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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】

1名無しさん:2004/11/25(木) 19:54
「自分も小説を書いてみたいけど、文章力や世界観を壊したらどうしよう・・・。」
「自分では面白いつもりだけど、うpにイマイチ自信がないから、
読み手さんや他の書き手さんに指摘や添削してもらいたいな。」
「新設定を考えたけど矛盾があったらどうしよう・・・」

など、うpに自身のない方、文章や設定を批評して頂きたい方が
練習する為のスレッドです。

・コテンパンに批評されても泣かない
・なるべく作者さんの世界観を大事に批評しましょう。
 過度の批判(例えば文章を書くこと自体など)は避けましょう。
・設定等の相談は「能力を考えようスレ」「進行会議」で。

412 ◆yPCidWtUuM:2006/03/11(土) 15:18:28

[バカルディ・151プルーフ<8>(side:大竹)]


十字の光が入った黒い石。透明で虹色の光がちらつく石。
ポケットからとりだしてテーブルの上ではじく。


「『ブラックスターとレインボークォーツを渡せ』、ね」


居間で相方と顔を突き合わせつつ石を眺めてみる。
確かにこの2つがあれば、使い方と相性次第でそれなりに誰でも身を守れるんだろう。
まあ、俺にはレインボークォーツは使えないんだが。

…渡せ、と言われておとなしく渡すつもりはなかったんだけどよ。

ちょっと心の中で呟いてみる。でも三村にそんなことは言わない。
結構真に受けるところのある相方に、よけいな心配をさせる必要もないだろう。
要は優先順位の問題だ。今は俺のプライドより三村の家族の方が重い。


「でもあれだろ、俺らが黒に入るんならお前の石、わざわざ渡すことねぇだろ」
「まあな、ブラックスターは現状維持だろうけどよ」
「レインボークォーツは黒の上の奴に渡すとかか?」
「かもな、コレ使えたら結構強力だし、持っていきてぇだろ」
「けど使うと記憶消えるんだよなあ」
「あ、そうか、お前こないだコレ試したもんな」
「おう、お前はダメだったけどな」
「ああ、ダメだったなー…つうかアレだな、琥珀はいらねぇんだなアイツら」
「リスキーすぎんだろ、アレは…もう事務所に返してこいよマジで」


そんなふうにぽつりぽつりと会話を続けていると、玄関のチャイムが鳴る。
嫁さんか? と三村に視線で尋ねると、軽く首を傾げて出ていった。


「はい、どちらさんっすか?」
『どうも、三村さん』
「…誰だ、お前」


玄関から聞こえてきたやりとりに嫌な予感がして顔を出す。
三村が剣呑な表情で扉の向こうと会話していた。


『黒のモンです、開けて下さればわかりますよ』


その台詞を聞いて扉を開けようとした三村を見て、とっさに石を握り込む。
ぐっと手に力をこめると、無色透明の「世界」が広がって、三村ごと周囲を包んだ。
次の瞬間に玄関扉が開き、立っていた人物の姿がはっきりと目にうつる。


「どうもこんばんは、お久しぶりです」


扉の向こう、悪びれない様子で話しかけてきたのは見知った顔。


「…土田」


U-turnの土田晃之が、そこには立っていた。

413 ◆yPCidWtUuM:2006/03/11(土) 15:19:18

[バカルディ・151プルーフ<9>(side:三村)]


大竹と話している最中に、玄関のチャイムが鳴った。
妻と娘が帰宅したのかと一瞬思ったが、もう少し遅くなると言っていた気がする。
いったい誰だ? といぶかしみながら応対に向かう。


「はい、どちらさんっすか?」
『どうも、三村さん』


聞いた覚えのある声。でも、確証が持てない。
ただ、どう考えてもコイツは今、招かざる客だ。


「…誰だ、お前」


少し低くした声で問うと、扉の向こうで少し迷うような気配があった。
しかし結局名乗る気はないらしく、返答は微妙なものだった。


『黒のモンです、開けて下さればわかりますよ』


その言葉に覚悟を決めて扉を開こうと手を伸ばす。
後ろで大竹の石の気配がして、ああ、使ったな、とぼんやり思った。


「どうもこんばんは、お久しぶりです」


…そうか、お前も黒だったんだな。


「…土田」


同じく家庭持ちの男がそこにいて、なぜか少し悲しくなった。

414 ◆yPCidWtUuM:2006/03/11(土) 15:20:04

[バカルディ・151プルーフ<10>(side:大竹)]


「すいませんね、いきなりお邪魔して」


意外と礼儀正しい大柄な男は、軽く会釈をする。
襲ってくるような気づかいもないので、石を使うのもやめにした。


「お前、黒なんだな?」


三村が割に落ち着いた態度で尋ねる。


「そうです」
「俺んちに押し入ったの、お前か」
「…半分ハイで半分イイエ、ですね」
「どういう意味だよ」
「お二人の現場のスタッフに黒の奴がいましてね…」


…ああ、やっぱりな。
予想通りの展開だ、と胸の内で呟く。
ロケの時の三村の言葉、聞いてやがったんだ、畜生。


「そいつから連絡受けて俺が家の中に入れるようにお膳立てしました、実際入ったのはもっと若手の奴らです」
「…何でそんなマネしやがった?」
「俺にも家族がいるんです、って言ったら猾いですか」
「…」
「本意じゃなかったんですよ、信じてもらえるかわかりませんけど」


相変わらず、どこかしらけた態度で話す土田の言葉からはそれでも、嘘は感じられなかった。
三村は静かに土田の言葉を聞いている。俺はその背中が小さく震えるのをじっと見ていた。


「土田」


三村の背中越しに、客人に声をかける。
土田は視線を少しだけ上げてこちらを見た。


「あの文面考えたの、お前か?」
「…すいません」
「ありゃ完璧だな、今二人で黒入る相談してたとこだ」
「…」
「入ったら石は渡さなくても構わねぇか?」
「『黒に入る』って聞いた場合はレインボークォーツだけ回収するように言われましたけどね」
「そーか、んじゃやるよ」


ポイッと投げて渡すと、慌てたように土田はそれをキャッチする。


「ちょっ…何、いきなり投げないで下さいよ」
「持ってけよ、さっさと」
「えっ?」
「さっさと行け、三村が…」


「切れる前に」、と続ける前に、三村の怒りが爆発した。

415 ◆yPCidWtUuM:2006/03/11(土) 15:20:49

[バカルディ・151プルーフ<11>(side:大竹)]


…これは間に合わない。御愁傷様。

早くも諦めが入り、その場で土田にむかって手をあわせる。
三村のポケットに中にあったらしい石が強烈な光を放ち始めていた。
その光の眩しさに思わず目をつむると、三村の怒号が響く。


「土田お前…お前、この、『駄馬がっ!』」


そう三村が叫んだとたんに土田は、凄まじいスピードで三村家の玄関から吹っ飛ばされた。


「 『駄馬が!』 ?!」


…『駄馬が!』って三村、それ土田へのツッコミなのか?!
フローライト、お前の解釈ではツッコミだったんだな? お前三村かよ!

駄馬がピューッと空を飛んでいくならまだしも、土田が空を飛ぶということはそうとしか思えない。
一般的には絶対ツッコミに分類されないだろう言葉に一瞬状況を忘れて逆にツッこんでしまった。
…本当にうちの相方は、ツッこみどころの多いツッコミだ。

その間に、土田はマンションの外に面した廊下の柵を越えてすっ飛び、空中に投げ出された。
大柄な土田の身体は、重力に逆らわず急速に落下をはじめる。

…そう上階から落ちているわけではないが、このままでは骨折程度は免れない。
慌てて駆け出して、土田を追って階段を降りようと手すりに手をかける。


「土田っ…!」


叫び声が響くマンションの前、地面すれすれで土田の身体は突如現れた赤いゲートに呑み込まれ。
そして緑のゲートでもう一度現れると、玄関前の廊下に背中から落ちてきた。


「いっ…てぇ…」


腰をしこたま打ちつけたらしい土田はコンクリの上でうずくまる。
これがあの場所から普通に落下していたら、と思うとぞっとした。
三村の力は一見間が抜けているが、使いようによってはかなり強力で、恐ろしいものだ。
普段は意識していないが、こうした爆発的な力を見ると嫌が応にも気づかされてしまう。


「おい三村、気ぃすんだか」
「…」


自分よりもだいぶ大柄な男を吹っ飛ばした相方のほうを見やれば、放心状態だ。
凄まじい勢いでツッこんだせいでかなり体力を消耗したらしく、その場に座り込んで呆然としていた。


「三村」
「あ…」


二度目にかけた声でやっと正気に戻ったらしい三村の目に光が戻る。
きょろきょろとあたりを見回し、うずくまる土田に気づくと近よって言った。


「土田、怪我ねぇか?」


…それお前が聞くのってちょっとアレじゃねぇ?
またも微妙にツッコミを入れてしまいつつ、とりあえず土田を家に上げてやるよう三村に促した。

416 ◆yPCidWtUuM:2006/03/11(土) 15:21:28

[バカルディ・151プルーフ<12>(side:三村)]


腰を打ったらしい土田を家に上げてやる。
あの手紙が置かれていた居間のテーブルに、三人でこしかけた。

さっきはつい怒りのあまり石の力で土田を吹っ飛ばしてしまったらしい。
頭が真っ白になっていたので細かい記憶がない。

犯人と言うべき相手を目の前にしてみたら、やっぱりビックリするほど腹が立った。
ただ、一度ガーッと怒りが発散されたからか、今はもう正直、少し落ち着いてしまったところだ。
多分、土田にも黒を選ぶ理由がそれなりにあるのだろう。自分たちがこうなったのと同じように。
何となくそう感じてしまったので、これ以上責める気にもなれなかった。


「なあ、黒入ったからって今日からいきなり何かすっげえ変わるとかじゃねぇんだろ?」


大竹が問うと、土田は首を縦に振る。


「ええ、まあたまに指令が来たりして面倒ですけど…毎日のように戦闘とか、そういうのは逆にないですから」
「俺らを襲ってきてたのも、もっと若手の奴らが多かったもんな…ある意味、今までより楽ってことか」
「そうなりますね…自分の意志で黒を選ぶなら、そう嫌なことばっかりでもないと思いますよ、俺はね」


する前までは禁忌だと思っていた変わり身が、やってみれば意外に大したことでないのだと知る。
むしろ面倒が減るのだと思えば、それはそれで悪くはないのかもしれなかった。
ただ、胸に残るわだかまりと妙な後ろめたさだけが、白から黒へと鞍替えした自分をちくりと責める。


「これでとにかく、お前を通じてか何かわかんねぇけど、黒の連中に俺らが主旨替えしたことは伝わるんだな?」
「はい、俺が伝えときますんで…明日からは襲われるようなこと、なくなりますよ」
「…そうか」


少し安堵したように大竹が小さく息を吐いた。

そうだな、少し疲れていたかもしれない。毎日のように襲撃を受ける生活には。
大竹の石の力や俺の石の力、それに虫入り琥珀の力でどうにかここまで怪我もなくすごしてきたけれど。

…正直に言えば、結構限界が近かったのかもしれない。
フローライトを指先でもてあそびながら、そんな風に思った。


「そういえばお前の力って何なの? 何か赤と緑の出ただろ、さっき」
「ああ、俺のは空間移動なんですよ、あれは空間のゲートで…赤ゲートから緑ゲートに移動できるんです」
「じゃあ空中でゲート出して移動したってことか?」
「まあそうなります、ただ咄嗟のことだったんで体勢をとりなおせなくて背中から落ちましたけど」


…なるほど、それで俺の家入れたんだな。
今の大竹と土田の話から、やっと自分の家への侵入経路を理解できた。

そういう力の石もあるってことか、あんまり見たことなかったな、襲ってきた奴はみんな攻撃系ばっかりだったから。
直接襲撃するなら別にそういう力の奴にやらせる必要ねえもんな。まあ全くその通りの話だ。

石の力の代償でぐったりと疲れた身体を椅子に沈めて黙ったまま、そんな風に二人の客人の会話を聞いていると。
突然電話が大きな音で鳴って、急いで受話器をとった。


「はい、三村です」


電話の相手は最愛の妻で、ほっと溜息をつく。
もうすぐ帰るから、という言葉になぜかとても胸が温かくなって、笑顔で受話器を置いた。

417 ◆yPCidWtUuM:2006/03/11(土) 15:22:10

[バカルディ・151プルーフ<13>(side:三村)]


電話を機に、大竹と土田を送り出す。
どうせなら妻と娘を迎えに行ってやろうと俺も一緒に家を出た。
ずいぶんと時間が経っていたようで、西の空がすっかり赤に染まっている。
夕暮れの街の景色はあの襲撃の日と何も変わらなかった。

土田は方向が違うので、大竹と俺が使うのとは別の駅へと向かい、別れる。
相方と二人、駅への道すがら話すのはこれからのこと。


「大竹」
「あん?」
「変わんねぇんだよな、結局、この先も」
「同じだろ、ちょっと立場が違うだけでよ」
「…そうだよな」


…そうだ、何も変わらない。

大竹と二人、この世界でやっていくのだから。
立場が変わっても、大事なところだけは曲げないでいればいい。


「まあ、襲撃がなくなんのはありがてぇな」
「それはホント、助かるな」
「アレだな、もういいな、虫入り琥珀」
「そうだよ、いらねぇだろ、早く事務所返してこいよ」
「そーするわ」


ポケットから出した蜂蜜色の石を、大竹が夕陽に透かす。
隣からのぞき込んだそれは、小さな羽虫を呑み込んでとろりと固まっている。
この柔らかな光をたたえた石は、長い長い時の流れの中で、一体どれだけのものを見てきたのだろう。

この石がなければ切り抜けられなかった闘いもたくさんあったけれど。
もう俺たちには必要ないし、この先に続く道では邪魔になるだけだ。

白でも黒でも、どのみち闘っていくしかないけれど。
こっちが襲撃者になるなら、これを使うような背水の陣じみた闘い方はしなくてすむ。
たとえそれで良心が痛んでも、もう立ち止まるつもりもない。
ここからは俺の石と、大竹の石があれば、それで進んで行けるはず。


「そんでアレだ、大竹」
「何だよ」
「もう一回売れて、俺ら、…とれるよな?」


…何を、とは口にしなかった。
でも多分、伝わったんじゃねぇかと思う。


「…バーカ」


大竹は笑いながら答えて、虫入り琥珀をもう一度しまう。
ふざけたように言った「バーカ」の後ろに、きっと隠されている言葉。


『とれるに決まってんだろ、”天下”』


自分だけに聞こえる声を聞いた気がして、白っぽい駅舎を染めるオレンジ色の光の中、小さく笑った。

418 ◆yPCidWtUuM:2006/03/11(土) 15:29:58
これで「151プルーフ」終わりです。
土田の能力、バカルディ(さまぁ〜ず)の能力は以前から出ているものと同じ。
天下とるとかって話は当時のインタビューでの彼らの言葉からいただいてます。
土田とバカルディの関連がよくわからず、この時期に絡ませていいものか
正直悩んだんですが、土田は当時ボキャブラ出てたし、一応知られている若手に
なるのかなと思って顔見知りの設定にしました。
ただ、ひょっとして土田が結婚をまだ公表してない時期だったような気もして
不安なので、その辺り詳しい方いらっしゃれば教えていただけると嬉しいです。

