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それは連鎖する物語Season2 ♯2
606
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/23(火) 21:43:57 ID:ss5gHwv.0
吶喊。抜刀。納刀。その繰り返しだ。
だがその効果は凄まじく、彼の周囲には、夥しいほどの仔竜の死体が転がっていた。
「……ハァ、流石にこれ程の数ともなると、一苦労ですね」
真川敦は心底ウンザリした様に溜め息を吐きつつも、その歩を緩める事は無かった。走り回っていなければ、『また』死にかねない。
幾ら「彼女」がいるとはいえ、だ。
吶喊。抜刀。納刀。
霊質で形成された刃が、仔竜の体内で即座に実体となり、鱗の頑健さも何もかもを無視して、その巨大な首を寸断。敦は静止せずに駆け抜ける。
一瞬前まで彼がいた空間を、丸太のような仔竜の尾が、空間を切り裂くかのような音を立てて通過していった。
「いや、いや、流石真川のお坊ちゃん。あたしゃあ、もうそんなに走り回れないよ」
割烹着を身に付けた、この戦場において明らかに異質な存在。稀口のおばちゃんは朗らかに笑いながら、しかしその目線を仔竜たちからは逸らさない。
古びた魔術書と、詠い唱える呪文が、彼女の声そのものを矛、そして盾へと変じさせる。彼らを囲む様に展開する仔竜らが、ある群では木の葉のように吹き飛ばされ、またある群では、吐き出した必殺の咆哮をかき消され、怒り狂って暴れ回っている。
――貴方の場合、そんな事をする必要が無いだけでしょう。
真川は思わず苦笑しつつ、またも刃を閃かせる。首を失った仔竜の巨体を潜り抜けるように走り、束の間の置き盾とする。
その合間にも、耳にはワンワンと酷い音が響いてきていた。稀口女史にその魔術的作用を打ち消されてはいるものの、竜の絶叫はその音を完全に失ったわけではない。
音とは空気を伝わる波。即ち衝撃である。大幅に減じられつつも、やはり数十体分ともなると、それだけで武器となるほど大きかった。
その音圧は凄まじく、己の周囲に、音の結界とでも言うべき物も発生させているらしい稀口女史はともかく、もしまともな人間がこの場にいたならば、良くて昏倒・失神。悪ければショック死をしかねない程だった。
全く、霊体とは便利なものである。
だからこそ、この童話の竜の様な生物達は奇妙だった。物理的な存在ではないはずの敦の体を、一度ではあるが削ったのだ。
幸いというべきか、この場は霊質に富んでいる。傷は自動的に修復したが、やはりあまり気分のいいものではなかった。屍肉を喰らっているような気分になって、真川は大きく顔を顰めた。
故に彼は、もうこれ以上一撃たりとも喰らわない覚悟で、走り続けていた。疲れを感じない霊体であるからこそ、とれる方法だ。
一応、その作戦は今の所上手くいっている。霊体にも影響を与えると思しき魔竜の咆哮も、稀口女史という想定外の闖入者によって、無力化に成功した。
だが、一体いつまで持つだろうか。斬ろうが薙ぎ払おうが、巨翼を翻して飛来する仔竜たちは尽きる様子が無い。どころか、その密度は増す一方だ。倒した数より、襲い来る数の方が多いのだ。
ジリ貧だ。何とか打開策を見つけねば、いずれ破綻する事だろう。
進路を塞ぐように振るわれた仔竜たちの尾、前腕、牙を用いた飽和攻撃を、神速の居合いで以って無理矢理進路をこじ開ける事で、回避する。
身体の一部を抉られた竜の絶叫を背後に聞きながら、急制動・反転。
そして、一閃。
地面を踏みしめ、満腔の力を込められて放たれた斬撃は、居並ぶ仔竜らの首を、纏めて斬り飛ばすには十分な威力だった。延長していた刀身が一瞬で収縮し、鮮血がその軌跡を残酷に彩った。
見事な一撃だった。しかし、あまりにも見事過ぎた。
敦の疾走が、一瞬だが停滞する。その傍らには、猛り狂う仔竜がいた。振り上げられた前腕の先で、鋭い鉤爪がギラリと光る。
――不覚……!
瞠目し、来る一撃への心構えを整えかけた敦は、しかしその行為が無駄だったと理解する。
僅かな風が、彼の頬を撫でた。
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