

325名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 22:27:43 ID:XwtdpWiY0
今よりもわずかに高い場所に上がることが出来れば、とアサピーは焦った。
そこまで深刻にならなかったのは、こうなることは予想の範疇にあったからだ。
こうなった以上、使える手は一手しかない。
脚立以上に目立たず、そして高さを確保できる手段。

それは、屋上に通じる唯一の階段室だ。
十分な高さを持つ階段室を利用すれば、間違いなく今目の前にある問題は解決できる。
それだけでいい。
目の前の問題が全てなのだから。

シーツを一枚掴み、それを頭から被って顎の下で結んだ。
改めてカメラを構え、鐘楼との焦点を合わせておく。
腕時計を見て、後一分弱で正午になる事を確認する。
続いてカメラを腰に回し、痛む体に鞭打って階段室によじ登る。

芋虫じみた動きで登りきると、アサピーはしばらくその場に静止し、安全を確かめた。
伏せた状態では高所にいる被写体を撮影できない。
そこで膝を立て、左腕でレンズの下部を抱くようにして固定して右手を添えた。
呼吸に合わせてカメラが僅かに動く程度で、手振れは殆ど感じられない。

グレート・ベルに向けたレンズを覗いて、今の態勢で生じる手振れの大きさを確認した。
殆ど動いていないのにもかかわらず、中心点は大きく動いている。
呼吸を止めてみると、少しだがそれが和らいだ。
全身でカメラを固定させるようにして、ようやく手振れはなくなった。

次にアサピーはフォーカスリングを動かし、金色の鐘に合わせた焦点を微調整し始めた。
距離的に考えれば、狙撃手はあの鐘とほぼ同じ位置にいるはず。
焦ってはいけない。
今のアサピーは、布と一体となり、地面と一体となり、環境の一つとして溶け込まなければならないのだ。

レンズの向こうには、読み通りに鐘が正面から浮かんでいた。
他に見えるのは、木製の箱とその上に積まれたぼろ布だけだ。
人影などありはしない。
また、銃のシルエットもありはしない。

狙撃手は一度使用した狙撃ポイントを二度使うことはない。
だがアサピーとトラギコは、狙撃手が移動していないと確信していた。
相手は己の技量に過信したからこそ、何度も同じ手段を使っている。
こちらが気付いたと悟られない限り、その場所を変えることはないだろう。

ズームリングを最大まで回し、揺れる像の中から狙撃手らしきものを探す。
ちらりと見やった腕時計の秒針が、残り時間一分を切った事を告げる。
分かっていても焦りが指先に伝わってしまう。
深呼吸をして、精神を統一する。

全ては、この糞を極めた混迷の状況――tinker――を打破するために。

326名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 22:29:13 ID:XwtdpWiY0
僅かな動きは、監視者が注意を底に向けるのに十分すぎる要因となる。
アサピーは相手の性格上、鐘が鳴る時間の前に動いて標的を探し、鐘の音と同時に狙撃するのだと推測していた。
あと少しすれば、相手は動くはずだ。
狙撃手とカメラマン、忍耐の強さとそれが生み出す優位性はカメラマンの方が上である。

そして。
遂に。
レンズの向こうに。
鐘楼に潜む狙撃手を、捉えた。

(;-@∀@)「見つけたっ……!!」

同時に黒雲が太陽を隠し、ティンカーベル全体が薄暗く陰った。
それでも、影の中に潜む陰を見失いはしない。
手に汗が滲む。
冷や汗が額に浮かぶ。

――いよいよ、真っ向勝負が始まる。

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Ammo→Re!!のようです Ammo for Tinker!!編

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                                       |
                                       ∧
                                      ノ..λ
                                      /…λ
                                         ====、、
                                      |.|IIII|.|l
                                      /∴∴ヾ、
                                         l,i,i,i,i,i,i,i,i,i,iili;,
                                    _|I I I I I I_|;}、
                                            | |γ⌒ヽ| |ll|
                                            | |,.!、,__,ノ.| |ll|
                                            i''i;;:::;;:::;;:::;i'il|'
                                    =========、
                                        | |'i'i'i'i'i'i'i'| |ll|

                   第十章【Ammo for Tinker!!】
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それはぼろ布などではなかった。
高度に計算されて色付けされた迷彩であり、自らの姿とライフルを覆うための防護布であった。
影の中に潜む狙撃手はアサピーの方を向いているが、その目はこちらを捉えられていない。
風の動きに合わせて僅かに身じろぎして体の向きを変え、何かを探しているようだ。

アサピーは焦っていた。
対象が陰った場所にいることは分かっていたが、天候がここまでアサピーの敵となることは計算していなかった。
明るさが圧倒的に足りない。
露光量を調節してしまえばブレに大きな影響が出る。