419名無しさん:2006/03/11(土) 17:42:10
乙!笑えるとこも切ないとこもあって、読むのが楽しかったです。
…石は持ち主に似るのかw

420名無しさん:2006/03/12(日) 02:26:48
乙でした。すごく本人達の雰囲気が出ていてよかったです。
ところで土田の結婚のことですが
ボキャブラ当時はネプチューンや海砂利水魚などの
ごく親しい人にしか話していなかったという話を聞いたことがあります。
でもホリケンと有田は口が軽いので彼らには内緒にしていたとか。
結婚を公表した時期については自分にはわかりませんでした。すみません。

421 ◆yPCidWtUuM:2006/03/13(月) 12:33:48
>>419
感想ありがとうございます。
ペットとかみたいに石が持ち主似だったら面白いかなとw

>>420
感想と土田の結婚についての情報ありがとうございます。
その部分ぼかして書き直して、本スレに投下してまいります。

422oct ◆ksdkDoE4AQ:2006/03/14(火) 22:17:47
以前、トータルテンボス篇書いていた者です。
どのくらい需要があるものか読めませんが、
ホリプロコム若手のビームとオキシジェンが出る話を途中まで投下させてください。
(とりあえず前篇のような扱いです)
おかしい表現や、ほかの作品との齟齬などあったら教えていただけると嬉しいです。

423oct ◆ksdkDoE4AQ:2006/03/14(火) 22:18:50
「情けねぇよ俺は」

 ビル群特有の風に、白いシャツの裾が大きくはためく。それを気にも留めず、今仁は屋上の
手すりから身を半ば乗り出して、自分が居るビルと隣のビルとの谷間を見下ろしている。だか
ら彼の声は風に千切れていて、少し離れた吉野の耳には切れ切れにしか届かない。

「え?何?」

 単なる問い返しに過ぎない吉野の言葉がやる気のないそれに聞こえたのだろう、今仁は軽く
眉をひそめて振り返り、「情けねぇ!」と声を荒げた。しかし吉野は、今仁の尖った声に動じ
る様子もなく、「ふーん」と相槌にもならない声を漏らしただけで、星も月も見えない暗い夜
空を見上げたまま。
「…どうした?とか、何が?とかねぇのかよ!リアクションほとんどナシか!」
 今仁はあっという間に焦れる。そういう今仁の分かりやすい所が、美点でもあり欠点でもあ
ると吉野は思う。
「…どうかした?」
 自分で振らせておいて話し始めるのって楽しいのかな、とちらりと思ったが、今仁には云わ
ない。吉野が言葉を飲み込んだことなど、今仁は知るよしもない。

「おまえの石、戦うのに全然使えねぇのな。俺の石も戦闘力ねぇし。俺ら二人ともすげぇ情け
ねぇなと思ってさ!」
 磯山さんのとかすげぇぜ?と続けて、肉体強化に石を使った磯山がいかに強いかを語る今仁
の表情を見ながら、吉野は無表情に頷く。
 聞き流してはいない。きちんと聞いてはいる。けれど彼の思いは今、別のところにある。

(こんなに、いつも通りの表情に見えんのにな)

 吉野の心の声を打ち払うように、今仁は磯山の様子をジェスチャー付きで解説する。
「磯山さんがこうやって殴ったらさ、敵が3mくらいブッ飛ぶの!マンガか!って俺叫びそう
になったわ」
 拳を架空の敵に向けて振り切る。その今仁の右手首には、白いリストバンド。手首側、ワン
ポイントのように黄色いガラスのようなものが付いていて、ふいにキラリと吉野の目を射た。

(サルファー、だっけ)

 それが、今仁の石の名だ。より耳なじみのある言葉に云い代えれば、“硫黄”。鮮やかな黄
色をしていて、最初にそれを見た瞬間、今仁が「何か美味そうな石だな」と云ったのが、元々
食の細い吉野には理解不能で驚いた。

424oct ◆ksdkDoE4AQ:2006/03/14(火) 22:19:39
「おい、聞いてんのかよ?」
「うん…聞いてる聞いてる」

 曖昧に頷いて、吉野は屋上の端に立つ今仁へと近付いていく。

「それより、そろそろ時間」
「…あー」
 彼らがここでこうして、ビル風になぶられながら話しているのにも理由がある。
「俺らの石はあんま今仁好みじゃないかもしれないけど、でもまぁこうやって設楽さんからの
命令も受けてんだしさ、捨てたもんじゃないと思うよ」
「…まぁな」

 吉野が今仁の隣に並んで立ったところで、タイミングよくこの屋上への扉がキィ…と軋んで
開いた。

「来た」
 今仁が明らかに目にキラキラしたものを宿して呟く。

 ドアの影からひょこりと顔を出したのは、眼鏡をかけた小柄な男と、茶色い髪をした中肉中
背の男。きょろきょろと屋上を見渡し、並んで立っているビームを見つけると、両方が軽く首
をかしげてから顔を見合わせた。
「…今仁さんと吉野さん」
「だな」

 見るからに不審がっている彼ら二人に声を掛けたのは今仁。
「オキシジェンのお二人ー、いらっしゃーい」
 陽気なその声に、眼鏡の男…オキシジェン三好と、茶髪の男…オキシジェン田中は、見合わ
せていた顔を再び事務所の先輩へと向ける。
「え?俺ら呼び出したのって…ビームさんなんですか?」
「うん」

 人影のないビルの屋上。しかも時間は夜。こんな所にこんな時間に呼び出されて不審がらな
いわけもなく。
 特に、昨今は石を巡る戦いとやらで事務所内のみならず芸人の世界全体に緊張が満ちている
ことを、若手といえどオキシジェンの二人も知っている。

425oct ◆ksdkDoE4AQ:2006/03/14(火) 22:20:31
「…何の、御用でしょう」
 三好は、警戒心を隠しもせずに尋ねる。
「うん、まぁ小手調べっていうかさ」
「は?」
 あくまでも明日の天気でもするかのような気楽さで吉野が応じる。身にまとったジャージの
影、手首の辺りでキラリと何かが光ったことに三好も田中も気付いてはいない。
「オキシジェンって、石持ってるんでしょ?」
「…誰に聞いたんですか?」
「誰だっていいじゃん」
「や、よくないですし」

 ドアの影から一歩も動こうとしないオキシジェンの二人に、今仁と吉野は一歩ずつ近寄って
いく。二組の間にピシリと緊張が走る。

 先手を打ったのはオキシジェンだった。
 彼らは若い。特に、舞台上では三好がプロレス技を繰り出しては田中を振り回す、アクロバ
ティックなコントを見せている。つまり身体能力には自信があるのだ。…それは裏を返せば力
に頼り過ぎているということにもなる。
 お互い石の能力が分からないこの状態ならば、できるだけ自分の能力を隠しておくことが肝
要だと吉野は思っていたし、今仁にもそれは伝えてある。
 猛然と吉野の方へと走り寄ってきた三好が、目前でタァン!と屋上の床を蹴って飛び上がっ
た。
 つられて吉野の視線も上がるが、数瞬後には飛び上がった三好の足が自分の身体に絡んでく
るのだろうとほとんど本能的に察知した。そういうプロレス技があることは、オキシジェンの
コントを見ていて知っている。確か…三好が田中の首を両足で挟むようにしてそこを軸にぐる
りと回り、遠心力で田中を床に引き倒すのだ。

 三好の足の動きを見ながら、吉野はその痩身をかわす。

 …はずだった。

 次の瞬間、何が起こったのか咄嗟に吉野には分からなかった。「視界」が変わった。まるで
スタジオのカメラを、スイッチして切り替えたように。
 三好を正面から捉えていたはずが、一瞬後には飛び上がる三好を後ろから見ており、そのま
た次の瞬間には元の視点…いや、そこから三好の足技によって地面に引き倒された視界となっ
たのだ。

「吉野!」
 今仁の声が聞こえる。夜空を見上げたまま、「何があったんだろう?」と吉野は考える。背
中が痛い。三好はヒットアンドアウェイとばかりにすぐにまた離れていったらしい。
「吉野、おい、大丈夫か」
「…まぁなんとか」
「くっそー、俺ならかわしてやんのによう」
 プロレス好きの今仁が少しわくわくしているらしいので、冷めた目線を投げかけるに留めて
おいて。
 吉野は上半身を起こしながら考え込む。

426oct ◆ksdkDoE4AQ:2006/03/14(火) 22:21:05
(さっきの角度…)

 切り替わった角度の時、三好の後ろ姿が見えた。それだけではない。その先に見えたのは…。

(…俺?)

 そうだ。飛び上がった三好の向こうにいたのは、吉野自身。

 更に、見間違いでなければ吉野の顔は、吉野の視点と目を合わせてニヤリと笑った。ややこ
しいことだが、「吉野の目」がどこかに移り、「吉野の顔をした何か」と目が合った…と云う
べきだろうか。

 立ち上がって辺りを見渡し、位置関係を確かめる。間違いない。

 吉野。吉野の隣に今仁。少し離れてこちらを睨む三好。更に向こうにいる…田中。
 三好の背中を見られるのは、田中だけだ。

(田中と俺が入れ替わった?)

 そこまで考えた時に、吉野と目が合った田中がニヤリと笑った。それはまさしく、「吉野の
顔をした何か」と同じ表情。

「大体、おまえ、三好の足技ぐらい避けろよ。ぼーっと立ち尽くしちゃって」
 今仁の台詞も、吉野の考えたことを証明している。間違いない。

「今仁。俺、分かった」
「あ?」
「田中の石の能力が分かった」

 じりじりとオキシジェンから後退りながらも、吉野はにやにやとした笑いを失わない。怪訝
そうに眉を寄せる今仁のシャツの背中をひっぱり、吉野が口早に耳打ちする。

「俺と田中の体の中味が入れ替わった。一瞬だけ、田中と視界が入れ替わったんだよ。体の感
覚も、田中のもんだった。そういう能力」

 吉野の考えた通り、田中の石の能力は、誰かと体の中味を入れ替える、というものだ。ネタ
の中で何度も三好の技に対する受け身を練習している田中ならば、三好の技を効果的に受ける
術も分かっているということ。避けようとする人物の体を田中が一瞬乗っ取ることで、確実に
三好が技を仕掛けられる…そういうコンビネーション。

 吉野の説明で理解できたらしい今仁は、少し考えて「あぁ」と声を漏らす。

「吉野。それなら、お前の石使えば一発じゃん」

427oct ◆ksdkDoE4AQ:2006/03/14(火) 22:24:19
とりあえず、前篇ここまでです。。
これはホリプロコム内の白黒構図が確定する少し前の話ということで
ご料簡いただければと思います。

428名無しさん:2006/03/15(水) 17:05:55
乙!面白かったです。
田中さんの能力はこういう風に活かされるのか、と感心しました。
全然問題ないと思いますよ。

429 ◆9BU3P9Yzo.:2006/03/30(木) 18:13:23
篠宮編続きを投下します。




「ちょっと早すぎたんちゃう?」
「あー…あと二本後か」
だらだらと駅内を歩きながら、チケットと携帯を何度も見比べた。一瞬、わずかな瞬きに兼光は携帯につけた石を見つめた。
「どないしたん?」
同じように岩橋が覗き込むとその視線の先に先ほど見送ったはずの姿が見え顔をあげる。
「なん…今のちゃうん?」
もう誰もいないはずのホームに佇む姿に思わず車掌の身振りで相手を指差し笑った。そのジェスチャーに乗せるように声をかけると、反応のない相手に目を凝らす。

430 ◆9BU3P9Yzo.:2006/03/30(木) 18:14:06
「篠宮?」
兼光が携帯を持ったまま近寄り、軽く相手の前で手を振った次の瞬間。
「兼光!」
相方の声に振り向くとそのまま後方に倒れこんだ。
「…っ!?」
あまりの速さに物事を理解できずにいたが、頬を切る風と殴られた痛みに自分が『攻撃された』事実をぼんやりと飲み込む。そして違和感。
「あれ…」
「だいじょ…おま、携帯!」
携帯につけていたはずの緑色の石─パイモルファイト─がなくなっている。駆け寄った岩橋に指摘されようやく視線を移し、殴られた反動でぐらぐらとする頭をゆっくりと篠宮に向ける。
その視線に気づくと篠宮はにっこりと微笑んだ。
「これっすか、兼光さんの石」
ふーん、とさして興味なさそうに石を眺めるとそのまま握りこみポケットにしまう。一歩ずつ、歩みながら、ひどくゆっくりとした動きで右手をかざした。

「俺の石の方が、キレイや」
喉元で笑うと一瞬石が光り、二人が瞬きをした瞬間姿は消えた。
「あ…あれ…?」
「どこ行ったんや…」
ざわざわと嫌な風に吹かれながら、岩橋は自身の携帯から石を外し、用心のため握りこむ。幾層にも重なる褐色が鈍く光りながら熱を持つ。
石同士が共鳴しているという事は、近くにいるのだろうか。
「ったく、アホちゃうか?なんでわざわざ石見せとんねん」
「なんでや、故意に見せたわけやなし」
「言うても取られとるやん、力使えへんやん、能無しやん」
「怪我しとる相方にそこまでいうか」
今にも喧嘩に発展しそうな会話をしながら、無意識に背中合わせに立ち上がる。まるでそこだけを切り取られたかのように、しんと静まり返るホームで、どこから攻撃がくるかわからない状態で、二人はただ息を潜めるしかなかった。
「でも…」

431 ◆9BU3P9Yzo.:2006/03/30(木) 18:14:33
ふいに浮かんだ疑問が、兼光の口からこぼれる。
「高松は、白や言うてたやん」
高松─その言葉が響いた空間がゆらりと揺れた。
「!」
岩橋が石の力で作りこんだ球を、とっさにその歪み目掛けて投げつける。何も無いはずの空間に弾かれ、衝撃波が砕け、轟音とともに閃光を放つ。
「やった!」
「クリーンヒットや!」
相手に当たったと核心し思わずその方向に視線を向けた、たった一瞬の気の緩み。ふいに岩橋の視界が外れ、地面に叩きつけられた。
背中に圧し掛かり、片腕を逆に折り固めた篠宮が、にこりと兼光を見つめる。
「あんなんが『ヒーロー』に効くわけないやろ?」
「何が…っ、ヒーローじゃ…!」
苦しげに呻きながら岩橋が毒づく。
相方を抑えられ、石も持たない兼光は篠宮の楽しそうな笑顔に圧倒されながら動けないでいた。
「お前…白、ちゃうんか」
ようやく出てきた言葉に、篠宮は一瞬あっけに取られたような顔をすると、声をあげて笑い出した。心底おかしそうなその姿に、何故だか言いようの無い気味悪さを覚え、二人は戸惑うように視線を合わせる。


ぴたりと、笑い声がやむ。

急にしんと空気が凍るような気がして背筋を振るわせた。
「黒も白も関係ないわ。俺が頂点になる」
低く、貫くような声に、息を飲む。
「そのために、邪魔な石は全部壊す。手始めに──」

432 ◆9BU3P9Yzo.:2006/03/30(木) 18:15:24
一応ここまでで一話区切りです。
差し支えなければ前回のと同時に本スレに投下します。

433名無しさん:2006/03/31(金) 13:13:02
乙!面白かったです。
篠宮コワス…。

434名無しさん:2006/04/01(土) 03:24:01
プラマイはオジオズにタメ口使ってたっけ?
一応オジオズの方が先輩だから岩橋が高松に敬語使ってるのは見たことあるけど

435名無しさん:2006/04/01(土) 15:28:54
>>434
年齢は篠宮より岩橋、兼光が5つも年上だけどな。
プラマイは10カラットメンバーのほとんどに敬語を使ってた
気がする。タメ口で話してるのは上木とオリラジぐらいじゃないか?
詳しくは分からないが。

436名無しさん:2006/04/02(日) 19:34:00
岩橋はオジオズ2人に対して兄さん扱いで敬語使ってる。
兼光も後輩だから敬語使ってるんじゃないか?

