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それは連鎖する物語Season2 ♯2

1数を持たない奇数頁:2014/09/05(金) 21:07:09 ID:LUyN3zHI0
つまりリレー小説なのだ

574数を持たない奇数頁:2015/05/21(木) 22:01:33 ID:awJIetQI0
とりあえず書くに当たって一つ相談がある
ソウジくんのオリジナル魔法は「七つの大罪」と「八つの枢要罪」のどっちを採用すべきだ

575数を持たない奇数頁:2015/05/21(木) 22:08:15 ID:awJIetQI0
あとソウジくんに呪符ケースもたせて(てか持ってることにして)よか?

576数を持たない奇数頁:2015/05/21(木) 22:13:03 ID:n7FUnMUo0
良いんじゃね

577数を持たない奇数頁:2015/05/21(木) 22:28:59 ID:qMzjvXRI0
俺は七つの大罪モチーフだと思ってた
ケースに関してはそれぐらい持ってると思ってた

578数を持たない奇数頁:2015/05/21(木) 23:28:33 ID:awJIetQI0
おk、分かった
七つの大罪+呪符ケースありで行くわ
気長に待っててくれい

579数を持たない奇数頁:2015/05/28(木) 20:17:33 ID:hOBUGXvw0
今回割と難産な気がするなあ
一週間かけて予定の四分の一程度しか書けてないわ、話全然進んでねえし
ただここで投げるとまた風呂敷広げちゃうから、少しでも纏めてから投下したい
やっぱり結構時間食っちゃいそうだわ、すまぬ

580数を持たない奇数頁:2015/05/28(木) 20:23:45 ID:X9WQYUSU0
そろそろ俺が実家教習やら資格勉強でoh……になるから好きなだけ時間を使ってくれ
少なくとも6月の末位までは駄文書くどころじゃないかなぁ……相変わらず手が黒く染まってるし。いや、染まってるのは関係ないけど

581数を持たない奇数頁:2015/05/29(金) 08:02:04 ID:VxlhSXMk0
むしろ一週間で四分の一できたなら、1ヶ月あれば完成するって事じゃないか
だいたい俺のターンで1ヶ月くらい待たせてるし、俺は一向に構わん


しかしこれ纏められるのか…?(主戦犯の発言)

582数を持たない奇数頁:2015/05/29(金) 22:08:10 ID:he2bekBM0
一応着地点は見えてるんだよね
ただ20kb書いて話がピクリとも動いてないというね
フフ…後三倍か…
ウィンガーディアム・レヴィオーサ…(重篤な精神汚染)

583数を持たない奇数頁:2015/06/01(月) 21:08:05 ID:ZCejbQuk0
そういや戦争って何年前だっけ

584数を持たない奇数頁:2015/06/01(月) 21:41:06 ID:99rSemTc0
特に決まってなかった気がする

五界云々をぶっこんだ本人としては半世紀ほど前に表面的な終戦で考えていた
少なくとも他界人間で本音はどうであれ表面上では手を取り合える程度には和解するのに半世紀はいるかなぁと

585数を持たない奇数頁:2015/06/01(月) 21:42:44 ID:ZCejbQuk0
半世紀かあ
ちょっと具体的に決めることになりそうだが、いいだろうか

586数を持たない奇数頁:2015/06/01(月) 21:45:54 ID:99rSemTc0
俺は別段構わんよ。
ぶっちゃけ学院設立の為の時間も加味して最低でも聡治が生まれる以前かなぁとは考えてるけどね

587数を持たない奇数頁:2015/06/02(火) 06:58:18 ID:ic1lAvTw0
兄ちゃんと夕霧さんは経験者だと思ってた
いや、終戦宣言が半世紀前で、その後も紛争があったとすれば問題ないか

588数を持たない奇数頁:2015/06/09(火) 00:01:32 ID:cc.RfC1.0
とりあえず40kbほど書けたら投下するよ…全然話進んでないけど…
もうゴールしてもいいよね…

589数を持たない奇数頁:2015/06/14(日) 20:26:25 ID:frFkJAz20
とりあえず投下できるには出来るが、Kの人は試験終わりそうだろうか
出来れば終わってから渡したい(というか話進んでないから足掻きたい)

590数を持たない奇数頁:2015/06/14(日) 21:48:46 ID:CpdJYs8A0
来週が試験だから今パスしても良いんですぜ?
書き始めは来週以降になるし、結局競作の感想文まだ書けてない上に内容が試験内容で上書きされたから読み直し必須、更にFEifが出るからなぁ……まぁ再来週くらい書き始めになると思う

591数を持たない奇数頁:2015/06/14(日) 21:51:23 ID:frFkJAz20
おk、もうちょい粘る
FEifは俺も買うから、24日までには投下するマン
正直時間掛けすぎたと思ってる

592数を持たない奇数頁:2015/06/21(日) 10:42:33 ID:U.yxSdRY0
とりあえずこれ以上書いても変な風になっちゃいそうだから、二日後には諦めて投下するわ
一ヶ月も掛けた挙句、話全然進んでねえってどういう事だ俺は。アホか
すまんKの人、大言壮語をはいてしまった。

593数を持たない奇数頁:2015/06/21(日) 11:35:31 ID:fqM.xZo60
待ってるぜ、欲望のままに仕上げるがいいさ!

っていうかコレをどう収束するのか我が事ながら気になるわ

594数を持たない奇数頁:2015/06/21(日) 18:12:23 ID:YHe0EaOU0
ヒャッハー、絶対に落ちたとも確実に受かったとも断言できない出来栄えで結果発表まで胃が痛くなったKが通るぜぇー!
具体的に言えば後一問当たれば合格だけど後全部が何とも言えん状態だぜぇー!

了解だぜ。凶作の感想仕上げやらFEifとかやりつつまったり進めるんだぜ

595数を持たない奇数頁:2015/06/21(日) 20:53:39 ID:YHe0EaOU0
ヒャッハー、テキストに載ってなくて気になってた問題をggったら回答合ってたみたいで胃が痛くなくなったKが通るぜぇー!

596数を持たない奇数頁:2015/06/22(月) 22:09:02 ID:AX7qxBNw0
水曜までには投下できるが、先に謝っておく
長くなりすぎた(現時点で50KB)

597数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:38:16 ID:ss5gHwv.0
投下するけどあれだ、説明不足な点が否めない
分かんないとことかあったら聞いてくれると助かる(人間の屑)

598数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:39:22 ID:ss5gHwv.0
ゾル、と、「それ」は生えてくる。
光を反射して青白く煌くそれは、鱗だ。竜の皮膚を覆いつくす、蒼い鱗。それが苗木の枝のようにゆっくりと、伏神劔の胸部から「生えて」いるのだ。
――先刻、口から吐き出した物体か!
放心から立直った劔は、即座にその事に気付くがもう遅い。うちで猛り狂う竜と、体内に打ち込まれた楔――崩れぬ群のベイバロンの「種子」の強制力が、彼の膝を強制的に折らせた。
「がっ、……ぐ、ああ……!」
 獣染みた呻き声を上げて、劔は身を捩る。しかし、何も出来ない。ベイバロンの「種子」は謂わば即効性の毒であり、先刻の激しい運動でそれが回りきった状態となってしまった劔は、竜を押さえつけるので精一杯なのだ。
胸から顔を覗かせ、根を張って皮膚にへばり付き、肉を喰らってどんどんと皮下へ侵蝕していく鱗を、如何する事もできないのだ。
ベイバロンが、愛しい妹の面相を宿した竜が、呵々と笑う。
「露払衆が聞いて呆れるのう、伏神劔。己が軽挙を誹られて、怒り心頭に発してみれば、妹に似ているから、という理由でその斬撃を止めてしまう。半端、全くもって中途半端極まりない。昔の貴様は、もう少し芯のある男であったと思うが、何ゆえそこまで鈍った?」
 ――ああ、嫁か。
瞳に嘲笑の色を浮かべながら、吐き捨てる様に言う。顔を上げた劔の、満腔の憎しみが込められた眼光を涼しげな顔で受け流し、竜は笑声を交えながら、続ける。
「あの女、夕霧と言ったか? あれが貴様に、人としての心を残してしまった。しかし、奴は貴様から復讐心を抜き去るほどの存在足りえなかった。故に貴様は、過去を捨て去る事も、復讐を徹底する事も出来ず、そうまで中途半端になってしまった。……皮肉、よのう。復讐の為の同志が、結局は一番の足枷とは」
 ベイバロンの口唇が、三日月の如く引き裂ける。劔は荒れ狂う竜の力を必死に押さえ込みながら、「黙れ」と声を絞り出す。だが、蚊の鳴く様なそれに他者を威圧する力はなく、徒にベイバロンの嘲弄を煽るのみであった。
鱗の「枝葉」は、既にびっしりと鱗に覆われており、それは徐々に背、首、腹を侵していく。その速度は、先ほどのそれに倍するほどの物であり、劔への圧力も、秒刻みに強まっていた。
ああ、もうすぐだ。
もうすぐで、こいつの心は折れる。
ベイバロンはこの上ない歓喜の念を覚えると共に、嗜虐心を募らせていく。この男が、「もう止めてくれ」と泣き叫ぶ姿は、どれほど滑稽なのだろう。想像するだけで涎が出そうだ。
見たい、見たい。どうしても。この半端者の泣き顔が。

頬を上気させ、喜悦に表情を歪めるベイバロンは、「竜」という常識の埒外たる絶対者は、しかし知らない。
 己の抱いている感情が、戦場では等しく「油断」と呼ばれる類の物であるという事を。

「足枷なんかじゃないさ」
 空間そのものを喰らい尽くしたかのような漆黒。それは馬上槍めいた円錐形を取り、空を裂いて飛来する。
微かに耳朶を打つその音に反応し、その槍へと視線を回らせたベイバロンは、咄嗟に防御しようと両腕を交差させ、掲げた。
しかし槍は、ベイバロンの腕に叩きつけられるその瞬間、まるで花が開いたかのように、その穂先を広げ、瞬く間に暗幕めいてベイバロンの周囲を覆った。暗幕は酷く狭い範囲で展開し、劔とベイバロンとの間に壁を作る。
「小賢しいッ!」
 襲撃者の正体など、わざわざ確かめるまでもなく分かる。そして、その実力の程も。「元」神童の無能の分際で、この竜を止められると思うな。
魔力の篭った怒声。およそ少女の見た目には似つかわしくない、万象をなぎ払う魔竜の咆哮が、暗幕を一息に吹き散らした。間を置かず、ベイバロンは足下の地面が抉れるほどの力を込めて、吶喊。槍の射線上で、呆けたように突っ立っている襲撃者に、一瞬で肉薄した。
驚愕の表情のまま固まる、伏神聡治。それは己の必殺を、あえなく弾かれた事へのものなのか、「敵」と見定めた者の面立ちが、亡き妹と同一の物であったことに対する物なのか。
どちらにせよ、敵対者の接近に何の対応も出来ない木偶人形と、彼は化していた。
やはり、とベイバロンは笑う。
「芸が無いのだ。失せよ、無能」
 そして勢いのまま、右拳を振りぬく。
聡治の、兄とは似ても似つかないほどの矮躯は、その一撃の下に無残に砕かれる――筈であった。
そこにいたのが、本当に伏神聡治であったのならば。

599数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:40:34 ID:ss5gHwv.0
 ベイバロンの拳は、過たず聡治の腹部を貫通していた。だが、拳には感触も反動もなく、まるで霞を散らしたかのような虚しさだけが残った。
よもや、躱されたというのか。瞠目するベイバロン。彼女の視界は次の瞬間、膨大な炎に埋め尽くされた。
伏神聡治――いや、それを模した虚像から溢れ出した【憤怒】の炎が、実像の伏神聡治の内に滾る激情のまま、ベイバロンへと殺到したのだ。
それは、言うなれば炎の濁流だった。波頭の如く押し寄せ、刹那の間も置かずにベイバロンの周囲を覆うと、天をも焦がさんばかりに高く、高く立ち昇った。
「――がっ、ぎ、いいいいいいいいいい!!!」
 突然の奇襲。そして、そこに込められた竜をも殺傷せんばかりの膨大な熱量。さしものベイバロンであろうと、絶叫を抑えきれない。
どこか少女の声音が残る、獣めいたそれを聞きながらも、伏神聡治は素知らぬ顔をしていた。能面のようになった表情からは、極限まで感情が削ぎ落とされている。
ただ一つ込められているものがあるとすれば、それは殺意だ。
『こいつだけは、何があっても鏖殺する』
決意をも超えた、「決定事項」とでもいうべき思念を湛えた、十代の少年が浮かべるべきではない表情を、彼は当然のように浮かべている。
聡治は今、劔の傍らに、先ほどまでベイバロンが立っていた位置にいる。横目でチラリと、立ち昇る火柱を眺めていたが、数秒も要さずに興味を失ったらしく、蹲る劔の胸元、彼をいまだ侵蝕し続けている鱗へ、一枚の呪符を投じた。
 七大罪【怠惰】。停滞と衰退を表すそれは、力が及ぶ限りならば、どんな術式であろうと、その進行を食い止め、衰えさせ、やがて完全に消し去る。
 それは、竜の力にも有効であったらしい。鱗の侵蝕は瞬く間に止まり、やがてボロボロと剥がれ落ちていく。同時に劔に働いていた強制力も薄れていき、彼の顔に滲んでいた脂汗が、スゥと引いた。
そこでようやく劔は顔を上げ、突然の闖入者が己の実弟であると気付いた。浮かんだ表情は、戸惑いと気恥ずかしさ。そして驚愕と悲嘆である。
――こいつ、こんな表情をするようになってしまったのか。
立直ったと思っていた。自分と違って、前に歩き始めていると、勝手に思い込んでいた。考えてみれば、いや考えるまでもなく、そんな事ありえる筈もないというのに。
自分にとっても、聡里は可愛い、大切な妹だった。しかし自分は飽くまでも露払衆の頭目。外向きの用事が多く、あの子と顔を合わせる機会は、聡治に比べれば著しく少なかった。
思い入れが、違いすぎる。
これでも、相当に立直った方なのだろう。その心に生じた変質が、不可逆のものであったというだけの話だ。
「大丈夫、兄さん?」
 劔に向けられる視線は、声音は、先日までの聡治と変わらない。
聡里の死がもたらした爪痕の生々しさを、愛しい弟の心の傷を見せ付けられているようで、見ていられなかった。
立てる? と差し出された手を取るでもなく、全身に力を込めて何とか立ち上がる。そして小声で呪文を詠唱。「我が意の元に頭を垂れよ」。拘束術式がその力を増して、荒れ狂う竜を無理矢理押さえつけた。
しかし、術式の反動を無表情の下受け流せる余裕は、今の彼にはなかった。全身の筋繊維が引き千切られるような激痛に、劔は酷く顔を歪め、口の端から血を流した。
しかし、もう膝はつかない。体を大きく仰け反らせながらも、悲鳴をかみ殺し、地面をを踏みしめて、反動に耐えた。
走りよろうとする聡治を手で制して、十数秒。やがて、ぜぇぜぇと荒い息を吐きつつも、両の足で立てる程度には回復し、劔は火柱と聡治との間で、視線を彷徨わせる。
ここを離れろ。生きていて良かった。強くなったな。不甲斐ない姿を見せた。
掛けるべき言葉が幾つか思い浮かぶが、どれもこれもが口から出る前に、喉元で霧消する。
「無事?」
 だが、掛けられた、昨日と変わらぬ聡治の声音。それは過去の、平和だった頃の伏神家、上伏の町を想起させ、劔の口は知らぬ内に動いていた。
「……すまない」
 きょとんとした表情を浮かべる聡治。だが劔は構わず続ける

