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('A`)は異世界で戦うようです

1名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:21:36 ID:gOpuSR2Q0
鬱田ドクオとは、一言で言えば弱い人間だ。

過去を振り替えれば後悔しなかった出来事はないし、ましてや努力なんて言葉とは無縁の存在である。

テストは赤点ギリギリ、運動能力は一般人より少し劣る程度、体つきは貧相なもので米俵一俵持つのが精一杯。かといってそれらを補うための努力をしたいなぁとは思っても、けして実行することはなかった。

そんなわけだからドクオは自分という存在が嫌いだった。変わりたいと願っても、変えようとすること自体がめんどくさくなってしまう。

大学を卒業し、なんとか内定をもらった会社も周囲の環境に溶け飲むことが出来ず、やめてしまったことも自己嫌悪の一つの原因である。

よって、ドクオにとっての自分とは、あってもなくても変わらない路傍の石のような存在で、そんな自分が世界に与える影響など皆無だと信じ込んでいた。

*鼹類燭辰榛*、この瞬間までは。

353:2014/06/26(木) 16:30:30 ID:AXRm0dFE0

街の中央広場にある噴水の縁に腰掛け、空を見上げながらこれからのことを考える。

悪魔と集団失踪。この二つが繋がっているのは間違いないが、人為的なものなのか、それとも自然に発生してしまったのかがいまいち掴めない。誰かの手によって引き起こされたものならばそいつを倒せば済む話だが、自然的なものならドクオにはどうしようもない。

もちろん魔法陣の痕跡がある以上、誰かがこの件に噛んでいるのは間違いない。

ドクオは煙草を取り出して火を点ける。こちらに来てからすっかり馴染んだ味を堪能し、吐き出す。

('A`)y━・~~(やっぱ煙草は落ち着くな。健康には悪いんだろうけど、今さらやめられんし)

わざとどうでもいいことを考えて、少しでも気持ちを落ち着けようとするが、煙草を持つ手は僅かに震えていて緊張を隠せない。

以前までとは状況が違うのだ。ニダーや貞子のように強敵とはいえやつらは人だった。人であるから感情があり、限界がある。伝説上の存在ではない。

354:2014/06/26(木) 16:31:13 ID:AXRm0dFE0

('A`)y━・~~(まぁ、ここまで来た以上、生き残るためには戦うしかないんだろうけど)

腹は当に決めたはずなのに、何故こんなにも胸がざわつくのだろう。落ちていく灰を見つめながらその理由を探すが、うまく説明できそうにない。

煙草を二本ほど吸いきったところで、ドクオはようやく重い腰をあげた。明日から忙しくなる、休めるときに休んでおかなければ身が持たない。

ドクオが宿へと足を向けた時、向かい側から誰かの足音が聞こえてきた。

腰にある剣に手をかけ、身構える。足音は一つ、相手は一人のようだ。

(*゚ー゚)「あ」

ドクオは暗闇から現れた少女の姿に拍子抜けした。まさかしぃがやって来るとは思わなかった。

355:2014/06/26(木) 16:31:58 ID:AXRm0dFE0

('A`)「……しぃちゃんか。どうしたんだ、こんな夜更けに」

(*゚ー゚)「なんだか眠れなくて。ドクオさんもですか?」

('A`)「ああ。今日のこともあるし、気が高ぶっちゃって」

剣にかけた手を戻して、もう一度煙草を取り出す。火を点けるとしぃがくすくすと笑った。

(*゚ー゚)「ドクオさんでも緊張するんですね」

('A`)y━・~~「そりゃな、元々こんな生活とは無縁だったわけだし」

(*゚ー゚)「……ドクオさんは一般人ですもんね」

しぃが言った一般人、という言葉が少しだけ強調されて聞こえた。どこか羨望のような感情が混じっているよな、そんな気がする。

隣に並んだしぃの顔はいつもと変わらない無表情。頭一つ分背の低い彼女は空を見上げている。ドクオもそれを追って顔を上げた。

356:2014/06/26(木) 16:32:47 ID:AXRm0dFE0

二人の間に静寂が訪れる。街は眠りについており、頬を撫でる風の音さえも聞こえてくる。昼間は賑やかだった広場も今は二人だけしかいない。

しぃが哀愁のような雰囲気を纏っているように見えるのはドクオに女性の感情を分かる術がないからだろうか。

('A`)y━・~~「……答えたくないならいいけど、しぃちゃんはなんで騎士団に入ろうと思ったんだ?」

何かを話さなきゃ、と口をついたのはどうでもいい世間話とは離れたものだった。モララーは騎士団に入ろうとする者は何かを抱えている人間が多いと言っていた。例えば、渡辺やツンのように。

ショボンは騎士団というのは秩序であり、剣であり盾だと言った。それは誰かのために命をかけるだけの理由や事情があるということだろう。圧政に強いたげられたのかもしれないし、魔物や盗賊に家族や友人、果ては恋人を奪われたのかもしれない。

個人ではどうしようもないことを騎士団ならば変えられるという希望を持つからこそ、自分にルールを課して戦うのだろう。ドクオはそう理解している。

だから、こんなことはきっと聞いてはいけない。人それぞれ思うところがあって騎士団にいるのだ。ドクオのような人間が容易く踏みいっていい領分ではない。

言ったあと、しぃの沈黙にドクオは慌てて次の話題を探したが、裏腹に彼女はなんでもないかのようにそれを話し始めた。

(*゚ー゚)「私は孤児なんですよ、魔物に両親を目の前で殺されまして、そのあとにとある教会で育てられました」

それから、とつとつとしぃは語る。

魔物に両親を殺された彼女は心を閉ざし、少しのことで脅えるようになってしまった。周りの子供とも馴染めず、一日誰とも話さないことも多かった。

だが、それを見た神父はしぃを気にかけ、辛抱強く何度も何度も話を聞いてしぃの心の傷を少しずつ癒してくれた。しぃが他の子供達と遜色なく笑顔を見せるようになったのは両親の死から一年後である。

周りの子供達も辛い経験をしているはずなのに、いつだってしぃに優しくしてくれた。そんな環境もしぃを立ち直らせてくれるのには好都合だったのかもしれない。

そして月日が流れ、しぃが十二歳になった頃、その教会の取り壊しが決定した。

357:2014/06/26(木) 16:33:29 ID:AXRm0dFE0

(*゚ー゚)「元々教会なんていうのは信仰がなければ機能しません。どちらかと言えば孤児院として残っていたんでしょう。ですが増えすぎた子供達を養うには寄付金だけでは足りません。取り壊しもやむ無しでした」

行き場を失った子供達は騎士団が引き取り、未だに訓練生として学校に行ったりしているそうだ。衣食住を保証された生活を与えられた子供達は選択肢のない日々をなんとかこなしている。しかし、唯一教会の神父だけが行方が分からないまま。

(*゚ー゚)「私達には選べるほどの道はありませんでした。気がつけば騎士団にいたという感じですね。もちろん騎士になれたことは誇りに思いますし、今の生活にも満足しています」

けれど、しぃの顔はけして晴れない。その理由はドクオにだって分かる。

('A`)y━・~~「神父さんが、今も心配か?」

(*゚ー゚)「そうですね。宗教が廃れたこの時代ですし、何をしているのかは分かりませんが、出来ればもう一度会ってお礼を言いたいとは思います」

しぃはそれきり口を閉ざした。大切な思い出を慈しむかのように目を閉じる。

('A`)y━・~~「……なら、この件が終わったらちょっと長めに休暇でも取って探しに行こうぜ」

そんなしぃを見て、ドクオは思い付いたことを口にした。我ながらいい案のように感じる。

だが、しぃは馬鹿にしたような、それでいて驚いたような表情をドクオに向けていた。

(*゚ー゚)「……はい?」

('A`)y━・~~「なんだよその顔。会いたいんだろ、神父さんに。だったら探しに行こう。王都にいたって神父さんが訪ねてくるとは限らないしさ。こっちから出向いたほうが喜ぶかもしれないぞ」

(*゚ー゚)「……手がかりも何もないんですよ?」

358:2014/06/26(木) 16:34:13 ID:AXRm0dFE0

('A`)y━・~~「そんなもんは道中探していけばいいんだよ。何もしないよりはましじゃないか。きっと大人になったときに、あの時探しに行けばよかったって後悔したんじゃ遅いんだぜ?」

自分がそうだったんだ、とは口が裂けても言えないが。

('A`)y━・~~「一回じゃ見つからないかもしれないが、何回も何回も探しにいけばいつかは見つかるさ。一人じゃきついかも知れないが、俺もついていくよ。暇だからな」

(*゚ー゚)「……そう、ですね」

('A`)y━・~~「俺だけじゃ不安なら渡辺やツンも誘おう。モララーも、ついてきてくれるかな。なんだかんだあいつもしぃちゃんのこと気にかけてくれてるしさ」

(*゚ー゚)「話が大きくなってませんか?」

('A`)y━・~~「いいんだよ、これくらいで。その方が寂しくない」

しぃもドクオも一人ではない。頼れる仲間や友人がいるのだ。周りを頼らず、一人で何でもできるのは凄いことかもしれないが、それには限界がある。

(*゚ー゚)「ドクオさんは、時々凄いことを言いますね」

('A`)y━・~~「何も凄くはないさ。当たり前のことを当たり前に言ってるだけだ」

その当たり前が一番難しいことをドクオは知っている。元の世界では出来なかったこと、こちらに来て経験したことが今のドクオに段々と根付いているからこそドクオは胸を張っていられるのだ。

359:2014/06/26(木) 16:34:57 ID:AXRm0dFE0

(*゚ー゚)「ドクオさんは馬鹿ですよ。見つかるかも分からないのに」

残り少なかった煙草が最後の一本となり、くわえてからドクオはようやく彼女に言葉を返した。

('A`)y━・~~「んなもんやってからじゃなきゃ分からないって。見つかりゃ万々歳、見つからなきゃ仕方ない。さっきも言ったが、やらずに後悔するよりやったほうがいいんだって」

しぃは瞳を閉じて、何かを考えているのだろう。彼女の心にある思い出の欠片は、きっと簡単には見付からない。けれど行動を起こすことに意味があるのだ。おそらく、しぃもそれを分かっている。だからすぐに答えられない。

最後の煙草が灰に変わる頃、ようやくしぃは一言だけポツリと呟いた。

(*゚ー゚)「……約束ですよ」

('∀`)「おう」

にこやかな笑顔でドクオは静かに答えた。つられてしぃも笑っている。年相応の可愛い笑顔に、ドクオは思わず頭に手をやりわしわしと撫でてしまった。

(;*゚ー゚)「ちょ、やめてください」

('A`)「はは、悪い悪い」

嫌そうにそう言うものの、しぃは逃げたり止めたりはしない。ドクオの手にされるがままだ。

どれくらいそうしていたか、ドクオは唐突にその手を止めた。

('A`)「……おい」

360:2014/06/26(木) 16:35:46 ID:AXRm0dFE0

ドクオの声にしぃも顔を険しくする。

(*゚ー゚)「ええ。何か、おかしいですね」

辺りは相変わらず静寂を守っている。それはおかしいことではない。しかし、あまりにも静かすぎる。いつの間にか虫や鳥の声、果ては星空の光さえない真っ暗闇の中にドクオたちは迷い混んでいた。

武器を持っていないしぃを庇うようにドクオは前に出て武器を構える。誰かが襲ってくる様子はないが、周囲に何かがいるのは確かだ。小さな息遣いとジリジリと距離を詰める足音が微かに聞こえている。

('A`;)(数が多いな。俺だけでなんとかなるか?)

汗が頬を伝い、ポタリと地面に落ちた瞬間━━

('A`)(来たっ!)

