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天界の王子-Heavens of Prince-

1竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2012/12/15(土) 23:07:05 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

この名に変えてから間もないですから、初めまして。またはこんにちわ。
竜野 翔太です。

これは『剣-TURUGI-』のリメイク版です。
それに際してタイトルも変えました。前作の面影の欠片も残ってませんが。
前作のストーリー知ってる人は、タイトルを見て『ああ、アイツのことだな』と分かって下さると思います。
これは前作でも三〇〇レスいってストーリーも大方固まっていたのですが、前回とは大幅に修正がかかってます。キャラの出番の増減や、出る順番、主要キャラは変えてませんが一部キャラの名前変更etc...

改変した点も含めて、楽しんでもらえればなと思います。

2竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2012/12/15(土) 23:33:10 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

第1話「天界の王子」

 一人の少年が夕日で赤く染まる街を全力で走っていた。
 黒い髪をツンツンにさせた少年で年齢は十五、六歳程度。恐らくは高校生だろう。その少年は後ろから迫る五人組の不良集団から逃げていた。しかし、少年と不良の距離は一向に縮まらない。
 そう、『離れていく』ではなく『縮まらない』。
 追われている少年が、一定の距離を保ったまま逃げているからだ。それに、追われてる側はあまり息を切らしていないにも関わらず、追っている側はぜーはーと肩で息をしている。追われている少年は相手に思わず同情してしまう。
 少年の名前は切原魁斗(きりはらかいと)。高校一年生だ。彼は生まれつき足が速く、厳密に言えば脚力が非常に高い。五〇メートルのタイムは四秒台だ。しかし、そのタイムを普通に出してしまうと異常に目立つので、大体七秒台になるように加減している。目立つのが、あまり好きではないからだ。
 少年、切原魁斗はちらっと後ろを見る。息を切らしながら追いかけてくる不良ご一行を眺めながら、『ごくろーさん』と小さく呟き、
「ここらで給水タイム入るかー?」
「ざけんなコラァ!!」 
 ちょっとしたジョークのつもりだったが、思い切りキレられてしまった。
 きっかけといえば、彼らに絡まれている女子中学生二人組を助けたところからだ。勿論、魁斗としてはその中学生と知り合いではなかったのだが、どうも見捨てる気にはなれなかったらしい。
 で、結果がこれだ。
 魁斗は脚力は高いが腕力は平均程度しかない。一対一ならまだしも、一度に五人を相手には出来ない。
 格好つけて助けたりするんじゃなかった、と逃げてばかりいる自分を哀れに思っていると、目の前にぼーっと佇む少女が目に入る。
 彼女はこちらに気付いておらず、ぼんやりと赤い空を眺めていた。
「わわっ!?」
 いきなりなので、魁斗もスピードを殺せない。
 こっちに気付いた少女が驚いたように目を見開くと同時、

 魁斗と少年が勢いよくぶつかった。

 お互いに短い悲鳴を上げながら尻餅をつく。
「いてて……あ、おい。大丈夫か?」
 魁斗は急いで立ち上がると、ぶつかった少女に声を掛ける。
 少女、というには少し大人びた雰囲気の―――『女性』という表現が正しいような人物だ。腰の辺りまで伸びた綺麗な銀髪に、澄み渡った空を連想させるような碧眼。肌は白く、ほっそりとした身体つきの女性だ。年は、魁斗より少し上くらいに見える。
「いえ、大丈夫です。ご心配なく―――」
 そこで彼女の言葉が止まる。
 魁斗と目が合い、『あなたは』と彼女が新たな言葉を紡ごうとしたその時だった。 
 倒れた女性を立ち上がらせると、追いかけてきた不良ご一行様に追いつかれてしまった。
 うっ、と魁斗が肩をびくっと揺らした。
 彼はぎこちない動きで振り返る。不良ご一行様はかなり不機嫌なご様子だ。
 魁斗はどうしたもんか、と後ずさりしていると、一人の不良の拳が襲い掛かった。
 だが、その拳が魁斗の頬を殴りつけるより早く、銀髪の少女がその拳を受け止めていた。
「―――え?」
 声を漏らしたのは魁斗だ。
 何故彼女が自分を助けたのか。それが理解出来ていないのだ。
 銀髪の少女は、夕方の風に長い銀髪を靡かせながら、
「……この方に殴りかかるとは、いい度胸ですね」
 彼女の透き通るような声が響いた直後、男が大きな音を立てて地面に叩き伏せられていた。恐らく背負い投げでもしたのだろうが、魁斗も、他の不良達も全く見えていなかった。
 彼女が只者じゃない、と思った不良集団はやられた一人を抱えてそのまま逃げ去っていった。
 魁斗がその光景に唖然としていると、ふっと銀髪の女性が彼の目の前に立った。
「あ、ありがとな……えっと、アンタは……?」
 彼女は僅かに寂しげな表情を一瞬見せた後、元の締まった表情を浮かべ、
「私はレナと申します。貴方は、切原魁斗……ですよね?」
 そうだけど、と魁斗が返す。
 直後、レナと名乗った銀髪の女性は驚きの言葉を口にした。

「貴方はこの世界とは別の世界―――天界(てんかい)で生まれた、天界の王の子。―――つまりは、天子(てんし)なのです」

3竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2012/12/16(日) 20:18:03 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 魁斗は、レナと名乗る女性を自分の家に連れて行った。
 二階建ての一戸建ての家だ。家に親の姿はなかった。魁斗には母親しかいない。父親は小さい頃に蒸発した、と母が言っていたが、それは本当の親ではないのだろう。どこまでが本当の話か分からない。勿論母も本当の母親ではないのだが。
 魁斗は二階にある自分の部屋にレナを入れる。自分の部屋に女子を入れるのは初めてな、若い魁斗である。
 レナは床に行儀よく正座して、椅子に腰掛ける魁斗の方へと身体を向けた。
「では、まず何からお話ししましょうか」
「……天界の説明と、アンタが何者かってことだ」
 そうですね、とレナは頷く。
 そのレナの表情は、どこか寂しさを感じさせるものだったが、魁斗は特に気に留めなかった。
「天界というのは、平たく言ってしまえばこの世界とは違う、異世界のことです。その異世界の王、つまり天王(てんおう)様とそのお妃様の間に生まれたのが、貴方です。天王とその妃の間に生まれる子供、それを天子(てんし)と呼ぶのです」
 レナの説明は分かりやすく、はっきりとしていた。
 その天界の存在を信じる信じないは別として、よくある『必要なところだけを言う』説明とは全然違った。まるで、辞書のCDでも聞かされている気分だ。
 レナは自分の控えめな膨らみのある胸に手を当てて、
「私はその天子として生まれた貴方の養育係を命じられていました。改めて自己紹介を。レナ・エルミントと申します」
「待て」
 レナの正体が分かったところで魁斗は彼女の言葉をストップさせる。
「俺がその、天界ってとこに住んでたんだろ? じゃあさ、俺にその世界での生活の記憶がないのは何でだ? 普通あるもんじゃないのか」
「貴方が、カイト様が幼い頃にこちらの世界に送られたからです」
 魁斗は絶句する。
 それならば、自分に天界での記憶がなくても可笑しくない。しかし、何故こっちの世界に送られたのか。魁斗が聞くより早く、レナが魁斗の心を見透かしたように口を開く。
「こちらに送られた理由は……」
 そっとレナが魁斗の胸に手を当てる。
 レナとの距離が詰まり、少しどきっとしてしまう。心臓の鼓動が早くなるのが分かる。もしかしたらレナにも気付かれているのかもしれない。
 気付いていないのか、あるいは気にしていないのか。レナは同じく口調で言葉を紡ぐ。
「貴方の中に、天界で『神具(しんぐ)』と呼ばれる道具が宿っているからです。それもどういうものか分からない『シャイン』という謎の物質なのです」
 貴方は神具を狙う賊軍から逃がすために、こちらに送られたのです、とレナは言葉をくくった。
 未だに心臓の鼓動が正常に戻らない魁斗。説明が終わり気が緩んだレナが、魁斗の胸の鼓動に気付き、顔を上げる。彼女が顔を上げると二人の顔の距離は十センチ程度しか開いていない。急に顔を赤くして、レナは魁斗から離れる。
 魁斗も恥ずかしくなったのか、顔を赤くしている。この空気を変えるため、魁斗は質問をする。
「な、なあ、だったら何でお前がこっちに来たんだ? 俺がここにいる時点で、その賊軍からは逃げられたんじゃなかったのかよ?」
「それが……」
 レナの声色に真剣さが戻る。
「幼少の頃はまだ身体が未熟で、貴方の中に宿る『シャイン』も不完全。貴方の居場所を探るのも中々上手くいかなかったのです。しかし、貴方が成長し『シャイン』は完全に覚醒した。天界の賊軍が、貴方を襲ってくるかもしれないのです」
 そのための、レナの派遣。
 魁斗は事実を知って、絶句した。

4竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2012/12/21(金) 21:26:10 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 結論を言われるまでもなく、魁斗はレナがこっちまで来た理由を理解できた。
 今までは身体も未成熟で、『シャイン』も不完全だった。そのため、自分をこっちの世界に送ることで守ることが出来ていた。しかし、成長につれ『シャイン』が完全な形になってしまった。賊軍から魁斗を守るためにレナはこっちに来たのだ。
 つまり、レナは迫る賊軍と魁斗を守るために戦うことになるかもしれない。一対一かもしれないし、二対一、もしくはもっと大勢の人数と戦うことになるかもしれない。
 彼女は、本当に命を懸けて戦おうとしているのだ。
「……お前」
「私は貴方を守るために生まれてきた。そう思っています」
 魁斗の言葉に、レナが自分の言葉を重ねる。
 きっと彼女も命を落とすのは怖いだろう。もっとも信頼し、大事に思っている魁斗から『死ぬな』と言われれば決意が揺らぐと考えたのか、彼女は魁斗に優しい言葉をかけられる前に、自分の言葉で遮った。
 魁斗は、俯いているレナの肩が小刻みに震えているのに気付く。
 そんなに怖いのなら戦わなくてもいい、などという無責任なことは言えない。そもそも誰のために戦っているのか、それを考えた魁斗は彼女に何の言葉もかけることが出来ない。
 レナの肩に優しく触れようと、魁斗が手を伸ばした瞬間、
「伏せてください!」
 レナが途端に顔を上げ、魁斗に覆いかぶさるようにして彼を押し倒す。レナと密着している状態だが、状況の把握も間に合わず、それを楽しむ余裕などない。
 レナが叫んだ後、部屋の窓が勢いよく割れる。割れた勢いこそ強かったものの、破片はそのまま落ちていったので、二人に怪我はなかった。
 二人は身体を起こし、窓から下を覗き込む。
 そこには一人の男がこちらを見つめ、笑っていた。闘争心をむき出しにした、獰猛な笑みだ。
 色素が濃い茶髪で、右目が長い前髪で隠れている。服は黒のコートで背中には身の丈より少し大きい刀が帯刀されている。
 男は魁斗達を見上げながら、
「おォい、来てやったぜ、養育係さんよォ。わざわざこんなトコまで追いかけさせやがって、こっちの都合も考えろってんだよ」
 男が呆れた口調で言う。
 レナは窓から飛ぼうとしている。魁斗も外へ出ようと部屋のドアへ向かうが、
「ここにいてください」
 レナの言葉に、魁斗の動きが止まる。
 彼女は明らかに無理している笑顔で魁斗を見ながら、
「すぐに済ませてきますよ」
 窓から飛び降りる。
 彼女は上手く着地し、目の前の茶髪の男を睨みつける。
 男は引き裂いた笑みを刻みながら、
「始めようか、養育係さんよ」
「レナ、レナ・エルミント」
 彼女は小さく自分の名前を相手に伝える。
「しっかりと、名前を覚えてください」

5竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2012/12/23(日) 00:42:27 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 レナは真っ直ぐと目の前の敵を睨みつける。
 一方で、男の方は闘争心を剥き出しにした獰猛な笑みを浮かべるだけだ。彼はかなり余裕があるようで、レナが戦おうと構えているのに刀に手を伸ばそうともしない。
 男はようやく背中の刀の柄に手を伸ばし、そのまま巨大な刀を引き抜く。彼とレナの間は三〇メートルほどの距離が開いている。
 巨大な刀の切っ先をレナに向け、男は告げる。
「……あァ、一応自己紹介でもしておこうか。『死を司る人形(デスパペット)』第八部隊第一小隊隊長、ザンザだ」
 『死を司る人形(デスパペット)』。
 それがレナの言っていた賊軍の名前だ。第八部隊、ということは最低でも一から八までの部隊があるということだ。レナ一人で、どこまで耐えることが出来るのだろうか。
 彼女は左のわき腹を、顔をしかめながら押さえている。ザンザはレナのその行動の意味を察したのか、『くはっ』と笑いを漏らす。
「お前怪我してんのか。そんな状態で俺に勝てるとでも思ってんのか?」
 ザンザは担ぐように刀を肩に乗せる。
 レナはザンザの持つ巨大な刀を見つめている。痛みを訴えるわき腹に顔をしかめながら、レナは言葉を紡ぐ。
「それは、『大宝の御剣(だいほうのみつるぎ)』? そんな珍しいものをよく手に入れましたね」
「ハッ、流石だな。気付いたかよ」
 天界には『剣(つるぎ)』と呼ばれる武具が存在する。形は刀や槍、銃や弓矢などと様々で、それぞれ違う能力を持っている。何の能力も持たないただの刀のような『剣』もあるらしいが。通常は携帯しやすいように指輪やブレスレット状にして身に付けているのだが、ザンザのように武器のまま携帯しているのは珍しい。
 かくいうレナの右手首にもブレスレットが装備されている。恐らくそれが、レナの『剣』だろう。
 彼女はそのブレスレットの『剣』を解放する。ブレスレットが光に包まれ、光の形状が二本の刀に形を変える。左右一対の双刀。柄の先には鈴が付けられた紐がぶら下がっている。
 ザンザはその刀を睨みつけて、
「……あまり変わったところは見当たらねェな。珍しいモンなのか?」
 さあ、とレナは返す。
 『剣』の知名度によっては、見た目では分からなくとも名前を聞いただけで能力が分かるものもある。見た目だけで相手の『剣』の名前を言い当てたレナは、相当『剣』に詳しいようだ。
 ザンザは溜息をついて、刀の切っ先を上へと向ける。
「俺の任務は天子のガキの中にある『シャイン』を引きずり出すことだが、邪魔が入っちゃしょうがねェ。とことん相手してやんぜ、消し炭になるまでよォ!!」
 ザンザの巨大な刀の刀身が光に包まれる。
 レナは双刀を前に構えて、相手の攻撃に備えようとしていた。

6竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2012/12/23(日) 20:32:26 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ザンザの『剣(つるぎ)』、『大宝の御剣(だいほうのみつるぎ)』は光の斬撃を、相手に向かって射出する刀。
 故に威力は大きいが隙が出来やすい。しかも刀身が長いため、相手が近寄ってくると対処しにくい。近接戦には向かない。ただしそれは、一般的な話だ。
 ザンザはレナに向かって巨大な斬撃を撃ち放つ。レナはそれを紙一重でかわすが、動いただけでわき腹が容赦なく痛みを訴える。彼女は膝をついて苦しみだす。
 そこにザンザは畳み掛けるように、巨大な刀を掲げながら突っ込んでくる。
 咄嗟に反応できたレナが、彼の攻撃を二本の刀で防ぐ。が、男女の腕力の差。そして両者の刀の大きさの差。その二つの差が合わさり、レナは後方へと吹っ飛ばされる。彼女の身体は電柱に激突し、彼女の口の端から一筋の血が垂れる。
「レナ!」
 魁斗は思わず叫んでいた。
 自分のために怪我を負ってまで戦っている女性が、窮地に追いやられている。飛ばされた時に離れたのか、彼女の手から二本の刀が消えており、地面に無造作に転がっている。
 魁斗は自分の無力さに歯噛みする。何も出来ない、という自分の無力さに腹が立ってくる。だが、自分が出て行ったところで、あの男に何か出来るわけでもない。
 ザンザは溜息をつきながら、ただ息を切らしているだけのレナに近づいていく。
「傷の分がマイナスになったなァ。お前が無傷で万全の状態なら、もうちっといい勝負になってたかもしれねェが……このザンザ・ドルギーニを相手にするには、怪我を負った状態じゃ不可能だってことだ」
 ザンザは巨大な刀を上に掲げる。
 これからレナにトドメを刺そうとしているのか、彼の笑みがいっそう深くなる。
「やめろ! もう勝負はついてるだろ! お前の目的は俺なんだろ!? だったら俺だけ狙えばいいじゃねぇか!!」
 魁斗は叫ぶ。
 自分のために誰かが死んでいいわけがない。しかし、彼の叫びはザンザの耳には届いても、心には響かない。
 彼は子供の自慢話を聞かされているかのような、そんな呆れた溜息をついて、
「お前の都合なんざ知るかよ。やめてほしけりゃ、お前が何とかしたらどうだ? 出来るんなら、の話だがなァ」
 引き裂かれた笑みを浮かべザンザが言う。
 何も言い返せなくなった魁斗をつまらなそうに見つめ、ザンザは再びレナへと視線を向ける。
 最後に手向けの言葉と共に、刀を振り下ろす。
「じゃあな、養育係。恨むなら、自分を死なせた原因を作ったあのガキを恨めよ!!」
 ザンザが刀を振り下ろす。
 レナは最後まで魁斗のことを考えていた。彼女は血が垂れる口を、無理矢理に笑わせて、
「……世迷言を。私が、カイト様を……恨むわけがありません……! 私は、カイト様の養育係だということに、誇りを持っているのですから……。さようなら、カイト様」
 彼女の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
 そんな彼女を、ザンザの巨大な刀が真っ二つに引き裂いた。

 が、ザンザの刀がそれを現実にすることはなかった。
 彼の目の前には、今まで何も出来なかった黒髪の少年が、地面に転がっていた二本の刀を手にし、ザンザの巨剣を防いでいた。

 普通では二階から階段を使って降り、地面に転がっている刀を拾ってからザンザの斬撃を防ぐなど不可能だ。
 だが、彼は天子。ずば抜けて高い脚力を持っている。
 彼は、階段など使わず窓から降りて、五〇メートルを四秒で駆け抜ける脚力をフルに使い、途中で刀を拾いながら、ザンザの攻撃に間に合ったのだ。
 ありえない、とザンザは思う。養育係より、彼の方がよっぽど脅威だとも思う。
 レナは自分を助けてくれた魁斗に、先ほどとは違う意味の涙を零していた。
「……カイト様……」
 魁斗はレナの方を振り向かず、ただ言葉だけを告げる。
「泣いてんじゃねぇよ、勝手に死のうとしやがって」
 彼は目の前のザンザを睨みつけながら、力強く宣言する。

「お前は休んでろ。あとは、俺がカタをつける!!」

7竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2012/12/23(日) 23:13:22 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ザンザは目の前の光景に戦慄していた。
 彼は自慢ではないが、八部隊でもかなりの実力者だ。そんな自分の攻撃がただの素人に防がれた。いくら天子でも、ザンザはその光景に驚かずにはいられなかった。無意識に彼は刀の柄を強く握り締めていた。プライドを傷つけられた、というわけではないが、単に自分の攻撃が防がれたことに腹を立てていたのだ。
 しかし、それでも彼は勝利を確信していた。
 刀が防がれたのはまぐれだ。こっちもトドメの攻撃だから、少し手加減していたのかもしれない。相手は戦いの素人だ。恐らく光の斬撃もかわせないだろうし、刀の扱いだって素人だろう。そんな相手に自分が負けるはずがない。ザンザはそう思っていた。
 魁斗は二本の刀を構えながら、ザンザを睨みつけていた。そんな彼に、レナが声を掛ける。
「……あの、カイト様……」
「言っとくけど、文句は言わせねーからな。俺のためにお前が死んでいいはずがねーんだ。怪我人はそこで大人しくしてろ」
 レナは少し嬉しそうに表情を綻ばせながら頷く。
 今彼女の前に立つのは、自分が世話をしていた幼い少年ではない。自分を守ろうと立ち上がってくれた、成長した少年だ。
 二人のやり取りを見て、ザンザが吹き出したように笑う。
「ハッ! 随分と余裕じゃねェか、天子さんよォ。まァ、怪我のマイナスがねェ分楽しめそうだが、それでも素人だ。それで勝てるほど、世の中は甘くねェぞ!」
 ザンザがすかさず光の斬撃を放つ。だが、ザンザはどんな相手にも手加減はしない。彼はそのまま魁斗に突っ込んでいく。
 魁斗はザンザが思ったとおり、運良くかわした感じだった。ザンザの接近に気付いているが、もうその時にはザンザの刀の攻撃範囲に入っていた。終わりだ、と言わんばかりにザンザが巨大な刀を横薙ぎに振るう。
 が、
 魁斗が後ろへ身体を退き、彼の攻撃をかわす。
「なァッ!?」
 光の斬撃がかわされるのは想像の範囲内だった。だからかわされても驚きはしなかった。だが、この二撃目の攻撃をかわされるとは思わなかった。挙句、魁斗から反撃される。ザンザは急いで刀を戻し、その攻撃を防ぐ。
 彼は後ろへ飛びのき、恨めしそうに魁斗を睨みつける。
 魁斗は素人のような構えで二本の刀を構えている。
「嘘だろ……ッ? どっちもかわされた? 野郎、ただ脚力が強いだけじゃねェのか?」
 呟くようなザンザの愚痴は魁斗の耳には届いていない。
 ザンザは再び、渾身の攻撃を与えるべく、刀に光を纏い突っ込む。
 雄たけびと共に刀を振り下ろす。しかし、

 ガァン!! という大きな金属音を立ててその攻撃も魁斗の二本の刀に防がれた。

「……ッ!」
 今度こそザンザに大きな隙が出来た。
 魁斗はそれを見逃さず、刀の柄を強く握り締め、目の前のザンザを睨みつける。
 ザンザは恐怖に声を、震わせながら叫ぶ。
「……んだよ、お前は……! 一体何だってんだよ、お前はァァァァ!!」
「切原魁斗。ただの、天子だよッ!!」
 魁斗が思い切り刀を振り下ろす。ザンザには逃げられたが、とりあえずこの場を収束させることには成功した。あと、レナを守ることも。
 魁斗はレナの下へと駆け寄り、心配そうな顔で体調を聞いてくる。レナもその剣幕に押され苦笑いしながら『大丈夫です』と答える。
 ホッと胸を撫で下ろす魁斗を、レナは僅かに頬を染めながら見つめ、
 
 ―――成長なされたのですね、カイト様。
 
 嬉しさに、表情を綻ばせた。

8チェリー:2012/12/24(月) 05:13:00 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
ドラゴン、おまえ天才。

9竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2012/12/24(月) 21:32:21 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 翌朝、魁斗は学校へと向かっていた。
 六月に差し掛かる時分、ブレザーを着るのは暑くて、生徒の数人は既に制服を夏服に変えている生徒もいる。一方の魁斗は未だ長袖のカッターシャツだが、袖を捲って着ている。
 朝起きたらレナの姿は見当たらなかった。『死を司る人形(デスパペット)』の刺客を退けた後、傷を癒すために天界へ戻る、と言っていた。また戻ってくるのだろうが、それがいつになるかは分からない。彼女が使っていた双刀の『剣(つるぎ)』も、魁斗に渡し、天界へと戻っていった。これは使え、という意味なのかもしれない。
 一応ブレスレットに戻った『剣(つるぎ)』も鞄の中に入れている。
 魁斗は低く呻きながら、右肩を叩いている。
「あー、右肩痛ぇ……。絶対昨日のが原因だよなぁ……。日ごろ運動してないツケが回ってきやがった……!」
 魁斗は右腕を回しながらそう言う。
 ザンザの巨大な刀の攻撃を防いだり、思い切り刀を振り回したりと、通常はしない運動ばかりを行っていたので、筋肉痛のようなものを起こしたのかもしれない。ついでに右ほどではないが、左肩も少し痛い。
 そんな彼の横から、一人の少女が声を掛ける。
「おはよう、カイトくん」
 声を掛けてきたのは、魁斗と同じ学校の制服を着た女の子。彼女は既に夏服に衣替えをしている。
 肩より少し長い栗色の髪に、黄色のカチューシャを付けた少女だ。瞳は大きめで、目立たないがかなりの美少女である。
 彼女の名前は沢野叶絵(さわのかなえ)。魁斗と同じクラスの少女で、中学からの知り合いだ。魁斗の数少ない友達の一人である。
 何かと世話を焼いてくれる少女で、礼儀正しい娘だ。
「……ずっと肩叩いてるけど、痛いの?」
「昨日ちょっとあってな。大丈夫、明日には治ってる」
 魁斗の返事を聞いても叶絵は心配そうな表情をしていた。
 すると、彼女は急に思い出したように話題を振ってきた。
「そうだ! 今日転校生がくるんだよ!」
「転校生?」
 学校に着き、上履きに履き替えながら二人はそんな会話をしていた。
 教室に向かいながらもその話題は続いていた。彼女が手にした情報も、その転校生が女子だ、という以外にはなく、どんな女子かも分かっていないのだ。
 教室に入り、二人は隣同士の席に座った。
「仲良くできるといいね!」
「……まあ、そうかもな……」
 程なくして担任の教師が入ってきた。眼鏡をかけた三十代前半の男性教師だ。
 教師は転校生が来ることを生徒に伝え、教室の前で待機させている転校生に入るように促した。
 その時、魁斗は驚愕した。
 もっと考慮すべきだった。あの女が、

