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それは連鎖する物語Season2 ♯2

600数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:41:32 ID:ss5gHwv.0
「俺が、俺が未熟だったから、愚かだったから、屋敷が、使用人たちが、上伏の街が1 砕かれている、焼かれている、人が、人が死んでいる! 身の程を知らなかった、周りを見ていなかった! そのせいで、そのせいで皆が……夕霧も……!」
 纏まりのない、子供の泣き言の様な言葉だった。だからこそ、彼の心情が推し量れよう、と言う物だ。
すまない、すまないと、幾度も繰り返す劔。聡治は何も、声すら掛ける事も出来ず、その姿を黙って眺めていたが、ボウ、という空間を叩くような独特な音と共に、炎に吸い込まれ、吹き荒れていた風が止まった事を感じ、火柱のあった方角へと視線をやった。
翼だ。
吹き散らされた業火の只中に、巨大な一対の翼があった。灰褐色のそれはどういった構造をしているのか、互いに折り重なって完全な球体を形作り、「憤怒」の炎から彼女を守っていた。
伏神聡里の姿をした竜――ベイバロンの体を。
やがて翼はゆっくりと開き、ベイバロンの姿を外気に晒した。その頭部に張り付いているのは、聡治の今は亡き妹と同じ面相。しかしそこには、彼女ならば浮かべないであろう醜悪な笑みが浮かんでいる。
彼女の肩甲骨のあたりから広がる翼が、二度ほどはためくと、宙に浮いていたその体が徐々に下降し、ベイバロンは音もなく着地する。
「兄さん」
 ベイバロンの復活に気付き、謝罪の言葉を一時止めていた劔が、唐突に掛けられた言葉に、一瞬だけ身を竦ませる。
劔の眼前。まるで劔を背後に庇い、ベイバロンに向かうような位置に立つ聡治は、振り返らずに言う。
「状況は、人伝に聞いただけだから、完全に分かってるわけじゃないけどさ。この惨状が兄さんの所為な訳ないじゃないか。だって町の人を殺してるのはこいつの子供なわけだし、それを指示してるのはこいつだ」
 だから悪いのはこいつだよ、と聡治は断じる。子供の様な理屈だが、だからこそ正鵠を射ているとも言えるかもしれない。
聡里と同じ顔をした竜と向き合っても、彼の表情は変わらない。瞳は揺るがない。ただ真っ直ぐと、眼前の「敵」を見据えていた。
「詭弁ですね、『兄様』。この状況を引起したのは、間違いなく劔『兄様』の軽挙ですよ」
 聡里の口調で、聡里の声音で、嘲るようにベイバロンは言う。
耳朶を打つその聞きなれた、そしてもう一度聞きたいと心から願った声は、呪術めいて劔の体を硬直させた。
 しかし、聡治は瞳も逸らさない。徐に一歩、踏み出し、その距離を徐々に埋めていく。
「黙ってろ蜥蜴モドキ。お前の寝言になんざ欠片も興味ねえんだよ」
「手酷いお言葉ですね。貴方の所為で死んだ妹に掛ける言葉とは、とても思えません」
 動じない。迷わない。
腰の両側に吊り下げた、二つの呪符ケース。その内右側のケースから、一枚の呪符を取り出す。
引き裂かれた呪符から、刻まれた呪文が蛇のようにのたうちながら、聡治の腕に流れ込む。それは流入中にも絶えず展開と発動を繰り返し、刻々とその紋様を変化させていった。
呪文は瞬く間に聡治の全身を覆いつくすと、僅かに光り、やがて何の痕跡も残さずに、消えた。
七大罪【傲慢】。
その効果は、彼の考案した七つの符術の中でも、指折りの単純さを誇る。
単純な、身体能力強化だ。
ベイバロンが翼を翻し、加速を開始する。それを視覚ではなく、肌で感じ取った聡治は動く。
今度は左のケースから取り出した符を二枚投擲し、ベイバロンの進路上に障壁を展開。漆黒のそれは竜の行く手に立ち塞がると共に、その視界を遮った。
ベイバロンはそれに怯む事も無く吶喊。伸ばした翼の先端を鞭めいて振るい、障壁を容易く砕く。だが、割れ砕けた障壁は霧散する事無く、空中に散らばり、陽光を遮って微かな陰に覆われた一帯を作り出した。
進路上には、誰もいない。聡治も、そして劔もだ。
「兄さん!」
 中庭全体に、声が響く。散らばった障壁によって音を反響し、その出所を推察させない。
臭いがする。風を切る音がする。伏神聡治は、過たず儂に近付いてきている。そう確信するベイバロンを他所に、聡治はただ簡潔に言い切る。
「もし自分が悪いと今でも思ってるんなら、少しでも上伏の人達を助ける為に動けよな!」


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