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それは連鎖する物語Season2 ♯2

604数を持たない奇数頁:2015/06/23(火) 21:43:24 ID:ss5gHwv.0
 走る。走る。走る。
地を踏みしめて、蹴り飛ばす。まるで空でも駆けるかのような軽やかさで、彼女は山道を走り抜ける。
伏神山は、伏神家にとってはまさに城砦とでもいうべき地であり、魔界人租界の周囲に設置されていた地雷原ほどではないにせよ、その術式的防備は厳重である。
しかし少女――クロガネ・DSはそれらのどれ一つにすら触れる事無く、まるで無人の野を行くが如くに走り抜ける。
まるで罠や監視魔符の位置が見えているかのように――いや、事実彼女の眼はそれらを捉えているのだ。人と同様の見た目と、血の通う肉を持ちながらも、やはり彼女は一般的な「人間」の垣根を大きく飛び越えた存在であるのだ。
でなくば、竜殺しなどやってはいられない。
その身に纏う、肩部が大きく露出した漆黒のドレス――ワンピース、と言った方が正しいだろう――は風に翻り、はためく。その裾を煩わしげに押さえながら、クロガネは大きく跳んだ。
足下の地面は、クレーターめいた大きく抉れ、彼女はその反動のまま、大きく飛び上がった。風が頬を撫で、一瞬だけ重力を振り切った見返りとばかりに、心地よい浮遊感が彼女の体を包んだ。
だが、それもすぐに終わりを迎える。
彼女の体は放物線を描き、やがて重力に絡め取れ、地に落ちていくだろう。しかもその眼前には、落差数十メートルにも及ぶ、巨大な崖がぽっかりと口を開けている。
もしもこのまま落下すれば、如何な彼女とて、無事では済まないだろう。他ならぬクロガネが、それを一番承知している。
しかし、彼女の表情は一切動かない。心にも、漣ほどのざわめきも起こらない。彼女は確信しているのだ。己の「生」を。
体を大きく開いて、風を受け止める。頭が上がり、クロガネは空中を泳いでいるかのような、人間的錯覚を覚えた。それを馬鹿馬鹿しいと思わず、大切な宝物のように心の奥底にしまいながら、少女は黒髪を靡かせ、呟く。
「『ヤタガラス』、転送シークエンス開始」
 それは一瞬の出来事だった。
空間が揺らぐ。それは落下するクロガネの露出した肩に、ピッタリと寄り添うように追従し、その肩幅に沿うように横に広がっていく。
そしてクロガネの肩幅を大きく逸する長大な物となった。その全長、およそ五メートル。
座標特定。空間連結完了。彼女の体内で、音も無く幾十もの術式が走り、「それ」を人の世界に引きずり出す。
可装飛行ユニット「ヤタガラス」。
光を吸収する全き黒の翼が一対。それらの下部には、六つの円筒を一纏めにした様な鋼鉄の機材が、それぞれ一つずつ取り付けられている。もしその場に機界の文明に詳しい人物がいたならば、それが「斉射砲」と呼ばれる火器の発展形だと分かるだろう。
ユニットの最前方には、鴉の名前が示す様に、真紅色のアイカメラを輝かせる不吉な顔つきの鳥の顔の様なものがある。
胸部に該当する部位から、足めいた機材が二つ伸びている事を除けば、それはまさにカラスだった。
クロガネの肩を鷲掴みにする両足、即ち神経接続機《ナーブコネクター》は、既に彼女との同調を終えている。彼女は指を動かすかのような気安さで、ユニット後部の推進器や、各種スラスターを操る事ができる。
それを証明するかのように、推進器がボウと高熱を吐き出す。
ヤタガラスの長大な翼が、パラシュートめいて風を受け止め、得られた僅かな抗力によって、落下速度は緩くなったにせよ、クロガネはいまだ重力に捕らえられている。
しかし点火した推進器が、その落下軌道を捻じ曲げる。地面に対して垂直であったベクトルが、徐々に並行に。遂には完全に重力を振り切り、クロガネは足下の樹林を眺めるような体勢で、一路、上伏町を目指す。


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