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それは連鎖する物語Season2 ♯2

601数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:42:07 ID:ss5gHwv.0
 叫びながら、聡治は重力に身を任せる。目標は眼下。砕けた障壁の影に己の姿を潜り込ませ、逆光を背負う聡治は、上方からベイバロンの首筋を狙う。
重力に絡め取られ、矢めいて加速する聡治。突き出された右足が、今にもベイバロンの細首に叩き込まれんとしたその瞬間、ベイバロンはぐるりと旋回し、上空を、即ち聡治を仰ぎ見る。
両者の視線が、正面からぶつかり合う。そして両者は、互いに笑みを漏らした。
回転の勢いのまま、ベイバロンは蹴撃を放つ。聡治の長く、無防備に伸ばされた足は、しかしその致命的な攻撃に当たることはなかった。
接触の瞬間、聡治の姿が大きくぶれる。そしてそれは、やがて霞のように消え去って、後には虚空だけが残った。虚像だ、またしても。
生まれる、一瞬の静寂。
いや、それは正しく静寂とは言えない時間であったことを、ベイバロンの五感は十二分に承知していた。空間に散らばる障壁の破片が、一瞬だけ、軋むような音を立てたのだ。
ベイバロンの周囲に半球状に広がるそれらは、次の瞬間、爆発的な速度で収縮する。ベイバロンからすれば、それは幾千もの鏃が飛来してくるかのように思えただろう。
そこには、逃げ場など何処にもない。人間ならば、考える間もなく絶命した所だろう。
だが、ベイバロンは竜だ。条理を逸脱した存在だ。
ベイバロンは、再び咆哮を放つ。物理的な衝撃が周囲に拡散し、木の葉のように障壁の破片が吹き散らされる。一気に周囲が明るくなり、太陽を仰ぎ見る形となっていたベイバロンは、唐突に降り注いだ陽光に、一瞬だけ眼を細めた。
少しだけ狭まった視界は、同時に竜の六感をも鈍らせ、結果「その音」をを聞くまで、ベイバロンは聡治の接近に気付くことができなかった。
ジャリ、と靴が地面を踏みしめる音を聞くまでは。
前方、進行方向に視線を巡らせるベイバロン。眼と鼻の先と言えるほどの近くで、右腕を大きく振りかぶる伏神聡治の後方遠くで、伏神劔がうろたえた様子で立っている。
位置関係は、何も変わっていない。
奇襲のタイミングを、完全に読み間違えたのだ。
迎撃。いや、間に合わない。
咄嗟に顔の前で交差させた両腕に、人が出せるものとは思えない程の、尋常でない圧力がかかる。加速していた事が仇となった。その威力は、砲弾のそれと遜色ない物だったと言っていい。
翼が翻る。
静止。そして後方へと飛翔する。聡治の腕力によって「射出」される形となったベイバロンは、空中で旋回。慣性を無視するように停止する。
上空数メートルから聡治らを見下ろし、ベイバロンは未だに笑みを崩さない。
「暴力的な兄じゃのう。妹の顔を殴りつけるとは」
 聡治は答えない。眉一つ動かさない。
代わりとばかりに、後方の兄を振り返ると、ニカリと、彼らしくない少年的な笑みを浮かべた。
「『俺を置いて逃げる』んじゃない。『俺に託して救助に向かう』んだ。ここは俺に任せて先に行け、ってな」
 その言葉を聴いた劔は、何処か安心した様でいて、絶望した様にも見える複雑な表情を浮かべ、少しばかり逡巡すると、「すまない」と小さく呟いて踵を返し、伏神邸の正門へと向かっていった。
遠ざかっていくその背中を眺めながらも、空中のベイバロンは何もしない。ニヤニヤと浮かぶ笑みから考えるに、その方が面白いと考えているのだろう。
その態度も油断といえる態度ではあるが、流石にもう奇襲は喰わないだろう。注視されている事を、肌で感じられる。
――【傲慢】ではダメか。
既に効力が切れた肢体を軽く動かす。少しだが、疼痛があった。やはり反動が小さい。効力が薄かった証拠だ。
七大罪【傲慢】の効果は、単純な身体強化。そしてその強化率は【憤怒】と同様、聡治の意識と密接に関係していた。


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