▼・ェ・▼「GYAAAAAAAAAAAAA!!」

犬のような姿をした魔物、その数三匹が一斉に襲いかかってくる。ドクオは前方の一匹を斬り伏せ、しぃの手を引き走る。

361:2014/06/26(木) 16:36:35 ID:AXRm0dFE0

('A`;)「なんだよありゃ! この街の結界はどうなってんだ!?」

(;*゚ー゚)「先程まで正常に動作していました。つまり、敵は中にいるということでしょう」

('A`;)「誰かが手引きしたってことか。とにかく今は」

距離を空けたところで振り返り、もう一太刀。短い悲鳴をあげて魔物は消え去った。

('A`)「ここを切り抜けるとするか!」

ドクオの声と同時に二人を囲むように魔法陣が浮かび上がる。そこから大量の魔物が現れ、次々と牙を向いてくる。

動きそのものは冷静に対処すればそれほど驚異ではない。しかし魔物達はうまく連携をとって前後左右を動き回り、ドクオの隙をついて攻撃を繰り出していた。

('A`)「きりがねえぞ!」

(;*゚ー゚)「ドクオさん、私のことは構わずに!」

('A`)「馬鹿、んなこと言うな!」

362:2014/06/26(木) 16:37:19 ID:AXRm0dFE0

一匹、また一匹と増え続ける魔物をドクオはひたすら斬り伏せていく。術者がどこかにいるはずだが、もしかしたらこの空間そのものが敵の魔法という可能性もある。だとすればここを脱出しなければ生き残る術がない。

('A`)(魔法ならこの剣で斬れるはず。なら、そいつを探すしかない)

と、ドクオが意識を魔物から外した時だった。魔物達の動きがぴたりと止まり、ぶるぶると震えだす。

('A`)「なんだ?」

予想もしない展開にドクオは剣を構えたまま呆然とする。が、次の瞬間魔物達の体が発光し、一つの塊となった。

(;*゚ー゚)「……これは、生体合成!?」

('A`)「は?」

塊は徐々に形を成していき、一匹の魔物となる。その姿は先程の可愛らしい外見とはうって変わって禍々しいものへと変化していた。

▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼
▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼
▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼
▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼

363:2014/06/26(木) 16:38:06 ID:AXRm0dFE0

('A`;)「うげっ、ケルベロスかよ」

九つの首を持ち、同じ数の尻尾。体は先程の三倍ほどもある。どの顔も光のない目をしており、口には肉を噛み千切ることに特化した鋭利な牙がびっしりと生え、止めどなく涎を垂らしている。

(;*゚ー゚)「来ます!」

合体した魔物が走り出した。動きも速い。寸でのところで横に飛び、攻撃をかわすが体勢を整える前に魔物の体がこちらを向き、九つの口から炎を吐いた。

('A`;)「くそっ」

剣で火炎を受け止めるも全てを消しきれない。徐々に押し負け、ドクオは上方向に体を崩され火炎をもろに浴びてしまう。

( A )「があっ」

(;*゚ー゚)「ドクオさん!!」

何かの加護でも働いたのか、剣により威力が弱まったのかは知らないが消し炭にならずに済んだが、火傷が酷く鈍い痛みが体を駆け巡る。

('A+;)「っのやろう!!」

しかし止まる訳にはいかない。痛む体に鞭を打ち、ドクオは正面から駆け出す。

('A+)「はっ!!」

364:2014/06/26(木) 16:39:34 ID:AXRm0dFE0

図体が大きくなった分こちらの攻撃は当たりやすくなった。横薙ぎに降った剣は致命傷にはならないが、一つの首を切り落とした。いつものように消滅とはいかないが、魔物からは悲痛な叫びがあがる。

さらに一歩踏み込み、もう一撃。まとめて二つの首を消滅。すぐに横に飛ぶと前足がドクオの頬をかすった。

('A+)(あまり時間はかけられねぇ)

ドクオは地を蹴り懐へと潜る。腹の中心に切っ先を向け、一気に突いて思いきり振り下ろした。

▼・ェ・▼「Wooooooooo!!」

叫びと共に魔物は崩れ落ち、光の球となって周囲に拡散した。すると暗闇が徐々に消えていき、街の景色が元に戻っていく。

(*゚ー゚)「どうやらあの魔物が魔法の元になっていたようですね」

('A+)「……」

しぃの声が安堵を取り戻すと同じくして、ドクオはついに膝を折った。

(;*゚ー゚)「ドクオさん!!」

薄れ行く意識の中、血相を変えたしぃの瞳に涙が浮かぶのを確認して、ドクオは再び闇の中へと落ちていった。

365:2014/06/26(木) 16:40:35 ID:AXRm0dFE0

◇◇◇◇

( ゚"_ゞ゚)「ふむ。あの程度ではやはり駄目か」

遠くからドクオの戦いぶりを見ていたオサムは手元にあるメモに走り書きをする。

( ゚"_ゞ゚)「所詮は魔物でしかないということか。しかしマナの密度をあげたことで魔剣ですら消しきれないようだな。これは実に興味深い」

魔剣とは全てを喰らい消滅させる破壊の象徴だと思っていたが、使用者の力不足なのかイマイチ驚異とは感じなかった。

対貞子戦では彼女の闇魔法ですら打ち消すことが出来なかったそうだし、少々がっかりである。

できるのならば魔剣の本当の力を知りたい。余すことなく、全てをさらけ出してほしい。伝承の通り、破壊と絶望を撒き散らして欲しいのだ。

( ゚"_ゞ゚)「もっと強いキメラを当ててみるか。だが、残りも少ない。これは参った」

366:2014/06/26(木) 16:41:38 ID:AXRm0dFE0

座っていた棺桶の中を物色しながらオサムは次の手を考える。今回のゲームをするにあたり様々な物を用意してきたが、小手調べに使う駒はそう多くない。可能であれば次でゲームを始めたいが、魔剣の力を引き出さねば面白くない。

これでは折角の舞台も盛り上がらないと言うものだ。

( ゚"_ゞ゚)「今さら王都に行って新たな駒を作るのもめんどうだ。どうせならここを実験場にしてしまおう」

幸いこの街は幾つも手をつけていない。モルモットも多く残っていることだし、騎士団が向かうモ・トコからもそう離れてはいない。

オサムが棺桶を空けると一つの黒い球が浮かび上がり、ゆっくりと降下していく。

( ゚"_ゞ゚)「今回は少し大きめにしておくか。あまり時間もない」

黒い球に手を突っ込み、情報を与えると球は複雑な模様と文字を描きながら地面に貼り付いた。一瞬にして魔法陣が出来上がり、オサムは無表情にそれを観察する。

( ゚"_ゞ゚)「こんなものか。さて、次の段階に進むとしよう」

魔法陣が光を失い見えなくなると、オサムは踵を返し街を出る。

魔剣の主と騎士団、楽しいゲームの時間だ。

367:2014/06/26(木) 16:42:24 ID:AXRm0dFE0
第八話 終

368:2014/06/26(木) 16:46:18 ID:AXRm0dFE0
昨日投下するといっていたにも関わらず一日遅れてしまいまして大変申し訳ありません
なんだかよくわからないんですが、BBHとかなんとかで書き込みができませんでした
とりあえずこんなところで第八話終了です
次回投下は恐らく月曜日か日曜日になると思います
今回も読んでいただきありがとうございます
それではまた次回

369名も無きAAのようです:2014/06/26(木) 17:57:48 ID:9NtxaA6c0
乙乙

370名も無きAAのようです:2014/06/26(木) 18:18:58 ID:AzP8GVQ60

ドクオのギャルゲ系イケメン具合に嫉妬

あとケルベロスの表現の仕方に何だか笑ってしまったw てか頭が12頭ないか?
かわいい

371名も無きAAのようです:2014/06/26(木) 23:31:49 ID:0neGwT/w0

今回も楽しく読ませてもらった
このドクオ絶対イケメンだろ

372名も無きAAのようです:2014/06/28(土) 21:02:58 ID:TlDpC.Ps0
お、来てたのか


373:2014/06/29(日) 00:31:04 ID:fXDvGWPk0
こんばんは、1です
どうやら日曜日の投下は無理そうなので月曜日の夜にでも投下しようかなと思います
ちょっとリアルで問題がありまして次の話がまだ半分ほどしか出来上がっておりません
ですのであと一日待っていただけたらと思います
では月曜日の夜にでも

>>369
ありがとうございます

>>370
oh...九つなのに三つ多い……
指摘ありがとうございます
ケルベロスはAA作るか悩んだんですがめんどいのでやめました
私もこれ見た瞬間ぶふぉってなりましたね、あまりの手抜きっぷりに
伝わればいいかなって感じなものでしたのでw

>>371
顔はキモいイメージですよ
中身が成長していく感じなんですが、なんかイケメンすぎですね

>>372
はい、更新頻度だけは優秀だと自負してます
文量が最近少ないかなと思ってますが

374:2014/06/30(月) 15:52:51 ID:MYtN.GAA0
すいません1です
まだ執筆が終わっていません
もう少しで終わるのですが、投下は延期させていただきます
多分今週中には投下しますのでしばしお待ちください
とは言っても、読んでいる方は片手で数えられるほどでしょうが
では

375名も無きAAのようです:2014/06/30(月) 18:43:23 ID:bfqCKllU0
作者の都合が一番
待ってますよ

376名も無きAAのようです:2014/06/30(月) 18:54:39 ID:OOCEsemIC
今日期待してたけど仕方ないな、まあ投下できる日まで待ってるよ

377名も無きAAのようです:2014/06/30(月) 19:58:38 ID:eVDUd.0YO
報告なく消えるよりずっといいんだぜ

378名も無きAAのようです:2014/07/01(火) 01:29:26 ID:OvHmMtf60
まじきたいしつる

379:2014/07/01(火) 02:04:42 ID:omB3Xylg0
なんだか最近筆がのらないことが多いもので本当にすいません
一応毎日筆を取っているのですが、スランプかもしれません
書いては消して書いては消してを繰り返し、とうとう一話分まるまるかきなおしているところです
遅くとも木曜日までには投下いたしますのでもうしばしお持ちください

380名も無きAAのようです:2014/07/01(火) 07:17:29 ID:9LaFxnNc0
焦らずマイペースでやってください
もう暖かいので全裸待機も余裕!

381:2014/07/02(水) 19:36:15 ID:2LKcBS9g0
どうも1です
ようやく投下できる出来の文章が出来ましたのでそのご報告です
ただいまよりその手直しをいたしますので、明日の夕方から夜には投下できそうです
待っていてくださる方には大変ご迷惑をおかけしました
ではまた明日投下する際にお会いしましょう

382名も無きAAのようです:2014/07/02(水) 21:26:46 ID:HRidzFlE0
>>381
お待ちしてますーw

383名も無きAAのようです:2014/07/03(木) 00:11:38 ID:muVde1rI0
待ってますよ

384:2014/07/03(木) 14:22:17 ID:nhiZL3QQ0
本日18時から投下します

385:2014/07/03(木) 17:59:33 ID:2V.Din8.0




第九話「水面下の戦い」




.

386:2014/07/03(木) 18:00:24 ID:2V.Din8.0

◇◇◇◇

元々しぃという子供は主体性がなかったと記憶している。

何をするにも両親がいなければ泣いていたし、友達と遊ぶのも周りの意見に合わせ、けして自分の心の内を他人に明かすことはなかった。

恥ずかしかったのとは少し違うし、自分が何かを言えば周りは少なからずそれを尊重してくれたんだろうとは思う。

けれどしぃがそれをしなかったのは何か考えがあったわけではない。ただ何を言えばいいか、自分が何を考えているのかという根本的な部分を理解していなかったに過ぎなかった。

例えば亡くなった母が好きなものを作ってくれると言ったときも、しぃは何が好きなのかを答えることが出来なかった。だって母が作ってくれるものはどれも美味しくて嫌いなものなんて一つもなかったから。

例えば友達と遊ぶときも、何をしようかと迷った時しぃは何をしても構わないと思っていた。かくれんぼでも鬼ごっこでも、要はみんなで遊べるのであれば何であろうと構わなかったから。

数え上げればきりがないこんな昔話は自分の中ではごくありふれたもので、今日に至るまでしぃはそれでいいと信じてやまなかった。

両親が魔物に殺され、教会に預けられたのは自分の人生の大きな分岐点ではあった。

そこで彼女はがらりと変わってしまった生活に、両親が目の前で残虐に殺されるという場面に恐れを抱いたのはまぎれもない事実であるが、心を閉ざした理由はそれではなかったのである。

しぃの過去の中では自分が困っていた時に必ず、両親であったり友達であったり、果ては見ず知らずの他人であったりが手を差し伸べてくれたのだ。だから、両親が亡くなる間際もそれを信じてやまなかった。もしかしたらしぃが自らの意思で誰かに助けを求めることをすれば助かったかもしれない。

387:2014/07/03(木) 18:01:15 ID:2V.Din8.0

その後悔が彼女の中で大きくのしかかり、ついには彼女の感情を凍てつかせたのだ。

だからといってそれを省みて行動に移せるほど彼女の心は成長しきっていなかったし、ましてや自分の立場や境遇はすぐにでもどうにかなるものでもなかったから、結局のところ彼女は自分の殻に閉じ籠るしか方法はなかった。

一人になれば生きるために行動できるかもしれない。

孤独であれば立ち上がることができるかもしれない。

そんな浅薄な考えで、子供ならではの想像が、その時は通用するのだと本気で信じていた。

しかし、その考えはすぐに消し去らざるを得なくなる。

両親を失った彼女を憐れんだのか、それとも単に仕事を全うしようとしたのか、預けられた教会の神父はしぃを気にかけてくれた。

何度もくだらない話をしてくれた。ためになる話もしてくれた。しぃが口を開かなくても彼は毎日のように、暇を見つけてはしぃとコミュニケーションをとってくれたのだ。

388:2014/07/03(木) 18:01:56 ID:2V.Din8.0

何度も煩わしいと思ったが、次第に彼女の心は昔のような子供としては正しいであろう本来の形へと戻っていく。

友達ができた。好きな人だってできた。笑うことが増えたし、時に泣くこともあった。

そこに足りないものは、亡くなった両親だけだったが、神父はそんなことを忘れさせてくれるくらいに子供たちを愛してくれたし、しぃも彼を本当の親のように愛してしまったのだ。

