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天界の王子-Heavens of Prince-

34竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/02/09(土) 23:32:28 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「却下よ!」
 ハクアは男の提案を即座に断った。
 それもそのはずだ。彼女はただ観光のために人間界に来ているわけではない。彼女がここに来た理由は、こっちで戦っている親友のレナを助けるためだ。ここで敵の仲間になってしまえばレナも、そして魁斗のことも裏切ることになってしまう。
 彼女は、裏切るのはもうやめることにしたのだ。
 提案を断られた男は、困ったように溜息をつく。仲間の命を交渉材料に出しても応じてくれないことに、困ったようだ。
 ハクアはそんな男の心中も気にせずに、言葉を続ける。
「たとえここで私がアンタらの仲間になったところで、カイトくんやレナの身の安全が完全に保障されるわけじゃない。私が仲間になった途端、約束をなかったことにして、二人を襲うことだって出来る」
「だからといってここで貴女を逃すわけにもいかないんですよ。ここで貴女を逃して、彼らの戦いに首を突っ込まれては困りますからねぇ」
「しないわよ。そんな野暮なこと」
「保障出来ますか?」
 ハクアは頷けなかった。
 多分、魁斗やレナが敵に圧倒され殺される寸前の場面に遭遇したら、手を出さずにはいられないだろう。親友のレナが危ないなら迷わず薙刀を振るうし、興味を持っている魁斗が危ないなら彼と敵との間に割って入るだろう。
 相手の言葉に頷くことは出来ない。だからといって相手の提案に乗るのも嫌だ。
 だったら、彼女が取る行動は一つだった。
 彼女は今まで抜いていた肩の力を再び入れ、静かに深呼吸を繰り返す。
「……?」
 その様子に白一色の男も首を傾げた。
 深呼吸するのはすぐに見て分かるだろうし、肩の力を入れたのも気付いたようだ。
 ハクアは薙刀の切っ先を相手に向けると、静かな口調で告げる。
「抜きなさい。アンタも『死を司る人形(デスパペット)』の人間なら、戦う術(すべ)くらいは……『剣(つるぎ)』の一本くらいはあるでしょう?」
「ほお。……そう来ますか」 
 男は愉快そうに呟いた。
 それから俯いて引き裂かれた笑みを浮かべると、そのまま高らかに笑い出した。
「アーハハハハハハハハハッ!! いやぁ、実に愉快だ。敵に降るのも嫌、手を出さない保証もない。ならば戦う、か」
「可笑しいならずっと腹抱えて笑ってなさいよ。その鬱陶しい笑い声を発する喉を掻っ切ってあげるから」
 おお怖い、と男は僅かに笑いながら相手を挑発する。
 だが、そんな質の低い挑発に心を乱すほど、ハクアは馬鹿でもなくまた、短気でもなかった。
 ハクアは薙刀の切っ先を向けたまま、再び相手に言う。
「戦うか逃げるかどちらかにしなさい。戦うなら容赦はしないし、逃げるなら今回だけは見逃してあげる」
 つまり、次は逃がさないということだ。
 男はくくっ、と笑いながら、
「ならば私は前者を選びましょう」
 ハクアが眉間にしわを寄せた瞬間、だが、と相手が言葉を続けた。
「戦うのは私ではありませんがね」
 瞬間、どこから現れたか分からない黒装束の人間が二十人程度でハクアを囲むように並んだ。以前と比べて人数も多いし、武器も刀だけではない。斧や槍、中にはヌンチャクや鎖鎌などもいる。しかも、一人一人から感じる殺気や闘気も違った。肌を刺すような、そんな気を発している。
 カイトくんなら死んでるね、と小さく呟いてから、ぺろっと舌なめずりをした。
 ハクアは薙刀を構え直して、
「いーじゃん。前言ったとおり五倍の人数……いや、前は五人だったから四倍か? ま、どっちでもいーや! とりあえず楽しませてくれんでしょーね」
 二十人の男達は、次の瞬間戦慄する。
 ハクアは紫色の瞳を、鋭く冷たくしながら、低い声で、言葉だけで相手を殺すように言う。
 あくまで冷たく、これから殺戮するように。
 男達に、『天嵐の姫君(てんらんのひめぎみ)』の表情を見せた。

「本気できてね? そーでもしないと、マジでアンタらイっちゃうからさァ」


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