437 ◆9BU3P9Yzo.:2006/04/03(月) 00:46:24
敬語…そうですね、見落としてました。
ご指摘下さりありがとうございます!

438 ◆yPCidWtUuM:2006/04/06(木) 03:22:07
おひさしぶりです。バカルディ→さまぁ〜ずの三部作の最後落としにきました。
今回大竹の石にある設定をつけています。白が黒側につけいる隙になりうるかなと。
でももしマズいようなら指摘お願いします。

439[バカルディ・ブラックラム(side:大竹)] ◆yPCidWtUuM:2006/04/06(木) 03:23:22


「冬なのにっ「「さまぁ〜ず!」」


間抜けな感じの決めポーズ。名前も変わって気持ちも新たに仕事仕事。
やっと来はじめた波は小さくても逃すな。全て丁寧に乗っていけ。
これを乗り切って画面に定着しなけりゃなんねぇ。同じ轍は二度踏まないと決めている。

あれからやっと3年だ。
三村と話した「アレ」をとる日はまだまだ遠い。
それでもあの頃から比べれば、少しは近くまで来たんだろう。

今一つ目の収録を終えて、次に向かう最中だ。
正月特番の撮りだめは気力と体力がいる。
斜め前の席からは三村のいびき、アイツの方がピンも多いし、相当疲れてる。

…そういえばさっき、後輩からもらった飴があったな。元気が出るとかいう。
思い出して口に放り込んでみる。効いたらあとで三村にもやるか。

ロケバスに揺られながら目をつぶる。
だが俺は眠りに入れず、むしろ精神がきゅうっと集中していった。
まぶたの裏、暗い世界でちらりと光る十字の星。
じわり、と響く声に耳を傾けた。


 …よう、お疲れさん
 『お疲れさん、じゃねえよ』


笑い含みの声に頭の中でだけ、答えを返す。
我ながらこれは人には知られたくない習慣だ。
脳内の会話の相手は、俺のポケットの中の無機物。
少し前からたまにこうして話しかけてくるようになったのだ。
ブラックスターに意志があるなんて、思いもよらなかった。

440[バカルディ・ブラックラム(side:大竹)] ◆yPCidWtUuM:2006/04/06(木) 03:24:19


 思いもよらない、ねえ…お前の相方の石も多分こんなんだと思うぞ
 『…ぜってぇフローライト、三村似だろ』
 さあな、けど何だかんだで持ち主と似てるとこあんだよ、俺らは
 『…めんどくせぇ』
 ああ俺もめんどくせぇ、気ぃ合うじゃねえか
 『そうだな、こうやって話しかけてくるくせにお前、特にアレだろ、俺に希望とかねぇしな』
 んなもんねぇよ、めんどくせぇだろ
 『そうだな、めんどくせぇわ、大体のことは』
 でも全部めんどくさいわけじゃねぇよな、俺と違って
 『…』


…そうだな、全部じゃねぇよ、俺は。
お前は全部めんどくせぇのか、んじゃ何で俺に話しかけてんだ?
わざわざ話しかけるとか、かなりめんどくせぇだろ。


 お前は全部じゃねぇから、余計めんどくせぇ…でもちっと手ぇかしてやるかっつー気になった
 『へぇ、そうかよ』
 んで、今話しかけたのは、だ…お前、後輩からもらったその飴あんだろ
 『ああ、何か疲れとれるとかいう黒いヤツな、うまくねぇなこれ』
 俺はそれ、生まれつき効かねぇけど…あんまいいもんじゃねぇからやめとけ
 『どういうことだ?』
 相方にやったりすんのもやめろよ、そいつは「黒い欠片」だ、わかるだろ
 『…これが?』

441[バカルディ・ブラックラム(side:大竹)] ◆yPCidWtUuM:2006/04/06(木) 03:25:03
舌の上で転がしていた塊に意識をやる。
飴、のはずのそれは、早くも形態をほとんど失っており、どろりと液状に変形していた。
「黒い欠片」の存在は知っているが、あまり関わらずにきたのでよく知らないのだ。
黒に入って回ってきた仕事で、この欠片を自分たちが扱う機会は一切なかった。
…そう、まるで故意にそれから遠ざけられているかのように。

途端に気味が悪くなってペッ、とちり紙に吐き出す。
それは薄い紙の上でさらさらとした小さな結晶のあつまりに姿を変えた。


 お前を操りてぇって奴がいるのさ、昔もこんなことあっただろ
 『そういや、黒い粉薬みてぇのもらったこともあんな…気味悪ぃから捨てたけど』
 これが効かねぇからお前、昔襲われまくったってのに…まだ渡す奴がいるんだな
 『なんだそりゃ、そうだったのか?』
 そうだよ、欠片が効かねぇ石はあんまりねぇからな…俺の意志とお前が使う力のせいだ
 『…攻撃は効かねぇし、許可がなきゃ中には入れねぇ、ってことか』
 そういうこと、俺は欠片の侵入なんざ許可しねぇ、だから連中は一旦諦めて、お前を仲間に引き込んだ


…それはまた、すっっげぇ、めんどくせぇ話だな。
あんだけ毎日のように襲われてた理由が今になってわかるっつーのも皮肉なもんだ。


 俺たちは黒にとっちゃ、厄介なんだ…敵でも味方でも、どっちにしろ支配できねぇ
 『何だ、俺らがめんどくせぇヤツってことか』
 その通り、自分の立場ってヤツをよく覚えとけ、そんで使え…お前がめんどくさくねぇモンのために
 『…りょーかい』


ブラックスターの声が、遠くなり薄れていく。
この石と俺はうまくやっている。これからも多分そうだろう。
ポケットから飴に模した黒い欠片をひっぱりだして、全部捨てた。

白でも黒でも、めんどくせぇことはそれなりにある。
みんな、めんどくさくねぇモンのために、めんどくせぇ日常を送るのだ。
うっすらと開いた目の端っこで、三村は相変わらずだらしねぇツラで爆睡している。


…まあ、そういう、めんどくせぇ日常。

442[バカルディ・ブラックラム(side:三村)] ◆yPCidWtUuM:2006/04/06(木) 03:26:01


「あー、背中痛ぇ…」


寝ぼけ眼をこすりながら伸びをして起き上がる。
ロケバスのシートは身体をゆったり沈めるにはあまりにも小さい。
ばりばり言う身体をほぐすついでに少し後ろを振り向けば、大竹がうつむいて舟をこいでいた。
ああ、大竹も疲れてる。俺も疲れてるけど。

次の収録は何だったっけ、聞こうかと思ったが何となくやめる。
少し離れて座るマネージャーにスケジュールを問うには、結構な大声を出さねばならない。
眠っている相方を起こすのはどうにも忍びなかった。


窓の外の、流れる風景に目をやる。見覚えのある看板がひとつふたつあった。
ここから収録をおこなうスタジオまであと恐らく15分というところだろう。
何だか退屈してしまって、横の座席に置いてあったペットボトルに手をのばす。
雑誌も待ち時間にほとんど目を通してしまったし、やることがない。

何とはなしにポケットの中で石に触れて、握りこんでみる。
手のひらから何か、流れこんでくるような感覚。
最近よく感じるけれど、うまく核心を捉えることができないままでいる。
何かが伝わってきそうになるのだけれど、それをどうとり込めばいいのかがまだわからない。
いい加減この石とのつきあいも長いけれど、全てはまだ理解していないんだろう。


そっと手の中に包み込んだ石をのぞきこんでみた。
緑、紫、白。色の流れが混じりあい、透明な部分と半透明な部分がまだらになって光る。
いわゆる宝石のような輝きはないけれど、やわらかく落ち着く淡い光。
この石の光は何一つ変わらない、あの頃からずっと。

443[バカルディ・ブラックラム(side:三村)] ◆yPCidWtUuM:2006/04/06(木) 03:26:44


正月特番に呼んでもらえて、しかも撮りだめするだけの仕事があって。
少し前まではそんなことありえなかった。徐々に状況は好転し始めている。
あれからたったの3年で、俺と大竹をとりまくものは随分と変化した。


「冬なのにっ、「「さまぁ〜ず!」」


このつかみの台詞とポーズ、一体この冬、何度使っただろう。
とっくに三十代に突入して、芸歴も若手とは言いきれなくなってきたってのに、この調子だ。
まあでも、それはそれで悪くない。そう思えるようになってきた。

長年親しんできたコンビ名が変わってしまって、それを定着させるのに今は必死だ。
ピンでの仕事も多いけれど、少しずつ俺の後ろに控えている大竹が見えるようになればいい。
わずかずつでも、上へ昇るための細い糸をたぐり寄せられるなら、それでいいから。


あのとき、黒を選んで、虫入り琥珀を手放した。
それは決して間違った選択ではなかったと今なら思える。

ここまで来る間に、同業者を襲撃するようなめんどくさいことも何度かやったけれど。
それでもきっと、自分たちの本来の力を純粋に評価される場所に立ち得たことは幸せなことなのだ。

大竹がいて、フローライトがあって、それでこの世界に生きている。
それに不満はひとつもない。ただ、まだ上があると思う。

「アレ」をとる日はまだ遠い。一生来ないかもしれない。それでもひとつひとつ昇っていく。
そんなのも悪くない…、と誰にも聞こえぬように呟いて、もう一度目をつむった。


視界が暗くなり、ぼんやりとした意識がどこかへ連れていかれる。

 …おい、聞こえるか?
 おいお前、コラッ!
 あ、寝やがったチクショウ…

…遠くから何か声が聞こえるような気がしたけれど、捉える前に意識を失った。

444 ◆yPCidWtUuM:2006/04/06(木) 03:28:42
以上です。3年の間にあった話もいつか書いてみたいです。

445名無しさん:2006/04/06(木) 14:52:34
乙!ブラックスターの設定、面白かったです。
大竹さんらしくていいと思いますよ。
…なんかこの二人だと石の声が持ち主の声で再生されるなあw

446 ◆szc.4YA2w2:2006/04/08(土) 13:53:53
始めまして。
次課長の話を書いてみたんですが、添削お願いします。

447ひろいもの ◆szc.4YA2w2:2006/04/08(土) 13:57:10
「おーい準一!なんか綺麗なもん拾った」
「こっちはネタの練習してるんだから話しかけるなや!」
明々後日はルミネ公演の日。なのに何もしない相方に河本は腹を立てた。
だが練習しろ言っても聞かないのでほっといた。
「なんや!つれないなあ」
と言って井上は帰ってしまった。
(まったくもう・・・)
相方の勝手な態度に河本はさらに腹を立てた。

翌日。
河本は信じられないような変な話を聞いた。
昨日、井上が怒ったように自分の影を殴り続けていたという話だ。
もしかして昨日の事を怒っているのだろうか?
そう思った河本は帰り道に井上に聞いてみた。
「なあ・・・昨日自分の影を怒りながら殴ってたって本当か?昨日の事怒ってるならあやまるからそんな事すんなよ。」
「いや、最近シャドーボクシングにはまってるんや。」
「・・・そっか。」
河本は井上が気を使っている事が分かった。
(別に気を使う必要なんて無いのに・・・シャドーボクシングの意味も違うし)
と言うのはやめて、河本は家に帰った。

448ひろいもの ◆szc.4YA2w2:2006/04/08(土) 13:58:47
その日の夜。
河本の家にマネージャーが訪ねてきた。
「なんや?明日の打ち合わせか?」
「いえ、違うんですよ。今日、打ち合わせをしようと井上さんの家を訪ねたら、プラスチックの欠片が散らばってまして」
「プラスチックの欠片?」
「で、奥に行くと井上さんがフィギュアをぶっ壊してんですよ。怖くなって逃げ出してきました。」
「え!?」
いつも温厚な井上が物、しかも大事なフィギュアを壊す。
本当はそんなに怒っていたのか?それとも何か別のこと?
どちらにしろおかしい事には変わりない。
そう思った河本は井上の家へと向かった。

「!?」
河本が井上の家に着いたころには部屋全体がめちゃくちゃになっていた。
井上は部屋の真ん中で倒れていた。
「!??」
死んではいないようだが、井上の体はとても冷たかった。
こちらにも寒さが回ってきそうな気持ち悪い冷たさ。
とりあえず河本は井上に毛布をかぶせて家に帰った。

449ひろいもの ◆szc.4YA2w2:2006/04/08(土) 13:59:21
翌日。何事も無かったかのようにテレビ局にやってきた井上を見て河本は安心した。
だが、今日の井上はいつもと少し違っていた。
人の目を見て話さない。話しかけても答えてくれない。
河本は休憩時間に井上に聞いてみた。
「なあ、今日の井上、何か変や。なにあったん?」

「・・・うっさい!なんでもないわ!」
そういうと井上は楽屋を出て行ってしまった。

その日の収録はなんだか集中できなかった。

収録が全部終わり、楽屋に帰ると井上の姿は無かった。
荷物も無いので、先に帰ったのだろう。

ふと、テーブルを見ると、井上の持ち石、というか持ち鉱物である金が置いてあった。
(置き忘れ?そそっかしいなあ)
届けてやろうと、帰り道に井上の家に寄った。

450 ◆szc.4YA2w2:2006/04/08(土) 14:02:01
途中ですが今回はココで終わりです。
続きは今書いてます。

451 ◆yPCidWtUuM:2006/04/09(日) 23:26:37
>>445
ありがとうございます。本スレ行ってきます。

452 ◆i.38Tmcw2g:2006/04/14(金) 08:14:21
能力だけでまだ石はまだ決まってないんですが
サカイスト、ハイウォー、カナリア話を投下します。ハイウォーだけは石も能力も決まっているようなのでそれを使わせて頂きました。
芸人が多いのと文章力が皆無なので長くなりそうですが、その辺は暖かい目で見てもらえたら幸いです。

453 ◆i.38Tmcw2g:2006/04/14(金) 08:17:34



もう戻れないのは分かっていた。

でもあと少しだけあの頃を思い出しても良いだろ?