故に彼女は大きくなるにつれ、あの日の後悔を忘れていく。自分に足りないものが何かに気づくこともなく、幸せな日々が、昨日と同じ今日、今日と同じ明日がずっと続いていくのだと信じてしまったから。

そんな保証はどこにもないのに。

389:2014/07/03(木) 18:02:40 ID:2V.Din8.0

◇◇◇◇

(うA-)「ん……」

ドクオが目を覚ますとベッドの上だった。体中に包帯が巻かれており、自分が何故こんな状態になったのかを思い返してみる。

('A`)(そういや昨日、魔物に襲われたんだっけ)

そして攻撃を受けきれず、怪我を負ったものの倒すことには成功した。あのあとすぐに意識をなくしたはずだから、しぃがここまで運んでくれたのだろうか。

そこまで考え、ふと足の辺りに何かが乗っているような感覚があることに気付いた。

(*-_-)zzz

そこにはしぃが寝ていた。手にステッキを持っているところを見るに、一晩中回復魔法をかけてくれたのだろう。完治こそしていないが、傷は大分塞がっている。

しぃの頭を軽く撫でてやると、心地よさそうな声が聞こえた。布団に丸まって寝ている子猫とはこのような感じなのかもしれない。

390:2014/07/03(木) 18:03:24 ID:2V.Din8.0

しばらくしぃを撫でていると、扉を開く音が聞こえた。顔を出したのはショボンだった。手には治療に使う道具なのか箱を抱えている。

(´・ω・`)「目が覚めたようだな」

('A`)「おかげさまで」

(´・ω・`)「あとでしぃにお礼を言うといい。一晩中治癒魔法をかけていた」

('A`)「はい」

ショボンはベッドの端にある簡易椅子に腰かけると、ドクオの包帯をてきぱきと変えていく。騎士ともなればこういったことも日常茶飯事なのだろうか。

(´・ω・`)「話はしぃから聞かせてもらったよ。災難だったな」

手を動かしながらショボンが話を続ける。

(´・ω・`)「一応周辺を調べてみたが痕跡すらなかった。どうにも厄介な敵だ」

('A`)「悪魔と何か関係があるんでしょうか」

(´・ω・`)「無関係ではないだろう。我々がこの街に滞在していたからこそ襲ってきたわけだしな。ましてや魔法を使っている」

391:2014/07/03(木) 18:04:17 ID:2V.Din8.0

魔法を使ったということは明確な敵意を持っていたということ。そしてドクオが狙われた以上、目的は明らかだろう。

(´・ω・`)「早めにモ・トコに向かった方がいいかもしれん。街に被害が飛び火する可能性もある」

('A`)「悪魔の情報もめぼしいものはありませんでしたしね」

(´・ω・`)「……問題はそこだ」

ショボンの動きが止まる。気付けばドクオの瞳をじっと見つめていた。

(´・ω・`)「目的地まで目と鼻の先まで迫っているにも関わらず、何故こうも情報が得られない。あるのは目撃情報のみで、相手の特徴すら浮かんでこないのは異常だろう」

('A`)「人がいなかったところもありますしね」

徹底して情報を隠蔽されている状況はこちらとしてはかなり不気味だ。何の意図があるかも分からない以上、下手に他の街に居続けるのはやはり得策とはいえない。

ドクオとしても出来れば他の人間に被害が出るような行動は避けたいし、誰かが傷つく場面を見たくはない。そう考えれば、やはりショボンの意見は妥当と言える。

(´・ω・`)「君の容態も思っていたほど深刻ではなさそうだし、昼にはこの街を出よう。街の住民に被害が及ばぬ前に」

('A`)「分かりました」

(´・ω・`)「世話をかける」

('A`)「気にしないでください」

392:2014/07/03(木) 18:05:02 ID:2V.Din8.0

包帯を変え終わったショボンは立ち上がり、申し訳なさそうな顔でそう言うと踵を返す。街を出る準備をするのだろう。

しぃは相変わらず気持ち良さそうに寝息を立てている。ドクオは起こさないように気を付けながらベッドから出ると、布団をかけてやった。

('A`)(しかし、昨夜のあれは何が目的だったんだ? 黒の魔術団にしては回りくどいやり方をしてる気がする)

貞子は王都の結界を利用し、騎士団を撹乱する大胆な計画でドクオや渡辺を追い詰めた。本人の戦闘能力もさることながらそういった作戦を考案、実行に至ったのは始めから明確な目的があったからだ。渡辺が何故狙われたのかは本人がいない以上定かではないが、彼女なりに強い意思があったのは想像に固くない。

それに対し、今回の騒動は目的が不明瞭である。村の人間を消したことは目的を隠蔽するためなのかもしれないが、大本にある悪魔という存在にどう関係しているのかが全く掴めていない。

加えて破壊と絶望を司るほどの存在を魔法使いが呼び出したとしてどう使役できるというのか。伝説や伝承の中にしか確認されていないものが本当にいるのかすら信憑性に欠けるが、それでも目撃情報がある以上それに酷似した何かがいるのは確実ではある。

黒の魔術団の目的がドクオの持つ魔剣である以上、悪魔がどれだけ有益に働くのかすら分からないのだからこの時点で敵の狙いがどこにあるのか見当がつかない。

ここまで考えれば今回の件に黒の魔術団が絡んでいるとはどうも言いづらい状況だ。昨晩の出来事は悪魔騒動と別のものではないか、とドクオには思えてならない。

もちろん完璧に無関係だとは言いづらいが、それでもその背景が見えてこないのだから判断は難しいところである。

('A`)(考えが纏まらん。煙草でも吸って落ち着くか)

393:2014/07/03(木) 18:06:21 ID:2V.Din8.0

頭をがしがしと掻いて、ドクオはドアノブに手をかけた。すると、しぃがゆっくりと顔をあげて辺りを見回していた。どうやらお目覚めらしい。

(*うー゚)「ん……具合はどうですか?」

目元を擦りながらしぃが尋ねてくる。顔色がよくないのは寝起きだからだろうか。

('A`)「ん、ああ。特に問題はないよ。夜通し治癒魔法をかけてくれたんだって? ありがとうな」

お礼を言うと、しぃは少々恥ずかしそうにそわそわと体を揺らして、

(*゚ー゚)「お荷物を抱えての名誉の負傷ですから、それくらいは当然です」

とだけ答えた。照れているのか頬が紅く染まっている。

('A`)「そういやさ、ずっと疑問だったんだが魔法使いってのは杖とか棒みたいなのがないと戦えないのか?」

ふと気になっていたことを聞いてみる。渡辺やしぃが魔法を使っているのはいつも箒やステッキを持っていた。モララーにしても多節棍を持っている時にしか魔法を使用していなかった。

(*゚ー゚)「いえ、そんなことはありません。ただ、媒体があるほうが素早く魔法を出せるんです」

('A`)「どういうことだ?」

(*゚ー゚)「簡単に言えば、ステッキや箒などに魔法陣を登録し、それを呼び出すことで詠唱を短縮しているんです。本来魔法を使う際は、魔力に適切な命令を下す術式、つまり魔法陣が必要です。ですが戦闘中や怪我人にいちいち魔法陣を描いていたのでは間に合いません」

(*゚ー゚)「魔法陣とはすなわち魔力への命令ですから言葉としても口に出すことができます。ですが当然それを口にして形にするのも時間がかかります。ですから私達は物に魔法陣をある程度登録して詠唱を短くしているということです」

394:2014/07/03(木) 18:07:23 ID:2V.Din8.0

('A`)「へぇ、よく考えられてるな」

(*゚ー゚)「もちろんそれ以外にも魔法を使う方法はありますが、基本的なことはこんな感じです。魔法というのは様々な応用がききますから」

きっと本来であれば専門的な話になるのだろうが、しぃはドクオにも分かるように言葉を選んでくれたのだろう。まだまだ子供だというのに頭の回転が速いとつくづく思う。勉強が得意ではないドクオにとって大変羨ましい限りだ。

とは言っても理解したところでドクオには魔法を使えそうにもないが。

('A`)「さてと、俺は少し散歩にでも行くが、しぃはどうするんだ?」

(*゚ー゚)「怪我人に一人歩きをされて倒れられても困りますし、私も付き合いますよ。昨晩のようなことがありましたし」

('A`)「それもそうか。なら俺は外で煙草でも吸って待ってるよ」

ドクオはそれだけ行って部屋を出る。小さな宿なので玄関はすぐそこだ。

ドクオが玄関を開けると、朝特有の清々しい空気がドクオを出迎えてくれた。

('A`)(いい朝だ。本調子なら陽気に口笛でも吹いて走り回りたいところだな)

煙草を取りだし、火を点けようとしたところで向かいの通りからモララーとショボンが歩いてくるのが見えた。

近くまで来ると相手もドクオに気づいたらしく、小走りでやってくる。

395:2014/07/03(木) 18:08:08 ID:2V.Din8.0

( ・∀・)「よう、包帯男」

('A`)y━・~~「名誉の負傷だろ。馬鹿にすんな」

( ・∀・)「油断するからそうなるんだよ。俺なら指先一つでダウンだっての」

('A`)y━・~~「よく言うぜ。最近の模擬戦じゃ俺に何回負けてんだよ」

( ・∀・)「たまには華を持たせてモチベーション保たせてやってんだ。言わせんな恥ずかしい」

すっかり気心の知れたモララーと軽口を叩きあっていると、ショボンが割って入ってきた。

(´・ω・`)「確か、一度本気でやって負けたとか愚痴をこぼしていたが、そういうことだったのか。いやはやモララーさんのサービス精神には頭が上がらないね」

( ;・∀・)「副団長! それは言わない約束では!?」

('A`)y━・~~「モララーさんの優しさは五臓六腑に染み渡るわー」

( ・∀・)「……この野郎、あとで覚えてろよ」

そこまで話したところでドクオの後ろからしぃがひょこりと顔を出した。

(*゚ー゚)「おや、モララー隊長に副団長、おはようございます」

396:2014/07/03(木) 18:08:59 ID:2V.Din8.0

( ・∀・)「おお。救世主登場だ」

(´・ω・`)「うむ。おはよう」

(*゚ー゚)「救世主?」

何のことだか分からないといった風に小首を傾げるしぃだったが、ドクオはあえてそこには突っ込まなかった。多分突っ込んだら負けだろう。

('A`)y━・~~「それじゃあ俺達は軽く散歩でもしてきます」

(´・ω・`)「なるべく早く戻るようにな」

('A`)y━・~~「ええ」

(*゚ー゚)「はい」

煙草を消して携帯灰皿に入れるとドクオは歩き出す。モララーの横を通り過ぎた際、後ろには気を付けろよ、と囁かれたが自業自得だ。

それから二人はのんびりと朝の散歩を楽しみ、次の街へと向かうこととなった。

397:2014/07/03(木) 18:09:43 ID:2V.Din8.0

◇◇◇◇

ξ#゚⊿゚)ξ「だぁかぁらぁ、ちょっと近くまで行くだけだって言ってるじゃない!! はぁ? んなこと知らないわよ、こっちは客よきゃぁぁくぅぅ」

ξ#゚⊿゚)ξ「金だってきっちり払うって言ってるじゃない!! 通常料金に上乗せ、はいこれで問題なし!!」

ξ#゚⊿゚)ξ「私達は魔法使い、騎士の卵よ? んなもん三角帽子で分かるでしょうが!!」

飛行馬車を借りに交渉すると言っていたツンは先程からあんな調子だった。怒鳴り、喚きまた怒鳴る。どうにも業者側が飛行馬車の運行を渋っているらしく、いくら言っても聞いてくれないようで、ツンはそれに腹を立てているようだ。

受付からは大分距離が空いているはずなのにここまではっきりも聞こえているということは、それだけ周りの注目を集めているのだが当のツンはお構い無しである。

从'ー'从(やっぱり難しいかなぁ)

現在モ・トコ周辺は厳戒体制を敷いているようで一般人の立ち入りを制限している、と渡辺は聞いた。原因はやはり悪魔騒動で近くの村では住民丸ごと行方不明になっているそうだ。

そのため業者もみすみす危険をおかしてまで北へ飛行馬車を動かすのはごめんだということで頓着状態になっているのだった。

398:2014/07/03(木) 18:10:28 ID:2V.Din8.0

ξ#゚⊿゚)ξ「だぁぁぁぁぁ、もう埒が明かないわ!! どうしても出さないならここら一帯まとめて吹き飛ばすわよ!?」

从;'ー'从「ツンちゃんそれは脅迫……」

あまりにも物騒なことを言い出すツンに、傍観を決め込んでいた渡辺もさすがに宥めることにする。下手をすれば役人に連行されかねない。

ξ#゚⊿゚)ξ「だっていつまでたっても首を縦に振らないんだもの。私は気が長い方じゃないの」

从'ー'从「でもでもぉ、受付の人も困ってるよぉ」

引きつった笑みを浮かべてこくこくと頷く受付の女性に、渡辺はごめんなさいと謝って妥協案を持ちかけた。

从'ー'从「あの、せめて近くまでは行けませんか? 私達モ・トコにどうしても行かなければならないんです」

受付の女は確認するとだけ言って奥に引っ込む。上の者に確認しに行ったのだろう。時折あーだこーだと話し声が聞こえた。

ξ゚⊿゚)ξ「近くまでって、あんたそれでいいの?」

从'ー'从「うん。あとは飛んで行けばいいかなって」

実際時間はかかるが行けない距離ではないのだから、無理を言って飛行馬車を飛ばしてもらう必要はないのだ。それにお金だって持ち合わせがないわけではないが、節約するに越したことはない。