600数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:41:32 ID:ss5gHwv.0
「俺が、俺が未熟だったから、愚かだったから、屋敷が、使用人たちが、上伏の街が1 砕かれている、焼かれている、人が、人が死んでいる! 身の程を知らなかった、周りを見ていなかった! そのせいで、そのせいで皆が……夕霧も……!」
 纏まりのない、子供の泣き言の様な言葉だった。だからこそ、彼の心情が推し量れよう、と言う物だ。
すまない、すまないと、幾度も繰り返す劔。聡治は何も、声すら掛ける事も出来ず、その姿を黙って眺めていたが、ボウ、という空間を叩くような独特な音と共に、炎に吸い込まれ、吹き荒れていた風が止まった事を感じ、火柱のあった方角へと視線をやった。
翼だ。
吹き散らされた業火の只中に、巨大な一対の翼があった。灰褐色のそれはどういった構造をしているのか、互いに折り重なって完全な球体を形作り、「憤怒」の炎から彼女を守っていた。
伏神聡里の姿をした竜――ベイバロンの体を。
やがて翼はゆっくりと開き、ベイバロンの姿を外気に晒した。その頭部に張り付いているのは、聡治の今は亡き妹と同じ面相。しかしそこには、彼女ならば浮かべないであろう醜悪な笑みが浮かんでいる。
彼女の肩甲骨のあたりから広がる翼が、二度ほどはためくと、宙に浮いていたその体が徐々に下降し、ベイバロンは音もなく着地する。
「兄さん」
 ベイバロンの復活に気付き、謝罪の言葉を一時止めていた劔が、唐突に掛けられた言葉に、一瞬だけ身を竦ませる。
劔の眼前。まるで劔を背後に庇い、ベイバロンに向かうような位置に立つ聡治は、振り返らずに言う。
「状況は、人伝に聞いただけだから、完全に分かってるわけじゃないけどさ。この惨状が兄さんの所為な訳ないじゃないか。だって町の人を殺してるのはこいつの子供なわけだし、それを指示してるのはこいつだ」
 だから悪いのはこいつだよ、と聡治は断じる。子供の様な理屈だが、だからこそ正鵠を射ているとも言えるかもしれない。
聡里と同じ顔をした竜と向き合っても、彼の表情は変わらない。瞳は揺るがない。ただ真っ直ぐと、眼前の「敵」を見据えていた。
「詭弁ですね、『兄様』。この状況を引起したのは、間違いなく劔『兄様』の軽挙ですよ」
 聡里の口調で、聡里の声音で、嘲るようにベイバロンは言う。
耳朶を打つその聞きなれた、そしてもう一度聞きたいと心から願った声は、呪術めいて劔の体を硬直させた。
 しかし、聡治は瞳も逸らさない。徐に一歩、踏み出し、その距離を徐々に埋めていく。
「黙ってろ蜥蜴モドキ。お前の寝言になんざ欠片も興味ねえんだよ」
「手酷いお言葉ですね。貴方の所為で死んだ妹に掛ける言葉とは、とても思えません」
 動じない。迷わない。
腰の両側に吊り下げた、二つの呪符ケース。その内右側のケースから、一枚の呪符を取り出す。
引き裂かれた呪符から、刻まれた呪文が蛇のようにのたうちながら、聡治の腕に流れ込む。それは流入中にも絶えず展開と発動を繰り返し、刻々とその紋様を変化させていった。
呪文は瞬く間に聡治の全身を覆いつくすと、僅かに光り、やがて何の痕跡も残さずに、消えた。
七大罪【傲慢】。
その効果は、彼の考案した七つの符術の中でも、指折りの単純さを誇る。
単純な、身体能力強化だ。
ベイバロンが翼を翻し、加速を開始する。それを視覚ではなく、肌で感じ取った聡治は動く。
今度は左のケースから取り出した符を二枚投擲し、ベイバロンの進路上に障壁を展開。漆黒のそれは竜の行く手に立ち塞がると共に、その視界を遮った。
ベイバロンはそれに怯む事も無く吶喊。伸ばした翼の先端を鞭めいて振るい、障壁を容易く砕く。だが、割れ砕けた障壁は霧散する事無く、空中に散らばり、陽光を遮って微かな陰に覆われた一帯を作り出した。
進路上には、誰もいない。聡治も、そして劔もだ。
「兄さん!」
 中庭全体に、声が響く。散らばった障壁によって音を反響し、その出所を推察させない。
臭いがする。風を切る音がする。伏神聡治は、過たず儂に近付いてきている。そう確信するベイバロンを他所に、聡治はただ簡潔に言い切る。
「もし自分が悪いと今でも思ってるんなら、少しでも上伏の人達を助ける為に動けよな!」

601数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:42:07 ID:ss5gHwv.0
 叫びながら、聡治は重力に身を任せる。目標は眼下。砕けた障壁の影に己の姿を潜り込ませ、逆光を背負う聡治は、上方からベイバロンの首筋を狙う。
重力に絡め取られ、矢めいて加速する聡治。突き出された右足が、今にもベイバロンの細首に叩き込まれんとしたその瞬間、ベイバロンはぐるりと旋回し、上空を、即ち聡治を仰ぎ見る。
両者の視線が、正面からぶつかり合う。そして両者は、互いに笑みを漏らした。
回転の勢いのまま、ベイバロンは蹴撃を放つ。聡治の長く、無防備に伸ばされた足は、しかしその致命的な攻撃に当たることはなかった。
接触の瞬間、聡治の姿が大きくぶれる。そしてそれは、やがて霞のように消え去って、後には虚空だけが残った。虚像だ、またしても。
生まれる、一瞬の静寂。
いや、それは正しく静寂とは言えない時間であったことを、ベイバロンの五感は十二分に承知していた。空間に散らばる障壁の破片が、一瞬だけ、軋むような音を立てたのだ。
ベイバロンの周囲に半球状に広がるそれらは、次の瞬間、爆発的な速度で収縮する。ベイバロンからすれば、それは幾千もの鏃が飛来してくるかのように思えただろう。
そこには、逃げ場など何処にもない。人間ならば、考える間もなく絶命した所だろう。
だが、ベイバロンは竜だ。条理を逸脱した存在だ。
ベイバロンは、再び咆哮を放つ。物理的な衝撃が周囲に拡散し、木の葉のように障壁の破片が吹き散らされる。一気に周囲が明るくなり、太陽を仰ぎ見る形となっていたベイバロンは、唐突に降り注いだ陽光に、一瞬だけ眼を細めた。
少しだけ狭まった視界は、同時に竜の六感をも鈍らせ、結果「その音」をを聞くまで、ベイバロンは聡治の接近に気付くことができなかった。
ジャリ、と靴が地面を踏みしめる音を聞くまでは。
前方、進行方向に視線を巡らせるベイバロン。眼と鼻の先と言えるほどの近くで、右腕を大きく振りかぶる伏神聡治の後方遠くで、伏神劔がうろたえた様子で立っている。
位置関係は、何も変わっていない。
奇襲のタイミングを、完全に読み間違えたのだ。
迎撃。いや、間に合わない。
咄嗟に顔の前で交差させた両腕に、人が出せるものとは思えない程の、尋常でない圧力がかかる。加速していた事が仇となった。その威力は、砲弾のそれと遜色ない物だったと言っていい。
翼が翻る。
静止。そして後方へと飛翔する。聡治の腕力によって「射出」される形となったベイバロンは、空中で旋回。慣性を無視するように停止する。
上空数メートルから聡治らを見下ろし、ベイバロンは未だに笑みを崩さない。
「暴力的な兄じゃのう。妹の顔を殴りつけるとは」
 聡治は答えない。眉一つ動かさない。
代わりとばかりに、後方の兄を振り返ると、ニカリと、彼らしくない少年的な笑みを浮かべた。
「『俺を置いて逃げる』んじゃない。『俺に託して救助に向かう』んだ。ここは俺に任せて先に行け、ってな」
 その言葉を聴いた劔は、何処か安心した様でいて、絶望した様にも見える複雑な表情を浮かべ、少しばかり逡巡すると、「すまない」と小さく呟いて踵を返し、伏神邸の正門へと向かっていった。
遠ざかっていくその背中を眺めながらも、空中のベイバロンは何もしない。ニヤニヤと浮かぶ笑みから考えるに、その方が面白いと考えているのだろう。
その態度も油断といえる態度ではあるが、流石にもう奇襲は喰わないだろう。注視されている事を、肌で感じられる。
――【傲慢】ではダメか。
既に効力が切れた肢体を軽く動かす。少しだが、疼痛があった。やはり反動が小さい。効力が薄かった証拠だ。
七大罪【傲慢】の効果は、単純な身体強化。そしてその強化率は【憤怒】と同様、聡治の意識と密接に関係していた。

602数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:42:46 ID:ss5gHwv.0
必要なのは、思い込みだ。
己が相手よりも強いという思い込み。出来るのならば、自分こそが最強だという思い込み。現実や結果を全て無視した、白痴の如き自尊心こそが、【傲慢】をごうごうと燃え盛らせる燃料たりうる。
七大罪の中では、言ってしまえば、聡治とは最も相性が悪いとさえ言える符だった。
実戦経験の少なさに起因する、戦術眼の未熟さこそあれど、聡治は基本的に現実主義者である。厳然たる危険を目の前に、なおも自分の力を信じられるほど、彼は幼くない。
今まで【傲慢】符を使った事は何度かあったが、それらは全て、勝算があった上での行動だった。全てここぞというタイミングで、勝てると確信した相手にのみ使用していた。
今回のように、勝てるか分からない――いや、確実に負けると理解できてしまう相手に使用したのは初めてだった。そういう意味では、先ほどの攻撃は実験的な意味合いもあったのだ。
結果は、まあ大体予想通りだった。
少しの間だけなら、ある程度の強化は出来る。結構な速度を持っていた竜を、カウンター気味に殴り飛ばしても、反作用によるダメージは全くと言って良いほど無い。
だが、やはり継続時間が短すぎる。ストックが100枚なり200枚なりあるなら話は別だが、戦闘中の連続使用は控えた方が良いだろう。
それ以前に、かの竜に対して打撃は鬼門だ。何せ、慣性の法則を無視した飛行を行う相手だ。どれだけ力を込めようと、打撃方向へと飛ばれたら為す術は無い。
一応、効果的な打撃方法も幾つか思いつきはするが、どれもが主戦術にするには奇襲的な要素が強く、即効性が低い。トラップの一つとして、記憶の片隅に留めておく程度にしておこう。
 今のところの感想としては、ベイバロンは単体ではそれほど強くない、と感じる。何というか、戦闘経験が圧倒的に足りてないのだ。
簡単なフェイントに二度も引っかかる程度の練度に、己の勝利を戦闘中に確信し、慢心して隙を見せる間の抜け方。これで弱敵ならばよかったのだが、生憎と相手は竜だ。生存確率が少しばかり上昇したに過ぎない。
アレが気まぐれに振った手が掠りでもすれば、恐らくは大きな負傷を負う事になるだろう。【傲慢】を使っていればある程度は軽減できるだろうが、どれほどのダメージになるのか、さすがにそれを実験する勇気も、必要もない。
だというのに、向こうはこちらの切り札とさえ言える三つの符術――即ち【暴食】【傲慢】【憤怒】を以ってしても、見る限りでは傷一つ付けられていないと来た物だ。
全く、嫌になる。甚だしく不公平だ。聡治はため息を漏らさざるを得なかった。
しかし、まあ良い。ここまでは許容範囲内だ。もとより、竜を倒そうなどとは思っていない。
聡治は左手を撫ぜる。
少し前、生えてきたばかりの腕。この身に、人ならざる力が宿る証。しかし右掌に感じるぬくもりは、何の変哲もない己の体温のみであり、本当にこれが、「龍」の力によって生成された物なのか、疑問を抱かずにはいられなかった。
――お前の力が俺の力っていうのは、嘘だったのかよ、白龍。
恨むぞと呟くが、その口調はどこかおどけて聞こえた。
紛れもない危機を目の前に、聡治の心にはしかし、微塵の恐れもないのだ。
聡里を装う龍に対する、断固たる怒りと殺意を差し引いても、彼の精神状態はやや異常であった。
下手を打てば、死ぬ。最善手を組み上げても、命の保障になるわけではない。そんな事、百も承知である。「死にたがり」が再発したのかもしれない。能動的な自殺衝動が。
だが、それだけではない。聡治は確信している。
身の内より湧き出てくる高揚感。そして、仄かな緊張感。こんな心地の良い感情が、其の様な暗い情動であるわけが無い。
彼は、竜を倒せない。だから、竜を倒せる準備が整うまでの時間を稼ぐ。
彼は、死にたくない。だから、どれほど敵が強大であっても、決して諦めない。
彼は、もう誰にも死んでほしくない。だから、何があっても退くつもりはない。
俺に任せて先に行け。それは決して、適当に言った言葉ではない。彼は、この場を「任されている」。人々を救い、竜を屠る為の一刀だと、認められているのだ。
過大な役だとは思う。役者不足が過ぎるとも。だが、そこに介在する彼女の、クロガネの信頼が、そこからは窺い知れた。
竜を倒す為の準備。それが何なのかは分からないが、護衛対象を一時的とはいえ危険に晒すような方法だ。彼女の性格から考えて、その効果は折り紙付きとさえ言えるだろう。
この考えもまた、信頼ゆえのものだろう。
誰かを信じ、誰かに信じられる。そんな当たり前の行動が、彼の心の中に不思議な明りを点し、その恐怖を消し去る。我ながら何とも単純な脳味噌だと、聡治は苦笑した。
誰かを守る為の戦いか。悪くない。

