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それは連鎖する物語Season2 ♯2

611一文抜けてたから張りなおし@西口:2015/06/23(火) 21:46:03 ID:ss5gHwv.0
家々が薙ぎ払われ、開かれた空。遠方に見える羽蜥蜴――どうも竜というらしい――の群の中を飛び回る黒い影が、絶望に染まる空にポッポと赤い点を作り出していた。
鎧は、あれを味方だと言っていた。だから恐れる必要などないと。だがあの影は、この地獄を作り出したのであろう竜達を、鎧袖一触に蹴散らす存在だ。それを「味方だから」の一言で、安心して眺めている事など出来よう筈も無い。
彼女にしてみれば、どちらも十把一絡げのバケモノだ。見つからないように、目をつけられないように、縮こまるようにして、駆け抜ける。
やがて周囲を流れていた廃墟然とした町並みが、徐々にその様相を変じさせてきた。徹底的に、町内の端から端までを、畑でも耕すかのような丹念さで砕き潰していた、先程までの街区とは違い、そこは破壊の跡が疎というか、どうにも「雑」に思えてならなかった。
疑問を抱えつつも、祢々は歩度を緩めない。時折入る鎧からの指示に従い、先程のそれと比して、圧倒的に綺麗になった道路をタタタと駆け抜けていく。
 玄関部を大きく抉られ、内装を曝け出す羽目となってしまった民家に飛び込んで、上空を回遊する暴威の視界から逃れようとジッとしていた祢々は、まるで雷にでも打たれかの様な唐突さで、はたと気付いた。
そうだ。この街区にはその成れの果ても含め、「人」がいないのだ。
祢々が身を伏せる和室には、木片と土、そして畳を張り替えたばかりらしく、芳しい藺草の匂いが立ち込めている。鉄の臭いは、しない。
 ならば表の町並みについても、説明できようという物だ。人がいないからこそ、竜はこの区画を半ば放置するかのようにおざなりに破壊して、他方へと散っていたのだろう。
もしくは逃げ散る人々を追い立てた結果、そういう形になったのかもしれない。どちらにせよ、もしその仮説が事実だとすれば、一つの簡潔な事実が浮かび上がる。
あの竜たちは、人を殺す事「だけ」を目的としている。食らうのでもなく、破壊の余波に巻き込むのでもなく、殺害そのものを目的としている。何かに統率されているとは思えない無秩序さながら、その「指針」ともいうべき物は決して曲げていない。
 ゾッと、怖気が奔った。
先程までの風景から、十分に推察できる事だったが、しかし改めてその事実を認識してしまうと、恐怖心が物理的な重量すら伴って襲い掛かって来るかに思えた。
見つかれば殺される。他の何を置いてでも、あの巨体は自分を殺す為「だけ」に爬行する。守ってくれる者はもう、いない。
恐怖が鎌首を擡げ、少女の心の中を塗り潰そうと暴れる。だが祢々は、誇りも名誉もないが、矜持だけは持ち合わせる「露払衆」が一振り、祢々切丸は強いてその衝動を飲み込んだ。己を律する術は心得ている。
しかし、本当の恐怖を前にしては、そんな物気休めにすらならなかった。
鎧の事務的な声が耳朶を打ち、祢々はこれ幸いとばかりに、路地へと躍り出る。一人ぼっちでジッとしているのが、この上なく恐ろしかった。敵だろうが味方だろうが、どうでもいい。自分以外の「人間」の傍にいたい。
無意識にもそう思ってしまった事を、誰が責められよう。どう取り繕おうと、祢々は所詮10に届く程度の童女に過ぎない。それに何のかんのと言えど、彼女の周りには常に、保護者とも言える大人達が何人もいた。真に孤独な時間というものを味わうのは、初めてだった。
自分は露払衆が一振り。常人とは隔絶した異端。その思い上がりとさえ言える強烈な自負が、少女の恐怖に対する嗅覚を鈍磨させる。胸の内をそれ一色に塗りつぶされかけながらも、それが恐怖だと認識する事すら出来ないという状態が、どれ程危険な事か。
四つ辻を曲がった先で、何処か歪な笑みの様な物を浮かべ、己を真正面から見据える正真正銘の化物――竜の視線を浴びた時、祢々はそれを嫌というほど理解した。
『――ミス祢々! コンピューターを捨てて逃げて下さい! 今すぐに!』
 恐怖に押し潰され、思わず聞き流していた鎧の声に、漸く意識を向ける事が出来た。しかし、少女は動かない。
死への恐怖に、身が竦んでいた。
同年代の少女に比べて、祢々は確かに死というものに慣れ親しんでいるが、死への恐怖とは畢竟未知への恐怖だ。一度も死んだ事もない者が、それを真の意味で克服する事など、出来よう筈もない。
しかしその恐怖の中に一点、別の感情が入り混じっていた。
安堵だ。


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