問題は荷物だが、それも休み休み行けばさしたる問題にはならないだろう。

399:2014/07/03(木) 18:11:28 ID:2V.Din8.0

それらをツンに説明すると、あっちは仕事なんだからと言っていたが彼女もそれなりに納得はしたらしくこれ以上の文句は言ってこなかった。

しばらくすると受付の女が戻ってきて、二つほど手前の街までなら馬車を飛ばしてくれるという旨を伝えてきた。かなり離れたところだが二、三時間もあれば到着するはずだ。

从'ー'从「無理を言ってすいません」

運転手に礼を言うと、逆に謝られてしまった。本当ならば彼らも目的地まで送り届けたいのだが命には代えられないのだと苦虫を噛み潰したような顔で返される。

それは仕方のないことだ。彼らはあくまで運転技術があるだけの一般人、万が一魔物や悪魔に襲われでもしたら抵抗する術がない。本来であればこんな騒動の中で馬車を飛ばすのだって相当な無理をしているのだと渡辺は思う。せめて彼の身の安全だけは守らねばなるまい。

ξ゚⊿゚)ξ「これじゃああそこでごねてた私が悪者みたいじゃない」

从'ー'从「ツンちゃんすごい顔だったよぉ」

こんな感じ〜と手で目を吊り上げる渡辺の顔を見ると、ツンはそこまで変な顔してないわよ、と憤怒の表情を見せる。

从;'ー'从「今してるよぉ〜」

運転手がはははと笑い声をあげたのを聞いてさらに腹を立てたツンは渡辺のほっぺたを両手で挟みうりうりと八つ当たりをしてきた。

从')、('从「らんれわらひにゃろぉ〜」

ξ#゚⊿゚)ξ「うっさい!! あんたが余計なこと言うからでしょうが」

从')、('从「にゃ〜へ〜れ〜」

時間はゆっくりと過ぎていく。この先に何が待っているのか渡辺には予想もつかないが、せめてツンと運転手さんだけは守ろうと誓う渡辺だった。

400:2014/07/03(木) 18:12:23 ID:2V.Din8.0

◇◇◇◇

ドクオ達がモ・トコに着いたのは夕方を回っていた。道中立ち寄った街の様子を伺ったのだが、二つ前と同じで藻抜けの空。人が生活していた痕跡があるだけの作り物のような街があるだけだった。

中を丁寧に調査するも結果は変わらず不自然なほどに何も見つからない。建物が破壊されたり物が盗られた形跡もなく、人がいないだけ。まるで絵画のように静かなワンシーンに、ドクオはうすら寒くなった。

('A`)(敵がいるのはわかっても正体不明、さらに目的も不明ときたもんだ。こりゃ今回の仕事は長引きそうだな)

依然進展しない問題はショボンやモララーにも焦りを生んでいるようで、モ・トコに着くなりドクオとしぃに荷下ろしを命じると、現地に派遣されている騎士団の詰め所に情報の交換に行ってしまった。

(*゚ー゚)「珍しいですね、副団長が冷静じゃないなんて」

('A`)「あの人はいつも落ち着いてるからな。悪魔なんて話を聞けばいてもたってもいられないんだろうけどさ」

四人分の荷物はさして多くはない。着替えといくつかのアメニティが入っているだけで、消耗品などは現地調達という手筈だ。とはいえ、モ・トコ周辺はすでに危険区域として制限を設けていると聞いているのでお店が通常営業をしているのかは甚だ疑問だったのでドクオは部屋にあるものをいくつか持ってきている。

('A`)「えっと、今日から宿泊するのは騎士団の駐屯所か。なんか肩身が狭いな」

(*゚ー゚)「遠征する際はこんなものですし、慣れるしかないでしょう」

('A`;)「俺は今後も駆り出されるの確定なのかよ」

(*゚ー゚)「……」

いや、そこは何か言ってほしい。というか、言ってもらわないと不安になる。

401名も無きAAのようです:2014/07/03(木) 18:12:26 ID:zV6vKxlA0
わたなべの顔がww

402:2014/07/03(木) 18:13:24 ID:2V.Din8.0

('A`)「はぁ、まぁいいけどさ。とりあえず、荷物置いたらショボンさん達待ち?」

自分達が泊まる手筈になっている部屋に荷物を置くと、早速煙草に手をかけた。しぃが顔をしかめてこちらを見てきた。部屋では吸うなということか、自分の近くで吸うなということかは判断できなかったが、とりあえず煙草は戻しておく。

(*゚ー゚)「そうですね、私達は特にすることもありません」

駐屯所を出ると、目の前には高くそびえ立つ鉱山が広がっていた。よく見ると細い糸のようなものが鉱山と街を繋いでいる。あれはなんだろうか。

('A`)「なぁ、あれってなんだ?」

しぃはドクオが指を差した方をじっと見つめると、小さく声をあげた。

(*゚ー゚)「ああ、あれは鉱石や人を運ぶための荷車ですよ。魔力で動きます」

ロープウェイのようなものだろうか。異世界と言えど人が生活を便利にしようと考え付く先は似たようなものなのかとドクオは感心してしまう。

折角だからとドクオとしぃはモ・トコを少し歩くことにする。鉱山都市として名高い街は現在閑散としており、人々は家からあまり出ようとしていないようだ。店などはちらほらシャッターが閉まっているし、ドクオも事の重大さを再確認させられる。

もし、何事もない時に訪れれば筋骨粒々の男達が街を練り歩き、取れた鉱石や資源を巡って様々な人が行き交っていたのだろう。それを思うとドクオは早急に問題を解決しなければと奔走するショボンの気持ちが手に取るように分かった。

403:2014/07/03(木) 18:14:13 ID:2V.Din8.0

('A`)「鉱山都市っていうからてっきり高所に街があるのかと思ったんだけど、麓に作ってあるんだな」

(*゚ー゚)「一応中腹にも小さな街は在りますが、そこはあくまで中継点です。そこからいくつかの採掘場に分かれて仕事を分担しているようですね。中は鉱山やポイントによってもまちまちですが、どこも迷路のように広いので迂闊に近付かないようにこんな立地になったのでしょう」

('A`)「ふーん。確か、魔導鉱石だっけ? 錬金術に使うって聞いたけど、こんだけでかい街に発展するってことは日常的に使用されるくらい需要が高いのか?」

(*゚ー゚)「基本的にどんな場所でも使われていますよ。家の灯りだったり、調理器具だったり、用途は様々です」

('A`)「儲かるんだろうな」

(*゚ー゚)「意外に俗物なんですね」

('A`)「そういう生活してたから余計にな」

人の出歩いていない街をぶらぶらするのは正直なところあまり面白いとは言えなかった。偶然開いている店を覗いても売っているものはほとんどなく、この街に物資が流れてきていないのだろう。

メインで物資を届ける役目を担っている飛行馬車もまともに運行していない状況なのだから仕方がないとも言えるが、それにしたってこの広い街に自分達しか歩いていない状況はどうにも不気味だ。

('A`)「暇だなぁ。早くショボンさん達戻ってこないかな。活気のない街なんか面白くもないぞ」

宿舎まで戻ってきたドクオは煙草を取りだし火を点ける。人がいるのであればおすすめの観光スポットでも見てうまいものでも食べて暇を潰せたのだろうが。

(*゚ー゚)「こういう状況ですし仕方ありませんよ」

煙を吐き出しながら空を見上げる。元の世界と何も変わらない綺麗な夕焼け。一番星が輝き、月が顔を出し始めていた。

404:2014/07/03(木) 18:15:21 ID:2V.Din8.0

('A`)y━・~~「……聞きたいことがある」

静寂の中、ぽつりとドクオが呟いた。

(*゚ー゚)「はい?」

('A`)y━・~~「今回の件でいくつか疑問に思うことがあるんだ」

(*゚ー゚)「疑問、ですか」

('A`)y━・~~「ここに来るまでいくつかの街を見てきたが、人が消えていたとこもある。それはまぁ、悪魔がなんかやったってことで一応の説明はつく」

(*゚ー゚)「そうですね」

('A`)y━・~~「けど、その他の街、例えば人がいた場所では一切悪魔の話は聞かなかった。どころか目撃情報すらなかったよな」

ショボンの説明ではモ・トコを中心にしてその周辺で目撃されているとのことだが、ここまで悪魔による被害は住民の消失以外皆無なのである。

加えて人の消えた街ですら暴れた形跡がないということがドクオの疑問を冗長していた。

(*゚ー゚)「……つまり?」

('A`)y━・~~「何故悪魔の姿が見えない?」

王都から大々的に勅命を受けて騒動の原因を探っているはずなのに、肝心の目標がここまで話にすら上がってきていない。

悪魔なんてこの世界の誰もが怖れる存在だということは渡辺が証明している。ならば、もっと事態は深刻になっているのではないか。

('A`)y━・~~「昨晩のことを考えれば、悪魔ってのが第三者によって隠蔽されている可能性もある。その場合、悪魔を呼び出した理由があるはずだが、その背景すら見えてこないってのはどういうことだ?」

(*゚ー゚)「……確かに、言われてみればおかしいですね」

('A`)y━・~~「さて、それを念頭に置いてもう一度状況を整理してみようか」

ドクオ達は王都から悪魔の討伐を依頼され、ここまで来ている。悪魔はモ・トコを中心に目撃されており、いくつかの被害届も出ている。

405:2014/07/03(木) 18:16:22 ID:2V.Din8.0

そしてドクオ達は王都を出発、いくつかの街を経由してここまで来たのだが、悪魔の話も、どこで被害があったのか、そういった話を全く聞いていない。

(;*゚ー゚)「……おかしい。何故悪魔が暴れている状況だけがはっきりしていて、ここまで誰一人悪魔の話題を口にしないんですか?」

('A`)「可能性はいくつかある。一つ、悪魔は始めから存在しない。二つ、住民消失が起こった場所でだけ悪魔が現れた。三つ」

ドクオは一拍の間を置いて、それを口にした。

('A`)「この件に他の住民達が協力しているか」

しぃは何も答えない。ドクオが出した三つの考察があまりの衝撃だったのか、顔面蒼白で目を見開いている。

(;*゚ー゚)「そんな、馬鹿なことがあるわけ……」

ようやく絞り出した声もどこか力がない。信じたくはないのだろうが、認めざるを得ない、といった感じだろう。

('A`)「確実ではない。が、可能性がないとは言えないだろう。俺的にも信じたくはない。けど、状況を鑑みるとそう考えるのがしっくりくる」

真相はまだ分からないし、もしかしたら操られているという線もあるかもしれない。

('A`)(さすがに、騎士団が一枚噛んでるってのはないだろうけど)

と、その時だった。

街の入り口辺りから爆発と爆発音が響き渡る。同時に誰かの叫び声。どこかで聞いたことがあるようなないような。

(*゚ー゚)「ドクオさん」

('A`)「あいよ」

しぃが走りだし、そのあとを追う。そこには━━

406:2014/07/03(木) 18:19:00 ID:2V.Din8.0

从;'ー'从

ξ;゚⊿゚)ξ

大量の魔物相手に応戦している見知った顔が二つあった。纏っている服もぼろぼろで、相当な距離を魔物と戦いながらここまで来たのだろう。

('A`;)「渡辺と、ツン? なんでこんなとこにいるんだよ!?」

(*゚ー゚)「問答はあとです。助太刀しましょう」

二人はそれぞれ得物を握りしめると魔物の群れに突撃する。

渡辺とツンが一度こちらを見たが、声をかける余裕はないだろう。

ドクオは二人の前に躍り出ると、魔物達をまとめて薙ぎ払った。

それからしばらく四人は乱戦を繰り広げたが、全ての魔物を蹴散らすまでそう時間はかからなかった。

407:2014/07/03(木) 18:19:55 ID:2V.Din8.0




( ・∀・)「どうにも今回の件違和感があるな」

現地の騎士と情報の交換を行ったあと、確認することがあるというショボンと別れ、モララーは一人ドクオとしぃを探して街を歩いていた。

得られた情報はほとんどない。モ・トコを中心に目撃されているはずなのに、現地の騎士ですら悪魔と交戦もなく、見たことすらないのだという。しかも挙げられているはずの被害もほとんどないというのだから、王都から遠路はるばるやって来た自分達の立場がない。

これではなんのためにモ・トコまで来たのか分からなくなってしまった。

( ・∀・)「悪魔、悪魔ねぇ」

モララーは悪魔をこの目で確認したことがない。知っているのは十五年前の戦争で生き残った極僅かな人間だけだ。

どんな存在か分かっているからこそショボンとドクオが派遣されたのだろうが、それにしたってまるで先が見えないこの状況はどういうことなのだろう。

名前だけが一人歩きして実害がないなんて、これでは話が根本から覆されてしまうではないか。

( ・∀・)「どこの誰がやってるのかは知らないが、悪魔の名を語って好き勝手してる馬鹿がいるのは確定だろうな」

となれば、モララーは騎士として動かなければならない。悪魔だなんていたずらに恐怖心を煽っておいて人の生活を脅かす悪党だ、容赦なくこてんぱんにのしてやろう。

だがそれには敵の目的や正体を暴かねばならない。そのためにも最低ドクオの協力は得たいところだ。

( ・∀・)(どこほっつき歩いてんだか)

408:2014/07/03(木) 18:21:13 ID:2V.Din8.0

ふとモララーは立ち止まる。人のいない道の真ん中に異彩を放つ人間が立っていた。

【+  】ゞ゚)

棺桶のような物の隙間から覗く顔。そもそも何故棺桶が道の真ん中に立っているのかが疑問だが、怪しい人間であることに違いはない。

( ・∀・)「おい、こんなとこでなにやってんだ」

一瞬声をかけるべきか迷ったが、話は聞かなければならない。それが騎士というものだ。

男から返事はない。じろりと一瞥をくれただけで、すぐに明後日の方を向いてしまった。

( #・∀・)「おい、てめえ、質問に━━」

相手の反応に語気を強くしたモララーが近付いた時だった。

( ;・∀・)(体が……動かない……)

【+  】ゞ゚)「ずいぶんといい素体だ。ぜひとも使わせていただこう」

男が何事かを呟くと、棺桶から黒い人形のようなものが何体か歩いてきた。ような、というのはここまで近くにいながら靄がかったようにそれの正体を認識できないからだ。

( ;・∀・)(くそっ、動け動け動け!!)

