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それは連鎖する物語Season2 ♯2

602数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:42:46 ID:ss5gHwv.0
必要なのは、思い込みだ。
己が相手よりも強いという思い込み。出来るのならば、自分こそが最強だという思い込み。現実や結果を全て無視した、白痴の如き自尊心こそが、【傲慢】をごうごうと燃え盛らせる燃料たりうる。
七大罪の中では、言ってしまえば、聡治とは最も相性が悪いとさえ言える符だった。
実戦経験の少なさに起因する、戦術眼の未熟さこそあれど、聡治は基本的に現実主義者である。厳然たる危険を目の前に、なおも自分の力を信じられるほど、彼は幼くない。
今まで【傲慢】符を使った事は何度かあったが、それらは全て、勝算があった上での行動だった。全てここぞというタイミングで、勝てると確信した相手にのみ使用していた。
今回のように、勝てるか分からない――いや、確実に負けると理解できてしまう相手に使用したのは初めてだった。そういう意味では、先ほどの攻撃は実験的な意味合いもあったのだ。
結果は、まあ大体予想通りだった。
少しの間だけなら、ある程度の強化は出来る。結構な速度を持っていた竜を、カウンター気味に殴り飛ばしても、反作用によるダメージは全くと言って良いほど無い。
だが、やはり継続時間が短すぎる。ストックが100枚なり200枚なりあるなら話は別だが、戦闘中の連続使用は控えた方が良いだろう。
それ以前に、かの竜に対して打撃は鬼門だ。何せ、慣性の法則を無視した飛行を行う相手だ。どれだけ力を込めようと、打撃方向へと飛ばれたら為す術は無い。
一応、効果的な打撃方法も幾つか思いつきはするが、どれもが主戦術にするには奇襲的な要素が強く、即効性が低い。トラップの一つとして、記憶の片隅に留めておく程度にしておこう。
 今のところの感想としては、ベイバロンは単体ではそれほど強くない、と感じる。何というか、戦闘経験が圧倒的に足りてないのだ。
簡単なフェイントに二度も引っかかる程度の練度に、己の勝利を戦闘中に確信し、慢心して隙を見せる間の抜け方。これで弱敵ならばよかったのだが、生憎と相手は竜だ。生存確率が少しばかり上昇したに過ぎない。
アレが気まぐれに振った手が掠りでもすれば、恐らくは大きな負傷を負う事になるだろう。【傲慢】を使っていればある程度は軽減できるだろうが、どれほどのダメージになるのか、さすがにそれを実験する勇気も、必要もない。
だというのに、向こうはこちらの切り札とさえ言える三つの符術――即ち【暴食】【傲慢】【憤怒】を以ってしても、見る限りでは傷一つ付けられていないと来た物だ。
全く、嫌になる。甚だしく不公平だ。聡治はため息を漏らさざるを得なかった。
しかし、まあ良い。ここまでは許容範囲内だ。もとより、竜を倒そうなどとは思っていない。
聡治は左手を撫ぜる。
少し前、生えてきたばかりの腕。この身に、人ならざる力が宿る証。しかし右掌に感じるぬくもりは、何の変哲もない己の体温のみであり、本当にこれが、「龍」の力によって生成された物なのか、疑問を抱かずにはいられなかった。
――お前の力が俺の力っていうのは、嘘だったのかよ、白龍。
恨むぞと呟くが、その口調はどこかおどけて聞こえた。
紛れもない危機を目の前に、聡治の心にはしかし、微塵の恐れもないのだ。
聡里を装う龍に対する、断固たる怒りと殺意を差し引いても、彼の精神状態はやや異常であった。
下手を打てば、死ぬ。最善手を組み上げても、命の保障になるわけではない。そんな事、百も承知である。「死にたがり」が再発したのかもしれない。能動的な自殺衝動が。
だが、それだけではない。聡治は確信している。
身の内より湧き出てくる高揚感。そして、仄かな緊張感。こんな心地の良い感情が、其の様な暗い情動であるわけが無い。
彼は、竜を倒せない。だから、竜を倒せる準備が整うまでの時間を稼ぐ。
彼は、死にたくない。だから、どれほど敵が強大であっても、決して諦めない。
彼は、もう誰にも死んでほしくない。だから、何があっても退くつもりはない。
俺に任せて先に行け。それは決して、適当に言った言葉ではない。彼は、この場を「任されている」。人々を救い、竜を屠る為の一刀だと、認められているのだ。
過大な役だとは思う。役者不足が過ぎるとも。だが、そこに介在する彼女の、クロガネの信頼が、そこからは窺い知れた。
竜を倒す為の準備。それが何なのかは分からないが、護衛対象を一時的とはいえ危険に晒すような方法だ。彼女の性格から考えて、その効果は折り紙付きとさえ言えるだろう。
この考えもまた、信頼ゆえのものだろう。
誰かを信じ、誰かに信じられる。そんな当たり前の行動が、彼の心の中に不思議な明りを点し、その恐怖を消し去る。我ながら何とも単純な脳味噌だと、聡治は苦笑した。
誰かを守る為の戦いか。悪くない。


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