603数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:43:00 ID:ss5gHwv.0
聡治は左のケースから、符を一掴み取り出し、無造作に空中にばら撒いた。木の葉めいて散らばるかに思えたそれが、風に漂ったのはほんの一瞬だった。
それは地面に対して垂直に、空中にて静止する。
「錬成符」や「障壁符」などという基本的な物から、二度も竜の目を欺いた、伏神固有の「虚飾符」など、その種類は多岐に渡っていた。
パチン、と指を鳴らすと、それに呼応して魔符群が、その姿を消した。聡治の動きに、思わず視線を回らせていたベイバロンも、その光景を目撃し、僅かに目を細めた。
さて、大盤振る舞いと行こう。どうせ元値はタダなのだ。
「一つ、良い事を教えてやるよ、竜」
 地面を踏みしめて、一歩。見下ろす竜の眉間に、深い険が現れた。
「聡里が俺の事を『兄様』と呼んだ事は一度もない。あいつは『お兄様』と呼ぶ」
【傲慢】を一枚取り出し、ビリと破く。溢れ出し、流れ込む呪文に塗れながら、聡治は完全に表情の剥がれ落ちた顔のまま、言い放った。
「粗末な嘘だな、竜。――来い。どちらが無能か教えてやる」
「驕るなよ、出来損ないが。格の違いというものを、分からせてやらねばならぬようだ」

604数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:43:24 ID:ss5gHwv.0
 走る。走る。走る。
地を踏みしめて、蹴り飛ばす。まるで空でも駆けるかのような軽やかさで、彼女は山道を走り抜ける。
伏神山は、伏神家にとってはまさに城砦とでもいうべき地であり、魔界人租界の周囲に設置されていた地雷原ほどではないにせよ、その術式的防備は厳重である。
しかし少女――クロガネ・DSはそれらのどれ一つにすら触れる事無く、まるで無人の野を行くが如くに走り抜ける。
まるで罠や監視魔符の位置が見えているかのように――いや、事実彼女の眼はそれらを捉えているのだ。人と同様の見た目と、血の通う肉を持ちながらも、やはり彼女は一般的な「人間」の垣根を大きく飛び越えた存在であるのだ。
でなくば、竜殺しなどやってはいられない。
その身に纏う、肩部が大きく露出した漆黒のドレス――ワンピース、と言った方が正しいだろう――は風に翻り、はためく。その裾を煩わしげに押さえながら、クロガネは大きく跳んだ。
足下の地面は、クレーターめいた大きく抉れ、彼女はその反動のまま、大きく飛び上がった。風が頬を撫で、一瞬だけ重力を振り切った見返りとばかりに、心地よい浮遊感が彼女の体を包んだ。
だが、それもすぐに終わりを迎える。
彼女の体は放物線を描き、やがて重力に絡め取れ、地に落ちていくだろう。しかもその眼前には、落差数十メートルにも及ぶ、巨大な崖がぽっかりと口を開けている。
もしもこのまま落下すれば、如何な彼女とて、無事では済まないだろう。他ならぬクロガネが、それを一番承知している。
しかし、彼女の表情は一切動かない。心にも、漣ほどのざわめきも起こらない。彼女は確信しているのだ。己の「生」を。
体を大きく開いて、風を受け止める。頭が上がり、クロガネは空中を泳いでいるかのような、人間的錯覚を覚えた。それを馬鹿馬鹿しいと思わず、大切な宝物のように心の奥底にしまいながら、少女は黒髪を靡かせ、呟く。
「『ヤタガラス』、転送シークエンス開始」
 それは一瞬の出来事だった。
空間が揺らぐ。それは落下するクロガネの露出した肩に、ピッタリと寄り添うように追従し、その肩幅に沿うように横に広がっていく。
そしてクロガネの肩幅を大きく逸する長大な物となった。その全長、およそ五メートル。
座標特定。空間連結完了。彼女の体内で、音も無く幾十もの術式が走り、「それ」を人の世界に引きずり出す。
可装飛行ユニット「ヤタガラス」。
光を吸収する全き黒の翼が一対。それらの下部には、六つの円筒を一纏めにした様な鋼鉄の機材が、それぞれ一つずつ取り付けられている。もしその場に機界の文明に詳しい人物がいたならば、それが「斉射砲」と呼ばれる火器の発展形だと分かるだろう。
ユニットの最前方には、鴉の名前が示す様に、真紅色のアイカメラを輝かせる不吉な顔つきの鳥の顔の様なものがある。
胸部に該当する部位から、足めいた機材が二つ伸びている事を除けば、それはまさにカラスだった。
クロガネの肩を鷲掴みにする両足、即ち神経接続機《ナーブコネクター》は、既に彼女との同調を終えている。彼女は指を動かすかのような気安さで、ユニット後部の推進器や、各種スラスターを操る事ができる。
それを証明するかのように、推進器がボウと高熱を吐き出す。
ヤタガラスの長大な翼が、パラシュートめいて風を受け止め、得られた僅かな抗力によって、落下速度は緩くなったにせよ、クロガネはいまだ重力に捕らえられている。
しかし点火した推進器が、その落下軌道を捻じ曲げる。地面に対して垂直であったベクトルが、徐々に並行に。遂には完全に重力を振り切り、クロガネは足下の樹林を眺めるような体勢で、一路、上伏町を目指す。

605数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:43:36 ID:ss5gHwv.0
後背部の自由展開装甲が、液体めいて機体の表面を滑り、ユニット下部の露出したクロガネの周囲を覆い隠す。漆黒の闇の中、何処からとも無く伸びてきた、幾本もの姿勢固定用のアームが、その肢体を掴み、固定する。
同時にクロガネの視界も塞がれる、筈だったのだが、クロガネの視界には露出時と変わらない映像――いや、平時よりも遥かに高度に処理された映像が映し出されていた。
コネクターを通じて、ヤタガラスの電脳によって処理されたアイカメラの映像が、彼女の網膜には映し出されているのだ。それと同様に、外部の音声も、タイムラグ無しに彼女の耳朶を打っている。
まさに一匹の鴉となり、クロガネは空を切り裂くかのように飛翔する。
『アギョー・スタチューによる竜殺剣代理召喚の影響により、現在、全竜殺兵装、及び補助兵装の使用不可』
「承知しています。『カゴユミ』展開」
 脳に直接送られてきた電脳の囁きに、クロガネは肉声で応じた。コネクタは思考をも読み取るため、本来ならば必要は無いのだが、これはクロガネの癖の様な物だ。
クロガネの意志に呼応して、両翼の斉射砲が起動する。収納されていた砲身が前方に伸び、微かな駆動音と共に回転を開始する。
その砲身の奥に、ボウと妖しく光る薄紫色の「何か」がある事には、余人が気付く事は無いだろう。
伏神山腹から上伏町まで、人間の足ならば二時間以上かかるが、天駆ける鴉の翼ならば三分と掛からない。
凄惨な光景が、程なくしてヤタガラスのアイカメラに捉えられる。
胸が悪くなるような光景だった。数十体にも及ぶ竜が、逃げ惑う人々をまるで羽虫でも潰すかのような気安さで、鏖殺している。
人界の伝統的風情を色濃く残す町並みは、見る影も無くなぎ倒され、人間由来の赤・白・桃色で悪趣味に染め上げられていた。
轟く魔竜の咆哮に混じって、人々の断末魔や怨嗟の声が聞こえてくる。咆哮が含有する魔術的効果は、ヤタガラスの周囲を覆う対術障壁によって阻まれ、クロガネの体には何の影響も及ぼさない。
だがクロガネの心は、大きく揺れる。まるで呪詛にでも掛けられたかのように。
クロガネは込み上げる嘔吐感めいたものを、大きく深呼吸する事によってどうにか飲み込み、ギンと眦を決して、叫ぶ。
「全天視界モード起動! 全リミッター解除! これより戦闘駆動を開始します!」
 斉射砲が、威圧的にキュルキュルと廻る。
真紅のアイカメラが、町内全体に跋扈する竜たち全てを睥睨するかのように、禍々しくギラリと光る。
漆黒の凶鳥は雄雄しくギィと鳴き
――殺戮を開始する。

606数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:43:57 ID:ss5gHwv.0
吶喊。抜刀。納刀。その繰り返しだ。
だがその効果は凄まじく、彼の周囲には、夥しいほどの仔竜の死体が転がっていた。
「……ハァ、流石にこれ程の数ともなると、一苦労ですね」
 真川敦は心底ウンザリした様に溜め息を吐きつつも、その歩を緩める事は無かった。走り回っていなければ、『また』死にかねない。
幾ら「彼女」がいるとはいえ、だ。
 吶喊。抜刀。納刀。
霊質で形成された刃が、仔竜の体内で即座に実体となり、鱗の頑健さも何もかもを無視して、その巨大な首を寸断。敦は静止せずに駆け抜ける。
一瞬前まで彼がいた空間を、丸太のような仔竜の尾が、空間を切り裂くかのような音を立てて通過していった。
「いや、いや、流石真川のお坊ちゃん。あたしゃあ、もうそんなに走り回れないよ」
 割烹着を身に付けた、この戦場において明らかに異質な存在。稀口のおばちゃんは朗らかに笑いながら、しかしその目線を仔竜たちからは逸らさない。
古びた魔術書と、詠い唱える呪文が、彼女の声そのものを矛、そして盾へと変じさせる。彼らを囲む様に展開する仔竜らが、ある群では木の葉のように吹き飛ばされ、またある群では、吐き出した必殺の咆哮をかき消され、怒り狂って暴れ回っている。
――貴方の場合、そんな事をする必要が無いだけでしょう。
真川は思わず苦笑しつつ、またも刃を閃かせる。首を失った仔竜の巨体を潜り抜けるように走り、束の間の置き盾とする。
その合間にも、耳にはワンワンと酷い音が響いてきていた。稀口女史にその魔術的作用を打ち消されてはいるものの、竜の絶叫はその音を完全に失ったわけではない。
音とは空気を伝わる波。即ち衝撃である。大幅に減じられつつも、やはり数十体分ともなると、それだけで武器となるほど大きかった。
その音圧は凄まじく、己の周囲に、音の結界とでも言うべき物も発生させているらしい稀口女史はともかく、もしまともな人間がこの場にいたならば、良くて昏倒・失神。悪ければショック死をしかねない程だった。
全く、霊体とは便利なものである。
だからこそ、この童話の竜の様な生物達は奇妙だった。物理的な存在ではないはずの敦の体を、一度ではあるが削ったのだ。
幸いというべきか、この場は霊質に富んでいる。傷は自動的に修復したが、やはりあまり気分のいいものではなかった。屍肉を喰らっているような気分になって、真川は大きく顔を顰めた。
故に彼は、もうこれ以上一撃たりとも喰らわない覚悟で、走り続けていた。疲れを感じない霊体であるからこそ、とれる方法だ。
一応、その作戦は今の所上手くいっている。霊体にも影響を与えると思しき魔竜の咆哮も、稀口女史という想定外の闖入者によって、無力化に成功した。
だが、一体いつまで持つだろうか。斬ろうが薙ぎ払おうが、巨翼を翻して飛来する仔竜たちは尽きる様子が無い。どころか、その密度は増す一方だ。倒した数より、襲い来る数の方が多いのだ。
ジリ貧だ。何とか打開策を見つけねば、いずれ破綻する事だろう。
進路を塞ぐように振るわれた仔竜たちの尾、前腕、牙を用いた飽和攻撃を、神速の居合いで以って無理矢理進路をこじ開ける事で、回避する。
身体の一部を抉られた竜の絶叫を背後に聞きながら、急制動・反転。
そして、一閃。
地面を踏みしめ、満腔の力を込められて放たれた斬撃は、居並ぶ仔竜らの首を、纏めて斬り飛ばすには十分な威力だった。延長していた刀身が一瞬で収縮し、鮮血がその軌跡を残酷に彩った。
見事な一撃だった。しかし、あまりにも見事過ぎた。
敦の疾走が、一瞬だが停滞する。その傍らには、猛り狂う仔竜がいた。振り上げられた前腕の先で、鋭い鉤爪がギラリと光る。
――不覚……!
瞠目し、来る一撃への心構えを整えかけた敦は、しかしその行為が無駄だったと理解する。
 僅かな風が、彼の頬を撫でた。