何かの魔法なのか、モララーはスペルキャンセラーを発動させる。体は動かずとも口は動くようで、すぐさまモララーは後方に距離をとって体制を立て直す。

黒い人形の動きはそれほど早くない。棺桶男もその場から動こうとせず、こちらの動きを観察しているように見えた。

( ・∀・)「先手必勝ってな!」

素早く得物を組み立て、モララーは疾風の如く駆ける。左右から襲ってくる人形に、槍を大きく横に薙ぐとそれだけでごみくずのようにバラバラになった。

弱い。これならば問題なく男を捕縛できそうだ。

409:2014/07/03(木) 18:22:13 ID:2V.Din8.0

【+  】ゞ゚)「まだまだ人形はある。君はどこまで耐えられるかな」

モララーが槍を構え直すとそこかしこから魔法陣が現れ、先程と同じ黒い人形が周囲を埋め尽くす。それらは一斉にモララーの方へと頭を向けると、ぎこちない動きでこちらへ攻撃を繰り出してきた。

飛び道具は持たないらしく、全て近接攻撃だけ。ならばとモララーは中空に手をかざし、詠唱。巨大な魔法陣を作り出し、この周辺を吹き飛ばす光の魔法を繰り出した。

光はモララーの目の前一帯を飲み込み、地を剥がし建物を粉砕し、ありとあらゆる物質を破壊していく。人形達は声をあげることなく消滅していったが、棺桶の男には通用していないように見えた。

さらにもう一撃大きな魔法。今度は範囲魔法ではなく、目標を定めた強力な一点突破の魔法だ。棺桶男の周辺の光を圧縮圧縮圧縮。物体の許容量を越えて内包された光の魔力が内部から爆発を起こした。

砂煙が巻き起こり視界を奪う。しかし、モララーは動かない。

ここまでやったが、あの男は生きているという確信がモララーの中にはあった。この視界の中、何かをしているかもしれない。しかし、魔力の変動が感じられない以上、下手に動くよりは様子を見るべきだ。

念のため防御系の魔法を準備しつつ、モララーは周辺を警戒する。

煙が晴れると、男は同じ場所に立ったままだった。魔法陣を発動させた形跡もない。

( ・∀・)「こんな雑魚ばっかいくら呼び出しても意味ないぜ。やるならてめえでかかってきな」

あからさまな挑発だが、敵はそれでも動かない。何を考えているのか、表情はびくりともせず、こちらを見ているだけ。

もう一度周辺を確認し、モララーは自身の身体能力を強化する魔法を発動させ、棺桶男に向かう。

殺しはしない。しかし、痛い目にあってはもらおう。何かしらの情報を持っているかもしれない。

モララーが槍を中段に据え、溜めを作った瞬間だった。

410:2014/07/03(木) 18:22:57 ID:2V.Din8.0

( ;・∀・)「は?」

男の姿が消え、街中にいたはずなのに深い闇が一面に広がっていた。

( ;・∀・)「くそ、どうなって……」

言い終わる前に後方から何者かの気配。すぐに振り向こうとする。が、

( ;・∀・)「力……が……」

何故か力が抜けていく。モララーは為す術なく膝を折ってしまう。

敵の攻撃を避けることも出来ず、鋭く尖った何かがモララーの体を貫く。

そのまま、モララーの意識はぷつりと途切れた。

411:2014/07/03(木) 18:24:10 ID:2V.Din8.0

◇◇◇◇

大量の魔物を殲滅した四人は、傷だらけの渡辺とツンの治療のために宿舎へと足を運んでいた。随分と長い間追われていたのか魔法使いのトレードマークとも言えるマントや三角帽子は汚れ、破け若干卑猥な具合になっていてドクオは目のやり場に困ってしまう。

('A`)「しかしツンさんの体はひんs」

ξ#゚⊿゚)ξつ三○A`)「メメタァ」

ξ#゚⊿゚)ξ「乙女の体を貶すなんていい度胸ね」

(*)A`)「サーセン」

(;*゚ー゚)「あの、そんなことよりもどうしてお二人がこんな場所まで? 一応モ・トコ周辺は立ち入り禁止のはずですが」

ξ#゚⊿゚)ξ「あ? 今そんなことって言ったか? 私の胸はそんなこと程度だよぷすすーって言ってんのか? あ?」

(;*゚ー゚)「わ、私よりは全然大きいじゃないですか!」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ チラッ

(*゚ー゚)←つるぺた

从'ー'从←美乳

ξ゚⊿゚)ξ←微乳

('A`)←まな板

ξ゚⊿゚)ξ「まぁ、私だってこの中なら上から数えた方が早いし、別に巨乳になる必要もないっていうか」

('A`)「お前のコンプレックスがなにかは分かったけどさ、いい加減落ち着こうぜ。まだ慌てる時間じゃない」

412:2014/07/03(木) 18:25:03 ID:2V.Din8.0

自分の発言が原因だったことを申し訳なく思いながらも、ドクオは脱線した話を元に戻すことにする。このままではツンの胸の話で一日が終わってしまいかねない。

('A`)「んで、二人はこんなとこまで何しに来たんだ? 悪魔の話は王都でも噂になってただろ?」

从'ー'从「えぇっと、実はねぇ」

ドクオが尋ねると渡辺は、課題で魔導鉱石の原石が必要になったこと、それを入手するためにここまで来たことを話してくれた。

从'ー'从「それでね、モ・トコまでは行けないから二つ前の街で降ろしてくれたんだよぉ」

ξ゚?゚)ξ「そうしたら街には人っ子一人いないし、いきなり魔物がわんさか現れるしで参っちゃったわ」

ドクオとしぃは思わず顔を見合わせた。

ツンは今、街に人がいなかったと言った。ツン達が降ろしてもらった街は間違いなくドクオ達が一泊したところだが、お昼の時点では人がいないなんてことはなかったはずだ。

('A`)「どういうことだ、これ」

(*゚ー゚)「……私達が出てから夕方までの短い時間で人が消えたということでしょうか?」

順序を考えればそうなのだろうが、街中の住民全てを消すなんて芸当がこの短い時間で可能なのだろうか。王都ほどではないが、モ・トコから王都までの中継地点であるあの街は宿舎町としてそれなりに栄えていた。人の数も少なくはない。

413:2014/07/03(木) 18:25:58 ID:2V.Din8.0

('A`)「それと、魔物が街に現れたって言ったが、結界はどうなってたんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「結界? んなもんなかったわ。あったのは魔法陣くらいよ」

从'ー'从「広場の中心に大きいのがあってぇ、そこから魔物が一杯出てきたよぉ」

ドクオは考える。他に立ち寄った街でも魔法陣が設置されていたような形跡があったはずだ。そこに街の住民の集団失踪。

未だ正体を現さない第三者に、昨晩の襲撃。

そして、悪魔。誰も姿を見ておらず話題にすらあがらない異常とさえ言えるこの状況。

何かが繋がりそうで繋がらないもどかしさがドクオをさらに焦らせていく。

(*゚ー゚)「ドクオさん。少し落ち着きましょう。ツンさんや渡辺さんも今日はお疲れでしょうし、副団長からの指示を待つのが得策かと」

('A`)「……そう、だな」

そういえば、ショボン達は何をしているのだろうか。ツンや渡辺が合流したことは先程報告したはずだが、それにしても顔すら見せないというのは少し変ではないか。

ましてや魔物が街のすぐそばまで来ていたのだから、何かしら伝令があってもおかしくはないのだが……。

414:2014/07/03(木) 18:26:43 ID:2V.Din8.0

('A`)「……ちょっとショボンさんのとこ行ってくる。しぃは二人の手当てを頼んだ」

(*゚ー゚)「分かりました」

部屋を出て会議室へと向かう途中、数人の騎士と自警団の連中とすれ違った。皆一様に緊迫した顔で何事かを話している。

何かあったのだろうかと、ドクオは声をかけてみた。

('A`)「なんかあったのか?」

「えっと、あなたは確か……」

('A`)「今回の騒動で同行している騎士のドクオだ」

「騎士の方でしたか。実は、その……」

口ごもり、目を逸らす男にただ事ではない雰囲気を感じた。

「モララー隊長と、ショボン副団長が行方不明なのです」

415:2014/07/03(木) 18:27:28 ID:2V.Din8.0
第九話 終

416:2014/07/03(木) 18:32:37 ID:2V.Din8.0
本日の投下はこんなところで終了です
本当はもう少し文量があったのですが、ここから先はちょっと切りどころが難しいので今回はこんな感じです
次回投下は来週中、とだけ言わせていただきます
最近スランプでろくに文章が思い付きません
元々大した実力ではないのですが手直しやら何やらと時間をかけないと皆様に見てもらうのも厳しい状況です
ですので、しばし時間を空けてしまうことご了承いただきたいと思います
では今回も読んでいただきありがとうございました

417名も無きAAのようです:2014/07/03(木) 18:45:12 ID:N2qF1Yfg0
乙乙
続きが気になります

418名も無きAAのようです:2014/07/03(木) 20:27:36 ID:ZkQdQ8hE0
今回もいいね!
毎回楽しませてもらってるよ!

419名も無きAAのようです:2014/07/03(木) 20:39:07 ID:zV6vKxlA0
面白い、乙でした
次回も楽しみにしてます

420名も無きAAのようです:2014/07/05(土) 23:03:19 ID:tr0WtOFIO
面白かった、続き期待

421:2014/07/08(火) 23:51:38 ID:SiqoaP4I0
こんばんは1です
ようやくまともに文章が浮かぶようになってきました
このまま調子よくいけば金曜日の夜にはなんとか投下できそうです
毎度ながらたくさんの乙をありがとうございます
次の話からはがっつり戦闘シーンなので、気合い入れて書いていきたいと思います
それでは金曜日の夜にお会いしましょう

422名も無きAAのようです:2014/07/09(水) 00:34:12 ID:A2ryOUkg0
期待

423:2014/07/11(金) 22:30:35 ID:MuFWsT2w0




第十話「降臨」





424:2014/07/11(金) 22:32:11 ID:MuFWsT2w0

◇◇◇◇

とうとう彼女の人生の中で一際大きな、そして最悪の事態が発生してしまった。

教会の解体。それは即ちしぃ達孤児の行き場がなくなってしまうということだ。

元々この教会という組織が、世界中で信仰というものが廃れてからも誰かに救いの手を差しのべることをやめなかったのは、単に彼らの信じる神の教えであるからだった。しかし、現代社会において明確な形のない神という存在は目の前にあって人を救うことのできる魔法という力の前に薄れてしまった。

世界を作ったかもしれない、人々を救ったかもしれない、などというどこまでも想像の域を出ない神などというものより、はっきりと目に見える力━━魔法で人を救い続けた者たちの方へ信頼が集まったのは当然の流れだったのかもしれない。

そんな状況の中で、世界各地にある古い信仰は教会を無くしていくという形で確実に衰退していく。しぃたちの住む教会の取り壊しもその一部に過ぎなかった。

取り壊しが決まった際、しぃは神父に尋ねてみた。何故抵抗をせずに受け入れたのか、と。

その時神父が何を言ったのか、詳しいことは覚えていない。けれど、彼は静かな、とても穏やかな声で自分達の役目は終わったのだ。この一言がしぃの記憶の奥底にしっかりと焼き付いて離れなくなってしまった。

