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それは連鎖する物語Season2 ♯2
607
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/23(火) 21:44:10 ID:ss5gHwv.0
しかし目の前で起こった現象は、そんな生易しいものではない。衝撃波の壁とでも言うべき物が、仔竜の巨躯を傾かせたかと思うと、その足を地面から無理矢理引き剥がし、遂には弾き飛ばしてしまった。
稀口女史の魔術だ。敦は疾走を再開すると共に、視線を回らせた。その先では割烹着の女性も、敦に視線をやって、「まだまだ甘いな」とでも言わんばかりの、微笑を浮かべていた。
「すみません、助かりました!」
「気合入れな、坊ちゃん。あたしらがここで暴れてる限り、こいつらはこっちに寄ってきてくれるんだ。こんな大舞台で倒れたとあっちゃあ、男が廃るって物だよ!」
「それは、一大事ですねッ!」
飛び上がりながら、呪文を詠唱。大気が凝固して、空中に即席の足場を形作る。それを蹴り飛ばして、敦は再跳躍。十数メートルの高さまで飛び上がった彼の下方を、仔竜が地を揺らしながら駆け抜けていった。
仔竜は体当たりが失敗したと見るや、四足を踏ん張って急停止する。そしてそのまま踵を返し、再度攻撃を試みる。だがそれは、稀口女史の音の壁によって阻まれ、叶う事はなかった。仔竜群の一つに凄まじい勢いで叩きつけられ、嫌な音と共に翼が拉げる。
敦は空中で身を捻り、危なげなく着地する。舞い上がった砂埃の向こうでは、大量の仔竜達が、依然として彼らを包囲していた。だがどうした事か、猛り狂う咆哮は聞こえど、仔竜たちはその包囲を強めるでも緩めるでもなく、遠巻きに彼らを眺めているのみであった。
まるで、彼ら二人を恐れているかのように。
――いや。
「……鳥の鳴き声、かい?」
鳴り止まぬ仔竜たちの咆哮に混じり、聞こえてくるか細いそれを、稀口女史は聞き逃さない。キィと、甲高くも雄雄しいそれは、やがて大気を振るわせるほどの大音声へと変貌を遂げた。
その段になって、ようやく真川もその鳴き声に気付いた。
詠唱と、つま先で地面に描いた術式による簡易防壁を眼晦ましとして使用し、竜の突進をやり過ごす。飛来する瓦礫を避け、猛追する数多の竜の攻撃を掻い潜り、稀口女史の傍らに立つ。
共に、空を見上げる。
青い鱗を纏った仔竜達が行き交う、絶望に染まっていたはずの空に、今、高校と照る太陽が顔を覗かせていた。
そして、それが地上に降り注ぐのを遮る影が、一つ。
響き渡る鳥の鳴き声が、一際強くなる。心なしか、仔竜の咆哮が弱まっているように思えた。
仔竜たちは、確かに恐れを抱いていた。ただしそれは、真川らにではない。俄に開けた蒼穹を行き交う、漆黒の陰にだ。
あれは――
「鴉、か?」
およそ生物が出すべきではない速度で、縦横無尽に飛び回る陰。それは時折、晴天にあってなお冴え冴えと輝く針の様なものを撃ち出して、追いすがる仔竜を血霧と化していた。
体系化・効率化の波から逃れた「旧魔術」とでもいうべき力の担い手である稀口女史は、目端にその姿を一瞬捉えるのが精一杯であった。
が、真川は「生まれながらの災厄」とさえ謳われる存在が、大手を振って通学する五界統合学院に籍を置き、尚且つ学内の治安維持を担う風紀委員を、エクリエルに代わって統括・指揮する立場に身を置く男だ。
造作も無い事、とまでは言わないが、彼の知る限りのあらゆる術式で強化された視力は、見上げた空を乱舞するその凶鳥の姿を捉えていた。
真川のその言葉を聴き、稀口女史も得心がいった様に頷いた。
「鴉、鴉か。確かにそうだねえ。この鳴き声といい、ちょろっとしか見えないが、あの姿といい、確かに鴉だ。この蜥蜴もどきと敵対してるってことは、仲間――」
「――とは、限らないでしょう」
真川が言葉を引き継いで、続ける。その通りだよ、と言わんばかりに、稀口女史は頷いたが、数瞬の後、突如ニッとふてぶてしく笑った。
「鴉、か。今でこそ不吉の象徴みたいに言われちゃいるが、過去には神からの使いとも言われていたんだ。これが吉兆か、それとも凶兆か。賭けに乗ってみるつもりはあるかい、坊ちゃん?」
「――ここで引いたら、男が廃る。でしょう?」
知らず、眉間に刻まれていた皺が解れる。更なる不確定要素の出現に、引き締めざるを得なかった頬を、無理矢理持ち上げて、真川敦は何ともぎこちない笑みを浮かべた。
も少しハッタリを効かせられれば、合格点なんだがね。そう胸中で呟きながら、稀口女史は無言で、敦の答えを待った。
「ならば、是非も無し。賭けに勝って生き残り、これ以上誰も死なせない! そうすれば、大団円が待っているというものです!」
「よく吹いたよ坊ちゃん! さあ、大盤振る舞いと行こうかねぇ!」
陽光を反射する銀の閃きと、姿無き音の塊が乱れ飛ぶ。
仔竜の数体かが激怒の咆哮を喚き散らし、殺戮の坩堝と化したその場における、たった二人の獲物へと殺到した。
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