327名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 22:29:58 ID:XwtdpWiY0
周囲に明かりが必要だ。
フラッシュを焚いてもこの距離では大した意味はない。
湿った生ぬるい風が雨の気配を知らせる。
天候の更なる悪化の兆候に、ますますアサピーは焦る事となった。

一眼レフのカメラは水に弱い。
用途に合わせたレンズの交換という利点を得た代わりに失ったのは、防水性だった。
霧雨の中でならまだいいが、豪雨となればカメラ本体だけでなくフィルムにまで影響が出てしまう。
一刻を争う事態だ。

残された時間まで、後一分もない。
トラギコが病院から姿を現し、狙撃手が正面を向くその一瞬を狙わなければならないというのに。
どうしても、光が足りない。
顔にも施された暗色の迷彩ペイントが、アサピーをあざ笑うかのようだ。

この段階で写真に収めることは出来ても、顔が分からなければ写真としての価値はほとんどない。
どうすればいいのだろうか。
強烈な明かり。
輪郭すら浮かび上がらせる明かりを狙撃手に当てるにはどうすれば――

(;-@∀@)「そうかっ……」

――たった一つだけ、考えが浮かんだ。
狙撃手自身が生み出す明かり。
つまり、発砲炎。
トラギコが撃たれる一瞬にのみ生じる炎ならば、狙撃手の顔を照らしてくれるに違いない。

だがそれは、トラギコを撃たせるという事だ。
正面から喧嘩を売る形で相対するトラギコは急所を穿たれ、即死するだろう。
絶対に被弾させてはならない。
満身創痍である以上、銃弾を回避するような無理は出来ない。

バッグからフラッシュを取り出し、カメラの上部に装着する。
フラッシュはほとんど意味がないが、相手の注意を逸らすことは可能だ。
あえてこちらに注意を向けさせれば、銃弾はトラギコを貫かない。
それしかない。

残り十秒となった時、アサピーは呼吸を徐々に浅くし始めた。
そして三秒前で呼吸を止め、カメラを全身で固定する。
フォーカスは完璧。
後は、正面を向き、発砲してくれるだけでいい。

‥…━━ August 11th AM11:55 ━━…‥

アサピーが位置に着く少し前。
大雑把に説明を終えてヅーと分かれたトラギコは、彼女が予定通りに行動起こしてくれていることを願っていた。
ヅーに依頼したのは、隔離病棟でトラギコが何か調べているのを発見した、という情報を全体で共有してほしいという事だった。
勿論、それは警察だけでなく、協力体制にある軍の人間にも話をするという事だ。

328名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 22:30:54 ID:XwtdpWiY0
情報共有の速さが遅ければトラギコにとって不利になる。
希望的な観測をしているわけではないが、彼女ならば大丈夫だろう。
若くして警察の最高責任者の秘書の座に就き、多くを機械的にこなす彼女ならば。
今回、トラギコとアサピーの作戦で欠かせないのはやはり狙撃手の注意がトラギコに注がれることだ。

狙撃手は風に対して非常に神経質な性格をしており、常にそれを知ろうとする。
風向きとその強さを知るためには観測手か道具が必要なのだが、臨機応変な対応が要求される現場ではあまり使われない。
事前に相手のいる場所などが分かっていれば別だが、街中に出現する標的を狙撃する際には、やはり周囲の物から計算するのが一般的だ。
このエラルテ記念病院で最も分かりやすく風向きとその強さを知るには、病院の屋上に干されている洗濯物が一番の手がかりとなる。

だが屋上にばかり目が行ってしまうと、アサピーの姿が見つかる可能性が高まる。
彼はこの作戦の要であるため、何が何でも失うわけにはいかない。
そこで考え出したのが、狙撃手がトラギコの出現場所をあらかじめ知り、別の場所に目を向けさせることだった。
病棟から出て行ったヅーに頼んだことは、もう一つあった。

トラギコがいる事を知らせるという名目で、隔離病棟の格子に白い布を巻かせた。
これで狙撃手は安心して風向きとその強さを知ることが出来る。
相手にとって最高の環境を整えてやれば、後は自然と動き出してくれる。
問題があるとしたら勿論トラギコの身の安全だけだ。

撃たれないわけにはいかない。
撃たせなければいけないのだ。
当たらないようにするには、防具が必要になる。
強いて防具になるとしたらブリッツとコンテナぐらいだ。

防げるかどうかは運次第。
時計を見ながら、準備運動を始める。
走ることは出来ない。
文字通りの相対しかない。

(=゚д゚)「……ふぅ」

久しぶりの感覚。
初めて立てこもり事件を力で解決した日を思い出す。
踏み出せば始まり、失敗すれば死が待っている。
心臓の鼓動が生きている証となり、手に滲む汗が己の体の限界を教えてくれる。