彼は自分達を取り巻く環境に対してどこまでも実直だったのだ。その責任の在処も、今何をすべきなのかも全部分かった上でこの言葉を選んだのだと、しぃは思う。

425:2014/07/11(金) 22:33:52 ID:MuFWsT2w0

彼が口にした言葉は簡単なことだ。子供でもすぐに分かるどこまでもシンプルな台詞。けれどその奥底にある意味まではその時の彼女には知る由もなかっただけの話。

だから、彼女はそれ以上言及することはできなかった。

そんな中でも、他の子供達は当然教会の取り壊しには反対だったし、何がなんでも自分達の家を守ろうと口々に言っていた。だが、しぃは神父の言葉を聞いたときに仕方がないんだ、と諦めていた。

本当は壊されたくない。自分の二つ目の家と、家族を。

あの日の後悔はいまだしぃの心を縛っている。それでも、この教会に来たことで自分の心は少しずつ温かさに満ち溢れていったのだ。

その温かさを教えてくれたのは、共に歩んでくれた沢山の兄弟と、血の繋がりはなくとも家族とは何かを教えてくれた神父に他ならない。

そして、神父が教会の取り壊しを認めてしまった時点で子供であるしぃたちには何もできないのだ。

自分達は無力で、世間を知らない。知っているのは世界がどれだけ残酷に出来ているか、それだけのこと。

それでも、そうだとしてもしぃはその時にもっと考えて、考えて考えて考えて行動しなくてはならなかったのだろう。結果を見れば、自分達の身柄は騎士団が預かってくれたことでなんとか生きていくことができた。最低限、いやそれ以上の生活を今日までしてこれたのだから。

無知だった子供達は世界について理解を深め、自分達に出来ることが何かを知った。自分達のような悲しみに彩られた人生を送らないように誰かを救う力を与えられた。

だが、しぃを含め教会で身を寄せあって生きてきた毎日の中にあったものはもうどこにも見当たらない。

子供達の頭を撫でてくれた荒れた肌の大きな手も、名前を呼んでくれた野太い声も、誰よりも優しかったあの人はもう戻らない。

あの時には分からなかった何もかもが、成長し騎士となった彼女の深い部分で次第に重みを増していく。

出来たはずのこと、しなくてはならなかったこと、その分別がつくようになった今になってようやく、彼女は気付いてしまった。

これは自分が背負うべき業なのだと。きっかけはとても些細で、特別なことなどないありふれた過去の一つにすぎない。

426:2014/07/11(金) 22:34:45 ID:MuFWsT2w0

だから、贖罪しなければならない。

一つは両親に、一つは神父に。

最後に、自分自身に。

偽り続けた感情や価値観が招いた罪を贖うために、しぃは答えを見つけなければならない。

427:2014/07/11(金) 22:36:49 ID:MuFWsT2w0

◇◇◇◇

もはや後戻りが出来ないところまで事態は進んでしまった。それに気付いたとき、ショボンはこの件を自分の手で決着を着けなければならないと判断した。

(´・ω・`)(初めからおかしいとは思っていた。何故ドクオだった? 何故悪魔が目撃された?)

魔力の痕跡を辿りながらショボンは思う。

ここまでの情報を整理しながら一つ一つ自分の知識と照らし合わせれば、もっと早くに気づかなければならなかった。

最初にこの任務が命ぜられた時、ドクオを向かわせると言われた時、昨晩のドクオ襲撃の時、ヒントはいくらでもあったはずなのにショボンはロマネスクを無意識に信じてしまったのかもしれない。

腐っても人の上に立つものだと。

蓋を開けてみれば何もかもがあの暴虐の王の思惑通りに事が進みすぎていた。下手をすればもう間に合わないかもしれない。

(´・ω・`)(人のいない集落、目撃されない悪魔、そしてモ・トコという場所)

人が消えた街や集落は全てモ・トコを中心として渦を描くように展開されている。どの場所も同じように、日常の合間に突然いなくなったようだとモ・トコの騎士は言っていた。

誰が何のためにそんなことをしたかは騎士達も頭を悩ませていたようで、犯人に心当たりもなかった。そんな中で真しやかに伝説の存在が現れたのだと噂され始めた。

確かに落とし所としては仕方がない面もあるだろう。大勢の人間を破壊の爪痕を一切残さず、短時間で消失させる存在など騎士、いや人間など世界中を探したってどこにも見当たらない。

428:2014/07/11(金) 22:38:39 ID:MuFWsT2w0

ならばそんなことができるものはなんだ? 人間以外のものならば、一体なんだというのか。

その答えとして挙げられたのが悪魔だった。

王都からの長い道のりの途中で、一貫して悪魔を見たという情報がなかったのはこれが原因なのだ。そもそもの話存在していない、現れていないのだから目撃も何もないのだから流れてこないのは当たり前だった。

それに、ショボンは知っている。本当に悪魔が降臨したのなら被害はもっと凄惨極まりないことを。あれは人という憐れで無力な存在が立ち向かうことすら許されない、文字通り悪魔なのだ。

そして悪魔の本質とは破壊と絶望にある。地上の生きとし生けるもの全てを滅し、さらには欺き、人が神に謀反を起こした元凶。

そんな存在がこの程度の破壊で満足するはずがない。目撃されてからすでに二週、それだけの時間があればニューソク大陸などとっくに火の海と化してなければおかしいのだ。

それほどまでに絶望的なまでに、人間と悪魔の力には絶対的な差がある。ショボンは今もやつらと対峙したときのことを思い出すだけで震えが止まらない。刃向かった時点で死ぬ、敵わないと本能が警鐘を鳴らしたのは生まれて初めてのことだった。

(´・ω・`)(では、この悪魔騒動の首謀者は何なのか。それは昨夜の奇襲が答えだろうな)

429:2014/07/11(金) 22:40:33 ID:MuFWsT2w0

ドクオを狙っていたように見えた、とはしぃの証言だが、そこに間違いはないのだろう。何せ貞子による王都襲から一月しか経っていない。その際彼女はドクオになんと言っていたか。

ショボンは直接聞いたわけではないし、その場にいた者達からの話なので本当のところは分からないが、それでも間違いないという自信がある。

魔剣アポカリプス。伝承において人や魔物、悪魔のみならず神をも殺した最強にして最凶の剣。持つものの命を削り取り、代わりに強大な力を与えるというそれ。

黒の魔術団は魔剣を狙って一連の騒動を引き起こしている。ならば今回もその一部と考えるのが妥当だろう。

(´・ω・`)(敵の狙いがドクオだということは、僕達は間違いなく誘い込まれたということ)

ドクオはいつも騎士団と行動を共にし、あえて騎士だと名乗らせてはいるものの実際の身分は一般人に過ぎない。本来ならば王都からの要請も受ける必要はないし、またそれを聞く義務もない。いつだって彼の善意につけこんで事件に関わらせているだけなのだ。

つまり、初めからドクオはここに来る理由もなければ必要もないということ。これが意味することは━━

(´・ω・`)(疑いようがない。ロマネスクは黒だ。奴は王という地位にありながら黒の魔術団と関わりがある)

430:2014/07/11(金) 22:41:29 ID:MuFWsT2w0

ドクオを戦地に向かわせたのは誰だ?

悪魔という狂言を用いてここに来るよう仕向けたのは誰だった?

王都ヴィップを治めるロマネスク本人だ。

仮に、これが魔物や盗賊などが出没しているだけだったならばショボンはドクオを王都に残してそれなりの対応をしていたはずだ。ドクオの持つ魔剣を使わなくとも騎士団の部隊を編成して原因を探らせればいいだけの話なのだから。

しかし、ここに悪魔という存在を匂わせればショボンがどう動くかなどあの男なら肝胆に予想がついただろう。

彼もまた悪魔がどういうものなのかよく知っている。実際に戦場で相見えたのだから、その恐ろしさも身に染みているのだ。

悪魔がもたらした悲劇は大切なものを奪うだけに飽きたらず、一人の男をも狂わせてしまったのだろう。

同情はする。守れなかったことを申し訳なく思う。自分にもっと力があればたくさんのものを背負うことも出来た。

だが、だからといって他人の運命をいたずらに弄ぼうなど愚かの極み。騎士団の理念を大きく逸脱している。

(´・ω・`)(そんなことさせるものか。僕は副団長だ。騎士団の在り方は、いや、僕の中の騎士は悪を挫き弱きを守ること。奴のやり方を認めるわけにはいかない)

431:2014/07/11(金) 22:42:16 ID:MuFWsT2w0

ショボンは剣を握る。

胸の内に秘めたるは騎士としての志。

この手にあるは人を守るための力。

これ以上ドクオを戦わせてはならない。ましてやドクオは異世界の住人なのだから。

自分達のケツは自分達の手で拭く。

それがショボンの信ずる騎士なのだ。

魔力を追っていたショボンはようやく足を止めた。辺りはすでに暗くなっており、日はとっくに沈んでいた。屯所にいるはずのモララー達に何も言わずに来てしまったので、もしかしたら心配しているかもしれない。

(´・ω・`)(早めに終わらせて戻ろう。王都に帰ったらロマネスクに話を聞かなければならないしな)

魔力はどうやら街の外れにあるロープウェイを渡ったようで、ここからは辿ることができなさそうだ。

(´・ω・`)(ならば、探索魔法を使うまで)

ショボンが簡単に詠唱をすると小さな魔法陣が目の前に浮かぶ。いくつかの細い光が街の中を縦横無尽に走っており、その中の数本は街を離れてロープウェイの先へと向かっている。

やはり敵はこの先にいる。モ・トコ周辺の街や集落で見た魔法陣の痕跡は、おそらく何かしら大掛かりな術式の下準備だったのだろう。意識しなければ分からないほど小さな魔力とはっきりと視認できる大きな魔力が混在しているのは、各々の街に張った魔法陣が影響しているのだ。

432:2014/07/11(金) 22:43:10 ID:MuFWsT2w0

向かった先は分かった。しかし、街の住人がほとんど避難している今、ロープウェイを動かすことはできない。歩いて行けないことはないだろうが、到着する頃にはへとへとになって戦闘どころではないだろう。

ショボンはしばし黙考し、ふぅと小さく息を吐いた。魔力は温存しておきたいが、一人でやると決めた以上やるしかない。

(´・ω・`)(空を飛ぶしかないな。どれだけの距離があるかは分からんが)

ショボンが魔力を操ると、体がふわりと宙に浮く。まるで呼吸をするかのように自然な流れで。

(´・ω・`)(どこのどいつかは分からんが、首を洗って待っていろ)

一瞬の静寂、ショボンは鉱山へと宙を切って駆ける。

433:2014/07/11(金) 22:44:29 ID:MuFWsT2w0




どうやらこちらの動向に気付いた騎士の一人が向かっているようだ。張り巡らせた魔法陣が彼にそれを知らせてくれる。

彼が得意とする魔法は基本的に戦闘には向かないが、高度な情報をやり取りする状況においては大いに役立つ。

その気になれば遠く離れた人間の囁きでさえ容易く聞き取れるし、一挙手一投足まで完全に把握することもできる。今回の件についても様々な魔法を用いて騎士を攪乱させてもらった。

ショボンがこちらに向かっているということは、こちらの目論見はほとんど看破されたと見ていいだろう。

黒の魔術団である以上、あの魔剣に興味を抱くのは至極当然だし、ましてやあれがどんな役目をもっているかなど考えなくとも分かることだ。

本来であればもっと早くに計画の全てを終えて魔剣の主とゲームを開始するつもりだったのだが、王都にいる協力者の準備が間に合わなかった。この遅延がなければ騎士ごときに嗅ぎ付けられることもなかったのだが、過ぎたことは仕方ない。

それに、いくら騎士団のナンバーツーと言えど冷静さを欠いて単身敵の元へと乗り込むなど愚の骨頂。もう少し頭がいいのかと思っていたがどうやら見込み違いだったようだ。

434:2014/07/11(金) 22:45:36 ID:MuFWsT2w0


( ゚"_ゞ゚)「とは言え、ここにある術式を解析されるのはまずいかな。彼にはさっさとご退場願うとしようか」

オサムは傍らの棺桶を開くために手を伸ばす。漆黒だったはずのそれは使い古され、所々傷や塗装が剥げており、大量の魔力と術式を無限に収納できるいわば魔法専用の収納ボックスである。

その中から数種類の魔法と魔力を選択すると、オサムの前に眩い輝きを放つ光の玉が四つほど並んだ。

( ゚"_ゞ゚)「さて、どうするかな。あまり弱いものを作っても彼ほどの実力者であれば簡単に壊されてしまうし、あまり強すぎても魔力の消費が激しい」

昨晩魔剣の主に襲わせたものは魔力で構成された擬似的な魔物である。生き物というものを突き詰めていけば最終的には魔力になるということを利用して、彼は独自の研究により魔力から生物を産み出すことに成功した。