―Border Line―

不思議な力を持つ石。黒と白。それに伴う哀れな抗争。
毎日が可笑しくなったのはいつからだっけ。つい最近の事なのに遠い昔のようにも思える。
弟でもある相方から「黒にだけは入らん」と宣言され、言われるがままに白に入り、時折襲ってくる同業者を何とか倒してきた。
しかし、攻撃にも守備にも向いていないうえに、能力に気付くのが遅かったせいで使い勝手もよく分からない石を持つ自分が戦闘に役立ったことはまだ1度も無い。悲しくも常に弟に守ってもらっている日々。この戦いがいつ終わるとも知れないのに、これ以上弟に頼り続けるのは如何なものか…。
そんな思考を巡らせながら、ホストを思わせるスーツ姿に身を纏わせたサカイスト・酒井 伝兵は石を手の中で弄んでいた。
静けさを知らないルミネの楽屋は考え事をするには不向きだ。出番までまだ時間があるのを確認して漫画喫茶に移動しようと席を立つ。
その瞬間、石が今までにない熱を帯びた。
「熱っ…!?」
驚いた彼の手からカランと乾いた音を立て石が床に落下。慌てて拾おうと石に手を伸ばすと、それはある人物によって妨げられた。
「ダメじゃないですか、こんな大事なモン落としたら」
そう言い放った人物が自分の足元に転がってきた石を拾い上げる。見知った顔に伝兵が苦笑いを浮かべ「ワリィ」と手を差し出すと、彼は拾い上げた石を伝兵の手に戻そうとして動きを止めた。
「…健太郎?」
呼ばれたその人物、カナリア・安達 健太郎は無表情に石を握り締める。
「どうした?」
いつもと違う後輩の様子に戸惑いを隠せず、嫌な仮説が頭を駆け巡る。
「けんたろ」「この石…僕にくれませんか?」
遮られた言葉に耳を疑いたくなった。安達の目は真剣そのもので、当たってほしくなかった仮説が実説となって脳裏をチラつく。
安達ガ黒?戦ウノカ?今?ドウヤッテ?
…ドウスレバ良い?
張り詰めた空気が辺りを覆う。背中に冷や汗が伝った気がした。
どうしたら…。
「嘘です」
「…えっ?」
瞬時にいつもの不適な笑顔になった安達が差し出された伝兵の手に石を投げ渡す。
「ほんまに誰かに取られたら、どないするんですか?大事にしとかなダメですよ」
「あっ、あぁ…うん」
間抜けな程に放心状態な先輩に助言を残し何事も無かったかの様に去っていく安達。
未だ放心状態から抜け切れず確かに熱を持った石をぼんやり見つめる伝兵。

初めて石の力に気付いた時に感じた…いや、それ以上の熱を放った。黒と思わざるをえない安達の言動がフラッシュバックする。
安達が近くに来たときに熱を帯びたなら、石が警告してくれたのか?
自分と相性最悪な気がしてならないこの石が?
それにしても…安達が黒かもしれないこの事実をどう伝えるようか。自分よりも安達の面倒を見ている弟に、不安と絶望の入り交じった思いを馳せながら楽屋を後にした。

454 ◆i.38Tmcw2g:2006/04/14(金) 10:05:09

舞台へと続く廊下はネタ合わせをする芸人の格好の練習場所だ。だが一歩、階段の踊り場へと足を運べば静けさに包まれる。

安達は先程見た伝兵の驚愕した表情につい苦笑しながら煙草をポケットから取り出した。

もう…自分は戻れない場所まで来てる。

煙草に火を点けようとライターに手を伸ばす。
「何してるんすか?」
その静けさには相容れない明るい声に安達は刹那、振り向くのを躊躇った。
「折角、デンペーさんの石を奪う良いチャンスだったのに」
いつも芝居がかった様な話し方に胡散臭さを思わせるピース・綾部の姿が視界に入る。
ライターも煙草もぶっきら棒にポケットへ押し戻した。
「何であんな絶好のチャンス手放しちゃったんです?」
相方のボンより大きいにしても、やはり自分より15センチは小さい綾部を見下ろす。
「どけ、邪魔や」
屈託のない笑顔に退くよう言ってはみるが、一筋縄で行かないのがこの男の特徴らしい。
「その言い草はないでしょう…“黒”の自覚、足りないんじゃないんですか?」
「どけ言うてるやろ」
聞く耳を持たない安達の対応に綾部の眉間にも皺が寄る。呼応するかのように互いの持つ石が淡い光を放ちだした。
いくら黒同士と言えど白とは違う。話して分からないのなら力ずくでも。それが黒のやり方だ。安達もそれは十分理解している。
だが、自分には自分のやり方がある。指図を受ける気は毛頭ない。
「やっぱり、この件は溝黒さんに任せた方が良いんですかね?」
「どけ」
綾部の脅しとも取れる挑発。相方の名に反応しつつも無視を決め込んだ安達。
「黒は確実に役に立つ人材を求めてるし、貴方の様に中途半端な黒は不安材料でしかないんです…よ…っ!?」
言い切る前に綾部が胸元を強く押さえる。
石の力と気付いた時には遅く、地面に引き寄せられるように崩れ落ちた。

455 ◆i.38Tmcw2g:2006/04/14(金) 10:07:19
「どけ、言うたやろ?」
「安…達さんっ!?」
こんなにも躊躇なく石を使われると思っていなかった。
油断していたとはいえ安達の力で呼吸もままならない綾部が見上げた彼の表情は完全な“無”だった。怒りを通り越した冷静さから生まれる“無”。まだ罵声をあげられた方が対処の使用があるのに。
石の力を発動させようと体を動かそうとはするが強い痺れがそれを許さない。
…殺される?
言い様のない恐怖と侵蝕し続ける体全体の麻痺を感じながら、ただどうする事も出来ず安達を睨み付ける。
しかし、安達はその表情を変えようとしない。
「何してんだよ」
何処からか現れた突然の来訪者を苦しいながら懸命に確認する。
そこには面倒臭そうに2人を見るハイキングウォーキング・松田の姿があった。
「松田さん」
「安達、もう止めとけ」
名を呼ばれ罰の悪そうな表情をしたかと思うと安達の石が光った。
それと同時に綾部の体から少しずつ麻痺が薄れていく。
「こんな事して…良いと思ってるんですか…?」
消えていく麻痺に安堵の表情を浮かべた綾部が喋りだした。
「貴方が黒…に…入ったのは…何のためで…す?」
麻痺が治り切らない口でそれでもなお、安達を挑発する。
「ボンに何かしたら…次は知らんからな」
「さぁ、どうで…しょうかね」
悪戯に含み笑いをする綾部を見やる。
なんとか体を起こしているが、すぐには反撃出来ないだろう。
「お疲れさん」
吐き捨てるように安達が労いの言葉をかけると松田と共にその場を離れていった。
綾部は2人を見送りいなくなったのを確認すると、階段の上の方を見上げる。
「マタキチー」
声を掛けると、いつもと変わらぬ様子でピース・又吉が顔を出した。
「佑ちゃん、大丈夫なん?」
「お前、もうちょい心配するとか駆け寄るとかしろよ」
自分のもとにのんびり歩いてくる又吉に呆れながらゆっくり体を動かす。
やっぱり…
「やって、安達さん手加減しとったやん」
又吉の言葉を聞き流しながら安達の顔が頭をよぎった。
…此処で完全に「黒」にしなければ、あの人は優しすぎる。
「マタキチ…行くぞ」
何かを決意したような綾部は又吉を連れルミネを後にした。

456 ◆i.38Tmcw2g:2006/04/14(金) 10:11:28
安達 健太郎(カナリア)
石は、まだ未定。(良いのあったら教えてください)
能力:自分の周り、半径3メートル以内の空気中の水分を様々な毒(麻痺や睡眠薬、精神に何らかの影響をもたらす催眠剤等)に変える事が出来る。一度に何種類もの毒を撒き散らすことも可能。また、その毒の解毒剤に変えることも出来る。
毒に変わった水分は空気中に浮遊しているため見ただけで毒かどうかは判断不可。敵が安達の半径3メートル以内にいれば毒によるダメージを与えることが出来る。
ただし、毒に持続性は無く常に力を発動させていなくてはならない。
それから特定の人物にのみダメージを与えることがもきないので3メートル以内に味方がいた場合、味方にもダメージを与えてしまう。
湿気が多い場所であればある程、安達自身の負担も軽く毒の力も強くなる。
もちろん乾燥した場所では人工的に水を撒くなどしなければ使えない。

石を使った後は倦怠感や頭痛、長時間使用すれば体力を消耗したりする。その度合いは使う毒(睡眠薬<致死量の毒)によって違う。

457一  ◆i.38Tmcw2g:2006/04/14(金) 10:12:59
一応、ここまでです。
指摘とか合ったら言ってください。
続きは現在、作成中です。

458名無しさん:2006/04/15(土) 12:44:24
サカイストキタ!好きなんで続きが楽しみです。
安達の石はフレッシュウォーターパール(淡水真珠)はどうですか。

459名無しさん:2006/07/06(木) 15:51:14
THE GEESE短編いってみます。
戦いの描写もないし、酷く短いですが。

石を放棄してはいけない。
(僕らは戦うべきなのだ)
石に呑まれてはいけない。
(僕らは強く在るべきなのだ)

"意思"を持たなくてはいけない。
(僕らは強き心を持つべきなのだ)



攻撃されたから自己防衛をしたまでのこと。
肩で息をする茶髪の端正な顔立ちの青年――THE GEESEの高佐一慈は石を"解放"したばかりだった。
足元には輝きを失った石を持つ黒の男達が転がっていた。
高佐を黒に引き込もうとした彼らは高佐の力によって返り討ちにされたばかりであった。

「(…何なんだ…)」

「(何なんだ、この、力は…)」

ピリピリと軽く手が痺れている。美しく穏やかな光。優しく、強大な力。
高佐は確かに、その石に魅せられていた。


高佐が力に目覚めた頃、尾関は石のことについて調べていた。
不思議な力を持っているであろう、この石。
高佐が石を見つけた時と同時期に尾関も石を拾っていた。
蜘蛛の巣を被ったような柄の石。蜘蛛の巣ターコイズというらしい。
尾関はその石をネックレスに加工して、ポケットにいれて常備するようにしていた。
手で石を握るとビリビリと空気が揺れているように感じた。
まるで、相方の危機を教えているように、強く、揺れて。
「高佐は…大丈夫、なのか?」
尾関は急に不安な気持ちに駆られ、石をポケットに入れ、携帯電話を持って家を飛び出した。
(たかさ)
(どうか、どうか、無事でいてくれよ。)


「ふふ…お見事、だねェ。」
パチパチ、と軽い拍手。高佐は背後からした声に過敏に反応して、後ろを振り向く。
穏やかで、優しい重圧のかかる声。そこにいたのは、



「設楽、さん…。」



ニッコリと微笑んで設楽は高佐に近づいていく。
ポン、と肩を叩いてそっと耳元で呟いた。

「黒に、入らない?」



――尾関が到着するまで、あと少し。

460名無しさん:2006/07/06(木) 21:28:26
どうですかね…?
プロローグのプロローグ的な感じで。

461名無しさん:2006/07/07(金) 20:35:08
>>460
いいんじゃない?
でもこれだけ投下するのも物足りなすぎる希ガス。

462名無しさん:2006/07/08(土) 18:55:46
㌧です。
ではもう少し色々考えてまた投下させていただきます。

463 ◆yPCidWtUuM:2006/07/10(月) 02:45:44
どうもお久しぶりです。

98年夏前頃のバカルディと猿岩石の話を落としにきました。
性懲りもなく古いもんばっかり書いててすみません。
もうこれでネタがいったん出尽くしたので古い話は終わりにします。
またもクソ長いですが、少々おつきあいいただけると嬉しいです。

464[バカルディ・ゴールド(1)] 三村:2006/07/10(月) 02:48:10


…新年あけましておめでとうございます、1998年がやってまいりました。

とはいえ新しい年だから明るい話題、とそうそう上手いこといくもんでもない。
虫入り琥珀は手放したものの、すぐさまもう一度階段を上れるわけでもなく。
年初はあまり仕事もなかったが、時がすぎるとともに少しずつ状況はいい方へ。
大竹の出た連ドラが放送されてみたり、俺が感謝祭で優勝してみたり。
それでもテレビでの露出はまだまだ多くない、本日はちょいと営業へ。
少しずつ上がってゆく気温とともに、ゆっくりゆっくりと雪解けの季節を迎えている気分。

そんな風にひとつひとつ、積み重ねる途中で入ったのが黒の仕事だった。
大竹と別れて家路についた俺の前に、緑のゲートが開いてのそりと現れた目つきの悪い男。
俺たちが黒に寝返ってから、最初の指令は土田を通じて伝えられた。


「どうも、面倒なこと頼みにきてすいませんね」
「おう、すーっげぇめんどくせぇぞ」


思いっきりめんどくささを前面に押し出す俺に、土田は眉をひそめる。


「…そういわれても俺の責任じゃないんですけどね」


まあそうだ、土田が襲撃を決めたわけじゃないんだろう。
とはいえ前のこともある、こいつが面倒事を運んでくる使者のように見えてくるのも仕方ない。
少々うんざりしつつ、土田から話を聞いていく。


「まず、ターゲットは猿岩石」
「ああ、あの電波少年の」
「それです、ま、あいつらうちの後輩なんですけども…」
「じゃあお前が行けよ」
「ダメなんですよ、顔も人となりも知れてるもんで」
「なんだそりゃ?知られてるとなんかあんのか?」
「有吉は他人の石の能力を知ることができるんです、特に知ってる相手は暴かれやすい」
「…石の力知られるってマズいか?」


知られたからといって何も変わらない気がする、俺の場合。
大竹だって知られても結局、力が使えなくなるわけじゃないし。
そう思っていると土田がうっとおしそうに言った。


「有吉の力で能力の判明した石を森脇が一時的に封印できるんです」
「…それ、すげえめんどくせぇじゃねえか」
「めんどくさいですよねえ」
「俺らがやんなきゃなんねえのか?」
「やんなきゃならないんですよねえ」


…めんどくせぇ。

なんでそうよく知ってもいない、恨みもない相手をわざわざ襲わなきゃなんねーんだろう。
まあ前みてーに毎日襲われるよりはマシなのかもしれねえけど。
やっぱりめんどくせぇよな、黒でも白でも結局…でもやんなきゃなんねーなら、しょうがねえか。


「じゃあそいつらの石を貰ってくりゃいいのか? それとも黒に勧誘すんの?」
「どっちでも、お好きなように」
「まあいいや、とりあえずどうにかするわ」
「ええ、大竹さんにも話して下さい、それじゃあ失礼します」
「…おう」


そう言ってきびすを返したはいいものの、少しばかり困ってしまう。
今、大竹はライブのためにネタを書いている真っ最中なのだ。
今日だって営業のあと、寄り道もせずにさっさと家に帰っていったのはそのためだった。
おそらく後日、それを見ながら二人で練っていく手はずになる。

もちろん自分だって一緒にネタを練るわけだが、ベースを書く大竹の方が負担は多い。
特に今回は少し趣向を変えたから、いつも以上に面倒な作業が続くはず。
こんな時に後輩を襲撃するなんていう面倒はごめんこうむりたいだろう。

まあ確かにこっちだってそれなりに忙しいし、ピンでの仕事は自分の方が多かったりもする。
それでも「バカルディ」の屋台骨、ライブのために頭をフル回転させる大竹を邪魔したくはなかった。

余計なことで煩わせたくない、という俺の考えは多分本人に言えば否定されるんだろう。
それでも何となく、大竹に言い出さないままに時が過ぎたのには多少の理由がなくもない。

半年ほど前、「バカルディ」は俺の都合で、白から黒へと鞍替えした。
大竹はそのことを決して責めなかったし、むしろ俺よりも先に俺の家族のことを思いやってくれた。
照れくさいからそれについて礼を言うつもりはないし、この先触れるつもりもない。
それでもまだ、小さな罪悪感が自分の中にあるのは確かだった。
自分勝手な都合だとわかってはいても、けじめをつけておきたい思いがあるのは否めない。