607数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:44:10 ID:ss5gHwv.0
しかし目の前で起こった現象は、そんな生易しいものではない。衝撃波の壁とでも言うべき物が、仔竜の巨躯を傾かせたかと思うと、その足を地面から無理矢理引き剥がし、遂には弾き飛ばしてしまった。
 稀口女史の魔術だ。敦は疾走を再開すると共に、視線を回らせた。その先では割烹着の女性も、敦に視線をやって、「まだまだ甘いな」とでも言わんばかりの、微笑を浮かべていた。
「すみません、助かりました!」
「気合入れな、坊ちゃん。あたしらがここで暴れてる限り、こいつらはこっちに寄ってきてくれるんだ。こんな大舞台で倒れたとあっちゃあ、男が廃るって物だよ!」
「それは、一大事ですねッ!」
 飛び上がりながら、呪文を詠唱。大気が凝固して、空中に即席の足場を形作る。それを蹴り飛ばして、敦は再跳躍。十数メートルの高さまで飛び上がった彼の下方を、仔竜が地を揺らしながら駆け抜けていった。
仔竜は体当たりが失敗したと見るや、四足を踏ん張って急停止する。そしてそのまま踵を返し、再度攻撃を試みる。だがそれは、稀口女史の音の壁によって阻まれ、叶う事はなかった。仔竜群の一つに凄まじい勢いで叩きつけられ、嫌な音と共に翼が拉げる。
敦は空中で身を捻り、危なげなく着地する。舞い上がった砂埃の向こうでは、大量の仔竜達が、依然として彼らを包囲していた。だがどうした事か、猛り狂う咆哮は聞こえど、仔竜たちはその包囲を強めるでも緩めるでもなく、遠巻きに彼らを眺めているのみであった。
まるで、彼ら二人を恐れているかのように。
――いや。
「……鳥の鳴き声、かい?」
 鳴り止まぬ仔竜たちの咆哮に混じり、聞こえてくるか細いそれを、稀口女史は聞き逃さない。キィと、甲高くも雄雄しいそれは、やがて大気を振るわせるほどの大音声へと変貌を遂げた。
その段になって、ようやく真川もその鳴き声に気付いた。
詠唱と、つま先で地面に描いた術式による簡易防壁を眼晦ましとして使用し、竜の突進をやり過ごす。飛来する瓦礫を避け、猛追する数多の竜の攻撃を掻い潜り、稀口女史の傍らに立つ。
共に、空を見上げる。
青い鱗を纏った仔竜達が行き交う、絶望に染まっていたはずの空に、今、高校と照る太陽が顔を覗かせていた。
そして、それが地上に降り注ぐのを遮る影が、一つ。
響き渡る鳥の鳴き声が、一際強くなる。心なしか、仔竜の咆哮が弱まっているように思えた。
仔竜たちは、確かに恐れを抱いていた。ただしそれは、真川らにではない。俄に開けた蒼穹を行き交う、漆黒の陰にだ。
あれは――
「鴉、か?」
 およそ生物が出すべきではない速度で、縦横無尽に飛び回る陰。それは時折、晴天にあってなお冴え冴えと輝く針の様なものを撃ち出して、追いすがる仔竜を血霧と化していた。
体系化・効率化の波から逃れた「旧魔術」とでもいうべき力の担い手である稀口女史は、目端にその姿を一瞬捉えるのが精一杯であった。
が、真川は「生まれながらの災厄」とさえ謳われる存在が、大手を振って通学する五界統合学院に籍を置き、尚且つ学内の治安維持を担う風紀委員を、エクリエルに代わって統括・指揮する立場に身を置く男だ。
造作も無い事、とまでは言わないが、彼の知る限りのあらゆる術式で強化された視力は、見上げた空を乱舞するその凶鳥の姿を捉えていた。
 真川のその言葉を聴き、稀口女史も得心がいった様に頷いた。
「鴉、鴉か。確かにそうだねえ。この鳴き声といい、ちょろっとしか見えないが、あの姿といい、確かに鴉だ。この蜥蜴もどきと敵対してるってことは、仲間――」
「――とは、限らないでしょう」
 真川が言葉を引き継いで、続ける。その通りだよ、と言わんばかりに、稀口女史は頷いたが、数瞬の後、突如ニッとふてぶてしく笑った。
「鴉、か。今でこそ不吉の象徴みたいに言われちゃいるが、過去には神からの使いとも言われていたんだ。これが吉兆か、それとも凶兆か。賭けに乗ってみるつもりはあるかい、坊ちゃん?」
「――ここで引いたら、男が廃る。でしょう?」
 知らず、眉間に刻まれていた皺が解れる。更なる不確定要素の出現に、引き締めざるを得なかった頬を、無理矢理持ち上げて、真川敦は何ともぎこちない笑みを浮かべた。
も少しハッタリを効かせられれば、合格点なんだがね。そう胸中で呟きながら、稀口女史は無言で、敦の答えを待った。
「ならば、是非も無し。賭けに勝って生き残り、これ以上誰も死なせない! そうすれば、大団円が待っているというものです!」
「よく吹いたよ坊ちゃん! さあ、大盤振る舞いと行こうかねぇ!」
 陽光を反射する銀の閃きと、姿無き音の塊が乱れ飛ぶ。
仔竜の数体かが激怒の咆哮を喚き散らし、殺戮の坩堝と化したその場における、たった二人の獲物へと殺到した。

608数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:44:23 ID:XEYMRE4k0
死闘。疑う余地など一切無い、正真正銘の命の取り合い。それを眼下に眺めながらも、しかし鴉は――クロガネは機動を止めない。
様々な思いが湧き上がらんとする胸中に、あえて暗幕を引き、彼女は断固として、一個の殺戮機械として、絶望に染まっていた空を舞うのだ。
それこそが、最も彼らの助けとなる行為であり、その行為でしか、クロガネには彼らを助ける事などできない。
ならばそれを断固たる決意で、彼女の持つ全能を用いて行う事に、逡巡の余地などあろう筈もない。心配や再開を喜ぶ事は、後でも出来るのだ。
前方を塞ぐように現れた数対の仔竜を、最小の機動で躱す。標的の陰すら掴む事もできず、のろのろと振り返ろうとした一群は、グリンと一八〇℃回転した速射砲の蜂の巣めいた砲身が、鴨撃ちめいて容易くその巨体を穿ち砕いた。
血霧が淡く彩る空を駆けながら、クロガネは祈る。
――どうか、歌ってください。ミス柳瀬川。
「それが、この状況を打開する唯一の鍵なのです……!」

609数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:44:41 ID:ss5gHwv.0
 涙すら出なかった。
ビチャリと湿った地面を踏みしめる音と、ヌチャリと血液その他諸々で出来た謎の液体が糸を引く音は、もはや一組のセットの様に、少女の耳朶を打っている。
下は見ない。自分がどれだけ死者を冒涜した行いをしているのか、それを直視するのが怖かったからだ。さりとて、視線を前方から逸らすわけにはいかないので、自覚はせざるを得なかった。
人の死には慣れている。「中身」が零れ落ちた状態の人の亡骸で、キャアキャアと驚けるような人生は、残念ながら送ってはいない。
だが同時に、それを踏みしめて平然としていられるような殺伐とした世界にも、彼女はいなかった。魔道に落ちかけたことは幾度もあれど、その都度、多くの人間が彼女を引っ張り、外道の道へと引き戻していたのだ。
――瀬戸さん。柏さん。
特に仲の良かった二人の名前が、喉下から出かかった。死人は皆仏であり、丁重に弔わねばならない。そう教えてくれた彼らは、この状況を見たらどう思うだろう。
――あるいはこの「中」に、彼女らは「いる」のだろうか。弔ってほしいと、そう願っているのだろうか。
そこは正に地獄だった。倒壊した家屋や建築物の上や下に、酷く悪趣味な色合いの、赤黒い液体・固体がベチャリと付着している。それが生き物のなれの果てである事、そして散らばる指や顔の半身などが目に付けば、押並べて人間由来の物であるという事には、容易に気付けるだろう。
元が何人であったのか。そんな予想すら寄せ付けぬほど、徹底的に砕かれ、潰されている。漏れ出た、あるいは搾り出された種々の体液は洪水のように溢れ、奇跡的に通行可能な程度には「綺麗」な道、つまり少女――祢々が走る道を隙間無く染めていた。
まさに屍山血河だ。そこが現実の世界であるなどとは、到底信じられそうにない程の、凄惨な光景。
眼を、耳を塞ぎたい。何もかも放り出して、平和な所に逃げ出したい。
如何な露払衆とて、祢々はまだ少女だ。そんな欲求が湧き上がってくるのは、当然と言えた。寧ろそんな物を抱えながら、なお足を止めていない方が、異常とさえ言える。
『ミス祢々、ストップ。二十秒後に上空を竜が通過します。良しと言うまで、近場の建築物の陰に潜り込んでください』
 あまりにも唐突に、あまりにも平坦なトーンの声が、祢々の耳朶を打った。それが誰の声であるかを認識するより前に、彼女の体は動いている。
道の傍らに建って「いた」建物の陰、その健在の隙間に素早く体を滑り込ませる。折り重なった建材は運よく安定しており、長方形の機材を抱えた小柄な少女が一人入った程度では、崩落を起こす危険性はなさそうだった。
機材、要するにノート型のパソコンだ。彼女にはそれが何なのかは一切分かっていないが、聡治とその友人らしい黒い鎧に、出来る限り守り抜く様にと言いつけられている。
命が危なくなったら置いてでも逃げろ、と言われた気もしたが、恐らくは気のせいだろう、と祢々は断じた。
自分は死守しろと命ぜられた。自分は劔様の命令通り、聡治様を守る為に行動している。方法は迂遠ながら、これが最も聡治様の安全を守る事に繋がるのだ。
何も考えず、命令に従って己の身命を賭す。そうしている限りは、恐怖や悲しみを脇に除けておける。だからこそ、この任務に志願したのだ。
胸に抱えたパソコンをギュウと強く抱きしめて、祢々は危険が去るのを待った。すぐ近くから漂ってくる濃密な死臭を、認識の外に追い出そうとしながら。
ややあって、バサリと天空を切り裂くかのような音が響き、やがて遠ざかっていった。
『OKです。再び道なりに進んでください』
 再び、耳元で声が響く。
つくづく、不思議な道具だなと、己の右耳に差し込まれた「無線機」だとかいう、黒い楕円形の機械に感心しながら、祢々は素早く路地に飛び降りて、どす黒く染め上げられた道を走り出す。

610黒龍<致し方無いな、定命の者よ……:黒龍<致し方無いな、定命の者よ……
黒龍<致し方無いな、定命の者よ……

611一文抜けてたから張りなおし@西口:2015/06/23(火) 21:46:03 ID:ss5gHwv.0
家々が薙ぎ払われ、開かれた空。遠方に見える羽蜥蜴――どうも竜というらしい――の群の中を飛び回る黒い影が、絶望に染まる空にポッポと赤い点を作り出していた。
鎧は、あれを味方だと言っていた。だから恐れる必要などないと。だがあの影は、この地獄を作り出したのであろう竜達を、鎧袖一触に蹴散らす存在だ。それを「味方だから」の一言で、安心して眺めている事など出来よう筈も無い。
彼女にしてみれば、どちらも十把一絡げのバケモノだ。見つからないように、目をつけられないように、縮こまるようにして、駆け抜ける。
やがて周囲を流れていた廃墟然とした町並みが、徐々にその様相を変じさせてきた。徹底的に、町内の端から端までを、畑でも耕すかのような丹念さで砕き潰していた、先程までの街区とは違い、そこは破壊の跡が疎というか、どうにも「雑」に思えてならなかった。
疑問を抱えつつも、祢々は歩度を緩めない。時折入る鎧からの指示に従い、先程のそれと比して、圧倒的に綺麗になった道路をタタタと駆け抜けていく。
 玄関部を大きく抉られ、内装を曝け出す羽目となってしまった民家に飛び込んで、上空を回遊する暴威の視界から逃れようとジッとしていた祢々は、まるで雷にでも打たれかの様な唐突さで、はたと気付いた。
そうだ。この街区にはその成れの果ても含め、「人」がいないのだ。
祢々が身を伏せる和室には、木片と土、そして畳を張り替えたばかりらしく、芳しい藺草の匂いが立ち込めている。鉄の臭いは、しない。
 ならば表の町並みについても、説明できようという物だ。人がいないからこそ、竜はこの区画を半ば放置するかのようにおざなりに破壊して、他方へと散っていたのだろう。
もしくは逃げ散る人々を追い立てた結果、そういう形になったのかもしれない。どちらにせよ、もしその仮説が事実だとすれば、一つの簡潔な事実が浮かび上がる。
あの竜たちは、人を殺す事「だけ」を目的としている。食らうのでもなく、破壊の余波に巻き込むのでもなく、殺害そのものを目的としている。何かに統率されているとは思えない無秩序さながら、その「指針」ともいうべき物は決して曲げていない。
 ゾッと、怖気が奔った。
先程までの風景から、十分に推察できる事だったが、しかし改めてその事実を認識してしまうと、恐怖心が物理的な重量すら伴って襲い掛かって来るかに思えた。
見つかれば殺される。他の何を置いてでも、あの巨体は自分を殺す為「だけ」に爬行する。守ってくれる者はもう、いない。
恐怖が鎌首を擡げ、少女の心の中を塗り潰そうと暴れる。だが祢々は、誇りも名誉もないが、矜持だけは持ち合わせる「露払衆」が一振り、祢々切丸は強いてその衝動を飲み込んだ。己を律する術は心得ている。
しかし、本当の恐怖を前にしては、そんな物気休めにすらならなかった。
鎧の事務的な声が耳朶を打ち、祢々はこれ幸いとばかりに、路地へと躍り出る。一人ぼっちでジッとしているのが、この上なく恐ろしかった。敵だろうが味方だろうが、どうでもいい。自分以外の「人間」の傍にいたい。
無意識にもそう思ってしまった事を、誰が責められよう。どう取り繕おうと、祢々は所詮10に届く程度の童女に過ぎない。それに何のかんのと言えど、彼女の周りには常に、保護者とも言える大人達が何人もいた。真に孤独な時間というものを味わうのは、初めてだった。
自分は露払衆が一振り。常人とは隔絶した異端。その思い上がりとさえ言える強烈な自負が、少女の恐怖に対する嗅覚を鈍磨させる。胸の内をそれ一色に塗りつぶされかけながらも、それが恐怖だと認識する事すら出来ないという状態が、どれ程危険な事か。
四つ辻を曲がった先で、何処か歪な笑みの様な物を浮かべ、己を真正面から見据える正真正銘の化物――竜の視線を浴びた時、祢々はそれを嫌というほど理解した。
『――ミス祢々! コンピューターを捨てて逃げて下さい! 今すぐに!』
 恐怖に押し潰され、思わず聞き流していた鎧の声に、漸く意識を向ける事が出来た。しかし、少女は動かない。
死への恐怖に、身が竦んでいた。
同年代の少女に比べて、祢々は確かに死というものに慣れ親しんでいるが、死への恐怖とは畢竟未知への恐怖だ。一度も死んだ事もない者が、それを真の意味で克服する事など、出来よう筈もない。
しかしその恐怖の中に一点、別の感情が入り混じっていた。
安堵だ。