 自分を守るためだ、などと言ってこっちの世界に来た女が、学校に紛れ込むという可能性を。

 銀色の髪を揺らしながら、転校生の少女は教室に入っていく。チョークを手にし、黒板に綺麗な文字で名前を書いていく。
 魁斗が知っている彼女の本名ではなく、日本人らしい名前を黒板につづった。
 名前は長谷川麗奈(はせがわれな)。エルミントはどこいった、という変わりぶりである。
 転校生の長谷川麗奈、改めレナ・エルミントはにっこりと笑いながら告げる。
「転校生の長谷川麗奈です。皆さん、仲良くしてくださいね!」

 勘弁してくれ。
 魁斗は漠然とそう思った。

10竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2012/12/30(日) 20:25:53 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

第2話「転校生レナ」

「痛いっ!!」
 一時間目の休み時間、魁斗はレナを体育館裏に呼び出していた。彼女の突飛な行動を叱るためである。魁斗はレナの頭にチョップを振り下ろすと、レナは涙目になりながらこちらを見つめてくる。
 何するんですか、とでも言いたげな表情である。
 魁斗は溜息をつきながら、涙目で見つめてくるレナに対し、
「お前なにしてんだ。何で学校に来てんだよ! 天界に帰ったんじゃないのか!?」
 魁斗の言葉に対し、レナは頬を膨らませながら返答する。
「帰ってません。戻っただけです」
 何をしに? と魁斗が問いかける。
 問いかけられたレナは、ブレザーのポケットから銀色の指輪を取り出した。何の石も埋め込まれていない、ただ模様が刻まれているだけの銀色の指輪。
 これは一体なんだろう、と首を傾げる魁斗。レナは彼の心を見透かしたように、
「一つは傷の治療。向こうの薬の方が効くんです。二つ目はこれを取りに帰ってたんです。これは、『剣(つるぎ)』ですよ」
 そこで、魁斗はレナから『剣(つるぎ)』のことを聞いた。
 気付いたら二本の刀がブレスレットに戻っていたのはそれか、と魁斗が納得する。レナは右手の中指に銀色の指輪を嵌め込む。
 彼女の視線は、魁斗の右手首に向けられる。
 自分があげた『剣(つるぎ)』がないことに、気付いたレナは魁斗の肩を掴み、彼をがくんがくんと揺らしながら問い詰める。
「ど、どどどど、どういうことですか、カイト様! な、何で私があげた『剣(つるぎ)』を身に付けてないんですか!?」
 魁斗は揺られながらレナに、ちゃんと持ってきている、と伝える。
 本来は身に付けねば意味が無いのだが、魁斗はそういうところは気にしないらしい。今襲われても文句を言えない。
 魁斗は今度からちゃんと身に付けようと心に決める。
 すると、魁斗は思い出したようにレナに話題を振った。
「そういえば、お前こっちで泊まるアテとかあんのか?」
「あら、カイト様が泊めてくださるのですか?」
 そういうわけじゃないけど、と魁斗は否定しておく。
 まだ親にも確認を取っていないのに、いきなり姉でも妹でもない女子を住まわせるなど、とても勇気が無いと出来ない。恋人だと話は別だろうが、レナは魁斗の恋人などでもない。
 レナはふふ、と上品に笑って見せて、
「大丈夫ですよ。ちゃーんと住むところは決めています」
「本当か?」
 どこかレナの言葉を信用しきれていない魁斗。
 信じてもらえてないレナは、本当ですよ、と魁斗に反論する。彼女は長い銀髪を自慢げに靡かせてから、
「ではご案内いたします。放課後、私が住むところに」
 そこまでムキにならなくてもいいと思うのだが、と感じてしまう魁斗だが、彼女の勢いに押され断りきれなかった。
 何だかレナはなんでも強引に決めてしまおうとする癖があるようだ。
 魁斗は疲れたような溜息をつく。

11竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/04(金) 21:58:56 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「というわけで、この英文は『トムがジェリーに本を貸した』ではなく『トムにジェリーが本を貸した』の方が文法的に正解でしょう」
 英語の授業。
 レナは教科書を読みながらそう言った。彼女の教師よりも分かりやすい説明に担当教師は口を開けて唖然としており、クラスメート一同は大きな拍手を彼女に贈る。魁斗と叶絵も今の説明は分かりやすかったらしい。英語を含め、ほぼ全教科が出来ない魁斗はありがたかった。
 三時間目の体育でもレナはずば抜けた運動神経を披露し、四時間目の数学でも彼女の秀才ぶりは留まることを知らなかった。そんなところで才能を発揮しても大丈夫なのか、と魁斗は少し不安になる。
 昼休み。魁斗はいつもどおり叶絵と一緒に昼食を食べていた。見た目が結構可愛らしい叶絵と一緒というだけで魁斗は周りから羨ましがられる。叶絵が魁斗に好意を寄せているのは周知のことだが、彼女自身は気付いていない。魁斗もよもや自分が好意を寄せられているなど気付かないだろう。
 そんな二人のもとに、同じく弁当を持った長谷川麗奈―――もといレナ・エルミントが、
「私もご一緒していいですかね? カイトさ……切原くん、沢野さん」
 白々しい笑顔でレナはそう問いかけてくる。叶絵はにっこりと笑いながら、どうぞ、と言って彼女を向かい入れる。
 しかし、いきなり『カイト様』と呼ばれそうになるとは思わなかった。幸い叶絵は気にしていないようだが、魁斗からすれば内心どきどきだ。
 彼女は自分で作ったらしき弁当を広げる。見事に盛り付けされてとてもおいしそうに見えるその弁当を叶絵は感嘆の声を上げながら見つめる。
「すごい。これ、全部長谷川さんが作ったの? 勉強や運動だけじゃなく、お料理も出来るんだね」
「もう、麗奈でいいですよー! よかったら少しあげましょうか?」
 わいわいと盛り上がる女子同士の会話に魁斗の入る余地はあるはずも無い。彼は目の前の女子のはしゃぎ具合に嘆息しながら弁当を食べ進めていった。
 すると、廊下でこちらを見ている眼鏡の少年と目が合った。
 何だあいつ、と魁斗が彼を睨んでいると彼の前を一人の生徒が横切った。瞬間、その少年の姿は消えていた。不可解な出来事に魁斗は顔を顰める。
 彼の顔が険しくなっていることに気付いたレナが、彼に小声で聞いてくる。叶絵の配慮はありがたい。
「……どうかしましたか?」
「いや、さっき誰かに見られてたんだが……どっか行った」
「不気味ですね」
 そうだな、と魁斗は返す。二人は何事もなかったかのように食事を続けることにした。
 叶絵は、レナが作った玉子焼きを食べて幸せそうな表情を浮かべている。相当おいしかったようだ。
 魁斗もレナの好意で玉子焼きを一つもらった。たしかにうまい、と魁斗は感心したような表情を浮かべていた。

 丁度その頃、ある廃ビルの上に二人の人影がある。
 一人は桃色の髪をポニーテールにしている女性だ。彼女は望遠鏡で遠くを覗きながらカップのジュースを飲んでいる。そんな彼女の足元にはもう一人の人物。茶髪に右目が前髪で隠れている男がいる。彼はいつもは背中に装備している巨大な剣を手元に寝かせていた。二人の共通点は黒いコートを着ていることだった。
 ピンクの髪の少女が、楽しそうに口の端を吊り上げる。
「ふーん。つまり、あの黒髪の少年にザンザは負けたんだね?」
「負けてねェよ。逃げただけだ」
「でもでもぉ、勝てないと思ったから逃げたんでしょ? 結局負けじゃん?」
「負けてねェつってんだろ」
 ザンザは僅かに不機嫌だ。
 それもそのはず。自分が戦いの素人に負けたのだから、それは不機嫌にもなる。
 彼は、素人が纏うとも思えない強力な光の塊に気圧されたのだ。あんなデカイのをどうやって纏ったんだよ、と彼はずっと考えていた。
「で、いつ行くの? 今日? 明日? それとも明後日にする?」
「お前の準備に任せるさ。いつならいける」
 うーん、とピンクの髪の少女は人差し指を顎に当てて考える。
 彼女は笑みを浮かべると元気よく告げた。
「少年の『剣(つるぎ)』は一日もありゃ調べられるよ。明後日だね。丁度学校もお休みなんでしょ?」
「決定だな。覚悟しとけよ、天子ィ」
 第八部隊第一小隊隊長ザンザ・ドルギーニ。同部隊第二小隊隊長カテリーナ・アルサント。
 それが二人の名前だ。

12竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/05(土) 21:54:23 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 魁斗は目の前に建っている建物に驚いて固まっていた。
 今日の放課後、魁斗はレナの家に行くことになっていた。特にたいした用事はなく、彼女がちゃんと住むところを確保しているかが不安だったのだ。
 そのため、厳密には『彼女の家に行く』ではなく『彼女の家を見に行く』はずだったのだが。
 魁斗はレナの住むところを見て絶句していた。
 二度目だが、彼はレナの住むところを見に来たのだ。
 またいつ『死を司る人形(デスパペット)』の連中が攻めてくるか分からない。彼女は守る気満々だから自分の家の近くなんだろうな、と魁斗は考えていた。
 魁斗はようやく口を開くことが出来た。
「……レナ、確認取っていいか?」
「? どうぞ」
 首を傾げるレナだが、魁斗の言葉に頷く。何故確認を取られるか分かっていないような言い方だ。
 魁斗は目の前の建物を見ながら、
「お前、自分の住むところに連れて来たんだよな?」
「はい」
「俺はさ、お前が俺を守る気満々だから、多少家が近くても、毎朝迎えに来るのを待ち受ける覚悟は出来ていた」
「はい」
「……その覚悟を、お前は見事に裏切ってくれたな……?」
「はい?」
 レナの返事に疑問系が混じる。魁斗はレナを横目で見やる。
 相変わらずレナは首を傾げてこちらを見つめている。普段が美人であるせいか、そういう仕草をされると結構可愛く見えてしまう。だが、今はそんなことを気にしている暇ではない。
 魁斗は目の前の建物を指差して、レナに叫ぶように問いかける。
「何でお前の住むところが、俺の家なんだよっ!?」
 そう。ここは切原魁斗の家であった。玄関にも、『切原』という表札がある。
 レナがここに住むのはどう考えても可笑しい。というか、自分で住むところを確保出来てすらいないじゃないか。
 レナは胸元に手を当てて、
「当然です。私はカイト様を守るためにやって参りました……その私が! カイト様のお側にいるのは至極当然のことです!」
「そうかもしれないけどな、せめて隣の家だろ。何で俺の家の一員になろうとしてんだよ。母さんに説明する俺の身にもなってくれよ」
 心配ありません、とレナは魁斗に告げる。
 彼女は親指を突き立てて、
「お母様から了解を得ています!」
「はぁっ!?」
 うちの母親はなんてことしてんだ、と魁斗は頭を抱える。あの優しくて天然な母のことだから『良かったぁ。今日から賑やかになるわねぇ、ふふ』みたいなことを言ったのだろう。
 とりあえずここで唸っていてもどうにもならない。
 とりあえず、魁斗は家に入ることにした。
 レナも彼に続き、ドアをくぐった。

13竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/06(日) 21:12:58 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「あら、おかえり。まあ、レナちゃんも一緒なのね」 
 家に入った魁斗とレナを迎えてくれたのは三十代後半と思われるエプロンを身に着けた女性だ。
 綺麗な黒髪を背中まで伸ばしており、目はくりっとしている。そのせいか、実年齢より若く見えている。魁斗と二人で歩いていると、姉弟に間違われることもしばしばあるほどだ。
 だが、彼女は魁斗の母親である。しかし実の母親ではない。
 彼の両親は天界という異世界にいるのだ。それもただの一般人ではなく、王とその妃なのだ。目の前の女性は、本当は魁斗と何の関係も無い赤の他人なのだ。
 魁斗は、自分の母親が現在の状況をどれだけ理解しているかしらない。レナを知っている、ということは彼女が同居の了解を得た、という話は真実らしい。魁斗は出迎えてきた母親、由魅(ゆみ)を見て嘆息した。
「呑気に言ってる場合かよ。つか、俺聞いてないぞ? コイツがここに住むって!」
 魁斗がそう怒鳴ると由魅は口元に手を当てて、
「まあ、いいじゃない。いっそう賑やかになるわよ。普段何も喋らないじゃない」
 それはそうだけど、と魁斗は由魅の言葉を否定しない。
 魁斗は溜息をつきながら、自分の部屋のある二階へと上がって行った。
 魁斗が部屋に入るのを確認してから、由魅が微笑みながら立ち尽くしていたレナに優しく微笑みながら話しかける。
「まずは座ってください。話はそれからにしましょう」

 リビングの椅子に座らされたレナは、妙に緊張していた。
 何処の家庭にもあるような、大きなテーブル、椅子、テレビ、ソファ。レナはそんなありふれた家庭の様子でも落ち着けない。目の前にいるのは、十五年間ずっと魁斗を守ってきてくれた相手だ。レナは何をどう説明すればいいかも分かっていないのだ。
 由魅は、彼女を落ち着かせるようにスッとティーカップを前に差し出す。由魅はレナの正面に座って、
「あの子が普通の子じゃないっていうのは分かっています。小さい頃から走るのだけは以上に得意でしたから。まずは、あの子の本当の世界から聞いてもいいですか?」
「……あの、カイト様が……いえ、カイトくんが別の世界から来た、と……何故知っているのですか?」
 レナが魁斗の呼び方に気を遣う様子を見て、由魅はくすっと笑う。
「不自然すぎたんですよ。私とあの子の出会いが」
 出会い? とレナは目を丸くする。
 由魅は曖昧な記憶を辿るように、視線を上に向けて考え出す。
「あれは……私がまだ二十代くらいだったかしら。公園の遊具の中であの子を見つけたの。あの子に着せられた服に『カイト』っていう名札があったから、それを勝手に漢字に変換して、名付けましたけど」
 彼の名前は、天界でも同じだ。
 それを由魅は漢字に変換して、今の形にした、とそう語っている。
 由魅は小さく息を吐いて、
「あの子を見つけてから私は結婚にも興味を持たなくなったわ。あの子がいるだけで、楽しかったから」
「……え?」
 レナはきょとんとする。
「では、あの遺影は?」
 家具の陰に隠れるように小さく作られた遺影。若い男性の写真に蝋燭に火が灯っている。
 由魅はくすっと笑って、
「私の兄のです。あの子を拾ってちょっとしてから、交通事故で死んでしまって」
 レナの表情が暗くなる。聞いてはいけないことを聞いてしまった、と自分を責めているのだ。
 由魅はコップに入ったお茶をすすって、
「私からは以上ですかね」
 そう言った。
 次はレナの番だ。彼女は背筋を伸ばして、真っ直ぐ由魅を見つめて、
「では、話します。……私の話を」

14たっくん:2013/01/09(水) 12:22:54 HOST:zaq31fa4b53.zaq.ne.jp
毎日、勉強ばかりで参ります。
学生って辛いですね〜ホント。
80点以下赤点ですもんねうちのスクール
退学にならないように気をつけなきゃ


それと打撃系合気道!というスレ
宜しくお願いします。
合気の基本は突き、蹴り、投げです。
パンチおよびキックで相手を攻めつつ、つかみ技を繰り出すというのが
基本戦法です。

15矢沢:2013/01/10(木) 11:37:15 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
つまらん記事作んなよ、たっくん坊

16竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/12(土) 15:02:39 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 レナは全てを話した。
 魁斗が天界と呼ばれる異世界の住人であったこと。天界の王と妃の間に生まれた天子であること。自分は彼の養育係だということ。彼の中に正体不明の物質『シャイン』という神具(しんぐ)が宿っていること。それを『死を司る人形(デスパペット)』という組織が狙っていること。自分は魁斗を彼らから守るため人間界にやって来たこと。
 由魅はレナの言葉を静かに頷いて聞いていた。時たま寂しそうな表情を見せながら由魅はずっと頷いていた。
 話し終わったレナが小さく息を吐くと、由魅は小さくそうですか、と返した。
 由魅は優しく微笑みながら、レナを真っ直ぐと見つめる。
「ありがとうございます。あの子のために来てくれて」
 その言葉にレナは面食らう。
 礼を言うべきはこっちのはずなのに。十五年間ずっと魁斗を側で守ってくれたことに、頭を下げるべきなのに。
 由魅は続けて言う。
「あの子もきっと嬉しいんだと思います。ずっと兄か姉が欲しいと言ってたから」
「ですが、私は……彼の、カイト様の姉になる資格などありません。……私とカイト様は主従の関係ですから……」
 レナの言葉に由魅は笑みを浮かべながら言う。
「その言葉、あの子の前では言わないであげてください。せめて家にいると時だけでいいです。あの子の姉として振舞ってくれませんか?」
「……」
 レナは答えることが出来なかった。果たしてそんなことをしていいのだろうか。
 だが、彼女は由魅の表情を見て断ることが出来なかった。
 そっちの方が魁斗の幸せになるのなら、そっちの方がいいとレナも考えたのだ。
「分かりました。ですが、呼び方は変えませんから」
「ふふ。そうだろうと思いました」
 由魅は口元に手を当てて笑った。
 レナもつられて笑ってしまう。

 その日の夜。
「だから、風呂くらい一人で入るつってんだろ! 何でお前までついてくんだよ!」
「いいじゃないですか。お背中を流すくらいさせてもらっても!」
 そういう問題じゃねぇんdなよ、と魁斗はまとわりついてくるレナを引き剥がそうと必死になっている。
 多分一緒に入る、と言わなければ離れてくれないだろう。
 健全な男子高校生な魁斗としては、年上の女性と一緒に風呂に入るというシチュエーションは耐えられないものなのだ。
 いい加減しつこいと思ったのか、魁斗は最終手段として由魅に助けを求めた。
「母さん、何とか言ってくれよ!」
「二人ともちゃんとタオル巻くのよ」
「そこじゃねぇ!!」
 切原家の夜は更けていく。

17竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/12(土) 18:03:57 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

第3話「舞い降りし友人」

 同じ家に住んでいるので、魁斗はレナと一緒に登校することとなってしまった。幸い家が近いクラスメートや同じ学校の生徒がいないため、二人が一緒に登校しているという噂が立てられることは無いだろうが、これから先ずっと一緒に登校していたら付き合っている、という噂が立てられそうで、魁斗は少し不安になってくる。
 一方で、レナはそんなことを気にしてはおらず、魁斗と一緒にいれる時間を楽しんでいるようだ。
 ザンザに襲われた後でも、魁斗はまだ自分の命が狙われているということに自覚を持てない。『死を司る人形(デスパペット)』のメンバーが彼一人とは限らない。そもそも、相手は第八部隊と名乗っていた。彼以外にもメンバーがいるというのは確実だ。そして、彼より強い相手も。
 いっそのこと全員で攻めて行ったほうが早く終わるだろうに、と魁斗は思っているがそれはそれで困るのも確かだ。もしそうなったら自分とレナだけで対処するのも難しい。
 だったら、二、三人で攻めるのも効果的だと思う。こっちは二人しかいないのだし、せめて三人で攻めたなら、どちらか一方に二人で攻撃できるはずだ。魁斗は相手の考えが分からずに、考え込んでしまっている。
 隣で考え事をしているため怖い顔になっている魁斗を見上げながら、レナは首を傾げて、
「……カイト様? どうしたんですか、怖い顔をして」
 レナに声を掛けられてはっとする魁斗。
 少し心配しているような表情をしているレナに、魁斗はなんでもないと返す。せめて学校に向かっている間くらいは戦いのことを考えたくはないのだ。
 二人が教室に着くと、まず最初に声を掛けてきたのは叶絵だ。彼女は相も変わらずにっこりと笑って二人に挨拶をする。
「おはよう、カイトくん。レナさん」
「おう、おはようサワ」
 魁斗がいう『サワ』というのは沢野叶絵のあだ名だ。中学の頃によく呼ばれていた名前らしく、魁斗も彼女のことをそう呼ぶことにしているのだ。高校生になってからは『カナちゃん』や『カナっち』といった下の名前を使ったあだ名で呼ばれている。
 叶絵は魁斗の顔を覗き込むようにしながら、
「ところでカイトくん。古典の宿題やってきた?」
 彼女の質問に魁斗はぎくりとする。
 すっかり忘れていた。そんなのあったっけ、と誤魔化す余裕もない。授業中にやった本文の口語訳を書くという宿題だったが、文系が大の苦手な魁斗にはレベルが少し高いようだ。
 ノートを広げて唸っている魁斗を見かねたのか、叶絵が溜息をついて彼の前に自分のノートを差し出す。
 顔を上げる魁斗に叶絵は困ったように笑いながら、
「はい、見せてあげるから早く写して。古典は一時間目だから」
「ありがとうっ!!」
 魁斗は叶絵の両手を握って、涙を流しながら感謝する。
 どうやら宿題を忘れた魁斗に叶絵が見せてあげるのはいつものことのようだ。レナと叶絵は顔を見合わせると、二人同時に苦笑した。

18竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/13(日) 15:49:09 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 現在切原魁斗は一人である。
 彼は今下校途中なのだが、本来ならばレナか叶絵がいるはずだ。だが、レナは転校して来たため先生に呼び出されており、叶絵は図書館で借りたい本があるらしく、今日は珍しく一人で帰っているところだ。
 一人でいても襲われる気配は無い。だからこそ、自分が狙われている実感がないのだ。
 魁斗は疲れたように嘆息して、
「なんつーか、あれだな。相変わらず今までと変わらない生活してるなー、俺」
 伸びをしながらそんなことを呟く魁斗。
 と、そんな彼へと頭上から声を掛けられた。
「ふーん。君が天子の少年かあ」
 楽しそうな口調な声だ。女性の声で、年は魁斗より年上に思える、レナと同年代くらいの女性の声のようだ。
 魁斗が上を見上げると、魔法使いが箒にまたがるのと同じように、薙刀の上に腰をかけた女性が空に浮かんでいた。
 綺麗な顔立ちの女性だ。太ももくらいまである綺麗な黒髪に、優しそうなイメージを与える紫色の瞳。背は魁斗より少し低そうだが、女性としては高い方だろう。
 女性は流れるような動作で地面に降り立つと、薙刀状の武器をピアスに戻した。どうやらさっきのは彼女の『剣(つるぎ)』らしい。
 黒髪の少女は魁斗の目の前までやってくると、うーんと呟きながら魁斗の顔をじっと見つめる。
 女性に顔を近づけられ、僅かに顔を赤らめる魁斗。女性はしばらくするとにっと笑みを浮かべて。
「君が天子の少年よね? ふーん、年下って聞いてたからどんなのかと思ってたけど……ちょっと可愛いじゃない」
 女性の言葉に動揺する魁斗。
 魁斗は数歩後ろに下がって、女性を睨みつける。
「誰だアンタ!? まさか『死を司る人形(デスパペット)』か……?」
 魁斗の言葉に女性は吹き出したように笑い出す。
「ぷっ、あははははははは! 違う違う! 私をあんな賊軍と一緒にしないでよ」
「じゃあ誰だよ……」
「なんと答えるべきかな。女神? 天使? はたまた妖精さん?」
「いや、名前でいいじゃん」
 なんとなく面倒になってきたのか、魁斗は冷めた態度で応対する。
 黒髪の女性は楽しそうに笑いながら、
「まあ私の正体なんてすぐに分かるよ。ほーら、丁度よく来たしね」
 言いながら女性は魁斗の後ろを指差した。
 彼女が差した先にいたのは、銀髪を風に靡かせながらこちらへ向かってきているレナだった。

19竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/13(日) 22:25:00 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「レナ!?」
 魁斗の声に気付いたのか、こちらに向かってきているレナは少し嬉しそうに表情を綻ばせながらこちらへと駆け寄ってくる。
 自分を待ってくれていた、と思っているようで、魁斗と一緒にいる黒髪の女性には気付いていない。
 レナは嬉しそうにしながらも、その感情を抑え込むようにして質問を口にする。
「か、カイト様? こんなところで何を……? もしかして……」
 ちらっとレナが魁斗を見遣(みや)る。
 どうやら『お前を待ってたんだよ』と言ってほしいらしい。さっきの言葉の続きは恐らく、私を待っていたんですか、という感じの言葉だろう。
 変な期待をしてしまっているレナに、魁斗は溜息をついて素直に言葉を述べようとすると、
「えーとだな、実は……」
「実は通りすがりならぬ、飛びすがりの私に一目惚れして、今まさに告白する最中だったのよ!」
「はあ?」
 いきなり口を挟んできた女性。そこで、レナはようやく女性の存在に気がついたようだ。
 魁斗はレナに変な誤解をさせぬように、黒髪の女性を咎めた。
「何言ってんだよ、アンタは!? 大体、飛びすがりってなんだ!?」
「飛びすがりについては言う前に言ったじゃん。通りすがりならぬ飛びすがりって」
 女性の言葉を聞いてレナはわなわなしている。
 相手の嘘を信じ込んでしまっているのか、何をしていいか分からないままその場で震えながら立ち尽くしている。
 黒髪の女性はそんなレナを楽しそうに見つめてから、
「さあ天子くん。愛の言葉の続きを聞かせて……。私を……どうしてくれるの?」
 黒髪の女性は魁斗の首を後ろに手を回し、彼に顔を近づけながらそんなことを言い始める。ここまで積極的なスキンシップをされてはどこまでが本気かさっぱり分からない。
 無防備な魁斗に女性が顔を近づけていき、二人の唇が重なろうという瞬間、
 急に女性の横合いから刀の一閃が飛んでくる。咄嗟に女性は後ろに飛び退き、その攻撃をかわした。攻撃をしたのは他の誰でもない、レナだった。彼女は顔を赤くしながら息を切らしており、黒髪の女性を睨みつけている。
「あ、あなたは……一体何をしているんですかっ!?」
 レナが上擦った声で問いかける。女性は肩をすかして、
「分かった、流石に私も度が過ぎたわ。いいからアンタはとっとと『剣(つるぎ)』をしまいなさい。感情が高ぶるとすぐに『剣』を出すそのクセ、直した方がいいわよ」
 レナは言われたとおりに『剣(つるぎ)』を指輪に戻す。天界に戻って取りに帰ったものだろうか。
 しかし、この女性がレナの知り合いであることは確かだ。二人の会話には初対面さがなく、女性に関してはレナのクセも知っているようだったし。
 魁斗はレナの耳元で問いかけた、
「なあ、あの人誰なんだ? お前の知り合いみたいだけど……」
「……知り合い、ですか……。そうですね、本当は親友と呼べる唯一の存在なんですけど」
 へ、と魁斗が目を丸くする。
 黒髪の靡かせる女性を見ながらレナは、
「彼女はハクア。ハクア・グランデ。天界での私の親友で、『天嵐の姫君(てんらんのひめぎみ)』という異名がついているかなりの実力者です」
「ぶー、その名前好きじゃないんだけどなー」

20竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/18(金) 19:12:55 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「レナの……友達?」
 レナに紹介されたハクアを指差しながら魁斗は問いかける。
 レナとハクアは仲の良い姉妹のように同時に頷く。こうして並んでいると本当に姉妹のように思えてきた。見た目的にハクアが姉でレナが妹だろう。
 ハクアは気持ちよさげに伸びをしながら、
「風の噂で聞いたんだけど、二人とも『死を司る人形(デスパペット)』と二人で戦っているらしいじゃない? だからちょっと不安なのよ。レナはそれなりに戦えるけど、カイトくんは全然でしょ? この前一人撤退させたらしいけど、それは相手の動揺あってのことだとも思うし」
 確かにその通りだ。
 戦いに不慣れな魁斗に敵が合わせてくれるとは思わない。むしろ魁斗が弱い方が相手にとっても好都合のはずだ。レナも戦えるといっても二対一は厳しいだろうし、それより数が増えれば彼女一人で対処するのは不可能だ。
 つまり、ハクアはこう言いたいのだ。
 二人だけじゃ戦うのは難しいだろうから、私も手伝ってあげる―――と。
 彼女は不器用なのか、はっきりと手伝うと言えないようだ。
 それは魁斗にとっても都合がいいし心強い。彼女の強さの全貌が掴めないが、彼女の実力はレナも認めているような気がする。
 魁斗はすっとハクアの前に手を差し出す。
「よろしく、ハクアさん。切原魁斗だ」
 そう言う魁斗に、ハクアがくすっと笑うと彼女は魁斗の手を握り返す。
「ハクア・グランデよ。君の戦いの監督もやらせてもらうわ」
 そう言った瞬間だった。
 突然彼ら三人を取り囲むように五人の人間が舞い降りてきた。黒い服装で身を包んでいるため顔や性別も分からないが、おそらくは全員男だろう。
 彼らはそれぞれ刀を握っている。何の能力も持たない『剣(つるぎ)』だろう。
 五人は切っ先を三人に向けながら出方を伺っている。
 魁斗とレナが臨戦体勢に入ると、
「―――ふあー」
 間の抜けた溜息と共にハクアが前へ出て行った。男たちの注目は一気に彼女へと向き、五人が彼女一人を取り囲む。
「ハクアさん!?」
 魁斗は思わず叫び飛び出そうとする。しかしそれをレナが止める。
 彼女は焦る魁斗を落ち着かせるように、
「大丈夫ですよカイト様。ハクアは敵が多ければ多いほど、強くなりますから」
 ハクアはピアスを刀の形に変形させる。
 先ほどまで自分が腰をかけていた薙刀ではない。刀だ。
 魁斗は『剣』の形状が違うことに首を傾げる。
 ハクアが大きく深呼吸をし、五人の男たちを見回す。と、
「退屈しそーね。皆同じ実力なら、せめてあと五倍の人数は連れて来なさいよ」
 言った途端、ハクアへと五人の男たちが襲い掛かった。

21竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/25(金) 23:13:53 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ハクアは刀状の『剣(つるぎ)』を持ちながら、五人の敵の攻撃を紙一重でかわしている。その光景に魁斗は思わず小さな歓声を上げた。今のこの状況だけでもハクアの実力が高いことが分かる。
 ぎりぎりのところでかわしているにも関わらず、ハクアの表情には余裕が見えていた。今のこの状態も彼女にとってはただの遊びの範囲なのかもしれない。逆に焦り始めているのは襲い掛かってきた敵の方だと思える。その様子を見る限り、相手はそれほど実力が高くないのだろう。
 五人の敵は再び少し距離を開けてハクアを囲むような陣形になる。
 思ったより楽しめてないのか、ハクアは呆れたように溜息をついて、
「あのさぁー、もうちょっと真面目に出来ないワケ? 退屈なんですけどぉー?」
 相手を挑発するような言葉だ。
 その言葉に一人が動こうとするが、隣にいた男がその動きを牽制するように腕を前に出した。
 動きを制され男は乗り出しそうな身体に制御をかける。
 一人の動きを牽制した、恐らく五人のリーダーであろう男はハクアに告げる。
「中々の腕をお持ちのようだ」
 声から推測するに三十代くらいの低い男性の声だ。低いながらも優しい印象を与え、話し方も丁寧なものだった。
 男の言葉にハクアは『そりゃどーも』と軽く返事をする。
 男はそれならば、というような口調で続ける。
「何故本気で戦わぬのですか? 我々は、あなたが本気を出すまでの相手ではないと?」
「……」
 ハクアは黙る。
 何て答えたらいいか分からないような表情だ。正直に言うべきか、謙遜するべきか。魁斗のハクアに対する第一印象としては感想などはずばっと言うような気がしたが、相手が傷つくようなことは逡巡するようだ。それも相手によるようだが。
 彼女は敵には一応敬意を払う人物であるようだ。
 中々答えないハクアに男は質問を変える。
「……一対一であれば、本気を出してくれますかな?」
「そっちの方が無理な話よ」
 対してハクアは即答した。
 一切の逡巡も躊躇いも迷いもなく。一言で言い放った。
「あなた達五人でこのざまでしょ? 四人減ったら尚更本気出せないわよ。そもそも、五人で本気出すかどうか迷っている相手に、そんな質問するかい、フツー?」
 優しげな印象のあった紫色の瞳が冷徹なものへと変わり、男を睨みつける。
 男は小さく息を吐いて、
「では仕方ないですな」
 諦めるのか、とハクアが安堵した瞬間、
「使いたくなかった方法を講じるしかないようだ」
 突如ハクアの頭上から一人の男が刀を持って襲い掛かる。五人と同じような服装の男だ。
 ハクアが頭上に気を向けた瞬間、彼女を囲っていた五人が一気に襲い掛かる。
 上を防げば五つの刀がハクアの身体を貫き、周りに気を配ればハクアの頭部に刀が深々と突き刺されるだろう。
 どちらを防いでも彼女を待つのは死。男は最後まで正々堂々戦おうとしていた。が、ハクアの自身の力を過信したせいで、正々堂々は失われ、彼女の命が失われることになった。
 魁斗が彼女の名前を叫ぶ中、二人だけが危機的状況を危機とも思っていなかった。そう、ハクアとレナだけが。
 むしろこの『危機』を、『嬉々』として楽しんでいるのだ。
 六人の刀が一斉にハクアを襲う。そんな中、ハクアは呟いた。

「だから言ったのよ。最初から正々堂々六人でやってれば、私の本気の片鱗を見れてたんだから」

 ハクアの刀が風に包まれる。刀を台風の目として、一本の刀を真ん中とした渦巻きが刀全体に纏わる。渦を巻く風が消えると姿を現したのは刀ではなく、ハクアが魁斗と出会った時跨っていた薙刀状の武器。
 先ほどの刀は何処にいったのだろうか。
「ハクアの『剣』は少し変わっているんですよ」
 レナが口を開いた。
 彼女は自分の家族を自慢するような口調で、
「ハクアの『剣』は刀から薙刀に変わる二段変形の『剣』。その名を―――」
 ハクアが襲い掛かる六人を強力な風を巻き起こし吹き飛ばす。
 彼女の『剣』は巨大な風を巻き起こす。だからこそ、彼女は一対一より、すかっと纏めて吹き飛ばせる多対一を望むのだ。
 彼女は薙刀をくるくると回し、六人全員を倒したのを確認するとその薙刀をピアスに戻す。
 彼女の『剣』の名前は―――『帝(みかど)』。

22takeda:2013/01/26(土) 08:22:34 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
ニヒリストな俺は、無評価。

23竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/26(土) 23:17:09 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 第4話「休日の二人」