数日後に俺が出した答えは、一人でできることは一人でやっちまおう、というものだった。

465[バカルディ・ゴールド(2)] 有吉:2006/07/10(月) 02:49:26


「いきなり悪ぃな、邪魔しちまって」
「いえ、そんな…」


広島での仕事から新幹線で帰ってきた俺らの前に現れたのは、バカルディの三村さんだった。
事務所も違うし、ほとんど話したこともない人ではあるが、俺らにとってはかなり上の先輩だ。
芸人になる以前にテレビで見たことだってあるような相手を前に、ちょっと緊張してしまう。

…まあ、緊張したのはそれだけが理由じゃない。

プライベートで、単なる帰り道でこんな風に、先輩とはいえよく知らない人に声をかけられる。
それが何を意味するかなんて、石を持っている人間ならある程度予想のつくことだ。
しかもちょっと便利なこの石は、結構魅力的らしくて敵を呼びがちなのだった。


「それで、お話っていうのは?」
「あー…すげえめんどくせえんだけどさ、」


そう言ってぽりぽりと頭をかいた三村さんは、まるで何でもないことのようにこう続けた。


「…お前らの石をとってくるか、黒に勧誘するかしろって言われてんだよ、どっちがいい?」


傍らの森脇の、ごくりと唾をのみこむ音が聞こえた気がする。
背筋に流れる冷たい汗を感じて、俺も急激に気が引き締まった。

…そんなの、どっちもよくないに決まってる。

466[バカルディ・ゴールド(3)] 三村:2006/07/10(月) 02:50:09


…どっちがいい、なんて聞いたって、どっちもよくないって答えることくらいわかってる。

猿岩石は白でも黒でもないらしいが、どっちかと言えば白寄りなのだと聞いた。
それだからこそ黒が襲撃をかけないといけないんだろうが、こちらとしては一応戦闘を避けたいのだ。
基本的にめんどくせぇから闘いたくないし、闘う理由なんて本当はなかった。


「…やっぱ、どっちも嫌だよな」
「「嫌に決まってるじゃないっすか!」」


呟くと猿岩石の二人がユニゾンで答え、ぎっ、とこっちをにらんできた。
ああ、こういう目をむけられるような人間になっちまったんだなあとちょっと寂しくなる。
でももう後戻りなんてできないから、悪役も演じきらなけりゃならない。


「んじゃ、悪いけど貰うわ、お前らの石」


台詞とともにとりだした石は、静かな顔で手におさまっている。瞬間、有吉が叫んだ。


「くそ、三村さんは攻撃系ってのしか100円じゃわかんねえ、森脇500円ねえか?」
「ねえよ、漱石1枚と100円と10円しかねえ」
「札どっかで替えてもらってきてくれ」
「何でだよ、お前の使え!」
「アホ、俺は札なんか持ってねえよ!」
「…威張んなよ…しゃあない、行ってくる!」


そう言って森脇はダッとその場から走り出す。

500円、ね。そういえば土田に聞いたら言ってたな、小銭で能力がわかるんだっけか。
金額が大きくねえと細かいことはわからねえんだっけ?はは、めんどくせえな。


「いいのか?相方行かせて」
「…アイツが帰ってくるまでくらい、どうにかするっすよ」
「そっか、ならいいや」


…心おきなく、石使えるじゃねーか。

467[バカルディ・ゴールド(4)] 有吉:2006/07/10(月) 02:51:05


三村さんのことはほとんど知らない、おかげで100円使ってもこのざまだ。
この程度の情報じゃ森脇に力を使ってもらうこともできない。
アイツが500円を持って帰ってくるまで、せめてこの場を逃げ切らなければ。
そう思って空を見る、ありがたいことに夜空には雲がぽかりと浮かんでいた。


「とう!」


勢いをつけてその場で飛び上がる、足の下には雲が滑り込んできた。
キント雲に乗った孫悟空気分。如意棒もあれば楽なのに。
そのまま雲を走らせ、三村さんにぶつかっていく。


「うおっ!あっぶねえ…」
「くそっ!」


三村さんは器用に地面に座り込み、俺の雲の突撃を避けた。
どうするかと一瞬迷っているうちに、三村さんの握っていた石からふわりと光が漏れる。


「フレーッシュ!」


その言葉とともにざわざわと木々が揺れた。
冬の、葉を落とした枯れ木にすさまじい勢いで緑の葉がついていく。
呆然とそれを見ていると、三村さんが叫んだ。


「おし行けっ!」


椿のような厚い大きな葉が巻き上がり、一本の帯のようになって襲いかかってくる。
慌てて雲でその場を離れようとするが、葉の帯に足をとられ、ぐらりと身体が揺れた。


「うわっ!」


落ちる、そう思った瞬間、あたりに響いた森脇の声。


『落ちんな、耐えろ!』


その声で俺の身体はバランス感覚を取り戻し、真っ直ぐに雲の上に立ち直る。
力を込めて雲を森脇のもとへと走らせれば、緑の葉の帯はざざっと下へと落ちて、枯れ葉の山になった。


「おら、500円!」


森脇はひょいっと硬貨を投げ、すぐに俺の後ろに飛び乗る。
その左手には煙草の箱が握られており、どうやら煙草の自販機で札を崩したらしいと予測がついた。


「おし!」


500円をポケットに入れ、三村さんを見つめる。
その手に握られた石の情報が頭に流れ込んでくると、すぐに俺は声を上げた。


「…木の葉の化石!枯れ木に葉をつけてそれを動かして防御と攻撃をする、使えるのは3回程度!」
「おっしゃあ、『木の葉の化石』、封印!」


森脇が鈍く光るの鉱物をとりだし叫ぶと、三村さんの石から光が消える。
とたんに地面に落ちていた枯れ葉の山も姿を消し、その石の気配は跡形もなくなった。


「諦めて下さい、もうその石しばらく使えないっすから」


そう森脇が言うと、三村さんは自分の手の中の石を見やってコン、と指先ではじいた。
そんなことをしても意味はないのだが、石の様子を確かめているようだ。


「へえ、ホントに使えなくなるんだな」


これで攻め手がなくなったはずの三村さんは、なぜかちょっと笑ったように見えた。

468[バカルディ・ゴールド(5)] 三村:2006/07/10(月) 02:52:10


砂の固まったような地に、茶色い木の葉の姿が浮き上がる化石。
黒の余り物の石だけど、それなりに役には立った。

攻撃力も高くないし、あまり使えるもんでもないので、下っ端に持たせていたと土田からは聞いている。
スケープゴートにはもってこいの、地味な石を借りてきたのには理由があったのだ。


-- 猿岩石の能力、知ってること全部教えてくれ
-- 大竹さんは?
-- いいんだよ、今回は俺一人で行くから
-- …まあ、いいですけどね


襲撃の前、土田に連絡を取って細かいことを聞いた。
そのとき、森脇が封印できる石は一度につきひとつだと知って、この作戦を考えついたのだ。
封印できるのがひとつなら、まず別の石を封印させてしまえばいい。
これで森脇が封印を解けるようになるまでの10分は自由に攻撃できる。
見事にハマった作戦に、いたずらが成功した時のような喜びを感じつつ、フローライトをとりだした。


「ホントの石は、こっちなんだけど」


…多分、結構悪役っぽく笑えてたんじゃねーかと思う。
有吉と森脇の顔色がみるみる変わっていくのを見ながら、自分の石を強く握りしめた。


『キント雲かよっ!』


ビシリと指差した有吉の足の下の雲は、ピューッとどこかへ飛んでいく。
有吉はズデン、と漫画のような音を立てて地面に落ちた。
それを見て真っ青になる森脇と、おかしな格好で地面に落っこちた有吉を見ていたら何か笑えてきた。
はたから見ればちょっとコントみてぇな状況だろうな、コレ。

ぐるりと周りを見回す、目についたのは塀の上の黒猫。
指差すと猫はびくりと肩をいからせる。悪いけどちょっと飛んでくれ。


『黒い!』


ブニャーッ!!!と猫は叫びながら転がっている有吉にむかって一直線。


「ぎゃーーー!」
『ニャーーー!』
「うわーーー!」


有吉の顔面に猫の凄まじい引っ掻きが入り、縦縞がその顔を飾る。
その猫を有吉から離そうとして今度は森脇が引っ掻かれ、ちょっとした惨事になった。
なかなかマンガチックな状態だが、実はわりと可哀相だ。


「い、痛い…」


赤のペンシルストライプが描かれた顔で、有吉はふらふらと立ち上がる。
小さくジャンプしたその足の下にはまたも雲が滑り込んできて、キント雲になった。
森脇もどうにか猫を引きはがし、立ち上がるとその雲をちぎって思いっきり振りかぶって投げてくる。


『っ、雲かよっ!』


さすがに疲れてきたが、ここでやられるわけにはいかない。
投げられた雲の玉にツッコミを入れると、ちょっと噛んだせいかポーンと上に飛んでいく。
そこにさらにもう一つ雲の玉が飛んできて、避けようと体勢を変えたところに有吉がキント雲で突撃してきた。
思いっきり当たられて、後ろにふっ飛ばされる。結構痛いじゃねえかちくしょう。
倒れた俺の隙を見て、有吉が森脇を連れて雲で逃げようとする。
…残念、逃がしてやるわけにはいかねえんだよな。


『たてじまっ!』


有吉に少し力を込めたツッコミを入れると、その身体がボールのように飛んでいく。
後方の塀に有吉がたたきつけられ、それと同時に森脇が雲から転げ落ちた。
有吉は背中をおさえてうなっているが、ぐったりと動かない。森脇もぶつけたところをおさえている。
とはいえそろそろ俺も限界が近いし、時間もいっぱいだ。ここで決めなければ。


『…灰色っ』


有吉の手の中に見えた石に軽ーくツッこむ、その小さな石はひゅっと飛んでいった。
それを走って追いかけて、拾う。これで有吉の石はいただき。
もう俺の方も身体が言うことを聞かない。体中がぐったりと重くなる。


「…森脇、お前は有吉の石がなきゃ闘えねぇだろ、ソレ渡せよ」


そう声をかけると、森脇は悔しそうに唇を噛んだ。

469[バカルディ・ゴールド(6)] 有吉:2006/07/10(月) 02:54:40



たたきつけられた背中と引っ掻かれた顔が痛い。
手から自分の石がすり抜けていったのは気づいてた。
でももう、雲に乗りすぎたのもあって足が動かない。


「森脇、お前は有吉の石がなきゃ闘えねぇだろ、ソレ渡せよ」


そう三村さんが言うのも聞こえてた。
それでももう、これ以上何もする気にはなれない。俺は力つきた。すまん、森脇。


「すんません、渡せません」


…っておい、森脇お前まだ抵抗するのかよ、俺、もう石持ってねえのに。
しかもまだあの化石を封印したままで、三村さんの石のことも不明だから、お前の真鍮も使えないのに。
何でだ、抵抗したってもう何にもかわんねーじゃねえか。


「森脇、もう無理だ」
「おう無理だ…おし、もう10分経ったな」


そう言った森脇は自分の石をとりだして、呟いた。


「…『イーグルアイ』、封印!」
「な…森脇お前!」


三村さんの手の中で、俺のイーグルアイが、静かに光をなくす。
俺の石を封印した森脇は、少し笑って三村さんに自分の持つ鉱物、真鍮を見せた。


「この封印、俺の意志がないとずっと解けませんから」
「…」
「俺が望まない限り、これもイーグルアイも、もう使えません」


言い切った森脇の目には何か、強い決意の光があふれていて。
前に相方のそんな姿を見たのは一体いつだったろうなんてつまらないことを考えた。
ぼんやりとその横顔を見つめていると、また森脇は口を開く。


「…三村さん、俺はもう嫌なんですよ」
「何がだよ?」
「この石をめぐる闘いが」
「気ぃあうな、俺も嫌だぞ」
「でも三村さんはその石で闘えるでしょう、俺はダメだ」
「…」
「自分じゃ何も変えられない、それなら俺はこんな石なんていらない」


そう吐き捨てた相方が、ギリ、と歯を食いしばるのを俺はただ見ていた。
数々の襲撃を退けてきた裏で、森脇はそんなふうに考えていたのか。

なあ森脇、確かに真鍮はそれだけじゃ闘えない代物だ。
でもいつもお前の助けがあったからどうにか乗り越えてきたんじゃねえか。
そんなことも伝わらないほど、俺たちは遠かっただろうか。

すまん森脇。お前がもう闘いたくないって知っても、俺は。


「俺は、石を手放すなんてしたくねえ…!」


絞り出すような俺の声に、森脇がふりむく。
右頬の下のアスファルトは、まだ夏を迎える気配も見せずに冷たかった。
悲しそうに俺を見る相方、それでも俺は執着を捨てられない。
この闘いへの、この石への、そしてこの世界への。
這いつくばったままの俺に視線を向けて、森脇が静かに口を開く。


「なら有吉、お前、黒に行け…俺の真鍮が手土産なら、邪険にはされねえだろ」
「そりゃ、俺一人で行けってことか」
「…10分たったらイーグルアイの封印を解く」
「おい森脇、」
「そしたら黒に行けよ、このままでいるよりマシだ」
「っ、だから!お前はどーすんだよ!」
「…もう俺はこの闘いに意味なんか見つけられねえ」
「それは…俺一人で闘えってことか」
「お前は、闘える」
「…」
「闘えるじゃねーか」


…ああ、きっと俺の言葉はもう、森脇には届かない。

森脇を殴ってやりたい気持ちにかられて、立ち上がろうとした足はやっぱり言うことをきかなかった。
そのまま地面にぐしゃりと崩れる自分の身体に、いらだちばかりが募る。
それでも地面に突っ伏したままでいるうちに、頭が少しずつ冷えてきた。

そうだな、きっと俺は一人でも闘える。森脇がいなくても。
負けるときもあるかもしれない、それでも、俺が無抵抗でやられることはないだろう。
相手の力がわかるならどうにか反撃はできるだろうし、雲に乗って逃げることだってできる。
そうだな、多分、闘えてしまう。お前にはできないことができてしまう。

…だけど、お前のいない闘いなんて考えたこともなかった。

470[バカルディ・ゴールド(6続)] 有吉:2006/07/10(月) 02:55:34


「有吉」
「…はい」


俺たちの会話を静かに聞いていた三村さんに名前を呼ばれる。
声の方へ向きなおって返事をしようにも身体が動かずに、首だけ回して答えた。
どうやらもう三村さんも疲れているらしく、地べたに座り込んだままの格好で俺を見ている。


「お前、どーすんの?」
「…どーしたらいいんすかね」
「真鍮とイーグルアイ持ってお前が黒に来るんなら、こっちは文句ねーよ」
「俺、何かもう、わけわかんないんすよ」
「…俺も疲れてわっけわかんねえ感じになってきてるけどな」
「『わっけわかんねえ』ままいったん退いてもらうとか無理っすかね」
「あー、それはできねーわ、俺も色々あんの」
「色々ですか」
「おう、色々な」


強引に事を進めようとはしないが、退く気もなさそうな三村さんに溜息をつく。
どうしても俺はここで身の振り方を考えなければならないらしい。
森脇をちらりと見れば、奴は奴で疲れ切った顔でアスファルトにだらしなく胡座をかいていた。
そうだな、もう答えなんか出てるんだろう。俺は一人で闘うんだ、これから。


「…俺、やっぱ石手放したくないっすわ」
「来るか、黒」
「よろしくお願いします」

「…何だ、一件落着しちまってんじゃねーか」


突如として今までその場になかった声が耳に響く。
驚いて声の方に首をむけると、そこにはバカルディの大竹さんがいた。
そしてその後ろにのそりと立つ大きな影。
よくよく見ればそれは、事務所の先輩である土田さんだった。