612数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:46:24 ID:ss5gHwv.0
ああ、死ぬ事が出来る。命も何もかもを放り出した上での、逃避としての死ではなく、その遂行を最後まで目指した、名誉の殉死を遂げる事が出来る。そうはっきりと自覚したわけではないが、へたり込んだ祢々の表情は、何処か和らいでいた。
竜が、何とも緩慢な動作で口を開け、ゆっくりと近付いて来る。その様子が、明らかに人間的な悪意で彩られている事に、しかし祢々は気付けない。そんな余裕など無かった。
自分は噛み砕かれるのか、それとも道すがら視界に映った死体の様に、弾け飛ぶのだろうか。どちらにせよ、生き残れるなどとは露ほども思っていない。
 ぺたんとへたり込み、眼を瞑る。末期を汚さぬように、パソコンを強く抱きしめる。これを守って死んだとあれば、きっと誰も自分をいらないとは言わない筈だ。
――ああ、でも。
聡治は、残念がりそうだ。
初めて会話した時には、いきなり怒鳴りつけられはしたが、その後も少ないながらに会話を交えて、彼が心根の優しい人間だと知った。もしかしたら、泣いてくれるかもしれない。
だけどやっぱり、心の何処かで残念がるだろう。祢々になど任せないで、素直に鎧を遣わせばよかった、と。
鎧を押しのけて自分でやると言っておきながら、殉死だの何だのと意味のない事を並べ立てて、結局は失敗したのでは、無能の誹りを受けても不思議ではない。
嫌だ。嫌だなあ。
何より聡治の、劔の弟の期待に答えられないのが、たまらなく嫌だった。
だが事ここに到って、出来る事などある訳もない。獣の様な臭いと、荒い鼻息が頬を撫でるのを感じる。
視界を埋め尽くす暗闇が晴れる事は、どうやら無さそうだった。

613数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:46:38 ID:ss5gHwv.0
「……これ、いつまで続くんだ」
「んー、ソナーの反応を見るに、あと数分で終わりそうなんだけど……」
「それ、たぶん百回は聞いた」
 ジョエル、リョタ、フィルの三人組は、未だに横穴を彷徨い続けていた。
一体何キロメートル歩いたのだろう。体感的には、もう伏神山の山裾を何十週もしたと言われても、違和感のない程に時間が過ぎている。
しかし先頭を行くフィルの旋律魔法による測定では、横穴の全長はたかだか数百メートル程度であり、もう既に出口に到達していてもおかしくはないのだ。だが現実の彼らは、未だに闇の中を彷徨っているままであり、巧妙の一つすら見えはしなかった。
何か魔術的な偽装が施されているのは火を見るより明らかなのだが、その痕跡がどうにも読み取れないのだ。
考えられる可能性としては、ここが結界の内部であるという事くらいであろうか。それにしては、侵入する際に発生するある種の違和感の様なものを感じ取れなかったが。
どうにかここから抜けようと、先程から試行錯誤は繰り返してみた。
しかし然程の備えもない現状に置いては、打てる手にも限りがある。精々前方、もしくは後方に全力疾走したり、壁や床、天井に穴を掘れる程度だ。当然ながら効果がある訳もなく、結局こうして、彼らは漫然と歩いている。
通常ならば、絶望的な状況だ。汗で体がぐっしょりと湿り、気力も体力も魔力も底を尽き、もっと罵詈雑言を吐きながら、地面を這いずり回っていてもおかしくないと言えよう。
しかし何故だろうか。彼らは確かに少々ウンザリしてはいるものの、別段強硬に発したりする様子などは、まるで見て取れない。彼らの神経が図太い事を抜きにしても、これは少々異常である。
理由は二つ。一つは、何故か力が一切尽きない事が挙げられる。
何時間もここに滞在している上に、幾度か全力で疾走しているにも拘らず、一切の疲労感を彼らは感じていないのだ。体力の無いフィルですら、である。
そのフィルが、恐らくはこの三人組の中でも、最も強い違和感を抱いているだろう。この横穴に侵入した当初から、横穴の全長測定や、痕跡の探知などの為に、幾度も魔法を使っているにも拘らず、魔力の欠乏などに起因する疲労感などが、一切訪れないのである。
フィル自身はそれなりに優秀な魔術師であるが、流石に何の供えも無くそんな事を続ければ、下手をすれば倒れかねない。だのに、彼は今だ意気軒昂であった。
そして二つ目は、時間感覚が狂っているためである。
彼らは確かに、体感的には数時間横穴を彷徨っていると自覚している。しかしより精確に言うと、「気付けば」数時間経っていたのだ。
何も作業をせず、ただ歩いているだけでも、気付けば時間が大分過ぎてしまう。忘我状態と言うか、何も考えずに体を動かしている時間が、あまりにも多いのだ。
――その状態が、実はどんどんと長くなってきている事に、彼らは気付いていない。人を静かに食い殺す、無限回廊の腹中に収められてしまった事に。
「そういえばさあ、俺昨日夢見たんだよ」
 列最後尾のフィルが、口を開く。
「マジか。相手は誰だ。朝霞様か?」
「どういやらしかったの? まさか素足で踏んで貰ったのかい……!」
「何で淫夢前提なんだお前ら。俺だって哲学的な夢くらいは見るぞ」
「ああ、人は何故おっぱいに惹かれるのか、とか」
「何言ってるんだ。おっぱいは女性についているから良いのであって、それ単体に惹かれることなんてほぼ無いだろう」
「だが岩肌がおっぱいで構成された断崖があったらどうする」
「しめやかにロッククライミングをするね」

614数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:46:52 ID:XEYMRE4k0
先頭のフィルも、後ろを向いて会話へと参加する。出口があるにせよ、どうせ暫くはたどり着けそうにも無いのだから、大丈夫だろうという判断だ。明りもあるし、探査用の旋律も絶えず投射し続けている。何か変化があれば、すぐに感じ取れるだろう、と。
それを軽率と誰が言えようか。彼らは所詮、学生なのだ。
ぽふん、と後頭部に柔らかい何かが当たるとともに、花の香の様に甘い匂いが、フィルの鼻腔を擽った。布の感触越しに伝わってくる仄かな温もりが、人の体温であると気付いたフィルは、彼の中ではそこそこの素早さで、前方へ跳んでいた。
「……うっわあああああああああ!!!」
「ヤメロー! ヤメロー! 俺にそっちの趣味はないぞ!」
 必然、彼のすぐ後ろにいたリョタが、押し倒される形で地面に倒れこむ破目になり、ぎゃあぎゃあと喚きながら、二人して地面を転がった。
唯一無事だったジョエルは、呆然としていた。友人二人の無様な姿に、では無い。フィルがいたであろう空間、その後方に突如として出現した、人影にである。
ローブで全身をすっぽりと覆っているが、その着古した布の下から僅かに覗く柔らかな膨らみ、そして何より、フードの奥に見えるその面立ちは、あからさまに女性のものであった。
美女である。そして何よりも、彼らが様々な理由から敬愛して止まない、柳瀬川朝霞に似ていた。瓜二つ、とまではいかないが、少々あどけなさの残る彼女の顔が、年月を経て完成に到れば、こうなるであろうと容易に想像できる程だ。
しかし彼女の日に焼けた褐色の肌とは違い、女性の肌は新雪の様に透き通る純白である。
そしてどういう意味があるのか、その楚々とした面には、顔の半分を覆うほどの大きな刺青が施されていた。それは夜天の月の様に妖しく輝いて見え、女性の蠱惑的な魅力を引き出すと共に、どこか抜き身の刃めいた剣呑さが感じられた。
深い深い夜のような、紫色の眼光に正面から見据えられ、ジョエルは金縛りにあったような心地で、女性の顔を眺める事しか出来なかった。
「朝霞、様?」
「……『様』?」
 我知らず呟いていた言葉が、功を奏したことに、ジョエルは気付かない。彼の口にした何反応して、どこか空虚な昏い輝きを宿していた瞳に、仄かに感情の光が灯った。
スッと、徐に女性が近寄ってくる。一瞬ビクリとしたジョエルだが、美女がこちらに寄って来るという状況は、酷く得がたい物だと漸く気付き、不動の姿勢で待ち構える。
「何というか、女の子につけるには些か不穏当な敬称に感じるのだけれど。……貴方達は、朝霞とはどういう関係なの? 友達か、それとも彼氏?」
「奴隷です!」
「下僕です!」
「卑しい豚でございます!」
 いつの間にか起き上がっていたフィルとリョタも加わり、銘々勝手な事を――しかし似通った意味合いの言葉を――口にする。
女性は押し黙る。というか、呆気に取られているのだろう。暫くして、大きな溜め息と共に「何をやっているのかしら、あの子は」という呟きを漏らした。
その所作は何処か所帯じみた印象をジョエルらに与える。コイツは人妻属性があると見た。ジョエルの双眸が怪しく光った。
「あのう、お言葉を返すようですが、貴方は朝霞様とどういう関係なのでしょうか……?」
 先程の失態を恥じるようにしつつ、おずおずとフィルが切り出す。
「柳瀬川夕霧。あの子の姉よ。……ここを抜けたら、貴方達の名前も教えてちょうだい。朝霞の僕くん達」

615数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:47:18 ID:ss5gHwv.0
 光明と、洞窟の内観とは異なる風景を湛えた「出口」は、まるで冗談の様な唐突さで、彼らの眼前に現れた。
それはまるで直方形に切り取った空間に、別世界の光景を無理矢理合成したかのような不自然さであり、魔界の秘境にでも生息する珍妙な生物が、口を開けて待っているようであった。
 何の躊躇いも無く飛び込んでいった夕霧が、向こう側からくいくいと手招きをしている。尻込みする他二名を押しのけて、リョタがズイと前に進み出た。
「ここは俺が先陣を切る。そしてラッキースケベを装ってあの胸に全力で飛び込んでやる」
 眼を鋭く細め、見据える先は夕霧の胸元だ。声を潜めずによくもまあそんな事を言える物だ、と夕霧は半ば感心しつつも、無反応を貫いた。あまり関わりたくないのだ。
「馬鹿野郎……! そんな危険な事をお前にさせられるか! 女体の神秘で、全身の血液が食べるラー油になっちまうかもしれないだろうが。だから俺が行く! 俺があの山脈をクライミングしてやる!」
「お前こそ、女性の体温で眼球がゆで卵になるかもしれないぜ。だからここは俺に任せろって。な? 感触、匂いに質感や幸福度は、後で五・七・五で情感たっぷりに纏めて発表するから」
「都都逸という手は無いのか、リョタ」
「てめえフィル! 何余裕ぶっこいてんだ! コイツはあれだぞ、飽くまで故意ではありませんって面して、あの二つの大雪山を踏み荒らそうとしてやがんだぞ! 世が世なら市中引き回しの上に、皮むいてホクホクになるまで茹でて、刻んだ玉葱と挽肉と共にカラッと揚げられるような暴挙だぜこいつは!」
「ふう、つくづく君って奴は……。何故、そうまでして胸に拘るんだい? 君が朝霞様に惹かれるのは、何故なのか。それを己に問うといい」
「朝霞様……。朝霞様は、基本的に俺たちを毛虫を見るような眼で見て、言葉の中にナチュラルに罵倒の言葉を混ぜてくださって、三メートル以内に近付いたら殺すといわんばかりの威圧感を放っていて、でも雑談くらいには付き合ってくれて、高いアイスクリームを献上すると、ちょっと嬉しそうにする所が凄い尊い。可愛い。踏み躙られたい」
「其処だジョエル!」
 ビシィ、と効果音が付きそうな勢いで、フィルは人差し指を突きつける。
勇んで「出口」に飛び込まんとしていたリョタも、興味深いとばかりに視線を回らせている。夕霧は本当に嫌そうな表情を浮かべながら、何事かを呟いている。
「君は朝霞様の何に踏まれたいんだ! 女性の何に、何処にぐりぐりと踏み躙られたいんだ!」
「そうか……! 俺は、俺は、女の子の足に蟲を潰すかのように踏まれたいんだ!」
 咆哮を上げるジョエルを、腕を組んだフィルが満足げに眺めている。リョタが、してやられたと言わんばかりの表情を浮かべ、口元に手をあてた。
途端、彼らの首に長い長い紐が巻きついた。

616数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:47:30 ID:ss5gHwv.0

「出口」の向こうで、詠唱によって精製した紐を手に持った夕霧は、それらを荒々しく手繰り寄せる。リョタらは釣り上げられた回遊魚よろしく、次々と引きずり込まれ、地面――板張りの床に、背中を強かに打ち付けた。
 三人揃ってグワーッ、などと悲鳴を上げた後、見下ろしてくる夕霧の絶対零度の視線に背筋をゾクゾクといわせつつ、しかしリョタだけは、周囲に広がる風景に覚えがあった。
 障子や木窓から降り注ぐ日光に、淡く照らされる室内。そこにデンと居座り、圧倒的な存在感をかもし出すのは、数百キロはありそうな神輿である。
金箔や種々の装飾を施された輿は、薄闇の中にあっても尚光り輝かんばかりの絢爛さであり、成人男性一人が乗り込めそうなほどの大きさがある。
リョタには見慣れた物だった。物心が付いたころから、年に一度の祭事の日には、これを担いだ成人男性や、それに付き従って山車や鉾を持った人々が街を練り歩くのを、何度も眼にしてきている。その行列についていった事とて何度もある。
 スクっと立ち上がり、周囲を見渡してみる。和室かと思っていた室内は、どうやらそんな上等なものでもないらしい。
そこは古びた蔵だった。むき出しの石壁には所々皹が入り、漂う空気は何処かジメっと生臭い。床はそれなりに綺麗ではあるが、見上げてみれば、積もった埃によって梁が薄らと灰色がかっていた。
周囲には、神輿以外の祭具も同様に保管されていた。しかし神輿も含め、こんな所でちゃんと保管できているのかは甚だ疑問である。
「汚い所でしょう。でも、物は傷まないのよね、ここ」
 こんな事をしても喜ばせるだけだと気付いた夕霧は、未だに地面に横たわるジョエル達を努めて無視し、リョタの隣に並び立つ。しかし彼の鼻の穴が、体臭を嗅ぎつくさんとばかりに開かれた事に気づき、間を置かず彼からも距離を取った。
「あの、ここって伏神の神社なんですか?」
「精確には、その神輿殿ですね」
 ガラリと、引き戸が開け放たれ、外気が流入してくる。黴臭い匂いが一掃され、代わりに青々とした清風の香りが、彼らの肺を満たした。
引き戸の向こうには、リョタの見知った光景が、伏神山中腹の神社の境内があった。そしてその光景の半分以上を己の体で隠す存在にも、彼は当然見覚えがあった。
「ド、ドエロス師匠!」
「その呼び方、人前ではやめてくれませんかねえ。外聞が悪い」
 鴉の羽根の様な、漆黒の長髪で陽光を照り返し、神主――いや、宮司である織守拓斗は苦笑した。夕霧は彼の横顔を、ゴミを見るような眼で眺めていた。

