したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール | |

天界の王子-Heavens of Prince-

13竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/06(日) 21:12:58 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「あら、おかえり。まあ、レナちゃんも一緒なのね」 
 家に入った魁斗とレナを迎えてくれたのは三十代後半と思われるエプロンを身に着けた女性だ。
 綺麗な黒髪を背中まで伸ばしており、目はくりっとしている。そのせいか、実年齢より若く見えている。魁斗と二人で歩いていると、姉弟に間違われることもしばしばあるほどだ。
 だが、彼女は魁斗の母親である。しかし実の母親ではない。
 彼の両親は天界という異世界にいるのだ。それもただの一般人ではなく、王とその妃なのだ。目の前の女性は、本当は魁斗と何の関係も無い赤の他人なのだ。
 魁斗は、自分の母親が現在の状況をどれだけ理解しているかしらない。レナを知っている、ということは彼女が同居の了解を得た、という話は真実らしい。魁斗は出迎えてきた母親、由魅(ゆみ)を見て嘆息した。
「呑気に言ってる場合かよ。つか、俺聞いてないぞ? コイツがここに住むって!」
 魁斗がそう怒鳴ると由魅は口元に手を当てて、
「まあ、いいじゃない。いっそう賑やかになるわよ。普段何も喋らないじゃない」
 それはそうだけど、と魁斗は由魅の言葉を否定しない。
 魁斗は溜息をつきながら、自分の部屋のある二階へと上がって行った。
 魁斗が部屋に入るのを確認してから、由魅が微笑みながら立ち尽くしていたレナに優しく微笑みながら話しかける。
「まずは座ってください。話はそれからにしましょう」

 リビングの椅子に座らされたレナは、妙に緊張していた。
 何処の家庭にもあるような、大きなテーブル、椅子、テレビ、ソファ。レナはそんなありふれた家庭の様子でも落ち着けない。目の前にいるのは、十五年間ずっと魁斗を守ってきてくれた相手だ。レナは何をどう説明すればいいかも分かっていないのだ。
 由魅は、彼女を落ち着かせるようにスッとティーカップを前に差し出す。由魅はレナの正面に座って、
「あの子が普通の子じゃないっていうのは分かっています。小さい頃から走るのだけは以上に得意でしたから。まずは、あの子の本当の世界から聞いてもいいですか?」
「……あの、カイト様が……いえ、カイトくんが別の世界から来た、と……何故知っているのですか?」
 レナが魁斗の呼び方に気を遣う様子を見て、由魅はくすっと笑う。
「不自然すぎたんですよ。私とあの子の出会いが」
 出会い? とレナは目を丸くする。
 由魅は曖昧な記憶を辿るように、視線を上に向けて考え出す。
「あれは……私がまだ二十代くらいだったかしら。公園の遊具の中であの子を見つけたの。あの子に着せられた服に『カイト』っていう名札があったから、それを勝手に漢字に変換して、名付けましたけど」
 彼の名前は、天界でも同じだ。
 それを由魅は漢字に変換して、今の形にした、とそう語っている。
 由魅は小さく息を吐いて、
「あの子を見つけてから私は結婚にも興味を持たなくなったわ。あの子がいるだけで、楽しかったから」
「……え?」
 レナはきょとんとする。
「では、あの遺影は?」
 家具の陰に隠れるように小さく作られた遺影。若い男性の写真に蝋燭に火が灯っている。
 由魅はくすっと笑って、
「私の兄のです。あの子を拾ってちょっとしてから、交通事故で死んでしまって」
 レナの表情が暗くなる。聞いてはいけないことを聞いてしまった、と自分を責めているのだ。
 由魅はコップに入ったお茶をすすって、
「私からは以上ですかね」
 そう言った。
 次はレナの番だ。彼女は背筋を伸ばして、真っ直ぐ由魅を見つめて、
「では、話します。……私の話を」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板