471[バカルディ・ゴールド(7)] 三村:2006/07/10(月) 02:56:41



「お、大竹っ?!」


突然現れた相方の姿に混乱する、なんでこんなところにこいつが?!
パニックを起こしていると、大竹は憮然とした表情で続けた。


「せっかく来てやったっつーのに無駄足じゃねーか」
「や、つーか、何でお前ここにいんの?」
「土田に聞いたんだよ、ここんとこお前様子おかしかったし」
「…」
「まー、なーんか挙動不審でよー、わっけわかんねえ」
「いや、その、だから…」


しどろもどろになる俺を不満げに見て、大竹はふっと溜息を一つつく。
しょうがねぇな、とでも言いたげな表情がこちらにむけられた。


「お前アレだろ、何か変な気ぃ使っただろ」
「…」
「バーカ!バーカ!カバみてぇな顔しやがって!」
「カバ!?」
「コラ、お前石…!」
「あ」


石を持っているのを忘れて思わずツッこんでしまったせいで、ポンッと空中にカバが現れて飛んでいく。
ただ、そのカバは疲れのせいか、本物ではなくとても小さなぬいぐるみのような姿をしていた。
スピードもほとんどなく、弓なりに飛んでいったそのカバは、大竹の手におさまって消える。


「…ちっちぇーの出たな」
「…ちっちぇーの出ちゃったな」


ミニサイズなカバを見たら、何かホントにバカみてぇだと思った。
こんなん出るまで頑張っちまったぞ、俺。


「ま、あれだ…次から俺も呼んどけ、じゃねえとちっちぇーの出ちゃうから」
「おう、ちっちぇーの出ちゃうからな…」


…そうだな、ちっちぇーの出ちゃうもんな。
大竹いるんだから、んで大竹は闘うつってんだから、いいんだよな。
別にいいんだ、二人で。それでいいんだ、俺らは。
何だか本当に下らないことにこだわっていた自分に気づいて、ちょっと笑った。
それを見ていた大竹も、何だか少し笑っているように見える。

472[バカルディ・ゴールド(7続)] 三村:2006/07/10(月) 02:57:30

そんなおりに、急にガサッとむこうから聞こえてきた音にびくっと肩が動く。
音がした方を見ると、ちょうど土田が有吉に手を貸して助け起こしているところだった。


「土田さん、黒だったんですか…」
「まあね」


少しだけ身体を起こした有吉が土田を見上げながらぼそりとこぼす。
問われた土田は、顔色一つ変えずに短く答を返した。


「…俺は、黒でいいんすかね」
「こっちは来てもらう方が都合いいけど」
「黒、楽しいっすか?」
「俺はそれなりに楽しんでるとこもあるよ、俺の石は黒の方がしっくり来るみたいだし」
「石が?」
「…まあ、それはおいおいな」


有吉は土田の肩を借りてどうにか立ち上がる。
土田は有吉を支えつつ、空いたもう一方の手を森脇に差し出した。


「おら、お前も疲れただろ」


森脇は土田を見上げて、少し泣きそうな顔で言う。


「…そうっすね、疲れました」


その言葉と、俺の手の中で光を取り戻した有吉の石が多分、この闘いの終わりの合図だった。

473[バカルディ・ゴールド(8)] 有吉:2006/07/10(月) 02:59:47



疲れた体を固い駅のベンチに沈めた。
横には黙ったままの相方がいる。
俺の手の中では、イーグルアイが灰色の光を放っていた。
真鍮はとりあえず土田さんに預けてある。
黒に誰か使える奴がいるのか、それとも誰もいないのかはわからない。

土田さんの石の力で、駅の近くまで送ってもらった。
お互いそう近くに住んでいるわけではないが、使う路線は同じだ。
終電に近い電車を待ちながら、森脇に声をかける。


「なあ」


森脇は無言で、俺の方を見た。
それを返答の代わりにして、俺は続ける。


「お前が石を捨てても、まだ俺らは猿岩石なんだよな」


その言葉に、森脇は少し笑って答える。


「おう、まだ猿岩石だよ」


その返事に満足して、軽くうなずいた俺を強烈な睡魔が襲ってきた。
ふぁ、と大きなあくびをしたところで、森脇に電車が来たら起こしてくれるよう頼んで眠りにつく。



…それから数十分後、森脇まで寝たせいで終電を逃すはめになったのはまた、別の話。

474 ◆yPCidWtUuM:2006/07/10(月) 03:02:50
すいません、トリップ消えましたが>>464-473は自分です。
以下は猿岩石と新しく出した石の能力です。

猿岩石(有吉弘行)
石:イーグルアイ
インターナショナル(世界を見る目)
能力:
空に雲の浮かんでいる状態でジャンプすると白い雲が足の下に現れ、これに乗って移動できる。
また、ポケットに小銭の入っている状態で石を使うと、自分の頭に浮かべた人物の持つ石が
どんな能力を持っているか、小銭の数だけ知ることができる。
条件:
空に雲のない日や、雨の日には雲に乗れない。雲の基本速度は有吉の全力疾走時のスピード程度。
自分の意志でこれ以上速くはできないが、遅くはできる。意外と固い。
この雲に乗ったりさわったりできるのは有吉と森脇のみ。
小銭1枚につき石ひとつの能力がわかるが、金額によってわかる度合いが違う。
500円玉ならば石の能力全てを知ることができるが、1円玉でわかるのは攻撃系か防御系か程度。
名前と顔が一致しなかったり、ほとんど人となりを知らない相手の力は500円以外ではほぼ不明。
逆によく知っている相手は少ない額でも能力を暴くことができる。
代償:
雲に乗る力を使いすぎると、足の筋肉が極度に疲労して歩けなくなる。
能力を知るために使った小銭はなくなる。また、ポケットに小銭が入っていない状態では使えない。


猿岩石(森脇和成)
石:真鍮
どの石とも調和し、石の効果を増す
能力:
完全に名前と能力が判明している石を一度にひとつだけ封印できる。
封印を解くタイミングは森脇の意志次第だが、ひとつ封印したら最低10分経たないと解けない。
ひとつの石の封印が解けるまで、次の石の封印はできない。
1日に封印できるのは石2個まで
また、有吉に応援や忠告の声をかけることで、有吉の行動を少しだけサポートできる。
条件/代償:
ほとんどが有吉がいないと使えない能力で、一人では攻撃も守備もできない。
また、石の名と能力を知らないと封印の力は使えず、一度封じた石は二度と封じられない。
他人の石を封印した時間だけ、その後自分の石がまったく使えなくなる。
さらに、石を限界まで使用すると、極度の疲労感に襲われる。


木の葉の化石
先祖の守り、説明のできない事柄から身を守る力
能力:
枯れ木に葉をつけてそれを動かし、防御・攻撃をする。
条件/代償:
使えるのは1日に3回程度。近くに枯れ木がない場合、石が使えない。
枯れ木に葉がつくところを想像し、葉を動かす際にも形を想像しなければならないため、
限界まで使うと想像力に支障をきたし、物事の状況や言葉の意味が想像できなくなる。

475名無しさん:2006/07/10(月) 17:31:00
乙です!
「ちっちぇーの出ちゃったな」が二人らしさ出てていいですね。

476名無しさん:2006/07/10(月) 21:24:24
いつも言葉遣いがリアルで面白いです。
ぜひ本スレに投下を!

477 ◆yPCidWtUuM:2006/07/10(月) 23:15:02
>>475,476
ありがとうございます。本スレ行ってきます。

478 ◆vGygSyUEuw:2006/07/27(木) 18:19:02
アンガールズの短編書いてみましたので、落とします。
時間的には◆IpnDfUNcJoさんの「鍛冶くんじゃ…ない?」のちょっと後辺り。
山根の言葉遣いとかちょっと怪しい点がありますので、チェックしていただけると嬉しいです。

479 ◆vGygSyUEuw:2006/07/27(木) 18:20:04
「山根〜」
気の抜けるような上滑りした高い声で、田中が俺を呼んだ。
「なに」
「俺たちさあ、どうすんの」
「どうするって」
「白とか黒とかさあ」
「ああ、…田中はどうしたいんよ」
「どうしたい、って言われてもね〜」
「俺も一緒だって」
「…あっそ」
少し前に石を手に入れ、それに何やら弱いながらも不思議な力があると知って、
しかもそれを巡る同業者の戦いがあるそうだとかそういうガセのような話まで聞いて、
自分たちは身の振り方を決めかねていた。
どうやら、白と黒、というごくシンプルな対立があって、白はヒーロー、黒は悪の組織らしい。
大まかに言ってしまえばそういうことで、何も自分から悪の道へ進もうなどと考える人はごく少数だと思うのだけど、それだからか脅しや強制が黒の中では横行しているらしい。
伝え聞いた話をどこまで信用していいのかもよくわからないのだけど。
第一、そんなヒーローものの特撮みたいな話が本当に現実にあるんだろうか。
こんな疑問を抱く芸人は自分たち以外にも星の数ほどいて、だからこそそれは愚問なんだろうが。
「意味わかんないよね」
「…黒?白?」
「どっちも。もう白でいいんじゃないの」
「でも、戦うとかできないじゃん、俺ら」
「あー…」
能力は、二人とも似たりよったりで「沈静」だ。
争いごとがそこまで好きではない自分たちとしてはありがたい話だが、いざ面倒なことに巻き込まれた際に身を守れないのは辛い。
「いや、だからさ、白の人に助けてもらおうよ」
「え?」
「強い人の陰に隠れとけばだいじょぶでしょ」
「え、そんな単純なあ…」
「面倒なことに巻き込まれたくないし、白の方がまだ戦わんで済むと思うよ」
「…そうかな」
「そうそう」
田中を半ば強引に説き伏せて、そうと決まればくりぃむさんの所でも行こうか、と立ち上がりかけた俺たちに、言ってるそばから面倒なことが降りかかってきた。
がしゃーん。
鋭利な音が聞こえて思わず振り返った。
三階にある楽屋の窓から乱入してきた影は、さしずめ格好つけの怪人だろうか。

480 ◆vGygSyUEuw:2006/07/27(木) 18:20:50
「…どうすんの」
「どうするって」
とりあえず反射的にドアから逃げ出して、廊下をひた走る。
後ろから足音が聞こえるがもう振り返ってる暇もない。
弱っちい俺たちは既に二人して息も絶え絶えで、きっと着実にその距離は狭まってるだろう。
振り切ってしまえたら、近くの楽屋へ逃げ込めたなら、とは思うけれど。
「どうもできんよ」
「…そだね」
目下敵から逃げているにしては暢気な会話を打ち切って、半ば諦めてそれでも往生際悪く走る。
ああ、もっと若さと体力と運動能力があれば、なんて考えてる余裕もそろそろない。
廊下が果てしなく長く長く思えた。
運動会だったら倒れれば棄権させてくれるけど、今倒れたら確実に餌食だ。
隣でもう必死にめちゃくちゃ走ってる田中に、滑って転ぶなよ、と思う。
ああ、喉がひゅーひゅー言うし横腹も痛いし膝も痛いけど、
とにかくもうちょっと、走れ、俺!
「!」
健闘虚しく、角を曲がった所で遠く前方、廊下の端に二つの影を発見する。
…挟み撃ちか。ああ、終わりだな。
せめて殺されないことを祈ろうと心中で手を合わせかけた俺に、声がかかった。
「何やってんだあ、お前ら!」
察しろよ。
なんて言いたくなるようなことを言ったのは、インパルス板倉。
隣にいる男は、もちろん堤下だった。
と同時に後ろの気配もどんどん近づいてきてることが背中に伝わる殺気で分かって。
追われてる。
そう言おうとしてももう声にも出せなかったが、もう論より証拠だ。
こっちを追ってくるギラギラした目の男が、二人にも見えたことだろう。
どんどん近づく板倉の指から発された青い光が、ばちばちと自分たちの間をかすめていった。

481 ◆vGygSyUEuw:2006/07/27(木) 18:21:24
「…なんだ、ザコじゃん」
板倉が伸びてる男に蹴りを入れる。
心臓とかは大丈夫なのかと思ったが、その辺は上手く加減してやるんだろう。
田中は消耗しきって床に倒れ伏している。
こっちも似たような感じで、座り込んでぜーはー言っている。
「大方黒の下っ端だろ、こんぐらい自分たちで何とかしろよ。」
「…大丈夫?二人とも」
「うわ、ジジイがマラソン走りきったみてえな面してんな…」
何とでも言え。
もう死にそうだ。水が欲しかった。
「こんぐらいでへばってたら戦えねえぞ」
「俺たちは攻撃系じゃないんだよ…」
「じゃ、二人でぼけーっとしてんなよ」
カラカラの喉から絞り出した反論は一蹴される。
悔しいけどその通りで、でももうちょっと言い方ぐらいあるだろう。
「はい」
堤下が俺たちの前にスポーツ飲料の入ったペットボトルを置いた。
「あ、ありがと…」
「いえいえ」
ありがたくごくごくと飲む。生き返るようだった。
田中ものそのそと起き出して飲んでいる。
「…おい、助けてもらっといてこっちには礼もねえのかよ」
板倉が憮然とした顔で腕を組んでいる。
「…ありがとう。」
「棒読みかよ」
何かつくづく面倒くさい奴だな、と助けてもらって何だが思う。
「気持ちこめろよ」
「いいじゃんもう、疲れた…」
「はあ!?…むっかつく…」
「ま、まあまあ」
慌てて堤下が板倉をなだめる。
その背中の陰で、何かがのそりと動いた。
…ここに寝てた奴といえば、勿論。
「動いた!」
声を上げる。全員が一斉に注目した。
名前も知らない、多分芸人であろう男の目は、赤く濁ってさっき以上に鋭くなっている。
「…嘘だろ、こんなすぐ起きれる筈ねえぞ」
板倉が呆然としている。堤下が動いた。
「おら!」
かけ声と共に頬を一発殴る。
堤下は痛そうに顔を歪めたが、相手は平然としている。
「うら!」
更に一発。しかし効いてはいないようだ。
「堤下、引け!」
板倉が今度は携帯を掴んで、直に拳を当てる。
ばちぃと音がしたが、男は倒れない。
「…うっそだあ」
板倉がまた言った。
「埒があかねえ…逃げるぞ!早く」
「おお!」
インパルスの二人が駆け出す。
「大丈夫だって」
「…へ?」
板倉が走る態勢のまま、きょとんとした顔で振り返る。
俺はできるだけ刺激しないようにゆっくりと男へ歩み寄って、やわらかく声を掛けた。
「あ、先輩先輩」