617数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:47:48 ID:ss5gHwv.0
 黴臭い神輿殿から退去一行は、今は神社の敷地内に建てられた織守邸の居間に場所を移している。分家とはいえ伏神の聖地にその居を構えているだけあり、見事な枯山水を望める大きな中庭を擁した、立派な邸宅であった。
真夏の山中にありながら、心地よい涼しさに包まれた居間で茶を啜りながら、リョタ達は数時間にも及ぶ大冒険を、不純な動機と不適切なまでに卑猥な表現を織り交ぜつつ、何とも情感たっぷりに、織守と夕霧に語って聞かせていた。
「伝説のエロ本、ですか。何というか、それはまた随分と君らしい」
 拓人は何とも楽しげに笑っているが、夕霧はと言えば、彼らと卓を囲む事すら嫌だと言わんばかりに、開け放たれた中庭側の障子戸に寄りかかりつつ、渋面を浮かべていた。
 指貫と狩衣という、何とも時代錯誤な装いながらも、拓人のある種超然とした雰囲気はそこに違和感を差し挟ませない。眼鏡が光る涼やかな目元は、何とも理知的である。
彼が「ドエロス師匠」などという直球の罵倒に不快感を表さないのは、何もその温厚な気性が全てという訳ではない。全ては彼が、リョタ・マレグチに師匠と呼ばれて然るべき薫陶を授けたが故である。
その詳細な内容は今回は省くが、少なくともリョタの、延いては彼の友人二人の信頼を勝ち得る程度には、親密な関係であるという事は明記しておこう。
「しかし残念ながら、君達が手に入れた『賢者の書』は、その手の素晴らしい書籍ではないですよ。もしそうならば、あのような穴倉に保管なんてせずに、私が自宅の書庫で独占しています」
「なんて説得力なんだ……!」
「畜生! 女体と体液と豊富な語彙が飛び交うドエロイ本だと思ってたのに……!」
「オノマトペを巧に交えた軽妙洒脱な文章で紡ぎだされる、めくるめく肌色の世界があると思っていたのに……!」
「然るべき場所に訴えたら、私は貴方達から慰謝料を毟り取れると思うの」
 眉間を押さえる夕霧とは裏腹に、拓人は実に楽しそうに、カラカラと笑う。リョタたちから受け取った『賢者の書』の表紙を撫ぜると、それが一体どういったものなのかを、簡単にだが説明し始める。
「まあ要するに、これは伏神の歴史書兼奥義書の様な物でしてね。彼の家が数千年の時間を掛けて築き上げた全てが、詰まっています。
 持ち出しはもとより、閲覧も厳禁です。直系である聡治くんや劔……様はともかく、臣下の家であったマレグチくんでも、この事が本家の偉い人に露見すれば、まあ良くて記憶が、悪ければ存在を消されかねませんよ」
「――触手で!?」
「馬鹿野郎、スライム娘にだろ!」
「人間の処理を担当していた女の子が、何故か僕に一目ぼれ。そして始まる肉欲に塗れた学園ラブコメ。……ふふ、素敵だね」
「オーソドックスではありますが、女性だけで構成された暗殺者集団に、新たな遺伝子を取り込むために種馬として飼われるというのも、中々に心が躍りませんか?」
 眼鏡のブリッジをくいと押し上げ、眼を細めた拓人の言葉が、三人の鼓膜を揺すぶった。
こいつ出来る、というジョエルとフィルの視線。衰えは無いようだと安堵するリョタの視線。そしてさっさと死ねばいいのにという夕霧の視線。その全てを笑って受け流しながら、拓人は話を続ける。

618数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:48:00 ID:ss5gHwv.0
「まあ、そろそろあんなザル警備の洞穴に置くのは止めるようにと、本家に言うつもりでしたし、丁度良かったと言えましょう。これは私が持ち出した事にします。君たちもこの件については早々に忘れるように。以上」
 そこまで言い切ってから、ああそうだ、と思い出したように付け加える。
「今外は危険ですから、出ないように。邸内の部屋は自由に使っていいですから、一先ず、騒動が治まるまでゆっくりして行きなさい」
「え、危険って、何かあったんですか?」
「何でも、下水道に有毒ガスが充満してしまったらしく、それが地表に漏れ出てるんだそうです。住民達の避難は済んでいるのですが、ガスの除去にどうやら明日まで掛かるらしくって。ま、リョタくんも旅行気分を味わえると思って、一晩我慢していただければ」
 その言葉に、ゴクリと唾を飲み込む三人。その横目でチラチラと、夕霧の顔を窺っている。その顔には、喜びの表情も浮かんでいるが、それ以上に恥らっているようにも見えた。
「え、えーと、泊れるのは嬉しいんですけど……」
「その、女の人と一つ屋根の下、っていうのはどうにも……」
「何ていうか、その、恥ずかしいです……」
「え……、今まで私に散々遠まわしなセクハラをしておいて?」
 まるで年頃の少女の様にモジモジとする姿は、三馬鹿の称号に違わない醜態である。拓人は「若いですねえ」と笑った。
「心配せずとも、夕霧さんはここには宿泊しませんよ。こう見えましても彼女は、本家の頭首さまのご内儀ですからね。本宅の方へお戻りになりますよ」
「……そういう事よ。ここへは、賢者の書についての進言があると彼が言うから、夫の代理として来たの。まあその話し合いの最中に、貴方達が賢者の書を手にとってしまったから、私が取り返しにいく羽目になってしまったけど」
「つまり俺たちはナイスタイミングだった、と」
「バッドタイミングよ」
「まあそういう訳で、実はまだ話し合いの途中なんですよ。話の内容も、そこそこに重要な物になってしまいますから、出来れば君たちには席を外して頂きたいのです」
「そんな事言って、俺たちが何処かへ行った隙に、子供に言えないアレやコレをするつもりじゃないんですか!?」
「……これは独り言なのですが、予てより蒐集していた壷咲花蕾の官能小説群が、ようやく揃いましてね。現在は書庫に全巻収めてあります」
「こんなとこでダベってる暇はねえ! 行くぞ手前ら!」
「「応!」」
 リョタの鶴の一声に、ジョエルとフィルが応え、バタバタと走り去っていった。その後姿にひらひらと、拓人は手を振っていた。
「いやあ、元気な子達ですねえ。将来が楽しみでなりませんよ」
「私は心配しか出来ないのだけれど。はぁ、全く朝霞ったら、どういう学園生活を送っているのかしら。全てが終わったら、姉として問い質さなくてはいけないわね」
 ややあって、完全に人気がなくなると、夕霧は凭れ掛かっていた障子戸をピシャリと閉めた。

619数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:48:10 ID:ss5gHwv.0
「……まあ何にせよ、賢者の書を手に入れられたのは、幸運だったわね」
「そうですねえ。でなければ、自前の魔力で賄わざるを得ませんでしたよ」
 先ほどまでリョタが座っていた座布団に、今度は夕霧が座った。自然と向かい合う形となった拓人の眼を、彼女はジィっと見つめる。
「本当に、この本が代わりになるの?」
「ええ。彼らに語ったことは本当ですからね。万を超える術式と、数百年を経て蓄えられた膨大な魔力。この本は謂わば、一個の巨大な神秘と言える物となっているのです。それこそ、この霊山と張るくらいの。司書の方々に露見すれば、禁書指定どころか焚書指定を受けて、荼毘に付されれかねない代物ですよ」
「まさに、霊山の術式を書き換えるには、打って付けという訳ね」
 ズズズ、とすっかりと冷めてしまった緑茶を啜り、一息。拓人はやや間を置いた後、「ええ」と首肯する。
「仔竜を上伏町に解き放ったという事は、今日にでも儀式を始める腹積もりなのでしょう。上伏に打たれた結界の楔を、町民や配下の竜そのものの血で穢し、破壊する。そうする事で、既に結界の術式が書き換えられたこの伏神山は、丸裸となってしまいます。
 そこを彼の竜――ベイバロンといいましたか? アレの力を持って位相差障壁を砕き、結界を流用した術式と、釣り餌で以って『竜骸』を引きずり出す。その釣り餌たりうるソウジくんは、今この場にいますからね。ベイバロン、いや伏神の亡霊どもには絶好のタイミングと言えます」
そして、我々にとっても。お茶請けにと用意した稀口の羊羹に舌鼓を打ちながらも、朗々と語る拓人の眼からは、笑みが消え失せていた。
「不愉快だ、実に。四拾七氏の八十年にわたる妄執が、実を結んでしまうなんて。ですから、台無しにしましょう。奴らの時間を全て無為に帰してしまいましょう。そしてついでに、貴方の大切な物も守ってしまいましょう。私が敷設した反転陣で竜骸を――『オロチの首級《クビ》』を、より深くにぶち込んでくれる」
 そして、夕霧の顔を正面から見据えて、言う。
「何度も言いますが、竜に喰らわれた貴方の同胞の魂は、永久に失われる事となります。反転陣はこの賢者の書に彼女らの魂をくべて、起動するわけですからね。――覚悟は出来ていますか?」
「何度も同じ事を聞かないで。伏神の怨念に一泡吹かせられて、その上朝霞が生き残る。私達はそれ以上は望まないわ」
「劔はいいんですか? 一応旦那様でしょう」
「……あの人は、私が望まずとも生き延びてくれるわ。じゃなきゃ、私が好きになるはずないもの」
「惚気ますねえ。彼に聞かせてあげれば、きっと喜びますよ」
「煩いわね。早く話を続けなさい」
 拓人は「結構」と、言葉を引き継ぎ、銀縁の眼鏡の奥で何処か陰気な笑みを浮かべた。
「それでは、茶番を終わらせるとしましょうか」

620数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:54:45 ID:ss5gHwv.0
以上、ちょっと長くなりすぎた

纏めると

ソウジくん:伏神邸でベイバロンと交戦中。クロガネの竜殺兵装の召喚が完了するまでの足止め。

クロガネ:本体は飛行ユニット「ヤタガラス」を装備して、上伏町の仔竜を駆逐中。
      アギョー・スタチューが竜殺兵装を代理召喚し、ベイバロンへの奇襲の為に待機している。

真川&稀口女史:上伏町で竜と交戦中。

祢々:パソコンを朝霞に届ける為に上伏町へ。しかしその途中で竜に会い、絶体絶命。

三馬鹿:賢者の書を手に入れるが、それはエロ本ではなかった。現在は織守邸にてドエロイ本を観賞している。

夕霧&拓人:三馬鹿から賢者の書を受け取り、ベイバロンの「竜骸(オロチと呼ばれる竜の遺体)を取り込んで龍へと到る」という目的を利用しようと暗躍中

621数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 22:05:06 ID:KKcgzkS20
おっつおっつ。
とりあえず何事も読んでからだな。

622数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 22:07:09 ID:4E4rImG20
頑張りすぎィ!
西口おつポニ

読むのはこれからだが

623数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 22:58:10 ID:M9RaWHec0
まだ読んでないけどしゅごいいいいいいい

624数を持たない奇数頁:2015/06/24(水) 10:07:34 ID:WhauINNc0
>>610>>611の文章が重複してるが些細な問題ですね

祢々ちゃん絶体絶命のピンチが一番気になる
しかし…すまぬ祢々ちゃん、ソウジにメタい逆ギレかまさせてしまって…
ていうか真川さんとおばちゃんつえぇ!

625数を持たない奇数頁:2015/06/24(水) 10:34:29 ID:/foDTcSo0
名前のとこに書いてあるが、一文抜けたから張りなおしたのよ
正直抜けた分だけ投下すればよかったわ、すまんな

真川さんは霊体っていう雑魚竜のガチメタ特性持ってるから無双できてる、と考えてる
おばちゃんは普通に強い

626数を持たない奇数頁:2015/06/24(水) 10:47:24 ID:WhauINNc0
ああ、名前欄読んでなかったすまんぬ
混乱回避として610は削除してもいいかも分からんね

627数を持たない奇数頁:2015/06/24(水) 11:16:22 ID:/foDTcSo0
せやなあ
どあにきたら相談してみよう

628どあにん:2015/06/24(水) 12:36:54 ID:4FN1TX3Y0
おっつおっつ
処理は仕事終了後にやるぜ

あと賢者の書がエロ本じゃないのは合ってるけど
そんな大した物でも無いのに!
もっかい回って来たらやりたかった事やって、オワリ!

629数を持たない奇数頁:2015/06/24(水) 13:14:00 ID:/kjWEKmg0
関係無いけど兄さん見てたら競作前スレも落としといて

630どあにん:2015/06/24(水) 18:16:56 ID:c7D6kyoo0
処理完了です……

631数を持たない奇数頁:2015/06/24(水) 18:17:59 ID:/foDTcSo0
ワザマエ!

632どあにん:2015/06/24(水) 18:19:43 ID:c7D6kyoo0
黒龍たんが一瞬でやってくれました

633数を持たない奇数頁:2015/06/24(水) 20:08:12 ID:iDSqq/C.0
さすが僕らのおっp黒龍さんだぜ!