時間は正確でなければならない。
鐘の音が銃声を隠すその時、トラギコは歩き出すしかないのだ。
残り数分が一分、そして秒となる。
アタッシュケース型のコンテナを手に、覚悟を決めた。

(=゚д゚)「行くぞ、カメラマン」

329名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 22:31:45 ID:XwtdpWiY0
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      /三ニニ==-  _|            、__',
     三≧==-         ̄≫  `¨、 _-‐‐ ‐ /
.          \   ヽ  ≫”ニ\   `二ニ´ /
.      \  ヽ     《 ヽニ=-\      /_
        ヽ       、\ iニニ= ` -=≦\ ヽ__
.       }i         }i i| }三三三ニ=-‥…━━ August 11th PM00:00 ━━…‥
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

鐘の音が鳴り響く。
狙撃手が動く。
腕がライフルを操作しているのが見える。
トラギコを視認し、装填したのだろう。

まだだ。
銃爪を引くそのタイミングを読み、こちらもシャッターを切るのだ。
ここから先は直感が物を言う。
最高の一瞬は最高のチャンス。

絶対に逃すわけにはいかない。
狙撃手とカメラマン、共に狙うのは最高の瞬間。
こちらはそれだけを追い続け、一切の妥協を許さない職業だ。
相手にとって不足はない。

銃爪の重さとシャッターの軽さ、その違いを教えてやらねばならない。
相手の思考を読む。
トラギコの動きを想像する。
パパラッチが有名人の動きを推測するように、動物的な感覚を研ぎ澄ましてその全てを思い描く。

聞いた話によれば、狙撃手は湿度や風に大きな影響を受けるために風がある程度落ち着いたところで銃爪を引き絞るという。
だがカメラにはそのようなことは関係ない。
風も湿度も地球の自転も、この距離では一切関係ないのだ。
強く吹いていた風が弱まる気配を感じ取り、アサピーは人差し指に力を僅かに込めてシャッターを切った。

瞬くフラッシュの白光。
そのほんの数瞬後に生まれた発砲炎。
銃声は鐘の音の中。
これでアサピーの位置は狙撃手に伝わったはずだ。

トラギコの安否を今は気にしていられない。

(-@∀@)「まだっ……!!」

撮影を一枚だけで終わらせるわけにはいかない。
数枚の中から選定された一枚でなければならない。
ブレや翳りの無い一枚が撮れるまで、連射するのだ。
そう、連射こそがこの勝敗を左右する鍵になる。

330名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 22:33:31 ID:XwtdpWiY0
ボルトアクションライフルとカメラが次の一手を打つとき、速度の違いが如実に生まれる。
アサピーは人差し指でレバーを手前から奥に押してフィルムを巻き上げ、狙撃手は空けて引いて戻して閉じる作業が必要になる。
つまり、アサピーの方に利がある。
二枚目の写真を撮影し、すかさず三枚目の撮影に入る。

そして狙撃手側の第二射目。
これを待っていた。
自分を向き、火を噴くライフルを向けてくれる瞬間。
最高の構図、最高の一枚をカメラに収めた。

シャッターを切った直後、アサピーの肩を銃弾が掠め取んだ。
まだだ。
まだ撮影できる。
そう思った矢先、カメラが大きくアサピーの手から離れてしまった。

三発目の銃弾は超望遠レンズを掠め、カメラ本体を吹き飛ばしたのだ。
レンズが壊れてしまえば撮影は不可能。
撤収するしかない。
命拾いしたアサピーはカメラを掴んでその場から転がり落ち、非常階段を駆け下りた。

フィルムだけを回収し、重荷となるカメラ本体は階段に捨てた。
後はトラギコが無事であることを確かめ、予定通りに事を運ぶだけだ。

(;-@∀@)「トラギコさん、頼みますよっ!!」

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           i{   { / ∧     ヽ::| __,      / :}八{`   }i
            i{  {/ /∧  、   ¨´      /  〉   }    }i
           ∧  ∧  { ∧  `二 = - 、    '   /   /i   }i
.         i{∧  ∧ ∨∧      ̄`   /  /  /.:i     }i
        i{ ∧  ∧ ∨ ヽ   _ イ__,/    /. :i   〃
          i{ /  〉  /   ∨ヾ三三三三‥…━━ August 11th PM00:00 ━━…‥
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

鐘の音が鳴り響く。
トラギコは扉を押し開き、歩き始めた。
怨敵がいる鐘楼が見える。
あの場所からカールは撃たれたのだ。

トラギコと間違えて撃たれ、優秀な医者が一人死んだ。
許しがたい。
何が何でもこの手で殺さなければ気が済まなかった。
グレート・ベルを見上げると、黒雲が早い速度で流れているのが一緒に見えた。