 ハクアが『死を司る人形(デスパペット)』の撃退に協力してくれることで、魁斗とレナは僅かに安心した。
 二人でこれから乗り切れるとは思っていなかったし、彼女の実力も知って心強いと思ったのも確かである。
 もとよりハクア自身は、二人が断っても勝手に協力する気満々だったらしいのだが。
 そんなハクアがやってきたのは一昨日、つまりは金曜日。今日は日曜日でいい具合に空も元気よく晴れている。
 魁斗はというと、レナと一緒に街にいた。
 レナは嬉しそうに魁斗に寄り添いながら街を歩いている。密着しているせいか、魁斗は歩きづらそうな顔を浮かべている、幸せ満開のレナはそれに気付く由も無い。
 魁斗は身体全身に冷たいような痛いような視線を感じている。
 周りの通行人からの嫉妬の眼差しだ。銀髪美人の女性にくっ付かれているどこからどう見ても平凡な少年を見れば、恨まれるのも分からなくはない。彼らの視線が『死を司る人形(デスパペット)』よりも殺気が篭ってて怖い。
 その視線に嫌気が差した魁斗は小さな声でレナに言う。
「……おい、もうちょっと離れてくれよ。歩きにくいだろーが」
「いいじゃないですか、今ぐらい。それに今日は何だかずっと近くにいてほしいんです」
 少し恥ずかしかったのか、レナは僅かに頬を赤くしながら言う。その様子に魁斗は僅かにどきっとしてしまう。
 傍(はた)から見れば明らかに美人の部類に入る彼女。そんな彼女とたった三日程度しか一緒にいないはずなのに、その三日の間でいろんなことが起きすぎたため、彼女のことを結構近しい存在だと思ってしまっている。
 魁斗は考えた。
 レナにとってはそう思われることが嬉しいのだろうか、と。
 彼女はことあるごとに『主従関係』だと言っている。それが彼女の望む関係なのだろうか。それとも、自分の気持ちを隠して言っているだけなのだろうか。
 自分はレナのことを、今はどう思っているのだろうか。
 まずはそこからだな、と魁斗は溜息をつく。
「なあ、レナ」
「はい?」
 魁斗は思わずレナに声を掛けていた。
 首を傾げるレナに、魁斗が言った質問は、
「もし、俺の中に『シャイン』がなかったら……ただの天子ってだけの存在だったら、お前はこっちに来てくれてたか?」
 魁斗の質問にきょとんとするレナ。
 彼女は僅かに考える仕草をすると、困ったように笑いながら、
「……どうしてたでしょう。実際、こっちに来る前日も心配と楽しさが合わさってあまり寝れなかったものですから」
 だからこっちに来る途中で手傷を負ったんですがね、と彼女は付け加える。
 つまり彼女は、魁斗が護衛対象であろうがなかろうが関係ない。彼女の彼に対する忠誠心は彼の『シャイン』に対してじゃなく、彼自身に捧げられているのだ。
 レナは魁斗を見上げて、
「カイト様がもし、普通の天子だったとしても。私はいつかこっちに来てたと思います。来た理由は違えど、私は遅かれ速かれあなたに会いに来ています」
 レナは魁斗の手をそっと取って、
「さあ、行きましょう。今日はカイト様が案内してくださるんですよね? まずは何処に連れて言ってくれるんですか?」
「あ、おい……引っ張るなって!」
 魁斗はレナに引かれるがまま、街を歩いていく。
 そんな二人の光景を、影から見つめる人物が一人いた。
「……あれは、カイトくんとレナさん?」
 肩より少し長い栗色の髪、黄色のカチューシャがチャームポイントであろう目立たない印象の美少女。
 沢野叶絵だ。

24竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/02/02(土) 01:03:28 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「カイト様ー!」
 魁斗とレナは大きなデパートの服屋に来ていた。
 なんでも、レナはあまり普段着が無いらしく今も魁斗の母、由魅の服を着ている。だが、レナと彼女ではサイズが合わないらしく、レナの普段着と下着を買いに来ていた。もっとも、下着コーナーまで魁斗はいかないだろうが。
 レナは二着のワンピースを魁斗に見せながら、彼の顔をじっと見つめている。どっちが似合うか決めてほしいらしい。
 それくらい普通に言ってほしい、と思う魁斗だったが、レナの持っている二着を見比べる。
 少し悩み、魁斗は結論を口に出そうとする。
「やっぱ無難に水色の方が――」
 そこで、魁斗は躊躇った。
 こういう時、女性は大抵男性の選んだ逆の方を好む傾向がある。
 彼女が持っている白のワンピースと水色のワンピース。魁斗は水色の方が似合うと思うが、女性の目線では白なのだろうか。いやいや、やっぱり自分の意見が述べた方がいいのでは?
 あれこれと悩む魁斗を不思議そうに見つめるレナ。
 彼女は先ほど、出かかった魁斗の言葉を聞き逃していなかった。
「……カイト様は、水色の方が私に似合うと思いますか?」
 この反応はやはり逆だったか、と思い魁斗は、
「い、いや待てレナ! やっぱり逆の方が――」
「ですよねー! 実は私も、どちらかというと水色の方がいいと思っていたんですよー!」
 レナは相当嬉しそうな様子で水色のワンピースをレジへと持っていった。
 小学生の子供が、初めて親におもちゃを買ってもらったような、それと同じくらいはしゃいでいた。
 よくよく考えてみれば、魁斗のことをいっつも考えているような彼女が、魁斗と選んだ逆の方を選ぶのは少ないんじゃないだろうか? もし、彼女が白を気に入っていたら両方買っていると思う。
 会計を済ませたレナが満面の笑みを浮かべながら、袋を抱えて戻ってくる。袋の大きさとふくらみから見て、買ったのはワンピースだけじゃないようだ。
「さあ、カイト様。次は下着売り場に行きましょう! お次もどんな下着がいいか選んでください!」
「ふざけんな! 出かける前に俺はそっちには行かないって行ったろ! お金渡すから買って来い! 俺はトイレにでも行っとくから、買い終わったらメールでもしてくれ」
 言いながら魁斗は三千円を渡して、軽く手を振りながらその場を去っていく。
 取り残されたレナは少し寂しそうな表情をして、
「……もう、カイト様ったら……」
 下着売り場へと足を進めていった。
 
 一方で、お手洗いの方へと来ていた魁斗。
 男子トイレか女子トイレかちゃんと確認したうえで、男子の方へ入ろうとした途端、横の女子トイレの方から見慣れた人物が出てきた。
 肩より少し長い茶髪に、黄色のカチューシャ。魁斗のクラスメートである沢野叶絵だ。
 二人は目が合うと、お互い驚いたように大きく目を開いた。
「……サワ?」
「……カイトくん」
 魁斗は驚いていたが、叶絵はそうでもないようだった。
 魁斗は知る由も無いが、叶絵は魁斗とレナが二人でいるのを目撃している。
 だが、このデパートにいるとは思ってもいなかったので、そこについては僅かに驚いているようだった。
 目を合わせて固まる二人。
 見詰め合うような状況になってしまい、二人は僅かに顔を赤くして目を背ける。
「……よう、サワ。偶然だな」
「……うん。ホント、偶然だね……」
 目を逸らしたまま、二人はそんな言葉を交わした。

25竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/02/02(土) 09:41:06 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 デパートの向かいに建っている会社の屋上で、一人の人物がフェンスに身を乗り出すようにもたれていた。
 綺麗な顔立ちに、太ももくらいまで伸びた黒髪。優しそうな紫色の瞳を持つ女性だ。
 レナの親友、ハクアは大きな欠伸をしながら呟く。
「そういえば、今日レナはカイトくんとデートだっけ? いいねえ若者は」
 実際にレナからは『明日カイト様とお出かけするんですー』としか言われてないが、ハクアの中では男女二人のお出かけ=デート、である。
 見た目が美人であるハクアは結構異性から好意を寄せられることも多いが、彼女自身恋愛に興味がないため交際も断っている。もっとも断った理由の大半が『相手が好みじゃないから』という理由もあるようだが。
 そんな中、ハクアにとって切原魁斗は特別だ。
 好きというわけではない。恋愛感情なんて寄せるわけもないし、ましてや相手は年下だ。彼女の好みとしては大人っぽい男性なのだから、まだ年相応の一面がある魁斗は彼女の好みとは全くの正反対だろう。
 だが、ハクアは魁斗に対して好意とは別の感情を抱いていた。
 好き――というよりも興味。
 天子という特別な存在で、体内には『シャイン』という謎の物質を宿し、『死を司る人形(デスパペット)』の刺客を一人退けた――。
 ハクアは口元に微かな笑みを浮かべ、
「……本当に、なんなのかしらねあの子は」
 言いながら目の前に建つデパートに目を移す。
 その中にぼんやりとしか見えないが、見慣れた少年が目に入る。別に視力がいいわけではないから、その少年に似ているというだけかもしれない別人かもしれないのだが、その少年から僅かに魔力を感じる。間違いはなかった。
 その少年は、今銀髪の女性と一緒にいるはずだが、どういうわけか彼が一緒にいるのは茶髪にカチューシャをした少女だった。
「ふぅん」
 ハクアは面白そうに口の端を吊り上げる。
 ただの傍観者であるハクアは、誰にというわけでもなく一人で呟いた。
「――修羅場ってやつ?」

 その頃、廃ビルの屋上にて二つの影が動いている。
 茶髪の大きな刀を携えた少年と、桃色の髪をポニーテールに結った少女。少女の手には、刀が握られていた。普通の形ではない、峰の中心からもう一つ刃が伸びており、切っ先が二つついている刀である。
 少年の方が気だるげに溜息をついた。
「ったく、面倒くせェな」
「ちょっとー、文句言わないでよ。そっちが決めたんだから」
「わーってるよ。だから嫌とは言ってねェだろ」
「さっき嫌みたいなこと言ったじゃん!」
 桃色の少女が反論する。
 男は違ェよ、と呟いてから、
「面倒くせェから、とっとと済ませるぞっつー意味だ」
「ああ、ナルホド」
 二人の刺客が、魁斗とレナに迫っていた。

26竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/02/02(土) 23:11:46 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 偶然出会ってしまった、切原魁斗と沢野叶絵。
 二人は少し顔を赤くして目を逸らしたままだ。この沈黙が耐えられなかったのか、叶絵の方から沈黙を破る。
「……カイトくん、今日は一人?」
 叶絵の質問に、魁斗は言葉を詰まらせる。
 一人と聞かれればそうではない。誰と一緒と聞かれればレナと一緒、とも言いにくい。
 もし、一人でいるのかと聞かれて一人だと答えてしまえば嘘をつくことになる。最悪叶絵と一緒に行動することになって、実はレナと一緒にいましたと発覚してしまう可能性も決して低くはない。
 レナと一緒とも言えない。叶絵からすればレナはただのクラスメートである。ただのクラスメートと一緒などと、叶絵から怪しまれても可笑しくない。せめて、レナと同居してることは叶絵を含め、クラスメートの誰にも知られたくない。
 そのため、魁斗は返答に困った。
 中々答えない魁斗の顔を、叶絵が心配そうに覗き込む。
「カイトくん?」
「あ、ああ……」
 魁斗は目を逸らしたまま答える。
「母さんと一緒に来てるんだよ。たまには二人で買い物に行こうって誘われてな」
 そっか、と叶絵は納得したように言葉を返す。
 これで魁斗が想像しうる最悪の展開『叶絵と一緒に行動』という事態は免れたと思う。
 そこへ、
 魁斗の携帯電話がコール音を鳴らす。
 携帯電話を開くと表示された名前はレナの名前だ。叶絵が目の前にいるこの状態で声を聞かれては少しマズイかもしれない。
「どうした? 呼び出すのはメールでいいって言ったろ?」
『それがそうもいかないんです! カイト様、気付いていないのですか!?』
 魁斗は小さい声で対応するが、切羽詰ったような口調のレナはそうではなかった。
 何に気付いたというのか、魁斗がレナの返答を待っていると、レナは叫ぶように言う。
『彼らが来ました! 『死を司る人形(デスパペット)』です!』
「何だと!?」
 魁斗の言葉に僅かに驚いたような反応を見せる叶絵。
 魁斗は慌てたように、すぐに小さい声へと戻す。
「お前は今何処にいる」
『デパートの外です』
「分かった。一分以内にそっちに行く」
 魁斗は電話を切り、ポケットの中へとしまった。
 側にいる叶絵に魁斗は謝るように声を掛ける。
「悪い。急用が出来た。じゃあ、また学校でな!」
「あ、うん……」
 名残惜しそうに手を振る叶絵。
 去っていく魁斗に叶絵は呟く。
「……今の電話の相手って、レナさん……?」
 それに気付くわけも無い魁斗は、急いでデパートの外へと向かっていた。