634数を持たない奇数頁:2015/06/24(水) 20:20:54 ID:Yr3EIlbE0
とりあえず困った時の学院に残った面子の夏休み風景で茶を濁す事も辞さない状況だということは理解した

635数を持たない奇数頁:2015/06/28(日) 12:18:44 ID:XIVHu7k20
閑話だ、閑話を捻じ込むのだっ!
具体的には委員長関係(アシュリー&エクリエル)、最近影の薄い面子(グダグダエル、剛機ホオノキ・ダン十二式)辺りを書いて第三部の伏線をそこはかとなく散りばめておくのだっ!

636数を持たない奇数頁:2015/06/28(日) 16:50:14 ID:AdDQQHFU0
密やかにダミアン竜憑化というネタを考えてるが普通にありそうで怖い
違和感ないのが怖い

637数を持たない奇数頁:2015/06/28(日) 18:14:50 ID:IN.6xEBc0
ダミアンは何か竜と意気投合してお兄ちゃん以上に使いこなしそう
あいつにはそんな雰囲気がある

638数を持たない奇数頁:2015/06/28(日) 18:29:18 ID:3xvBEp5c0
ダミアンはもっとヤバイ何かを宿したりしそう
それでそいつに「こいつやべぇ」とか引かれそう

639数を持たない奇数頁:2015/06/28(日) 18:32:41 ID:8JyckAD20
ダミアン「復讐するまで力を貸せ、復讐が終わったらこの体をくれてやる」


とか考えたけどこれ良く考えたら呪印もらったサスケや

640どあにん:2015/06/28(日) 21:58:02 ID:3FAHzan.0
ダミアンくんほんへは最後は悪魔崇拝に傾倒し過ぎて大悪魔と契約しちゃって終わる 予定でした

641数を持たない奇数頁:2015/06/28(日) 22:00:47 ID:XIVHu7k20
ごめん、やっぱり閑話的に学院に残っているだろう面子の話でお茶を濁す方向性になりそうだ
FEif暗夜ハードでちまちまやってるけど大体ケアレ=スミス氏降臨で気分転換に文章進めてるから最短来週には投げれるかも

642数を持たない奇数頁:2015/06/28(日) 22:01:58 ID:IN.6xEBc0
同性婚できるのが各国一人ずつという悲しみ
ツクヨミと同性婚したかったです

643数を持たない奇数頁:2015/06/28(日) 22:06:01 ID:O10tr58M0
大体やり直しの原因は
・サイラスのやっつけ負け
・エリーゼorアクアが敵の遠距離攻撃の範囲にいて普通にやられ
・マイユニ無双失敗

結婚はハロルド&エルフィしか成立してないなぁ……

644数を持たない奇数頁:2015/06/29(月) 11:39:36 ID:7uqEkyi.0
真川さんの新技考えた
披露するタイミングがあるかどうかは分からんが

645どあにん:2015/06/29(月) 23:28:54 ID:aN1GU35I0
ぼく 明日にクトゥルフとネクロニカのルルブ購入を決意

646数を持たない奇数頁:2015/06/29(月) 23:30:10 ID:fvOmScyI0
ついでにサプリも買おうぜ
帝国かガスライト

647数を持たない奇数頁:2015/06/30(火) 06:55:16 ID:9nYiFPGM0
兄さんCoCは持ってなかったっけ?

648零字:2015/06/30(火) 06:59:42 ID:uJeW5iYY0
クトゥルフなら2010もオススメ
ちなコレに収録されてるもっと食べたいならげーます出来ると思うで
俺経験あるし

649零字:2015/06/30(火) 07:00:06 ID:sVj48MvI0
連鎖とは関係なくてすまんな

650数を持たない奇数頁:2015/06/30(火) 11:55:54 ID:1c9oDOnA0
まさかのD20版だったり?

651数を持たない奇数頁:2015/07/02(木) 22:13:09 ID:t90hRRwc0
個人的にはアシュリーとエクリエルは犬猿の仲のだけど仕事上では手を取り合える(ただし全力で相手の手を潰そうと力を込める)関係だと思っている

652数を持たない奇数頁:2015/07/02(木) 22:18:47 ID:e5Iub5qc0
相手を潰すために、事態に対してオーバーキルレベルの策を張り巡らせそう

653数を持たない奇数頁:2015/07/02(木) 22:23:49 ID:t90hRRwc0
とりあえずパスされたところからの内容がてんで思いつかんから学院の閑話書いてるんだけど、何かサビ残して書類仕事してるサラリーマン的な哀愁が漂い始めている

654数を持たない奇数頁:2015/07/02(木) 22:47:29 ID:SScStpU60
お互いに喧嘩しつつの極限魔法合戦で敵勢を巻き込みながら気付いたら二人を残して敵を全滅させてた感じとか

655数を持たない奇数頁:2015/07/05(日) 21:21:56 ID:.Sfu8I8Y0
というかこれ学院の規模どうなんだろう? 何か俺が考えてるのって凄く……大き過ぎます……な感じがしてきた

俺はちょっとした学園都市(敷地内に学校を中心として生活に必要な施設、機関を詰め込んだ形)を想像してた
学校という意味では一校だけど各地区に校舎や各種施設があって、通学する生徒や職員を支える施設があって、それを動かす従業員がいて、街っぽくなってる感じで

656数を持たない奇数頁:2015/07/05(日) 21:27:14 ID:.Sfu8I8Y0
ああ、地区分けしてるのは専攻分野の問題と考えてる

657数を持たない奇数頁:2015/07/05(日) 21:28:10 ID:0elNkWcI0
俺のイメージとしてはホグワーツ+ダイアゴン横丁が一番近いかな
クソでかい学校+その周囲を覆うでかい森
+外縁部にそれぞれの世界の人間が馴染みやすいように作られた街みたいな

娯楽施設とか、購買に売ってないようなちょっとマニアックなものは外縁部の町に買いに行く、みたいな

658数を持たない奇数頁:2015/07/05(日) 21:36:17 ID:.Sfu8I8Y0
Oh……規模的には同じくらいで考えてるっぽいけど生活に関わる部分を内側か外側かで違うっぽいね

……明日にでも個人的イメージ図でも作って投げてみようかな。みんなの方向性から逸脱してるなら脳内イメージを訂正しないと

659数を持たない奇数頁:2015/07/05(日) 21:41:29 ID:0elNkWcI0
正直書いた人がちだと思ってる
俺はデカけりゃ後は何でもいいと思ってる

660数を持たない奇数頁:2015/07/05(日) 21:48:56 ID:.Sfu8I8Y0
とりあえず一つ言えるのは俺が考えているのだと初っ端の話し合いでたったりーんが提案していた規模の数倍規模程度の在学者数になってるわ

661数を持たない奇数頁:2015/07/05(日) 22:34:42 ID:KkSseZuU0
汝の欲すべきことを行うがいいと思うよ
某学園都市クラスの敷地があってもいい
リレーとはそういうものだ

662数を持たない奇数頁:2015/07/06(月) 21:28:32 ID:dJQ95ZLg0
ヒャッハー、もう面倒だからエクリエル、剛機ホオノキ・ダン十二式、九条泰生の閑話だけぶっこんじまおう

・エクリエル、サビ残で書類仕事をするサラリーマンの哀愁を知る
・【速報】剛機ホオノキ・ダン十二式氏、次回更新時も現行機を選択
・泰生は犠牲になったのだ……アシュリーの特技、その犠牲にな……
の三本立てでいく。おそらく13000〜15000文字程度になるはず

663数を持たない奇数頁:2015/07/06(月) 23:37:43 ID:urvvTaTQ0
ヒャッハー! 新鮮なKの人だ!
完成はいつ頃になりそうですかね?

664数を持たない奇数頁:2015/07/07(火) 09:28:43 ID:gf/UANAQ0
本音を言えば他キャラのも書きたかったけどネタが思い付かないのも相俟って断念。

とりあえず頑張れば今日明日中、特に頑張らなければ今週中。「今作は速さより堅さだよ、エンブレマー」ってなったら暗夜ハードやり直すから来週中かな

いや、マジで今作は速さで避けるよりも堅さで受けきった方が楽だわ。分隊組んで双方に天照らすとか回復着けてたらハンマー辺りを持ち出されない限りは突破される気がしない
(ただしすり抜け狐共を除く)

665数を持たない奇数頁:2015/07/07(火) 09:36:29 ID:cORJJCHw0
狐だけは許さない
エルフィいなかったら詰んでた

666数を持たない奇数頁:2015/07/07(火) 09:49:25 ID:gf/UANAQ0
すり抜けか、攻撃不可のどちらかだけなら良かったんだがな……

あ、俺はマイユニで無双した。試行回数は24回、マイユニに執事就けて敵陣のど真ん中に突っ込むだけという戦略もへったくれもないごり押しだった

667数を持たない奇数頁:2015/07/11(土) 08:08:54 ID:5.2W6hE60
インキン配信されて「成長吟味する理由は見つかったか? 相棒」とかそんなノリになったのでたぶん来週のパターンかな

668数を持たない奇数頁:2015/07/11(土) 17:25:20 ID:v1jyJ5Ek0
今気付いたけど二週間過ぎてたから、結局書き直して中途半端な上に予定よりも少なくなったけどぶん投げよう。

669剛機ホオノキ・ダン十二式 1/3:2015/07/11(土) 17:26:43 ID:v1jyJ5Ek0
 剛機ホオノキ・ダン十二式が、複数いた。
 厳密に言えば本人、もとい本機以外は剛機ホオノキ・ダン十二式ではない。同系列の別機だ。外装には所々に擦り傷が見られるが、致命的な損傷はない。
 ただし無事なのは機体だけだ。中身となる記憶領域は抜き取られており、他界人の表現をするならば、死体とでも呼べる存在だ。
 他界人であれば死体と接する事は望ましくない行動なのだが、機界人、特に生体部品の含有率が著しく低いないし生体部品を含まない個体にとっては、その限りではない。同系統の機体であれば破損原因を調べる事で自身が気をつけるべきことを理解出来るし、換装可能であれば再利用する事も出来る。
 死人を解体して再利用、と考えれば非常にグロテスク極まりない。しかし機界人にとっては、日常的と言える行為の一つでもある。友人が主要機関のベアリングが壊れたと言っていたのを聞き、自身の同規格かつ重要度の低いベアリングを貸し出す事もある。身体の物理的な貸し借りは、機会由来の部品ばかりの機界人にとっては極々当たり前の事であった。
 機械は壊れる。そして生体部品でもない限りは、一度壊れれば換えなければ直らない。逆に言えば壊れたところで、部品を換装すれば直るのだ。
 ただし、内部……多くは頭部や胸部に搭載された記録領域に限っては別だ。これに関しては、機界人の技術をもってしても、一度破損してしまえば二度と直すことは出来ない。
 その為に定期的なバックアップデータを保存し、その保存したデータの入った記憶領域を換装する事で、外面的には生を繋ぐ事は出来る。しかし一瞬でも継続性が断たれたという事は、死に変わりない。故に、剛機ホオノキ・ダン十二式は、十二式なのだ。厳密に言えば剛機ホオノキ・ダンと名乗る前に五回程度換装しているので、十二回だけ換装したという訳ではない。
 そもそも、機界人の精神、人格と呼べる物がどうやって完成したのか、それは機界人にもわからない。過去にはソースコードを読み解く事で起源を知ろうとした者もいたのだが、そういう者は、例外なく死んでいる。過負荷が原因、という訳ではない。バグと呼称出来る精神異常に苛まされ、発狂。やがて自身の記録領域やバックアップデータを物理的に破壊……自殺してしまう。
 故にソースコードを読み解く行為は禁忌とされている。それは五界統合後で自由意思という物を得てからも変わらない。むしろ、意思を得たからこそ誰もやりたがらない。誰だって、好き好んで死ぬような真似などしたくはないのだ。
 どこの世界にもタブーというものは存在している。機界人にとっては、自己の起源探究がそれであった。
 だから、剛機ホオノキ・ダン十二式が、態々同系列の機体を眺めているのは、自己の起源探究ではなかった。勿論、他界人に稀に見受けられる、死体に対して特別強い興味がある訳でもない。
 工作用に換装した腕で、眼前の死体《スクラップ》を解体していく。外装を剥げば機界人の血管や神経系である諸々のチューブや配管、配線が姿を見せる。更に奥には諸々の臓器に該当するポンプや冷却機なども存在している。
 暫く弄り回し、目的の物を見つけた剛機ホオノキ・ダン十二式の電子眼が鈍く輝く。破損しないように取り外し、眼前へと持っていく。
「――ふむ、見立て通り純正品ではないようだ」
 他界人で言うところの心臓、そこに程近い、とある部品だ。およそ他界人で言う所の成人の親指程度の大きさの部品であるが、文字通り心臓部に関わる部品である為に、重要度は高い。
 型番を確認しながら低い電子音で呟いていると、他の機体の陰から、同じ部品を手にした極彩色に塗装された機界人が姿を現す。
 ぱっと見た外見こそまるで別物だが、剛機ホオノキ・ダン十二式と同系列機だ。塗装もだが、外装の至る所に装飾が施された結果、最早別物と化している機体は、世代的には先輩と言える存在である。