術式を用いて命令を与えることができるし自我を持たないので、命令を遂行することにはうってつけなのだ。下手に人間や魔物を使って裏切られる心配もないし、他人の命を奪うことに躊躇いもない。彼にとって信じられるものは機械的に自分の目的のために動く駒だけである。

もちろんまだまだ問題点は山ほどあった。例えば命令を与えてそれを遂行したあとはオサムが術式を解除しなければいつまでも残り続けてしまう。しかも術式の解除にはオサムが近くにいなければならない上、さらに魔力を消費するので効率が悪いのだ。

おまけに魔力は周囲に浮かぶ自然界のものでは純度が低く、一度大量に集めて純度を高めなければならない。その作業も意外にめんどくさいので、できれば無駄に使いたくはないのである。

435:2014/07/11(金) 22:46:44 ID:MuFWsT2w0

だが今回は相手が相手、素人である魔剣の主程度ならばそこそこのもので問題はないが騎士団のナンバーツーともなればそう甘くはない。

ここはやはり一番効率がよく、かつ最大限に敵を殲滅できるものを作った方がよさそうだ。

( ゚"_ゞ゚)「ここはあれを使うべきだろう。出し惜しみをしてはいられん」

オサムは詠唱し、魔法陣を呼び出す。棺桶ではないまた別の収納空間に繋がっているそこからは周辺の村や街から捕まえてきた人々が意識無く眠っていた。

( ゚"_ゞ゚)「本来であればこんなことに使いたくはないが、あの男の狼狽える姿を見るのもまた一興。存分に楽しませてくれ」

(  ∀ )

虚ろな目をした男を喚び出して、魔力の光を注ぎ込む。胸の辺りからまるで溶け込むように体が光の玉を飲み込んでいき、少しずつ全体に広がっていくたびに何度も痙攣をするが、意識のない彼にとってどうということではない。すでに痛いと思う心などないのだから。

( ゚"_ゞ゚)「あとは、こいつとこいつもいい素材だ」

同じ作業を四度繰り返し、完全なるバーサーカーとなった人間が四人立ち並んだ。あとは命令の術式を組み込むだけで彼らの命が果てるまで戦い続けるだろう。

( ゚"_ゞ゚)「さぁ、魔剣の主よ。どこまで俺に近づけるかな?」

命令を与えた四人はふらふらと覚束ない足取りで鉱山の迷宮へと消えていった。

すでにゲームは始まっている。あとはいつそれに気付くかだ。

ぼーっとしていれば悪魔に身も心も喰われてしまうぞ。

436:2014/07/11(金) 22:47:43 ID:MuFWsT2w0

◇◇◇◇

('A`;)「ったく、何でお偉いさんが独断専行なんてしてんだよ!」

モ・トコに派遣されていた騎士から話を聞いたドクオは夜の街を駆けていた。

理由は簡単だ。ショボンとモララーがいなくなったから。

実にシンプルな理由だが、王都から遠征してきた騎士の数はたった三人、内二人が何百何千といる騎士を取りまとめる役柄で、しぃのような下っぱを一人残して動くなど本来あってはならない。

ましてや肩書きを偽らされているドクオだっている以上、動くならせめて指示を置いていってもいいものだが、そんなものはどこを探しても見当たらなかった。

つまり、今ドクオ達は戦況を冷静に分析するはずの上司がいない中で何かをしなければならないのだが、ドクオは結局彼らを探すことを先決した。

しぃには待機していた方がいいと言われたのだが、あの二人が自分達に何も言わずに出ていったということはかなり切羽詰まった状況なのだと考えている。ましてやモララーもショボンも騎士団の中では頭が切れる方だ。指揮系統が混乱しては下の者はまともに動けないことも分かっているだろう。

('A`)(つまり、ショボンさんやモララーがいなくなったのは自分達で全てを終わらせなきゃならない事情があったか、もしくは敵に捕まったかのどっちか)

実力者であるあの二人を相手に捕まえるなんて芸当ができるとは思えないが、これだけ周到に手を回すような相手だ、こちらの動きを制限する何かをしていてもおかしくはない。

437:2014/07/11(金) 22:48:29 ID:MuFWsT2w0

ドクオ以外の足音が聞こえない街は相変わらずどこもかしこも固く閉ざされており、灯りすら見当たらなかった。避難勧告が出されている以上これも仕方のないことではあるが、人気のない夜の街というのはかなり恐怖心を煽る。

('A`)(ま、好都合ではあるけどな)

不意に速度を落とし、ドクオは腰の剣を抜き放つ。

('A`)「はぁっ!」

掛け声と共に剣を逆袈裟に振り抜く。暗闇に紛れた鳥型の魔物が短い悲鳴をあげて消滅した。

続いて振り向き様に同じ魔物を横薙ぎに一閃。すぐに右へ飛び、頭上からの攻撃を避けて跳躍すると縦に両断して着地。

('A`)「どうやらとっくに戦場みたいだな」

さらに両側から魔物が襲う。ドクオが上半身を軽く後ろに反らすと魔物達は互いを攻撃して一瞬怯んだ。その隙に斬り伏せ、周辺を探る。

魔物はまだまだ湧いてくる。敵はこちらの動きを把握しているのか、それとも偶然なのか。

正面の魔物達をまとめて斬り倒しながらドクオは宿舎に残っているだろう三人を思い返した。

万が一のために待機しているよう頼んでは来たが、この様子ではあちらも魔物と戦っているのだろう。ツンや渡辺はここに直前にも一戦やらかしているのだから何とも運のない二人だ。

('A`)(しっかし、このタイミングで仕掛けてきたってのは妙だな。部隊を崩すには分断するのが一番だけど、宿舎には残留してる騎士もいるんだぞ?)

魔物を丁寧に倒しながらドクオは考える。

('A`)(ショボンさんやモララーがいない時を狙ったのか、それともあっちは元から戦力に数えられてないのか?)

総合的に見ればドクオが狙われているのは分かるのだが、何をしようとしているのかが今一掴めない。もう少し魔法や魔剣についての知識があればまともな考えが浮かぶのだろうが、生憎とドクオはそういったものと無縁なのだ。

438:2014/07/11(金) 22:50:01 ID:MuFWsT2w0

('A`)(どうする? ショボンさんは諦めて一回戻るか? 敵が仕掛けてきた以上、俺だけじゃ敵の居場所すら割り出せないし)

魔物の出現場所は完全にランダムで術者の特定は出来そうもないし、ましてや近くにいるとも限らない。これだけ大規模な召喚系の魔法を行使しているということは相当な手練れであることは間違いないだろう。

それに、モ・トコは現在ほとんどの住民が出払っており戦場としてはうってつけだ。鉱山として発展してきた街は王都ほどではないがそれなりに広い。隠れる場所など無数にあるし、それこそドクオごときでは予想もつかない場所に潜んでいる可能性もある。

('A`)(敵の魔法の有効範囲も分からないし、参ったな)

勢いだけで飛び出してきたのはやはり無謀と言う他ないだろう。こんなことならしぃを連れてくるんだった。

今さらごちたところで状況が変わるわけではない。大切なのはこれからどうするかだ。

('A`)(……一度戻ろう。しぃちゃんのがこういったことには詳しいだろうし、どのみちこの分じゃ町中魔物だらけだろう。早期解決には俺じゃ役不足だ)

方針が固まった以上、魔物と遊んでいる暇はない。ドクオは地を蹴り魔物の脇をすり抜け様に両断するとそのまま走り出した。

しかし、ドクオはすぐに横に跳んだ。どうやら敵もそう簡単におもいどおりにさせてはくれないらしい。

前方より鋭く尖った岩の槍が大量に流れてきた。回避があと数瞬遅れていたらドクオは串刺しになっていただろう。

('A`;)(な、なんだよおい)

439:2014/07/11(金) 22:51:08 ID:MuFWsT2w0


体勢を立て直しながら、槍が飛んできた方向を見る。そこには岩で作られた巨大な人形が仁王立ちしていた。

体躯はドクオの四倍ほど、無造作に組む合わさった岩は大小様々でなんとか人らしい形を成してはいるものの所々不自然な凹凸があるせいでおよそ芸術性の欠片もない。ただ命を奪うために作られた無作法な木偶人形のようだ。

こいつはどうやらドクオが宿舎に向かうのを邪魔したいらしい。道幅一杯の体は横を通る隙が一切見当たらない。

('A`;)(ゴーレム!?)

ドクオが一歩踏み出すと、ゴーレムもこちらを狙って自らの体に使われている岩を分離させて飛ばしてきた。

軽く避けてドクオはゴーレムの懐へ入ると左足の部分を斬りつける。魔剣によって岩が消失し、バランスを崩す。

と、ドクオは回避の体勢に入ろうとしてその目を疑った。

左足を失ったはずのゴーレムは、舗装された道のレンガをその足に吸収し始めたのだ。すぐに新しい足を取り戻すとゴーレムは腕を振り下ろす。

左へと回避、が、先ほど飛ばしたはすの岩が後方からドクオの体へと命中する。

( A )「ごっ」

軽く数メートルを転がり、立ち上がるがすぐに岩が飛来し、避けてはゴーレム本体から攻撃の繰り返しで、いつの間にかドクオは防戦一方になっていた。

('A`;)(動きは早くないのに、四方八方から攻撃されたらさすがに避けきれん)

しかもゴーレムのどこを破壊しても周囲に岩や土があれば瞬く間に腕や足を一回り大きく再生してしまうため、敵の攻撃範囲は徐々に広がっていってしまうのだった。

440:2014/07/11(金) 22:52:26 ID:MuFWsT2w0

('A`;)(こういう敵はどこかに核があるのがセオリーなんだが)

元々意思のないものに命を吹き込んでいるのだから、当然そのための術式は間違いなくあるはずだ。見つかりさえすれば多少強引にでも斬りつければそれでこの戦いは終わる。

だが相手も魔剣の特性くらいは掴んでいるだろう。一目で分かるような部分に核となる術式を作るはずがない。

ドクオは剣を鞘に納めると、飛んでくる弾丸や本体の攻撃を避けることに意識を傾けた。どうせ効かない攻撃などする意味がない。

('A`;)(どこだ、どこにある。無くちゃいけないはずなんだ)

弾丸の軌道とタイミングは読みやすい。何せ必ず死角から来るうえ、見えるところから弾丸、本体の攻撃、弾丸というパターンになっている。これならばドクオといえど避けるのはそう難しくはなかった。

そう、難しくはない。何せ先に向かった方角から戻ってくるだけなのだから、冷静になれば簡単に避けられる。

しかし、問題はドクオの体力と集中力だ。休む間もなく襲い来る攻撃は当たれば致命傷になるまでに肥大化している。がむしゃらに攻撃をしたことで周囲の土や岩を吸収してしまった。

そのせいで舗装されていたはずの道は抉れて穴だらけ、移動する距離も弾丸の大きさに伴い長くなっているし、威力も最初に受けた一撃の数倍になっている。

('A`;)「はっ……はっ……」

集中を切ってしまえば終わり、さらには体力が尽きて動けなくなっても終わり。その限られた時間の中で敵を倒さなければならないというプレッシャーがドクオを蝕んでいく。

('A`;)(早く、早く見つけないと……)

441:2014/07/11(金) 22:53:33 ID:MuFWsT2w0



从;'ー'从「あれれ〜、また増えてるよぉ〜」

ξ;゚⊿゚)ξ「口動かす前に手を動かしなさい! 死にたくないでしょ!?」

(;*゚ー゚)「とは言っても、これはさすがに……」

宿舎の前には鳥型の魔物が大量に押し寄せており、その圧倒的な数の前にしぃ達は苦戦を強いられていた。

どこから現れているのかも分からず、さらには見たことのない姿形をした魔物との終わりの見えない戦はしぃ達の心をじわじわと弱らせていく。

(;*゚ー゚)(戦闘を初めてすでに一時間は経過しています。なのに、減るどころか増える一方。魔物はどこから入り込んで……)

モ・トコには今ほとんど人がいない。が、この街に派遣されている騎士団の人間が何人かは滞在しているはずなので、魔物避けの結界は正常に作動しているはずなのだ。魔物が街に入り込むことなど微塵も有り得ない。

