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それは連鎖する物語Season2 ♯2

619数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:48:10 ID:ss5gHwv.0
「……まあ何にせよ、賢者の書を手に入れられたのは、幸運だったわね」
「そうですねえ。でなければ、自前の魔力で賄わざるを得ませんでしたよ」
 先ほどまでリョタが座っていた座布団に、今度は夕霧が座った。自然と向かい合う形となった拓人の眼を、彼女はジィっと見つめる。
「本当に、この本が代わりになるの?」
「ええ。彼らに語ったことは本当ですからね。万を超える術式と、数百年を経て蓄えられた膨大な魔力。この本は謂わば、一個の巨大な神秘と言える物となっているのです。それこそ、この霊山と張るくらいの。司書の方々に露見すれば、禁書指定どころか焚書指定を受けて、荼毘に付されれかねない代物ですよ」
「まさに、霊山の術式を書き換えるには、打って付けという訳ね」
 ズズズ、とすっかりと冷めてしまった緑茶を啜り、一息。拓人はやや間を置いた後、「ええ」と首肯する。
「仔竜を上伏町に解き放ったという事は、今日にでも儀式を始める腹積もりなのでしょう。上伏に打たれた結界の楔を、町民や配下の竜そのものの血で穢し、破壊する。そうする事で、既に結界の術式が書き換えられたこの伏神山は、丸裸となってしまいます。
 そこを彼の竜――ベイバロンといいましたか? アレの力を持って位相差障壁を砕き、結界を流用した術式と、釣り餌で以って『竜骸』を引きずり出す。その釣り餌たりうるソウジくんは、今この場にいますからね。ベイバロン、いや伏神の亡霊どもには絶好のタイミングと言えます」
そして、我々にとっても。お茶請けにと用意した稀口の羊羹に舌鼓を打ちながらも、朗々と語る拓人の眼からは、笑みが消え失せていた。
「不愉快だ、実に。四拾七氏の八十年にわたる妄執が、実を結んでしまうなんて。ですから、台無しにしましょう。奴らの時間を全て無為に帰してしまいましょう。そしてついでに、貴方の大切な物も守ってしまいましょう。私が敷設した反転陣で竜骸を――『オロチの首級《クビ》』を、より深くにぶち込んでくれる」
 そして、夕霧の顔を正面から見据えて、言う。
「何度も言いますが、竜に喰らわれた貴方の同胞の魂は、永久に失われる事となります。反転陣はこの賢者の書に彼女らの魂をくべて、起動するわけですからね。――覚悟は出来ていますか?」
「何度も同じ事を聞かないで。伏神の怨念に一泡吹かせられて、その上朝霞が生き残る。私達はそれ以上は望まないわ」
「劔はいいんですか? 一応旦那様でしょう」
「……あの人は、私が望まずとも生き延びてくれるわ。じゃなきゃ、私が好きになるはずないもの」
「惚気ますねえ。彼に聞かせてあげれば、きっと喜びますよ」
「煩いわね。早く話を続けなさい」
 拓人は「結構」と、言葉を引き継ぎ、銀縁の眼鏡の奥で何処か陰気な笑みを浮かべた。
「それでは、茶番を終わらせるとしましょうか」


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