670剛機ホオノキ・ダン十二式 2/3:2015/07/11(土) 17:27:03 ID:v1jyJ5Ek0
「こちらもだ、同志剛機ホオノキ・ダン十二式よ。型番を見る限りは粗末な廉売品のようだ。見よ、本来ならばSaw-CraftWarksとあるべき部分がSow-CraftWarksとなっている。発音は同じだがな」
「おお、素晴らしき発見だ、歌舞機ウキヨエよ。此方などはSaw-OraftWarksだぞ。ソウ・オラフトワークスか。単に刻印を失敗して繋がったのか、それとも本当にそういう風につけたのかは不明だが」
「しかし助かったぞ、同志剛機ホオノキ・ダン十二式よ。私は軍用機の気が強く、この手の作業は不得手でな」
「気にするではない、歌舞機ウキヨエよ。私と歌舞機ウキヨエは同系機ではないか。三年以内に製造された工作作業腕《エンジニア・アーム》で手を打とう。片腕で良い」
「相変わらず工作作業を嗜むのだな。良かろう、片腕で良いという謙虚さに感動した。安藤工業製の八一式工業工作腕を用意してやる」
「これは思わず小躍りしたくなる褒賞だ。人間であれば鼻歌でも歌いながら作業でもするのだろう」
「勿論、その分はしっかりと働いて貰うぞ。私達の様に機械由来の機界人には死活問題であるからな」
 勿論だとも、と、普段よりも波長の大きい声で返事をした剛機ホオノキ・ダン十二式は、解体を進めて行く。
 ――剛機ホオノキ・ダン十二式が解体作業に至った経緯などは、ある程度は形式に則って説明が出来る。元々五界統合学院へ在学、卒業後は機界人向けの部品流通管理機関へと就職した先輩に、日雇いのアルバイトとして雇われたのだ。
 機界人向けの機械部品は、各地の自治体が認可した製造所で作られた物だけが公に流通している。他界人で言うならば、行政が認可した薬や医療器具が流通しているのと近しい感覚であろう。
 所謂純正品と称される物は、例えば元々は人間界の金属加工業から発展して、各種換装品を手掛ける安藤工業や、精度が極めて高い、細々とした部品を扱う機界の老舗Saw-CraftWarksなどがある。
 純正品と称されるだけあり信頼性は極めて高く、アフターサービスも手厚い。ただし高価である。
 そこに付け入るように、認可されていない製造所で作られた廉価品も、裏では流通している。剛機ホオノキ・ダン十二式も、公言こそしていないが、重要度の低い幾つかの部品は廉価品を使っている。特に重要度の低さの割りに損耗しやすい箇所などは、一々純正品を使っていられない。身内含めて全て純正品を使っているのは、富裕層程度だろう。
 精度が悪いという理由で認可されていない製造所もあれば、作業環境が悪く公害の懸念がある為に認可されていない製造所もある。理由は何だって良いが、使い勝手の良い安価な部品というのは、機界人であれば誰だって欲する物だ。
 廉価品だと理解して扱う分には、まだ良い。信頼性が低い為、余程の貧困層でもなければ、重要度の低い場所にしか使わない為だ。
 ただし純正品を装った粗末な廉価品に関しては別だ。純正品だと思い重要機関で使っていたら、実は廉価品であり、致命的な破損を起こしたという事件は、決して少なくはない。
 場合によっては悪意を持ってわざと粗悪品を流通させ、誤作動や破損を目論む者だって存在している。
 その為に、流通状況を管理して純正品と、それ以外を明確に区別して取り扱える仕組みが必要とされた結果、そのような機関が生まれたのだ。

671剛機ホオノキ・ダン十二式 3/3:2015/07/11(土) 17:27:22 ID:v1jyJ5Ek0
「ふむ、目に付く限りではSaw-CraftWarksを騙った部品が多いな。細々とした部品が主である為に騙りやすい、というのもあるのだろうが」
「逆に言えば、ここ最近は信頼性が高く重要機関に用いられる部品に粗悪品が紛れ込む傾向にある、という事か」
「その通りだな、同志剛機ホオノキ・ダン十二式よ。上司への報告書には、この手の部品の監視強化を提案しておく事にする」
「それは私としても助かるぞ。私は生体部品を使っていないからな、歌舞機ウキヨエ達の仕事が、直接健康に関わってくるのだからな」
「それに関してだが、次回更新時は戦闘機ではなく、流行のアンドロイド型にすればどうだろうか? あちらなら、一々作業毎に腕部を換装する煩わしさもない。その上、省エネルギーかつ省スペース化が図られている」
 時代は他界人との共存を図りやすいアンドロイド型が主流になりつつあると、歌舞機ウキヨエは言う。単調な電子音ながら、どこか憂いの帯びた響きであった。
 人間ならば肩を竦めて見せるのだろうと思いながら、剛機ホオノキ・ダン十二式は首を振る。
「――確かに、総合的な利点、欠点を考慮すればそれが良いのだろう。……ただ、効率重視が最も良い選択ではないというのは、最近の機界人の思考パターンの傾向なのかもしれない」
「つまりは、次回更新時も現行のままで行くと」
「機界人の中で、特に私達のような機械部品で構成された機界人は、自身と他人の境界線が曖昧だ。例えば歌舞機ウキヨエと右腕を交換したとしよう。その腕は、果たして私の物か? それとも歌舞機ウキヨエの物か? 所有権の事を言うならば、勿論歌舞機ウキヨエの物なのだが、自分自身が、”自分”だと認識して良いのは換装直前部分までなのか? それとも換装後も含めた全身なのか? あるいは、換装時に取り外した所有権が自身の部品も含めてなのか?」
 腕が壊れれば腕を付け替える。規格さえ合っていれば、前の腕と同じ形式である必要はない。
 それと同じく、記憶領域の互換性さえあれば、他系列の機体に換装する事だって可能なのだ。
「この機体は、私が私だと胸を張って断言する為に変えられないのだ。主流だからと機体その物を換装してしまうと、いつか自己という物を失いかねない。機界には前例があるだろう?」
 各界において忘れ難い惨事という物は存在しているのだろうが、機界において忘れ難い惨事と言えば、大体の機界人は自己同一性喪失病と答えるだろう。
 かつて、各方面に優れた機体が開発された。今後の発展と規格統一化による手続き簡略化の思想の下、支援金を出してその機体への換装が政府主導で進められた事があった。
 当初こそは良かったのだが、自身と他人の境界線が曖昧となって行き、自己同一性を喪失。無気力化、及び注意力散漫となり、大規模な人災が相次いで発生した惨事である。また、規格統一化という思想の下で産業の多様性が失われ、多くの失業者が発生した事も、惨事の一部として語られている。
 その惨事を教訓として、今日では多様なあり方が認められている。本来ならば質実剛健さが求められる戦闘機である剛機ホオノキ・ダン十二式が工作作業に勤しんだり、歌舞機ウキヨエが派手な外装を纏っていたりと、行動面や外見に関して、機界人は互いに必要以上に口出しをする事はない。
「……すまなかった、どうやら失言のようだったな」
「ふふ、片腕分を両腕分にするか、八三式工業工作腕で妥協してやろう」
「ならば両腕分にしておこう。流石に、最新型は用意出来ない」
「存外の利益となったな。勿論、その分だけは真面目に働かせて貰おう。さぁ、作業の続きと行こうではないか」

672エクリエル 1/4:2015/07/11(土) 17:28:02 ID:v1jyJ5Ek0
 別段、空席だった風紀委員長の席に戻る事は難しい話ではなかった。
 元々は高等部への進学時に、乱層区画の調査及び研究が主となり、作業量的に過負荷傾向となる為に学院側が行った処置だ。本来ならば副委員長であった真川敦を委員長とし、適当な人材を補佐として、副委員長に宛がうという話だった。しかし真川敦本人が委員長となる事を拒み、空席としたいという意見を出した為、審議の結果に委員長を空席とする事になったのだ。
 当時は二進も三進も行かなかった為に承諾したのだが、現在ではある程度の余裕が出来た事。そして戻らねばならない程に、学院内での面倒事が増えてきた事から、一学期の後半からは仮として、風紀委員長へと戻っていた。二学期からは、正式に学院側から任命されるに違いない。
 各学区から上がってきていた先日の巡回報告の書類から視線を起こしたエクリエルは、風紀委員長室の壁に掛けられた時計へと視線を向ける。
 時刻は午後二時過ぎ。冷房が効いている空間である為に涼しいのだが、外の暑さは最高潮に達している頃であろう。窓の外を見やれば、雲一つない蒼穹に、太陽が燦々と輝いている。地表では陽炎が揺らめき、遠くの景色は歪んで見えた。
 幸い――いや、ある意味不幸ではあるのだが、まだ帰る訳には行かなかった。巡回報告で発見された施設や備品の破損に対する改善の提案書、来週の巡回人員と経路の指示書、室内の新設備の検証報告書という風紀委員長として作成しなければならない書類を作っていない。学生である為にしなければならない課題類も、少量ずつでもやらないと後半に苦しくなる。挙句、学院から指示されている乱層区画の調査報告書も作らなければならない。
 普段ならばそれだけで良いのだが、夏季休暇中の折り返す頃には、夏季執行部会が行われる。一学期の報告、二学期に執り行われる行事が議題となるが、それに対する資料や、事前に来ている質問等に対する回答の準備もしなければならない。
 具体的には各行事の警備体制案だったり、有事の対処マニュアルだったりだ。多くは例年の物から、人名や規模を調整するだけで済むのだが、一部は一から作り直す必要のある物もある。
 寮の自室でやらないのは、単に幾つかの書類が委員会室から持ち出し不可能な事と、冷房や照明の利用費が、委員長室では経費で落とせる事が大きな理由だ。もっと言えば、自室に備えている機材を使うよりも、委員長室に備えられた機材の方が性能が良いというのもある。紙類も、経費で落とせる。
 一般生徒からすれば職権乱用だと指摘されそうではあるが、相応の仕事はしている心算なので、苦情などは言わせない。苦情を言う者は、まずは仕事を一通りこなし、それでも苦情があれば言って欲しいものだ。勿論、そうした上で苦情があれば改善はする。尤も、風紀委員長……書類仕事の嫌いな副委員長も含めた、風紀委員会の上層部の仕事をこなした上で苦情を言える者がいれば、の話なのだが。
 学院は広い。苦情を言う余裕がある者は幾人かはいるだろう。ただそういう者達は、十中八九何らかの集団の上層部にいる者だ。指摘すれば自身の首を絞める事にもなる。
 そんな下らない事を考えながら、エクリエルは書類を作ろうとパソコンに向かう。キーボードへと手を乗せると同時、机上に置かれていた電話機から電子音が響き始めた。
 小さく息を吐き出し、画面の表示を見る。図書文化委員長室と表示されたそれを見れば、極々自然に眉間に皺が寄る。
 出来れば出たくはないのだが、出なければ、恐らく私用の携帯電話の方に掛けられる。無論、嫌がらせの為か一瞬だけだろう。それを此方からでは電話出来ないように連続して続けられる。非常に煩わしい。

673エクリエル 2/4:2015/07/11(土) 17:28:36 ID:v1jyJ5Ek0
「……風紀委員長だ。図書文化委員長、何の用だ?」
『何の用って、ナニに決まってるじゃない。禁書盗難、あの件って今はどうなってるの? あと一冊戻ってきてないんだけど』
 甘ったるいその声は、図書文化委員長のアシュリーの物だ。それを知覚すると同時、一層眉間に皺が深く刻まれる。
 思わず、私の知った事か、と返してやろうとも思うも、止める。脳内に関連する情報を上げていき、繋がるようにそれらを組み立てていく。
 あの一件は、結局は図書文化委員会に所属する人員によって引き起こされた物、というのが表向きに公表されている。その者には一週間の監視付き停学、という処分が下された。なお、盗んだ本は禁書と公表されていない。図書本館から持ち出し出来ない資料として軽度の処分としている。禁書盗難など、本来ならば退学処分がされても不思議ではない。
 表向きでない部分を突き詰めていけば、語られぬ者達と呼ばれる集団が関わってくる。そこで脅された結果、盗難に至った。その為、情状酌量の余地ありという事で、ある程度の虚偽を交えて、他方からの文句を言われない形で解決としたのだ。
 取調べによると犯人が盗んだ禁書は二冊。異界連結理論、そして生命変換法。組み合わせて運用すれば、五界統合時に等しい騒乱を生む原因となりうる。
 ただ残りの一冊に関しては関与を認めなかった。各種の自白を促す魔法や機材を利用しても口を割らなかった。狂人でもなければ、確実に関与しておらず、そもそも狂人であれば脅しに屈指ないだろう。故に、無関係だと断言出来るだろう。
 判明しているのは盗まれた事、という一点のみだ。監視を行う魔法を潜り抜けた事を考えれば、それなり以上に魔法に対する教養がある事は間違いない。しかし内部の人員などのように、構造の弱点を的確に突けるのならば、その限りではない。
 なお、”語られぬ者達”と呼ばれる者達を脅した犯人に関しては、校外に所属する者、という方向で結論付けられた。その為、外部機関への調査が依頼されている。
 エクリエルは、それを納得していない。校外の者が関与するには教師層以上の関与か、あるいは諸々の監視を抜けられる者でなければ不可能だ。前者はともかく、後者であれば、そもそも脅して盗ませるまでもなく、犯人自身で動く方が確実だ。
 委員長が納得していないのにそう結論付けられたのは他でもなく、教師層や生徒会から圧力を掛けられ、エクリエルの指摘事項が握り潰されたからだ。エクリエルとしては、失踪した伊庭甲子郎の件も合わせて疑うべきだ、というのが本音だ。しかし、圧力によって禁書盗難事件とは無関係とされてしまった。
 その事が脳裏を過ぎると、電話の相手が毛嫌いしているアシュリーである事と相俟って苛立ってくる。
「……調査中だ。そもそも、そちらが管理を徹底していれば起き得なかった事案だろう。大人しく報告を待つ事も出来ないのか?」
『あら、今日は随分と攻撃的ね。生理中かな?』
 くつくつと、鼓膜を叩く笑い声は、人によっては甘美な響きに感じられるのだろうが、今は非常に耳障りなだけだ。
 受話器越しでも聞こえるように、エクリエルは舌打ちを一つ吐き捨て、すっと目を細める。
「……用件はそれだけか?」
『クソ真面目なクソ天使なら何日前に、だとか、そういう事言うかと思』
 叩き付けるように……もとい、受話器を叩き付けて通話を終了とする。
 下品な上に不愉快極まりない相手に、いつまでも付き合う事程無駄な事は存在しない。
 溜息と共に胸中で渦巻いた黒々とした感情を吐き出す。多少は落ち着くものの、それでも、苛立ちは収まらない。
 拍車を掛けるかのように、再び電話機が鳴る。画面には、やはり図書文化委員長室の文字。拳を電話機に叩き付けそうになったが、止めておく。始末書の追加など、煩わしい事この上ない。


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