であれば理由は一つしか考えられないだろう。

敵はすでにこの街に入り込んでおり、かつこちらを狙っているということだ。

その意図までは分からないが、自分達がしなければならないことはこと単純。生き延びること。

(;*゚ー゚)「副団長やモララー隊長ドクオさんが戻ってくるまでは耐えましょう!」

从;'ー'从「了解だよぉ〜」

ξ;゚⊿゚)ξ「分かってるわよ! でもドクオ達が戻ってくる保証はあるの? 戻ってきたとして、この状況が収まるの?」

442:2014/07/11(金) 22:54:20 ID:MuFWsT2w0

(;*゚ー゚)「それは……」

思いがけないツンの言葉に、しぃは答えに詰まってしまった。

ドクオやショボンは敵の動向や現在ある情報から目的や対抗策を見出だそうとしていたから、しぃは彼らならなんとかしてくれるのではないかと思ったのだ。

だから、しぃはあの二人が戻ってくるまでと言ったのである。

从'ー'从「ツンちゃん!」

渡辺がツンを呼んだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、ごめん。とにかく頑張りましょ」

ツンもはっとした様相でしぃをちらりと一瞥。

(* ー )「……すみません」

それきり、しぃもツンも渡辺も口を開くことはなかった。

ツンが言いたいことは分かっている。

今の今まで考えたことすらなかったが、しぃは今日に至るまで自発的に何かをしたことがなかった。それは子供の頃からそうだったし、騎士団に入団しても変わっていない。

しかも、ここにいるのは騎士ではない一学生が二人。本当ならしぃが魔物の大群を退ける策を考え二人に指示を出さなければならない立場なのである。

なのに、自分ができることは戦うだけ。あろうことか学生と同じ位置で。

(* ー )(でも、私の考えは正しいんでしょうか。もし、間違ってお二人に怪我をさせてしまったら、私は……)

443:2014/07/11(金) 22:55:05 ID:MuFWsT2w0

いつもであれば、しぃの考えを述べた時、傍にいて大局を見渡すことができる誰かに判断を仰ぐことができていた。過去のように、何もしないよりはせめて意見ぐらいは言ったほうがいいと知っているから。

だから騎士団に入ってしぃは大なり小なり過去の罪から目を逸らすことができていた。

自分は変わったんだ。

昔の幼かった自分ではないんだと。

けれど、人の本質とはそう簡単に変わるものではない。

今、この場所、この状況において彼女は自分にできることなんて初めからないと信じこんでいた。自分は騎士団の中ではしたっぱで、作戦立案や状況把握をする上の人間からの指示に従っていればそれでいいのだと考えていたから。

彼女はそうやって騎士団という組織の中で立場を築き上げてきた人間だ。今までも、そしてこれからも同じように考え同じように動くだろう。

(* ー )(私は……私は…)

ξ#゚⊿゚)ξ「しぃ!」

(;*゚ー゚)そ

444:2014/07/11(金) 22:55:56 ID:MuFWsT2w0

ツンの怒号で思考の海から戻ってくる。目の前には魔物が迫っていた。

(;*゚ー゚)(避けられない)

と、横から炎が躍り出る。魔物は炎に焼かれ、消し炭と化した。

从'ー'从「しぃちゃん、ボーッとしちゃ駄目だよぉ?」

ξ#゚⊿゚)ξ「戦闘中なの分かってんの? 迷惑かけんじゃないわよ!」

从'ー'从「ツンちゃんも落ち着いて。話は全部終わってから、ね?」

ξ゚⊿゚)ξ「……分かったわよ」

そのあと、何事もなかったのように三人は戦闘に戻ったが、終始しぃの心はざわついたままだった。

学生に助けられ、怒られ、迷惑をかけている。その事実がしぃの感情を掻き乱して、内に貯めたものを全て吐き出してしまいそうになった。

自分は、何故ここにいる?

何故戦っている?

何故、騎士になんかなったのだろう。

445:2014/07/11(金) 22:56:41 ID:MuFWsT2w0

◇◇◇◇

鉱山の中はまるで迷路のように入り組んでおり、採掘場と呼ばれる場所以外の道幅はけして広くはない。ともすれば広い部屋の中で報告書を読むショボンには少しばかり息苦しさを覚えさせる。

唯一の救いは道がきちんと舗装されていることだろう。採掘した鉱石を安全に運ぶため、路面に飛び出したり尖った石や岩は丁寧に取り除かれており、ちょっとしたお屋敷の廊下と遜色ないほどだ。

両側の壁に取り付けられた魔法石の明かりが頼りなく床を照らしている中をショボンは早足で進んでいる。

魔力の糸はこの奥に続いており、鉱山の深くに足を進めるにつれてはっきりと色濃くなっていた。

(´・ω・`)「……随分と広い採掘場だな。この鉱山のメインか?」

開けた空間を見回してショボンは感嘆の声をあげた。

四角い箱のような形をした部屋は採掘場としては異例とも呼べるほど広く、王都ヴィップの玉座の間の三倍以上ある。周囲を見渡せばキラキラと輝く何かが岩の壁に混じって剥き出しになっており、その数足るやとてもではないが数えきれる量ではなかった。

ショボンが一瞬自分が夜の星空の中に迷い混んでしまったかと錯覚してしまうほどに美しい。所々部屋を支えるための柱が立っているのが少し残念ではあるが。

(´・ω・`)「魔導鉱石の原石、か。採掘するのは難しいと聞いたことはあったが、なるほど」

446:2014/07/11(金) 22:57:27 ID:MuFWsT2w0

近くの壁を観察すると、この輝きを放つ剥き出しになった部分が一つ一つ独立したもののようだ。少しの刺激ですら暴発する原石がこんなにも大量に隣接しているのだから国が資格を交付するのは納得である。

(´・ω・`)「……魔力、ね」

魔導鉱石とは錬金術で使われる媒体の一つだ。当然ではあるが名のとおり魔力を多分に含んでいる。

(´・ω・`)「今は考えても仕方がない。先を━━」

急ごうとは言えず、代わりに彼は怪訝そうに眉を潜めてしまった。

何故彼がここにいるのだろうか。彼には何も言っていないし、この複雑に入り組んだ鉱山を先回りしてきたとでもいうのか。

(´・ω・`)「モララー」

(  ∀ )「」

そこには、虚ろな瞳をしたモララーがニヤニヤとだらしない笑みを浮かべて立っていた。

(´・ω・`)「何故ここにいる。答えろ。これは命令だ」

幻影ではない。魔力の動きを視認できる今、魔法による幻影ならばこれが人の形をなしているはずがないのだ。

つまり、目の前にいるのは紛れもない本人だということになる。

ショボンの問いにモララーは答えない。不気味に笑ったままだ。

(´・ω・`)「答える気がない、もしくは━━」

447:2014/07/11(金) 22:58:11 ID:MuFWsT2w0

操られている。そう考えるのが妥当か。

仮にも若くして騎士団の分隊長になった男が不覚を取るとも思えないが、それだけ敵の方が上手だったということだろう。

(´・ω・`)「通るぞ」

ショボンは警戒しながらモララーの脇を通りすぎていく。腰に差した剣はいつでも抜けるように柄に手をかけながら。

立ち尽くしたまま動かないモララーはこちらに視線を向けることなく、黙って違う方向を向いている。

結局、最後まで彼は何もしてこなかった。

採掘場を抜けて再び狭い通路に出ると、ショボンは足を止めて振り返る。

(´・ω・`)(一体何を目的にモララーを操り、配置したんだ?)

操られていたのか、はたまた自分の意思でここにいたのか見当がつかない。人の心を操作する魔法は高度なものだとマナに働きかけてしまうためショボンですら完璧に見抜くことはできない。

経験と勘から彼が操られているのは間違いないと思うのだが━━

その時だった。

448:2014/07/11(金) 22:58:57 ID:MuFWsT2w0

視界一杯に目映い閃光が迸る。次いで爆発。慌ててその場を後にするが、他の場所にある魔導原石もこの衝撃で連鎖的に爆発しているようだ。

(;´・ω・`)「まさか、このために!」

逃げ場所を失ったショボンは急いで防御魔法を構築する。だがあまりにも短い時間だったために不完全な形で出来上がった防御結界はすぐにでも消えてしまいそうなほど頼りないものだった。

(;´・ω・`)(人の部下を捨て駒のように使うか)

改めて敵の恐ろしさがひしひしと伝わってきた。こんなにも簡単に人の命を扱うなんて正気の沙汰ではない。

(;´・ω・`)「とにかく、ここを出ないとますいな」

この様子では一帯の鉱山も巻き添えに崩落してしまっただろう。もちろん敵が巻き込まれて死んだなんて馬鹿な真似をするとは思えないが。

ショボンはさらに詠唱。範囲は半径数十メートルといったところか。

自分を中心に魔法を発動させると、周辺の岩が一気に消滅していく。けして岩という存在を消しているわけではない。あくまで岩を構築する魔力を分解して形を保てなくしているだけだ。

だがこのまま消していくだけではさらなる岩が降り注ぐが、ショボンはさらに魔法を重ねる。

分解した魔力を壁や柱にして出来うる限り部屋として機能するように再構築していくと、とりあえずショボンが自由に動けるくらいのスペースが完成した。周囲に魔導原石が大量にあるからこそできる荒業である。

しかしこれも単なる時間稼ぎにすぎない。一刻も早く脱出しなければ酸欠や二次崩落に巻き込まれるだろう。

(´・ω・`)「……モララー」

崩落した先を見つめながらショボンは少しだけ迷う。

449:2014/07/11(金) 22:59:54 ID:MuFWsT2w0

自分の部下も岩の中に埋もれているはずだ。これぐらいで簡単に死んではいないだろうが、長くは持たない。

(´・ω・`)「少しだけ待っていてくれ。すぐに助けに来る」

部屋の向こう、壁を一枚挟んだ辺りから広めにスペースを作っておく。あまり距離は離れていなかったため、これで問題ないと思う。

ようやくショボンは一息つくと、再び魔力探索術式を展開させようとして━━

突如吹き飛んだ壁、そこから光線が伸びてきた。

(;´・ω・`)そ「なっ」

身を伏せてそれを避けると第二撃が向かってくる。今度は跳躍、さらに三、四と光線が雨霰と降り注ぐ。

飛んできた方を見れば、穴の空いた壁に傷一つないモララーが先程と同じ笑みを浮かべてこちらを見ていた。

(  ∀ )

(;´・ω・`)「くっ、もはや逃げられないか」

モララーはすでに獲物を握っている。逃げ道のないこの空間では彼をやり過ごすことはできそうもない。

けれどもモララーは自分の部下だ。彼が入団してから何かと世話を焼いてきた。応用魔法を教えたし、戦闘技術を磨かせた。一緒に酒を飲んで愚痴を言い合って過去の話に涙して励まし合った。

そんなモララーに、自分は剣を向けねばならないのか?

(´ ω `)(僕は何のために騎士になった)

騎士とは弱きを守る盾、悪を挫く剣。

自分に立てた誓いはなんだ。

それは目の前にある全ての理不尽をこの手で救うこと。

自分の正義は何のためにある。

それは悪に虐げられる人達を救うために。

ショボンは剣を勢いよく抜き放つ。

(´・ω・`)「私は王都ヴィップ騎士団副団長、ショボン。いざ参る!」

450:2014/07/11(金) 23:00:39 ID:MuFWsT2w0



( ゚"_ゞ゚)「どうやらうまくいっているようだな」

作業を終えたオサムは近くの壁に描かれた魔法陣から情報を探った。やはり今の振動は一部の採掘場が崩落したことによるものだ。

ならば、今頃騎士の二人は戦っているのだろう。これでショボンとモララーは死んだも同然である。

さらに街の宿舎で待機していた三人はオサムが作り出している魔物と交戦しており、身動きが取れない。あれはモ・トコという鉱山都市だからこそ使える錬成術式だ。魔導原石が大量にあって初めて成り立つが、その分半永久的に魔物を産み出すだろう。

そして、オサムが最も楽しみにしている魔剣の主は━━

( ゚"_ゞ゚)「ゴーレムにうまく囚われているか。やれやれ、これでは先が思いやられるな」

451:2014/07/11(金) 23:02:02 ID:MuFWsT2w0

魔剣の力ならばあんなもの五分と経たず壊せるものを、何故こんなにも苦戦しているのかオサムには理解できない。

とはいえ、そう簡単に破壊できるほど柔な作りにした覚えもないので致し方あるまい。

( ゚"_ゞ゚)「だが、おかげで全ての準備は整った。ゲームは中盤に差し掛かったぞ」

棺桶を開き、溜めていた魔力を解放すると巨大な魔法陣が浮かび上がる。黒々とした一般的には使われない幾何学的でより複雑な魔法陣だ。

ばちばちと魔力が部屋の中を暴れまわり、大きすぎる力に世界も呼応するかのように地鳴りを響かせた。

手、足、胸と徐々に現れていく体。それらはのっぺりとしていておよそ人とは思えないほどの美しい白色だ。顔は目も鼻も口もあるがどれも人形のように開くことはなく、ただの装飾品にしか見えない。

ゆっくりと時間をかけて、ようやく人型の生物が召喚された。

長い黒髪を靡かせ、それはオサムを睨み付けるように顔を向けてくる。

( ゚"_ゞ゚)「いい仕上がりだ」

452:2014/07/11(金) 23:02:50 ID:MuFWsT2w0

それを眺めて彼はふむふむと頷く。概ね想像通りだ。あとは最後の仕上げをすればこのゲームは終盤に向けて動き出すだろう。

誰も彼もが絶望の中で泣き叫びながら死んでいくのだ。そうなってようやく彼は絶望する。

人型の生物は声すらださずにただただ立ち尽くす。

( ゚"_ゞ゚)「さて、手始めにここら一帯の街々を焦土に変えようか、悪魔よ」


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