482 ◆vGygSyUEuw:2006/07/27(木) 18:21:53
「…お前、そんな手あるんだったら逃げてねえで端っから使えよ…」
「……だって、これすごい疲れるんだよ…それにさっき急だったし…」
呆れた顔で言う板倉の足下で、俺はへばっていた。
あの男はコントに引き込んで落ち着けた後、田中の能力で大人しくなった。
どうやら男の能力は少しの間だけ防御力を高めるようなものだったらしく、しばらくしてから痛い痛いと転がっていた。
さっきの板倉の攻撃が効いていたのは不意打ちだったかららしい。
拍子抜けするぐらい弱々しい男の姿に、板倉はビビって損したと悪態をついた。
転がっている間に石を浄化すると、憑き物が取れたようになって、心当たりのない痛みに首を傾げながら去っていった。
そして今に至る。
「…つっかれたあー…」
力を使いすぎてまだ動けない。
まだ残っていたスポーツ飲料を一気飲みすると、少し楽になった。
「白、来んの?」
「…行く、けど」
「けど?」
「戦うのはヤだな…。弱いし。黒怖いし」
「けっ、ビビリ」
返す言葉もないが、言い過ぎな気もする。
堤下は同じく寝転がっている田中の隣にいる。
板倉が腕時計を見た。
「あ、おい堤下、時間」
「あっ、そっか」
「つーわけで、じゃーな。いつまでも廊下で寝てんなよ」
「お疲れ」
「おつかれー…」
「おつかれ…」
インパルスの二人はすたすたと去っていく。
「どうするー…?」
「…とりあえず、くりぃむさん所いこっか」
「え、今から…?」
「じゃあいつ行くの」
「…行こう」
疲れた体を引きずりながら、来た道を戻っていく。
「ついでに襲われたって言おうか」
「ああ、そうだね。一応」
「…今回一人だったけど、何人もいたら無理だろうな〜」
「そりゃね…俺ら力弱いもん」
「…もし、あそこにインパルスいなかったらさあ、」
「うん」
「どうする気だった?」
「お前を差し出して逃げた」
「や〜ま〜ね〜」
上滑りの声で抗議するように呼ばれて、俺は思わず笑った。
「冗談だよ」
「あーもーびっくりしたあ…」
「…何、信じたの」
「そういうわけでもないけどー…」
体を落ち着けるように、のろのろ歩く。
でも走っていた時のように半端なく長くは感じなかった。
余裕があるからだろうか。追われていないからだろうか。
「…あんな、戦いがさあ」
「うん」
「ずーっとあるんだよね」
「うん」
田中の言葉に淡々と相づちを打つ。
能力を使ったせいか頭が微かに痛む。
我慢できない程ではないけど、不快だ。
「終わらせたいね」
「どうやって?」
「…ずーっと肩ぽんぽんしていけばいいじゃん」
「石構えて真っ赤な目してる人の列を?」
「うん」
無理でしょ、と思ったが口には出さなかった。
代わりに出て来た言葉は、
「じゃ、俺はその横で敵さんとコントしとくよ。」
なんて、お気楽なものだった。
自分でも何でこんな台詞が出て来たのかよくわからなかったが、隣で田中が体を折り曲げて笑いをこらえているので、まあいいか、と思った。
こんな能力も、芸人としては決して悪くない。
まだ笑っている田中を置いていくように歩を進めると、慌ててついてきた。
「ねえねえ、敵がいっぱいいたらどうすんの」
「お前に任せる。」
「ひどっ。
 …あ、でもジャンガジャンガぐらいならできるんじゃない?」
「みんなで?」
「うん。」
「あー、それいいね」
「でしょ。みんな緊張感なくすよ。」
「味方もなくしちゃわない?」
「…うーん。」
じゃあもういっそ、黒も白も自分たちのぐだぐだした色で染め上げてしまおうか。
なんて格好つけたような微妙につけられていないようなことを言うのは、普通に恥ずかしいのでやめた。
「戦わずして勝つ、みたいな感じでかっこいいんじゃない?」
「無血革命、って感じ?」
「そうそう」
無難な言葉でお茶を濁して、ふと「ああそれは穏便でいいなあ」と思う。
どうにもぐだぐだふにゃふにゃした自分たちに一番向いていると思う。
そうこうしてる内に目指す楽屋が見えてきたので、「白に入れてくださーい」と気の抜けた声で言うためにドアを叩いた。

483 ◆vGygSyUEuw:2006/07/27(木) 18:34:24
以上です。
一応襲ってきた男の能力↓

石:未定
能力:一時的な防御力の上昇や痛みへの耐性。
条件:持続は最長で二、三分。能力が解けると、抑えていた痛みが一気に戻る。
   耐性がつくのは肉体への攻撃のみ。

484名無しさん:2006/07/28(金) 22:18:57
アンガールズいいと思います。
その後も読みたいと思いました。

485 ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:13:53
こんにちは!
よゐこの話を濱口さんメインで考えてみました。
何かアドバイスを頂ければ幸いです。

486here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:15:11
 「−そっち行ったぞ!囲め!」
 「とりあえず出口押さえろって!」
 木々の隙間から聞こえる、怒声。眠っていた鳥が慌てた羽音を残して飛び立ってゆく。
 深夜1時をまわった公園。小さなブランコやすべり台で遊ぶ者はいない。
 それに甘えているのか単なる偶然か、公園を照らすはずの街灯が今にも消えそうに点滅している。
 声の原因である男たちの数は10人前後。
 20代そこそこの若さに見える彼らは一様に、焦点の微妙に曇った目で必死に何かを探していた。

 さて、色鮮やかに塗られたジャングルジムの奥には、背の低い木々が植えられている。
 そこにいたのは何事かと怪訝な顔で男たちを見つめる野良猫と、1人の芸人。
 「うわ、めっちゃ数おるやん…どうしよ………」
 彼らのターゲット、よゐこの濱口優だった。

487here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:16:25
 仕事を終えた帰り道、不意に迎えた大ピンチ。
 何かと物騒な噂を耳にしていたから、事情を説明してもらえずとも相手の目的に検討はつく。
 咄嗟に公園に逃げ込んだ濱口はついさっき別れたばかりの男に大急ぎでメールを打った。
 この状況をすんなり理解できて頼りになる者。迷いなく浮かんだのが少々悔しい気もする。
 自分を追う声は確実に包囲網を狭めていた。
 このままだと見つかるのは時間の問題なのだが、こう人数が多いと不用意に動けない。
 東京の夏としては珍しく涼しい夜なのに、緊張と焦燥のせいで背中を嫌な汗が流れていく。

 と、手の中で携帯電話が低く振動した。できるだけ音をたてないように注意して、画面を覗きこむと−
 『なんとかならへんの?』
 暗闇に浮かんだのは呑気な返事。
 思わず力が抜け、電話を落としそうになる。
 『ならへんから言うてんねん#』
 いつもの癖でつい絵文字を入れてしまった。怒りを示す赤いマークがひどく間抜けだ。
 『絵文字打てるぐらいやったら大丈夫なんちゃう?』
 わあ、やっぱり指摘されるか。
 そういうとこばっか鋭いねん、体勢を低くしてそろそろと移動しながら最後のメッセージを打つ。
 『たすけて!』

 なぜそれが最後になるのかというと、数秒後に追っ手の一人が彼を見つけてしまうからで。
 携帯電話の液晶は律儀に送信が完了したことを報告していたが、濱口にそれを確認する余裕はなかった。

488here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:17:49
 「−殺さない程度にやれよ!」

 仲間らしい別の男の、物騒な指示が聞こえる。
 隣にいた猫が走っていく。座り込んだ地面の砂の感触。振りかぶる拳がスローモーションで見えた。
 当たれば殺されずとも気絶は間違いなさそうだ。そしてこの距離では避けられない。
 取れる策はひとつだった。その軌跡をしっかり見据え、意を決してキーワードを叫ぶ。
 「『獲った』…けど、返すわっ!!」
 言い終わった瞬間、濱口の首元で白い輝きが弾ける。
 次いで鈍い、何かがめりこむような重たい音が響いた。

 「…っ、………!?」
 フラッシュに似た光が収まった時、困惑と苦痛を混ぜたような表情を浮かべていたのは
濱口ではなく彼に攻撃を仕掛けたはずの男の方。
 倒れこみ動かなくなる仲間の姿に、集まってきた面々は事態を把握できずに硬直する。
 濱口はその隙に体勢を立て直し、地面を蹴った。

489here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:18:47

 追われてるし、捕まりたくないし、暗いし、しんどいし。
 様々な事象が恐怖に直結し、喉元に込み上げてきて吐きそうになる。

 濱口の石が最初に光ってから10分。
 人数差の不利はあまりにも大きく、公園からの脱出は果たされぬまま
絶望的にユーモアの欠けた真夜中の鬼ごっこは続いていた。
 現在数は7対1。既に2人には先程と同じくカウンターで自らの攻撃に沈んでいただいたのだが、
そろそろその代償すらも濱口を追い詰めはじめている。
 心臓が痛い。激しくなるばかりの動悸が容赦なく脳を叩き、息を継ぐのもままならない。
 単に運動不足のせいだけではなかった。
 石を使えば使うほど臆病になる−限界値を越えるまではそうきつい制約でないはずの副作用はしかし、
こうして激しい動作に絡まると途端に厄介な足枷と化す。
 タイミングの悪いことに、弱々しくも頑張っていた公園内の街灯がバチっと音を立てたきり沈黙し
 ほぼ完全な暗闇の中で駆け回らなくてはならなくなった。
 ぼんやり浮かぶ遊具や木々。環境すべてがなにか恐ろしいイメージの元に見える。
 「嘘ぉ、」
 思わず漏らした嘆きは完璧に震えていた。
 背中にぶつかる相手の忌々しげな文句にも必要以上に臆してしまう不本意な現状に加え
 頭の中では昼間聞いた稲川淳二印の怪談がリピートで流れはじめる始末。

490here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:19:46
 だからこれ使いたくないねん、首元で慌てたように揺れるセレナイトを恨みつつ
 いじめられっ子の代名詞「のび太」にも勝る切羽詰まった顔で、
 濱口は必死に黒の追っ手御一行と暗闇と脳内の稲川淳二から逃げ回った。
 ジャイアンがいっぱいおったらこんな感じになんねや。感心する余裕もすでにない。
 あかん、涙出てきた−
 いよいよ体力より先に精神がくじける頃。視界の先、路地の明るみから聞き覚えのある声が響く。

 「…飛んで!」

 鋭い声。彼の「ドラえもん」が何を意図したのか考える暇もなく、濱口はその指示に従った。
 目減りする精神力は一旦踏み止まってくれたらしい。こういう時単純な性格でよかったと思う。
 出口を塞ごうと車止めの方へ回りこむ数人の動きを横目にそのまままっすぐ走り、
 大きく息を吸い込んでもつれかけた両足を跳ね上げ、公園と道路を隔てた垣根を飛び越える。
 左足がわずかに葉を掠った。
 「あだっ、!」
 バランスを崩し、中途半端な飛び込み前転のような格好で地面に転がる。
 ぬるいアスファルトの感触でどうやら成功したことはわかったものの
急な動作で無理に伸びた腰や膝から、早くも痛覚が駆け上がってきた。
 (え、言われた通り、道に出たけど…、それからどうにもならへんのとちゃうか!?)
 背後に追いすがる人の気配はしっかり残っているし、こちらは気力を使い果たしたらしく動けない。
 痛みと街灯の眩しさ、それからこの後の悲惨な展開を予想して思わず固く目を閉じた。
 (…なんやねん!意味ないやんけ俺の大ジャンプ!)

491here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:20:44

 声に出さなかった文句がどうやって彼まで届いたのか、どこからか穏やかな声が応じた。
「いやいや。ちゃんと意味あるから、そこに居って」

 次の瞬間、街灯の光の下に伸びた濱口の影がだしぬけに膨らんだ。
 大きさは子どもの背丈ほど、ゆらりと揺らいだそれが、追っ手と濱口の間に立ち塞がる。
 男たちは垣根を乗り越えて我先にと濱口に手を伸ばすところだった。
 うちの一人が奇妙な気配と理由に気付いたらしく、慌てて周辺に視線をめぐらせる。
 大通につながる道の先。手の中で瞬く石を握る者。
 目の合ったそれが−ー有野が、笑う。

「待っ…!」
 男が仲間に何か告げようとしたが、神経伝達より速く飛んできた影の一閃−
横薙ぎの重いボディブローが集団ごと、彼の意思と意識を黙らせた。

492here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:21:48
 再び公園周辺に戻った、穏やかな夜。
 どこかに避難していたらしい野良犬が(やれやれ)と言いたげな表情で2人の前を横切っていく。

 「大丈夫か?立てる?」
 「うー…大丈夫やけど、もうちょい待って…」

 疲労と安堵、それから石を使ったことによる倦怠感。濱口はその場にへたりこんだままだ。
 影はもう地面におとなしく張り付いている。
 「やっぱり焦ってると加減がうまくいかへんなあ」
 有野は足でちょいちょいっと倒れた男たちをつつき、
大して心配していないような声で生きてるか〜、と問うた。うめき声が聞こえたので恐らく大丈夫だろう。
 強風で飛ばされた洗濯物のごとく植え込み廻りに散らばっていた男たちのシャツを
片っ端から中途半端にめくってやった。

 「腹冷やしてもうたらええねん、なあ。…あれ、濱口くん?」
 「…なんか俺腰抜けたみたい…」
 「ぇえー」

 世話焼けるわあ、ぼやきながら有野が脇に屈みこむ。
 その肩を借りてどうにか立ち上がりながらふと(こいつよく間に合ったな)と思った。
 濱口の影を使った分少しはましなのだろうが、よく見ればけっこうしんどそうな顔をしている。
 もしかしたらメールの文面とは裏腹に、急いで駆け付けてくれたのかもしれなかった。

493here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:22:30

 「…たすけつ、って何?」
 「へ?………あっ」
 「メールでも噛むねんなあ」
 「ええやんけ、伝わってんから」

 感謝の言葉はそれでうやむやにしてしまったけれど、こっそり濱口は心中で誓う。

 (いつかお前がピンチになったら、颯爽と助けに行ったるわ)

 そして、うまいこと逃げ出してみせるのだ。手に手を取って一目散に。
 格好よく事が運べばありがたいけれど、まあ。
 それはこの際二の次でも。

494here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:23:26

濱口優(よゐこ)
 石:セレナイト(透石膏、無色透明。石言葉は洞察力、直感力)
能力:向けられた攻撃を無効化させる。
条件:攻撃が自分に影響を及ぼすと想定できること(他者への攻撃を止めるには間に割り込む必要がある)。
攻撃に対し「獲った」と言うと攻撃に含まれるエネルギーを石で吸収し、ダメージを受けずに済む。ただし体力や気力には変換できない。一定量を超えるとそれまで止めた分が周囲に炸裂する。
精神攻撃にも有効だが、基本的に耐性が低い(ドッキリに弱い実績から)。また消耗は大きくなるものの「逃した」「返す」「いらん」等の言葉を続けるとその攻撃を相手に反射できる。
気力を消耗するほど勇気や度胸が減ってへたれてしまい(特に野外での)無茶な行動が苦手になる。最終的には行動不能に。
笑うことで攻撃の意思自体を削ぐこともできるが、自分も相手もしばらく笑いが止まらなくなる。


間が開いてしまいましたが、前回と同じく98さんの提案した能力を参考にさせていただきました。
めちゃイケでの「笑う男」のトランスっぷりが強く印象に残っているのでそのへんも加えています。
ご指導、よろしくお願いします。

495名無しさん:2006/08/10(木) 16:39:06
乙です!
おもしろかったです。有野さんカコイイ!
濱口さんの能力いいですね。使い勝手よさそう。

496名無しさん:2006/08/11(金) 01:33:36
乙です。おもしろかった!
画が浮かびますね。
灯に照らされた有野がにやっと笑うとことか、キタキタって感じでワクワクしました
続きが読みたくなりますね。
能力も良いんじゃないでしょうか。
石の能力が「向けられた攻撃を無効化させる」だから
笑うことによって相手の攻撃の意思自体をそぐ事も出来るってわけですね。
なるへそです。
若干一文の長い部分があるような気がしないでもないですが、
そんなに気になりませんでした。
GJです!

