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それは連鎖する物語Season2 ♯2

614数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:46:52 ID:XEYMRE4k0
先頭のフィルも、後ろを向いて会話へと参加する。出口があるにせよ、どうせ暫くはたどり着けそうにも無いのだから、大丈夫だろうという判断だ。明りもあるし、探査用の旋律も絶えず投射し続けている。何か変化があれば、すぐに感じ取れるだろう、と。
それを軽率と誰が言えようか。彼らは所詮、学生なのだ。
ぽふん、と後頭部に柔らかい何かが当たるとともに、花の香の様に甘い匂いが、フィルの鼻腔を擽った。布の感触越しに伝わってくる仄かな温もりが、人の体温であると気付いたフィルは、彼の中ではそこそこの素早さで、前方へ跳んでいた。
「……うっわあああああああああ!!!」
「ヤメロー! ヤメロー! 俺にそっちの趣味はないぞ!」
 必然、彼のすぐ後ろにいたリョタが、押し倒される形で地面に倒れこむ破目になり、ぎゃあぎゃあと喚きながら、二人して地面を転がった。
唯一無事だったジョエルは、呆然としていた。友人二人の無様な姿に、では無い。フィルがいたであろう空間、その後方に突如として出現した、人影にである。
ローブで全身をすっぽりと覆っているが、その着古した布の下から僅かに覗く柔らかな膨らみ、そして何より、フードの奥に見えるその面立ちは、あからさまに女性のものであった。
美女である。そして何よりも、彼らが様々な理由から敬愛して止まない、柳瀬川朝霞に似ていた。瓜二つ、とまではいかないが、少々あどけなさの残る彼女の顔が、年月を経て完成に到れば、こうなるであろうと容易に想像できる程だ。
しかし彼女の日に焼けた褐色の肌とは違い、女性の肌は新雪の様に透き通る純白である。
そしてどういう意味があるのか、その楚々とした面には、顔の半分を覆うほどの大きな刺青が施されていた。それは夜天の月の様に妖しく輝いて見え、女性の蠱惑的な魅力を引き出すと共に、どこか抜き身の刃めいた剣呑さが感じられた。
深い深い夜のような、紫色の眼光に正面から見据えられ、ジョエルは金縛りにあったような心地で、女性の顔を眺める事しか出来なかった。
「朝霞、様?」
「……『様』?」
 我知らず呟いていた言葉が、功を奏したことに、ジョエルは気付かない。彼の口にした何反応して、どこか空虚な昏い輝きを宿していた瞳に、仄かに感情の光が灯った。
スッと、徐に女性が近寄ってくる。一瞬ビクリとしたジョエルだが、美女がこちらに寄って来るという状況は、酷く得がたい物だと漸く気付き、不動の姿勢で待ち構える。
「何というか、女の子につけるには些か不穏当な敬称に感じるのだけれど。……貴方達は、朝霞とはどういう関係なの? 友達か、それとも彼氏?」
「奴隷です!」
「下僕です!」
「卑しい豚でございます!」
 いつの間にか起き上がっていたフィルとリョタも加わり、銘々勝手な事を――しかし似通った意味合いの言葉を――口にする。
女性は押し黙る。というか、呆気に取られているのだろう。暫くして、大きな溜め息と共に「何をやっているのかしら、あの子は」という呟きを漏らした。
その所作は何処か所帯じみた印象をジョエルらに与える。コイツは人妻属性があると見た。ジョエルの双眸が怪しく光った。
「あのう、お言葉を返すようですが、貴方は朝霞様とどういう関係なのでしょうか……?」
 先程の失態を恥じるようにしつつ、おずおずとフィルが切り出す。
「柳瀬川夕霧。あの子の姉よ。……ここを抜けたら、貴方達の名前も教えてちょうだい。朝霞の僕くん達」


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