天候は間もなく崩れるだろう。
光が瞬き、その瞬間が訪れた。

(= д )「――ぐっ!!」

331名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 22:34:17 ID:XwtdpWiY0
予め想定できた銃弾が襲う場所は、人体にある急所のどこか。
そう考えた時、トラギコは狙撃手の性格を考慮することにした。
風で狙いが逸れても致命傷を与えることの出来る部位、即ち、心臓部だ。
そこで胸部を守るために鉄板の入った防弾着を着こみ、備えていた。

頭部を狙われていたら終わりだったが、それはあり得ないことを知っている。
火事の中で狙撃手が撃ったのは頭部ではなく胴体だったからである。
初弾は狙いが僅かに逸れ、ろっ骨の部分に当たった。
衝撃で意識を失いかけて倒れるが、膝をついて耐える。

その直後、颶風と化した“イージー・ライダー”がトラギコを掴み上げてその場から離脱した。
二発目が飛んで来ないことが不思議だったが、何はともあれこれでいい。
全ては計画通り。
アサピーにもヅーにも話している通り、この事件の解決はトラギコの役割ではない。

(=゚д゚)「……後は頼んだぞ」

そう。
この事件を解決するには、圧倒的な力が必要になる。
それはティンカーベルの力でもなければ、ましてやジュスティアの力でもない。
軍でも警察でも円卓十二騎士でもない、全く別の存在。

このままではどうあってもトラギコ達で事件を終息に導くのは不可能。
トラギコは利害の一致によって役割を与えられた駒に過ぎないのだ。
より大きな事件に食らいつくために捨てたのは意味のない矜持と邪推。
後は任せるしかない。

――本名も素性も分からない、あの旅人に。

332名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 22:35:35 ID:XwtdpWiY0
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             「あの子の教育に役立ったし、その頼み、任されてあげる」
                ‥…━━ August 11th ??? ━━…‥
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333名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 22:36:16 ID:XwtdpWiY0
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                     ζ(゚ー゚*ζ「さぁ、逆転の時間よ」

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                   全ては、ここから逆転する。

                 Ammo→Re!!のようです Tinker!!編
                                                   
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334名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 22:37:34 ID:XwtdpWiY0
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                         Tinker!!

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                           nker!!
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335名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 22:38:56 ID:XwtdpWiY0
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                   T i n k e r   →   R e k n i t
                酷く絡み合った糸は今、編み直される

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次回 Ammo→Re!!のようです 新編
                         Ammo for Reknit!!編
                                            To be continued...!!
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336名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 22:39:57 ID:XwtdpWiY0
支援ありがとうございました
これにてTinke!!編は終了となります
次の投下まではしばらく時間が開く予定です

質問、指摘、感想などあれば幸いです

337名も無きAAのようです:2015/07/20(月) 01:32:50 ID:neARTa760


338名も無きAAのようです:2015/07/20(月) 07:25:54 ID:iRiodrKc0

アサピー……男になったな

339名も無きAAのようです:2015/07/20(月) 11:17:32 ID:zPUcSD.60
乙!
トラギコが死ななくてよかった

340名も無きAAのようです:2015/07/21(火) 16:00:52 ID:zUDtFf1.0
乙 ブリッツのコンテナ回収してたのか
さて、おねショタ一行の無双期待

341名も無きAAのようです:2015/07/24(金) 22:25:25 ID:2aViECOA0
今までで1番面白いおつ

342名も無きAAのようです:2015/07/25(土) 01:31:35 ID:lA.o4vsQ0
更新きてたのか乙!
初登場の頃はモブとなんら変わりない立場かと思ってたのに今やキーマン…。人の成長って凄いわ。
続編気になりすぎる…気長に待ってる!楽しみにしてるよ!

343名も無きAAのようです:2015/09/23(水) 11:42:37 ID:AX4Vu/Ww0
面白い!

344名も無きAAのようです:2015/11/24(火) 18:10:21 ID:fnEnF2/o0
楽しみ

345名も無きAAのようです:2015/11/24(火) 21:06:49 ID:SeWWrMD.O
皆さん、オワコン社長をよろしくお願いします。気に入ったらチャンネル登録!!
http://www.youtube.com/watch?v=aSMLi2uOkvk
http://www.youtube.com/watch?v=cbwrnLKERpA
http://www.youtube.com/watch?v=gPevsHpSj-Y
http://www.youtube.com/watch?v=9ekKaVB5uHg
http://www.youtube.com/watch?v=cP0NAOzKQAE
http://www.youtube.com/watch?v=hekgfuTcX6o
http://www.youtube.com/watch?v=1uzYFjN7z5E

346名も無きAAのようです:2015/12/23(水) 09:24:05 ID:4620dOg.0
二日で最初から読んできたぜ
更新待ってるよ!


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