497元金持ちピン芸人の話:2006/08/11(金) 11:08:31
はじめまして。
以前からかいてみたいと思っていた功太さんの小説を投下したいと思います。
批評おねがいします…

498元金持ちピン芸人の話:2006/08/11(金) 11:12:31
ここはbaseよしもと
「そんじゃ、先輩方。お疲れ様でしたー」
baseよしもとのピン芸人、中山功太はそう言うと建物を出た。

「あー、疲れたわー。さっさと家帰りたい」
ブツブツ言いながら歩いていく彼の後ろに一つの影が近づいていく

「あの、」
「うわっ!びっくりしたわー。何?」
声をかけてきたのは名もよく知らない若手芸人だった。

その芸人は中山の目をじっと見つめながらボソリとつぶやいた。

「…あなたはどっちなんですか?」

前にもこんなことがあったのでちょっと嫌な予感がした。

まったく物騒な世の中になったもんやな。
このお笑いの世界はどうなってしもうたんや。

「別にどっちでもええわ。どっちもあんまり変わらんやろ」
「僕にとっては重要なことなんですよ。石を奪っていいのか悪いのかわからないでしょう?」
「お前も石目当てか」
「そうですよ」
「別に俺はこの石、守る必要ないねん」
「じゃ、大人しく渡していただけませんか」
「でもなー、石の力借りてまで有名になろうとしてるお前らに腹立つねん」
「…じゃあ、力づくで取らせて頂きます」
「やる気マンマンか…!」
うわ、めんどくさいわー。っていうかこの状況でこんなん考える自分サイコー。

「僕の能力、教えましょうか?」
そう言った途端にその若手の手のひらの石が輝き、
足元に何かが集まってきた。
その集まってきた何かはー
虫。
さまざまな種類の虫がぞわぞわと集まっていた。
女の子ならとっくの昔に悲鳴をあげていただろう。

「さあ、虫たち!行け!!」
足元に群がっていた虫たちは若手の指示を聞くやいなや一斉に中山へ向かってきた。

「…しゃあないな…」
マジで、こんな戦いに意味あんのか。

499元金持ちピン芸人の話:2006/08/11(金) 11:15:38
スッと息を吸い込んでー

「チェケラー!虫たち行けーって言われて簡単に行くんかー、人に動かされるのは何も考えてない虫の脳の小ささ故です!」

この真面目な場面で普段やっているようなネタをやる中山。

「…真面目にやらないと…そいつらが襲ってきますよ!!」
「…んー、しばらくの間それは無いなあ」
「なっ、何を言って………?!」

虫たちを見た若手は驚いていた。
先ほど自分が命令した虫たちが動きを止めていたのだ。

「な、何を…」
「チェケラー!『な、何を…』!そう言われてすぐに教える奴いるかー、よく考えー」
「こ、このっ…!」

怒りをあらわに若手はすぐ近くにいる中山を掴もうとする。
しかし、体が思うように動かない。
頭の中は怒りのほかに何故、と言う疑問と能力がわからない恐怖でいっぱいであった。

「な、何で体が…動かせないんだ…!」
「チェケラー!普通気付けー、今石の取り合いしてるんだから石の力に決まってるだろうがー」

中山の手からオレンジの光がこぼれんばかりに輝く。
石の力を使っている証拠。

「くそっ…くそっ…!なめるなあーー!!僕は…僕は…有名になるんだーー!!!」
それはもはや声にもなっていない叫びだった。

「…あーあ」

確かに自分も売れたいと思ったときがあった。でも、気付いた。

売れるのが目標やない。

別に売れなくても、自分のネタを気に入ってくれた人が笑ってくれればそれでいい。

芸人に大切なのはその気持ちとちゃうんか?

この石の取り合いでそういうことを忘れた奴らを見ると腹が立つ。

だから、俺は自分に向かってくる奴はとにかく倒す。

白も黒も関係ないわ。

とにかく倒す。


ー虫もコイツも、そろそろ動くかなー

その通りだった。
若手が動くのと、虫たちが動き出すのは同時だった。
ザザザザザザザザ…………ッ!!!!
「消えろーーーー!!!!!」

アイツが動けへん間に帰ればよかったわ。
「…石が力を失えば虫も止まるか?」
うーん、やってみるしかないか。
ホンマ疲れてんのに。めんどくさっ。
時計をチラリと見る。まだ15分たってへんな。

「チェケラー!『なめるなあー』!お前は笑いの世界をなめてますからー、石でどうこうできる世界じゃないから。

…シーユーバイ」

そのツッコミを言った途端にその若手の表情がなくなった。
それと同時に石の輝きが消えー
若手の手の中から滑り落ち。
虫たちは止まりー
一斉にどこかへと散らばっていった。

それからどれぐらいたったのだろうか
「ふー…、危なかったわ…」
そう言うと手のひらの中の石を眺めた。
「自分の攻撃系じゃないから大変やわ…」

そうつぶやくと、地面に落ちている先ほどの若手の石を拾い。
家路へと向かうのだった…。

「この石はあとで田村さんにでも渡すか…。
あーあ、これでしばらくネタ作れへん」

あーあ、どないしよ。
この石のせいやで、まったく。

家につくまでそのつぶやきは止まらなかった…

500元金持ちピン芸人の話:2006/08/11(金) 11:21:30
中山功太
石:レッドアベンチュリン
(自分が計画した事柄をまるで壮大な絵を描くかのように進めることができる)

能力:
①「チェケラー」と言った後に、対象へツッコミを入れると発動。対象の動きを一定時間、完全に停止することができる。

②15分以内に3回、①の能力を同じ相手に使うと、石に関する相手の記憶を無くすことができる。
ただし、一時的な作用であり、何かの拍子に思い出す可能性もある。
①の能力を3回発動させた後に「シーユーバイ」と付け加えなければ、この②の能力は発動せず、①の能力を3回使っただけになる。

代償:洞察力が使う程、ガタ落ちする。(相手にツッコミが入れれなくなる。)

なお、②の能力は三日間で二人までしか使用できない。

新しい石の能力を考えようの>405から頂きました。
前には石が違う中山さんの話がありましたが私はこちらを書いてみました…

おそってきた若手の石
石 ?
能力 周りに虫を集めあやつる
条件 虫がいないところでは使えない
   使った後は家の中にゴキブリやムカデがたくさん増える

あんまり深く考えてなかったんです…ホントにすいません…

501名無しさん:2006/08/11(金) 12:47:41
乙!面白かったです。
やる気ないのが中山さんらしい。

502名無しさん:2006/08/11(金) 13:07:21
過疎気味の本スレの為に是非投下を。

503 ◆1En86u0G2k:2006/08/11(金) 13:34:54
>>497さん
消極的ながらも信念のある感じが素敵でした。
虫の能力と代償が恐ろしいw

>>495-496さん
コメントありがとうございました!
文章が続いて止まらない癖には毎回悩んでいるので、
徐々に直していきたいです。
本スレ、保守がてら行ってきます!

504名無しさん:2006/08/13(日) 00:33:26
>>497
乙です!面白かったです
何か一匹狼でっぽくて良いキャラですね。
「チェケラー」のネタが中山功太口調で聞こえました。
勝手に言うだけですが、もう少し長い話が読んでみたい気がしました。
話が広がる感じの(他と絡んだりとか)
中山功太良い感じだと思います。GJです!

505名無しさん:2006/08/24(木) 09:17:28
提案スレの405です。

まさか、あの案を使っていただけるとは思っていなかったので非常に嬉しいですw

元々、中山を一人で戦わせようと思っていなかったので、あのような補助系の石の能力にしています。
(ネゴと組ませた話を考えていたので)


そんな使いにくい設定で単独で使っていただきありがとうございます!!話も中山らしさがすごく出ていてGJです!!!続きがあるなら、楽しみに待っています!!!!

506 ◆L2gLDbsqeY:2006/08/26(土) 23:43:24
はじめまして
麒麟の川島と次長課長の井上の話をかいてみました。
時期的には麒麟の田村が石の力に目覚めた直後
まだ井上が石を手にしていない頃の話です。
添削お願いします。

507 ◆L2gLDbsqeY:2006/08/26(土) 23:45:35
「…井上さん」
「しゃべっとらんと手ぇ動かしぃ」
「いや、あのすいません、これ途中で終わらせてくれませんかね?」
川島の手にはゲーム機のコントローラー
目の前にあるテレビの画面には2次元のキャラクターが肉弾戦を繰り広げている。
たまに、手から炎が出たり竜巻が起こったりするのは
ここ数ヶ月間自分の目の前で似たようなことが起こってるなというのをどこかでぼんやり思った。
「そうやな、お前が俺を超えたら終わらせたるわ」
「無理です、井上さん強すぎます。」
「何やの、お前最近付き合い悪いから絶対自宅でゲーム特訓しとるもんやと思ってたのに…
むしろ前より弱くなっとるやん」
「まぁ、最近別件で忙しくって…ろくにゲームも触れてなかったんで」
「だから、俺が今ここでその弛んだゲーム根性叩きなおしたる」
「それって叩きなおすものですか?」
苦笑を浮かべながら川島は先ほど井上から課せられた対コンピューター100人抜きの37人目の対戦相手に必殺技をくらわせた。
「そういや、河本もぼやいとったわ。『最近みんな付き合い悪ぅなって飲み会誘っても誰ものってこん』て」
「そう、ですか」
「何なん?そういうの最近流行ってるん?」
その質問に対して川島は曖昧に笑ってかえすしかできなかった。

508 ◆L2gLDbsqeY:2006/08/26(土) 23:47:07
次長課長の井上は彼らがまだ大阪にいた頃大変世話になった人物である。
相方である田村の次に川島に声をかけてくれて極度の人見知りであった川島を変えてくれた大きな要因だ。
以前は仕事で東京に来た際には、ほぼ毎回といっていい程井上とこういったゲームで遊んでいた。
しかし、黒水晶を手にして以来、黒ユニットの芸人に幾度となく襲われ
否が応にも戦いに巻き込まれる事となって彼らの周りの環境は一変した。
どうやら思っていた以上に「石」は芸人の間に広がっているらしいが
幸いにもこの先輩はまだ石を持っていないらしい。
こんな無意味な戦いに自分にとって大切な人達を巻き込みたくない。
だからしばらく相方である田村にも「石」の事は語らなかった。
しかし、その相方も石の力に目覚め「一緒に戦う」と力強く言ったのはつい最近の事だ。
だが、一方で川島は考えていた。
田村の石が完全に覚醒した今ならその力を封印できるのではないかと。
今からでも遅くない、戦うのだけは自分だけでいい。
あまつさえ田村の石を覚醒させるに至ってしまった自分に少し憤りさえ感じていた。

509 ◆L2gLDbsqeY:2006/08/26(土) 23:50:51
そんな中東京での仕事を終えた川島達の楽屋前に突然現れた井上に驚き
「川島、ちょっと来い」の一言を投げかけられた
ついていった先は久々に訪れた井上の自宅。
そして自分もまだ購入していないゲームをいきなりやれと言われ、
100人抜きという課題を与えられといわれ現在に至るという。
いくら突拍子な言動をする井上の事とはいえ、いきなりすぎないか…
そんな事を思い返しながら、慣れないキャラを動かしていると急に目の前の画面が一時停止した。
ゲームを停止させた張本人、井上は頭をかきながら目を泳がしながら何かぶつぶつ呟いた後川島の方に向き直った。
「川島お前や、昔っから厄介ごと一人で抱え込むんクセやな」
「えっ?」
「別にそれが絶対にアカンって言っとる訳やないけどや…
お前が思っとる以上にお前の事心配してる奴おるんやから…」
「心配…俺なんかの…ですか?」
「なんかとか言うなや。お前いっつもそうやって自分卑下して…今後そういう態度禁止!これは先輩命令や」
「いや、これはまぁ、性格上の問題なんで…まぁ極力改善していくようにはしていきますよ」
「じゃあ、今ここでお前が何を抱え込んで悩んでるんかをさぁ、言え、今すぐ言え」
「今すぐって、何ですか?刑事と犯人のコントやないんですから」
笑いながらも内心川島は焦っていた。
妙な所で勘のいい井上に誤魔化しがきくだろうか。
だからといって正直に全てを話すという事もできるはずがない。
川島が思考の海に沈みかけた時だった。

「石…の事?」

井上の口からその単語が飛び出た瞬間川島は自分の心臓が一際はねたのを感じた。
心臓の脈打つ音が耳元で大きく聞こえる。
石の噂が芸人の間で広まっているならそれが井上の耳に入っていてもおかしくはない。
だが、川島に対して石の事を切り出すという事はすなわち少なからずとも川島の現状を把握した上での事。
川島はポケットに忍ばせている黒水晶を握る。
だが黒水晶は共鳴すらもせずひたすら沈黙を守っている。
石をもっていない、しかし黒い欠片に操られている気配すらない。

510 ◆L2gLDbsqeY:2006/08/26(土) 23:52:33
「どうして、いきなりそんな事聞いてきはるんですか?」
一気に乾いた喉から出る声は弱冠かすれてはいたが、極力平静を川島は装った。
「どうしてって、どうしても川島が何もいわんかったらこう言えって田村が…」
「は?田村?」
「あー、そういや俺の名前は出さんで下さいーみたいな事言うとったな…
でも、もう言うてもうたし…別にえぇか」
井上の口から飛び出た田村の名前に先ほどまでの井上の行動に合点がいき
一気に緊張感がとけ笑いがもれてしまう。
「ははっ、はははっ…あー、そういう事ですか…アイツに頼まれたんですか?」
「まぁ…川島が元気ないから励ましたってくれって…」
「やっぱりな…すいません井上さん。いらん迷惑かけて。」
「迷惑とかこっちは思ってへんよ。俺かて最近お前の様子おかしいとは思っとったし…
何とかしたいとも思ってたんはあったし」
「ほんま下らん事先輩に頼むなやアイツ」
ぼそっとつぶやいた川島の一言に井上は叫んだ。
「下らん事ちゃうわ。田村はお前の事本気で心配しとったんやで!」
突然の剣幕に川島は言葉を失う

511 ◆L2gLDbsqeY:2006/08/26(土) 23:54:30
「なぁ、相方ってのは何でも話せて、心から信頼しあって、
どんな時でもお互いの事を気遣って支えあう存在ちゃうん?
俺にとってはそれは河本で、川島にとってのそういった存在が田村やろ?」
そんな井上の言葉にいつだか田村のいった言葉が蘇る。

『俺ら二人で麒麟やろ!』

「信頼…」
川島の脳裏に二人で戦った時の記憶が蘇る。
何も言わなかったのにお互いわかりあえて、ただ側にいただけなのにどこか心強かった。
一人の時には感じなかった安心感。
どこかでわかっていたはずなのに気づこうとしなかった。
それを気づかせてくれたのは目の前の先輩の言葉。
川島は改めて井上の何気ない偉大さを思い知った。

「とにかく俺が言いたいんは、もっと田村とか俺とかbaseの奴らとか、
そういった人らを頼っても全然構わへんねんで」
「いいんですか?頼ったりして」
「おう、いつでも大歓迎や」
「ありがとうございます。」
川島のそのセリフは目の前にいる先輩に対してそして、
おせっかいにも余計な気を回してくれた相方に対しても
心の中で同様の言葉を投げかけた。
そう言っただけで川島は自分の中の渇いていたものが急速に潤っていくのを感じた。


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