27ff:2013/02/03(日) 00:04:05 HOST:zaq31fa4cca.zaq.ne.jp
名無しさんというクズ人間についてご説明致します。
過去200人を精神的破滅に追い込み、死刑判決が下される事2回
あまりの悪さ故、執行ゆうようさえ与えられなかったそうです。
しかし彼は、ことごとく生き延びました。
場所は2チャンネル掲示板の地下・・かつて変人のみを収めたといわれる地
一じょうの光も射さず身も心も凍り着くような闇の闇・・・そこが彼の現在地です。
さて・・いよいよ解放の時が来ましたね。

もしも>>1さんがお亡くなりになられたら、おつや招待して下さいね。
告別式も出席させてもらいますから。ご心配なく

28yazawa:2013/02/03(日) 21:58:46 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
>>27

因果応報から逃げても、それは無駄なことだ。
君は、贖罪すべきだ。「死ね」や「殺す」などの名誉毀損をしたのだから。
さて、通報しようかな、この犯罪者モブめ。

29yazawa:2013/02/04(月) 23:05:19 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
>>27
俺『ふ』
ff(たっくん)『うんこしたいです』
俺『我慢しろ』
そして、ff(たっくん)は、俺の言う通り、うんこを我慢し、死んでしまった。

30yazawa:2013/02/04(月) 23:07:35 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
もともと、たっくんは痛い奴だった。
名無しで2chに書き込みする方がカッコイィと思い込んだ、痛い奴。
そういうような、とっても、いた〜い、厨坊だった。
厨坊病という病で、何でも闇に従いたくなる、アホ。
それが、たっくん。病死だった。俺は、闇として、痛い奴ら、みんなを葬ることにした。

31yazawa:2013/02/04(月) 23:08:58 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
そして、その支配者、それが竜野翔太・・・現実世界のラスボスである。
何れ、彼と、このPhoenix矢沢は、対峙するだろう。
否、竜野翔太・・・またの名を、竜野翔一。

32名無しさん:2013/02/05(火) 17:36:30 HOST:180-042-153-151.jp.fiberbit.net
 正直、書き直しの理由がわからんな。
 管理人の負担を増やしているだけに過ぎない。

 小説の内容に関しても、意味の被る文章(十五、十六歳〜恐らく高校生のところなど)が多いしキャラクターの価値観がストーリーに振り回されていて共感できない。
 しかも、主人公のバックボーンがないから、レナを守るところとかいちいち台詞がクサく聞こえる。
 後は面倒なのでやめとく。

33竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/02/08(金) 20:29:47 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 魁斗とレナが電話をしている頃、同じく敵の襲来に気付いたハクアは薙刀状の『剣(つるぎ)』である『帝(みかど)』に乗って、敵の下へと飛んでいた。
 今回も前回と同じように敵を退けられるか分からない。むしろ、二回目こそ注意するべきだろう。
 魁斗のスペックも、使用した『剣(つるぎ)』も大体情報はつかまれていると考えるのが妥当だ。何もしないで再び来る方が可笑しい。
 だからこそ、魁斗のサポートをするためにハクアは敵へと向かっていた。
 地上にいる人達が奇異の目を向けてくるが構ったことではない。いちいち気にしていた方が面倒なことになりそうだ。
 そこで、ハクアは背後の視線に気付く。
 攻撃の機会を狙っている、にしては殺気も敵意も感じない。単に尾行しているだけのようだ。
 しかし、相手にせず攻撃されても厄介だった。ハクアは近くの建物の上に着地し、背後を振り返る。
「出て来なさいよ。そんなバレバレな視線送って、私が気付かないとでも思った?」
 溜息が聞こえた。
 ハクアの声に返事するかのような溜息の後に、尾行していた人物は姿を現す。
 向こうの建物の上にある看板の陰から姿を現したのは、白スーツの男だった。白いスーツに白いマント、髪は肩まで伸びていた。目つきは舌なめずりでもしているような不快感を感じさせる目つきで、笑みを浮かべている。
 男の登場にハクアは薙刀を構える。
 しかし、男は両手を頭の位置まで上げる。銃を突きつけられた人質のような状態である。
 戦意がない、と主張するような行動を示されてもハクアは構えを解かない。その代わり肩の力を抜いた。
 戦う気がない相手に、ハクアは問いかける。
「……アンタ誰? 私を尾行しようなんていい度胸じゃない」
 ハクアの質問に、男は笑みを浮かべたまま答える。
「尾行するつもりはなかったんですよ。ただ、私は貴女を監視してましてね。貴女が動くもんだから、こっちも動かざるを得なかったというわけで」
 ついてきてたなら尾行よ、とハクアは言って、
「何のために監視してたの? 隙あらば襲おうとでも思った? それとも、交際の申し込みかしら」
「どちらでもありませんよ。ただ、貴女に邪魔されると面倒なことになるので」
 邪魔? とハクアは眉をひそめる。
 男は笑みを浮かべたまま、ハクアの疑問に答えるように言葉を続けた。
「今敵が来ていることにお気づきでしょう? この戦いを邪魔してほしくないんですよ。これは彼らの大事な戦いですから」
「要するに、戦いが終わるまで私は見ず知らずのアンタと仲良くお喋りでもしてろっての?」
「ただするのも退屈でしょう?」
 男の笑みが、何かを企んでいるようなものに変わる。
「貴女に一つ提案があります」
 提案? とハクアは鼻で笑う。
 どうせくだらないものだろう、と思ったハクアに、男が出した提案はこうだった。
「『死を司る人形(デスパペット)』に入ってください。そしたら、切原魁斗とレナ・エルミントの身の安全を保護しましょう」

34竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/02/09(土) 23:32:28 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「却下よ!」
 ハクアは男の提案を即座に断った。
 それもそのはずだ。彼女はただ観光のために人間界に来ているわけではない。彼女がここに来た理由は、こっちで戦っている親友のレナを助けるためだ。ここで敵の仲間になってしまえばレナも、そして魁斗のことも裏切ることになってしまう。
 彼女は、裏切るのはもうやめることにしたのだ。
 提案を断られた男は、困ったように溜息をつく。仲間の命を交渉材料に出しても応じてくれないことに、困ったようだ。
 ハクアはそんな男の心中も気にせずに、言葉を続ける。
「たとえここで私がアンタらの仲間になったところで、カイトくんやレナの身の安全が完全に保障されるわけじゃない。私が仲間になった途端、約束をなかったことにして、二人を襲うことだって出来る」
「だからといってここで貴女を逃すわけにもいかないんですよ。ここで貴女を逃して、彼らの戦いに首を突っ込まれては困りますからねぇ」
「しないわよ。そんな野暮なこと」
「保障出来ますか?」
 ハクアは頷けなかった。
 多分、魁斗やレナが敵に圧倒され殺される寸前の場面に遭遇したら、手を出さずにはいられないだろう。親友のレナが危ないなら迷わず薙刀を振るうし、興味を持っている魁斗が危ないなら彼と敵との間に割って入るだろう。
 相手の言葉に頷くことは出来ない。だからといって相手の提案に乗るのも嫌だ。
 だったら、彼女が取る行動は一つだった。
 彼女は今まで抜いていた肩の力を再び入れ、静かに深呼吸を繰り返す。
「……?」
 その様子に白一色の男も首を傾げた。
 深呼吸するのはすぐに見て分かるだろうし、肩の力を入れたのも気付いたようだ。
 ハクアは薙刀の切っ先を相手に向けると、静かな口調で告げる。
「抜きなさい。アンタも『死を司る人形(デスパペット)』の人間なら、戦う術(すべ)くらいは……『剣(つるぎ)』の一本くらいはあるでしょう?」
「ほお。……そう来ますか」 
 男は愉快そうに呟いた。
 それから俯いて引き裂かれた笑みを浮かべると、そのまま高らかに笑い出した。
「アーハハハハハハハハハッ!! いやぁ、実に愉快だ。敵に降るのも嫌、手を出さない保証もない。ならば戦う、か」
「可笑しいならずっと腹抱えて笑ってなさいよ。その鬱陶しい笑い声を発する喉を掻っ切ってあげるから」
 おお怖い、と男は僅かに笑いながら相手を挑発する。
 だが、そんな質の低い挑発に心を乱すほど、ハクアは馬鹿でもなくまた、短気でもなかった。
 ハクアは薙刀の切っ先を向けたまま、再び相手に言う。
「戦うか逃げるかどちらかにしなさい。戦うなら容赦はしないし、逃げるなら今回だけは見逃してあげる」
 つまり、次は逃がさないということだ。
 男はくくっ、と笑いながら、
「ならば私は前者を選びましょう」
 ハクアが眉間にしわを寄せた瞬間、だが、と相手が言葉を続けた。
「戦うのは私ではありませんがね」
 瞬間、どこから現れたか分からない黒装束の人間が二十人程度でハクアを囲むように並んだ。以前と比べて人数も多いし、武器も刀だけではない。斧や槍、中にはヌンチャクや鎖鎌などもいる。しかも、一人一人から感じる殺気や闘気も違った。肌を刺すような、そんな気を発している。
 カイトくんなら死んでるね、と小さく呟いてから、ぺろっと舌なめずりをした。
 ハクアは薙刀を構え直して、
「いーじゃん。前言ったとおり五倍の人数……いや、前は五人だったから四倍か? ま、どっちでもいーや! とりあえず楽しませてくれんでしょーね」
 二十人の男達は、次の瞬間戦慄する。
 ハクアは紫色の瞳を、鋭く冷たくしながら、低い声で、言葉だけで相手を殺すように言う。
 あくまで冷たく、これから殺戮するように。
 男達に、『天嵐の姫君(てんらんのひめぎみ)』の表情を見せた。

「本気できてね? そーでもしないと、マジでアンタらイっちゃうからさァ」

35竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/02/10(日) 22:29:48 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 第5話「狂気の再戦」

 デパートの外で合流した魁斗とレナは、顔を見合わせることもなく敵の出現位置へと向かって走っている。
 驚くことに、常人より脚力が優れている魁斗とレナが肩を並べて走っていた。理由は簡単で、レナが足に魔力を集中させているからだ。
 魔力は通常、武器に炎や光を纏わせるもので、それでただの斬撃の威力を強めている。しかし、使い方によっては身体の筋力を上げることも難しいことではない。圧し負けたとはいえ、レナの細い腕でザンザの刀を受け止めたのは、腕の筋力を魔力で増強しているからだ。
 普通に走っては、レナが魁斗より圧倒的に遅い。彼女は自分のせいで魁斗に迷惑をかけないよう、配慮しているのだ。
 魁斗達が着いたのは工場の跡地のような場所だった。建設途中なのか、鉄筋が建物の骨組みのように組まれている。その鉄骨の一本に、二人の人影を見つける。
 その二人の人影を、魁斗は力強く睨みつける。
「随分と悠長に待ってるじゃねぇか。余裕だな、『死を司る人形(デスパペット)』」
 魁斗の言葉に、巨大な刀を背中に携えた男が反応する。
 鉄骨に腰掛けていた男は、その場に立ち上がり、鬱陶しげな口調で言う。
「いちいち組織名で呼んでんじゃねェよ、天子。俺の名前も憶えられてねェのか?」
「そっちこそ、変な呼称を使うんじゃねぇよ」
 二人は睨み合う。
 その光景に、男の傍らにいた桃色の髪を一つに結った少女が呆れたように溜息をついた。
 彼女は一歩前に進み出ると、男を牽制するように手を彼の前に出す。
「君が天子かぁ。もうちょっと大人っぽい人を想像してたけど、違うみたい。まだ子供ね。ちょっと可愛いかも」
 無邪気な笑みを浮かべながら、少女が魁斗を見て言う。
 魁斗は彼女を見つめるが、少女からは特に何の反応もなかった。
 巨大な刀の男が、背中から刀を引き抜いて切っ先を魁斗に向けながら言う。
「第八部隊第一小隊隊長ザンザ・ドルギーニだ。憶えとけ、天子ィ!!」
 ザンザが鉄骨の上から飛び降りて、下にいる魁斗に刀を振るう。
 しかし、彼の攻撃を受け止めたのは魁斗の双刀ではなく、レナの一本の刀だった。特に珍しい部分はない。しいて言えば、刀身がやけに白い。普通の白よりも透明感があるような、純白といった白さだ。
 突如割って入ったレナに、ザンザは不機嫌に顔を歪める。
「……またテメェか。どうやら、本気で死にたいよォだな」
「そうではありません。あなたとの決着が着いていなかった。曖昧なまま終わらせるつもりはなかっただけです」
 言いながらレナとザンザは横の方へと戦場を変えていった。すると、入れ替わりに桃色の髪の少女が鉄骨の上から優雅に地面に降り立つ。
 少女は髪を靡かせながら、笑みを魁斗に向ける。
「第八部隊第二小隊隊長カテリーナ・アルサント。よろしくね、えーっと……」
 何て呼べばいいか分からないらしく、随分無邪気な表情で首を傾げてくる。
 魁斗は二本の刀を構えて、
「切原魁斗だ。よろしく頼むぜ、カテリーナ」
 ふふ、とカテリーナは笑って、
「いいえ、こっちこそよろしくね」

36竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/02/18(月) 18:17:01 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 カテリーナは悠長に右手で刀を持ったまま、空いている左手で前髪をいじっていた。一方の魁斗は二本の刀を構えながら、そんなカテリーナを呆れ気味に見ている。
 どうも相手から戦おうという意志が見受けられない。しかし、ただ余裕ぶっているわけでもない。これは相手なりの挑発だ。待ちくたびれた相手が踏み込んでくるのを待って、返り討ちにする。多少なりとも怒っていると冷静な判断力は欠かれてしまう。
 しかし、相手の思う通りに動かない、と魁斗は決めていた。隙を見せないように、相手の動きに気を張り巡らしている。
 カテリーナは横目で彼を見ながら、称賛していた。
 彼女が称賛したのは安易に突っ込まないこと。戦いの素人である魁斗が相手であるならば、相手の攻撃をかわしつつ隙を突けばいいだけだ。相手の足が速くとも、必ず隙は生まれる。素人であるならば、隙は多いはずだ。
 はあ、とあからさまな溜息をついて、カテリーナは後ろで結っている髪を手櫛で一回梳いた。
「……やーめた。挑発して君の動きを単純にしようと思ったけど、全然引っかからないじゃん」
「はっ、舐めてもらっちゃ困るぜ! 戦いに関しては素人だが、冷静さは欠いちゃいけねぇと思ってるんでな」
 ふぅん、とカテリーナは笑みを浮かべながら楽しそうに頷いた。
 すると二本の切っ先がついた刀を魁斗に向ける。
「まあそういう考えなら別にいいんだけどさ、私強いよ? さすがにザンザには負けるけど、八部隊では結構いい位についてるんだから」
「そーいや、第八部隊第二小隊隊長……とか言ってたな。ザンザも似たようなことを。小隊って何だ?」
 するとカテリーナはきょとんとした表情で、
「そんなことも知らず戦ってたの? まあいいわ。私は優しいお姉さんだから、無知で無能たる君に教えて進ぜよう!」
 カテリーナが刀の切っ先で地面を突付きながら説明を始める。
「私たち『死を司る人形(デスパペット)』は一から十の部隊に分かれている。それぞれの部隊に隊長と副隊長が一人ずついるわ。一つの隊が大体五百人ってとこ。んで、五百人を一人の隊長で纏めるのも大変でしょ? だから、百人を一纏まりにしたのが『小隊』。私は部隊に五人いる小隊のうちの一人。まあザンザもなんだけどね」
「……つまり、お前は上から数えて三番目ってことか?」
 魁斗の問いにカテリーナは少し考えながら、
「んーどうだろうね。八部隊内じゃそうじゃないかなぁ? 小隊隊長同士で戦ったことないから、ぶっちゃけ強いとか分かんないんだよね」
 そうか、と魁斗は獰猛に笑ってみせる。
 まるで楽しんでいるかのように。相手が一番強い奴じゃなくてよかった、と思わせるような笑みだ。
「だったら、お前を倒せば八部隊のほとんどは倒せるってことだよな」
「一対一ならね。ま、まずは私に勝ってから言いなよ」
 言葉と同時、魁斗が地面を思い切り蹴り、刀が届く範囲まで距離を詰めた。
 咄嗟に接近され、カテリーナが何とか反応する。振り下ろされた魁斗の刀を、切っ先が二つの刀で防ぐ。
 鍔迫り合い状態になり、魁斗がカテリーナに告げる。
「上等だ! だったら、今ここでお前を越えてやるよ!」
「威勢と気迫だけは一人前だね。お姉さんもびっくりしちゃうよッ!!」

37たっくん:2013/03/01(金) 11:19:48 HOST:zaq31fa4c87.zaq.ne.jp
>>1
つまらんスレ立てるなよ
失敗ズラ

38ナコード:2013/03/01(金) 20:16:27 HOST:i118-17-185-78.s41.a018.ap.plala.or.jp
 ≫37
 貴方は人の作品にケチをつけられるような方ですか?
 人其々に頑張っているのに、それを侮辱するような行為は犯罪ですよ?

39竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/03/02(土) 12:41:41 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 刀を何度か交わせ、カテリーナは魁斗と距離を取る。
 距離を取っても魁斗には優れた脚力がある。数メートル離れられても、そんなもの一瞬ともいえる時間で縮められるのだ。それを何度も繰り返しながら、魁斗は思う。
 ――相手は一体何を考えているのか、と。
 距離を取るのも二、三回程度で意味が無いと気付くだろう。回数を数えるのももどかしくなるくらい繰り返しているので、相手もいい加減気付くはずだ。なのに何故相手は距離を取り続けるのか、魁斗には相手の意図が読めなかった。
 一方のカテリーナは笑みを浮かべたまま、立っている。まるで、自分から踏み込む気はないというように。
 魁斗はもう一度強く踏み込み、カテリーナの懐へと飛び込む。刀の届く範囲まで近づき、魁斗は刀を横薙ぎに振るう。しかし、この攻撃もカテリーナの刀に防がれる。
 魁斗は顔をしかめて、
「どういうつもりだ」
「何が?」
 とぼけるような口調で言うカテリーナに、魁斗はふざけんな、と睨みつけながら言い放つ。
 尚もカテリーナの表情には笑みが浮かんでいた。
 ぎりぎり、と鈍く刀同士が軋む音が鳴る。
「さっきから攻撃しようとしねぇじゃねぇか! お前、戦う気があんのか」
「あるよ。だから『剣(つるぎ)』を持ってるし、君の前に立ってるし、何より考えて戦ってる。何も考えずに突っ込んだり攻撃だけするのは、戦いじゃないよ?」
 その言葉に、魁斗の力が僅かに緩んだ。
 その隙を見逃さず、カテリーナは魁斗の刀を払う。後方によろめく、魁斗へと攻撃を放つため、カテリーナは二つの切っ先を備えた刀を空へと向けた。
 すると青かった空が、急に分厚い雲に覆われ、灰色へと変色していった。
「なっ……!?」
 天候が変わるという超常現象、それを目の当たりに魁斗は驚愕していた。
 一方で、鉄筋の上を移り変わりながらザンザと戦っていたレナも、空を見上げこの変化に驚いていた。
 レナははっとした表情で、下にいるカテリーナへと視線を向けると、
「それは『雷叫(らいきょう)』!? どうしてその『剣(つるぎ)』を貴女が?」
「……さっすが天子の養育係。博識だねぇ」
 カテリーナもレナ以上に、『剣(つるぎ)』には詳しい。
 中には自分で使わず保管してあるものもあり、『死を司る人形(デスパペット)』メンバーの三分の一くらいの人間は、彼女から『剣(つるぎ)』をもらっている。そういうことから、カテリーナは『剣の才女(つるぎのさいじょ)』とまで呼ばれている。ちなみにザンザも彼女からもらった『剣(つるぎ)』を使用している。
 肩で刀を担ぐようにしたザンザが呆れたように空を見上げ、
「オイオイ、ガキ相手に本気になったのか」
「まっさか。そんなワケないじゃん。ただ――」
 暗い雲から雷が落ち、それがカテリーナの刀に直撃する。
 しかし雷は刀を破壊することも、カテリーナを傷つけることもなく、彼女の持つ刀に留まり続けている。強力な電撃を纏った刀は、眩い光と激しい音を発している。
 カテリーナが攻撃する態勢に入りながら、
「ちょっと天子くんに、いたーい目に遭ってもらうだけだよ」
 カテリーナが刀を振りかぶる。
 しかし、魁斗の位置まではカテリーナの斬撃は届かない。魁斗は何をしようとしているんだ、という表情でカテリーナを見つめていると、鉄筋の上のレナが叫ぶ。
「カイト様、避けてください!! 『雷叫(らいきょう)』は、刀に電撃を帯びさせて放つ刀ですッ!!」
「……ッ!?」
 レナの声が届くが、僅かに対応が遅れた魁斗には逃げ切れない。たとえ、脚力がいかに高くてもだ。
「遅いよ、天子くん」
 カテリーナが雷の斬撃を飛ばす。
 魁斗が刀を交差させて斬撃を防ごうと試みるが、それも失敗に終わる。
 雷の斬撃はまっすぐ魁斗に向かって飛んでいき、大きな爆煙と爆音を鳴らした。

40竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/03/08(金) 22:09:35 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 爆煙に包まれる場所を見ながら、カテリーナは退屈そうに嘆息した。
 自分の相棒――ザンザをまぐれであるとはいえ退かせたものだから、彼女自身も切原魁斗という人物に興味を持っていたのだ。
 だが結果はこれだ。
 何のことはない、ただの普通の少年だった。『剣(つるぎ)』の能力を理解せず、油断したが故に攻撃をくらい、十五年という短い命を散らすこととなってしまった。こんなつまらない少年に興味を持っていたのかと思うと、自分で自分が恥ずかしくなってくる。
 彼女は背を向けながらふと思った。
 ――少年の『剣(つるぎ)』の能力は何だったのだろう、と。
 自分が知らないのだから大して珍しいものではないのかもしれない。ザンザも形状は詳しく憶えていなかったし、自分もこの目で見て、見覚えがなかったとすると、そんなにレアなものではなかったのかもしれない。
 まあ今死んだのだから、それも気にする必要は無いか。そう思いながら、カテリーナが『剣(つるぎ)』を元のアクセサリーに戻そうとしたところで、
「カテリーナッ! 奴はまだ終わってねェぞ!」
 ザンザの叫び声で、ばっと後ろを振り返った。
 晴れつつある爆煙の中に、少年の影が視界に飛び込んでくる。二本の刀を持った、黒髪の少年だ。彼の刀には、先ほどまでなかった、眩いほどの光が纏っている。
 カテリーナは、驚愕を露にしながら大きく目を見開いている。
「……うっそ……。『雷叫(らいきょう)』の一撃をくらって、平気だなんて……」
 魁斗は煙の中で、獰猛に笑ってみせる。
 身体は決して無事ではない。口の端から血を流しているし、あちこちに火傷がある。とても無事とはいえない状況だが、彼はカテリーナの攻撃を防いでみせた。
 レナは魁斗の無事を確認すると、目尻に涙を浮かべてしまう。
「……カイト様……」
「……続けようぜ、カテリーナ・アルサント」
 カテリーナは笑う。
 愉しそうに、口の端を吊り上げて笑みを浮かべてみせた。
「いいじゃん、いいじゃん、そうこなくっちゃ! そうじゃないと、全然面白くもないもんね!」

 レナは隙を見せるザンザに斬りかかる。
 それに咄嗟に気付いたザンザが身体を反らして、なんとか攻撃をかわした。体勢を立て直し、レナを睨みつけながら、
「随分と卑怯なマネをするじゃねェか。俺はお前が戦う状態まで待とうと思ってたのによォ」
 レナは刀を前に構えながら、
「随分と余裕のあることをするんですね。その驕りが、敗因にならないように気をつけてください」
 切っ先をザンザに向ける。
 ザンザは引き裂かれた笑みを浮かべて、刀を振りかぶる。
「デカイ口叩くじゃねェか、養育係! その言葉、あとで後悔させてやるよ!」
 言いながら、ザンザは突っ込んでいく。
 それにレナも応じ、ザンザに向かって突っ込んでいく。
 二人の刀が、大きな音を立てながらぶつかり合う。


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