したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

それは連鎖する物語Season2 ♯2

616数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:47:30 ID:ss5gHwv.0

「出口」の向こうで、詠唱によって精製した紐を手に持った夕霧は、それらを荒々しく手繰り寄せる。リョタらは釣り上げられた回遊魚よろしく、次々と引きずり込まれ、地面――板張りの床に、背中を強かに打ち付けた。
 三人揃ってグワーッ、などと悲鳴を上げた後、見下ろしてくる夕霧の絶対零度の視線に背筋をゾクゾクといわせつつ、しかしリョタだけは、周囲に広がる風景に覚えがあった。
 障子や木窓から降り注ぐ日光に、淡く照らされる室内。そこにデンと居座り、圧倒的な存在感をかもし出すのは、数百キロはありそうな神輿である。
金箔や種々の装飾を施された輿は、薄闇の中にあっても尚光り輝かんばかりの絢爛さであり、成人男性一人が乗り込めそうなほどの大きさがある。
リョタには見慣れた物だった。物心が付いたころから、年に一度の祭事の日には、これを担いだ成人男性や、それに付き従って山車や鉾を持った人々が街を練り歩くのを、何度も眼にしてきている。その行列についていった事とて何度もある。
 スクっと立ち上がり、周囲を見渡してみる。和室かと思っていた室内は、どうやらそんな上等なものでもないらしい。
そこは古びた蔵だった。むき出しの石壁には所々皹が入り、漂う空気は何処かジメっと生臭い。床はそれなりに綺麗ではあるが、見上げてみれば、積もった埃によって梁が薄らと灰色がかっていた。
周囲には、神輿以外の祭具も同様に保管されていた。しかし神輿も含め、こんな所でちゃんと保管できているのかは甚だ疑問である。
「汚い所でしょう。でも、物は傷まないのよね、ここ」
 こんな事をしても喜ばせるだけだと気付いた夕霧は、未だに地面に横たわるジョエル達を努めて無視し、リョタの隣に並び立つ。しかし彼の鼻の穴が、体臭を嗅ぎつくさんとばかりに開かれた事に気づき、間を置かず彼からも距離を取った。
「あの、ここって伏神の神社なんですか?」
「精確には、その神輿殿ですね」
 ガラリと、引き戸が開け放たれ、外気が流入してくる。黴臭い匂いが一掃され、代わりに青々とした清風の香りが、彼らの肺を満たした。
引き戸の向こうには、リョタの見知った光景が、伏神山中腹の神社の境内があった。そしてその光景の半分以上を己の体で隠す存在にも、彼は当然見覚えがあった。
「ド、ドエロス師匠!」
「その呼び方、人前ではやめてくれませんかねえ。外聞が悪い」
 鴉の羽根の様な、漆黒の長髪で陽光を照り返し、神主――いや、宮司である織守拓斗は苦笑した。夕霧は彼の横顔を、ゴミを見るような眼で眺めていた。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板